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特表2023-545479mRNA療法のためのCD4+ T細胞のin vivoターゲティング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】mRNA療法のためのCD4+ T細胞のin vivoターゲティング
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20231023BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20231023BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231023BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231023BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231023BHJP
【FI】
A61K9/127 ZNA
A61K9/51
A61K47/50
A61K31/7105
A61K39/395 L
A61K48/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 105
C07K16/28
C07K19/00
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522863
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 US2021054775
(87)【国際公開番号】W WO2022081702
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/091,010
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ハミデ パーヒズ
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー ウェイスマン
(72)【発明者】
【氏名】イストバン トムバッツ
(72)【発明者】
【氏名】ノーバート パーディ
(72)【発明者】
【氏名】ブラジーミル ムズィカントフ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC50
4C076DD15F
4C076DD15H
4C076DD63F
4C076DD63H
4C076DD70F
4C076DD70H
4C076EE23F
4C076EE23H
4C076EE59
4C076FF16
4C076FF21
4C076FF43
4C076FF65
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA24
4C084NA13
4C084ZB021
4C084ZB091
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB321
4C085AA25
4C085BB11
4C085DD52
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA24
4C086NA13
4C086ZB02
4C086ZB09
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB32
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ターゲティングドメインにコンジュゲートされた送達ビヒクルを含んで成る組成物であって、前記ビヒクルが少なくとも1つの薬剤を含み、そして前記ターゲティングドメインがCD4+ T細胞抗原に特異的に結合する、前記組成物に関する。本発明は、上記組成物を使って、癌、感染症、および免疫学的疾患を含む疾患および障害を治療または予防する方法にも関する。
【選択図】図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲティングドメインにコンジュゲートされた送達ビヒクルを含んで成る組成物であって、送達ビヒクルが少なくとも1つの薬剤を含み、そしてターゲティングドメインがCD4+ T細胞の細胞表面抗原に特異的に結合する、前記組成物。
【請求項2】
前記送達ビヒクルが、リポソーム、液体ナノ粒子、およびミセルからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記送達ビヒクルが液体ナノ粒子である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記液体ナノ粒子が、前記ターゲティングドメインにコンジュゲートしたPEG-脂質を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの薬剤が、前記液体ナノ粒子中に内包化されている、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの薬剤が、治療薬、イメージング剤、診断薬、造影剤、標識化剤、検出剤、および消毒剤からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの薬剤が治療薬である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記治療薬が核酸分子を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記治療薬がヌクレオシド修飾核酸分子を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
前記核酸分子がmRNA分子を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
前記ターゲティングドメインが、核酸分子、ペプチド、抗体、および小分子からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記ターゲティングドメインが抗体である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記ターゲティングドメインが抗CD4抗体である、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
治療または予防が必要である対象において疾患または障害を治療または予防する方法であって、該対象に請求項7記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項15】
前記疾患または障害が、癌、感染性疾患、および免疫学的障害からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願へのクロス・リファレンス〕
本出願は、2020年10月13日に出願の米国仮出願第63/091,010号に対する優先権を主張し、該出願は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔連邦政府の支援を受けた研究・開発に関する陳述〕
本発明は、NIH(国立衛生研究所)により付与されたAI045008の下で政府支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
〔発明の背景〕
免疫細胞の特性を改変するための活性化、阻害または修飾を介したそれらの細胞の活性調節は、免疫療法と呼ばれる一般的で高需要の療法のクラスとなっている。今日の免疫治療薬は、高価で製造が困難である、生物由来のタンパク質ベースの薬剤に大きく依存しており(Panchevicus他、2013、Bioengineered、4:305-312;Liu他、2018、Precision Clinical Medicine、1:65-74)、または免疫細胞の生体外(ex vivo)修飾を必要とする(Schultz他、2018、Immunotherapy in Translational Cancer Research; Maugeri他、2019、Nature Communications、10:4333)。いくつかの例を挙げると、免疫細胞機能を調節するための抗体またはサイトカイン、免疫機能を方向転換するためのモノクローナル抗体、ウイルス感染を予防するためのT細胞の遺伝子編集、およびキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法である(Schlake他、2019、Cellular and Molecular Life Sciences、76:301-328;Wraith、2017、Frontiers inimmunology 8、1668-1668;2015、Mol. Oncol.、9:1994-2018)。
【0004】
癌免疫療法の最も関連する応用の1つは、CAR-T細胞療法である。現在、CAR-T細胞は生体外(ex vivo)生産されているが、これはGMP準拠の細胞処理施設における拡張細胞培養を必要とするため、コスト高である。さらに、それは高悪性度の癌、非常に低いT細胞数、または大量の使用を必要とする背景、を有する患者にとっては、治療オプションではない(Schmidts他、2018、Frontiers in Immunology、9:2593-2593;Zhao他、2019、Frontiers in Immunology、10:2250;Junghans、2017、Cancer Gene Therapy、24:89-99)。ロバストでかつ迅速なCAR-T細胞の産生のために、生体内(in vivo)のT細胞を標的とするmRNA送達システムの開発という極めて重要なニーズが存在する。mRNAベースのCAR-T細胞療法薬はまた、その一過性のために、CAR-T細胞に起因する毒性リスクを低減するとともに、望むときに、ゲノム組み込みのリスクを回避することにより、安全なプラットフォームを提供することもできる(Foster他、2019、Molecular Therapy、27:747-756;Foster他、2019、Hum. Gene Ther.、30:168-178;Kowalski他、2019、Molecular Therapy、27:710-728;Pardi他、2018、Nat. Rev. Drug Discov.、17:261-279)。さらに、mRNAベースの治療薬は、T細胞のHIV感染を予防するためのC-Cケモカインレセプター5(CCR5)遺伝子をノックアウトするなど、ウイルス感染や癌を治療するためまたは遺伝子欠損を修正するための遺伝子編集ツールを提供することができ(Liu他、2017、Cell Biosci.、7:47)、またはプログラム細胞死-1(PD-1)遺伝子をノックアウトして、優れた腫瘍感染性リンパ球(TIL)を設計することができる(Bailet他、2019、Nature Biotechnology、37:1425-1434)。mRNAベースの免疫療法の開発において鍵となる障害の1つは、効率的な生体内送達である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、現在の導入および広範囲の使用のための効率的でかつ安全な免疫細胞特異的mRNA送達システム、並びにロバストなmRNAベースの新規クラスの免疫療法薬の創製が必要とされている。本発明は、この未だ満たされていない要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、CD4+ T細胞ターゲティング(標的指向性)ドメインに結合した送達ビヒクル(媒体)を含む組成物であって、送達ビヒクルが少なくとも1つの薬剤を含む組成物に関する。一実施形態では、ターゲティングドメインは、CD4に特異的に結合する。
【0007】
特定の実施形態では、送達ビヒクルは、ターゲティングドメインにコンジュゲートしたPEG-脂質を含む脂質ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの薬剤は核酸である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの薬剤はmRNA分子である。一実施形態では、mRNA分子はヌクレオシド修飾mRNAである。本発明はまた、本明細書に記載の組成物を使用して疾患または障害を治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1-1】図1A~1Cは、in vitro(試験管内)におけるCD4を標的とした粒子の結合および機能活性を示す。図1Aは、室温(RT)で1時間インキュベーションした後のヒトCD4 T細胞に対する抗ヒトCD4/125I標識mRNA-LNPのin vitro結合を示す。図1Bは、抗CD4/mRNA-LNPおよび対照IgG/mRNA-LNPのヒトCD4 T細胞への結合を示し、mRNA-LNP用量を増加させたときのそれらの対応する平均蛍光強度(MFI)を示す。
【0009】
図1-2】図1A~1Cは、in vitro(試験管内)におけるCD4を標的とした粒子の結合および機能活性を示す。図1Cは、抗ヒトCD4/mRNA-LNPまたは対照IgG/mRNA-LNPで処置したヒトCD4 T細胞において測定されたLuc活性を描写する。
【0010】
図2-1】図2Aおよび図2Bは、in vitroでのCre mRNA媒介遺伝子組換えを実証する代表的な実験結果を示す。図2Aは、CD3CD8 細胞の中のZsGreenl細胞の%として示される、Cre mRNA誘発遺伝子組換えおよびそれに伴うレポーター遺伝子発現を示す。脾細胞をAi6マウスから採取し、2百万個の細胞当たり1、3、6または9μgの用量でCre mRNA-LNPと共にインキュベートした。抗CD4/mRNA-LNP投与時のZsGreenl 細胞を、対照IgG/mRNA-LNPおよび未結合mRNA-LNP投与と比較した(****P<0.0001、Bonferroni補正を伴う両側ANOVA)。
【0011】
図2-2】図2Aおよび図2Bは、in vitroでのCre mRNA媒介遺伝子組換えを実証する代表的な実験結果を示す。図2Bは、CD3CD8 細胞群の中のZsGreenl陽性細胞を識別するためのゲーティング戦略を表している。
【0012】
図3-1】図3は、mRNA-LNP処置CD3/CD4細胞集団のフローサイトメトリー分析を実証する代表的な実験結果を示す。脾細胞をAi6マウスから採取し、6ウェルプレート中で1ウェル当たり2百万個の細胞当たり3μgの用量で、Cre mRNA-LNPと共に一晩インキュベートした。抗CD4/mRNA-LNPの投与時にCD4染色の一過性消失が観察されたが、一方で非標的LNP処置細胞は影響を受けなかった。
【0013】
図3-2】図3は、mRNA-LNP処置CD3/CD4細胞集団のフローサイトメトリー分析を実証する代表的な実験結果を示す。脾細胞をAi6マウスから採取し、6ウェルプレート中で1ウェル当たり2百万個の細胞当たり3μgの用量で、Cre mRNA-LNPと共に一晩インキュベートした。抗CD4/mRNA-LNPの投与時にCD4染色の一過性消失が観察されたが、一方で非標的LNP処置細胞は影響を受けなかった。
【0014】
図4-1】図4A図4Dは、生体内でのmRNA-LNPのCD4+ T細胞へのターゲティングを実証する代表的な実験結果を示す。図4Aは、0.5時間目のマウスにおける125I標識抗CD4/ポリ(C)mRNA-LNPおよび対照IgG/ポリ(C)mRNA-LNPの生体内分布を示す。組織取り込みは、平均±SEM(****P<0.0001)として示される。図4Bは、125I標識抗CD4/mRNA-LNPまたは対照IgG/mRNA-LNPのいずれかで処置したマウスの血液中のものに対する、注射後30分目の所与の臓器1g当たりの%IDの比として計算された局在化率を表す。局在化率は平均±SEMで示される。個体群の大きさは3体の動物である。Bonferroni補正を伴う両側ANOVA(****P<0.0001)により統計解析を行った。
【0015】
図4-2】図4A図4Dは、生体内でのmRNA-LNPのCD4+ T細胞へのターゲティングを実証する代表的な実験結果を示す。生体内mRNA-LNP結合は、mRNA-LNPの静脈内注射後、選択された臓器における放射性標識抗CD4/mRNA-LNPの百分率(図4C)および脾臓における局在化率(図4D)の定量測定値として示される。個体群の大きさは3体の動物である。Bonferroni補正を伴う両側ANOVA(****P<0.0001)により統計解析を行った。
【0016】
図5図5Aおよび図5Bは、生体内(in vivo)でのポリ(C)RNA-LNPのCD4へのターゲティングを実証する代表的な実験結果を示す。図5Aは、脾臓および肝臓における抗CD4/mRNA-LNP結合の生体内(in vivo)動態を免疫特異性指数として表す。免疫特異性指数は、抗CD4/mRNA-LNP処置マウスvs対照IgG/mRNA-LNP処置マウスにおける、選択された臓器1 gあたりの%IDの比として計算され、血中レベルに対して正規化された値である。図5Bは、mRNA-LNPの静脈内注射後の選択された臓器における、放射性標識mRNA-LNPの百分率の定量測定としての、対照IgG/mRNA-LNP結合の生体内(in vivo)動態を示す。個体群の大きさは、3体の動物である。
【0017】
図6-1】図6A図6Dは、生体内の標的mRNA-LNP発現の体内分布を示す代表的な実験結果を示す。マウスに8μgのmRNA-LNPをIV注射した。抗CD4/Luc mRNA-LNPおよび対照IgG/Luc mRNA-LNP投与後の5時間目のLuc mRNA発現の臓器分布を、溶解組織中のLuc活性を測定することにより(図6A)および発光イメージングにより(図6Bおよび図6C)評価した。図6Aは、光学単位(LU)/mgタンパク質としてのLucの定量的発現を表す。切開されたマウス臓器の代表的な検体セット(図6B)および臓器除去後の屠体全体(発光しているリンパ節を示す)(図6C)を、D-ルシフェリンの投与5分後に分析した。図6Dは、mRNA-LNPを注射したマウスの脾臓から得られたCD3 細胞調製物における、LU/mgタンパク質値としてのLucの定量的発現を示す。図6Aおよび図6Dについては、誤差バーはSEMを示す。個体群の大きさは3体の動物である。統計解析は、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
【0018】
図6-2】図6A図6Dは、生体内の標的mRNA-LNP発現の体内分布を示す代表的な実験結果を示す。マウスに8μgのmRNA-LNPをIV注射した。抗CD4/Luc mRNA-LNPおよび対照IgG/Luc mRNA-LNP投与後の5時間目のLuc mRNA発現の臓器分布を、溶解組織中のLuc活性を測定することにより(図6A)および発光イメージングにより(図6Bおよび図6C)評価した。図6Aは、光学単位(LU)/mgタンパク質としてのLucの定量的発現を表す。切開されたマウス臓器の代表的な検体セット(図6B)および臓器除去後の屠体全体(発光しているリンパ節を示す)(図6C)を、D-ルシフェリンの投与5分後に分析した。図6Dは、mRNA-LNPを注射したマウスの脾臓から得られたCD3 細胞調製物における、LU/mgタンパク質値としてのLucの定量的発現を示す。図6Aおよび図6Dについては、誤差バーはSEMを示す。個体群の大きさは3体の動物である。統計解析は、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
【0019】
図6-3】図6A図6Dは、生体内の標的mRNA-LNP発現の体内分布を示す代表的な実験結果を示す。マウスに8μgのmRNA-LNPをIV注射した。抗CD4/Luc mRNA-LNPおよび対照IgG/Luc mRNA-LNP投与後の5時間目のLuc mRNA発現の臓器分布を、溶解組織中のLuc活性を測定することにより(図6A)および発光イメージングにより(図6Bおよび図6C)評価した。図6Aは、光学単位(LU)/mgタンパク質としてのLucの定量的発現を表す。切開されたマウス臓器の代表的な検体セット(図6B)および臓器除去後の屠体全体(発光しているリンパ節を示す)(図6C)を、D-ルシフェリンの投与5分後に分析した。図6Dは、mRNA-LNPを注射したマウスの脾臓から得られたCD3 細胞調製物における、LU/mgタンパク質値としてのLucの定量的発現を示す。図6Aおよび図6Dについては、誤差バーはSEMを示す。個体群の大きさは3体の動物である。統計解析は、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
【0020】
図6-4】図6A図6Dは、生体内の標的mRNA-LNP発現の体内分布を示す代表的な実験結果を示す。マウスに8μgのmRNA-LNPをIV注射した。抗CD4/Luc mRNA-LNPおよび対照IgG/Luc mRNA-LNP投与後の5時間目のLuc mRNA発現の臓器分布を、溶解組織中のLuc活性を測定することにより(図6A)および発光イメージングにより(図6Bおよび図6C)評価した。図6Aは、光学単位(LU)/mgタンパク質としてのLucの定量的発現を表す。切開されたマウス臓器の代表的な検体セット(図6B)および臓器除去後の屠体全体(発光しているリンパ節を示す)(図6C)を、D-ルシフェリンの投与5分後に分析した。図6Dは、mRNA-LNPを注射したマウスの脾臓から得られたCD3 細胞調製物における、LU/mgタンパク質値としてのLucの定量的発現を示す。図6Aおよび図6Dについては、誤差バーはSEMを示す。個体群の大きさは3体の動物である。統計解析は、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
【0021】
図7-1】図7A図7Eは、CD4を標的としたCre mRNA-LNPの生体内投与時のCre媒介遺伝子組換えを示す代表的な実験結果を示す。図7Aは、CD4+ T細胞における選択的遺伝子組換えのための抗CD4/mRNA-LNPのターゲティング送達を示す概略図であり、Ai6レポーター対立遺伝子の原理を示す:loxP隣接STOPカセットのCre媒介切除により、蛍光タンパク質であるZsGreenlのロバストな発現が可能になる。Ai6マウスに、IV投与によって3、10、および30μgの用量でCre mRNA-LNPを投与した。脾臓およびリンパ節を処置後24時間目に採取し、CD3CD8 細胞集団の中のZsGreenl細胞の%を、フローサイトメトリーを用いて脾臓(図7B)およびリンパ節(図7C)のシングルセル懸濁液(一細胞懸濁液)中で決定した。脾臓(図7D)およびリンパ節(図7E)における、ZsGreenlを発現しているCD4 T細胞数の経時変化を、10μgのmRNA-LNPのIV注射後にモニターした。個体群の大きさは、独立した3実験の合計で、8または9体(図7Bおよび図7C)または6体(図7Dおよび図7E)の動物である。各記号は1体の動物を表し、そして水平線はSEMによる平均を示す。Bonferroni補正を用いた両側ANOVAにより統計解析を行った。様々な用量の抗CD4/mRNA-LNP[*P<0.05、****P<0.0001]と未結合mRNA-LNP[####P<0.0001]の注射後の%ZsGreen1細胞を比較した。
【0022】
図7-2】図7A図7Eは、CD4を標的としたCre mRNA-LNPの生体内投与時のCre媒介遺伝子組換えを示す代表的な実験結果を示す。図7Aは、CD4+ T細胞における選択的遺伝子組換えのための抗CD4/mRNA-LNPのターゲティング送達を示す概略図であり、Ai6レポーター対立遺伝子の原理を示す:loxP隣接STOPカセットのCre媒介切除により、蛍光タンパク質であるZsGreenlのロバストな発現が可能になる。Ai6マウスに、IV投与によって3、10、および30μgの用量でCre mRNA-LNPを投与した。脾臓およびリンパ節を処置後24時間目に採取し、CD3CD8 細胞集団の中のZsGreenl細胞の%を、フローサイトメトリーを用いて脾臓(図7B)およびリンパ節(図7C)のシングルセル懸濁液(一細胞懸濁液)中で決定した。脾臓(図7D)およびリンパ節(図7E)における、ZsGreenlを発現しているCD4 T細胞数の経時変化を、10μgのmRNA-LNPのIV注射後にモニターした。個体群の大きさは、独立した3実験の合計で、8または9体(図7Bおよび図7C)または6体(図7Dおよび図7E)の動物である。各記号は1体の動物を表し、そして水平線はSEMによる平均を示す。Bonferroni補正を用いた両側ANOVAにより統計解析を行った。様々な用量の抗CD4/mRNA-LNP[*P<0.05、****P<0.0001]と未結合mRNA-LNP[####P<0.0001]の注射後の%ZsGreen1細胞を比較した。
【0023】
図7-3】図7A図7Eは、CD4を標的としたCre mRNA-LNPの生体内投与時のCre媒介遺伝子組換えを示す代表的な実験結果を示す。図7Aは、CD4+ T細胞における選択的遺伝子組換えのための抗CD4/mRNA-LNPのターゲティング送達を示す概略図であり、Ai6レポーター対立遺伝子の原理を示す:loxP隣接STOPカセットのCre媒介切除により、蛍光タンパク質であるZsGreenlのロバストな発現が可能になる。Ai6マウスに、IV投与によって3、10、および30μgの用量でCre mRNA-LNPを投与した。脾臓およびリンパ節を処置後24時間目に採取し、CD3CD8 細胞集団の中のZsGreenl細胞の%を、フローサイトメトリーを用いて脾臓(図7B)およびリンパ節(図7C)のシングルセル懸濁液(一細胞懸濁液)中で決定した。脾臓(図7D)およびリンパ節(図7E)における、ZsGreenlを発現しているCD4 T細胞数の経時変化を、10μgのmRNA-LNPのIV注射後にモニターした。個体群の大きさは、独立した3実験の合計で、8または9体(図7Bおよび図7C)または6体(図7Dおよび図7E)の動物である。各記号は1体の動物を表し、そして水平線はSEMによる平均を示す。Bonferroni補正を用いた両側ANOVAにより統計解析を行った。様々な用量の抗CD4/mRNA-LNP[*P<0.05、****P<0.0001]と未結合mRNA-LNP[####P<0.0001]の注射後の%ZsGreen1細胞を比較した。
【0024】
図8図8Aおよび図8Bは、Cre mRNA-LNPの生体内投与時の非T細胞におけるCre媒介遺伝子組換えを示す代表的な実験結果を示す。Ai6マウスに、IV投与によって3、10、および30μgの用量のCre mRNA-LNPを投与した。処置後24時間目に、樹状細胞(MHCII CD11c)中(図8A)および脾臓マクロファージ(MHCII F4/80)中(図8B)のZsGreenl細胞を、フローサイトメトリーを用いて決定した。個体群の大きさは、独立した3実験の合計で8~9体の動物である。各記号は1体の動物を表し、水平線はSEMによる平均を示す。
【0025】
図9-1】図9A図9Cは、異なるT細胞サブタイプによるCre mRNA-LNPの生体内取り込みを実証する代表的な実験結果を示す。Cre mRNA-LNP 10μgで処置後24時間目に、CD4+ T細胞亜集団中のZsGreenl細胞(図9A)および対照CD25マーカー(図9B)の%をフローサイトメトリーを用いて決定した。ナイーブCD4+ T細胞は、CD44CD62L と考えられ、中央記憶T細胞はCD44CD62L と考えられ、そしてエフェクター記憶T細胞はCD44CD62L と考えられる。個体群の大きさは3~11体の動物である。各記号は1体の動物を表し、水平線はSEMによる平均を示す。統計解析は、T細胞サブタイプを比較する、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した。図9Cは、異なるCD4 T細胞サブタイプの中のZsGreenl陽性細胞を識別するためのゲーティング戦略を示す。
【0026】
図9-2】図9A図9Cは、異なるT細胞サブタイプによるCre mRNA-LNPの生体内取り込みを実証する代表的な実験結果を示す。Cre mRNA-LNP 10μgで処置後24時間目に、CD4+ T細胞亜集団中のZsGreenl細胞(図9A)および対照CD25マーカー(図9B)の%をフローサイトメトリーを用いて決定した。ナイーブCD4+ T細胞は、CD44CD62L と考えられ、中央記憶T細胞はCD44CD62L と考えられ、そしてエフェクター記憶T細胞はCD44CD62L と考えられる。個体群の大きさは3~11体の動物である。各記号は1体の動物を表し、水平線はSEMによる平均を示す。統計解析は、T細胞サブタイプを比較する、Bonferroni補正を伴う両側ANOVAによって実施した。図9Cは、異なるCD4 T細胞サブタイプの中のZsGreenl陽性細胞を識別するためのゲーティング戦略を示す。
【0027】
図10図10Aおよび図10Bは、複数回投与を使用してmRNA-LNPターゲティング効率を実証する代表的な実験結果を示す。Ai6マウスに、IV経由で3または5日間にわたる毎日の注射として、抗CD4/mRNA-LNP、対照IgG/mRNA-LNPまたは未結合Cre mRNA-LNPの10μg(0.4 mg/kg)を投与した。3回または5回の連続注射後に脾臓およびリンパ節を採取し、CD3CD8 細胞群の中のZsGreenl細胞の%を、フローサイトメトリーを用いて、脾臓(図10A)およびリンパ節(図10B)のシングルセル懸濁液において測定した。個体群の大きさは9体の動物である。各記号は1体の動物を表し、水平線は平均を示す。誤差バーはSEMを示す。統計解析は、Bonferroni補正を用いる両側ANOVAによって実施した。抗CD4/mRNA-LNPを比較した[**P<0.01、****P<0.0001]。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
別段定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
本明細書中で用いる場合、以下の各用語は、このセクションでそれと関連づけられた意味を有する。
【0030】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、該冠詞の文法的対象物の1つ以上(すなわち少なくとも1つ)を指すために使用される。例えば「要素(an element)」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0031】
量、持続時間などの測定可能な値を指すときに本明細書で使用する「約」という語は、指示された値から±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を包含することを意味するが、そのような変動は、本開示の方法を実行するのに適切であるからである。
【0032】
本明細書で使用するときの「抗体」という用語は、抗原またはエピトープと特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然源由来または組換え源由来の完全な免疫グロブリンまたは完全な免疫グロブリンの免疫反応性部分とすることができる。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体(テトラマー)である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)、並びに一本鎖抗体およびヒト化抗体をはじめとする様々な形態で存在してもよい(Harlow他、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;Harlow他、1989、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、New York;Houston他、1988、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird他、1988、Science 242:423-426)。
【0033】
「抗体フラグメント」という用語は、完全な抗体の一部を指し、完全な抗体の抗原性決定可変領域を指す。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fvフラグメント、線形抗体、scFv抗体、および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用するときの用語「抗体重鎖」は、天然のコンホメーションにおいて全ての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの大きい方の鎖を指す。本明細書で使用するときの用語「抗体軽鎖」は、天然のコンホメーションにおいて全ての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうちの小さい方の鎖を指し、k(カッパ)および1(ラムダ)軽鎖は、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプを指す。
【0035】
本明細書で使用するときの用語「合成抗体」は、例えばバクテリオファージによって発現される抗体などの、組換えDNA技術を利用して産生された抗体を意味する。また、この用語は、抗体をコードするDNA分子の合成によって製造された抗体(該DNA分子が抗体タンパク質を発現する)、または当該抗体を特定するアミノ酸配列の合成によって製造された抗体を意味し、ここで当該DNAまたはアミノ酸配列は、当該技術分野で利用可能でありかつ周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を用いて得られたものである。この用語はまた、抗体をコードするRNA分子の合成によって作製された抗体も意味すると解釈すべきである。RNA分子は、抗体タンパク質、または当該抗体を特定するアミノ酸配列を発現し、当該RNAは、当該技術分野で利用可能かつ周知である、DNA(合成DNAまたはクローン化DNA)の転写によりまたは他の技術により得られたものである。
【0036】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持できない動物の健康状態であり、疾患が改善されない場合、動物の健康が悪化し続けるような健康状態である。対照的に、動物における「障害」とは、動物が恒常性を維持することができるが、動物の健康状態が、障害がないときよりも好ましくない健康状態である。未処置のままでも、障害は必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすわけではない。
【0037】
本明細書で使用するときの「有効量」とは、治療または予防上の恩恵(ベネフィット)を提供する量を意味する。
【0038】
「コードする」とは、ヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNAおよびmRNA)の限定配列、またはアミノ酸の限定配列のいずれかを有する、生物学的プロセスで他のポリマーや高分子の合成のための鋳型として働くポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNAまたはmRNAの中のヌクレオチドの特定配列の固有の特性、およびそれから得られる生物学的特性を指す。従って、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳の結果が細胞または他の生物学的系においてタンパク質を産生するとき、タンパク質をコードすると言う。コード鎖、すなわちmRNA配列と同一であって通常は配列表において提供されるヌクレオチド配列と、非コード鎖、すなわち遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる鎖とを、それぞれ、タンパク質をコードしている、または該遺伝子もしくはcDNAの他の産生物をコードしている、と称することができる。
【0039】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列に操作可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用要素を含み、発現のための他の要素は、宿主細胞によって、またはin vitro(試験管内)発現系において供給することが可能である。発現ベクターには、コスミド、プラスミド(例えば、裸のまたはリポソームに封入された)RNA、および組換えポリヌクレオチドを含んでいるウイルス(例えばレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)が含まれる。
【0040】
「相同性」とは、2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の、配列類似性または配列同一性を指す。2つの比較配列の両方の位置が同一の塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占有されている場合、例えば2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンによって占有されている場合、その2つの分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同性の割合(%)は、2つの配列により共有されている一致または相同の位置の数を、比較した位置の数によって割り、100を乗じた(×100)関数である。例えば、2つの配列における位置の10分の6が一致しているかまたは相同である場合、2つの配列は60%相同である。一例として、DNA配列ATTGCCとTATGGCは、50%相同性を共有する。一般に、2つの配列が最大の相同性を与えるように整列されたときに比較が行われる。
【0041】
「単離された」とは、自然の状態から改変されることまたは取り出されることを意味する。例えば、生存動物に天然に存在する核酸またはペプチドは、単離されていないが、その自然状態の共存物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離された」とされる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在するか、または例えば宿主細胞のような非天然環境に存在することができる。
【0042】
本発明の文脈上、一般的に存在するヌクレオシド(リボースまたはデオキシリボース糖にNグリコシド結合を介して結合した核酸塩基)については以下の略号が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシチジンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0043】
特に断りのない限り、アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、互いの縮重形の全てのヌクレオチド配列を含み、それらは同一のアミノ酸配列をコードする。タンパク質またはRNAをコードするフレーズヌクレオチド配列は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、ある変形ではイントロンを含みうるという程度まで、イントロンを含んでいてもよい。
【0044】
本明細書中で用いるときの「調節する」という用語により、治療または化合物の非存在下での対象の応答のレベルと比較した、および/または、他の方法で同一であるが未処置の対象における応答のレベルと比較した、対象の応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、生来のシグナルまたは応答を混乱させそして/または影響を及ぼし、それによって対象、好ましくはヒトにおける有益な治療応答を媒介することを含む。
【0045】
特に断りのない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重形であり、かつ同一のアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含み得る。加えて、ヌクレオチド配列は、細胞内の翻訳機構によって翻訳することができる修飾ヌクレオシドを含んでもよい。例えば、いくつかの態様では、ヌクレオチド配列は、ウリジンの一部または全部が、プソイドウリジン、1-メチルプソイドウリジン、または他の修飾ヌクレオシドで置き換えられたmRNAを含む。
【0046】
「操作可能に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の機能的結合であって、その結果後者の異種核酸配列の発現をもたらすことを指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に置かれるとき、第1の核酸配列は第2の核酸配列と操作可能に連結されているという。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に操作可能に連結されている。一般に、操作可能に連結されたDNAまたはRNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を統合する必要がある場合、同一の解読枠(ORF)内に置かれる。
【0047】
「患者」「対象(被験体)」、「個体」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、in vitro(試験管内)であるかin situ(原位置)であるかに関わらず、本明細書に記載の方法に適している、任意の動物またはその細胞を指す。特定の非限定的な実施形態では、患者、被験体または個体はヒトである。
【0048】
本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマー(重合体)である。従って、本明細書で使用される核酸とポリヌクレオチドは、互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、単量体「ヌクレオチド」に加水分解され得るという一般的な知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解することができる。本明細書において用いられるときのポリヌクレオチドは、限定するものではないが、組換え手段、すなわち、常用のクローニング技術やPCRTM(商標)などを利用した、組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング、をはじめとする当業界で利用可能な任意の手段によって、および合成手段によって得られる、あらゆる核酸配列を包含する。すなわち、通常のクローニング技術およびPCRTMなどを使用した、および合成手段を含む、任意の手段によって得られるすべての核酸配列を含むが、これらに限定されない。
【0049】
特定の場合、本発明のポリヌクレオチドまたは核酸は「ヌクレオシド修飾核酸」であり、これは少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む核酸を指す。「修飾ヌクレオシド」は、修飾を有するヌクレオシドを指す。例えば、100を超える種類のヌクレオシド修飾が、RNAにおいて同定されている(Rozenski他、1999、The RNA Modification Database: 1999更新 Nucl Acids Res 27:196-197)。
【0050】
特定の実施形態では、「プソイドウリジン」は、別の実施形態では、acpY〔1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン〕を指す。別の実施形態では、この用語は、mY(1-メチルプソイドウリジン)を指す。別の実施形態では、この用語はY(2′-O-メチルプソイドウリジン)を指す。別の実施形態では、この用語はmD(5-メチルジヒドロウリジン)を指す。別の実施形態では、この用語はmY(3-メチルプソイドウリジン)を指す。別の実施形態では、この用語は、さらに修飾されていないプソイドウリジン部分を指す。別の実施形態では、この用語は、上記のプソイドウリジンのいずれかの一リン酸、二リン酸または三リン酸エステルを指す。別の実施形態では、この用語は、当技術分野で知られている任意の他のプソイドウリジンを指す。各々の可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基から構成された化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならないが、タンパク質の配列またはペプチドの配列を含むことができるアミノ酸の最大数には何ら制限が設けられない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で使用する場合、この用語は一般に、ペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーと当技術分野で一般的に呼称される短鎖と、タンパク質と当技術分野で一般的に呼称される長鎖との両者を意味し、その中に多くのタイプが存在する。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、改変ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質などを含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせを含む。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するために必要な、細胞の合成装置、または導入された合成装置によって認識されるDNA配列として定義される。例えば、プロモーターはバクテリオファージRNAポリメラーゼによって認識され、インビトロ転写によってmRNAを産生するために使用される。
【0053】
本明細書において、親和性リガンド、特に抗体に関して使用される場合の、「特異的に結合する」という用語は、特定の抗原を認識するが、試料中の他の分子を実質的に認識または結合しない抗体を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体は、2以上の他の種由来のその抗原にも結合してよい。しかし、そのような種間交差反応性は、それ自体、特異抗体としての抗体の分類を改変しない。別の例では、抗原に特異的に結合する抗体もまた、抗原の異なる対立遺伝子形態に結合し得る。しかしながら、このような交差反応性は、それ自体、特異抗体の分類を改変しない。場合によって、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質またはペプチドと第二の化学種との相互作用を参照しながら、該相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するために用いることができる;例えば、抗体は、タンパク質を一般的に認識するのではなく特定のタンパク質構造を認識しそれに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、エピトープA(または遊離の未標識A)を含む分子の存在は、標識された「A」と抗体とを含む反応において、抗体に結合する標識されたAの量を減少させるだろう。
【0054】
本明細書で使用する場合の用語「治療」は、処置および/または予防を意味する。治療効果は、疾患または障害の少なくとも1つの標識または症状の抑制、低減、寛解、または根絶によって得られる。
【0055】
用語「治療上有効な量」は、研究者、獣医、医師または他の臨床医によって求められている組織、系、または被験体の生物学的または医学的応答を誘発するであろう対象化合物の量を指す。「治療上有効な量」という用語は、投与されると、治療中の障害または疾患の徴候または症状のうちの1つ以上の発生を予防する、またはある程度緩和するのに十分である、化合物の量を含む。治療上有効な量は、化合物種、治療すべき対象の疾患およびその重症度、並びに年齢、体重などに応じて変化する。
【0056】
本明細書で使用する場合の疾患を「処置する」という用語は、被験体が経験した疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度もしくは重症度を低減することを意味する。
【0057】
本明細書で使用する用語「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」とは、外因性核酸が宿主細胞中に移入または導入されるプロセスを指す。トランスフェクトされた、形質転換された、または形質導入された細胞は、外因性核酸を用いてトランスフェクトされ、形質転換され、または形質導入されたものである。細胞は、初代の対象細胞およびその子孫を含む。
【0058】
本明細書で使用する「転写制御下」または「操作可能に連結された」という語句は、プロモーターがポリヌクレオチドに対して適正な位置と配向にあり、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御することを意味する。
【0059】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達させるために使用することができる物質の組成物である。限定されないが、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスをはじめとして、多数のベクターが当該技術分野で知られている。従って、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。また、この用語は、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどの細胞への核酸の移行を促進する非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むものと解釈すべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
「アルキル」は、炭素原子および水素原子のみからなる直鎖状もしくは分枝状炭化水素鎖基を指し、これは飽和または不飽和(すなわち、1つ以上の二重結合および/または三重結合を含む)であり、1~24個の炭素原子(C~C24アルキル)、1~12個の炭素原子(C~C12アルキル)、1~8個の炭素原子(C~Cアルキル)、または1~6個の炭素原子(C~Cアルキル)を有し、これは単結合により分子の残りの部分に結合しており、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、n-ブチル、n-ペンチル、1,1-ジメチルエチル(t-ブチル)、3-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、エテニル、プロプ-1-エニル、ブタ-1-エニル、ペンタ-1-エニル、ペンタ-1,4-ジエニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどである。特に他に明記しない限り、アルキル基は随意に置換される。
【0061】
「アルキレン」または「アルキレン鎖」は、分子の残りの部分を、炭素と水素のみからなる1つの基に結合する直鎖状または分枝状二価炭化水素鎖を指し、その基は、飽和または不飽和であり〔すなわち1つ以上の二重結合(アルケニレン)および/または三重結合(アルキニレン)を含む〕、そして例えば1~24個の炭素原子(C~C24アルキレン)、1~15個の炭素原子(C~C15アルキレン)、1~12個の炭素原子(C~C12アルキレン)、または1~8個の炭素原子(C~Cアルキレン)、1~6個の炭素原子(C~Cアルキレン)、2~4個の炭素原子(C~Cアルキレン)、1~2個の炭素原子(C~Cアルキレン)を有し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、n-ブチレン、エチニレン、プロペニレン、n-ブテニレン、プロピニレン、n-ブチニレンなどである。アルキレン鎖は、単結合または二重結合を介して分子の残部に結合され、そして単結合または二重結合を介してラジカル基に結合される。分子の残部へのおよびラジカル基へのアルキレン鎖の付着点は、1個の炭素を通してまたは鎖内のいずれか2個の炭素を通してであることができる。明細書中で特に他に断らない限り、アルキレン鎖は随意に置換されてよい(置換されてもされなくてもよい)。
【0062】
「シクロアルキル」または「炭素環」は、炭素原子と水素原子のみからなる安定な非芳香族単環式または多環式炭化水素基を指し、これは、3~15個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を有する縮合環もしくは架橋環系を含むことができ、飽和または不飽和であり、単結合によって分子の残りの部分に結合している。単環式基には、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが含まれる。多環式基には、例えばアダマンチル、ノルボルニル、デカリニル、7,7-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタニルなどが含まれる。特に明記しない限り、シクロアルキル基は随意に置換される。
【0063】
「シクロアルキレン」は二価のシクロアルキル基である。本明細書で特に明記しない限り、シクロアルキレン基は、随意に置換される。
【0064】
「ヘテロシクリル」または「複素環」は、2~12個の炭素原子と、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択された1~6個のヘテロ原子とからなる、安定な3~18員の非芳香族環基を指す。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロシクリル基は、単環式、二環式、三環式、または四環式の環系であり得、これは、縮合環または架橋環系を含むことができ;そしてヘテロシクリル基中の窒素、炭素または硫黄原子は、随意に酸化されてよく;そして窒素原子は随意に四級化されてよく;そしてヘテロシクリル基は部分的または完全に飽和されていてもよい。そのようなヘテロシクリル基の例には、特に限定されるものではないが、ジオキソラニル、チエニル[1,3]ジチアニル、デカヒドロイソキノリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソキサゾリジニル、モルホリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、4-ピペリドニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、キヌクリジニル、チアゾリジニル、テトラヒドロフリル、トリチアニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、チアモルホリニル、1-オキソ-チオモルホリニル、および1,1-ジオキソ-チオモルホリニルが含まれる。特に明記しない限り、ヘテロシクリル基は随意に置換され得る。
【0065】
本明細書で使用する「置換された」という用語は、上記の基(例えば、アルキル、シクロアルキルまたはヘテロシクリル)のいずれかであって、その中の少なくとも1つの水素原子が、結合により、例えば限定されないが、F、Cl、Br、およびIなどのハロゲン原子;オキソ基(=O);ヒドロキシル基(-OH);アルコキシ基(-OR、ここでRはC~C12アルキルまたはシクロアルキルである);カルボキシル基(-OC(=O)Rまたは-C(=O)OR(RはH、C~C12アルキルまたはシクロアルキルである);アミン基(-NR、ここでRおよびRは、それぞれ独立に、H、C~C12アルキルまたはシクロアルキルである);C~C12アルキル基;およびシクロアルキル基などの非水素原子に置き換えられることを意味する。いくつかの実施形態では、置換基はC~C12アルキル基である。他の実施形態では、置換基はシクロアルキル基である。他の実施形態では、置換基はフルオロなどのハロ基である。他の実施形態では、置換基はオキソ基である。他の実施形態では、置換基はヒドロキシル基である。他の実施形態では、置換基はアルコキシ基である。他の実施形態では、置換基はカルボキシル基である。他の実施形態では、置換基はアミン基である。
【0066】
「随意の」または「任意選択的に」(例えば、置換されてもされなくてもよい)は、その後に記載された状況の事象が起こっても起こらなくてもよく、その記載が、前記事象または状況が起こる場合と、それが起こらない場合とを含むことを意味する。例えば、「随意に(任意選択的に)置換されるアルキル」とは、アルキル基が置換されていても、置換されていなくてもよく、その記載は、置換されたアルキル基および何も置換基を有さないアルキル基の両方を含むことを意味する。
【0067】
範囲:本開示全体を通して、本発明の様々な態様を範囲形式で提示することができる。範囲形式での記述は、単に利便性および簡略化のためにすぎず、本発明の範囲に対するフレキシブルな制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。従って、ある範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、全ての可能な部分範囲も具体的に開示されていると見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲、並びにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を有すると見なされるべきである。この定義は、範囲の広さに関わらず適用される。
〔説明〕
【0068】
本発明は、送達ビヒクルの標的指向型送達のための組成物および方法に関する。一態様では、本発明は、標的となるドメインにコンジュゲート(結合)した送達ビヒクルを含む組成物に関する。一実施形態では、送達ビヒクルは、少なくとも1つの剤を含む。一実施形態では、送達ビヒクルは、mRNA、ヌクレオシド修飾RNA、siRNA、miRNA、shRNA、またはアンチセンスRNAを含むがこれらに限定されない、RNA分子を含んで成る。一実施形態では、送達ビヒクルは治療薬を含む。一実施形態では、治療薬はヌクレオシド修飾RNAである。
【0069】
様々な実施形態において、ターゲティング(標的指向性)ドメインは、T細胞抗原の細胞表面分子に結合する。一実施形態では、T細胞抗原は、CD4 T細胞の表面抗原である。一実施形態では、T細胞表面抗原はCD4である。
【0070】
一実施形態では、組成物は、CD4 T細胞のCD4または表面抗原に結合するターゲティングドメインにコンジュゲートした送達ビヒクルを含み、それによって、該組成物をCD4 T細胞に誘導する。
【0071】
一実施形態では、送達ビヒクルは、CD4 T細胞の活性調節(modulation)のための薬剤を含有するか、または内包化する。いくつかの実施形態では、薬剤は核酸分子である。いくつかの実施形態では、核酸分子はヌクレオシド修飾mRNAである。
【0072】
一実施形態では、送達ビヒクルは、CD4 T細胞の活性調節のための治療薬を含むか、または内包化する。いくつかの実施形態では、治療薬はヌクレオシド修飾mRNAである。いくつかの実施形態では、治療薬は、mRNAベースの免疫療法薬である。
【0073】
本発明はまた、CD4またはCD4 T細胞の表面抗原に結合するターゲティングドメインにコンジュゲート(結合)された薬剤を含む送達ビヒクルを含んでなる組成物を投与することを含む、それを必要とする対象における疾患または障害を治療する方法に関する。
【0074】
本発明のCD4 T細胞を標的とする治療組成物を使用して治療することができる例示的な疾患および障害としては、限定されないが、癌、感染症および免疫疾患が挙げられる。
【0075】
非限定的な例として、一実施形態では、本発明のCD4 T細胞を標的とする送達ビヒクルは、HIV感染またはそれに関連した疾患もしくは障害を治療または予防するための、ヌクレオシド修飾1086C Env mRNAを含むかまたは内包化しており、該mRNAは、HIVの分岐群Cに感染した/認識された、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)-lエンベロープ(Env)1086Cをコードしている。
【0076】
送達ビヒクル積荷(カーゴ)
様々な実施形態において、送達ビヒクルは、免疫細胞を遺伝的に改変する1つ以上の核酸分子(例えば、mRNA、発現ベクター、またはゲノム編集ベクター)の積荷を含む。標的免疫細胞による送達ビヒクルの細胞取込み後(例えば、エンドサイトーシスによって)、積荷核酸はエンドソームから放出される。放出されると、積荷核酸は、対象の標的免疫細胞を、1つ以上の表面部分(例えば、細胞受容体)を発現するように改変する。
【0077】
一実施形態では、送達ビヒクルは、少なくとも1つの薬剤を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、治療薬、造影剤、診断薬、造影剤、標識剤、検出剤、または消毒剤である。薬剤はまた、典型的には、香料、甘味料、風味剤、および風味増強剤、pH調整剤、発泡剤、エモリエント、増量剤、可溶性有機塩、透過処理剤、抗酸化剤、着色剤または発色剤などの、典型的には活性成分であると見なされない生物活性をもつ物質も包みうる。
【0078】
一実施形態では、送達ビヒクルは、少なくとも1つの治療薬を含む。本発明は、任意の特定の治療薬に限定されず、むしろ、送達ビヒクル内に含めることができる任意の適切な治療薬を包含する。例示的な治療薬としては、抗ウイルス薬、抗菌薬、抗酸化剤、血栓溶解剤、化学療法薬、抗炎症薬、免疫原性剤、防腐剤、麻酔薬、鎮痛薬、医薬品、小分子、ペプチド、核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、薬剤は、本明細書の他の箇所で記載されるようなmRNA分子(例えば、ヌクレオシド修飾mRNA分子)である。
【0079】
核酸剤
一態様では、本開示は、限定されないが、活性化された線維芽細胞を阻害、不活性化および/または破壊するために用いられる、mRNA、発現ベクター、ゲノム編集ベクター、siRNA、shRNA、miRNAをはじめとする核酸積荷(カーゴ)(例えばDNAまたはRNA)を含む送達ビヒクルを提供する。様々な実施形態において、積荷核酸は、ヌクレオシド修飾核酸分子(例えば、ヌクレオシド修飾mRNA分子)であってもよい。様々な実施形態では、薬剤は単離された核酸である。いくつかの実施形態では、単離された核酸分子は、cDNA、mRNA、siRNA、shRNAまたはmiRNA分子である。いくつかの実施形態では、単離された核酸分子はヌクレオシド修飾RNA分子である。いくつかの実施形態では、ヌクレオシド修飾RNA分子は、siRNA、miRNA、shRNA、またはアンチセンス分子である。
【0080】
様々な実施形態では、送達ビヒクルは、免疫細胞を遺伝的に改変する1つ以上の核酸分子(例えば、mRNA、発現ベクター、またはゲノム編集ベクター、DNA、またはRNA)の積荷を含む。標的による送達ビヒクルの細胞取り込み後、送達ビヒクルは、標的によって細胞内に取り込まれる。
【0081】
免疫細胞は、積荷核酸をエンドソームから排出させる(例えばエンドサイトーシスによって)。積荷核酸は、排出されると、対象の標的免疫細胞を改変する。
【0082】
一実施形態では、核酸は、核酸がその核酸の発現を指令することができるようにプロモーター/調節配列を含む。従って、本発明は、例えばSambrook他(2012、Molecular Cloning:ALaboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、NewYork)、およびAusubel他(1997、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York)に記載されそして本明細書の他の箇所で説明されるように、細胞内での外来核酸の付随発現を伴う、外来核酸の細胞中への導入のための発現ベクターおよび方法を包含する。
【0083】
ヌクレオシド修飾RNA剤
一実施形態では、本発明の組成物は、ヌクレオシド修飾核酸(例えば、ヌクレオシド修飾mRNA分子)を含む。一実施形態では、本発明の組成物は、治療用タンパク質などのタンパク質をコードするヌクレオシド修飾RNAを含む。
【0084】
例えば、一実施形態では、組成物はヌクレオシド修飾RNAを含む。一実施形態では、組成物はヌクレオシド修飾mRNAを含む。ヌクレオシド修飾mRNAは、未修飾mRNAを上回る特定の利点、例えば、増加した安定性、自然免疫原性の低下または欠如、および増強された翻訳をはじめとする利点を有する。本発明において有用なヌクレオシド修飾mRNAは、米国特許第8,278,036号、同第8,691,966号および同第8,835,108号明細書にさらに記載され、その各々の全内容が本明細書に参照により組み込まれる。
【0085】
特定の実施形態では、ヌクレオシド修飾mRNAは、いかなる病理生理学的経路も活性化せず、非常に効率的に且つほぼ送達直後に翻訳され、数日間持続する連続タンパク質の生体内産生のための鋳型として機能する(Kariko他、2008、Mol Ther 16:1833-1840;Kariko他、2012、Mol Ther 20:948-953)。生理学的効果を発揮するために必要なmRNAの量は少なく、そのためヒトの治療に適用可能である。
【0086】
特定の例では、コードmRNAを送達することによってタンパク質を発現させることは、タンパク質、プラスミドDNAまたはウイルスベクターを使用する方法を上回る多くの利点を有する。mRNAのトランスフェクション中、所望のタンパク質のコード配列は、細胞に送達される唯一の物質であるため、プラスミド骨格、ウイルス遺伝子、およびウイルスタンパク質に関連する副作用を全て回避する。より重要なことには、DNAベースおよびウイルスベースのベクターとは異なり、mRNAはゲノムに取り込まれる危険因子を担持せず、mRNA送達の直後にタンパク質産生が開始される。例えば、高レベルの循環タンパク質は、コードmRNAの生体内注入後15~30分以内に測定されている。特定の実施形態では、タンパク質ではなくmRNAを使用することも多くの利点を有する。循環中のタンパク質の半減期はしばしば短いため、タンパク質治療薬は頻繁に投与する必要があり、その一方、mRNAは数日間にわたり連続したタンパク質産生のための鋳型を提供する。タンパク質の精製は問題があり、それらは副作用の原因となる凝集物や他の不純物を含み得る(KrommingaおよびSchellekens、2005、Ann NY Acad Sci 1050:257-265)。
【0087】
特定の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、天然に存在する修飾ヌクレオシドであるプソイドウリジンを含む。特定の実施形態では、プソイドウリジンを含めることによって、mRNAは、より安定した、非免疫原性で、かつ高度に翻訳可能なものになる(Karkoetal、2008、Mol Ther 16:1833-1840;Anderson他、2010、Nucleic Acids Res 38:5884-5892;Anderson他、2011、Nucleic Acid Research 39:9329-9338;Kariko他、2011、Nucleic Acid Research 39:el42;Karik他、2012、Mol Ther 20:948-953;Kariko他、2005、Immunity 23:165-175)。
【0088】
RNA中にプソイドウリジンを含む修飾ヌクレオシドの存在は、それらの自然免疫原性を抑制することが実証されている(Kariko他、2005、Immunity 23:165-175)。さらに、タンパク質をコードする、プソイドウリジン含有in vitro転写RNAは、他の修飾ヌクレオシドを含まないRNAよりも効率的に翻訳され得る(Kariko他、2008、Mol Ther 16:1833-1840)。続いて、プソイドウリジンの存在が、RNAの安定性を改善し(Anderson他、2011、Nucleic Acid Research 39:9329-9338)、PKR(プロテインキナーゼR)の活性化と翻訳の阻害の両方を防止する(Anderson他、2010、Nucleic Acid Res 38:5884-5892)ことが示されている。
【0089】
1-メチル-プソイドウリジンを含有するRNAについても同様の効果が認められている。
【0090】
いくつかの実施形態では、ヌクレオシド修飾核酸分子は、精製されたヌクレオシド修飾核酸分子である。例えば、いくつかの実施形態では、組成物は、二本鎖の汚染物質を除去するために精製される。場合によって、優れた翻訳能力を有し、自然免疫原性を持たないプソイドウリジン含有RNAを獲得するために分取HPLC精製手順が用いられる(Kariko他、2011、Nucleic Acid Research 39:el42)。エリスロポエチンをコードするHPLC精製済のプソイドウリジン含有RNAを、マウスおよびマカクザルに投与すると、血清EPOレベルの有意な増加をもたらし(Kariko他、2012、Mol Ther 20:948-953)、それによりプソイドウリジン含有mRNAが生体内(in vivo)タンパク質療法に適していることが確認された。いくつかの実施形態では、ヌクレオシド修飾核酸分子は、非HPLC法を用いて精製される。いくつかの例では、ヌクレオシド修飾核酸分子は、クロマトグラフィー法、例えば限定されないが、HPLCおよび高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を使って精製される。例示的なFPLCベースの精製手順は、Weissman他、2013、Methods Mol Biol、969:43-54に記載されている。例示的な精製手順は、米国特許出願公開第2016/0032316号公報にも記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
本発明は、プソイドウリジンまたは修飾ヌクレオシドを含むRNA、オリゴリボヌクレオチド、およびポリリボヌクレオチド分子を包含する。特定の実施形態では、組成物は、プソイドウリジンまたは修飾ヌクレオシドを含む、単離された核酸を含む。特定の実施形態では、組成物は、単離された核酸を含むベクターを含み、該核酸は、擬ウリジンまたは修飾ヌクレオシドを含む。
【0092】
一実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾RNAは、本明細書の他の箇所で記載されるように、IVT RNAである。例えば、特定の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、T7ファージRNAポリメラーゼによって合成される。別の実施形態では、ヌクレオシド修飾mRNAは、SP6ファージRNAポリメラーゼによって合成される。別の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、T3ファージRNAポリメラーゼによって合成される。
【0093】
一実施形態では、修飾ヌクレオシドはacpΨ(プサイ)(1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmΨ(1-メチルプソイドウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはΨm(2′-O-メチルプソイドウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmD(5-メチルジヒドロウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmΨ(3-メチルプソイドウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、さらに修飾されていないプソイドウリジン部分である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、上記のプソイドウリジンのいずれかの一リン酸、二リン酸、または三リン酸エステルである。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、当技術分野で知られている任意の他のプソイドウリジン様ヌクレオシドである。
【0094】
別の実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾RNAにおいて修飾されるヌクレオシドはウリジン(U)である。別の実施形態では、修飾されるヌクレオシドはシチジン(C)である。別の実施形態では、修飾されるヌクレオシドはアデノシン(A)である。別の実施形態では、修飾されるヌクレオシドはグアノシン(G)である。
【0095】
別の実施形態では、本発明の修飾されたヌクレオシド(修飾ヌクレオシド)はmC(5-メチルシチジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmU(5-メチルウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmA(N-メチルアデノシン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはsU(2-チオウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはΨ(プソイドウリジン)である。別の実施形態では、修飾ヌクレオシドはUm(2′-O-メチルウリジン)である。
【0096】
他の実施形態では、修飾ヌクレオシドはmA〔1-メチルアデノシン〕;mA〔2-メチルアデノシン〕;Am〔2′-O-メチルアデノシン〕;msmA〔2-メチルチオ-N-メチルアデノシン〕;iA〔N-イソペンテニルアデノシン〕;msi6A〔2-メチルチオ-N-イソペンテニルアデノシン〕;ioA〔N-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン〕;msioA〔2-メチルチオ-N-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン〕;gA〔N-グリシニルカルバモイルアデノシン〕; tA〔N-スレオニルカルバモイルアデノシン〕;mstA〔2-メチルチオ-N-スレオニルカルバモイルアデノシン〕;mtA〔N-メチル-N-スレオニルカルバモイルアデノシン〕; hnA〔N-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン〕;mshnA〔2-メチルチオ-N-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン〕;Ar(p)〔2′-O-リボシルアデノシン(リン酸)〕;I〔イノシン〕;mI〔1-メチルイノシン〕;mIm〔1,2′-O-ジメチルイノシン〕;mC〔3-メチルシチジン〕;Cm〔2′-O-メチルシチジン〕;sC〔2-チオシチジン〕;acC〔N-アセチルシチジン〕;fC〔5-ホルミルシチジン〕;mCm〔5,2′-O-ジメチルシチジン〕;acCm〔N-アセチル-2′-O-メチルシチジン〕;kC〔リシジン〕;mG〔1-メチルグアノシン〕;mG〔N-メチルグアノシン〕;mG〔7-メチルグアノシン〕;Gm〔2′-O-メチルグアノシン〕;m G〔N,N-ジメチルグアノシン〕;mGm〔N,2′-O-ジメチルグアノシン〕;m Gm〔N,N,2′-O-トリメチルグアノシン〕;Gr(p)〔2′-O-リボシルグアノシン(リン酸)〕;yW〔ワイブトシン〕;oyW〔ペルオキシワイブトシン〕;OHyW〔ヒドロキシワイブトシン〕;OHyW〔低修飾ヒドロキシワイブトシン〕;imG〔ワイオシン〕;mimG〔メチルワイオシン〕;Q〔キューオシン〕;oQ〔エポキシキューオシン〕;galQ〔ガラクトシルキューオシン〕;manQ〔マンノシル-キューオシン〕; preQ〔7-シアノ-7-デアザグアノシン〕;preQ〔7-アミノメチル-7-デアザキューオシン〕;G〔アルカエオシン〕;D〔ジヒドロウリジン〕;mUm〔5,2'-O-ジメチルウリジン〕;sU〔4-チオウリジン〕;msU〔5-メチル-2-チオウリジン〕;sUm〔2-チオ-2′-O-メチルウリジン〕;acpU〔3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン〕;hoU〔5-ヒドロキシウリジン〕;moU〔5-メトキシウリジン〕;cmoU〔ウリジン5-オキシ酢酸〕;mcmoU〔ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル〕;chmU〔5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン〕;mchmU〔5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル〕;mcmU〔5-メトキシカルボニルメチルウリジン〕;mcmUm〔5-メトキシカルボニルメチル-2'-O-メチルウリジン〕;mcmsU〔5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン〕;nmsU〔5-アミノメチル-2-チオウリジン〕;mnmU〔5-メチルアミノメチルウリジン〕;mnmsU〔5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン〕;mnmseU〔5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン〕;ncmU〔5-カルバモイルメチルウリジン〕;ncmUm〔5-カルバモイルメチル-2′-O-メチルウリジン〕;cmnmU〔5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン〕;cmnmUm〔5-カルボキシメチルアミノメチル-2′-O-メチルウリジン〕;cmnmsU 〔5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン〕;m A〔N,N-ジメチルアデノシン〕;Im〔2′-O-メチルイノシン〕;mC〔N-メチルシチジン〕;mCm〔N,2'-O-ジメチルシチジン〕;hmC〔5-ヒドロキシメチルシチジン〕;mU〔3-メチルウリジン〕;cmU〔5-カルボキシメチルウリジン〕;mAm〔N,2′-O-ジメチルアデノシン〕;m Am〔N,N,O-2′-トリメチルアデノシン〕;m2,7G〔N,7-ジメチルグアノシン〕;m2,2,7G〔N,N,7-トリメチルグアノシン〕;mUm〔3,2′-O-ジメチルウリジン〕;mD〔5-メチルジヒドロウリジン〕;fCm〔5-ホルミル-2′-O-メチルシチジン〕;mGm〔1,2′-O-ジメチルグアノシン〕;mAm〔1,2′-O-ジメチルアデノシン〕;τmU〔5-タウリノメチルウリジン〕;τmsU〔5-タウリノメチル-2-チオウリジン〕;imG-14〔4-デメチルワイオシン〕;imG2〔イソワイオシン〕;またはacA〔N-アセチルアデノシン〕である。
【0097】
別の実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾RNAは、上記の修飾の2以上の組み合わせを含む。別の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、上記の修飾の3以上の組み合わせを含む。別の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、上記の修飾の3より多い組み合わせを含む。
【0098】
別の実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾における残基の0.1%~100%が修飾される(例えば、プソイドウリジンまたは修飾ヌクレオシド塩基の存在によって)。別の実施形態では、残基の0.1%が修飾される。別の実施形態では、修飾残基の比率は0.2%である。別の実施形態では、その比率は0.3%である。別の実施形態では、その比率は0.4%である。別の実施形態では、その比率は0.5%である。別の実施形態では、その比率は0.6%である。別の実施形態では、その比率は0.7%である。別の実施形態では、その比率は0.8%である。別の実施形態では、その比率は1%である。別の実施形態では、その比率は1.5%である。別の実施形態では、その比率は2%である。別の実施形態では、その比率は2.5%である。別の実施形態では、その比率は3%である。別の実施形態では、その比率は4%である。別の実施形態では、その比率は5%である。別の実施形態では、その比率は6%である。別の実施形態では、その比率は8%である。別の実施形態では、その比率は10%である。別の実施形態では、その比率は12%である。別の実施形態では、その比率は14%である。別の実施形態では、その比率は16%である。別の実施形態では、その比率は18%である。別の実施形態では、その比率は20%である。別の実施形態では、その比率は25%である。別の実施形態では、その比率は30%である。別の実施形態では、その比率は35%である。別の実施形態では、その比率は40%である。別の実施形態では、その比率は45%である。別の実施形態では、その比率は50%である。別の実施形態では、その比率は60%である。別の実施形態では、その比率は70%である。別の実施形態では、その比率は80%である。別の実施形態では、その比率は90%である。別の実施形態では、その比率は100%である。
【0099】
別の実施形態では、その比率は5%未満である。別の実施形態では、その比率は3%未満である。別の実施形態では、その比率は1%未満である。別の実施形態では、その比率は2%未満である。別の実施形態では、その比率は4%未満である。別の実施形態では、その比率は6%未満である。別の実施形態では、その比率は8%未満である。別の実施形態では、その比率は10%未満である。別の実施形態では、その比率は12%未満である。別の実施形態では、その比率は15%未満である。別の実施形態では、その比率は20%未満である。別の実施形態では、その比率は30%未満である。別の実施形態では、その比率は40%未満である。別の実施形態では、その比率は50%未満である。別の実施形態では、その比率は60%未満である。別の実施形態では、その比率は70%未満である。
【0100】
別の実施形態では、所与のヌクレオシド(すなわちウリジン、シチジン、グアノシン、またはアデノシン)残基の0.1%が修飾されている。別の実施形態では、修飾されている所与のヌクレオチドの比率は0.2%である。別の実施形態では、その比率は0.3%である。別の実施形態では、その比率は0.4%である。別の実施形態では、その比率は0.5%である。別の実施形態では、その比率は0.6%である。別の実施形態では、その比率は0.8%である。別の実施形態では、その比率は1%である。別の実施形態では、その比率は1.5%である。別の実施形態では、その比率は2%である。別の実施形態では、その比率は2.5%である。別の実施形態では、その比率は3%である。別の実施形態では、その比率は4%である。別の実施形態では、その比率は5%である。別の実施形態では、その比率は6%である。別の実施形態では、その比率は8%である。別の実施形態では、その比率は10%である。別の実施形態では、その比率は12%である。別の実施形態では、その比率は14%である。別の実施形態では、その比率は16%である。別の実施形態では、その比率は18%である。別の実施形態では、その比率は20%である。別の実施形態では、その比率は25%である。別の実施形態では、その比率は30%である。別の実施形態では、その比率は35%である。別の実施形態では、その比率は40%である。別の実施形態では、その比率は45%である。別の実施形態では、その比率は50%である。別の実施形態では、その比率は60%である。別の実施形態では、その比率は70%である。別の実施形態では、その比率は80%である。別の実施形態では、その比率は90%である。別の実施形態では、その比率は100%である。
【0101】
別の実施形態では、修飾されている所与のヌクレオチドのその比率は、8%未満である。別の実施形態では、その比率は10%未満である。別の実施形態では、その比率は5%未満である。別の実施形態では、その比率は3%未満である。別の実施形態では、その比率は1%未満である。別の実施形態では、その比率は2%未満である。別の実施形態では、その比率は4%未満である。別の実施形態では、その比率は6%未満である。別の実施形態では、その比率は12%未満である。別の実施形態では、その比率は15%未満である。別の実施形態では、その比率は20%未満である。別の実施形態では、その比率は30%未満である。別の実施形態では、その比率は40%未満である。別の実施形態では、その比率は50%未満である。別の実施形態では、その比率は60%未満である。別の実施形態では、その比率は70%未満である。
【0102】
いくつかの実施形態では、組成物は、一本鎖ヌクレオシド修飾RNAの精製調製物を含む。例えば、いくつかの実施形態では、一本鎖ヌクレオシド修飾RNAの精製調製物は、実質的に二本鎖RNA(dsRNA)を含まない。いくつかの実施形態では、当該精製調製物は、他のすべての核酸分子(DNA、dsRNAなど)に対して、少なくとも90%、または少なくとも91%、または少なくとも92%、または少なくとも93%または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または少なくとも99.9%の一本鎖ヌクレオシド修飾RNAを含む。
【0103】
別の実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾RNAは、同じ配列を有する未修飾RNA分子よりも効率的に細胞内で翻訳される。別の実施形態では、ヌクレオシド修飾RNAは、標的細胞によって翻訳される能力が増強される。別の実施形態では、翻訳は、その未修飾の相当物に対して2倍の倍率だけ増強される。別の実施形態では、翻訳は、未修飾の相当物に対して3倍の倍率だけ増強される。別の実施形態では、翻訳は5倍増強される。別の実施形態では、翻訳は7倍増強される。別の実施形態では、翻訳は10倍増強される。別の実施形態では、15倍増強される。別の実施形態では、翻訳は20倍増強される。別の実施形態では、翻訳は50倍増強される。別の実施形態では、翻訳100倍増強される。別の実施形態では、翻訳は200倍増強される。別の実施形態では、翻訳は500倍増強される。別の実施形態では、翻訳は1000倍増強される。別の実施形態では、翻訳は2000倍増強される。別の実施形態では、倍率は10~1000倍である。別の実施形態では、倍率は10~100倍である。別の実施形態では、倍率は10~200倍である。別の実施形態では、倍率は10~300倍である。別の実施形態では、倍率は10~500倍である。別の実施形態では、倍率は20~1000倍である。別の実施形態では、倍率は30~1000倍である。別の実施形態では、倍率は50~1000倍である。別の実施形態では、倍率は100~1000倍である。別の実施形態では、倍率は200~1000倍である。別の実施形態では、翻訳は、他の任意の有意な量または量の範囲だけ増強される。
【0104】
別の実施形態では、本発明のヌクレオシド修飾RNAは、同じ配列の試験管内合成されたRNA分子よりも有意に低い免疫原性を示す。別の実施形態では、修飾されたRNA分子は、その未修飾の相当物よりも2倍低い自然免疫応答を示す。別の実施形態では、自然免疫原性は、3倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、4倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は5倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、6倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、7倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、8倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、9倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、10倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、15倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は20倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、50倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、100倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は200倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は500倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、1000倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は2000倍の倍率だけ低減される。別の実施形態では、自然免疫原性は、別の倍率差だけ低減される。
【0105】
別の実施形態では、「有意に低い自然免疫原性を示す」とは、自然免疫原性の検出可能な低減を指す。別の実施形態では、この用語は、自然免疫原性の1倍低減(例えば、上記で列挙された倍率の低減が1)を指す。別の実施形態では、この用語は、検出可能な自然免疫応答を誘発することなく、有効量のヌクレオシド修飾RNAを投与することができるように減少させることを指す。別の実施形態では、この用語は、該修飾RNAによりコードされるタンパク質の産生を検出可能な程度減少させるのに十分な自然免疫応答を誘発することなく、ヌクレオシド修飾RNAを繰り返し投与することができるような低減を指す。別の実施形態では、この低減は、修飾RNAによってコードされるタンパク質の検出可能な産生を排除するのに十分な自然免疫応答を誘発することなく、ヌクレオシド修飾RNAを繰り返し投与することができるような低減である。
【0106】
RNA干渉剤
一実施形態では、siRNAは、標的タンパク質のレベルを低下させるために使用される。RNA干渉(RNAi)は、多様な範囲の生物体への二本鎖RNA(dsRNA)の導入が、相補的mRNAの分解を引き起こす現象である。細胞においては、長いdsRNAが、Dicerとして知られるリボヌクレアーゼによって、短い21~25ヌクレオチドの小さい干渉RNA、いわゆるsiRNAに切断される。その後、siRNAは、タンパク質成分と統合してRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)に組み立てられ、その過程で巻き戻しが行われる。次いで、活性化されたRISCが、siRNAアンチセンス鎖とmRNAとの間の塩基対合相互作用によって相補的転写産物に結合する。結合したmRNAは開裂され、mRNAの配列特異的分解が遺伝子のサイレンシングをもたらす。例えば、米国特許第6,506,559号明細書;Fire他、1998、Nature 391(19):306-311;Timmonsdetal他、1998、Nature 395:854;Montgomery他、1998、TIG 14(7):255-258;David R. Engelke編、RNA Interference (RNAi) Nuts & Bolts of RNAi Technology、DNA Press、Eagleville、PA (2003);およびGregory J. Hannon編、RNAi: A Guide to Gene Silencing、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, N.Y. (2003)を参照のこと。Soutschek、他(2004、Nature 432:173-178)には、静脈内全身送達を助けるsiRNAに対する化学修飾が記載されている。siRNAの最適化は、全体のG/C含量、末端のC/T含量、Tmおよび3′突出末端(overhang)のヌクレオチド含量の考慮を必要とする。例えば、Schwartz他、2003、Cell、115:199-208、Khvorova他、2003、Cell 115:209-216を参照されたい。従って、本発明は、RNAi技術を利用したPTPN22(タンパク質チロシンホスファターゼ非受容体22型)のレベルを減少させる方法も含む。
【0107】
一態様では、本発明は、siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドを含有するベクターを含む。好ましくは、siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドの発現を阻害することができる。ベクターへの所望のポリヌクレオチドの組み込み、およびベクターの選択は、例えば、Sambrook他(2012)およびAusubel他(1997)、並びに本明細書の他の箇所に記載されているとおり、当該技術分野において周知である。
【0108】
特定の実施形態では、本明細書に記載の発現ベクターは、短いヘアピンRNA(shRNA)剤をコードする。shRNA分子は、当該技術分野において周知であり、標的mRNAに向けられ、それによって標的の発現を減少させる。特定の実施形態では、コード化されたshRNAが細胞によって発現され、次いでsiRNAにプロセシングされる。例えば、特定の例では、細胞は、shRNAを切断してsiRNAを形成する天然酵素(例えば、ダイサー(Dicer))を有している。
【0109】
siRNA、shRNA、またはアンチセンスポリヌクレオチドの発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれかまたはその両方を含むことができ、それらの遺伝子は、本発明の送達ビヒクルを使ってトランスフェクトまたは感染させるために探索される細胞集団からの、発現細胞の同定を容易にする。他の実施形態では、選択マーカーは、別個のDNA上に担持されてもよく、または送達ビヒクル内に含まれてもよい。選択マーカーおよびレポーター遺伝子の両方を、宿主細胞中での発現を可能にする適当な調節配列と隣接させてもよい。有用な選択マーカーは、当該技術分野で公知であり、例えば、ネオマイシン耐性などの抗生物質耐性遺伝子を含む。
【0110】
従って、一態様では、送達ビヒクルは、送達しようとする着目のヌクレオチド配列または構築物を含むベクターを含むことができる。ベクターの選択は、該ベクターが後に導入される宿主細胞に依存する。特定の実施形態では、本発明のベクターは、発現ベクターである。適切な宿主細胞には、多種多様な原核および真核の宿主細胞が含まれる。特定の実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター、および哺乳動物細胞ベクターからなる群より選択される。原核および/または真核ベクター型の系は、本発明と共に使用して、ポリヌクレオチド、またはそれらの同族ポリペプチドを産生するために使用される。多くのそのような系は、商業的に広く入手可能である。
【0111】
例示の目的で、核酸配列が導入されるベクターは、細胞内に導入されたときに宿主細胞のゲノムに組み込まれるかまたは組み込まれない、プラスミドであることができる。本発明のヌクレオチド配列または本発明の遺伝子構築物を挿入することができるベクターの非限定的な代表例は、真核細胞における発現のためのtet-on誘導性ベクターを含むことができる。
【0112】
ベクターは、当業者に知られている従来の方法によって取得することができる(Sambrook他、2012)。特定の実施形態では、ベクターは動物細胞の形質転換に有用なベクターである。
【0113】
一実施形態では、組換え発現ベクターは、ペプチドまたはペプチド模倣物をコードする核酸分子を含んでもよい。
【0114】
プロモーターは、コード配列セグメントおよび/またはエクソンの上流に置かれた5'非コード配列を単離することによって得ることができるような、遺伝子またはポリヌクレオチド配列に天然に関連するものであってもよい。このようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれることがある。同様に、エンハンサーは、ポリヌクレオチド配列の下流または上流のいずれかに配置された該ポリヌクレオチド配列に天然に関連するものであってもよい。あるいは、コード化ポリヌクレオチドセグメントを組換え体または異種プロモーターの制御下に置くことによって、一定の利点が得られるだろう。組換えまたは異種プロモーターは、その自然環境において、ポリヌクレオチド配列と通常は関連しないプロモーターを指す。組換えまたは異種エンハンサーはまた、その自然環境においてポリヌクレオチド配列と通常関連しないエンハンサーを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサー、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、並びに任意の他の原核細胞、ウイルスまたは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、および天然に存在しないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち、異なる転写調節領域の異なる要素を含有するプロモーターまたはエンハンサー、および/または、発現を変化させる突然変異を含んでもよいプロモーターまたはエンハンサーを包含しうる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に産生することに加えて、本明細書に開示される組成物と関連して、PCRTMを含む組換えクローニングおよび/または核酸増幅技術を利用して、それらの配列を産生することができる(米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号明細書)。さらに、ミトコンドリア、クロロプラストなどの非核内小器官内の配列の転写および/または発現を直接的に使用することができる制御配列も考慮される。
【0115】
当然ながら、細胞型、オルガネラ、および発現のために選択された生物体におけるDNAセグメントの発現を効果的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることが重要であろう。分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞型の組み合わせをどのように使用するかを知っている。例えば、Sambrook他(2012)を参照されたい。使用するプロモーターは、組換えタンパク質および/またはペプチドの大量生産に有利であるように、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を誘導するのに適切な条件下、構成的で、組織特異的で、誘導性で、および/または有用であり得る。プロモーターは、異種または内在性であってもよい。
【0116】
組換え発現ベクターはまた、宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子を含んでもよい。適切な選択マーカー遺伝子は、G418およびヒグロマイシンのようなタンパク質をコードする遺伝子であり、特定の薬物、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、または免疫グロブリンもしくはその部分、例えば免疫グロブリン好ましくはIgGのFc部分に耐性を付与する。選択マーカーは、着目の核酸から別個のベクター上に導入されてもよい。
【0117】
siRNAポリヌクレオチドの作製に続いて、当業者は、siRNAポリヌクレオチドが、siRNAを治療化合物としての価値を高めるように改変することができる、ある種の特性を有することを理解するであろう。従って、siRNAポリヌクレオチドは、ホスホロチオエート、または他の結合、メチルホスホネート、スルホン、硫酸塩、ケチル、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、リン酸エステルなどを含むようにそれを改変することによって、分解に抵抗するようにさらに設計されてもよい(例えば、Agrawal他、1987、Tetrahedron Lett. 28:3539-3542;Stec他、1985 Tetrahedron Lett. 26:2191-2194;Moody他、1989 Nucleic Acids Res. 12:4769-4782;Eckstein、1989 Trends Biol. Sci. 14:97-100;Stein、In: Oligodeoxynucleotides. Antisense Inhibitors of Gene Expression、Cohen編、Macmillan Press、London、97-117頁(1989)を参照のこと)。
【0118】
任意のポリヌクレオチドは、in vitro(試験管内)でその安定性を増加させるようにさらに改変されてもよい。可能な修飾としては、5′および/または3′末端への隣接配列の付加、骨格にホスホジエステル結合ではなくホスホロチオエートまたは2′O-メチルの使用、および/または、イノシン、キューオシンおよびワイブトシンなどの非典型的な塩基の使用、並びにアデニン、シチジン、グアニン、チミンおよびウリジンのアセチル-、メチル-、チオ-および他の修飾形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
本発明の一実施形態において、プラスミドベクターによって発現されるアンチセンス核酸配列は、標的タンパク質の発現を阻害するための薬剤として使用される。アンチセンス発現ベクターは、哺乳動物細胞または哺乳動物自体をトランスフェクトし、それによって標的タンパク質の内因性発現を低下させるために使用される。
【0120】
遺伝子発現を阻害するためのアンチセンス分子およびそれらの使用は、当該技術分野において周知である(例えば、Cohen、1989:Oligodeoxyribonucleotides, Antisense Inhibitors of Gene Expression、CRC Press)。アンチセンス核酸は、本明細書の他の箇所でその用語が定義されるように、特定のmRNA分子の少なくとも一部分に対して相補的であるDNAまたはRNA分子である(Weintraub、1990、Scientific American 262:40)。細胞内において、アンチセンス核酸は、対応するmRNAにハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、それによって遺伝子の翻訳を阻害する。
【0121】
遺伝子の翻訳を阻害するためのアンチセンス方法の使用は、当技術分野で知られており、例えば、Marcus-Sakura(1988、Anal. Biochem. 172:289)に記載されている。そのようなアンチセンス分子は、Inoue、1993、米国特許第5,190,931号明細書に教示されているように、アンチセンス分子をコードするDNAを用いた遺伝子発現によって細胞に提供されてもよい。
【0122】
あるいは、本発明のアンチセンス分子を合成して細胞に提供してもよい。約10~約30、より好ましくは約15ヌクレオチドのアンチセンスオリゴマーが、合成が容易で標的細胞に導入されやすいので好ましい。本発明によって企図される合成アンチセンス分子は、未修飾のオリゴヌクレオチドと比較して改善された生物活性を有する、当該技術分野で既知のオリゴヌクレオチド誘導体を包含する(米国特許第5,023,243号明細書参照)。
【0123】
本発明の一実施形態において、標的タンパク質の発現を阻害するための薬剤としてリボザイムが使用される。標的分子の発現を阻害するのに有用なリボザイムは、例えば標的分子をコードするmRNA配列に相補的である標的配列を、基本的なリボザイム構造に組み込むことによって設計することができる。標的分子を標的とするリボザイムは、市販の試薬(Applied Biosystems, Inc.、米国カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて合成することができ、またはそれらをコードするDNAから遺伝的に発現されていてもよい。
【0124】
一実施形態では、薬剤は、標的分子をコードする遺伝子に標的を差し向けるガイドRNA(gRNA)とCRISPR関連(Cas)ペプチドとが複合体を形成して、標的遺伝子内に突然変異を誘導するというCRISPR-Casシステムの1つ以上の構成要素を含むことができる。一実施形態では、薬剤は、gRNAまたはgRNAをコードする核酸分子を含む。一実施形態において、前記薬剤は、CasペプチドまたはCasペプチドをコードする核酸分子を含む。
【0125】
microRNA剤
一実施形態では、薬剤はmiRNAまたはmiRNAの模倣体(ミミック)を含む。一実施形態では、薬剤は、miRNAまたはmiRNAの模倣体をコードする核酸分子を含む。
【0126】
miRNAは、翻訳の阻害によりまたは標的mRNAの分解を通して細胞内の特定遺伝子の転写後サイレンシングを誘発することができる、小さな非コードRNA分子である。miRNAは標的核酸に対して完全に相補的であってもよいし、標的核酸と非相補的な領域を有していることもでき、その結果、非相補性の領域のところに「隆起(bulge)」を生じてもよい。miRNAは、例えばmiRNAが標的核酸に完全には相補的でない場合、翻訳を阻害することにより、またはmiRNAが標的と完全な相補性で結合する場合にのみ起こると考えられる、標的RNAの分解を引き起こすことにより、遺伝子発現を抑制することができる。本開示はまた、miRNAの二本鎖前駆体も含みうる。miRNAまたはpri-miRNA(前記miRNA)は、18~100ヌクレオチド長、または18~80ヌクレオチド長であり得る。成熟miRNAは、19~30ヌクレオチド、または21~25ヌクレオチド、特に21、22、23、24、または25ヌクレオチド長を有することができる。miRNA前駆体は、典型的には約70~100ヌクレオチド長を有し、ヘアピン構造を有する。miRNAは、長鎖のプレmiRNAを機能的miRNAへと特異的にプロセシングする酵素Dicer(ダイサー)およびDrosha(ドロシャ)によって、プレmiRNAからin vivoで生成される。本開示に特徴的なヘアピンまたは成熟microRNAまたはpri-microRNA剤は、細胞ベースのシステムによりin vivoでまたは化学合成によりin vitroで合成することができる。
【0127】
様々な実施形態において、薬剤は、疾患関連miRNAのヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、プレmicroRNA、成熟またはヘアピン形態の疾患関連miRNAのヌクレオチド配列を含む。他の実施形態では、1つ以上の疾患関連miRNA、任意のプレmiRNA、任意のフラグメント、またはそれらの任意の組み合わせの配列を含む、オリゴヌクレオチドの組み合わせが想定される。
【0128】
miRNAは、所望の特性を付与する修飾を含むように合成することができる。例えば、修飾は、例えばエンドサイトーシス依存性もしくは非依存性機構により、安定性、標的核酸とのハイブリダイゼーション熱力学、特定の組織もしくは細胞型へのターゲティング、または細胞透過性を向上させることができる。
【0129】
修飾は、配列特異性を増加させることもでき、結果として、オフサイト(off-site)ターゲティングを減少させることができる。合成および化学修飾の方法は、以下でより詳細に説明される。所望の場合、miRNA分子を修飾して、miRNAを分解に対して安定化させ、半減期を長くし、または他の方法で有効性を向上させることができる。好ましい修飾は、例えば、米国特許公開第20070213292号、同第20060287260号、同第20060035254号、同第20060008822号および同第2005028824号公報中に記載されており、それらの各々が参照により全体が本明細書に組み込まれる。ヌクレアーゼ耐性および/または標的に対する結合親和性を高めるために、本開示において特徴付けられる一本鎖オリゴヌクレオチド剤は、2′-O-メチル、2′-フッ素、2′-O-メトキシエチル、2′-O-アミノプロピル、2′-アミノ、および/またはホスホロチオエート結合を含むことができる。ロックド核酸(LNA)、エチレン核酸(ENA)、例えば2′-4′-エチレン架橋核酸、および特定のヌクレオチド修飾の包含も、標的への結合親和性を増加させることができる。オリゴヌクレオチド骨格中にピラノース糖を含むこともまた、エンドヌクレアーゼ切断を減少させることができる。オリゴヌクレオチドは、3′カチオン性基を含むか、または3′末端のヌクレオシドを3-3′結合で反転させることによってさらに修飾することができる。別の代替として、3′末端をアミノアルキル基でブロックすることができる。他の3′コンジュゲート(結合体)は、3′-5′エキソヌクレアーゼで切断を阻害することができる。理論により縛られることなく、3′コンジュゲートは、オリゴヌクレオチドの3′末端への結合からエキソヌクレアーゼを立体的にブロックすることによって、エキソヌクレアーゼ開裂を阻害することができる。小さなアルキル鎖、アリール基、または複素環コンジュゲートまたは修飾糖(D-リボース、デオキシリボース、グルコースなど)は、3′-5′エキソヌクレアーゼをブロックすることができる。
【0130】
一実施形態では、miRNAは、ヌクレアーゼ耐性のために一部または全てのヌクレオチド間結合がホスホロチオエートに修飾されている、オリゴデオキシヌクレオチドギャップを含む2′修飾オリゴヌクレオチドを包含する。メチルホスホネート修飾の存在は、それの標的RNAに対するオリゴヌクレオチドの親和性を増加させ、従って、IC50を減少させる。この修飾はまた、修飾オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性も増加させる。本開示の方法および試薬は、阻害性核酸分子の安定性または有効性を高めるために開発することができる任意の技術とともに使用できることが理解される。
【0131】
miRNA分子は、修飾された骨格を有するヌクレオチドオリゴマーまたは非天然のヌクレオシド間結合を含む。修飾された骨格を有するオリゴマーは、骨格中にリン原子を持つものと、骨格中にリン原子を持たないものとを含む。本開示の目的上、それらのヌクレオシド間骨格中にリン原子を持たない修飾オリゴヌクレオチドも、ヌクレオチドオリゴマーであると見なされる。修飾されたオリゴヌクレオチド骨格を有するヌクレオチドオリゴマーとしては、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよび他のアルキルホスホネート、例えば3′-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネート、ホスフィネート、ホスホロアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホルホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、並びにボラノホスフェートが挙げられる。様々な塩、混合塩、および遊離酸形態も含まれる。
【0132】
成熟形またはヘアピン形であり得る本明細書に記載のmiRNAは、ネイキッド(裸の)オリゴヌクレオチドとして提供されてもよい。いくつかの場合には、miRNAまたは他のヌクレオチドオリゴマーの細胞への送達を助ける製剤を利用することが望ましい場合がある(例えば、米国特許第5,656,611号、同第5,753,613号、同第5,785,992号、同第6,120,798号、同第6,221,959号、同第6,346,613号および同第6,353,055号明細書を参照されたい;それらの各々が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0133】
いくつかの例では、miRNA組成物は、少なくとも部分的に結晶性、均一に結晶性、および/または無水(例えば水分が80、50、30、20、または10%未満)である。別の例では、miRNA組成物は、水相、例えば、水を含む溶液中にある。水相または結晶性組成物は、送達ビヒクル、例えば、リポソーム(特に、水相用)、または粒子(例えば、結晶性組成物に適当であるような微粒子)に封入することができる。一般に、miRNA組成物は、意図する投与方法と適合するように製剤化される。miRNA組成物は、他の薬剤、例えば、他の治療剤、またはオリゴヌクレオチド剤を安定化する薬剤、例えば、オリゴヌクレオチド剤と複合体形成するタンパク質と組み合わせて製剤化することができる。さらに別の薬剤には、キレート化剤、例えばEDTA(例えばMgのような二価カチオンを取り除く)、塩類、およびRNアーゼ阻害剤(例えば広域特異性RNアーゼ阻害剤)が含まれる。一実施形態では、miRNA組成物は別のmiRNA、例えば第二のmiRNA組成物(例えば第一のものとは異なるmicroRNA)を含む。さらに他の調製物は、少なくとも3、5、10、20、50または100以上の異なるオリゴヌレクトチド種を含むことができる。
【0134】
特定の実施形態では、組成物は、miRNAの活性を模倣するオリゴヌクレオチド組成物を含む。特定の実施形態では、組成物は、miRNAの核酸塩基配列と核酸塩基同一性を有するオリゴヌクレオチドを含み、従ってmiRNAの活性を模倣するように設計される。特定の実施形態では、miRNA活性を模倣するオリゴヌクレオチド組成物は、成熟miRNAヘアピンまたはプロセシングされたmiRNA二重鎖を模倣した、二本鎖RNA分子を含む。
【0135】
一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、内因性miRNAまたはmiRNA前駆体核酸塩基配列と同一性を共有する。本発明の組成物中に含めるために選択されるオリゴヌクレオチドは、様々な長さのうちの1つであってよい。このようなオリゴヌクレオチドは、7~100(残基)連結したヌクレオシド長であり得る。例えば、miRNAと核酸塩基同一性を共有するオリゴヌクレオチドは、7~30残基連結したヌクレオシド長であってもよい。miRNA前駆体との同一性を共有するオリゴヌクレオチドは、100残基連結したヌクレオシド長であってもよい。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、7~30残基連結したヌクレオシド長を含む。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28、29、または30残基連結したヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、19~23残基連結したヌクレオシドを含む。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、40~50、60、70、80、90、または100残基連結したヌクレオシド長である。
【0136】
特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、miRNAまたはその前駆体に対して一定の同一性を有する配列を有する。本明細書に記載される成熟miRNAおよびそれらの対応するステム-ループ配列の核酸塩基配列は、オンライン検索可能なmiRNA配列のデータベースおよびアノテーションであるmiRBaseにおいて見出される配列である。miRBase配列データベース中のエントリーは、miRNA転写産物の予測ヘアピン部分(ステム-ループ)を表し、成熟miRNA配列の位置情報と配列情報を示している。データベース中のmiRNAステム-ループ配列は、厳密に前駆miRNA(プレmiRNA)ではなく、いくつかの例では、推定一次転写産物からのプレmiRNAおよびいくつかの隣接配列を含むことができる。本明細書に記載のmiRNA核酸塩基配列は、miRNAの任意の変形を包含し、miRNAの任意の変形は、miRBase配列データベースのリリース10.0版中に記載された配列、およびmiRBase配列データベースのこれまでのリリース版に記載された配列を含む。配列データベースのリリースでは、特定のmiRNAが改名されることがある。配列データベースのリリースは、成熟miRNA配列の変更を生むことがある。本発明の組成物は、本明細書に記載のmiRNAの任意の核酸塩基配列バージョンに対して一定の同一性を有するオリゴヌクレオチドを含むオリゴマー化合物を包含する。
【0137】
特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30核酸塩基の領域にわたってmiRNAと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%同一である核酸塩基配列を有する。従って、特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、miRNAに対して1つ以上の非同一の核酸塩基を有してもよい。
【0138】
特定の実施形態では、組成物は、miRNA、前駆体、模倣物、またはそのフラグメントをコードする核酸分子を含む。例えば、組成物は、所望の哺乳動物細胞または組織におけるmiRNA、前駆体、模倣物またはそのフラグメントを発現するのに適したウイルスベクター、プラスミド、コスミド、または他の発現ベクターを含んでもよい。
【0139】
in vitro転写RNA剤
一実施形態では、本発明の薬剤は、in vitro(試験管内)転写(IVT)RNAを含む。一実施形態では、本発明の薬剤は、治療タンパク質をコードするin vitro転写(IVT)RNAを含む。一実施形態では、本発明の薬剤は、複数の治療タンパク質をコードするIVT RNAを含む。
【0140】
一実施形態では、IVT RNAを一過性トランスフェクションの一様式として細胞に導入することができる。RNAは、合成的に生成されたプラスミドDNA鋳型を使用して、in vitro転写により製造される。任意の供給源からの着目のDNAを、適切なプライマーとRNAポリメラーゼを使用したPCRにより、in vitro mRNA合成のための鋳型に直接変換することができる。DNAの供給源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列、またはDNAの任意の他の適切な供給源とすることができる。一実施形態では、in vitro転写のための所望の鋳型は、本明細書の他の箇所で説明されるように、治療タンパク質である。
【0141】
一実施形態では、PCRに使用されるDNAは、転写解読枠(ORF)を含む。該DNAは、生物体のゲノム由来の天然に存在するDNA配列から得ることができる。一実施形態では、該DNAは、遺伝子の一部分の着目の全長遺伝子である。遺伝子は、5′および/または3′非翻訳領域(UTR)の一部または全部を含むことができる。遺伝子は、エキソンおよびイントロンを含むことができる。一実施形態において、PCRに使用されるDNAは、ヒト遺伝子である。別の実施形態では、PCRに使用されるDNAは、5′および3′UTRを含むヒト遺伝子である。別の実施形態では、PCRに使用されるDNAは、細菌、ウイルス、寄生虫および真菌を含む、病原性または寄生生物由来の遺伝子である。別の実施形態では、PCRに使用されるDNAは、5′および3′UTRを含む細菌、ウイルス、寄生虫および真菌を含む、病原性または寄生生物由来のものである。DNAは、天然に存在する生物において正常に発現しない人工DNA配列であってもよい。例示的な人工DNA配列は、融合タンパク質をコードする転写解読枠(ORF)を形成させるために一緒に連結される遺伝子の部分を含むものである。連結されるDNAの部分は、単一の生物または複数の生物から得ることができる。
【0142】
PCRのためのDNAの供給源として使用され得る遺伝子は、生物において適応免疫応答を誘導または増強するポリペプチドをコードする遺伝子を含む。好ましい遺伝子は、短期治療に有用な遺伝子であるか、または投与量もしくは発現される遺伝子に関して安全性への懸念がある遺伝子である。
【0143】
様々な実施形態において、プラスミドは、トランスフェクションに使用されるRNAのインビトロ転写のための鋳型を生成するために使用される。
【0144】
安定性および/または翻訳効率を促進する能力を有する化学構造を用いてもよい。上記RNAは、好ましくは5′および3′UTRを有する。一実施形態では、上記5′UTRは0~3000ヌクレオチド長である。コード領域に付加される5′および3′UTR配列の長さは、限定されるものではないが、上記UTRの異なる領域にアニールするPCR用のプライマーを設計することをはじめ、様々な方法によって変えることができる。この手法を用いて、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に、最適な翻訳効率を達成するために必要な5′および3′UTRの長さを変更することができる。
【0145】
上記5′および3′UTRは、目的の遺伝子のための、天然起源の内在性5′および3′UTRであることができる。あるいは、目的の遺伝子に対して内在性でないUTR配列は、上記UTR配列を順方向プライマーと逆方向プライマー中に組み込むことによって、または鋳型の任意の他の修飾によって、付加することができる。目的の遺伝子に対して内在性ではないUTR配列を用いることは、上記RNAの安定性および/または翻訳効率を改善するのに有用な場合がある。例えば、3′UTR配列中のAUに富む要素は、RNAの安定性を低下させる場合があることが知られている。従って、当該技術分野で周知のUTRの特性に基づいて、転写されたRNAの安定性を向上させるように3′UTRを選択または設計することができる。
【0146】
一実施形態において、上記5′UTRは内在性遺伝子のコザック(Kozak)配列を含んでいてよい。あるいは、目的の遺伝子に対して内在性でない5′UTRが上記のようにPCRによって付加される場合、共通のコザック配列を、上記5′UTR配列の付加によって再設計することができる。コザック配列は、一部のRNA転写物の翻訳効率を向上させることができるが、効率的な翻訳を可能にするために全てのRNAにとって必要とは思われない。多くのRNAに関するコザック配列の必要条件が当該技術分野で公知である。他の実施形態において、上記5′UTRは、RNAゲノムが細胞内で安定であるRNAウイルスから誘導することができる。他の実施形態では、種々のヌクレオチド類似体を3′UTRまたは5′UTRに用いて、該RNAのエキソヌクレアーゼ分解を阻害することができる。
【0147】
遺伝子クローニングを必要とすることなく、DNA鋳型からのRNA合成を可能にするためには、転写されるべき配列の上流のDNA鋳型に転写プロモーターを取り付ける必要がある。RNAポリメラーゼのためのプロモーターとして機能する配列が順方向プライマーの5′末端に付加される場合、該RNAポリメラーゼプロモーターは、転写されるべき転写解読枠(ORF)の上流のPCR産物中に組み込まれた状態になる。一つの好ましい実施形態において、上記プロモーターは、本明細書の他の箇所に記載される、T7 RNAポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターとしては、T3およびSP6 RNAポリメラーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。T7、T3およびSP6プロモーターのための共通ヌクレオチド配列は当該技術分野において公知である。
【0148】
好ましい実施形態において、上記RNAは、細胞内でのリボソーム結合、翻訳の開始およびmRNAの安定性を決定する、5′末端上のキャップと3′ポリ(A)テールの両方を有する。環状DNA鋳型、例えばプラスミドDNA上では、RNAポリメラーゼは真核細胞での発現に適さない、長いコンカテマー生成物を産生する。そのため、3′UTRの末端で線状化されたプラスミドDNAの転写によって、転写後にそれがポリアデニル化されると真核トランスフェクションに効率的であるような通常の大きさのRNAを与える。
【0149】
直鎖DNA鋳型上では、ファージT7 RNAポリメラーゼは、該鋳型の最終塩基を越えて転写産物の3′末端を伸長させることができる(SchenbornおよびMierendorf、Nuc Acids Res.、13:6223-36 (1985); NachevaおよびBerzal-Herranz、Eur. J. Biochem.、270: 1485-65 (2003))。
【0150】
従来のポリA/T配列のDNA鋳型への組み込み方法は、分子クローニングである。しかし、プラスミドDNA中に組み込まれたポリA/T配列は、プラスミドを不安定にさせる場合があるので、これは、組換え不能な細菌細胞をプラスミド繁殖に使用することによって改善することができる。
【0151】
RNAのポリ(A)テールは、大腸菌(E.coli)ポリA ポリメラーゼ(E-PAP)または酵母ポリA ポリメラーゼなどのポリ(A)ポリメラーゼを用いてin vitro転写(試験管内転写)後に更に伸長することができる。一実施形態において、ポリ(A)テールの長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドへと増加させることによって、当該RNAの翻訳効率が約2倍増加する。また、異なる化学基を3′末端へ結合することにより、RNAの安定性を向上させることができる。かかる結合は、修飾/人工ヌクレオチド、アプタマーおよび他の化合物を含み得る。例えばATP類似体を、ポリ(A) ポリメラーゼを用いてポリ(A)テールに組み込むことができる。ATP類似体は上記RNAの安定性を更に向上させることができる。
【0152】
5′キャップもまたRNA分子に安定性を与える。好ましい実施形態において、上記方法によって産生されたRNAは、5′キャップ1構造を含む。かかるキャップ1構造は、ワクシニア(Vaccinia)キャッピング酵素および2′-O-メチルトランスフェラーゼ酵素(CellScript、米国ウィスコンシン州マディソン)を用いて作製することができる。あるいは、5′キャップは、当該技術分野で公知であり、本明細書に記載の技法を用いて提供される(Cougot他、Trends in Biochem. Sci.、29:436-444 (2001);Stepinski他、RNA、7: 1468-95 (2001);Elango他、Biochim. Biophys. Res. Commun.、330: 958-966 (2005))。
【0153】
ポリペプチド剤
他の関連する態様では、薬剤は、標的を調節する単離されたペプチドを含む。例えば、一実施形態では、本発明のペプチドは、標的に結合することによって標的を直接的に阻害または活性化し、それによって標的の正常な機能活性を調節する。一実施形態では、本発明のペプチドは、内在性タンパク質と競合することによって標的を活性調節する。一実施形態では、本発明のペプチドは、トランス優性のネガティブ変異体として作用することによって、標的の活性を調節する。
【0154】
ポリペプチド剤の変種(variant)は、(i)1つ以上のアミノ酸残基が保存的または非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)で置換され、そのような置換アミノ酸残基が遺伝子コードによってコードされてもよく、コードされていなくてもよいもの、(ii)1つ以上の修飾アミノ酸残基が存在するもの、例えば置換基の付着によって修飾されている残基が存在するもの、(iii)ポリペプチドが、本発明のポリペプチドの代替スプライス変異形であるもの、(iv)ポリペプチドのフラグメント、および/または(v)ポリペプチドが、リーダーもしくは分泌配列などの他のポリペプチドと融合しているもの、または精製用(例えばHis-タグ)もしくは検出用(例えばSv5エピトープタグ)に用いられる配列と融合しているもの、であることができる。それらのフラグメントは、元の配列のタンパク質分解開裂(複数部位(multi-site)のタンパク質分解を含む)を介して産生されたポリペプチドを含む。該変種は、翻訳後修飾されてもよく、化学修飾されてもよい。そのような変種は、本明細書の教示から当業者の範囲内にあると見なされる。
【0155】
抗体剤
本発明はまた、標的に特異的な抗体または抗体フラグメントを含む、送達ビヒクルを企図する。すなわち、抗体は、標的を阻害して有益な効果を提供することができる。
【0156】
抗体は、完全なモノクローナルまたはポリクローナル抗体であることができ、免疫学的に活性なフラグメント(例えば、Fabまたは(Fab)フラグメント)、抗体重鎖、抗体軽鎖、ヒト化抗体、遺伝子操作された単鎖Fv分子(Ladner他、米国特許第4,946,778号明細書)、またはキメラ抗体、例えば、マウス抗体の結合特異性を含むが残りの部分はヒト由来である抗体であってもよい。モノクローナル抗体とポリクローナル抗体、フラグメントおよびキメラを含む抗体は、当業者に公知の方法を使用して調製することができる。
【0157】
抗体は、目的の免疫処置用抗原を含む完全なポリペプチドまたはフラグメントを使用して調製することができる。動物を免疫処置するために使用されるポリペプチドまたはオリゴペプチドは、RNAの翻訳から得ることができまたは化学的に合成することができ、所望により、担体タンパク質にコンジュゲートすることができる。ペプチドに化学的にカップリングされ得る適切な担体には、ウシ血清アルブミンおよびチログロブリン、アオガイ(keyhole limpet)ヘモシアニンが含まれる。次いで、カップリングされたポリペプチドを使用して動物(例えばマウス、ラットまたはウサギ)を免疫処置することができる。
【0158】
CAR剤
一実施形態では、薬剤は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸配列を含む。一実施形態では、薬剤は、CARをコードするmRNA分子を含む。一実施形態では、薬剤は、CARをコードするヌクレオシド修飾mRNA分子を含む。
【0159】
本明細書で使用されるときの用語「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、免疫エフェクター細胞上で発現されるように操作され、且つ抗原に特異的に結合するように操作された人工T細胞受容体を指す。CARは、養子細胞の移行による1つの治療法として使用することができる。T細胞は、患者から取り出され、特定の形態の抗原に特異的な受容体を発現するように改変される。いくつかの実施形態では、CARは、選択された標的に対する特異性を有する。CARはまた、細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン、および選択された標的に特異的に結合する抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含んでもよい。いくつかの態様では、CARは、CD3-ζ膜貫通ドメインと細胞内ドメインに融合した、抗B細胞結合ドメインを含む細胞外ドメインを含む。
【0160】
一実施形態では、本発明は、薬剤を含む送達ビヒクルに関し、この薬剤は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする組換え核酸配列(例えばmRNA)を含む。一実施形態では、薬剤は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするmRNA分子(例えば、修飾ヌクレオシドmRNA分子)を含む。一実施形態では、薬剤は、CARをコードするmRNA分子を含む。一実施形態では、薬剤は、CARをコードするヌクレオシド修飾mRNA分子を含む。
【0161】
様々な実施形態では、本明細書で企図されるCARは、細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含む。細胞外ドメインは、別称で抗原結合ドメインと呼ばれる標的特異的結合要素を含む。いくつかの実施形態では、細胞外ドメインはまた、ヒンジドメインも含む。特定の実施形態では、細胞内ドメインまたは別称で細胞質ドメインは、共刺激シグナル伝達領域およびゼータ(ζ)鎖部分を含む。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的応答に必要な抗原受容体またはそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0162】
CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、または、CARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間には、スペーサードメインが組み込まれていてもよい。本明細書で使用される場合、用語「スペーサードメイン」は、一般に、ポリペプチド鎖中の細胞外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかに膜貫通ドメインを連結するように機能する、任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。スペーサドメインは、5個のアミノ酸、または10個のアミノ酸、または20個のアミノ酸、または30個のアミノ酸、または40個のアミノ酸、または50個のアミノ酸、または60個のアミノ酸、または70個のアミノ酸、または80個のアミノ酸、または90個のアミノ酸、または100個のアミノ酸、または110個のアミノ酸、または120個のアミノ酸、または130個のアミノ酸、または140個のアミノ酸、または150個のアミノ酸、または160個のアミノ酸、または170個のアミノ酸、または180個のアミノ酸、または190個のアミノ酸、または200個のアミノ酸、または210個のアミノ酸、または220個のアミノ酸、または230個のアミノ酸、または240個のアミノ酸、または250個のアミノ酸、または260個のアミノ酸、または270個のアミノ酸、または280個のアミノ酸、または290個のアミノ酸、または300個のアミノ酸を含む。
【0163】
細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインは、かかるドメインの任意の所望の源から誘導することができる。
【0164】
CAR抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、リガンド結合および/またはシグナル伝達に関連する多種多様な細胞外ドメインまたは分泌タンパク質のいずれかから得ることができる。一実施形態では、抗原結合ドメインは、CH1およびヒンジ領域の存在によりIg軽鎖と共有結合的に会合することができるIg重鎖から構成されてよく、あるいはヒンジ、CH2およびCH3ドメインの存在により他のIg重鎖/軽鎖複合体と共有結合的に会合するようになっていてもよい。後者の場合、キメラ構築物に結合する重軽鎖複合体は、キメラ構築物の抗体特異性とは異なる特異性を有する抗体を構成し得る。抗体の機能、所望の構造およびシグナル伝達に依存して、鎖全体を使用してもよいし、先端が切除された(短縮型の)鎖を使用してもよく、その場合CH1、CH2、またはCH3ドメインの全部もしくは一部を除去してもよいし、ヒンジ領域の全部もしくは一部を除去してもよい。
【0165】
様々な実施形態では、CAR抗原結合ドメインは、ヒト化され得るか、完全にヒトの配列を含むことができる。
【0166】
CAR膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、本開示のCARは、CARの細胞外ドメインに融合される膜貫通ドメインを含むように設計することができる。一実施形態では、CAR内のドメインの1つと本来会合している膜貫通ドメインが使用される。ある場合には、同一または異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに上記のようなドメインが結合するのを回避するために、膜貫通ドメインを選択するかまたはアミノ酸置換により修飾して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小にすることができる。
【0167】
膜貫通ドメインは、天然源または合成源からのいずれに由来してもよい。起源が天然である場合、該ドメインは、任意の膜結合または膜貫通タンパク質から誘導することが可能である。本発明において特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体、CD28、CD3ε(イプシロン)、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137またはCD154のα、βまたはζ(ゼータ)鎖に由来する(すなわち少なくともその膜貫通領域を含む)ことができる。代替的に、膜貫通ドメインは、合成であってもよく、その場合、ロイシンおよびバリンのような主に疎水性残基を含む。一実施形態では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンの三重項が、合成膜貫通ドメインの各末端に見出され得る。短いオリゴまたはポリペプチドリンカー(例えば、2~10アミノ酸の長さ)は限定されないが、任意選択的に膜貫通ドメインとCARの細胞質シグナルドメインとの間に結合を形成してもよい。別の実施形態では、リンカーはグリシン-セリン二重項を含む。
【0168】
CAR細胞内ドメイン
様々な実施形態では、CARの細胞質ドメインまたは別称でCARの細胞内ドメインは、CARが発現される免疫細胞の通常のエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化を担うことができる。「エフェクター機能」という用語は、特化された細胞機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性またはヘルパー活性であってもよい。「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを導入して細胞に特殊機能の実行を指令する、タンパク質の部分を指す。通常、細胞内ドメイン全体を用いることができるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。細胞内ドメインの先端が切除された一部分が使用される範囲については、かかる先端切除部分は、それがエフェクター機能シグナルを変換する限り、完全鎖の代わりに使用されてもよい。従って、細胞内ドメインは、エフェクター機能シグナルを変換するのに十分な細胞内ドメインの任意の先端切除された部分を含むことを意味する。
【0169】
本開示のCARで使用するための細胞内ドメインの好ましい例は、抗原受容体の係合に従ってシグナル伝達を開始させるように協同して作用する、T細胞受容体(TCR)と共受容体の細胞質配列、並びにこれらの配列の任意の誘導体または変異体、および同じ機能を有する任意の合成配列を包含する。
【0170】
TCRのみを介して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化のために不十分であり、二次または共刺激シグナルも必要であることが知られている。従って、T細胞活性化は、次の2つのクラスの細胞内シグナル伝達配列によって媒介されると言ってよい:TCRを介して抗原依存性一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)、および二次または共刺激シグナルを提供するために抗原非依存的形式で作用するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)。
【0171】
一次細胞内シグナル伝達配列は、刺激性または阻害性のいずれかの方法でTCR複合体の一次活性化を調節する。刺激性作用する一次細胞内シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフまたはITAMとして知られているシグナル伝達モチーフを含んでもよい。
【0172】
本発明において特に有用である一次細胞内シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、TCRζ(ゼータ)、FcRγ(ガンマ)、FcRβ、CD3γ、CD3δ(デルタ)、CD3ε(イプシロン)、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66dに由来するものが挙げられる。一実施形態では、本発明のCARにおける細胞内シグナル伝達分子は、CD3ζ由来の細胞内シグナル伝達配列を含む。
【0173】
別の実施形態では、CARの細胞内ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で含むように設計することができ、または本発明のCARの文脈において有用な任意の他の所望の細胞質ドメインと組み合わせることができる。例えば、CARの細胞内ドメインは、CD3ζ鎖部分および共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な抗原受容体またはそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例としては、CD2、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、0x40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、およびCD83と特異的に結合するリガンドなどが挙げられる。
【0174】
本発明のCARの細胞内ドメイン内の細胞内シグナル伝達配列は、ランダムまたは指定された順序で互いに連結されてもよい。随意に、短いオリゴまたはポリペプチドリンカー、例えば、2~10アミノ酸の長さは、結合を形成することができる。グリシン-セリン二重項は、いくつかの実施形態において、適切なリンカーを提供する。
【0175】
一実施形態では、細胞内ドメインは、CD3ζ(ゼータ)のシグナル伝達ドメインおよびCD28のシグナル伝達ドメインを含むように設計される。さらに別の実施形態では、細胞内ドメインは、CD3ζのシグナルドメインおよび4-IBBのシグナルドメインを含むように設計される。
【0176】
抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、scFvs、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびそれらのフラグメントを含むがこれらに限定されない、抗原に結合する任意のドメインであり得る。1つの非限定的な実施形態では、抗原結合領域は、選択された標的、例えば、活性化線維芽細胞表面受容体(例えば、CD90、FAP、FSP-1、CD140a、CD140b、CD49b、CD87、CD95、α平滑筋アクチン(αSMA)、または血小板由来増殖因子β(PDGFRβ)に特異的に結合する。
【0177】
様々な実施形態において、CARは、「第一世代」、「第二世代」、「第三世代」、「第四世代」、または「第五世代」のCARであることができる(例えば、Sadelain他、Cancer Discov. 3(4):388-398 (2013);Jensen他、Immunol. Rev. 257:127-133 (2014);Sharpe他、Dis. Model Mech. 8(4):337-350 (2015);Brentjens他、Clin. Cancer Res. 13:5426-5435 (2007);Gade他、Cancer Res. 65:9080-9088 (2005);Maher他、Nat. Biotechnol.20:70-75 (2002);Kershaw他、J. Immunol. 173:2143-2150 (2004);Sadelain他、Curr. Opin. Immunol. (2009);Hollyman他、J. Immunother. 32:169-180 (2009)を参照のこと。その各々が参照により全体が組み込まれる)。
【0178】
本発明で使用するための「第一世代」CARは、抗原結合ドメイン、例えば、膜貫通ドメインに融合された一本鎖可変フラグメント(scFv)を含み、これはT細胞受容体鎖の細胞質/細胞内ドメインに融合される。「第一世代」CARは、典型的には、内在性T細胞受容体(TCR)からのシグナルの一次伝達物質であるCD3ζ鎖由来の細胞内ドメインを有する。「第一世代」CARは、HLA媒介抗原提示とは無関係に、新規(de novo)抗原認識を提供し、かつ単一の融合分子内でCD3ζ鎖のシグナル伝達ドメインを介してCD4 T細胞とCD8 T細胞の両方を活性化させる。
【0179】
本発明で使用するための「第二世代」CARは、抗原結合ドメイン、例えば、T細胞を活性化することができる細胞内シグナル伝達ドメインに融合された一本鎖可変フラグメント(scFv)と、T細胞の有効性と持続性を高めるように設計された共刺激ドメインとを含む(Sadelain他、Cancer Discov. 3:388-398 (2013))。従って、CAR設計は、2つの別個の複合体、すなわちTCRヘテロ二量体とCD3複合体とによって生理学的に担持された2つの機能を、シグナル伝達と組み合わせることができる。「第二世代」のCARは、様々な共刺激分子、例えば、CD28、4-1BB、ICOS、0X40などからの細胞内ドメインをCARの細胞質テール部分に含んでおり、細胞に追加のシグナルを提供する。
【0180】
「第二世代」のCARsは、例えばCD28ドメインと4-1BBドメインまたは4-1BBドメインによる共刺激と、例えばCD3ζシグナル伝達ドメインによる活性化の両者を提供する。「第二世代」のCARは、T細胞の抗腫瘍活性を向上させることができることが示されている。例えば、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)および急性リンパ芽球性白血病(ALL)を有する患者において、「第二世代」CARにより修飾されたT細胞のロバストな効能が、CD19分子を標的とする臨床試験において証明された(Davila他、Oncoimmunol. 1(9): 1577-1583 (2012))。
【0181】
「第三世代」のCARは、例えば、CD28ドメインと4-1BBドメインの両方を含むことによる多重の共刺激と、例えばCD3ζ活性化ドメインを含むことによる活性化を提供する。
【0182】
「第四世代」のCARは、例えばCD28ドメインまたは4-1BBドメインによる共刺激と、例えば構成的または誘導性のケモカイン成分に加えてCD3ζシグナル伝達ドメインによる活性化を提供する。
【0183】
「第五世代」のCARは、例えばCD28ドメインまたは4-1BBドメインによる共刺激と、例えばCD3ζシグナル伝達ドメイン、構成的または誘導性ケモカイン成分およびサイトカイン受容体例えばIL-2Rβの細胞内ドメインによる活性化とを提供する。
【0184】
様々な実施形態において、CARは、多価CARシステム、例えば、二重CARまたは「タンデムCAR」システムに含めることができる。多価CARシステムは、多重CARを含むシステムもしくは細胞、および複数の抗原を標的とする二価/二重特異性CARを含むシステムまたは細胞、を包含する。
【0185】
本明細書に開示される実施形態では、CARは、上述したように、一般に、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを含む。特定の非限定的実施形態では、抗原結合ドメインはscFvである。
【0186】
一実施形態では、抗原結合ドメインはターゲティングドメインであり、該ターゲティングドメインは、CARを発現しているT細胞を、特定の細胞または着目の組織へと指し向ける。例えば、一実施形態では、標的ドメインは、抗原(例えば、自己抗原または外来抗原)に特異的に結合する抗体、抗体フラグメント、またはペプチドを含み、それにより、CARを発現しているT細胞を、該抗原を発現している細胞または組織の方に指し向ける。
【0187】
本発明のCAR分子の抗原結合ドメインは、腫瘍抗原、外来抗原(例えば細菌抗原またはウイルス抗原)または自己抗原を含むがこれらに限定されない、任意の望ましい着目の抗原またはそのフラグメントに対して反応性であるように作製することができる。
【0188】
腫瘍抗原は、免疫応答を惹起する腫瘍細胞によって産生されるタンパク質である。本発明のVMドメイン含有融合分子の抗原結合ドメインの選択は、処置すべき癌の特定のタイプに依存するだろう。腫瘍抗原は当該技術分野で周知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CAIX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、、53、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビン(survivin)およびテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン増殖因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、およびメソテリンを含む。別の例示的な腫瘍抗原は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4)(黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、または神経膠腫抗原2(NG2)とも称される)である。
【0189】
一実施態様において、腫瘍抗原は、悪性腫瘍に関連する1種以上の抗原性癌エピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃の標的抗原として機能し得る多数のタンパク質を発現する。これらの分子には、特に限定されるものではないが、組織特異的抗原、例えば黒色腫のMART-1、チロシナーゼ、GP 100、並びに前立腺癌の前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異抗原(PSA)が含まれる。他の標的分子は、癌遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属する。標的抗原のさらに別の群は、癌胎児性抗原(CEA)などの癌種胎児性抗原である。B細胞リンパ腫では、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に特有である真に腫瘍特異的な免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20、CD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫の標的抗原の別の候補である。これらの抗原のいくつか(CEA、HER-2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体を用いた受動免疫療法の標的として使用されているが、あまり成功していない。
【0190】
本発明で言及される腫瘍抗原のタイプはまた、腫瘍特異抗原(TSA)または腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。TSAは腫瘍細胞に特有のものであり、体内の他の細胞には存在しない。TAA関連抗原は腫瘍細胞に固有のものではなく、代わりに、抗原に対する免疫寛容の状態を誘導できない条件下では、正常細胞にも発現される。腫瘍での抗原の発現は、免疫系が抗原に対して応答可能である条件下において起こりうる。TAAは、免疫系が未熟であって応答できない場合、胎児の発育中に正常細胞で発現される抗原であるか、または正常細胞では通常非常に低いレベルで存在するけれども、腫瘍細胞でははるかに高いレベルで発現される抗原である。
【0191】
TSAまたはTAA抗原の非限定的例には、以下が含まれる:分化抗原、例えばMART-1/MelanA(MART-I)、gp100(Pmel17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2および腫瘍特異的多系統抗原、例えばMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15;CEAなどの過剰発現される胎児性抗原;過剰発現される癌遺伝子および変異型腫瘍抑制遺伝子、例えばp53、Ras、HER-2/neu;染色体転座に起因するユニークな腫瘍抗原;例えばBCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RAR;並びにウイルス抗原、例えばエプスタインバーウイルス抗原EBVA、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7。他の大型タンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA19-9、CA72-4、CAM17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p15、p16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3/CA27.29/BCAA、CA195、CA242、CA-50、CAM43、CD68/P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733/EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90/Mac-2結合タンパク質/シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、およびTPSが含まれる。
【0192】
外来抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、寄生虫抗原もしくはそのフラグメント、またはその変異体であり得る。本発明の組成物および方法を用いてターゲティングすることができる代表的なウイルス、細菌、真菌および寄生虫は、本明細書中のいずれかの箇所に記述される。
【0193】
二重特異性T細胞誘導(例えばBiTE)剤
更に別の実施形態では、本開示の核酸積荷(カーゴ)分子(例えば、mRNA、発現ベクター、CRISPRゲノム編集システム、またはヌクレオシド修飾mRNA分子)は、免疫細胞(例えば、CD4 T細胞)上の抗原および着目の細胞上の抗原(例えば、病原体)の両方に特異的に結合する二重特異性T細胞誘導剤をコードすることができる。
【0194】
二重特異性T細胞誘導(BiTE)剤は、2つの抗体の標的領域(すなわち抗原結合ドメイン)を単一分子として連結することによって構築される二重特異性分子である。分子の一方のアームは、CD4 T細胞の表面上に見い出されるタンパク質と結合するように操作され、他方のアームは、主として標的細胞上に見い出される特定のタンパク質に結合するように設計される。両標的が係合すると、二重特異性T細胞誘導分子(すなわち、BiTE分子)が、CD4 T細胞と標的細胞との間に橋架を形成する。例えば、一実施形態では、標的細胞が活性化線維芽細胞であり、BiTE分子が、線維芽細胞特異的マーカーに結合する特異的な結合アームを含む。線維芽細胞特異的マーカーは、CD90、FAP、FSP-1、CD140a、CD140b、CD49b、CD87、CD95、α平滑筋アクチン(αSMA)、および血小板由来増殖因子β(PDGFRβ)を含むが、これらに限定されない。さらに、Diego Ellerman、“Bispecific T-cell engagers: Towards understanding variable influencing in vitro potency and tumor selectivity and their modulation to enhance their efficacy and safety”, Methods、154巻、2019年2月、102-117頁(これは参考として本明細書中に組み込まれる)も更に参照することができる。
【0195】
「二重特異性」という用語は、二重特異性分子(例えば、二重特異性T細胞誘導剤)が、少なくとも2つの別個の抗原決定基(例えば、1つがCD4 T細胞由来で、もう1つが病原体などの標的細胞由来のもの)に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は、それぞれが異なる抗原決定基に特異的である2つの抗原結合部位を含んでいる。特定の実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原決定基、特に2つの別個の細胞上に発現された2つの抗原決定基を同時に結合することができる。
【0196】
本開示は、BiTE形式に限定されるものではなく、ダイアボディ(Holliger他、Prot Eng 9、299-305 (1996))およびその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(Kipriyanov他、J. Mol. Biol. 293、41-66(1999))、DART(二重親和性再ターゲティング)分子(これらはダイアボディ方式に基づいているが、追加の安定化のためのC末端ジスルフィド架橋を特徴とする)(Moore他、Blood 117、4542-51 (2011))、およびトリオマブ(triomab)(これは完全ハイブリッドマウス/ラットIgG分子であり、現在臨床試験において治験中である)は、より大きなサイズの形式を表す(Seimetz他、Cancer Treat Rev 36、458-467 (2010)に概説される)。上述の参考文献の各々が参考として本明細書中に組み込まれる。
【0197】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該技術分野で公知である。(例えば、Millstein他、Nature、305: 537-539 (1983);Traunecker他、EMBO J.、10: 3655-3659 (1991)、Suresh他、Methods in Enzymology、121: 210 (1986); Kostelny他、J. Immunol. 148(5): 1547-1553 (1992); Hollinger他、PNAS USA、90: 6444-6448 (1993);Gruber他、J. Immunol. 152: 5368 (1994);米国特許第4,474,893号、同第4,714,681号、同第4,925,648号、同第5,573,920号、同第5,601,819号、同第5,731,168号、同第4,676,980号および同第4,676,980号明細書、国際公開WO 94/04690;WO 91/00360;WO 92/200373;WO 93/17715;WO 92/08802パンフレット;および欧州特許EP 03089号公報を参照されたい)。これらのBiTEを含む二重特異性抗体の作製に関する参考文献の各々が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0198】
本明細書に記載の方法を実施する際に有用な例示的な二重特異性抗体分子は、(i)標的細胞の表面上に発現される抗原に対する結合特異性を有する第1の抗体と、免疫細胞(例えばCD4 T細胞)の表面上に発現される抗原に対する結合特異性を有する第2の抗体とを含む、2つの抗体、(ii)標的細胞の表面上に発現される抗原に対する結合特異性を有する第1の鎖またはアームと、免疫細胞(例えば、CD4 T細胞)に対する結合特異性を有する第2の鎖またはアームとを有する、単一抗体、(iii)標的細胞の表面上に発現される抗原に対する結合特異性を有し、かつ例えば追加のペプチドリンカーによってタンデムに連結された2つのscFvを介して、免疫細胞(例えば、CD4 T細胞)に対する結合特異性も有する単鎖抗体、(iv)軽鎖および重鎖の各々が1つの短いペプチド結合を介してタンデムになった2つの可変ドメインを含む、二重可変ドメイン抗体(DVD-Ig)、(v)化学的に結合した二重特異性(Fab′)フラグメント、(vi)2つの一本鎖ダイアボディの融合体であって、各標的抗原のための2つの結合部位を有する4価の二重特異性抗体をもたらすTandAb(タンデムダイアボディ)、(vii)フレキシボディ(flexibody)(scFvとダイアボディとを組み合わせて多価分子を生成)、(viii)いわゆる「ドック・ロック(Dock-and-Lock (DNL))」分子(プロテインキナーゼA中の「二量化およびドッキングドメイン(DDD)」のFabに適用して、異なるFabフラグメントに連結された2つの同一のFabフラグメントを含む三価の二重特異性結合タンパク質を生成することができる抗体)、(ix)ヒトFc領域の両末端に融合した2つのscFvを含む、いわゆる「サソリ(Scopion)」型分子を生成することができる抗体、(x)ダイアボディ、および(xi)いわゆる「ImmTAC」分子(癌に対する免疫学的修飾mTCR;例えば、Liddy他、Nat. Med. 18:980-987 (2012)を参照のこと)を含む。
【0199】
イメージング剤
一実施形態では、送達ビヒクルは、イメージング剤を含む。イメージング剤は、送達ビヒクルを細胞または組織への曝露後に視覚化できるようにする材料である。視覚化には、肉眼でのイメージング、並びに装置を用いた検出または通常は眼で見えない情報を検出することを必要とするイメージングであって、光子、音または他のエネルギー量子の検出を必要とするイメージングが含まれる。例としては、染料、生体染色色素、蛍光マーカー、放射性マーカー、酵素、またはマーカーもしくは酵素をコードするプラスミド構成物が挙げられる。送達ビヒクルにおいて使用することができるイメージングまたはターゲティングのための多くの材料と方法が、Handbook of Targeted delivery of Imaging Agents, Torchilin編(1995)CRC Press、Boca Raton、フランスに提供されている。
【0200】
分子イメージングに基づく視覚化は、組織、細胞または分子レベルでの生物学的プロセスまたは生物学的分子を検出することを必要とする。分子イメージングは、遺伝子療法、細胞療法のための特定の標的を評価する目的で、並びに診断または研究ツールとして病理学的状態を視覚化する目的で用いることができる。細胞内に送達することができるイメージング剤は、かかる剤が細胞内活性または状態を評価するのに使用できることから、特に有用である。イメージング剤は、それらの標的を効率的であるように到達しなければならず、従って、いくつかの実施形態では、細胞による効率的な取り込みが望ましい。迅速な取り込みは、RESを回避するためにも望ましい場合がある。Allport & Weissleder、Experimental Hematology 1237-1246 (2001)中の概説を参照されたい。
【0201】
さらに、イメージング剤は好ましくは、直接的にか、または特定の標的に関連するシグナルを増加させる効率的な増幅技術によるかに関係なく、少量で検出することができるように高いシグナル対ノイズ比を提供すべきである。増幅戦略は、Allport & Weissleder、Experimental Hematology、1237-1246 (2001)において検討されており、例えばアビジンービオチン結合システム、変換後のリガンドの捕捉、標的により結合された後の物理的挙動を変化させそして弛緩速度を利用するプローブ、などを含む。イメージング技術の例には、磁気共鳴イメージング、放射性核種イメージング、コンピュータ断層撮影法、超音波、および光学イメージングが含まれる。
【0202】
本明細書に記載される伝達ビヒクルは、例えばイメージング剤を送達ビヒクルに組み込むことによって、様々なイメージング技術または戦略において有利に使用することができる。多くのイメージング技術と戦略が知られており、例えばAllport & Wessleder, Experimental Hematology 1237-1246 (2001)の概説を参照されたい。かかる戦略は、送達ビヒクルを用いる用途に合わせて適応可能である。好適なイメージング剤としては、例えば、蛍光分子、標識抗体、標識アビジン:ビオチン結合剤、コロイド状金属(例えば、金、銀)、レポーター酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、超常磁性トランスフェリン、二次レポーターシステム(例えばチロシナーゼ)、および常磁性キレートが挙げられる。
【0203】
いくつかの実施形態では、イメージング剤は、磁気共鳴イメージング造影剤である。磁気共鳴イメージング造影剤の例としては、限定されないが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N”,N'”-四酢酸(DOTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N”,N'”-テトラエチルリン酸(DOTEP)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N”-三酢酸(DO3A)およびそれらの誘導体が挙げられる(米国特許第5,188,816号;同第5,219,553号;および同第5,358,704号明細書参照)。いくつかの実施形態では、イメージング剤は、X線造影剤である。当技術分野で既に知られているX線造影剤は、5-アミノイソフタル酸の様々なハロゲン化誘導体、特にヨウ素化誘導体を含む。
【0204】
小分子剤
様々な実施形態において、薬剤は小分子である。薬剤が小分子である場合、小分子は、当業者に既知である標準的な方法を使用して得られてもよい。かかる方法は、化学的有機合成または生物学的手段を含む。生物学的手段は、当技術分野で周知の方法を使用して、生物学的供給源、組換え合成および試験管内翻訳系からの精製を含む。一実施形態において、小分子剤は、有機分子、無機分子、生体分子、合成分子などを含む。
【0205】
多様な疾患と状態を治療する際に潜在的に有用である、分子的に多岐にわたる化学化合物のコンビナトリアル・ライブラリーは、ライブラリーを作製する方法として当技術分野でよく知られている。この方法は、固相合成、液相法、単一化合物の並列合成、化学混合物の合成、剛性コア構造、フレキシブル線状配列、デコンボリューション戦略、タグ付け技術、およびリード化合物開発のための非バイアス分子ランドスケープ対リード化合物開発のためのバイアス構造を構築することを含む。本発明のいくつかの実施形態では、薬剤は、組合せ技術を使用して合成および/または同定される。
【0206】
小規模ライブラリー合成のための一般的な方法では、活性化されたコア分子が多数の構成単位(ビルディングブロック)において凝縮され、結果として共有結合したコア構成単位三元体の組合せライブラリーが生じる。コアの形状および剛性は、形状空間における構成単位の配向を決定づける。ライブラリーは、特徴的な生物学的構造を標的とするために、コア、結合または構成単位を変更することによってバイアス付けすることができ、あるいはフレキシブルコアを使用してより少ない構造バイアスで合成することができる。本発明のいくつかの実施形態では、薬剤は、小規模ライブラリー合成を介して合成される。
【0207】
本明細書に記載の小分子および小分子化合物は、たとえ塩が描写されていなくても塩として存在してよく、本発明は、当業者に十分理解されるように、本明細書に描写される薬剤のすべての塩および溶媒和物、ならびに該薬剤の非塩および非溶媒和物の形態を包含することが理解される。いくつかの実施形態では、本発明の薬剤の塩は、薬学的に許容される塩である。
【0208】
明細書に記載される薬剤のいずれかに互変異性体が存在してもよく、互変異性体形態のうちの1つまたは一部のみが明示的に描写され得る場合であっても、あらゆる互変異性体が本発明に含まれることが意図される。例えば、2-ヒドロキシピリジル部分が描写される場合、対応する2-ピリドン互変異性体も意図される。
【0209】
本発明はまた、記載された薬剤の任意のエナンチオマー(鏡像異性体)またはジアステレオマー形態をはじめとする、あらゆる立体化学形態を含む。本明細書の構造または名称の記載は、記載されている薬剤のすべての可能な立体異性体を包含することを意図している。薬剤の全ての形態、例えば、薬剤の結晶または非結晶形態なども、本発明により包含される。本発明の薬剤を含む組成物、例えば特定の立体化学的形態を含む実質的に純粋な薬剤の組成物、またはラセミ体混合物もしくは非ラセミ混合物のような、2つ以上の立体化学的形態を含む、本発明の薬剤の混合物を任意の比率で含んで成る組成物も意図される。
【0210】
本発明はまた、本明細書に記載の任意の薬剤のあらゆる活性な同族体または誘導体、例えばプロドラッグを含む。一実施形態では、薬剤はプロドラッグである。一実施形態では、本明細書に記載の小分子は誘導体化の候補である。このように、特定の例では、本明細書に記載される小分子の類似体は、本明細書では、調節された効力、選択性、および溶解性を有し、創薬および薬物開発のための有用なリード化合物を提供する。従って、特定の例では、最適化された新規類似体は、薬物送達、代謝、新規性、および安全性の問題を考慮して設計される。
【0211】
いくつかの例では、本明細書に記載の小分子剤は、コンビナトリアルおよび医薬化学の当技術分野でよく知られているように、既知の薬剤の誘導体または類似体である。類似体または誘導体は、様々な一で官能基を追加および/または置換することによって調製することができる。従って、本明細書に記載される小分子は、周知の化学合成手順を使用して、誘導体/類似体に変換することができる。例えば、水素原子または置換基の全てを選択的に修飾して、新たな類似体を生成することができる。また、連結原子または基を、炭素骨格またはヘテロ原子を有する更に長いまたは短いリンカー中に修飾することができる。また、環内の原子数が異なるようにそして/またはヘテロ原子を含むように、環基を変更することができる。さらに、芳香族化合物は、環式環に変換することができ、その逆も同様である。例えば、環は、5~7原子から構成されてよく、炭素環式または複素環式であることができる。
【0212】
本明細書で使用される場合、用語「類似体(analogまたはanalogue)」または「誘導体(derivative)」は、1以上の化学反応によって親化合物または親分子から作られた化合物または分子を指すものである。このように、類似体は、本明細書に記載の小分子剤のものと同様の構造を有する構造体であってもよいし、本明細書に記載される小分子剤の足場をベースにすることができるが、特定の構成要素または構造組成に関して本明細書のそれとは異なり、代謝的に同様のまたは逆の作用を有することができる。本発明にかかる小分子阻害剤のいずれかの類似体または誘導体は、疾患または障害を治療するために使用することができる。
【0213】
一実施形態では、本明細書に記載の小分子剤は、水素基を互いに独立して他の置換基に修飾することによって、独立して誘導体化され得るか、またはそこから調製される類似体であり得る。すなわち、各分子上の各原子は、同一の分子上の他の原子に関して独立に修飾することができる。誘導体/類似体を製造するための任意の伝統的な修飾を使用することができる。例えば、原子および置換基は、独立して、水素、アルキル、脂肪族、直鎖状脂肪族、鎖ヘテロ原子を有する脂肪族、分岐状脂肪族、置換脂肪族、環状脂肪族、1つ以上のヘテロ原子を有する複素環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、多環芳香族、ポリアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、それらの組み合わせ、ハロゲン、ハロ置換脂肪族などを含むことができる。さらに、化合物上の任意の環基を誘導体化して、環の大きさを増加および/または減少させるとともに、骨格の原子を炭素原子またはヘテロ原子に変更することができる。
【0214】
送達ビヒクル
いくつかの実施形態では、本発明は、1つ以上の薬剤を送達するための送達ビヒクルを含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、本発明の薬剤は、本発明のmRNA分子(例えばヌクレオシド修飾mRNA分子)を含む。
【0215】
いくつかの実施形態では、送達ビヒクルは、コロイド状分散系、例えば高分子複合体、ナノカプセル、微小球、ビーズ、並びに水中油型乳剤、ミセル、混合ミセルおよびリポソームをはじめとする脂質ベースの系である。インビトロおよびインビボで送達ビヒクルとして使用するための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば人工膜小胞)である。
【0216】
脂質製剤の使用は、宿主細胞中への少なくとも1つの薬剤の導入(インビトロ、エクスビボまたはインビボで)のために企図される。別の態様では、少なくとも1つの薬剤は、脂質と結び付けられてもよい。脂質に結び付けられた少なくとも1つの薬剤は、リポソームの水性内部に封入され、リポソームの脂質二重層内に分散され、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方につながれた連結分子を介してリポソームに付着され、リポソームに内包され、リポソームと複合化され、脂質を含む溶液中に分散され、脂質と混合され、脂質中に懸濁液として含められ、脂質中に懸濁液として含められ、ミセルに含まれるかまたはミセルと複合体化され、あるいは他の方法で脂質と結び付けられ得る。脂質、脂質/核酸または脂質/発現ベクター関連組成物は、溶液中の任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらは、ミセルとして、または、崩壊された構造を有する二層構造に存在してもよい。それらはまた、単に溶液中に分散させることもでき、場合によっては、大きさまたは形状が均一でない凝集体を形成することができる。脂質は、天然の脂肪物質または合成脂質である。例えば、脂質は、長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体、例えば、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドを含む化合物のクラスだけでなく、細胞質に天然に生じる脂肪滴を含む。
【0217】
脂質およびそれらの誘導体
様々な実施形態では、送達ビヒクルは、脂質またはその誘導体を含むことができる。
【0218】
脂質は、天然に存在し得る脂肪物質または合成脂質である。例えば、脂質は、長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体、例えば、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、アルデヒド、およびポリマー(例えばPEG化脂質)を含む化合物のクラスだけでなく、細胞質に天然に存在する脂肪滴も包含する。
【0219】
使用に適した脂質は、商業的供給源から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)はSigma社(米国ミズーリ州セントルイス)から得ることができ、ジセチルホスフェート(「DCP」)は、K & K Laboratories(NY州プレインビュー)から得ることができ、コレステロール(「Chol」)はCalbiochem-Behring社から得ることができ、ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPC」)および他の脂質はAvanti Polar Lipids社(アラバマ州バーミンガム)から得ることができる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質の原液は約-20℃で保存しなければならない。クロロホルムは、メタノールよりも容易に蒸発しやすいので、単独溶媒として用いられる。
【0220】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質が好ましい。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、生理学的pHなどの選択的pHで正味の正電荷を担持する多数の脂質種のいずれかを含む。そのような脂質には、限定されないが、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC);N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);N-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP);3-(N-(N′,N′-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、N-(l-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチルアンモニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミノグリシルカルボキシスペルミン(DOGS);l,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);N,N-ジメチル-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、およびN-(l,2-ジミリスチルオキシプロパ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)が含まれる。
【0221】
さらに、本発明で使用することができる多数のカチオン性脂質の市販の製剤が利用可能である。これらには、例えば、リポフェクチン(LIPOFECTIN(登録商標))(DOTMAと1,2-ジオレオイル-sn-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)とを含む市販のカチオン性リポソーム;GIBCO/BRL社、N.Y. Grand Islandより);リポフェクタミン(LIPOFECTAMINE(登録商標))(N-(l-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチルアンモニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)とDOPEとを含む市販のカチオン性リポソーム;GIBCO/BRL社);およびトランスフェクタム(TRANSFECTAM(登録商標))(エタノール中のジオクタデシルアミドグリシルカルボキシスペルミン(DOGS)を含む市販のカチオン性脂質;Promega、ウィスコンシン州マディソン)を含む。以下の脂質はカチオン性であり、生理学的pHより下では正電荷を有する:DODAP、DODMA、DMDMA、l,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、l,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)が含まれる。
【0222】
一実施形態において、カチオン性脂質はアミノ脂質である。本発明において有用である適切なアミノ脂質には、WO2012/016184(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているものが含まれる。代表的なアミノ脂質としては、特に限定されるものではないが、1,2-ジリノレイオキシ-3-(ジメチルアミノ)アセトキシプロパン(DLin-DAC)、1,2-ジリノレイオキシ-3-モルホリノプロパン(DLin-MA)、1,2-ジリノレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinDAP)、1,2-ジリノレイルチオ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-S-DMA)、1-リノレオイル-2-リノレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-2-DMAP)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-トリメチルアミノプロパンクロリド塩(DLin-TMA.Cl)、1,2-ジリノレオイル-3-トリメチルアミノプロパンクロリド塩(DLin-TAP.Cl)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N-メチルピペラジノ)プロパン(DLin-MPZ)、3-(N,N-ジリノレイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DLinAP)、3-(N,N-ジオレイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DOAP)、1,2-ジリノレイルオキソ-3-(2-N,N-ジメチルアミノ)エトキシプロパン(DLin-EG-DMA)、および2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)が含まれる。
【0223】
適切なアミノ脂質は、次式:
【0224】
【化1】
【0225】
(式中、RおよびRは同一であるかまたは異なり、そして各々独立に、随意に置換されるC10~C24アルキル、随意に置換されるC10~C24アルケニル、随意に置換されるC10~C24アルキニル、または随意に置換されるC10~C24アシルであり;
およびRは同一であるかまたは異なり、そして各々独立に、随意に置換されるC~Cアルキル、随意に置換されるC~Cアルケニル、または随意に置換されるC~Cアルキニルであるか、あるいはRとRが一緒になって、炭素原子数4~6でありかつ窒素および酸素から選択された1または2個のヘテロ原子を有する、随意に置換される複素環を形成してもよく;
は存在していてもいなくてもよく、存在する場合には、水素またはC~Cアルキルであり;
m、nおよびpはいずれも同一または異なり、そしてm、nおよびpが同時に0ではないという条件で、各々独立に0または1であり;
qは0、1、2、3または4であり;そして
YおよびZは同一であるかまたは異なり、そして各々独立にO、S、またはNHである)
を有するアミノ脂質を包含する。
【0226】
一実施形態では、RおよびRは各々リノレイルであり、そしてアミノ脂質がジリノレイルアミノ脂質である。一実施形態では、アミノ脂質がジリノレイルアミノ脂質である。
【0227】
代表的な有用なジリノレイルアミノ脂質は、次式:
【0228】
【化2】
【0229】
(ここでnは0、1、2、3または4である)を有する。
【0230】
一実施形態では、カチオン性脂質がDLin-K-DMAである。一実施形態では、カチオン性脂質がDLin-KC2-DMAである(nが2である上記のDLin-K-DMA)。
【0231】
一実施形態では、LNPのカチオン性脂質成分は、式(I)の構造:
【0232】
【化3】
【0233】
を有するか、または、製薬上許容されるその塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体であって、
上式中、
およびLは各々独立に-O(C=O)-、-(C=O)O-または炭素-炭素二重結合であり;
1aおよびR1bは、各存在ごとに、独立に(a)HまたはC~C12アルキルであるか、あるいは(b)R1aがHまたはC~C12アルキルであり、そしてR1bはそれが結合している炭素原子と共に、隣接のR1bおよびそれが結合している炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成し;
2aおよびR2bは、各存在ごとに、独立に(a)HまたはC~C12アルキルであるか、あるいは(b)R2aがHまたはC~C12アルキルであり、そしてR2bはそれが結合している炭素原子と共に、隣接のR2bおよびそれが結合している炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成し;
3aおよびR3bは、各存在ごとに、独立に(a)HまたはC~C12アルキルであるか、あるいは(b)R3aがHまたはC~C12アルキルであり、そしてR3bはそれが結合している炭素原子と共に、隣接のR3bおよびそれが結合している炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成し;
4aおよびR4bは、各存在ごとに、独立に(a)HまたはC~C12アルキルであるか、あるいは(b)R4aがHまたはC~C12アルキルであり、そしてR4bはそれが結合している炭素原子と共に、隣接のR4bおよびそれが結合している炭素原子と共同して、炭素-炭素重結合を形成し;
およびRは各々独立にメチルまたはシクロアルキルであり;
は各存在ごとに、独立にHまたはC~C12アルキルであり;
およびRは、各々独立にC~C12アルキルであるか;またはRおよびRは、それらが結合する窒素原子と共に、1つの窒素原子を含む5、6もしくは7員の複素環を形成し;
aおよびdは、各々独立に、0~24の整数であり;
bおよびcは、それぞれ独立に、1~24の整数であり;
eは1または2である。
【0234】
式(I)の特定の実施形態では、Rla、R2a、R3aまたはR4aの少なくとも1つがC~C12アルキルであり、またはLもしくはLの少なくとも1つが-O(C=O)-または-(C=O)O-である。他の実施形態では、RlaおよびRlbは、aが6であるときイソプロピルでなく、aが8であるときn-ブチルではない。
【0235】
式(I)のさらに別の実施形態では、Rla、R2a、R3aまたはR4aの少なくとも1つがC~C12アルキルであり、またはLまたはLの少なくとも1つが-O(C=O)-または-(C=O)O-であり;そしてR1aおよびR1bは、aが6であるときイソプロピルではなくまたはaが8であるときn-ブチルではない。
【0236】
式(I)の他の実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立に、非置換のC~C12アルキルであるか;あるいはRおよびRは、それらが結合している窒素原子と共に、1つの窒素原子を含む5、6または7員の複素環を形成する。
【0237】
式(I)のある特定の実施形態では、LまたはLのいずれか一方が、-O(C=O)-または炭素-炭素二重結合であり得る。LとLは、それぞれ-O(C=O)-であってよく、またはそれぞれ炭素-炭素二重結合であってもよい。
【0238】
式(I)のいくつかの実施形態では、LまたはLの一方が-O(C=O)-である。他の実施形態では、LとLの両方が-O(C=O)-である。
【0239】
式(I)のいくつかの実施形態では、LまたはLの一方が-(C=O)O-である。他の実施形態では、LとLの両方が-(C=O)-である。
【0240】
式(I)のいくつかの他の実施形態では、LまたはLの一方が炭素-炭素二重結合である。他の実施形態では、LおよびLの両方が炭素-炭素二重結合である。
【0241】
式(I)のさらに他の実施形態では、LまたはLの一方が-O(C=O)-であり、LまたはLの他方が-(C=O)O-である。より多くの実施形態では、LまたはLの一方が-O(C=O)-であり、LまたはLの他方が炭素-炭素二重結合である。さらに多くの実施形態では、LまたはLの一方が-(C=O)O-であり、LまたはLの他方が炭素-炭素二重結合である。
【0242】
本明細書全体を通して使用される「炭素-炭素」二重結合は、以下の構造のうちの1つを指すことが理解される:
【0243】
【化4】
【0244】
ここで、RおよびRは、各存在ごと、Hまたは置換基である。例えば、いくつかの実施形態では、RおよびRは、各存在ごとに、H、C~C12アルキルまたはシクロアルキル、例えばHまたはC~C12アルキルである。
【0245】
他の実施形態では、式(I)の脂質化合物は、以下の構造(Ia)を有する:
【0246】
【化5】
【0247】
別の実施形態では、式(I)の脂質化合物は、以下の構造(Ib)を有する
【0248】
【化6】
【0249】
さらに別の実施形態では、式(I)の脂質化合物は、以下の構造(Ic)を有する
【0250】
【化7】
【0251】
式(I)の脂質化合物の或る特定の実施形態において、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に、2~12の整数または4~12の整数である。他の実施形態において、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に、8~12または5~9の整数である。いくつかのある特定の実施形態において、aは0である。いくつかの実施形態において、aは1である。他の実施形態において、aは2である。更なる実施形態において、aは3である。更に他の実施形態において、aは4である。いくつかの実施形態において、aは5である。他の実施形態において、aは6である。更なる実施形態において、aは7である。更に他の実施形態において、aは8である。いくつかの実施形態において、aは9である。他の実施形態において、aは10である。更なる実施形態において、aは11である。更に他の実施形態において、aは12である。いくつかの実施形態において、aは13である。他の実施形態において、aは14である。更なる実施形態において、aは15である。更に他の実施形態において、aは16である。
【0252】
いくつかの他の式(I)の実施形態において、bは1である。他の実施形態において、bは2である。更なる実施形態において、bは3である。更に他の実施形態において、bは4である。いくつかの実施形態において、bは5である。他の実施形態において、bは6である。更なる実施形態において、bは7である。更に他の実施形態において、bは8である。いくつかの実施形態において、bは9である。他の実施形態において、bは10である。更なる実施形態において、bは11である。更に他の実施形態において、bは12である。いくつかの実施形態において、bは13である。他の実施形態において、bは14である。更なる実施形態において、bは15である。更に他の実施形態において、bは16である。
【0253】
いくつかの更なる式(I)の実施形態において、cは1である。他の実施形態において、cは2である。更なる実施形態において、cは3である。更に他の実施形態において、cは4である。いくつかの実施形態において、cは5である。他の実施形態において、cは6である。更なる実施形態において、cは7である。更に他の実施形態において、cは8である。いくつかの実施形態において、cは9である。他の実施形態において、cは10である。更なる実施形態において、cは11である。更に他の実施形態において、cは12である。いくつかの実施形態において、cは13である。他の実施形態において、cは14である。更なる実施形態において、cは15である。更に他の実施形態において、cは16である。
【0254】
式(I)のいくつかのある特定の他の実施形態において、dは0である。いくつかの実施形態において、dは1である。他の実施形態において、dは2である。更なる実施形態において、dは3である。更に他の実施形態において、dは4である。いくつかの実施形態において、dは5である。他の実施形態において、dは6である。更なる実施形態において、dは7である。更に他の実施形態において、dは8である。いくつかの実施形態において、dは9である。他の実施形態において、dは10である。更なる実施形態において、dは11である。更に他の実施形態において、dは12である。いくつかの実施形態において、dは13である。他の実施形態において、dは14である。更なる実施形態において、dは15である。更に他の実施形態において、dは16である。
【0255】
式(I)のいくつかの他の様々な実施形態において、aとdとは同一である。いくつかの他の実施形態において、bとcとは同一である。いくつかの他の特定の実施形態において、aとdとは同一であり、且つbとcとは同一である。
【0256】
式(I)におけるaとbとの和およびcとdとの和は、所望の特性を有する式(I)の脂質を得るために変動し得る因子である。一実施形態において、aとbとは、それらの和が14~24の範囲の整数となるように選択される。他の実施形態において、cとdとは、それらの和が14~24の範囲の整数となるように選択される。更なる実施形態において、aとbとの和およびcとdとの和は同一である。例えば、いくつかの実施形態において、aとbとの和およびcとdとの和は共に、14~24の範囲であってよい同一の整数である。一層更なる実施形態において、a、b、cおよびdは、aとbとの和およびcとdとの和が12以上になるように選択される。
【0257】
式(I)のいくつかの実施形態において、eは1である。他の実施形態において、eは2である。
【0258】
式(I)のR1a、R2a、R3aおよびR4aにおける置換基は特に限定されない。ある特定の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aはそれぞれの存在ごとにHである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~C12アルキルである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~Cアルキルである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~Cアルキルである。上述の実施形態のいくつかにおいて、C~Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0259】
式(I)のある特定の実施形態において、R1a、R1b、R4aおよびR4bはそれぞれの存在ごとにC~C12アルキルである。
【0260】
式(I)の更なる実施形態において、R1b、R2b、R3bおよびR4bのうちの少なくとも1つがHであるか、またはR1b、R2b、R3bおよびR4bが各々の存在ごとにHである。
【0261】
式(I)のある特定の実施形態において、R1bは該R1bが結合する炭素原子と共に、隣接のR1bおよび該R1bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。上述の他の実施形態において、R4bは該R4bが結合する炭素原子と共に、隣接のR4bおよび該R4bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0262】
上述の実施形態において、式(I)のRおよびRにおける置換基は特に限定されない。ある特定の実施形態において、RもしくはRの一方または両方がメチルである。ある特定の他の実施形態において、RもしくはRの一方または両方がシクロアルキル、例えばシクロヘキシルである。これらの実施形態において、上記シクロアルキルは置換されていても置換されていなくてもよい。ある特定の他の実施形態において、上記シクロアルキルはC~C12アルキル、例えばtert-ブチルによって置換されている。
【0263】
上述の式(I)の実施形態において、Rにおける置換基は特に限定されない。ある特定の実施形態において、少なくとも1つのRはHである。いくつかの他の実施形態において、Rはそれぞれの存在ごとにHである。ある特定の他の実施形態において、RはC~C12アルキルである。
【0264】
上述の式(I)のある特定の他の実施形態において、RまたはRの一方がメチルである。他の実施形態において、RおよびRは共にメチルである。
【0265】
いくつかの異なる式(I)の実施形態において、RおよびRは、該RおよびRが結合する窒素原子と共に、5、6または7員の複素環を形成する。上述のいくつかの実施形態において、RおよびRは、該RおよびRが結合している窒素原子と共に、5員の複素環、例えばピロリジニル環を形成する。
【0266】
様々な異なる実施形態において、式(I)の例示的な脂質は、以下を含み得る:
【0267】
【化8-1】
【化8-2】
【化8-3】
【化8-4】
【化8-5】
【化8-6】
【化8-7】
【0268】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(I)の脂質と、少なくとも1つの薬剤と、中性脂質、ステロイおよびPEG化脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物I-5であり、いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物II-6である
【0269】
いくつかの実施形態において、上記LNPは、式(I)の脂質と、ヌクレオシド修飾RNAと、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択される1種または複数種の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態において、式(I)の脂質は化合物I-5である。いくつかの実施形態において、式(I)の脂質は化合物I-6である。
【0270】
いくつかの実施形態において、上記LNPの上記カチオン性脂質成分は、式(II):
【0271】
【化9】
【0272】
の構造を有するかまたは薬学的に許容されるその塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体であって、式中、
およびLはそれぞれ独立に、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、-NRC(=O)NR、-OC(=O)NR-、-NRC(=O)O-、または直接結合であり、
はC~Cアルキレン、-(C=O)-、-O(C=O)-、-SC(=O)-、-NRC(=O)-または直接結合であり、
は-C(=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)S-、-C(=O)NRまたは直接の結合であり、
はC~Cアルキレンであり、
はHまたはC~C12アルキルであり、
1aおよびR1bは、各存在ごとに、独立に(a)HもしくはC~C12アルキルであるか、または(b)R1aがHもしくはC~C12アルキルであり、そしてR1bは該R1bが結合する炭素原子と共に、隣接のR1bおよび該R1bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成するかのいずれかであり、
2aおよびR2bは、各存在ごとに、独立に(a)HもしくはC~C12アルキルであるか、または(b)R2aがHもしくはC~C12アルキルであり、そしてR2bは該R2bが結合する炭素原子と共に、隣接のR2bおよび該R2bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成するかのいずれかであり、
3aおよびR3bは、各存在ごとに、独立に(a)HもしくはC~C12アルキルであるか、または(b)R3aがHもしくはC~C12アルキルであり、そしてR3bは該R3bが結合する炭素原子と共に、隣接のR3bおよび該R3bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成するかのいずれかであり、
4aおよびR4bは、各存在ごとに、独立に(a)HもしくはC~C12アルキルであるか、または(b)R4aはHもしくはC~C12アルキルであり、そしてR4bは該R4bが結合する炭素原子と共に、隣接のR4bおよび該R4bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成するかのいずれかであり、
およびRは各々独立にHまたはメチルであり、
はC~C20アルキルであり、
およびRは各々独立にC~C12アルキルであるか、またはRおよびRが、該RおよびRが結合する窒素原子と共に、5、6または7員の複素環を形成し、
a、b、cおよびdは各々独立に1~24の整数である。
xは0、1または2である、
上記構造または薬学的に許容されるその塩、互変異生体、プロドラッグもしくは立体異性体を有する。
【0273】
式(II)のいくつかの実施形態において、LおよびLはそれぞれ独立に、-O(C=O)-、-(C=O)O-または直接結合である。他の実施形態において、GおよびGは各々独立に-(C=O)-または直接結合である。いくつかの異なる実施形態において、LおよびLは各々独立に-O(C=O)-、-(C=O)O-または直接結合であり、そしてGおよびGは各々独立に-(C=O)-または直接結合である。
【0274】
式(II)のいくつかの異なる実施形態において、LおよびLは各々独立に、-O(C=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-NR-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、-NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-、-NRC(=O)O-、-NRS(O)NR-、-NRS(O)-または-S(O)NR-である。
【0275】
式(II)の上述の他の実施形態において、上記脂質化合物は以下の構造(IIA)または(IIB)うちの1つを有する:
【0276】
【化10】
【0277】
式(II)のいくつかの実施形態において、上記脂質化合物は構造(IIA)を有する。他の実施形態において、上記脂質化合物は構造(IIB)を有する。
【0278】
上述の式(II)の実施形態のいずれかにおいて、LまたはLの一方が-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態において、LおよびLの各々が-O(C=O)-である。
【0279】
式(II)のいくつかの異なる実施形態において、LまたはLの一方が-(C=O)O-である。例えば、いくつかの実施形態において、LおよびLの各々が-(C=O)O-である。
【0280】
式(II)の異なる実施形態において、LまたはLの一方が直接結合である。本明細書で用いられる「直接結合」は、基(例えば、LまたはL)が存在しないことを意味する。例えば、いくつかの実施形態において、LおよびLの各々が直接結合である。
【0281】
式(II)の他の異なる実施形態において、R1aおよびR1bの少なくとも1つの存在に関して、R1aはHまたはC~C12アルキルであり、そしてR1bは、該R1bが結合する炭素原子と共に、隣接のR1bおよび該R1bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0282】
式(II)の更に他の異なる実施形態において、R4aおよびR4bの少なくとも1つの存在に関して、R4aはHまたはC~C12アルキルであり、そしてR4bは、該R4bが結合する炭素原子と共に、隣接のR4bおよび該R4bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0283】
式(II)の更なる実施形態において、R2aおよびR2bの少なくとも1つの存在に関して、R2aはHまたはC~C12アルキルであり、そしてR2bは、該R2bが結合する炭素原子と共に、隣接のR2bおよび該R2bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0284】
式(II)の他の異なる実施形態において、R3aおよびR3bの少なくとも1つの存在に関して、R3aはHまたはC~C12アルキルであり、そしてR3bは、該R3bが結合する炭素原子と共に、隣接のR3bおよび該R3bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0285】
式(II)の様々な他の実施形態において、上記脂質化合物は、以下の構造(IIC)または(IID):
【0286】
【化11】
【0287】
のうちの一方を有し、式中、e、f、gおよびhはそれぞれ独立に1~12の整数である。
【0288】
式(II)のいくつかの実施形態において、上記脂質化合物は構造(IIC)を有する。他の実施形態において、上記脂質化合物は構造(IID)を有する。
【0289】
構造(IIC)または(IID)の様々な実施形態において、e、f、gおよびhはそれぞれ独立に4~10の整数である。
【0290】
式(II)のある特定の実施形態において、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に2~12の整数または4~12の整数である。他の実施形態において、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に8~12または5~9の整数である。いくつかのある特定の実施形態において、aは0である。いくつかの実施形態において、aは1である。他の実施形態において、aは2である。更なる実施形態において、aは3である。更に他の実施形態において、aは4である。いくつかの実施形態において、aは5である。他の実施形態において、aは6である。更なる実施形態において、aは7である。更に他の実施形態において、aは8である。いくつかの実施形態において、aは9である。他の実施形態において、aは10である。更なる実施形態において、aは11である。更に他の実施形態において、aは12である。いくつかの実施形態において、aは13である。他の実施形態において、aは14である。更なる実施形態において、aは15である。更に他の実施形態において、aは16である。
【0291】
式(II)のいくつかの実施形態において、bは1である。他の実施形態において、bは2である。更なる実施形態において、bは3である。更に他の実施形態において、bは4である。いくつか実施形態において、bは5である。他の実施形態において、bは6である。更なる実施形態において、bは7である。更に他の実施形態において、bは8である。いくつかの実施形態において、bは9である。他の実施形態において、bは10である。更なる実施形態において、bは11である。更に他の実施形態において、bは12である。いくつかの実施形態において、bは13である。他の実施形態において、bは14である。更なる実施形態において、bは15である。更に他の実施形態において、bは16である。
【0292】
式(II)のいくつかの実施形態において、cは1である。他の実施形態において、cは2である。更なる実施形態において、cは3である。更に他の実施形態において、cは4である。いくつか実施形態において、cは5である。他の実施形態において、cは6である。更なる実施形態において、cは7である。更に他の実施形態において、cは8である。いくつかの実施形態において、cは9である。他の実施形態において、cは10である。更なる実施形態において、cは11である。更に他の実施形態において、cは12である。いくつかの実施形態において、cは13である。他の実施形態において、cは14である。更なる実施形態において、cは15である。更に他の実施形態において、cは16である。
【0293】
式(II)のいくつかの特定の実施形態において、dは0である。いくつかの実施形態において、dは1である。他の実施形態において、dは2である。更なる実施形態において、dは3である。更に他の実施形態において、dは4である。いくつかの実施形態において、dは5である。他の実施形態において、dは6である。更なる実施形態において、dは7である。更に他の実施形態において、dは8である。いくつかの実施形態において、dは9である。他の実施形態において、dは10である。更なる実施形態において、dは11である。更に他の実施形態において、dは12である。いくつかの実施形態において、dは13である。他の実施形態において、dは14である。更なる実施形態において、dは15である。更に他の実施形態において、dは16である。
【0294】
式(II)のいくつかの実施形態において、eは1である。他の実施形態において、eは2である。更なる実施形態において、eは3である。更に他の実施形態において、eは4である。いくつかの実施形態において、eは5である。他の実施形態において、eは6である。更なる実施形態において、eは7である。更に他の実施形態において、eは8である。いくつかの実施形態において、eは9である。他の実施形態において、eは10である。更なる実施形態において、eは11である。更に他の実施形態において、eは12である。
【0295】
式(II)のいくつかの実施形態において、fは1である。他の実施形態において、fは2である。更なる実施形態において、fは3である。更に他の実施形態において、fは4である。いくつかの実施形態において、fは5である。他の実施形態において、fは6である。更なる実施形態において、fは7である。更に他の実施形態において、fは8である。いくつかの実施形態において、fは9である。他の実施形態において、fは10である。更なる実施形態において、fは11である。更に他の実施形態において、fは12である。
【0296】
式(II)のいくつかの実施形態において、gは1である。他の実施形態において、gは2である。更なる実施形態において、gは3である。更に他の実施形態において、gは4である。いくつか実施形態において、gは5である。他の実施形態において、gは6である。更なる実施形態において、gは7である。更に他の実施形態において、gは8である。いくつかの実施形態において、gは9である。他の実施形態において、gは10である。更なる実施形態において、gは11である。更に他の実施形態において、gは12である。
【0297】
式(II)のいくつかの実施形態において、hは1である。他の実施形態において、eは2である。更なる実施形態において、hは3である。更に他の実施形態において、hは4である。いくつか実施形態において、eは5である。他の実施形態において、hは6である。更なる実施形態において、hは7である。更に他の実施形態において、hは8である。いくつかの実施形態において、hは9である。他の実施形態において、hは10である。更なる実施形態において、hは11である。更に他の実施形態において、hは12である。
【0298】
式(II)のいくつかの他の様々な実施形態において、aとdとは同一である。いくつかの他の実施形態において、bとcとは同一である。いくつかのある特定の他の実施形態において、aとdとは同一であり、且つbとcとは同一である。
【0299】
式(II)のaとbとの和およびcとdとの和は、所望の特性をもつ脂質を得るために変動し得る因子である。一実施形態において、aとbとは、それらの和が14~24の範囲の整数となるように選択される。他の実施形態において、cとdとは、それらの和が14~24の範囲の整数となるように選択される。更なる実施形態において、aとbとの和およびcとdとの和は同一である。例えば、いくつかの実施形態において、aとbとの和およびcとdとの和は共に、14~24の範囲であってよい同一の整数である。更なる実施形態において、a、b、cおよびdは、aとbとの和およびcとdとの和が12以上になるように選択される。
【0300】
式(II)のR1a、R2a、R3aおよびR4aにおける置換基は特に限定されない。いくつかの実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはHである。ある特定の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aはそれぞれの存在ごとにHである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~C12アルキルである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~Cアルキルである。ある特定の他の実施形態において、R1a、R2a、R3aおよびR4aのうちの少なくとも1つはC~Cアルキルである。いくつかの上述の実施形態において、上記C~Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0301】
式(II)のある特定の実施形態において、R1a、R1b、R4aおよびR4bは、各々の存在ごとに、C~C12アルキルである。
【0302】
式(II)の更なる実施形態において、R1b、R2b、R3bおよびR4bのうちの少なくとも1つはHであるか、またはR1b、R2b、R3bおよびR4bは、各々の存在ごとに、Hである。
【0303】
式(II)のある特定の実施形態において、R1bは該R1bが結合する炭素原子と共に、隣接のR1bおよび該R1bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。上述の他の実施形態において、R4bは該R4bが結合する炭素原子と共に、隣接のR4bおよび該R4bが結合する炭素原子と共同して、炭素-炭素二重結合を形成する。
【0304】
式(II)のRおよびRにおける置換基は、上述の実施形態において特に限定されない。ある特定の実施形態において、RまたはRの一方がメチルである。他の実施形態において、RまたはRの各々がメチルである。
【0305】
式(II)のRにおける置換基は上述の実施形態において特に限定されない。ある特定の実施形態において、RはC~C16アルキルである。いくつかの他の実施形態において、RはC~Cアルキルである。これらの実施形態のいくつかにおいて、Rは、-(C=O)OR、-O(C=O)R、-C(=O)R、-OR、-S(O)、-S-SR、-C(=O)SR、-SC(=O)R、-NR、-NRC(=O)R、-C(=O)NR、-NRC(=O)NR、-OC(=O)NR、-NRC(=O)OR、-NRS(O)NR、-NRS(O)または-S(O)NRによって置換されており、但し、RはHまたはC~C12アルキルであり、RはC~C15アルキルであり、xは0、1または2である。例えば、いくつかの実施形態において、Rは-(C=O)ORまたは-O(C=O)Rによって置換されている。
【0306】
上述の式(II)の様々な実施形態において、Rは分枝状C~C15アルキルである。例えば、いくつかの実施形態において、Rは以下の構造のうちの1つを有する:
【0307】
【化12】
【0308】
上述の式(II)のある特定の他の実施形態において、RまたはRの一方がメチルである。他の実施形態において、RおよびRは共にメチルである。
【0309】
式(II)のいくつかの異なる実施形態において、RおよびRは、該RおよびRが結合している窒素原子と共に、5、6または7員の複素環を形成する。いくつかの上述の実施形態において、RおよびRは、該RおよびRが結合している窒素原子と共に、5員複素環、例えばピロリジニル環を形成する。いくつかの異なる、上述の実施形態において、RおよびRは、該RおよびRが結合している窒素原子と共に、6員の複素環、例えばピペラジニル環を形成する。
【0310】
上述の式(II)の脂質の更に他の実施形態において、GはC~Cアルキレン、例えばCアルキレンである。
【0311】
様々な異なる実施形態において、上記脂質化合物は以下の構造のうちの1つを有する:
【0312】
【化13-1】
【化13-2】
【化13-3】
【化13-4】
【化13-5】
【化13-6】
【0313】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(II)の脂質と、少なくとも1つの剤と、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択された1つ以上の賦形剤とを含んで成る。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-9である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-10である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は化合物II-11である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-12である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-32である。
【0314】
いくつかの他の実施形態では、LNPのカチオン性脂質成分は、式(III)の構造:
【0315】
【化14】
【0316】
を有するか、またはその薬学的に許容される塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体である。
【0317】
上式中、
またはLの一方は-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-であり、LまたはLの他方は-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-または直接結合であり;
およびGは各々独立に非置換のC~C12アルキレンまたはC~C12アルケニレンであり;
はC~C24アルキレン、C~C24アルケニレン、C~Cシクロアルキレン、C~Cシクロアルケニレンであり;
は、HまたはC~C12アルキルであり;
およびRは各々独立に、C~C24アルキルまたはC~C24アルケニルであり;
はH、OR、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NRC(=O)Rであり;
はC~C12アルキルであり;
は、HまたはC~Cアルキルであり;そして
xは0、1または2である。
【0318】
上記式(III)の前述の実施形態の一部において、脂質は、以下の構造(IIIA)または(IIIB)のうちの1つを有する:
【0319】
【化15】
【0320】
上式中、
Aは、3~8員のシクロアルキルまたはシクロアルキレン環であり;
は、各存在ごとに、独立に、H、OHまたはC~C24アルキルであり;
nは1~15の整数である。
【0321】
式(III)の上記実施形態のいくつかにおいて、脂質は構造(IIIA)を有し、他の実施形態では、脂質は構造(IIIB)を有する。
【0322】
式(III)の他の実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIC)または(IIID)のうちの1つを有する:
【0323】
【化16】
【0324】
上式中、yおよびzは、それぞれ独立に、1~12の範囲の整数である。
【0325】
上記式(III)のいずれかの実施形態において、LまたはLの一方は-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々が、-O(C=O)-である。上記のいずれかの異なる実施形態では、LおよびLは、各々独立に、-(C=O)O-または-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLのそれぞれは、-(C=O)O-である。
【0326】
式(III)のいくつかの異なる実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIE)または(IIIF)のうちの1つを有する:
【0327】
【化17】
【0328】
上記式(III)の前述の実施形態の一部において、脂質は、以下の構造(IIIG)、(IIIH)、(IIIII)または(IIIJ)のうちの1つを有する:
【0329】
【化18】
【0330】
前述の式(III)のいくつかの実施形態では、nは、2~12、例えば2~8、または2~4の整数である。例えば、ある実施形態では、nは3、4、5または6である。
【0331】
ある実施形態では、nは3である。また別の実施形態では、nは4である。ある実施形態では、nは4である。また別の実施形態では、nは5である。また別の実施形態では、nは6である。
【0332】
上記式(III)の上記の実施形態の一部の別の実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立に、2~10の整数である。例えば、ある実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立に、4~9または4~6の範囲の整数である。
【0333】
上記式(III)の上記の実施形態の一部において、RはHである。上記の実施形態の他のものではRはC~C24アルキルである。別の実施形態では、RはOHである。
【0334】
式(III)のいくつかの実施形態では、Gは非置換である。他の実施形態では、Gが置換される。様々な異なる実施形態において、Gは、直鎖C~C24アルキレンまたは直鎖C~C24アルケニレンである。
【0335】
式(III)のいくつかの他の実施形態では、RまたはRの一方、またはその両方が、C~C24アルケニルである。例えば、いくつかの実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立に、以下の構造を有する:
【0336】
【化19】
【0337】
上式中、
7aおよびR7bは、各々の存在ごとに、独立にHまたはC~C12アルキルであり;そして
aは2~12の整数であり、
ここで、R7a、R7bおよびaは、RとRが各々独立に6~20個の炭素原子を含むようにそれぞれ選択される。例えば、いくつかの実施形態では、aは5~9または8~12の整数である。
【0338】
前述の式(III)のいくつかの実施形態では、R7aの少なくとも1つの存在がHである。例えば、いくつかの実施形態では、R7aは、各存在ごとにHである。上記の他の異なる実施形態では、R7bの少なくとも1つの存在が、C~Cアルキルである。例えば、いくつかの実施形態では、C~Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0339】
式(III)の異なる実施形態では、RもしくはRの一方、またはその両方が、以下の1つを有する。
【0340】
【化20】
【0341】
式(III)の上述の実施形態のいくつかにおいて、RはOH、CN、-C(=O)OR-または-NHC(C=O)Rである。いくつかの実施形態において、Rはメチルまたはエチルである。
【0342】
様々な異なる実施形態において、式(III)のカチオン性脂質は、以下の構造のうちの1つを有する:
【0343】
【化21-1】
【化21-2】
【化21-3】
【化21-4】
【化21-5】
【0344】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(III)の脂質と、少なくとも1つの薬剤と、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択された1つ以上の賦形剤とを含んで成る。いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は、化合物III-3である。いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は、化合物III-7である。
【0345】
特定の実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約30~約95モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約30~約70モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約40~約60モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、約50%の量でLNP中に存在する。一実施形態では、LNPは、カチオン性脂質のみを含む。
【0346】
特定の実施形態では、LNPは、その形成中に粒子の形成を安定化させる1つ以上の追加の脂質を含む。
【0347】
適切な安定化脂質は、中性脂質およびアニオン性脂質を含む。
【0348】
用語「中性脂質」は、生理的pHにおいて無電荷または中性の両性イオン形態のいずれかで存在する多数の脂質種のいずれか1つを指す。代表的な中性脂質としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、およびセレブロシドが挙げられる。
【0349】
例示的な中性脂質としては、例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチルPE、16-O-ジメチルPE、18-1-トランスPE、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、並びに1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)が挙げられる。一実施形態では、中性脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)である。
【0350】
いくつかの実施形態では、LNPは、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPEおよびSMから選択される中性脂質を含む。様々な実施形態では、カチオン性脂質(例えば式(I)の脂質)の中性脂質に対するモル比は、約2:1~約8:1の範囲である。
【0351】
様々な実施形態では、LNPは、ステロイドまたはステロイド類似体をさらに含む。「ステロイド」は、以下の炭素骨格を含む化合物である:
【0352】
【化22】
【0353】
特定の実施形態では、ステロイドまたはステロイド類似体はコレステロールである。これらの実施形態のいくつかにおいて、カチオン性脂質(例えば式(I)の脂質)とコレステロールとのモル比は、約2:1~1:1の範囲である。
【0354】
用語「アニオン性脂質」は、生理学的pHで負に帯電する任意の脂質を指す。これらの脂質としては、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N-ドデカノイルホスファチジルエタノールアミン、N-スクシニルホスファチジルエタノールアミン、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン、リシルホスファチジルグリセロール、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、および中性脂質に結合した他のアニオン性基が挙げられる。
【0355】
特定の実施形態では、LNPは、糖脂質(例えばモノシアロガングリオシドGMi)を含む。特定の実施形態では、LNPはコレステロールなどのステロールを含む。
【0356】
いくつかの実施形態では、LNPは、ポリマーにコンジュゲートした(conjugated)脂質を含む。用語「ポリマーにコンジュゲートした脂質」とは、脂質部分とポリマー部分の両方を含む分子を指す。ポリマー結合型脂質の例は、PEG化(ペグ化)脂質である。PEG化脂質という用語は、脂質部分とポリエチレングリコール部分の両方を含む分子を指す。PEG化脂質は、当該技術分野で知られており、1-(モノメトキシポリエチレングリコール)-2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-s-DMG)等を含む。
【0357】
特定の実施形態では、LNPは、ポリエチレングリコール-脂質(PEG化脂質)である追加の安定化脂質を含む。適切なポリエチレングリコール-脂質は、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド(例えば、PEG-CerC14またはPEG-CerC20)、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロールを含む。代表的なポリエチレングリコール-脂質は、PEG-c-DOMG、PEG-c-DMA、およびPEG-s-DMGを含む。一実施形態では、ポリエチレングリコール-脂質は、N-〔(メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバミル〕-1,2-ジミリスチルオキシルプロピル-3-アミン(PEG-c-DMA)である。一実施形態では、ポリエチレングリコール-脂質はPEG-c-DOMGである。他の実施形態では、LNPは、PEG化ジアシルグリセロール(PEG-DAG)、例えば1-(モノメトキシポリエチレングリコール)―2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)、PEG化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)、PEGスクシネートジアシルグリセロール(PEG-S-DAG)、例えば4-O-(2′,3′-ジ(テトラデカノイルオキシ)プロピル-1-O-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)ブタンジオエート(PEG-S-DMG)、PEG化セラミド(PEG-cer)、またはPEGジアルコキシプロピルカルバメート、例えばω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル-N-(2,3-ジ(テトラデカノキシ)プロピル)カルバメートまたは2,3-ジ(テトラデカノキシ)プロピル-N-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)カルバメートである。様々な実施形態において、PEG化脂質に対するカチオン性脂質のモル比は、約100:1~約25:1の範囲である。
【0358】
いくつかの実施形態では、LNPは、以下の構造(IV)を有するPEG化脂質:
【0359】
【化23】
【0360】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体もしくは立体異性体を含む。
【0361】
10またはR11は、それぞれ独立に、10~30個の炭素原子を含む直鎖または分枝状、の飽和または不飽和アルキル鎖であり、ここで、アルキル鎖は任意選択的に1つ以上のエステル結合によって中断され;そして
zは、30~60の範囲の平均値を有する。
【0362】
PEG化脂質(IV)の前述の実施形態の一部において、zが42である場合、R10およびR11はいずれもn-オクタデシルではない。他の或る実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立に、10~18個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立に、12~16個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立に、12個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立に、14個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。他の実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立に、16個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。更なる実施形態では、R10およびR11は、それぞれ独立して、18個の炭素原子を含む直鎖または分枝状の飽和または不飽和アルキル鎖である。さらに他の実施形態では、R10は炭素数12の直鎖または分岐状の飽和または不飽和アルキル鎖であり、R11は炭素数14の直鎖または分岐状の飽和または不飽和ルキル鎖である。
【0363】
様々な実施形態では、zは、式(II)のPEG部分が約400~約6000 g/モルの平均分子量を有するように選択された範囲に及ぶ。いくつかの実施形態では、平均zは約45である。
【0364】
他の実施形態では、PEG化脂質は、以下の構造のうちの1つを有する。
【0365】
【化24】
【0366】
(ここで、nは、PEG化脂質の平均分子量が約2500 g/モルとなるように選択された整数である)。
【0367】
特定の実施形態では、追加の脂質は、LNP中に約1~約10モル%の量で存在する。一実施形態では、追加の脂質は、LNP中に約1~約5モル%の量で存在する。一実施形態では、追加の脂質は、LNP中に約1モル%または約1.5モル%で存在する。
【0368】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(I)の脂質、ヌクレオシド修飾RNA、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質を含む。いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物I-6である。異なる実施形態では、中性脂質は、DSPCである。他の実施形態では、ステロイドはコレステロールである。さらに別の実施形態では、PEG化脂質は、化合物IVaである。
【0369】
特定の実施形態では、LNPは、LNPを細胞または細胞集団にターゲティング(標的指向)する1つ以上のターゲィング部分を含む。例えば、一実施形態では、ターゲティングドメインは、細胞表面上に見出される受容体にLNPを指し向けるリガンドである。
【0370】
特定の実施形態では、LNPは、1つ以上の内在化ドメインを含む。例えば、一実施形態では、LNPは、LNPの内在化を誘導するために細胞に結合する1つ以上のドメインを含む。例えば、一実施形態では、1つ以上の内在化ドメインは、LNPの受容体媒介取り込みを誘導するために、細胞表面上に見出される受容体に結合する。特定の実施形態では、LNPは生体内で生体分子を結合させることができ、ここでLNPが結合した生体分子は次いで細胞表面受容体によって認識されて内在化を誘導することができる。例えば、一実施形態では、LNPは、LNPおよび関連の積荷の取り込みを誘導する体内のApoEを結合する。
【0371】
他の例示的なLNPおよびそれらの製造は、例えば、米国特許出願公開第US20120276209号、Semple他、2010、Nat. Biotechnol.、28(2):172-176;Akine他、2010、Mol. Ther. 18(7):1357-1364;Basha他、2011、Mol. Ther.、19(12):2186-2200;Leung他、2012、J Phys Chem C Nanomater Interfaces、116(34):18440-18450;Lee他、2012、Int J Cancer.、131(5):E781-90;Belliveau他、2012、Mol Ther Nucleic Acids、1:e37;Jayaraman他、2012、Angew Chem Int Ed Engl.、51(34):8529-8533;Mui他、2013、Mol Ther Nucleic Acids、2、el39;Maier他、2013、Mol Ther.、21(8):1570-1578;およびTam他、2013、Nanomedicine、9(5):665-74中に記載されており、その各々が全体として参照により組み込まれる。
【0372】
以下の反応スキームは、式(I)、(II)または(III)の脂質の製造方法を図解する。
【0373】
【化25】
【0374】
式(I)の脂質の実施形態(例えば、化合物A-5)は、一般反応スキーム1(「方法A」)に従って調製することができ、スキーム中、Rは飽和もしくは不飽和のC~C24アルキルまたは飽和もしくは不飽和のシクロアルキルであり、mは0または1であり、nは1~24の整数である。一般反応スキーム1を参照して、構造A-1の化合物は商業的供給源から購入するか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。A-1、A-2およびDMAPの混合物をDCCで処理してブロミドA-3を得る。ブロミド(A-3)、塩基(例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミン)およびN,N-ジメチルジアミン(A-4)の混合物を、必要な後処理および/または精製工程の後、A-5を生成させるのに十分な温度および時間で加熱する。
【0375】
【化26】
【0376】
式(I)の化合物の他の実施形態(例えば、化合物B-5)は、一般反応スキーム2(「方法B」)に従って調製することができ、スキーム中、Rは飽和もしくは不飽和のC~C24アルキルまたは飽和もしくは不飽和のシクロアルキルであり、mは0または1であり、nは1~24の整数である。一般反応スキーム2に示すように、構造B-1の化合物は商業的源から購入するか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。B-1(1当量)の溶液を酸塩化物(B-2)(1当量)および塩基(例えばトリエチルアミン)で処理する。粗生成物を酸化剤(例えば、クロロクロム酸ピリジニウム)で処理し、中間生成物(B-3)を回収する。次いで、粗製B-3、酸(例えば酢酸)、およびN,N-ジメチルアミノアミン(B-4)の溶液を還元剤(例えば、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム)で処理して、必要な後処理および/または精製の後にB-5を得る。
【0377】
出発物質A-1およびB-1は、飽和メチレン炭素のみを含むものとして上記に描写されるが、炭素-炭素二重結合を含む化合物の調製には、炭素-炭素二重結合を含む出発物質を用いてもよいことに留意されたい。
【0378】
【化27】
【0379】
式(I)の脂質の異なる実施形態(例えば、化合物C-7またはC-9)は、一般反応スキーム3(「方法C」)に従って調製することができ、スキーム中、Rは飽和もしくは不飽和C~C24アルキル、または飽和もしくは不飽和シクロアルキルであり、mは0または1であり、nは1~24の整数である。一般反応スキーム3を参照して、構造C-1の化合物を商業的供給源から購入するか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。
【0380】
【化28】
【0381】
式(II)の化合物の実施形態(例えば、化合物D-5およびD-7)は、一般反応スキーム4(「方法D」)に従って調製することができ、スキーム中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、R、R、R、R、L、L、G、G、G、a、b、cおよびdは本明細書で定義されるとおりであり、R’はRまたはC~C19アルキルを表す。一般反応スキーム1を参照して、構造D-1およびD-2の化合物を商業的源から購入するか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。D-1およびD-2の溶液を還元剤(例えば、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム)で処理して、いずれかの必要な後処理の後にD-3を得る。D-3および塩基(例えば、トリメチルアミン、DMAP)を含む溶液を、アシルクロリドD-4(またはカルボン酸とDCC)で処理して、必要な後処理および/または精製の後にD-5を得る。D-5をLiAlH(D-6)で還元して、必要な後処理および/または精製の後にD-7を得ることができる。
【0382】
【化29】
【0383】
式(II)の脂質の実施形態(例えば、化合物E-5)は、一般反応スキーム5(「方法E」)に従って調製することができ、スキーム中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、R、R、R、R、R、L、L、G、a、b、cおよびdは本明細書で定義されるとおりである。一般反応スキーム2を参照して、構造E-1およびE-2の化合物は、商業的供給源から購入するか、または当業者に周知の方法に従って調製することができる。E-1(過剰)、E-2および塩基(例えば、炭酸カリウム)の混合物を加熱して、必要な後処理の後にE-3を得る。E-3および塩基(例えば、トリメチルアミン、DMAP)の溶液を、アシルクロリドE-4(またはカルボン酸とDCC)で処理して、必要な後処理および/または精製後にE-5を得る。
【0384】
【化30】
【0385】
一般反応スキーム6は、式(III)の脂質の調製のための例示的な方法(方法F)を提供する。一般反応スキーム6中のG、G、RおよびRは式(III)に対して本明細書で定義するとおりであり、G’は、Gの1炭素分だけ短い同族体を指す。構造F-1の化合物は購入されるかまたは本技術分野で公知の方法に従って調製される。適切な縮合条件(例えばDCC)下でのF-1とジオールF-2との反応によりエステル/アルコール(F-3)が生成され、次いでこれをアルデヒドF-4へと酸化する(例えば、PCC)ことができる。還元的アミノ化条件下でのF-4とアミンF-5との反応によって式(III)の脂質が生成される。
【0386】
当業者には、式(III)の脂質の調製のための様々な代替的手順が利用可能であることに留意されたい。例えば、LおよびLがエステル以外である式(III)の別の脂質を、適当な出発物質を用いて類似の方法に従って調製することができる。更に、一般反応スキーム6は、GとGとが同一である式(III)の脂質の調製を示すが、これは本発明の必須の態様ではなく、GとGとが異なる化合物を得るために上記反応スキームの改変が可能である。
【0387】
本明細書に記載のプロセスにおいて、中間体化合物の官能基を適切な保護基で保護する必要がある場合があることは当業者に理解されよう。かかる官能基としては、ヒドロキシ、アミノ、メルカプトおよびカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシに対する好適な保護基としては、トリアルキルシリルまたはジアリールアルキルシリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、テトラヒドロピラニル、ベンジルなどが挙げられる。アミノ、アミジノおよびグアニジノに対する好適な保護基としては、t-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。メルカプトに対する好適な保護基としては、-C(O)-R″(R″はアルキル、アリールまたはアリールアルキルである)、p-メトキシベンジル、トリチルなどが挙げられる。カルボン酸に対する好適な保護基としては、アルキルエステル、アリールエステルまたはアリールアルキルエステルが挙げられる。保護基は、標準的な技法に従って付加または除去することができ、該標準的な技法は当業者に公知であり且つ本明細書に記載されている。保護基の使用は、Green,T.W.およびP.G.M. Wutz、Protective Groups in Organic Synthesis (1999)、第3版、Wiley編に詳細に記載されている。当業者ならば理解するであろうが、上記保護基は、Wang樹脂、Rink樹脂または2-クロロトリチルクロリド樹脂などのポリマー樹脂であってもよい。
【0388】
送達ビヒクルの実施形態
任意の適切な送達ビヒクル形式が企図される。
いくつかの実施形態では、送達ビヒクルは、高分子複合体、ナノカプセル、微小球、ビーズ、および水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、リポソーム、および脂質ナノ粒子を含む脂質ベースの系などのコロイド分散系である。in vitroおよびin vivoで送達ビヒクルとして使用するための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)および脂質ナノ粒子を含む。
【0389】
脂質製剤の使用は、上記の通り、宿主細胞中への少なくとも1つの薬剤の導入(in vitro、ex vivo、またはin vivo)のために企図される。別の態様では、少なくとも1つの薬剤は、脂質と組み合わされてもよい。脂質につながれた少なくとも1つの薬剤は、リポソームの水性内部に内包され、リポソームの脂質二重層内に散在され、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方につながれた連結分子を介してリポソームに付着され、リポソーム中に内包され、リポソームと複合体化され、脂質を含む溶液中に分散され、脂質と混合され、脂質と複合化され、脂質中の懸濁液として含められ、脂質と複合体化され、ミセルと混合または複合体化され、または他の方法で脂質と結び付けることができる。脂質、脂質/核酸または脂質/発現ベクターに結び付けられた組成物は、溶液中の任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらは、二層構造でミセルとして、または「崩壊された」構造で存在してよい。それらはまた、単に溶液中に散在させることもでき、場合によって、大きさまたは形状が均一でない凝集体を形成することもできる。
【0390】
一実施形態では、少なくとも1つの薬剤の送達は、本明細書の他の箇所に説明される例示的な送達方法を含む、任意の適切な送達方法を含む。特定の実施形態では、対象への少なくとも1つの薬剤の送達は、接触工程の前に、少なくとも1つの薬剤をトランスフェクション試薬と混合することを含む。別の実施形態では、本発明の方法は、トランスフェクション試薬とともに少なくとも1つの薬剤を投与することをさらに含む。別の実施形態では、トランスフェクション試薬は、カチオン性脂質試薬である。
【0391】
別の実施形態では、トランスフェクション試薬は脂質ベースのトランスフェクション試薬である。別の実施形態では、トランスフェクション試薬は、タンパク質ベースのトランスフェクション試薬である。別の実施形態では、トランスフェクション試薬はポリエチレンイミン系トランスフェクション試薬である。別の実施形態では、トランスフェクション試薬はリン酸カルシウムである。別の実施形態では、トランスフェクション試薬はリポフェクチン(Lipofectin;登録商標)、リポフェクタミン(Lipofectamine;登録商標)、またはTransIT(登録商標)である。別の実施形態では、トランスフェクション試薬は、当技術分野で知られている任意の他のトランスフェクション試薬である。
【0392】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの薬剤の送達はリポソームを含む。「リポソーム」は、閉鎖された脂質二層または凝集体の生成によって形成された様々な単層および多層の脂質ビヒクルを包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重膜と内部水性媒質とを有する小胞(ベシクル)構造をとることを特徴とすることができる。多層リポソームは、水性媒質によって分離された複数の脂質層を有する。これらは、リン脂質が過剰の水溶液中に懸濁されたときに自発的に形成される。脂質成分は、閉鎖構造の形成の前に自己再配列を受け、水と溶けた溶質とを脂質二層の間にトラップする(Ghosh他、1991、Glycobiology 5:505-10)。しかしながら、通常の小胞構造とは異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質はミセル構造をとることができ、または単に脂質分子の不均一な凝集体として存在してもよい。
【0393】
脂質に繋がれた少なくとも1つの薬剤は、リポソームの脂質二重層内に分散されたリポソームの水性内部に内包され、リポソームに取り込まれ、リポソームと複合体化され、脂質を含む溶液中に分散され、脂質と混合され、脂質と組み合わされ、脂質中に懸濁液として含められ、ミセルとして含有または複合体化され、または他の方法で脂質と結び付けられる。脂質、脂質/核酸または脂質/発現ベクターと会合された組成物は、溶液中の任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらは、ミセルとして、または、「崩壊した(collapsed)」構造を有する二層構造で存在してもよい。それらはまた、単に溶液中に分散させることもでき、場合によっては、大きさまたは形状が均一でない凝集体を形成することができる。
【0394】
別の実施形態では、トランスフェクション試薬はリポソームを形成する。リポソームは、別の実施形態では、細胞内安定性を増加させ、取り込み効率を増加させ、生物学的活性を向上させる。別の実施形態では、リポソームは、細胞膜を構成する脂質と同様の様式で配置された脂質から構成される中空球状小胞である。いくつかの実施形態では、リポソームは、水溶性化合物を捕捉するための内部水性空間を含む。別の実施形態では、リポソームは、少なくとも1つの薬剤を活性形態で細胞に送達することができる。
【0395】
一実施形態では、組成物は、脂質ナノ粒子(LNP)および少なくとも1つの薬剤を含んで成る。
【0396】
用語「脂質ナノ粒子」は、1つ以上の脂質を含むナノメートル(例えば、l~1000 nm)のオーダーの少なくとも1つの寸法を有する粒子を指す。いくつかの実施形態では、LNPは、逆相脂質ミセル内に組織化されそして脂質単層エンベロープ内に封入されているか、または隣接する脂質二重層の間に挿入されている(例えば、脂質二重層-薬剤―脂質二重層)、少なくとも1つの薬剤を含む。いくつかの実施形態では、LNPの形態は、水性コアを取り囲む脂質二重層によって特徴付けられる、古典的なリポソームとは異なり、それらは電子密度コアを有し、封入薬剤(例えばmRNA分子)のまわりに逆相ミセル中のカチオン性脂質/イオン性脂質が組織化されていることを特徴とする(Cullis & Hope、2017;Guevara他、2019b)。様々な実施形態において、粒子は、式(I)、(II)または(III)の脂質を含む。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、本明細書に記載の少なくとも1つの薬剤を含む製剤に含まれる。いくつかの実施形態では、そのような脂質ナノ粒子は、カチオン性脂質(例えば、式(I)、(II)または(III)の脂質)と、中性脂質、荷電脂質、ステロイドおよび脂質固定ポリエチレングリコール(例えば、構造(IV)のPEG化脂質などのPEG化脂質、例えば化合物(IVa)から選択される、1つ以上の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの薬剤は、脂質ナノ粒子の脂質部分、または脂質ナノ粒子の脂質部分の一部もしくは全部に包まれた水性空間に封入され、それによって、宿主生物または細胞のメカニズムによって誘発される酵素分解または他の望ましくない作用から、例えば有害な免疫応答から保護される。
【0397】
様々な実施形態において、脂質ナノ粒子は、約30 nm~約150 nm、約40 nm~約150 nm、約50 nm~約150 nm、約60 nm~約130 nm、約70 nm~約110 nm、約70 nm~約110 nm、約70 nm~約100 nm、約80 nm~約100 nm、約90 nm~約100 nm、約70 nm~約90 nm、約80 nm~約90 nm、約70 nm~約80 nm、または約30 nm、35 nm、40 nm、45 nm、50 nm、55 nm、60 nm、65 nm、70 nm、75 nm、80 nm、85 nm、90 nm、95 nm、100 nm、105 nm、110 nm、115 nm、120 nm、125 nm、130 nm、135 nm、140 nm、145 nm、または150 nmの平均直径を有する。一実施形態では、脂質ナノ粒子は、約83 nmの平均直径を有する。一実施形態では、脂質ナノ粒子は、約102 nmの平均直径を有する。一実施形態では、脂質ナノ粒子は、約103 nmの平均直径を有する。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は実質的に非毒性である。特定の実施形態では、少なくとも1つの薬剤は、脂質ナノ粒子内に存在する場合、水溶液中で、細胞内酵素または細胞間酵素による分解に対して耐性である。
【0398】
LNPは、少なくとも1つの薬剤が付着される粒子を形成することができる、または少なくとも1つの薬剤が内包化または複合体化される任意の脂質を含むことができる。用語「脂質」は、脂肪酸(例えばエステル)の誘導体であり、一般に、水に不溶であるが多くの有機溶媒に可溶であることを特徴とする有機化合物の群を指す。例示的な脂質は、本明細書の他の箇所に示されている。
【0399】
一実施形態では、LNPは、1つ以上のカチオン性脂質と、1つ以上の安定化脂質とを含む。安定化脂質は、中性脂質、アニオン性脂質、およびPEG化脂質を含む。
【0400】
一実施形態では、LNPは、カチオン性脂質を含む。本明細書で使用される場合、用語「カチオン性またはイオン性脂質」は、カチオン性脂質であるか、またはpHが脂質のイオン性基のpKaを下回るとカチオン性になる(プロトン化する)が、より高いpH値になると漸進的に中性になる脂質を指す。pKaより低いpH値では、脂質は、負に荷電した核酸と会合することができる。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、pH低下時に正電荷を呈する双性イオン性脂質を含む。
【0401】
様々な実施形態では、LNPは、カチオン性またはイオン性脂質、安定化脂質、ステロール、および脂質固定型ポリエチレングリコール(すなわちPEG化脂質)を含む。
【0402】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(I)のイオン性脂質と、少なくとも1つの薬剤と、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物I-5であり、いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物I-6である。
【0403】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(II)のイオン性脂質と、少なくとも1つの薬剤と、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-9である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-10である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-11である。いくつかの実施形態では、化合物II-12である。いくつかの実施形態では、式(II)の脂質は、化合物II-32である。
【0404】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(III)のイオン性脂質と、少なくとも1つの薬剤と、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質から選択される1つ以上の賦形剤とを含む。いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は、化合物III-3であり、いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は、化合物III-7である。
【0405】
特定の実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約30~約95モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約30~約70モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約40~約60モル%の量で存在する。一実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約50モルパーセントの量で存在する。一実施形態では、LNPは、カチオン性脂質のみを含む。
【0406】
特定の実施形態では、LNPは、積荷を内包化し、その形成中に粒子の形態を安定化するのに役立つ、1つ以上の安定化脂質(例えば、中性またはアニオン性脂質)を含む。例示的な中性脂質としては、例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)およびジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチルPE、16-O-ジメチルPE、18-1-トランスPE、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、およびl,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)が挙げられる。一実施形態では、中性脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)である。様々な実施形態では、カチオン性脂質(例えば式(I)の脂質)の中性脂質に対するモル比は、約2:1~約8:1の範囲である。
【0407】
様々な実施形態において、LNPは、ステロイドまたはステロイド類似体をさらに含む。特定の実施形態では、ステロイドまたはステロイド類似体はコレステロールである。これらの実施形態のいくつかにおいて、カチオン性脂質(例えば、式(I)の脂質)とコレステロールとのモル比は、約2:1~1:1の範囲である。
【0408】
特定の実施形態では、LNPは、糖脂質(例えば、モノシアロガングリオシドGM1)を含む。
【0409】
特定の実施形態では、LNPは、免疫系認識を低減し、且つ生体分布を改善するために、ポリエチレングリコール-脂質(PEG化脂質)である追加の脂質を含む。一実施形態では、ポリエチレングリコール-脂質がPEG-c-DOMGである。他の実施形態では、LNPは、PEG化ジアシルグリセロール(PEG-DAG)、例えば1-(モノメトキシポリエチレングリコール)-2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)、PEG化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)、PEGスクシネートジアシルグリセロール(PEG-S-DAG)、例えば4-O-(2′,3′-ジ(テトラデカノイルオキシ)プロピル-1-O-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)ブタンジオエート(PEG-S-DMG)、PEG化セラミド(PEG-cer)、またはPEGジアルコキシプロピルカルバメート、例えばω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル-N-(2,3-ジ(テトラデカンオキシ)プロピル)カルバメートまたは2,3-ジ(テトラデカンオキシ)プロピル-N-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)カルバメートを含む。様々な実施形態において、PEG化脂質に対するカチオン性脂質のモル比は、約100:1~約25:1である。
【0410】
特定の実施形態では、PEG化脂質は、LNP中に約1~約10モル%の量で存在する。一実施形態では、PEG化脂質は、LNP中に約1~約5モル%の量で存在する。一実施形態では、PEG化脂質は、LNP中に約1モル%または約1.5モル%で存在する。
【0411】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(I)の脂質、ヌクレオシド修飾RNA、中性脂質、ステロイドおよびPEG化脂質を含む。いくつかの実施形態では、式(I)の脂質は、化合物I-6である。異なる実施形態では、中性脂質が、DSPCである。別の実施形態では、ステロイドがコレステロールである。さらに異なる実施形態では、PEG化脂質が化合物IVaである。
【0412】
特定の実施形態では、LNPは、LNPを細胞または細胞集団にターゲティング(標的指向)する1つ以上のターゲティング部分を含む。例えば、一実施形態では、ターゲティングドメインは、細胞表面上に見出される受容体にLNPを指し向けるリガンドである。例示的なターゲティングドメインは、CD4を含む。
【0413】
特定の実施形態では、LNPは、1つ以上の内在化ドメインを含む。例えば、一実施形態では、LNPは、細胞に結合してLNPの内在化を誘導する1つ以上のドメインを含む。例えば、一実施形態では、1つ以上の内在化ドメインは、LNPの受容体媒介型取り込みを誘導するために、細胞表面上に見つかる受容体に結合する。特定の実施形態では、LNPはin vivo(生体内)で生体分子を結合させることができ、LNPが結合した生体分子は、次いで細胞表面受容体によって認識されて内在化を誘導することができる。例えば、一実施形態では、LNPは体内のApoEを結合し、LNPおよび関連の積荷の細胞内取り込みをもたらす。
【0414】
他の例示的なLNPおよびそれらの製造は、例えば、米国特許出願公開第US20120276209号、Semple他、2010、Nat Biotechnol、28(2):172-176;Akinc他、2010、Mol Ther、18(7):1357-1364;Basha他、2011、Mol Ther、19(12):2186-2200;Leung他、2012、J Phys Chem C Nanomater Interfaces、116(34):18440-18450;Lee他、2012、Int J Cancer、131(5):E781-90;Belliveau他、2012、Mol Ther Nucleic Acidss、1:e37;Jayaman他、2012、Angew Chem Int Ed Engl、51(34):8529-8533;Mui他、2013、Mol Ther Nucleic Acids 2、el39;Maier他、2013、Mol Ther、21(8):1570-1578;Tam他、2013、Nanomedicine、9(5):665-74中に記載されており、その各々の全内容が参照により組み込まれる。
【0415】
ターゲティング部分
上記に示したように、本明細書で企図される送達ビヒクルは、限定されないが、高分子複合体、ナノカプセル、微小球、ビーズ、脂質ベースの系、例えば水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、リポソーム、および脂質ナノ粒子(LNP)などの様々な形態を含むことができる。当該送達ビヒクルは、送達ビヒクル(例えばLNP)を細胞または細胞集団にターゲティング(標的指向)する機能を果たす1つ以上のターゲティング部分(言い換えれば「ターゲティングドメイン」または「ターゲティングリガンド」)を含んでもよい。ターゲティング部分は、標的細胞または組織の表面上の標的細胞リガンドと特異的に相互作用してそれに結合することができる、任意の適切な結合剤を含んでもよい。ターゲティング部分は、天然型でも、操作されてもよい。ターゲティング部分は、タンパク質、ペプチド、抗体または抗体フラグメント、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメント、小分子、アプタマー、ビタミン、核酸分子などを含み得るが、これらに限定されない。本明細書で企図されるターゲティング部分に関しては、任意の特定のターゲティング部分が、(a)送達ビヒクルに連結されてよく(共有結合または非共有結合のいずれかで)かつ(b)送達ビヒクル上のターゲティング部分と標的細胞もしくは標的組織上の標的細胞リガンドとの間の結合によってまたは他の形での相互作用によって、標的細胞もしくは標的組織への送達ビヒクルの局在化またはターゲティング(標的指向)を誘導または促進することができる限りにおいて、何も制限が設けられない。
【0416】
標的細胞リガンドは、細胞の表面上に存在するかまたは細胞の外側の細胞外空間に存在する内因性リガンド、例えば炭水化物、脂質、多糖類、タンパク質、糖タンパク質、糖脂質、ペプチド、細胞膜成分(例えば、コレステロール)等を含むことができる。特定の実施形態では、標的細胞上の内因性リガンドは、標的細胞に特異的であり、すなわち、標的細胞上にのみ発現されそして/または標的細胞にのみ含まれ、あるいは少なくとも、標的細胞ではない細胞中には最小限にしか存在しない。例えば、標的細胞上の内因性リガンドは、疾患に関連したタンパク質、例えば、正常細胞では典型的に発現されない、癌細胞タンパク質の細胞表面タンパク質であり得る。他の実施形態では、標的細胞上の標的リガンドは、例えば、改変された、または他の形で天然に存在しないリガンド、例えば天然に存在しない表面細胞タンパク質を発現する、遺伝的に改変された標的細胞であり得る。標的細胞のユニークな特性が利用されるように、適切なターゲティングリガンドを選択することができ、かくして組成物が標的細胞と非標的細胞とを識別することが可能になる。
【0417】
この状況は、目的の標的細胞(例えば、T細胞などのリンパ球)への送達ビヒクルの「選択的送達」と呼ばれることがある。「選択的送達」という用語は、送達ビヒクルが標的細胞(例えば、特定のT細胞亜集団)に共有結合または非共有結合で結合することによって、送達ビヒクルのターゲティング部分と、目的の標的細胞(例えば、特定のT細胞集団)上の標的細胞リガンドとの間の結合相互作用を介して、送達ビヒクルが標的細胞に局在化されることを意味するが、ただし送達ビヒクルは、標的細胞リガンドを発現しない細胞(すなわち、かかる細胞は「非標的細胞」と称することができる)には結合しないかまたは最小限に結合することを意味する。「最小限に結合する」とは、送達ビヒクルの非標的細胞への結合が、ネガティブコントロール(陰性対照)(これは送達ビヒクルに結合しないことが知られている細胞型であることができる)に対して、未検出から1%未満、または2%未満、または3%未満、または4%未満、または5%未満、または6%未満、または7%未満、または8%未満、または9%未満、または10%未満増加した結合の範囲に及ぶことを意味する。
【0418】
従って、本開示の送達ビヒクルは、送達ビヒクルに(共有結合または非共有結合のいずれかで)取り付けられているターゲティング部分を利用することによって、特定のタイプの細胞(例えば、特定のタイプのT細胞)を局在化することができまたは該細胞にターゲティング(標的指向)することができる。好ましくは、ターゲティング部分は、標的細胞または組織の表面上の同族結合ドメインまたはリガンド(例えば、特定のCD抗原)と相互作用し、それにより標的細胞または組織(例えば、CD4+ T細胞)への送達ビヒクルの結合を促進するまたは助けるように、ターゲティング部分が送達ビヒクルの外側表面に提示されまたは他の形で露出されるように取り付けられる〔例えば、CD4+ T細胞は、細胞内でいったん送達ビヒクルによって担持された薬剤(例えば、mRNA)が同時放出されると、次いで該細胞は内在化されるようになるだろう(例えばエンドサイトーシスのような能動的な内在化を通して)〕。
【0419】
ターゲティング部分は、調製中または調製後に送達ビヒクルの表面に連結できることが理解されるだろう。いくつかの実施形態では、ターゲティング部分は、ビヒクルを調製した後に、送達ビヒクルの表面に取り付けられる。他の実施形態では、ターゲティング部分は、ビヒクルを調製する前に、まだ集成していない送達ビヒクルの構成要素(例えば脂質)に取り付けられる。そのような取り付け手段は、当技術分野で既知の任意の適切なコンジュゲート化学を含み、本明細書で論じられる任意の適切なコンジュゲート化学を使用する任意の既知の手段によって実行することができる。
【0420】
いくつかの他の実施形態では、送達ビヒクルまたは送達ビヒクルを含む組成物は、送達ビヒクルの標的細胞への局在化を促進する1つ以上の追加の薬剤をさらに含み得る。そのような追加の薬剤は、標的細胞への送達ビヒクルの局在化を促進するけれども、必ずしも送達ビヒクルに直接結合されているわけではない、他のペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、ビタミンまたは他の分子を含んでもよい。
【0421】
一実施形態では、本開示の送達ビヒクルは、一般に、免疫系細胞の骨髄およびリンパ球クラスを含む、白血球に送達ビヒクルをターゲティングすることができる1つ以上のターゲティング部分を含む。骨髄細胞は、例えば、好中球、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および単球を含み得る。単球はさらに樹状細胞およびマクロファージに分類される。リンパ系細胞(またはリンパ球)は、T細胞(ヘルパーT細胞、記憶T細胞および細胞傷害性T細胞に細分される)、B細胞(血漿細胞および記憶B細胞に細分される)、およびナチュラルキラー細胞を含む。
【0422】
当業者であれば、これらのタイプの各々の白血球に関して適切な細胞ターゲティングリガンドを同定することができ、該リガンドは、例えば、送達ビヒクル上にうまく適合するターゲティング部分、例えばターゲティング部分と細胞標的リガンドとの間の選択的相互作用によって標的細胞に局在化されるように、(共有結合的にまたは非共有結合的に送達ビヒクルに)カップリングされている、例えば抗体、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、小分子、ビタミン、またはアプタマーを設置することによって、本明細書に記載の送達ビヒクルを局在化するための手段として利用することができる。
【0423】
様々な実施形態では、本開示は、白血球、特にCD4 T細胞などの特定のリンパ球にターゲティングおよび/または局在化する送達ビヒクルを企図する。特定の実施形態では、送達ビヒクルは、ヘルパーT細胞をはじめ、送達ビヒクルをT細胞にターゲティングすることができる1つ以上のターゲティング部分を含む。
【0424】
当業者は、白血球が、様々に異なるタイプの白血球を特徴づけるCD抗原として知られている細胞表面抗原を含み、白血球の様々な亜集団を定義するのを助けることを理解するであろう。
【0425】
CD(分化抗原群:Cluster of Differentiation)は、白血球の細胞表面上に見出される抗原を識別および分類するために考えられた命名法である。最初に、それらに結合したモノクローナル抗体の名称の後に表面抗原が命名された。多くの場合、各抗原に対して異なる研究所で生起された複数のモノクローナル抗体が存在しているので、一貫した命名法を採用する必要性が生じた。現在のシステムは、1982年に、第1回ヒト白血球分化抗原(HLDA)に関する国際ワークショップおよび会議を経て採用された。HCDM(Human Cell Differentiation Molecules)事務局は、既知のCDマーカーのリストを維持し、さらに開発するために、HLDA会議を開催し続けている。
【0426】
この命名法の下で、十分に特徴付けられた抗原は、任意の数字が割り当てられ(例えば、CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8など)、一方、唯1つのモノクローナル抗体によって認識される分子は、暫定的な名称「CDw」、例えばCDw50が与えられる。共通の鎖を共有している大きい分子を示すために割り当てられた数字の後に、下位の文字、例えばCD1aまたはCD1dも追加される。生理学的には、CD分子は、いかなる特定のクラスにも属しておらず、それらの機能は、細胞表面受容体から接着分子まで広範囲に及ぶ。最初はヒト白血球のみに使用されたが、CD分子命名規則は、現在は異なる種(例えばマウス)に加えて異なる細胞型もカバーするように拡張されている。2016年4月の会議のように、ヒトCD抗原はCD371まで番号付けされている。
【0427】
特定の細胞集団の表面からの特定抗原の存在または非存在を、それぞれ、「+」または「-」で表記する。変化する細胞発現レベルも、hi(高)またはlow(低)と記され、例えば、中央記憶T細胞はCD62Lhiであり、一方エフェクター記憶T細胞はCD62Llowである。異なるCD抗原の発現プロファイルをモニタリングすることは、様々な免疫過程におけるそれらの機能に応じて、細胞型の識別、単離、および表現型決定を可能にする。
【0428】
本開示の送達ビヒクルは、CD4抗原に結合するか、または他の方法で会合する1つ以上のターゲティング部分を含むことができる。様々な実施形態では、送達ビヒクルを標的細胞(例えば白血球)にターゲティングするためのターゲティング部分は、抗体または抗体結合フラグメントである。そのような抗体または抗体結合フラグメントは、抗CD4抗体または抗原結合フラグメントを含み得るが、これらに限定されない。
【0429】
本明細書で使用される場合、「抗体」とは、対応する抗原(例えばCD4抗原)に非共有結合的、可逆的、および特定の様式で結合することができる免疫グロブリンファミリーのポリペプチドを指す。例えば、天然に存在するIgG抗体は、ジスルフィド結合によって鎖間接続された少なくとも2本の重鎖(H)鎖と2本の軽(L)鎖とを含む四量体である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域とから構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(ここではVLと略す)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインCLから構成される。VH領域とVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域にさらに細分化され得、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、高度に保存された領域がそこに組み入れられている。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4の順序で配置された、3つのCDRと4つのFRから構成される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、宿主組織または因子〔例えば、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的な補体系の第1成分(Clq)を含む〕への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0430】
本開示の抗体は、限定されないが、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本開示の抗体に対する抗Id抗体を含む)を包含する。抗体は、任意のアイソタイプ/クラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、またはサブクラス(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgA2)のものであり得る。
【0431】
本明細書で使用する場合、「相補性決定領域」または「CDR」は、VLおよびVHの超可変領域のことを相互交換可能に言う。CDRは、このような標的タンパク質に対して特異性を有する抗体鎖の標的タンパク質結合部位である。各ヒトVLまたはVH中には3つのCDR(N末端から順に番号付けされたCDR1~3)が存在し、それらは可変ドメインの約15~20%を占める。CDRは、それらの領域および順序によって参照することができる。例えば、「VHCDR1」または「HCDR1」は、ともに重鎖可変領域の1番目のCDRを指す。CDRは、標的タンパク質のエピトープに構造的に相補的であり、結合特異性を直接担っている。VLまたはVHの残りの範囲、いわゆるフレームワーク領域は、アミノ酸配列の変動をほとんど示さない(Kuby、Immunology、第4版、第4章、W.H. Freeman & Co.、ニューヨーク、2000)。
【0432】
CDRおよびフレームワーク領域の位置は、当業界で周知の様々な定義、例えば、Kabat、ChothiaおよびAbM〔例えば、Johnson他、Nucleic Acids Res.、29:205-206 (2001);Chothia & Lesk、J. Mol. Biol.、196:901-917 (1987);Chothia他、Nature、342:877-883 (1989);Chothia他、J. Mol. Biol. 227:799-817 (1992);Al-Lazikani他、J. Mol. Biol. 273:927-748 (1997)参照〕を使って決定することができる。抗原結合部位の定義も以下に記載されている:Ruiz他、Nucleic Acids Res.、28:219-221 (2000);およびLefranc、M.P.、Nucleic Acids Res.、29:207-209 (2001);MacCallum他、J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996);Martin他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:9268-9272 (1989);Martin他、Methods Enzymol. 203:121-153 (1991);Rees他、Sternberg M.J.編、Protein Structure Prediction、Oxford University Press、Oxford、141-172 (1996)。KabatとChothiaの組合せ番号付け法において、いくつかの実施形態では、CDRは、Kabat CDR、Chothia CDR、またはその両方の一部であるアミノ酸残基に対応している。例えば、いくつかの実施形態では、CDRは、VH中、例えば、哺乳動物VH、例えばヒトVH中のアミノ酸残基26~35(HC CDR1)、50~65(HC CDR2)および95~102(HC CDR3)に対応し;そしてVL中、例えば哺乳動物VL、例えばヒトVL中のアミノ酸残基24~34(LC CDR1)、50~56(LC CDR2)、89~97(LC CDR3)に対応している。
【0433】
軽鎖および重鎖の両鎖とも、構造的および機能的相同性の領域に分割される。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。この点に関して、軽(VL)鎖および重(VH)鎖部分の可変ドメインは、抗原認識と特異性を決定すると理解されよう。逆に、軽鎖(CL)および重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移行、Fc受容体結合、補体結合などの重要な生物学的特性を与える。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠位になるにつれて増加する。N末端は可変領域であり、C末端は定常領域である;CH3およびCLドメインは実際に、重鎖および軽鎖のカルボキシ末端ドメインをそれぞれ含む。
【0434】
本明細書で使用する場合、「抗原結合フラグメント」とは、白血球のCD4抗原のエピトープと特異的に相互作用する(例えば結合、立体障害、安定化/不安定化、空間的分布によって)能力を保有する、抗体の1つ以上の部分を指す。結合フラグメントの例としては、限定されないが、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、Fabフラグメント、F(ab')フラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;F(ab)2フラグメント、すなわちヒンジ領域のところでジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント;VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインとからなるFvフラグメント;1つのVHドメインから成るdAbフラグメント(Ward他、Nature 341:544-546、1989);および単離された相補性決定領域(CDR)、または抗体の別のエピトープ結合フラグメントが挙げられる。
【0435】
さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、組換え法を用いて、そのVL領域とVH領域が対合して1価の分子を形成している単一タンパク質鎖としてそれらを産生できるようにする合成リンカーにより、その2つのドメインを統合することができる〔一本鎖Fv(「scFv」)として知られている;例えば、Bird他、Science 242:423-426、1988;およびHuston他、Proc Natl Acad Sci 85:5879-5883、1988を参照されたい〕。そのような一本鎖抗体はまた、「抗原結合フラグメント」という用語の内に包含されることも意図されている。これらの抗原結合フラグメントは、当業者に知られている従来技術を使用して得られ、完全抗体と同様な方法で、それらのフラグメントが有用性についてスクリーニングされる。
【0436】
抗原結合フラグメントはまた、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NARおよびビス-scFv(例えば、HollingerおよびHudson、Nature Biotechnology 23:1126-1136、2005を参照のこと)に組み込むことができる。抗原結合フラグメントは、フィブロネクチンIII型(Fn3)などのポリペプチドをベースにした足場にグラフトすることができる(フィブロネクチンポリペプチド・モノボディを記載している米国特許第6,703,199号明細書を参照のこと)。従って、本明細書の抗体および抗原結合フラグメント(例えば、抗CD4抗原結合フラグメント)は、限定するものではないが、二重特異性抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体、抗体模倣物、キメラ抗体、抗体融合物(時に抗体コンジュゲートと呼ばれることもある)、およびそれぞれのフラグメントをはじめとする様々な構造であることができる。特定の抗体フラグメント(または抗原結合フラグメント)は、限定されないが、以下を含む:(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインから成るFabフラグメント、(ii)VHおよびCH1ドメインから成るFdフラグメント、(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインから成るFvフラグメント、(iv)単一の可変領域から成るdAbフラグメント、(v)単離されたCDR領域、(vi)2つの連結されたFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab')2フラグメント、(vii)一本鎖Fv分子(scFv)であって、VHドメインとVLドメインが会合して抗原結合部位を形成できるようにするペプチドリンカーにより、それらの2つのドメインが連結されている、一本鎖Fv分子、(viii)二重特異性一本鎖Fv二量体、および(ix)遺伝子融合により作製された多価または多重特異性断片である、「ダイアボディ」または「トリアボディ」。抗体フラグメントは、改変されてもよい。例えば、VHドメインとVLドメインとを連結するジスルフィド架橋の組み込みによって分子を安定化させることができる。抗体のフォーマットおよびアーキテクチャの例は、Carter、2006、Nature Review Immunology 6:343-357およびその中で引用された参考文献に記載されており、それらのすべてが参考として明示的に本明細書に組み込まれる。
【0437】
抗原結合フラグメントは、相補的な軽鎖ポリペプチドと共同して抗原結合領域を形成する1対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む、一本鎖分子中に組み込むことができる(Zapata他、Protein Eng. 8:1057-1062、1995;および米国特許第5,641,870号明細書)。
【0438】
本明細書で使用する場合、「モノクローナル抗体」とは、実質的に同一のアミノ酸配列を有するか、または同じ遺伝子源に由来する、抗体およびその抗原結合フラグメントを含むポリペプチドを指す。この用語はまた、単一の分子組成の抗体分子の調製物も含む。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を表示する。
【0439】
本明細書で使用する場合、「ヒト抗体」とは、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト起源の配列から誘導された可変領域を有する抗体を含む。さらに、抗体が定常領域を含む場合、その定常領域も、かかるヒト配列に由来する。ヒト生殖系列配列、またはヒト生殖系列配列解析から得られた共通フレームワーク配列を含む抗体、例えば、Knappik他、J. Mol. Biol. 296:57-86、2000に記載されているような共通フレームワーク配列を含む抗体の変異誘発形も含まれる。
【0440】
いくつかの実施形態では、抗体は、キメラ抗体またはその抗原結合フラグメントである。キメラ抗体は、異なる遺伝子源からのアミノ酸配列を含む抗体である。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、マウス由来のアミノ酸配列とヒト由来のアミノ酸配列とを含む。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、マウス由来の可変ドメインと、ヒト由来の定常ドメインとを含む。
【0441】
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントである。本明細書で使用される「ヒト化」抗体とは、ヒトフレームワーク領域(FR)と、非ヒト(通常マウスまたはラット)抗体からの1つ以上の相補性決定領域(CDR)とを含む抗体を意味する。CDRを提供する非ヒト抗体は、「ドナー」(提供者)と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは、「受容体」と呼ばれる。ヒト化は、主に、受容体(ヒト)VLおよびVHフレームワーク上へのドナーCDRの移植(grafting)に依存する(米国特許第5,225,539号明細書、これは全体が参照により本明細書に組み込まれる)。この戦略は、「CDR移植(grafting)」と呼ばれる。選択された受容体フレームワーク残基の対応ドナー残基への「復帰突然変異(backmutation)」は、最初の移植構築物において失われている親和性を回復させるためにしばしば必要とされる(米国特許第5,693,762号明細書、これは全体が参照により本明細書に組み込まれる)。ヒト化抗体は、典型的には免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部分を含み、従って、典型的にはヒトFc領域を含むであろう。非ヒト抗体をヒト化および再構成するための様々な技術および方法が当技術分野において周知である(Tsurushita & Vasquez、2004、Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells、533-545、Elsevier Science (USA)、およびそれらに引用された参考文献を参照されたい)。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させるためのヒト化または他の方法は、例えばRoguska他、1994、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:969-973(本明細書に参照により組み込まれる)において記載されるようなリサーフェイシング(resurfacing)法を含み得る。一実施形態では、選択に基づく方法を用いて、抗体可変領域をヒト化および/または親和性成熟させること、すなわち標的抗原に対する可変領域の親和性を増加させることができる。他のヒト化方法は、限定されないが、米国特許出願09/810,502号;Tan他、2002、J. Immuno1. 1119-1125;De Pascalis 他、2002、J. Immunol. 169:3076-3084中に記載された方法を含む(すべて参照により本明細書に組み込まれる)、CDRの部分のみの移植(grafting)を必要とする。例えば米国特許出願第10/153,159号および関連出願(いずれも参照により全体が組み込まれる)明細書に記載されるように、構造をベースにした方法をヒト化および親和性成熟に使用することができる。
【0442】
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト改変抗体である。ヒト改変抗体とは、マウスなどの非ヒト起源に由来する抗体であって、抗体が対象に投与されたときに、安定性を増加させるかまたは免疫原性を低下させるなど、抗体の所望の特性を改善するために1つ以上の置換が導入されている抗体を指す。いくつかの実施形態では、置換は低リスク位置(例えば、溶媒に曝露されるが、抗原結合または抗体構造に寄与しない位置)に行われる。そのような置換は、所望のエピトープまたは抗原に結合する抗体の能力に影響を与えることなく、対象がその投与後の抗体に対する免疫応答を生じるリスクを低減する(例えば、Studnicka他、Protein Eng. 1994. 7(6):805-814)。
【0443】
いくつかの実施形態では、抗体は、一本鎖抗体または抗原結合フラグメントである。一本鎖抗体または一本鎖可変フラグメント(scFv)は、例えば合成リンカーによる等で一緒に連結されて単一のタンパク質またはポリペプチドを形成する、VHドメインとVLドメインとを含むタンパク質またはポリペプチドである(例えば、Bird他、1988、Science 242:423-426;およびHuston他、Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883 (1988)参照)。
【0444】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗体フラグメントまたは抗原結合フラグメントである。抗体フラグメントは、抗体から誘導されたタンパク質またはポリペプチドである。抗原結合フラグメントは、それが誘導された(親)抗体と同じエピトープまたは抗原に結合することができる抗体から誘導されたタンパク質またはポリペプチドである。
【0445】
いくつかの実施形態では、抗体は、低グリコシル化、非グリコシル化、または低フコシル化されている。グリコシル化とは、糖、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、またはグリカン部分が、ポリペプチドまたはタンパク質などの分子に共有結合されることをいう。これらの糖またはグリカンの部分が、一般に、B細胞による分泌に先立って、翻訳後の過程で抗体に結合される。グリコシル化が低減された抗体は、抗体がマウスまたはヒトにおいてin vitroまたはin vivoでB細胞により産生される場合など、実質的に同一のアミノ酸配列を有する抗体に典型的に結合される数よりも少数の、結合した糖またはグリカン部分を有する。非グリコシル化抗体は、糖鎖またはグリカン部分が全く結合していない。低フコシル化された抗体は、マウスまたはヒトにおけるin vitroまたはin vivoでB細胞により抗体が産生される場合など、実質的に同一のアミノ酸配列を有する抗体に典型的に結合される数より少数のフコシル残基を有する。
【0446】
さらに他の実施形態では、本明細書で論じられる抗体および抗原結合フラグメントは、免疫原性を低下させる様式で修飾されてもよい。免疫原性を低下させるための修飾は、親配列から誘導された改変ペプチドのMHCタンパク質への結合を低減させる修飾を含むことができる。例えば、アミノ酸修飾は、任意の一般的なMHC対立遺伝子に高親和性で結合すると予測される免疫エピトープが全く無いかまたは最小限の数しかないように操作されるだろう。タンパク質配列中のMHC結合エピトープを同定するいくつかの方法は、当技術分野で公知であり、本発明の抗体におけるエピトープをスコアリングするために使用することができる。例えば、米国特許出願第09/903,378号、米国特許出願第10/754,296号、米国特許出願第11/249,692号明細書、およびその中に引用された参考文献を参照されたい。そのすべてが明示的に参照により本明細書に組み込まれる。
【0447】
CD4は、4つの免疫グロブリンスーパーファミリードメイン(N末端側から細胞膜側に向かってD1からD4と順に命名される)が細胞外に存在し、そして全体で2本のN結合した糖鎖がドメインD3-D4に結合している、I型膜貫通タンパク質である。CD4は、D1およびD2ドメインを介して主要組織適合性複合体(MHC)クラスII分子に結合し、次いでT細胞を活性化する。さらに、CD4は、D3およびD4ドメインを介して重合することも知られている。CD4のD1ドメインは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の受容体として機能することも知られている(Anderson他、Clinical Immunology and Immunopathology、84(1):73-84、1997)。
【0448】
CD4は、以下のアミノ酸配列をエントリーNo. P01730-1(UniParc)として含んでいる:
【0449】
MNRGVPFRHLLLVLQLALLPAATQGKKVVLGKKGDTVELTCTASQKKSIQFHWKNSNQIKILGNQGSFLTKGPSKLNDRADSRRSLWDQGNFPLIIKNLKIEDSDTYICEVEDQKEEVQLLVFGLTANSDTHLLQGQSLTLTLESPPGSSPSVQCRSPRGKNIQGGKTLSVSQLELQDSGTWTCTVLQNQKKVEFKIDIVVLAFQKASSIVYKKEGEQVEFSFPLAFTVEKLTGSGELWWQAERASSSKSWITFDLKNKEVSVKRVTQDPKLQMGKKLPLHLTLPQALPQYAGSGNLTLALEAKTGKLHQEVNLVVMRATQLQKNLTCEVWGPTSPKLMLSLKLENKEAKVSKREKAVWVLNPEAGMWQCLLSDSGQVLLESNIKVLPTWSTPVQPMALIVLGGVAGLLLFIGLGIFFCVRCRHRRRQAERMSQIKRLLSEKKTCQCPHRFQKTCSPI (配列番号1)
【0450】
本発明の抗CD4抗体は、CD4に結合する任意の抗体であってもよく、例えば、任意の既知のまたは未発見の抗CD4抗体の可変領域(例えばCDR)を含んでもよい。本発明の抗体は、CD4に対する選択性を示し得る。例としては、全長に対するスプライス変異体への選択性、細胞表面に対する可溶性形態への選択性、様々な多型変異体に対する選択性、または標的の特定のコンホメーション形態に対する選択性が挙げられる。本発明の抗体は、CD4上の任意のエピトープまたは領域に結合することができ、フラグメント、変異形態、スプライス形態、またはこれらの抗原の異常形態に対して特異的であり得る。CD4陽性細胞の例としては、Thl細胞、Th2細胞、Thl7細胞、調節性T細胞(Treg)、γδT細胞等のCD4陽性T細胞が挙げられる。さらに、CD4陽性細胞は、癌および炎症性疾患(例えば、自己免疫疾患またはアレルギー疾患)をはじめとする疾患に関連づけられる。
【0451】
多くの抗CD4抗体および抗原結合フラグメントは、当技術分野で既知であり、そして/または市販されており、その全てを本発明において使用することができる。
【0452】
表1は、本開示において使用することができる種々の市販の抗CD4抗体の一覧を提供する。
【0453】
【表1】
【0454】
商業源に加えて、CD4に対する多数のモノクローナル抗体が文献に報告されている。様々な抗CD4 mAbは、癌、免疫疾患、および感染症を治療するために臨床開発中である。例えば、CD4とHIVとの結合がHIVの感染に必須であるという事実に基づいて、CD4のD1ドメインを認識する抗体は、HIV治療薬としての研究開発を進めていく中で、HIVの感染を阻害することができる。癌または免疫疾患の治療薬として開発された抗CD4 mAbの例としては、ザノリムマブ(zanolimumab)(6G5)、イバリズマブ(ibalizumab)、トレガリズマブ(tregalizumab)、およびケリキシマブ(keliximab)(CE9.1)が挙げられる。これらの抗体は、標的細胞であるCD4発現細胞を特異的に攻撃することによって薬効を発揮する抗体であり、薬効のメカニズムは主にADCC活性によるものであると考えられる(Kim他、Blood、109(11):4655-4662、2007)。
【0455】
加えて、本開示は、以下の参考文献に開示された抗CD4抗体またはその抗体フラグメントのいずれかの使用を企図する:米国特許第733865B2号、米国特許出願公開第US5741488A号;米国特許出願公開第US5871732A号;米国特許第US9758581B2号;Delmonico他、“Anti-CD4 monoclonal antibody therapy”、Clin. Transplant、1996、Oct10(5):pp. 397-403;Konig他、”Tregalizumab-A Monoclonal Antibody to Target Regulatory T Cells”、Front Immunol. 2016、第7巻、11;およびJF Bach、“Therapeutic monoclonal antibodies”、Ann. Pharm. Fr.、2006、64(5):308-11。その各々が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0456】
文献から知られている上述の市販の抗CD4抗体の全てを本開示において使用することができる。
【0457】
特定の他の実施形態では、送達ビヒクルを標的細胞(例えば、白血球)にターゲティングするためのターゲティング部分は、抗CD8抗体または抗原結合フラグメントである。
【0458】
CD8は、MHCクラスI分子(pMHCI)と複合体形成されたペプチド抗原のTCR認識のための共受容体として機能する、表面糖タンパク質である。それは、両鎖ともに単一の細胞外Igスーパーファミリー(IgSF)Vドメイン、膜近位のヒンジ領域、膜貫通ドメイン、および細胞質テールを発現する、ααホモ二量体またはαβヘテロ二量体のいずれかとして発現される(Zamoyska、Immunity、1:243-6、1994)。CD8は、そのβ鎖と細胞外IgSF Vドメイン内の相補性決定領域(CDR)とを使って、MHCクラスI分子のa2およびa3ドメインと相互作用する。この会合は、T細胞受容体のクラスI標的との付着/結合活性を増加させる。
【0459】
加えて、CD8a鎖会合チロシンプロテインキナーゼp56Lck4'5によって媒介される内部シグナル伝達カスケードは、T細胞活性化をもたらす。Lckは、ナイーブCD8 T細胞の活性化および増幅に必要であるが、その発現は、インビボまたはインビトロにおける二次抗原感作に対する記憶CD8 T細胞の応答にとって必須ではない(Bachman他、J Exp Med、189:1521-30、1999)。CD8aまたはCD8B遺伝子標的マウスによって示されるように、CD8は、MHCクラスI制限Tリンパ球の成熟および機能において重要な役割を果たす(Nakyama他、Science、263:1131-3、1984)。反復細菌感染を患っている患者は、CD8a遺伝子の単一突然変異に起因するCD8欠損を示すことが見出された。CD8の欠如は、CD8 T細胞系統の関与(commitment)または末梢細胞溶解機能のいずれにも必須ではなかった(de la Calle-Martin他、J Clin Invest、108:117-23、2001)。
【0460】
ヒトCD8分子は、細胞傷害性T細胞(CTL)上に発現される糖タンパク質および細胞表面マーカーである。これらは、Tリンパ球のサブセットであり、脊椎動物の適応免疫系において重要な役割を果たす。それらは、ウイルス感染細胞またはいくつかの腫瘍細胞などの他の異常細胞の排除を担っている。これらの細胞は、標的細胞上のMHC(主要組織適合性複合体)クラスIを介して提示される特定の抗原と相互作用するT細胞受容体(TCR)を介して特異的に認識される。
【0461】
例示的なCD8アミノ酸配列は、標準(canonical)配列として知られているP01732-1 (UniParc)により表される。
【0462】
MALPVTALLLPLALLLHAARPSQFRVSPLDRTWNLGETVELKCQVLLSNPTSGCSWLFQPRGAAASPTFLLYLSQNKPKAAEGLDTQRFSGKRLGDTFVLTLSDFRRENEGYYFCSALSNSIMYFSHFVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVVKSGDKPSLSARYV (配列番号2)。
【0463】
多くの抗CD8抗体および抗原結合フラグメントは、当技術分野で既知であり、そして/または市販されており、その全てが本発明において使用可能である。
【0464】
表2は、本開示において使用することができる種々の市販の抗CD8抗体の一覧を提供する。
【0465】
【表2】
【0466】
モノクローナル抗体を含む抗CD8抗体が多数当業界で知られており、例えば、2D2; 4D12.1; 7B12 IG1 1 ; 8E-1.7; 8G5; 14; 21Thy; 51.1 ; 66.2; 109-2D4; 138-17; 143-44; 278F24; 302F27; AICD8.1 ; anti-T8; B9.1.1; B9.2.4; B9.3.1 ; B9.4.1 ; B9.7.6; B9.8.6; B9.1 1; B9.1 1.10; BE48; BL15; BL-TS8; BMAC8; BU88; BW135/80; C1-11G3; CIO; C12/D3; CD8-4C9; CLB-T8/1 ; CTAG-CD8, 3B5; F80-1D4D11 ; F101-87 (S-T8a); GIO-I; GlO-1.1; HI208; HI209; HI212; HIT8a; HIT8b; HIT8d; ICO-31 ; ICO-122; IP48; ITI-5C2; ITM8-1; JML-H7; JML-H8; L2; L533; Leu-2a; LT8; LY17.2E7; LY19.3B2; M236; M-T122; M-T415; M-T805; M-T806; M- T807; M-T808; M-T809; M-T1014; MCD8; MEM-31; MEM-146; NU-Ts/c; OKT8; OKT8f; P218; RPA-T8; SM4; T8; T8/2T8-19; T8/2T8-2A1 ; T8/2T8-1B5; T8/2T8-1C1 ; T8/7Pt3F9; T8/21thy2D3; T8/21 thy; T8/TPE3FP; T8b; T41D8; T811 ; TU68; TU102; UCHT4; VIT8; VIT8b; WuT8-l; X107; YTC141.1; および/またはYTC 182.20が含まれる。商業源に加えて、多数のCD8に対するモノクローナル抗体が文献中に報告されている。例えば、以下の刊行物に記載された抗CD8抗体またはそのフラグメントが本明細書において企図される:豪州特許第AU2014249243B2;10,746,726; 9,790,279; 9,758,581; 9,587,022; 8,877,913; 8,685,651; 8,673,304; 8,586,715; 8,440,806; 8,399,621; 7,541,443; 7,482,000; 7,452,981; 7,452,534; 7,338,658; 6,136,310; 6,056,956; 5,871,732; および5,741,488号明細書。その各々が、参照により全内容が本明細書に組み込まれる。
【0467】
文献で知られている上述の市販の抗CD8抗体の全てを本開示において使用することができる。
【0468】
特定の他の実施形態では、送達ビヒクルを標的細胞(例えば白血球)にターゲティングするためのターゲティング部分は、抗CD3抗体または抗原結合フラグメントである。
【0469】
CD3抗原は、T細胞上のT細胞受容体複合体に関連する。CD3に対しておよび標的細胞の抗原に対して特異性を有する多重特異性抗原結合タンパク質は、標的細胞上のT細胞の細胞傷害活性をトリガーすることができる。すなわち、抗原結合タンパク質をCD3におよび標的細胞(例えば腫瘍細胞)に多重特異的に結合させることにより、標的細胞の細胞溶解を誘導することができる。CD3結合部位を有する抗原結合タンパク質およびそれらの産生は、当技術分野で知られている(例えば、Kipriyanov他、1999、Journal of Molecular Biology 293:41-56、Le Gall他、2004、Protein Engineering、Design & Selection、17/4:357-366)。
【0470】
CD3抗原は、5つの不変ポリペプチド鎖:γ、δ、ε、ζおよびηの複合体であり、その分子量はそれぞれ25-28、21、20、16および22 kDaである。CD3鎖は、2つの不変二量体γ/εとδ/εが、ζホモ二量体またはζ/ηもしくはζ/γFcRヘテロ二量体(γFcRはFc受容体のγ鎖である)またはγFcRホモ二量体から成る1つの可変二量体と会合している1つの集団にクラスター化される。CD3は、T細胞受容体(TCR)を含む大きな複合体の一部である。TCRに関連するCD3複合体は、免疫応答中に主要組織適合性複合体クラスIおよびIIに結合したペプチドの認識に関与する。外来抗原がMHC複合体を介してTCRに提示されるとT細胞活性化が誘導され得る。CD3抗原は、成熟Tリンパ球および胸腺細胞のサブセットによって発現される。
【0471】
多くの抗CD3抗体および抗原結合フラグメントが当技術分野で既知であり、および/または市販されており、本発明において使用することができる。
【0472】
表3は、本開示において使用することができる様々な市販の抗CD8抗体の一覧を提供する。
【0473】
【表3】
【0474】
モノクローナル抗体を含む抗CD3抗体が当該技術分野で知られており、例えば米国特許出願第US2018/0057593号、特許第US11007267B2号公報、特許第US10865251B2号公報、特許第US10759858B2号公報、特許第US10906978B2号公報、特許出願公開第US20210253701A1号公報、特許出願公開第US20200123255A1号公報、特許出願公開第US20210095027A1号公報、特許出願公開第US20210147561A1号公報、特許第US10544220B2号公報、特許出願公開第US20190284278A1号公報、特許出願公開第US20190263904A1号公報、および特許出願公開第US20200048348A1号公報に開示されたものが含まれ、その各々が参照により本明細書に組み込まれる。
【0475】
文献から知られている上述の市販の抗CD3抗体の全てを本開示において使用することができる。
【0476】
加えて、本明細書で用いられる送達ビヒクル上のターゲティング部分として使用され得る本開示の抗体はまた、任意の適切な従来の手段によって製造することが可能である。1つのアプローチでは、着目の抗原(例えばCD4)での免疫処置に続いて、抗体を産生することができる体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)がMAb産生プロトコルでの使用のために選択される。これらの細胞は、生検用脾臓またはリンパ節から、または循環血液から得られてもよい。免疫処置動物からの抗体産生Bリンパ球は、次いで、不死化ミエローマ細胞、通常は免疫処置動物と同じ種の細胞またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞と融合される。
【0477】
ハイブリドーマを産生する融合手順に使用するのに適したミエローマ細胞株は、非抗体産生であり、融合効率が高く、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖をサポートする特定の選択培地上で増殖不能にする酵素欠陥を有することが好ましい。当業者に知られているように、いくつかの骨髄腫細胞を使用することができる(Going、pp.65-66、1986;Campbell、pp.75-83、1984)。
【0478】
抗体を産生する方法
抗体を産生する脾臓またはリンパ節細胞とミエローマ細胞とのハイブリッドを作製する方法は、通常、細胞膜の融合を促進する1または複数の剤(化学的または電気的)の存在下で、体細胞をミエローマ細胞と混合することを含む。センダイウイルスを使用する融合方法は、KohlerおよびMilstein (1975;1976)により、並びに37%(v/v) PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いるものがGefter他(1977)により、記載されている。電気的に誘導される融合方法の使用も適切である(Goding、pp. 71-74、1986)。
【0479】
培養はハイブリドーマの集団を提供し、そこから特定のハイブリドーマが選択される。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレート中での単クローン希釈によって細胞を培養し、続いて、個々のクローン上清(約2~3週間後)を所望の反応性について試験することによって行われる。アッセイは、放射線免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなどの、感度がよく、単純でかつ迅速であるべきである。次いで、選択されたハイブリドーマは、系列希釈されるか、または、フローサイトメトリーによって選別され、個々の抗体産生細胞株にクローン化され、得られたクローンを未定義のまま増殖させて、mAbを提供することができる。
【0480】
細胞株は、2つの基本的な方法でMAb生産に利用することができる。ハイブリドーマのサンプルを、動物(例えばマウス)に(しばしば腹膜腔内に)注入することができる。任意選択的に、注入前に、動物を炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油で感作する。この方法でヒトハイブリドーマを使用する場合、SCIDマウスなどの免疫低下マウスに注射して、腫瘍拒絶を防止することが最適である。注入された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生する。次いで、血清または腹水などの動物の体液をタップして、高濃度のMAbを提供することができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、その場合、MAbは培地中に自然に分泌され、そこから容易に高濃度でMAbを得ることができる。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで使用して、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。細胞株は、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために、無血清培地中での増殖に適合させることができる。
【0481】
いずれかの手段によって産生されたMAbsは、濾過、遠心分離、およびFPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーなどの種々のクロマトグラフィー法を使用して、所望であればさらに精製することができる。本開示のモノクローナル抗体のフラグメントは、ペプシンまたはパパインなどの酵素による消化および/または化学的還元によるジスルフィド結合の開裂を含む方法により、精製されたモノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、本開示に包含されるモノクローナル抗体フラグメントは、自動ペプチド合成装置を用いて合成することができる。
【0482】
また、分子クローニングアプローチを用いて、モノクロナールを作製してよいことも企図されている。このために、RNAをハイブリドーマ系列から単離することができ、RT-PCRにより得られた抗体遺伝子を免疫グロブリン発現ベクター中にクローニングすることができる。あるいは、細胞株から単離したRNAから、コンビナトリアル免疫グロブリンファジミド・ライブラリーを作製し、そしてウイルス抗原を使ったパニングにより、適切な抗体を発現するファジミドを選択する。このアプローチの利点は、より多数の抗体を1回のラウンドで産生してスクリーニングすることができる点と、H鎖とL鎖の組み合わせによって新たな特異性が作出され、それが適切な抗体を見つける機会をさらに増大させる点である。
【0483】
本開示において有用な抗体の産生を教示する米国特許には、コンビナトリアル・アプローチを使用したキメラ抗体の産生を記載している米国特許第5,565,332号;組換え免疫グロブリン製剤を記載している米国特許第4,816,567号;および抗体-治療薬複合体(conjugate)を記載している米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0484】
組合せ
一実施形態では、本発明は、2つ以上のT細胞抗原をターゲティングする、T細胞を標的とした送達ビヒクルの組合せを提供する。一実施形態では、2つ以上のT細胞抗原は、CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD16、CD25、CD26、CD27、CD28、CD30、CD38、CD39、CD40L、CD44、CD45、CD62L、CD69、CD73、CD80、CD83、CD86、CD95、CD103、CD119、CD126、CD150、CD153、CD154、CD161、CD183、CD223、CD254、CD275、CD45RA、CXCR3、CXCR5、FasL、IL18R1、CTLA-4、0X40、GITR、LAG3、ICOS、PD-1、leu-12、TCR、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR6、NKG2D、CCR、CCR1、CCR2、CCR4、CCR6、またはCCR7から選択される。一実施形態では、組合せは、CD4 T細胞の表面抗原およびCD8 T細胞の表面抗原を標的とする、1または複数のT細胞を標的とした送達ビヒクルを含む。一実施形態では、組合せは、CD4とCD8をターゲティングする2つ以上のT細胞を標的とした送達ビヒクルを含む。
【0485】
一実施形態では、T細胞を標的とした送達ビヒクルの組み合わせは、異なる表面抗原を発現するT細胞に同一の薬剤を送達する。一実施形態では、T細胞を標的とした送達ビヒクルの組合せは、第1の表面抗原を発現するT細胞の1サブセットに第1の薬剤を送達し、そして第2の表面抗原を発現するT細胞の第2のサブセットに第2の異なる薬剤を送達する。従って、様々な実施形態では、本発明の組み合わせは、T細胞に対して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多くの異なる薬剤を送達することができる。
【0486】
一実施形態では、本発明の組成物は、本明細書に記載の薬剤の組合せを含む。特定の実施形態では、本明細書に記載の薬剤の組合せを含む組成物は、付加効果を有し、その組み合わせの全体的効果は、各々の個々の薬剤の効果の合計にほぼ等しい。他の実施形態では、本明細書に記載の薬剤の組合せを含む組成物は、相乗効果を有し、その場合、組合せの全体的効果は、各々の個々の薬剤の効果の合計よりも大きい。
【0487】
薬剤の組合せを含む組成物は、任意の適切な比率で個々の薬剤を含む。例えば、一実施形態では、組成物は、2つの個々の薬剤を1:1の比率で含む。しかしながら、組合せは、いずれかの特定の比に限定されない。むしろ、有効であることが示されている、いかなる比率も含まれる。
【0488】
コンジュゲーション(結合)
本発明の様々な実施形態では、送達ビヒクルは、ターゲティングドメインにコンジュゲート(結合)される。コンジュゲーションの例示的な方法は、共有結合、静電相互作用、および疎水性(「ファンデルワールス」)相互作用を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、コンジュゲーションは可逆的結合であり、その結果、送達ビヒクルは、特定の条件または化学物質への曝露時にターゲティングドメインから解離することができる。別の実施形態では、コンジュゲーションは、不可逆的結合であり、通常の条件下では、送達ビヒクルがターゲティングドメインから解離しないようにする。
【0489】
いくつかの実施形態では、コンジュゲーションは、活性化ポリマー複合脂質とターゲティングドメインとの間の共有結合を含む。用語「活性化ポリマー複合脂質」とは、脂質部分と、第1のカップリング基を有するポリマー複合脂質の官能化によって活性化されたポリマー部分とを含む分子を指す。一実施形態では、活性化ポリマー複合脂質は、第2のカップリング基と反応することができる第1のカップリング基を含んでいる。一実施形態では、活性化ポリマー複合脂質は、活性化PEG化脂質である。一実施形態では、第1のカップリング基は、PEG化脂質の脂質部分に結合される。別の実施形態では、第1のカップリング基は、PEG化脂質のポリエチレングリコール部分に結合される。一実施形態では、第2の官能基は、ターゲティングドメインに共有結合される。
【0490】
第1のカップリング基および第2のカップリング基は、例えば、穏和な反応条件または生理学的条件下で、共有結合を共同して形成することが当業者に知られている、任意の官能基であり得る。いくつかの実施形態では、第1のカップリング基または第2のカップリング基は、マレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、カルボジイミド、ヒドラジド、ペンタフルオロフェニル(PFP)エステル、ホスフィン、ヒドロキシメチルホスフィン、ソラレン、イミドエステル、ピリジルジスルフィド、イソシアネート、ビニルスルホン、α-ハロアセチル、アリールアジド、アシルアジド、アルキルアジド、ジアジリン、ベンゾフェノン、エポキシド、カーボネート、無水物、スルホニルクロリド、シクロオクチン、アルデヒド、およびスルフヒドリル基からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、第1のカップリング基または第2のカップリング基は、遊離アミン(-NH)、遊離スルフヒドリル基(-SH)、遊離水酸化物基(-OH)、カルボン酸塩、ヒドラジド、およびアルコキシアミンからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、第1のカップリング基は、マレイミド、ピリジルジスルフィドまたはハロアセチルなどのスルフヒドリル基に対して反応性である官能基である。一実施形態では、第1のカップリング基はマレイミドである。
【0491】
一実施形態では、第2のカップリング基はスルフヒドリル基である。スルフヒドリル基は、当業者に公知の任意の方法を用いてターゲティングドメイン上に導入することができる。一実施形態では、スルフヒドリル基は遊離システイン残基上に存在する。一実施形態では、スルフヒドリル基は、2-メルカプトエチルアミンとの反応のようなターゲティングドメイン上のジスルフィドの還元を介して露出される。一実施形態では、スルフヒドリル基は、遊離アミンと2-イミノチランまたはN-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート(SATA)との間の反応などの化学反応を介して導入される。
【0492】
いくつかの実施形態では、ポリマー複合脂質およびターゲティングドメインは、「クリック」化学で使用される基で官能化される。バイオ直交性「クリック」化学は、アジド、酸化ニトリル、ニトロン、イソシアニドのような1,3-双極子を有する官能基と、アルケンまたはアルキン二偏光子を有するリンカーとの反応を含む。例示的な双極子としては、限定されないが、シクロオクチン、ジベンゾシクロオクチン、モノフッ素化シクロオクチン、ジフッ素化シクロオクチンおよびビアリールアザシクロオクチノンを含む、当業者に周知の任意の歪んだシクロアルケン類とシクロアルキン類が挙げられる。
【0493】
ペプチドターゲティング部分
一実施形態では、本発明のターゲティングドメインは、ペプチドを含む。特定の実施形態では、ペプチドターゲティングドメインは、着目の標的に特異的に結合する。
【0494】
本発明のペプチドは、化学的方法を用いて作製することができる。例えば、ペプチドは、固相術(Roberge J.Y.他(1995) Science 269:202-204)によって合成し、樹脂から開裂させ、分取用高速液体クロマトグラフィーによって精製することができる。例えば、製造業者によって提供される使用説明書に従って、ABI 431 Aペプチド合成装置(Perkin Elmer社製)を使用して自動合成を行うことができる。
【0495】
あるいは、ペプチドは、組換え手段によって、またはより長いポリペプチドからの切断によって作製されてもよい。ペプチドの組成は、アミノ酸分析または配列決定によって確認することができる。
【0496】
本発明のペプチドの変異体は、(i)アミノ酸残基の1つ以上が保存または非保存アミノ酸残基(好ましくは保存アミノ酸残基)で置換されており、そのような置換アミノ酸残基が遺伝暗号によってコードされていてもいなくてもよいもの、(ii)1つ以上の修飾アミノ酸残基、例えば置換基の付着により修飾されている残基が存在するもの、(iii)ペプチドが本発明のペプチドの代替スプライス変異体であるもの、(iv)ペプチドのフラグメント、および/または(v)ペプチドが、別のペプチド、例えばリーダー配列もしくは分泌配列、または精製に用いられる配列(例えばHis-タグ)もしくは検出に用いられる配列(例えば、Sv5エピトープタグ)と融合されているもの、であることができる。フラグメントは、元の配列のタンパク質分解開裂(複数部位のタンパク質分解を含む)によって生成されたペプチドを含む。変異体は、翻訳後修飾されてもよいし、化学修飾されてもよい。そのような変異体は、本明細書の教示から当業者の技術範囲内にあるとみなされる。
【0497】
当技術分野で知られているように、2つのペプチド間の「類似性」は、1つのペプチドのアミノ酸配列とそれの保存アミノ酸置換を、第2のペプチドの配列と比較することによって決定される。変異体は、本来の配列とは異なるペプチド配列を含むとして定義され、好ましくは、着目のセグメント当たり40%未満の残基が元の配列と異なり、より好ましくは、着目のセグメント当たり25%未満の残基が元の配列と異なり、より好ましくは、着目のセグメント当たり10%未満の残基が元の配列と異なり、最も好ましくは着目のセグメント当たりごく少数の残基が元の配列と異なっており、かつ同時に、元の配列の機能性を保有するのに十分なほど元の配列と相同である。本発明は、元のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、65%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、90%、または95%類似または同一であるアミノ酸配列を含む。2つのペプチド間の同一性の程度は、当業者に広く知られているコンピュータアルゴリズムおよびメソッドを使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくはBLASTPアルゴリズム[BLASTマニュアル、Altschul, S.他、NCBI NLM NIH Bethesda、Md. 20894、Altschul, S.他、J. Mol. Biol. 215: 403-410(1990)]を用いて決定されることが好ましい。
【0498】
本発明のペプチドは、翻訳後修飾することができる。例えば、本発明の範囲内に含まれる翻訳後修飾には、シグナルペプチドの開裂、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、タンパク質分解、ミリストイル化、タンパク質の折り畳みおよびタンパク質分解的プロセシングなどが含まれる。いくつかの修飾またはプロセシング事象は、追加の生物学的機構の導入を必要とする。例えば、シグナルペプチドの開裂およびコアグリコシル化などのプロセシング事象は、イヌ科のミクロソーム膜またはアフリカツメガエル(Xenopus)卵抽出物(米国特許第6,103,489号)を標準的な翻訳反応に添加することによって調査される。
【0499】
本発明のペプチドは、翻訳後修飾によってまたは翻訳中に非天然アミノ酸を導入することによって形成された非天然アミノ酸を含んでもよい。
【0500】
核酸ターゲティング部分
一実施形態では、本発明のターゲティングドメインは、例えばDNAオリゴヌクレオチドおよびRNAオリゴヌクレオチドなどの、単離された核酸を含む。特定の実施形態では、核酸ターゲティングドメインは、着目の標的に特異的に結合する。例えば、一実施形態では、核酸は、着目の標的に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む。
【0501】
核酸ターゲティングドメインのヌクレオチド配列は、元のヌクレオチド配列に対する配列の変化、例えば、1つ以上のヌクレオチドの置換、挿入および/または欠失を含むことができるが、得られた核酸が、元の核酸と同じように機能し、着目の標的に特異的に結合することを条件とする。
【0502】
本明細書で使用される意味によれば、ヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列が本明細書に記載のヌクレオチド配列のいずれかに対して、少なくとも60%の同一性の程度、有利には少なくとも70%の一致度、好ましくは少なくとも85%の一致度、より好ましくは少なくとも95%の一致度を有する場合、本明細書に記載のヌクレオチド配列と「実質的に相同」である。可能な修飾の別の例としては、配列中への1つ以上のヌクレオチドの挿入、配列のいずれかの末端における1つ以上のヌクレオチドの付加、または配列内の任意の末端もしくは内部の1つ以上のヌクレオチドの欠失が挙げられる。2つのポリヌクレオチド間の同一性の程度(一致度)は、当業者に広く知られているコンピュータアルゴリズムおよびメソッドを使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくはBLASTNアルゴリズム[BLASTマニュアル、Altschul、S.他、NCBI NLM NIH Bethesda、Md. 20894、Altschul, S.他、J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)]を使って決定される。
【0503】
抗体ターゲティング部分
一実施形態では、本発明のターゲティングドメインは、抗体または抗体フラグメントを含む。特定の実施形態では、抗体ターゲティングドメインは、着目の標的に特異的に結合する。そのような抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fabおよび単鎖Fv(scFv)フラグメント、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート、ヒト抗体およびヒト化抗体を含む。
【0504】
抗体は、無傷のモノクローナルまたはポリクローナル抗体、および免疫学的に活性なフラグメント(例えばFabまたは(Fab)2フラグメント)、抗体重鎖、抗体軽鎖、ヒト化抗体、遺伝子操作された単鎖Fv分子(Ladner他、米国特許第4,946,778号)、またはキメラ抗体、例えば、マウス抗体の結合特異性を含んでいるが残りの部分がヒト由来である抗体であってもよい。モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、フラグメントおよびキメラを含む抗体は、当業者に公知の方法を使用して調製することができる。
【0505】
そのような抗体は、ハイブリドーマ培養、細菌または哺乳動物細胞培養における組換え発現、および、トランスジェニック動物における組換え発現をはじめとする様々な方法で産生することができる。産生方法論の選択は、所望する抗体構造、抗体上の糖部分の重要性、培養および精製の容易さ、並びにコストを含む、いくつかの因子に依存する。全長抗体、FabおよびFvフラグメントなどの抗体フラグメント、並びに異なる種からの成分を含むキメラ抗体といった多種多様な抗体が、標準的な発現技術を用いて産生され得る。FabおよびFvフラグメントのような小さなサイズの抗体フラグメントであって、エフェクター機能を有さず、限定された薬物動態活性を有する抗体フラグメントを、細菌発現系において産生することもできる。一本鎖Fvフラグメントは、低い免疫原性を示す。
【0506】
一実施形態では、本発明のターゲティングドメインは、CD4+ T細胞の表面抗原に特異的に結合する抗体である。一実施形態では、本発明のターゲティングドメインは、CD4に特異的に結合する抗体である。
【0507】
T細胞
様々な実施形態において、送達ビヒクルの標的は、体内の任意のタイプの細胞(すなわち「標的細胞」)であることができる。好ましい実施形態では、標的細胞は、限定されないが、任意のクラスの骨髄細胞(例えば、好中球、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および単球)または任意のクラスのリンパ球〔例えば、T細胞(例えば細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、または記憶T細胞)、B細胞(例えば、形質細胞および記憶B細胞)、およびナチュラルキラー細胞〕などの免疫細胞である。
【0508】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物を使用してターゲティングされるT細胞は免疫感作細胞、すなわち免疫応答を媒介する細胞である。いくつかの実施形態では、本発明の組成物を使用してターゲティングされ得るT細胞は、限定されないが、Tヘルパー細胞(CD4)およびCD4細胞傷害性T細胞(細胞傷害性Tリンパ球、CD4 CTLとも呼ばれる)を含むことができる。特定の実施形態では、標的細胞はT細胞である。いくつかの実施形態では、本発明の組成物を使用してターゲティングされ得るT細胞は、CD4またはCD8であることができ、Tヘルパー細胞(CD4+)、細胞傷害性T細胞(細胞傷害性Tリンパ球、CTL;CD8-T細胞とも呼ばれる)、および記憶T細胞、例えば中央記憶T細胞(TCM)、幹細胞記憶T細胞(TSCM)、幹細胞様記憶T細胞(または幹様記憶T細胞)、およびエフェクター記憶T細胞、例えばTEM細胞およびTEMRA(CD45RA+)細胞、エフェクターT細胞、Thl細胞、Th2細胞、Th9細胞、Thl7細胞、Th22細胞、Tfh(卵胞ヘルパー)細胞、T調節細胞、ナチュラルキラーT細胞、粘膜関連不変T細胞(MAIT)、およびγδT細胞が含まれる。主要なT細胞サブタイプには、TN(ナイーブ)、TSCM(幹細胞記憶)、TCM(中央記憶)、TTM(遷移記憶)、TEM(エフェクター記憶)、およびTTE(ターミナルエフェクター)、TCR-トランスジェニックT細胞、ユニバーサルサイトカイン媒介性致死のリダイレクトT細胞(TRUCK:T-cells redirected for universal cytokine-mediated killing)、腫瘍浸潤T細胞(TIL)、CAR-T細胞、または疾患もしくは障害を治療するために使用することができる任意のT細胞が含まれる。
【0509】
治療方法
本発明は、CD4 T細胞に、疾患もしくは障害の診断、治療または予防のための少なくとも1つの薬剤を送達する方法を提供する。一実施形態では、CD4 T細胞を標的とする送達ビヒクルは、対象(被験体)に投与される薬剤を含むかまたは内包化する。いくつかの実施形態では、薬剤はヌクレオシド修飾mRNAである。従って、本発明は、少なくとも1つの薬剤をCD4 T細胞に送達する方法を提供する。
【0510】
一実施形態では、CD4 T細胞を標的とする送達ビヒクルは、疾患または障害の治療のための治療薬を含むかまたは内包化する。いくつかの実施形態では、治療薬はヌクレオシド修飾mRNAである。従って、本発明は、少なくとも1つの治療薬をCD4 T細胞に送達する方法を提供する。特定の実施形態では、本方法は、対象における疾患または障害を治療または予防するために使用される。例示的な疾患または障害は、限定されないが、癌、感染症および免疫疾患を含む。
【0511】
以下は、開示された方法および組成物によって治療することができる癌(がん)の非限定的な例である:急性リンパ芽球性白血病;急性骨髄性白血病;副腎皮質癌;虫垂癌;基底細胞癌;胆管癌;膀胱癌;骨肉腫;脳脊髄腫瘍;脳幹神経膠腫;脳腫瘍;乳癌;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;カルチノイド腫瘍;中枢神経系の異型奇形/ラブドイド腫瘍;中枢神経系胚性腫瘍;中枢神経系リンパ腫;小脳星状細胞腫;大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫;大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫;子宮頸癌;小児視経路腫瘍;脊索腫;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄増殖性疾患;結腸癌;結腸直腸癌;頭蓋咽頭腫;皮膚癌;皮膚T細胞リンパ腫;子宮内膜癌;上衣芽細胞腫;上衣腫;食道癌;ユーイングファミリー腫瘍;頭蓋外癌;性腺外胚細胞腫瘍;肝外胆管癌;肝外癌;眼癌;息肉腫;胆嚢癌;胃(胃)癌;消化管癌;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍(gist);胚細胞腫瘍;妊娠期癌;妊娠性絨毛腫瘍;膠芽細胞腫;神経膠腫;有毛細胞白血病;頭頸部癌;肝細胞(肝臓)癌;組織球症;ホジキンリンパ腫;下咽頭癌;視床下部および視覚経路神経膠腫;視床下部腫瘍;眼内(眼球)癌;眼内黒色腫;膵島細胞腫瘍;カポジ肉腫;腎臓(腎細胞)癌;ランゲルハンス細胞癌;ランゲルハンス細胞組織球症;喉頭癌;白血病;唇癌および口腔癌;肝臓癌;肺癌;リンパ腫;マクログロブリン血症;骨の悪性線維性組織球腫および骨肉腫;髄芽腫;髄様上皮腫;黒色腫;メルケル細胞癌;中皮腫;潜在性原発を伴う転移性頸部扁平上皮癌;口腔癌;多発性内分泌腺腫症症候群;多発性骨髄腫;真菌症;菌状息肉腫;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;骨髄性白血病;骨髄性白血病;骨髄腫;鼻腔および副鼻腔癌;鼻咽頭癌;神経芽細胞腫;非ホジキンリンパ腫;非小細胞肺癌;口腔癌;中咽頭癌;骨肉腫および悪性線維性組織球腫;骨肉腫および骨の悪性線維性組織球腫;卵巣癌;卵巣上皮癌;卵巣胚細胞腫瘍;卵巣の低悪性度腫瘍;膵臓癌;パピローマ症;傍神経節腫;副甲状腺癌;陰茎癌;咽頭癌;褐色細胞腫;中分化の松果体実質腫瘍;松果体芽細胞腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍;下垂体腫瘍;形質細胞新生物;形質細胞新生物/多発性骨髄腫;胸膜肺芽腫;原発性中枢神経系癌;原発性中枢神経系リンパ腫;前立腺癌;直腸癌;腎細胞(腎臓)癌;腎盂および尿管;第15染色体上のnut遺伝子が関与する気道癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫;唾液腺癌;肉腫;セザリー症候群;皮膚癌(黒色腫);皮膚癌(非黒色腫);皮膚癌;小細胞肺癌;小腸癌;軟部組織癌;軟部組織肉腫;扁平上皮癌;頸部扁平上皮癌;胃(胃)癌;テント上原始神経外胚葉性腫瘍;テント上原始神経外胚葉性腫瘍および松果体芽細胞腫;T細胞リンパ腫;精巣癌;咽喉癌;胸腺腫および胸腺癌;甲状腺癌;移行上皮癌;腎盂および尿管の移行上皮癌;絨毛性腫瘍;尿道癌;子宮癌、子宮内膜癌;子宮肉腫;膣癌;視経路および視床下部膠腫;外陰癌;ワルデンストレームマクログロブリン血症;およびウィルムス腫瘍。
【0512】
いくつかの実施形態では、本発明は、自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ/血清陰性関節症、骨関節炎(変形性関節症)、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、虹彩眼炎/ぶどう膜炎視神経炎、特発性肺線維症、全身性血管炎/ヴェゲナー多発血管炎性肉芽腫症、肉芽腫症、限定されないが、例えば関節リウマチ/血清陰性関節症、骨関節炎、炎症性腸疾患、全身性エリトマトーデス、虹彩眼炎/ぶどう膜炎視神経炎、突発性肺線維症、全身性血管炎/ヴェゲナー多発血管炎性肉芽腫症、肉芽腫症、心筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、抗糸球体基底膜腎炎、間質性膀胱炎、ループス腎炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎、抗合成酵素症候群、円形脱毛症、自己免疫性血管浮腫、自己免疫性プロゲステロン皮膚炎、自己免疫性蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、疱疹状皮膚炎、円板状エリテマトーデス、後天性表皮水疱症、結節性紅斑、妊娠性類天疱瘡、化膿性汗腺炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、線形IgA病(LAD)、限局性強皮症、尋常性天疱瘡、急性痘瘡状苔癬状ひこう疹、ムッハー・ハーベルマン病、乾癬、全身性強皮症、白斑、アジソン病、自己免疫性多内分泌症候群(APS)1型、自己免疫性多内分泌症候群(APS)2型、自己免疫性多内分泌症候群(APS)3型、自己免疫性膵炎(AIP)、I型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、オード甲状腺炎、グレーブス病(バセドウ病)、自己免疫性卵巣炎、子宮内膜症、自己免疫性睾丸炎、シェーグレン症候群、自己免疫性腸疾患、セリアック病、クローン病、顕微鏡的大腸炎、潰瘍性大腸炎、抗リン脂質症候群(APS、APLS)、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性リンパ球増殖性症候群、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性血小板減少性紫斑病、寒冷凝集素症、本態性混合型クリオグロブリン血症、エヴァンズ症候群、悪性貧血、赤芽球癆、血小板減少症、有痛脂肪症、成人発症スティル病、強直性脊椎炎、CREST症候群、薬剤誘発性狼瘡、腱付着部炎関連関節炎、好酸球性筋膜炎 フェルティ症候群、IgG4関連疾患、若年性関節炎、ライム病(慢性)、混合性結合組織病(MCTD)、パリンドローム性リウマチ、パリー・ロンベルグ症候群、 パーソネイジ・ターナー症候群、乾癬性関節炎、反応性関節炎、再発性多発軟骨炎、後腹膜線維症、リウマチ熱、シュニッツラー症候群、未分化結合組織病(UCTD)、皮膚筋炎、線維筋痛症、封入体筋炎、筋炎、重症筋無力症、神経筋緊張症、腫瘍随伴性小脳変性症、多発性筋炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性運動性軸索神経障害、抗N-メチル-D-アスパラギン酸(抗NMDA)受容体脳炎、乳頭同心円状硬化症、ビッカースタッフ脳炎、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、ギラン・バレー症候群、橋本脳症、特発性炎症性脱髄疾患、ランバート・イートン筋無力症症候群、多発性硬化症、パターンII、オシュトラン症候群、連鎖球菌に関連する小児自己免疫性神経精神障害 (PANDAS)、進行性炎症性神経障害、むずむず脚症候群、こわばり症候群、シデナム舞踏病、横断性脊髄炎、 自己免疫性網膜症、自己免疫性ブドウ膜炎、コーガン症候群、グレーブス眼症、中間性ブドウ膜炎、木質結膜炎、ムーレン潰瘍、視神経脊髄炎、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、視神経炎、強膜炎、スザック症候群、交感神経性眼炎、トロサ・ハント症候群、自己免疫性内耳疾患(AIED)、メニエール病、ベーチェット病、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、巨細胞性動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、IgA血管炎(IgAV)、川崎病、白血球破砕性血管炎、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、結節性多発動脈炎(PAN)、リウマチ性多発筋痛症、蕁麻疹性血管炎、血管炎、および一次免疫不全。を含むがこれらに限定されない自己免疫疾患を治療または予防する方法を特徴とする。
【0513】
いくつかの実施形態において、治療薬は、感染または感染性疾患の治療または予防のための薬剤である。一実施形態では、治療薬は、細菌感染またはそれに関連する疾患もしくは障害の治療または予防のための薬剤である。細菌は、次の門のいずれか1つ由来であることができる:アシドバクテリア門(Acidobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、アクウィフィカス門(Aquificae)、バクテロイデス門(Bacteroides)、カルディセリクム門(Cardiserica)、クラミジア門(Chlamydiae)、緑色硫黄細菌門(Chlorobium)、クロロフレクサス門(Chloroflexi)、クリシオゲネス門(Chrysiogenetes)、シアノバクテリア門(Cyanobacteria)、デフェリバクテレスバクター門(Deferribacteres)、デイノコッカス-サームス門(Deincoccus-Thermus)、ディクチオグロム門(Dictyoglomi)、エルシミクロビウム門(Elusimicrobia)、フィブロバクテル門(Fibrobacteres)、フィルミクテス門(Firmicutes)、フゾバクテリウム門(Fusobacteria)、ゲンマティモナス門(Gemmatimonadetes)、レンティスフェラ門(Lentisphaerae)、ニトロスピラ門(Nitrospira)、プランクトミセス門(Planctomycetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、スピロヘータ門(Spirochaetea)、シネルギステス門(Synergistetes)、テネリクテス門(Tenericutes)、サーモデスルフォバクテリア門(Thermodesulfobacteria)、サーモトガ門(Thermotogae)およびウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)。
【0514】
細菌は、グラム陽性菌またはグラム陰性菌であり得る。細菌は嫌気性細菌でも好気性細菌でもよい。細菌は、独立栄養細菌または従属栄養細菌であり得る。細菌は中温菌、好中性菌、高度好熱菌、好酸性菌、好塩基性菌、高温菌、好冷細菌、好塩細菌、または好浸透圧菌であり得る。
【0515】
細菌は、炭疽菌、抗生物質耐性菌、病原菌、食中毒菌、感染菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、または破傷風菌であり得る。細菌はマイコバクテリア、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani;破傷風菌)、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis;ペスト菌)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthrasis;炭疽菌)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、またはクロストリジウム・デフィシル(Clostridium difficile)であり得る。
【0516】
一実施形態では、治療薬は、ウイルス感染の治療または予防のための薬剤、またはそれに関連する疾患または障害である。いくつかの実施形態では、ウイルスは、以下の科のうちの1つである:アデノウイルス科、アレナウイルス科、ブニヤウイルス科、カリシウイルス科、コロナウイルス科(SARSおよびSARS-CoV-2を含む)、フィロウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘルペスウイルス科、オルソミクソウイルス科、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科、ポックスウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラブドウイルス科、またはトガウイルス科。ウイルス抗原は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、チクングニアウイルス(CHIKV)、デング熱ウイルス、パピローマウイルス、例えばヒトパピローマウイルス(HPV)、ポリオウイルス、肝炎ウイルス、例えばA型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)およびE型肝炎ウイルス(HEV)、天然痘ウイルス(majorおよびminor型)、ワクシニアウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス、黄熱病ウイルス、ノーウォーク(Norwalk)ウイルス、A型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)、有毛細胞白血病ウイルス(HTLV-II)、カリフォルニア脳炎ウイルス、ハンタウイルス(出血熱)、狂犬病ウイルス、エボラ熱ウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、単純ヘルペス1(経口ヘルペス)、単純ヘルペス2(生殖器ヘルペス)、帯状疱疹ウイルス(水痘帯状疱疹、別名水痘ポックス)、サイトメガロウイルス(CMV)、例えばヒトCMV、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、フラビウイルス、足口病ウイルス、ラッサ熱ウイルス、アレナウイルス、または癌を引き起こすウイルスであり得る。
【0517】
一実施形態では、治療薬は、寄生虫感染、またはそれに関連した疾患もしくは障害の治療または予防のための薬剤である。いくつかの実施形態では、寄生虫は原虫、寄生蠕虫、または外部寄生虫である。蠕虫(すなわち、ウォーム)は、扁形動物(例えば吸虫および条虫)、鉤頭虫、または円形動物(例えば蟯虫)であり得る。外部寄生虫は、シラミ、ノミ、ダニ(tick)、およびダニ(mite)であり得る。
【0518】
寄生虫は、以下の疾患を引き起こす任意の寄生虫である:アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoeba keratitis)、アメーバ症、回虫症、バベシア症、バランチジウム症、ベイリサスカリア症、シャーガス病、肝吸虫症、蝸牛虫症、クリプトスポリジウム症、ジフィロボスリア症、メジナ虫症(ドラクンクルス虫症)、エキノコッカス症、象皮病(Elephantiasis)、腸内細菌症、肝蛭虫症(Fascioliasis)、肥大吸虫症(Fasciolopsiasis)、フィラリア症、ジアルジア鞭毛虫症、顎口虫症、膜様条虫症、イソスポーラ症、片山熱、リューシュマニア症、ライム病、マラリア、メタゴニム症、マイアシス、オンコセルカ症、シラミ寄生症(Pediculosis)、疥癬、住血吸虫症、睡眠病、糞線虫症、条虫症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、および鞭虫症。
【0519】
寄生虫は、アカントアメーバ、アニサキス、回虫、ウシバエ、大腸バランディジウム、トコジラミ、条虫 (サナダムシ)、ツツガムシ、ラセンウジバエ(Cochliomyia hominivorax)、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、肝蛭、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、鉤虫、リーシュマニア、鼻腔舌虫(Linguatula serrata)、肝吸虫、ロア糸状虫(Loa loa)、肺吸虫(Paragonimus)、蟯虫、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、住血吸虫、ヒト糞線虫(Strongyloides stercoralis)、ダニ、サナダムシ、トキソプラズマコンディ、トリパノソーマ、鞭虫、またはバンクロフト糸状虫であることができる。
【0520】
一実施形態では、治療薬は、真菌感染、またはそれに関連する疾患もしくは障害の治療または予防のための薬剤である。いくつかの実施形態では、真菌は、アスペルギルス(Aspergillus)種、ブラストミセス・デルマチチディス(Blastomyces dermatitidis)、カンジダ酵母(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans))、コクシジオイデス属、クリプトコッカス・ネオフォルミス(Cryptococcus neoformis)、クリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)、皮膚糸状菌(dermatophyte)、フザリウム(Fusarium)種、ヒストプラズマ・カプシュラタム(Histoplasma capsulatum;ヒストプラズマ症菌)、ケカビ亜門(Mucoromycotina)、ニューモシスティス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)、スポトトリックス・シェンキィ(Sporothrix schencekii;スポロトリコーシス菌)、イクスセロヒルム(Exserohilum;トウモロコシすす紋病菌)またはクラドスポリウム属(Cladosporium)である。
【0521】
非限定的な例として、一実施形態では、本発明は、clade C転移/検出ヒト免疫不全ウイルス(HIV)-lエンベロープ(Env)1086Cをコードしているヌクレオシド修飾された1086C Env mRNAを含むか、または内包化している、HIV感染またはそれに関連する疾患もしくは障害を治療または予防するための、CD4+ T細胞を標的とする送達ビヒクルを提供する。
【0522】
当業者には、本明細書に詳述される方法を含む本開示を装備すれば、本発明は、既に確立されている疾患または障害の治療に限定されないことが理解されるであろう。特に、疾患または障害は、対象(患者)に損害になる点を明らかにする必要はない;実際に、疾患または障害は治療を施す前の対象に検出されなくてもよい。すなわち、本発明が利益を提供し得る前に、疾患または障害の有意な徴候や症状が発生していなくてもよい。従って、本発明は、疾患または障害を予防するための方法を含み、この組成物は、本明細書の他の箇所で論じられるように、疾患または障害の発症前に対象に投与することができ、それによって疾患または障害を予防することができる。
【0523】
当業者は、本明細書の開示を具備すれば、疾患または障害の予防が該疾患または障害の発症または進行に対する予防措置として組成物を対象に投与することを含むことを理解するであろう。本明細書の他の箇所で十分に論じられるように、遺伝子または遺伝子産物のレベルと活性を調節する方法は、ポリペプチド遺伝子産物のレベルおよび活性だけではなく、転写、翻訳、またはその両方を含む核酸の発現を調節するための広範囲の技術を包含する。
【0524】
本発明は、ターゲティングドメインに結合された少なくとも1つの薬剤を含む、送達ビヒクルの送達を包含する。本発明の方法を実施するために、当業者は、本明細書に提供される開示に基づいて、適切な組成物を対象にどのように処方して投与するかを理解するであろう。本発明は、投与または治療レジメンの任意の特定の方法に限定されない。
【0525】
当業者は、本発明の組成物を単独でまたは任意の組み合わせで投与することができることを理解するであろう。さらに、本発明の組成物は、単独で投与することができ、またはそれらが同時にもしくは互いの前後に投与することができるという点で、時間的な意味において任意の組み合わせで投与することができる。当業者は、本明細書に提供される開示に基づいて、本発明の組成物を使用して疾患または障害を予防または治療することができ、そして該組成物を単独で、または治療結果に影響を及ぼすために別の組成物との任意の組み合わせで、使用することができることを理解するであろう。様々な実施形態で、本明細書に記載される本発明の組成物のいずれも、単独で、または疾患もしくは障害に関連する他の分子の他のモジュレーターと組み合わせて、投与することができる。
【0526】
本発明の組成物(例えば、送達ビヒクル)のヒト患者への投与は、限定されるものではないが、静脈内、鼻腔内、皮内、経皮、皮下、筋肉内、吸入(例えばエアロゾルを介して)、頬(例えば舌下)、局所(すなわち、気道表面を含む皮膚と粘膜表面の両方)、髄腔内、関節内、複数内、脳内、動脈内、腹腔内、経口、リンパ管内、鼻腔内、直腸または膣内投与による、局所カテーテルを介した灌流による、または直接的な病巣内注射による、をはじめとする任意の経路によることができる。一実施形態では、本発明の組成物(例えば送達ビヒクル)は、規定された期間(例えば、0.5~2時間)にわたって、静脈内圧入または静脈内輸液により投与される。本発明の組成物は、蠕動手段によって、またはデポーの形態で送達され得るが、任意の所与の場合における最適な経路は、対象の種、年齢、性別、および全体的状態、処置しようとする状態の性質および重症度、および/または投与しようとする特定の組成物の性質(すなわち剤形、製剤)などの因子に左右されるであろう。特定の実施形態では、投与経路は、一週間または二週間に1回または2回の期間にわたってボーラス注入または持続注入を介してである。他の特定の実施形態では、投与の経路は、1つ以上の部位(例えば、大腿部、腰部、臀部、腕部)に、任意選択で一週間に1回または2回の期間にわたり与えられる皮下注射による。一実施形態では、本発明の組成物および/または方法は、外来患者に投与される。
【0527】
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載の組成物の組み合わせを投与することを含む方法を含む。特定の実施形態では、本方法は、付加効果を有し、組成物の組み合わせを投与する場合の全体効果は、各個別の阻害剤を投与する場合の効果の合計にほぼ等しい。他の実施形態では、当該方法は相乗効果を有し、組成物の組み合わせを投与する場合の全体効果は、各個別組成物を投与する場合の効果の合計よりも大きくなる。
【0528】
この方法は、任意の適切な比率で組成物の組み合わせを投与することを含む。例えば、一実施形態では、当該方法は、1:1の比で2つの個々の組成物を投与することを含む。しかしながら、この方法は任意の特定の比に限定されない。むしろ、有効であることが示されているいずれの比率も包含される。
【0529】
医薬組成物
本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、薬理学の分野で知られているかまたは今後開発される任意の方法によって調製することができる。一般に、そのような調製方法は、有効成分を担体または1種以上の他の補助成分と組み合わせ、次いで、必要または所望であれば、生成物を所望の単回または複数回投与単位に成形または包装する工程を含む。
【0530】
本明細書で提供される医薬組成物の説明は、主に、ヒトへの医療向け投与に適した医薬組成物に向けられているが、当業者は、そのような組成物が一般にあらゆる種類の動物への投与に適していることを理解するであろう。組成物を様々な動物への投与に適したものにするために、ヒトへの投与に適した医薬組成物を改変することはよく理解されており、通常の獣医薬理学者は、もし必要であれば、通常の実験でそのような改変を設計し実施することができる。本発明の医薬組成物の投与が企図される対象としては、特に限定されるものではないが、ヒトおよび他の霊長類、非ヒト霊長類、および哺乳動物、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌなどの商業的に重要な哺乳動物が挙げられる。
【0531】
本発明の方法において有用な医薬組成物は、眼、経口、直腸、膣、非経口、局所、肺、鼻腔内、頬側、静脈内、側脳室内、皮内、筋肉内、皮下、脳室内、髄腔内、気管内、腹腔内、子宮内送達、もしくは別の投与経路、またはそれらの任意の組み合わせに適した製剤において、調製、包装、販売することができる。他の企図される製剤には、射出ナノ粒子(projected nanoparticle)、リポソーム製剤、有効成分を含む再密封された赤血球、および免疫原性ベースの製剤が含まれる。
【0532】
本発明の医薬組成物は、1単位用量としてまたは複数の単位用量として、バルクで調製、包装、または販売することができる。本明細書で使用される「単位用量」は、所定量の有効成分を含む医薬組成物の個別量である。有効成分の量は、一般に対象に投与される有効成分の投与量、またはそのような投与量の便利な割合、例えば、そのような投与量の半分または3分の1に等しい。
【0533】
本発明の医薬組成物中の有効成分、製薬的に許容し得る担体、および任意の追加の成分の相対量は、治療される被験体の体重、サイズ、および状態に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変動する。例として、組成物は0.1%~100%(w/w)の有効成分を含み得る。
【0534】
有効成分に加えて、本発明の医薬組成物は、1種以上の追加の医薬活性物質をさらに含み得る。
【0535】
本発明の医薬組成物の制御放出または徐放性製剤は、従来の技術を使用して調製することができる。
【0536】
本明細書で使用される場合、医薬組成物の「非経口投与」は、被験体の組織の物理的突破(breaching)を特徴とする任意の投与経路、組織内への突破を介する医薬組成物の任意の投与経路を含む。従って、非経口投与には、特に限定されるものではないが、組成物の注射による、外科的切開を介した組成物の適用による、組織貫通性の非外科的創傷を介した組成物の適用による、などの医薬組成物の投与が含まれる。いくつかの実施態様において非経口投与は、特に限定されるものではないが、眼内、硝子体内、皮下、腹腔内、子宮内送達、筋肉内、皮内、胸骨内注射、腫瘍内、静脈内、側脳室内投与、および腎臓の透析注入技術を含む。
【0537】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、無菌水または無菌等張食塩水などの医薬的に許容し得る担体と組み合わされた有効成分を含む。このような製剤は、ボーラス投与または持続投与に適した形態で調製、包装、または販売することができる。注射可能な製剤は、防腐剤を含むアンプルまたは複数回投与容器などの単位剤形で調製、包装、または販売することができる。非経口投与用の製剤には、特に限定されるものではないが、懸濁液、溶液、油性または水性ビヒクル中の乳剤、ペースト、および移植可能な徐放性または生分解性の製剤が含まれる。そのような製剤は、特に限定されるものではないが、懸濁剤、安定化剤、または分散剤を含む1種以上の追加の成分をさらに含み得る。非経口投与用の製剤の1つの実施態様において、有効成分は、適切な媒質(例えば、パイロジェンフリーの無菌水)で復元するための乾燥形態(すなわち粉末または顆粒)で提供された後、復元された組成物が非経口投与される。
【0538】
医薬組成物は、無菌の注射可能な水性または油性の懸濁液または溶液の形態で、調製、包装、または販売することができる。この懸濁液または溶液は、既知の技術に従って調製することができ、有効成分に加えて、本明細書に記載の分散剤、湿潤剤、または懸濁剤などの追加の成分を含むことができる。このような無菌の注射可能な製剤は、例えば水または1,3-ブタンジオールなどの非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤または溶媒を使用して調製することができる。他の許容し得る希釈剤および溶媒には、特に限定されるものではないが、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、および固定油、例えば合成モノグリセリドまたはジグリセリドが含まれる。有用な他の非経口投与可能な製剤には、有効成分を微結晶形態で、リポソーム調製物で、または生分解性ポリマー系の成分として含むものが含まれる。徐放または移植用の組成物は、医薬的に許容し得るポリマーまたは疎水性材料、例えば乳剤(エマルジョン)、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、または難溶性塩を含み得る。
【0539】
本発明の医薬組成物は、頬側口腔を介する肺投与に適した製剤で調製、包装、または販売することができる。そのような製剤は乾燥粒子を含むことができ、この乾燥粒子は有効成分を含み、約0.5~約7ナノメートル、好ましくは約1~約6ナノメートルの範囲の直径を有する。そのような組成物は、乾燥粉末の形態であって、噴射剤の流れを向けて粉末を分散させることができる乾燥粉末貯留所(リザーバー)を含む装置を使用して、または密封された容器内の低沸点噴射剤に溶解もしくは懸濁された有効成分を含む装置などの自己噴射溶媒/粉末分配容器を使用して投与する、乾燥粉末の形態が便利である。好ましくは、そのような粉末は、粒子の重量の少なくとも98%が0.5ナノメートルを超える直径を有し、粒子の数の少なくとも95%が7ナノメートル未満の直径を有する粒子を含む。より好ましくは、粒子の重量の少なくとも95重量% が1ナノメートルを超える直径を有し、粒子の数の少なくとも90%が6ナノメートル未満の直径を有する。乾燥粉末組成物は、好ましくは、糖などの固体微粉末希釈剤を含み、単位投与形態で便利に提供される。
【0540】
低沸点噴射剤は、一般に大気圧で65°F(5/9×(65-32)=約18.3℃)未満の沸点を有する液体噴射剤を含む。一般に噴射剤は組成物の50~99.9%(w/w)を占めることができ、有効成分は組成物の0.1~20%(w/w)を占めることができる。噴射剤はさらに、液体非イオン性または固体陰イオン性界面活性物質、または固体希釈剤(好ましくは、有効成分を含む粒子と同じオーダーの粒子サイズを有する)などの追加の成分を含み得る。
【0541】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、無菌水または無菌等張食塩水などの製薬的に許容し得る担体と組み合わされた有効成分を含む。このような製剤は、ボーラス投与または連続投与に適した形態で調製、包装、または販売することができる。注射可能な製剤は、防腐剤を含むアンプルまたは複数回投与容器などの単位投与形態で調製、包装、または販売することができる。非経口投与用の製剤には、特に限定されるものではないが、懸濁液、溶液、油性または水性ビヒクル中の乳剤、ペースト、および移植可能な徐放性または生分解性の製剤が含まれる。そのような製剤は、特に限定されるものではないが、懸濁剤、安定化剤、または分散剤を含む1種以上の追加の成分をさらに含み得る。非経口投与用の製剤の1つの実施態様において、有効成分は、適切なビヒクル(例えば、パイロジェンフリーの無菌水)で復元するための乾燥(すなわち、粉末または顆粒)形態で提供された後、復元された組成物が非経口投与される。
【0542】
医薬組成物は、無菌の注射可能な水性または油性の懸濁液または溶液の形態で、調製、包装、または販売することができる。この懸濁液または溶液は、既知の技術に従って調製することができ、有効成分に加えて、本明細書に記載の分散剤、湿潤剤、または懸濁剤などの追加の成分を含むことができる。このような無菌の注射可能な製剤は、例えば水または1,3-ブタンジオールなどの非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤または溶媒を使用して調製することができる。他の許容し得る希釈剤および溶媒には、特に限定されるものではないが、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、および固定油、例えば合成モノグリセリドまたはジグリセリドが含まれる。有用な他の非経口投与可能な製剤には、有効成分を微結晶形態で、リポソーム製剤で、または生分解性ポリマー系の成分として含むものが含まれる。徐放または移植用の組成物は、製薬上許容し得るポリマーまたは疎水性材料、例えば乳剤、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、または難溶性塩を含み得る。
【0543】
本明細書で使用する場合、「追加の成分」には、特に限定されるものではないが、以下のうちの1つ以上が含まれる:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤;結合剤;滑沢剤;甘味料;香味剤;着色剤;防腐剤;ゼラチンなどの生理学的に分解性の組成物;水性ビヒクルおよび溶媒;油性ビヒクルおよび溶媒;懸濁剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定化剤;および製薬上許容し得る高分子または疎水性材料。本発明の医薬組成物に含まれ得る他の「追加の成分」は、当技術分野で公知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (1985, Genaro編、Mack Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストン)に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0544】
本発明を以下の実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。これらの実施例は、例示目的のためだけに提供され、別段の指示がない限り、限定を意図するものではない。従って、本発明は、以下の実施例に限定されると解釈すべきでなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになる、あらゆる変形を包含すると解釈すべきである。
【0545】
さらなる説明なしに、当業者は、上述の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明を実施および利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。従って、以下の実施例は、本開示の残りの方法を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0546】
実施例1:改変されたCD4+ T細胞-ホーミングmRNA-LNPを用いた高効率のCD4+ T細胞ターゲティングおよび遺伝子組換え
mRNAベースの治療法は、現在のタンパク質ベースのまたはウイルスベースの免疫療法アプローチによる問題点(challenge)、例えば製造の難しさ、不安定性、発現の量および持続時間に関する制御の欠如、高い毒性、場合によってはゲノム統合またはオフサイト効果、に対処する多くの利点を付与する(Goswami他、2019、Front. Oncol.、9:297;Das他、2015、J. Cell. Physiol.、230:259-271;Chames他、2009、Br. J. Pharmacol.、157:220-233)。効率的な生体内送達は、mRNAベースの免疫療法の開発における重大な障壁となっていた。臨床応用のためのT細胞修飾は、自己T細胞の抽出、拡張、および生体外でのゲノム編集を必要としており、これはコストが高く、時間がかかることから、HIVまたは鎌状赤血球貧血のような、より一般的な疾患への広範な使用を妨げている。T細胞は、トランスフェクションが難しい細胞として知られている(Peer他、2010、Journal of Controlled Release、148:63-68;Gust他、2008、CellCommun Signal、6:3;Goffinet他、2006、The FASEB Journal、20:500-502)。ここで、LNPを含む抗CD4-抗体とコンジュゲート(結合)したLuc mRNAを用いてヒトT細胞をターゲティングすることは、対照のIgGコンジュゲート型LNPを用いた場合には起こらない、ヒトCD4 T細胞において用量依存形式で強力な結合とルシフェラーゼ発現をもたらすことが実証されている(図1A図1C)。同様に、C57BL/6マウスに全身投与すると、抗マウスCD4/mRNA-LNPが特異的に蓄積し、該mRNAが脾臓やリンパ節などのT細胞に富む組織において翻訳された(図3および図4A~4C)。さらに、Cre/loxPレポーターシステムを用いてゲノム編集を媒介するT細胞を標的とするmRNA-LNPシステムの能力を機能的に評価した。Cre媒介性遺伝的組換えが、インビボでCD4+ T細胞に誘発された。興味深いことに、非標的mRNA-LNPからのシグナルは、未処理マウスにおいて観察されるように(CD3CD8 細胞中、ZsGreen1細胞が28%)、高用量(30μg/マウス)での脾臓組織とリンパ系組織の両方における非標的mRNA-LNPからのシグナルはゼロでなかった。この観察結果は、一部のT細胞によるApoE受容体の発現に起因する可能性が高い(Sundqvist、2018、Front. Immunol.、9:974;Panezai他、2017、Immunology、152:308-327)。何故なら、LNPはApoEに結合し、典型的には肝臓を標的とするからである(ref.31)。抗CD4/mRNA-LNPの複数回注射によって遺伝子編集される細胞の割合がさらに高められた。in vivo でT細胞を標的とするこの高レベルの遺伝子組換えは、どこにも報告されていない。潜在的な遺伝子編集療法の重要な知見は、静止時でも活性型CD4+ T細胞でも、同様なレベルの遺伝子組換えが観察されたことであった。好結果にターゲティングされたT細胞の存在の経時的な評価は、抗CD4/mRNA-LNPでの処置後一週間にわたって、脾臓においてZsGreenlシグナルの漸次的低下を示した。この傾向は、脾臓におけるT細胞の優勢集団である循環T細胞の寿命を考慮すると予想通りであった(Langeveldら、2006、Journal of Clinical Investigatigation、36:250-256;Bronch.他、2013、Immunity、39:806-818)。しかしながら、リンパ節におけるZsGreenlの発現は、抗CD4/mRNA-LNPで処置した後、7日間の試験時間にわたって変化が最小のままであった。ラットの主要なリンパ腫および非リンパ腫組織における、51Cr標識された胸腺管リンパ球(TDL)の遊走を分析する報告によれば、リンパ球は脾臓よりもリンパ節で滞留時間が長いことが明らかにされた(ref.24)。同様の滞留時間はマウスについても報告された(Mandi他、2012、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、109:18036-18041)。最後に、様々なT細胞サブタイプがターゲティングされる場合に差異があるかどうかを評価した。抗CD4/Cre mRNA-LNPで処置したときに、ナイーブと、記憶と、エフェクター記憶サブタイプとの間で、取り込みおよび組換えに有意な差が全く認められなかった。抗CD4 mRNA-LNPシステムは、T細胞療法にとって重要である、脾臓およびリンパ節などの組織においてCD4 T細胞ターゲティングを可能にする。現在のT細胞ターゲティングプラットフォームは、T細胞を標的とするmRNA送達を可能にすることによって、生体内T細胞の改変をベースとした用途に多くの可能性を有する。特定の細胞型(例えば、とりわけTリンパ球など)への生体内送達は、多くの最近の研究によって証明されている、急激に発展している分野である(Veiga他、2020、Adv Drug Deliv Rev、159:364-376;Mizrahy他、2017、Mol. Ther.、25:1491-1500;Fenton他、2017、Adv. Mater.、29;Ramishetti他、2016、J. Drug Target、24:780-786;Veiga他、2018、Nat. Commun.、9:4493)。抗体で修飾されたLNPは、遺伝子サイレンシング目的でのリンパ球へのsiRNA送達のために使用されている(Ramishetti他、ACS Nano、9:6706-6716)。Ramshetti他は、CD4 Tリンパ球をターゲティングするための抗CD4モノクローナル抗体を用いた表面修飾siRNA搭載LNPを記載している。その著者らは、脾臓から単離されたCD4 T細胞の約30%で遺伝子サイレンシングを観察した。これは、CD4を標的とするCre mRNA-LNPを用いて観察された、ターゲティングされた機能活性のわずか半分である(脾臓におけるCD4 T細胞の約60%)。それらの実験でsiRNA-LNPおよび非二元的な読み出し(non-binary readout)の使用のため、2つのプラットフォームのターゲティング効率の直接比較は単純ではないことに留意されたい。他の脂質やポリマーベースの担体を用いたリンパ球ターゲティングについて、別の試みが行われている。McKinlay他(McKinlay他、2018、Proceedings of the National Academy of Sciences 115、E5859-E5866)は、ハイブリッド脂質ベースの両親媒性電荷を変更する放出可能なトランスポーター(CART)を使用してmRNA送達を行い、マウスにおけるTリンパ球トランスフェクション効率約1.5%を達成する、コンビナトリアル化学アプローチに関して報告を行っている。同様に、Fenton他(Fenton他、2017、Advanced Materials、29:1606944)は、活性なターゲティングリガンドを使用せずに、mRNAをBリンパ球に送達するための特別なLNPデザインを記載している。それらは、LNP製剤ライブラリーの別の非選択性製剤に比較して、B細胞を標的としたLuc mRNA-LNP製剤から、脾臓において増強した発光シグナルを示した。Veiga他(Veiga他、2018、Nature communications、9:4493-4493)は、ASSETプラットフォーム(これはモノクローナル抗体ターゲティングも使用する)を使用して、表面修飾LNP中のmRNAを、炎症性Ly6C+白血球へと送達させた。IL-10をコードするmRNAの送達および発現は、大腸炎モデルにおいて有意な治療効果を示した。いくつかのT細胞は単球、マクロファージおよび好中球と同様、Ly6cを発現しているが、白血球のどの集団がLy6c標的LNPを取り込み、それを発現するのか、またどの程度に取り込み且つ発現するのかは決定されなかった。標的mRNA-LNPプラットフォームは、選択的かつ機能的なCD4+ターゲティングのための、LNPベースのmRNA送達システムの最初の報告である。全体的に、本明細書で提示されるT細胞を標的とするmRNA-LNPプラットフォームは、広範囲のin vivo(生体内)T細胞操作のための計り知れない大きな機会を提供する。リンパ節のようなアクセス困難な組織中のすべてのT細胞サブタイプに到達するためのこのシステムの大きな性能(可能性)は、多くのタイプのin vivo T細胞操作のために利用可能な標的プラットフォームを構築するであろう。応用可能性として、潜在的HIV治癒のためにmRNA治療薬をT細胞に送達することが挙げられる。特に、遺伝子操作されたゲノム編集酵素のターゲティング送達は、感染細胞のゲノムからHIV組込み型プロウイルスを切除することにより、HIVを治療する潜在力を有している(Karpinski他、2016、Nat. Biotechnol.、34:401-409)。加えて、リンパ球の標的指向改変は、ある範囲の癌、感染症および免疫疾患のための速効性でかつ費用効果の高い免疫療法の開発のための多数の用途を有する。
【0547】
実験に使用する材料と方法について以下に説明する。
マウス
C57BL/6Jマウス。同数の雄および雌C57BL/6Jマウスを、Jackson Laboratoriesから購入した。Ai6(RCL-ZsGreen)マウス。C57BL/6J背景上のAi6(RCL-ZsGreen)マウスを、Jackson Laboratoryから購入し(stock no.:007906)、および社内で同型接合繁殖させた。Ai6は、CAGプロモーター指令型の緑色蛍光タンパク質変異体(ZsGreenl)の転写を抑制するloxP隣接STOPカセット(すべてGt(ROSA)26Sor遺伝子座に挿入されている)を有するCreレポーター対立遺伝子である。Cre媒介組換え時に、Ai6マウスはロバストなZsGreenl蛍光を発現する。
【0548】
mRNA産生およびLNP製剤
Creリコンビナーゼまたはホタルルシフェラーゼのコード配列をコドン最適化し、合成し、そしてmRNA産生プラスミド(それぞれpUC-ccTEV-Cre-AlOlおよびpUC-ccTEV-Luc2-A101)中にクローニングした。線形化されたプラスミド上のT7 RNAポリメラーゼ(Megascript、Ambion社)を使用してmRNAを産生した。mRNAは、101ヌクレオチド長のポリ(A)テールを含むように転写された。UTPの代わりにMlΨ(プサイ)-5'-三リン酸(1-メチルプソイドウリジン;TriLink社)を用いて、修飾ヌクレオシド含有mRNAを作製した。in vitro転写されたmRNAのキャップ付けは、トリヌクレオチドcaplアナログである、CleanCap(登録商標)(TriLink社)を用いて、同時転写方式で実施された。mRNAは、記載されているように、セルロース精製により精製した(Baiersdorder他、2019、Mol. Ther. Nucleic Acids、15:26-35)。全てのmRNAを天然アガロースゲル電気泳動により分析し、-20℃で凍結保存した。
【0549】
mlΨ含有mRNAは、pH=4.0のmRNA水溶液をエタノール中に溶かした脂質の溶液と共に迅速に混合する、自己組織化プロセスを使用して、LNPに内包化した(Maier他、2013、Mol. Ther.、21:1570-1578)。この研究で使用されるLNPは、前述したものと組成が同様であり(Maner他、2013、Mol. Ther.、21:1570-1578;Jayarman他、2012、Angew Chem Int Ed Engl、51:8529-8533)、イオン化可能なカチオン性脂質(Acuitas/ホスファチジルコリン/コレステロール/PEG-脂質(50:10:38.5:1.5モル/モル)を含有し、RNAで約0.04(wt/wt)の総脂質比に内包化された。得られたナノ粒子の直径は、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments Ltd、Malvern、UK)装置を用いた動的光散乱法によって測定すると、約80 nmであった。mRNA-LNP製剤を約1 μg/μLのmRNA濃度で-80℃にて保存した。
【0550】
モノクローナル抗体結合脂質ナノ粒子
LNPを、CD4に対して特異的なmAbとコンジュゲート(結合)された、精製NA/LEラット抗マウスCD4(BD PharmingenTM社)、精製ラット抗ヒトCD4抗体、クローンA161A1(BioLegend社)、および対照のアイソタイプ一致IgGを、以前に記載された通り(ref.18)、SATA-マレイミドコンジュゲーション化学によってLNPに結合させた。簡単に言えば、LNPをポストインサーション法によりDSPE-PEG-マレイミドで修飾した。該抗体をSATA(N-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート)(Sigma-Aldrich社)で修飾し、マレイミドへのコンジュゲーションを可能にするスルフヒドリル基を導入した。0.5Mヒドロキシルアミンを使用してSATAを脱保護した後、未反応成分をG-25セファデックス(SephadexTM)Quick Spin Proteinカラム(Roche Applied Science社、インディアナ州インディアナ)によって除去した。次いで、抗体上の反応性スルフヒドリル基を、チオエーテル結合化学を使用してマレイミド部分に結合させた。セファロースCL-4Bゲル濾過カラム(Sigma-Aldrich社)を用いて精製を行った。mRNA含量は、改良Quant-iTTM RiboGreenTM RNAアッセイ(Invitrogen社)を実行することによって算出した。標的脂質ナノ粒子のサイズおよび表面電荷は、それぞれ、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、英国ウースターシャー)上での動的光散乱(DLS)およびレーザドップラー速度計測(LDV)を使用して決定された。サイズおよびゼータ電位測定は共に、適切な使い捨てキャピラリーセル中で、PBS pH 7中25℃において実施した。173°の散乱角を有する非侵襲的後方散乱システム(NIBS)をサイズ測定に使用した。未結合のmRNA-LNPおよび抗体修飾mRNA-LNPの直径は、正規化した強度サイズ分布並びに粒子製剤についてのz平均値として解釈された。
【0551】
in vitro細胞結合研究
放射能測定を用いた細胞結合研究のために、LNPをまず、以前に記載されたとおりに、ヨウ素化ビーズ(Pierce社製)を使用してNal25Iにより放射性標識した(Khoshnejad他、2016、Bioconjug. Chem.、27:628-637)。次いで、ヒトCD4+ T細胞を、抗CD4/mRNA-LNPまたは対照IgG/mRNA-LNPのいずれかの量を増加させながら室温で1時間インキュベートした。次いでインキュベーション培地を除去し、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、未結合ナノ粒子を細胞表面から除去した。次いで細胞を1N NaOH中1%Triton X100で溶解させ、細胞関連の放射能をWallac 1470 Wizardガンマカウンター(米国メリーランド州ゲイサーズバーク)によって測定し、加算した総活性と比較した。
【0552】
フローサイトメトリーを使用した細胞結合研究のために、ヒトCD4+ T細胞を24ウェルプレートにおいてウェルあたり150,000細胞に播種した。ポリ(C)RNAを担持したLNPを、ウェル当たり漸増するmRNA量で培地に添加し、細胞を室温で1時間インキュベートした。インキュベーション培地を除去し、細胞をPBS緩衝液で3回洗浄し、未結合ナノ粒子を細胞表面から除去した。FITCタグ付き抗ラットIgG(Abcam社、英国ケンブリッジ)を使用して、BD LSR IIフローサイトメーター上で、抗体コンジュゲートLNPの細胞結合をモニターした。
【0553】
インビトロ細胞トランスフェクション研究
ホタルルシフェラーゼmRNAを用いた細胞のトランスフェクション研究のために、ヒトCD4+ T細胞を48ウェルプレートに塗抹した。18時間後、LNPを担持したレポータールシフェラーゼmRNAを、漸増する濃度で細胞に添加し、1.5時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSで3回洗浄し、完全培地を細胞に添加した。完全培地で24時間培養した後、細胞をPBSで洗浄し、ルシフェラーゼ細胞培養溶解試薬(Promega製、ウィスコンシン州マディソン)中に溶解させ、ルシフェラーゼ酵素活性を発光として測定した(ルシフェラーゼアッセイシステム、Promega製)(ref.18)。トランスフェクションは3重複製で行った。CreリコンビナーゼmRNAを用いた細胞のトランスフェクション研究のために、2匹のAi6マウスから脾臓を採取し、プールしたシングルセル懸濁液を作製した。次いで、2百万個の脾細胞を6ウェルプレートの各ウェル中に播種した。細胞を1、3、6または9μgのCD4標的または非標的(未結合または対照IgG結合)Cre mRNA-LNPと共に一晩インキュベートした。次いで、細胞を、Live/Dead Aqua(ThermoFisher Sci.社、L34966)とCD3およびCD8に対する抗体(およびCD4、これは以後の実験から省略された)で染色し、そしてZsGreenlを発現しているCD3CD8細胞の百分率を、フローサイトメトリーを用いて決定した。
【0554】
C57BL/6Jマウスにおける抗CD4/mRNA-LNPの生体分布;組織取り込み
125Iで放射性標識されたmRNA-LNPを、C57BL/6マウス(Jackson Laboratory、米国メーン州バーハーバー)にIV(後眼窩)注射により投与した。注射後0.5、1、24時間目に、下大動脈から採血した。特定の臓器(肝臓、脾臓、肺、腎臓および心臓)も同じ時点で採取し、生理食塩水ですすぎ、ブロット乾燥し、秤量した。各臓器における放射能の量および100μLの血液サンプルをガンマカウンター(Wallac 1470 Wizardガンマカウンター、、メリーランド州ゲイサーズバーグ)上で測定した。1グラム組織あたりの%注入線量(%ID/g)としての組織取り込み、および臓器対血液の比としての局在率(LR)を、サンプルの放射能値と重量を用いて算出した。免疫特異性指数(ISI)もまた、CD4標的mRNA-LNPのLRと対照IgG修飾体のLRの比として計算した。
【0555】
C57BL/6Jマウスにおける抗CD4/mRNA-LNPの生体分布;組織および細胞レベルでのルシフェラーゼmRNAの翻訳
C57BL/6Jマウスに、抗CD4/mRNA-LNPまたは対照IgG/mRNA-LNP製剤をIV(後眼窩)注射した。注射後5時間目に、動物を安楽死させ、特定の臓器(肝臓、脾臓、肺、腎臓および心臓)を採取し、PBSでリンスし、分析まで-80℃で保存した。解凍したとき、組織試料を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(1×)を含有する細胞溶解緩衝液(1×)(Promega Corp、ウィスコンシン州マディソン)の適当容量でホモジナイズし、4℃で1時間緩やかに混合した。次いで、ホモジネートをドライアイス/37℃での凍結/解凍サイクルにかけ、4℃で16,000×gにて10分間遠心分離した。次いで上清中のルシフェラーゼ活性を、Victor 3TM(商標)1420マルチラベルプレートカウンター(Perkin Elmer社、米国マサチューセッツ州ウェルズリー)を使用して測定した。さらに、CD3 細胞集団におけるmRNA発現を評価した。CD3 細胞を、製造業者の教示に基づいて、MagniSortTM(商標)マウスCD3+ 選択キット(ThermoFisher Scientific社、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて注射後のマウスの脾臓またはリンパ節から単離した。簡潔に言えば、ビオチン化抗マウスCD3抗体およびストレプトアビジン被覆磁気ビーズを、CD3 細胞分離に利用した。CD3 細胞を抗体に結合させ、次いで磁気ビーズに結合させた。磁場中に配置すると、望ましくない細胞は、デカントによりCD3細胞から分離された。CD3が富化された細胞集団の細胞溶解物に対してルシフェラーゼ活性測定を行った。
【0556】
生物発光イメージング
C57BL/6Jマウスに、抗CD4/mRNA-LNPまたは対照IgG/mRNA-LNP製剤をIV(後眼窩)注射した。注射後5時間目に、IVISスペクトルイメージングシステム(Caliper Life Sciences社、米国マサチューセッツ州ウォルタム)を使って以前に記載された通り(18)、生物発光イメージングを実施した。マウスにD-ルシフェリンを150 mg/kgの用量で腹腔内投与した。5分後、マウスを安楽死させ、所望の組織を採取し、直ちにイメージングプラットフォーム上に配置した。得られたシグナルが動作検出範囲内であったことを確証するために、5秒以上の露光時間を用いて、IVISイメージングシステム上で組織の発光を測定した。生物発光値は、Caliper社によって提供されたLivingImage(商標)ソフトウェアを使用して、関心領域内の光子束(光子/秒)を測定することによっても定量した。
【0557】
Cre/loxPレポーターシステムを用いた抗CD4/mRNA-LNPのターゲティング効率の決定
脾臓およびリンパ節内の標的細胞集団への送達効率を分析するために、mRNA翻訳をシングルセル解析で追跡した。CreリコンビナーゼmRNAを含む標的指向性および非標的指向性LNPを、緑色蛍光タンパク質変異体(ZsGreenl)の転写を防止するloxP-隣接STOPカセットを有するCreレポーター対立遺伝子を担持しているAi6マウスに、IV(後眼窩)注射した。Creリコンビナーゼは、loxP隣接STOPカセットを切除するので、ZsGreenlの転写を可能にする。注射後の所望の時点で動物を安楽死させ、脾臓とリンパ節を収得した。臓器のシングルセル懸濁液中の、緑色蛍光シグナルを放出するCD3+CD8-細胞の数をフローサイトメトリーを用いて評価した。
【0558】
シングルセル懸濁液の調製およびフローサイトメトリー
シングルセル懸濁液を脾臓およびリンパ節から調製した。簡潔に言えば、顕微鏡スライドガラスのすりガラス端を使用して組織を粉砕し、次いで70μmフィルターを通過させた。遠心分離と上清の除去に続いて、細胞ペレットをRPMI+10%FBS培地に再懸濁し、まず最初にLive/Dead Aqua細胞染色剤(Thermo Fisher Sci.製、カタログ番号L34957)で染色し、次いで抗マウス抗体の混合物で染色した(図11)。染色されたシングルセル集団を、BD LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences社)上で特徴付けた。500,000事象を1サンプルごとに採取した。Live/Dead Aqua用にはArCTM(商標)アミン反応性ビーズ(Thermo Fisher Sci.社)を用いて、全抗体についてはCompbead抗ラットおよび抗ハムスターIgκ/陰性対照補償用粒子セット(BD Biosciences社)を用いて、ZsGreen1についてはGFP BrightComp eBeads(商標)(ThermoFisher Sci.、カタログ番号A10514)を用いて、多色フローの補償を実施した。データをFlowJTMソフトウェア(Ashland、米国オレゴン州)で解析した。これらの実験で使用される材料および方法についてここで説明する。
【0559】
実験の結果について記載する。
mRNA-LNPはin vitroでCD4+ T細胞をターゲティングする
T細胞は本来、ナノ粒子を貧食(エンドサイトーシス)しないことを鑑みて、mAb結合後に貧食するCD4 T細胞表面抗原をまず最初に探索した。CD4 T細胞を標的とする送達を達成するために、CD4を標的とする受容体媒介性貧食作用を選択した(ref.19)。CD4受容体ターゲティング法は、ナノ粒子が結合することで取込みおよび内在化を果たし得ることも示されている(ref.20,21)。標的mRNA-LNPの結合容量を、最初に、健常提供者(ドナー)から得られたヒトCD4 T細胞で評価した。抗CD4 IgG抗体(抗CD4/mRNA-LNP)または非特異的アイソタイプ対照IgG(対照IgG/mRNA-LNP)を、mRNA-LNPにコンジュゲートした。図1Aに示すように、放射性標識抗CD4/mRNA-LNPはヒトCD4 T細胞に選択的に結合したが、一方で対照IgG相当物は結合しなかった。CD4 T細胞に対する選択的ターゲティングも、フローサイトメトリーを使用して確認された(図1B図1C)。ヒトCD4 T細胞を抗CD4/ポリ(C)RNA-LNPまたは対照IgG/ポリ(C)RNA-LNPのいずれかと共にインキュベートし、FITCタグ付き抗ラットIgGを用いて、抗体コンジュゲート型LNPの細胞への結合をモニターした。抗CD4/ポリ(C)RNA-LNPの用量応答性結合が観察された。標的mRNA-LNPの内在化および機能活性(mRNAの翻訳)を決定するために、ホタルルシフェラーゼ(Luc)をコードするmRNAを担持した抗CD4抗体または対照IgGコンジュゲート型LNPを、ヒトCD4+ T細胞と共にインキュベートした。抗CD4/mRNA-LNP中のmRNAの効率的な翻訳を、対照IgG/mRNA-LNPと比較して確かめた。より高用量のLuc mRNA-LNPとCD4+ T細胞とのインキュベーションは、より高いLuc活性をもたらすので、用量応答性の相関関係があることを示した(図1C)。
【0560】
シングルセル(1細胞)レベルでのターゲティング効率を直接評価し、遺伝子編集目的の標的指向化プラットフォームを探索するために、脾細胞を、Ai6マウス(Cre媒介により組換えると、ロバストなZsGreen1蛍光を発現する、loxP-隣接STOPカセットを有するCreレポーター対立遺伝子を担持しているマウス)から採取し、標的指向または非標的指向(未コンジュゲートまたは対照IgGコンジュゲート)Cre mRNA-LNPの様々な量で処理した。次いで、細胞を回収し、CD3およびCD8に対する抗体で染色し(抗体は図11に列挙されている)、フローサイトメトリーによって分析した。CD3CD8集団のうちZsGreenl陽性細胞を識別するゲーティング戦略を図2Bに示す。対応するZsGreenl陽性細胞のゲーティング戦略を図2Aに示す。CD3CD8染色は、抗CD4抗体コンジュゲート型ナノ粒子の投与によるCD4の一過性消失のため、直接CD4染色の代わりにCD4 T細胞を識別するのに使用した(図3)。非標的LNPを使用したとき、非常に低い割合のCD3CD8 細胞が正のZsGreen1シグナルを示したのに対し、最小量のmRNA-LNPを投与した場合でも、抗CD4抗体コンジュゲート型LNPで送達されたときには、この細胞集団の約80%がCre mRNAを取り込んで翻訳した。Cre媒介組換え後にロバストなtdTomato蛍光を発現するAi9マウスから採取した脾細胞においても、同じ実験を行った結果、同様の結果が得られた。これは、in vitroにおいてCD4+ T細胞を効率的にトランスフェクトする、抗CD4/mRNA-LNPのターゲティング能力を証明する。
【0561】
抗CD4/mRNA-LNPはin vivoでCD4+ T細胞を標的する
次に、マウスにおける抗CD4/mRNA-LNPの生体内分布を、後眼窩静脈内(IV)投与後に分析した。抗マウスCD4または対照IgGとのコンジュゲーション(結合)前に、LNPを125Iで直接標識した。従って、測定された放射能は、結果に影響を及ぼす任意の分解したターゲティング抗体を含まない粒子の分布のみを示していた。組織への取り込みを測定するために、様々な組織中の放射能の量(組織1グラム当たりの注入線量の%、すなわち%ID/g)を計算した。予想通り、対照IgG/mRNA-LNP粒子のかなりの量が、注射後0.5時間(h)でもまだ血液中に循環していた(19.35±2.2%ID/g)。これは、対照IgG LNPの肝臓ターゲティングの減少を伴う、生体内分布の有意な変化を表している(図4A)。抗CD4/mRNA-LNPについては、より少ない量の粒子が循環していた(10.84±0.42%ID/g)。抗CD4/mRNA-LNP取り込みの大部分は、脾臓で生じ(131.59±9.71%ID/g)、対照IgG/mRNA-LNP(37.6±8.67%ID/g)と比較して、脾臓取り込みの3.5倍増加を表している。血液中の値に対する所与の臓器の%ID/gの比として定義される局在化率(LR)も、CD4を標的とするmRNA-LNPと対照IgG/mRNA-LNPとの両方について算出した。網内系の一部である脾臓は、未標的のmRNA-LNPで観察される、非特異的な脾臓取り込みに寄与する。抗CD4/mRNA-LNPは、それらの対照IgG相当物よりも6倍高いレベルで脾臓に局在化していた(図4B図5A)。抗CD4/mRNA-LNPのin vivo組織取り込みの動態(カイネティクス)を更に探索し、定量するために、標的指向および非標的指向125I標識ポリ(C)RNA-LNPをマウスにIV注射した。注射後0.5、1および24時間目に動物の群を犠牲にし、選択された組織(血液、脾臓、肝臓、肺、腎臓)を採取した。標的mRNA-LNPの最高循環量は、試験した最も早い時点において血中10.84±0.42%ID/gであった(図4C)。それ以降の時点では、血中の標的粒子の濃度は、1時間および24時間目に、それぞれ6.86±1.34および0.51±0.07の%ID/gへと急速に降下した。標的粒子の特定の脾臓取り込みは、注射後0.5時間目にピークとなり(131.59±9.71%ID/g)(図4C)、そして局在化率は時間と共に増加し、試験した最後の時点である24時間目には61.15に達した(図4D)。
【0562】
標的指向LNP中のmRNAは、in vivoでCD4+ T細胞に効率的に送達される
次いで、Luc mRNA-LNPのIV投与後のmRNA翻訳を分析した。対照のIgG/Luc mRNA-LNPおよび抗CD4/Luc mRNA-LNPを最初に8μg(0.32 mg/kg)のmRNA用量で投与した。注射5時間後、様々な臓器を採取し、ルシフェラーゼ活性を組織溶解物から測定するか、または臓器全体の直接発光イメージングによって検出した(図6A図6C)。CD4を標的とした肝臓では発光シグナルが有意に減少したので、Luc発現パターンは、抗CD4/Luc mRNA-LNP処置および対照IgG/Luc mRNA-LNP処置マウスの間で顕著な相違を示した。最も重要なことには、抗CD4/Luc-mRNA-LNPの場合のLuc活性は、脾臓における対照IgG修飾mRNA-LNPと比較して、約7倍高かった(図6Aおよび図6B)。脾臓、腎臓、肺、心臓、および肝臓(肝臓は未結合および抗体結合LNPの高い取り込みを示す)を除去した後、抗CD4/Luc mRNA-LNP処置マウスにおいて、リンパ節のルシフェラーゼ発現が観察された(図6C)。これは、標的LNPが内皮膜を横断し、リンパ節などの組織内の細胞に機能的にアクセスできることを示す。mRNAが特異的にT細胞集団に送達されたことを実証するために、CD3 T細胞を、上記のように処置したマウスの脾臓から単離した(CD4選択が実施できなかったため)。抗CD4/Luc mRNA-LNP投与後のCD3集団のLuc活性は、対照IgG/Luc mRNA-LNP処置サンプルよりも33倍高かった。Luc活性がT細胞に濃縮されていることから(図6D)、CD4+ T細胞は、標的指向ナノ粒子のIV送達後に特異的かつ効率的にターゲティングされていると結論づけた。
【0563】
ALC-0307 LNP以外のLNP製剤を用いた、CD4を標的としたmRNPプラットフォームのターゲティング効率を確かめるために、最近米国食品医薬品局(FDA)に承認されたファイザー/BioNTech社製COVIDワクチン中のLNP製剤である、イオン性脂質0315(ALC-0315 LNP)(Thran他、2017、EMBO Mol. Med. 9、1434-1447;WO2017/075531A1)を含有するAcuitas LNP製剤に関して、同じ抗体コンジュゲーション戦略を適用した。このLNP製剤中の成分のリストは、((4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート)またはALC-0315イオン化性脂質、2-[(ポリエチレングリコール)2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、およびコレステロールを含有する。抗CD4標的Luc mRNA-ALC-0315 LNPの注射後5時間目に、CD4を標的とするALC-0307 LNPに非常によく似たLuc発現パターン(すなわち、脾臓での高い発光シグナルと、肝臓での低いシグナル)が、対照IgG相当物と比較して観察された。これらのデータは、ALC-0315 LNPなどの他のLNP製剤のCD4ターゲティングを用いて、同様なターゲティング効率が達成されることを証明している。
【0564】
CD4を標的とするCre mRNA-LNPは、in vivoでCD4+ T細胞における遺伝子組み換えを果たす
標的mRNA療法の1つの活用は、遺伝子編集と遺伝子挿入である。CD4を標的とするLNPを使ったmRNAの送達の効率を、細胞レベルでin vivo遺伝子修飾について評価するために、Cre-mRNA-LNPをAi6マウスに投与した(図7A)。これらのマウスにおいて、蛍光タンパク質ZsGreenlをコードするレポーター遺伝子のCre/loxP媒介発現により、フローサイトメトリーを使用して、好結果にトランスフェクトされてLoxPが組換えられた標的細胞を容易に読み出すことが可能になる(図7Bおよび図7C)。広範囲の用量(3、10、30、90μg)を試験した。マウスをIV注射し、次いで、脾臓およびリンパ節を翌日に採取し、各組織からシングルセル懸濁液を調製した。CD3およびCD8に対する抗体を使用して、フローサイトメトリー用に細胞を染色し、CD4+ T細胞を識別した(図11)。未処置動物ではシグナルは観察されず、レポーター構築物の漏出がないことを示している。対照IgG/Cre mRNA-LNPの投与は、検査した組織、すなわち脾臓(図7B)およびリンパ節(図7C)の両方で、使用したmRNA用量の範囲にわたって、レベルが類似している低効率のトランスフェクションを引き起こした(図7C)。予想どおり、対照IgGおよび未結合mRNA-LNP相当物(図7Bおよび図7C)と比較した場合、すべての試験したmRNA用量において、抗CD4/Cre mRNP処置により、ZsGreenlを発現している細胞数の有意な増加が観察された。未結合mRNA-LNPで処置したマウスにおいて、用量を30μgに増加させた場合、mRNA送達およびその後のCre/loxP組換えの実質的な増加が観察された(CD3CD8 細胞集団中のZsGreenl+ 細胞が20%以下)。これは、おそらくすべての試験用量で標的mRNA-LNPを使用した場合に観察される、強力な応答よりまだ十分低く、これは一部のT細胞によるApoEの発現のためであるようだ(Sunqvist、2018、Front Immunol.、9:974;Panezai他、2017、Immunol、9:974;Panezai他、2017、Immunology 152、308-327)。抗CD4/Cre mRNA-LNPの90μg投与は、さらに高い割合のZsGreenl CD4 T細胞をもたらしたが、この量のLNPは、すべての処置群(未コンジュゲート型と対照IgGコンジュゲート型の両方での、CD4+を標的とするLNP処置)において毒性であることが判明し、従って、それ以降の実験からその用量を除外した。未標的LNPの対照に対比した選択的CD4ターゲティングは、マクロファージおよび樹状細胞におけるナノ粒子の取り込みを増加させなかった(図8)。これはおそらくナノ粒子の広範な自然貪食作用による取り込みによるものであろう。一方、CD4+ T細胞では、未標的の対照mRNA-LNPと比較して標的mRNA-LNP取り込みに有意な増加が認められる。樹状細胞およびマクロファージのような非T細胞型脾細胞におけるZsGreenl発現細胞の数は、本研究における用量の範囲の中では差はなかった(図8)。
【0565】
CD4を標的とするALC-0315LNPを用いて同様の実験を行った。Cre mRNAを担持しているこれらの標的指向LNPをAi6マウスにi.v.(静脈内)注射したとき、CD4を標的とするALC-0307 LNP-Cre mRNAに匹敵するターゲティング効率が観察された(抗CD4/ALC-0315 LNP-Cre mRNAで処置したマウスにおける、ZsGreenl発現細胞の数が、対照IgG相当物と比較して増加した)。
【0566】
抗CD4/mRNA-LNPを用いたCD4+ T細胞ターゲティングは、T細胞サブタイプ特異的ではない
次に、標的指向LNPの取り込みが、ある特定のT細胞サブタイプに選好されるかどうかを調べた。Cre mRNA-LNPの10μgの単回IV投与後7日目に、脾臓を採取し、シングルセル懸濁液をCD3、CD8、CD44およびCD62Lに対する抗体で染色し、ナイーブ、記憶、およびエフェクター記憶T細胞の亜集団を識別した。CD4を標的とするmRNA-LNPが、試験した任意の特定のCD4+ T細胞亜集団:CD4+ナイーブT細胞(CD44CD62L)、中央記憶T細胞(CD44CD62L)、およびエフェクター記憶T細胞(CD44CD62L)、により取り込まれて発現されることに、全く有意な選好は認められなかった(図9A)。生体内のT細胞の大部分は活性化されない。Cre mRNA-LNPを受容するCD4+ T細胞について、T細胞活性化マーカー(CD25)の発現を分析した。特に、CD4を標的とするmRNA-LNPは、活性化型(CD25+)CD4+ T細胞の約40%に比較して、静止型(CD25-)CD4+ T細胞の約57%で、Cre組換えを誘導した(図9B)。この結果は、静止型CD4+ T細胞における効率的ターゲティング、トランスフェクションおよび遺伝子組み換えを実証している。
【0567】
組換え細胞は、脾臓におけるCD4標的送達後に経時的に減少する
ZsGreenlの発現を、10μgのCre mRNA LNPの単回IV投与後7日間にわたり追跡した。脾臓およびリンパ節を注射後1日目、4日目または7日目に採取し、シングルセル調製物を上記のとおりフローサイトメトリー分析用に染色した。抗CD4/Cre mRNA-LNPの10μg投与後4日目に、ZsGreenlを発現している脾臓CD4+ T細胞の数が、有意に減少した(1日目の約50%から4日目の約32%に減少)。しかしながら、試験した最後の時点(7日目)では、ほぼ26%の類似レベルを維持しており、IgGおよび未コンジュゲート型相当物で観察された値をまだ有意に上回っていた(図7D)。血液および脾臓は、一過性再循環T細胞の部位であり、このデータはそのことを反映している(Ganusov他、2014、PLoS Comput Biol.、10:el003586;Mandl他、2012、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、109:18036-18041)。全ての処置について、ZsGreenlの発現は、リンパ節から抽出されたT細胞で7日間にわたって有意に変化しなかった(図7E)。このことは、リンパ節におけるT細胞のより長い滞留時間を反映している(Ganusov他、2014、PDoS Comput Biol、10:el003586;Mandl他、2012、Proc Natl Acad Sci USA、109:18036-18041)。
【0568】
in vivo標的指向mRNA-LNPで誘発される特異的遺伝子組換えは、付加効果を示す
標的指向性mRNA送達の潜在的な付加効果を、mRNA-LNPの連続投与によって試験した(図10Aおよび図10B)。マウスは、10μg用量のCre mRNA-LNPの3回または5回のIV注射を、24時間ごとに1回の割合で受けた。脾臓およびリンパ節を最後の注射の翌日に採取した。5回の注射は、3回の注射と比較して、有意に高い数量のZsGreen1+細胞をもたらした。興味深いことに、ZsGreenlを発現するCD4+ T細胞数の定常的な増加が、対照IgG/mRNA-LNPと未コンジュゲート型mRNA LNPの両方について観察された。しかしながら、未コンジュゲート群における28%まで増加した発現は、試験したいずれの注射回数においても、抗CD4/mRNA-LNP群よりもまだ比較的低かった。全体的に、標的mRNA-LNPの連続投与は、脾臓およびリンパ節の両方において、注射回数が増加すると増加したCre誘発遺伝子組換えをもたらした。
【0569】
本明細書で引用されたあらゆる特許、特許出願および刊行物の開示は、その全体を参照することによって本明細書に組み込まれる。本発明は、特定の実施形態を参照して開示されているが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の実施形態および変形が当業者により案出され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような実施形態および同等の変更を含むと解釈されるべきである。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
【配列表】
2023545479000001.app
【国際調査報告】