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特表2023-545491ナチュラルキラー細胞受容体の阻害のための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】ナチュラルキラー細胞受容体の阻害のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231023BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231023BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20231023BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231023BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/40
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P37/06
A61P31/12
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
A61K35/17
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522916
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 US2021055185
(87)【国際公開番号】W WO2022081975
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/092,273
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ケナン クリストファー ガーシア
(72)【発明者】
【氏名】チュンミン レン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB42
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087MA13
4C087MA17
4C087MA21
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA52
4C087MA56
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB33
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、一般に、ナチュラルキラー細胞受容体(NKR)分子の空間的近傍に膜ホスファターゼをシスで特異的に動員することによって、細胞表面受容体シグナル伝達を調節する組成物及び方法に関する。より詳細には、本開示は、NKRに特異的に結合し、NKRの細胞内ドメインを脱リン酸化するホスファターゼ活性の動員を通じてNKR媒介シグナル伝達に拮抗する新規多価タンパク質結合性分子を提供する。また、このような分子を製造するのに有用な組成物及び方法、並びにNKRによって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態の治療のための方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化機構を介してシグナル伝達するNK細胞受容体(NKR)に結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む第1のアミノ酸配列と、
前記NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合できる第2のポリペプチドモジュールを含む第2のアミノ酸配列と、
を含む、多価ポリペプチド。
【請求項2】
前記免疫細胞が、ナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞である、請求項1に記載の多価ポリペプチド。
【請求項3】
前記免疫細胞が、NK細胞である、請求項1又は2に記載の多価ポリペプチド。
【請求項4】
前記免疫細胞が、T細胞である、請求項1又は2に記載の多価ポリペプチド。
【請求項5】
前記T細胞が、CD8T細胞である、請求項4に記載の多価ポリペプチド。
【請求項6】
前記1つ以上のRPTPが、CD45、CD148、又はこれらのいずれかの機能的変異体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項7】
前記NKRが、抑制性NKRである、請求項1~6のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項8】
前記抑制性NKRが、キラー免疫グロブリン受容体KIR2DL、KIR3DL、NKG2A、NKG2B、NKG2E、NKG2F、NKp44、NKp30c、CD160、LAIR1、TIM-3、CD96、CEACAM1(CEACAM5)、KLRG-1及びTIGITからなる群から選択される、請求項7に記載の多価ポリペプチド。
【請求項9】
前記NKRが、活性化NKRである、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項10】
前記活性化NKRが、NKp30a、NKp30b、NKp44、NKp46、NKG2D、NKG2C、KIR2DS、KIR3DS、KIR3DL4、DNAM-1、CD16、及びCD161からなる群から選択される、請求項9に記載の多価ポリペプチド。
【請求項11】
前記第1及び前記第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のアミノ酸配列を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項12】
前記抗原結合部分が、単鎖可変フラグメント(scFv)、抗原結合フラグメント(Fab)、ナノボディ、Vドメイン、Vドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHドメイン、二重特異性抗体、又はこれらのいずれかの機能的フラグメントからなる群から選択される、請求項11に記載の多価のポリペプチド。
【請求項13】
前記タンパク質結合リガンドが、NKRの天然リガンドの細胞外ドメイン(ECD)、細胞表面受容体のECD、若しくはRPTPのECD、又はこれらのいずれかの機能的変異体を含む、請求項11に記載の多価ポリペプチド。
【請求項14】
前記タンパク質結合リガンドが、MHC-I分子(HLA)の1つ以上のECD、又はその機能的変異体を含む、請求項13に記載の多価のポリペプチド。
【請求項15】
前記第1のポリペプチドモジュールが、ポリペプチドリンカー配列を介して前記第2のポリペプチドモジュールに作動可能に結合される、請求項1~14のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項16】
前記多価ポリペプチドが、Fc領域を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項17】
前記Fc領域が、ポリペプチドリンカー配列を介して前記多価ポリペプチドに作動可能に結合される、請求項16に記載の多価ポリペプチド。
【請求項18】
CD8T細胞上に発現する抗原に結合できる第3のポリペプチドモジュールを含む第3のアミノ酸配列を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項19】
前記多価ポリペプチドが、
(a)(i)MHC-I分子のECD、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、
(b)(i)KIR2DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、
(c)(i)NKG2A scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、
(d)(i)KIR3DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、又は
(e)(i)Ly49C/I scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、
を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項20】
前記多価ポリペプチドが、Fc領域を更に含む、請求項19に記載の多価ポリペプチド。
【請求項21】
前記多価ポリペプチドが、SEQ ID NO:1、2、32、34、36、38、40、42、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、組換え核酸分子。
【請求項23】
前記ヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:5、6からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項22に記載の組換え核酸分子。
【請求項24】
(a)請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、及び/又は
(b)請求項22又は23に記載の組換え核酸分子、
を含む、組換え細胞。
【請求項25】
前記組換え細胞が、免疫細胞である、請求項24に記載の組換え細胞。
【請求項26】
前記免疫細胞が、NKRを発現する、請求項25に記載の組換え細胞。
【請求項27】
前記免疫細胞が、NK細胞又はT細胞である、請求項25又は26に記載の組換え細胞。
【請求項28】
前記T細胞が、NK細胞である、請求項27に記載の組換え細胞。
【請求項29】
前記T細胞が、CD8T細胞である、請求項27に記載の組換え細胞。
【請求項30】
薬学的に許容される賦形剤、並びに
a)請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、
b)請求項22又は23に記載の組換え核酸分子、及び/又は
c)請求項24~29のいずれか一項に記載の組換え細胞、
を含む、医薬組成物。
【請求項31】
対象においてNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するための方法であって、前記方法が、
(a)請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、
(b)請求項22又は23に記載の組換え核酸分子、
(c)請求項24~29のいずれか一項に記載の組換え細胞、及び/又は
(d)請求項30に記載の医薬組成物、
を含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項32】
治療を必要とする対象における健康状態を治療するための方法であって、前記方法が、
(a)請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、
(b)請求項22又は23に記載の組換え核酸分子、
(c)請求項24~29のいずれか一項に記載の組換え細胞、及び/又は
(d)請求項30に記載の医薬組成物、
を含む組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項33】
前記投与された組成物が、前記RPTP活性をNKRの空間的近接に動員し、NKRの脱リン酸化を増強し、及び/又はNKR媒介シグナルを低減する、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
前記投与された組成物が、標的細胞のNK細胞による殺傷の増強を与える、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記対象が、ナチュラルキラー細胞受容体に関連する健康状態を有するか、又は有すると疑われる、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記健康状態が、がん、自己免疫疾患、又はウイルス感染症である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が、前記対象に個別に(単剤療法)、又は第2の療法と組み合わせた第1の療法として投与される、請求項32~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の療法が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、又は手術からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第2の療法が、抗NKR拮抗抗体を含む、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
対象においてNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するための、又は治療を必要とする対象において健康状態を治療するためのキットであって、前記キットが、その使用説明書、及び1つ以上の
(a)請求項1~21のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド、
(b)請求項22又は23に記載の組換え核酸分子、及び/又は
(c)請求項24~29のいずれか一項に記載の組換え細胞、及び
(d)請求項30に記載の医薬組成物、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)によって授与された契約CA177684の下、政府の支援を受けて行われたものである。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0002】
本出願は、2020年10月15日に出願された米国仮特許出願第63/092,273号の優先権を主張し、その開示は、任意の図面を含め、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本出願は、配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。添付の配列表テキストファイルは、「Sequence Listing_078430-526001WO_SequenceListing_ST25.txt」という名前で、2021年10月5日に作成され、89KBである。
【0004】
本開示は、一般に、免疫治療薬の分野に関し、特に、ナチュラルキラー細胞受容体(NKR)分子を特異的に結合し、ホスファターゼ活性の動員を通じてNKR媒介シグナル伝達に拮抗するように設計された多価タンパク質結合分子に関する。本開示はまた、NKRによって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態の治療に有用な組成物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0005】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、30年超にわたって、がんの免疫療法に大きな期待を寄せてきた。しかしながら、今日まで、悪性疾患を有する患者におけるNK細胞コンパートメントを操作することで、わずかな臨床的成功しか達成されていない。これは、NK細胞が活性化又は阻害シグナルを開始する役割を担う複数の受容体を発現しているためである。健康な組織に対して寛容であり、同時に感染細胞を攻撃するために、NK細胞の活性は、生殖細胞にコードされた活性化及び抑制するNK細胞受容体(NKR)の高度な配列によって厳密に制御されている。
【0006】
近年、NKRの分野では、NK細胞が正常細胞を温存しながら、どのように腫瘍やウイルス感染細胞を選択的に認識したり溶解したりするのかを解明する上で役立つ、大きな進展があった。NK細胞による標的細胞の溶解を阻害したり活性化したりする細胞表面受容体の主要なファミリーが特徴付けられてきた。さらに、NK受容体のリガンド及び正常細胞及び形質転換細胞におけるそれらの発現の同定は、受容体/リガンド相互作用を操作して臨床的利益を得るための合理的な臨床的対応の開発を促進する情報を完成させる。
【0007】
NKR媒介細胞シグナルを標的化することは、自然免疫応答及び適応免疫応答の両方を促進することにより、抗がん免疫力を高める新規治療方法を提示する。例えば、現在、NKRの拮抗については、例えばNKRの細胞外ドメイン(ECD)に向けられた拮抗抗体の使用により、NKRのECD間のリガンド結合を遮断することが、最も一般的な戦略である。このシナリオでは、遮断分子(例えば、アンタゴニスト抗体)は、NKRのECDへの結合について天然リガンドと競合することによって機能する。しかしながら、これらの遮断抗体は、多くの患者において効果がなく、リン酸化機構を介してシグナル伝達するNKRの基底細胞内シグナル伝達活性(静止細胞内シグナル伝達活性とも呼ばれる)を排除することができないことが報告されている。このように基底シグナル伝達活性を除去できないために、ECDリガンド遮断戦略の有効性が制限されることが多い。したがって、静止シグナルとリガンド活性化シグナルの両方を減少又は除去する、ECDリガンド遮断機構以外の代替機構により、NKRの細胞内シグナル伝達を直接的に減少又は除去する新しい方法が必要である。
【0008】
したがって、がん及び別の免疫疾患の免疫療法のための既存の治療標準を補完するために、抗体又は別の薬剤による直接的なNKRリガンド遮断以外の代替方法に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、一般に、多価ポリペプチド、多価抗体などの免疫治療薬、及び、目的の細胞表面受容体によって媒介される細胞シグナル伝達の阻害に関連するものなど、様々な健康状態の治療に使用するための免疫治療薬を含む医薬組成物に関する。特に、以下により詳細に説明するように、本開示の幾つかの実施形態は、例えば、多価タンパク質結合剤を使用した直接のライゲーションにより、膜ホスファターゼをNKRの空間的近傍に特異的に動員することを通じて、1つ以上のNK細胞受容体(NKR)により媒介される細胞シグナルを調節する組成物及び方法を提供する。より詳細には、本開示は、1つ以上のNKRに特異的に結合し、それによってホスファターゼ活性の動員を通じてNKR媒介シグナル伝達を完全に又は部分的に拮抗する新規多価タンパク質結合分子を提供する。「ホスファターゼの動員による受容体阻害」(RIPR)と呼ばれるこの手法は、例えば、WO2019/222547A1において以前に記載されていた。幾つかの特定の実施形態では、本開示の多価タンパク質結合分子は、多価ポリペプチドである。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、多価抗体である。本開示はまた、このような多価ポリペプチドを製造するのに有用な組成物及び方法、並びにNKRによって媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する健康状態の治療のための方法を提供する。
【0010】
1つの態様では、本明細書で提供されるのは、(a)リン酸化機構を介して合図するNK細胞受容体(NKR)に結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む第1のアミノ酸配列と、(b)NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合できる第2のポリペプチドモジュールを含む第2のアミノ酸配列と、を含む、多価ポリペプチドである。
【0011】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的な例示的な実施形態は、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、CD8T細胞である。幾つかの実施形態では、1つ以上のRPTPは、CD45、CD148、又はこれらのいずれかの機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、NKRは、抑制性NKRである。幾つかの実施形態では、抑制性NKRは、キラー免疫グロブリン受容体KIR2DL、KIR3DL、NKG2A、NKG2B、NKG2E、NKG2F、NKp44、NKp30c、CD160、LAIR1、TIM-3、CD96、CEACAM1(CEACAM5)、KLRG-1及びTIGITからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、NKRは、活性化NKRである。幾つかの実施形態では、活性化NKRは、NKp30a、NKp30b、NKp44、NKp46、NKG2D、NKG2C、KIR2DS、KIR3DS、KIR3DL4、DNAM-1、CD16、及びCD161からなる群から選択される。
【0012】
幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のためのアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、単鎖可変フラグメント(scFv)、抗原結合フラグメント(Fab)、ナノボディ、Vドメイン、Vドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHドメイン、二重特異性抗体、又はこれらのいずれかの機能的フラグメントからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、NKRの天然リガンドの細胞外ドメイン(ECD)、細胞表面受容体のECD、又はRPTPのECD、若しくはこれらのいずれかの機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、1つ以上のMHC-I分子(HLA)のECD、又はその機能的変異体を含む。
【0013】
幾つかの実施形態では、第1のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第2のポリペプチドモジュールに作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、Fc領域を更に含む。以下により詳細に記載されるように、Fc領域は、in vivoでの多価ポリペプチドの半減期(例えば、マウス腫瘍モデルにおけるNKG2A-RIPR)を高めるために、本開示の多価ポリペプチドに含まれる。幾つかの実施形態では、Fc領域は、ポリペプチドリンカー配列を介して多価ポリペプチドに作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、CD8T細胞上に発現する抗原に結合できる第3のポリペプチドモジュールを含む第3のアミノ酸配列を更に含む。
【0014】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、(a)(i)MHC-I分子のECD、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv;(b)(i)KIR2DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv;(c)(i)NKG2A scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv;(d)(i)KIR3DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv;又は(e)(i)Ly49C/I scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFv、を含む。幾つかの実施形態では、このような多価ポリペプチドは、Fc領域を更に含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、2、32、34、36、38、40、42、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0015】
1つの態様では、本明細書で提供されるのは、本開示の多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子である。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:5、6からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0016】
別の態様では、本明細書に開示される幾つかの実施形態は、(a)本明細書に開示される多価ポリペプチド、及び/又は(b)本明細書に開示される組換え核酸分子、を含む組換え細胞に関する。幾つかの実施形態では、組換え細胞は、免疫細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、NKRを発現する。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞又はT細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞である。幾つかの実施形態では、T細胞は、CD8T細胞である。
【0017】
別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、薬学的に許容される賦形剤と、(a)本開示の多価ポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸分子;及び(c)本開示の組換え細胞、の1つ以上と、を含む医薬組成物に関する。
【0018】
別の態様では、本明細書に開示されるのは、対象においてNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するための方法の実施形態であり、当該方法は、(a)本開示の多価ポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸分子;(c)本開示の組換え細胞;及び(d)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することを含む。
【0019】
更に別の態様では、本明細書で提供されるのは、治療を必要とする対象における健康状態を治療するための方法であり、当該方法は、(a)本開示の多価ポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸分子;(c)本開示の組換え細胞;及び(d)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することを含む。
【0020】
本開示の方法の実施形態の非限定的な例示的な実施形態は、以下の特徴の1つ以上を含み得る。幾つかの実施形態では、投与された組成物は、RPTP活性をNKRの空間的近接に動員し、NKRの脱リン酸化を増強し、及び/又はNKR媒介シグナル伝達を増強する。幾つかの実施形態では、投与された組成物は、標的細胞のNK細胞による殺傷(例えば、NK受容体を発現するNK細胞による標的細胞の殺傷)の増強を付与する。幾つかの実施形態では、対象は、ナチュラルキラー細胞受容体に関連する健康状態、例えば、NKRによって媒介される細胞シグナル伝達の阻害を有するか、又は有すると疑われる。幾つかの実施形態では、健康状態は、がん、自己免疫疾患、又はウイルス感染症である。
【0021】
幾つかの実施形態では、組成物は、対象に個別に(例えば、単剤療法)、又は第2の療法と組み合わせた第1の療法(例えば、多剤療法)として投与される。幾つかの実施形態では、第2の療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、又は手術からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、第2の療法は、抗NKR拮抗抗体を含む。
【0022】
別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、対象における細胞シグナル伝達を調節するための、又は治療を必要とする対象における健康状態を治療するためのキットに関するものであり、キットは、(a)本開示の多価ポリペプチド;(b)本開示の組換え核酸分子;(c)本開示の組換え細胞;及び(d)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む。
【0023】
前述の要約は例示的なものであり、いかなる方法においても限定的であることを意図していない。本明細書に記載された例示的な実施形態及び特徴に加えて、本開示の更なる態様、実施形態、目的及び特徴は、図面及び詳細な説明及び特許請求の範囲から完全に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、抑制性NKR受容体によるリガンド非依存性(緊張性)及びリガンド誘導性シグナル伝達の図式的な描写である。NKRとHLAとの相互作用の抗体遮断は、リガンド誘導性シグナル伝達を減少させるが、リガンド非依存性シグナル伝達を減少させないことが予想される。
図2A図2A、2Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従ってRIPR方法論を使用することによる、例示的なナチュラルキラー受容体である、NKG2Aによって媒介される細胞シグナル伝達の阻害の機構的基礎を図式的に説明する。図2Aは、本開示の幾つかの実施形態に従って、シス(in cis)ホスファターゼの動員による細胞NKG2A媒介シグナル伝達の変調の非限定的な例を、図表を用いて説明する。NK細胞の細胞表面におけるNKR-RIPRによるCD45のNKG2Aへの動員は、受容体NKG2Aのリン酸化を減少させると予想される。CD45の動員は、細胞膜に発現するタンパク質間のシスで行われる。CD45の動員は、NKG2Aのリン酸化を減少させることが予想される。
図2B図2A、2Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従ってRIPR方法論を使用することによる、例示的なナチュラルキラー受容体である、NKG2Aによって媒介される細胞シグナル伝達の阻害の機構的基礎を図式的に説明する。図2Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従う、αNKG2A-scFv及びNKG2A-RIPR構築物の例示的な設計を図式的に説明する。
図3A図3A、3Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従ってRIPR方法論を使用することによる、別の例示的なナチュラルキラー細胞受容体、KIR2DL1によって媒介される細胞シグナルの阻害の機構的基礎を図式的に説明する。図3Aは、本開示の幾つかの実施形態に従って、シスホスファターゼの動員による細胞KIR2DL1媒介シグナル伝達の変調の非限定的な例を、図表を用いて説明する。NK細胞の細胞表面におけるNKR-RIPRによるKIR2DL1へのCD45の動員は、受容体KIR2DL1のリン酸化を減少させると予想される。
図3B図3A、3Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従ってRIPR方法論を使用することによる、別の例示的なナチュラルキラー細胞受容体、KIR2DL1によって媒介される細胞シグナルの阻害の機構的基礎を図式的に説明する。図3Bは、本開示の幾つかの非限定的な実施形態に従う、αKIR2DL-scFv及びKIR2DL-RIPR構築物の例示的な設計を図式的に説明する。
図4A図4A~4Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、NKG2Aを標的とする例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図4A:マウス抗NKG2A scFv及びNKG2A-RIPRのアミノ酸配列が示されている。
図4B図4A~4Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、NKG2Aを標的とする例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図4B:マウス抗NKG2A scFvのヒトNKG2Aに対する結合親和性が示されている。
図4C図4A~4Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、NKG2Aを標的とする例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図4C:マウス抗NKG2A scFv及びNKG2A-RIPRをHi5細胞で発現させ、サイズ排除クロマトグラフィーによりタンパク質の完全性及び安定性を分析した。
図4D図4A~4Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、NKG2Aを標的とする例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図4D:マウス抗NKG2A scFv及びNKG2A-RIPRをHi5細胞で発現させ、サイズ排除クロマトグラフィーによりタンパク質の完全性及び安定性を分析した。
図5A図5A~5Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、KIR2DL1を標的とする別の例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図5A:抗KIR2DL scFv(ヒト)及びKIR2DL-RIPRのアミノ酸配列が示されている。
図5B図5A~5Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、KIR2DL1を標的とする別の例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図5B:ヒトKIR2DL及びKIR2DL3に対する抗KIR2DL scFvの結合親和性を示されている。
図5C図5A~5Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、KIR2DL1を標的とする別の例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図5C:抗KIR2DL scFv及びKIR2DL-RIPRをHi5細胞で発現させ、サイズ排除クロマトグラフィーによりタンパク質の完全性及び安定性を分析した。
図5D図5A~5Dは、本開示の幾つかの実施形態に従って、KIR2DL1を標的とする別の例示的なNKR-RIPR構築物の設計を描写する。図5D:抗KIR2DL scFv及びKIR2DL-RIPRをHi5細胞で発現させ、サイズ排除クロマトグラフィーによりタンパク質の完全性及び安定性を分析した。
図6A図6A、6Bは、NK92細胞上のNKG2A(図6A)及びNKL-KIR2DL1細胞上のKIR2DL1の表面発現(図6B)を説明するために行った実験の結果を要約する。これらの実験において、表面発現は、フローサイトメトリーによって定量化された。
図6B図6A、6Bは、NK92細胞上のNKG2A(図6A)及びNKL-KIR2DL1細胞上のKIR2DL1の表面発現(図6B)を説明するために行った実験の結果を要約する。これらの実験において、表面発現は、フローサイトメトリーによって定量化された。
図7A図7A、7Bは、NKG2A-RIPRがヒトNKG2Aの脱リン酸化を増強し、標的のNK細胞溶解を増強することを説明するために行った実験の結果を要約する。図7A:HEK293細胞を、ヒトHA-NKG2A、Lck、及びヒトCD45で一過性に遺伝子導入し、遺伝子導入の24時間後、細胞を未処理のまま(レーン1)又は抗NKG2A scFv(レーン2、3)又はNKG2A-RIPR(レーン4、5)と37℃で20分間インキュベートして、NKG2Aの細胞内ドメインへのCD45リン酸化酵素の動員を誘発した。コントロールのために、CD45dead群が含まれた。溶解後、キメラ受容体を、磁気ビーズに直接結合させた抗HA抗体で免疫沈降させた。サンプルは、ウエスタンブロットでリン酸化チロシン(pTyr)及びHAについてプローブされた。データは、3回の独立した生物学的反復の代表値である。
図7B図7A、7Bは、NKG2A-RIPRがヒトNKG2Aの脱リン酸化を増強し、標的のNK細胞溶解を増強することを説明するために行った実験の結果を要約する。図7B:200nMの抗NKG2A scFv又はNKG2A-RIPRの存在下での、HLA-E陽性K562細胞に対するNKG2A発現細胞、NK92細胞による細胞溶解が示されている。細胞溶解は、フローサイトメトリーによって決定した。
図8A図8A、8Bは、NKR-RIPRが標的細胞の溶解を促進することを説明するために行われた実験の結果を図式的に要約する。図8A:KIR2DL1を標的とするNKR-RIPR構築物は、CD45ホスファターゼをKIR2DL1へ動員する。
図8B図8A、8Bは、NKR-RIPRが標的細胞の溶解を促進することを説明するために行われた実験の結果を図式的に要約する。図8B:200nM(上部パネル)又は1000nM(下部パネル)の抗KIR2DL scFv又はKIR2DL-RIPRの存在下で、HLA-Cw0304陽性721.221細胞に対してKIR2DL1を発現するNKL細胞による細胞溶解が示されている。これらの実験において、細胞溶解は、フローサイトメトリーによって決定した。
図9A図9A、9Bは、SKW3細胞上のCD8の表面発現(図9A)及びSKW3-KIR2DL1細胞上のKIR2DL1の表面発現(図9B)を説明するために行った実験の結果を図式的に要約する。これらの実験において、KIR2DL1を、T細胞受容体TCR55を発現するCD8SKW3細胞にレンチウイルス感染させ、TCR55及びKIR2DL1の安定な共発現について識別した。表面発現は、フローサイトメトリーによって定量化した。
図9B図9A、9Bは、SKW3細胞上のCD8の表面発現(図9A)及びSKW3-KIR2DL1細胞上のKIR2DL1の表面発現(図9B)を説明するために行った実験の結果を図式的に要約する。これらの実験において、KIR2DL1を、T細胞受容体TCR55を発現するCD8SKW3細胞にレンチウイルス感染させ、TCR55及びKIR2DL1の安定な共発現について識別した。表面発現は、フローサイトメトリーによって定量化した。
図10A図10A、10Bは、抗NKR抗体及びNKR-RIPRによるNKRCD8 T細胞におけるNKR活性の阻害が、NKRCD8 T細胞のTCRシグナル伝達を増強することを説明するために行った実験の結果を図式的に要約する。図10A:CD8T細胞上のNK受容体KIR2DL1の発現は、ペプチド-MHCによるT細胞活性化を抑制し得る。HLA-B35及びHLA-Cw0304を発現する約1×10個の721.221抗原提示細胞をHIVペプチド20で、37℃で3時間パルスした後、SKW3 KIR2DL1(+)又はSKW3 KIR2DL1(-)細胞株と1:1、16時間コインキュベートした。HIVペプチドの応答効果は、フローサイトメトリーによってCD69の発現を解析した。
図10B図10A、10Bは、抗NKR抗体及びNKR-RIPRによるNKRCD8 T細胞におけるNKR活性の阻害が、NKRCD8 T細胞のTCRシグナル伝達を増強することを説明するために行った実験の結果を図式的に要約する。図10B:抗KIR2DL scFvによるKIR2DL1の遮断は、T細胞活性化の阻害を部分的に逆転させることができる。KIR2DL1を標的とするNKR-RIPR構築物は、抗KIR2DL scFvによるNKR阻害(緑色の痕跡)と比較して、完全なCD8T細胞活性化をほぼ完全に回復し(赤色の痕跡)、優れた効力を有することが分かった。これらの実験では、HLA-B35/Cw0304 721.221 APC細胞をHIVペプチド20で3時間パルスし、200nMの抗KIR2DL scFv又はKIR2DL-RIPR存在下でSKW3 KIR2DL1(+)細胞株と16時間コインキュベートした。SKW3 T細胞のCD69活性化を試験した。
図11A図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11Aは、マウスにおけるNKG2Aシグナル伝達のRIPR媒介阻害の機構的基礎を模式的に描写する。NKG2A-RIPR構築物のCD45及びNKG2Aの両方への結合は、細胞(例えば、NK細胞又はT細胞)の表面上の、シスで、NKG2AへのCD45ホスファターゼの動員を生じさせる。
図11B図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11Bは、16A11-RIPRがHEK293細胞におけるNKG2Aの脱リン酸化を増強することを実証するために実施した実験の結果を要約する。
図11C図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11Cは、16A11-RIPR構築物における16A11 scFvとCD45 VHHとの間のリンカー長を最適化するために行った実験の結果を要約する。
図11D図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11Dは、Qa1(+)細胞及びQa1(-)細胞に対するNK細胞傷害性における16A11-RIPR及び20D5の偏った効果を示している。
図11E図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11Eは、20D5-RIPRが16A11-RIPRよりも標的細胞のNK殺傷において優れていることを示している。マウスFcの融合により、NK殺傷における16A11-RIPRの完全な活性が維持される。
図11F図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11F及び図11Gは、NKG2A-RIPRがCD8+OT1活性化を増強することを示している。20D5は、マウスNKG2Aに対するモノクローナル抗体である。
図11G図11A~11Gは、NKG2A-RIPRがNK細胞及びCD8細胞の活性化を増強することを説明するために実施した実験の結果を要約する。図11F及び図11Gは、NKG2A-RIPRがCD8+OT1活性化を増強することを示している。20D5は、マウスNKG2Aに対するモノクローナル抗体である。
図12A図12A、12Bは、Fcの融合が、5E6-scFv及び5E6-RIPRの両方のNK活性を増強することを示している。図12Aは、抗Ly49C/I scFv(クローン5E6)、5E6-RIPR、5E6-scFv-Fc、5E6-RIPR-Fcの設計及び発現を示している。
図12B図12A、12Bは、Fcの融合が、5E6-scFv及び5E6-RIPRの両方のNK活性を増強することを示している。図12Bは、Fcの融合が5E6-scFv及び5E6-RIPRの両方のNK活性を増強することを示している。5E6は、マウスLy49C/I(KIRのマウス版)に対するモノクローナル抗体である。
図13図13は、KIR3DL-RIPRが、KIR+CD8T細胞によるグリアジン特異的CD4T細胞の排除を増強することを示している。
図14図14は、上から下へ、以下の構築物の図式的な描写及びアミノ酸配列を示している:抗NKG2A scFv(クローン16A11)、16A11-RIPR、16A11-scFv-Fc、及び16A11-RIPR-Fc。16A11は、マウスNKG2Aに対するモノクローナル抗体である。
図15図15は、上から下へ、以下の構築物の図式的な描写及びアミノ酸配列を示している:抗NKG2A scFv(クローン20D5)、20D5-RIPR、20D5-scFv-Fc、及び20D5-RIPR-Fc。
図16図16は、上から下へ、抗Ly49C/I scFv(クローン5E6)、5E6-RIPR、5E6-scFv-Fc、5E6-RIPR-Fcの構築物の図式的な描写及びアミノ酸配列である。Ly49C/Iは、マウスのキラー細胞免疫グロブリン様(KIR)ファミリーに属し、NK細胞やCD8T細胞で発現し、MHC-I分子と特異的に結合する。
図17図17は、以下の構築物の図式的な描写及びアミノ酸配列を示す:抗KIR3DL scFv(クローンAZ158;上)、及び抗KIR3DL-RIPR(下)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、特に、膜ホスファターゼ活性をNK細胞受容体(NKR)の空間的近傍に特異的に動員することによって、細胞表面受容体シグナル伝達を調節するための組成物及び方法に関する。NKR媒介シグナル伝達を阻害するためのこの方法は、ECDリガンド遮断の代替方法を表す。より詳細には、本開示は、NK細胞受容体に特異的に結合し、ホスファターゼ活性、例えば、膜貫通型ホスファターゼの動員を通じて、受容体のシグナル伝達に完全又は部分的に拮抗する新規多価タンパク質結合分子を提供する。「ホスファターゼの動員による受容体阻害」(RIPR)と呼ばれるこの手法は、例えば、WO2019/222547A1において以前に記載されていた。特に、本明細書に示された実験データは、NKRを標的とするRIPR構築物(「NKR-RIPR」)によるNKR媒介シグナル伝達の破壊が、シグナル阻害及び標的細胞溶解の促進をもたらすことを説明している。
【0026】
以下でより詳細に説明するように、KIR2DL1又はNKG2Aによって例示されるNKRを標的とすることができる多数のRIPR分子が、設計され、構築され、その後、標的細胞の溶解を高める能力についてex vivoで評価されてきた。
【0027】
本明細書に記載の幾つかの実験では、NKG2Aを結合できる例示的なRIPR分子が構築され、ここで、膜貫通受容体タンパク質-チロシンホスファターゼCD45に対する結合親和性を有する単鎖抗体フラグメント(scFv)が、ヒトNKG2Aに対する結合親和性を有するマウス抗NKG2A scFvに融合されて、NKG2Aを標的とするNKR-RIPR構築物(すなわち、NKG2A-RIPR構築物)を生成した(例えば、図2A、2B、4A、4B、及び実施例2を参照)。ヒトNK92細胞で実施したin vitro共培養アッセイにおいて、本開示のNKG2A-RIPR構築物は、NKG2A、Lck、及びCD45を一過性に遺伝子導入したHEK293細胞における再構成アッセイでNKG2Aリン酸化を低減することが観察された(図7Aを参照)。この例示的なNKG2A-RIPR構築物はまた、抗NKG2A scFvのみを含む対照サンプルによって達成されるものより高いレベルまで標的細胞溶解を増強できることが分かった(例えば、図7B)。
【0028】
以下に記載する幾つかの他の実験において、NKR-RIPR分子の別の例示的な設計が生成され、ヒトKIR2DL-1及びKIR2DL3に対する結合親和性を有する抗KIRD2L scFvと融合した抗CD45 scFvからなった(図3A、3B、5A、5B及び実施例2に記載のKIRD2L-RIPR構築物を参照)。この例示的なKIRD2L-RIPR構築物はまた、抗KIRD2L scFvのみを含む対照サンプルによって達成されるものよりも高いレベルまで標的細胞の溶解を増強できることが分かった(例えば、図8)。
【0029】
幾つかの実施形態では、NKRの空間的近接へのホスファターゼ活性の動員は、物理的ライゲーションを介して達成される。本開示の幾つかの実施形態は、リン酸化機構を介してシグナル伝達するNK細胞受容体(NKR)に結合できる第1のポリペプチドフラグメントと、NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合できる第2のポリペプチドフラグメントと、を含む多価ポリペプチド(例えば、2価又は3価)である、多価タンパク質結合分子を提供する。幾つかの実施形態では、NKRを発現する免疫細胞は、NK細胞である。幾つかの実施形態では、NKRを発現する免疫細胞は、例えば、制御性T細胞(Treg細胞)などのT細胞である。幾つかの実施形態では、Treg細胞は、CD8Treg細胞である(例えば、実施例5、図9A、9B及び図10A、10Bを参照)。本開示はまた、このような多価タンパク質結合分子の製造に有用な組成物及び方法、並びにNKRによって媒介されるシグナル伝達の阻害と関連する健康状態の治療のための方法に関する。
【0030】
以下により詳細に説明するように、本開示の幾つかの実施形態は、特に、それぞれが少なくとも2つの細胞標的、すなわちRPTP分子及びNKR分子に対する結合親和性を示す、工学的多価ポリペプチドを提供する。特定の理論に束縛されることなく、本明細書に開示される多価ポリペプチドは、RPTP分子によってコードされるホスファターゼ活性をNKR分子の空間的近傍に動員し、続いてそのリン酸化を低減することができると考えられている。また、多価ポリペプチドは、NKR分子とホスファターゼの細胞内ドメインが十分に近接し、ホスファターゼの細胞内ドメインがNKRの細胞内ドメインを脱リン酸化し、それによってNKR分子の活性が低下するように、NKRの細胞外ドメインと膜貫通型ホスファターゼの細胞外ドメインに結合することによって、NKR分子の活性調節を促進すると考えられている。RPTPがCD45の場合、NKR分子の細胞外ドメインに結合するモジュールと、受容体タンパク質-チロシンホスファターゼCD45の細胞外ドメインに結合するモジュールをライゲーションすると、NKRの脱リン酸化が起こり、NKRトニックシグナル伝達が減少し、標的細胞の溶解が促進される。また、特定の理論に束縛されることなく、NKRの活性を低下させることで、標的細胞の溶解を促進することが期待でき、がんや慢性感染症を含む幅広い疾患に対する治療法として有用であると考えられる。この新規の手法は、リガンド遮断による細胞受容体機能を制御するという従来の戦略を回避し、受容体細胞内ドメインの脱リン酸化による細胞受容体機能を制御することを可能にする。
【0031】
以下でより詳細に議論するように、細胞表面受容体を調節するための現在の臨床的選択肢は、受容体-リガンド相互作用が細胞表面で起こるのを遮断するECD遮断抗体に限定されていることが認識されている。例えば、NKRの場合、NKRとその天然リガンド(例えば、MHC-I分子又はHLA)との間の細胞外相互作用を高親和性抗体で遮断することが、今日まで、NKRシグナル伝達を低減する唯一の利用できる手段であった。しかしながら、抗体の遮断は、NKRのリン酸化に直接影響せず、重要なことに、HLAとの過去の相互作用からのNKRの基底的、緊張的、リン酸化及び持続的NKRを逆転させない(例えば、図1参照)。本明細書でより詳細に議論するように、NKRと天然リガンドとの相互作用の抗体遮断は、リガンド誘導性シグナル伝達を低減するが、リガンド非依存性シグナル伝達は低減しないと予想される。抗NKR抗体又は抗リガンド抗体は、したがって、標的のNK細胞溶解を増強するが、NKR細胞内ドメイン(ICD)の残存活性のため、完全な範囲には至らない。特定の理論に束縛されることなく、既存の遮断抗体は、完全な免疫細胞活性を回復するために、NKR基底シグナル伝達を完全に排除することができないと考えられている。本開示の幾つかの実施形態に記載されているように、新たに設計された多価抗体は、NKRを脱リン酸化するためにホスファターゼを直接動員することによってこの問題に対処する。したがって、RPTP、特に標的NKRも発現する同じ免疫細胞上で発現するRPTPの動員は、目的のNKRの活性を調節する新規な方法を示す。
【0032】
定義
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての術語、表記、及び他の科学用語又は専門用語は、本開示が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図している。場合によっては、一般的に理解される意味を有する用語は、明確化のため、及び/又はすぐに参照できるように本明細書で定義され、このような定義を本明細書に含めることは、必ずしも、当該技術分野で一般的に理解されるものとの実質的な違いを表すと解釈されるべきではない。本明細書で説明又は参照される技術及び手順の多くは、当業者によって従来の方法論を使用してよく理解され、一般的に採用されるものである。
【0033】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「a cell」は、これらの混合物を含む1つ以上の細胞を含む。「A及び/又はB」は、本明細書において、以下の代替物:「A」、「B」、「A又はB」、及び「A及びB」の全てを含むように使用される。
【0034】
本明細書で使用する「約」という用語は、およそという通常の意味を有する。近似の程度が文脈から他に明らかでない場合、「約」は、提供された値のプラス又はマイナス10%以内、又は最も近い有効数字に丸められたもののいずれかを意味し、全ての場合において、提供された値を包含する。範囲を示す場合は、境界値を含むものとする。
【0035】
本明細書で使用される用語「投与」及び「投与すること」は、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内、及び局所投与、又はこれらの組み合わせを含む投与経路による生物活性組成物又は製剤の送達を指すが、これらに限定されない。当該用語は、医療従事者による投与、及び自己投与を含む、これらに限定されない。
【0036】
「がん」とは、制御不能な増殖、不死性、転移可能性、急速な成長及び増殖速度、並びに特定の特徴的な形態的特徴などの、がんを引き起こす細胞に典型的な幾つかの特徴を持つ細胞の存在を意味する。がん細胞は、腫瘍などの塊に凝集することができ、又は対象の中に単独で存在することができる。腫瘍は、固形腫瘍、軟部組織腫瘍、又は転移性病変であり得る。本明細書で使用する場合、「がん」という用語は、他の種類の非腫瘍がんも包含する。非限定的な例としては、白血病などの血液がん(blood cancers)又は血液がん(hematological cancers)が挙げられる。がんは、悪性がん、並びに前悪性がんを含むことができる。
【0037】
用語「細胞」、「細胞培養」、及び「細胞株」は、特定の対象細胞、細胞培養、又は細胞株だけでなく、培養における移植又は継代の回数に関係なく、このような細胞、細胞培養、又は細胞株の子孫又はその可能性も指す。全ての子孫が親細胞と完全に同一であるわけではないことを理解すべきである。これは、突然変異(例えば、意図的又は不注意な突然変異)又は環境の影響(例えば、メチル化又は他のエピジェネティック修飾)のいずれかにより、特定の修飾が後継世代で起こり得るためであり、子孫は実際には親細胞と同一ではない場合があるが、子孫が元の細胞、細胞培養物又は細胞株のものと同じ機能を保持する限りは、依然として、本明細書に使用する用語の範囲に含まれている。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「多価ポリペプチド」は、互いに作動可能に結合された2つ以上のタンパク質結合モジュールを含むポリペプチドを指す。例えば、本開示の「2価」ポリペプチドは、2つのタンパク質結合モジュールを含み、一方、本開示の「3価」ポリペプチドは、3つのタンパク質結合モジュールを含む。ポリペプチドモジュールのアミノ酸配列は、通常、多価ポリペプチドにおいて一緒にされる別々のタンパク質に存在してもよく、又は通常、同じタンパク質に存在してもよいが、多価ポリペプチドにおいて新しい配置に配置される。多価ポリペプチドは、例えば、化学合成によって、あるいは、ペプチド領域が所望の関係でコードされているポリヌクレオチドを作成し、翻訳することによって、作成することができる。
【0039】
本明細書で使用されるように、及び特に指定しない限り、薬剤の「治療上有効な量」又は「治療上有効な数」とは、疾患、例えばがんの治療又は管理において治療上の利益を提供するか、又は疾患に関連する1つ以上の症状を遅延又は最小化するための十分な量又は数である。化合物の治療上有効な量又は数とは、単独又は他の治療薬と組み合わせて、疾患の治療又は管理において治療上の利益を提供する治療薬の量又は数を意味する。用語「治療上有効な量」は、疾患の全体的な治療を改善し、疾患の症状又は原因を軽減又は回避し、又は別の治療剤の治療効果を高める量又は数を包含し得る。「有効な量」の例としては、疾患の症状又は症状の治療、予防、又は軽減に寄与するのに十分な量であり、「治療上有効な量」とも呼ばれ得る。症状の「軽減」とは、症状の重症度や頻度が減少すること、又は症状が消失することを意味する。「治療上有効な量」を含む組成物の正確な量は、治療の目的に依存し、既知の技術を使用して当業者によって確認できるであろう(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(1~3巻,2010);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(2016);Pickar,Dosage Calculations(2012);及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd Edition,2012,Gennaro,Ed.Lippincott,Williams&Wilkinsを参照)。
【0040】
本明細書で使用する場合、「対象」又は「個体」は、ヒト(例えば、ヒト被験者)及び非ヒト動物などの動物を含む。幾つかの実施形態では、「対象」又は「個体」は、医師の治療下にある患者である。したがって、対象は、ヒトの患者、又は目的の疾患(例えば、がん)及び/又はその疾患の1つ以上の症状を有する、有する危険性がある、又は有すると疑われる対象であり得る。対象はまた、診断時又はそれ以降に対象の疾患の危険性を有すると診断された対象であり得る。用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば哺乳類、例えば齧歯類、例えばマウス、非ヒト霊長類、及び例えば羊、犬、牛、鶏などの他の哺乳類、並びに両生類、爬虫類などの非哺乳類を含む。
【0041】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に指示しない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限及び下限と、その述べられた範囲内の他の述べられた又は介在する値との間の各介在する値は、本開示内に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれることがあり、また、記載された範囲内の特に除外された制限を条件として、本開示の中に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる制限の一方又は両方を除外した範囲もまた、本開示に含まれる。
【0042】
特定の範囲は、本明細書では、数値が「約」という用語で先行されている状態で示される。用語「約」は、本明細書において、それが先行する正確な数値、並びに用語が先行する数値に近い又は近似する数値に対する文字通りの支持を提供するために使用される。数値が具体的に言及された数値に近いか又は近似しているかを判断する際、近い又は近似している非反復数値は、それが提示される文脈において、具体的に言及された数値と実質的に同等のものを提供する数値であり得る。
【0043】
明確にするために、別々の実施形態に関連して説明される本開示の特定の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供され得ることが理解される。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態に関連して説明される本開示の様々な特徴はまた、別々に、又は任意の適切なサブコンビネーションで提供され得る。本開示に係る実施形態の全ての組み合わせは、本開示によって具体的に包含され、各々及び全ての組み合わせが個別に明示的に開示されているかのように、本明細書に開示されている。さらに、様々な実施形態及びその要素の全てのサブコンビネーションもまた、本開示によって具体的に包含され、各々及び全てのこのようなサブコンビネーションが本明細書において個別にかつ明示的に開示されたかのように、本明細書において開示される。
【0044】
ナチュラルキラー細胞受容体(NRK)の活性化及び阻害
ナチュラルキラー(NK)細胞は、感染症又は悪性形質転換に対する初期反応に重要な役割を果たす自然リンパ球である。これらの条件下では、NK細胞は活性化され、細胞溶解顆粒の放出を通じて標的細胞死を促進する。さらに、他の免疫細胞の機能を制御するサイトカインを分泌する。NK細胞の活性は、活性化シグナル又は抑制シグナルのいずれかを伝達する細胞表面の受容体から受けるシグナルの相対的なバランスによって制御される。正常な生理的条件下では、NK細胞の抑制性受容体に携わるNK細胞の活性化は、健康な細胞に発現するリガンドによって阻害される。ストレスのかかった細胞で生じる、これらのリガンドの発現の減少は、NK細胞の活性化につながる。また、NK細胞は、感染症又は悪性形質転換に反応して起こるストレス誘発性リガンドの発現量の増加によっても活性化されることがある。正常な健康な細胞に対する耐性を維持しながら、ストレスを受けた細胞を特異的に攻撃して排除する能力を持つため、NK細胞は、抗がん剤としての可能性が検討されている。
【0045】
NK細胞は、活性化シグナル又は抑制シグナルを開始する役割を担う複数の受容体を発現する。健康な組織に対して寛容であり、同時に感染細胞を攻撃するために、NK細胞の活性は、生殖細胞にコードされた活性化受容体及び抑制性受容体の高度な配列によって厳密に制御される。
【0046】
NK細胞受容体の阻害は、その細胞質尾部に活性化の状態を低下させることができる免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM)の存在によって特徴付けられる。活性化受容体は、ITIMを持たないが、膜貫通領域に正電荷を持つアミノ酸(アルギニン又はリジン)を含み、DAP10、DAP12、FcγRなどの免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含むシグナル伝達アダプター分子に関連している。NK細胞は、細胞接触時に両方の種類の受容体に由来するシグナルを統合し、それによってエフェクター機能を開始するかどうかを決定する。NK細胞抑制性受容体の多くは、有核細胞の表面に遍在する主要組織適合性複合体(MHC)クラスIタンパク質と相互作用する。多くの細胞でMHC-Iが豊富に発現しているため、NK細胞は、健康な組織に対して無反応のままである。しかし、細胞が、ある種のウイルス感染や腫瘍で起こり得る、MHC-Iの発現が低下したとき、NK細胞による殺傷の標的となり得る。NK細胞が異常なMHC-Iの発現を持つ細胞を検出するプロセスは、「自己喪失」検出と記述されている。
【0047】
骨髄における機能的なNK細胞の発達には、抑制性受容体とMHC-Iとの間の相互作用が必要である。このプロセスはNK細胞教育と呼ばれ、成熟NK細胞における活性化の閾値を決定する。発生時に受けた抑制シグナルの強さに応じて、全てのNK細胞は、宿主の特定のMHC表現型に適応するためのレオスタットとして、その活性化閾値を保たせる。発生時における活性化受容体及び抑制受容体の両方の発現は、順次かつ確率的に起こり、3000~35,000の機能的に異なるNK細胞サブセットからなる大規模なNK細胞レパートリーを生み出すと考えられている。
【0048】
活性化NK細胞受容体には、ヒトキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリー又はマウスLy49ファミリーのメンバー、CD94-NKG2C/E/Hヘテロダイマー受容体、NKG2D、NKp30、NKp44及びNKp46などの天然細胞障害受容体、並びにネクチン/ネクチン様結合受容体であるDNAM1/CD226及びCRTAMが挙げられる。
【0049】
対照的に、NK細胞の活性化を抑制する受容体は、自己寛容にとって重要である。この受容体群には、ヒトKIRファミリー又はマウスLy49ファミリーの代替メンバー、CD94-NKG2A、及びネクチン/ネクチン様結合受容体TIGIT及びCD96が挙げられる。これらの受容体ファミリーに加えて、その活性化を制御するナチュラルキラー(NK)細胞によって発現される複数の他の受容体が存在する。2B4/CD244、CRACC/CLAMF7及びNTB-A/CLAMF6を含むSLAMファミリー受容体、並びにFcγRIIIA/CD16a、CD27、CD100/セマフォリン4D及びCD160は、追加のNK細胞活性化受容体であり、一方、シアル酸結合性Siglec(Siglec-3、-7、及び-9)、ILT2/LILRB1、KLRG1、LAIR-1、CD161/NKR-P1A及びCEACAM-1は、追加のNK細胞抑制性受容体である。
【0050】
受容体型タンパク質チロシンホスファターゼ(RPTP)
可逆的なタンパク質チロシンリン酸化は、代謝、増殖、接着、分化、移動、伝達、及び接着を含む基本的な細胞の現象に影響を与える細胞シグナル伝達を制御する主要なメカニズムである。例えば、タンパク質チロシンリン酸化は、タンパク質-タンパク質相互作用、構造、安定性、酵素活性及び細胞局在を含むタンパク質機能を決定する。この重要な制御機構の破壊は、がん、糖尿病及び自己免疫疾患を含む、様々なヒトの病気の原因となる。正味のタンパク質チロシンリン酸化は、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)及びタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の活性の動的バランスによって決定される。PTKとPTPとの間の微妙なバランスの異常は、がん、糖尿病、及び自己免疫疾患などの、多くのヒトの病気の病因に関与している。
【0051】
PTPは、大規模で構造的に多様な酵素ファミリーを構成している。配列決定データは、ヒトゲノムに107個のPTP遺伝子が存在し、そのうち81個が活性型タンパク質ホスファターゼをコードしていることを示している。PTPスーパーファミリーのうち、38種は古典的なチロシン特異的PTPであり、残りの43種はチロシン/セリン/スレオニンの二重特異性ホスファターゼである。古典的なPTPは、PTPドメインとして知られる少なくとも1つの触媒ドメインを有している。280個のアミノ酸のPTP触媒ドメインは、不変の活性部位シグネチャーモチーフ(I/V)HCXAGXXR(S/T)G(SEQ ID NO:10)を含み、基質のリン酸基への求核攻撃とその後の基質の脱リン酸化を触媒する必須システインを含む。
【0052】
PTPは、その全体的な構造から、膜貫通型の受容体型PTP(RPTP)と非膜貫通型のPTPに更に細分することができる。このうち、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼ(RPTP)は、細胞内PTP活性、及び細胞接着分子(CAM)と配列相同性を持つ細胞外ドメイン(ECD)を持つ、細胞表面タンパク質ファミリーである。多くのRPTPの細胞内ドメイン(ICD)は、D1及びD2と呼ばれる2つのタンデムPTPドメインを含む。一般に、膜近位PTPドメイン(D1)は触媒活性の大部分を持ち、膜遠位PTPドメイン(D2)は触媒活性がある場合でも弱い。RPTPのECDは、フィブロネクチンIII型(FN3)、メプリン、A5、PTPμ(MAM)、免疫グロブリン(Ig)及び炭酸脱水酵素(CA)に相同な配列とCAM様モチーフの組み合わせを含む。まとめると、RPTPの分子構造は、細胞外接着を介した現象と細胞内シグナル伝達経路の制御を直接連結させることを可能にする。
【0053】
これらのECDの構造に基づいて、RPTPファミリーは8つのサブファミリー:R1/R6、R2A、R2B、R3、R4、R5、R7、及びR8にグループ化することができる。これらのサブファミリーの代表的なメンバーは、それぞれCD45、LAR、RPTP-κ、DEP-1、RPTP-α、RPTP-ζ、PTPRR、及びIA2を含む。各サブファミリーを定義する構造的特徴、これらの分子/生化学的構造、制御様式、基質特異性、及び生物学的機能に関する更なる情報は、広範囲に記録されており、例えば、Xu Y.ら(J.CellCommun.Signal.6:125,138,2012)及びKoncevicら、InTechOpen,2018で見ることができる。
【0054】
CD45及びR1/R6ファミリー
白血球共通抗原(LCA)とも呼ばれる、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼCD45は、RPTPのR1/R6サブタイプの唯一のメンバーである。CD45は、赤血球と形質細胞を除く全ての分化した造血細胞に様々な形で存在するI型膜貫通タンパク質であり、それらの細胞の活性化を助ける(共刺激の一種)。CD45は、リンパ腫、B細胞性慢性リンパ性白血病、有毛細胞白血病、及び急性非リンパ球性白血病で発現している。ヒトCD45は、PTPRCという遺伝子によってコードされており、血小板や赤血球を除く造血細胞を含む、リンパ系由来の全ての細胞で発現する細胞膜チロシンホスファターゼであり、T細胞やB細胞のシグナル伝達の重要な制御因子として機能する。したがって、CD45は、1つ以上のNKRも発現する多くの種類の免疫細胞上で発現するため、CD45は、多くのNKR発現細胞に動員されるための適切なRPTP標的である。例えば、以下により詳細に論じるように、CD45ROアイソフォームは、活性化及びメモリーT細胞、幾つかのB細胞サブセット、活性化単球/マクロファージ、及び顆粒球で発現している。CD45RBアイソフォームは、末梢B細胞、ナイーブT細胞、胸腺細胞で発現し、マクロファージ、及び樹状細胞で弱く発現している。さらに、NK細胞は、少なくともCD45RAとCD45ROという、CD45の異なるアイソフォームを発現していることが報告されている。
【0055】
CD45は、細胞外領域、短い膜貫通セグメント及び細胞質領域のタンデムPTPドメインからなる。CD45の複数のアイソフォームは、分子の細胞外ドメインのエキソンの複雑な代替スプライシングによって生成され、細胞の分化及び活性化の状態に応じて細胞種特異的な方法で発現される。CD45アイソフォームの非限定的な例としては、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、CD45R(ABC)が挙げられる。CD45RAはナイーブT細胞に位置し、CD45R0はメモリーT細胞に位置する。CD45Rは最も長いタンパク質であり、T細胞から分離すると200kDaで移動する。細胞は、CD45Rをより重くグリコシル化し、分子量を220kDaにしたものを発現しているため、B220;220kDaのB細胞アイソフォームという名前で呼ばれる。B220の発現は、B細胞に限定されず、活性化T細胞、樹状細胞のサブセット、及びその他の抗原提示細胞にも発現する。ナイーブTリンパ球は、大きなCD45アイソフォームを発現し、通常CD45RAが陽性である。活性化Tリンパ球及びメモリーTリンパ球は、RA、RB及びRCエキソンを欠く、最も短いCD45アイソフォームであるCD45R0を発現する。この最も短いアイソフォームは、T細胞の活性化を促進すると考えられている。
【0056】
CD45は、免疫系の発達と機能において重要な役割を果たし、抗原特異的なリンパ球の刺激と増殖に必要である。CD45は、TCR活性化閾値の制御、サイトカイン応答の調節、及びリンパ球の生存の調節によって免疫応答を制御する。これらのプロセスの全ては、自己免疫疾患や感染症の発症に不可欠である。
【0057】
CD45は、多くの免疫受容体に動員されるための適切なRPTP標的であり、なぜなら、それらが互いに空間的に近接した状態に持ち込まれる場合、例えば、2つのRPTP結合モジュール及び受容体結合モジュールが、受容体の細胞内ドメインの脱リン酸化を達成するために十分に近接している場合には、広範囲の基質に作用することになるからである。CD45は、LynやLck(リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ)のようなSrcファミリーPTK(SFK)のチロシンリン酸化を制御することにより、T細胞及びB細胞の受容体機能を媒介する。CD45は、LynやLckのC末端のリン酸化を阻害する部位を脱リン酸化することで、これらのSFKの活性を増強する。CD45を媒介する他のチロシンの脱リン酸化によるSFK活性の減衰も報告されている。CD45ノックアウトマウスを用いた研究から、CD45を媒介するFyn及びLckの活性化が、胸腺細胞の発達に重要であることが分かった。TCRがライゲーションされると、活性化されたFyn及びLckは、TCR-ζやCD3-εのようなTCR複合体の構成要素をリン酸化する。これらのチロシンリン酸化タンパク質は、Src-ホモロジー2(SH2)ドメインを含むタンパク質にドッキングサイトを提供し、下流シグナルを伝達する。CD45-null胸腺細胞では、TCRのライゲーションは、LynやLckの活性化、又はその後のTCR複合体のチロシンリン酸化につながらない。したがって、下流シグナル伝達の現象は何も起こらず、TCR活性化におけるCD45の重要な役割が示される。CD45はまた、CD3-ζ及びCD3-εITAM、ヤヌスキナーゼ(JAK)を脱リン酸化し、サイトカイン受容体の活性化を負に制御するPTPとして同定されている。
【0058】
CD148及びR3ファミリー
CD148は、哺乳類の膜貫通タンパク質であり、種やcDNAの起源によって、DEP-1(密度増強ホスファターゼ-1)、ECRTP(内皮細胞受容体チロシンホスファターゼ)、PTP-eta、HPTPη、又はBYPとも呼ばれる。CD148は、ECDに様々な数のFN3ドメインを持ち、ICDに単一のPTPドメインを持つ、R3 RPTPサブファミリーに属する。R3サブファミリーの他のメンバーには、RPTP-β(PTPRB遺伝子によってコードされる)、SAP1(PTPRH遺伝子によってコードされる)、GLEPP(Ptpro遺伝子によってコードされる)及びPTPS31(PTPRP遺伝子によってコードされる)が挙げられる。
【0059】
他のRPTPと同様に、CD148は、触媒ドメインを有する細胞内カルボキシル部分、単一の膜貫通ドメイン、及び細胞外アミノ末端ドメイン(少なくとも5つのタンデムフィブロネクチンII型(FNIII)リピートを含み、Ig様ドメインと同様の折り畳みパターンを有する)を有する。FNIIIドメインは、リン酸化チロシン残基に対する絶対的な特異性、基質タンパク質に対する高い親和性、PTKの特異的活性よりも数段高い特異的活性を有する。FNIIIドメインは、タンパク質/タンパク質相互作用に関与していると考えられている。CD148の活性化は、CD148の自己リン酸化を誘発し、血管新生を抑制する生体内シグナルを伝達する。
【0060】
トランスジェニックマウスにおけるCD148遺伝子の破壊は、血管組織の重度の欠陥と高い内皮細胞増殖による血管の肥大を伴う胚性致死をもたらす。CD148は、VEGF誘導内皮細胞増殖の接触阻害と関連している。
【0061】
CD148は、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞;顆粒球、マクロファージ、単球などの、1つ以上のNKRも発現する多くの種類の免疫細胞で発現するため、CD148は、多くのNKR発現細胞に動員されるための適切なRPTP標的である。
【0062】
本開示の組成物
以下により詳細に説明するように、本開示の一態様は、1つ以上のNKRを特異的に結合し、それによってホスファターゼ活性、例えば膜貫通型ホスファターゼCD45の動員を通じてNKR媒介シグナル伝達を完全又は部分的に拮抗する多価タンパク質結合分子に関する。本開示はまた、(i)このような多価タンパク質結合分子をコードする組換え核酸と、(ii)本明細書に開示される多価タンパク質結合分子を発現するように操作された組換え細胞と、を含む、このような多価ポリペプチドの製造に役立つ組成物及び方法を提供する。
【0063】
多価ポリペプチド及び多価抗体
1つの態様では、本明細書に開示される幾つかの実施形態は、それぞれが1つ以上の標的タンパク質に結合できる複数のポリペプチドモジュール、例えば、モジュールタンパク質結合部分を含む新規キメラポリペプチドに関する。幾つかの実施形態では、開示されるキメラポリペプチドは、(a)リン酸化機構を介してシグナル伝達するNKRに結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む第1のアミノ酸配列と、(b)NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上のRPTPに結合できる第2のポリペプチドモジュールを含む第2のアミノ酸配列と、を含む。幾つかの実施形態では、第1のポリペプチドモジュールは、第2のポリペプチドモジュールに作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、開示されたキメラポリペプチドは、多価ポリペプチドである。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、多価抗体である。第1のポリペプチドモジュール及び第2のポリペプチドモジュールのそれぞれの標的タンパク質への結合は、標的タンパク質の天然リガンドと競合的又は非競合的な様式のいずれかであり得る。したがって、本開示の幾つかの実施形態では、第1のポリペプチドモジュール及び/又は第2のポリペプチドモジュールのそれぞれの標的タンパク質への結合は、リガンドブロッキングであり得る。幾つかの他の実施形態では、第1のポリペプチドモジュール及び/又は第2のポリペプチドモジュールのそれぞれの標的タンパク質への結合は、天然リガンドの結合を遮断しない。
【0064】
NKR分子に結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチドのアミノ酸配列を「第1の」アミノ酸配列として指定すること、及びRPTPに結合できるポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチドのアミノ酸配列を「第2の」アミノ酸配列として指定することは、多価ポリペプチド内の「第1の」及び「第2の」アミノ酸配列の特定の構造配置を暗示することを意図していない。非限定的な例として、本開示の幾つかの実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体は、NKR分子に結合できるN末端ポリペプチドモジュールと、RPTPに結合できるポリペプチドを含むC末端ポリペプチドモジュールと、を含むことができる。他の実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPに結合できるN末端ポリペプチドモジュールと、NKR分子に結合できるC末端ポリペプチドモジュールと、を含むことができる。追加で又は代替的に、多価ポリペプチド又は多価抗体は、NKRに結合できる複数のポリペプチドモジュール、及び/又はRPTPに結合できる複数のポリペプチドモジュールを含むことができる。したがって、幾つかの実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体の第1のアミノ酸配列は、それぞれがNKRに結合できる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のポリペプチドモジュールを含む。幾つかの実施形態では、第2のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のポリペプチドモジュールは、それぞれが同じRPTPに結合できる。幾つかの実施形態では、第2のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のポリペプチドモジュールは、それぞれが異なるRPTPに結合できる。
【0065】
追加で又は代替的に、上記で言及したように、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び抗体は、多価ポリペプチド又は多価抗体とそれぞれの標的タンパク質との結合親和性に影響を与える位置に、天然及び非天然アミノ酸の両方を組み入れることができる。このように、ポリペプチドモジュールのそれぞれの標的(例えば、RPTP又はNKR)への結合親和性は、所望の標的細胞特異性を達成するように調整され得る。例えば、CD45は広く発現しているため、NKR結合モジュールは、高い親和性結合モジュールを形成するように構成することができ、CD45結合モジュールは、より低い結合親和性を有するように構成することができる。例えば、幾つかの実施形態では、NKR結合モジュールは、RPTP結合モジュールのRPTPに対する結合親和性と比較すると、NKRに対するより高い親和性(より低いK)を有する。幾つかの実施形態では、親和性の差は、少なくとも1桁又は少なくとも2桁である(例えば、RPTP結合モジュールのRPTPに対する相互作用のKと、NKR結合モジュールのNKRに対する相互作用のKとの比は、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、又は少なくとも100である)。当業者は、RPTP又はその標的受容体(例えば、NKR)に対して高い親和性を有し、他方に対してより低い親和性を有する多価ポリペプチド又は多価抗体のこの概念が、標的細胞特異性のためにRIPR活性を調整する重要な部分となり得ることを理解するだろう。したがって、幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールの結合親和性は、NKR結合ポリペプチドモジュールの結合親和性と異なることができる。例えば、幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールは、その標的(例えば、RPTP)に対して高い親和性を有し、NKR結合ポリペプチドモジュールは、その標的(例えば、NKR)に対して低い親和性を有する。幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールは、その標的に対して低い親和性を有し、NKR結合ポリペプチドモジュールは、その標的に対して高い親和性を有する。幾つかの実施形態では、RPTP結合モジュール及びNKR結合モジュールは、それぞれの標的タンパク質に対して同じ親和性を有する。
【0066】
幾つかの実施形態では、それぞれの標的の細胞外ドメインに対する親和性をそれぞれ有するNKR結合モジュール及びRPTP結合モジュールの結合親和性は、独立して、K=10-5~10-12M、例えば、K=10-5~10-11MのK、代替的にK=10-5~10-10MのK、代替的にK=10-6~10-12MのK、代替的にK=10-7~10-12MのK、代替的にK=10-8~10-12MのK、代替的にK=10-9~10-12MのK、代替的にK=10-10~10-12MのK、代替的にK=10-11~10-12MのK、代替的にK=10-5~10-11MのK、代替的にK=10-5~10-10MのK、代替的にK=10-5~10-9MのK、代替的にK=10-5~10-8MのK、代替的にK=10-5~10-7MのK、代替的にK=10-5~10-6MのKなどである。
【0067】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、約1000nM、約800nM、約700nM、約600nM、約500nM、約400nM、約200nM、約100nM、約10nM、約5nM、又は約1nMのKでRPTP(例えばCD45)に対する結合親和性を有する。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPに対する低い結合親和性、例えば、約10-5M超のK、例えば、約10-4M超、約10-3M超、約10-2M超、又は約10-1M超のKを有する。幾つかの実施形態では、RPTP(例えば、CD45)に対する結合親和性(Kd)は、約700nMであり得る。幾つかの実施形態では、CD45に対する多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和性は、約300nMであり得る。
【0068】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、1,000nM、約800nM、約700nM、約600nM、約500nM、約400nM、約200nM、約150nM、約100nM、約80nM、約60nM、約40nM、約20nM、約10nM、約5nM、又は約1nMのKdのNKR分子に対して結合親和性を有することができる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、例えば、約10-8M未満、約10-9M未満、約10-10M未満、約10-11M未満、又は約10-12M未満のKdを持つ、NKR分子に対する高い結合親和性を有する。幾つかの実施形態では、NKR分子に対する本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和性は、約6.65×10-11のKを有する。幾つかの実施形態では、NKR分子に対する本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の結合親和性は、約4.3×10-10のKdを有する。幾つかの実施形態では、NKR分子に対する結合親和性は、約2.5×10-11であり得る。
【0069】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体の第1のアミノ酸配列は、第2のアミノ酸配列に直接的に結合される。幾つかの実施形態では、第1のアミノ酸配列は、少なくとも1つの共有結合を介して第2のアミノ酸配列に直接的に結合される。幾つかの実施形態では、第1のアミノ酸配列は、少なくとも1つのペプチド結合を介して第2のアミノ酸配列に直接的に結合される。幾つかの実施形態では、第1のアミノ酸配列のC末端アミノ酸は、第2のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸に作動可能に結合され得る。あるいは、第1のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸は、第2のポリペプチドモジュールのC末端アミノ酸に作動可能に結合され得る。
【0070】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体の第1のアミノ酸配列は、リンカーを介して第2のアミノ酸配列に作動可能に結合される。本明細書に記載の多価ポリペプチドで使用できるリンカーに特に制限はない。幾つかの実施形態では、リンカーは、例えば、化学架橋剤などの合成化合物リンカーである。市販されている適切な架橋剤の非限定的な例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシナート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシナート)(スルホEGS)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、酒石酸ジスルホスクシンイミジル(スルホDST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、及びビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホBSOCOES)が挙げられる。本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体に適した代替構造及び結合の他の例としては、Spiessら、Mol.Immunol.67:95-106,2015に記載のものが挙げられる。
【0071】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の第1のアミノ酸配列は、ポリペプチドリンカー(ペプチド結合)を介して第2のアミノ酸配列に作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、約1~100個のアミノ酸残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個などのアミノ酸残基)を含む単鎖ポリペプチド配列を含むポリペプチドリンカーを、ポリペプチドリンカーとして使用することができる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約5~50個、約10~60個、約20~70個、約30~80個、約40~90個、約50~100個、約60~80個、約70~100個、約30~60個、約20~80個、約30~90個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個、約20~40個、約30~50個、約40~60個、約50~70個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約40~70個、約50~80個、約60~80個、約70~90個、又は約80~100個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個のアミノ酸残基を含む。
【0072】
幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列の長さ及びアミノ酸組成は、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接を変化させるように最適化して、多価ポリペプチドの所望の活性を達成することができる。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強又は低減するような調整効果を達成するための「調整」ツールとして変化させることができる。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接を最適化して、二重特異性ポリペプチドの部分アンタゴニストから完全アンタゴニストまでのバージョンを作成することができる。特定の実施形態では、リンカーは、グリシン及び/又はセリン残基(例えば、グリシン-セリンリンカー)のみを含む。このようなポリペプチドリンカーの例としては、Gly,Ser;Gly Ser;Gly Gly Ser;Ser Gly Gly;Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:46);Ser Gly Gly Gly(SEQ ID NO:47);Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:23);Ser Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:24);Gly Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:25);Ser Gly Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:26);Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:27);Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:28);(Gly Gly Gly Gly Ser)n(SEQ ID NO:29)であり、nは1以上の整数であるもの;及び(Ser Gly Gly Gly)n(SEQID NO:30)であり、nは1以上の整数であるもの、が挙げられる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(従来のGly/Serリンカーポリペプチド反復の接合部に生じる)アミノ酸配列Gly Ser Gly(GSG)が存在しないように修飾される。例えば、幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS(SEQ ID NO:11)及びGGGGS(XGGGS)n(SEQ ID NO:12)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、Xは、配列に挿入されて、配列GSGを含むポリペプチドをもたらさない任意のアミノ酸であり、nは、0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:13)であり、X1はPであり、X2はSであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:14)であり、X1はGであり、X2はQであり、nは0~4である。幾つかの他の実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:15)であり、X1はGであり、X2はAであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、GGGGS(XGGGS)n(SEQ ID NO:16)であり、XはPであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)GGGGS(SEQ ID NO:17)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGGQ)GGGGS(SEQ ID NO:18)を含むか、又はそれらからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGPS)GGGGS(SEQ ID NO:19)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGS(PGGGS)(SEQ ID NO:20)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、配列表のSEQ ID NO:7~9及び45に記載されるアミノ酸配列からなるか、又はそれからなる。
【0073】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、Fc領域を更に含む。幾つかの実施形態では、Fc領域は、N297でのグリコシル化を欠き、mFcγRに結合しない、N279Q変異を有するマウスIgG1由来である。幾つかの実施形態では、Fc領域は、ポリペプチドリンカーを介して多価ポリペプチド又は多価抗体に作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、約1~100個のアミノ酸残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個などのアミノ酸残基)を含む単鎖ポリペプチド配列を含むポリペプチドリンカーを、ポリペプチドリンカーとして使用することができる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約5~50個、約10~60個、約20~70個、約30~80個、約40~90個、約50~100個、約60~80個、約70~100個、約30~60個、約20~80個、約30~90個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個、約20~40個、約30~50個、約40~60個、約50~70個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約40~70個、約50~80個、約60~80個、約70~90個、又は約80~100個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態において、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個のアミノ酸残基を含む。特定の実施形態では、リンカーは、グリシン及び/又はセリン残基(例えば、グリシン-セリンリンカー)のみを含む。このようなポリペプチドリンカーの例としては、Gly,Ser;Gly Ser;Gly Gly Ser;Ser Gly Gly;Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:46);Ser Gly Gly Gly(SEQ ID NO:47);Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:23);Ser Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:24);Gly Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:25);Ser Gly Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:26);Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser(SEQ ID NO:27);Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly(SEQ ID NO:28);(Gly Gly Gly Gly Ser)n(SEQ ID NO:29)であり、nは1以上の整数であるもの;及び(Ser Gly Gly Gly Gly)n(SEQ ID NO:30)であり、nは1以上の整数であるもの、が挙げられる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(従来のGly/Serリンカーポリペプチド反復の接合部に生じる)アミノ酸配列Gly Ser Gly(GSG)が存在しないように修飾される。例えば、幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS(SEQ ID NO:11)及びGGGGS(XGGGS)n(SEQ ID NO:12)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、Xは、配列に挿入されて、配列GSGを含むポリペプチドをもたらさない任意のアミノ酸であり、nは、0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:13)であり、X1はPであり、X2はSであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:14)であり、X1はGであり、X2はQであり、nは0~4である。幾つかの他の実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGS(SEQ ID NO:15)であり、X1はGであり、X2はAであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、GGGGS(XGGGS)n(SEQ ID NO:16)であり、XはPであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)GGGGS(SEQ ID NO:17)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGGQ)GGGGS(SEQ ID NO:18)を含むか、又はそれらからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGPS)GGGGS(SEQ ID NO:19)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGS(PGGGS)(SEQ ID NO:20)を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、配列表のSEQ ID NO:7~9及び45に記載されるアミノ酸配列からなるか、又はそれからなる。
【0074】
追加で又は代替的に、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体は、1つ以上のNKR結合モジュールに化学的に結合した1つ以上のRPTP結合モジュールを含むことができる。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体は、(i)1つ以上のNKR結合モジュールに化学的に結合された1つ以上のRPTP結合モジュールと、(ii)ペプチジル結合を介して1つ以上のNKR結合モジュールに結合された1つ以上のRPTP結合モジュールと、を含むことができる。
【0075】
本明細書に開示される幾つかの実施形態では、開示される多価ポリペプチド又は多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分に対するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンド用のアミノ酸配列を含む。一般に、適切なタンパク質結合リガンドは、本開示の組成物及び方法に使用することができ、例えば、標的抗体又は標的タンパク質(例えば、RPTP又はNKR分子の組換え又は天然リガンド)に対して特異的な結合親和性を有する、組換えポリペプチド又は天然由来ポリペプチドであり得る。例えば、ホスファターゼCD45の適切なリガンドの非限定的な例としては、その天然リガンド、例えば、レクチンCD22(Hermiston MLら、Annu.Rev.Immunol.2003)及びGalactin-1(Walzel H.ら、J.Immunol.Lett.1999及びNguyen JTら、J Immunol.2001)などが挙げられる。ホスファターゼCD148の適切なリガンドの非限定的な例としては、その天然リガンド、例えば、シンデカン-2及びトロンボスポンジン-1(TSP1)などが挙げられる。幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチド又は多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、NKRの又はRPTPの1つ以上の細胞外ドメイン(ECD)に対するアミノ酸配列が挙げられる。したがって、幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチドの第1のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第2のモジュールに作動可能に結合されたNKR分子の1つ以上のECDを含む。したがって、幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチドの第1のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第2のモジュールに作動可能に結合されたNKRリガンド(例えば、MHC-I分子)の1つ以上のECDを含む。上で議論したように、本開示の組成物及び方法に適したタンパク質結合リガンドの非限定的な例としては、NKRの天然リガンドが挙げられる。例えば、NKRの適切な天然リガンドとしては、HLA-A、HLA-A3/A11、HLA-Bw4、HLA-B、HLA-C1、HLA-C2、HLA-E、HLA-G、HSPG、ヘパリン、ビメンチン、NKp44L、B7-H6、BAG-6、PCNA、MICA/B、及びULBP1-6が挙げられる。幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチドの第2のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第1のモジュールに作動可能に結合されたRPTPの1つ以上のECDを含む。
【0076】
追加で又は代替的に、タンパク質結合リガンドは、標的の天然リガンドのアゴニスト又はアンタゴニストバージョンであり得る。したがって、幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、RPTP又はNKRのアゴニストリガンドである。幾つかの他の実施形態では、タンパク質結合リガンドは、RPTP又はNKRのアンタゴニストリガンドである。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、例えば、ペプチド又は低分子などの合成分子であり得る。
【0077】
幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチド又は多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、標的タンパク質、例えば、RPTP又はNKRに結合する抗原結合部分のためのアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、抗体の1つ以上の抗原結合決定基又はその機能的抗原結合フラグメントを含む。遮断抗体及び非遮断抗体の両方が適切である。本明細書で使用する場合、「遮断」抗体又は「アンタゴニスト」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的又は機能的活性を防止し、阻害し、遮断し、又は低減する抗体を指す。遮断抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性又は機能を実質的又は完全に防止し、阻害し、遮断し、又は低減することができる。例えば、遮断抗NKR抗体は、NKRとそのリガンドとの間の結合相互作用を防止し、阻害し、遮断し、又は低減することができ、したがって、NKR/リガンド相互作用に関連する免疫抑制機能を防止し、阻害し、遮断し、又は低減することができる。「非遮断」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的又は機能的活性を防止、阻害、遮断、又は低減しない抗体を指す。
【0078】
本明細書で使用する「抗原結合フラグメント」という用語は、例えば、二重特異性抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化二重特異性抗体(ds二重特異性抗体)、単鎖抗体分子(scFv)、scFvダイマー(例えば、2価の二重特異性抗体-bi-scFv又は2価の二重特異性抗体-di-scFv)、又は抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体の一部から形成される多特異性抗体などの抗体フラグメントを指す。抗原結合部分は、天然由来のポリペプチド、非ヒト動物の免疫化によって産生される抗体、又は他の供給源、例えば、ラクダ科動物から得られる抗原結合部分を含み得る(例えば、Bannasら、Front.Immunol.,22 November 2017;McMahon C.ら、Nat Struct Mol Biol.25(3):289-296,2018を参照)。抗原結合部分は、所望の及び/又は改善された特性を提供するように、設計し(engineered)、合成し、設計し(designed)、ヒト化し(例えば、Vinckeら、J.Biol.Chem.30;284(5):3273-84,2009)、又は改変することができる。
【0079】
したがって、幾つかの実施形態では、開示された多価ポリペプチド又は多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、抗原結合フラグメント(Fab)、単鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、Vドメイン、Vドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHドメイン、二重特異性抗体、又は前述のいずれか1つの機能的フラグメントからなる群から選択される抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。本開示を読んだ当業者は、「その機能的フラグメント」又は「その機能的変異体」という用語が、フラグメント又は変異体が由来する野生型分子と共通の定量的及び/又は定性的な生物活性を有する分子を指すことを容易に理解する。例えば、抗体の機能的フラグメント又は機能的変異体は、機能的フラグメント又は機能的変異体が由来する抗体と同じエピトープに結合する能力を本質的に保持するものである。例えば、細胞表面受容体のエピトープに結合できる抗体は、N末端及び/又はC末端を切断し、エピトープ結合活性の保持を当業者に知られているアッセイを用いて評価することができる。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、単鎖可変フラグメント(scFv)を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、二重特異性抗体を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、2つのscFv分子が互いに作動可能に結合される、bi-scFv又はdi-scFvを含む。幾つかの実施形態では、bi-scFv又はdi-scFvは、2つのV領域及び2つのV領域を有する単一のペプチド鎖を含み、タンデムscFvをもたらす。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、ナノボディを含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0080】
幾つかの実施形態では、抗原結合部分の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に配置される1つ以上の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に結合される。幾つかの実施形態では、1つ以上の介在アミノ酸残基は、リンカーポリペプチド配列を含む。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、ポリペプチドリンカーとして使用することができる約1~100個のアミノ酸残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個などのアミノ酸残基)を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約5~50個、約10~60個、約20~70個、約30~80個、約40~90個、約50~100個、約60~80個、約70~100個、約30~60個、約20~80個、約30~90個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個、約20~40個、約30~50個、約40~60個、約50~70個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約40~70個、約50~80個、約60~80個、約70~90個、又は約80~100個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10個、約5~15個、約10~20個、約15~25個のアミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列の長さ及びアミノ酸組成は、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接を変化させるように最適化して、多価ポリペプチドの所望の活性を達成することができる。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強又は減少させるような「チューニング」ツール又は効果として変化させることができる。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの互いに対する配向及び/又は近接を最適化して、多価ポリペプチドの部分アンタゴニストから完全アンタゴニストバージョンを作成することができる。
【0081】
特定の実施形態では、リンカーは、グリシン及び/又はセリン残基(例えば、グリシン-セリンリンカー)のみを含む。このようなポリペプチドリンカーの例としては、Gly,Ser;Gly Ser;Gly Gly Ser;Ser Gly Gly;Gly Gly Gly Ser;Ser Gly Gly Gly;Gly Gly Gly Gly Ser;Ser Gly Gly Gly Gly;Gly Gly Gly Gly Gly Ser;Ser Gly Gly Gly Gly Gly;Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser;Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly;(Gly Gly Gly Gly Ser)nであり、nは1以上の整数であるもの;及び(Ser Gly Gly Gly Gly)nであり、nは1以上の整数であるもの、が挙げられる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドは、アミノ酸配列GSG(従来のGly/Serリンカーポリペプチド反復の接合部に生じる)が存在しないように修飾される。ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS及びGGGGS(XGGGS)nからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、Xは、配列に挿入されて、配列GSGを含むポリペプチドをもたらさない任意のアミノ酸であり、nは、0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGSであり、X1はPであり、X2はSであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGSであり、X1はGであり、X2はQであり、nは0~4である。幾つかの他の実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、(GGGX1X2)nGGGGSであり、X1はGであり、X2はAであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーの配列は、GGGGS(XGGGS)nであり、XはPであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)2GGGGSを含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGGQ)2GGGGSを含むか、又はそれらからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列(GGGPS)2GGGGSを含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGS(PGGGS)2を含むか、又はそれからなる。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、配列表のSEQ ID NO:7~9及び45に記載されるアミノ酸配列からなるか、又はそれからなる。
【0082】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体の第1のポリペプチドモジュールは、1つ以上の標的NKRに結合できる抗原結合部分を含む。活性化NKR及び抑制性NKRの両方が適切な標的である。適切なNKRの非限定的な例としては、キラー免疫グロブリン受容体KIR2DL及びKIR3DLなどのKIR、並びにNKG2A、NKG2B、NKG2E、NKG2F、NKp44、NKp30c、CD160、LAIR1、TIM-3、CD96、CEACAM1(CEACAM5)、KLRG-1、及びTIGITの抑制性KIRを含む。幾つかの実施形態では、抑制性KIRの少なくとも1つは、KIR2DLである。幾つかの実施形態では、KIR2DL受容体は、KIR2DL1、KIR2DL2、又はKIR2DL3である。幾つかの実施形態では、抑制性NKRの少なくとも1つは、KIR3DLである。幾つかの実施形態では、KIR3DL受容体は、KIR3DL1又はKIR3DL2である。幾つかの実施形態では、抑制性NKRの少なくとも1つは、NKG2Aである。幾つかの実施形態では、KIR2DL受容体は、KIR2DL1、KIR2DL2、又はKIR2DL3である。幾つかの実施形態では、KIR3DL受容体は、KIR3DL1又はKIR3DL2である。このように、本開示の幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体は、1つ以上の抑制性NKRに結合できる抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の抑制性NKRは、キラー免疫グロブリン受容体KIR2DL、KIR3DL、NKG2A、NKG2B、NKG2E、NKG2F、NKp44、NKp30c、CD160、LAIR1、TIM-3、CD96、CEACAM1(CEACAM5)、KLRG-1、及びTIGITからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、1つ以上の抑制性NKRは、NKG2A、KIR2D1、及び/又はKIR2DL3を含む。
【0083】
適切な活性化NKRには、NKp30a、NKp30b、NKp44、NKp46、NKG2D、NKG2C、KIR2DS、KIR3DS、KIR3DL4、DNAM-1、CD16、及びCD161が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、活性化NKRの少なくとも1つは、KIR2DSである。幾つかの実施形態では、KIR2DS受容体は、KIR2DS1、KIR2DS2、又はKIR2DS4である。このように、本開示の幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体は、1つ以上の活性化NKRに結合できる抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の活性化NKRは、NKp30a、NKp30b、NKp44、NKp46、NKG2D、NKG2C、KIR2DS、KIR3DS、KIR3DL4、DNAM-1、CD16、及びCD161からなる群から選択される。
【0084】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体の第2のポリペプチドモジュールは、1つ以上の標的RPTPに結合できる抗原結合部分を含む。適切なRPTPの非限定的な例としては、サブファミリーR1/R6のメンバーが挙げられる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体の第2のポリペプチドモジュールは、CD45ホスファターゼ又はその機能的変異体、例えば、そのホモログなどに結合できる抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、CD45ホスファターゼは、ヒトCD45ホスファターゼである。一般に、CD45の任意のアイソフォームを使用することができる。幾つかの実施形態では、RPTPは、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、及びCD45Rからなる群から選択されるCD45アイソフォームである。本明細書で開示する組成物及び方法に適した例示的なCD45結合部分には、米国特許第7,825,222号及び第9,701,756号に記載されているものが含まれるが、これらに限定されない。追加の適切なRPTPには、サブファミリーR3のメンバーが含まれる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体の第2のポリペプチドモジュールは、CD148ホスファターゼ又はその機能的変異体、例えば、そのホモログなどに結合できる抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、CD148ホスファターゼは、哺乳類CD148ホスファターゼである。幾つかの実施形態では、CD148ホスファターゼは、ヒトCD148ホスファターゼである。
【0085】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴の1つ以上を含み得る。幾つかの実施形態では、1つ以上のRPTPは、CD45、CD148、又はこれらのいずれかの機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンド又は抗原結合部分のためのアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、単鎖可変フラグメント(scFv)、抗原結合フラグメント(Fab)、ナノボディ、Vドメイン、Vドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、及びVHドメイン、二重特異性抗体、又はこれらのいずれかの機能的フラグメントからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、NKRの天然リガンドの細胞外ドメイン(ECD)、細胞表面受容体のECD、又はRPTPのECD、若しくはこれらのいずれかの機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、MHC-I分子(HLA)の1つ以上のECD、又はその機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、第1のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第2のポリペプチドモジュールに作動可能に結合される。
【0086】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、CD8T細胞上に発現する抗原に結合できる第3のポリペプチドモジュールを含む第3のアミノ酸配列を更に含む。幾つかの実施形態では、第3のポリペプチドモジュールは、CD8に対する結合親和性を有する抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、第3のポリペプチドモジュールは、CD8NKRT細胞に対して結合親和性を有する抗原結合部分を含む。
【0087】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、(i)MHC-I分子のECD、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFvを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、(i)KIR2DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFvを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、(i)NKG2A scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFvを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、(i)KIR3DL scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFvを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、(i)Ly49C/I scFv、(ii)ポリペプチドリンカー、及び(iii)CD45 scFvを含む。
【0088】
幾つかの実施形態では、NKG2A scFvは、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する、アミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、NKG2A scFvは、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:3の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、KIR2DL scFvは、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、KIR2DL scFvは、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:4の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0089】
幾つかの実施形態では、Ly49C/I scFvは、SEQ ID NO:39のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、KIR3DL scFvは、SEQ ID NO:39のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:39の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0090】
幾つかの実施形態では、KIR3DL scFvは、SEQ ID NO:43のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、KIR3DL scFvは、SEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:43の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0091】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、2、32、34、36、38、40、42、44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する、アミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:1の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:2の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:32の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:34のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:34のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:34の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0092】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:36のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:36のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:36の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:38の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0093】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:40の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:42のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:42のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:42の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が異なるアミノ酸残基によって置換されている。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:44のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:44のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:44の配列中のアミノ酸残基の1個、2個、3個、4個、又は5個が、異なるアミノ酸残基によって置換されている。
【0094】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、2、32、34、36、38、40、42、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:34のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:36のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:38のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:42のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、SEQ ID NO:44のアミノ酸配列に対して100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0095】
幾つかの特定の実施形態では、本開示の多価ポリペプチドの第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、それぞれが標的タンパク質に対する特異的結合を有する少なくとも2つの抗原結合部分を含む多価抗体(例えば、2価抗体又は3価抗体)を含み得る。幾つかの実施形態では、少なくとも2つの抗原結合部分は、同じ標的タンパク質に対する特異的結合を有する。このような抗体は、多価の単特異性抗体である。幾つかの実施形態では、少なくとも2つの抗原結合部分は、少なくとも2つの異なる標的タンパク質に対する特異的結合を有する。このような抗体は、多価の多特異性抗体(例えば、二重特異性、三重特異性など)である。したがって、本明細書に開示される幾つかの実施形態は、(i)リン酸化機構を介してシグナル伝達する1つ以上のNKRに特異的な第1のポリペプチドモジュールと、(ii)NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上のRPTPに特異的な第2のポリペプチドモジュールと、を含む多価抗体又はその機能的フラグメントに関するものであり、第1のポリペプチドモジュールは、第2のポリペプチドモジュールに作動可能に結合される。したがって、幾つかの実施形態では、開示された多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、2価の単特異性抗体であり得る。幾つかの実施形態では、開示された多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、3価の単特異性抗体であり得る。幾つかの実施形態では、開示された多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、2価の二重特異性抗体であり得る。幾つかの実施形態では、開示された多価抗体の第1及び第2のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、3価の三重特異性抗体であり得る。
【0096】
当業者は、完全なアミノ酸配列を使用して逆翻訳された遺伝子を構築できることを理解するであろう。例えば、所定のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAオリゴマーが合成され得る。例えば、所望のポリペプチドの一部をコードする幾つかの小さなオリゴヌクレオチドを合成し、次いでライゲーションすることができる。個々のオリゴヌクレオチドは、典型的には、相補的なアセンブリのための5’又は3’オーバーハングを含む。
【0097】
組換え分子生物学的手法によって改変された核酸分子の発現を介して多価ポリペプチドを生成することに加えて、本開示に従った対象の多価ポリペプチド又は多価抗体は、化学的に合成され得る。化学合成されたポリペプチドは、当業者によって日常的に生成される。
【0098】
一旦(合成、部位特異的突然変異誘発又は別の方法によって)組み立てられると、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列は、発現ベクターに挿入され、所望の形質転換宿主における多価ポリペプチド又は多価抗体の発現に適切な発現制御配列に作動可能に結合される。適切なアセンブリは、ヌクレオチド配列決定、制限マッピング、及び適切な宿主における生物学的に活性なポリペプチドの発現によって確認され得る。当該技術分野で知られているように、宿主においてトランスフェクト遺伝子の高い発現レベルを得るためには、当該遺伝子は、選択された発現宿主において機能的である転写及び翻訳発現制御配列に作動可能に結合されなければならない。
【0099】
本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体の結合活性は、当該技術分野で知られている任意の適切な方法によってアッセイすることができる。例えば、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体の結合活性は、例えば、Scatchardアッセイ(Munsenら、1980 Analyt.Biochem.107:220-239)によって決定することができる。特異的結合は、競合ELISA、BIACORE(登録商標)アッセイ及び/又はKINEXA(登録商標)アッセイを含むが、これらに限定されない当該技術分野で知られている技術を使用して評価することができる。標的タンパク質又は標的エピトープに「優先的に結合する」又は「特異的に結合する」(本明細書では互換的に使用)抗体又はポリペプチドは、当該技術分野でよく理解されている用語であり、このような特異的又は優先的結合を決定する方法も当該技術分野で知られている。抗体又はポリペプチドは、特定のタンパク質又はエピトープと、代替のタンパク質又はエピトープと反応又は会合するよりも、より頻繁に、より迅速に、より持続的に、及び/又はより親和的に反応又は会合する場合、「特異的結合」又は「優先的結合」を示すと言われる。抗体又はポリペプチドは、他の物質と結合するよりも、高い親和性、アビディティ、より容易に、及び/又はより長い時間で結合する場合、標的と「特異的に結合」又は「優先的に結合」する。また、抗体又はポリペプチドは、サンプル中に存在する他の物質と結合するよりも、サンプル中のその標的と、より高い親和性、アビディティ、より容易に、及び/又はより長い時間で結合する場合、標的と「特異的に結合」又は「優先的に結合」する。例えば、NKRエピトープに特異的又は優先的に結合する抗体又はポリペプチドは、他のNKRエピトープ又は非NKRエピトープに結合するよりも、このエピトープに高い親和性、アビディティ、より容易に、及び/又はより長い時間結合する抗体又はポリペプチドである。また、例えば、第1の標的に特異的又は優先的に結合する抗体又はポリペプチド(又は部位若しくはエピトープ)は、第2の標的に特異的又は優先的に結合する場合もあればしない場合もあることが、この定義を読むことによって理解される。このように、「特異的結合」又は「優先的結合」は、必ずしも排他的結合を必要としない(ただし、排他的結合を含むことができる)。
【0100】
様々なアッセイ形式を使用して、目的の分子に特異的に結合する抗体又はポリペプチドを選択することができる。例えば、固相ELISA免疫学的検定、免疫沈降、BiacoreTM(GE Healthcare、Piscataway、NJ)、KinExA、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、OctetTM(ForteBio、Inc.、Menlo Park、CA)及びウエスタンブロット分析は、抗原と特異的に反応する抗体、又は同族リガンド又は結合パートナーと特異的に結合する受容体、又はそのリガンド結合部分を同定するために使用され得る多くのアッセイの一つである。一般に、特異的又は選択的な反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10倍超、更に典型的にはバックグラウンドの50倍超、より典型的にはバックグラウンドの100倍超、更に典型的にはバックグラウンドの500倍超、更に典型的にはバックグラウンドの1000倍超、更に典型的にはバックグラウンド10,000倍超となる。また、抗体は、平衡解離定数(K)が7nM未満である場合に、抗原と「特異的に結合する」と言われる。
【0101】
用語「結合親和性」は、本明細書では、2つの分子、例えば、抗体又はその一部と、抗原との間の非共有結合的相互作用の強さの尺度として使用される。「結合親和性」という用語は、1価の相互作用(固有活性)を説明するために使用される。2つの分子間の結合親和性は、解離定数(K)を決定することによって定量化することができる。同様に、Kは、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore社)を使用して、複合体の形成と解離の速度論を測定することにより決定することができる。1価の複合体の会合及び解離に対応する速度定数は、それぞれ会合速度定数k(又はkon)及び解離速度定数k(又はkoff)と称される。Kは、K=k/kという式でkとkに関係する。解離定数の値は、周知の方法で直接決定することができ、複雑な混合物であってもCaceciら(1984,Byte 9:340-362)により示されるような方法で計算することができる。例えば、Kは、Wong&Lohman(1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5428-5432)によって開示されるようなダブルフィルターニトロセルロースフィルター結合アッセイを使用して確立され得る。標的抗原に対する本開示の抗体又はポリペプチドの結合能力を評価するための他の標準的なアッセイは、当該技術分野で知られており、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、及びフローサイトメトリー分析、並びに本明細書の他の箇所に例示される他のアッセイを含む。抗体の結合動態及び結合親和性はまた、表面プラズモン共鳴(SPR)、例えば、BiacoreTMシステム、又はKinExAを使用することによる、当該技術分野で知られている標準的なアッセイによって評価することができる。
【0102】
本開示の核酸
一態様では、本明細書で提供されるのは、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体をコードするヌクレオチド配列を含む種々の核酸分子であり、宿主細胞又はex vivo無細胞発現系における多価ポリペプチド及び多価抗体のin vivo発現を容易にする調節因子配列に作動可能に結合したこれらの核酸分子を含む発現カセット及び発現ベクターが挙げられる。
【0103】
用語「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書において互換的に使用され、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、及び核酸アナログを含むDNA又はRNA分子を含む核酸分子を含む、RNA及びDNA分子の両方を指す。核酸分子は、二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖)であることができる。核酸分子は、非従来型又は修飾型ヌクレオチドを含むことができる。本明細書で使用する「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」という用語は、互換的に、ポリヌクレオチド分子の配列を指す。37CFR§1.822に規定されるヌクレオチド塩基の命名法は、本明細書で使用される。
【0104】
本開示の核酸分子は、一般に約0.5Kb~約20Kb、例えば約0.5Kb~約20Kb、約1Kb~約15Kb、約2Kb~約10Kb、又は約5Kb~約25Kb、例えば約10Kb~15Kb、約15Kb~約20Kb、約5Kb~約20Kb、約5Kb~約10Kb、又は約10Kb~約25Kbである核酸分子を含む、任意の長さの核酸分子であり得る。
【0105】
本明細書に開示される幾つかの実施形態では、本開示の核酸分子は、(a)リン酸化機構を介してシグナル伝達するNK細胞受容体(NKR)に結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む第1のアミノ酸配列と、b)NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合できる第2のポリペプチドモジュールを含む第2のアミノ酸配列と、を含む多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態では、本開示の核酸分子は、(a)リン酸化機構を介してシグナル伝達するNK細胞受容体(NKR)に結合できる第1のポリペプチドモジュールを含む第1のアミノ酸配列と、(b)NKRも発現する免疫細胞上に発現する1つ以上の受容体タンパク質-チロシンホスファターゼ(RPTP)に結合できる第2のポリペプチドモジュールを含む第2のアミノ酸配列と、を含む多価抗体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0106】
本明細書に開示される幾つかの実施形態では、核酸分子は、(i)本明細書に開示される多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又はその機能的フラグメント、あるいは(ii)多価抗体に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は本明細書に開示されるその機能的フラグメント、を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。核酸分子は、(i)本明細書に開示される多価ポリペプチドに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又はその機能的フラグメント、あるいは(ii)多価抗体に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は本明細書で開示されるその機能的フラグメント、を含むポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0107】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:1、2、32、34、36、38、40、42、及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:1に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:32に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。
【0108】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:36に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:38に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。
【0109】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:40に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:42に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:44に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む多価ポリペプチドをコードする核酸配列、又はその機能的フラグメントを含む。
【0110】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:5、6からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する、ヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:5のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメント含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。
【0111】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:5のヌクレオチド配列に対して100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列に対して100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、又はその機能的フラグメントを含む。
【0112】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるような組換え核酸分子は、発現カセット又は発現ベクターに組み込むことができる。したがって、本明細書に開示される幾つかの実施形態は、本明細書に開示されるような組換え核酸分子を含むベクター又は発現カセットに関する。発現カセットは、一般に、コード配列と、レシピエント細胞におけるコード配列の適切な転写及び/又は翻訳を指示するために十分な調節情報と、を含む遺伝物質の構築物を、in vivo及び/又はex vivoで含むことが理解されるであろう。一般に、発現カセットは、所望の宿主細胞及び/又は対象への標的化のためにベクターに挿入され得る。このように、幾つかの実施形態では、本開示の発現カセットは、プロモーターなどの発現制御要素、及び任意で、コード配列の転写又は翻訳に影響を与える他の核酸配列のいずれか又は組み合わせに作動可能に結合される、本明細書に開示されるような多価ポリペプチドのコード配列を含む。
【0113】
幾つかの実施形態では、本開示の核酸分子は、発現ベクターに組み込むことができる。「ベクター」という用語は、一般に、宿主細胞間の移送のために設計された組換えポリヌクレオチド構築物を指し、形質転換、例えば、宿主細胞への異種DNAの導入の目的のために使用され得ることが当業者によって理解されるであろう。このように、幾つかの実施形態では、ベクターは、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンであることができ、その中に、挿入されたセグメントの複製を引き起こすように、別のDNAセグメントが挿入され得る。幾つかの実施形態において、発現ベクターは、積分ベクターであり得る。したがって、本明細書で開示される多価ポリペプチド及び多価抗体のいずれかをコードする1つ以上の核酸分子を含むベクター、プラスミド又はウイルスも提供される。上記の核酸分子は、例えば、ベクターで形質導入された細胞においてそれらの発現を指示することができるベクター内に含まれ得る。真核細胞及び原核細胞で使用するための適切なベクターは、当該技術分野で知られており、市販されているか、又は当業者によって容易に調製される。追加のベクターはまた、例えば、Ausubel、F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology,(Current Protocol,1994)、及びSambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、2nd ED.(1989)で見つけることもできる。
【0114】
全てのベクター及び発現制御配列が、本明細書に記載のDNA配列を発現するために等しく機能するわけではないことを理解されたい。また、全ての宿主が同じ発現系で同じように機能するわけでもない。しかしながら、当業者は、過度の実験をすることなく、これらのベクター、発現制御配列及び宿主の中から選択することができる。例えば、ベクターを選択する場合、ベクターは宿主の中で複製しなければならないので、宿主を考慮する必要がある。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、及び抗生物質マーカーなど、ベクターによってコードされる他のタンパク質の発現も考慮されるべきである。例えば、使用できるベクターは、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体をコードするDNAをコピー数で増幅することを可能にするものを含む。このような増幅可能なベクターは、当該技術分野で知られている。これらには、例えば、DHFR増幅(例えば、Kaufman、米国特許第4,470,461号参照)又はグルタミン合成酵素(「GS」)増幅(例えば、米国特許第5,122,464号及び欧州公開出願EP338,841号を参照)が挙げられる。
【0115】
したがって、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体は、ベクター、一般に発現ベクターから発現され得る。ベクターは、宿主細胞における自律複製に有用であるか、又は宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに統合され、それによって宿主ゲノム(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)と共に複製され得る。発現ベクターは、それらが作動可能に結合されるコード配列の発現を指示することができる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしばプラスミド(ベクター)の形態である。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製不全レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターも含まれる。
【0116】
例示的な組換え発現ベクターは、発現に使用する宿主細胞に基づいて選択され、発現させる核酸配列に作動可能に結合された、1つ以上の調節配列を含み得る。
【0117】
DNAベクターは、従来の形質転換又はトランスフェクション技術により原核細胞又は真核細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,N.Y.)及び他の標準的な分子生物学実験マニュアルで見つけることができる。
【0118】
本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体をコードする核酸配列は、目的の宿主細胞における発現のために最適化することができる。例えば、配列のG-C含量は、宿主細胞で発現する既知の遺伝子を参照して計算されるような、所定の細胞宿主の平均レベルに調整することができる。コドンの最適化のための方法は、当該技術分野で知られている。本明細書に開示される多価ポリペプチド及び多価抗体のコード配列内のコドン使用量は、コード配列内のコドンの約1%、約5%、約10%、約25%、約50%、約75%、又は最大100%が特定の宿主細胞における発現に最適化されているように、宿主細胞における発現を増強するように最適化することができる。
【0119】
使用に適したベクターには、細菌で使用するためのT7系のベクター、哺乳類細胞で使用するためのpMSXND発現ベクター、及び昆虫細胞で使用するためのバキュロウイルス由来のベクターが挙げられる。幾つかの実施形態では、このようなベクターにおいて対象の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする核酸インサートは、例えば、発現が求められる細胞型に基づいて選択されるプロモーターに作動可能に結合され得る。
【0120】
発現制御配列を選択において、様々な要因も考慮すべきである。これらには、例えば、配列の相対的な強さ、その制御性、及び対象の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする実際のDNA配列との適合性、特に潜在的な二次構造に関する適合性が挙げられる。宿主は、選択したベクターとの適合性、本開示のDNA配列によってコードされる生成物の毒性、分泌特性、ポリペプチドを正しく折り畳む能力、発酵又は培養要件、及びDNA配列によってコードされる生成物の精製の容易さを考慮して選択されるべきである。
【0121】
これらのパラメータの範囲内で、当業者は、例えばCHO細胞又はCOS7細胞を使用して、発酵上又は大規模な動物培養において所望のDNA配列を発現する様々なベクター/発現制御配列/宿主の組み合わせを選択することができる。
【0122】
発現制御配列及び発現ベクターの選択は、幾つかの実施形態では、宿主の選択に依存することになる。多種多様な発現宿主/ベクターの組み合わせが採用され得る。真核生物宿主のための有用な発現ベクターの非限定的な例としては、例えば、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノウイルス及びサイトメガロウイルスからの発現制御配列を有するベクターが挙げられる。細菌宿主のための有用な発現ベクターの非限定的な例としては、col El、pCRI、pER32z、pMB9及びこれらの誘導体を含む大腸菌由来のプラスミドなどの既知の細菌プラスミド、RP4などのより広い宿主範囲のプラスミド、ファージDNA、例えばファージラムダの多数の誘導体、例えばNM989、並びにM13及び糸状の一本鎖DNAファージなどの他のDNAファージが挙げられる。酵母細胞用の有用な発現ベクターの非限定的な例としては、2μプラスミド及びその誘導体が挙げられる。昆虫細胞に有用なベクターの非限定的な例としては、pVL 941及びpFastBaTM1が挙げられる。
【0123】
さらに、多種多様な発現制御配列のいずれかを、これらのベクターで使用することができる。このような有用な発現制御配列には、前述の発現ベクターの構造遺伝子に関連する発現制御配列が含まれる。有用な発現制御配列の例としては、例えば、SV40又はアデノウイルスの初期及び後期プロモーター、lac系、trp系、TAC又はTRC系、ファージラムダの主要オペレーター及びプロモーター領域、例えばPL、fdコートタンパク質の制御領域、3-ホスホグリセレートキナーゼ又は他の糖質分解酵素用のプロモーター、酸性ホスファターゼ、例えば、PhoA、酵母のa-交配システムのプロモーター、バキュロウイルスの多面体プロモーター、及び原核細胞又は真核細胞若しくはそれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが知られている他の配列、及びそれらの種々の組み合わせが挙げられる。
【0124】
T7プロモーターは細菌で使用することができ、ポリヘドリンプロモーター昆虫細胞で使用することができ、サイトメガロウイルス又はメタロチオネインプロモーターは哺乳類細胞で使用することができる。また、高等真核生物の場合、組織特異的かつ細胞種特異的なプロモーターが広く利用されている。これらのプロモーターは、体内の所定の組織又は細胞型において核酸分子の発現を指示する能力を有することから、このように命名されている。熟練した技術者であれば、核酸の発現を指示するために使用できる多数のプロモーター及び他の調節要素を容易に理解するであろう。
【0125】
挿入された核酸分子の転写を促進する配列に加えて、ベクターは、複製起点、及び選択可能なマーカーをコードする他の遺伝子を含み得る。例えば、ネオマイシン耐性(neoR)遺伝子は、それが発現される細胞にG418耐性を付与し、したがって、トランスフェクトされた細胞の表現型選択を可能にする。当業者であれば、特定の制御要素又は選択マーカーが、特定の実験状況での使用に適しているかどうかを容易に判断することができる。
【0126】
本開示において使用され得るウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ベクター、ヘルペスウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、及び牛乳頭腫ウイルスベクター(例えば、Gluzman(Ed.),Eukaryotic Viral Vectors,CSH Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照)が挙げられる。
【0127】
発現系の選択において、構成要素が互いに適合するように注意する必要がある。例えば、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体は、細菌である大腸菌などの原核生物宿主、又は昆虫細胞(例えば、Sf21細胞)、哺乳類細胞(例えば、COS細胞、NIH 3T3細胞、又はHeLa細胞)などの真核生物宿主で産生することができる。これらの細胞は、American Type Culture Collection(Manassas,Va.)を含む多くのソースから入手可能である。発現系を選択する際に重要なのは、構成要素が互いに適合していることのみである。当業者であれば、このような判断は可能である。さらに、発現系の選択において指導が必要な場合、当業者は、Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,New York,N.Y.,1993)及びPouwelsら(Cloning Vectors:A Laboratory Manual,1985 Suppl.1987)を参考にすることができる。
【0128】
発現した多価ポリペプチド又は多価抗体は、日常的な生化学的手順を使用して発現系から精製することができ、例えば、本明細書に記載のように、治療薬として使用することができる。
【0129】
幾つかの実施形態では、得られた多価ポリペプチド又は多価抗体は、多価ポリペプチド又は多価抗体を産生するために使用される宿主生物に依存して、グリコシル化される又はグリコシル化されないであろう。宿主として細菌を選択した場合、生成される多価ポリペプチド又は多価抗体は、グリコシル化されていないものとなる。一方、真核細胞は、多価ポリペプチド又は多価抗体をグリコシル化するが、おそらくネイティブポリペプチドがグリコシル化されるのと同じ方法ではない。形質転換宿主によって産生された多価ポリペプチド又は多価抗体は、当該技術分野で知られている適切な方法に従って精製することができる。産生された多価ポリペプチド又は多価抗体は、大腸菌などの細菌で生成した封入体から、又は陽イオン交換、ゲル濾過、又は逆相液体クロマトグラフィーなどを使用して所定の多価ポリペプチド又は多価抗体を産生する哺乳類又は酵母のいずれかの培養物の調整培地から分離することができる。
【0130】
追加で又は代替的に、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列を構築する別の例示的な方法は、化学合成によるものである。これには、記載された特性を示す多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするタンパク質配列の、化学的手段によるペプチドの直接合成が含まれる。この方法では、多価ポリペプチド又は多価抗体と標的タンパク質との結合親和性に影響を与える位置に、天然及び非天然の両方のアミノ酸を組み込むことができる。あるいは、所望の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする遺伝子は、オリゴヌクレオチド合成機を用いて化学的手段により合成することができる。このようなオリゴヌクレオチドは、所望の多価ポリペプチド又は多価抗体のアミノ酸配列に基づいて設計され、一般に、組換え多価ポリペプチド又は多価抗体が産生される宿主細胞において有利なコドンを選択する。この点に関して、遺伝暗号は、アミノ酸が複数のコドンによってコード化され得るという縮退であることは、当該技術分野でよく認識されている。例えば、Phe(F)はTIC又はTTTの2つのコドンによってコードされ、Tyr(Y)はTAC又はTATによってコードされ、His(H)はCAC又はCATによってコードされる。Trp(W)は、単一のコドンであるTGGによってコードされる。したがって、特定の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする所定のDNA配列について、その多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする多くのDNA縮退配列が存在することが、当業者には理解されるであろう。例えば、配列表に提供された多価ポリペプチド又は多価抗体のDNA配列に加えて、本明細書に開示された多価ポリペプチド又は多価抗体をコードする多くの退化したDNA配列が存在することが理解されよう。これらの退化したDNA配列は、本開示の範囲内とみなされる。したがって、本開示に関連する「その退化した変異体」とは、特定の多価ポリペプチド又は多価抗体の発現をコードし、それによって発現を可能にする全てのDNA配列を意味する。
【0131】
部位特異的変異誘発、化学合成又は他の方法によって調製されたかどうかに拘らず、対象の多価ポリペプチド又は多価抗体をコードするDNA配列は、シグナル配列をコードするDNA配列も含み得る。このようなシグナル配列は、存在する場合、多価ポリペプチド又は多価抗体の発現のために選択された細胞によって認識されるものであるべきである。原核生物、真核生物、又はその2つの組み合わせであることができる。一般に、シグナル配列の包含は、本明細書に開示される多価ポリペプチド又は多価抗体を、それが作られる組換え細胞から分泌させることが望まれるかどうかに依存する。選択された細胞が原核生物である場合、DNA配列は一般にシグナル配列をコードしない。選択された細胞が真核生物である場合、シグナル配列は一般に含まれる。
【0132】
提供される核酸分子は、天然に存在する配列、又は天然に存在する配列とは異なるが、遺伝暗号の縮退により、同じポリペプチドをコードする配列を含み得る。これらの核酸分子は、RNA又はDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、又はホスホルアミダイト系の合成によって生成されるような合成DNA)、又はこれらの種類の核酸内のヌクレオチドの組み合わせ若しくは修飾からなることができる。さらに、核酸分子は、二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれか)であってもよい。
【0133】
核酸分子は、ポリペプチドをコードする配列に限定されず、コード配列(例えば、本開示のNKR、抗KIR2DL、抗NKG2A、又はNKR-RIPR分子のコード配列)の上流又は下流にある非コード配列の一部又は全部も含まれることがある。分子生物学の技術分野における通常の技術者は、核酸分子を単離するための日常的な手順に精通している。それらは、例えば、ゲノムDNAを制限エンドヌクレアーゼで処理することによって、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実行によって生成することができる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合、分子は、例えば、in vitro転写によって生成することができる。
【0134】
本開示の例示的な核酸分子は、天然状態ではそのようなものとして見出されないフラグメントを含み得る。したがって、本開示は、核酸配列(例えば、本開示のNKR-RIPR分子をコードする配列)が、ベクター(例えば、プラスミド又はウイルスベクター)又は異種細胞のゲノム(又は相同細胞のゲノム、天然の染色体位置以外の位置)に組み込まれるものなどの、組換え核酸分子を包含する。
【0135】
組換え細胞及び細胞培養
本開示の多価ポリペプチド及び組換え核酸は、例えば、真核細胞などの細胞に導入して、組換え細胞、例えば、人工細胞を生成することができる。幾つかの実施形態では、細胞は、in vivoである。幾つかの実施形態では、細胞はex vivoである。幾つかの実施形態では、細胞はin vitroである。幾つかの実施形態では、組換え細胞は、動物細胞である。幾つかの実施形態では、動物細胞は、哺乳動物細胞である。幾つかの実施形態では、動物細胞は、ヒト細胞である。幾つかの実施形態では、細胞は、非ヒト霊長類細胞である。
【0136】
例えば、本明細書に開示される多価ポリペプチド及び/又は組換え核酸は、細菌大腸菌などの原核生物宿主、又は昆虫細胞(例えば、Sf21細胞)若しくは哺乳類細胞(例えば、COS細胞、NIH 3T3細胞、又はHeLa細胞)などの真核生物宿主で産生することができる。幾つかの実施形態では、組換え細胞は、免疫細胞である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、B細胞、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、好塩基球、好酸球、好中球、樹状細胞、マクロファージ、制御性T細胞、ヘルパーT細胞(T)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、メモリーT細胞、ガンマデルタ(γδ)T細胞、別のT細胞、造血幹細胞、又は造血幹細胞前駆体である。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞又はT細胞である。
【0137】
幾つかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。本開示の組成物及び方法に適したNK細胞の非限定的な例としては、NK-92細胞、taNK細胞、aNK細胞、haNK細胞、及びNKL細胞が挙げられる。幾つかの実施形態では、NK細胞は、NK-92細胞である。幾つかの実施形態では、NK-92細胞は、受託番号ATCC PTA-6672でAmerican Type Culture Collectionに寄託されたNK-92細胞株に由来する。幾つかの実施形態では、NK-92細胞は、受託番号ATCC CRL-2407の下でAmerican Type Culture Collectionに寄託されたNK-92細胞株に由来する。本開示の組成物及び方法に適した追加のNK細胞株としては、NK細胞株MG4101、NK-92MI、NK-S、NK-S7N、及びNK YT-A1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
幾つかの実施形態では、免疫細胞は、リンパ球である。幾つかの実施形態では、リンパ球は、その細胞表面に1つ以上のNKRを発現するTリンパ球又はTリンパ球前駆体である。この点に関する追加情報は、例えば、Saligrama N.ら(Nature,2019 Aug;572(7770):481-487)で見つけることができる。幾つかの実施形態では、Tリンパ球は、CD4T細胞又はCD8T細胞である。幾つか実施形態では、Tリンパ球は、ナイーブCD8T細胞、CD8制御性T細胞、セントラルメモリーCD8T細胞、エフェクターメモリーCD8T細胞、エフェクターCD8T細胞、CD8幹メモリーT細胞、及びバルクCD8T細胞からなる群から選択されるCD8T細胞毒性リンパ球の細胞である。幾つかの実施形態では、Tリンパ球は、ナイーブCD4T細胞、セントラルメモリーCD4T細胞、エフェクターメモリーCD4T細胞、エフェクターCD4T細胞、CD4幹メモリーT細胞、及びバルクCD4T細胞からなる群から選択されるCD4Tヘルパーリンパ球の細胞である。
【0139】
幾つかの実施形態では、NKRを発現する免疫細胞は、例えば、制御性T細胞(Treg細胞)などのT細胞である。幾つかの実施形態では、Treg細胞は、実施例5、図9A、9B及び図10A、10Bに例示されるように、CD8Treg細胞である。このように、本開示の幾つかの実施形態では、T細胞は、NKRを発現するCD8T細胞である。幾つかの実施形態では、NKRは、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)である。
【0140】
したがって、本開示の幾つかの実施形態は、(a)タンパク質発現が可能な宿主細胞を提供すること、及び提供された宿主細胞を本開示の組換え核酸分子で導入して組換え細胞を産生することを含む、組換え細胞を作るための方法に関する。本開示の核酸分子の細胞への導入は、例えば、ウイルス感染、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達、などの当業者に既知の方法によって達成することができる。
【0141】
したがって、幾つかの実施形態では、本開示の核酸分子は、当該技術分野で既知のウイルス又は非ウイルス送達ビヒクルによって宿主細胞に導入して、組換え細胞を産生することができる。例えば、核酸分子は、組換え細胞のゲノムに安定的に組み込まれ得るか、エピソーム的に複製され得るか、又は一過性の発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え細胞中に存在する。したがって、幾つかの実施形態では、核酸分子は、エピソーム単位として組換え宿主細胞内に維持され複製される。幾つかの実施形態では、核酸分子は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え細胞内に存在する。幾つかの実施形態では、核酸分子は、組換え細胞のゲノムに安定的に統合される。安定した統合は、古典的なランダムゲノム組換え技術を使用して、又はゲノム編集としてのガイドRNA誘導CRISPR/C、又はNgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)を用いたDNA誘導エンドヌクレースゲノム編集、又はTALENsゲノム編集(転写活性剤様作用因子ヌクレース)などのより正確な技術を使用して達成され得る。
【0142】
本開示の核酸分子は、ウイルスカプシド又は脂質ナノ粒子にカプセル化することができ、又はウイルス又は非ウイルス送達手段及びエレクトロポレーションなどの当該技術分野で既知の方法によって送達することができる。例えば、細胞への核酸の導入は、ウイルス形質導入によって達成され得る。非限定的な例では、バキュロウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)は、ウイルス導入によって標的細胞に核酸を送達するように操作され得る。幾つかのAAV血清型が記載されており、既知の血清型の全てが、複数の多様な組織型からの細胞を感染させることができる。AAVは、毒性を示すことなく、in vivoで様々な生物種や組織を感染させることができ、比較的穏やかな自然免疫及び適応免疫応答を生じさせる。
【0143】
レンチウイルス由来のベクターシステムは、ウイルス形質導入による核酸デリバリーや遺伝子治療にも有用である。レンチウイルスベクターは、(i)宿主ゲノムへの安定なベクター統合による持続的な遺伝子導入、(ii)分裂中及び非分裂中の細胞の両方に感染する能力、(iii)重要な遺伝子及び細胞治療標的細胞型を含む幅広い組織トロピズム、(iv)ベクター導入後のウイルスタンパク質の発現しないこと、(v)ポリシストロン又はイントロン含有配列などの複合遺伝子要素を送達する能力、(vi)より安全であると考えられる統合部位プロファイル、及び(vii)ベクターの操作及び産生に関する比較的容易なシステム、を含む、遺伝子送達ビヒクルとして幾つかの魅力的な特性を提供する。
【0144】
幾つかの実施形態では、宿主細胞は、例えば、宿主細胞のゲノムの一部と相同な核酸配列を含むウイルスベクター又は相同組換え用ベクターであり得るか、又は目的のポリペプチドの発現のための発現ベクターであり得る、例えば本開示のベクター構築物で、遺伝子操作(例えば、形質導入又は形質転換又はトランスフェクト)され得る。宿主細胞は、形質転換されていない細胞、又は少なくとも1つの核酸分子で既に形質転換された細胞のいずれかであり得る。
【0145】
別の態様では、本明細書で開示される少なくとも1つの組換え細胞、及び培地を含む細胞培養物が提供される。一般に、培地は、本明細書に記載の細胞を培養するための適切な培地であり得る。上述したように、多種多様な上記細胞及び種を形質転換するための技術は、当該技術分野で知られており、技術文献及び科学文献に記載されている。したがって、本明細書に開示されるような少なくとも1つの組換え細胞を含む細胞培養物もまた、本願の範囲内である。細胞培養物の生成及び維持に適した方法及びシステムは、当該技術分野で知られている。
【0146】
組成物及び医薬組成物
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、及び細胞培養物は、医薬組成物を含む組成物に組み込むことができる。このような組成物は、一般に、1つ以上の本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞を含む。幾つかの実施形態では、組成物は、医薬組成物である。幾つかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤と、1つ以上の本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞と、を含む。
【0147】
注射用に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び滅菌注射液又は分散液を即座に調製するための滅菌粉末がある。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM.(BASF、Parsippany、N.J.)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。幾つかの実施形態では、組成物が無菌であり、容易な注射可能性が存在する程度に流動的であることを確実にするために、注意が払われるべきである。幾つかの実施形態では、組成物が製造及び保存の条件下で安定であり、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならないことを保証するために、注意も払われなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びこれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒体とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散の場合の必要な粒子径の維持、及び界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムの使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、及び/又は塩化ナトリウムを組成物に含めることが一般的であろう。注射用組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0148】
滅菌注射液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した成分の1つ又は組み合わせと共に適切な溶媒と合わせ、次いで濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒と、上記に列挙した成分のうち必要な他の成分と、を含む無菌ビヒクルに取り込むことによって調製される。無菌注射液の調製用の無菌粉末の場合、一般的な調製方法は、真空乾燥と凍結乾燥であり、事前に無菌濾過した溶液から活性成分と追加の所望成分の粉末を得る。
【0149】
経口組成物は、使用される場合、一般に、不活性な希釈剤又は食用担体を含む。経口治療投与の目的のために、活性化合物(例えば、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、及び/又は細胞培養物)は、賦形剤と組み込んで、錠剤、トローチ、又はカプセル、例えばゼラチンカプセルの形態で使用できる。経口組成物はまた、洗口液として使用するための流体担体を使用して調製することができる。薬学的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント材料は、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、ピル、カプセル、トローチなどは、以下の成分のいずれか:微結晶セルロース、トラガントガム又はゼラチンなどの結合剤;デンプン、乳糖などの賦形剤、アルギン酸、PrimogelTM又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はSterotesTMなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;ショ糖又はサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香料などの香味剤、のいずれか、又は同様の性質を有する化合物を含むことができる。
【0150】
吸入による投与の場合、本開示の主題の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び/又は組換え細胞は、適切な推進剤、例えば二酸化炭素などの気体を含む加圧容器又はディスペンサー、又はネブライザーからのエアゾールスプレーの形態で送達される。このような方法としては、米国特許第6,468,798号に記載されているものが挙げられる。
【0151】
本開示の対象多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び組換え細胞の全身投与は、経粘膜又は経皮手段によっても可能である。経粘膜又は経皮投与の場合、浸透させるべきバリアに適した浸透剤が、製剤に使用される。このような浸透剤は、当該技術分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、洗浄剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔スプレー又は坐薬の使用により達成することができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当該技術分野で一般的に知られているように、軟膏(ointments)、軟膏(salves)、ゲル、又はクリームに配合される。
【0152】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び組換え細胞はまた、直腸送達のための坐剤(例えば、ココアバター及び他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を用いて)又は保持浣腸の形態で調製することができる。
【0153】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び組換え細胞はまた、当該技術分野で既知の方法を用いてトランスフェクション又は感染によって投与することができ、これにはMcCaffreyら(Nature 418:6893,2002)、Xiaら(Nature Biotechnol.20:1006-1010,2002)又はPutnam(Am.J.Health Syst.Pharm.53:151-160,1996,erratum at Am.J.Health Pharm.53:325,1996)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
幾つかの実施形態では、本開示の対象の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び組換え細胞は、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、及び組換え細胞を、インプラント及びマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤などの体からの急速な排除に対して保護する担体と共に調製される。生分解性で生体適合性のあるポリマーは、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などを使用することができる。このような配合物は、標準的な技術を使用して調製することができる。また、材料は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手することができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的としたリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されているように、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0155】
以下でより詳細に説明するように、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体を修飾して、PEG化、アシル化、Fc融合、アルブミンなどの分子への結合など、作用時間の延長を達成することもできる。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチド又は多価抗体は、in vivo及び/又はex vivoでの半減期を延長するように更に修飾することができる。本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を修飾するのに適した既知の戦略及び方法論の非限定的な例としては、(1)多価ポリペプチド又は多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)などの高溶性高分子を用いる、本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体の化学修飾と、(2)本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体と、例えばアルブミンなどの安定なタンパク質との共有結合又は結合と、を含む。したがって、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、例えば、アルブミンなどの安定なタンパク質と融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合したポリペプチドの安定性を高めるための最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、そのような融合タンパク質が多数報告されている。
【0156】
幾つかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ以上のペグ化試薬を含む。本明細書で使用される場合、用語「PEG化」は、タンパク質にポリエチレングリコール(PEG)を共有結合させることによってタンパク質を修飾することを指し、「PEG化された」は、PEGを結合させたタンパク質を指す。約10,000ダルトン~約40,000ダルトンの任意の範囲のPEG、又はPEG誘導体の大きさは、様々な化学的性質を使用して、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体に付着され得る。幾つかの実施形態では、ペグ化試薬は、メトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルプロピオネート(mPEG-SPA)、mPEG-スクシンイミジルブチレート(mPEG-SBA)、mPEG-スクシンイミジルスクシネート(mPEG-SS)、mPEG-スクシンイミジルカーボネート(mPEG-SC)、mPEG-スクシンイミジルグルタレート(mPEG-SG)、mPEG-N-ヒドロキシル-スクシンイミド(mPEG-NHS)、mPEG-トレシラート及びmPEG-アルデヒドから選択される。幾つかの実施形態では、ペグ化試薬は、ポリエチレングリコールであり、例えば、前記ペグ化試薬は、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体のN末端メチオニン残基に共有結合した20,000ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0157】
したがって、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、1つ以上のポリエチレングリコール部分で化学的に修飾され、例えば、PEG化;又は同様の修飾で、例えば、PAS化される。幾つかの実施形態では、PEG分子又はPAS分子は、多価ポリペプチド又は多価抗体の1つ以上のアミノ酸側鎖に結合される。幾つかの実施形態では、PEG化又はPAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、1個のアミノ酸上にのみPEG又はPAS部分を含む。他の実施形態では、PEG化又はPAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、2個以上のアミノ酸上にPEG又はPAS部分を含み、例えば、2個以上の、5個以上の、10個以上の、15個以上の、又は20個以上の異なるアミノ酸残基に結合する。幾つかの実施形態では、PEG又はPAS鎖は、2000、2000超、5000、5000超、10000、10000超、20000、20000超、及び30,000ダルトンである。PAS化された多価ポリペプチド又は多価抗体は、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基を介して、PEG又はPASに(例えば、結合基なしで)直接結合され得る。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、平均分子量20,000ダルトンのポリエチレングリコールに共有結合している。
【0158】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を更に修飾して、in vivo及び/又はex vivoでの半減期を延長することができる。本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体を修飾するのに適した既知の戦略及び方法論の非限定的な例としては、(1)多価ポリペプチド又は多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)などの高溶性高分子を用いる、本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体の化学修飾と、(2)本明細書に記載の多価ポリペプチド又は多価抗体と、例えばアルブミンなどの安定なタンパク質との共有結合又は結合と、を含む。したがって、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体は、アルブミンなどの安定なタンパク質と融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合したポリペプチドの安定性を高めるための最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、そのような融合タンパク質が多数報告されている。
【0159】
本開示の方法
本明細書に記載の治療用組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び医薬組成物のいずれか1つの投与は、増殖性疾患(例えば、がん)、自己免疫疾患、及び慢性感染(例えば、ウイルス感染)などの関連健康状態の治療で使用することができる。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び/又は医薬組成物は、NKRによって媒介される細胞シグナル伝達に関連する1つ以上の健康状態又は疾患を有する、有すると疑われる、又は発症のリスクが高いかもしれない個体を治療する方法において使用するための治療薬に組み込むことができる。例示的な健康状態又は疾患は、限定されないが、がん及び慢性感染症を含み得る。幾つかの実施形態では、個人は、医師の管理下にある患者である。
【0160】
したがって、1つの態様では、本開示の幾つかの実施形態は、対象においてNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するための方法に関するものであり、当該方法は、(i)本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の組換え核酸分子、(iv)本開示の組換え細胞、及び(v)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することを含む。別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、治療を必要とする対象における健康状態の治療のための方法に関するものであり、当該方法は、(i)本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の組換え核酸分子、(iv)本開示の組換え細胞、及び(v)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することを含む。幾つかの実施形態では、当該方法は、(i)本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の組換え核酸分子、(iv)本開示の組換え細胞、及び/又は(v)本開示の医薬組成物、の治療上有効な量を投与することを含む。
【0161】
幾つかの実施形態では、開示された治療用組成物は、その意図する投与経路に適合するように処方される。例えば、本開示の多価ポリペプチド及び多価抗体は、経口又は吸入によって投与され得るが、非経口経路で投与される可能性がより高い。非経口投与経路の例としては、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経皮投与(局所投与)、経粘膜投与、及び直腸投与が挙げられる。非経口投与に使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は合成溶剤などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;アセテート、シトラート、ホスフェートなどの緩衝剤;及び塩化ナトリウムやデキストロースなどの強壮調整剤、を含むことができる。pHは、酸又は塩基、例えば、一塩基性及び/又は二塩基性のリン酸ナトリウム、塩酸又は水酸化ナトリウムで(例えば、約7.2~7.8のpH、例えば、7.5のpHに)調整できる。非経口製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又は複数回投与バイアルに封入することができる。
【0162】
本開示のこのような対象の多価ポリペプチド及び多価抗体の用量、毒性及び治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に致死する用量)及びED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養又は実験動物の標準医薬手順により決定することができる。毒性効果と治療効果との用量比が治療指数であり、LD50/ED50の比で表すことができる。高い治療指数を示す化合物は、一般に適切である。毒性副作用を示す化合物を使用することもできるが、感染していない細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それによって副作用を軽減するために、このような化合物を感染組織の部位に標的とする送達システムを設計することに注意を払うべきである。
【0163】
例えば、細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒトで使用するための投与量の範囲を策定する際に使用することができる。このような化合物の投与量は、一般に、毒性が殆どない又は毒性がないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、採用される剤形及び利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化し得る。本開示の方法で使用される任意の化合物について、治療上有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養で決定されたIC50(例えば、症状の半値阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルで用量を処方することができる。このような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0164】
本明細書に記載の治療用組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び医薬組成物は、1日1回以上から1週間1回以上、隔日1回を含み、1回投与することができる。当業者は、特定の要因が、疾患の重症度、以前の治療、対象の一般的な健康及び/又は年齢、及び存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない、対象を効果的に治療するために必要な投与量及びタイミングに影響し得ることを理解するだろう。さらに、本開示の対象多価ポリペプチド及び多価抗体の治療上有効な量による対象の治療は、単一の治療を含み得るか、又は、一連の治療を含み得る。幾つかの実施形態では、組成物は、8時間ごとに5日間投与され、その後、2~14日間、例えば9日間の休息期間が続き、さらに8時間ごとに5日間投与される。多価ポリペプチド又は多価抗体に関して、本開示の多価ポリペプチド又は多価抗体の治療上有効な量(例えば、有効量)は、選択された多価ポリペプチド又は多価抗体に依存する。例えば、患者体重の約0.001~0.1mg/kgの範囲の単回投与量を投与することができ、幾つかの実施形態では、約0.005、0.01、0.05mg/kgが投与され得る。
【0165】
上述したように、本開示の幾つかの実施形態は、対象においてNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するための方法に関する。当該方法は、(i)本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の組換え核酸分子、(iv)本開示の組換え細胞、及び/又は(v)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することによって行われる。別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、治療を必要とする対象における健康状態の治療のための方法に関する。当該方法は、(i)本開示の多価ポリペプチド、(ii)本開示の多価抗体、(iii)本開示の組換え核酸分子、(iv)本開示の組換え細胞、及び/又は(v)本開示の医薬組成物、の1つ以上を含む組成物を対象に投与することによって行われる。幾つかの実施形態では、当該方法は、本明細書に開示される治療用組成物の有効量を対象に投与することによって行われる。
【0166】
上で議論したように、治療上有効な量は、健康状態、例えば、疾患を有する、有すると疑われる、又は疾患のリスクがある者などの対象に投与したときに、特定の効果を促進するのに十分な量の治療組成物を含む。幾つかの実施形態では、有効量は、疾患の症状の発症を予防又は遅延させる、疾患の症状の経過を変える(例えば、これらに限定されないが、疾患の症状の進行を遅らせる)、又は疾患の症状を逆転させるために十分な量を含む。任意の所与の場合、適切な有効量は、日常的な実験を使用して当業者によって決定され得ることが理解される。
【0167】
健康状態(例えば、疾患)の治療のための開示された治療用組成物を含む治療の有効性は、当業者の臨床医によって決定することができる。しかしながら、疾患の徴候又は症状の少なくともいずれか1つ又は全てが改善又は改良される場合、治療は有効な治療とみなされる。有効性はまた、入院又は医療介入の必要性によって評価されるように、個体が悪化しないことによっても測定され得る(例えば、疾患の進行が止められるか、少なくとも遅くなる)。これらの指標を測定する方法は、当業者に知られており、及び/又は本明細書に記載されている。治療は、個体又は動物(幾つかの非限定的な例には、ヒト、又は哺乳動物が含まれる)における疾患の任意の治療を含み、(1)疾患を阻害すること、例えば、症状の進行を阻止すること、又は遅らせること、又は(2)疾患を緩和すること、例えば、症状の退行を引き起こすこと、及び(3)症状の発症の可能性を予防すること、又は低減することが挙げられる。
【0168】
開示された方法の幾つかの実施形態では、投与された組成物、例えば、開示の多価ポリペプチド若しくは多価抗体又はそれをコードする核酸は、RPTP活性を、細胞の表面に存在するNKR分子の空間的近傍に動員し、NKR分子のリン酸化レベルを低減するホスファターゼ活性を誘発させる。幾つかの実施形態では、投与された多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPを、RPTPと同じ細胞の表面上に存在するNKR分子の空間的近接に動員し、例えば、RPTPの細胞内ドメインとNKR分子の細胞内ドメインとの間の距離は、シス(例えば、RPTP及びNKR分子は、同じ細胞に存在する)で、約500オングストローム未満であり、例えば、約5オングストローム~約500オングストロームの距離などである。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約5オングストローム未満、約20オングストローム未満、約50オングストローム未満、約75オングストローム未満、約100オングストローム未満、約150オングストローム未満、約250オングストローム未満、約300オングストローム未満、約350オングストローム未満、約400オングストローム未満、約450オングストローム未満、又は約500オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約100オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約50オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約20オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約10オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約10~100オングストローム、約50~150オングストローム、約100~200オングストローム、約150~250オングストローム、約200~300オングストローム、約250~350オングストローム、約300~400オングストローム、約350~450オングストローム、又は約400~500オングストロームである。幾つかの実施形態では、投与された多価ポリペプチド又は多価抗体は、RPTPがNKR分子から約10~100オングストロームであるような空間的近接にRPTPを動員する。幾つかの実施形態では、空間的近接は、約100オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、細胞内ドメインRPTPとNKR分子の細胞内ドメインとの間の距離は、シスで、約250オングストローム未満、代替的に約200オングストローム未満、代替的に約150オングストローム未満、代替的に約120オングストローム未満、代替的に約100オングストローム未満、代替的に約80オングストローム未満、代替として約70オングストローム未満又は代替的に約50オングストローム未満である。
【0169】
開示された方法の幾つかの実施形態では、投与された組成物、例えば、本開示の多価ポリペプチド若しくは多価抗体又はそれをコードする核酸は、RPTP活性をNKRの空間的近傍に動員し、NKRの脱リン酸化を増強し、及び/又はNKR媒介シグナルを低減する。幾つかの実施形態では、投与された組成物は、標的細胞のNK細胞による殺傷(例えば、NK受容体を発現するNK細胞による標的細胞の殺傷)の増強を付与する。
【0170】
幾つかの実施形態では、RPTP及びNKR分子を互いに空間的に近接させると、RPTPは、NKR分子の脱リン酸化を増強させる。幾つかの実施形態では、NKR分子のリン酸化レベルは、同様の条件下で未治療の対象におけるNKR分子のリン酸化レベルと比較して、少なくとも、又は少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%、又は先の値の2つの範囲、例えば約20%~約60%(これらのパーセンテージの間の値を含む)減少し得る。
【0171】
幾つかの実施形態では、本開示の組成物(例えば、多価ポリペプチド若しくは多価抗体又はそれをコードする核酸)の投与は、対象におけるNKR媒介シグナル伝達の活性の向上を付与する。NKR媒介シグナル伝達の活性の低下は、同様の条件下で未処理の対象におけるNKR媒介シグナル伝達の活性と比較して、少なくとも、又は少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、もしくは100%、又は進行値の2つの範囲、例えば約20%~約60%(これらのパーセントの間の値を含む)により減少し得る。
【0172】
開示された方法の幾つかの実施形態では、対象は哺乳動物である。幾つかの実施形態では、哺乳類はヒトである。幾つかの実施形態では、対象は、NKRによって媒介される細胞シグナル伝達の阻害に関連する健康状態を有するか、又は有すると疑われる。本開示の組成物及び方法によって治療されるのに適した健康状態は、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び感染性疾患を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、疾患は、がん又は慢性感染症である。幾つかの実施形態では、健康状態は、例えば、多発性硬化症(MS)、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)などの自己免疫疾患である。幾つかの実施形態では、健康状態は、自己免疫が臨床的問題である、感染症である。
【0173】
追加の治療法
上で議論したように、本明細書に開示される組成物、例えば、本明細書に記載の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び/又は医薬組成物のいずれか1つは、単一療法(例えば、単剤療法)としてそれを必要としている対象に投与され得る。追加で又は代替的に、本開示の幾つかの実施形態では、本明細書に記載の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、及び/又は医薬組成物は、1つ以上の追加の療法、例えば、少なくとも1、2、3、4、又は5つの追加の療法と組み合わせて対象に投与することができる。本開示の組成物と組み合わせて投与される適切な療法には、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、及び手術が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な療法には、化学療法剤、抗がん剤、及び抗がん剤治療剤などの治療剤が挙げられる。
【0174】
1つ以上の追加療法と「組み合わせて」投与することは、任意の順序で同時(simultaneous)(同時(concurrent))及び連続的に投与することを含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の追加療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、及び手術からなる群から選択される。本明細書で使用される化学療法という用語は、抗がん剤を包含する。様々なクラスの抗がん剤が、本明細書に開示される方法に適切に使用され得る。抗がん剤の非限定的な例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えば、モノクローナル又はポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、メシレート(Gleevec(登録商標)又はGlivec(登録商標))、ホルモン治療、可溶性受容体及び他の抗悪性腫瘍剤、が挙げられる。
【0175】
トポイソメラーゼ阻害剤もまた、本明細書で使用することができる別のクラスの抗がん剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する必須酵素である。I型トポイソメラーゼ又はII型トポイソメラーゼの阻害は、適切なDNAスーパーコイルを乱すことによって、DNAの転写及び複製の両方を妨害する。I型トポイソメラーゼ阻害剤には、イリノテカンやトポテカンなどのカンプトテシン類が挙げられる。II型阻害剤の例としては、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、及びテニポシドが挙げられる。これらは、アメリカハッカクレン(Podophyllum peltatum)の根に天然に存在するアルカロイドである、エピポドフィロトキシンの半合成誘導体である。
【0176】
抗悪性腫瘍剤には、免疫抑制剤のダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドが挙げられる。抗悪性腫瘍化合物は、一般に、細胞のDNAを化学的に修飾することで作用する。
【0177】
アルキル化剤は、細胞内に存在する条件下で、多くの求核性官能基をアルキル化することができる。シスプラチン及びカルボプラチン、並びにオキサリプラチンは、アルキル化剤である。これらは、生物学的に重要な分子のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、及びリン酸基と共有結合を形成することによって細胞機能を損なう。
【0178】
ビンカアルカロイドは、チューブリン上の特定の部位に結合し、チューブリンの微小管への集合を阻害する(細胞周期のM期)。ビンカアルカロイドとしては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、及びビンデシンが挙げられる。
【0179】
代謝拮抗薬は、プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)又はピリミジンに似ており、これらの物質が細胞周期の「S」期の間にDNAに組み込まれるのを防ぎ、正常な発達と分裂を停止させる。また、代謝拮抗薬は、RNA合成にも影響を及ぼす。
【0180】
植物アルカロイド及びテルペノイドは、植物から得られるものであり、微小管の機能を妨げることにより、細胞分裂を阻害する。微小管は、細胞分裂に不可欠であるため、微小管がなければ、細胞分裂は起こり得ない。主な例として、ビンカアルカロイドやタキサンがある。
【0181】
ポドフィロトキシンは、消化を助けるだけでなく、エトポシドとテニポシドという2つの他の細胞賦活剤の製造に用いられることが報告されている、植物由来の化合物である。これらは、細胞がG1期(DNA複製の開始)及びDNAの複製(S期)に入るのを阻止する。
【0182】
グループとしてのタキサンには、パクリタキセル及びドセタキセルが含まれる。パクリタキセルは天然物であり、元々はタキソールとして知られ、最初に太平洋イチイの樹皮から誘導された。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成アナログである。タキサン類は、微小管の安定性を高め、後期の際に染色体が分離するのを防ぐ。
【0183】
幾つかの実施形態では、抗がん剤は、レミケード、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))、ステロイド、ゲムシタビン、シスプラチン、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、グリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標))、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、ゼローダ、CPT-11、インターフェロンα、ペグ化インターフェロンα(例えば、PEG INTRON-A)、カペシタビン、シスプラチン、チオテパ、フルダラビン、カルボプラチン、リポソームダウノルビシン、シタラビン、ドキセタキソール、パクリタキセル、ビンブラスチン、IL-2、GM-CSF、ダカルバジン、ビノールビン、ゾレドロン酸、パミドロネート、ビアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ビンクリスチン、ドキソルビシン(Doxil(登録商標))、パクリタキセル、ガンシクロビル、アドリアマイシン、エストラウスチンリン酸ナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダク、エトポシド及びこれらのいずれかの組み合わせから選択される。
【0184】
他の実施形態では、抗がん剤は、ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、ドキソルビシン、インターフェロン-α、レナリドミド、メルファラン、ペグ化インターフェロン-α、プレドニゾン、サリドマイド、又はビンクリスチンから選択することができる。
【0185】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の治療方法は、免疫療法を更に含む。幾つかの実施形態では、免疫療法は、抗NKR拮抗抗体及びその機能的変異体(例えば、抗NKR遮断抗体及びその機能的変異体)などの1つ以上の抗NKR拮抗分子の投与を含む。幾つかの実施形態では、拮抗抗体は、免疫細胞の表面に発現するNKRに対して特異的である。本明細書に開示される組成物及び方法に適した例示的な拮抗抗体には、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、Fab、Fab’、Fab、Fab’、IgG、IgM、IgA、IgE、scFv、dsFv、dAb、ナノボディ、ユニボディ、二重特異性抗体又はヘミボディが挙げられる。幾つかの実施形態では、抗NKR遮断抗体は、免疫細胞の表面に発現するNKRに特異的な単鎖可変フラグメント(scFv)又はFabフラグメントである。幾つかの実施形態では、免疫療法は、1つ以上のチェックポイント阻害剤の投与を含む。したがって、本明細書に記載の治療方法の幾つかの実施形態は、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の更なる投与を含む。免疫チェックポイント分子の非限定的な例としては、CTLA4、PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3、B7-H4、TIM3、及びこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。幾つかの実施形態では、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、拮抗抗体を含む。本明細書に開示される組成物及び方法に適した拮抗抗体の例としては、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、及びアベルマブがあるが、これらに限定されない。
【0186】
幾つかの態様では、1つ以上の抗がん剤治療は、放射線治療である。幾つかの実施形態では、放射線療法は、がん性細胞を殺すための放射線の投与を含み得る。放射線は、DNAなどの細胞内の分子と相互作用して、細胞死を誘発する。放射線はまた、細胞膜及び核膜並びに他のオルガネラを損傷することができる。放射線の種類によって、DNA損傷のメカニズムは異なり、相対的な生物学的効果も異なる。例えば、重粒子線(すなわち、陽子、中性子)は、DNAを直接損傷し、より大きい相対的な生物学的効果を有する。電磁波は、主に細胞内の水の電離によって生成される短寿命のヒドロキシルフリーラジカルによって間接的に電離させる作用がある。放射線の臨床応用には、(外部からの)外部放射線照射及び小線源治療(患者に移植又は挿入された放射線源を使用する)からなる。外部ビーム放射線は、X線及び/又はガンマ線からなり、小線源治療は、崩壊してガンマ線と共にアルファ粒子又はベータ粒子を放出する放射性核を用いる。また、本明細書で企図される放射線には、例えば、がん細胞への放射性同位元素の定方向送達が含まれる。DNA損傷因子の他の形態はまた、マイクロ波及びUV照射などの本明細書において企図される。
【0187】
放射線は、単一用量で、又は用量分割スケジュールにおける一連の小用量で与えられることがある。本明細書で企図される放射線の量は、例えば、約5~約80、約10~約50Gy、又は約10Gyを含む、約1~約100Gyの範囲である。総線量は、分割されたレジームで適用され得る。例えば、レジームは、2Gyの分割された個々の線量を含み得る。放射性同位元素の線量範囲は広く、同位元素の半減期、及び放出される放射線の強度や種類に依存する。放射線が放射性同位元素の使用を含む場合、同位元素は、放射性ヌクレオチドを標的組織(例えば、腫瘍組織)に運ぶ、治療用抗体などの標的化剤に結合させることができる。
【0188】
本明細書に記載の手術は、がん性組織の全部又は一部が物理的に除去、実行、及び/又は破壊される切除を含む。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、冷凍手術、電気手術、及び顕微鏡で制御された手術(モース手術)などが挙げられる。前がん又は正常組織の除去も本明細書で企図されている。
【0189】
したがって、幾つかの実施形態では、本開示の方法は、本明細書に開示される組成物を、単一療法(例えば、単剤療法)として対象に個別に投与することを含む。幾つかの実施形態では、本開示の組成物は、第2の療法と組み合わせて第1の療法として対象に投与される。幾つかの実施形態では、第2の療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、及び手術からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、第1の療法及び第2の療法は、同時に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法は、第2の療法と同時に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法及び第2の療法は、逐次的に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法は、第2の療法の前に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法は、第2の療法の後に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法は、第2の療法の前及び/又は後に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法及び第2の療法は、順番に投与される。幾つかの実施形態では、第1の療法及び第2の療法は、単一の製剤で一緒に投与される。
【0190】
キット
また、本明細書には、本明細書に記載の方法を実施するためのキットが提供される。キットは、その使用説明書、及び本明細書に記載され提供される、本明細書に開示される1つ以上の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、及び医薬組成物を含み得る。例として、本明細書で提供される、幾つかの実施形態では、本開示の1つ以上の多価ポリペプチド及び/又は多価抗体を含むキットがある。幾つかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、本開示の1つ以上の核酸、組換え細胞、及び/又は医薬組成物を含むキットである。幾つかの実施形態では、開示のキットは、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、及び医薬組成物を調製し、それらを使用するための書面による説明書を更に含む。
【0191】
幾つかの実施形態では、本開示のキットは、提供される免疫細胞、核酸、及び医薬組成物のいずれか1つを、それを必要とする対象に投与するために使用される1つ以上の注射器(充填済み注射器を含む)及び/又はカテーテル(充填済み注射器を含む)を更に含む。幾つかの実施形態では、キットは、所望の目的、例えば、1つ以上のNKRによって媒介される細胞シグナル伝達を調節するため、又はそれを必要とする対象における健康状態を治療するために、他のキット構成要素と同時に又は順次投与され得る1つ以上の追加の治療剤を有し得る。
【0192】
例えば、上述のキットのいずれかは、1つ以上の追加の試薬を更に含むことができ、このような追加の試薬は、希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、コントロール試薬、コントロール発現ベクター、ネガティブコントロール免疫細胞集団、ポジティブコントロール免疫細胞集団、免疫細胞集団のex vivo産生用試薬、から選択され得る。幾つかの実施形態では、上述のキットのいずれかは、陰性対照ポリペプチド及び/又は抗体、陽性対照ポリペプチド及び/又は抗体、ポリペプチド及び/又は抗体のex vivo及び/又はin vivo産生用試薬を更に含み得る。
【0193】
幾つかの実施形態では、キットの構成要素は、別々の容器に入れることができる。幾つかの他の実施形態では、キットの構成要素は、単一の容器に組み合わされることができる。
【0194】
幾つかの実施形態では、キットは、方法を実践するためにキットの構成要素を使用するための説明書を更に含むことができる。方法を実践するための説明書は、一般に、適切な記録媒体に記録される。例えば、説明書は、紙又はプラスチックなどの基材に印刷することができる。説明書は、パッケージ挿入物としてキットに存在することができ、キットの容器又はその構成要素(例えば、包装又は副包装に関連する)などのラベリングに存在することができる。説明書は、適切なコンピュータ可読記憶媒体、例えばCD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなどに存在する電子記憶データファイルとして存在することができる。ある実施例では、実際の説明書はキットに存在しないが、リモートソースから(例えば、インターネットを介して)説明書を得るための手段が提供され得る。この実施形態の例としては、説明書を見ることができるウェブアドレス、及び/又は説明書をダウンロードすることができるウェブアドレスを含むキットがある。説明書と同様に、当該説明書を得るための手段は、適切な基材に記録することができる。
【0195】
本開示で言及された全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本書に組み込まれる。
【0196】
本明細書で引用した文献が先行技術であることを認めるものではない。参考文献の議論は、その著者が主張することを述べており、出願人は、引用文献の正確性及び適切性に異議を唱える権利を留保する。科学雑誌の記事、特許文書、及び教科書を含む多くの情報源が本明細書で参照されているが、この参照は、これらの文書のいずれかが当該技術分野における一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことが明確に理解されるであろう。
【0197】
本明細書で与えられる一般的な方法の議論は、例示目的のみのために意図されるものである。他の代替方法及び替案は、本開示を検討すれば当業者には明らかであり、本願の精神及び範囲内に含まれるものとする。
【実施例
【0198】
本発明の実施では、特に断らない限り、当業者によく知られている分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、及び免疫学の従来技術を採用することになる。このような技術は、Sambrook,J.,&Russell,D.W.(2012).Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook,J.,&Russel,D.W.(2001).Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory(本明細書では共同で「Sambrook」と呼ぶ);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology.New York,NY:Wiley(2014年までの補足を含む);Bollag,D.M.ら(1996).Protein Methods.New York,NY:Wiley-Liss;Huang,L.ら(2005).Nonviral Vectors for Gene Therapy.San Diego:Academic Press;Kaplitt,M.G.ら(1995).Viral Vectors:Gene Therapy and Neuroscience Applications.San Diego,CA:Academic Press;Lefkovits,I.(1997).The Immunology Methods Manual:The Comprehensive Sourcebook of Techniques.San Diego,CA:Academic Press;Doyle,A.ら(1998).Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology.New York,NY:Wiley;Mullis,K.B.,Ferre,F.&Gibbs,R.(1994).PCR:The Polymerase Chain Reaction.Boston:Birkhauser Publisher;Greenfield,E.A.(2014).Antibodies:A Laboratory Manual(2nd ed.).New York,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press;Beaucage,S.L.ら(2000).Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry.New York,NY:Wiley,(2014年までの補足を含む);及びMakrides,S.C.(2003).Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells.Amsterdam,NL:Elsevier Sciences B.V.などの文献で十分に説明されており、これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0199】
追加の実施形態は、以下の実施例において更に詳細に開示されるが、これらは例示のために提供され、本開示又は請求項の範囲を限定することを決して意図するものではない。
【0200】
実施例1
一般的な実験手順
細胞株
細胞株は、特に断りのない限り、37℃、5%COの加湿インキュベータで保存した。
【0201】
HEK293T(LentiX)細胞(女性由来腎臓細胞株)は、10%FBS、2mM L-グルタミン、及び50U/mlのペニシリン及びストレプトマイシンを追加したDMEM完全培地(Thermo Fisher)で増殖した。K562及び721.221細胞は、10%FBS、2mM L-グルタミン、0.1mM NEAA、1mMピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES、50U/ml P/S、50μg/ml硫酸ゲンタマイシンを含むRPMI-1640完全媒体で培養した。
【0202】
NK92細胞。実験に使用したNK92細胞は、American Type Culture Collectionから購入し、悪性非ホジキンリンパ腫患者の末梢血から樹立したNKリンパ腫細胞株から得た。NK92細胞は、2mM L-グルタミン、0.1mM NEAA、1mMピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES、50U/ml P/S及び10%牛胎児血清を追加したRPMI1640培地で培養された。
【0203】
NKL-KIR2DL細胞株。本実験で使用したNKL細胞は、リンパ芽球性白血病患者の末梢血から樹立したナチュラルキラー細胞リンパ芽球性白血病細胞株である。当該NKL細胞を、KIR2DLコード配列を有するレトロウイルスベクターで形質転換し、NKL-KIR2DL細胞を産生した。NKL-KIR2DL細胞は、2mM L-グルタミン、0.1mM NEAA、1mMピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES、50U/ml P/S及び10%牛胎児血清を追加したRPMI1640培地で培養された。
【0204】
本明細書に記載の実験に使用したSKW3細胞は、慢性リンパ性白血病(CLL)の患者の血液から樹立したT細胞白血病細胞株(CLL)である。SKW3細胞は、2mM L-グルタミン、0.1mM NEAA、1mMピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES、50U/ml P/S及び10%ウシ胎児血清を追加したRPMI1640培地で培養した。必要に応じて、新鮮な培地の添加又は交換により、SKW3培養物を再培養した。2×10個の生存細胞/mlで新しい培養物を確立する。最大細胞密度は、2×10細胞/mlである。
【0205】
タンパク質の発現
Insect Tni細胞(Expression Systems、cat.#94-002S)は、27℃、大気圧COにおいて、最終濃度10mg/Lの硫酸ゲンタマイシン(Thermo Fisher)を含むESF921培地(Expression Systems)中で培養した。SF9細胞(Thermo Fisher Scientific)は、10%FBSと、最終濃度10mg/Lの硫酸ゲンタマイシンと、2mM Glutamaxと、を含むSF900-III又はSF900-II無血清培地(Thermo Fisher)中で27℃、大気圧のCOで増殖した。P1ウイルスを使用して、1~3Lの容量の細胞を約2×10個/mlで感染させた。新しいP1プレップは、新鮮なP0バッチから日常的に作製された。感染後2、3日目に上清を採取し、8000rpmで15分間スピンダウンした。発現したタンパク質を含む上清を100mM Tris pH8.0、2mM NiCl、及び10mM CaClで処理し、汚染物質を沈殿させた。上清と沈殿物の混合物を8000rpm、4℃で20分間スピンダウンし、沈殿物を除去した。上清をNi-NTA樹脂(QIAGEN)と共に室温で3時間以超インキュベートした。Ni-NTAビーズを回収し、ブフナー漏斗で1×HBS pH7.2中の20mMイミダゾールで洗浄し、1×HBS pH7.2中の200mMイミダゾールで溶出した。タンパク質を10kDaフィルター(Millipore、UFC903024)で約1mLに、又は10mg/mlまで濃縮した。全てのタンパク質は、Superdex Increase S200又はS75を適宜使用するサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した(GE Healthcare)。in vivo研究用の全てのタンパク質は、エンドトキシンを除去した。最終的なエンドトキシンレベルは、発色性エンドトキシン定量キット(Thermo Fisher)を使用して決定し、精製タンパク質の1 Endotoxin Unit/mgを超えることはなかった。RIPRタンパク質は、4℃で2週間まで保存して、凍結/解凍サイクルを防いだ。
【0206】
サイズ排除クロマトグラフィーで解析するタンパク質の完全性及び安定性
タンパク質を濃縮し、0.45μmの遠心分離フィルターで濾過し、その後、タンパク質のサイズに応じて、AKTA Pure FPLC(GE Healthcare)のS200 Increase又はS75カラムの2mL注入ループに充填した。全てのタンパク質は、1×HBS(30mM HEPES pH7.2、150mM NaCl)で溶出された。溶出後、各タンパク質画分のサンプルを4%~20%のMini-PROTEANゲルで実行し、ゲルをクマシー染色してタンパク質の分解を確認し、サンプルの貯蔵用に無傷のタンパク質を含む画分を特定した。
【0207】
フローサイトメトリーによる表面発現の定量化
1×10個の生細胞をFACS緩衝液(PBS、0.5%FBS、0.9%アジ化ナトリウム)で洗浄し、Fcブロックと4℃で10分間インキュベートした。細胞を洗浄し、抗体又はアイソタイプコントロールで、4℃で20分間染色した。2回洗浄した後、細胞を1μg/ml DAPI(PBS)溶液に再懸濁し、CytoFlexフローサイトメーターで分析した。データは、Flowjoソフトウェアを使用して解析及び定量化した。
【0208】
実施例2
NKR-RIPRの設計及び表現
2つのNKR-RIPR分子が開発された。最初の構築物であるNKG2A-RIPRは、ヒトNKG2Aに対する結合親和性を有するマウス抗NKG2A scFvに融合した抗CD45 scFv(WO2005/026210に前述したように、クローン#4)から構成されていた。この実験で使用された抗NKG2A scFvは、US9,683,041で前述されたマウス抗体Z270のVH配列及びVL配列に由来した。抗NKG2A scFv及びNKG2A-RIPR分子設計の概略的描写を図2Bに示す。抗NKG2A scFvのヒトNKG2Aに対する結合親和性を評価するために行った実験の結果を、図4Bに示す。抗NKG2A scFv及びNKG2A-RIPRをHi5細胞で発現させ、タンパク質の完全性及び安定性をサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した(例えば、図4Cを参照)。
【0209】
第2の構築物であるKIR2DL-RIPRは、ヒトKIR2DL1及び/又はヒトKIR2DL3に対する結合親和性を有するヒト抗KIR2DL scFvに融合した同じ抗CD45 scFvから構成されていた。この実験で使用された抗KIR2DL scFvは、EP2287195A2で前述されたヒト抗体1-7F9のVH配列及びVL配列に由来した。αKIR2DL scFv及びKIR2DL-RIPR分子設計の概略的描写を図3Bに示す。抗KIR2DL scFvのヒトKIR2DL1及びヒトKIR2DL3に対する結合親和性を評価するために行った実験の結果を、図5Bに示す。抗KIR2DL scFv及びKIR2DL-RIPRをHi5細胞で発現させ、タンパク質の完全性及び安定性をサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した(例えば、図5C、5Dを参照)。
【0210】
全てのタンパク質をNi-NTAを使用して精製し、SEC後の単分散ピークに対応するフラクションを貯蔵して濃縮した。タンパク質の完全性は、還元及び非還元SDS-PAGE電気泳動に続いてクマシーブルー染色によって更に確認された。タンパク質は、すぐに使用するために4℃で保存するか、又は-80℃で凍結保存した。
【0211】
図6A、6Bは、NK92細胞上のNKG2A(図6A)及びNKL-KIR2DL1細胞上のKIR2DL1(図6B)の表面発現を説明するために行った実験の結果を要約する。これらの実験において、表面発現は、フローサイトメトリーによって定量化された。
【0212】
実施例3
NKG2A-RIPRは、ヒトNKG2Aの脱リン酸化を増強し、標的細胞の溶解を促進する。
【0213】
図7Aに示されるように、NKG2Aのリン酸化を再構成するために、約4×10個のHEK293細胞を、全長ヒトLck、CD45、CD45dead、又はNKG2Aをコードするプラスミドで最適な比率で一過性にトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、細胞を未処理のまま(レーン1)、又は抗NKG2A scFv(レーン2、3)又はNKG2A-RIPR(レーン4、5)と、37℃で20分間インキュベートし、NKG2Aの細胞内ドメインへのCD45ホスファターゼの動員を誘導した。コントロール目的のため、CD45deadのグループも含まれる。溶解後、磁気ビーズに直接結合した抗HA抗体でタンパク質を免疫沈降させた。サンプルは、ウエスタンブロットでリン酸化チロシン(pTyr)及びHAについてプローブされた。データは、3回の独立した生物学的反復の代表値である。
【0214】
実施例4
KIR2DL-RIPRによる標的細胞の溶解の促進
この実施例は、KIR2DL-RIPRが標的細胞の溶解を促進することを説明するために行われた実験を記述する。
【0215】
特定の理論に拘束されることなく、図8Aは、本開示の幾つかの実施形態に従った、シスホスファターゼの動員による細胞KIR2DL媒介シグナリングの変調の非限定例を図式化する。NK細胞の細胞表面におけるNKR-RIPRによるKIR2DL1へのCD45の動員は、受容体KIR2DL1のリン酸化を減少させることが予想される。
【0216】
図8Bに示されるように、KIR2DL-RIPRは、標的細胞の溶解を促進する。これらの実験では、200nM(上)又は1000nM(下)の抗KIR2DL scFv又はKIR2DL-RIPRの存在下で、HLA-Cw0304陽性721.221細胞に対してKIR2DL1を発現するNKL細胞による細胞溶解を行った。細胞溶解は、フローサイトメトリーによって判定した。
【0217】
実施例5
本実施例は、本開示の幾つかの実施形態に従って、抗KIR2DL1拮抗抗体又はKIR2DL-RIPR構築物による、NK受容体(KIR2DL1)を発現するCD8T細胞におけるTCRシグナルの増強を説明するために行った実験を記載している。
【0218】
これらの実験は、少なくとも1つのNK受容体を発現するように遺伝子操作されたCD8制御性T細胞で行われた。特定の理論に縛られることなく、CD8Treg細胞は、自己免疫疾患において重要であると考えられ、CD4病原性自己免疫T細胞の作用を抑制すると考えられていた。本実施例に記載の実験は、CD8T細胞上の抑制性NK受容体の発現が、T細胞の活性化の抑制をもたらすかどうかを調べるために行われた。
【0219】
これらの実験において、KIR2DL1を、T細胞受容体(TCR55)を発現するCD8SKW3細胞にレンチウイルス感染させた。形質転換された細胞は、その後、TCR55及びKIR2DL1の安定な共発現について選別された。次いで、CD8SKW3-TCR55細胞におけるCD8及びKIR2DL1の表面発現を、(図9A及び9Bに示すように)フローサイトメトリーによって定量した。
【0220】
抗NKR及び/又はNKR-RIPRによるNKRCD8 T細胞におけるNKR活性の阻害が、NKRCD8 T細胞におけるTCRシグナリングを増強し得るかどうかを調べるために、追加の実験が行われた。図10Aに示されるように、CD8T細胞上の受容体KIR2DL1の発現は、ペプチド-MHCによるT細胞活性化を抑制することが確認された。これらの実験では、HLA-B35及びHLA-Cw0304を発現する約1×10個の721.221抗原提示細胞をHIVペプチド20で、37℃で3時間パルスした後、SKW3 KIR2DL1(+)又はSKW3 KIR2DL1(-)細胞株と1:1比で16時間コインキュベートした。HIVペプチドの応答効果は、フローサイトメトリーによってCD69の発現を解析した。
【0221】
さらに、図10Bに示されるように、抗KIR2DL scFvによるKIR2DL1の遮断は、T細胞活性化の阻害を部分的に逆転させた(緑線)。さらに、KIR2DL-RIPR構築物は、ほぼ完全に完全なCD8T細胞活性化を回復し(赤線)、抗KIR2DL scFvによるNKR阻害と比較して優れた効力を有することが判明した。これらの実験では、HLA-B35/Cw0304 721.221APC細胞をHIVペプチド20で3時間パルスし、次に200nM抗KIR2DL scFv又はKIR2DL-RIPR存在下でSKW3 KIR2DL1(+)細胞株と16時間コインキュベートする。SKW3 T細胞のCD69活性化を試験した。
【0222】
特定の理論に縛られることなく、CD8NKRT細胞上のNK受容体の発現は、T細胞シグナルの低下をもたらすため、これらのT細胞を「脱抑制」する治療戦略は、これらの細胞におけるNKR活性を阻害するのに有用であることが企図される。本実施例に記載の実験結果は、CD8T細胞上のKIR2DL又は他のNK受容体の阻害がT細胞活性を増強し、自己免疫疾患の治療のための治療戦略として有用であり得ることを実証した。重要なことは、本実施例に記載の実験結果から、拮抗抗体による単純なNKR遮断方法及びNKR-RIPRを介した阻害方法(遮断と比較して優れた効果を有する)の両方が、例えば、多発性硬化症(MS)、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、並びに自己免疫が臨床的に問題となる感染症などの自己免疫疾患に対する治療戦略であり得ることが証明された。
【0223】
実施例6
NKG2A-RIPRによるNK細胞とCD8T細胞活性化の増強、及びLy49-RIPRによるNK殺傷の増強
本実施例は、本開示の幾つかの実施形態に従って、NKG2A-RIPR、Ly49C/I-RIPR、及びKIR-RIPRという3つの例示的構築物による標的溶解の増強について説明するために行われた実験を記載する。この実験で使用されたLy49の配列は、NCBI受託番号PMID:31676749に相当する。Ly49C及びLy49IのNCBI受託番号は、NM_001289604、NM_010651である。
【0224】
図11A~11Gに示されるように、NKG2A-RIPRは、NK細胞及びCD8細胞の活性化を増強させる。NKG2A-RIPRによるCD45及びNKG2Aの両方へのNKG2A-RIPR構築物の結合は、細胞(例えば、NK細胞又はT細胞)の表面上のNKG2AにCD45ホスファターゼを、シスで動員という結果をもたらす。これらの実験では、HEK293細胞にマウスHA-NKG2A、Lck、及びマウスCD45を一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、図11Bに示されるように、細胞を未処理のまま(レーン1)、又は16A11 scFv(レーン5)又は16A11-RIPR(レーン4)と37℃で40分間インキュベートして、NKG2Aの細胞内ドメインへのCD45ホスファターゼの動員を誘導した。コントロールのためにCD45deadグループ(レーン3、4)を含めた。上述のように、CD45deadは、CD45ホスファターゼ活性を喪失させる変異を有するCD45変種である。16A11は非遮断抗体であるため、NKG2Aのリン酸化を低下させる効果は検出されなかった。16A11と比較して、16A11-RIPR構築物は、マウスNKG2Aの脱リン酸化を有意に増強することが判明した。
【0225】
更なる実験を実施して、16A11-RIPR構築物における16A11 scFvとCD45 VHH配列との間に挿入されるリンカーの長さを最適化した。ex vivoで拡張したマウスNKG2ANK細胞を、異なる比率で標的細胞と共培養した。NKG2Aの天然リガンドであるQa-1を発現する細胞株であるIFNγ前処理RMAを、NK殺傷の標的細胞として使用した。100nM 16A11-scFv、16A11-RIPR-0aa、16A11-RIPR-8aa、及び16A11-RIPR-16aaを共培養ウェルに添加した。4時間後、NK細胞傷害性をアネキシンV/7AADアッセイにより分析した。結果は、図11Cに要約される。異なるリンカー長を有する16A11-RIPRのパネルを試験した後、16A11-RIPR-8aaが、これらの試験した分子の中で最もNK活性を誘導し得ることが観察された。
【0226】
図11Dに示された実験結果は、Qa1(+)細胞及びQa-1(-)細胞に対するNK細胞傷害性における16A11-RIPR及び20D5の偏った効果を示す。20D5は、マウスNKG2Aに対するモノクローナル抗体である。IFNγで前処理したRMAをNK殺傷の標的細胞として使用した。ex vivoで拡大したマウスNKG2ANK細胞を、異なる比率で標的細胞(RMA-Qa1 WT細胞又はRMA-Qa1 KO細胞)と共培養した。100nM 16A11-scFv、16A11-RIPR、10ug/mL 20D5-IgGを共培養ウェルに添加した。4時間後、NKの細胞傷害性をアネキシンV/7AADアッセイにより分析した。これらの実験において、2つのRMA細胞株に対する16A11-RIPRと20D5-IgGのNK殺傷効果を比較することにより、RMA-Qa1 WT及びRMA-Qa1 KO細胞の両方に対して、16A11-RIPRがNK殺傷能力を増強することが観察された。しかしながら、20D5-IgGは、RMA-Qa1 WT細胞に対してNK殺傷効果を優先的に誘導する。本明細書で示した実験結果は、RMA-Qa1 WT細胞及びRMA-Qa1 KO細胞に対するNK細胞毒性において、16A11-RIPR及び20D5が偏った効果を示している。
【0227】
追加の実験を行い、NK殺傷のための標的細胞の細胞を標的とする際の様々なRIPR構築物の有効性を評価した。図11Eに示されるように、20D5-RIPRは、標的細胞のNK殺傷において16A11-RIPRよりも優れていることが判明した。マウスFcの融合は、NK殺傷における16A11-RIPRの完全な活性を保持した。これらの実験に使用されたFc領域は、N297でのグリコシル化を欠き、mFcγRに結合しない、N297Q変異を持つマウスIgG1に由来した。これらの実験では、IFNγで前処理したRMAをNK殺傷の標的細胞として使用した。ex vivo拡張マウスNKG2ANK細胞を、標的細胞と1:2の比率で共培養した。16A11-RIPR、scFvコントロール、20D5-RIPR、20D5-scFvを用量系列で共培養ウェルに添加した。4時間後、NK細胞毒性をアネキシンV/7AADアッセイにより分析した。図11Eの用量反応曲線は、重複するウェルの平均±標準偏差を示す。これらの実験において、16A11-RIPRのC末端に半減期延長剤を融合させることにより、Fc融合16A11-RIPRが完全に活性を維持することが観察された。20D5-RIPRは、16A11-RIPRより低いEC50を示したが、両構築物は同様のNK殺傷を誘導することが確認された。
【0228】
図11F及び11Gに示される実験結果は、NKG2A-RIPRがCD8OT1活性化を増強することを実証している。これらの実験において、B16-OVA細胞を標的細胞として使用した。ex vivoで拡張したマウスNKG2AOT1細胞を、異なる比率で標的細胞と共培養した。100nM 16A11-RIPR、16A11-scFv、20D5-RIPR、20D5-scFvを共培養ウェルに添加した。4時間後、OT1活性化をCD69の表面染色とIL-2の細胞内染色より分析した。NKG2Aは、CD8T細胞において増加させることができることが以前に報告された。本実施例に記載の実験結果は、16A11-RIPR及び20D5-RIPRの両方が、CD8T細胞の活性を高めることができることを示す。
【0229】
図12A、12Bに示されるように、Fcの融合は、5E6-scFv及び5E6-RIPRの両方のNK活性を増強させる。抗Ly49C/I scFv(クローン5E6)、5E6-RIPR、5E6-scFv-Fc、及び5E6-RIPR-Fcの設計と発現を、図12Aに示す。図12Bは、Fcの融合が、5E6-scFv及び5E6-RIPRの両方のNK活性を増強することを示している。IFNγで前処理したRMAを、NK殺傷のための標的細胞として使用した。ex vivo拡張マウスLy49C/INK細胞を、標的細胞と1:2の割合で共培養した。5E6-RIPR、scFvコントロール、5E6-RIPR-Fc、5E6-scFv-Fcを共培養ウェルに添加した。4時間後、NKの細胞傷害性をアネキシンV/7AADアッセイより分析した。用量反応曲線は、二重ウェルの平均±標準偏差を示す。これまでの報告と同様に、5E6 scFvは、遮断抗体として機能することが確認された。また、(i)5E6-RIPRはNK殺傷効果を増強し、(ii)Fc融合5E6-RIPRは5E6-RIPRを超える活性を示すことが観察された。
【0230】
図13は、KIR3DL-RIPRが、KIRCD8T細胞によるグリアジン特異的CD4T細胞の排除を増強することを示している。全末梢血単核細胞(PBMC)を、セリアック病を有する3人のドナーから採取した。この細胞をグルテンで免疫し、KIR2DL scFv、KIR3DL scFv、KIR2DL-RIPR、KIR3DL-RIPR、2DL+3DL scFv、2DL+3DL-RIPRで処理した。CD4 T細胞におけるグリアジン特異的CD4T細胞(テトラマー陽性細胞)の数は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により定量化した。本実施例に記載の実験結果は、KIR-RIPRがCD8Treg細胞を活性化することにより、セリアック病治療に応用できることを示す。
【0231】
抗NKG2A scFv(クローン16A11)、16A11-RIPR、16A11-scFv-Fc、16A11-RIPR-Fc、抗NKG2A scFv(クローン20D5)、20D5-RIPR、20D5-scFv-Fc、20D5-RIPR-Fc、抗Ly49C/I scFv(クローン5E6)、5E6-RIPR、5E6-scFv-Fc、5E6-RIPR-Fc、抗KIR3DL scFv(クローンAZ158)、及びKIR3D-RIPRを含む、これらの実験に記載された様々なポリペプチドのアミノ酸配列は、図14~17に示される。
【0232】
本開示の特定の代替案が開示されたが、様々な修正及び組み合わせが可能であり、添付の特許請求の範囲の真の精神及び範囲内で企図されることが理解される。したがって、本明細書に提示された正確な要旨及び開示に制限を加える意図はない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2023545491000001.app
【国際調査報告】