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特表2023-545499共培養システムによる巨核球と血小板の産生
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】共培養システムによる巨核球と血小板の産生
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20231023BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20231023BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20231023BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/078
A61K35/19
A61P37/06
A61P35/00
A61P7/04
A61P7/00
A61P7/06
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522975
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(85)【翻訳文提出日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 US2021071903
(87)【国際公開番号】W WO2022082224
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/092,024
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュポール、エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(72)【発明者】
【氏名】クマール、ビジェンダ
(72)【発明者】
【氏名】メント、マイエラ
(72)【発明者】
【氏名】アフシャール-カーグハン、ヴァヒッド
(72)【発明者】
【氏名】バサール、ラフェット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB32
4B065BC08
4B065BD21
4B065BD39
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB38
4C087BB64
4C087DA31
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZA53
4C087ZA55
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】本開示の実施形態は、それを必要とするレシピエント個体のために巨核球及び血小板を生産するためのシステム、方法、及び組成物を含む。
【解決手段】巨核球および血小板は、幹細胞因子、トロンボポエチン、およびIL-6を含む培地中でのMSCおよびCD34+細胞の共培養に続いて生産され、特定の実施形態では、少なくともCD34+細胞が、β2-ミクログロブリンゲノム座でHLA-Eのノックインを有する。いくつかの態様において、ROCK阻害剤が利用される。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクスビボシステムにおいて巨核球を産生する方法であって、有効量の薬剤を含む培地の存在下、1つ又は複数の容器又は基板中で、巨核球を生成する条件で、間葉系幹細胞(MSC)をCD34+細胞と共培養するステップを含み、
前記薬剤は幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)およびインターロイキン6(IL-6)、を含むか、又は本質的にからなるか、又はからなり、
ここで、CD34+細胞は、β2-ミクログロブリン(β2M)のゲノム遺伝子座にHLAクラスI組織適合抗原、α鎖E(HLA-E)をノックインすることにより、CD34+細胞におけるHLAクラスI遺伝子産物の発現を減少又は消失させるように操作されている、方法。
【請求項2】
巨核球からの血小板の産生を増強する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CD34+細胞及び/又はMSCの少なくとも過半数が、臍帯血、骨髄、又は脂肪組織由来である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
容器が、Rho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)の1つ又は複数の阻害剤の有効量をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のROCK阻害剤が、Y27632、GSK269962、アザインドール1、RKI-1447、GSK429286a、GSK180736a、ファスジル、ヒドロキシファスジル、又はそれらの組み合わせを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のROCK阻害剤が、ROCK1及び/又はROCK2を阻害する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記培地が血清を欠く、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
SCFの濃度が25~50ng/mLの範囲にある、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
TPOの濃度が50~100ng/mLの範囲にある、先行する請求項のいずれか1項に記載された方法。
【請求項10】
IL-6の濃度が50~100ng/mLの範囲にある、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
SCF、TPO、およびIL-6の濃度が実質的に同じである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記濃度が50ng/mLである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記共培養ステップ中及び/又は血小板産生増強ステップ中、本方法は、1つ又は複数の容器又は基板の撹拌をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記攪拌が所望の角度で起こる、請求項15に記載の方法。
【請求項15】
前記角度が約8~9°である、請求項16に記載の方法。
【請求項16】
前記撹拌が、巨核球に剪断応力を誘導するのに十分である、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記巨核球が追加の血小板を産生するために再利用される、請求項2~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記培地が有効量のIL-1Bを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記培地から細胞のサンプルを得て、1つ又は複数の巨核球マーカーの発現について細胞のサンプルを分析するステップをさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞のサンプルが、共培養の開始から約10~12日目に培地から取得される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞のサンプルが、共培養の開始から約22~24日目に培地から得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記巨核球マーカーが、CD42b、CD41a、CD61、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
血小板が培地から得られる、請求項2~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
血小板が培地から複数回得られる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも2回連続して血小板を得る間の期間が約3日である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
血小板が分析される、請求項2~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
血小板が凝集について分析される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
MSC、CD34+細胞、及び/又は巨核球を、CD34+細胞、MSC、及び/又は巨核球をフコシル化する1つ又は複数の手段の有効量に供するステップをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
フコシル化の手段が、GDPフコース基質とともに1つ又は複数のフコシルトランスフェラーゼ酵素を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
培地が有効量の1つ又は複数のフコシルトランスフェラーゼ酵素を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
宿主個体の劇症免疫反応を回避する血小板を製造する方法であって、以下のステップを含む:
(a)間葉系幹細胞(MSC)を、有効量の薬剤を含む培地の存在下で、巨核球を生成する条件下で、1つ又は複数の容器又は基板においてCD34+細胞と共培養し、
前記薬剤は、SCF、TPOおよびIL-6を含む、又はから本質的になる、又はからなり、
CD34+細胞が、B2Mのゲノム座におけるHLA-Eのノックインを含むように操作されて、それによりCD34+細胞におけるB2Mの発現が低減又は排除されて、巨核球を生成すること、そして
(b)有効量の血小板を産生するために、巨核球を適切な条件に供すること。
【請求項32】
ステップ(b)の好適な条件が、培地中の1つ又は複数のROCK阻害剤の有効量を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
(a)および(b)が同じ容器又は基板で起こる、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
有効量の血小板が、それを必要とする宿主個体に提供される、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法であって、それを必要とする個体が、癌;血小板減少症;骨髄疾患;血液疾患;貧血;再生不良性貧血;コロナウイルス感染;臓器又は骨髄移植を受けている及び/又は受ける予定;外傷性損傷;心臓手術を受けている又は受ける予定;熱傷;又はそれらの組み合わせを有する、方法。
【請求項36】
血小板を必要とする個体を治療する方法であって、請求項2~30のいずれか1項に記載の方法により製造された有効量の血小板を個体に投与する工程を含み、ここで、個体は、癌;血小板減少症;骨髄疾患;血液疾患;貧血;再生不良貧血;コロナウイルス感染;臓器又は骨髄移植を受ける、又は受ける予定;外傷;心臓手術を受ける又は受ける予定;熱傷患者;又はそれらの組み合わせを有する。
【請求項37】
以下の有効量を含むか、これらからなるか、又はこれらから本質的になるシステム:
MSCs;
CD34+細胞、又は任意で、B2Mゲノム遺伝子座におけるHLA-Eのノックインを含むCD34+細胞;
容器又は基板
培地;
SCF;
TPO;
IL-6;および、任意選択で
1つ又は複数のROCK阻害剤;および、任意に、
1つ又は複数のフコシルトランスフェラーゼ酵素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月15日に出願された米国仮特許出願シリアル番号63/092,024の優先権を主張し、その全体が参照により本書に組み込まれる。
技術分野
【0002】
本開示の実施形態は、少なくとも細胞生物学、分子生物学、細胞培養、および医学の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
血小板減少症の患者を治療するために、米国の病院全体で年間200万単位以上の血小板が輸血されている[1、2]。例えば、化学療法を受けている患者、手術を受けている患者、あるいは何らかの原因で血小板減少症を基礎に持っている患者などに対して、アフェレーシス由来の血小板製剤の需要が絶え間なくある。また、現在米国で発生しているCOVID-19の流行も大きな懸念材料であり、予想外の過剰使用を引き起こし、血小板不足を招いている。血小板の保存期間は非常に短く、病院は輸血ユニットの供給量を補充するためにドナーに依存している[3]。ドナーへの依存を克服するために、輸血ユニットに使用することを含め、ドナーに依存しない、容易に入手可能な血小板の開発が必要である。本開示は、この必要性を満たすものである。
【発明の概要】
【0004】
本開示の実施形態は、巨核球及び血小板の生産を促進するシステム、方法、及び組成物に向けられる。特定の実施形態において、本開示の方法において産生される巨核球は、血小板を生成する。特定の実施形態は、所望の細胞を産生するための特定の試薬、条件、タイミング、及び/又は特定の細胞操作を包含する。本開示の実施形態は、イベントの線形シーケンスおよび特定の意図的なステップが、巨核球及び/又は血小板を含む所望の細胞についての拡大および分化ならびに収集をもたらすシステムおよび方法を含む。本明細書に開示されるシステムおよび方法は、特定の細胞の拡大及び分化を促進する所望の試薬および条件を有する選択された培地を利用する。いくつかの実施形態では、システムは、一連のステップ(又は、場合によっては、同じシステム内の細胞の異なる非同期集団について実質的に同時に発生し得るステップ)を含むプロセスを利用し得る。いずれの場合にも、本開示は、血小板輸血関連不応性(扱いにくい特性)を克服するための普遍的な方策を提供する。
【0005】
特定の実施形態において、本開示は、特定の所望の細胞集団の拡大および分化を可能にする、少なくとも2つの細胞集団の共培養に関する。特定の実施形態では、システム及びプロセスの初期又は少なくとも初期の段階は、間葉系幹細胞(MSC)とCD34+細胞(CD34+富化幹細胞を含む)との共培養を含む。同種異系のMSCの使用は、幹細胞の膨張及び分化のための優れたサポートを提供するために有利である。特定の実施形態において、本開示のシステム及び方法は、共培養における幹細胞のアポトーシスを防止するための人工細胞外マトリックスの使用を回避する。特定の実施形態では、MSCおよびCD34+細胞は、臍帯血などの特定の供給源に由来する。任意のCD34+細胞は、正の濃縮又は負の選択、又はその両方によって選択することができる。
【0006】
細胞の2つの集団の共培養は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、及びIL-6を含む1つ又は複数の特定の試薬を含む培地に供され得る。いくつかの実施形態では、MSC及び/又はCD34+細胞は、1つ又は複数の外因性遺伝子を発現するように、及び/又は1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を阻害するように操作されている。特定の実施形態において、MSC及び/又はCD34+細胞は、拡大プロセスの開始前にそのように操作される。いくつかの態様において、MSC及び/又はCD34+細胞は、MSC及び/又はCD34+細胞における内因性Rho関連コイルド-コイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)の発現が減少又は完全に阻害されるように操作される。特定の場合、内因性ROCK1(ROCK I、ROKβ、Rho-kinase β、又はp160ROCKとも呼ばれる)及び/又はROCK2(ROCK II、ROKα、又はRho kinaseとも呼ばれる)が、MSC及び/又はCD34+細胞において発現を減少又は完全に抑制している。いくつかの実施形態では、プロセスにおける任意の段階又は時点(複数可)で、細胞培養のための培地中に1つ又は複数のROCK阻害剤を採用することができる;特定の場合、1つ又は複数のROCK阻害剤は、血小板の生産及び/又は回収時など、巨核球の生産後に利用される。
【0007】
特定の実施形態では、MSC及び/又はCD34+細胞は、それぞれのMSC及び/又はCD34+細胞の元の供給源に関して同種である個体を含む、それを必要とする個体に送達する際に、そこから産生された血小板が増強された効力を有するように、操作され及び/又はそのような条件下にさらされる。少なくともいくつかの場合において、MSC及び/又はCD34+細胞は、それらの共培養によって最終的に産生される血小板がレシピエント個体に有害な免疫系反応を惹起しないように操作される。少なくともいくつかの態様において、MSC及び/又はCD34+細胞(臍帯血からのものを含む)は、それらの共培養によって最終的に産生される血小板がHLA-I枯渇由来の巨核球及び血小板になるように操作される。具体的な実施形態では、MSC及び/又はCD34+細胞は、それらの共培養によって最終的に産生される血小板がレシピエント個体内のT細胞及び/又はNK細胞によって破壊されないように、操作される。具体的な実施形態では、MSC及び/又はCD34+細胞は、HLA-Eのノックインを有するように操作される。HLA-Eノックインは、それぞれのMSC及び/又はCD34+細胞のβ-2-ミクログロブリン(B2M)遺伝子座の任意の場所に存在し得る。ノックインは、MSC及び/又はCD34+細胞によるB2Mを含むHLA-Iの発現を、完全に枯渇させることを含め、減少させることができる。MSC及び/又はCD34+細胞の任意の操作は、CRISPR-Cas9を介するものであってもなくてもよい。
【0008】
特定の実施形態において、システム及び方法は、同じ組成を有する培地(及び特定の時点において変更されてもされなくてもよい)及び/又は同じ容器内での拡大、分化及び血小板産生の全てを含むが、代替実施形態では異なる容器が利用され及び/又はプロセスの異なる段階が異なる組成を有する培地を利用する。本システムは、特定の実施形態において、GMPグレードに準拠している。システム及び方法は、少なくともいくつかの場合において、ウシ血清アルブミン又は任意の他の脂質サプリメントを含まないことを含む、無血清であってもよい。
【0009】
本発明のMSC/CD34+幹細胞共培養システムは、具体的な実施形態において、共培養システムにおける巨核球の拡大可能性を著しく改善することができ、それは特定の態様において、出発細胞と比較して、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、125倍、150倍、175倍、200倍、225倍、250倍、275倍、300倍、325倍、350倍、375倍、400倍、425倍、450倍、475倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、又は1000倍以上であることを含む。
【0010】
本開示の実施形態は、エクスビボシステムにおいて巨核球を産生する方法を含み、有効量の薬剤を含む培地の存在下で、1つ又は複数の容器又は基板において、巨核球を産生する条件下で、間葉系幹細胞(MSC)をCD34+細胞と共培養するステップを含み、前記薬剤は幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)及びインターロイキン6(IL-6)を含む、本質的にからなる、又はそれからなり、
ここで、CD34+細胞が、CD34+細胞におけるβ2-ミクログロブリン(β2M)のゲノム遺伝子座におけるHLAクラスI組織適合抗原、α鎖E(HLA-E)のノックインを含むように操作されて、それによってCD34+細胞におけるHLAクラスI遺伝子生成物の発現が減少又は排除される。いくつかの実施形態において、本方法は、巨核球からの血小板の産生を増強するステップをさらに含む。CD34+細胞及び/又はMSCの少なくとも大部分は、臍帯血、骨髄、及び/又は脂肪組織由来であってもよい。容器は、Y27632、GSK269962、アザインドール1、RKI-1447、GSK429286a、GSK180736a、ファスジル、ヒドロキシファスジル、又はそれらの組み合わせなどのRho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)の1以上の阻害剤の有効量をさらに含んでよく、1以上のROCK阻害剤はROCK1及び/又はROCK2を阻害し得る。
【0011】
特定の実施形態では、培地は、1つ又は複数の特定の成分を含むか、又は含まないか、又は特定の成分について特定の濃度を有している。例えば、培地は血清を欠いていてもよい。いくつかの場合、SCFの濃度は25~50ng/mLの範囲であり;TPOの濃度は50~100ng/mLの範囲であり;及び/又はIL-6の濃度は50~100ng/mLの範囲である。具体的な実施態様において、SCF、TPO、およびIL-6の濃度は、約50ng/mLなど、実質的に同じである。特定の場合、培地は有効量のIL-1Bを含む。
【0012】
具体的な実施態様において、方法の少なくとも一部は、1つ又は複数の容器又は基板の攪拌を含んでいる。撹拌は、MSCとCD34+細胞との間の共培養を含む、共培養の間に起こり得る。撹拌は、血小板の産生及び/又は回収中に行い得る。撹拌は、約8~9°などの所望の角度で行われてもよいし、行われなくてもよい。撹拌は、巨核球に剪断応力を誘発するのに十分である場合がある。
【0013】
特定の実施形態では、巨核球は、追加の血小板を産生するために再利用される。特定の態様において、細胞は、1つ以上の巨核球マーカー(CD42b、CD41a、CD61、又はそれらの組み合わせなど)の発現についてそれらを分析するために培地から得られる。細胞は、共培養の開始から約10~12日後に培地から取得することができる。細胞は、共培養の開始から約22~24日目に培地から得られる場合がある。特定の実施形態では、血小板は、複数回培地から得られることを含めて培地から得られ、血小板を得る間の時間のある期間が、約3日などのように望まれ得る。異なる場合の血小板の調達に続いて、それらは結合されてもよい。いずれにしても、血小板は、凝集について分析されるなど、分析されてもよい。
【0014】
特定の実施形態では、本方法は、MSC、CD34+細胞、及び/又は巨核球を、CD34+細胞、MSC、及び/又は巨核球をフコシル化する1以上の手段の有効量に供する工程を含む。フコシル化の手段は、GDPフコース基質とともに、1つ又は複数のフコシルトランスフェラーゼ酵素を含んでもよい。培地は、有効量の1つ又は複数のフコシルトランスフェラーゼ酵素を含んでいてもよい。
【0015】
特定の実施形態では、宿主個体の有害な免疫反応を回避する血小板を製造する方法であって、以下のステップを含む方法が提供される:(a)間葉系幹細胞(MSC)を、有効量の薬剤を含む培地の存在下で、1つ又は複数の容器又は基板において、巨核球を産生する条件下で、CD34+細胞と共培養し、前記薬剤はSCF、TPOおよびIL-6を含む、又は本質的にからなる、又はからなり、CD34+細胞が、CD34+細胞におけるB2Mのゲノム遺伝子座におけるHLA-Eのノックインを構成するように操作され、それによってCD34+細胞におけるHLA-I及び/又はB2Mの発現を減少又は除去し、それによって巨核球を産生する、ステップとおよび(b)有効量の血小板を産生するために、巨核球を適切な条件に供することである。いくつかの態様において、ステップ(b)の好適な条件は、培地中の1つ又は複数のROCK阻害剤の有効量を含んでいる。a)及び(b)のステップは、同じ容器又は基板で発生してもしなくてもよい。
【0016】
特定の実施形態では、本明細書に包含される任意の血小板の有効量を、それを必要とする個体に提供する。場合によっては、それを必要とする個体は、癌;血小板減少症;骨髄疾患;血液疾患;貧血;再生不良性貧血;コロナウイルス感染;臓器又は骨髄移植を受けている及び/又は受ける予定;外傷性損傷を有する;心臓手術を受けている個体とこれから受ける予定;熱傷患者;又はそれらの組合せである。
【0017】
特定の実施形態では、血小板を必要とする個体を治療する方法であって、本明細書に包含される任意の方法によって産生された有効量の血小板を個体に投与する工程を含み、ここで個体は、癌;血小板減少症;骨髄疾患;血液疾患;貧血;再生不良貧血;コロナウイルス感染;臓器又は骨髄移植を受けているか又は受ける予定;トラウマ的損傷;心臓手術を受け又は受ける予定の個人;熱傷患者;もしくはそれらの組み合わせを有する、方法が存在する。
【0018】
いくつかの実施形態では、以下の有効量を含むか、これらからなるか、又は本質的にこれらからなるシステムが存在する:MSC;CD34+細胞、又は任意に、B2Mゲノム遺伝子座におけるHLA-Eのノックインを含むCD34+細胞;容器又は基板;培地;SCF;TPO;IL-6;および任意に、1つ以上のROCK阻害剤;および任意に、1つ以上のフコシルトランスフェラーゼ酵素。
【0019】
上記は、以下の詳細な説明がよりよく理解されるように、本開示の特徴および技術的利点をむしろ広範に概説した。以下、本明細書の請求項の主題を形成する追加の特徴および利点が記載される。開示された構想および特定の実施形態は、本意匠の同じ目的を遂行するための他の構造を修正又は設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者には理解され得るはずである。また、そのような同等の構造は、添付の特許請求の範囲に規定されるような精神および範囲から逸脱しないことも、当業者には理解されるはずである。本明細書に開示された設計の特徴であると考えられる新規な特徴は、組織および操作方法の両方に関して、さらなる目的および利点とともに、添付の図と関連して考慮される場合、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示および説明の目的のみのために提供され、本開示の限界の定義として意図されていないことが、明示的に理解されるであろう。
【0020】
本開示のより完全な理解のために、ここで、添付の図面と共に取られる以下の説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A~1B。本開示の共培養システムの模式図である。具体的な例では、MSC共培養システムにおいて臍帯血(CB)CD34+細胞から成熟巨核球を生産するための戦略があり、これは、23日目に(例えば)液体培養に移してさらに日数を重ね、2~3日ごとに巨核球(MK)/血小板を回収することによって追跡することができる。(図1B)CRISPR-Cas9システムを用いたβ2-ミクログロブリンノックアウト(KO)CB CD34+細胞又は初期巨核球前駆体の生産、続いて図1Aで用いた分化プロトコルにより遺伝子編集β2-ミクログロブリンKO成熟巨核球及び血小板を製造するための戦略の模式図である。
【0022】
図2図2A~2E.CB由来CD34+由来巨核球の拡大および特徴付け。(図2A)MSCの有無による20日間の拡大後の成熟巨核球の数の倍数変化、バーの上の数字はp値を示す。(図2B)12日後のCFU-Meg条件におけるCD34+細胞の5X AXIO VertA1画像解析(図2C)Meg-CFU条件における黒い三角形で示されたプロプレート様伸展を示す20X画像。(図2D)成熟した巨核球のギムザ染色分析である。(図2E)CD41a、CD42bおよびCD61発現を示す、20日目の拡大巨核球のフローサイトメトリーヒストグラムプロットである。
【0023】
図3図3A~3C。ROCK阻害剤(Y27632)処理により、巨核球の倍数体性が増加する。(図3A)5日間にわたる成熟巨核球のROCK阻害剤処理の戦略の模式図である。(図3B)固定および透過処理した未処理又はY27632処理した巨核球におけるヨウ化プロピジウム(PI)染色を示すヒストグラムプロットである。(図3C)未処理又はY27632処理群における多倍体(=>8N)巨核球の割合、バー上の数字はp値を示す。
【0024】
図4図4A~4E。ROCK阻害剤処理は、血小板分泌およびTRAP誘導活性化を増強する。(図4A)48時間、ROCK阻害剤(Y27632)の有無にかかわらず、インビトロ巨核球培養の戦略の概略図。 図4B)48時間後の血小板の数、バー上の数はp-値を示す。(図4C)ROCK阻害剤処理後のMKs細胞サイズ(図4D)TRAP刺激後の血小板におけるCD62P発現(図4D)。(図4E)CD62P陽性活性化血小板の数、バーの上の数字はp値を示す。
【0025】
図5図5A図5D。CB由来の血小板は免疫不全マウスで循環し、エクスビボで拡大した巨核球は、免疫不全モデルであるNOD scid gammaマウス(NSG)において、様々なニッチに生着し、循環血小板を放出できる。特に、生着したCB巨核球は循環血小板を放出することができ、エクスビボで生成したCB機能性血小板が血中に検出される(図5A)。巨核球移植と生着解析の戦略を模式的に示したもの(図5B)。NSGマウスの異なる臓器における2ヶ月後の巨核球の生着率である。(図5C)移植後4週間のNSGマウスの末梢血における移植CB巨核球由来血小板キメラを示すコンタープロット解析である。(図5D)0,1,4および24時間時点のマウス血液中の生体外生成血小板キメリズムを示す。
【0026】
図6図6A図6C.細胞のCRISPR-Cas9ゲノム編集。図6A~6Bは、β2-ミクログロブリンノックアウト(KO)CB由来CD34+細胞を生成するためのCRISPR-Cas9ゲノム編集技術の概略図である。臍帯血(CB)CD34+細胞は、Cas9タンパク質と、シングルガイドRNA(sgRNA;図6A)又はデュアルガイドRNA、トランス活性化crRNA(tracrRNA)とcrispr RNA(crRNA)のハイブリッド(1:1比、図6B)のいずれかで、β2-ミクログロブリン(HLA-I遺伝子)を特異的に標的とするエレクトロポレーション処理を受ける。 Cas9は、標的遺伝子に二本鎖切断(DSB)を生成し、ゲノムDNA断片を除去し、機能的なHLA-Iタンパク質複合体を持たない細胞を作る。細胞は最終的に非相同末端接合(NHEJ)修復経路で修復されるが、このときドナーDNAを介さずに切断末端を修復するため、編集された細胞では欠失(インデル)変異が発生する。これらのCB B2M KO CD34+細胞は完全に機能し、巨核球や血小板に拡大分化させることができる。(図6C)コントロール(Cas9のみ、赤(右に向かってピーク))及びCRISPR-Cas9編集(青(左に向かってピーク))CD34+細胞におけるB2M平均蛍光強度(MFI)発現を表す概略フローサイトメトリベースヒストグラムプロット分析で、約85%のCD34+細胞中でB2M KOが確認される。
【0027】
図7図7A~7G。図7A. コントロールおよびフコシル化巨核球-赤血球前駆細胞(MEP、系統CD34+CD38+CD135-CD45RA-細胞)におけるHECA-452抗体平均蛍光強度(MFI)発現のフローサイトメトリーベースヒストグラム解析は、フコシル化MEPにおけるフコシル化レベルの増加を示唆する。(p<0.0001、図7B)コントロールおよびフコシル化HSC(lineage-CD34+CD38-CD90+CD45RA-細胞)におけるHECA-452抗体平均蛍光強度(MFI)発現のフローサイトメトリベースヒストグラム解析は、外因性フコシル化HSC後のフコシル化レベル上昇(p=0.0058、図7B)を示唆している。(図7C)コントロールおよびフコシル化巨核球(CD41a+ CD42b+ CD61+細胞)におけるHECA-452抗体平均蛍光強度(MFI)ヒストグラム発現。(図7D-7E)NSGマウスへのCB巨核球注入、BMホーミング解析、およびコントロールおよびフコシル化巨核球グループにおけるホーミング巨核球の割合の模式図である。(図7F-7G)皮下照射(3Gy)NSGマウスへのCB巨核球注入戦略、および対照群およびフコシル化群における7日目の血液循環CB由来血小板パーセンテージの測定。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、出発細胞の少なくとも2つの集団の共培養から所望の細胞を生産することに関し、生産は、拡大及び分化ステップを含み、次いで所望の細胞を収穫することを含む。特定の実施形態において、巨核球は、出発集団の1つとして少なくとも幹細胞を含む共培養系から産生される。 少なくともいくつかの場合において、共培養における初期集団の1つ以上は、ヒト臍帯血を含む臍帯血からである。
【0029】
特定の実施形態では、ヒト臍帯血(CB)造血幹細胞からの巨核球の生産は、輸血医学に利益をもたらす。本開示は、c-培養系におけるCB組織由来の間葉系幹細胞(MSC)を用いてCBから巨核球(MK)を大規模に生成するための独自のアプローチに関するものである。MSC共培養によるCB由来CD34+細胞の拡大及び分化プロトコルは、特定の試薬(複数可)、条件(複数可)、タイミング(複数可)等を利用するように特定のケースで最適化されている。特定の実施形態では、少なくとも膨張及び分化プロトコルは、外因性SCF、TPO、IL-6サイトカイン(場合によっては、それぞれ50ng/mLの濃度)を補充した無血清条件下で起こる。特定の実施形態では、FLT3-L(10~25ng/ml)、IL-21(50~150ng/ml)、IL-9(40~100ng/ml)、及び/又はIL-11(10~100ng/ml)サイトカインも、巨核球の拡大及び分化能をさらに高めるために添加することができる。
【0030】
開示されたシステムのためのMSC共培養は、すべての細胞が近接する骨髄微小環境を再現するため、造血幹細胞および分化巨核球の長期的機能を持続させるのに有利である。これらのCB由来の生体外拡大細胞は、成熟した巨核球系特異的マーカーを発現し、例えばトロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)刺激後にCD62P(P-セレクチン)発現を示すような機能的血小板を分泌する。特定の実施形態において、システムおよび方法は、1つ以上のRho関連コイルド-コイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤(少なくともいくつかの場合において、市販されている)の使用時に、巨核球成熟、血小板分泌、及び/又はそれらの活性化プロファイルのステップにおいてさらに最適化される。本発明者らは、CB由来の成熟巨核球およびその分泌血小板が生理的に活性であり、異種NSGマウスモデルにおいて正常に宿主としおよび生着し、インビボで長期的なドナー血小板キメラを維持し得ることを本明細書で実証する。これらの拡大巨核球前駆体は、少なくとも血小板減少症患者を含む、それを必要とする個体に短期間の血小板サポートを提供する。
【0031】
現在開示されているシステム及び方法は、少なくともHLA抗体による感作のために難治性の血小板減少症を有する患者に関して、今日の輸血医学における大きな問題に対処するものである[4、5]。これらの患者は、単一ドナーであっても血小板輸血に反応せず、しばしば深刻で致命的な出血性合併症を経験する[6,7]。本明細書に開示されている特定のシステムおよび方法は、clustered regularly interspaced short palindromic repeats/Cas9(CRISPR-Cas9) -induced ablationなどの遺伝子工学を利用して、輸血した血小板の同種免疫抗体による拒絶反応を克服する戦略を提供し、HLA-I複合体分子β2-マイクログロブリン遺伝子を含むHLA遺伝子の発現を低下又は消失させ、宿主免疫系による非認知をもたらし、輸血誘発性血小板減少症を回避させる。これにより、CB由来の巨核球前駆細胞や血小板がアロ抗体を介した破壊を回避して輸血され、生存し、強固な血小板支持を提供できるようになる。
I.巨核球および血小板の製造のシステムおよび方法
【0032】
本開示は、血小板が生産され得る巨核球を生産するためのシステム及び方法に関するものである。いくつかの実施形態において、システムおよび方法は、巨核球を生産するために共培養システムを利用し、特定の場合には、治療又は予防を含む任意の適切な臨床目的のための大規模な臨床グレードの成熟巨核球および血小板製品の生産に関するものである。システムおよびプロセスの初期段階(複数可)で使用される細胞が血小板を必要とする個人からのものである場合、システムおよび方法によって生産された血小板は、自己の方法でその個人のために利用され得る。システムおよびプロセスの最初のステップ(複数可)で使用される細胞が、血小板のレシピエントではない個人又は個体からである場合、システムおよび方法によって生産された血小板は、同種レシピエントに利用され得る;このような場合、生産された血小板を既製の方法で使用することができる。既製品である血小板は、使用前に好適に保存される場合もあれば、されない場合もある。
【0033】
現在開示されているシステムおよび方法は、臍帯血由来の成熟巨核球および機能的血小板を含む、高い数(例えば、少なくとも10、1010、1011など、具体例では1~7×1011を含む)の成熟巨核球および機能的血小板を生産し得る。これらの成熟巨核球は、一貫して活性血小板を分泌し、例えばHLA不一致の臍帯血源を含む、任意の供給源からの血小板の制御可能な供給源を提供する。本開示の具体的な実施形態では、成熟巨核球は、1つ以上の特定の試薬、1つ以上の特定の条件、1つ以上の特定のタイミング、及び/又は1つ以上の特定の特定の細胞操作を意図的に選択することにより、機能性血小板を一貫して生産する能力を保持する。 特定の実施形態では、そのような1つ又は複数の特定の試薬、1つ又は複数の特定の条件、1つ又は複数の特定のタイミング、及び/又は1つ又は複数の特定の特定の細胞操作がなければ、そこから生成される巨核球及び/又は血小板の望ましい活性及び/又は数は達成できないであろう。
【0034】
特定の実施形態において、システム及び方法は、意図的に選択された(1)共培養のための初期又は少なくとも初期の開始ステップにおける2つ以上の細胞集団と(2)共培養のための試薬の特定の組み合わせ(全て又は少なくとも一部はサイトカインを含む)の組み合わせを利用する;試薬の組み合わせは培地に提供されてよく、外来的に培地に添加されてもよい。代替実施形態では、出発細胞は、SCF、TPO、およびIL-6(これはSCF+TPO+IL-6カクテルと呼ばれ得る)のうちの1つ以上を含む外因性試薬の1つ以上を発現するよう操作される。SCF+TPO+IL-6カクテルは、3つの成分の任意の適切な濃度を含んでよく、それは50ng/mlであり得る。IL-21(50~150ng/ml)、IL-11(10~100ng/ml)、IL-9(40~100ng/ml)、FLT3-L(10~25ng/ml)などの他のサイトカインも、SCF+TPO+IL-6カクテルと個別に又はSCF+TPO+IL-6カクテルとの種々の組み合わせで巨核球の拡大及び分化を強化するために特定の実施形態に適用することができる。特定の実施形態では、試薬の特定の組み合わせは、SCF、TPOおよびIL-6を含む、からなる、又は本質的にからなる。特定の実施形態において、システムおよび方法はまた、(3)1つ又は複数のROCK阻害剤の組み合わせを利用する。特定の実施形態では、システムおよび方法はまた、(4)2つ以上の細胞集団の少なくとも1つにおける細胞が、1つ以上の外因性又は異種遺伝子を発現するように操作され、及び/又は細胞における1つ以上の内因性遺伝子のノックダウン又はノックアウトを有するように操作される。外因性又は異種遺伝子は、HLAクラス1組織適合抗原、α鎖E(HLA-E)を含んでなる。具体的には、2つ以上の細胞集団のうち少なくとも1つの細胞は、HLA-I枯渇およびHLA-E過剰発現となるように操作され、これによりHLA-I枯渇およびHLA-E過剰発現の巨核球および血小板が生成される。
【0035】
特定の実施形態において、システム及び方法は、膨張及び分化並びに血小板生産ステップの一部として、細胞培養のための培地を利用する。培地は、特定の実施形態において、SCF、TPOおよびIL-6を含む、本質的にからなる、又はからなる。SCFは、KIT-リガンド、KL、又はスチール因子としても知られており、c-KIT受容体(CD117)に結合するサイトカインである。SCFは、膜貫通タンパク質および可溶性タンパク質の両方として存在し得る。本発明のシステムおよび方法において、任意の適切な濃度のSCFを採用することができるが、具体的な態様では、SCFの濃度は、25~50ng/mlである。具体的な態様では、SCFの濃度は50ng/mLである。TPOは、THPOおよび巨核球増殖・発達因子(MGDF)としても知られており、本発明のシステムおよび方法においては、任意の適切な濃度のTPOを採用することができるが、具体的な場合には、TPOの濃度は50~100ng/mlである。具体的な態様では、TPOの濃度は50ng/mLである。IL-6は、炎症誘発性サイトカインの両方として作用するインターロイキンであり、本発明のシステムおよび方法においては、IL-6の任意の適切な濃度が採用され得るが、具体的な場合には、IL-6の濃度は50~100ng/mlである。具体的な態様では、IL-6の濃度は50ng/mLである。具体的な場合、培地中のSCF、TPOおよびIL-6の濃度は同じであるが、他の場合、SCF、TPOおよびIL-6の濃度は同じでない。SCF、TPOおよびIL-6の濃度が同じでない場合、濃度レベルは、検討されているシステムおよび方法におけるステップ又は段階によって決定され得る。
【0036】
特定の実施形態では、システム及び方法は、最終的に大量の機能的な巨核球を生成する共培養として、2つの細胞集団の組合せを利用する。特定の態様において、2つの細胞集団の一方又は両方は、臍帯血(CB)、骨髄及び/又は脂肪などの特定の供給源から得られる。本システム及び方法は、少なくともいくつかの場合において、CB造血前駆細胞から大量の巨核球を生成する。特定の実施形態では、細胞の初期集団の1つは、CBからのようなCD34+幹細胞を含む、CD34+細胞を含む。他の実施形態では、細胞の初期集団の1つは、CBからのものを含む、MSCを含む。一態様では、本開示のシステムは、細胞を近接させることによって、骨髄微小環境における自然なプロセスを模倣する。
【0037】
特定の実施形態では、システムおよび方法は、HLA-I枯渇およびHLA-E過剰発現する細胞から生成されるので、HLA-I枯渇およびHLA-E過剰発現である巨核球および血小板を生成する。具体的な例では、出発した巨核球および血小板の少なくとも一部および得られた巨核球および血小板のすべてではないとしても一部は、細胞内のHLA-Iゲノム遺伝子座におけるHLA-Eノックインを含むHLA-IノックアウトおよびHLA-Eノックインを有する。このような操作により、レシピエント個体における輸血関連移植片対宿主病又はあらゆる輸血不応症のリスクが大幅に減少又は排除される。具体的には、任意の適切なHLA-I遺伝子がノックアウトされるが、具体的には、HLA-I遺伝子は、β2-ミクログロブリン(β2M)である。
【0038】
図1は、巨核球および血小板の産生のためのシステムの使用の一例を提供する。一般的に言えば、特定の実施形態では、拡大及び分化が起こり、成熟した巨核球を生成し、その後、巨核球は血小板を生成する。方法の各部分(拡大、分化、及び/又は血小板産生)、又はその中の1つ以上のステップは、特定の時間の持続時間、特定のタイプの培地、特定の数の培地交換、培地への任意の種類の特定の数の添加などを有しても有さなくてもよい。少なくともいくつかの場合において、MSCは、基板上又は容器の少なくとも1つの表面上に播種される。特定の実施形態では、MSCは、基板又は容器の表面に付着している。少なくともいくつかの態様において、基材又は容器の表面の一定の割合は、40~50%コンフルエントであるなど、付着したMSCによって覆われる。適切な期間、例えば1~2日後に、CD34+細胞をシステムに添加する。これらのCD34+細胞は、商業的に入手してもよいし、システムで使用する前に、系統細胞マーカーの負の枯渇、CD34+細胞の正の選択、又はフローサイトメトリーで選別したCD34+細胞と共に負の/正の選択によって入手してもよい。CD34+細胞は、幹細胞であってもよく、少なくとも1~5x10細胞などの特定の範囲又は量でシステムに添加されてもよい。特定の実施形態では、共培養ステップの前及び/又は中のシステム内の培地は、無血清であり、SCF、TPO、及びIL-6である試薬からなる、これらからなる、又はこれらから本質的になる。
【0039】
図1に示されるように、MSCとCD34+細胞との共培養ステップは、CD34+の拡大と巨核球の分化とがあるステップである。システムのこの部分は、約21~30日を含む数日間続く可能性がある。システム及び方法の膨張及び分化部分の間、SCF、TPO、及びIL-6を含む任意の種類の試薬を含む培地の新鮮な供給源を提供するために、培地の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、又はそれ以上の交換があってもよいしなくてもよい。これらの培地交換の間のSCF、TPO、及びIL-6の濃度は、最初のステップにおけるのと同じ濃度であってもよいし、そうでなくてもよい。場合によっては、培地交換は、1、2、3、4、5、又はそれ以上の日数の後など、特定の日数の後に行われるが、特定の場合には、培地は約3日後に交換される。拡大及び/又は分化ステップの間のいくつかの場合において、培養中の細胞は、異なるフラスコ又はバイオリアクターのような異なる容器に移されてもよいし、移されなくてもよい。場合によっては、膨張及び分化ステップの間、培養中の細胞は新鮮なMSCに再プレートされる。拡大及び/又は分化ステップ中を含む方法中の任意の時点で、フローサイトメトリー分析(例えば、巨核球を示す1つ又は複数のマーカーについて分析するため)及び/又は汚染検査のためを含む、システムからの試料を取得し、分析することができる。分化した巨核球における陽性マーカーの例としては、CD41a、CD42B、CD61、CD34は陰性であるがCD11b、CD14、CD3、CD11c、CD15、CD19、CD56及びCD235aは陽性である他の系譜マーカーが挙げられる。すなわち、分化した巨核球前駆細胞は、もともとCD34を発現していたが、巨核球になるにつれて、CD34を失い、他のマーカーを獲得する、具体的な実施形態である。
【0040】
図1に示すように、共培養におけるある日数(例えば、23~27日)後、又は試験(例えば、フローサイトメトリー及び/又は他の分析によるものを含む)に基づく巨核球の生成の指示後、巨核球は収穫され、保存するか又は血小板を生成するためにさらに培養及び/又は操作されるか、そのいずれかである。代替実施形態では、巨核球は系内に留まり、血小板はそれらから収穫される。いずれにせよ、巨核球が血小板産生に十分成熟している時点から血小板の産生までの期間は、例えば、1~10日であり得る。血小板収集段階の間、システムは、Y27632、GSK269962、アザインドール1、RKI-1447、GSK429286a、GSK180736a、ファスジル、ヒドロキシファスジル、又はそれらの組み合わせなどの培地中の1以上のROCK阻害剤を利用してもよい。いくつかの態様において、1つ又は複数のROCK阻害剤は、巨核球が成熟する前、その間、及び/又は成熟した後に添加される。場合によっては、血小板は複数回で回収され、複数回の回収の間の期間は、互いの1、2、3、4、5、又はそれ以上の日数以内など、任意の適切な時間であってよい。回収された血小板は、他の回収のタイミングと組み合わせてもしなくてもよく、血小板は、使用前に(既製品の使用のためになど)保存してもしなくてもよい。場合によっては、血小板の産生を促進するためにIL-1βサイトカインが利用され、及び/又は血小板凝集特性を高めるためにTNF-αサイトカインが利用される。いくつかの実施形態では、血小板は、回収後にトランスフェクト又は形質転換又は形質導入される。
【0041】
場合によっては、ステップは、同じシステム内の細胞の異なる集団について実質的に同時に発生し得る。例えば、システムは、特定の細胞の最初の拡大を含んで拡大集団を生成し、拡大集団からの細胞の少なくとも一部は、次に分化を受け、最終的に巨核球の生成をもたらすことができる。そして、巨核球から血小板が産生される。 しかし、このような系では、タイミング及び条件によっては、実質的に同時に分化を受ける細胞集団をも含む、同じ系における拡大中の細胞集団が存在し得る。
【0042】
特定の実施形態において、本開示のシステムおよび方法は、天然に存在する巨核球および血小板と比較して遺伝的に修飾された巨核球および血小板を生成し、そのような遺伝的修飾は、巨核球および血小板がそのように遺伝的に修飾されている細胞から得られるために生じる。場合によっては、CD34+細胞及び/又はMSCは、1つ又は複数の外因性遺伝子を発現するように操作され、及び/又は細胞内の1つ又は複数の内因性遺伝子のノックダウン又はノックアウトを有するように操作される。図1Bに例示されるような特定の態様では、CD34+細胞及び/又はMSCは、少なくともβ2-ミクログロブリン(β2M)を含む1つ又は複数のHLA-I遺伝子の座におけるHLAクラスI組織適合抗原、α鎖E(HLA-E)のノックインからなるよう操作される。ノックインは、エクソン、イントロン、エクソン-イントロンジャンクションを含む遺伝子座全域に及ぶことができる。ノックインは、遺伝子座の全部又は一部をHLA-E遺伝子に置き換えることができる。ノックインにより、遺伝子座の発現が阻害され、非翻訳可能な核酸配列及び/又は非翻訳可能な核酸配列となる可能性がある。ある場合には、細胞の遺伝子操作は共培養を開始した後に行われるが、他の場合には、細胞の遺伝子操作は共培養の前に行われる。このβ2Mでのノックアウトは、特定の態様において、その遺伝子座からβ2M遺伝子産物を生じさせない。特定の態様において、HLA-Eとβ2Mとの融合は、β2Mにおいてノックインされる構築物として利用されることはない。細胞の任意の遺伝子操作は、例えば、少なくともCRISPRを含む任意の適切な方法によることができる。
【0043】
HLA-Eがβ2Mでノックインされている具体例では、生産された血小板は、β2MでHLA-Eをノックインしていない細胞によって生産された血小板と比較して、レシピエントに使用した際に有害な免疫系反応を惹起しないか惹起する能力が減少しているので有利である。生産された血小板は、(1)レシピエント個体のネイティブNK細胞が血小板を殺さないようにするシグナルを提供するHLA-Eの外因性発現を有し、及び(2)個体のネイティブT細胞が輸血された血小板を認識できない結果となり、ネイティブT細胞による破壊を避けるβ2Mの発現を欠いているため特に有用である。したがって、血小板における同じ改変(β2M遺伝子座におけるHLA-Eのノックイン)は、血小板がNK細胞(遺伝子/機能の獲得による)およびT細胞(遺伝子/機能の喪失による)の両方によって回避されることを可能にする。
【0044】
システム及び方法に関するいくつかの実施形態では、システム内の細胞は、任意の方法で攪拌される。具体的な態様では、細胞は、一定期間及び方法の特定の部分(例えば、巨核球の産生に続く血小板産生時に、具体的な態様では、拡大及び/又は分化中の細胞の培養の動きがあるが)で撹拌(揺動など)される。ある場合には、撹拌は、8~180度のようなある角度で行われる。少なくとも特定の場合、角度をつけての細胞の撹拌は、巨核球にせん断応力をもたらし、巨核球から培地への血小板放出を促進する。
【0045】
特定の実施形態では、システム内の培地は、1つ以上のフコシルトランスフェラーゼ酵素を含むことなどにより、巨核球をフコシル化するための1つ以上の手段を含んでいる。
【0046】
本方法の一連のイベントの任意の時点で、生産された細胞及び/又は生産中の細胞は、適切な温度(例えば、-80℃又は液体窒素中)で凍結するなど、適切に保存することができる。場合によっては、巨核球は、血小板の生産前に保存される(凍結など)。
【0047】
本開示の実施形態は、血小板輸血単位用を含むドナー非依存性血小板を生産するためのシステムおよび方法を包含し、血小板は、少なくともTPO、SCFおよびIL-6の存在下でMSCおよびCD34+細胞の共培養から得られる巨核細胞から生産される。少なくともいくつかの場合において、本方法中の任意の細胞は、HLA-I枯渇及びHLA-E過剰発現となるように遺伝的に操作される。少なくともいくつかの態様において、1つ又は複数のROCK阻害剤が、巨核球からの血小板産生の有効性を高めるためを含む、任意の目的のために利用される。
II.巨核球および血小板の使用方法について
【0048】
本開示の実施形態は、本開示のシステムおよび方法によって生産された巨核球および血小板を使用する方法を含む。特定の実施形態において、産生された巨核球からの有効量の血小板(例えば、1×10~1×1012)が、それを必要とする個体に提供される。個体への血小板の投与は、血小板の生産に続く貯蔵ステップに続いていてもいなくてもよい。特定の実施形態において、血小板は、レシピエント個体における劇症免疫反応性の可能性を低減するHLA-I枯渇及びHLA-E過剰発現である。いずれにせよ、個体は、個体がドナーとHLAマッチしていない場合を含め、血小板の1回以上の輸血を必要としている場合がある。個体は、少なくともいくつかの場合において、普遍的な既製品として血小板を受け取ることもあれば、そうでないこともある。いずれにせよ、血小板は輸血グレードであり得る。
【0049】
血小板を必要とする任意の個体は、任意の適切な投与経路で、有効量の血小板を提供することができる。場合によっては、個体は、癌;何らかの理由による血小板減少症(癌及び/又は癌治療に伴うか否か、および自己免疫又は他の原因によるか否かにかかわらず);血小板数の減少を直接的又は間接的にもたらす任意の骨髄疾患又は血液疾患;貧血;再生不良貧血;コロナウイルス感染(SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERSなど);臓器又は骨髄移植;外傷の犠牲者;心臓手術を受ける個人;熱傷犠牲者など。具体的な実施形態において、血小板を提供する医療施設は、HLA適合ドナーからの血小板を欠く。具体的な実施形態において、個体は、血小板の標準的な供給源に不応であり、不応性血小板減少症を有することがある。
【0050】
本開示のシステムおよび方法によって産生された血小板を用いた治療方法には、輸血関連移植片対宿主病又は任意の輸血不応症がある。少なくとも特定の場合、血小板がHLA-I枯渇およびHLA-E過剰発現であり、NK細胞およびT細胞の両方が血小板を避けることができるため、個体は輸血関連移植片対宿主病又は任意の輸血不応性の変化が減少している。本開示の方法およびシステムは、少なくとも手術を受けている個人、任意の目的のための基礎的な血小板減少症、化学療法を受けている個人、それらの組み合わせなどを含む、任意の理由でそれを必要としている個人のためのアフェレシス由来血小板製品の必要性を回避する。
【0051】
個体において治療する方法の実施形態は、癌;何らかの理由による血小板減少症(癌及び/又は癌治療に伴うか否か、および自己免疫又は他の原因によるか否かにかかわらず);血小板数の減少を直接的又は間接的にもたらす任意の骨髄疾患又は血液疾患;貧血;再生不良貧血;コロナウイルス感染(SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERSなど含む。);臓器又は骨髄移植;外傷の犠牲者;心臓手術を受けている個体;火傷の犠牲者;などを対象とし、有効量の血小板を個体に提供するステップを含み、ここで、血小板は本明細書に包含されるシステムおよび方法から生産される。
【0052】
いくつかの実施形態において、本明細書に包含される巨核球から作られた血小板を含む血小板は、血小板溶解物を作成するために溶解される。血小板溶解物は、局所的に使用され得る。いくつかの実施形態において、血小板溶解物は、止血及び/又は創傷治癒のために使用される。創傷は、外科的創傷、糖尿病性潰瘍、又は火傷などの任意の創傷であり得る。
【実施例
【0053】
以下の例は、本開示の特定の実施態様を示すために含まれる。続く実施例で開示される技術は、本開示のシステムおよび方法の実践において良好に機能することが発見された技術を表し、したがって、その実践のための特定の態様を構成すると考えることができることを、当業者は理解するべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施形態において多くの変更を加えることができ、それでも本開示のシステムおよび方法の精神および範囲から逸脱することなく、同様の又は類似の結果を得ることができることを理解するべきである。
(実施例1)
巨核球・血小板の産生
【0054】
本実施例は、外来性サイトカイン(SCF、TPO及びIL-6)のカクテルを用いた無血清共培養システムにおいて、CB組織由来の同種間葉系幹細胞(MSC)を用いて、臍帯血(CB)から成熟巨核球(MK)を大規模に生成する新規で堅牢なアプローチに関するものである。骨髄や脂肪組織から回収したものなど、他の供給源からのMSCを使用することも可能である。このような生体外での拡大及び分化戦略により、最終的に分化した巨核球から多数の血小板を効率的かつ連続的に産生できる成熟巨核球が得られる(図1)。この血小板は、血小板輸血ユニットに利用することができる。
【0055】
この生体外拡大アプローチにより、MSCを用いた20日間にわたる約300倍の一貫した拡大が可能となり、約3×10~4×10個の巨核球を生成する(図2A)。これらの20日目に膨張した成熟巨核球は、3日ごとの各収穫において、生体外で約1x1010個の機能的血小板を効率的に分泌することができる。特定の実施形態では、ROCK阻害剤と、巨核球にせん断応力を発生させるための垂直/水平振盪などの追加の作用との組み合わせで、約1~5x1011 CB由来血小板を生成することができる。これらの用量は、血小板減少症患者のような必要な個体に対して血小板サポートを提供し得る。
【0056】
CB由来の拡大CD34+細胞は、巨核球分化能を有し、CD41b/CD61+(GPIIb/IIIa受容体複合体)染色(図2B)によって確認されるように、コラーゲンベースのメガクルトC巨核球コロニー形成(CFU-Mg)アッセイにおいて巨核球コロニーを形成でき、プロプレート様構造形成によって明らかなように培養において血小板を生成しつつあることが確認された(図2C)。拡大した倍数体型巨核球は、さらにギムザ染色とフローサイトメーターに基づくCD42b、CD41aおよびCD61の発現によって確認され、いずれも拡大した巨核球の純度と成熟が確認された(図2D-2E)。これらのデータは、血小板支持能を有する指標を有するMK前駆細胞への強固な分化を実証するものである。
【0057】
Rho associated coiled - coil containing protein kinase(ROCK)阻害剤は、巨核球の細胞骨格タンパク質リモデリングを増加させ、プロ血小板形成および巨核球からの血小板排出の増加につながることが以前に示されている[8-10]。本発明者らは、CB巨核球の小胞体変化、血小板分泌、およびその機能性に対するROCK阻害剤の影響の特徴付けを行った。
【0058】
ROCK阻害剤処理群では、コントロール巨核球と比較して、血小板分泌倍数体巨核球の数が有意に増加し、最終成熟における役割が確認された(図3)。さらに、ROCK阻害剤処理群のMKは、48時間にわたってより多くの血小板を用量依存的に分泌し(図4A~4C)、CD62P発現によって特徴付けられるように、トロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)誘発血小板活性化および凝集が増強されていることが示された。これは、CB血小板の機能的プロファイルの向上を示している(図4D-4E)。Y27632、KD025、GSK269962およびアザインドール1([9-12])を含むいくつかの異なるROCK阻害剤をこの手順で使用することができる。
【0059】
次に、本発明者らは、汎血球減少症の異種移植モデルにおいて、CB由来の拡大巨核球および血小板のインビボ機能を評価した。まず、免疫不全NSGマウスに亜致死量の放射線(3.5Gy)を照射して血小板減少マウスを調製し、その後、尾静脈ルートから7x10個の巨核球および1.3x10個のCB血小板を注入する実験を2回に分けて実施した。生体外で生成された巨核球および血小板は、免疫不全マウスの様々な臓器に正常に帰巣および生着し、マウスの血液中に循環血小板を分泌することができる(図5A図5D)。
【0060】
共培養システムと組み合わせたROCK阻害剤の使用は、CB由来の生体外拡大巨核球および血小板を受けた個体又は血小板輸血を必要とする化学療法患者において、血小板数をより早く回復させる新規戦略を示す。薬理学的ROCK阻害に加えて、ROCK遺伝子(複数可)特異的シングルガイドRNA(sgRNA)又はデュアルガイド(crRNA:tracrRNA)RNAハイブリッドを使用して、ROCK遺伝子をノックアウトし、非操作CB巨核球と比較してインビトロおよびインビボの両方で編集巨核球からの強化血小板放出を促進する、CRISPR-CAS9(clustered regularly interspaced short palindromic repeat/Cas9)技術も適用可能である。
【0061】
いくつかの実施形態では、細胞を培養するためにバイオリアクターが利用され得る。具体的な例では、GE WAVEバイオリアクターシステムを使用して、ROCK阻害剤で誘導された最終分化巨核球を培養して血小板を遊離させる。このバイオリアクターは、血小板のための小規模生産から大規模生産のスケールアップのために、様々なCellbags(登録商標)2~20リットルを使用して、異なる細胞量を培養する能力を有するものである。
【0062】
簡単に説明すると、CRISPR-Cas9で操作された巨核球は、5%CO中のCellbag(登録商標)バイオリアクター培地サスペンションで24-48時間培養される。Hillex(登録商標)マイクロキャリアは、ある程度の固定支持とせん断応力を提供するために利用される。成長する巨核球の温度、細胞密度、pHレベル、生存率を連続的にモニターすることができる。バイオリアクター内の角度で発生する揺動運動は、培地中の血小板を放出するために巨核球の表面に剪断応力を誘発するのに十分である。
【0063】
培養後、血小板は、Cellbag(登録商標)バイオリアクターの懸濁培地から、出口Clave(登録商標)サンプルポートを通して回収することができ、Ficoll-Hypaqueベースの密度勾配遠心分離を使用して巨核球からさらに分離することができる。血小板は、トロンビン活性化ペプチド(TRAPs)又はADP刺激凝集アッセイを用いて凝集特性を分析し、他の下流アプリケーションに使用される。生存している巨核球は再利用でき、(場合によっては)Cellbag(登録商標)内で追加の巨核球と培養して、血小板を継続的に生産することができる。また、IL-1Bサイトカインを懸濁培地中で使用することで、さらに血小板を放出させることができる。この方法は、現在臨床で使用されている他の多くのバイオリアクターで実行することができる。
【0064】
血小板輸血を受けている多くの癌患者は、ヒト白血球抗原クラスI(HLA-I)に対するアロ抗体の産生のために、難治性血小板減少症を発症する。HLA抗体のために難治性血小板減少症になった患者では、非HLA適合ドナーからの血小板輸血では血小板数を増加させることができない。したがって、HLA-I適合ドナーがいない場合、本明細書に包含されるCB由来血小板輸血は、そのような患者に対する効果的な代替アプローチである[13、14]。HLA-I枯渇CB由来血小板は、CD34+細胞又は初期巨核球前駆細胞におけるHLA-I複合分子β2-ミクログロブリン(β2M)を標的とする、シングルガイドRNA(sgRNA、図6A)又はデュアルガイドCRISPR RNA(crRNA)およびトランスアクティベートクリスプRNA(tracrRNA、図6B)RNAハイブリッドを用いるCRISPR-CAS9技術を使用して生成される。Cas9によるβ2-ミクログロブリン遺伝子エクソン領域の切除により、CD34+細胞およびCD34+由来の巨核球および血小板のHLA-1ノックアウト(KO)又は欠損が得られる。さらに、CRISPR-Cas9/アデノ随伴ベクター(CRISPR-Cas9/AAV)技術を使用してHLA-E遺伝子ノックイン(過剰発現)を導入し、同時にCB CD34+細胞のDNA座からβ2-ミクログロブリン(β2M)遺伝子を除去すると、少なくとも任意のマイナーナチュラルキラー(NK)細胞関連免疫拒絶反応が除去される[15]。
【0065】
さらに、CB細胞における新規多重CRISPR-Cas9/AAV技術を用いたROCK、β2M KOおよびHLA-Eノックインの組み合わせ戦略は、高精度でゲノム工学を行うための特異性の高いツールである。ゲノム編集されたCB巨核球レシピエントは、特定の場合、宿主免疫系の拒絶反応を逃れながら、血小板分泌を強化し、血小板数の回復を早め、血小板減少症を緩和する。
【0066】
HLA遺伝子の細胞表面発現のCRISPR-Cas9ベースの遺伝子工学的操作とは別に、特定の実施形態では、それらの骨髄(BM)ホーミング能を改善するために、拡大巨核球前駆細胞又は成熟巨核球のフコシル化が実施される。
【0067】
フコシル化(グリコシル化の一種)は、様々なフコシルトランスフェラーゼ(FT)酵素によって行われ、タンパク質又は炭水化物部分にフコース基を転移させることにより、E-セレクチン結合能をデノボで獲得させる。細胞表面のフコシル化糖鎖は、細胞接着、白血球輸送、腫瘍転移など、様々な生理的・病理的過程に関与している(16-18)。本発明者らは先に、ヒト初の臨床試験において、CB CD34+前駆細胞を短期間のα1,3-フコシルトランスフェラーゼ(FT-VI)+GDP-フコース処理でex vivo処理することによりフコシル化が増加し、レシピエント患者における好中球減少および血小板減少期間を著しく短縮できることを明らかにしている(19)。
【0068】
定常状態でのフコシル化レベルを特徴付けるために、本発明者らは、フローサイトメトリーHECA-452抗体染色(フコシル化セレクチンリガンドのsLex/皮膚リンパ球抗原(CLA)を認識する)を行い、新鮮に分離したCB由来の造血幹細胞(HSCs、 lineage-CD34+CD38-CD90+CD45RA-細胞)、巨核球系譜コミット、巨核球系赤血球前駆細胞(MEPs、lineage-CD34+CD38+CD135-CD45RA-)、及び分化巨核球(CD41a+CD42b+細胞)中の細胞抗原フコシレーションレベルを測定した。さらに、α1,3-フコシルトランスフェラーゼ(FT-VI、0.025μg/ml)+GDP-フコースで37℃ 30分間、エクスビボ処理すると、造血幹細胞、MEPおよび巨核球のフコシル化レベルが著しく上昇した(図7A-7C)。NSG骨髄ホーミング実験では、CB MKの表面フコシル化修飾が照射マウス骨髄ニッチへのホーミングに影響を及ぼすかどうかを判定した。簡単に説明すると、5x10個のfluorescein succinimidyl ester(CFSE)色素標識した、操作されていないコントロール又はin-vitro fucosyltransferase-VI(FT-VI)誘導フコシル化拡大CB巨核球を亜致死量(3Gy)照射したNSGマウスに注射して、移植後20時間の骨髄ホーミング分析をフローサイトメトリーにより実施した。マウス骨髄(脛骨および大腿骨由来細胞)の全生存Ter119-(マウス赤血球排除マーカー)細胞画分におけるCFSE+巨核球(CD41a+ CD42b+)のホーミング率解析を20時間後に行ったところ、非フコシル化巨核球と比較して、フコース化巨核球グループで有意に高いホーミング率を示した(p<0.0001、図7D-7E)。同様に、別の巨核球尾静脈移植(5x10/マウス)実験を行い、コントロールおよびフコシル化MKレシピエントグループから初期パーセント循環血小板レベルを測定した。移植後7日目にコントロールMKマウス群と比較して、フコシル化グループマウスでは有意に高い循環血小板レベルが見られた(p=0.0058、図7F-7G)。これらのデータから、内因性フコシル化レベルの増加は、移植された巨核球のBMホーミングを促進し、循環血小板に反映される巨核球の機能性を高めることが確認された。レトロウイルス、レンチウイルスベースの過剰発現ベクターを用いた、外因性FT-VI処理又はCB巨核球上のフコシルトランスフェラーゼVI(FT-VI)又はフコシルトランスフェラーゼVII(FT-VII)の過剰発現は、両方の遺伝子について別々に、両方の遺伝子を組み合わせて、IL-21サイトカインと組み合わせて、特定の実施形態では、種々のニッチにおいてBMホーミングおよびトラフィッキングを増強する。FT-VI又はFT-VII酵素の過剰発現による外因性フコシル化又は内因性構成性フコシル化アプローチは、ROCK阻害およびCRISPR-Cas9産物と統合して、独自の巨核球産物を生成できる。少なくともいくつかのケースでは、これらの遺伝子組み換えMKおよびその血小板は、既製のユニバーサルドナー製品として使用するのに有用であり、強化されたBMホーミング能力でHLA-I関連アロ免疫不応性を克服する有効な戦略である。
文献
【0069】
本明細書で引用されたすべての特許および出版物は、その全体が本明細書で参照されることにより組み込まれる。本明細書で引用した文献の完全な引用は、以下のリストで提供され、また、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
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【0070】
本開示およびその利点について詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される設計の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換および改変を本明細書で行うことができることが理解されよう。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、物質組成、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。当業者であれば、本開示から容易に理解できるように、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するかまたは後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、またはステップが、本開示に従って利用され得る。 したがって、添付の特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、またはステップをその範囲内に含むことが意図される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
【国際調査報告】