(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】コラーゲン産生増加のための操作された細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231023BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231023BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20231023BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231023BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20231023BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231023BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20231023BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231023BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20231023BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20231023BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231023BHJP
A61M 35/00 20060101ALI20231023BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231023BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20231023BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20231023BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
C12N15/113
C12N5/10 ZNA
C12N15/61
C12N5/077
C12N5/071
C12P21/02 C
A61K38/39
A61P21/00
A61P19/00
A61P17/02
A61P17/00
A61M35/00 Z
C12N15/09 110
C12N15/53
C12N15/57
C12N15/867 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523014
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 US2021055315
(87)【国際公開番号】W WO2022082070
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592233750
【氏名又は名称】ノースイースタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】マストビッチ,ティム・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フィッツギャラルド,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ギフォード,ジェシー・リン
(72)【発明者】
【氏名】ホロウィツ,アンドリュー・シー
(72)【発明者】
【氏名】パウエル,メーガン・ジェイン
(72)【発明者】
【氏名】ルベーティ,ジェフリー・ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C267
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA44
4C084DA40
4C084NA20
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZA96
4C267AA71
4C267AA72
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB05
4C267BB24
4C267CC01
4C267GG01
4C267HH08
(57)【要約】
コラーゲン産生を増加させるための細胞は、新しいCRISPR細胞工学プロセスによって操作される。このプロセスは、ヒト細胞または患者が採取した細胞を使用して実行し得る。細胞によって産生されたコラーゲンは、ヒト患者に移植された場合、非ヒト細胞によって産生されたコラーゲンと比較して免疫原性のリスクが低い。化学添加剤を含む細胞培養培地も提供され、コラーゲン産生にさらにプラスの効果をもたらす。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞によるコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子のCRISPRベースの活性化(CRISPRa)を行うように操作された、コラーゲン生合成を増強することができる操作された細胞であって、前記細胞が、標的遺伝子に特異的な転写活性化タンパク質(dCas9活性化因子)およびガイドRNA(gRNA)に融合したエンドヌクレアーゼ欠損Cas9(dCas9)タンパク質を発現し、前記操作された細胞は、同じタイプの非操作細胞と比較して、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50 倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、または少なくとも300倍高いコラーゲン生合成を行うことができる、細胞。
【請求項2】
前記標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項3】
前記細胞によって発現され、前記標的遺伝子に特異的な前記gRNAが、配列番号1~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の操作された細胞。
【請求項4】
前記細胞がプロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP)遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1以上のさらなる標的遺伝子のCRISPRaを実行するように操作されている、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項5】
前記標的遺伝子の2つ以上に特異的なgRNAを発現し、前記2つ以上の標的遺伝子のそれぞれが活性化される、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項6】
1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子が標的とされる、請求項5に記載の操作された細胞;
ここで、1以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択され、および
ここで、細胞は、前記1以上のコラーゲン遺伝子および前記1以上のTGF-β遺伝子に特異的なgRNAを発現する。
【請求項7】
前記コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、前記TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、前記COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、および前記COL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載の操作された細胞。
【請求項8】
ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、1以上のプロペプチダーゼ遺伝子がさらに標的とされる、請求項6に記載の操作された細胞。
【請求項9】
前記プロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1が標的にされ、前記ADAMTS2 gRNAが配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記BMP-1 gRNAが配列番号153~156の配列のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項8に記載の操作された細胞。
【請求項10】
前記転写活性化因子が、VP64、p65、Rta、VPR(VP64、p65、およびRtaの組み合わせ)、MS2、HSF1、SAM(MS2、p65、およびHSF-1の組み合わせ)、およびSunTagからなる群から選択される、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項11】
dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、請求項10に記載の操作された細胞。
【請求項12】
前記dCas9活性化因子および前記1個のgRNAまたは複数のgRNAを発現するようにトランスフェクトされている、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項13】
前記dCas9活性化因子および前記1個のgRNAまたは複数のgRNAを発現するように形質導入されている、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項14】
前記細胞が、線維芽細胞、間葉細胞、筋線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および人工多能性幹細胞からなる群から選択される細胞型に由来する、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項15】
前記細胞がヒト角膜線維芽細胞に由来する、請求項14に記載の操作された細胞。
【請求項16】
前記細胞が、コラーゲン投与を必要とする哺乳動物対象から得られた細胞に由来する、請求項1に記載の操作された細胞。
【請求項17】
請求項1に記載の操作された細胞を含む細胞培養物。
【請求項18】
不死化された請求項17に記載の細胞培養物。
【請求項19】
強化されたコラーゲン生合成を提供するように細胞を操作する方法であって、以下のステップを含む方法:
(a)細胞、dCas9活性化因子をコードする第1の核酸分子、およびコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子に特異的な第2の核酸分子を提供する工程;と
(b)前記第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入する工程;
これにより、細胞は前記dCas9活性化因子および前記gRNAを発現することが可能になり、標的遺伝子が活性化される。
【請求項20】
前記標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記gRNAが、配列番号1~配列番号156のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞がプロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1以上のさらなる標的遺伝子のCRISPRaを実行するように操作されている、請求項19に記載の操作された細胞。
【請求項23】
前記細胞が、それぞれが異なる標的遺伝子に特異的な2つ以上の第2の核酸分子を細胞でトランスフェクトされ、それによってそれぞれの標的遺伝子が活性化される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子が標的とされる、請求項23に記載の方法;
ここで、1以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1つ以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択され、および
ここで、細胞は、前記1以上のコラーゲン遺伝子および前記1以上のTGF-β遺伝子に特異的なgRNAを発現する。
【請求項25】
前記コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、前記TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、前記COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、および前記COL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記プロペプチダーゼ遺伝子が、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、1以上のプロペプチダーゼ遺伝子がさらに標的とされる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記プロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1が標的にされ、前記ADAMTS2 gRNAが、配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記BMP-1 gRNAが配列番号153~156の配列のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が、線維芽細胞、筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および人工多能性幹細胞からなる群から選択される細胞型に由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞がヒト角膜線維芽細胞に由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(b)においてレンチウイルスベクターを用いて細胞を形質導入する、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(a)が、コラーゲン投与を必要とする哺乳動物対象から、または同じ種の異なる哺乳動物対象からサンプルを取得すること、およびサンプルから提供された細胞を導出することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
細胞によるコラーゲンの生合成を増強するように細胞を操作するためのキットであって、以下を含むキット:
(i)dCas9活性化因子タンパク質をコードする第1の核酸分子;
(ii)コラーゲン生合成に関連する標的遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする第2の核酸分子;と
(iii)任意に、第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入するための1つ以上の試薬。
【請求項34】
前記標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記crRNAが配列番号1~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
それぞれが異なる標的遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする2つ以上の第2の核酸分子が提供される、請求項33に記載のキット。
【請求項37】
前記2つ以上の第2の核酸分子が、1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする、請求項36に記載のキット;
ここで、1つ以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1つ以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択される。
【請求項38】
前記コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、前記TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、前記COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、および前記COL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、前記TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記プロペプチダーゼ遺伝子が、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択され、前記2つ以上の第2の核酸が1つ以上のプロペプチダーゼ遺伝子に特異的なcrRNAを含むかコードする、請求項37に記載のキット。
【請求項40】
前記2つ以上の第2の核酸分子がプロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1に特異的なcrRNAを含むかまたはコードし、前記ADAMTS2 gRNAが、配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列および前記BMP-1 gRNAが、配列番号153~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
前記第2核酸分子がさらに、プロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1つ以上の遺伝子に特異的なcrRNAを含むか、コードする、請求項33に記載のキット。
【請求項42】
前記dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、請求項33に記載のキット。
【請求項43】
請求項1の操作された細胞を含む医療機器。
【請求項44】
対象の体内に埋め込み可能な請求項43に記載の医療機器。
【請求項45】
コラーゲンを生成する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)請求項17に記載の細胞培養物を提供すること;
(b)細胞培養物の細胞によってコラーゲンが生合成される条件下で、バイオリアクター内で細胞培養を増殖させること、および
(c)バイオリアクターからのコラーゲンの採取と精製をすること。
【請求項46】
ステップ(b)が、コラーゲン生合成の変調剤の存在下で実施される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記変調剤が、アセトアルデヒド、アスコルベート、ヒアルロン酸、β-アミノプロピオニトリル、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、グルタミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記変調剤が、アスコルベートとβ-アミノプロピオニトリルの組み合わせ、またはアスコルベート、アセトアルデヒド、およびβ-アミノプロピオニトリルの組み合わせである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記変調剤がβ-アミノプロピオニトリルであり、β-アミノプロピオニトリルが存在しない場合と比較して、コラーゲンの架橋が低減または防止される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ステップ(b)が、細胞への機械的歪みの適用の存在下で実施される、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
基板、ビーズ、または骨格に接着した細胞を使用して、機械的歪みを誘発する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ステップ(b) と(c) の間に、さらに以下を含む、請求項45に記載の方法:
(b1)生合成されたコラーゲンを細胞増殖培地中に濃縮し、それによって生合成されたコラーゲンのプロペプチド切断が増強されること。
【請求項53】
産生される前記コラーゲンがI~V型コラーゲンからなる群から選択される型である、請求項45に記載の方法。
【請求項54】
コラーゲンがI型コラーゲンである、請求項53の方法。
【請求項55】
コラーゲンの不足を特徴とする医学的状態を有する、哺乳動物対象を治療する方法であ、以下を含む:
(a)請求項32の方法を実行し、それによって、哺乳動物対象、または同じ種の異なる哺乳動物対象に由来する細胞によって産生されたコラーゲンを得ること;および
(b)対象にコラーゲンを投与する工程。
【請求項56】
コラーゲンを投与するために医療機器が使用される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記医療機器が、熱傷/創傷被覆または包帯、骨形成および/または骨充填材料、抗血栓性表面を有する機器、治療用酵素固定化表面を有する機器、、コラーゲンパッチ、閉鎖グラフト、コラーゲンを提供するように機能するインプラント、角膜インプラント、包帯コンタクトレンズ、コラーゲンベースの膜、およびコラーゲンベースの薬物送達機器からなる群から選択される、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
医学的状態が、創傷、断裂した靭帯または腱、骨折、損傷した軟骨、眼の状態、美容処置または手術を必要とする状態、皮膚の状態、皮膚のしわや傷、火傷から選択される、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
ヒト対象に美容治療を行う方法であって、以下を含む:
(a)請求項32の方法を実行し、それによって、哺乳動物対象、または同じ種の異なる哺乳動物対象に由来する細胞によって産生されたコラーゲンを得ること;および
(b)工程(a)で得られたコラーゲンを対象に投与する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト細胞を含む操作された細胞を提供し、コラーゲン産生を大幅に増強することができ、それらを使用して、望ましくない免疫反応のリスクなしに病状の治療のためのコラーゲンを得る方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
この出願は2020年10月15日に出願された、米国仮出願第63/092,433号に優先権を主張する。
【0003】
連邦政府による支援研究開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号EY029167の下で政府の支援を受けて行われた。 政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
平均して、米国では年間3,300万件の筋骨格損傷があり、これらの損傷の50%は腱と靭帯(回旋腱板、前十字靭帯など)に関係し、外傷または変性によるものである(Wu,et al., 2017)。 腱と靭帯はコラーゲンベースの軟組織であり、損傷後の治癒が不十分なことがよくある。 さらに、これらの腱と靭帯の損傷について報告されている平均回復時間は12週間であり、損傷した腱が損傷前の状態に完全に戻ることはない(nhs.uk/conditions/hand-tendon-repair/recovery/)。この長い回復時間を短縮するために、これらの損傷した軟部組織の外科的修復後にI型コラーゲン パッチを移植する治療法が開発されて来ている。外科用パッチは、引き裂かれた腱の端の間のギャップを埋めるのに役立ち、損傷した組織を伸ばすことを回避して、損傷した組織を強く保ち、再損傷を防ぐことができる(orthocarolina.com/media/how-does-a-patch-repair-a-rotator-cuff-tear)。これらの外科的介入の後でも、患者はしばしば、損傷前の状態の強さや可動性を回復しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、これらのパッチのI型コラーゲンは動物由来であり、その結果、そのような治療法をヒト患者に移植すると、免疫系拒絶反応の重大なリスクが生ずる(Vig,et al., 2019)。その一例が、回筋腱板の修復を強化するために作られた Zimmer(R) コラーゲン修復パッチである。パッチは、ブタの真皮由来の無細胞コラーゲンで構成されている(Yao,et al., 2005)。パッチは他の生体材料の骨格よりも有望であることが示されているが、その機械的特性は腱や靭帯の修復には不十分であり、パッチの滅菌と精製に使用される製造プロセスはコラーゲン構造を損なう(OKeefe,et al., 2013)。ヒト患者の組織修復および再構築のための改善されたコラーゲン源が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、ヒト細胞を含む操作された細胞を提供し、コラーゲン産生を大幅に増強することができ、それらを使用して、望ましくない免疫反応のリスクなしに病状の治療のためのコラーゲンを得る方法を提供する。 本方法論を使用して、病状の治療のためのコラーゲン補給を必要とする患者から細胞を得ることができ、その後、オートテロコラーゲン、オートプロコラーゲン、またはオートアテロコラーゲンを含む、移植用の患者自身のコラーゲンを大量に産生するように操作することができる。さらに、この方法は、同種(例えば、ヒトドナー細胞)で使用して、アロテロコラーゲン、アロプロコラーゲン、またはアロアテロコラーゲンを生成することができる。細胞工学プロセスは、コラーゲン合成に関与する翻訳および転写後変性を刺激する細胞増殖培地での化学添加物のオプションの使用とともに、CRISPRを使用した遺伝子工学によってコラーゲン合成経路のボトルネックを克服する。 I型コラーゲンを含むコラーゲンの転写、翻訳、および翻訳後プロセシングの責務を負う1以上の遺伝子の発現を増加させるために、CRISPR活性化(CRISPRa)を使用して、角膜線維芽細胞などのヒト細胞に遺伝子組み換えを行うことができる。 コラーゲンは、例えば、軟組織修復用のコラーゲンパッチに使用でき、ヒトコラーゲンの現在の市場コストの何分の一かで生産できる。 さらに、本方法によって提供されるコラーゲンは、ペプシン抽出の必要がないため、テロペプチド損傷を来さない。 コラーゲンは、ヒト源またはコラーゲンで治療される患者に由来する細胞に由来する可能性があるため、必要なスクリーニングおよび精製手順が少なくなる。
【0007】
この技術の1つの側面は、コラーゲンの生合成を強化できる操作された細胞である。 細胞は、細胞によるコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子のCRISPRベースの活性化(CRISPRa)を実行するように操作された。 CRISPRaシステムのコンポーネントによるトランスフェクションまたは形質導入の結果として、細胞は、転写活性化因子タンパク質(dCas9-活性化因子に融合したエンドヌクレアーゼ欠損Cas9(dCas9)タンパク質を発現し、標的遺伝子に特異的なガイドRNA(gRNA)も発現する。 操作された細胞は、同じタイプの操作されていない細胞と比較して、コラーゲンの生合成を増加させることができる。 細胞のコラーゲン生合成速度は、例えば、CRISPRa操作の結果として、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、または少なくとも300倍に増大した。 細胞は、好ましくは、天然に存在するように、操作された細胞においてCRISPRaによってその生合成が活性化される所望のコラーゲン型を産生する型のものである。 例えば、細胞は、任意の所望の組織または器官の線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、周皮細胞、造血細胞、および線維化関連細胞からなる群から選択されるタイプのものであり得る。
【0008】
本技術の別の態様においては、上記の操作された細胞は、CRISPRaを使用して操作され、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14,15、ADAMTS14,15、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、および BMP1からなる群から選択される1以上の遺伝子の発現を増加させる。 好ましくは、細胞は、同じ細胞内でそれらの遺伝子の2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上の発現を増加させるように操作されている。 例えば、細胞は、配列番号1~156のいずれか1つ以上のヌクレオチド配列を含むgRNA分子を発現することができる。
【0009】
技術のさらに別の態様においては、操作された細胞は、プロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1以上のさらなる標的遺伝子のCRISPRaを実行するように操作されている。 これらの遺伝子の発現の増加は、翻訳後のプロセシングまたは操作された細胞から培地へのコラーゲンの分泌に寄与する。
【0010】
この技術のさらに別の態様では、操作された細胞は、CRISPRaによって操作されて、1以上のコラーゲン遺伝子および1以上のTGFβ遺伝子の発現を増加させる。 好ましくは、細胞はまた、1以上のプロペプチダーゼ遺伝子の発現を増加させるように操作されている。 活性化された遺伝子のそれぞれは、その発現を少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍 、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、または少なくとも300倍増加させることができる。 それぞれの別個の活性化遺伝子は、細胞内の他の活性化遺伝子と比較して、異なる程度まで、または同様の程度まで活性化することができる。
【0011】
上記の技術の態様に関して、細胞は、好ましくは、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、および COL5A3からなる群選択された1以上のコラーゲン遺伝子の発現を増加させるように操作され得る。 それはまた、好ましくは、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択される1つ以上のTGF-β遺伝子の発現を増加させるように活性化され得る。細胞はまた、好ましくは、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される1つ以上のプロペプチダーゼ遺伝子の発現を増加させるように操作され得る。
【0012】
操作された細胞は、好ましくは、エンドヌクレアーゼ活性を欠き、1つ以上の転写活性化因子タンパク質に融合された失活または「死んだ」Cas9タンパク質を発現することができるmRNAを含有または産生する。例えば、転写活性化因子は、VP64、p65、Rta(例えば、エプスタイン・バーウイルスBRLF1によってコードされる)、VPR(VP64、p65、およびRtaの組み合わせ)、MS2、HSF1、およびSAM(MS2、p65、およびHSF-1の組み合わせ)からなる群から選択することができる。 活性化因子SunTagは、遺伝子を活性化し、転写活性化のための蛍光シグナルを提供するためにも使用し得る(Tannenbaum et al.(2014)).本技術のさらに別の態様は、上記の操作された細胞のいずれかを含有する細胞培養物である。
【0013】
細胞培養物は、すべて同一の単一の細胞型のみを含有することができるか、または同じ細胞または細胞型に由来するか、または異なる型の細胞に由来する、2つ以上の異なる操作された細胞型の混合物を含むことができる。 培養物は、コラーゲン補給を必要とする対象から得られる1以上の細胞に由来することができ、したがって、対象の組織のコラーゲンと遺伝的、生化学的、および免疫学的に同一である十分な量のコラーゲンを産生するための経路を提供する。 好ましくは、細胞培養物は、コラーゲン生合成速度を実質的に失うことなく、少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも20回、または少なくとも30回の継代が可能であるか、または不死化されている。
【0014】
この技術のさらに別の側面は、増強されたコラーゲン生合成を提供するように細胞を操作する方法である。 本件方法は、(a)コラーゲン産生細胞、dCas9活性化因子をコードする第1の核酸分子、およびコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子に特異的な第2の核酸分子を提供すること;(b)前記第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入すること、を含む。 細胞は、上記dCas9-活性化因子および上記gRNAを発現できるようになり、標的遺伝子が活性化され、それによって、細胞によるコラーゲン合成が増加する。
【0015】
本技術のさらに別の態様は、コラーゲンを産生する方法である。 この方法は、以下のステップを含む。上記の細胞培養物を提供すること、コラーゲンが細胞培養物の細胞によって生合成される条件下で、バイオリアクター内で細胞培養を増殖させ、バイオリアクターからのコラーゲンの収穫と精製をすること。 好ましくは、バイオリアクターにおける細胞の増殖は、アセトアルデヒド、アスコルベート、ヒアルロン酸、β-アミノプロピオニトリル、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、インスリン様成長因子1(IGF-1)、グルタミン、およびそれらの組み合わせから選択された、試薬などコラーゲン生合成の変調剤と刺激剤の存在下で、行われる。 好ましくは、バイオリアクターの細胞増殖培地は、高分子量化合物を保持しながら水および分子量が50ダルトン未満の溶質を除去することによってコラーゲン生合成後に濃縮され、それによってコラーゲンのプロペプチド切断が促進される。
【0016】
この技術のさらに別の側面は、細胞によるコラーゲンの生合成を強化するように細胞を操作するための部品のキットである。 このキットは以下を含む:(i)dCas9活性化因子タンパク質をコードする第1の核酸分子;(ii)コラーゲン生合成に関連する1以上の標的遺伝子に特異的な1以上の第2の核酸分子; (iii)任意選択的に、第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入するための1以上の試薬。
【0017】
この技術の別の態様は、上記のように操作された細胞または細胞培養物、またはそのような細胞または細胞培養物によって産生されたコラーゲンを含む医療機器である。 機器は、臨床対象者自身の細胞に由来する操作された細胞によってコラーゲンを産生することができる生体外機器であり得る。 あるいは、機器は、対象の体内に移植可能であり、対象の細胞に由来する操作された細胞を含むか、またはそのような細胞によって産生されるコラーゲンを含むことができる。コラーゲンは、医療機器の表面に取付けさせることができるか、対象の組織への送達のためにリザーバーに収納することができる。 医療機器は、コラーゲン送達機器としても機能し、それにより機器は、対象の体外に配置されるか、または対象によって着用され、コラーゲンを対象の身体の組織に送達する。
【0018】
この技術のさらに別の態様は、コラーゲンの不足を特徴とする医学的状態を有する、ヒトなどの哺乳動物対象を治療する方法である。 この方法は、上記の細胞培養物によって産生されたコラーゲンを取得することを含み、培養物の操作された細胞は、対象または同じ種の1つ以上の他の対象に由来し、対象にコラーゲンを投与することを含む。 コラーゲンは、組織への注射または手術中の体内への配置によって投与することができる。 コラーゲンは、膜、シート、パッド、溶液、またはゲルの形態であるか、または細胞骨格、包帯、または創傷包帯内に収容されるか、または移植された医療機器上のコーティングの形態であり得る。 医学的状態は、例えば、創傷、断裂した靭帯または腱、骨折、損傷した軟骨、眼の状態、美容処置または手術を必要とする状態、皮膚科学的状態、皮膚のしわまたは傷跡、または火傷であり得る。
【0019】
本件技術は、以下の特徴のリストによってさらに要約することができる。
1.細胞によるコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子のCRISPRベースの活性化(CRISPRa)を行うように操作された、コラーゲン生合成を増強することができる操作された細胞であって、細胞が、細胞に融合したエンドヌクレアーゼ欠損Cas9(dCas9)タンパク質を発現する、操作された細胞、および標的遺伝子に特異的な転写活性化タンパク質(dCas9活性化因子)およびガイドRNA(gRNA)であって、操作された細胞は、同じタイプの非操作細胞と比較して、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50 倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、または少なくとも300倍高いコラーゲン生合成を行うことができる。
【0020】
2.標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、特徴1に記載の操作された細胞。
【0021】
3.細胞によって発現され、前記標的遺伝子に特異的なgRNAが、配列番号1~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴2に記載の操作された細胞。
【0022】
4.先行する特徴のいずれかに記載の操作された細胞は、プロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1以上のさらなる標的遺伝子のCRISPRaを実行するように操作されている。
【0023】
5.前記標的遺伝子の2つ以上に特異的なgRNAを発現し、2つ以上の標的遺伝子のそれぞれが活性化される、先行する特徴のいずれかに記載の操作された細胞。
【0024】
6.1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子が標的とされる、特徴5に記載の操作された細胞;
ここで、1以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択され、および
ここで、細胞は、前記1以上のコラーゲン遺伝子および前記1以上のTGF-β遺伝子に特異的なgRNAを発現する。
【0025】
7.コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、およびCOL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴6に記載の操作された細胞。
【0026】
8.ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、1以上のプロペプチダーゼ遺伝子がさらに標的とされる、特徴6または特徴7に記載する操作された細胞。
【0027】
9.プロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1が標的にされ、ADAMTS2 gRNAが配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列を含み、BMP-1 gRNAが配列番号153~156の配列のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴8に記載の操作された細胞。
【0028】
10.前記転写活性化因子が、VP64、p65、Rta、VPR(VP64、p65、およびRtaの組み合わせ)、MS2、HSF1、SAM(MS2、p65、およびHSF-1の組み合わせ)、およびSunTagからなる群から選択される、先行する特徴のいずれかの操作された細胞。
11.dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、特徴10に記載の操作された細胞。
【0029】
12.前記dCas9活性化因子および前記1個のgRNAまたは複数のgRNAを発現するようにトランスフェクトされている、特徴1~11のいずれかに記載の操作された細胞。
13.細胞が前記dCas9活性化因子および前記1個のgRNAまたは複数のgRNAを発現するように形質導入されている、特徴1~11のいずれかに記載の操作された細胞。
【0030】
14.細胞が線維芽細胞、間葉細胞、筋線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および人工多能性幹細胞からなる群から選択される細胞型に由来する、先行する特徴のいずれかに記載の操作された細胞。
15.細胞がヒト角膜線維芽細胞に由来する、特徴14の操作された細胞。
16.細胞が、コラーゲン投与を必要とする哺乳動物対象から得られた細胞に由来する、先行する特徴のいずれかに記載の操作された細胞。
【0031】
17.先行する特徴のいずれかに記載の操作された細胞を含む細胞培養物。
18.不死化された特徴17に記載の細胞培養物。
19.強化されたコラーゲン生合成を提供するように細胞を操作する方法であって、以下のステップを含む方法:
(a)細胞、dCas9活性化因子をコードする第1の核酸分子、およびコラーゲン生合成に関連する標的遺伝子に特異的な第2の核酸分子を提供する工程;と
(b)前記第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入する工程;
これにより、細胞は前記dCas9活性化因子および前記gRNAを発現することが可能になり、標的遺伝子が活性化される。
【0032】
20.標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、特徴19に記載の方法。
【0033】
21.gRNAが、配列番号1~配列番号156のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む、特徴20に記載の方法。
22. 特徴19~21のいずれかに記載の方法であって、細胞がプロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1以上のさらなる標的遺伝子のCRISPRaを実行するように操作されている。
【0034】
23.それぞれが異なる標的遺伝子に特異的な2つ以上の第2の核酸分子を細胞にトランスフェクトし、それによってそれぞれの標的遺伝子が活性化される、特徴20~22のいずれかに記載の方法。
24.1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子が標的とされる、特徴23に記載の遺方法;
ここで、1以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1つ以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択され、および
ここで、細胞は、前記1以上のコラーゲン遺伝子および前記1以上のTGF-β遺伝子に特異的なgRNAを発現する。
【0035】
25.コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、およびCOL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴24に記載の方法。
26.ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、1以上のプロペプチダーゼ遺伝子がさらに標的とされる、特徴24または特徴25に記載する方法。
【0036】
27.プロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1が標的にされ、ADAMTS2 gRNAが配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列を含み、BMP-1 gRNAが配列番号153~156の配列のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴26に記載の方法。
28.dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、特徴19~27のいずれかに記載の方法。
29.細胞が、線維芽細胞、筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、および人工多能性幹細胞からなる群から選択される細胞型に由来する、特徴19~28のいずれかに記載の方法。
【0037】
30.細胞がヒト角膜線維芽細胞に由来する、特徴29の方法。
31.ステップ(b)においてレンチウイルスベクターを用いて細胞を形質導入する、特徴19~30のいずれかに記載の方法。
32.特徴19~31のいずれかに記載の方法であって、ステップ(a)が、コラーゲン投与を必要とする哺乳動物対象から、または同じ種の異なる哺乳動物対象からサンプルを取得すること、およびサンプルから提供された細胞を導出することを含む、方法。
【0038】
33.細胞によるコラーゲンの生合成を増強するように細胞を操作するためのキットであって、以下を含むキット:
(i)dCas9活性化因子タンパク質をコードする第1の核酸分子;
(ii)コラーゲン生合成に関連する標的遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする第2の核酸分子;と
(iii)任意に、第1および第2の核酸分子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入するための1つ以上の試薬。
【0039】
34.標的遺伝子が、COL1A1、COL1A2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、 COL5A1、COL5A2、COL5A3、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択される、特徴33に記載のキット。
35.crRNAが配列番号1~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴34に記載のキット。
【0040】
36.それぞれが異なる標的遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする2つ以上の第2の核酸分子が提供される、特徴33のキット。
37.2つ以上の第2の核酸分子が、1つ以上のコラーゲン遺伝子および1つ以上のTGFβ遺伝子に特異的なcrRNAを含むかまたはコードする、特徴36に記載のキット;
ここで、1つ以上のコラーゲン遺伝子は、COL1A1、COL1A2、COL2A1、COL3A1、COL4A1、COL4A2、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL5A1、COL5A2、およびCOL5A3からなる群から選択され;
ここで、1つ以上のTGF-β遺伝子は、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3からなる群から選択される。
【0041】
38.コラーゲン遺伝子がCOL1A1およびCOL1A2から選択され、TGF-β遺伝子がTGF-β1およびTGF-β3から選択され、COL1A1 gRNAが配列番号1~4のいずれかのヌクレオチド配列を含み、およびCOL1A2 gRNAが配列番号5~8のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β1 gRNAが配列番号13~16のいずれかのヌクレオチド配列を含み、TGF-β3 gRNAは配列番号9~12のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴37に記載のキット。
【0042】
39.1つ以上のプロペプチダーゼ遺伝子が、ADAMTS2、ADAMTS3、ADAMTS4、ADAMTS5、ADAMTS6、ADAMTS7、ADAMTS8、ADAMTS9、ADAMTS10、ADAMTS12、ADAMTS13、ADAMTS14、ADAMTS15、ADAMTS16、ADAMTS17、ADAMTS18、ADAMTS19、ADAMTS20、TLL1、TLL2、およびBMP1からなる群から選択され、2つ以上の第2の核酸が1つ以上のプロペプチダーゼ遺伝子に特異的なcrRNAを含むかコードする、特徴37または特徴38に記載するキット。
【0043】
40.2つ以上の第2の核酸分子がプロペプチダーゼ遺伝子ADAMTS2およびBMP-1に特異的なcrRNAを含むかまたはコードし、ADAMTS2 gRNAが配列番号69~72のいずれかのヌクレオチド配列およびBMP-1 gRNAは、配列番号153~156のいずれかのヌクレオチド配列を含む、特徴39のキット。
【0044】
41.第2核酸分子がさらに、プロリル-3-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ族遺伝子、リシルヒドロキシラーゼ族遺伝子、GLT25D1、GLT25D2、Grp78、Grp94、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI) 族遺伝子、カルレティキュリン、カルネキシン、CypB、PPラーゼ族遺伝子、シクロフィリン、FK506結合タンパク質(FKBP) 遺伝子、シクロフィリンB(CypB)、HSP47、TANG01、SEC13、SEC31、ならびにセドリンからなる群から選択される1つ以上の遺伝子に特異的なcrRNAを含むか、コードする、特徴33~40のいずれかに記載のキット。
【0045】
42.dCas9活性化因子がdCas9-VPRである、特徴33~41のいずれかに記載のキット。
43.特徴1~16のいずれかの操作された細胞を含む医療機器。
44.対象の体内に埋め込み可能な特徴43の医療機器。
45.コラーゲンを生成する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)特徴17または18の細胞培養物を提供すること;
(b)細胞培養物の細胞によってコラーゲンが生合成される条件下で、バイオリアクター内で細胞培養を増殖させること、および
(c)バイオリアクターからのコラーゲンの採取と精製をすること。
【0046】
46.ステップ(b)が、コラーゲン生合成の変調剤の存在下で実施される、特徴45に記載の方法。
47.変調剤が、アセトアルデヒド、アスコルベート、ヒアルロン酸、β-アミノプロピオニトリル、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、グルタミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、特徴46に記載の方法。
48.変調剤が、アスコルベートとβ-アミノプロピオニトリルの組み合わせ、またはアスコルベート、アセトアルデヒド、およびβ-アミノプロピオニトリルの組み合わせである、特徴47に記載の方法。
【0047】
49.変調剤がβ-アミノプロピオニトリルであり、β-アミノプロピオニトリルが存在しない場合と比較して、コラーゲンの架橋が低減または防止される、特徴47に記載の方法。
50.ステップ(b)が、細胞への機械的歪みの適用の存在下で実施される、特徴45~49のいずれかに記載の方法。
51.基板、ビーズ、または骨格に接着した細胞を使用して機械的歪みを誘発する、特徴50に記載の方法。
【0048】
52.ステップ(b) と(c) の間に、さらに以下の工程を含む、特徴45~51のいずれかに記載の方法:
(b1)生合成されたコラーゲンを細胞増殖培地中に濃縮し、それによって生合成されたコラーゲンのプロペプチド切断が増強されること。
53.産生されるコラーゲンがI~V型コラーゲンからなる群から選択される型である、特徴45~52のいずれかに記載の方法。
54.コラーゲンがI型コラーゲンである、特徴53の方法。
【0049】
55.コラーゲンの不足を特徴とする医学的状態を有する、哺乳動物対象を治療する方法であり、以下を含む:
(a)特徴32の方法を実行し、それによって、哺乳動物対象、または同じ種の異なる哺乳動物対象に由来する細胞によって産生されたコラーゲンを得る工程;および
(b)対象にコラーゲンを投与する工程。
56.コラーゲンを投与するために医療機器が使用される、特徴55に記載の方法。
【0050】
57.特徴55または56に記載の方法であって、医療機器が、熱傷/創傷被覆または包帯、骨形成および/または骨充填材料、抗血栓性表面を有する機器、治療用酵素固定化表面を有する機器、コラーゲンパッチ、閉鎖グラフト、コラーゲンを提供するように機能するインプラント、角膜インプラント、包帯コンタクトレンズ、コラーゲンベースの膜、およびコラーゲンベースの薬物送達機器からなる群から選択される、前記方法。
58.医学的状態が、創傷、断裂した靭帯または腱、骨折、損傷した軟骨、眼の状態、美容処置または手術を必要とする状態、皮膚の状態、皮膚のしわや傷、火傷から選択される、特徴55~57のいずれかに記載の方法。
【0051】
59.ヒト対象に美容治療を行う方法であって、以下を含む:
(a)特徴32の方法を実行し、それによって、哺乳動物対象、または同じ種の異なる哺乳動物対象に由来する細胞によって産生されたコラーゲンを得る工程;および
(b)工程(a)で得られたコラーゲンを対象に投与する工程。
【0052】
本明細書で使用される場合、接頭辞「自動」は、製品を使用して治療を受ける対象と同じ対象の細胞に由来する製品(例えば、自動プロコラーゲン、自動テロコラーゲン、または自動アテロコラーゲン)を指す。
本明細書で使用される場合、接頭辞「アロ」は、製品を使用して治療を受ける対象と異なる対象の細胞に由来する製品(例えば、アロプロコラーゲン、アロテロコラーゲン、またはアロアテロコラーゲン)を指す。
本明細書で使用される場合、「プロコラーゲン」は、プロコラーゲンからのプロペプチドの切断による活性化を受ける、新たに合成された不活性コラーゲンを指す。
本明細書で使用される場合、「テロコラーゲン」とは、プロコラーゲンからのプロペプチドの切断によって生成される、集合してコラーゲン線維を形成することができるコラーゲンの活性型を指す。
本明細書で使用される場合、「アテロコラーゲン」は、ペプシン消化などによってそのテロペプチドが取り除かれたコラーゲンを指す。
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、記載された値の±10%、5%、1%、または0.5%以内の範囲を指す。
本明細書で使用される「から本質的になる」は、クレームの基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを含めることを可能にする。 特に組成物の構成要素の説明または機器の要素の説明における「含む(comprising)」という用語の本明細書でのいかなる言及も、「からなる(consisting of)」または「本質的にからなる(consisting essentially of)」という別の表現に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、コラーゲン合成のCRISPRa活性化のために細胞を形質導入するプロセスの図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した形質導入プロセスに使用されるレンチウイルスベクターを構築するために必要なプラスミドを示しています。
【
図3】
図3は、
図1に示される形質導入プロセスに使用されるレンチウイルスベクターを構築するプロセスを図示する。
【
図4】
図4は、SirCol
TM 可溶性コラーゲン アッセイ(biocolor.co.uk/product/sir) のために得られたコラーゲン標準曲線を示している。
【
図5】
図5は、トランスフェクション試薬濃度の関数としてのコラーゲン産生と細胞数のプロットを示している。
【
図6】
図6は、トランスフェクション試薬濃度および培養日数の関数としてのコラーゲン産生のプロットを示す。
【
図7】
図7は、6日間にわたる一時的なコラーゲン産生速度のグラフを示す。 エラーバーは、5~6日目のコラーゲン産生について示されている(短い培養時間では、統計的に有意な差は見られなかった)。
【
図8】
図8は、化学添加物の関数としてのコラーゲン産生のプロットを示す。 アスタリスクで注釈が付けられたバーは、アッセイ検出限界を下回っていた。
【
図9】
図9は、化学添加物グループの関数としてのコラーゲン産生のプロットを示す。 アスタリスクで注釈が付けられたバーは、アッセイ検出限界を下回っていた。
【
図10】
図10は、化学添加剤の関数としての細胞生存率のプロットを示す。
【
図11】
図11は、流体剪断条件下でのコラーゲン産生のための装置の概略図を示す。 細胞は、プレート全体の流体の流れと表面積の最適化のために構成された積み重ねられたガラスプレートに播種される。
【
図12】
図12は、培地中で細胞担体として働く浮遊ガラスビーズを有するバイオリアクターの模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
詳細な説明
本技術は、コラーゲン産生を増加させるように操作された新規ヒト細胞を提供する。 細胞は、CRISPR活性化 (CRISPRa) 細胞工学プロセスを利用して産生され、ヒト細胞を含むさまざまな細胞型から急速なコラーゲン産生を誘導する。 遺伝子組み換えは、コラーゲンの転写、翻訳、および/または翻訳後処理に責務を負う1以上の遺伝子の発現を増加させるために、CRISPRaを使用して目的のタイプのコラーゲンを自然に産生する細胞に導入される。 操作された細胞からのコラーゲン産生は、細胞培養培地中の1以上の化学添加物の存在下で操作された細胞を増殖させることによってさらに刺激され、さらに高いコラーゲン産生率を達成することができる。 合成されたコラーゲンは、分離、精製した後、コラーゲンパッチ、ゲル、または軟部組織修復用の他の形態で使用され得る。
【0055】
本発明者らは、コラーゲン生合成における特定のボトルネックに細胞工学を適用することにより、コラーゲン産生の劇的な増加を達成した。 コラーゲンは独特のタンパク質構造を持っている。 コラーゲンは、三重らせんを形成する3つのアミノ酸鎖で構成されている。 コラーゲンに見られる一次アミノ酸配列は、グリシン-X-ヒドロキシプロリンまたはグリシン-プロリン-X であり、X は他のアミノ酸である。 かなりの量のグリシン(3番目のアミノ酸ごと)により、分子がストレスに対して構造的に耐性となる密な構成でヘリックスが形成される(Lodish,et al., 2000)。 タイプI コラーゲン分子は、長さ300nm、直径 1.5nmである。 各コラーゲン分子は、2つのアルファ1鎖と1つのアルファ2鎖で構成される、特徴的な右巻きの三重らせんで構成されている。 各鎖には1050個の連続したアミノ酸が含まれている。 個々のコラーゲン分子が形成されると、それらは並んで詰め込まれ、直径が約10~300nmで、隣接する分子の「頭」と「尾」の間に約67nm の隙間がある繊維を形成する(Schleip, 2012)。 N末端からC末端への共有結合は、互いに隣接して位置するコラーゲン分子の相互作用を安定化する。 分子のパッキングの周期的なパターンは、電子顕微鏡で見ることができる線条を作成する。 分子間の結合により、コラーゲンのパッキングの安定性が促進され、強力なフィブリルが形成される。 I型コラーゲンに加えて、表1に他のコラーゲンの種類とその特徴の例を示す。
【0056】
【0057】
コラーゲン合成は、細胞内と細胞外の両方の空間にまたがるプロセスを通じて、主に線維芽細胞で発生する。 I型コラーゲンの産生は、主に2つの遺伝子によって制御される。コラーゲン タイプIアルファ1 (COL1A1)、50,184,096番目の塩基対の後に発生する17番染色体上の17,533個の塩基対のストリップ、およびコラーゲン・タイプIアルファ2(COL1A2)、94,394,561番目の塩基対後に発生する染色体7の36,671個の塩基対のストリップ(NIH、2019 年)。
【0058】
コラーゲン産生を担当するほとんどの遺伝子には、エクソンの平均数が3~117のエクソン イントロン パターンが含まれている。 細胞とコラーゲンのタイプに応じて、複数の転写開始部位とエクソン・スプライシング・メカニズムが存在し、異なる mRNA種が生成する(Gelse,et al., 2003)。具体的には、I型コラーゲンの産生について、プロアルファ1およびプロアルファ2鎖遺伝子がそれぞれCOL1A1およびCOL1A2遺伝子から転写される。 コラーゲン産生のこの段階で、mRNA前駆体はスプライシングとキャッピングの両方を受ける。 細胞の転写活性は細胞の種類に依存し、多数の成長因子とサイトカインによって調節されている。 これらの成長因子のいくつかには、トランスフォーミング成長因子ベータ (TGF-β)族のメンバー、線維芽細胞成長因子、およびインスリン様成長因子が含まれる(Gelse,et al., 2003)。これらの成長因子の有効性は、細胞の種類によって異なる。
【0059】
翻訳が起こると、コラーゲンはプレプロポリペプチド鎖相になり、翻訳後変性のためにRERの内腔に移動する(Wu & Crane, 2019; Lodish,et al., 2000)。 これらの分子は、コラーゲン分子のシグナル認識ドメインを認識する受容体の助けによって内腔に侵入する(Gelse,et al., 2003)。 この鎖をプロコラーゲンに変換するために、3つの主要な変性が行われる。 最初の変性は、酵素シグナルペプチダーゼによるペプチド鎖のN末端のシグナルペプチドの除去である。 シグナルペプチダーゼによる効率的な切断には、シグナルペプチダーゼ1(SPase 1) が適切に末端を切断できるように、切断部位の直前に小さなアミノ酸(すなわち、アラニン、グリシン、セリン)が必要である(Tuteja, 2005)。
【0060】
2番目の変性は、ヒドロキシラーゼ酵素によるリジンおよびプロリン残基のヒドロキシル化、すなわち水酸基(-OH)の付加である(
図5)。 具体的には、この反応は、プロリル 3-ヒドロキシラーゼ、プロリル 4-ヒドロキシラーゼ、およびリシル ヒドロキシラーゼによって触媒作用を受ける (Gelse,et al., 2003)。 この変性には、アスコルビン酸塩、鉄イオン、2-オキソグルタル酸塩、および酸素を含むいくつかの補因子が必要である。 ヒドロキシル化の程度は、種と温度の両方に依存する。 プレプロコラーゲンのヒドロキシル化変性は、分子内水素結合の形成に不可欠であり、したがって、コラーゲンの熱安定性とモノマーおよびコラーゲン線維の完全性に不可欠である。
【0061】
3番目の変性は、グルコースとガラクトースによるヒドロキシリジンのグリコシル化である。 この変性中に、グルコシルおよびガラクトシル残基がヒドロキシリジンのヒドロキシル基に配置される。 鎖の中央にある特定のプロリンおよびリジン残基(非ヒドロキシル化)のヒドロキシル化は、小胞体膜に結合したヒドロキシリシル ガラクトシルトランスフェラーゼおよびガラクトシルヒドロキシリシルグルコシルトランスフェラーゼ酵素によって触媒作用を受ける。 オリゴ糖は、プロコラーゲンのC末端プロペプチドのアスパラギン残基にも結合する(Lodish, et al., 2000)。
【0062】
これらの3つの翻訳後変性が行われた後、グリコシル化およびヒドロキシル化された鎖は、鎖内ジスルフィド結合が一緒に”ジップ”されるため、ジッパーのように折りたたまれて三重らせんに組み立てられる。 ヘリックスは、2つのアルファ1(l) チェーンと1つのアルファ2(l)チェーン サブユニットで構成される。 このアセンブリは、1050個のアミノ酸長の右巻きコイルで構成された3つの左巻きヘリックスで構成され、さらなる翻訳後変化が起こる前に、小胞体のC末端からN末端まで形成される。 C-プロペプチドはまた、ペプチド鎖のコラーゲン単量体へのアセンブリにおいて役割を果たす(Gelse,et al., 2003)。
【0063】
処理とプロコラーゲン・アセンブリの後、三重らせん分子はゴルジ(Golgi)装置に移動し、小胞の管状クラスターとして知られる複合体の管状部分内に最終的な変性とパッケージングが行われる(Wu & Crane, 2019; Bonfanti,et al., 1998)。 これらのクラスター内で、プロコラーゲンは凝集し、ゴルジコンパートメント内で分泌小胞にパッケージ化され、細胞外空間への輸送のために放出される。
【0064】
細胞の外側では、コラーゲン ペプチダーゼ酵素がN末端とC末端の未解明のプロペプチドを切断して分子の末端を除去し、分子をトロポコラーゲンに変換する。 プロペプチドの切断を行うプロテアーゼは、プロコラーゲンC-プロテイナーゼである。 トロポコラーゲンは両端がテロペプチドで終わっており、これは、抗原性および免疫原性に関して問題となり得る (Stuart, et al.,1982; Lynn, et al. , 2004)。 コラーゲン分子は、鎖の両側にテロペプチドを持っている。 テロペプチドは、典型的な三重らせん構造を形成せず、アミノ酸ヒドロキシリジンを含有する。 ヒドロキシリジン残基は、1つの分子のC末端と2つの隣接する分子のN末端で架橋を形成する (collplant.com/technology; Lodish,et al., 2000)。 これらのテロペプチドはまた、コラーゲンが別の種に、または種内にさえ移植される場合、免疫原性の源となり得る(Stuart, et al., 1982; Lynn, et al., 2004; Uchio, et al., 2000)。 コラーゲンの三重らせん領域は、種を超えて保存される。 ヘリックス内のアミノ酸配列の違いは種間で数パーセント未満しか異ならないが、テロペプチドのアミノ酸配列の最大50パーセントは種間で異なる(Lynn,et al., 2004)。 テロペプチドは、分子のこの領域における種間変動が大きいため、コラーゲン移植後の免疫応答の主な要因であると考えられている。
【0065】
細胞外の最後のステップは線維形成である。 フィブリル形成コラーゲン分子は自発的に自己組織化し、秩序だったフィブリル構造を形成する。 リジルオキシダーゼがリジンとヒドロキシリジン分子を共有結合させると、長くて薄いコラーゲン線維が形成される。 この動作は、コラーゲン構造にコード化されている。 フィブリルの方向は、組織の種類によって異なる (Gelse,et al., 2003)。 フィブリルの直径は25~500nm の範囲であるが、分子が並んで一緒に詰め込まれた後の各フィブリルの直径は約100nm である。
【0066】
クラスター化された定期的に間隔をあけた短い回帰性反復(CRISPR)およびCRISPR関連タンパク質コード遺伝子 (Cas)は、原核生物の免疫系によって使用されるタンパク質のグループである。 CRISPR関連タンパク質9(Cas9)は、DNAを切断することができ、遺伝子編集研究アプリケーション用に改変された非常に効率的なDNAターゲティング酵素である。 CRISPR-Cas9システムは、次の4つの主要部分で構成されていて、それらは、Cas9酵素、ガイドRNA(gRNA)、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM) 配列、および一致するホストDNA(一致するゲノム配列)である。Cas9は、ガイドRNAの約20塩基対のセクションを利用して、DNAの二本鎖切断を認識、解凍、および誘導するエンドヌクレアーゼ酵素である(Biolabs, 2019)。 ガイドRNA (gRNA) は、CRISPR-Cas9システムにゲノムのどこに行くかを指示し、CRISPR-Cas9が宿主DNA を切断するプロセスをもたらし、その後、自然なDNA 修復プロセスにより、挿入された目的の遺伝子が宿主ゲノムの非常に特定のポイントにおいて、宿主のゲノムに取り込まれる(gRNAで定義)。 gRNAは、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)の2つの主要成分を有する(
図10A、先行技術、Packer, 2016)。 crRNAセクションには、18~23個の塩基対の配列が含有されており、編集のためにCas9タンパク質を目的の相補的なゲノム位置に誘導する。 このcrRNAは、ハイブリッド化を介して、成熟してcrRNAの誘導を助けるtracrRNAのセクションに結合する。 リンカー ループをこれら2つのセクションに取り付けて、単一のガイドRNA(sgRNA)を形成できる(Packer, 2016)。
【0067】
一致する宿主DNAは、目的の遺伝子のプロモーター領域内またはその近くにある18~23個の塩基対の配列である。 このシーケンスの直後には、NGG(任意の塩基対とそれに続く2つのグアニンを表す)または、”PAM配列”が続かねばならない。 特定の遺伝子のgRNAがどの塩基対を標的とするかを決定するために、計算生物学ツールが開発され、関心のあるPAM配列と塩基対配列が検出された(CRISPR Guide Design Software, Pelligrini, 2016)。 これらの塩基対は、Cas9システムがゲノム内の他の同様の配列に誤って結合することなく、その配列にどれだけうまく結合できるかによってランク付けされる。 さらに、DharmaconTMなどのメーカーは、gRNAの高度に特異的な結合部位を計算するために使用される独自のソフトウェアを持っている。
【0068】
本発明者らは、CRISPR遺伝子活性化(CRISPRa)を使用して、天然に存在する細胞よりもはるかに多量のコラーゲンを産生する細胞を操作することを選択した。 CRISPRaでは、エンドヌクレアーゼ活性を持たない非活性化または死んだCas9酵素 (dCas9) をガイドRNA (gRNA またはsgRNA) と一緒に使用して、特定の遺伝子ターゲットの位置を突き止める。 dCas9は、1以上の転写活性化タンパク質に融合できる。 得られた融合タンパク質は、本明細書では”dCas9活性化因子”と呼ばれる。 dCas9に融合された1つ以上の活性化因子は、例えば、VP64(単純ヘルペスウイルスタンパク質16の四量体)またはVPR(p53およびR転写因子に結合したVP64)であり得る。 例えば、VPR活性化因子は、VP64-p65-Rtaに融合したS.パイロゲン由来のdCas9であり得る。 他の活性化因子または活性化因子の組み合わせは、細胞型または活性化される遺伝子に従って選択することができる。 dCas9は結合したDNAを切断しないが、標的遺伝子の発現を上方制御するように作用する。 dCas9に融合した活性化因子 ドメインは、これらの遺伝子のプロモーター領域に転写複合体を動員することにより、転写活性化を引き起こす。
【0069】
CRISPRaを実行する際の重要な設計上の考慮事項は、dCas9が遺伝子に結合する場所を選択することであり、一般に、遺伝子のプロモーター上の位置が選択される。 gRNA配列の特異性とそのPAM 配列の位置は、コンピューター アルゴリズムを使用して予測できるが、プロモーター上の位置とその結果の有効性はさまざまである。 CRISPRaが有効なプロモーター領域は一般に、転写開始部位の50~400個の塩基対上流であるが、活性化に最も効果的な場所は遺伝子によって異なり、完全に無効な場所もある(Mohr,et al., 2016)。
CRISPRaを実行するためのCRISPR-Cas9システム(すなわち、活性化する遺伝子のdCas9活性化因子とgRNA)を細胞に送達するには、トランスフェクションと形質導入の2つの実際的な方法がある。
【0070】
トランスフェクションとは、細胞への核酸(通常、転写された遺伝子に対応するmRNA)の送達と、その後の宿主細胞によるmRNAの翻訳である。 トランスフェクションを使用してCRISPRaを実行する場合、CRISPR-Cas9システムは通常、約24~48 時間発現する。 CRISPRaコンポーネントによる細胞のトランスフェクションは、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリボ核タンパク質(RNP)複合体を使用して mRNA を送達することによって行うことができる。 トランスフェクションを使用した一時的発現は、形質導入よりもシンプルで安価であり、発現ウィンドウが短いため、オフターゲット活性化の可能性が減少する。さらに、哺乳動物発現ベクターの使用により、従来の非哺乳動物トランスフェクションベクターよりも一時的ではないトランスフェクションが可能になる。
【0071】
細胞のトランスフェクションによってCRISPRaを実行するための市販のキットが利用可能である。たとえば、Dharmacon (horizondiscovery.com) は、DharmaFECT Duoトランスフェクション試薬を使用して96ウェル プレートで培養するためのgRNAおよびdCas9 mRNA のプールされたトランスフェクションのためのプロトコルと試薬を提供する。 プロトコルは、48ウェル プレートまで、またはさらにコラーゲン産生を増加させるために細胞を操作しながら、より正確なコラーゲンの定量化など、より多くのコラーゲンを採取するためにスケールアップし得る。 さらに、gRNAの2つ以上の異なるセットを使用して2つ以上の遺伝子を同時に活性化する場合、dCas9 mRNAの量とトランスフェクション試薬の量を適切に調整できる。 例えば、ヒト細胞におけるCOLA1、COL1A2、および TGF-β3遺伝子の発現を同時に活性化するために、材料には、CRISPRaヒトCOL1A1 crRNA プール、CRISPRaヒトCOL1A2 crRNAプール、CRISPRa ヒト TGF-β3 crRNAプール、CRISPR-Cas9合成 tracrRNA、Edit-R GFP dCas9-VPR mRNA、DharmaFECT Duo トランスフェクション試薬、10 mM Tris-HCl Buffer pH 7.4、および無血清培地を含めることができる。 コラーゲン産生を増加させるためのヒト角膜線維芽細胞のプールされたトランスフェクションに必要な試薬の例を以下の表2に示す。 1回のプールしたcrRNA購入でターゲットcrRNAを混合して一致させることができるため(1つのプールには、CRISPRaに必要な最小の単一のcrRNAの4倍の数が含まれている)、プールされたcrRNAの購入は1回だけ必要であるが、必要な最小の crRNAを超える数があれば、より良い遺伝子活性化につながる可能性がある(CRISPRガイド デザイン ソフトウェア)。
【0072】
【表2】
CRISPRaヒトCOL1A1 crRNAプールは、COL1A1プロモーターの異なる領域に相補的な個々のRNA配列のプールを含む(表3の標的配列 配列番号1~4を参照)。
【0073】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【0074】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【0075】
DharmaFECT Duo1のトランスフェクション試薬は、小さいRNA とプラスミドを同時にトランスフェクションするための効率的なトランスフェクション試薬であることが示されている(Borawski,et al., 2007)。
【0076】
本技術で使用するためのdCas9タンパク質の例は、以下に示されるアミノ酸配列(配列番号157 (uniprot.org/uniprot/A0A386IRG9)):
MDKKYSIGLAIGTNSVGWAVITDEYKVPSKKFKVLGNTDRHSIKKNLIGA
LLFDSGETAEATRLKRTARRRYTRRKNRICYLQEIFSNEMAKVDDSFFHR
LEESFLVEEDKKHERHPIFGNIVDEVAYHEKYPTIYHLRKKLVDSTDKAD
LRLIYLALAHMIKFRGHFLIEGDLNPDNSDVDKLFIQLVQTYNQLFEENP
INASGVDAKAILSARLSKSRRLENLIAQLPGEKKNGLFGNLIALSLGLTP
NFKSNFDLAEDAKLQLSKDTYDDDLDNLLAQIGDQYADLFLAAKNLSDAI
LLSDILRVNTEITKAPLSASMIKRYDEHHQDLTLLKALVRQQLPEKYKEI
FFDQSKNGYAGYIDGGASQEEFYKFIKPILEKMDGTEELLVKLNREDLLR
KQRTFDNGSIPHQIHLGELHAILRRQEDFYPFLKDNREKIEKILTFRIPY
YVGPLARGNSRFAWMTRKSEETITPWNFEEVVDKGASAQSFIERMTNFDK
NLPNEKVLPKHSLLYEYFTVYNELTKVKYVTEGMRKPAFLSGEQKKAIVD
LLFKTNRKVTVKQLKEDYFKKIECFDSVEISGVEDRFNASLGTYHDLLKI
IKDKDFLDNEENEDILEDIVLTLTLFEDREMIEERLKTYAHLFDDKVMKQ
LKRRRYTGWGRLSRKLINGIRDKQSGKTILDFLKSDGFANRNFMQLIHDD
SLTFKEDIQKAQVSGQGDSLHEHIANLAGSPAIKKGILQTVKVVDELVKV
MGRHKPENIVIEMARENQTTQKGQKNSRERMKRIEEGIKELGSQILKEHP
VENTQLQNEKLYLYYLQNGRDMYVDQELDINRLSDYDVDAIVPQSFLKDD
SIDNKVLTRSDKNRGKSDNVPSEEVVKKMKNYWRQLLNAKLITQRKFDNL
TKAERGGLSELDKAGFIKRQLVETRQITKHVAQILDSRMNTKYDENDKLI
REVKVITLKSKLVSDFRKDFQFYKVREINNYHHAHDAYLNAVVGTALIKK
YPKLESEFVYGDYKVYDVRKMIAKSEQEIGKATAKYFFYSNIMNFFKTEI
TLANGEIRKRPLIETNGETGEIVWDKGRDFATVRKVLSMPQVNIVKKTEV
QTGGFSKESILPKRNSDKLIARKKDWDPKKYGGFDSPTVAYSVLVVAKVE
KGKSKKLKSVKELLGITIMERSSFEKNPIDFLEAKGYKEVKKDLIIKLPK
YSLFELENGRKRMLASAGELQKGNELALPSKYVNFLYLASHYEKLKGSPE
DNEQKQLFVEQHKHYLDEIIEQISEFSKRVILADANLDKVLSAYNKHRDK
PIREQAENIIHLFTLTNLGAPAAFKYFDTTIDRKRYTSTKEVLDATLIHQ
SITGLYETRIDLSQLGGD
【0077】
本技術で使用するための合成tracrRNAの例は、Jinekらによって発表されたもので(2012)、配列GGAACCAUUCAAACAGCAUAGCAAGUUAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUUUUU(配列番号158)を有する。 crRNAは、tracrRNAの一部に相補的な領域を含み得る。 あるいは、crRNAとtracrRNAの間にリンカー配列を追加して、単一のgRNA 分子を生成することもできる。
【0078】
VP64は、VP16(ヘルペス単純ウイルスタンパク質16、アミノ酸 437-447、グリシン-セリンリンカーで結合)の4つのタンデムコピーを含む転写活性化因子である。 VP64のアミノ酸配列を以下に示す(配列番号:159、(parts.igem.org/Part:BBa_J176013))
GACGCTTTGGACGACTTCGACTTGGACATGTTGGGTTCTGACGCTTTGGA
CGACTTCGACTTGGACATGTTGGGTTCTGACGCTTTGGACGACTTCGACT
TGGACATGTTGGGTTCTGACGCTTTGGACGACTTCGACTTGGACATGTTG
【0079】
転写活性化因子p65には、選択的スプライシングによって生成される4つのアイソフォームを含む(uniprot.org/uniprot/Q04206)。 アイソフォーム1は、以下に示されるアミノ酸配列を有する(配列番号:160)
MDELFPLIFPAEPAQASGPYVEIIEQPKQRGMRFRYKCEGRSAGSIPGER
STDTTKTHPTIKINGYTGPGTVRISLVTKDPPHRPHPHELVGKDCRDGFY
EAELCPDRCIHSFQNLGIQCVKKRDLEQAISQRIQTNNNPFQVPIEEQRG
DYDLNAVRLCFQVTVRDPSGRPLRLPPVLSHPIFDNRAPNTAELKICRVN
RNSGSCLGGDEIFLLCDKVQKEDIEVYFTGPGWEARGSFSQADVHRQVAI
VFRTPPYADPSLQAPVRVSMQLRRPSDRELSEPMEFQYLPDTDDRHRIEE
KRKRTYETFKSIMKKSPFSGPTDPRPPPRRIAVPSRSSASVPKPAPQPYP
FTSSLSTINYDEFPTMVFPSGQISQASALAPAPPQVLPQAPAPAPAPAMV
SALAQAPAPVPVLAPGPPQAVAPPAPKPTQAGEGTLSEALLQLQFDDEDL
GALLGNSTDPAVFTDLASVDNSEFQQLLNQGIPVAPHTTEPMLMEYPEAI
TRLVTGAQRPPDPAPAPLGAPGLPNGLLSGDEDFSSIADMDFSALLSQIS
S
【0080】
転写活性化因子SF1のアミノ酸配列、配列番号:161を以下に示す(配列番号:161 ((uniprot.org/uniprot/Q00613))。
MDLPVGPGAAGPSNVPAFLTKLWTLVSDPDTDALICWSPSGNSFHVFDQG
QFAKEVLPKYFKHNNMASFVRQLNMYGFRKVVHIEQGGLVKPERDDTEFQ
HPCFLRGQEQLLENIKRKVTSVSTLKSEDIKIRQDSVTKLLTDVQLMKGK
QECMDSKLLAMKHENEALWREVASLRQKHAQQQKVVNKLIQFLISLVQSN
RILGVKRKIPLMLNDSGSAHSMPKYSRQFSLEHVHGSGPYSAPSPAYSSS
SLYAPDAVASSGPIISDITELAPASPMASPGGSIDERPLSSSPLVRVKEE
PPSPPQSPRVEEASPGRPSSVDTLLSPTALIDSILRESEPAPASVTALTD
ARGHTDTEGRPPSPPPTSTPEKCLSVACLDKNELSDHLDAMDSNLDNLQT
MLSSHGFSVDTSALLDLFSPSVTVPDMSLPDLDSSLASIQELLSPQEPPR
PPEAENSSPDSGKQLVHYTAQPLFLLDPGSVDTGSNDLPVLFELGEGSYF
SEGDGFAEDPTISLLTGSEPPKAKDPTVS
【0081】
転写活性化因子MS2のアミノ酸配列を以下に示す(配列番号:162 (uniprot.org/uniprot/P03612))。
MASNFTQFVLVDNGGTGDVTVAPSNFANGVAEWISSNSRSQAYKVTCSVR
QSSAQNRKYTIKVEVPKVATQTVGGVELPVAAWRSYLNMELTIPIFATNS
DCELIVKAMQGLLKDGNPIPSAIAANSGIY
【0082】
上記のdCas9 mRNA は、以下に説明するプロトコルの制限試薬であり、5nmolの出発物質で11 ウェルを作成できる。 テストプレート条件をめっきするためのプロトコルの例は次のとおりである。
1.翌日、ウェルが70~90%のコンフルエントになる密度で、48ウェル プレートに線維芽細胞をプレートする。
2.COL1A1、COL1A2、およびTGF-β3 crRNA と tracrRNA (全 crRNA と tracrRNAの比は1:1)を、Dharmacon の再懸濁手順に従って 2.5 μM の作業濃度に希釈して混合する[165]。これが、gRNA溶液になる。
a.購入時のcrRNAとtracrRNAは5nmolで付いて来る。crRNAプールとtracrRNAの各ストックに10 mM Tris pH 7.4 の1000 μLを追加して、これらのそれぞれを5 μMに希釈する。
b.1:1で混合すると、得られるtracrRNA:crRNAの作業濃度は2.5μMになる。
3.200 μ Lの無血清培地で100 ng/μLの濃度に20 μgのdCas9 mRNAを希釈する。 4.3つのgRNA溶液のそれぞれの 3 μ L、dCas9溶液の18 μ L、およびマイクロ遠心チューブ内の培地9 μ Lをに追加する(30 μ L の容量にする)。
5.元のプロトコルでは、細胞タイプに最適な量を決定するために、さまざまなトランスフェクション試薬量(.1 ~ .8 μL) のテストが必要である。96から48ウェル プレート構成および3倍のmRNA量(3つの異なるgRNA-Cas9 mRNA複合体、目的の遺伝子ごとに1つ) からスケーリングすると、この範囲はトランスフェクション試薬の0.9 ~ 7.2 μLになる。7.2、4.05、および0.9 μLのトランスフェクション試薬からなる一連のデュオ トランスフェクション試薬ワーキング溶液量を生成し、これらのそれぞれを無血清培地で30 μLの容量にする。
6.室温で5分間インキュベートする
7.トランスフェクション試薬の各濃度の 30 μLを30 μLのdCas9/gRNA 溶液と組み合わせ、ピペットで軽く混ぜる。
8.室温で20分間インキュベートする
9.各組み合わせに240 μ Lの無血清媒体を追加し、細胞上の媒体を新しく開発されたトランスフェクション混合物に置き換える。
10.コラーゲンアッセイ用の培地を48時間ごとに108時間採取する。
11.COL1A1、COL1A2、およびTGFβ3の遺伝子活性化は、約24時間後に起こり始め、トランスフェクション後約72時間まで最大の発現を示す。
【0083】
コラーゲン産生を測定するために、任意にコラーゲン溶液または培養培地を濃縮した後に、ヒドロキシプロリンアッセイを使用することができる(例えば、D.D. Cissell et al., (2017)を参照)組織工学パートCメソッド.2017 年 4 月;23(4):243-250)。あるいは、SirCol
TM 色素結合コラーゲンアッセイを使用することもできる(www.biocolor.co.uk/product/sircol-soluble-collagen-assay)。
図4に示す標準曲線は、SirCol
TMコラーゲン標準と DMEM 培地媒体を混合した5つの標準溶液を用いた SirCol
TM アッセイ手順を使用して決定し得る。
【0084】
3つのレベルのトランスフェクション試薬を比較した。トランスフェクション試薬は、高濃度で細胞に毒性を示す可能性がある。 高(H)、中(M)、および低(L) のトランスフェクション試薬濃度は、それぞれウェルあたり7.2、4.05、および0.9 μLのトランスフェクション試薬であった。 培地は12時間ごとに採取され2日間のセグメントでプールされた。 ウェルあたりのコラーゲン量は2日ごとに定量化され、細胞数は培地採取の終了後に行われた。 細胞ごとに生成されたコラーゲンは、培地採取の最後にウェルあたりの細胞数に基づいて推定された。 各濃度レベルと細胞数の合計(1~6日目)のプールされたコラーゲン産生(細胞ごとではなく、ウェルごと)の比較を
図2に示す。 図は、コントロールと比較した高、中、低のトランスフェクション濃度によるコラーゲン産生と細胞数を示している。 細胞生存率はトランスフェクション試薬の増加に伴い絶えず低下するが、トランスフェクション試薬の少ないウェルよりもコラーゲン産生線維芽細胞が少ないにもかかわらず、トランスフェクション試薬の増加に伴いウェルあたりの総コラーゲンが増加する傾向が観察された(統計的に有意ではないけれども)。 これは、コントロール細胞と比較して、CRISPR細胞の細胞あたりのコラーゲン産生が増加していることを示している。
【0085】
表5は、テスト グループ (高、中、低) の平均コラーゲン産生(分子/細胞/時間)を示しており、グループ名は、トランスフェクションレベルおよびアッセイが取られた日数を表す(すなわち1-2=1および2日目)。
【0086】
【0087】
検出可能な最小コラーゲン量を下回る定量化は、検出可能な最小コラーゲン量(106万分子/細胞/時間)に設定される(表5)。 CRISPR条件でのコラーゲン産生の上限を把握するには、いくつかの定量化が検出可能な最小量を下回ることが必要である。 1~2日目とほとんどの対照サンプルのデータは検出可能な最小コラーゲン量以下であったが、3~4日目と5~6日目のCRISPR結果のすべてのデータポイントは最小閾値を超えている。 1~2日目の結果が対照ウェルと一致したという事実は、CRISPRが約2日後にコラーゲン産生を上方制御するはずであるという予想と一致している。 このコラーゲンの増加は、
図6のグラフ形式で示されている。
【0088】
図6のグラフに基づくと、一時的におよびトランスフェクション試薬濃度によりコラーゲン産生の違いがあるように見える。 CRISPRサンプルの細胞あたりの増加したコラーゲンが統計的に有意であるかどうかを判断するために、テューキー ペアワイズ(Tukey Pairwise)比較が行われ、表6に示されている。 類似したサブセットに属さないグループは、α = 0.05で統計的に異なります(IBM SPSS 25 で生成された表。コラーゲン産生は、分子/細胞/時間、百万単位である。
【0089】
【0090】
表6は、
図6および表5に示した実験のサブセット グループ分けを示している。 5~6日目の高いトランスフェクション濃度は、0.05の有意性で統計的に有意なコラーゲン産生の増加を示している。 サンプル サイズと分散を考えると、試験の検出力は 0.971で、効果サイズは1.30である。 これは、
図7に示すグラフの時間プロットで見ることができる。これは、6日間にわたる一時的なコラーゲン産生率を示している。 エラーバーは、5~6日目のコラーゲン産生について示されている(その他の日数条件では、統計的に有意な差は見られなかった)。
【0091】
新たに合成されたコラーゲンの望ましくない架橋を防止するために、BAPNを培地に添加することが好ましい。 コラーゲンの構造と機能の保存を最適化するために、培養条件を調整することもできる。 例えば、コラーゲンは37℃ で保存すると不安定になるため、細胞を37℃ 未満で培養したり、コラーゲンを定期的に(例えば、8~24時間ごとに)採取したり、低温で安定性を維持するために保存したりできる。
【0092】
表5および
図6のデータから、CRISPRシステムは、実験対照と比較してコラーゲン産生を約90倍 (約40% std)増加させることができることが示された。
上記のように、CRISPRシステムは、実験対照と比較してコラーゲン産生を約90.29倍増加させることができることが分かった。 T-75フラスコにスケールアップすると、この生産レベルは週に約554mgのコラーゲンを生成する。 ただし、市販のdCas9 mRNA、関心のある各遺伝子の gRNA (crRNA およびtracrRNA)試薬、およびトランスフェクション試薬を購入すると、法外な費用がかかる。 したがって、大幅にコストがかからない CRISPRa配送の他の方法を使用してスケールアップすることが望ましい。 適切な方法には、細菌を使用してdCas9およびgRNAプラスミドを生成すること、およびヒト胚性腎臓(HEK)細胞によって生成されたウイルスベクターを使用して、dCas9 およびgRNA配列を宿主ゲノムに送達し安定的に組み込むことが含まれます。これにより、スケールアップのコストが大幅に削減され、より低いコラーゲン生産コストがもたらされ得る。
【0093】
レンチウイルスベクターを使用した細胞への形質導入を含むCRISPRaプロセスを
図1に示す。 まず、トランスファー、パッケージング、エンベロープの3種類のレンチウイルス・プラスミドを購入(または操作)する(
図1、パネルA)。 トランスファー プラスミドには宿主細胞に組み込まれる導入遺伝子(dCas9および/またはgRNA) が含有され、パッケージングおよびエンベロープ・プラスミドにはレンチウイルスの構築に必要な構成要素を含有する。 レンチウイルスの構成要素とそれらを作成するために必要なプラスミドについては、以下の例で詳しく説明している。 次に、これらのプラスミドを 大腸菌に形質転換し(
図1、パネルB)、インキュベーションによって複製し(
図1、パネルC)、採取する(
図1、パネルD)。 次に、これらのプラスミドHEK細胞にトランスフェクトする。 その後、HEK細胞はウイルスを組み立て、培地に排出する(
図1、パネルE)。 次に、このウイルス培地を宿主細胞(線維芽細胞)に添加する。 次に、ウイルス培地のLV が導入遺伝子(dCas9 および/またはgRNA)を宿主細胞に組み込む(
図1、パネル F)。 次に、これらの細胞を、形質導入されていない細胞を殺す抗生物質にさらす (
図1、パネルG)。 形質導入された細胞は、導入遺伝子ベクターの一部である抗生物質耐性のため、生き残る。 次に、導入遺伝子(dCas9および/またはgRNA) を発現する生存細胞を増殖させ、コラーゲンの採取に使用される (
図1、パネルH)。 コラーゲンの安定した増加が提供される(
図1、パネルI)。 さらに、CRISPRを標的とするコラーゲン関連遺伝子の過剰発現は安定しており、細胞の増殖や継代によっても保存される。
【0094】
形質導入では、ウイルス生産パイプラインが確立されると、ウイルス プラスミドが細菌によって安価に生成され、ウイルス粒子の供給を容易にパッケージ化して排出するHEK細胞にトランスフェクトされ、目的の遺伝子を宿主細胞のゲノムに組み込むために宿主細胞培地に追加される。
ウイルス送達によるコラーゲン産生プロセスをスケールアップするための最初の決定は、使用するウイルスの種類を決定することである。 簡単に言えば、AAV(アデノ随伴ウイルス)を使用する利点には、高い力価、異なる細胞タイプを標的とする複数の血清型が利用できることによる汎用性、ウイルスがエピソームまたは19番染色体上の特定の遺伝子座に留まるため毒性が低いこと、最小限の宿主免疫応答があるために、低免疫原性であることが含まれる。 LVの利点には、ほぼすべての哺乳動物細胞型に感染すること、比較的大きなDNA配列(通常は長さ約5~6kb)を送達するために使用できること、安定した細胞株を生成したり、ゲノムのランダムな位置に導入遺伝子が組み込まれているため、生体内の臓器や組織細胞内で安定した遺伝子発現を促進したりするために使用できる。 LVは導入遺伝子の迅速かつ簡単な安定した組み込みを可能にするため、特に、同じクラスのLVが、協働するように選択された任意の細胞タイプ(表皮線維芽細胞、角膜線維芽細胞、iPSCなど)に使用できるため、それらは明確な選択肢である。 コラーゲン産生の増加のために特定の組織タイプを標的とする患者に使用されるシステムを開発したいという要望があった場合、AAVは考慮されるかもしれない。 LVを構成する構成要素の詳細、およびプラスミドを使用してLVを構築する方法については、本明細書の
図2に示す例でさらに詳しく説明する。
【0095】
レンチウイルスの構築に関与する主な遺伝子は、env、gag、およびpolの3つである。Env、または組換えVSV-G (
図2、パネルB)は、表面タンパク質と膜貫通タンパク質(
図2、パネルAではそれぞれ楕円形と長方形)の2つのサブユニットに切断される表面糖タンパク質をコードする。 これらのタンパク質は、ウイルスの認識、宿主細胞への付着、および宿主細胞への侵入に不可欠である。 VSV-Gは、野生型envとは対照的に、より幅広い細胞型のサブセットを認識する、より安定した糖タンパク質を提供するため、広く使用されている。 Gag(
図2、パネルB)は転写され、マトリックス、キャプシド(
図2、パネルAの薄い破線と実線)、およびヌクレオキャプシド タンパク質にスプライシングされる。 マトリックスタンパク質は、ウイルスの集合に関与している。 キャプシドタンパク質はウイルスの疎水性コアを形成し、ヌクレオキャプシドタンパク質は導入遺伝子を覆って保護する。 Pol(
図2、パネルBに示す太い黒い線のベクター)は、ウイルスの複製に不可欠な3つのタンパク質、プロテアーゼ、逆転写酵素、およびインテグラーゼ (
図2、パネルAの黒い楕円、プラス、および六角形)をエンコードする。 プロテアーゼは、ポリタンパク質前駆体のプロセシングとウイルスの成熟に役割を果たす。 逆転写酵素は、宿主細胞への送達時に、ウイルスによって送達された目的のRNAベクターをDNAに変換するために使用される。 インテグラーゼは、新しいDNA導入遺伝子を宿主ゲノムに組み込むために使用される。 宿主ゲノムに入ると、導入遺伝子の長末端反復(LTR) 領域は、遍在するプロモーターおよびエンハンサーとして機能し、宿主細胞での発現を確実にする。 野生型HIVでは、ウイルスタンパク質(vif、vpr、vpn、およびnef) が導入遺伝子に含まれており、この段階で転写および翻訳されて新しいウイルスが製造される。 これらのタンパク質は、感染した細胞が病原性にならず、他の細胞に感染しないようにするために、現在のレンチウイルスシステムから排除されている(オペレーターの安全上の理由から)。 ウイルス処理のもう1つの重要な要素はRRE である。 RREは、ウイルスのパッケージング中にウイルスのRNA輸送を促進するように作用します (
図2、パネルBのRRE)。 一緒に、これらのコンポーネントは、目的のベクター(導入遺伝子)を送達できるレンチウイルスを組み立てるように機能する。
【0096】
最後の構成要素は、宿主細胞に組み込まれる目的のベクターを運ぶトランスファー プラスミドである。 このベクターは通常、複製のために細菌細胞に挿入される前に、制限酵素で操作される。 そのため、トランスファー・プラスミドには、目的のベクター (およびその他の必要なコンポーネント)を含むウイルス領域と、抗生物質耐性遺伝子を含む非ウイルス領域がある。 この抗生物質耐性は、形質転換(プラスミド挿入)後の新しい操作されたプラスミドを持たない細菌に対する選択に使用される。 ウイルス領域は、前述のLTRによって設定される。 宿主ゲノムで一度プロモーターとして作用することに加えて、目的のベクターの両側にあるこれらのLTRにより、ウイルスの産生および形質導入プロセスにおいて、ベクターが他の複数のウイルスタンパク質によって認識されるようになる。 宿主ゲノムに入ると、このベクターの転写には2つの主な機能がある。 1つ目は、形質導入されていない細胞を選択することである。 導入遺伝子には、宿主細胞によって転写される抗生物質耐性遺伝子がある(
図2、パネルCおよびD)。 これにより、形質導入されていない細胞の選択が可能になる。 最後に、この導入遺伝子は、宿主細胞によって転写されることを意図したコンストラクト(この場合はdCas9またはgRNA)も保持する(
図2、パネルCおよびD)。
【0097】
図3は、宿主細胞のLVパッケージングと形質導入を示す。 最初に、目的のベクター(gRNA またはdCas9)を含む、トランスファー・プラスミドと呼ばれるレンチウイルス適合プラスミドを細菌で培養する(
図3、パネルAおよびB)。 次に、これらのプラスミドを採取し、レンチウイルス・エンベロープおよびパッケージング・プラスミドと混合する(
図3、パネルC)。 これらのプラスミドには、目的のベクターを送達するウイルスを構築するために必要なウイルス成分を含有する。 次に、これらのプラスミドをトランスフェクション試薬と混合し、HEK細胞の培地に添加する。 約24時間にわたって、HEK細胞はプラスミドをウイルスの作成に必要RNA/タンパク質に転写および/または翻訳し、次にHEK細胞はこれらの新しいRNAおよびタンパク質を使用してウイルスをパッケージ化し、それらを培地内に分泌する(
図3、パネルD)。 この培地は、すぐに使用することも、後で使用するために凍結して保存することもできる。 次に、採取したウイルス培地を目的の細胞の培地に添加する(
図3、パネルE)。 ウイルス培地の添加後、レンチウイルスは目的のベクターRNA を細胞に沈着させ、ウイルスにパッケージされた逆転写酵素を使用してこのRNAをDNAに継続的に複製し、ウイルスにパッケージされたインテグラーゼを使用してこの新しいDNAを宿主細胞のゲノムに組み込む。 逆転写酵素とインテグラーゼは、例えば
図3のパネルEで黒い点として表され、
図3は、このプロセスに関与するウイルスタンパク質の例を示す。 最後に、トランスファー・プラスミド(gRNAまたはdCas9プラスミド)のウイルス・セクションに組み込まれた選択マーカーを介して、形質導入された細胞を選択することができる(おそらく抗生物質を使用)。 次に、選択マーカー、sgRNA/dCas9、gRNA 標的配列/dCas9活性化ドメイン、およびプラスミドのウイルス・セグメント(
図3、パネルAおよびB)は、
図3、パネルEに示すように宿主ゲノムに組み込まれる。
【0098】
dCas9-VPRを発現させるレンチウイルスベクターは市販されている(Dharmacon Edit-R CRISPa Lentiviral dCas9-VPR)。 これは、ターゲット遺伝子に特異的なgRNAをコードする別のベクターと一緒に、単一のガイドRNA分子として、または一緒に複合体を形成してガイドRNA分子を形成する別個のcrRNAおよびtracrRNA分子として使用し得る。
【0099】
研究により、繊維芽細胞の基質としてガラスを使用すると、培養よりも多くのコラーゲンが生成されることが実証されている。 細胞が生体内で遭遇しない基質上に配置されると、細胞はプレートから自分自身を分離する方法としてコラーゲンを生成する。 線維芽細胞はまた、凝集するのではなく、ガラスなどの剛性の高い基質全体にコラーゲンを広げる傾向がある。 これに続いて、コラーゲン層がプレート上の細胞の下に積み重なって行く。 ほとんどのコラーゲン産生研究では、産生されるコラーゲンの量は基質のサイズによって制限される。
【0100】
図11は、流体せん断用のガラスプレートアレイの図を示す。 機器は、I 型コラーゲンの成長に利用できる表面積の量と、各表面に適用される流体剪断の量を最適化する方法で利用できる。 ガラススライドの数と断面積は、CRISPRベースの方法とビタミン/成長因子の強化の予測モデルによって決定し得る。 セルに適用される適切な流量は、流体モデリング・ソフトウェアを使用して決定し得る。 コスト関数を使用して、流速とコラーゲン出力への影響の大きさとの関係を描くことができる。
【0101】
この装置には、ジグによって流体の入口/出口端のいずれかが拘束された一連の積み重ねられたスライド・ガラスと、非流れ側の水密側壁が含まれている(
図11)。 ルアーアダプターと低コンプライアンス・チューブを使用して、流体は脈動流体ポンプを使用してプレート全体に押し出される。
フローせん断に続いて、培養物とコラーゲン原線維をガラス プレートから取り出すことができ、I型コラーゲンの量を分析して、生成された量を決定し得る。
基板としてガラスを使用してコラーゲン成長の代替方法は、ガラス ビーズを利用することである。 機器の例を
図12に示す。 マイクロキャリアは、コラーゲンの成長に最大の表面積を提供すると同時に、完全浸漬培地に詰めることができるため、線維芽細胞の成長応用に有利である。 インペラを使用してビーズ ネットワークを攪拌し、線維芽細胞に局所的な流れを与えることで、システムは成長するネットワークにせん断応力を与えることができる(
図12)。 提案されたバイオリアクターはコンパクトで、1つの流体入口ポートと2つの流体出口ポートを持つことができる。 セルに供給される流量は、流体モデリング ソフトウェアを使用して決定し得る。 コラーゲンは、培地の除去後にシステムから抽出され、量を決定するために測定される。
【0102】
実施例
実施例1 プールされたトランスフェクションを使用したCRISPR。
CRISPRデザインについて、3つのレベルのトランスフェクション試薬を比較した。 トランスフェクション試薬は、表2に示すように DharmaFECT 1 トランスフェクション試薬でしあった。 プロペプチド切断を促進するために、すべての細胞培養培地で、PBSに対して透析(分子量カットオフ50ダルトン)を使用して、培地を少なくとも10倍に濃縮する必要がある。 高、中、低のトランスフェクション試薬濃度は、ウェルあたりそれぞれ7.2、4.05、0.9 μL のトランスフェクション試薬でしあった。 培地は12時間ごとに採取され2日間のセグメントでプールされた。 ウェルあたりのコラーゲン量は2日ごとに定量化され、細胞数は培地採取の終了後に行われた。 細胞ごとに生成されたコラーゲンは、培地採取の最後にウェルあたりの細胞数に基づいて推定された。 各濃度レベルと細胞数の合計(1~6日目)のプールされたコラーゲン産生(細胞ごとではなく、ウェルごと)の比較を
図5に示す。
【0103】
検出可能な最小コラーゲン量を下回る定量化は、検出可能な最小コラーゲン量(106万分子/細胞/時間)に設定される。 CRISPR条件でのコラーゲン産生の上限を把握するには、いくつかの定量化が検出可能な最小量を下回ることが必要であった。言い換えれば、コラーゲンを定量化する前にサンプルを希釈することはできなかつたが、CRISPRコラーゲン産生の上限はコラーゲン定量化の上限しきい値を超えており、検出できなかった。 1~2日目とほとんどの対照サンプルのデータは検出可能な最小コラーゲン量以下であったが、3~4日目と5~6日目のCRISPR結果のすべてのデータポイントは最小閾値を超えていた。 コントロールウェルの実際のコラーゲン産生は、私たちが言っているよりもはるかに低い可能性が高いため、倍率変化と統計的有意性が計算されたとき、これは重要である。 最後に、CRISPRは約2日後にコラーゲン産生を上方制御すると予想されたため、コントロール ウェルに一致する初期のタイムポイント(1~2日目)は理にかなっている。
図6のグラフに基づくと、一時的におよびトランスフェクション試薬濃度によりコラーゲン産生の違いがあるように見える。
【0104】
図7の重要な特徴は、以前の時点と比較して、最新の時点でコラーゲン産生の減少が観察されないことである。 利用されたCRISPRトランスフェクション法がコラーゲン関連遺伝子の一時的な活性化をもたらすという事実により、対照と比較してコラーゲン産生の増加が予想され、続いてコラーゲン産生が減少する。 ここでは、時間の経過に伴うコラーゲン産生の増加のみが観察され、コラーゲン産生のピーク時点が観察されない可能性があることを示している。 したがって、後の時点をテストすると、細胞あたりのコラーゲン産生がさらに大きく増加する可能性がある。
【0105】
CRISPRを使用して見られるコラーゲン産生のピークは、実験対照と比較して、コラーゲン産生の約90.29倍の増加(42.1% std)を示した。
CRISPRで遺伝子変性された細胞は、従来の培地中のCRISPR細胞による対照および第2の対照を含む、実施例2に見られる最高性能の化学条件を含む培地で培養することができる。
【0106】
図1、
図2、および
図3に示すスケールアップ方法に加えて、Dharmaconからのプールされた形質導入に必要な試薬のコスト分析を表20に作成し、レンチウイルスを使用したCRISPRスケールアップ・コスト分析を表21に用意した。 表20では、4つのレンチウイルスsgRNAを1セット購入するだけで、ターゲットsgRNA を混合して適合させることができるため、4つのレンチウイルスsgRNAを1セット購入する必要がある。 また、DharmaconのすべてのcrRNAは、ターゲット遺伝子に関係なく同じ金額である。 表21では、CRISPR試薬と形質導入の経常コストは事実上ゼロであるが、CRISPRed細胞株でのコラーゲン過剰発現の達成、形質導入、および検証に関連する主要なコストがある。
【0107】
【0108】
実施例2 コラーゲン産生に対する添加物の影響。
さまざまな化学刺激剤が、線維芽細胞のコラーゲン産生を増加させるために使用される可能性があることが研究された。 エタナールとしても知られるアセトアルデヒドはエタノールの誘導体であり、最大300μMの濃度で培地に添加すると、ヒヒの肝臓筋線維芽細胞およびヒト皮膚線維芽細胞で産生されるコラーゲンのレベルを増加させることが示されている。
【0109】
アスコルビン酸は、ウシ、マウス、およびヒトを含む細胞型におけるコラーゲンの産生に有益であることが知られている。 培地へのカフェインの添加は、遺伝子治療分野でレンチウイルスの活性を高める効果が実証されているため、レンチウイルスベースのCRISPR設計ソリューションに有益である可能性があるという仮説が立てられた。 しかし、カフェインは、1~5mMというわずかな濃度の培地で、コラーゲン産生に悪影響を与えることが示されました。 これは、インターロイキン-8を含むいくつかの成長因子の蓄積の阻害による可能性が最も高い。
【0110】
高濃度のエタノールの細胞培養培地への添加は一般に非常にネガティブであることが知られていますが、アルコール性肝線維症の原因を仮定するために、50mMの濃度で多くの研究が行われている。 線維症は通常、組織に存在するコラーゲンの量の増加と同義であるが、筋線維芽細胞および線維芽細胞でこれらの濃度で行われた研究では、コラーゲン産生のレベルに対する直接的な影響は報告されていない。
【0111】
グルタメートは、コラーゲンの転写速度に非常に良い影響を与えることが知られているグルタミンとの密接な関係にもかかわらず、コラーゲン産生への影響についてはあまり研究されていない。 ある研究では、ヒト皮膚線維芽細胞の培養に使用されるグルタメート添加培地で、対照から400%の増加が示された。
【0112】
培地中のグルタミンの存在下でのヒト皮膚線維芽細胞の応答を観察するために、多くの研究が行われて来た。 これらの研究で見られる濃度は最大 10 mM の範囲であり、250μMで対照のほぼ300%のコラーゲン産生の最大の利点を示している。 この効果は、ピロリン-5-カルボキシレートへの変換を通じて、コラーゲン遺伝子の転写レベルを高めると考えられている。
【0113】
ヒアルロン酸は、培地中500μg/ml で非公開の表面に播種されたヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生に対して中立的な効果を示した。 コラーゲン上でプレーティングされたヒト皮膚線維芽細胞培養の培地に150 μg/ml で存在すると、細胞分裂速度と一般的な線維産生が増加したが、研究者はコラーゲンの産生を具体的に定量化しなかった。 ヒアルロン酸とコラーゲンの重量比1:19 で培養表面に取り込まれた場合、ニワトリ胚線維芽細胞によって産生されるコラーゲンの量が対照の230%まで増加した。 これらの研究で提示された情報と、細胞がコラーゲンに包まれるとその産生を停止するよく知られた傾向に基づいて、グループは、それがフィードバックプロセスを妨害し、適切な微小環境に実際に必要な量よりも多くのコラーゲンを細胞が産生するように騙すと仮定した。
【0114】
培地中のインスリン様成長因子1(IGF-1) のレベルと、ヒト皮膚線維芽細胞の培養に使用される培地に適用されたラット血清の操作によるコラーゲンの産生との間には、正の相関が実証されている。 他の研究では、100ng/mLの濃度で対照から最大 300%増加したヒト肺線維芽細胞のこれらの値を定量化している。 肉眼的には、この効果は、傷の治癒が遅い糖尿病患者やアテローム性動脈硬化症の進行が早い糖尿病患者に見られる。
【0115】
インターロイキン(IL)は、免疫応答に関連する幅広い糖タンパク質を網羅している。研究者は、コラーゲン産生に対する特定の効果について、タイプ1β、4、6、8、10、および13を調査した。 IL-4は、対照から250%増加するという最大の正の効果を示した。 観察可能な正の効果に必要なこれらのタイプのいずれかの最低濃度は、ヒト軟骨細胞における2.5pM のIL-1βである。 上記の6つのタイプのうち、IL-10のみがコラーゲン産生のレベルを低下させることがわかった。
【0116】
乳酸塩(エステル)は、特にアルコール性肝線維症を患っている個人では、アルコール摂取後の体内で高濃度で一般に見られる。 したがって、その培地への添加は、臓器系全体の外でもコラーゲン産生の増加につながる可能性がある。 ある研究では、ヒヒの肝臓筋線維芽細胞を培養するために使用される培地に5mMを添加すると、コラーゲン産生が統計的に有意に増加することが示され、この論理的な議論に同意しているようである。 しかし、ヒト皮膚線維芽細胞では、40mMの濃度でコラーゲン産生が減少することが示された。
【0117】
ラスロゲン(Lathyrogen)は、細胞毒性効果なしでコラーゲン架橋の形成を阻害するために使用されてい。 細胞培養で使用される最も一般的なラスロゲンは、リシルオキシダーゼを不可逆的にブロックすることによって機能する β-アミノプロピオニトリル(BAPN) である。 その他の細胞効果には、接着力の発達の防止や、抽出可能なコラーゲン架橋前駆体であるGuHClの蓄積が含まれる。 どの細胞タイプでも、細胞生存率、コラーゲン合成、または非コラーゲンタンパク質合成に対する悪影響を示した研究はない。 しかし、ある調査研究では、0.2 5および0.5mMBAPN で用量依存的に線維芽細胞の遊走が抑制されることが示された。 以前の研究では、0.1 mM~0.5 mM の濃度でBAPN を使用して成功している。
【0118】
プロリンは、翻訳後変性中にコラーゲンを安定化する。 ある研究では、ヒト皮膚線維芽細胞に適用された培地中の濃度範囲が5~10 mMで、対照値と比較してコラーゲン産生が最大200%増加することが分かった。
【0119】
コラーゲン産生に対するピロリン-5-カルボキシレートの効果は、ヒト皮膚線維芽細胞で複数回報告されている。 これらの研究で提示された情報は、対照値の最大 260% の増加に対して1 mMの最適濃度を示唆している。 興味深いことに、この効果はわずか6時間で見られる。 IGF-1を有効にするため、このような強力な効果があると考えられている。 さらに、プロリンに変換することができる。
【0120】
TGF-βファミリー内のサブファミリーはすべて、コラーゲン産生にプラスの影響を与えることが示されている。 一般に、コラーゲンを含むすべてのタンパク質の翻訳の責務を負うオルガネラである、細胞内のリボソームの数にプラスの効果がある。 1 ng/mlという低濃度の培地でラット肝M細胞に適用されたTGF-β1は、対照からのコラーゲン産生の定量化されていない増加を示した。 TGF-βによって生成されるコラーゲンのタイプはさまざまであることが示されていて、I型コラーゲンは特にTGF-β3と関連している。 情報源は、ヒト皮膚線維芽細胞で最大の有効性を得るのは 12.5 ng/ml の濃度で一致しているようである。
【0121】
加重スコアリング(表13)に基づいて、7つの最良の添加剤が選択され、表14に示されている濃度を使用して第 1相スクリーニング研究で別々に線維芽細胞培地に添加された。 表14に、試験する添加剤と濃度を示す。 文献に記載されている一般的な濃度は、標準条件に加えて、その値の50%の濃度と、その値の150%の別の濃度である必要がある(表14)。 これらの添加剤のプラスの効果は他の細胞株で示されているが、添加剤の組み合わせをテストする前に、角膜線維芽細胞に対する主な効果を個別に調査する必要がある。 この因子段階のスクリーニングは、生物工学アプリケーションで計画された実験において一般的である。 特に培地組成に要因計画を使用する場合、最適化を可能にする高度な設計を適用する前に、未知のドメインのスクリーニング実験を実行することをお勧めする。 スクリーニング研究は、さまざまな方法で行うことができる。 最も単純なスクリーニング実験計画は、各変数を2つのレベルで使用するが、これは入力と出力の間に線形関係があることを前提としている。 この研究では、最大値を決定するために3つのレベルの計画が選択された。 実験のこの段階では、どの添加剤がコラーゲン生成に統計的に有意な影響を与え、各添加剤のどの濃度が最も高いプラスの影響を与えるかを決定した。 このデータは実験のフェーズ2に入力され、そこでは最高の性能を発揮する添加剤が最適な濃度範囲内で使用された。
【0122】
7つの添加物により、プレートの数を最小限に抑え、使用するウェルの数を最大化することもできた。 これにより、それぞれ標準的な培地対照グループを持つ3つのプレートが得られた。 テストのフェーズ1では、7つの培地添加剤を3つの濃度でテストし、各条件のサンプルサイズを4にした。 使用する添加物と濃度は、上記の先行研究によって決定された。 ウェルあたりのコラーゲン量は定量化されたが、細胞数は実行されなかった。 細胞ごとに生成されたコラーゲンは、ウェルごとに予想される細胞数に基づいて推定された。 結果を表15に示す。 一部のグループは、SirCol標準曲線の範囲である1 ~ 50 μgを下回った。 これらの値は1.00 ug/100 uLとして表され、結果として得られた交換(トレード)研究で有効性について最低の評価が割り当てられた。
【0123】
3つの異なる最高性能の添加剤(BAP、ACE、および ASC)が特定された。 単一の添加剤の性能に基づいて、3つの培地添加剤のみが対照よりも高いコラーゲン産生をもたらし、3つの異なる添加剤がDO に進んだ。 前進した3つの添加剤については、各添加剤の最高ランクが DOE中心点として使用された。 入手可能な在庫が不足しているため、ACE lowがACE mediumの代わりに使用された。 これらの変更の結果、フェーズ1からの最終的な選択は、BAP低、アセトアルデヒド低、アスコルビン酸低が、中心点としておよび中濃度において”高”点(100%)として3つすべてでしあった。
【0124】
フェーズ2では、最高性能の培地添加剤が完全な要因 DOEに供給された。使用された濃度は、取引調査、残りの実験室備品、および最終的にほぼ同点の状況でのより低い濃度に関連するより低いコストを含むさまざまな要因によって決定された。 ほぼ同点の状況は、同じ化学物質の濃度が合計スコアの1%以内であるとグループによって定義された。 BAPの場合、中心点の濃度は、取引調査で最高のスコアを記録したため、フェーズ1の0.25 mM の低濃度であると判断された。 アスコルベートについては、ほぼ同点の状況が観察されたため、フェーズ1の低濃度の0.5 mM が選択された。 アセトアルデヒドについては、在庫の問題により、0.2 mMの低濃度が選択された。 完全な要因による DOE 計画の構築を完了するために必要な100%の濃度限界では、これらの値のそれぞれが2倍になり、これは、フェーズ1の中程度の条件に対応する。
【0125】
図9に示すように、3つの条件のみが検出限界を超えるコラーゲン出力を示した。ACS:BAP、ACS:BAP:ACE、および中心点(CPTまたは000)。 これら3つの条件の増加倍率は、それぞれ1.96、7.23、および6.68であった。 これらの条件では、標準偏差は大きかった。 これは、後の2つの条件での細胞死、pHまたは結晶化が原因である可能性がある。 これらの大きな分散のため、グループ間に統計的な差はなかった。 この違いを検出するには、より大きなサンプル サイズが必要になる。
【0126】
参考文献
【表a-1】
【表a-2】
【表a-3】
【表a-4】
【配列表】
【国際調査報告】