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特表2023-545528エナメルペースト組成物、エナメル被覆製品、およびそれらの製造方法
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  • 特表-エナメルペースト組成物、エナメル被覆製品、およびそれらの製造方法 図1
  • 特表-エナメルペースト組成物、エナメル被覆製品、およびそれらの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】エナメルペースト組成物、エナメル被覆製品、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/04 20060101AFI20231023BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C03C8/04
H05K1/03 610B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523115
(86)(22)【出願日】2021-09-20
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021075797
(87)【国際公開番号】W WO2022078715
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】2016443.0
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521544562
【氏名又は名称】フェンジ・エイジーティ・ネザーランズ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Fenzi AGT Netherlands B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】バルトロメイ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ブース,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】サットン,パトリシア アン
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB01
4G062DA07
4G062DA08
4G062DB01
4G062DC01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DE04
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA03
4G062GA04
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM27
4G062NN29
4G062NN34
4G062PP13
(57)【要約】
ガラスフリット、顔料および有機キャリア媒体を含んで成るエナメルペースト組成物であって、ガラスフリットは第1ガラスフリットおよび第2ガラスフリットを含む少なくとも2つのガラスフリットを含んで成り、第1ガラスフリットは第2ガラスフリットよりも大きい粒径および高いガラス転移温度を有する、エナメルペースト組成物。エナメルペースト組成物を基材に堆積させること、およびエナメルペーストを焼成してエナメルコーティングを基材に形成することを含んで成り、エナメルコーティングは、第2フリットのマトリックスに埋め込まれた第1フリットの粒子を有する不均質なフリット微細構造を含んで成る、エナメルコーティングを形成する方法も開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリット、
顔料および
有機キャリア媒体
を備え、
前記ガラスフリットは、第1ガラスフリットおよび第2ガラスフリットを含む少なくとも2つのガラスフリットを含んで成り、
前記第1ガラスフリットは、前記第2ガラスフリットよりも大きい粒径および高いガラス転移温度を有する、エナメルペースト組成物。
【請求項2】
前記第1ガラスフリットは、少なくとも465℃、470℃、475℃、480℃、もしくは485℃;550℃、530℃、515℃、もしくは500℃以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のガラス転移温度を有する、請求項1に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項3】
前記第2ガラスフリットは、少なくとも410℃、420℃、430℃、もしくは440℃;460℃、455℃、もしくは450℃;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のガラス転移温度を有する、請求項1または2に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項4】
前記第1ガラスフリットは、以下の特性の1または2以上を満たす粒径を有する:
少なくとも6μm、7μm、8μm、8.5μm、もしくは8.8μm;20μm、15μm、13μm、12.5μm、もしくは11.8μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD90;
少なくとも1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、もしくは1.9μm;5μm、4μm、3.8μm、もしくは3.6μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD50;
40μm、35μm、30μm、もしくは26μm以下の最大粒径
、請求項1~3のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項5】
前記第2ガラスフリットは、以下の特性の1または2以上を満たす粒径を有する:
少なくとも0.5μm、0.8μm、1.0μm、もしくは1.2μm;4μm、3μm、2.2μm、もしくは1.9μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD90;
少なくとも0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、もしくは0.5μm;1.4μm、1.3μm、1.2μm、もしくは1.0μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD50;
10μm、9μm、8μm、7μm、もしくは6μm以下の最大粒径
、請求項1~4のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項6】
前記第1ガラスフリットは、少なくとも0.45、0.50、0.55、もしくは0.60;0.90、0.87、0.81、もしくは0.80以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの体積分率を形成する、請求項1~5のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項7】
前記第2ガラスフリットは、少なくとも0.1、0.13、0.16、0.19、もしくは0.2;0.55、0.50、0.45、もしくは0.40以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のガラスフリットの体積分率を形成する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項8】
前記第1ガラスフリットは、少なくとも0.35、0.45、0.55、もしくは0.60;0.90、0.85、0.80、もしくは0.75以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの重量分率を形成する、請求項1~7のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項9】
前記第2ガラスフリットは、少なくとも0.1、0.15、0.20、もしくは0.25;0.55、0.50、0.45、もしくは0.40以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの重量分率を形成する、請求項1~8のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項10】
第2ガラスフリットに対する前記第1ガラスフリットの重量比は、少なくとも0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、もしくは2;5.0、4.5、4.0、3.5、もしくは3以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内である、請求項1~9のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項11】
第2ガラスフリットに対する前記第1ガラスフリットの体積比は、少なくとも0.8、1.0、1.2、1.5、もしくは2;6.7、5.0、4.4、もしくは4.0以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内である、請求項1~10のいずれか1項に記載のエナメルペースト。
【請求項12】
前記第1ガラスフリットは、前記第2ガラスフリットよりも大きい前記ガラスフリットの体積率を形成する、請求項1~11のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項13】
前記第1ガラスフリットは、前記第2ガラスフリットよりも大きい前記ガラスフリットの重量分率を形成する、請求項1~12のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項14】
前記第1ガラスフリットは、ケイ酸ビスマス、ケイ酸亜鉛、およびケイ酸ビスマス亜鉛からなる群より選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項15】
前記第2ガラスフリットは、前記第1ガラスフリットよりも少ないシリカを含む、請求項1~14のいずれか1項に載のエナメルペースト組成物。
【請求項16】
前記第2ガラスフリットは、前記第1ガラスフリットよりも多くのビスマスおよび/またはホウ素を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のエナメルペースト 組成物。
【請求項17】
前記第2ガラスフリットはケイ酸ビスマスである、請求項1~16のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項18】
前記第1ガラスフリットは還元状態であり、前記第2ガラスフリットは酸化状態である、請求項1~17のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項19】
シード添加剤をさらに含んで成る、請求項¥1~18のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のエナメルペースト組成物を基材に堆積させること、および
前記エナメルペーストを焼成して前記基材にエナメルコーティングを形成すること
を含んで成り、
前記エナメルコーティングは、第2フリットのマトリックスに埋め込まれた前記第1フリットの粒子を有する不均質なフリット微細構造を含んで成る、エナメルコーティングを形成する方法。
【請求項21】
前記エナメルペーストは、前記第1ガラスフリットの溶融温度より低いが、前記第2ガラスフリットの溶融温度より高い温度で焼成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項20または21に記載の方法で製造されたエナメル被覆基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本明細書は、エナメルペースト組成物、エナメル被覆製品、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
自動車ガラス業界(または自動車グレージング業界)では、フロントガラス、バックライト、サイドライトおよび他のガラス部品をそれらの部品の周辺部に、オブスキュレーションエナメルの黒い帯で装飾することが一般的である。ガラスを固定する接着剤を紫外線から守り、接着剤を分解させないことが第1の機能である。また、ガラス部品に取り付けられたまたは埋め込まれた電気部品または電子部品の機能性を確保するために、電気回路、ワイヤー、コネクターを覆い、きれいな美観を確保することを第2の機能としている。
【0003】
エナメルは、ペーストまたはインクとしてスクリーン印刷またはインクジェットプロセスで平坦なガラス基板に塗布され、その後、高温で焼成され、この間、ペーストまたはインクの有機キャリア媒体(または有機担持媒体または有機搬送媒体;organic carrier medium)は燃焼し、エナメルは融合して基板との結合を確立する。焼成プロセスは基板が柔らかくなり、曲げプロセスで最終形状にすることができる。
【0004】
自動車業界では、自動車の軽量化による燃料の節約および温室効果ガスの排出削減を実現すると同時に、従来のエナメルをより高い温度で焼成することで達成されてきた製品性能を犠牲にしないために、より低いプロセス温度およびより薄い基板を自動車グレージングに使用することが商業的に推進されている。また、先進運転支援システム(ADAS)および自律走行車に必要なセンサーおよびカメラが取り付けられる最終的なガラス部品の特定の部分で、光学歪みを低減する必要がある。
【0005】
自動車用オブスキュラーエナメルは、1または2以上のガラスフリット、顔料、および無機機能性添加剤を含んで成る多成分複合体である。成分粒子を微粉砕することで、印刷中に印刷スクリーンおよびインクジェットノズルを閉塞することなく通過させることができる。2または3以上の異なるガラスフリットを含んで成る従来のペースト組成物は、一般的に異なるガラスフリットの同等の粒度分布を有する。また、異なる種類のフリットまたは、従来、すべてのフリットのガラス転移温度および溶融温度(または定着温度;fusing temperature)を超える処理温度で相互に融合し、フリットの粒度分布の点で均質な微細構造を有するエナメルを形成するように選択される。この点で、従来のエナメルは、エナメル層を通して分散された顔料およびシード添加剤を有する別個のフリット領域を有する不均質なままであることが理解されるであろう。ただし、フリット領域自体は均質な微細構造を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
業界では現在、より薄いガラス部品が使用され部品の軽量化および曲げ前の焼成プロセスでのエネルギー消費を削減するため、プロセス温度の低下およびスループットの向上を推進している。従来のエナメルは、これを実現することが困難であった。より低いガラス転移温度のフリットが開発されているが、現在のより高いガラス転移温度のフリットの同じ機能性能を有しないエナメルが得られる傾向がある。
【0007】
よって、例えば、酸耐久性、基材との熱膨張係数(CTE)の一致、および典型的に高溶融温度フリットに起因する良好な機械的および光学的特性のような望ましいバルク特性を維持しつつ、より低温で溶融するエナメルをもたらすエナメルペースト組成物を提供する必要がある。
【0008】
本明細書の目的は、1または2以上の前述の問題に対処し、より高い溶融温度のエナメルと関連する機能特性を達成しつつ、低温で定着するエナメルペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
本明細書の態様によれば、
ガラスフリット、
顔料、および
有機キャリア媒体
を含んで成り、
ガラスフリットは、第1ガラスフリットおよび第2ガラスフリットを含む少なくとも2つのガラスフリットを含んで成り、
第1ガラスフリットは、第2ガラスフリットよりも大きい粒径および高いガラス転移温度を有する、エナメルペースト組成物が提供される。
【0010】
このようなペーストを堆積および焼成すると、第2のより低いガラス転移温度のフリットが、第1のより高いガラス転移温度のフリットのより大きな粒子の周囲に焼結される。焼成後のエナメルの微細構造は、レンガおよびモルタルの構造を連想させ、第1ガラスフリットが「レンガ」を形成し、第2ガラスフリットが焼結されて「モルタル」を形成する。エナメルの微細構造は、2つ(または3以上)のフリットおよびそれぞれの粒度分布、体積分率、およびペーストを焼成する温度、例えばペースト組成物におけるガラスフリットのガラス転移温度の間の焼成温度であり得る、を適切に選択することによって制御することができる。
【0011】
本明細書のマルチフリットペーストシステムの特徴は、焼成時にフリットがエナメルコーティング内の均質なフリット領域に融合するのではなく、第1フリットのより大きな機能粒子(「レンガ」)および第2フリットの微細粉砕粒子(「モルタル」)の二つの絡み合った浸透性の3次元(3D)ネットワークを含んで成る首尾一貫した不均質なフリット微細構造を提供することである。第2のより低いガラス転移温度のフリットは、主にエナメルの密着、基材への接着の原因となり、例えば、顔料およびシード材のような機能性添加剤の埋め込みマトリックスとして機能する。第1のより高いガラス転移温度のフリットは、低いガラス転移温度を有することを要求されるという制限なしに、最終用途の仕様に従って複合材料の機能特性を変更するように選択することができる。すなわち、第1および第2のフリットの相対量およびタイプは、酸耐久性の向上、基板とのCTEマッチングの改善、ガラスの弱体化の低減、エナメル強度の向上、銀隠蔽性の向上、および最終ピースの装飾されていない部分、例えばセンサーまたはカメラ用の開口部における光学(焦点線)歪みの低減、の1または2以上を含むマクロ的特性の範囲に合わせて調整することができる。さらに、これらの機能性能特性は、フリット粒度分布の点で均質なフリット領域を有する従来のエナメルコーティングと比較して、不均質な「レンガおよびモルタル」のフリット微細構造を使用して、より低い焼成温度でより容易に達成できることが判明している。不均質なフリット微細構造の性能特性は、不均質なエナメル構造を形成するために使用される個々のフリットの特性の組み合わせに少なくとも部分的に起因することができる。ただし、ある種の性能特性は、その場で異なるフリット間で起こる反応に起因して誘起され、個々のフリットの特性の単なる組み合わせ以上の性能特性を複合材料にもたらすこともある。さらに、フリット間の粒径差が、観察された性能向上を達成するための重要な特徴であることを強調すべきである。比較研究により、ペースト組成物は、フリットタイプの同等の混合物を含んで成るが、均質なフリット粒度分布を有するペースト組成物は、より高いガラス転移温度のフリットがより低いガラス転移温度のフリットよりも大きな粒径を有する本明細書のレンガおよびモルタルのフリット微細構造と比較して、最終用途に求められる性能特性(例えば、酸耐久性、不透明度など)に到達するために著しく高い焼成温度を要することが分かった。異なる粒度分布のフリットを使用した場合の性能向上は、個々のフリットの粒度を変えた場合の性能特性の変化に起因する部分もあり得るが、成分フリットの粒度分布が変化することにより、その場で異なるフリットの間で起こる反応が誘起されることに起因する部分もあり得る。
【0012】
したがって、本明細書は、より高い温度で焼成された従来のエナメルですでに達成されている性能特性を維持しながら、自動車車両の重量を減らすことによって燃料を節約し、温室効果ガス排出を削減するために、より低いプロセス温度および自動車グレージング用のより薄い基板の使用に向けて、自動車産業の商業的推進に対処するものである。本明細書に記載のペーストおよびエナメルはまた、先進運転支援システム(ADAS)および自律走行車のセンサーおよびカメラが取り付けられ得る場所での光学的な歪みを低減するのにも役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面の簡単な説明
本発明をより良く理解するため、また、本発明がどのように実施され得るかを示すために、本発明の特定の実施形態が、添付の図面を参照して、例示としてのみ説明される。
図1図1は、レンガおよびモルタルのエナメル構造の模式図を示す。
図2図2は、レンガおよびモルタルの断面サンプルの実際の後方散乱電子(BSE)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本明細書では、プレス曲げ加工用の「レンガおよびモルタル」の微細構造を有する新しい自動車用銀隠蔽エナメルを提供する。特に設計されたモルフォロジーは、酸耐久性、基板とのCTEマッチング、機械的特性などを含む、高溶融フリッツに典型的に起因するバルク特性を維持しながら、より低温で溶融するエナメル(市場トレンドに沿った)を生成する。
【0015】
図1は、「モルタル」マトリックス30に埋め込まれた大きな「レンガ」粒子20を含んで成るレンガおよびモルタルのエナメル構造10の概略図を示す。図2は、レンガおよびモルタルのエナメル質構造の断面サンプルの実際の後方散乱電子(BSE)画像を示す。
【0016】
このモルフォロジー(または形態)は、少なくとも2つの機能性フリットの適切な選択およびそれぞれの粒度分布によって達成され、より高い溶融温度のフリットは粗く、より低い溶融温度のフリットはより細かくなる。得られたペーストまたはインクは、それぞれの粒径比が最終的なエナメルにおけるレンガおよびモルタルの構造をサポートするものであれば、任意のペーストまたはインク堆積技術によって塗布され得る。このようなプロセスは、例えば、スクリーン印刷およびインクジェット印刷を含み得る。
【0017】
概要セクションに記載したように、本明細書に係るエナメルペースト組成物は、
ガラスフリット、
顔料、および
有機キャリア媒体
を含んで成り、
ガラスフリットは、第1ガラスフリットおよび第2ガラスフリットを含む少なくとも2つガラスフリットを含んで成り、
第1ガラスフリットは、第2ガラスフリットよりも大きい粒径および高いガラス転移温度を有する。
【0018】
第1フリットおよび第2フリットは、最終用途における目標焼成温度に応じて選択することができる。焼成中、第2ガラスフリットは軟化して焼結し、第1フリットの粒子を結合するマトリックスを形成し、エナメルコーティングを下地に結合して、不均質なレンガとモルタルの微細構造を形成する必要がある。第1ガラスフリットは、例えば、少なくとも465℃、470℃、475℃、480℃、もしくは485℃、ならびに/または550℃、530℃、515℃、もしくは500℃以下、ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のガラス転移温度を有し得る。例えば、第1のガラスフリットは、470~515℃、任意に485~500℃の範囲のガラス転移温度を有し得る。さらに、第2ガラスフリットは、例えば、少なくとも410℃、420℃、430℃、もしくは440℃、ならびに/または460℃、455℃、もしくは450℃以下、ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のガラス転移温度を有し得る。例えば、第2ガラスフリットは、430~455℃、任意に440~450℃の範囲内のガラス転移温度を有し得る。
【0019】
ガラス転移温度のパラメータに応じてフリットを選択することに加え、焼成後にレンガおよびモルタルの微細構造を実現するために、第1(高融点)フリットの粒径が第2(低融点)フリットよりも大きくなるように加工する。フリットの具体的な粒径は、目標とする微細構造によって異なり得る。
【0020】
第1ガラスフリットは、1または2以上の以下の特性を満たす粒径を有し得る:
少なくとも6μm、7μm、8μm、8.5μm、もしくは8.8μm;20μm、15μm、13μm、12.5μm、もしくは11.8μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD90;
少なくとも1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、もしくは1.9μm;5μm、4μm、3.8μm、もしくは3.6μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD50;
40μm、35μm、30μm、もしくは26μm以下の最大粒径。
【0021】
さらに、第2ガラスフリットは1または2以上の以下の特性を満たす粒径を有し得る:
少なくとも0.5μm、0.8μm、1.0μm、もしくは1.2μm;4μm、3μm、2.2μm、もしくは1.9μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD90;
少なくとも0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、もしくは0.5μm;1.4μm、1.3μm、1.2μm、もしくは1.0μm以下;または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内のD50;
10μm、9μm、8μm、7μm、もしくは6μm以下の最大粒径。
【0022】
例えば、第1フリットは、8.5~12.5μm、好ましくは8.8~11.8μmの範囲におけるD90粒径、1.8~3.8μm、好ましくは1.9~3.6μmの範囲におけるD50粒径、ならびに典型的には26μm以下の最大粒径を有し得る。第2フリットは、1.2~2.2μm、好ましくは1.2~1.9μmの範囲におけるD90粒径、0.5~1.2μm、好ましくは0.5~1.0μmの範囲におけるD50粒径、ならびに典型的には6μm以下の最大粒径を有し得る。
【0023】
フリットは、例えばジェットミル、乾式もしくは湿式のボールミルまたはビーズミル、またはそれらの組み合わせを含んで成る適切なプロセスで、所望の粒径に粉砕される。湿式粉砕処理に使用される媒体は、水、アルコール、グリコールを含み得、分散剤を適当に加えて混合し得る。湿式粉砕された粉末は、例えば、火炎噴霧乾燥またはトレイ乾燥などの適切な乾燥プロセスに供されるか、またはスラリーとして最終製品(ペーストおよびインク)の処方(または製剤:formulation)に組み込まれる。粒度分布は、レーザー回折法により測定され、体積換算球径が得られる。これらはD値、例えばD10、D50、D90、D99、および最大粒子径として表される。
【0024】
実際には、中間値D50および分布の上限値D90がプロセス関連パラメータとみなされ、湿潤サンプル/スラリーについて決定される。ある用途では、より高い溶融フリット1はD90=12±1μm、およびD50=3.4±0.2μmを有する一方で、より低い溶融フリットはD90<2μm、およびD50=0.75±0.2μmを有する。フリットの互いの相対的な大きさは、より高い溶融フリットのD90がより低い溶融フリットのD90よりも少なくとも5倍大きい直径を有することができ、より高い溶融フリットのD50がより低い溶融フリットのD50よりも少なくとも4倍大きい直径を有することができるようになっている。
【0025】
粉砕および/または乾燥後に後処理されたフリット材料では、多かれ少なかれ柔らかい凝集体の形成により、粒度分布はスラリーのものと異なり得る。これらの凝集体は、最終製品の製造間に壊れ、分散する。
【0026】
特定の例によれば、第2(高融点)ガラスフリットは、第2(低融点)ガラスフリットよりも、ガラスフリットの大きい体積分率および/または大きい重量分率を形成する。これは、第1ガラスフリットの機能パラメータが焼成後の複合エナメルの機能特性を支配することが要求される場合に望ましいと思われる。例えば、硫化ケイ酸亜鉛ガラスを第1フリットとして使用する場合、還元亜鉛ガラスがエナメル層を通って移動する銀イオンと反応するため、このエナメル系に優れた銀隠蔽特性を与える。この例では、硫化亜鉛ケイ酸塩ガラスの高含有量が組成物中に供される場合、下層の導電性トラックからの銀はそれほど移動しないが、そうしないとエナメルを介して基材の表面に向かう銀の移動が望ましくない茶色または黄色の変色につながるため、これは非常に有益である。
【0027】
とはいえ、ある種の配置では、第2の(より低い溶融温度の)ガラスフリットがフリットのかなりの割合を占めることが望ましい場合がある。これは、例えば、第1フリットが例えば、低い酸耐久性のような望ましくない特性を有する場合である。この場合、第1フリットを酸による攻撃から保護するために、十分な量の第2フリットを提供することが必要とされる場合がある。さらに、低温で焼成したと場合に第2ガラスフリットによって形成されるエナメルの「モルタル」相の酸耐久性は、標準の粉砕フリットと比較して、より微細に粉砕された第2ガラスフリット(例えば、ビーズミルド)を使用して向上することが判明している。
【0028】
さらに、レンガを構成する第1の(より高い溶融温度の)フリットが還元状態であり、モルタルを構成する第2の(より低い溶融温度の)フリットが酸化状態であれば、レンガおよびモルタルの粒子間の酸化還元相互作用により、ビスマスナノ粒子が析出してモルタルからBiが枯渇し、その結果、相対シリカ含有量が増加して、さらにモルタルの酸耐久性を向上させることができる。加えて、第2フリットによって形成され、微細な顔料粒子を取り込んだモルタルの骨材性は、顔料が非常に耐酸性であるため、酸耐久性にも有利である。
【0029】
このように、酸耐久性などの機能性能特性は、複合材料における複雑な数の因子に起因し得ることが理解されるであろう。さらに、ある機能的性能特性に影響を与える因子はまた、他の機能的性能特性にも影響を与えることができる。例えば、先に述べたようにエナメルのモルタル相の酸耐久性を向上させる役割を有するビスマスナノ粒子の析出は、不透明度を向上させる役割も果たすことができる。また、ビスマスナノ粒子の析出はまた、銀の移動を抑制することにも寄与し得ると仮定されているが、本明細書に記載の特定の例では、この機能は、先に説明したような例えば、ケイ酸亜鉛フリットのような適切な第1高溶融温度フリットを選択することによって主に供される。したがって、レンガ相およびモルタル相の両方が、本明細書のエナメルに機能特性の有利な組み合わせを提供するために貢献できることが、さらに理解されるであろう。
【0030】
以上のことから、第1および第2のガラスフリットのタイプおよび量は、所望の機能性能特性の特定の組み合わせのために調整され得ることが理解されるであろう。特定の例によれば、第1ガラスフリットは、少なくとも0.45、0.50、0.55、もしくは0.60;ならびに/または0.90、0.87、0.81、もしくは0.80以下;ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの体積分率を形成する。同様に、第2ガラスフリットは、少なくとも0.1、0.13、0.16、0.19、もしくは0.2;ならびに/または0.55、0.50、0.45、もしくは0.40以下;ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの体積分率を形成し得る。体積比の点では、第2ガラスフリットに対する第1ガラスフリットの体積比は、少なくとも0.8、1.0、1.2、1.5、もしくは2;ならびに/または6.7、5.0、4.4、もしくは4.0以下;ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内であり得る。
【0031】
あるいは、体積ではなく重量で表現され、第1ガラスフリットは、少なくとも0.35、0.45、0.55、もしくは0.60;ならびに/または0.90、0.85、0.80、もしくは0.75以下;ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの重量分率を形成し得る。加えて、第2ガラスフリットは、少なくとも0.1、0.15、0.20、もしくは0.25;ならびに/または0.55、0.50、0.45、もしくは0.40以下;ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内の前記ガラスフリットの重量分率を形成し得る。さらに、第2ガラスフリットに対する第1ガラスフリットの重量比は、少なくとも0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、もしくは2;および/または5.0、4.5、4.0、3.5、もしくは3以下:ならびに/または前述の下限値および上限値の任意の組み合わせによって規定される範囲内であり得る。
【0032】
前述の数値範囲は、本明細書の後に提供される実施例の範囲に反映されており、多くの好ましい実施例では、本明細書のペースト組成物および結果として得られるエナメルにおいて、第1フリットの量は第2フリットの量よりも大きいが、これはすべての用途に対して厳密な要件ではないことを示すものである。エナメルのモルタル相を形成し、第1フリットのより大きな粒子をともに結合させ、エナメルが配置された下地への接着力を供するためには、少なくとも十分な量の第2フリットが存在しなければならない。この機械的構造上の下限を超える望ましい第2フリットの量は、目標とする機能特性および利用されるフリットのタイプに依存する。特定の用途に最適な第1および第2フリットの比率は、本明細書の教示に従った実験的最適化によって調整することができる。
【0033】
フリットの化学組成に関して、第1ガラスフリットは、ケイ酸ビスマス、ケイ酸亜鉛、およびケイ酸ビスマス亜鉛からなる群より選択され得る。例えば、還元ケイ酸亜鉛ガラスは、エナメル層を通って移動する銀イオンと反応する。この例では、銀の隠蔽に非常に有利な還元ケイ酸亜鉛ガラスの高い含有量が組成物に提供されると、銀はそれほど遠くに移動しない。
【0034】
第2ガラスフリットはまた、ケイ酸ビスマスであってもよく、有利には、より高いシリカ含有量のケイ酸塩ガラスと比較してより低いガラス転移温度を有するように調整されるため、第1ガラスフリットよりも少ないシリカおよびより多くのビスマスおよび/またはホウ素を含む。このようなより低いシリカ含有量、より低い溶融温度ガラスは、最終用途において酸劣化の影響を受けやすいことがある。ただし、先に示したように、第1および第2のガラスフリット間の酸化還元相互作用により、第2ガラスフリットによって形成されるモルタル相中の相対的なシリカ含有量が増加するため、第2ガラスフリット材料のみの酸耐久性に比べて、その場でモルタル相の酸耐久性が向上する。自動車産業における重要な要件は、80℃で0.1N HSOに72時間暴露した後の耐久性であり、これは、本明細書のペースト組成物を使用して著しく低い焼成温度で達成されている。さらに、レンガおよびモルタルの構造は、エナメルを介した銀の移動を抑制する能力がはるかに高いため、低い焼成温度でより優れた銀隠蔽特性を有することも判明している。
【0035】
ガラスフリット成分に加えて、組成物は、ガラス材料の特性を調整するために当技術分野で知られているように、他の添加剤、例えばシード添加剤を含むこともできる。フリット成分の重量比は、機能性添加剤の埋め込みマトリックスとして作用するモルタル相に埋め込まれる必要のある、例えばシード材料および顔料のような機能性添加剤の量によって実質的に制限されることがある。機能性添加剤のそれぞれの量は、顧客の要求とそのプロセスパラメータに依存し、その焼成および曲げプロセスに応じて変化し得る。この変動はまた、エナメルペーストのフリットおよび他の成分の重量比にも影響する。例えば、低溶融温度フリットに対する高溶融温度フリットの重量および/または体積比は、>1~4であってもよい。
【0036】
前述のペースト組成物は、基材にエナメルペースト組成物を堆積させることと、エナメルペーストを焼成して基材にエナメルコーティングを形成することとを含んで成るエナメルコーティングの形成方法において使用されるようになっており、エナメルコーティングは、第2フリットのマトリックスに埋め込まれた第1フリットの粒子を有する不均質なフリット微細構造を含んで成る。任意に、エナメルペーストは、第1ガラスフリットの溶融温度より低く、第2ガラスフリットの溶融温度より高い温度で焼成し得る。
【0037】
前述の方法を用いると、一般的に高温で溶融するフリットに起因するエナメルのバルク特性を、より低い焼成温度で達成し、最適化することができるエナメルコーティング基板を製造することができる。これらの特性は、銀の隠蔽性、酸の耐久性、機械的特性、CTEを含んで成る。
【0038】
また、エナメルのかなりの割合を第1フリットの大きな粗い粒子として提供することは、より多くの処理を必要とする微細な粒子のみに基づく組成物よりも製造が容易かつ安価であるという利点がある。高溶融温度フリットは、シリカに富み、所望の機能および焼成ウィンドウに応じて、例えば、ケイ酸ビスマス、ケイ酸亜鉛、および/またはケイ酸ビスマス亜鉛を含んで成り得る。このようなフリットの場合、原材料および加工は、材料のより大きな粒子を利用することができる本アプローチを使用して、費用対効果の高いものにすることができる。これに対して、低溶融温度フリットは、高溶融温度フリットのモルタルとして機能し、機能性添加剤の埋め込みマトリックスを提供し、すべてのフリット粒子の凝集に関与する。この機能をサポートするために、低溶融温度フリットは、高溶融温度フリットの粗い粒子と比較してはるかに微細な粒子サイズに粉砕される。低溶融温度フリットは、典型的には、所望の機能および焼成ウィンドウに応じて、より少ないシリカと、しばしば有意量のビスマスまたはホウ素または低溶融温度を促進する他の酸化物とを含み得る。ビスマス含有フリットは、高い密度を有し比較的柔らかいので、ケイ酸亜鉛フリットと比較して、より小さな粒子サイズに粉砕することが容易であり安価である。ケイ酸ビスマスフリットのコストは、原料の価格変動に依存し、量をできるだけ低く抑えることが戦略的に重要である場合がある。本明細書のペースト処方におけるBiの量は、例えば、6~15重量%という低い値であり得る。 このように、本アプローチは、原材料およびその処理コストの両方の点でも、大きなコスト削減を供し得ることが理解されよう。
【0039】
本明細書に記載されているように調整されたエナメルモルフォロジーを使用することにより、自動車用グレージング産業のすべての主要な要件を、低減された温度プロセス条件で満たすことができることが判明している。また、最終的なエナメルのCTEは、基材によりよく適合するようにすることができ、よって、センサーおよびカメラの開口部がある装飾されていない領域における光学(焦点線)歪みを低減または軽減することができる。さらに、エナメルのコヒーレンスは良好で、基材のガラスの弱体化は最小限に抑えられています。 従来のエナメルと比較して、このように設計されたエナメルの利点は、低い溶融温度、大幅に改善された酸耐久性、溶融時の収縮の減少、それによるストレスの減少である。 さらに、銀の移動が著しく遅くなるため、銀の隠蔽範囲が増加し、より高い焼成温度まで伸びる。
【0040】
よって、本明細書は、自動車用グレージング市場の複数のトレンドに対応している。その一つは、自動車の軽量化、ひいてはエネルギー効率向上のために、ガラス基板の薄型化が求められていることである。ガラスの厚みを薄くするためには、最終的な形状を実現するためのプロセス温度を下げる必要がある。また、別の原動力は、業界が形状(shape geometry)および光学的な歪みのレベルの点において最良の結果を得るために、低温で高いスループットで動作する外部プレス曲げプロセスをますます進めていることである。外部プレス曲げの用途では、本明細書に係るテーラーメイドのエナメルは、他の用途で標準とされる製品特性を一切あきらめることなく、低温焼成範囲に適している。本実施形態は、自律走行に向けた自動車市場において、センサーおよびカメラの配線および取り付けをサポートするために、フロントガラスに黒および銀のエナメルで複数かつ複雑な装飾を施す必要があり、ますます厳しくなる要求に応えるために特別に設計することができる。ある目的を果たすためにエナメル質の形態を特異的に調整することは、他の用途に拡大することも可能である。また、高価な原材料を減らし、より安価な材料に置き換える機会もある。
【実施例
【0041】
実施例
ガラスフリット、顔料、シード、および有機キャリア媒体の成分をともに混合することによりペースト組成物を調製し、以下の表にまとめたようにペースト処方の範囲を作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
前述の実施例では、フリット1は硫化ケイ酸亜鉛ガラスであり、フリット2はフリット1よりも低いシリカ含有量および低いガラス転移温度を有するケイ酸ビスマスガラスである。フリット1およびフリット2の粒径は、先に特定した範囲内であり、フリット1の粒子径は、D50、D90、および最大粒径のパラメータの点で、フリット2の粒径よりも著しく大きい。ペースト処方をガラス基材に堆積し焼成して、例えば、図2に示すようにレンガおよびモルタルのフリットモルフォロジーを有するエナメルコーティングを生成した。
【0044】
エナメルの機能的な性能特性をテストした。結果は、レンガおよびモルタルの不均質なフリット微細構造を有する本明細書のエナメルは、同じ2つのフリットタイプを含むがフリット粒度分布の点で均質なフリット微細構造を有する組成物と比較して、著しく低い焼成温度で最終用途の要求される性能値(不透明度、耐酸性など)を満たすことを示す。例えば、本発明の実施形態がベンチマークペーストに対して試験された比較研究では、少なくとも10℃、特定の例では25℃以上低い焼成温度で、得られるエナメルに要求される酸耐久性が達成された。比較研究では、ベンチマークペーストは、実施例と同じ種類のフリットを含むが、均質な粒径分布を有していた。このように、性能の向上は、エナメル質のフリット相の微細構造の変化に起因しており、第1(より高いガラス転移温度)フリットは、本明細書に記載されているようにレンガおよびモルタルのフリット微細構造を形成している第2(より低いガラス転移温度)フリットよりも大きい粒径を有することがわかる。
【0045】
本発明を特定の実施例を参照して特に示し説明したが、添付の請求項によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行うことができることは、当業者には理解されるであろう。
図1
図2
【国際調査報告】