(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】双像消去によるデジタル・ホログラフィック撮像技術
(51)【国際特許分類】
G03H 1/04 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
G03H1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523545
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 FR2021051820
(87)【国際公開番号】W WO2022084619
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(71)【出願人】
【識別番号】518294579
【氏名又は名称】ビオアステル
【氏名又は名称原語表記】BIOASTER
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】セダガート,ゾーレ
(72)【発明者】
【氏名】ジョッソ,クエンティン
(72)【発明者】
【氏名】ロール,ファビアン
【テーマコード(参考)】
2K008
【Fターム(参考)】
2K008AA06
2K008FF27
2K008HH01
2K008HH06
2K008HH28
(57)【要約】
デジタル・ホログラフィック撮像技法が逐次反復的な以下の段階をもつ:1)ホログラフィーによってホログラムを得る段階(S01)であって、前記ホログラムは、撮像される物体(1)の、ホログラム座標(zh)におけるホログラム平面においての、照明ビームと、撮像軸(6)上の物体座標(zo)に置かれた前記撮像される物体との間の相互作用によって引き起こされる干渉の空間強度分布を表す、段階と;2)複数の反復工程を実施する段階(S03)であって、各反復工程は以下の段階、すなわち:a)前記ホログラムの前記空間強度分布に対応する空間振幅分布と空間位相分布とを有するホログラム場の、前記物体座標への逆伝搬を通じて、撮像される物体の空間吸収分布および位相シフト分布に関わる物体場を決定する段階(S03a)と、b)前記空間吸収分布および位相シフト分布の値を、それらの値をそれぞれの閾値より下に減少させることによって閾値処理する段階であって、前記閾値は各反復工程で減少する、段階(S03b)と、c)前記ホログラム座標への前記物体場の再伝搬を通じて、修正された空間振幅分布および修正された空間位相分布を含む修正されたホログラム場を決定する段階(S03c)と、d)前記ホログラム場の前記空間位相分布を前記修正された空間位相分布で置き換える段階(S03d)。撮像される物体の前記空間位相シフト分布と吸収分布は、最後の反復工程の前記物体場のものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル・ホログラフィック撮像方法であって:
1)ホログラフィーによってホログラムを得る段階(S01)であって、前記ホログラムは、撮像される物体(1)の、ホログラム座標(z
h)におけるホログラム平面においての、照明ビームと、撮像軸(6)上の物体座標(z
o)に置かれた前記撮像される物体との間の相互作用によって引き起こされる干渉の空間強度分布を表す、段階と;
2)複数の反復工程を実施する段階(S03)であって、各反復工程は以下の段階、すなわち:
2.a)前記ホログラムの前記空間強度分布に対応する空間振幅分布と空間位相分布とを有するホログラム場の、前記物体座標への逆伝搬により、前記撮像される物体の空間吸収分布および空間位相シフト分布を含む物体場を決定する段階(S03a)、
2.b)前記空間吸収分布の値を吸収閾値より下に減少させ、前記空間位相シフト分布の値を位相シフト閾値より下に減少させることによって、前記撮像される物体の前記空間吸収分布および前記空間位相シフト分布の値を閾値処理する段階であって、前記吸収閾値および前記位相シフト閾値は各反復工程で減少する、段階(S03b)、
2.c)前記ホログラム座標への前記物体場の再伝搬により、修正された空間振幅分布および修正された空間位相分布を含む修正されたホログラム場を決定する段階(S03c)、
2.d)前記ホログラム場の前記空間位相分布を前記修正された空間位相分布で置き換える段階(S03d)であって、前記ホログラム場の前記空間振幅分布は保持される、段階を含む、段階と;
3)前記撮像される物体の前記空間位相シフト分布と前記空間吸収分布を、最後の反復工程の前記物体場のものとして決定する段階とを含む、
方法。
【請求項2】
閾値処理の間、前記吸収閾値より下の前記空間吸収分布の値および前記位相シフト閾値より下の前記空間位相シフト分布の値は、0に設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸収閾値は前記空間吸収分布の最大値に依存し、前記位相シフト閾値は前記物体場に含まれる前記空間位相シフト分布の最大値に依存する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
最初の反復工程では、前記吸収閾値および/または前記位相シフト閾値は、それぞれ前記空間吸収分布または空間位相シフト分布の最大値の40%から15%までの間に対応する、請求項1ないし3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各反復工程において、前記吸収閾値および/または前記位相シフト閾値は、前記空間吸収分布または空間位相シフト分布の最大値の1%から6%減少させられる、請求項1ないし4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
最後の反復工程では、前記吸収閾値および前記位相シフト閾値は0に設定される、請求項1ないし5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
逐次反復の間、閾値処理の際に、前記空間吸収および位相シフト分布の値は正または0に保たれる、請求項1ないし6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
逐次反復の前に、前記ホログラム場は、前記空間強度分布の値を前記ホログラム座標での前記照明ビームの強度に対応する背景像値で割ることによって正規化される、請求項1ないし7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記閾値処理は、前記修正された空間吸収分布と前記修正された空間位相シフト分布を平滑化することを含む、請求項1ないし8のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ホログラム場および/または前記物体場は、諸反復工程とともに増加する空間分解能をもつ、請求項1ないし9のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル・ホログラフィーの分野に関するものであり、より精密には、デジタル・ホログラフィック・撮像において双像を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル・ホログラフィーは、物体〔オブジェクト〕によって回折された波の位相および振幅を表すホログラムをセンサーを用いて記録する方法である。ホログラムは、照明ビームと、撮像される物体によって回折された光とによって生成される干渉パターンの空間的な強度分布を記録する。ホログラムは、デジタル再構成アルゴリズムを使用して、計算によって物体の像を再構成することを可能にする。より精密には、撮像された物体の位相および吸収の特性が、ホログラムからの逆伝播によって得られる。逆伝播は、たとえばレイリー・ゾンマーフェルト回折理論に基づく伝播アルゴリズムを使用して計算される。
【0003】
デジタル・ホログラフィーは、生物の細胞や生命体のような透明な物体を撮像する能力のため、特に生物学的撮像において、特にデジタル・ホログラフィック顕微鏡法において使用される。具体的には、他の撮像方法とは対照的に、デジタル・ホログラフィーは、透明な物体を可視化するための色素の注入や、撮像される生物学的物体を損傷する可能性のある高エネルギー放射線(たとえばX線)の使用を必要としない。
【0004】
ホログラフィック撮像は、撮像される物体の空間的な位相シフトおよび吸収の分布を見出すことを目的としている。具体的には、撮像される物体のこれらの特性は、撮像される物体を精密に特徴づけることを可能にし、したがって、たとえば、それを識別することを可能にする。
【0005】
さまざまなホログラフィー法の中でも、インライン・ホログラフィーは高い位相感受性をもち、そのため、低位相の(low-phase)生物学的物体を撮像するための最も好適な方法である。
【0006】
しかしながら、インライン・ホログラフィーには大きな欠点がある。すなわち、ホログラムが強度のみを記録し、ホログラム内の位相情報が失われることから帰結する、双像〔ツイン・イメージ〕(twin image)または正視像(orthoscopic image)が存在することである。双像は、ホログラムにおいて、ホログラムの平面に関して、撮像される物体に対称的に配置された追加的な撮像される物体から帰結するように見えるアーチファクトである。双像は焦点が合っていないため、位相および吸収像の再構成中に、撮像された物体の形状が歪みを生じ、それがこれらの像の利用を妨げる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インライン・ホログラフィー中に、双像の存在によるアーチファクトが除去されることを許容することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、以下の段階を含むデジタル・ホログラフィック撮像方法を提供する:
1)ホログラフィーによってホログラムを得る段階であって、前記ホログラムは、撮像される物体のホログラム座標におけるホログラム平面においての、照明ビームと、撮像軸上の物体座標に置かれた前記撮像される物体との間の相互作用によって引き起こされる干渉の空間強度分布を表す、段階と;
2)複数の反復工程を実施する段階であって、各反復工程は以下の段階、すなわち:
2.a)前記ホログラムの前記空間強度分布に対応する空間振幅分布と空間位相分布とを有するホログラム場の、前記物体座標への逆伝搬により、前記撮像される物体の空間吸収分布および空間位相シフト分布を含む物体場を決定する段階、
2.b)前記空間吸収分布の値を吸収閾値より下に減少させ、前記空間位相シフト分布の値を位相シフト閾値より下に減少させることによって、前記撮像される物体の前記空間吸収分布および前記空間位相シフト分布の値を閾値処理する段階であって、前記吸収閾値および前記位相シフト閾値は各反復工程で減少する、段階、
2.c)前記ホログラム座標への前記物体場の再伝搬により、修正された空間振幅分布および修正された空間位相分布を含む修正されたホログラム場を決定する段階、
2.d)前記ホログラム場の前記空間位相分布を前記修正された空間位相分布で置き換える段階であって、前記ホログラム場の前記空間振幅分布は保持される、段階を含む、段階と;
3)前記撮像される物体の前記空間位相シフト分布と前記空間吸収分布を、最後の反復工程の前記物体場のものとして決定する段階。
【0009】
本発明は、以下のさまざまな特性によって有利に補足されるが、それらは単独で、またはさまざまな可能な組み合わせにおいて実装されうる:
・閾値処理の間、前記吸収閾値より下の前記空間吸収分布の値および前記位相シフト閾値より下の前記空間位相シフト分布の値は、0に設定される;
・前記吸収閾値は前記空間吸収分布の最大値に依存し、前記位相シフト閾値は前記物体場に含まれる前記空間位相シフト分布の最大値に依存する;
・最初の反復工程では、前記吸収閾値および/または前記位相シフト閾値は、それぞれ前記空間吸収分布または空間位相シフト分布の最大値の40%から15%までの間に対応する;
・各反復工程において、前記吸収閾値および/または前記位相シフト閾値は、前記空間吸収分布または空間位相シフト分布の最大値の1%から6%減少する;
・最後の反復工程では、前記吸収閾値および前記位相シフト閾値は0に設定される;
・諸反復工程の間、閾値処理の間、前記空間吸収および位相シフト分布の値は正または0に保たれる;
・諸反復工程の前に、前記ホログラム場は、前記空間強度分布の値を前記ホログラム座標での前記照明ビームの強度に対応する背景像値で割ることによって正規化される;
・前記閾値処理は、前記修正された空間吸収分布と前記修正された空間位相シフト分布の平滑化を含む;
・前記ホログラム場および/または前記物体場は、諸反復工程とともに増加する空間分解能をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。この説明は、純粋に例示用であり、非限定的であり、添付図面を参照して読む必要がある。
【
図1】本発明のある可能な実施形態による方法の主な段階を示すフローチャートである。
【
図2】本発明のある可能な実施形態によるホログラムを取得するために使用されるホログラフィック撮像システムの一例を概略的に示す。
【
図3】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例の、細菌クラスターのホログラムを示す。
【
図4a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、
図3のホログラムから決定された初期の空間位相シフト分布を示す。
【
図4b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、
図3のホログラムから決定された初期の空間吸収分布を示す。
【
図4c】
図4aにおける細菌の位相シフト値のプロファイルを示す。
【
図5a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、最初の反復工程後の空間位相シフト分布を示す。
【
図5b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、最初の反復工程後の空間吸収分布を示す。
【
図5c】
図5aにおける細菌の位相シフト値のプロファイルを示す。
【
図6a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、5番目の反復工程後の空間位相シフト分布を示す。
【
図6b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、5番目の反復工程後の空間吸収分布を示す。
【
図6c】
図6aにおける細菌の位相シフト値のプロファイルを示す。
【
図7a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、20番目の反復工程後の空間位相シフト分布を示す。
【
図7b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第1の例において、20番目の反復工程後の空間吸収分布を示す。
【
図7c】
図7aにおける細菌の位相シフト値のプロファイルを示す。
【
図8a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第2の例において、撮像システムによって取得されたポリスチレン・ビーズのホログラムを示す。
【
図8b】前記方法の実装の第2の例のポリスチレン・ビーズの写真を示す。
【
図9a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第2の例において、最初の反復工程の前の、
図8aのホログラムから決定された初期の空間位相シフト分布を示す。
【
図9b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第2の例において、最初の反復工程の前の、
図8bのホログラムから決定された初期の空間吸収分布を示す。
【
図10a】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第2の例において、20番目の反復工程の後の空間位相シフト分布を示す。
【
図10b】本発明のある可能な実施形態による方法の実装の第2の例において、20番目の反復工程の後の空間吸収分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、デジタル・ホログラフィック撮像方法は、まず、ホログラフィーによって、典型的にはインライン・ホログラフィーによって撮像される物体のホログラムを得ること(段階S01)を含む。本発明を実施するために、ホログラフィーがインラインである必要はないが、双像の問題が最も深刻であるのは、インライン・ホログラフィーの文脈においてである。ホログラムはさまざまな仕方で得られるが、それが得られる仕方は本方法に影響しない。特に、ホログラムは撮像される物体によって発生する干渉の空間強度分布を表すため、ホログラムの取得態様は重要ではない。
【0012】
非限定的な例として、
図2は、ホログラフィック撮像システムの像平面に配置されたデジタル・イメージセンサー2によって物体1を撮像するためのインライン・ホログラフィック撮像システムを概略的に示している。撮像システムは、撮像軸6を画定しており、これはここでは簡単のために光軸に対応する直線で表されているが、撮像システムの光学部品の構成によっては、光の経路を定義する一連の直線の集合からなるのでもよい。物体1は撮像軸6上の物体座標z
oに置かれ、イメージセンサー2はホログラム座標z
hに置かれ、撮像軸6に対して垂直である。その結果、ホログラムは、撮像軸6上の物体座標z
oに置かれた撮像される物体1と照明ビームとの間の相互作用によって引き起こされる干渉の、ホログラム面(x,y)における空間強度分布H(x,y)を表す。
【0013】
光源4は、十分にコヒーレントな光の照明ビームによって、ホログラフィック撮像システムの視野内の物体1を照明するように構成される。光源4は、照明光を生成してもよく、あるいは単にこの照明光を伝える光ファイバーの端であってもよい。照明ビームは、特に追加的な制約条件なしに、ホログラフィック撮像に必要とされる従来の特性を備えている。よって、照明ビームは単色(たとえば約500nmの波長)であってもよく、あるいは可能性としては複数の波長で構成されていてもよく、それらの波長はたとえば順に使用される。ここでは、ホログラフィック撮像システムは、試料1とデジタル・イメージセンサー2の間に置かれた顕微鏡対物レンズ8(ここでは入口レンズ8aと出口レンズ8bによって図式化されている)を備えている。ただし、顕微鏡対物レンズ8は任意的であり、本発明はレンズを用いるホログラフィック顕微鏡法に限定されない。ここで説明する構成は、もちろん非限定的な一例である。顕微鏡対物レンズを用いるかどうかなどにかかわらず、任意のホログラフィック撮像システムが使用されうる。よって、与えられたホログラフィック撮像システムが、物体1によって生成された干渉パターンが現れる画像を取得できる限り、このホログラフィック撮像システムは、本方法を実装するのに適している。これに対して、得られたホログラムを取得するために使用された物体座標zoおよびホログラム座標zhは知られている必要がある。
【0014】
ホログラムの取得中、光源4は参照照明ビームを放出する。この参照照明ビームは、撮像軸6に沿ってZ方向に伝播する参照平面波と見なされてもよく、
R(z)=Aexp(j2πz/λ)
によって記述されてもよい。ここで、Aおよびλは、光源4によって放出される参照波の振幅および波長である。物体1は撮像軸6上の座標zoに配置され、その回折を生じる特性のため、入射する参照光を散乱させる。その結果、物体1によって散乱された波が生じ、O(x,y,z)と表される。散乱波O(x,y,z)と参照波R(z)がイメージセンサー2で干渉してホログラムを形成し、それは、撮像軸6上のイメージセンサー2の座標であるホログラム座標zhにおいてホログラム面を(x,yで)定義する。デジタル・イメージセンサー2は電磁場の強度にのみ感受性をもつので、ホログラムは、ホログラム座標zhにおける合計場の空間強度分布H(x,y,zh)に対応し、これはホログラム場と指定される:
H(x,y,zh)=|R(zh)+O(x,y,zh)|2
【0015】
物体1が存在しない場合、参照波の強度のみが検出され、ホログラム場は次のようになる:
H(x,y,zh)=|R(zh)|2=|A|2=B(zh)
B(zh)はホログラム座標zhでの背景像と呼ばれる。
【0016】
散乱波O(x,y,z)は入射波R(z)と、O(x,y,z)=t(x,y)R(z)となるような複素伝達関数t(x,y)によって関係付けられ、散乱波O(x,y,z)と参照波R(z)の加算から帰結する合計場U(x,y,z)は次のように書ける:
U(x,y,zo)=R(zo)(1+t(x,y))
【0017】
この関係は、参照波が吸収され、その位相が物体1によってシフトされるという事実を反映するように書き換えることができる:
U(x,y,zo)=R(zo)(1-a(x,y)exp(-jφ(x,y)))
ここで、a(x,y)は吸収であり、φ(x,y)は物体1による位相シフトである。これらは、物体1の特性(構造、組成など)に直接由来していてもよい。したがって、吸収aと位相シフトφは、物体1に関連する特性であると考えられてもよい。ただし、照明ビームの参照波の波長などのある種のパラメータにも関連するが。
【0018】
この方法を続ける前に、ホログラム座標zhにおける背景像B(zh)を使用して、ホログラムによって表される空間強度分布H(x,y)の正規化(段階S02)を実装することが可能である。空間強度分布H(x,y)の値を、均一な強度値Bをもつ背景画B(zh)で割ることは、照明ビームの参照波の振幅Aを1に設定することと等価であり、よって、計算を簡単にすることができる。したがって、以下では振幅Aは1に等しいと考える。
【0019】
次いで、この方法は、ホログラムにおいて保持されない合計場の位相を見出すために、光場の逆伝播および再伝播の複数のサイクルを介して、撮像される物体1の位相φおよび吸収aの特性を決定することを目的とした逐次反復的な段階(段階S03)の実装を含む。これらのサイクル中、位相φおよび吸収aにますます厳しくなる閾値処理が適用される。最高振幅の領域のみを保持し、他はフェードアウトされるためである。特に反復回数は適用される閾値の減少に依存する。典型的には、反復回数は少なくとも8、好ましくは少なくとも12である。
【0020】
物体場U(x,y,zo)のホログラム座標zhへの伝搬に対応するホログラム場は、ホログラムの空間強度分布H(x,y)によって表される空間振幅分布と、空間位相分布Ω(x,y,zh)とを含む複素場である。したがって、ホログラム場は次のように書ける:
U(x,y,zh)=(√H(x,y))exp[jΩ(x,y,zh)]
【0021】
イメージセンサー2は電磁場の強度にしか感受性がないため、ホログラム座標zhでの空間位相分布Ωは初期には不明であり、初期化値に設定される必要がある。初期化値は、ホログラム座標zhでの参照波R(zh)の位相Ω(zh)となるように選ぶことが有利であり、それは直接伝播によって推定される:
exp(j2πzh/λ)=exp(jΩ(zh))
【0022】
こうして、ホログラムから、ホログラムの空間強度分布に対応する空間振幅分布と初期化値に設定された初期の空間位相分布を含む初期ホログラム場が得られる。
【0023】
最初の逐次反復段階S03aでは、ホログラム場の物体座標z
oへの逆伝播によって、複素物体場が決定される。逆伝播は、たとえばレイリー・ゾンマーフェルト・モデルまたはキルヒホフ回折モデルなどの光回折モデルを利用する。そのような光回折モデルは、第1の点での場の表現の知識に基づいて、第2の点での光場の表現を決定することを可能にする。これに関しては、周波数領域で演算する、特に、非特許文献1に記述されているように、フーリエ変換を利用する平面波角スペクトル法を有利に使用することが可能である。
【非特許文献1】Joseph W. Goodman、"Introduction to Fourier Optics"、McGraw-Hill companies、3rd edition、2005
【0024】
第2の逐次反復段階S03bでは、撮像される物体1の空間吸収分布a(x,y)と空間位相シフト分布φ(x,y)の値が抽出される。上で示したように、物体場U(x,y,zo)は、撮像される物体1の空間吸収分布a(x,y)と空間位相シフト分布φ(x,y)を含む(次式および以下では正規化された形):
U(x,y,zo)=exp(jΩ(zo))(1-a(x,y)exp(-jφ(x,y)))
【0025】
物体1に入射する参照波の共役、すなわちexp(-jΩ(zo))との乗算により、複素伝達関数を形成する吸収aおよびシフトφが抽出される。吸収aおよびシフトφのこれらの値は、ホログラム場の物体座標zoへの逆伝搬から帰結し、参照波の存在のおかげで抽出されうる。
【0026】
撮像される物体1の吸収aおよびシフトの可能な値には、ある種の制約条件が課される。第一に、物体1による吸収が回折の結果として光振幅の増加につながってはならないことを意味するエネルギー保存のため、吸収値は負でない、すなわちa(x,y)≧0である必要がある。負の吸収値が発生する場合、それは双像と参照波との間の干渉の結果であり、それは0の値で置き換えられる。また、位相シフトが正である、すなわちφ(x,y)≧0であることも必要である。ほとんどの場合、撮像される物体1は、実際に、光伝播媒体の屈折率以上の屈折率をもつ。これは特に、撮像される物体1が水溶液中の細菌などの微生物である場合に当てはまる。これはまた、空気中のほとんどすべての物体にも当てはまる。よって、諸反復工程の間、空間吸収分布a(x,y)と位相シフト分布φ(x,y)の値は正または0に保たれる。
【0027】
ひとたび抽出されたら、撮像される物体1の空間吸収分布a(x,y)と空間位相シフト分布φ(x,y)の値は、閾値処理によって修正される。すなわち、それらの値をそれぞれの閾値より下に減少させることによって修正される。より精密には、吸収閾値未満の空間吸収分布a(x,y)の値は減少させられ、位相シフト閾値未満の空間位相シフト分布φ(x,y)の値は減少させられる。吸収閾値より上の空間吸収分布a(x,y)の値は減少させられず、位相シフト閾値より上の空間位相シフト分布φ(x,y)の値は減少させられない。吸収閾値未満の空間吸収分布a(x,y)と位相シフト閾値未満の空間位相シフト分布φ(x,y)の値は大幅に、50%より多く、好ましくは75%より多く減少させられ、より好ましくは0に設定される。
【0028】
各反復工程で閾値の値は減少する。好ましくは、吸収閾値は空間吸収分布a(x,y)の値に依存し、位相シフト閾値は空間位相シフト分布φ(x,y)の値に依存する。好ましくは、吸収閾値は空間吸収分布a(x,y)の最大値に依存し、好ましくは空間吸収分布a(x,y)がとる最大値に依存する。同様に、位相シフト閾値は空間位相シフト分布φ(x,y)の最大値に依存し、好ましくは空間位相シフト分布φ(x,y)がとる最大値に依存する。特に、吸収閾値の値は、空間吸収分布a(x,y)がとる最大値のある割合に対応してもよく、この割合は各反復工程で減少する。同様に、位相シフト閾値の値は、空間位相シフト分布φ(x,y)がとる最大値のある割合に対応してもよく、この割合は各反復工程で減少する。もちろん、その割合は、それらの空間分布の値の数に基づいて定義されることも可能であり、たとえば、平均または他の指標のある割合である。
【0029】
例として、最初の反復工程では、撮像される物体の空間吸収分布a(x,y)の吸収閾値および/または空間位相シフト分布φ(x,y)の位相シフト閾値は、それぞれ、空間吸収分布a(x,y)または空間位相シフト分布φ(x,y)の最大値の40%から15%の間に対応し、好ましくは、それぞれ、空間吸収分布a(x,y)または空間位相シフト分布φ(x,y)の最大値の30%から20%の間に対応する。すると、各反復工程で、閾値は、空間吸収分布a(x,y)または空間位相シフト分布φ(x,y)の最大値の2%から6%減少する。最後の反復工程では、空間吸収分布a(x,y)についての閾値が0に設定され、撮像される物体の空間位相シフト分布φ(x,y)についての閾値が0に設定される。これらの閾値の初期値、および反復工程ごとのその減少は、特に撮像される物体1の性質に依存し、そのため、それに適合させられてもよい。上述のように、反復回数は本質的に、それらの閾値の初期値、および反復工程ごとのその減少に依存する。閾値の減少は、規則的または不規則でありうる。
【0030】
双像によって引き起こされるノイズがホログラム内の撮像された物体の表現よりも常に振幅が小さい限り、閾値処理は撮像された物体の表現よりも双像の寄与を除去する。具体的には、定義により、撮像される物体は物体場における焦点にあるが、双像は焦点が合っていない。
【0031】
閾値処理を適用した後、修正された空間吸収分布a'(x,y)と修正された空間位相シフト分布φ'(x,y)が得られ、これらは修正された複素物体場U'(x,y,zo)を定義する:
U(x,y,zo)=exp(jΩ(zo))(1-a'(x,y)exp(-jφ'(x,y)))
【0032】
好ましくは、第2の逐次反復段階は、修正された空間吸収分布および修正された空間位相シフト分布を、典型的には、たとえばガウス・フィルタリングなどの低域通過フィルタリングを適用することによって、平滑化することを含む。平滑化は、閾値処理によって引き起こされるエッジでの高周波成分の生成を避けることを可能にする。好ましくは、平滑化フィルタのサイズ(すなわち、フィルタリング中に同時に考慮される隣接ピクセルの数)は、逐次反復が進行するとともに、たとえば閾値が減少されられるのと同時に、減少させられる。これにより、逐次反復の終わりに、撮像された物体における顕著なコントラストを見出すことが可能になる。
【0033】
第3の逐次反復段階(段階S03c)において、修正されたホログラム場U'(x,y,zh)が、修正された物体場U'(x,y,zo)のホログラム座標zhへの再伝播によって決定される。再伝播は、前述の逆伝播と同じモダリティを用い、よって、たとえばレイリー・ゾンマーフェルト・モデルまたはキルヒホフ回折モデルのような光回折モデルを利用することができる。結果として得られる修正されたホログラム場U'(x,y,zh)は、修正された振幅と修正された位相Ω'(x,y,zh)を含み、これは前の閾値処理段階で撮像される物体1の吸収および位相シフトに対してなされた修正を反映している。次の段階では、修正された位相のみが利用される。
【0034】
第4の逐次反復段階(段階S03d)では、ホログラム場Ω(x,y,zh)の位相が修正された位相Ω'(x,y,zh)で置き換えられるが、ホログラム場の振幅は保持される。つまり、修正されたホログラム場U'(x,y,zh)がホログラム場になり、修正された空間振幅分布は初期の空間振幅分布で置き換えられる。具体的には、ホログラムはホログラム場U(x,y,zh)の空間振幅分布に対応する空間強度分布H(x,y)を表していることが想起される。このことから、ホログラム場U(x,y,zh)の空間振幅分布はホログラムによって決定されており、修正される必要はない。対照的に、ホログラム場Ω(x,y,zh)の位相は設定されておらず、各反復工程において更新される。
【0035】
この第4の逐次反復段階(段階S03d)に続いて、ホログラム場はその空間位相分布Ω(x,y,zh)が更新され、新しい反復工程が最初の逐次反復段階(段階S03a)から始まってもよい。ただし、吸収閾値とシフト閾値は前の反復工程に対して減少させられている。反復工程のサイクルは、たとえば吸収閾値および/またはシフト閾値が0であるか、または少なくとも閾値未満であるという基準が満たされたときに終了する。反復回数を設定すること可能であり、その場合の基準は、設定された反復回数に達したことである。
【0036】
これらの反復工程に続いて、撮像される物体の空間位相シフトと吸収分布の値が、最後の反復工程から帰結する値であると決定される(段階S04)。より精密には、撮像される物体の空間位相シフトと吸収分布の値は、最後のホログラム場の物体座標への逆伝搬によって得られた最後の物体場に対応する値である。
【0037】
各反復工程において、吸収および位相シフトの値が得られる。しかしながら、これらの値は、本質的には双像に起因して、ノイズに汚染されている。閾値処理は、最も重要な寄与を保持することを許容し、一方、ノイズに汚染されたそれほど重要でない寄与は徐々に消去される。したがって、ノイズは反復工程ごとに減少する。既存の方法と比較して、本発明による方法は、急速に収束し、双像に起因するノイズを完全に消去するという利点がある。
【0038】
この方法は、閾値が徐々に減少する結果、最も散乱する領域(most scattering regions)において双像によって引き起こされるノイズを最初に除去し、すべての詳細を無視することとして解釈されてもよい。その後、閾値が減少すると、情報はより少なく散乱する要素(less scattering element)から回復される。したがって、最初に低解像度のホログラム場および/または物体場で作業し、その後、逐次反復の進行とともに、たとえば閾値の減少と同時にこの解像度を増加させることによって、この段階的な詳細の回復を利用して、方法の速度を加速することができる。具体的には、逐次反復の開始時に、画像は最も散乱する領域だけによって近似され、一方、閾値が徐々に低下するとともに、ますます細かい詳細が回復され、解像度の増加が正当化される。逐次反復の終わりには、それらの場は初期ホログラムと同じ解像度を回復してもよい。より低解像度の場に前記逐次反復を適用すると、方法の速度を大幅に加速することが可能になる。
【0039】
この方法は、撮像される物体がホログラフィック顕微鏡法によって取得された生物学的試料である生物学的撮像に特に好適である。具体的には、生物学的起源の物体は一般に、明確な輪郭をもつ正の吸収および位相シフトをもつ。したがって、生物学的撮像は、この方法の好ましい適用例である。ただし、この方法は生物学的物体以外の物体のタイプに使用されてもよい。
【0040】
逐次反復の効果を例解するために、
図2から
図5dは、桿菌のマイクロコロニーを表す物体のグループのコンピュータ生成さえたホログラムに関する、これらの逐次反復の実装の第1の例を示している。
図3は、もとのコンピュータ生成されたホログラム、すなわちイメージセンサー2によって記録された空間強度分布H(x,y)から生成されたホログラムを示している。見てわかるように、グループによって誘発された双像は、それを構成する個々の細菌の形状を強く歪ませる。これらの桿菌は、4つの内部散乱構造の整列を含んでいる。細菌は0.02の吸収と0.08のφ位相シフトをもち、内部散乱構造は0.05の最大吸収と0.1の最大位相シフトをもつ。
【0041】
図4aは、ホログラム場の物体座標への逆伝播の後の、
図3の初期物体場に対応する空間位相シフト分布を示し、
図4bは、ホログラム場の物体座標への逆伝播の後の、
図3の初期物体場に対応する空間吸収分布を示している。
図4cは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った位相シフト値の分布のプロファイルを示している。双像によって生成されるかなりの量のノイズの結果として、位相シフト・プロファイルは非常に平坦であり、約0.05または最大位相シフトの半分でピークに達することが見て取れる。したがって、ノイズは細菌内の四つの内部散乱構造を見分けて特徴付けることを妨げる。
図4dは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った吸収値の分布のプロファイルを示している。双像によって生成された大量のノイズの結果として、吸収プロファイルは0.04または最大吸収の半分でピークに達することが見て取れる。したがって、ノイズは細菌内の四つの内部散乱構造を特徴付けることを妨げる。
【0042】
最初の反復工程後、
図5aは空間位相シフト分布を示し、
図5bは空間吸収分布を示している。この例では、初期閾値は最大値の25%に設定されている。
図5cは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った位相シフト値の分布のプロファイルを示している。
図4cの以前のプロファイルと比較して、位相シフト・プロファイルの最大値は明らかに増加しており、今では約0.07である。
図5dは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った吸収値の分布のプロファイルを示している。
図4dの以前のプロファイルと比較して、吸収プロファイルの最大値は約0.05に増加している。
【0043】
第5の反復工程後、
図6aは空間位相シフト分布を示し、
図6bは空間吸収分布を示している。吸収と位相シフトの閾値は、反復工程のたびに徐々に減少させられた。
図6cは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った位相シフト値の分布のプロファイルを示している。
図5cの以前のプロファイルと比較して、位相シフト・プロファイルの最大値は明らかにさらに増加しており、今では約0.09である。しかしながら、内部散乱構造と細菌の間の値の差はまだ小さい。
図6dは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った吸収値の分布のプロファイルを示している。
図5dの以前のプロファイルと比較して、内部散乱構造と細菌の間の値の差が強調されている。
【0044】
20回目で最後の反復工程後に、
図7aは空間位相シフト分布を示し、
図7bは空間吸収分布を示している。吸収と位相シフトの閾値は、各反復工程で徐々に減少させられ、この最後の反復工程では0になった。
図7cは、2つの矢印の間の、桿菌の長手軸に沿った位相シフト値の分布のプロファイルを示している。
図6cの以前のプロファイルと比較して、位相シフト・プロファイルの最大値は増加しており、今では約0.10である。さらに、内部散乱構造と細菌の間の値の差が強調されており、細菌の吸収値は今では0.08に近づいている。したがって、撮像された物体の空間吸収分布の実際の値が実際に見出される。
図7dは、2つの矢印の間の桿菌の長手軸に沿った吸収値の分布のプロファイルを示している。
図6dの以前のプロファイルと比較して、内部散乱構造と細菌の間の値の差がさらに強調されている。今では、内部散乱構造に対応する最大値は0.05に達し、細菌に対応する最小値は0.02に達している。したがって、撮像された物体の空間吸収分布の実際の値が実際に見出される。
【0045】
したがって、この方法は、この例ではわずか20回の逐次反復で、ノイズを完全に消去し、内部散乱構造を含む細菌の位相シフトと吸収の正確な値を見出すことを可能にする。閾値処理が、撮像される物体の寄与よりも双像の寄与を消去する限り、逐次反復の最後に0に設定されている空間領域のサイズが大きくなるにつれて、収束の速度が向上する。そのため、収束は、像内の関心領域が小さい場合に、より速くなる。
図3におけるクラスターがより多くの細菌を含んでいたとしたら、つまり、撮像されるべき、より多くの関心対象の物体があったとしたら、正確な位相シフトと吸収の値を見出すために、反復回数をより多くしておく必要がったであろう。それはたとえば、閾値をよりゆっくり減少させることによる。
【0046】
図8aから
図10bは、実験データに対する本方法の実施の一例を示している。直径1.1μmのポリスチレン・ビーズをコロイド懸濁液を乾燥させ、次いで油に浸すことによってスライド上にランダムに置き、
図8aのホログラムを得た。ポリスチレン・ビーズは大きな位相シフトを生成したが、非常に低い吸収を有していた。非限定的な例として、この例のホログラムを取得するために使用されたホログラフィック撮像システムはインライン・ホログラフィック顕微鏡法システムであり、光源4として、405nmで発光し、半値全幅が12nmの単色LEDを使用していた。光源4はスライドから100nmのところに配置された。ホログラフィック撮像システムは、倍率80について開口数は100×1.3の顕微鏡対物レンズ8を有していた。イメージセンサー2としてCMOSセンサーを使用した。ビーズの屈折率は約1.63、液浸オイルの屈折率は約1.53であった。
図8aは、背景画像で正規化した後のホログラムを示している。比較のために、
図8bは同じ構成でのビーズの非ホログラフィック画像を示している。
【0047】
図2aおよび2bと同様に、
図9aは、ホログラム場を物体座標に逆伝播した後の
図8aの初期ホログラムに対応する空間位相シフト分布を示し、
図9bは、ホログラム場を物体座標に逆伝播した後の
図8aのもとの画像に対応する空間吸収分布を示している。ここでは、空間位相シフトおよび吸収の分布が、再び、双像によって生成されるノイズによって再び非常に大きな影響を受けることが見て取れる。特に、ビーズは吸収が低いと考えられているにもかかわらず、空間吸収分布は大きなゆらぎを含んでいる。
【0048】
上記で説明したように、複数の反復工程のサイクルが実施される。50回目で最後の反復工程後、
図10aは空間位相シフト分布を示し、
図10bは空間吸収分布を示している。吸収および位相シフトの閾値は、各反復工程で徐々に減少させられ、この最後の反復工程で0になる。一方では、空間位相シフト分布は、
図8bに示されるようなビーズの分布に明確に対応することが見て取れる。他方では、空間吸収分布の低い値は、ポリスチレン・ビーズの低い吸収性を正しく反映している。したがって、双像によって引き起こされるノイズは効果的に消去され、空間位相シフトと吸収分布の値が正しく決定された。
【0049】
本発明は、記載され、添付の図に示されている実施形態に限定されない。特にさまざまな技術的特徴の性質の観点から、または技術的同等物の代用の観点から、修正が、本発明の保護の範囲から逸脱することなく、依然として可能である。
【国際調査報告】