(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】PEG化ラパマイシン化合物、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C08G 65/333 20060101AFI20231023BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20231023BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20231023BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20231023BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231023BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231023BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231023BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C08G65/333
A61K31/436
A61K47/60
A61K9/19
A61K47/34
A61K47/26
A61K45/00
A61P37/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523642
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 CN2022083907
(87)【国際公開番号】W WO2022206796
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110365285.9
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523137968
【氏名又は名称】杭州宜生医薬科技発展有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】517340035
【氏名又は名称】瀋陽三生製薬有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】SHENYANG SUNSHINE PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.3,A1,Road 10,Shenyang Economy & Technology Development Zone,Shenyang,Liaoning,110027 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】郭聖栄
(72)【発明者】
【氏名】沈園園
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4J005
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC07
4C076DD38
4C076DD67
4C076EE06
4C076EE23
4C076EE59
4C084AA19
4C084MA01
4C084MA44
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA44
4C086MA66
4C086NA02
4C086NA05
4C086ZB08
4J005BD05
(57)【要約】
本発明はバイオ医薬の技術分野に属し、PEG化ラパマイシン化合物、その調製方法及び使用に関する。該化合物は式(I)に示され、ただし、nは10~150である。調製方法は、mPEG-COOHを有機溶媒に溶解し、触媒としてEDC・HCl、DMAP、及びRAPAを加え、0~40℃、遮光下で撹拌して反応させることである。該化合物及びその医薬製剤の、免疫応答を減少させる医薬品の調製における使用であって、バイオ医薬品例えば尿酸オキシダーゼなどの抗薬物抗体の生成を効果的に抑制することができ、臨床上の将来性が期待でき、特にナノ医薬品に調製するのに適している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)に示されるPEG化ラパマイシン化合物であって、nは10~150であるPEG化ラパマイシン化合物。
【請求項2】
mPEG-COOHを有機溶媒に溶解し、触媒としてEDC・HCl、DMAP、及びRAPAを加え、0~40℃、遮光下で撹拌して反応させることを特徴とする請求項1に記載のPEG化ラパマイシン化合物の調製方法。
【請求項3】
前記有機溶媒はジクロロメタン又はクロロホルムのうちの1種又は2種であることを特徴とする請求項2に記載のPEG化ラパマイシン化合物の調製方法。
【請求項4】
前記mPEG-COOHとRAPAとのモル比が5:1~1:5であることを特徴とする請求項2に記載のPEG化ラパマイシン化合物の調製方法。
【請求項5】
反応後の分離精製ステップをさらに含み、前記分離精製ステップは透析精製法又はシリカゲルカラムクロマトグラフィー法を用いることを特徴とする請求項2に記載のPEG化ラパマイシン化合物の調製方法。
【請求項6】
請求項1に記載のPEG化ラパマイシン化合物を含むナノ医薬品。
【請求項7】
前記PEG化ラパマイシン化合物の有効担持量が15%~100%であることを特徴とする請求項6に記載のナノ医薬品。
【請求項8】
ラパマイシンをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のナノ医薬品。
【請求項9】
PEG化ラパマイシン化合物、又はPEG化ラパマイシン化合物及びラパマイシンを有機溶媒に溶解して有機相とし、その後、ポリビニルアルコールを含有する水相に加え、高速撹拌、超音波、ボルテックス振とう及び/又は高圧ホモジナイザにより水中油乳状液とし、最後に、有機溶媒を蒸発して除去させ、PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を得ることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載のナノ医薬品の調製方法。
【請求項10】
前記PEG化ラパマイシンの前記有機相中の濃度が0.1~10mg/mLであり、前記ポリビニルアルコールの前記水相中の濃度が0~5%(w/v)であり、前記有機相/前記水相の比率が1/1~1/100(v/v)であることを特徴とする請求項9に記載のナノ医薬品の調製方法。
【請求項11】
請求項9に記載のPEG化ラパマイシンナノ粒子の水溶液と凍結乾燥保護剤を凍結乾燥させてなることを特徴とする凍結乾燥製剤。
【請求項12】
前記凍結乾燥保護剤はスクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、トレハロース、マルトースのうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項11に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
請求項1に記載のPEG化ラパマイシン化合物の治療有効量と、医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項14】
バイオ医薬品をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記バイオ医薬品は尿酸オキシダーゼ、酵素と補酵素類医薬品、核酸、その分解物及び誘導体類医薬品、細胞増殖因子又はサイトカインのうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1に記載のPEG化ラパマイシン化合物、請求項6~8のいずれか1項に記載のナノ医薬品、請求項11に記載の凍結乾燥製剤又は請求項13~15のいずれか1項に記載の医薬組成物の、免疫応答を減少させる医薬品の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ医薬の技術分野に属し、PEG化ラパマイシン化合物、その調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年に世界で最も売れて売上高が伸びた医薬品トップ10のうち8種類がモノクローナル抗体である。世界のバイオ医薬産業は急速に成長しており、しかし、小分子化薬と比べて、大多数のバイオ医薬品は免疫原性を持ち、生体に入った後に免疫応答を引き起こし、抗薬物抗体を発生させ、それによってバイオ医薬品の薬物動態学と生物分布を中和又は変化させ、深刻な場合は、生体の過敏反応など生命を脅かす毒性や副作用を誘導する可能性がある。そのため、バイオ医薬品による治療時の抗薬物抗体の生成を抑制することはバイオ医薬品の安全性と有効性を高める上で非常に重要である。
【0003】
免疫抑制剤とは、生体の免疫反応を抑制する作用のある医薬品で、免疫反応に関連する細胞(T細胞やB細胞などのマクロファージ)の増殖や機能を抑制することで、抗体免疫反応を低下させることができる。免疫抑制剤は主に臓器移植の抗拒絶反応と自己免疫疾患、例えば関節リウマチ、エリテマトーデス、皮膚真菌症、膜腎球腎炎、炎症性腸疾患や自己免疫性溶血貧血などに用いられる。
【0004】
ラパマイシン(RAPA:rapamycin)はシロリムスとも呼ばれ、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカスが産生した親油性トリエン含窒素マクロライド抗生物質類免疫抑制剤であり、癌、抗移植片拒絶反応及びびその他の免疫性疾患の補助治療に適用できる。ラパマイシンは哺乳動物におけるラパマイシンのターゲットタンパク質(mammalian target of rapamycin、mTOR)が関与するシグナル伝達を阻止することによって、T細胞の分化と樹状細胞の成熟を阻止し、免疫抑制作用を発揮する。
【0005】
Takashi K. Kishimotoは、免疫抑制剤であるラパマイシンを担持したポリ乳酸-グリコール酸(poly(lactic acid-co-glycolic acid)、PLGA)ナノ粒子が免疫寛容性を有し、バイオ医薬品による抗薬物抗体の生成を効果的に抑制することを初めて報告し(Nature nanotechnology,2016,11(10): 890-899)、これを免疫寛容ナノ粒子と定義した。上記の文献はラパマイシンをPLGA担体に包埋して作製したラパマイシンPLGAナノ粒子が免疫寛容を誘導し、バイオ医薬品による抗薬物抗体の生成を抑制する機能を有することを報告した。PLGAは人工的に合成された高分子量化合物であり、それ自体は薬理作用がなく、薬用補助材料である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1目的は、疎水性ラパマイシン部分と親水性PEG鎖を含み、ナノ粒子の調製に好適な担体であるPEG化ラパマイシン化合物を提供する。
【0007】
本発明の第2目的は、反応条件が温和で、操作されやすい上記化合物の調製方法を提供することである。
【0008】
本発明の第3目的は、上記化合物、上記化合物を用いて調製されたナノ医薬品、凍結乾燥製剤、医薬組成物及び免疫応答を減少させる医薬品の調製におけるこれらの使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
式(I)に示されるPEG化ラパマイシン化合物であって、nは10~150である。
【0010】
本発明はまた、mPEG-COOHを有機溶媒に溶解し、触媒としてEDC・HCl、DMAP、及びRAPAを加え、0~40℃、遮光下で撹拌して反応させる上記PEG化ラパマイシン化合物の調製方法を開示する。
【0011】
本発明の一実施例では、該調製方法の反応温度が好ましくは20~30℃である。
【0012】
本発明の一実施例では、前記有機溶媒はジクロロメタン又はクロロホルムのうちの1種又は2種、好ましくはジクロロメタンである。
【0013】
本発明の一実施例では、前記mPEG-COOHとRAPAとのモル比が5:1~1:5、好ましくは3:1~1:3である。
【0014】
本発明の一実施例では、反応後の分離精製ステップをさらに含み、前記分離精製ステップは透析精製法又はシリカゲルカラムクロマトグラフィー法を用いる。
【0015】
本発明の一実施例では、前記透析精製法は透析袋及び透析溶媒を用いて分離精製を行う。ここで、前記透析袋の分画分子量が500~5000、好ましくは1500である。前記透析溶媒はDMSO、ハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、超純水のうちの1種又は複数種、好ましくはDMSO、超純水のうちの1種又は2種、より好ましくはDMSO及び超純水である。
【0016】
本発明の一実施例では、前記シリカゲルカラムクロマトグラフィー法による溶出方式はイソクラティック溶出又は勾配溶出、好ましくは勾配溶出である。
【0017】
本発明の一実施例では、前記勾配溶出に使用される溶出剤はジクロロメタン、酢酸エチル、無水メタノールのうちの2種又は複数種、好ましくはジクロロメタンと無水メタノールの混合溶媒である。ここで、ジクロロメタンと無水メタノール(v/v)の比は100:1~10:1、好ましくは50:1~20:1である。
【0018】
本発明はまた、有効担持量の上記PEG化ラパマイシン化合物、好ましくは、有効担持量の上記PEG化ラパマイシン化合物と遊離ラパマイシンとからなるナノ医薬品を開示する。
【0019】
本発明の一実施例では、前記PEG化ラパマイシンナノ粒子の粒子径が5~1000nm、好ましくは50~200nmである。
【0020】
本発明の一実施例では、前記PEG化ラパマイシンナノ粒子の担持量は15%~100%、好ましくは25%~85%である。
【0021】
本発明はまた、下から上への方法によって製造する上記ナノ医薬品の調製方法を開示し、前記PEG化ラパマイシンナノ粒子の調製方法は、乳化/溶媒揮発法、ナノ沈殿法、薄膜分散法、自己集合法又はSPG膜法乳化、好ましくは乳化/溶媒揮発法を含む。
【0022】
本発明の一実施例では、前記乳化/溶媒揮発法はPEG化ラパマイシン化合物、又はPEG化ラパマイシン化合物とラパマイシンを有機溶媒に溶解して有機相とし、その後、ポリビニルアルコールを含有する水相に加え、高速撹拌、超音波、ボルテックス振とう及び/又は高圧ホモジナイザにより水中油乳状液とし、最後に、有機溶媒を蒸発して除去させて、PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を得ることである。
【0023】
本発明の一実施例では、該乳化/溶媒揮発法に使用される有機溶媒はクロロホルム、CH2Cl2のうちの1種又は2種、好ましくはCH2Cl2である。
【0024】
本発明の一実施例では、該乳化/溶媒揮発法において前記PEG化ラパマイシンの前記有機相中の濃度が0.1~10mg/mL、好ましくは0.5~5mg/mLである。
【0025】
本発明の一実施例では、該乳化/溶媒揮発法において遊離ラパマイシンがさらに含まれており、前記遊離ラパマイシン/前記PEG化ラパマイシンの比率が0~20/1(w/w)、好ましくは1/5~5/1(w/w)である。
【0026】
本発明の一実施例では、該乳化/溶媒揮発法において前記有機相/前記水相の比率が1/1~1/100(v/v)、好ましくは1/2~1/10(v/v)である。
【0027】
本発明の一実施例では、該乳化/溶媒揮発法において、前記ポリビニルアルコールの前記水相中の濃度が0~5%(w/v)、好ましくは0.5%~2%(w/v)である。
【0028】
本発明はまた、上記PEG化ラパマイシンナノ粒子の水溶液と凍結乾燥保護剤を凍結乾燥させてなる凍結乾燥製剤を開示する。
【0029】
本発明の一実施例では、前記凍結乾燥保護剤はスクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、トレハロース、マルトースのうちの1種又は複数種である。
【0030】
本発明の一実施例では、前記凍結乾燥保護剤の前記PEG化ラパマイシンナノ粒子の水溶液中の濃度が0.1%~20%(w/v)、好ましくは2%~8%(w/v)である。
【0031】
本発明の一実施例では、凍結乾燥製剤の調製に使用される予備凍結温度が<-10℃、好ましくは-30℃~-50℃である。予備凍結方式は急速冷凍と徐速冷凍、好ましくは急速冷凍である。
【0032】
本発明はまた、上記PEG化ラパマイシン化合物の治療有効量と、医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を開示する。
【0033】
本発明の一実施例では、バイオ医薬品をさらに含む。
【0034】
本発明の一実施例では、前記バイオ医薬品は、タンパク及びポリペプチド医薬品、尿酸オキシダーゼ、酵素と補酵素類医薬品、核酸、その分解物及び誘導体類医薬品、細胞増殖因子又はサイトカインのうちの1種又は複数種、好ましくは尿酸オキシダーゼである。
【0035】
本発明はまた、上記PEG化ラパマイシン化合物、上記ナノ医薬品、上記凍結乾燥製剤又は上記医薬組成物の、免疫応答を減少させる医薬品の調製における使用を開示する。
【発明の効果】
【0036】
従来技術に比べ、本発明の有益な効果は以下の通りである。
1.本発明のPEG化ラパマイシンは、構成が明確であり、純度が高く、疎水性ラパマイシン部分と親水性PEG鎖を含み、ナノ粒子の調製に好適な担体である。
2.本発明のPEG化ラパマイシンナノ粒子はPEG化ラパマイシンとラパマイシンとからなり、PEG化ラパマイシンも担体とし、PEG化ラパマイシン分子中のラパマイシン部分と遊離ラパマイシン分子がナノ粒子の疎水性核を構成し、ナノ粒子の表面に親水性PEGセグメントがあり、このため、水中の分散安定性が高い。
3.本発明のPEG化ラパマイシンナノ粒子は免疫標的性を持ち、免疫器官例えば脾臓に濃縮されて医薬品を放出し、バイオ医薬品により抗薬物抗体が生成され、免疫寛容性を引き起こすことを効果的に抑制することができる。本発明のPEG化ラパマイシンナノ粒子はラパマイシン含有量が高く、ラパマイシンPLGAナノ粒子よりも抗薬物抗体の生成を抑制する効果が高く、そして、ラパマイシンの長期間の高用量投与による毒性や副作用を回避し、PLGAなどの薬用補助材料を含有しない。
本発明は親水性ポリエチレングリコールをエステル化反応により疎水性ラパマイシンに連結して両親媒性PEG化ラパマイシンを製造し、その後、PEG化ラパマイシン単独又はPEG化ラパマイシンをラパマイシンとともに良好な水溶性のPEG化ラパマイシンナノ粒子とするものであり、バイオ医薬品例えば尿酸オキシダーゼなどの抗薬物抗体の生成を効果的に抑制することができ、臨床上の将来性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】mPEG-COOHの
1H NMR及び
13C NMRスベクトル(CDCl
3を溶媒とする)であり、
図1(a)は
1H NMRスベクトルの完全な図であり、
図1(b)は
1H NMRスベクトルのスベクトルにおける各ピークの帰属であり、
図1(c)は
13C NMRスベクトルの完全な図であり、
図1(d)は
13C NMRスベクトルの部分拡大図であり、
図1(e)は
13C NMRスベクトルのスベクトル(CDCl
3を溶媒とする)における各ピークの帰属である。
【
図2】PEG化ラパマイシンの
1H NMR及び
13C NMRスベクトル(CDCl
3を溶媒とする)であり、
図2(a)は
1H NMRスベクトルの完全な図であり、
図2(b)~
図2(c)は
1H NMRスベクトルの部分拡大図であり、
図2(d)は
13C NMRスベクトルの完全な図であり、
図2(e)~
図2(h)は
13C NMRスベクトルの部分拡大図である。
【
図3】本発明の実施例のPEG化ラパマイシン化合物の構造式(I)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、特定実施例によって本発明をさらに説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するために過ぎず、本発明の特許範囲を限定するものではない。実際に適用するときに当業者が本発明に基づいて行う改良や調整は全て本発明の特許範囲に属する。
【0039】
本発明に使用される原料、試薬、器具は全て市販品として入手できる。略語用語は以下のとおりである。EDC.HCl:1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボニルジイミド塩酸塩;DMAP:ジメチルアミノピリジン;DMSO:ジメチルスルホキシド;PVA:ポリビニルアルコール;DLS:動的レーザ光散乱方法。
【0040】
一、PEG化ラパマイシンの調製及び精製
【0041】
実施例1
mPEG-COOH(略称PEG、平均分子量約2000、0.2g、0.1mmol)をCH2Cl2(8mL)に溶解し、RAPA(0.1g、0.1mmol)、EDC.HCl(0.04g、0.2mmol)及びDMAP(0.024g、0.2mmol)を加え、振とう/撹拌により完全に溶解し、室温、遮光下で36時間反応させ、反応液を濃縮させて濃縮液を得て、濃縮液をDMSO(2mL)で溶解し、得た溶液を透析袋(分画分子量:1500 Da)に入れ、DMSOと超純水を用いて順次1d及び2d透析し、4hごとに透析媒体を1回交換し、透析液を凍結乾燥させて、PEG化ラパマイシン0.074gを得て、収率は23.2%であった。
【0042】
実施例2
mPEG-COOH(略称PEG、平均分子量約2000、0.3007g、0.15mmol)をCH2Cl2(50mL)に溶解し、RAPA(0.2722g、0.30mmol)、EDC.HCl(0.0289g、0.15mmol)及びDMAP(0.0020g、0.15mmol)を加え、振とう/撹拌により完全に溶解し、室温、遮光下で撹拌して8時間反応させ、反応液を濃縮させ、PEG化ラパマイシン含有濃縮液を得て、粗収率は12.1%であった。
【0043】
実施例3
mPEG-COOH(略称PEG、平均分子量約2000、1.196g、0.60mmol)をCH2Cl2(50mL)に溶解し、RAPA(0.2754g、0.30mmol)、EDC.HCl(0.1157g、0.60mmol)及びDMAP(0.0070g、0.06mmol)を加え、振とう/撹拌により完全に溶解し、室温、遮光下で撹拌して4時間反応させ、反応液を濃縮させ、PEG化ラパマイシン含有濃縮液を得て、粗収率は39.8%であった。
【0044】
実施例4
mPEG-COOH(略称PEG、平均分子量約2000、1.8027g、0.90mmol)をCH2Cl2(20mL)に溶解し、RAPA(0.2758g、0.30mmol)、EDC.HCl(0.1727g、0.90mmol)及びDMAP(0.0114g、0.90mmol)を加え、振とう/撹拌により完全に溶解し、室温、遮光下で撹拌して24時間反応させ、反応液を濃縮させ、PEG化ラパマイシン含有濃縮液を得て、粗収率は59.1%であった。
【0045】
実施例5
mPEG-COOH(略称PEG、平均分子量約2000、1.8011g、0.90mmol)をCH2Cl2(10mL)に溶解し、RAPA(0.2754g、0.30mmol)、EDC.HCl(0.1720g、0.90mmol)及びDMAP(0.0105g、0.09mmol)、振とう/撹拌により完全に溶解し、室温、遮光下で撹拌して18時間反応させ、反応液を濃縮させ、PEG化ラパマイシン含有濃縮液を得て、粗収率は62.1%であった。以下の実施例6~8に示すようにカラムクロマトグラフィー法によりPEG化ラパマイシン含有濃縮液を精製した。
【0046】
実施例6
PEG化ラパマイシン含有濃縮液中、各成分の比率としては、PEG-RAPA:RAPA:ラパマイシンPEG化の副生成物は52:15:9(w/w)であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーは採用され、溶出剤はジクロロメタン/無水メタノール(50:1/30:1/20:1)であり、溶出時間は25min/40min/120minであり、PEG-RAPA収率は85.3%であり、PEG-RAPA純度は95.9%であり、RAPA除去率は93.2%であり、ラパマイシンPEG化副生成物の除去率は90.0%であった。
【0047】
実施例7
PEG化ラパマイシン含有濃縮液中、各成分の比率としては、PEG-RAPA:RAPA:ラパマイシンPEG化の副生成物は48:13:12(w/w)であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーは採用され、溶出剤はジクロロメタン/無水メタノール(50:1/30:1/10:1)であり、溶出時間は25min/50min/25minであり、PEG-RAPA収率は80.8%であり、PEG-RAPA純度は95.1%であり、RAPA除去率は92.8%であり、ラパマイシンPEG化副生成物の除去率は90.7%であった。
【0048】
実施例8
PEG化ラパマイシンの濃縮液中、各成分の比率としては、PEG-RAPA:RAPA:ラパマイシンPEG化の副生成物は41:11:16(w/w)であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーは採用され、溶出剤はジクロロメタン/無水メタノール(50:1/40:1/30:1)であり、溶出時間は25min/70min/200minであり、PEG-RAPA収率は63.1%であり、PEG-RAPA純度は98.5%であり、RAPA除去率は96.4%であり、ラパマイシンPEG化副生成物の除去率は100.0%であった。
【0049】
二、PEG化ラパマイシンの構造特徴付け
【0050】
実施例9
本発明では、以下の式(II)に示される構造を有するmPEG-COOHとラパマイシン分子上の40位の炭素原子におけるヒドロキシとをエステル化反応させて、以下の式(I)に示される構造のPEG化ラパマイシンを得て、構造特徴付け結果を
図1及び
図2に示す。
図1においては、mPEG-COOHの
1H NMR スベクトルにおいて対応するmPEG-COOH分子中の-CH
2-COOH構造のメチレン上の水素原子(a)で校正し(ピーク面積は2.00として校正される)、mPEG-COOH分子の繰り返し構造単位における水素原子(b)に対応するピークの面積は183.86であり、計算した結果、mPEG-COOHの重合度は46、mPEG-COOH分子量は2114であった。
図2においては、mPEG-COOH、ラパマイシン及びPEG化ラパマイシンの核磁気共鳴スペクトルから、ラパマイシン10-C δ(97.47)には、有意な変化が認められず、ラパマイシン28-C δ(75.70)には、有意な変化が認められず、ラパマイシン40-C δ(79.31)には、有意な変化が認められ、これは、PEG化ラパマイシンがラパマイシン分子において40-Cに連結されたOHとmPEG-COOHとのエステル化産物であることを示した。
PEG化ラパマイシンの分子構造を
図3に示す。
mPEG-COOHの構造式:
【0051】
三、PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液の調製
実施例10
PEG-RAPA 20mgとRAPA 2mgを秤量し、CH
2Cl
25mLを加えて十分に溶解し、有機相を得て、0.5% PVAを含む水溶液50mLを水相として採取し、プローブ超音波を使用して、氷浴条件下で、超音波処理しながら注射器で有機相を水相に滴下し、10min超音波乳化し、白色乳剤を得た。40℃でロータリーエバポレータにより有機溶媒を除去し、4000r/minで5min遠心分離して未封入の医薬品や大粒子径の粒子を除去し、上清としてPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を得た。
DLS法によってPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液の粒子径及び多分散指数(PDI:polydispersity index)を測定した。
PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液100μLにアセトニトリルを加えて1mLとし、20min超音波処理してナノ粒子構造を破壊し、ラパマイシンを遊離して溶液に放出し、12000r/minで10min遠心分離し、上清を0.22μm微孔ろ過膜でろ過した後、HPLC分析によってRAPA濃度を測定し、PEG化ラパマイシンナノ粒子の封入率及び担持量を測定した。
検出結果を表1に示す。
【0052】
実施例11
PEG-RAPA 20mgとRAPA 4mgを秤量し、CH
2Cl
2 20mLを加えて十分に溶解し、有機相を得て、1%PVAを含む水溶液40mLを水相として採取し、プローブ超音波を採用して、氷浴条件下で、超音波処理しながら注射器で有機相を水相に滴下し、20min超音波乳化し、白色乳剤を得た。40℃でロータリーエバポレータにより有機溶媒を除去し、4000r/minで5min遠心分離して未封入の医薬品や大粒子径の粒子を除去し、上清としてPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を得た。
DLS法によってPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液の粒子径及びPDIを測定した。
PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液100μLにアセトニトリルを加えて1mLとし、20min超音波処理してナノ粒子構造を破壊し、ラパマイシンを遊離して溶液に放出し、12000r/minで10min遠心分離し、上清を0.22μm微孔ろ過膜でろ過した後、HPLC分析によってRAPA濃度を測定し、PEG化ラパマイシンナノ粒子の封入率及び担持量を測定した。
検出結果を表2に示す。
【0053】
実施例12
PEG-RAPA 20mgとRAPA 8mgを秤量し、CH
2Cl
2 40mLを加えて十分に溶解し、有機相を得て、2%PVAを含む水溶液120mLを水相として採取し、プローブ超音波を使用して、氷浴条件下で、超音波処理しながら注射器で有機相を水相に滴下し、30min超音波乳化し、白色乳剤を得た。40℃でロータリーエバポレータにより有機溶媒を除去し、4000 r/minで5min遠心分離して未封入の医薬品及び大粒子径の粒子を除去し、上清としてPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を得た。
DLS法によってPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液の粒子径及びPDIを測定した。
PEG化ラパマイシンナノ粒子溶液100μLにアセトニトリルを加えて1mLとし、20min超音波処理してナノ粒子構造を破壊し、ラパマイシンを遊離して溶液に放出し、12000r/minで10min遠心分離し、上清を0.22μm微孔ろ過膜でろ過した後、HPLC分析によってRAPA濃度を測定し、PEG化ラパマイシンナノ粒子の封入率及び担持量を測定した。
検出結果を表3に示す。
四、PEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の調製
【0054】
実施例13
上記実施例10~12の方法によって調製されたPEG化ラパマイシンナノ粒子溶液を12000r/minで45min遠心分離し、上清を捨てて、PVAを蒸発して除去し、沈殿を超純水で重懸濁させ、濃縮ナノ粒子水溶液を得た。ナノ粒子水溶液2mLを10mLバイアルに入れて、凍結乾燥保護剤(5質量%)を加えて、凍結乾燥させた。
(1)様々な凍結乾燥保護剤を用いたPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の調製
凍結乾燥保護剤は5質量%とした。凍結乾燥保護剤0.1gを10mLバイアルに入れて、PEG化ラパマイシンナノ粒子水溶液2mLで溶解した後、凍結乾燥を行った。調製されたナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の外観、再溶解速度、澄明度を観察し、再溶解後のナノ粒子の粒子径及びPDIを測定した。
様々な凍結乾燥保護剤を用いて調製されたPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の品質の評価を表4に示す。
注:1.外観:+萎縮し、崩れが激しく、完全には外れない。++部分的に萎縮し、崩れが認められ、やや壁に付着する。+++萎縮したり崩れたりすることなく、丸ごと抜け落ちることができる。2.再溶解速度:+完全再溶解までに1minの超音波処理が必要。++完全再溶解までに30sの超音波処理が必要。+++直ちに再溶解。3.澄明度:+乳光性は劣り、濁りが目立つ。++乳光はあるが少し濁りがある。+++乳光がはっきりし、濁りがない。
(2)様々な予備凍結温度でのPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の調製
予備凍結温度-35℃及び-45℃でPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤をそれぞれ調製した。調製されたナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の外観、再溶解速度、澄明度を観察し、再溶解後のナノ粒子粒子径及びPDIなどを測定した。
様々な予備凍結温度で調製されたPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の品質の評価を表5に示す。
注:1.外観:+萎縮し、崩れが激しく、完全には外れない。++部分的に萎縮し、崩れが認められ、やや壁に付着する。+++萎縮したり崩れたりすることなく、丸ごと抜け落ちることができる。2.再溶解速度:+完全再溶解までに1minの超音波処理が必要。++完全再溶解までに30sの超音波処理が必要。+++直ちに再溶解。3.澄明度:+乳光性は劣り、濁りが目立つ。++乳光はあるが少し濁りがある。+++乳光がはっきりし、濁りがない
(3)様々な予備凍結方式によるPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の調製
急速冷凍法及び徐速冷凍法のそれぞれによってPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤を調製した。調製されたナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の外観、再溶解速度、澄明度を観察し、再溶解後のナノ粒子粒子径及びPDIなどを測定した。
様々な予備凍結方式によって調製されたPEG化ラパマイシンナノ粒子凍結乾燥粉末注射剤の品質の評価を表6に示す。
注:1.外観:+萎縮し、崩れが激しく、完全には外れない。++部分的に萎縮し、崩れが認められ、やや壁に付着する。+++萎縮したり崩れたりすることなく、丸ごと抜け落ちることができる。2.再溶解速度:+完全再溶解までに1minの超音波処理が必要。++完全再溶解までに30sの超音波処理が必要。+++直ちに再溶解。3.澄明度:+乳光性は劣り、濁りが目立つ。++乳光はあるが少し濁りがある。+++乳光がはっきりし、濁りがない
【0055】
五、ラパマイシンナノ粒子と尿酸オキシダーゼの併用によるマウス体内の抗尿酸オキシダーゼ抗体の低減効果の試験
実施例14
本発明で調製されたPEG化ラパマイシンナノ粒子(ナノ粒子粒子径160.4nm、ラパマイシン含有量:663.8μg/本)、ラパマイシンPLGAナノ粒子(ナノ粒子粒子径170.5nm、ラパマイシン含有量:294.8μg/本)、組み換えカンジダ尿酸オキシダーゼ(含有量:0.72mg/mL*7mL/本)は、瀋陽三生製薬有限責任公司瀋陽研究開発センター製である。
マウス45匹を体重によって15匹ずつ3群に分けた。群分け及び投与量を表7に示す。
群1、群2、群3では、週に2回投与し、4週間連続して投与し(抗尿酸オキシダーゼ抗体の検出結果によって、投与周期を延ばしてもよい)、各群はマウスへ静脈注射投与した。群2及び群3では、投与前に、尿酸オキシダーゼとナノ粒子を混合しておいた。
最後に投与してから約5日後、マウス全血0.5mLを非抗凝固管に採取し、血清分離後、凍結保存して、抗尿酸オキシダーゼ抗体を検出した。
抗尿酸オキシダーゼ抗体の検出結果を表8、表9に示す。
各群のマウスは尾静脈注射投与し(灰色背景は、尾静脉投与ができない場合、腹腔注射投与に変更し、1匹あたり1~2回、4週間(8回))、群2(PEG化ラパマイシン重合体ナノ粒子+尿酸オキシダーゼ)は、抗尿酸オキシダーゼ抗体力価が最も小さく、群3(PLGA担持ラパマイシンナノ粒子+尿酸オキシダーゼ)は対照群1(尿酸オキシダーゼ対照群)と比べ、有意な優位性が認められなかった。
各群のマウスは尾静脈注射投与し(灰色背景は、尾静脉投与ができない場合、腹腔注射投与に変更し、1匹ずつ5回以下、6週間(12回))、その結果、4週間投与した場合と実質的に同じであり、しかも、群3では、3匹のマウスの抗体力価は増加した。
尿酸オキシダーゼタンパク質とPEG化ラパマイシンナノ粒子とを併用することによって、マウス体内の抗尿酸オキシダーゼ抗体の生成を効果的に阻止することができ、しかも、尿酸オキシダーゼタンパク質とラパマイシンPLGAナノ粒子とを併用する場合よりも明らかに優れた効果が得られる。
【0056】
以上で開示された本発明の好適な実施例は本発明を説明するものに過ぎない。好適な実施例において詳部が具体的に記載されておらず、また、本発明は前記特定実施形態に限定されるものではない。もちろん、本明細書の内容に基づいて様々な修正や変化が可能である。本明細書においてこれらの実施例を詳細に説明するのは、本発明の原理及び実際の適用を効果的に説明し、当業者が本発明をよく理解して利用できるようにすることを目的とする。本発明は特許請求の範囲及びその全体の範囲や均等物のみにより限定される。
【国際調査報告】