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特表2023-545681EGFRを標的とするキメラ抗原受容体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(54)【発明の名称】EGFRを標的とするキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231024BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231024BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231024BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231024BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20231024BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C07K14/725
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/13
A61K35/17
A61P35/00
A61K45/00
A61K48/00
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520016
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 CN2021121678
(87)【国際公開番号】W WO2022068870
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】202011062635.6
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512256605
【氏名又は名称】インスティテュート オブ ズーオロジー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】523115405
【氏名又は名称】ベイジン インスティテュート フォー ステム セル アンド リジェネレイティブ メディシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ハオイー
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ベイレイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ナー
(72)【発明者】
【氏名】タン,ナー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC41
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
EGFRを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)、そのCARを含むCAR-T細胞、ならびにその調製方法および使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)であって、EGFRを特異的に標的とする細胞外抗原結合ドメインを含み、前記細胞外抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、
i)前記VHは、配列番号1に示されるVH-CDR1、配列番号2に示されるVH-CDR2、および配列番号3に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号4に示されるVL-CDR1、配列番号5に示されるVL-CDR2、および配列番号6に示されるVL-CDR3を含み;
ii)前記VHは、配列番号10に示されるVH-CDR1、配列番号11に示されるVH-CDR2、および配列番号12に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号13に示されるVL-CDR1、配列番号14に示されるVL-CDR2、および配列番号16に示されるVL-CDR3を含み;
iii)前記VHは、配列番号19に示されるVH-CDR1、配列番号20に示されるVH-CDR2、および配列番号21に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号22に示されるVL-CDR1、配列番号23に示されるVL-CDR2、および配列番号24に示されるVL-CDR3を含み;
iv)前記VHは、配列番号28に示されるVH-CDR1、配列番号29に示されるVH-CDR2、および配列番号30に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号31に示されるVL-CDR1、配列番号32に示されるVL-CDR2、および配列番号33に示されるVL-CDR3を含み;
v)前記VHは、配列番号37に示されるVH-CDR1、配列番号38に示されるVH-CDR2、および配列番号39に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号40に示されるVL-CDR1、配列番号41に示されるVL-CDR2、および配列番号42に示されるVL-CDR3を含み;または
vi)前記VHは、配列番号46に示されるVH-CDR1、配列番号47に示されるVH-CDR2、および配列番号48に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号49に示されるVL-CDR1、配列番号50に示されるVL-CDR2、および配列番号51に示されるVL-CDR3を含む、
CAR。
【請求項2】
i)前記VHが、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み;
ii)前記VHが、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含み;
iii)前記VHが、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;
iv)前記VHが、配列番号34に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号35に示されるアミノ酸配列を含み;
v)前記VHが、配列番号43に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号44に示されるアミノ酸配列を含み;または
vi)前記VHが、配列番号52に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号53に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項3】
前記細胞外抗原結合ドメインが一本鎖Fvフラグメント(scFv)を含む、請求項1または2に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項4】
前記scFvが、配列番号9、18、27、36、45および54から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項5】
N末端にCD8αシグナルペプチドをさらに含み、例えば、前記CD8αシグナルペプチドが配列番号55のアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項6】
CD8α膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインをさらに含み、例えば、前記CD8α膜貫通ドメインが配列番号57のアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項7】
前記細胞外抗原結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間に位置するヒンジ領域をさらに含み、例えば、前記ヒンジ領域がCD8αヒンジ領域であり、例えば、前記CD8αヒンジ領域が配列番号56のアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項8】
CD3ζシグナル伝達ドメインなどのシグナル伝達ドメインをさらに含み、例えば、前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、配列番号59に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項9】
4-1BB共刺激ドメインなどの1以上の共刺激ドメインをさらに含み、例えば、前記4-1BB共刺激ドメインが配列番号58のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項10】
配列番号60~65から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のEGFRを標的とするCAR。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のCARを含む治療用T細胞。
【請求項12】
治療用T細胞におけるTGFβ受容体がノックダウンまたはノックアウトされている、請求項11に記載の治療用T細胞。
【請求項13】
in vitroでEGFRを発現する腫瘍細胞を、約0.2:1~約0.00625:1、例えば、約0.2:1、約0.1:1、約0.05:1、約0.025:1、約0.0125:1、および約0.00625:1のエフェクター-ターゲット比で特異的に溶解することができる、請求項11または12に記載の治療用T細胞。
【請求項14】
EGFR関連癌を治療するための薬物の調製における、請求項11~13のいずれか一項に記載の治療用T細胞の使用。
【請求項15】
対象におけるEGFR関連癌を治療するための医薬組成物であって、治療上有効な量の請求項11~13のいずれか一項に記載の治療用T細胞、および薬学上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項16】
EGFR関連癌を治療するための方法であって、治療上有効な量の請求項11~13のいずれか一項に記載の治療用T細胞または請求項15に記載の医薬組成物を必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項17】
放射線療法および/または化学療法および/または別の腫瘍標的薬物および/または免疫療法を前記対象に投与することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記EGFR関連癌が、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肺癌(非小細胞肺癌NSCLCを含む)、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、卵巣癌、膀胱癌、頭頸部癌(頭頸部扁平上皮癌SCCHNを含む)、骨肉腫、前立腺癌、神経芽細胞腫、腎腫、神経膠腫、神経膠芽腫および皮膚癌(上皮癌を含む)から選択される、請求項14に記載の使用、請求項15に記載の医薬組成物または請求項16~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか一項に記載のCARをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項20】
配列番号66~71から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項19に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
調節配列と作動可能に連結された、請求項19または20に記載のポリヌクレオチドを含む発現構築物。
【請求項22】
請求項11~13のいずれか一項に記載の治療用T細胞を調製するための方法であって、以下の工程:
a)単離されたT細胞を提供する工程;および
b)請求項19または20に記載のポリヌクレオチドまたは請求項21に記載の発現構築物を前記T細胞に導入し、それによって、前記T細胞に請求項1~10のいずれか一項に記載のCARを発現させる工程
を含む、
方法。
【請求項23】
x)前記T細胞におけるTGFβ受容体をノックダウンまたはノックアウトする工程
をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
y)前記T細胞を増幅する工程
をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項11~13のいずれか一項に記載の治療用T細胞を調製するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に関する。具体的には、本発明は、EGFRを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)、そのCARを含むCAR-T細胞、ならびにその調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト上皮成長因子受容体(HER-1またはErb-B1としても知られ、本明細書では「EGFR」と呼ばれる)は、c-erbB癌原遺伝子によってコードされる170kDaの膜貫通受容体であり、固有のチロシンキナーゼ活性を示す。EGFRは、限定されるものではないが、細胞増殖、分化、細胞生存、アポトーシス、血管新生、有糸分裂および転移を制御するシグナル伝達経路の活性化を含む、チロシンキナーゼによって媒介されるシグナル伝達経路によって、様々な細胞プロセスを調節する。
【0003】
EGFR遺伝子コピー数の増加および過剰発現が、正常細胞の悪性転化および悪性腫瘍の転移を促進する可能性があることは研究から示されており、EGFRのシグナル伝達ネットワークは、腫瘍の形成および発生過程において重要な役割を果たしている。EGFRの過剰発現は、肺癌、膵臓癌、結腸直腸癌、胃癌および乳癌などを含む多くのヒト悪性腫瘍の研究においてすでに報告されている。加えて、EGFRの過剰発現が患者の予後不良と関連していることは臨床研究の結果から示されている。EGFRは、すでに抗腫瘍療法の特定の標的となっている。
【0004】
EGFRを標的とするいくつかの薬物が、ヒト悪性腫瘍の臨床治療に承認されている。これらの薬物は、主に2つのカテゴリーに分類される:最初のカテゴリーは、EGFRの細胞外機能領域をブロックするモノクローナル抗体薬、セツキシマブ、パニツムマブおよびニモツズマブなどであり;もう1つのカテゴリーは、EGFRの細胞内領域を標的とする小分子チロシンキナーゼ阻害剤、ゲフィチニブ、エルロチニブおよびアファチニブなどである。これらの薬物の安全性および臨床的有効性はすでに証明されているが、多くの場合、それらの抗腫瘍効果は期待したほど有効ではなく、モノクローナル抗体標的薬の血中濃度の経時的低下、低い標的応答率、およびEGFRの突然変異などの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、この分野では、EGFR関連悪性腫瘍を治療するための新しい薬物および療法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
一態様において、本発明は、EGFRを特異的に標的とする細胞外抗原結合ドメインを含む、EGFRを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を提供し、このCARでは、前記細胞外抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、
i)前記VHは、配列番号1に示されるVH-CDR1、配列番号2に示されるVH-CDR2、および配列番号3に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号4に示されるVL-CDR1、配列番号5に示されるVL-CDR2、および配列番号6に示されるVL-CDR3を含み;
ii)前記VHは、配列番号10に示されるVH-CDR1、配列番号11に示されるVH-CDR2、および配列番号12に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号13に示されるVL-CDR1、配列番号14に示されるVL-CDR2、および配列番号16に示されるVL-CDR3を含み;
iii)前記VHは、配列番号19に示されるVH-CDR1、配列番号20に示されるVH-CDR2、および配列番号21に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号22に示されるVL-CDR1、配列番号23に示されるVL-CDR2、および配列番号24に示されるVL-CDR3を含み;
iv)前記VHは、配列番号28に示されるVH-CDR1、配列番号29に示されるVH-CDR2、および配列番号30に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号31に示されるVL-CDR1、配列番号32に示されるVL-CDR2、および配列番号33に示されるVL-CDR3を含み;
v)前記VHは、配列番号37に示されるVH-CDR1、配列番号38に示されるVH-CDR2、および配列番号39に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号40に示されるVL-CDR1、配列番号41に示されるVL-CDR2、および配列番号42に示されるVL-CDR3を含み;または
vi)前記VHは、配列番号46に示されるVH-CDR1、配列番号47に示されるVH-CDR2、および配列番号48に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号49に示されるVL-CDR1、配列番号50に示されるVL-CDR2、および配列番号51に示されるVL-CDR3を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、
i)前記VHが、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み;
ii)前記VHが、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含み;
iii)前記VHが、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;
iv)前記VHが、配列番号34に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号35に示されるアミノ酸配列を含み;
v)前記VHが、配列番号43に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号44に示されるアミノ酸配列を含み;または
vi)前記VHが、配列番号52に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号53に示されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、前記細胞外抗原結合ドメインが一本鎖Fvフラグメント(scFv)を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記scFvが、配列番号9、18、27、36、45および54から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記CARは、N末端にCD8αシグナルペプチドをさらに含み、例えば、前記CD8αシグナルペプチドが配列番号55のアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記CARは、CD8α膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインをさらに含み、例えば、前記CD8α膜貫通ドメインが配列番号57のアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記CARは、前記細胞外抗原結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間に位置するヒンジ領域をさらに含み、例えば、前記ヒンジ領域がCD8αヒンジ領域であり、例えば、前記CD8αヒンジ領域が配列番号56のアミノ酸配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記CARは、CD3ζシグナル伝達ドメインなどのシグナル伝達ドメインをさらに含み、例えば、前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、配列番号59に示されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記CARは、4-1BB共刺激ドメインなどの1以上の共刺激ドメインをさらに含み、例えば、前記4-1BB共刺激ドメインが配列番号58のアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記CARは、配列番号60~65から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0016】
一態様において、本発明は、本発明のCARを含む治療用T細胞を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記治療用T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされている。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記治療用T細胞は、in vitroでEGFRを発現する腫瘍細胞を、約0.2:1~約0.00625:1、例えば、約0.2:1、約0.1:1、約0.05:1、約0.025:1、約0.0125:1、および約0.00625:1のエフェクター-ターゲット比で特異的に溶解することができる。
【0019】
一態様において、本発明は、EGFR関連癌を治療するための薬物の調製における本発明の治療用T細胞の使用を提供する。
【0020】
一態様において、本発明は、対象におけるEGFR関連癌を治療するための医薬組成物であって、治療上有効な量の本発明の治療用T細胞、および薬学上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0021】
一態様において、本発明は、EGFR関連癌を治療するための方法であって、治療上有効な量の本発明の治療用T細胞または本発明の医薬組成物を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記方法は、放射線療法および/または化学療法および/または別の腫瘍標的薬物および/または免疫療法を前記対象に投与することをさらに含む。
【0023】
本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記EGFR関連癌が、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肺癌(非小細胞肺癌 NSCLCを含む)、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、卵巣癌、膀胱癌、頭頸部癌(頭頸部扁平上皮癌 SCCHNを含む)、骨肉腫、前立腺癌、神経芽細胞腫、腎腫、神経膠腫、神経膠芽腫および皮膚癌(上皮癌を含む)から選択される。
【0024】
一態様において、本発明は、本発明のCARをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、配列番号66~71から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0025】
一態様において、本発明は、調節配列と作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含む発現構築物を提供する
【0026】
一態様において、本発明は、本発明の治療用T細胞を調製するための方法を提供し、その方法は、以下の工程:
a)単離されたT細胞を提供する工程;および
b)本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の発現構築物を前記T細胞に導入し、それによって、前記T細胞に本発明のCARを発現させる工程
を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記方法は、
x)前記T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)をノックダウンまたはノックアウトする工程
をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、抗EGFR CARのレンチウイルスベクター標的遺伝子配列の模式図である。
図2図2は、6種の抗EGFR CAR-T細胞の陽性率の検出である。
図3図3は、6種のヒト化抗EGFR CAR-T細胞をin vitroでCRL-5826細胞と長期間共培養し、CRL-5826細胞のルシフェラーゼ含量を測定して、殺腫瘍値(N=4、SEM)を定量することを示す。
図4図4は、6種のヒト化抗EGFR CAR-T細胞のin vitro機能の比較を示す:6種のヒト化抗EGFR CAR-T細胞のin vitroストレステスト実験。殺滅サンプルウェルからCAR-T細胞を1日おきに採取し、新しい腫瘍標的細胞をE:T=2:1の比率で添加し、殺滅率を検出した(標的細胞:CRL-5826、E:T=2:1、50%CAR-T陽性率、N=4、SEM)。
図5図5は、6種のヒト化抗EGFR CAR-T細胞のin vivo機能の比較を示す:A)NPGマウスの実験プロセス。腫瘍細胞接種量:2×10/マウス、CAR-T細胞注射用量:1×10/マウス、50%CAR陽性、i.v.:尾静脈注射、各群5匹のNPGマウス。B)マウスの腫瘍体積の変化(N=5、SEM)。
図6図6は、ヒト化hu806 CAR-T細胞とマウス由来m806 CAR-T細胞のin vitro機能の比較を示す。CAR-T細胞をin vitroでCRL-5826細胞と長期間共培養し、CRL-5826細胞のルシフェラーゼ含量を検出して、殺腫瘍値(N=4、SEM)を定量する。
図7図7は、TGF-β受容体IIがノックアウトされたhu806 CAR-T細胞を示す。A)hu806-TKO CAR-T細胞のノックアウト効率は、TIDE法によって検出した。B)hu806 CAR-Tおよびhu806-TKO CAR-T細胞の陽性率は、フローサイトメトリーによって検出した。
図8-1】図8は、TGF-β受容体IIがノックアウトされたhu806 CAR-T細胞の殺滅機能の検出を示す。A)in vitroでのCRL-5826細胞の長期殺滅の検出。TGF-β終濃度:5ng/μl、(N=4、SEM)。B.hu806 CAR-Tおよびhu806-TKO CAR-T細胞の4回目および5回目の殺滅の検出。追加のTGF-βの終濃度:5ng/μl。(N=4、SEM)。C)ストレステスト実験におけるhu806およびhu806-TKO CAR-T細胞の細胞増殖統計。
図8-2】図8-1の続きである。
図9図9は、マウスのin vivo実験を示す。A)種々の用量のCAR-T細胞をNPGマウスの尾静脈に注射した結果、腫瘍サイズが変化し、腫瘍の再接種後に腫瘍サイズが変化した。各群5匹のマウスにCAR-Tを注射し、陽性率は50%であった。B)各実験群およびPBS群のマウスの末梢血におけるヒトCD3含量は、フローサイトメトリーによって検出した。
図10-1】図10は、マウスにおける様々なサブタイプのhuCD3の分析実験を示す。A)CAR-T細胞(1×10細胞/マウス、50%CAR陽性)をNPGマウスの尾静脈に注射した後、腫瘍サイズが変化した。CAR-TT細胞は、in vivo増幅能の強い#4ドナー末梢血を用いて調製した。各群をマウス5匹とした。B)各実験群およびPBS群のマウスの末梢血におけるヒトCD3含量は、フローサイトメトリーによって検出した。C)マウスの末梢血におけるT細胞サブタイプの割合は、フローサイトメトリーによって検出した。D)マウスの末梢血におけるhuCD3に対するhuCD4およびhuCD8の割合は、フローサイトメトリーによって検出した。21、28、36および42日目に分析のために2群のマウスから末梢血を採取した。
図10-2】図10-1の続きである。
図11-1】図11は、担腫瘍NPGマウスにおけるHu806-TKO CAR-T細胞のin vivo治療用量実験を示す。A)種々の用量のCAR-T細胞(それぞれ:2×10CAR細胞/マウス、1×10CAR細胞/マウス、0.5×10CAR細胞/マウスおよび0.25×10CAR細胞/マウス)をNPGマウスの尾静脈に注射し、腫瘍サイズが変化した。腫瘍が完全に消失した後、再接種すると腫瘍サイズが変化した。各群をマウス5匹とした。B)各実験群および対照群のマウスの末梢血におけるヒトCD3含量は、フローサイトメトリーによって検出した。
図11-2】図11-1の続きである。
図12図12は、Hu806 CAR-T細胞のオフターゲット安全性検出を示す。A)肺扁平上皮癌細胞株CRL-5826、ヒト皮膚線維芽細胞「線維芽細胞」、および白血病細胞株K562のフローサイトメトリー検出。染色抗体:抗EGFR抗体-PEおよび806抗体-PE。B)3種類の細胞に対するHu806 CAR-T細胞のin vitro殺滅機能の検出。リアルタイム非標識細胞分析技術による検出方法(N=2、SEM)を採用した。
図13-1】図13は、m806 scFvおよびCARのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の対応関係図である。
図13-2】図13-1の続きである。
図13-3】図13-2の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
別段の指示または定義がない限り、使用される総ての用語は当技術分野で通常の意味を有し、その意味は当業者によって理解され得る。Sambrook et al.、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」; Lewin、「Genes VIII」;およびRoitt et al.、「Immunology」(第8版)などの標準的なマニュアル、ならびに本明細書に引用されている一般的な既存の技術を参照でき;加えて、別段の指定がない限り、具体的に詳述されていない総ての方法、工程、技術および操作は、当業者によって理解され得る既知の方法で実行される可能性があり、実行されてきた。また、標準的なマニュアル、上記の一般的な既存の技術、およびそこに引用されているその他の参考文献も参照できる。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「および/または」は、この用語によって結び付けられた項目の総ての組合せを含み、各組合せはすでに本明細書で別々に列挙されていると考えるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、「A」、「AおよびB」、および「B」を包含する。例えば、「A、Bおよび/またはC」は、「A」、「B」、「C」、「AおよびB」、「AおよびC」、「BおよびC」、および「AおよびBおよびC」を包含する。
【0031】
用語「含む(comprises/comprising)」がタンパク質または核酸の配列を説明するために本明細書で使用される場合、そのタンパク質または核酸は、その配列から構成されてもよく、またはそのタンパク質の一方または両方の末端に追加のアミノ酸またはヌクレオチドを有してもよいが、本発明に記載の活性を依然として有する。加えて、当業者は、ペプチドのN末端の開始コドンによってコードされるメチオニンが、いくつかの実際の状況(特定の発現系で発現される場合など)で保持される可能性があることを承知しているが、それはペプチドの機能に実質的に影響を及ぼさない。従って、本願の明細書及び特許請求の範囲において特定のアミノ酸配列を説明する場合、開始コドンによってコードされるN末端メチオニンを含まなくてもよいが、メチオニンを含む配列も包含する。それに対応して、それによってコードされるヌクレオチド配列も開始コドンを含むことができ、逆の場合も同じである。
【0032】
第1の態様において、本発明は、EGFRを特異的に標的とする細胞外抗原結合ドメインを含む、EGFRを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を提供し、このCARでは、前記細胞外抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、
i)前記VHは、配列番号1に示されるVH-CDR1、配列番号2に示されるVH-CDR2、および配列番号3に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号4に示されるVL-CDR1、配列番号5に示されるVL-CDR2、および配列番号6に示されるVL-CDR3を含み;
ii)前記VHは、配列番号10に示されるVH-CDR1、配列番号11に示されるVH-CDR2、および配列番号12に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号13に示されるVL-CDR1、配列番号14に示されるVL-CDR2、および配列番号16に示されるVL-CDR3を含み;
iii)前記VHは、配列番号19に示されるVH-CDR1、配列番号20に示されるVH-CDR2、および配列番号21に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号22に示されるVL-CDR1、配列番号23に示されるVL-CDR2、および配列番号24に示されるVL-CDR3を含み;
iv)前記VHは、配列番号28に示されるVH-CDR1、配列番号29に示されるVH-CDR2、および配列番号30に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号31に示されるVL-CDR1、配列番号32に示されるVL-CDR2、および配列番号33に示されるVL-CDR3を含み;
v)前記VHは、配列番号37に示されるVH-CDR1、配列番号38に示されるVH-CDR2、および配列番号39に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号40に示されるVL-CDR1、配列番号41に示されるVL-CDR2、および配列番号42に示されるVL-CDR3を含み;または
vi)前記VHは、配列番号46に示されるVH-CDR1、配列番号47に示されるVH-CDR2、および配列番号48に示されるVH-CDR3を含み、前記VLは、配列番号49に示されるVL-CDR1、配列番号50に示されるVL-CDR2、および配列番号51に示されるVL-CDR3を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記細胞外抗原結合ドメインがVHおよびVLを含み、ここで、
i)前記VHは、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み;
ii)前記VHは、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含み;
iii)前記VHは、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;
iv)前記VHは、配列番号34に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号35に示されるアミノ酸配列を含み;
v)前記VHは、配列番号43に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号44に示されるアミノ酸配列を含み;または
vi)前記VHは、配列番号52に示されるアミノ酸配列を含み、前記VLは、配列番号53に示されるアミノ酸配列を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記細胞外抗原結合ドメインが一本鎖Fvフラグメント(scFv)を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記VHおよびVLがリンカーによって連結されている。いくつかの実施形態では、前記リンカーがフレキシブルペプチドリンカーである。いくつかの実施形態では、前記リンカーが、配列番号72に示されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記scFvが、配列番号9、18、27、36、45および54から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記CARは、N末端にCD8αシグナルペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記CD8αシグナルペプチドが配列番号55のアミノ酸配列を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記CARは、CD8α膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記CARは、CD8α膜貫通領域を含む。いくつかの実施形態では、前記CD8α膜貫通領域が配列番号57のアミノ酸配列を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記CARは、前記細胞外抗原結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間に位置するヒンジ領域をさらに含み、例えば、前記ヒンジ領域がCD8αヒンジ領域である。いくつかの実施形態では、前記CD8αヒンジ領域が配列番号56のアミノ酸配列を含む。
【0040】
いくつかの実施様式ではでは、前記CARは、T細胞活性化に使用され得るシグナル伝達ドメインなどと、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66dから選択されるシグナル伝達ドメインなどのシグナル伝達ドメインをさらに含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記CARは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含み、例えば、前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、配列番号59に示されるアミノ酸配列を含む。
【0041】
いくつかの実施様式では、前記CARは、CD3、CD27、CD28、CD83、CD86、CD127、4-1BB、および4-1BBLから選択される共刺激ドメインなどの1以上の共刺激ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記CARは、4-1BB共刺激ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記4-1BB共刺激ドメインが配列番号58のアミノ酸配列を含む。
【0042】
いくつかの実施様式では、前記CARは、細胞外抗原結合ドメイン、CD8αヒンジ領域、CD8α膜貫通領域、4-1BB共刺激ドメイン、およびEGFRを標的とするCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、場合によりN末端にCD8αシグナルペプチドを含む。
【0043】
いくつかの特定の実施形態では、前記CARは、配列番号60~65から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0044】
別の態様において、本発明は、本発明のCARをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、配列番号66~71から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0045】
別の態様において、本発明は、調節配列と作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含む発現構築物を提供する。
【0046】
本発明の「発現構築物」は、線状核酸断片、環状プラスミド、ウイルスベクター、または翻訳可能なRNA(mRNAなど)であり得る。いくつかの好ましい実施形態では、前記発現構築物は、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0047】
用語「調節配列」および「調節エレメント」は、関連するコード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性または翻訳に影響を与える、コード配列の上流(5’非コード配列)、中間または下流(3’非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を指すために交換可能に使用し得る。発現調節エレメントとは、関与するヌクレオチド配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性または翻訳を制御し得るヌクレオチド配列を指す。調節配列には、限定されるものではないが、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、エンハンサーおよびポリアデニル化認識配列が含まれ得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結された」とは、調節エレメント(限定されるものではないが、プロモーター配列、および転写終結配列など)と核酸配列(コード配列またはオープンリーディングフレームなど)との間の連結を指し、ヌクレオチド配列の転写は、転写調節エレメントによって制御および調節されるようになっている。調節エレメント領域を核酸分子に作動可能に連結するための技術は、当技術分野で知られている。
【0049】
別の態様において、本発明は、本発明のCARを含む治療用T細胞を提供する。いくつかの実施形態では、前記CARは、T細胞の細胞膜表面で発現される。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記治療用T細胞のTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされている。
【0051】
本明細書で使用される場合、「治療用T細胞のTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされている」とは、対照のT細胞と比較して、本発明の治療用T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)の発現がダウンレギュレートされるかもしくは発現されない、またはTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)の活性が低下しているかもしくは不活性化されている(拮抗されているなど)ことを意味する。本明細書で使用されるノックダウンまたはノックアウトは、ゲノムレベル、転写レベル、翻訳レベル、または翻訳後レベルであり得る。
【0052】
本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記治療用T細胞は、対象の自己細胞に由来する。本明細書で使用される場合、「自己」とは、対象の治療に使用される細胞、細胞株、または細胞集団が対象に由来することを指す。いくつかの実施形態では、前記治療用T細胞は、同種異系細胞に由来し、例えば、治療を受ける対象とヒト白血球抗原(HLA)が適合するドナー対象に由来する。ドナー対象からの細胞は、標準的なスキームを使用して非同種異系反応性細胞に変換され、1以上の対象に適用し得る細胞を生成する必要に応じて複製することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、前記T細胞は健康な対象に由来する。いくつかの実施形態では、前記T細胞は、癌に罹患している対象に由来する。
【0054】
本発明の文脈において記載されるT細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、調節性Tリンパ球、および/またはヘルパーTリンパ球に由来し得る。いくつかの実施形態では、本発明の文脈において記載されるT細胞は、CD4Tリンパ球および/またはCD8Tリンパ球に由来し得る。
【0055】
本発明の文脈におけるT細胞は、末梢血単球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含む様々な限定されない方法によって、多くの限定されない起源から得ることができる。本発明の文脈におけるT細胞は、異なる表現型の特徴を示す細胞の混合集団の一部であってもよい。
【0056】
本発明の治療用T細胞は、in vitroでEGFRを発現する腫瘍細胞を特異的に溶解し得る。例えば、本発明の治療用T細胞は、in vitroでEGFRを発現する腫瘍細胞と共培養することにより、EGFRを発現する腫瘍細胞を、約0.2:1~約0.00625:1、例えば、約0.2:1、約0.1:1、約0.05:1、約0.025:1、約0.0125:1、および約0.00625:1のエフェクター-ターゲット比(治療用T細胞:EGFRを発現する腫瘍細胞)で効果的かつ特異的に溶解し得る。例えば、1、2、3、4、5、6、または7日間の共培養後、EGFRを発現する腫瘍細胞の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、さらに、少なくとも約90%以上が溶解される。
【0057】
本願の文脈において使用される場合、「対象」とは、本発明の細胞、医薬組成物、または方法によって治療することができる疾患(例えば、EGFR関連癌などの癌)に罹患しているまたは罹患しやすい生物を指す。限定されない例には、ヒト、ウシ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、および他の非哺乳類が含まれる。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0058】
別の態様において、本発明は、治療上有効な量の本発明の治療用T細胞、および薬学上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、対象におけるEGFR関連癌を治療するために使用される。
【0059】
本明細書で使用される「薬学上許容される担体」には、ありとあらゆる生理学上適合する溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などが包含される。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮への投与(例えば、注射または注入による)に適している。
【0060】
別の態様において、本発明は、EGFR関連癌を治療するための薬物の調製における本発明の治療用T細胞の使用を提供する。
【0061】
本発明の別の態様において、治療上有効な量の本発明の治療用T細胞または本発明の医薬組成物を必要とする対象に投与することを含む、EGFR関連癌を治療するための方法がさらに提供される。
【0062】
いくつかの実施様式では、前記方法は、放射線療法および/または化学療法および/または別の腫瘍標的薬物(他の抗原を標的とするモノクローナル抗体または小分子化合物など)および/または免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤など)を前記対象に投与することをさらに含む。
【0063】
本明細書で使用される場合、「治療上有効な量」または「治療上有効な用量」または「有効な量」とは、対象への投与後に治療効果を生み出すのに少なくとも十分な物質、化合物、材料または細胞の量を指す。従って、疾患または疾患の症状を予防、治癒、改善、遮断または部分的に遮断するのに必要な量である。本明細書で使用される場合、治療は疾患(癌など)の再発を防止することも包含する。
【0064】
例えば、本発明の細胞または医薬組成物の「有効な量」は、好ましくは、疾患症状の重症度の減少、疾患の頻度と無症候期間の増加、または疾患の痛みによって引き起こされる損傷もしくは障害の予防につながる。例えば、腫瘍の治療では、未治療の対象と比較して、本発明の細胞または医薬組成物の「有効な量」は、好ましくは、腫瘍細胞増殖または腫瘍増殖を、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%阻害する。腫瘍増殖を阻害する能力は、ヒト腫瘍に対する治療効果を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、腫瘍細胞増殖を阻害する能力を調べることによって評価することができ、この阻害は、当業者に周知の実験によってin vitroで決定することができる。
【0065】
実際の応用においては、本発明の医薬組成物中の細胞の用量レベルを変更して、患者への毒性がなく、特定の対象に対して所望の治療反応を効果的に達成し得る有効成分組成物の量および投与様式を得ることができる。用量レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与のタイミング、使用される特定の化合物の排泄速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、治療を受ける対象の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康状態および病歴、ならびに医療分野で周知の同様の因子を含む様々な薬物動態因子に応じて選択することができる。
【0066】
本明細書で使用される場合、治療上有効な量の治療用T細胞とは、使用後に腫瘍細胞の量を減少させ得る治療用T細胞の量、例えば、腫瘍細胞の量を少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、および少なくとも約90%減少させ得るか、または癌の完全寛解を達成し得る量を指す。本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記有効な量の治療用T細胞が、約10~約10個の細胞、例えば、約10、約10、約10、約10、約10、または約10個の細胞である。いくつかの実施形態において、前記治療用T細胞の投与量が、対象の体重に従って決定され、例えば、約10細胞/kg体重~約10細胞/kg体重、例えば、約10、約10、約10、約10、約10、または約10細胞/kg体重である。
【0067】
本発明者の研究結果から、本発明の、TGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされている治療用T細胞が、対照T細胞(TGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされていない)と比較して、より少ない用量でより良い治療効果を達成し得ることが示されている。例えば、本発明のTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)を有する治療用T細胞は、対照T細胞より低いエフェクト-ターゲット比でおよび/またはより長い期間、より優れた殺腫瘍効果を達成し得る。これは、調製時間およびコストを削減するのに特に有益であり、高用量投与によって引き起こされる副作用も軽減され得る。
【0068】
例えば、本発明の、TGFβ受容体(TGFBRIIIなど)を有する治療用T細胞の投与用量は、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)がノックダウンまたはノックアウトされていない対照T細胞の投与用量よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約80倍、約100倍、約150倍、約160倍、約200倍以上低い。
【0069】
本発明による細胞または組成物の投与は、注射、注入、植え込みまたは移植を含む任意の好都合な形式で実行し得る。本明細書に記載される細胞または組成物の投与は、静脈内、リンパ管、皮内、腫瘍内、髄内、筋肉内、または腹腔内に投与し得る。ある実行スキームでは、本発明の細胞または組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。
【0070】
本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記EGFR関連癌が、限定されるものではないが、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肺癌(非小細胞肺癌 NSCLCを含む)、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、卵巣癌、膀胱癌、頭頸部癌(頭頸部扁平上皮癌 SCCHNを含む)、骨肉腫、前立腺癌、神経芽細胞腫、腎腫、神経膠腫、神経膠芽腫および皮膚癌(上皮癌を含む)を含む、腫瘍細胞がEGFRを発現する癌である。
【0071】
別の態様において、本発明は、本発明の治療用T細胞を調製するための方法を提供し、その方法は、以下の工程:
a)単離されたT細胞を提供する工程;および
b)本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の発現構築物を前記T細胞に導入し、それによって、前記T細胞に本発明のCARを発現させる工程
を含む。
【0072】
単離されたT細胞を提供する工程は、T細胞を分離するための当技術分野で公知の方法によって実行し得る。例えば、市販のキットを使用して、対象の末梢血からT細胞を単離し得る。適切なキットには、限定されるものではないが、EasySep human T cell Enrichment kit(Stemcell Technologies)が挙げられる。上記のように、単離されたT細胞は、必ずしも均質である必要はなく、異なる細胞の混合集団であってよく、好ましくは、T細胞が集団中に富んでいる。
【0073】
いくつかの実施形態では、前記方法は、
x)前記T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRI、TGFBRII、およびTGFBRIIIなど)の発現をノックダウンまたはノックアウトする工程
をさらに含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、前記工程x)が前記工程b)の前に実行される。いくつかの実施形態では、前記工程x)が前記工程b)の後に実行される。
【0075】
細胞におけるタンパク質発現をノックダウンまたはノックアウトするための複数の方法が当技術分野で知られている。いくつかの実施形態では、前記T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)の発現が、アンチセンスRNA、antagomir、siRNA、およびshRNAを導入することによってノックダウンまたはノックアウトされる。他の実行様式において、前記T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)の発現が、遺伝子編集方法によって、例えば、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(transcription activator like effector nuclease)またはCRISPRシステムを導入することによってノックダウンまたはノックアウトされている。本発明の方法の好ましい実施形態では、CRISPRシステムが前記T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)の発現をノックダウンまたはノックアウトするために使用される。いくつかの実施様式では、CRISPRシステムによって使用されるヌクレアーゼ(CRISPRヌクレアーゼ)は、例えば、Cas3、Cas8a、Cas5、Cas8b、Cas8c、Cas10d、Cse1、Cse2、Csy1、Csy2、Csy3、GSU0054、Cas10、Csm2、Cmr5、Cas10、Csx11、Csx10、Csf1、Cas9、Csn2、Cas4、Cpf1、C2c1、C2c3もしくはC2c2タンパク質、またはこれらのヌクレアーゼの機能的バリアントから選択し得る。
【0076】
前記ポリヌクレオチド、発現構築物および/またはタンパク質は、エレクトロポレーション;塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-グルカンまたは他の物質を使用したトランスフェクション;パーティクルボンバードメント;リポソームトランスフェクション;および感染(例えば、この発現構築物はウイルスである)を包含する任意の適当な方法によって前記細胞に導入し得る。
【0077】
本発明のT細胞は、任意の修飾工程の前または後に活性化し、増幅し得る。このT細胞はin vitroまたはin vivoで増幅し得る。
【0078】
従って、いくつかの実施形態において、前記方法は、
y)前記T細胞を増幅する工程
をさらに含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、前記工程y)が前記工程b)の前および/または後に実行される。いくつかの実施形態では、前記工程y)が前記工程x)の前および/または後に実行される。
【0080】
通常、本発明のT細胞は、例えば、CD3 TCR複合体の表面の共刺激分子を刺激する試薬とT細胞とを接触させて、T細胞活性化シグナルを生成することによって、増幅し得る。例えば、カルシウムイオノフォアA23187、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)、または、例えばフィトヘマアグルチニン(PHA)などの有糸分裂レクチンなどの化学物質を使用して、T細胞の活性化シグナルを生成し得る。いくつかの実施形態では、前記T細胞は、例えば、表面に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または抗CD2抗体と接触させることによって、またはプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)とカルシウムイオノフォアとを接触させることによってin vitroで活性化し得る。例えば、T細胞増殖を刺激するのに適切な条件下では、T細胞は、抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触し得る。T細胞培養に適用可能な条件には、増殖および活力に必要な因子を含み得る好適な培地(最小必須培地またはRPMI培地1640、またはX-vivo 5、(Lonza)など)が含まれ、ここで、必要な因子には、血清(ウシ胎児またはヒト血清など)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-2、IL-15、TGFβおよびTNF、または細胞増殖のための当業者に公知の添加剤が含まれる。細胞増殖のために使用される他の添加剤には、限定されるものではないが、界面活性剤、ヒト血漿タンパク質粉末、および還元剤(例えば、N-アセチルシステインおよび2-メルカプト酢酸)が包含される。培地には、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1およびX-Vivo 20、Optimizer、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウムおよびビタミン類、無血清もしくは適度に添加された血清(もしくは血漿)もしくは一連の確定されたホルモン、ならびに/またはT細胞成長および増幅を促進するのに十分な一定量のサイトカインが包含され得る。T細胞は、増殖を支援するために必要な条件下、例えば、適当な温度(例えば、37℃)および環境(例えば、空気+5%CO)下で維持し得る。
【0081】
別の態様において、本発明は、本発明の治療用T細胞を調製するためのキットをさらに提供する。本発明のキットは、本発明のポリヌクレオチド、本発明の発現構築物、および/またはTGFβ受容体(TGFBRIIなど)の発現をノックダウンもしくはノックアウトするためのツール、例えば、アンチセンスRNA、antagomir、siRNA、shRNA、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(transcription activator like effector nuclease)またはCRISPRシステムまたはそれをコードする核酸またはベクターを包含する。このキットは、前記T細胞を分離、培養、および/または増幅するための試薬、前記ポリヌクレオチドまたはタンパク質を前記細胞に導入するための調製物などをさらに含み得る。
【実施例
【0082】
以下に本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は記載する実施例の範囲に限定されるものではない。
【0083】
実験材料および方法
1.CD3T細胞の分離、刺激、および増幅
健康なドナーからの新鮮な臍帯血を、インフォームドコンセントを得て、北京臍帯血バンクから取得した。単核細胞は、ヒトリンパ球分離液(天津市ハオヤン生物製品科技有限責任公司)を使用することによって分離した。T細胞を、EasySep human T cell Enrichment kit(Stemcell Technologies)を使用することによって分離し、抗CD3/CD28 Dynabeads(Thermo Fisher Scientific)を使用説明書に従って加え、分離されたT細胞を1:1の比率で活性化した。T細胞用の培地は、5%(v/v)熱不活化ウシ胎児血清(GIBCO)および400IU/mL組換えヒトIL-2(Sino-biological Inc.)を添加したX-VIVO15培地(Lonza)であった。
【0084】
2.抗EGFR CAR-T細胞の調製
7種の抗EGFR ScFv遺伝子断片をそれぞれ合成し(華大青蘭生物科技有限公司)、ScFvフラグメントを、Bam HIおよびMlu Iの2つの酵素消化部位によってpRRLSINレンチウイルスベクターにそれぞれクローニングした。3プラスミド系ベクタープラスミド、pMD2.GおよびpsPAX2を、Lipo3000(Thermo Fisher Scientific)を使用することによって、293T細胞に共トランスフェクトし、それぞれ、48時間および72時間の時点でレンチウイルス培養上清を採取し、濃縮カラム(Millipore、Amicon Ultra-15遠心分離フィルター、Ultracel-100K)で濃縮した。ヒト初代CD3T細胞を磁気ビーズで24時間刺激した後、レンチウイルス感染を実施した。感染時には、CD3T細胞密度を2×10/mlに調整した。MOI=1の比率に従って、共トランスフェクション試薬Polybrene(Sigma)を同時に加え、Polybreneの終濃度は10μg/mlであった。48時間の感染後、フローサイトメーターによってCAR-T細胞の陽性率を検出した。
【0085】
3.フローサイトメトリー検出
約1~10×10個の細胞を集め、抗体会社の推奨用量に従って染色した。CytoFLEX(Beckman Coulter Inc.)をオンマシン検出に使用した。以下の抗体を使用した:ヤギ抗ヒトIgG(H+L)フローサイトメトリー抗体Alexa Fluor 647(109-606-003、Jackson)、マウス抗ヒトCD3フローサイトメトリーモノクローナル抗体 Brilliant Violet 421(300434、BioLegend)、マウス抗ヒトEGFRモノクローナル抗体PE(352903、BioLegend)、806組換えモノクローナル抗体(Genscriptによる合成品)、マウス抗ヒトCD4フローサイトメトリーモノクローナル抗体PE(300508、BioLegend)、マウス抗ヒトCD8αフローサイトメトリーモノクローナル抗体APC(301014、BioLegend)、マウス抗ヒトCD45ROフローサイトメトリーモノクローナル抗体PE(304205、BioLegend)、およびマウス抗ヒトCCR7フローサイトメトリーモノクローナル抗体APC(353213、BioLegend)。
【0086】
4.CAR-T細胞のエレクトロポレーションおよび編集効率の検出
T細胞活性化の3日後、Dynabeadsを磁石で除去した。エレクトロポレーションの前に、RNP複合体を調製し、6μgのCas9タンパク質(Shenzhen Feipeng Biotechnology Co., Ltd.)およびin vitroで転写し調製した6μgのsgRNA(標的配列:CCTGAGCAGCCCCCGACCCA)を室温で20分間インキュベートした。20μlのP3初代細胞4D-NucleofectorXキットエレクトロポレーション溶液(V4XP-3024、Lonza)を使用することによって、1×10個のCAR-T細胞を再懸濁し、インキュベートしたRNPを加えた。4D-Nucleofector System N(Lonza)エレクトロポレーターを、EO-115エレクトロポレーション条件下でのエレクトロポレーションに使用した。エレクトロポレーション後、細胞混合物を抽出し、予熱したT細胞培地に移した。48時間後、エレクトロポレーション効率を検出した。サンガー配列決定(配列決定プライマー:TGFbR2-TIDE-F:5’-cacatctggcccgcacatct-3’;およびTGFbR2-TIDE-R:5’-ggaaactttcctcgtttccgc-3’)は、サーベイヤーアッセイのPCR産物(プライマー:TGFbR2-TIDE-F:5’-cacatctggcccgcacatct-3’;およびTGFbR2-GT-R:5’-gggtggctcagaaagagctg-3’)に対して実施した。ウェブサイトhttp://tide.nki.nlにより、配列決定結果を分析した。
【0087】
5.CAR-T細胞in vitro殺滅実験(ルシフェラーゼ検出法)
CRL-5826-Luci細胞の構築:野生型CRL-5826細胞にルシフェラーゼおよびピューロマイシン耐性スクリーニング遺伝子を発現するレンチウイルスを感染させ、その後、ピューロマイシンで2週間スクリーニングして、ルシフェラーゼを安定に発現するCRL-5826-Luci細胞を得た。殺滅実験:1640完全培地を使用することによって標的細胞CRL-5826-Luciを、細胞密度が1×10/mlとなるように再懸濁した。標的細胞懸濁液を96ウェルプレートにウェル当たり100μl接種した。異なる数のエフェクターCAR-T細胞を、異なるエフェクター-ターゲット比に従ってそれぞれ加え、各エフェクター-ターゲット比について4反復で行った。各ウェルの最終容量は200μlであった。それらをインキュベーターに入れ、異なる時点で取り出し、殺滅効率を検出した。検出時には、10μlのSteady-glo フルオレセイン基質(Promega)を各ウェルに加え、5分間反応させた。蛍光値は、マイクロプレートリーダーPerinElmer VICTOR X3を使用することによって検出した。標的細胞に対するエフェクター細胞の殺滅効率は各ウェルの蛍光値に基づいて計算した:特異的溶解(%)=(1-RUL エフェクター細胞+標的細胞/RUL 標的細胞)×100(RUL:相対光単位)。
【0088】
6.CAR-T細胞in vitro殺滅実験(RTCA検出法)
エフェクターCAR-T細胞の標的細胞に対するin vitro殺滅機能を、リアルタイム非標識細胞機能分析装置を使用することによって検出した。線維芽細胞、CRL-5826細胞、およびK562細胞をそれぞれE-Plate16(ACEA)に播種し、2500個の細胞を各ウェルに加え、2反復で行った。24時間後、エフェクターCAR-T細胞を、異なるエフェクター-ターゲット比(0.2:1、0.05:1、0.0125:1、および0:1)に従ってそれぞれ加えた。細胞指数(CI)値を4日間継続的に観察した。エフェクター細胞の標的細胞に対する殺滅効率は各ウェルのCI値に基づいて計算した:特異的溶解(%)=(1-CI エフェクター細胞+標的細胞/CI 標的細胞)×100。
【0089】
7.マルチラウンド抗原刺激(ストレステスト)実験
2×10個のCAR-T細胞をCRL-5826腫瘍細胞と共培養し、エフェクター-ターゲット比は1:1である。2日後、総ての腫瘍細胞を溶解し、CAR-T細胞を計数した後、新しい腫瘍細胞を追加した。同様に、新しい腫瘍細胞を1日おきに追加し、異なる群間でCAR-T細胞の殺滅効率に有意な差が現れるまで、エフェクター-ターゲット比を1:1に維持した。添加群のTGF-β1濃度は5ng/mlに維持した。
【0090】
8.担腫瘍マウスモデルにおけるCAR-T細胞機能の検出
実験マウスは6週齢のNPG雌マウス(Weitongda Companyから購入)であった。CRL-5826細胞をDPBSで再懸濁し、細胞密度は2×10/mlであった。それぞれ100μlの細胞懸濁液を採取し、100μlのマトリゲルを加え、マウスに皮下注射を行った。各マウスに約2×10個のCRL-5826細胞を注射し、腫瘍体積は4週間後に約300mmであった。腫瘍のサイズに応じて、担腫瘍マウスを無作為に群化し、実験群当たり5匹のマウスを割り当てた。CAR-T細胞を、異なる注射用量で尾静脈に1回注射した(CARは約50%である)。腫瘍体積、末梢血中のヒトCD3含量、およびT細胞サブタイプの割合を毎週測定した。腫瘍塊の再接種:PBS群のマウスを安楽死させ、腫瘍塊を摘出し、200~300mmの腫瘍塊に分割し、腫瘍が完全に除去されたマウスの反対側の皮下にそれぞれ接種した。4匹の新たなNPGマウスを選び、再接種対照として分割した腫瘍塊を皮下に接種した。
【0091】
実施例1:抗EGFR ScFv配列の合成およびベクター構築
6種のヒト化抗EGFR ScFv配列と1つのマウス由来抗EGFR ScFvを既存の特許および国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)から見出した(hu806(US009493568B2)、E2(US20150030599A1)、Pan(US20150152184A1)、Nec(WO2005/090407A1)、Nimo(US6506883B2)、301(GeneBank JQ306330.1)、およびm806(WO02092771A2))。遺伝子合成後、これらの7種のScFvをそれぞれCARフレームワーク遺伝子とともにレンチウイルスベクターpRRLSINプラスミドに挿入した(図1)。
【0092】
実施例2:抗EGFR CAR-T細胞の調製
実施例1に記載した異なるScFvを含む7種のCAR構造をそれぞれレンチウイルスによりヒト初代T細胞に導入した。ヒト初代T細胞を同じウイルス力価で感染させた後、感染後5日目にCAR-T細胞の陽性率を検出した(図2)。結果から、同じレンチウイルス力価の条件下でも、異なるCAR-T細胞の陽性率には依然として比較的大きな差異とクラスターがあることが分かる。
【0093】
実施例3:抗EGFR CAR-T細胞のin vitroおよびin vivoでの殺滅機能の比較
異なるscFv源からの抗EGFR CAR-T細胞の殺滅機能を比較するために、CRL-5826細胞をin vitro低エフェクター-ターゲット比長期殺滅実験および腫瘍抗原連続刺激殺滅ストレステスト実験に供した(図3および図4)。結果から、hu806およびNimo CAR-Tは、他の4種のscFv CAR-Tと比較して、より強力なin vitro殺腫瘍機能を有することが分かる。加えて、ストレステストの結果から、hu806 CAR-Tの腫瘍除去効果がNimo CAR-T細胞の腫瘍除去効果よりも優れていることが示されている。次に、NPGマウスのin vivo担腫瘍および治療実験(図5A)を実施した。CRL-5826細胞により皮下に腫瘍を形成し、5週間後に6種類の抗EGFR CAR-T細胞をそれぞれ同用量で尾静脈に注射した。その後、腫瘍体積の変化を毎週観察した(図5B)。結果から、hu806 CAR-T細胞が最適なin vivo腫瘍除去効果を有することが示されている。
【0094】
実施例4:ヒト化hu806 CAR-T細胞とマウス由来m806 CAR-T細胞のin vitro殺滅機能の比較
抗EGFRモノクローナル抗体806 ScFvは、もともとマウスIgG2b(m806)に由来し、FR領域の配列がヒト化されて、ヒト化806(hu806)になった。この出願では、ヒト化およびマウス806 ScFvに由来するCAR-T細胞のin vitro機能を比較した。実験結果から、hu806 CAR-T細胞はより強力なin vitro抗腫瘍機能を有することが示されている(図6)。
【0095】
マウスIgG2b(m806)CARのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号81および82に示し、マウスIgG2b(m806)CARの各部分は下記表1に対応する。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例5:hu806 CAR-T細胞においてTGF-β受容体IIがノックアウトされた後、抗腫瘍能力は増強され得る
TGF-β受容体がノックアウトされたhu806 CAR-T細胞とノックアウトされていないものの抗腫瘍機能を比較した。ヒト初代T細胞にレンチウイルスを感染させ、48時間後に、TGFbR2を標的とするCas9 RNPをエレクトロポレーションした。2日後、ノックアウト細胞のゲノムDNAを抽出し、CAR-T細胞のノックアウト効率(図7A)および陽性率(図7B)をTIDE法により検出した。7日間のin vitro培養後、TGF-βの存在下でのhu806 CAR-T細胞およびhu806-TKO CAR-T細胞のin vitro殺腫瘍条件を観察する。
【0098】
結果から、TGF-βはhu806 CAR-T細胞のin vitro抗腫瘍機能を阻害することが示され、TGF-β受容体IIがノックアウトされると、CAR-T細胞機能に対するTGF-βの阻害効果(図8A)が逆転する可能性がある。また、ストレステストの実験結果から、複数ラウンドの腫瘍抗原連続刺激の後、hu806-TKOはhu806 CAR-T細胞と比較してより多くの抗腫瘍利点を有することも示される(図8B)。加えて、TGF-β受容体IIがノックアウトされたhu806-TKO CAR-T細胞は、hu806 CAR-T細胞よりも多くの増殖上の利点を有する(図8C)。
【0099】
実施例6:NPGマウスのin vivo実験は、hu806-TKO CAR-Tがより優れた治療効果を有することを示す
Hu806 CAR-T細胞と806-TKO CAR-T細胞を異なる用量で注射し、担腫瘍NPGマウスにおける腫瘍体積の変化を観察した(図9A)。動物のin vivo実験結果から、注射用量が高いほど、腫瘍除去速度が速いことが示されている。加えて、同じ用量条件下では、hu806-TKO CAR-T細胞の治療効果は、hu806 CAR-T細胞の治療効果よりも有意に優れていた(図9A)。腫瘍が完全に除去されたhu806-TKO群のマウスに対して腫瘍再接種を実施した。3~4週間後、実験群のマウスは再び腫瘍を除去する能力を示した。マウスの末梢血中のヒトCD3の割合を分析することにより、hu806-TKO群のhCD3の割合がhu806群よりも有意に高く(図8B)、腫瘍除去効果と正の相関があることが分かる。
【0100】
実施例7:hu806-TKO CAR-T細胞を使用した担腫瘍NPGマウスの末梢血中のT細胞サブタイプの割合
動物に注入されたCAR-T細胞の増幅とサブタイプの割合の変化を観察するために、良好なin vivo増幅効果を有する#4ドナーのCD3 T細胞を使用することによってhu806細胞およびhu806-TKO細胞を調製した。2種類のCAR-T細胞およびPBS対照を尾静脈に注射し、注射用量は5e6 CAR/マウスであった。T細胞のサブタイプを観察するために毎週採血した。結果から、ノックアウト群がより良好な腫瘍除去効果を有していたことが再び示される(図10A)。マウスの末梢血中のhCD3の割合は最初に増加した後、減少した。治療の後期でも、hu806-TKO群は、hu806群と比較して、より高い割合のhCD3を依然として維持した(図10B)。マウス末梢血中のヒトCD3サブタイプをさらに分析すると、TKO群は記憶状態T細胞の割合が高く、特に中央記憶(central memory)T細胞の割合が高く、これがより有利であることが示された(図10C)。公開文書によると、中央記憶T細胞の割合は予後および有効性と正の相関関係がある。CD4およびCD8染色の結果から、治療の初期では、TKO群でCD8 T細胞の割合が高かったことが分かる。時間の経過とともに、CD4 T細胞が主要な細胞サブグループとなった(図10D)。
【0101】
実施例8:hu806-TKO CAR-T細胞の治療用量の探索
臨床実験に注射治療用量の基準を提供するために、担腫瘍NPGマウスに対して用量群化実験を実施した。マウスとヒトの間の等価用量変換に基づいて、異なる注入用量を処方した(表2)。動物におけるin vivo群化療法の結果から、hu806-TKOの4つの用量群総てがCDXモデル腫瘍を効果的に除去することができ、用量は腫瘍除去速度に関連していたことが分かる(図11A)。腫瘍除去後、2つの治療用量群の腫瘍再接種実験を実施し、両方の群で再接種腫瘍の体積の効果的な減少が観察された(図11A)。マウス末梢血中のhCD3含量は注入用量に関連し、治療時間とともにhCD3含量は最初に増加した後、減少した(図11B)。
【0102】
【表2】
【0103】
実施例9:hu806 CAR-T細胞のin vivo安全性
CAR-T細胞療法の主なリスクはオフターゲット効果にある。抗EGFR hu806 ScFvのオフターゲット効果を検出し、in vivoでの安全性を明らかにするために、hu806組換え抗体を使用して肺扁平上皮癌細胞とヒト初代線維芽細胞を染色した。フローサイトメトリーの結果から、CRL-5826と線維芽細胞の両方がEGFRを発現したのに対し、線維芽細胞は少量のhu806抗原のみを発現したことが分かる。血液由来の白血病細胞K562はEGFRを発現しなかった(図12A)。それに応じて、これらの3種類の細胞に対するin vitro殺滅検出では、hu806 CAR-T細胞がEGFR陽性806抗原陽性CRL-5826細胞に対して強い殺滅機能を有する一方、EGFR陽性806抗原陰性線維芽細胞およびEGFR陰性K562細胞をほとんど殺滅しないことが示された(図12B)。これは、hu806細胞を薬剤として体内に注射した場合、オフターゲット副作用のリスクが低いことを示唆している。
【0104】
配列表:
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
【配列表】
2023545681000001.app
【国際調査報告】