(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(54)【発明の名称】抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体、及びそれらの医学的使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231024BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231024BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231024BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231024BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231024BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231024BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12P21/08
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C12N15/63 Z
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521378
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 CN2021123731
(87)【国際公開番号】W WO2022078424
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】202011099107.8
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518405393
【氏名又は名称】上▲海▼翰森生物医▲薬▼科技有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】518402015
【氏名又は名称】江▲蘇▼豪森▲薬▼▲業▼集▲団▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】毛 ▲東▼杰
(72)【発明者】
【氏名】▲羅▼ 燕
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼ 岳峻
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AA77X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BB01
4C085CC23
4H045AA11
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体、及びそれらの医学的使用に関する。更に、本出願は、ヒト化抗TROP-2抗体変異体、抗TROP-2抗体変異体を含む医薬組成物、TROP-2媒介性疾患又は状態を処置するための薬物の調製におけるそれらの使用、並びに腫瘍検出及び診断における使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体であって、
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号43に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含み、
好ましくは、
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号30に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号26に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号27に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号28に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号29に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号39に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号40に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号41に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含むか、又は
前記重鎖可変領域が、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号42に示されるHCDR2、及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域が、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2、及び配列番号9に示されるLCDR3を含む、
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項2】
前記抗体が、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項3】
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4又はそれらの変異体に由来する定常領域を更に含み、
好ましくは、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4変異体に由来する重鎖定常領域を含み、
より好ましくは、239D及び241L突然変異を導入されたIgG1重鎖定常領域を含み、
更に好ましくは、配列番号12の重鎖定常領域を含む、
請求項1又は2に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項4】
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、ヒトκ鎖、λ鎖又はそれらの変異体に由来する軽鎖定常領域を更に含み、好ましくは、配列番号13の軽鎖定常領域を含む、請求項3に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項5】
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号20、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34からなる群から選択される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項6】
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号11の軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1から2及び5のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項7】
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号25、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38からなる群から選択される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖を含む、請求項5又は6に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項8】
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号15の軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含む、請求項5又は6に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項9】
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号20に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号16に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号17に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号18に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号19に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号31に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号32に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号33に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体が、配列番号34に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項10】
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号25に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号21に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号22に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号23に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号24に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号35に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号36に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号37に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
前記抗TROP-2抗体又はその変異体が、配列番号38に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターを形質転換した宿主細胞であって、細菌、酵母及び哺乳動物細胞、好ましくはエシェリキア・コリ、ピキア・パストリス、CHO細胞又はHEK293細胞からなる群から選択される、宿主細胞。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を産生する方法であって、以下の工程:
請求項13に記載の宿主細胞、好ましくはHEK293細胞を培養する工程と、
培養物から抗体を単離する工程、好ましくは細胞培養液から抗体を単離する工程と、
前記抗体を精製する工程、好ましくはクロマトグラフィー法によって前記抗体を精製する工程と
を含む、方法。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体、及び薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を含む、検出又は診断試薬。
【請求項17】
医薬の調製における、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片若しくはその変異体、又は請求項15に記載の医薬組成物の使用であって、前記医薬が、TROP-2媒介性疾患又は状態を処置又は予防するためである、使用。
【請求項18】
キットの調製における、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片若しくはその変異体、又は請求項16に記載の検出若しくは診断試薬の使用であって、前記キットが、TROP-2媒介性疾患又は状態の検出、診断又は予後のためである、使用。
【請求項19】
前記TROP-2媒介性疾患又は状態が、がんであり、
好ましくは、前記TROP-2媒介性疾患又は状態が、TROP-2を発現するがんであり、
前記がんが、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膀胱がん、食道がん、子宮頸がん、胆嚢がん、神経膠芽腫及び黒色腫からなる群から選択される、請求項17又は18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月14日に出願された特許出願第202011099107.8号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体に関し、抗TROP-2抗体又はその変異体のCDR領域を含むキメラ抗体又はヒト化抗体に関し、ヒト抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を含む医薬組成物に関し、また、抗がん薬としてのそれらの使用及び腫瘍の検出又は診断のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍ゲノミクス、プロテオミクス及びシグナル伝達経路の研究が深まるにつれて、腫瘍細胞におけるがん遺伝子及び腫瘍抑制遺伝子の相互作用、並びに腫瘍微小環境に及ぼすそれらの影響がより明らかになり、これにより、腫瘍の特定の分子標的に対する新たな抗腫瘍治療スキームを設計することも可能になっている。
【0004】
腫瘍の分子標的治療は、従来の外科手術、放射線療法及び化学療法とは異なる新たな治療様式であり、その利点は、薬物が通常、対応する標的にのみ結合し、標的分子の機能に直接影響を与えることによって、又はそれが担持する物理的若しくは化学的エフェクター分子によって標的細胞を殺滅又は阻害することである。特定の標的のために、薬物は通常、高度に選択的であり、正常組織細胞に対して有毒な副作用を全く又はほとんど生じずに、標的細胞を効果的に殺滅又は阻害することができる。したがって、分子標的薬物の開発が、腫瘍臨床研究におけるホットスポットになっている。
【0005】
腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2(TACSTD2)としても知られている栄養膜細胞表面抗原2(TROP-2)は、TACSTD2遺伝子によってコードされる細胞膜貫通糖タンパク質である。TROP-2は約323個のアミノ酸からなり、そのうちシグナルペプチドは26個のアミノ酸を含み、細胞外領域は248個のアミノ酸を含み、膜貫通領域は23個のアミノ酸を含み、サイトゾル領域は26個のアミノ酸を含む。TROP-2の細胞外ドメインには4つの異種N結合型グリコシル化部位があり、糖鎖を付加した後、見かけの分子量は、11~13KDまで増加する。TACSTD遺伝子ファミリーにおいて、細胞外ドメインは、特徴的なサイログロブリン(TY)配列を有し、これは通常、がん細胞の増殖、浸潤及び転移に関連していると考えられている。
【0006】
現在まで、TROP-2の生理学的リガンドは同定されておらず、TROP-2の分子機能は解明されていない。しかしながら、プロテインキナーゼC(PKC、Ca2+依存性プロテインキナーゼに属する)による細胞内のセリン303残基におけるリン酸化、及び細胞内ドメインにおけるPIP2結合配列の存在のために、TROP-2は、腫瘍細胞においてシグナル伝達機能を有することが実証されている。
【0007】
多数の臨床研究及び文献報告により、TROP-2抗原が、胃がん、肺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膵臓がん、肝臓がん、食道がん等の様々な上皮由来がんにおいて過剰発現することが示されている。TROP-2抗原は、成人の正常組織ではほとんど発現されないか、又は発現されず、上皮領域の細胞では極めてまれに発現され、また、その発現レベルは、がん細胞における発現レベルよりも低く、TROP-2が腫瘍形成に関連していることを示している。腫瘍組織におけるTROP-2の過剰発現は、予後不良及びがん細胞の転移と密接に関連しており、更に、対象の全生存率に影響を与える。結果として、TROP-2は、腫瘍に対する分子標的治療における有力な標的となっている。
【0008】
現在、研究により、様々なTROP-2抗体の抗腫瘍効果が報告されている。
【0009】
米国特許第5840854号は、ヒトがん細胞株H3619、H2987、MCF-7、H3396及びH2981に対する細胞毒素コンジュゲート抗TROP-2モノクローナル抗体(BR110)の細胞傷害性を報告している。
【0010】
米国特許第6653104号は、放射性物質で標識され、in vivoモデルで試験された抗体(RS7)を開示しており、ヌードマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示したが、裸の抗体の抗腫瘍効果は報告されていない。
【0011】
更に、米国特許第7420040号は、マウスをヒト卵巣がん組織で免疫化することによって得られたハイブリドーマ細胞株AR47A6.4.2又はAR52A301.5によって生成された、単離されたモノクローナル抗体が、TROP-2抗原に結合し、ヌードマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示すことを報告している。
【0012】
中国特許第102827282A号は、遺伝子操作されたヒト抗TROP-2抗体IgG及びその使用を開示している。in vitro試験の結果により、この抗TROP-2抗体IgGが、膵臓がん細胞の増殖に対して有意な阻害効果を有することが示された。
【0013】
中国特許第104114580A号は、TROP-2抗原と特異的に反応し、in vivoで抗腫瘍活性を有する抗体(特にヒト化抗体)、並びに抗体を産生するハイブリドーマ、抗体と薬剤の複合体、腫瘍の診断又は処置のための医薬組成物、腫瘍の検出方法、及び腫瘍の検出又は診断用のキットを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5840854号
【特許文献2】米国特許第6653104号
【特許文献3】米国特許第7420040号
【特許文献4】中国特許第102827282A号
【特許文献5】中国特許第104114580A号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J.Biol.Chem、243、3558頁(1968)
【非特許文献2】Holliger及びHudson、2005、Nat.Biotechnol.23:1126~1136頁
【非特許文献3】Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、第5~8及び15章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、高親和性、高特異性、及び強力な細胞傷害性又は腫瘍殺滅/阻害/変性活性を有するモノクローナル抗体を見つけることは困難である。したがって、良好な有効性、高い安全性を有し、ヒト対象に適したTROP-2抗体及び他の免疫療法剤を開発するための緊急の必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を提供する。
【0018】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4、配列番号43及び配列番号6からなる群から選択される配列に示される少なくとも1つのHCDRを含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7、配列番号8及び配列番号9からなる群から選択される配列に示される少なくとも1つのLCDRを含み、
配列番号43は、RIDPXDSETHYNQKFKDに示される通りであり、Xは、アミノ酸残基R、Y、Q、L、T、I、F、E及びAからなる群から選択される。
【0019】
本開示の好ましい実施形態において、重鎖可変領域HCDR2は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号42からなる群から選択される。
【0020】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、抗体重鎖可変領域は、
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号26に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号27に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号28に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号29に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号30に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号39に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号40に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号41に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3、又は
配列番号4に示されるHCDR1、配列番号42に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3
を含む。
【0021】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、軽鎖可変領域は、
配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3
を含む。
【0022】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号26に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0023】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号27に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0024】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号28に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0025】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号29に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0026】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号30に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0027】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号39に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0028】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号40に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0029】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号41に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0030】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
重鎖可変領域は、配列番号4に示されるHCDR1、配列番号42に示されるHCDR2及び配列番号6に示されるHCDR3を含み、
軽鎖可変領域は、配列番号7に示されるLCDR1、配列番号8に示されるLCDR2及び配列番号9に示されるLCDR3を含む。
【0031】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0032】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4又はそれらの変異体に由来する定常領域を更に含む。
【0033】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、ヒトIgG1、IgG2若しくはIgG4又はそれらの変異体に由来する重鎖定常領域を更に含む。
【0034】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、アミノ酸突然変異後に増強したADCC毒性を有するIgG1に由来する重鎖定常領域を更に含む。
【0035】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、239D及び241L突然変異を導入されたIgG1の重鎖定常領域を更に含む。
【0036】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号12から選択される重鎖定常領域を更に含む。
【0037】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、ヒトκ鎖、λ鎖又はそれらの変異体に由来する軽鎖定常領域を更に含む。
【0038】
本開示の更なる好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号13から選択される軽鎖定常領域を更に含む。
【0039】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34からなる群から選択される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域を含む。
【0040】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号11の軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む。
【0041】
本開示の好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38からなる群から選択される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する完全長重鎖を含む。
【0042】
本開示の好ましい実施形態において、抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号15の軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する完全長軽鎖を含む。
【0043】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号16に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号17に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号18に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号19に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号20に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号31に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号32に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号33に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むか、或いは
抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体は、配列番号34に示される重鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖可変領域、及び配列番号11に示される軽鎖可変領域、又はそれと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む。
【0044】
本開示の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態において、
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号21に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号22に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号23に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号24に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号25に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号35に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号36に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号37に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含むか、或いは
抗TROP-2抗体又はその変異体は、配列番号38に示される重鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する重鎖、及び配列番号15に示される軽鎖、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、95%若しくは99%の同一性を有する軽鎖を含む。
【0045】
本開示はまた、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0046】
本開示はまた、上述のポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0047】
本開示はまた、上述の発現ベクターを形質転換した宿主細胞に関する。
【0048】
本開示はまた、宿主細胞が、細菌、酵母及び哺乳動物細胞からなる群から選択される、好ましい実施形態に関する。
【0049】
本開示はまた、宿主細胞が、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、CHO細胞又はHEK293細胞からなる群から選択される、更なる好ましい実施形態に関する。
【0050】
本開示はまた、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を産生する方法であって、以下の工程:上述の宿主細胞、好ましくはHEK293細胞を培養する工程と、培養物から抗体を単離する工程、好ましくは細胞培養液から抗体を単離する工程と、抗体を精製する工程、好ましくはクロマトグラフィー法によって抗体を精製する工程とを含む、方法に関する。
【0051】
本開示はまた、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体、及び薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む、医薬組成物に関する。
【0052】
本開示はまた、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体を含む、検出又は診断キットに関する。
【0053】
本開示はまた、医薬の調製における、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の使用であって、医薬が、TROP-2媒介性疾患又は状態を処置又は予防するためである、使用に関する。
【0054】
本開示はまた、試薬の調製における、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片若しくはその変異体の使用であって、試薬が、TROP-2媒介性疾患又は状態の検出、診断及び予後のためである、使用に関する。
【0055】
本開示はまた、TROP-2媒介性疾患又は状態が、がんであり、好ましくは、TROP-2媒介性疾患又は状態が、TROP-2を発現するがんであり、好ましくは、がんが、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膀胱がん、食道がん、子宮頸がん、胆嚢がん、神経膠芽腫及び黒色腫からなる群から選択される、上述の使用の好ましい実施形態に関する。
【0056】
本開示はまた、TROP-2媒介性疾患を処置又は予防するために使用される、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態に関し、疾患が、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膀胱がん、食道がん、子宮頸がん、胆嚢がん、神経膠芽腫及び黒色腫からなる群から選択される。
【0057】
本開示はまた、TROP-2媒介性疾患の検出、診断及び予後のために使用される、上述の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片又はその変異体の好ましい実施形態に関し、疾患が、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膀胱がん、食道がん、子宮頸がん、胆嚢がん、神経膠芽腫及び黒色腫からなる群から選択される。
【0058】
本開示はまた、TROP-2媒介性疾患を処置又は予防する方法であって、以下の工程:治療若しくは予防有効量の上記の抗TROP-2抗体、その抗原結合断片若しくはその変異体を必要とする対象に提供する工程、又は治療若しくは予防有効量の本開示による医薬組成物を必要とする対象に提供する工程を含み、TROP-2媒介性疾患が、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、腎臓がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膀胱がん、食道がん、子宮頸がん、胆嚢がん、神経膠芽腫及び黒色腫からなる群から選択される、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0059】
用語
本開示を理解しやすくするために、特定の技術的及び科学的用語を以下に具体的に定義する。本文書の他の場所で明確に定義されていない限り、本明細書で使用される他の全ての技術的及び科学的用語は、本開示が属する当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0060】
本開示で使用されるアミノ酸の3文字コード及び1文字コードは、J.Biol.Chem、243、3558頁(1968)に記載されている通りである。
【0061】
本開示に記載される「抗体」という用語は、鎖間ジスルフィド結合によって連結された2本の重鎖及び2本の軽鎖からなるテトラペプチド鎖構造の免疫グロブリンを指す。免疫グロブリンの重鎖定常領域のアミノ酸組成及び配列の順序が異なるため、それらの抗原性も異なる。これによって、免疫グロブリンは、5つのタイプ、又は免疫グロブリンのアイソタイプ、即ち、IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEに分類することができ、それらの対応する重鎖は、それぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖、及びε鎖である。同じタイプのIgは、ヒンジ領域のアミノ酸組成の違い、並びに重鎖ジスルフィド結合の数及び位置に応じて、異なるサブクラスに分類することができる。例えば、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4に分類することができる。軽鎖は、定常領域の違いによって、κ鎖又はλ鎖に分類される。5つのタイプのIgの各々は、κ鎖又はλ鎖を有することができる。
【0062】
本開示において、抗体軽鎖は、ヒト又はマウスのκ鎖、λ鎖又はそれらのバリアントを含む軽鎖定常領域を更に含むことができる。
【0063】
本開示において、抗体重鎖は、ヒト又はマウスのIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4又はそれらのバリアントを含む重鎖定常領域を更に含むことができる。
【0064】
抗体の重鎖及び軽鎖のN末端付近にある約110個のアミノ酸の配列は、大きく変動し、可変領域(V領域)と命名され、C末端付近にある残りのアミノ酸配列は、比較的安定しており、定常領域(C領域)と命名される。可変領域は、3つの超可変領域(HVR)及び比較的保存的な配列を有する4つのフレームワーク領域(FR)を含む。3つの超可変領域は、抗体の特異性を決定し、相補性決定領域(CDR)としても知られている。軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)の各々は、3つのCDR領域及び4つのFR領域から構成され、アミノ末端からカルボキシル末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列される。軽鎖の3つのCDR領域は、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を指し、重鎖の3つのCDR領域は、HCDR1、HCDR2及びHCDR3を指す。本開示による抗体又は抗原結合断片のVL領域及びVH領域のCDRアミノ酸残基の数及び位置は、公知のKabat番号付け及びKabat又はABM基準に準拠する。
【0065】
「TROP-2」という用語は、任意の天然に発現されたバリアント又はTROP-2のアイソフォームを含む。本開示の抗体は、非ヒト種に由来するTROP-2と交差反応することができる。代替として、抗体はまた、ヒトTROP-2に特異的であることができ、他の種との交差反応性を示さない場合もある。TROP-2又はその任意のバリアント若しくはアイソフォームは、それらを天然に発現する細胞若しくは組織から単離することができるか、又は当該技術分野で一般的に使用されている技術及び本明細書に記載されている技術を使用する組換え技術によって産生することができる。好ましくは、抗TROP-2抗体は、正常なグリコシル化パターンを有するヒトTROP-2を標的とする。
【0066】
「組換えヒト抗体」という用語は、組換え方法によって調製され、発現され、作製され、又は単離されたヒト抗体を含み、関連する技術及び方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、以下がある。
1.ヒト免疫グロブリン遺伝子のトランスジェニック及びトランス染色体(transchromosomal)動物(例えば、マウス)から、又はそれから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、
2.トランスフェクショノーマ(transfectionoma)等の抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、
3.組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、並びに
4.他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシング等の技術によって調製され、発現され、作製され、又は単離された抗体。
【0067】
このような組換えヒト抗体は、生殖系列遺伝子によってコードされる特定のヒト生殖系列免疫グロブリン配列を利用する可変領域及び定常領域を含むが、抗体成熟中に起こるようなその後の再配列及び突然変異も含む。
【0068】
本開示における「マウス抗体」という用語は、当該技術分野の知識及び技能によるヒトTROP-2に対するモノクローナル抗体である。調製中、試験対象にTROP-2抗原を注射し、次に所望の配列又は機能特性を有する抗体を発現するハイブリドーマを単離する。本開示の例示的な実施形態において、マウスTROP-2抗体又はその抗原結合断片は、マウスのκ鎖、λ鎖若しくはそれらのバリアントの軽鎖定常領域を更に含み得るか、或いはマウスのIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4又はそれらのバリアントの重鎖定常領域を更に含み得る。
【0069】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列の可変領域及び定常領域を有する抗体を含む。本開示のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、in vitroでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発又はin vivoでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、ヒト化抗体を含まない。
【0070】
CDR移植抗体としても知られている「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種のCDR配列をヒト抗体可変領域のフレームワークに移植することによって産生される抗体を指す。ヒト化抗体は、大量の非ヒトタンパク質成分を担持するためにキメラ抗体によって誘導された強い免疫応答の欠点を克服することができる。免疫原性の低下によって引き起こされる活性低下を回避するために、ヒト抗体可変領域を最小限の逆突然変異に供して、その活性を維持することができる。
【0071】
「キメラ抗体」という用語は、第1の種の抗体可変領域を第2の種の抗体定常領域と融合させることによって形成された抗体であり、これは、第1の種の抗体によって誘導された免疫応答を軽減することができる。例として、キメラ抗体を確立するには、まず、マウス特異的モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを確立すること、次にマウスハイブリドーマ細胞から可変領域遺伝子をクローニングすること、次に必要に応じてヒト抗体の定常領域遺伝子をクローニングし、マウス可変領域遺伝子をヒト定常領域遺伝子と連結してキメラ遺伝子を形成し、これをヒト発現ベクターに挿入すること、最後に真核生物産業システム又は原核生物産業システムにおいてキメラ抗体分子を発現させることを必要とする。ヒト抗体の定常領域は、好ましくはヒトIgG1、IgG2又はIgG4重鎖定常領域を含むか、又はアミノ酸突然変異後に増強したADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害)毒性を有するIgG1重鎖定常領域を使用して、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4及びそれらのバリアントの重鎖定常領域から選択され得る。
【0072】
「抗原結合断片」という用語は、抗体及び通常、親抗体の抗原結合領域又は可変領域の少なくとも一部(例えば、1つ又は複数のCDR)を含む抗体類似体の抗原結合断片を指す。抗体断片は、親抗体の結合特異性の少なくとも一部を保持する。典型的に、活性がモルベースで表される場合、抗体断片は、親抗体の少なくとも10%の結合活性を保持する。好ましくは、抗体断片は、標的に対する親抗体の結合親和性の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%若しくは100%又はそれ以上を保持する。抗原結合断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、線状抗体、単鎖抗体、ナノボディ、ドメイン抗体及び多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。操作された抗体バリアントは、Holliger及びHudson、2005、Nat.Biotechnol.23:1126~1136頁に概説されている。
【0073】
「Fab断片」は、1つの軽鎖及びCH1並びに1つの重鎖の可変領域から構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することはできない。
【0074】
「Fc」領域は、抗体のCH1及びCH2ドメインを含む2つの重鎖断片を含有する。2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合によって、及びCH3ドメインの疎水性相互作用によって一緒に保持される。
【0075】
「Fab'断片」は、1つの軽鎖、並びにVHドメイン、CH1ドメイン及びCH1ドメインとCH2ドメインとの間の領域を含む1つの重鎖の一部を含有し、そのため、2つのFab'断片の2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合が形成され得、それによってF(ab')2分子が形成される。
【0076】
「F(ab')2断片」は、2つの軽鎖、並びにCH1ドメインとCH2ドメインとの間の定常領域の一部を含む2つの重鎖を含有し、それにより、2つの重鎖間に鎖間ジスルフィド結合を形成する。したがって、F(ab')2断片は、2つの重鎖間のジスルフィド結合によって一緒に保持された2つのFab'断片から構成される。
【0077】
「Fv領域」は、重鎖及び軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域を欠いている。
【0078】
「多重特異性抗体」という用語は、その最も広い意味で使用され、複数のエピトープに特異性を有する抗体を包含する。これらの多重特異性抗体には、以下が含まれるが、これらに限定されない:重鎖可変領域VH及び軽鎖可変領域VLを含む抗体(ここで、VH-VLユニットは、複数のエピトープに特異性を有する);2つ以上のVL及びVH領域を有する抗体(各VH-VLユニットは、異なる標的又は同じ標的の異なるエピトープに結合する);2つ以上の単一可変領域を有する抗体(各単一可変領域は、異なる標的又は同じ標的の異なるエピトープに結合する);完全長抗体、抗体断片、ダイアボディ、二重特異性ダイアボディ及びトライアボディ、共有結合又は非共有結合した抗体断片等。
【0079】
「単鎖抗体」という用語は、抗体の重鎖可変領域VH及び軽鎖可変領域VLを、リンカーペプチドを介して連結することによって形成される単鎖組換えタンパク質である。これは、完全な抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。
【0080】
「ドメイン抗体断片」という用語は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のみを含有し、免疫学的機能を有する免疫グロブリン断片である。ある特定の場合、2つ以上のVH領域は、ペプチドリンカーによって共有結合して二価ドメイン抗体断片を形成する。二価ドメイン抗体断片の2つのVH領域は、同じ抗原又は異なる抗原を標的にすることができる。
【0081】
「TROP-2への結合」という用語は、TROP-2又はそのエピトープと相互作用する能力を指す。
【0082】
「抗原結合部位」という用語は、本開示の抗体又は抗原結合断片によって認識される三次元部位を指す。
【0083】
「エピトープ」という用語は、免疫グロブリン又は抗体に特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、タンパク質の三次フォールディングによって隣接アミノ酸又は非隣接アミノ酸によって形成することができる。隣接アミノ酸によって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒への曝露後に維持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒での処理後に失われる。エピトープは、通常、固有の空間的立体配座において少なくとも3~15個のアミノ酸を含む。どのエピトープが所与の抗体に結合するかを測定するための方法は、当該技術分野で周知であり、免疫ブロッティング、免疫沈降検出分析等が含まれる。エピトープの空間的立体配座を測定するための方法には、当該技術分野の技術及び本明細書に記載される技術、例えば、X線結晶分析、二次元核磁気共鳴等が含まれる。
【0084】
「特異的に結合する」及び「選択的に結合する」という用語は、抗体が所定の抗原上のエピトープへ結合することを指す。典型的に、組換えヒトTROP-2を分析物として使用し、抗体をリガンドとして使用する場合、機器の表面プラズモン共鳴(SPR)技術で測定すると、抗体は、約10-7M未満又は更にそれ以下の平衡解離定数(KD)で所定の抗原(又はエピトープ)に結合し、所定の抗原(又はエピトープ)に対するその結合親和性は、所定の抗原又は密接に関連する抗原以外の非特異的抗原、例えばBSA等に対するその結合親和性より少なくとも2倍高い。「抗原を認識する抗体」という用語は、本明細書において「特異的に結合する抗体」という用語と交換可能に使用することができる。
【0085】
「交差反応」という用語は、異なる種に由来するTROP-2に結合する本開示の抗体の能力を指す。例えば、ヒトTROP-2に結合する本開示の抗体はまた、別の種のTROP-2に結合することができる。交差反応性は、精製された抗原との特異的反応性、又はTROP-2を生理学的に発現する細胞との結合若しくは機能的相互作用を検出することにより、結合アッセイ(例えばSPR及びELISA)により測定される。交差反応性を測定するための方法には、本明細書に記載される標準的な結合アッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)分析又はフローサイトメトリーが含まれる。
【0086】
「抑制」又は「遮断」という用語は、互換的に使用することができ、部分的及び完全な抑制/遮断の両方を包含する。好ましくは、阻害又は遮断がない場合の活性の正常なレベル又はタイプと比較して、リガンドの阻害又は遮断は、活性のレベル又はタイプを減少又は変化させる。また、阻害及び遮断は、抗TROP-2抗体と接触していないリガンドと比較して、抗TROP-2抗体と接触したときのリガンドに対する結合親和性のいずれかの測定可能な減少を含むことが意図される。
【0087】
「増殖の阻害」(例えば、細胞に関する)という用語は、いずれかの測定可能な細胞増殖の減少を含むことが意図される。
【0088】
「誘導された免疫応答」及び「増強された免疫応答」という用語は、交換可能に使用することができ、特定の抗原によって刺激された(即ち、受動的又は適応的)免疫応答を指す。CDC又はADCCを誘導することに関する「誘導する」という用語は、特定の直接的な細胞殺滅機構を刺激することを指す。
【0089】
「ADCC」、即ち、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害という用語は、Fc受容体を発現する細胞が、抗体のFcセグメントを認識することにより、抗体の標的にされた標的細胞を直接的に殺滅することを意味する。IgGのFcセグメントを改変することにより、抗体のADCCエフェクター機能を増強し、低減し、又は排除することができる。改変は、抗体の重鎖定常領域における突然変異を指す。
【0090】
抗体及び抗原結合断片を産生して精製するための方法は周知であり、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、第5~8及び15章等の先行技術に見出すことができる。例として、ヒトTROP-2又はその断片は、マウスを免疫化するために使用することができ、得られた抗体を再生、精製し、従来の方法によるアミノ酸シーケンシングに供することができる。同様に、従来の方法によって、抗原結合断片を調製することもできる。本発明の抗体又は抗原結合断片を得るために、遺伝子操作によって1つ又は複数のヒトFR領域を非ヒトCDR領域に付加する。ヒトFR生殖系列配列は、ImMunoGeneTics(IMGT)又はThe Immunoglobulin FactsBook、2001ISBN012441351から入手できる。
【0091】
本開示の操作された抗体又は抗原結合断片は、従来の方法によって調製、及び精製することができる。対応する抗体のcDNA配列をクローニングし、GS発現ベクター内に組換えることができる。組換え免疫グロブリン発現ベクターは、CHO細胞を安定的にトランスフェクトすることができる。より推奨される先行技術として、哺乳動物の発現系は、特にFc領域の高度に保存されたN末端に抗体のグリコシル化をもたらすことができる。安定したクローンは、ヒト抗原に特異的に結合する抗体を発現させることによって得られる。陽性クローンは、バイオリアクターの無血清培地中で増殖されて抗体を産生する。従来の技術によって、抗体が分泌される培養液を精製し、採取することができる。従来の方法によって抗体を濾過し、濃縮することができる。可溶性混合物及び多量体も、従来の方法、例えば、モレキュラーシーブ及びイオン交換によって除去することができる。得られた生成物は、例えば-70℃で直ちに凍結、又は凍結乾燥する必要がある。
【0092】
本開示の抗体は、モノクローナル抗体を指す。本開示に記載されるモノクローナル抗体(mAb)は、限定されないが、真核生物、原核生物又はファージクローン細胞株であるモノクローナル細胞株から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体又は抗原結合断片は、例えば、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術(CDR移植等)又は他の既存の技術を使用する組換えによって得ることができる。
【0093】
動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、臓器又は体液に適用される場合の「投与」、「投薬」及び「処置」は、外因性の医薬、治療剤、診断剤又は組成物を、動物、ヒト、対象、細胞、組織、臓器又は体液と接触させることを指す。「投与」、「投薬」及び「処置」は、例えば、処置、薬物動態、診断、研究及び実験方法を指すことができる。細胞の処理は、試薬を細胞と接触させること、及び試薬を液体と接触させることを含み、液体は細胞と接触している。「投与」、「投薬」及び「処置」はまた、例えば、細胞を、in vitro及びex vivoで、試薬、診断薬、結合組成物又は別の細胞によって処理することを指す。「投与」、「投薬」及び「処置」は、ヒト、獣医学的対象又は研究対象に適用される場合、治療的処置、阻止又は予防的手段、研究及び診断的用途を指す。
【0094】
「処置」は、内部又は外部の治療剤(例えば、本開示の抗体又はその断片のいずれか1つを含む薬剤)を、治療剤が治療効果を有することが知られている1つ又は複数の疾患症状を有する対象に提供することを指す。典型的に、治療剤は、処置される対象又は対象集団における1つ又は複数の疾患症状を緩和するのに有効な量で与えられ、そのような症状の退行を誘発するか、又はそのような症状の進行をいずれかの臨床的に測定可能な程度まで抑制する。任意の特定の疾患症状を緩和するのに有効な治療剤の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、様々な要因、例えば、対象の疾患状態、年齢及び体重、並びに対象において所望の治療効果を生み出す薬物の能力に応じて変化し得る。疾患症状が緩和されたかどうかは、症状の重症度又は進行を評価するために医師又は他の医療専門家によって一般的に使用される任意の臨床試験方法によって評価することができる。本開示の実施形態(例えば、処置方法又は生成物)は、あらゆる対象における標的の疾患症状を緩和するのに効果がない場合もあるが、Student t検定、chi-square検定、Mann及びWhitneyのU検定、Kruskal-Wallis検定(H検定)、Jonckheere-Terpstra検定並びにWilcoxon検定等の当該技術分野で知られている任意の統計的試験方法に従って決定される場合、それらは、統計的に有効な数の対象における標的の疾患症状を有意に低減するはずである。
【0095】
「有効量」は、医学的状態又はその症状を改善又は予防するのに十分な量を含む。有効量はまた、診断を可能にするか、又は容易にするのに十分な量も指す。特定の対象又は獣医学的対象の有効量は、以下の要因、例えば、処置される状態、患者の全般的な健康状態、投薬の方法、経路及び用量、並びに副作用の重症度に応じて変化し得る。有効量は、重大な副作用又は毒性作用を回避する最大の用量又は投薬レジメであり得る。
【0096】
「外因性」は、背景に応じて生物、細胞又は人体の外部で産生された物質を指す。
【0097】
「内因性」は、背景に応じて細胞、生物又は人体の内部で産生された物質を指す。
【0098】
「相同性」又は「同一性」は、2つのポリヌクレオチド配列間又は2つのポリペプチド間の配列類似性を指す。整列した2つの配列の位置が同じ塩基又はアミノ酸残基によって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の各位置がアデニンによって占められている場合、分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同性パーセンテージは、2つの配列によって共有される一致又は相同位置の数を、整列された位置の数で割って、100%をかけた関数である。例えば、最適な配列の整列では、2つの配列の10個の位置のうち6個が一致又は相同であれば、2つの配列は60%相同である。一般に、整列は、最大の相同性パーセンテージを得るために、2つの配列が整列されるときに行われる。
【0099】
本明細書で使用される「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」という表現は、互換的に使用することができ、そのような名称は全てその子孫を含む。したがって、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という表現は、継代の数に関係なく、初代細胞及びそれに由来する培養物を含む。意図的又は意図的でない突然変異のために、全ての子孫がDNA含有量に関して完全に同じであるとは限らないことも理解されるべきである。初代細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を有する突然変異子孫が含まれる。異なる名称が参照される場合、その文脈から明白に理解することができる。
【0100】
「任意選択の」又は「任意選択的に」とは、その後に記述する事象又は状況が発生する可能性があるが、必ずしも発生しないことを意味し、その記述には、事象又は状況が発生する場合又は発生しない場合が含まれる。例えば、「任意選択的に1~3つの抗体重鎖可変領域を含む」は、特定の配列の抗体重鎖可変領域が存在してもよいが、存在する必要はないことを意味する。
【0101】
「医薬組成物」は、1つ又は複数の本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片、及び生理学的/薬学的に許容される担体及び賦形剤等の他の成分を含有することを意味する。医薬組成物の目的は、生物への薬物投与を容易にし、生物学的活性を与えるために有効成分の吸収に役立つようにするためである。
【0102】
文脈において、明確に示されていない限り、単数形「a/an」、「1つの」又は「the」は、対応する複数形も含む。
【0103】
以下の実施例を参照して本開示を更に説明するが、これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。本開示の実施例において具体的な条件のない実験方法は、通常、Antibodies: A Laboratory Manual and Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harborに記載されているもの、又は原材料若しくは製品の製造業者が推奨する条件によるもの等の従来の条件に従う。具体的な供給源のない試薬は、市場から購入された従来の試薬である。
【実施例1】
【0104】
抗原の調製
Hisタグ付きヒトTROP-2(TROP-2-His)をコードするタンパク質を、SinoBiologics社(10428-H08H)によって合成した。
TROP-2-Hisの配列:
【0105】
【実施例2】
【0106】
マウスハイブリドーマ及び抗体配列の取得
合計5匹のBalb/c及び5匹のA/Jの雌の10週齢のマウスを、ヒト抗原TROP-2-Hisで免疫化した。Sigma社の完全フロイントアジュバント(CFA)及びSigma社の不完全フロイントアジュバント(IFA)を使用した。免疫原及び免疫アジュバントを1:1の比で完全に混合し、乳化して安定した「油中水」液を作製した。注射量は、25μg/200μL/マウスであった。
【0107】
【0108】
免疫化マウスの血清に関して、血清力価及び細胞表面抗原に結合する能力を、実施例3に記載されている間接ELISAを使用することによって評価した。力価の検出結果(100,000倍超の希釈)に従って細胞融合の開始を測定した。高い血清力価、親和性及びFACS結合を有する免疫化マウスを、1回の最終免疫化のために選択し、次に屠殺した。脾臓細胞を採取し、SP2/0骨髄腫細胞に融合させ、播種してハイブリドーマを取得した。標的のハイブリドーマを間接ELISAによってスクリーニングし、限界希釈法によってモノクローナル細胞株として樹立した。組換えタンパク質に結合したハイブリドーマを選択するために、得られた抗体陽性株を間接ELISAによって更にスクリーニングした。対数増殖期のハイブリドーマ細胞を採取した。Trizol(Invitrogen社、15596-018)でRNAを抽出し、逆転写(PrimeScript(商標)逆転写酵素、Takara社#2680A)に供した。マウスIg-プライマーセット(Novagen社、TB326 Rev.B0503)を使用したPCRによって、逆転写により得られたcDNAを増幅させ、シーケンシングに供して、最後にマウス抗体の配列を取得した。
【0109】
マウスモノクローナル抗体M1の重鎖及び軽鎖可変領域の配列は次の通りである。
【0110】
【0111】
【実施例3】
【0112】
抗体のin vitro結合活性の検出方法
in vitro間接ELISA結合実験:
TROP-2 Hisタンパク質(Sino Biological Inc.社、cat# 10428-H08H)を、pH7.4 PBSで1μg/mlの濃度に希釈し、96ウェル高親和性ELISAプレートに100μl/ウェルで添加し、4℃の冷蔵庫に一晩(16~20時間)インキュベートした。プレートをPBST(0.05%Tween-20を含むpH7.4 PBS)で4回洗浄した後、PBSTで希釈した3%ウシ血清アルブミン(BSA)遮断溶液を150μl/ウェルで添加し、遮断のために室温で1時間インキュベートした。遮断が完了した後、遮断溶液を捨て、プレートをPBST緩衝液で4回洗浄した。
【0113】
試験抗体を、3%BSAを含むPBSTで希釈して5倍希釈系列(10μMから開始して合計9回の用量)を得、ELISAプレートに100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション終了後、プレートをPBSTで4回洗浄した。3%BSAを含むPBSTで希釈したHRP標識化ヤギ抗ヒト二次抗体(Abcam社、cat#ab97225)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで4回洗浄した後、TMB発色基質(Cell Signaling Technology社、cat#7004S)を100μl/ウェルで添加し、室温、暗所で1分間インキュベートした。停止液(Cell Signaling Technology社、cat#7002S)を100μl/ウェルで添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(BioTek社、モデルSynergy H1)を用いて450nmでの吸光度を読み取り、データを分析した。以下のTable 3(表3)に示すように、濃度-シグナル曲線をプロットして結果を分析した。
【0114】
【実施例4】
【0115】
マウス抗体のヒト化実験
当該技術分野の多くの文献に開示されている方法を使用することによって、マウス抗ヒトTROP-2モノクローナル抗体のヒト化を実施した。簡単に説明すると、親(マウス抗体)の定常ドメインをヒトの定常ドメインに置き換えた。マウス抗体及びヒト抗体の相同性に従って、ヒト生殖系列抗体配列を選択した。本開示において、マウス抗体M1をヒト化した。
【0116】
得られたマウス抗体のVH/VL CDRの典型的な構造に基づいて、重鎖及び軽鎖可変領域の配列をヒト抗体生殖系列データベースで整列させ、高い相同性を有するヒト生殖系列鋳型を得た。
【0117】
マウス抗体M1のCDR領域を、選択した対応するヒト化鋳型に移植した。次に、マウス抗体の三次元構造に基づいて、埋め込まれた残基、CDR領域と直接相互作用する残基、並びにVL及びVHの立体配座に大きな影響を与える残基を逆突然変異に供した。発現試験及び逆突然変異の数の比較の後、ヒト化重鎖可変領域HCVR及び軽鎖可変領域LCVR配列を組み合わせることによって設計した抗体を選択し、配列は次の通りである。
【0118】
【0119】
設計した重鎖及び軽鎖可変領域の配列を、それぞれIgG1重鎖及び軽鎖定常領域の配列に連結した。ヒトIgG1重鎖定常領域配列は次の通りである。
【0120】
【0121】
設計した重鎖及び軽鎖可変領域の配列を、それぞれIgG1重鎖及び軽鎖定常領域の配列に連結した。連結したヒトカッパ鎖定常領域の配列は次の通りである。
【0122】
【0123】
連結後に得られた例示的な重鎖及び軽鎖配列は次の通りである。
【0124】
【実施例5】
【0125】
HU6DLバリアント設計実験
ヒト化抗体HU6DLは、HCDR2にN54D55S56モチーフを有し、グリコシル化を受けやすい。N54をコンピューター支援技術によって部位特異的突然変異に供して、抗原への結合及びその独自の熱安定性に影響を与えることなくグリコシル化の潜在的リスクを低下させた。抗体HU6DLの変異体、即ち、HU6DL.R54、HU6DL.Y54、HU6DL.Q54、HU6DL.L54、HU6DL.T54、HU6DL.I54、HU6DL.F54、HU6DL.E54及びHU6DL.A54を得、対応する重鎖及び軽鎖の可変領域は次の通りである。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
設計した重鎖及び軽鎖可変領域の配列を、それぞれIgG1重鎖定常領域及び軽鎖定常領域の配列に連結した。得られた例示的な重鎖及び軽鎖配列は次の通りである(ここで、HU6DL.R54、HU6DL.Y54、HU6DL.Q54、HU6DL.L54、HU6DL.T54、HU6DL.I54、HU6DL.F54、HU6DL.E54及びHU6DL.A54重鎖は、それぞれ配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34の配列を配列番号12に連結することによって生じる)。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
上記のヒト化抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列に従ってcDNA断片を合成した。タンパク質発現サービスは、Beijing Sinobiological Co., Ltd.社によって提供された。HEK293細胞に、発現のためにHU6DLタンパク質変異体を一過性にトランスフェクトした。分子排除クロマトグラフィーを使用することによって抗体をそれらの純度に対して検出し、それらの濃度及び純度は、以下のTable 6(表6)に示した通りであった。
【0138】
【実施例6】
【0139】
TROP-2抗原に対するHU6DL変異体の親和性実験
1.実験の目的:
TROP-2抗原に対する異なる抗TROP-2変異体の親和性レベルの違いを、サンドイッチELISA、即ち「抗原-抗体-HRP標識化二次抗体」によって評価した。
【0140】
2.実験手順:
hisタグ付きTROP-2タンパク質(SinoBiologics社、Cat:10428-H08H)を、DPBS pH7.4を使用して1μg/mLに希釈し、高親和性96ウェルプレート(Corning社、Cat:3590)に100μL/ウェルで添加し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、TROP-2抗原溶液を捨てた。0.05% Tween 20(PBST)溶液を含有するPBS pH 7.4を、3回洗浄するために200μL/ウェルで添加した。2% BSA(PBST中に溶解した)を、37℃で1時間遮断するために200μL/ウェルで添加し、プレートをPBSTで3回洗浄した。候補抗体の段階希釈物(10nMから1×10-6nMまでの8つの濃度レベルを与える10倍希釈物)を100μL/ウェルで添加し、0.5% BSAを陰性対照として使用し、遮断のために37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄した。1:10000に希釈したヤギ抗ヒトIgG、Fc-HRP(Abcam社、cat:ab97225)二次抗体溶液を100μL/ウェルで添加し、遮断のために37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄した。
【0141】
最も高い抗体濃度を有するウェル中の溶液の色が濃青色に変化するまで、TMB(CST社、Cat:7004P6)基質を、室温で3分間の反応のために100μL/ウェルで添加した。停止液(CST社、Cat:7002P6)を50μL/ウェルで添加して反応を停止させた。吸光度(OD)を450nmの波長で読み取った。
【0142】
3.データ処理:
EC50(抗原に対する各HU6DL変異体の親和性)を、候補抗体の対数濃度をX座標として、OD450吸光度をY座標としてプロットし、GraphPad PRISM 8.0においてlog(アゴニスト)対応答-実行可能な傾き(4パラメーター)方程式をフィッティングすることによって計算した。ヒトTROP-2抗原に対するHU6DL変異体の親和性(EC50)は、以下のTable 7(表7)に示した通りであった。
【0143】
【0144】
4.実験の結論:
上記のデータは、本開示の各HU6DL変異体が、ヒトTROP-2抗原に対して良好な親和性を有することを示している。
【実施例7】
【0145】
腫瘍細胞に対するHU6DL変異体の親和性実験
1.実験の目的:
TROP-2抗原を発現する腫瘍細胞株に対するHU6DL変異体の親和性レベルの違いをフローサイトメトリーによって評価した。
【0146】
2.実験試薬:
胃がん細胞NCI-N87(Chinese Academy of Sciences Cell Bankから購入、TCHu130)、
非小細胞肺がん細胞HCC827(Chinese Academy of Sciences Cell Bankから購入、TCHu153)、
膀胱がん細胞SW780(Chinese Academy of Sciences Cell Bankから購入、TCHu219)、
膀胱がん細胞RT4(Chinese Academy of Sciences Cell Bankから購入、TCHu226)。
【0147】
3.実験工程:
良好に増殖している状態の腫瘍細胞を、Accutase(Sigma社、cat:A6964)消化溶液で処理した。単一細胞懸濁液を、2% FBS(DBPS中で希釈、pH7.4)溶液中で調製し、細胞濃度を1×106細胞/mLに調整した。懸濁液を、96ウェルV型底プレートに100μL/ウェルでアリコートし、4℃、300g×5分で遠心分離した。上清を捨て、候補抗体溶液の段階希釈物(1000nMから1×10-6nMまでの10の濃度レベルを与える10倍希釈)を100μL/ウェルで添加し、4℃で1時間インキュベートした。
【0148】
プレートを、4℃、300g×5分で遠心分離し、2回洗浄した。5μL/106細胞の割合で希釈したマウス抗ヒトIgG Fc、PE標識化二次抗体(Biolegend社、cat:409304)溶液を100μL/ウェルで添加し、4℃で1時間インキュベートした。プレートを、4℃、300g×5分で遠心分離し、2回洗浄した。70μLの2% FBS溶液を添加して細胞を再懸濁した。PEチャネルの平均蛍光強度(MFI)を、ZE5フローサイトメトリー(Bio-Rad社、ZE5)によって検出した。
【0149】
4.データ処理:
EC50(腫瘍細胞に対する各候補抗体の親和性)を、変異体抗体の対数濃度をX座標として、MFIをY座標としてプロットし、以下のTable 8(表8)に示すように、GraphPad PRISM 8.0においてlog(アゴニスト)対応答-実行可能な傾き(4パラメーター)方程式をフィッティングすることによって計算した。
【0150】
【0151】
5.実験の結論:
上記のデータは、本開示の各HU6DL変異体が、NCI-N87、HCC827、SW780及びRT4腫瘍細胞に対して良好な親和性を有することを示している。
【実施例8】
【0152】
HU6DL変異体媒介性TROP2エンドサイトーシス実験
1.実験の目的:
HU6DL変異体の抗体エンドサイトーシス活性を、TROP-2抗原を発現する腫瘍細胞株に対するフローサイトメトリーによって評価した。
【0153】
2.実験工程:
良好に増殖している状態の胃がん細胞NCI-N87(Chinese Academy of Sciences Cell Bankから購入、TCHu130)を、Accutase(Sigma社、cat:A6964)消化溶液で処理した。単一細胞懸濁液を、2% FBS(DBPS中で希釈、pH7.4)溶液中で調製し、細胞濃度を1×107細胞/mLに調整した。懸濁液を、96ウェルV型底プレートに100μL/ウェルでアリコートした。候補抗体溶液を20μg/mLの最終濃度で添加し、十分に混合し、4℃で1時間インキュベートした。
【0154】
プレートを、4℃、300g×5分で遠心分離した。5μL/106細胞の割合で希釈したマウス抗ヒトIgG Fc、PE標識化二次抗体(Biolegend社、cat:409304)溶液を100μL/ウェルで添加し、4℃で1時間インキュベートした。
【0155】
プレートを、4℃、300g×5分で遠心分離し、2回洗浄した。細胞ペレットを、1mLの予熱した完全培地に再懸濁し、4つの群、即ちそれぞれ0分の群、ブランクの群、30分の群及び120分の群にアリコートした。0分の群及びブランク対照を氷上に置いた。残りを、エンドサイトーシスのために、それぞれ30分及び120分間、37℃のインキュベーター内に置いた。対応する時点で群を取り出し、氷上で5分間予冷した。全ての処理群を遠心分離し、上清を捨てた(4℃、1500rpm×5分)。細胞をFACS緩衝液で1回洗浄し、上清を捨てた。0分の群を除いて、全ての処理群に250μLのストリップ緩衝液を添加し、室温で8分間インキュベートし、遠心分離し(4℃、1500rpm×5分)、上清を捨てた。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、上清を捨てた。80μLの2% FBSを、試料の各群に添加して、細胞を再懸濁した。試験する試料の蛍光シグナルを、ZE5フローサイトメトリー(Bio-Rad社、ZE5)によって検出した。
【0156】
3.データ処理:
各候補抗体のエンドサイトーシス率は、次の方程式に従って計算した:抗体エンドサイトーシス率(%)=(治療群のMFI-ブランク対照群のMFI)/(0分の群のMFI-ブランク対照群のMFI)×100%。HU6DL変異体のエンドサイトーシス率は、上記の方法によって検出し、Table 9(表9)に示す通りであった。
【0157】
【0158】
4.実験の結論:
上記のデータは、本開示のHU6DL変異体が、TROP-2タンパク質によって媒介される胃がん細胞NCI-N87において十分にエンドサイトーシス化されることを示す。
【実施例9】
【0159】
HU6DL変異体の不純物成分の検出
1.実験の目的:Maurice-nrCE-SDS法に基づくキャピラリー電気泳動により、突然変異抗体の不純物ピークの含有量及びレベルの変化を検出し、比較した。
【0160】
2.実験工程
2.1.試料調製:
(1)試料の緩衝液交換及び濃縮:試料のタンパク質濃度が、5mg/ml未満の場合、又は試料緩衝液中の塩濃度が高い場合、約5mg/mlのタンパク質濃度及び50mM未満の試料中の塩濃度を確保するために試料の緩衝液交換及び濃縮が必要であった。
【0161】
(2)CE試料の非還元処理:試料を、各試料について採取した50μgのタンパク質の量でEPチューブに添加した。1μlの10kD内部標準(Protein Simple社、046-144)を添加し、2.5μlの250mM IAM(Sigma社、I1149-5G)を添加し、1×試料緩衝液(Protein Simple社、046-567)を、50μlの最終体積で添加した。
【0162】
(3)試料を振盪によって十分に混合し、加熱し、70℃で10分間インキュベートし、次いで取り出した。試料を冷えるまで氷上で5分間インキュベートし、次いで12,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後、35μlの上清を、機器に適合する96ウェル試料プレートに移し、次いで1,000rpmで5分間遠心分離した。96ウェル試料プレートを、試料のロード及び分析のためにMaurice(Protein Simple社)中に置いた。
【0163】
2.2.機器での検出
機器をオンにして、ソフトウェアを開いた。機器のセルフチェックを、機器の操作手順に従って実行した。キャピラリーカートリッジを取り付け、準備した対応する試薬を機器内の対応する位置に置いた。対応するパラメーターを設定し、機器の操作手順に従って非還元CE分析を実行した。試料シーケンスを、試料名に従って対応するシーケンスを編集することによって設定し、各シーケンスについての試料の数は48を超えない。シーケンス編集の完了後、開始をクリックすることによってシーケンスの検出を開始した。
【0164】
試料のメインピーク及び不純物ピークの含有量は、次の式を使用して計算した。
【0165】
【0166】
注記:
この式において、非還元純度は、補正されたメインピーク面積のパーセンテージである。
CAmain peakは、補正されたメインピーク面積である。
CAtotalは、補正されたメインピーク及び不純物ピーク面積の合計である。
【0167】
3.実験の結果:
【0168】
【0169】
上記のデータは、試料HU6DL.T54のメインピーク含有量が93.62%に達し、不純物が検出されなかったことを示す。実験結果は、HU6DLのHCDR2におけるN54D55S56モチーフがグリコシル化を受けやすく、N54の部位特異的突然変異により、グリコシル化不純物が効果的に減少し、より高い純度を達成できることを示している。
【実施例10】
【0170】
ヒト化抗体の抗原への競合的結合
1.実験の目的:抗原に対する異なる抗体の結合様式及び結合部位を競合的結合実験によって研究した。
【0171】
2.実験工程
コーティング抗体hRS7及びHU6DL変異体を、pH7.4 PBSで1μg/mlの濃度に希釈し、96ウェル高親和性ELISAプレートに100μl/ウェルで添加し、冷蔵庫内で4℃で一晩(16~20時間)インキュベートした。プレートをPBST(0.05% Tween-20を含むpH 7.4 PBS)で4回洗浄した後、PBSTで希釈した2%ウシ血清アルブミン(BSA)遮断溶液を200μl/ウェルで添加し、遮断のために室温で1時間インキュベートした。遮断の完了後、遮断溶液を捨て、PBST緩衝液でプレートを4回洗浄した。
【0172】
競合抗体hRS7及びHU6DLを、0.5% BSAを含むPBSTで100μg/mlに希釈し、ELISAプレートに50μg/ウェルで添加した。TROP-2Hisタンパク質(Acro biosystems社、cat# TR2-H5223)を、コーティング抗体に対するTROP-2Hisタンパク質の親和性2×EC80又は2×EC90にそれぞれ対応する濃度で、0.5% BSAを含むPBSTで希釈し、ELISAプレートに50μl/ウェルで添加した。ELISAプレートを室温で1時間インキュベートした。インキュベーションの完了後、プレートをPBSTで4回洗浄した。0.5% BSAを含むPBSTで1:5000に希釈した抗His HRP標識化二次抗体(Sino Biological社、cat# 105327-MM02T-H)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで4回洗浄し、次いでTMB発色基質(Cell Signaling Technology社、cat#7004S)を100μl/ウェルで添加し、暗所、室温で1分間インキュベートした。停止溶液(Cell Signaling Technology社、cat#7002S)を50μl/ウェルで添加して反応を停止させた。
【0173】
3.データ処理
450nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Thermo社、model Varioskan LUX)で読み取り、以下のTable 11(表11)に示すように、データを分析した。
【0174】
【0175】
4.実験結果
本発明の突然変異により改変したヒト化抗体は、TROP2タンパク質へのhRS7抗体の結合に対して非常に低い阻害率を有し、本発明の突然変異により改変したヒト化抗体及びhRS7抗体は同じエピトープに競合的に結合しないことが示唆される。
【配列表】
【国際調査報告】