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特表2023-545876リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231025BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231025BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231025BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231025BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20231025BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20231025BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M4/50
H01M4/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546114
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 CN2021120317
(87)【国際公開番号】W WO2023044752
(87)【国際公開日】2023-03-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】呉 則利
(72)【発明者】
【氏名】韓 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】張 翠平
(72)【発明者】
【氏名】姜 彬
(72)【発明者】
【氏名】艾 志勇
(72)【発明者】
【氏名】黄 磊
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
本願には正極シート、負極シート、セパレーターおよび電解液を備え、前記電解液がリチウム塩および溶媒を含むリチウムイオン電池であって、電解液の総重量に基づいて、前記電解液におけるリチウム塩の質量パーセントはa%であり、リチウムイオン電池は5≦a≦10を満たし、前記負極シートの片面の担持量がWグラム/1540.25mmであり、aとWが25≦a/W≦50を満たし、かつ、前記溶媒が炭酸ジメチルを含む、リチウムイオン電池が開示されている。前記リチウムイオン電池は、比較的に良い安全性および高温サイクル性能を有し、かつ、良好な動力学的な性能を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート、負極シート、セパレーターおよび電解液を備え、前記電解液がリチウム塩および溶媒を含むリチウムイオン電池であって、
電解液の総重量に基づいて、前記電解液におけるリチウム塩の質量パーセントがa%であり、前記リチウムイオン電池は5≦a≦10を満たし、
前記負極シートの片面の担持量がWグラム/1540.25mmであり、aとWが25≦a/W≦50を満たし、かつ、前記溶媒が炭酸ジメチルを含む、リチウムイオン電池。
【請求項2】
電解液の総重量に基づいて、前記電解液は質量パーセントb%の正極犠牲型添加剤を含有し、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントがc%であり、前記リチウムイオン電池が、
c≦10×b-10×|0.6-a/12.5|
を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記正極犠牲型添加剤が下記の一般式のいずれか1つで表す化合物であり、
【化1】
(このうち、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基を表し、または炭素原子を表し、当該炭素原子が任意に炭素原子数1~9のアルキル基で置換されてもよい。)
任意に、前記正極犠牲型添加剤が1,3-プロパンスルトン、エチレンサルフェートおよびビス(エチレンサルフェート)から選ばれた1種または複数種である、請求項2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
2≦b≦4である、請求項2~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
電解液の総重量に基づいて、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントがc%であり、前記リチウムイオン電池が、
c≧10×(5-0.08×a/W)
を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記正極シートは、正極活性材料LiNiCoMn(x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1)を含み、任意に0.1≦x≦0.8であり、さらに任意に0.1≦x≦0.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記リチウム塩がLiPFである、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
5≦a≦7.5である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池を含む電池モジュール。
【請求項10】
請求項9に記載の電池モジュールを含む電池パック。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池、請求項9に記載の電池モジュール、または、請求項10に記載の電池パックから選ばれた1種以上を含む電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、リチウムイオン電池分野に関し、特に低リチウム塩濃度電解液を有するリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パックおよび電気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の応用範囲がますます広がるにつれて、リチウムイオン電池は、水力、火力、風力、太陽光発電所等のエネルギー貯蔵電力システム、電動工具、電動自転車、電動バイク、電動自動車、軍事装備、航空宇宙等の多くの分野で広く応用されている。
【0003】
リチウムイオン電池において、より高い動力学的性能を得るために、通常、高いリチウム塩濃度を有する電解液を用いる。しかしながら、通常、電解液におけるリチウム塩として用いられるLiPFは、熱的安定性が悪く、高温で容易に分解してHFを発生し、正極材料を破壊し、高濃度LiPFによって、電解質の粘度が高くなり、サイクリング性能に不利である。低リチウム塩濃度電解液を有するリチウムイオン電池は、低コストだけでなく、より良い熱的安定性とサイクル性能を有する。しかしながら、低リチウム塩濃度の場合、電解液の導電率は低下し、電池の動力学的性能に影響を与え、低リチウム塩濃度電解液のリチウムイオン電池における実用化が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、前述した課題を鑑みてなされたものであり、低リチウム塩濃度電解液を用いる場合にも良好な動力学的性能を有するリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本願の第1方面は、正極シート、負極シート、セパレーターおよび電解液を備え、前記電解液がリチウム塩および溶媒を含むリチウムイオン電池であって、
電解液の総重量に基づいて、前記電解液におけるリチウム塩の質量パーセントは、a%であり、前記リチウムイオン電池は5≦a≦10を満たし、
前記負極シートの片面の担持量がWグラム/1540.25mmであり、aとWが25≦a/W≦50を満たし、かつ、前記溶媒が炭酸ジメチルを含む、リチウムイオン電池を提供する。
【0006】
これにより、本願では、電解液に比較的に低いリチウム塩濃度を用い、かつ炭酸ジメチルを用いることにより、電池を良好な安全性および高温サイクル性能を有させるとともに、良好な動力学的な性能を有させる。
【0007】
いずれの実施形態において、電解液の総重量に基づいて、前記電解液は、質量パーセントb%の正極犠牲型添加剤を含み、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントはc%であり、前記リチウムイオン電池は、
c≦10×b-10×|0.6-a/12.5|
を満たす。
【0008】
これにより、電池の動力学的な性能を改善しながら、電池の貯蔵性能を改善することができる。
【0009】
いずれの実施形態において、前記正極犠牲型添加剤は、下記の一般式のいずれか1つで表す化合物である。
【0010】
【化1】
(このうち、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基を表し、または、炭素原子を表し、当該炭素原子は、任意に炭素原子数1~9のアルキル基で置換されてもよい。)
任意に、前記正極犠牲型添加剤は、1,3-プロパンスルトン、エチレンサルフェートおよびビス(エチレンサルフェート)から選ばれた1種または複数種である。
【0011】
これにより、電池の貯蔵性能を改善するより良い効果が得られる。
【0012】
いずれの実施形態において、2≦b≦4である。
【0013】
これにより、電池の出力性能と高温サイクル性能をさらに改善することができる。
【0014】
いずれの実施形態において、電解液の総重量に基づいて、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントはc%であり、前記リチウムイオン電池は、
c≧10×(5-0.08×a/W)
を満たす。
【0015】
これにより、電池の動力学的性能をより完全に改善することができる。
【0016】
いずれの実施形態において、前記正極シートは、正極活性材料であるLiNiCoMn(x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1)を含み、任意に、0.1≦x≦0.8、さらに任意に0.1≦x≦0.5である。
これにより、電池の容量密度と貯蔵性能、特に貯蔵ガス発生の抑制とを両立する。
【0017】
いずれの実施形態において、前記リチウム塩はLiPFである。このような電池は、高温安定性および高温サイクル性能が著しく改善される。
【0018】
いずれの実施形態において、5≦a≦7.5である。このような電池は、動力学的な性能が著しく改善される。
【0019】
本願の第2方面は、本願の第1方面のリチウムイオン電池を含む電池モジュールを提供する。
【0020】
本願の第3方面は、本願の第2方面の電池モジュールを含む電池パックを提供する。
【0021】
本願の第4方面は、本願の第1方面のリチウムイオン電池、本願の第2方面の電池モジュール、または、本願の第3方面の電池パックから選ばれた少なくとも1種を含む電気装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本願の一実施形態のリチウムイオン電池の概略図である。
図2図1に示す本願の一実施形態のリチウムイオン電池の分解図である。
図3】本願の一実施形態の電池モジュールの概略図である。
図4】本願の一実施形態の電池パックの概略図である。
図5図4に示す本願の一実施形態の電池パックの分解図である。
図6】本願の一実施形態のリチウムイオン電池を電源として使用する電気装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を適当に参照しながら本願に係るリチウムイオン電池、その製造方法、電池モジュール、電池パックおよび電気装置の実施形態について詳しく説明する。但し、詳細な説明の必要がない事項は省略する場合がある。例えば、既によく知られている事項についての詳細な説明や、実質的に同一の構成に対する繰り返し説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを回避し、当業者の理解を容易にするためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者が本願を十分に理解するために提供されるものであり、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0024】
本願に開示される「範囲」は、下限および上限の形で限定され、所与の範囲は、ある下限およびある上限を選択することによって限定され、選択された下限および上限は、特定の範囲の境界を限定する。このように限定された範囲は、端値を含んでいても含んでいなくでもよく、かつ、任意に組み合わせてもよく、すなわち、任意の下限を他の任意の上限と組み合わせて1つの範囲を形成することができる。たとえば、特定のパラメータに対して60~120と80~110の範囲がリストされている場合、60~110および80~120の範囲も予想されると理解される。また、リストされる最小範囲値が1および2であり、かつ、リストされる最大範囲値が3、4および5である場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4および2~5といった範囲は、すべて予想される。本願において、特別な説明がない限り、数値範囲「a~b」は、aとbの間の実数の任意の組み合わせの省略表現を表す。ここで、aとbはともに実数である。たとえば、数値範囲「0~5」は、「0~5」の間の実数のすべてが本明細書にリストされていることを意味し、「0~5」は単にこれらの数値の組み合わせの省略表現である。また、あるパラメータが≧2の整数であると表記される場合、当該パラメータが例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などの整数であることを開示していると相当する。
【0025】
特別な説明がない限り、本願のすべての実施形態および選択的な実施形態は、互いに組み合わせて新規な技術的構成を形成することができる。
【0026】
特別な説明がない限り、本願のすべての技術的な特徴および選択的な技術的な特徴は、互いに組み合わせて新規な技術的構成を形成することができる。
【0027】
特別な説明がない限り、本願に言及される「含む」及び「含有」は、開放型であることを意味し、閉鎖型であってもよい。例えば、「含む」及び「含有」は、リストされていない他の構成要素も含まれ得るか、又は含有され得ることを意味し、リストされた構成要素のみが含まれるか、又は、含有されてもよい。
【0028】
特別な説明がない限り、本願において、「または」という用語は、包括的である。例えば、「AまたはB」というフレーズは、「A、B、または、AとBの両方」を意味する。具体的には、Aが真(または存在する)でBが偽(または存在しない)、Aが偽(または存在しない)でBが真(または存在する)、またはAとBが真(または存在する)のいずれかの条件も、「AまたはB」という条件を満たす。
【0029】
既存のリチウムイオン電池では、高い動力学的な性能を得るために、通常、電解液におけるリチウム塩濃度は高い。リチウムイオン電池に用いられるリチウム塩の多くは、LiPFである。LiPFは、熱的安定性に劣り、高温で容易に分解してHFを発生し、正極材料を破壊し、一方、低温で、高濃度のLiPFは、電解液の粘度を増加し、サイクル特性に不利である。LiPFの濃度を下げると、コストが削減されるだけではなく、リチウムイオン電池の熱的安定性とサイクル性能も改善される。しかしながら、低リチウム塩濃度は、電解質の導電率を低下し、電池の動力学的性能に影響を与える。したがって、低リチウム塩濃度電解液を有するリチウムイオン電池の動力学的性能を改善して、そのようなリチウムイオン電池を実際の用途に適するようにすることが望ましい。
【0030】
本願の発明者らは、種々の検討を行った結果、特定の低リチウム塩濃度電解液を有するリチウムイオン電池において、電解液に炭酸ジメチル(DMC)を添加することにより、当該リチウムイオン電池の動力学的な性能を顕著に改善できることを見出した。
【0031】
このようにして得られた低リチウム塩濃度電解液のリチウムイオン電池は、例えば、電気自転車、エネルギー貯蔵ベースステーション、タクシー、スクーターなどの多くの分野で応用することができる。
【0032】
具体的に、本願の1つの実施形態において、正極シート、負極シート、セパレーターおよび電解液を備え、前記電解液がリチウム塩および溶媒を含むリチウムイオン電池であって、
電解液の総重量に基づいて、前記電解液におけるリチウム塩の質量パーセントはa%であり、前記リチウムイオン電池は5≦a≦10を満たし、
前記負極シートの片面の担持量がWグラム/1540.25mmであり、aとWが25≦a/W≦50を満たし、かつ、前記溶媒が炭酸ジメチルを含む、リチウムイオン電池を提出する。
【0033】
前記負極シートの片面の担持量とは、前記負極シートの片面における負極膜層の量を意味する。
【0034】
メカニズムはまだ明らかではないが、本出願人は、上記のリチウム塩濃度と負極シート担持量を満たすリチウムイオン電池において、電解液に炭酸ジメチルを添加することにより、当該電池の動力学的な性能を大幅に向上させることができることを思いがけず発見した。当該電池の電解液のリチウム塩濃度が5重量%~10重量%であるため、リチウム塩の分解は減少し、かつ、電解液の粘度は低くなり、高温サイクル特性が良好である。一方、a/Wとは、負極シート単位面積あたりの担持量に対するリチウム塩濃度を意味し、リチウムイオンの負極拡散動力学に関係している。a/Wの数値が小さい時、負極の担持量が多いためエネルギー密度が高いが、この場合、リチウムイオンの輸送経路が長く、より多くの無秩序な輸送が存在し、リチウムイオンの挿入・脱離が困難であり、かつ提供できるリチウムイオンの数が少ない。すなわち、上記a及びa/Wの数値範囲を満たすリチウムイオン電池は、比較的に良好な安全性及び高温サイクル性能を有するが、動力学的性能が不良であり、しかしながら、この場合、溶媒中でDMCを使用することにより、電池の動力学的な性能が改善されることが、多くの実験により見出された。
【0035】
Wの範囲は、当業者が実際のニーズに応じて選択することができ、通常、Wは0.1~0.25g/1540.25mmの範囲内である。
【0036】
いくつの実施形態において、電解液の総重量に基づいて、前記電解液は、質量パーセントb%の正極犠牲型添加剤を含み、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントはc%であり、前記リチウムイオン電池は、
c≦10×b-10×|0.6-a/12.5|
を満たす。
【0037】
DMCが酸化されるとガスを発生するため、DMCの添加は、電池の貯蔵期間のガス発生につながり、電池の貯蔵性能に影響を与える可能性がある。正極犠牲型添加剤は、正極表面で溶媒よりも優先的に酸化反応を起こすことができるため、正極犠牲型添加剤の添加は、DMCが酸化されることを回避することができる。一方、DMCの使用量はリチウム塩濃度と相関があり、リチウム塩濃度が高く又は低くなるにつれて、DMCによる電池性能の改善効果はますます制限されており、この場合、DMCの使用量を減らしても電池の動力学的な性能にあまり影響を与えず、むしろDMCの酸化によるガス発生の問題を軽減することに有利である。本発明者らは、DMCの濃度c%、正極犠牲型添加剤濃度b%およびリチウム塩濃度a%が上記の関係式を満たすことにより、電池動力学的な性能が改善されると共に電池の貯蔵性能も改善できることを発見した。
【0038】
いくつの実施形態において、前記正極犠牲型添加剤は、下記の一般式のいずれか1つで表す化合物である。
【0039】
【化2】
(このうち、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基を表し、または、炭素原子を表し、当該炭素原子は、任意に炭素原子数1~9のアルキル基で置換されてもよい。)
任意に、前記正極犠牲型添加剤は、1,3-プロパンスルトン(1,3-PS)、エチレンサルフェート(DTD)およびビス(エチレンサルフェート)(BiDTD)から選ばれた1種または複数種である。
【0040】
上記の正極犠牲型添加剤を具体的に選択することにより、電池の貯蔵性能を改善するより良好な効果を得ることができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、2≦b≦4である。正極犠牲型添加剤の使用量をさらに限定することにより、正極犠牲添加剤の役割を完全に果たすことを確保すると共に、正極表面の過度な酸化による電池の出力性能、サイクル性能への影響を回避することに有利であり、電池の出力性能および高温サイクル性能をさらに改善することができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、電解液の総重量に基づいて、電解液における前記炭酸ジメチルの質量パーセントはc%であり、前記リチウムイオン電池は、
c≧10×(5-0.08×a/W)
を満たす。
【0043】
前述したように、a/Wは、リチウムイオン負極拡散動力学に関連しており、(5-0.08×a/W)の値が大きいほど、電池の動力学的な性能が低下する。本発明者らは、炭酸ジメチルの濃度c%とa/Wが上記の関係を満たす場合、電池の動力学的な性能をより完全に改善することができることを見出した。
【0044】
いくつかの実施形態において、任意に、c%は5~50%範囲内であり、任意に9~30%範囲内である。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記正極シートは、正極活性材料であるLiNiCoMn(x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1)を含み、任意に0.1≦x≦0.8であり、さらに任意に0.1≦x≦0.5である。
【0046】
x値を選択することにより、電池の容量密度と貯蔵性能、特に貯蔵ガスの発生の抑制を両立することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記リチウム塩はLiPFである。電解液におけるリチウム塩が他のリチウム塩であるリチウムイオン電池に比べて、リチウム塩がすべてLiPFであるリチウムイオン電池は、高温安定性の問題および高温サイクル性能の問題を起こしやすく、上記の条件を満たすことにより、当該リチウムイオン電池の高温安定性と高温サイクル性能を顕著に改善し、かつ当該電池の動力学的な性能を確保することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、5≦a≦7.5である。当該リチウム塩濃度を有するリチウムイオン電池によって、前述条件を満たすことにより、電池の動力学的な性能を顕著に改善することができる。
【0049】
また、以下に図面を適当に参照して本願に係るリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電気装置について説明する。
【0050】
一般的に、ナトリウムイオン電池は、正極シート、負極シート、電解質およびセパレーターを含む。電池の充放電プロセス中に、活性イオンは、正極シートと負極シートの間で繰り返して挿入・脱離する。電解質は、正極シートと負極シートの間でイオンを伝導する役割を果たす。セパレーターは、正極シートと負極シートの間に配置され、主に正極と負極の短絡を防ぐ役割を果たすと共に、イオンの通過を可能にする。
【0051】
[正極シート]
正極シートは、正極集電体と、正極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる正極活性材料を含有する正極膜層とを含む。
【0052】
例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、正極膜層は、正極集電体の2つの対向する面のいずれか一方または両方に配置されている。
【0053】
いくつかの実施形態において、前記正極集電体は、金属箔シートまたは複合集電体を使用できる。例えば、金属箔シートとしてアルミ箔を用いてもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層および高分子材料ベース層の少なくとも1つの表面に形成されている金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金等)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することにより構成してもよい。
【0054】
いくつかの実施形態において、正極活性材料は、本分野において公知の電池用正極活性材料を採用してもよい。例として、正極活性材料は、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、リチウム遷移金属酸化物およびそれらのそれぞれの変性化合物のうちの少なくとも1種を含んでもよい。ただし、本願は、これらの材料に限られず、電池正極活性材料として用いられる他の伝統的な材料を用いてもよい。これらの正極活性材料は、単独で1種を使用してもよいし、または、2種以上の組み合わせで使用してもよい。そのうち、リチウム遷移金属酸化物の例として、リチウムコバルト酸化物(例えば、LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(例えば、LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(例えば、LiMnO、LiMn)、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM333とも略称される)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523とも略称される)、LiNi0.5Co0.25Mn0.25(NCM211とも略称される)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622とも略称される)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811とも略称される))、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えば、LiNi0.85Co0.15Al0.05)およびそれらの変性化合物などのうちの少なくとも1種を含むが、これらに限定されない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例として、リン酸鉄リチウム(例えば、LiFePO(LFPとも略称される))、リン酸鉄リチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガンリチウム(例えば、LiMnPO)、リン酸マンガンリチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素との複合材料のうちの少なくとも1種を含むが、これらに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態において、正極膜層は、さらに任意にバインダーを含んでもよい。例として、前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、および、フッ素含有アクリレート樹脂のうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0056】
いくつかの実施形態において、正極膜層は、さらに任意に導電剤を含んでもよい。例として、前記導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、および、カーボンナノファイバーのうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0057】
いくつかの実施形態において、正極シートは、下記の方式で製造することができる。すなわち、前述した正極シートを製造するための成分、例えば、正極活性材料、導電剤、バインダーおよび任意に他の成分を、溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に分散させて正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗り、乾燥、冷間圧延などのプロセスを経て正極シートを得ることができる。
【0058】
[負極シート]
負極シートは、負極集電体と、負極集電体の少なくとも1つの表面に設けられる負極活性材料を含有する負極膜層とを含む。
【0059】
例として、負極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の2つの対向する表面のいずれか一方または両方に配置されている。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は、金属箔または複合集電体を使用できる。例えば、金属箔シートとして銅箔を用いてもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層および高分子材料基材の少なくとも1つの表面に形成されている金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀および銀合金等)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することにより構成してもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、負極活性材料は、本分野において公知の電池に用いられる負極活性材料を採用してもよい。例として、負極活性材料は、人工黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料およびチタン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含んでもよい。前記シリコン系材料として、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン-炭素複合体、シリコン-窒素複合体およびシリコン合金から選ばれた少なくとも1種であってもよい。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物およびスズ合金から選ばれた少なくとも1種であってもよい。ただし、本願は、これらの材料に限られておらず、電池の負極活性材料として用いられる他の伝統的な材料を用いてもよい。これらの負極活性材料は、単独で1種を使用してもよいし、または、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、負極膜層は、任意にバインダーをさらに含んでもよい。前記バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、アクリレートおよびカルボン酸メチルキトサン(CMCS)から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0063】
いくつかの実施形態において、負極膜層は、任意に導電剤をさらに含んでもよい。導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、および、カーボンナノファイバーから選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0064】
いくつかの実施形態において、 負極膜層は、任意に、他の補助剤、例えば、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などをさらに含んでもよい。
【0065】
いくつかの実施形態において、負極シートは、下記の方式で製造することができる。すなわち、前述した負極シートを製造するための成分、例えば、負極活性材料、導電剤、バインダーおよび任意に他の成分を、溶媒(例えば、脱イオン水)に分散させて負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体上に塗り、乾燥、冷間圧延などのプロセスを経って負極シートを得ることができる。
【0066】
[電解質]
電解質は、正極シートと負極シートの間でイオンを伝導する役割を果たす。本願において、電解質として、電解液を採用する。前記電解液は、電解質塩及び溶媒を含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスフェート、および、リチウムテトラフルオロ(オキサレート)ホスフェートから選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0068】
いくつかの実施形態において、溶媒は、DMCに加えて、さらに、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、メチルホルメート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、1,4-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジエチルスルホンから選ばれた少なくとも1種を含んでもよい。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記電解液は、任意に添加剤をさらに含んでもよい。例えば、添加剤は、負極皮膜形成添加剤、正極皮膜形成添加剤を含んでもよく、例えば電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温・低温性能を改善する添加剤など、電池のある性能を改善できる添加剤を含んでもよい。
【0070】
[セパレーター]
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、さらにセパレーターを含む。本願で、セパレーターの種類は特に限定されず、公知の化学的および機械的安定性に優れた多孔質構造のセパレーターを任意に選択して用いることができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、セパレーターの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリフッ化ビニリデンから選ばれた少なくとも1種であってもよい。セパレーターは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に限定されない。セパレーターが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであっても異なっていてもよく、特に限定されない。
【0072】
いくつかの実施形態において、正極シート、負極シートおよびセパレーターは、捲回プロセスまたは積層プロセスによって電極アセンブリとして作製することができる。
【0073】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、外装を含んでもよい。当該外装は、前記電極アセンブリ及び電解質を封止するために用いられる。
【0074】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池の外装は、硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、スチールケースなどの硬質のケースであってもよい。リチウムイオン電池の外装は、パウチ型ソフトバッグなどのソフトバッグであってもよい。ソフトバッグの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートおよびポリブチレンサクシネート等が挙げられる。
【0075】
本願では、リチウムイオン電池の形状は、特別な制限がなく、円筒形、方形または他の任意の形であってもよい。例えば、図1は、1つの例としての方形構造のリチウムイオン電池5である。
【0076】
いくつかの実施形態において、図2を参照すると、外装は、ケース51と蓋板53とを含んでよい。そのうち、ケース51は、底板と、底板に接続されている側板とを含み、底板と側板は、囲まれて収容キャビティを形成してもよい。ケース51は、収容キャビティに連通している開口を有し、蓋板53は、当該収容キャビティを閉じられるように前記開口を覆うように設けることができる。正極シート、負極シートおよびセパレーターは、捲回プロセスまたは積層プロセスによって電極アセンブリ52に形成することができる。電極アセンブリ52は、前述の収容キャビティ内に封止されている。電解液は、電極アセンブリ52に含浸されている。リチウムイオン電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は、1つまたは複数であってもよく、当業者は、具体的な実際のニーズに応じて選択することができる。
【0077】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、電池モジュールに組み立てもよく、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は、1つまたは複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池モジュールの用途および容量に応じて選択することができる。
【0078】
図3は、1つの例としての電池モジュール4である。図3を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順に並べて設けられてもよい。もちろん、他の任意の方式で配置されてもよい。さらに、当該複数のリチウムイオン電池5は、留め具によって固定されてもよい。
【0079】
任意に、電池モジュール4は、複数のリチウムイオン電池5を収容する収容空間を有するハウジングを備えていてもよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記電池モジュールは、電池パックに組み立てもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、1つまたは複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池パックの用途および容量に応じて選択することができる。
【0081】
図4および図5は、1つの例としての電池パック1である。図4および図5を参照すると、電池パック1は電池筐体、および、電池筐体に設ける複数の電池モジュール4を含んでもよい。電池筐体は、上筐体2と下筐体3を含み、上筐体2は、下筐体3を覆うように設けることができ、かつ、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は、電池筐体内に任意の方式で配置してもよい。
【0082】
また、本願は、さらに、本願が提供されるリチウムイオン電池、電池モジュールまたは電池パックのうちの少なくとも1種を含む電気装置を提供する。前記リチウムイオン電池、電池モジュール、または、電池パックは、前記電気装置の電源として用いることができ、前記電気装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いることができる。前記電気装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば、純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電車、船舶および衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0083】
前記電気装置として、その使用のニーズに応じてリチウムイオン電池、電池モジュールまたは電池パックを選択できる。
【0084】
図6は、電気装置の1つの例である。当該電気装置は、純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、または、プラグインハイブリッド電気自動車などである。当該電気装置のリチウムイオン電池に対する高出力および高エネルギー密度の要求を満たすために、電池パックまたは電池モジュールを使用することができる。
【0085】
電気装置のもう1つの例として、携帯電話、タブレット、ノートパソコン等であってもよい。当該装置は、通常、薄型化が要求され、電源としてリチウムイオン電池を使用できる。
【0086】
実施例
以下、本願の実施例について説明する。下記に説明する実施例は例示的なものであり、本願を説明するためにのみ使用され、本願の限定として解釈されるべきではない。実施例に特定の技術または条件が示されていない場合、本分野の文献に記載されている技術または条件に従ってまたは製品の取り扱い説明書に従って行う。用いられる試薬または機器は、メーカーが明示されていない場合、いずれも市販から入手できる従来の製品である。
【0087】
実施例1
(1)電解液の調製
水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックスにおいて、ビーカーにそれぞれEC 30g、EMC 50g、DMC 10gおよびLiPF 10gを加え、十分に攪拌し、溶解して本実施例に用いられる電解液を得た。
【0088】
(2)正極シートの製造
正極活性材料であるLiNi0.8Co0.1Mn0.1、バインダーであるポリフッ化ビニリデン、導電剤であるアセチレンブラックを質量比8:1:1で混合し、溶媒であるNMPを加え、真空攪拌機の作用下で正極スラリーを得た。正極スラリーを0.28g(乾燥重量)/1540.25mmの量で厚さ13μmの正極集電体であるアルミ箔に均一に塗布した。アルミ箔を室温でエアリングによる乾燥した後、120℃のオーブンに移して1時間乾燥させ、そして冷間圧延、スリットを経て正極シートを得た。
【0089】
(3)負極シートの製造
負極活性材料である人工黒鉛、導電剤であるカーボンブラック、バインダーであるアクリレートを質量比92:2:6で混合し、脱イオン水を加え、真空攪拌機の作用下で負極スラリーを得た。負極スラリーを0.2g(乾燥重量)/1540.25mmの量で厚さ8μmの負極集電体である銅箔に均一に塗布した。銅箔を室温でエアリングによる乾燥した後、120℃のオーブンに移して1時間乾燥させ、そして冷間圧延、スリットを経て負極シートを得た。
【0090】
(4)セパレーター
セパレーターは、Cellgard会社から購入され、型番がcellgard2400であった。
【0091】
(5)リチウムイオン電池の組み立て
正極シート、セパレーター、負極シートをセパレーターが正極シートと負極シートとの間にあって隔離の役割を果たすように順に積層し、捲回して裸セルを得た。容量4.3Ahの裸セルを外装箔に入れ、前述して調製した電解液12gを乾燥後の電池に注入し、真空封止、静置、化成、整形などの工程を経てリチウムイオン電池を得た。
【0092】
実施例2
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が、水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 52g、DMC 10g、LiPF 8gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0093】
実施例3
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が、水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 52.5g、DMC 10g、LiPF 7.5gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0094】
実施例4
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が、水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 55g、DMC 10g、LiPF 5gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0095】
実施例5
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 16g、DMC 40g、LiPF 10g、1,3-PS 4gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0096】
実施例6
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 26g、DMC 30g、LiPF 10g、1,3-PS 4gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0097】
実施例7
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 26g、DMC 30g、LiPF 10g、DTD 4gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0098】
実施例8
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 26g、DMC 30g、LiPF 10g、BiDTD 4gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0099】
実施例9
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 43g、DMC 15g、LiPF 10g、1,3-PS 2gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0100】
実施例10
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 47g、DMC 10g、LiPF 10g、1,3-PS 3gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0101】
実施例11
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 47g、DMC 9g、LiPF 10g、1,3-PS 4gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0102】
実施例12
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 25g、DMC 30g、LiPF 10g、1,3-PS 5gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0103】
実施例13
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 42g、DMC 15g、LiPF 10g、1,3-PS 3gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0104】
実施例14
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 52g、DMC 5g、LiPF 10g、1,3-PS 3gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0105】
実施例15
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 46.5g、DMC 12g、LiPF 10g、1,3-PS 1.5gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0106】
実施例16
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 30g、EMC 37g、DMC 20g、LiPF 10g、1,3-PS 3gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本実施例用の電解液を得る点であった。
【0107】
比較例1
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、電解液の製造工程が水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 33.75g、EMC 56.25g、LiPF 10gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本比較例用の電解液を得る点であった。
【0108】
比較例2
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 36.38g、EMC 60.62g、LiPF 3gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本比較例用の電解液を得る点であった。
【0109】
比較例3
リチウムイオン電池の製造過程は、全体として実施例1を参照し、相違点は、水分含有量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス中で、ビーカーにEC 33g、EMC 55g、LiPF 12gをそれぞれ加えて十分に撹拌溶解した後、本比較例用の電解液を得る点であった。
【0110】
前記実施例1~16および比較例1~3にて得られた正極活性材料をそれぞれ下記のように性能測定を行った。測定結果を下記の表2に示す。
【0111】
リチウムイオン電池の性能測定
1.初期放電DCR(直流抵抗、Directive Current Resistance)測定
25℃において、リチウムイオン電池をそれぞれ1Cの充電レートで4.25Vまで充電し、その後電流が0.05C未満になるまで定電圧充電し、そして、1Cの放電レートで30min放電し、この時の電圧をV1とした。そして4Cの放電レート(4Cに対応する電流をIとした)で30s放電し、この時の電圧をV2とした。そうすると、リチウムイオン電池の初期放電DCR=(V1-V2)/Iとなった。
【0112】
2.60℃サイクル性能測定
60℃において、リチウムイオン電池を1Cで4.25Vまで定電流充電し、その後4.25Vで電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、5min静置した後、1Cで2.5Vまで定電流放電し、得られた容量を初期容量C0とした。上記の同一の電池について、上記の工程を繰り返しながらカウントを開始し、300サイクル後の電池の放電容量C300を記録すると、300サイクル後の電池のサイクル容量保持率P=C300/C0*100%となった。
【0113】
3.60℃貯蔵測定
60℃において、リチウムイオン電池を0.5Cで4.35Vまで定電流充電し、その後電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、この時のリチウムイオン電池の厚さをh0とした。その後、リチウムイオン電池を、60℃の恒温箱に入れ、30日間貯蔵した後取り出し、この時のリチウムイオン電池の厚さを測定し、かつh1とした。リチウムイオン電池の30日間貯蔵した後の厚さ膨張率=[(h1-h0)/h0]×100%となった。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
前述した結果から分かるように、電解液溶媒にDMCを用いることによって、同じ電解質塩濃度で、比較例と比較して、実施例1~16は、DCRが明らかに低く、すなわち、動力学的な性能が改善され、かつ高温サイクル性能も改善された。
【0117】
実施例5~16では、電解液に正極犠牲型添加剤をさらに添加したため、比較的に高い濃度のDMCを用いるとき、電池の高温での膨張を抑制し、かつ高温サイクル性能を改善することができる。実施例5~10から分かるように、電池がc≦10×b-10×|0.6-a/12.5|を満たす場合、電池の高温貯蔵性能およびサイクル性能をさらに改善することができる。実施例11~16から分かるように、電池がc≧10×(5-0.08×a/W)をさらに満たす場合、DCRが比較的に低くなり、電池の動力学的な性能がさらに改善される。
【0118】
なお、本願は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示に過ぎず、本願の構成の範囲内において、技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏する実施形態は、いずれも本願の技術的範囲に含まれる。また、本願の要旨を逸脱しない範囲で、当業者が思いつく各種変形を実施形態に施したものや、実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本願の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
1 電池パック
2 上筐体
3 下筐体
4 電池モジュール
5 リチウムイオン電池
51 ケース
52 電極アセンブリ
53 上蓋アセンブリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】