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特表2023-545906網膜加熱中にERG信号を取得し、それに基づいて網膜加熱を制御するための装置
<図1>
  • 特表-網膜加熱中にERG信号を取得し、それに基づいて網膜加熱を制御するための装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】網膜加熱中にERG信号を取得し、それに基づいて網膜加熱を制御するための装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20231025BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61F9/008 120D
A61B3/10 800
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023516183
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 FI2021050602
(87)【国際公開番号】W WO2022053745
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】20205875
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521523763
【氏名又は名称】マキュレイザー オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイッコネン、オッシ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン、テーム
(72)【発明者】
【氏名】コスケライネン、アリ
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB13
4C316FC12
(57)【要約】
網膜ERG刺激および加熱を提供するための装置であって、制御装置は少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの刺激ビームを提供して網膜の標的領域からERG信号を誘導するための少なくとも1つの光源とを備え、制御装置は少なくとも制御標的領域の温度を上昇させるための加熱システムをさらに備え、制御プロセッサは網膜加熱中に制御刺激ビームによって誘導された網膜ERG信号を受信し、制御ERG信号に基づいて、制御網膜の温度を示す1つ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜ERG刺激および加熱を提供するための装置であって、
前記装置は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの刺激ビームを提供して網膜の標的領域からERG信号を誘導するための少なくとも1つの光源とを備え、
前記装置は少なくとも前記標的領域の温度を上昇させるための加熱システムをさらに備え、
前記プロセッサは、網膜加熱中に前記刺激ビームによって誘導される網膜ERG信号を受信し、前記ERG信号に基づいて、前記網膜の温度を示す1つまたは複数の指標を決定し、前記指標に基づいて前記加熱システムを制御する、
装置。
【請求項2】
較正プロトコルを実行し、
指標として、眼底の前記標的領域に対する単位加熱電力当たりの温度上昇を決定し、
前記指標を使用して、前記網膜の前記温度を上昇させるために較正された加熱電力を提供するように前記加熱システムを制御する、
ように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
a)刺激ビームを提供するように少なくとも1つの光源を制御することによって網膜刺激を開始し、
b)第1加熱前基準ERG信号を決定し、
c)加熱システムを制御することによって網膜加熱を開始し、第1の電力で標的領域に網膜加熱を提供し、予め設定された持続時間の間、網膜加熱を継続し、
d)第1加熱ERG信号を決定し、
e)任意選択で、ステップc)~d)を第2または後続のレーザー出力で繰り返して、第2または後続の加熱ERG信号を決定し、
f)網膜加熱を停止し、
g)任意選択で、第1加熱後基準ERG信号を決定し、
h)前記第1加熱前ERG信号および/または第1加熱後ERG信号を前記加熱ERG信号と比較して、網膜組織の温度上昇を、使用された加熱電力で決定し、
i)決定された温度上昇を利用して、単位加熱電力当たりの目標面積の温度上昇を決定する、
ように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、加熱電力の所定のセットを用いて少なくともステップc)~d)を繰り返すように構成され、
前記加熱電力の単位当たりの前記目標面積の取得された複数の温度上昇に基づいて、指標として、前記加熱電力の単位当たりの前記目標面積の総体的な温度上昇を決定する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
網膜加熱を変更または開始した後の所定の時間と、その後の網膜加熱の終了または変化との間で得られるERG信号が、温度決定のための前記加熱ERG信号として使用される、
請求項3または請求項4に記載の装置。
【請求項6】
加熱が開始された実質的に直後に得られたERG信号が、温度決定のための前記加熱ERG信号として使用されて、加熱手順の開始時に加熱によって引き起こされる網膜の標的領域の温度上昇の速度を決定する、
請求項3または請求項4に記載の装置。
【請求項7】
指標の1つまたは複数の指標の値が閾値量を超えて期待値と異なる場合、加熱が終了または調整され、および/または、前記装置のユーザに通知される、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
較正プロトコルが、少なくとも標的領域の温度を標的温度または温度上昇まで上昇させると予想される加熱電力を決定するために使用され、
前記較正プロトコルに基づいて加熱電力を提供することによって、前記ERG信号の動力学パラメータが、網膜加熱中に本質的に連続的に決定され、
網膜加熱中に決定された前記ERG信号の動力学パラメータの変化が、決定された標的温度または温度上昇に基づいて動力学パラメータの予測される変化と比較され、
決定された前記動力学パラメータの前記変化が閾値量を超えて前記動力学パラメータの予測される変化と異なる場合、加熱が終了または調整され、および/または、装置のユーザに通知される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記動力学パラメータの予測される変化と観察される変化との間の差の前記閾値量が、2℃~8℃、有利には、4℃~6℃の温度変化に対応する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、体温が決定される場合に、前記標的領域における所定の温度上昇または前記標的領域における所定の絶対温度を提供する加熱電力を外挿するように構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置は、ERGシグナリング動力学がより高いレーザー出力で治療中にどのように変化すべきかを外挿し、動力学の変化が所定の量にわたって期待値から逸脱する場合、前記網膜加熱を終了させるか、または治療パワーを低下させるように構成される、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記ERG信号の信号対雑音比を決定し、前記信号対雑音比が所定の閾値未満である場合、網膜加熱を終了するように構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、指標として、前記ERG信号の振幅を決定し、網膜加熱中の前記ERG信号の前記振幅が以前に決定された基準ERG応答振幅に対して所定の閾値を下回る場合、網膜加熱を終了または調整し、および/または、前記装置をユーザに知らせるように構成される、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記網膜加熱中に決定された前記ERG信号の振幅と、予め決定された基準ERG応答振幅の振幅との間の閾値の相対振幅は、0.4~0.9であり、有利には0.5~0.7である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記プロセッサは、指標として、前記ERG信号の動力学を決定し、前記動力学が予め決定された動力学よりも所定の閾値量を超えて遅い場合、網膜加熱を終了または調整するか、または前記装置のユーザに知らせるように構成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記動力学の減速の閾値量が0.5℃~4℃、有利には1℃~2℃の温度変化に対応するように決定され、前記動力学と温度との間の関係が網膜温度の所定の治療ウィンドウにおける温度変化の1度あたりの予め決定された動力学の変化に基づいて決定される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記プロセッサが、指標として、取得された前記ERG信号に基づいてERG電極間のインピーダンスを決定し、前記インピーダンスが所定の閾値を上回る場合、網膜加熱の開始を終了または無効にするように構成される、請求項1~16のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、網膜電図(ERG)および網膜加熱に関する。より具体的には、本発明は網膜加熱中にERG信号を取得し、取得されたERG信号に基づいて網膜加熱を制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
網膜電図検査(ERG)は網膜の電気信号(電気応答)が光フラッシュなどの刺激への網膜の曝露中に記録される方法であり、これは網膜疾患の診断などの様々な場合に有用であり得る。
【0003】
網膜の電気信号の温度依存性のために、網膜加熱(例えば、光熱網膜治療)中に得られるERG信号を使用して、網膜の温度を決定することができることも発見された。したがって、網膜加熱中に得られたERG信号は、網膜で発生している温度(または少なくとも2つの時点間の温度差)を示すことができる。次いで、加熱に関連する温度決定は例えば、網膜温度が所望のレベルに維持されるように網膜加熱を制御するために、または、所望の温熱量が網膜加熱治療手順中に送達されるように、使用され得る。
【0004】
網膜の損傷を引き起こすのに十分な高温を回避しながら、網膜の温度を治療効果のあるレベルに維持することが重要である。先行技術の装置は、最適な温度に達するための有効な線量測定を提供しておらず、損傷が生じる前に過剰治療の検出を可能にしていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、従来技術における問題の少なくともいくつかを軽減することである。本発明の一態様によれば、網膜ERG刺激および加熱を提供するための装置が提供され、装置は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの刺激ビームを提供して網膜の標的領域からERG信号を誘導するための少なくとも1つの光源とを備え、装置は少なくとも標的領域の温度を上昇させるための加熱システムをさらに備え、プロセッサは網膜加熱中に刺激ビームによって誘導される網膜ERG信号を受信し、前記ERG信号に基づいて、網膜の温度を示す1つまたは複数のインジケータ(指標)を決定し、前記インジケータに基づいて加熱システムを制御するように構成される。
【0006】
本発明の実施形態の有用性を考慮すると、網膜加熱をより安全に行うことができる。網膜の加熱は、網膜の温度を、網膜の損傷を引き起こす可能性がある加熱レベル未満で、治療上の利益を誘導するのに十分に高い加熱レベルまで上昇させるように制御され得る。
【0007】
本発明の一実施形態は、単位加熱電力当たりの網膜組織の温度上昇を指標として決定するための較正プロトコルを実行するための装置および方法を提供する。本発明者らは、同じレーザー出力によって引き起こされる網膜の温度上昇が患者間で、または異なる網膜領域間でさえも変化することに注目した。本発明は電力較正を実行する方法を提供し、したがって、そのような温熱量測定において使用され得る。次いで、網膜加熱は、治療温度窓(window)に達するように治療領域に対して個々に最適化される方法で送達され得る。単位加熱電力当たりの決定された温度上昇に基づいて、加熱システムは、網膜の温度を上昇させるための較正された加熱電力を提供するように制御され得、加熱電力は特定の場合に、網膜の所定の温度上昇を誘導するための所定の範囲内である。
【0008】
電力較正プロトコルは、以下のように構成されるプロセッサを備えることができる:
a.刺激ビームを提供するように少なくとも1つの光源を制御することによって網膜刺激を開始する、
b.第1加熱前基準ERG信号を決定する、
c.加熱システムを制御することによって網膜加熱を開始し、第1の電力で標的領域に網膜加熱を提供し、予め設定された持続時間の間、網膜加熱を継続する、
d.第1加熱ERG信号を決定する、
e.任意選択で、ステップc~dを第2または後続のレーザー出力で繰り返して、第2または後続の加熱ERG信号を決定する、
f.網膜加熱を停止する、
g.第1加熱後基準ERG信号を決定する、
h.第1の加熱前ERG信号および/または第1の加熱後ERG信号を加熱ERG信号と比較して、網膜組織の温度上昇を、使用された加熱電力で決定する、
i.決定された温度上昇を利用して、単位加熱電力当たりの目標面積の温度上昇を決定する。
【0009】
プロセッサは加熱電力の所定のセットを用いて少なくともステップc~dを繰り返し、加熱電力の単位当たりの目標面積の取得された複数の温度上昇に基づいて、加熱電力の単位当たりの目標面積の総体的な温度上昇を指標として決定するように構成され得る。
【0010】
加熱システムがオンにされると、網膜の温度は加熱の最初の秒間、急激に上昇し、その後、ゆっくりと温度が変化し網膜温度の変化が安定する(すなわち、加熱の最初の秒間ほど速くもはや変化しない)、ゆっくりとしたドリフトが続く。一実施形態では、網膜加熱を変更または開始した後の所定の時間と、その後の網膜加熱の終了または変化との間で得られる加熱ERG信号を、温度決定のための加熱ERG信号として使用することができる。ここで、熱曝露によって誘発されるピーク温度上昇をより良好に反映するか、またはより効率的に示す(より近い)標的領域の温度を得ることができる。網膜の温度上昇は加熱電力に線形に依存することが予想され、較正手順は最初に、単位温度上昇当たりに必要とされる加熱電力の量を決定し、この数に所望の温度上昇を乗算して、所望の目標温度に達するのに必要とされる電力を決定することによって、必要な加熱電力を外挿することができる。網膜の目標温度に達するために、決定された身体温度と目標温度との間の差に対応する量だけ網膜温度を上昇させるために必要とされる電力に対応する加熱電力、目標温度差/上昇が適用され得る。
【0011】
ERG信号はもちろん、本質的に連続的に取得/記録されてもよいが、網膜温度の決定に使用される加熱ERG信号として決定される所定の時間遅延後に取得されるERG信号のみであってもよい。
【0012】
加熱が開始された本質的に直後に得られるERG信号は追加的にまたは代替的に、加熱手順の開始時に加熱によって引き起こされる網膜の標的領域の温度上昇の速度を決定するための温度決定のための加熱ERG信号として使用されてもよい。単位加熱電力当たりの温度上昇の初期速度が知られているとき、プロセッサは、所望の温熱量を送達するための適切な電力および/またはパルス持続時間を決定することができる。これは、パルスが十分に短いとき、温度上昇がレーザー出力およびパルス持続時間に正比例すると仮定することによって行うことができる。較正および処置において異なるスポットサイズが使用される場合、処置パワーは、処置スポットの直径に比例して調節され得る。
【0013】
インジケータが加熱を制御するために使用される本発明の異なる実施形態では、加熱は終了または調整されてもよい。追加的にまたは代替的に、加熱の制御は、通知または通知される構成のユーザを指し得る。通知は例えば、網膜の温度などの加熱の特性を示す聴覚情報および/または視覚情報をユーザに提供することを含んでもよい。この通知に基づいて、装置のユーザは、加熱を調整または終了することができる。
【0014】
一実施形態では加熱を終了または調整することができ、またはユーザに、網膜の温度が過度に高くなり得ることを示す1つ以上のインジケータを知らせることができる。実証されるように、インジケータは、本質的に対応する加熱電力で記録された以前に決定された基準ERG応答または加熱前に記録されたERG応答と比較して、加熱中に得られ記録されたERG応答/信号の振幅および/または動態の変化に関連し得る。1つまたは複数のインジケータは網膜の温度または網膜の温度変化を決定するために使用され得、この温度が閾値量を超えて標的網膜温度と異なる場合、これはインジケータから決定される網膜温度が実際には正確ではないが、動力学パラメータなどのインジケータが標的温度範囲(例えば、動力学の加速度が線形ではない)であるはずのように振る舞わず、したがって、網膜加熱が治療ウィンドウ外の温度に進み、損傷を与え得ることの兆候であり得る。
【0015】
プロセッサはさらに、標的領域内に所定の温度上昇を提供する加熱電力を外挿するように構成されてもよい。患者のコア(core)体温が較正プロトコルの一部として決定される場合、プロセッサは、網膜の標的領域における所定の絶対温度につながるレーザー出力を決定するように構成され得る。
【0016】
一実施形態では、プロセッサがERGシグナリング動力学(signaling kinetics)がより高いレーザー出力を用いた治療中にどのように変化すべきかを外挿することができ、動力学の変化が所与の閾値よりも大きい期待値から逸脱する場合、網膜加熱を終了させるか、または治療パワーを低下させるように構成することができる。
【0017】
プロセッサは得られたERG信号の信号対雑音比を決定し、加熱システムの電源を切ることによって、または網膜加熱が開始されていない場合には、決定された信号対雑音比が所定の閾値を下回る場合、網膜加熱の開始を無効にするように構成され得る。したがって、網膜加熱は、得られたERG信号が標的領域に関する情報を得るために効果的に使用され得ない場合、防止または中止され得る。これは、例えば、ERG電極接触が悪化した場合、または網膜が治療されている患者が顔面筋を屈曲させた場合に起こり得る。このような場合には、網膜熱処理を行わない方が安全である。
【0018】
プロセッサは、いくつかの実施形態ではインジケータとして、眼電極および基準電極などのERG電極間のインピーダンスを受信または決定するように構成され得、インピーダンスが所定の閾値を上回る場合、網膜加熱を終了させるか、または網膜加熱の開始を無効にし得る。
【0019】
一実施形態では、プロセッサがインジケータとしてERG信号の振幅を決定し、網膜加熱を終了または調整し、および/または網膜加熱中の振幅が以前に決定された基準ERG信号振幅に対して所定の閾値を下回る場合、ユーザに知らせるように構成され得る。これは、網膜の温度が危険なほど高くなり、ERG信号振幅が過度に減少し始める場合に、網膜加熱が終了することを保証し得る。較正プロトコルが(例えば、本明細書で後に開示される方法で)実行される場合でさえ、較正プロトコルは誤っている可能性があり、それによって、ERG信号振幅の監視は、患者にとって有害であり得る、過度に高い網膜温度を防止するための安全機構であり得る。
【0020】
網膜加熱中に決定されたERG信号の振幅と、予め決定された基準ERG応答振幅の振幅との間の閾値相対振幅は例えば、0.4~0.9、有利には0.5~0.7であってもよい。
【0021】
1つのさらなる実施形態では、プロセッサがERG信号の動力学を指標として決定し、その加速度などの前記動力学が所定の閾値量を超えて所定の動力学値と異なる場合、網膜加熱を終了するように構成され得る。ERGシグナル応答速度論は、特定の温度範囲で指数関数的に加速する。温度決定にインパルスERGレスポンスを使用する構成では、温度変化が以下のように温度に依存する:ΔT=kln(Δx)、ここで、ΔTは温度の変化であり、Δxはシグナルの加速度を表す特徴量の相対的な変化であり、kは特徴の温度依存性である。
【0022】
十分に高い網膜温度では温度依存加速度がもはや上述の関係に従わず、温度が十分に高い場合、応答速度は温度の上昇とともに遅くなる。シグナル動態(kinetics)が過度に遅くなる場合、例えば、基準値と比較して閾値量を超えて遅くなる場合、これは、網膜温度が過度に高いことを決定するために使用され得る。したがって、決定されたERG信号の動態を監視し、その後、前述の場合における網膜加熱を終了または調整することは、網膜の有害な加熱を防止し得る安全機構も提供し得る。
【0023】
本発明の一実施形態では、過度に高い温度によるERG信号速度の減速が網膜加熱中にERG信号を本質的に連続的に記録し、最新のERG応答信号を、実質的に同じ加熱電力を含む網膜加熱中に以前に記録された最も速いERG応答と比較することによって検出され得る。速度論の減速の閾値量は、0.5℃~4℃、有利には1℃~2℃の温度変化に対応するように決定され得る。
【0024】
ERGシグナルの動態と網膜温度の変化との間の関係は、網膜刺激の選択された方法に基づいてわずかに変化し得る。既知のデータでは明るい明所視フラッシュを明るい一定のバックグラウンド上で網膜刺激に使用した場合、ERGシグナル伝達速度加速の温度依存性は3.6%/℃であることが分かった。これはレーザー加熱適用中にERGシグナルを誘発するための有利な方法であることが分かった。しかしながら、他の刺激パラダイムでは、この値が例えば、3%~6%/℃の範囲で変化し得る。
【0025】
本発明者らは、ERG信号振幅の低下ならびにERG動態の減速が損傷が生じる網膜温度よりも低く、治療上の利益が誘発される網膜温度よりも高いことを発見した。1分間のレーザー曝露では網膜レーザー療法の治療効果を中継すると考えられる分子シャペロンHSP70およびHSP90の産生増加が網膜温度が44℃以上で安定した治療で検出されたが、損傷閾値は約48℃であると決定された。
【0026】
例えば、校正プロトコルを介して、ERGシグナルの既知の動力学加速(例えば、式ΔT=kln(Δx)によって与えられる)が予想されることが決定され得る。網膜の加熱中に、ERGシグナルの動態がこの所定の期待加速度よりも少ない量をしきい値量を超えて加速することが観察される場合、温度が前述のΔT=kln(Δx)の関係が成り立たない点まで上昇したことを示す指標であり得る。
【0027】
一実施形態では指標がERGシグナルの動力学パラメータであってもよく、ここで、例えば、網膜の既知の標的温度でのレーザー曝露によって誘発されるERG反応動力学の変化は前述の式ΔT=kln(Δx)からの予測される動力学加速と比較される。ERG応答動力学の加速度の変化がこの予想よりも著しく小さい場合、温度が過度に高く、すなわち目標温度を超えて、または治療域を超えて上昇したことを示す。前述の差の閾値は、好ましくは2℃~8℃、有利には4℃~6℃の温度低下に対応し得る。
【0028】
本発明者らはまた、網膜加熱のための最適な治療温度が、得られたERGシグナル動態がその最も速い温度範囲、すなわち温度が上昇または低下する温度範囲にあることを発見した。網膜温度が最適治療温度を超えて上昇すると、ERGシグナル伝達は急速に減速し始める。ERGシグナル伝達動態のこの急速な減速は、網膜損傷に先行することが見出され、不注意による過剰治療の検出に適している。
【0029】
本発明者らはさらに、ERG信号の振幅は最適な治療温度で劇的な変化を示さないが、網膜温度が最適な治療温度を超えて上昇すると、振幅は急速に低下し始めることを発見した。このERG振幅の急速な低下は、網膜損傷に先行することが見出され、不注意による過剰治療の検出に適している。
【0030】
本明細書に提示される例示的な実施形態は、添付の特許請求の範囲の適用性を限定するものと解釈されるべきではない。「含む(to comprise)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を排除しないオープンな限定として、本文において使用される。従属請求項に記載された特徴は特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0031】
本発明の特徴と考えられる新規な特徴は、特に添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、本発明自体はその構造およびその動作方法の両方に関して、そのさらなる目的および利点とともに、添付の図面と関連して読まれるとき、特定の例示的な実施形態の以下の説明から最も良く理解されるのであろう。
【0032】
次に、本発明を、添付の図面に従った例示的な実施形態を参照して、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、ERG信号を取得しながら網膜加熱を行うためのデバイスに関連する、本発明の実施形態による例示的な構成の一部を示す。
図2図2は、本発明の一実施形態による例示的な構成の1つの概略図を示す。
図3図3は、基準ERG信号と比較して決定されたERG信号間の相対振幅を網膜温度の関数として決定したプロットを示す。
図4図4は、目標温度とERG信号から決定された温度との間の決定された温度差を網膜温度の関数として用いたプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は網膜加熱中に網膜ERG信号を得るための装置を示し、この装置は、少なくとも一部が本発明の実施形態による構成に含まれる構成要素を含む。装置は、少なくとも1つの光源を備え、少なくとも1つの光源は焦点ERG信号を誘発するために網膜の標的領域を刺激するために、網膜の標的領域を照明するための少なくとも1つの刺激ビームを提供するように構成される。また、網膜の少なくとも標的領域を照明するための中央バックグラウンドビームなどの他の光源または光ビームが、任意選択で装置内に提供されてもよい。光源(複数の場合)は、別々に制御可能であることが好ましい。装置はさらに、網膜の温度を上昇させるための加熱システムを備える。
【0035】
図1の実施形態では、刺激ビームが刺激光源LED3によって提供される。刺激ビームは、少なくとも網膜の標的領域を照明するために使用され、標的領域はERG信号が得られる領域であり、任意選択で、網膜加熱中に加熱/加熱される領域でもある。ターゲット領域は加熱される領域を指してもよく、この場合、刺激ビームによって照明される領域はターゲット領域全体に対応しなくてもよい。刺激ビームは、標的領域からERG信号を誘発/誘導するために使用される。刺激ビーム光源LED3は、500~600nm、例えば約555nmの波長を有する刺激ビームを提供するように構成された発光ダイオード(LED)光源であってもよい。赤色および緑色の錐体細胞は555nmの波長で同様の感度を有し、したがって、これに近い波長を示す刺激ビームは、両方の細胞型を同様に刺激し得る。刺激ビームは、全ての網膜錐体細胞を等しく刺激し得る白色光を含み得る。
【0036】
刺激光源LED3は、変調された刺激光ビームを提供するように構成されてもよい。したがって、刺激ビームは光の連続ビームとして提供されなくてもよいが、光のインパルス状フラッシュなどのシーケンスを含んでもよい。変調は例えば、4~40Hz、有利には10~25Hzの周波数で実施することができる。
【0037】
図1のデバイスは、眼底撮像システムIS(いくつかの実施形態ではデバイスの一部としても実現され得る)に関連して示される。眼底撮像システムISは例えば、接眼レンズ、眼底カメラ、又は走査レーザー検眼鏡であってもよい。眼底撮像システムは第1の撮像モジュールIM1および第2の撮像モジュールIM2と、第2のフィルタF2(例えば、光学フィルタ)および第3のフィルタF3(例えば、赤外線カットフィルタ)などの1つまたは複数のフィルタとを備えることができ、これらのフィルタは、レーザー光が撮像モジュールIM2に向けられるのを阻止する。
【0038】
図1の装置では、中央背景光ビームが中央背景光源LED2によって提供される。中央背景光ビームは少なくとも網膜の標的領域を照明し、標的領域の光適応レベルを維持するように構成される。中心バックグラウンド光ビームは、ターゲット領域と同心であってもよく、ターゲット領域のみを本質的に照明することに限定されてもよい。中央背景光源LED2は、LED光源であってもよい。中央背景光ビームは、白色光を含んでもよく、及び/又は眼底において100ルクスよりも大きい輝度を有する可能性がある。
【0039】
中心バックグラウンドビームの明るさは、加熱レーザーまたは他の加熱手段がオンにされるときに低減されて、標的領域における安定した照度を維持するように構成され得る。
【0040】
例えば、赤外線撮像が眼底撮像に使用される使用事例シナリオでは、中央背景光ビームは必要とされない場合がある。
【0041】
装置はまた、ERG信号を取得するための手段、すなわち、刺激ビームによって提供される刺激に対する標的領域の応答信号を取得するための手段を備える。ERG信号は、1つまたは複数のERG電極によって記録/収集または取得され得る電気応答であり得る。電極は、1つまたは複数の眼電極と、1つまたは複数の基準電極とを備えてもよい。ERG信号は、経時的な少なくとも2つの電極間の電圧変化として得ることができる。
【0042】
装置は、眼底レンズL6を含むか、または眼底レンズL6に関連して使用可能であり得る。眼底レンズL6は、提供された光線を眼底に向けることができる。眼底レンズL6は例えば、120度を超える視野をもつ反転眼底レンズであってもよい。
【0043】
一実施形態では、眼底レンズをデバイスに組み込むことができ、それによって、レンズを角膜上に配置する必要がない。
【0044】
一実施形態では、装置は眼底レンズを備え、眼球電極は眼底レンズに一体化されてもよい。
【0045】
加熱システムは、眼底上の標的領域の温度を上昇させるように構成された加熱レーザーLFなどの少なくとも1つの熱源を備える。加熱光源LFは、少なくとも標的領域に向けられる加熱ビームを提供するように構成されてもよい。
【0046】
加熱ビームは、近赤外線領域の波長を含むことができる。加熱ビームに含まれる光の波長は700~1000nmであってよく、加熱ビームはファイバ結合ダイオードレーザーである加熱光源LFによって提供されてよい。
【0047】
一実施形態では、加熱ビームが眼底上に1~6mmの均質な放射照度プロファイルおよびスポット直径を有する。
【0048】
また、他の加熱システムまたは加熱手段が、網膜加熱に関連するデバイスに関連して利用されてもよい。例えば、加熱システムは、超音波によって実施することができる。
【0049】
図1に示す装置の機能を構成と関連させて考えると、1つのユースケースシナリオ(use case scenario)が次に説明される。上述の3つのビームは、同じチャネル上にもたらされ、共役平面CP1上に投影され得る。したがって、刺激ビーム、中央背景光ビーム、および加熱ビームに対応する3つの光チャネルが関与し得る。加熱ビームは、第1のレンズL1によって第1のマスクM1上に向けられてもよい。中央背景光ビームは、第3のレンズL3によって第3のマスクM3上に向けられ得る。刺激ビームは、第4のレンズL4によって第4のマスクM4上に向けられ得る。
【0050】
眼底レンズL6は、CP1の光プロファイルを眼底に投影することができる。第1の撮像モジュールIM1は、CP1がカメラセンサ上に投影されるか、または処置する医師の眼が生体顕微鏡の接眼レンズを介してCP1上に焦点を合わせることができるように構成される。第5のレンズL5を通過したビームは、第1のミラーM1によって眼に向けられる。第1のミラーM1は第1の光学モジュールIM1(生体顕微鏡など)の正面に直接配置されてもよく、その結果、左眼は第1のミラーM1の左側の眼底へのビューを有し、右眼は第1のミラーM1の右側の眼底へのビューを有する。第5レンズL5はマスクM1、M3、及びM4からの像を共役平面CP1上に投影することができ、これは、マスクを通して放出された光プロファイルがCP1上に結像されることを意味する。ビームスプリッタBS2およびBS3は、加熱レーザーファイバ出力LFから生じるビームと、光源LED2およびLED3とを組み合わせてもよい。
【0051】
図1において、マスクM1、M3、M4は穴であり、穴を透過した光プロファイルが共役面CP1に向かって投影される。マスクはまた、成形ミラーまたはデジタルマイクロミラーデバイスであってもよく、その場合、光は、マスクを通過する代わりにマスクから反射されるようにされる。
【0052】
図2は、本発明の一実施形態による1つの例示的な構成を概略的に示す。この構成は少なくとも1つのプロセッサ102と、少なくとも1つの刺激ビームを提供するための少なくとも1つの光源とを備え、この構成は網膜の標的領域の温度を上昇させるための加熱システムをさらに備える。装置は、図1に描かれているような他の構成要素も含むか、またはそれと共に使用され得る。
【0053】
好ましくは、装置が少なくとも1つのプロセッサ102と、刺激光源LED3と、加熱光源LF(又は何らかの他の加熱システム)とを備える。この構成はまた、中央背景光源LED2を備えてもよい。プロセッサ102は、光源(および/または他の加熱システム)の一部または全部を制御するように構成される。制御は光源の電源のオン/オフ、または供給された光ビームによって供給される電力または照度など、光源の任意の他の態様の制御であってもよい。プロセッサ102は得られたERG信号を受信するように構成され、これは電極104によって得ることができる。電極104は、少なくとも1つの眼電極および少なくとも1つの基準電極などの複数の電極を備えてもよい。プロセッサ102は取得されたERG信号を分析し、1つまたは複数の関連パラメータを決定するように構成され得る。電極104は、いくつかの実施形態では構成に含まれてもよい。
【0054】
電極104から得られるERG信号はプロセッサ102で受信される前に、増幅、フィルタリング、およびデジタル化などの処理のために、ERG増幅器-デジタイザシステムを通って方向付けられ得る。そのようなERG増幅器-デジタイザシステムは、いくつかの実施形態ではプロセッサ102の一部である構成の一部と見なされ得る。
【0055】
プロセッサ102は、加熱光源LFに電力を供給することによって網膜加熱を開始するように構成されてもよい。プロセッサは、刺激光源LED3に電源を投入することによって、刺激ビームを使用して網膜の標的領域の刺激を開始するように構成され得る。次いで、プロセッサ102は網膜加熱中に刺激ビームによって誘発された網膜ERG信号を受信し、取得されたERG信号に基づいて、網膜の温度を示す1つまたは複数のインジケータを決定し、前記インジケータに基づいて加熱システムを制御するように構成され得る。
【0056】
加熱システムの制御は所定の範囲内にある網膜温度を提供するために、決定された加熱電力を提供するように加熱光源LFなどの加熱システムを制御することを含んでもよく(また、本質的に電力を意味しなくてもよい)、その結果、網膜温度は安全および/または治療範囲にとどまり得、および/または網膜加熱の安全性を保持するために、特定の閾値を超えて上昇することが防止され得る。
【0057】
一実施形態では、装置がERG信号動力学が温度上昇に伴って指数関数的に加速する温度範囲で網膜加熱が行われていることを決定するように構成することができる。ERG信号から決定された信号動力学が、目標温度上昇に基づいて予想されるものとは著しく異なる量を加速することが決定される場合、加熱システムは例えば、加熱を終了または調整するように制御され得る。
【0058】
ERG信号の動力学が温度に指数関数的に依存する温度範囲では、振幅は温度変化にあまり敏感ではない。より高い温度では振幅がより高い温度で減少し始め、これは処理を終了するための、または加熱電力を調整するためのインジケータとして使用され得る。
【0059】
較正プロトコルは、この範囲内の温度上昇をもたらす1つ以上の加熱力(ERGシグナル動力学が温度上昇に伴って指数関数的に加速する範囲)を用いて実施することができる。
【0060】
プロセッサ102は得られたERG信号の信号対雑音比を決定し、加熱光源LFの電源を切ることによって、または網膜加熱が開始されていない場合、決定された信号対雑音比が所定の閾値を下回る場合、網膜加熱の開始を無効にするように構成され得る。信号対雑音比の決定は、本質的に連続的に行うことができる。所定の閾値は、信頼性のあるERG信号を得ることができない信号対雑音比の値であってもよい。
【0061】
プロセッサ102は、いくつかの実施形態では受信されたERG信号に基づいて、眼電極および基準電極などのERG電極間のインピーダンスを決定するように構成され得、インピーダンスが所定の閾値を上回る場合、網膜加熱を終了させるか、または網膜加熱の開始を無効にし得る。
【0062】
一実施形態では、プロセッサ102がERG信号の振幅を決定し、網膜加熱中の振幅が以前に決定された基準ERG信号振幅に対して所定の閾値を下回る場合、網膜加熱を終了するように構成され得る。
【0063】
図3は、垂直軸上の基準ERG信号と比較して決定されたERG信号と水平軸上の実験目標網膜温度との間の決定された相対振幅を示す。目標温度範囲は44~45℃として示されており、これは、通常の使用事例における治療のための治療域と見なされ得る。相対振幅は、加熱中の決定されたERG信号の値を、基準ケースで、好ましくは同じ加熱パワーを用いて、またはレーザー印加などの加熱の直前に決定されたERG信号で割ったものを指す。図中の点は前臨床試験において実施された独特の処理を表し、ここでは、実験目標温度に達するための処理のための適切なレーザー出力を決定するために較正手順が実施された。網膜凝固(病変)をもたらした治療には星印を付し、凝固を伴わない治療には丸印を付す。したがって、星印を付した治療は網膜に損傷を誘発する可能性があり、これらの場合、提供される加熱力は高すぎる可能性がある。
【0064】
図3から、一例として、相対振幅の閾値0.6が治療を終了するために使用される場合、治療温度が45℃未満であるときに治療はほとんど終了せず、レーザー曝露が細胞損傷を引き起こす場合には確実に終了することが分かる。
【0065】
装置は、所望の網膜温度または網膜温度の変化に対応する加熱電力を決定するための電力較正計画書を実行するように構成され得る。目標領域に対する単位加熱電力当たりの温度上昇は、網膜の温度を上昇させるために較正された加熱電力を提供するために加熱システムを制御するために使用され得るインジケータとして決定され得る。
【0066】
電力較正プロトコルは例えば、網膜加熱治療を実行する前に実行されてもよく、プロセッサ102は、
a)少なくとも1つの光源を制御して、刺激ビームを提供することによって、網膜刺激を開始し、
b)第1の加熱前基準ERG信号を決定し、
c)第1の電力で標的領域に網膜加熱を提供するように加熱システムを制御することによって、網膜加熱を開始し、予め設定された持続時間dの間、網膜加熱を継続し、
d)網膜温度の変化が安定した後(例えば、10~20秒などの所定の持続時間の後、温度変化が著しく遅くなったことが知られているか、または仮定された後)、第1の加熱ERG信号を決定し、
e)任意選択で、第2のまたは後続の加熱ERG信号fを決定するために、第2のまたは後続のレーザー出力でステップc~dを繰り返し、
f)網膜加熱を終了し、
g)任意選択で、網膜温度が体温に戻った後(例えば、体温が初期体温に低下したこが知られているか、または仮定された後の所定の持続時間の後)、第1の加熱後基準ERG信号を決定し、
h)第1の加熱前ERG信号および/または第1の加熱後ERG信号を加熱ERG信号と比較して、使用された加熱電力での網膜組織の温度上昇を決定し、
i)決定された温度上昇を利用して、加熱電力の単位当たりの標的面積の温度上昇を決定する、ように構成されている。
加熱前ERG信号および/または加熱後ERG信号と加熱ERG信号との比較に基づいて、使用された加熱電力を用いて網膜組織の温度上昇を決定するいくつかの代替的な方法については、本明細書で後述する。
【0067】
プロセッサ102は少なくとも上述のステップc~dを加熱電力の所定のセットで繰り返し、加熱電力の単位当たりの目標面積の取得された複数の温度上昇に基づいて、加熱電力の単位当たりの目標面積の総温度上昇を決定するように構成されてもよい。例えば、加熱電力と温度上昇との間のゼロ交差線形当てはめを利用することができ、単位電力当たりの温度上昇は線形当てはめの勾配である。
【0068】
いくつかの実施形態では、加熱ERG信号が網膜加熱を開始または変化させた後の所定の持続時間内にERG応答を除外するように選択され得、前記持続時間の後で網膜加熱のその後の変化または終了の前に得られる応答のみを含む。ここで、網膜温度の変化が所定の持続時間の後に、安定しているか、またはゆっくりと変化する(網膜温度のピークに向かってゆっくりと増加する)ことが知られているか、または決定され得る。網膜温度の変化は所定の期間の後、例えば、加熱の最初の秒の間に生じる網膜温度の変化と比較して、加熱の最初の秒の後、ゆっくりと生じ得、ここで、加熱のこれらの最初の秒の間、網膜温度の変化はより速い。温度決定のために前記所定の持続時間の後に得られたERG応答を利用することは、使用される加熱電力によって引き起こされる実際のピーク網膜温度により近い決定された網膜温度をもたらし得る。
【0069】
較正プロトコルを通して、決定されたまたは推定された体温および決定された目標網膜温度を用いて、網膜組織の目標温度上昇が決定され得、対応する加熱電力が送達され得る。しかしながら、較正プロトコルが実行される場合であっても、加熱力の単位当たりおよび/または体温における標的領域の決定された温度上昇の誤差は、過剰である網膜組織の実際の上昇をもたらし得、ERG信号の動態などの1つまたは複数の追加のインジケータが過剰治療を回避するために加熱を制御するために使用され得る。
【0070】
較正プロトコルが網膜の目標温度(または温度上昇)に達するために使用されるべき加熱電力を決定するために使用されるとき、連続的に記録されたERG信号から決定される網膜温度(上昇)は、加熱曝露中に目標温度(上昇)を著しく下回る場合、過剰治療を示し得る。
【0071】
図4は、較正プロトコルによって決定された目標温度と、垂直軸上の加熱中に決定されたERG信号に基づいて決定された温度と、水平軸上の実験目標網膜温度との間の決定された温度差を示す。例として、目標温度と加熱中に決定された温度との間の5℃の差の閾値が使用される場合、温度が45未満であり、細胞損傷を引き起こす治療において確実に誘発される場合、治療はほとんど終了されないことが分かる。
【0072】
1つ以上の実施形態では、プロセッサ102がERG信号の動力学を決定し、例えば、当該動力学の加速度が所定の閾値量を超えて所定の加速度値と異なる場合、網膜加熱を終了または調整するように構成されてもよい。一実施形態では、所定の加速度値が較正プロトコルに基づいて決定される。
【0073】
動態(動力学)は例えば、刺激ビームによる刺激に対する網膜組織の得られた/測定されたERG信号(電気応答)の速度または速度または応答時間を含むことができる。特徴は応答動態の変化、したがって網膜温度の変化を反映するために、ERGシグナルから抽出され得る。インパルスERG応答が温度決定のために使用される実施形態では、これらの特徴が例えば、インパルス刺激のモーメント(2つの応答間の時間対ピーク値の比)に対するb波の時間対ピークの相対的変化、または別の応答との類似性を最大にするためにERG応答に適用される全時間軸圧縮であり得る。これらの特徴の対数は、比較される応答間の温度差に線形に依存する指標として使用され得る。
【0074】
網膜温度がわずかに上昇することにつれて、ERG信号の動力学は、ERG信号の暗黙の時間が刺激の時間に向かって、網膜の温度変化の対数に比例する量だけシフトするように加速する。網膜温度が44℃以上に上昇すると、この関係は崩れ、動力学加速度と温度変化の比は最初に減少し、温度がさらに上昇すると、動力学は温度上昇とともに減速し始める。この効果は、治療を終了させるための、または例えばレーザー出力を低下させるための安全機構として使用することができる。動力学は、較正プロトコルの有無にかかわらず、安全機構として使用することができる。
【0075】
高温におけるERG動力学の減速はまた、例えばレーザー露光中にERGを連続的に記録し、ERG信号の動力学がレーザー露光中に減速し始めた場合に処理を終了することによって、過剰治療の指標として使用されてもよい。これは、加熱中の連続的に更新された又は記録されたERG応答の動力学を、基準ERG応答と、同じ加熱出力曝露中に以前に得られた最も速い動力学と比較することによって実施することができる。
【0076】
ERG応答の動態は、網膜の温度が1℃上昇すると、3~6%、例えば約3.6%加速することが決定され得る。1つの例示的なシナリオでは、時間t=0において、動力学が時間t=5sにおいて0%加速し、動力学が10%加速し、時間t=10sにおいて、動力学が20%加速し、時間t=15sにおいて、動力学が21%加速し、時間t=20sにおいて、動力学が15%加速した加熱処理を実施することができる。最も速い動力学では動力学は21%加速し、その後、動力学は6%減速し、これは2℃よりわずかに低い網膜組織の温度変化に変換され得る。温度の上昇は、処理中に速度論の加速が減速するため、非常に高いと推定され得る。網膜の温度が目標温度または治療域にまたはその付近に維持される通常のまたは意図された治療セッションでは、動力学は治療が終了するまで加速し、安定値に近づくべきである。
【0077】
ERG応答が同じ加熱手順中に記録された最も速いERG応答と比較して、例えば、1℃を超える温度に対応する量を減速した場合、それは、過剰治療のリスク増加の指標として役立ち得る。
【0078】
一例では、較正プロトコルを実行して、1℃など、1つのユニットの温度上昇に必要な加熱ユニット電力を決定することができる。例えば、目標温度上昇が8℃と判定された場合、8ユニットの加熱電力が必要であると予想される。治療中に、約3℃の温度変化に対応すると予想される網膜加熱のない状況と比較して、ERG信号動態が例えば10%加速されることが観察される場合、温度がERG信号動態が減速した領域にすでに移動しているので、網膜の実際の温度変化がはるかに高いことが決定され得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、網膜の温度が既知の方法を使用して患者のコア体温を決定し、例えば上記のような較正手順を通して網膜の標的領域で達成されるか、または達成され得る温度上昇を決定し(および特定の加熱力に対応する温度上昇を決定し)、次いで、決定された温度上昇をコア体温に加えて、標的領域での網膜組織の総温度を得ることによって決定され得る。
【0080】
一実施形態では、電力較正プロトコルが温度とシグナリング動力学の加速度との間に指数関数的関係がある温度範囲で実行されてもよく、使用される加熱電力の所定のセットは例えば、所望の温度上昇を誘導するために使用され得る仮定された、または最初に推定された加熱電力の20%、35%、および50%であってもよい。
【0081】
一実施形態では、信頼区間または誤差パラメータを決定することもできる。この構成は例えば、信頼区間が十分に狭くなるまで、例えば、ある所定の値を下回るまで、較正プロトコルまたはそのいくつかのステップを繰り返すように構成されてもよい。
【0082】
ERGシグナルの動態は、正常な体温付近のより高い温度で加速する。ERG応答の温度依存性加速は、網膜レーザー治療/標的領域の加熱の適用によって引き起こされる網膜の温度上昇を決定するために使用することができる。網膜レーザー治療が開始される前に、網膜は中心体温に近い。したがって、網膜加熱なしで記録されたERG応答は、網膜が正常な体温にあるときのERGシグナル伝達の基準として役立つ。加熱が網膜に適用されると、網膜組織の温度が上昇し、加熱中に記録されたERG応答は正常な体温と比較して上昇した温度でのERGシグナル伝達を表し、シグナル伝達動態の変化を使用して、例えば、レーザー加熱によって引き起こされる温度上昇の量を決定することができる。
【0083】
ERG応答から網膜温度を決定するための様々な方法があり、温度決定の精度は、ERG信号を誘発するために使用される刺激プロトコルと、信号から温度を決定するために使用されるアルゴリズムとの両方に依存する。異なる刺激プロトコルはまた、異なるERG応答を生成し、温度決定方法は、使用される網膜刺激のタイプに合わせて調整され得る。
【0084】
網膜温度決定方法の1つのセットは、インパルスERG応答を分析することに関する。インパルスERG応答は例えば、光のフラッシュで標的領域を繰り返し刺激し、2つのフラッシュ刺激間の応答を平均化することによって得ることができる。インパルス応答を得るための別の方法はホワイトノイズによって変調された光で網膜の標的領域を刺激し、光刺激とERG応答との間の伝達関数を決定し、伝達関数を使用してインパルス応答を生成することである。
【0085】
2つのERGインパルス応答間の温度差を決定するための1つの例示的な刺激プロトコルは、ERGインパルス応答の時間遅延などの動態の変化を分析することによるものである。ERGインパルス応答は典型的には1つまたは複数のピークを有し、フラッシュ刺激と信号ピークとの間の時間遅延は、温度決定において使用され得る信号特徴の一例である。(レーザー)加熱の有無にかかわらず記録されたERGインパルス応答間のピークにおける時間シフトの量は網膜における温度上昇の程度に比例し、網膜温度の変化を決定するために使用することができる。
【0086】
2つのERGインパルス応答から温度差を決定するための別の例示的な方法は、一方または両方のERG信号の時間軸を圧縮/拡張し、圧縮起点をインパルス刺激の時間に設定し、応答間の相関を最大化する時間軸圧縮/拡張の量を決定することによって機能する。応答間に最大相関を生じる時間軸圧縮/膨張の量は網膜加熱によって引き起こされる温度上昇の量を決定するために使用することができ、標的領域の網膜温度の変化を決定するために使用することができる。
【0087】
ERGに基づく網膜温度決定のための別の提案された方法は方形波で網膜の標的領域を刺激し、周波数領域において得られたERG信号を分析することによって機能する。シグナリング動力学の加速は方形波刺激の周波数に対応するERG信号の周波数帯域における時間シフトに変換されると報告され、報告によれば、標的領域の網膜温度の変化を決定するために使用され得る。
【0088】
本発明は、上述の実施形態を参照して上記で説明され、本発明のいくつかの利点が実証された。本発明は、これらの実施形態に限定されるだけでなく、発明思想の精神および範囲内のすべての可能な実施形態、ならびに以下の特許クレームを含むことが明らかである。
【0089】
従属請求項に記載された特徴は特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜ERG刺激および加熱を提供するための装置であって、
前記装置は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの刺激ビームを提供して網膜の標的領域からERG信号を誘導するための少なくとも1つの光源とを備え、
前記装置は少なくとも前記標的領域の温度を上昇させるための加熱システムをさらに備え、
前記プロセッサは、網膜加熱中に前記刺激ビームによって誘導される網膜ERG信号を受信し、前記ERG信号に基づいて、前記網膜の温度を示す1つまたは複数の指標を決定し、前記指標に基づいて前記加熱システムを制御し、
前記指標は、前記ERG信号の振幅、又は、前記ERG信号の動力学の少なくとも1つを含み、
前記プロセッサは、網膜加熱中の前記ERG信号の前記振幅が以前に決定された基準ERG応答振幅に対して所定の閾値を下回る場合、又は、前記動力学が予め決定された動力学よりも所定の閾値量を超えて遅い場合、の少なくとも1つである場合、網膜加熱を終了または調整し、および/または、前記装置をユーザに知らせるように更に構成される、
装置。
【請求項2】
較正プロトコルを実行し、
指標として、眼底の前記標的領域に対する単位加熱電力当たりの温度上昇を決定し、
前記指標を使用して、前記網膜の前記温度を上昇させるために較正された加熱電力を提供するように前記加熱システムを制御する、
ように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
a)刺激ビームを提供するように少なくとも1つの光源を制御することによって網膜刺激を開始し、
b)第1加熱前基準ERG信号を決定し、
c)加熱システムを制御することによって網膜加熱を開始し、第1の電力で標的領域に網膜加熱を提供し、予め設定された持続時間の間、網膜加熱を継続し、
d)第1加熱ERG信号を決定し、
e)任意選択で、ステップc)~d)を第2または後続のレーザー出力で繰り返して、第2または後続の加熱ERG信号を決定し、
f)網膜加熱を停止し、
g)任意選択で、第1加熱後基準ERG信号を決定し、
h)前記第1加熱前ERG信号および/または第1加熱後ERG信号を前記加熱ERG信号と比較して、網膜組織の温度上昇を、使用された加熱電力で決定し、
i)決定された温度上昇を利用して、単位加熱電力当たりの目標面積の温度上昇を決定する、
ように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、加熱電力の所定のセットを用いて少なくともステップc)~d)を繰り返すように構成され、
前記加熱電力の単位当たりの前記目標面積の取得された複数の温度上昇に基づいて、指標として、前記加熱電力の単位当たりの前記目標面積の総体的な温度上昇を決定する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
網膜加熱を変更または開始した後の所定の時間と、その後の網膜加熱の終了または変化との間で得られるERG信号が、温度決定のための前記加熱ERG信号として使用される、
請求項3または請求項4に記載の装置。
【請求項6】
加熱が開始された実質的に直後に得られたERG信号が、温度決定のための前記加熱ERG信号として使用されて、加熱手順の開始時に加熱によって引き起こされる網膜の標的領域の温度上昇の速度を決定する、
請求項3または請求項4に記載の装置。
【請求項7】
指標の1つまたは複数の指標の値が閾値量を超えて期待値と異なる場合、加熱が終了または調整され、および/または、前記装置のユーザに通知される、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
較正プロトコルが、少なくとも標的領域の温度を標的温度または温度上昇まで上昇させると予想される加熱電力を決定するために使用され、
前記較正プロトコルに基づいて加熱電力を提供することによって、前記ERG信号の動力学パラメータが、網膜加熱中に本質的に連続的に決定され、
網膜加熱中に決定された前記ERG信号の動力学パラメータの変化が、決定された標的温度または温度上昇に基づいて動力学パラメータの予測される変化と比較され、
決定された前記動力学パラメータの前記変化が閾値量を超えて前記動力学パラメータの予測される変化と異なる場合、加熱が終了または調整され、および/または、装置のユーザに通知される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記動力学パラメータの予測される変化と観察される変化との間の差の前記閾値量が、2℃~8℃、有利には、4℃~6℃の温度変化に対応する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、体温が決定される場合に、前記標的領域における所定の温度上昇または前記標的領域における所定の絶対温度を提供する加熱電力を外挿するように構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置は、ERGシグナリング動力学がより高いレーザー出力で治療中にどのように変化すべきかを外挿し、動力学の変化が所定の量にわたって期待値から逸脱する場合、前記網膜加熱を終了させるか、または治療パワーを低下させるように構成される、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記ERG信号の信号対雑音比を決定し、前記信号対雑音比が所定の閾値未満である場合、網膜加熱を終了するように構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記網膜加熱中に決定された前記ERG信号の振幅と、予め決定された基準ERG応答振幅の振幅との間の閾値の相対振幅は、0.4~0.9であり、有利には0.5~0.7である、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記動力学の減速の閾値量が0.5℃~4℃、有利には1℃~2℃の温度変化に対応するように決定され、前記動力学と温度との間の関係が網膜温度の所定の治療ウィンドウにおける温度変化の1度あたりの予め決定された動力学の変化に基づいて決定される、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記プロセッサが、指標として、取得された前記ERG信号に基づいてERG電極間のインピーダンスを決定し、前記インピーダンスが所定の閾値を上回る場合、網膜加熱の開始を終了または無効にするように構成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置。
【国際調査報告】