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特表2023-545925抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途
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  • 特表-抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途 図1
  • 特表-抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途 図2
  • 特表-抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途 図3
  • 特表-抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途 図4
  • 特表-抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231025BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231025BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20231025BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231025BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12Q1/00 Z
C12N1/21
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K31/7088
A61K48/00
A61K39/395 L
A61K31/4745
A61K47/68
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518435
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2021123733
(87)【国際公開番号】W WO2022078425
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】202011097383.0
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111171200.X
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516174219
【氏名又は名称】江蘇恒瑞医薬股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】516174208
【氏名又は名称】上海恒瑞医薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI HENGRUI PHARMACEUTICAL CO., LTD
【住所又は居所原語表記】NO. 279 WENJING ROAD, MINHANG DISTRICT, SHANGHAI 200245, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100218268
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】楊 陽
(72)【発明者】
【氏名】于 佳
(72)【発明者】
【氏名】陶 維康
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ13
4B063QQ96
4B063QR66
4B063QS05
4B063QS33
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA01
4B065BC01
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB01
4C085CC23
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗HER3抗体と抗HER3抗体薬物複合体及びその医薬用途を提供する。具体的に、当該抗HER3抗体は、一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗HER3抗体-薬物複合体であり、そのうち、Pcは抗HER3抗体であり、L、Y及びnは明細書に定義された通りである。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離した抗HER3抗体であって、前記抗HER3抗体は、
a.前記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、前記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.前記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、前記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.前記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、好ましくは、DT3C抗体エンドサイトーシス実験により前記抗HER3抗体を測定する時に、そのIC50は2 nMよりも小さく、
d.前記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、好ましくは、pHrodo抗体エンドサイトーシス実験により前記抗HER3抗体を測定する時に、そのFITCシグナルは300よりも大きい、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する、
単離した抗HER3抗体。
【請求項2】
前記抗HER3抗体は、1)配列番号7で示される重鎖可変領域に含まれるHCDR1、HCDR2及びHCDR3と、2)配列番号8で示される軽鎖可変領域に含まれるLCDR1、LCDR2及びLCDR3と、を含み、
好ましくは、前記抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
a.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号12、配列番号13及び配列番号14で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、前記CDR領域はChothia番号付け規則によって決定され、或いは
b.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号15、配列番号16及び配列番号17で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号18、配列番号19及び配列番号20で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、前記CDR領域はIMGT番号付け規則によって決定され、或いは
c.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号21、配列番号22及び配列番号23で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、前記CDR領域はKabat番号付け規則によって決定される、
請求項1に記載の単離した抗HER3抗体。
【請求項3】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む単離した抗HER3抗体であって、
a.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号12、配列番号13及び配列番号14で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
前記CDR領域はChothia番号付け規則によって決定され、或いは
b.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号15、配列番号16及び配列番号17で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号18、配列番号19及び配列番号20で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
前記CDR領域はIMGT番号付け規則によって決定され、或いは
c.前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号21、配列番号22及び配列番号23で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
前記CDR領域はKabat番号付け規則によって決定される、
単離した抗HER3抗体。
【請求項4】
前記抗HER3抗体はヒト抗体又は抗原結合断片である、
請求項1~3の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体。
【請求項5】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有し、及び/又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%の配列同一性を有し、
好ましくは、前記抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7で示され、及び前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8で示される、
請求項1~4の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体。
【請求項6】
配列番号27と少なくとも85%の配列同一性を有する重鎖、及び/又は配列番号28と少なくとも85%の配列同一性を有する軽鎖を含み、
好ましくは、前記抗HER3抗体は、
配列番号27で示される重鎖及び配列番号28で示される軽鎖を含む、
請求項1~5の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体。
【請求項7】
前記抗HER3抗体は、
a.前記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、前記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.前記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、前記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.前記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、好ましくは、DT3C抗体エンドサイトーシス実験により前記抗HER3抗体を測定する時に、そのIC50は2 nMよりも小さく、
d.前記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、好ましくは、pHrodo抗体エンドサイトーシス実験により前記抗HER3抗体を測定する時に、そのFITCシグナルは300よりも大きい、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する、
請求項1~6の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の抗HER3抗体と競合してヒトHER3に結合する、
単離した抗HER3抗体。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体をコードする、
核酸分子。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸分子を含む、
宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体と、前記抗HER3抗体にカップリングされるエフェクター分子と、を含み、
好ましくは、前記エフェクター分子は、抗腫瘍剤、免疫調節剤、生物反応修飾剤、レクチン、細胞毒性薬剤、発色団、蛍光団、化学発光化合物、酵素、金属イオン、及びそれらの任意の組み合わせから選ばれる、
免疫複合体。
【請求項12】
免疫検出又はHER3の測定に用いられる方法であって、請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体を対象又は対象からの試料に接触させるステップを含む、
方法。
【請求項13】
一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
そのうち、
Pcは請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体であり、
mは0~4の整数であり、
nは1~10で、nは小数又は整数であり、
は、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、Rは、水素原子、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にシクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
Wは、C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基から選ばれ、前記1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基はN、O及びSから選ばれる1個~3個のヘテロ原子を含み、そのうち、前記C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基は、それぞれ独立的に任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、重水素化アルキル基、アルコキシ基及びシクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は-NR(CHCHO)pCHCHC(O)-、-NR(CHCHO)pCHC(O)-、-S(CH)pC(O)-及び化学結合から選ばれ、そのうち、pは1~20の整数であり、
は、2個~7個のアミノ酸残基からなるペプチド残基であり、そのうち、前記アミノ酸残基はフェニルアラニン、グリシン、バリン、リジン、シトルリン、セリン、グルタミン酸及びアスパラギン酸のうちのアミノ酸からなるアミノ酸残基から選ばれ、且つ任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、重水素化アルキル基、アルコキシ基及びシクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、重水素化アルキル基及びヒドロキシアルキル基から選ばれ、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、ハロアルキル基、重水素化アルキル基及びヒドロキシアルキル基から選ばれる、
一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項14】
前記抗体-薬物複合体は、
【化2】
であり、そのうち、
nは1~8で、nは小数又は整数であり、好ましくは、nは3~8で、nは小数又は整数であり、
HER3-29は、配列番号27で示される重鎖及び配列番号28で示される軽鎖を含む抗HER3抗体である、
請求項13に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項15】
請求項13に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、
【化3】
Pc’を一般式(L-Y-D)で示される化合物とカップリング反応させ、一般式(Pc-L-Y-D)で示される化合物を得るステップを含み、
そのうち、
Pc’はPcを還元して得られ、Pc、n、m、W、L、L、R、R、R、R及びRは請求項13に定義された通りである、
方法。
【請求項16】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体、又は請求項9に記載の核酸分子、又は請求項13若しくは14に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又はベクターと、を含む、
医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体、又は請求項9に記載の核酸分子、又は請求項13若しくは14に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は請求項16に記載の医薬組成物の、HER3仲介性の疾患又は病状を治療するための薬剤の調製における用途。
【請求項18】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体、又は請求項9に記載の核酸分子、又は請求項13若しくは14に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は請求項16に記載の医薬組成物の、腫瘍を治療及び/又は予防するための薬剤の調製における用途であって、
好ましくは、前記腫瘍は、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、頭頸部扁平上皮がん及び黒色腫から選ばれる、
用途。
【請求項19】
請求項1~8の何れか一項に記載の単離した抗HER3抗体、又は請求項9に記載の核酸分子、又は請求項13若しくは14に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は請求項16に記載の医薬組成物を含む、
試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は抗HER3抗体、抗HER3抗体-エキサテカン類似体複合体、その調製方法、それを含む医薬組成物、及びそのHER3仲介性の疾患又は病状を治療する薬剤の調製に用いられる用途、特に、抗がん剤の調製に用いられる用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ここでの記載は、必ずしも従来技術を構成するものではなく、本開示に関連する背景情報のみを提供する。
【0003】
HER3(epidermal growth factor receptor3、ErbB-3又はHER3)は、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーの一つである。当該ファミリーは、HER1(erbB1、EGFR)、HER2(erbB2、NEU)、HER3(erbB3)及びHER4(erbB4)を含む。これらの受容体は、何れも細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域という3つの部分を含み、そのうち、細胞外領域は4つのドメインを含み、細胞内領域は、1つのシグナル伝達用の細胞内チロシンキナーゼドメインと、1つの細胞質内にあるチロシンリン酸化残基付きの尾部と、を含む。リガンドが細胞外ドメインIとIIIに結合すると、細胞シグナル伝達が開始する。正常な場合、これらの受容体は、細胞の分裂、移動、生存と器官の発達を仲介する。EGFRファミリーメンバーが突然変異すると、それによる異常シグナル伝達により細胞の生存が刺激され、がんの進行に繋がる。HER3受容体が活性化されて生理作用を発生する基本原理は、他のファミリーメンバーと似ているが、そのリガンドがニューレグリン1(NRG-1)及びニューレグリン2(NRG-2)を含み、且つ活性化後にHER3がホモ多量体を形成できず、EGFR又はHER2と共にヘテロ二量体しか形成できないことにおいて異なっている。HER3は、ヘテロ二量体の形成中に、その細胞内ドメイン部分が比較的高いチロシンホスホリラーゼ活性を示しており、構造解析によると、HER3細胞内ドメインに6つのP85(PI-3Kサブユニット)結合部位があることが発見され、当該特定の構造があってこそ、HER3はP85調節サブユニットと互いに作用する時に、調節サブユニット部位にPI-3Kを6つも動員することができ、PI-3Kシグナル伝達経路が強く活性化される。実際には、HER3/HER2二量体は、HER二量体のうち、活性の最も強いものである。EGFRは、哺乳動物の上皮細胞、線維芽細胞、膠細胞、角化細胞などの細胞表面に広く分布している。EGFRシグナル伝達経路は、細胞の成長、増殖及び分化などの生理的過程において重要な役割を果たしている。
【0004】
HER3は、例えば、乳がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、頭頸部扁平上皮がん及び黒色腫など、よく見られる様々な悪性腫瘍に高く発現している。EGFR遺伝子の突然変異による高レベルの発現又は過剰な活性化とは異なり、HER3遺伝子は突然変異率が低く、その高発現は主に、mRNA転写が増加され、タンパク質の翻訳が多くなるためであり、且つよくHER2と共に高く発現しており、HER3の高発現は、多種の腫瘍の発生、進行及び対象の生存期間に密接に関連しているため、HER3を標的とする抗腫瘍剤の研究は重要な意味を持っている。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、抗HER3抗体、抗HER3抗体-エキサテカン類似体複合体及びその用途に関する。
【0006】
本開示は、単離した抗HER3抗体であって、そのうち、
a.上記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.上記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能である、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する、単離した抗HER3抗体を提供する。
【0007】
本開示は、単離した抗HER3抗体であって、そのうち、
a.上記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.上記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、試験例3の方法により上記抗HER3抗体を測定する時に、そのIC50は2 nMよりも小さく、
d.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、試験例4の方法により上記抗HER3抗体を測定する時に、そのFITCシグナルは300よりも大きい、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する、単離した抗HER3抗体を提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、(1)配列番号7で示される重鎖可変領域に含まれるHCDR1、HCDR2及びHCDR3と、(2)配列番号8で示される軽鎖可変領域に含まれるLCDR1、LCDR2及びLCDR3と、を含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
a.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号12、配列番号13及び配列番号14で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はChothia番号付け規則によって決定される。
【0010】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
b.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号15、配列番号16及び配列番号17で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号18、配列番号19及び配列番号20で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はIMGT番号付け規則によって決定される。
【0011】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
c.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号21、配列番号22及び配列番号23で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はKabat番号付け規則によって決定される。本開示は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む単離した抗HER3抗体であって、
a.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号12、配列番号13及び配列番号14で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はChothia番号付け規則によって決定される、
単離した抗HER3抗体を提供する。
【0012】
本開示は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む単離した抗HER3抗体であって、
b.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号15、配列番号16及び配列番号17で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号18、配列番号19及び配列番号20で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はIMGT番号付け規則によって決定される、
単離した抗HER3抗体を提供する。
【0013】
本開示は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む単離した抗HER3抗体であって、
c.上記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号21、配列番号22及び配列番号23で示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
そのうち、上記CDR領域はKabat番号付け規則によって決定される、
単離した抗HER3抗体を提供する。
【0014】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、ヒト抗体又は抗原結合断片である。
【0015】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
上記重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号7と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有し、及び/又は上記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号8と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有し、
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、そのうち、
上記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7で示され、且つ上記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8で示され、又は
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、抗体重鎖定常領域と軽鎖定常領域を更に含み、好ましくは、上記重鎖定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3とIgG4定常領域及びその通常の変異体から選ばれ、上記軽鎖定常領域は、ヒト抗体κとλ鎖定常領域及びその通常の変異体から選ばれ、より好ましくは、上記抗体は、配列番号5で示される重鎖定常領域及び配列番号6で示される軽鎖定常領域を含む。
【0016】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、
配列番号27と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖、及び/又は配列番号28と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖を含み、
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、
配列番号27で示される重鎖及び配列番号28で示される軽鎖を含む。
【0017】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、
a.上記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.上記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能である、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する。
【0018】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体は、
a.上記抗HER3抗体は、0.5 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はELISA方法により測定され、
b.上記抗HER3抗体は、0.2 nMよりも小さい見かけの親和性EC50でMCF7細胞に発現したHER3タンパク質に結合し、上記見かけの親和性EC50はFACS方法により測定され、
c.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、試験例3の方法により上記抗HER3抗体を測定する時に、そのIC50は2 nMよりも小さく、
d.上記抗HER3抗体は、ヒトHER3を発現した細胞によりエンドサイトーシス可能であり、試験例4の方法により上記抗HER3抗体を測定する時に、そのFITCシグナルは300よりも大きい、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する。
【0019】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体と競合してヒトHER3に結合する、単離した抗HER3抗体を更に提供する。
【0020】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体をコードする核酸分子を更に提供する。
【0021】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の核酸分子を含む宿主細胞を更に提供する。
【0022】
幾つかの実施形態において、本開示は、治療有効量の上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記核酸分子と、1種又はそれ以上の薬学的に許容されるベクター、希釈剤又は賦形剤と、を含む医薬組成物を更に提供する。
【0023】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体と、上記抗HER3抗体にカップリングされるエフェクター分子と、を含み、好ましくは、上記エフェクター分子は、放射性同位体、抗腫瘍剤、免疫調節剤、生物反応修飾剤、レクチン、細胞毒性薬剤、発色団、蛍光団、化学発光化合物、酵素、金属イオン、及びそれらの任意の組み合わせから選ばれる免疫複合体を更に提供する。
【0024】
幾つかの実施形態において、本開示は、免疫検出又はHER3の測定に用いられる体内又は体外の方法であって、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体を対象又は対象からの試料に接触させるステップを含む方法を更に提供する。
【0025】
幾つかの実施形態において、本開示は、一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩を更に提供し、
【化1】
そのうち、
Yは、-O-(CR-CR-C(O)-、-O-CR-(CR-、-O-CR-、-NH-(CR-CR-C(O)-及び-S-(CR-CR-C(O)-から選ばれ、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、重水素原子、ハロゲン、アルキル基、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシアルキル基、シクロアルキル基及びヘテロシクリル基から選ばれ、或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にシクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
は、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、Rは、水素原子、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にシクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
或いは、RとRは、それに連結される炭素原子と共にシクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
mは0~4の整数であり、
nは1~10で、nは小数又は整数であり、
Lは、リンカーユニットであり、
Pcは、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体である。
【0026】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、nは1~8で、nは小数又は整数である。幾つかの実施形態において、nは3~8で、nは小数又は整数である。
【0027】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、
そのうち、
Yは、-O-(CR-CR-C(O)-であり、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、重水素原子、ハロゲン及びC1-6アルキル基から選ばれ、
は、ハロゲン化C1-6アルキル基又はC3-6シクロアルキル基であり、
は、水素原子、ハロゲン化C1-6アルキル基及びC3-6シクロアルキル基から選ばれ、
或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にC3-6シクロアルキル基を形成し、
mは、0又は1である。
【0028】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、Yは、
【化2】
から選ばれ、
そのうち、YのO末端は、リンカーユニットLに連結される。
【0029】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、リンカーユニット-L-は-L-L-L-L-であり、
は、-(スクシンイミド-3-イル-N)-W-C(O)-、-CH-C(O)-NR-W-C(O)-と-C(O)-W-C(O)-から選ばれ、そのうち、Wは、C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基から選ばれ、上記1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基は、N、O及びSから選ばれる1個~3個のヘテロ原子を含み、そのうち、上記C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基は、それぞれ独立的に任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基及びC3-6シクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は-NR(CHCHO)pCHCHC(O)-、-NR(CHCHO)pCHC(O)-、-S(CH)pC(O)-及び化学結合から選ばれ、そのうち、pは1~20の整数であり、
は、2個~7個のアミノ酸残基からなるペプチド残基であり、そのうち、上記アミノ酸残基はフェニルアラニン(F)、グリシン(G)、バリン(V)、リジン(K)、シトルリン、セリン(S)、グルタミン酸(Q)及びアスパラギン酸(D)のうちのアミノ酸からなるアミノ酸残基から選ばれ、且つ任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、重水素化アルキル基、アルコキシ基及びシクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は、-NR(CR-、-C(O)NR、-C(O)NR(CH-及び化学結合から選ばれ、そのうち、tは1~6の整数であり、
、R及びRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、C1-6アルキル基、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基及びC1-6ヒドロキシアルキル基から選ばれ、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン、C1-6アルキル基、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基及びC1-6ヒドロキシアルキル基から選ばれる。
【0030】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、リンカーユニット-L-は-L-L-L-L-であり、

【化3】
であり、sは2~8の整数であり、
は化学結合であり、
はテトラペプチド残基であり、
は、-NR(CR)t-であり、R、R又はRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子又はC1-6アルキル基であり、tは1又は2であり、
そのうち、上記L末端はPcに連結され、L末端はYに連結される。
【0031】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、LはGGFGのテトラペプチド残基である。
【0032】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、-L-は、
【化4】
である。
【0033】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、そのうち、-L-Y-は、任意選択的に、
【化5】
から選ばれる。
【0034】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、それは、一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であり、
【化6】
そのうち、
Pcは、上記抗HER3抗体であり、
mは0~4の整数であり、例えば、mは0、1、2、3及び4から選ばれ、
nは1~10で、nは小数又は整数であり、具体的に、nは2~8の間の小数又は整数であり、2つの端点値を含み、より具体的に、nは2~7の小数又は整数であり、端点値を含み、選択的に、nは2~3、3~4、4~5、5~6、6~7又は7~8の間の小数又は整数であり、端点値を含み、
は、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、Rは、水素原子、ハロゲン、ハロアルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にシクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
WはC1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基から選ばれ、上記1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基はN、O及びSから選ばれる1個~3個のヘテロ原子を含み、そのうち、上記C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基は、それぞれ独立的に任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、C1-8アルキル基、クロロC1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基とC3-6シクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は-NR(CHCHO)pCHCHC(O)-、-NR(CHCHO)pCHC(O)-、-S(CH)pC(O)-及び化学結合から選ばれ、そのうち、pは1~20の整数であり、
は、2個~7個のアミノ酸残基からなるペプチド残基であり、そのうち、上記アミノ酸残基はフェニルアラニン(F)、グリシン(G)、バリン(V)、リジン(K)、シトルリン、セリン(S)、グルタミン酸(Q)及びアスパラギン酸(D)のうちのアミノ酸からなるアミノ酸残基から選ばれ、且つ任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、重水素化アルキル基、アルコキシ基及びシクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、重水素化アルキル基及びヒドロキシアルキル基から選ばれ、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、ハロアルキル基、重水素化アルキル基及びヒドロキシアルキル基から選ばれる。
【0035】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、それは、一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であり、そのうち、
Pcは、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体であり、
mは0~4の整数であり、例えば、mは0、1、2、3及び4から選ばれ、
nは1~10で、nは小数又は整数であり、具体的に、nは2~8の間の小数又は整数であり、2つの端点値を含み、より具体的に、nは2~7の小数又は整数であり、端点値を含み、選択的に、nは2~3、3~4、4~5、5~6、6~7又は7~8の間の小数又は整数であり、端点値を含み、
は、ハロゲン、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、C3-6シクロアルキルC1-6アルキル基、C1-6アルコキシC1-6アルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、Rは、水素原子、ハロゲン、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、C3-6シクロアルキルC1-6アルキル基、C1-6アルコキシC1-6アルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれ、或いは、RとRは、それらに連結された炭素原子と共にC3-6シクロアルキル基又はヘテロシクリル基を形成し、
Wは、C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基から選ばれ、上記1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基はN、O及びSから選ばれる1個~3個のヘテロ原子を含み、そのうち、上記C1-8アルキル基、C1-8アルキル基-C3-6シクロアルキル基及び1個~8個の鎖原子を持つ直鎖ヘテロアルキル基は、それぞれ独立的に任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、クロロC1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基及びC3-6シクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は-NR(CHCHO)pCHCHC(O)-、-NR(CHCHO)pCHC(O)-、-S(CH)pC(O)-及び化学結合から選ばれ、そのうち、pは1~20の整数であり、
は、2個~7個のアミノ酸残基からなるペプチド残基であり、そのうち、上記アミノ酸残基はフェニルアラニン(F)、グリシン(G)、バリン(V)、リジン(K)、シトルリン、セリン(S)、グルタミン酸(Q)及びアスパラギン酸(D)のうちのアミノ酸からなるアミノ酸残基から選ばれ、且つ任意選択的に更にハロゲン、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、C1-6アルキル基、クロロC1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基及びC3-6シクロアルキル基から選ばれる1つ又は複数の置換基で置換され、
は水素原子、C1-6アルキル基、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基及びC1-6ヒドロキシアルキル基から選ばれ、
とRは相同又は相異であり、且つそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン、C1-6アルキル基、ハロゲン化C1-6アルキル基、重水素化C1-6アルキル基及びC1-6ヒドロキシアルキル基から選ばれ、
上記ヘテロシクリル基は3個~6個の環原子を含み、そのうち、1個~3個は窒素、酸素及び硫黄から選ばれるヘテロ原子である。
【0036】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、上記抗体-薬物複合体は、
【化7】
であり、そのうち、
nは1~8で、nは小数又は整数であり、具体的に、nは2~8の間の小数又は整数であり、2つの端点値を含み、より具体的に、nは2~7の小数又は整数であり、端点値を含み、選択的に、nは2~3、3~4、4~5、5~6、6~7又は7~8の間の小数又は整数であり、端点値を含み、
HER3-29は、配列番号27で示される重鎖及び配列番号28で示される軽鎖を含む抗HER3抗体である。
【0037】
幾つかの実施形態において、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩であって、好ましくは、nは3~8で、nは小数又は整数である。
【0038】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の一般式(Pc-L-Y-D)で示される抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、
【化8】
Pc’を一般式(L-Y-D)で示される化合物とカップリング反応させ、一般式(Pc-L-Y-D)で示される化合物を得るステップを含み、
そのうち、
Pc’はPcを還元して得られ、
n、m、W、L、L、R、R、R、R及びRは上記何れか一項に定義された通りである、
方法を更に提供する。
【0039】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記何れか一項に記載の核酸分子、又は上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又はベクターと、を含む医薬組成物を更に提供する。
【0040】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記何れか一項に記載の核酸分子、又は上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は上記何れか一項に記載の医薬組成物の、HER3仲介性の疾患又は病状を治療するための薬剤の調製における用途を更に提供する。
【0041】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記何れか一項に記載の核酸分子、又は上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は上記何れか一項に記載の医薬組成物の、腫瘍とがんを治療及び/又は予防するための薬剤の調製における用途であって、上記腫瘍とがんは乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、頭頸部扁平上皮がん及び黒色腫から選ばれる、用途を更に提供する。
【0042】
幾つかの実施形態において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記何れか一項に記載の核酸分子、又は上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は上記何れか一項に記載の医薬組成物を含む試薬キットを更に提供する。
【0043】
幾つかの実施形態において、本開示は、疾患又は病状を予防又は治療する方法であって、対象に治療有効量の上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、又は上記何れか一項に記載の核酸分子、又は上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又は上記何れか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む方法を更に提供する。幾つかの実施形態において、上記疾患又は病状は、腫瘍、自己免疫疾患又は感染性疾患が好ましく、幾つかの実施形態において、上記疾患又は病状はHER3に関連する疾患又は病状である。
【0044】
別の態様において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体、抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩と、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又はベクターと、を含む医薬組成物を提供する。幾つかの実施形態において、上記単位用量の医薬組成物は、0.1 mg~3000 mg又は1 mg~1000 mgの上記抗HER3抗体又は上記抗体薬物複合体を含む。
【0045】
別の態様において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物の薬剤としての用途を提供する。
【0046】
別の態様において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物の、HER3仲介性の疾患又は病状を治療するための薬剤の調製における用途を提供し、幾つかの実施形態において、上記HER3仲介性の疾患又は病状は、HER3高発現がん、中等度発現がん又は低発現がんである。
【0047】
別の態様において、本開示は、上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物の、がんを治療又は予防するための薬剤の調製における用途を提供し、幾つかの実施形態において、上記腫瘍又はがんは、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、頭頸部扁平上皮がん及び黒色腫から選ばれる。
【0048】
別の態様において、本開示は、更に、腫瘍を治療及び/又は予防するための方法であって、それを必要とする対象に治療有効用量の上記何れか一項に記載の抗体-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物を投与することを含む方法に関し、幾つかの実施形態において、そのうち、上記腫瘍はHER3高発現関連がん、中等度発現がん又は低発現がんである。
【0049】
別の態様において、本開示は、更に、腫瘍又はがんを治療又は予防するための方法であって、それを必要とする対象に治療有効用量の上記何れか一項に記載の抗体薬物複合体又はその薬学的に許容される塩又はそれを含む医薬組成物を投与することを含む方法に関し、そのうち、上記腫瘍とがんは幾つかの実施形態において、そのうち、上記腫瘍とがんは、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、頭頸部扁平上皮がん及び黒色腫から選ばれる。
【0050】
別の態様において、本開示は、更に、上記何れか一項に記載の抗HER3抗体又はその抗体-薬物複合体を、薬剤として、幾つかの実施形態では、がん又は腫瘍を治療する薬剤として、より好ましくはHER3仲介性のがんを治療する薬剤として提供する。
【0051】
活性化合物(例えば、本開示に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩、本開示に記載のリガンド-薬物複合体又はその薬学的に許容される塩)を任意の適切な経路での投与に適する形態にすることができ、活性化合物は単位用量の形態、又は対象が単剤で自己投与可能な形態であってもよい。本開示に記載される活性化合物又は組成物の単位用量の表現形態は、錠剤、カプセル、カシェ剤、瓶詰めの薬液、ドラッグパウダー、顆粒剤、外用錠剤、坐剤、再生粉末又は液体製剤であってもよい。
【0052】
本開示に係る治療法に使用される活性化合物又は組成物の投与量は、一般的に、疾患の重症度、対象の体重及び活性化合物の相対的効能によって変化する。但し、一般的な目安として、好適な単位用量は0.1 mg~1000 mgであってもよい。
【0053】
本開示に係る医薬組成物は、活性化合物の他に、1種又は複数種の添加物が含まれてもよく、上記添加物は、充填剤、希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤又は賦形剤などの成分から選ばれる。組成物は、投与方法によって、0.1重量%~99重量%の活性化合物を含んでもよい。
【0054】
本開示により提供されるHER3抗体及び抗体薬物複合体は、細胞表面抗原との良好な親和性、良好な細胞エンドサイトーシス効率及び強い腫瘍阻害効率を有すると共に、より広い薬剤応用用途を有し、臨床的な薬剤応用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本開示に係る抗体及び陽性抗体のHER3タンパク質との結合活性である。
図2】本開示に係る抗体及び陽性抗体のMCF7細胞との結合活性である。
図3】DT3Cによる本開示に係る抗体及び陽性抗体の細胞エンドサイトーシス活性の試験である。
図4】pHrodoによる本開示に係る抗体及び陽性抗体の細胞エンドサイトーシス活性の試験である。
図5】本開示に係るADC試料の担腫瘍ヌードマウスSW620移植腫瘍への治療効果である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
用語
別途に制限のない限り、本願に使用される全ての技術と科学用語は、当業者により一般的に理解されているものと一致している。本願中の記載と類似又は同等の任意の方法と材料により本開示を実施又は試験してもよいが、本願には、好ましい方法と材料が記載されている。本開示を記載及び特許請求する時には、以下の定義に従って下記の用語を使用する。
【0057】
本開示において商品名が使用される時には、当該商品名の製品の製剤、当該商品名の製品の薬剤及び活性薬物部分を含むことが意図されている。
【0058】
「抗体-薬物複合体」(antibody drug conjugate、ADC)という用語は、抗体を生物活性を有する薬物に連結したものを指す。そのうち、抗体は、直接的に、又は連結ユニットを介して薬物にカップリングすることができる。
【0059】
「薬物担持量」という用語は、抗体-薬物複合体群において、それぞれの抗体-薬物複合体分子に担持された薬物の平均数量を指し、薬物量と抗体量の比率で示してもよい。薬物担持量の範囲は、それぞれの抗体が0個~12個、例示的に、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の薬物に連結してもよく、当該数値は小数であってもよく、整数であってもよい。ある実施形態において、それぞれの抗体には1個~約10個の薬物が担持されており、ある実施形態において、それぞれの抗体には約1個~約9個、1個~約8個、約3個~約7個、約3個~約6個、約3個~約5個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個の薬物が担持されており、当該数値は小数であってもよく、整数であってもよい。薬物担持量は、UV/可視分光法、質量分析、ELISA試験及びHPLC特徴などの通常の方法により同定することができる。
【0060】
本開示の一実施形態において、細胞毒性薬剤は、連結ユニットにより抗体のメルカプト基にカップリングされている。
【0061】
リガンド細胞毒性薬剤複合体の担持量は、
(1)連結試薬とモノクローナル抗体とのモル比を制御することと、
(2)反応時間と温度を制御することと、
(3)異なる反応試薬を選択することと、
を含む非限定的な方法で制御することができる。
【0062】
本開示に用いられるアミノ酸の3文字コードと1文字コードは、J.biol.chem、243、p3558(1968)に記載された通りである。
【0063】
本開示の「抗体」という用語は、所望の抗原結合活性が示されれば、最も広い意味で使用され、種々の抗体構造をカバーしており、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、全長抗体又はその抗原結合断片(「抗原結合部分」とも呼ばれる)を含むが、これらに限定されない。全長抗体は、ジスルフィド結合で互いに連結される少なくとも2つの重鎖と2つの軽鎖を含む免疫グロブリン(Ig)である。免疫グロブリンは、重鎖定常領域のアミノ酸組成と配列順序が異なるので、その抗原性も異なる。これにより、免疫グロブリンは、5種類に分けることができ、又は、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEという免疫グロブリンのアイソタイプと呼ばれ、その対応する重鎖はそれぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖及びε鎖である。同一種類のIgは、そのヒンジ領域のアミノ酸組成及び重鎖ジスルフィド結合の数と位置の違いによって、更に異なるサブクラスに分けることができ、例えば、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分けられてもよい。軽鎖は、定常領域によって、κ鎖又はλ鎖に分けられる。5種類のIgのそれぞれは、κ鎖又はλ鎖を有してもよい。
【0064】
全長抗体の重鎖及び軽鎖は、N末端に近い約110個のアミノ酸配列の変化が大きくて、可変領域(Fv領域と略す)となり、C末端に近い残りのアミノ酸配列が比較的安定的で、定常領域となる。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VHと略す)と重鎖定常領域(CHと略す)からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3という3つのドメインを含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略す)と軽鎖定常領域(CLと略す)からなる。重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、超可変領域(相補性決定領域とも呼ばれ、CDR又はHVRと略す)と、配列が比較的保存的な骨格領域(フレームワーク領域とも呼ばれ、FRと略す)と、を含む。それぞれのVLとVHは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4という順に配列される3つのCDRと4つのFRからなる。軽鎖の3つのCDR領域は、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を指し、重鎖の3つのCDR領域は、HCDR1、HCDR2及びHCDR3を指す。
【0065】
本開示に記載されるヒト抗体重鎖定常領域及びヒト抗体軽鎖定常領域の「通常変異体」は、従来技術に開示された抗体可変領域の構造と機能を変更しないヒト由来の重鎖定常領域又は軽鎖定常領域の変異体を指し、例示的な変異体は、重鎖定常領域に対して部位特異的改変とアミノ酸置換を行ったIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4重鎖定常領域変異体を含み、具体的な置換は、例えば、従来技術における既知のYTE変異、L234A及び/又はL235A変異、S228P変異、265A(例えば、D265A)及び/又は297A(例えば、N297A)、及び/又はknob-into-hole構造を得た変異(抗体重鎖にknob-Fcとhole-Fcの組み合わせを付与する)であり、これらの変異は、抗体可変領域の機能を変更せずに、抗体に新しい性能を付与することが確認された。
【0066】
本開示における「ヒト抗体」(HuMAb)、「ヒト抗体」、「全ヒト抗体」、「完全ヒト抗体」は、互いに交換して使用されてもよく、そのアミノ酸配列は、ヒト又はヒト細胞から産生された抗体のアミノ酸配列に対応し、又は、ヒト抗体ライブラリーや他のヒト抗体で配列がコードされた非ヒト由来のアミノ酸配列から誘導される。当該ヒト抗体についての定義には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が明確に除外されている。
【0067】
「抗原結合断片」又は「機能断片」又は「抗原結合部分」という用語は、抗原に特異的に結合する能力が保たれた完全な抗体の1つ又はそれ以上の断片を指す。全長抗体の断片により抗体の抗原結合機能を果たすことができる。例示的に、「抗原結合断片」という用語に含まれる結合断片の例は、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる1価断片であるFab断片と、(ii)ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む2価断片であるF(ab’)断片と、(iii)VHとCH1ドメインからなるFd断片と、(iv)抗体の単アームのVHとVLドメインからなるFv断片と、(v)VHとVLにより鎖間ジスルフィド結合で形成された安定的な抗原結合断片であるdsFvと、(vi)scFv、dsFv、Fabなどの断片を含む二重抗体、二重特異性抗体及び多重特異性抗体と、を含む。なお、Fv断片の2つのドメインVLとVHは、分離した遺伝子でコードされるが、組換え法により、この2つのドメインは、それらを単一のタンパク質鎖にすることが可能な人工ペプチドリンカーにより結合することができ、そのうち、VLとVH領域はペアになって1価分子を形成し、単鎖Fv(scFv)と呼ばれる(例えば、Bird et al.(1988)Science242:423~426、及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA85:5879~5883)を参照)。このような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合断片」という用語に含まれる。このような抗体断片は、当業者に知られている通常の技術により得られ、且つ、完全抗体と同じように、断片が機能性によってスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、又は、完全な免疫グロブリンを酵素的若しくは化学的に切断することにより産生することができる。抗体は、異なるアイソタイプの抗体であってもよく、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4アイソフォーム)、IgA1、IgA2、IgD、IgE又はIgM抗体である。
【0068】
「アミノ酸差異」又は「アミノ酸変異」という用語は、元のタンパク質又はポリペプチドと比べて、元のタンパク質又はポリペプチドを基にして発生された1つ、2つ、3つ又はそれ以上のアミノ酸の挿入、欠失又は置換を含む、変異体タンパク質又はポリペプチドにアミノ酸の変化又は変異があることを指す。
【0069】
「抗体フレームワーク領域」又は「FR領域」という用語は、可変ドメインVL又はVHの一部を指し、当該可変ドメインの抗原結合環(CDR)のステントとして用いられる。実質的に、それは、CDRを有しない可変ドメインである。
【0070】
「相補性決定領域」、「CDR」又は「超可変領域」という用語は、抗体の可変ドメインにおいて抗原結合を促進する主な6つの超可変領域の1つを指す。通常、それぞれの重鎖可変領域には3つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3)があり、それぞれの軽鎖可変領域には3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3)がある。CDRのアミノ酸配列境界は、「Kabat」番号付け規則(Kabat et al.(1991)、「Sequences of Proteins of I mmunological Interest」、5th edition、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MDを参照)、「Chothia」番号付け規則、「ABM」番号付け規則、「contact」番号付け規則(Martin、ACR. Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains[J]. 2001を参照)及びImMunoGenTics(IMGT)番号付け規則(Lefranc、M. P. et al.、Dev. Comp. Immunol.、27、55~77(2003)を参照)などを含む種々の公知の方法の何れか1つによって決定することができる。例えば、典型的な書式では、Kabat規則によれば、上記重鎖可変領域(VH)中のCDRアミノ酸残基の番号は31~35(HCDR1)、50~65(HCDR2)及び95~102(HCDR3)であり、軽鎖可変領域(VL)中のCDRアミノ酸残基の番号は24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)及び89~97(LCDR3)である。Chothia規則によれば、VH中のCDRアミノ酸の番号は、26~32(HCDR1)、52~56(HCDR2)及び95~102(HCDR3)であり、VL中のアミノ酸残基の番号は、24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)及び89~97(LCDR3)である。IMGT規則によれば、VH中のCDRアミノ酸残基の番号は、大体、27~38(HCDR1)、56~65(HCDR2)及び105~117(HCDR3)であり、VL中のCDRアミノ酸残基の番号は、大体、27~38(LCDR1)、56~65(LCDR2)及び105~117(LCDR3)である。AbM規則によれば、VH中のCDRアミノ酸の番号は、26~35(HCDR1)、50~58(HCDR2)及び95~102(HCDR3)であり、VL中のアミノ酸残基の番号は、24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)及び89~97(LCDR3)である。
【0071】
「エピトープ」又は「抗原決定基」という用語は、抗原における抗体に結合される部位(例えば、HER3分子における特定部位)を指す。エピトープは通常、独特な空間配座で少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個又は15個の連続的又は非連続的なアミノ酸を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular B iology、第66巻、G.E.Morris、Ed.(1996)が参照される。
【0072】
「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合」及び「特異的に結合」という用語は、抗体又は抗原結合断片の、予め決定された抗原におけるエピトープに対する結合を指す。通常、抗体又は抗原結合断片は、約10-8 M未満、例えば、約10-9 M、10-10 M、10-11 M、10-12 M未満又はそれ以下の親和性(KD)で結合される。
【0073】
「競合」という用語は、同じエピトープの抗原結合タンパク質の競合(例えば、抗原結合タンパク質の中和又は抗体の中和)に利用される場合に、抗原結合タンパク質間の競合を指し、下記の測定法により測定される:上記測定法において、検出待ちの抗原結合タンパク質(例えば、抗体又はその免疫学的機能断片)により、参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は参照抗体)と共通抗原(例えば、HER3抗原又はその断片)との特異的結合を防止又は阻害(例えば、低減)する。様々な競合的結合測定は、1つの抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合しているかを確定するために利用することができ、これらの測定は、例えば、固相直接又は間接放射免疫測定(RIA)、固相直接又は間接酵素免疫測定(EIA)、サンドイッチ競合測定(例えば、Stahli et al.、1983、Methodsin Enzymology 9:242~253を参照)、固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al.、1986、J.Immunol.137:3614~3619を参照)、固相直接標識測定、固相直接標識サンドイッチ測定(例えば、HarlowとLane、1988、Antibodies、A Laboratory Manual(抗体、実験マニュアル)、Cold Spring Harbor Pressを参照)、I-125マーカーを用いる固相直接標識RIA(例えば、Morel et al.、1988、Molec.Immunol.25:7-15を参照)、固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Cheung et al.、1990、Virology176:546~552を参照)、及び直接標識するRIA(Moldenhauer et al.、1990、Scand.J.Immunol.32:77~82)である。通常、上記測定法は、未標識の検出抗原結合タンパク質及び標識した参照抗原結合タンパク質の何れか1つを担持した固相表面又は細胞に結合する精製した抗原の使用に関わっている。測定される抗原結合タンパク質の存在下で固相表面又は細胞に結合する標識量を測定することにより、競合的阻害を測定する。通常、測定される抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合的測定(競合的抗原結合タンパク質)により同定される抗原結合タンパク質は、参照抗原結合タンパク質と同一のエピトープに結合する抗原結合タンパク質と、参照抗原結合タンパク質の結合エピトープに十分に近い隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質とを含み、上記2つのエピトープは空間的に互いに干渉し合いながら結合を行う。本願の実施例には、競合的結合を測定するための方法についての他の詳細な資料が提供される。通常、競合的抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合に、参照抗原結合タンパク質と共通抗原との特異的結合は、少なくとも40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%又は75%以上阻害(例えば、低減)される。結合は、少なくとも80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~97%又は97%以上阻害される場合がある。
【0074】
本願に使用される「核酸分子」という用語は、DNA分子又はRNA分子を指す。核酸分子は、単鎖又は二重鎖であってもよく、二重鎖DNA又は単鎖mRNA又は修飾されたmRNAが好ましい。核酸が別の核酸配列と共に機能的関係に置かれる場合、核酸は「効果的に連結されている」。例えば、プロモーター又はエンハンサーがコード配列の転写に影響を与えると、プロモーター又はエンハンサーは、上記コード配列に効果的に連結されている。
【0075】
アミノ酸配列の「同一性」とは、配列同一性の百分率が最も大きく達成されるように、アミノ酸配列のアラインメント及び必要な時に間隙を入れ、且つ、何れの保存的置換も配列同一性の一部とは見なされずに、第1配列における第2配列中のアミノ酸残基と同様のアミノ酸残基の百分率である。アミノ酸の配列同一性の百分率を測定するために、アラインメントは、この分野の技術的範囲における種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に取得可能なコンピュータソフトウェアにより、実現することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、測定アラインメントに適用されるパラメータを決定することができる。
【0076】
「抗体依存性細胞仲介性の細胞毒性」又は「ADCC」は、細胞仲介性の反応を指し、そのうち、FcRを発現した非特異的細胞毒性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ細胞)は、標的細胞に結合された抗体を認識し、その後、標的細胞の溶解を引き起こす。ADCCを調節する初代細胞、NK細胞はFcyRIIIしか発現しないが、単核細胞はFcyRI、FcyRII及びFCYRIIIを発現する。標的分子のADCC活性を評価するために、例えば、Clynes et al.(PNASUSA 95:652~656(1998))、米国特許番号US5500362、US5821337などに記載されたように、体内外のADCCの測定を行うことができる。
【0077】
「抗体依存性細胞貪食作用」又は「ADCP」とは、貪食細胞(例えば、マクロファージ細胞、好中球及び樹状細胞)の内在化により、抗体で被覆された標的細胞又はビリオンを取り除くメカニズムを指す。内在化された抗体で被覆された標的細胞又はビリオンは、ファゴソームという小嚢に含まれ、上記小嚢はその後、1つ又は複数のリソソームと融合することで、ファゴリソソームを形成する。ADCPは、マクロファージ細胞をエフェクター細胞として使用する体外細胞毒性測定とビデオ顕微鏡法(videomicroscopy)により評価することができる(例えば、van BijらによるJournal of Hepatology、第53巻、第4号、2010年10月、677~685ページ)。「補体依存性細胞毒性」又は「CDC」は、補体が関与する細胞毒性作用を指し、即ち、抗体と細胞又はビリオンにおける対応する抗原との結合により、複合体を形成して補体を活性化する古典的経路であり、形成された細胞膜傷害複合体は、標的細胞に対して溶解効果を果たす。CDCは、体外測定により(例えば、正常なヒト血清を補体源とするCDC測定)又はC1q濃度シリーズで評価することができる。CDC活性の低下(例えば、ポリペプチド又は抗体への第2変異の導入によるCDC活性の低下)は、同じ測定法でポリペプチド又は抗体のCDC活性と、第2変異を有しない親ポリペプチド又は抗体のCDC活性とを比較することにより測定することができる。抗体によるCDCの誘導能力を評価するために、例えば、Romeufらにより記載された測定方法(Romeuf et al.、Br J Haematol.2008Mar、140(6):635-43)により測定することができる。
【0078】
本開示に記載される抗体又は抗体断片は、任意の方式によりエフェクター分子にカップリングされてもよい。例えば、抗体又は抗体断片は、化学的方式又は組換えの方式により細胞毒性薬剤に取り付けられてもよい。融合物又は複合体を調製する化学的方式は、この分野で知られており、且つ、免疫複合体の調製に用いることができる。抗体又は抗体断片と薬物をカップリングするための方法は、抗体又は抗体断片の標的分子との結合能力を妨害することなく、抗体と細胞毒性薬剤を連結することができなければならない。
【0079】
一実施形態において、抗体と細胞毒性薬剤は何れもタンパク質であり、且つこの分野でよく知られている技術によりカップリングすることができる。この分野で開示された、2つのタンパク質をカップリング可能な架橋剤が数百種ある。架橋剤は、一般的に、抗体又は細胞毒性薬剤における使用又は挿入可能な反応官能基によって選択される。また、反応基がない場合、光反応性架橋剤を使用することができる。抗体と細胞毒性薬剤との間にイントロンを備えなければならない場合がある。この分野で知られている架橋剤は、グルタルアルデヒド、アジピミド酸ジメチルとビス(ジアゾベンジジン)のようなホモ二官能性剤、及びm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドとスルホ-m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドのようなヘテロ二官能性剤を含む。
【0080】
エフェクター分子を抗体断片にカップリングすることに利用可能な架橋剤は、例えば、TPCH(S-(2-チオピリジニル)-L-システインヒドラジド)及びTPMPH(S-(2-チオピリジニル)メルカプト-プロピオニルヒドラジド)を含む。TPCHとTPMPHは、この前に既に適度な過ヨウ素酸塩処理により酸化された糖タンパク質の炭水化物と部分反応を行ったので、架橋剤のヒドラジド部分と過ヨウ素酸塩によるアルデヒドとの間にヒドラゾン結合が形成される。ヘテロ二官能性架橋剤であるGMBS(N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)-スクシンイミド)とSMCC(スクシンイミジル4-(N-マレイミド-メチル)シクロヘキサン)は第一アミンと反応するので、マレイミド基が成分に導入される。このマレイミド基は、その後、別の成分における、架橋剤により導入可能なスルフヒドリル基と反応することができるので、成分間に安定的なチオエーテル結合が形成される。成分間の立体障害が何れか1つの成分の活性を妨害する場合、3-(2-ピリジニルジチオ)プロピオン酸n-スクシンイミジルエステル(SPDP)などの架橋剤により、長いスペーサーアームを成分間に導入することができる。従って、利用できる適当な架橋剤が多くあり、それぞれその最適な免疫複合体の収量への影響によって選択される。
【0081】
「発現ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を輸送可能な核酸分子を指す。一実施形態において、ベクターは、他のDNAセグメントをそれに連結可能な環状二本鎖DNA環を指す「プラスミド」である。別の実施形態において、ベクターは、他のDNAセグメントをウイルスゲノムに連結可能なウイルスベクターである。本願に開示されるベクターは、それらを導入した宿主細胞において自己複製することができ(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーマル哺乳動物ベクター)、又は、宿主細胞に導入された後、宿主細胞のゲノムに整合されることで、宿主ゲノムと共に複製することができる(例えば、非エピソーマル哺乳動物ベクター)。
【0082】
従来技術においてよく知られている抗体及び抗原結合断片の産生・精製方法は、例えば、冷泉港の抗体実験技術マニュアルの5章~8章及び15章の通りである。開示に記載される抗体又は抗原結合断片は、遺伝子工学的方法により、非ヒトのCDR領域に1つ又はそれ以上のヒトFR領域が加えられる。ヒトFR生殖細胞系配列は、IMGTヒト抗体可変領域生殖細胞系遺伝子データベースとMOEソフトウェアをアラインメントすることにより、ImMunoGeneTics(IMGT)のホームページであるhttp://imgt.cines.frから取得し、又は免疫グロブリン雑誌である2001ISBN012441351から得ることができる。
【0083】
「宿主細胞」という用語は、その中に発現ベクターが導入された細胞を指す。宿主細胞は、細菌、微生物、植物又は動物の細胞を含んでもよい。形質転換しやすい細菌は、大腸菌(Escherichia coli)やサルモネラ菌(Salmonella)の菌株などの腸内細菌科(enterobacteriaceae)のメンバー、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバシラス科(Bacillaceae)、肺炎球菌(Pneumococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)及びインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)を含む。好適な微生物は、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)及びピキア酵母(Pichia pastoris)を含む。好適な動物宿主細胞株は、CHO(中国ハムスター卵巣細胞株)、293細胞及びNS0細胞を含む。幾つかの実施形態において、本開示における宿主細胞は、ヒト胚由来の細胞を含まない。
【0084】
本開示に係る工学的な抗体又は抗原結合断片は、通常の方法により調製・精製することができる。例えば、重鎖及び軽鎖をコードするcDNA配列は、クローンニングしてGS発現ベクターに組換えることができる。組換えた免疫グロブリン発現ベクターは、CHO細胞を安定してトランスフェクションすることができる。更に好ましい従来技術の一つとして、哺乳類発現系は、特にFc領域の高度に保存的なN末端部位において、抗体のグリコシル化を引き起こすことになる。ヒトHER3に特異的に結合する抗体を発現することにより、安定的なクローンが得られる。陽性のクローンは、バイオリアクターの無血清培地において培養を拡大することで、抗体を産生する。抗体が分泌された培養液は、通常の技術により精製することができる。例えば、調整された緩衝液を含むA又はG Sepharose FFカラムで精製が行われる。非特異的に結合した成分を洗い流す。更に、pH勾配法により、結合した抗体を溶離し、SDS-PAGEで抗体断片を検出し、収集する。抗体は、通常の方法によりろ過濃縮することができる。可溶性の混合物及び多量体は、分子ふるい、イオン交換などの通常の方法により除去されてもよい。得られた生成物は、直ちに例えば、-70℃で凍結し、又は凍結乾燥しなければならない。
【0085】
「保存的修飾」又は「保存的置換又は置換」は、類似の特徴(例えば、電荷、側鎖の大きさ、疎水性/親水性、主鎖の立体配座と剛性など)を有する他のアミノ酸でタンパク質中のアミノ酸を置換することで、タンパク質の生物学的活性を変えずに頻繁に変化可能にすることを意味する。当業者に知られているように、一般的に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換によって、基本的に生物学的活性を変えることはない(例えば、Watson et al.(1987)Molecular Biology of the Gene、The Benjamin/Cummings Pub.Co.、224ページ、(第4版)を参照)。また、構造又は機能が類似したアミノ酸の置換は、生物学的活性を破壊する可能性が低い。例示的な保存的置換は、以下の通りである。
【0086】
「外因性」は、場合によって生物、細胞やヒトの体外で発生された物質を意味する。「内因性」は、場合によって細胞、生物やヒトの体内で発生された物質を意味する。
【0087】
「相同性」とは、2つのポリヌクレオチド配列間又は2つのポリペプチド間の配列の類似性である。2つの比較される配列における位置が何れも同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットに占められる場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンに占められる場合、上記分子が当該位置で相同である。2つの配列間の相同性百分率は、2つの配列の共有するマッチング又は相同位置数を比較される位置数で割って100をかける関数である。例えば、配列の最適アラインメントを行う際に、2つの配列中の10個の位置のうち、6個がマッチングしており、又は相同である場合は、2つの配列が60%相同であり、2つの配列中の100個の位置のうち、95個がマッチングしており、又は相同である場合は、2つの配列が95%相同である。通常、2つの配列をアライメントする際に、最大百分率の相同性が得られるように、比較を行う。例えば、各参照配列の全長にわたって各配列間の最大マッチングが得られるようにアルゴリズムのパラメータを選択するBLASTアルゴリズムにより、比較を実行することができる。下記の参考文献は、配列分析によく用いられるBLASTアルゴリズムに関し、即ち、BLASTアルゴリズム(BLAST ALGORITHMS):Altschul,S.F.et al.、(1990)J.Mol.Biol.215:403~410;Gish,W.et al.、(1993)Nature Genet.3:266~272;Madden,T.L.et al.、(1996)Meth.Enzymol.266:131~141;Altschul,S.F.et al.、(1997)Nucleic Acids Res.25:3389~3402;Zhang,J.et al.、(1997)Genome Res.7:649~656である。その他、例えば、NCBI BLASTにより提供される通常のBLASTアルゴリズムも、当業者によく知られている。
【0088】
本願に使用される「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養物」という表現は互いに交換して使用してもよく、このような名称の全ては子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という単語は、移転数を考慮せずに、初代被験細胞及びそれより誘導された培養物を含む。また、意図する又は意図しない変異のために、あらゆる子孫は、DNA含有量において精確に同じであり得ないと理解すべきである。最初の形質転換細胞からスクリーニングされたものと同様の機能又は生物学的活性を有する変異子孫が含まれる。異なる名称を指す場合は、文脈から明らかになる。
【0089】
本願に使用される「ポリメラーゼ連鎖反応」又は「PCR」は、その中の微量の特定部分の核酸、RNA及び/又はDNAが、例えば米国特許番号4,683,195に記載されたように増幅するプログラム又は技術を指す。一般的に、オリゴヌクレオチドプライマーの設計が可能になるように、目標領域末端からの配列情報又はそれ以外の配列情報を取得する必要があり、これらのプライマーは配列において、増幅すべきテンプレートの対応する鎖と同様又は類似である。2つのプライマーの5'末端ヌクレオチドは、増幅待ち材料の末端に一致してもよい。PCRは、特定のRNA配列、全ゲノムDNAからの特定DNA配列、及び全細胞RNAから転写されたcDNA、ファージ又はプラスミド配列などの増幅に用いることができる。一般的に、Mullis et al.(1987) Cold Spring Harbor Symp.Ouant.Biol.51:263、edited by Erlich、(1989)PCR TECHNOLOGY(Stockton Press、N.Y.)を参照する。本願に用いられるPCRは、核酸試験試料を増幅するための核酸ポリメラーゼ反応法の一例とされるが、唯一の例ではなく、上記方法は、核酸の特定部分を増幅又は産生するために、プライマーとなる既知の核酸及び核酸ポリメラーゼを用いることを含む。
【0090】
「単離した」とは、精製状態であり、且つ、この場合、指定された分子に、核酸、タンパク質、脂質、炭水化物などの他の生物分子、又は、細胞破片や成長培地などの他の材料を実質的に含まないことを意味する。通常、「単離した」という用語は、例えば、本願に記載される化合物の実験や治療的用途を顕著に干渉する量で存在しない限り、これらの材料が全然存在しない、又は水、緩衝液や塩が存在しないことを意味する意図はない。
【0091】
「薬物」という用語は、体の生理学的機能及び病理学的状態を変更又は究明することができ、疾患の予防、診断及び治療に適用可能な化学物質を指す。薬物は、細胞毒性薬物を含む。薬物と毒物の間には厳格な境界がなく、毒物とは、比較的小さい用量だけで体に毒害作用を及ぼし、人体の健康に損傷を与える化学物質を指し、何れの薬物も用量が大きすぎると、毒性反応を生じ得る。
【0092】
細胞毒性薬物とは、細胞の機能を阻害又は防止し、及び/又は細胞の死亡若しくは破壊を引き起こす物質である。細胞毒性薬物は原則的に、十分に高い濃度であれば、腫瘍細胞を殺すことができるが、特異性の欠如のため、腫瘍細胞を殺すと同時に、正常な細胞のアポトーシスを引き起こし、重篤な副作用になることもある。細胞毒性薬物は、例えば、細菌、真菌、植物又は動物由来の小分子毒素や酵素活性毒素のような毒素、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体)、化学療法薬、抗生物質及び核酸分解酵素を含む。
【0093】
幾つかの実施形態において、毒素は、細菌、真菌、植物や動物由来の小分子毒素及びその誘導体であってもよく、エキサテカンなどのカンプトテシン誘導体、メイタンシンアルカロイド及びその誘導体(CN101573384)、例えばDM1、DM3、DM4、auristatin F(AF)及びその誘導体、例えばMMAF、MMAE、3024(WO 2016/127790 A1、化合物7)、ジフテリア毒素、外毒素、リシン(ricin)A鎖、アブリン(abrin)A鎖、modeccin、α-サルシナ(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)毒性タンパク質、ジアンシン(dianthin)毒性タンパク質、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolacca americana)毒性タンパク質(PAPI、PAPIIとPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(Momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア・オフィシナリス(saponaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)及びトリコセセンス(trichothecenes)を含む。
【0094】
「化学療法薬」という用語は、腫瘍の治療に利用可能な化学化合物である。この定義は、がんの成長を促進可能なホルモン効果作用を調節、低減、遮断又は阻害する抗ホルモン剤を更に含み、且つ常に系統的又は全身的治療の形式である。それ自体はホルモンであってもよい。化学療法薬の例としては、アルキル化剤、例えば、チオテパ(thiotepa)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)(CYTOXAN(商標))、ブスルファン(busulfan)、インプロスルファン(improsulfan)とピポスルファン(piposulfan)などのスルホン酸アルキル、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン(carboquone)、メツレドーパ(meturedopa)とウレドーパ(uredopa)などのアジリジン(aziridine)、アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン(triethylenemelamine)、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミドとトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むアジリジンとmethylamelamine、クロラムブシル、クロルナファジン、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estramustine)、イフォスファミド(ifosfamide)、メクロレタミン(mechlorethamine)、メクロレタミンオキシド塩酸塩などのナイトロジェンマスタード(nitrogen mustards)、メルファラン(melphalan)、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード、カルムスチン(carmustine)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン(lomustine)、ニムスチン(nimustine)、ラニムスチン(ranimustine)などのニトロソウレア(nitrosureas)、抗生物質、例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、authramycin、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシンC(cactinomycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、carabicin、クロモマイシン(chromomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、アクチノマイシンD、ダウノルビシン(daunorubicin)、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycin)、ペプロマイシン(peplomycin)、potfiromycin、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン(streptozocin)、ツベルシジン、ウベニメクス(ubenimex)、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin)、代謝拮抗剤、例えば、メトトレキサート、5-フルオロウラシル(5-FU)、デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート(trimetrexate)などの葉酸類似体、フルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体、アンシタビン(ancitabine)、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン、カルモフール(carmofur)、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン(doxitluridine)、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン、5-FUなどのピリミジン類似体、カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン(dromostanolong propionate)、エピチオスタノール(epitiostanol)、メピチオスタン(mepitiostane)、テストラクトン(testolactone)などのアンドロゲン類、アミノグルテチミド(aminoglutethimide)、ミトタン(mitotane)、トリロスタン(trilostane)などの抗アドレナリン類、葉酸補給剤、例えば、frolinic acid、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamideglycoside)、アミノレブリン酸(aminolevulinic acid)、アムサクリン(amsacrine)、bestrabucil、ビサントレン(bisantrene)、エダトラキサート(edatraxate)、defofamine、デメコルシン、ジアジコン(diaziquone)、elfomithine、酢酸エリプチニウム(elliptiniumacetate)、エトグルシド(etoglucid)、硝酸ガリウム、ヒドロキシ尿素、レンチナン(lentinan)、ロニダミン(lonidamine)、ミトグアゾン(mitoguazone)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、モピダモール(mopidamol)、ニトラクリン(nitracrine)、ペントスタチン(pintostatin)、phenamet、ピラルビシン(pirarubicin)、ポドフィロトキシン(podophyllinic acid)、2-アセチルヒドラジン、プロカルバジン(procarbazine)、PSK(登録商標)、ラゾキサン(razoxane)、シゾフィラン(sizofiran)、スピロゲルマニウム(spirogermanium)、テニュアゾン酸、トリアジコン、2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン(trichlorrotriethylamine)、ウレタン(urethan)、ビンデシン、ダカルバジン(dacarbazine)、マンノムスチン、ミトブロニトール(mitobronitol)、ミトラクトール、ピポブロマン(pipobroman)、gacytosine、アラビノシド(「Ara-C」)、シクロホスファミド、チオテパ(thiotepa)、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton,NJ)とdocetaxel(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、Antony、France)などのタキサン、クロラムブシル、ゲムシタビン(gemcitabine)、6-チオグアニン、メルカプトプリン、メトトレキサート、シスプラチンとカルボプラチンなどのプラチナ類似体、ビンブラスチン、プラチナ、エトポシド(etoposide)(VP-16)、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン(vinorelbine)、ナベルビン(navelbine)、novantrone、テニポシド(teniposide)、ダウノルビシン、アミノプリン、xeloda、イバンドロナート(ibandronate)、CPT-11、トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000、ジフルオロメチロールニチン(DMFO)、トレチノインesperamicins、capecitabine、及び上記何れかの物質の薬学的に許容される塩、酸又は誘導体を含む。この定義は、ホルモンによる腫瘍への作用を調節又は阻害可能な抗ホルモン製剤、例えば、タモキシフェン(tamoxifen)、ラロキシフェン(raloxifene)、アロマターゼ阻害剤4(5)-イミダゾリル、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、keoxifene、LY117018、onapristoneとフェアストン(Fareston)を含む抗エストロゲン製剤、フルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、bicalutamide、ロイプロリド(leuprolide)とゴセレリン(goserelin)などの抗アンドロゲン製剤、及び上記何れかの物質の薬学的に許容される塩、酸又は誘導体などを更に含む。
【0095】
「アルキル基」という用語は、1個~20個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖基である飽和脂肪族炭化水素基を指し、好ましくは1個~12個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個及び12個)の炭素原子を含むアルキル基であり、より好ましくは1個~6個の炭素原子を含むアルキル基である。その非限定的な例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、n-ヘキシル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、n-オクチル基、2,3-ジメチルヘキシル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2,5-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-メチル-2-エチルペンチル基、2-メチル-3-エチルペンチル基、n-ノニル基、2-メチル-2-エチルヘキシル基、2-メチル-3-エチルヘキシル基、2,2-ジエチルペンチル基、n-デシル基、3,3-ジエチルヘキシル基、2,2-ジエチルヘキシル基、及びその種々の分岐鎖異性体などを含む。より好ましくは1個~6個の炭素原子を含む低級アルキル基を含み、その非限定的な実施例はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、n-ヘキシル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基及び2,3-ジメチルブチル基などを含む。アルキル基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的にH原子、D原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
【0096】
「ヘテロアルキル基」という用語は、N、O又はSから選ばれる1つ又は複数のヘテロ原子を含むアルキル基を指し、そのうち、アルキル基は、上記に定義された通りである。
【0097】
「アルキレン基」という用語は、親アルカンの同じ炭素原子又は2つの異なる炭素原子から2つの水素原子を除去して誘導された2つの残基を有する、飽和の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基を指し、1個~20個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖基であり、好ましくは1個~12個(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個と12個)の炭素原子を含み、より好ましくは1個~8個の炭素原子を含むアルキレン基であり、最も好ましくは1個~6個の炭素原子を含むアルキレン基である。アルキレン基の非限定的な例は、メチレン(-CH-)、1,1-エチレン(-CH(CH)-)、1,2-エチレン(-CHCH)-、1,1-プロピレン(-CH(CHCH)-)、1,2-プロピレン(-CHCH(CH)-)、1,3-プロピレン(-CHCHCH-)、1,4-ブチレン(-CHCHCHCH-)などを含むが、これらに限定されない。アルキレン基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合、任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、ハロゲン、メルカプト基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルコキシ基、ヘテロシクロアルコキシ基、シクロアルキルチオ基、ヘテロシクロアルキルチオ基及びオキソ基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
【0098】
「アルケニル基」という用語は、分子に炭素-炭素二重結合が含まれるアルキル基化合物を指し、そのうち、アルキル基の定義は上記の通りである。アルケニル基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は、独立的に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の基であることが好ましい。
【0099】
「アルキニル基」という用語は、分子に炭素-炭素三重結合が含まれるアルキル化合物を指し、そのうち、アルキル基の定義は上記の通りである。アルキニル基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は、独立的に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の基であることが好ましい。
【0100】
「シクロアルキル基」という用語は、飽和又は部分的に不飽和の単環式又は多環式の環状炭化水素置換基を指し、シクロアルキル環は3個~20個の炭素原子を含み、好ましくは3個~12個の炭素原子を含み、好ましくは3個~8個(例えば、3個、4個、5個、6個、7個と8個)の炭素原子を含み、更に好ましくは3個~6個の炭素原子を含む。単環式シクロアルキル基の非限定的な例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘプチル基、シクロヘプタトリエニル基及びシクロオクチル基などを含み、多環式シクロアルキル基は、スピロ環、縮合環及び架橋環のシクロアルキル基を含む。
【0101】
「スピロシクロアルキル基」という用語は、5員~20員で、単環同士が1つの炭素原子(スピロ原子と称する)を共有する多環式基を指し、1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもない。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。スピロシクロアルキル基は、環同士の共有するスピロ原子の数によって、モノスピロシクロアルキル基、ビススピロシクロアルキル基又はポリスピロシクロアルキル基に分けられ、好ましくはモノスピロシクロアルキル基及びビススピロシクロアルキル基である。より好ましくは、4員/4員、4員/5員、4員/6員、5員/5員又は5員/6員のモノスピロシクロアルキル基である。スピロシクロアルキル基の非限定的な例は、
【化9】
を含む。
【0102】
「縮合シクロアルキル基」という用語は、5員~20員で、系内の各環が系内の他の環と、隣接する1対の炭素原子を共有する全炭素多環式基を指し、そのうち、1つ又は複数の環は1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもない。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。構成する環の数によって二環式、三環式、四環式又は多環式の縮合シクロアルキル基に分けることができ、好ましくは二環式又は三環式であり、より好ましくは5員/5員又は5員/6員の二環式アルキル基である。縮合シクロアルキル基の非限定的な例は、
【化10】
を含む。
【0103】
「架橋シクロアルキル基」という用語は、5員~20員で、何れか2つの環が直接連結されていない2つの炭素原子を共有する全炭素多環式基を指し、1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもない。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。構成する環の数によって、二環式、三環式、四環式又は多環式の架橋シクロアルキル基に分けることができ、好ましくは二環式、三環式又は四環式であり、より好ましくは二環式又は三環式である。架橋シクロアルキル基の非限定的な例は、
【化11】
上記シクロアルキル環は、上記のシクロアルキル基(単環式環、スピロ環、縮合環及び架橋環を含む)がアリール基、ヘテロアリール基又はヘテロシクロアルキル環に縮合されており、そのうち、母体構造に連結された環がシクロアルキル基であるものを含み、その非限定的な例は、インダニル基、テトラヒドロナフチル基及びベンゾシクロヘプタニル基などを含み、好ましくはベンゾシクロペンチル基又はテトラヒドロナフチル基である。
【0104】
シクロアクリル基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合、置換基は任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
【0105】
「アルコキシ基」という用語は、-O-(アルキル基)及び-O-(非置換のシクロアルキル基)を指し、そのうち、アルキル基、シクロアルキル基の定義は上記の通りである。アルコキシ基の非限定的な例は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基を含む。アルコキシ基は任意選択的に置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は、独立的にH原子、D原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の基であることが好ましい。
【0106】
「ヘテロシクリル基」という用語は、飽和又は部分的に不飽和の単環式又は多環式の環状炭化水素置換基を指し、3個~20個の環原子を含み、そのうち、1つ又は複数の環原子は窒素、酸素、硫黄、S(O)又はS(O)から選ばれるヘテロ原子であるが、-O-O-、-O-S-又は-S-S-の環部分が含まれず、残りの環原子は炭素である。好ましくは3個~12個(例えば3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個及び12個)の環原子を含み、そのうち、1個~4個(例えば1個、2個、3個及び4個)はヘテロ原子であり、より好ましくは3個~8個(例えば3個、4個、5個、6個、7個及び8個)の環原子を含み、そのうち、1個~3個(例えば1個、2個及び3個)はヘテロ原子であり、より好ましくは3個~6個の環原子を含み、そのうち、1個~3個はヘテロ原子であり、最も好ましくは5個又は6個の環原子を含み、そのうち、1個~3個はヘテロ原子である。単環式ヘテロシクリル基の非限定的な例は、ピロリジニル基、テトラヒドロピラニル基、1,2,3,6-テトラヒドロピリジル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基及びホモピペラジニル基などを含む。多環式ヘテロシクリル基は、スピロ環、縮合環及び架橋環のヘテロシクリル基を含む。
【0107】
「スピロヘテロシクリル基」という用語は、5員~20員で、単環同士が1つの原子(スピロ原子と称する)を共有する多環式ヘテロシクリル基を指し、そのうち、1つ又は複数の環原子は窒素、酸素、硫黄、S(O)又はS(O)から選ばれるヘテロ原子で、残りの環原子は炭素である。それは、1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもない。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。スピロヘテロシクリル基は、環同士の共有するスピロ原子の数によって、モノスピロヘテロシクリル基、ビススピロヘテロシクリル基又はポリスピロヘテロシクリル基に分けられ、好ましくはモノスピロヘテロシクリル基及びビススピロヘテロシクリル基である。より好ましくは、4員/4員、4員/5員、4員/6員、5員/5員又は5員/6員のモノスピロヘテロシクリル基である。スピロヘテロシクリル基の非限定的な例は、
【化12】
を含む。
【0108】
「縮合ヘテロシクリル基」という用語は、5員~20員で、系内の各環が系内の他の環と、隣接する1対の原子を共有する多環式ヘテロシクリル基を指し、1つ又は複数の環は1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもなく、そのうち、1つ又は複数の環原子が窒素、酸素、硫黄、S(O)又はS(O)から選ばれるヘテロ原子で、残りの環原子は炭素である。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。構成する環の数によって、二環式、三環式、四環式又は多環式の縮合ヘテロシクリル基に分けることができ、好ましくは二環式又は三環式であり、より好ましくは5員/5員又は5員/6員の二環式縮合ヘテロシクリル基である。縮合ヘテロシクリル基の非限定的な例は、
【化13】
を含む。
【0109】
「架橋ヘテロシクリル基」という用語は、5員~14員で、何れか2つの環が直接連結されていない2つの原子を共有する多環式ヘテロシクリル基を指し、1つ又は複数の二重結合を含んでもよいが、完全に共役したπ電子系を有する環が1つもなく、そのうち、1つ又は複数の環原子は、窒素、酸素、硫黄、S(O)又はS(O)から選ばれるヘテロ原子で、残りの環原子は炭素である。好ましくは6員~14員、より好ましくは7員~10員(例えば、7員、8員、9員又は10員)である。構成する環の数によって、二環式、三環式、四環式又は多環式の架橋ヘテロシクリル基に分けることができ、好ましくは二環式、三環式又は四環式であり、より好ましくは二環式又は三環式である。架橋ヘテロシクリル基の非限定的な例は、
【化14】
を含む。
【0110】
上記ヘテロシクリル環は、上記のヘテロシクリル基(単環、スピロヘテロ環、縮合ヘテロ環及び架橋ヘテロ環を含む)がアリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル環に縮合されており、そのうち、母体構造に連結された環がヘテロシクリル基であるものを含み、その非限定的な例は、
【化15】
などを含む。
【0111】
ヘテロシクリル基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合、置換基は任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
【0112】
「アリール基」という用語は、共役したπ電子系を有する6員~14員全炭素単環式又は縮合多環式(縮合多環は、隣接する炭素原子対を共有する環である)基であり、好ましくは6員~10員であり、例えば、フェニル基及びナフチル基である。上記アリール環は、上記のアリール環がヘテロアリール基、ヘテロシクリル基又はシクロアルキル環に縮合されており、そのうち、母体構造に連結された環がアリール環であるものを含み、その非限定的な例は、
【化16】
を含む。
【0113】
アリール基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
「ヘテロアリール基」という用語は、1個~4個のヘテロ原子、5個~14個の環原子を含む複素芳香族系を指し、そのうち、ヘテロ原子は酸素、硫黄及び窒素から選ばれる。ヘテロアリール基は、5員~10員(例えば5員、6員、7員、8員、9員又は10員)であることが好ましく、5員又は6員であることがより好ましく、例えば、フラニル基、チエニル基、ピリジル基、ピロリル基、N-アルキルピロリル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基などである。上記ヘテロアリール環は、上記のヘテロアリール基がアリール基、ヘテロシクリル基又はシクロアルキル環に縮合されており、そのうち、母体構造に連結された環がヘテロアリール環であるものを含み、その非限定的な例は、
【化17】
を含む。
【0114】
ヘテロアリール基は置換されても、置換されなくてもよく、置換される場合に、置換基は任意の利用可能な連結点で置換されてもよく、上記置換基は、独立して任意選択的に水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、ヘテロシクリルオキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる1つ又は複数の置換基が好ましい。
【0115】
「アミノ保護基」という用語は、分子の他の部位が反応する時に、アミノ基が変化されないように、除去され易い基でアミノ基を保護するものである。非限定的な実施例は、(トリメチルシリコン)エトキシメチル、テトラヒドロピラニル基、tert-ブトキシカルボニル基、アセチル基、ベンジル基、アリル基及びp-メトキシベンジル基などを含む。これらの基は、任意選択的にハロゲン、アルコキシ基又はニトロ基から選ばれる1個~3個の置換基で置換可能である。
【0116】
「ヒドロキシ保護基」という用語は、この分野で知られているヒドロキシ基の保護に適用される基を指し、文献(「Protective Groups in Organic Synthesis」、5Th Ed.T.W.Greene&P.G.M.Wuts)におけるヒドロキシ保護基が参照される。例として、好ましくは、上記ヒドロキシ保護基は、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基などの(C1-10アルキル又はアリール)シラン基であってもよく、C1-10アルキル基又は置換アルキル基であってもよく、好ましくはアルコキシ基又はアリール基で置換されたアルキル基で、より好ましくはC1-6アルコキシ基で置換されたC1-6アルキル基又はフェニル基で置換されたC1-6アルキル基で、最も好ましくはC1-4アルコキシ基で置換されたC1-4アルキル基で、例えば、メチル基、tert-ブチル基、アリル基、ベンジル基、メトキシメチル基(MOM)、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基(THP)などであり、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、p-ニトロベンゾイルなどの(C1-10アルキル又はアリール)アシル基であってもよく、(C1-6アルキル又はC6-10アリール)スルホニル基であってもよく、(C1-6アルコキシ又はC6-10アリールオキシ)カルボニル基であってもよい。
【0117】
「シクロアルキルオキシ基」という用語は、シクロアルキル-O-を指し、そのうち、シクロアルキル基は上記に定義された通りである。
【0118】
「ヘテロシクリルオキシ基」という用語は、ヘテロシクリル-O-を指し、そのうち、ヘテロシクリル基は上記に定義された通りである。
【0119】
「アルキルチオ基」という用語は、アルキル-S-を指し、そのうち、アルキル基は上記に定義された通りである。
【0120】
「ハロアルキル基」という用語は、アルキル基が1つ又は複数のハロゲンで置換されたものを指し、そのうち、アルキル基は上記に定義された通りである。
【0121】
「ハロアルコキシ基」という用語は、アルコキシ基が1つ又は複数のハロゲンで置換されたものを指し、そのうち、アルコキシ基は上記に定義された通りである。
【0122】
「重水素化アルキル基」という用語は、アルキル基が1つ又は複数の重水素原子で置換されたものを指し、そのうち、アルキル基は上記に定義された通りである。
【0123】
「ヒドロキシアルキル基」という用語は、ヒドロキシ基で置換されたアルキル基を指し、そのうち、アルキル基は上記に定義された通りである。
【0124】
「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を指す。
【0125】
「ヒドロキシ基」という用語は、-OHを指す。
【0126】
「メルカプト基」という用語は、-SHを指す。
【0127】
「アミノ基」という用語は、-NHを指す。
【0128】
「シアノ基」という用語は、-CNを指す。
【0129】
「ニトロ基」という用語は、-NOを指す。
【0130】
「オキソ基」という用語は、「=O」を指す。
【0131】
「カルボニル基」という用語は、C=Oを指す。
【0132】
「カルボキシ基」という用語は、-C(O)OHを指す。
【0133】
「カルボン酸エステル」という用語は、-C(O)O(アルキル)、-C(O)O(シクロアルキル)、(アルキル)C(O)O-又は(シクロアルキル)C(O)O-を指し、そのうち、アルキル基、シクロアルキル基は上記に定義された通りである。
【0134】
本開示に係る化合物には、その同位体誘導体が含まれる。「同位体誘導体」という用語は、1種又は複数種の同位体に富む原子が存在するだけにおいて構造が異なる化合物を指す。例えば、本開示に係る構造を備え、水素が「重水素」又は「三重水素」によって置き換えられ、又はフッ素が18F-フッ素標識(18F同位体)によって置き換えられ、又は炭素原子が11C-、13C-、又は14C-に富む炭素(11C-、13C-又は14C-炭素標識、11C-、13C-又は14C-同位体)によって置き換えられた化合物は、本開示の範囲内にある。このような化合物は例えば、生物測定における分析ツール又はプローブとして使用されてもよく、又は疾患のインビボ診断のためのイメージングトレーサーとして使用されてもよく、又は薬力学的、薬物動態学的又は受容体研究のトレーサーとされてもよい。本開示に係る各種の重水素化形態の化合物は、炭素原子に連結された各利用可能な水素原子が独立的に重水素原子で置換可能であることを意味する。当業者は、関連文献を参照して重水素化形態の化合物を合成することができる。重水素化形態の化合物は、調製する場合、市販の重水素化出発物質を使用してもよく、又は、通常の技術により重水素化試薬で合成されてもよく、重水素化試薬は、重水素化ボラン、三重水素化ボランテトラヒドロフラン溶液、重水素化水素化アルミニウムリチウム、重水素化ヨードエタン及び重水素化ヨードメタンなどを含むが、これらに限定されない。重水素化物は、一般的に、非重水素化の化合物に相当する活性を保つことができると共に、重水素化がある特定の部位にある時に、より優れた代謝安定性を得て、幾つかの治療上の利点を得ることができる。
【0135】
「任意選択」又は「任意選択的に」は、その後に記載される事象又は状況が生じてもよいが、生じなくてもよいことを意味し、この説明は、当該事象又は状況が生じる場合と生じない場合を含む。例えば、「任意選択的にアルキル基で置換されるヘテロシクリル基」とは、アルキル基が存在してもよいが、存在しなくてもよいことを意味し、この説明は、ヘテロシクリル基がアルキル基で置換される場合と、ヘテロシクリル基がアルキル基で置換されない場合とを含む。
【0136】
「置換される」とは、基における1つ又は複数の水素原子、好ましくは1個~5個、より好ましくは1個~3個の水素原子が互いに独立的に対応する数の置換基で置換されることを指す。当業者は、それほど努力をせずに(実験又は理論で)可能又は不可能な置換を決定することができる。例えば、遊離水素を有するアミノ基又はヒドロキシ基は、不飽和(例えば、オレフィン)結合を有する炭素原子に結合する場合、不安定になる可能性がある。
【0137】
「医薬組成物」は、1種又は複数種の本願に記載される化合物又はその生理学的/薬学的に許容される塩又はプロドラッグと他の化学成分の混合物と、生理学的/薬学的に許容されるベクター及び賦形剤などの他の成分とを含むものを表す。医薬組成物は、生体への投与を促進し、活性成分の吸収に寄与して更に生物活性を発揮するためのものである。
【0138】
本願に使用される「薬学的に許容される」という用語は、これらの化合物、材料、組成物及び/又は剤形が合理的な医学的判断範囲において、過度の毒性、刺激性、アレルギー反応や他の問題又は合併症がなく、対象の組織との接触に適用され、合理的な損益比を有すると共に、所望の用途に有効であることを意味する。
【0139】
本願に使用される単数形である「1つ」、「1種」と「当該」は、文脈で特に明記のない限り、複数の引用を含み、その逆も同様である。
【0140】
用語「約」は、例えば、pH、濃度、温度などのパラメータに用いられる時に、当該パラメータが±10%変化されてもよく、場合によっては、±5%以内が更に好ましいことを示す。当業者に理解されるように、パラメータは肝心なものではない場合、一般的に、制限ではなく、ただ説明のために数字が示されている。
【0141】
「リンカーユニット」、「連結ユニット」又は「連結断片」という用語は、一端がリガンド(本開示では抗体)に連結され、他端が薬物に連結される化学構造断片又は結合を指し、その他のリンカーに連結されてから薬物に連結されてもよい。
【0142】
リンカーは、1種又は複数種のリンカー要素を含んでもよい。例示的なリンカー要素は、6-マレイミドカプロイル(「MC」)、マレイミドプロピオニル(「MP」)、バリン-シトルリン(「val-cit」又は「vc」)、アラニン-フェニルアラニン(「ala-phe」)、p-アミノベンジルオキシカルボニル(「PAB」)、及びN-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(「SPP」)、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1カルボキシレート(「SMCC」、本願では、「MCC」とも呼ばれる)及びN-スクシンイミジル(4-ヨード-アセチル)アミノベンゾエート(「SIAB」)のようなリンカー試薬とのカップリングに由来するものを含む。リンカーは、伸長体、スペーサー及びアミノ酸ユニットを含み、例えば、US2005-0238649A1に記載された方法など、この分野での既知の方法により合成することができる。リンカーは、細胞において薬物を放出しやすくする「切断可能リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー(例えば、ヒドラゾン)、プロテアーゼ感受性(例えば、ペプチダーゼ感受性)リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al.、Cancer Research 52:127~131(1992)、米国特許No.5, 208, 020)を使用してもよい。
【0143】
リンカー要素は、下記のものを含むが、これらに限定されない:
次のような構造を持つ、MC=6-マレイミドカプロイル:
【化18】
Val-Cit又は「vc」=バリン-シトルリン(プロテアーゼ切断可能なリンカーにおける例示的なジペプチド)
シトルリン=2-アミノ-5-ウレイドペンタン酸
PAB=p-アミノベンジルオキシカルボニル(「自己犠牲」リンカー要素の例示)
Me-Val-Cit=N-メチル-バリン-シトルリン(そのうち、リンカーペプチド結合は、カテプシンBにより切断されないように修飾された)
MC(PEG)6-OH=マレイミドカプロイル-ポリエチレングリコール(抗体システインに付着可能)
SPP=N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエ一卜
SPDP=N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート
SMCC=スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート
IT=イミノチオラン
通常の医薬組成物の調製は、中国薬典に示されている。
【0144】
「ベクター」という用語は、本開示の薬物に利用されるものとして、薬物の人体への入り方と体内での分布を変更し、薬物の放出速度を制御し、薬物を標的器官に輸送することができる系を指す。薬物ベクターの放出と標的系により、薬物の分解と損失を低減し、副作用を低下させ、生物学的利用能を向上させることができる。例えば、ベクターとされる高分子界面活性剤は、その独特な両親媒性構造のため、自己集合して様々な形態の凝集体を形成することができ、好ましい例として、例えば、ミセル、マイクロエマルジョン、ゲル、液晶、ベシクルなどである。これらの凝集体は、薬物分子を封入する能力を有すると共に、膜に対して良好な透過性を有し、良い薬物ベクターとすることができる。
【0145】
「賦形剤」という用語は、薬物製剤における主薬以外の付加物であり、添加物と呼ばれてもよい。例えば、錠剤中の結合剤、充填剤、崩壊剤と潤滑剤、半固体製剤である軟膏剤、クリーム剤中の基質部分、液体製剤中の防腐剤、酸化防止剤、矯味剤、芳香剤、共溶媒、乳化剤、可溶化剤、浸透圧調整剤と着色剤などは、何れも賦形剤と呼ぶことができる。
【0146】
「希釈剤」という用語は充填剤とも呼ばれ、錠剤の重量及び体積を増加させることがその主な用途である。希釈剤の加入により、一定の体積の大きさが確保されるだけでなく、主成分の用量偏差が低減され、薬剤の圧縮成形性などが改善される。錠剤の薬物に油性成分が含まれる場合、「乾燥」状態を維持して錠剤への調製に寄与するために、吸収剤を加えて油性物質を吸収する必要がある。例えば、澱粉、乳糖、カルシウムの無機塩と微結晶セルロースなどである。
【0147】
「医薬組成物」という用語は、1種又は複数種の本願に記載される化合物又はその生理学的/薬学的に許容される塩又はプロドラッグと他の化学成分の混合物と、生理学的/薬学的に許容されるベクター及び賦形剤などの他の成分とを含むものを表す。医薬組成物は、生体への投与を促進し、活性成分の吸収に寄与して更に生物活性を発揮するためのものである。
【0148】
医薬組成物は、滅菌注射用水溶液の形態であってもよい。使用される許容可能な溶媒と溶剤には、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液があってもよい。滅菌注射用製剤は、その中の活性成分が油相に溶解された滅菌注射用水中油型マイクロエマルジョンであってもよい。例えば、活性成分を大豆油とレシチンとの混合物に溶解する。次に、油溶液を水とグリセリンとの混合物に加え、処理してマイクロエマルジョンを形成する。局所で大量に注射することにより、注射液又はマイクロエマルジョンを対象の血流に注入することができる。又は、本開示に係る化合物の一定のサイクル濃度を維持可能な方法により、溶液及びマイクロエマルジョンを投与することが好ましい。このような一定の濃度を維持するために、連続静脈内投与装置を使用することができる。このような装置の例は、Deltec CADD-PLUS. TM. 5400型の静脈注射ポンプである。
【0149】
医薬組成物は、筋肉内及び皮下投与に使用される滅菌注射水又は油懸濁液の形態であってもよい。当該懸濁液は、既知の技術に従って、上記適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて調製することができる。滅菌注射用製剤は、無毒の胃腸外に許容可能な希釈剤又は溶剤において調製された滅菌注射溶液又は懸濁液であってもよく、例えば、1,3-ブタンジオールにおいて調製された溶液である。また、滅菌固定油を溶剤又は懸濁媒体として便利に用いることができる。このために、合成されたモノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の配合用固定油を用いることができる。また、油酸などの脂肪酸も、注射剤を調製することができる。
【0150】
「投与」、「与える」及び「処理」は、動物、ヒト、実験の対象、細胞、組織、器官や生物流体に適用される場合に、外因性薬剤、治療剤、診断薬又は組成物の、動物、ヒト、対象、細胞、組織、器官や生物流体との接触を意味する。「投与」、「与える」及び「処理」は例えば、治療、薬物代謝動態、診断、研究と実験方法を意味してもよい。細胞の処理は、試薬と細胞との接触、及び試薬と流体との接触を含み、ここで、上記流体は細胞と接触する。「投与」、「与える」及び「処理」はまた、試薬、診断、結合組成物により、又は別種の細胞を通じて、体外及びインビトロで例えば細胞を処理することを意味する。「処理」はヒト、獣医学又は研究対象に適用される場合に、治療的処理、予防又は予防的措置、研究と診断的応用を意味する。
【0151】
「薬学的に許容される塩」又は「薬学的に利用可能な塩」という用語は、本開示に係る抗体-薬物複合体の塩、又は本開示に記載される化合物の塩を指し、このような塩は、哺乳動物の体内に用いられる場合、安全性と有效性を有すると共に、所望の生物活性を有し、本開示に係る抗体薬物複合体は、少なくとも1つのアミノ基を含むため、酸と一緒に塩を形成することができ、薬学的に利用可能な塩の非限定的な例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、クエン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、ソルビン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、サリチル酸塩、クエン酸水素塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びp-トルエンスルホン酸塩を含む。
【0152】
「治療」は、対象に内用又は外用治療剤、例えば、本開示の何れか1つの結合化合物を含む組成物を与えることを意味し、上記対象は1種又は複数種の疾患症状を有するが、既知の上記治療剤は、これらの症状に対して治療作用を有する。通常、治療される対象又はグループには、1種又は複数種の疾患症状を効果的に緩和する量で治療剤を与えることにより、これらの症状の解消を誘導し、又は臨床的に測定可能な任意の程度まで進行しないようにこれらの症状を抑制する。任意の具体的な疾患症状を効果的に緩和する治療剤の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、対象の疾患状態、年齢と体重、及び対象に必要な治療効果を発生させる薬剤の能力など、種々の要因によって変化することができる。当該症状の重症度や進行状況の評価に医者や他のプロのヘルスケアプロバイダによく用いられる任意の臨床的検出方法により、疾患症状が低減されたか否かを評価することができる。本開示の実施形態(例えば、治療方法又は製品)は、それぞれの目標疾患症状の緩和において無効な可能性があるが、この分野で知られている任意の統計学的検定方法、例えばStudent t検定、カイ二乗検定、Mann及びWhitneyによるU検定、Kruskal-Wallis検定(H検定)、Jonckheere-Terpstra検定とWilcoxon検定により、統計学的に有意な数の対象において目標疾患症状を低減可能なことが確認される。
【0153】
以上の明細書には、本開示に係る1つ又は複数の実施形態の詳細が提出されている。本開示は、本願の記載と類似又は同様の任意の方法と材料により実施又は試験することができるが、以下、好ましい方法と材料を説明する。明細書と特許請求の範囲により、本開示の他の特徴、目的及び利点は明らかになる。明細書と特許請求の範囲において、文脈で特に明記のない限り、単数形は複数の指示対象のことを含む。特に定義のない限り、本願に用いられる技術・科学用語の全ては、本開示に属する分野の当業者により理解されている一般的な意味を持っている。明細書に引用される特許と出版物の全ては、引用により組み込まれている。以下の実施例は、本開示の好ましい実施形態をより全面的に説明するために提出される。これらの実施例は、何れかの方式で、本開示の範囲を限定するものと理解すべきではなく、本開示の範囲は、特許請求の範囲により限定される。
【0154】
以下、実施例と合わせて本発明を更に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0155】
本開示の実施例又は試験例における具体的な条件が明示されていない実験方法は、通常、一般的な条件、又は原料や商品メーカに勧められた条件に従う。Sambrookら、分子クローニング、実験室マニュアル、冷泉港実験室、及び現代分子生物学方法、Ausubelら著、Greene出版協会、Wiley Interscience、NYが参照される。具体的な供給源が明示されていない試薬は、市販される通常の試薬である。
【実施例
【0156】
実施例1:HER3高発現細胞株の構築
pCDH-Her3レンチウイルス発現ベクタープラスミド及びpVSV-G、pCMV-dR8.91レンチウイルス系パッケージングベクター用Lipofectamine 3000トランスフェクション試薬を、ウィルスパッケージング細胞293Tにトランスフェクションし、ウィルスを含む培地上清を収集し、ろ過して超高速で遠心分離し、濃縮されたウィルスでチャイニーズハムスター卵巣細胞CHO-K1を感染させ、ピューロマイシンで2週間~3週間選別してから、FACSシングルセルソーティングを行った。
【0157】
FACSによりレンチウイルスに感染したCHO-K1細胞表面のHER3発現を検出することにより、HER3発現量の高いモノクローナル細胞株を選び出した。
【0158】
選び出されたモノクローナル細胞株を拡大培養し、貯蔵して後続の実験に備えた。
【0159】
HuMan ErbB3アミノ酸配列(UniProtKB - P21860-1、AA Ser 20-Thr 643)
SEVGNSQAVCPGTLNGLSVTGDAENQYQTLYKLYERCEVVMGNLEIVLTGHNADLSFLQWIREVTGYVLVAMNEFSTLPLPNLRVVRGTQVYDGKFAIFVMLNYNTNSSHALRQLRLTQLTEILSGGVYIEKNDKLCHMDTIDWRDIVRDRDAEIVVKDNGRSCPPCHEVCKGRCWGPGSEDCQTLTKTICAPQCNGHCFGPNPNQCCHDECAGGCSGPQDTDCFACRHFNDSGACVPRCPQPLVYNKLTFQLEPNPHTKYQYGGVCVASCPHNFVVDQTSCVRACPPDKMEVDKNGLKMCEPCGGLCPKACEGTGSGSRFQTVDSSNIDGFVNCTKILGNLDFLITGLNGDPWHKIPALDPEKLNVFRTVREITGYLNIQSWPPHMHNFSVFSNLTTIGGRSLYNRGFSLLIMKNLNVTSLGFRSLKEISAGRIYISANRQLCYHHSLNWTKVLRGPTEERLDIKHNRPRRDCVAEGKVCDPLCSSGGCWGPGPGQCLSCRNYSRGGVCVTHCNFLNGEPREFAHEAECFSCHPECQPMEGTATCNGSGSDTCAQCAHFRDGPHCVSSCPHGVLGAKGPIYKYPDVQNECRPCHENCTQGCKGPELQDCLGQTLVLIGKTHLT
配列番号1
HuMan ErbB3ヌクレオチド配列
AGCGAAGTCGGCAACAGCCAAGCCGTCTGTCCCGGCACACTCAATGGACTGTCCGTGACTGGCGACGCCGAGAACCAATACCAGACACTCTACAAGCTCTACGAGAGGTGCGAGGTGGTCATGGGAAATCTGGAGATCGTGCTGACTGGCCATAACGCCGATCTGTCCTTTCTGCAGTGGATTAGGGAAGTGACTGGCTACGTGCTGGTCGCCATGAATGAGTTTTCCACTCTGCCACTGCCAAATCTGAGAGTGGTGAGGGGCACTCAAGTGTACGACGGCAAGTTCGCCATTTTCGTCATGCTCAACTACAACACAAACTCCAGCCACGCCCTCAGACAGCTGAGGCTCACTCAGCTGACAGAAATTCTGTCCGGCGGCGTCTATATCGAGAAAAACGATAAACTGTGCCACATGGACACAATCGATTGGAGGGACATCGTGAGGGATAGGGATGCCGAGATCGTGGTCAAGGATAACGGAAGGAGCTGTCCTCCTTGTCATGAGGTCTGCAAGGGAAGGTGTTGGGGACCCGGCTCCGAAGACTGCCAGACACTGACTAAGACTATCTGCGCCCCTCAGTGCAATGGACACTGCTTCGGCCCAAATCCAAACCAGTGCTGCCACGACGAATGTGCCGGCGGATGCAGCGGACCACAAGATACAGACTGCTTCGCTTGTAGACACTTCAATGACTCCGGCGCTTGTGTGCCTAGGTGTCCACAGCCACTCGTGTACAACAAGCTCACTTTTCAGCTCGAGCCTAACCCTCACACTAAGTACCAATACGGCGGAGTCTGCGTCGCCAGCTGTCCTCACAACTTCGTGGTGGATCAGACAAGCTGCGTGAGAGCTTGCCCTCCAGATAAAATGGAGGTGGACAAGAACGGACTGAAGATGTGTGAGCCTTGCGGCGGACTGTGTCCTAAAGCTTGCGAGGGCACTGGCTCCGGATCTAGGTTCCAGACTGTCGACTCCAGCAACATCGACGGCTTTGTGAACTGCACTAAGATTCTGGGCAATCTGGACTTTCTGATCACTGGCCTCAACGGCGATCCTTGGCACAAGATCCCAGCTCTGGACCCAGAAAAGCTGAATGTGTTTAGGACAGTGAGGGAGATTACTGGCTACCTCAACATCCAGAGCTGGCCTCCACACATGCACAACTTCAGCGTGTTCTCCAATCTGACTACAATCGGCGGCAGATCCCTCTATAATAGGGGCTTCTCTCTGCTCATCATGAAGAATCTGAACGTCACTTCTCTGGGCTTCAGATCTCTGAAGGAGATCTCCGCCGGAAGGATTTACATCTCCGCCAATAGGCAGCTCTGTTACCACCACAGCCTCAACTGGACTAAGGTGCTGAGGGGACCTACTGAGGAAAGGCTGGACATTAAACACAATAGGCCAAGAAGGGATTGCGTCGCTGAGGGCAAAGTGTGTGATCCTCTGTGTAGCTCCGGAGGATGTTGGGGACCCGGCCCCGGCCAGTGTCTGAGCTGTAGGAATTATTCTAGGGGCGGCGTGTGTGTGACACACTGCAACTTTCTGAACGGCGAACCTAGGGAATTCGCCCATGAAGCCGAGTGCTTCAGCTGCCACCCAGAGTGTCAGCCTATGGAGGGCACAGCTACATGCAATGGCAGCGGATCCGACACATGTGCTCAGTGTGCCCACTTTAGGGATGGACCTCATTGCGTCAGCAGCTGTCCACACGGCGTGCTGGGAGCCAAGGGCCCTATCTACAAGTACCCAGATGTGCAGAACGAGTGTAGGCCTTGCCACGAGAATTGCACACAAGGCTGCAAGGGCCCAGAGCTGCAAGATTGCCTCGGCCAGACTCTGGTGCTCATCGGCAAGACTCATCTCACT
配列番号2
実施例2:抗ヒトHER3モノクローナル抗体の産生
【0160】
2.1陽性対照抗体の調製
陽性対照抗体U3は、WO2007077028A2(118ページ、U1-59)を参照して調製した。そのうち、U3の重鎖と軽鎖アミノ酸配列は、以下の通りである。
【0161】
U3重鎖:
QVQLQQWGAGLLKPSETLSLTCAVYGGSFSGYYWSWIRQPPGKGLEWIGEINHSGSTNYNPSLKSRVTISVETSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARDKWTWYFDLWGRGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号3
U3軽鎖:
DIEMTQSPDSLAVSLGERATINCRSSQSVLYSSSNRNYLAWYQQNPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQYYSTPRTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号4
【0162】
2.2本開示に係る抗体の調製
全ヒト天然ファージ抗体ライブラリーと抗原Biotinylated HuMan ErbB3(北京ACROBiosystems股分有限公司から購入、製品番号:ER3-H82E6)を利用し、スクリーニングした後、ELISA方法によりファージの検出を行い、陽性クローンを得た。陽性クローンをシークエンシングし、配列を得た後、陽性クローン配列をタンパク質発現ベクターPhr-IgGに挿入し、そしてHEK293とExpi-CHO-S細胞で発現した。精製後にFACSとエンドサイトーシス活性検証実験を行い、全ヒト抗体分子HER3-29を得た。
【0163】
全ヒト抗体分子HER3-29の抗体の定常領域:
ヒトIgG1の重鎖定常領域:
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号5
ヒトκ軽鎖定常領域:
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号6
全ヒト抗体分子HER3-29の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の配列は、以下の通りである。
【0164】
HER3-29重鎖可変領域:
QVQLVQSGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSGISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKEGLPGLDYWGQGTLVTVSS
配列番号7
HER3-29軽鎖可変領域:
DIQMTQSPSSLSASIGDRATITCRASQHVGTYLNWYQQKPGKTPKLLISGAANLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSYNTPPFSFGQGTKVEIK
配列番号8
様々な番号付け規則によって得られたCDR配列は、以下の通りである。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
全ヒト抗体分子HER3-29の重鎖配列と軽鎖配列は、以下の通りである。
HER3-29重鎖:
QVQLVQSGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFDDYAMHWVRQAPGKGLEWVSGISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKEGLPGLDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
配列番号27
HER3-29軽鎖:
DIQMTQSPSSLSASIGDRATITCRASQHVGTYLNWYQQKPGKTPKLLISGAANLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSYNTPPFSFGQGTKVEIK RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号28
実施例3:ADCの調製
【0169】
ADCのDAR値の測定
本開示に係るADCのDAR値の算出方法は、RP-HPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)を採用し、具体的には、以下の通りである。
【0170】
1、測定方法:
裸の抗体と試験待ちのADC試料(濃度は1 mg/mL)に4 μLのDDT(sigma)を加えて還元し、37℃で1時間水浴し、終了後にインナーチューブに取り出した。高速液体クロマトグラフAgilent 1200で検出し、カラムとしてAgilent PLRP-S 1000A 8 μm 4.6 mm×250 mmを選択し、カラムの温度:80℃、DAD検出器の波長:280 nm、流速:1 mL/min、注入量:40 μLであり、その後、試料と裸の抗体とのスペクトル比較により、軽重鎖の位置を区別し、そして検出待ち試料のスペクトルに対して積分を行い、DAR値を算出した。
【0171】
2、溶液の調製
1)0.25 MのDTT溶液:
調製例:5.78 mgのDTTを取り、150 μLの精製水を加えて十分に溶解した後、0.25 MのDTT溶液に調製し得て、-20℃で保存した。
【0172】
2)移動相A(0.1%のTFA水溶液):
調製例:メスシリンダーで1000 mLの精製水を量り取り、1 mLのTFA(sigma)を加え、十分に均一に混合した後に使用し、2℃~8℃で14日間保存した。
【0173】
3)移動相B(0.1%のTFAアセトニトリル溶液):
調製例:メスシリンダーで1000 mLのアセトニトリルを量り取り、1 mLのTFAを加え、十分に均一に混合した後に使用し、2℃~8℃で14日間保存した。
【0174】
3、データの分析
試料と裸の抗体とのスペクトル比較により、軽鎖と重鎖の位置を区別し、そして検出試料のスペクトルに対して積分を行い、DAR値を算出した。
【0175】
計算式は、次の通りである。
【0176】
LCピーク総面積=LCピーク面積+LC+1ピーク面積
HCピーク総面積=HCピーク面積+HC+1ピーク面積+HC+2ピーク面積+HC+3ピーク面積
LC DAR=Σ(連結薬物数×ピーク面積百分率)/LCピーク総面積
HC DAR=Σ(連結薬物数×ピーク面積百分率)/HCピーク総面積
DAR=LC DAR+HC DAR
薬物
本開示に係る複合体の薬物部分は、任意の適切な薬物であってもよい。特に好適な薬物は、例えば、PCT公開番号WO2020063676A1(援用により全て本願に組み込まれた)に記載されている。本開示に係る化合物9A(即ち、WO2020063676 A1実施例9の化合物9-A)は、N-((2R,10S)-10-ベンジル-2-シクロプロピル-1-(((1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル)アミノ)-1,6,9,12,15-ペンタオキソ-3-オキサ-5,8,11,14-テトラアザヘキサデカン-16-イル)-6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサンアミドであり、以下の構造を有する。
【0177】
【化19】
本開示は、以下の方法により、反応パラメータを調整することで、ADCの一般式(HER3-29-9A)で示されるような抗体-薬物複合体を調製した。
【0178】
【化20】
実施例3-1 ADC-1
37℃の条件下で、抗体HER3-29のPBS緩衝水溶液(pH=6.5の0.05 MのPBS緩衝水溶液、10.0 mg/mL、11.8 mL、797 nmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の水溶液(10 mM、208.2 μL、2.082 μMol)を加え、水浴振とう機に置き、37℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液を水浴で25℃に降温した。
【0179】
化合物9A(WO2020063676を参照し、実施例9の化合物9-Aから調製して得られたもので、当該出願の全ての内容が本開示に組み込まれている)(8.6 mg、8.006 μmol)を500 μLのDMSOに溶け、上記反応液に加え、水浴振とう器に置き、25℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製し(溶離相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 MのEDTA含有)、複合体HER3-29-9Aの例示的な生成物ADC-1のPBS緩衝液(4.02 mg/mL、27.9 mL)を得て、4℃で貯蔵した。RP-HPLCにより平均値を算出した:DAR=4.19。
実施例3-2 ADC-2
【0180】
37℃の条件下で、抗体HER3-29のPBS緩衝水溶液(pH=6.5の0.05 MのPBS緩衝水溶液、10.0 mg/mL、11.8 mL、797 nmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の水溶液(10 mM、128 μL、1.281 μmol)を加え、水浴振とう機に置き、37℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液を水浴で25℃に降温した。
【0181】
化合物9A(6.88 mg、6.405 μmol)を400 μLのDMSOに溶け、上記反応液に加え、水浴振とう機に置き、25℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製し(溶離相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 MのEDTA含有)、複合体HER3-29-9Aの例示的な生成物ADC-2のPBS緩衝液(4.24 mg/mL、27.2 mL)を得て、4℃で貯蔵した。RP-HPLCにより平均値を算出した:DAR=2.91。
実施例3-3 ADC-3
【0182】
37℃の条件下で、抗体HER3-29のPBS緩衝水溶液(pH=6.5の0.05 MのPBS緩衝水溶液、10.0 mg/mL、3.1 mL、209 nmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の水溶液(10 mM、111 μL、1.111 μMol)を加え、水浴振とう機に置き、37℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液を水浴で25℃に降温した。
【0183】
化合物9A(3.37 mg、3.137 μmol)を120 μLのDMSOに溶け、上記反応液に加え、水浴振とう機に置き、25℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製し(溶離相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 MのEDTA含有)、複合体HER3-29-9Aの例示的な生成物ADC-3のPBS緩衝液(1.48 mg/mL、12.8 mL)を得て、4℃で貯蔵した。RP-HPLCにより平均値を算出した:DAR=7.27。
実施例3-4 ADC-4
【0184】
【化21】
37℃の条件下で、抗体U3のPBS緩衝水溶液(pH=6.5の0.05 MのPBS緩衝水溶液、10.0 mg/mL、3.1 mL、209 nmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の水溶液(10 mM、111 μL、1.111 μmol)を加え、水浴振とう機に置き、37℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液を水浴で25℃に降温した。
【0185】
化合物9A(3.37 mg、3.137 μmol)を120 μLのDMSOに溶け、上記反応液に加え、水浴振とう機に置き、25℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製し(溶離相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 MのEDTA含有)、複合体U3-9Aの例示的な生成物ADC-4のPBS緩衝液(1.48 mg/mL、12.8 mL)を得て、4℃で貯蔵した。RP-HPLCにより平均値を算出した:DAR=6.76。
実施例3-5 ADC-5
【0186】
【化22】
WO2015155998A1の明細書の156ページの実施例12を参照してU3-1402を陽性対照として調製した。37℃の条件下で、抗体U3のPBS緩衝水溶液(pH=6.5の0.05 MのPBS緩衝水溶液、10.0 mg/mL、3.1 mL、236 nmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の水溶液(10 mM、130 μL)を加え、水浴振とう機に置き、37℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液を水浴で25℃に降温した。
【0187】
化合物1402(3.67 mg、3.54 μmol)を180 μLのDMSOに溶け、上記反応液に加え、水浴振とう機に置き、25℃で3時間振とうしながら反応させ、反応を止めた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製し(溶離相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 MのEDTA含有)、複合体U3-1402の例示的な生成物ADC-5のPBS緩衝液(1.53 mg/mL、15.4 mL)を得て、4℃で貯蔵した。RP-HPLCにより平均値を算出した:DAR=6.97。
試験例
【0188】
試験例1:抗体の遊離HER3タンパク質との結合実験
pH7.4のPBS(源培生物、B320)緩衝液でHER3タンパク質を1 μg/mLまで希釈し、100 μL/ウェルの体積で96ウェルプレートリーダーに加え、4℃で一晩インキュベートした。液体を捨てた後、各ウェルにPBSで希釈された5%の脱脂乳(BD、232100)300 μLを加えてブロッキングし、37℃で2時間インキュベートした。ブロッキング終了後、ブロッキング液を捨て、PBST緩衝液(pH7.4のPBSに0.1%のtween-20が含まれる)でプレートを3回洗浄した後、各ウェルに勾配希釈された抗体溶液100 μLを加え、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、PBSTでプレートを3回洗浄し、各ウェルに100 μLのマウス抗ヒト(Mouse Anti-HuMan)IgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch、209-035-088、1:8000で希釈)を加え、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを3回洗浄した後、各ウェルに100 μLのTMB発色基質(KPL、5120-0077)を加え、室温で10分間~15分間インキュベートし、各ウェルに1 MのHSO 50 μLを加えて反応を止め、マイクロプレートリーダーにより450 nmでの吸収値を読み取り、ソフトフェアにより抗体と抗原の結合曲線を図1に示すようにフィッティングした。EC50値を算出し、結果は表4に示されている。
【0189】
【表4】
結論:本開示に係る抗体HER3-29は、HER3タンパク質との結合活性が対照抗体U3よりも優れている。
試験例2:抗体のHER3発現細胞との結合実験
【0190】
MCF7細胞(ATCC、HTB-22)をFACS緩衝液(2%のウシ胎児血清(Gibco、10099141)pH 7.4のPBS(Sigma、P4417-100TAB))で1×10細胞/mLの細胞懸濁液に調製し、100 μL/ウェルで96ウェル丸底プレートに加えた。上清を遠心分離して除去した後、50 μL/ウェルでFACS緩衝液で希釈された様々な濃度の検出待ち抗体を加え、4℃の冷蔵庫に置いて暗所で1時間インキュベートした。FACS緩衝液300 gで3回遠心分離して洗浄した後、作業濃度のAlexa Fluor 488ヤギ抗ヒト(Goat anti-HuMan)IgG(H+L)(invitrogen、A-11013)を加え、4℃の冷蔵庫に置いて暗所で40分間インキュベートした。FACS緩衝液300 gで3回遠心分離して洗浄した後、図2に示すように、フローサイトメーターBD FACSCantoIIにて幾何平均蛍光強度を検出した。EC50値は表5に示されている。
【0191】
【表5】
結論:本開示に係る抗体HER3-29は、HER3タンパク質を発現した細胞との結合活性が対照抗体U3よりも優れている。
試験例3:DT3C抗体のエンドサイトーシス実験
【0192】
本実験は、DT3Cタンパク質が細胞に侵入した後、活性化されたジフテリア毒素(DT)による細胞への傷害によって、HER3抗体のエンドサイトーシス状況を間接的に反映するためである。IC50及びImaxによって抗体の体外エンドサイトーシス活性を評価した。
【0193】
DT3Cは、組換え発現した融合タンパク質であり、ジフテリア毒素のFragment A(毒素部分のみ)とG群レンサ球菌の3C断片(IgG結合部分)を融合してなるものである。当該タンパク質は、抗体のFc構造と高度に親和可能で、抗体のエンドサイトーシス時に一緒に細胞に侵入する。細胞内フーリンの作用下で、毒性を有するDTが放出される。DTは、EF2-ADPリボシル化の活性を抑制し、タンパク質の翻訳プロセスを遮断し、最終的に細胞の死亡を引き起こすことができる。細胞に侵入していないDT3Cは、細胞を傷害する活性を有しない。細胞傷害状況によって抗体のエンドサイトーシス活性を評価した。
【0194】
20%のlow IgG FBSを含む新鮮な細胞培地でHER3を組換え発現したCHOK1細胞懸濁液を調製し、細胞密度が2×10細胞/mLであり、50 μL/ウェルで細胞培養プレートに加え、5%の二酸化炭素、37℃で16時間培養した。
【0195】
無血清培地で4×濃度のDT3Cを調製し、0.22 μmの小型フィルターで滅菌溶液となるようにろ過した。無血清培地で4×濃度の抗体を調製し、80 μLのDT3C(400 nM)及び80 μLの抗体(66 nM)を1:1の体積で均一に混合し、室温で静置して30分間インキュベートした。50 μLの希釈された抗体を取って50 μLの細胞に加え、インキュベーターで3日間インキュベートした。各ウェルに50 μLのCTG(CellTiter-Glo(商標)試薬、G7573)を加え、室温で暗所にて10分間インキュベートし、Victor3で化学発光を読み取り、結果は図3及び表6に示されている。
【0196】
【表6】
結論:本開示に係る抗体HER3-29は、細胞エンドサイトーシス活性が対照抗体U3よりも優れている。
試験例4:pHrodo抗体のエンドサイトーシス実験
【0197】
本実験は、染料が内在化された後の蛍光シグナルの変化によってHER3抗体のエンドサイトーシス状況を反映するためである。蛍光シグナルの強さによって抗体の体外エンドサイトーシス活性を評価した。
【0198】
pH感受性のpHrodo iFL染料にカップリング結合したFab断片は、抗体の抗原認識に影響を与えずに、HER3抗体のFc領域に直接結合可能である。pHrodo iFL染料は、中性のpH値である場合にほとんど蛍光を発光せず、HER3抗体のエンドサイトーシスと同時に、染料は内在化されることになり、pHの低下につれて、蛍光シグナルは次第に強くなる。蛍光シグナルの強化状況によって抗体のエンドサイトーシス活性を評価した。
【0199】
HER3/CHOK1細胞を、DMEM/F12+10%FBS+10 μg/mLのピューロマイシンで培養し、実験の初日に新鮮な細胞を含む培地により細胞懸濁液を調製し、密度が2×10細胞/mLであり、100μL/ウェルで96ウェル細胞培養プレートに入れ、5%の二酸化炭素、37℃で24時間培養した。
【0200】
プレートにおける細胞液から50 μL吸い出し、各ウェルに50 μLの抗体及びpHrodo染料混合液を加え、各抗体試料も2つの平行ウェルを設置した。染料単剤群とホモIgG1対照群を設置した。
【0201】
インキュベーターで24時間培養した後、培地を吸い出し、各ウェルに50 μLのパンクレアチンを加え、2分間消化させ、50 μLの新鮮な培地で消化を止めた。マルチチャンネルピペットにより同じ試料の平行ウェルの細胞を丸底プレートの同じウェルに移転した。1500 rpmで2分間遠心分離し、培養液を捨て、FACS Buffer(PBS+2.5%FBS)により細胞を1回洗浄し、1500 rpmで2分間遠心分離した。200 μLのFACS Buffer(PBS+2.5%FBS)を加え、細胞を再懸濁し、フローサイトメーターによりFITCシグナルを検出した。Flowjo 7.6によりデータを分析し、結果は図4及び表7に示されている。
【0202】
【表7】
結論:本開示に係る抗体HER3-29は、細胞エンドサイトーシス活性が対照抗体U3よりも優れている。
試験例5:ADC分子の細胞活性実験
【0203】
本実験は、ADC試料の細胞への傷害作用を検出し、IC50とImaxによってHer3-ADCの体外活性を評価するためである。
【0204】
MCF7細胞(ヒト乳がん細胞)、SW620細胞(ヒト結腸がん細胞、南京科佰、CBP60036)、WiDr細胞(ヒト大腸がん細胞)をパンクレアチンで消化し、新鮮な培地で中和し、1000 rpmで遠心分離した後に培養液で再懸濁し、カウントした後に細胞懸濁液の密度を500細胞/ウェルに調整し、96ウェル細胞培養プレートに加え、11列目に細胞を播種せずに135 μLの培地のみを加え、5%の二酸化炭素、37℃で16時間培養した。
【0205】
ADC試料をPBSで15 μM(10×濃度)に希釈した。これを初期濃度として、PBSで5倍希釈し、合計8つの濃度にした。各ウェルに15 μLの10×濃度溶液を加えた。5%の二酸化炭素、37℃で6日間培養した。
【0206】
各ウェルに70 μLのCTGを加え、室温で暗所にて10分間インキュベートし、白い底膜を細胞培養プレートの底部に貼り付け、Victor3に置いて化学発光を読み取った。本実験のデータは、データ処理ソフトフェアGraphPad prism5.0によるもので、表8に示されている。
【0207】
【表8】
結論:本開示に係るADC試料ADC-1、ADC-2、ADC-3は、細胞への傷害活性が陽性対照ADC-4とADC-5よりも優れている。
体内活性の生物学的評価
【0208】
試験例6:HER3高発現CDXモデルの体内薬効の評価
SW620細胞(5×10個/匹)をBalb/cヌードマウスの右側肋骨部の皮下に接種し、7日間後に9群に分け、8匹/群で、合計9群にした。平均群分けの体積は134.75 mmであった。ADCを腹腔内に注射し、合計で3回投与し、5日おきに1回投与した。1匹に体重で0.1 mL/10 g注射した。腫瘍の体積と体重を週2回計測し、データを記録した。平均値がavgで算出され、SD値がSTDEVで算出され、SEM値がSTDEV/SQRT(各群の動物数)で算出されるように、Excel統計ソフトウェアでデータを記録し、GraphPad Prismソフトウェアでプロットし、Two-way ANOVA又はOne-way ANOVAでデータの統計的分析を行った。
【0209】
腫瘍体積(V)の計算式:V=1/2×L×L
相対腫瘍増殖率T/C(%)=(T-T)/(C-C)100%で、そのうち、T、Cは実験終了時の治療群及び対照群の腫瘍体積であり、T、Cは実験開始時の腫瘍体積である。
【0210】
腫瘍阻害率TGI(%)=1-T/C(%)。結果は図5及び表9に示されている。
【0211】
【表9】
結論:本開示に係るADC-1、ADC-2は、担腫瘍ヌードマウスSW620移植腫瘍への治療効果が陽性対照ADC-5よりも優れている。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】