(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/62 20200101AFI20231025BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20231025BHJP
【FI】
A61K6/62
A61K6/887
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023518906
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2021076226
(87)【国際公開番号】W WO2022063911
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515304558
【氏名又は名称】デンツプライ・シロナ・インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522076181
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラレヴィー,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】アブダラ,ミラ
(72)【発明者】
【氏名】ティゲス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ノイハウス,キラ
(72)【発明者】
【氏名】レン,キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】フアイビン,リュウ
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA13
4C089BC02
4C089BC10
4C089BD01
4C089BE01
4C089CA03
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤、および共開始剤としての少なくとも1つのチオフェニウム化合物を含むラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.少なくとも1つの共開始剤化合物と
を含むラジカル開始剤系と
を含む、歯科用組成物であって、
少なくとも1つの共開始剤化合物が、チオフェニウムカチオンおよび一価アニオンからなるチオフェニウム塩であり、前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
1=C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキルであり、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有することを特徴とする、歯科用組成物。
【請求項2】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、スルホナート、置換スルホナート、水素化ホウ素、および置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、アルキルスルホナート、置換アルキルスルホナート、水素化ホウ素、および前記水素化ホウ素の少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、前記アルキルスルホナートのアルキル基の少なくとも1個の水素原子、好ましくはすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換アルキルスルホナート、および前記水素化ホウ素のすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(II):
【化2】
(式中、
R
4、R
7、R
10、R
11、R
12=水素、C
1~C
8アルキル、C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンであり、ただし、R
10、R
11、R
12の少なくとも1つ=C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
R
4およびR
7=水素またはハロゲンであり、
R
10、R
11、R
12=ハロゲンである、
ことを特徴とする、請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(III)または(IV):
【化3】
の1つを有することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記チオフェニウム塩が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記光増感剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
前記光増感剤の量対前記共開始剤の量の比率が、1:2.5~2.5:1、好ましくは1:3.5~3.5:1、より好ましくは1:5~5:1の範囲であることを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記歯科用組成物が、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前記添加剤がヨードニウム塩であることを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
前記添加剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項11に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
前記光増感剤が、1,2-ジケトン化合物、好ましくはカンファーキノンであることを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
前記ラジカル開始剤系が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項15】
前記歯科用組成物が、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まない、ラジカル開始剤系を含むことを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤、および少なくとも1つの共開始剤化合物を含むラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の修復は通常、フリーラジカル重合性樹脂を含有する光硬化性歯科用組成物を含む。歯科用組成物の光硬化は、可視光への曝露時にフリーラジカルを発生させる光開始剤系を含む。従来、任意選択で第三級芳香族アミンと組み合わされたカンファーキノン(CQ)などの光増感剤が、光開始剤系としてしばしば使用される。
【0003】
しかしながら、(メタ)アクリレート含有組成物中のアミンの存在は、結果として生じる光硬化組成物の黄変を引き起こし得る。第三級芳香族アミンの別の欠点は、それらの変色傾向および強酸性媒体に対するそれらの感受性である。さらに、第三級芳香族アミンは、酸素ラジカルと反応する。したがって、一方ではその使用が粘着性表面を回避するという有益性があるが、他方では、CQなどのそれぞれの光増感剤について化学量論的要求より多くの芳香族アミンが、開始のために必要である。歯科用組成物に共開始剤として使用するための第三級アミンは、硬化組成物から浸出し得、これは毒性学的懸念を引き起こし得る。特に、第三級芳香族アミンについての毒性学的懸念から、歯科用材料におけるCQなどの光増感剤のための新規共開始剤の開発が必要である。
【0004】
本発明の目的
したがって、先行技術を考慮すると、本発明の目的は、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することであった。
【0005】
具体的には、本発明の目的は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供することであった。
【0006】
したがって、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤を提供する方法であって、共開始剤がアミンを含まない方法が必要である。
【0007】
さらに、本発明の目的は、光増感剤と少なくとも1つの特定のアミン非含有共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供することであり、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の浸出問題および毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【発明の概要】
【0008】
これらの目的、および明記されていないが、前置きとして本明細書で論じられた関係から直ちに導出または認識することができるさらなる目的も、請求項1に記載のすべての特徴を有する歯科用組成物によって達成される。歯科用組成物の適切な変更は、従属請求項2~15で保護される。
【0009】
本発明はしたがって、
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.少なくとも1つの共開始剤化合物と
を含むラジカル開始剤系と
を含む、歯科用組成物であって、
少なくとも1つの共開始剤化合物が、チオフェニウムカチオンおよび一価アニオンからなるチオフェニウム塩であり、チオフェニウムカチオンが、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
1=C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキルであり、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、前述のC
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有することを特徴とする、歯科用組成物を提供する。
【0010】
したがって、予測不可能な方法で、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することが可能である。
【0011】
具体的には、本発明は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供する。
【0012】
それにより、本発明は、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤であって、アミンを含まない共開始剤を提供する。
【0013】
さらに、光増感剤と少なくとも1つの特定の共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物が提供され、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の浸出問題および毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【0014】
そのような特定の本発明の共開始剤を含む歯科用組成物は、芳香族アミンの浸出問題を引き起こさずに、良好な変換を含む改善された重合効率を提供する。本発明のそのような特定の本発明の共開始剤は、強酸性媒体に対して安定であり、それにより、接着剤、コンポジット、セメント、およびセルフエッチング製剤などの歯科用途に適している。本発明のそのような共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、良好な貯蔵安定性を同時に示しながら、低い変色傾向を有する。
【0015】
少なくとも1つの共開始剤は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーの重合を開始することによって作用する。本発明の共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、構成成分の放出が低減された生体適合性を提供する。
【0016】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面と併せて考慮される以下の発明を実施するための形態を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての6つの異なるチオフェニウム塩の光重合プロファイルを示す。
【
図2】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、ヨードニウムイオンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての1つの特定のチオフェニウム塩(5)(両方ともいくつかの異なる量で組み合わせた)の光重合プロファイルを示す。
【
図3】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、チオフェニウムの2つの代替物と組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての1つの特定のチオフェニウム塩(1)の光重合プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「アルキル」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-デシル、ドデシル、およびテトラデシルなどの基によって例示することができる。
【0019】
「アルコキシ基」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指し、そのようなアルコキシ基の少なくとも1個の炭素原子は、1個の酸素原子で置換されている。そのようなアルコキシ基は、前述の少なくとも1個の酸素原子によって化学化合物の炭素原子に結合している。この用語は、メトキシおよびエトキシなどの基によって例示することができる。つまり、「アルコキシ基」という用語は、本発明の文脈では、化学者が一般的な化学的知識に基づいて理解するものとして定義される。
【0020】
「アルキレン」という用語は、特に定めがない限り、1~4個の炭素原子を有する直鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、または3~4個の炭素原子を有する分岐鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、例えばメチレン、エチレン、2,2-ジメチルエチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン、およびブチレンなど、好ましくはメチレン、エチレン、またはプロピレンを指す。
【0021】
「アリール」という用語は、C6~C10員の芳香族、複素環式、縮合芳香族、縮合複素環式、二芳香族、または二複素環式の環系を指す。広く定義される「アリール」は、本明細書で使用される場合、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、およびピリミジンなどの、0~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい5、6、7、8、9および10員環の単環芳香族基を含む。環構造中にヘテロ原子を有する「アリール」基を、「ヘテロアリール」または「複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。芳香環は、1つ以上の環位置において、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ(または四級化アミノ)、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族もしくはヘテロ芳香族部分、-CF3、-CN、およびそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の置換基で置換され得る。
【0022】
「シクロアルキル」という用語は、単環式もしくは多環式シクロアルキルラジカルを指す。単環式アシクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。多環式シクロアルキルラジカルの例としては、例えば、アダマンチル、ノルボルニル、デカリニル、7,7-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、およびトリシクロ[5.2.1.02,6]デシルなどが挙げられる。
【0023】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本開示の文脈では、アクリレートならびに対応するメタクリレートを指すことが意図されている。
【0024】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は、本開示の文脈では、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを含むことが意図されている。
【0025】
「重合性モノマー」という用語は、本開示の文脈では、ラジカル重合することができる任意のモノマーを意味する。重合性モノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。少なくとも1つのエチレン性不飽和基は、ビニル、アリル、アクリル、メタクリル、およびスチリルを含む。
【0026】
「少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性モノマー」および「エチレン性不飽和モノマー」という用語は、交換可能に使用されてもよい。
【0027】
「ラジカル開始剤系」という用語は、本開示の文脈では、熱または光および/または環境レドックス条件によって活性化されるとフリーラジカルを形成し、それにより重合性モノマーの重合が開始する、増感剤および少なくとも1つの共開始剤を含む任意の系を意味する。
【0028】
「共開始剤」という用語は、本開示の文脈では、UV放射線または可視光での曝露時に本質的には吸収しないが、本開示に従って使用される増感剤とともにフリーラジカルを形成する化合物を意味する。
【0029】
「増感剤」という用語は、本開示の文脈では、曝露時に400~800nmの範囲の波長の放射線を吸収することができるが、単独、すなわち共開始剤の添加なしではフリーラジカルを形成することはできない。本開示で使用される増感剤は、本開示で使用される共開始剤と相互作用することができなければならない。
【0030】
本開示は、歯科用組成物に関する。歯科用組成物は、歯科用接着剤、歯科用コンポジット、歯科用シーラント、および歯科用セメントから選択される。
【0031】
本開示の歯科用組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーを含む。
【0032】
重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~24アルキルエステルもしくはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステル、オレフィンもしくはジエン化合物、モノエステル/ジエステル、モノエーテル、付加物、ビニルモノマー、スチリルモノマー、TPH樹脂、SDR樹脂、PBA樹脂、および/またはBPA非含有樹脂であってもよい。
【0033】
ラジカル開始剤系
本開示の歯科用組成物は、ラジカル開始剤系を含む。ラジカル開始剤系は、光開始剤を含み得る。好適な光開始剤は、2成分系または3成分系の形態であり得る。2成分系は、光増感剤、および共開始剤としてのチオフェニウム塩を含み得る。3成分系は、追加でヨードニウム、スルホニウム、またはホスホニウム塩をさらに含み得る。
【0034】
一実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、スルホナート、置換スルホナート、水素化ホウ素、および置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0035】
その好ましい実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、アルキルスルホナート、置換アルキルスルホナート、水素化ホウ素、および前述の水素化ホウ素の少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0036】
より好ましい実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、前述のアルキルスルホナートのアルキル基の少なくとも1個の水素原子、好ましくはすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換アルキルスルホナート、および前述の水素化ホウ素のすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0037】
別の好ましい実施形態では、チオフェニウムカチオンは、以下の式(II):
【化2】
(式中、
R
4、R
7、R
10、R
11、R
12=水素、C
1~C
8アルキル、前述のC
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンであり、ただし、R
10、R
11、R
12の少なくとも1つ=前述のC
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有する。
【0038】
そのより好ましい実施形態では、
R4およびR7=水素またはハロゲンであり、R10、R11、R12=ハロゲンである。
【0039】
さらに好ましい実施形態では、チオフェニウムカチオンは、以下の式(III)または(IV):
【化3】
の1つを有する。
【0040】
一実施形態では、チオフェニウム塩は、歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在する。
【0041】
結論として、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの共開始剤は、上に定義された式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物である。
【0042】
一実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、すべての含まれる共開始剤化合物は、式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物である。
【0043】
代替の実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、含まれる共開始剤化合物の各々は、式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物であり、これらの共開始剤化合物の少なくとも2つは、同じ式(I)、(II)、(III)、または(IV)に係る化合物である。
【0044】
さらなる代替の実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、すべての含まれる共開始剤は、同じ式(I)、(II)、(III)、または(IV)に係る化合物である。
【0045】
一実施形態では、光増感剤は、1,2-ジケトン化合物である。
【0046】
アルファ-ジケトン増感剤化合物は、カンファーキノン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオン(ベンジル)、1,2-シクロヘキサンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、グリオキサール、ビアセチル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、3,3,7,7-テトラメチル-1,2-シクロヘプタンジオン、3,3,8,8-テトラメチル-1,2-シクロオクタンジオン、3,3,18,18-テトラメチル-1,2-シクロオクタデカンジオン、ジピバロイル、フリル、ヒドロキシベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオン、および1-フェニル-1,2-プロパンジオンから選択され得る。
【0047】
好ましい実施形態では、光増感剤は、カンファーキノン(CQ)である。
【0048】
一実施形態では、光増感剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在する。
【0049】
一実施形態では、光増感剤の量対共開始剤の量の比率は、1:2.5~2.5:1、好ましくは1:3.5~3.5:1、より好ましくは1:5~5:1の範囲である。
【0050】
一実施形態では、ラジカル開始剤系は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在する。
【0051】
一実施形態では、歯科用組成物は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む。
【0052】
一実施形態では、歯科用組成物は、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前述の添加剤はヨードニウム塩である。
【0053】
その1つの好ましい実施形態では、添加剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在する。
【0054】
そのようなヨードニウム化合物は、以下の式(C):
R21-I+-R22A- 式(C)
(式中、
R21およびR22は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
を含み得る。
【0055】
実施形態では、ヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SEから入手可能な市販品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、および4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0056】
さらなる実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、ビス-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(SC938)、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、またはビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホナートである。
【0057】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(D):
R23R24R25S+A- 式(D)
(式中、
R23、R24、およびR25は、互いに独立しており、有機部分を表すか、またはR23、R24、およびR25のいずれか2つは、それらが結合している硫黄原子とともに環状構造を形成し、
A-は、アニオンである)
のスルホニウム化合物を含み得る。
【0058】
トリアリールスルホニウム塩は、以下:
【化4】
のS-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートであり得る。
【0059】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(E):
R26R27R28R29P+A- 式(E)
(式中、
R26、R27、R28、およびR29は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
のホスホニウム化合物を含み得る。
【0060】
式(E)のホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩、またはテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり得、テトラアルキルホスホニウム塩のアニオンは、ギ酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物からなる群から選択される。
【0061】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるための他の好適な光開始剤としては、典型的には約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドのクラスが挙げられ得る。約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するさらなる好適なホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドである。
【0062】
本発明はしたがって、改良された開始剤系を含む本発明の歯科用組成物を提供する問題に取り組む。
【0063】
以下の非限定的な例は、本発明の実施形態を例示し、発明の理解を容易にするために提供されるが、本明細書に添付された特許請求の範囲により定義される発明の範囲を限定することを意図していない。
【0064】
以下の異なるチオフェニウム塩が、本発明の実験および比較実験に使用された:
【化5】
【0065】
実施例1:Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた、共開始剤として上に示された全6つの異なるチオフェニウム塩の系統的検討
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図1に示す):
(1)CQ/チオフェニウム1(1.5/1%w/w)
(2)CQ/チオフェニウム2(1.5/1%w/w)
(3)CQ/チオフェニウム3(1.5/1%w/w)
(4)CQ/チオフェニウム4(1.5/1%w/w)
(5)CQ/チオフェニウム5(1.5/1%w/w)
(6)CQ/チオフェニウム6(1.5/1%w/w)、および
(7)CQ/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDB)(1.5/1%w/w)。
照射(LED@477nm)は、t=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0066】
ここに、請求項1に記載の式(I)の化学化合物がEDBの代わりに選択される場合にのみ、発明の効果が達成されることが明確に実証され、CQとEDBなどの第三級アミンとの周知の確立された先行技術の系と少なくとも同様の光重合変換を有することを意味する。
【0067】
良好な結果が、チオフェニウム1、3、および5の本発明の例で達成されているが、その一方で、比較例が、チオフェニウム2、4、および6を使用することによって生成された。これにより、チオフェニウム1、3、および5は、第三級アミンをある特定のチオフェニウム化合物に置き換えるための有望な手法を提供することが証明された。しかしながら、示されるように、この場合でも、出願人は、どのチオフェニウム化合物(塩)がこの用途に適していて、どれが適していないかを検討するために、考えられる候補を注意深く研究した。
【0068】
実施例2:Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、ヨードニウム化合物(SC938)と組み合わせたCQと比較した、異なる量のCQと組み合わせた異なる量の共開始剤としてのチオフェニウム塩5(上に示す)の系統的検討
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図2に示す):
(1)CQ/チオフェニウム5(1.5/1.5%w/w)
(2)CQ/チオフェニウム5(1.5/1%w/w)
(3)CQ/チオフェニウム5(1.5/0.5%w/w)
(4)CQ/チオフェニウム5(1/1.5%w/w)
(5)CQ/チオフェニウム5(1/0.5%w/w)、および
(6)CQ/SC938(1/0.5%w/w)。
照射(LED@477nm)は、再びt=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0069】
ここに、CQと、請求項のセットに係る選択的チオフェニウム化合物、この実施例ではチオフェニウム5との組み合わせに基づく本発明の開始剤系は、CQとヨードニウム化合物との周知の確立された先行技術の系に基づく開始剤系と比較して、優れた光重合変換結果を提供することが明確に実証される。
【0070】
さらに、CQおよびそれぞれのチオフェニウム5の使用量の特定の異なる比率が検討されている。
図2から容易に導くことができるように、すべての光重合結果は、厳密な比率に応じて、結果が互いの間で多少異なるものの、有望である。
【0071】
実施例2で適用されたすべての開始剤系は、良好な溶解性を示した。多すぎる量の開始剤は、しばしば、深刻な溶解性の問題のため、その可能な用途を限定する。
【0072】
その後、これらの開始剤系を使用して、硬化後に(CQのような未反応の光開始剤によって引き起こされる)黄色の接着剤層をもたらさず、同時に、重合効率の著しい低下をもたらさない、透明な歯科用接着剤を提供することに成功した。
【0073】
本発明の開始剤系は、したがって、表1に示すように、青色歯科用LEDの照射時に優れた漂白特性も示す。
【0074】
【0075】
重合前後の試料の写真を撮影した。これらの写真に基づいて、照射後の各試料のL、a、およびb値を測定した。それぞれの重合は、大気下、SmartLite Focus 300mW/cm2で、モノマーPrime&Bond Activeにおいて実行し、照射は、t=5秒で開始し、t=120秒まで行い、厚さ=13μmであった。
【0076】
実施例3.第三級アミン(DMABN)と組み合わせたCQと比較した、異なる量のCQと組み合わせて共開始剤として異なるチオフェニウム塩を使用する、異なる歯科用接着剤組成物の調製および分析
すべての構成成分を、褐色ガラスフラスコに秤量し、室温で24時間撹拌した。溶液を、0.45μlのPTFEフィルタで濾過した。
【0077】
各実施例のせん断接着強さ(SBS)を、ISO 29022に準じて、試料サイズを15の代わりに7を用いて測定した。以下の表2は、実験3a~3iの結果を示し、すべての実験は、比較例である実施例3bおよび3fを除いて本発明の例である。
【0078】
【0079】
実施例4.Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた、共開始剤としてのチオフェニウム1の代替物の系統的検討
以下の2つの代替物が、共開始剤としてのチオフェニウム塩との比較のために研究されている。
【化6】
【0080】
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図3に示す):
(1)CQ/チオフェニウム1(1.5/1%w/w)
(2)CQ/チアントレニウム(1.5/1%w/w)
(3)CQ/スルホニウム(1.5/1%w/w)、および
(4)CQ/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDB)(1.5/1%w/w)。
照射(LED@477nm)は、t=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0081】
【0082】
重合前後の試料の写真を撮影した。これらの写真に基づいて、照射後の各試料のL、a、およびb値を測定した。それぞれの重合は、大気下、SmartLite Focus 300mW/cm2で、モノマーPrime&Bond Activeにおいて実行し、照射は、t=5秒で開始し、t=120秒まで行い、厚さ=13μmであった。
【0083】
光重合変換結果の比較からわかるように、特許請求されるチオフェニウム化合物の計画された代替物、すなわちチアントレニウム塩またはスルホニウム塩は、その後に決定されたそれらの光学値が、透明な歯科用接着剤を提供するのに十分に良好であるものの、十分な光重合実験の変換率を提供していない。
【0084】
したがって、これらの化学的に非常に類似した化合物でさえ、特許請求される選択されたチオフェニウム化合物と同じ良好な性能を提供することができない。
【0085】
これは、厳密なチオフェニウム化合物自体の選択も、この種の化合物の化学的性質の選択も、本発明の技術的教示に到達するのに無関係ではないことを証明する。
【0086】
発明の原理を特定の実施形態に関連して説明してきたが、明細書を読めばその様々な修正が当業者には明らかになることを理解すべきである。したがって、本明細書に開示された発明は、添付の特許請求の範囲内にあるそのような修正を含めるように意図されていることを理解すべきである。発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤、および少なくとも1つの共開始剤化合物を含むラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の修復は通常、フリーラジカル重合性樹脂を含有する光硬化性歯科用組成物を含む。歯科用組成物の光硬化は、可視光への曝露時にフリーラジカルを発生させる光開始剤系を含む。従来、任意選択で第三級芳香族アミンと組み合わされたカンファーキノン(CQ)などの光増感剤が、光開始剤系としてしばしば使用される。
【0003】
しかしながら、(メタ)アクリレート含有組成物中のアミンの存在は、結果として生じる光硬化組成物の黄変を引き起こし得る。第三級芳香族アミンの別の欠点は、それらの変色傾向および強酸性媒体に対するそれらの感受性である。さらに、第三級芳香族アミンは、酸素ラジカルと反応する。したがって、一方ではその使用が粘着性表面を回避するという有益性があるが、他方では、CQなどのそれぞれの光増感剤での化学量論的要求より多くの芳香族アミンが、開始に必要である。歯科用組成物に共開始剤として使用するための第三級芳香族アミンは、硬化組成物から浸出し得、これは毒性学的懸念を引き起こし得る。特に、第三級芳香族アミンについての毒性学的懸念は、歯科用材料におけるCQなどの光増感剤のための新規共開始剤の開発を必要とする。
【0004】
先行技術文献D1、EP 3470048 A1は、光開始剤化合物と特定のスルフィナートまたはスルホナート共開始剤との組み合わせを含有する特定の重合開始剤系を含む、光硬化性歯科用組成物を開示する。本発明はまた、光硬化性歯科用組成物における重合開始剤系の使用にも関する。本発明の特定の重合開始剤系は、酸性媒体中で高い安定性を有する。
【0005】
先行技術文献D2、US 2011/300484 A1は、新規スルホニウム塩、前述の化合物を含む化学増幅型フォトレジスト組成物、ならびに化学電磁放射線および電子ビームの照射により活性化することができる潜在性酸としての化合物の使用を開示する。
【0006】
先行技術文献D3、ZHANG BIANXIANGら、‘Synthesis and characterization of triarylsulfonium salts as novel cationic pho-toinitiators for UV-photo polymerization’は、アリール化試薬としてのジアリールヨードニウム塩および触媒としての銅の使用を開示し、ベンゾイル部分またはベンゾ複素環部分を有する一連のトリアリールスルホニウム塩を合成し、1H NMR、13C NMR、および高分解能質量分析によって特徴付けた。活性化モノマーとしてヘキサン-1,6-ジイルジアクリレート(HDDA)を含むエポキシアクリレート樹脂(UV6104)の光重合に及ぼす、トリアリールスルホニウム塩の光開始挙動を検討した。結果は、これらのトリアリールスルホニウム塩が、UV硬化プロセスにおけるカチオン性光開始剤として利用され得ることを示した。光重合開始機構が提唱されている。
【0007】
本発明の目的
先行技術を考慮すると、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することが、したがって本発明の目的であった。
【0008】
具体的には、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供することが、本発明の目的であった。
【0009】
したがって、必要なものは、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤を提供する方法であって、共開始剤がアミンを含まない方法である。
【0010】
さらに、光増感剤と少なくとも1つの特定のアミン非含有共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供することが、本発明の目的であり、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、浸出問題および一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【発明の概要】
【0011】
これらの目的、および明記されていないが、前置きとして本明細書で論じられた関係から直ちに導出または認識することができるさらなる目的も、請求項1に記載のすべての特徴を有する歯科用組成物によって達成される。歯科用組成物の適切な変更は、従属請求項2~15で保護される。
【0012】
本発明はしたがって、
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.少なくとも1つの共開始剤化合物と
を含むラジカル開始剤系と
を含む、歯科用組成物であって、
少なくとも1つの共開始剤化合物が、チオフェニウムカチオンおよび一価アニオンからなるチオフェニウム塩であり、チオフェニウムカチオンが、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
1=水素、C
1~C
8アルキル、または前述のC
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキルであり、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、前述のC
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有することを特徴とする、歯科用組成物を提供する。
【0013】
したがって、予測不可能な方法で、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することが可能である。
【0014】
具体的には、本発明は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供する。
【0015】
それにより、本発明は、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤であって、アミンを含まない共開始剤を提供する。
【0016】
さらに、光増感剤と少なくとも1つの特定の共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物が提供され、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、浸出問題および一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【0017】
そのような特定の本発明の共開始剤を含む歯科用組成物は、芳香族アミンの浸出問題を引き起こさずに、良好な変換を含む改善された重合効率を提供する。本発明のそのような特定の本発明の共開始剤は、強酸性媒体に安定であり、それにより、接着剤、コンポジット、セメント、およびセルフエッチング製剤などの歯科用途に適している。本発明のそのような共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、良好な貯蔵安定性を同時に示しながら、低い変色傾向を有する。
【0018】
少なくとも1つの共開始剤は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーの重合を開始することによって作用する。本発明の共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、構成成分の放出が低減された生体適合性を提供する。
【0019】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面と併せて考慮される以下の発明を実施するための形態を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての6つの異なるチオフェニウム塩の光重合プロファイルを示す。
【
図2】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、ヨードニウムイオンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての1つの特定のチオフェニウム塩(5)(両方ともいくつかの異なる量で組み合わせた)の光重合プロファイルを示す。
【
図3】Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合について、チオフェニウムの2つの代替物と組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた共開始剤としての1つの特定のチオフェニウム塩(1)の光重合プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「アルキル」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-デシル、ドデシル、およびテトラデシルなどの基によって例示することができる。
【0022】
「アルコキシ基」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指し、そのようなアルコキシ基の少なくとも1個の炭素原子は、1個の酸素原子で置換されている。そのようなアルコキシ基は、前述の少なくとも1個の酸素原子によって化合物の炭素原子に結合している。この用語は、メトキシおよびエトキシなどの基によって例示することができる。つまり、「アルコキシ基」という用語は、本発明の文脈では、化学者が一般的な化学的知識に基づいて理解するものとして定義される。
【0023】
「アルキレン」という用語は、特に定めがない限り、1~4個の炭素原子を有する直鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、または3~4個の炭素原子を有する分岐鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、例えばメチレン、エチレン、2,2-ジメチルエチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン、およびブチレンなど、好ましくはメチレン、エチレン、またはプロピレンを指す。
【0024】
「アリール」という用語は、C6~C10員環の芳香族、複素環式、縮合芳香族、縮合複素環式、二芳香族、または二複素環式の環系を指す。広く定義される「アリール」は、本明細書で使用される場合、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、およびピリミジンなどの、0~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい5、6、7、8、9および10員環の単環芳香族基を含む。環構造中にヘテロ原子を有する「アリール」基を、「ヘテロアリール」または「複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。芳香環は、1つ以上の環位置において、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ(または四級化アミノ)、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホン酸、リン酸、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族もしくはヘテロ芳香族部分、--CF3、--CN、およびそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の置換基で置換され得る。
【0025】
「シクロアルキル」という用語は、単環式もしくは多環式シクロアルキルラジカルを指す。単環式アシクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。多環式シクロアルキルラジカルの例としては、例えば、アダマンチル、ノルボルニル、デカリニル、7,7-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、およびトリシクロ[5.2.1.02,6]デシルなどが挙げられる。
【0026】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本開示の文脈では、アクリレートおよび対応するメタクリレートを指すことが意図されている。
【0027】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は、本開示の文脈では、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを含むことが意図されている。
【0028】
「重合性モノマー」という用語は、本開示の文脈では、ラジカル重合することができる任意のモノマーを意味する。重合性モノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。少なくとも1つのエチレン性不飽和基は、ビニル、アリル、アクリル、メタクリル、およびスチリルを含む。
【0029】
「少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性モノマー」および「エチレン性不飽和モノマー」という用語は、交換可能に使用されてもよい。
【0030】
「ラジカル開始剤系」という用語は、本開示の文脈では、熱または光および/または環境レドックス条件によって活性化されるとフリーラジカルを形成し、それにより重合性モノマーの重合が開始する、増感剤および少なくとも1つの共開始剤を含む任意の系を意味する。
【0031】
「共開始剤」という用語は、本開示の文脈では、UV放射線または可視光での曝露時に本質的には吸収しないが、本開示に従って使用される増感剤とともにフリーラジカルを形成する化合物を意味する。
【0032】
「増感剤」という用語は、本開示の文脈では、曝露時に400~800nmの範囲の波長の放射線を吸収することができるが、単独、すなわち共開始剤の添加なしではフリーラジカルを形成することはできない。本開示で使用される増感剤は、本開示で使用される共開始剤と相互作用することができなければならない。
【0033】
本開示は、歯科用組成物に関する。歯科用組成物は、歯科用接着剤、歯科用コンポジット、歯科用シーラント、および歯科用セメントから選択される。
【0034】
本開示の歯科用組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーを含む。
【0035】
重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~24アルキルエステルもしくはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステル、オレフィンもしくはジエン化合物、モノエステル/ジエステル、モノエーテル、付加物、ビニルモノマー、スチリルモノマー、TPH樹脂、SDR樹脂、PBA樹脂、および/またはBPA非含有樹脂であってもよい。
【0036】
ラジカル開始剤系
本開示の歯科用組成物は、ラジカル開始剤系を含む。ラジカル開始剤系は、光開始剤を含み得る。好適な光開始剤は、2成分系または3成分系の形態であり得る。2成分系は、光増感剤、および共開始剤としてのチオフェニウム塩を含み得る。3成分系は、追加でヨードニウム、スルホニウム、またはホスホニウム塩をさらに含み得る。
【0037】
一実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、スルホン酸、置換スルホン酸、水素化ホウ素、および置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0038】
その好ましい実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、アルキルスルホン酸、置換アルキルスルホン酸、水素化ホウ素、および前述の水素化ホウ素の少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0039】
より好ましい実施形態では、チオフェニウム塩の一価アニオンは、前述のアルキルスルホン酸のアルキル基の少なくとも1個の水素原子、好ましくはすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換アルキルスルホン酸、および前述の水素化ホウ素のすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択される。
【0040】
別の好ましい実施形態では、チオフェニウムカチオンは、以下の式(II):
【化2】
(式中、
R
4、R
7、R
10、R
11、R
12=水素またはハロゲンであり、ただし、R
10、R
11、R
12の少なくとも1つ=ハロゲンであり、好ましくは
R
4およびR
7=水素またはハロゲンであり、R
10、R
11、R
12=ハロゲンである)
を有する。
【0041】
さらに好ましい実施形態では、チオフェニウムカチオンは、以下の式(III)または(IV):
【化3】
の1つを有する。
【0042】
一実施形態では、チオフェニウム塩は、歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在する。
【0043】
結論として、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの共開始剤は、上に定義された式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物である。
【0044】
一実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、すべての含まれる共開始剤化合物は、式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物である。
【0045】
代替の実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、含まれる共開始剤化合物の各々は、式(I)、(II)、(III)、または(IV)の1つに係る化合物であり、これらの共開始剤化合物の少なくとも2つは、同じ式(I)、(II)、(III)、または(IV)に係る化合物である。
【0046】
さらなる代替の実施形態では、2つ以上の共開始剤化合物が、本発明のラジカル開始剤系によって含まれ、すべての含まれる共開始剤は、同じ式(I)、(II)、(III)、または(IV)に係る化合物である。
【0047】
一実施形態では、光増感剤は、1,2-ジケトン化合物である。
【0048】
アルファ-ジケトン増感剤化合物は、カンファーキノン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオン(ベンジル)、1,2-シクロヘキサンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、グリオキサール、ビアセチル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、3,3,7,7-テトラメチル-1,2-シクロヘプタンジオン、3,3,8,8-テトラメチル-1,2-シクロオクタンジオン、3,3,18,18-テトラメチル-1,2-シクロオクタデカンジオン、ジピバロイル、フリル、ヒドロキシベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオン、および1-フェニル-1,2-プロパンジオンから選択され得る。
【0049】
好ましい実施形態では、光増感剤は、カンファーキノン(CQ)である。
【0050】
一実施形態では、光増感剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在する。
【0051】
一実施形態では、光増感剤の量対共開始剤の量の比率は、1:2.5~2.5:1、好ましくは1:3.5~3.5:1、より好ましくは1:5~5:1の範囲である。
【0052】
一実施形態では、ラジカル開始剤系は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在する。
【0053】
一実施形態では、歯科用組成物は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む。
【0054】
一実施形態では、歯科用組成物は、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前述の添加剤はヨードニウム塩である。
【0055】
その1つの好ましい実施形態では、添加剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在する。
【0056】
そのようなヨードニウム化合物は、以下の式(C):
R21-I+-R22A- 式(C)
(式中、
R21およびR22は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
を含み得る。
【0057】
実施形態では、ヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SEから入手可能な市販品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、および4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0058】
さらなる実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、ビス-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(SC938)、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、またはビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホネートである。
【0059】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(D):
R23R24R25S+A- 式(D)
(式中、
R23、R24、およびR25は、互いに独立しており、有機部分を表すか、またはR23、R24、およびR25のいずれか2つは、それらが結合している硫黄原子とともに環状構造を形成し、
A-は、アニオンである)
のスルホニウム化合物を含み得る。
【0060】
トリアリールスルホニウム塩は、以下:
【化4】
のS-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートであり得る。
【0061】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(E):
R26R27R28R29P+A- 式(E)
(式中、
R26、R27、R28、およびR29は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
のホスホニウム化合物を含み得る。
【0062】
式(E)のホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩、またはテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり得、テトラアルキルホスホニウム塩のアニオンは、ギ酸、酢酸、リン酸、硫酸、フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物からなる群から選択される。
【0063】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるための他の好適な光開始剤としては、典型的には約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドのクラスが挙げられ得る。約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するさらなる好適なホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドである。
【0064】
本発明はしたがって、改良された開始剤系を含む本発明の歯科用組成物を提供する問題に取り組む。
【0065】
以下の非限定的な例は、本発明の実施形態を例示し、発明の理解を容易にするために提供されるが、本明細書に添付された特許請求の範囲により定義される発明の範囲を限定することを意図していない。
【0066】
以下の異なるチオフェニウム塩が、本発明の実験および比較実験に使用された:
【化5】
【0067】
実施例1:Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた、共開始剤として上に示された全6つの異なるチオフェニウム塩の系統的検討
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図1に示す):
(1)CQ/チオフェニウム1(1.5/1%w/w)
(2)CQ/チオフェニウム2(1.5/1%w/w)
(3)CQ/チオフェニウム3(1.5/1%w/w)
(4)CQ/チオフェニウム4(1.5/1%w/w)
(5)CQ/チオフェニウム5(1.5/1%w/w)
(6)CQ/チオフェニウム6(1.5/1%w/w)、および
(7)CQ/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDB)(1.5/1%w/w)。
照射(LED@477nm)は、t=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0068】
ここに、請求項1に記載の式(I)の化合物がEDBの代わりに選択される場合にのみ、CQとEDBなどの第三級アミンとの周知の確立された先行技術の系と少なくとも同様の光重合変換を有することを意味する、発明の効果が達成されることが明確に実証される。
【0069】
良好な結果が、チオフェニウム1、3、および5の本発明の例で達成され、その一方で、比較例が、チオフェニウム2、4、および6を使用することによって生成された。チオフェニウム1、3、および5は、第三級アミンをある特定のチオフェニウム化合物に置き換えるための有望な手法を提供することが証明された。しかしながら、示されるように、この場合でも、出願人は、どのチオフェニウム化合物(塩)がこの用途に適していて、どれが適していないかを検討するために、考えられる候補を注意深く研究した。
【0070】
実施例2:Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、ヨードニウム化合物(SC938)と組み合わせたCQと比較した、異なる量のCQと組み合わせた異なる量の共開始剤としてのチオフェニウム塩5(上に示す)の系統的検討
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図2に示す):
(1)CQ/チオフェニウム5(1.5/1.5%w/w)
(2)CQ/チオフェニウム5(1.5/1%w/w)
(3)CQ/チオフェニウム5(1.5/0.5%w/w)
(4)CQ/チオフェニウム5(1/1.5%w/w)
(5)CQ/チオフェニウム5(1/0.5%w/w)、および
(6)CQ/SC938(1/0.5%w/w)。
照射(LED@477nm)は、再びt=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0071】
ここに、CQと、請求項のセットに係る選択的チオフェニウム化合物、この実施例ではチオフェニウム5との組み合わせに基づく本発明の開始剤系は、CQとヨードニウム化合物との周知の確立された先行技術の系に基づく開始剤系と比較して、優れた光重合変換結果を提供することが明確に実証される。
【0072】
さらに、CQおよびそれぞれのチオフェニウム5の使用量の特定の異なる比率が検討された。
図2から容易に導くことができるように、すべての光重合結果は、厳密な比率に依存して、結果が互いの間で多少異なる場合でさえ、有望である。
【0073】
実施例2で適用されたすべての開始剤系は、良好な溶解性を示した。多すぎる量の開始剤は、しばしば、深刻な溶解性の問題のため、その可能な用途を限定する。
【0074】
その後、これらの開始剤系を使用して、硬化後に(CQのような未反応の光開始剤によって引き起こされる)黄色の接着剤層をもたらさず、同時に、光重合効率の著しい低下をもたらさない、透明な歯科用接着剤を提供することに成功した。
【0075】
本発明の開始剤系は、したがって、表1に示すように、青色歯科用LEDでの照射時に優れた漂白特性も示す。
【0076】
【0077】
重合前後の試料の写真を取得した。これらの写真に基づいて、照射後の各試料のL、a、およびb値を測定した。それぞれの重合は、大気下、SmartLite Focus 300mW/cm2で、モノマーPrime&Bond Activeにおいて実行し、照射は、t=5秒で開始し、t=120秒まで行い、厚さ=13μmであった。
【0078】
実施例3.第三級アミン(DMABN)と組み合わせたCQと比較した、異なる量のCQと組み合わせて共開始剤として異なるチオフェニウム塩を使用する、異なる歯科用接着剤組成物の調製および分析
すべての化合物を、褐色ガラスフラスコに秤量し、室温で24時間撹拌した。溶液を、0.45μlのPTFEフィルタで濾過した。
【0079】
各実施例のせん断接着強さ(SBS)を、ISO 29022に準じて、試料サイズを15の代わりに7を用いて測定した。以下の表2は、実験3a~3iの結果を示し、すべての実験は、比較例である実施例3bおよび3fを除いて本発明の例である。
【0080】
【0081】
実施例4.Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合についての、第三級アミンと組み合わせたCQと比較した、CQと組み合わせた、共開始剤としてのチオフェニウム1の代替物の系統的検討
以下の2つの代替物が、共開始剤としてのチオフェニウム塩との比較のために研究された。
【化6】
【0082】
光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)の存在下(大気下、厚さ=13μm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図3に示す):
(1)CQ/チオフェニウム1(1.5/1%w/w)
(2)CQ/チアントレニウム(1.5/1%w/w)
(3)CQ/スルホニウム(1.5/1%w/w)、および
(4)CQ/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDB)(1.5/1%w/w)。
照射(LED@477nm)は、t=8秒で開始する(
図1に示す)。
【0083】
【0084】
重合前後の試料の写真を取得した。これらの写真に基づいて、照射後の各試料のL、a、およびb値を測定した。それぞれの重合は、大気下、SmartLite Focus 300mW/cm2で、モノマーPrime&Bond Activeにおいて実行し、照射は、t=5秒で開始し、t=120秒まで行い、厚さ=13μmであった。
【0085】
光重合変換結果の比較からわかるように、特許請求されるチオフェニウム化合物の計画された代替物、すなわちチアントレニウム塩またはスルホニウム塩は、その後に決定されたそれらの光学値が、透明な歯科用接着剤を提供するのに十分に良好である場合でさえ、十分な光重合実験の変換率を提供していない。
【0086】
したがって、これらの化学的に非常に類似した化合物でさえ、特許請求される選択されたチオフェニウム化合物と同じ良好な性能を提供することができない。
【0087】
これは、厳密なチオフェニウム化合物自体の選択も、この種の化合物の化学的性質の選択も、本発明の技術的教示に到達するのに無関係ではないことを証明する。
【0088】
発明の原理が特定の実施形態に関連して説明されたが、明細書を読めばその様々な修正が当業者には明らかになることを理解すべきである。したがって、本明細書に開示された発明は、添付の特許請求の範囲内にあるそのような修正を含めるように意図されていることを理解すべきである。発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.少なくとも1つの共開始剤化合物と
を含むラジカル開始剤系と
を含む、歯科用組成物であって、
前記少なくとも1つの共開始剤化合物が、チオフェニウムカチオンおよび一価アニオンからなるチオフェニウム塩であり、前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
1=水素、C
1~C
8アルキル、または前記C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキルであり、
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、前記C
1~C
8アルキルの少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたC
1~C
8アルキル、またはハロゲンである)
を有することを特徴とする、歯科用組成物。
【請求項2】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、スルホン酸、置換スルホン酸、水素化ホウ素、および置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、アルキルスルホン酸、置換アルキルスルホン酸、水素化ホウ素、および前記水素化ホウ素の少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記チオフェニウム塩の前記一価アニオンが、前記アルキルスルホン酸のアルキル基の少なくとも1個の水素原子、好ましくはすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換アルキルスルホン酸、および前記水素化ホウ素のすべての水素原子がハロゲン原子で置換された置換水素化ホウ素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(II):
【化2】
(式中、
R
4、R
7、R
10、R
11、R
12=水素またはハロゲンであり、ただし、R
10、R
11、R
12の少なくとも1つ=ハロゲンであり、好ましくは、
R
4およびR
7=水素またはハロゲンであり、
R
10、R
11、R
12=ハロゲンである)
を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記チオフェニウムカチオンが、以下の式(III)または(IV):
【化3】
の1つを有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記チオフェニウム塩が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記光増感剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの量、好ましくは0.15~2.5重量パーセントの量、より好ましくは0.2~2重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記光増感剤の量対前記共開始剤の量の比率が、1:2.5~2.5:1、好ましくは1:3.5~3.5:1、より好ましくは1:5~5:1の範囲であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
前記歯科用組成物が、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前記添加剤はヨードニウム塩であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記添加剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項11に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
前記光増感剤が、1,2-ジケトン化合物、好ましくはカンファーキノンであることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
前記ラジカル開始剤系が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
前記歯科用組成物が、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まない、ラジカル開始剤系を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【国際調査報告】