(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】風車動力伝達システム
(51)【国際特許分類】
F03D 15/00 20160101AFI20231025BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
F03D15/00
F16H1/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521289
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 DK2021050245
(87)【国際公開番号】W WO2022073571
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514130633
【氏名又は名称】ヴェスタス ウィンド システムズ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【氏名又は名称】松井 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100182257
【氏名又は名称】川内 英主
(74)【代理人】
【識別番号】100202119
【氏名又は名称】岩附 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
3H178
3J027
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB62
3H178BB71
3H178DD04X
3J027FA36
3J027FB40
3J027GD03
3J027GD09
3J027GD12
(57)【要約】
本発明は、タワー(12)の頂部に設けられたナセル(8)と、ハブ(6)及び複数の翼(4)を含むローターと、主軸線を中心にローターによって駆動されるように構成され、ナセル(8)に支持された主軸(16)と、発電機ローター及び発電機ステーターを有する発電機(28)と、前記ローターと前記発電機ローターとの間で回転速度を増加させるように配置された歯車装置(25)と、を備える風車(2)に関する。歯車装置(25)は、固定されたリングギヤ(50)と、案内溝穴の中に担持されて外側端部がリングギヤ(50)に係合可能な複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)を有し、主軸(16)に連結され又は主軸(16)によって駆動される入力部材(53)と、複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)の内側端部に作用して駆動される外側偏心プロファイルを有し、入力部材(53)内に設けられた中央出力部材(55)と、を備え、それによって、入力部材(53)の回転運動は、リングギヤ(50)との係合によって複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)を駆動し、中央出力部材(55)を回転させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワー(12)の頂部に設けられたナセル(8)と、
ハブ(6)及び複数の翼(4)を含むローターと、
主軸線を中心に前記ローターによって駆動されるように構成され、前記ナセル(8)に支持された主軸(16)と、
発電機ローター及び発電機ステーターを有する発電機(28)と、
前記ローターと前記発電機ローターとの間で回転速度を増加させるように配置された歯車装置(25)と、
を備え、
前記歯車装置(25)は、
固定されたリングギヤ(50)と、
案内溝穴の中に担持されて外側端部が前記リングギヤ(50)に係合可能な複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)を有し、前記主軸(16)に連結され又は前記主軸(16)によって駆動される入力部材(53)と、
前記複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)の内側端部に作用して駆動される外側偏心プロファイルを有し、前記入力部材(53)内に設けられた中央出力部材(55)と、
を備え、
それによって、前記入力部材(53)の回転運動は、前記リングギヤ(50)との係合によって前記複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)を駆動し、前記中央出力部材(55)を回転させる、風車(2)。
【請求項2】
前記入力部材は、環状の入力部材である、請求項1に記載の風車。
【請求項3】
前記複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)のそれぞれは、可撓性接続部、好ましくは円筒形継手のような接続部を介してティルティングパッド(54)に接続されており、前記ティルティングパッド(54)は、前記出力部材(55)に沿って摺動できるように適合されている、請求項1又は2に記載の風車。
【請求項4】
前記出力部材(55)は、断面がほぼ円形で、少なくとも1つの偏心距離、好ましくは少なくとも2つの偏心距離を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の風車。
【請求項5】
前記出力部材(55)は、1つの平行軸歯車段のような少なくとも1つの更なる歯車段に結合されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の風車。
【請求項6】
前記歯車装置は、無負荷の歯面と前記リングギヤの後方歯面との間にバックラッシュがある、請求項1から5のいずれか一項に記載の風車。
【請求項7】
前記歯車装置(25)は、i=10からi=150の、好ましくはi=20からi=75の増速伝達比を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の風車。
【請求項8】
前記歯車装置(25)は、前記複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)の数が10から200、好ましくは40から100である、請求項1から7のいずれか一項に記載の風車。
【請求項9】
前記歯車装置(25)は、少なくとも二列の前記複数の半径方向に移動可能な歯部分を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の風車。
【請求項10】
前記歯車装置(25)は、少なくとも一列の前記複数の半径方向に移動可能な歯部分を有し、一列あたりの前記複数の半径方向に移動可能な歯部分の数は、12から60である、請求項1から9のいずれか一項に記載の風車。
【請求項11】
前記リングギヤの直径は、1000mmから3500mm、好ましくは1500mmから2500mmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の風車。
【請求項12】
前記複数の半径方向に移動可能な歯部分(52、63)は、直径が10cmから20cm、長さが20cmから50cmの円筒形である、請求項1から11のいずれか一項に記載の風車。
【請求項13】
前記歯部分の歯面の外側歯面輪郭(61、62)及び/又は前記リングギヤ(50)の内歯(72)の歯部(13)の歯面輪郭(64、65)は、歯車機構軸線(M)に関して、係合領域で面接触を可能にする歯部輪郭を有しており、前記面接触は、対数螺旋としての設計によって達成される、請求項1から12のいずれか一項に記載の風車。
【請求項14】
歯車機構軸線(M)の選択された半径にかかわらず、前記歯部分(52、63)の歯面領域の外側歯面輪郭(61、62)及び前記リングギヤのかみ合い機構部の内歯かみ合い機構部の歯面輪郭は、ピッチ角(α)を有する常用対数螺旋(Ln)に対応する、請求項1から13のいずれか一項に記載の風車。
【請求項15】
ピッチ角(α)は、15°から75°、例えば20°から40°である、請求項1から14のいずれか一項に記載の風車。
【請求項16】
前記リングギヤ(50)に対する前記歯部分(52、63)、前記入力部材(53)に対する前記歯部分(52、63)、及び前記出力部材(55)に対するティルティングパッド(54)のうちの少なくとも1つの接触面にコーティングが使用されている、請求項1から15のいずれか一項に記載の風車。
【請求項17】
前記風車(2)は、少なくとも2MW、例えば、少なくとも4MWの公称出力を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の風車。
【請求項18】
前記主軸線を中心に回転できるように前記主軸(16)を支持するとともに他の動きを制限する少なくとも1つの軸受(18、20)を含む支持構造体を更に備え、
前記歯車装置は、前記支持構造体に強固に結合された増速機ハウジングを有する、請求項1から17のいずれか一項に記載の風車。
【請求項19】
前記支持構造体は、前記少なくとも1つの軸受(18、20)を囲む軸受ハウジング(22)を更に含み、前記増速機ハウジングは、前記軸受ハウジング(22)から吊り下げられている、請求項18に記載の風車。
【請求項20】
前記少なくとも1つの軸受は、前記軸受ハウジング(22)内で間隔を空けて配置された第1の軸受(18)と第2の軸受(20)を含む、請求項19に記載の風車。
【請求項21】
前記リングギヤ(50)は、前記軸受ハウジング(22)と一体化されているか又は強固に結合されており、前記入力部材(53)は、前記主軸(16)と一体化されているか又は強固に結合されている、請求項19又は20に記載の風車。
【請求項22】
前記リングギヤ(50)が前記主軸(16)の回転軸線に沿って前記第1の軸受(18)と前記第2の軸受(20)との間に位置するように、前記歯車装置(25)は、前記軸受ハウジング(22)内に完全に統合されている、請求項20又は21に記載の風車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車用の動力伝達システムに関する。より具体的には、本発明は、新型の増速機からなる風車に関する。
【背景技術】
【0002】
風車は、通常、風によって駆動される大きな翼が設けられたローターを有する。翼は、風の運動エネルギーを回転の力学的エネルギーへ変換する。力学的エネルギーは、通常、1つ又は2つ以上の発電機を駆動して電力を生成する。したがって、風車は、回転の力学的エネルギーを処理して電気エネルギーへ変換するための動力伝達システムを含む。動力伝達システムは、風車の「動力伝達装置」と呼ばれることもある。ローターから発電機までの動力伝達システムの部分は、駆動列と呼ばれる。
【0003】
多くの場合、ローターの回転速度を発電機が必要とする速度まで上げる必要がある。これは、ローターと発電機の間の増速機によって達成される。したがって、増速機は、駆動伝達装置の一部を形成し、ローターからの低速で高トルクの入力を、発電機のための低トルクで高速の出力へ変換する。中速または高速の発電機を備える風車は、通常、i=30からi=140の間の歯車比を提供する増速機を利用し、外転サイクロイド機構単独であっても平行軸歯車段と組み合わせた外転サイクロイド機構であってもよい二段歯車または三段歯車を備えた増速機を必要とする。これらの歯車は、一定のVOC(=制御の体積、つまりどれくらいの体積が使用されるか)、重量、したがって費用と所定の効率が備わっている。現代の風車技術の高トルク領域において、VOC/重量あたりのより高い歯車比を達成できる増速機の代替種類を見つけることが望まれている。
【0004】
US8656809B2およびUS8256327B2は、半径方向に歯を移動し、例えばWO99/36711からの技術に基づいてさらに構築することを含む代替種類の歯車装置を開示しており、どちらも高い電気モーター速度を、例えば工作機械機能に必要な低速まで減速する(ステップダウン)ために利用される。参考までに、US8656809B2およびUS8256327B2に記載されている技術を、以後、半径方向移動歯設計という。
【0005】
この半径方向移動歯設計により、直感的には、ウォームギヤと同様に、減速歯車装置としてのみ動作することが期待される。実際、US8656809B2の開示は、減速歯車装置としてのものであり、半径方向移動歯設計により、約6000rpmまでの非常に高い駆動入力側回転速度範囲を自由に選択することが可能であり、さらに、約i=10からi=200までの速度伝達比を自由に選択することが可能であると記載されている。
【0006】
本発明により、発明者は、半径方向移動歯設計技術を増速歯車装置にも使用することができ、小型の風車伝達システムを得るために風車用の増速機において特に有利であることに気付いた。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、タワーの頂部に設けられたナセルと、ハブ及び複数の翼を含むローターと、主軸線を中心にローターによって駆動されるように構成され、ナセルに支持された主軸と、発電機ローター及び発電機ステーターを有する発電機と、前記ローターと前記発電機ローターとの間で回転速度を増加させるように配置された歯車装置と、を備える風車に関する。歯車装置は、固定されたリングギヤと、案内溝穴の中に担持されて外側端部がリングギヤに係合可能な複数の半径方向に移動可能な歯部分を有し、主軸に連結され又は主軸によって駆動される入力部材と、複数の半径方向に移動可能な歯部分の内側端部に作用して駆動される外側偏心プロファイルを有し、入力部材内に設けられた中央出力部材と、を備え、それによって、入力部材の回転運動は、リングギヤとの係合によって複数の半径方向に移動可能な歯部分を駆動し、中央出力部材を回転させる。
【0008】
半径方向移動歯設計は、風車で使用される従来の歯車と比較して、新しい基本原則を導入する。回転する歯車の代わりに、多数の単一歯部分が入力と出力の間を接続するために使用され、中心周りの1回転中に各歯部分を複数回利用することを確保している。これは、特に高い出力密度と剛性で、一段階で10から約100の歯車比を処理できる歯車装置を提供する。さらに、歯車装置は、非常に小型で、優れた出力対寸法比を備えている。
【0009】
数kWの出力範囲の工作機械で半径方向移動歯設計を使用する際の重要なポイントは、システムにバックラッシュがないことである。工作機械やロボット工学では、バックラッシュを許さない極めて正確な位置決めが必要であり、さらにバックラッシュは、潜在的な振動により損傷を与える可能性がある。
【0010】
本発明により、発明者は、逆にMWクラスの風車のために、歯車の負荷がはるかに制御され、動作モードでは、歯車が反対歯面に接触することはないことを発見した。そこで、風車では、無負荷の歯面を取り戻し、それによって効率を最適化するために微調整することによって、バックラッシュが有利に導入される。
【0011】
従来の歯車で構成される従来の風車の増速機と比較して、半径方向移動歯設計システムと同じ比率を得るために、VOCの大幅な節約が見られるかもしれない。一般に、出力密度とVOCを考慮すると、非常に大きな利点が見られた。内装部品は、標準的な硬化プロセスとともに増速機で通常使用される標準的な鋼から作られているため、少なくとも技術が展開された後は、キログラムあたりの費用は、現在の増速機とほぼ同じになるだろう。
【0012】
風車での使用に非常に有利な追加の特徴は、半径方向移動歯設計が拡大縮小化を推進する独特の可能性を提供することである。とりわけ、以下による。
1.所定のトルクに対して、複数列の歯部分を設けることによって外径を減少させること
2.歯部分の数によるトルクの拡大縮小
3.歯列の数によるトルクの拡大縮小
【0013】
風車での使用に非常に有利な追加の特徴は、半径方向移動歯設計が騒音と振動の有益な特性を示すことである。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記入力部材は、環状の入力部材すなわちほぼリング状の部材である。さらに、歯部分は、入力部材における案内溝穴内で半径方向に外側および内側へ変位できるように取り付けられる。
【0015】
本発明の一実施形態において、半径方向に移動可能な歯部分のそれぞれは、可撓性接続部、好ましくは円筒形継手のような接続部を介してティルティングパッド(傾斜パッド)に接続される。ティルティングパッドは、前記出力部材に沿って摺動できるように適合されている。他の実施形態において、ボールジョイントのような接続部も適用できる。
【0016】
本発明の一実施形態において、出力部材は、断面がほぼ円形で、少なくとも1つの偏心距離、好ましくは、少なくとも2つの偏心距離を有する。様々な実施形態において、出力部材は、トルクを伝達するために、また、選択可能な速度伝達比を設定するために、入力部材の回転が発生したときに、半径方向に移動可能な歯部分がリングギヤ内の対応歯部間内へ移動されるときに、半径方向に移動可能な歯部分が作用する少なくとも1つの偏心距離を有する。様々な実施形態において、偏心距離の数は、少なくとも2つまたは少なくとも3つ、さらには少なくとも4つにすることができる。これにより、速度伝達比を設定または変更することができる。この速度伝達比は、歯部分の数を異ならせることにより、また、リングギヤの内歯の数を異ならせることによって調整することもできる。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記出力部材は、1つの平行軸歯車段などの少なくとも1つの更なる歯車段に結合される。本発明は、新しい歯車装置を単体で1つの完全な増速機としたり、遊星歯車段や平行軸歯車段などのよく知られた歯車段と結合させたりすることを可能にする。これらの組み合わせも本発明の範囲内である。
【0018】
本発明の一実施形態において、無負荷の歯面とリングギヤの後方歯面との間にバックラッシュが許容される。半径方向移動歯設計を使用する既知のシステムでは、精度が不可欠であり、バックラッシュは許容されない。風車では、これは、より単純でより長期にわたる設計を可能にするような場合ではない。このバックラッシュは、例えば、少なくとも1mmなど、円周方向に沿って少なくとも0.5mmであってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記歯車装置は、i=10からi=150の、好ましくはi=20からi=75の、例えば、25から50の増速伝達比を有する。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記歯車装置は、前記複数の半径方向に移動可能な歯部分の数が10から200、好ましくは40から100である。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記歯車装置は、少なくとも三列など、少なくとも二列の半径方向に移動可能な歯部分を有する。様々な実施形態において、図に示されているように、列の数は一つであってもよいが、また、2つ、3つ、4つまたは5つは、同じ構成要素を様々なトルクレベルで柔軟に使用することを可能にする大きな利点を見出しているかもしれない。いくつかの実施形態において、一列あたりの半径方向に移動可能な歯部分の数は、12から60である。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記リングギヤの直径は、1000mmから3500mm、好ましくは1500mmから2500mmである。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記移動可能な歯部分は、直径が10cmから20cm、長さが20cmから50cmの円筒形である。言うまでもなく、風の中に含まれる寸法は、工作用よりもはるかに高い。工作では、典型的な歯部分の直径は、最大2cm、長さは最大5cmである。
【0024】
本発明の一実施形態において、歯部分の歯面の外側歯面輪郭及び/又は前記リングギヤの内歯の歯部の歯面輪郭は、歯車機構軸線に関して、係合領域で面接触を可能にする歯部輪郭を有しており、面接触は、対数螺旋としての設計によって達成される。半径方向移動歯設計の利点は、通常使用されるようなインボリュート歯面を利用せず、代わりに対数螺旋に従う歯面輪郭を利用することである。これにより、より大きな面接触を係合領域で達成することができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、歯車機構軸線(M)の選択された半径にかかわらず、歯部分の歯面領域の外側歯面輪郭及びリングギヤのかみ合い機構部の内歯かみ合い機構部の歯面輪郭は、ピッチ角(α)を有する常用対数螺旋(Ln)に対応する。
【0026】
本発明の一実施形態において、歯部分の行程運動中に、歯部分が対数螺旋(Ln)に沿って変位し、互いに接触している歯部分の歯面とリングギヤの内歯は、常に同じピッチ角(α)を有するので、均一な負荷分布が存在する。
【0027】
本発明の一実施形態において、ピッチ角(α)は、15°から75°、例えば20°から40°である。他の実施形態において、(α)は、30°から60°であってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、歯部分は、歯面に対して接線方向に接し、その外側歯面輪郭に合流する歯先曲線を有する。
【0029】
本発明の一実施形態において、リングギヤの内歯のそれぞれの歯面輪郭の間にリングギヤ歯底すみ肉が設けられ、リングギヤ歯底すみ肉は、歯部分の歯先曲線よりも湾曲が少ない。
【0030】
本発明の一実施形態において、リングギヤに対する歯部分、入力部材に対する歯部分、及び出力部材に対するティルティングパッドのうちの少なくとも1つの接触面にコーティングが使用される。摩擦損失は、適切な接触面にコーティングを使用することによって低下させることができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記風車(2)は、少なくとも2MW、例えば、少なくとも4MWの公称出力を有する。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記風車は、主軸線を中心に回転できるように主軸を支持するとともに他の動きを制限する少なくとも1つの軸受を含む支持構造体を更に備え、前記歯車装置は、支持構造体に強固に結合された増速機ハウジングを有する。
【0033】
本発明の一実施形態において、支持構造体は、少なくとも1つの軸受を囲む軸受ハウジングを更に含み、増速機ハウジングは、前記軸受ハウジングから吊り下げられている。
【0034】
前述のように、発電機は、前記出力部材に接続されている。発電機は、発電機ハウジング内に発電機ローターと発電機ステーターを有し、好ましい実施形態において、発電機ハウジングは、増速機ハウジングに強固に結合されて増速機ハウジングから吊り下げられているが、他の実施形態において、発電機ハウジングは、代わりに、前記発電機ローターが前記出力部材に接続された状態で増速機に隣接して配置されてもよい。
【0035】
本発明の実施形態において、少なくとも1つの軸受は、軸受ハウジング内で間隔を空けて配置された第1の軸受と第2の軸受を含む。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記リングギヤは、前記軸受ハウジングと一体化されているか又は強固に結合されており、前記入力部材は、前記主軸と一体化されているか又は強固に結合されている。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記リングギヤが主軸の回転軸線に沿って前記第1の軸受と前記第2の軸受との間に位置するように、前記歯車装置は、前記軸受ハウジング内に完全に統合されている。
【0038】
本歯車装置はそれ自体が非常に小型であるけれども、歯車装置を軸受ハウジングの中へ完全に統合することによって、さらに小型化の解決策が得られる。このような解決策において、発電機を軸受ハウジングの真後ろに配置することができる。
【0039】
本発明の上記の態様およびその他の態様について、添付の図面を参照して例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】
図2は、
図1の風車の動力伝達システムの斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態による動力伝達システムの斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による歯車装置の一部分を通る概略断面図である。
【
図6】
図6は、歯面の輪郭とリングギヤの内歯システムの一実施形態の概略平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の代替実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
異なる図面で同一または類似の特徴は、同様の参照符号で示されている。
【0042】
図1に風車2の一例を示す。沖合風車が示されているが、以下の説明は、他の種類の風車にも適用できる場合があることに留意すべきである。風車2は、タワー12上のナセル8によって支持されたハブ6に取り付けられた翼4を含むローターを含む。風によってローター(翼4とハブ6)が主軸線14を中心に回転する(
図2)。この回転エネルギーは、ナセル8内に収容された動力伝達システム(すなわち「駆動伝達装置」)10へ送られる。
【0043】
図2及び
図3は、ハブ6(
図1)に連結された主軸16を含む先行技術の動力伝達システム10を示す。動力伝達システム10は、また、主軸16を支持する第1及び第2の軸受18、20、第1及び第2の軸受18、20を囲む軸受ハウジング22、並びに主軸16によって駆動される入力部材を有する増速機24を含む。増速機24は、主軸16と発電機28の間で回転速度を増加させる。
図1乃至
図3に示す、ローター、ハブ6、主軸16、ナセル8などの要素は、例としてのみ示されており、これらは本発明の範囲内で設計が変更されることがある。
【0044】
入力部材の種類は、特定の増速機の設計によって異なる。
図3に示すものは、第1遊星段の遊星キャリアを使用した先行技術の増速機であり、リングギヤがハウジングに固定されており、その結果、太陽歯車が増速機の次の段へ伝達する回転速度を上げる。
【0045】
図4は、
図2の先行技術のシステムと同様の動力伝達システム10を示すが、先行技術の増速機24は、半径方向移動歯設計の歯車を含む本発明による歯車装置25に置き換えられている。動力伝達システムの他の構成要素、すなわち発電機28及び主軸16を含む軸受ハウジング22は、同様であることに留意されたい。従来の増速機と比較して新しい歯車装置の軸方向幅がはるかに小さいにもかかわらず、
図2と
図4の増速機の速度伝達比は同等であることに留意されたい。このように、半径方向移動歯設計の歯車を含む新しい増速機は、風車における従来の増速機と比較して、増速機の体積およびその結果として重量を大幅に節約することが視覚的にも明らかである。
【0046】
半径方向移動歯設計の歯車の基本的な機能は、US8656809B2及びUS8256327B2に詳細に記載されており、半径方向移動歯設計の歯車の操作方法の追加の詳細については、これらの文献を引用する。
【0047】
図5は、半径方向移動歯設計の歯車を備えた同軸歯車機構Rの一部分を示しており、以下に、ハブ6と発電機ローターとの間の相対回転速度を増加させるために半径方向移動歯設計の歯車を使用する本発明の一実施形態について説明する。
【0048】
リングギヤ50は、固定部品であり、増速機ハウジングに固定されるか又はその一部分として形成される部品である。その歯部分は、対数螺旋56に続く歯面を備えている。対数螺旋に従う歯面を同様に備えた複数の同一の円筒形状の歯部分52は、入力部材として機能する歯部分担持体53によって保持されている。さらに、歯部分52は、歯部分担持体53の案内溝穴内で半径方向に外側へ及び内側へ変位できるように取り付けられている。
【0049】
歯部分担持体53は、入力軸を表し、主軸16に物理的に接続され、主軸16と同じ回転速度で回転する。歯部分52は、すべて、偏心軸55によって案内される同一のティルティングパッド54上に載っている。この軸は、カム軸とも呼ばれ、基本直径r1と1つ又は2つ以上の偏心距離eを持ち、偏心最大値r2は、r1+eである。
【0050】
偏心軸55の外側輪郭とティルティングパッド54との間に滑り軸受が設けられている。回転担持体53は、歯部分52を駆動し、それによって偏心軸55がここでは出力部材として働き、担持体53に比べて増速して回転する。担持体53と出力軸55の回転方向は、使用される設計パラメータに応じて、同じでも反対でもよい。
【0051】
ティルティングパッドは、歯部分の半径方向内側への運動からの力が出力軸上のより大きな領域に分布することを保証する。ティルティングパッドは、出力軸のすべての回転位置で出力軸の偏心に従うように傾斜可能である。ティルティングパッドのそれぞれは、それぞれの歯部分の半径方向の最も内側の部分に設けられた対応する凹みへの円筒ジョイントのような接続を確立する円柱を特徴とする。さらに、ティルティングパッドは、出力軸に接触する摺動面(スライド面)を有する。ティルティングパッド上の摺動面は、ティルティングパッド上の摩擦係数の低い材料のコーティングまたは層によって実現される。または、特定の別の摺動パッドをティルティングパッドに取り付けてもよい。または、摩擦係数の低い材料からティルティングパッド全体を製造してもよい。
【0052】
いくつかの実施形態において、ティルティングパッドは、互いに接続されてリング構造なしているが、他の実施形態においては、単に隣り合って配置され、それによって出力軸の全周を埋める。
【0053】
図6及び
図7は、同軸歯車機構Rの歯車機構軸線Mから生じる対数螺旋Lnの図である。対数螺旋Lnは、任意のピッチ角αを有することができる。
【0054】
歯部分63の外側歯面輪郭61,62と内歯70の内側歯面輪郭64,65は、一定のピッチ角αの関数としての対数螺旋Lnの経路すなわち輪郭に適合することが望ましい。ここでは、両方の歯面輪郭61,62と64,65が中心軸線Aに関して鏡面対称であることが示されている。しかし、これは、増速機が両方向に移動できなくてもよい風車の場合は必要ない。
【0055】
選択された半径rとは無関係に、同軸歯車機構Rの歯車機構軸線Mから始まる各半径は、歯面輪郭61又は62と64又は65と同じピッチ角αで交差する。ピッチ角αは、自由に選択することもできるし、選択した対数螺旋Lnの関数によって画定することもできる。
【0056】
対数螺旋Lnに沿った歯部分63の歯面61及び62の、それぞれ内歯70の歯面64及び65に対する変位は、同じピッチ角αの歯面領域が常に互いに反対になる結果になる。その結果、非常に良好な歯面接触が常に存在する。
【0057】
これにより、標準歯車のような直線的な転がりは発生せず、代わりに、歯部分63とリングギヤ50の内歯70との間の平坦な変位が発生し、標準歯車よりも小さな摩耗で非常に高いトルク伝達を提供する。
【0058】
さらに、リングギヤ50の輪郭64及び65に接線方向に適合したリングギヤ歯底すみ肉71が、内歯70の歯底73の領域において隣接する二つのかみ合い機構部72の間に形成される。
【0059】
ここでの曲率は、歯部分63の歯先曲線74より小さいことが望ましい。歯部分63の歯先曲線74は、歯面の歯面輪郭61、62に対して接線方向に結合するように適合している。これにより、歯部分63の個々の上下運動の間で、低衝撃の遷移が保証される。
【0060】
接触領域は、特にリングギヤ50のかみ合い機構部72の領域において、可能な限り最大の力とモーメントを伝達するために可能な限り大きくなるように求められる。さらに、低衝撃での歯部分63の行程運動のため、歯面輪郭の設計の結果として、歯部分63の押し戻しが自動的に行われる。
【0061】
本発明の好ましい部分は、歯部分の外側輪郭、特に歯面の領域が対数螺旋の輪郭に従うことである。対数螺旋は、原点から延びるすべての半径に、同じピッチ角αで、交差する曲線を表す。その経路は、次の式で定義される。
r=e^aα
ここで、tanα=1/a,aは実定数、a>0である。
【0062】
このピッチ角αは、対数螺旋の対応する関数によって15°から75°の間、例えば30°から60°の間で、必要に応じて選択することができ、その結果、内歯かみ合い機構部と歯部分の異なる歯面形状にも影響を与えることができる。他の実施形態において、ピッチ角αは、15°から45°の間、例えば20°から40°の間、又は25°から35°の間で、必要に応じて選択することができる。
【0063】
この輪郭は、かみ合い機構部の輪郭、特にリングギヤの内歯かみ合い機構部の輪郭としても使用される。これにより、歯部分の1つの歯面輪郭とかみ合い機構部の歯面輪郭の間の十分な面接触が、歯部分の両歯面とリングギヤのかみ合い機構部との係合領域で達成される。
【0064】
対数螺旋形状は、歯車の半径と寸法に関係なく、リングギヤの内歯かみ合い機構部内への歯部分の半径方向移動の間の十分な面接触を保証する。さらに、最適な負荷分布(圧力分布)が得られ、その結果、高トルクの非常に良好な伝達が可能になる場合がある。さらに、磨耗は、従来の風車の増速機よりも少なくすることもでき、結果として、生じる磨耗が歯面に均一になる。これにより、寿命が長くなり、必要な点検が少なくなる可能性があり、これらは、稼働停止時間を可能な限り回避する必要がある風車業界では非常に重要である。
【0065】
リングギヤに対してz2=80個の歯部分があり、中心軸の特徴z1=2つの偏心最大値としたときに、担持体53と軸55との歯車比は、以下のように計算される。
【数1】
【0066】
歯部分52のそれぞれは、リングギヤ(
図7参照)の内歯かみ合い機構部に線接触しており、その線接触は、対数螺旋に従う歯面輪郭によって十分な流体力学的接触として発達する、すなわち、線接触の代わりに面接触が使用される。インボリュート歯車から知られているような転がり接触はない。歯部分のそれぞれは、ティルティングパッドと歯部分の円筒形状によって、それ自体の軸線の周りでリングギヤへの接触を整列させることができる。これにより、通常の値が約1.15であるインボリュート歯車のKhβ=1.0と同様に、理想的な負荷分散係数に達することができる。
【0067】
歯部分52の頭部と、支持している歯部分担持体53との間の力の短い梃子は、この歯車設計の極端な剛性の理由の一つであり、風車の運動状態にプラスの効果を与えることに留意すべきである。
【0068】
好ましい実施形態において、出力部材55は、入力部材を形成する歯部分担持体53内に半径方向に同軸的に配置される。
【0069】
リングギヤ50の歯又は出力部材55に対して異なる数の歯部分を選択することによって、特に、出力部材55の外側輪郭を選択することによって、所望の速度伝達比を選択することができる。特に、異なる歯の係合を選択することによって又は歯部分の異なる数の係合によって、速度伝達比を選択又は設定することができる。
【0070】
上述の図において、1列のみの歯部分が機構部に使用されている。しかし、軸線方向に配置された歯部分のさらなる列も同様に有利な場合があることに留意されたい。例えば、拡大縮小に関連して、同じ装置が歯部分の列を2倍にすることによって伝達可能なトルクを2倍にすることが期待される場合がある。したがって、歯部分の1列、2列又は3列、そして、歯部分のさらなる列は、本発明の範囲内の代替の実施形態である。
【0071】
さらに、本明細書に示すような半径方向移動歯設計を備えた増速機は、風車において使用される標準的な増速機と有利に組み合わせることができることに留意されたい。例えば、1つの半径方向移動歯設計段と1つの平行段又は2つの平行軸歯車段を組み合わせる。必要に応じて、遊星段との組み合わせでも使用できる。
【0072】
図8は、代替の実施形態を示しており、風車の動力伝達システムを
図4よりもさらに小型にしている。ここで、代わりに、新しい増速機は、全体が主軸/軸受ハウジングに一体化されている。
【0073】
図3と同様に、動力伝達システム80は、主軸86を支持する第1及び第2の軸受88、90と、第1及び第2の軸受88、90を囲む軸受ハウジング92と、を含む。この実施形態において、増速機は、動力伝達システムに一体化されており、主軸86は、軸受ハウジング92内の歯部分担持体81に直接固定されて回転する。増速機は、軸受ハウジング92に固定又は一体化されたリングギヤ82によって前述した原理と同様に機能し、歯部分83を半径方向に移動させることで、主軸の回転速度に比べて出力軸偏心部84の回転速度を増加させる。この偏心部84は、出力軸に結合又は一体化され、出力軸85は、更に発電機(不図示)に結合される。さらに、出力軸85用の軸受(不図示)は、例えば出力軸85と主軸86の間に存在する。
【0074】
リングギヤ82は、軸受ハウジング92と一体の部品として設計されており、必要な歯が軸受ハウジング92に機械加工されている。あるいは、リングギヤ82は、リングギヤ82を受け入れるために軸受ハウジング92に機械加工された溝を含めるなどして、別の部品として軸受ハウジング92にフランジ又はボルトで接続することもできる。たわみを均一にしたり、ノイズを減衰させたりするために、半弾性要素を介して接続することも可能である。
【0075】
歯部分担持体81は、主軸86と一体の部品として設計することができる。歯部分83用の穴は、主軸86に半径方向に機械加工することができる。また、歯部分担持体81を独立した部品として、主軸86の二つの部品の間に接続することもできる。
【0076】
軸受ハウジング内の歯車装置25の軸方向位置は、必要に応じて設定することができる。装置の寸法や他のパラメータに応じて、理想的な軸方向位置は、変化する可能性があり、したがって、87で示すように調整することができる。一実施形態において、歯車装置25の位置は、第1及び第2の軸受88、90間の距離の30%から70%の間である。他の実施形態において、歯車装置25の位置は、第1及び第2の軸受88、90のいずれかから第1及び第2の軸受88、90間の距離の25%未満である。
【0077】
上述した実施形態は、以下の請求項に係る発明の単なる例示である。風車の設計に熟練した当業者は、本説明に基づいて追加の例、変更、利点を十分に理解するであろう。以上を踏まえると、特定の実施形態の詳細は、必ずしも以下の請求項の範囲を限定するものではないと考えるべきである。
【国際調査報告】