(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】心臓の非同期に起因する非共同運動を検出するカテーテルおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/287 20210101AFI20231025BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20231025BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20231025BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61B5/287 100
A61B5/33 110
A61N1/36
A61B5/0215 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522419
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021078365
(87)【国際公開番号】W WO2022079125
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521475462
【氏名又は名称】ペーサーツール アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】オードラン、ハンス ヘンリック
【テーマコード(参考)】
4C017
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AB04
4C017AC06
4C017AC16
4C017BC08
4C017BC16
4C017BD06
4C017DD14
4C053JJ04
4C053JJ13
4C053JJ23
4C127AA02
4C127BB05
4C127GG05
4C127GG15
4C127HH12
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】 心機能を評価するためのカテーテルを提供する。
【解決手段】 カテーテルは、近位端から遠位端に延びる細長いシャフトを含み、シャフトは、ガイドワイヤ、および/または、生理食塩水洗浄、のためのルーメン、双極または単極様式で電気信号を感知し患者の心臓にペーシングを適用するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つの電極、患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関連するイベントを検出するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つのセンサ、および、前記電極と前記センサから受け取ったデータを送るように構成された通信手段、を含む。
【選択図】
図26
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能を評価するためのカテーテルであって、
前記カテーテルは、近位端から遠位端に延びる細長いシャフトを含み、
前記シャフトは、
ガイドワイヤ、および/または、生理食塩水洗浄、のためのルーメン;
双極または単極様式で電気信号を感知し患者の心臓にペーシングを適用するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つの電極;
患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関連するイベントを検出するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つのセンサ;および、
前記電極と前記センサから受け取ったデータを送るように構成された通信手段、
を含む、
ことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記少なくとも一つのセンサは、圧力センサ、圧電センサ、光ファイバセンサ、および/または、加速度計、を含む、
ことを特徴とする、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記細長いシャフトの硬さは、前記近位端と前記遠位端の間、その長手方向に沿って異なる、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記細長いシャフトは、硬い近位端部、中間の硬さの中間部、および前記遠位端に柔らかい先端部、を備える、
ことを特徴とする、請求項3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記少なくとも一つの電極は、複数の電極を含み、
前記複数の電極は、使用時、少なくとも二つの電極が前記患者の心臓において互いに対向して位置し得るように、前記シャフトにそって配置される、
ことを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記少なくとも一つの電極は、前記患者の中隔内に置かれるように構成され、および、
前記少なくとも一つの電極は、前記患者の中隔の対側壁に置かれるように構成される、
ことを特徴とする、請求項5に記載のカテーテル。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載のカテーテル、
信号増幅器、
刺激器、および
データ処理モジュール、
を含むシステムであって、
前記カテーテルは、前記刺激器、前記信号増幅器、およびデータ処理モジュールと信号通信するように構成されることにより、
前記電極とセンサが、さらなる処理のために、前記データ処理モジュールに感知したデータを提供し、
前記電極は前記患者の心臓にペーシングを提供する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項8】
前記データ処理モジュールは、前記患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントから、心筋の共同運動の開始に関する特徴的な反応を決定するように構成される、
ことを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記センサは、前記心臓内の前記圧力に関するデータを前記データ処理モジュールに提供するように構成され、
前記データ処理モジュールは、前記心筋の共同運動の開始に関連する前記特徴的な反応を識別するために、前記圧力データをフィルタするように構成される、
ことを特徴とする、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記特徴的な反応は、圧力信号の第1調波より上でフィルタされた前記圧力信号における、圧力フロアより上での圧力上昇の始まりを含む、
ことを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記特徴的な反応は、前記圧力信号の高周波成分(40Hzより上)の存在を含む、
ことを特徴とする、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
前記特徴的な反応は、ゼロと交叉する、バンドパス フィルタされた圧力トレースを含む、
ことを特徴とする、請求項9から11の何れか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記センサは、加速度データを心臓内から前記データ処理モジュールに提供するように構成され、
前記データ処理モジュールは、前記心筋の共同運動の開始に関連する前記特徴的な反応を識別するように、前記加速度データをフィルタするように構成される、
ことを特徴とする、請求項8から11の何れか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記データ処理モジュールは、前記心筋の共同運動の開始に関連する前記特徴的な反応を識別するように、前記加速度データの連続ウェーブレット変換を計算する、
ことを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記データ処理モジュールは、前記連続ウェーブレット変換の中心周波数を計算するように構成され、
前記特徴的な反応は、前記中心周波数のピークである、
ことを特徴とする、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記データ処理モジュールは、多数の心周期わたって、前記中心周波数を平均化する、
ことを特徴とする、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記データ処理モジュールは、ペーシングの結果として、心筋の共同運動の開始までの遅延の短縮化を識別することにより、可逆的心臓非同期を識別するように構成される、
ことを特徴とする、請求項8から16の何れか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記データ処理モジュールは、前記一つ以上のセンサから受け取った前記データにおける前記特徴的な反応を識別することにより、患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記イベントの時間を測定して、前記少なくとも一つのセンサを用いて、可逆的心臓非同期を識別するように構成され、
前記左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記イベントは、心臓の各収縮において識別可能であり、
前記データ処理モジュールは、前記左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記イベントの時間を測定するように構成され、前記測定は
前記左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記識別された特徴的反応の測定された時間と、第一基準時間、との差分をとった第一時間遅延を決定する、少なくとも一つのセンサからの信号を処理し、
前記左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記識別された特徴的反応の前記測定時間と前記第一基準時間との差分となる前記第一時間遅延と、心臓の電気的興奮の継続時間と、を比較し、
前記第一時間遅延が、前記心臓の電気的興奮の設定分画よりも長い場合、次に、前記患者に心臓非同期があることを識別し、
前記患者の心臓に少なくとも一つの電極および/または他の電極によるペーシングを適用することを続けるように構成されることを特徴とし、前記データ処理モジュールは、ペーシングに続く前記左心室内の圧力増加率の急速な増加に関する前記識別された特徴的反応と、ペーシングに続く第二基準時間、との差分をとった第二時間遅延を計算し、前記計算は、
前記ペーシングに続く前記左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する前記識別された特徴的反応、のタイミングを測定するために、前記少なくとも一つのセンサを用い、
前記左心室内の圧力増加率の急速な増加に関する前記識別された特徴的反応の決定時間と、ペーシングに続く前記第二基準時間、との差分をとった第二時間遅延を決定するように、前記少なくとも一つのセンサからの信号を処理するように構成されることを特徴とし、
前記データ処理モジュールは、前記第一時間遅延と前記第二時間遅延を比較し、および、
前記第二時間遅延が前記第一時間遅延より短い場合、心筋の共同運動の開始、OoS、への遅延が短かくなったことを識別し、前記心臓の全てのセグメントが能動的又は受動的に硬化し始める点までの時間期間が短くなったことを示し、これにより患者に可逆的な心臓非同期があることを識別するように構成される、ことを特徴とする、
請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記データ処理モジュールは、さらに、
前記第一時間遅延が、前記心臓の電気的興奮の設定分画よりも短い場合、次に、前記患者に心臓非同期がないことを識別し、および/または、
前記第一時間遅延が、設定した分画よりも短い場合、例えば120ミリ秒、次に、前記患者に心臓非同期がないことを識別する、
ように構成される、ことを特徴とする、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記データ処理モジュールは、ペーシングが行われている心臓の並行興奮の程度を決定する、ように構成される、
ことを特徴とする、請求項7から19の何れか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記データ処理モジュールは、前記ペーシングが行われている心臓の並行興奮の程度を決定するように構成され、前記決定は、
ベクトル心電図(VCG)、または、心電図(ECG)、右心室ペーシング(RVp)および左心室ペーシング(LVp)からの波形、を計算する工程と、
前記したRVp及びLVpのVCGを合計する、又は、前記したRVp及びLVpのECGを合計することによって、合成両心室ペーシング(BIVP)波形ペーシングを生成する工程と、
実際のBIVPから、対応するECG又はVCGの波形を計算する工程と、
前記合成BIVP波形と、前記実際のBIVP波形とを比較する工程と、
RVp及びLVpからの興奮が接触して前記の合成BIVPの曲線及び実際のBIVPの曲線が逸れ始める時間における点を決定することによって、融合までの時間を計算する工程と、
を含む方法を介して決定することを特徴とし、
ここで、融合までの時間の遅延は、より多くの量の組織が電気的興奮の波前面が接触する前に興奮することを示し、それにより、より高い並行興奮の程度を示す、
ことを特徴とする、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記データ処理モジュールは、計算した心筋の並行興奮の程度が所定の閾値を超えている心臓の少なくとも一部の3Dメッシュのノードに基づいて、心臓再同期療法のための最適な電極の数及び位置を決定する、
、
ように構成される、ことを特徴とする、請求項7から21の何れか1項に記載のシステム。
【請求項23】
患者の心臓に心臓再同期療法を行うための、前記した最適な電極の数及び位置の決定は、
前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、前記患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルから生成する工程、または、前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを得るために心臓の一般的3Dモデルを用いる工程と、ここで、前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュは複数のノード、を含み、
前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、前記患者の心臓の画像と位置合わせする工程と、
前記3Dメッシュ上に、前記患者上の少なくとも二つの電極の位置に対応する、追加のノードを配置する工程と、
前記少なくとも二つの電極の位置に対応する、前記3Dメッシュの前記ノード間の電気的興奮の伝播速度を計算する工程と、
前記伝播速度を、前記3Dメッシュの前記ノードの全てに外挿する工程と、
前記3Dメッシュの各ノードについて心筋の並行興奮の程度を計算する工程と、および、
心筋の並行興奮を計算した程度が所定の閾値を超える、前記3Dメッシュの前記ノードに基づき、前記患者の心臓上の最適な電極の数及び位置を決定する工程と、
を含む方法を介して実行される、
ことを特徴とする、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記カテーテルは、使用時、前記した電極およびセンサが患者の心臓内に提供されるように、動脈経路、静脈経路、鎖骨下経路、橈骨経路および/または大腿経路を通して、前記患者の心臓内に提供されるように構成される、
ことを特徴とする、請求項7から23の何れか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非同期(同期不全)に起因する非共同運動を検出するためのシステムおよび方法、心臓再同期療法への最適な電極の数と位置を決定するシステムおよび方法、および/または、心臓の並行興奮の程度を決定する手段として融合までの時間を測定するための方法およびシステム、にて使用することができるカテーテルに関する。したがって、本発明は、患者が患う非同期による心不全に関して使用することができ、より具体的には、再同期療法に反応すると思われる患者の識別に適用でき、同様に随意、心臓を刺激する電極の設置に最適な位置の決定に適用できる。本発明は非同期的心臓不全を患う患者に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
心臓再同期療法(CRT)は、国際医療学会により提供される認められた医療基準及びガイドラインによると、広がったQRS波、(左又は右)脚ブロック、および心不全等の様々な症状を患う患者を治療するために、一貫して提供される。QRS波がどのくらい広いか、どの種の脚ブロックを患っているか、心不全の程度等、CRTを利用する前に生じる特異的状況に関して、医療ガイドライン間で幾つかの小さな差異がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許出願番号1906064.9
【特許文献2】英国特許出願番号1906055.7
【特許文献3】英国特許出願番号1906054.0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CRTは、死亡率及び罹患率の低減に関連するが、全ての患者がそのような治療から恩恵を得られるわけではない。実際、一部の患者は治療後の悪化を経験し、一部の患者は厳しい合併症を経験し、一部の患者はその両方を経験する。
【0005】
これに関して、CRTへのノンレスポンダーの数を減らし潜在的レスポンダーの治療を最適化する、統合的な戦略を提供することは有用であり、これにより治療の効果が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様に鑑み、本発明は、心機能を評価するためのカテーテルを提供し、前記カテーテルは、
近位端から遠位端まで延びる細長いシャフトを含み、
前記シャフトは、
ガイドワイヤ、および/または、生理食塩水洗浄、のためのルーメン(内腔);
双極または単極様式で電気信号を感知し患者の心臓にペーシングを適用するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つの電極;
患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関連するイベントを検出するための、前記シャフト上に配置された少なくとも一つのセンサ;および、
前記電極と前記センサから受領したデータを送るように構成された通信手段、
を含む。
【0007】
下記にて議論するように、心臓の機能を決定するとき、特に患者内に非同期に起因する非共同運動が存在するかどうか示す手段を提供するときに、特定の使用を供給する。カテーテルが、電極が中隔および対側壁で互いに対向し、センサが心室内になるように、左心室内に適切に配置されるとき、各心拍とともに電圧勾配は各電極と基準電極との間に登録される。このような電圧勾配は、電極の場所での心臓の電気興奮を表す。異なる電極による興奮の時間経過は非同期の程度を決定する。さらに、上記に続いて、センサは、心臓の全てのセグメントが能動的または受動的に硬直し始める点を反映する、共同運動の開始(オンセット)に関するイベント、すなわち、左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベント、を登録する。このイベントまでの時間を、電気興奮と非同期の程度と比較し、非同期に起因する非共同運動の存在を登録する。本明細書では左心室の圧力での急速な増加を参照する一方で、当業者は、このようなイベントは、患者の心臓内の圧力においてより一般的に現れ得ることを理解できるであろう。このように、カテーテルは、必ずしも患者の左心室内に設置される必要はない。
【0008】
心臓は、そして、一つ以上の電極から刺激されることができる。各心拍に伴い、電圧勾配は各電極と基準電極との間に登録され、これは上述したように心臓の電気興奮を表すことができる。一つ以上のセンサはまた、共同運動の開始に関するイベントを登録する。時間イベントの新しいセットは、そして、イベントの最初のセットに比較され、再同期の有無が登録される。
【0009】
有利に、このようなシステムにより、電極の様々な位置へのこのような手段を迅速かつ効果的に決定することが可能となるであろう。このように、患者が確かに心臓再同期療法への潜在的レスポンダーであるかどうか決定することができるだけではなく、電極の理想の数および位置を迅速に決定し得る。
【0010】
前記少なくとも一つのセンサは、圧力センサ、圧電(ピエゾ)センサ、光ファイバセンサ、および/または、加速度計、を含む。このようなセンサは、以下にてさらに論述するように、左心室での圧力増加率の急速な増加に関するイベントを検出することにおける特定の使用を見出すことができる。
【0011】
細長いシャフトの硬さは、近位端と遠位端の間のその長さ(長手方向)に沿って異なり得る。このように細長いシャフトは、患者の心臓内に迅速かつ簡単に位置するために理想の構造を有し得る。随意、細長いシャフトは、硬い近位端部、中間の硬さの中間部、および遠位端部で柔らかい先端部を備える。また、このような構造により、カテーテルは心臓内で容易に操作し得る。
【0012】
前記少なくとも一つの電極は、使用時、少なくとも二つの電極が患者の心臓において互いに対向するように位置し得るように、シャフトにそって配置される、複数の電極を含み得る。随意、前記少なくとも一つの電極は、患者の中隔内に位置するように構成され、および前記少なくとも一つの電極は、患者の対側壁に位置するように構成される。
【0013】
第二の態様において、
上記したカテーテル;
信号(シグナル)増幅器;
刺激器;および
データ処理モジュール(データプロセッシングモジュール)、
を含むシステムが提供され、ここで、
前記カテーテルは、前記刺激器、前記信号増幅器、および前記データ処理モジュールが信号通信するように構成され、前記電極とセンサが、さらなるプロセッシング用に前記データ処理モジュールに感知したデータを提供し、前記電極は患者の心臓にペーシングを提供し得る。
【0014】
このようなシステムは、カテーテルが心臓をどのように動かすか、したがって、取り付けられた電極を動かすことが、心臓の機能に影響をもたらし、特に、ペーシングが非同期および/または非共同運動の減少において顕著な違いをもたらすかどうか、を迅速かつ容易に決定するために使用し得る。
【0015】
データ処理モジュールは、患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントから、心筋の共同運動の開始に関する特徴的な反応を決定するように構成される。
【0016】
センサは、加速度センサ、回転センサ、振動センサおよび/または圧力センサのような、任意の種類の適切なセンサ、または適切なセンサの組み合わせであってよい。センサは、心臓内の圧力に関するデータをデータ処理モジュールに提供するように構成されてよく、ここで、データ処理モジュールは、心筋の共同運動の開始に関連する特徴的な反応を識別するために、圧力データをフィルタする(特定の種類の情報を選別あるいは除去する)ように構成される。特徴的な反応は、圧力信号の第1調波より上でフィルタされた圧力信号における圧力フロア(圧力底)より上での圧力上昇の始まりを含み得る。特徴的な反応は、圧力信号の高周波成分(40Hzより上)の存在を含み得る。特徴的な反応は、ゼロと交叉(交差)するバンドパス フィルタされた圧力トレースを含み得る。圧力トレースをフィルタすることにより、関連するノイズを除去し、心筋の共同運動の開始に関連する点をより正確かつ確実に決定することが可能となる。
【0017】
追加的または代替的に、センサは、心臓内から加速度データをデータ処理モジュールに提供するように構成され、データ処理モジュールは、心筋の共同運動の開始に関連する特徴的な反応を識別するために、加速度データをフィルタするように構成され得る。例えば、データ処理モジュールは、加速度データの連続ウェーブレット変換を計算して、心筋の共同運動の開始に関連する特徴的な反応を識別するように構成されてよい。データ処理モジュールは、連続ウェーブレット変換の中心周波数を計算するように構成され、ここで特徴的な反応は中心周波数のピークである。データ処理モジュールは、多数の心周期わたって中心周波数を平均化するように構成される。加速度トレースをフィルタすることにより、関連するノイズを除去し、心筋の共同運動のオンセット(開始)に関連する点をより正確かつ確実に決定することができる。
【0018】
理解されるように、上記に加えて、または上記の代替として、心筋の共同運動の開始(オンセット)に関連する特徴的な反応が決定されることを可能にする、いくつかのさらなる方法が本明細書において提供される。データ処理モジュールは、そのような方法の一つ以上を実行するように構成され得る。
【0019】
例えば、2つの異なる刺激への経時的な心臓内の圧力(例えば、左心室内の圧力)の増加を比較し得る。例えば、右心室のペーシングに起因する圧力曲線と、両心室ペーシング(両室ペーシング)に起因する圧力曲線とを比較し得る。2つの刺激に起因する圧力上昇は、それらの刺激タイミングに対して共にぴったり合わせられ、圧力レベルは、心室ペーシングの前の拡張期部分の曲線に合致するように調整される。刺激に起因する圧力曲線が互いに逸脱し始める点が、そして検出され、これは、最も早い圧力上昇に結果としてなる、刺激の共同運動の開始の時間を示す。
【0020】
より早い圧力上昇に結果としてなる、刺激の結果生じる圧力曲線上の共同運動のオンセット(開始)の時間に続く、圧力上昇曲線の部分は、比較的遅延した圧力上昇に結果としてなる、刺激の圧力上昇曲線の部分上に合致するように、そしてシフト(移動)され得る。より早い圧力上昇に結果としてなる刺激の共同運動のオンセットに続く曲線で、比較的遅延した圧力上昇に結果としてなる刺激の圧力上昇曲線上の点は、遅延した圧力上昇曲線における共同運動の開始の点である。遅延は、共同運動のオンセットの二つの決定された点の間で、そして計算され得る。このような計算から、どのペーシングレジメンが植込まれたペースメーカーに続くべきかの推奨が作成され得る。
【0021】
上記のプロセスは、自動化してよく、曲線を単純に合わせることにより(例えば、最小二乗法で圧力軌跡にテンプレートをぴったり合わせることにより)、または曲線を表す数式の比較により、任意の数のペーシングレジメン/刺激に起因するデータについてであり得る。このように、圧力曲線の明示的なプロットと曲線の視覚的な一致は必要なくてもよいが、同様の結論に到達できるようになるように、むしろ、生データを分析し得る。
【0022】
このようにして、共同運動のオンセットに起因するdP/dtピークまで、指数関数的な圧力上昇のデータでの自動検出を行うことができる。圧力曲線に合致する指数式の自動計算を行ってよく、指数関数式が多くの曲線の一つに合致する時間を決定できる
【0023】
テンプレートマッチでよく、指数式とテンプレートマッチとの間のオフセット時間を計算することでよく、または、同様に他の手段間の相互相関でもよい。
【0024】
上記方法は、フィルタされた圧力測定を用いて同様に行われてもよい。
【0025】
追加的または代替的に、共同運動のオンセットの促進は、別の種類と比較した特定のペーシングレジメンからの刺激でバンドパス フィルタされた(例えば、4-40Hz)圧力曲線(Tp)のゼロ交叉の前進(先にゼロ交差する)によって検出され得る。このようなデータは、特定のペーシングレジメンによる共同運動の存在を示すために用いられ、したがって、そのペーシングレジメンでCRTを受けることが望ましい可能性がある。
【0026】
この方法は、内因性心房興奮(Ta)と、結果生じる圧力曲線の関連ゼロ交叉(Tp)との間の時間期間を決定することによって、ベースライン間隔(B)を計算することを含み得る。対応する時間期間(Tp1)は、Ta後の設定されたペーシング間隔(PI1)で、第一電極からのペーシングに続いて計算され、ペーシング間隔は、TaからTpまでの間隔がB未満になるまで減少する。対応する時間期間(Tp2)は、Ta後の設定されたペーシング間隔(PI2)で、第二電極からのペーシングに続いて計算され、ペーシング間隔は、TaからTpまでの間隔がB未満になるまで減少する。対応する時間期間(Tp3)は、Ta後の設定されたペーシング間隔(PI3)で、第一電極と第二電極からのペーシングに続いて計算され、PI3は、PI1とPI2のより低い方と同じ時間期間である。どのペーシングが最も短い対応する時間期間Tpを有するか決定することにより、最も高程度の共同運動を導くペーシングレジメンが識別され得る。
【0027】
データ処理モジュールは、ペーシングの結果としての心筋の共同運動のオンセットの遅延の短縮化を識別することにより、可逆的な心臓の非同期を識別するように構成されてよい。具体的には、一つ以上のセンサから受領したデータにおける、特徴的な反応を識別することにより、患者の左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントの時間を測定する少なくとも一つのセンサを用いて、患者の可逆的心臓非同期を識別するように構成され得る。ここで、左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントは、心臓のそれぞれの収縮において識別可能である。
【0028】
データ処理モジュールは、左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントの時間を測定するように構成され、
左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する識別された特徴的反応の測定時間と、第一基準時間、との差分を取った第一時間遅延(特徴的反応が測定された時間と第一基準時間との間の時間差)を決定する少なくとも一つのセンサからの信号を処理し;
左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する識別された特徴的反応の測定された時間と第一基準時間との差分となる(特徴的反応が測定された時間と、第一基準時間との間の時間差)第一時間遅延と、心臓の電気的興奮の継続時間とを比較し;
第一時間遅延が、心臓の電気的興奮についての設定した分画よりも長い場合、そして、患者における心臓非同期の存在を識別し、
患者の心臓に少なくとも一つの電極および/または他の電極によるペーシングを適用することを続け;
ペーシングに続く左心室内の圧力増加率の急速な増加に関する識別された特徴的反応と、ペーシングに続く第二基準時間、との差分を取った第二時間遅延(特徴的反応の測定された時間と第二基準時間との間の時間差)を、
ペーシングに続く左心室内での圧力増加率の急速な増加に関する識別された特徴的反応のタイミングを測定する少なくとも一つのセンサを用い、および
左心室内の圧力増加率の急速な増加に関する識別された特徴的反応の決定時間と、ペーシングに続く第二基準時間との差分をとった第二時間遅延(特徴的反応の測定された時間と第二基準時間との間の時間差)を決定するように少なくとも一つのセンサからの信号を処理する、
ことにより計算し;
第一時間遅延と第二時間遅延を比較し;および
第二時間遅延が第一時間遅延より短い場合、心臓の全てのセグメントが能動的又は受動的に硬化し始める点までの時間期間が短くなったことを示す、心筋の共同運動の開始、OoS、への遅延の短縮を識別し、これにより患者における可逆的な心臓非同期の存在を識別する、
ことにより、左心室内での圧力増加率の急速な増加に関するイベントの時間を測定する。
【0029】
さらに、データ処理モジュールは、ペーシングを受けている心臓の並行興奮の程度を決定するように構成され得る。具体的には、データ処理モジュールは、方法を介して、ペーシングを受けている心臓の並行興奮の程度を決定するように構成され、その方法は、
ベクトル心電図(VCG)、または、心電図(ECG)、右心室ペーシング(RVp)および左心室ペーシング(LVp)からの波形、を計算する;
RVp及びLVpのVCGを合計する、又は、RVp及びLVpのECGを合計することによって、合成両心室ペーシング(BIVP)波形ペーシングを生成する;
実際のBIVPから、対応するECG又はVCGの波形を計算する;
合成BIVP波形と、実際のBIVP波形とを比較する;
RVp及びLVpからの興奮が接して合成BIVPの曲線及び実際のBIVPの曲線が逸脱し始める時間における点を決定することによって、融合までの時間を計算する、
ことを含み、
ここで、融合までの時間における遅延は、より多くの量の組織が電気的興奮の波前面が接する前に興奮することを示し、それにより、より高い並行興奮の程度を示す。
【0030】
さらに、データ処理モジュールは、既定の閾値を超える心筋の並行興奮の計算された程度を有する、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュのノードに基づいた患者の心臓上の、心臓再同期療法のための最適な電極の数及び位置を決定するように構成される。具体的には、システムは、方法を介して、患者の心臓上の、心臓再同期療法のための最適な電極の数および位置を決定する方法を実行するように構成され、その方法は、
心臓の少なくとも一部の3Dメッシュは複数のノードを有し、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルから、または、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを得るための心臓の一般的3Dモデルを用いて、生成する;
心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、患者の心臓の画像に並べ合わせる;
患者上の少なくとも二つの電極の位置に対応する、3Dメッシュ上に追加のノードを配置する;
少なくとも二つの電極の位置に対応する3Dメッシュのノード間の電気的興奮の伝播速度を計算する;
伝播速度を、3Dメッシュのノードの全てに外挿する;
3Dメッシュの各ノードについて心筋の並行興奮の程度を計算する;および、
既定の閾値を超える心筋の計算された並行興奮の程度を有する3Dメッシュのノードに基づき、患者の心臓上の最適な電極の数及び位置を決定する、
ことを含む。
【0031】
カテーテルは、使用中、電極およびセンサが患者の心臓内に提供されるように、動脈経路、静脈経路、鎖骨下経路、橈骨経路および/または大腿経路を通して、患者の心臓内に提供される構成をとり得る。
【0032】
以下、添付の図面を参照し、単なる例として、所定の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1b】
図1bは、心房電極及び両室電極が植込まれてCRTが施される心臓を示す。
【
図2】
図2は、
図1Bの電極の位置の表示と共に心臓の3D表面幾何学モデルを例示する。
【
図3】
図3は、心臓のバイオインピーダンスを測定するシステム例である。
【
図4a】
図4aは、インピーダンス及び/又は加速度の測定同様、共同運動のオンセット(開始)のいずれの表示の測定を示す。
【
図4b】
図4bは、共同運動の開始(オンセット)への時間の心エコー図を示す。
【
図5a】
図5aは、左心室内に設置された圧力カテーテルが、どのように心室圧及び圧力波形の導関数を測定するのに利用されることができるかを例示する。
【
図5b】
図5bは、心筋セグメントの長さと硬さのその後の測定のための、心臓内のソノマイクロメトリ結晶の設置を示す。
【
図5c】
図5cは、そのような心筋共同運動の開始(オンセット)の決定と、これが
図5bの測定配置から左心室の圧力の二次導関数におけるピークの測定にどのように関連するか、を示す。
【
図5d】
図5dは、より非同期を引き起こさないペーシングの位置(位置2)の変化による、dP/dtピークまでの時間の変化を例示する。
【
図6】
図6は、心臓の収縮中に経験する生理的状態の例示を示す。
【
図7a】
図7aは、フィルタリング測定されたトレースに由来する様々な信号を示す。
【
図7b】
図7bは、フィルタされた波形からの様々な他のトレースを示す。
【
図8a】
図8aは、共同運動の開始(オンセット)又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
【
図8b】
図8bは、共同運動の開始又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
【
図8c】
図8cは、共同運動の開始又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
【
図9】
図9は、心室の3Dメッシュを含む、心臓の3Dモデルを作成する方法を示す。
【
図10】
図10は、患者の心臓と3Dモデルを並べあわせることに関連するX線の使用を例示する。
【
図11】
図11は、3Dモデルの並べ合わせにおいて使用する撮影されたX線画像を示す。
【
図13a】
図13aは、幾何学モデルに変換された心臓モデルを例示する。
【
図15】
図15は、頂点間の距離のために心臓モデルを較正する既知のサイズの物体の使用を示す。
【
図16】
図16は、心臓のリクルートされた領域の測定を外挿するための右心室のペーシングを例示する。
【
図17】
図17は、心臓の自然なペーシングに基づく分離時間を使用した、
図16と同様のプロセスを示す。
【
図18b】
図18bは、測地線距離の追加を示すと共に電位電極設置のための領域をハイライトした、複合測定の計算を示す。
【
図20】
図20は、ノードからの電気的興奮の伝播の表示を含む心臓モデルである。
【
図21】
図21は、心臓モデルに関連した心エコーパラメーターを示す。
【
図22】
図22は、瘢痕組織を参照して組織特徴を可視化する。
【
図23】
図23は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
【
図24a】
図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
【
図24b】
図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
【
図24c】
図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
【
図25a】
図25aは、右心室ペーシング(RVp)を行う電極に対して作り出されたベクトル心電図(VCG)を示す。
【
図25b】
図25bは、合成VCG LVP+RVpと実際のVCG BIVPとの比較を例示する。
【
図27】
図27は、
図26のカテーテルとともに使用するための例示的なガイドワイヤの詳細な図を示す。
【
図28】
図28は、どのようにガイドワイヤがカテーテルを操作するために使用されるかを示す。
【
図29】
図29は、カテーテルを心臓に挿入するためのさまざまなアクセスルート(経路)を示す。
【
図32】
図32は、カテーテルを含むシステムのブロック図を示す。
【
図33】
図33は、心臓内に配置された加速度計センサからの加速度計データから抽出できるさまざまなトレースを示す。
【
図35】
図35は、共同運動の開始(オンセット)への時間を計算するように、加速度データに対して実行され得る例示的な分析を示す。
【
図36】
図36は、センサのキャリブレーション効果を示すために、P true と P readingの例示的導関数のグラフを示す。
【
図37】
図37は、例示的カテーテルを、それが拡大し得るいくつかの例示的な寸法とともに示す。
【
図38】
図38は、異なる種類のペーシングに起因する2つの圧力曲線の比較を示す。
【
図39A】
図39Aは、圧力曲線のゼロ交叉の前進(先にゼロと交差する)を検出できるさまざまなトレースを示す。
【
図40】
図40は、さまざまな種類のペーシングでの共同運動の開始(オンセット)とdP/dtピークへの時間の比較的短縮を示す。
【
図41】
図41は、さまざまな種類のペーシングによるTdの前進の視覚的表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
心臓非同期の評価
正常な心臓の描写を、
図1aに示す。典型的には、CRTを受ける心臓には、
図1bに示すように心房電極及び両室電極102を植込み得る。それらには、プログラム可能なペースメーカー101が接続される。
【0035】
図2に見られるように、前記電極102の位置は、心臓の3D表面幾何学モデル上に表され、それにより、電極に対する測定ゾーンを表すカラーマップを伴う心臓モデル表示が示される。そして、心臓の各領域での測定値の一定の大きさの線、及び、カラーゾーン内部の電極の位置を可視化するために、心臓モデルの表面上に輪郭マップを投射しうる。各色は、測定値を表し、色の異なる程度が、スケール(尺度)に見られるように、その測定値の異なる程度を表す。例えば、一対の電極間で測定された心内インピーダンスに関する測定値を、このように、そのようなモデル上に可視化しうる。
【0036】
まず、システムは、心臓の任意の腔及び/又は血管内部に設置されたペーシングワイヤと、電流を注入するための表面電極、とに接続するように設けられたバイオインピーダンス測定システムを有する。複素インピーダンス、位相及び振幅の測定によって、心筋の共同運動の開始(オンセット)の時間の特徴化が可能となる。
【0037】
バイオインピーダンスを測定するためのシステムの例を
図3に示す。
図1bに示すような植込まれたCRT電極をともなう、心臓におけるインピーダンス(誘電)測定のための測定セットアップが示されている。電流を皮膚表面電極1及び2を介して注入することができ、インピーダンスを、電極間で又は電極とパッチとの間で測定できる。複数の電極を、複素インピーダンスの測定に含めることができる。その後、インピーダンスを処理ユニット301において処理し、デジタル信号へと変換し、そのデジタル信号が更に、複素インピーダンス波形の表示のために任意のデジタル信号処理ユニット302に転送される。計算されたインピーダンス波形は、共同運動の開始の計算のために利用したり、既知の波形からの類似性又は逸脱のために既知の波形と比較したりしうる。注入された電流の複数の周波数は、インピーダンス位相軌跡相互作用の最適化のために、振幅位相関係性及び方向性変化を最適化するように調整され得る。
【0038】
電極は、電流の注入のために、身体の表面上に、例えば、心臓の軸線(僧帽弁口の中心からLV心尖まで)に対して垂直に設置しうる。電流の注入は、心臓内部に配置された電極から行ってもよい。
【0039】
システムは、上述のような共同運動の開始の測定値を提供するように一つ以上のセンサを更に備え得る。例えば、加速度計又はピエゾ抵抗センサ又は光ファイバセンサを、身体表面上に設けたり、心臓内でカテーテル内部(His電位を検出するためのアブレーションカテーテル等)に埋設したりして、心臓音や大動脈弁の開弁又は閉弁を検出しうる。超音波センサを使用して、同様の測定値を得てもよい。タイムドメインでの圧力上昇ピークを検出、及び/又は、軌跡の進行を検出するために、圧力トランスデューサを、右又は左心室内部のカテーテルに設置してもよい。トランスデューサは、圧力曲線軌跡の時間導関数又は圧力曲線軌跡それ自体のいずれかにおける任意の軌跡と比較した遅延を測定してもよい。加えて、および/又は代替えとして、ECGを作成する表面電極を設けてもよい。
【0040】
そして、センサにより与えられたデータを、心臓非同期の測定値として、ペーシングの開始と心筋の共同運動の開始との間のオフセットの程度を計算するように、処理し、使用する。
【0041】
例えば、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装された回路を、心臓興奮及び収縮が駆出に繋がる時間に対応する、上述のセンサの一つ以上からの信号及び/又は測定値を受信するために使用する。
【0042】
そして、回路は、心臓が脱分極化し始めたとき並びに完全に脱分極化したときの時点に対応する、心臓のECG信号を追加的に受信しうる。ECGは、基準時間として使用でき、その結果得られる信号は、表面ECGにおいて見られるように、心臓の内因性興奮のオンセット(開始)/オフセット(終了)、及び/又は、ペーシングの開始に関連付けることができる。そのような情報は、ペーシングの開始、及び/又は、ECGの開始/オフセットに対する時間間隔を与えるための基準として利用しうる。
【0043】
心筋の共同運動の開始への遅延を測定する方法としての測定のそのような利用を、
図4aに示す。
図4aは、インピーダンス、及び/又は、加速度又はピエゾ抵抗センサ信号で測定される共同運動の開始の任意の表示の測定を示す。
【0044】
測定されたインピーダンスは、心臓の筋肉の収縮に対応する複素インピーダンス(位相)と、心臓内の血液量に対応する振幅で表される。このようにして、インピーダンス信号の振幅は、振幅信号における変化が心室内血液量における変化と並行するため、左心室内部の容積変化の代替物として使用しうる。インピーダンスの位相は、変化が筋肉容積及び心臓内血液量における変化と並行するため、筋肉収縮の代替物として使用される。
【0045】
基準点から、インピーダンス曲線が接してそれる(逸脱する)までの時間(1)は、共同運動の開始の表示として測定しうる。そのような点は、筋肉が短縮化し血液が心臓から駆出されるときに起こる。患者の身体内部の(又はその表面に接続された)加速度センサからの加速度は、所定の基準点後の加速の開始を判定するのに使用できる(4)。心拍毎及び刺激部位でそれ自体が再生される安定した加速度信号の一部は、共同運動の開始の表示として使用しうる。例えば、共同運動の開始を判定するのに使用された加速度信号の一部は、心音、大動脈弁の開弁又は閉弁のいずれにも対応しうる。
【0046】
更に、ECG信号は、QRS信号のオンセット(開始)、オフセット又は期間全体のいずれかからの基準点として使用でき(3)、等しく加速度信号は、オンセット(開始)、オフセット又は期間全体からの基準(2)として使用できる(2)。上述のように、そのような測定はいずれも、電極に対して、カラーコードされたゾーン及びスケールを使用する心臓ジオメトリの表面上に更に可視化できる。
【0047】
理解されるように、心筋加速度の測定として、心音図検査を使用するとき、または心拍によって誘導される体の振動の測定から等、他の測定を共同運動の開始に関連付けて利用しうる。例えば、身体内部又は外部からのエコー図検査、超音波検査及び心臓超音波を、共同運動の開始を測定するために、心筋壁速度、ストレイン又は各周期で繰り返される任意の他の測定の測定に利用できる。具体的には、S波速度の開始、S波ストレインレートの開始、心室全体の駆出の開始、大動脈弁の開弁、大動脈血流の開始のうち少なくとも一つを測定しうる。
【0048】
図4Bは、組織速度を示すための心エコー図装置において処理された組織ドップラー軌跡を示し、これにより、S波、pSacおよび短縮の開始までの時間としてのような測定における、共同運動の開始までの時間の心エコー表示を示す。心エコー図は、中隔及び側部組織速度、加速度及び変位の表示であってもよい。速度軌跡は、それらが等容性収縮(IVC)、収縮期流速(S)及び等容性弛緩(IVR)を表す心周期(Wiggers図)の部分に応じて割り当てられた文字を有する。微分速度は加速度に変換されるが、積分速度は偏位に変換される。S波の開始(オンセット)及び収縮期加速度ピークは、共同運動の開始を反映し、上述のように基準から共同運動の開始の時間を判定するのに使用できる。続くイベントは、いずれも同じ目的に使用できる。ストレイン又はストレインレートを計算するとき、測定を同様の形で行うことができる。他の例においては、
図5Aに見られるように、上述のシステムを使用して、ペーシングスパイク及び/又はQRSオンセット/オフセット及び/又はQRS波の安定部からdP/dtピークまでの時間、又は圧力カテーテルまたは圧力トレース又は圧力センサからのフィルタした信号を利用した圧力曲線の安定部の形態で、心筋非同期を測定しうる。
【0049】
図5aに見られるように、心臓には、ペーシングリード502に接続されたペーシング電極501が施され得る。左心室圧センサカテーテル503は、大動脈504を通じて左心室圧センサ505へと提供され得る。このようにして、
図5aに見られるように、左心室内部に配置された圧力カテーテルを、心室圧及び圧力波形の導関数の測定に用いることができる。QRS曲線の開始等の基準(5)から、LV圧力導関数曲線dP/dtのピーク(1)までの時間を測定することによって、共同運動の開始の表示を与え、またdP/dt/QRSピークまでの時間の測定値を効果的に与えられる。様々な他の測定値も
図5aに示し、またそれらが3D心臓モデル上にどのように表示されるかも示す。
【0050】
図5b及び5cは、ある動物試験から測定されたこの共同運動の開始の判定の例を示し、心筋におけるセグメントの張力が発達して伸展が終わる際の共同運動の開始を示す。
図5bは、ソノマイクロメトリ結晶510及び心外膜ソノマイクロメトリ結晶511の概略表示での心臓のモデルを示し、ソノマイクロメトリ結晶および心外膜ソノマイクロメトリ結晶は、例えば、
図5cにプロットした4つの異なる心筋セグメント長の軌跡520に見られるような、心臓内の様々な位置における心筋セグメント長の軌跡を測定するのに使用される。これらは、
図5cにおいて、比較の目的で、ECGトレース及び圧力の二次導関数とともにプロットされている。共同運動の開始の時間、OoS(すなわち、セグメントがもはや伸展しない時点、それらが硬くなったところ)を反映した測定時間が、左心室内の圧力の二次導関数におけるピークを反映していることが分かる。これは、左心室内の圧力変化の変化率が最大である(すなわち、圧力変化率における急速な増加の表示)ときであり、これは心筋の同期収縮によるものである。
【0051】
圧力曲線は、同じ基準時間(5)を有する任意の圧力曲線と比較することができ、曲線間のオフセット時間(2)、あるいは同じ基準を有する2つの比較できる曲線の異なるタイミングの間でのオフセット時間(2)、すなわち時間遅延4から時間遅延3をひく計算をすることによって、を測定できる。そのような比較の例が、
図5dに見られ、ここで、dP/dtピークまでの時間の減少が、異なる電極位置で見られる。このような測定は、上記した非侵襲測定より、より確かであることを証明することができる。再び、任意の測定を、電極に対して、カラーコードされたゾーン及びスケールを用いて、心臓ジオメトリの表面上に可視化できる。
【0052】
図5Dはまた、何故機械的興奮の既知の測定が同期性及びいずれのその後のCRTの潜在的有効性を判断するのに適切でないのかも示す。図から分かるように、位置1及び位置2の両方におけるペーシングで、機械的興奮の開始が類似した時点51で起きている。しかしながら、共同運動の開始、すなわち、圧力が指数関数的に増加し始め、圧力導関数率における急速な増加がある時点(
図5dから分かるように)が、位置1においては顕著に遅延して時点52においてのみ起こり、一方で位置2においてはこれが時点51の直後に起こっている。この圧力変化率における急速な増加は、以前見られたものと比較して速い率で圧力変化が増加し始める点を反映し、圧力導関数の最大値の前に起こる。この点は、最大圧力又は大動脈弁の開弁に先立って、二次圧力導関数の最終ピークに反映されうる。
【0053】
そのような遅延は、例えば、収縮する心筋の隔離された部分での非同期によるものであり、心筋の受動的な伸展を起こし、それが比較的低い圧力増加に反映されうる。このようにして、電気機械的遅延(EMD)等の機械的興奮の典型的な測定は、局部的興奮の短縮化開始までの時間の測定であり、心筋の隣接領域の働きを示すのみである。更に、非同期性心臓において、EMDは、心臓内部で異なる可能性があり、これもまた、運動障害等の他の問題によって心臓の至る所で異なり得る。
【0054】
対称的に、共同運動の開始は、心臓全体的マーカーであり、一度ほとんどのセグメントが電気的に能動的または受動的に硬化したあと、セグメントの能動的又は受動的硬化とともに心臓全体の興奮力が増加するときの現象、指数関数的な圧力上昇が開始(心筋共同運動の開始)する時間、セグメントの長さの短縮なしに(等尺性収縮)任意のセグメント収縮が力およびその後の圧力を増加する時間、を反映する。僧帽弁閉鎖は通常、心筋共同運動の開始時間付近に生じるイベントであり、閉鎖は迅速な圧力増加および等尺性セグメント収縮を可能にするために必要である。心筋の共同運動の開始もまた、僧帽弁が閉鎖しない状況でも存在するが、僧帽弁の不完全な閉鎖に伴い、心筋の共同運動の開始後もまたセグメントの短縮が起こるであろうし、共同運動の開始は、急速な圧力増加よりむしろ左心室の急速な用量変化に影響をもたらす。
【0055】
典型的に心周期において、電気機械的遅延及び等容性収縮を前駆出時間と呼び、EMD及びIVCを別々に保とうとするであろう。IVCは、短縮無しでの収縮がある(すなわち、容量が一定である)ということで特徴づけられる。非同期では、EMDと等容性収縮との間には大きな重なりがあり、等容性収縮期間中、短縮があり、従ってこの期間の典型的生理的特徴が失われる。従って、前駆出期間は、EMD及びIVCなので、非同期性心臓と比較して正常とは非常に異なる。
【0056】
心臓の収縮中に経験した生理的状態の例示が、
図6に見られる。この図に示すように、共同運動の開始は、代表的ECGに関連して示されており、QRS波において表される心臓の電気的脱分極の開始及びオフセットを示す。
【0057】
上述のように、心臓の筋肉の興奮は、電気機械的結合を必要とする。電流は、特殊(刺激)伝導系内部では高速で、伝導性筋肉組織内部では低速で、心臓の筋肉を通して流れる。伝導ブロックがあると、特殊組織では、伝播は遅延し、もはや特殊伝導組織によってではなく、心臓組織(筋肉、結合組織、脂肪及び線維組織)それ自体の伝導特性によって決定される伝導パターンを伴って非同期性になる。
【0058】
電気的興奮は、心臓組織の脱分極(例えば、ECG曲線又はペーシングアーチファクトから測定される)に繋がる電気的刺激の開始からQRS波のオフセットまで規定される。電気機械的遅延は、ペーシングの開始と局部収縮の開始との間(また、局部の電気的興奮と機械的興奮との間)に見られる。しかしながら、
図6においてよく見られるように、そのような測定は、心筋が全体として収縮し始めて急速な力を発生させる時点を反映していない。むしろ、早期に興奮した筋肉組織が収縮し始め、しかしながら負荷無しで、それにより小さい力の発達で短縮化して、心室の容量を維持するために弛緩したまたは消極的な組織を伸展させる。より電気的な興奮に伴い、弛緩したまたは受動的な組織を短縮化する組織は伸展し、結果として伸展した組織での張力の増加、負荷になる。一度電気的興奮が心臓全体に伝播し、より多くの筋肉が短縮化すると、伸展させる組織が無くなり、弛緩したまたは受動的な組織が硬化し、短縮及び非共同運動が停止して、筋肉を再び短縮させるために大動脈弁が開弁するまで、指数関数的な圧力増加を伴う共同運動の開始と共に力が発達する。
【0059】
共同運動の開始は、筋肉の短縮が心筋の収縮を同時に停止して、心臓での一定の容積/負荷で力を増加させ始める(等容性収縮で見られる特徴的反応)この点に関連する。これは、最も早い局所EMDと最も遅いまたはより遅い局所EMDとの間のある点で起こり、この位相において早かったり遅かったりするが、むしろ非同期の程度を反映する。本質的に、この点は測定が難しいが、この点は、多くの測定、例えば(限定はされないが)、早期心臓振動、圧力増加、圧力の導関数ピーク、大動脈弁の開弁、大動脈基部の振動、冠状静脈洞の振動、フィルタされた圧力波、圧力の負の導関数ピーク、に反映される。そのようなイベントの時間の測定が、共同運動の開始を直接反映するように、そのような測定は、共同運動の開始までの時間に一定の関係性を有してよく、従って、共同運動の開始の測定として使用され得る。従って、時間における共同運動の開始の表示を測定するためにそのような測定を用いることにより、共同運動の開始までの時間を減少させることにおける、異なるペーシング方法およびその効果を比較することが可能である。ペーシングの異なる方法を比較して短縮が起こる場合、より少ない非同期が存在し、時間遅延がより長くなる場合、より多くの非同期が存在する。
【0060】
センサ測定の結果に基づき、適用すべき、より効果的なペーシング方法を決定することも可能となり得る。例えば、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装された第二回路が、ペーシング戦略において幾つの電極を含めるべきか及びそれらをどの位置に設置すべきか、また更にどのペーシング戦略に従うべきかを判断するアルゴリズムを備えてもよい。例えば、CRTペーシング、His束ペーシング、両心室ペーシング(両室ペーシング)、複数点又は複数部位ペーシング、又は心内膜ペーシング、若しくはペーシングの提案されたアルゴリズムの形態で述べられたそれらの組み合わせにより達成され得る最も効果的なペーシングが決定され得る。例えば、内因性興奮での心筋の共同運動の開始が短い場合、または、適切な電極位置での心筋の共同運動の開始が長くなる場合、生理的/Hisペーシングが望ましい可能性がある。
【0061】
スクリーンを、任意の基準と任意の接続されたセンサの表示を有する心臓モデルの可視化のために追加的に設けてもよい。そのようなシステムは、dP/dtピークまでの時間、フィルタされた圧力信号のゼロ交叉までの時間、加速または圧力信号からのCWTに基づくFc(t)ピークまでの時間、興味のある時間幅における初期振動への時間、および/またはバイオインピーダンス信号逸脱への時間、の正確な測定の方法のような、上述の心筋の共同運動の開始の間接的な測定により、心臓非同期の正確な測定を可能としうる。このようにして、心筋の共同運動の開始までの時間の短縮を、前述したように、いずれかの直接的に測定したパラメーターの対応する短縮で可視化し、それにより非同期の存在を示しうる。等しく、いずれの適用されたペーシング手段も、非同期が存在しないと判断されるときに逆戻りされ得る。例えば、非同期が存在しない場合に、心筋の共同運動の開始の間接的測定としてインピーダンス位相及び振幅を測定するとき、再同期化での収縮の変化が起こらないため、インピーダンス曲線は異なる位置でのペーシングで変化しない。
【0062】
理解されるように、所定の制限を測定に適用してその測定から意味のあるデータを抽出できるようにすべきであり、測定は、既知の時点と比較すべきである。例えば、以下の条件の少なくとも一つを適用する場合、測定は、ペーシング中にのみ行うことができる。
1)QRSの開始前に心室刺激が起こる、
2)QRSの開始に対してタイミングが修正される、
3)心房ペーシングから心室センシングまでの間隔(AP-RVs)が既知である、
4)QRS遅延への長時間の刺激が補正される必要がある。
【0063】
効果的なペーシングを提供するために、AP-VPがAP-RVs及びAP-QRSの最も短いものよりも短くなるように、房室(AV)遅延を好ましくは計算すべきである。好ましくは、AP-VPは0.7×(AP-RVs)と等しくなるように計算すべきであり、あるいはAP-QRSの開始が既知の場合には、AV-遅延間隔は好ましくは0.8×(AP-QRS)とすべきである。
【0064】
測定は、内因性伝導での心室ペーシング中に行いうるが、QRS開始(オンセット)-VP間隔が測定において修正されない限り、QRS波の開始がペーシングよりも前ではない場合のみである。
【0065】
測定は、内因性伝導による融合が存在しないとき、心室ペーシングでの心房細動中に行い得る。しかしながら、心房細動中、ペーシングは、ペーシングが起きるときにQRS波が内因性伝導と融合しないが完全にペーシングされるように、時間における妥当な期間中に見られる最も短いRRインターバルよりも短いレートで好ましくは、起こるべきである。
【0066】
1つのセンサを利用して行われる測定は、既知の補正因子を使用してセンサ間の差を較正しない限り、同様のセンサとのみ比較されるべきである。時間における基準の検出は同様であるべきであり、比較として同様の時間基準の可能な限り最も良い表示となるように慎重に選択されるべきである。ペーシング刺激は、最初はネガティブで、その後幾つかの構成においてポジティブとなることがあり、同様に、最初はポジティブで、その後他の構成においてネガティブとなることがある。信号の開始は、信号の極性を無視した時間におけるバイアスのかかっていない基準を表し、そして最大ピークは2つの基準間で時間に関して異なる可能性もあり、比較した際にこれが、異なる極性での信号の最良の検出である場合、最大値を最小値と比較すべきである。内因性QRS波においてとして、内因性興奮が検出されると、QRS波のオンセットを正確に規定することが難しい場合がある。そのような場合、等電位線からの最も早期のオフセットを選択すべきである。
【0067】
心筋がペーシングされると(人工的に刺激されると)、ペーシングスパイクの開始からQRSオンセット(開始)までに時間遅延があるように、ペーシング刺激から興奮の開始までに遅延がある。測定値をQRSオンセットからの時間基準と比較、又は、測定値を伴うQRS波をペーシングスパイクからの時間基準と比較するとき、例えば同じ時間遅延をペーシングしていない測定値に加えることによって、そのような時間遅延を考慮すべきである。遅延は、典型的に、適用されるペーシングの種類に基づき計算される。例えば、遅延は、10~20ms(ミリ秒)の範囲内となりうる。心筋の損傷のような、通常の病態では、そのような領域内からのペーシングはこの範囲を超えてこの感覚を遅延する可能性がある。そのような遅延、通常20ms(ミリ秒)を越え80msまでは、比較のために注意深く使用される前に、注意深く分析され補正される(ペーシングまたは計算のいずれかによって)べきである。
【0068】
まとめとして、時間基準又はセンサが測定間で異なる場合、異なる時間基準又はセンサ間のオフセットを、比較用の測定において考慮すべきである。
【0069】
このようにして、測定前に、測定において補正する必要があるかもしれない伝導系を介した興奮が起きないことを確実にする必要がありうる。共同運動の開始の測定は、既に述べたように、再同期化の可能性の決定用の、表面ECGオフセットとの比較のためだけに心室をペーシングするわけではない、ときにのみ意味を持つ。
【0070】
上述の方法を用いて共同運動の開始を測定することによって、潜在的CRT療法の患者を識別することが可能である。本明細書で示唆するように、電気機械的興奮及び遅延や、力の発生の開始、局所的電気機械的遅延等の従来の測定は利用できない。論じたように、機械的興奮は心臓全体に亘って広い時間幅で起こるので、いつ電気機械的遅延を測定するかを正確に知ることは難しい。そのような問題は、電気機械的遅延を測定する全ての既知の方法で起こりうる。
【0071】
例えば、大動脈弁の開弁を用いて電気機械的遅延の分離された測定値を測定した場合、そのようなことを伴う多くのそれに関連する問題がありうる。そのような場合としては早期にLVをペーシングしてRVからの内因性興奮を可能としLVのペースから測定する場合、そして、もしLVペーシングが遅い場合、大動脈弁の開弁をLVによってではなくRV興奮によって決定するであろうが、LVから大動脈弁の開弁までの時間が短くなるであろう。これは、心臓の生理的機能を改善する際にペーシングの有効性の誤測定を与える。
【0072】
むしろ、正常な伝導系を通して興奮のタイミングを知ることによって、ペーシングが起こる前に行われた測定を補正することが可能である。例えば、内因性興奮がペーシングの前に起こる場合には、内因性の開始から測定し、ペーシングから興奮までの間隔を追加して、ペーシングの際の他の測定との比較を可能とすべきである。
【0073】
共同運動の開始の決定のためのフィルタされたトレース
本発明者らによって、心拍位相の特徴が左心室圧トレースの第2調波の後の周波数スペクトルにあることが更に分かっており、ここで前記調波は、1/ペーシングサイクルレートにより表される。低圧での早期収縮(すなわち、非共同運動と関連付けられる収縮)は、高周波数の圧力成分を生成しない。しかしながら、共同運動の開始を伴って起こる圧力の急速な増加は、LVPトレースの高周波数成分に結果としてなる。このため、第2以上の調波についてx軸ゼロにおける交叉は、共同運動の成分のみをとらえ、従って、QRSオンセット(開始)又はペーシングの開始と比較するための測定基準として使用できる。同様に、非共同運動(早期収縮で特徴づけられる)は、高周波数成分を生成しない。
【0074】
初期負荷(L0)に対する収縮負荷の開始とともに、収縮速度は、急速に増加する(Vmax)。収縮と共に、負荷は、Vが0となる点でLmaxまで増加する。張力が洞性波に続き、共同運動性張力は洞性エンベロープを超えて増加する。
【0075】
図7aに見ることができるように、LVPのフィルタリングは、心拍数を反映する第一調波の下にあるベースの(基底の)洞性波を説明する。続く第2以上の調波は、洞性波を特徴的圧力波形に形作る情報を含む。高周波数(例えば40-250Hz)成分は、収縮の開始と共に開始し、中間範囲周波数(例えば4-40Hz)は、共同運動の開始から大動脈弁の開弁まで増加する。本発明者らは、上述のフィルタされた圧力範囲が0と交叉するとき、dP/dtピークと共同運動の開始に時間的にちょうどつながり(一致し)、従って共同運動の開始を表しうることを発見している。力の増加及び洞性波形を超える指数関数的な圧力増加を伴う共同運動は、共同運動の開始と共に開始し、大動脈弁の開弁と共に停止する。
【0076】
高周波成分は、振動として評価でき、左心室から、固形液及び組織を介して、大動脈及び周囲組織へと伝わる。従って、大動脈圧(AoP)波形又は心房圧波形から高圧成分をフィルタすること、又は、加速度計又は他のセンサを使用して振動を検出することは、測定されたトレース/曲線上の同様の位置で、例えばトレースがゼロと交叉するときに、測定が振動の開始、または、波形の所定の特性若しくはテンプレート波形から起こる限り、共同運動を反映する。高周波成分はゼロ交叉の前に圧力増加の開始を識別するので、このような高周波成分(例えば40Hzより高いもの)は、中間範囲のフィルタされた信号(4-40Hzのような)での共同運動の開始の識別の改善における使用を追加的に見出す。
【0077】
図7bは、様々なフィルタされた波形からの様々な他のトレースを示し、それらが、それぞれが心筋の共同運動の開始OoSに関連するTdの様々な測定を与えるためにどのように使用されるかを示す。これらの測定の一つを取り、それがペーシングでどのように変化するかを測定することによって、Tdの特定の測定と、心筋の共同運動の開始の実際のイベントとの間の一定の遅延による患者における非同期の存在を識別することが可能である。
【0078】
図8a、8b及び8cに見られるように、共同運動の開始に関する更なる情報が、様々な測定信号のフィルタリングから推定しうる。
【0079】
図8aを起点として、上述の各位相を、トレース上に注釈している。最初に、ECGトレース上に見られるペーシングの開始と、LV圧の増加の開始との間に遅延がある。
【0080】
その後、既に広範囲に亘って述べたように、心筋の受動的な伸展のために、機械的力がゆっくりと増加し始めるとき、非共同運動がある。左心室圧の低周波数成分(心拍数の第2~第4調波未満)が、非共同運動に典型的である。非共同運動を伴うと、心臓の特定の領域において高い率でサルコメアのクロスブリッジ形成に伴う活性力の開始があり、それがサルコメア(及び筋原線維)の短縮を起こし、それが心臓のまだ収縮していないセグメント及び領域の伸展に繋がり、上記にて広範囲にわたって議論したように、結果として(低周波成分による)圧力がほんの少し増加するだけである。
【0081】
共同運動の開始は、圧力の増加の増加率に反映される、比較的一定の容量での力の急速な増加に反映される。全てのセグメントの興奮及び共同運動に伴い、負荷が増加するので、等尺性(及び等容性)状態に近づくとき、(高周波成分で)圧力が急速に増加する。これは、例えば、非共同運動性収縮による初期の(比較的)ゆっくりとした圧力増加と共同運動性収縮の指数関数的な増加との間での左心室圧の増加率における識別可能な変化において見ることができる。これは、左心室圧の増加率における段階的な変化において見ることができ、および/又は、データの更なる後処理によって識別しうる。例えば、この変化は、圧力変化において段階的な変化があるときに圧力トレースに含まれる周波数が増加するため、その周波数範囲において測定できる。これは、周波数スペクトルの低次の調波を越えて起こり、OoSは、低次の調波をローパスフィルタ又はバンドパス フィルタでフィルタしたときに明らかとなりうる。例えば、バンドパス2-40Hzまたは4-40Hzでのフィルタリングにより、非共同運動と関連付けられる低くゆっくりとした周波数が除去され、共同運動の開始は、大動脈弁の開弁又は最大圧力に繋がる又はその直前の圧力増加の開始として見られる。代わりに又は加えて、これは、左心室における圧力上昇の二次導関数ピークに見られる。フィルタリングは、ペーシングされた心拍数または任意の他の適応可能なフィルタリング技術に対して、適応性のある適用できる調波であることができる。
【0082】
圧力増加率におけるこの変化は、脱分極又は弾性モデルがその最大近傍に達することのいずれかにより、受動的に伸展されたセグメントの張力が増加する間に、増加する指数関数的なクロスブリッジ形成によるものである。等尺性又または偏心性収縮を伴う急速なクロスブリッジ形成は、圧力曲線周波数スペクトルにおける高周波成分に繋がり、共同運動の開始を反映する。心周期のこの位相は、第1又は第2調波よりも高いハイ パス フィルタでLVPをフィルタリングした際に見られる。フィルタされた特徴のある波形は、共同運動の開始から0を交叉するまでほぼ直線的増加を有し、大動脈弁の開弁まで直線的増加を続ける。直線的増加の線は、共同運動の期間を反映し、位相の途中でゼロと交叉し、これが上述のdP/dtピークに相当し、共同運動の開始は、この線が、フィルタされた圧力曲線の底より上又はその最下点で上昇し始める位置において反映される。
【0083】
その後、大動脈弁の開弁と共に駆出が起こることによって、比較的一定の圧力でLV容積が減少する。トレースの他の例が
図8bに見られ、
図8cにおいてそれぞれの位相上に示すように注釈されている。
図8cはまた、大動脈圧の高周波フィルタも示し、OoS(共同運動の開始)の測定として使用しうる地点での高周波ドメインにおけるピークも示す。
【0084】
共同運動の開始の測定法を決定するために、他のデータが代替え的または追加的に分析され得る。このようにして、他の測定を、圧力トレースを測定するため、および、上記で考慮されたように共同運動(またはそれに関するイベント)の開始時間をそこから決定するため、の補足、または、圧力トレースへの代替え、のいずれかとして用いられ得る。例えば、加速度計センサによって提供されるものなど、加速度データは、
図33から35に示されるように、解析され得る。
【0085】
図33は、加速度計データから抽出できるさまざまなトレースを示す。グラフ3302は、経時的な周波数スペクトルを示すウェーブレット スカログラム3303が生成される生の加速度を示す。グラフ3304は、左心室圧(LVP)と大動脈圧(AOP)を示し、グラフ3305はLV容積を示し、グラフ3306は検出したECGを示す。
図34は、グラフ3302の加速度の下部トレースの拡大抽出3404およびを示し、グラフ3302のウェーブレット スカログラムの拡大抽出3401を示す。ウェーブレット スカログラムから、各時点の中心周波数を表すトレース3402を導出してよい。所与の時間枠内のこの頻度3401のピークは、共同運動の開始の時間を正確に表すことが発見された。これは、
図33に示すように、いくつかのトレースに対してポイント3301としてプロットしてよい。一方、
図34は加速度の一つの軸のみを示しており (この場合はx軸の加速度)、すべての軸に対して同様の分析を行うことができ、明確にするために単一の軸のみが示されていることを理解されたい。
【0086】
図35は、共同運動の開始までの時間を計算するように、加速度データに対して実行され得る例示的な分析を示す。各軸について、生の加速度が測定される。時間に対する生の加速度の一つの軸からのデータのプロットは、グラフ3501で見ることができる。生の加速度データは、その後、バンドパス フィルタされ、グラフ3502に見られるデータが得られ得る。このようなバンドパス フィルタされたデータセットから、連続ウェーブレット変換(CWT)を計算して、グラフ3503を得ることができる。次いで、グラフ3504に見られるように、中心周波数トレースfc(t)がCWTから計算される。fc(t)トレースを心拍に対応するサイクル3505に分割することによって、各サイクルを平均し、ピークfc(t)の時間を抽出し、グラフ3506に見られるように、共同運動の開始への時間(Td)を決定することが可能である。共同運動の開始への時間は、QRS開始3507などの任意の適切な基準時間から測定してよい。
【0087】
理解されるように、加速度データは独立した尺度として使用されてよく、あるいは代替え的に、共同運動の開始までの時間を決定するように、圧力トレースおよび/またはフィルタされた圧力トレースなどの他の測定と組み合わせて使用し得る。
【0088】
共同運動の開始のさらなる議論
上記(および以下)の説明から理解されるように、共同運動の開始の点は、様々な方法で決定してよく、本質的に、心臓内の指数関数的な圧力上昇(急激な圧力上昇)に結果としてなる、能動的収縮または受動的ストレス(静止張力の増加)のいずれかから心筋の大部分が硬化するので、筋原線維が共同的に働き、等尺的に収縮し始める、心臓の興奮の間の点(または時間に直接関係する点)を検出する、ことにより決定し得る。以下の方法例は、共同運動の開始の点を測定でき利用できる方法の完全なリストを意図したものではなく、むしろ本発明を説明するための例として提示される。
【0089】
共同運動の開始点と、それがさまざまなタイプの治療(たとえば、内因性リズム、RVペーシング、LVペーシング、および/またはBIVPなど)でどのように異なるかを決定できる場合、共同運動の概念が患者の中に存在するかどうかを識別することができる。共同運動の開始点への時間が短縮されることができると識別できる場合、そして、決定されたペーシングレジメンのための「共同運動」が存在するということができ、したがって、患者が治療から恩恵を受けることができる。
【0090】
当業者によって理解されるように、本明細書に提示される方法は、患者の存在を必要とせず、患者からのデータの収集を明示的に必要としないことに注意することが重要である。一方で、患者のデータは必要であり、測定は、データの収集後に実行され、患者から離れて実行され得る(典型的には実行される)。したがって、本明細書に記載の発明は、患者の存在なしに、既存のデータセットに対して実行できることが想定される。このように、データの収集を伴う患者の検査は、本発明に不可欠ではない。本明細書における、データの収集を必要とする工程の参照のいずれも、すでに実行された工程および測定を参照するように理解されるであろう。このように、本明細書の方法は、患者に関する技術情報を提供するようにそのようなデータを処理する方法として見なすことができ、これは、そして、データが以前に収集された患者の予後を与える/改善するためにどのくらい優れているかを計画するために使用してよい。
【0091】
心臓再同期療法(CRT)は、心腔(左脚枝またはヒス脚)の伝導系を直接刺激することによって、または複数の部位での刺激で(再同期療法)、のいずれかによって複数の方法において達成でき、理解される。CRTは、ペースメーカーを恒久的に適用して、または、電気生理学カテーテルまたはペーシングリードを一時的に適用して、心筋の人工的刺激を行うこともできる。CRTはまた、一つまたは複数の心腔のあらゆる種類の人工的刺激で再同期を実行する意図があることを暗示する。患者の内因性伝導を再同期と見なしてもよく、患者の心臓における、内因性興奮と人工的にペーシングされた拍動または異所性内因性拍動を比較してよい。
【0092】
共同運動の開始の時間の計算は、(心臓再同期療法を受けた後)患者が、(CRTまたはペーシング電極での)刺激の間に共同運動の開始の遅延を有する場合、患者の予後が悪くなるというように、予後のバイオマーカーとして用いられてもよい。このように、心房を刺激する、または、心室を感知しながら心房の電気的興奮を感知する、の何れかにより、心拍数を制御し、心室を感知するとき、患者からえられたデータから、再同期療法から予後結果を決定する方法が記載されていると言える。そして、CRTが適用され、感知電極とセンサからの信号が回収される。間隔の測定とデータの比較は、ペーシングパルスが共同運動をもたらしたかどうかを決定するためのデータの収集後、体外のプロセッサで実行される。最初の間隔が他の間隔より短い場合、共同運動の改善が見いだされ、そして、予後は良好であると決定される。
【0093】
上述したように、共同運動の開始の正確な測定のため、データセット内の電気的興奮とそれに起因する圧力増加が、刺激された部位のみに起因し、心臓の内因性興奮に起因しないことが確証されることが望ましい。したがって、本明細書で考慮される方法の組み合わせまたは単独において、ペーシング電極は心房と心室に配置されてよく、ペーシングは心房から、および/または、例えばもし心房の線維化が存在するのであればその時は心室から、適用されてよく、どちらのペーシングも内因性心拍数より10%超えるレートである。したがって、内因性興奮より高い心拍数でのペーシングの間に受領したデータから、間隔のセットの自動的検出が起こることができ、例えば、
表面ECG開始およびオフセットにペーシングされた心房の検出、
右心室の感知された間隔にペーシングされた心房の検出、
左心室の感知された間隔にペーシングされた心房の検出、
が起こり得る。
【0094】
心室が興奮するまでの固定した間隔をもたらし、内因性興奮が測定した反応で邪魔されないことを確実にするために、検出した間隔のいずれよりも40%短いペーシングされた心室間隔にペーシングされた心房でのペーシングであってよい。これは、心室が内因性興奮によって興奮しないことを確実にし、したがって、ペーシングされた興奮と内因性興奮が競合せず、共同運動の開始時間の不正確な測定につながることができる。
【0095】
共同運動の開始の識別に関する上記測定は、ペーシングが結果として共同運動になる(共同運動の増加になる)かどうかの指標を与える、様々な異なる方法にて利用されてよい。共同運動の開始の点を図示し、および/または測定する方法は、
図38のように想像される。共同運動の開始は、テンプレート(
図38にあるような)または等式のいずれかとして表されることができるdP/dtピークまで継時、軌跡に続く、繰り返し可能な圧力増加に結果としてなる。CRTの前後で圧力曲線を比較し、圧力曲線が互いに追跡できるように結果となる曲線を(CRT有/無で)移動することにより、互いに適合するように曲線を移動するために必要な量によって、共同運動の開始の遅延を決定することが可能である。この時間遅延は、圧力曲線を通して一定のままである。
【0096】
例えば、
図38は左心室3840のペーシングを生じる圧力曲線と両心室ペーシング3830に起因する圧力曲線の継時比較3810を示す。点3800から見ることができるように、RVP3830とBIVP3840に対する曲線は平行であり、両方の反応で心房刺激の共通点である点3801によって、どちらも並べられる。そして、これに続く圧力増加の測定が続く。他の言い方をすると、RVPとBIVPに対する曲線は異なる心拍に関係するが、それらはそれらの刺激タイミングにたいして共に合致し、圧力レベルは心室ペーシングの前に曲線の拡張期の部分に合致するように調節される。
【0097】
これらの曲線を比較することにより、共同運動が存在するかどうか(すなわちBIVPを提供することにより共同運動の開始への時間が短くなったかどうか)、および共同運動の開始のタイミングを、比較された合致した圧力曲線間の逸れる点を見つけることにより測定してよい。
【0098】
図38に見られるように、具体的には比較3810に見られるように、RVP圧力曲線3840とBIVP圧力曲線3830は平行で始まる一方、それらはBIVPでの共同運動の開始の時間を表す、点3802から逸れ始める。
【0099】
発明者らは、共同運動の開始のタイミングにおける違いにもかかわらず、共同運動の開始に先立つ圧力増加は、一般的な拡張期圧力増加に続き、そして共同運動の開始に起因する圧力増加は、遅延にもかかわらず、常に同一形状を有し(すなわち、圧力と共同運動の開始から始まる時間との間のプロット上の同一の数学的等式に従う)、そして相対的静止張力の間を変化する。したがって、このポイントの決定から、BIVPに起因する圧力曲線のこの部分を、RVPに起因する圧力曲線の対応する部分状に合致させることが可能である。ここから、BIVPが共同運動の開始をどのように変化させたかについての関連情報を決定するためにシフト(移動)された量を用いることが可能であり、したがって、そのようなペーシング方法で共同運動が存在するかどうか決定する。
【0100】
例えば、
図38に示されるように、BIVP圧力曲線3830の一部を、その後、BIVP圧力曲線とRVP圧力曲線が逸脱する点3802(これはBIVP圧力曲線3830上の矢印に示されている)に続く、RVPに関連する対応曲線上に合致させることができる。このシフト(移動)したBIVP圧力曲線3850は、点3803で、もとのBIVP圧力曲線3830と交差し、これは指数関数的圧力増加の開始を示す。点3802(すなわち共同運動の開始)と点3803(指数関数的圧力増加の開始の結果)は、RVP圧力曲線3840とBIVP圧力曲線3830の間の逸脱のタイミングを記す点である。
図38の例において、点3802に続く(dP/dtピークまで上がる)BIVP圧力曲線の一部のように、BIVP圧力曲線3830は、シフトしたBIVP圧力曲線3850がRVP圧力曲線3840に適合する点まで、上に、シフトした圧力曲線3850の右に移動する。共同運動の開始3802に続くBIVP圧力曲線の一部は、点3805で始まるRVP圧力曲線上に合致し、この点からRVP圧力曲線と同一曲線に続く。したがって、上記したように、同一患者での共同運動の開始に続く圧力の増加は、dP/dtピークまで同一圧力上昇に続くので、RVP圧力曲線における共同運動の開始は点3805で起こると言ってよい。
【0101】
BIVPの間(点3802で)の共同運動の開始とRVPの間(点3805で)の共同運動の開始の差を比較することにより、ペーシングでの変化が心臓の機能にどのような影響を与えるかに関する価値ある情報を得ることが可能である。時間遅延(
図38の例でのt
38)は、BIVPは患者での共同運動の開始への時間の短縮化に結果としてなることを示すために使用でき、したがって、患者の予後を改善するためにどのようにペースメーカーがプログラムされ得るかを示す。加えて、点3803と点3805の間の垂直オフセットは、心室の非同期性収縮と共同運動の開始の前の心筋の受動的伸展に起因する心筋での静止張力での増加を示す。
【0102】
図38はまた、比較3810の簡略化されたバージョンである比較3820を示している。これは、BIVPとRVPの間での共通の拡張期圧力を示しており、そして、BIVPでの指数関数的圧力増加につながる逸脱点1(すなわちBIVPでの共同運動の開始)を示す。点1に続くBIVP曲線の部分は、RVP圧力曲線の対応する部分に合わせることができ、RVPでの共同運動の開始の(比較的)遅延に結果としてなる、点2でのRVPによる共同運動の開始を示す。この時間遅延は、BIVPとRVPの圧力曲線全体にわたって一定のままである。
【0103】
当業者に理解されるように、多数のペーシングレジメンに起因するデータ用に、曲線の単純な合わせにより(例えば、最小二乗法で圧力軌跡へのテンプレートの合致による)、または、曲線を表す数式の比較により、この工程は自動化されることができる。共同運動の開始に起因するdP/dtピークまで上がる、指数関数的な圧力上昇のデータを自動的に検出できる。これから、圧力曲線に合致する指数関数的式の自動的計算がある可能性があり、そしてこれから、指数関数的式が多数の曲線の一つに合致する時間を決定できる。例えば、テンプレートマッチがある可能性があり、そして、指数関数的式とテンプレートマッチの間のオフセットの時間、または、同様に他の測定との間の相互相関が計算される。加えて、これは、心臓から取得できる生の圧力データに関する
図38の例に示されている一方で、これらの測定は、フィルタされた圧力測定を含むすべての圧力測定に反映されることが理解されるであろう。例えば、対象患者への共同運動の開始に起因する圧力上昇を説明できる共通の数学方程式が存在するので、ペーシングが共同運動の開始までの時間遅延にどのような影響を与えるかの正確な表現を与えることができるように、さまざまな種類のペーシングに続くdP/dtピークまでの時間遅延を比較することができ、したがって、最も効果的な治療のための適切なペーシング方法とペースメーカーのプログラミングについてアドバイスするために使用される。
【0104】
上記から、共同運動の開始までの時間と指数関数的な圧力上昇曲線間のオフセット、またはバンドパス フィルタされた曲線間のオフセット、または圧力曲線の導関数間のオフセット、の出力が提供される。共同運動の開始が、単なるRVペーシングより短い場合、植込まれたペースメーカーにRVとLVチャンネルの両方からペーシングするようプログラムすることは有益であると決定されることもある。同様に、複数のチャネルで起こり、共同運動の開始までの遅延は複数の点/複数のペーシング部位のいずれよりも短いように、ペーシングを修正することが推奨される場合があり、複数の点/複数の位置での方法にてペーシングするようにペースメーカーにプログラムすることを提案することもある。
【0105】
図39aと
図39bは、具体的には、LVまたはRVの何れかがペーシングされる場合と比較して、LVとRVの両方からの刺激での(バンドパス)フィルタされた圧力曲線(Tp)のゼロ交叉の前進(先にゼロと交差する)により、共同運動の開始の促進を検出できる他の方法を示し、したがって、この例では、共同運動が存在すると言え、したがって、BIVPを用いるCRTを行うことが望ましいであろう。
図39bは、明瞭かつ参照しやすいように、
図39aのトレースのより詳細な図を示している。
【0106】
図39aは、五つの個別のケースで集められたトレースを示し、一つは自然洞調律、一つは心房ペーシング、一つはRVペーシング、一つはLVペーシング、もう一つはRVとLVペーシング(BIVP)である。
【0107】
上記したように、共同運動は、付与されたペーシングレジメンによる刺激が共同運動の早期の開始につながることによる現象である。これは、バンドパス フィルタされた圧力曲線のゼロ交叉における左側へのシフト(移動)によって識別されることができる、急速な圧力上昇の進行によって識別され得る。共同運動の開始(Onset of Synergy:OoS)は、
図39bに見ることができるように、ゼロの正接に沿った圧力上昇の対応する開始である。したがって、BPフィルタされた圧力曲線のゼロ交叉における左側へのシフトは、OoSに直接関係し、したがってOoSにおける左側へのシフトに対応するということができる。
【0108】
OoSは、ペーシングまたは電気的興奮の開始からの内因性リズムでの急速な圧力上昇と比較されることができ、他と比べた時にOoSが進行している場合、そして、より共同運動が存在すると言ってよい。
図39bは、BIVPではTa-TpがベースラインでのTa-Tpより短いことを示し、Tdが内因性収縮の結果ではないことが確認される。Tdは、電気的興奮からTpまでの時間を測定し、OoSへの時間の基準間隔である。
図39bに見ることができるように、Tdは、ベースラインに比べBIVPではより短く、BIVPでは共同運動が存在し、BIVPを用いるCRTを行うことが望ましいであろう。
【0109】
図39aと
図39bのトレースをポピュレートする(コンピューター上のリストや表にトレースを自動的に加える)ために、OoSに関するデータは左心室内の圧力センサから収集され、心房および/または右心室および左心室内に配置された電極、および対応するECG信号を収集する表面電極、から収集された心臓の様々なタイミングに対して、その後解析され得る。
【0110】
上記のように、圧力信号は、高周波と低周波を除きその後の解析を簡素化するために4-40Hzでバンドパス フィルタされることができる。圧力信号に対応するECG信号は並べられ比較される。
【0111】
ECG信号はプロセッサユニットに渡され、心房の内因性興奮/刺激の時間(Ta)が決定されることができる。圧力センサからの信号もまた、プロセッサユニットに提供され、BPフィルタされた圧力波形から0の値は決定されることができ、時間が抽出されてよい(したがって、Tpの測定を与える)。これから、ベースライン間隔Bが、Ta-Tp(つまり、興奮と内因性興奮についての圧力曲線のゼロ交叉の間の時間)に等しいとして計算されることができる。間隔PI、Ta-Tp、TdおよびQRS開始を
図39bに示す。
【0112】
次に、Ta後(ただしQRS開始前)、設定されたペーシング間隔(PI1)で最初の電極(たとえば、RVまたはLVに配置された電極のひとつ)からの心室ペーシングに続き、対応するTp1を計算され得る。0の値はBPフィルタされた圧力波形から決定され、時間が抽出される(Tp1)。
【0113】
ペーシング間隔(PI1)は、典型的にはQRS開始の20ミリ秒を越える前まで減少し、対応するTa-Tp間隔(Ta-Tp1)がB(興奮と内因性興奮についての圧力曲線のゼロ交叉との間のベースライン間隔)より少なくなるまで減少する。例えば、Ta-Tp<Bとなるペーシング間隔はPI1であり、PI1での対応するTa-Tp間隔(Ta-Tp1)はT1に等しい。
【0114】
次に、心室のペーシングは、Taの後に設定されたペーシング間隔(PI2)で二番目の電極(つまり、別の電極)から実行され、対応するTp2が登録される。このようにして、ゼロ交叉は、対応するBPフィルタされた圧力波形から収集され、時間は抽出される(Tp2)。再度、ペーシング間隔(PI2)は、対応するTa-Tp間隔(Ta-Tp2)がBより少なくなるまで減少し、これもまた典型的には20ミリ秒を越える。例えば、Ta-Tp<Bとなるペーシング間隔はPI2であり、PI2でのTa-Tp間隔(Ta-Tp2)はT2に等しい。
【0115】
次に、心室のペーシングは、PI1とPI2の低い方に対応する、設定されたPI3でのTaに対して複数の電極(例えばRV電極とLV電極の両方)から実行される。そして、T1とT2は、各電極での刺激で、PI3で繰り返され、BPフィルタされた圧力波形から0の値は収集され、T1とT2への時間が抽出される。そして、PI3で組み合わされた電極の刺激と対応するTa-Tp間隔(Ta-Tp3)は登録される。PI3でのTa-Tp間隔(Ta-Tp3)の結果はT3に等しく、T3がPI3でT1とT2より低い場合、共同運動が存在すると言ってよい。この場合、そして、CRTにおいて複数の電極から相乗的ペーシングを行うことが望ましい。逆に、T3がT1とT2より高い場合、共同運動は存在せず相乗的刺激は実行できない。BIVPについてのポジティブな決定に続き、ペースメーカーが、心臓の相乗的刺激について、Taに対するPI3について対応する間隔でプログラムされることができる。この工程は、異なる電極位置からのT3と比較して最も短いT3間隔を見つけるために、異なる電極位置で繰り返されることができる。
【0116】
最後に、Tベースラインは、QRS開始からTpまでの間隔を測定し、15ミリ秒+PI3を加えることにより計算できる。Td BIVはT3から間隔PI3を除くことと等しく、TdベースラインはTベースラインから間隔PI3を除くことと等しくなる。T3がTベースラインよりも低い場合(すなわち、ペーシングと内因性伝導を比較したとき、Tdまでの時間が短くなるまでの時間)、共同運動が存在すると言える。要するに、Tdを計算する場合、Td BIVがTdベースラインよりも低いときに共同運動が存在すると言える。一つの電極(T2およびPI3)のみを使用して特殊な伝導システムをペーシングする場合、T2がTベースラインよりも低いとき、共同運動が存在すると言える。
【0117】
同様のデータは、ペースメーカーからの異なるPIからの相乗的ペーシングに使用できる。このような方法では、ペースメーカーは、心臓に相乗的ペーシングを提供するために、最初の電極についてのPI1に対応する間隔、および、2番目の電極についてのPI2に対応する間隔、でプログラムされる。各PIは、Bより短い、対応するTa-Tpに結果としてならなくてはならない。0の値は、BPフィルタされた波形から収集され、時間が抽出される(Tp1)。QRS波の開始が識別され、ベースラインおよび各ペーシングで時間が抽出される(Tqrs)。Tdベースラインは、心腔をペーシングすることなしで、内因性興奮で、TqrsからTp1までである。ペーシング電極と(複数の)PIについてのTdは、TqrsからTp1までの時間間隔に等しい。次に、いずれかの電極または新しい電極について新しいPI3が追加され、二つ以上の電極からペーシングが提供され、新しいTp2と対応するTd(TqrsからTp2)が計算される。再度、Tdが低いほど対応する(複数の)PIでより共同運動が存在することを示す。複数の電極ペーシング(BIVP)でのTdと(複数の)PIがTdベースラインより低い場合、そして、ペーシングで共同運動が存在すると言え、ペースメーカーは、対応する(複数の)PIを伴う対応する電極で心臓を刺激するようにプログラムされることができる。共同運動が存在する場合、そして、ペースメーカーは二つの電極で刺激するようにプログラムされることができる。当業者に容易に理解されるように、さらに、追加の電極および(複数の)PIを追加し、同時にまたは電極(構造)間の遅延とともに、刺激されることができる。典型的な遅延(複数のPI)は10~60ミリ秒である。
【0118】
そのような場合、様々な構成が解されてよい。他のすべての時間間隔よりも短くなるようにTdを短縮する構成は、改善された共同運動として解され、したがって、ペースメーカーは、共同運動の最も速やかな/最も早い開始をもたらす構成の適用で、電極を刺激するようにプログラムされることができる。
【0119】
このような方法は、
図38に関して上記にてより詳しく述べたように、同様に、圧力曲線からの共同運動の検出で実行されてよい。二つの電極が同時に、または遅れて刺激されると、次に、変化しない圧力曲線(例えば、80%を超えるテンプレートマッチ)(最下点、0クロス、テンプレート、最小最大を含む)の最も早い識別可能な部分が注目され、いずれか他の電極対からの刺激および構成と比較されるべきである。ある構成で刺激された一対の電極が、他に比べて曲線の一部が進む場合、そして、そのような構成で共同運動が存在し、進んだ曲線の最も早い部分は共同運動の開始であり、測定が実行される時間点である。ペースメーカーは、電極の位置の点での刺激と構成を実行するようにプログラムされることができる。
【0120】
図40は二つのグラフ、4001と4002を示す。グラフ4001は、さまざまな位置でのさまざまな種類のペーシングによる、OoS(BPフィルタされた圧力曲線の最下点として測定)とTd(dP/dtピークまでの時間、バンドパス フィルタされた圧力曲線のゼロ交叉によって示される)の短縮化を示す。この場合、位置2からのペーシングにより、OoSまでの時間がさらに減少すると言え、したがって、位置2からのペーシングを提供することが望ましい可能性がある。グラフ4002は、OoSとピークdP/dtの間の相関関係を示しており、OoSが心臓内の指数関数的圧力上昇ピークに関連していることを示しており、
図38にて示したように、共同運動の開始の遅延に起因する遅延は指数関数的圧力上昇ピークまで一定である。
【0121】
共同運動開始の要旨
本質的に、この件の発明者は、左心腔内の筋原線維が等尺性収縮を開始し、そのため急速に力が発生し、駆出前の指数関数的な圧力増加につながる点である、共同運動の開始(Onset of Synergy:OoS)と称される点を測定することにより、心臓再同期療法の適切な候補である患者を効果的に識別するために使用できる、新しい手段を開発した。OoSは、最も早い機械的興奮後で大動脈弁が開く前の、駆出前の間隔内で起こる。したがってOoSは、その他では、電気機械的結合間隔と駆出前の間隔/等容性収縮期間から独立している。どのように時間におけるこの点が治療で変化するか識別することによって、与えられた治療方法が患者の予後の改善に効果的であるかどうか決定するだけでなく、何が最も効果的な治療であろうかということもまた決定する。OoSの点に直接関連する測定の前進の視覚的表現と、この例においてBIVPが最も効果的治療であろうことを決定するためにそして使用される様々な種類のペーシングで、それがどのように異なるか、を
図41に見ることができる。
【0122】
本明細書では、OoSの点(またはOoSに直接関連する同様の点)を識別することを可能にするいくつかの方法を識別する一方、このような識別は、信頼できる結論に達することができる検出を可能にする、本明細書で概説した、従来通りではないデータ解析工程を必要とする。例えば、本明細書で説明する方法およびシステムは、刺激(内因性または人工的)が実行された場合、表面ECGにおいて、またはVCGまたは心臓の電気的興奮のパターンによってそれが認識されるように、心拍数の知識、AV結節を通る伝導の知識、内因性または人工的の何れかの心房刺激から心臓の興奮への時間の知識(内因性か人工的かどうか)、または正確な表面ECG構成の知識、が知られているの条件下でのみ意味のある結果を作り出す。
【0123】
刺激から以外の他の興奮を避けるように刺激は実行される必要があり、上記知識を基に計算される必要がある。例えば、一つの電極からの刺激が実行されるとき、刺激の組み合わせはOoSの時間の不正確な測定につながることがあるので、刺激された心拍が刺激からのものであり、内因性でないことを試験すべきである。
【0124】
新しい電極が刺激されるとき、刺激された心拍が刺激のみによるものであり、内因性刺激、早すぎる刺激、興奮前の刺激、または他の刺激でないことを再度確認すべきである。同様の考慮事項を、二つの電極またはそれ以上を組み合わせる刺激の前に考慮されるべきである。OoSの測定は、測定された反応が刺激された電極に起因し、測定された反応が、刺激が除かれたときに変化する、拍動でのみ行われることができる。
【0125】
構成(すなわち非相乗的ペーシングから、および一つ以上の電極のペーシングから、実行される)が心臓の最も早く認識可能な内因性興奮より遅く起こるとき、そして、この最も早い興奮は、人工的刺激に起因するよりむしろ基準ように用いられるべきである。
【0126】
上記の要素を考慮することで、心臓のペーシングを行うときだけでなく、感知および測定したデータを分析するときにも、潜在的な電極の位置と構成の知識を得ることが可能であり、これを、心臓の相乗的刺激を提供するように、植え込み可能なペースメーカーにプログラムするために使用できる。
【0127】
心臓並行性を使用した電極の位置決め
心臓並行性の程度(すなわち、心筋の並行興奮の程度)を測定することによって、心臓同期性を特徴づけすると共に、心筋の並行興奮がより多く得られて心臓非同期を低減する(再同期化)解剖学的なペーシングゾーンを識別することが可能である。そのような測定を利用してCRTを手引きおよび最適化できる。
【0128】
まず、心臓並行性の程度を測定するために、リクルートメントカーブを作成し、時間に対して、ペーシングに続いて電極からリクルートされる心臓の部分を示す。そのようなグラフから、並行性の程度を判断しうる。
【0129】
図9の方法10を参照し、工程11において、左心室、右心室及び左心室、右心室の遅く増強される領域の3Dメッシュを作成するために、MRIスキャン又はCTスキャン等の医療画像を使用して心臓の3Dモデルを作成する。工程11でのそれらの後で増強される領域。代わりに、この方法は、工程12のように、一般的な心臓モデル、又は、セグメント化されたCT/MRIスキャンから導入した心臓モデルメッシュを使用してもよい。そして、工程11又は12のいずれかの3Dモデルを、アイソセンタ1001で、患者の心臓を伴う患者のx線画像に対して位置合わせする。3Dモデルと患者の心臓を合わせるそのような方法の一つが、
図10において見られる。
図11に見られるように、少なくとも二つのX線画像1001、1002を、互いに対して既知の角度で撮影し、3D心臓ジオメトリ1004を作成するために蛍光透視パネル及びアイソセンタ1001に対して並べ合わせる。
図12に見られるように、それら少なくとも二つのx線画像を使用して、3Dの冠状静脈洞を再構築しうる。アイソセンタ1001で、患者の心臓とともに蛍光透視パネルと互いに対して既知の角度を使用し、冠状静脈洞を再構築し、工程11又は12のいずれかの3D心臓モデルの上に重ねる。
【0130】
図13a及び13bに見られるように、心臓モデル1004(一般的心臓モデル又はMRIスキャンに基づく特定の心臓モデルのいずれか)は、表面(
図13a)又は容積(
図13b)を表す三角形状ネットワーク(複数の頂点)接続された複数のノード(頂点)1005からなる幾何学モデルに変換しうる。そして、電極1006を心臓に植込み、植込み中又は植込み後に、植込まれた電極の位置を反映するように心臓のジオメトリ上に追加のノードがマークされる。ノード間において、電極の一つが刺激された(ペーシングされた)ときに患者の電極により測定された電気的間隔を反映する間隔が入力される。当業者であれば理解するように、電極がすでに患者内に植込まれており、その後電極が配置された点に配置されたノードを含むように、その後心臓モデルが更新されることが想定される。数学的補間(例えば、逆距離加重法)を行って、すでに測定値をもつノードの間でノードに対して値を割り当てることができる。このようにして、モデルにおける電気的興奮を反映するように、モデルにおける全てのノードが、測定値に基づく値と計算された値をもつ。電気的興奮の計算は、新たな測定を電極間で行った際に更新したり、瘢痕及び/又は線維化及び/又は電気伝播に対する他のバリアの領域の特定により修正したりできる。全てのノードの計算値は、モデル内の全てのノード間の電気的興奮が少なくとも部分的に説明されるように行われる。
【0131】
そして得られるジオメトリは、複数のノード間で測定されそれらに割り当てられた電気的時間間隔を有する複数のノードを含む。全てのノード間の測地線距離が計算され較正されると、電気的興奮の測地線伝播速度を計算しうる。そして伝播速度が、心臓ジオメトリに存在する全てのノードに入力される(工程14)。
【0132】
工程15において、複数のノード又は電極1006からの伝播を計算することができ、
図14に見られるように、心臓モデルメッシュの各頂点の速度を考慮した、着色された等時線1007として、心臓全体に亘る電気的興奮の時間伝播の可視化になる。
【0133】
患者の各ノード間の測地線距離を計算しうる。
図15を参照し、頂点間の距離に対して心臓モデルを較正し、それをスケール内でカラーゾーンとして心臓ジオメトリの表面上に表示できる又は投影できるように、既知のサイズの物体121を蛍光透視スクリーン上で使用してよい。そのようにして、一般的な心臓モデルに基づき作成された心臓ジオメトリを、既知の尺度(スケール)で、各患者に特異的に適合させるができる。
【0134】
図16に見られるように、一つのノード1006でペーシングをし、他方のノードでセンシングを行うことによって、心臓のリクルートされた領域の測定値を外挿しそのような測定値をカラーゾーン/等時線として表すことが可能である。例えば、
図16に見られるように、右心室をペーシングしうる。ペーシングからの、そして他の電極におけるセンシング(RVpLV)からの時間遅延を使用して、時間測定を既知の頂点に合わせることができる。頂点間の既知の測地線距離を利用することによって、その測定値を心臓ジオメトリの他の頂点に外挿して、所定の時点における追加のリクルートされた領域の等時線を作成することが可能である。従って、これらの等時線は、患者の特定の心臓から植込まれた電極を介して得られた測定値に基づき、モデル又は患者特有の冠状静脈洞の再構築に投射される。これによって、数値の可視化のための患者特有の心臓ジオメトリが可能となり、頂点の既知の値及び頂点間の何れかの数を用いることを考慮するさらなる計算を可能にする。
【0135】
図17に見られるように、分離時間を使用して同様のプロセスを行うことができる。この場合、心臓は、能動的にペーシングされず、むしろ等時線は、分離時間(SepT)に基づき、すなわち電極1006が、心臓の自然なペーシングにより興奮したときに、心臓ジオメトリ上に作成される。
【0136】
上述の測定の一つ以上の組み合わせを使用することによって、追加的な複合測定を構築し、患者の心臓の幾何学モデル上にそれらを表すことが可能である。
【0137】
例えば、
図18aに見られるように、SepT+RVpLVsに基づく計算を計算しうる。ここで、そのような測定値を、「電気的位置」と称し、この値の計算によって、右心室の心尖において右心室電極で得られた測定値に対する、心臓の所定の領域(心尖、前部、側部等)に関連した心臓モデルの異なる色表示を提供する。
【0138】
図18bのように、測地線距離を更に追加することによって、最適な電気的且つ解剖学的位置を考慮しうる。そのような測定値によって、スケール上の最高値を有する結果が、電極の潜在的に最適な(OptiPoint)位置を表す。そのような位置は、最も効果のある現在の電極から最も離れた領域を表す。電極のそのような設置は、右心室の心尖部に位置付けられた電極と共に興奮させると、高い並行性を実現する。最も高いOptiPoint値に対応する位置を、潜在的な電極の配置領域として、
図18bのように心臓モデル上にハイライトされる。
【0139】
図19に見られるように、電極間の測地線距離と組み合わせた、一つの電極のペーシングから他方の電極におけるセンシングまでの時間間隔の測定値によって、測地線速度を計算することができる。そのような測地線速度は、逆加重補間アルゴリズム/計算への入力を与えて、モデルにおける全ての頂点に速度値を与えうる。このようにして、速度値を、ノードが取り付けられていない全ての残りの頂点に外挿することができ、それにより、心臓組織の特徴を示すことができる。例えば、各頂点には、ターゲットノードとソースノードとの間の測地線距離、並びに、隣接する頂点の数を考慮した逆距離加重補間を用いて計算された特定の速度に対する値を割り当てうる。そして、これらの値を使用して、速度値を、ノードが取り付けられていない頂点に外挿できる。
【0140】
上述のように各頂点における速度が補間されると、
図20に見られるように、ノードからの電気的興奮の伝播を心臓モデル上に表示しうる。これにより、電気的興奮の伝播を、心臓のモデルのカラースケール上の等時線として組織の特徴に基づいて可視化することができる。そのような時間伝播は、時間変化に対して面積変化を示し、単一又は複数のノード1006から可視化できる。
【0141】
更に、セグメント化を使用した心エコーデータを、心臓モデル上に移行し、心臓モデルの組織特徴を変更し高めることに使用しうる。例えば、
図21に示すように、アメリカ心臓協会(AHA)の左心室のセグメントモデルまたは類似物を使用して、心エコーパラメーターを、心臓モデルにおけるセグメントに割り当て、心臓ジオメトリの頂点に移行しうる。そのような割り当ては、既存の心臓モデルの既存の頂点に適用でき、従って、フローチャート2100に見られるように、ジオメトリのノードの全てを更に分類するために使用しうる。
【0142】
同様に、心臓ジオメトリに組織特徴を割り当てるために、3D MRIスキャンにより識別可能なもののような心臓の筋肉の瘢痕組織2201を使用しうる。これは更に
図22において可視化され、ここで、瘢痕の領域が心臓ジオメトリに投影され、各頂点に速度値が割り当てられて、組織特徴を高める。そのような分類を利用して、速度モデルを変更し、追加の組織特徴で識別されている頂点に対して新たな速度値を割り当てることができる。
【0143】
工程16において、計算された速度モデルからの各時点における(興奮したサルコメアの)追加のリクルートされた領域を複数の電極から計算でき、
図23及び24に見られるように、モデルの全領域又は限定された領域が等時線で覆われるまでの各時間ステップにおける追加領域、及び、時間=0から時間=x+1までのその伝播を考慮して、心臓モデルにおける時間伝播に基づき、その電極に対するリクルートメントカーブを、描くことができる。言い換えると、リクルートメントカーブは、リクルートメントの領域または容量の変化の測定値をy軸に、時間スケールをx軸にとり、心臓モデルにおけるリクルートされた領域又は容量を表す。リクルートメントカーブは、複数の特徴、例えば、期間、傾き、ピーク、数式、テンプレートマッチング、によって特徴づけできる。
【0144】
所定のノードに対するリクルートメントカーブを考えることで、
図23に見られ且つ工程17に説明するように、放物線を、リクルートメントカーブに適合しうる。これにより、加速度、ピーク及び伝播速度のピーク値までの時間を各リクルートメントカーブから抽出でき、また、完全なリクルートメントまでの時間(すなわち、全心臓モデルがリクルートされるまでの時間)が抽出できる。ピーク伝播速度までの時間が短いほど、すなわち伝播加速度が高いほど、より多くの並行性が見られ、同様に完全なリクルートメントまでの時間が短いほどより大きいピーク値が見られる。ピークリクルートメントが総リクルートメント時間の50%で優先的に起こるように最適な曲線特性を設けうる。より多くの並行性(すなわち、興奮前面が接するとき興奮の総面積が最も多くなる)を作り出す電極が選ばれる。
【0145】
図24aからcに見られるように、伝播曲線は、電極位置の変化や瘢痕の存在により変化しうる。比較のために、幾つかのリクルートメントカーブを示し、それぞれがどのように異なるかを示す。そのような比較に基づき、ペーシングに対して最も理想的な反応が得られる電極を選びうる。
【0146】
センシングされた興奮のパターンが遅すぎる組織内の伝播を示す、または、測地線速度が閾値未満である、または瘢痕の存在において十分な平衡性興奮を提供できない場合、そのような症状は再同期療法の恩恵を得られる非同期を表さないため、CRT装置の植込みは行われるべきではない。
【0147】
電極のそれぞれからのペーシングにより、心臓のペーシング中に発生する電気力の大きさ及び方向を記録するベクトル心電図(VCG)が作られる。試験される各位置に対して、各電極及び2つの電極の組み合わせでペーシングが行われ、各状況に対してVCGが作られる。
図25bの例に見られるように、VCG RVpが右心室ペーシング(RVp)を行う電極に対して作り出され、VCG LVpが左心室ペーシング(LVp)を行う電極に対して作られうる。そして、合成VCG LVP+RVpを、作られた2つのVCGの合計から計算でき、両心室ペーシングが行われるとき電極の組み合わせから実際のVCGが得られ、結果となるVCG BIVPを収集する。
【0148】
そして、
図25aに見られるように、合成VCG LVP+RVpと実際のVCG BIVPとを比較し、互いからそれる曲線軌跡の時点を記録し、ペーシングの開始からその時点までの間隔を、融合時間間隔までの時間として計算する。
図25bに示す例は、2Dで表示されているが、当業者であれば、精度を向上するためにこの比較が3Dで行われてもよいことは理解できるであろう。
【0149】
ペーシング刺激と、曲線軌跡がそれる時点との間の時間間隔は、融合までの時間(すなわち、心臓組織における複数組織からの電気伝播が接するまでの時間)を表す。曲線軌跡がそれる時点までの期間が長いことは、心筋のより多くの並行興奮を示す。従って、合成VCGと実際のVCGとの間の曲線軌跡がそれる時点までの時間を出来るだけ長くすべきである。融合までの時間は、同期性(並行興奮)の程度を判断するために、独立して、又はQRS幅に対して計算されてよい。
【0150】
同様の方法は、1つ又は複数の次元で、電位図(EGM)及び心電図(ECG)により行うことができる。電極刺激部位の追加で曲線軌跡がそれるまでの時間間隔を短縮化できない又はそれるまでの時間が増加する場合、電極を刺激部位及び電極の数に追加するように、電極を追加することの追加の恩恵が得られる。
【0151】
この方法により、追加の電極をペーシングするこの新しい状態とこの電極をペーシングしない状態とを比較することで、ある電極を追加することの付加効果を分析することができる。新しい電極が融合までの時間を減らさない場合、これは、この電極の追加によって、それがないときよりも早い段階で融合を促進することなく組織の捕捉及び興奮を可能とする。よって、電極の追加により融合までの時間が低下しない場合、より多くの並行興奮が起こる。
【0152】
上述のリクルートメントカーブは、電極のための位置を示唆するが、作成したVCGを更に使用してそれらを検証しうる。これに関して、VCG及びリクルートメントカーブは、互いを反映する電気的興奮の測定値である。これらの測定値が一致しているとき、それは、示唆される電極位置に対する正当性及びモデルに対する正当性を与える。この点において、作成されたリクルートメントカーブに基づき電極の位置に対して良好な位置が見出されると、この位置の正当性をVCGに基づき検証する。当業者であれば理解するように、これらの測定値は必ずしも組み合わせて使用されるだけではなく、リクルートメントカーブのそれぞれ又はそれる点の決定は、いずれも適切な電極位置を決定するために別々に使用しうる。これらの測定値のいずれも、並行性、心筋の並行興奮の程度、を反映しているため、心筋の並行興奮をより多くして心臓非同期を低減する(再同期化)解剖学的なペーシングゾーンを特定するために単独で利用しうる。そのような測定を利用することによって、CRTを導き最適化しうる。
【0153】
電気的興奮の程度を測定するために、植込まれた電極を使用することに加えて又は代えて、逆解ECGも利用しうる。患者に適用した表面電極から得られるデータを利用することによって、心臓モデルが上述のような解剖学的に正しい位置に位置付けられ、心臓モデルに対する相対的な電極位置が正しく既知である場合、逆解アプローチを使用して電気的興奮のマップを心臓モデル上に外挿することが可能である。
【0154】
そのような場合、心臓ジオメトリにおける各ノードの興奮は最初に興奮した領域からの距離に対して相対的に見られるため、そのモデルに関して速度の計算を行うことができる。そして、この速度を使用してリクルートメントカーブを計算できる。一つの電極からペーシングを行う場合でも、異なる電極からの興奮の計算と同様に、興奮を計算できる。これらの測定が、伝播速度計算及びリクルートメントカーブの基礎を形成できる。
【0155】
そのような場合、体表面電極を使用して、表面電位を収集することによって、並行性(すなわち、心筋の並行興奮の程度)を決定する。そして、そのような表面電位は、既に述べたように、患者の心臓の実際の位置とともに配置されるように合わせられた心臓モデル上に外挿しうる。これにより、心臓の逆解法ECG興奮マップを作成され、伝播速度、そして非同期の存在を判断するために、その興奮マップを上述のように操作しうる。
【0156】
そのような逆解法ECGを得るために、システムには、複数の表面生体電位(ECG)を取得するための表面電極を設けうる。システムは、瘢痕を含む瘢痕組織を含みうる心臓のセグメント化されたモデル上の電気伝播を計算するために、逆解法を提供するように構成しうる。(患者の心臓に並べあわせられた心臓モデルからの)測地線距離を、電気伝播と組み合わせて利用することによって、システムは、測地線距離と組み合わせた心臓の電気的興奮波前面の逆解に基づき、心臓モデルにおける伝播速度を計算するように構成しうる。測地線速度が心臓モデルにおける各頂点に割り当てられると、時間伝播及び並行性を、モデルにおける任意の且つ複数の部位から測定できる。
【0157】
更に、表面電位を、心臓モデル上の一つ又は複数の点からの伝播速度を計算するために利用される特徴として、心臓モデルに組み込んでよい。心臓に植込まれた電極からの直接的な測定に関連して述べたように、これにより、複数の異なる点の差異を計算するために、複数の伝播速度曲線が作成できるようになる。そのような複数の伝播速度曲線間の比較を使用して、電極を設置するための好ましい位置の表示として、より良好な加速度、ピーク速度又は伝播時間をもつ位置を選択することが可能である。
【0158】
方法例
本明細書に記載のシステム及び方法は、推定上非同期心不全を伴う患者の、再同期化ペースメーカー(CRT)での治療前及び治療中の両方で使用してよく、1)CRTに良好に反応しそうな(明白な再同期化の可能性が存在する)患者を識別する根本にある背景因子の存在を識別し、2)ペーシングリード/電極を設置するための最適な位置を識別し、3)最適な電極の配置と心臓の再同期を検証する、ために使用しうる。
【0159】
患者は、現在、適応基準が記載された国際ガイドラインに基づきCRTペースメーカーの植込みを勧められる。これらの基準は、大規模臨床試験における対象患者基準および心不全の症状、駆出率(心臓機能)の低下及び120-150msを超えるQRS波(好ましくは左脚ブロック)の広がりからなる他の事象に基づく。しかしながら、現在、CRTで治療するための一つ以上の症状をもつ患者のうち50-70%のみが実際に治療に反応する。これらノンレスポンダーの理由は複数あるが、リード位置、根底にある背景因子(非同期、同期不全)、瘢痕、線維化及び電極位置が最も顕著な理由である。非同期心不全を示す根底にある背景因子の検出を改善することによって、治療の最適化(個々の患者に特化した療法を可能とする)のために、(診断能力内での)レスポンダーの選択を向上することが可能である。
【0160】
まず、患者がCRTに反応するかどうか、及び、標準的な対象患者基準をもつ患者にその背景因子が存在するか否かを判定する根底にある背景因子(再同期化の可能性)を検出し判定することが望ましい。背景因子が存在する場合にはCRTペースメーカーの植込みを進めるべきであるが、背景因子が存在しない場合には適用される他のガイドラインに従うべきである。
【0161】
根底にある背景因子が存在する場合、あるいは根底にある背景因子がまだ識別されていない場合でも、瘢痕及び線維化を考慮した並行性の測定値に基づき、リードのための最適な位置を発見しうる。並行性の測定は、心臓の内部(例えば、心臓の静脈又は心腔内)において、電極をもつガイドワイヤ又はリードにより行われる。そして、電極の設置のための最適な位置が示唆される。
【0162】
各ノードからの測定された並行性を考慮して決定された最適な位置に応じてリードが最適な位置に設置されると、(心筋の共同運動の開始の直接的又は間接的な測定のいずれかによって)反応を確認、あるいは、その位置を拒否することが可能である。
【0163】
所望の反応が確認された場合には、CRTペースメーカーを植込むべきである。反応が確認されない場合には、最終確認前に、並行性のマッピング及び測定を改良すべきである。反応が確認できない場合、植込みを中止し、代わりの植込みのために既知のガイドラインに従うべきである。
【0164】
本明細書に記載の方法及びシステムの全てが、併せて使用しうること、また同様に別々に使用されることが想定される。これに関して、非同期の存在及び再同期化の可能性を検出し、最適なリード位置を選択することなく再同期化を確認することが可能であり、同様に、根底にある背景因子及び再同期化を確認することなく最適なリード位置を選択することが可能である。
【0165】
従って、患者からの信号及び測定時間間隔の可視化を可能とする電極への接続を含むシステムを提供しうる。代わりに又は加えて、センサ及び電極を含み、心臓モデルの可視化及び心臓モデルジオメトリに基づく計算を可能とするシステムを提供しうる。上述のシステムの両方は、手術室内において組み合わせることができる。
【0166】
上述のシステム及び方法の実施を、手術中の実施例を用いて更に説明する。
【0167】
まず、患者が手術室内に運び込まれ、センサ及び電極が患者の体表面に固定される。
【0168】
心筋の共同運動の開始(OoS)までの遅延を判断するために、一つ以上の追加センサを利用しうる。例えば、圧力センサ、ピエゾ抵抗センサ、光ファイバセンサ、加速度計、超音波及びマイクロフォンのうち一つ以上を利用しうる。追加センサからの測定値は、リアルタイムで取られ、現地で処理されうる。心筋の共同運動の開始までの遅延が、QRS波に対して短い、又は、絶対値において短い(例えば、120ミリ秒(ms)よりも短い又はQRS時間の80%よりも短い)場合、CRT装置の植込みを行うべきではない。心筋の共同運動の開始までの遅延を測定して、QRS波に対して長い又は絶対値において長い(例えば、120msよりも長い又はQRS時間の80%よりも長い)場合には、CRT装置の植込みを行うべきである。
【0169】
体表面電極を使用して、上述のような心臓の逆解ECG興奮マップのための表面電位を収集して伝播速度を判断することで非同期の存在を判断することによって、並行性(心筋の並行興奮の程度)を判断しうる。加えて又は代えて、患者の心臓内部に植込まれた電極を使用して、電気的興奮マップを作成し、それにより非同期の存在を判断してもよい。センシングされた興奮のパターンが示す組織内の伝播が遅すぎる場合、又は、瘢痕組織の存在下で十分な並行興奮を与えることができない場合、CRT装置の植込みは行うべきではない。
【0170】
そして、患者は、手術の準備がなされ、滅菌ドレープがかけられる。手術を通常通り開始し、リードを、左鎖骨下方の皮膚切開及び鎖骨下静脈の穿刺により患者の心臓内に設置する。その後リードを、右心房及び右心室内の正しい位置に移動する。
【0171】
そして、非同期を、右心室をペーシングすることによって導入し上述のように心筋の共同運動の遅延を測定するとき、に確認できる。心筋の共同運動の開始の遅延を判断するために、センサを、左心室内又は右心室内に設置しうる。このようにして、心筋の共同運動の開始までの遅延を計算するために、以前利用したものと同じ計算を行いうる。
【0172】
リードを設置すると、冠状洞にカニューレを挿入し、2つの平面での血管造影を行って、冠状静脈を可視化する。
【0173】
冠状静脈を可視化すると、先端に電極をもつ細いガイドワイヤ、又は、マッピング目的のための一つ又は複数の電極をもつ任意のカテーテルを挿管できる。そして、時間間隔の測定値を使用して、内在興奮、組織特徴及び静脈特徴のうち一つ以上を特徴づけする。そして、冠状静脈の解剖学的構造を、ソフトウェアにおいて再構築し、測定値を、その再構築された冠状静脈洞に対する心臓モデル内の位置に割り当てる。
【0174】
そして、並行性の最も高い値をもつ電極位置をハイライトするために、身体の外部で行われる方法において、このデータを、並行性を計算するために使用する。これらの測定値に基づき、外科医は、電極をもつ左心室(LV)リードを所望の位置/静脈に位置決めするようアドバイスされる。同様のアドバイスが、右心室(RV)リードを再位置決めするために与えられる。より高い並行性の程度を実現するために、取得された測定値及びその処理に基づき、他の且つ/又は更なる電極を含めるようにアドバイスをすることもできる。他の電極とは、利用可能なもの(心内膜の外科的経路(アクセス))以外の電極位置を指し、更なる電極は、複数の電極(二つより多い)の使用を指す。
【0175】
上述の結果、冠状静脈枝が二つの平面において見られ、左心室リードの設置のために適切な静脈を選択する。
【0176】
LV電極を配置するとき、RV及びLVの両方をペーシングする際の心筋の共同運動の開始までの遅延を判定するためにセンサを使用してよい。LVリードを異なる位置に再配置することによって、異なる電極を分析しうる。心筋の共同運動までの遅延の測定は、圧力センサ、ピエゾ抵抗センサ、光ファイバセンサ、加速度計、超音波のうち一つ以上を使用するか、又は、バイオインピーダンス(RVリード及びLVリードに接続されている場合)を測定することによって行われうる。心筋の共同運動までの遅延が、少なくとも例えば内在測定値の100%未満まで短縮化されない場合、又は、バイオインピーダンスの測定値が奇異な動きによって再同期化が起こっていないことを示す場合、提案されたリード位置を破棄すべきである。QRSオンセットから測定される内在値は、ペーシングの開始から心室捕捉までの時間を含まないため、定義上、刺激から測定される値よりも短い。従って、内在興奮がある場合に測定される時間間隔は110%に近似する。このため、QRS波から測定される共同運動の開始までの内在の遅延は、ペーシングスパイク開始から人工的にペーシングを行ったときに起こる電気的組織捕捉までの時間を反映した値に、例えば15ミリ秒(ms)を加算することによって較正できる。
【0177】
RV、LV、又はその両方をペーシングする際、VCGを再構築でき、また融合までの時間を計算できる。既に測定された並行性を確認するために、融合までの時間を更に使用しうる。表面電極を逆モデル化に使用して、融合までの時間を測定することができる。測定された融合までの時間と、測定された並行性とが一致しない場合、そのような不一致の原因を更に検証すべきである。
【0178】
複数の電極をもつLVリードを、医師の裁量で使用することも可能である。複数の電極の使用は、並行性を測定する際に使用でき、並行性の増加が分かると、そのような並行性の増加を、融合までの時間を使用し、心筋の共同運動の開始までの遅延を測定することによって確認できる。
【0179】
リードが所望の位置に設置され、心筋の共同運動の開始までの遅延が、初期内在値の(例えば)110%未満であり且つ両室でペーシングされたQRS波の(例えば)100%未満の場合、CRTを植込み、デバイスジェネレーターを接続して皮下ポケット内に植込むことができる。リードが心筋を捕捉しないと分かった場合、又は、その位置が科学的実証データ又は測定された間隔(QLV)に基づき最適下限であると判断された場合、デバイスジェネレーターを接続する前に、そのリードを再位置決めして再試験する。そして、皮膚切開を縫合して閉じる。
【0180】
上述のシステムは、信号増幅器又はアナログ-デジタル変換器(ECG、電位図及びセンサ信号)と、デジタル変換器(センサ信号)と、プロセッサ(コンピューター)と、ソフトウェアと、x線へのコネクター(dicomサーバー又はPACSサーバーと直接通信することによる、又は、フレームグラバー及びアングルセンサと間接的に通信することによる)とを含む総合システムにおいて具現化しうる。使用者の裁量で、異なるセンサと共にシステムを使用することが可能である。更に、他の問題を解決するためにもシステムを使用しうる。例えば、このシステムは、心筋の共同運動の開始までの遅延の追加測定により、His領域の特定や、His束におけるペーシングリードの設置に利用しうる。
【0181】
システム例
上記の方法で使用できるカテーテルもまた提供される。このようにして、非同期によって引き起こされる非共同運動を検出し、また同様に、治療に適した患者を選択することを補助する、ために使用できるシステムを備えたカテーテルが提供される。カテーテルは、ガイドワイヤおよび生理食塩水洗浄用のルーメンを備えた心臓カテーテルを含み得る。カテーテルは、一つ以上のセンサを備える。例えば、カテーテルは、電気的な局所的および全体的な心臓信号を感知するための、振動、圧力、加速度および電極を備えることができる。カテーテルは、静脈または動脈経路を介して左心腔または右心腔に、および/または冠状静脈に配置することができる。電極は、(カテーテル上の基準電極へ、または患者の体に接続された他の電極へ)双極または単極方式で電気信号を感知するために使用でき、電極は、さまざまな位置で心臓のペーシングに使用できる。カテーテルは、ケーブルまたはワイヤレスのいずれかでデータを処理するシステムに接続する。遠位側のカーブの直径を大きくするように、ガイドワイヤはカテーテルのルーメンを通じて通され、ガイドワイヤは心臓の組織に接触するようにルーメンの末端を通じて通され、感知およびペーシング電極として使用されることができる。
【0182】
カテーテルが心腔内に通されるとき、ひとつの電極から他へ(またはカテーテルの外部にある電極へ)の電気的遅延を測定するため、およびそのように電気的興奮を決定するために、カテーテルのセンサから提供される電位図を使用することが可能である。加えて、カテーテルの使用にて、振動、圧力、加速度などの他の要素を測定することが可能であり、そして、心臓での共同運動の開始を決定するために使用されることができる手段を受け取るために信号をフィルタする。したがって、カテーテルを使用して、再同期の程度および再同期の可能性を測定するためにさらに使用できる測定法を得ることができる。同様に、カテーテルは、電極位置の付与されたセットについて、共同運動の開始までの時間を計算するために必要なすべてのデータを測定することができるシステムの一部として提供される可能性がある。したがって、カテーテルを備えるシステムを使用して、患者の再同期の可能性を迅速かつ容易に決定することができる。
【0183】
そのようなカテーテルは、いくつかの用途を提供し得る。上記の考察の通り、カテーテルは、ペーシングに続き、患者の再同期の可能性を決定する、共同運動の開始を検出するために使用されるすべての測定を得るために使用されてよい。例えば、共同運動の開始を決定するためのそのような方法は、上記または英国特許出願番号1906064.9(特許文献1)にて規定される。カテーテルは、並行興奮の程度を決定するための測定での使用が見いだされてよい。例えば、並行興奮の程度を決定するためのそのような方法は、上記または英国特許出願番号1906055.7(特許文献2)にて記載される。同様に、カテーテルは、心臓での融合への時間を決定するための測定に利用されてもよい。例えば、心臓での融合への時間を決定するためのそのような方法は、上記または英国特許出願番号1906054.0(特許文献3)にて記載される。カテーテルは、データをさらに後処理するための必要がなく、上記の値のいずれかの測定を提供するために、カテーテルから受信したデータをさらに処理できるデータ処理モジュールをさらに備えることができる。
【0184】
そのようなカテーテル2600は、
図26に見ることができる。カテーテルは、一つ以上の電極2601、一つ以上のセンサ2602、シャフト2603、通信手段2604および2605、止血ベント2606、およびガイドワイヤ2607を備える。カテーテルは、遠位端2608まで延びる。
【0185】
センサは、任意の所望のセンサであってよい。心筋の共同運動の開始への遅延を決定する際にカテーテルが使用される場合、心臓内の圧力を侵襲的に測定することが可能であるように、センサが圧力センサであることが望ましい可能性があり、これにより、左心室内の圧力の変化を測定する。追加または代替として、センサは、圧電、光ファイバ、および/または加速度計センサを備えてもよい。センサは、心臓収縮、共同運動の開始、弁イベント、および圧力などのイベントを検出し、プロセッサに接続された受信機に送信することができる。
【0186】
カテーテル2600の遠位端2608は、湾曲した遠位端に配置された電極2601が、カテーテルのシャフトに沿って比較的硬いガイドワイヤ2607を前進させることによって動かされことができるように、だらりとしたピッグテール(ブタの尾形状)である。カテーテル2600を通してガイドワイヤを前進させることにより、カテーテル2600の遠位端2608に設けられたカーブの直径が増加する。これにより、カテーテル2600の遠位端2608を動かすことが可能になり、それによって電極2601の動きが可能になる。このような可変位置は、
図26の破線2611に示されている。さらに、カテーテル2600の遠位端2608には、側壁心内膜との非外傷性接触のための柔らかい先端を設けることができる。
【0187】
通信手段2604は、電極2601から受信したデータを送信することができ、通信手段2605は、センサ2602からデータを送信し得る。示したように、これらは、外部データ処理モジュールに差し込むための物理的なワイヤとして提供され得る。あるいは、これらは、物理的な接続なしでデータを送信するために、ワイヤレス伝送を提供することもできるであろう。カテーテル2600のシャフトは、任意の適切な直径であり得る。例えば、シャフトは5Frシャフトであり得る。さらに、止血ベント2606を通して生理食塩水洗浄が提供され得る。。
【0188】
ガイドワイヤ2607のより詳細な図を、
図27に見ることができる。より硬い本体2701がガイドワイヤ2607の近位端に設けられ、次いで柔軟な(柔らかい)先端2702が遠位端に設けられる。このような構成により、カテーテル、およびカテーテル上に配置される電極およびセンサの位置をより細かく調整することが可能になる。
【0189】
図28は、どのようにガイドワイヤ2607はカテーテル2600を操作するために使用され得るのかを示しており、より具体的には、カテーテル上に配置された電極とセンサを示している。示したように、ガイドワイヤ2607は、カテーテル2600の近位端を通して導入される。ガイドワイヤは、カテーテル2600を通って遠位端2608に向かって延びる。見られるように、カテーテル2600は、
図28で見られるように、比較的硬いガイドワイヤ2607がカテーテル2600を通って前進するように、だらりとしたピッグテール(ブタの尾形状)であり、カテーテル2600によって提供されるカーブの直径は増加する。ガイドワイヤ2607の近位端近くのより硬い本体2701は、柔軟な先端2702よりもカテーテルの曲線のより顕著な拡大を提供する。これは、カテーテル2600上の電極2601(および他のセンサ2602)の位置のより正確な制御を提供する。
【0190】
カテーテル2600を配置することができる心臓内の様々な異なる位置が
図29に示されている。例えば、カテーテルは、心腔への動脈経路を提供する位置Aを通して、または心腔への静脈経路を提供する位置Bを通して、提供されてよい。位置Aでは、隔壁と対側壁に電極が配置されるように、カテーテル(および埋め込まれたセンサおよび電極)は隔壁2901を通過して対側壁2902に向かう。位置Bを通って、カテーテル(および電極)は、静脈系を通って冠状静脈に通されるように、カテーテルは、冠状静脈洞口2903および冠状静脈2904を通過してよい。あるいは、カテーテルは、鎖骨下経路、橈骨経路、または大腿経路によって提供されてもよい。カテーテルは、左心腔内に配置されるように構成され、電極は中隔および対側壁で互いに対向し、センサは心腔内に提供される。電極は、組織と接触して提供される。
【0191】
図30は、カテーテル2600の二つの横断面を示す。上記したように、カテーテル2600は、任意の適切な直径dで、5Frのように提供され得る。カテーテル2600は、ガイドワイヤが通ることが可能な内部ルーメン3601を備える。さらに、生理食塩水洗浄は、内部ルーメン3601を通って提供され得る。再度、内部ルーメンは、0.635mm(0.025インチ)のような、任意の適切な直径を備え得る。カテーテル2600はさらに、埋め込まれたセンサ2602につながる、電極リードのための複数のチャネル3002、センサリードのための複数のチャネル3003を備える。
【0192】
カテーテル2600の構造のより詳細な図は、
図31に見られる。上述のように、止血ベント2606を通して生理食塩水洗浄を提供し得る。カテーテル2600は、硬い近位端部3101、中間の硬さである中間部3102、およびカテーテルの遠位端に柔軟な(柔らかい)先端部3103を備える。
【0193】
図32は、本明細書に記載のカテーテルを含む、データを感知および処理するためのシステム3200を示す。カテーテル2600は、刺激器3201、増幅器3202、およびプロセッサ3206と信号通信する。上述のように、カテーテル2600は、電極2601およびセンサ2602を備える。電極は、通信手段2604を通って刺激器3201および増幅器3202のアナログ変換器3203と信号通信する。センサ2602は受信および変換器3204と信号通信する。増幅器3202は、そして、プロセッサ3206に出力を提供する。例えば、増幅器3202は、光ファイバケーブル3205の手段によってプロセッサ3206に接続されてよい。
【0194】
処理(プロセッシング)モジュール3206は、患者の心機能に関して有意義な評価を提供するように、カテーテル2600によって収集されたデータを取得し、データをさらに処理するように構成されてよい。例えば、データ処理モジュールは、共同運動開始の遅延、融合への時間または患者の心臓並行性の測定を計算するように構成されてよい。
【0195】
例えば、カテーテルには、心臓内の圧力を直接測定するように構成された、少なくとも1つの圧電センサ2602(および/または光センサ2602、および/または加速度計2602)が設けられてよい。そのような情報を利用して、カテーテル2600および処理(プロセッシング)モジュール3206は、駆出前間隔(pre-ejection interval:PEI)と電気機械的遅延(electromechanical delay:EMD)の間のある点で起こり、これとは異なる、共同運動の開始に関する点を自動的かつ確実に検出するように構成され得る。
【0196】
例えば、これは共同運動の開始に起因する急速な圧力上昇に関連し得るが、共同運動の開始の点は、フィルタされた圧力トレースによって示されることがよりよく、より確実であり得る。したがって、システム3200、より具体的には、カテーテル2600の圧電センサ2602および処理(プロセッシング)モジュール3206は、共同運動の開始の正確な表示を与えるように、心臓内の圧力変化を検出し、圧力トレースをフィルタするように構成されてよい。これは、例えば2-40Hzで、バンドパス フィルタすることにより、圧力波の第1調波を除去することによって達成され得る。この曲線は、上記したように、共同運動の開始に起因しdP/dtピークでゼロと交叉する、直線的な下から上への向きを有する。例えば、バンドパス2-40Hzまたは4-40Hzでのフィルタリングは、非共同運動に関連する低くて遅い周波数を除去し、共同運動の開始は、大動脈弁の開弁または最大圧力につながる、または大動脈弁の開放または最大圧力の直前の、圧力増加の開始としてみられてよい。
【0197】
この圧力増加率の変化は、脱分極または弾性モデルがほぼ最大に達することの何れかのために、受動的な進展セグメントの張力が増加する間、増加し指数関数的なクロスブリッジ形成のためである。等尺性又は偏心性収縮を伴う急速なクロスブリッジ形成は、共同運動の開始を反映する、圧力曲線周波数スペクトルでの高周波成分につながる。心周期のこの位相(フェーズ)は、第1調波または第2調波より上のハイ パス フィルタでLVPをフィルタリングするとき、見られてよい。フィルタされ特徴的な波形は、共同運動の開始から0を交差するまでほぼ直線的に増加し、大動脈弁の開弁まで直線的に増加し続ける。直線的増加の線は、共同運動の期間を反映し、位相において途中で0を交差し、これは上記したようにピークdP/dtピークに対応し、共同運動の開始は、フィルタされた圧力曲線の底またはその最下点より上で、この線が上昇し始める場所を反映する。さらに、カテーテル2600および処理(プロセッシング)モジュール3206は、高周波成分がゼロ交叉の前の圧力上昇の開始を識別するので、中間範囲(4-40Hz)でフィルタされた信号における共同運動の開始の識別をするために、圧力トレースの高周波成分(40Hzより上)を利用するように構成されてよい。
【0198】
カテーテル2600の圧電(または他の光学)センサ2602からフィルタされたデータを取得する、圧力トレースにおけるこれらの点の一つ以上(バンドパスフィルタされた圧力トレースにおける直線的増加の始まり、バンドパスフィルタされた圧力トレースにおける0の交叉、圧力トレースの高周波数の圧力成分の開始)は、共同運動の開始を正確かつ正確に表示するために、データ処理モジュール3206により利用され得る。加えて、または代替として、センサ2602は、心臓内で加速度計データを収集する加速度計を備えてもよく、例えば上記で説明し
図35に示すように、そのようなデータから共同運動の開始を決定する。生の加速度データ301は、データ3502に結果なるバンドパス フィルタされてよく、そのようなデータから、経時的な周波数スペクトルを示すウェーブレット スカログラム3503が生成され得る。次いで、グラフ3504に見られるように、ウェーブレット スカログラムから中心周波数トレースfc(t)3504が計算される。心臓の各周期について、各周期を平均し、ピークfc(t)の時間を抽出することにより、グラフ3506に見られるように共同運動の開始時間(Td)を決定することが可能である。共同運動の開始までの時間は、QRS開始3507のような、任意の適切な基準時間から測定され得る。
【0199】
理解されるように、共同運動の開始(又はそれに直接関連する点)を検出する、本明細書で考慮される測定のいずれも、共同運動の開始および/または治療でそれがどのように異なるかについて、より正確な測定を提供するために組み合わせ得る。例えば、共同運動の開始の点、または、フィルタされた圧力データによって計算された治療の前後の共同運動の開始に関連する点の測定は、治療の前後の心臓内の生の加速度データを用いることにより計算された共同運動の開始の点で比較および対比され得る。このようにして、共同運動の開始までの時間における減少(それによって、可逆的な心非同期が存在することを示す)は、一つ以上の測定を用いることにより検証してよい。
【0200】
上記の測定の何れかを利用することにより、システムはしたがって、カテーテルの各位置、したがって電極について、共同運動の開始までの時間がどのように異なるか自動的に決定してよい。このようにして、システムは逆転する非同期と非共同運動における様々な電極配置の有効性についての即時(またはほぼ即時)フィードバックを与えることができる。
【0201】
一例では、共同運動の開始の時間の表示として、フィルタされた信号からのゼロ交叉またはフィルタされた信号からのテンプレートマッチは、基準時からの時間枠内で検出され得る。例えば、QRS終了(QRSend)の±40ミリ秒の時間枠内でのゼロ交叉(最初のゼロ交叉を確実にするために、同一心拍に関連づけられたゼロ交叉)が測定される。あるいは、共同運動の開始は、高周波数成分とともに最下点(すなわち圧力フロア(圧力底)からの圧力増加の点)のタイミングによって示され得る。理解されるように、これらの測定の両方が、心臓の全てのセグメントが能動的又は受動的に硬化し始める点である、共同運動の開始を示すことができる。これは、心臓内の急速な圧力上昇の開始時に実際に現れる。
【0202】
共同運動の開始の点は、心臓の全てのセグメントが能動的又は受動的に硬化し始める点により、左心室内での圧力増加として現れるが、当業者は、他の位置においてもこの点は間接的に測定されることができることを理解できるであろう。このように、左心腔内の位置決めに加えて、共同運動の開始を示すことができる同様な測定を、信号の適切なフィルタリングとともに、提供するために、例えば、カテーテルを冠状静脈内または右心腔内に配置してよい。
【0203】
要約すると、カテーテルが圧力および/または振動を測定し、その後、非同期が存在するかどうかを判断するために、カテーテルによって検出された電気信号とともに、圧力/振動の評価のために異なるフィルタを適用できる、と言える。共同運動の開始への遅延の減少(例えば、上記したように計算された)は、非同期が存在することを示すが、ベースライン(すなわち刺激のない場合)と比較したとき、刺激での感覚の延長は、医原性の可能性を識別する。このような状況は、患者の健康に有害な可能性があり、避けるべきである。
【0204】
dP/dtへのセンサキャリブレーションの効果
有利なことに、カテーテルのセンサは、共同運動の開始の測定に関する圧力の導関数を用いるとき時間イベントについてのキャリブレーションを必要としなくてよい。
【0205】
理論的には、圧力信号のオフセットと増加は、dP/dt=0、または、dP/dtピーク、のときの結果に影響を与えるべきでない。オフセットは、オフセットの導関数がゼロになるため、dP/dt=0、または、dP/dtピーク、のとき、影響を与えない。増加は圧力センサ信号の値と傾きに影響を与える一方で、増加は圧力信号の最大/最小が起こる時間(dP/dt=0の時)、または、圧力信号の最大/最小の傾きが起こる時間(dP/dtピークの時)、に影響を与えないであろう。
【0206】
この効果は、オフセットと増加のいずれも、どのように周期的な圧力信号に影響をあたえないかを示す、単純化された以下の例により図示される。
【0207】
たとえば、仮に、真の(true)圧力信号が下記の等式で特徴付けられる場合、
【数1】
また、カテーテルが、実際の信号より5倍の増加を伴う、100mmHgのオフセットを有する場合、読み取り(reading)圧力信号は、下記の等式により特徴づけられるであろう。
【数2】
【0208】
真の圧力信号と読み取り圧力信号に違いが与えられたとしても、時間(t)に関する両方の等式の導関数は次のようになる。
【数3】
【0209】
二つのdP/dt等式の振幅は異なるが、dP/dt=0とdP/dtピークのときの時間は両方の等式で等しくなる。
【数4】
これは、
図36に示され、上記例から P
true と P
reading の導関数のグラフを示す。この例からわかるように、P
true と P
reading の両方について、同一時間でdP/dt=0となり、dP/dtピークとなる。
【0210】
信号は、温度、ドリフトおよび大気圧(すべて時間依存性を有する)によって変化すること、すなわち、理論的には、これらの変化はdP/dt=0のときまたはdP/dtピークのときに少なからず影響を与えること、に気を留めるべきである。しかしながら、温度とドリフトによって引き起こされる最大の不一致は、センサが室温で乾燥状態から体温で「湿潤」状態に移行するときである、カテーテルが最初に体内に導入されたとき、におこるであろう。カテーテルが展開/配置され、データの解析が開始されるまでに、温度、ドリフト、および大気圧による振幅の変化と周波数の変化は、心臓内の圧力の振幅と周波数と比較してすべて最小になる。したがって、温度、ドリフト、大気圧による変化の修正なしであっても、dP/dt=0またはdP/dtピークのときへの効果は無視可能であるべきである。
【0211】
拡大してもよいいくつかの例示寸法とともに、一つの例示的カテーテルが、
図37に示されている。電極2601およびセンサ2602を心臓内の所望の位置に設けるために、柔軟な先端を小さい直径dで設け得る。カテーテルの中間部分は、より大きな直径Dで提供され得る。一例として、直径dは、1.5cm程度であり、直径Dは、6cm程度であり得る。カテーテルの全長は130cm程度であり得る。カテーテルの先端に最も近い電極2601は、幅1mmであり、先端から距離w、例えば3cmに配置され得る。先端に最も近く配置された2つの電極は、8mm離して配置され得る。センサ2602は、カテーテルの先端から距離x、例えば11cmの距離で設けられ得る。さらなる電極2601は、カテーテルの先端から距離y、例えば13cmの距離で設けられ得る。前記電極は距離z離して設けられ、これもまた、例えば8mmであり得る。もちろん、前記寸法は例示であり、他の寸法が想定される。
【0212】
要約すると、上記のシステムでは、カテーテルの遠位部分は、電極が心臓内で互いに対向するように配置されるように適合されている。遠位部分は、心臓組織に接することを意図する領域を有する。遠位部分は、カテーテルの遠位端上に近位に位置する、一つ以上の電極と一つ以上のセンサ(例えば圧力センサ、圧電センサ、光ファイバセンサ、加速度計)を有する。センサは、心臓の収縮、共同運動の開始、バルブ(弁)イベント、圧力、のデータを、プロセッサに接続された受信器に提供する。電極は、プロセッサに接続する増幅器に接続する。電極は刺激器に接続する。プロセッサは、共同運動の開始に関連する点を決定するために受領したデータを解析し、非同期と非共同運動が存在するかどうか、そして、さらに電極を刺激することにより非同期と非共同運動が反転になるかどうか決定するために、これを利用してよい。
【0213】
中隔および対側壁で互いに対向する電極と心腔内にあるセンサを有する左心腔内に、カテーテルが適切に配置されるとき、各心拍で、電圧勾配が各電極と基準電極との間に登録される。このような電圧勾配は、心臓の電気的興奮を表す。さらに、上記に続いて、センサは、心臓の全てのセグメントが能動的または受動的に最大の範囲まで硬化し始める点を反映する、共同運動の開始に関連するイベント、すなわち、左心室内の圧力上昇率の急速な増加に関連するイベント、を登録する。このイベントまでの時間が電気的興奮と比較され、非同期と非共同運動の有無が登録される。
【0214】
そして、心臓は、一つ以上の電極から刺激されることができる。各心拍で、電圧勾配が各電極と基準電極との間に登録され、これは、上記したように心臓の電気的興奮を表すことができる。一つ以上のセンサは、また、共同運動の開始に関するイベントを登録する。そして、時間イベントの新しいセットがイベントの最初のセットと比較されてよく、再同期の有無が登録される。
【0215】
有利なことに、そのようなシステムにより、電極の様々な位置に対するそのような測定を迅速かつ効率的に決定することが可能になり得る。このようにして、患者が確かに心臓再同期療法の潜在的なレスポンダーであるかどうかを決定可能なだけでなく、電極の理想的な数と位置も迅速に決定し得る。
【国際調査報告】