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特表2023-546072構造化壁を有するガラスエレメントおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】構造化壁を有するガラスエレメントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20231025BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20231025BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20231025BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03C23/00 D
B23K26/352
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522473
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2021077030
(87)【国際公開番号】W WO2022078774
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】102020126856.4
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス オアトナー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】マークス ハイス-シュケ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ドリシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ グレーサー
(72)【発明者】
【氏名】アニカ ヘルベルク
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ラース ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト ゾーア
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル クルーゲ
(72)【発明者】
【氏名】ベアント ホッペ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス コーグルバウアー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ムート
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ポイヒャート
【テーマコード(参考)】
4E168
4G059
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA43
4E168DA46
4E168DA54
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC30
4G059BB04
4G059BB12
4G059BB14
4G059BB16
(57)【要約】
本発明は、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面とを有する板状ガラスエレメントに関する。該ガラスエレメントは、該ガラスエレメントのガラスを貫通する少なくとも1つの凹部をさらに有し、凹部は、凹壁を有し、凹壁は、凹部の周囲に延在しており、かつ2つの対向面と接している。凹壁は、多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪みを備えた構造を有する。これらの窪みおよび窪みを取り囲む稜線部によって、凹壁の粗さが形成される。凹壁は、5μm以下、好ましくは3μm以下、好ましくは1μm以下の平均粗さ値(Ra)を有する。本発明はさらに、構造化壁を有する板状ガラスエレメントの製造方法であって、凹壁の構造または粗さをレーザパラメータの設定により狙いどおりに調整する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ガラスエレメント(1)であって、前記板状ガラスエレメント(1)は、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面(2)と、前記2つの面(2)を接続し、前記面(2)に開口し、かつ前記ガラスエレメント(1)のガラスを貫通している少なくとも1つの凹部(10)とを有し、前記凹部(10)は、凹部深さを有し、前記凹部深さは、前記ガラスエレメント(1)の前記面(2)のうちの少なくとも1つに対して横方向、有利には垂直であって、前記ガラスエレメント(1)の厚さに相当し、前記凹部(10)は、凹壁(10)を有し、前記凹壁(10)は、前記凹部(10)の周囲に延在しており、かつ前記2つの対向面(2)と接しており、前記凹壁(10)は、多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪み(12)を備えた構造を有し、前記窪み(12)および前記窪み(12)を取り囲む稜線部(13)によって、前記凹壁(10)の粗さが形成されており、前記凹壁(10)は、5μm以下、好ましくは3μm以下、好ましくは1μm以下、特に好ましくは50nm以下の平均粗さ値(Ra)を有する、板状ガラスエレメント(1)。
【請求項2】
前記ドーム状の窪み(12)が、10μm未満、好ましくは5μm未満、好ましくは2μm未満の深さを有し、前記深さは、窪み低部(14)の中心と前記窪みを取り囲む稜線部(13)の中央ピークとの差により定められる、請求項1記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項3】
前記ドーム状の窪み(12)の断面(15)または直径が、20μm未満、好ましくは15μm未満、好ましくは10μm未満である、請求項1または2記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項4】
前記ガラスエレメント(1)が外壁(4)を有し、前記外壁(4)は、前記ガラスエレメント(1)の周囲に延在しており、かつ前記2つの面(2)を互いに接続しており、前記外壁(4)は、多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪み(12)を備えた構造を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項5】
前記凹壁および/または前記外壁の前記平均粗さ値(Ra)が、0.2μm以上、好ましくは0.4μm以上、好ましくは0.5μm以上である、請求項1から4までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項6】
構造化外壁(20)および/または凹壁(10)ならびに前記ガラスエレメント(1)を通る波長範囲300nm~1000nmの可視光の透過率が、80%以上、好ましくは85%以上、好ましくは90%以上であり、その場合、光の方向は、前記凹壁(10)に対して垂直に、かつ前記ガラスエレメント(1)の少なくとも1つの面(2)に対して平行に配向されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項7】
前記凹壁(10)および/または前記外壁(4)の粗さが異方的に形成されており、前記異方性は、パラメータAとして表され、この場合、Aは、商の二乗であり、前記商は、前記ガラスエレメント(1)のある側面に対して平行に配向されている幅30μmの3つの測定帯の前記平均粗さ値(Ra)の平均値と、前記ガラスエレメント(1)の前記側面に対して垂直に配向されている幅30μmの3つの測定帯の前記平均粗さ値(Ra)の平均値とから形成され、前記異方性は、1以下、好ましくは0.8以下、好ましくは0.6以下である、請求項1から6までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項8】
前記凹壁(10)および/または前記外壁(4)の粗さが、異方的に形成されており、前記異方性は、パラメータAとして表され、この場合、Aは、商の二乗であり、前記商は、前記ガラスエレメント(1)のある側面に対して平行に配向されている幅30μmの3つの測定帯の前記平均粗さ値(Ra)の平均値と、前記ガラスエレメント(1)の前記側面に対して垂直に配向されている幅30μmの3つの測定帯の前記平均粗さ値(Ra)の平均値とから形成され、前記異方性は、1以上、好ましくは2以上、好ましくは3以上である、請求項1から6までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項9】
前記凹壁(10)および/または前記外壁(4)の前記粗さが、方向依存的に形成されており、前記粗さは、少なくともあるセクションにおいて異なって現れており、前記セクションは、
- 前記凹部深さまたは少なくとも1つの面(2)に対して横方向に配向されているか、または
- 前記凹部深さまたは少なくとも1つの面に対して平行に配向されており、
前記セクションの前記平均粗さ値の差は、4μm未満、有利には2μm未満、有利には1μm未満である、請求項1から7までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項10】
前記ガラスエレメントのガラスが、以下の成分:
- 少なくとも30重量%、有利には少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%のSiO含有量、
- 最大で10重量%のTiO含有量
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)。
【請求項11】
構造化壁を有する板状ガラスエレメント(1)、または請求項1から10までのいずれか1項記載の板状ガラスエレメント(1)の製造方法であって、前記ガラスエレメント(1)は、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面(2)とを有し、前記方法において
- 前記ガラスエレメント(1)を提供し、
- 前記ガラスエレメント(1)の前記面(2)のうちの1つに超短パルスレーザのレーザ光線(100)を当て、前記レーザ光線(100)を、集束光学系(102)により前記ガラスエレメント(1)内の長い焦点に集束させ、前記レーザ光線(100)の照射エネルギーによって、前記ガラスエレメント(1)の体積内に多数のフィラメント状チャネル(16)を生成し、前記チャネル(16)の深さは、前記ガラスエレメント(1)の前記面に対して横方向に延在しており、前記チャネル(16)を、互いに間隔を空けて配置し、
- 前記ガラスエレメント(1)をエッチング媒体(200)に曝し、前記エッチング媒体(200)により前記ガラスエレメント(1)のガラスをアブレーション速度で除去し、前記エッチング媒体(200)によって前記チャネル(16)を広げることで、構造化凹壁(10)を有する凹部(10)を形成し、前記凹壁(10)は、前記凹部(10)の周囲に延在しており、かつ前記2つの対向面(2)と接しており、かつ多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪み(12)を備えた構造を有しており、前記構造によって前記凹壁(10)の粗さが形成され、
- レーザパラメータの設定により、前記凹壁(10)の前記構造または前記粗さを狙いどおりに調整することで、前記凹壁(10)の前記平均粗さ値(Ra)を5μm以下、好ましくは3μm以下、好ましくは1μm以下でかつ好ましくは少なくとも50nmとする、方法。
【請求項12】
前記チャネル(16)を互いに間隔(18)を空けて配置し、前記間隔(18)は、20μmより小さく、好ましくは15μmより小さく、好ましくは10μmより小さくかつ/または1μmより大きく、好ましくは2μmより大きく、好ましくは3μmより大きい、請求項11記載の方法。
【請求項13】
レーザパルスを複数のシングルパルスに分割し、前記複数は、10より小さく、好ましくは8より小さく、好ましくは7より小さくかつ/または1より大きく、好ましくは2より大きく、好ましくは3より大きい、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
15ps未満、好ましくは10ps未満、好ましくは5ps未満、好ましくは1ps未満のパルス持続時間を選択する、請求項11から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
粗さの異なる凹部(10)および/または外壁(11)を生成し、前記凹部(10)および/または外壁(11)の前記粗さの差は、少なくとも0.5μmより大きく、好ましくは1μmより大きく、あるいは特に好ましくは2μmより大きい、請求項11から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
カメラ撮像、特に3Dカメラ撮像、圧力センサ技術、電気光学部品のパッケージング、バイオテクノロジー、診断技術、医療技術の分野のうち少なくとも1つにおける、請求項1から10までのいずれか1項記載のガラスエレメントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ガラスエレメントであって、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面と、該ガラスエレメントのガラスを通って延在し、構造化凹壁を有する凹部とを有する板状ガラスエレメントに関する。本発明はさらに、構造化壁を有する板状ガラスエレメントの製造方法であって、凹壁の構造をレーザパラメータの設定により狙いどおりに調整する、方法に関する。
【0002】
ガラスの精密な構造化は、多くの応用分野で大きな関心を集めている。中でも、ガラス基材は、カメラ撮像、特に3Dカメラ撮像、電気光学、例えばマイクロ流体力学のL(E)D、光学診断、センサ技術、例えば圧力センサ技術および診断技術の分野で使用されている。このような応用分野は、例えば、光センサ、カメラセンサ、圧力センサ、発光ダイオードおよびレーザダイオードに関連する。この場合、ガラス基材は、薄いウェハやガラス膜の形態で部材として使用されることがほとんどである。このようなガラス基材を、小型化が進む工業用途や部品に使用できるようにするためには、数マイクロメートル範囲の精度が要求される。ここで、ガラス基材の加工とは、ガラス基材内にまたはガラス基材を貫通するように導入される任意の形態の穴、キャビティおよび開口部や、基材面の構造化を意味する。そのため、数マイクロメートル範囲の構造を基材に導入する必要がある。
【0003】
また、ガラス基材を幅広い応用分野で使用できるようにするためには、加工によって基材の縁部領域や体積に損傷や残留物や応力が残らないことが望ましい。さらに、こうした基材の製造方法は、可能な限り効率的な製造プロセスを可能にするものであることが望ましい。
【0004】
ガラス基材内の構造化、例えば穴や開口部の生成には、様々な方法を用いることができる。
【0005】
確立された方法の1つには、適切なマスクを用いたウォーターブラストやサンドブラストに加え、超音波振動ラッピングがある。しかし、これらの方法はスケーリングの点で小型の構造物に限られており、超音波振動ラッピングでは通常約400μm、サンドブラストでは最低100μmである。ウォーターブラストやサンドブラストでは、機械的アブレーションのため、ガラスに応力が発生し、これに付随して穴の縁部領域にスポーリングが発生する。基本的に、これらの方法はどちらも薄型ガラスの構造化には使用できない。これらの方法は数百μmの範囲で行われるため、このことは、形成される穴やキャビティや開口部の寸法だけでなく、とりわけそれにより基材に生じる面にも特に影響を及ぼす。そのため、前述の方法は、基材における微細構造の形成には適していない。
【0006】
このため、近年では、様々な材料の構造化にレーザ源を使用することが定着してきた。赤外線の波長(例えば1064nm)、緑色の波長(532nm)および紫外線の波長(365nm)、または超短波長(例えば193nm、248nm)を有する多種多様な固体レーザにより、上記の機械的方法で可能となるよりも小さな構造をガラス基材に導入することが可能である。しかし、ガラスは熱伝導率が低く、また破壊し易いため、レーザ加工によっても、非常に微細な構造の生成時にガラスに高い熱負荷が生じ、ひいては臨界応力が生じて、穴の縁部領域のマイクロクラックや歪みに至る場合がある。また、直径がわずか数マイクロメートルの微細なレーザ光線を用いた場合であっても、基材面に大面積の構造を生成するには非常に多大な労力を必要とする。そのため、この方法は、特に開口部領域の面での構造化が必要とされる基材の工業生産での使用には、限られた範囲でしか適さない。
【0007】
このことは特に、特殊な用途に適することが求められる部品や基材に該当する。例えば、マイクロ流体セル用のガラス基材が挙げられ、これは、流路壁での流体の抵抗を最小限に低減するため、流路内の面が特に平滑であることが要求される。もう1つの応用分野は、ガラス製のスペーサをカスタマイズして使用する電気光学変換器である。この光電変換器は、様々な能動部品や受動部品間の所定の間隔の調整を可能にし、または特に繊細な部品を保護する目的で、電磁トランスデューサ/エミッタ/レシーバなどの包囲や保護に寄与する。これらの繊細な部品を、基材やスペーサの開口部内において最適な形で固定、あるいはさらには絶縁するためには、基材の開口面の特殊な構造化が必要である。さらに、基材の、例えば光伝導性の改善という意味での特別な光学特性も必要とされることが多く、これは、光を所定の様式で屈折させる開口面の所定の構造によって実現され得る。
【0008】
しかし、既知の方法では、そのような構造を生成することはできない。研磨法では、上述のように、微細構造の開口部を生成することは不可能であり、したがって、基材の微細構造の開口面を狙いどおりに調整することも不可能である。確かに、既知のレーザ法では、連続した開口部の形態の微細構造をある程度実現できるが、レーザ光線は主に基材を「射抜く」ため、レーザ光線に対して平行に延在する基材面を同様に加工することはできない。また、基材の各開口部の開口面をレーザ光線によって再加工することは、非常に時間およびコストがかかるため、経済的でない。さらに、このような開口部の加工は、レーザの入射角の関係で限られた範囲でしか行うことができない。
【0009】
したがって、本発明は、特別に構造化された開口面を有する基材、および該基材の製造方法を提供するという課題に基づくものである。この課題は、独立請求項の主題によって解決される。有利な発展形態は、それぞれの従属請求項に示されている。
【0010】
したがって、本発明は、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面とを有する板状ガラスエレメントに関する。ガラスエレメントは、少なくとも1つの凹部をさらに有し、この凹部は、2つの面を接続し、これらの面に開口し、かつガラスエレメントのガラスを貫通している。この凹部は、凹部深さを有し、この凹部深さは、ガラスエレメントの面のうちの少なくとも1つに対して横方向、有利には垂直であって、ガラスエレメントの厚さに相当する。凹部は、凹壁を有し、この凹壁は、凹部の周囲に延在しており、かつ2つの対向面と接している。凹壁は、多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪みを備えた構造を有する。これらの窪みおよび窪みを取り囲む稜線部によって、凹壁の粗さが形成される。凹壁は、5μm以下、好ましくは3μm以下、好ましくは1μm以下、特に好ましくは500nm以下の平均粗さ値(Ra)を有する。しかし、さらなる一実施形態によれば、壁は最小の粗さを有する。特に、凹壁の平均粗さは、少なくとも50nmである。
【0011】
ガラスエレメントの凹壁が特に平滑であるため、ガラスエレメントは、特にマイクロ流体力学の分野での使用に適している。ここで、凹部は、流体がほぼ支障なく通流できる長い流体チャネルとして形成されていてよい。この場合、2つの面が互いに平行に延在することも可能である。これには、複数のガラスエレメントを平面的に平行に重ねて配置することができ、このような配置ではずれが生じないという利点がある。このようにして、複数のガラスエレメントをサンドイッチ構造で重ねて配置することができる。このことは、特にマイクロ流体セルにおいて必要であり、マイクロ流体セルでは、通常は3つ以上の部品が重ねて配置されることで流体が流路に導かれ、その際、2つの面で流路の上方/下方に配置された部品が流路の境界を成している。
【0012】
特定の一実施形態では、凹壁および/または外壁の平均粗さ値(Ra)は、少なくとも50nm、有利には0.2μm以上、好ましくは0.4μm以上、好ましくは0.5μm以上である。粗さをこのように低くすることで、マイクロ流体力学における適用が可能となるだけでなく、特別な光学特性を達成することもできる。このことは特に、粗さが5μm~0.2μmの範囲にある場合に該当する。例えば、Raが5μmの場合、ガラスエレメントが有する凹壁の面は、Raが0.2μmの場合よりも光沢性が低い。
【0013】
有利には、ドーム状の窪みは、10μm未満、好ましくは5μm未満、好ましくは2μm未満の深さを有し、ここで、深さは、窪み低部の中心と窪みを取り囲む稜線部の中央ピークとの差により定められる。ドーム状とは、本発明の趣意において、凹壁が湾曲部を有し、この湾曲部が、凹状に現れ、特にガラスエレメントのガラスの方向に窪みがあり、特定の断面に制限されることなく、湾曲部がガラスエレメントに円頂状に突出し得ることと理解される。有利には、凹壁の粗さは、ドーム状の窪みの深さにより定められる。これは、窪みの深さによって、本発明の趣意において平均粗さ値が決まることを意味する。したがって、深さが10μm未満であれば、平均粗さ値も10μm未満である。また、窪みの深さが0.2μmより大きく、好ましくは0.4μmより大きく、好ましくは0.5μmより大きいことも考えられる。非平坦部、特に湾曲部によってクラックの成長が妨げられるため、ドーム状の窪みによって、クラックの生成やクラックの進展が阻止される。
【0014】
ドーム状の窪みがすべてほぼ均一な深さを有することもできるし、例えば異なる深さを有することもできる。また、ドーム状の窪みが、高さがずれた状態で配置されていることも可能である。これは、いくつかの窪みが他の窪みに対して、特に凹壁の仮想中心面からこの面に対して垂直な方向にずれた状態で配置されていることを意味する。ここで、窪みは、凹壁の仮想中心面に対して領域的にずれていてもよく、ここで、領域的とは、これが同様の量だけずれた複数の窪みであることを意味する。有利には、ドーム状の窪みは、0.6μm未満、好ましくは0.4μm未満、好ましくは0.2μm未満の量だけずれている。そのような領域が点状または縞状、例えば縞状に形成されていることも可能であり、その際、縞は、ガラスエレメントの面に対して横方向または平行に配向されていてよい。このようにして、凹壁上に波紋が形成されていてよく、この波紋は特に、ガラスエレメントの面に対して横方向および/または平行に配向されていてよい。このような波紋によって、例えばガラスエレメントやガラス基材の凹部内に配置される部材の保持を改善することができる。
【0015】
有利な一実施形態では、ドーム状の窪みの断面あるいは横方向の寸法または直径は、20μm未満、好ましくは15μm未満、好ましくは10μm未満である。しかし、いくつかの窪みは、60μm未満、好ましくは50μm未満、好ましくは40μm未満の直径または断面を有することもできる。窪みのサイズや寸法を巧みに選択することによって、例えば、凹壁に対する部材や流体の摩擦や抵抗を定めることができるため、部材をより良好に固定することができ、または流体が凹部を通ってより良好に流れることができる。ここで、ドーム状の窪みが、次の形状のうち少なくとも1つを有することが考えられる:円形、楕円形、ミミズ状、または例えば一体化した複数の窪みによって丸みを帯びて長くなった形、多角形、例えば六角形。さらに、稜線部は、各窪みの間の多角形の境界線として形成されていてよい。この場合、窪みの境界線の角の平均数は、有利には8未満、有利には7未満、特に6であってよい。この特徴は、ドーム状の窪みの大部分によって占められる領域が、数学的な意味で凸である場合に生じる。窪みの適切な形状を設定することにより、凹壁あるいはガラスエレメントは、特定の用途にさらに良好に適合させることができる/適合していることが可能である。
【0016】
ガラスエレメントが外壁を有し、この外壁が、ガラスエレメントの周囲に延在しており、かつ2つの面を互いに接続しており、この外壁が、多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪みを備えた構造を有する場合も有利である。この場合、外壁は、前述した凹壁の実施形態に対応する特徴を有することができる。このようにして、ガラスエレメント自体を、例えば特に粗い外壁によって、別の部品内に滑らないように配置することもできる。
【0017】
凹壁および/または外壁が、丸みを帯びた縁部を形成していることもさらに可能である。これは、本発明の趣意において、凹壁および/または外壁の1つ以上の面が、粗いあるいは面全体にわたって構造化されていることと理解される。言い換えれば、凹壁および/または外壁の1つ以上の面は、ドーム状の窪みおよび/または窪みの間に配置された稜線部の連続的で中断のない構造を有する。その結果、凹壁および/または外壁が、クラックの成長から効果的に保護されているか、あるいはクラックの成長が最小限に抑えられているため、ガラスエレメントは、マイクロクラックに対してもより良好に保護されている。
【0018】
本発明の趣意において、これは、凹壁および/または外壁の1つ以上の面が、粗いあるいは面全体にわたって構造化されていることと理解される。言い換えれば、凹壁および/または外壁の1つ以上の面の80%、90%、特に好ましくは95%、またはさらには98%が、ドーム状の窪みおよび/または窪みの間に配置された稜線部の連続的で中断のない構造を有する。こうすることで、本発明による方法により、少なくとも1つの構造化外壁と、任意に少なくとも1つまたはそれ以上の構造化凹壁とを有し、かつ1つ以上のブリッジ状の接続によって保持部、特にフレームの形態の周囲の保持部に接続されている多数の小型部品を製造することが可能である。部品を使用する際には、例えば古典的な破断プロセスを任意に所定の破断箇所の導入と組み合わせることでブリッジ状の接続部がその保持部から分離され、この破断箇所の導入は、例えば、ブリッジ全体にわたる目標の部品輪郭に沿ったフィラメンテーションによって行われる。
【0019】
また、構造化外壁および/または凹壁ならびにガラスエレメントを通る、有利には凹壁および/または外壁の反対側に配置された第2の壁をも通る波長範囲300nm~1000nmの可視光の透過率が、80%以上、好ましくは85%以上、好ましくは90%以上であり、その場合、光の方向は、凹壁および/または外壁に対して垂直に、かつガラスエレメントの少なくとも1つの面に対して平行に配向されていることも考えられる。この場合、光路は、少なくとも1つの、有利には2つの壁または面であって、そのうちの少なくとも1つ、任意にはその双方がドーム状の窪みを有するものとする壁または面を横切るように配置されていてよい。このような高い透過率によって、ガラスエレメントあるいは凹壁に特に高い光学的品質が提供される。これにより、ガラスエレメントは、光学的用途に特に適しており、例えば、光学部品または導光体として使用することができる。
【0020】
一実施形態では、1μm以上の平均粗さ値を有する凹壁および/または外壁が、1μm以下の平均粗さ値を有する場合よりも低い反射率を有することがさらに想定されていてよい。この場合、凹壁および/または外壁が、平均粗さ値の増加とともに反射率の低下を示すことが可能である。例えば、平均粗さ値が0.5μmの凹壁および/または外壁は、平均粗さ値が1.4μmの場合の約2倍の反射率を有することが可能である。したがって、凹壁および/または外壁の特別な粗さ値を選択することにより、ガラスエレメントは、特定の光学用途に特に良好に適したものとなり得る。したがって、粗さが高い凹壁を、その可視光に対する散乱挙動ゆえに、画像処理装置によって粗さが低い凹壁と容易に区別することができ、したがって、例えば、全体としてガラスエレメントのアライメントに使用することができる。
【0021】
凹壁および/または外壁の粗さが異方的に形成されていることが想定されていてよく、その際、異方性をパラメータAとして表すことができる。この場合、Aは、商の二乗であり、この商は、ガラスエレメントのある側面に対して平行に配向されている幅30μmの3つの測定帯の平均粗さ値(Ra)の平均値と、ガラスエレメントのこの側面に対して垂直に配向されている幅30μmの3つの測定帯の平均粗さ値(Ra)の平均値とから形成される。言い換えれば、商は、凹部の縁部面に沿って延在する3つの測定帯の平均粗さ値の平均値と、それに対して垂直に延在する3つの測定帯の平均値とから形成される。よって、後者の垂直に延在する測定帯は、一方の側面から対向側面の方向に広がっている。特に、この異方性は、1以下、好ましくは0.8以下、好ましくは0.6以下であってよい。ここで、本発明の趣意における側面とは、ガラスエレメントの2つの対向面のうちの少なくとも1つと理解することができる。異方性は、波紋あるいはドーム状の窪みの互いのずれによって形成されていてよい。この場合、波紋あるいは異方的に形成された粗さによって、他の部品、例えば電気部品を凹部に配置できるとともに、こうした部品は、凹壁に沿って動いた際に、特にガラスエレメントの面に対して垂直な方向に動いた際に、凹壁に対する摩擦の増加を伴ってずれから保護されている。このようにして、凹部に配置された部品は、例えば振動が発生した場合でも、凹部にしっかりと固定されたままとなる。
【0022】
また、凹壁および/または外壁の粗さが異方的に形成されており、異方性がパラメータAとして表され、Aが、商の二乗であり、この商は、ガラスエレメントのある側面に対して平行に配向されている幅30μmの3つの測定帯の平均粗さ値(Ra)の平均値と、ガラスエレメントのこの側面に対して垂直に配向されている幅30μmの3つの測定帯の平均粗さ値(Ra)の平均値とから形成されることも想定されており、異方性が、1以上、好ましくは2以上、好ましくは3以上であることも想定されている。本実施形態では、波紋が、ガラス面に対して垂直に配向されていてよいため、異方的に形成された粗さによって、凹部内の他の部品、例えば電気部品が、凹壁に沿って動いた際に、特にガラスエレメントの面に対して平行な方向に動いた際に、凹壁に対する摩擦の増加を伴ってずれから保護されていることが可能である。一方で、ガラス面に対して垂直に配置された波紋によって部品の可動性が高められているため、部品をより良好にずらすことができる。このことは、例えば圧力センサの場合のように部品が機械的負荷を繰り返し受ける場合に有利であり、ガラスエレメント内での部品の可動性によって、部品およびガラスエレメントの双方を摩耗の増加から保護することができる。
【0023】
したがって、全体として、一実施形態では、異方性(A)が
- 1より大きく、
- 有利には1.5より大きく、
- またはさらには4より大きいか、または
- 1より小さい
場合に有利であり得る。
【0024】
さらに、異方性(A)が8、9または10より大きいことも可能である。このような実施形態では、波紋が特に強度に顕著となり得る。
【0025】
さらなる有利な一実施形態では、凹壁および/または外壁の粗さは、方向依存的に形成されており、その際、粗さは、少なくともあるセクションにおいて異なって現れており、セクションは、
- 凹部深さまたは少なくとも1つの面に対して横方向に配向されているか、または
- 凹部深さまたは少なくとも1つの面に対して平行に配向されており、
その際、セクションの平均粗さ値の差は、4μm未満、有利には2μm未満、有利には1μm未満である。しかし、方向依存的な粗さは、例えば凹壁の仮想中心面に対して相対的にずれたドーム状の窪みによって形成されていてもよい。方向依存的な粗さによって、例えば断熱性または電気的絶縁性を向上させるために凹壁と部品との間に空気チャンバを狙いどおりに設置することができる。さらに、巧みに選択された異方性構造、特に波紋によって、流体をチャネル形状の凹部により良好に貫通させることもでき、これは例えば、波紋が流体の流れ方向に沿って、または特に遅い流れを達成したいときは流れ方向に対して垂直に配向されている場合に該当する。
【0026】
有利な一実施形態では、ガラスエレメントは、10μmより大きい、好ましくは15μmより大きい、好ましくは20μmより大きいおよび/または300μmより小さい、好ましくは200μmより小さい、好ましくは100μmより小さい厚さを有することができる。しかし、厚さが300μmより大きい、または10μmより小さい、好ましくは4mmより小さい、好ましくは2mmより小さい、好ましくは1mmより小さいことも可能である。特にこのような薄いガラスを、本明細書において記載された方法により、非常に微細に、かつ破損の危険性なく構造化することができる。さらに、ガラスエレメントは、厚さが小さいために可撓性となるように形成されていてよく、したがって曲げることが可能である。厚さが小さいために他の結合力が重要な役割を果たすことが多いため、ガラスエレメントは、さらに、外部から加えられる機械的応力に対してより高い機械的安定性を有するように形成されていてよい。これらの利点により、ガラスエレメントを、例えば、ICパッケージ、バイオチップ、センサ、カメラ撮像モジュールおよび診断技術装置に使用することができる。
【0027】
他の実施形態では、力の作用下で変形しないまたはわずかにしか変形しない、300μm~3mm、特別な場合にはさらに6mmまでの厚さ範囲のガラスエレメントも使用することが可能である。
【0028】
さらなる実施形態では、ガラスエレメントは、50mmより大きい、好ましくは100mmより大きい、好ましくは200mmより大きいおよび/または500mmより小さい、好ましくは400mmより小さい、好ましくは300mmより小さい横方向の寸法を有する。その後、そのようなガラスエレメントから、例えばそれぞれ1つ以上の凹部を有する小さなガラス部材を切り出すことができる。さらなる一実施形態によれば、そのような小さなガラスエレメントまたはガラス部材は、最大で5mm、有利には最大で2mmの横方向の寸法を有することができる。そのような寸法とすることで、ガラスエレメントを、マイクロテクノロジー向けのコンポーネントとして最適に使用することができる。
【0029】
さらなる有利な一実施形態では、ガラスエレメントのガラスは、以下の成分:
- 少なくとも30重量%、有利には少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%のSiO含有量、
- 最大で10重量%のTiO含有量
のうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
理想的には、ガラスエレメントのガラスは、ホウケイ酸ガラスとして形成されている。このようなガラスは、特に高い熱安定性、透明性、ならびに化学的および機械的安定性を有し、したがって、例えば光学的用途やエレクトロニクス用途といった幅広い応用分野に非常に適している。
【0031】
また、課題は、構造化壁を有する板状ガラスエレメント、または既述の実施形態のうちの少なくとも1つによる板状ガラスエレメントの製造方法によっても解決される。ガラスエレメントは、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラス質材料と、2つの対向面とを有し、本方法において
- ガラスエレメントを提供し、
- ガラスエレメントの面のうちの1つに超短パルスレーザのレーザ光線を当て、このレーザ光線を、集束光学系によりガラスエレメント内の長い焦点に集束させ、その際、レーザ光線の照射エネルギーによって、ガラスエレメントの体積内に多数のフィラメント状チャネルを生成し、チャネルの深さは、ガラスエレメントの面に対して横方向に延在しており、チャネルを、互いに間隔を空けて配置し、
- ガラスエレメントをエッチング媒体に曝し、エッチング媒体によりガラスエレメントのガラスをアブレーション速度で除去し、その際、エッチング媒体によってチャネルを広げることで、構造化凹壁を有する凹部を形成し、その際、凹壁は、凹部の周囲に延在しており、2つの対向面に接しており、かつ多数の互いに接する丸みを帯びたドーム状の窪みを備えた構造を有しており、この構造によって凹壁の粗さが形成される。ここで、凹壁を、凹部の内縁部とも理解することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、フィラメント状チャネルは、原則的に任意の二次元形状であり得る閉じた輪郭に沿って配置される。好ましい実施形態では、輪郭は、円、楕円、矩形、正方形または多角形などの規則的な二次元幾何学的要素に従うため、構造化ガラス基材の完成後に、本発明による凹部は、例えばエレクトロニクス部品用の収容体として機能し得る。
【0033】
レーザパラメータの設定により、有利には、凹壁の構造または粗さを狙いどおりに調整することで、凹壁の平均粗さ値(Ra)を5μm以下、好ましくは3μm以下、好ましくは1μm以下にする。ただし、平均粗さ値は、有利には少なくとも50nmである。
【0034】
このようにして、粗さの異なる凹部および/または外壁を基材上に生成することができ、その際、凹部および/または外壁の粗さの差は、少なくとも0.5μmより大きく、好ましくは1μmより大きく、あるいは特に好ましくは2μmより大きい。例えば、部品用の粗さが同じかまたは異なる複数の凹部を、参照系において部品を全体としてアライメントするために、より粗さの高い追加の凹部と共に基材に導入することができる。さらなる一実施形態では、部品用の凹部は、異方的な粗さを有しており、したがってその後の適用プロセスにおいて、最適なアライメントだけでなくその凹部における部品の理想的な設置をも保証することができる。
【0035】
本方法により、前述の実施形態によるガラスエレメントを製造することもでき、それにより前述の利点が達成できることが想定される。この場合、本方法により、複数のガラスエレメントにおいて多数の凹部を同時に製造することが可能となるため、本方法は、特に工業的製造プロセスに非常に適している。第1のプロセスステップにおいて、少なくとも1つのガラスエレメントが、特に凹部を有しない状態で提供される。さらなる、特に第2のステップにおいて、少なくとも1つの、しかし有利には複数の、特に好ましくは多数の損傷、特にフィラメント状チャネルの形態の損傷をガラスエレメントに生成することで、理想的には、損傷/チャネルを通じてガラスエレメントの孔を形成することができ、この孔は、有利にはその後のエッチング工程の過程で拡張されるが、この拡張は、チャネルが一体化し、それによりガラスエレメントの個々の部分をガラスエレメントから離脱させることができる程度に行われ、このようにして凹部を生成することができる。
【0036】
このために、有利には、複数の損傷/チャネルを互いに隣り合うように生成することで、一連の凹部が、より大きな、理想的には生成される凹部の形態の構造を形成する。損傷/チャネルは、その縦方向がガラスエレメントの少なくとも1つの面、理想的には双方の面に対して横方向に延在している。この場合、チャネルは、一方の面から、特にこの面から、対向して配置された他方の面までガラスエレメントを垂直に貫通しており、双方の面を貫いている。
【0037】
損傷/チャネルは、超短パルスレーザの少なくとも1つのレーザ光線によってガラスエレメント内に生成される。レーザによる凹部の生成は、有利には以下の複数のステップに基づく:
- ガラスエレメントの面のうちの1つに超短パルスレーザのレーザ光線を当てる。このレーザ光線を、集束光学系によりガラスエレメント内の長い焦点に集束させることができる。この場合、発光波長は、ガラスエレメントが実質的に透明となるように、すなわち、透過率が0.9より大きく、好ましくは0.95より大きく、特に好ましくは0.98より大きくなるように選択することができる。
【0038】
- 超短パルスレーザにより、1つ以上のパルスまたはパルス群(いわゆるバーストパルス)をガラスエレメントに照射し、この場合、有利には、高出力レーザパルスの電磁界とガラスエレメントとの相互作用によってレーザエネルギーの非線形吸収が開始され、これにより、有利には、長い焦点の位置でガラスエレメントの材料内に(特に実質的に円柱状のチャネルの形態の)フィラメント状損傷が生じ、このフィラメント状損傷が拡張してチャネルとなる。
【0039】
- このようにして、多数のチャネルが生成され、その際、チャネル、特にガラスエレメント上あるいはガラスエレメント内でのそれらの配置は、互いに隣り合うように配置された多数のチャネルが、生成される凹部の輪郭を形成するように選択される。この場合、チャネルは、互いに間隔を空けて配置することができる。
【0040】
本発明による好適なレーザ源は、波長が1064ナノメートルのネオジムドープイットリウムアルミニウムガーネットレーザ(Nd:YAGレーザ)である。このレーザ源は、例えば、(1/e)直径12mmの生ビームを生成し、光学系として、焦点距離16mmの両凸レンズを用いることができる。必要に応じて、例えばガリレオ式望遠鏡のような適切なビーム整形光学系を使用して生ビームを生成することができる。レーザ源は、特に、1kHz~1000kHz、有利には2kHz~100kHz、特に好ましくは3kHz~200kHzの繰返し周波数で動作する。この場合、この繰返し周波数および/または走査速度は、隣接する損傷/チャネル間の所望の距離が達成されるように選択することができる。
【0041】
ビーム源として、Nd:YAGレーザの他の変形例、例えば、周波数2倍化(SHG)または周波数3倍化(THG)によって生じる波長532nmあるいは355nm、またはさらにはYb:YAGレーザ(発光波長1030nm)を、適切に使用することができる。
【0042】
また、レーザパルスを複数のシングルパルスに分割し、この複数が、10より小さく、好ましくは8より小さく、好ましくは7より小さくかつ/または1より大きく、好ましくは2より大きく、好ましくは3より大きいことも考えられる。これらのシングルパルスを、パルスパケット、いわゆるバーストにまとめることができ、特に連続したレーザパルスで放射される。有利には、これらのシングルパルスは、ガラス面の同じ箇所あるいは同じ場所に向けられるため、連続するシングルパルスによる損傷がさらに広く拡張されて、好ましくはガラスエレメントの全厚さあるいは体積を貫通するチャネルが生じる。
【0043】
有利なことに、1つのパルスパケット内のシングルパルスの数を巧みに選択することによって、生成される凹壁/チャネル壁に影響を及ぼすことができ、特に凹壁/チャネル壁の構造を狙いどおりに調整することができる。レーザパルスの総出力は、1つのパルスパケットあるいは1つのバーストにおいて複数のシングルパルスに分割されるため、各パルスは、単一のレーザパルスと比較して低いエネルギーを有する。そのため、それぞれの単一のシングルパルスのエネルギーは、シングルパルスの数が多いほど小さくなる。しかし、シングルパルスのパルスエネルギーが柔軟に調整可能であること、特に、パルスエネルギーが実質的に一定のままであるか、パルスエネルギーが増加するか、またはパルスエネルギーが減少すること、その際、有利には、バーストあるいはパルスパケットの最初のシングルパルスが、シングルパルスの最低または最高のエネルギーのいずれかを有することが想定されていてよい。さらに、超短パルスレーザをバーストモードで動作させる場合、繰返し周波数は、バーストの発光の繰返し周波数であってよい。さらに、シングルパルスは、時間的にずれた状態でガラスエレメントの面上あるいは損傷内に当たるため、各シングルパルスによって、凹壁/チャネル壁の以前に生成された状態が変化する。このように、1つのバーストのシングルパルスの数を選択することによって、凹壁/チャネル壁を狙いどおりに構造化および変化させることができる。
【0044】
ここで、レーザ源の典型的な出力は、20~300ワットの範囲にあるのが特に好都合である。損傷/チャネルを得るには、本発明の有利な発展形態によれば、400マイクロジュールより大きいパルスおよび/またはパルスパケットのパルスエネルギーが用いられ、さらに有利には、500マイクロジュールより大きい総エネルギーが用いられる。レーザパルスの好適なパルス持続時間は、100ピコ秒未満、好ましくは20ピコ秒未満の範囲である。
【0045】
しかし、15ps未満、好ましくは10ps未満、好ましくは5ps未満のパルス持続時間が選択されることが想定されていてもよい。有利には、特に粗さが低いあるいは平均粗さ値が低い平滑な凹壁/チャネル壁を生成するためには、さらに1psのパルス持続時間が使用される。ここで、粗さは、パルス持続時間の増加とともに増加させることができる。この理由の1つとして考えられるのが、ガラスの熱挙動である。なぜならば、パルス持続時間が長くなると、ガラスはレーザのエネルギーにより長く曝され、ひいては発生するレーザ光線の熱にも曝され、これによって、特に熱安定性の低いガラスが、例えば膨張によって損傷するためである。したがって、パルス持続時間を、ひいては理想的には凹壁/チャネル壁の粗さも正確に選択することによって、ガラスエレメントのガラスを特定の様式で損傷させることができる。このことは、同様に、熱膨張係数が低いガラスは、熱膨張係数が高いガラスよりも損傷の度合いが低いことを意味し得る。ここで、パルス持続時間は、レーザがシングルパルスモードで動作するかバーストモードで動作するかとは実質的に無関係である。バースト内のパルスは、通常、シングルパルスモードのパルスと同様のパルス長を有する。ここで、バースト周波数は、15MHz~90MHzの範囲、好ましくは20MHz~85MHzの範囲とすることができ、例えば50MHzである。
【0046】
また、チャネルを互いに間隔を空けて配置し、この間隔が、20μmより小さく、好ましくは15μmより小さく、好ましくは10μmより小さくかつ/または1μmより大きく、好ましくは2μmより大きく、好ましくは3μmより大きい場合も有利である。しかし、チャネル間の間隔は、5μmより大きくかつ/または100μmより小さく、好ましくは50μmより小さく、好ましくは15μmより小さくすることもできる。
【0047】
チャネルの直径とは無関係に、隣接するチャネル間の間隔をピッチとも呼ぶことができ、すなわち、例えば、同時に、または特に互いに間隔をずらして連続して発せられるレーザパルスの間の間隔と呼ぶことができる。ここで、この間隔は、チャネルの中央から中央へ、またはあるパルスの中心から隣接して発せられたパルスの中心へも測定される。チャネル間のセクションが特にガラスエレメントの厚さおよびチャネル間の間隔に相当する寸法を有し、意図的にレーザで加工する必要がなく、その後のエッチングプロセスにのみ供されるという点で、チャネルの間隔の選択によって、粗さに影響を与えることができる。
【0048】
したがって、2つの異なる領域、すなわち、面がレーザおよび有利にはエッチング媒体によって構造化される領域と、面がエッチング媒体のみによって構造化され、チャネルの生成後にガラスエレメントがこのエッチング媒体に曝される領域とを生成することができる。このようにして、特に凹壁の方向依存的あるいは異方的な粗さを生成することができる。この場合、有利には、チャネル間の領域は、チャネルの領域とは異なる粗さを有することができ、その際、両領域の縦方向の広がりは、有利にはレーザ光線に対して平行にあるいはガラスエレメントの少なくとも1つの面に対して横方向に、特に垂直に延在しており、それにより、理想的には1より大きい異方性を形成することができる。
【0049】
さらなる、有利には最後のステップにおいて、ガラスエレメントを、該ガラスエレメント内に形成されたチャネルを含めてエッチング媒体に曝すことにより、ガラスエレメントのガラスを規定可能なアブレーション速度で除去し、その際、チャネルを、エッチング媒体、特にそれにより生じるアブレーションによって拡張させる。このようにして、構造化凹壁を有する1つの凹部を、有利にはまた複数の凹部も形成することができる。この場合、アブレーションによって、典型的には凹壁および/または外壁のドーム状の窪みを生成することができる。エッチング媒体が容器、例えばタンク、ポットまたは槽に充填され、特にその後1つ以上のガラスエレメントが少なくとも部分的にこの容器内あるいはエッチング媒体内に保持または浸漬されると有利である。
【0050】
エッチング媒体は、ガス状であってもよいが、有利にはエッチング液である。したがって、一実施形態によれば、エッチングは湿式化学的に行われる。これは、エッチング中にチャネル内面からガラス成分を除去するのに好都合である。チャネル壁が、例えば、適切なレーザパラメータ、例えばバースト、ピッチおよび/またはパルス持続時間の選択によって、特に非平坦状または平坦状に構成される場合、エッチングあるいは湿式化学的なエッチングアブレーションあるいは材料のアブレーションによって、凹壁/チャネル壁に窪みを付加することができる。これにより、要求に応じて、粗さが高いまたは低い、特に有利なドーム状の窪みを備えた凹壁を付与あるいは生成することができる。
【0051】
エッチング液として、酸性またはさらにはアルカリ性の溶液を使用することが想定されている。酸性エッチング媒体としては、特に、HF、HCl、HSO、二フッ化アンモニウム、HNO溶液またはこれらの酸の混合物が適している。塩基性エッチング媒体には、例えば、KOHまたはNaOHアルカリ液が考慮される。これらは、アルカリ金属の含有量が少ないガラス組成物において特に有効であり、なぜならば、塩基性エッチング液は、そのようなガラスにおいて迅速に過飽和する可能性が低く、したがって、強アルカリガラスの場合よりもはるかに長くそのエッチング能力を保持し得るためである。したがって、使用されるエッチング媒体を、エッチングされるガラスエレメントのガラスに応じて選択するのが理想的である。したがって、ガラス組成に応じて、シリケートガラスにおいて高いアブレーション速度を設定するためには酸性のエッチング媒体を選択することができ、または低いアブレーション速度を設定するためには塩基性の、特にアルカリエッチング媒体を選択することができる。
【0052】
エッチングは、有利には40℃より高い温度、好ましくは50℃より高い温度、好ましくは60℃より高い温度および/または150℃より低い温度、好ましくは130℃より低い温度、好ましくは110℃より低い温度、特に100℃までの温度で実施される。この温度によって、溶解されるガラスエレメントのガラスのイオンあるいは成分のガラスマトリックスからの十分な移動性が生じる。
【0053】
もう1つの因子は、時間である。例えば、ガラスエレメントを数時間、特に30時間より長くエッチング媒体に曝すと、総じて高いアブレーションを達成することができる。一方で、ガラスエレメントをエッチング媒体に曝す時間を30時間未満、例えばわずか10時間とすることによって、アブレーションを制限することが可能である。最良の場合、アブレーション速度は、ドーム状の窪みが、数学的に最小の周囲あるいは断面で最大の体積を有する形状、特に円形、またはさらにはほぼ六角形あるいは多角形の形状を形成するように選択される。このようにすることで、凹壁の一様な粗さを達成することができる。
【0054】
本発明を、添付の図面を参照して以下にさらに詳細に説明する。図中、同一の参照符号は、それぞれ同一または対応する要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】レーザによるガラスエレメントにおける損傷の生成を示す概略図である。
図2】複数の損傷を有するガラスエレメントを示す概略図である。
図3】ガラスエレメントのエッチング工程を示す概略図である。
図4】エッチング工程および部分の分離による凹部生成後のガラスエレメントを示す概略図である。
図5】ガラスエレメントの凹壁の電子顕微鏡写真である。
図6】パルス持続時間に対する凹壁の粗さの測定結果を示す図である。
図7】バーストに対する凹壁の粗さの測定結果を示す図である。
図8】ピッチに対する凹壁の粗さの測定結果を示す図である。
図9】パルス持続時間1psでの等方性の強い凹壁の面の測定結果を示す図である。
図10】パルス持続時間10psでのレーザに対して平行な等方性の強い凹壁の面の測定結果を示す図である。
図11】パルス持続時間10psでのレーザに対して垂直な等方性の強い凹壁の面の測定結果を示す図である。
図12】パルス持続時間10psでの明らかな等方性を示さない凹壁の面の測定結果を示す図である。
図13】凹壁の透過率の測定を示す概略図である。
図14】凹壁の反射率測定の測定結果を示す図である。
【0056】
図1に、ガラスエレメント1を概略的に示す。このガラスエレメント1は、2つの面2を有し、これらの2つの面2は、ガラスエレメントの体積がこれらの面の間に配置されるように互いに対向して配置されており、またガラスエレメント1は、これら2つの面2の間隔を規定する厚さDを有する。ここで、これらの面は、互いに平行に配置されていてよい。ガラスエレメント1は、さらに縦方向Lおよび横方向Qに広がっている。有利には、ガラスエレメント1は、少なくとも1つの外面4も有しており、この外面4は、理想的にはガラスエレメント1を特に完全に囲んでおり、その高さは、ガラスエレメント1の厚さDに相当する。この場合、理想的には、ガラスエレメント1の厚さDおよび側面4の高さは、縦方向Lに広がっており、その際、ガラスエレメントの面は、横方向に広がることができる。
【0057】
第1のプロセスステップにおいて、レーザ101、有利には超短パルスレーザ101によって、損傷を、特にチャネル16あるいはチャネル形状の損傷16の形態でガラスエレメント1の体積内に生成する。このために、集束光学系102、例えば球面収差が補正されていないレンズまたは個々の要素の累積効果で球面収差が増大するレンズ系によってレーザ光線100を集束させて、ガラスエレメントの面2に当てる。ガラスエレメント1の体積内の領域へのレーザ光線100の集束、特に長い集束を行うことによって、それにより照射されるレーザ光線100のエネルギーがフィラメント状の損傷を生成し、これを特にさらにチャネル16へと拡張させるが、これは、例えばバーストモードを用いることにより行われ、このモードでは、パルスパケットの形態の複数のシングルパルスによって損傷あるいはチャネル16が生成される。
【0058】
後のプロセスステップで生成される凹部10の面を最適に構造化できるようにするには、損傷および/またはチャネルの生成時に既にそれらの面がいわば前処理されるように、所定のレーザパラメータを狙いどおりに設定することが有利であり得る。このために、例えば以下のパラメータのうちの少なくとも1つを正確に設定することができる:有利にはピコ秒またはフェムト秒の範囲にあるレーザ光線100のパルス持続時間、パルスパケットあるいはバーストにおけるシングルパルスの数、発せられるレーザ光線100同士の間隔、すなわち生成された損傷/チャネル16の間隔、レーザのエネルギー、または周波数。本実施形態に限定されるものではないが、パルスパケットの周波数は、例えば12ns~48ns、好ましくは約20nsであってよく、パルスエネルギーは、少なくとも200マイクロジュールであってよく、バーストエネルギーは、それに対応して少なくとも400マイクロジュールであってよい。これらのパラメータの特定の値を適切に選択することにより、生成される凹部10の凹壁11の粗さを早くも予め狙いどおりに設定することができる。
【0059】
有利には、図2に示すように、さらなるステップで複数のチャネル16が生成され、これらを理想的には互いに隣り合うように配置することで、多数のチャネル16が孔をもたらし、これらの孔あるいは多数のチャネル16が、構造17の輪郭を形成する。最良の場合、このようにして生成された構造17は、生成される凹部10の形状に対応する。つまり、生成される凹部の輪郭が形成されるように、チャネル16の間隔18および数が選択される。ここで、チャネル16の間隔18は、レーザのピッチ、すなわち発せられるレーザ光線100の間隔18に相当する。
【0060】
図3に、さらなるステップを示す。レーザ101によってガラスエレメント1に多数のチャネル16が生成された後、有利にはチャネルによって構造化されたガラスエレメント1が、エッチング媒体200中に置かれる。このために、ガラスエレメントは、好ましくは保持部50上に着脱可能に配置され、その際、ガラスエレメント1は、単に保持部50に載置するあるいはされているだけでもよいし、保持部50に固定するあるいはされていてもよい。ここで、ガラスエレメント1は、保持部50によって、有利には容器202内に配置されたエッチング媒体200、有利にはエッチング液中に保持、特に浸漬される。理想的には、容器202は、これを目的として、エッチング媒体200に対して実質的に耐久性を示す材料を有する。これは、容器202の材料が実質的に耐久性を示すため、エッチング媒体200が容器の材料をごく僅かな程度でしか攻撃または侵食しないこと、あるいは容器202の材料のイオンおよび原子がエッチング媒体200と接触した際に容器202の体積内に実質的に残るため、エッチング媒体200の組成が容器202との接触によって理想的には変化しないことを意味している。しかし、エッチング媒体200の組成が容器との接触によって影響を受けることも考えられ、特に、容器202から放出される容器成分がエッチング媒体200のエッチング性を変化させ、それによってガラスエレメントのアブレーション70のアブレーション速度を所望の方向に変化させることができる。しかし、アブレーション速度を、例えばエッチング媒体200の物理的および/または機械的に誘発される運動、特に例えばマグネチックスターラーによる撹拌、または局所的な温度変化によって変化させることも可能である。有利には、エッチング媒体200を40℃~150℃の温度とすることで、最適なアブレーション速度が達成される。
【0061】
好ましくは、エッチング媒体200として、酸性またはアルカリ性の溶液が使用され、特にアルカリ性の溶液、例えばKOHが使用される。理想的には、pH値>12の塩基性エッチング媒体200、例えば、>4mol/l、好ましくは>5mol/l、特に好ましくは>6mol/lの、ただし<30mol/lの濃度を有するKOH溶液が使用される。本実施形態に限定されるものではないが、エッチングは、有利には>70℃、好ましくは>80℃、特に好ましくは>90℃、特に約100℃のエッチング媒体の温度で、あるいは160℃未満の温度で行われる。
【0062】
アブレーション70あるいはアブレーション速度は、例えばガラスエレメント1をエッチング媒体200に曝す時間によって調整することができる。これに関して、ガラスエレメント1がエッチング媒体200中に長く留まるほど、所望のアブレーション70が増加する。レーザ100によって予め構造化されたチャネル壁あるいはチャネル16の壁を、その目的とする構造、あるいは生成される凹部10あるいは凹壁11の所望の粗さにするためには、毎時5μm未満のアブレーション速度が最適である。特に、所望の平均粗さ値は、総エッチング時間によって達成することもできる。このためには、エッチング時間が少なくとも12時間であると好都合である。しかし、アブレーションは変化してもよく、例えば16時間のエッチング時間で34μm、30時間で63μm、48時間で97μm程度とすることができる。
【0063】
理想的には、アブレーション70およびエッチング時間は、例えば図4に概略的に示すように、隣接するチャネル間の材料が、チャネルが一体化して特にチャネル16の一体化によってつながった開口部が生成される程度に除去されるように選択される。図4に示す例に限定されることなく、つながった開口部は、他のいかなる形状および/または輪郭をもとることができる。しかし、重要であるのは、チャネル16がつながることによってガラスエレメント1内に大きな開口部が1つ生成され、その際、チャネルがつながることによって、それまでチャネルに囲まれていたガラスエレメント1の内側部分20が露出し、この内側部分20を、特に離脱あるいは除去できることである。この過程で、凹壁11を有する凹部10が生成される。
【0064】
理想的には、凹壁11は、特に狙いどおりに設定された粗さあるいは平均粗さ値を有する均一な構造を有する。しかし、凹壁11が、例えばアブレーション速度の狙いどおりの設定によって異方的に形成され/されており、これが、特にチャネル間の中間領域が不完全あるいは部分的にしか除去されず、したがって凹壁11がそのような中間領域30およびチャネル領域31を有するような形態で行われる場合も有利であり得る。中間領域30およびチャネル領域31を変更することによって、凹壁11上に波紋を形成することができ、あるいは形成されていてよく、この波紋が、有利には凹壁11の異方的あるいは方向依存的な粗さを形成する。
【0065】
凹壁の構造あるいは粗さを最適に調整できるようにするためには、以下の関係のうち少なくとも1つが成り立つことを前提とすることができる:
- バースト×パルス持続時間=一定
- ピッチ/アブレーション=一定
【0066】
これらの関係から、レーザのパラメータ、特にピッチおよびバースト、あるいはパルスパケットのシングルパルス数が、凹壁の粗さにかなりの影響を与えることが明らかである。
【0067】
図5に、凹壁11のチャネルセクション31の電子顕微鏡写真を示す。凹壁11上に分布する多数のドーム状の窪み12が明確に認められる。ここで、窪み12は、互いに接するように配置されており、その際、窪み12は、理想的にはそれぞれ稜線部13に囲まれており、この稜線部13によって、例えばクラックの成長を抑制することができる。写真で見て取れるように、窪み12は、凹状の反りを形成しており、この反りの湾曲部がガラス体積の方向に延在しているため、特に稜線部13は、例えば窪み低部14よりも中心面に対して高い。ここで、窪み低部14は、実質的に稜線部13に対して窪みの最低点を形成しており、有利には、稜線部13は、最高点、すなわち最高線を形成している。しかし、反りあるいは湾曲部に対して、稜線部13は、ごく狭くしか形成されていない。
【0068】
ここで、ドーム状の窪みの深さは、10μm~0.1μmであってよく、その際、0.2μm~2μmの深さが好ましく、なぜならば、この深さによって、実質的に凹壁11の粗さが決まり、この深さは、特に窪み低部14の中心と窪みを囲む稜線部13との差に相当するためである。つまり、窪み12の深さによって、実質的に凹壁11の平均粗さ値(Ra)が決まる。その際、波紋および/または中間領域30のような他の因子も、平均粗さ値(Ra)に寄与する。最良の場合、平均粗さ値(Ra)は、0.2μm~4.5μmである。
【0069】
さらに、窪み12は、有利には5μm~30μm、特に10μm~20μmの大きさの断面15を有する。ここで、断面15あるいは窪み12の形状は、多角形であってよい。この場合、稜線部13は、窪み12の間の境界線を形成し、その際、稜線部13は、窪み12の多角形の形状に起因して角張った形状にもなり得る。例えば角の数が5~8、有利には正確に6である省スペースの断面15が形成されるようにエッチングプロセス中に窪み12が形成されることが理想的であり、なぜならば、こうした形状は、数学的に最小の周囲を提供すると同時に体積が最大となり、すなわち円形に最も近づくためである。特に、これにより均一かつ一様な粗さを設定することができ、したがって、ガラスエレメントを想定される用途に特に正確に適合させることができる。
【0070】
図6は、上記の、レーザによる損傷16の導入と、その後のエッチングでの損傷の拡張によるチャネル16の生成との組み合わせによって生じた凹壁11上の平均粗さ値(Ra)の測定値をグラフで示したものである。このグラフでは、上記プロセスによって生じた平均粗さ値(Ra)が、各種レーザパラメータに対して示されている。ここでは、平均粗さ値(Ra)が縦軸に、バーストあるいはパルスパケットのシングルパルス数が横軸にプロットされている。ここで、測定点の大きさあるいは直径は、ピッチ、あるいはパルスとチャネルとの間隔を表す。さらに、右側はパルス持続時間1psで生じた粗さの測定値、左側はパルス持続時間10psで生じた粗さの測定値を示している。平均粗さ値(Ra)の分布から、粗さと、パルス持続時間、パルス数およびパルス間隔との相関性が明らかである。
【0071】
グラフが示しているように、パルス持続時間が例えば1psのように短い場合には、パルス持続時間が例えば10psのように長い場合よりも平均粗さ値(Ra)が低くなり、また凹壁11の面がより平滑となる。特にグラフから、パルス持続時間が短い場合には、パルス持続時間が長い場合に比べて、ピッチのみならず有利にはバーストあるいはシングルパルス数の影響力が少ないこともわかる。したがって、パルス持続時間が長く約10psである場合には、特にピッチが高いと、またバーストが高いと、測定された平均粗さ値(Ra)が特に高くなり、およそ1μm~2μmの範囲であり、一方で、パルス持続時間が短い場合には、平均粗さ値(Ra)は、ピッチやバーストにかかわらず1μm以下である。つまり、パルス持続時間を短くすることで、凹壁11の特に低い粗さを達成することができる。
【0072】
図7および図8は、凹壁11の平均粗さ値(Ra)の測定値を示したものである。ただし、平均粗さ値(Ra)を、バースト、すなわちシングルパルス数(図7では横軸にプロット;図8では縦軸にプロット)およびピッチ、すなわちパルスパケットの間隔(図7では縦軸にプロット;図8では横軸にプロット)に対して示す。両図とも、10psのパルス持続時間で生じた粗さの測定値を示している。ここで、測定点を結ぶ線は、エッチングプロセスで除去されたガラスアブレーションを示している。図7および図8は、凹壁11および/または外壁11の生じ得る粗さと、ピッチおよびバーストとの相関性を示している。ここで、特に、ピッチが高く例えば12μm以上である場合や、バーストが高く例えば7以上である場合に、粗さあるいは測定された平均粗さ値(Ra)が特に高く、例えば3μm以上の範囲にあることが明らかである。一方で、ピッチが6μm以上である場合には、バーストが非常に低く1~2であっても、測定された平均粗さ値(Ra)は比較的高く、例えば1.5μmより大きい。測定値曲線は実質的に平行に延びており、大部分が重なっているため、アブレーションは、凹壁11および/または外壁4に生じる粗さにわずかな影響しか及ぼさないと結論づけることができる。実質的に、凹壁11および/または外壁4の粗さは、レーザパラメータ、特にパルス持続時間、ピッチおよびバーストの選択によって調整することができる。
【0073】
したがって、以下のパラメータのうちの少なくとも1つ、有利には以下のパラメータの組み合わせを提供するパラメータ範囲により、特に粗い凹壁11および/または外壁4を生じさせることが可能であることが明らかである:
- パルス持続時間が長く、例えば1以上、有利には3以上、好ましくは5以上であること、
- パルスパケット(バースト)のシングルパルス数が多く、例えば7以上であること、
- ピッチが大きく、例えば10μm以上であること。
【0074】
一方で、以下のパラメータのうちの少なくとも1つ、有利には以下のパラメータの組み合わせを提供するパラメータ範囲により、特に粗さ値の低い特に平滑な凹壁11および/または外壁4を生じさせることが可能である:
- パルス持続時間が短く、例えば5以下、有利には3以下、好ましくは1以下あること、
- パルスパケット(バースト)のシングルパルス数が2~7であること、
- ピッチが小さく、例えば15μm未満であること。
【0075】
しかし、本方法のさらなる発展形態では、1つ以上の内側部分20を分離するために、少なくとも1つの小さなピッチ、すなわちガラスエレメント1あるいは少なくとも2つのチャネル16上のレーザ光線100の2つの衝突点間の空間的な間隔が最大で6μm、有利には最大で4.5μmであり、かつ/またはアブレーションが34μm以上であることが想定される。特に、少なくとも1つの内側部分20を分離するには、低いピッチまたは高いピッチと高いアブレーションとの組み合わせが有利であり、これにより、エッチングプロセス中にチャネルがつながる程度にチャネルを拡張させることができる。これは、十分に高度のアブレーションにより実現することができる。
【0076】
したがって、図6図8は、ガラス材料の挙動、例えば熱膨張係数の挙動によって、選択されたレーザパラメータが凹壁11の粗さに決定的な影響を与えることを示している。ここで、粗さを最良の様式で調整することができるように、熱膨張係数が10×10-6-1以下のガラスが意図的に選択される。さらに、熱膨張係数が0.1×10-6-1以上、有利には1×10-6-1以上、特に好ましくは2×10-6-1以上であり、それに伴ってガラスがレーザのエネルギーに対する反応を引き起こすのに十分な膨張性を有する場合に有利であり得る。提示された実施形態に限定されるものではないが、SiO含有量が30重量%~80重量%でありかつ/またはTiO含有量が最大で10重量%であるガラスが、加工性に関して特に好適である。
【0077】
図9図12は、幅約800μm、高さ約750μmの測定領域においてエッチング浴中で10μmのアブレーションを行った後の、方向依存的な粗さを有する凹壁11の面の測定値を示している。ここで、測定領域の幅はガラスエレメントの面2に対して平行であり、測定高さはガラスエレメント1の面に対して垂直であり、特にレーザ光線100に対して平行である。写真の右側の端にある目盛りから、凹壁11の中心面に対する窪み12の粗さあるいは深さ(μm単位)を読み取ることが可能である。
【0078】
図9および図10に、異方的に、特にレーザ光線に対して平行にあるいはガラスエレメント1の面2に対して垂直/横方向に縞状に延在する粗さを有する凹壁11が示されている。この場合、異方性の係数Aは、有利には1より大きい。この異方性は、図9に示すように、パルス持続時間が短く約1psである場合、バーストが低く2である場合、およびピッチが10μmである場合に特に顕著である。ドーム状の窪み12は、識別しにくいが、しかし明らかにパターン状に現れているか、あるいはパターンと同様に互いに向かい合うように配置されており、特に、窪み12の配置によってガラスエレメントの面2に対して垂直/横方向に延在する縞が形成されるように、レーザ光線の方向に重ねて配置されている。この場合、窪み12は、丸みのある、場合によっては円形の断面を示す。
【0079】
図10に示すように、10ps、バースト1、ピッチ10μmで生じた凹壁11の場合には、状況が異なる。図9と同様に、粗さは異方的に形成されており、特にレーザ光線に対して平行にあるいはガラスエレメント1の面2に対して垂直/横方向に延在している。しかし、個々の窪み12は、この場合にはミミズ状に形成されており、このミミズ形状は、有利には、レーザ光線100に対して平行にかつ/またはガラスエレメント1の面2に対して垂直/横方向に延びる方向に沿って広がっている。本発明の趣意において、ミミズ形状とは、窪み12の周囲の稜線部13が不均一な高さを形成し、いくつかの領域において、窪みの深さに相当し得るか、または少なくとも窪みの周囲の稜線部13の大部分の高さより著しく小さい高さを有するというように理解されるべきである。2つ以上の互いに隣り合う窪みにおいてこのように稜線部13の少なくとも1つの領域の高さが低い場合、こうした窪み12は、測定画像においてほぼ均一な深さで現れ、その結果、個々の窪み12が連続して並ぶことによりミミズ形状が生じる。全体として、凹壁11は、1psのパルス持続時間を使用した場合(図9;平均粗さ値0.38μm)よりも10psのパルス持続時間を使用した場合(図10;平均粗さ値0.50μm)の方が著しく粗大に、したがってまた低光沢性にあるいは粗く形成されていることが見て取れる。このように、パルス持続時間を変更することで、平均粗さ値(Ra)を特に精密に調整することができる。
【0080】
図11に、異方的に、有利にはレーザ光線100に対して横方向にかつ/またはガラスエレメント1の面2に対して平行に延びる方向に縞状に形成された粗さを有する凹壁11が示されている。この場合、異方性の係数Aは、有利には1以下である。凹壁11は、この場合には、縞状に延在する実質的に2つの領域を示し、各領域の窪み12は、好ましくは均一な深さを有するため、これらの領域は、実質的に窪みの深さの点で異なる。この結果、測定結果の濃淡値、あるいは各領域の平均粗さ値(Ra)が比較的均一となる。
【0081】
図12は、パルス持続時間10ps、バースト2、ピッチ3μmで生じた、平均粗さ値1.05μmの凹壁11を示す。本例では、ドーム状の窪み12が凹壁11上に実質的に均一に分布しているため、異方性はごくわずかにしかあるいはまったく形成されていない。有利には円形ないし楕円形に形成されている窪み12の断面も、現れ方が比較的類似しているため、凹壁11上に一様な構造が形成される/されている。
【0082】
図13および図14に、透過率測定のセットアップおよび反射率測定の測定結果が概略的に示されている。有利には、ガラスエレメントは透明に形成されていてよく、特に可視光、またはより広く300nm~1000nmの波長範囲にある光の透過を可能にする。先に提示した方法によって生じる凹壁11および/または外壁4の構造化は、例えばレーザダイオードにおけるスペックル効果や他の干渉効果を抑制するのに有利な光整形特性を有する。このために、窪み12あるいは壁の構造は、通過する光に影響を与えるべく、特に図9図12に示される形状に従って例えば均一に構成されていても異方的に構成されていてもよい。有利には、ガラスエレメント1は、光が凹壁11および/または外壁4のみならずガラスエレメントの面2をも貫通できる状態にあり、したがって、ガラスエレメント1を通じた電磁波の送受信が可能である。
【0083】
特に有利には、特に前述の方法によって調整された粗さ(Ra)が0.5μmである場合の壁11,4、およびガラスエレメント1の体積は、300nm~1000nmの波長範囲において90%超の光を透過させることが可能である。しかし、壁11,4の透過率を低くしたい場合には、平均粗さ値(Ra)を例えば1.4μmの値に調整することができ、それにより、例えば86%強の光しか透過せず、300nm~1000nmの波長範囲の光がより多く反射する。
【0084】
これを特に、図13に概略的に示される測定セットアップによって実証することができた。積分球81および光線80、例えば波長690nmの光線80によって透過率を測定することができた。この場合、光線80は、ガラスエレメント1の体積10mm程度、特殊研磨されていてよい外壁4を横断し、凹壁11を通過あるいは貫通した。ここで、凹壁11は、積分球81の入射位置あるいはその真正面に位置するように配置されている。このようにすることで、光線を壁11,4上で散乱させ、積分球81によってすべての角度を検出することができる。ガラスエレメント1および/またはさらなる壁の体積とは無関係に壁11,4の透過率を求められるようにするために、透過率の測定結果からガラスエレメント1および/または研磨された壁の体積の透過率を差し引くことも考えられる。ガラスエレメント1および/またはさらなる壁の体積の透過率を求められるようにするには、例えば、ガラスエレメント1の面2を光が貫通するようにガラスエレメントの透過率を測定してもよいし、壁の光の反射率を反射率測定によって求め、その後、これを透過率測定の測定結果の全体から差し引いてもよい。
【0085】
図14は、反射率測定の結果を示す。光導波路あるいはファイバセンサによって光を壁11,4に当て、壁11,4によって反射された波長範囲300nm~1000nmの光を検出した。有利なことに、検出された測定結果から、壁11,4の粗さによって反射率を調整できること、あるいは粗さに基づいて所望の反射率を設定できることが明らかである。例えば、平均粗さ値が例えば1.4μmである粗い壁11では、平均粗さ値が例えば0.5μmであるさほど粗くない、またはさらには平滑である壁11,4よりも、光の反射率が著しく低いことが判明した。
【符号の説明】
【0086】
1 板状ガラスエレメント
2 面
4 外壁
10 凹部
11 凹壁
12 ドーム状の窪み
13 稜線部
14 窪み低部
15 断面
16 チャネル/損傷
17 構造
18 角
20 内側部分
30 中間領域
31 チャネル領域
50 保持部
70 アブレーション
80 光線
81 積分球
90 粗い壁
91 平滑な壁
100 レーザ光線
101 レーザ/超短パルスレーザ
102 集束光学系
200 エッチング媒体
202 容器
L 縦方向
Q 横方向
D ガラスエレメントの厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】