(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】抗癌関連遺伝子の発現が調節されたナチュラルキラー細胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20231025BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20231025BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231025BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231025BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N1/00 B
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523127
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 KR2021014245
(87)【国際公開番号】W WO2022080894
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134623
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518018056
【氏名又は名称】スンクワン メディカル ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】521454571
【氏名又は名称】チャ バイオラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペク,ヨン・ソク
(72)【発明者】
【氏名】アン,ヒ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ガン,ミョン・ソ
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ヨン・ファ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ギョン・スン
(72)【発明者】
【氏名】イ,イン・ジ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ソ・ヒュン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065BA25
4B065BB19
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
抗癌関連遺伝子発現が調節された高純度、高活性のナチュラルキラー細胞の培養方法、および、その抗癌免疫治療用途に関する。一態様によるナチュラルキラー細胞によれば、培養前後の抗癌関連遺伝子の発現が顕著に増加または減少し、ナチュラルキラー細胞の固有の特性を持ちながらも活性および増殖倍数が著しく高く、効果的な抗癌免疫治療ができる効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ヒト末梢血から白血球アフェレーシスを介して単球細胞を単離する工程と、
2)前記単離した単球細胞からCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得る工程と、
3)前記得られたCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を処理し、フィーダー細胞(feeder cell)を含まない培養液中で培養する工程をと含む、ナチュラルキラー細胞の培養方法。
【請求項2】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞が、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(a)~(e)から選択される1つ以上の特性を有する、請求項1に記載の方法。
(a)NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1以上の発現が増加、
(b)KIR3DL2、およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(c)FASLおよびTRAIL(TNFSF10)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(d)グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、および、
(e)CCL1およびCCR5からなる群から選択される1つ以上の発現が増加する。
【請求項3】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(f)~(j)から選択される1つ以上の特性をさらに有する、請求項2に記載の方法。
(f)DAP10(HCST)、およびIL-2RAからなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(g)GM-CSF(CSF2)の発現が増加、
(h)IL-8(CXCL8)、およびIL-10からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(i)Noxa(PMAIP1)の発現が減少、および、
(j)BCL-2の発現が増加する。
【請求項4】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して純度、細胞増殖倍数、および癌細胞殺傷能が増加したことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1)工程が白血球アフェレーシスによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記2)工程が閉鎖系を用いて実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記3)工程のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞が凍結保存されてから解凍された状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記3)工程の血漿は、ヒト末梢血から単離されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記3)工程の培養は、ガンマグロブリンおよびフィブロネクチンの存在下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記3)工程の培養は、末梢血単核細胞を培養してナチュラルキラー細胞を培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
IL-2、抗NKp46抗体、および血漿を含むナチュラルキラー細胞培養用組成物であって、
前記組成物はフィーダー細胞(feeder cell)を含まないことを特徴とする組成物。
【請求項12】
前記組成物によって培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(a)~(e)から選択される1つ以上の特性を有する、請求項11に記載の組成物。
(a)NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(b)KIR3DL2、およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(c)FASLおよびTRAIL(TNFSF10)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(d)グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、および、
(e)CCL1およびCCR5からなる群から選択される1つ以上の発現が増加する。
【請求項13】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞が、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(f)~(j)から選択される1つ以上の特性をさらに有する、請求項12に記載の組成物。
(f)DAP10(HCST)、およびIL-2RAからなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(g)GM-CSF(CSF2)の発現が増加、
(h)IL-8(CXCL8)、およびIL-10からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(i)Noxa(PMAIP1)の発現が減少、および、
(j)BCL-2の発現が増加する。
【請求項14】
前記血漿がヒト末梢血から単離された、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、ガンマグロブリン、およびフィブロネクチンをさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団。
【請求項17】
請求項16に記載のナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を有効成分として含む、癌予防または治療用薬学的組成物。
【請求項18】
前記癌は、膠腫、消化管間質腫瘍、白血病、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、喉頭癌、直腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、骨癌、筋肉癌、脂肪癌、線維細胞癌、血液癌、リンパ腫、および多発性骨髄腫からなる群から選択される1種以上の請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
請求項17の薬学的組成物を個体に投与する工程を含む、癌の予防または治療方法。
【請求項20】
癌の予防または治療用医薬の製造に使用するための、請求項17に記載の組成物の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月16日に出願された大韓民国特許出願第10-2020-0134623号を優先権として主張し、前記明細書全体は本出願の参考文献である。
【0002】
抗癌関連遺伝子の発現が調節された高純度、高活性のナチュラルキラー細胞の培養方法およびその抗癌免疫治療用途に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、世界的に最も臨床的研究が活発に進んでいる抗癌免疫細胞治療薬、T細胞治療薬である。T細胞は免疫細胞の中で最も多く、高い抗癌免疫機能を有する主要な免疫細胞であるが、他人から提供された同種(allogenic)T細胞の使用時に、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)の制限を受けて深刻な移植片対宿主病(Graft-versus host disease:GvHD)を誘発できる。
【0004】
一方、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell、「NK細胞」とも呼ばれる)は、形態学的に細胞質の中に大きな顆粒を有する細胞であり、血液中のリンパ球の約5~15%を占める。ナチュラルキラー細胞は体内の一次防御作用(自然免疫反応)を代表する免疫細胞で、体内に免疫記憶を形成して長期間存在するT細胞ベースの治療法に比べてサイトカインストーム(cytokine storm)などの副作用が少なく、移植片対宿主病を誘発せず、同種細胞治療薬として使用することができ、既製の(Off-the-Shelf)形態の治療薬として開発可能であり、抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)も誘導できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このようなナチュラルキラー細胞自体の治療的利点、および安全性にもかかわらず、ナチュラルキラー細胞は、T細胞とは異なり、培養が良くできない細胞として知られており、特に同種使用のためにはT細胞の混入なしに高純度のナチュラルキラー細胞を培養しなければならないが、大量増殖が難しいという限界がある。最近、フィーダー細胞(feeder cell)などを用いてナチュラルキラー細胞の大量培養法が開発されたが、治療薬への適用時に前記フィーダー細胞が最終産物に混入され、安全性に問題を引き起こす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高純度、高活性のナチュラルキラー細胞を培養する方法を開発していた中、白血球アフェレーシスおよび閉鎖系システムを用いてCD3陰性、およびCD56陽性のナチュラルキラー細胞を抽出した後、フィーダー(feeder)を使用せず、IL-2、抗NKp46抗体、およびドナー血漿を用いて培養した場合、従来のナチュラルキラー細胞の製造方法よりも細胞の増殖力と殺傷力が高く、高純度のナチュラルキラー細胞を生産できることを確認することにより、本発明を完成した。
【0007】
一態様は、1)ヒト末梢血から白血球アフェレーシスを介して単球細胞を単離するステップと、
2)前記単離した単球細胞からCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得るステップと、
3)前記得られたCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を処理し、フィーダー細胞(feeder cell)を含まない培養液中で培養するステップとを含む、ナチュラルキラー細胞の培養方法を提供することである。
【0008】
他の態様は、前記方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を提供することである。
【0009】
他の態様は、IL-2、抗NKp46抗体、および血漿を含むナチュラルキラー細胞培養用組成物であり、
前記組成物は、フィーダー細胞(feeder cell)を含まないことを特徴とする組成物を提供することである。
【0010】
他の態様は、前記方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0011】
他の態様は、前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含む癌の予防または治療方法を提供する。
【0012】
他の態様は、癌の予防または治療用医薬の製造に使用するための前記ナチュラルキラー細胞培養用組成物の用途を提供する。
【0013】
一態様は、1)ヒト末梢血から白血球アフェレーシスを介して単球細胞を単離するステップと、
2)前記単離した単球細胞からCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得るステップと、
3)前記得られたCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を処理し、フィーダー細胞(feeder cell)を含まない培養液中で培養するステップとを含むナチュラルキラー細胞の培養方法を提供する。
【0014】
一態様は、前記方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を提供することである。
【0015】
本明細書は公知の他のナチュラルキラー細胞の培養方法と異なり、本明細書によるナチュラルキラー細胞の培養方法により培養したナチュラルキラー細胞は、99%以上の高いナチュラルキラー細胞の純度、300~350倍の増殖倍数、および高い癌細胞殺傷能を示し、培養前後の抗癌関連遺伝子の発現が有意に増加または減少した細胞である。
【0016】
本明細書における用語「ナチュラルキラー細胞(Natural Killer cells)」または「NK細胞」は、自然免疫系の主要成分を構成する細胞傷害性リンパ球であり、大顆粒リンパ球(large granular lymphocyte:LGL)と定義され、リンパ球系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor:CLP)産生BおよびTリンパ球から分化した第3の細胞を構成する。前記「ナチュラルキラー細胞」または「NK細胞」は、任意の組織供給源(source)に由来する追加の変形のないナチュラルキラー細胞を含み、成熟したナチュラルキラー細胞だけでなく、ナチュラルキラー細胞の細胞前駆体も含み得る。前記ナチュラルキラー細胞は、インターフェロンまたはマクロファージ由来サイトカインに応答して活性化され、ナチュラルキラー細胞は「活性化受容体」および「抑制性受容体」で標識される、細胞の細胞毒性活性を制御する2種類の表面受容体を含む。
【0017】
前記ナチュラルキラー細胞は市販のものを購入するか、ヒトまたは動物から採取することができ、好ましくはナチュラルキラー細胞による治療を必要とするヒトから供給され得る。
【0018】
ナチュラルキラー細胞は、任意の供給源、例えば胎盤組織、胎盤灌流液、臍帯血、胎盤血、末梢血、脾臓、肝臓などからの造血細胞、例えば、造血幹または前駆体、胎盤または臍帯由来幹細胞、人工多能性幹細胞、またはそれから分化した細胞から産生することができる。さらに、前記ナチュラルキラー細胞は、インビボで任意の組織源から供給され得る。例えば、前記ナチュラルキラー細胞は、生体から採取された血液中に含まれてもよい。前記血液は、ナチュラルキラー細胞を含む血液であれば、本明細書の培養方法に適用するためのナチュラルキラー細胞の供給源として利用可能であり、例えば、全血、臍帯血、骨髄、または末梢血であり得る。
【0019】
前記ナチュラルキラー細胞は、例えば、末梢血単核細胞に由来するものであり得る。前記末梢血単核細胞は、治療を必要とする個体から得られるもの、すなわち、自家(autologous)末梢血単核細胞であるか、または同種(allogenic)から得ることができる。したがって、前記ナチュラルキラー細胞は、自家(autologous)または同種(allogenic)のナチュラルキラー細胞であり得る。
【0020】
本明細書における用語「末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)」は、哺乳動物、好ましくはヒトの末梢血から単離された単核細胞であり、主にB細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞などの免疫細胞、および好塩基球(basophil)、好酸球(eosinophil)、好中球(neutrophil)などの顆粒球などが含まれる。前記PBMCは、生体から採取した末梢血から白血球アフェレーシス(leukapheresis)またはフィコール(Ficoll)を用いた比重遠心分離法を用いて単離することができ、好ましくは白血球アフェレーシスを用いて単離することができるが、これに限定されない。
【0021】
本明細書における用語「白血球アフェレーシス(leukapheresis)」は、採血した血液から白血球(Leukocytes)を選択的に分離した後、残りの成分は再び提供者の血液に戻す方法として大量の単核白血球を得ることができるという利点がある。前記方法によって分離された白血球の場合、フィコール・ハイパック密度勾配法(Ficoll-Hypaque density gradient method)などの別の方法なしに本発明に使用することができる。白血球アフェレーシスを実施するための方法および装置は当技術分野で知られている。白血球アフェレーシス装置の例は、ガンブロ・ビーシーティー(GAMBRO BCT)によって製造されたコーブスペクトラ(COBESpectra)およびバクスターフェンオール(Baxter Fenwal)によって製造されたCS3000プラス(Plus)血液成分分離装置(Blood Cell Separator)を含む。
【0022】
一実施形態で、本明細書のPBMCは、白血球アフェレーシスを実施して単離されたものであり得る。一態様による培養方法は、前記白血球アフェレーシスを通じて単球分離後、これからCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得て培養することにより、全血から単離したナチュラルキラー細胞を培養する場合に比べて高い濃度のナチュラルキラー細胞の培養が可能である。このため、前記白血球アフェレーシスは、ナチュラルキラー細胞の純度、活性、および抗癌関連遺伝子の発現様相に影響を及ぼし得る。
【0023】
本明細書における用語「閉鎖系システム」は、新しい物質の導入などの培養プロセスの実施中および細胞の増殖、分化、活性化および/または単離などの細胞培養段階の実行中に、細胞培養における汚染の危険性を低減する任意の閉鎖系システムを指す。そのようなシステムは、GMPまたはGMPのような条件(「殺菌」)下で働き、臨床的に適用可能な細胞組成物を提供する。本明細書では、閉鎖系システムとして、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Mailenyi Biotec GmbH,Germany)を例示する。このシステムはWO2009/072003に開示されている。しかしながら、本発明の方法で使用されるものが、CliniMACS Prodigy(登録商標)に限定されない。
【0024】
一実施形態で、本明細書のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞は、白血球アフェレーシスによって単離されたPBMCに対してCliniMACS Prodigy(登録商標)システムを用いて得られたものであり得る。
【0025】
本明細書における用語「陽性または+」は、細胞標識に関して、その標識が基準となる他の細胞と比較した場合、より多量またはより高い濃度で存在することを意味することができる。すなわち、細胞は、ある標識が細胞の内部または表面に存在するので、その標識を用いてその細胞を1つ以上の他の細胞タイプと区別できれば、その標識に対して陽性となる。また、細胞がバックグラウンド値よりも大きい値でシグナル、例えば、細胞測定装置からシグナルを出すことができるだけの量でその標識を有することを意味することができる。例えば、細胞をNKp44特異的抗体で検出可能に標識することができ、この抗体からのシグナルが対照群(例えば、バックグラウンド値)より大きくて検出可能になる場合、その細胞は「NKp44+」である。本明細書における用語「陰性または-」は、特定の細胞表面標識に特異的な抗体を使用しても、バックグラウンド値と比較してその標識を検出できないことを意味する。
【0026】
一実施形態で、前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞は、免疫活性化受容体、アポトーシス誘導物質(癌細胞)、抗アポトーシス誘導物質(ナチュラルキラー細胞)、ケモカイン、ケモカイン受容体、免疫増強因子、および抗癌補因子からなる群から選択される1つ以上の活性が増加し、免疫不活性化受容体、免疫抑制因子、およびアポトーシス誘導物質(ナチュラルキラー細胞)からなる群から選択される1つ以上の活性が減少したナチュラルキラー細胞であり得る。本明細書における用語「抗癌関連遺伝子」とは、前記列挙した抗癌関連因子をコードする遺伝子を意味する。
【0027】
一実施形態において、前記ナチュラルキラー細胞は、母細胞、例えば、造血細胞、またはナチュラルキラー細胞の細胞前駆体と比較して、細胞毒性、またはナチュラルキラー細胞の本来の免疫調節能が活性化された、または前記のような抗癌関連因子の発現が調節された細胞を意味することができる。具体的な実施形態で、ナチュラルキラー細胞はCD3-CD56+である。
【0028】
他の実施形態で、前記免疫活性化受容体の発現は、NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1つ以上の発現であり得る。
【0029】
他の実施形態で、前記免疫不活性化受容体の発現は、KIR3DL2およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現であり得る。
【0030】
他の実施形態で、前記アポトーシス誘導物質の発現は、FASLおよび/またはTRAIL(TNFSF10)の発現であり得る。
【0031】
他の実施形態で、前記アポトーシス誘導物質の発現は、グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される1つ以上の発現であり得る。
【0032】
他の実施形態で、前記ケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現は、CCL1および/またはCCR5の発現であり得る。
【0033】
別の実施形態で、前記抗癌補因子は、DAP10(HCST)および/またはIL-2RAの発現であり得る。
【0034】
他の実施形態で、前記免疫増強因子は、GM-CSFの発現であり得る。
他の実施形態で、前記免疫抑制因子はIL-8(CXCL8)および/またはIL-10の発現であり得る。
【0035】
他の実施形態で、前記アポトーシス誘導物質(ナチュラルキラー細胞)はNoxaの発現であり得る。
【0036】
他の実施形態で、前記抗アポトーシス誘導物質(ナチュラルキラー細胞)はBCL-2の発現であり得る。
【0037】
一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(a)~(e)から選択される1つ以上の特性を有するものであり得る。
【0038】
(a)NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(b)KIR3DL2、およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(c)FASLおよびTRAIL(TNFSF10)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(d)グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される少1つ以上の発現が増加、および、
(e)CCL1およびCCR5からなる群から選択される1つ以上の発現が増加する。
【0039】
また、前記方法により培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(f)~(j)から選択される1つ以上の特性をさらに有するものであってもよい。
【0040】
(f)DAP10(HCST)、およびIL-2RAからなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(g)GM-CSF(CSF2)の発現が増加、
(h)IL-8(CXCL8)、およびIL-10からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(i)Noxa(PMAIP1)の発現が減少、および、
(j)BCL-2の発現が増加する。
【0041】
一実施形態において、前記方法により培養されたナチュラルキラー細胞は、活性化受容体の発現が著しく増加し、不活性化受容体の発現が著しく減少し、培養前のナチュラルキラー細胞に比べて純度、細胞増殖倍数、および癌細胞殺傷能が増加したことを特徴とすることができる。
【0042】
本明細書における用語「活性化」または「活性化受容体」は、刺激を受けたときにサイトカイン(例えば、IFN-γおよびTNF-α)産生、細胞内遊離カルシウムの増加、例えば、標的細胞に対する溶解(lysis)能力またはナチュラルキラー細胞の増殖を刺激する能力などのナチュラルキラー細胞活性に関連するように、関連分野で知られている任意の特性および活性において測定可能な増加を引き起こすナチュラルキラー細胞表面の分子を意味する。
【0043】
前記ナチュラルキラー細胞活性化受容体の例としては、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、IL-12R、IL-15R、IL-18RまたはIL-21Rなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
ナチュラルキラー細胞活性化受容体は、主に標的細胞が異常状態にあるときに発現が増加するリガンドを認識し、細胞毒性作用を引き起こして標的細胞を除去する。
【0045】
NKG2Dは、DNA損傷、癌発生、ウイルス感染時に発現が増加する細胞内分子であるUL16 binding proteins(ULBPs)とMICA/B、RAE1、H60、MULT1を感知して細胞毒性活性を提供する。
【0046】
NKp30は、BAG6およびNCR3LG1、B7-H6を含む細胞外リガンドの結合によって活性化される受容体であり、これらのリガンドと結合して細胞毒性を刺激する。
【0047】
NKp44は、細胞表面の糖タンパク質およびプロテオグリカン、細胞外に曝露され得る核タンパク質(nuclear proteins)、細胞外空間に放出されるかまたは細胞外小胞(vesicle)に移動する分子をリガンドとして認識する。最近、NKp44は、細胞外マトリックス(ECM)由来糖タンパク質または成長因子(growth factors)などの可溶性血漿タンパク質(例えば、PDGF-DD)を認識すると報告されている(Cell. 2018 January 25; 172(3): 534-548.e19., Front Immunol. 2019; 10: 719.)。
【0048】
本明細書における用語「不活性化」または「不活性化受容体」という用語は、刺激されたときにサイトカイン(例えば、IFN-γおよびTNF-α)産生、細胞内遊離カルシウムの増加、例えば標的細胞を溶解(lysis)する能力などのナチュラルキラー細胞活性に関連する関連分野でよく知られている任意の特性、または活性を測定可能に減少させるナチュラルキラー細胞表面の分子を意味する。
【0049】
前記ナチュラルキラー細胞不活性化受容体の例としては、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL4、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2、KIR3DL3、LILRB1、NKG2A、NKG2C、NKG2E、Sigleg9(シアル酸結合Ig様レクチン9)、または、ILRB5などを挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0050】
FASLおよびTRAILは、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性および免疫活性化に関与する因子であり、細胞表面の受容体に結合して標的細胞のアポトーシスを誘導する代表的なタンパク質である。
【0051】
一態様によるナチュラルキラー細胞は、NKp44およびNKp30の発現がそれぞれ1064倍、5.2倍まで著しく増加し、KIR3DL2およびSiglec9の発現は著しく減少し、FAS-L(FASLG)、TRAIL(TNFSF10)の発現が少なくは6.1倍から多くは24.5倍まで著しく増加し、抗癌効果が高く、効率的な細胞治療薬として活用できると見込まれる。
【0052】
T細胞は、主にCD8陽性のcytotoxicT細胞(Tc)とCD4陽性のhelperT細胞(Th)に分けられ、前記Th細胞から分泌されるサイトカインはTh1型とTh2型に分けられる。Th1細胞は主に食作用による細胞内防御に関与し、IL-2、IL-12、INF-γ、またはTNF-αなどのサイトカインを主に産生する。
【0053】
一方、Th2細胞は主にIL-4、IL-6、IL-8、TGF-βなどのサイトカインを産生し、T細胞の活性を抑制しながらTh1型のサイトカイン産生を抑制する。したがって、Th1細胞の活性化およびTh2細胞の抑制は抗癌免疫機能に重要な影響を及ぼし得る。
【0054】
その中で、IL-10はTh2細胞で産生され、Th1細胞のサイトカイン産生を妨げる。
【0055】
IL-8(CXCL8)は、主に炎症反応を媒介する炎症促進性(pro-inflammatory)サイトカインとして腫瘍のCXCR1/2と結合して癌細胞の増殖および新生血管の増殖(neoangiogenesis)を促進する役割をする好中球を炎症部位に誘引する代表的なケモカインである。
【0056】
一態様によるナチュラルキラー細胞は、抗癌免疫機能を抑制するIL-10およびIL-8の発現がそれぞれ1/100倍、1/1000倍に著しく減少し、効率的な細胞治療薬として活用できると期待される。
【0057】
本明細書において、「ケモカイン(chemokine)」という用語は活性化されたナチュラルキラー細胞から分泌される物質であり、ケモカインは様々な炎症細胞を標的臓器に動員(または移動)することができる。ケモカインは、アミノ酸塩基配列中、最初の2つのN末端システイン(cysteine)の配列構造に応じて4つのグループ(C、CC、CXC、CX3X群)に分類され、現在まで40種以上のケモカインと20種以上のケモカイン受容体が知られている。特に、腫瘍および腫瘍を取り巻く宿主の細胞からなる腫瘍微小環境(tumor microenvironment)では、腫瘍関連宿主細胞および癌細胞は様々なケモカインを分泌し、したがって抗腫瘍反応および腫瘍促進反応とのバランスを媒介する様々なタイプの細胞が補充され活性化される。さらに、化学走性の役割に加えて、ケモカインは腫瘍細胞の成長、新生血管の生成および転移を含む他の腫瘍関連プロセスにも関与する。
【0058】
一実施形態で、前記ケモカイン受容体は、CCRまたはCXCRであり得、前記CCRはCCR1、CCR2、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9またはCCR10であり得、好ましくはCCR2、CCR5、またはCCR6であり得る。さらに、前記ケモカインは、CCL1、CCL3、CCL4、CCL5、CCL22、またはCXCL8であり得、好ましくはCCL1であり得る。
【0059】
本明細書における用語「CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞」は、「CD3-CD56+NK細胞」、または「CD3-/CD56+NK細胞」と同じ意味で使用することができる。
【0060】
前記CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞は、凍結保存後に解凍された状態であるものであり得る。一実施形態で、前記末梢血単核細胞は血液から単離した後、凍結してからそれを再び解凍してナチュラルキラー細胞培養に使用することができる。前記凍結は従来の公知の方法を利用することができ、好ましくは4~-42℃の範囲の第1凍結工程、-42~-15℃の範囲の第2凍結工程、および-15~-120℃の範囲の第3凍結工程からなる凍結方法によって凍結することができる。この場合、各凍結工程は、温度範囲内の様々な不連続温度で順次一定時間試料を維持することにより、各凍結工程の温度範囲の上限または下限まで温度を上昇または下降させることができる。一実施形態で、第1凍結工程は、0℃で10~15分、-12℃で5~10分、および-42℃で0.5~1分間の条件で凍結し、第2凍結工程は、第1凍結工程後、-25℃で1~3分、および-15℃で1~3分の条件で凍結し、前記第3凍結工程は、第2凍結工程後、-42℃で20~40分、および-120℃で20~50分の条件で凍結する過程からなってもよい。他の実施形態で、前記第1凍結工程は4~-40℃の範囲で0.5~5℃/mで凍結し、前記第2凍結工程は第1凍結工程後に-40~-90℃の範囲で1~10℃/mの条件で凍結し、前記第3の凍結工程は、第2の凍結工程後、-90~-120℃の範囲で1~10℃/mの条件で凍結させる過程からなってもよい。凍結方法の各凍結工程は、CRF(controlled rate freezer)によって行うことができる。本明細書の末梢血単核細胞を凍結する場合、単離された細胞をcryostor CS10またはALyS505NK-EXとAlbumin+DMSOの混合液で細胞を浮遊させて適正な細胞数となるように調節した後、凍結することが好ましい。前記凍結保存された末梢血単核細胞は、解凍後に本明細書に記載のナチュラルキラー細胞の培養および増殖に提供することができ、凍結過程を経ることによって必要な時期に細胞培養を行うことができる。本明細書は高い生存率を維持し、活性化されたナチュラルキラー細胞の培養方法に効果的に適用できる末梢血単核細胞の凍結方法と解凍方法を提供する。
【0061】
一態様によるナチュラルキラー細胞の培養方法は、ガンマグロブリン(IgG)およびフィブロネクチンの存在下でCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を培養することができる。前記ガンマグロブリン、およびフィブロネクチンの存在下での培養は、例えば、培養液中にガンマグロブリン、およびフィブロネクチンが含まれているか、または培養面(細胞と接触できる培養容器の面)にガンマグロブリン、およびフィブロネクチンがコーティングされた培養容器内で細胞を培養することであり得る。好ましくは、ガンマグロブリン、およびフィブロネクチンがコーティングされた培養容器内でナチュラルキラー細胞を培養するものであり得る。前記ガンマグロブリンおよびフィブロネクチンがコーティングされた培養容器は、ガンマグロブリンおよびフィブロネクチンを含む溶液を加えてコーティングすることによって作製することができる。また、前記フィブロネクチンの代わりに公知の接着タンパク質を使用することができ、例えばコラーゲンなどを使用することができる。一実施例において培養容器(例えば、T75フラスコ)にガンマグロブリン、およびフィブロネクチンを含有した溶液を加えた後、低温(例えば2~4℃)でインキュベートすることによりガンマグロブリン、およびフィブロネクチンによる培養容器のコーティングを行うことができる。
【0062】
前記ガンマグロブリンの濃度は、0.1~1ng/ml、1~10ng/ml、10~100ng/mlまたは1~100ng/mlであり得る。ガンマグロブリンはナチュラルキラー細胞のFcγRIIIを刺激してナチュラルキラー細胞を活性化させることができる。
【0063】
前記フィブロネクチンの濃度は、0.1~50μg/ml、1~50μg/ml、5~50μg/ml、10~50μg/mlであり得る。フィブロネクチンはナチュラルキラー細胞の移動を促進し、細胞間の相互作用を円滑にすることができる。
【0064】
前記培養は、末梢血単核細胞を培養してナチュラルキラー細胞を培養することであってもよい。
【0065】
前記末梢血単核細胞の培養は、通常の細胞培養条件、すなわち、約37℃、CO2培養器で行うことができ、培養液を2日あるいは3日に1回ずつ加えながら継続的に培養することができる。また、培地に加えられるPBMCの濃度は4×105~5×107細胞/mlの範囲であり得るが、これに限定されるものではない。培養期間は、例えば、3~28日、5~25日、7~23日、10~18日、または10~14日間実施することができるが、これらに限定されず、所望のナチュラルキラー細胞数を得るために、前記培養日数範囲内または範囲外で適宜設定することができる。培養容器は、市販されている皿、フラスコ、プレート、マルチウェルプレート、培養バッグ(Bag)を含むことができる。
【0066】
一方、ナチュラルキラー細胞を最大限に増殖させるために、培養は各段階で培養することができる。この場合、各培養工程は、培養液成分、培養容器および培養期間が同一か異なる可能性があり、各工程における最適な培養期間を見つけることにより、最終的にナチュラルキラー細胞の増殖がなされ得る。また本明細書は、培養期間中、フラスコ内に2~3日間隔で培養組成物(または、培養液)を追加して培養することを特徴としており、これによりナチュラルキラー細胞の培養が効果的になるように助ける役割をする。
【0067】
他の態様は、IL-2、抗NKp46抗体、および血漿を含むナチュラルキラー細胞培養用組成物であり、
前記組成物はフィーダー細胞(feeder cell)を含まないことを特徴とする組成物を提供する。
【0068】
一態様によるナチュラルキラー細胞の培養方法は、CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を処理し、これをフィーダー細胞(feeder cell)を含まない培養液中で培養することができる。前記培養液は、通常の免疫細胞培養用培地にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を含むものであってもよい。免疫細胞培養用培地としては、例えば、ALyS505NK-EX(Cell Science&Technology Inst.Inc.、日本)、 RPMI1640(Life technologies、米国)、x-vivo10(Lonza、米国)、CellGro SCGM(CellGenix、ドイツ)、KBM(Kohjin bio、日本)などの培養液を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
前記培養液に含まれるIL-2の濃度は、500~5,000IU/ml、600~4,000IU/ml、700~3,000IU/ml、800~2,000IU/ml、900~1,500IU/ml、900~1,200IU/mlまたは1,000~1,200IU/mlであり得るが、これに限定されない。前記IL-2はナチュラルキラー細胞の成長を促進することができる。
【0070】
前記培養液に含まれる抗NKp46抗体の濃度は、0.1~10μg/ml、0.5~10μg/ml、1~10μg/ml、または5~10μg/mlであってもよいが、これに限定されるものではない。NKp46はナチュラルキラー細胞の活性化受容体であり、したがって前記抗NKp46抗体はNKp46を刺激してナチュラルキラー細胞を活性化させることができる。
【0071】
また、前記培養液に含まれる血漿は、ナチュラルキラー細胞の培養に用いられる末梢血単核細胞を単離した末梢血から得ることができる。前記血漿の代わりに血清を使用することができる。
【0072】
前記血漿の濃度は、全培養液に対して1~20v/v%、1~15v/v%、2~15v/v%、5~15v/v%、または5~10v/v%であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0073】
一態様によるナチュラルキラー細胞培養用組成物は、フィーダー細胞(feeder cell)を含まないことを特徴とする。既存のナチュラルキラー細胞培養時に癌細胞株をフィーダー細胞として用いて増殖率、および細胞毒性を向上させる方法が用いられていたが、癌細胞株をフィーダー細胞として使用する場合、臨床適用時に重要な安全性を確保することが困難であり、培養したナチュラルキラー細胞は、特定の癌細胞に対するプライミング(priming)特異性が付与されたナチュラルキラー細胞という限界を有する。また、培養後にフィーダー細胞が完全に除去されたことを立証する工程の複雑性を排除することができ、フィーダー細胞の汚染の可能性を排除して安全性をさらに高めることができる。
【0074】
一実施形態で、一態様による組成物は、フィーダー細胞を使用せず、IL-2、抗NKp46抗体、およびドナー血漿のみを含む。これを用いてCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の培養時に長期間体外(in vitro)で培養しても細胞増殖、細胞生存率が著しく高いレベルで安定した培養が可能である。さらに、前記ナチュラルキラー細胞は著しく増加した癌細胞殺傷能を示しながらも、フィーダー細胞を含まず、既存のナチュラルキラー細胞と比較して臨床的にも安全に適用可能である。
【0075】
各培養工程の培養液には、ナチュラルキラー細胞の純度、増殖倍数、および癌細胞殺傷能を増加させる効果を損なわないことを条件として、適切なタンパク質、サイトカイン、抗体、化合物その他の成分が含まれ得る。
【0076】
一実施形態で、前記組成物によって培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、以下の(a)~(e)から選択される1つ以上の特性を有するものであり得る。
【0077】
(a)NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(b)KIR3DL2、およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(c)FASLおよびTRAIL(TNFSF10)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(d)グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、および、
(e)CCL1およびCCR5からなる群から選択される1つ以上の発現が増加する。
【0078】
また、前記方法により培養されたナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記の(f)~(j)から選択される1つ以上の特性をさらに有するものであってもよい。
【0079】
(f)DAP10(HCST)、およびIL-2RAからなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(g)GM-CSF(CSF2)の発現が増加、
(h)IL-8(CXCL8)、およびIL-10からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(i)Noxa(PMAIP1)の発現が減少、および、
(j)BCL-2の発現が増加する。
【0080】
一実施形態で、前記血漿はヒト末梢血から単離されたものであり得る。
さらに、一実施形態で、前記組成物はガンマグロブリンおよびフィブロネクチンをさらに含むことができる。
【0081】
本明細書において、前記発現は、培養前のナチュラルキラー細胞またはナチュラルキラー細胞の細胞集団に比べて培養後に前記列挙した抗癌関連遺伝子、または因子をより多くまたはより少なく発現するものであり得る。また、例えば、前記培養したナチュラルキラー細胞またはナチュラルキラー細胞の集団は、全細胞中または全細胞集団中の前記因子を少なくとも70%以上、少なくとも80%以上、少なくとも90%以上、少なくとも95%以上、少なくとも96%以上、少なくとも97%以上、少なくとも99%以上、または100%発現するものであり得る。前記「%発現」または「発現率」は、試料中の総細胞数に対する前記因子のうちの1つ以上を発現するナチュラルキラー細胞の割合を意味することができる。前記細胞または細胞集団中の前記因子の発現または発現率は、フローサイトメーターを用いて検出した値によって判断することができる。
【0082】
他の実施形態において、本明細書は、前記ナチュラルキラー細胞培養方法によって培養したナチュラルキラー細胞を、デキストランおよびアルブミンを含む溶液に懸濁して前記ナチュラルキラー細胞を保存する工程をさらに含んで製造方法を提供できる。
【0083】
一実施例において、本明細書のナチュラルキラー細胞培養方法により培養したナチュラルキラー細胞は、培養前と比較して99%以上の高い純度、300~350倍の増殖倍数、および高い癌細胞殺傷能の力価を示し、細胞殺傷能と関連性が高い因子の発現の顕著な増加、炎症性エフェクター細胞(inflammatory effector cell)を動員するケモカイン受容体発現の著しい増加、リガンドと結合したときにナチュラルキラー細胞を不活性化する不活性化受容体発現の著しい減少、ナチュラルキラー細胞のアポトーシスを抑制する遺伝子の著しい増加、およびそれを促進する遺伝子の著しい減少が見られた(
図6および表1参照)。
【0084】
本明細書において、前記ナチュラルキラー細胞は、前記言及した抗癌関連因子を発現するように、またはそれらの発現または活性が増加または減少するように培養または遺伝的に操作されたものであり得る。
【0085】
本明細書において、前記培養は、任意の供給源、例えば、胎盤組織、胎盤灌流液、臍帯血、胎盤血、末梢血、脾臓、肝臓などからの造血細胞、例えば、造血幹または前駆体から、前記言及した通りの抗癌関連因子の発現または活性が増加または減少するように培養されたことを意味してもよい。
【0086】
本明細書で使用される「遺伝的操作(genetic engineering)」または「遺伝学的に操作された(genetically engineered)」は、細胞に対して1つ以上の遺伝子組み換え(genetic modification)を導入する行為またはそれによって作製された細胞を意味する。
【0087】
本明細書における用語「活性の増加(increase in activity)」または「増加した活性(increased activity)」は、タンパク質または酵素の活性の検出可能な増加を示すことができる。「活性の増加(increase in activity)」または「増加した活性(increased activity)」は、所与の母細胞または野生型細胞または培養前細胞(例えば、PBMC)細胞と比較してより高いレベルのタンパク質、または酵素の活性を意味する。
【0088】
他の態様は、前記方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を有効成分として含む細胞治療薬または薬学的組成物を提供する。
【0089】
本明細書における用語「細胞治療薬」は、細胞と組織の機能を復元するために生きている自己(autologous)、同種(allogenic)、異種(xenogenic)細胞をインビトロで増殖・選別またはその他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて、治療、診断および予防の目的で使用される医薬品を指す。米国は1993年から、韓国は2002年から細胞治療薬を医薬品として管理している。このような細胞治療薬は大きく2つの分野に分類することができ、その第1は組織再生あるいは臓器機能回復のための幹細胞治療薬であり、第2はインビボ免疫反応の抑制あるいは免疫反応の亢進など免疫反応調節のための免疫細胞治療薬として分類することができる。
【0090】
前記細胞治療薬または薬学的組成物は、癌または感染性疾患の予防または治療用であり得る。
【0091】
他の態様は、前記ナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を医薬の製造に使用するための用途を提供する。
【0092】
他の態様は、前記ナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を個体に投与する工程を含む疾患を治療する方法を提供する。
【0093】
本明細書における用語「疾患」は、1つの病理学的状態、特に癌、感染性疾患、炎症性疾患、代謝性疾患、自己免疫性疾患、変性疾患、アポトーシス関連疾患および移植片拒絶を意味することができる。
【0094】
本明細書における用語「感染性疾患」は、細菌、ウイルス、真菌などの生物による感染性疾患を指すことができる。例えば、HIV(Human Immunodeficiency Virus)、EBV(Epstein-Barr Virus)、HHV(Human Herpes Virus)、IAV(Influenza A virus)などのウイルス感染の場合、一態様によるナチュラルキラー細胞での発現が増加した活性化受容体であるNKp46、NKp44、またはNKp30などが、ウイルスの糖タンパク質(viral glycoprotein)と結合して活性化され、感染細胞の死を誘導することができる。また、例えば、CMV(Cytomegalovirus)、EMCV(Encephalomyocarditis virus)などのウイルス感染の場合、一態様によるナチュラルキラー細胞で発現が増加した細胞死受容体(death receptor)であるFASL、TRAILなどと組み合わせて感染細胞の死を誘導することができる。
【0095】
本明細書における用語「治療」は、疾患、障害または病態、またはその1つ以上の症状の軽減、進行の抑制または予防を指すか、それを含み、「有効成分」または「薬剤学的有効量」は、疾患、障害または病態、またはその1つ以上の症状の軽減、進行の抑制または予防に十分な本明細書から提供される発明を実施する過程で使用される組成物の任意の量を意味することができる。
【0096】
本明細書における用語「投与する」、「導入する」、および「移植する」は、互換的に使用され、一実施形態による組成物の所望の部位への少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路による個体への一実施形態による組成物の配置を意味することができる。一実施形態による組成物の細胞または細胞成分の少なくとも一部を、生き残る個体内の所望の位置に送達する任意の適切な経路によって投与することができる。個体投与後の細胞の生存期間は、短い場合は数時間、例えば、24時間から数日ないし長ければ数年になり得る。
【0097】
前記投与は、さらなる抗癌剤またはサイトカイン製剤と併用して投与することができる。さらなる抗癌剤の例には、アルキル化剤(alkylating agent)、代謝拮抗薬、紡錘体阻害剤、植物アルカロイド、細胞障害性/抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、抗体、光増感剤およびキナーゼ阻害薬が含まれることができる。前記抗癌剤の例は、ターゲティング療法および従来の化学療法に使用される化合物を含み得る。また、前記抗体の例は、アレムツズマブ、アポリズマブ、アセリズマブ、アトリズマブ、バピネウズマブ、ベバシズマブ、ビバツズマブメルタンシン、カンツズマブメルタンシン、セデリズマブ、セルトリズマブペゴル、シドフシツズマブ、シドツマブ、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、エプラツズマブ、エルリズマブ、フェルビズマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、ラベツズマブ、リンツズマブ、マツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、モトビズマブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、ノロビズマブ、ヌマビズマブ、オクレリズマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パスコリズマブ、ペクプシツズマブ、ペクツズマブ、ペルツズマブ、ペクセリズマブ、ラリビズマブ、ラニビズマブ、レスリビズマブ、レスリズマブ、レサイビズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、シブロツズマブ、シプリズマブ、ソンツズマブ、タカツズマブ、テトラキセタン、タドシズマブ、タリズマブ、テフィバズマブ、トシリズマブ、トラリズマブ、ツコツズマブ、ツコツズマブセルモロイキン、ツクシツズマブ、ウマビズマブ、ウルトキサズマブ、およびビシリズマブを含めることができる。
【0098】
本明細書における用語「単離された細胞」、例えば、「単離されたナチュラルキラー細胞」などは、細胞が由来する組織、例えば、末梢血から実質的に単離された細胞を意味する。
【0099】
一態様による組成物は、新生物に由来した腫瘍または癌を治療または予防するために使用することができる。新生物は悪性または良性であり得、癌は原発性または転移性であり得、新生物または癌は初期または末期であり得る。治療できる新生物または癌の非限定的な例は、膠腫、消化管間質腫瘍、白血病、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、喉頭癌、直腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、骨癌、筋肉癌、脂肪癌、線維細胞癌、血液癌、リンパ腫、および多発性骨髄腫からなる群より選ばれた1種以上を含むことができ、好ましくは膠腫、 消化管間質腫瘍、白血病、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、および卵巣癌からなる群から選択された1種以上を含むことができる。前記膠腫は好ましくは神経膠腫であり得、前記白血病は好ましくは慢性骨髄単球性白血病であり得る。
【0100】
一実施形態で、一態様によるナチュラルキラー細胞は、MML5、HSPG、BAG6、B6-H6などのNKp44リガンド、NKp30リガンドの発現が高い癌腫においてさらに効果があると予想される。PDGFが増加した腫瘍には、膠腫(Glioma)、消化管間質腫瘍(Gastro-intestinal stromal tumor)、慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia)、乳癌などがあり、特にPDGFαは乳癌のリンパ腺転移、高い組織学的分化度(high histologic grade)、ER/PR negativity、トリプルネガティブ乳癌のサブタイプ(Triple-negative breast subtype)と関連性が高いものと報告されている(Breast Cancer Res Treat. 2018; 169(2):231-241.)。したがって、一態様によるナチュラルキラー細胞は、これらの腫瘍に対してより効果的であり得る。
【0101】
さらに、一実施形態で、一態様によるナチュラルキラー細胞は、ケモカイン中のCCL1(318倍)、ケモカイン受容体中のCCR5(49.9倍)が著しく増加した。これらの発現が増加した免疫細胞は、単球、B細胞、および樹状細胞などの他のエフェクター細胞(effector cell)を動員(recruit)して腫瘍細胞の殺傷にさらに有利であり、特にCCR5発現が増加するとCCL3/CCL4/CCL5+腫瘍細胞に親和性があり、これらの腫瘍の殺傷にさらに有利である。CCL5は転移性/進行した乳癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌(Mediators of Inflammation Volume 2014、Article ID 292376)などで発現が多く増加しており、CCR5が増加した一態様のナチュラルキラー細胞は、前記腫瘍にさらに効果的であり得る。
【0102】
一実施形態における薬学的組成物の投与方法は特に限定されないが、所望の方法によって静脈内、皮下、腹腔内、吸入または局所適用などの非経口投与または経口投与することができる。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などによって、その範囲が多様である。日用量は、治療を必要とする個体に投与されることによって軽減された疾患状態の治療に十分な一態様による治療用物質の量を意味する。治療用物質の有効量は、特定の化合物、疾患状態およびその重症度、治療を必要とする個体によって異なってくるもので、これは当業者によって通常決定され得る。非限定的な例として、一態様による組成物の人体に対する投与量は、患者の年齢、体重、性別、剤形、健康状態および疾患の程度に応じて変わり得る。体重が70kgの成人患者を基準にした場合、例えば、約1,000~10,000細胞/回、1,000~100,000細胞/回、1,000~1、000,000細胞/回、1,000~10,000,000細胞/回、1,000~1,000,000,000細胞/回、1,000~10,000,000,000細胞/回、または、1,000~100,000,000,000細胞/回で、一定時間間隔で1日1回~数回に分割投与することもでき、一定時間間隔で数回投与することもできる。
【0103】
「個体」とは、疾患の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマおよびウシなどの哺乳類を意味する。
【0104】
一実施形態による薬学的組成物は、薬学的に許容される担体および/または添加物を含み得る。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、その他の有機酸など)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含み得る。局所投与のためには、バイオポリマー(biopolymer)などの有機物、ヒドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマー、およびその化学的誘導体などと組み合わせることも含み得る。一実施形態による薬学的組成物が注射に適した製剤に調製される場合、免疫細胞またはその活性を増加させる物質は、薬学的に許容される担体に溶解しているか、または溶解している溶液状態で凍結したものであり得る。
【0105】
一実施形態による薬学的組成物は、その投与方法や製剤により必要な場合、懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、還元剤、酸化防止剤などを適宜含むことができる。上記に例示したものを含む本発明に適した薬学的に許容される担体および製剤は、文献『Remington‘s Pharmaceutical Sciences, 19th ed., 1995』に詳細に記載されている。一実施形態による薬学的組成物は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法に従って、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することによって単位用量形態で製造するか、または多容量容器に入れることによって製造することができる。この場合、製剤は油性または水性媒体中の溶液、懸濁液または乳化物の形態であってもよく、粉末、顆粒、錠剤またはカプセルの形態であってもよい。
【0106】
他の態様は、前記方法によって培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団の用途を提供する。
【0107】
前記方法によって培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を有効成分として含む薬学的組成物の用途を提供する。
【0108】
他の態様は、癌の予防または治療のための薬学的組成物または製剤の製造に使用するための前記ナチュラルキラー細胞培養用組成物の用途を提供する。
【0109】
他の態様は、癌の予防または治療用医薬の製造に使用するための前記ナチュラルキラー細胞培養用組成物の用途を提供する。
【0110】
前記ナチュラルキラー細胞、薬学的組成物、癌、予防、治療などについては上述した通りである。
【発明の効果】
【0111】
一態様によるナチュラルキラー細胞によれば、培養前後、抗癌関連遺伝子の発現が顕著に増加または減少し、ナチュラルキラー細胞の固有の特性を持ちながらも活性および増殖倍数が著しく高く、効果的な抗癌免疫治療が可能な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【
図1A】
図1Aは、Donor1のナチュラルキラー細胞の培養後21日目の表現型をFACSで分析した結果を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、Donor2のナチュラルキラー細胞の培養後21日目の表現型をFACSで分析した結果を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の培養期間ごとの細胞数の変化を示す図である。
【
図3】
図3は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の培養後21日目の増殖倍数の変化を示す図である。
【
図4】
図4は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の培養期間ごとの生存率の変化を示す図である。
【
図5】
図5は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞のE:T比による細胞殺傷能の変化を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、一実施形態によるナチュラルキラー細胞のナチュラルキラー細胞受容体関連遺伝子変化による群集化(clustering)変化をヒートマップ(heat map)で示した図である。
【
図6B】
図6Bは、一実施形態によるナチュラルキラー細胞のサイトカイン/ケモカイン遺伝子変化による群集化変化をヒートマップ(heat map)で示す図である。
【
図6C】
図6Cは、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の細胞殺傷関連遺伝子変化による群集化変化をヒートマップ(heat map)で示す図である。
【
図7】
図7は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞と代表的なヒトNK細胞株のE:T比による細胞殺傷能の変化を比較した図である。
【
図8】
図8は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の投与による抗癌効果を確認するための投与スケジュールを示す図である。
【
図9】
図9は、一実施形態によるナチュラルキラー細胞の卵巣癌マウスモデルにおける抗癌活性を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0113】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0114】
実施例. 抗癌関連遺伝子の発現が調節された高純度、高活性のナチュラルキラー細胞の製造
抗癌関連遺伝子の発現が調節された高純度、高活性のナチュラルキラー細胞を製造するために、以下のようにナチュラルキラー細胞を培養した。
【0115】
1. ナチュラルキラー細胞の製造
1.1. CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の単離
健康なドナー3人(Donor1、Donor2、Donor3)の末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)、および血漿(300ml)を白血球アフェレーシス(leukapheresis)を施行してそれぞれ分離し、各2~5×1010(細胞)の単離された単球において、CliniMACS Prodigy(登録商標)システムを用いて、CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得た。
【0116】
具体的に、白血球アフェレーシスはSpectra-Optia(Ver. 11)成分採取装置を使用し、ヘパリン(heparin)3000 U/ACD(acid citrate dextrose)500mLを用いて14、000~16、000mLの血液を循環させた。最終的に採取した量は150~250mL、採集した白血球数は計2~5×1010(細胞)であった。次に、CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の製造は、閉鎖系であるCliniMACS Prodigy(登録商標)を用いて行った。前記採集した血液中の白血球を出発物質として用いてT細胞分画(%)を計算した後、総体積でT細胞数を計算し、T細胞が合計9.5×109(細胞)となるように合わせて入れた。細胞培養チャンバー内に抗CD3モノクローナル抗体が結合したマイクロビーズ(7.5mL/95mL buffer)を入れて反応させて4~5時間後にCD3陰性細胞を得てから(0.9~1×1010(細胞))、前記CD3陰性細胞に抗CD56が結合したマイクロビーズ(7.5mL/95mL buffer)を用いてポジティブセレクション(positive selection)し、CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を0.3~3×109(細胞)で得た。
【0117】
1.2. CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の凍結、および解凍
実施例1.1で単離したCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を3×108(細胞)/バイアル(vial)で凍結して、合計3バイアルをLN2タンクに移して保管し(-130℃以下)、後の実験で必要時に解凍して使用した。
【0118】
具体的に、実施例1.1で得られた全ての細胞懸濁液を1,500rpm、5分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。2~8℃で保管しておいたCryostor CS10またはALyS505NK-EX+Albumin+DMSO混合液で得たナチュラルキラー細胞を浮遊させ、細胞数が1~100Υ106細胞/mlとなるように作製した。浮遊細胞を2mlの凍結バイアル(cryogenic vial)に1mlずつ分注した後、CRF(controlled rate freezers)を用いて0℃で10~15分、-12℃で5~10分、および-42℃で0.5~1分間の条件で第1段階凍結をさせ、第1凍結工程後-25℃で1~3分、および-15℃で1~3分の条件で凍結させ、第2凍結工程後-42℃で20~40分、および-120℃で20~50分の条件で凍結させるか、または4~-40℃範囲で3℃/mで第1段階凍結をさせ、第1凍結工程後-40~-90℃範囲で5℃/mの条件で第2段階凍結をさせ、第2凍結工程後-90~-120℃範囲で5℃/mの条件で凍結させた。凍結した細胞をLN2タンクに移して保存した(-130℃以下)。
【0119】
解凍時にはヒートブロックを37℃になるようにセットした後、Tフラスコに10%血漿(plasma)を添加した培養液を入れた。細胞濃度に応じて、培養液量は、例えば4ml、6ml、8ml、または10mlなどに多様に調節してもよい。前記凍結バイアルをヒートブロックに入れ、凍結した細胞を溶かした。凍結した細胞が半分溶けたら、培養液を入れたTフラスコに移した。次いで、37℃、5%CO2インキュベーターに入れ、1日間培養した。培養細胞をチューブに集めた後、Ca/Mg不含(free)DPBSを加え、1,500rpm、5分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。遠心分離により分離された細胞を少量の培養液で浮遊させた後、細胞数を測定した。
【0120】
2. ナチュラルキラー細胞の培養
2.1. フィブロネクチンおよびガンマグロブリンでコーティングされた培養フラスコの準備
15mLチューブに0.01mLフィブロネクチン(#FC-010、Millipore)、および0.121mLガンマグロブリン(#020A1004、緑十字)溶液を入れた後、Ca/MgガラスDPBSを9.859mL添加した。調製したコーティング液をピペットを用いてT75フラスコ(#156499、Nunc)に入れ、16時間以上2~8℃で反応させた。細胞培養前の残りのコーティング液をCa/Mg不含DPBSで洗浄した後、除去した。
【0121】
2.2. ナチュラルキラー細胞の一次培養
実施例1.2で凍結、および解凍したCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の細胞懸濁液を取り、前記実施例2.1で製造されたコーティングフラスコに接種し、フィーダー細胞(feeder cell)を使用せず、IL-2、抗NKp46抗体およびドナー血漿を添加して、37℃、5%CO2条件で3日から5日間培養した。
【0122】
2.3. ナチュラルキラー細胞の二次培養
実施例2.2の一次培養後インキュベーターで細胞が培養されているT75フラスコを取り出して細胞を集めた後、前記細胞と残ったドナー血漿またはFBSを加えて細胞懸濁液を作り、培養液を含む2L CO2透過性培養バッグ(bag)に細胞懸濁液を添加した。培養液と細胞懸濁液がよく混ざるようにしてから37℃、5%CO2インキュベーターに入れ、7日から14日間培養して細胞を増殖させた。培養終了後の最終培養液を遠心分離チューブに入れ、数回の遠心分離により細胞を回収した。
【0123】
実験例1. ナチュラルキラー細胞の純度と増殖能の分析
前記実施例による培養方法で培養した2人のドナー由来のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞2×108(細胞)に対して培養後8、14、および21日にそれぞれ細胞数を確認し、CD3およびCD56抗体で染色してCD3-CD56+であるナチュラルキラー細胞群の割合を公知の方法でFACS分析した。
【0124】
その結果、培養初期からCD3-CD56+であるナチュラルキラー細胞群の割合は著しく高く(培養0日目:96.0%)、培養期間中のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の割合は増加し続けた(Donor1、およびDonor2のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の平均比率;培養8日目:96.4%、培養14日目:98.3%)。
【0125】
特に、培養後21日目には、CD3-CD56+NK細胞がそれぞれ99.2%、99.6%を占めて培養前に比べ高純度のナチュラルキラー細胞として分布していることを確認した(
図1)。
【0126】
また、2人のドナー由来のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞は培養後14日目に平均113±27倍増殖し、培養後21日目にはナチュラルキラー細胞がそれぞれ6.9×10
10、4.9×10
10(細胞)に増殖し、平均300~350倍の増殖倍数で著しく増加することを確認した(
図2、
図3)。さらに、21日間の培養期間中に、すべて平均90%以上の高い生存率を示すことが確認された(
図4)。
【0127】
以上の結果から、一態様によるナチュラルキラー細胞は長期間体外(in vitro)で培養しても細胞数が著しく増加し、生存率が90%に達する程度に安定的に培養されることが分かった。また、白血球アフェレーシスおよびCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞のセレクション(selection)を行い培養することにより、密度勾配遠心法と比較して他の不純物を少なく含み、高い純度のナチュラルキラー細胞を得られることを確認した。
【0128】
実験例2. ナチュラルキラー細胞の癌細胞殺傷能の分析
前記実施例による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞の癌細胞殺傷能を評価するために、培養21日目のナチュラルキラー細胞を用い、ナチュラルキラー細胞に対する感受性の高い血液癌細胞株K562を標的細胞として細胞の殺傷能を評価した。
【0129】
まず、ターゲット癌細胞(K562)を回収して1、500rpmで5分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。次いでDPBSで希釈して洗浄し、洗浄後の細胞ペレットは、フェノールレッドを含まないRPMI培地に10%FBSを添加した培養液で浮遊させた。条件当たり1×105の細胞を調製し、CFSE(Life technologies)5μMの濃度で5%CO2条件でインキュベーターで10分間静置して染色した。DPBSで2回洗浄した後、フェノールレッドを含まないRPMI培地に10%FBSを添加した培養液で希釈した。活性化ナチュラルキラー細胞は、標的細胞とのE:T比(1:1、1.25:1、2.5:1、5:1、10:1、20:1)に従って調製し、24ウェルプレート上の標的細胞と一緒に分注して混ぜた。4時間反応させ、反応終了の20分前に7AAD(7-AminoactinomycinD)を処理した。反応終了後、細胞を5mLのFACSチューブに回収し、フローサイトメーターを介して細胞の殺傷能を分析した。
【0130】
その結果、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、E:T=10:1、および20:1で90%以上の著しく増加した細胞殺傷能を示し、特にE:T(効力細胞:標的細胞)の割合が1:1~1.25:1でも80%以上のかなりの殺傷能を保有していることが確認できた(
図5)。
【0131】
前記結果を総合してみると、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、前記実施例による培養過程を通じて純度が99%を上回るレベルに増加した高純度のナチュラルキラー細胞であり、高い増殖効率を示すだけでなく、高い癌細胞殺傷能を示すことを確認した。
【0132】
実験例3. ナチュラルキラー細胞の抗癌関連遺伝子の発現の分析
3.1. ナチュラルキラー細胞の抗癌関連遺伝子のmRNA発現様相の分析
前記実施例による培養方法で培養された3人のドナー由来のナチュラルキラー細胞のナチュラルキラー細胞の分離直後(D0)、および14日培養後(D14)のナチュラルキラー細胞の抗癌関連遺伝子のmRNA発現様相を分析した。
【0133】
具体的に、培養前細胞と培養後細胞からトリゾールによる分離方法でRNAを抽出し、総RNA配列決定を行い、mRNAの発現様相(Fold change、D14ナチュラルキラー細胞/D0ナチュラルキラー細胞)を確認した。発現様相はドナー3人の平均値で示され、補正されたp-valueであるq-valueが0.001以上の場合、統計的有意性があると見られた。その結果を
図6および下記表1に示す。
【0134】
【0135】
その結果、活性化受容体であるNKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46の増加を確認し、そのうちNKp44(1064倍)、NKp30(5.2倍)の増加が特徴的に現れることを確認した。また、標的細胞の抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent cell-mediated cutotoxicity:ADCC)を媒介するCD16の場合、培養、および凍結にも高い発現量が維持されることを確認した。
【0136】
ナチュラルキラー細胞のNKp44は、癌細胞のリガンド(ligand)であるMLL5(mixed-lineage leukemia protein-5)、HSPG(heparin sulfate proteoglycans)、PDGF(Platelet-derived growth factor)と結合してナチュラルキラー細胞を活性化させる。NKp30は癌細胞のリガンドであるBAG6、B6-H6と結合してナチュラルキラー細胞を活性化させる。したがって、一態様によるナチュラルキラー細胞は、MML5、HSPG、BAG6、B6-H6などのNKp44リガンド、NKp30リガンドの発現が高い癌腫においてさらに効果があると予想される。PDGFが増加した腫瘍には、膠腫(Glioma)、消化管間質腫瘍(Gastro-intestinal stromal tumor)、慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia)、乳癌などがあり、特にPDGFαは乳癌のリンパ腺転移、高い組織学的分化度(high histologic grade)、ER/PR negativity、トリプルネガティブ乳癌のサブタイプ(Triple-negative breast subtype)と関連性が高いことが報告されている(Breast Cancer Res Treat. 2018; 169(2):231-241.)。したがって、一態様によるナチュラルキラー細胞はこれらの腫瘍に効果があると予想される。
【0137】
一方、ケモカイン中のCCL1(318倍)、ケモカイン受容体中のCCR5(49.9倍)が著しく増加した。これらの発現が増加した免疫細胞は、単球、B細胞、および樹状細胞などの他のエフェクター細胞(effector cell)を動員(recruit)して腫瘍細胞の殺傷にさらに有利であり、特にCCR5発現が増加するとCCL5+腫瘍細胞に親和性があり、これらの腫瘍の殺傷にさらに有利である。CCL5は転移性/進行した乳癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌(Mediators of Inflammation Volume 2014、Article ID 292376)などで発現が多く増加しており、CCR5が増加した一態様のナチュラルキラー細胞は、前記腫瘍にさらに親和性があると予想される。
【0138】
前記表1に示すように、ナチュラルキラー細胞の活性化に関連する因子であるNKp44、NKp30と異なるエフェクター細胞を動員するケモカインであるCCL1、ケモカイン受容体であるCCR5の発現が少なくては5.2倍、多くては1064倍まで増加し、リガンドと結合する際、ナチュラルキラー細胞を不活性化する不活性化受容体KIR3DL2、Siglec9の発現は、それぞれ0.5倍、0.05倍と有意に減少したことが確認された。KIR3DL2は、癌細胞のリガンドであるHLAA3、A11、B27ホモダイマー(homodimer)などと結合すると、ナチュラルキラー細胞のINF-γ産生、および癌細胞殺傷能を減少させる。Siglec9が癌細胞のシアル酸(sialic acid)と結合すると、ナチュラルキラー細胞のITIMリン酸化(phosphorylation)が誘導され、SHP-1、SHP-2を集めて細胞殺傷能を阻害する。したがって、そのような不活性化受容体の発現が著しく減少した一態様によるナチュラルキラー細胞は、癌細胞死をさらに増加させることができると予想される。
【0139】
また、ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能は大きく2つのメカニズムを通じてなされるが、一つは、細胞質内のグランザイム、パーフォリンなどの顆粒物質が分泌されて癌細胞を殺し、もう一つは癌細胞の細胞死受容体(death receptor)であるFasまたはTNFR(tumor necrosis factor receptor)を認識するリガンド、すなわちFASLおよび/またはTRAILとの結合により、癌細胞の細胞死(apoptosis)が進行する。一態様によるナチュラルキラー細胞の場合、抗癌活性(細胞殺傷能)に関連する因子であるグランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)の発現も少なくは2.1倍から多くは10.7倍まで増加し、細胞死(apoptosis)増加を誘導するFAS-L(FASLG)、TRAIL(TNFSF10)の発現が少なくは6.1倍から多くは24.5倍まで顕著に増加したことを確認した。
【0140】
さらに、ナチュラルキラー細胞のアポトーシスを遅らせるBCL-2の発現が10.5倍に顕著に増加し、アポトーシスを促進するNoxaの発現が0.03倍に著しく減少した。
【0141】
3.2. CD3-CD56+ナチュラルキラー細胞の分離(selection)の有無による抗癌関連遺伝子の発現様相の差
-の白血球アフェレーシスおよびCliniMACS Prodigy(登録商標)システムを用いたCD3-CD56+分離(selection)を経て培養したナチュラルキラー細胞と、前記分離過程を経ずに培養したナチュラルキラー細胞との間での抗癌関連遺伝子の発現様相を分析した。実験例3と同様の方法で、培養前細胞と培養後細胞からトリゾールによる分離方法でRNAを抽出し、総RNA配列決定を行い、mRNAの発現様相(Fold change、D14ナチュラルキラー細胞/D0ナチュラルキラー細胞)を確認した。発現様相はドナー3人の平均値で示され、補正されたp-valueであるq-valueが0.001以上の場合、統計的有意性があると見られた。その結果を下記表2に示す。
【0142】
【0143】
その結果、実施例1の 白血球アフェレーシスおよびCliniMACS Prodigy(登録商標)システムを用いたCD3-CD56+分離(selection)を経て培養したナチュラルキラー細胞が、そうでない場合と比べて、下記のような特徴を有することを確認した。
【0144】
a)活性化受容体中のNKp44発現が著しく増加する(1064倍対7.2倍)。
b)細胞殺傷能の場合、グランザイムK(10.7倍)およびTNFSF10(24.5倍)の発現が著しく増加する。一方、CD3-CD56+分離をしなかった場合には、グランザイムAの発現が著しく増加する(41.9倍)。
【0145】
c)IL-8(1/100倍)およびIL-10(1/1000倍)の発現が著しく減少する。
【0146】
d)他のエフェクター細胞を動員するケモカイン受容体であるCCR5の発現が著しく増加する(49.9対16.75倍)。
【0147】
e)ナチュラルキラー細胞のアポトーシスを遅らせるBCL-2の発現増加様相がはっきりし(10.5倍)、アポトーシスを促進するNoxaの発現減少様相がはっきりと現れた(0.03倍)。
【0148】
3.3. 一態様によるナチュラルキラー細胞とヒトNK細胞株との間での活性化受容体の発現様相の比較
一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞(pNK)の活性化受容体の発現様相を、代表的なヒトNK細胞株であるNK92mi、NK92と比較した。ヒトNK細胞株であるNK92miとNK92はATCC(American Type Culture Collection)から購入し、ナチュラルキラー細胞の代表的な活性化受容体であるNKG2D、NKp46、NKp44、NKp30、DNAM-1およびCD16の発現程度をフローサイトメーターを用いて分析した。その結果を下記表3に示す。
【0149】
【0150】
その結果、一態様によるナチュラルキラー細胞は、代表的な活性化受容体であるNKG2D(80.13%)、NKp44(95.43%)、NKp30(93.20%)、DNAM-1(99.27%)、およびCD16(90.60%)がすべて80~99%の高い割合で発現され、NKp46も約55%程度で発現率が高いことを確認した。一方、ヒトNK細胞株であるNK92mi、NK92の場合、一態様によるナチュラルキラー細胞と比較した場合、活性化受容体の発現率が著しく低いことを確認した。
【0151】
実験例4. ナチュラルキラー細胞の細胞毒性試験
4.1. フローサイトメトリーを用いた細胞毒性試験
一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞(pNK)の細胞毒性(cytotoxicity)をフローサイトメトリーにより確認した。放射線同位元素を使用せずにK562細胞などの浮遊細胞を活用した細胞毒性検査に有用な7AAD-CFSE法で実施した。標的細胞としては、白血病(chronic myelogenous leukemia)細胞株であるK562、卵巣癌細胞株(Ovarian cancer cell line)としてシスプラチン感受性細胞であるA2780、抵抗性細胞であるA2780cis、乳癌細胞株(Breast cancer cell line)であるMCF7、SKBR3、およびT47Dを検査日前日から培養して使用した。エフェクター細胞(effector cell)は、一態様によるナチュラルキラー細胞(pNK)と共に、比較群として代表的なヒトNK細胞株であるNK92miを使用した。
【0152】
その結果、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、代表的なヒトNK細胞株と比較して血液癌細胞株であるK562だけでなく、卵巣癌、乳癌などの様々な固形癌でもE:T比率によって癌細胞除去能が著しく増加することを確認した(
図7)。
【0153】
以上の結果から、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、抗癌関連遺伝子の発現量および活性化受容体の発現が著しく増加するにつれて癌細胞殺傷効果が増加することを確認した。
【0154】
4.2. 卵巣癌マウスモデルにおける抗癌活性の評価
一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞(pNK)の免疫抗癌剤としての卵巣癌細胞増殖の抑制効果を確認し、有効性を評価した。7週齢のNSGマウスの脂肪パッドにマウス卵巣癌細胞株A2780cisを皮下に2×10
6(細胞)の量で注射して、A2780cis xenograftマウスモデルを作製した。卵巣癌細胞株を注射した後、3日目に腫瘍が形成されたマウスをランダムグルーピングしてシスプラチン(cisplatin)を1mg/kg、1回/週で腹腔内注射する群、一態様によるナチュラルキラー細胞を1×10
7(細胞)、2回/週で静脈注射する群、PBSを注射する対照群と区分して処理した(
図8)。卵巣癌細胞株を注射した後、毎日腫瘍の大きさおよび体重を測定した。
【0155】
その結果、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞を単独で投与した場合、対照群に対して80%以上の顕著な癌細胞増殖の抑制効果を示すことを確認した。一方、既存の抗癌剤であるシスプラチンを注射した場合、約55%の癌細胞増殖抑制効果を示した(
図9、A)。一方、一態様によるナチュラルキラー細胞とシスプラチン投与群の両方において有意な体重変化は観察されなかった(
図9、B)。マウスが犠牲した後に抽出した腫瘍の重量は、対照群と比較して平均70%以上減少し、シスプラチン投与群と比較して平均50%以上減少したことが確認された(
図9、C)。
【0156】
以上の結果から、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、抗癌活性および細胞自体の活性が増加し、ナチュラルキラー細胞のアポトーシスが抑制され、体内生存率は増加することを確認した。このような特徴は、白血球アフェレーシスおよびCD3-CD56+分離を経て培養する場合に明らかに現れることを確認した。また、動物モデルの結果から分かるように、一態様による培養方法で培養したナチュラルキラー細胞は、腫瘍の大きさを著しく減少させる優れた抗癌効果を示すことを確認した。
【0157】
したがって、一態様によるナチュラルキラー細胞は健康なドナーから大量に純粋分離して培養されたもので、既存の末梢血単核細胞を用いた培養に比べて高純度のナチュラルキラー細胞培養で、安全性が高く、癌細胞殺傷効果が増加し、効率的な癌治療のための細胞治療薬として使用することができる。さらに、培養時にフィーダー細胞を使用せず、臨床的にも安全性が担保されるため、機能が強化された新しい同種の免疫細胞治療薬として有用に使用できると期待される。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ヒト末梢血から白血球アフェレーシスを介して単球細胞を単離する工程と、
2)前記単離した単球細胞からCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞を得る工程と、
3)前記得られたCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞にIL-2、抗NKp46抗体、および血漿を処理し、フィーダー細胞(feeder cell)を含まない培養液中で培養する工程をと含む、ナチュラルキラー細胞の培養方法。
【請求項2】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞が、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(a)~(e)から選択される1つ以上の特性を有する、請求項1に記載の方法。
(a)NKG2D、NKp30、NKp44、およびNKp46からなる群から選択される1以上の発現が増加、
(b)KIR3DL2、およびSiglec9からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(c)FASLおよびTRAIL(TNFSF10)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(d)グランザイムA(GranzymeA)、グランザイムK(GranzymeK)、およびパーフォリン(Perforin)からなる群から選択される1つ以上の発現が増加、および、
(e)CCL1およびCCR5からなる群から選択される1つ以上の発現が増加する。
【請求項3】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して、下記(f)~(j)から選択される1つ以上の特性をさらに有する、請求項2に記載の方法。
(f)DAP10(HCST)、およびIL-2RAからなる群から選択される1つ以上の発現が増加、
(g)GM-CSF(CSF2)の発現が増加、
(h)IL-8(CXCL8)、およびIL-10からなる群から選択される1つ以上の発現が減少、
(i)Noxa(PMAIP1)の発現が減少、および、
(j)BCL-2の発現が増加する。
【請求項4】
前記方法に従って培養したナチュラルキラー細胞は、培養前のナチュラルキラー細胞と比較して純度、細胞増殖倍数、および癌細胞殺傷能が増加したことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1)工程が白血球アフェレーシスによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記2)工程が閉鎖系を用いて実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記3)工程のCD3-CD56+ナチュラルキラー細胞が凍結保存されてから解凍された状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記3)工程の血漿は、ヒト末梢血から単離されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記3)工程の培養は、ガンマグロブリンおよびフィブロネクチンの存在下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記3)工程の培養は、末梢血単核細胞を培養してナチュラルキラー細胞を培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
IL-2、抗NKp46抗体、および血漿を含むナチュラルキラー細胞培養用組成物であって、
前記組成物はフィーダー細胞(feeder cell)を含まないことを特徴とする組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の方法で培養したナチュラルキラー細胞またはその細胞集団。
【請求項13】
請求項
12に記載のナチュラルキラー細胞またはその細胞集団を有効成分として含む、癌予防または治療用薬学的組成物。
【請求項14】
前記癌は、膠腫、消化管間質腫瘍、白血病、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、喉頭癌、直腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、骨癌、筋肉癌、脂肪癌、線維細胞癌、血液癌、リンパ腫、および多発性骨髄腫からなる群から選択される1種以上の請求項
13に記載の薬学的組成物。
【国際調査報告】