(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】全自動剥離細胞標本作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20231025BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20231025BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/28 J
G01N33/48 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546374
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 CN2021088915
(87)【国際公開番号】W WO2022073335
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】202011074112.3
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523131151
【氏名又は名称】嘉▲興▼晶▲鋳▼生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 石磊
(72)【発明者】
【氏名】▲曽▼ 斌
(72)【発明者】
【氏名】▲陸▼ ▲龍▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】朱 海▲亀▼
(72)【発明者】
【氏名】汪 ▲ギョク▼青
(72)【発明者】
【氏名】▲聶▼ ▲壘▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 付余
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲擴▼▲業▼
(72)【発明者】
【氏名】李 一▲鳴▼
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BB03
2G045BB14
2G045BB24
2G045CB01
2G045JA07
2G052AA33
2G052AD34
2G052DA07
2G052EA03
2G052FA09
2G052FC02
2G052FC15
2G052FD17
2G052GA31
2G052HB02
2G052HB04
2G052HC22
(57)【要約】
本発明は全自動剥離細胞標本作製方法を開示する。この全自動剥離細胞標本作製方法は、剥離細胞の前処理ステップS1であって、標本作製が必要な剥離細胞に自動前処理を行って妨害物質を除去する、ステップS1と、前処理した剥離細胞を循環式沈降モジュールに自動的に移して恒温沈降を行い、それらを染色及び保湿するステップS2と、保湿後の剥離細胞を自動的に液体封入するステップS3とを含む。本発明の全自動剥離細胞標本作製方法は、自動標本作製、染色及び封入を実現し、無人のハイスループット生産、高品質の標本作製及び封入を実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全自動剥離細胞標本作製方法であって、
剥離細胞の前処理ステップS1であって、標本作製が必要な前記剥離細胞に自動前処理を行って妨害物質を除去する、ステップS1と、
前記ステップS1で前記前処理した前記剥離細胞を循環式沈降モジュールに自動的に移して恒温沈降を行い、それらを染色及び保湿するステップS2と、
前記ステップS2の前記保湿後の前記剥離細胞を自動的に液体封入するステップS3と、を含む、
ことを特徴とする全自動剥離細胞標本作製方法。
【請求項2】
前記ステップS1において、前記剥離細胞の前処理は、
細胞洗浄チャンバを使用して細胞を洗浄及び濾過するステップS11であって、前記細胞洗浄チャンバの底部には、貫通孔直径が5μm~20μmで貫通孔サイズが均一なフィルタ膜が含まれており、前記フィルタ膜は、前記フィルタ膜の表面に扁平上皮細胞及び腺細胞を捕捉しながら、赤血球、白血球、リンパ球、及び細胞保存液を選択的に通過させる、ステップS11と、
前記フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を第1の緩衝液で洗浄して再懸濁し、前記フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を得るステップS12と、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項3】
前記ステップS11において、濾過に陽圧濾過を使用し、使用される前記陽圧濾過の圧力は50Pa~1000Paである、
ことを特徴とする請求項2に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項4】
前記ステップS12において、前記第1の緩衝液は、pH緩衝剤、界面活性剤、粘液溶解剤、及びタンパク質保護剤を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項5】
前記ステップS11において、前記細胞洗浄チャンバ構造は傾斜面上に設けられ、前記傾斜面と水平面の間に傾斜夾角がある、
ことを特徴とする請求項2に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項6】
前記傾斜夾角が5°~30°である、
ことを特徴とする請求項5に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項7】
前記ステップS2において、前処理した前記剥離細胞をロボットアームによって循環式沈降モジュールに移す、
ことを特徴とする請求項1に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項8】
前記ステップS2において、恒温制御システムによって恒温を制御し、前記恒温制御システムは加熱素子及び前記加熱素子に接続された温度コントローラを含み、恒温温度の調整範囲は25℃~45℃である、
ことを特徴とする請求項1に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項9】
前記ステップS2において、保湿ステップは、湿潤剤0.2ml~0.3mlを加え、3秒~8秒後にそれを吸い取り、細胞層の表面に湿潤層を残すことを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の剥離細胞標本作製方法。
【請求項10】
前記ステップS3において、封入に高分子材料液体封入剤を使用し、
前記高分子材料液体封入剤は、
質量百分率50%~80%のUVLED光硬化性アクリル樹脂、
質量百分率5%~40%の光硬化性アクリレートモノマー、
質量百分率0.5%~8%の反応性アミンアクリル樹脂、
質量百分率2%~8%の光開始剤、
質量百分率0.05%~0.5%のレベリング剤、
及び質量百分率0.1%~0.5%の湿潤剤を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の剥離細胞標本作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理細胞、診断法、及び病理生体分子診断用器具の技術分野に関し、具体的には細胞標本の方法、特に全自動剥離細胞標本作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療検査及び生物学的研究では、より良い観察のために細胞サンプルの標本を作製して染色する必要があることがよくある。従来の標本作製及び染色プロセスはいずれも手動操作であるが、手動塗抹標本には、大量の細胞蓄積及び赤血球、粘液、不純物などの干渉因子が存在し、正しい診断に影響を与えるため、2%~50%の偽陰性率が発生し、また、診断スタッフの目が疲れやすく、時間と手間がかかり、効率が悪いなどの問題がある。近年、液状化検体細胞診技術の適用により、細胞の標本作製及び染色技術に新たなブレークスルーがもたらされた。液状化検体細胞診技術は、剥離細胞を細胞保存液に保存する方法であり、赤血球、粘液、不純物などの診断干渉因子を効果的に除去し、細胞塊を分散及び分離し、病理学的細胞診標本作製品質を大幅に向上させ、また細胞構造及び背景が明瞭であり、鑑別診断に役立ち、偽陰性率を大幅に低減する。
【0003】
文献及び特許の検索を通じて、細胞標本作製に関連する特許及び文献、例えば、公開番号CN106018033A、公開日2016年10月12日の中国特許文書「全自動液状化検体細胞診標本作製及び染色装置」は全自動液状化検体細胞診標本作製及び染色装置を開示している。この特許文書に開示された技術的解決手段では、装置は、サンプルローディング、ピペッティング、標本作製、及び染色を完全に自動的に実現できる機構である。この装置は、特定の手順で自動的に標本を作製することができ、手動操作を部分的に置き換えることができるが、この標本作製及び染色装置は異なる温度で異なる染色深さをもたらし、効果的な品質管理を欠いており、また、サンプルローディング及び染色のみを実現できるが、洗浄、標本収集などの全プロセスの自動化を実現することができないため、依然として手動作業が必要であり、それによって人件費と標本作製時間が増加し、プロセス全体のコスト削減に役立たない。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の欠点に対し、本発明の目的は、全自動剥離細胞標本作製方法を提供することである。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、全自動剥離細胞標本作製方法を提供し、この方法は、
剥離細胞の前処理ステップS1であって、標本作製が必要な剥離細胞に自動前処理を行って妨害物質を除去する、ステップS1と、
ステップS1で前処理した剥離細胞を循環式沈降モジュールに自動的に移して恒温沈降を行い、それらを染色及び保湿するステップS2と、
ステップS2の保湿後の剥離細胞を自動的に液体封入するステップS3とを含む。
【0006】
本発明に記載の技術的解決手段では、本発明の発明者は、初めて循環式沈降モジュールと自動封入を組み合わせるため、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法は全自動化生産を実現することができ、特に、本発明の循環式沈降モジュールは標本作製と染色を同時に行うことができ、チャンバ自体は一度の使用ではなく繰り返し使用することができる。したがって、本発明は循環利用率が高い。
【0007】
また、本発明に記載の技術的解決手段では、循環式沈降モジュールは以下の利点を有する:第一に、細胞をスライドの特定の領域に沈降させることができる。第二に、循環式沈降モジュール内で細胞にパパニコロウ染色を行うことができる。第三に、染色後、封入のために細胞を保湿する。
【0008】
更に、本発明に記載の技術的解決手段では、循環式沈降モジュール内でスライドにレーザーマーキング操作を行って、各標本のトレーサビリティを確保し、サンプル識別エラーを回避することもできる。特に、従来の技術では、標本作製技術者は、検査表及び標本を受け取った後、それらを1つずつチェックし、標本ボトル及びスライドに1対1で対応するラベルを手動で貼り付ける必要がある。このプロセスは人間の過失による誤検査が発生しやすいため、通常はチェックに多くの時間を要するが、本発明は、スライドにレーザーマーキングを行う解決策を提供し、人的ミスによる誤検査の問題を直接解決する。標本カップ本体に事前設定されたQRコード(登録商標)をスキャンすることにより、循環式沈降チャンバに接続された中央制御コンピュータは標本情報を決定し、次に、中央制御コンピュータはターンテーブルを回転させて対応するスライドをレーザーマーキングマシンに回し、スライドにレーザーマーキングを行い、標本とスライドの情報一致を実現し、標本のトレーサビリティを確保する。
【0009】
更に、本発明の循環式沈降モジュールの別の特徴は、スライドが自動的にロードされ、それぞれのステーションに押し込まれ、染色、保湿ステップの後に自動的に封入チャンバに押し込まれることである。
【0010】
また、封入を手動で行う必要がある従来技術とは異なり、本発明の方法は、装置と協働して自動封入を実現することができる。本発明に記載の剥離細胞標本作製方法は、無人で細胞沈降と染色作業を連続的に行うことができる。このモジュールのハイスループット細胞塗抹標本生産機能に合わせて、本発明者は、ステップS3とステップS2とをつなげるために液体封入技術を独創的に使用し、自動生産を実現し、生産効率を大幅に向上させ、無人時のハイスループット生産を実現し、また、作製された細胞標本の品質が高く、効果が高い。
【0011】
要約すると、本発明に記載の全自動剥離細胞標本作製方法は、自動標本作製、染色及び封入を実現し、無人のハイスループット生産、高品質の標本作製及び封入を実現する。
【0012】
好ましくは、ステップS1において、剥離細胞の前処理は、
細胞洗浄チャンバを使用して細胞を洗浄及び濾過するステップS11であって、細胞洗浄チャンバの底部には、貫通孔直径が5~20μmで貫通孔サイズが均一なフィルタ膜が含まれており、フィルタ膜は、フィルタ膜の表面に扁平上皮細胞及び腺細胞を捕捉しながら、赤血球、白血球、リンパ球、及び細胞保存液を選択的に通過させる、ステップS11と、
フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を第1の緩衝液で洗浄して再懸濁し、フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を得るステップS12とを含む。
【0013】
本発明に記載の剥離細胞標本作製方法では、フィルタ膜の表面に捕捉された剥離細胞を第1の緩衝液で再懸濁することができる。これは、膜表面の親水性と第1の緩衝液の特性によるものである。
【0014】
本発明に記載の剥離細胞標本作製方法において、使用されるフィルタ膜は、高分子フィルムに重イオンビームを透過させることによって得ることができ、高分子フィルムとしては、PE、PC、PET、PP又はPIなどが挙げられる。製造プロセスにおいて、重イオンビームは、その透過経路で高分子フィルムに放射線損傷を形成し、対応する痕跡を残し、次にこれらの痕跡を化学エッチングして貫通孔を形成し、化学エッチングの時間を制御することにより、貫通孔の直径を5~20umに制御することができ、貫通孔のサイズは均一であり、このようにして得られたフィルタ膜は、安定した特性、強力な構造、低吸着及び脱落なしという利点を有し、また孔径よりも大きな粒子を100%捕捉することができ、それによって膜が、フィルタ膜の表面に扁平上皮細胞及び腺細胞を捕捉しながら、赤血球、白血球、リンパ球、及び細胞保存液を選択的に通過させる効果を実現する。
【0015】
好ましくは、ステップS11において、濾過に陽圧濾過を使用し、使用される陽圧濾過の圧力は50~1000Paである。
【0016】
上記の解決手段では、従来技術とは異なり、本発明は陽圧濾過を使用し、これは機械的構造を簡素化し、細胞サンプルの相互汚染のリスクを回避することができる。
【0017】
好ましくは、ステップS12において、第1の緩衝液は、pH緩衝剤、界面活性剤、粘液溶解剤、及びタンパク質保護剤を含み、例えば、第1の緩衝液1000mlごとに、Tris:0.5~2g、Tween-20:2~10g、ジチオスレイトール:0.1~0.5g、グリシン:0.5~5g、クエン酸:0.2~0.5gが含まれ、残量を水とし、第1の緩衝液のpHを7.5~8に調整する。
【0018】
本発明では、好ましくは上記の成分を配合して得られる第1の緩衝液は洗浄効果の向上に優れた効果を有し、本発明の成分を使用しない場合又は従来の緩衝液を使用する場合、赤血球や白血球などの不純物を効果的に除去することができず、また、本発明以外の成分を配合して得られる第1の緩衝液は、得られた細胞の形態にも影響を与え、更に結果の解釈に影響を与える。
【0019】
好ましくは、ステップS11において、細胞洗浄チャンバ構造は傾斜面上に設けられ、傾斜面と水平面の間に傾斜夾角がある。
【0020】
好ましくは、傾斜夾角は5~30°である。
【0021】
上記の解決手段では、細胞洗浄チャンバを傾斜面に設けると、細胞懸濁液の回収効率が向上する。
【0022】
好ましくは、ステップS2において、前処理した剥離細胞をロボットアームによって循環式沈降モジュールに移す。
【0023】
好ましくは、ステップS2において、恒温制御システムによって恒温を制御し、恒温制御システムは加熱素子及び加熱素子に接続された温度コントローラを含み、恒温温度の調整範囲は25~45℃である。
【0024】
上記の反応では、温度が染色に大きく影響することを考慮すると、加熱素子及び温度制御システムを設けることにより、染色プロセス中にサンプルを一定の温度に保つことができ、それによって染色の再現性が保証される。特に、反応温度が25℃未満又は45℃を超える場合、第一に不適切な温度は沈降細胞の数に影響を与え、沈降細胞の数が不十分になり、第二に不適切な温度はパパニコロウ染色の効果に影響を与え、温度が低すぎたり高すぎたりすると、染色が薄すぎたり濃すぎたりし、染色の深さが結果の解釈に影響を与える。
【0025】
なお、本発明に記載の技術的解決手段では、温度が30℃などの予め設定された恒温温度に達すると、恒温制御システムは循環式沈降モジュール内の温度を恒温温度に保つように制御し、その温度精度誤差範囲は±2℃以内である。
【0026】
好ましくは、ステップS2において、保湿ステップは、湿潤剤0.2~0.3mlを加え、3~8秒後にそれを吸い取り、細胞層の表面に湿潤層を残すことを含む。
【0027】
好ましくは、ステップS3において、封入に新型高分子材料液体封入剤を使用し、新型高分子材料液体封入剤は、
質量百分率50%~80%のUVLED光硬化性アクリル樹脂、
質量百分率5%~40%の光硬化性アクリレートモノマー、
質量百分率0.5%~8%の反応性アミンアクリル樹脂、
質量百分率2%~8%の光開始剤、
質量百分率0.05%~0.5%のレベリング剤、
及び質量百分率0.1%~0.5%の湿潤剤を含む。
【0028】
上記の解決手段では、ステップS2及びステップS3で使用される湿潤剤は、アクリル酸を含む溶液であり、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレートのうちの1種又はそれらの組み合わせを使用する。
【0029】
なお、従来の封入では、中性樹脂(発癌性物質であるキシレン溶媒を含む)を使用して細胞塗抹標本の表面に滴下し、次に、キシレンがあるため、解釈に使用する前にドラフト内で数時間換気する必要がある。しかしながら、本発明に記載の技術的解決手段において、液体封入のためにキシレン以外の新型高分子材料を使用することを指摘しておくべきである。この新型高分子材料を細胞層の表面にスプレーし、紫外線を照射するとこの新型高分子材料は急速に硬化し、硬化後に形成される硬化層は完全に透明であり、調製された細胞サンプルの形態をよりよく示すことができ、またこの高分子材料は人体に無害であり、硬化プロセスは数秒しかかからない。
【0030】
従来技術と比較して、本発明は以下の利点及び有益な効果を有する。
1、本発明の発明者は、初めて循環式沈降モジュールと自動封入を組み合わせるため、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法は全自動化生産を実現することができ、特に、本発明の循環式沈降モジュールは標本作製と染色を同時に行うことができ、チャンバ自体は一度の使用ではなく繰り返し使用することができる。したがって、本発明は循環利用率が高い。
2、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法は、自動標本作製、染色及び封入を実現し、無人のハイスループット生産、高品質の標本作製及び封入を実現する。
3、本発明は、液体封入のためにキシレン以外の新型高分子材料を使用する。この新型高分子材料を細胞層の表面にスプレーし、紫外線を照射するとこの新型高分子材料は急速に硬化し、硬化後に形成される硬化層は完全に透明であり、調製された細胞サンプルの形態をよりよく示すことができ、またこの高分子材料は人体に無害であり、硬化プロセスは数秒しかかからない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明の他の特徴、目的、及び利点は、以下の図面を参照して行われる非限定的な実施形態の詳細な説明を読むことによって、より明らかになるであろう。
【
図1】本発明の全自動剥離細胞標本作製方法の一実施形態で使用される循環式沈降モジュールの構造を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の全自動剥離細胞標本作製方法の一実施形態で使用される紫外線封入装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
【0033】
以下、具体的な実施形態に関連して本発明を詳細に説明する。以下の実施形態は、当業者が本発明を更に理解するのに役立つであろうが、いかなる形態においても本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の概念から逸脱することなく、いくつかの変更及び改善を行うことができることに留意されたい。これらはすべて本発明の保護範囲に属する。
【0034】
実施例1
【0035】
図1は、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法の一実施形態で使用される循環式沈降モジュールの構造を概略的に示す。
【0036】
図1に示すように、本発明の剥離細胞標本作製装置は、循環式沈降モジュール、加熱温度制御システム及び紫外線封入装置を含む。循環式沈降モジュールは、回転式沈降トレイ12、スライド格納及び押出し機構25、サンプル注入針、ピペット機構26及び洗浄アセンブリ29を含む。沈降トレイ12は、外周に複数の離隔したスライドスロット23が配置された恒温ターンテーブルと、断熱シェルと、沈降標本作製アセンブリ30とを含む。スライド格納及び押出し機構25は、スライドカセット2、スライド押し込みフォーク8及びスライド押出しフォークを含む。ピペット機構26は、試薬アームZ軸10、横方向試薬アームR軸9、及び横方向試薬アームR軸9の端部に位置する試薬針アセンブリ27を含む。試薬針アセンブリ27は弧形を形成して沈降カップ5の真上に位置する。
【0037】
回転式沈降トレイ12の内部の温度が常に25~45℃の範囲内に保たれるように、その温度を制御するための恒温制御システムが回転式沈降トレイ12の内部に組み込まれていることに留意されたい。この恒温制御システムは、加熱素子及び加熱素子に接続された温度コントローラを含み、温度コントローラがトレイ内の温度が25℃より低いことを検出すると、それは加熱素子を制御して回転ターンテーブルを加熱させ、温度コントローラがトレイ内の温度が45℃を超えることを検出すると、それは加熱素子を制御して加熱を停止させる。また、回転ターンテーブル12の外層には、断熱材料で作られた断熱シェルが設けられており、この断熱シェルは、回転式沈降トレイ12の外周及び下部を包み、回転式沈降トレイ12内部の温度を安定に保ち、染色反応のための安定した外部環境を提供し、細胞標本作製の品質に影響を与える急激な温度変化を回避する。沈降標本作製アセンブリ30は、スライドスロット、リフト機構7及び沈降カップ5を含み、リフト機構7は、沈降カップ5を恒温ターンテーブル17の中心軸に沿って上下運動させる。リフト機構07は沈降カップ05が上昇するように制御し、フォークモータ18は、スライドカセット02内のスライドをスライド入口24からスライドスロット23に押し込むようにスライド押し込みフォーク8を駆動し、リフト機構7は、沈降カップ05の底部とスライドとを気密に接合するように、沈降カップ5が下降するように制御する。試薬針アセンブリ27は、垂直に配置された弧形ブラケット28、一体型試薬針及び一体型洗浄針を含み、一体型試薬針及び一体型洗浄針は、吸引パイプを介して外部容器に接続される。昇降駆動モータ19は、試薬アームZ軸10を駆動して上下運動させ、試薬の注入及び廃液の排出を完了する。洗浄アセンブリ29は、洗浄板及び洗浄板押出し機構11を含む。恒温ターンテーブルがパパニコロウ染色又は沈降カップの洗浄を完了するたびに、恒温ターンテーブルは少なくとも1回回転し、次の操作対象の沈降カップ5を試薬針アセンブリ27の下方に移す。一体型試薬針と一体型洗浄針が協働し、ある沈降カップ内のサンプルをパパニコロウ染色すると同時に、洗浄可能な状態の別の沈降カップを洗浄することができる。
【0038】
更に
図1を参照すると、スライドが装填されたスライドカセット2にスライドカセットバックル22を留め、スライドカセットスロット21内に挿入すると、固定が完了する。リフト機構7は沈降カップ5が上昇するように制御し、スライド押し込みフォーク8はスライドを押し出し、回転式沈降トレイ12の回転により、スライドはスライド入口から対応するスライドスロットに入る。リフト機構7は沈降カップ5を下ろし、沈降カップ5の底部がスライドと接合する。サンプル注入針はサンプルを沈降カップ5に注入し、恒温ターンテーブルは沈降カップを一体型試薬針の下方に回転させ、昇降駆動モータ19は試薬アームZ軸10を駆動して下降させ、パパニコロウ染色を行う。パパニコロウ染色終了後、スライドスロットがスライド押出し位置に回転し、スライド押出しフォーク13はまず下降し、スライドがスライド入口から恒温ターンテーブル17に入り、次にスライド押出しフォーク13はスライドの下方まで上昇し、後退してスライドを引き出す。スライドスロットは洗浄位置に回転し、リフト機構は沈降カップが上昇するように制御し、洗浄板モータ20は、洗浄板を洗浄板入口からスライドスロットに押し込むように洗浄板押出し機構11を駆動し、リフト機構は沈降カップ05が下降するように制御し、沈降カップ05の底部は洗浄板31と接合して密閉構造を形成し、一体型洗浄針03は洗浄試薬を沈降カップ05に注入し、洗浄終了後、一体型洗浄針03は廃液を吸引し、リフト機構7は沈降カップ5が上昇するように制御し、洗浄板モータ20は洗浄板を引き出すように洗浄板押出し機構を駆動し、リフト機構は沈降カップが下降するように制御する。
【0039】
図2は、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法の一実施形態で使用される紫外線封入装置を概略的に示す。
【0040】
図2に示すように、紫外線封入装置は、ラック18、ラック18に設けられたフォーク23、封入剤注入アーム14、封入剤サンプル注入針16、硬化カップ4、硬化ボックス13、紫外線ランプ3、封入剤洗浄槽17、封入剤注入アーム制御機構15、及びラック18に設けられたサンプルスライドレール24を含む。フォーク23はサンプルスライドレール24の一端に配置され、且つサンプルスライドレール24内をスライドすることができ、サンプルスライドレール24の上方には、フォーク23が配置された側からもう一方の側まで順に硬化ボックス13、紫外線ランプ3が設けられ、硬化ボックス13上には硬化カップ4が配置され、硬化カップ4の上方には封入剤注入アーム14が配置され、封入剤注入アーム14には封入剤サンプル注入針16が配置されている。封入剤注入アーム制御機構15は、封入剤注入アーム14がその垂直方向及び水平方向に運動するように制御し、例えば、封入剤注入アーム制御機構15は、歯車又はベルト輸送機構を介して封入剤注入アーム14に接続され、封入剤注入アーム14を駆動して水平方向に回転させることができ、又はラックアンドピニオン機構又はウォームギア機構を介して封入剤注入アーム14に接続され、封入剤注入アーム14を駆動して垂直方向に沿って上下に運動させることができる。
【0041】
更に
図2を参照すると、紫外線ランプ3の外部にはランプシェードが配置され、ランプシェードはサンプルスライドレールの上方に位置し、封入剤滴下後のサンプルスライドはランプシェード内の紫外線ランプによって硬化される。
【0042】
なお、封入剤注入アーム14の構造は、新型高分子材料液体封入剤収容装置、注入システム、吸引システム及び廃封入剤収容装置を含み、封入剤サンプル注入針16は封入剤注入針及び封入剤吸引針を含む。新型高分子材料液体封入剤収容装置は、注入システムに接続され、注入システムは封入剤注入針に接続され、封入剤吸引針は吸引システムに接続され、吸引システムは廃封入剤収容装置に接続される。
【0043】
いくつかの他の実施形態では、1つ以上の封入剤吸引針があり、複数の封入剤吸引針が封入剤注入針の円周方向に均等に配置され、注入システムには計量装置が設けられていることが考えられる。
【0044】
注入システムは、新型高分子材料液体封入剤収容装置内の新型高分子材料液体封入剤を封入剤注入針を介してサンプルスライドの表面に滴下することができ、注入システムによって注入された封入剤の量は計量装置によって計量され、且つ封入剤の滴下量は計量装置によって制御され、吸引システムは、封入剤吸引針を介して余分な高分子材料液体封入剤を廃封入剤収容装置に吸引することができる。
【0045】
更に
図2を参照すると、封入剤洗浄槽17はラック18上に配置され、且つ封入剤注入アーム14の移動経路に位置していることがわかる。封入剤注入アーム14の封入剤サンプル注入針16は、注入、吸引後に封入剤洗浄槽17で洗浄される。
【0046】
封入装置1を用いて封入し、封入剤の滴下量は50~500μLであり、紫外線ランプ3の波長は200~400nmである。3秒~10秒静置し、封入剤サンプル注入針16で余分な新型高分子材料液体封入剤を吸引し、サンプル層の表面に液状の薄層が形成されるように吸引時間を5秒~20秒とし、この液状の薄層は内部の保湿剤を包み込み、薄層の厚さは0.02mm~0.08mmである。
【0047】
図1~
図2と併せて、本発明の全自動剥離細胞標本作製方法を更に説明すると、この方法は、
剥離細胞の前処理ステップS1であって、標本作製が必要な剥離細胞に自動前処理を行って妨害物質を除去する、ステップS1と、
ステップS1で前処理した剥離細胞を循環式沈降モジュールに自動的に移して恒温沈降を行い、それらを染色及び保湿するステップS2と、
ステップS2の保湿後の剥離細胞を自動的に液体封入するステップS3とを含む。
【0048】
本実施例における循環式沈降モジュールの構造については、実施例1を参照することができ、ステップS3における自動液体封入用の装置については、実施例1の封入装置を参照することができる。
【0049】
なお、本実施例では、循環式沈降モジュール内でスライドにレーザーマーキング操作を行って、各標本のトレーサビリティを確保し、サンプル識別エラーを回避することもできる。特に、従来の技術では、標本作製技術者は、検査表及び標本を受け取った後、それらを1つずつチェックし、標本ボトル及びスライドに1対1で対応するラベルを手動で貼り付ける必要がある。このプロセスは人間の過失による誤検査が発生しやすいため、通常はチェックに多くの時間を要するが、本実施例は、スライドにレーザーマーキングを行う解決策を提供し、人的ミスによる誤検査の問題を直接解決する。標本カップ本体に事前設定されたQRコード(登録商標)をスキャンすることにより、循環式沈降チャンバに接続された中央制御コンピュータは標本情報を決定し、次に、中央制御コンピュータはターンテーブルを回転させて対応するスライドをレーザーマーキングマシンに回し、スライドにレーザーマーキングを行い、標本とスライドの情報一致を実現し、標本のトレーサビリティを確保する。
【0050】
実施例2
【0051】
本実施例では、全自動剥離細胞標本作製方法が提供され、使用される装置は実施例1を参照することができるが、違いは、ステップS1において、剥離細胞の前処理が以下を含むことである:
細胞洗浄チャンバを使用して細胞を洗浄及び濾過するステップS11であって、細胞洗浄チャンバの底部には、貫通孔直径が5~20μmで貫通孔サイズが均一なフィルタ膜が含まれており、フィルタ膜は、フィルタ膜の表面に扁平上皮細胞及び腺細胞を捕捉しながら、赤血球、白血球、リンパ球、及び細胞保存液を選択的に通過させる、ステップS11と、
フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を第1の緩衝液で洗浄して再懸濁し、フィルタ膜に捕捉された扁平上皮細胞及び腺細胞を得るステップS12とを含む。
【0052】
フィルタ膜の表面に捕捉された剥離細胞を第1の緩衝液で再懸濁することができることに留意されたい。これは、膜表面の親水性と第1の緩衝液の特性によるものである。
【0053】
本実施例において、使用されるフィルタ膜は、高分子フィルムに重イオンビームを透過させることによって得ることができ、高分子フィルムとしては、PE、PC、PET、PP又はPIなどが挙げられる。製造プロセスにおいて、重イオンビームは、その透過経路で高分子フィルムに放射線損傷を形成し、対応する痕跡を残し、次にこれらの痕跡を化学エッチングして貫通孔を形成し、化学エッチングの時間を制御することにより、貫通孔の直径を5~20umに制御することができ、貫通孔のサイズは均一であり、このようにして得られたフィルタ膜は、安定した特性、強力な構造、低吸着及び脱落なしという利点を有し、また孔径よりも大きな粒子を100%捕捉することができ、それによって膜が、フィルタ膜の表面に扁平上皮細胞及び腺細胞を捕捉しながら、赤血球、白血球、リンパ球、及び細胞保存液を選択的に通過させる効果を実現する。
【0054】
また、いくつかの好ましい実施形態では、ステップS11において、濾過に陽圧濾過を使用し、使用される陽圧濾過の圧力は50~1000Paである。
【0055】
上記の解決手段では、従来技術とは異なり、本発明は陽圧濾過を使用し、これは機械的構造を簡素化し、細胞サンプルの相互汚染のリスクを回避することができる。
【0056】
更に、ステップS12において、第1の緩衝液は、pH緩衝剤、界面活性剤、粘液溶解剤、及びタンパク質保護剤を含み、例えば、第1の緩衝液1000mlごとに、Tris:0.5~2g、Tween-20:2~10g、ジチオスレイトール:0.1~0.5g、グリシン:0.5~5g、クエン酸:0.2~0.5gが含まれ、残量を水とし、第1の緩衝液のpHを7.5~8に調整する。
【0057】
いくつかの他の実施形態では、細胞懸濁液の回収効率を向上させるために、細胞洗浄チャンバを傾斜面に設けることができ、即ち、細胞洗浄チャンバ構造を傾斜面に設け、傾斜面と水平面の間に傾斜夾角があり、この傾斜夾角は5~30°である。
【0058】
いくつかの他の実施形態では、ステップS2において、保湿ステップは、湿潤剤0.2~0.3mlを加え、3~8秒後にそれを吸い取り、細胞層の表面に湿潤層を残すことを含む。
【0059】
実施例3~6
【0060】
本実施例では、全自動剥離細胞標本作製方法が提供され、使用される装置は実施例1を参照することができるが、違いは第1の緩衝溶液の成分が異なることであり、その具体的な成分は表1に示される通りである。
【表1】
【0061】
第1の緩衝液の成分が、Tris:0.5~2g、Tween-20:2~10g、ジチオスレイトール:0.1~0.5g、グリシン:0.5~5g、クエン酸:0.2~0.5gを含まず、残量を水とし、第1の緩衝液のpHを7.5~8に調整する場合、第1の緩衝液のバランスが崩れ、洗浄効果にも影響が及び、また、不純物が多すぎるとスライドの吸着に影響を与え、吸着細胞数が標準より少なくなり、不適格な標本になる。
【0062】
実施例7~10
【0063】
本実施例では、全自動剥離細胞標本作製方法が提供され、使用される装置は実施例1を参照することができるが、違いは高分子材料液体封入剤の成分が異なることであり、その具体的な成分は表2に示される通りである。
【表2】
【0064】
上記の成分は広州五行材料又は上海博覚新材料から購入することができ、そのうち、レベリング剤は水性レベリング剤BYK 333、TEGO410レベリング剤、TEGO300レベリング剤のうちの1種又はそれらの組み合わせであってもよく、湿潤剤は、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレートのうちの1種又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0065】
なお、本発明の保護範囲における従来技術部分は、本出願文書に記載された実施形態に限定されず、先行特許文献、先行公開出版物、先行公開使用などを含むがこれらに限定されない、本発明の解決手段と矛盾しないすべての従来技術は、本発明の保護範囲に含めることができる。
【0066】
また、本発明における各技術的特徴の組み合わせ方式は、本発明の特許請求の範囲に記載されている組み合わせ方式、又は具体的な実施例に記載されている組み合わせ方式に限定されず、本発明に記載のすべての技術的特徴は、互いに矛盾しない限り、任意の方法で自由に組み合わせたり、結合したりすることができる。
【0067】
また、上述の実施形態は、本発明の特定の実施形態にすぎないことにも留意されたい。明らかに、本発明は上記の実施形態に限定されず、実施形態に基づいて加えられた同様の変更又は変形は、当業者が本発明の開示内容から直接得られる又は容易に想到できるものであり、いずれも本発明の保護範囲に属すべきである。
【0068】
以上、本発明の特定の実施形態について説明した。本発明は、上記の特定の実施形態に限定されず、当業者は、特許請求の範囲内で様々な変更又は修正を行うことができ、これらは、本発明の本質に影響を及ぼさないことを理解されたい。矛盾しない限り、本出願の実施形態及び実施形態における特徴は、互いに任意に組み合わせることができる。
【国際調査報告】