(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】多価STING活性化組成物およびその使用法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231026BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20231026BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20231026BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231026BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231026BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231026BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231026BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/4155 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/542 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/499 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20231026BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/7084
A61K47/69
A61K47/32
A61K9/107
A61K9/08
A61K47/26
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K31/352
A61K31/473
A61K31/381
A61K31/36
A61K31/5415
A61K31/4155
A61K31/404
A61K31/542
A61K31/138
A61K31/517
A61K31/499
A61K31/4184
A61K31/5377 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515254
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 US2021049365
(87)【国際公開番号】W WO2022055929
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF REGENTS OF THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ギャオ ジンミン
(72)【発明者】
【氏名】リ スシン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB11
4C076CC27
4C076DD67
4C076EE13H
4C076EE16H
4C076FF21
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084MA05
4C084MA22
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZC41
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BA13
4C086BB03
4C086BC13
4C086BC27
4C086BC36
4C086BC39
4C086BC46
4C086BC73
4C086BC89
4C086CB27
4C086CB29
4C086EA16
4C086MA22
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA18
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA42
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZB27
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本明細書では、がんの治療に有用な治療用pH応答性組成物が記載される。前記組成物は、PC7AなどのSTING活性化ポリマーミセルと、cGAMPなどの非ペプチドSTINGアゴニストとの組み合わせを含む。がんの治療において前記組成物を投与する方法も開示される。前記方法には、固形腫瘍の治療における腫瘍内注射による薬学的組成物の投与が含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、薬学的組成物:
(i)式(I):
のブロックコポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であって、
式中、
n
1は、10~200の整数であり;
x
1は、20~300の整数であり;
y
1は、0~10の整数であり;
Xは、ハロゲン、-OH、または-C(O)OHであり;
rは、前記ブロックコポリマーにおけるx
1ブロックとy
1ブロックの順序における無作為性を表し;
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素もしくは置換されていてもよいC
1~C
6アルキルであり;
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
1~C
6アルキル、C
3~C
10シクロアルキル、もしくはアリールであるか;
または、R
3およびR
4は、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成し;
R
5は水素もしくは-C(O)CH
3である、
前記ブロックポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物、ならびに
(ii)非ペプチドSTINGアゴニスト。
【請求項2】
R
1およびR
2が、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
1~C
6アルキルである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
R
1およびR
2がそれぞれ独立して-CH
3である、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
R
3およびR
4が、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
1~C
6アルキルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
R
3およびR
4が、それぞれ独立して、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2CH
3、または-CH
2CH
2CH
2CH
3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
R
3およびR
4が、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
R
3およびR
4が、一緒になって、-CH
2(CH
2)
2CH
2-、-CH
2(CH
2)
3CH
2-、または-CH
2(CH
2)
4CH
2-である、請求項1~3または6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
y
1が0である、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
式(I)のブロックコポリマーが、式(Ia)の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬学的組成物:
。
【請求項10】
n
1が、60~150または100~140の整数である、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
n
1が100~140である、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
x
1が、50~200、60~160、または90~140の整数である、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
x
1が90~140の整数である、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
Xがハロゲンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
Xが-Brである、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記非ペプチドSTINGアゴニストが環状ジヌクレオチドである、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記環状ジヌクレオチドがcGAMPである、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記環状ジヌクレオチドが、式(IIa)もしくは式(IIb):
の構造を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、
式中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、OHまたはSHであり;
B
1およびB
2は、それぞれ独立して、グアニンまたはアデニンであり;
R
10は、H、ハロゲン、OH、OCH
3であり;かつ
R
11は、ハロゲンまたはOHである、
請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記環状ジヌクレオチドが、式(III):
の構造を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、
式中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、OHまたはSHであり;かつ
Y
1およびY
2は、それぞれ独立して、-CH-または-O-である、
請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記環状ジヌクレオチドが、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、ここで、X
3およびY
3が、それぞれ独立して、OまたはSである、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記環状ジヌクレオチドが、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、ここで、ZがOまたはSである、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記環状ジヌクレオチドが、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記環状ジヌクレオチドが、
、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物から選択される、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記非ペプチドSTINGアゴニストが、
上記式中、X
4はCHもしくはNである;
および
上記式中、X
5はCHもしくNでありかつY
4はNH
2もしくCH
3である;
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記非ペプチドSTINGアゴニストが、
から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記非ペプチドSTINGアゴニストが、式(IV):
の構造を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、
式中、
C-Dは、アルキレンまたはアルケニレンであり;
Wは、Hまたは-OCH
3であり;かつ
Vは、Hまたは-O-(C
1~C
3)アルキル-(C
3~C
6)ヘテロ環である、
請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記非ペプチドSTINGアゴニストが、
である、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
1つまたは複数の非ペプチドSTINGアゴニストが、前記ブロックコポリマーによって1つまたは複数のミセル内に封入されている、請求項1~27のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項29】
前記ミセルが約25~約50nmの直径を有する、請求項28に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
前記ミセルが1μm以下の直径を有する、請求項28に記載の薬学的組成物。
【請求項31】
前記ミセルがpH遷移点を有する、請求項28~30のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項32】
前記pH遷移点が4~8、6~7.5、または4.5~6.5である、請求項31に記載の薬学的組成物。
【請求項33】
0.25または0.15pH単位未満のpH応答を有する、請求項31に記載の薬学的組成物。
【請求項34】
1つ、2つ、または3つの異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む、請求項28~33のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項35】
1つまたは複数の非ペプチドSTINGアゴニストが、前記ブロックコポリマーによってミセル内に封入されていない、請求項1~27のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項36】
前記ブロックコポリマーと前記非ペプチドSTINGアゴニストが混合物として存在する、請求項1~27のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項37】
前記ブロックコポリマーと前記非ペプチドSTINGアゴニストが1:2または1:1のモル比で存在する、請求項1~27のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項38】
1つ、2つ、または3つの異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む、請求項35~37のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項39】
糖溶液をさらに含む、請求項35~38のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項40】
前記糖溶液がグルコース溶液である、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
その必要がある対象におけるがんを治療するための方法であって、
治療有効量の請求項1~40のいずれか一項に記載の薬学的組成物を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項42】
前記がんが固形腫瘍である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記固形腫瘍のサイズが約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約95%縮小する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記がんが、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、メラノーマ、中皮腫、多発性骨髄腫、または精上皮腫である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記がんが、乳がん、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、腹膜転移、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、尿道がん、食道がん、結腸直腸がん、脳がん、皮膚がん、または腎がんである、請求項41~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
1つまたは複数の追加の治療法の実施と共に、請求項1~40のいずれか一項に記載の薬学的組成物が投与される、請求項41~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記1つまたは複数の追加の治療法が、チェックポイント療法、化学療法、または放射線療法である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記1つまたは複数の追加の治療法が外科手術である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
対象におけるSTING経路を活性化する方法であって、
請求項1~38のいずれか一項に記載の薬学的組成物を、その必要がある対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項50】
前記薬学的組成物が皮下または腫瘍内に投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
前記腫瘍が固形腫瘍であり、かつ前記薬学的組成物が腫瘍内注射によって投与される、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年9月8日に出願された米国特許仮出願第63/075,560号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記述
本発明は、米国立衛生研究所が管理する助成金番号U54 CA244719、R01 CA216839、およびU01 CA218422の下で政府の支援を受けて行われたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
多機能ナノ粒子は、バイオセンサー、診断用ナノプローブ、標的薬物送達システムなど、幅広い用途で注目されている。これらの努力は、様々な生理学的システムにおける薬剤送達の正確な時空間的制御を通じて、診断と治療において副作用を抑えつつ生物学的特異性を向上させるという必要性により、大いに推進されてきた。この目標を達成するために、刺激応答性ナノプラットフォームの開発に努力が捧げられてきた。送達効果を正確に狙うために利用されてきた環境刺激には、pH、温度、酵素発現、酸化還元反応、および光誘導が含まれる。これらの活性化シグナルの中でも、pHトリガーは、2つのタイプのpHの違いに基づく最も広く研究されている刺激の1つである:(a)病理組織(例えば、腫瘍)対正常組織、および(b)酸性の細胞内区画。例えば、腫瘍の細胞外微小環境の異常な酸性(pH約6.5)のため、いくつかのpH応答性ナノシステムは治療の有効性を高めることが報告されている。
【0004】
インターフェロン遺伝子刺激因子(stimulator of interferon gene:STING)は、感染およびがんにおける自然免疫で中心的な役割を果たす。STINGは、2',3'-cyclic-GMP-AMP(cGAMP)によって内因的に活性化され、このcGAMPは、危険シグナルとしてサイトゾルDNAに応答するcGAMPシンターゼ(cGAS)によって合成される環状ジヌクレオチドである。STINGの活性化は、樹状細胞の成熟と移動(遊走)を促進する多面的なI型インターフェロン(IFN-I)応答を媒介し、かつ自然免疫応答のための細胞傷害性Tリンパ球とナチュラルキラー細胞をプライミング(刺激)する。近年、STINGは、がん免疫療法の抗腫瘍免疫経路を活性化する重要な標的として浮上してきている。研究では、STINGへcGAMPを添加すると点状構造(punctate structure)が観察されており、オリゴマー化またはより高次の構造が活性化にとって極めて重要であり得ることを示している。STINGが存在する標的細胞のサイトゾルにcGAMPを送達する治療上の試みは、二重の負電荷を持つ小分子としてのその固有の性質によって制限されている。さらに、cGAMPの急速な酵素分解とクリアランス、ならびにcGAMPの標的外(off-target)毒性のため、さらなる臨床応用が妨げられている。したがって、製薬業界では、天然の環状ジヌクレオチド(CDN)のみならず新規STINGアゴニストをも化学的に修飾して、それらの生物学的利用能と薬理活性を改善することに大きな努力を払っている。
【0005】
線状または環状の第三級アミン構造を持つpH感受性ポリマーは、STING依存性経路を介して強力なワクチンアジュバント効果を示してきた。さらに、いくつかのpH感受性ポリマー(例えば、7員の環状アミン、PC7A)は、多価STINGアゴニストとして機能することができる。これらのpH感受性ポリマーは、cGAMPよりも長期にわたるサイトカイン発現を伴う自然免疫活性化のために、ポリマーにより誘導されるSTINGの相分離を介して作用することができる。さらに、pH感受性ポリマー(例えば、PC7A)による多価STING活性化と、サイトゾル送達されたまたは細胞固有のcGAMP刺激との組み合わせは、がん免疫療法の抗腫瘍免疫を高めるための相乗的でロバストな戦略を提供する。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの局面において、本開示は、免疫応答を生み出すために使用することができる薬学的組成物を提供する。前記薬学的組成物は、STINGおよび/またはインターフェロン受容体経路をインビボで活性化して、免疫応答の増強をもたらすことができる。前記組成物は、がんなどの、様々な疾患および障害を治療する際に使用され得る。
【0007】
特定の態様において、本明細書では、以下を含む、薬学的組成物が提供される:
(i)式(I):
のブロックコポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であって、
式中、
n
1は、10~200の整数であり;
x
1は、20~300の整数であり;
y
1は、0~10の整数であり;
Xは、ハロゲン、-OH、もしくは-C(O)OHであり;
rは、ブロックコポリマーにおけるx
1ブロックとy
1ブロックの順序における無作為性を表し;
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素もしくは置換されていてもよいC
1~C
6アルキルであり;
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
1~C
6アルキル、C
3~C
10シクロアルキル、もしくはアリールであるか;
または、R
3およびR
4は、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成し;
R
5は水素もしくは-C(O)CH
3である、
ブロックコポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物、ならびに
(ii)非ペプチドSTINGアゴニスト。
【0008】
式(I)のブロックコポリマーのいくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC1~C6アルキルである。いくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、-CH3である。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC1~C6アルキルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、または-CH2CH2CH2CH3である。いくつかの態様では、R3およびR4は、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成する。いくつかの態様では、R3およびR4は、一緒になって、-CH2(CH2)2CH2-、-CH2(CH2)3CH2-、または-CH2(CH2)4CH2-である。いくつかの態様では、R5は水素である。いくつかの態様では、R5は-C(O)CH3である。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは環状ジヌクレオチドである。いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドはcGAMPである。
【0009】
本発明の別の局面は、その必要がある対象におけるがんを治療するための方法であって、薬学的有効量の、本明細書に記載の非ペプチドSTINGアゴニストを含む薬学的組成物を、対象に投与することを含む、方法である。いくつかの態様では、がんは固形腫瘍を含む。いくつかの態様では、腫瘍はがんのものであり、がんは、乳房、卵巣、前立腺、腹膜転移、結腸直腸、膀胱、食道、頭頸部(HNSCC)、肺、脳、腎臓、または皮膚(メラノーマおよび肉腫を含む)のがんである。
【0010】
本発明の別の局面は、対象におけるSTING経路を活性化する方法であって、本明細書に記載の非ペプチドSTINGアゴニストを含む薬学的組成物を、その必要がある対象に投与することを含む、方法である。
【0011】
本明細書に記載のブロックコポリマー、ミセル組成物、および方法の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および特定の実施例は、具体的な態様を示しているが、例示としてのみ与えられていることを理解すべきである。なぜなら、本開示の精神および範囲内の様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者には明らかになるからである。
【0012】
参照による組み入れ
本明細書で言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願が参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示の様々な局面は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本開示の特徴および利点のさらなる理解は、例示的な態様(ここでは本開示の原理が利用される)を記載している以下の詳細な説明、および以下の添付図面を参照することによって得られるであろう。
【
図1】PC7Aポリマーが、cGAMPとは異なる時空間的プロファイルでSTINGを活性化することを示す。a,cGAMPまたはPC7AでプライミングされたMEF細胞は、GFP-STINGの点状形成(punctate formation)および枯渇の異なる幾何学的および時間的パターンを示す。最初に、細胞をcGAMP(10μM、サイトゾル送達にはPEIを使用)またはPC7Aミセル(10μM)と1時間インキュベートし、その後培地を交換し、イメージング前に細胞を示された時間インキュベートした。スケールバー,10μm。b,cGAMPで処理したTHP1細胞は、TBK1/IRF3リン酸化のバースト効果と、それに続く急速なSTING分解を示すが、PC7Aによる処理は、持続したTBK1/IRF3リン酸化とより遅いSTING分解をもたらす。c,ifn-βおよびcxcl10の相対的mRNAレベルは、THP1細胞でのPC7AによるSTING活性化が、cGAMPと比較して、より遅いものの長時間続くことを示す。数値は平均値±SD、n=3である。d,STING-GFPはcGAMP処理の12時間後にMEFにおいてリソソームと共局在化し、これは急速な分解を支持する。対照的に、PC7Aは、共局在化の欠如および持続的なGFP蛍光によって示されるように、GFP-STINGのリソソーム分解を抑制する。スケールバー,5μm。e,cGAMPとPC7Aは、ERからERGICおよびゴルジ装置へのSTINGの移行(translocation)を同様に誘導する。共局在はピアソンの相関係数で定量化した。箱ひげ図,±min/max,n=20。両側スチューデントのt検定:*,P<0.05;***,P<0.001。f,ERからゴルジ体へのタンパク質輸送の阻害剤であるBFAは、cGAMPまたはPC7AによるTBK1/IRF3のリン酸化を妨げることから、下流シグナル伝達にはSTINGの移行が必要である。
【
図2】PC7AポリマーがSTINGの凝縮(condensation)と免疫活性化を誘導することを示す。a,PC7Aは、4時間のインキュベーション後にSTING(Cy5標識済み)の相凝縮を誘導するが、PEPAは誘導しない。スケールバー,10μm。b,STING(4μM、Cy5標識)とPC7Aポリマー(2μM、AMCA標識)は凝縮体(condensate)内に共局在化される。スケールバー,5μm。c,GFP-STINGからTMR-PC7AへのヘテロFRETは、MEF細胞におけるSTINGとPC7Aの共局在を示す。GFP-STINGからTMR-PEPAへのエネルギー移動は観察されなかった。細胞培養条件は
図1と同じ。GFP(λ
ex/λ
em=488/515nm)およびTMR(555/580nm)のシグナルは、左パネルに、それぞれ緑および赤で示す。FRETシグナル(488/580nm)は、右パネルに黄色で示す。d,p-TBK1はSTING/PC7A凝縮体中に動員される。スケールバー,10μm。e,PC7Aは、ISG-THP1細胞においてIFNβ-ルシフェラーゼの発現を誘導するが、PEPAは誘導しない。数値は平均値±SD、n=3である。一元配置分散分析(one-way ANOVA):ns,有意ではない;**,P<0.01。
【
図3】PC7Aポリマーが多価相互作用を介してSTINGの凝縮と免疫活性化を誘導することを示す。a,多価相互作用を介したPC7Aにより駆動されるSTINGのオリゴマー化と凝縮の概略図。b,PC7Aは、MEF細胞内の遊離GFP-STINGと比較して、凝縮体中のGFP-STINGの分子運動性を低下させる。退色(bleaching)をPC7A処理の24時間後に行い、回復を150秒にわたってモニターした。未処理細胞(モック)および固定細胞を、それぞれ可動および静止STING対照として使用した。数値は平均値±SD、n=5である。一元配置分散分析:*,P<0.05;***,P<0.001。c,STINGとPC7Aの生体分子凝縮はPC7Aの価数(valency)に依存する。赤いドットは相分離を示し、青いドットは相分離がないことを示す。d,PC7Aにより誘導されるSTING凝縮体のサイズ分布は、PC7Aの価数が高くなるにつれて増加する。凝縮体のサイズは最長軸と最短軸の平均値として算出した,n=50。e,THP1細胞におけるSTING活性化はPC7Aの価数と相関しており、最適なcxcl10発現はPC7A(70)によって誘導される。数値は平均値±SD、n=3である。実験c~eでは、繰り返し単位が異なるポリマーを同じC7Aモジュール濃度で使用した。
【
図4】PC7AポリマーによるSTINGの凝縮と活性化が、cGAMPとは異なる結合部位を介して起こることを示す。a~c,STINGにおけるE296A/D297Aの変異は、PC7Aに応答したPC7A親和性(a)、凝縮(b)、および免疫活性化(c)を消失させる。STINGの他の変異は、PC7AによるSTINGの活性化に影響を与えない。変異部位がSTING構造上に示されており、cGAMP結合部位とは異なっている。数値は平均値±SD、n=3である。一元配置分散分析:ns,有意ではない;***,P<0.001。(d~f),PC7Aは、いくつかのcGAMP抵抗性STINGバリアントにおいて免疫活性を保持する。THP1細胞ではR232Hが、Hela細胞ではR238A/Y240AがcGAMP結合を抑止する。Q273A/A277Qは、テトラマー界面とcGAMP媒介STINGオリゴマー化を破壊し、cGAMPによるSTING活性化を消失させるが、PC7Aによる活性化は消失させない。数値は平均値±SD、n=3である。両側スチューデントのt検定:ns,有意ではない;**,P<0.01。m:モック;c:cGAMP;p:PC7Aポリマー。
【
図5】PC7AとcGAMPが、腫瘍担持マウスにおいて相乗的な抗腫瘍効果を示すことを表す。(a~c)TC-1腫瘍および(d~f)MC38腫瘍を担持するマウスに、示された時点で5%グルコース(モック)、cGAMP(2.5μg)、PC7A(50μg)、またはcGAMP負荷PC7Aナノ粒子を腫瘍内注射した。平均腫瘍体積(a,d)、カプラン・マイヤー生存曲線(b,e)、および個々の腫瘍成長曲線のスパイダープロット(c,f)を示す。PC7A NPまたはcGAMP単独は、ある程度の免疫防御をもたらす。cGAMP負荷PC7A NPは、相乗的な抗腫瘍免疫応答をもたらし、生存率が著しく向上し、MC38モデルでは7匹中4匹のマウスが腫瘍なしの状態になった。腫瘍成長試験では、数値は平均値±SEMを表す;両側スチューデントのt検定(対モック)。生存試験では、マンテル・コックス検定。
【
図6】新鮮なヒト組織において、PC7AとcGAMPが相乗的なSTING活性化を示すことを表す。遊離cGAMP単独はSTINGを活性化できないが、PC7A NPとcGAMP負荷PC7A NPは効果的なSTING活性化を示す。外科的に切除した新鮮なセンチネルリンパ節(SLN)(a,b)または舌根部の扁平上皮癌(SCC-BOT)(c~f)を複数の切片(1~5mm
3)に分割し、5%グルコース、遊離cGAMP、PC7A NP、またはcGAMP負荷PC7A NPを5%グルコース溶液で注入した。24時間インキュベートした後、Ifn-βおよびcxcl10遺伝子の発現を測定した。(e,f)CD45
+細胞集団は、CD45
-細胞と比較して、増大したレベルのSTING活性化を示す。数値は平均値±SD、n=4である。両側スチューデントのt検定:ns,有意ではない;*, P<0.05;**, P<0.01;***, P<0.001。
【
図7】PC7Aポリマーが、cGAMPと比較して、持続的な免疫活性化を誘導し、かつ急速なSTING分解を防止することを示す。(a,b),遊離cGAMP単独は、膜透過性が限られているため、ISG-THP1細胞(a)およびSTING-GFP MEF細胞(b)でのSTING活性化が限定的である。その後の研究では、特に明記しない限り、cGAMPのサイトゾル送達を助けるために、トランスフェクション剤であるポリエチレンイミン(PEI)を使用した。c,STINGタンパク質はcGAMP処理後12時間以内に急速に分解するが、PC7Aは48時間にわたってSTING分解を防止する。共焦点顕微鏡画像は、MEFでのcGAMPまたはPC7A処理後、時間の経過とともにSTING-GFPとリソソームの様々な程度の共局在を示す。STING-GFPは緑で示され、リソソームはLysoTracker DND-99で染色され、赤で示される。スケールバー,10μm。(d,e),PC7AまたはバフィロマイシンA1(Baf A1)による処理は、cGAMP誘導STING点状体(puncta)とリソソームとの融合を減少させた。スケールバー,10μm。数値は平均値±SD、n=3である。一元配置分散分析:ns,有意ではない;**,P<0.01。
【
図8】PC7AポリマーがER-ERGIC-ゴルジ体への移行を通してSTINGを活性化することを示す。a,STING-GFPは、cGAMPまたはPC7Aによる処理後、ERGICとゴルジ体に共局在化する。最初にSTING-GFP MEF細胞をPEI-cGAMP(10μM)またはPC7Aミセル(10μM)と1時間インキュベートし、その後培地を交換した。cGAMP処理群およびPC7A処理群の細胞を、それぞれ6時間後および24時間後に固定した後、p-TBK1、ER(カルネキシン)、ERGIC(P58)、ゴルジ体(GM130)、または核を染色した。b~d,ブレフェルジンA(BFA)は、THP1細胞(b,c)およびSTING-GFP MEF細胞(d)において、cGAMPまたはPC7AによるSTING活性化を消失させる。阻害される群では、cGAMPまたはPC7Aを添加する前に、細胞をBFA(10μM)で前処理した。スケールバー,10μm。
【
図9】PC7Aポリマーが、PEPAおよび他のポリマーと比較して、STING特異的な結合親和性、相凝縮、および免疫活性化を示すことを表す。a,原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いた、異なる側鎖構造を有するブロックコポリマーの概略的合成。b,ITCは、STINGと様々なポリマーとの間の見かけの結合親和性を示す。5つのポリマーを、それらの側鎖が環状か線状かによって2つのグループに分けた。スチューデントのt検定:*,P<0.05。c,同じ骨格構造および同一のpH遷移(6.9)を有する2つのポリマーであるPC7AとPEPAは、ITCで測定したところ、STINGに対して異なる結合親和性を有する。d,PEPAまたはcGAMPではなく、PC7Aは細胞溶解物からSTING相分離を誘導する。STING-GFP MEF細胞溶解物をcGAMP、PC7A、またはPEPAで4時間処理した。スケールバー,20μm。e,増加する濃度のPC7Aを含むSTING溶液中のナイルレッドの蛍光スペクトルは、疎水性の生体分子凝縮体の形成を示唆する。f,PC7Aの第三級アミンブロックは、中性pH(7.4)下ではミセルの疎水性コアに隠蔽され、STINGとの相互作用および相凝縮を防止する。ミセルはpH6.5でカチオン性ユニマー(unimer)に解離して、STING相分離を誘導する。新たに形成されたPC7A-STING凝縮体は、pHを滴定して7.4に戻した場合に凝縮体が存在することによって示されるように、pH可逆性ではない。スケールバー,20μm。
【
図10】PC7AポリマーがSTINGのオリゴマー化と凝縮を誘導し、これらの2つの種が異なる回復速度論(recovery kinetics)を表すことを示す。a,蛍光スペクトルは、PC7A処理後にFRETペアであるTMRとCy5(1:1の比率で混合)で標識したSTINGダイマー間のヘテロFRETを示す(実線)。PC7A添加後のTMRシグナルの減少とCy5シグナルの増加は、STINGのオリゴマー化を示す。b, c,凝縮体中のSTINGタンパク質またはPC7Aポリマーは、光退色(FRAP)測定後の蛍光回復によって異なる交換速度論(exchange kinetics)を示す。STING(4μM、Cy5標識)およびPC7Aポリマー(2μM、AMCA標識)を4時間インキュベートした。光退色後、回復を120秒にわたって観察した。数値は平均値±SD、n=5である。関心領域の蛍光強度は、単一指数関数型モデル(single exponential model)に適合した:It=I0+(I
∞-I0)×(1-e
-kt)。スケールバー,2μm。
【
図11】より長いPC7A鎖長が、より大きな凝縮体の形成およびより遅いSTINGの回復を誘導することを示す。a,概略図は、凝縮度を調べるために使用される定性的および定量的方法を示す。b,示した濃度のPC7AとSTINGにより誘導された凝縮体の蛍光画像を用いて、相図を作成した。PC7A(70)を例として使用する。スケールバー,20μm。c,より高い繰り返し単位のPC7Aは、より大きなPC7A-STING凝縮体の形成を誘導する。スケールバー,20μm。STING-PC7A凝縮体の凝縮度(d)と可逆性(e)は、逆の関係にある。数値は平均値±SD、n=3である。f,STINGの回復速度は、FRAP法で測定されたPC7Aの長さが長くなるにつれて低下する。数値は平均値±SD、n=5である。全ての実験では、分析に先立って、STING(4μM、Cy5標識)とPC7Aポリマー(特に明記しない限り140μMのC7Aモジュール濃度)を4時間インキュベートした。
【
図12】塩および非特異的タンパク質の高濃度がSTING-PC7Aの凝縮を妨げることを示す。a,b,高塩濃度(例えば、600mM NaCl)は、PC7A-STINGの結合と凝縮を消失させる。スケールバー,20μm。c,PC7A-STING凝縮体は、数とサイズがウシ血清アルブミン(BSA)の存在下で減少する。スケールバー,20μm。d,BSA(BODIPYで標識)はPC7A-STING凝縮体から排除される(点状部に緑色蛍光がない)。STING、BSA、およびPC7Aポリマーを4時間混合した後、共焦点顕微鏡で観察した。凝縮体形成におけるSTING-PC7A特異性を確認するために、STINGまたはPC7Aを含まない対照を使用した。スケールバー,10μm。b~dの実験は、STINGダイマー(4μM、Cy5標識)およびPC7A(2μM)を用いて実施した。BSAまたはBODIPY標識BSA(8μM)を使用した。
【
図13】PC7AポリマーがcGAMPとは異なる結合部位を介してSTINGを活性化することを示す。a~c,E296D297の中性Ala残基への変異は、PC7Aポリマーによるifn-β/cxcl10 mRNA発現を消失させる(a)が、cGAMP刺激STING応答には影響を与えない(b,c)。数値は平均値±SD、n=3である。一元配置分散分析:ns,有意ではない;***,P<0.001。d,E296D297の変異は、PC7A処理後の細胞内p-TBK1産生を消失させる。スケールバー,10μm。a~dでは、HEK293T細胞を使用前にWTまたは変異型STING-GFPプラスミドで24時間トランスフェクトした。e~h,STING変異型Hela細胞(R238A/Y240A、Q273A/A277Q)は、cGAMP媒介STING活性化を消失させる(e,f)が、PC7A媒介応答にはあまり影響を与えなかった(g,h)。R238A/Y240AはcGAMPの結合に抵抗性であり、一方、単一または二重Q273A/A277Q変異はcGAMP誘導STINGオリゴマー化のテトラマー界面を破壊する。数値は平均値±SD、n=3である。一元配置分散分析:ns,有意ではない;*,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
【
図14】PC7Aナノ粒子が腫瘍組織と流入領域リンパ節(DLN)の両方でSTING活性化を誘発し、さらにサイトカイン発現においてcGAMPと相乗的に作用することを示す。示された処置後のB16メラノーマ(a,b)またはTC-1腫瘍(c,d)マウスモデルにおける腫瘍(a,c)またはDLN(b,d)でのIfnβ、cxcl10、tnfαおよびirf7遺伝子発現。数値は平均値±SD、n=6である。一元配置分散分析:ns,有意ではない;*,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
【
図15】cGAMP-PC7Aナノ粒子が腫瘍担持動物の免疫療法において抗PD1と相乗的に作用することを示す。(a~c)TC1および(d~f)MC38腫瘍担持マウスに、示された時点で、5%グルコース(モック)またはcGAMP負荷PC7A NPを腫瘍内注射し、生理食塩水または抗PD1(200μg)を腹腔内注射した。平均腫瘍体積(a,d)、カプラン・マイヤー生存曲線(b,e)、および個々の腫瘍成長曲線のスパイダープロット(c,f)を示す。cGAMP-PC7A NP処置は免疫防御をもたらし、7匹中4匹のMC38マウスを腫瘍なしの状態にし、さらに抗PD1と相乗作用してMC38モデルでは100%の治癒率を達成する。腫瘍成長試験では、数値は平均値±SEMを表す;両側スチューデントのt検定。生存試験では、両側マンテル・コックス検定。ns,有意ではない;*,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001対5%グルコース群。
【
図16】PC7AとcGAMPがさらなるヒト腫瘍組織での免疫活性化において相乗効果を示すことを表す。5%グルコース、遊離cGAMP(80ng)、PC7A NP(50μg)、またはcGAMP負荷PC7A NPを5%グルコース溶液で注入した後の、外科的に切除した新鮮な舌根部扁平上皮癌(SCC-BOT、本文中の
図6からの2番目のSCC患者)(a,b)および子宮頸部腫瘍組織(c,d)におけるIfn-βおよびcxcl10遺伝子発現。数値は平均値±SDである。両側スチューデントのt検定:*,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
【
図17】PC7Aにより誘導されるSTING相凝縮と免疫活性化の図を示す。PC7A NPはエンドサイトーシスを介して細胞に入るが、二重の負電荷を持つcGAMP分子は細胞透過性に制限がある。エンドソーム成熟とpH6.9未満の酸性化により、PC7A NPはカチオン性ユニマーにばらばらにされて、エンドリソソームから脱出する。サイトゾルでは、PC7Aユニマーは複数のSTING分子と結合し、ERからER-ゴルジ体中間区画(ER-Golgi intermediate compartment:ERGIC)およびゴルジ装置への移行中にSTINGのオリゴマー化と凝縮をもたらす。この過程で、STING凝縮体はTBK1-IRF3転写カスケードを動員してトリガーし、I型インターフェロン(IFN)と他の炎症性サイトカインの産生をもたらす。活性化されたSTINGは分解のために最終的にリソソームに輸送される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本明細書では、ブロックコポリマーと非ペプチドSTINGアゴニストを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの態様では、ブロックコポリマーはジブロックコポリマーである。いくつかの態様では、ブロックコポリマーは、非ペプチドSTINGアゴニストを封入するミセルを形成する。
【0015】
I. 組成物
特定の態様において、本明細書では、以下を含む、薬学的組成物が提供される:
(i)式(I):
のブロックコポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であって、
式中、
n
1は、10~200の整数であり;
x
1は、20~300の整数であり;
y
1は、0~10の整数であり;
rは、ブロックコポリマーにおけるx
1ブロックとy
1ブロックの順序における無作為性を表し;
Xは、ハロゲン、-OH、もしくは-C(O)OHであり;
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素もしくは置換されていてもよいC
1~C
6アルキルであり;
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
1~C
6アルキル、C
3~C
10シクロアルキル、もしくはアリールであるか;
または、R
3およびR
4は、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成し;
R
5は水素もしくは-C(O)CH
3である、
ブロックコポリマーまたはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物、ならびに
(ii)非ペプチドSTINGアゴニスト。
【0016】
(i)ブロックコポリマー
いくつかの態様では、薬学的組成物は、式(I)のブロックコポリマー、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を含む。
【0017】
式(I)のいくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC1~C6アルキルである。いくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、または-CH2CH2CH2CH3である。いくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、-CH3である。いくつかの態様では、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素である。
【0018】
式(I)のいくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC1~C6アルキルである。いくつかの態様では、アルキルは、直鎖または分岐アルキルである。いくつかの態様では、アルキルは直鎖アルキルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、または-CH2CH2CH2CH3である。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、-CH2CH2CH2CH3である。
【0019】
いくつかの態様では、アルキルは分岐アルキルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、-CH(CH3)2または-CH(CH3)CH2CH3である。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、-CH(CH3)2である。
【0020】
式(I)のブロックコポリマーのいくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいC3~C10シクロアルキルまたはアリールである。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはシクロヘプチルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよいフェニルである。
【0021】
式(I)のブロックコポリマーのいくつかの態様では、R3およびR4は、それらが結合している対応する窒素と一緒になって、置換されていてもよい5~7員環を形成する。いくつかの態様では、R3およびR4は、一緒になって、-CH2(CH2)2CH2-、-CH2(CH2)3CH2-、または-CH2(CH2)4CH2-である。いくつかの態様では、R3およびR4は、一緒になって、-CH2(CH2)2CH2-である。いくつかの態様では、R3およびR4は、一緒になって、-CH2(CH2)3CH2-である。いくつかの態様では、R3およびR4は、一緒になって、-CH2(CH2)4CH2-である。
【0022】
式(I)のブロックコポリマーのいくつかの態様では、R5は水素である。いくつかの態様では、R5は-C(O)CH3である。いくつかの態様では、R5はアセチルである。
【0023】
式(I)のブロックコポリマーのいくつかの態様では、y1は、整数1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、またはそこから派生する任意の範囲の整数である。いくつかの態様では、y1は、1、2、3、4、5、6、7、8、または9である。いくつかの態様では、y1は1、2、または3である。いくつかの態様では、y1は0である。
【0024】
いくつかの態様では、式(I)のブロックコポリマーは、式(Ia)の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有する:
。
【0025】
いくつかの態様では、ブロックコポリマーは、ジブロックコポリマーである。いくつかの態様では、ブロックコポリマーは、親水性ポリマーセグメントと疎水性セグメントを含む。
【0026】
いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含む。いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、約2kD~約10kDのサイズである。いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、約2kD~約5kDのサイズである。いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、約3kD~約8kDのサイズである。いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、約4kD~約6kDのサイズである。いくつかの態様では、親水性ポリマーセグメントは、約5kDのサイズである。
【0027】
いくつかの態様では、n1は、1~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~35、35~40、40~45、45~50、50~55、55~60、60~65、65~70、70~75、75~80、80~85、85~90、90~95、95~99、100~109、110~119、120~129、130~139、140~149、150~159、160~169、170~179、180~189、190~199、またはそこから派生する任意の範囲の整数である。いくつかの態様では、n1は、60~150、100~140、または110~120の整数である。いくつかの態様では、n1は、100~140である。
【0028】
いくつかの態様では、ブロックコポリマーは、疎水性ポリマーセグメントを含む。いくつかの態様では、疎水性ポリマーセグメントは、
から選択され、ここで、xは、合計で約20~300である。
【0029】
いくつかの態様では、疎水性セグメントは、ジブチルアミンを含む。いくつかの態様では、疎水性セグメントは、環状アミンを含む。いくつかの態様では、環状アミンは、5~8員の環状アミンである。いくつかの態様では、環状アミンは、7員の環状アミン(PC7A)である。いくつかの態様では、疎水性セグメントは、
を含む。
【0030】
いくつかの態様では、x1は、整数1~5、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~35、35~40、40~45、45~50、50~55、55~60、60~65、65~70、70~75、75~80、80~85、85~90、90~95、95~99、100~109、110~119、120~129、130~139、140~149、150~159、160~169、170~179、180~189、190~199、またはそこから派生する任意の範囲の整数である。いくつかの態様では、x1は、50~200、60~160、または90~140の整数である。いくつかの態様では、x1は、90~140である。
【0031】
いくつかの態様では、Xは末端基である。いくつかの態様では、末端キャッピング基は、原子移動ラジカル重合(atom transfer radical polymerization:ATRP)反応の生成物である。例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)が使用される場合、末端キャッピング基は、-Brなどのハロゲンであり得る。いくつかの態様では、XはBrである。いくつかの態様では、Xは、独立して、-OHである。いくつかの態様では、各Xは酸である。いくつかの態様では、Xは、-C(O)OHである。いくつかの態様では、XはHである。末端基は、任意で、適切な成分(moiety)との重合の後にさらに修飾されてもよい。
【0032】
(ii)非ペプチドSTINGアゴニスト
いくつかの態様において、非ペプチドSTINGアゴニストは、小分子である。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、ジヌクレオチドである。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、合成の環状ジヌクレオチド(CDN)である。いくつかの態様では、CDNは、天然に存在するCDNまたは合成CDNである。CDNは、2'ヒドロキシル部位または4'ヒドロキシル部位で修飾され得る。いくつかの場合には、CDNは、ロックされたまたは架橋されたリボース修飾(例えば、ロックド核酸つまりLNA)において2'ヒドロキシル基で修飾され、2'炭素に結合された酸素分子がメチレン基によって4'炭素に結合されて、2'-C,4'-C-オキシ-メチレン結合型二環式リボヌクレオチドモノマーを形成する。
【0033】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、式(IIa)もしくは式(IIb):
の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有し、
式中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、OHまたはSHであり;
B
1およびB
2は、それぞれ独立して、グアニンまたはアデニンであり;かつ
R
10は、H、ハロゲン、OH、OCH
3であり;かつ
R
11は、ハロゲンまたはOHである。
【0034】
式(IIa)もしくは式(IIb)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物のいくつかの態様では、R10は、OHまたはOCH3である。いくつかの態様では、R10は、フルオロまたはクロロである。いくつかの態様では、R11は、OHである。いくつかの態様では、R11は、フルオロまたはクロロである。いくつかの態様では、A1およびA2は、それぞれ独立して、OHである。いくつかの態様では、A1およびA2は、それぞれ独立して、SHである。いくつかの態様では、B1およびB2は、それぞれ独立して、グアニンである。いくつかの態様では、B1およびB2は、それぞれ独立して、アデニンである。いくつかの態様では、B1またはB2の一方がグアニンであり、他方がアデニンである。
【0035】
いくつかの態様では、式(IIa)の環状ジヌクレオチドは、式(IIa)(1):
の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有する。
【0036】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、式(III):
の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有し、
式中、
A
1およびA
2は、それぞれ独立して、OHまたはSHであり;かつ
Y
1およびY
2は、それぞれ独立して、-CH-または-O-である。
【0037】
式(III)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物のいくつかの態様では、A1およびA2は、それぞれ独立して、OHである。いくつかの態様では、A1およびA2は、それぞれ独立して、SHである。いくつかの態様では、Y1およびY2は、それぞれ独立して、-O-である。いくつかの態様では、Y1およびY2は、それぞれ独立して、-CH-である。いくつかの態様では、Y1またはY2の一方が-O-であり、他方が-CH-である。
【0038】
天然に存在する環状ジヌクレオチドには、CDG、CDA、3',3'-cGAMP、および2',3'-cGAMPが含まれる。いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cyclic GMP-AMPまたはcGAMP)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。cGAMPは、STING依存性のI型インターフェロン応答を誘導する内因性二次メッセンジャーとして機能する。cGAMPはまた、マウスにおいて抗原特異的抗体の産生およびT細胞応答を促進する効果的なアジュバントであることも示されている。いくつかの態様では、cGAMPは、2',3'-cGAMPである。いくつかの態様では、cGAMPは、以下の構造:
、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有する。
【0039】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、ここで、X
3およびY
3は、それぞれ独立して、OH、SH、またはBH
3である。
【0040】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、ここで、Zは、OまたはSである。
【0041】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0042】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、さらなる修飾体である。いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、S-アルキル化ジヌクレオチドである。いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩である。
【0043】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
(ここで、Rが、
である)から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0044】
いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、グリコペプチド抗原と組み合わせたポリオウイルス由来のT細胞エピトープKLFAVWKITYKDTで修飾される。いくつかの態様では、環状ジヌクレオチドは、
、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0045】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、環状ジヌクレオチドではない。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、フラボン酢酸(FAA)、10-カルボキシメチル-9-アクリダノン(CMA)、またはα-マンゴスチンなどの小分子である。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0046】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、ベンゾチオフェンのような小分子である。いくつかの態様では、小分子STINGアゴニストは、
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0047】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、
上記式中、X
4はCHもしくはNである;
および
上記式中、X
5はCHもしくはNでありかつY
4はNH
2もしくはCH
3である;
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0048】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、
である。
【0049】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、ADU-S100、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。いくつかの態様では、ADU-100は、構造:
を有する。
【0050】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、アミドベンゾイミダゾールである。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、式(IV):
の構造、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物を有し、
式中、
C-Dは、アルキレンまたはアルケニレンであり;
Wは、Hまたは-OCH
3であり;かつ
Vは、Hまたは-O-(C
1~C
3)アルキル-(C
3~C
6)ヘテロ環である。
【0051】
式(IV)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物のいくつかの態様では、C-Dは、C2~C8アルキレンである。いくつかの態様では、C-Dは、C2~C8アルケニレンである。いくつかの態様では、C-Dは、-CH2CH2-または-CH=CH-である。いくつかの態様では、Wは水素である。いくつかの態様では、Wは-OCH3である。いくつかの態様では、Vは水素である。いくつかの態様では、Vは、-O-(CH2)3-C6ヘテロシクロアルキルである。
【0052】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、
、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物から選択される。
【0053】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、
であるか、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物である。
【0054】
II. ミセル、混合物、および組成物
いくつかの態様において、非ペプチドSTINGアゴニストは、ブロックコポリマーを含むミセル内に封入される。いくつかの態様では、ミセルは、様々なユニマーからの1つまたは複数の異なるタイプのブロックコポリマー成分を含む。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、ブロックコポリマーを含むミセルによって非共有結合的に封入される。
【0055】
いくつかの態様では、薬学的組成物は、1つまたは複数のミセルを含み、各ミセルが(i)式(I)のブロックコポリマー、および(ii)非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、1つまたは複数のミセルは、2つ、3つ、またはそれ以上の異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、1つまたは複数のミセルは、2つまたは3つの異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、1つまたは複数のミセルは、同じ非ペプチドSTINGアゴニストを含む。
【0056】
がん治療にミセルを使用すると、一部にはミセルのサイズのために、抗腫瘍効果を増強し、かつ健康な組織への毒性を減らすことができる。特定の化学療法剤のような小分子は、正常組織と腫瘍組織の両方に入ることがあるが、非標的ミセルナノ粒子は、漏れやすい腫瘍血管系を優先的に横断する可能性がある。ミセルのサイズは、典型的には、ナノメートルスケール(すなわち、約1nm~1μmの直径)となる。いくつかの態様では、ミセルは、約1μmに満たない直径を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約10~約200nmのサイズを有する。いくつかの態様では、ミセルは、約20~約100nmのサイズを有する。いくつかの態様では、ミセルは、約30~約50nmのサイズを有する。
【0057】
いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、ミセル内に封入されない。いくつかの態様では、薬学的組成物は、(i)式(I)のブロックコポリマーと(ii)非ペプチドSTINGアゴニストとを含む、諸成分の混合物を含む。いくつかの態様では、前記混合物は、2つ、3つ、またはそれ以上の異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、前記混合物は、2つまたは3つの異なる非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、前記混合物は、1つの異なった種類の非ペプチドSTINGアゴニストを含む。いくつかの態様では、前記混合物は、様々なユニマーからの1つまたは複数の異なる種類のブロックコポリマー成分を含む。
【0058】
いくつかの態様では、薬学的組成物は、(i)式(I)のブロックコポリマーと(ii)非ペプチドSTINGアゴニストを10:1、5:3、5:2、5:1、4:1、3:2、3:1、2:1、1:1、またはそれらの任意の組み合わせのモル比で含む。いくつかの態様では、薬学的組成物は、2:1または1:1のモル比を含む。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、小分子である。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、環状ジヌクレオチドである。いくつかの態様では、非ペプチドSTINGアゴニストは、cGAMPである。
【0059】
いくつかの態様では、薬学的組成物は、生理食塩水または糖溶液をさらに含む。いくつかの態様では、糖溶液または生理食塩水は、緩衝液である。いくつかの態様では、糖溶液は、グルコース溶液である。いくつかの態様では、生理食塩水は、塩化ナトリウム溶液である。
【0060】
pH応答性組成物
いくつかの態様において、薬学的組成物は、pH応答性組成物である。本明細書に開示のpH応答性組成物は、ブロックコポリマーと非ペプチドSTINGアゴニストとを含む1つまたは複数のpH応答性ミセルおよび/またはナノ粒子を含む。各ブロックコポリマーは、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントを含み、疎水性ポリマーセグメントは、pH感受性にするためのイオン化可能なアミン基を含む。このpH感受性は、薬物送達治療薬として適した組成物を提供するために利用される。
【0061】
ミセルは、特定の細胞または微小環境を標的とするように、生理学的範囲内で異なるpH遷移値(transition value)を持つことができる。いくつかの態様では、ミセルは、約5~約8のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約5~約6のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約6~約7のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約7~約8のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約6.3~約6.9のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約5.0~約6.2のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約5.9~約6.2のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約5.0~約5.5のpH遷移値を有する。いくつかの態様では、pH遷移点は、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、または5.5である。
【0062】
本発明のpH感受性ミセル組成物は、有利には、pH応答が非常に広い(すなわち、2pH単位である)他のpH感受性組成物とは対照的に、狭いpH遷移域を持つことができる。このpH遷移は、ミセルが解離して、ペイロードを放出するかまたはフォトフォア(photophore)(すなわち、インドシアニングリーン色素)を活性化する、遷移点である。いくつかの態様では、ミセルは、約1pH単位未満のpH遷移域を有する。様々な態様において、ミセルは、約0.9pH単位未満、約0.8、約0.7、約0.6、約0.5、約0.4、約0.3、約0.2、約0.1pH単位未満のpH遷移域を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約0.5pH単位未満のpH遷移域を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約0.25pH単位未満のpH遷移域を有する。狭いpH遷移域は、有利なことに、pHの微妙な変化により、非ペプチドSTINGアゴニストなどの治療ペイロードの完全放出をもたらすことができる、よりシャープなpH応答を提供する。
【0063】
III. 使用方法
「ワールブルグ効果」として知られ、がん細胞が優先的にグルコースを取り込んでそれを乳酸または他の酸に変換する、好気的解糖は、全ての固形がんにおいて行われる。乳酸または他の酸は、モノカルボン酸トランスポーターまたは他のトランスポーターにより、細胞外空間に優先的に蓄積する。結果として生じる細胞外空間の酸性化は、さらなる腫瘍の浸潤と転移に向けて、細胞外マトリックスのリモデリングを促進する。
【0064】
本明細書で提供されるいくつかの態様では、生理学的pH(7.35~7.45)でミセルを形成する化合物が記載される。いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物は、治療用物質に非共有結合的にコンジュゲート化される。いくつかの態様では、ミセルは、2×107ダルトンを超える分子量を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約2.7×107ダルトンの分子量を有する。いくつかの態様では、治療用物質は、生理学的pH(7.35~7.45)(例えば、血液循環中)ではミセルコア内に隔離される。いくつかの態様では、ミセルが酸性環境(例えば、腫瘍組織)に遭遇すると、ミセルは、約3.7×104ダルトンの平均分子量を有する個々の化合物に解離して、治療用物質を放出させる。いくつかの態様では、ミセルは、pH遷移点より低いpH(例えば、腫瘍微小環境の酸性状態)で解離する。
【0065】
いくつかの態様では、治療用物質は、ミセルの内部に組み込まれてもよい。特定のpH条件(例えば、腫瘍および細胞内区画に存在する酸性pH)は、ミセルの急速なプロトン化とユニマーへの解離を引き起こし、それによって治療用物質(例えば、薬物)を放出し得る。いくつかの態様では、ミセルは、生理学的pH(pH7.4)で安定した薬物封入(カプセル化)を提供するが、酸性環境では薬物を迅速に放出することができる。
【0066】
いくつかの場合には、本明細書に記載のpH感受性ミセル組成物は、狭いpH遷移域を有する。いくつかの態様では、本明細書に記載のミセルは、1pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)を有する。様々な態様において、ミセルは、約0.9pH単位未満、約0.8、約0.7、約0.6、約0.5、約0.4、約0.3、約0.2、約0.1pH単位未満のpH遷移域を有する。いくつかの態様では、ミセルは、約0.5pH単位未満のpH遷移域を有する。いくつかの態様では、pH遷移域は、0.25pH単位未満である。いくつかの態様では、pH遷移域は、0.15pH単位未満である。シャープな遷移点は、ミセルが酸性の腫瘍微小環境で解離することを可能にする。
【0067】
これらのミセルは、薬物送達剤およびSTINGアゴニストとして使用することができる。薬物を含むミセルは、がんまたは他の疾患の治療に使用され、その場合に、局所的なpHの違い(例えば、生理学的pH(7.4)とは異なるpH)により薬物が適切な位置に送達され得る。いくつかの態様では、治療される疾患はがんである。いくつかの態様では、がんは固形腫瘍を含む。いくつかの態様では、腫瘍は、原発腫瘍(複数可)の転移からの二次腫瘍である。いくつかの態様では、薬物送達は、リンパ節への、または腹膜もしくは胸膜表面への送達であり得る。
【0068】
いくつかの態様では、その必要がある対象におけるがんを治療する方法であって、治療有効量の、本明細書に開示される組成物のいずれかを、対象に投与することを含む、方法である。
【0069】
いくつかの態様では、がんは、癌腫、肉腫、リンパ腫、白血病、メラノーマ、中皮腫、多発性骨髄腫、または精上皮腫である。
【0070】
いくつかの態様では、がんは、膀胱、血液、骨、脳、乳房、中枢神経系、子宮頸部、結腸、子宮内膜、食道、胆嚢、胃腸管、生殖器、泌尿生殖器、頭部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、筋肉組織、首、口腔もしくは鼻腔粘膜、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、脾臓、小腸、大腸、胃、精巣、または甲状腺のものである。いくつかの態様では、がんは、乳がん、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、尿道がん、食道がん、結腸直腸がん、腹膜転移、腎がん、または脳、皮膚のがん(メラノーマおよび肉腫を含む)である。いくつかの態様では、がんは、乳がん、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、食道がん、結腸直腸がん、または腎がんである。
【0071】
いくつかの態様では、がんは固形腫瘍である。
【0072】
いくつかの態様では、前記腫瘍は、約5%、約10%、約15%、約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、または約90%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約50%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約60%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約70%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約75%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約80%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約85%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約90%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約95%縮小する。いくつかの態様では、腫瘍は約99%縮小する。
【0073】
インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)は、自己免疫およびがん免疫療法の標的として大きな関心を集めている。しかし、小分子アゴニストを用いた早期フェーズの臨床治験では、抗腫瘍効果は限定的であり、用量制限毒性があることが示された。
【0074】
別の局面では、対象におけるSTING経路を活性化する方法であって、本明細書に記載の薬学的組成物を、その必要がある対象に投与することを含む、方法である。
【0075】
いくつかの態様では、治療有効量の本明細書に記載の薬学的組成物を対象に投与することを含む、前記対象におけるSTING経路を活性化する方法である。
【0076】
いくつかの態様では、前記対象は哺乳類である。いくつかの態様では、前記対象はヒトである。
【0077】
いくつかの態様では、前記方法は、前記組成物を1回投与することを含む。いくつかの態様では、前記方法は、前記組成物を2回以上投与することを含む。いくつかの態様では、前記方法は、がん手術の前に前記組成物を投与することを含む。
【0078】
IV. 併用療法
別の局面において、1つまたは複数の追加の治療法の実施と共に、本明細書に開示される薬学的組成物は投与される。いくつかの態様では、前記方法は、第2の抗がん治療をさらに含む。いくつかの態様では、第2の抗がん治療は、外科手術、化学療法、放射線療法、遺伝子治療、または第2の免疫療法である。いくつかの態様では、第2の抗がん治療は第2の免疫療法である。いくつかの態様では、第2の免疫療法はチェックポイント療法である。いくつかの態様では、第2の抗がん治療は放射線療法である。いくつかの態様では、第2の治療は外科手術である。
【0079】
V. キット
本開示はまた、キットを提供する。本明細書に開示される構成成分のいずれも、キットに組み合わせることができる。特定の態様では、キットは、本明細書に記載される前記態様の組成物を含む。
【0080】
キットは、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器または他の容器を含み、その中に構成成分が配置され、好ましくは、適切に分注され得る。キット内に複数の構成成分がある場合、キットは、一般に、追加の構成成分を個別に入れることができる第2、第3などの追加の容器をも含むことになる。しかし、構成成分の様々な組み合わせが1つの容器内に含まれてもよい。いくつかの態様では、一連のミセル集団の全部が、単一の容器内に組み合わされる。他の態様では、一連のミセル集団の一部または全部が、別々の容器で提供される。
【0081】
本開示のキットはまた、典型的には、商業販売のために様々な容器を密閉して収容するための包装を含むことになる。そのような包装には、段ボール包装または射出成形もしくはブロー成形されたプラスチック包装が含まれ、その中に所望の容器が保持される。キットはまた、キットの構成成分を使用するための説明書を含むことができる。説明書には、実施可能な変形(バリエーション)が含まれてもよい。
【0082】
定義
以下の説明では、様々な態様の十分な理解を提供するために、特定の具体的詳細が記載される。しかし、当業者であれば、本発明はこれらの詳細がなくても実施できることを理解するであろう。他の例では、態様の説明を不必要に不明瞭にすることを避けるために、周知の構造は、詳細に図示または説明されていない。文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本明細書およびそれに続く特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」およびその変形である「含む(comprises)」、「含む(comprising)」などの用語は、開放的・包括的な意味で、すなわち「~を含むがこれらに限定されない」として、解釈されるべきである。さらに、本明細書で提供される見出しは、便宜上のみのものであり、特許請求される発明の範囲または意味を読み取るものではない。
【0083】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、他に明確な指示がない限り、複数の指示対象を含む。さらに、「または」という用語は、他に明確な指示がない限り、一般に「および/または」を含む意味で使用されることに留意されたい。
【0084】
本明細書で使用される以下の用語は、別段の指示がない限り、以下の意味を有する。
【0085】
「オキソ」は、置換基=Oを指す。
【0086】
「チオキソ」は、置換基=Sを指す。
【0087】
「アルキル」は、単結合によって分子の残りの部分に結合される、1~20個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素鎖ラジカルを指す。10個までの炭素原子を含むアルキルはC1~C10アルキルといわれ、同様に、例えば、6個までの炭素原子を含むアルキルは、C1~C6アルキルといわれる。他の数の炭素原子を含むアルキル(および本明細書で定義される分子の他の部分)も同様に表される。アルキル基には、C1~C10アルキル、C1~C9アルキル、C1~C8アルキル、C1~C7アルキル、C1~C6アルキル、C1~C5アルキル、C1~C4アルキル、C1~C3アルキル、C1~C2アルキル、C2~C8アルキル、C3~C8アルキル、およびC4~C8アルキルが含まれるが、これらに限定されない。代表的なアルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、1-メチルエチル(i-プロピル)、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、n-ペンチル、1,1-ジメチルエチル(t-ブチル)、3-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、1-エチル-プロピルなどが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、アルキルは、メチル、エチル、s-ブチル、または1-エチル-プロピルである。本明細書で特に明記しない限り、アルキル基は、以下に記載するように任意に置換されていてもよい。「アルキレン」または「アルキレン鎖」は、分子の残りの部分をラジカル基に連結する直鎖または分岐の2価炭化水素鎖を指す。いくつかの態様では、アルキレンは、-CH2-、-CH2CH2-、または-CH2CH2CH2-である。いくつかの態様では、アルキレンは、-CH2-である。いくつかの態様では、アルキレンは、-CH2CH2-である。いくつかの態様では、アルキレンは、-CH2CH2CH2-である。
【0088】
「アルコキシ」は、式-ORのラジカルを指し、ここでRは定義したとおりのアルキルラジカルである。本明細書で特に明記しない限り、アルコキシ基は、以下に記載するように任意に置換されていてもよい。代表的なアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、アルコキシはメトキシである。いくつかの態様では、アルコキシはエトキシである。
【0089】
「ヘテロアルキレン」は、アルキルの1つまたは複数の炭素原子がO、NまたはS原子で置き換えられている、上記のようなアルキルラジカルを指す。「ヘテロアルキレン」または「ヘテロアルキレン鎖」は、分子の残りの部分をラジカル基に連結する直鎖または分岐の2価ヘテロアルキル鎖を指す。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロアルキル基またはヘテロアルキレン基は、以下に記載するように任意に置換されていてもよい。代表的なヘテロアルキル基には、-OCH2OMe、-OCH2CH2OMe、または-OCH2CH2OCH2CH2NH2が含まれるが、これらに限定されない。代表的なヘテロアルキレン基には、-OCH2CH2O-、-OCH2CH2OCH2CH2O-、または-OCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2O-が含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
「アルキルアミノ」は、式-NHRまたは-NRRのラジカルを指し、ここで各Rは、独立して、上記で定義したとおりのアルキルラジカルである。本明細書で特に明記しない限り、アルキルアミノ基は、以下に記載するように任意に置換されていてもよい。
【0091】
用語「芳香族」は、4n+2個のπ電子を含む非局在化π電子系を有する平面環を指し、ここでnは整数である。芳香族化合物は、任意に置換されていてもよい。用語「芳香族」は、アリール基(例:フェニル、ナフタレニル)とヘテロアリール基(例:ピリジニル、キノリニル)の両方を含む。
【0092】
「アリール」とは、環を形成する原子のそれぞれが炭素原子である芳香環を指す。アリール基は、任意に置換されていてもよい。アリール基の例には、フェニルおよびナフタレニルが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、アリールはフェニルである。構造次第で、アリール基はモノラジカルまたはジラジカル(すなわち、アリーレン基)であり得る。本明細書で特に明記しない限り、用語「アリール」または接頭語「アル-」(例えば、「アルアルキル」)は、置換されていてもよいアリールラジカルを含むことを意味する。
【0093】
「カルボキシ」は、-CO
2Hを指す。いくつかの態様では、カルボキシ部分は、「カルボン酸生物学的等価体」で置き換えることができ、カルボン酸生物学的等価体は、カルボン酸部分と同様の物理的および/もしくは化学的特性を示す官能基または官能部分を指す。カルボン酸生物学的等価体は、カルボン酸基と同様の生物学的特性を有する。カルボン酸部分を含む化合物は、そのカルボン酸部分をカルボン酸生物学的等価体と交換することができ、カルボン酸含有化合物と比較した場合に、同様の物理的および/または生物学的特性を有することができる。例えば、一態様において、カルボン酸生物学的等価体は、生理学的pHで、カルボン酸基とほぼ同じ程度にイオン化すると考えられる。カルボン酸の生物学的等価体の例には、
などが含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
「シクロアルキル」は、環を形成する原子(すなわち骨格原子)のそれぞれが炭素原子である、単環式または多環式の非芳香族ラジカルを指す。シクロアルキルは飽和であっても、部分的不飽和であってもよい。シクロアルキルは芳香環と縮合されてもよい(この場合、シクロアルキルは非芳香族性環炭素原子を介して結合される)。シクロアルキル基には、3~10個の環原子を有する基が含まれる。いくつかの態様では、シクロアルキル基は、C3~C6シクロアルキルである。いくつかの態様では、シクロアルキルは、3~6員のシクロアルキルである。代表的なシクロアルキルには、3~10個の炭素原子、3~8個の炭素原子、3~6個の炭素原子、または3~5個の炭素原子を有するシクロアルキルが含まれるが、これらに限定されない。単環式シクロアルキルラジカルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。いくつかの態様では、単環式シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。多環式ラジカルとしては、例えば、アダマンチル、ノルボルニル、デカリニル、および3,4-ジヒドロナフタレン-1(2H)-オンが挙げられる。本明細書で特に明記しない限り、シクロアルキル基は、任意に置換されていてもよい。
【0095】
「縮合された」とは、既存の環構造に縮合された本明細書に記載の任意の環構造を指す。縮合された環がヘテロシクリル環またはヘテロアリール環である場合、縮合ヘテロシクリル環または縮合ヘテロアリール環の一部になる既存の環構造上の任意の炭素原子は、窒素原子で置き換えられてもよい。
【0096】
「ハロ」または「ハロゲン」は、ブロモ、クロロ、フルオロ、またはヨードを指す。
【0097】
「ハロアルキル」は、上記で定義したような1個または複数のハロラジカルで置換されている、上記で定義したようなアルキルラジカルを指し、例えば、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、フルオロメチル、トリクロロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,2-ジフルオロエチル、3-ブロモ-2-フルオロプロピル、1,2-ジブロモエチルなどである。本明細書で特に明記しない限り、ハロアルキル基は、任意に置換されていてもよい。
【0098】
「ハロアルコキシ」は、上記で定義したような1個または複数のハロラジカルで置換されている、上記で定義したようなアルコキシラジカルを指し、例えば、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、トリクロロメトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、1,2-ジフルオロエトキシ、3-ブロモ-2-フルオロプロポキシ、1,2-ジブロモエトキシなどである。本明細書で特に明記しない限り、ハロアルコキシ基は、任意に置換されていてもよい。
【0099】
「ヘテロシクロアルキル」または「ヘテロシクリル」または「ヘテロ環」は、2~13個の炭素原子と、窒素、酸素および硫黄からなる群より選択される1~6個のヘテロ原子を含む、安定な3~14員の非芳香環ラジカルを指す。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、C2~C7ヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、C2~C6ヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、C2~C5ヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、3~8員のヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、3~7員のヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、3~6員のヘテロシクロアルキルである。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、3~5員のヘテロシクロアルキルである。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロシクロアルキルラジカルは単環式または二環式の環系であり得、二環式環系は縮合環系(アリールまたはヘテロアリール環と縮合する場合、ヘテロシクロアルキルは非芳香族性環原子を介して結合される)または架橋環系を含み得る。ヘテロシクリルラジカル中の窒素、炭素または硫黄原子は、任意に酸化されていてもよい。窒素原子は、任意に四級化されていてもよい。ヘテロシクロアルキルラジカルは、部分的にまたは完全に飽和である。このようなヘテロシクロアルキルラジカルの例には、ジオキソラニル、チエニル[1,3]ジチアニル、デカヒドロイソキノリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソキサゾリジニル、モルホリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、4-ピペリドニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、キヌクリジニル、チアゾリジニル、テトラヒドロフリル、トリチアニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、チアモルホリニル、1-オキソ-チオモルホリニル、1,1-ジオキソ-チオモルホリニルが含まれるが、これらに限定されない。また、ヘテロシクロアルキルという用語は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類を含むがこれらに限定されない、炭水化物の全ての環状形態を含む。特に明記しない限り、ヘテロシクロアルキルは環内に2~10個の炭素を有する。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは環内に2~8個の炭素を有する。いくつかの態様では、ヘテロシクロアルキルは、環内に2~8個の炭素と、1または2個のN原子とを有する。理解されるように、ヘテロシクロアルキル中の炭素原子の数に言及する場合、ヘテロシクロアルキル中の炭素原子の数は、前記ヘテロシクロアルキルを構成する原子(ヘテロ原子を含む)(すなわち、ヘテロシクロアルキル環の骨格原子)の総数と同じではない。本明細書で特に明記しない限り、ヘテロシクロアルキル基は、任意に置換されていてもよい。
【0100】
「ヘテロアリール」は、窒素、酸素および硫黄から選択される、1個または複数の環ヘテロ原子を含むアリール基を指す。ヘテロアリールは、単環式または二環式である。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、5または6員のヘテロアリールである。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、5員のヘテロアリールである。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、6員のヘテロアリールである。単環式ヘテロアリールの具体例としては、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、ピロリル、ピリダジニル、トリアジニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、インドリジン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリジン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8-ナフチリジン、およびプテリジンが挙げられる。単環式ヘテロアリールの具体例としては、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、ピロリル、ピリダジニル、トリアジニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、およびフラザニルが挙げられる。二環式ヘテロアリールの具体例としては、インドリジン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリジン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8-ナフチリジン、およびプテリジンが挙げられる。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、チエニル、チアジアゾリル、またはフリルである。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、環内に0~4個のN原子を含む。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、環内に1~4個のN原子を含む。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、環内に0~4個のN原子、0~1個のO原子、および0~1個のS原子を含む。いくつかの態様では、ヘテロアリールは、環内に1~4個のN原子、0~1個のO原子、および0~1個のS原子を含む。
【0101】
用語「置換されていてもよい」または「置換された」は、参照される基が、以下から個別にかつ独立して選択される1個または複数の追加の基で置換され得ることを意味する:アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、-OH、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホキシド、アリールスルホキシド、アルキルスルホン、アリールスルホン、-CN、アルキン、C1~C6アルキルアルキン、ハロゲン、アシル、アシルオキシ、-CO2H、-CO2アルキル、ニトロ、およびアミノ、例えば、一置換および二置換アミノ基(例:-NH2、-NHR、-N(R)2)、ならびにそれらの保護された誘導体。いくつかの態様では、任意の置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シクロアルキル、ハロゲン、-CN、-NH2、-NH(CH3)、-N(CH3)2、-OH、-CO2H、および-CO2アルキルから独立して選択される。いくつかの態様では、任意の置換基は、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、-CH3、-CH2CH3、-CF3、-OCH3、および-OCF3から独立して選択される。いくつかの態様では、任意の置換基は、フルオロ、クロロ、-CH3、-CF3、-OCH3、および-OCF3から独立して選択される。いくつかの態様では、置換された基は、前述の基の1個または2個で置換されている。いくつかの態様では、脂肪族炭素原子(芳香族炭素原子を除く、非環式または環式の飽和もしくは不飽和炭素原子)上の任意の置換基には、オキソ(=O)が含まれる。
【0102】
「互変異性体」とは、ある分子の1つの原子から同じ分子の別の原子にプロトンが移動することを指す。本明細書に示される化合物は、互変異性体として存在し得る。互変異性体は、単結合と隣接二重結合の入れ替えを伴う水素原子の移動によって相互に変換可能な化合物である。互変異性化が可能な結合配置では、互変異性体の化学平衡が存在する。本明細書に開示される化合物の全ての互変異性体が企図される。互変異性体の正確な比率は、温度、溶媒、pHなど、いくつかの要因に依存する。互変異性体の相互変換のいくつかの例として、
が含まれる。
【0103】
本明細書で使用される「共投与」または同様の用語は、選択された複数の治療用物質の単一患者への投与を包含することを意味し、同じまたは異なる投与経路により同じまたは異なる時間に前記物質が投与される治療レジメンを含むことを意図している。
【0104】
本明細書で使用される「有効量」または「治療有効量」という用語は、治療すべき疾患または状態の1つまたは複数の症状をある程度緩和するのに十分な、投与される作用物質または化合物の量を指す。その結果は、疾患の兆候、症状、もしくは原因の軽減および/または緩和、あるいは生体系の他の所望の変化であり得る。例えば、治療に使用するための「有効量」は、疾患症状の臨床的に有意な軽減をもたらすために必要とされる、本明細書に開示される化合物を含む組成物の量である。個々のケースにおける適切な「有効」量は、用量漸増試験などの手法を用いて決定することができる。
【0105】
特に明記しない限り、本出願で使用される以下の用語は、以下に示す定義を有する。用語「含む(including)」ならびに「含む(include)」、「含む(includes)」、「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的なものではない。本明細書で使用されるセクションの見出しは、組織的な目的のためだけであり、記載された主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0106】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」とは、ブロックコポリマーの生物学的活性または特性を損なわず、比較的無毒である、担体または希釈剤などの材料を意味し、すなわち、前記材料は、望ましくない生物学的作用を引き起こすことなく、またはそれが含まれる組成物の成分のいずれとも有害な方法で相互作用することなく、個体に投与されるものである。
【0107】
「薬学的に許容される塩」という用語は、治療上活性な作用物質のカチオン形態と適切なアニオンとの組み合わせ、または治療上活性な作用物質のアニオン形態と適切なカチオンとの組み合わせからなる、治療上活性な作用物質の形態を指す。Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use. International Union of Pure and Applied Chemistry, Wiley-VCH 2002;S.M. Berge, L.D. Bighley, D.C. Monkhouse, J. Pharm. Sci. 1977, 66, 1-19;P.H. Stahl and C.G. Wermuth編, Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zuerich:Wiley-VCH/VHCA, 2002。薬学的な塩は、一般に、非イオン種よりも溶解性が高く、胃液と腸液に速やかに溶解するため、固体剤形において有用である。さらに、それらの溶解性は多くの場合pHの関数であるため、消化管のいずれかの部分での選択的溶解が可能であり、この能力は遅延放出および持続放出挙動の一側面として操作され得る。また、塩形成分子は中性形態と平衡状態にあり得るので、生体膜の通過を調整することが可能である。
【0108】
いくつかの態様では、薬学的に許容される塩は、ブロックコポリマーを酸と反応させることによって得られる。いくつかの態様では、式(I)のブロックコポリマー(すなわち、遊離塩基形態)は塩基性であり、有機酸または無機酸と反応する。無機酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、およびメタリン酸が含まれるが、これらに限定されない。有機酸には、以下が含まれるが、これらに限定されない:1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸;2,2-ジクロロ酢酸;2-ヒドロキシエタンスルホン酸;2-オキソグルタル酸;4-アセトアミド安息香酸;4-アミノサリチル酸;酢酸;アジピン酸;アスコルビン酸(L);アスパラギン酸(L);ベンゼンスルホン酸;安息香酸;ショウノウ酸(+);カンファー-10-スルホン酸(+);カプリン酸(デカン酸);カプロン酸(ヘキサン酸);カプリル酸(オクタン酸);炭酸;ケイ皮酸;クエン酸;シクラミン酸;ドデシル硫酸;エタン-1,2-ジスルホン酸;エタンスルホン酸;ギ酸;フマル酸;ガラクタル酸;ゲンチジン酸;グルコヘプトン酸(D);グルコン酸(D);グルクロン酸(D);グルタミン酸;グルタル酸;グリセロリン酸;グリコール酸;馬尿酸;イソ酪酸;乳酸(DL);ラクトビオン酸;ラウリン酸;マレイン酸;リンゴ酸(-L);マロン酸;マンデル酸(DL);メタンスルホン酸;ナフタレン-1,5-ジスルホン酸;ナフタレン-2-スルホン酸;ニコチン酸;オレイン酸;シュウ酸;パルミチン酸;パモ酸;リン酸;プロピオン酸;ピログルタミン酸(-L);サリチル酸;セバシン酸;ステアリン酸;コハク酸;硫酸;酒石酸(+L);チオシアン酸;トルエンスルホン酸(p);およびウンデシレン酸。
【0109】
いくつかの態様では、式(I)のブロックコポリマーは、塩化物塩、硫酸塩、臭化物塩、メシル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩として調製される。
【0110】
いくつかの態様では、薬学的に許容される塩は、式(I)のブロックコポリマーを塩基と反応させることによって得られる。いくつかの態様では、式(I)のブロックコポリマーは酸性であり、塩基と反応する。このような状況において、式(I)のブロックコポリマーの酸性プロトンは、金属イオン、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、またはアルミニウムイオンで置き換えられる。場合によっては、本明細書に記載のブロックコポリマーは、有機塩基、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、メグルミン、N-メチルグルカミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミンなどであるがこれらに限定されない塩基と配位結合する。他の場合では、本明細書に記載のブロックコポリマーは、アルギニン、リジンなどであるがこれらに限定されないアミノ酸と塩を形成する。酸性プロトンを含むブロックコポリマーと塩を形成するために使用される許容可能な無機塩基には、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、本明細書で提供されるブロックコポリマーは、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、メラミン塩、N-メチルグルカミン塩、またはアンモニウム塩として調製される。
【0111】
薬学的に許容される塩への言及には、溶媒付加形態が含まれることを理解すべきである。いくつかの態様では、溶媒和物は、化学量論的量または非化学量論的量の溶媒を含み、水、エタノールなどの薬学的に許容される溶媒を用いた結晶化プロセスの間に形成される。溶媒が水である場合は水和物が形成され、溶媒がアルコールである場合はアルコラートが形成される。本明細書に記載の化合物の溶媒和物は、本明細書に記載のプロセスの間に都合よく調製または形成される。さらに、本明細書で提供される化合物は、任意で、溶媒和形態だけでなく、非溶媒和形態でも存在しうる。
【0112】
本明細書に記載の方法および製剤は、式(I)の構造を有するブロックコポリマーのN-オキシド(適切な場合)または薬学的に許容される塩、ならびに同じタイプの活性を有するこれらの化合物の活性代謝産物の使用を含む。
【0113】
別の態様では、本明細書に記載の化合物は、同位体的に(例えば、放射性同位体により)標識されるか、発色団もしくは蛍光部分、生物発光標識、または化学発光標識の使用を含むがこれらに限定されない、他の手段によって標識される。
【0114】
本明細書に記載の化合物には、同位体で標識された化合物が含まれ;これらは、1個または複数の原子が、自然界で通常見られる原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子によって置き換えられているという事実を別にすれば、本明細書に提示された様々な式および構造で示されるものと同一である。本化合物に組み込むことができる同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄、フッ素、塩素、ヨウ素、リンの同位体、例えば、2H、3H、13C、14C、15N、18O、17O、35S、18F、36Cl、123I、124I、125I、131I、32P、33Pなどが含まれる。一局面では、本明細書に記載の同位体標識化合物、例えば3H、14Cなどの放射性同位体が組み込まれた化合物は、薬物および/または基質の組織分布アッセイにおいて有用である。一局面では、重水素のような同位体による置換は、例えば、インビボ半減期の増加または投与量要件の減少など、より高い代謝安定性から生じる特定の治療上の利点をもたらす。
【0115】
本明細書で使用される「pH応答系」、「pH応答性組成物」、「ミセル」、「pH応答性ミセル」、「pH感受性ミセル」、「pH活性化可能ミセル」および「pH活性化可能ミセル(pHAM)ナノ粒子」は、pHに応じて(例えば、あるpHより上または下で)解離する、1つまたは複数の化合物を含むミセルを示すために、本明細書で交換可能に使用される。非限定的な例として、あるpHでは、式(I)のブロックコポリマーは、実質的にミセルの形態である。pHが変化する(例えば、低下する)と、ミセルが解離し始め、pHがさらに変化する(例えば、さらに低下する)と、式(I)のブロックコポリマーは実質的に解離(非ミセル)形態で存在する。
【0116】
本明細書で使用される「pH遷移域」は、ミセルが解離するpH範囲を示す。
【0117】
本明細書で使用される「pH遷移値」(pH)は、ミセルの半分が解離されるpHを示す。
【0118】
本明細書で使用される用語「投与する(administer)」、「投与する(administering)」、「投与(administration)」など)は、所望の生物学的作用部位への化合物または組成物の送達を可能にするために使用され得る方法を指す。これらの方法には、経口経路、十二指腸内経路、非経口注射(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、腫瘍内、または点滴を含む)、局所、および直腸投与が含まれるが、これらに限定されない。当業者は、本明細書に記載の化合物および方法と共に採用できる投与技術について精通している。いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物および組成物は、経口的に投与される。いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物は、静脈内に投与される。
【0119】
本明細書で使用される「共投与」または同様の用語は、選択された複数の治療用物質の単一患者への投与を包含することを意味し、前記物質が同じまたは異なる投与経路により同じまたは異なる時間に投与される治療レジメンを含むことを意図している。
【0120】
本明細書で使用される用語「有効量」または「治療有効量」は、治療すべき疾患または状態の1つまたは複数の症状をある程度緩和するのに十分な、投与される作用物質または化合物の量を指す。その結果には、疾患の兆候、症状、もしくは原因の軽減および/または緩和、あるいは生体系の他の所望の変化が含まれる。例えば、治療に使用するための「有効量」は、疾患症状の臨床的に有意な軽減をもたらすために必要とされる、本明細書に開示される化合物を含む組成物の量である。個々のケースにおける適切な「有効」量は、用量漸増試験などの手法を用いて、任意に決定される。
【0121】
本明細書で使用される用語「増強する(enhance)」または「増強する(enhancing)」)とは、所望の効果を効力または持続時間のいずれかの点で増加または延長させることを意味する。したがって、治療用物質の効果を増強することに関して、用語「増強する」は、ある系に対する他の治療用物質の効果を、効力または持続時間のいずれかの点で、増加または延長させる能力を指す。本明細書で使用される「増強有効量とは、所望の系において別の治療用物質の効果を増強するのに十分な量を指す。
【0122】
「対象」または「患者」という用語は、哺乳類を包含する。哺乳類の例には、哺乳綱クラスの任意のメンバー、すなわち、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、他の類人猿およびサル種;家畜、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;家庭用動物、例えば、ウサギ、イヌ、ネコ;実験動物、例えば、ラット、マウス、モルモットなどの齧歯類が含まれるが、これらに限定されない。一局面では、哺乳類はヒトである。
【0123】
本明細書で使用される用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、または「治療(treatment)」)とは、予防的および/または治療的に、疾患もしくは状態の少なくとも1つの症状を緩和、軽減または改善すること、さらなる症状を予防すること、疾患もしくは状態を抑制すること、例えば、疾患もしくは状態の発症を阻止すること、疾患もしくは状態を和らげること、疾患もしくは状態の退行を引き起こすこと、疾患もしくは状態に起因する病状を和らげること、または疾患もしくは状態の症状を止めることが含まれる。
【0124】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、選択肢みを指すことが明示的に示されない限り、または選択肢が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示では、選択肢のみと「および/または」を指す定義が支持される。本出願を通じて、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために採用される装置または方法についての誤差の標準偏差を含む、ことを示すために使用される。長年にわたる特許法に従って、「1つの(a)」および「1つの(an)」という語は、特に明記しない限り、特許請求の範囲または明細書で「含む(comprising)」という語と組み合わせて使用される場合、1つまたは複数を意味する。
【実施例】
【0125】
本明細書に記載のブロックコポリマーおよびミセルは、標準的な合成技術を用いて、または当技術分野で知られた方法を用いて合成される。
【0126】
特に指示しない限り、質量分析、NMR、HPLC、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術、および薬理学の従来の方法が採用される。
【0127】
ブロックコポリマーは、例えば、March's Advanced Organic Chemistry, 第6版, John Wiley and Sons, Inc.に記載されるような、標準的な有機化学技術を用いて調製される。
【0128】
本明細書で使用されるいくつかの略語は、以下のとおりである。
DCM: ジクロロメタン
DMAP: 4-ジメチルアミノピリジン
DMF: ジメチルホルムアミド
DMF-DMA: N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール
EDCI: 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
EtOAc: 酢酸エチル
EtOH: エタノール
MeOH: メタノール
PMDETA: N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン
CDI: カルボニルジイミダゾール
TEA: トリエチルアミン
Hr 時間
ISR サンプルの再分析(incurred sample reanalysis)
IV 静脈内
kg キログラム
mg ミリグラム
mL ミリリットル
μg マイクログラム
μm ミクロン
NC 算出されない(not calculated)
NR 報告されない(not reported)
【0129】
適切なPEGポリマーは、購入することもできる(例えば、Sigma Aldrich社から)か、または当技術分野で知られた方法に従って合成することもできる。いくつかの態様では、親水性ポリマーを疎水性モノマーの重合のための開始剤として使用して、ブロックコポリマーを形成することができる。例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー(例えば、狭い分布のMPCポリマー)は、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸エチル(例えば、Sigma Aldrich社製)などの市販の低分子開始剤を用いる原子移動ラジカル重合(ATRP)により調製され得る。得られたこれらのMPCポリマーを高分子ATRP開始剤として使用し、他のモノマーとさらに共重合させてブロックポリマーを形成することができ、原子移動ラジカル重合(ATRP)法または可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)法を用いて合成され得る。
【0130】
実施例1:合成および特性評価
ポリマーの合成:2-ヘキサメチレンイミノエチルメタクリレート(C7A-MA)、2-(4-メチルピペリジニレンイミノ)エチルメタクリレート(C6S1A-MA)、2-ヘプタメチレンイミノエチルメタクリレート(C8A-MA)、2-ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート(DPA-MA)、および2-エチルプロピルアミノエチルメタクリレート(EPA-MA)を含むモノマー類を合成した。原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いてPEG-b-PRコポリマーを合成した。70の繰り返し単位を持つポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(2-ヘキサメチレンイミノエチルメタクリレート)、PC7A(70)を、この手順を説明するための例として使用する。まず、C7A-MA(1.5g, 7mmol)、MeO-PEG114-Br(0.5g, 0.1mmol, Sigma Aldrich社)、およびPMDETA(21μL, 0.1mmol, Sigma Aldrich社)を、シュレンクフラスコ(Schlenk flask)内で2-プロパノール(2mL)とジメチルホルムアミド(2mL)の混合液に溶解した。酸素を3サイクルの凍結-ポンプ-融解により除去し、CuBr(14mg, 0.1mmol, Alfa Aesar社)を窒素保護下に添加した。重合を40℃で一晩、真空内において行った。重合後、反応混合物をテトラヒドロフラン(10mL)で希釈し、中性Al2O3カラムに通して触媒を除去した。有機溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。残渣を蒸留水で透析し、凍結乾燥して白色粉末を得た。合成後、この生成物を1H NMRとゲル浸透クロマトグラフィーにより特性評価した。PC6S1A、PC8A、PDPA、およびPEPAを含む他の4つのポリマーはいずれも、70の繰り返し単位を持つように合成した。異なる繰り返し単位を持つPC7Aポリマーは、MeO-PEG114-Br開始剤に対するC7A-MAモノマーの初期比率を調整することによって合成した。
【0131】
色素を結合させたコポリマーも同様の手順に従って合成した。第一級アミノ基(アミノエチルメタクリレートまたはAMA-MA,Polysciences社)を、AMA-MAモノマーと開始剤の供給比率(3:1)を制御することにより、各ポリマー鎖に導入した。合成後、PEG-b-(PR-r-AMA)をジメチルホルムアミドに溶解し、色素-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(第一級アミノ基に対して3モル当量,Lumiprobe社)を添加した。一晩反応させた後、コポリマーを超遠心分離(MW=10kDカットオフ)により3回精製して、遊離の色素分子を除去した。この生成物を凍結乾燥し、-80℃で保存した。
【0132】
ミセルナノ粒子の調製:細胞試験用のミセルナノ粒子を溶媒蒸発法に従って調製した。簡単に説明すると、まずポリマー(4mg)をメタノール(0.4mL)に溶解し、次に超音波処理下で蒸留水(3.6mL)中に滴下して加えた。新鮮な蒸留水を用いた3回の限外ろ過(MW=100kDカットオフ)によりメタノールを除去した。無菌PBSを添加し、濃度を200μMに調整してストック溶液とした。
【0133】
cGAMP負荷ナノ粒子は、pH4の5%D-グルコースを含むPC7Aポリマー溶液中で2'3'-cGAMPを混合し、その後NaOHを用いてpH7.4に調整することにより調製した。ミセル形成後、ナノ粒子を動的光散乱法で分析し、サイズとサイズ分布を測定した。cGAMP負荷効率(>90%)をHPLCで定量化した。
【0134】
組換えSTINGタンパク質の発現、精製、および標識化:pET-SUMOベクター(UT SouthwesternのZ. J. Chen博士より提供)にコードされたHis6タグを含むヒトSTING C末端ドメイン(CTD、139~379間のアミノ酸配列)プラスミドをテンプレートとして使用し、Q5部位特異的変異導入キット(NEB社)を用いてE296A/D297A、D319A/D320A、およびE336A/E337A/E339A/E340A変異体を作製した。WTまたは変異型タンパク質の過剰発現を、大腸菌(E.coli)BL21/pLys株において、0.8mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)を用いて16℃で18時間誘導した。細菌細胞を回収し、懸濁させ(50mM Tris-Cl, 300mM NaCl, 20mMイミダゾール, pH8.0)、氷上で超音波処理を行って破砕した。細胞デブリを、20,000g、4℃で1時間遠心分離して除去した。上清をNi2+-ニトリロ三酢酸アフィニティー樹脂(Ni-NTA,QIAGEN社)にロードした。4℃で4時間インキュベートした後、樹脂を洗浄バッファー(50mM Tris-Cl, 1M NaCl, 20mMイミダゾール, pH8.0)で3回すすいだ。その後、ULP1 SUMOプロテアーゼを用いてタンパク質を4℃で一晩消化することにより、SUMOタグを除去した。タンパク質を溶出バッファー(20mM Tris-Cl, 50mM NaCl, 20mMイミダゾール, pH7.5)で溶出した。続いて、溶出したタンパク質をSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにかけ、画分を回収して濃縮し、25mM HEPESおよび150mM NaClを含むバッファー(pH7.5)に対して透析した。色素の結合のために、タンパク質溶液をNaHCO3(pH8.4)中でCy5-NHSと4℃で一晩混合した。遊離の色素分子を脱塩カラム(7K, Thermo Scientific社)により除去した。色素標識したタンパク質を回収し、濃縮して、相分離試験に使用した。
【0135】
等温滴定型カロリメトリー(ITC):MicroCal VP-ITCを使用して、タンパク質とポリマーとの結合親和性を測定した。STINGダイマーの濃度を12.5μMに、PC7A(70)を10μMに保持した。滴定は、25mM HEPESと150mM NaClを含むバッファー(pH6.5)中で20℃にて行った。29回のインジェクションを3分の時間間隔で行った。滴定トレースをNITPICにより積分し、曲線をSEDFITによりフィッティングし、GUSSIソフトウェア(http://biophysics.swmed.edu/MBR/software.html)を用いて図を作成した。
【0136】
ナイルレッドアッセイ:ナイルレッド(Nile Red)アッセイは、タンパク質-タンパク質の相互作用およびタンパク質構造の中断(interruption)を研究するために使用される。簡単に説明すると、ナイルレッド(最終濃度5μM,Thermo Scientific社)、STINGダイマー(2.1μM)、およびPC7A(0、0.6、1.2、3、6、または12μM)を4時間混合した。それらの最大励起波長と蛍光強度を蛍光分光光度計(日立F-7000モデル)で記録した。
【0137】
相凝縮アッセイ:野生型(WT)または変異型ヒトSTING CTD(Cy5標識済み)を、96ウェルガラスプレート(mPEG-シランでコーティング)において様々な繰り返し単位のPC7Aポリマーと25℃で混合した。4時間後、混合物を13,000gで5分間遠心分離し、上清を別のプレートに移した。上清の蛍光強度をプレートリーダー(CLARIOstar)で測定した。データは少なくとも3回の独立した測定を代表する。凝縮度(D)を以下の式:
で算出した。ここで、F
iは、特定のグループiの上清の蛍光強度であり、F
0は、PC7A添加なしの同濃度でのCy5-STING強度である。
【0138】
相可逆性(phase reversibility)アッセイでは、まずSTING CTD(Cy5標識済み)とPC7Aポリマーを混合した。凝縮体の形成後、その混合物をpH=6.5のHEPESバッファーで10倍に希釈し、プレートシェーカー上で24時間振とうした。上清の蛍光強度を測定し、可逆性(R)を以下の式:
で算出し、ここで、D
Riは、24時間の回復後の新しいDPS値であった。
【0139】
顕微鏡検査では、STINGタンパク質(Cy5標識済み)を、4ウェルガラスチャンバー(Thermo Scientific社,mPEG-シランでコーティング)においてPC7Aポリマーと25℃で混合し、Zeiss 700共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて4秒間隔で140秒の時間経過にわたって画像を取得した。サイズは、各凝縮体の最長軸と最短軸の平均として算出した。
【0140】
実施例2:動物および細胞
全ての動物は、特定病原体が存在しない条件下で動物施設に維持され、全ての動物処置は、倫理的コンプライアンスの下に行われた。UT Southwestern breeding coreから雌C57BL/6マウス(6~8週齢)を入手した。
【0141】
STING-GFP MEF、HEK293T(ATCC)、B16F10(ATCC)、MC38(ATCC)、TC-1は、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加した完全DMEM培地で培養した。THP-1細胞(ATCC)は、10%FBSと0.05mM β-メルカプトエタノール(β-ME)を添加したRPMI培地で培養した。全ての細胞を37℃、5%CO2で増殖させた。THP-1単球は、使用前にホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA,150nM,InvivoGen社)によりマクロファージに分化させた。
【0142】
細胞変異導入アッセイでは、GFPタグ付き全長WT STINGプラスミドをテンプレートとして使用し、E296A/D297A、D319A/D320A、およびE336A/E337A/E339A/E340A変異体を作製した。HEK293T細胞を、全長WTまたは変異型STING-GFPプラスミドを保有するリポフェクタミン2000(Invitrogen社)で24時間トランスフェクトし、使用前に12時間回復させた。WTまたはR232H THP-1レポーター細胞をInvitrogen社から購入した。R238A/Y240Aおよび単一または二重Q273A/A277Q Hela変異体をcGAMP抵抗性のSTING変異細胞として使用した。
【0143】
顕微鏡検査:細胞を4ウェルガラスチャンバーで培養し、示された時間にわたりcGAMPまたはPC7Aポリマーで処理した。STING分解アッセイでは、LysoTracker Red DND-99(Thermo Scientific社)を用いて、生細胞のリソソームを染色した。STINGトラフィッキング(輸送)アッセイでは、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いで透過処理して、免疫蛍光キット(Cell Signaling社)を用いてER(カルネキシン,Abcam社)、ERGIC(p58,Sigma Aldrich社)、ゴルジ体(GM130,BD Biosciences社)、またはp-TBK1(Ser 172,Cell Signaling社)について染色した。サンプルを、Dapi染色剤(Thermo Scientific社)を含むプロロングゴールド退色防止剤(prolong gold antifade)にマウントし、63×オイル対物レンズを備えたZeiss 700共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて画像化した。ImageJを使用して、ピアソンの相関係数により共局在を定量化した。データは、少なくとも20個の細胞を代表する。阻害剤アッセイでは、cGAMP/PC7Aの添加前に、細胞をブレフェルジンA(BFA,10μM,Selleckchem社)で1時間前処理した。
【0144】
光退色後蛍光回復(FRAP)実験:FRAP法は、生体高分子の拡散・交換特性を測定するための汎用性の高いツールである。インビトロおよび細胞内の両FRAP実験は、Zeiss 700共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて25℃で行った。典型的な手順では、凝縮部の直径2μmのスポットを、633nmレーザーを用いて5秒間、100%レーザー出力により光退色させた。画像を、4秒間隔で150秒の時間経過にわたって取得した。関心領域(region of interest:ROI)の蛍光強度を、退色されてない対照領域で補正し、次にROIの事前に退色された強度に対して正規化した。サンプルあたり少なくとも5つのROIを測定した。退色されたスポットの平均強度は、単一指数関数型モデルに適合した。
【0145】
ウェスタンブロット分析:全ての溶液はBio-Rad社から購入し、STING、p-STING(S366)、p-TBK1(Ser 172)、およびp-IRF3(Ser 369)に対する抗体はCell Signaling社から入手した。簡単に説明すると、細胞をSDSサンプルバッファー(プロテアーゼとホスファターゼの阻害剤カクテルを含む)中で溶解し、加熱して変性させた。上清を4~15%Mini-PROTEANゲル(Bio-Rad社)にロードし、50Vで20分、続いて100Vで60分泳動した。電気泳動転写は100Vで60分、氷上で行った。転写後、メンブレンを5%無脂肪乳またはBSA(リン酸化タンパク質)中室温で1時間ブロックし、一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。HRP結合二次抗体(Bio-Rad社)を室温で1時間使用し、その後X線フィルム(GE Healthcare社)で検出した。メンブレンをストリッピングバッファー中で30分間ストリッピングし、β-アクチン(Sigma Aldrich社)の検出のために再利用した。
【0146】
RT-qPCR:RNeasy miniキット(QIAGEN社)を用いて、トータルRNAを細胞またはヒト組織から抽出した。NanoDrop(DeNovix DS-11)を用いてRNAの量と質を確認した。ゲノムDNAを除去し、iScript(商標)gDNA clear cDNA合成キット(Bio-Rad社)を用いてcDNAを合成した。PCR解析には、Bio-Rad社のSoAdvanced(商標)universal SYBR green supermixとCFX connectリアルタイムシステムを使用した。結果は、β-アクチンまたはGAPDHで補正した。DNAプライマーを以下に示す:
。
【0147】
実施例3:腫瘍担持マウスにおけるSTING活性化の評価
マウスの右脇腹にB16F10メラノーマ細胞(1.0×105個)またはTC-1細胞(1.0×105個)を皮下接種した。腫瘍サイズが100±20mm3に達した時点で、異なる薬剤(50μLの5%グルコース、50μgのPC7Aポリマー、0.5μgもしくは2.5μgのcGAMP、または50μgのPC7Aナノ粒子内に2.5μgのcGAMPを含む製剤、各群n=6)の腫瘍内注射を行った。注射後1日目にマウスを安楽死させ、腫瘍と流入領域リンパ節を採取した。トータルRNAをTRIzol(Invitrogen社)により抽出し、インターフェロン刺激遺伝子(interferon-stimulated gene)(ifn-β、cxcl10、tnf-α、およびirf7)の発現をRT-qPCRにより測定した。
【0148】
腫瘍治療実験:マウスの右脇腹にMC38細胞(1.0×106個)またはTC-1細胞(1.0×105個)を皮下接種した。腫瘍サイズをデジタルキャリパーで1日おきに測定し、腫瘍体積を0.5×長さ×幅2として算出した。約50mm3のサイズに達した時点で、異なるSTINGアゴニスト(50μLの5%グルコース、50μgのPC7Aポリマー、2.5μgのcGAMP、または50μgのPC7Aナノ粒子内の2.5μgのcGAMP)を腫瘍に注射し、一部のグループには、比較または相乗効果評価のために200μgのチェックポイント阻害剤(抗mPD-1,BioXcell社,BE0146)を腹腔内注射した。マウスには、4日間隔の治療により、MC38モデルでは3回、TC-1モデルでは4回注射した。マウスは、2,000mm3の腫瘍量(tumor burden)のエンドポイントで安楽死させた。
【0149】
切除したヒト組織におけるSTING活性化の評価:患者は、UT Southwestern Institutional Review Boardにより承認された研究に生物検体を使用することに同意した。切除したばかりのヒト組織(舌根部の扁平上皮癌、子宮頸部腫瘍組織、およびセンチネルリンパ節)を洗い、外科用メスを用いていくつかの切片(1~5mm3)に分割した;続いて、切除後30分以内に5%グルコース対照、遊離cGAMP(80ng)、PC7Aポリマー(50μg)、またはcGAMP負荷PC7Aナノ粒子(50μgのPC7Aナノ粒子内の80ngのcGAMP)を5%グルコース溶液で複数部位に注射した。各切片は、24ウェルプレートで0.5mLのRPMI 1640培地(10%熱不活性化ヒト血清、1%インスリン-トランスフェリン-セレン、1%グルタマックス(glutamax)、および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加)を用いて24時間培養した。RNAを分離し、RT-qPCRを以前に記載されたように実施した。CD45選択では、腫瘍組織をまず1mg/mLのコラゲナーゼIVと0.2mg/mLのDNase I(Sigma Aldrich社)で37℃、45分間消化し、次に70μmナイロン製セルストレーナーを通過させて単一細胞を得た。RT-qPCR解析の前に、CD45+白血球およびCD45-細胞集団を、CD45 TILマイクロビーズとMSカラム(Miltenyi Biotec社)をメーカーの指示に従って用いて、磁気分離により収集した。
【0150】
実施例4:STINGを伴うPC7Aの結果
PC7AポリマーはcGAMPとは異なる時空間的プロファイルでSTINGを活性化する:PC7Aにより誘導されるSTING活性化がcGAMPとどのように異なるかを理解するために、処理に応答した生細胞におけるGFP標識STINGの細胞内分布および下流シグナルを調べた。PC7Aにより誘導されるSTINGの点状体形成と成熟の時間的プロファイルは、cGAMPにより誘導されるものとは異なる。cGAMPで刺激されると、STINGの点状体形成が急速に起こり、刺激後6時間ほどでピークに達する強い免疫応答が生じ、その後、急速に分解されて、免疫サイレンスが続く(
図1a~c)。対照的に、PC7Aは長く続くSTING活性化プロファイルを生じ、48時間にわたってインターフェロン刺激遺伝子(ifn-βおよびcxcl10)の発現が持続する。STINGの分解はPC7A刺激後に遅延されており、これは、STING点状体とリソソームの融合が48時間後でも限定的であることにより示される(
図1dおよび
図7c)。STING分解の遅延の同様の効果は、リソソームの酸性化をブロックする液胞H
+ ATPase阻害剤であるバフィロマイシンA1(Baf A1)とプレインキュベートしたcGAMP処理細胞において観察され、また、cGAMPとPC7Aの組み合わせで処理した細胞においても観察された(
図7d,e)。全体として、これらのデータは、PC7Aのエンド-リソソームpH緩衝能がSTING分解の遅れに関与している可能性があることを示唆している。
【0151】
点状体形成のサイズと速度に違いはあるものの、cGAMPまたはPC7A処理から生じた細胞内STINGフォーカスは、小胞体(ER)からER-ゴルジ体中間区画(ERGIC)およびゴルジ装置への同様の移行経過をたどる(
図1eおよび
図8a)。輸送中に、STINGはクラスターを形成し、TANK結合キナーゼ1(TBK1)とインターフェロン調節因子3(IRF3)をリン酸化する(
図1f);これにより、I型IFNの下流産生が開始される。ERとゴルジ体間のタンパク質輸送をブロックするブレフェルジンA(BFA)の存在下では、cGAMPとPC7Aはいずれも、p-TBK1/p-IRF3の産生および炎症性サイトカインの発現を開始させることができない(
図1fおよび
図8b~d)。
【0152】
PC7AはSTINGに結合して生体分子凝縮体を形成する:PC7Aを介したSTINGのクラスタリングと活性化の生物物理学的メカニズムを調べるため、PC7AとSTING(ヒトAA137~379、C末端ドメイン)の間の結合親和性を等温カロリメトリー(ITC)により測定した。STINGはPC7Aには強く結合するが(見かけK
d=72nM)、PEPAなどの同じ骨格を持つ他のポリマーには弱く結合する(見かけK
d=671nM,
図9a~c)。特に、環状側鎖を持つポリマーは、線状アナログよりもSTINGに対して高い親和性を示し、PC7Aの7員環が最強の結合を引き出す。PC7AがインビトロでSTINGのクラスタリングを誘導するのに十分であるかを調べるために、シアニン5(Cy5)標識したSTING CTDダイマーをPC7AまたはPEPAとpH6.5でインキュベートした(P7CAとPEPAは両方とも見かけpKaが6.9であり、pH6.5ではカチオン性ユニマーとしてとどまる)。PEPAは、STINGとの結合親和性が低いため、陰性対照として使用した。Cy5-STINGとPC7Aを混合すると、液滴が数分内に観察され、時間の経過とともに成長し、4時間後にはSTINGタンパク質の約85%が凝縮体中に存在していた(
図2a,b)。Cy5-STINGをアミノメチルクマリン酢酸(AMCA)で標識したPC7Aとインキュベートすると、PC7AとSTINGとの点状体の共局在が確認される(
図2b)。同様の凝縮体がPC7Aインキュベーション後のGFP-STING発現細胞の溶解液にも観察された(
図9d)。生体分子凝縮体は、ナイルレッド(Nile-Red)アッセイで蛍光強度の増加と最大発光波長の赤方偏移によって示されるように、疎水性である(
図9e)。さらに、GFP-STINGからテトラメチルローダミン(TMR)-PC7Aへの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により、ヒトSTINGを過剰発現するマウス胚性線維芽細胞(MEF)においてPC7AとSTINGからなる生体分子凝集体の形成が確認される(
図2c)。また、この高分子クラスターには、下流のタンパク質産物であるp-TBK1も見出された(
図2d)。一方、これらの研究でPEPAを使用した場合には、明らかなSTINGの凝縮または活性化が観察されなかった(
図2および
図9d)。pH7.4では、PC7AポリマーのpKa(6.9)を超えるそのミセル形成とPEG遮蔽により、PC7A-STING凝縮体はほとんど形成されなかった(
図9f)。エンドサイトーシス後、PC7Aミセルはエンドソーム成熟中にカチオン性ユニマーに解離し、エンドソーム脱出と、サイトゾルSTINGの凝縮および活性化が可能になる。いったんPC7AユニマーがSTINGと結合して凝縮体になると、そのポリマーはもはやミセルを形成できなくなり、点状形成のpH依存性を示さなくなる(
図9f)。
【0153】
PC7Aは多価相互作用を介してSTINGの活性化を誘導する:cGAMP結合時のSTINGのオリゴマー化は、下流のTBK1およびIRF3タンパク質の動員と活性化に関与している。PC7Aポリマーは、超分子足場(supramolecular scaffold)として作用することができ、活性化に向けてSTING分子のマルチマー(多量体)を形成するための多価相互作用に直接関わっている可能性がある(
図3a)。この考えを検証するために、STINGタンパク質をFRETペア(TMRとCy5)で標識し、異なって標識された2つのタンパク質を1:1の比率で混合した。PC7Aを添加すると、TMRからCy5への強力なエネルギー移動が観察され(
図10a)、これはPC7Aへの多価結合後のSTINGダイマーの近接近(close proximity)を示している。STING-PC7A凝縮体の光退色後蛍光回復(FRAP)実験により、PC7AポリマーとSTINGタンパク質はどちらも周囲の分子と交換可能であるが、PC7AはSTINGよりも遅い回復速度を示すことが明らかになった(
図3bおよび
図10b,c)。
【0154】
結合価(binding valence)の影響を調べるために、繰り返し単位数が増加する一連のPC7Aポリマーを合成した。PC7A(n)は、C7Aメタクリレートモノマーの繰り返し単位がn個であるポリマーを指す。次に、長さが増加するPC7Aを濃度行列下でSTINGダイマーとインビトロでインキュベートして、相図を作成した;これは、凝縮には最低20個の繰り返し単位が必要であることを示している(
図3c)。PC7A(10)では相分離が観察されなかった。PC7Aのより高い重合度は、より大きな凝縮体をもたらした(
図3dおよび
図11a~c)。PC7A(110)の場合、STINGタンパク質の90%超が凝縮体に存在したのに対し、PC7A(20)を使用した場合は17%であった(
図11d)。重合度のより高いPC7Aは、より低い相可逆性と、光退色後のSTINGのより遅い回復速度を示した(
図11e,f)。生細胞での凝縮体形成とSTING活性化の関係を調べるため、処理済みのTHP1細胞を様々な長さのPC7Aで処理して、cxcl10のmRNA発現レベルを比較した。より長いポリマーはより高いcxcl10発現を誘導し、PC7Aの繰り返し単位70でピークレベルが観察された(
図3e)。鎖長のさらなる伸長(例えば、110)はcxcl10発現の低下につながったが、これはおそらく、過度の架橋と乏しい分子動力学を伴う特大の凝縮体の弱いシグナル伝達能力のためである。
【0155】
PC7AはcGAMP結合ポケットとは異なる表面部位に結合する:STING-PC7A凝縮体は、高濃度の塩または他のタンパク質の存在に敏感である。STING-PC7A凝縮体は生理学的NaCl濃度(150mM)で首尾よく形成されたが、塩濃度を600mMに上昇させた場合には、相分離が観察されなかった(
図12a,b)。STINGとPC7Aの混合物にウシ血清アルブミン(BSA)を添加すると、凝縮体の数とサイズが減少した(
図12c)。PC7Aにより誘導される凝縮体の特異性をさらに調べるため、STINGをCy5で標識し、BSAをホウ素-ジピロメテン(BODIPY)染料で標識した。PC7Aの存在下では、Cy5-STINGのみが凝縮体中に存在した一方で、BODIPY-BSAの大部分は排除された(
図12d)。対照として、BSA/PC7AまたはSTING/BSAの混合物は凝縮体を形成しなかった。
【0156】
PC7A-STING相互作用に対するpH(
図9f)と塩(
図12a,b)の影響および計算論モデリングに基づくと、STINGの負に帯電した表面部位がPC7Aの結合に関与しているようである。これを検証するために、α5-β5-α6領域のいくつかの負に帯電したアミノ酸をアラニンに置き換えたSTING変異体を構築し、それらのPC7A結合親和性、相凝縮、およびSTING活性化をインビトロと生細胞の両方において調べた。驚いたことに、α5ヘリックス上の2つの酸性残基の変異(E296A/D297A)は、ポリマー結合と生体分子凝縮を失わせるのに十分であったが、他の2つの変異体(D319A/D320AおよびE336A/E337A/E339A/E340A)の影響はわずかであった(
図4a,b)。その後、HEK293T細胞に変異型STINGプラスミドをトランスフェクトし、下流の活性化を測定した。PC7Aの結合および凝縮の消失と一致して、E296A/D297A変異体は、凝縮構造の形成と、細胞におけるTBK1リン酸化およびifn-β/cxcl10発現の誘導とを欠いていた(
図4cおよび
図13a,d)。その一方で、これらのSTING変異体は、cGAMPを介したSTING活性化に影響を与えなかった(
図13b,c)。まとめると、これらのデータは、cGAMP結合部位とは異なるSTINGのα5ヘリックス上のE
296D
297部位が、PC7Aの結合および活性化の誘導に関与していることを示唆している。
【0157】
内因性STINGアゴニスト(cGAMPまたは他のCDN)は、4本鎖の逆平行βシートのリップ(lip)で覆われたSTINGダイマー界面に結合する(ヒトAA219~249)。ヒト集団の約14%に見られる天然のSTINGバリアント(R232H)は、小分子STINGアゴニストに対する応答が低下している。PC7AはcGAMP結合ポケットとは異なるSTING部位に結合するため、STING R232Hバリアントを保有するTHP1細胞においてPC7Aの生物学的活性を検証した。これらの細胞では、cGAMP応答は予想どおり消失したが、PC7Aは依然としてIFN-β-Lucの発現を高めることができた(
図4d)。変異型Hela細胞(R238A/Y240AまたはQ273A/A277Q変異、それぞれ、cGAMP結合を消失させるか、またはcGAMP結合時のSTINGオリゴマー化を妨げる)での追加研究は、持続的なPC7A誘導STING活性化を示す一方で、cGAMPを介した効果は消失した(
図4e,fおよび
図13e~h)。まとめると、これらの結果は、PC7AがcGAMP非依存的メカニズムを介してSTINGを刺激することを実証している。
【0158】
PC7Aはインビボで抗腫瘍免疫応答を増強し、cGAMPと相乗的に作用する:PC7Aポリマーの抗腫瘍免疫性を皮下腫瘍(100±20mm
3)で評価した。B16-F10メラノーマ腫瘍モデルを保持するC57BL/6マウスを、PC7Aナノ粒子(50μg)または遊離cGAMP(低用量:0.5μg;高用量:2.5μg)の単回腫瘍内注射により処置し、24時間後にインターフェロン刺激遺伝子(ifn-β、cxcl10、tnf-α、およびirf7)の発現を測定した(
図14a)。予想どおり、遊離cGAMPは低用量で投与したときインターフェロン刺激遺伝子の発現を誘導できなかったが、PC7Aはその発現を5~30倍上昇させた。さらに、cGAMP負荷PC7Aナノ粒子(NP)を注入すると、ifn-βの発現が100倍近く増加し、STING活性化における相乗効果が示された。この効果は、PC7A NPによるcGAMPのサイトゾル送達だけでなく、細胞固有の非標準的(noncanonical)なメカニズムを介して媒介される可能性がある。重要なことは、PC7A NPおよびcGAMP負荷PC7A NPが、腫瘍においてだけでなく、流入領域リンパ節においてもロバストな免疫刺激をもたらしたことである(
図14b)。比較すると、高用量のcGAMPの腫瘍内注射後に腫瘍内の局所的STING活性化が見られたものの、流入領域リンパ節で検出されたSTING活性化はごくわずかであった。同様のSTING活性化効果は、ヒトパピローマウイルス(HPV)E6/7 TC-1腫瘍モデルにおいても観察された(
図14c,d)。
【0159】
動物腫瘍モデルで抗腫瘍効果を評価するため、皮下腫瘍の大きさが50mm
3に達した時点で、遊離cGAMP、PC7A NP、またはcGAMP負荷PC7A NPの腫瘍内注射を行った。TC-1腫瘍を担持するマウスには4回注射し(
図5a~c)、マウス結腸直腸MC38腫瘍を担持するマウスには3回注射した(
図5d~f)。5%グルコース溶液を注射したマウスを陰性対照として使用した(全ての処置群は5%グルコース溶液で調製した)。TC-1モデルでは、対照群の全マウスは26日以内に死亡した。cGAMPまたはPC7A単独は、それぞれ生存期間中央値を4日または8日延長し、軽度の免疫防御をもたらした。cGAMP負荷PC7A NP群は、強力な腫瘍増殖抑制および顕著な生存利益をもたらした。MC38腫瘍担持マウスでは、より良好な治療結果が観察され、cGAMP負荷PC7A NPで処置した7匹中4匹のマウスは80日後に腫瘍のない状態を維持した。
【0160】
以前の研究は、I型IFN産生の上昇と、PD-1
+細胞傷害性Tリンパ球の腫瘍浸潤の増加との関連性を示している。cGAMP負荷PC7A NPによるSTING活性化は、PD-1遮断と相乗的に作用する可能性がある。この組み合わせは著しく向上した有効性をもたらし、TC-1腫瘍を担持するマウスの50%以上が45日間にわたって生存した(
図15a~c)。cGAMP-PC7A NPと抗PD-1の併用療法は、MC38モデルにおいてさらに強力な防御効果をもたらし、100%のマウスが80日後に腫瘍のない状態を維持した(
図15d~f)。
【0161】
トランスレーショナル(橋渡し)の可能性を探るために、STING活性化をヒト組織において調べた。舌根部から新たに切除された扁平上皮癌、子宮頸部腫瘍組織、およびセンチネルリンパ節に、cGAMP、PC7A NP、またはcGAMP負荷PC7A NPを注射し、細胞培養培地中37℃で24時間インキュベートして、IFN関連遺伝子の発現を検出した。遊離cGAMPは、生物学的利用能が限られているため、対照と比べて、ifn-βおよびcxcl10のmRNA発現への影響はわずかであった。対照的に、PC7A NPは下流シグナルを5~20倍上昇させた。cGAMP負荷PC7A NPの場合には、全ての組織型においてサイトカイン発現の増加(100~200倍、
図6a~dおよび
図16)が観察された。腫瘍内のCD45
+骨髄系細胞集団は、PC7A NPおよびcGAMP負荷PC7A NP処理によって、CD45
-細胞よりも高いレベルのSTING活性化を示した(
図6e,f);これは、がん細胞ではなくて、白血球がナノ粒子によるSTING媒介性免疫調節の第一標的であることを示している。
【0162】
したがって、PC7AとcGAMPの腫瘍内注射は、予想外の相乗的な抗腫瘍効果をもたらすことが観察された。本発明者らは、PC7Aおよび類似のSTING活性化ポリマーを用いたcGAMPの送達は、腫瘍内注射の場合に最も効果的であると考えている。本発明者らは、STING活性化ポリマーを用いたcGAMPの送達を介して観察される相乗活性は、腫瘍に近接した皮下注射ではあまり顕著でなく、静脈内注射では存在しないことを観察した。したがって、PC7AなどのSTING活性化pH感受性ポリマーを、cGAMPなどの非ペプチドSTINGアゴニストと共に、腫瘍に近接して皮下または腫瘍内のいずれかに、投与することが開示される。
【0163】
本明細書に記載された実施例および態様は、例示のみを目的としたものであり、また、それらに照らして様々な修正または変更が当業者に示唆されることとなり、それらも本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲に含まれるべきであることが理解される。本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】