(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブによる酸の精製
(51)【国際特許分類】
C01B 32/17 20170101AFI20231026BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20231026BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20231026BHJP
【FI】
C01B32/17
C01B32/159
C01B32/174
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521095
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 US2021053319
(87)【国際公開番号】W WO2022076284
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512037705
【氏名又は名称】ナノ-シー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NANO-C, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】リッチ,メリッサ ジェイ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AA12
4G146AB06
4G146AD22
4G146AD23
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB21
4G146CB22
(57)【要約】
カーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブを含む分散液が提供される。カーボンナノチューブおよび精製されたカーボンナノチューブを含む分散液を処理する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を供すこと、
前記カーボンナノチューブ組成物を前処理剤と接触させて、前処理された組成物を供すこと、
前記前処理された組成物を、10%未満、任意に5%未満または1%未満の含水率まで乾燥させること、および
次いで、前記前処理された組成物を酸化剤、および任意に更なる前処理剤と接触させて、酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を供すこと
を含む、カーボンナノチューブを処理する方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理剤が、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1‐プロパンスルホン酸、ジクロロ酢酸、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、特に塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化ニッケル、リン酸カリウムの金属塩化物塩、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1または2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理剤がリン酸を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リン酸が約0.01M~10.9Mの間、任意に約3M~9Mの間の濃度を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化剤が、硝酸、過マンガン酸カリウム、三酸化クロム、過酸化水素、塩素酸カリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化剤が硝酸を含み、任意に硝酸濃度が約0.01M~11.7Mの間、または約0.3M~3Mの間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ組成物を、約10:1~約80:1のカーボンナノチューブに対する前処理剤の重量比で、前処理剤と接触させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前処理されたカーボンナノチューブを含む組成物を、約80℃~約200℃の温度で加熱することを更に含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化剤と接触する前に、前記前処理された組成物を約30℃~約170℃の温度で加熱することを更に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記不純物の少なくとも一部を前記ナノチューブ組成物から除去して、精製したカーボンナノチューブを供すことを更に含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を供すこと、
前記カーボンナノチューブ組成物を酸組成物と接触させること、
それによってカーボンナノチューブ間の分離距離を増加させること
を含み、
前記酸組成物がリン酸および硝酸を含む、カーボンナノチューブを処理する方法。
【請求項14】
カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を供すこと、
前記カーボンナノチューブ組成物を前処理剤と接触させて、前処理された組成物を供すこと、および
次いで、前記前処理された組成物を剥離液と接触させること
を含む、カーボンナノチューブを処理する方法。
【請求項15】
前記前処理剤が、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1‐プロパンスルホン酸、ジクロロ酢酸、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、特に塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化ニッケル、リン酸カリウムの金属塩化物塩、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記剥離液が、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n‐メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノール、ブタノール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、シレン、乳酸メチル、グリセリン、およびこれらの混合物から成る群から選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記不純物が、遷移金属触媒、グラファイトカーボン、アモルファスカーボンナノ粒子、フラーレン、カーボンアニオン、多環芳香族炭化水素、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
任意に、カーボンナノチューブが3%未満の硫黄を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法に従って製造されたカーボンナノチューブ。
【請求項19】
カーボンナノチューブが10%未満の金属不純物を含むか、または4%未満の金属不純物を含む、請求項18に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項20】
水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、n‐メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シレン、混合アルコール、ヘキサン、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、乳酸メチル、およびこれらの混合物からなる群から選択される溶媒中に分散された請求項18のカーボンナノチューブを含む、安定なカーボンナノチューブ分散液。
【請求項21】
カーボンナノチューブ含有量が550nmで0.01吸光度単位より大きい、請求項20に記載の安定なカーボンナノチューブ分散液。
【請求項22】
前記前処理剤がリン酸を含み、かつ前記酸化剤が硝酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を供すこと、
前記カーボンナノチューブ組成物を、リン酸と硝酸との組み合わせと接触させて、酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を供すこと
を含む、カーボンナノチューブを処理する方法。
【請求項24】
酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を銀インクと組み合わせることを更に含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2020年10月6日に出願された米国仮出願第63/088,355号の利益および優先権を主張し、その内容全体は参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本出願は、カーボンナノチューブの処理に関するものであり、特に、本出願は、カーボンナノチューブ、および改善された精製方法を利用するナノチューブインクに使用するための改善された特性および適合性を有するカーボンナノチューブを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ナノチューブは、球状のバッキーボール(またはバックミンスターフラーレン;buckyballs)も含むフラーレン構造ファミリーのメンバーであり、ナノチューブの端はバッキーボール構造の半球でキャップされていてもよい。ナノチューブの名前は、グラフェンと呼ばれる炭素の原子レベルの厚さのシートで壁が形成された、長い中空構造に由来している。このシートは、特定の不連続な(「キラル(chiral)」)角度で巻かれ、横揺れ角と半径の組み合わせによって、ナノチューブの特性(例えば、ナノチューブが金属としての挙動を示すか、または半導体としての挙動を示すか)が決定される。ナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)に分類される。単層カーボンナノチューブは、1枚の折り畳まれたグラフェンシートを含むが、多層カーボンナノチューブは、グラファイトの複数の巻き層(同心円状の管)を含む。
【0004】
単層カーボンナノチューブは、その特有の機械的、電気的、光学的特性によって特徴付けられる。個々の単層カーボンナノチューブの引張強度は30GPaをはるかに超えることができ、金属単層カーボンナノチューブロープの電気伝導度はほぼ106S/mである。単層カーボンナノチューブ分散液を付着して形成された単層カーボンナノチューブネットワークは、膜の平面に垂直な方向に可視光および赤外光を透過させることもできる。この特性は、単層カーボンナノチューブの極めて小さい直径(平均1.5nm未満)、および1000~1500の代表値を有する大きなアスペクト比(直径に対する長さの比)に起因している。そのため、透明な導電性ネットワークを形成することが可能である。このような特性が1つの材料に備わっていることから、電界効果トランジスタ、不揮発性メモリ、ディスプレイ、タッチスクリーン、電池電極、スーパーキャパシタ、濾過膜など、研究室で実証された多数の用途のための特徴的な候補となる。
【0005】
その形成後、このようなカーボンナノチューブ分散液は、他の材料、例えば、電気伝導性を高めることが意図されているポリマーの溶液と混合するか、ディップコーティングおよびスプレーコーティング、またはインクジェット印刷などの確立したコーティング技術を使用して基材上に付着させることができる。
【0006】
生成されたままの原料カーボンナノチューブのすすは、一般に、所望のカーボンナノチューブ製品とともに、遷移金属触媒、グラファイト(graphitic)カーボン、アモルファス(または非晶質)カーボンナノ粒子、フラーレンカーボンアニオン、多環芳香族炭化水素などの材料不純物(外部からの不純物)を含む。所与の原料中の電子不純物の性質および程度は、例えば、レーザー、アーク、高圧一酸化炭素転換(HiPco)、化学気相成長(CVD)、または燃焼などの合成方法に依存する可能性がある。
【0007】
既知の精製手順(またはプロトコル)は、一般に、予備酸化性酸還流、機械的混合、超音波処理、濾過、中和、遠心分離などの汎用体単位操作のステップを含む。適切な組み合わせを選択することは、カーボンナノチューブの製造方法と対象とする特定の不純物に依存する。触媒金属粒子、フラーレンカーボン、アモルファスカーボン、グラファイトカーボン、カーボンオニオンなどの外部からの不純物は、生成されたままの原料カーボンナノチューブ試料中に異なる程度で存在する。精製手順の一部として酸化的化学処理を行い、典型的な精製方法の一部として複数の酸処理を行うことにより、適度にクリーンなカーボンナノチューブ(金属残留物に対して0.5重量%未満)が得られる。しかし、積極的な化学精製により、導電性経路の損失を招き、単一チューブの電気伝導度の大幅な低下と、「van Hove」特異点から生じるバンド間光学遷移の排除につながる。従って、多くの用途、特に光学的および電気的特性の組み合わせを必要とする用途では、カーボンナノチューブの電子構造を実質的にそのまま保持することが、単層カーボンナノチューブインクの形成において重要な点である。
【0008】
特定の精製手順に従い、カーボンナノチューブは、硫酸と硝酸の組み合わせを使用して精製され、1つのステップで金属の除去と酸化が行われる。この方法は、高流動体含有量、高度にデバンドルされた(または束を解除された;debundled)安定した「ウェットペースト」を生成することができる。カーボンナノチューブの用途における実用的な利点および理論的な性能向上は、一般に、精製され、デバンドルされたカーボンナノチューブ材料が、デバイス/製品/方法の用途を通じてデバンドルされた状態に維持される場合に最も大きく実現する。
【0009】
残念ながら、方法における硫酸の存在は、精製されたナノチューブの潜在的な使用を妨害する可能性がある。例えば、硫酸は銀との相性が悪く、微量の硫黄でも銀を腐食/酸化させ、銀または銀ハイブリッド膜を使用不能にすることが知られているからである。従って、硫黄の存在を最小限に抑える新しいカーボンナノチューブ精製方法を開発することが望まれる。
【発明の概要】
【0010】
本願は、カーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブ精製方法、ならびにそのような改良された精製方法から得ることが可能な分散体およびインク前駆体ペーストに関する。特に、1つの実施形態における本願は、硫黄含有酸への依存を最小化するカーボンナノチューブ精製方法、およびこのような改善された精製方法から得ることが可能な分散体およびインク前駆体ペーストに関するものである。いくらかの態様に従って、本明細書中に記載の精製方法は、銀を含むインクおよび膜の調製に使用するためのカーボンナノチューブの精製に特に好適である。
【0011】
いくつかの実施形態に従って、カーボンナノチューブを処理する方法が開示され、この方法は、カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を提供することと、カーボンナノチューブ組成物を前処理剤と接触させて、前処理された組成物を提供することと、前処理された組成物を10%未満、任意に5%未満または1%未満の含水率まで乾燥させることと、次いで、前処理された組成物を酸化剤、および任意に更なる前処理剤と接触させて、酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を提供することと
を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前処理剤は、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1‐プロパンスルホン酸、ジクロロ酢酸、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、特に塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化ニッケル、リン酸カリウムの金属塩化物塩、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施形態では、前処理剤はリン酸を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、リン酸は、約0.01M~10.9Mの間、任意に約3M~9Mの間の濃度を有する。
【0017】
いくつかの実施形態において、酸化剤は、硝酸、過マンガン酸カリウム、三酸化クロム、過酸化水素、塩素酸カリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、酸化剤は硝酸を含み、任意に硝酸濃度が約0.01M~11.7Mの間、または約0.3M~3Mの間である。
【0019】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブ組成物を、約10:1~約80:1のカーボンナノチューブに対する前処理剤の重量比(または前処理剤:カーボンナノチューブ)で、前処理剤と接触させる。
【0020】
いくつかの実施形態において、本方法は、前処理されたカーボンナノチューブを含む組成物を、約80℃~約200℃の温度で加熱することを更に含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、本方法は、酸化剤と接触する前に、前処理された組成物を約30℃~約170℃の温度で加熱することを更に含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、本方法は、不純物の少なくとも一部をナノチューブ組成物から除去して、精製したカーボンナノチューブを提供することを更に含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブを処理する方法が開示され、この方法は、カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を提供することと、カーボンナノチューブ組成物を酸組成物と接触させることと、それによってカーボンナノチューブ間の分離距離(または離隔距離;separation distance)を増加させることとを含み、上記酸組成物がリン酸および硝酸を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブを処理する方法が開示され、この方法は、カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を提供することと、カーボンナノチューブ組成物を前処理剤と接触させて、前処理された組成物を提供することと、次いで、前処理された組成物を剥離液(または剥離流体;exfoliating fluid)と接触させることとを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、前処理剤は、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1‐プロパンスルホン酸、ジクロロ酢酸、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、特に塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化ニッケル、リン酸カリウムを含む金属塩化物塩、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態において、剥離液は、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n‐メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノール、ブタノール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、シレン、乳酸メチル、グリセリンおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0027】
いくつかの実施形態では、不純物は、遷移金属触媒、グラファイトカーボン、アモルファスカーボンナノ粒子、フラーレンカーボンアニオン、多環芳香族炭化水素、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
いくつかの実施形態において、本願は、本明細書中に記載された方法のいずれかに従って製造されたカーボンナノチューブを開示し、任意に、カーボンナノチューブは、3%未満の硫黄を含むものである。
【0029】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、10%未満の金属不純物を含むか、または4%未満の金属不純物を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、安定なカーボンナノチューブ分散液が開示され、分散液は、水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、n‐メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シレン、混合アルコール、ヘキサン、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、乳酸メチル、およびこれらの混合物からなる群から選択される溶媒中に分散された本明細書中に記載のようなカーボンナノチューブを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、安定なカーボンナノチューブ分散液は、550nmで0.01吸光単位を超えるカーボンナノチューブ含有量を有する。
【0032】
いくつかの実施形態において、前処理剤はリン酸を含み、かつ酸化剤は硝酸を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブを処理する方法が開示され、この方法は、カーボンナノチューブおよび不純物を含むカーボンナノチューブ組成物を提供することと、カーボンナノチューブ組成物を、リン酸および硝酸の組み合わせと接触させて、酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を提供することとを含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、本方法は、酸化されたカーボンナノチューブを含む組成物を銀インクと組み合わせることを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明の様々な実施形態のより完全な理解のために、ここで、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて参照し、図面中で、同様の参照文字は全体を通して同様の部分を指す。
【
図1】本発明のいくつかの実施形態に従ったカーボンナノチューブの精製方法を示す方法フローチャートである。
【
図2】生成されたままの単層カーボンナノチューブと、リン酸と組み合わせた単層カーボンナノチューブのインターカレートペーストとを比較する熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図3】生成されたままの単層カーボンナノチューブと、リン酸と組み合わせた単層カーボンナノチューブのインターカレートペーストとを比較する重量変化率を示す熱グラフである。
【
図4】本発明の1つの態様に従って、リン酸を使用して製造されたインク前駆体ペーストを対照ペーストと比較する熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図5】本発明の1つの態様に従ってリン酸を使用して製造されたインク前駆体ペーストを対照ペーストと比較する重量変化率を示す熱グラフである。
【
図6A】対照方法を用いた最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた顕微鏡写真画像である。
【
図6B】本発明の1つの態様に従う方法を用いた最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた写真画像である。
【
図7A】対照方法を使用する最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を使用する写真画像である。
【
図7B】本発明の1つの態様に従う方法を用いた最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた写真画像である。
【
図8】本発明の1つの実施形態および対照方法に従って製造された透明導電性膜の比較透過率およびシート抵抗データを説明するグラフである。
【
図9】異なる処理方法に従って製造されたインク前駆体ペーストを比較する熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図10】異なる処理方法に従って製造されたインク前駆体ペーストを比較する重量変化率を示す熱グラフである。
【
図11】異なる処理方法に従って製造された透明導電性膜の比較透過率およびシート抵抗データを説明するグラフである。
【
図12】異なる処理方法に従って製造されたインク前駆体ペーストを比較する熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図13】異なる処理方法に従って製造されたインク前駆体ペーストを比較する重量変化率を示す熱グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
カーボンナノチューブの処理および精製が記載されている。開示されたナノチューブの分散液およびインク前駆体ペーストも、そのような組成物を調製するための方法と同様に記載される。
【0037】
生成されたままのカーボンナノチューブ原料として、精製されたカーボンナノチューブ材料、フラーレン、および/または任意の他のフラーレン材料は、例えば、
Howardらの、1991年5月24日出願の米国特許第5,273,729号明細書、
Howardらの、1996年9月11日出願の米国特許第5,985,232号明細書、
Heightらの、2003年3月14日出願の米国特許第7,335,344号明細書および同第7,887,775B2号明細書、
Kronholmらの、2003年7月3日出願の米国特許第7,435,403号明細書、および
Howardらの、2005年1月21日出願の米国特許第7,396,520号明細書および同第7,771,692号明細書に記載され、これらの全体が参照により本明細書中に援用されるアプローチによって、合成および/または処理されることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブである。他の実施形態では、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである。例えば、いくつかの非限定的な実施形態では、上記ナノチューブは、少なくとも2つの壁を有する(すなわち、2層)。他の実施形態では、ナノチューブは、3~12の壁を有する。更なる実施形態では、ナノチューブは、12未満の壁を有する。更に別の実施形態では、ナノチューブは、2~6の壁を有する。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、2~8の壁を有する。更なる実施形態では、カーボンナノチューブは、2~10の壁を有する。例示的な非限定的な実施形態では、カーボンナノチューブは、2、4、6、8、10または12の壁を有する。
【0039】
別の実施形態では、単層および多層カーボンナノチューブの混合物が提供される。例えば、いくつかの実施形態では、単層ナノチューブと2層ナノチューブの混合物が提供される。更なる実施形態では、単層ナノチューブと多層ナノチューブの混合物が提供される。別の実施形態では、多層カーボンナノチューブの混合物が提供され、この混合物は、様々な壁付き構成を有するナノチューブを含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブ出発材料は、少なくとも約30%純度、少なくとも約40%純度、少なくとも約50%純度、少なくとも約60%純度、少なくとも約70%純度、少なくとも約80%純度、少なくとも約85%純度、または少なくとも約95%純度である。他の実施形態では、カーボンナノチューブは、約50%~約80%の純度である。本願のいくらかの実施形態に従った処理後の精製されたカーボンナノチューブは、典型的には、約90~99%の純度である。不純物の例としては、これらに限定されないが、金属、金属酸化物およびアモルファスカーボンを含む炭素質材料が挙げられる。カーボンナノチューブ組成物の純度、特に金属および金属酸化物に対する純度は、例えば、空気下での熱重量分析によって決定することができる。より詳細な純度データは、X線光電子分光法(XPS)、内部標準を用いたX線回折法(XRD)または元素分析を用いて得ることができる。炭素質不純物の定量的評価は困難であるが、紫外‐可視分光法およびラマン分光法は貴重な情報を提供することができる。
【0041】
本明細書中で使用する場合、「金属触媒粒子」という用語は、炭素材料を生成するための触媒合成方法によって生成される金属粒子を指す。金属触媒粒子は、典型的には、これらに限定されないが、ニッケル、モリブデン、パラジウム、イットリウム、鉄、銅、およびコバルトを含む遷移金属およびその混合物を含む。いくつかの実施形態に従って、出発金属残留物(金属触媒粒子および他の金属汚染物質)は、20%より多く、場合によっては、40%より多くてもよい。いくつかの実施形態では、後処理金属残渣は、10%未満であり、場合によっては4%未満の金属残渣である。
【0042】
「精製」とは、処理によって試料中の所望の材料の割合(または分率)を増加させる一方、不純物などの望ましくない材料を減少させる方法を指す。本願の精製方法は、処理される試料中の1つ以上の選択されたカーボンナノチューブの質量による割合、重量による割合、体積による割合および/またはモル分率を増加させる可能性がある。いくつかの用途に有用な本発明の精製方法は、処理の対象となる出発材料におけるその構造および組成から大きく変化しない構造および組成を有するか、または本方法による処理後に強化される構造、例えば、向上した結晶性の程度を示す構造を有する精製されたカーボンナノチューブを提供することが可能である。例えば、本願の方法は、精製された単層カーボンナノチューブが、強くバンドルされた(強く束ねられた;heavily bundled)カーボンナノチューブ、不安定な付着物、過酸化カーボンナノチューブ、および非管状炭素などの不純物を含まないかまたは限られた量を含むように、単層カーボンナノチューブ含有試料を精製することが可能である。精製されたカーボンナノチューブは、安定したカーボンナノチューブインクを製造するための前駆体材料として使用するのに好適である。
【0043】
「硫黄フリー」とは、組成物が、組成物の総量を基準として3重量%未満、特に0.5重量%未満含むこと、場合によっては検出可能な硫黄を含まないことを意味し、硫黄は元素状、または硫黄含有種の形である。
【0044】
1つの態様に従って、本出願は、精製されたナノチューブ組成物中の硫黄の存在を最小化(またはいくつかの実施形態では排除)しながら、カーボンナノチューブの分離のために提供するカーボンナノチューブ精製方法を記載する。
図1は、カーボンナノチューブを分離するための例示的な方法を示す方法フローチャート100である。
【0045】
示された例示的な方法に従って、ステップ110に示されるように、生成されたままのカーボンナノチューブ(AP CNT)を提供することが可能である。生成されたままのカーボンナノチューブは、典型的には高度にバンドルされ、典型的には金属触媒および他の、主に炭素質の、不純物を含む。ステップ120に示すように、生成されたままのカーボンナノチューブをリン酸などの前処理剤と接触させて、カーボンナノチューブのバンドルの間に分子を導入し、ナノチューブ間の分離を提供することによって生成されたままのカーボンナノチューブを任意に前処理することができる。ステップ130に示すように、カーボンナノチューブ組成物は、更に任意に剥離液(例えば、水)と組み合わせ、一晩などの期間、撹拌または混合してもよい。理論に拘束されることは望まないが、ステップ130における撹拌または混合は、剥離液分子がナノチューブバンドル(または束)に浸透してナノチューブの互いからの分離を促進させる可能性がある。ステップ140に示すように、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物を酸化剤組成物と接触させることによって酸化処理140に供されてもよく、酸化剤組成物は、示した実施形態ではリン酸および硝酸を含む。理論に拘束されることは望まないが、酸化処理は、ナノチューブバンドルを相互貫通させてもよく、カルボン酸などの酸素含有官能基でカーボンナノチューブの表面を官能基化してもよい。いくらかの実施形態において、リン酸と硝酸の組み合わせは、カーボンナノチューブの金属除去および精製を促進する可能性がある。ステップ150に示すように、金属触媒の除去および精製は、安定なカーボンナノチューブインク160を生成するのに好適な前駆体材料を調製するために、濾過などによって実施してもよい。
【0046】
本明細書中に開示された方法に従って精製することができるナノチューブには、市販されているもの、および当技術分野で使用される任意の従来の方法によって製造されるものが挙げられる。更に、記載された方法は、不純物を含む同様の構造の任意の炭素含有材料を精製するために利用されてもよい。生成されたままのカーボンナノチューブ115は、典型的には高度にバンドルされ、金属触媒の不純物および他の不純物を含む。カーボンナノチューブの前処理120は、前処理剤でインターカレートされたカーボンナノチューブネットワーク125の形成をもたらすことが可能である。好適な前処理剤の例としては、これらに限定されないが、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1‐プロパンスルホン酸、ジクロロ酢酸、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、特に塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化ニッケル、およびリン酸カリウムを含む金属塩化物塩が挙げられる。いくらかの実施形態に従って、前処理剤は、リン酸などの酸である。前処理剤の混合物もまた、前処理に使用されてもよい。いくらかの実施形態に従って、前処理剤は、約0.5:1~1000:1、特に約2:1~200:1のカーボンナノチューブに対する前処理剤の重量比の量で使用されてもよい。いくつかの実施形態に従って、カーボンナノチューブは、約5:1~約200:1、特に約8:1~約75:1、いくらかの場合には約10:1~約80:1のカーボンナノチューブに対する前処理剤の重量比の量で接触させてもよい。いくらかの態様に従って、前処理剤は、約0.01M~10.9Mの間、任意に約3M~9Mの間の濃度で、リン酸を含む。
【0047】
生成されたままのカーボンナノチューブと前処理剤との最初の混合後、前処理組成物は、任意に真空下で、約30℃~約200℃、特に約80℃~約150℃の温度で加熱されてもよい。いくつかの実施形態に従って、典型的にはペーストの形態である、得られる前処理組成物は、ペーストの温度が約100℃~約130℃以上に保たれていれば、約1時間~約24時間、より長期の不定保管時間まで処理してもよく、または高温でない場合は、不活性雰囲気下で保管する。
【0048】
特に有用な態様に従って、カーボンナノチューブを前処理剤と接触させてカーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストを形成した後、混合ペーストは、酸化ステップを行う前に乾燥させる。いくつかの態様に従って、カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、酸化する前に一定期間、乾燥状態に維持される。いくつかの実施形態に従って、カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、熱重量分析(TGA)によって決定される約1、5、または10重量%以下の水分含有量まで乾燥される。より低い水分濃度では、精度を向上させるために、Karl Fisher 滴定を使用することが可能である。場合によっては、カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、検出可能な水分を全く含まない。
【0049】
カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、後続の酸化的酸処理ステップの前に、長時間にわたって加熱下に維持してもよい。いくつかの態様に従って、この乾燥状態は、長時間の熱加熱によって達成されてもよい。特に有用な態様に従って、カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、水分含有量を低減または最小化する条件下で処理される。いくつかの態様に従って、カーボンナノチューブおよび前処理剤は、一方または両方がいくらかの水を存在させて混合することができ、カーボンナノチューブ‐前処理剤混合ペーストは、次いで、更なる処理の前に水を除去するために熱処理されることが可能である。いくつかの態様に従って、乾燥ステップは、数時間(例えば、2~12時間)~数日(例えば、2~14日)、または更に長い期間の間であってもよい。いくつかの態様に従って、乾燥ステップは、酸精製処理の次のステップを開始する前に、混合されたが乾燥した状態での長時間の貯蔵時間を伴うことがある。いくつかの態様に従って、水の存在は、カーボンナノチューブネットワークにおける前処理剤の効率的なインターカレーションを妨害することが可能である。
【0050】
理論に拘束されることは望まないが、より効率的なインターカレーションを提供するために水を最小化または排除することに関連する利点が、以下に説明されていると考えられる。少なくとも微量の水が存在する一方または両方を有するカーボンナノチューブおよび前処理剤の混合時に、長時間の熱処理が開始され、その間に存在する水が蒸発する。水が完全にまたはほぼ完全に蒸発し、加熱が継続されると、前処理剤の分子間のあらゆる分子間力(例えば、水素結合)は、このような長時間の加熱によって克服されることになる。水素結合ネットワークの破壊は(例えば)高エネルギー条件を誘発し、そこで、得られる前処理種がカーボンナノチューブバンドル層の間にインターカレートしてエネルギーを最小化することが熱力学的に有利となる。更に、水がないことで、前処理剤の分子間で、水素結合のドナーおよびアクセプターの特性に基づいて、水が「ブリッジ」として作用し、インターカレーション方法の効率を低下させるリスクを排除する。このインターカレーション方法は、外側のカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブバンドルおよび炭素質不純物層から徐々に進行し、長時間の加熱中に内側の炭素質層に向かって徐々に進行し、エネルギーが最小になるまで加熱を継続すると、インターカレーションは進行する。前処理剤がカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブバンドル、炭素質不純物層に完全に、より均一に浸透、インターカレートしているほど、その後の酸化処理が効果的に行われると考えられるためである。
【0051】
長時間の加熱によるカーボンナノチューブホスト材料を介した前処理剤のインターカレーション方法の進行および効果は、
図2および
図3に示す熱重量分析(TGA)曲線において証明される。炭素質不純物とより初期状態の(pristine)カーボンナノチューブの両方からなるいくらかの試料混合物が、炭素質不純物の存在によって熱的に誘発される分解全体が低温側にシフトする熱プロファイルを示すことは、当業者の間で知られている。従って、炭素質不純物と初期状態のカーボンナノチューブは、別々に熱分解することはない。
図2に示すように、カーボンナノチューブ出発材料(前処理剤を含まない)は、初期状態のカーボンナノチューブの熱誘起分解温度よりもはるかに低い300℃付近で主要な熱現象を示し、600℃付近ですべての炭素質種が完全に分解するのに近い熱分解を示す。カーボンナノチューブ出発材料の熱分解速度(
図3)は、300℃付近で始まり700℃付近で終わる比較的高い速度のブロードなピークで構成されている。一方、前処理剤がカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブバンドル層、炭素質不純物層の間に効果的に分散していると考えられる前処理した試料(前処理剤がリン酸)では、熱分解プロファイルは、炭素質不純物の低温分解と、次いで、初期状態のカーボンナノチューブの高温分解とが分離されている。1時間熱処理した前処理試料(薄いグレーの実線)では、炭素質不純物は300℃付近で別々に徐々に熱分解し、一方、より初期状態のカーボンナノチューブ種は550℃付近から、ずっと高い温度で別の熱イベントで熱分解する(
図3に最も分かりやすく示されている)。更に長時間加熱した同様のインターカレート試料を18時間後に再度サンプリングすると(濃い実線の曲線)、同じ熱分解条件下で、カーボンナノチューブに対応する熱イベントが更に高温にシフトし、熱分解は600℃付近で開始することがわかる。熱プロファイルにおける乾燥の影響は、熱分解の開始が1時間の試料では550℃付近、18時間のインターカレート試料では600℃付近にシフトすることで証明される。従って、最も効果的な前処理工程は、カーボンナノチューブおよび前処理剤を含む。すべての水、または可能な限り多くの水は、記載された熱処理ステップ中に追い出され、前処理剤がカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブバンドル、および炭素質不純物層の間に最も完全にインターカレートされるように長時間の加熱が続けられて、その後の酸化精製処理に対して前処理種を最も有効に生成する。得られる前処理組成物は、カーボンナノチューブが前処理剤によってインターカレートされたカーボンナノチューブネットワーク125を含む。
【0052】
カーボンナノチューブ組成物は、任意に前処理剤に供した後、カーボンナノチューブ組成物と液体の混合物中にカーボンナノチューブを分散させるために、水または他の溶媒などの剥離液と組み合わせることが可能である。特に有用な剥離液は、前処理剤と混和性があり、理想的には、カーボンナノチューブをも濡らすものである。他の特に有用な剥離液には、それらに限定されないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノール、ブタノール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンが挙げられる。カーボンナノチューブ組成物は、約25:1~約250:1の剥離液:カーボンナノチューブ重量比の量で、剥離液と接触させてもよい。いくつかの実施形態に従って、カーボンナノチューブ組成物および剥離液の混合物は、溶媒分子がナノチューブバンドルに浸透し、ナノチューブの互いからの分離を容易にするのに十分な時間、撹拌することが可能である。いくらかの実施形態に従って、剥離液中のカーボンナノチューブ組成物は、少なくとも1分~約72時間撹拌することが可能である。典型的には、カーボンナノチューブ組成物および剥離液の混合物は、一晩撹拌してもよい。剥離液中の得られるカーボンナノチューブ組成物は、分散したカーボンナノチューブを含む。
【0053】
カーボンナノチューブ組成物は、剥離液中で撹拌する前に、長時間加熱下に維持してもよく、次いで、酸化的酸処理ステップを行う。いくつかの態様に従って、この乾燥状態は、長時間の熱加熱によって達成されてもよい。特に有用な態様に従って、カーボンナノチューブ組成物は、剥離液への曝露の前に、水分含有量を低減または最小化する条件下で処理される。いくつかの態様に従って、乾燥ステップは、数時間(例えば、2~12時間)~数日(例えば、2~14日)、または更に長い期間であってもよい。いくつかの態様に従って、乾燥ステップは、酸精製処理の次のステップを開始する前に、混合されたが乾燥状態での長時間の貯蔵時間を伴うことがある。
【0054】
カーボンナノチューブは、前処理組成物または剥離組成物を酸化剤、例えば酸化性酸組成物と接触させることにより、酸化処理に付すことが可能である。酸化剤の例としては、これらに限定されないが、硝酸、過マンガン酸カリウム、三酸化クロム、過酸化水素、塩素酸カリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸およびそれらの組み合わせが挙げられる。カーボンナノチューブ組成物は、酸化剤の初期濃度および反応温度に応じて、0.01M、0.3M、0.7M、1M、11.7Mまたはこれらの値の間の濃度で、約1時間~12時間またはそれ以上の間、酸化剤組成物と接触させてもよい。いくらかの実施形態に従って、酸化性酸は、硝酸であってもよい。硝酸は、酸化剤として使用される場合、約0.01M~11.7Mの間、または場合によっては約0.3M~3Mの間の濃度を有してもよい。正確な方法条件は、使用される出発材料の特性にも依存するが、TGA精製結果および/または得られる透明導電性膜抵抗および透過性能に基づいて最適化することが可能である。混合物は、カーボンナノチューブを酸化してカーボンナノチューブ表面に酸素含有官能基を生成するのに十分な時間、撹拌またはそうでなければ混合することが可能である。
【0055】
いくつかの実施形態では、酸化剤は、更なる前処理剤と組み合わせて使用してもよい。例えば、リン酸と酸化剤の組み合わせを使用してもよい。いくらかの実施形態に従って、リン酸が前処理剤として使用され、また更なる前処理剤が酸化剤とともに添加される場合、リン酸は、約1.5M~約10Mの間、または場合によっては約3M~9Mの間の濃度を有してよく、典型的な濃度は6~7Mである。いくつかの実施形態に従って、リン酸および硝酸は、組み合わせて使用されてもよい。リン酸または他の前処理剤は、カーボンナノチューブバンドルの相互侵入およびバンドルの内部への酸化剤の送達を促進し、その結果、カーボンナノチューブ表面をより均質に酸化させる。リン酸などの前処理剤と組み合わせた酸化により、非管状炭素の不純物の割合が少ない精製されたカーボンナノチューブ製品が得られる。また、リン酸または他の前処理剤は、酸化性酸と反応して、酸化性酸単独よりも強力な酸化剤を形成し、カーボンナノチューブ表面にカルボン酸官能基などの酸素含有官能基を生成してもよい。いくらかの実施形態に従って、得られる組成物は、約80℃~約200℃の温度で少なくとも1時間、または約24時間まで撹拌される。酸化条件は、実際の内部反応温度は知られていないが、穏やかな加熱から激しい還流までの間である。いくつかの実施形態によれば、組成物は還流される。得られる組成物は、カーボンナノチューブ表面に酸素含有官能基を有するデバンドルされたカーボンナノチューブ145を含む。他の酸化剤としては、これらに限定されないが、過マンガン酸カリウム、三酸化クロム、過酸化水素、塩素酸カリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
カーボンナノチューブ組成物は、前処理を行わずに直接的に酸化処理に供してもよいし、1つ以上の前処理工程に供されることによって間接的に酸化処理に供してもよい。例えば、いくらかの実施形態では、生成されたままのカーボンナノチューブ組成物(AP CNT)110は、生成されたままのカーボンナノチューブを前処理剤と接触させることによって前処理120を行い、次いで、カーボンナノチューブ組成物を酸化剤と接触させて酸化処理140に付してもよい。他の実施形態に従って、生成されたままのカーボンナノチューブ組成物110を水(または他の剥離液)と組み合わせて一定時間撹拌または混合し130、次いで、カーボンナノチューブ組成物を酸化剤と接触させて酸化処理140に付してもよい。更に他の実施形態に従って、生成されたままのカーボンナノチューブ組成物を前処理剤と接触させて、生成されたままのカーボンナノチューブ組成物110を前処理120し、水(または他の剥離液)と組み合わせて一定時間撹拌または混合し、溶媒を使用する場合は水で濯ぎ/抽出し130、次いで、カーボンナノチューブ組成物を酸化剤と接触させて酸化処理140に付してもよい。
【0057】
酸化処理後の組成物は、濾過、超音波浴処理(bath sonication)、プローブ型超音波処理(probe sonication)、および遠心分離などの様々な方法により、金属触媒および他の不純物を除去するために更に処理150することが可能である。得られる前駆体インク組成物は、従来の精製方法を利用して調製されたインクを超える利点を提供する、精製された安定なカーボンナノチューブインク170の製造に好適である可能性がある。
【0058】
開示された方法は、高純度レベルのカーボンナノチューブ含有量および低減された硫黄含有量でカーボンナノチューブ流体分散を可能にする。例えば、開示された方法は、安定した、予めデバンドルされたウェットペーストを製造することが可能であり、これは、スラリーおよび混合ペースト、ならびに高濃度安定インクを形成するために、以前に報告されたよりもかなり大きなカーボンナノチューブ含有量で組み込むことが可能である。本明細書中に開示された方法によって精製されたカーボンナノチューブは、水、水性/混合溶媒系、および純粋な有機系に組み込むことができるが、高粘度溶媒、モノマー、およびポリマーを含む他の可能性もあり、分散安定性は、溶解度パラメータ/表面張力にのみ規定されるのではなく、高粘度ビヒクルによって補助および促進することが可能である。例えば、本発明のいくらかの態様に従った精製カーボンナノチューブウェットペーストは、高粘度溶媒シクロヘキサノールに容易に懸濁させてインクを製造することができる。対照的に、他の精製方法からの精製材料は、不均一な塊/大きな不安定な凝集物だけでなく、微量の硫黄をもたらすことが可能であり、硫黄は、硫酸塩、硫酸塩、有機硫黄種などの硫黄含有種の中に存在する。
【0059】
カーボンナノチューブを金属ナノワイヤに組み込む(「ハイブリッド」材料を作る)と、これに限定されないが、電力処理(power handling)の向上、粗さの低減、および環境安定性の向上(予備的内部データ)を含む、正味の(neat)金属を上回るいくつかの利点が得られる。方法が硫黄フリーであるいくらかの実施形態に関連する1つの利点は、精製されたカーボンナノチューブがワンポット銀ハイブリッドの調製に使用されることが可能であることである。この方法では、まず、銀ナノワイヤインクに適合する溶媒中で高濃度の正味のカーボンナノチューブインクまたはスラリーが生成される。次に、正味のカーボンナノチューブインクと銀インクを、ボルテックスミキサー、ハンドミキシング(または手練り)、撹拌、または遊星遠心スピードミキサーにより均質混合し、組み合わせる。多くの場合、得られる「ハイブリッドインク」は、混合されたインクが最小限に凝集しかしないという点で安定であり、ロッドコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティングおよび同様のものによりハイブリッド膜を生成する。いくつかの従来の精製方法で使用される硫酸は、微量の硫黄、または硫黄含有分子であっても銀を腐食/酸化することが知られており、時間の経過とともに銀または銀ハイブリッド膜が使用できなくなるため、銀との非適合性を有する。対照的に、本願のいくらかの実施形態は、銀ナノワイヤを有するワンポット系に水性インクとして組み込むことができる精製カーボンナノチューブを提供する。更に、開示された方法によって精製されたカーボンナノチューブは、高粘度溶媒およびモノマーを含む他の可能性も可能にし、分散安定性が、溶解度パラメータ/表面張力によってのみ規定されるのではなく、高粘度ビヒクルによって補助および促進されることが可能である。
【0060】
ハイブリッドインクを適用する多くの方法において、スプレー可能でかつロッドコーティング可能なインクが有用であるが、スクリーン印刷は一般的な別の方法用途である。スクリーン印刷可能なインクは、ロッドコーティング可能なおよびスプレー可能なインクに対して大きな形態学的差異を有し、最も顕著なのは粘度であり、シクロヘキサノールなどの高粘度溶媒が一般に利用される。いくつかの態様によれば、精製されたカーボンナノチューブは、約4℃~約35℃の間で約1~約20の光学密度の間の濃度でシクロヘキサノール中に安定な分散液を形成する。本明細書中で使用する場合、「安定な」とは、分散液が、膜性能特性を改善しながら、ハイブリッドまたは正味の膜の結果として膜特性に最小限の悪影響しか与えずに、正味のまたはシングルポットで銀とコーティングされることが可能であることを意味する。例えば、スクリーン印刷した正味の銀インクとスクリーン印刷したハイブリッドインクを並べて試験したサーマルヒーターでは、ハイブリッドインクの試料は透明度が低下したが、その低下は類似の正味のカーボンナノチューブ膜と同様で、電力処理能力は正味の銀対照に比べて25%向上した。ハイブリッドワンポットインクが著しく不安定な場合、コーティングされた膜の特性は、類似の正味のカーボンナノチューブ親膜と比較して、透明度の低下とヘイズの増加を生じ、類似の正味の対照銀膜と比較して性能向上は最小限か全くない。
【0061】
本願のいくつかの実施形態に従って生成されるカーボンナノチューブは、これらに限定されないが、水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、n‐メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シレン、混合アルコール、ヘキサン、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、乳酸メチル、およびそれらの混合物などの様々な溶媒中に安定な分散液を形成することが可能である。いくらかの実施形態によれば、本明細書中に開示される方法は、550nmでの光学密度によって決定されるカーボンナノチューブ含有量が、約0.01吸光度単位~約20吸光度単位の間、より具体的には約0.1吸光度単位~約15吸光度単位の間である、安定したカーボンナノチューブ分散液を提供することが可能である。典型的な光学濃度測定では、高濃度インク分散液を10:1程度に希釈して、紫外‐可視または紫外‐可視モノクロメーターの動作範囲、通常は約0.1~約2吸光度単位の間での測定を可能にする。所望のインクコーティング方法および基材に応じて、最終的なインク濃度の光学密度は、超音波スプレー‐コーティング可能なインクに対して約0.1~5吸光度単位であり、ロット‐ダイまたはロッド‐コーティング可能なインクに対して約5~約20吸光度単位の間の光学密度である必要がある。マスバランス法により、カーボンナノチューブインク組成物の1つについて、14吸光度単位の光学密度でカーボンナノチューブ濃度が315mg/Lであることが決定された。
【実施例】
【0062】
4gの量の生成されたままの単層カーボンナノチューブ組成物(炭素溶液、純度65%)を、結晶皿中で100mLの前処理剤、85%リン酸と組み合わせた。内容物をガラス棒でかき混ぜて、濃厚で均質なペーストを形成し、それを皿の底に均一な層に広げた。結晶皿を、約120℃~140℃の間の温度で約24時間、加熱された油浴中に吊るし、その間、残存する水を除去する際に、正味のリン酸/単層カーボンナノチューブペーストの形態の前処理された組成物が形成された。
図2および
図3は、生成されたままのSWCNTと比較した、リン酸/単層カーボンナノチューブ組成物ペーストの様々な時点でのTGA熱分解プロファイルを示す。生成されたままの単層カーボンナノチューブ(破線)の酸化開始は約300℃で、カーボンナノチューブの酸化終了温度は約600℃である。既知の100%純度の単層カーボンナノチューブ組成物試料を取得することは困難であるが、純粋な単層カーボンナノチューブの酸化開始は約600℃以上であることが知られている。全体的な酸化温度が予想よりも低いということは、試料全体に存在する低次のカーボンナノチューブ不純物「非管状炭素」がカーボンナノチューブ試料全体の分解を促進し、不純物が存在しない場合に発生するよりも全体的に低温酸化が発生するので、生成されたままの単層カーボンナノチューブ試料中の不純物が試料全体の酸化をより低い温度にシフトすることを意味する。対照的に、インターカレートされた2つの試料の熱プロファイルは、非常に異なる熱的挙動を示す。インターカレートされた両方の試料において、主な酸化熱イベントは約600℃まで発生せず、これは、純粋なカーボンナノチューブと同様である。低燃焼不純物は、200~600℃付近で重量が着実に減少することから明らかなように、孤立した形で徐々に酸化する。このデータは、層間にインターカレートされたリン酸がさまざまな不純な炭素種を分離し、それぞれが別々に酸化することを可能にしているので、リン酸がカーボンナノチューブバンドルおよび炭素質層にインターカレートしているという考えを支持している。更なる証拠は、1時間~18時間のインターカレーション時間の間で、更に高い酸化開始温度へのシフトが顕著である、インターカレーションの進行と時間の関係に示されている。
【0063】
図4および
図5は、前処理剤としてリン酸を使用し、次いで酸化処理のためにリン酸と硝酸のブレンドを使用して製造されたインク前駆体ペースト(PA‐ET方法)と、対照ペースト(ET方法)とを比較した熱重量分析(TGA)グラフである。PA‐ETペーストは、上記のように生成されたリン酸インターカレートしたペーストの全量を125mLの脱イオン水で5分間剥離し、次いで、125mLの更なる脱イオン水、135mLの更なる85%リン酸、および65mLの6N硝酸を添加し、混合物を覆いのないホットプレート上の平底フラスコ内で12時間、ホットプレート設定温度425℃で還流した。反応混合物を室温まで冷却し、得られるスラリーを洗浄してpHを中性にし、プローブ超音波処理した。残留ペーストを乾燥させ、TGAによって分析した。対照ペーストを、生成されたままのカーボンナノチューブを、酸化処理(ET方法)のために硫酸と硝酸のブレンドで還流することによって製造した。ピーク酸化速度での温度は、対照ペーストの約450℃から、本願の1つの態様の本実施例によるペーストの約700℃まで大幅に上昇し、PA‐ETインターカレートペースト法における純度がより高いことを示している。
【0064】
図6Aおよび
図6Bは、本発明の1つの態様に従って調製された最終インク(
図6B-PA-ET方法)と比較した、対照方法(
図6A-ET方法)を使用した最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を使用した顕微鏡写真画像である。
【0065】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の1つの態様に従って調製された最終インク(
図7B-PA‐ET方法)と比較した、対照方法(
図7A-ET方法)を使用した最終インク中の炭素種の透過型電子顕微鏡(TEM)を使用した別の倍率での顕微鏡写真画像である。
図6および
図7からのTEM画像は、最終的なカーボンナノチューブインクに存在する炭素種間の直接的比較を提供する。同様に、イソプロパノール/水に分散させたTEM試料を調製し、5分間超音波浴処理した後、200℃に予熱したホットプレート上のスライドガラス上に固定されたTEMグリッド上に1滴のインクをキャスト(cast)した。溶媒はすぐに蒸発し、グリッド上に固定化されたカーボンナノチューブ試料が残り、画像形成のために準備した。対照ET方法画像には、
図7Aに見られるように、「ウェビング(webbing)」(「非管状炭素」であると推定される)および炭素でカプセル化された触媒粒子を含む、様々な種類の欠陥が見られる。画像の全体的なレビューから、欠陥は対照ET方法に存在し、新しい方法(PA‐ET方法)にはほとんど存在しない。
【0066】
図8は、本発明の1つの実施形態(PA-ET方法)および対照方法(ET方法)に従って製造された透明導電性膜の比較透過率およびシート抵抗データを示すグラフである。本明細書中に記載の方法は、より高い透明度およびより低い抵抗率(抵抗/透過率、「R/T曲線」)へのシフトによって示されるように、優れた性能を提供する。各タイプのカーボンナノチューブインクは、試料ごとに3つの異なるインク量でSonotek超音波スプレーノズルを使用してコロナ処理されたポリエーテルテレフタレート(PET)基材上にスプレーされ、3つのシート抵抗/透過点の個別のセット(および溶媒蒸発、得られた膜の3つのデータポイント)を測定し、各インクの性能を評価するために使用した。より多くの不純物 (特に「非管状炭素」)を含むインクで形成された膜は、より純粋なカーボンナノチューブで形成された膜と比較して透明度が低下し、抵抗率が高くなるため、試料の純度が示される。
【0067】
図9および
図10は、異なる方法を使用して製造されたインク前駆体ペーストを比較する熱重量分析(TGA)グラフである。PA‐ET「還流のみ」の材料は、生成されたままのカーボンナノチューブ4gを、235mLの85%リン酸および65mLの6N硝酸を加えた平底フラスコに直接入れることによって調製した。混合物を、425℃に設定した覆いのないホットプレート上で12時間還流した。反応混合物を室温まで冷却し、得られたスラリーを洗浄してpHを中性にし、プローブ型超音波処理を行った。残留ペーストを乾燥させ、TGAによって分析した。これらのプロットは、硫酸の代わりにリン酸を使用することの重要性と性能上の利点の両方を証明しており、硫黄の排除を超えている。
図9では、点線は対照の硫酸「ET方法」を示し、ここでは、100~400℃の間の重量損失として示される顕著な酸化が存在し、酸化温度が低いため、主に非ナノチューブカーボン不純物である。同じ酸還流において硫酸をリン酸に切り替えるだけで、約400℃での重量残量が大幅に高くなる(PA‐ET還流のみで約90%が残っているのに対し、対照ETでは約75%が残っている)。同様に、600℃では、対照のET材料の残留物は20%しか残っていないが、PA‐ET還流のみの材料にはまだ約70%の残留物が残っており、より純粋なカーボンナノチューブの割合が大幅に高いことを示している。この方法を拡張し、リン酸前処理「PA‐ET」方法を含む本開示の全範囲の有効性を実証するために、前処理の更なる利点により、酸化方法がPA‐ET「還流のみ」よりも50℃高い温度に拡張されることは注目に値する。
【0068】
図11は、異なる前処理方法に従って製造された透明導電性膜の比較透過率およびシート抵抗のデータを示すグラフである。このグループで最も性能の高い材料(透過率が最も高く、シート抵抗が最も低い)は「PA‐ET」方法であり、リン酸前処理に続いて酸化処理にリン酸と硝酸のブレンドを利用する。対照の非前処理方法「PA‐ET還流のみ」では、リン酸と硝酸のブレンド中で還流することによってカーボンナノチューブを処理し、事前の酸前処理は行わなかった。第3の方法(ET方法;
図11の数字識別子によって示される)に従って、酸化処理のために硫酸と硝酸のブレンドが使用された。この比較は、リン酸前処理ステップの性能上の利点を強調しており、PA‐ETインクで作成した膜は、前処理ステップを使用しないPA‐ET還流のみの対照で作成した膜よりも大幅に優れている。PA‐ET還流のみの対照は、PA‐ET方法および対照ET方法で調製されたインクよりも性能が劣るが、還流のみのリン酸方法は、類似の硫酸方法およびTGAの結果よりも少ない損失を示す著しく高いピーク燃焼速度温度の観点から、また、硫黄含有試薬の非存在下で精製カーボンナノチューブ材料を製造するために、依然として有利である可能性がある。
【0069】
図12および
図13は、異なる前処理方法に従って生成されたインク前駆体ペーストを比較する熱重量分析(TGA)グラフである。上記方法のうちの2つは、PA‐ET方法およびET方法に関して前述した方法と同じである。第3の方法は「PA@CNT 水中撹拌」と表示され、カーボンナノチューブをリン酸で前処理した後、カーボンナノチューブペーストを140℃の油浴設定温度で約25時間インターカレートする。次いで、インターカレートしたペーストを、約125mLの脱イオン水を入れた撹拌棒付きのガラス瓶に移し、60℃で3日間撹拌し、その間、CNT水は実質的に濃くなる。次いで、カーボンナノチューブスラリーの一部を真空下で乾燥させ、TGAを行った。この時点で、ペーストを濾過して濯いでもよい。
【0070】
本発明の説明および実施形態を検討すると、当業者は、本発明の本質から逸脱することなく、本発明を実施する際に修正および同等の置換を行うことが可能であることを理解する。従って、本発明は、明示的に前述された実施形態によって限定されることを意味するものではなく、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0071】
100 … 方法フローチャート
110~150 … ステップ
160 … 安定なカーボンナノチューブインク
115 … 生成されたままのカーボンナノチューブ
125 … カーボンナノチューブネットワーク
145 … デバンドルされたカーボンナノチューブ
【国際調査報告】