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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ドリル先端
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20231026BHJP
   B23B 51/06 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/06 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521367
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021067803
(87)【国際公開番号】W WO2022073662
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】20200716.7
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506297474
【氏名又は名称】ヴァルター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン, リーチン
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037BB11
3C037DD07
(57)【要約】
本発明は、アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するためのドリル先端に関し、ドリル先端は本体を備え、本体は、頂点領域(13)を有する前端部と、頂点領域(13)の中心から後方に延在する回転中心軸(8)と、少なくとも1つの切削構造体(10)とを有する。各切削構造体(10)は、第1のすくい面(17)と、第1の逃げ面(18)と、第1のすくい面(17)と第1の逃げ面(18)との間の交差部にある刃先(11)と、周辺切削コーナ(14)とを備える。刃先(11)は、頂点領域(13)から切削コーナ(14)まで半径方向外側に延在する。第1の逃げ面(18)は、前端視で幅(b)を有し、幅(b)は、刃先(11)に対して垂直に、かつ刃先(11)から刃先(11)に回転して後行する第1の逃げ面の縁部(19)まで延在する距離である。本体は、回転中心軸(8)から切削コーナ(14)までの半径方向外側の距離であり、少なくとも1mmである公称切削半径(22)をさらに有する。刃先(11)は、頂点領域(13)から半径方向外側端部(23)まで半径方向外側に延在する中央部分(32)を有する。刃先中央部分(32)の半径方向外側端部(23)は、公称切削半径(22)の少なくとも10%の回転中心軸(8)までの半径方向距離を有する。刃先中央部分(32)に沿った第1の逃げ面の幅(b)は、少なくとも0.05mm、公称切削半径(22)の最大5%である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するためのドリル先端であって、前記ドリル先端が本体を備え、前記本体が、
頂点領域(13)を有する前端部と、
前記頂点領域(13)の中心から後方に延在する回転中心軸(8)と、
少なくとも1つの切削構造体(10)と
を有し、
各切削構造体は、
第1のすくい面(17)と、
第1の逃げ面(18)と、
前記第1のすくい面(17)と前記第1の逃げ面(18)との交差部にある刃先(11)と、
周辺切削コーナ(14)と
を備え、
前記刃先(11)は、前記頂点領域(13)から前記切削コーナ(14)まで半径方向外側に延在し、
前記第1の逃げ面(18)が、前端視で幅(b)を有し、前記幅(b)は、前記刃先(11)に垂直に、かつ前記刃先(11)から前記刃先(11)に回転して後行する第1の逃げ面の縁部(19)まで延在する距離であり、
前記本体が、前記回転中心軸(8)から前記切削コーナ(14)までの半径方向外側の距離であり、少なくとも1mmである公称切削半径(22)をさらに有する、ドリル先端において、
前記刃先(11)が、前記頂点領域(13)から半径方向外側端部(23)まで半径方向外側に延在する中央部分(32)を有し、
前記刃先中央部分(32)の前記半径方向外側端部(23)が、前記公称切削半径(22)の少なくとも10%の前記回転中心軸(8)までの半径方向距離を有し、
前記刃先中央部分(32)に沿った前記第1の逃げ面の幅(b)が、少なくとも0.05mm、かつ前記公称切削半径(22)の最大5%である、
ことを特徴とする、ドリル先端。
【請求項2】
前記公称切削半径(22)が2mmより大きい場合、前記刃先中央部分(32)に沿った前記第1の逃げ面の幅(b)が前記公称切削半径(22)の最大3%である、請求項1に記載のドリル先端。
【請求項3】
前記公称切削半径(22)が5mmより大きい場合、前記刃先中央部分(32)に沿った前記第1の逃げ面の幅(b)が前記公称切削半径(22)の少なくとも1%である、請求項1または2に記載のドリル先端。
【請求項4】
前記第1の逃げ面の幅(b)が、前記刃先(11)の外側部分に沿って前記公称切削半径(22)の10~30%であり、前記刃先(11)が、前記切削コーナ(14)から前記刃先中央部分(32)の最大で前記外側端部(23)まで半径方向内側に延在する、請求項1から3のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項5】
前記刃先中央部分(32)の前記半径方向外側端部(23)が、前記公称切削半径(22)の少なくとも35%の前記回転中心軸(8)までの半径方向距離を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項6】
前記刃先(11)が、
前記切削コーナ(14)から半径方向内側に延在する主刃先(15)と、
前記頂点領域(13)から半径方向外側に前記主刃先の内側端部まで延在する第2の刃先(16)と
を備え、
前端視で、前記主刃先(15)が、前記第2の刃先に対してある角度で延在し、
前記刃先中央部分(32)が、前記第2の刃先(16)を形成する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項7】
前記主刃先(15)が、前端視で、前記回転中心軸(8)および前記第2の刃先(16)の前記半径方向外側端部(23)を通る線と前記回転中心軸(8)および前記切削コーナ(14)を通る線との間の角度(α)が20~40°であるように、前記第2の刃先(16)に対してある角度を付けて延在する、請求項6に記載のドリル先端。
【請求項8】
前記刃先(11)が最大4μmの縁部半径を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項9】
各切削構造体(10)が、前方を向く前端面(20)をさらに備え、前記前端面(20)が、
前記頂点領域(13)から前記本体の周囲まで半径方向外側に延在し、
前記第1の逃げ面の縁部(19)に接続し、前記第1の逃げ面の縁部に回転して後行し、
前記前端面(20)が、凹部表面によって区切られた凹部(25)を備え、
前記凹部表面が、少なくとも前記刃先中央部分(32)に沿って前記第1の逃げ面の縁部(19)と隣接する、
請求項1から8のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項10】
各切削構造体(10)が、少なくとも部分的に前記凹部表面内に位置する冷却剤開口部(30)を有する冷却剤チャネルをさらに備える、請求項9に記載のドリル先端。
【請求項11】
前記冷却剤開口部(30)の周囲の半径方向内側および軸方向上側の4分の1の少なくとも大部分が、前記凹部表面に隣接する、請求項10に記載のドリル先端。
【請求項12】
前記凹部表面が、凹状表面であり、
軸方向後方に延在する湾曲底面(27)と、
前記底面(27)から前記頂点領域(13)まで延在する半径方向内側湾曲部表面(28)と、
前記底面(27)から前記冷却剤開口部(30)まで延在する半径方向外側湾曲部表面(29)とを備える、
請求項10または11に記載のドリル先端。
【請求項13】
前記本体が、前記回転中心軸(8)の周りに180°の回転対称性で配置された2つの切削構造体(10)を備え、前記本体が、前記頂点領域(13)を横切って前記2つの切削構造体(10)の前記刃先(11)を接続するチゼル縁部(7)を備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のドリル先端。
【請求項14】
第1の薄肉面(26)が、前記2つの切削構造体(10)のうちの第1の切削構造体の前記刃先中央部分(32)の前記すくい面(17)下で前記チゼル縁部(7)から軸方向後方に延在し、
第2の薄肉面(26)が、前記2つの切削構造体(10)のうちの第2の切削構造体の前記刃先中央部分(32)の前記すくい面(17)下で前記チゼル縁部(7)から軸方向後方に延在し、
前記第1の切削構造体(10)の前記凹部表面の前記半径方向内側湾曲部表面(28)は、共通の縁部を介して前記第2の薄肉面(26)と隣接し、
前記第2の切削構造体(10)の前記凹部表面の前記半径方向内側湾曲部表面(28)は、共通の縁部を介して前記第1の薄肉面(26)と隣接する、
請求項12および13に記載のドリル先端。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のドリル先端(1)を備える、中実ドリル工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するためのドリル先端に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するためのドリルが知られている。既知のドリルは、ドリルのほぼ円錐形の前端部であるドリル先端と、ドリルを機械スピンドルに取り付けるためのドリルの後端部のシャンクと、それらの間の直線またはテーパ部分とを備える。ドリル先端は、典型的には、すくい面と逃げ面との交差部によって形成され、回転中心軸に隣接する中心位置から半径方向外側に延在する2つの刃先を含む。チゼル縁部は、回転中心軸を横切って2つの刃先を接続する。刃先から離れて切りくずを導くために、切りくず溝が直線またはテーパ状セグメントに設けられる。
【0003】
アルミニウム合金などの軽量合金の加工対象物を穿孔する場合、そのような既知のドリルでは、それらのセンタリング特性が低下する傾向があり、厳しい公差に従って機械加工する能力が低下するという問題がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、先行技術の欠点を軽減し、改善されたセンタリング特性を有するドリル先端を提供することである。
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有する本発明によって達成される。
【0006】
アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するための本発明のドリル先端は、本体を備え、本体が、頂点領域を有する前端部と、頂点領域の中心から後方に延在する回転中心軸と、少なくとも1つの切削構造体とを有する。各切削構造体は、第1のすくい面と、第1の逃げ面と、第1のすくい面と第1の逃げ面との間の交差部にある刃先と、周辺切削コーナとを備える。刃先は、頂点領域から切削コーナまで半径方向外側に延在する。第1の逃げ面は、前端視で幅を有し、幅は、刃先に垂直に、かつ刃先から刃先に回転して後行する第1の逃げ面の縁部まで延在する距離である。本体は、回転中心軸から切削コーナまでの半径方向外側の距離であり、少なくとも1mmである公称切削半径をさらに有する。刃先は、頂点領域から半径方向外側端部まで半径方向外側に延在する中央部分を有する。刃先中央部分の半径方向外側端部は、公称切削半径の少なくとも10%の回転中心軸までの半径方向距離を有する。刃先中央部分に沿った第1の逃げ面の幅は、少なくとも0.05mm、公称切削半径の最大5%である。
【0007】
動作中、ドリル先端は回転中心軸の周りで回転し、回転方向の切削速度は、刃先の中心の0から外周端部の高速まで変化する。これにより、刃先の周縁部分に沿って機械加工された材料から切りくずが切削される一方、機械加工された材料は主として中央部分で塑性変形する。したがって、ドリルの中心にクリーンな切りくずは形成されない。
【0008】
先行技術のドリルでは、アルミニウム合金などの軽量合金を機械加工する場合、機械加工された加工対象物からの材料は、適切な切りくずが形成されていない中央でドリルに付着する傾向がある。このような材料の蓄積は、特にドリルの中心に近い刃先の後ろの逃げ面で発生する。これは、ドリルのセンタリング特性を低下させる大きな原因であることがわかっている。
【0009】
中心に近い非常に狭い逃げ面を有する本発明のドリル先端のおかげで、材料が逃げ面に付着するリスクが低減される。それにもかかわらず材料が付着すると、そのような狭い表面から破損する傾向がある。したがって、逃げ面に材料が堆積しにくくなり、それによってドリル先端のセンタリング特性が改善され、厳しい公差に従って加工対象物を機械加工することができる。
【0010】
本発明に係るドリル先端は、加工対象物材料のISO分類の規格に従って、加工対象物材料群ISO-Nに属する加工対象物の穿孔等の機械加工に適する。この群は、非鉄金属、例えばアルミニウム系合金などの軽量合金を含む。
【0011】
ドリル先端は、例えば、超硬合金、セラミック、立方晶窒化ホウ素、多結晶ダイヤモンド、および/またはサーメットの1つまたは複数から作製される。任意選択的に、ドリル先端は、例えば窒化チタン、炭窒化チタン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)および/または酸化アルミニウムを含む表面コーティングでコーティングされる。
【0012】
ドリル先端は、加工対象物の機械加工中に切削方向に回転中心軸の周りを回転するように構成される。この回転方向に見て、ドリル先端の特徴は、互いに対して先行または後行する。
【0013】
ドリル本体の各切削構造体の刃先は、第1のすくい面と第1の逃げ面との交差部に形成されている。任意選択的に、刃先は、回転中心軸から、またはそれに近い位置から延在する。
【0014】
好ましくは、刃先は、6μm以下、より好ましくは4μm以下の縁部半径を有する。このような鋭い縁部半径は、対象とする軽量合金材料の加工対象物を切削するのに有利である。任意選択的に、刃先半径は、刃先の断面において一定である、すなわち円形セグメントによって形成されるか、または非対称縁部を形成するように変化する。任意選択に、刃先半径は一定であるか、刃先に沿って変化する。縁部半径は、例えば、光学3D測定装置を使用して測定することができる。
【0015】
刃先は、本体の周囲に位置する切削コーナに外端部を有する。ドリル先端の公称切削半径は、回転中心軸から切削コーナまでの半径として理解されるべきである。ドリル先端は、少なくとも1mmの公称切削半径を有する。より小さい公称切削半径を有するドリル先端は、本質的に、機械加工された材料がそこに付着しにくいように、第1の逃げ面の幅がより小さい。
【0016】
好ましくは、ドリル先端の公称切削半径は最大20mmである。一般に、最新技術のプロセスおよび機械を用いてアルミニウム合金などの軽量合金を機械加工するには、より大きなドリル先端はあまり適していない。
【0017】
ドリル先端の本体の頂点領域は、ドリル先端の最前部先端の回転中心軸の周りの小さな領域として理解されるべきである。例えば、刃先が回転中心軸に近い中央端部を有する実施形態では、刃先の中央端部の中央に小さな領域、または、チゼル縁部を有する実施形態では、チゼル縁部の全長を直径とする円によって制限される領域である。
【0018】
各切削構造体において、第1のすくい面は、加工対象物から除去された材料が最初に摺動する刃先に最も近い表面部分である。一実施形態によれば、各切削部分は切りくずを含み、第1のすくい面は、刃先に最も近い切りくず面の一部である。したがって、さらなるすくい面は、第1のすくい面の軸方向後方に追従することができる。
【0019】
各切削構造体では、第1の逃げ面は、刃先の直後に回転して後行する前方を向く面である。前端視、言い換えれば、前端部に向かう回転中心軸の方向に見られるように、第1の逃げ面は、刃先から回転して後行する第1の逃げ面の縁部までの幅を有する。任意選択的に、第1の逃げ面は湾曲するかまたは平面であり、第1の逃げ面は、回転中心軸を法線として平面に対して角度があってもよい。例えば、湾曲した第1の逃げ面の曲率に追従する真の幅は、前端視で幅からずれていてもよい。
【0020】
刃先中央部分に沿った第1の逃げ面の幅は、少なくとも0.05mm、公称切削半径の最大5%である。幅が小さいほど、ドリル先端は弱くなり、動作中に切削力を受けると破損する可能性がある。より大きな幅では、アルミニウムなどの軽量合金の対象とする加工対象物からの材料は、ますます逃げ面に付着し始める。
【0021】
任意選択的に、刃先中央部分に沿った第1の逃げ面の幅は、一定であるか、または規定の限界内で変化する。例えば、幅は、主要部分にわたって一定であり、回転中心軸に最も近いほど狭く、外側部分に沿って連続的に広がり、刃先の外側部分のより広い第1の逃げ面と整列する。
【0022】
好ましくは、公称切削半径が2mmより大きい場合、刃先中央部分に沿った第1の逃げ面幅は公称切削半径の最大3%である。それにより、そのようなより大きな公称切削半径を有するドリル先端は、公称切削半径のより小さい部分である刃先中央部分における幅を有する第1の逃げ面を有する。公称切削半径が大きいため、付着に関して有利であるより小さい部分も、動作中に十分に強くなる。
【0023】
好ましくは、公称切削半径が5mmより大きい場合、刃先中央部分に沿った第1の逃げ面幅は公称切削半径の少なくとも1%である。それにより、このようなより大きな半径を有するドリル先端は、有利にはより強く、同時に、刃先中央部分の第1の逃げ面の幅は、動作中に対象とする材料の加工対象物からの材料の付着を十分に防止するのに十分に小さい。
【0024】
好ましくは、第1の逃げ面幅は、刃先の外側部分に沿った公称切削半径の10~30%であり、刃先は、切削コーナから刃先中央部分の最大で外側端部まで半径方向内側に延在する。ドリル先端の刃先での切削速度は半径方向外側の部分でより速いため、その領域で機械加工された材料から適切な切りくずが切削され、材料の第1の逃げ面への付着が懸念されない。したがって、有利には、刃先の半径方向外側部分における第1の逃げ面の幅は、代わりに切削性能および強度に関して最適化される。公称切削半径の少なくとも10%の幅は、特定の動作に期待することが可能な強度の増加を達成する。公称切削半径の最大30%の幅は、滑らかな動作を保証する。
【0025】
刃先中央部分は、頂点領域から、または言い換えれば、回転中心軸またはその近くの半径方向内側端部から半径方向外側に延在する。刃先中央部分の半径方向外側端部は、公称切削半径の少なくとも10%の回転中心軸までの半径方向距離を有する位置に位置する。これは、動作中に切削速度が最も低く、第1の逃げ面に機械加工された材料が付着する傾向が最も大きい領域である。好ましくは、刃先中央部分の半径方向外側端部は、公称切削半径の少なくとも35%の回転中心軸までの半径方向距離を有する。
【0026】
一実施形態によれば、刃先は、切削コーナから半径方向内側に延在する主刃先と、頂点領域から主刃先の内側端部まで径方向外側に延在する第2の刃先とを備える。前端視で、主刃先は、第2の刃先に対してある角度で延在しており、刃先中央部分は第2の刃先を形成する。例えば、より有益な切削形状を提供するために、主刃先は、切削コーナから回転中心軸の横の位置に向かって内側に延長部を有するように設計され、第2の刃先は、主刃先を頂点領域と接続するように設計されている。例えば、第2の刃先は、主にドリル先端本体のウェブ上に延在する。このような実施形態は、主刃先およびその第1の逃げ面を切りくず除去機械加工のために最適化することができる一方で、刃先の中央部分、すなわち第2の刃先には、付着を最小限に抑えるために本発明の刃先中央部分の特性が与えられるという点で有利である。
【0027】
互いに対して角度がある、そのような主刃先と第2の刃先の形態の刃先中央部分とを有する実施形態によれば、主刃先は、第2の刃先に最も近い主移行縁部を備える。これにより、有利には、刃先の鋭いコーナを回避することができる。
【0028】
好ましくは、各切削構造体は、前方を向く前端面をさらに備える。前端面は、頂点領域から本体の周囲まで半径方向外側に延在し、第1の逃げ面の縁部に接続し、第1の逃げ面の縁部に回転して後行する。任意選択的に、前端面は、第1の逃げ面の後方に順に回転して追従する第2以上の逃げ面を備える。一実施形態によれば、第1の逃げ面の縁部の少なくとも半径方向外側部分は、前端視で直線状である。
【0029】
一実施形態によれば、前端面は、凹部表面によって区切られた凹部を備え、凹部表面は、少なくとも刃先中央部分に沿って第1の逃げ面の縁部と隣接する。したがって、刃先中央部分に沿って、凹部表面は、第1の逃げ面の縁部から、そこから軸方向後方に延在する。凹部は、第1の逃げ面の縁部に回転して後行する。前端面に凹部を設けることは、刃先中央部分で第1の逃げ面の所望の狭い幅を得るための効率的な方法である。凹部は、例えば研削によって設けることができる。
【0030】
一実施形態によれば、各切削構造体は、冷却剤開口部を有する冷却剤チャネルをさらに備え、少なくとも部分的に凹部表面に位置する。これにより、冷却剤チャネルを通って供給される冷却剤および/または潤滑剤は、有利には、凹部の上を流れることによって刃先中央部分に到達することができる。冷却剤および/または潤滑剤を刃先中央部分に供給することに加えて、流体の流れは、加工対象物から第1の逃げ面に付着する材料を少なくすることに寄与する。好ましくは、冷却剤開口部の周囲の半径方向内側および軸方向前方の4分の1の少なくとも大部分は、凹部表面に隣接するか、言い換えれば、凹部表面を遮断する。
【0031】
好ましくは、凹部は凹状表面である。凹状表面は、例えば砥石車を使用して製造するのに効率的である。一実施形態によれば、凹部表面は、軸方向後方に延在する湾曲底面と、底面から頂点領域まで延在する半径方向内側湾曲部表面と、底面から冷却剤開口部まで延在する半径方向外側湾曲部表面とを備える。好ましくは、前端視で、底面の長手方向の延長は、刃先中央部分と平行である。好ましくは、側面視で、底面は、少なくとも冷却剤チャネル開口部の中心の軸方向位置まで、中心回転軸の方向に長手方向に延在する。
【0032】
任意選択的に、本体は、回転中心軸の周りに回転対称に配置された2つ、3つまたはそれ以上の切削構造体を備える。しかし、ただ1つの切削構造体を有する実施形態も考えられる。
【0033】
好ましい実施形態によれば、本体は、2つの切削構造体を備え、回転中心軸の周りに180°の回転対称性で配置される。任意選択的に、本体は、頂点領域を横切って2つの切削構造体の刃先を接続するチゼル縁部を備える。一実施形態によれば、各刃先は、小移行縁部を介してチゼル縁部に接続される。これにより、有利には、刃先の鋭いコーナを回避することができる。
【0034】
好ましくは、本発明のドリル先端は、ドリルヘッドに組み込まれ、ドリルヘッドは、任意選択的に、中実の円形工具またはドリル工具本体に接続可能な交換可能ヘッドの一体部である。次いで、ドリル先端は、例えば交換可能ヘッドまたはドリルなどの中実工具などのより大きな実体の前端部セグメントを構成する。
【0035】
一実施形態によれば、本発明のドリル先端を備えるドリルの形態の中実工具は、ドリルを機械スピンドルに取り付けるための後端部のシャンクと、ドリル先端とシャンクとの間の直線またはテーパ状セグメントとをさらに備える。切りくず溝は、動作中に刃先から離れて切りくずを導くことができるように、ドリル先端に接続する直線またはテーパ状セグメントに設けられる。任意選択的に、切りくず溝は螺旋状または直線状である。
【0036】
以下、添付の図面を参照して、例示的な実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明によるドリル先端の一実施形態の斜視正面図であり、ドリル先端は、中実ドリル工具の前方部分に含まれている。
図2図1の中実ドリル工具全体の側面図である。
図3】ドリル先端を有するドリル工具の正面端面図である。
図4】ドリル先端が第1の角度位置にある中実ドリル工具の前方部分の斜視側面図である。
図5】ドリル先端が2つの異なる角度位置にある中実ドリル工具の前方部分の側面図である。
図6】ドリル先端が2つの異なる角度位置にある中実ドリル工具の前方部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
すべての図は概略図であり、必ずしも縮尺通りではなく、一般に、それぞれの実施形態を明瞭にするために必要な部分のみを示すが、他の部分は省略または単に示唆されてもよい。別途指示がない限り、同様の参照符号は、異なる図の同様の部分を指す。
【0039】
図1および2は、本発明によるドリル先端1の実施形態を備えるツイストドリルの形態の中実ドリル工具を示す。実施形態によるドリル先端1は、ツイストドリルの略円錐形状の前方セグメント2を構成する。ツイストドリルは、ツイストドリルを機械スピンドルに取り付けるための後方セグメント4内にシャンク6をさらに備える。直線セグメント3は、前方セグメント2と後方セグメント4との間に延在する。螺旋状の切りくず溝5は直線セグメント3内に配置され、切りくず溝5はドリル先端1内に軸方向に続く。ツイストドリルは、例えばアルミニウム合金を穿孔するなど、加工対象物の機械加工中に切削方向9に回転中心軸8の周りを回転するように構成される。ドリル先端1およびツイストドリルの特徴は、切削方向9に見て、互いに対して先行または後行する。
【0040】
図3図6を参照して、ツイストドリルに備えられたドリル先端1の実施形態を説明する。
【0041】
ドリル先端1は、チゼル縁部7の形態の最前部先端を有する本体を備える。回転中心軸8は、チゼル縁部7の中心から本体内で後方に延在する。
【0042】
本体は、回転中心軸8に対して180°の回転対称性で配置された2つの切削構造体10をさらに備える。各切削構造体10は刃先11を備え、各刃先11は、小移行縁部12を介してチゼル縁部のそれぞれの端部に接続される。回転中心軸8の周りの中央領域は、チゼル縁部7および小移行縁部12を備え、頂点領域13を形成する。
【0043】
各刃先11は、頂点領域13の小移行縁部12の半径方向外側端部から周辺切削コーナ14まで延在する。回転中心軸8から切削コーナ14までの半径は、ドリル先端1および例示的なツイストドリルの公称切削半径22を形成する。実施形態のドリル先端は、5mmの公称切削半径を有する。側面視で、各刃先11および小移行縁部12は実質的に直線であり、140°の点角度βを形成する。他の実施形態は、異なる刃先形状、例えば実質的に軸方向平面に延在する刃先を有していてもよい。
【0044】
各刃先11は、最大4μmの縁部半径で鋭利である。
【0045】
各刃先11は、切削コーナ14から半径方向内側に延在する主刃先15と、第2の刃先16の形態の中央刃先部分(32)とを備える。第2の刃先16は、頂点領域において小移行縁部12から半径方向外側に延在し、主刃先15の半径方向内側端部に半径方向外側端部23を有する。主刃先15は、第2の刃先16の半径方向外側端部23に最も近い主移行縁部24を備える。回転中心軸8から第2の刃先16の半径方向外側端部23までの半径方向距離は、2.07mm、すなわち公称切削半径22の少なくとも35%、すなわち1.75mmである。
【0046】
図3の前端視で、主刃先15は、第2の刃先16に対してある角度で延在する。回転中心軸8および第2の刃先16の半径方向外側端部を通る線と、回転中心軸8および切削コーナ14を通る公称切削半径22に沿った線との間の角度αは、20~40°であり、図示の実施形態では、角度αは24°である。
【0047】
図3の前端視で、第2の刃先16は実質的に直線であり、主刃先15は大部分にわたって凹状であり、主移行縁部24は直線である。小移行縁部12は凹状である。他の実施形態は、異なる刃先形状を有していてもよい。
【0048】
各刃先11は、第1のすくい面17と第1の逃げ面18との交差部に形成されている。切りくず溝5の一方は、各刃先11から後方に延在する。第1のすくい面17は、切りくず溝面のうち刃先11に最も近い部分である。
【0049】
図4および図6に最もよく見られるように、各第2の刃先16は、薄肉面26の形態の第1のすくい面17を有する。チゼル縁部7および小移行縁部12において回転中心軸8に近接して、薄肉面26は凹部分を備える。第2の刃先16の主要な半径方向外側の長さよりも軸方向下方において、薄肉面26は平面部分を備える。
【0050】
各切削構造体10では、第1の逃げ面18は、刃先11の直後に回転して後行する前方を向く面である。
【0051】
各切削構造体10は、前方を向く前端面20をさらに備える。前端面20は、頂点領域13から本体の周囲まで半径方向外側に延在し、第1の逃げ面18に接続し、第1の逃げ面に回転方して後行する。第1の逃げ面18は、前端面20への移行部に後行する縁部19を有する。前端面20は、第2の逃げ面21を備え、第1の逃げ面18の後方に回転して追従する。第2の逃げ面21の回転して後行する縁部は、切りくず溝5の軸方向前方および回転方向前側面31に接続する。軸方向前方かつ回転方向前側面31および第1のすくい面17は、同じ切りくず溝5の部分表面であるが、切削構造体10のそれぞれ異なるものに関連付けられている。前端面20は、本体の周囲の一部に追従する。
【0052】
図3の前端視で、第1の逃げ面18は幅(b)を有し、刃先11に対して垂直に測定される。幅(b)は、刃先11から第1の逃げ面の縁部19までの距離である。
【0053】
第2の刃先16に沿った第1の逃げ面の幅(b)は、0.06mm、すなわち公称切削半径22の0.05mmおよび1%より大きく、公称切削半径の3%、すなわち0.15mm未満である。
【0054】
刃先11の外側部分に沿った第1の逃げ面の幅(b)は、0.53mm、すなわち公称切削半径22の10%超30%未満、すなわち1.5mmである。具体的には、この大きい方の幅(b)は、主刃先15の大部分に沿って切削コーナ14から半径方向内側に存在する。
【0055】
第1の逃げ面18の幅(b)は、実質的に第2の刃先16に沿って一定であり、主刃先15の移行部分24に沿って連続的に広がり、その凹曲率のために主刃先15の外側部分に沿ってわずかに変化する。
【0056】
前方を向く各前端面20は、凹部表面によって区切られた凹部25を備え、小移行縁部12に沿って、第2の刃先16に沿って、および主移行縁部24を含む主刃先15の半径方向中央部分に沿って、第1の逃げ面18に隣接する。半径方向外側では、凹部表面は、第2の逃げ面21および切りくず溝5の軸方向前方の回転方向前側面31に隣接する。
【0057】
凹部25により、本発明の狭い幅(b)を有する第1の逃げ面18の部分は、隆起部上に位置する。隆起部は、すくい面17として機能する薄肉面26の形態の回転方向前側面フランクと、凹部表面の形態の回転方して後行するフランクとを有する。
【0058】
凹部表面は、軸方向後方に延在する湾曲底面27と、底面27から頂点領域13まで延在する半径方向内側湾曲部表面28と、半径方向外側湾曲部表面29とを備える凹状表面である。図4および図6参照。
【0059】
図3の前端視で、半径方向内側湾曲部表面28は、両方の切削構造体10の第2の刃先16に沿って、頂点領域13を横切って延在する。具体的には、第1の切削構造体の半径方向内側湾曲部表面28は、第2の切削構造体の薄肉面26に隣接し、第2の切削構造体の半径方向内側湾曲部表面28は、第1の切削構造体の薄肉面26に隣接する。半径方向内側湾曲部表面28と薄肉面26との凹曲率の差により、それらの交差部に共通の縁部が形成される。
【0060】
各切削構造体10は、冷却剤開口部30を有する冷却剤チャネルをさらに備える。冷却剤開口部30は、部分的に凹部表面に位置し、部分的に切りくず溝5の回転方向前側面31に位置する。したがって、冷却剤開口部30は、凹部25の半径方向外側湾曲部表面29に位置し、冷却剤開口部30の周囲のほぼ半径方向内側および軸方向前方半分は、凹部表面に位置する。
【0061】
図4図6から最もよくわかるように、本発明の凹部25により、冷却剤開口部30を通って出る冷却剤は、第2の刃先16に向かって案内される。第2の刃先16に沿った第1の逃げ面18の本発明の狭い幅と組み合わせて、逃げ面18に材料が付着するリスクは大幅に低減される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】