(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体の呼吸器感染疾患の後遺症の治療用途
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20231026BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20231026BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20231026BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20231026BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20231026BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231026BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231026BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231026BHJP
C07K 14/605 20060101ALI20231026BHJP
C07K 14/575 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P11/00
A61P31/22
A61P31/16
A61P31/14
A61P29/00
A61P11/14
A61P25/00
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/605
C07K14/575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521845
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 KR2021014485
(87)【国際公開番号】W WO2022080991
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134344
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0028215
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョン スク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュン クク
(72)【発明者】
【氏名】リ ソン ミョン
(72)【発明者】
【氏名】リ サン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョン ア
(72)【発明者】
【氏名】オ ウ リム
(72)【発明者】
【氏名】リム チョン ユン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA19
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA07
4C084ZA59
4C084ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA30
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA22
(57)【要約】
本発明は、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体及び/又はその結合体の呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療的用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬学的組成物であって、
薬学的に許容される賦形剤と、
配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドとを薬学的有効量で含む薬学的組成物。
【請求項2】
前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、下記化学式(1)で表されるものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化1】
ここで、Xは配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列のペプチドであり、
Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、
Fは免疫グロブリンFc領域であり、
-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【請求項3】
前記呼吸器感染疾患は、呼吸器ウイルスによる感染疾患である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記呼吸器ウイルスは、アデノウイルス(adenovirus)、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、ライノウイルス(rhinovirus)、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella Zoster Virus)、麻疹ウイルス(measle virus)、呼吸器細胞融合性ウイルス(respiratory syncytial virus)、デングウイルス(Dengue virus)、HIV(human immunodeficiency virus)、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(coronavirus)、重症急性呼吸器症候群ウイルス(severe acute respiratory syndrome associated virus; SARS-associated virus)及び中東呼吸器症候群コロナウイルス(middle east respiratory syndrome coronavirus; MERS-CoV)からなる群から選択されるいずれかである、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記呼吸器ウイルスはSARS-CoV-2である、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記呼吸器ウイルスは変異型ウイルスである、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記変異型呼吸器ウイルスは、前記呼吸器ウイルスと同じ後遺症を誘発するものである、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記変異型呼吸器ウイルスは、SARS-CoV-2アルファ変異ウイルス(B.1.1.7系統)、SARS-CoV-2ベータ変異ウイルス(B.1.351系統)、SARS-CoV-2ガンマ変異ウイルス(P.1系統)及びSARS-CoV-2デルタ変異ウイルス(B.1.617.2系統)からなる群から選択されるいずれかである、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記呼吸器感染疾患の後遺症は、発熱、呼吸困難、咳、肺炎、肺線維症、痛み、筋肉痛、疲労、炎症及び神経系障害からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記呼吸器感染疾患の後遺症は、サイトカインの過剰分泌による組織損傷によるものである、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記呼吸器感染疾患の後遺症はCovid-19後肺線維症(post covid-19 pulmonary fibrosis)である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記薬学的組成物は、投与すると、次の特性の少なくとも1つを示すものである、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
(i)肺炎症スコア(lung inflammation score)の減少
(ii)炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)の発現又は分泌の減少
(iii)肺線維化面積の減少
(iv)炎症複合体(inflammasome complex)生成の抑制
【請求項13】
前記サイトカインは、インターロイキン(interleukin)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)及びインターフェロン(interferon)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記サイトカインは、IL-1β、TNF-α又はIFN-γである、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記薬学的組成物は、呼吸器ウイルス感染によるサイトカインストーム症候群(cytokine storm syndrome)、敗血症又は臓器不全(organ failure)の状態の個体に投与されるものである、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、77及び96からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体及び/又はその結合体の呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器感染疾患は、病原体(ウイルス、細菌、マイコプラズマ、真菌など)の感染による呼吸器疾患であり、代表的な呼吸器感染疾患としては、病原性ウイルス感染による呼吸器ウイルス感染疾患が挙げられる。呼吸器感染疾患は、軽症の上気道感染から肺炎や気管支炎を伴う深刻な下気道感染を引き起こすことがあり、心肺機能が低下した人には致命的である。
【0003】
呼吸器ウイルスのうち、コロナウイルス感染症-19(coronavirus disease 2019, COVID-19)を引き起こす新種コロナウイルス(2019-nCoV又はSARS-CoV-2)は、伝播力が高いだけでなく、感染力の高い様々な変異型SARS-CoV-2ウイルスまで確認されており、全世界的なパンデミックをもたらした。呼吸器から伝播する新種コロナウイルスは、II型肺胞上皮細胞において主に発現するACE2、TMPRSS2により細胞内に侵入するので、肺が主要脆弱臓器(organ)であることが知られている。主な症状としては、発熱、咳などが挙げられ、健康な成人では時間の経過と共に回復することが多いが、一部の患者では却ってサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome)などの極端な免疫反応が肺損傷を誘発し、進行性線維化が促進され、急性呼吸困難症候群(ARDS)や敗血症などの症状を伴うことがある。
【0004】
新種コロナウイルスなどの呼吸器感染疾患の患者においては、完治後も後遺症が残り、日常生活に困難を来すことが多いが、これらの後遺症は、サイトカインストームとそれによる肺損傷が原因となることが多い。
【0005】
全世界的にパンデミックスを引き起こしたSARS-CoV-2ウイルスにおいては、感染後に過免疫反応が起こり、重症肺炎、急性呼吸困難などが誘発されるだけでなく、完治後も後遺症が残ることが報告されている。
【0006】
過免疫反応を引き起こす代表的な機序としては、SARS-CoV-2ウイルスに感染すると、炎症反応の活性化を担う細胞質多タンパク質オリゴマーである炎症複合体により前炎症性サイトカインが過剰に分泌され、活性化したマクロファージが炎症性マクロファージの性質を強く帯びて組織損傷を引き起こすことなどが知られている。また、肺以外の他の主要臓器も、サイトカインストームによる過免疫炎症反応により損傷することがある。
【0007】
このような過免疫炎症反応により、呼吸器ウイルスの感染後、完治しても様々な後遺症が残るので、呼吸器感染疾患の治療後も適切な治療及び対応が重要である。例えば、コロナウイルス感染症-19患者においては、完治診断後も呼吸困難、咳、胸のつかえ、深刻な疲労、心臓疾患、肺機能喪失、腎臓損傷などの様々な後遺症が現れ、特にコロナウイルス感染症-19のハイリスク層や重篤な症状が現れた患者であるほど、後遺症が現れるリスクも高いことが知られている(非特許文献1)。
【0008】
コロナウイルス感染症-19患者に現れる後遺症の一つであるCovid-19後肺線維症(post covid-19 pulmonary fibrosis)は、ウイルス感染による肺損傷が主な原因となって生じることが知られており、肺損傷を引き起こす要因の一つとして、ウイルス感染による過度な免疫反応(サイトカインストーム)が指定されている。
【0009】
コロナウイルス感染症-19の後遺症として現れる肺線維症は、一般に観察される肺線維症よりもその症状の発生(onset)及び進行(progression)が非常に速い。よって、長期的観点で症状緩和及び進行遅延に焦点を合わせた従来の肺線維症治療剤とは異なり、肺線維化の原因となる肺炎症と線維症を同時に標的とする治療学的アプローチを必要とするが、現在まで有効な薬剤は確認されていない。例えば、抗線維化薬剤として知られるピルフェニドンやニンテダニブによる治療可能性が示唆されているが、相対的に肺炎症自体には大きな効能をもたらすわけではなく、その効能に限界がある。また、ほとんどのコロナウイルス感染症-19患者には肝臓の機能異常が現れるが、ピルフェニドンとニンテダニブに大別される抗線維化薬剤は肝毒性(hepatotoxicity)を引き起こす可能性が高いので、一般に知られている抗線維化薬剤をコロナウイルス感染症-19後の後遺症が現れた患者に処方することは困難である(非特許文献1)。
【0010】
つまり、呼吸器ウイルスによる感染疾患を治療するための様々な薬剤が開発されているが、炎症反応を抑制し、肺線維化などの肺損傷を最小限に抑え、呼吸器感染疾患後の後遺症を予防又は治療することのできる薬剤は十分に開発されていない。
【0011】
一方、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)及びGIP(Glucose-dependent insuliontropic polypeptide)は、代表的な胃腸ホルモンであると共に、神経ホルモンとして食物摂取による血中の糖成分の調節に関与する物質である。グルカゴン(Glucagon)は、膵臓から分泌されるペプチドホルモンであり、前述した2つの物質と共に血中糖濃度の調節作用に関与する。GLP-1受容体、GIP受容体及びグルカゴン受容体にそれぞれ又は同時に活性を示す薬物を用いた治療剤の開発が行われている(特許文献1,2)。
【0012】
現在も呼吸器感染疾患の後遺症に関する様々な研究が行われているが、実質的かつ効果的な治療剤開発は十分でないので、持続的な治療剤開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第10370426号明細書
【特許文献2】米国特許第10400020号明細書
【特許文献3】国際公開第97/034631号
【特許文献4】国際公開第96/032478号
【特許文献5】国際公開第2017/116204号
【特許文献6】国際公開第2017/116205号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Deependra Kumar Rai et al., Indian J Tuberc. 2020 Nov 10
【非特許文献2】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための治療剤の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド又はそのペプチドの持続型結合体を含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、前記ペプチド又はそのペプチドの持続型結合体を含む組成物を必要とする個体に、前記ペプチド又はそのペプチドの持続型結合体を含む組成物を投与するステップを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0018】
さらに、本発明は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記ペプチド又はそのペプチドの持続型結合体を含む組成物の用途を提供することを目的とする。
【0019】
さらに、本発明は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための前記ペプチド又はそのペプチドの持続型結合体を含む組成物の用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明による三重活性体又はその持続型結合体は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide)受容体に対して活性を有し、呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Aは配列番号42の持続型結合体の投与によるSARS-CoV-2感染ハムスターにおける肺サイトカイン発現の減少を示す図であり、Bは肺炎症スコアの変化を示す図である。
【
図2】配列番号42の持続型結合体の投与によるサイトカインストーム誘導ハムスターにおける肺線維化面積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実現する一態様は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide)受容体に対して活性を有するペプチドを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0023】
一具体例として、前記呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤と、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドとを薬学的有効量で含むことを特徴とする。
【0024】
前述した具体例のいずれかによる薬学的組成物において、前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、化学式(1)で表されるものであることを特徴とする。
【0025】
X-L-F・・・(1)
【0026】
ここで、Xは配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドであり、Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、Fは免疫グロブリンFc領域であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【0027】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器感染疾患は、呼吸器ウイルス感染疾患であることを特徴とする。
【0028】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器ウイルス感染疾患は、アデノウイルス(adenovirus)、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、ライノウイルス(rhinovirus)、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella Zoster Virus)、麻疹ウイルス(measle virus)、呼吸器細胞融合性ウイルス(respiratory syncytial virus)、デングウイルス(Dengue virus)、HIV(human immunodeficiency virus)、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(coronavirus)、重症急性呼吸器症候群ウイルス(severe acute respiratory syndrome associated virus; SARS-associated virus)及び中東呼吸器症候群コロナウイルス(middle east respiratory syndrome coronavirus; MERS-CoV)からなる群から選択されるいずれかの呼吸器ウイルスによる感染疾患であることを特徴とする。
【0029】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記コロナウイルスはSARS-CoV-2であることを特徴とする。
【0030】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器ウイルスは変異型ウイルスであることを特徴とする。
【0031】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記変異型呼吸器ウイルスは、前記呼吸器ウイルスと同じ後遺症を誘発するものであることを特徴とする。
【0032】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記変異型呼吸器ウイルスは、SARS-CoV-2アルファ変異(B.1.1.7系統)、SARS-CoV-2ベータ変異(B.1.351系統)、SARS-CoV-2ガンマ変異(P.1系統)及びSARS-CoV-2デルタ変異(B.1.617.2系統)からなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする。
【0033】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器感染疾患の後遺症は、発熱、呼吸困難、咳、肺炎、肺線維症、痛み、筋肉痛、疲労、炎症及び神経系障害からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【0034】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器感染疾患の後遺症は、サイトカインの過剰分泌による組織損傷によるものであることを特徴とする。
【0035】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記呼吸器感染疾患の後遺症はCovid-19後肺線維症(post covid-19 pulmonary fibrosis)であることを特徴とする。
【0036】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記薬学的組成物は、投与すると、次の特性の少なくとも1つを示すものであることを特徴とする。
(i)肺炎症スコア(lung inflammation score)の減少
(ii)炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)の発現又は分泌の減少
(iii)肺線維化面積の減少
(iv)炎症複合体(inflammasome complex)生成の抑制
【0037】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記サイトカインは、インターロイキン(interleukin)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)及びインターフェロン(interferon)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【0038】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記サイトカインは、IL-1β、TNF-α又はIFN-γであることを特徴とする。
【0039】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記薬学的組成物は、呼吸器ウイルス感染によるサイトカインストーム症候群(cytokine storm syndrome)、敗血症又は臓器不全(organ failure)の状態の個体に投与されるものであることを特徴とする。
【0040】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、そのC末端がアミド化されたものであることを特徴とする。
【0041】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、そのC末端がアミド化されたものであるか、又は遊離カルボキシ基(-COOH)を有するものであることを特徴とする。
【0042】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、77及び96からなる群から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0043】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、アミノ酸残基間に環が形成されることを特徴とする。
【0044】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、ペプチド配列は、N末端から16番目のアミノ酸と20番目のアミノ酸が互いに環を形成することを特徴とする。
【0045】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、非グリコシル化されていることを特徴とする。
【0046】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0047】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ジスルフィド結合を形成する部位が除去されたか、天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失したか、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されたか、補体結合部位が除去されたか、又はADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されたものであることを特徴とする。
【0048】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来することを特徴とする。
【0049】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記FはIgG Fc領域であることを特徴とする。
【0050】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であることを特徴とする。
【0051】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であることを特徴とする。
【0052】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合で連結されている構造であり、前記2本の鎖のうち1本の鎖の窒素原子を介してのみ連結されていることを特徴とする。
【0053】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、二量体形態(dimeric form)であることを特徴とする。
【0054】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号123のアミノ酸配列である単量体を含むことを特徴とする。
【0055】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号123のアミノ酸配列の単量体からなるホモ二量体であることを特徴とする。
【0056】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、そのN末端プロリンの窒素原子により連結されていることを特徴とする。
【0057】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域であるFとXがグリコシル化されていないことを特徴とする。前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドであることを特徴とする。
【0058】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記領域Fは、2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されていることを特徴とする。
【0059】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記結合体は、Lの一末端がFのアミノ基又はチオール基、Lの他の末端がXのアミノ基又はチオール基にそれぞれ反応して形成された共有結合により、F及びXにそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0060】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記Lはポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0061】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記エチレングリコール繰り返し単位は[OCH2CH2]nであり、nは自然数であって、前記ペプチド結合体中の[OCH2CH2]n部位の平均分子量、例えば数平均分子量が1~100kDaになるように決定されることを特徴とする。
【0062】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記nの値は、前記ペプチド結合体中の[OCH2CH2]n部位の平均分子量、例えば数平均分子量が10kDaになるように決定されることを特徴とする。
【0063】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記L中のエチレングリコール繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にあることを特徴とする。
【0064】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、77及び96からなる群から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0065】
本発明を実現する他の態様は、前記ペプチド、その持続型結合体、又はそれを含む組成物を必要とする個体に、前記ペプチド、その持続型結合体、又はそれを含む組成物を投与するステップを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療方法である。
【0066】
本発明を実現するさらに他の態様は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記ペプチド、その持続型結合体、又はそれを含む組成物の用途である。
【0067】
本発明を実現するさらに他の態様は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための前記ペプチド、その持続型結合体、又はそれを含む組成物の用途である。
【0068】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0069】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0070】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(2-アミノイソブチル酸,2-aminoisobutyric acid)、Sar(N-methylglycine)、α-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン Ala,A
アルギニン Arg,R
アスパラギン Asn,N
アスパラギン酸 Asp,D
システイン Cys,C
グルタミン酸 Glu,E
グルタミン Gln,Q
グリシン Gly,G
ヒスチジン His,H
イソロイシン Ile,I
ロイシン Leu,L
リシン Lys,K
メチオニン Met,M
フェニルアラニン Phe,F
プロリン Pro,P
セリン Ser,S
トレオニン Thr,T
トリプトファン Trp,W
チロシン Tyr,Y
バリン Val,V
【0071】
本明細書における「Aib」は「2-アミノイソブチル酸(2-aminoisobutyric acid)」又は「アミノイソブチル酸(aminoisobutyric acid)」と混用され、2-アミノイソブチル酸(2-aminoisobutyric acid)とアミノイソブチル酸(aminoisobutyric acid)は混用される。
【0072】
本発明を実現する一態様は、グルカゴン受容体、GLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体及びGIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide)受容体に対して活性を有するペプチドを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0073】
一実施例において、前記ペプチドは、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0074】
他の実施例において、前記呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤と、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドとを薬学的有効量で含む薬学的組成物であってもよい。本発明における「薬学的有効量」とは、前記ペプチド又はその持続型結合体が呼吸器感染疾患の後遺症の治療効果を発揮すると共に、患者に毒性や副作用のない安全な投与用量を意味し、具体的には、サイトカインの分泌及び/又は発現の減少による炎症反応抑制、線維化抑制などの効果が得られる用量を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本発明の呼吸器感染疾患は、病原体(ウイルス、細菌、真菌など)の感染による呼吸器疾患であり、代表的な感染原因としては、呼吸器ウイルスが挙げられる。呼吸器感染疾患のうち、呼吸器ウイルス感染疾患とは、病原性ウイルス感染による呼吸器疾患を意味し、前記呼吸器ウイルスは、アデノウイルス(adenovirus)、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、ライノウイルス(rhinovirus)、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella Zoster Virus)、麻疹ウイルス(measle virus)、呼吸器細胞融合性ウイルス(respiratory syncytial virus)、デングウイルス(Dengue virus)、HIV(human immunodeficiency virus)、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(coronavirus)、重症急性呼吸器症候群ウイルス(severe acute respiratory syndrome associated virus; SARS-associated virus)又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(middle east respiratory syndrome coronavirus; MERS-CoV)であるが、これらに限定されるものではない。また、本発明において、前記呼吸器ウイルスには、ゲノムの配列又は形質に突然変異が生じた変異型ウイルスが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の変異型ウイルスとは、前記呼吸器ウイルスと比較して変異を有しながらも、同じ後遺症を誘発するウイルスを意味する。
【0076】
前記コロナウイルスとしては、例えばSARS-CoV-2が挙げられるが、これに限定されるものではなく、SARS-CoV-2感染によりコロナウイルス感染症-19(coronavirus disease 2019, COVID-19)が発生する。本発明において、前記SARS-CoV-2には変異型ウイルスが含まれ、変異型ウイルスの具体例としては、アルファ(B.1.1.7系統)、ベータ(B.1.351系統)、ガンマ(P.1系統)、デルタ(B.1.617.2系統)などの変異型ウイルスが挙げられるが、既存のSARS-CoV-2ウイルスと比較して異なる形質を示すか、異なる形質を誘導する変異を有するウイルスであればいかなるものでもよい。
【0077】
本発明の薬学的組成物は、呼吸器ウイルスとその変異型に限定されることなく、後遺症を予防、治療又は改善することができる。
【0078】
本発明におけるコロナウイルス感染症-19とは、新種コロナウイルス(2019-nCoV又はSARS-CoV-2)感染によるウイルス感染性疾患を意味し、いまだ感染源や感染経路が明確に確認されていないが、伝播力が非常に高く、全世界的なパンデミックをもたらした。
【0079】
新種コロナウイルス(2019-nCoV又はSARS-CoV-2)は、ヒトや様々な動物に感染し、遺伝子サイズが27~32kbのRNAウイルスであり、発熱を伴う咳、呼吸困難、息切れ、痰などの呼吸器症状が主に現れる。前記コロナウイルスは、細胞内侵入を助ける「ACE2」、「TMPRSS2」などの受容体が多量に存在する気管支の繊毛上皮細胞やII型肺胞上皮細胞を攻撃することが知られている。
【0080】
他のウイルスと同様に、コロナウイルスは、宿主細胞の資源とシステムを乗っ取って旺盛に増殖し、感染した細胞外に放出される。ここで、幾何級数的に増殖したウイルスが放出されると、周辺の健康な繊毛上皮細胞やII型肺胞上皮細胞に急速に侵入する。感染した細胞は強い炎症を引き起こすサイトカイン物質を分泌するマクロファージをはじめとする様々な炎症細胞の浸潤、増殖及び活性化を誘発し、それにより二次的症状(熱、咳、呼吸困難など)が発生する。
【0081】
前記サイトカイン(cytokine)は、免疫細胞が分泌するタンパク質であり、マクロファージの増殖を誘導するか、分泌細胞自身の分化を促進することにより、免疫反応に関与する。呼吸器ウイルス感染によりサイトカインが過剰に分泌されると、過度な免疫反応により体内組織又は臓器の損傷を引き起こすが、これをサイトカインストーム症候群(cytokine storm syndrome)という。このようなサイトカインストームにより、呼吸器ウイルスの感染後に、組織損傷、組織線維化、組織機能喪失などの後遺症が残る。
【0082】
コロナウイルス感染症-19患者においては、SARS-CoV-2感染により肺組織内で免疫細胞活性化が起こり、特に活性化した単核球が血流を介して肺組織に浸潤し、それにより、ウイルスの除去とは別に、過度な免疫反応による組織損傷を引き起こす。サイトカインストームは、コロナウイルス感染症-19の完治後にも残る後遺症の主な原因であると言える。
【0083】
前記サイトカインは、炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)であってもよく、具体例として、インターロイキン(interleukin)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)、インターフェロン(interferon)、TGFβ、GM-CSF、G-CSFなどが挙げられる。インターロイキンとしては、例えばIL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8などが挙げられ、腫瘍壊死因子としては、例えばTNF-α、TNFβなどが挙げられ、インターフェロンとしては、例えばIFNα、IFNβ、IFNγなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明における「呼吸器感染疾患の後遺症」とは、呼吸器感染疾患の患者において、呼吸器感染疾患の治療後に独立して現れる異常症状を意味する。具体的には、本発明における呼吸器感染疾患の後遺症とは、呼吸器ウイルス感染疾患の後遺症、より具体的にはコロナウイルス感染症-19(COVID-19)の後遺症を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本発明の呼吸器感染疾患の後遺症とは、感染源が除去された後にも残る組織の変形や機能障害などの病的な状態を意味し、その症状としては、発熱、呼吸困難、咳、肺炎、肺線維症、痛み、筋肉痛、疲労、炎症、神経系障害などが挙げられる。本発明において、前記呼吸器感染疾患の後遺症は、サイトカインの過剰分泌による組織損傷によるものであるが、これに限定されるものではない。
【0086】
本発明における「コロナウイルス感染症-19(COVID-19)の後遺症(COVID-19 Sequelae)」とは、SARS-CoV-2感染後に患者に現れる後遺症を意味する。コロナウイルス感染症-19においては、完治診断を受けた多くの患者が慢性疲労、痛み、呼吸困難などの持続的な症状を訴えることが知られている。このようなコロナウイルス感染症-19の後遺症を慢性コロナ19(Long COVID)ともいい、米国ではこのようなコロナウイルス感染症-19の後遺症を患う患者を「ロングホーラー(long-hauler)」というほどに、コロナウイルス感染症-19だけでなく、その後遺症による被害が深刻である。
【0087】
具体的には、コロナウイルス感染症-19の後遺症には、発熱、呼吸困難、咳、肺炎、肺線維症、痛み、筋肉痛、疲労、炎症、神経系障害などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
特に、コロナウイルス感染症-19の後遺症は、呼吸器、とりわけ肺の機能低下及び/又は損傷として現れるものであるが、これらに限定されるものではない。具体的には、炎症及び/又は線維化が進んだ肺においては、回復が困難な組織損傷が起こり、それによる機能損失が生じ、線維化により縮小した肺により呼吸困難、咳、痛みなどが現れる。
【0089】
本発明の目的上、本発明によるペプチド又はその持続型結合体は、呼吸器ウイルス感染疾患又はコロナウイルス感染症-19の完治診断の前及び/又は後に、又は回復期間に、抗ウイルス活性とは別に、呼吸器ウイルス感染患者に現れる正常でない臓器損傷を防止し、かつ/又は損傷した臓器の改善及び回復を助けるものである。
【0090】
本発明における肺炎とは、肺の実質組織又は肺胞に炎症が生じる状態を意味し、具体的には、呼吸器感染疾患の患者又は完治した患者に現れる炎症を意味する。本発明の目的上、前記肺炎とは、呼吸器ウイルス感染による急性肺炎を意味し、そのような炎症の慢性化により肺組織の損傷及び/又は線維化症状が現れる。
【0091】
コロナウイルス感染症-19の深刻な後遺症としては、Covid-19後肺線維症(post covid 19 pulmonary fibrosis)が知られている。
【0092】
肺線維症(pulmonary fibrosis)とは、肺が様々なストレス(化学的刺激、放射線など)による損傷を受け、その後創傷治癒(wound healing)過程中に正常な統制が不可能な状態になり、組織が過度に線維化した状態を意味する。正常な免疫機序が作動している人においては肺機能の修復が期待されるが、炎症(肺炎)が激しい患者においては両側の肺に出血、鬱血などが現れ、原状復帰が困難になり、癒着して線維化が発生し得る。特に、呼吸器感染疾患の患者においては、感染に対抗する免疫反応が過度に起こり、線維化症状が後遺症として現れることが多く、中等度以上のコロナウイルス感染症-19の症状を有する患者であるほど、過度な免疫反応による肺損傷及び肺機能障害と共に肺線維症が多く確認されることが知られている。
【0093】
とりわけ、コロナウイルス感染症-19患者においては、肺の炎症を抑制する機能を有するマクロファージが血液単核球由来の炎症促進性マクロファージに代替され、肺の上皮細胞や免疫細胞に存在する炎症複合体が活性化するので、重症肺炎やサイトカインストームなどの過免疫反応による後遺症が残ることが知られている。よって、コロナウイルス感染症-19患者の後遺症を減らすためには、過度な免疫反応を抑制し、肺の損傷及び線維化を抑制することが重要である。
【0094】
前記炎症複合体(Inflammasome Complex又はInflammasome)は、多タンパク質の細胞内複合体であり、前炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)及びIL-18を活性化させ、pyroptosisという細胞死形態を誘導するなど、免疫反応に関与し、コロナウイルス感染症-19患者においては、炎症複合体の活性による過度なサイトカイン分泌及びサイトカインストームが起こり、後遺症が残ることが知られている。
【0095】
本発明のペプチド又はその結合体は、前記炎症複合体の生成及びその活性を抑制し、コロナウイルス感染症-19患者において代表的に発現する炎症因子であるIL-1β、TNF-α、IFN-γサイトカインの分泌及び/又は発現を減少させることにより、コロナウイルス感染症-19患者におけるウイルス感染により現れるサイトカインストームを防止することができ、また、それにより、肺損傷や肺線維化などの後遺症を改善することができる。すなわち、本発明のペプチド又はその結合体は、呼吸器ウイルス感染による過度な免疫反応を緩和することにより、炎症及び線維化を同時に抑制し、呼吸器ウイルス感染疾患の後遺症を改善することができる。
【0096】
本発明の目的上、本発明のペプチド又はその結合体を含む薬学的組成物は、呼吸器感染疾患の後遺症を有する個体に投与すると、次の特性の少なくとも1つを示すものであってもよい。
(i)コロナウイルス感染による肺炎症の緩和
(ii)肺炎症を伴うCOVID-19後肺線維症の緩和
【0097】
具体的には、前記薬学的組成物は、投与すると、次の特性の少なくとも1つを示す薬学的組成物であってもよい。
(i)肺炎症スコア(lung inflammation score)の減少
(ii)炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)の発現又は分泌の減少
(iii)肺線維化面積の減少
(iv)炎症複合体(inflammasome complex)生成の抑制
【0098】
前記薬学的組成物の特性には、本発明のペプチド又はその結合体を含む薬学的組成物を用いると、線維化により増加した肺の重量が減少することや、線維沈着の程度が減少することなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
本発明において、前記サイトカインは、インターロイキン(interleukin)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)及びインターフェロン(interferon)からなる群から選択される少なくとも1つであり、具体的には、前記サイトカインは、IL-1β、TNF-α又はIFN-γであるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
このような本発明のペプチド(三重活性体)の特性は、COVID-19後肺線維症の主要原因である肺炎症を改善するだけでなく、肺線維化も直接改善するので(dual inhibitory action)、コロナウイルス感染症-19の後遺症として現れるCovid-19後肺線維症の抑制及び改善効果を有するものであり、これはコロナウイルス感染症-19の後遺症に対する予防又は治療効果をも示唆するものである。
【0101】
よって、本発明の呼吸器感染疾患の後遺症はCovid-19後肺線維症(post covid-19 pulmonary fibrosis)であるが、これに限定されるものではない。
【0102】
本発明における「Covid-19後肺線維症」とは、コロナウイルス感染症-19患者において現れる肺線維症であって、コロナウイルス感染症-19の回復期間にコロナウイルス感染症-19患者の肺において確認される組織線維化をはじめとする病理状態を意味する。ウイルス感染による肺組織の炎症、過度な免疫反応(サイトカインストーム)、線維化などによる損傷がその原因として推測されているが、明確な発症機序は解明されておらず、一般の肺線維症が数カ月から数年かけて発生するのとは異なり、COVID-19後肺線維症は数日から数カ月以内に急速に発生するという差異がある。
【0103】
一方、呼吸器感染疾患の後遺症には、味覚喪失、意識変化、痙攣、脳卒中、脳出血、脳炎、認知症、せん妄など様々な神経学的異常症状が含まれる。また、重症感染患者においては、うつ病、強迫性障害、精神病、パーキンソン病、アルツハイマー病などの発症リスクも高いことが知られている。
【0104】
このような神経系障害は、感染源が直接神経系に作用して発生するか(直接感染)、肺機能低下による酸素欠乏症、人体の炎症反応による神経系損傷などが原因で発生するものと推測されている。
【0105】
例えば、感染源の一つであるSARS-CoV-2は、アンジオテンシン変換酵素2(Angiotensin Converting Enzyme 2, ACE2)に結合してアンジオテンシン2(Angiotensin II)がアンジオテンシン1(Angiotensin I)に変換される作用を抑制するので、アンジオテンシン2の増加により血管が収縮し、腎臓、心臓、脳などに損傷を与える。
【0106】
あるいは、感染源(例えば、SARS-CoV-2)は、体内で過度な免疫反応を起こし、サイトカインや様々な炎症物質を活性化させ、代表的には、サイトカインストームを誘発する。具体的には、血液が凝固し、血栓が生じて脳卒中を起こすこと、神経に血管炎を起こして神経に損傷を与えること、直接サイトカインストームが血液脳関門(Blood Brain Barrier, BBB)に損傷を与え、損傷したBBBにより様々な炎症物質などが通過し、脳浮腫や脳損傷などを引き起こすことが報告されている。すなわち、感染源の直接感染でなくても、過度な炎症反応の結果として、脳をはじめとする身体の様々な臓器に損傷が生じるので、結局のところ、神経系障害が呼吸器感染疾患の後遺症として現れることが知られている。
【0107】
本発明のペプチド又はその結合体を含む薬学的組成物は、呼吸器感染疾患の後遺症を有する個体において炎症を緩和することができるので、炎症による中枢神経系損傷を抑制、遅延又は回復させる効果を奏する。
【0108】
本発明において、前記薬学的組成物は、呼吸器ウイルス感染によるサイトカインストーム症候群(cytokine storm syndrome)、敗血症又は臓器不全(organ failure)の状態の個体に投与されると、サイトカインの分泌及び/又は発現を減少させ、免疫反応を抑制するものであり、前記薬学的組成物は、呼吸器感染後に肺炎、肺線維化の症状のある個体に投与されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
本発明の薬学的組成物は、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド、具体的には配列番号1~102のアミノ酸配列のいずれかの配列を含むペプチド、配列番号1~102のアミノ酸配列のいずれかの配列から必須に構成されるペプチド、又は配列番号1~102のアミノ酸配列のいずれかの配列からなるペプチドを薬学的有効量で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
本発明における「グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド」は、本発明における「三重活性体」又は「ペプチド」と混用される。
【0111】
前記グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体に対して有意なレベルの活性を有する三重活性体は、グルカゴン、GLP-1及びGIP受容体のうち1つ又はそれ以上の受容体、具体的には2つ又はそれ以上の受容体、より具体的には3つの受容体の全てに対して、in vitro活性が、当該受容体の天然リガンド(天然グルカゴン、天然GLP-1及び天然GIP)に比べて、約0.001%以上、約0.01%以上、約0.1%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上、約150%以上、約200%以上であるが、有意に活性を示す範囲であれば特にこれらに限定されるものではない。
【0112】
ここで、受容体に対する活性は、天然のものに比べて、受容体に対するin vitro活性が0.001%以上、0.01%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、約200%以上である例が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0113】
本発明における「約」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値であればいかなるものでもよい。
【0114】
一方、本発明の組成物に含まれる前記ペプチドは、次のi)~iii)の1つ以上、2つ以上、特に3つの活性を有すること、具体的には有意な活性を有することを特徴とする。
i)GLP-1受容体の活性化
ii)グルカゴン受容体の活性化
iii)GIP受容体の活性化
【0115】
ここで、受容体を活性化することには、例えば、天然のものに比べて、受容体に対するin vitro活性を約0.1%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上、約150%以上、約200%以上にすることが挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。このような三重活性体のin vitro活性を測定する方法を本発明の実験例1に示すが、特にこれに限定されるものではない。
【0116】
また、前記ペプチドは、天然GLP-1、天然グルカゴン及び天然GIPのいずれかに比べて、体内半減期が延長されたものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0117】
このような前記ペプチドは、天然に存在しない(non-naturally occurring)ものであってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0118】
本発明に特定配列番号で「構成される」ペプチドと記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、当該配列番号のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加や、自然発生する突然変異や、その非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、このような配列付加又は突然変異を有するものも本願に含まれることは言うまでもない。すなわち、一部の配列に差異があっても、所定レベル以上の相同性を示し、グルカゴン受容体に対する活性を示すものであれば、本発明に含まれる。
【0119】
例えば、本発明のペプチドは、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列からなる(必須に構成される)ものであってもよく、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するものであってもよく、呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療効果を有するものであれば、特定配列に限定されるものではない。
【0120】
前記三重活性体の例として、配列番号1~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するもの、配列番号1~11、13~102からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するもの、配列番号1~11、13~102からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる(必須に構成される)ものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0121】
また、一具体例として、前記三重活性体ペプチドは、配列番号21~24、28、29、31、32、37、42、43、50、51~54、56、58、64~73、75~79、82、83、91及び96~102のいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号21~24、28、29、31、32、37、42、43、50、51~54、56、58、64~73、75~79、82、83、91及び96~102のいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるものであってもよく、配列番号21~24、28、29、31、32、37、42、43、50、51~54、56、58、64~73、75~79、82、83、91及び96~102のいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0122】
一例として、前記三重活性体ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、64、66、67、70、71、76、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号21、22、42、43、50、64、66、67、70、71、76、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるものであってもよく、配列番号21、22、42、43、50、64、66、67、70、71、76、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0123】
他の例として、前記ペプチドは、配列番号21、22、42、43、50、66、67、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号21、22、42、43、50、66、67、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるものであってもよく、配列番号21、22、42、43、50、66、67、77、96、97及び100のいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0124】
他の具体的な態様として、前記三重活性体は、配列番号21、22、27、30~32、34、36、37、42、43、50~56、58、64~79、83、86、91、93及び96~102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号21、22、27、30~32、34、36、37、42、43、50~56、58、64~79、83、86、91、93及び96~102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるものであってもよく、配列番号21、22、27、30~32、34、36、37、42、43、50~56、58、64~79、83、86、91、93及び96~102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0125】
さらに他の具体的な態様として、前記三重活性体は、配列番号21、22、31、32、37、42、43、50、53、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、75、76、77、79、96、97、98、99、100、101及び102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、配列番号21、22、31、32、37、42、43、50、53、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、75、76、77、79、96、97、98、99、100、101及び102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるものであってもよく、配列番号21、22、31、32、37、42、43、50、53、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、75、76、77、79、96、97、98、99、100、101及び102からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0126】
あるいは、前記アミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するペプチドも含まれ、呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療効果を有するものであれば、特定配列に限定されるものではない。
【0127】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が互いに関連する程度を意味し、百分率で表すことができる。
【0128】
相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0129】
任意の2つのペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメータと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6、7及び8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0130】
ペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、アミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)一進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。よって、本発明における「相同性」又は「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示すものである。
【0131】
前記グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドは、分子内架橋(intramolecular bridge)を含んでもよく(例えば、共有結合的架橋又は非共有結合的架橋)、具体的には環を含む形態であってもよい。例えば、ペプチドの16番目のアミノ酸と20番目のアミノ酸間に環が形成された形態であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0132】
前記環の例として、ラクタム架橋(又はラクタム環)が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0133】
また、前記ペプチドには、目的とする位置に環を形成するアミノ酸を含むことにより環を含むように改変されたものが全て含まれる。
【0134】
例えば、ペプチドの16番目と20番目のアミノ酸対がそれぞれ環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されたものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0135】
このような環は、前記ペプチド内のアミノ酸側鎖間に形成され、例えばリシンの側鎖とグルタミン酸の側鎖間にラクタム環が形成される形態であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0136】
上記方法の組み合わせにより作製されるペプチドの例として、天然グルカゴンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基のα炭素が除去された、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、アナログ作製のための様々な方法の組み合わせにより、本発明に用いられるペプチドを作製することができる。
【0137】
また、本発明のペプチドは、活性体分解酵素の認識作用を回避して体内半減期を延長させるために、一部のアミノ酸を他のアミノ酸又は非天然化合物に置換するが、特にこれらに限定されるものではない。
【0138】
具体的には、前記ペプチドのアミノ酸配列のうち2番目のアミノ酸配列の置換により、分解酵素の認識作用を回避して体内半減期を延長させたペプチドであるが、体内の分解酵素の認識作用を回避するためのアミノ酸の置換又は変更であればいかなるものでもよい。
【0139】
また、ペプチドの作製のためのこのような改変には、L型もしくはD型アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を用いた改変、並びに/あるいは天然配列の修飾、例えば側鎖官能基の改変、分子内の共有結合、一例として側鎖間の環形成、メチル化、アシル化、ユビキチン化、リン酸化、アミノヘキサン化、ビオチン化などの修飾による改変が全て含まれる。
【0140】
さらに、三重活性体のN及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。
【0141】
前述したように置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非天然アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。
【0142】
アミノ酸誘導体も同様に入手することができ、一例として4-イミダゾ酢酸(4-imidazoacetic acid)などが挙げられる。
【0143】
また、本発明による三重活性体は、生体内のタンパク質切断酵素から保護して安定性を向上させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾された形態であってもよく、有機基により保護された形態であってもよく、ペプチド末端などにアミノ酸が付加されて改変された形態であってもよい。
【0144】
特に、化学的に合成した三重活性体の場合、N及びC末端が電荷を帯びているので、その電荷を除去するために、N末端のアセチル化(acetylation)及び/又はC末端のアミド化(amidation)を行うが、特にこれらに限定されるものではない。
【0145】
具体的には、本発明のペプチドのN末端又はC末端は、アミノ基(-NH2)又はカルボキシ基(-COOH)を有するが、これらに限定されるものではない。
【0146】
本発明によるペプチドは、C末端がアミド化されたペプチド、もしくは遊離カルボキシ基(-COOH)を有するペプチドであってもよく、C末端が修飾されていないペプチドであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0147】
一具体例として、前記ペプチドは、C末端がアミド化されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0148】
一具体例として、前記ペプチドは、非グリコシル化されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0149】
本発明のペプチドは、Solid phase合成法により合成することもでき、組換え法により生産することもでき、商業的に依頼して作製することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0150】
また、本発明のペプチドは、その長さに応じてこの分野で周知の方法、例えば自動ペプチド合成機により合成することができ、遺伝子操作技術により産生することができる。
【0151】
具体的には、本発明のペプチドは、標準合成方法、組換え発現システム又は任意の他の当該分野の方法により作製することができる。よって、本発明によるペプチドは、例えば(a)ペプチドを固相もしくは液相法で段階的に又はフラグメント組立により合成し、最終ペプチド生成物を分離及び精製する方法、(b)ペプチドをコードする核酸作製物を宿主細胞内で発現させ、発現生成物を宿主細胞培養物から回収する方法、(c)ペプチドをコードする核酸作製物を無細胞試験管内で発現させ、発現生成物を回収する方法、又は(a)、(b)及び(c)の任意の組み合わせによりペプチドのフラグメントを得て、次にフラグメントを連結してペプチドを得ることにより当該ペプチドを回収する方法をはじめとする多くの方法で合成することができる。
【0152】
以上の内容は、本発明の他の具体例又は他の態様にも適用されるが、これらに限定されるものではない。
【0153】
また、前記グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドは、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドに、その生体内半減期を延長させるための生体適合性物質が結合された持続型結合体の形態であってもよい。本明細書における前記生体適合性物質は、キャリアと混用される。本発明の薬学的組成物に含まれるペプチドは、持続型結合体の形態であってもよい。
【0154】
本発明における前記ペプチドの結合体は、キャリアが結合されていない前記ペプチドより効力の持続性が向上したものであり、本発明においては、このような結合体を「持続型結合体」又は「結合体」という。
【0155】
本発明の具体的な実施形態において、前記持続型結合体は、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドと、生体適合性物質である免疫グロブリンFc領域が互いに連結された形態であってもよい。具体的には、前記結合体は、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドに免疫グロブリンFc領域がリンカーを介して共有結合的に連結されたものであるが、特にこれに限定されるものではない。
【0156】
なお、このような結合体は、天然に存在しない(non-naturally occurring)ものであってもよい。
【0157】
本発明の一具体例において、前記持続型結合体は、化学式(1)で表されるものであるが、これに限定されるものではない。
【0158】
X-L-F・・・(1)
【0159】
ここで、Xは配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドであり、Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、Fは免疫グロブリンFc領域であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【0160】
化学式(1)の持続型結合体のXは、前述したグルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチド(三重活性体)であり、具体的には配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列から必須に構成されるペプチド、又は配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドであるが、これらに限定されるものではない。
【0161】
化学式(1)の持続型結合体は、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドと免疫グロブリンFc領域が互いにリンカーで連結された形態であり、前記結合体は、免疫グロブリンFc領域が結合されていない配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドより効力の持続性が向上したものである。
【0162】
本発明の結合体は、結合体の形態においてもグルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して有意な活性を示すので、呼吸器感染疾患の後遺症に対する予防又は治療効果を発揮する。
【0163】
具体的には、本発明の結合体は、天然のものに比べて、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及び/又はGIP受容体に対するin vitro活性が0.01%以上、0.1%以上、0.2%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上であるが、これらに限定されるものではない。
【0164】
本発明の目的上、前記ペプチド又はその結合体は、天然のものに比べて、グルカゴン受容体、GLP-1受容体及び/又はGIP受容体に対する活性が0.1%以上、0.2%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上であるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
本発明の組成物は、(i)グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドを含むものであってもよく、(ii)前記グルカゴン受容体、GLP-1受容体及びGIP受容体に対して活性を有するペプチドの持続型結合体を含むものであってもよく、前記持続型結合体は、向上した体内持続性に基づいて、呼吸器感染疾患の後遺症に対する優れた予防又は治療効果を発揮する。
【0166】
化学式(1)の持続型結合体において、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドであるXと免疫グロブリンFc領域の連結は、物理結合もしくは化学結合であるか、又は非共有結合もしくは共有結合であり、具体的には共有結合であるが、これらに限定されるものではない。
【0167】
また、前記Xは、FがリンカーLを介して連結されたものであってもよい。より具体的には、XとL、及びLとFが共有結合により互いに連結されたものであってもよく、ここで、前記結合体は、化学式(1)の順に、X、L及びFが共有結合によりそれぞれ連結された結合体である。
【0168】
前記Fは、免疫グロブリンFc領域であり、より具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG由来のものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0169】
本発明の具体的な一例として、前記F(免疫グロブリンFc領域)は、2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されている構造を有するが、これに限定されるものではない。
【0170】
本発明における「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。前記免疫グロブリンFc領域は、本発明の結合体の一部をなす一構成であってもよい。
【0171】
本明細書において、Fc領域には、免疫グロブリンのパパイン消化により得られる天然配列だけでなく、その誘導体、例えば天然配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより置換されて天然のものとは異なる配列などの改変体も含まれる。前記誘導体、置換体、改変体は、FcRnに結合する能力を保有することを前提とする。本発明において、Fはヒト免疫グロブリン領域であるが、これに限定されるものではない。前記F(免疫グロブリンFc領域)は、2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合で連結されている構造であり、前記2本の鎖のうち1本の鎖の窒素原子を介してのみ連結されている構造であるが、これに限定されるものではない。前記窒素原子を介した連結は、リシンのεアミノ原子やN末端のアミノ基に還元的アミノ化により連結されたものであってもよい。
【0172】
還元的アミノ化反応とは、反応物のアミン基又はアミノ基が他の反応物のアルデヒド(すなわち、還元的アミノ化が可能な官能基)と反応してアミンを生成し、次いで還元反応によりアミン結合を形成する反応を意味し、当該技術分野で周知の有機合成反応である。
【0173】
一具体例として、前記Fは、そのN末端のプロリンの窒素原子を介して連結されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0174】
前記免疫グロブリンFc領域は、本発明の化学式(1)の結合体の一部をなす一構成であり、具体的には、化学式(1)のFに該当する。
【0175】
このような免疫グロブリンFc領域は、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含むが、これに限定されるものではない。
【0176】
本発明における免疫グロブリンFc領域は、N末端に特定ヒンジ配列を含んでもよい。
【0177】
本発明における「ヒンジ配列」とは、重鎖に位置してジスルフィド結合(inter disulfide bond)により免疫グロブリンFc領域の二量体を形成する部位を意味する。
【0178】
本発明において、前記ヒンジ配列は、次のアミノ酸配列を有するヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみ有するように変異したものであるが、これに限定されるものではない。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号103)
【0179】
前記ヒンジ配列は、配列番号103のヒンジ配列中の8番目又は11番目のシステイン残基が欠失して1つのシステイン残基のみ含むものであってもよい。本発明のヒンジ配列は、1つのシステイン残基のみ含む、3~12個のアミノ酸からなるものであるが、これに限定されるものではない。より具体的には、本発明のヒンジ配列は、次の配列を有するものであってもよい。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号104)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Pro(配列番号105)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号106)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Pro(配列番号107)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号108)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号109)
Glu-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号110)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号111)
Glu-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号112)
Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号113)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号114)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号115)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号116)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号117)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro(配列番号118)
Glu-Ser-Lys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号119)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号120)
Glu-Pro-Ser-Cys(配列番号121)
Ser-Cys-Pro(配列番号122)
【0180】
より具体的には、前記ヒンジ配列は、配列番号113(Pro-Ser-Cys-Pro)又は配列番号122(Ser-Cys-Pro)のアミノ酸配列を有するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0181】
本発明の免疫グロブリンFc領域は、ヒンジ配列の存在により免疫グロブリンFc鎖の2つの分子が二量体を形成した形態であり、また、本発明の化学式(1)の結合体は、リンカーの一末端が二量体の免疫グロブリンFc領域の1本の鎖に連結された形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0182】
本発明における「N末端」とは、タンパク質又はポリペプチドのアミノ末端を意味し、アミノ末端の最末端、又は最末端から1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個以上のアミノ酸が含まれる。本発明の免疫グロブリンFc領域は、ヒンジ配列をN末端に含むが、これに限定されるものではない。
【0183】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失した領域であってもよい。
【0184】
例えば、本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0185】
本発明における前記免疫グロブリンFc領域は、同一起源のドメインからなる一本鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体の形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0186】
また、一具体例として、前記免疫グロブリンFc領域Fは、2つのポリペプチド鎖からなる二量体(dimer)であり、ここで、前記Fc領域二量体FとXは、エチレングリコール繰り返し単位を含む1つの同じリンカーLを介して共有結合的に連結されている。本実施形態の具体的な例において、Xは、このようなFc領域二量体Fの2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみリンカーLを介して共有結合により連結されている。本実施形態のさらに具体的な例において、このようなFc領域二量体Fの2本のポリペプチド鎖のうちXが連結された1本のポリペプチド鎖には、1分子のXのみLを介して共有結合的に連結されている。本実施形態の最も具体的な例において、前記Fはホモ二量体(homodimer)である。
【0187】
他の具体例として、前記免疫グロブリンFc領域Fは、2つのポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されているものであるが、これに限定されるものではない。
【0188】
本発明の持続型結合体の他の実施形態においては、二量体の形態の1つのFc領域に2分子のXが対称に結合されてもよい。ここで、前記免疫グロブリンFc領域とXは、リンカーLにより互いに連結されてもよい。しかし、上記例に限定されるものではない。
【0189】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。
【0190】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられる。
【0191】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失した誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な誘導体が用いられる。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献3、4などに開示されている。
【0192】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野で公知である(非特許文献12)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0193】
前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同等の生物学的活性を示し、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0194】
また、このようなFc領域は、ヒトや、ウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態において、ヒト由来のFc領域は、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域である。
【0195】
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖であってもよく、天然のものに比べて増加した糖鎖であってもよく、天然のものに比べて減少した糖鎖であってもよく、糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとしての本来の目的に適する。
【0196】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核生物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0197】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0198】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来のFc領域であってもよく、それらの組み合わせ(combination)又はそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来のものであり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来のものである。一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であるが、これらに限定されるものではない。
【0199】
また、具体的な一実施形態において、免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4 Fcの領域であり、各単量体(monomer)の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合(inter-chain形態)により2つの単量体が連結されたホモ二量体(homodimer)mp形態であってもよく、ここで、ホモ二量体の各単量体は、独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、すなわち2つの内部のジスルフィド結合(intra-chain形態)を有するものである/有するものであってもよい。各単量体のアミノ酸は、221個のアミノ酸からなり、ホモ二量体を形成するアミノ酸は、全体で442個のアミノ酸からなるが、これらに限定されるものではない。具体的には、免疫グロブリンFcフラグメントは、配列番号123のアミノ酸配列(221個のアミノ酸からなる)を有する2つの単量体が各単量体の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、前記ホモ二量体の単量体は、それぞれ独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合を形成するものであるが、これに限定されるものではない。
【0200】
化学式(1)のFは、配列番号123のアミノ酸配列を有する単量体を含むものであり、前記Fは、配列番号123のアミノ酸配列の単量体のホモ二量体であるが、これらに限定されるものではない。
【0201】
一例として、免疫グロブリンFc領域は、配列番号124のアミノ酸配列(442個のアミノ酸からなる)を含むホモ二量体であるが、これに限定されるものではない。
【0202】
一具体例として、前記免疫グロブリンFc領域とXはグリコシル化されていないが、これに限定されるものではない。
【0203】
一方、本発明において、免疫グロブリンFc領域に関する「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の一本鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の一本鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fc領域からなる群から選択される少なくとも2つの領域から二量体又は多量体を作製することができる。
【0204】
本発明における「ハイブリッド(hybrid)」とは、一本鎖免疫グロブリン定常領域内に、少なくとも2つの異なる起源の免疫グロブリンFc領域に相当する配列が存在することを意味する。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から選択される1つ~4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジを含んでもよい。
【0205】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明においては、それらの組み合わせ又はそれらのハイブリダイゼーションも可能である。具体的には、IgG2及びIgG4サブクラスであり、より具体的には、補体依存性細胞傷害(CDC, Complement dependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFcフラグメントである。
【0206】
また、前述した結合体は、天然GLP-1、GIPもしくはグルカゴンより、又はFが修飾されていないXより効力の持続性が向上したものであり、このような結合体には、前述した形態だけでなく、生分解性ナノ粒子に封入された形態などが全て含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0207】
一方、化学式(1)において、前記Lは、非ペプチド性リンカー、例えばエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであってもよい。
【0208】
本発明における「非ペプチド性リンカー」には、繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体が含まれる。前記繰り返し単位は、ペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。前記非ペプチド性リンカーは、本発明の結合体の一部をなす一構成であり、化学式(1)のLに該当する。
【0209】
本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であればいかなるものでもよい。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、非ペプチド性重合体と混用される。
【0210】
また、前記Fに該当するポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性リンカーは、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0211】
具体的な一実施形態において、前記結合体は、両末端に、F、具体的には免疫グロブリンFc領域、及びX、具体的には三重活性体に結合される反応基を有する非ペプチド性リンカーを介して、FとXが互いに共有結合的に連結されたものであってもよい。
【0212】
具体的には、本発明における非ペプチド性リンカーは、末端に反応基を含み、結合体を構成する他の構成要素との反応により結合体を形成することができる。両末端に反応性官能基を有する非ペプチド性リンカーが各反応基を介して化学式(1)のX及びFに結合することにより結合体を形成する場合、前記非ペプチド性リンカー又は非ペプチド性重合体を非ペプチド性重合体連結部(linker moiety)又は非ペプチド性リンカー連結部ともいう。
【0213】
前記非ペプチド性リンカーは、エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカー、例えばポリエチレングリコールリンカーであるが、特にこれらに限定されるものではない。また、当該分野で公知のそれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0214】
本発明における「ポリエチレングリコールリンカー」には、エチレングリコール繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体が含まれる。前記繰り返し単位は、ペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。前記ポリエチレングリコールリンカーは、本発明の結合体の一部をなす一構成であり、化学式(1)のLに該当する。
【0215】
具体的には、前記L(ポリエチレングリコールリンカー)は、エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカー、例えばポリエチレングリコールであるが、これに限定されるものではない。本明細書における前記ポリエチレングリコールは、エチレングリコールホモポリマー、PEGコポリマー又はモノメチル置換PEGポリマー(mPEG)の形態を包括するものであるが、特にこれらに限定されるものではない。また、当該分野で公知のそれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0216】
前記ポリエチレングリコールリンカーは、エチレングリコール繰り返し単位を含むと共に、結合体として構成されるまでは、結合体の作製に用いられる官能基を末端に含むものであってもよい。本発明による持続型結合体は、前記官能基を介してXとFが連結された形態であるが、これに限定されるものではない。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、2つ又は3つ以上の官能基を含み、各官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0217】
具体的には、前記リンカーは、化学式(2)で表されるポリエチレングリコール(PEG)であるが、これに限定されるものではない。
【0218】
【0219】
ここで、n=10~2400、n=10~480、又はn=50~250であるが、これらに限定されるものではない。
【0220】
前記持続型結合体のPEG部分は、-(CH2CH2O)n-構造だけでなく、連結要素とその-(CH2CH2O)n-間に介在する酸素原子も含むが、これに限定されるものではない。
【0221】
一具体例として、前記エチレングリコール繰り返し単位は、[OCH2CH2]nで表され、n値は、自然数であって、前記ペプチド結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が0超~約100kDaになるように決定されるが、これに限定されるものではない。他の具体例として、前記n値は、自然数であって、前記ペプチド結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が約1~約100kDa、約1~約80kDa、約1~約50kDa、約1~約30kDa、約1~約25kDa、約1~約20kDa、約1~約15kDa、約1~約13kDa、約1~約11kDa、約1~約10kDa、約1~約8kDa、約1~約5kDa、約1~約3.4kDa、約3~約30kDa、約3~約27kDa、約3~約25kDa、約3~約22kDa、約3~約20kDa、約3~約18kDa、約3~約16kDa、約3~約15kDa、約3~約13kDa、約3~約11kDa、約3~約10kDa、約3~約8kDa、約3~約5kDa、約3~約3.4kDa、約8~約30kDa、約8~約27kDa、約8~約25kDa、約8~約22kDa、約8~約20kDa、約8~約18kDa、約8~約16kDa、約8~約15kDa、約8~約13kDa、約8~約11kDa、約8~約10kDa、約9~約15kDa、約9~約14kDa、約9~約13kDa、約9~約12kDa、約9~約11kDa、約9.5~約10.5kDa、又は約10kDaであるが、これらに限定されるものではない。
【0222】
また、具体的な一実施形態における前記結合体は、ペプチド(X)と免疫グロブリンFc領域(F)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して共有結合により連結された構造であるが、これに限定されるものではない。
【0223】
さらに、具体的な一実施形態における前記持続型結合体は、本発明のペプチド(X)と免疫グロブリンFc領域(F)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーLを介して共有結合により連結された構造であるが、これに限定されるものではない。
【0224】
本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性を有し、エチレングリコール繰り返し単位を含む重合体であればいかなるものでもよい。前記非ペプチド性重合体の分子量は、0超~約100kDaの範囲、約1~約100kDaの範囲、具体的には約1~約20kDaの範囲、又は約1~約10kDaの範囲であるが、これらに限定されるものではない。また、前記Fに該当するポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性リンカーは、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0225】
具体的には、前記非ペプチド性リンカーは、F及びXに結合されていない状態で両末端に反応基を有し、前記反応基を介してF及びXに結合されるものであってもよい。
【0226】
一具体例として、前記リンカーの両末端は、免疫グロブリンFc領域のチオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びペプチド(X)のチオール基、アミノ基、アジド基、ヒドロキシル基に結合されるが、これらに限定されるものではない。
【0227】
具体的には、前記リンカーは、両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びペプチド(X)に結合される反応基、より具体的には、免疫グロブリンFc領域のシステインのチオール基と、N末端、リシン、アルギニン、グルタミン及び/又はヒスチジンに位置するアミノ基と、C末端に位置するヒドロキシル基とからなる群から選択される少なくとも1つに結合され、ペプチド(X)のシステインのチオール基と、リシン、アルギニン、グルタミン及び/又はヒスチジンのアミノ基と、アジドリシンのアジド基と、ヒドロキシル基とからなる群から選択される少なくとも1つに結合される反応基を含むが、これらに限定されるものではない。
【0228】
さらに具体的には、前記リンカーの反応基は、アルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0229】
上記において、アルデヒド基の例として、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0230】
上記において、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0231】
前記リンカーは、上記反応基を介して、免疫グロブリンFc領域であるF、及びペプチド(三重活性体)であるXに連結され、リンカー連結部に変換されてもよい。
【0232】
また、アルデヒド結合による還元性アミノ化で生成された最終産物は、アミド結合で連結されたものよりはるかに安定している。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン残基と共有結合を形成することができる。
【0233】
また、前記非ペプチド性リンカーの両末端の反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、両末端にアルデヒド基を有するものであってもよく、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有するものであってもよい。しかし、非ペプチド性リンカーの各末端にF、具体的には免疫グロブリンFc領域とXが結合されるものであれば、特にこれに限定されるものではない。
【0234】
例えば、前記非ペプチド性リンカーの一末端には反応基としてマレイミド基を含み、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基などを含んでもよい。
【0235】
両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応基として活性化するか、市販されている修飾された反応基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の持続型タンパク質結合体を作製することができる。
【0236】
具体的な一実施形態において、前記非ペプチド性重合体は、Xのシステイン残基、より具体的にはシステインの-SH基に連結されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0237】
例えば、前記Xに該当するペプチドにおいて、10番目のシステイン残基、13番目のシステイン残基、15番目のシステイン残基、17番目のシステイン残基、19番目のシステイン残基、21番目のシステイン残基、24番目のシステイン残基、28番目のシステイン残基、29番目のシステイン残基、30番目のシステイン残基、31番目のシステイン残基、40番目のシステイン残基、又は41番目のシステイン残基に前記非ペプチド性重合体が連結されたものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0238】
具体的には、前記システイン残基の-SH基に非ペプチド性重合体の反応基が連結されてもよい。反応基については前述した通りである。
【0239】
また、前記結合体において、非ペプチド性重合体の反応基が免疫グロブリンFc領域のN末端に位置する-NH2に連結されたものであってもよいが、これは一例にすぎない。
【0240】
マレイミド-PEG-アルデヒドを用いる場合、マレイミド基はペプチドの-SH基にチオエーテル(thioether)結合で連結することができ、アルデヒド基は免疫グロブリンFcの-NH2基に還元的アルキル化反応により連結することができるが、これらに限定されるものではなく、これらは一例にすぎない。
【0241】
このような還元的アルキル化により、PEGの一末端に位置する酸素原子に免疫グロブリンFc領域のN末端アミノ基が-CH2CH2CH2-の構造を有するリンカー官能基を介して互いに連結され、-PEG-O-CH2CH2CH2NH-免疫グロブリンFcのような構造を形成することができ、チオエーテル結合により、PEGの一末端がペプチドのシステインに位置する硫黄原子に連結された構造を形成することができる。前述したチオエーテル結合は、化学式(3)の構造を有するものであってもよい。
【0242】
【0243】
しかし、上記例に特に限定されるものではなく、これは一例にすぎない。
【0244】
また、前記結合体において、リンカーの反応基が免疫グロブリンFc領域のN末端に位置する-NH2に連結されたものであってもよいが、これは一例にすぎない。
【0245】
さらに、前記結合体において、本発明によるペプチドは、反応基を有するリンカーにC末端を介して連結されてもよいが、これは一例にすぎない。
【0246】
本発明における「C末端」とは、ペプチドのカルボキシ末端を意味し、本発明の目的上、リンカーに結合する位置を意味する。例えば、これらに限定されるものではないが、C末端の最末端のアミノ酸残基だけでなく、C末端周辺のアミノ酸残基が全て含まれ、具体的には最末端から1~20番目のアミノ酸残基が含まれる。
【0247】
また、前述した結合体は、Fが修飾されていないXより効力の持続性が向上したものであり、このような結合体には、前述した形態だけでなく、生分解性ナノ粒子に封入された形態などが全て含まれる。
【0248】
一方、前述した三重活性体及びその持続型結合体に関して、特許文献5及び6の全文が参考資料として本明細書に援用される。
【0249】
本明細書において特に断らない限り、本発明による「ペプチド」又はそのペプチドが生体適合性物質に共有結合で連結された「結合体」についての明細書の詳細な説明や請求の範囲の記述は、当該ペプチド又は結合体は言うまでもなく、当該ペプチド又は結合体の塩(例えば、前記ペプチドの薬学的に許容される塩)又はその溶媒和物の形態が全て含まれるカテゴリーにも適用される。よって、明細書に「ペプチド」又は「結合体」とのみ記載されていたとしても、当該記載内容はその特定の塩、その特定の溶媒和物、その特定の塩の特定の溶媒和物にも同様に適用される。これらの塩の形態は、例えば薬学的に許容される任意の塩を用いた形態であってもよい。
【0250】
前記塩の種類は、特に限定されるものではない。もっとも、個体、例えば哺乳類に安全かつ効果的な形態であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0251】
前記「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用できる物質を意味する。
【0252】
本発明における「薬学的に許容される塩」には、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれる。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0253】
また、本発明における「溶媒和物」とは、本発明によるペプチド又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0254】
本発明による組成物は、ペプチド(三重活性体)又はその結合体を含むものであってもよく、具体的には、薬理学的有効量のペプチド又はその結合体を含むものであってもよい。また、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。本発明の組成物は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療用途を有するものであってもよい。
【0255】
本発明における「予防」とは、前記ペプチド(例えば、前記ペプチド自体又はそれに生体適合性物質が結合された持続型結合体の形態)又はそれを含む組成物の投与により呼吸器感染疾患の後遺症を抑制又は遅延させるあらゆる行為を意味する。本発明における呼吸器感染疾患の後遺症の予防とは、感染源の抑制とは独立して、感染個体において感染後に発生し得る異常な身体反応(例えば、臓器の機能異常や損傷など)を予め抑制又は遅延させることを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0256】
本発明における「治療」とは、前記ペプチド(例えば、前記ペプチド自体又はそれに生体適合性物質が結合された持続型結合体の形態)又はそれを含む組成物の投与により呼吸器感染疾患の後遺症の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。本発明における呼吸器感染疾患の後遺症の治療とは、感染源の抑制とは独立して、感染個体において感染後に発生し得る異常な身体反応(例えば、臓器の機能異常や損傷など)を回復又は有利に変化させることを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0257】
具体的には、本発明によるペプチド、持続型結合体又はそれを含む組成物は、過度な炎症反応を改善し、線維化を改善することにより、呼吸器感染疾患の後遺症を予防又は治療することができるが、これらに限定されるものではない。
【0258】
本発明において、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療は、呼吸器感染疾患の完治診断の前及び/又は後に行われる。
【0259】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質(例えば、三重活性体又はその持続型結合体)を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、特にこれらに限定されるものではないが、前記組成物を生体内の標的に送達できる一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。
【0260】
本発明のグルカゴン、GLP-1及びGIP受容体の全てに対して活性を有する三重活性体又はその持続型結合体の使用は、血中半減期及び生体内効力持続効果の画期的な向上により、毎日投与しなければならない慢性患者への投与回数を減少させることができるので、患者の生活の質を向上させることのできるという大きな利点がある。
【0261】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体又は希釈剤をさらに含んでもよい。このような薬学的に許容される担体又は希釈剤は、非自然発生のものであってもよい。
【0262】
本発明における「薬学的に許容される」とは、治療効果を発揮する程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、同時に用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0263】
本発明のペプチドを含む薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。前記賦形剤は、経口投与の場合は、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0264】
本発明の組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される賦形剤と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0265】
なお、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、滑沢剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0266】
また、本発明の薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの剤形を有してもよい。
【0267】
さらに、前記組成物は、薬学的分野における通常の方法による患者の体内投与に適した単位投与型の製剤、具体的にはタンパク質医薬品の投与に有用な製剤形態に剤形化し、当該技術分野で通常用いる投与方法を用いて経口、又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内もしくは直腸経路が含まれる非経口投与経路で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0268】
さらに、前記結合体は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容される様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0269】
本発明の他の態様は、配列番号1~102のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチド又はその持続型結合体を薬学的有効量で含有する薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療方法を提供する。
【0270】
本発明の薬学的組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。具体的には、本発明の組成物は、前記三重活性体又はそれを含む持続型結合体を薬学的有効量で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0271】
前記ペプチド又は持続型結合体を薬学的有効量で含むとは、三重活性体又は持続型結合体により目的とする薬理活性(例えば、呼吸器感染疾患の後遺症の予防、改善又は治療)が得られる程度に含むことを意味し、また、投与される個体に毒性や副作用がないか、僅かなレベルであって、薬学的に許容されるレベルで含むことを意味するが、これらに限定されるものではない。このような薬学的有効量は、投与回数、患者、剤形などを総合的に考慮して決定される。
【0272】
本発明の持続型結合体は、1kg当たり約0.01mg、0.02mg、0.03mg、0.04mg、0.05mg、0.06mg、0.07mg、0.08mg、0.09mg、0.10mg、0.11mg、0.12mg、0.13mg、0.14mg、0.15mg又はそれ以上投与するが、これらに限定されるものではない。
【0273】
本発明の前記薬学的組成物は、上記成分(有効成分)を0.01~99重量対体積%で含有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0274】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与する分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明のペプチド又はその持続型結合体の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001mg~500mgであることが好ましい。しかし、前記ペプチド又はその結合体の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率などの様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0275】
本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0276】
例えば、本発明の薬学的組成物は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、又は1カ月に1回投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0277】
本発明を実現する他の態様は、前記三重活性体(ペプチド)及び/もしくは三重活性体持続型結合体、又はそれを含む組成物を必要とする個体に、前記三重活性体(ペプチド)及び/もしくは三重活性体持続型結合体、又はそれを含む組成物を投与するステップを含む、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療方法を提供する。
【0278】
前記三重活性体及び/もしくは三重活性体持続型結合体、又はそれを含む組成物、呼吸器感染疾患の後遺症、予防並びに治療については前述した通りである。
【0279】
本発明における前記個体とは、呼吸器感染疾患の後遺症の疑いのある個体であり、前記呼吸器感染疾患の後遺症の疑いのある個体とは、呼吸器感染疾患を有するか、呼吸器感染疾患が完治したにもかかわらず異常な身体状態を有するか、有するリスクのある、ヒトをはじめとしてマウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味するが、本発明の三重活性体及び/もしくは結合体、又はそれを含む前記組成物で治療可能な個体であればいかなるものでもよい。本発明の三重活性体、その持続型結合体、又はそれを含む組成物を投与すると、サイトカインの分泌及び/又は発現を抑制することにより、過度な免疫反応(サイトカインストーム)を抑制し、肺炎及び線維症を改善することができるので、前記個体は、サイトカインストーム、敗血症又は臓器不全を有する個体であり、特に呼吸器感染後に肺炎、肺線維化症状のある個体であるが、これらに限定されるものではない。
【0280】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、特にこれらに限定されるものではないが、前記組成物を生体内の標的に送達できる一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。
【0281】
本発明の方法は、前記三重活性体又はその持続型結合体を含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与するステップを含んでもよい。好適な総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定され、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に又は同時に投与される薬物をはじめとする様々な因子や、医薬分野で周知の類似の因子に応じて異なる量であることが好ましい。
【0282】
本発明の薬学的組成物は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、又は1カ月に1回投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0283】
本発明を実現するさらに他の態様は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための薬剤の製造における、前記三重活性体又はその持続型結合体を含む組成物の用途である。本発明の目的上、前記三重活性体、その持続型結合体、又はそれを含む組成物は、サイトカインストームを抑制するという効果を奏するが、これに限定されるものではない。
【0284】
前記三重活性体及び/もしくはその結合体、又はそれを含む組成物、呼吸器感染疾患の後遺症、予防並びに治療については前述した通りである。
【0285】
本発明を実現するさらに他の態様は、呼吸器感染疾患の後遺症の予防又は治療のための前記三重活性体もしくはその持続型結合体、又はそれを含む組成物の用途を提供する。本発明の目的上、前記三重活性体、その持続型結合体、又はそれを含む組成物は、サイトカインストームを抑制するという効果を奏するが、これに限定されるものではない。
【0286】
前記三重活性体及び/もしくはその結合体、又はそれを含む組成物、呼吸器感染疾患の後遺症、予防並びに治療については前述した通りである。
【0287】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0288】
三重活性体の作製
GLP-1、GIP及びグルカゴン受容体の全てに対して活性を有する三重活性体を作製した。表1にその配列を示す。
【0289】
【0290】
表1に示す配列において、Xで表記したアミノ酸は非天然アミノ酸であるAib(2-aminoisobutyric acid)であり、下線を引いたアミノ酸は下線を引いたアミノ酸が互いに環を形成することを意味する。また、表1において、CAは4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)を意味する。前記三重活性体ペプチドは、必要に応じて、C末端をアミド化した三重活性体として用いられる。
【実施例2】
【0291】
三重活性体持続型結合体の作製
両末端にそれぞれマレイミド基及びアルデヒド基を有する10kDaのPEG、すなわちマレイミド-PEG-アルデヒド(10kDa,NOF, 日本)を実施例1の三重活性体(配列番号21、22、42、43、50、77及び96)のシステイン残基にペグ化するために、三重活性体とマレイミド-PEG-アルデヒドのモル比を1:1~3とし、タンパク質の濃度を1~5mg/mlとし、低温で0.5~3時間反応させた。ここで、反応は、50mM Tris緩衝液(pH7.5)に20~60%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、上記反応液をSPセファロースHP(GE healthcare, 米国)に適用し、システインにモノペグ化された三重活性体を精製した。
【0292】
次に、前述したように精製したモノペグ化された三重活性体と免疫グロブリンFc(配列番号123のホモ二量体)のモル比を1:1~5とし、タンパク質の濃度を10~50mg/mlとし、4~8℃で12~18時間反応させた。反応は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に還元剤である10~50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムと10~30%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、上記反応液をブチルセルファロースFF精製カラム(GE healthcare, 米国)とSource ISO精製カラム(GE healthcare, 米国)に適用し、三重活性体と免疫グロブリンFcとを含む結合体を精製した。精製した持続型結合体は、分子内において三重活性体ペプチド、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、Fc二量体が1:1:1のモル比で共有結合により連結された構造であり、PEGリンカーは、Fc二量体の2本のポリペプチド鎖のうち1本の鎖にのみ連結されている。
【0293】
一方、前記免疫グロブリンFcは、配列番号123のアミノ酸配列(221個のアミノ酸からなる)を有する2つの単量体が各単量体の3番目のアミノ酸であるシステイン間にジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、前記ホモ二量体の単量体は、それぞれ独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合が形成されたものである。
【0294】
作製後に、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで分析した純度は95%以上であった。
【0295】
ここで、配列番号21の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGリンカーを介して連結された結合体を「配列番号21と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号21の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0296】
ここで、配列番号22の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGリンカーを介して連結された結合体を「配列番号22と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号22の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0297】
ここで、配列番号42の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号42と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号42の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0298】
ここで、配列番号43の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号43と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号43の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0299】
ここで、配列番号50の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号50と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号50の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0300】
ここで、配列番号77の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号77と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号77の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0301】
ここで、配列番号96の三重活性体のC末端をアミド化した三重活性体と免疫グロブリンFcがPEGを介して連結された結合体を「配列番号96と免疫グロブリンFcとを含む結合体」又は「配列番号96の持続型結合体」と命名した。これらは、本発明において混用される。
【0302】
実験例1:三重活性体及びその持続型結合体のin vitro活性の測定
実施例1及び2で製造した三重活性体とその持続型結合体の活性を測定するために、GLP-1受容体、グルカゴン(GCG)受容体及びGIP受容体がそれぞれ形質転換された細胞株を用いて、in vitroで細胞活性を測定する方法を行った。
【0303】
前記各細胞株は、CHO(chinese hamster ovary)がヒトGLP-1受容体、ヒトGCG受容体及びヒトGIP受容体遺伝子をそれぞれ発現するように形質転換されたものであり、GLP-1、GCG及びGIPの活性を測定するのに適している。よって、それぞれの形質転換細胞株を用いて各部分の活性を測定した。
【0304】
実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体のGLP-1活性の測定のために、ヒトGLP-1を50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前述したように培養したヒトGLP-1受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。上記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGLP-1に対する相対力価を表2と表3に示す。
【0305】
実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体のGCG活性の測定のために、ヒトGCGを50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前述したように培養したヒトGCG受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。上記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGCGに対する相対力価を表2と表3に示す。
【0306】
実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体のGIP活性の測定のために、ヒトGIPを50nMから0.000048nMまで4倍連続希釈し、実施例1及び2で作製した三重活性体とその持続型結合体を400nMから0.00038nMまで4倍連続希釈した。前述したように培養したヒトGIP受容体を発現するCHO細胞から培養液を除去し、連続希釈した各物質を5μlずつ前記細胞に添加し、次いでcAMP抗体を含む緩衝液を5μlずつ追加し、その後常温で15分間培養した。次に、細胞溶解緩衝液(cell lysis buffer)を含むdetection mixを10μlずつ加えて細胞を溶解させ、常温で90分間反応させた。上記反応が終了した細胞溶解物をLANCE cAMP kit(PerkinElmer, USA)に適用し、蓄積されたcAMPからEC50値を算出し、相互比較した。ヒトGIPに対する相対力価を表2と表3に示す。
【0307】
【0308】
【0309】
前述したように作製した新規な三重活性体持続型結合体は、GLP-1受容体、GIP受容体及びグルカゴン受容体の全てを活性化させる三重活性体としての機能を有するので、呼吸器感染疾患の後遺症の治療剤物質として用いられる。
【0310】
実験例2:SARS-CoV-2感染サイトカインストーム誘導による急性肺炎症の改善効果
上記実施例で作製した配列番号42の持続型結合体におけるSARS-CoV-2感染による肺炎症(lung inflammation)の改善効能を確認するために、SARS-CoV-2を感染させて急性肺炎症(acute lung inflammation)を誘発したハムスターモデル(SYRIAN HAMSTER, RjHAN:aura, 中央実験動物センター)を用いた。
【0311】
まず、継代培養したSARS-CoV-2を103TCID50/mL(PBS)で準備しておき、当該ウイルス溶液120μLをハムスターの鼻腔に点滴し、吸入によるウイルス感染を誘導した。SARS-CoV-2を感染させたハムスターモデルを賦形剤対照群、配列番号42の持続型結合体投与群に分け、2日間隔で反復投与を行った。
【0312】
最初の試験では、2回の反復投与後に、剖検により各ハムスターの肺組織を採取し、炎症関連サイトカイン(cytokine)であるIL-1β、TNF-α及びIFN-γの発現の程度を定量PCRにより評価した。
【0313】
その結果、配列番号42の持続型結合体を投与すると、賦形剤対照群に比べて、肺組織中の炎症関連サイトカインの発現が減少することが確認された(
図1のA,††p <0.01 vs. SARS-CoV-2, vehicle by unpaired t-test)。
【0314】
2回目の試験では、SARS-CoV-2を感染させたハムスターモデルに対する賦形剤又は配列番号42の持続型結合体の4回の反復投与後に、肺組織を採取し、H&E染色により組織の炎症の程度を評価した。陰性対照群としては、SARS-CoV-2感染及び配列番号42の持続型結合体非投与群を用いた。
【0315】
その結果、
図1のAに示すように、配列番号42の持続型結合体投与群において、賦形剤対照群に比べて、有意な肺炎症スコア(lung inflammation score)の減少が確認された(
図1のB,†††p <0.001 vs. SARS-CoV-2, vehicle by unpaired t-test)。
【0316】
これらの結果から、配列番号42の持続型結合体が体内で炎症反応に関与するサイトカインのレベルを低くし、それにより炎症を改善することが確認された。これは、本発明による持続型結合体がサイトカインストームを抑制し、過度な免疫反応を抑制することにより、COVID-19の後遺症として知られる急性肺炎症を効果的に改善、調節できることを示すものである。
【0317】
実験例3:サイトカインストーム誘導による肺線維症の改善効果
過度な急性肺炎症により肺線維化を誘発したLPS(lipopolysaccharide)ハムスターモデルを用いて、配列番号42の持続型結合体の肺線維化の改善効能を評価した。
【0318】
まず、ハムスターに対して100~200μgのLPSを第0日→第1日→第3日に、気管内(intratracheal)→腹腔内(intraperitoneal)→気管内注射により注入した。LPSを注入したハムスターを賦形剤対照群、配列番号42の持続型結合体投与群に分け、2日間隔で反復投与を行った。6回の反復投与を行い、第11日に、剖検により各ハムスターの肺組織を採取し、MT(Masson-trichrom)染色により組織の線維化の程度を評価した。陰性対照群としては、LPS注入及び配列番号42の持続型結合体非投与群を用いた。その結果、配列番号42の持続型結合体を投与すると、賦形剤対照群に比べて、肺組織中の線維化面積(fibrosis area)が有意に減少することが確認された(
図2,†~††p <0.05 ~ 0.01 vs. LPS, vehicle by unpaired t-test)。
【0319】
これらの結果から、配列番号42の持続型結合体が肺線維化を抑制することが確認された。
【0320】
上記実施例の実験結果をまとめると、配列番号42の持続型結合体に代表される本発明による持続型結合体がSARS-CoV-2感染による過度な肺炎症反応を改善し、COVID-19の代表的な後遺症である肺線維症までも効果的に改善することが確認された。
【0321】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】