(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】組み合わせ処置
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231026BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231026BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231026BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231026BHJP
【FI】
A61K39/395 T
C07K16/46 ZNA
C07K16/18
C07K16/28
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K47/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523055
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2021079184
(87)【国際公開番号】W WO2022084440
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520119851
【氏名又は名称】ヌマブ セラピューティックス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユレク, デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】グンデ, テア
(72)【発明者】
【氏名】シモニン, アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】チャタジー, ビティ
(72)【発明者】
【氏名】スネル, ダニエル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF63
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB44
4C085DD61
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)およびPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)を含む第1の多重特異性抗体(MA1)と;腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)およびCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイ(CD3-BD)を含む第2の多重特異性抗体(MA2)と;薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。本発明は、さらに、前記の第1の多重特異性抗体MA1と前記の第2の多重特異性抗体MA2とを含むキットに関する。本発明は、さらに、前記の医薬組成物または前記のキットの使用および使用の方法に関する。最後に、本発明は、癌を患う患者を処置するための方法に関し、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)およびPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)を含む第1の多重特異性抗体(MA1)と腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)およびCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)を含む第2の多重特異性抗体(MA2)とを投与するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む医薬組成物であって:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体、
前記のMA1が免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない、
医薬組成物。
【請求項2】
以下を含むキットであって:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
前記のMA1が免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない、
キット。
【請求項3】
前記のMA1または抗体MA1およびMA2両方がさらに1つのヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)を含む、請求項1に記載の医薬組成物または請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記のCD137-BDが以下を含み
(a)配列番号4のVH配列および配列番号11のVL配列;
(b)配列番号5のVH配列および配列番号12のVL配列;
(c)配列番号6のVH配列および配列番号13のVL配列;
(d)配列番号7のVH配列および配列番号14のVL配列;
(e)配列番号22のVH配列および配列番号26のVL配列;
(f)配列番号31のVH配列および配列番号37のVL配列;
(g)配列番号32のVH配列および配列番号38のVL配列;もしくは
(h)配列番号33のVH配列および配列番号39のVL配列;
ならびに/または前記のPDL1-BDが以下を含み
(a)配列番号46のVH配列および配列番号52のVL配列;
(b)配列番号47のVH配列および配列番号52のVL配列;
(c)配列番号48のVH配列および配列番号53のVL配列;
(d)配列番号60のVH配列および配列番号66のVL配列;
(e)配列番号61のVH配列および配列番号67のVL配列;もしくは
(f)配列番号62のVH配列および配列番号66のVL配列;
ならびに前記のhSA-BDが存在する場合には以下を含み
(a)配列番号74のVH配列および配列番号78のVL配列;
(b)配列番号83のVH配列および配列番号87のVL配列;
具体的には、前記のCD137-BDが以下を含み
(f)配列番号31のVH配列および配列番号37のVL配列;
(g)配列番号32のVH配列および配列番号38のVL配列;もしくは
(h)配列番号33のVH配列および配列番号39のVL配列;
前記のPDL1-BDが以下を含み
(a)配列番号46のVH配列および配列番号52のVL配列;
(b)配列番号47のVH配列および配列番号52のVL配列;もしくは
(c)配列番号48のVH配列および配列番号53のVL配列;
ならびに前記のhSA-BDが存在する場合には以下を含む
(a)配列番号74のVH配列および配列番号78のVL配列;
(b)配列番号83のVH配列および配列番号87のVL配列、
請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項5】
前記のMA1が、配列番号105、106、107、108、109、110、および111のscDbならびに配列番号112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、および130のscDb-scFvから選択され、好ましくは、前記のMA1が配列番号112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、および130のscDb-scFvから選択され、より好ましくは、前記のMA1が配列番号125、126、127、および130のscDb-scFvから選択され、具体的には、前記のMA1が配列番号125、127、および130のscDb-scFvから選択される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項6】
腫瘍細胞関連抗原(TAA)が、CD138、CD79b、TPBG(5T4)、HER2、MSLN、MUC1、CA-125(MUC16)、PSMA、BCMA、CD19、EpCAM、CLEC12A(CLL1)、CD20、CD22、CEA、CD33、EGFR、GPC3、CD123、CD38、CD33、CD276、CDH3(カドヘリン3)、FGFR1、SSTR2、CD133、EPHA2、HLA-A2、IL13RA2、ROR1、CEACAM6、CD135、GD-2、GA733、CD135(FLT3)、CSPG4、およびTAG-72からなる群から選択され、
好ましくは、TAAが、CD138、CD79b、CD123、HER2、MSLN、PSMA、BCMA、CD19、CD20、CEA、CD38、CD33、CLEC12a、およびROR1からなる群から選択され、
具体的には、TAAが、HER2、MSLN、およびROR1からなる群から選択される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項7】
前記のMA2が1つのTAA-BDを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項8】
TAA-BDが以下である、請求項7に記載の医薬組成物またはキット
メソテリン(MSLN)に特異的に結合するメソテリン結合ドメイン(MSLN-BD)、具体的には、以下を含むMSLN-BD
(i)それぞれ配列番号139、140、および141のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号143、144、および145のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には、配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には、配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む、
具体的には、以下を含むMSLN-BD
a)それぞれ配列番号139、140、および141のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号143、144、および145のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号142と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号146と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
HER2(HER2)に特異的に結合するHER2結合ドメイン(HER2-BD)、具体的には、以下を含むHER2-BD
(i)それぞれ配列番号165、166、および167のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号170、171、および172のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には、配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には、配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む、
具体的には、以下を含むHER2-BD
a)それぞれ配列番号165、166、および167のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号170、171、および172のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号168または169と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号173または174と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
ROR1に特異的に結合するROR1結合ドメイン(ROR1-BD)、具体的には、以下を含むROR1-BD
(i)それぞれ配列番号215、216、および217のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号218、219、および220のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には、配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には、配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む、
具体的には、以下を含むROR1-BD
a)それぞれ配列番号215、216、および217のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号218、219、および220のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号221または222と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号223と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
【請求項9】
MA2が、2つのTAA-BD、具体的には同じ抗原に結合する2つのTAA-BDを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項10】
前記のTAA-BDが以下である、請求項9に記載の医薬組成物またはキット
メソテリン(MSLN)に特異的に結合するメソテリン結合ドメイン(MSLN-BD)、具体的には、以下を含むMSLN-BD
(i)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;またはそれぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;またはそれぞれ配列番号197、198、および199のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号200、201、および202のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には、配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には、配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む;
具体的には、以下を含むMSLN-BD
a.1)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.1)アミノ酸配列配列番号150と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.1)アミノ酸配列配列番号156と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.2)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.2)アミノ酸配列配列番号152と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.2)アミノ酸配列配列番号156と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.3)それぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.3)それぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.3)アミノ酸配列配列番号160と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.3)アミノ酸配列配列番号164と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.4)それぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.4)それぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.4)アミノ酸配列配列番号194または195と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.4)アミノ酸配列配列番号196と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.5)それぞれ配列番号197、198、および199のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.5)それぞれ配列番号200、201、および202のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.5)アミノ酸配列配列番号203または204と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.5)アミノ酸配列配列番号205と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
【請求項11】
前記のTAA-BDが以下である、請求項9に記載の医薬組成物またはキット
ROR1に特異的に結合するROR1結合ドメイン(ROR1-BD)、具体的には、以下を含むROR1-BD
(i)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には、配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む、
具体的には、以下を含むROR1-BD
a.1)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.1)アミノ酸配列配列番号212と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.1)アミノ酸配列配列番号214と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.2)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.2)アミノ酸配列配列番号213と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、および
d.2)アミノ酸配列配列番号214と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
【請求項12】
前記のCD3-BDが以下を含み
(i)配列番号131、132、および133のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒトVH3フレームワーク上に埋め込まれる、ならびに
(ii)配列番号135、136、および137のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VLフレームワーク上に埋め込まれ、VLフレームワークは、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含む;
具体的には、前記のCD3-BDが以下を含む
(i)配列番号134または182のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
(ii)配列番号138のアミノ酸配列を含むVLドメイン、
請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項13】
前記のhSA-BDが以下を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット
(i)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
配列番号78のアミノ酸配列を含むVLドメイン;または
(ii)配列番号83のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
配列番号87のアミノ酸配列を含むVLドメイン;または
(iii)配列番号190のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
配列番号192のアミノ酸配列を含むVLドメイン;または
(iv)配列番号191のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
配列番号192のアミノ酸配列を含むVLドメイン;または
(v)配列番号189のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
配列番号193のアミノ酸配列を含むVLドメイン。
【請求項14】
前記のMA2が以下からなる群から選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット:
配列番号175、180、181、236、および237のscMATCH3に基づく抗体;ならびに
配列番号176および177、178および179、224および225、226および227、228および229、230および231、232および233、234および235、238および239、ならびに240および241のMATCH4に基づくヘテロ二量体抗体。
【請求項15】
疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には癌から選択されるヒト疾患、具体的には中皮腫、膵臓癌、胃癌、肺癌、乳癌、および卵巣癌から選択される癌、炎症性および自己免疫性疾患の処置における使用のための、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキット。
【請求項16】
疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には癌から選択されるヒト疾患、具体的には中皮腫、膵臓癌、胃癌、肺癌、乳癌、および卵巣癌から選択される癌の処置のための方法であって、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物またはキットを投与するステップを含む、方法。
【請求項17】
癌、具体的にはメラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌を患う患者を処置するための方法であって、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)およびPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)を含む第1の多重特異性抗体(MA1)と、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)およびCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)を含む第2の多重特異性抗体(MA2)とを前記の患者に投与するステップを含み、前記のMA1およびMA2が請求項1~14に記載される通りである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)およびPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)を含む第1の多重特異性抗体(MA1)と;腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)およびCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)を含む第2の多重特異性抗体(MA2)と;薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。本発明は、さらに、前記の第1の多重特異性抗体MA1と前記の第2の多重特異性抗体MA2とを含むキットに関する。本発明は、さらに、前記の医薬組成物または前記のキットの使用および使用の方法に関する。最後に、本発明は、癌を患う患者を処置するための方法に関し、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)およびPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)を含む第1の多重特異性抗体(MA1)と腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)およびCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)を含む第2の多重特異性抗体(MA2)とを投与するステップを含む。
【背景技術】
【0002】
癌は、その処置においてなされた相当の進歩にもかかわらず、主要なアンメットメディカルニーズを呈し続けている。癌処置において近年なされた最も実質的な進歩のいくつかは:モノクローナル抗体(mAb)、二重特異性抗体(bsAb)、組み換え蛋白質、およびキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)治療を包含するがこれらに限定されない種々の分子クラスの免疫療法の出現に伴って到来した。かかる治療は:a)免疫エフェクター細胞を腫瘍常在型細胞に積極的に指向させること、および/またはb)免疫エフェクター細胞を刺激すること、および/またはc)腫瘍によって媒介される免疫抑制を和らげることによって、抗腫瘍免疫を誘導する。これらの免疫療法は、普通は、腫瘍外の場所と比較して腫瘍常在型細胞(例えば悪性細胞、腫瘍血管系の細胞、間質細胞、免疫細胞など)による特異的な抗原の過剰発現を活用して、それらの薬理学的活性を腫瘍へと標的化する。これらの抗原のうち、腫瘍関連抗原(TAA)は悪性細胞によって選択的に過剰発現される細胞表面蛋白質を含む。高い親和性でTAAに結合することによって、免疫療法は、ある度合いまで、それらの免疫調節活性を腫瘍細胞および免疫エフェクター細胞の間の免疫シナプスに制限し得る。
【0003】
TAA結合免疫治療薬の普通のクラスは、腫瘍細胞をオプソニン化すること、およびFcγ受容体(FcγR)発現細胞、主としてナチュラルキラー(NK)細胞による抗体依存的な細胞によって媒介される細胞傷害性(ADCC)を誘発することによって、抗腫瘍免疫を誘起するmAbである。他のTAA結合免疫療法は、悪性細胞の標的化された枯渇化を誘導するための細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、例えばCAR-T細胞、およびT細胞抗原CD3に同時に係合するbsAb(TAA/CD3-bsAb)を活用する。
【0004】
TAA指向性の(リダイレクト)CTLおよび従来のTAA/CD3-bsAbの治療有用性は臨床的に検証されているが、用量制限毒性(DLT)が、多くの場合には最大有効量(MED)での投与を不可能にするか、または処置の打ち切りに至り、限定された効力をもたらす。
【0005】
DLTの1つの理由は、推定上は抗CD3ドメインの過剰な活性を原因として、従来のTAA/CD3-bsAbがサイトカイン放出症候群(CRS)にもまた普通に関連するということである。免疫療法の腫瘍外活性は健康な組織における炎症性サイトカインの分泌をもたらし、これは望ましくない安全性プロファイルをもたらし得る。さらにその上、TAA/CD3-bsAbはTAA過剰発現細胞を強力に枯渇化するが、それらは、かかる細胞が腫瘍抗原(単数または複数)を認識するT細胞受容体(TCR)を発現するかどうか(すなわち、腫瘍反応性T細胞)にかかわらずCTLを動員および刺激することによってそうする。よって、ホストのネイティブな抗腫瘍免疫を刺激または再活性化するよりもむしろ、TAA/CD3-bsAbはCTLをやや無差別に刺激し、可能性として安全性リスクを呈する。
【0006】
かかるDLTが生起する厳密な経路は様々であり得るが、免疫療法に関連する毒性のリスクは、典型的には、薬理学的活性の腫瘍局在を増強することによって最小化または消失させられ得る。
【0007】
ほぼ専ら癌細胞上に発現されるTAA、例えば癌胎児腫瘍抗原は、クリーンなTAAと言われる。典型的には癌細胞と比較してより低いレベルで正常な非癌細胞上にもまた発現されるTAAは、クリーンでないTAAと考えられる。TAA/CD3-bsAbアプローチの非常に高い力価を原因として、それらはTAAを発現する非腫瘍細胞をもまた損傷するので、クリーンでないTAAは難題である。メソテリン(MSLN)、EGFR、EpCAM、およびHER2は、クリーンでないTAAの例である;それらは腫瘍細胞上のみならずより低いレベルではあるが種々の他の組織においてもまた発現される。よって、クリーンでないTAAを標的化するときには、腫瘍組織に対するTAA/CD3-bsAbアプローチの選択性を改善してオフ腫瘍/オンターゲット効果を最小化する新規の治療が必要とされる。これは、具体的にはMSLN/CD3-bsAbおよびHER2/CD3-bsAbアプローチに当てはまる。
【0008】
TAA/CD3-bsAbアプローチの効率および選択性を増大させるためには、異なる戦略が追求される。
【0009】
1つの戦略には、所望のTAAに対して二価である多重特異性T細胞係合抗体、すなわち、同じTAAに対して特異的である2つ以上の結合ドメイン(TAA-BD)、例えば2つのMSLN-BDまたは2つのHER2-BDとCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを有するT細胞係合多重特異性抗体を提供することによるアビディティ効果の使用が関わり、2つ以上のTAA-BDの結合親和性は良好に均衡化された範囲にある。この二価の結合戦略は、高いTAA発現レベルを有する腫瘍細胞の効率的なアビディティによって駆動される標的化を許しながら、健康すなわち低TAA発現細胞ははるかに影響されない。かかる多重特異性抗体は理論上は高い腫瘍局在および改善された選択性を誘起することができ、これらは種々の癌のためのより安全なかつより有効な治療を提供し得る。しかしながら、治療使用のための多重特異性抗体の実装は、それらの分子アーキテクチャ、それらのコンポーネントの抗原結合ドメインの特性、それらの製造性および/または不良な生物物理学的特性の問題を原因として複雑化している。それゆえに、限定された数のかかる多重特異性分子のみがこれまでのところ開発されている。
【0010】
例えば、特許文献1は2つの低親和性抗HER2結合ドメインと1つの抗CD3ε結合ドメインとを有する二重特異性の1Fab-IgGに基づく抗体を記載し、これらは高HER2発現細胞株に対して改善されたインビトロ選択性を見せる。
【0011】
非特許文献1は2つの低親和性抗MSLN結合ドメインと1つの抗CD3ε結合ドメインとを有する二重特異性抗体を記載している。この二重特異性抗体はIgGに基づき、MSLNおよびCD3εに対する特異性を有する2つのscFabアームと、CD3ε特異的なscFabのN末端に融合された1つの追加のMSLN特異的なscFab断片とを有する。
【0012】
別の戦略には、TAA指向性の(リダイレクト)免疫療法に対する患者応答を増強する狙いを有する追加の免疫治療抗体の併用投与が関わる。例えば、腫瘍によって媒介される免疫抑制を和らげること、および/または補助刺激受容体をさらに活性化することによってだが副作用を増大させることなしに免疫応答を増大させることによる。理想的には、このアプローチは、DLTにとって重大なTAA/CD3二重特異性抗体コンポーネントの有効用量レベルの縮減を許し、治療ウインドウの幅広化をもたらすべきである。
【0013】
腫瘍によって媒介される免疫抑制は多くの場合に免疫チェックポイントリガンド/受容体(例えばPD-1、PDL1、CTLA-4)の発現によって誘導される。免疫チェックポイントは免疫系の制御因子であり、癌における自己寛容または免疫抑制などのプロセスに関わる。免疫抑制性の抗原、例えばCTLA-4(例えばイピリムマブ)、PD-1(例えばニボルマブ、ペムブロリズマブ)、およびPDL1(例えばアベルマブ、アテゾリズマブ)をブロックするモノクローナル抗体は、種々の腫瘍組織学表現型を見せる患者において印象的な奏功率を誘起している。
【0014】
PDL1(CD274、B7-H1)は40kDaのI型膜貫通蛋白質である。PDL1は、活性化TおよびB細胞によって発現される鍵の免疫チェックポイント受容体PD-1にとっての表面糖蛋白質リガンドであり、免疫抑制を媒介する。PDL1は慢性の感染、妊娠、組織アログラフト、自己免疫性疾患、および癌の間の免疫系応答の抑制に関連づけられている。PDL1は、抗原提示細胞およびヒト癌細胞両方、例えば頭頸部の有棘細胞癌、メラノーマ、および脳、甲状腺、胸腺、食道、肺、乳部、胃腸管、大腸、肝臓、膵臓、腎臓、副腎皮質、膀胱、尿路上皮、卵巣、および皮膚腫瘍上に見出される(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)。PDL1は正常組織上には滅多に発現されないが、腫瘍部位上には誘導的に発現される(非特許文献9;非特許文献10)。PDL1はPD-1に結合することによってT細胞活性化およびサイトカイン分泌を下方制御する(非特許文献11;非特許文献12)。PDL1によって活性化されたPD-1は、可能性として、腫瘍発生および成長のための免疫寛容な環境を提供する。PDL1は別の受容体B7.1(B7-1、CD80)との相互作用によってもまたT細胞機能を負に制御する。
【0015】
PD-1シグナル伝達を遮断するいくつもの抗体が臨床開発に入っている。これらの抗体は次の2つの主なカテゴリーに属する:PD-1を標的化するもの(ニボルマブ、ブリストルマイヤーズスクイブ;ペムブロリズマブ、メルク、ホワイトハウス・ステーション、NJ;ピジリズマブ、キュアテック(CureTech)、ヤブネ、イスラエル)およびPDL1を標的化するもの(MPDL3280A、ジェネンテック、サウスサンフランシスコ、CA;MEDI4736、メディミューン/アストラゼネカ;BMS-936559、ブリストルマイヤーズスクイブ;MSB0010718C、EMDセローノ、ロックランド、MA)(総説は非特許文献13を参照)。PDL1を標的化することは、PD-1を標的化することに対して、異なるバイオロジクス効果をもたらし得る。PD-1抗体はそのリガンドのPDL1およびPDL2両方とのPD-1の相互作用を妨げる。この相互作用の効果は未知のままに残っているが、PDL1抗体はPD-1がPDL2と相互作用することを妨げない。しかしながら、PDL1抗体は、PD-1のみならず、T細胞に対して負のシグナルを行使すると思われているB7-1とのPDL1の相互作用をもまた妨げる(非特許文献14)。PDL1をブロックすることは有望な初期データを実証しており、現行では、4つの臨床抗PDL1mAbが試験中である:アテゾリズマブおよびMEDI4736(両方ともヒトIgG1のFcヌルバリアントである)、MSB001078C(IgG1)、ならびにBMS-936559(IgG4)(非特許文献15)。
【0016】
新たなおよび新興しつつある併用投与処置は、高頻度で、抗PDL1/PD1抗体をTAA指向性の(リダイレクト)CTLに基づく免疫療法と組み合わせている。
【0017】
特許文献2は、例えば、腫瘍の成長を処置または阻害するための方法を記載し、CD20に特異的に結合する第1の抗原結合アームとCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームとを含む二重特異性抗体との組み合わせで、抗PD-1抗体の投与を含む。
【0018】
特許文献3は、HER2陽性の癌を処置するための方法を記載し、HER2およびCD3に特異的に結合する二重特異性抗体との組み合わせで抗PD-1抗体の投与を含む。
【0019】
加えて、T細胞補助刺激受容体(例えば、CD137、OX40、ICOS、GITR)が、癌におけるT細胞の治療的な刺激のための標的として現行で臨床評価されつつある。かかる標的を介する抗腫瘍T細胞刺激の1つの推定上の利点は、それらがTCRシグナル伝達によって一過的に発現されるということである。そのため、それらの発現は、炎症性の腫瘍微小環境(TME)において、具体的には、それらのTCRが悪性細胞および抗原提示細胞(APC)によって発現される主要組織適合性複合体(MHC)との相互作用による継続的刺激を受けている腫瘍反応性T細胞上において、選択的に増大する傾向がある。よって、補助刺激受容体を例えばmAbおよびbsAbによって標的化することは、例えばCD3標的化アプローチよりも選択的に既存の抗腫瘍T細胞を刺激および増殖し、可能性として、かかるバイオロジクスをより安全に、それらの効果をより耐久的にするはずである。
【0020】
補助刺激受容体のうち、CD137(4-1BB、TNF受容体スーパーファミリー9、TNFRSF9)は、その発現プロファイルおよび抗腫瘍免疫の多能的メディエーターとしてのその役割を原因として、とりわけ有望だと判明している(非特許文献16;非特許文献17)。CD137は誘導性のT細胞補助刺激受容体である。その発現は活性化依存的であり、免疫細胞の幅広いサブセットを包摂し、活性化CD8+T細胞、CD4+T細胞、NK細胞、NKT細胞、Treg、濾胞DCを包含する樹状細胞(DC)、刺激されたマスト細胞、分化して行く骨髄系細胞、単球、好中球、好酸球(非特許文献18)、および活性化B細胞(非特許文献19)を包含する。加えて、CD137発現は腫瘍血管系(非特許文献20;非特許文献21)およびアテローム硬化性内皮(非特許文献22)でもまた実証されている。
【0021】
CD137はT細胞を補助刺激して、樹立した腫瘍の根絶などのエフェクター機能を実行させ、一次CD8+T細胞応答を幅広化し、抗原特異的なCD8+T細胞のメモリープールを増強する。マウスにおけるインビボの効力研究は、単剤療法としておよび組み合わせレジメンのコンポーネントとして投与されたCD137アゴニストmAbは両方とも、複数の腫瘍モデルにおいて抗腫瘍の保護的なT細胞メモリー応答および腫瘍退縮に至るということを明らかにした。
【0022】
それゆえに、CD137アゴニストmAbをTAA指向性の(リダイレクト)CTL免疫療法と組み合わせるいくつかの併用投与処置が現行で検討中である。
【0023】
例えば、特許文献4および特許文献5は癌の進行を処置または遅延するための方法を記載し、CD137アゴニスト抗体が、TAAおよびCD3に、具体的にはCD20およびCD3に特異的に結合する二重特異性抗体との組み合わせで適用される。
【0024】
CD137アゴニストmAbの利用は非常に有望な処置戦略であるが、これまでに集められた臨床データは、CD137刺激のためのmAbに基づくアプローチは効力および安全性の間のトレードオフをもたらすということを示唆する。つまり、高度に活性なCD137アゴニストmAbは処置の効力を減弱させる用量制限毒性(DLT)を誘起し、弱く活性なCD137アゴニストmAbは良好に忍容されるが、それらの予測される最小有効用量(MED)を包含して高度に効力があるようには見えない。
【0025】
高度に活性なCD137アゴニストmAbは免疫系および臓器機能の変調に至り、毒性のリスクを増大させる。高い用量のかかるmAbは、肝臓炎症と整合して、ナイーブなおよび腫瘍を持つマウスにおける肝臓へのT細胞浸潤ならびにアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアラニンアミノトランスフェラーゼの上昇(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25)、ならびに野生型マウスの肝臓におけるFcγRによって誘導される免疫細胞蓄積を誘導することが報告されている(非特許文献26)。CD137アゴニストmAbのヒト治療使用の当初の臨床試験は、肝臓酵素の上昇および肝炎の増大した発生率をもまた実証した(非特許文献27;非特許文献28;非特許文献15)。可能性として致死性の肝炎が、先に処置されたステージIII/IVメラノーマについてのブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)第II相抗CD137研究、国内治験(NCT)00612664において観察された。この研究およびいくつかの他のもの(NCT00803374、NCT00309023、NCT00461110、NCT00351325)は有害事象を原因として中止された(非特許文献15)。かかる有害事象は最も疑わしくはT細胞の全身的な過剰刺激を原因とする。CD137によって媒介される肝臓傷害性は、肝臓における骨髄系細胞のオンターゲット活性化、次に、CD4+/CD8+T細胞の動員によって引き起こされると思われ、これらが活性化され、損傷を引き起こす。
【0026】
追加の架橋機能を増加させ、特定のレベルのTNRSF、具体的にはCD137活性化を達成するために、PDL1およびTNRSF構成員または葉酸受容体アルファ(FRα)およびTNRSF構成員に結合する多価かつ多重特異性の融合ポリペプチドを用いることが最近示唆されており、PDL1またはFRαの結合は追加の架橋機能を提供することができる(特許文献6)。エッケルマン(Eckelman)らは、CD137の二価の係合が、2つのPDL1結合ドメインと2つのCD137結合ドメインとFc領域とを有する多重特異性かつ多価のポリペプチドのINBRX-105のケースのように、外因性のクラスター化事象の非存在下において有効にクラスター化し生産的なCD137シグナル伝達を媒介するには不十分であるということを、レポーターT細胞株に対する分子の効果を特定するアッセイを用いて実証している。対照的に、PDL1陽性細胞の存在下における第2の細胞表面抗原PDL1に対する係合は、CD137のさらなるクラスター化および生産的なシグナル伝達を可能化する(特許文献6)。
【0027】
最近、T細胞活性化および増殖に対するPDL1およびCD137に結合する多価かつ多重特異性の融合ポリペプチドの効果がインビトロで評価された。未成熟DCおよびドナーのマッチしたT細胞を実装する自家インビトロ共培養系を用いて、2つのPDL1結合ドメインと2つのCD137結合ドメインとFc領域とを有する多重特異性かつ多価のポリペプチドのINBRX-105が、一重特異性PDL1sd-Ab-Fc融合蛋白質、CD137sdAb-Fc融合蛋白質、2つの組み合わせ、抗PDL1抗体アテゾリズマブ、抗CD137抗体ウトミルマブ(PF-05082566)、または抗PDL1抗体プレムブロリズマブ、およびそれらの組み合わせと比較したときに、インターフェロンガンマ(INFγ)産生を誘導することまたはCD8+T細胞増殖および活性化を媒介することにおいて優れているということが実証された(特許文献6)。
【0028】
かかる多価CD137アゴニストおよびPD-1/PDL1アンタゴニスト二重特異性抗体はTAA/CD3-bsAbとの組み合わせで最近試験されている。
【0029】
非特許文献29は、RKO腫瘍マウスモデルにおけるFc領域を含む二価の二重特異性の抗5T4×CD3二重親和性再標的化(DART(登録商標))抗体との1つのPDL1結合ドメインと2つのCD137結合ドメインとFc領域とを有する三価の二重特異性のTRIDENT(登録商標)抗体の併用投与を記載している。これらの2つの二重特異性抗体の組み合わせ投与は、個々の二重特異性のコンポーネント単独の投与と比較されるときに、T細胞によって媒介される癌細胞の殺細胞の強い改善をもたらすということが実証された。
【0030】
CD137アゴニスト作用性のおよびPDL1アンタゴニスト作用性の二重特異性抗体の単独適用および/または併用適用に関する上で言及された研究において開示されているデータは、CD137の効率的なクラスター化および生産的なシグナル伝達、ならびに翻って癌細胞のTAA指向性の(リダイレクト)T細胞によって媒介される殺細胞の効力の適度に高い増大を保証するためには、これらの二重特異性抗体が少なくとも2つのCD137結合ドメインを含むということが高度に好都合であるかまたはさらには要求されるということを含意する。また、これまでのところ開発された全てのCD137アゴニスト作用性のおよびPDL1アンタゴニスト作用性の二重特異性抗体は、免疫グロブリンFc領域を有する。しかしながら、2つのCD137結合ドメインを有する多重特異性抗体とのCD3を標的化する二重特異性抗体の組み合わせは、かかる併用処置アプローチの安全性についての懸念を提起する。これらの懸念は、適用される分子上のFc領域の存在によってさらに強められる。これらは一般的にはT細胞の系統的な活性化などのオフ腫瘍効果を引き起こす。これは、具体的には、TAA/CD3-bsAbがクリーンでないTAA、すなわち具体的な腫瘍細胞よりも低い程度でだが健康な細胞にもまた発現されるTAAを指向するケースにおいて真である。
【0031】
そればかりでなく、かかる併用処置アプローチの開発は難しい仕事である。それにおいて適用される多重特異性抗体の生物物理学的および機能的キャラクタリゼーションならびに生物学的試験は、それが単独であっても組み合わせであっても、それらの多重特異性アーキテクチャおよび生物学的な系におけるそれらの相互作用の複雑さを原因として、典型的には困難かつ手間がかかる。それゆえに、かかる併用処置戦略は、一般的には、それらのより高い開発、承認、および産生コストを原因として、単一コンポーネント治療と比べて有意な経済的および商業的欠点を有する。結果的に、リスク対ベネフィットの増加が達成され得る併用処置戦略であっても、かかる改善はより高い開発労力および開発コストという欠点を上回らなければならない。
【0032】
概括として、同時に忍容可能な毒性学的プロファイルを有する増大した腫瘍細胞局在および有効なT細胞活性化を有する新規のTAA指向性の(リダイレクト)免疫療法、すなわち改善されたリスク対ベネフィット比を有する免疫療法の、具体的にはクリーンでないTAAを標的化する新規のTAA指向性の(リダイレクト)免疫療法の明瞭な必要が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】国際公開第2019/157308号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/112775号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2015/095418号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2018/114754号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2018/114748号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2017/123650号パンフレット
【非特許文献】
【0034】
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【非特許文献22】オロフソン(Olofsson)ら,サーキュレーション(Circulation),第117巻(10):p.1292-1301(2008年)
【非特許文献23】ニウ(Niu)Lら,ザ・ジャーナル・オブ・イミュノロジー(The Journal of Immunology),第178巻(7):p.4194-4213(2007年)
【非特許文献24】デュブロー(Dubrot)Jら,インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(International Journal of Cancer),第128巻(1):p.105-118(2011年)
【非特許文献25】シーガル(Segal)NHら,クリニカル・キャンサー・リサーチ(Clinical Cancer Research):p.1929-1936(2016年)
【非特許文献26】クラウス(Claus)ら,サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Science Translational Medicine)(11):p.1-12(2019年)
【非特許文献27】スノル(Sznol)Mら,ジャーナル・オブ・クリニカルオンコロジー(Journal of Clinical Oncology),第26巻(115S):p.3007(2008年)
【非特許文献28】アシエルト(Ascierto)PAら,セミナーズ・イン・オンコロジー(Seminars in Oncology),第37巻(5):p.508-516(2010年)
【非特許文献29】ベレズノイ(Berezhnoy)ら,ポスターPB-067,第30回EORTC/AACR/NCIシンポジウム発表,2018年,ダブリン
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
増殖性疾患、具体的には癌の処置を改善するための医薬を提供することが本発明の目的である。より具体的には、増大したオンターゲット効力および忍容可能な毒性学的プロファイルを有する新規のTAA指向性の(リダイレクト)免疫療法を提供することが本発明の目的であった。
【0036】
本発明者は、1つのCD137結合ドメイン(CD137-BD)と1つのPDL1結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む一連の多重特異性抗体を先に同定し得た。前記の多重特異性抗体は、標的化された様式で、すなわち専らPDL1陽性細胞の存在下において、例えばPDL1陽性の腫瘍微小環境において、クラスター化し、CD137シグナル伝達にアゴニスト作用する能力があり、それゆえにCD137の全身的な活性化を回避する。同時に、前記の多重特異性抗体は、PDLに対するPDL1の結合をブロックする。これらの多重特異性抗体、ならびにそれらの医薬組成物および使用の方法は、その全体が参照によってここに組み込まれる特許出願WO2019/072868に開示されている。
【0037】
ここで、驚くべきことに、本発明者は、TAAおよびCD3を特異的に標的化する多重特異性抗体との本明細書において定義されるかかるCD137アゴニスト作用性のかつPDL1ブロック性の多重特異性抗体の組み合わせ適用が、前記の個々の多重特異性抗体単独の適用に対して相対的に、TAA指向性の(リダイレクト)標的細胞の殺細胞における有意に多大な効力(インビトロ)および実質的に増大した腫瘍成長阻害(インビボ)をもたらすということを見出した。これらのCD137アゴニスト作用性のかつPDL1ブロック性の多重特異性抗体は、1つのCD137結合ドメインのみ、1つのPDL1結合ドメインのみを有し、また、免疫グロブリンFc領域を含まないという事実にもかかわらずである。
【0038】
同時に、抗TAA×CD3多重特異性抗体との本明細書に記載されるPDL1/CD137結合多重特異性抗体の組み合わせ適用の毒性学的プロファイルは、TAA×CD3多重特異性抗体単独の適用の毒性学的プロファイルよりも悪くはなかった。
【課題を解決するための手段】
【0039】
従って、第1の態様において、本発明は以下を含む医薬組成物に関する:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体。
【0040】
第2の態様において、本発明は以下を含むキットに関する:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、および
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)。
【0041】
第3の態様において、本発明は医薬としての使用のための本発明の医薬組成物またはキットに関する。
【0042】
第4の態様において、本発明は、疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には癌から選択されるヒト疾患の処置における使用のための本発明の医薬組成物またはキットに関する。
【0043】
第5の態様において、本発明は、疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には癌から選択されるヒト疾患の処置のための方法に関し、本発明の医薬組成物またはキットを投与するステップを含む。
【0044】
第6の態様において、本発明は、癌を患う患者を処置するための方法に関し、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む第1の多重特異性抗体(MA1)、および腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む第2の多重特異性抗体(MA2)を投与するステップを含む。
【0045】
第7の態様において、本発明は、増殖性疾患、具体的には癌を患う対象の処置における使用のための、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体MA1に関し、前記の多重特異性抗体MA1は、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む多重特異性抗体MA2との組み合わせで前記の対象に投与される。
【0046】
第8の態様において、本発明は、増殖性疾患、具体的には癌を患う対象の処置における使用のための、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む多重特異性抗体MA2に関し、前記の多重特異性抗体MA2は、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体MA1との組み合わせで前記の対象に投与される。
【0047】
次の項目において概括される本発明の態様、有利な特徴、および好ましい実施形態は、それぞれ単独でまたは組み合わせで、さらに、本発明の目的を解決することに寄与する:
1. 以下を含む医薬組成物:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体。
2. 以下を含むキット:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、および
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)。
3. 項目1の医薬組成物または項目2のキットであって、前記のMA2が1つまたは2つのTAA-BD(単数または複数)を含む。
4. 項目1もしくは3の医薬組成物または項目2もしくは3のキットであって、前記のMA1もしくは前記のMA2、または抗体MA1およびMA2両方が、免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
5. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物であって、前記の医薬組成物が以下を含み:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体、
前記のMA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
6. 先行する項目のいずれか1つのキットであって、前記のキットが以下を含み:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、および
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
前記のMA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
7. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1もしくはMA2または抗体MA1およびMA2両方が、さらに1つのヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)を含む。
8. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1およびMA2の結合ドメイン、例えばPDL1-BD、CD137-BD、TAA-BD、CD3-BD、またはhSA-BDが、互いから独立して、Fab、Fv、scFv、dsFv、sdAb、STAB、ならびにアンキリンに基づくドメイン、フィノマー(fynomer)、アビマー(avimer)、アンティカリン(anticalin)、フィブロネクチン、および抗体の定常領域上に構築された結合部位(例えばf-starテクノロジー)を包含するがこれらに限定されない代替的な骨格に基づく結合ドメインからなる群から選択され、具体的には、MA1およびMA2の結合ドメインは、互いから独立して、Fab、Fv、scFv、dsFv、sdAb、およびSTABからなる群から選択され、より具体的には、MA1およびMA2の結合ドメインは、互いから独立して、Fv、scFv、dsFv、およびSTABからなる群から選択される。
9. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1もしくは前記のMA2、または抗体MA1およびMA2両方がCH1および/またはCL領域を含まず、具体的には、前記のMA1もしくは前記のMA2、または抗体MA1およびMA2両方が専ら免疫グロブリン可変ドメインを含む。
10. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、MA1およびMA2に含まれる前記の結合ドメインのそれぞれが独立して以下から選択される
(a)VLドメインおよびVHドメインの対応するペア(Fv断片);あるいは
(b)ポリペプチドリンカー(scFv断片)および/またはジスルフィド結合によって連結されたVLドメインおよびVHドメインの対応するペア。
11. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1の結合ドメインがそれらのそれぞれの抗原に同時に結合することができる。
12. 項目7から11のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1が1つのCD137-BD、1つのPDL1-BD、および1つのhSA-BDからなる。
13. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1がPDL1陽性細胞の存在下においてCD137のアゴニストとして作用する。
14. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1が、具体的には競合ELISAによって測定されるときに、CD137およびそのリガンドCD137Lの間の相互作用を阻害しない。
15. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが:
a. 表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるときに、ヒトCD137に、50nM未満の一価解離定数(KD)で、具体的には0.005から50nMの、より具体的には0.01から30nMの、より具体的には0.01から10nMの、より具体的には0.1から5nMの一価KDで結合し、具体的には前記のCD137-BDはscFvである;
b. SPRによって測定されるときに、ヒトCD137に、10-2s-1以下の、より具体的には10-2s-1から10-6s-1の、より具体的には5×10-3s-1から10-5s-1の、より具体的には10-3s-1から5×10-4s-1のKoff速度で結合する;
c. SPRによって測定されるときに、ヒトCD137に、少なくとも104M-1s-1またはより多大な、より具体的には104M-1s-1から107M-1s-1の、より具体的には105M-1s-1から5×106M-1s-1のKon速度で結合する;
d. ウレルマブおよびウトミルマブと交差競合しない;および/または
e. マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)CD137と交差反応性であり、具体的には、SPRによって測定されるときに、カニクイCD137に、50nM未満の一価KDで、具体的には、0.005から50nMの、より具体的には0.01から30nMの、より具体的には0.01から10nMの、より具体的には0.1から5nMの一価KDで結合し、具体的には前記のCD137-BDはscFvである;および/または
f. scFvフォーマットであるときに、少なくとも50℃の、好ましくは少なくとも55℃の、より好ましくは少なくとも60℃の示差走査蛍光定量法によって決定される融解温度(Tm)を有し、具体的には、前記の抗体またはその抗原結合断片はpH6.4、150mMのNaClのリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤され、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
g. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、7%未満、例えば6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の4℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体はpH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
および/または
h. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の40℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体はpH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される。
16. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが、SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に対する結合についての前記のPDL1-BDの一価解離定数(KD)よりも少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、例えば少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも100倍高い一価解離定数(KD)で、ヒトCD137に結合する。
17. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが、SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に対する結合についての前記のPDL1-BDの一価解離定数(KD)よりも20から1000倍、好ましくは30から800倍、具体的には50から500倍高い一価解離定数(KD)で、ヒトCD137に結合する。
18. 項目13から17のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号1、2、および3のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号8、9、および10のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
19. 項目18の医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む
a)それぞれ配列番号1、2、および3のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号8、9、および10のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号4、5、6、または7と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号11、12、13、または14と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
20. 項目18または19の医薬組成物またはキットであって、前記のVHドメインがシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインがシステインを位置141(AHo付番)に含む。
21. 項目18から20のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:配列番号4、5、6、および7のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むVHドメイン;ならびに配列番号11、12、13、および14のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むVLドメイン。
22. 項目21の医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む
(a)配列番号4のVH配列および配列番号11のVL配列;
(b)配列番号5のVH配列および配列番号12のVL配列;
(c)配列番号6のVH配列および配列番号13のVL配列;または
(d)配列番号7のVH配列および配列番号14のVL配列。
23. 項目18から20のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:アミノ酸配列配列番号7と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列;およびアミノ酸配列配列番号14と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列であって、前記のVHドメインはシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインはシステインを位置141(AHo付番に含む。
24. 項目13から17のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号19、20、および21のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号23、24、および25のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
25. 項目24の医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVH配列;および配列番号26のアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVL配列。
26. 項目24または25の医薬組成物またはキットであって、前記のVHドメインまたはVH配列がシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインまたはVL配列がシステインを位置141(AHo付番)に含む。
27. 項目24から26のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが:配列番号22のVH配列および配列番号26のVL配列を含む。
28. 項目13から17のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号28、29、および30のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号34、35、および36のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
29. 項目28の医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:配列番号31、32、および33からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVH配列;ならびに配列番号37、38、および39からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVL配列。
30. 項目28または29の医薬組成物またはキットであって、前記のVH配列またはVHドメインがシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインまたはVL配列がシステインを位置141(AHo付番)に含む。
31. 項目28から30のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:
(a)配列番号31のVH配列および配列番号37のVL配列;
(b)配列番号32のVH配列および配列番号38のVL配列;または
(c)配列番号33のVH配列および配列番号39のVL配列。
32. 項目28から31のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のCD137-BDが以下を含む:アミノ酸配列配列番号33と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列;ならびにアミノ酸配列配列番号39と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列であって、前記のVH配列がシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVL配列がシステインを位置141(AHo付番)に含む。
33. 先行する項目のいずれかの医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDがPDL1のブロッカーである。
34. 項目33の医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが:
a. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、10nM未満の一価解離定数(KD)で、具体的には0.05pMから10nMの、より具体的には0.1pMから5nMの、より具体的には0.2pMから1nM、より具体的には0.5pMから500pMの、より具体的には1pMから200pMの、より具体的には1pMから100pMの一価KDで結合する;
b. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、5×10-3s-1以下の、より具体的には5×10-3s-1から10-7s-1の、より具体的には10-3s-1から5×10-6s-1の、より具体的には10-3s-1から10-6s-1のKoff速度で結合する;
c. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、少なくとも104M-1s-1またはより多大な、より具体的には104M-1s-1から108M-1s-1の、より具体的には105M-1s-1から5×107M-1s-1の、より具体的には5×105M-1s-1から107M-1s-1のKon速度で結合する;
d. マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)PDL1と交差反応性である;
e. ムス・ムスクルスPDL1と非交差反応性である;および/または
f. scFvフォーマットであるときに、少なくとも55℃、例えば少なくとも60℃、好ましくは少なくとも65℃、より好ましくは少なくとも70℃の示差走査蛍光定量法によって決定される融解温度(Tm)を有し、具体的には、前記の抗体またはその抗原結合断片は、pH6.4、150mMのNaClのリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤され、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
g. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満の、5回続けての凍結融解サイクル後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;および/または
h. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、15%未満、例えば12%未満、10%未満、7%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の4℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される。
35. 項目33または34の医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号43、44、および45のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号49、50、および51のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
36. 項目33または34の医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号57、58、および59のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号63、64、および65のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
37. 項目33から36のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む:配列番号46、47、48、60、61、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVH配列;ならびに配列番号52、53、66、および67からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVL配列。
38. 項目33から36のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む:
(a)配列番号46のVH配列および配列番号52のVL配列;
(b)配列番号47のVH配列および配列番号52のVL配列;
(c)配列番号48のVH配列および配列番号53のVL配列;
(d)配列番号60のVH配列および配列番号66のVL配列;
(e)配列番号61のVH配列および配列番号67のVL配列;または
(f)配列番号62のVH配列および配列番号66のVL配列。
39. 項目38の医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む:
(a)配列番号46のVH配列および配列番号52のVL配列;または
(b)配列番号48のVH配列および配列番号53のVL配列。
40. 項目38の医薬組成物またはキットであって、前記のPDL1-BDが以下を含む:
(a)配列番号61のVH配列および配列番号67のVL配列;または
(b)配列番号62のVH配列および配列番号66のVL配列。
41. 項目7から40のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のhSA-BDが以下を含む
(i)配列番号71、72、および73のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒトVH3フレームワーク上に埋め込まれる、ならびに
(ii)配列番号75、76、および77のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列であって、抗体VLフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VLフレームワーク上に埋め込まれ、VLフレームワークは、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含む;
あるいは
(i)配列番号80、81、および82のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒトVH3フレームワーク上に埋め込まれる、ならびに
(ii)配列番号84、85、および86のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VLフレームワーク上に埋め込まれ、VLフレームワークは、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含む。
42. 項目41の医薬組成物またはキットであって、前記のhSA-BDが以下を含む:配列番号74、83、189、190、および191からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVH配列;ならびに配列番号78、87、192、および193からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一であるVL配列。
43. 項目41または42のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のhSA-BDが以下を含む:
(a)配列番号74のVH配列および配列番号78のVL配列;
(b)配列番号83のVH配列および配列番号87のVL配列;
(c)配列番号190のVH配列および配列番号192のVL配列;
(d)配列番号191のVH配列および配列番号192のVL配列;または
(e)配列番号189のVH配列および配列番号193のVL配列。
44. 項目42または43の医薬組成物またはキットであって、前記のVHドメインがシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインがシステインを位置141(AHo付番)に含む。
45. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の多重特異性抗体MA1が、以下からなる群から選択されるフォーマットである:scDB;二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE;タンデムdi-scFv)、タンデムtri-scFv;Fab-(scFv);scFab-dsscFv;トライボディ(tribody)(Fab-(scFv)2);Fab2;Fab-Fv2;ダイアボディ;トライアボディ;scDb-scFv;scDb、タンデムtri-scFv、Fab-(scFv)、scFab-dsscFv、Fab-(scFv)2、Fab2、Fab-Fv2、ダイアボディ、またはscDb-scFvであってヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのNおよび/またはC末端に融合される;ならびにMATCH。
46. 項目1から6のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1が、配列番号105、106、107、108、109、110、および111のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むscDbである。
47. 項目1から6のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA1が、配列番号112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、および130のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むscDb-scFvであり、好ましくは、前記のMA1は配列番号125、126、127、および130から選択されるアミノ酸配列を含むscDb-scFvであり、より好ましくは、前記のMA1は配列番号125、127、および130から選択されるアミノ酸配列を含むscDb-scFvである。
48. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、MA2の前記のCD3-BDがCD3εに結合しようとする。
49. 項目48の医薬組成物またはキットであって、前記のCD3-BDが、SPRによって測定されるときに、CD3εに、50nM未満の一価KDで、具体的には0.5から50nMの、具体的には1から40nMの、具体的には2から35nMの、具体的には3から30nMの一価KDで結合する。
50. 項目48または49の医薬組成物またはキットであって、前記のCD3-BDが以下を含む
(i)配列番号131、132、および133のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒトVH3フレームワーク上に埋め込まれる、ならびに
(ii)配列番号135、136、および137のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列であって、抗体VHフレームワーク上に、具体的にはヒト抗体VLフレームワーク上に埋め込まれ、VLフレームワークは、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含む。
51. 項目50の医薬組成物またはキットであって、前記のCD3-BDが以下を含む
(i)配列番号134または182のアミノ酸配列を含むVHドメイン、および
(ii)配列番号138のアミノ酸配列を含むVLドメイン。
52. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、腫瘍細胞関連抗原(TAA)が、CD138、CD79b、TPBG(5T4)、HER2、MSLN、MUC1、CA-125(MUC16)、PSMA、BCMA、CD19、EpCAM、CLEC12A(CLL1)、CD20、CD22、CEA、CD33、EGFR、GPC3、CD123、CD38、CD33、CD276、CDH3(カドヘリン3)、FGFR1、SSTR2、CD133、EPHA2、HLA-A2、IL13RA2、ROR1、CEACAM6、CD135、GD-2、GA733、CD135(FLT3)、CSPG4、およびTAG-72からなる群から選択され、
好ましくは、TAAが、CD138、CD79b、CD123、HER2、MSLN、PSMA、BCMA、CD19、CD20、CEA、CD38、CD33、CLEC12a、およびROR1からなる群から選択され、
具体的には、TAAが、HER2、MSLN、およびROR1からなる群から選択される。
53. 項目1から52のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMA2が1つのTAA-BDを含む。
54. 項目53の医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、SPRによって測定されるときに、前記のTAAに、50nM未満、具体的には20nM未満、具体的には10nM未満、具体的には5nM未満の、具体的には0.01から2nMの、具体的には0.02から1nMの、具体的には0.03から0.5nMの一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のTAA-BDはscFvである。
55. 項目53または54の医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、メソテリン(MSLN)に特異的に結合するメソテリン結合ドメイン(MSLN-BD)である。
56. 項目55の医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号139、140、および141のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号143、144、および145のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
57. 項目55または56の医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが以下を含む
a)それぞれ配列番号139、140、および141のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号143、144、および145のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号142と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号146と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
58. 項目55から57のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが:
a. 具体的にはSPRによって測定されるときに、ヒトMSLNに、10nM未満の、具体的には0.01から5nMの、具体的には0.02から1nMの一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のMSLN-BDはscFvである;および/または
b. マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)MSLNと交差反応性であり、具体的には、SPRによって測定されるときに、カニクイMSLNに、15nM未満の、具体的には0.01から10nMの、具体的には0.02から5nMの一価KDで結合し、具体的には前記のMSLN-BDはscFvである。
59. 項目53または54の医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、HER2(HER2)に特異的に結合するHER2結合ドメイン(HER2-BD)である。
60. 項目55の医薬組成物またはキットであって、前記のHER2-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号165、166、および167のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号170、171、および172のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
61. 項目55または56の医薬組成物またはキットであって、前記のHER2-BDが以下を含む
a)それぞれ配列番号165、166、および167のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号170、171、および172のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号168または169と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号173または174と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
62. 項目53または54の医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、ROR1に特異的に結合するROR1結合ドメイン(ROR1-BD)である。
63. 項目62の医薬組成物またはキットであって、前記のROR1-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号215、216、および217のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号218、219、および220のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
64. 項目62または63の医薬組成物またはキットであって、前記のROR1-BDが以下を含む
a)それぞれ配列番号215、216、および217のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b)それぞれ配列番号218、219、および220のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c)アミノ酸配列配列番号221または222と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d)アミノ酸配列配列番号223と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
65. 項目1から52のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、MA2が2つのTAA-BDを含む。
66. 項目65の医薬組成物またはキットであって、MA2上の2つのTAA-BDが同じ抗原に結合する。
67. 項目65または66の医薬組成物またはキットであって、TAAがROR1、HER2、および腫瘍細胞関連抗原からなる群から選択され、それらの細胞外部分は患者の血清中に可溶性形態でもまた生起し、具体的には、TAAはHER2、MSLN、およびROR1からなる群から選択され、ならびに/またはTAAはROR1および腫瘍細胞関連抗原からなる群から選択され、これらは、抗原結合能測定によって決定されるときに、癌細胞の表面上の具体的なTAA密度の10~75%に対応する量で健康な細胞の表面にもまた発現される。
68. 項目65から67のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、SPRによって測定されるときに、前記のTAAに、0.1から50nMの、具体的には0.2から30nMの、具体的には0.3から20nMの、具体的には0.4から10nMの範囲の一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のTAA-BDはscFvである。
69. 項目65から68のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、メソテリン(MSLN)、具体的にはヒトメソテリンに特異的に結合するメソテリン結合ドメイン(MSLN-BD)である。
70. 項目69の医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが、SPRによって測定されるときに、メソテリン(MSLN)に、0.4から50nMの、好ましくは0.4から40nMの、より好ましくは0.5から30nMの、さらにはより好ましくは0.5から20nMの範囲の一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のMSLN-BDはscFvである。
71. 項目69または70の医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが、マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)MSLNと交差反応性であり、具体的には、SPRによって測定されるときに、カニクイMSLNに、3から75nMの範囲の、具体的には3から60nMの、具体的には4から50nMの、具体的には5から40nMの範囲の一価KDで結合し、このときにSPRによって測定され、具体的には前記のMSLN-BDはscFvである。
72. 項目69から71のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;あるいはそれぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;あるいはそれぞれ配列番号197、198、および199のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号200、201、および202のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;具体的にはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
73. 項目72の医薬組成物またはキットであって、前記のMSLN-BDが以下を含む
a.1)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.1)アミノ酸配列配列番号150と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.1)アミノ酸配列配列番号156と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.2)それぞれ配列番号147、148(または151)、および149のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号153、154、および155のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.2)アミノ酸配列配列番号152と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.2)アミノ酸配列配列番号156と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.3)それぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.3)それぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.3)アミノ酸配列配列番号160と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.3)アミノ酸配列配列番号164と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
あるいは
a.4)それぞれ配列番号157、158、および159のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.4)それぞれ配列番号161、162、および163のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.4)アミノ酸配列配列番号194または195と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.4)アミノ酸配列配列番号196と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.5)それぞれ配列番号197、198、および199のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.5)それぞれ配列番号200、201、および202のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.5)アミノ酸配列配列番号203または204と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.5)アミノ酸配列配列番号205と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
74. 項目65から68のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のTAA-BDが、ROR1、具体的にはヒトROR1に特異的に結合するROR1結合ドメイン(ROR1-BD)である。
75. 項目74の医薬組成物またはキットであって、前記のROR1-BDが以下を含む
(i)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、ならびにそれぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列;ならびに
(ii)VH3またはVH4ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;好ましくはVH3ドメインフレームワーク配列FR1からFR4;ならびに
(iii)VLドメインであって、フレームワーク領域FR1、FR2、およびFR3(これらは、Vκサブタイプから、具体的にはVκ1およびVκ3サブタイプから選択され、具体的にはVκ1サブタイプである)、ならびにフレームワークFR4(これはVκ-FR4およびVλ-FR4から選択され、具体的には、少なくとも70、80、90パーセントの同一性、具体的には少なくとも90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかに対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4、より具体的には配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるVλ-FR4、具体的には配列番号94または101に従うVλ-FR4である)を含むVLフレームワークを含む。
76. 項目74の医薬組成物またはキットであって、前記のROR1-BDが以下を含む
a.1)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.1)それぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.1)アミノ酸配列配列番号212と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.1)アミノ酸配列配列番号214と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列;
あるいは
a.2)それぞれ配列番号206、207、および208のHCDR1、HCDR2、およびHCDR3配列、
b.2)それぞれ配列番号209、210、および211のLCDR1、LCDR2、およびLCDR3配列、
c.2)アミノ酸配列配列番号213と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVH配列、ならびに
d.2)アミノ酸配列配列番号214と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセント同一のVL配列。
77. 項目72、73、75、または76の医薬組成物またはキットであって、前記のVHドメインがシステインを位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインがシステインを位置141(AHo付番)に含む。
78. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の多重特異性抗体MA2が、以下からなる群から選択されるフォーマットである:scDB;二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE;タンデムdi-scFv);タンデムtri-scFv;Fab-(scFv);scFab-dsscFv;トライボディ(Fab-(scFv)2);Fab2;Fab-Fv2;ダイアボディ;トライアボディ;テトラボディ;scDb-scFv;di-ダイアボディ;scFv-Fc-scFv融合体(ADAPTIR);DVD-Ig;IgG-scFv融合体、例えばCODV-IgG、モリソン(Morrison)(IgG-CH3-scFv融合体(モリソンL)またはIgG-CL-scFv融合体(モリソンH))、bsAb(軽鎖のC末端に連結されたscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端に連結されたscFv)、Ts1Ab(重鎖および軽鎖両方のN末端に連結されたscFv)、およびTs2Ab(重鎖のC末端に連結されたdsscFv);DART(商標);TRIDENT(商標);scDb、タンデムtri-scFv、Fab-(scFv)、scFab-dsscFv、Fab-(scFv)2、Fab2、Fab-Fv2、ダイアボディ、またはscDb-scFvであってヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのNおよび/またはC末端に融合される;MATCH、ならびにデュオボディ(DuoBody)。
79. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の多重特異性抗体MA2が、以下からなる群から選択されるフォーマットである:モリソンL、モリソンH、scFv-Fc-scFv融合体、およびMATCHフォーマット、好ましくはモリソンLおよびMATCHフォーマット;具体的には、前記のMA2はMATCHフォーマットである;具体的には、ここで、前記のMA2はscMATCH3、MATCH3、またはMATCH4である。
80. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の多重特異性抗体MA2が一本鎖蛋白質である。
81. 項目80の医薬組成物またはキットであって、前記の一本鎖蛋白質が、以下からなるアミノ酸配列を含み:
(i)第1のVLドメイン、
(ii)第1のポリペプチドリンカー、
(iii)第1のVHドメイン、
(iv)第2のポリペプチドリンカー、
(v)第2のVLドメイン、
(vi)第3のポリペプチドリンカー、および
(vii)第2のVHドメイン、
であって、申し立てられた順序で相次いで配置され、
前記の第1のVLドメインは前記の第2のVHドメインと会合して第1の結合ドメインを形成し、前記の第2のVLドメインは前記の第1のVHドメインと会合して第2の結合ドメインを形成し、
前記の一本鎖蛋白質はさらに以下を含み
(viii)第3の結合ドメインであって、第4のポリペプチドリンカーを介して接続されている第3のVLドメインおよび第3のVHドメインによって形成され、ここで、前記の第3の結合ドメインは第5のポリペプチドリンカーを介して前記のアミノ酸配列にC末端でまたはN末端で融合される、
前記の3つの結合ドメインは次の特異性を有する:
a)第1の結合ドメインが、TAAに(TAA-BD)、具体的にはメソテリンに(MSLN-BD)特異的に結合するか、またはhSAに特異的に結合するか(hSA-BD)どちらか;
b)第2の結合ドメインがヒトCD3に特異的に結合する(CD3-BD);および
c)第3の結合ドメインが、TAAに(TAA-BD)、具体的にはメソテリンに(MSLN-BD)特異的に結合する。
82. 項目80または81の医薬組成物またはキットであって、前記の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号175から選択されるアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には、配列番号175のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号175からなる。
83. 項目1から79のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の多重特異性抗体MA2が、第1のおよび第2の一本鎖蛋白質を含むMATCH3またはMATCH4フォーマットのヘテロ二量体蛋白質であり、
前記の第1の一本鎖蛋白質は、(NからC末端に)以下からなる第1のアミノ酸配列を含み:
(ia)第1のVLドメイン、
(iia)第1のポリペプチドリンカー、および
(iiia)第2のVLドメイン、
前記の第2の一本鎖蛋白質は、(NからC末端に)以下からなる第2のアミノ酸配列を含み:
(ib)第1のVHドメイン、
(iib)第2のポリペプチドリンカー、および
(iiib)第2のVHドメイン、
前記の第1のVLドメインは前記の第1のまたは前記の第2のVHドメインどちらかと会合して第1の結合ドメインを形成し、前記の第2のVLドメインは前記のVHドメインの他方と会合して第2の結合ドメインを形成し、
前記の第1のおよび前記の第2の一本鎖蛋白質の少なくとも1つはさらに以下を含み
(iv)第3の結合ドメインであって、これは、第3のポリペプチドリンカーを介して接続されている第3のVLドメインおよび第3のVHドメインによって形成され、ここで、前記の第3の結合ドメインは第4のポリペプチドリンカーを介して前記の第1のまたは前記の第2のアミノ酸配列に融合され、
任意に、MATCH4フォーマットでは、前記の第1のおよび前記の第2の一本鎖蛋白質の少なくとも1つはさらに以下を含み
(v)第4の結合ドメインであって、これは、第5のポリペプチドリンカーを介して接続されている第4のVLドメインおよび第4のVHドメインによって形成され、ここで、前記の第4の結合ドメインは第6のポリペプチドリンカーを介して前記の第1のまたは前記の第2のアミノ酸配列に融合され、
前記の3つの(MATCH3)または任意に4つの(MATCH4)結合ドメインは次の特異性を有する:
3つの結合ドメインが存在するときに(MATCH3)、
a)結合ドメインの1つがTAAに(TAA-BD)、具体的にはメソテリンに(MSLN-BD)特異的に結合する;
b)別の結合ドメインがヒトCD3に特異的に結合する(CD3-BD);および
c)残りの結合ドメインが、同じTAAに(TAA-BD)、具体的にはメソテリンに(MSLN-BD)、またはヒト血清アルブミンに(hSA-BD)どちらかで特異的に結合する;
あるいは、任意の第4の結合ドメインが存在するときに(MATCH4)、
a)2つの結合ドメインが同じTAAに(TAA-BD)、具体的にはメソテリンに(MSLN-BD)特異的に結合する;
b)別の結合ドメインがヒトCD3に特異的に結合する(CD3-BD);および
c)残りの結合ドメインがヒト血清アルブミンに特異的に結合する(hSA-BD)。
84. 項目83の医薬組成物またはキットであって、任意の第4の結合ドメインが存在せず、前記の第1のおよび第2の結合ドメインの1つがCD3-BDであり、前記の第1のおよび第2の結合ドメインの他方の1つがTAA-BDである。
85. 項目83の医薬組成物またはキットであって、任意の第4の結合ドメインが存在し、第3の結合ドメインが第1のまたは第2のアミノ酸配列どちらかに融合され、第4の結合ドメインが前記の2つのアミノ酸配列の他方の1つに融合される。
86. 項目83または85の医薬組成物またはキットであって、任意の第4の結合ドメインが存在し、前記の第1のおよび第2の結合ドメインの1つがCD3-BDであり、前記の第1のおよび第2の結合ドメインの他方の1つがhSA-BDである。
87. 項目83から86のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記のヘテロ二量体蛋白質が、前記の第1のおよび第2のVLおよびVHドメイン以外の第1のおよび第2の蛋白質相互作用ドメインの対応するペアを含まず、前記の第1の蛋白質相互作用ドメインは前記の第1の一本鎖蛋白質に含まれ、前記の第2の蛋白質相互作用ドメインは前記の第2の一本鎖蛋白質に含まれる。
88. 項目83から87のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の第1の一本鎖蛋白質および前記の第2の一本鎖蛋白質が平行の向きでヘテロ二量体化し、すなわち、前記の第1のVLドメインが前記の第1のVHドメインと会合し、前記の第2のVLドメインが前記の第2のVHドメインと会合する。
89. 項目83から87のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の第1の一本鎖蛋白質および前記の第2の一本鎖蛋白質が逆平行の向きでヘテロ二量体化し、すなわち、前記の第1のVLドメインが前記の第2のVHドメインと会合し、前記の第2のVLドメインが前記の第1のVHドメインと会合する。
90. 項目83から89のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号176のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号176のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号176からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号177のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号177のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号177からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号178のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号178のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号178からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号179のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号179のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号179からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号224のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号224のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号224からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号225のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号225のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号225からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号226のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号226のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号226からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号227のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号227のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号227からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号228のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号228のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号228からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号229のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号229のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号229からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号230のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号230のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号230からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号231のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号231のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号231からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号232のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号232のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号232からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号233のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号233のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号233からなるか;あるいは
前記の第1の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号234のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号234のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号234からなり、
前記の第2の一本鎖蛋白質が、少なくとも90、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を配列番号235のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含み、より具体的には配列番号235のアミノ酸配列を含み、とりわけアミノ酸配列配列番号235からなる。
91. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、MA1およびMA2の前記の抗体可変ドメインの少なくとも1つが、親のウサギ抗体に由来するCDR領域を含む。
92. 先行する項目のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、TAA-BDおよびCD3-BD、または2つのTAA-BDの少なくとも1つおよびCD3-BDが、それらのそれぞれの抗原に同時に結合することができ、具体的には、TAA-BDおよびCD3-BD、または2つのTAA-BDおよびCD3-BDがそれらのそれぞれの抗原に同時に結合することができる。
93. 医薬としての使用のための、項目1から92のいずれか1つの医薬組成物またはキット。
94. 疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には癌から選択されるヒト疾患の処置における使用のための、項目1から92のいずれか1つの医薬組成物またはキット。
95. 項目94に従う疾患の処置における使用のための項目1から92のいずれか1つの医薬組成物またはキットであって、前記の疾患が、増殖性疾患、具体的には癌、具体的には、メラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌である。
96. 疾患、具体的にはヒト疾患、より具体的には、癌から選択されるヒト疾患の処置のための方法であって、項目1から92のいずれか1つの医薬組成物またはキットを投与するステップを含む。
97. 項目96の方法であって、前記の疾患が、増殖性疾患、具体的には癌、具体的には、メラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌である。
98. 疾患を患う患者を処置するための方法であって、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む第1の多重特異性抗体(MA1)、および腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む第2の多重特異性抗体(MA2)を投与するステップを含み、前記の多重特異性抗体MA1およびMA2は項目1から94のいずれかにおいて定義される通りである。
99. 項目98の方法であって、前記の疾患が、増殖性疾患、具体的には癌、具体的には、メラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌である。
100. 疾患を患う対象の処置における使用のための、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体MA1であって、前記の多重特異性抗体MA1が、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む多重特異性抗体MA2との組み合わせで前記の対象に投与され、前記の多重特異性抗体MA1およびMA2は本明細書において定義される通りである。
101. 疾患を患う対象の処置における使用のための、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む多重特異性抗体MA2であって、前記の多重特異性抗体MA2が、CD137に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体MA1との組み合わせで前記の対象に投与され、前記の多重特異性抗体MA1およびMA2は本明細書において定義される通りである。
102. 項目100に従う使用のための多重特異性抗体MA1、または項目101に従う使用のための多重特異性抗体MA2であって、前記の疾患が、増殖性疾患、具体的には癌、具体的には、メラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、本発明において適用される多重特異性抗体によるT細胞補助刺激受容体の標的細胞依存的な活性化を示す。二価のモノクローナル抗体によるCD137の架橋はT細胞の全身的な補助刺激を誘発し、これはFcγR結合によって媒介される架橋によってさらに押し上げられれる(A)。本発明に用いられる安定な二/三重特異性の一価分子は、枯渇化のために標的化されようとする細胞型の非存在下においては、T細胞上の補助刺激受容体を架橋し(またはひいてはアゴニスト作用し)得ない(B)。本発明に用いられる安定な二/三重特異性の一価分子は、枯渇化のために標的化されようとする細胞型の存在下においては、T細胞上の補助刺激受容体を架橋する(またはひいてはアゴニスト作用する)(C)。PDL1およびCD137に対する同時的な結合は腫瘍反応性T細胞の選択的活性化を誘発し、同時にPD-1シグナル伝達をブロックする(D)。
【
図2】
図2は、ジャーカット(Jurkat)レポーター細胞におけるNF-kBシグナル伝達の濃度依存的な活性化(黒記号)およびNFATレポーター細胞におけるPDL1活性の阻害(白記号)を示す:CD137(4-1BB)K
Dのものよりも多大な(悪い)PDL1結合親和性(K
D)を有するPRO1124(A)、CD137(4-1BB)のK
Dのものよりも小さい(良好な)PDL1のK
Dを有するPRO885(B)、およびCD137(4-1BB)K
Dのものよりも相当小さい(良好な)PDL1のK
Dを有するNM21-1480(PRO1480)(C)。灰色矢印および灰色破線は、最大のPDL1アンタゴニズムが到達される濃度を指示する。その濃度におけるCD137(4-1BB)アゴニズムの対応するレベル、ならびにPDL1ブロックおよびCD137(4-1BB)刺激両方の最大の活性が観察される濃度の幅は、(C)の網掛けの灰色の囲みによって指示される通り、最適用量設定にとって重要である。PDL1に対するPDL1-BDのK
DをCD137(4-1BB)に対するCD137-BDのK
Dよりも有意に低いレベルまで変調させることによって、それぞれの機能的な活性についてのEC
50およびIC
50値はより密接にマッチするようになり、CD137(4-1BB)刺激のプラトーはより幅広くなる。NM21-1480(PRO1480)は、精巧に最適化されたPDL1およびCD137(4-1BB)結合ドメインを有して、同じ最適用量においてPDL1ブロックおよびCD137(4-1BB)活性化両方の活性を許し、最大のCD137(4-1BB)シグナル伝達の濃度範囲を展延する。
【
図3】
図3は、ヒト血清アルブミンの存在下におけるPRO2000およびPRO1872のCD8+T細胞活性化に対する細胞傷害性活性および効果を示す。(A)高MSLN発現癌細胞(H226細胞)の特異的殺細胞。高いレベルのメソテリンを発現する癌細胞ではPRO2000で観察される標的細胞の殺細胞力価はPRO1872よりも75倍良好である。(B)低MSLN発現癌細胞(MeT-5A細胞)の特異的殺細胞。低いメソテリンレベルを発現する健康な中皮組織に由来する細胞(MeT-5A;ATCC-CRL-9444)に対して、一価メソテリン結合蛋白質PRO1872は最も良好な細胞力価を示す。(C)H226細胞の存在下におけるCD8+T細胞活性化および(D)MeT-5A細胞の存在下におけるCD8+T細胞活性化。類似のデータがCD8+T細胞活性化について観察された。ドナー#1からのPBMCが用いられた。標的細胞およびCD8+T細胞が、それぞれの分子とのそれらのインキュベーションの始まりの40h後にフローサイトメトリーによって分析され、データはシグモイド4PLフィット(グラフパッドプリズム(GraphPad Prism))を用いてフィッティングされた。
【
図4】
図4は、sMSLNの非存在下または存在下におけるPRO2000およびPRO1872のCD8+T細胞活性化に対する細胞傷害性活性および効果を示す。(AからC)H226標的細胞に対するPRO2000およびPRO1872の細胞傷害活性。sMSLNの非存在下における(A)、50ng/mlのsMSLNの存在下における(B)、または500ng/mlのsMSLNの存在下における(C)H226細胞の特異的殺細胞。PRO2000の殺細胞力価は、PRO1872と比較して、増大して行く濃度のsMSLNによって、より影響されない。(DからF)類似のデータが、対応する条件におけるCD8+T細胞活性化について観察される。sMSLNなしのH226細胞の存在下における(D)、50ng/mlのsMLSNの存在下における(E)、または500ng/mlのsMLSNの存在下における(F)CD8+T細胞活性化。ドナー#2からのPBMCが用いられた。標的細胞およびCD8+T細胞が、それぞれの分子とのそれらのインキュベーションの40h後にフローサイトメトリーによって分析され、データはシグモイド4PLフィット(グラフパッドプリズム)を用いてフィッティングされた。
【
図5】
図5は、分子PRO2000(biMSLN.CD3)によるMSLN発現NSCLC腫瘍細胞ゼノグラフト実験を示し、コントロール条件に対して相対的にPRO2000処置について腫瘍成長阻害を明らかにする。(A)処置の存在下または非存在下における腫瘍成長の縦断分析。線はメジアンを図示する。動物が1×10
7のH292MSLN発現NSCLC腫瘍細胞および1×10
7のPBMCを皮下に共移植され、処置が静脈内投与された。第5日に始まり、実験の終わりまで5日毎に反復された。(B)散布図として示された第40日のデータ。各点は1匹の動物に対応し、データは平均および標準偏差と共に示されている。二元配置反復測定ANOVA後に、テューキーの多重比較検定が行われた。各データセットの有意性がパリビズマブコントロール(Ctrl、下側の線)または処置なし(上側の線)に対して相対的に図示されている。ns=有意でない;*、p<0.05;**、p<0.01、***、p<0.001。灰色の点線はy軸上の0を指示する。
【
図6】
図6は、分子PRO1872(MSLN.CD3)およびPRO1601(PDL1.CD137)単独によるならびにPRO1601+PRO1872(MSLN.CD3)の組み合わせによるMSLN発現NSCLC腫瘍細胞ゼノグラフト実験を示し、PRO1872およびPRO1601単剤処置に対して相対的に、組み合わせ処置について有意に増強された腫瘍成長阻害を明らかにする。(A)処置の存在下または非存在下における腫瘍成長の縦断分析。線はメジアンを図示する。動物が1×10
7のH292MSLN発現NSCLC腫瘍細胞および1×10
7のPBMCを皮下に共移植され、処置が静脈内投与された。第5日に始まり、実験の終わりまで5日毎に反復された。(B)PRO1601単剤処置の0から28日のセクションの拡大表示。コントロール条件に対して相対的に、PRO1601単独について有意な腫瘍成長阻害を明らかにする。二元配置反復測定ANOVA後に、テューキーの多重比較検定が行われた。それぞれ、PRO1601単独に対して相対的なPRO1601+PRO1872組み合わせおよびパリビズマブコントロールに対して相対的なPRO1601単独の腫瘍成長阻害の有意性が、図示されている(*、p<0.001)。灰色の点線はy軸上の0を指示する。
【
図7A】
図7は、分子PRO2746(MSLN.CD3)およびPRO1601(PDL1.CD137)単独によるならびにPRO1601+PRO2746(MSLN.CD3)の組み合わせによるMSLN発現HPAC腫瘍細胞ゼノグラフト実験を示し、PRO2746およびPRO1601単剤処置に対して相対的に組み合わせ処置について有意に増強された腫瘍成長阻害を明らかにする。(A)処置の存在下または非存在下における腫瘍成長の縦断分析。線はメジアンを図示する。
【
図7B】(B)散布図として示された第40日のデータ。各点は1匹の動物に対応し、データは平均および標準偏差と共に示されている。
【
図7C】(C)は各群の個々の動物についての縦断的傾向を示す。処置単独どちらかと比較して、0.2mg/kgのPRO2746および1mg/kgのPRO1601の組み合わせでは、腫瘍成長退縮が動物間で一様に観察された。
【
図7D】(D)は各群の個々の動物についての縦断的傾向を示す。処置単独どちらかと比較して、0.2mg/kgのPRO2746および1mg/kgのPRO1601の組み合わせでは、腫瘍成長退縮が動物間で一様に観察された。
【
図8】
図8は、個々の分子単独および処置なしのコントロールに対して相対的に、組み合わせで細胞を有効にリシスするPRO1601(4-1BB×PDL-1×hSA)およびPRO2668(ROR1×CD3×hSA)の能力を決定するための、インビトロのROR1発現細胞株リアルタイム生細胞イメージング実験の縦断分析を示す。緑色の死んで行く細胞数が赤色の残りの標的細胞数によって除算された。曲線上の下向きの傾きは細胞成長を指示する。
【発明を実施するための形態】
【0049】
公知のTAA/CD3-bsAbに基づく免疫療法は、典型的には用量制限毒性および限定されたインビボの効力を患う。それゆえに、現行で利用可能なアプローチよりも高い効力だが、同時に類似のまたはさらには低い毒性学的プロファイルを有する改善されたTAA/CD3-bsAbに基づく免疫療法の医学分野における必要がある。
【0050】
本発明は、医薬組成物またはキットを提供し、1つのCD137アゴニスト作用性の結合ドメインと1つのPDL1アンタゴニスト作用性の結合ドメインとを含むが免疫グロブリンFc領域を含まない第1の多重特異性抗体、およびTAAおよびCD3に特異的に結合する第2の多重特異性抗体を含む。これらの多重特異性抗体組み合わせは、TAA指向性の(リダイレクト)標的細胞の殺細胞および腫瘍成長阻害において、個々の多重特異性抗体コンポーネント単独よりも有意に多大な効力を見せる。
【0051】
本発明の医薬組成物またはキットにおける多重特異性のCD137/PDL1結合抗体はCD137について一価であるが、しかしながら、それらは、厳格にPDL1陽性細胞の存在下においてクラスター化しCD137にアゴニスト作用する能力があり、それゆえにCD137の全身的な活性化を回避する。多重特異性抗体の一価のCD137結合およびFcなしの構造は、抗体が標的細胞の表面上のPDL1に同時的に結合するときにのみ、エフェクター細胞に対するCD137のアゴニズムが生起し得るということを保証する。同時に、本発明の医薬組成物またはキットの毒性学的プロファイルは、それに含まれるそれぞれの抗TAA×CD3多重特異性抗体コンポーネント単独よりも悪くはない。従って、本発明の医薬組成物またはキットの適用は、個々の抗TAA×CD3多重特異性抗体の単独適用と比較されるときに有意なリスク対ベネフィットの増加を提供する。
【0052】
これらの多重特異性のCD137/PDL1結合抗体が、同じTAA標的について中ほどから低い結合親和性を有する2つのTAA-BDを含む抗TAA×CD3多重特異性抗体と組み合わせられるときに、このアプローチは、具体的には、クリーンでないTAA、すなわち健康な細胞においてもまた有意に高い量で発現されるTAA、例えばメソテリン(MSLN)、EGFR、EpCAM、およびHER2を発現する腫瘍細胞のTAA指向性の(リダイレクト)標的細胞の殺細胞を許す。本発明の医薬組成物またはキットのこれらの具体的なバリアントの適用は、抗TAA×CD3抗体単剤治療と比較されるときに、クリーンでないTAAを発現する腫瘍細胞のTAA指向性の(リダイレクト)標的細胞の殺細胞についてもまた、有意なリスク対ベネフィットの増加を提供する。
【0053】
さらにその上、半減期を展延する抗hSAドメインの任意の追加は、便利な投薬を可能化するのみならず、腫瘍微小環境への分子の送達をもまた促進するはずである。
【0054】
それゆえに、本発明の医薬組成物またはキットは、従来の組成物および治療と比べてはっきりした治療上の利点を提供する。
【0055】
別様に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が関係する分野の業者によって普通に理解される同じ意味を有する。
【0056】
用語「含む」および「包含する」は、それらの開放的なかつ限定しない意味で本明細書において用いられる。別様に注記されない限りであり、それゆえに、かかる後者の実施形態に関して、用語「含む」はより狭い用語「からなる」を包含する。
【0057】
本明細書において別様に指示されないかまたは文脈によって明瞭に否定されない限り、用語「a」および「an」および「the」および類似の参照は、本発明を記載する文脈において(とりわけ次の請求項の文脈において)、単数および複数両方をカバーすると解釈されるべきである。例えば、用語「細胞」は複数の細胞を包含し、それらの混合物を包含する。複数形が化合物、塩、および同類について用いられるところでは、これは単一の化合物、塩、または同類をもまた意味すると取られる。
【0058】
1つの態様において、本発明は、以下を含む医薬組成物に関する:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体。
【0059】
別の態様において、本発明は、以下を含むキットに関する:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)、および
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)。
【0060】
具体的な実施形態において、前記の第2の多重特異性抗体(MA2)は1つまたは2つのTAA-BD(単数または複数)を含む。
【0061】
具体的な実施形態において、前記の多重特異性抗体MA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
【0062】
具体的な態様において、本発明は、以下を含む医薬組成物に関し:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
3)薬学的に許容される担体、
前記のMA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
【0063】
別の具体的な態様において、本発明は、以下を含むキットに関し:
1)以下を含む第1の多重特異性抗体(MA1)
a)CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)、および
b)PDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)、ならびに
2)以下を含む第2の多重特異性抗体(MA2)
a)腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つまたは2つの結合ドメイン(単数または複数)(TAA-BD)、および
b)CD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)、
前記のMA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
【0064】
本明細書において用いられる用語「抗体」および同類は、全抗体またはその一本鎖;およびいずれかの抗原結合断片(すなわち「抗原結合部分」)またはその一本鎖;および抗体CDR、VH領域、またはVL領域を含む分子を包含する(限定なしに、多重特異性抗体を包含する)。天然に生起する「全抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖蛋白質である。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書においてはVHと略称される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2、およびCH3から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書においてはVLと略称される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインCLから構成される。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼称される超可変性の領域にさらに細分され得、フレームワーク領域(FR)と呼称されるより保存されている領域が点在する。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に次の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRから組成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的な補体系の第1のコンポーネント(Clq)を包含するホストの組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0065】
本明細書において用いられる用語「免疫グロブリンFc領域」は、重鎖定常領域のCH2およびCH3ドメインを言う。
【0066】
本明細書において用いられる抗体の用語「結合ドメイン」、「その抗原結合断片」、「抗原結合部分」、および同類は、所与の抗原(例えば、PDL1、CD137、TAA、CD3、hSA)に特異的に結合する能力を保持するインタクトな抗体の1つ以上の断片を言う。抗体の抗原結合機能はインタクトな抗体の断片によって果たされ得る。いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体の結合ドメインは、VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価断片のFab断片;ヒンジ領域においてジスルフィド橋かけによって連結された2つのFab断片を含む二価断片のF(ab)2断片;VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなるFv断片;VHドメインからなるシングルドメイン抗体(dAb)断片(ウォード(Ward)ら,1989年,ネイチャー(Nature)第341巻:p.544-546);単離された相補性決定領域(CDR)、dsFv、scAb、STAB、ならびにアンキリンに基づくドメイン、フィノマー、アビマー、アンティカリン、フィブロネクチン、および抗体の定常領域上に構築された結合部位(例えばf-starテクノロジー(F-starのモジュラー抗体テクノロジー(商標)))を包含するがこれらに限定されない代替的な骨格に基づく結合ドメインからなる群から選択される。好適には、本発明において適用される抗体の結合ドメインは一本鎖Fv断片(scFv)または単一の抗体可変ドメインである。好ましい実施形態において、本発明において適用される抗体の結合ドメインは一本鎖Fv断片(scFv)である。具体的な実施形態において、抗原結合断片の2つの可変ドメインはFvまたはscFv断片のようにドメイン間ジスルフィド結合によって安定化され、具体的には、前記のVHドメインは単一のシステイン残基を位置51(AHo付番)に含み、前記のVLドメインは単一のシステイン残基を位置141(AHo付番)に含む。
【0067】
用語「相補性決定領域」(「CDR」)は、カバット(Kabat)ら(1991年),「免疫学的な対象の蛋白質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」,第5版,公衆衛生局,国立衛生研究所,ベセスダ,MDによって記載されているもの(「カバット」付番スキーム);アルラジカニ(Al-Lazikani)ら(1997年),ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),第273巻,p.927-948(「チョティア(Chothia)」付番スキーム);ImMunoGenTics(IMGT)付番(ルフラン(Lefranc),M.-P.,ザ・イミュノロジスト(The Immunologist),第7巻,p.132-136(1999年);ルフラン(Lefranc),M.-P.ら,デベロップメンタル&コンパラティブ・イミュノロジー(Developmental & Comparative Immunology),第27巻,p.55-77(2003年))(「IMGT」付番スキーム);およびホネガー(Honegger)&プラクサン(Pluckthun),ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),第309巻(2001年)p.657-670に記載されている付番スキーム(「AHo」付番)を包含するいくつもの周知のスキームのいずれかを用いて決定される境界を有するアミノ酸配列を言う。例えば、古典的なフォーマットでは、カバットでは、重鎖可変ドメイン(VH)上のCDRアミノ酸残基は31-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)、および95-102(HCDR3)と付番され;軽鎖可変ドメイン(VL)上のCDRアミノ酸残基は24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)、および89-97(LCDR3)と付番される。チョティアでは、VH上のCDRアミノ酸は26-32(HCDR1)、52-56(HCDR2)、および95-102(HCDR3)と付番され;VL上のアミノ酸残基は24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)、および89-97(LCDR3)と付番される。カバットおよびチョティア両方のCDR定義を組み合わせることによって、CDRは、ヒトVH上のアミノ酸残基26-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)、および95-102(HCDR3)ならびにヒトVL上のアミノ酸残基24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)、および89-97(LCDR3)からなる。IMGTでは、VH上のCDRアミノ酸残基はおよそ26-35(HCDR1)、51-57(HCDR2)、および93-102(HCDR3)と付番され、VL上のCDRアミノ酸残基はおよそ27-32(LCDR1)、50-52(LCDR2)、および89-97(LCDR3)と付番される(「カバット」に従う付番)。IMGTでは、抗体のCDRはプログラムのIMGT/DomainGapAlignを用いて決定され得る。
【0068】
本発明の文脈においては、別様に具体的に言及されない限り、ホネガー(Honegger)&プラクサン(Pluckthun)によって示唆されている付番システム(「AHo」)が用いられる(ホネガー(Honegger)&プラクサン(Pluckthun),ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal ofMolecular Biology),第309巻(2001年)p.657-670)。具体的には、次の残基がAHo付番スキームに従うCDRとして定義される:LCDR1(CDR-L1ともまた言われる):L24-L42;LCDR2(CDR-L2ともまた言われる):L58-L72;LCDR3(CDR-L3ともまた言われる):L107-L138;HCDR1(CDR-H1ともまた言われる):H27-H42;HCDR2(CDR-H2ともまた言われる):H57-H76;HCDR3(CDR-H3ともまた言われる):H108-H138。明瞭性のために、ホネガー(Honegger)&プラクサン(Pluckthun)に従う付番システムは、天然に生起する抗体において、異なるVHおよびVLサブファミリー両方において、具体的にはCDRにおいて見出される長さの多様性を考慮に入れ、配列上のギャップを認める。それゆえに、所与の抗体可変ドメイン上では、通常は、全ての位置1から149までがアミノ酸残基によって占有されるわけではないであろう。
【0069】
本明細書において用いられる用語「結合特異性」は、1つの抗原決定基とは反応し異なる抗原決定基とは反応しない個々の抗体の能力を言う。本明細書において用いる用語「特異的に結合する」または「特異的である」は、生物学的な分子を包含する分子の不均一な集団の存在下において標的の存在の決定力がある標的および抗体の間の結合などの測定可能なかつ再現性ある相互作用を言う。例えば、標的(これはエピトープであり得る)に特異的に結合する抗体は、それが他の標的に結合するよりも多大な親和性、アビディティで、容易く、および/または多大な持続時間でこの標的に結合する抗体である。その最も一般的な形態において(かつ明確な参照が言及されないときに)、「特異的結合」は、例えば当分野において公知の特異性アッセイ方法に従って決定されるときに、目当ての標的および無関係の分子を見分ける抗体の能力を言う。かかる方法は、ウエスタンブロット、ELISA、RIA、ECL、IRMA、SPR(表面プラズモン共鳴)試験、およびペプチドスキャンを含むが、これらに限定されない。例えば、標準的なELISAアッセイが実行され得る。スコア付けは標準的な発色によって実行され得る(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼを有する二次抗体および過酸化水素によるテトラメチルベンジジン)。特定のウェルの反応が例えば450nmにおける光学密度によってスコア付けされる。典型的なバックグラウンド(=反応陰性)は約0.1ODであり得る;典型的な反応陽性は約1ODであり得る。これは、陽性および陰性のスコアの間の比が10倍またはより高くあり得るということを意味する。さらなる例においては、SPRアッセイが実行され得、バックグラウンドおよびシグナルの間の少なくとも10倍、具体的には少なくとも100倍の違いが特異的結合を指示する。典型的には、結合特異性の決定は、単一の参照分子ではなく、約3つから5つの無関係の分子のセット、例えばミルクパウダー、トランスフェリン、または同類を用いることによって行われる。
【0070】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される抗体は、単離された抗体である。本明細書において用いられる用語「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に不含である抗体を言う(例えば、PDL1およびCD137に特異的に結合する単離された抗体は、PDL1およびCD137以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に不含であり、PDL1、CD137、およびhSAに特異的に結合する単離された抗体は、PDL1、CD137、およびhSA以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に不含であり、MSLN、CD3、およびhSAに特異的に結合する単離された抗体は、MSLN、CD3、およびhSA以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に不含である)。その上、単離された抗体は他の細胞性の材料および/または化学物質を実質的に不含であり得る。
【0071】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される抗体はモノクローナル抗体である。本明細書において用いられる用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、アミノ酸配列まで実質的に同一であるかまたは同じ遺伝子源に由来する抗体を言う。モノクローナル抗体組成物は、具体的なエピトープに対する結合特異性および親和性、または具体的なエピトープ(複数)に対する結合特異性(複数)および親和性(複数)を示す。
【0072】
本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される抗体は、キメラ、ヒト、およびヒト化抗体を包含するが、これらに限定されない。
【0073】
用語「キメラ抗体」(あるいはその抗原結合断片)は、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるかもしくは変調したクラス、エフェクター機能、および/もしくは種の定常領域、または新たな特性をキメラ抗体に授ける全く異なる分子、例えば酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに連結されるようにして、定常領域またはその部分が変調、置き換え、または交換されている;あるいは(b)可変領域またはその部分が、異なるかまたは変調した抗原特異性を有する可変領域によって変調、置き換え、または交換されている抗体分子(あるいはその抗原結合断片)である。例えば、マウス抗体は、ヒト免疫グロブリンからの定常領域によってその定常領域を置き換えることにより改変され得る。ヒト定常領域による置き換えを原因として、キメラ抗体は、元々のマウス抗体と比較してヒトにおいて縮減された抗原性を有しながら、抗原を認識することにおけるその特異性を保持し得る。
【0074】
本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」(またはその抗原結合断片)は、フレームワークおよびCDR領域両方がヒト起源の配列に由来する可変領域を有する抗体(およびそれらの抗原結合断片)を包含することが意図される。さらにその上、抗体が定常領域を含有する場合には、定常領域もまたかかるヒト配列、例えばヒト生殖細胞系列配列またはヒト生殖細胞系列配列の変異バージョンに由来する。本発明のヒト抗体およびそれらの抗原結合断片は、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基を包含し得る(例えば、インビトロのランダムもしくは部位特異的変異導入によってまたはインビボの体細胞変異によって導入される変異)。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的に排除する。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを包含する当分野において公知の種々の技術を用いて産生され得る(フーゲンブーム(Hoogenboom)およびヴィンター(Winter),ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),第227巻:p.381(1991年);マークス(Marks)ら,ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal ofMolecular Biology),第222巻:p.581(1991年))。コール(Cole)ら,モノクローナルアンティボディーズ・アンド・キャンサーセラピー(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy),アランRリス(Alan R. Liss),p.77(1985年);ベーマー(Boemer)ら,ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology),第147巻(l):p.86-95(1991年)に記載されている方法もまたヒトモノクローナル抗体の調製のために利用可能である。ファンダイク(van Dijk)およびファンデウィンケル(van de Winkel),カレント・オピニオン・イン・ファーマコロジー(Current Opinion in Pharmacology),第5巻:p.368-74(2001年)も参照。ヒト抗体は、抗原負荷に応答してかかる抗体を産生するように改変されているが、その内在性の座位が不能化されているトランスジェニック動物、例えば免疫化されたゼノマウスに抗原を投与することによって調製され得る(例えば、ゼノマウス(商標)テクノロジーについてはU.S.Pat.No.6,075,181および6,150,584を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマテクノロジーによって生成されるヒト抗体については、例えば、リ(Li)ら,米国科学アカデミー紀要,第103巻:p.3557-3562(2006年)も参照。
【0075】
本明細書において用いられる「ヒト化」抗体(またはその抗原結合断片)は、非ヒト抗体の反応性を保持しながら、ヒトにおいてより免疫原性でない抗体(またはその抗原結合断片)である。これは、例えば、非ヒトCDR領域を保持することおよび抗体の残りの部分をそれらのヒトカウンターパート(すなわち、定常領域および可変領域のフレームワーク部分)によって置き換えることによって達成され得る。追加のフレームワーク領域改変が、ヒトフレームワーク配列上におよび別の哺乳類種の生殖細胞系列に由来するCDR配列上になされ得る。本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用されるヒト化抗体MA1およびMA2は、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基を包含し得る(例えば、インビトロのランダムもしくは部位特異的変異導入によってまたはインビボの体細胞変異によって導入される変異、あるいは安定性または製造を促進するための保存的置換)。例えば、モリソン(Morrison)ら,米国科学アカデミー紀要,第81巻:p.6851-6855,1984年;モリソン(Morrison)およびオイ(Oi),アドバンシズ・イン・イミュノロジー(Advances in Immunology),第44巻:p.65-92,1988年;ヴァーホワイエン(Verhoeyen)ら,サイエンス(Science),第239巻:p.1534-1536,1988年;パドラン(Padlan),モレキュラー・イミュノロジー(Molecular Immunology),第28巻:p.489-498,1991年;ならびにパドラン(Padlan),モレキュラー・イミュノロジー(Molecular Immunology),第31巻:p.169-217,1994年を参照。ヒト工学テクノロジーの他の例は、U.S.Pat.No.5,766,886に開示されているXomaテクノロジーを包含するが、これに限定されない。
【0076】
本明細書において用いられる用語「組み換えヒト化抗体」は、組み換え手段によって調製、発現、作出、または単離される全てのヒト抗体、例えば、ヒト化抗体を発現するように形質転換されたホスト細胞から、例えばトランスフェクトーマから単離される抗体、および他のDNA配列に対するヒト免疫グロブリン遺伝子配列の全てまたは部分のスプライシングが関わるいずれかの他の手段によって調製、発現、作出、または単離される抗体を包含する。
【0077】
好ましくは、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される抗体はヒト化される。より好ましくは、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される抗体はヒト化され、ウサギ由来CDRを含む。
【0078】
本明細書において用いられる用語「多重特異性抗体」は、少なくとも2つ以上の異なる標的(例えば、CD137およびPDL1)上の2つ以上の異なるエピトープに結合する抗体を言う。用語「多重特異性抗体」は、二重特異性、三重特異性、四重特異性、五重特異性、および六重特異性を包含する。本明細書において用いられる用語「二重特異性抗体」は、2つの異なる標的(例えば、CD137およびPDL1)上の少なくとも2つの異なるエピトープに結合する抗体を言う。本明細書において用いられる用語「三重特異性抗体」は、3つの異なる標的(例えば、CD137、PDL1、およびhSA)上の少なくとも3つの異なるエピトープに結合する抗体を言う。
【0079】
用語「エピトープ」は、抗体に対する特異的結合ができる蛋白質決定基を意味する。エピトープは、通常はアミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基群からなり、通常は特定の三次元構造特徴および特定の電荷特徴を有する。「立体配座」および「直線状」エピトープは、後者ではなく前者に対する結合が変性溶媒の存在下において失われるということにおいて区別される。
【0080】
本明細書において用いられる用語「立体配座エピトープ」は、ポリペプチド鎖がフォールディングしてネイティブ蛋白質を形成するときに表面上で一緒に集まる抗原のアミノ酸残基を言う。
【0081】
用語「直線状エピトープ」は、蛋白質および相互作用分子(例えば抗体)の間の全ての相互作用点が(連続的な)蛋白質の一次アミノ酸配列上に直線状に生起するエピトープを言う。
【0082】
用語「遠位エピトープ」は、細胞表面から遠い細胞に結合した抗原の細胞外部分の領域に含まれるエピトープを言う。
【0083】
用語「近位エピトープ」は、細胞表面に近い細胞に結合した抗原の細胞外部分の領域に含まれるエピトープを言う。
【0084】
本明細書において用いられる用語「認識する」は、その立体配座エピトープを見出し、それと相互作用する(例えば、結合する)抗体のその抗原結合断片を言う。
【0085】
本明細書において用いられる用語「アビディティ」は、抗体-抗原複合体の総体的な安定性または強さの情報を提供する尺度を言う。それは、3つの主要な因子:抗体エピトープ親和性;抗原および抗体両方の価数;ならびに相互作用する部分の構造的な配置によってコントロールされる。最終的に、これらの因子は、抗体の特異性、つまり、具体的な抗体が精確な抗原エピトープに結合しようとする蓋然性を定義する。
【0086】
好適には、MA1のCD137-BDは次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
a. 表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるときに、ヒトCD137に、50nM未満の一価解離定数(KD)で、具体的には0.005から50nMの、より具体的には0.01から30nMの、より具体的には0.01から10nMの、より具体的には0.1から5nMの一価KDで結合し、具体的には前記のCD137-BDはscFvである;
b. SPRによって測定されるときに、ヒトCD137に、10-2s-1以下の、より具体的には10-2s-1から10-6s-1の、より具体的には5×10-3s-1から10-5s-1の、より具体的には10-3s-1から5×10-4s-1のKoff速度で結合する;
c. SPRによって測定されるときに、ヒトCD137に、少なくとも104M-1s-1またはより多大な、より具体的には104M-1s-1から107M-1s-1の、より具体的には105M-1s-1から5×106M-1s-1のKon速度で結合する;
d. ウレルマブおよびウトミルマブと交差競合しない;
e. マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)CD137と交差反応性であり、具体的には、SPRによって測定されるときに、カニクイCD137に、50nM未満の一価KDで、具体的には0.005から50nMの、より具体的には0.01から30nMの、より具体的には0.01から10nMの、より具体的には0.1から5nMの一価KDで結合し、具体的には前記のCD137-BDはscFvである。
【0087】
本明細書において用いられる用語「親和性」は、単一の抗原部位における抗体および抗原の間の相互作用の強さを言う。各抗原部位上で、抗体「アーム」の可変領域は、多数の部位において弱い非共有結合的な力によって抗原と相互作用する;相互作用が多いほど親和性は強い。
【0088】
「結合親和性」は、一般的に、分子の(例えば抗体の)単一の結合部位およびその結合パートナー(例えば抗原、またはより具体的には抗原上のエピトープ)の間の非共有結合的な相互作用の総計の強さを言う。別様に指示されない限り、本明細書において用いられる「結合親和性」、「結合する(bind to)」、「結合する(binds to)」、または「結合する(binding to)」は、結合ペアの構成員(例えば、抗体断片および抗原)の間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を言う。そのパートナーYに対する分子Xの親和性は一般的に解離定数(KD)によって表され得る。親和性は、本明細書に記載されるものを包含する当分野において公知の普通の方法によって測定され得る。低親和性抗体は一般的にはゆっくり抗原に結合し、容易く解離する傾向があり、高親和性抗体は一般的にはより速く抗原に結合し、より長く結合したままに残る傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法が当分野において公知であり、それらのいずれかは本発明の目的に用いられ得る。結合親和性、すなわち結合強さを測定するための具体的な例証的なかつ例示的な実施形態が次に記載されている。
【0089】
本明細書において用いられる用語「Kassoc」、「Ka」、または「Kon」は、具体的な抗体-抗原相互作用の会合速度を言うことを意図され、本明細書において用いられる用語「Kdis」、「Kd」、または「Koff」は、具体的な抗体-抗原相互作用の解離速度を言うことが意図される。1つの実施形態において、本明細書において用いられる用語「KD」は解離定数を言うことが意図され、これはKaに対するKdの比(すなわちKd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表現される。本発明に従う「KD」または「KD値」あるいは「KD」または「KD値」は、1つの実施形態では、表面プラズモン共鳴アッセイを用いることによって測定される。CD137に対する親和性は、EP20164913.4およびEP20177337.1に記載されている通り表面プラズモン共鳴(SPR)測定によって決定された。PDL1に対する親和性は、EP20164913.4およびEP20177337.1に記載されている通りSPRによって測定された。組み換えヒトメソテリン(ヒトMSLN)および組み換えカニクイMSLN(カニクイMSLN)に対する親和性は、EP20164913.4およびEP20177337.1に記載されている通り表面プラズモン共鳴(SPR)測定によって決定された。組み換えヒトCD3に対する親和性は、EP20164913.4およびEP20177337.1に記載されている通りSPRによって測定された。
【0090】
好適には、第1の多重特異性抗体(MA1)はCD137およびPDL1特異性について一価である。
【0091】
好適には、MA1はPDL1陽性細胞の存在下においてCD137アゴニストとして作用する。「活性化因子」または「活性化抗体」または「アゴニスト」または「アゴニスト抗体」は、通常はその天然リガンドに対する抗原の結合によって誘発されるそれが結合する抗原の本来の活性、具体的には抗原によるシグナル伝達を増強または開始するものである。本発明の文脈において、用語「CD137アゴニスト」は、そのCD137抗原結合断片のクラスター化によってCD137シグナル伝達を活性化することができる本発明に用いられるMA1を包摂し、例えば、前記のCD137抗原結合断片の少なくとも2つの結合は、結合したCD137分子のマルチマー化およびそれらの活性化を許す。いくつかの実施形態において、アゴニスト抗体は天然のリガンドの存在なしにシグナル伝達を活性化する。
【0092】
MA1のための好適なCD137-BDは、本開示において提供される結合ドメインである。本発明に用いられるCD137-BDは、それらの配列が表1に挙げられているヒト化CD137結合ドメインを包含するが、これらに限定されない。本明細書に記載されるMA1およびその結合ドメインの生成およびキャラクタリゼーションについての追加の詳細は、その全体が参照によってここに組み込まれる特許出願WO2019/072868に開示されている。
【0093】
用語「多価抗体」は、1つ超の価数を有する単一の結合分子を言い、ここで、「価数」は標的分子上のエピトープに結合する抗原結合部分の数として記載される。そのため、対応する抗原結合部分の1つ超のコピーの存在を原因として、単一の結合分子が標的分子上の1つ超の結合部位におよび/または1つ超の標的分子に結合し得る。多価抗体の例は、二価抗体、三価抗体、四価抗体、五価抗体、および同類を包含するが、これらに限定されない。
【0094】
本明細書において用いられる用語「一価抗体」は、単一の標的分子に、より具体的にはCD137などの標的分子上の単一のエピトープに結合する抗体を言う。また、本明細書において用いられる用語「結合ドメイン」または「一価結合ドメイン」は、CD137などの標的分子上の単一のエピトープに結合する結合ドメインを言う。
【0095】
本明細書において用いられる用語「二価抗体」は、(i)2つの標的に結合する2つの異なる抗原結合部分を含む二重特異性の抗体、(ii)CD137標的分子などの2つの同一の標的分子上の2つの異なるエピトープに結合する2つの異なる抗原結合部分を含む抗体、または(iii)CD137標的分子などの2つの同一の標的分子に結合する2つの同一の抗原結合部分を含む抗体を言う。
【0096】
本発明の発明者は、(a)1つのみのCD137結合ドメイン(CD137-BD)と(b)1つのPDL1結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体が、標的化された様式でCD137シグナル伝達を有効に活性化する能力があるということを先に見出した。これらの多重特異性抗体は、PDL1結合ドメインによって認識される別の細胞型の非存在下においては、T細胞上のCD137にアゴニスト作用することができない(
図1A)。PDL1陽性細胞の表面に露出したPDL1分子に対するこれらの多重特異性抗体の抗PDL1ドメインの結合を原因として、CD137の有効な活性化はPDL1陽性細胞の存在下においてのみ起こる(
図1Bおよび1C)。これは、特定の場所における多重特異性抗体の増大した密度、それゆえにCD137結合ドメインの増大した密度に至る。それゆえに、CD137-BDは有効にクラスター化しCD137にアゴニスト作用し得る。PDL1およびCD137に対するこの同時的な結合は腫瘍反応性T細胞の選択的活性化を誘発し、同時にPD-1シグナル伝達をブロックする(
図1C)。腫瘍細胞上のPDL1の高い過剰発現を原因として、CD137シグナル伝達は前記の腫瘍細胞の存在下において局所的にのみ活性化され、これは縮減された全身毒性に至る。それゆえに、これらの多重特異性抗体は、現行の処置オプションと比較していくつかの有益な効果、例えば(i)免疫に関連する有害事象のより低い率および(ii)用量制限毒性のより低い率を有することが予想される。
【0097】
本発明の発明者は、さらに、互いに対して相対的なCD137-BDおよびPDL1-BDの親和性の特定の均衡化、すなわち、CD137に対するCD137-BDの親和性に対して相対的なPDL1に対するPDL1-BDの有意な高い親和性が、PDL1/PD-1相互作用の最大の阻害が達成される有効濃度(IC
100)がCD137によって駆動されるNF-κBシグナル伝達の最大の活性化が達成される濃度範囲内に良好に収まるということを保証するために必要であるということを見出した。それによって、最大の活性の濃度ウインドウは有意に展延され(例えば
図2Cを
図2Aと比較せよ)、これは治療的な適用にとって有益であることが予測され、多重特異性抗体または多重特異性抗体を含む医薬組成物を投薬することにおけるより高いフレキシビリティーを許す。それらのそれぞれの結合標的に対するPDL1-BDおよびCD137-BDの親和性が類似であるかまたはPDL1に対するPDL+-BDの親和性(K
D)がCD137に対するCD137-BD親和性(K
D)よりもわずかにのみ小さい(良好)場合には、最大のPDL1ブロックおよび最大のCD137によって媒介されるシグナル伝達を達成するための有効濃度はオーバーラップしない(
図2Aおよび2B)、これはかかる抗体の総体的な効力および治療的な適用性を減少させると思われる。それゆえに、1つの実施形態において、本発明に用いられる多重特異性抗体は少なくとも1つのCD137-BDと少なくとも1つのPDL1-BDとを含み、前記のCD137-BDは、ヒトPDL1に対する結合についての前記のPDL1-BDの一価解離定数(K
D)に対して相対的に少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、例えば少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも100倍高い一価解離定数(K
D)でヒトCD137に結合し、具体的には、前記のCD137-BDは、SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に対する結合についての前記のPDL1-BDの一価解離定数(K
D)よりも20から1000倍、好ましくは30から800倍、具体的には50~500倍高い一価解離定数(K
D)でヒトCD137に結合する。
【0098】
重要なことに、CD137特異性について一価である本発明に用いられる多重特異性抗体MA1は、その抗原に対するPDL1-BDの結合によって引き起こされるクラスター化の非存在下におけるCD137活性化の欠如を原因として、CD137シグナル伝達を全身的に誘導することはできない。
【0099】
1つの実施形態において、多重特異性抗体MA1は1つのCD137-BDおよび1つのPDL1-BDからなる。
【0100】
用語「CD137」は、具体的には、配列番号89として本明細書に転載されるUniProtID番号Q07011を有するヒトCD137を言う。好適には、本発明のCD137-BDは、CD137、具体的には配列番号89として本明細書に転載されるUniProtID番号Q07011で示されるヒトCD137を標的化する。好適には、本発明に用いられる多重特異性抗体は、ヒトおよびカニクイ(マカカ・ファシキュラリス)CD137を標的化するCD137-BDを含む。好ましくは、本発明に用いられる多重特異性抗体は、CD137/CD137L相互作用をブロックしないCD137-BDを含む。
【0101】
1つの実施形態において、CD137-BDは結合がウレルマブと交差競合しない。それゆえに、CD137-BDはウレルマブとは異なるエピトープに結合する。BMS-663513ともまた言われるウレルマブは、ブリストルマイヤーズスクイブからの完全ヒト化IgG4-mAbであり、WO2004/010947、US6,887,673、およびUS7,214,493に記載されている。別の実施形態において、本発明に用いられるCD137-BDは結合がウレルマブと交差競合する。
【0102】
1つの実施形態において、CD137-BDは結合がウトミルマブと交差競合しない。それゆえに、CD137-BDはウトミルマブとは異なるエピトープに結合する。PF-05082566ともまた言われるウトミルマブは、ファイザーからの完全ヒトIgG2-mAbであり、WO2012/032433およびUS8,821,867に記載されている。別の実施形態において、本発明に用いられるCD137-BDは結合がウトミルマブと交差競合する。
【0103】
さらなる実施形態において、CD137-BDは結合がウレルマブともウトミルマブとも交差競合しない。それゆえに、CD137-BDはウレルマブおよびウトミルマブとは異なるエピトープに結合する。
【0104】
用語「競合」または「交差競合」および関連する用語は、本明細書においては交換可能に用いられて、標準的な競合結合アッセイにおいてCD137に対する他の抗体または結合剤の結合に干渉する抗体または他の結合剤の能力を意味する。
【0105】
本明細書において用いられる用語「同じエピトープ」は、抗体に対する特異的結合ができる同じ蛋白質上の個々の蛋白質決定基を言い、ここで、これらの個々の蛋白質決定基は同一であり、すなわち、同一の三次元構造特徴および同一の電荷特徴を有するアミノ酸または糖側鎖などの分子の同一の化学的に活性な表面基群からなる。特定の蛋白質標的に関して本明細書において用いられる用語「異なるエピトープ」は、抗体に対する特異的結合ができる同じ蛋白質上の個々の蛋白質決定基を言い、ここで、これらの個々の蛋白質決定基は同一ではなく、すなわち、異なる三次元構造特徴および異なる電荷特徴を有するアミノ酸または糖側鎖などの分子の非同一の化学的に活性な表面基群からなる。これらの異なるエピトープはオーバーラップするかまたはオーバーラップせずにあり得る。
【0106】
好適には、MA1のCD137-BDはさらに次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
f. scFvフォーマットであるときに、少なくとも50℃の、好ましくは少なくとも55℃、より好ましくは少なくとも60℃の示差走査蛍光定量法によって決定される融解温度(Tm)を有し、具体的には、前記の抗体またはその抗原結合断片はpH6.4、150mMのNaClのリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤され、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
g. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、7%未満、例えば6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の4℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
h. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の40℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される。
【0107】
DSFは以前に記載されている(イーガン(Egan)ら,MAbs,第9巻(1)(2017年),p.68-84;ニーゼン(Niesen)ら,ネイチャー・プロトコールズ(Nature Protocols),第2巻(9)(2007年)p.2212-2221)。scFvコンストラクトの熱的アンフォールディング遷移中点が、示差走査蛍光定量法によって蛍光色素SYPRO(登録商標)オレンジを用いて決定される(ウォン(Wong)&レイリー(Raleigh),プロテインサイエンス(Protein Science),第25巻(2016年)p.1834-1840を参照)。pH6.4のリン酸-クエン酸緩衝液中のサンプルが50μg/mlの蛋白質終濃度で調製され、100μlの総体積中に5×SYPRO(登録商標)オレンジの終濃度を含有している。25マイクロリットルの調製されたサンプルが白色壁のABジーンPCRプレートに三重で追加される。アッセイはサーマルサイクラーとして用いられるqPCRマシンによって行われ、蛍光発光はソフトウェアのカスタム色素キャリブレーションルーチンを用いて検出される。試験サンプルを含有するPCRプレートは、1℃のインクリメントで25℃から96℃までの温度傾斜に付され、各温度インクリメント後に30sのポーズを有する。総アッセイ時間は約2hである。Tmはソフトウェアのグラフパッドプリズムによって数学的2階微分法を用いて計算されて、曲線の変曲点を計算する。報告されるTmは3つの測定の平均である。
【0108】
モノマー含量の損失はSE-HPLCクロマトグラムの曲線下面積計算によって決定される通りである。SE-HPLCは、USP第621章によって概説されている通り固体の固定相および液体の移動相に基づく分離技術である。この方法は分子をそれらのサイズおよび形状に基づいて分離し、疎水性の固定相および水性の移動相を利用する。分子の分離は特定のカラムのボイドボリューム(V0)および全浸透体積(VT)の間で生起する。SE-HPLCによる測定は、自動サンプル注入および280nmの検出波長に設定されたUV検出器を備えたクロムマスターHPLCシステム(日立ハイテクノロジーズコーポレーション)によって行われる。装置はソフトウェアEZChromエリート(アジレント・テクノロジー、バージョン3.3.2、SP2)によってコントロールされ、これはもたらされるクロマトグラムの分析をもまたサポートする。蛋白質サンプルが遠心によって清澄化され、注入に先立ってオートサンプラー上で4~6℃の温度に保たれる。scFvサンプルの分析のためには、カラムのShodexKW403-4F(昭和電工Inc.、#F6989202)が、標準化された緩衝生理食塩水の移動相(50mMリン酸ナトリウムpH6.5、300mM塩化ナトリウム)によって、0.35ml/minの推奨流量で使用される。注入あたりのターゲットサンプルロードは5μgであった。サンプルはUV検出器によって280nmの波長で検出され、データは好適なソフトウェアスイートによって記録される。もたらされるクロマトグラムはV0からVTの範囲で分析され、それによって、>10min溶出時間を有するマトリックス関連ピークを排除する。
【0109】
本発明に用いられる多重特異性抗体MA1は1つのPDL1結合ドメイン(PDL1-BD)を含む。
【0110】
用語「PDL1」は、具体的には、配列番号90として本明細書に転載されるUniProtID番号Q9NZQ7を有するヒトPDL1を言う。好適には、本発明に用いられるPDL1-BDは、PDL1、具体的には配列番号90として本明細書に転載されるUniProtID番号Q9NZQ7で示されるヒトPDL1を標的化する。好適には、本発明に用いられる抗体MA1はPDL1-BDを含み、これはヒトおよびカニクイ(マカカ・ファシキュラリス)PDL1を標的化し、好ましくはムス・ムスクルスPDL1とは交差反応しない。本発明に用いられるPDL1-BDはヒトPDL1蛋白質に特異的に結合する。
【0111】
本発明に用いられるPDL1-BDはPDL1阻害剤である。用語「ブロッカー」または「阻害剤」または「アンタゴニスト」は、それが結合する抗原の生物活性を阻害または縮減する抗体またはその結合ドメインを言う。本発明に用いられるPDL1-BDはその結合パートナーに対するPDL1の結合能力を標的化し、減少させるかまたは阻害し、それによってPDL1機能に干渉する。具体的には、本発明に用いられるPDL1-BDは、その受容体との、具体的にはPD-1とのPDL1の相互作用をブロックする。具体的には、本発明に用いられるPDL1-BDは、その受容体(単数または複数)との、具体的にはPD-1および/またはB7-1とのPDL1の相互作用をブロックする。
【0112】
好適には、本発明に用いられるMA1のPDL1-BDは、本開示において提供される結合ドメインである。本発明に用いられるPDL1-BDは、それらの配列が表2に挙げられているヒト化PDL1-BDを包含するが、これらに限定されない。
【0113】
好適には、本発明に用いられるPDL1-BDは次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
a. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、10nM未満の一価解離定数(KD)で、具体的には0.05pMから10nMの、より具体的には0.1pMから5nMの、より具体的には0.2pMから1nM、より具体的には0.5pMから500pMの、より具体的には1pMから200pMの、より具体的には1pMから100pMの一価KDで結合する;
b. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、5×10-3s-1以下の、より具体的には5×10-3s-1から10-7s-1の、より具体的には10-3s-1から5×10-6s-1の、より具体的には10-3s-1から10-6s-1のKoff速度で結合する;
c. SPRによって測定されるときに、ヒトPDL1に、少なくとも104M-1s-1またはより多大な、より具体的には104M-1s-1から108M-1s-1の、より具体的には105M-1s-1から5×107M-1s-1の、より具体的には5×105M-1s-1から107M-1s-1のKon速度で結合する;
d. マカカ・ファシキュラリス(カニクイ)PDL1と交差反応性である;
e. ムス・ムスクルスPDL1と非交差反応性である。
【0114】
好適には、本発明に用いられるPDL1-BDはさらに次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
f. scFvフォーマットであるときに、少なくとも55℃、例えば少なくとも60℃、好ましくは少なくとも65℃、より好ましくは少なくとも70℃の、示差走査蛍光定量法によって決定される融解温度(Tm)を有し、具体的には、前記の抗体またはその抗原結合断片はpH6.4、150mMのNaClのリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤され、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
g. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満の、5回続けての凍結融解サイクル後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;および/または
h. scFvフォーマットであるときに、前記の抗体が10mg/mlの出発濃度であるときに、15%未満、例えば12%未満、10%未満、7%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満の、少なくとも2週の、具体的には少なくとも4週の4℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記の抗体は、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される。
【0115】
好適には、多重特異性抗体MA1は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。それゆえに、本発明に用いられる多重特異性抗体MA1は、典型的には、コンパクトなマルチドメインかつ低分子量の抗体アーキテクチャを有する。本明細書の用語「Fc領域」は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられ、ネイティブな配列のFc領域およびバリアントFc領域を包含する。ネイティブな配列のFc領域はヒトlgG1、lgG2(lgG2A、IgG2B)、lgG3、およびlgG4を包含する。「Fc受容体」または「FcR」は抗体のFc領域に結合する受容体を言い表す。具体的には、FcRは、IgG抗体に結合するネイティブな配列のヒトFcR(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcyRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を包含し、これらの受容体のアレルバリアントおよび選択的スプライシング形態を包含する。FcγRII受容体はFcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を包含し、これらは、主としてそれらの細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、免疫受容体のチロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)をその細胞質ドメイン上に含有する。阻害受容体FcγRIIBは、免疫受容体のチロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)をその細胞質ドメイン上に含有する(M.デロン(Daeron),アニュアル・レビュー・オブ・イミュノロジー(Annual Reviewof Immunology),第5巻:p.203-234(1997年)を参照。FcRはラヴェッチ(Ravetch)およびキネ(Kinet),アニュアル・レビュー・オブ・イミュノロジー(Annual Reviewof Immunology),第9巻:p.457-92(1991年);カペー(Capet)ら,イミュノメソッズ(ImmunoMethods),第4巻:p.25-34(1994年);ならびにドハース(deHaas)ら,ジャーナル・オブ・ラボラトリー・アンド・クリニカルメディシン(Journal ofLaboratory and Clinical Medicine),第126巻:p.330-41(1995年)において総説されている。将来同定されるべきものを包含する他のFcRは、本明細書の用語「FcR」によって包摂される。用語「Fc受容体」または「FcR」は、新生児受容体のFcRnをもまた包含し、これは胎児への母性IgGの移入を担う。ガイヤー(Guyer)ら,ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal ofImmunology),第117巻:p.587(1976年)、およびキム(Kim)ら,ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology),第24巻:p.249(1994年)。FcRnに対する結合を測定する方法は公知である(例えば、ギティー(Ghetie)およびウォード(Ward),イミュノロジー・トゥデイ(Immunology Today),第18巻:(12):p.592-8(1997年);ギティー(Ghetie)ら,ネイチャー・バイオテクノロジー(NatureBiotechnology),第15巻(7):p.637-40(1997年);ヒントン(Hinton)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(Journal of Biological Chemistry)TJI(第8巻):p.6213-6(2004年);WO2004/92219(ヒントン(Hinton)ら)を参照。ヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドのインビボのFcRnに対する結合および血清中半減期は、例えば、ヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクションヒト細胞株において、またはバリアントFc領域を有するポリペプチドが投与される霊長類においてアッセイされ得る。WO2004/42072(プレスタ(Presta))は、FcRに対する結合を改善または逓減させた抗体バリアントを記載している。例えば、シールズ(Shields)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(Journal ofBiological Chemistry),第9巻(2):p.6591-6604(2001年)も参照。
【0116】
同じまたはより低い分子量において特異性/機能性の数を増大させるためには、Fv、scFv、Fab、Fab’、およびF(ab’)2断片、ならびに他の抗体断片などの抗体断片を含む抗体を用いることが有利である。これらのより小さい分子は全抗体の抗原結合活性を保持し、全免疫グロブリン分子と比較して改善された組織透過および薬物動態特性をもまた見せ得る。かかる断片は全免疫グロブリンと比べていくつもの利点を見せるように見えるが、それらはインビボで長い半減期を付与するFcドメインを欠くので、それらは血清からの増大したクリアランス速度をもまた患う(メダサン(Medasan)ら,1997年,ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal ofImmunology),第158巻:p.2211-2217)。より低い分子量を有する分子は、より効率的に標的組織(例えば固形癌)中に透過し、それゆえに同じまたはより低い用量で改善された効力の有望さを保有する。
【0117】
本発明者は、本発明において適用される多重特異性抗体MA1へのヒト血清アルブミン結合ドメイン(hSA-BD)の追加が、それらのそれぞれの標的に結合する他の結合ドメインの能力に干渉しないということを見出した。複雑な複数標的の複数細胞のインビボの状況において互いを立体的にまたは別様に阻害することなしに、全ての3つの結合ドメインが機能的なままに残るということが先験的に予想され得ない限り、この知見は驚くべきである。
【0118】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA1は、ヒト血清アルブミンに対する特異性を有するさらなる結合ドメインを含み得る。
【0119】
1つの実施形態において、多重特異性抗体MA1は:(i)1つのCD137-BD;(ii)1つのPDL1-BD;および(iii)1つのhSA-BDを含む。
【0120】
用語「hSA」は、具体的には、UniProtID番号P02768を有するヒト血清アルブミンを言う。ヒト血清アルブミン(hSA)は、585アミノ酸から組成されるヒト血清中の66.4kDaの豊富な蛋白質(トータル蛋白質の50%)である(スギオ(Sugio),プロテインエンジニアリング・デザイン・アンド・セレクション(ProteinEngineering, Design and Selection),Vol.12,1999年,p.439-446)。多機能性のhSAは、いくつもの代謝物、例えば脂肪酸、金属イオン、ビリルビン、およびいくつかの薬物を輸送し得る(ファナーリ(Fanali),モレキュラー・アスペクツ・オブ・メディシン(Molecular Aspectsof Medicine),Vol.33,2012年,p.209-290)。血清中のhSA濃度は大体3.5~5g/dlである。アルブミン結合抗体およびそれらの断片は、例えば、薬物またはそれらにコンジュゲート化された蛋白質のインビボの血清中半減期を展延するために用いられ得る。
【0121】
いくつかの実施形態において、hSA-BDはモノクローナル抗体または抗体断片に由来する。
【0122】
多重特異性抗体MA1のための好適なhSA-BDは、本開示において提供される結合ドメインである。多重特異性抗体MA1のhSA-BDは、それらの配列が表3に挙げられているヒト化hSA結合ドメインを包含するが、これらに限定されない。好適なhSA結合ドメインの追加の配列は表7に挙げられている。
【0123】
具体的には、多重特異性抗体MA1のhSA-BDはヒト血清アルブミンに特異的に結合する。
【0124】
多重特異性抗体MA1における使用のための別の好適なhSA-BDは、以下からなる群から選択される結合ドメインを含むか、またはそれに由来する:(i)血清アルブミンに結合するポリペプチド(例えば、スミス(Smith)ら,2001年,バイオコンジュゲート・ケミストリー(BioconjugateChemistry),第12巻:p.750-756;EP0486525;US6,267,964;WO2004/001064;WO2002/076489;およびWO2001/45746を参照);(ii)ホルト(Holt)ら,プロテインエンジニアリング、デザイン&セレクション(ProteinEngineering, Design & Selection),vol21,第5号,pp283-288、WO2004/003019、WO2008/096158、WO2005/118642、WO2006/0591056、およびWO2011/006915に記載されている抗血清アルブミン結合単一可変ドメイン;(iii)WO2009/040562、WO2010/035012、およびWO2011/086091に記載されている抗血清アルブミン抗体。
【0125】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2はCD3特異性について一価である。
【0126】
多重特異性抗体MA2における使用のための好適なCD3-BDは、本開示において提供される結合ドメインである。本発明のCD3-BDは、それらの配列が表6に挙げられているヒト化CD3結合ドメインを包含するが、これらに限定されない。
【0127】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は、少なくとも1つのTAA-BDを含む。2つ以上のTAA-BDを有するMA2は、同じTAAに対するまたは2つの異なるTAAに対する特異性を有し得る。
【0128】
用語「腫瘍関連抗原(TAA)」は、腫瘍細胞の表面に発現される抗原を言う。具体的な実施形態において、TAAは、非腫瘍細胞と比較されるときに腫瘍細胞上に選好的に発現される抗原であり、具体的には、腫瘍細胞上のTAAの発現は、同じ生物または患者からの非腫瘍細胞よりも少なくとも5倍超、少なくとも10倍超、少なくとも20倍超、少なくとも50倍超、または少なくとも100倍超高い。具体的には、TAAは以下の群から取られる:ADRB3、AFP、ALK、BCMA、ベータヒト絨毛性ゴナドトロピン、CA-125(MUC16)、CAIX、CD123、CD133、CD135、CD135(FLT3)、CD138、CD171、CD19、CD20、CD22、CD24、CD276、CD33、CD33、CD38、CD44v6、CD79b、CD97、CDH3(カドヘリン3)、CEA、CEACAM6、CLDN6、CLEC12A(CLL1)、CSPG4、CYP1B1、EGFR、EGFRvlll、EPCAM、EPHA2、エフリンB2、ERBB(例えばERBB2)、FAP、FGFR1、葉酸受容体アルファ、葉酸受容体ベータ、Fos関連抗原、GA733、GD2、GD3、GFRアルファ4、globoH、GPC3、GPR20、GPRC5D、HAVCR1、Her2/neu(HER2)、HLA-A2、HMWMAA、HPVE6またはE7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、IL-11Ra、IL-13Ra2、腸カルボキシルエステラーゼ、KIT、レグマイン、ルイスY、LMP2、Ly6k、MAD-CT-1、MAD-CT-2、ML-IAP、MN-CAIX、MSLN、MUC1、mut-hsp70-2、NA-17、NCAM、好中球エラスターゼ、NY-BR-1、NY-ESO-1、o-アセチル-GD2、OR51E2、PANX3、PDGFR-ベータ、PLAC1、ポリシアル酸、PSCA、PSMA、RAGE1、ROR1、sLe、精子蛋白質17、SSEA-4、SSTR2、sTn抗原、sTn-O-グリコペプチド、TAG72、TARP、TEM1/CD248、TEM7R、サイログロブリン、Tn抗原、Tn-O-グリコペプチド、TPBG(5T4)、TRP-2、TSHR、UPK2、およびVEGFR2。
【0129】
具体的な実施形態において、TAAは、CD138、CD79b、TPBG(5T4)、HER2、MSLN、MUC1、CA-125(MUC16)、PSMA、BCMA、CD19、EpCAM、CLEC12A(CLL1)、CD20、CD22、CEA、CD33、EGFR、GPC3、CD123、CD38、CD33、CD276、CDH3(カドヘリン3)、FGFR1、SSTR2、CD133、EPHA2、HLA-A2、IL13RA2、ROR1、CEACAM6、CD135、GD-2、GA733、CD135(FLT3)、CSPG4、およびTAG-72からなる群から選択され、具体的には、CD138、CD79b、CD123、HER2、MSLN、PSMA、BCMA、CD19、CD20、CEA、CD38、CD33、CLEC12a、およびROR1からなる群から選択される。特別な実施形態において、TAAはHER2、MSLN、およびROR1からなる群から選択される。
【0130】
1つの実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は1つのTAA-BDを含み、すなわちTAA特異性について一価である。
【0131】
具体的な実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2はクリーンなTAA、すなわちほぼ専ら癌細胞上に発現されるTAA、例えば癌胎児腫瘍抗原、例えばROR1に結合する1つのTAA-BDを含む。
【0132】
本発明の文脈において、用語「クリーンなTAA」は、健康細胞の表面には発現されないか、または癌細胞の表面のそれぞれのTAA密度の10%未満、具体的には5%未満、具体的には1%未満、具体的には0.5%未満に対応する量で健康細胞の表面に発現されるTAAを言う。
【0133】
他の具体的な実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は、クリーンでないTAA、すなわち健康な細胞の表面にもまた有意な量で発現されるTAA、例えばメソテリン(MSLN)、EGFR、EpCAM、およびHER2に結合する1つのTAA-BDを含む。
【0134】
本発明の文脈において、用語「クリーンなTAA」は、癌細胞の表面のそれぞれのTAA密度の10~90%、具体的には10~80%、具体的には10~75%に対応する量で健康細胞の表面に発現されるTAAを言う。
【0135】
これらの実施形態において、前記の単一のTAA-BDは、SPRによって測定されるときに、前記のTAAに、50nM未満、具体的には20nM未満、具体的には10nM未満、具体的には5nM未満の、具体的には0.01から2nMの、具体的には0.02から1nMの、具体的には0.03から0.5nMの一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のTAA-BDはscFvである。
【0136】
1つのTAA-BDと1つのCD3-BDとを含むMA2の具体例は、PRO1872(MSLN低KD×CD3×hSA)、PRO2510(ROR1×CD3×hSA)、PRO2668(ROR1×CD3×hSA)、PRO1766(HER2×CD3×hSA)、およびPRO1767(HER2×CD3×hSA)であり、これらの配列は表11に挙げられている。
【0137】
別の実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は、2つまたは3つのTAA-BD、具体的には2つのTAA-BDを含み、これらは同じTAAに対する特異性を有する。
【0138】
尚も別の実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は、2つの、3つの、または4つのTAA-BD、具体的には2つのTAA-BDを含み、これらは2つの異なるTAAに対して特異性を有する。
【0139】
これらの実施形態において、TAA-BDは、互いから独立して、クリーンなおよびクリーンでないTAAに結合する。
【0140】
具体的な実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は2つのTAA-BDを含み、これらは同じTAAに対して特異性を有し、TAAはクリーンでないTAAから選択される。
【0141】
具体的な実施形態において、医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は2つのTAA-BDを含み、これらは同じTAAに対して特異性を有し、TAAは腫瘍細胞関連抗原から選択され、それらの細胞外部分は可溶性形態で患者の血清中にもまた生起する。
【0142】
本発明の文脈において、用語「患者の血清中に可溶性形態で生起する」は、目当ての具体的な蛋白質、すなわちTAAの細胞外部分の濃度が血清中において少なくとも1ng/mlであるということを意味する。
【0143】
同じTAAに対する特異性を有する多重特異性抗体MA2の2つのTAA-BDは、前記のTAA標的分子の細胞外部分の同じまたは異なるエピトープどちらかに結合する。好ましくは、同じTAAに対する特異性を有する多重特異性抗体MA2の2つのTAA-BDは、TAA標的分子上の同じエピトープに結合する。
【0144】
これらの実施形態において、同じTAAに対する特異性を有する多重特異性抗体MA2の2つのTAA-BDは、SPRによって測定されるときに、前記のTAAに、0.1から50nMの、具体的には0.2から30nMの、具体的には0.3から20nMの、具体的には0.4から10nMの範囲の一価解離定数(KD)で結合し、具体的には前記のTAA-BDはscFvである。
【0145】
健康な低TAA発現細胞と比べて高TAA発現細胞に対してこれらの多重特異性抗体MA2の力価の有意な増大を引き起こすアビディティ効果を原因として、2つの低親和性TAA-BDを含むこれらの多重特異性抗体MA2は、クリーンでないTAA、例えばメソテリン(MSLN)、EGFR、EpCAM、およびHER2により安全に対処することを許す。さらにその上、典型的にはTAA結合薬物の有効濃度の有意な縮減を引き起こすそれらの細胞外部分が癌患者の血清中に脱落するTAA(可溶性TAA)に対するこれらの多重特異性抗体MA2の結合は、有意な量のかかる可溶性TAAの存在によってあまり影響されない。かかるTAAの例はMSLN、PSMA、およびMUC1である。
【0146】
具体的な実施形態において、多重特異性抗体MA2の2つのTAA-BDは、メソテリン(MSLN)、具体的にはヒトメソテリンに特異的に結合するMSLN-BDである。2つのMSLN-BDは、MSLNの細胞外部分のいずれかの領域に、例えばMSLNの領域I、領域II、および/または領域IIIに結合する。好ましくは、この特定の実施形態の多重特異性抗体MA2の2つのMSLN-BDは、MSLNの領域Iおよび/または領域IIに、具体的には領域Iに結合する。領域Iは、MSLNが取り付けられている細胞表面から最も遠位であるMSLNの部分である。
【0147】
この特定の実施形態の多重特異性抗体MA2の2つのMSLN-BDは、MSLN標的分子上の同じまたは異なるエピトープどちらかに結合する。好ましくは、2つのMSLN-BDはMSLN標的分子上の同じエピトープに結合する。
【0148】
多重特異性抗体MA2における使用のための好適なMSLN-BDは、本開示において提供される結合ドメインである。本発明において適用されるMSLN-BDは、それらの配列が表8に挙げられているヒト化MSLN結合ドメインを包含するが、これらに限定されない。
【0149】
好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は、ヒト血清アルブミンに対する特異性を有するさらなる結合ドメインを含み得る。
【0150】
多重特異性抗体MA2のための好適なhSA-BDは、上で定義されている通り本開示において提供される結合ドメインである。多重特異性抗体MA2のhSA-BDは、それらの配列が表3および表7に挙げられているヒト化hSA結合ドメインを包含するが、これらに限定されない。
【0151】
2つの低親和性MSLN-BDと1つのCD3-BDとを含むMA2(例えばbiMSLN高KD×CD3×hSA)の具体例は、PRO2000、RPO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、PRO2741、およびPRO2746であり、これらの配列は表11に挙げられている。それらの製造および機能的特性についてのさらなる詳細は、参照によってここに組み込まれる未公開の特許出願PCT/EP2021/064427に開示されている。
【0152】
本発明の発明者は、三重特異性分子(biMSLN高KD×CD3×hSA)PRO2000、PRO2562、PRO2565、PRO2566、およびPRO2567が、フローサイトメトリーによって決定されるときに健康なMeT-5A細胞(ATCC-CRL-9444)よりもおよそ7倍高いMSLN発現レベルを有する標的細胞を、前記の標的細胞および前記のMeT-5A細胞に対するT細胞によって駆動される細胞傷害性アッセイによって決定されるときに、高い効率で、かつ前記のMeT-5A細胞を殺すことについてのEC50よりも少なくとも25倍低いEC50で殺すことができるということを先に見出した。それゆえに、PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567は高MSLN発現標的細胞については非常に高い殺細胞力価を見せるが、健康な細胞に対するそれらの殺細胞力価はずっと低く、PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567を用いる処置について、可能性として大きい治療ウインドウを指示している。それらとは対照的に、PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567のMSLN-BDよりも5倍超良好な結合親和性(KD)を有する1つのMSLN-BDを含む三重特異性の参照分子PRO1872(MSLN低KD×CD3×hSA)の力価は、前記の高MSLN発現標的細胞および前記の健康なMet-5A細胞を殺すことについて、有意には異ならない。この知見は、癌患者の処置における本発明の多重特異性抗体の使用の治療ウインドウが有意に増大しているということを指示している。加えて、本発明の発明者は、驚くべきことに、フローサイトメトリーによって決定されるときに前記の健康なMeT-5A細胞よりもおよそ7倍高いMSLN発現レベルを有する標的細胞を殺すことについて、三重特異性分子PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567(biMSLN高KD×CD3×hSA)のEC50値が、前記の標的細胞に対してT細胞によって駆動される細胞傷害性アッセイによって決定されるときに、50ng/mlの可溶性メソテリン(sMSLN)の存在下において6倍超、500ng/mlの可溶性メソテリン(sMSLN)の存在下において40倍を超えずに増大しないということを見出した。他方で、前記の標的細胞を殺すことについて、三重特異性参照分子PRO1872(MSLN低KD×CD3×hSA)のEC50値は、50ng/mlのsMSLNの存在下においてほぼ8倍、500ng/mlのsMSLNの存在下において75倍超増大した。それゆえに、高MSLN発現標的細胞についての三重特異性分子PRO2000、PRO2562、PRO2566、およびPRO2567の高い殺細胞力価は、高い濃度のsMSLNによってわずかにのみ影響される。
【0153】
特定の実施形態において、多重特異性抗体MA2のTAA-BD(単数または複数)はROR1に特異的に結合する。
【0154】
用語「ROR1」は、具体的には、UniProtID番号Q01973を有するヒトROR1を言う。好適には、本発明のROR1-BDは、ヒトROR1、具体的にはROR1の細胞外ドメイン(ECD)を標的化する。具体的な実施形態において、ROR1-BDはROR1のIg様および/またはfrizzledドメインに結合する。他の具体的な実施形態において、ROR1-BDはROR1に対するWnt5αの結合をブロックしない。
【0155】
好適には、ROR1-BDは、scFvフォーマットであるときに、次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
a. 表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるときに、ヒトROR1の細胞外ドメインに、1pMから2nMの一価解離定数(KD)で、具体的には2pMから1nMの、具体的には5から500pMのKDで結合する;
b. ヒトROR1発現MDA-MB-231細胞に、5pMから10nMのEC50で、具体的には10pMから5nMのEC50で、具体的には20pMから4nMのEC50で、具体的には30pMから3nMのEC50で結合する。
【0156】
好適には、ROR1-BDは、scFvフォーマットであるときに、さらに次のパラメータの1つ以上を特徴とする:
c. 少なくとも58℃の、具体的には少なくとも59℃の、具体的には少なくとも60℃の、具体的には少なくとも61℃の、示差走査蛍光定量法(DSF)によって決定される融解温度(Tm)を有し、具体的には、前記のscFvはpH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;
d. 前記のscFvが10mg/mlの出発濃度であるときに、3%未満、具体的には2%未満、具体的には1%未満の、少なくとも4週の4℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記のscFvは、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;および/または
e. 前記のscFvが10mg/mlの出発濃度であるときに、10%未満の、少なくとも4週の40℃における保存後のモノマー含量の損失を有し、具体的には、前記のscFvは、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される;および/または
f. 前記のscFvが10mg/mlの出発濃度であるときに、1%未満の、少なくとも4週の4℃または40℃における保存後の蛋白質含量の損失を有し、具体的には、前記のscFvは、pH6.4の150mMのNaClを有する50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって製剤される。
【0157】
好適には、多重特異性抗体MA2において適用されるROR1-BDは、それらの配列が表10に挙げられているヒト化ROR1-BDを包含するが、これらに限定されない。
【0158】
1つの具体的な実施形態において、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含まない。
【0159】
別の具体的な実施形態において、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA2は免疫グロブリンFc領域ポリペプチドを含む。
【0160】
本発明に用いられる他の可変ドメインは、変異させられているが尚も表1から3および6から10に記載されている配列上の図示されるCDR領域に対するCDR領域の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を包含する。本発明に用いられる他の可変ドメインは、表1から3および6から10に記載されている配列上の図示されるCDR領域と比較されるときに、1、2、3、4、または5を超えないアミノ酸がCDR領域上で変異させられている変異体アミノ酸配列を包含する。
【0161】
好適には、本発明に用いられる結合ドメインのVHドメインはVH3またはVH4ファミリーに属する。1つの実施形態において、本発明に用いられる結合ドメインは、VH3ファミリーに属するVHドメインを含む。本発明の文脈において、用語「VHxファミリー(またはVLxファミリー)に属する」は、フレームワーク配列FR1からFR3が前記のVHxファミリー(またはそれぞれVLx)に対して最も高い度合いの相同性を示すということを意味する。VHおよびVLファミリーの例はナピック(Knappik)ら,ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal ofMolecular Biology),第296巻(2000年)p.57-86またはWO2019/057787において与えられている。VH3ファミリーに属するVHドメインの具体例は配列番号91によって表され、VH4ファミリーに属するVHドメインの具体例は配列番号92によって表される。具体的には、配列番号91から取られるフレームワーク領域FR1からFR3はVH3ファミリーに属する(表4、非ボールドで記されている領域)。好適には、本明細書において用いられるVH3ファミリーに属するVHは、少なくとも85%、具体的には少なくとも90%、より具体的には少なくとも95%の配列同一性を配列番号91のFR1からFR3に対して有するFR1からFR3を含むVHである。VH3およびVH4配列の代替的な例ならびに他のVHx配列の例はナピック(Knappik)ら,ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal ofMolecular Biology),第296巻(2000年)p.57-86またはWO2019/057787に見出され得る。好適には、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用されるMA1およびMA2に含まれるPDL1-BD、CD137-BD、hSA-BD、CD3-BD、MSLN-BD、およびHER2-BDは以下を含む:VκフレームワークFR1、FR2、およびFR3、具体的にはVκ1またはVκ3フレームワーク、具体的にはVκ1フレームワークFR1から3、ならびにフレームワークFR4であって、これはVκ-FR4およびVλ-FR4、具体的にはVλ-FR4から選択される。好適なVκ1フレームワークFR1からFR3および例示的なVλ-FR4は配列番号93で提出される(表4、FR領域は非ボールドで記されている)。Vκ1配列の代替的な例およびVκ2、Vκ3、またはVκ4配列の例は、ナピック(Knappik)ら,ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal ofMolecular Biology),第296巻(2000年)p.57-86に見出され得る。好適なVκ1フレームワークFR1から3は、少なくとも70、80、90パーセントの同一性を配列番号93から取られるFR1からFR3に対応するアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を含む(表4、FR領域は非ボールドで記されている)。好適なVλ-FR4は配列番号94から配列番号100および配列番号101で提出され、単一のシステイン残基を含み、具体的には、あるケースにおいては、ここで、第2の単一のシステインが、対応するVH鎖上に、具体的にはVHの位置51(AHo付番)に、ドメイン間ジスルフィド結合の形成のために存在する。1つの実施形態において、本発明に用いられるVLドメインは、少なくとも70、80、90パーセントの同一性を配列番号94から配列番号101のいずれかから選択されるアミノ酸配列に対して、具体的には配列番号94または101に対して有するアミノ酸配列を含むVλ-FR4を含む。
【0162】
本発明に用いられる結合ドメインは、表1から3および6から10に挙げられているVHドメインを含む。好適には、本発明に用いられる結合ドメインは、表1から3および6から10の1つに挙げられているVHアミノ酸配列を含み、フレームワーク配列(例えば、CDRではない配列)上の20を超えないアミノ酸が変異させられている(変異は、種々の限定しない例において追加、置換、または欠失である)。好適には、本発明に用いられる結合ドメインは、表1から3および6から10の1つに挙げられているVHアミノ酸配列を含み、フレームワーク配列(例えば、CDRではない配列)上の15を超えないアミノ酸、具体的には10を超えないアミノ酸、具体的には5を超えないアミノ酸が変異させられている(変異は、種々の限定しない例において追加、置換、または欠失である)。本発明に用いられる他の結合ドメインは、変異させられているが尚も表1から3および6から10の1つに記載されている対応する配列上の図示されるVH領域に対するVH領域の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を有するアミノ酸を包含する。表1から3および6から10に示されている配列の1つの少なくとも位置5から140(AHo付番)、具体的には少なくとも位置3から145を含むVHドメインを包含する。
【0163】
具体的には、本発明に用いられる結合ドメインは表1から3および6から10の1つに挙げられているVLドメインを含む。好適には、本発明に用いられる結合ドメインは表1から3および6から10の1つに挙げられているVLアミノ酸配列を含み、フレームワーク配列(例えば、CDRではない配列)上の約10を超えないアミノ酸が変異させられている(変異は、種々の限定しない例において、追加、置換、または欠失である)。好適には、本発明に用いられる結合ドメインは、表1から3および6から10の1つに挙げられているVLアミノ酸配列を含み、フレームワーク配列(例えば、CDRではない配列)上の約20を超えないアミノ酸が変異させられている(変異は、種々の限定しない例において、追加、置換、または欠失である)。本発明に用いられる他の結合ドメインは、変異させられているが尚も表1から3および6から10に記載されている配列上の図示されるVL領域に対するVL領域の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99パーセントの同一性を有するアミノ酸を包含する。表1から3および6から10に示されている配列の1つの少なくとも位置5から140(AHo付番)、具体的には少なくとも位置3から145を含むVLドメインを包含する。
【0164】
本発明の文脈において、用語「本発明に用いられる結合ドメイン」は、そのものの、すなわち多重特異性の文脈とは独立の結合ドメインに、具体的には、多重特異性のコンストラクトに含まれる結合ドメイン、例えば、二重特異性の、三重特異性の、または四重特異性のコンストラクトに含まれる結合ドメインの1つに関する。
【0165】
好適には、多重特異性抗体MA1およびMA2の結合ドメインは以下からなる群から選択される:Fab、Fv、scFv、dsFv、scAb、およびSTAB。
【0166】
好適には、多重特異性抗体MA1およびMA2の結合ドメインは作動可能に連結される。多重特異性抗体MA1およびMA2の結合ドメインはそれらのそれぞれの抗原または受容体に同時に結合することができる。これに関しておよびMA1に関して用いられる用語「同時に」は、CD137-BDおよびPDL1-BDの同時の結合を言う。類似に、MA2に関して用いられる用語「同時に」は、TAA-BDの少なくとも1つおよびCD3-BDの同時の結合を言う。特定のケースでは、例えば、適用されるMA2が同じTAAに対して特異的である2つ以上のTAA-BDを有し、かつ標的細胞が高い密度の前記のTAAを細胞表面に有するケースでは、3つの結合ドメイン、すなわち2つのTAA-BDおよびCD3-BDが同時に結合するということもまた可能であり得る。
【0167】
多重特異性抗体MA1は1つのCD137-BDおよび1つのPDL1-BDを含み、前記のCD137-BDおよび前記のPDL1-BDは互いに作動可能に連結される。
【0168】
多重特異性抗体MA1は、少なくとも1つのTAA-BDおよび1つのCD3-BDを含み、前記の少なくとも1つのTAA-BDおよび前記のCD3-BDは互いに作動可能に連結される。
【0169】
本明細書において用いられる用語「作動可能に連結される」は、各分子が機能的な活性を保持するやり方で、2つの分子(例えば、ポリペプチド、ドメイン、結合ドメイン)が取り付けられるということを指示する。それらが直接的にまたは間接的に(例えば、リンカーを介して、部分を介して、リンカーを介して部分に)取り付けられるかどうかにかかわらず、2つの分子は「作動可能に連結」され得る。用語「リンカー」は、本発明に用いられる結合ドメインまたは抗体断片の間に任意に所在するペプチドまたは他の部分を言う。分子を一緒に共有結合的に連結するためのいくつもの戦略が用いられ得る。これらは、蛋白質または蛋白質ドメインのNおよびC末端の間のポリペプチド連結、ジスルフィド結合を介する連結、ならびに化学架橋試薬を介する連結を包含するが、これらに限定されない。この実施形態の1つの態様において、リンカーは組み換え技術またはペプチド合成によって生成されるペプチド結合である。2つのポリペプチド鎖が接続されるべき具体的なケースのための好適なリンカーを選ぶことは、2つのポリペプチド鎖の性質(例えば、それらが天然にオリゴマー化するかどうか)、既知の場合には接続されるべきNおよびC末端の間の距離、ならびに/または蛋白質分解および酸化に対するリンカーの安定性を包含するがこれらに限定されない種々のパラメータに依存する。さらにその上、リンカーはフレキシビリティーを提供するアミノ酸残基を含有し得る。
【0170】
本発明の文脈において、用語「ポリペプチドリンカー」は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖からなるリンカーを言い、これは、それぞれがリンカーの一端に取り付けられる2つのドメインを接続している。ポリペプチドリンカーは、それらが所望の活性を保持するようにしてそれらが互いに対して相対的に正しい立体配座をとるようなやり方で、2つの分子を連結するために充分である長さを有するべきである。具体的な実施形態において、ポリペプチドリンカーは2および30アミノ酸残基の間の連続的な鎖を有する(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30アミノ酸残基)。加えて、ポリペプチドリンカー上の包含のために選択されるアミノ酸残基は、ポリペプチドの活性に有意には干渉しない特性を見せるべきである。それゆえに、リンカーペプチドは、全体として、ポリペプチドの活性と不整合であるか、または内部のフォールディングに干渉するか、または受容体モノマードメインの結合を深刻に妨害するであろうモノマーの1つ以上のアミノ酸残基との結合もしくは他の相互作用を形成するであろう電荷を見せるべきではない。具体的な実施形態において、ポリペプチドリンカーは非構造化ポリペプチドである。有用なリンカーはグリシン-セリンまたはGSリンカーを包含する。「Gly-Ser」または「GS」リンカーによって、連なったグリシンおよびセリンのポリマー(例えば、(Gly-Ser)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、および(GGGS)nを包含し、ここでnは少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および他のフレキシブルリンカー、例えばシェーカー型カリウムチャネルの係留鎖、および当業者には了解されるであろう様々な他のフレキシブルリンカーが意味される。グリシン-セリンポリマーは好ましい。なぜなら、これらのアミノ酸を含むオリゴペプチドは比較的非構造的であり、よって、コンポーネント間の中性の係留鎖としての用をなす能力があり得るからである。第2に、セリンは親水性であり、よって、球状のグリシン鎖であり得るものを可溶化する能力がある。第3に、類似の鎖が、一本鎖抗体などの組み換え蛋白質のサブユニットを繋ぎ合わせることに有効であることが示されている。
【0171】
好適には、多重特異性抗体MA1は、当分野において公知のいずれかの好適な多重特異性のフォーマット、すなわち少なくとも二重特異性でありかつ免疫グロブリンFc領域(単数または複数)を含まないいずれかのフォーマットから選択されるフォーマットであり、限定しない例として以下を包含する。一本鎖ダイアボディ(scDb);二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE;タンデムdi-scFv);タンデムtri-scFv;Fab-(scFv);scFab-dsscFv;トライボディ(Fab-(scFv)2);Fab2;Fab-Fv2;ダイアボディ;トライアボディ;scDb-scFv;scDb、タンデムtri-scFv、Fab-(scFv)、scFab-dsscFv、Fab-(scFv)2、Fab2、Fab-Fv2、ダイアボディ、またはscDb-scFvであって、ヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのNおよび/またはC末端に融合される;ならびにMATCH(WO2016/0202457;イーガン(Egan)Tら,MABS,第9巻(2017年)p.68-84に記載されている)およびデュオボディ。具体的には、scDb、scDb-scFv、scMATCH3、およびMATCH3、とりわけscDb-scFv、scMATCH3、およびMATCH3が本明細書における使用にとって好適である。
【0172】
用語「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片を言い、これらの断片は、同じポリペプチド鎖上のVLに接続されたVH(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間のペア形成を許すには短すぎるリンカーを用いることによって、ドメインは、2つの抗原結合部位を作出するように別の鎖の相補的なドメインとペア形成することを強いられる。ダイアボディは二価または二重特異性であり得る。ダイアボディは、例えばEP404097、WO93/01161、ハドソン(Hudson)ら,ネイチャー・メディシン(Nature Medicine),第9巻:p.129-134(2003年)、およびホリガー(Holliger)ら,米国科学アカデミー紀要,第90巻:p.6444-6448(1993年)により詳しく記載されている。トライアボディ(triabody)およびテトラボディ(tetrabody)もまたハドソン(Hudson)ら,ネイチャー・メディシン(Nature Medicine),第9巻:p.129-134(2003年)に記載されている。
【0173】
二重特異性scDb、具体的には二重特異性のモノマーscDbは、具体的には、リンカーL1、L2、およびL3によって順序VHA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VLA、VHA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VLA、VLA-L1-VLB-L2-VHB-L3-VHA、VLA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VHA、VHB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VLB、VHB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VLB、VLB-L1-VLA-L2-VHA-L3-VHB、またはVLB-L1-VHA-L2-VLA-L3-VHBで接続された2つの可変重鎖ドメイン(VH)またはそれらの断片および2つの可変軽鎖ドメイン(VL)またはそれらの断片を含み、VLAおよびVHAドメインは連帯して第1の抗原のための抗原結合部位を形成し、VLBおよびVHBは連帯して第2の抗原のための抗原結合部位を形成する。
【0174】
リンカーL1は、具体的には、2~10アミノ酸、より具体的には3~7アミノ酸、最も具体的には5アミノ酸のペプチドであり、リンカーL3は、具体的には、1~10アミノ酸、より具体的には2~7アミノ酸、最も具体的には5アミノ酸のペプチドである。具体的な実施形態において、リンカーL1および/またはL3は4つの(4)グリシンアミノ酸残基および1つの(1)セリンアミノ酸残基(GGGGS)nの1つまたは2つのユニットを含み、式中、n=1または2、具体的にはn=1である。
【0175】
真ん中のリンカーL2は、具体的には、10~40アミノ酸、より具体的には15~30アミノ酸、最も具体的には20~25アミノ酸のペプチドである。具体的な実施形態において、前記のリンカーL2は4つの(4)グリシンアミノ酸残基および1つの(1)セリンアミノ酸残基(GGGGS)nの2つ以上のユニットを含み、式中、n=2、3、4、5、6、7、または8、具体的にはn=4または5である。
【0176】
1つの実施形態において、多重特異性抗体MA1はscDb-scFvである。用語「scDb-scFv」は、一本鎖Fv(scFv)断片がフレキシブルGly-Serリンカーによって一本鎖ダイアボディ(scDb)に融合されている抗体フォーマットを言う。1つの実施形態において、前記のフレキシブルGly-Serリンカーは、2~40アミノ酸、例えば2~35、2~30、2~25、2~20、2~15、2~10アミノ酸、具体的には10アミノ酸のペプチドである。具体的な実施形態において、前記のリンカーは4つの(4)グリシンアミノ酸残基および1つの(1)セリンアミノ酸残基(GGGGS)nの1つ以上のユニットを含み、式中、n=1、2、3、4、5、6、7、または8、具体的にはn=2である。
【0177】
別の実施形態において、多重特異性抗体MA1は、WO2016/0202457;イーガン(Egan)Tら,MABS,第9巻(2017年)p.68-84に記載されているscMATCH3またはMATCH3フォーマットである。
【0178】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA1はCH1および/またはCL領域を含まない。
【0179】
本発明の医薬組成物またはキットにおいて好適に適用され得る多重特異性抗体MA1の具体的だが限定しない例は、scDbに基づく抗体PRO885、PRO951、PRO1123、PRO1124、PRO1125、PRO1126、PRO1134、およびscDb-scFvに基づく抗体PRO963、PRO966、PRO1057、PRO1058、PRO1175、PRO1186、PRO1430、PRO1479、PRO1482、PRO1431、PRO1432、PRO1473、PRO1476、PRO1480、PRO1481、PRO1480diS、PRO1599、RPO1600、RPO1601であり、それらの配列は表5に挙げられている。具体的には、多重特異性抗体MA1として、PRO1480、PRO1481、PRO1480diS、およびRPO1601が好適である。
【0180】
これらの多重特異性抗体MA1、具体的にはPRO1480、PRO1481、PRO1480diS、およびPRO1601は、非常に有利な安全性特性を見せる。例えば、PRO1480は、雌のカニクイザルで試験されたときに、最高で20mg/kgのPRO1480シングルドーズ投与後に、以下があった:
- ウレルマブによって引き起こされる肝毒性の鍵の臨床病理指標である肝臓酵素(ALT/AST/GGT/CK)の上昇なし;
- 臨床におけるウレルマブの適用によって観察されている好中球減少または血小板減少なし;
- アベルマブと比較されるときに変わった肝臓重量なし;
- 全身的な中枢およびエフェクターメモリーT細胞の有意な増殖なし(良好に忍容されるウトミルマブの報告された値未満)。専らTMEにおける4-1BBに対する特異的活性を確認;
- 5~5.5日の延長された血清中半減期。ヒトのおよそ2週に対応。
【0181】
さらにその上、カニクイザルにおけるPRO1480による第2の4週反復投与毒性学研究では、以下があった:
- 臓器重量、肉眼観察、および組織切片の顕微組織病理学的評価の変調において、処置に関連する知見なし;
- 毒性の徴候なし、具体的には、肝毒性のマーカーのトランスアミナーゼまたは肝臓炎症の上昇なし;
- 臨床化学、血液学、および尿検査において、被験品に関連する効果なし;
- PRO1480のプレドーズ、第1の投与、および第4の投与後に、サイトカインGM-CSF、インターロイキン18、IL1B、IFNg、IL-2、IL-4、IL-5、およびGM-CSFの放出なし;
- PRO1480の投薬後の低および中用量動物のいくつかにおいて、サイトカインIL-6、MCP-1、およびIL-10の中等度の誘導のみ。これはADA応答と整合する。
【0182】
具体的には、PRO1480の静注は一般的に良好に忍容され、カニクイザルにおいては最高で140mg/kg/投与まで、毒性のいずれかの徴候に関連しなかった。かかる優良な毒性学的プロファイルは、Fcドメインの存在を原因として、従来技術のいずれかの対応する抗CD137×PDL1抗体治療薬では見られていない。
【0183】
好適には、多重特異性抗体MA2は、当分野において公知のいずれかの好適な多重特異性の、例えば少なくとも二重特異性のフォーマットから選択されるフォーマットであり、限定しない例として以下を包含する。タンデムscDb(Tandab);二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE;タンデムdi-scFv);タンデムtri-scFv;Fab-(scFv);scFab-dsscFv;トライボディ(Fab-(scFv)2);Fab2;Fab-Fv2;ダイアボディ;トライアボディ;テトラボディ;scDb-scFv;di-ダイアボディ;scFv-Fc-scFv融合体(ADAPTIR);DVD-Ig;IgG-scFv融合体、例えばCODV-IgG、モリソン(IgG-CH3-scFv融合体(モリソンL)、またはIgG-CL-scFv融合体(モリソンH))、bsAb(軽鎖のC末端に連結されたscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端に連結されたscFv)、Ts1Ab(重鎖および軽鎖両方のN末端に連結されたscFv)、およびTs2Ab(重鎖のC末端に連結されたdsscFv);DART(商標);TRIDENT(商標);scDb、タンデムtri-scFv、Fab-(scFv)、scFab-dsscFv、Fab-(scFv)2、Fab2、Fab-Fv2、ダイアボディ、またはscDb-scFvであって、ヘテロ二量体Fcドメイン以外のヘテロ二量体化ドメインのNおよび/またはC末端に融合される;MATCH(WO2016/0202457;イーガン(Egan)Tら,MABS,第9巻(2017年)p.68-84に記載されている)ならびにデュオボディ(デュオボディテクノロジーによって調製される二重特異性IgG)(MAbs,2017年,Feb/Mar;第9巻(2):p.182-212.doi:10.1080/19420862.2016.1268307)。
【0184】
1つの実施形態において、多重特異性抗体MA2は、WO2016/0202457;イーガン(Egan)Tら,MABS,第9巻(2017年)p.68-84に記載されているMATCHフォーマットである。具体的には、多重特異性抗体MA2はMATCH3またはMATCH4フォーマットである。
【0185】
別の実施形態において、多重特異性抗体MA2は、CODV-IgG、モリソン(IgG-CH3-scFv融合体(モリソンL)またはIgG-CL-scFv融合体(モリソンH))、bsAb(軽鎖のC末端に連結されたscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に連結されたscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端に連結されたscFv)、Ts1Ab(重鎖および軽鎖両方のN末端に連結されたscFv)、Ts2Ab(重鎖のC末端に連結されたdsscFv)、DART(商標)、およびTRIDENT(商標)から選択されるIgG-scFv融合フォーマットである。
【0186】
本発明の医薬組成物またはキットにおいて好適に適用され得る多重特異性抗体MA2の具体的だが限定しない例は、scMATCH3に基づく抗体PRO1766、PRO1767、PRO1872、PRO2510、PRO2668ならびにMATCH4に基づく抗体PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2590、PRO2660、PRO2670、PRO2741、およびPRO2746であり、それらの配列は表11に挙げられている。
【0187】
本発明の医薬組成物またはキットにおいてMA2として好適に適用され得るさらなる抗体は、本明細書において定義される通り1つまたは2つのTAA-BDと1つのCD3-BDとを含む従来技術に記載されている抗体である。MA2として好適に適用され得る従来技術に記載されている抗体の限定しない例は、以下である:
- WO2015/095418に開示されているノブ・イントゥ・ホール(knob-into-whole)テクノロジーに基づく二重特異性の一価抗HER2×CD3抗体;
- WO2019/157308(ジェネンテック)、具体的にはBTRC-4017Aに開示されている2つの低親和性HER2結合ドメインと1つの抗CD3ε結合ドメインとを有する二重特異性の1Fab-IgGに基づく抗HER2×CD3抗体;
- グレンマークからの二重特異性の一価抗HER2×CD3抗体GBR-1302;
- 2つの低親和性MSLN結合ドメインと1つの抗CD3ε結合ドメインとを有する二重特異性抗MSLN×CD3抗体MG1122-A、および2つの低親和性MSLN結合ドメインと1つの抗CD3ε結合ドメインとを有するMG1122-Bであって、ユン(Yoon)ら(バイオモレキュールズ(Biomolecules),2020年,第10巻(3),p.399)に開示される通り;
- アプテボ(Aptevo)からの(scFv)2-Fc-(scFv)2融合体(ADAPTIR)二重特異性抗ROR1×CD3抗体APVO-425;
- WO2017/142928(マクロジェニクス(Macrogenics))に開示されている抗TAA×CD3(ROR1×CD3)DART(商標)抗体DART-1からDART-33およびDART-AからDART-D。
【0188】
本発明の医薬組成物またはキットにおいて適用される多重特異性抗体MA1およびMA2は、当分野において公知のいずれかの便利な抗体製造方法を用いて産生され得る(例えば、二重特異性のコンストラクトの産生については、フィッシャー(Fischer),N.&レジェ(Leger),O.,パソバイオロジー(Pathobiology),第74巻(2007年)p.3-14;二重特異性のダイアボディおよびタンデムscFvについては、ホーニグ(Hornig),N.&ファーバー・シュワルツ(Farber-Schwarz),A.,メソッズ・イン・モレキュラーバイオロジー(Methods inMolecular Biology),第907巻(2012年)p.713-727、およびWO99/57150を参照)。二重特異性のコンストラクトの調製のための好適な方法の具体例は、さらに、中でも、Genmab(ラブリン(Labrijn)ら,米国科学アカデミー紀要,第110巻(2013年)p.5145-5150を参照)およびMerus(デクライフ(de Kruif)ら,バイオテクノロジー・アンド・バイオエンジニアリング(Biotechnologyand Bioengineering),第106巻(2010年)p.741-750を参照)テクノロジーを包含する。機能的な抗体Fc部分を含む二重特異性抗体の産生のための方法は当分野において公知である(例えば、ズー(Zhu)ら,キャンサー・レターズ(Cancer Letters),第86巻(1994年)p.127-134);およびスレッシュ(Suresh)ら,メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),第121巻(1986年)p.210-228を参照)。
【0189】
これらの方法には、典型的には、例えば、ハイブリドーマテクノロジーを用いて、所望の抗原によって免疫化されたマウスからの脾臓細胞をミエローマ細胞と融合させるという手段によるか(例えば、ヨコヤマ(Yokoyama)ら,カレントプロトコールズ・イン・イミュノロジー(CurrentProtocols in Immunology),第2章,ユニット2.5,2006年を参照)または組み換え抗体工学(レパートリークローニングまたはファージディスプレイ/酵母ディスプレイ)の手段による(例えば、チャムズ(Chames)&ベイティ(Baty),FEMSマイクロバイオロジー・レターズ(FEMS Microbiology Letters)第189巻(2000年)p.1-8を参照)モノクローナル抗体の生成と、公知の分子クローニング技術を用いて二重特異性のまたは多重特異性のコンストラクトを与えるための2つ以上の異なるモノクローナル抗体の抗原結合ドメインもしくは断片またはそれらの部分の組み合わせとが関わる。
【0190】
本発明に用いられる多重特異性分子MA1およびMA2は、当分野において公知の方法を用いて構成要素の結合特異性をコンジュゲート化することによって調製され得る。例えば、二重特異性の分子の各結合特異性は別々に生成され、それから他方(単数または複数)にコンジュゲート化され得る。結合特異性が蛋白質またはペプチドであるときには、種々のカップリングまたは架橋剤が、共有結合的なコンジュゲート化のために用いられ得る。架橋剤の例は、プロテインA、カルボジイミド、N-スクシンイミジル-5-アセチル-チオアセテート(SATA)、5,5’-ジチオビス(2ニトロ安息香酸)(DTNB)、o-フェニレンジマレイミド(oPDM)、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、およびスルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン(cyclohaxane)-l-カルボキシレート(スルホ-SMCC)を包含する(例えば、カルポフスキー(Karpovsky)ら,1984年,ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(Journalof Experimental Medicine),第160巻:p.1686;リウ(Liu),MAら,1985年,米国科学アカデミー紀要,第82巻:p.8648を参照)。他の方法は、パウルス(Paulus),1985年,ベーリング研究所報告(Behring InstituteMitteilungen),No.78,p.118-132;ブレナン(Brennan)ら,1985年,サイエンス(Science),第229巻:p.81-83)、およびグレニー(Glennie)ら,1987年,ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology),第139巻:p.2367-2375)に記載されているものを包含する。コンジュゲート化剤はSATAおよびスルホ-SMCCであり、両方ともピアースケミカル(Pierce Chemical)Co.(ロックフォード、111)から利用可能である。
【0191】
結合特異性が抗体であるときに、それらは2つの重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合によってコンジュゲート化され得る。具体的な実施形態において、コンジュゲート化に先立って、ヒンジ領域は奇数のスルフヒドリル残基、例えば1つを含有するように改変される。
【0192】
代替的には、2つ以上の結合特異性は、同じベクター上にコードされ、ならびに同じホスト細胞によって発現およびアセンブリされ得る。この方法は、二重特異性の分子がmAb×mAb、mAb×Fab、Fab×F(ab’)2、またはリガンド×Fab融合蛋白質であるところにおいて特に有用である。本発明に用いられる多重特異性抗体は、少なくとも2つの結合決定基を含む一本鎖多重特異性抗体であり得る。本発明に用いられる多重特異性抗体は前記の一本鎖分子の少なくとも2つをもまた含み得る。多重特異性抗体および分子を調製するための方法は例えばU.S.Pat.No.5,260,203;U.S.Pat.No.5,455,030;U.S.Pat.No.4,881,175;U.S.Pat.No.5,132,405;U.S.Pat.No.5,091,513;U.S.Pat.No.5,476,786;U.S.Pat.No.5,013,653;U.S.Pat.No.5,258,498;およびU.S.Pat.No.5,482,858に記載されている。
【0193】
それらの特異的標的に対する多重特異性抗体の結合は、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(REA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば、成長阻害)、またはウエスタンブロットアッセイによって確認され得る。これらのアッセイのそれぞれは、一般的に、目当ての複合体に特異的な標識された試薬(例えば抗体)を使用することによって、具体的な目当ての蛋白質-抗体複合体の存在を検出する。
【0194】
好適には、医薬組成物はさらに薬学的に許容される担体を含む。
【0195】
「薬学的に許容される担体」は、抗体の構造に干渉しない媒体または希釈剤を意味する。薬学的に許容される担体は、組成物を増強もしくは安定化するか、または組成物の調製を容易化する。かかる担体(carries)の特定のものは、医薬組成物が、例えば、対象による経口摂取のための錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、およびロゼンジとして製剤されることを可能化する。かかる担体の特定のものは、医薬組成物が注射、輸液、または外用投与のために製剤されることを可能化する。例えば、薬学的に許容される担体は無菌水溶液であり得る。
【0196】
薬学的に許容される担体は、生理学的に適合性である溶媒、緩衝溶液、分散媒体、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤、ならびに同類を包含するが、これらに限定されない。
【0197】
本発明の医薬組成物は、当分野において周知のかつ日常的に実施される方法に従って調製され得る。例えば、「レミントン:薬学の科学と実践(Remington:The Science and Practice ofPharmacy)」,マック出版Co.,第20版,2000年;および「徐放およびコントロールドリリース薬物送達系(Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems)」,J.R.ロビンソン(Robinson)編,マルセル・デッカー(Marcel Dekker)Inc.,ニューヨーク,1978年を参照。医薬組成物は好ましくはGMP条件において製造される。典型的には、治療上有効な用量または効力がある用量の多重特異性抗体MA1およびMA2が本発明の医薬組成物に使用される。多重特異性抗体MA1およびMA2は当業者に公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤される。薬量のレジメンは最適な所望の応答(例えば、治療応答)を提供するように調整される。例えば、シングルボーラスが投与され得るか、いくつかの分割された用量が経時的に投与され得るか、または用量は治療状況の緊急によって指示される通り相応に縮減もしくは増大させられ得る。投与の容易さおよび薬量の一様性のためには、非経口組成物をユニット剤形で製剤することがとりわけ有利である。本明細書において用いられるユニット剤形は、処置されるべき対象のためのまとまった薬量として適した物理的に分かれたユニットを言う;各ユニットは、所望の治療効果を産生するように計算された所定の数量の活性化合物を、要求される医薬担体と共に含有する。
【0198】
医薬組成物またはキット中の活性成分の実際の薬量レベルは、患者にとって毒性であることなしに、具体的な患者、組成物、および投与モードについて所望の治療応答を達成するために有効である量の活性成分を得るように変えられ得る。選択される薬量レベルは、使用される本発明に用いられる具体的な組成物またはそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与の経路、投与の時間、使用されようとする具体的な化合物の排泄速度、処置の持続時間、使用される具体的な組成物との組み合わせで用いられる他の薬物、化合物、および/または材料、処置されようとする患者の年齢、性別、体重、状態、全般的健康、および医学的既往、ならびに同類の因子を包含する種々の薬物動態学的因子に依存する。
【0199】
本発明の医薬組成物またはキットは、当分野において公知の種々の方法によって投与され得る。キットの多重特異性抗体コンポーネントを投与するケースにおいて、投与は同時的にまたは逐次的にされ得る。逐次投与のケースにおいて、多重特異性抗体コンポーネントは、個々に調整された投与スキームおよびレジメンに基づいて投与され得る。投与の経路および/またはモードは所望の結果に依存して様々である。投与は静脈内、筋肉内、腹腔内、もしくは皮下である得るか、または標的の部位の近位に投与され得る。薬学的に許容される担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、または表皮投与にとって好適であるべきである(例えば注射または輸液による)。投与の経路に依存して、本発明の医薬組成物において適用される活性化合物、すなわち多重特異性抗体MA1およびMA2は、化合物を不活性化し得る酸の作用および他の天然条件から化合物を保護するための材料によってコーティングされ得る。
【0200】
本発明の医薬組成物またはキットは通常は複数の機会に投与される。一回の薬量間の間隔は毎週、毎月、または毎年であり得る。間隔は、患者における多重特異性抗体の血中レベルを測定することによって指示される通りに不定期でもまたあり得る。代替的には、本発明の医薬組成物は徐放製剤として投与され得、このケースにおいては、より高頻度でない投与が要求される。薬量および頻度は患者における抗体MA1およびMA2の半減期に依存して様々である。一般的に、ヒト化抗体はキメラ抗体および非ヒト抗体よりも長い半減期を示す。投与の薬量および頻度は、処置が予防的または治療的であるかどうかに依存して様々であり得る。予防的な適用では、比較的低い薬量が比較的低頻度の間隔で長期間に渡って投与される。いくつかの患者はそれらの一生の残りに渡って処置を受け続ける。治療的な適用では、疾患の進行が縮減または中止されるまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的なまたは完全な寛解を示すまで、場合によっては、比較的高い薬量が比較的短い間隔で要求される。その後に、患者は予防的なレジメンを投与され得る。
【0201】
1つの態様において、本発明は医薬としての使用のための本発明の医薬組成物またはキットに関する。好適な実施形態において、本発明は、その必要がある対象における増殖性疾患、具体的には癌の処置における使用のための医薬組成物またはキットを提供する。
【0202】
別の態様において、本発明は、増殖性疾患、具体的には癌の処置のための医薬の製造における使用のための医薬組成物を提供する。
【0203】
別の態様において、本発明は、その必要がある対象の増殖性疾患、具体的には癌を処置するための医薬組成物またはキットの使用に関する。
【0204】
別の態様において、本発明は、対象を処置する方法に関し、対象に治療上有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。好適な実施形態において、本発明は、対象の増殖性疾患、具体的には癌を処置する方法に関し、対象に治療上有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。
【0205】
尚も別の態様において、本発明は、増殖性疾患、具体的には癌を患う対象を処置するための方法に関し、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む第1の多重特異性抗体(MA1)、および腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む第2の多重特異性抗体(MA2)を前記の対象に投与するステップを含み、前記の多重特異性抗体MA1およびMA2は本明細書において定義される通りである。
【0206】
別の態様において、本発明は、(i)増殖性疾患、具体的には癌を患う対象の処置における使用のための、CD137に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL1-BD)とを含む多重特異性抗体MA1に関し、前記の多重特異性抗体MA1は、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む第2の多重特異性抗体MA2との組み合わせで前記の対象に投与されるか、または(ii)増殖性疾患、具体的には癌を患う対象の処置における使用のための、腫瘍細胞関連抗原に特異的に結合する1つの結合ドメイン(TAA-BD)とCD3に特異的に結合する1つの結合ドメイン(CD3-BD)とを含む多重特異性抗体MA2に関し、前記の多重特異性抗体MA2は、CD137に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン(CD137-BD)とPDL1に特異的に結合する1つの結合ドメイン(PDL-BD)とを含む第2の多重特異性抗体MA1との組み合わせで前記の対象に投与され;前記の多重特異性抗体MA1およびMA2は本明細書において定義される通りである。
【0207】
用語「対象」はヒトおよび非ヒト動物を包含する。
【0208】
用語「動物」は、全ての脊椎動物、例えば、非ヒト哺乳動物および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、羊、犬、牛、鶏、両生類、および爬虫類を包含する。注記されるときを例外として、用語「患者」または「対象」は本明細書においては交換可能に用いられる。
【0209】
本明細書において用いられる用語「処置」、「処置すること」、「処置する」、「処置される」、および同類は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを言う。効果は、疾患および/もしくは疾患に帰せられ得る有害な効果の部分的なもしくは完全な治癒、または疾患進行を遅延させることの点から、治療的であり得る。本明細書において用いられる「処置」は、哺乳動物、例えばヒトにおける疾患のいずれかの処置をカバーし:(a)疾患を阻害すること、すなわちその発生を停止させること;および(b)疾患を和らげること、すなわち疾患の退縮を引き起こすことを包含する。
【0210】
用語「治療上有効量」または「効力がある量」は、疾患を処置するために哺乳動物または他の対象に投与されるときに、疾患のためのかかる処置に影響するために十分である薬剤の量を言う。「治療上有効量」は、薬剤、疾患およびその重症度、ならびに処置されるべき対象の年齢、体重などに依存して様々であろう。
【0211】
1つの実施形態において、増殖性疾患は癌である。用語「癌」は、異常な細胞の急速なかつコントロールされない成長を特徴とする疾患を言う。癌細胞は局所的にまたは血流およびリンパ系から体の他の部分に進展し得る。用語「腫瘍」および「癌」は本明細書においては交換可能に用いられ、例えば、両方の用語は固形および液性、例えばびまん性のまたは循環性の腫瘍を包摂する。本明細書において用いられる用語「癌」または「腫瘍」は、前癌性および悪性の癌および腫瘍を包含する。用語「癌」は、全ての固形および血液悪性物を包含する幅広い範囲の腫瘍を意味するために本明細書において用いられる。かかる腫瘍の例は以下を包含するが、これらに限定されない:良性のまたはとりわけ悪性の腫瘍、固形腫瘍、中皮腫、脳腫瘍、腎臓癌、肝臓癌、副腎癌、膀胱癌、乳癌、胃癌(例えば、胃の腫瘍)、食道癌、卵巣癌、子宮頚癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、膵臓癌、肺癌(例えば非小細胞肺癌および小細胞肺癌)、膣癌、甲状腺癌、メラノーマ(例えば、切除不能または転移メラノーマ)、腎細胞癌、肉腫、膠芽腫、多発性骨髄腫、または消化管癌、とりわけ結腸癌腫または大腸腺腫、頭頸部の腫瘍、子宮内膜癌、カウデン症候群、レルミット・ダクロス病、バナヤン・ゾナナ症候群、前立腺肥大、とりわけ上皮性の新生物、好ましくは乳腺癌または有棘細胞癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(例えば、フィラデルフィア染色体陽性の慢性骨髄性白血病)、急性リンパ芽球性白血病(例えば、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病)、非ホジキンリンパ腫、形質細胞骨髄腫、ホジキンリンパ腫、白血病、およびそれらのいずれかの組み合わせ。好ましい実施形態において、癌は、メラノーマ、中皮腫、膵臓癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および肺癌から選択される癌である。
【0212】
本発明の医薬組成物またはキットは、固形腫瘍および液性腫瘍の成長をもまた阻害する。さらなる実施形態において、増殖性疾患は固形腫瘍である。用語「固形腫瘍」は、とりわけ、中皮腫、乳癌、卵巣癌、結腸癌、直腸癌、前立腺癌、胃(stomach)癌(とりわけ胃(gastric)癌)、子宮頚癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌および小細胞肺癌)、膵臓癌、および頭頸部の腫瘍を意味する。さらに、腫瘍の型および用いられる具体的な組み合わせに依存して、腫瘍体積の減少が得られ得る。本発明の医薬組成物またはキットは、癌を有する対象における腫瘍の転移進展および微小転移の成長または発生を妨げるためにもまた適する。
配列表(別様に規定されない限り、変異はAHo付番スキームに従って名付けられ;CDRはNumabのCDR定義に従って定義される)
【0213】
【表1-a】
【表1-b】
【表1-c】
【表1-d】
【表1-e】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【表5-a】
【表5-b】
【表5-c】
【表5-d】
【表5-e】
【表5-f】
【表5-g】
【表5-h】
【表5-i】
【表5-j】
【表5-k】
【表5-l】
【0218】
【0219】
【0220】
【表8-a】
【表8-b】
【表8-c】
【表8-d】
【0221】
【0222】
【0223】
【表11-a】
【表11-b】
【表11-c】
【表11-d】
【表11-e】
【表11-f】
【表11-g】
【表11-h】
【0224】
本願の文中において、明細書の文(例えば、表1から11)および配列表の間に矛盾がある場合には、明細書の文が優先される。
【0225】
明瞭性のために別々の実施形態の文脈において記載される本発明の具体的な特徴は、組み合わせで単一の実施形態としてもまた提供され得るということは了解される。反対に、簡潔のために単一の実施形態の文脈において記載される本発明の種々の特徴は、別々にまたはいずれかの好適なサブコンビネーションとしてもまた提供され得る。本発明に関係する実施形態の全ての組み合わせは、本発明によって具体的に包摂され、どの組み合わせもそれぞれが個々にかつ明示的に開示される場合のように本明細書において開示される。加えて、種々の実施形態およびそれらの要素の全てのサブコンビネーションもまた本発明によって具体的に包摂され、どのかかるサブコンビネーションもそれぞれが個々にかつ明示的に本明細書において開示される場合のように本明細書において開示される。
【0226】
本発明は本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲を限定されるべきではない。実に、本明細書に記載されるものに加えて、本発明の種々の改変は前述の記載から当業者に明らかになるであろう。かかる改変は添付の請求項の範囲内に収まることが意図される。
【0227】
それぞれの特許法の下で可能な程度まで、本明細書において引用される全ての特許、出願、公開、試験方法、文献、および他の材料は参照によってここに組み込まれる。
【0228】
次の実施例は上で記載された本発明を例証するが、しかしながら、本発明の範囲を限定することは決して意図されない。当業者にそのものが公知の他の試験モデルもまた、請求される発明の有益な効果を決定し得る。
【実施例】
【0229】
例1:CD137を発現するトランスジェニックNF-kBジャーカットレポーター細胞株の細胞に基づくアッセイを用いることによる、抗PDL1×CD137分子(MA1)のCD137アゴニスト効果の評価:
ジャーカット細胞においてCD137シグナル伝達を活性化する二重特異性のscDbに基づく抗体PRO885、PRO951、PRO1123、PRO1124、PRO1125、PRO1126、PRO1134、および三重特異性のscDb-scFvに基づく抗体PRO963、PRO966、PRO1057、PRO1058、PRO1175、PRO1186、PRO1430、PRO1479、PRO1482、PRO1431、PRO1432、PRO1473、PRO1476、PRO1480、PRO1481、PRO1480diS、PRO1599、RPO1600、RPO1601の能力が、CD137を発現するトランスジェニックNF-kBジャーカットレポーター細胞株の細胞に基づくアッセイを用いることによって評価された。測定は、PDL1発現CHO(クローンA2)およびHCC827細胞の存在下において、ならびに負のコントロールとしてPDL1発現なしのCHO-WT細胞の存在下において行われた。
測定は、二重特異性のscDbに基づく抗体および三重特異性のscDb-scFvに基づく抗体が、PDL1発現CHO細胞の存在下においてウレルマブよりも効率的なCD137シグナル伝達を活性化するということを実証した。PDL1の非存在下では、これらの抗体のどちらもレポーター細胞においてCD137を活性化し得なかったが、ウレルマブはPDL1とは独立してCD137シグナル伝達の活性化を示した。より低い量のPDL1を発現する細胞の存在下において評価が反復されたときには、同じ結果が得られ得た。
【0230】
本発明において適用される多重特異性抗体MA1およびそれに含まれる結合ドメインについてのさらなる情報および詳細、例えば:
- それらの全般的な記載、
- それらの製造、
- それらの生物物理学的キャラクタリゼーション、例えば安定性研究およびモノマー含量の評価、または
- ヒト細胞株由来肺癌ゼノグラフトモデルHCC827におけるそれらの抗腫瘍効力の評価を包含するそれらの完全な機能的キャラクタリゼーション、
は、その全体が参照によってここに組み込まれる特許出願WO2019/072868、具体的には上で言及された追加の情報に詳細に開示されている。
例2:例示的な抗MSLN多重特異性抗体MA2の生成、薬力学的キャラクタリゼーション、および機能的キャラクタリゼーション:
【0231】
例示的な抗MSLN多重特異性抗体PRO1872、PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、PRO2741、およびPRO2746の生成、薬力学的キャラクタリゼーション、および機能的キャラクタリゼーションは、未公開の特許出願EP20164913.4(PRO1872)およびPCT/EP2021/064427(PRO2000、PRO2100、PRO2562、PRO2566、PRO2567、PRO2660、PRO2741、およびPRO2746)に詳細に開示されている。これらは参照によってここに組み込まれる。その上、PCT/EP2021/064427に開示されている細胞傷害性アッセイ(T細胞によって駆動される標的細胞枯渇化)データは、例えば、2つの低親和性MSLN-BDと1つのCD3-BDとを含む二価の抗MSLN抗体PRO2000およびPRO2100(例えばbiMSLN
高KD×CD3×hSA)が、アビディティ効果を利することによって抗原密度依存的な様式で標的細胞を殺すことができるということを実証している。一価抗MSLN抗体PRO1872(MSLN
低KD×CD3×hSA)はこれをし得なかった(
図3)。さらにその上、データは、例えば、T細胞によって駆動される標的細胞の殺細胞を開始するPRO2000およびPRO2100の力価が、500ng/mlの可溶性MSLN(sMSLN)の存在下においてあまり影響されず、すなわち17倍のみ減少するということを実証している(
図4)。
例3:例示的な抗HER2多重特異性抗体MA2の生成、生物物理学的キャラクタリゼーション:
【0232】
例示的な抗HER2多重特異性抗体PRO1766およびPRO1767に用いられるHER2-BDは、トラスツズマブの抗HER2-BDのVHおよびVLCDR配列に基づき、VL配列のFW4は配列番号95のVλの生殖細胞系列に基づくFR4によって置き換えられた(AHo付番)。さらにその上、scFvコンストラクトを生成するために、リンカー配列が前記のVHおよびVLドメインの間に導入された。加えて、VH配列の位置51およびVL配列のVλ-FR4の位置141のグリシン残基(AHo付番)がシステインによって置き換えられて、最終的なscFvフォーマットにおける内部のジスルフィド橋かけの形成を許した。最後に、このトラスツズマブに基づくHER2scFvが、CD3-BD(28-21-D09-sc04またはジスルフィド安定化バリアント28-21-D09-sc04-diS)とhSA-BD(19-01-H04-sc03)とを含むscDBと、さらなるリンカーによって組み合わせられて、scMATCH3フォーマットを生成した。最終的な抗(HER2×CD3diS×hSA)scMATCH3分子PRO1766およびPRO1767の配列は表11に挙げられている。
【0233】
MATCHはNumabによって発明されたフォーマットであり、これは、専ら、マッチするドメインペアの特異的なペア形成のみを許す異なるリンカーによって接続された可変ドメインからなる(イーガン(Egan)TJら,「可変ドメイン断片のモジュラーアセンブリを許す新規の多重特異性のヘテロ二量体抗体フォーマット(Novel multi-specific heterodimeric antibodyformat allowing modular assembly of variable domain fragments)」,MAbs,2016年Oct27:0.[http://dx.doi.org/10.1080/19420862.2016.1248012])。このフォーマットは、具体的には、最適な協働性のための抗原結合ドメインの異なる組み合わせの便利なスクリーニングに良好に適する。MATCH、例えばscMATCH3およびMATCH4は、哺乳類細胞から組み換え発現され得る。精製のためには、従来のアフィニティクロマトグラフィーステップが用いられ得る。
【0234】
抗(HER2×CD3diS×hSA)scMATCH3分子PRO1766およびPRO1767が、例えば未公開の特許出願EP20164913.4に記載されている標準的な蛋白質産生方法を用いて哺乳類細胞から産生された。
【0235】
PRO1766および具体的にはPRO1767は、150mMのNaClを有するpH6.4の50mMリン酸-クエン酸緩衝液によって10mg/mlの濃度で製剤されるときに、DSFによって決定される55℃よりも上の高いアンフォールディング遷移中点(Tm)を見せ、実質的に蛋白質含量およびモノマー含量の損失なしで、4℃および25℃における4週の保存後の優良な安定性をもまた示した。
例4:PRO2000(biMSLN
高KD
×CD3×hSA)によるインビボ腫瘍成長阻害:
序
【0236】
コントロール動物に対して相対的に腫瘍成長を有効にコントロールするPRO2000(biMSLN高KD×CD3×hSA)の能力を決定するために、インビボのメソテリン発現細胞株ゼノグラフト実験がチャールズ・リバー・ラボラトリーズにおいて行われた。
方法
動物
【0237】
チャールズ・リバー・ラボラトリーズからの雌NCGマウスがヒト化マウス作業に好適な条件で飼育された。動物は8~12週齢の間で用いられた。
研究のデザイン
【0238】
処置群の動物(群あたりn=5~6)は、1×107のH292NSCLC腫瘍細胞および1×107のPBMCを脇腹に皮下に共移植された。5日後に、動物は目当ての分子を静脈内投薬され、実験の終わりまで5日毎に追加の投与を有した。実験の間に、動物は定期的な間隔でキャリパー測定を用いて腫瘍成長についておよび体重低下についてモニタリングされた。動物は、コントロール群の平均腫瘍体積が800mm3であるときにまたは40日にどちらか、最初に来るどちらかで安楽死させられた。動物はチャールズ・リバー・ラボラトリーズの動物健康福祉規則に従ってモニタリングおよび安楽死させられた。
結果
【0239】
我々は、方法に記載されている通りPBMC/H292共移植モデルを用いて、腫瘍成長阻害を促進することにおけるPRO2000(biMSLN
高KD×CD3×hSA)の効力を評価した。H292細胞は中等度のレベルのMSLNを発現し、非小細胞肺癌腫から樹立される。PRO2000の複数の投与レベルが
図5に示される通り静脈内投与された。比較として、我々は、コントロールIgG処置としてのパリビズマブ(抗RSV抗体)、およびPBMCの非存在下においてグラフトされた腫瘍細胞(処置なし)を用いた。我々はコントロール条件が腫瘍の伸長をもたらすということを観察した(明灰色線、
図5A)。PRO2000(biMSLN
高KD×CD3×hSA)分子による処置は、コントロールに対して相対的に1および5mg/kgにおいて腫瘍成長阻害をもたらした(
図5Aのそれぞれ黒色線および暗灰色線)。我々は処置の有意性を二元配置ANOVA、次にテューキーの多重比較検定を用いて調べた;第40日のデータが
図5Bに示され、各点は個々の動物を表す。2つのより高い用量(1mg/kgおよび5mg/kg)は、パリビズマブ処置された動物(ctrl)および無処置の動物に対して相対的に有意に低い腫瘍体積をもたらした。これらの比較はパリビズマブ処置された動物と比較して有意でなかったので、最も低い用量(0.2mg/kg)は準最適であるように見えた。動物の体重は実験の間に比較的安定であったので、総体的な動物の健康に対する有害な効果はないように見えた(データは示さない)。一緒にすると、これらのデータは、多重特異性抗体PRO2000(biMSLN
高KD×CD3×hSA)がインビボの腫瘍成長阻害活性を有し、本発明の医薬組成物またはキットのための好適なMA2であるということを指示している。
例5:インビボ組み合わせ研究:単独またはメソテリン標的化分子との組み合わせでのPRO1601の効果を比較する:
実験の説明
【0240】
コントロール動物に対して相対的に腫瘍成長を有効にコントロールするPRO1601(抗PDL1×CD137×hSA)、PRO1872(抗MSLN×CD3×hSA)、およびPRO1872とのPRO1601の組み合わせの能力を決定するために、インビボのメソテリン発現細胞株ゼノグラフト実験がチャールズ・リバー・ラボラトリーズにおいて行われた。
方法
動物
【0241】
チャールズ・リバー・ラボラトリーズからの雌NCGマウスがヒト化マウス作業に好適な条件で飼育された。動物は8~12週齢の間で用いられた。
研究のデザイン
【0242】
処置群の動物(群あたりn=7~8)は1×107H292NSCLC腫瘍細胞および1×107PBMCを脇腹に皮下に共移植された。5日後に、動物は目当ての分子を静脈内投薬され、実験の終わりまで5日毎に追加の投与を有した。実験の間に、動物は定期的な間隔でキャリパー測定を用いて腫瘍成長についておよび体重低下についてモニタリングされた。動物は、コントロール群の平均腫瘍体積が1000mm3であるときにまたは50日にどちらか、最初に来るどちらかで安楽死させられた。動物はチャールズ・リバー・ラボラトリーズの動物健康福祉規則に従ってモニタリングおよび安楽死させられた。
データ分析
【0243】
データ分析はグラフパッドプリズムを用いて行われた。群は二元配置ANOVAおよびテューキーの多重比較事後検定を用いて比較された。p<0.05の値は統計的に有意と考えられた。*はp<0.05を指示する。
結果および考察
【0244】
我々は、方法に記載されている通りPBMC/H292共移植モデルを用いて、腫瘍成長阻害を促進することにおける4-1BB(CD137)およびPDL1標的化分子PRO1601ならびにMSLNおよびCD3特異的な多重特異性分子PRO1872の効力を評価した。H292細胞は中等度のレベルのMSLNを発現し、非小細胞肺癌腫から樹立される。この細胞株は中程度のレベルのPDL1であって、それをPRO1601の潜在的標的にもする。PRO1601(1mg/kg)およびPRO1872(0.2mg/kgまたは1mg/kg)ならびに2つの分子の組み合わせが、
図6Aに示される通り静脈内投与された。比較として、我々はパリビズマブ(抗RSV抗体)をコントロールIgG処置として用いた。
【0245】
我々はコントロール条件が腫瘍の伸長をもたらすということを観察した(三角形付きの並の灰色線、
図6A)。PRO1601分子による処置は、
図6Bに示される通り、パリビズマブに対して相対的に複数の時点における有意な腫瘍成長阻害をもたらした(菱形付きの暗灰色線vs.三角形付きの並の灰色線)。PRO1601+PRO1872の組み合わせによる処置は、実験の終わりまでにPRO1601単独に対して相対的に有意な腫瘍成長阻害をもたらした(黒色線vs.菱形付きの暗灰色線、
図6A)。0.2mg/kgのPRO1872単独による処置(丸付きの明灰色破線)は、第28日にPRO1601+PRO1872と比較して有意に不良な腫瘍成長阻害をもたらした(両方の投与、黒色線、p<0.001)。
【0246】
動物の体重は実験の間に比較的安定であったので、処置に関連する総体的な動物の健康に対する有害な効果はないように見えた(データは示さない)。一緒にすると、これらのデータは、インビボの腫瘍成長活性を阻害するためにPRO1601およびPRO1872を用いる組み合わせ治療の有望さを指示し、癌免疫療法の有望なコンセプトの候補である。
例6:PRO2746およびPRO1601の組み合わせによるインビボ腫瘍成長阻害
序
【0247】
個々の分子単独およびコントロールの動物に対して相対的に、組み合わせで腫瘍成長を有効にコントロールするPRO1601(4-1BB×PDL-1×hSA)およびPRO2746(biMSLN×CD3×hSA)の能力を決定するために、インビボのメソテリン発現細胞株ヒトゼノグラフト実験がチャールズ・リバー・ラボラトリーズにおいて行われた。
方法
動物
【0248】
チャールズ・リバー・ラボラトリーズからの雌NCGマウスがヒト化マウス作業に好適な条件で飼育された。動物は8~12週齢の間で用いられた。
研究のデザイン
【0249】
処置群の動物(群あたりn=8)は、1×107HPAC腫瘍細胞および2.5×106PBMCを脇腹に皮下に共移植された。5日後に、動物は目当ての分子を静脈内投薬され、実験の終わりまで5日毎に追加の投与を有した。実験の間に、動物は定期的な間隔でキャリパー測定を用いて腫瘍成長についておよび体重低下についてモニタリングされた。動物は、コントロール群の平均腫瘍体積が1500mm3であるときにまたは40日にどちらか、最初に来るどちらかで安楽死させられた。動物はチャールズ・リバー・ラボラトリーズの動物健康福祉規則に従ってモニタリングおよび安楽死させられた。
結果
【0250】
我々は、方法に記載されている通りPBMC/HPAC共移植モデルを用いて、腫瘍成長阻害を促進することにおけるPRO1601(4-1BB×PDL-1×hSA)およびPRO2746(biMSLN×CD3×hSA)の組み合わせの効力を評価した。HPAC細胞は中程度から高いレベルのMSLNを発現し、膵腺癌から樹立される。PRO2746(biMSLN×CD3×hSA)の複数の投与レベルが、
図7に示される通りPRO1601ありまたはなしで静脈内投与された。我々はパリビズマブ(抗RSV抗体)を負のコントロールのIgG処置として用いた。我々はコントロール条件が経時的な腫瘍の伸長をもたらすということを観察した(逆三角形、暗灰色の線、
図7A)。1mg/kgのPRO2746によって処置するときには腫瘍退縮が観察され(灰色丸)、腫瘍成長はPRO2746の減少して行く用量ではより良好でなくコントロールされた(破線)。1mg/kgのPRO1601処置単独は腫瘍成長阻害をもたらさず、腫瘍はコントロール条件に類似に成長した。1mg/kgのPRO1601との0.2mg/kgの準最適用量のPRO2746の組み合わせは、その用量のPRO2746単独(暗灰色正方形、破線)に対して相対的に腫瘍退縮をもたらし(暗灰色正方形、実線)、有意に改善された腫瘍成長阻害が、処置単独(三角形、破線)と比較して、0.04mg/kgのPRO2746および1mg/kgのPRO1601の組み合わせで観察された(三角形、実線)。実験の終わりのデータが
図7Bに示されている。各個々の点は1匹の動物を表す。
図7Cおよび7Dは各群の個々の動物について縦断的傾向を示す。処置単独どちらかと比較して、0.2mg/kgのPRO2746および1mg/kgのPRO1601の組み合わせでは、腫瘍成長退縮が動物間で一様に観察された。動物の体重は実験の間に比較的安定であり、減少しなかったので、総体的な動物の健康に対する有害な効果はないように見えた(データは示さない)。
【0251】
一緒にすると、これらのデータは、準最適用量の多重特異性抗体PRO2746(biMSLN×CD3×hSA)が、PRO1601との組み合わせで、PRO2746単独と比較して高度に改善されたインビボの腫瘍成長阻害活性を有するということを指示している。PRO2746によるT細胞および腫瘍細胞の当初の係合は、蓋然的には、PRO1601の作用によってさらに係合され、より効率的な腫瘍細胞の殺細胞を媒介し得るT細胞をもたらすと思われる。これらのデータは、これが癌免疫療法のための有望なコンセプトであるということを指示している。
例7:PRO2668およびPRO1601の組み合わせによるインビトロ細胞リシス
序
【0252】
個々の分子単独および処置なしのコントロールに対して相対的に、組み合わせで細胞を有効にリシスするPRO1601(4-1BB×PDL-1×hSA)およびPRO2668(ROR1×CD3×hSA)の能力を決定するために、インビトロのROR1発現細胞株リアルタイム生細胞イメージング実験が行われた。
方法
研究のデザイン
【0253】
ROR1発現乳癌細胞株MDA-MB-231が、健康な同種他家T細胞と5:1のエフェクター対標的比で、0.4nMのNM21-1480もしくは0.4nMのNM32-2668どちらか、またはそれらの組み合わせの存在下において共培養された。ウェルは定期的な間隔で実験の終わりまでイメージングされた。緑色の死んで行く細胞数が赤色の残りの標的細胞数によって除算された。曲線の下向きの傾きは細胞成長を指示する。
結果
【0254】
図8に示される通り、コンストラクトなしコントロール(明灰色)は残りの標的細胞に対して相対的に死んで行く細胞の欠如を実証し、NM21-1480の追加では、類似の傾向が観察された。0.4nMのNM32-2668という準最適濃度が先の実験から決定された。コントロールまたは0.4nMのNM21-1480よりも多くの死んで行く細胞をもたらした0.4nMのNM32-2668単独(最暗灰色)と比較して、NM23-2668-NM21-1480の組み合わせは、全ての条件の残りの標的細胞に対して相対的に最も大きい程度の死んで行く細胞をもたらした。これらのデータは、NM21-1480などの補助刺激分子と一緒のT細胞エンゲージャーの組み合わせが、改善された細胞リシスをもたらすということを指示している。
例8:例示的な抗ROR1多重特異性抗体MA2の生成、薬力学的キャラクタリゼーション、および機能的キャラクタリゼーション:
【0255】
例示的な抗ROR1多重特異性抗体PRO2510およびPRO2590の生成、薬力学的キャラクタリゼーション、および機能的キャラクタリゼーションは、参照によってここに組み込まれる未公開の特許出願EP21154786.4に詳細に開示されている。
【配列表】
【国際調査報告】