(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】自己組織化ペプチドおよびアモルファスリン酸カルシウムを用いた歯の再石灰化および骨の再生の促進
(51)【国際特許分類】
A61K 8/24 20060101AFI20231026BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20231026BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231026BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20231026BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20231026BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20231026BHJP
A61K 6/75 20200101ALI20231026BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
A61K8/24
A61Q11/00
A61K8/04
A61K8/19
A61K8/64
A61K6/20
A61K6/60
A61K6/75
C07K7/06 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523258
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2021078902
(87)【国際公開番号】W WO2022084288
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515041284
【氏名又は名称】クレデンティス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Credentis AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】フーク,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】リューゼク,ドミニクス アマデウス
【テーマコード(参考)】
4C083
4C089
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AB281
4C083AB291
4C083AB471
4C083AD411
4C083CC41
4C083DD08
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD39
4C083DD41
4C083EE32
4C083EE33
4C089AA06
4C089BA16
4C089BE17
4C089CA03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、自己組織化ペプチドを用いた医療用の組織の石灰化、特に、すなわち歯の再石灰化および骨の再生の分野に関する。これらの過程における自己組織化ペプチドの使用、例えばオリゴペプチド-104とも呼ばれるP11-4の使用は、天然のエナメル質、象牙質および骨にも存在するヒドロキシアパタイトの生成をもたらす。本発明者らは、アモルファスリン酸カルシウム、またはカルシウムイオンおよびリン酸イオンであって、溶液中で混合された場合にただちにリン酸カルシウムの沈殿物、好ましくはアモルファス、すなわち非晶質リン酸カルシウムをもたらし得るカルシウムイオンおよびリン酸イオンを添加する事によって歯の再石灰化および骨の再生の両者が顕著に促進され得る事を見出した。しかし、自己組織化ペプチドの存在は沈殿したリン酸カルシウムの構造を変化させ、有利には結晶化を誘導し、相乗的に促進された結晶性リン酸カルシウムの形成、特にヒドロキシアパタイト(HA)の形成を誘導する。よって本発明は、自己組織化ペプチド、ならびに、カルシウムイオンおよびリン酸イオンであって、組成物が水の存在下で混合された場合にただちにリン酸カルシウム沈殿物、例えばアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン、またはリン酸カルシウム粒子であって、好ましくは少なくとも50%のAPCを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態であるリン酸カルシウム粒子、のいずれかを含むキットを提供する。本発明はまた、該キットの医療的使用、特に歯における使用であって、病変の再石灰化、小窩裂溝の石灰化、覆髄のための使用、および骨の再生のための使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含む自己組織化ペプチド、および
b)(i)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物、好ましくはアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンであり、ここで組成物は任意には溶液である、カルシウムイオンおよびリン酸イオン、または
(ii)リン酸カルシウム粒子、任意には、少なくとも50%のACPを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態である、リン酸カルシウム粒子、
を含む、キット。
【請求項2】
必要とする対象の少なくとも一領域における歯の再石灰化または骨の再生の誘導における使用のための、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
b)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物であるACPを形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンであり、ここで組成物は好ましくは溶液である、カルシウムイオンおよびリン酸イオン、を含む、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項4】
カルシウムイオンを含む溶液が0.01~0.5M、例えば、0.1~0.15Mの濃度でCa2
+を含む、ここで該溶液が好ましくはCaCl
2を含む、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
リン酸イオンを含む溶液が0.01~0.5M、例えば、0.1~0.15Mの濃度でリン酸イオンを含む、ここで該溶液が好ましくはNa
2HPO
4を含む、請求項3または4に記載のキット。
【請求項6】
自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む組成物の一部である、ここで該組成物が好ましくは溶液である、請求項3~5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
自己組織化ペプチドがリン酸イオンを含む組成物の一部である、ここで該組成物が好ましくは溶液である、請求項3~5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
フッ化物イオンをさらに含む、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
b)リン酸カルシウム粒子であって、好ましくは、少なくとも50%のACPを含む、任意には、ACPの水性懸濁液である、リン酸カルシウム粒子、
を含む、請求項1~2または8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
自己組織化ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列を含む、ここで該自己組織化ペプチドが任意には該アミノ酸配列からなる、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
自己組織化ペプチドが、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、またはキャンディーからなる群より選択される組成物で提供される、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
リン酸カルシウム粒子を含む組成物が、乾燥粉末、水性懸濁液、無水製品、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレットまたはキャンディーからなる群より選択される組成物として提供される、請求項1~2または8~11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
a)第1の部分において、自己組織化ペプチド、および
b)第2の部分であって、任意には第1の部分に取り囲まれる第2の部分において、リン酸イオンまたはリン酸カルシウム粒子を含む、
固体または半固体の組成物である、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
医療における使用のための、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
対象の歯内または歯上における再石灰化の誘導、好ましくは歯の病変の処置における使用のための、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
対象の骨における再生の誘導、好ましくは骨欠損であって任意には腫瘍または外傷に起因する骨欠損の処置、歯槽堤の補強または再建処置、歯周病欠損部の充填、歯根切除術後、歯根端切除術後、嚢胞切除術後の欠損部の充填、歯槽堤の維持の強化のための抜歯窩の充填、上顎洞底挙上術、歯周病欠損部の充填、インプラント周囲の欠損部の充填または整形外科的適応症への使用のための、前述の請求項のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化ペプチドを用いた医療用の組織の石灰化、特に、すなわち歯の再石灰化および骨の再生の分野に関する。これらの過程における自己組織化ペプチドの使用、例えばオリゴペプチド-104とも呼ばれるP11-4の使用は、天然のエナメル質、象牙質および骨にも存在するヒドロキシアパタイトの生成をもたらす。本発明者らは、アモルファスリン酸カルシウム、またはカルシウムイオンおよびリン酸イオンであって、溶液中で混合された場合にただちにリン酸カルシウムの沈殿物、好ましくはアモルファス、すなわち非晶質リン酸カルシウムをもたらし得るカルシウムイオンおよびリン酸イオンを添加する事によって歯の再石灰化および骨の再生の両者が顕著に促進され得る事を見出した。しかし、自己組織化ペプチドの存在は沈殿したリン酸カルシウムの構造を変化させ、有利には結晶化を誘導し、相乗的に促進された結晶性リン酸カルシウムの形成、特にヒドロキシアパタイト(HA)の形成を誘導する。よって本発明は、自己組織化ペプチド、ならびに、カルシウムイオンおよびリン酸イオンであって、組成物が水の存在下で混合された場合にただちにリン酸カルシウム沈殿物、例えばアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン、またはリン酸カルシウム粒子であって、好ましくは少なくとも50%のAPCを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態であるリン酸カルシウム粒子、のいずれかを含むキットを提供する。本発明はまた、該キットの医療的使用、特に、歯における病変の再石灰化、小窩裂溝(pits and fissures)の石灰化、歯の知覚過敏の処置、覆髄(pulp capping)のための使用、および骨の再生のための使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
虫歯は、齲蝕としても知られ、酸分泌細菌によって引き起こされる世界中で最も普遍的な疾患の1つである。虫歯は、細菌の代謝産物、主に細菌が表面または口内のバイオフィルムにおいて食品残渣または砂糖を分解する際に細菌が産生する酸による、歯の材料の破壊である。これは脱灰(demineralisation)および再石灰化(remineralisation)過程の間の均衡の破綻をもたらす。硬い歯の構造体、すなわちエナメル質、象牙質およびセメント質は、脱灰の進行により損傷を受け、その結果、齲蝕病変が起こり、最終的には齲窩が出現する。新しい齲蝕病変の最も早い徴候は歯の表面上にチョーク状の白い斑点、いわゆる白斑病変(初期齲蝕病変とも呼ばれる)、すなわち表面下病変が現れる事である。脱灰の進行につれて、病変の石灰化表面(部分)が崩れて壊れ、歯に微小空洞または空洞、穴が現れる。これは(部分的)空洞化齲蝕病変または齲窩と呼ばれる
【0003】
歯の病変、特に齲歯病変の古典的な処置は歯を削り詰め物をすることである。一旦齲蝕病変が空洞化し歯に穴が開いた場合、現在までに適用されてきた一般的な処置は侵襲的なものである。虫歯になった物質は通常、例えば歯科用ハンドピース(「ドリル」)を用いて除去される。あるいは、齲蝕部を除去するために、レーザー、歯科用スプーン、または化学機械システムが使用され得る。
【0004】
齲蝕エナメル質および/または象牙質の除去(すなわち掘削)後、欠損した歯の構造体は、シーラント、アマルガム、歯科用コンポジット、ポーセレンまたは金などの歯科用修復材を使用して歯科修復する必要がある。
【0005】
しかし、貴重な硬質組織を喪失させ、その後掘削した病変部を人体にとり異物である物質で充填する事に代えて、ヒドロキシアパタイトをベースとする天然の歯質を復元する事ができれば有利である。このようなシームレスな再石灰化によって、例えば、充填の周縁部や充填が不良の際にしばしば現れる二次的な齲蝕の発生を低減し得る。
【0006】
非空洞化齲蝕病変、すなわち表面下病変の処置について、再石灰化に基づく非侵襲的なアプローチが提案されている。例えば、古典的には、局所的なフッ化物の適用による再石灰化が試みられている。
【0007】
さらに、エナメルマトリクス誘導体(enamel matrix derivatives)または自己組織化ペプチドは、表面下齲蝕病変の再石灰化において有効である事が示されている(Ruan et al.,2013.Acta Biomater.9(7):7289~97;Ruan et al.,2014.J Vis Exp.10(89),doi 10.379151606;Schmidlin et al.,2016,J Appl Oral Sci.24(1),31~36;Alkilzy et al.,2018,Adv Dent Res.29(1),42~47;Brunton et al.,2013,Br Dent J,215:E6;Kind et al.,2017,J Dent Res.,96(7),790~797;Kirkham et al.,2007,J Dent Res.,86,426~430)。WO 2014/027012 A1には、齲蝕病変を再石灰化する事を目的とした、表面下の歯の病変への自己組織化ペプチドの標的化送達のための方法が記載されている。
【0008】
PCT/EP2020/069360は、空洞化齲蝕病変の予防および処置における自己組織化ペプチドを記載する。
【0009】
WO 2017/168183 A1には、歯科修復材、特にエナメル質の再建のための歯科修復材としての使用のための、および齲蝕などの歯科疾患の処置における使用のための、エラスチン様ペプチドに基づく生体模倣石灰化アパタイト構造体が記載されている。
【0010】
さらに、エナメル質の再石灰化および齲蝕または酸蝕症(tooth erosion)の予防および/または処置のための、カゼインベースの戦略が開発されている(例えば、WO 00/06108 A1およびWO 2010/042754 A2)。カゼインホスホペプチド・アモルファスリン酸カルシウム複合体(CPP-ACP)およびCPP安定化アモルファスフッ化リン酸カルシウム複合体は、例えばWO 02/094204 A1において、再石灰化用の歯科修復材としてグラスアイオノマーセメントとの組み合わせで記載されている。
【0011】
他のリン酸カルシウム粒子、例えば、アモルファスリン酸カルシウムを含むリン酸カルシウム粒子が脱灰したエナメル質の再石灰化のために使用されてきた(例えば、Weir et al.,2012,J Dent Res.91(10):979~984;Meyer et al.,2018.Open Dent J.12:406~423)。
【0012】
歯の修復のためのアメロゲニンベースの生体石灰化アプローチは、WO 2017/123986 A1,US 2014/0186273 A1およびUS 2017/0007737 A1において、歯の知覚過敏、歯のホワイトニングまたは漂白、および齲蝕の処置の文脈で記載されている。
【0013】
キメラペプチドにより誘導される、カルボキシメチルキトサン/アモルファスリン酸カルシウム粒子(CMC/ACP)のナノ粒子を用いた脱灰したエナメル質表面の再石灰化もまた試みられてきた。このために必要なキメラペプチドはかなり長く、および2つの機能的ドメインを含んでおり、ACPをヒドロキシアパタイトに変換するアメロゲニンペプチドおよびヒドロキシアパタイト表面に特異的に結合する事がわかっている1つのペプチドを含む。エナメル質様の構造体が形成され、ここでCMC/ACPナノ粒子がNaClOによって分解され、およびキメラペプチドによって秩序的且つ配向したアレイへと誘導される(Xiao et al.,2017.Dent.Mater.33(11):1217-1228)。
【0014】
自己組織化ペプチド、例えばWO 2004/007532 A2に記載のものもまた、表面下病変の再石灰化において非常に有効である事が示されている(例えば、Kirkham et al.,2007)、しかしながら、再石灰化はあまり速くなく、歯科X線上でまたは白斑病変の外観変化から可視化されるまでに数週間から数か月必要であるという問題が残る(Brunton 2013,Schlee 2017)。このため、自己組織化ペプチド単独では、組織化形態すなわちハイドロゲルであっても、ハイドロゲルが十分に再石灰化され且つ安定化する前に齲窩から除去されてしまう可能性が高いため、空洞化齲蝕病変の処置のために好適ではない。
【0015】
自己組織化ペプチドはまた、骨の再生においても有用であると考えられてきたが(例えば、WO 2004/007532 A2)、石灰化が遅いという同じ問題およびこの過程の間での量的安定性の欠如という潜在的な臨床的欠点がある。
【0016】
よって、最新の技術を鑑みて、本発明者らはこれらの問題の少なくともいくつかを克服するという問題に取り組み、有利なことには、迅速な歯の病変及び欠損の石灰化および/または骨の再生を提供するための組成物および方法を提供する。この問題は、本願、特に特許請求の範囲において開示される本発明によって解決される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの実施形態では、本発明は、
a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも70%の同一性、好ましくは80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む自己組織化ペプチド、および
b)(i)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物、好ましくはアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンであり、ここで組成物は好ましくは溶液であるカルシウムイオンおよびリン酸イオン、または
(ii)リン酸カルシウム粒子であって、好ましくは、少なくとも50%のACPを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態である、リン酸カルシウム粒子、
を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図面の詳細な説明
【
図1】
図1は実施例1の条件および結果をまとめた表である。n.a.:該当なし
【0019】
【
図2A】
図2は、実施例1の実験において形成された結晶、または結晶が形成されなかった場合には乾燥させた溶液のSEM画像を示す。A:HA(コントロール)B:ACP(コントロール)、C:CaNa、D:CaPaNa、E:CaPaNaF、F:アルファ、G:ベータ、H:ガンマ-1、I:ガンマ-2、J:デルタ。 a/b)特定の異なるスケール c)混合により形成された溶液の画像 d)該当する場合には、デジタル拡大鏡で観察した、形成された結晶の顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
自己組織化ペプチド
好ましくは、本発明において使用される自己組織化ペプチドは以下の表1に列記された配列から選択される配列を含むかまたはそれからなる。本発明において使用され得る自己組織化ペプチドは、典型的には中性のpHにおいて-2の正味電荷またはそれ以上の負の電荷、例えば-4の電荷を有し、好ましくは、電荷の間隔およびその特異的な配列と併せてそれらが特によくヒドロキシアパタイトに結合する事を可能にする-2の正味電荷を有する。
【表1】
【0021】
配列番号1、2、3、4または5のペプチドまたは当該配列を含むペプチドは特に本発明の自己組織化ペプチドの例である。既定の配列を有するペプチドは好ましくは20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下、または12、13または14アミノ酸を有する。合成が容易かつ安価であるため、より短いペプチドが好ましい。好ましくは、自己組織化ペプチドは配列番号1の配列を含むかまたはそれからなる。配列番号1の配列からなるペプチドはまた、P11-4またはオリゴペプチド-104と呼ばれ、および本発明を通して好ましい。例えば、P11-4は容易に取り扱う事ができ、例えば水に溶解させ得る。
【0022】
あるいは、本発明において使用される自己組織化ペプチドは、自己組織化ペプチドの混合物を含み、ここで当該自己組織化ペプチドの少なくとも1つは配列番号1に対して少なくとも70%、好ましくは80%の配列同一性を有する。
【0023】
特に有利な自己組織化ペプチドの組合せは以下である:
・P11-4およびP11-8。P11-4は-2の正味電荷を有する、すなわちこれはヒドロキシアパタイトに特によく結合する。P11-8およびP11-4の組合せはいずれかのペプチド単独に比べて顕著に低い濃度で自己組織化する。
・P11-13およびP11-14(配列番号6:QQOFOWOFOQQ)。P11-13は-6の正味電荷を持ち、同様にヒドロキシアパタイトによく結合する。P11-14は+4の正味電荷を有するが、電荷の合計は-2である。P11-13およびP11-14の組合せはいずれかのペプチド単独に比べて顕著に低い濃度で自己組織化する。
・P11-29およびP11-28(配列番号7:OQOFOWOFOQO)。P11-29は-4の正味電荷を持ち、同様にヒドロキシアパタイトに非常によく結合する。P11-29およびP11-28の組合せはいずれかのペプチド単独に比べて顕著に低い濃度で自己組織化する。
・P11-29およびP11-8。この組み合わせにおいて、またP11-29はヒドロキシアパタイトによく結合し、およびP11-8との組み合わせは自己組織化に必要な濃度を低下させる。
【0024】
自己組織化ペプチドはAc-N末端および/もしくはNH2-C末端、好ましくはその両方を含む修飾ペプチド、または非修飾ペプチドであり得る。非ブロック形態では脱アミノ反応が開始しやすいため、全ての自己組織化ペプチドの末端、例えば配列番号1の末端は安定性を向上するために好ましくはブロックされている。
【0025】
自己組織化ペプチドは、好ましくはヒトエンドペプチダーゼの制限部位を有さない。自己組織化ペプチドはまた、細胞のための特別な認識モチーフを含む必要もない。
【0026】
本発明のキットにおいて、自己組織化ペプチドは単量体形態、組織化形態またはその混合物であり得る。本発明の文脈において、採用される自己組織化ペプチドは低いpH、特に7.5より低いpHで自己組織化を起こし得て、例えばP11-4である。なお、自己組織化ペプチド(SAP)が7.5より低いpHで自己組織化を起こすとは、それらは7.5より低いpHで自己組織化が可能であることを意味する。イオン強度もまた選択された自己組織化ペプチドの組織化状態に影響する。好ましくは、本発明において使用される自己組織化ペプチドは、7.5より低いpH且つ少なくとも生理学的なイオン強度において自己組織化が可能である。高いイオン強度もまた自己組織化ペプチドの組織化を引き起こす((Maude 2011.Soft matter 7:8085~8098,Carrick 2008.Tetrahedron 63:7457-7467)。
【0027】
【0028】
所望により、機械的特性は自己組織化ペプチドの濃度、さらには組成物中に存在する分子種およびイオン種の影響を受け得る。本発明において採用される自己組織化ペプチドを含む組成物は、例えばNaClおよび/または他の塩、好ましくは可溶性塩のみ、および任意にはTrisなどの生物学的に好適な緩衝液を含み得る。
【0029】
1つの実施形態では、本発明のキットにおいて、自己組織化ペプチドは主に単量体形態であり、例えば、自己組織化ペプチドの内の少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%は、非組織化状態で存在し、例えば単量体の状態または低次凝集体の状態で存在する。この目的のために、ペプチドが7.5以下のpHで組織化する場合には、組成物のpHはペプチドが自己組織化を起こし始めるpH(例えば、P11-4についてはpH7.5)よりも高く、好ましくは当該pHよりも0.1~0.5pH単位高いか、または当該pHよりも0.5pH単位を超えて高くてもよい。pHは、急速な組織化を避けるために、そのpHで緩衝化され得る。本発明者らは、溶液の不透明な色を通して認められる低次凝集体が、カルシウムイオンの存在下、例えば、0.01M~0.2M、または0.1M~15Mの濃度で誘導され得る事を見出した。
【0030】
凝集およびヒドロゲルの形成が適用後に急速に開始する事は有益であり得る。したがって、pHは緩衝化を伴って、または伴わずに、ペプチドが自己組織化を起こし始めるpHから0.1~0.5pH単位高くてよい。1つの実施形態では、組成物は乾燥ペプチド、例えばWO 2014/027012を参照して得られるものを含み得る。当該ペプチドは水に溶かすことができ、単量体ペプチドの溶液を直接導き得る。
【0031】
別の実施形態では、本発明のキットは主に組織化形態の自己組織化ペプチド、例えば、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が組織化形態の自己組織化ペプチドまたは実質的に組織化形態の自己組織化ペプチド、および緩衝液(組織化形態を安定化させるpHに緩衝化)を含む。組織化した自己組織化ペプチドは典型的にはヒドロゲルを形成する。
【0032】
タンパク質の組織化状態の選択は複数の要素に依存する。主に単量体または低次凝集体形態の自己組織化ペプチドは脱灰したエナメル質へのペプチドの分散性を向上させ、表面下病変または小さな歯の病変、例えば部分的に空洞化した病変もしくは微小空洞を伴う病変の処置に特に有利であり得る。主に組織化形態であれば、ペプチドのより早い作用をもたらし、よって特に空洞または骨の欠損についての機能の向上をもたらし得る。自己組織化ペプチドおよびキットの他の成分が混合された後(任意には溶解後に)、得られた溶液のpHおよびイオン強度は、典型的には自己組織化ペプチドの組織化について決定的であり得る。しかし、標的部位のpH、例えば酸性のpHを持つ齲歯病変のpHもまたは組織化状態に影響し得る。特に酸性の齲歯病変では、自己組織化ペプチドは組織化し、ヒドロゲルを形成する。
【0033】
(i)別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン
好ましい実施形態では、本発明のキットはb)(i)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物、好ましくはアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン、を含む。
【0034】
歯の病変の急速な再石灰化のための以前の試みでは、リン酸カルシウムが使用される場合には、典型的にはリン酸カルシウム粒子の形態(例えばアモルファスリン酸カルシウム、ACP)で使用され、例えば、Xiao et al.,2017またはTung et al.2004に教示されている(Compendium CE2Vol.25Mo.9(Suppl.1))。しかし、ACPは、特に酸性媒体中または9より低いpHにおいて不安定であり、そのため有利には、例えばCMC/ACPの形態で、またはカゼインホスホペプチド(CPP-ACP)を用いて安定化する。これはまた欠点を有し、例えばXiao et al.によって教示されたように、この粒子は例えばNaOClを用いて分解される必要があり得る。本発明は、リン酸カルシウム、例えばACPをin situで生成する事によってこの問題を克服する。典型的にはACPの形態であるリン酸カルシウム沈殿物は、カルシウムおよびリン酸の特定の濃度を超えると形成される。
【0035】
形成されるリン酸カルシウムは好ましくはACPであるか、または少なくとも初期において少なくとも50%のACPを含む。ACPの調製のための条件は、例えばComes et al.,2010.Acta Biomaterialia 6(9):3362~3378において記載されている。もちろん、本発明のために選択される条件は生物学的に適合性であるべきであり、すなわちそれらは歯、歯肉、骨、腱および/または筋組織などのヒト組織への損傷を引き起こすべきではない。典型的には、それは溶媒が生体適合性であるかまたはヒトの体内で容易に分解される事を意味し、すなわち典型的には溶媒は水である。あるいは、水およびエタノール(好ましくは50%までのエタノール)の混合物が使用され得る。
【0036】
しかし、他のリン酸カルシウムもまた形成されてもよく、例えば、三リン酸カルシウム、ブラシャイト(brushite)、ピロリン酸、リン酸八カルシウム(OCP)、ウィトロカイトまたはヒドロキシアパタイト(HA)の形成のための他のリン酸カルシウム前駆体が形成されてもよい。HA自体もまた、特に本発明の自己組織化ペプチドの存在下で直接的に形成され得る。
【0037】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の自己組織化ペプチドならびに、自己組織化ペプチドの非存在下においてもACPまたはその他の非HA結晶を形成し得るカルシウムイオンおよびリン酸イオンの組合せが、より秩序的およびより結晶化した形態のリン酸カルシウムの形成へと平衡を移動させる事を見出した。特に、以下の実施例において示されるように、エナメル質様またはHA様のリン酸カルシウム結晶が形成され得、これは特に歯の処置の文脈において特に好ましい。
【0038】
自己組織化ペプチドの存在はまた、当該リン酸カルシウム沈殿物の形成を加速させ、よってそれらはただちに形成される。本発明の文脈において、ただちに、とは数秒から約5分まで、しばしば1分以内の時間を指す事が理解される。濃度が高いほど、沈殿物は速く形成される。この時間は混合した時点から開始され、すなわち混合がゆっくり行われる場合には沈殿過程も同様にゆっくりと起こる。
【0039】
異なるリン酸カルシウム結晶の形態は、例えばそのCa/P比に基づいて互いに区別する事ができる(Comes et al.,2010,Jeffre et al.,1993.Marine およびFreshwater Research 44:609~634)。OCPは約1.33のC/P範囲を有する。ACPは典型的には約1.35~1.45のC/P比を有する。ウィトロカイトは、約1.5のC/P範囲を有する形態である。HAは1.5を超える、特に、1.6以上のC/P範囲を有する。骨中のHAは例えば約1.76のC/P比を有する。
【0040】
C/P比は、例えば当分野で知られた方法に従って、好ましくは本明細書の実施例において教示するようにして決定され得る。
【0041】
好ましい実施形態では、カルシウムイオンを含む組成物は溶液である。あるいは、または、好ましくは、加えてリン酸イオンを含む組成物は溶液である。当該溶液中のカルシウムおよびリン酸濃度は、混合した際に、それらが過剰飽和し、およびリン酸カルシウム、好ましくはACPが沈殿する程度に高い。よって、使用のためにはそれらは互いに接触され、リン酸カルシウムの沈殿物、例えば初期にはACPをもたらす。
【0042】
本発明者らは、本発明のキット中の、カルシウムイオンを含む溶液の好適な濃度は、例えば0.01~0.5Mの濃度のCa2+である事を見出した。これはキット中の組成物の内の1つにおける濃度であり、すなわちもう一方の溶液と接触し、混合されると最終的な濃度は低下する事に留意されたい。例えばカルシウムイオンを含む溶液およびリン酸イオンを含む溶液が1:1で混合された場合(好ましくは、当該溶液はCa2+およびリン酸に関して等モルである)、混合後のカルシウムイオンの終濃度はキット内における濃度の半分であり、すなわち0.005~0.25Mである。しかし、リン酸濃度に対するCa2+濃度の比はより高いCa/P比を得るために、例えば、1:1~2:1、特に、1.5:1~2:1であり得る。溶液を1:1(容積比)で混合する事は、例えば混合ユニットを備えたデュアルチャンバーシリンジを使用する事で容易に可能である。しかし、Ca2+を含む溶液およびリン酸を含む溶液が等モルである場合により高いCa/P比を得るためには、より多量のCa2+溶液が使用され得、例えば、1:1~2:1、特に、1.5:1~2:1であり得る。これはリン酸カルシウム形成の平衡をHAの形成に向かって移動させる。あるいは、混合比を1:1に保ちながら所望の化学量論的比を得るために、キットの溶液中の各イオンの濃度を変更し得る。
【0043】
好ましくは、本発明のキットは、0.08~0.28Mの濃度のカルシウムイオンを含む溶液を含む。0.1~0.15M、例えば、0.14~0.15Mの濃度のカルシウムイオンを含む溶液を(例えば、約等モルのリン酸溶液と共に)使用する事で、特によい結果が得られた。
【0044】
溶液の飽和または過剰飽和は、強くpH依存的である事に留意されたい。上記の値は、2つの溶液を混合して形成された溶液が中性または生理学的なpH(例えば、pH7~7.4)を有する場合に特に好適である。任意には、カルシウムイオンを含む溶液はpH6~7のpHを有する。あるいは、pH6~7のpHを有する溶液を得るために水に溶解させる事が好適であり得る。溶液は緩衝化されてもよい。
【0045】
カルシウムイオンを含む組成物は水に可溶性のカルシウム塩、例えば、CaCl2、Ca(NO3)2、CaCO3、またはその混合物を含む。塩は溶液中に溶解しているかまたは溶解するのに好適であり得る。好ましい実施形態では、組成物はCaCl2を含む。
【0046】
カルシウムイオンを含む組成物、例えば、溶液は、Mg2+およびまたはSr2+イオンをさらに含み得る。Ca2+のMg2+および/またはSr2+に対する比は、例えば約0.3であり得る。
【0047】
先に説明したように、リン酸を含む組成物は約等モル濃度で使用され得る。あるいは、リン酸イオンよりも多くのCaイオンが使用され得る。
【0048】
例えば、本発明のキットは0.01~0.5Mの濃度のリン酸イオンを含む溶液を含み得る。好ましくは、溶液は0.08~0.28Mの濃度のリン酸イオンを含む。0.1~0.15M、例えば、0.14~0.15Mの濃度のリン酸イオンを含む溶液で特によい結果が得られた。
【0049】
本発明者らは、それぞれ異なる濃度のカルシウムイオンおよびリン酸イオン(例えば等モル量)では、自己組織化ペプチドと組み合わせにおける異なるリン酸カルシウムの形成がもたらされることを見出した。しかし、例えば唾液を写し取る事を意図したKirkham et al.,の再石灰化溶液が過剰飽和リン酸カルシウム溶液であるにも関わらず、ただちにリン酸カルシウム沈殿物または結晶は形成されない(サンプルベータ(ペプチド無し)およびデルタ(ペプチド有り)を参照)。よって、キット中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度はより高く、例えば、それぞれ少なくとも0.01M、任意には、少なくとも0.05Mにする必要がある。本発明者らは、カルシウムイオンおよびリン酸イオンの最適濃度(本発明のキットの未混合溶液中)が約0.1~0.15Mであることを見出した。これらの条件下ではリン酸カルシウムが沈殿し、これはその後さらに必要であれば、例えば歯または骨の病変において再結晶してHAを形成し得る。
【0050】
カルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度が非常に高い場合(例えば、サンプルII CaNaまたはII CaPaNa)、リン酸カルシウムが直ちに結晶化するが、その構造は秩序性が低く、自己組織化ペプチドの影響を顕著に受けた様子は見られない。自己組織化ペプチドの存在下ではやはり再結晶化してHAを形成する事が期待されるが、本発明の文脈においては、カルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度は0.3Mより低く、または最大で0.28Mである事が好ましい。
【0051】
リン酸イオンを含む組成物、すなわち溶液は、溶液中に溶解しているかまたは溶解するのに好適であるリン酸塩を含み得る。塩は、例えば、Na2HPO4、NaH2PO4、Na3PO4、K2HPO4、KH2PO4、K3PO4またはその混合物であり得る。Na3PO4は非常に塩基性であるが、NaH2PO4はむしろ酸性(約pH5)であり、およびNa2HPO4は約8のpHをもたらす。好ましい実施形態では、リン酸イオンを含む溶液は、例えば唯一のリン酸塩としてNa2HPO4を含む。リン酸イオンを含む溶液は、例えば6~10のpH、好ましくは7~9のpH、任意には7.4~8のpHを有し得る。このpHでは、自己組織化ペプチド、例えば配列番号1の自己組織化ペプチドは単量体である。pHは他の緩衝液の添加により変化させ得る、または異なるリン酸塩、例えば、Na2HPO4およびNaH2PO4の混合物を使用する事で緩衝化され得る。
【0052】
例えば、カルシウムイオンを含む組成物がCaCO3を含む場合、リン酸イオンを含む組成物はオルトリン酸であり得る。
【0053】
カルシウムイオンを含む組成物はまた、カルシウムイオンを含む溶液を提供するために水に溶解するのに好適な乾燥組成物であり得る。乾燥組成物は任意には凍結乾燥、空気乾燥、真空乾燥または噴霧乾燥される。
【0054】
同様に、リン酸イオンを含む組成物はリン酸イオンを含む溶液を提供するために水に溶解するのに好適な乾燥組成物であり得る。乾燥組成物は任意には凍結乾燥、空気乾燥、真空乾燥または噴霧乾燥される。
【0055】
しかし、組成物が溶液である事、または組成物が投与前に溶解される事は必須ではない事に留意されたい。例えば、組成物は、その異なる部分にイオンの少なくとも一方(Ca2+またはリン酸)もしくは両方、および/または自己組織化ペプチドを含むチューイングガムなどの乾燥組成物であり得る。その後、例えばチューイングガムを噛む間の唾液によって溶液が形成され得る。本発明者らはこれによってもリン酸カルシウムの沈殿物がもたらされる事を見出した。イオンの必要量を評価するために、濃度は口腔内で形成される唾液について調整されるべきであり、例えば唾液の流量は~1~5mL/分である。
【0056】
(ii)リン酸カルシウム粒子
別の実施形態では、本発明のキットはb)リン酸カルシウム粒子を含む。リン酸カルシウム粒子および自己組織化ペプチドはキット中に互いに別々に含まれ、好ましくは別の組成物中、例えば別の容器中または少なくとも組成物の別の部分に含まれる(例えば、縞模様の練り歯磨きにおいて)。
【0057】
リン酸カルシウム粒子は歯科用シーラントの一部ではない、特に、歯科用セメント、例えばグラスアイオノマーセメントの一部ではない。本発明のキットのリン酸カルシウム粒子を含む組成物は非ペプチド性多量体の多量体化に好適であるかまたはそれを意図した組成物、すなわち係る多量体の単量体またはその多量体を含む組成物ではない。好ましくは、組成物はまた有機溶媒を含まない。
【0058】
好ましくは、本発明のキットのリン酸カルシウム粒子を含む組成物は、リン酸カルシウム粒子の水中における懸濁液である。もちろん、可溶性、温度等に応じて、懸濁液中のリン酸カルシウムの一部は溶解しているが、リン酸カルシウムの大部分は溶解しておらず、特定の形態である。
【0059】
本発明のキットのリン酸カルシウム粒子を含む組成物は、水の添加および任意には混合によって、リン酸カルシウム粒子の水中における懸濁液を調製するのに好適な組成物である。唾液、例えば対象の口内における唾液中のリン酸カルシウム粒子の懸濁液もまた、粒子が唾液に懸濁した場合に形成され得る。懸濁液を形成するのに好適な係る組成物は、粉末などの例えば乾燥、例えば無水組成物であり得る。組成物はまた、支持体、例えばチューイングガム、ロゼンジ等に組み込まれるかまたは結合されてもよく、咀嚼されるかまたは舐められた際にそれらから遊離し、よって唾液中に懸濁液を形成し得る。
【0060】
組成物はまた、リン酸カルシウムの発泡組成物であるかまたはそれを含んでいてもよく、係る組成物は溶媒(例えば、水)への良好な接触を可能にする高表面積を有する。例えば、咀嚼などの機械的ストレスはリン酸カルシウム粒子を係る組成物から遊離させ得る。
【0061】
懸濁液中では、粒子は自由に自己組織化ペプチドと複合体を形成し、および/またはそれらが接触するヒドロキシアパタイト材、例えば歯または骨に付着するはずである。
【0062】
本発明のキット中のリン酸カルシウム粒子は、リン酸カルシウム粒子の任意の形態であってよく、例えば異なる結晶化および非結晶化形態であり得る。
【0063】
本発明の文脈において、リン酸カルシウム粒子は、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)Ca(H2PO4)2*H2O、無水リン酸一カルシウム(MCPA)Ca(H2PO4)2、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD、Brushit)、CaHPO4*2H2O、無水リン酸二カルシウム(DCPA、Monetit)CaHPO4]、リン酸八カルシウム(OCP)Ca8(HPO4)2(PO4)4*5H2O、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)α-Ca3(PO4)2、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)β-Ca3(PO4)2、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)Cax(PO4)y *nH2O、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0<x<1)、ヒドロキシアパタイト(HA)Ca10(PO4)6(OH)2、またはリン酸四カルシウム(TTCP)Ca4(PO4)2O)、または異なるリン酸カルシウムの混合物である。1つの実施形態では、粒子は50%以下の結晶化度、例えば、40%以下、30%以下、20%以下もしくは10%以下の結晶化度を有するか、またはアモルファス、非晶質リン酸カルシウムからなる。
【0064】
好ましくは、粒子はACP、例えば少なくとも50%のACPを含む。リン酸カルシウム粒子はまた、少なくとも80%のACPを含み得る。任意には、粒子は実質的にACPからなり得る。ACPは非常に安定ではなく、自己組織化ペプチドの規則的な構造との組み合わせによってより規則的なHA結晶に再結晶化し得るために、本発明者らはこのことが有利である事を見出した。任意には、リン酸カルシウム粒子は、少なくとも50%のACP、例えば少なくとも80%のACPを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態である。
【0065】
ACPの形態であるリン酸カルシウム粒子を含む、例えば粉末である乾燥組成物、特に無水組成物は、ACPがより長期間にわたって安定であるという利点を有する。ACPはまた、ACPの安定化形態、例えばカゼインホスホペプチドを用いて安定化されたもの、すなわちCPP-ACPであり得る。あるいはACPはCMC/ACPであり得る。
【0066】
リン酸カルシウム粒子はさらに、または代わりにOCP、任意には少なくとも50%のOCPを含み得る。リン酸カルシウム粒子はさらに、または代わりにリン酸三カルシウム(TCP)、任意には少なくとも50%のTCPを含み得る。TCPはβ-TCPであり得る。
【0067】
1つの実施形態では、リン酸カルシウム粒子はHA、任意には、少なくとも50%のHAを含む。粒子はまたHA粒子からなり得る。この場合、リン酸カルシウムの再結晶化は必要ない。これはある場合、例えば量的安定性を提供する骨において有利となり得る。
【0068】
ヒドロキシアパタイトは、置換されたヒドロキシアパタイトであってもよく、例えば炭酸ヒドロキシアパタイトおよび炭酸亜鉛ヒドロキシアパタイト、または純粋なリン酸カルシウム、好ましくは、結晶の形態であり得る。本発明の文脈において、リン酸カルシウムまたはヒドロキシアパタイトへの参照は、別段の言及がない限り、この種の誘導体化リン酸カルシウムまたはヒドロキシアパタイトへの参照を含む。もちろん、リン酸カルシウムまたはヒドロキシアパタイトはまた、CaPO4(およびもちろん、各々の結晶化形態に応じた結晶水)のみからなり得る。
【0069】
ヒドロキシアパタイト粒子は、例えば、Roveri,Battistelli et al.,2009.J.Nanomater.Nanocomposites for Engineering Applications 1-9、EP 1762215 A1、US 20050037948 A1、US 20080075675 A1、US 20100247589 A1、US 20100297203 A1、WO 2007/137606 A1、またはWO 2013/068020 A1において開示される方法に従って得る事ができる。好ましくは、ヒドロキシアパタイトはWO 2007/137606 A1に従って得る事ができる、およびBudenheim,Budenheim,GermanyまたはOmya International AG,Switzerlandから商業的に入手する事ができる。
【0070】
任意には上記のリン酸カルシウム粒子の少なくとも50%は20nm~50mmの大きさ、例えば、1μm~5mmまたは、20nm~1μm未満の大きさを有し得る。好ましくは、粒子の少なくとも80%、少なくとも90%、粒子の少なくとも95%または100%がそれぞれの大きさを有する。鉱物粒子のサイズは、典型的には、グラニュロメトリーによって、例えば、光散乱粒度分布分析器(例えば、LA-950、Horiba、Kyoto、Japan)を用いて測定される。結晶の形態は、好ましくは針状であるが、棒状または針状であってもよい。
【0071】
リン酸カルシウム粒子、例えばACP粒子の異なる大きさは、異なる目的に対して有利である。例えば、骨の再生のためには、μmまたはmmの大きさ(例えば、1μm~50mmまたは500μm~5mm)の大きな粒子が、骨の再生が必要な部位にさらなる安定性を与えるため、有利であり得る。対象的に、歯の再石灰化のためには、代用エナメル質または象牙質の均質な形成が高い関心事である。よって、この文脈では、粒子の大きさはより小さく、例えば、ナノメートルの範囲(例えば、20nm~1μm未満、任意には、50nm~500nm)であるべきである。
【0072】
別の実施形態では、リン酸カルシウム粒子はHAを含まない。他のリン酸カルシウムは再結晶化するため、自己組織化ペプチドを用いた新しいシームレスな構造をより容易に形成する。骨のリモデリングも、他のリン酸カルシウムを用いることでより容易に起こり得る。
【0073】
自己組織化ペプチドを含む組成物
本発明のキットは、単一の均質な組成物ではなく、少なくとも2つの異なる組成物、任意には3つ以上の組成物を含む。カルシウムイオンおよびリン酸イオンを別々に含む本発明のキットは、以下:
a)第1の組成物において、自己組織化ペプチド、および
b)第2の組成物において、リン酸イオン、および、
c)第3の組成物において、カルシウムイオン、を含み得る。
【0074】
よって、キットの全ての成分が3つの異なる組成物中にあることは可能であるが、必要ではない。代わりに、自己組織化ペプチドはまた、前述のイオンの一方と共に前述の組成物の1つの一部であり得る。これは投与を容易にさせ、および後述するようにさらなる利点を有し得る。
【0075】
1つの実施形態では、自己組織化ペプチドを含む組成物はまたリン酸イオンを含み得る、例えば、自己組織化ペプチドは、例えばリン酸イオンを含む溶液またはリン酸イオンの溶液を形成するのに好適なリン酸イオンを含む乾燥粉末である組成物の一部であり得る。
【0076】
あるいは、および好ましくは、自己組織化ペプチドを含む組成物はさらにはカルシウムイオンを含み得る、例えば、自己組織化ペプチドはカルシウムイオンを含む組成物(例えば溶液)またはカルシウムイオンの溶液を形成するのに好適なカルシウムイオンを含む乾燥粉末の一部である。後述の実施例に示すように、驚くべきことにいずれの組成物に自己組織化ペプチドが組み込まれるかによって違いが生じた。それ以外については同一の条件下において、自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む溶液中に組み込まれたサンプルガンマ-2では、形成された沈殿物中のCa/P比は約1.72であり、すなわちこれはサンプルガンマ-1よりもかなり高い。よって、自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む組成物中に組み込まれた場合、HA沈殿物が直接的に形成される。もう一方のサンプルにおいて沈殿物は後から再結晶化してHAを形成する事が出来たが、HAは直接的に形成されなかった。
【0077】
理論に拘束される事を望むものではないが、自己組織化ペプチドおよびカルシウムイオンはリン酸の添加前にすでに複合体を形成し、それによって自己組織化ペプチドの構造を鋳型とした規則的なHA結晶の核化を促進し得るものと考えられる(Thomson 2014.Caries Res(48):411)。このことは、カルシウムイオンおよび自己組織化ペプチドを含む溶液の外観が透明ではなく不透明である事からも裏付けられる。
【0078】
自己組織化ペプチドが溶液中に含まれる場合、それは例えば、0.01~40mg/mLの濃度で存在し得る。特に、0.1~30mg/mL、任意には、1~25mg/mLの濃度で自己組織化ペプチドを含む組成物において良好な結果が見られた。
【0079】
自己組織化ペプチドは、10~20mg/mL、任意には、15~20mg/mLの濃度で溶液中に含まれ得る。留意すべき事に、この濃度はキット中に含まれる溶液、すなわちもう一方のイオンを含む溶液と混合される前の溶液に関しても規定される。キットの成分が互いに接触した後に形成される溶液中の濃度は、例えば、0.005~20mg/mL、0.05~15mg/mLまたは0.5~12.5mg/mLであり得る。
【0080】
フッ化物
本発明のキットはフッ化物イオンをさらに含み得る、ここでフッ化物イオンは溶液中にあるかまたは可性のフッ化物塩の形態であり得る。有利なことには、フッ化物イオンは、フッ化物が存在しない場合には低いCa/P比を有するリン酸カルシウムの形成がもたらされるであろう条件下において、HA結晶の直接的な形成をもたらす事が示されている。サンプルCaPaNaFでは、フッ化物イオン(NaF形態)はリン酸および自己組織化ペプチドを含む溶液中に組み込まれ、および高いCa/P比、または2よりも高いCa/P比を有するリン酸カルシウム、すなわちHAの直接的な形成をもたらした。
【0081】
可溶性のフッ化物塩は、例えばNaF、NH3F、MgF2、SrF2、Na2PFO3、SnFまたはその混合物であり、任意には、NaFであり得る。NaFまたはNH3Fは、練り歯磨きなどのデンタルケア製品に日常的に使用される。
【0082】
フッ化物イオンは別の組成物中にあってよく、またはフッ化物イオンはリン酸イオンを含む組成物であって、任意には自己組織化ペプチドをさらに含む組成物中にあり得る。あるいは、フッ化物イオンはカルシウムイオンを含む組成物であって、任意には自己組織化ペプチドをさらに含む組成物中にあり得る。
【0083】
後述の実施例に示すように、驚くべきことにいずれの組成物に自己組織化ペプチドが組み込まれるかによって違いが生じた。それ以外については同一の条件下において、自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む溶液中に組み込まれたサンプルガンマ-2では、形成された沈殿物中のCa/P比は約1.72であり、すなわちこれはサンプルガンマ-1よりもかなり高い。よって、自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む組成物中に組み込まれた場合、HA沈殿物が直接的に形成される。もう一方のサンプルにおいて沈殿物は後から再結晶化してHAを形成する事が出来たが、HAは直接的に形成されなかった。
【0084】
組成物の形態
本発明のキットの組成物の各々は、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、粉末、パテ、顆粒またはキャンディーからなる群より選択される組成物であり得る。例えば、自己組織化ペプチドは、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、粉末、パテ、顆粒またはキャンディーからなる群より選択される組成物で提供され得る。カルシウムイオンは、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、粉末、パテ、顆粒またはキャンディーからなる群より選択される組成物で提供され得る。リン酸イオンは、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、粉末、パテ、顆粒またはキャンディーからなる群より選択される組成物で提供され得る。あるいは、リン酸カルシウム(粒子の形態)は、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、粉末、パテ、顆粒またはキャンディーからなる群より選択される組成物で提供され得る。咀嚼または舐められる事を意図したこれらの形態、例えばチューイングガム、タフィー、ロゼンジ、キャンディー、または同様に練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォームなどは、歯の処置おいて使用され、一方で、例えばパテは典型的には骨の処置および覆髄において使用される。他の形態は両方の用途のために使用され得る。
【0085】
前述のように、本発明の好ましい組成物は溶液であり、例えば水溶液である。あるいは本発明の好ましい組成物は、水に溶解するのに好適な、またはリン酸カルシウム粒子の場合は水に再懸濁するのに好適な乾燥、例えば無水粉末であり得る。
【0086】
本発明のキットの2つの組成物が、両者共に溶液または分散液として提供される場合(例えば、上述のように、一方が自己組織化ペプチドを含みもう一方がリン酸カルシウム粒子を含む、または好ましくは、カルシウムイオンを含む溶液およびリン酸イオンを含む溶液であって、そのいずれかが自己組織化ペプチドをさらに含む)、本発明はまた、各チャンバーに本発明のキットの組成物の1つを含むデュアルチャンバーシリンジを提供する。混合ユニットがデュアルチャンバーシリンジに取り付けられ得る。デュアルチャンバーシリンジは、標的化処置、例えば歯の病変または骨の病変の処置のために特に有利である。あるいは、溶液または懸濁液は投与前に混合されて、その後歯または骨の病変に投与され得る。
【0087】
本発明はまた、リン酸イオンを含む溶液を含むシリンジおよび別の容器にカルシウムイオンを含む乾燥組成物を提供し、自己組織化ペプチドは好ましくはカルシウムイオンを含む組成物の一部であり、溶液を使用して乾燥組成物を溶解し、その後、混合溶液を適用することができる。
【0088】
シリンジは、シングルチャンバー型またはマルチチャンバー型であっても、標的化処置、例えば表面下病変などの歯の病変の処置のために有利に使用され得る。骨の病変もまた標的化され得る。
【0089】
あるいは、溶液はまた、例えば歯の再石灰化を増加するための、例えば洗口液または口腔ケアフォームとして使用され得る。これは歯の知覚過敏または酸蝕症の処置のために関心が持たれ得る。
【0090】
本発明のキットはまた、固体または半固体の組成物であり得る。このような固体または半固体の組成物は、例えば、
a)組成物の第1の部分に、自己組織化ペプチドおよびカルシウムイオン、および
b)組成物の第2の部分に、リン酸イオン、を含み得る。
【0091】
あるいは、それらはまた、
a)組成物の第1の部分に、自己組織化ペプチドおよびリン酸イオン、および
b)組成物の第2の部分に、カルシウムイオン、または
a)組成物の第1の部分に、自己組織化ペプチド、および
b)組成物の第2の部分に、リン酸イオン、および、
c)組成物の第3の部分において、カルシウムイオン、または
a)組成物の第1の部分に、自己組織化ペプチド、および
b)組成物の第2の部分に、リン酸カルシウム粒子、を含み得る。
【0092】
半固体または固体のキットの例は、異なる層を持つ顆粒、キャンディー、錠剤、タフィー、ミンツ若しくはロゼンジ、またはチューイングガムである。両方の層は咀嚼または舐められた際に唾液に等しく接触し得る、または骨の病変への投与後に血液もしくは緩衝液/水などの体液に曝露される、または層の部分の1つがもう一方をとり囲み得る。
【0093】
例えば、異なる部分を含むこれらの固体または半固体のキットは、組成物の第一の部分が第二の部分を取り囲み得る。第一の部分が自己組織化ペプチドを含む場合、よって自己組織化ペプチドは対象に最初に投与され、および例えば歯と接触する。その結果、理論に拘束される事を意図するものではないが、自己組織化ペプチドは歯のHA構造に結合し、および後で形成されるリン酸カルシウムの歯への秩序的な結合を媒介し得る。もちろん、溶液が歯または骨に投与される場合にも、このように投与の順序を選択し得る。これは骨の再生についてはあまり重要では無いと考えられる、というのもこの場合には、典型的には容量が非常に大きく、十分な混合または同時投与がより重要であり得るためである。
【0094】
よって、あるいは、組成物の第二の部分が第一の部分を取り囲み得る。
【0095】
保存期間を通じて自己組織化ペプチドを単量体で維持する事に関心がある場合には、無水固体または半固体組成物が特に有用である。
【0096】
1つの実施形態では、半固体のキットは縞模様の練り歯磨きである。縞模様の練り歯磨きおよび練り歯磨き(または歯磨きゲル)中の異なる組成物を実質的に分離した状態で維持する方法は当分野においてよく知られている。もちろん、縞模様の練り歯磨き中の異なる組成物の色は同じであるかまたは異なり得る。本発明の練り歯磨きは、練り歯磨き中に典型的に使用されるさらなる成分、例えば界面活性剤、洗浄剤、活性成分、香料、甘味料などを含み得る。
【0097】
キットが異なる部分を持つ半固体または固体の組成物である場合、組成物の第一の部分および第二の部分は、典型的には、組成物が水性の溶液、例えば水中に溶解または分散される場合に混合されるのに好適である。もちろん、歯への投与については、組成物は代わりに唾液中に分散または溶解され得る。骨への投与については、組成物は乾燥または水和して適用される/血液などの体液、水、生理食塩水または他の水性の緩衝液中に分散または溶解して適用され得る。
【0098】
医療用途
本発明のキットは研究目的に使用され得るが、好ましくは医療における使用のためのものである。
【0099】
主に、好ましくはそれを必要とする対象において、歯の再石灰化または骨の再生の誘導における使用のためのものである。対象は典型的にはヒト対象である。有利なことには、この再石灰化または再生は、上述のカルシウムイオンおよびリン酸イオンの非存在下と比較して促進される。
【0100】
1つの実施形態では、本発明のキットは、対象の歯内または歯上における石灰化または再石灰化の誘導における使用のためのものであり、好ましくは歯の病変または空洞を処置するための物である。歯の病変は齲蝕(または齲歯)病変であり得る。それはまたは、破壊されたエナメル質または象牙質、典型的には、破壊されたエナメル質、または空洞化したエナメル質または象牙質であり得る。本発明のキットはまた、小窩裂溝における病変の有無に依らず、小窩裂溝の充填における使用のためのものである。さらなる用途は歯の知覚過敏の処置用であり、ここで象牙細管は本発明によって作られる保護バリアによって閉塞または遮断され得る。
【0101】
1つの実施形態では、歯の病変は表面下病変である。この場合、当分野で知られており本明細書において参照する、水に溶解した後にペプチドを単量体の状態で維持するための緩衝液と共に、自己組織化ペプチドは任意には単量体形態、例えば乾燥形態、例えば凍結乾燥、空気乾燥または噴霧乾燥形態である。小さく核化した結晶はカルシウム結晶よりも表面下病変内に入りやすいであろうため、キットは好ましくはカルシウムイオンとリン酸イオンを別々に含む。自己組織化ペプチド(および任意にはカルシウムイオンおよびリン酸イオン(好ましくはカルシウムイオン))を含む組成物は例えば最初に投与され、および最初の投与後すぐに(好ましくは最大で10分以内、好ましくは最大で5分以内)、もう一方のイオンを含む組成物が二番目に投与される。しかし、混合、例えばデュアルチャンバーシリンジを用いた混合および同時投与もまた可能である。
【0102】
1つの実施形態では、歯の病変は空洞化病変である。この実施形態では、沈殿したリン酸カルシウムまたはリン酸カルシウム粒子によりもたらされる実用的に瞬時の安定性が特に重要である。自己組織化ペプチド単独では、ヒドロゲル形態であっても、典型的には再石灰化の前に大きな空洞化病変から洗い流される。よって本発明によりもたらされる再石灰化の加速は非常に有益である。自己組織化ペプチドおよびリン酸カルシウムを含む構造、好ましくは形成されるHAをさらに安定化するために、ペプチドを架橋するためにUV処置が行われ得る。キットはカルシウムおよびリン酸を別々に含むか、または、好ましくは、リン酸カルシウム粒子を含み、これは有利には20nm~5000nm、任意には、100~1000nmの大きさを有する。
【0103】
さらに、本発明のキットまたはその混合組成物は、唾液と接触する最上層として別の歯科用シーラント、例えばグラスアイオノマーセメントなどの歯科用セメント、またはアクリレートおよびメタクリレートからなる群より選択される酸性ポリマー、アイオノマー、ジオマー、オルモサー(登録商標)および任意の他の好適なポリマーおよび/またはその単量体形態などの重合可能な成分を含む歯科用シーラントで覆った状態で、空洞の底部の充填に使用するためのものであってよい。最上層によって保護されているため、自己組織化ペプチドおよびリン酸カルシウムは、エナメル質および/または象牙質に非常に類似した再石灰化した代替歯科材料を形成し得る。
【0104】
1つの実施形態では、本発明のキットは覆髄に使用するためのものである。ここで、本発明のキットの成分を組み合わせる事で形成される物質は、歯髄の上にリン酸カルシウムの生体適合性の保護層を配置する事により、その上に使用される歯科用シーラントのしばしば見られる毒性効果から歯髄を保護し得る。
【0105】
1つの実施形態では、よって、本発明のキットは、他の成分とは別々に、グラスアイオノマーセメントなどの歯科用シーラント、またはアクリレートおよびメタクリレートからなる群より選択される酸性ポリマー、アイオノマー、ジオマー、オルモサー(登録商標)および任意の他の好適なポリマーおよび/またはその単量体形態などの重合可能な成分を含む歯科用シーラントをさらに含む。
【0106】
本発明のキットは、齲蝕の処置または予防に使用するためのものであってよく、処置領域は活動性齲蝕の診断とは無関係に対象の複数の歯、好ましくは全ての歯を含む。洗口液、練り歯磨きまたは上記に規定する他の固体もしくは半固体の組成物がこの用途のために特に好適である。
【0107】
本発明のキットはまた、歯の知覚過敏の処置に使用するためのものであり得る。ここでは、キットの成分が表面下病変内に進入し得る事は重要ではない。むしろ、それらは歯の上に保護層を形成する事、または象牙細管内で沈殿物を形成する事が意図される。これは例えば歯の知覚過敏の場合において特に有用であるが、これはまた、さらなる酸の挑戦から歯を保護し、よって齲蝕または酸蝕症の予防に役立ち得る。予防とは発生率を低下させる事を指す。よって、この実施形態では、自己組織化ペプチドが組織化形態で提供される場合、または混合された際に組成物が自己組織化ペプチドの組織化の誘導に好適である場合が好ましい。キットはカルシウムおよびリン酸を別々に含むか、またはリン酸カルシウム粒子であって、好ましくは20nm~5000nm、任意には、100~1000nmの大きさを有するリン酸カルシウム粒子を含み得る。
【0108】
一般に、歯の再石灰化の文脈でリン酸カルシウム粒子が用いられる場合、それらは均質なマトリクスの形成を可能にするために、典型的には20nm~5000nm、任意には、100~1000nmの大きさを有する。
【0109】
別の実施形態では、本発明のキットは対象の骨、特に骨の病変における再生の誘導に使用するためのものである。本発明の組合せによって、自己組織化ペプチド単独の投与に比べて、骨、特に病変においてただちに増加した安定性をもたらす事ができる。これは骨の病変の処置において重要性が高い。自己組織化ペプチドはさらに、適用されたリン酸カルシウムからのHAの形成を誘導する。それらはまた、細胞遊走のための鋳型を提供する。
【0110】
骨の欠損または骨の病変は、例えば、腫瘍または外傷に起因する。本キットはまた、歯槽堤の補強または再建処置における使用、歯周病欠損部の充填、または歯根切除術、歯根端切除術、嚢胞切除術後の欠損部の充填、歯槽堤の維持の強化のための抜歯窩の充填、上顎洞底挙上術、歯周病欠損部またはインプラント周囲の欠損部の充填のためのものであり得る。本キットはまた、関節インプラント(例えば股関節インプラント)または脊椎固定術などの整形外科的適応症において適用し得る。
【0111】
歯周病欠損部の充填のために、本発明のキットは、組織再生誘導法(Guided Tissue,Regeneration(GTR))および骨再生誘導法(Guided Bone Regeneration(GBR))を意図した製品と共に使用するためのものであり得る。インプラント周囲の欠損部の充填のために、本キットは好ましくは骨再生誘導法(GBR)を意図した製品と共に使用するためのものである。
【0112】
骨の再生の文脈において、本キットは好ましくは1μm~50mm、任意には、100~5000μm または1~2mmの大きさを有するリン酸カルシウム粒子を含む。このようなリン酸カルシウム粒子は骨の病変に特段の安定性をもたらす。さらに、この文脈において、自己組織化ペプチドの組織化形態が好ましくは使用される。
【0113】
本発明はまた、本明細書に記載されるような本発明のキットの成分を、必要とする対象の歯または骨、典型的には歯または骨の病変に投与する事を含む処置方法を提供する。任意には、本方法は自己組織化ペプチドを含む組成物を最初に投与する事を含む。あるいは、自己組織化ペプチドを含む組成物は2番目に投与される。あるいは本キットの成分は実質的に同時に投与され、これは病変が比較的大きな規模のものである場合、例えば空洞化病変の充填、覆髄、または骨の欠損の処置のために、典型的にそうである。
【0114】
要するに、本発明のキットおよび方法は、有利なことには、例えば自己組織化ペプチドまたはリン酸カルシウムの単独投与に比べて歯の再石灰化または骨の再生を促進し、そのためにこの目的のために使用され得る。
【0115】
本発明は、以下の実施形態、実施例および図面によってさらに例示されるが、これらは本発明を説明する事を意図するものであるが、本発明を限定する事を意図するものではない。本明細書で引用される全ての参考文献について、ここにその全体を援用する。
【0116】
本発明の文脈において「a」は複数を包含する事を意図する、すなわち「歯(a tooth)」とは複数の歯、例えば対象の全ての歯も意味する。約は+/-10%を意味する。
【0117】
実施形態
本発明は、例えば以下の実施形態を提供する。
【0118】
1.a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも70%、好ましくは80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む自己組織化ペプチド、および
b)(i)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンであり、ここで組成物は好ましくは溶液であるカルシウムイオンおよびリン酸イオン、または
(ii)リン酸カルシウム粒子であって、好ましくは、少なくとも50%のACPを含むリン酸カルシウム粒子の懸濁液の形態である、リン酸カルシウム粒子、
を含む、キット。
【0119】
2.b)組成物が水の存在下で混合された場合に、ただちにリン酸カルシウム沈殿物を形成する、好ましくはアモルファスリン酸カルシウム(ACP)を形成するのに好適な別々の組成物中のカルシウムイオンおよびリン酸イオン、を含む、実施形態1に記載のキット。
【0120】
3.カルシウムイオンを含む組成物が溶液である、実施形態1または2に記載のキット。
【0121】
4.リン酸イオンを含む組成物が溶液である、実施形態1~3のいずれか1項に記載のキット。
【0122】
5.カルシウムイオンを含む組成物が、水に溶解してカルシウムイオンを含む溶液を提供するのに好適な乾燥組成物である、ここで該乾燥組成物が任意には凍結乾燥、空気乾燥または噴霧乾燥される、実施形態1~4のいずれか1項に記載のキット。
【0123】
6.リン酸イオンを含む組成物が、水に溶解してリン酸イオンを含む溶液を提供するのに好適な乾燥組成物である、ここで該乾燥組成物が任意には凍結乾燥、空気乾燥または噴霧乾燥される、実施形態1~5のいずれか1項に記載のキット。
【0124】
7.溶液が水性溶液である、ここで該溶液の溶媒が好ましくは水である、実施形態1~6のいずれか1項に記載のキット。
【0125】
8.溶液が溶媒としてエタノールを含む、実施形態1~7のいずれか1項に記載のキット。
【0126】
9.溶液の溶媒が、溶媒として水とエタノールの混合物である、実施形態1~8のいずれか1項に記載のキット。
【0127】
10.カルシウムイオンを含む溶液が0.01~0.5Mの濃度のCa2+を含む、実施形態1~9のいずれか1項に記載のキット。
【0128】
11.カルシウムイオンを含む溶液が0.08~0.28Mの濃度のCa2+を含む、実施形態1~10のいずれか1項に記載のキット。
【0129】
12.カルシウムイオンを含む溶液が0.1~0.15M、例えば、0.14~0.15Mの濃度のCa2+を含む、実施形態1~11のいずれか1項に記載のキット。
【0130】
13.カルシウムイオンを含む溶液が、CaCl2、Ca(NO3)2、CaCO3、またはその混合物からなる群より選択される塩を含む、ここで該塩が溶液中に溶解しているかまたは溶解するのに好適である、実施形態1~12のいずれか1項に記載のキット。
【0131】
14.カルシウムイオンを含む溶液がCaCl2を含む、実施形態1~13のいずれか1項に記載のキット。
【0132】
15.カルシウムイオンを含む溶液がMg2+および/またはSr2+をさらに含む、ここでMg2+および/またはSr2に対するCa2+の比率が約0.3である、実施形態1~14のいずれか1項に記載のキット。
【0133】
16.カルシウムイオンを含む溶液が6~7のpHを有する、実施形態1~15のいずれか1項に記載のキット。
【0134】
17.リン酸イオンを含む溶液が0.01~0.5Mの濃度のリン酸を含む、実施形態1~16のいずれか1項に記載のキット。
【0135】
18.リン酸イオンを含む溶液が0.08~0.28Mの濃度のリン酸を含む、実施形態1~17のいずれか1項に記載のキット。
【0136】
19.リン酸イオンを含む溶液が0.1~0.15M、例えば、0.14~0.15Mの濃度のリン酸を含む、実施形態1~18のいずれか1項に記載のキット。
【0137】
20.リン酸イオンを含む溶液が、Na2HPO4、NaH2PO4、Na3PO4、K2HPO4、KH2PO4、K3PO4またはその混合物からなる群より選択される塩を含む、ここで該塩が溶液中に溶解しているかまたは溶解するのに好適である、実施形態1~19のいずれか1項に記載のキット。
【0138】
21.リン酸イオンを含む溶液がNa2HPO4を含む、実施形態1~20のいずれか1項に記載のキット。
【0139】
22.リン酸イオンを含む溶液が、6~10のpH、好ましくは、7~9のpH、任意には、7.4~8のpHを有する、実施形態1~21のいずれか1項に記載のキット。
【0140】
23.自己組織化ペプチドがカルシウムイオンを含む組成物の一部である、ここで該組成物が好ましくは溶液である、実施形態1~22のいずれか1項に記載のキット。
【0141】
24.自己組織化ペプチドがリン酸イオンを含む組成物の一部である、ここで該組成物が好ましくは溶液である、実施形態1~22のいずれか1項に記載のキット。
【0142】
25.自己組織化ペプチドが、0.01~40mg/mLの濃度で溶液中に含まれる、実施形態1~24のいずれか1項に記載のキット。
【0143】
26.自己組織化ペプチドが0.1~30mg/mL、任意には、1~25mg/mLの濃度で溶液中に含まれる、実施形態1~25のいずれか1項に記載のキット。
【0144】
27.自己組織化ペプチドが10~20mg/mL、任意には、15~20mg/mLの濃度で溶液中に含まれる、実施形態1~26のいずれか1項に記載のキット。
【0145】
28.キットがフッ化物イオンをさらに含む、ここで該フッ化物イオンが溶液中にあるかまたは可溶性フッ化物塩の形態である、実施形態1~27のいずれか1項に記載のキット。
【0146】
29.可溶性フッ化物塩がNaF、NH3F、MgF2、SrF2、またはその混合物を含む群から選択される、任意にはNaFである、実施形態28に記載のキット。
【0147】
30.リン酸イオンを含む組成物がフッ化物イオンを含む、ここで該組成物が任意には自己組織化ペプチドをさらに含む、実施形態1~29のいずれか1項に記載のキット。
【0148】
31.b)リン酸カルシウム粒子を含む、実施形態1~30のいずれか1項に記載のキット。
【0149】
32.リン酸カルシウム粒子がACPを含む、好ましくは、少なくとも50%のACPを含む、実施形態31に記載のキット。
【0150】
33.リン酸カルシウム粒子が少なくとも80%のACPを含む、任意には実質的にACPからなる、実施形態31~32のいずれか1項に記載のキット。
【0151】
34.ACPがCPP-ACPである、実施形態32~33のいずれか1項に記載のキット。
【0152】
35.リン酸カルシウム粒子がOCPを含む、任意には少なくとも50%のOCPを含む、実施形態31~34のいずれか1項に記載のキット。
【0153】
36.リン酸カルシウム粒子がOCPを含む、任意には少なくとも50%のOCPを含む、実施形態31~35のいずれか1項に記載のキット。
【0154】
37.リン酸カルシウム粒子がTCPを含む、任意には少なくとも50%のTCPを含む、実施形態31~36のいずれか1項に記載のキット。
【0155】
38.リン酸カルシウム粒子がHAを含む、任意には少なくとも50%のHAを含む、例えばHAからなる、実施形態31~37のいずれか1項に記載のキット。
【0156】
39.リン酸カルシウム粒子が水性懸濁液中にある、任意にはACPの水性懸濁液中にある、実施形態31~38のいずれか1項に記載のキット。
【0157】
40.該粒子の少なくとも50%が20nm~50mm、任意には、20nm~1μm未満の大きさを有する、実施形態31~39のいずれか1項に記載のキット。
【0158】
41.該粒子の少なくとも50%が1μm~50mm、任意には、0.5~5mmの大きさを有する、実施形態1~40のいずれか1項に記載のキット。
【0159】
42.自己組織化ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%配列同一性を有する、実施形態1~41のいずれか1項に記載のキット。
【0160】
43.自己組織化ペプチドが配列番号1のアミノ酸配列を含む、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列からなる、実施形態1~42のいずれか1項に記載のキット。
【0161】
44.自己組織化ペプチドが単量体形態、組織化形態、またはその混合物である、実施形態1~43のいずれか1項に記載のキット。
【0162】
45.自己組織化ペプチドの少なくとも50%が単量体形態である、任意には、自己組織化ペプチドの少なくとも80%、例えば、自己組織化ペプチドの実質的に全てが単量体形態である、実施形態1~44のいずれか1項に記載のキット。
【0163】
46.自己組織化ペプチドの少なくとも50%が組織化形態である、任意には、自己組織化ペプチドの少なくとも80%、例えば、自己組織化ペプチドの実質的に全てが組織化形態である、実施形態1~44のいずれか1項に記載のキット。
【0164】
47.自己組織化ペプチドが、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレットまたはキャンディー、パテ、粉末、または顆粒からなる群より選択される組成物で提供される、実施形態1~46のいずれか1項に記載のキット。
【0165】
48.カルシウムイオンが、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、キャンディー、パテ、粉末、または顆粒からなる群より選択される組成物で提供される実施形態1~30または41~47のいずれか1項に記載のキット。
【0166】
49.リン酸イオンが、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、キャンディー、パテ、粉末、または顆粒からなる群より選択される組成物で提供される、実施形態1~30または41~48のいずれか1項に記載のキット。
【0167】
50.リン酸カルシウムが、乾燥組成物、凍結乾燥組成物、無水組成物、水性溶液、練り歯磨き、歯磨きゲル、洗口液、マウススプレー、口腔ケアフォーム、チューイングガム、タフィー、ロゼンジ、タブレット、キャンディー、パテ、粉末、または顆粒からなる群より選択される組成物で提供される、実施形態1または31~47のいずれか1項に記載のキット。
【0168】
51.a)第1の組成物において、自己組織化ペプチド、および
b)第2の組成物において、リン酸イオン、および、
c)第3の組成物において、カルシウムイオンを含む、実施形態1~30または41~49のいずれか1項に記載のキット。
【0169】
52.a)組成物の第1の部分において、自己組織化ペプチドおよびカルシウムイオン、ならびにb)組成物の第2の部分において、リン酸イオンを含む、固体または半固体の組成物である、実施形態1~23または25~30または41~49のいずれか1項に記載のキット。
【0170】
53.a)組成物の第1の部分において、自己組織化ペプチドおよびリン酸イオン、ならびにb)組成物の第2の部分において、カルシウムイオンを含む、固体または半固体の組成物である、実施形態1~22または24~30または41~49のいずれか1項に記載のキット。
【0171】
54.a)組成物の第1の部分において、自己組織化ペプチド、および
b)組成物の第2の部分において、リン酸イオン、および、
c)組成物の第3の部分において、カルシウムイオンを含む、
固体または半固体の組成物である、実施形態1~30または41~49のいずれか1項に記載のキット。
【0172】
55.自己組織化ペプチドおよびリン酸カルシウム粒子を互いに別々に含む、好ましくは別々の組成物において含む、実施形態1または31~47または50のいずれか1項に記載のキット。
【0173】
56.リン酸カルシウム粒子が歯科用シーラントの一部ではない、特に、歯科用セメントの一部ではない、実施形態1または31~47または50または55のいずれか1項に記載のキット。
【0174】
57.a)組成物の第1の部分において、自己組織化ペプチド、および
b)組成物の第2の部分において、リン酸カルシウム粒子を含む、
固体または半固体の組成物である、実施形態1または31~47または50または55~56のいずれか1項に記載のキット。
【0175】
58.組成物の第1の部分が第2の部分を取り囲む、実施形態51~54または57のいずれか1項に記載のキット。
【0176】
59.組成物の第2の部分が第1の部分を取り囲む、実施形態51~54または57のいずれか1項に記載のキット。
【0177】
60.組成物が縞模様の練り歯磨きである、実施形態51~54または57のいずれか1項に記載のキット。
【0178】
61.組成物が水に溶解または分散された場合に、組成物の第1の部分および第2の部分が混合されるのに好適である、実施形態51~54または57のいずれか1項に記載のキット。
【0179】
62.医療における使用のための、実施形態1~61のいずれか1項に記載のキット。
【0180】
63.歯の再石灰化または骨の再生の誘導、好ましくは必要とする対象における該誘導における使用のための、実施形態1~62のいずれか1項に記載のキット。
【0181】
64.該再石灰化または再生が、該カルシウムイオンおよびリン酸イオンの非存在下と比較して促進される、実施形態63に記載のキット。
【0182】
65.対象の歯内または歯上における再石灰化の誘導、好ましくは歯の病変の処置における使用のための、実施形態1~64のいずれか1項に記載のキット。
【0183】
66.歯の病変が齲蝕病変である実施形態65に記載のキット。
【0184】
67.歯の病変が表面下病変である、ここで自己組織化ペプチドが任意には乾燥形態、例えば凍結乾燥形態である、実施形態65~66のいずれか1項に記載のキット。
【0185】
68.歯の病変が空洞化病変である、実施形態65~66のいずれか1項に記載のキット。
【0186】
69.歯の病変が壊れたエナメル質または象牙質である、好ましくは壊れたエナメル質である、実施形態65~66のいずれか1項に記載のキット。
【0187】
70.覆髄における使用のための、実施形態65~66または68のいずれか1項に記載のキット。
【0188】
71.小窩裂溝の充填における使用のための、実施形態65に記載のキット。
【0189】
72.歯の知覚過敏の処置における使用のための実施形態65に記載のキット。
【0190】
73.処置領域が、活動性齲蝕の診断とは無関係に、対象の複数の歯、好ましくは全ての歯を含む、実施形態65~68または72に記載のキット。
【0191】
74.20nm~5000nm、任意には、100~1000nmの大きさを有するリン酸カルシウム粒子を含む、実施形態65~73に記載のキット。
【0192】
75.対象の骨における再生の誘導における使用のための、実施形態1~62のいずれか1項に記載のキット。
【0193】
76.骨欠損の処置、任意には、腫瘍または外傷に起因する骨欠損の処置における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0194】
77.歯槽堤の補強または再建処置における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0195】
78歯周病欠損部の充填における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0196】
79.歯根切除術、歯根端切除術、嚢胞切除術後の欠損部の充填または歯槽堤の維持の強化のための抜歯窩の充填における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0197】
80.上顎洞底挙上術における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0198】
81.歯周病欠損部の充填における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0199】
82.インプラント周囲の欠損部の充填における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0200】
83.インプラントの固定、例えば関節インプラント又はケージの固定における使用のための実施形態75に記載のキット。
【0201】
84.脊椎固定術における使用のための、実施形態75に記載のキット。
【0202】
85.1μm~50mm、任意には、100~1000μmの大きさを有するリン酸カルシウム粒子を含む、実施形態75~84に記載のキット。
【0203】
86.歯の再石灰化または骨の再生の促進のための、請求項1~84のいずれか1項に記載のキットの使用。
【0204】
87.請求項1~85のいずれか1項に記載のキットの成分を、必要とする対象の歯または骨に投与する工程を含む、処置方法。
【0205】
88.自己組織化ペプチドを含む組成物が最初に投与される、実施形態87に記載の方法。
【0206】
89.自己組織化ペプチドを含む組成物が2番目に投与される、請求項87に記載の方法。
【0207】
90.キットの成分が実質的に同時に投与される、請求項87に記載の方法。
【実施例】
【0208】
実施例1
CaCl2(塩化カルシウム二水和物、pH6)およびNa2HPO4(リン酸二ナトリウム二水和物、pH8)の個別の溶液を異なる濃度で、および自己組織化ペプチドP11-4(Bachem、E104)および/またはNaFの存在下または非存在下で調製した。pHは必要に応じてNaOHを用いてpH8に調整した。Kirkham et al.2007に従って、1.5mM Ca(NO3)2、0.9mM KH2PO4、130mM KCl、60mM Tris(pH 7.4)からなる再石灰化溶液(人工唾液としても知られる)を調整した。全ての塩はSigma Aldrichから入手した。
【0209】
図1に示す別々の組成物を、デュアルチャンバーシリンジ(Sulzer Mixpac)のチャンバーに移し、混合ユニット、スタティックミキサー、例えば1:1、DN2、ブラウン(Sulzer Mixpac)を加え、および組成物を押出した。特段の指定が無い限り、濃度はシリンジ内の濃度に関する。各溶液が1:1で希釈されるため、押出後、それぞれの濃度は特定された濃度の半分になる。
【0210】
さらに、少なくとも0.01M、すなわち再石灰化緩衝液よりも高い濃度である、十分な高濃度のカルシウムおよびリン酸を含む全ての組成物を用いて、リン酸カルシウムの結晶が基本的にはすぐに沈殿した。この結晶、および比較のためにSigma Aldrichから入手したHAおよびACPを、SEM(
図2)で分析し、および形成されるリン酸カルシウムの形態の評価を可能にするCa/P比(
図1)を分析する事で解析した。Ca/P比が1.6以上のものをHAと見なす(例えば、Jeffre et al.,1993)。
【0211】
各実験についての調製物および結果のさらなる詳細を以下に提供する。
【0212】
実施例1A-SCaNa/CaPaNa/CaPaNaF:
0.36M CaCl2(塩化カルシウム二水和物、Sigma Aldrich、pH6)および0.4M Na2HPO4(リン酸二ナトリウム二水和物、Sigma Aldrich、pH8)の新たな溶液を調製した。
【0213】
CaNa:CaCl2溶液およびNa2HPO4溶液を、スタティックミキサー(1:1)を備えたダブルチャンバーシリンジシステムの1つのチャンバーにそれぞれ移した。2つの溶液はミキサーを通過して移入されて混合液となり(pH6~7)、直ちに沈殿物が形成された。SEMでは、球状の沈殿物が見られ、粒子はACPの典型的なものであった(参照:ACPコントロール)。SEMではさらに、乾燥工程で生成されたNaClの典型的な結晶が確認された。
【0214】
CaPaNa:自己組織化ペプチドP11-4をNa2HPO4溶液に添加した。150mgの自己組織化ペプチドP11-4を5mlエッペンドルフチューブに秤量し、3mLのNa2HPO4溶液に加えた(0.4M)。pHをNaOH(1N)でpH=8に調整した。溶液を超音波処理し(30s)、30mg/mLの濃度のP11-4を有する清澄(clear)かつ透明(transparent)な溶液を得た。この自己組織化ペプチドP11-4およびNa2HPO4を含む溶液およびCaCl2溶液をダブルチャンバーシリンジシステムの1つのチャンバーにそれぞれ移した。2つの溶液は1:1のミキサーを通過して移入し、混合液(pH6~7)となり、直ちに沈殿物が形成された。SEMではACPに典型的な球状の沈殿物が見られた。
【0215】
Na2HPO4溶液への自己組織化ペプチドP11-4の添加によって、0.65と低いCa/P比を有するリン酸カルシウムが形成され、これは自己組織化ペプチドを添加しない場合よりも、依然として結晶性が低い事を示唆する。溶液はCa2+およびPO4
3--イオンが非常に過飽和していると思われ、よって直ちに沈殿が生じ、自己組織化ペプチド線維の添加にはより秩序的な結晶の形成を制御/触媒できない。自己組織化ペプチド上での再結晶化はさらにHA形成を誘導し得る。
【0216】
CaPaNaF:30mg*mL-1の自己組織化ペプチドP11-4を含むNa2HPO4溶液(0.108M Ca2+および0.12M リン酸)にNaFを濃縮し(1450ppmのフッ化ナトリウム;すなわち、市販の練り歯磨きに典型的なフッ化物濃度)、結晶の成長におけるフッ化物イオンの影響を評した。得られたNa2HPO4/自己組織化ペプチドP11-4/フッ化物溶液およびCaCl2溶液(0.108 M)をダブルチャンバーシリンジシステムの1つのチャンバーに移し、1:1で混合した。pH6~7、P11-4最終濃度15mg/mLの液体は、直ちに3D効果を示した。直ちに、HAに類似した結晶様の構造が形成された。Ca/P比は>2であった。したがって、フッ化物(1450ppm)の添加は、自己組織化ペプチドP11-4がCaCl2溶液に取り込まれているにもかかわらず、HA形成に有利であることがわかった。
【0217】
実施例1B-「ギリシャ(greek)」系列
自己組織化ペプチドP11-4とイオン濃度の影響を調査する。
0.14M CaCl2(pH=6~7;塩化カルシウム二水和物)および0.14M Na2HPO4(pH=8;リン酸二ナトリウム二水和物)および再石灰化緩衝液の新たな溶液を調製した。
【0218】
アルファ:自己組織化ペプチドの非存在下で、0.14M CaCl2溶液および0.14M Na2HPO4溶液を、スタティックミキサー(1:1)を備えたデュアルチャンバーシリンジシステムに別々に移した。2つの溶液はミキサーを通過して移入し、直ちにpH中性の混合液が得られた。平らな四角い結晶が直ちに形成された。SEMで見える結晶は、NaClの立方体結晶と思われる。NaClの立方体結晶の間には、ACPと同様の外観を持つ球状のリン酸カルシウム沈殿物が見られた。Ca/P比は1.26で、これもACPと同様である。
【0219】
ベータ:2倍濃縮の再石灰化緩衝液/人工唾液溶液を新しく調製して直ちにデュアルチャンバーシリンジの1つのチャンバーに移し、もう一方の容器には普通の水を入れた。2つの溶液はミキサーを通過して移入し、直ちにpH中性の混合液が得られた。その後12時間の間、沈殿や結晶の形成は起こらなかった。
【0220】
デルタ:実験ベータと同様に2倍濃縮の再石灰化緩衝液/人工唾液溶液を調製した。しかし、自己組織化ペプチドP11-4を20mg/mLで水に溶解させ(pHを1N NaOHでpH=8に調整した)、30秒間超音波処理して得られた均一で清澄な溶液を、水の代わりにデュアルチャンバーシリンジのもう一方のチャンバーに入れた。2つの溶液はミキサーを通過して移入し、直ちにpH中性の混合液が得られた。その後12時間の間、沈殿や結晶の形成は起こらなかった。記録過程で溶液を乾燥させた際にのみ、SEM画像上で見られる結晶が形成された。
【0221】
ガンマ-1:自己組織化ペプチドP11-4(20mg/mL)を0.14Mのリン酸ナトリウム溶液(pHを1N NaOHでpH=8に調整した)に添加し、30秒間超音波処理して清澄な溶液を得た。0.14M CaCl2溶液および0.14M Na2HPO4溶液をダブルチャンバーシリンジに別々に移し、1:1で混合した。pH中性の混合液が得られ、直ちに、織り目状または網目状の形態を有する沈殿物が析出し、結晶が確認できた。Ca/P-比はCa/P-比=1.1で同程度のままであった。SEM画像上では、自己組織化ペプチドP11-4の線維が形成され、リン酸カルシウムがその周りに析出しているように見えた。
【0222】
ガンマ-2:本実験はガンマ-1と同様に調製したが、自己組織化ペプチドP11-4ペプチドは20mg/mLで0.14M CaCl2溶液に添加し(pHを1N NaOHでpH=8に調整した)、30秒間の超音波処理後であっても白色の/不透明な溶液を得た。溶液を別々にデュアルチャンバーシリンジに移し、1:1で混合した。pH中性の混合液が得られ、直ちに、織り目状または網目状の形態(interwoven or network-like morphology)を有する沈殿物が析出し、結晶が確認できた。
【0223】
驚くべきことに、自己組織化ペプチドP11-4をCaCl2溶液に組み込んだ場合に、形成された沈殿物のCa/P比がCa/P比=1.7に上昇し、アパタイト構造が形成されている事を明らかに示す。SEM画像は、自己組織化ペプチドP11-4線維の周囲に細い針状結晶を示した。
【0224】
結論として、自己組織化ペプチドP11-4の添加は、Ca2+およびPO4
3-イオンの濃度が生理学的な塩濃度、例えば約0.05~0.15Mの範囲内にある場合には、自己組織化ペプチドP11-4線維の周囲でのリン酸カルシウムの沈殿を誘導する。沈殿したリン酸カルシウムの結晶形態は、自己組織化ペプチドP11-4の存在、Ca2+およびPO4
3-イオンの濃度、フッ化物の存在、および混合の前に自己組織化ペプチドが配合される溶液に依存する。
【0225】
カルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度が高く、例えば0.36Mである場合には、沈殿は、自己組織化ペプチドP11-4の存在下および非存在下の両方においてアモルファスとなる傾向があり、これはCa2+およびPO4
3-の過飽和度が高すぎて、結晶の核化よりも沈殿反応が速い事を示唆する(言い換えると、リン酸カルシウム結晶の、自己組織化ペプチドの線維表面上でのテンプレート化が遅すぎて競合できない)。
【0226】
Ca2+およびPO4
3-イオンの生理学的な塩濃度の範囲内(0.14M、または、得られた溶液中では、0.07M)では、リン酸カルシウム形成について、沈殿反応ならびに核化および二次的な結晶の成長が競合すると思われる。自己組織化ペプチドをリン酸含有溶液中に配合した場合にはACPが形成され、これは沈殿の前にCa2+イオンのテンプレート化も事前配置(prepositioning)も起こらなかった事を示唆する。しかし、自己組織化ペプチドをCa2+含有溶液に配合した場合にはヒドロキシアパタイトが形成された。理論に拘束される事を意図するものではないが、これはおそらく、自己組織化ペプチドの低次の凝集体への結合によってカルシウムイオンが事前配置されることで、迅速なHAの核化および二次的な結晶の成長がもたらされ、これがACPの沈殿よりも優勢である事を示唆し得る。
【0227】
興味深いことに、系へのフッ化物イオンの添加は、自己組織化ペプチドをNa2HPO4溶液中に配合した場合であってもHAの形成をもたらした。フッ化物イオンの存在はHA結晶の核化に有利であると思われる。
【0228】
顕微鏡評価用サンプルの調製
サンプルを乾燥させ(12時間;40°C)、可能であれば濯いで、再度乾燥させる。得られた沈殿物を、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDX)検査のために回収した。
【0229】
サンプルを個別にカーボンテープを備えたサンプルホルダーに設置し、金でスパッタリングした(30秒)。このコーティングは平均で3~4nmの厚みを有した。スパッタリングに続いて、サンプルをSEM(SEM Supra 40VP;10kV;WD=~8mm、Zeiss)に移し、および目視で評価した。
【0230】
原子組成は、SEMに搭載されたEDXビームを使用して調査した。標準倍率は1000倍に規定した。
【0231】
Ca/Pの計算
EDX:ソフトウェアを使用して(Thermoscientific NSS,Version 3.3)、CaおよびP-ピークを分析的に評価する事により、元素比%を決定した。計算上、P比の過大評価を避けるため、Au(金コーティングに由来)を計算で差し引いた。計算方法は以下の通りである:(元素重量(Element wt)(Ca)/元素重量(P))=Ca/P比。
【配列表】
【国際調査報告】