(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(54)【発明の名称】フロー電池の充電率インジケータ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20231026BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20231026BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20231026BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20231026BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20231026BHJP
【FI】
G01N27/26 371A
G01N27/28 321Z
G01N27/416 341M
H01M8/18
H01M8/04537
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524581
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2021078996
(87)【国際公開番号】W WO2022084345
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521058508
【氏名又は名称】インヴィニティ エナジー システムズ (アイルランド) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】アダム ホワイトヘッド
(72)【発明者】
【氏名】ジャック マクダーモット
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル レイド
(72)【発明者】
【氏名】フィル ライオンズ
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB10
5H126RR01
5H127AA10
5H127DB53
5H127EE25
5H127EE27
(57)【要約】
フロー電池の正極電解質と負極電解質の間の電位差を測定するための基準セル構成と、それが基準を与えるフロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容する別個の補助電解質リザーバ、補助基準電解質と基準セル構成の電解質との間の電位差を測定する手段、及び補助基準電解質リザーバを基準セル構成の電解質に連結する、低い流体拡散速度のために構成されたイオン経路導管を備える補助基準電解質構成と、を有するレドックスフロー電池システムのための充電率インジケータ構成は、電池電解質の汚染によってもたらされる基準セルの電圧ドリフトを考慮することによって、標準的な基準セルの強健性であるがフロー電池の寿命にわたって一貫した測定となる効果を与え、それにより、電池の健全度のより正確な測定、及びその寿命にわたる電池の容量のより完全かつ安全な使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記レドックスフロー電池セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記レドックスフロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、を備えるレドックスフロー電池システムのための充電率インジケータであって、
フロー電池の前記正極電解質タンクの又はそこからの前記正極電解質と、前記フロー電池の前記負極電解質タンクの又はそこからの前記負極電解質との間の電位差を測定するための手段を備える基準セル構成と、
少なくとも1つの補助基準電解質構成であって、
それが基準を与えるフロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバ、
前記又は各補助基準電解質と前記基準セル構成の前記それぞれの電解質との間の前記電位差を測定する手段、及び
前記又は各補助基準電解質リザーバを前記基準セル構成の前記それぞれの電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管
を備える少なくとも1つの前記補助基準電解質構成と、
を備える充電率インジケータ。
【請求項2】
前記イオン経路導管は、前記補助基準電解質リザーバと前記基準セル構成の前記それぞれの電解質との間の流体接続を与える管状部材である、請求項1に記載の充電率インジケータ。
【請求項3】
前記イオン経路導管は、1Mオーム以下の抵抗値を有する、請求項1又は2に記載の充電率インジケータ。
【請求項4】
前記イオン経路導管には膜又はバリアがなく、前記イオン経路導管は前記補助基準電解質と前記基準セル構成の前記それぞれの電解質との間に開路で流体接続される、請求項1から3のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項5】
前記イオン経路導管及び前記別個の補助電解質リザーバは、浸水されて実質的に気体がない状態にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項6】
前記イオン経路導管は、0.5mm~10mm、好ましくは1~5mm、より好ましくは2.5~4mm、例えば、3~3.5mmの内径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項7】
前記イオン経路導管は、5cm~10m、好ましくは約5m以下、より好ましくは約2m以下、さらにより好ましくは10cm~1.5m、より好ましくは15cm~1.2m、例えば、20cm~1m又は75cm以下、好ましくは約30~50cmの長さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項8】
前記イオン経路導管は、2.5~4mmの内径及び20cm~2mの長さを有する管状部材である、請求項6又は7に記載の充電率インジケータ。
【請求項9】
前記イオン経路導管は、好ましくはその長さに沿う鉛直構成要素とともに1以上の湾曲部分又は屈曲部、例えば、U字屈曲部又はループを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項10】
前記イオン経路導管は、その長さに沿う1以上のループを備える、請求項9に記載の充電率インジケータ。
【請求項11】
前記補助電解質リザーバが、少なくとも100mlの基準電解質、好ましくは10L以下、例えば、400~600mlなど、200ml~1000mlの基準電解質を保持するように構成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項12】
前記補助電解質構成は、前記補助電解質リザーバ内の電解質の温度を測定するように構成された温度センサを備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項13】
前記基準セル構成内の及び/又は前記それぞれの電解質タンク若しくは前記フロー電池の関連する循環システム内の前記それぞれの電解質の温度を測定する前記温度センサが設けられた、請求項12に記載の充電率インジケータ。
【請求項14】
前記補助基準電解質は前記フロー電池の前記正極電解質に対応し、前記補助基準電解質構成は、イオン経路導管接続のために及び前記補助電解質リザーバと前記基準セル構成の前記正極電解質との間の前記電位差の測定のために構成されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項15】
補助基準電解質構成を備え、前記補助基準電解質は前記フロー電池の前記負極電解質に対応し、前記補助基準電解質構成は、イオン経路導管接続のために及び前記補助電解質リザーバと前記基準セル構成の前記負極電解質との間の前記電位差の測定のために構成されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項16】
前記基準セル構成は、前記フロー電池の前記正極電解質タンクとの流通循環のために構成された正極電解質リザーバを有する正極ハーフセルと、前記負極電解質タンクとの流通循環のために構成された負極電解質リザーバを有する負極ハーフセルと、を備える基準セルを備え、前記電位差を測定するための手段が前記基準セルの両端の前記電位差を測定するように構成され、前記又は各補助基準電解質と前記基準セル構成の前記それぞれの電解質との間の前記電位差を測定する手段が、前記又は各補助基準電解質と前記基準セルの前記それぞれのハーフセルとの間の前記電位差を測定するように構成された、請求項1から15のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項17】
所定周期で又は所定のシステムアクションに応じて前記充電率を測定するように構成された請求項1から16のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項18】
前記充電率インジケータの温度及び/若しくは電圧の測定を制御するためのプロセッサをさらに備え、並びに/又は前記測定の値を前記フロー電池の対するコントローラ又はデータロガーに通信するように構成された請求項1から17のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項19】
レドックスフロー電池は、バナジウムレドックスフロー電池である、請求項1から18のいずれか一項に記載の充電率インジケータ。
【請求項20】
レドックスフロー電池システムのための健全度インジケータシステムであって、請求項1から19のいずれか一項に記載の充電率インジケータの構成を備え、好ましくは、前記フロー電池の少なくとも一方の電解質及び他方の電解質又はその代用物の前記充電率の測定値を(任意選択的に、連続的に、周期的に又は断続的に)取得し、好ましくは、前記それぞれの電解質の相対酸化状態を特定し、好ましくは、特定された前記相対酸化状態が所定の限度外となったことに応じて警報、表示又は改善アクションを発生させることによって、そこから前記レドックスフロー電池システムの健全度を判定するように構成された健全度インジケータシステム。
【請求項21】
請求項1に記載の充電率インジケータのための補助基準電解質構成であって、
それが基準を与える前記フロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバと、
前記又は各補助基準電解質と、基準セル構成の関連する電解質又は基準セルの関連するハーフセルとの間の電位差を測定する手段と、
前記又は各補助基準電解質リザーバを前記基準セル構成又は前記基準セルのそれぞれのハーフセルのそれぞれの電解質内の電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管と、
を備える補助基準電解質構成。
【請求項22】
請求項21に記載の補助基準電解質構成であって、請求項2から19のいずれか一項にさらに記載の補助基準電解質構成。
【請求項23】
レドックスフロー電池であって、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記フロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、請求項1から19のいずれか一項に記載の充電率インジケータと、を備えるレドックスフロー電池。
【請求項24】
レドックスフロー電池において充電率及び/又は健全度を監視する方法であって、請求項1から19のいずれか一項に記載の充電率インジケータを提供し、前記基準セルの両端の及び前記補助基準電解質と前記基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の充電状態の周期的測定を前記充電率インジケータに行わせ、前記システムの充電率をそこから特定し、任意選択的に、所定の閾値による前記フロー電池の前記基準セル間で異なる充電率に応じて、前記フロー電池の電解質の充電状態の非平衡の警告を発生させることを含む方法。
【請求項25】
レドックスフロー電池において平衡化した充電率又は酸化状態を維持するための方法であって、
請求項1から19のいずれか一項に記載の充電率インジケータを提供し、前記基準セル間及び前記補助基準電解質と前記基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の充電状態の周期的又はアクション若しくはイベント依存の測定を前記充電率インジケータに行わせ、前記システムの充電率及び/又は健全度をそこから判定することによって前記フロー電池の充電率を監視し、
前記正極電解質と前記負極電解質の間の前記充電率又は酸化状態の相違が1つ以上の所定の閾値を超えたこと又は1つ以上の所定の基準を満たしたことに応じて、前記フロー電池に1以上の保守アクションが適用されるようにすることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池の分野に関する。より詳細には、本発明は、フロー電池の電解質の健全度又は充電率、電解質の健全度又は充電率を検出するデバイス又は基準セル、そのようなデバイスの製造の方法、フロー電池内の電解質の健全度又は充電率を検出、監視又は補正する方法、及び健全度インジケータをそこに有するレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムレドックスフロー電池などのレドックスフロー電池は、それらの正極及び負極の電解質の経時的な又は使用を通じた充電率に関して非平衡となり得る。
【0003】
バナジウムレドックスフロー電池が充電率の観点で非平衡となることの結果として、フロー電池のエネルギー貯蔵容量及び性能が低下してしまう。
【0004】
フロー電池の充電率の非平衡を判定するために、正極及び負極の電解質の各々の充電率の測定値又は表示を有することが必要となる。2つの電解質間の充電の平衡化に関する信頼性のある情報なしには、フロー電池は不正確な情報に対して動作することになり、これは電解質を過充電若しくは過放電する試行からもたらされる危険につながりかねず、又は少なくとも利用可能な放電深度及び電池効率を制限してしまう。2つの電解質間の充電の平衡化に関する信頼性のある情報が欠如すると、改善又は補正アクション(手動又は自動にかかわらず)が適時に促進されないことにもなる。
【0005】
フロー電池における電解質の充電率を測定する幾つかの方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、両電解質の充電率が、光吸収、密度及び粘度測定を利用することによって間接的に測定される方法が記載されている。しかし、光学測定は(時間及び温度による光源及び検出器の変化に起因する)機器ドリフトを受け、一方でインラインでの密度及び粘度測定には(特に、比較的過酷な化学条件においてかつVRFBに必要な高レベルの分解能のために)高価な機器が必要となる。
【0007】
特許文献2には、インラインでの電位差滴定技術が提案されている。しかし、この方法は、電解質の滴定体積を制御することに係る過大な要求によって制約を受けるので、市販のシステムでは現実的ではない。
【0008】
不活性レドックス電極における電解質電位の測定も、以前から提案されている。
【0009】
特許文献1には、従来の基準電極が提案されている。しかし、基準電極は、汚染されるために試験電解質内での長期間の浸漬後に電圧ドリフトを受ける。したがって、これらは、運用間隔が数か月又は数年となる市販のシステムでは現実的ではない。
【0010】
特許文献3には、ダイナミック水素電極が提案されている。ダイナミック水素電極は、白金族金属を用いて水素発生を触媒する。残念ながら、これらは、電解質を溶解し又は電解質に毒化される傾向にあるため、長期間後に不安定な結果を与える。さらに、溶解した触媒は、フロー電池の負電極に堆積し、不平衡反応の加速(水素発生)につながってしまう。
【0011】
特許文献4には、他方のハーフセルを通じて試験電解質が流通された状態で、一方のハーフセルにおいて同様の組成の基準電解質及び既知の充電率を有する基準セルが提案されている。しかし、膜分離セルは、膜を通じた質量移動を受けてしまい、基準電解質の組成の比較的急速な変化につながる。
【0012】
本発明者らは、実施が簡単であり、コスト効率が高くかつ強健な、レドックスフロー電池内の電解質の充電率が検出又は確認可能なデバイス及び構成を発明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第90/03666号
【特許文献2】特開平9-101286号公報
【特許文献3】国際公開第2014/184617号
【特許文献4】米国特許出願公開第2018/0375132号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
レドックスフロー電池において各電解質の充電率を独立して測定又は検出する強健かつ安価な方法及びデバイスのニーズがある。
【0015】
本発明の課題は、一方又は両方の電解質の充電率を測定若しくは検出し及び/又はフロー電池の健全度を判定することができる方法及びデバイス又はシステムを提供することである。
【0016】
本発明の更なる課題は、フロー電池内の電解質間の充電率の非平衡に対処する動作がいつ行われるべきかを判定する方法及びデバイス又はシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様によると、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記フロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、を備えるレドックスフロー電池システムのための充電率又は健全度インジケータ構成であって、
フロー電池の前記正極電解質タンクの又はそこからの正極電解質と、フロー電池の前記負極電解質タンクの又はそこからの負極電解質との間の電位差を測定するための手段を備える基準セル構成と、
少なくとも1つの補助基準電解質構成であって、
それが基準を与える前記フロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバ、
前記又は各補助基準電解質と前記基準セル構成の前記それぞれの電解質との間の電位差を測定する手段、及び
前記又は各補助基準電解質リザーバを前記基準セル構成の前記それぞれの電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管
を備える少なくとも1つの補助基準電解質構成と、
を備える充電率又は健全度インジケータ構成が提供される。
【0018】
本発明の第2の態様では、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記フロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、を備えるレドックスフロー電池システムのための充電率又は健全度インジケータ構成(又は装置若しくはシステム)であって、
フロー電池の前記正極電解質タンクとの流通循環のために構成された正極電解質リザーバを有する正極ハーフセル、前記負極電解質タンクとの流通循環のために構成された負極電解質リザーバを有する負極ハーフセル、及び前記基準セルの両端の電位差を測定するための手段を備える基準セルと、
少なくとも1つの補助基準電解質構成(又は装置、システム若しくはサブシステム)であって、
それが基準を与える前記フロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバ、
前記又は各補助基準電解質と前記基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の電位差を測定する手段、及び
前記又は各補助基準電解質リザーバを前記基準セルの前記それぞれのハーフセル内の前記電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管
を備える少なくとも1つの補助基準電解質構成と、
を備える充電率又は健全度インジケータ構成が提供される。
【0019】
本発明の第3の態様では、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記フロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、を備えるレドックスフロー電池システムのための充電率又は健全度インジケータ構成であって、
少なくとも1つの補助基準電解質構成であって、
それが基準を与える前記フロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関連してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバ、
前記又は各補助基準電解質と前記フロー電池(又は基準セル構成)の前記それぞれの電解質との間の電位差を測定する手段、及び
前記又は各補助基準電解質リザーバを前記フロー電池(又はその基準セル構成)の前記それぞれの電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管
を備える少なくとも1つの補助基準電解質構成と、
フロー電池の前記正極電解質タンクとの流通循環のために構成された正極電解質リザーバを有する正極ハーフセル、前記負極電解質タンクとの流通循環のために構成された負極電解質リザーバを有する負極ハーフセル、及び前記基準セルの両端の電位差を測定するための手段を備える基準セルを提供することによるなどして、前記フロー電池の他方の電解質(通常は負極の電解質)の充電率又は充電率の代用値を特定するための手段と、
を備える充電率又は健全度インジケータ構成が提供される。
【0020】
本発明の第4の態様では、レドックスフロー電池システムのための健全度インジケータシステムであって、上記の充電率インジケータ構成を備え、好ましくは、前記フロー電池の少なくとも一方の電解質及び他方の電解質又はその代用物の充電率の測定値を(任意選択的に、連続的に、周期的に又は断続的に)取得し、好ましくは、前記それぞれの電解質の相対酸化状態を特定し、及び好ましくは、特定された前記相対酸化状態が所定の限度外となったことに応じて警報、表示又は改善アクションを発生させることによって、そこから前記レドックスフロー電池システムの健全度を判定するように構成された健全度インジケータシステムが提供される。
【0021】
本発明の第5の態様では、上記の充電率又は健全度インジケータのための補助基準電解質構成であって、
それが基準を与える前記フロー電池電解質の所望又は初期組成に相当する既知の組成の基準電解質に関してレドックス電極を収容し、既知の充電率を有する別個の補助電解質リザーバと、
前記又は各補助基準電解質と基準セル構成の関連する電解質又は基準セルの関連するハーフセルとの間の電位差を測定する手段と、
前記又は各補助基準電解質リザーバを基準セル構成又は基準セルのそれぞれのハーフセルのそれぞれの電解質内の電解質に連結する、低い流体拡散能又は速度のために構成されたイオン経路導管と、
を備える補助基準電解質構成が提供される。
【0022】
本発明の第6の態様では、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及び前記セルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及び前記フロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、上記の充電率又は健全度インジケータと、を備えるレドックスフロー電池が提供される。
【0023】
本発明の第7の態様では、レドックスフロー電池において充電率又は健全度を監視する方法であって、上記の充電率又は健全度インジケータを提供し、前記基準セルの両端の及び前記補助基準電解質と前記基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の充電状態の周期的測定を前記充電率又は健全度インジケータに行わせ、前記システムの充電率をそこから特定し、任意選択的に、所定の閾値による前記フロー電池の前記基準セル間で異なる充電率に応じて、前記フロー電池の電解質の充電状態の非平衡の警告を発生させることを含む方法が提供される。
【0024】
本発明の第8の態様では、レドックスフロー電池において平衡化した充電率を維持するための方法であって、
上記の充電率又は健全度インジケータを提供し、前記基準セル間及び前記補助基準電解質と前記基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の充電状態の周期的又はアクション若しくはイベント依存の測定を前記充電率又は健全度インジケータに行わせ、前記システムの充電率をそこから特定することによって前記フロー電池の充電率を監視し、
前記正極電解質と前記負極電解質の間の前記充電率の相違が1つ以上の所定の閾値を超えたこと又は1つ以上の所定の基準を満たしたことに応じて、前記フロー電池に1以上の保守アクションが適用されるようにすることを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の充電率又は健全度インジケータは、標準的な基準セルの強健性の効果を与えるが、電池電解質の汚染によってもたらされる基準セルでの電圧ドリフトを考慮することによって、測定値はフロー電池寿命にわたって一致する。それにより、同インジケータは、電池の健全度のより正確な測定、及びその寿命にわたる電池の容量のより完全かつ安全な使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る充電率インジケータ構成の斜視図を斜視で示す。
【
図2a】
図2aは、本発明の実施形態に係る充電率インジケータ構成において使用するイオン経路導管チューブの斜視図である。
【
図2b】
図2bは、本発明の実施形態に係る充電率インジケータ構成において使用するイオン経路導管チューブの斜視図である。
【
図2c】
図2cは、本発明の実施形態に係る充電率インジケータ構成において使用するイオン経路導管チューブの斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る充電率又は健全度インジケータの説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の他の態様の実施形態の充電率又は健全度インジケータを組み込む本発明の一態様の実施形態のフロー電池の簡略化した配管及び計装図である。
【
図5a】
図5aは、本発明の一実施形態に係る充電率インジケータを組み込むフロー電池におけるフロー電池基準セルについての電圧対絶対電流のグラフである。
【
図5b】
図5bは、本発明の一実施形態に係る充電率インジケータを組み込むフロー電池におけるフロー電池基準セルの正電極と補助電解質との間の電圧対絶対電流のグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態での使用のための補助基準電解質構成においてイオン経路導管を通じる拡散速度を特定するための実験設定のイメージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係るレドックスフロー電池システムのための充電率インジケータ又は健全度インジケータは、レドックスフロー電池セルスタック、正極電解質タンク、負極電解質タンク、及びそれぞれのタンクからセルスタックのそれぞれの部分を通じて電解質を循環させる配管部を有するレドックスフロー電池のためのものである。
【0028】
ここで使用されるセルスタックとは、何らかの膜、電極又は集電体及びセルフレームに加えて、フロー電池セルを意味し、(通常は、並列配置され、各電解質タンクからの、電解質の一組の供給又は複数の並列の供給を受ける)1又は複数のセルを備え得る。
【0029】
フロー電池セルは通常、それぞれの電解質タンクから供給されてイオン選択膜によって分離される電解質を含むための2個のハーフセルを備える。各ハーフセルには、電池の充電又は放電での使用のために、電源又は負荷を与える電気回路に接続される電極又は集電体が設けられる。
【0030】
電解質は通常、ポンプを用いて各電解質タンクからセル又はセルスタックを通じて循環される。
【0031】
充電率又は健全度インジケータ構成は、少なくとも1つの補助基準電解質(ここでは互換可能に補助電解質という)構成を備え、それはフロー電池の一方の電解質(通常は正極電解質)の充電率を特定するように構成される。任意選択的に、第2の補助電解質構成は、フロー電池の第2の(通常は負極の)電解質の充電率を特定するために設けられる。
【0032】
充電率又は健全度インジケータは、基準セル、基準セル構成又は(補助電解質構成の一方である第1の電解質が特定する)フロー電池の第2/他方の電解質の充電率を特定するための手段のうちの1つを備える。その第2/他方の電解質は、通常は負極電解質であり、又はそれは第2の(通常は負極の)電解質の充電率の代用値としての情報を特定するための代用手段を備える。
【0033】
フロー電池の第2/他方の電解質の充電率を特定するための手段は任意の適宜の手段であればよく、例えば、それはフロー電池の第2の(通常は負極の)電解質の充電率を特定するために設けられた第2の補助電解質構成であり得る。第2の(通常は負極の)電解質の充電率の代用値としての情報を特定するための代用手段は、代用手段の測定値に近似し又はそれから推定可能な任意の適宜の手段であり得る。特に好適な実施形態では、代用手段は、フロー電池のための基準セル構成又は基準セルである。
【0034】
基準セル構成は、フロー電池の正極電解質タンクの又はそこからの正極電解質と、フロー電池の負極電解質タンクの又はそこからの負極電解質との間の電位差を測定するための手段を備える。好ましくは、充電率又は健全度インジケータ構成は、フロー電池のための少なくとも1つの基準セルを備える(かつ基準セル構成がフロー電池のための少なくとも1つの基準セルである)。
【0035】
基準セル構成におけるフロー電池の正極電解質タンクの又はそこからの正極電解質と、フロー電池の負極電解質タンクの又はそこからの負極電解質との間の電位差を測定するための手段は、各電解質タンクに対してなど、各電解質に対して配置された電極、及び両電極に接続された(電位差を測定するための)電圧計又は同様の計装を備え得る。
【0036】
少なくとも1つの基準セル(本発明のある態様及び好適な実施形態に含まれる)は、フロー電池の正極電解質タンクとの流通循環のための正極電解質リザーバを有する正極ハーフセル、及び負極電解質タンクとの流通循環のために構成された負極電解質リザーバを有する負極ハーフセルを備える。少なくとも1つの基準セルは、基準セルの両端の電位差を測定するための手段を備える。これは、例えば、各ハーフセルに対して配置された電極及び各電極に接続された電圧計又は同様の計装を備え得る。これは、好ましくは、フロー電池における正極電解質と負極電解質の間にある基準セルの両端の開回路電圧を特定するように構成される。
【0037】
基準セルの正極ハーフセル及び負極ハーフセルは、フロー電池のそれぞれの電解質タンクと任意の適宜の手段によって流通していてもよく、その適宜の手段は、基準セルの正極ハーフセル及び負極ハーフセルをそれぞれの電解質タンクと、より好ましくは、タンクからの電解質をフロー電池セルスタックへ及び/又はそこから循環させる配管部と連結する配管などである。任意選択的に、基準セルのハーフセルは、電解質をタンクからフロー電池セルスタックを通じて循環させるための配管部の戻りアームへの及びそこからの配管を介して、ただし好ましくは(例えば、電解質がセルスタックに入る直前の)タンクからの電解質をセルスタックに送出する配管から、電解質タンクに接続される。
【0038】
好ましくは、電解質は、セルスタックへのそのフローと並行して基準セルに流れる。正極及び負極電解質は、セルスタックの注入口付近の点において(配管の分岐を用いて)取り出され、スタックの下流の任意の点において(スタック排出口とタンクの間で)又は直接にタンクに戻され得る。
【0039】
通常、基準セルには、正極電解質に対して1つの注入口及び1つの排出口(基準セルの一方のハーフセルを通じる)並びに負極電解質に対して1つの注入口及び1つの排出口(基準セルの他方のハーフセルを通じる)がある。好ましくは、電解質は、基準セル内で、電子的には分離されているが、イオン的にはイオン交換(又は微多孔)膜を通じて接続されている。
【0040】
タンク及びスタックに対する基準セルの高さは重要ではない。実際には、基準セルは(タンクが過度に低く配置された場合及びリークの場合に電解質をタンクから吸い上げてしまうことを防止するために)セルスタックと同じ高さ付近に配置される。
【0041】
好ましくは、基準セルには、基準セルに対する電位差の測定値が温度に対して調整されることを可能とするように、温度センサ又は温度計が設けられる。任意選択的に、温度センサは、基準セルの一方若しくは両方のハーフセル及び/又は基準セルの他の構成要素(例えば、筐体)内の電解質における基準セルの温度を測定又は特定するように構成され得る。
【0042】
充電率又は健全度インジケータの特徴でありかつ本発明の更なる態様である補助基準電解質構成は、別個の補助電解質リザーバ、当該又は各補助基準電解質と基準セルのそれぞれのハーフセル(又は基準セル構成若しくはフロー電池のそれぞれの電解質)との間の電位差を測定する手段、及び当該又は各補助基準電解質リザーバを基準セルのそれぞれのハーフセル(又は基準セル構成若しくはフロー電池のそれぞれの電解質)と連結するイオン経路導管を備える。
【0043】
別個の補助電解質リザーバは、レドックス電極及び基準電解質を収容するためのものである。基準電解質は、好ましくはフロー電池のそれぞれの電解質の所望の組成と同じである周知の組成から選択され、予め規定された既知の充電率にある。フロー電池のそれぞれの電解質の所望の組成は、通常は(劣化又は汚染が起こる前の)初期組成である。別個の補助電解質リザーバは、任意の適宜のサイズのものであり得る。例えば、別個の補助電解質リザーバは、好ましくは少なくとも10mlでかつ好ましくは10L以下の電解質体積を有し得る。より好ましくは、電解質体積は30ml~1000ml、より好ましくは50ml~750ml、さらにより好ましくは少なくとも100mlの範囲にある。一実施形態では、電解質体積は、400ml~600mlなど、少なくとも400mlの体積である。イオン経路導管が(以下に記載するように)比較的狭く、長く又は湾曲/ループしている他の実施形態では、別個の補助電解質リザーバは、500ml以下、例えば、100ml~350ml、より好ましくは250ml以下、さらにより好ましくは200ml以下の体積を有する。
【0044】
別個の補助電解質リザーバは、好ましくは、上述したような所定量の電解質を受容するため、及びリザーバ内の補助電解質といずれか他の箇所の電解質との間の電位差を測定又は検出する際に使用するためのレドックス電極を受容又は収容するための空間又は体積部を含むハウジングである。
【0045】
レドックス電極は、仮想的に任意の形態をとり得る。それは、単純な平板、ロッド又は空間充填多孔3D形状(フェルト、発泡体など)であり得る。それは、補助リザーバ内の電解質に(少なくとも部分的に)浸漬されるように配置されなければならない。レドックス電極は、このリザーバ内の電解質に対して化学的に安定しているべきである。その理由のため、カーボン又はカーボン複合材(例えば、カーボン及びポリプロピレン)が好適となる。
【0046】
好ましくは、補助基準電解質構成は温度センサをさらに備え、温度センサは、好ましくは、温度に対する何らかの電位差測定値を補正するために、それと熱連通する別個の補助電解質リザーバ、ハウジング又は固定具と結合される。温度センサは、任意の適宜の形態をとり得る。温度センサは別個の補助電解質リザーバ内の電解質の温度を測定することを目的とするので、それは電解質と良好な熱接触状態になければならない。例えば、それは(場合によっては熱ウェル内で又は適宜の保護コーティングを有して)電解質に浸漬されていてもよいし、電極と密着していてもよい(カーボンは一般的に高い熱伝導率を有するので、熱を熱センサに伝達するのに使用され得る)。後者の選択肢では、通常、正確な測定値を取得するために、熱センサの周囲において何らかの絶縁が空気側に必要となる。
【0047】
当該又は各補助基準電解質と、基準セルのそれぞれのハーフセル(又は基準セル構成若しくはフロー電池のそれぞれの電解質)との間の電位差を測定する手段は、別個の補助電解質リザーバ内のレドックス電極及び基準セルの当該又は各それぞれのハーフセル内の適宜の電極に接続された(又は電解質タンクなどの基準セル構成若しくはフロー電池の当該若しくは各電解質内にあり若しくはそれと結合されている)電圧計など、任意の適宜のデバイス又は機器であり得る。
【0048】
当該又は各補助基準電解質リザーバを基準セルのそれぞれのハーフセルに連結するイオン経路導管は、低い流体拡散能又は速度のために構成される。イオン経路導管は、任意の適宜の手段によって提供され得るが、通常は、補助基準電解質リザーバと基準セルのハーフセル(又はその中の電解質)との間の流体接続を与える管状部材である。好ましくは、イオン経路導管は、その長さに沿って(例えば、補助基準電解質リザーバと基準セルのハーフセルとの間に)1Mオーム以下の抵抗値を有する。好ましくは、イオン経路導管には、補助基準電解質と基準セルのそれぞれのハーフセルとの間のイオン又は流体の連通を防止(又は阻止)し得るいずれの膜又はバリアもない。それらは、むしろ、好ましくはイオン経路導管によって開路で流体接続される。
【0049】
イオン経路導管は、任意の適宜の長さ、好ましくは(口径、曲率及びループ数などの幾何形状に応じて)イオン経路導管によって流体接続にある補助電解質とフロー電池電解質との急速な流体混合を阻止するような適宜の長さのものであり得る。好ましくは、イオン経路導管は、少なくとも5cm、及びより好ましくは10m以下の長さを有する。より好ましくは、イオン経路導管は、5m以下、好ましくは約2~2.5m以下の長さを有する。好ましくは、イオン経路導管は、10cm~1.5m、より好ましくは15cm~1.2m、例えば、20cm~1m、又は任意選択的に75cm以下、好ましくは約30~約50cmの長さの範囲を有する。一実施形態では、例えば、より大きな口径のチューブがイオン経路導管として使用される場合、長さはより大きくてもよく、例えば、1.5m~2.5mなど、50cm~5mであり得る。
【0050】
イオン経路導管は、任意の適宜の口径を有し得る。その口径は、導管を通じた補助電解質とフロー電池電解質との混合を阻止するために、導管の長さ及び他の幾何学的特徴に応じて選択され得る。好ましくは、イオン経路導管は、少なくとも0.5mmの口径を有する。口径は、10mm以下、好ましくは7.5mm以下であり得る。好ましくは、イオン経路導管は細孔導管であり、好ましくは導管を通じて電解質の層流を阻止するように充分に小さな口のものである。より好ましくは、イオン経路導管は、1~5mm、好ましくは、3~3.5mmなど、2.5~4mmの範囲で内口径を有する。
【0051】
イオン経路導管の内径は、層流を防止するほどに充分小さい必要がある(それは補助電解質とフロー電池電解質の間の混合を促進し得るが、例えば、フロー電池電解質に存在し得る微粒子による高い詰りリスクがないほどに大きい必要がある)。
【0052】
一実施形態では、イオン経路導管は、20cm~2mの長さ及び2.5~4mmの内径を有する。
【0053】
好ましくは、イオン経路導管は、その長さに沿って1以上の湾曲部分又は屈曲部を有する。好ましくは、イオン経路導管は、1以上の湾曲部分又は屈曲部と結合された1以上の鉛直構成要素を有する。湾曲部分又は屈曲部は、少なくとも30度、好ましくは少なくとも60度、より好ましくは少なくとも90度、より好ましくは、少なくとも180度など、少なくとも120度、より好ましくは少なくとも270度、さらにより好ましくは360度以下のイオン経路の長さに沿って接線方向の変化をもたらし得る。
【0054】
好ましくは、イオン経路導管における少なくとも1つの湾曲部分又は屈曲部は、少なくとも1つのU字屈曲部又はループを画定する。U字屈曲部又はループの方向は、好ましくは鉛直構成要素を有する。好ましくは、イオン経路導管は、その長さに沿って、少なくとも1つのループ、より好ましくは、3個のループなど、2個以上のループを画定する。補助電解質リザーバと基準セルとの間のイオン経路導管において少なくとも2個のループを有することは、(例えば、1つのループ又はループなしの場合と比較すると)補助電解質とのフロー電池電解質の混合を減速させることにおいて特に有利である。結果として、1つのループ又は好ましくは2個のループ(好ましくは鉛直構成要素を有する)を含むことは、フロー電池(又は基準セル)の電解質との補助電解質の混合の速度を低減し、したがって、より小体積の補助電解質が同じ有効寿命の充電率インジケータに対して使用され得ること、又は充電率インジケータの寿命が同じ体積の補助電解質に対して増加され得ることを意味する。
【0055】
本発明に係る充電率又は健全度インジケータは、補助電解質がフロー電池の正極電解質に対応し(例えば、フロー電池の正極電解質の所望又は初期の組成に対応する組成を有し)又はフロー電池の負極電解質に対応する(例えば、フロー電池の負極電解質の所望又は初期の組成に対応する組成を有する)ように構成され得る。
【0056】
任意選択的に、2つの補助基準電解質構成がある。その一実施形態では、一方の補助基準電解質構成はフロー電池(及び好ましくは基準セルの第1のハーフセル)の正極電解質に対応し、他方の補助基準電解質構成はフロー電池(及び好ましくは基準セルの第2のハーフセル)の負極電解質に対応する。他のそのような実施形態では、両補助基準電解質構成は、フロー電池の正極電解質に対応する電解質を備えるように選択され、ここで、一方は正極電解質(例えば、基準セルの正極ハーフセル)にイオン経路導管を介して連結され、他方は負極電解質(例えば、基準セルの負極ハーフセル)に経路導管を介して連結され、フロー電池の各電解質の充電率は、フロー電池(又は基準セルのハーフセル)のそれぞれの電解質とそれぞれのイオン経路導管に連結された補助基準構成との間の電位差の測定値から特定される。
【0057】
好ましくは、少なくとも1つの補助電解質は正極電解質に対応し、補助基準電解質構成(又は疑似基準セル)は、電位差を測定する手段が補助基準電解質と基準セルの正極ハーフセルとの間にありかつイオン経路導管が補助基準電解質リザーバを基準セルの正極ハーフセルに連結するように構成される。任意選択的に、充電率又は健全度インジケータは、第2の補助基準電解質構成も備え、第2の補助電解質はフロー電池の負極電解質に対応し(又はそれは正極電解質にも対応し得る)、第2の補助基準電解質構成(又は疑似基準セル)は、電位差を測定するその手段が第2の補助基準電解質と基準セルの負極ハーフセルとの間にありかつイオン経路導管が補助基準電解質リザーバを基準セルの負極ハーフセルに連結するように構成される。
【0058】
好ましくは、充電率又は健全度インジケータは、それぞれの又は各フロー電池電解質の温度を測定するための温度センサを備える。
【0059】
充電率又は健全度インジケータは、当該又は各補助基準電極構成及び基準セルのそれぞれの又は各ハーフセルに関する電位差及び温度の測定値取得及び記録を制御するためのプロセッサをさらに備えていてもよく、任意選択的に、フロー電池のためのコントローラ又はデータロガーに上記測定値を通信するように構成される。好ましくは、プロセッサは、充電率又は健全度インジケータが接続されるフロー電池の動作を制御又は管理するためのプロセッサであり又はその一部である。
【0060】
好ましくは、充電率インジケータは、所定の周期で又は所定のシステムアクションに応じて充電率を測定するように構成される。例えば、充電率インジケータ構成は、24時間毎又は7日毎、好ましくは24時間毎~3か月毎、より好ましくは2日毎から2か月毎に、例えば、週に一度から月に一度で充電率を特定するように構成され得る。追加的又は代替的に、充電率インジケータ構成は、各充放電サイクルの後、又は1000充放電サイクル、10~500充放電サイクル、例えば50~250充放電サイクル毎の後に充電率を特定するように構成され得る。
【0061】
充電率インジケータは、測定値(例えば、電位差/温度)を取得するように構成されてもよく、その測定値から、フロー電池がサイクル中であっても停止中であっても、充電サイクル中であっても放電サイクル中であっても、ただし、好ましくはフロー電池のサイクル時に、いつでも充電率の特定が行われ得る。また、この測定値は、何らかの推定充電率において、好ましくは中間推定充電率、例えば20~80%充電率、例えば40~60%充電率、好ましくは約50%推定充電において取得されてもよい。
【0062】
ここに記載される充電率インジケータは、通常かつ好ましくは、レドックスフロー電池に組み込まれ、又は嵌め込まれる。
【0063】
このように、本発明のさらなる態様では、レドックスフロー電池セルスタックと、正極電解質タンク及びセルスタックを通じて正極電解質を循環させる配管部と、負極電解質タンク及びフロー電池セルスタックを通じて負極電解質を循環させる配管部と、上述したような充電率又は健全度インジケータとを備えるレドックスフロー電池が提供される。
【0064】
レドックスフロー電池は、特に充電率の非平衡が(例えば、水素発生を通じて)生じ得る任意の適宜のタイプのものであり得るが、いずれの場合も好ましくはバナジウムレドックスフロー電池である。
【0065】
上記本発明の他の態様は、レドックスフロー電池における充電率又は健全度を監視する方法であり、その方法は、上述したような充電率又は健全度インジケータを提供し、基準セルの両端の及び補助基準電解質と基準セルのそれぞれのハーフセルとの間の充電状態の定期的又は不定期の測定を充電率インジケータに行わせ、そこからシステムの充電率を特定し、任意選択的に、フロー電池の基準セル間の所定の閾値だけ異なる充電率に応じて、フロー電池の電解質の充電の非平衡の警告を発生させることを含む。
【0066】
そのような警告は、例えば、警報、警告灯、通知(例えば、エンジニア又は通知可能な連絡先にeメール又はSMSされる)又は他の何らかの適宜の警告手段であり得る。
【0067】
健全度(すなわちSOH)について、我々は、充電率(すなわちSOC)を含む。健全度インジケータという用語がここで使用される場合、それは、文脈がその許す場合には充電率インジケータでもあり、逆も然りであり得る。電解質の充電率によって、その電解質の充電のレベルが意味される。ここで使用する、フロー電池の充電率は、好ましくは電解質の各々(又は両方)の充電率である。バナジウムレドックスフロー電池の好適な実施形態では、正極電解質の充電率(SoC)とは、正極電解質中の合計バナジウムに対するV(V)の濃度の比を意味し、負極電解質の充電率は負極電解質中の合計バナジウムに対するV(II)の濃度の比である。完璧に平衡とされた(かつ健全な)システムでは、正極及び負極電解質のSoCは等しくなる。
【0068】
健全度(SoH)は、様々な電池化学に対して多数の異なる態様において規定され得る。好ましくは、健全度とは、バナジウムレドックスフロー電池システムの背景では、システムの全電解質(両正極及び負極電解質)における平均酸化状態がどの程度当初の値(バナジウムレドックスフロー電池システムについては約3.50)からどの程度ずれたかを意味する。
【0069】
電解質が(例えば、水素発生などの寄生的副反応、又はタンクへの酸素侵入を通じて)酸化された場合、平均酸化状態は上昇する。これは、正極及び負極電解質のSoCの差として顕在化することにもなる。平均酸化状態が少なくとも3.65に達した状況では、バナジウムフロー電池は「臨界」健全度にあるとみなされてもよく、正極ハーフセルは偶発的に過充電されて回復不能なダメージをスタックに与え得る。平均酸化状態の上昇は、放電エネルギーの減少としても顕在化する。
【0070】
本発明の好適な実施形態では、システムは、平均酸化状態が平衡又は健全状態(すなわち、通常は当初の状態)から0.10だけずれた場合(例えば、それが3.6以上の平均酸化状態を有する場合)、不良な健全度を有するものと判定され、平均酸化状態が3.55以上の場合には減少した健全度を有するものとみなされ得る。
【0071】
平均酸化状態は、単一の機会に本システム/構成を用いて(例えば、正極電解質の及び基準セル両端の)充電率の測定値から特定可能であるが、好ましくは、長期間にわたって、例えば何時間若しくは何日又は1週間以上にもわたって、好ましくは複数の測定値に依拠して計算される。
【0072】
一実施形態では、構成は、基準セルの正極ハーフセルと、基準セルの正極ハーフセルにイオン経路導管を介して連結された上記のような補助基準電解質構成と、の間の電圧差を判定することによって正極電解質の充電率を特定するように構成される。負極電解質の充電率は、基準セルの負極ハーフセルと、基準セルの負極ハーフセルにイオン経路導管を介して連結された第2の補助基準セルと、の間の電圧差を特定することによって又は(又は追加的に)(上述した補助基準電解質構成を用いて特定された)基準セルの両端の測定された開回路電圧と正極電解質の特定された充電率との間の差を判定することによって特定されてもよく、好ましくは温度ばらつきを補償する。負極電解質の充電率は、むしろ、基準セルから取得された値である「平均」充電率として推定されてもよく、それは正極電解質の充電率と負極電解質の充電率との間にあるものと一般に把握されることになる。
【0073】
これらの測定を実行する場合、正電極は、正極電解質の充電率に依存する電位を与える。負電極は、負極の電解質の充電率に応じた電位を与える。基準セルは、正電極電位と負電極電位の間の差を測定する。したがって、両電解質が良好に平衡化していると推定する場合、それは正極充電率値と負極充電率値の間に実際に存在する「全電池充電率」に対する値を与える。これは、非常に複雑な関係に従い、単に平均値というわけではない。
【0074】
この好適な実施形態では、(温度補償後の)補助基準電極は、正電極との比較のために固定電圧を与える。これによって、正極電解質の充電率が特定可能となる。そして、この値は(基準セルの両端の電圧を測定することによって特定された)「全電池充電率」の値と比較可能となる。これらが近い場合には、負極及び正極の充電率値は近似していなければならず、電池は「健全」とみなされる。その値が異なる場合には、正極電解質の充電率の値と負極電解質の充電率の値との間に差があり、電池は「健全でない」。
【0075】
充電率は、上述したようにそれぞれの電解質と補助電解質構成の間の電位差を測定してから他方の電解質の充電率の代用値を測定及び/又は特定することによって(例えば、フロー電池又はより好ましくは基準セルの電解質間の電位差を測定することによって)本発明の構成によって特定され得る。そして、各電解質の充電率(又は充電率の代用値)は、特定のシステムについての所定の参照テーブルによって又は適宜の実験式を用いることによってなど、任意の適宜の方法によって特定され得る。
【0076】
好適な実施形態によると、本構成又はシステムは、基準セルの両端の電位差(Eref[V]と表記されることもある)を特定するためのセンサ、基準セルの正極ハーフセルと補助基準セル(又は疑似基準セル)との間の電位差(Eref-aux[V]と表記されることもある)を特定するためのセンサ、基準セル温度(T1[℃]と表記される)を特定するためのセンサ、及び補助基準セルの温度(T2[℃]と表記される)を特定するためのセンサを備える。そして、基準セルの充電率α及び正極電解質の充電率αposは、適宜の参照テーブルから又は実験式を適用することによって特定され得る。
【0077】
一実施形態では、αは、例えば、合計1.6Mのバナジウム及び合計4.0Mの硫酸塩を含有する電解質に対して適切な以下の式1に示す形式の実験式を、それが収束するまで反復することによって特定される。この式はネルンストの式と類似する形式を有し、これは、電気活性種の活性が知られていないため、直接実施することはできない。
【数1】
ただし、
F=96500Cmol
-1
R=8.314JK
-1mol
-1
【0078】
正極電解質の充電率α
posは、例えば、以下の式2に示す形式の実験式を反復することによって特定され得る(なお、基準電解質及び活性電解質の双方が合計1.6Mのバナジウム及び合計4.0Mの硫酸塩を含有する)。
【数2】
【0079】
好適な実施形態では、測定値は約50%の充電において取得されるが、測定値は任意の適宜の充電レベルにおいて取得されてもよく、ただし、好ましくはその充電レベルにおいて比較的一貫して取得される。フロー電池の充電率の中間充電部分(例えば、20%~80%充電済み、より好ましくは25%~75%充電済み、さらにより好ましくは30%~70%充電済み、一層より好ましくは40%~60%充電済み、さらには45%~55%)が好適である。これは、とりわけフロー電池が他の部分よりも頻繁にその部分にあるためであり、その部分において行われる測定及び特定の誤差がより小さくなるためである。
【0080】
例えば、上記実験式から(又は参照テーブルなどによって)特定されたα及びαposの値を比較することによって、正極及び負極電解質の充電率の平衡化についての判定が実行可能となる。したがって、
αpos>αの場合、電解質は酸化されており、再平衡化が必要である。
αpos=αの場合、電解質は平衡化しており、再平衡化は不要である。
αpos<αの場合、電解質は還元されており、再平衡化は不要である。
【0081】
好適な実施形態では、α及びαposの値は、長期間(又は大きな充放電サイクル数)にわたって積分され得る。例えば、α及びαposの値は、30日以下の期間にわたって、より好ましくは1~10日間にわたって積分されてもよい。これは有用な期間である。なぜなら、一般的な動作条件下のシステムは非常に遅く酸化するためである(通常、平均酸化状態は月あたり約0.001~0.02変化し得る)。
【0082】
好ましくは、(基準セルの両端の電位差及び基準セルと補助基準セルの間の電位差並びに好ましくは温度の)測定値は、電解質がフローにある間(かつ基準セルを流通している間)に放電若しくは充電サイクル又はアクション時に取得される。
【0083】
またさらに、電気活性材料において大きな濃度の相違をもたらす膜を用いるセルについては、任意の決定的測定が電解質の完全な再混合の直後に行われることが好ましい。電気活性種の大きな変化をもたらさない膜については、濃度測定は任意のタイミングで行われ得る。
【0084】
本発明のさらなる態様では、レドックスフロー電池における平衡化した酸化状態など、平衡化した充電率又は健全度を維持するための方法がある。その方法は、上述したような充電率又は健全度インジケータを提供し、充電率インジケータ又は健全度インジケータ(又はそれと関連して構成されたコントローラ)に基準セルの両端で及び補助基準電解質と基準セルのそれぞれのハーフセルとの間で充電の周期的又はアクション若しくはイベント依存の測定を行わせることによってフロー電池における充電率を監視し、システムの充電率及び/又は健全度をそこから特定し、正極電解質と負極電解質の間の充電率又は酸化状態の相違が1つ以上の所定の閾値を超えること又は1つ以上の所定の基準を満たすことに応じて、フロー電池に1以上の保守アクションが適用されるようにすることを含む。
【0085】
一実施形態では、方法は、上述したような充電率インジケータ又は健全度インジケータを提供し、基準セルの両端で及び補助基準電解質と基準セルのそれぞれのハーフセルとの間で充電の周期的又はアクション若しくはイベント依存の測定を充電率又は健全度インジケータに行わせることによってフロー電池における充電率を監視し、システムの充電率をそこから特定し、正極電解質と負極電解質の間の特定された充電率の相違が1つ以上の所定の閾値を超えること又は1つ以上の所定の基準を満たすことに応じて、フロー電池に1以上の保守アクションが適用されるようにすることを含む。
【0086】
減少したフロー電池の健全度、少なくとも例えば(上記に規定したような)臨界状態に達したフロー電池の健全度の場合、システムは、(例えば、正極電解質の値と負極電解質の値との間にある値を与える基準セルから特定されるような)電池の最大充電率を制限するなど、フロー電池に対する性能限度を導入するように任意選択的に構成されてもよい。これは、システムに対するダメージのリスクを低減するが、電池の放電エネルギーも低減する。
【0087】
一実施形態では、方法及びシステム(例えば、その制御システム)は、改善アクションをもたらす(又は奨励する)ように構成される。好ましくは、システムは、酸化状態が所定値よりも大きい(例えば、当初のレベルよりも0.05大きい)健全度の判定に応じて改善アクションを自動的に行うように構成される。改善アクションは、V(V)の一部をV(IV)に変換するために還元剤を電解質タンクに添加すること(例えば、所定の充電率の相違に応じて電解質タンクへの還元剤の自動化された投与)(例えば、国際公開第2018/047079号に記載される)及び正極電解質タンクへの導入のための酸素を生成して電解質におけるバナジウムの平均酸化状態を電気化学的に低減するために電気化学再平衡セルを用いること(特許第3315508号などに記載される)から選択され得る。
【0088】
再平衡アクション(例えば、還元剤の添加速度又はセル電流の再平衡)は、例えば、平均酸化状態と目標酸化状態の間の差に比例していてもよいし、予め設定した量以上にずれる場合にはオン-オフアクションを有してもよい。
【0089】
各場合において、いずれの測定又は特定充電率の値も、好ましくは充電率又は健全度のデータを生成するために、温度に対して補正される。
【0090】
ここで本発明を、添付図面を参照して、限定することなく、より詳細に説明する。
【0091】
図1に、基準セル3及びそれに関連して単一の補助基準電解質構成5を有する充電率又は健全度インジケータ構成1を示す。構成1は、バナジウムレドックスフロー電池での使用について構成される。基準セル3は負極ハーフセル7及び正極ハーフセル13を備え、その各々はそれぞれの電解質リザーバ(不図示)を備える。負極ハーフセル7は、負極電解質タンク(不図示)又はそれが接続され得るフロー電池の回路(不図示)との負極電解質循環のために負極電解質注入口9及び排出口11を介して構成される。正極ハーフセル13は、正極電解質タンク(不図示)又はそれが接続され得るフロー電池の回路(不図示)との電解質循環のために正極電解質注入口(不図示)及び排出口17を介して構成される。
【0092】
標準的な基準セルにおけるように、電位差は、正極ハーフセル7と負極ハーフセル13の間で基準セル3の両端間で測定され得る。これは、フロー電池の測定された充電率の概観を与える。なぜなら、正極及び負極ハーフセル7、13は、フロー電池の正極及び負極電解質タンクと流体循環しているためである。
【0093】
補助基準電解質構成5は基準電解質を収容するための円筒形補助電解質リザーバ19を有し、基準電解質は、予め規定された充電率、通常は50%充電率付近においてフロー電池の正極電解質の当初の組成又は同等の電解質組成であり得る。補助電解質リザーバ19内の基準電解質は、補助電解質リザーバ19の下部におけるチューブコネクタ23及び正極ハーフセル13の底部における基準セル結合部(不図示)を介して補助電解質リザーバ19と正極ハーフセル13の間のイオン経路導管を与えるチューブ21によって基準セル3の正極ハーフセル13の正極電解質リザーバとイオン接続している。
【0094】
導管経路チューブ21は、補助電解質リザーバ19と正極ハーフセル13内の電解質との間に、膜又はバルブなどの妨害物又は障害物なしに、開路の連続流体連結を与える。導管経路チューブ21は、補助電解質リザーバ19と基準セル3の正極ハーフセル13との間に中断のないイオン接続を与え、それにより、補助電解質リザーバ19内の基準電解質と正極ハーフセル13におけるフロー電池の正極電解質との間で正確な電圧差測定が実行可能となる。
【0095】
チューブ21は、長さ60cm(ただし1.5m以下であればよい)及び内口径3.2mmを有する。この長さ及び直径は、補助電解質リザーバ19内の基準電解質と正極ハーフセル13内の正極電解質との間のイオン連結を与えつつ、長期間にわたって基準電解質の組成を実質的に維持し、信頼性がありかつ一貫した連続的な測定を可能とするように正極ハーフセル13内の正極電解質への基準電解質の(体積500mlの、ただし、好ましくはよりも少量の、例えば100mlの)混合に対して充分に阻害的である。
【0096】
基準電解質と正極ハーフセル13内の正極電解質との間の流体混合をさらに阻止するために、チューブ21には複数の屈曲部25が設けられ、各々は約90度のチューブの角度変化で湾曲する。2つの鉛直部分29及び水平部分31におけるチューブ並びに分離屈曲部25が、ともにU字屈曲部を形成する。補助電解質リザーバ19及び正電極13の双方よりも低い最下点(水平部分31)を有するU字屈曲部構成が、結果として得られる。
【0097】
補助電解質リザーバ19と正極ハーフセル13の間のチューブ21に障害物又は中断がないことは、基準電解質と正極ハーフセル13内のフロー電池の正極電解質との間の電圧差が正確にかつ電子「ノイズ」による干渉がほとんどなく測定され得るように、チューブ21を通じる低い抵抗値、理想的には1Mオーム未満を維持することに役立つ。
【0098】
使用時に、補助電解質リザーバ19は、充分な基準電解質で充電されてリザーバ19及びチューブ21を実質的に満たすべきであり、実質的に気体のない状態となるべきである。
【0099】
補助リザーバ構成5は、補助電解質リザーバ19の上部に対してかつ基準セル3の前面又は側面に接して取り付けられたブラケット27によって基準セル3に物理的に取り付けられる。したがって、補助電解質リザーバ19は、使用時に基準セルよりも低い位置に配置され、基準電解質の正極ハーフセル13への混合及び流入出のリスクをさらに低減する。
【0100】
基準セル電極(不図示)が、基準セル3の正極及び負極ハーフセル7、13の各々に配置され、それに対して、ハーフセル間の電位差を測定する手段(不図示)が、得られたデータを記憶及び/又は通信する手段とともに設けられる。補助電極(不図示)は、補助電解質リザーバ19及び測定する手段に配置される。
【0101】
正極ハーフセル13及び補助電解質リザーバ19の各々には、それぞれの電解質温度を測定する熱センサ(不図示)が設けられる。
【0102】
図2a、2b及び2cに、充電率インジケータ構成1での使用のための3バージョンのイオン経路導管、すなわち、チューブ21を示す。
図2aにおけるチューブ21は、
図1の補助リザーバ構成5において使用される。
図2aによると、チューブ21は、補助電解質リザーバ19(
図1)にイオン経路チューブコネクタ23を介して接続するための補助リザーバ端33、及び正極ハーフセル13(又は両ハーフセル)に接続するための基準セル端を有し、2つの端部33、35は約60cmのチューブ21の長さによって隔てられている。
図2aのチューブは、3.2mmの内口径を有し、その長さに沿う複数の屈曲部25によって特徴付けられて好ましくはU字屈曲部を形成する。
【0103】
チューブの材料は、電解質に対して安定な任意の適宜の材料であり得る。これは通常、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニリデンなどの多数のポリマーの1つ又は混合物並びに任意選択的に可撓性ポリマー(例えば、Tygon(登録商標)チューブ)を含み得る。好ましくは、チューブは、(ガスロック又は微粒子による詰りを観察するために)半透明又は透明である。
【0104】
図2b及び2cは、いずれかの特定のシステムにおいて
図2aのチューブ21の代わりに使用され得る変形チューブ21を示す。
図2b及び2cにおけるチューブは、1以上のループ37を形成するように、さらなる屈曲部25が設けられる点で異なる。図示するループ37は、90度屈曲部分によって分散される一連の直線チューブ部分によって構成される。ただし、ループ37は、楕円又は円形/螺旋形などの任意の幾何形状をとり得る。
図2bのような1つのループ37を設けることによって、補助電解質リザーバ19と基準セル3の間の電解質の(及び特にバナジウムの)拡散及び結果として交換が減少し、それにより、補助電解質リザーバからの安定した読取りが達成可能となる期間が延びる。
図2cのような第2のループ37を設けることによって、
図2aのU字屈曲部形状及び
図2bの単一ループバージョンに対して、補助電解質リザーバ19と基準セル3の間の電解質の拡散が大幅に減少する。したがって、
図1の構成1の使用のためにチューブ21に1以上のループ37(又はさらなるU字屈曲部)を設けることによって、チューブ21は、基準セル3からの電解質が補助電解質リザーバ19内の電解質と許容できない程度で混合する前の期間を延長するように作用し、又は
図2aのものと(拡散阻止の観点で)同じ性能を達成するためにチューブ21を短縮し若しくはその内口径を増加させることによって適合され得る。
【0105】
図3において、本発明の実施形態に係る充電率インジケータ構成1の模式図は、正極側7、負極側13、及び電位差を測定するためにセル間に配置された電圧計5を備える。インジケータ構成は、リザーバ19、及び基準セル3の正極側7に連結された(イオン導管経路としての)狭口チューブ21を備える補助基準電解質構成5をさらに備える。正極及び負極側7、13は、燃料電池の電解質タンクからセルスタックに(理想的にはセルスタックの直前に)それぞれ正極及び負極電解質を供給する配管から基準セル3への正極及び負極電解質のそれぞれの注入口15、9、並びにセルスタックから電解質タンクに(又は電解質タンクに直接)戻る配管に基準セル3から正極及び負極電解質を戻す排出口17、11を有する。
【0106】
基準セル3の両端の電位差は電圧計5によって測定され、基準セル3の正極側7と補助リザーバ19の間の電位差は電圧計39によって測定され得る。
【0107】
図4に、正極電解質45を含む正極電解質タンク43及び負極電解質49を含む負極電解質タンク47を備えるバナジウムレドックスフロー電池41の背景において、充電率インジケータ構成の位置を示す。正極及び負極電解質45、49は、正極供給ライン55及び正極戻りライン57並びに負極供給ライン59及び戻りライン61によってセルスタック53を通じてポンプ51によって循環される。基準セル3は、セルスタック53に並列に配置され、正極及び負極供給ライン55及び59から正極及び負極注入口15、9によって供給され、正極及び負極排出口17、11を介して正極及び負極戻り57及び61に戻す。基準セル3の正極側7は、湾曲狭口配管21によって補助電解質リザーバ19に連結される。
【0108】
ポンプ51の動作時に、電解質は、セルスタック53及び基準セル3を通じて循環し得る。電位差測定値は、ポンプ動作時に最も良好に取得される。
【0109】
正極電解質45の充電率が負極電解質49の充電率とは異なる充電率を有することが測定される場合(基準セル3の両端の電位差を測定することによって推定される)、フロー電池41は、電解質に還元剤を投与するなどの改善アクションを可能とするように構成され得る。
【実施例1】
【0110】
基準セルがレドックスフロー電池のスタックに並列接続された
図1に示す構成に係る酸化バナジウムレドックスフロー電池に対して(40kWhの電池における5kWのスタックについて)充電率又は健全度インジケータを設定した。補助基準電解質は、50%SOCにおける正極電解質であった。
【0111】
電池は、最初に0%充電率付近の放電された電解質を含んでいた。連続稼働するポンプによって電池を充電した。
【0112】
図5a及び5bは、基準セルの両端の電位差(
図5a)及び基準セルの正電極と補助基準構成の補助電解質との間の電位差(
図5b)のプロットであり、電位差をいずれもスタックを通過した絶対電荷に対してプロットした。
【0113】
図5aにおいて分かるように、(予想される)連続充電は基準セル電圧を増加させ、その後に電池は放電しつつ、基準セル電圧の低下を観察した(基準セル電圧が再度増加すると、非常に短い最終充電期間が続いた)。基準セルの両端の測定可能電圧範囲は、1.25V~1.45Vの有効範囲を有して0~1.6Vであった。
【0114】
基準セルの正電極と(補助基準構成の)補助電極の間の電位差も電圧計によって測定し、それを
図5bに示す。この測定値は、正極電解質が(50%充電率であった)補助電解質よりも低い充電率を有する場合には低い値を有し、それが補助電解質の充電レベル以上である場合には高い値を有していた。正確な差を得るために、温度補償が基準セル及び補助リザーバに対して必要となる。(それらが等温であると仮定すると、正極電解質は、電位差がゼロである場合に50%充電率となり得る。)基準セルの正電極と補助基準構成の補助電解質との間の有効電圧範囲は-0.01~0.04Vであった。
【0115】
電池の充電/放電における任意の特定点での(又は充電サイクルの一部、充電サイクル若しくは複数の充電サイクルにわたって平均化される)電位差の測定値は、フロー電池の健全度を評価するために、αpos及びαについて特定された値に対して、上記実験式に挿入され得る(又は参照テーブルに対して使用される)。
【実施例2】
【0116】
本発明の補助基準電解質構成における使用についての流体の拡散/混合の背景において導管寸法及び幾何形状を比較するために、一連の拡散試験を行った。
【0117】
この実験では、電解質のタンクを(それぞれ基準セル及び疑似基準セルとして作用する)硫酸の試験管に接続し、チューブを通じた電解質の進行を監視した。タンク及び試験管を、異なる幾何形状の異なる長さのチューブを用いて接続し、それらの要因の各々が電解質の拡散に対して有する関係を把握した。硫酸は無色であるため、試験管内の電解質(青色)の濃度をUV-visを用いて測定することができた。経過時間に対する電解質の濃度を比較することによって、拡散速度を定量化することができた。
【0118】
6種の比較実験を、以下の長さ及び幾何形状を有する内径4.8mmのTygon(登録商標)チューブを用いて設定した。
A 長さ30cm、二重ループ
B 長さ30cm、直線(ループなし)
C 長さ30cm、単一ループ
D 長さ50cm、直線(ループなし)
E 長さ50cm、単一ループ
F 長さ50cm、二重ループ
【0119】
実験を(上記チューブE及びFでの実験を示す)
図6に示す構成で以下のように設定した。
【0120】
2つの封止したサイドアーム試験管73を試験管ラック75に配置した。サイドアーム試験管73を、概ね水平に延在する長さ50cmの内径4.8mmのTygon(登録商標)チューブ69、71を介して排出口67に接続した。1つの長さのチューブ71(上記実験E)に、約150~200mmの直径を有するロッド(コーク)81を中心にチューブをループさせることによって鉛直に向く1つのループ79を設けた。第2の長さのチューブ69(上記実験F)に、ロッド81を中心にチューブを2回ループさせることによって鉛直に向く2つのループ77を設けた。
【0121】
排出口67に接続する前に、試験管73及び接続したチューブ69、71が満たされるまで試験管73を4.2Mの硫酸で満たし(15.2ml)、その後にチューブの端部をそれらの自由端付近でクランプした。そして、試験管73をキャップで封止した。その後、チューブ69、71を、電解質貯蔵容器65に試験管73のサイドアームの高さと同様の高さで容器の底付近に配置された2つの排出口67を介して接続した。
【0122】
1.6Mの量のTMS2バナジウム電解質63を、2つの排出口67の高さ程度の高さまで電解質貯蔵容器65に供給した。そして、クランプを除去した。
【0123】
拡散を試験するために、1mlのサンプルを試験管から(実験の開始から約2か月で開始する不定期の間隔で)取得し、1mlの硫酸で置換した。抽出したサンプルを、硫酸標準液(4.2M)に対してUV/visによって測定した。
【0124】
バナジウム浸透の平均速度を、測定したUV/visデータから計算し、拡散速度mol/日として以下の表1に示す。
【表1】
備考:実験の終了時に完全に混合されたサンプルBについては、結果は記録されていない
【0125】
上記実験から、補助リザーバの充電率が12か月後に初期値の2%以内でありかつチューブに2つのループを有するという基準に対して、補助リザーバは100ml未満の体積となり得ることを特定した。これは、コスト及びシステムへの補助リザーバの統合の観点で有利な効果を与えつつも効果的なままである。
【0126】
これを以下のアプローチ/仮定で計算した。
・補助電解質基準構成の当初充電率=0.50、及び総バナジウム濃度[V]=1.8moldm-3
・補助電解質基準構成のV(IV)の濃度=[V(IV)]
・Dvにおいて基準セルへのV(IV)の一定の移動がある(かつ基準セルへのV(V)の拡散はなく、これは明らかに「最悪の場合」の近似である)
・バナジウムの等速変位がある(補助電解質基準構成の充電率において)
・補助電解質基準構成の体積=V
【0127】
補助電解質基準構成のV(IV)濃度[V(IV)]は、以下によって与えられる。
【数3】
SOC
t=0=0.50、[V]=1.8であるので、
【数4】
【0128】
開始SOCからの最大許容分散を0.02とし、この分散に対する最小時間を1年とした。
【数5】
なお、Dvは単位mold
-1で表され、Vは単位Lで表される。
【0129】
上記チューブ接続について、以下の表2に示す補助電解質基準構成の体積は、示された基準を満たした。
【表2】
【0130】
本発明を好適な実施形態を参照して記載した。ただし、変形及び変更が本発明の範囲から逸脱することなく当業者によって実施可能であることが分かるはずである。
【国際調査報告】