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特表2023-546579がん治療のためのフェロトーシスの誘導
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-06
(54)【発明の名称】がん治療のためのフェロトーシスの誘導
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20231027BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231027BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
A61K45/06 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/4439
A61K31/436
A61K31/7088
A61K31/4375
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523112
(86)(22)【出願日】2021-10-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 US2021055326
(87)【国際公開番号】W WO2022082078
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/093,151
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン-ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シュエジュン
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,クレイグ ビー
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,ジアジュン
(72)【発明者】
【氏名】イー,ジュンメイ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC71
4C086BC82
4C086CB09
4C086CB22
4C086EA16
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
4C086GA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、処置を必要とする対象にPI3K-AKT-mTORC1経路(またはSREBPおよびSCD1などのこの経路の下流要素)の阻害剤およびフェロトーシスを誘導する薬剤を投与することにより、がんを処置する方法を提供する。本発明はまた種々の関連組成物および関連方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする哺乳動物対象における腫瘍を処置する方法であって、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤および(b)フェロトーシスの誘導剤両者の有効量を対象に投与することを含み、それにより対象における腫瘍の増殖を低減するおよび/または退縮を引き起こす、方法。
【請求項2】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある腫瘍またはPTEN欠失がある腫瘍を有する、請求項1の方法。
【請求項3】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある腫瘍を有する、請求項1の方法。
【請求項4】
対象がPTEN欠失がある腫瘍を有する、請求項1の方法。
【請求項5】
対象が乳房腫瘍を有する、請求項1~4の何れかの方法。
【請求項6】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある乳房腫瘍を有する、請求項5の方法。
【請求項7】
対象が前立腺腫瘍を有する、請求項1~4の何れかの方法。
【請求項8】
対象がPTEN欠失がある前立腺腫瘍を有する、請求項7の方法。
【請求項9】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がPI3K阻害剤、Akt阻害剤、MTOR阻害剤、MTORC1阻害剤、SREBP阻害剤およびSCD1阻害剤からなる群から選択される、請求項1~8の何れかの方法。
【請求項10】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がPI3K阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項11】
PI3K阻害剤がGDC-0941、SAR245409、SAR245408、BYL-719、GDC-0980、ワートマニン、Ly294002、デメトキシビリジン、ペリホシン、デラリシブ、イデラリシブ、PX-866、IPI-145、BAY 80-6946、BEZ235、RP6530、TGR 1202、RP5264、SF1126、INK1117、BKM120、パロミド529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、CAL263、RP6503、PI-103、GNE-477、CUDC-907およびAEZS-136からなる群から選択される、請求項10の方法。
【請求項12】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がAkt阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項13】
Akt阻害剤がMK-2206、MK-2206、ペリホシン、GSK690693、イパタセルチブ(GDC-0068)、AZD5365、アフレセルチブ(GSK2110183)、At13148、PF-04691502、AT7867、トリシリビン、CCT128930、A~674563、PHT0427、ミルテホシン、ホノキオールおよびTIC10からなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がMTOR阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項15】
MTOR阻害剤がSAR245409、GDC-0980、CCI-779、KU-0063794、ラパマイシン、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、カフェイン、クルクミン、レスベラトロール、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムスおよびリダホロリムスからなる群から選択される、請求項14の方法。
【請求項16】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がMTORC1阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項17】
MTORC1阻害剤がテムシロリムス(CCI-779)、TorinおよびRAPTORの短ヘアピンRNA(shRNA)阻害剤からなる群から選択される、請求項16の方法。
【請求項18】
PI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤がSREBP阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項19】
SREBP阻害剤がファトスタチンAである、請求項18の方法。
【請求項20】
PI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤がSCD1阻害剤である、請求項1~9の何れかの方法。
【請求項21】
SCD1阻害剤がCAY10566である、請求項20の方法。
【請求項22】
フェロトーシスの誘導剤がRSL3、エラスチン、イミダゾールケトンエラスチン(IKE)、スルファサラジン、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルテスナート、ML-162およびML-210からなる群から選択される、請求項1~21の何れかの方法。
【請求項23】
A処置を必要とする対象における腫瘍の処置に使用するための、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤、(b)フェロトーシスの誘導剤および(c)治療上許容される担体を含む、治療組成物。
【請求項24】
処置を必要とする対象における腫瘍の処置に使用するための、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤および(b)フェロトーシスの誘導剤の組み合わせ剤。
【請求項25】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある腫瘍またはPTEN欠失がある腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項26】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項27】
対象がPTEN欠失がある腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項28】
対象が乳房腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項29】
対象がPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある乳房腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項30】
対象が前立腺腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項31】
対象がPTEN欠失がある前立腺腫瘍を有する、請求項23の組成物または請求項24の組み合わせ剤。
【請求項32】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がPI3K阻害剤、Akt阻害剤、MTOR阻害剤、MTORC1阻害剤、SREBP阻害剤およびSCD1阻害剤からなる群から選択される、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項33】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がPI3K阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項34】
PI3K阻害剤がGDC-0941、SAR245409、SAR245408、BYL-719、GDC-0980、ワートマニン、Ly294002、デメトキシビリジン、ペリホシン、デラリシブ、イデラリシブ、PX-866、IPI-145、BAY 80-6946、BEZ235、RP6530、TGR 1202、RP5264、SF1126、INK1117、BKM120、パロミド529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、CAL263、RP6503、PI-103、GNE-477、CUDC-907およびAEZS-136からなる群から選択される、請求項33の組成物または組み合わせ剤。
【請求項35】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がAkt阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項36】
Akt阻害剤がMK-2206、MK-2206、ペリホシン、GSK690693、イパタセルチブ(GDC-0068)、AZD5365、アフレセルチブ(GSK2110183)、At13148、PF-04691502、AT7867、トリシリビン、CCT128930、A~674563、PHT0427、ミルテホシン、ホノキオールおよびTIC10からなる群から選択される、請求項35の組成物または組み合わせ剤。
【請求項37】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がMTOR阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項38】
MTOR阻害剤がSAR245409、GDC-0980、CCI-779、KU-0063794、ラパマイシン、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、カフェイン、クルクミン、レスベラトロール、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムスおよびリダホロリムスからなる群から選択される、請求項37の組成物または組み合わせ剤。
【請求項39】
PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤がMTORC1阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項40】
MTORC1阻害剤がテムシロリムス(CCI-779)、TorinおよびRAPTORの短ヘアピンRNA(shRNA)阻害剤からなる群から選択される、請求項39の組成物または組み合わせ剤。
【請求項41】
PI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤がSREBP阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項42】
SREBP阻害剤がファトスタチンAである、請求項41の組成物または組み合わせ剤。
【請求項43】
PI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤がSCD1阻害剤である、請求項23~31の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【請求項44】
SCD1阻害剤がCAY10566である、請求項43の組成物または組み合わせ剤。
【請求項45】
フェロトーシスの誘導剤がRSL3、エラスチン、イミダゾールケトンエラスチン(IKE)、スルファサラジン、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルテスナート、ML-162およびML-210からなる群から選択される、請求項23~44の何れかの組成物または組み合わせ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月16日出願の米国仮出願63/093,151に基づく優先権の利益を主張し、その内容を引用により全体として本明細書に包含させる。
【0002】
配列表
本願発明は、ASCII形式で電子的に提出しており、引用により全体として本明細書に包含させる配列表を含む。該ASCIIコピーは2021年10月15日に作成し、MSKCC_051_WO1_SL.txtなる名称であり、4,615バイトサイズである。
【0003】
連邦政府資金による研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた認可番号CA201318、CA204232およびCA008748の下、政府の支持によりなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0004】
引用による取り込み
引用による取り込みを許容する法域のみでの目的で、本明細書で引用する全引用文献を、全体として引用により本明細書に包含させる。さらに、ここに引用または記載するあらゆる製品についてのあらゆる製造業者の指示またはカタログを、引用により本明細書に包含させる。本明細書に引用により組み込まれた文献またはその中のあらゆる教示を、本発明の実施に際して使用できる。
【背景技術】
【0005】
背景
細胞代謝の副産物であるリン脂質過酸化物の蓄積は、フェロトーシスと称される鉄依存性形態の細胞死に至り得る(1、2)。フェロトーシスの生理学的機能はなお不明瞭であるが、その虚血性臓器傷害、神経変性およびがんを含む種々の病態への関与が最近示されている(1、6~8)。特に、フェロトーシスが腫瘍抑制に役割を有し得ること(9~12)およびフェロトーシスの活性化が免疫チェックポイント遮断(13)および放射線療法(14~16)などのあるがん処置に対する応答に寄与し得ることを示す山のような証拠がある。重要なことに、間葉性性質またはEカドヘリン-NF2-Hippo経路変異を有するがんは、フェロトーシスに関連する酸化還元/鉄恒常性および代謝過程の変更により、フェロトーシスによる細胞死に高度に感受性であることが示されている(17~19)。しかしながら、大部分のがんについて、フェロトーシスが疾患に役割を有するか否かについて、ほとんど知られていない。同様に、特定の腫瘍形成変異または遺伝的背景が特定のがんのフェロトーシスに対する感受性に役割を有し得るか否かについて、ほとんど知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一部、本特許明細書の実施例部分にさらに詳述する、一連の重要な発見に基づく。例えば、PI3K-AKT-mTORC1シグナル伝達経路の活性化により、がん細胞が下流SREBP1介在脂質生合成上方制御によりフェロトーシスに耐性となり得ることが本発明により発見された。さらにおよび重要なことに、哺乳動物対象にフェロトーシスを誘導する薬剤と共に、PI3K-AKT-mTORC1経路(またはSREBPおよびSCD1などのこの経路の下流要素)阻害剤を投与することは、PI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異を有する腫瘍の顕著な抑制をもたらし - 故に、がんの大きくかつ重要な一群の新規治療アプローチを提供することも本発明により発見された。ここに提示されるこれらの発見および他の発見を足場として、本発明は、種々のがんの治療のための多様な新規かつ改善された方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、ある実施態様において、本発明は、処置を必要とする哺乳動物対象において腫瘍を処置する方法であって、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤および(b)フェロトーシスの誘導剤両者の有効量を対象に投与することを含み、それにより、対象における腫瘍を処置する、方法を提供する。
【0008】
他の実施態様において、本発明は、処置を必要とする対象における腫瘍の処置に使用するための、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤、(b)フェロトーシスの誘導剤および(c)治療上許容される担体を含む、治療組成物を提供する。
【0009】
さらに他の実施態様において、本発明は、処置を必要とする対象における腫瘍の処置に使用するための、(a)PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤および(b)フェロトーシスの誘導剤の組み合わせ剤を提供する。
【0010】
ある実施態様において、対象は、PI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある腫瘍を有する。ある実施態様において、対象はPTEN欠失がある腫瘍を有する。ある実施態様において、対象は乳房腫瘍を有する。ある実施態様において、対象はPI3K-PTEN-AKT-mTOR経路に活性化変異がある乳房腫瘍を有する。ある実施態様において、対象は前立腺腫瘍を有する。あるこのような実施態様において、対象はPTEN欠失がある前立腺腫瘍を有する。
【0011】
ある実施態様において、PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤はPI3K阻害剤、Akt阻害剤、MTOR阻害剤、MTORC1阻害剤、SREBP阻害剤およびSCD1阻害剤からなる群から選択される。
【0012】
ある実施態様において、PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤はPI3K阻害剤である。ある実施態様において、PI3K阻害剤はGDC-0941、SAR245409、SAR245408、BYL-719、GDC-0980、ワートマニン、Ly294002、デメトキシビリジン、ペリホシン、デラリシブ、イデラリシブ、PX-866、IPI-145、BAY 80-6946、BEZ235、RP6530、TGR 1202、RP5264、SF1126、INK1117、BKM120、パロミド529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、CAL263、RP6503、PI-103、GNE-477、CUDC-907およびAEZS-136からなる群から選択される。
【0013】
ある実施態様において、PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤はAkt阻害剤である。ある実施態様において、Akt阻害剤はMK-2206、MK-2206、ペリホシン、GSK690693、イパタセルチブ(GDC-0068)、AZD5365、アフレセルチブ(GSK2110183)、At13148、PF-04691502、AT7867、トリシリビン、CCT128930、A-674563、PHT0427、ミルテホシン、ホノキオールおよびTIC10からなる群から選択される。
【0014】
ある実施態様において、PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤はMTOR阻害剤である。ある実施態様において、MTOR阻害剤はSAR245409、GDC-0980、CCI-779、KU-0063794、ラパマイシン、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、カフェイン、クルクミン、レスベラトロール、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムスおよびリダホロリムスからなる群から選択される。
【0015】
ある実施態様において、PI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤はMTORC1阻害剤である。ある実施態様において、MTORC1阻害剤はテムシロリムス(CCI-779)、TorinおよびRAPTORの短ヘアピンRNA(shRNA)阻害剤からなる群から選択される。
【0016】
ある実施態様においてPI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤はSREBP阻害剤である。ある実施態様において、SREBP阻害剤はファトスタチンAである。
【0017】
ある実施態様においてPI3K/Akt/MTORC1シグナル伝達軸の阻害剤はSCD1阻害剤である。ある実施態様において、SCD1阻害剤はCAY10566である。
【0018】
ある実施態様において、フェロトーシスの誘導剤はRSL3、エラスチン、イミダゾールケトンエラスチン(IKE)、スルファサラジン、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルテスナート、ML-162およびML-210からなる群から選択される。
【0019】
本発明のこれらおよび他の態様は、本特許明細書の下の詳細な記載、図面、実施例および特許請求の範囲の部分にさらに記載される。さらに、当業者は、本特許明細書をとおして記載される本発明の種々の実施態様が種々の異なる方法で組み合わせることができ、そのような組み合わせは本発明の範囲内であることを認識する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1A~D。PI3K-AKT-mTORシグナル伝達経路の発がん性活性化はフェロトーシスに対する耐性に寄与する。(A)分析したがん細胞株の遺伝的背景およびRSL3に対する感受性。(B)細胞を96ウェルプレートに2×10細胞/ウェルで播種し、一夜インキュベートした。細胞死を、示す濃度のRSL3の24時間処理により誘導した。細胞死を、方法に詳述するとおり、Sytox Green染色により測定した。(C)PI3K-AKT経路における示すタンパク質要素を、示す細胞型でウェスタンブロットで検出した。(D)細胞を、示すとおり、PI3K阻害剤GDC-0941(2μM)、AKT阻害剤MK-2206(2μM)、RSL3(1μM)またはフェロトーシス阻害剤フェロスタチン-1(Fer-1、1μM)存在下または非存在下に12時間(BT474)または24時間(MDA-MB-453)処理した。細胞死を測定した。P値の指示記号(全ての他の図で同じ):****、P≦0.0001;***、P≦0.001;**、P≦0.01;、P≦0.05;ns、P>0.05
【0021】
図2図2A~E。mTORC2ではなくmTORC1はフェロトーシスを抑制する。(A)MDA-MB-453およびBT474を示すとおり、CCI-779(0.5μM)、RSL3(MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM)およびFer-1(1μM)で処理した。(B)細胞を、4×10細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種し、一夜インキュベートした。MDA-MB-453およびBT474細胞を示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM。細胞を8時間処理後、5μM C11-BODIPYで染色し、続いてフローサイトメトリーした。(C)3Dスフェロイドを示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;RSL3、0.5μM;Fer-1、1μM。上部パネル、死んだ細胞をSYTOX Greenで染色した(スケールバー、100μm)。下部パネル、細胞生存能を、細胞ATPレベルの測定によりアッセイした。(D)RPTORまたはRICTORをターゲティングするshRNAを発現する細胞を、示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;RSL3、0.5μM;Fer-1、1μM。(E)パネルDにおけるようなサンプルの脂質過酸化反応を測定した。
【0022】
図3図3A~E。NRF2はmTORC1のフェロトーシス抑制活性の主要媒介因子ではない。(A)BT474細胞を示すとおり8時間処理した。RSL3、0.5μM;Torin、1μM。ウェスタンブロットを実施して、p-T389 S6、総S6KおよびNRF2を測定した。(B)NRF2を、HT1080細胞でCRISPR/Cas9テクノロジーにより枯渇させた。NRF2レベルをウェスタンブロットにより測定した。(C)対照またはNRF2枯渇細胞を示すとおり処理した。エラスチン、0.5μM;RSL3、25nM。hnM(D)NRF2枯渇があるまたはないHepG2細胞を、示すとおり、CCI-779(0.5μM)存在下または非存在下、シスチン飢餓で処理した。Sytox Greenを、細胞死染色のために48時間後加えた(スケールバー、100μm)。(E)NRF2枯渇があるまたはないPC-3細胞を、示すとおり、CCI-779(0.5μM)存在下または非存在下、シスチン飢餓で処理した。Sytox Greenを、細胞死染色のために48時間後加えた(スケールバー、100μm)。
【0023】
図4図4A~F。mTORC1活性化は、SREBP1上方制御により、フェロトーシスを抑制する。(A)BT474およびMDA-MB-453細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM。細胞ライセートを、p-T389 S6、総S6K、未加工SREBP1(SREBP1(p))および加工、成熟SREBP1(SREBP1(m))を検出するウェスタンブロットのために、BT474細胞およびMDA-MB-453細胞についてそれぞれ8時間および24時間の処理後集めた。(B)細胞を示すとおり処理した。RSL3、BT474細胞について0.5μMおよびMDA-MB-453細胞について1μM;Fer-1、1μM。(C)細胞をパネルBにおけるとおり処理した。脂質過酸化反応を測定した。(D)対照またはSREBF1 sgRNAを有するBT474細胞由来の3Dスフェロイドを、示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;RSL3、0.5μM;Fer-1、1μM。上部、Sytox Greenで染色した細胞死(スケールバー、100μm)。下部、細胞生存能。(E)SREBP1mはBT474細胞で過剰発現され、ウェスタンブロットにより決定された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM。細胞死を測定した(下部パネル)。(F)BT474細胞由来3Dスフェロイドを示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。上部、Sytox Greenで染色した細胞死(スケールバー、100μm)。下部、細胞生存能。
【0024】
図5図5A~H。SREBP1はSCD1活性を介して細胞をフェロトーシスから保護する。(A)対照およびSREBF1-sgRNA細胞におけるSREBP1およびその標的SCD1、FASNおよびACACAの発現をウェスタンブロットにより検出した。(B)SREPF1およびその標的遺伝子SCDのmRNAレベルをRT-PCRにより測定した。(C)細胞を、一夜5μM CAY10566存在下または非存在下に前処理し、次いで示す処理に付した。RSL3、BT474細胞について0.5μMおよびMDA-MB-453細胞について1μM;CAY10566、5μM;Fer-1、1μM。(D)対照またはSCD-sgRNAを発現する細胞を、示すとおり処理した。RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM。(E)対照またはSCD-sgRNAを有するBT474細胞由来3Dスフェロイドを、示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。左、細胞死染色(スケールバー、100μm)。右、細胞生存能。(F)SCD1はBT474細胞で過剰発現され、ウェスタンブロットにより決定された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM。(G)対照またはSCD1過剰発現するBT474細胞由来3Dスフェロイドを、示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。左、細胞死染色(スケールバー、100μm)。右、細胞生存能。(H)細胞を示すとおり処理した。RSL3、BT474について0.5μMおよびMDA-MB-453について1μM;CCI-779、0.5μM;オレイン酸(OA)、0.5mM;ステアリン酸(SA)、0.5mM。
【0025】
図6図6A~F。mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせはインビボで腫瘍退縮をもたらす。(A)ウェスタンブロットによりモニターした、BT474細胞におけるCRISPR/Cas9介在、Dox誘導型GPX4ノックアウト(GPX4-iKO)。(B)GPX4-iKO BT474細胞異種移植マウスからの切除腫瘍の画像。示すとおり、数群のマウスをCCI-779および/またはDoxで処置した(n=6/群)。詳細については方法参照。(C)代表的ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにGPX4、Ki67、PTGS2およびpS235/236 S6(全てヘマトキシリン(青色)で対比染色)の免疫染色画像を異種移植腫瘍切片で示す。スケールバー、50μm。(D)各群のBT474腫瘍の増殖曲線。データを、実際の腫瘍サイズについて線形目盛(上部パネル)または腫瘍変化倍率についてlog2目盛(下部パネル)上に、平均±s.d.、n=6としてプロットする。(E)実際の腫瘍サイズについて線形目盛(上部パネル)または腫瘍変化倍率サイズについてlog2目盛(下部パネル)上の各群のPC-3腫瘍の増殖曲線(n=6)。(F)PI3K-AKT-mTORC1シグナル伝達の発がん性活性化はSREBP1/SCD1介在脂質生合成を介してフェロトーシスを抑制することを説明するモデル。
【0026】
図7図7A~J。PI3K-AKT-mTORシグナル伝達はフェロトーシス感受性を制御する。(A)細胞を示すとおり処理した。GDC-0941、2μM;MK-2206、2μM;RSL3、1μM;Fer-1、1μM。脂質過酸化反応を測定した。(B)細胞を、示す条件で処理した。Torin、1μM;RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM。細胞死を測定した。(C)細胞を、示す条件で処理した。RSL3、MCF細胞およびPC-3細胞について10μM、T47D細胞について5μM、HepG2細胞について1μM;Torin、1μM;CCI-779、0.5μM。(D)細胞を示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;Torin、1μM;Fer-1、1μM。細胞死をヨウ化プロピジウム(PI)(赤色)またはSytox Green(緑色)により染色した(スケールバー、100μm)。(E~F)MDA-MB-453細胞およびMCF7細胞の3Dスフェロイドを示すとおり処理した。CCI-779、0.5μM;RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびMCF7細胞について5μM;Fer-1、1μM。上部パネル、細胞死染色(スケールバー、100μm)。下部パネル、細胞生存能。(G)MDA-MB-453細胞を示すとおり24時間処理した。RSL3、1μM;CCI-779、0.5μM;GDC-0941、2μM;MK-2206、2μM;ダブラフェニブ、2μM;SCH772984、2μM;Fer-1、1μM。(H)ウェスタンブロットを、RPTORおよびRICTORノックダウン効率を検出するために実施した。(I)HT1080細胞およびMDA-MB-231細胞(両者とも野生型PI3K-AKT-mTOR経路を有する)を、示すとおり処理した。RSL3、HT1080について0.1μMおよびMDA-MB-231について0.25μM;Torin、1μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。細胞死を測定した。(J)2系統のPI3K-AKT-mTOR経路野生型細胞(HT1080およびMDA-MB-231)および2系統の経路の活性化変異を有する細胞(BT474およびMDA-MB-453)を、示すとおり処理した。RSL3、0.25μM;Fer-1、1μM。ウェスタンブロットを、pT389 S6Kの検出のために実施した。
【0027】
図8図8A~D。NRF2はmTORC1のフェロトーシス抑制活性介在の主役ではない。(A)NRF2を、HepG2細胞においてCRISPR/Cas9テクノロジーにより枯渇させた。NRF2レベルをウェスタンブロットにより測定した。(B)NRF2を、PC-3細胞においてCRISPR/Cas9テクノロジーにより枯渇させた。NRF2レベルをウェスタンブロットにより測定した。(C)NRF2を、MCF7細胞においてCRISPR/Cas9テクノロジーにより枯渇させた。(左)NRF2レベルをウェスタンブロットにより測定した。(右)NRF2枯渇があるまたはないMCF7細胞を、示すとおり処理した。RSL3、5μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。細胞死を測定した。(D)Keap1を、BT474細胞においてCRISPR/Cas9テクノロジーにより枯渇させた。(左)NRF2およびKeap1レベルをウェスタンブロットにより測定した。(右)Keap1枯渇があるまたはないBT474細胞を、示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;Torin、1μM;Fer-1、1μM。
【0028】
図9図9A~F。SREBP1は細胞をフェロトーシスから保護する。(A)MCF7細胞を示すとおり処理した。RSL3、5μM;CCI-779、0.5μM。細胞ライセートを、p-T389 S6、総S6K、SREBP1(P)およびSREBP1(m)を検出するウェスタンブロットのため処理24時間後集めた。(B)細胞を5μM ファトスタチンAで一夜前処理し、示すとおり処理した。RSL3、BT474細胞について0.5μM、MDA-MB-453について1μMおよびMCF7細胞について5μM;Fer-1、1μM。(C)BT474、MDA-MB-453およびMCF7細胞におけるSREBF1ノックアウト効率を、ウェスタンブロットによりモニターした。(D)MCF7細胞を示すとおり処理した。RSL3、5μM;Fer-1、1μM。(E)細胞を示すとおり処理した。RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM;Torin、1μM;GDC-0941、2μM;MK-2206、2μM;CCI-779、0.5μM。(F)SREBP1mはMCF7、MDA-MB-453およびA549細胞で過剰発現され、ウェスタンブロットにより決定された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、MCF7細胞について5μM、MDA-MB-453細胞について0.5μMおよびA549細胞について0.25μM;CCI-779、0.5μM。
【0029】
図10図10A~B。SREBP1ノックアウトはSCD1を下方制御する。(A)示す系統のSREBF1ノックアウトを有する細胞を集めた。(A)SREPF1およびその標的遺伝子(ACACA、FASN、SCD、ACLY)のmRNAレベルをRT-PCRにより測定した。(B)ウェスタンブロットによるSREBF1ノックアウトされたMCF7細胞におけるFASN、ACCおよびSCD1決定。
【0030】
図11図11A~H。SCD1は細胞をフェロトーシスに対して保護する。(A)細胞は、5μM CAY10566で一夜前処理した細胞であった。細胞を示すとおり処理した。RSL3、MDA-MB-453について1μMおよびBT474について0.5μM;Fer-1、1μM;CAY10566、5μM;Fer-1、1μM。(B)BT474、MDA-MB-453およびMCF7細胞におけるSCDノックアウト効率を測定するウェスタンブロット。(C)MCF細胞(sgCtrl、sgSCD#1およびsgSCD#2)を、示すとおり処理した。RSL3、5μM;Fer-1、1μM。(D)細胞を示すとおり処理した。RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM。(E)細胞を示すとおり処理した。RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;Fer-1、1μM;CCI-779、0.5μM;GDC-0941、2μM;MK-2206、2μM。(F)SCD1はBT474細胞で過剰発現された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM。脂質過酸化反応を測定した。(G)SCD1はA549細胞で過剰発現され、ウェスタンブロットにより決定された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.25μM;CCI-779、0.5μM。脂質過酸化反応および細胞死を、それぞれ処理6時間および24時間後に測定した(H)SCD1はSREBF1ノックアウトを有するBT474細胞で過剰発現された。SCD1およびSREBP1レベルはウェスタンブロットにより決定された。細胞を示すとおり処理した。RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM;Fer-1、1μM。
【0031】
図12図12A~C。mTORC1阻害により誘導されるフェロトーシス感作は、外因性MUFAにより予防され得る。(A)SREBP1駆動転写により制御される脂質生合成の概要。(B)A549細胞を示すとおり処理した。オレイン酸(18:1、OA)、0.5mM;ステアリン酸(18:0、SA)、0.5mM;RSL3、0.5μM;CCI-779、0.5μM。(C)細胞を示すとおり処理した。パルミトレイン酸(16:1、PO)、0.5mM;パルミチン酸(16:0、PA)、0.5mM;RSL3、MDA-MB-453細胞について1μMおよびBT474細胞について0.5μM;CCI-779、0.5μM。
【0032】
図13図13A~E。mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせは腫瘍退縮をもたらす。(A) GPX4-iKO BT474細胞を示すとおり30時間処理した。CCI-779、0.5μM;DOX、100ng/ml;Trolox、200μM。死んだ細胞をSytox Greenで染色した(スケールバー、100μm)。(B) BT474腫瘍体積を各マウスで毎日測定した。各個々のマウスのlog2腫瘍体積変化倍率をプロットした。(C)PC-3細胞異種移植マウスからの切除腫瘍の画像。数群のマウスを示すとおりCCI-779および/またはIKEで処置した(n=6/群)。詳細については方法参照。(D)代表的ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにKi67、PTGS2およびpS235/236 S6(全てヘマトキシリン(青色)で対比染色)の免疫染色画像は、PC-3異種移植腫瘍の切片から示す。スケールバー、50μm。(E)PC-3腫瘍体積を各マウスで毎日測定した。各個々のマウスのlog2腫瘍体積変化倍率をプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な記載
本発明の主実施態様の一部は、本特許明細書の発明の概要、実施例および特許請求の範囲の部分に記載されているが、この詳細な記載部分は、本発明に関連するある付加的記載を提供し、本特許出願の全ての他の部分と関連して読まれることが意図される。
【0034】
他に定義されない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に共通して理解されるのと同じ意味を有する。
【0035】
本明細書および添付する特許請求の範囲において、単数表現、文脈から他のことが明らかに示されない限り、複数を含む。用語「ある」ならびに用語「1以上」および「少なくとも1個」は相互交換可能に使用され得る。
【0036】
さらに、「および/または」は、他方を伴うまたは伴わない2個の特定の特性または要素の各々の具体的開示として解釈される。故に、「Aおよび/またはB」などの句で使用される用語「および/または」は、AおよびB、AまたはB、A(単独)およびB(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、Bおよび/またはC」などの句で使用される用語「および/または」は、A、BおよびC;A、BまたはC;AまたはB;AまたはC;BまたはC;AおよびB;AおよびC;BおよびC;A(単独);B(単独);およびC(単独)を含むことが意図される。
【0037】
単位、接頭辞および記号は、国際単位系(SI)により許容された形態で示される。ここに提供される数値範囲は、該範囲を規定する数値を含む。
【0038】
数値的用語の前に「約」または「おおよそ」があるとき、該用語は示す数値および該数値の値±10%を含む。さらに、数値的用語の前に修飾語句「約」があるときは、「約」修飾語句がない厳密な記載された数値を有する別の実施態様も意図され、また本発明の範囲内に入る。逆に、本発明の実施態様が特定の数値をいうとき、「約」限定を有する別の実施態様も意図され、また本発明の範囲内に入る。
【0039】
用語「含む」、「からなる」および/または「本質的にからなる」は、米国特許法により許容される意味を有する。実施態様が用語「含む」を使用して記載されるとき、用語「からなる」および/または「本質的にからなる」で記載されるその他は類似する実施態様が包含される。
【0040】
I. 活性剤および組成物
本発明により提供される方法および組成物は、次のものを含むが、これらに限定されない種々の異なる活性剤が関与する:
【0041】
PI3K阻害剤、Akt阻害剤、MTOR阻害剤、MTORC1阻害剤、SREBP阻害剤およびSCD1阻害剤を含むが、これらに限定されないPI3K/Akt/MTORシグナル伝達軸の阻害剤;
【0042】
GDC-0941、SAR245409、SAR245408、BYL-719、GDC-0980、ワートマニン、Ly294002、デメトキシビリジン、ペリホシン、デラリシブ、イデラリシブ、PX-866、IPI-145、BAY 80-6946、BEZ235、RP6530、TGR 1202、RP5264、SF1126、INK1117、BKM120、パロミド529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、CAL263、RP6503、PI-103、GNE-477、CUDC-907およびAEZS-136を含むが、これらに限定されないPI3K阻害剤;
【0043】
MK-2206、MK-2206、ペリホシン、GSK690693、イパタセルチブ(GDC-0068)、AZD5365、アフレセルチブ(GSK2110183)、At13148、PF-04691502、AT7867、トリシリビン、CCT128930、A-674563、PHT0427、ミルテホシン、ホノキオールおよびTIC10を含むが、これらに限定されないAkt阻害剤;
【0044】
SAR245409、GDC-0980、CCI-779、KU-0063794、ラパマイシン、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、カフェイン、クルクミン、レスベラトロール、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムスおよびリダホロリムスを含むが、これらに限定されないMTOR阻害剤;
【0045】
テムシロリムス(CCI-779)、TorinおよびRAPTORの短ヘアピンRNA(shRNA)阻害剤を含むが、これらに限定されないMTORC1阻害剤;
【0046】
ファトスタチンAを含むが、これに限定されないSREBP阻害剤;
【0047】
CAY10566を含むが、これに限定されないSCD1阻害剤;および
【0048】
RSL3、エラスチン、イミダゾールケトンエラスチン(IKE)、スルファサラジン、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルテスナート、ML-162およびML-210を含むが、これらに限定されないフェロトーシス誘導体。
【0049】
ある実施態様において、本発明は、ここに記載する活性剤の1以上および治療上許容される担体を含む治療組成物を提供する。「治療上許容される担体」は、生存対象(例えば生存ヒト対象)への投与に適する組成物の調製に有用であり、一般に安全かつ非毒性である物質であるまたはそれを含む。適当な「治療上許容される担体」は、食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝化食塩水溶液)、水、エマルジョン(例えば油/水または水/油エマルジョン)、湿潤剤、希釈剤、増量剤、塩、緩衝液、安定化剤、可溶化剤、脂質または生存対象への投与に適する組成物の調製への使用について当分野で知られるあらゆる他の物質であり得るかまたはこれを含み得る。
【0050】
II. 処置方法
本発明は種々の処置方法を提供する。ここで使用する用語「処置する」および「処置」は、腫瘍(例えば特定のタイプの腫瘍)と関連する1以上の臨床的指標または症状を、検出可能な程度までの改善(または改善する方法)をいう。例えば、このような用語は、腫瘍(または腫瘍細胞)増殖速度減少、腫瘍(または腫瘍細胞)増殖停止、腫瘍(または腫瘍細胞)退縮誘導、腫瘍サイズ減少(例えば腫瘍体積または腫瘍塊の点で測定して)、腫瘍悪性度減少、腫瘍(または腫瘍細胞)除去などを含むが、これらに限定されない。ある組成物または方法の処置における有効性は、ある/「試験」組成物または方法の有効性と「対照」組成物または方法を比較する方法などの当分野で知られる標準法を使用して証明または評価され得る。例えば、ある組成物または方法の腫瘍における有効性は、プラセボ対照などの対照組成物または対照方法と比較した腫瘍の1以上の臨床的指標または症状を改善する能力の比較により、証明または評価され得る。例えば、比較は異なる対象間であり得る(例えば、試験群対象間または対照群対象間)であり得る。同様に、ある組成物または方法の処置における有効性は、対象の処置前後の腫瘍の比較により、単一対象で証明または評価され得る。
【0051】
用語「腫瘍」は、当分野でのその通常の使用法に従い使用され、多様な種々の腫瘍タイプを含む。
【0052】
ここに記載する処置方法の実施に際し、あらゆる適当な投与方法または経路を、ここに記載する活性剤またはそれらの組み合わせの送達に使用し得る。用語「投与」は、対象に特定の組成物または薬剤を導入または送達するあらゆる経路を含む。ある実施態様において、活性剤またはそれらの組み合わせは全身投与される。ある実施態様において、活性剤またはそれらの組み合わせは局所投与される。「全身投与」は、例えば、循環またはリンパ系への侵入を介して、対象の身体の広域(例えば、身体の50%超)に組成物または薬剤を導入または送達する経路を介する、対象への特定の組成物または薬剤の導入または送達をいう。対照的に、「局所投与」は、薬剤を投与した点の領域またはそれにすぐ隣接する領域に導入または送達し、薬剤を治療に意味のある量で漸新世に誘導しない経路を介する、対象への特定の組成物または薬剤の導入または送達をいう。例えば、局所投与された薬剤は、投与した点の近位局所で容易に検出可能であるが、対象の身体の園医部分では検出不可能であるか無視できる量で検出可能である。
【0053】
ある実施態様において、投与は、腫瘍内、静脈内、皮下、経口、局所、経皮、経真皮、筋肉内、関節内、非経腸、細動脈内、皮内、脳室内、頭蓋内、腹腔内、病巣内、鼻腔内、直腸、膣、吸入、埋め込み型リザーバー、非経腸(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、腹腔内、肝臓内、病巣内および頭蓋内注射または点滴技術)などを含む、当分野で知られるあらゆる適当な経路により実施され得る。投与は自己投与および他者による投与を含む。ある投与経路または手段の適性は、医師により容易に決定され得る。
【0054】
2以上の活性剤が投与されるとき、これら薬剤は、同時に、逐次的にまたは時間的に重複して投与され得る。同様に、2以上の活性剤が投与されるとき、これら薬剤は同じ組成物で一緒に投与されても、異なる組成物で別に投与されてもよい。
【0055】
ここで使用する用語「有効量」は、ここでの「処置」に列記されたアウトカムの1以上を達成するまたは達成に向けて貢献するのに十分なここに記載する活性剤の量をいう。各個々の場合における適切な「有効」量は、用量漸増試験などの当分野で知られる標準技術を使用して決定でき、所望の投与経路(例えば、全身対局所)、所望の投与頻度などの因子を考慮に入れて、決定され得る。さらに、「有効量」は、使用される何らかの共投与の状況で決定され得る。当業者は、例えば、本特許明細書の実施例部分に記載するもの - 対象 - 例えば、投与試験の実施について薬学で日常的に使用される動物対象 - へのここに記載する薬剤の投与を含む - などのアッセイを使用して、使用するための適切な用量を決定するためのこのような投与試験(単剤または複数薬剤の組み合わせの何れを使用しても)を実施できる。
【0056】
例えば、ある実施態様において、本発明の活性剤の用量は、活性剤の有効性および/または有効量の決定のために実施される、ヒトまたは他の哺乳動物における試験に基づき計算され得る。投与量および投与頻度もしくはタイミングは、当分野で知られる方法により決定でき、活性剤の医薬形態、投与経路、活性剤を1個だけまたは複数活性剤を使用するか(例えば、必要な第一活性剤の投与量は、そのような薬剤を第二活性剤と組み合わせて使用するとき低い可能性がある)および年齢、体重または薬物代謝に影響する何らかの医学的状態の存在を含む患者特徴などの因子に依存し得る。
【0057】
マウス試験に基づき、投与すべき薬剤の特定の用量をいうここに記載する実施態様において、当業者は、例えば、ここに記載するタイプの投与試験および計算を使用して、マウス用量に基づき、ヒト試験のための同等な用量を容易に決定できる。
【0058】
ある実施態様において、ここに記載する種々の活性剤の適当な用量は、例えば、出発点として、本特許明細書の実施例部分でマウスで有効であると示された投与量を使用して、用量漸増試験などの当分野で標準的なタイプの投与試験を実施することにより決定され得る。
【0059】
投与レジメンも、例えば、出発点として、本特許明細書の実施例部分でマウスで有効であると示された投与レジメンを使用して、当分野で標準的なタイプの投与試験を実施することにより調節および最適化し得る。ある実施態様において、活性剤は連日または週2回または毎週または2週毎または毎月投与される。
【0060】
ある実施態様において、ここに提供される組成物および処置方法を、外科的方法(例えば、腫瘍切除のため)、放射線療法方法、化学療法剤での処置、抗体での処置、免疫療法剤での処置、細胞治療方法での処置、チロシンキナーゼ阻害剤での処置などを含むが、これらに限定されない腫瘍治療に有用であることが知られる他の組成物および処置方法と一緒に用い得る。同様に、ある実施態様において、ここに提供される処置方法を、生検方法および診断方法(例えば、MRI方法または他の造影方法)などの疾患状態/進行をモニターするために使用される方法と共に用い得る。
【0061】
例えば、ある実施態様において、ここに記載する方法および/またはここに記載する薬剤および組成物を、例えば、外科的切除前に腫瘍を縮小させるために、腫瘍の外科的切除前に対象に用いるまたは投与することができる。他の実施態様において、ここに記載する方法および/またはここに記載する薬剤および組成物を、腫瘍の外科的切除の実施前後両方に対象に用いるまたは投与することができる。
【0062】
III. 対象
ここで使用する用語「対象」は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、齧歯類(例えばラット、マウスおよびモルモット)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマなど - 畜産で使用される全哺乳動物種ならびにペットとしておよび動物園で飼育される動物を含む - を含むが、これらに限定されない全哺乳動物種を含む。ある実施態様において、対象はヒトである。このような対象は、典型的に処置を必要とする1個の腫瘍(または複数の腫瘍)を有する。
【0063】
本発明を次の非限定的実施例およびその中で言及される図においてさらに記載する。
【実施例
【0064】
リン脂質の鉄依存性過酸化反応により駆動される壊死制御の一形態であるフェロトーシは、細胞代謝、酸化還元恒常性およびがんに関連する種々のシグナル伝達経路により制御される。この試験において、ヒトがんで非常に頻繁な事象であるPI3Kの活性化変異またはPTEN機能の喪失が、がん細胞におけるフェロトーシス耐性に寄与し、PI3K-AKT-mTORシグナル伝達軸の阻害によりがん細胞がフェロトーシス誘導に対して感作されることを発見した。機構的に、この耐性は持続したmTORC1の活性化および脂質代謝を制御する中心的転写因子であるステロール調節配列結合タンパク質1(SREBP1)のmTORC1依存性誘導を必要とする。さらに、SREBP1の転写標的ステアロイル-CoAデサチュラーゼ-1(SCD1)は、一不飽和脂肪酸の産生により、SREBP1のフェロトーシス抑制活性を媒介する。SREBP1またはSCD1の遺伝的または薬理学的除去は、PI3K-AKT-mTOR経路変異を有するがん細胞におけるフェロトーシスを感作した。逆に、SREPB1またはSCD1の異所性発現は、mTORC1が阻害されているときでも、これら細胞におけるフェロトーシス耐性を回復させた。PI3K変異乳がんおよびPTEN欠損前立腺がんの異種移植マウスモデルにおいて、mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせは、ほぼ完全な腫瘍退縮をもたらした。結論として、PI3K-AKT-mTORシグナル伝達の過活性変異は、SREBP1/SCD1介在脂質生合成を介してがん細胞を酸化的ストレスおよびフェロトーシス死から保護し、mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせは、前臨床モデルにおいて治療見込みを示す。
【0065】
結果
PI3K-AKT-mTORシグナル伝達経路の発がん性活性化は、フェロトーシスに対する耐性に寄与する
【0066】
フェロトーシスとがんでしばしば変異されるシグナル伝達経路の間の機能的相互作用を探索するために、明らかな遺伝的変異を有する一団のヒトがん細胞株を分析した。フェロトーシスを、GPX4の薬理学的阻害剤であるRSL3により誘導した。フェロトーシス誘導に対する感受性は、試験した系列で変わった。顕著なことに、PIK3CA活性化変異またはPTEN欠失を有するがん細胞は、RSL3により抵抗性であるように見えた(図1、A~C)。これらの変異は、ヒトがんで最も高頻度で改変されるシグナル伝達経路の一つである発がん性PI3K-AKTシグナル伝達経路の活性化に至る(26~28)。
【0067】
フェロトーシスに対する耐性がPI3K-AKTシグナル伝達経路活性化の結果であるか否かを決定するために、この経路の薬理学的阻害ががん細胞をフェロトーシス誘導に対して感作するか否かを試験した。実際、PI3K阻害剤(PI3Ki)GDC-0941およびAKT阻害剤(AKTi)MK-2206両者がBT474およびMDA-MB-453細胞(いずれも本経路の活性化変異を有する)をフェロトーシス(図1D)および脂質過酸化反応(図7A)に感受性とした。さらに、触媒的阻害剤Torinによる、PI3K-AKT経路の主要下流プレーヤーであるmTOR阻害も、これら細胞をRSL3により誘導されるフェロトーシスに感作した(図7B)。従って、PI3K-AKT-mTOR経路の持続した活性化は、がん細胞をフェロトーシス細胞死から保護する。顕著なことに、フェロトーシス阻害におけるmTORC1の役割は、心筋細胞の状況などにおいて以前に報告されているが(29)、根柢の機構は理解しづらいままである。
【0068】
mTORC2ではなくmTORC1はフェロトーシスを抑制する
mTORシグナル伝達は2つの枝、mTORC1およびmTORC2により媒介される(28)。どの枝が観察されるフェロトーシス制御を担うかを決定するために、まずmTORC1活性を阻害するが、mTORC2を阻害しないラパログテムシロリムス(CCI-779)を試験した。Torinに類似して、CCI-779はがん細胞をフェロトーシス誘導および脂質過酸化反応に対して感作した(図2、A~Bおよび図7、C~D)。一貫して、3次元(3D)腫瘍スフェロイド系において、mTOR阻害はこれら変異体がん細胞におけるフェロトーシスの誘導にRSL3と相乗作用した(図2Cおよび図7、E~F)。対照的に、ERKまたはBRAFの阻害剤はそうできなかった(図7G)。
【0069】
ラパログCCI-779およびmTOR触媒的阻害剤Torin両方がフェロトーシス感受性を回復できたため、mTORC2ではなくmTORC1がPI3K-AKT経路変異を有するがん細胞の耐性を担うと仮説立てた。この考えに一致して、RICTOR(mTORC2の要素)ではなくRAPTOR(mTORC1の要素)の短ヘアピンRNA(shRNA)介在サイレンシングが、MDA-MB-453およびBT474細胞をRSL3に感作した(図2、D~Eおよび図7H)。
【0070】
次に、野生型PI3K-AKT-mTOR経路を発現し、フェロトーシス誘導に対して感受性であるがん細胞を試験した。これら野生型細胞を、どのように本経路の基底活性がフェロトーシス誘導を可能とするかおよび本経路の薬理学的阻害がさらにフェロトーシスを増強できるか否かについて試験した。野生型PI3K-AKT-mTOR経路を有する2細胞株、HT1080およびMDA-MB-231を使用した。低濃度のRSL3単独はこれら細胞でフェロトーシスを誘導するには不十分であったが、mTOR阻害剤の追加はさらにフェロトーシスを増強した(図7I)。顕著なことに、mTORC1活性は、S6Kリン酸化により測定して、これら野生型細胞で経時的にRSL3により阻害された(図7J)。対照的に、経路変異を有する細胞は、同じ時点でRSL3処理による活性mTORC1を維持した(図7J)。興味深いことに、脂質過酸化物捕捉剤フェロスタチン-1(Fer-1)での処理は、野生型細胞でmTORC1活性のRSL3誘導不活性化を阻止し(図7J)、脂質過酸化反応がRSL3に応答したmTORC1不活性化を担い、先行することが示唆された。しかしながら、PI3K-AKT-mTOR経路変異を有するがん細胞で、RSL3誘導脂質過酸化反応は、本経路が阻害されたときのみ明白であり(図7Aおよび図2)、mTOR阻害がこれら変異体細胞で脂質過酸化物の相当な蓄積を担うことが示唆された。これらの結果は、mTORC1活性が脂質過酸化物の毒性効果防止に作用し、一方細胞におけるROSおよび脂質過酸化物蓄積がmTORC1活性を減弱することを示す。そのような方法で、フェロトーシス誘導により、野生型細胞における基底mTORC1活性低下は脂質過酸化物蓄積を可能とし、これが続いてmTORC1活性の阻害および脂質過酸化反応加速に至る;しかし、変異体がん細胞において、より強力かつ持続したmTORC1活性は脂質過酸化物蓄積を阻止し、故にフェロトーシスに対する耐性を引き起こす。
【0071】
NRF2はmTORC1のフェロトーシス抑制活性の主要媒介因子ではない
フェロトーシスの特性である(1)高レベルの細胞ROSは、NRF2転写因子のKeap1介在プロテアソーム分解抑制により、抗酸化剤経路を誘導する(30)。mTORC1がp62リン酸化によりp62とKeap1の結合を促進し、Keap1の分解および故にNRF2蓄積に至ることは報告されている(31)。このp62-Keap1-NRF2軸は、肝細胞がん細胞をフェロトーシスから保護することが報告されている(32)。さらに、NRF2シグナル伝達はまたフェロトーシス阻害によるmTORの効果を媒介することも示唆されている(33)。しかしながら、RSL3誘導型NRF2蓄積がTorin処理により除去されることを発見したが(図3A)、HT1080細胞におけるNRF2ノックアウトはエラスチン(系xc-シスチン/グルタメート交換輸送体の化学阻害剤)により誘導されるフェロトーシスを中程度にしか増強せず、RSL3誘導型フェロトーシスに測定可能な効果はなかった(図3、BおよびC);PI3K経路変異を有する複数細胞株で、NRF2がノックアウトされた後でも、フェロトーシス誘導はなおmTOR阻害剤により強力に感作できた(図3、D~Eおよび図8、A~C)。さらに、BT474細胞におけるKeap1ノックアウトおよび結果的NRF2蓄積は、mTORC1阻害により誘導されるフェロトーシス感作の中程度の減少のみもたらした(図8D)。これらの結果は、mTORC1阻害によるフェロトーシス感作が主にNRF2非依存的機構を介することを示す。
【0072】
mTORC1活性化は、SREBP1上方制御により、フェロトーシスを抑制する。
フェロトーシス細胞死はリン脂質過酸化反応を必要とする。mTORC1が細胞脂質代謝調節を介してフェロトーシスを制御するかを探索するために、脂質合成の中心的制御因子SREBP1(20、21)を試験し、これは、最近mTORC1活性の下流標的として示された(22、25、34、35)。実際、複数タイプのRSL3耐性がん細胞において、mTORC1阻害剤CCI-779は、下流転写標的を制御するために核に転座できる成熟形態のSREBP1(SREBP1m)のレベルを減少した(図4A図9A)。機能的に、ファトスタチンAによるSREBP活性の薬理学的阻害(36)またはCRISPR/cas9によるSREBF1遺伝子の遺伝的欠失は、これら細胞のフェロトーシスおよび脂質過酸化反応を感作した(図4、B~Dおよび図9、B~D)。さらに、これらのSREBF1ノックアウト細胞において、mTOR阻害剤(TorinおよびCCI-779)、PI3K阻害剤(GDC-0941)およびAKT阻害剤(MK-2206)はすべてRSL3誘導型フェロトーシスをさらに増強することができなかった(図9E)。逆に、構成的に活性な核形態のSREBP1(SREPB1m)の異所性発現は、2D細胞培養および3D腫瘍スフェロイド実験両方で試験して、(1)そうでなければRSL3感受性A549細胞を耐性とし、そして(2)複数RSL3耐性細胞株をCCI-779とRSL3の組み合わせにもはや応答しなくした(図4、E~Fおよび図9F)。結論として、mTORC1は、SREBP1機能の上方制御を介して、がん細胞フェロトーシスに対する耐性誘導を促進する。
【0073】
SREBP1はSCD1活性を介して細胞をフェロトーシスから保護する。
SREBP1は、数ある代謝遺伝子の中で、ACLY、ACACA、FASNおよびSCDを含む複数脂質合成関連遺伝子を制御する転写因子である(図12A)(20)。PI3K-AKT-mTOR経路変異を有する試験細胞株において、SREBF1ノックアウトは、他の標的より有意にSCD1(mRNAレベルおよびタンパク質レベル両方)の発現を減少させた(図5、A~Bおよび図10)。この結果および最近報告されたSCD1の抗フェロトーシス機能(37)により、SCD1がフェロトーシスに対する耐性誘導に介在するSREBP1の主要下流標的であるか否かの試験が鼓舞された。薬理学的に、SCD1阻害剤CAY10566はフェロトーシス(図5C)および脂質過酸化反応(図11A)誘導に対するRSL3の効果を感作した。遺伝的に、CRISPR/Cas9介在SCDノックアウトも細胞をフェロトーシス誘導および脂質過酸化反応に感作した(図5、D~Eおよび図11、B~D)。さらに、SCDノックアウトにより、mTORC1、PI3KまたはAKTの阻害は、がん細胞をフェロトーシスにさらに感作できなかった(図11E)。逆に、SCD1過剰発現は、がん細胞をRSL3とmTOR阻害またはSREBF1ノックアウトの組み合わせにより誘導されるフェロトーシスから保護した(図5、F~Gおよび図11、F~H)。
【0074】
SCD1は、飽和脂肪酸を一不飽和脂肪酸(MUFA)に変換する酵素である(図12A)。MUFAがフェロトーシスを阻害できることが報告されており(38)、観察についての機構的説明を提供する。実際、飽和脂肪酸パルミチン酸(16:0、PA)またはステアリン酸(18:0、SA)ではなく、MUFAパルミトレイン酸(16:1、PO)またはオレイン酸(18:1、OA)の追加が、CCI-779+RSL3での処理によるフェロトーシス耐性をもたらす(図5Hおよび図12、B~C)。纏めると、これらの結果は、SREBP1が主にSCD1の上方制御によりがん細胞をフェロトーシスから保護することを示す。顕著なことに、SCD1は、本質的に酸化反応である脂肪酸不飽和化を触媒する鉄依存性酵素であり;そして、本発明によりこの鉄依存性、酸化酵素反応が、鉄依存性、酸化形態の細胞死であるフェロトーシスを軽減し得ることを発見した。
【0075】
mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせはインビボで腫瘍退縮をもたらす
mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせのがん治療能を探索するために、ヒトがんに対する2種のマウス異種移植モデルを分析した。最初のモデルにおいて、PI3K変異BT474乳がん細胞でドキシサイクリン(Dox)誘導性にCRISPR/Cas9介在GPX4ノックアウトを産生した(図6A)。これらの細胞において、GPX4ノックアウトとmTORC1阻害のいずれか単独ではなく、組み合わせのみが、強力なフェロトーシスを誘導した(図13A)。これらの細胞を異種移植したマウスにおいて、平均腫瘍体積を約400mmに到達させ、次いでCCI-779投与によりmTORC1阻害を開始した(Dox投与は2日早く開始していた)。CCI-779投与は腫瘍増殖を減速させたが、驚くほどに、Dox処置とCCI-779の組み合わせは、腫瘍のほぼ完全な退縮を引き起こした(図6B、6Dおよび図13B)。酸化的ストレスおよびフェロトーシス(3)のマーカーであるPTGS2の免疫組織学的分析は、インビボでの腫瘍フェロトーシス誘導におけるGPX4およびmTORC1の組み合わせ阻害のこのような相乗効果を支持した(図6C)。他方のマウスモデルで、インビボ使用について確認されている(39)、エラスチンの強力かつ代謝的に安定なアナログであるイミダゾールケトンエラスチン(IKE)を、GPX4の遺伝的欠失の代わりに使用して、腫瘍細胞フェロトーシスを誘導した。PTEN欠損PC-3前立腺がん細胞を使用して、マウスにおいて異種移植腫瘍を産生した(PTEN欠損により前立腺がんの予後不良が予測される(40))。BT474異種移植実験で観察されたものに類似して、ここで、IKE単独は腫瘍増殖に効果を有しなかったが、CCI-779との組み合わせは、劇的腫瘍退縮をもたらした(図6Eおよび図13、C~E)。纏めると、これら2種のインビボ実験は、mTORC1阻害とフェロトーシス誘導の組み合わせがPI3K-AKT-mTORC1経路の活性化変異を有するがんの処置に有望な治療アプローチであることを証明する。
【0076】
考察
結論として、この研究は、PI3K-AKT-mTORC1経路の発がん性活性化が、下流SREBP1/SCD1介在脂質生合成を介してがん細胞におけるフェロトーシスを抑制する、新規フェロトーシス制御機構を明らかにした(図6F)。先にグルタミノリシスおよびミトコンドリアTCAサイクル(11、41)などの種々の代謝過程がフェロトーシスに寄与することは報告されている。この試験は、フェロトーシス制御におけるSREBP介在脂質代謝の機能を明らかにしていない。従って、アミノ酸、炭水化物および脂質を含む細胞代謝がフェロトーシスを制御し得る。がん細胞は、通常代謝および増殖性負荷の増加により酸化的ストレス上昇に耐える(42、43)。結果として、酸化的ストレスに対抗する経路、特にNRF2シグナル伝達(30)が、がん細胞でしばしば活性化される。この研究は、mTORC1も細胞酸化還元恒常性の重要なモジュレーターであり、NRF2介在シグナル伝達およびSREBP1/SCD1介在MUFA合成両方を介してそれを行うことを示す。後者の機構は、おそらくより破壊的なタイプの酸化的ストレスである、フェロトーシス誘導脂質過酸化反応の抑制に重要である。MUFAのフェロトーシス阻害性活性の根底にある厳密な機構は規定されていないが、この活性は先に証明されており(38)、フェロトーシス抑制の際の発がん性PI3K-AKT-mTORC1経路に役割を担うことは留意されるべきである。
【0077】
がんに関連して、この試験は、ヒトがんで最も変異されている経路の一つであるPI3K-AKT-mTORシグナル伝達の発がん性改変(26~28)が、がん細胞をフェロトーシス誘導により耐性とすることを示す。興味深いことに、最近、同様にヒトがんにおいてしばしば変異されているシグナル伝達経路であるEカドヘリン-NF2-Hippo-YAP経路における発がん性変異が、むしろがん細胞をフェロトーシスに感受性とすることが報告された(18)。従って、特定のがん駆動変異ががん細胞フェロトーシスを増強または抑制するか否かおよびその方法は、遺伝子産物が代謝および酸化還元および鉄恒常性などのフェロトーシスに関連する細胞プロセスに依存する。いずれの場合も、これらの機構的知見は、将来的なフェロトーシス誘導がん治療に非常に価値のある洞察を提供する:Eカドヘリン-NF2-Hippo-YAP経路における悪性変異を、単剤療法としてのフェロトーシス誘導に対するがん細胞応答性を予測するバイオマーカーとして使用できる;そしてPI3K-AKT-mTOR経路に腫瘍形成変異を有する患者を、フェロトーシス誘導とmTORC1または本経路の他の要素の阻害剤を組み合わせる治療により有効に処置でき、その薬剤の多くは臨床的に利用可能である。両経路が種々のタイプの悪性腫瘍で高度に変異しているため、フェロトーシス誘導はがん処置に対して多大なる可能性を有する。
【0078】
材料および方法
使用薬剤
RSL3(1219810-16-8, Cayman)、Torin(10997, Cayman)、テムシロリムス(CCI-779, NSC 683864, Selleck)、フェロスタチン-1(17729, Caymen)、MK-2206(S1078, Selleck Chemicals)、GDC-0941(S1065, Selleck Chemicals)、CAY10566(10012562, Cayman Chemicals)、ファトスタチンA(4444, Tocris)、SYTOX Green(S7020, Thermo Fisher, Waltham, MA, USA)、ヨウ化プロピジウム(556463, BD Biosciences, San Jose, CA, USA)、BODIPY 581/591 C11(Thermo Fisher, Cat #D3861)、オレイン酸(O1383, Sigma-Aldrich)、ステアリン酸(S4751, Sigma)、パルミチン酸(P0500, Sigma-Aldrich)、パルミトレイン酸(P9417, Sigma)、イミダゾールケトンエラスチン(IKE, HY-114481, MCE)。
【0079】
細胞培養
KellyをSigma-Adlrichから得た。MEF、HT1080、MDA-MB-231、MDA-MB-453、BT474、MCF7、T47D、U87MG、HepG2、PC-3、DU145、A549、NCI-H1299、LN229およびSK-MEL-2をAmerican Tissue Culture Collection(ATCC)から得て、5%COを含む加湿雰囲気で、37℃で、ATCCが推奨する培地条件で培養した。培地をMSKCC Media Preparation Core Facilityで調製した。全細胞株は、ATCCまたはMSKCC IGO Core Facilityを介するSTR認証を受けた。
【0080】
三次元スフェロイドの産生
スフェロイドを、腫瘍細胞を10/ウェルでU底Ultra Low Adherence(ULA)96ウェルプレート(Corning, Tewksbury, MA, USA)に播種することにより産生した。最適三次元構造を、600gで5分遠心分離し、続いて2.5%マトリゲル(Corning)を加えることにより達成した。プレートを、72時間、37℃、5%CO、95%湿度でインキュベートし、細胞の単一スフェロイドを形成させた。次いで、スフェロイドを、マトリゲルを含む新鮮培地中のRSL3で、示す時間処理した。
【0081】
細胞死定量および細胞生存能測定
細胞をプレートに適切な細胞密度で播種し、一夜、5%COを含む37℃でインキュベートし、次いで個々の実験について記載する処理に付した。細胞を総細胞数をモニターするためのhoechst 33342(0.1μg/ml)および細胞死をモニターするためのSytox Green(5nM)で染色した。培養プレートを、示す時点でCytation 5で読んだ。細胞死のパーセンテージを、総細胞数に対するSytox Green陽性細胞数として計算した。3Dスフェロイドについて、細胞生存能を市販の細胞生存能アッセイ(Promega, Madison, WI, USA)で、製造業者の指示に従い決定した。生存能を、サンプルのATPレベルを陰性対照(処理なしの通常の完全培地中のスフェロイド)に対して正規化することにより、計算した。
【0082】
脂質過酸化反応の測定
脂質過酸化反応をフローサイトメトリーにより分析した。細胞を、適切な密度で6ウェルプレートに播種し、一夜、DMEMで増殖させた。細胞を、指示する処理後、5μM BODIPY C11(Thermo Fisher, Cat# D3861)で30分間染色した。標識された細胞をトリプシン処理し、PBS+2%FBSに再懸濁し、次いでフローサイトメトリー分析に付した。
【0083】
ウェスタンブロット
細胞ライセートをSDS-PAGEゲルで分離し、ニトロセルロース膜に移した。膜を、5%スキムミルク中、1時間、室温でインキュベートし、次いで遮断緩衝液で希釈した一次抗体と4℃で一夜インキュベートした。次の一次抗体を使用した:PTEN(9559L, CST)、ホスホ-Akt Ser473(4060, CST)、Akt(2920, CST)、βアクチン(Sigma-Aldrich, A1978)、GAPDH(SC-47724, Santa Cruz)、Raptor(2280, CST)、Rictor(9476, CST)、総S6K(2708, CST)、ホスホ-p70 S6キナーゼThr389(9205, CST)、ATG5(A0731, Sigma)、LC3 I/II(L7543, Sigma)、SREBP1(SC-13551, Santa Cruz)、SCD1(ab39969, Abcam)、FASN(3180, CST)、ACACA(3662, CST)、NRF2(16396-1-AP, Proteintech Group, Inc.)、Keap1(8047S, CST)、GPX4(ab125066, Abcam)およびCas9(14697S, CST)。3回洗浄後、膜をヤギ抗マウスHRPコンジュゲート抗体またはロバ抗ウサギHRPコンジュゲート抗体(Invitrogen)と室温で1時間インキュベートし、ClarityTMウェスタンECL基質(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用する化学発光に付した。Amersham Imager 600(GE Healthcare Life Sciences, Marlborough, MA, USA)を最終検出に使用した。
【0084】
RT-PCR
総RNAを、trizol試薬(Invitrogen)を用いて調製した。20%クロロホルムを各サンプルに加えた。サンプルを15秒間激しく振盪し、室温で15分間インキュベートした。次いで、サンプルを12,000gで15分間、4℃で遠心分離した。水相を新しいチューブに移し、等体積のイソプロパノールを加えた。サンプルを室温で10分間インキュベートし、続いて12,000gで10分間、4℃で遠心分離した。mRNAペレットを75%エタノールで洗浄し、乾燥させ、ヌクレアーゼフリー水に再懸濁した。mRNAをcDNAに逆転写した。cDNAをリアルタイムPCRで増幅した。PCRプログラムは次のとおりであった:95℃、30秒間;40サイクル(各サイクルについて、95℃、15秒間;55℃、40秒間)。プライマーは次のとおりであった:
【表1】
【0085】
レンチウイルス介在shRNA干渉
RPTORおよびRICTORをターゲティングするレンチウイルスshRNAクローンをSigma-Aldrichから購入した。レンチウイルスを、PEIを使用してレンチウイルスベクターとデルタ-VPRエンベロープおよびCMV VSV-Gパッケージングプラスミドを293T細胞に共トランスフェクションすることにより産生した。培地をトランスフェクション8時間後交換した。上清をトランスフェクション48時間後回収し、0.45μmフィルターを篩過した。細胞を感染性粒子と、4μg/mlポリブレン(Sigma-Aldrich)存在下に一夜インキュベートし、細胞に新鮮完全培地を与えた。48時間後、細胞を適切な抗生物質選択下においた。
【0086】
レトロウイルス介在遺伝子過剰発現
SREBP1およびSCD1の誘導性発現のために、cDNAを得て、修飾バージョンのレトロウイルスベクターにサブクローン化した。レトロウイルスを、レトロウイルスベクターとgag/polおよびVSV-Gを293T細胞に共トランスフェクションして産生した。ウイルスを集め、0.45μmフィルターを篩過させた。感染細胞を、ハイグロマイシン含有培地で選択した。遺伝子発現を培養培地に100ng/mlドキシサイクリンを加えて誘導した。
【0087】
誘導性CRISPR/Cas9介在GPX4ノックアウト
レンチウイルスドキシサイクリン(DOX)誘導性pCW-Cas9ベクターおよびpLX-sgRNAを、誘導性遺伝子ノックアウト(iKO)のために使用した。ヒトGPX4をターゲティングするsgRNA配列はCACGCCCGATACGCTGAGTG(配列番号19)である。レンチウイルスを293T細胞に封入した。培地をトランスフェクション8時間後交換し、ウイルス含有上清をトランスフェクション48後集め、濾過した。6ウェル組織培養プレートのBT474細胞を、4μg/mLポリブレン含有pCW-Cas9ウイルス上清で感染させた。細胞を感染48時間後2μg/mlピューロマイシンで選択した。単一クローンをDOX誘導性Cas9発現についてスクリーニングした。Cas9発現をする単一クローンを、4μg/mlポリブレンと共にGPX4 sgRNAウイルス含有上清で感染させた。細胞を、感染48時間後10μg/mlブラストサイジンで選択した。DOX誘導性Cas9発現およびGPX4ノックアウトを有する単一クローンを増幅し、使用した。
【0088】
構成的CRISPR/Cas9介在ノックアウトの産生
Keap1、NRF2およびSREBP1枯渇細胞をCRISPR/Cas9介在ノックアウト系で産生した。sgRNA配列をレンチCRISPRV2にクローン化した。SCD1枯渇細胞を、安定なCas9発現細胞およびサンガーCRISPRクローンを使用して、CRISPR/Cas9介在ノックアウト系で産生した。レンチウイルスを、PEIを使用してレンチウイルスベクターとpsPAX2(Addgene)およびVSV-G(Addgene)を293T細胞に共トランスフェクションすることにより産生した。感染細胞をピューロマイシン含有培地で選択して、その後実験に進んだ。この試験で使用したsgRNA配列を下に挙げる:
【表2】
【0089】
インビボ異種移植マウスモデル
17-β-エストラジオール60日間放出ペレットを、腫瘍接種7日前、左脇腹に皮下移植した。GPX4 iKO BT474細胞を、6~8週齢雌無胸腺nu/nuマウスの右脇腹に5×10細胞を皮下注射することにより接種した。腫瘍増殖を外的キャリパー測定により定期的にモニターした。腫瘍が意図したサイズに到達したとき、マウスを無作為に4群に分けた:(1)媒体群(媒体毎日i.p.および通常餌)、(2)CCI-779群(2mg/kgのCCI-779毎日i.p.および通常餌)、(3)Dox群(媒体毎日i.p.およびDox餌)、(4)Dox+CCI-779群(2mg/kgのCCI-779毎日i.p.およびDOX餌)。マウスに0.9%無菌食塩水またはDox(毎日100mg/kg体重、i.p.)をCCI-779処置直前に2日間腹腔内注射した。その後、マウスに毎日Dox群およびDox+CCI-779群についてDox餌を、示すとおり、CCI-779処置を伴いまたは伴わずに与えた。CCI-779をエタノールに溶解し、無菌水中5%Tween 80および5%PEG400の溶液で希釈し、i.p.注射により投与した。腫瘍の最大幅(X)および長さ(Y)を毎日測定し、体積(V)を式:V=(X2Y)/2を使用して、計算した。腫瘍増殖を経時的にモニターした。全実験について、マウスを予定した終点で屠殺した。何れかの腫瘍が体積2000mm、直径1.5cmまたは体重の10%を超えたならば、マウスを直ぐに屠殺した。試験終了時、マウスをCOで屠殺し、腫瘍を摘出して重量測定し、その後免疫組織化学染色した。結果を平均腫瘍体積±SDとして示す。
【0090】
PC-3腫瘍モデルについて、5~6週齢雄無胸腺nu/nuマウスに、右脇腹に5×10 PC-3細胞を注射した。腫瘍を毎日キャリバーで測定した。腫瘍が平均体積200mmに達したら、マウスを4群に無作為化した:(1)媒体群(毎日i.p.65%D5W(5%デキストロース水溶液)、5%Tween-80、30%PEG-400);(2)IKE群(毎日i.p.65%D5W(5%デキストロース水溶液に溶解した50mg/kg IKE)、5%Tween-80、30%PEG-400);(3)CCI-779群(毎日i.p.2mg/kgのエタノールに溶解し、無菌水中5%Tween 80および5%PEG400で希釈したCCI-779);(4)IKE+CCI-779群(毎日i.p.50mg/kg IKEおよび2mg/kgのCCI-779)。試験終了時、マウスをCOで屠殺し、腫瘍を摘出して、重量測定した。
【0091】
免疫組織化学
ホルマリン固定、パラフィン包埋標本を集め、日常的H&Eスライドをまず評価した。抗原回復を、市販の抗原回復系を使用して実施した。免疫組織化学染色を、ウサギ抗GPX4、マウス抗Ki-67、ウサギ抗PTGS2およびウサギ-抗pS235/236 S6抗体を使用して、5μm厚パラフィン包埋切片で、標準的アビジン-ビオチンHRP検出系で実施した。組織をヘマトキシリンで対比染色し、脱水和し、マウントした。
【0092】
統計解析
全データは、当てはまるならば、少なくとも3回の独立した実験の平均±SDで表した。群差異を両側t検定または二元配置ANOVAを使用して、実施した。P<0.05を統計的有意とみなした。
【0093】
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【配列表】
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【国際調査報告】