(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20231030BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524375
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2021077425
(87)【国際公開番号】W WO2022084025
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】102020127787.3
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン、ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】マイザー、イナ
(72)【発明者】
【氏名】シュトラッケ、フランク
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD12
4B065CA44
(57)【要約】
生物学的な細胞の複数の細胞クラスター1、2を凍結保存する方法は、細胞クラスター1、2の少なくとも1つの特性に依存して細胞クラスター1、2を少なくとも2つの画分4に分画するステップと、画分4を異なる容器21に収集するステップと、少なくとも2つの画分4における細胞クラスター1、2を凍結保存するステップであって、各画分に対して特有の前処理方法及び/又は凍結方法が使用されるステップとを含む。分画デバイスを有する、生物学的な細胞の複数の細胞クラスター1、2を凍結保存する凍結保存装置100も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的な細胞の複数の細胞クラスター(1、2、3)を凍結保存する方法であって、
-前記細胞クラスター(1、2、3)の少なくとも1つの特性に依存して前記細胞クラスター(1、2、3)を少なくとも2つの画分(4)に分画するステップと、
-前記画分(4)を異なる容器(21)に収集するステップと、
-前記少なくとも2つの画分(4)における前記細胞クラスター(1、2、3)を凍結保存するステップであって、各画分に対して特有の前処理方法及び/又は凍結方法が使用されるステップと
を含む方法。
【請求項2】
-前記細胞クラスター(1、2、3)の前記分画するステップは、前記細胞クラスター(1、2、3)のサイズ、形状、質量、弾性、透水係数、クライオプロテクタント(CPA)透過性、クライオプロテクタントに対する耐性、化学的性質及び細胞組成を含む特性のうちの少なくとも1つに基づいて行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-前記画分(4)の前記前処理方法は、前処理の持続時間、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成、透過処理条件及び媒体の移動を含む前処理パラメータのうちの少なくとも1つに関して異なる、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
-前記画分(4)の前記前処理方法は、前記前処理パラメータのうちの少なくとも1つの時間プロファイルに関して異なる、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
-前記画分(4)の前記凍結方法は、凍結の持続時間、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成及び媒体の移動を含む凍結パラメータのうちの少なくとも1つに関して異なる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
-前記細胞クラスター(1、2、3)の前記分画するステップは、前記細胞クラスター(1、2、3)が流体環境で分離される流体分画を含むという特徴、
-前記画分(4)は、前記凍結保存するステップが後に内部にて行われる前記容器(21)に収集されるという特徴、
-凍結された前記画分(4)は、コールドチェーンを中断することなくクライオバンク(40)内に貯蔵するために提供されるという特徴、
-前記分画するステップ及び前記凍結保存するステップは、自動化された様式で実行されるという特徴、
のうちの少なくとも1つを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
-前記細胞クラスター(1、2、3)の前記分画するステップは、流体流中での分画を含み、前記細胞クラスター(1、2、3)は、前記流体流の流れ力、前記流体流中の誘電泳動力、及び前記流体流中の音波のうちの少なくとも1つの影響下で前記流体流の流れプロファイル内の異なる位置に配置される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
-前記細胞クラスター(1、2、3)の前記少なくとも1つの特性、及び/又は、前記少なくとも2つの画分(4)の少なくとも1つの状態変数は、感知を利用して検出される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
-前記少なくとも2つの画分(4)の前記細胞クラスター(1、2、3)を解凍する追加のステップであって、各画分に対して特定の解凍方法が使用されるステップを含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
生物学的な細胞の複数の細胞クラスター(1、2、3)を凍結保存するように適合された凍結保存装置(100)であって、
-前記細胞クラスター(1、2、3)の少なくとも1つの特性に依存して前記細胞クラスター(1、2、3)を少なくとも2つの画分(4)に分画するように適合された分画デバイス(10)と、
-各々が前記画分(4)のうちの1つを収集するように配置された少なくとも2つの異なる容器(21)を有する容器デバイス(20)と、
-前記少なくとも2つの画分(4)における前記細胞クラスター(1、2、3)を凍結保存するように適合された凍結デバイス(30)であって、前記画分(4)の各々に対して特定の前処理方法及び/又は凍結方法を使用するように適合された凍結デバイス(30)と
を備える、凍結保存装置。
【請求項11】
-前記分画デバイス(10)は、前記細胞クラスター(1、2、3)のサイズ、形状、質量、弾性、透水係数、クライオプロテクタント(CPA)透過性、クライオプロテクタントに対する耐性、化学的性質及び細胞組成を含む特性のうちの少なくとも1つに基づいて、前記細胞クラスター(1、2、3)を分画するように適合される、
請求項10に記載の凍結保存装置。
【請求項12】
-前記凍結デバイス(30)は、前処理パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ及び/又は該パラメータの時間プロファイルに関して異なる前記前処理方法を適用するように適合され、前記パラメータは、前処理中の持続時間、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成、透過処理条件及び媒体の移動を含む、
請求項10又は11に記載の凍結保存装置。
【請求項13】
-前記凍結デバイス(30)は、凍結パラメータのうちの少なくとも1つに関して異なる前記凍結方法を適用するように適合され、前記パラメータは、凍結中の持続時間、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成及び媒体の移動を含む、
請求項10から12に記載の凍結保存装置。
【請求項14】
-前記分画デバイス(10)は、流体環境中、特に流体流中で前記細胞クラスター(1、2、3)を分離するように適合された流体デバイス(11)を備えるという特徴、
-前記少なくとも2つの容器(21)は、前記凍結デバイス(30)の一部であるという特徴、
-前記凍結保存装置(100)は、自動運転に適合されるという特徴、
のうちの少なくとも1つを有する、
請求項10から13のいずれか一項に記載の凍結保存装置。
【請求項15】
-前記分画デバイス(10)は、流体流中に誘電泳動力を印加するように適合された電極デバイス(12)を備える、且つ/又は前記流体流中に音波を発生させるように適合された音源デバイスを備える、
請求項10から14のいずれか一項に記載の凍結保存装置。
【請求項16】
-前記細胞クラスター(1、2、3)の前記少なくとも1つの特性、及び/又は、前記少なくとも2つの画分(4)の少なくとも1つの状態変数を検出するように適合された感知デバイス(14)を備える、
請求項10から15のいずれか一項に記載の凍結保存装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的な細胞の複数の細胞クラスター(細胞凝集体とも呼ばれる)、例えば細胞組織又はオルガノイドを凍結保存する方法及び凍結保存装置に関する。本発明は、例えば生物医学及び/又はバイオテクノロジーにおける用途を有する。
【背景技術】
【0002】
生物工学/薬理学的研究及び生物医学、例えば移植医療では、複数の生物学的な細胞の細胞クラスターの用途に関心が寄せられている。特に、細胞クラスターは、完全な器官を形成せずに、生物の器官の機能の特定の特性を模倣することを可能にする。細胞クラスターは、例えば、天然の生体組織(インビボで成長させた細胞マトリックスクラスター)、スフェロイド(細胞の球状クラスター)又はオルガノイド(インビトロで人工的に成長させた細胞マトリックスクラスター)を含む。細胞クラスターの形成は、個々の細胞クラスターが、異なる速度で発達するため、数日、数週間、又は数ヶ月の培養時間を必要とする場合がある。結果として、培養方法は、典型的には、成熟又は発達の段階が異なる、特にサイズが異なる細胞クラスターを有する不均一な試料を生み出す。
【0003】
生物学的物質、例えば細胞、細胞成分及び/又は細胞群の凍結保存は、生命力を保持しながら生物学的物質を凍結させる一般的に公知の方法である。凍結は、典型的には凍結プロセス中の氷の結晶の形成を防止又は抑制するクライオプロテクタント(CPA)を使用して、所定の凍結プロトコルに従って行われる。プロセスパラメータ(前処理及び後続の凍結の条件)は、特に生物学的材料の特性に基づいて選択される(例えば、「Transfus.Med.Hemother.」46:2019,197-215におけるM.A.Taylor等による総説「New Approaches to Cryopreservation of Cells,Tissues and Organs」を参照されたい)。
【0004】
高い生存率での個々の細胞の懸濁液の効果的な凍結保存のために、細胞型特異的プロセスパラメータ、例えば補助剤の組成、作用持続時間及び冷却速度が最適化されるが、これには多大な労力及び相当量の経験が必要とされる場合がある。細胞クラスターの凍結保存では、保存の成否がプロセスパラメータの選択にさらに強く依存しており、つまり、最適化された凍結パラメータを選択する労力も増大する。
【0005】
懸濁液中の個々の細胞の凍結保存は、特に緩慢凍結によってより広範に使用されているが、異なるサイズの増大した三次元細胞クラスター、例えば組織、スフェロイド又はオルガノイドの不均一な試料は、これまで緩慢凍結を使用して限られた収率でしか凍結することができなかった。例えば、細胞クラスター内に所望の濃度をもたらす補助剤の作用の必要とされる持続時間は、クラスターの直径の2乗に応じて増加する。上述の不均一性、特に多分散性は、典型的には、細胞クラスターの慣習的な(拡大及び縮小可能な)製造方法の場合に生じるため、細胞タイプ及び特定のサイズに関して最適に選択された保存プロトコルの場合、逸脱するサイズに関する不適切な作用期間及び条件に起因して損失が生じることも予想されるべきである。したがって、細胞クラスターの多分散試料の従来の凍結保存では、今日まで、凍結パラメータの選択において妥協を受け入れることが常に必要であった。
【0006】
ガラス化(超急冷によるガラス化)を使用して比較的小さな細胞クラスターを保存することも知られている。しかしながら、非常に高濃度の補助剤を提供し、三次元組織クラスターのすべての点でガラス転移温度未満の温度に極めて迅速に到達するために、ガラス化には非常に厳しい技術的制限が課されている。これは、とりわけ、試料の体積に関連し、該体積は、水性媒体(λ=0.56W/Km、α=0.14mm2/s)の限定された熱伝導率に起因して上限を有する。しかしながら、補助剤の濃度及び作用持続時間もまた、前記薬剤の細胞毒性によって制限される。さらに、熱応力亀裂による損傷の確率も、試料サイズの増加と共に増加する。したがって、ガラス化は、異なるサイズの複数の細胞クラスターを有する試料の日常的な保存には適していない。
【0007】
実際には、凍結パラメータの選択に対する前記制限は、異なるサイズの細胞クラスターを有する試料を凍結保存する場合にのみ生じるわけではない。試料の不均一性は、共に作製された細胞クラスターの様々な他の特性、例えば異なる形状又は弾性から生じる場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.J.Taylor et al.,“New Approaches to Cryopreservation of Cells,Tissues,and Organs”,Transfus.Med.Hemother.46,pp197-215,2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術の欠点を回避することができる、生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存する、改良された方法及び改良された凍結保存装置を提供することである。特に、様々な細胞タイプに対するプロセスパラメータ、収率、効率及び/又は有用性の最適化に関連して細胞クラスターの凍結保存を改善することが意図されている。
【0010】
この目的は、独立請求項の特徴を有する生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存する方法及び凍結保存装置によって達成される。本発明の有利な実施形態及び用途は、従属請求項によって与えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上述の目的は、生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存する方法であって、細胞クラスターの少なくとも1つの所定の特性に基づいて細胞クラスターを少なくとも2つの画分に分画するステップと、画分を異なる容器に収集するステップと、少なくとも2つの画分における細胞クラスターを凍結保存するステップであって、各画分に対して特定の前処理方法及び/又は凍結方法が使用されるステップとを含む方法によって達成される。
【0012】
本発明の第2の一般的な態様によれば、上述の目的は、生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存するように適合された凍結保存装置であって、細胞クラスターの少なくとも1つの所定の特性に基づいて細胞クラスターを少なくとも2つの画分に分画するように適合された分画デバイスと、各々が画分のうちの1つを収集するように配置された少なくとも2つの異なる容器を有する容器デバイスと、少なくとも2つの画分における細胞クラスターを凍結保存するように適合された凍結デバイスであって、画分の各々に対して特定の前処理方法及び/又は凍結方法を適用するように適合される凍結デバイスとを備える凍結保存装置によって達成される。好ましくは、凍結保存装置又はその一実施形態は、本発明の第1の一般的態様又は方法の実施形態に係る凍結保存する方法を実施するように適合される。
【0013】
本発明によれば、細胞クラスターは、細胞クラスターの少なくとも1つの所定の特性に基づいて少なくとも2つの画分に分画される。典型的には、5個まで又は10個までの画分が形成される。しかしながら、より多くの、例えば20個以上までの画分が提供される場合もある。
【0014】
有利には、細胞クラスターの分画によって少なくとも2つの均一な画分が生成され、そのそれぞれに対して凍結保存のための画分プロセスパラメータが最適化され得る。本発明者等は、凍結保存のための最適なプロセスパラメータが、細胞型だけでなく、細胞クラスター自体の特性、例えば細胞クラスターのサイズにも依存することを見出した。本発明者等はさらに、従来の方法では、不均一な画分内の異なるサイズの細胞クラスターが、各サイズについて、補助剤及び水が細胞クラスター内で異なるように分布し、それによって凍結に対して異なる効果を有するという効果を有し、該効果が凍結保存の成否及び収率にとって不利であることを見出した。本発明によれば、均一な画分を生成することにより、不均一な画分の従来の処理の限界が克服される。
【0015】
均一な画分の作製は、細胞クラスターの用途、例えば、成熟又は発達の同じ段階又は同様の段階にある細胞クラスターを有する画分に関心がある研究目的又はインプラント治療に関してさらなる利点を有する。このような画分は、培養法を用いて所望の目的で同様の細胞クラスターが獲得され、凍結保存を受け、凍結状態で保存されることによって形成され得る。
【0016】
「細胞クラスター」という用語は、例えば組織(特に組織モデル)、スフェロイド又はオルガノイドのような、生きている生物学的な細胞の連続した、好ましくは三次元に延在する集合を示す。細胞クラスターは、細胞のみからなり得るか、又は細胞に加えて細胞外マトリックス物質を含有し得る。細胞クラスターは、例えば、生物学的な細胞を培養することによって、及び/又は生物からの抽出によって作製される。「画分」という用語は、液体周囲媒体中の複数の細胞クラスターを示す。
【0017】
分画は、最初は不均一な試料から所定数の画分への細胞クラスターの分離(分類、分離プロセス)を含む。分離は、各画分が細胞クラスターを含有し、各画分中の細胞クラスターが少なくとも1つの同等の特性を有するように行われる。これは、各画分中の細胞クラスターが少なくとも1つの特性に関して同一であるか、又は差であって、凍結保存、特に前処理方法及び凍結方法の最適パラメータの選択に影響を及ぼさないようなわずかな差しかないことを意味する。各画分は、問題となる少なくとも1つの特性に関して均一である。分画は、特に、好ましくは細胞クラスターを変化させない分離方法である。特に、細胞クラスターは分画時に元の状態のままであり、換言すれば、細胞クラスターは、解離することはない。
【0018】
分画デバイスは、好ましくは、周囲媒体中に細胞クラスターの組成物を収容して、細胞クラスターを異なる画分に分離し、画分を異なる容器に分配するように適合された分離デバイスを備える。
【0019】
本発明によれば、画分は異なる容器に収集される、すなわち、分画は、異なる容器への分離を含む。各容器は、一般に、典型的には同等の細胞クラスター及び液体周囲媒体、例えば栄養培地を含む、画分のための貯蔵箇所を備える。異なる容器の貯蔵箇所は、互いに分離されている。
【0020】
好ましくは、画分は、内部で凍結保存が後に行われる容器に収集される。有利には、結果として、分画及び凍結保存からなる手順、並びに凍結保存装置の構造が単純化され、分画後の細胞クラスターに対する何らかの望ましくない影響が防止される。
【0021】
凍結保存では、分画中に得られた分離された画分が凍結される。あるいは、凍結前に、画分は、周囲媒体の変化及び/又は周囲媒体中の細胞クラスターの濃縮を受けてもよい。
【0022】
細胞クラスターの凍結保存は、前処理方法及び後続の凍結方法を含む。細胞クラスターの前処理(又はインキュベーション)は、凍結のために細胞クラスターに対し準備することを含み、これによって、例えば、液体周囲媒体の組成が、補助剤又はCPA(保存結果を改善するために使用されるすべての添加剤の全部)で調整され、画分の体積が調整され、画分中の細胞クラスターの密度が調整され、且つ/又は他の前処理パラメータが調整され、且つ/又は細胞クラスターが変化する、例えば物理的及び/又は化学的方法を使用して透過処理される。細胞クラスターの前処理は、好ましくは、周囲媒体が液体である温度で、特に室温で行われる。凍結は、0℃未満、例えば-80℃~-200℃の範囲内の凍結保存温度まで画分の温度を低下させることを含む。凍結のための凍結パラメータは、例えば、温度低下の時間プロファイル及び設定された凍結保存温度である。
【0023】
凍結保存の前処理方法及び凍結方法は、それ自体公知の方法で行われるが、本発明によれば、特定の前処理方法及び/又は凍結方法が、少なくとも2つの画分のそれぞれの細胞クラスターの凍結保存に使用される。各画分について、異なるプロセスパラメータ、特に前処理及び/又は凍結パラメータが提供される。各画分について、プロセスパラメータは、特に最大の生命力を維持するため、及び/又は最大の機能性を維持するために、細胞クラスターの凍結保存が最適化されるように選択される。
【0024】
凍結保存のためのプロセスパラメータの適用は、以前に選択された前処理パラメータ及び凍結パラメータを調整することを含む。最適な前処理パラメータ及び凍結パラメータは、細胞クラスターを使用する一連のテストを使用して決定され得る、及び/又は専門家の文献からの参照実験から決定され得る。凍結保存のための試料特異的プロセスパラメータの本発明による選択は、有利には、異なる細胞タイプに対する凍結保存の収率、効率及び/又は適用性を改善することを可能にする。
【0025】
凍結保存温度まで凍結した後、凍結された画分は、好ましくは、コールドチェーンを中断することなくクライオバンク内に貯蔵するために提供される。貯蔵は、クライオバンク内で、凍結保存温度から逸脱し得る貯蔵温度で行われる。
【0026】
有利には、細胞クラスターの分画のベースとして使用され得る複数の利用可能な特性が存在する。本発明の好ましい実施形態によれば、細胞クラスターの分画は、細胞クラスターのサイズ、形状、質量、弾性、透水係数(hydraulische Leitfaehigkeit)、クライオプロテクタント(CPA)透過性、クライオプロテクタントに対する耐性、化学的性質及び細胞組成(Zellzusammensetzung)を含む特性のうちの少なくとも1つに基づいて行われる。したがって、分画デバイスは、好ましくは、これらの特性のうちの少なくとも1つに基づいて分画するように適合される。上記の物理的及び化学的な特性は、効果的な分画及び凍結保存のための最適化されたプロセスパラメータの選択に特に適していることが有利に証明されている。
【0027】
細胞クラスターは、複数の特性に基づいて、例えばサイズ及びCPA透過性に基づいて分画され得る。複数の特性による分画では、第1段階で、第1の特性、例えば細胞クラスターのサイズがテストされ、少なくとも1つのさらなる段階で、少なくとも1つのさらなる特性、例えばCPA透過性がテストされる多段階分画が行われることが好ましい。
【0028】
特に好ましくは、サイズ依存分画が行われる。サイズ依存分離のために、多数の穏やかな分離方法が利用可能である。凍結保存のためのプロセスパラメータの効率は、細胞クラスターのサイズに特に強く依存し得る。細胞クラスターのサイズは、例えば、その断面寸法、特にその直径、又は物質輸送及び/又は凍結プロセスに影響を及ぼす、細胞クラスターの別の特徴的な幾何学的尺度を含む。代替的又は追加的に、それぞれの細胞クラスターの特定の形状を有する画分への分画が特に好ましい。細胞クラスターの形状は、周囲媒体中の細胞クラスターによって少なくともおおまかに想定される幾何学的形状、例えば、球形又は細長い円筒形又は不規則な形状である。
【0029】
凍結保存では、各画分は、画分特異的に選択された前処理パラメータによって特徴付けられる前処理を受ける。本発明のさらに好ましい実施形態によれば、画分の前処理方法は、前処理の持続時間、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成、透過処理条件及び媒体の移動を含む前処理パラメータのうちの少なくとも1つに関して異なる。これらの前処理パラメータは、高収率での効果的な凍結保存のための細胞クラスターの前処理に特によく適していることが有利に証明されている。
【0030】
有利には、本発明のさらなる変形形態によれば、画分の前処理方法は、前処理パラメータのうちの少なくとも1つの時間プロファイルに関して異なってもよい。前処理方法は、前処理パラメータの異なる時間依存性によって特徴付けられてもよい。時間依存性は、有利には、前処理の最適化においてさらなる自由度を達成する。
【0031】
本発明のさらに好ましい変形形態によれば、画分の凍結方法は、凍結の持続時間、特に冷却速度、温度、圧力、媒体組成、ガス供給組成及び媒体の移動を含む凍結パラメータのうちの少なくとも1つに関して異なることが規定される。したがって、凍結デバイスは、好ましくは、前記凍結パラメータのうちの少なくとも1つを有する凍結方法を適用するように適合される。これは、有利には、各々が同等の細胞クラスターを有する異なる画分について凍結保存を最適化するために使用され得る複数のパラメータが利用可能であることを意味する。
【0032】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、細胞クラスターの分画が流体分画を含み、細胞クラスターが流体環境で分離される場合、これは、細胞クラスターをその作製から、特にその培養から凍結に至るまで液体媒体中に保持し、気体又は蒸気環境へのいかなる一時的な転移も阻止することができるため、さらなる利点を生じさせる。
【0033】
本発明の有利な実施形態によれば、分画及び凍結保存は、自動化された様式で実行される。凍結保存装置は、自動運転、特に凍結保存装置の操作者の介入なしの運転に適合されている。自動化は、プロセス誤差の防止、プロセスパラメータの設定の再現性及び精度、並びに高速及び高スループットでの分離画分の下流凍結保存を伴う機械による分離画分への高スループット分画を実施する可能性の点において利点をもたらす。
【0034】
本発明のさらなる修正形態によれば、細胞クラスターの分画が、流体流中の分画、特にサイズベースの分画を含む場合、細胞クラスターは、流体流の流れ力、流体流中の誘電泳動力、及び流体流中の音波のうちの少なくとも1つの影響下で、流体流の流れプロファイル内の異なる位置に配置される。流体流の流れプロファイルは、流れの断面における流量の位置依存分布を含む。流れプロファイル内の異なる位置を利用して、これは、流れの異なる流路への細胞クラスターの分離を導入する。異なる容器への移送は、別個の部分流、例えば流体システムの部分チャネルを介して、及び/又は異なる方向に、流れプロファイルの個々の部分を容器に案内することによって行われる。
【0035】
好ましくは、分画デバイスの流体システムは、2mm未満の特徴的な断面寸法を有するチャネル及び流体要素、例えば分岐又は交差部を備える流体マイクロシステムである。流体流は、特に好ましくは、流れの分離を有利に改善し、流れプロファイルの一部を、細胞クラスターの流れプロファイル内の様々な位置への分離から特定の距離のところで容器へと案内することを可能にする、平行で渦のない流れである。
【0036】
流体流の流れ力を利用する分画は、受動流体学を利用するサイズベースの分画である。細胞クラスターは、そのサイズに応じて流れプロファイルの様々な位置で順序付けられるようになり、したがって分離され得る。受動流体力学は、以下の利点を有する。これは、細胞クラスターに最小限の歪みしかかけず、サイズセンサを必要としない非接触方法である。細胞クラスターの不均一な混合物が分割して添加され、通過時間差(クロマトグラフィー原理、フィールドフローフラクショネーション)によって分離され得る。しかしながら、より単純な装置設計を可能にし、より容易に拡張性のある連続的な方法、例えば、ピンチドフローフラクショネーション(PFF)が好ましい。例えば、PFFでは、異なるサイズの細胞クラスターは、異なる角度で出口を介して、特にノズル部分を介して出て行く。
【0037】
流体流中の誘電泳動力を利用する分画は、サイズベースの分画、又は活性流体を用いた細胞クラスターの電気的特性による分画、例えば細胞クラスターの誘電特性、例えば分極率又は表面電荷による分離である。この分離方法のために、分画デバイスは、流体流中で誘電泳動力を加えるように適合された電極デバイスを備えることが好ましい。電極デバイスは、例えば、AC電圧が印加されると、流体システム内の流れ方向と共に偏向角(0°に等しくない)を形成する誘電泳動フィールドバリアを生成する電極を備える。細胞クラスターに作用する誘電泳動フィールドバリアの強度は、細胞クラスターのサイズに依存する。流れの方向に対して直角に細胞クラスターに作用する誘電泳動力は、流れの中の流れ力と重ね合わされる。それらのサイズ及び/又は誘電特性及び流れ力に応じて、細胞クラスターは、異なる位置で電極を通過することができ、したがって流れプロファイル内に定位され得る。有利には、これはまた、上流センサを必要としない非接触方法を提供する。しかしながら、装置の費用は、受動流体の場合よりも高い。
【0038】
あるいは、誘電泳動力を利用する分画をセンサと組み合わせることができる。感知デバイスは、電極デバイスの上流に配置することができ、この感知デバイスは、細胞クラスターの少なくとも1つの特性を検出するように適合される。電極デバイスは、検出された特性に基づいて個々の細胞クラスターが流れプロファイル内の様々な位置に誘導されるように、感知デバイスからの出力信号に基づいて制御される。
【0039】
音波を利用する分画は、流体流の中で行われ、したがって、サイズベースの分画の別の変形形態が活性流体によって実現される。適切な周波数の音響場(定在音波及び/又は進行音波)、並びに音波の最小場に蓄積する不活性体の能力が分画に使用される。この場合も、これにより、上流センサを必要としない非接触方法を提供する。音響分画を使用することができるサイズ範囲は、誘電泳動分画のサイズ範囲よりも大きいことが有利である。この分離方法のために、分画デバイスには、流体流中に音波を発生させるように適合された音源デバイスが備わっていることが好ましい。
【0040】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、細胞クラスターの少なくとも1つの特性、及び/又は、少なくとも2つの画分の少なくとも1つの状態変数は、感知を利用して検出される。したがって、凍結保存装置は、好ましくは、細胞クラスターの少なくとも1つの特性、及び/又は、少なくとも2つの画分の少なくとも1つの状態変数を検出するように適合された感知デバイスを備える。細胞クラスターの少なくとも1つの特性の、感知を利用する検出は、特に好ましくは分画の直前に行われ、画分の少なくとも1つの状態変数の、感知を利用する検出は、特に好ましくは凍結保存の直前に行われる。分画前の細胞クラスターの少なくとも1つの特性の感知は、分画のベースとして使用され得る細胞クラスターの特性のグループを有利に増加させる。凍結保存前の画分の少なくとも1つの状態変数の検出は、画分の状態に基づいて凍結保存のためのプロセスパラメータをさらに最適化するという利点をもたらす。画分の状態変数は、例えば、細胞クラスターの密度又はサイズである。
【0041】
凍結保存後の細胞クラスターのさらなる使用のための本発明のさらなる特に重要な利点は、生命力を維持する解凍を画分特異的なやり方で行うこともできることである。本発明の有利な変形形態によれば、少なくとも2つの画分の細胞クラスターの解凍は、各画分に対して特定の解凍方法が使用されるように行われる。解凍パラメータは、凍結保存のプロセスパラメータと同様に、個々に分画された画分に対して別々に最適化され、解凍された細胞クラスターの生存率の増大を可能にする。
【0042】
概して、細胞クラスターの少なくとも1つの特性に基づいた細胞クラスターの分画によって得られ、凍結された少なくとも2つの画分を、各々に対して特定の解凍方法を用いて生命力を維持して解凍する方法と、該方法を実施するように構成された解凍デバイスとは、本発明のさらに独立した主題であると考えることができる。
【0043】
生物学的な細胞の複数の細胞クラスターを凍結保存する方法及びその実施形態に関連して開示される特徴は、同様に、凍結保存装置又はその実施形態の好ましい特徴である。したがって、本発明に係る上述の態様及び好ましい特徴は、特に方法に関して、凍結保存装置及びその構成要素にも適用される。
【0044】
本発明のさらなる詳細及び利点を、添付の図面を参照して以下に説明する。図面は、概略的に以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】複数の細胞クラスターを凍結保存する方法の順序及び本発明の好ましい実施形態に係る特徴を有する凍結保存装置の構成要素を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、細胞クラスターの誘電泳動分離に適合された分画デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の好ましい実施形態の特徴が、細胞クラスターのサイズベースの分画の使用に対する例示的な参照を利用して以下に記載される。実際には、本発明の実施は、サイズベースの分画に限定されず、代わりに又は追加として、別の例を用いて以下に記載されるように、細胞クラスターの別の特性に基づく分画も可能であることが強調される。具体例で使用される細胞クラスター及びそれらの作製、並びに凍結保存及び/又は解凍パラメータのプロセスパラメータの詳細は、生物学的物質の凍結保存からそれ自体知られているように選択される。
【0047】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る、複数の細胞クラスター1、2を凍結保存する方法のステップS1~S4、並びにこの目的のために使用され、分画デバイス10、容器デバイス20及び凍結デバイス30を有する凍結保存装置100を示す。
図1は、細胞クラスター1、2を作製するステップS0と、凍結細胞クラスターをクライオバンク40に貯蔵するステップS5とを追加で示す。
図1に示される例は、例えば、細胞クラスター1、2の自動化された、流体サイズベースの分画を実施するために使用される。
【0048】
ステップS0では、不均一な試料、例えば、異なるサイズの細胞クラスター1、2の混合物、及び/又はCPAに対する感度が異なる細胞クラスター1、2の混合物が作製される。細胞クラスター1、2は、例えば、栄養培地中で培養し、成体幹細胞からの分化因子を使用することによって既知の方法で形成され、例えば10μm~10mm以上の範囲の断面寸法を有するオルガノイドを含む。細胞クラスター1、2は、例えば培養容器内で作製される。
【0049】
ステップS1により、細胞クラスター1、2は、概略的に示された分画デバイス10を使用して、各々が特有のサイズの細胞クラスターを包含する個々の画分4(画分)に分離される。分画デバイス10は、例えば、
図2を参照して以下に説明するように構成され、好ましくは自動化された様式で作動される。画分4は、ステップS2において、容器デバイス20の容器21に移送される。容器21は、好ましくは、ステップS3及びS4における後続の凍結保存で使用されるように、蓋を有するプラスチック管、特にPP管と呼ばれるものを備える(ステップS5の図を参照)。あるいは、容器は、他の貯蔵箇所、例えばパウチ又はマイクロタイタープレートを備えてもよい。さらなる代替形態によれば、容器21は、凍結デバイス30のインキュベーションユニット31の一部であってもよい。個々の画分4は、所定の装填量、特に所定の濃度(周囲媒体の単位体積当たりの細胞クラスターの質量)に達するまで、貯蔵のために設けられた容器21に収集される。
【0050】
凍結デバイス30は、インキュベーションユニット31と、冷却ユニット32とを備える。凍結デバイス30において、個々の画分4は、問題となるサイズに適合された前処理及び凍結プロトコルを受ける。
【0051】
画分の前処理は、インキュベーションユニット31内で行われる。これは、各画分4に対して完全且つ個々のインキュベーションプログラムが実行されることを意味する。このプロセスでは、少なくともCPA(特にクライオプロテクタント)が添加され、細胞クラスターにそれが装填されることが意図される。細胞クラスターのサイズが増大するにつれて、例えば、CPA濃度の増大及び/又はインキュベーション時間の増加が使用される。適切なクライオプロテクタント及びその濃度は、テストを用いて決定され得る。
【0052】
インキュベーションは、所定の温度コンディショニングT(t)、所定のクライオプロテクタント(CPA)濃度プロファイルC(t、CPA1、CPA2、...)によるガスの供給及び/又は灌流をさらに含むことができる。代替的又は追加的に、細胞クラスターに耐性があるならば、一時的に膜透過性及び/又は毒性のCPAが供給され得る。さらに、少なくとも1つの画分の細胞クラスターの氷核形成(過冷却の低減及び制御のため)、媒体循環(T及びCの均質化のため)、及び/又は透過処理(非膜透過性CPAの装填のため)は、前処理方法の一部であり得る。透過処理は、例えば、化学的に(例えばDMSOを利用して)、音波を利用して(ソノポレーション)、電場を利用して(エレクトロポレーション)、リポソーム物質を利用して、及び/又は膜相変換による熱変調によって行うことができる。さらに、インキュベーションユニット31における前処理は、画分4の凝固点より高い温度まで画分4を予備冷却することを含む。
【0053】
インキュベーションユニット31は、好ましくは、容器21のための個々の貯蔵箇所、例えば個々の空洞を有するか、又はリザーバによって好ましくは同じ体積の画分のために容器を提供する。インキュベーションユニット31は、CPAを供給するため(逐次添加及び/又は濃度上昇)及び/又は容器から媒体を排出するためのポンプデバイスを含む。さらに、インキュベーションユニット31には、好ましくは、各容器内の前処理中に媒体を移動させるための駆動装置、例えば撹拌機構が備わっている。代替的又は追加的に、画分を過冷却するように適合されている予冷ユニットが設けられ得る。過冷却は、細胞クラスターの細胞に膜変化を誘発することができ、結果として、前処理、例えばCPAの取り込みが影響を受ける可能性がある。代替的又は追加的に、音源がさらに設けられる場合があり、それを利用して画分の細胞クラスターに超音波処理を受けさせることができる。超音波処理は、細胞クラスターの細胞におけるさらなる膜変化、特に透過処理を誘発することができる。
【0054】
サイズ依存インキュベーションのさらなる前処理パラメータには、例えば、個々のCPAの濃度、個々のCPAの作用持続時間、個々のCPAの経時的な濃度プロファイル、適合した温度プロファイル(>0℃)、例えばインキュベーションユニット31及びCPAリザーバと組み合わせた混合デバイスを利用する媒体組成の連続的な変化、及び/又は周囲媒体の変化(灌流)が含まれる。
【0055】
続いて、冷却ユニット32において画分4を凍結させる(ステップS4)。画分4の細胞クラスターの特性、例えばサイズ又は他の特性、例えば細胞クラスターの個々の成分の透水係数、媒体中の膜透過性且つ浸透圧活性の添加剤の割合及び/又は過冷却に応じて、個々の画分4は、異なる冷却速度及び/又は異なる冷却プロファイルで制御された方式で凍結される。例えば、-1K/分以下の冷却速度が使用される。冷却は、例えば-80℃以下、例えば-140℃以下の凍結保存温度まで行われる。
【0056】
個々の画分の凍結のための温度プロファイルは、例えば、(任意選択的に、媒体の循環を伴って、且つ/又は冷却ユニット32の熱交換器内の画分容器の形状適合を使用して)画分体積を介して、平衡速度、過冷却を低減するための制御された核生成、及び/又は均一な冷却速度への適合を設定するために選択され得る。
【0057】
各画分について、冷却ユニット32は、少なくとも1つの冷却要素を有する冷却チャンバと、熱交換器とを備える。冷却要素は、例えば液体窒素又はイソペンタンで動作する、例えばペルチェ素子、スターリング冷却器又は冷却剤流れ冷却器である。冷却要素は、規定の冷却速度を設定するように適合される。熱交換器は、例えば、それぞれの画分の容器のための貯蔵箇所を備え、好ましくは容器と貯蔵箇所との間に形状嵌合部を有する。容器21が凍結デバイス30のインキュベーションユニット31の一部である場合、凍結の前に極低温容器、例えば前記PP管への移送が行われる。冷却ユニット32は、任意選択的に、核生成装置、例えば低温針を備え得て、それを利用して、制御された核生成が容器内に誘発され得る。
【0058】
最後に、容器が閉鎖され、極低温(例えば-140℃)で凍結画分がクライオバンク40に貯蔵される(ステップS5)。クライオバンク40への移送は、例えば冷却された樋を使用して、又は凍結デバイス30をクライオバンク40に直接結合することによって、コールドチェーンを中断することなく行われる。
【0059】
解凍のために、
図1に示されるプロセスが、解凍デバイス(図示せず)を使用して逆向きに行われる。解凍中、凍結のためのサイズ適合プロセスと同様に、個々の画分はまた、補助剤が洗い流されるまで、解凍中及び/又は最初の回収段階において異なるインキュベーション単位で別々に処理される。例えば、高浸透圧解凍媒体中でのサイズ依存解凍速度、サイズ依存インキュベーション、及び/又は解凍された画分のサイズ依存洗浄が提供される。結果として、例えば、毒性の膜透過性CPAの十分な希釈を確実にするために、比較的大きな細胞クラスターの代謝を冷却環境によって遅らせることができるが、このプロセスは、小さな細胞クラスターの場合より迅速に行うことができる。
【0060】
解凍後、解凍された画分に生命力テストを課し、生命力が検出された場合、所定の使用法に依存する容器フォーマット、例えばマイクロタイタープレート又は懸濁バイオリアクターに移される分割ステップが実行され得る。この場合、サイズベースの分画は維持され得る、又は省略され得る。
【0061】
解凍及び/又は分割は、例えば流体デバイス、特に流体マイクロシステムを使用して実行され得る。
【0062】
図2は、主チャネル11A及び分岐チャネル11Bを有する流体デバイス11、特に流体マイクロシステムの形態の分画デバイス10を例として示しており、そこを通って、異なるサイズの細胞クラスター1、2、3を有する液体周囲媒体の懸濁液が、矢印Aの方向に流れる。制御デバイス13に接続された電極デバイス12及び感知デバイス14が、主チャネル11Aに配置されている。主チャネル11Aは、各々が容器デバイス20の容器21に接続された分岐チャネル11Bへと分岐している。
【0063】
電極デバイス12は、例えば主チャネル11Aの底部及び/又はカバープレート上に、2つのストリップ状電極又は電極対を備える。制御デバイス13からのAC電圧が電極に印加されると、電極デバイス12は、流れAに対して直角にフィールドバリアを生成することができる。フィールドバリアは、流れと共に到着する細胞クラスターに合わせるように一時的に生成され得る。フィールドバリアと、流れAにおける流れ力との相互作用により、細胞クラスターは、分岐チャネル11Bのうちの1つに通じる所定の流路上に案内され得る(例えば、細胞クラスター1の点線の流路Bを参照されたい)。
【0064】
感知デバイス14は、例えば光学センサ、特に画像処理デバイスに接続されたカメラである。細胞クラスター1、2、3及びそれらのそれぞれのサイズは、感知デバイス14を利用して検出され得る。細胞クラスター1、2、3の位置及びサイズに関する情報は、制御デバイス13に送られる。制御デバイス13は、細胞クラスター1、2、3を3つの所定のサイズの所望の画分に割り当て、細胞クラスター1、2、3が、各々、それらのサイズに基づいて分岐チャネル11Bのうちの1つに案内され、それを介して容器21のうちの1つに案内されるように、電極デバイス12を制御する。
【0065】
図2の実施形態の一代替形態として、電極デバイス12は、誘電泳動フィールドケージを備え得て、感知デバイス14は、フィールドケージ内の細胞クラスターを検出するように適合され得る。細胞クラスターは、センサを利用してフィールドケージ内で次々に検出され、それらの特性に基づいて複数の画分のうちの1つに割り当てられ、フィールドケージ及び任意選択のさらなる誘電泳動偏向を解放することによって問題となる画分へと案内される。
【0066】
誘電泳動力を用いたサイズベースに代えて又は加えて、分画のために以下の分離方法のうちの少なくとも1つが提供され得る。受動的分離方法は、例えば、流れプロファイルにおける分画(例えば、PFF)、密度に基づく分画(例えば、沈殿法)及び幾何学的分画(例えば、スクリーンを使用する)を含み得る。能動的分離方法は、例えば音響分離(例えば、定在超音波を用いる)又は光学分離(例えば、光学ピンセットを用いる)を含み得る。
【0067】
光学センサの代わりに、例えば、細胞クラスターでのインピーダンス測定が行われてもよく(例えば、「コールターカウンター」装置の場合のように)、分画は、インピーダンス測定の結果に基づいて実行され得る。
【0068】
図1及び
図2を参照して説明したサイズベースの分画は、他の特性に関する分画によって補足されてもよく、又はそれによって置き換えられてもよい。例えば、分画デバイスの流体デバイスにおいて、例えば流体デバイスのフィールドケージにおいて、細胞クラスターの細胞のクライオプロテクタントに対する透過性及び/又はクライオプロテクタントに対する耐性のテストが実行され得る。テスト結果に応じて、異なる画分が形成される場合があり、これらは、続いて、異なるプロセスパラメータを使用して凍結保存を受ける。例えば、細胞のCPA透過性が低い細胞クラスターは、細胞のCPA透過性が高い細胞クラスターよりも長いCPAインキュベーション時間を使用して処理される。
【0069】
前述の説明及び図面及び特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、その様々な実施形態において本発明を実施するために、個別において及び組み合わせ又は部分的な組み合わせにおいて重要であり得る。
【国際調査報告】