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特表2023-546669抗体媒介性後天性原発型または再発型特発性ネフローゼ症候群を同定および処置する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】抗体媒介性後天性原発型または再発型特発性ネフローゼ症候群を同定および処置する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231030BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01N33/53 N
A61K31/573
A61K39/395 N
A61K38/16
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524509
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 US2021056157
(87)【国際公開番号】W WO2022087341
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】63/104,306
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503146324
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】309020703
【氏名又は名称】ボストン メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ウェインス,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】レンケ,ヘルムート ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,ジョエル エム.
(72)【発明者】
【氏名】ワッツ,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ケラー,キース
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA22
4C084NA14
4C084ZC01
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA10
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC01
(57)【要約】
循環性抗ネフリン自己抗体の存在に基づいて、微小変化疾患を診断および処置するため、ならびに腎臓移植の前に適格性または処置のために対象を同定するための方法およびキットが本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において微小変化疾患(MCD)を診断する方法であって、
MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルを参照レベルと比較すること;および
参照レベルよりも高い前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、MCDを有するか、または発症するリスクがあるとして診断すること
を含む方法。
【請求項2】
前記対象へのMCDに対する処置を選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象において微小変化疾患(MCD)を処置する方法であって、
MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルを参照レベルと比較すること;
参照レベルよりも高い前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、MCDを有するか、または発症するリスクがあるとして同定すること;および
MCDに対する処置を前記対象に投与すること
を含む方法。
【請求項4】
MCDに対する前記処置が、グルココルチコイド、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、またはB細胞を標的化する処置のうちの1つまたは複数の前記対象への投与を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記グルココルチコイドが、プレドニゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、プレドニゾロン、またはメチルプレドニゾロンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
B細胞標的化療法が、B細胞を枯渇させる標的化された療法またはBリンパ球刺激の阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
B細胞を枯渇させる前記標的化された療法が、抗CD20抗体;抗CD19抗体;または抗BAFF抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Bリンパ球刺激の前記阻害剤が、ベリムマブ、タバルマブ、またはアタシセプトである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
抗ネフリン抗体のレベルを低減させる前記処置がプラスマフェレーシスである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記対象からその後の試料を得ること;
前記試料中の抗ネフリン抗体のその後のレベルを決定すること;
抗ネフリン抗体の前記その後のレベルを参照レベルと比較すること
をさらに含み、
(i)前記その後の試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルが参照レベルよりも高い場合に、前記方法が、前記対象への前記処置の投与を継続するか、もしくはMCDに対する異なる処置を前記対象に投与することをさらに含むことができるか、または
(ii)前記その後の試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルが前記参照レベルよりも低い場合に、前記方法が、前記処置を中止することをさらに含むことができる、
請求項4に記載の方法。
【請求項11】
MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;および
前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること
を含む方法。
【請求項12】
前記試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルを参照レベルと比較すること;ならびに
前記レベルおよび前記参照レベルを健康管理提供者および/または前記対象に提供すること
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
腎臓移植のための末期腎疾患(ESRD)を有する対象の適格性を決定する方法であって、
前記対象からの試料を用意すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;
前記試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルを参照レベルと比較すること;
参照レベルよりも高い前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、移植のために不適格であるとして同定すること
を含む方法。
【請求項14】
グルココルチコイド、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、またはB細胞を標的化する処置のうちの1つまたは複数の前記対象への投与を含む処置を選択し、任意選択的に前記対象に投与すること;
前記対象からその後の試料を得ること;
前記試料中の抗ネフリン抗体のその後のレベルを決定すること;
抗ネフリン抗体の前記その後のレベルを参照レベルと比較すること
をさらに含み、
(i)前記その後の試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルが参照レベルよりも高い場合に、前記方法が、前記対象への前記処置の投与を継続するか、もしくは異なる処置を前記対象に投与することをさらに含むことができるか、または
(ii)前記その後の試料中の抗ネフリン抗体の前記レベルが前記参照レベルよりも低い場合に、前記方法が、前記対象を、移植のために適格であるとして同定することをさらに含むことができる、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、前記対象からの腎臓生検組織、全血、血漿、または血清を含む、請求項1~14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定することが、ウエスタンブロット;酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA);ラジオイムノアッセイ(RIA);免疫組織化学(IHC);免疫沈降アッセイ;または蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、請求項1~14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2020年10月22日に出願された米国仮出願第63/104,306号の利益を主張する。上記出願の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府により支援された研究または開発
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された助成金第DK007053号の下での政府の支援と共に為された。政府は本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本明細書に記載されるのは、循環性抗ネフリン自己抗体の存在に基づいて、微小変化疾患(minimal change disease)を診断および処置するため、ならびに腎臓移植の前に適格性または処置のために対象を同定するための方法およびキットである。
【背景技術】
【0004】
微小変化を伴うびまん性ポドサイトパチー(podocytopathy)(微小変化疾患(Minimal Chance Disease;MCD))は、ネフローゼ症候群(NS)を有する成人および小児における重要なおよび一般的な病理学的診断である。MCDは、未知の病因のポドサイトパチーであり、成人および小児の両方が罹患し、B細胞の役割をサポートする証拠を有する10~13。それは、光顕微鏡法によっては微小変化であるが、電子顕微鏡法(EM)により、高電子密度沈着物のない、びまん性の足突起消失(foot process effacement;FPE)およびスリット膜(slit diaphragm;SD)の喪失を伴う糸球体ポドサイトへの大規模な傷害により特徴付けられる。これらの変化の帰結は、糸球体濾過障壁(GFB)の不全に続く大量のタンパク尿であり、GFBの完全性は、指状嵌入性(interdigitating)ポドサイト足突起を連結する特殊な接合部SDタンパク質複合体に決定的に依存している。
【発明の概要】
【0005】
本明細書において提供されるのは、対象において微小変化疾患(MCD)を診断する方法である。方法は、MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを参照レベルと比較すること;および参照レベルよりも高い試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、MCDを有するか、または発症するリスクがあるとして診断することを含む。
【0006】
一部の実施形態において、方法は、対象へのMCDに対する処置を選択することを含む。
【0007】
本明細書において提供されるのはまた、対象において微小変化疾患(MCD)を処置する方法である。方法は、MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを参照レベルと比較すること;参照レベルよりも高い試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、MCDを有するか、または発症するリスクがあるとして同定すること;およびMCDに対する処置を対象に投与することを含む。
【0008】
一部の実施形態において、MCDに対する処置は、グルココルチコイド、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、またはB細胞を標的化する処置のうちの1つまたは複数の対象への投与を含む。一部の実施形態において、グルココルチコイドは、プレドニゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、プレドニゾロン、またはメチルプレドニゾロンである。一部の実施形態において、B細胞標的化療法は、B細胞を枯渇させる標的化された療法またはBリンパ球刺激の阻害剤である。一部の実施形態において、B細胞を枯渇させる標的化された療法は、抗CD20抗体;抗CD19抗体;または抗BAFF抗体である。一部の実施形態において、Bリンパ球刺激の阻害剤は、ベリムマブ、タバルマブ、またはアタシセプトである。一部の実施形態において、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置は、プラスマフェレーシスであるか、またはプラスマフェレーシスを含む。
【0009】
一部の実施形態において、方法は、対象からその後の試料を得ること;試料中の抗ネフリン抗体のその後のレベルを決定すること;抗ネフリン抗体のその後のレベルを参照レベルと比較することをさらに含み;(i)その後の試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも高い場合に、方法は、対象への処置の投与を継続するか、もしくはMCDに対する異なる処置を対象に投与することをさらに含むことができるか、または(ii)その後の試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも低い場合に、方法は、処置を中止することをさらに含むことができる。
【0010】
追加的に、本明細書において提供されるのは、対象、任意選択的にMCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料を用意すること;および試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定することを含む方法である。
【0011】
一部の実施形態において、方法は、試料中の抗ネフリン抗体のレベルを参照レベルと比較すること;ならびにレベルおよび参照レベルを健康管理提供者および/または対象に提供すること、ならびに任意選択的に参照範囲を健康管理提供者に提供すること、ならびに対象が参照レベルよりも高いか、または低いかの指標を得ることをさらに含む。
【0012】
さらに、本明細書において提供されるのは、腎臓移植のための末期腎疾患(ESRD)を有する対象の適格性を決定する方法である。方法は、対象からの試料を用意すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定すること;試料中の抗ネフリン抗体のレベルを参照レベルと比較すること;および参照レベルよりも高い試料中の抗ネフリン抗体のレベルを有する対象を、移植のために不適格であるとして同定することを含む。一部の実施形態において、方法は、グルココルチコイド、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、またはB細胞を標的化する処置のうちの1つまたは複数の対象への投与を含む処置を選択し、任意選択的に対象に投与すること;対象からその後の試料を得ること;試料中の抗ネフリン抗体のその後のレベルを決定すること;抗ネフリン抗体のその後のレベルを参照レベルと比較することをさらに含み;(i)その後の試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも高い場合に、方法は、対象への処置の投与を継続するか、もしくは異なる処置を対象に投与することをさらに含むことができるか、または(ii)その後の試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも低い場合に、方法は、対象を、移植のために適格であるとして同定することをさらに含むことができる。
【0013】
本明細書に記載される方法の一部の実施形態において、試料は、対象からの腎臓生検組織、全血、血漿、または血清を含む。
【0014】
一部の実施形態において、試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定することは、ウエスタンブロット;酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA);ラジオイムノアッセイ(RIA);免疫組織化学(IHC);免疫沈降アッセイ;または蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む。
【0015】
他に定義されなければ、本明細書において使用されるすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。方法および材料が本発明における使用のために本明細書に記載され;当技術分野において公知の他の好適な方法および材料もまた使用され得る。材料、方法、および例は実例的なものに過ぎず、限定的であることは意図されない。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合、定義を含む、本明細書が優先される。
【0016】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明および図、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1-1】ネフリンに対する循環性自己抗体は、NEPTUNE研究コホートからのMCD患者のサブセットにおいて存在し、疾患活動性と相関する。(A)組換えヒトネフリンの細胞外ドメインに対する抗体(hNephrinG1059)を間接的なELISAにより測定した。各々の個々の患者試料について重複hNephrinG1059被覆ウェルの平均OD450nmから重複非被覆ウェルの平均OD450nm(非特異的バックグラウンド)を引くことにより抗原特異的結合を決定した。1000単位/mlを含有するとして定義される1:100の希釈を伴う単一の陽性患者試料を使用して生成された標準曲線から相対的な抗体力価を次に決定した。抗ネフリン抗体陽性性の閾値(187単位/ml)は最大抗体力価として定義したが、これは、コホートは正常に分布しておらず、健常対照集団(n=30)において特異性を最大化する既知の腎臓疾患(点線)はなかったからである。活動性疾患(試料収集の日において尿タンパク質-クレアチニン比(UPCR)>3g/g)の間に利用可能な最初期の血清試料は、NEPTUNEコホートからのMCDと証明された生検を用いて62人の患者のうちの18人(29%)において抗ネフリン抗体について陽性であった。臨床的なELISAおよびIIFTアッセイ(Euroimmun)により決定された、抗ヒトホスホリパーゼA2受容体(hPLA2R+)抗体を有する54人のネフローゼ対照患者のうちの53人(98%)は、抗ネフリン抗体について陰性であった。抗ネフリン抗体ELISAについての分散のアッセイ内およびアッセイ間係数はそれぞれ5.56%および14.36%であった。NEPTUNE患者および対照についての抗体力価を表2に与えている。(B)活動性疾患の間に抗ネフリン抗体陽性(青色バー)であった18人のNEPTUNE患者のうちの11人は、すべての症例において抗ネフリン抗体陰性(赤色バー)であると試験された完全寛解(試料収集の日においてUPCR<0.3g/g)の間に利用可能なその後の血清試料を有した。点線は陽性抗体力価の閾値(187単位/ml)を指し示す。スチューデントt検定を使用して、活動性試料と寛解試料との間の差異を比較した。**p<0.01、***p<0.001。
図1-2】ネフリンに対する循環性自己抗体は、NEPTUNE研究コホートからのMCD患者のサブセットにおいて存在し、疾患活動性と相関する。(C)(B)においてNEPTUNEコホートからのELISAにより評価された同じ血清試料を、HGE(非疾患ヒト腎臓に由来する)からネフリンを免疫沈降させるそれらの能力について評価した。ELISAの結果と合致して、活動性疾患の間に得られた血清(その上のAと共に矢印により指し示される(青色))のみがネフリンを免疫沈降させた一方、寛解の間に得られた血清(その上の「R」と共に矢印により指し示される)はそうでなかった。全IgGは、各々の患者について活動性試料と寛解試料との間で同等であった。(D、E)NEPTUNEコホートにおける完全寛解(CR)および無再発期間についてのカプラン-マイヤー概算値。(D)登録から完全寛解までの時間は、ログランク検定により抗ネフリン抗体(Ab)陽性群(メジアン時間4.4か月)と陰性群(メジアン時間5.4か月)との間で類似していた(p=0.7288)。
図1-3】ネフリンに対する循環性自己抗体は、NEPTUNE研究コホートからのMCD患者のサブセットにおいて存在し、疾患活動性と相関する。(D、E)NEPTUNEコホートにおける完全寛解(CR)および無再発期間についてのカプラン-マイヤー概算値。(E)CR後の無再発期間は、抗ネフリン抗体陰性群(メジアン時間21.57か月)と比較して抗体陽性群(メジアン時間6か月)においてより短かったが、この発見はログランク検定により統計的有意性に達しなかった(p=0.0945)。CRはUPCR<0.3g/gとして定義した。再発は、CRに達した後のUPCR>3g/gの場合として定義した。
図2-1】IgG陽性MCD(MCD7+)のルーチンな臨床的落射蛍光顕微鏡法、周期酸シッフ(Periodic Acid Schiff;PAS)染色光顕微鏡法および電子顕微鏡法(EM)画像。(A)FITCコンジュゲートIgG抗体を用いて見られる散在性の点状染色はアルブミン染色によっては見られない。近位尿細管再吸収小滴における陽性アルブミン染色に留意されたい。スケールバー IFおよびPAS:20μm。スケールバー EM:1μm。
図2-2】IgG陽性MCD(MCD7+)のルーチンな臨床的落射蛍光顕微鏡法、周期酸シッフ(Periodic Acid Schiff;PAS)染色光顕微鏡法および電子顕微鏡法(EM)画像。(B)IgGサブタイプについての染色は、点状染色の制限がないことを裏付け、この場合、IgG3およびIgG4サブタイプと比較してIgG1およびIgG2についてのより高い免疫反応性が観察された。スケールバー IFおよびPAS:20μm。スケールバー EM:1μm。
図2-3】IgG陽性MCD(MCD7+)のルーチンな臨床的落射蛍光顕微鏡法、周期酸シッフ(Periodic Acid Schiff;PAS)染色光顕微鏡法および電子顕微鏡法(EM)画像。(C)カッパおよびラムダ軽鎖についての染色は、等しい強度およびIgG染色を忠実に映し出す外見を示す。PAS染色は最小の光学顕微鏡的変化を示し、EMはびまん性のポドサイト足突起消失を実証する。スケールバー IFおよびPAS:20μm。スケールバー EM:1μm。
図3-1】MCDと証明された生検を有する患者における腎臓生検イメージング研究。(A)IgGおよびポドサイトスリット膜タンパク質ネフリン(赤)について染色された、IgG陽性MCD(MCD1+/MCD7+)およびIgG陰性MCD(MCD5-)における糸球体の代表的な共焦点顕微鏡画像。MCD+生検(MCD1+/MCD7+)(白矢印)において見られるが、MCD-生検においては見られないように、IgGとネフリンとの間、特に点状IgGとの間に明確なオーバーラップ(黄)があるが、バックグラウンドとの間にはない。右パネルは、MCD1+およびMCD7+生検のボックスで囲った区画の拡大された画像を示す。スケールバー:10μm。
図3-2】MCDと証明された生検を有する患者における腎臓生検イメージング研究。(B)点状IgG(白矢印で指し示される)および細胞骨格ポドサイトマーカーシナプトポジン(赤)について染色された、IgG陽性MCD(MCD1+/MCD7+)およびIgG陰性MCD(MCD5-)における糸球体の代表的な共焦点顕微鏡画像。それらのいずれの場合においてもIgGとシナプトポジンとの間に認識可能なオーバーラップはない。右パネルは、MCD1+およびMCD7+生検のボックスで囲った区画の拡大された画像を示す。スケールバー:10μm。
図3-3】MCDと証明された生検を有する患者における腎臓生検イメージング研究。(C)0.125mmの個々のZスライスの超高分解能構造化照明顕微鏡法(SIM)画像であり、これは、ネフリンがGBMと会合したままであって、曲線パターンを形成している、代表的な腎臓生検(MCD1+)からのポドサイト接合部の正面図を示す。左の画像は、右の画像に示される足突起会合性シナプトポジンとの相互排他性とは対照的に、スリット膜タンパク質ネフリン(赤)とのIgGの共局在性(黄)を示し、ポドサイトスリット膜に沿ったネフリンとの緊密な空間的関連性を指し示す。(完全な画像スタックは図S7に示される)。スケールバー:1μm。(D)ネフリンがより顆粒状のパターンに再分布している代表的な腎臓生検(患者MCD7+)からの0.125μmの個々のZスライスのSIM画像。左の画像は、右の画像に示される足突起会合性シナプトポジンとの相互排他性とは対照的に、スリット膜タンパク質ネフリン(赤)とのIgGの共局在性(黄)を示し、再分布したネフリンとのIgGの継続した緊密な空間的関連性を指し示す。(完全な画像スタックはサプリメンタルの図S7に示される)。スケールバー:1。
図4】MCDと証明された生検を有する患者における抗ネフリン抗体についての血清学的試験。(A)生検上のMCDおよびIgG沈着を有する患者のすべて(n=9)は抗ネフリン抗体陽性であった一方、DN(n=2)、アミロイドーシス(n=1)、IgG陰性FSGS(n=2)、IgG陰性TL(n=1)、正常(n=1)、腫瘍腎摘除術の無疾患領域(n=2)およびIgG陰性MCD(n=3)からなる、生検上のIgG沈着を欠いた対照対象のすべては抗ネフリン抗体陰性であった(n=12)。マン-ホイットニーU検定を使用して群間の差異を比較した。***p<0.001。(B)血清/血漿試料を、活動性疾患(NSでの診察の7日以内)の間のIgG陽性MCD(MCD+)と証明された生検を有する患者から得、フォローアップ試料を、試料収集の日における完全(MCD4+、MCD7+)または部分(MCD8+)寛解の間に得た。MCD3+について、フォローアップ血清試料を、持続的な完全寛解の期間に入った約3週後に得た。187U/mlの陽性抗ネフリン抗体力価の閾値(点線により指し示される)は健常対照集団の上限に基づいた。血清/血漿中の抗ネフリン抗体は、検出不可能であったか、または、活動性疾患の間のもの(青色バー)と比較して臨床的寛解の間に陽性性の閾値(赤色バー)よりも低くまで有意に低減された。完全寛解は、尿タンパク質クレアチニン比(UPCR)<0.3g/gまたは尿アルブミンクレアチニン比(UACR)<0.2g/gとして定義した。部分寛解は、0.3g/gを下回らないタンパク尿(UPCR)における>50%の低減として定義した。スチューデントt検定を使用して、活動性試料と寛解試料との間の差異を比較した。**p<0.01、***p<0.001。
図5-1】高いレベルの移植前抗ネフリン抗体は、早期の大量の移植後タンパク尿再発と関連付けられる。(A)FSGSを示すその後の生検と共にESKDまで進行した小児期発症性、ステロイド依存性MCDを有する患者の臨床経過。グラフの上に示されるプラスマフェレーシスおよびリツキシマブでの処置に迅速に応答した死後小児ドナー腎臓移植後に、患者は早期の、大量のタンパク尿再発を発症した。(B)ELISAにより抗ネフリン抗体について陽性であると試験された2つの移植前血清試料(-617日目、-528日目)および初期プラスマフェレセート(plasmapheresate)(シェード付きボックス)(d13(PP);(A)において矢印により指し示される)(点線は187U/mlの陽性性の閾値を指し示す)。d27(d27;(A)において矢印により指し示される)およびd365(UCPR<0.3g/g)において処置応答後に評価された血清試料は、抗ネフリン抗体について陰性であった。
図5-2】高いレベルの移植前抗ネフリン抗体は、早期の大量の移植後タンパク尿再発と関連付けられる。(C)同様に、移植前の血清およびプラスマフェレセートは、ELISAでの発見と合致して、HGE(無疾患ヒト腎臓に由来する)からネフリンを免疫沈降させた。
図6-1】活動性タンパク尿および療法に対する部分奏功を伴うNEPTUNEコホートからの単一の患者についての臨床的および抗ネフリン抗体データ。(A)活動性疾患(約10dにおける黒境界を伴う大きい灰色の丸)と部分寛解(約240dにおける黒境界を伴う大きい丸)との間の利用可能な血清試料を用いた患者の臨床経過であり、UPCR(g/g)(点線は3g/gのUPCRを指し示す)、血清クレアチニン(Cr)および処置(グラフの上に示される)を示す。
図6-2】活動性タンパク尿および療法に対する部分奏功を伴うNEPTUNEコホートからの単一の患者についての臨床的および抗ネフリン抗体データ。(B)部分寛解と関連付けられる抗ネフリン抗体力価における有意な低減(p=0.01)(点線は、健常対照集団に基づく187U/mlの陽性抗体力価についての閾値を指し示す)。
図6-3】活動性タンパク尿および療法に対する部分奏功を伴うNEPTUNEコホートからの単一の患者についての臨床的および抗ネフリン抗体データ。(C)20日目(d20)および244日目(d244)に採取された血清試料の両方は、無疾患ヒト腎臓に由来するHGEからネフリンを免疫沈降させ、バンド強度はELISAによる抗体力価を忠実に映し出している。日;登録後の日数。部分寛解は、試料間のUPCRにおける>50%の低減として定義した。
図7-1】IgG、IgG/ネフリンおよびIgG/シナプトポジン染色の免疫蛍光顕微鏡画像。(A)FITCコンジュゲート抗ヒトIgG(Fab)抗体(ab)を使用してIgGについて染色された糸球体の臨床的落射蛍光画像。右パネルは、点線の四角のより拡大した図を示す。正常な糸球体は、すべての基底膜に沿った低強度の直線状の染色を示す。MCDのサブセット(ここで示されるMCD4+)において、IgGについての繊細な点状染色が、GBM(白矢印)と密接に関連付けられる、毛細血管外コンパートメントにおいて観察される。対照的に、MN(ここで示されるMN1)における顆粒状IgG染色ははるかにより強い強度である。DN(ここで示されるDN1)を有する患者におけるものを含む、他のタンパク尿状態において顆粒状染色も点状染色も観察されない。
図7-2】IgG、IgG/ネフリンおよびIgG/シナプトポジン染色の免疫蛍光顕微鏡画像。(B)一次非コンジュゲートマウス抗ヒトIgGおよびヒツジ抗ヒトネフリン抗体を使用してIgGおよびネフリンについて染色された同じ症例の共焦点顕微鏡画像。右パネルは、点線の四角のより拡大した図を示す。ネフリン染色強度の低減がすべてのタンパク尿状態において見られ得るが、ネフリンとのIgGの共局在性はMCD+においてのみ観察される(白矢印)。
図7-3】IgG、IgG/ネフリンおよびIgG/シナプトポジン染色の免疫蛍光顕微鏡画像。(C)一次非コンジュゲートマウス抗ヒトIgGおよびモルモット抗ヒトシナプトポジン抗体を使用してIgGおよびシナプトポジンについて染色された同じ症例の共焦点顕微鏡画像。右パネルは、点線の四角のより拡大した図を示す。細胞内アクチン会合性シナプトポジンとのIgG染色の認識可能な共局在性は、正常腎臓、MCD+、MNまたはDNにおいて見られない。スケールバー:20μm。
図8-1】生検IgG+ MCD患者血清または血漿は、ヒト糸球体抽出物(HGE)からのネフリンおよびヒトネフリンのアフィニティー精製された組換え細胞外ドメインの両方を免疫沈降させる。(A)ネフリンは、生検IgG陽性MCD(+)を有する患者からの血清を用いて、健常ドナー腎臓に由来するヒト糸球体抽出物(HGE)から免疫沈降されたが、腎臓生検においてIgGを欠いた対照患者からのものではそうではなかった。
図8-2】生検IgG+ MCD患者血清または血漿は、ヒト糸球体抽出物(HGE)からのネフリンおよびヒトネフリンのアフィニティー精製された組換え細胞外ドメインの両方を免疫沈降させる。(B)ヒトネフリンの精製された組換え細胞外ドメイン(hNephrinG1059)は、腎臓生検中にMCDおよび点状IgGを有する患者(MCD2+、13+、14+、15+、16+)からの血清または血漿により免疫沈降されたが、生検中にIgG沈着を有しない対照患者(Nx1、腫瘍腎摘除術の無疾患区画)によってはそうではなかった。インプットレーンは、免疫沈降のために使用された組換えhNephrinG1059タンパク質(血清またはプロテインGビーズとインキュベートされなかった)の出発量を示す。
図8-3】生検IgG+ MCD患者血清または血漿は、ヒト糸球体抽出物(HGE)からのネフリンおよびヒトネフリンのアフィニティー精製された組換え細胞外ドメインの両方を免疫沈降させる。(C)ネフリンは、活動性疾患の間の4人のMCD+患者におけるHGEから沈殿されたが、寛解後にそうではなかった。免疫沈降物を還元条件下で電気泳動にかけ、一次ヒツジ抗ヒトネフリン抗体および二次HRPコンジュゲートロバ抗ヒツジIgG抗体(上)または単独での一次HRPコンジュゲートロバ抗ヒトIgG(下)を用いるウエスタンブロット分析に供した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
ネフリンは、SDの必須の構成要素であり2、3、これは、フィンランド型の先天性ネフローゼ症候群(CNF)の基礎となる、ネフリン細胞表面局在性の完全な欠如を引き起こすネフリン中の遺伝子突然変異(NPHS1)により例証される4、5。確立された遺伝学的基礎を有する先天性NSとは対照的に、小児および成人の両方における非先天性NSの原因は概しては未知のままである。潜在的な原因性の循環性因子を伴う免疫調節異常をサポートする強い証拠があるが、その素性は解明されないままである6、7。グルココルチコイドは寛解の誘導において有効であるが、再発、ステロイド依存性および不耐性が一般的であり、多くの場合に代替的な免疫抑制剤を要求する。末期腎臓疾患(ESKD)まで進行し、腎臓移植を要求するステロイド依存性NSを有する患者において、疾患はアログラフトにおいて急速に再発することがあり、壊滅的なおよび処置困難な合併症となる。
【0019】
抗CD20 B細胞標的化療法は、頻繁に再発するかまたはステロイド依存性のNSを有する小児において9~11および成人において12有効であるという最近の発見は、潜在的な自己抗体媒介性の病因を示唆する。しかしながら、この可能性は、腎臓生検におけるIgG沈着を欠いたMCDという伝統的な見解と両立することは困難である13。びまん性のポドサイト関連IgGがMCDにおいて記載されているが、それは膜性腎症(MN)において見られるものと比較して極小であり、EMによる高電子密度沈着物の非存在を考慮すると、それは、ほとんど意義を持たない非特異的なタンパク質再吸収に一般に帰せられる14
【0020】
必須のSD成分ネフリンを標的化する抗体は、動物モデルにおいて投与された場合15~17ならびにCNFおよび完全なネフリン欠損を有する小児において腎臓移植後にアロ抗体として生じた場合18に、大量のタンパク尿を引き起こすことが示されている。動物モデル15、16および培養されたポドサイト7、19の両方において、抗ネフリン抗体は、NSを有する患者の腎臓生検において観察されるものと同一のネフリンの再分布を引き起こす20、21。隣接するポドサイトの間の細胞間接合部の分離と共にSDから離れるネフリンのこの再分布は、これらの患者におけるタンパク尿を説明するための論理的な概念として長く提唱されてきたが;この再分布の原因は未知のままである。
【0021】
本発明者らは、ネフリンに対する自己抗体は、SD複合体の完全性に干渉することにより非先天性MCDの原因となり得るという仮説を立てた。
【0022】
本発明は、非先天性、小児期および成人発症MCDを有する患者のサブセットにおける、ポドサイトSDの必須の構成要素、ネフリンの細胞外ドメインに対する循環性自己抗体の発見に少なくとも部分的に基づく。これらのネフリン自己抗体は、MCD腎臓生検中に特異的に存在して、ネフリンと共に特徴的なクラスターを形成する。これらの観察は、自己免疫性の水疱性皮膚状態である天疱瘡と際立った並列性を共有し、天疱瘡において循環性自己抗体は、隣接するケラチノサイトを連結するデスモソーム細胞接着複合体の基礎的な構造タンパク質、デスモソーム細胞接着分子デスモグレイン(dsg)を標的化し22、これは隣接するポドサイトの間の特殊なSD接合部複合体におけるネフリンと類似している。天疱瘡において、これらのdsg自己抗体は、デスモソームの完全性を妨害する再分布、クラスター化およびエンドサイトーシスを通じて細胞接着に直接的に干渉する22。ネフリン同種親和性相互作用の実験的抗ネフリン抗体媒介性妨害の先行する報告は、MCDにおけるこの潜在的な機序をさらにサポートする。さらには、天疱瘡は、グルココルチコイド処置に対して急速な応答(数日から数週以内)を呈し、これは、IgG合成の低減のみによっては説明できず、ケラチノサイトにおける代償的なデスモグレイン合成に起因する可能性がある25。同様に、MCDのほとんどの症例は、培養されたヒトポドサイトにおいてネフリン細胞表面発現を上方調節することも示されているグルココルチコイドに対して急速に応答する(数週以内)26。MCD腎臓生検においてネフリンと共局在化するIgGは、ネフリン自己抗体のin situ結合を示し得ることを本開示の発見は指し示す。理論により縛られることを望まないが、この標的化された結合は、ネフリン同種親和性相互作用を妨害して、SD完全性の早期の喪失に繋がるために十分である可能性があり、その標的ネフリンと共にIgGの再分布は、ポドサイト足突起の基部に沿って進行性に蓄積する大きいIgG免疫複合体凝集物を標識する膜性腎症で見られるはるかにより激しい染色とは対照的に、この微妙な点状の染色パターンを説明する可能性がある。
【0023】
幸運なことに、ESKDへのMCDの進行は希少であるが、進行する患者において、またはより一般的に進行する原発性FSGSの初期診断を有する患者において、疾患はアログラフトにおいて急速に再発することがある。移植後早期の大量のタンパク尿におけるネフリン自己抗体の役割は、FSGSを示すその後の生検と共に最終的にESKDまで進行したステロイド依存性MCDを有する患者により例証される。移植後早期の大量のタンパク尿は、移植前および疾患再発の時点の両方において同定された循環性ネフリン自己抗体の存在下で起こり、プラスマフェレーシス/リツキシマブで成功裏に処置されて、それらの消失と関連付けられる持続的な寛解に繋がった。これらの発見は、アログラフトにおける疾患再発と関連するネフリンに対するアロ抗体を発生させ、プラスマフェレーシス/リツキシマブに応答するCNF患者における先行する研究と合致している19、36。重要なことに、不可欠な区別は、この患者において、ネフリン自己抗体は移植前および疾患再発の時点の両方において存在した一方、CNFにおいてそれらは、ネフリンに対するアロ免疫化に起因して移植の直接的な帰結として生じるということである19。FSGSおよびMCDは、一部の重要な類似性、例えば区別不可能な超微細構造変化およびB細胞療法に対する応答を共有し37、この実例的な症例と共に、ネフリン自己抗体の本発明者らの発見はまた、原発性非遺伝性FSGSの診断を有する患者のサブセットに拡張され得ることを本発明者らは推測する。
【0024】
そのため、B細胞標的化療法は、NS患者のサブセットにおいて使用可能であり、抗ネフリン抗体陽性NSに対する標的化された治療戦略から最も利益を受ける患者を分子的に同定する方法を提供できることを本開示の結果は指し示す。
【0025】
対象
本発明の方法は、ネフローゼ症候群(NS)を有するか、または有することが疑われる、例えば、微小変化を伴うびまん性ポドサイトパチー(微小変化ネフローゼ症候群、MCNS)または微小変化疾患(MCD;リポイドネフローゼもしくはnil病(nil disease)としても公知)を有する対象(例えば、哺乳動物、好ましくは、ヒト成人および小児を含む、ヒトまたは非ヒト獣医学的対象)において使用され得る。対象を同定する方法は当技術分野において公知であり;例えば、Vivarelli et al., Clin J Am Soc Nephrol. 2017; 12(2):332-345を参照。一部の実施形態において、対象は、尿タンパク質-クレアチニン比(UPCR)>3g/g、著明なタンパク尿および楕円形の脂肪体、血液量減少症、高血圧、血栓塞栓症、低アルブミン血症(小児において2.5g/dL未満)、高脂血症、ならびに/または顔面浮腫を有する。小児における診断のための臨界的なレベルは、40mg/h/mより多くのタンパク尿の存在であり、3.5g/d/1.73mの閾値は成人において有用である。例えば、emedicine.medscape.com/article/243348において利用可能なMansur et al., “Minimal-Change Disease,” Mescape, Jan 2021を参照。本開示の方法は、例えば、公式には診断されていない対象において、例えば、診断および/もしくは処置の選択を補助するために、または診断された対象において、処置の選択を補助するために、使用され得る。
【0026】
ネイティブな腎臓における急性ネフローゼ症候群の病歴を有する患者における「再発性限局性分節性糸球体硬化症」(rFSGS)として参照される、アログラフトにおける再発性急性ネフローゼ症候群は、MCDから形態学的に区別不可能である。したがって、次にFSGSおよび最終的にESKDに進行したネイティブな腎臓におけるMCDの初期診断を有する移植患者における研究もまた含まれる。この患者は、rFSGSと合致する移植後の急性のおよび高いタンパク尿を急速に発症し、これは生検によって確認されなかった;しかし、彼女の移植前の血清は、抗ネフリン抗体の高いレベルを示し、抗ネフリン抗体はリツキシマブおよびプラスマフェレーシスでの積極的かつ成功裏の処置後に減少した;この患者は、持続的寛解に入り、移植片を保持した。そのため、患者のこの群(急性ネフローゼ症候群の病歴を有し、FSGSおよび次にESKDを発症しており、次に移植のために考慮される)における抗ネフリン抗体の分析は、予後の決定、ならびに、(例えば、リツキシマブおよびプラスマフェレーシスを使用して)抗ネフリン抗体を低減させるために処置される必要があるか、または移植適格性から除外されるべき対象の同定において役立ち得る。
【0027】
診断方法
本明細書に含まれるのは、MCDもしくは抗体媒介性後天性特発性ネフローゼ症候群(INS)を有する対象を診断するため、ならびに/または本明細書に記載されているある特定の療法から利益を受けるであろう(および一部の実施形態において該療法で処置されるべき)対象、例えば、MCDまたは急性後天性ネフローゼ症候群もしくはFSGSを有する対象を同定するための方法である。方法は抗ネフリン抗体の検出に依拠する。方法は、対象からの試料を得ること、ならびに試料中の抗ネフリン抗体の存在および/またはレベルを評価すること、ならびに存在および/またはレベルを1つまたは複数の参照、例えば、抗ネフリン抗体の正常なレベル、例えば、罹患していない対象におけるレベルを示す対照参照、および/またはMCDと関連付けられる抗ネフリン抗体のレベルを示す疾患参照、例えば、MCDを有する対象におけるレベルと比較することを含む。好適な参照値は、実施例1に示されるか、または実施例1に記載されるように決定されるものを含むことができる。
【0028】
本明細書において使用される場合、「試料」という用語は、本明細書に記載される方法を使用して抗ネフリン抗体の存在について試験されるべき材料を指す場合、とりわけ、腎臓生検組織、全血、血漿、または血清を含み;一部の実施形態において、方法は、血漿/血清中の循環性自己抗体の存在について試験すること、および次に組織において試験して、生検組織における結合を確認することを含む。使用される試料の種類は、方法が使用される臨床的な状況に依存して変動し得る。試料中の抗ネフリン抗体の同定のための様々な方法が当技術分野において周知である。
【0029】
抗ネフリン抗体の存在および/またはレベルは、当技術分野において公知の方法を使用して、例えば、ウエスタンブロット;酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA);ビオチン/アビジン型アッセイ;タンパク質アレイ検出;ラジオイムノアッセイ;免疫組織化学(IHC);免疫沈降アッセイ;FACS(蛍光活性化細胞選別);質量分析を含むがこれらに限定されない、標準的な電気泳動および定量的イムノアッセイ方法を使用して評価され得る(Kim (2010) Am J Clin Pathol 134:157-162; Yasun (2012) Anal Chem 84(14):6008-6015; Brody (2010) Expert Rev Mol Diagn 10(8):1013-1022; Philips (2014) PLOS One 9(3):e90226; Pfaffe (2011) Clin Chem 57(5): 675-687)。方法は、典型的には、標識、例えば直接的にまたは間接的にシグナルを提供する蛍光、化学発光、放射性、および酵素的または色素分子を明らかにすることを含む。本明細書において使用される場合、「標識」という用語は、検出可能な物質、例えば放射活性剤またはフルオロフォア(例えばフィコエリトリン(PE)もしくはインドシアニン(Cy5))の、プローブ(例えば、ネフリンタンパク質)へのカップリング(すなわち物理的な連結)の他に、検出可能な物質との反応性によるプローブ(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、HRP)の間接的な標識化を指す。
【0030】
一部の実施形態において、ELISA方法が使用されてもよく、該方法において、表面、例えばマイクロタイタープレートのウェルはネフリンタンパク質抗原で被覆される。抗ネフリン抗体を含有するかまたは含有することが疑われる試料は次にウェルに適用される。抗体-抗原複合体が形成されたであろう十分な長さの時間の後に、プレートは洗浄されて任意の未結合の部分は除去され、検出可能に標識された分子が加えられる。再び、十分なインキュベーションの期間の後に、プレートは洗浄されて、任意の過剰な、未結合の分子は除去され、標識された分子の存在が、当技術分野において公知の方法を使用して決定される。ELISA方法のバリエーション、例えば競合ELISAまたは競合アッセイ、およびサンドイッチELISAもまた使用されてもよく、これらは当業者に周知である。
【0031】
一部の実施形態において、IHC方法が使用されてもよい。IHCは、in situで生物学的マーカーを検出する方法を提供する。生物学的マーカーの存在および正確な細胞位置が検出され得る。典型的には試料はホルマリンまたはパラホルムアルデヒドで固定され、パラフィン中に包埋され、染色および共焦点顕微鏡法によるその後の検査のために切片に切断される。IHCの現行の方法は、直接的なまたは間接的な標識化を使用する。試料はまた、IHCのバリエーションとして、免疫蛍光(IF)が行われる場合に蛍光顕微鏡法により検査されてもよい。
【0032】
一部の実施形態において、抗ネフリン抗体の存在および/またはレベルは、疾患参照におけるタンパク質の存在および/またはレベルと同等であり、ならびに対象は、MCDと関連付けられる1つまたは複数の症状を有し、よって対象はMCDを有すると診断される。一部の実施形態において、対象は、MCDの顕性の徴候または症状を有しないが、評価されるタンパク質のうちの1つまたは複数の存在および/またはレベルは、疾患参照におけるタンパク質の存在および/またはレベルと同等であり、よって対象は、MCDを発症する増加したリスクを有する。一部の実施形態において、人物がMCDを有するか、またはMCDを発症する増加したリスクを有すると一旦決定されたら、例えば、当技術分野において公知であるかまたは本明細書に記載されている、処置が投与され得る。
【0033】
好適な参照値は、当技術分野において公知の方法を使用して、例えば、標準的な臨床試験方法論および統計分析を使用して、決定され得る。参照値は、任意の妥当な形態を有することができる。一部の場合において、参照は、抗ネフリン抗体の意味のあるレベル、例えば、抗ネフリン抗体の正常なレベル、例えば、罹患していない対象もしくは本明細書に記載される疾患を発症するリスクがない対象(もしくはそのような対象のコホート)におけるレベルを示す対照参照レベル、および/またはMCDと関連付けられる抗ネフリン抗体のレベルを示す疾患参照のための予め決定された値を含む。
【0034】
予め決定されたレベルは、上位または下位四分位数、三分位数、または他のセグメントから統計的に異なると決定される臨床試験集団の他のセグメントの境界を定義する単一のカットオフ値(閾値)、例えばメジアンもしくは平均、またはレベルであることができる。それは、カットオフ値(または閾値)の範囲、例えば信頼区間であることができる。それは、比較群、例えば、1つの定義された群における疾患を発症するリスクまたは疾患の存在との関連性が、別の定義された群における疾患のリスクまたは存在よりもある倍数(例えば、約2倍、4倍、8倍、16倍またはより大きい倍数)でより高い、またはより低い比較群に基づいて確立され得る。それは、範囲、例えば、対象(例えば、対照対象)の集団が、群、例えば低リスク群、中リスク群および高リスク群、または最下位四分位数が最も低いリスクを有する対象であり、および最上位四分位数が最も高いリスクを有する対象である四分位数、またはn-分位数の最下位が最も低いリスクを有する対象であり、およびn-分位数の最上位が最も高いリスクを有する対象であるn-分位数(すなわち、n個の周期的なスペースの間隔)に均等に(または不均等に)分割される範囲であることができる。
【0035】
一部の実施形態において、予め決定されたレベルは、例えば、異なる時点、例えば、より早い時点における、同じ対象におけるレベルまたは発生率である。
【0036】
予め決定された値は、選択される対象(例えば、ヒト対象)の特定の集団に依存することができる。例えば、見たところ健常な集団は、本明細書に記載される障害(例えば、MCD)を有するか、有する可能性が高いか、または有するリスクがより高い対象の集団とは異なる、抗ネフリン抗体のレベルの「正常な」範囲を有する。よって、選択される予め決定された値は、対象(例えば、ヒト対象)が含まれるカテゴリー(例えば、性別、年齢、健康状態、リスク、他の疾患の存在)を考慮に入れてもよい。適切な範囲およびカテゴリーは、当業者によりルーチンに過ぎない実験を用いて選択され得る。
【0037】
可能性、またはリスクの特徴付けにおいて、多数の予め決定された値が確立され得る。
【0038】
処置方法
本明細書に記載される方法は、参照レベルよりも高い抗ネフリン抗体のレベルを有するとして、例えば、抗ネフリン抗体の存在と関連付けられる障害を有するとして、本明細書に記載される方法を使用して同定された対象を処置する方法を含む。一部の実施形態において、障害はMCDである。一般に、方法は、治療有効量の本明細書に記載されている処置を、本明細書に記載される方法によりそのような処置を必要とすると決定された対象に投与することを含む。
【0039】
この文脈において使用される場合、「処置する」ことは、抗ネフリン抗体と関連付けられる障害、例えば、MCDの少なくとも1つの症状を改善させることを意味する。多くの場合に、MCDは、上昇した尿タンパク質-クレアチニン比(UPCR)(例えば、>3g/g)、著明なタンパク尿および楕円形の脂肪体、血液量減少症、高血圧、血栓塞栓症、低アルブミン血症(小児において2.5g/dL未満)、高脂血症、ならびに/または顔面浮腫を結果としてもたらし;そのため、処置は、上記のいずれかにおける低減ならびに正常な尿タンパク質-クレアチニン比(UPCR)(例えば、3g/g未満)、タンパク尿の正常レベルおよび楕円形の脂肪体の非存在、正常血液量(normoolemia)、正常血圧、正常アルブミン血(小児において2.5g/dLより高い)、正常な脂質レベル、および/または顔面浮腫の低減もしくは非存在への復帰または接近を結果としてもたらすことができる。抗ネフリン抗体と関連付けられる状態の処置のための治療有効量の本明細書に記載される処置の投与は、抗ネフリン抗体の減少したレベルを結果としてもたらす。
【0040】
「有効量」は、有益なまたは所望される結果をもたらすために十分な量である。例えば、治療的な量は、所望される治療効果を達成する量である。この量は、予防有効量と同じまたは異なることができ、予防有効量は、疾患または疾患症状の開始を予防するために必要な量である。有効量は、1回または複数回の投与、適用または投薬において投与され得る。治療用化合物の治療有効量(すなわち、有効な投薬量)は、選択される治療用化合物に依存する。組成物は、隔日毎に1回を含む;1日当たり1回または複数回から1週当たり1回または複数回で投与され得る。疾患または障害の重症度、先行する処置、対象の全般的な健康状態および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない、ある特定の要因は、対象を有効に処置するために要求される投薬量およびタイミングに影響を及ぼし得ることを当業者は理解する。さらに、治療有効量の本明細書に記載される治療用化合物での対象の処置は、単一の処置または処置のシリーズを含むことができる。
【0041】
本開示の方法において使用され得る処置は、グルココルチコイド(例えば、プレドニゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、プレドニゾロン、もしくはメチルプレドニゾロン)またはB細胞標的化療法(例えば、B細胞を枯渇させる標的化された療法、例えば、抗CD20抗体、例えばリツキシマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、ベルツズマブ、オクレリズマブ(ocratuzamab)、イブリツモマブ、オビヌツズマブ、トシツモマブ、ウブリツキシマブ(ublitiximab)、TRU-015、もしくはオルブリツキシマブ(orublituximab);抗CD19抗体、例えばブリナツモマブ、コルツキシマブ・ラブタンシン(coltuximabravtansine)、MOR208、MEDI-551、デニンツズマブ・マホドチン(denintuzumabmafodotin)、SAR3419(huB4-DM4)、SGN-CD19A、タプリツモマブ・パプトックス(taplitumomabpaptox)、XmAb 5871、MDX-1342、AFM11、イネビリズマブ、タファシタマブ、もしくは米国特許第8691952号明細書に記載される抗体(例えば、Naddafi and Davami, Int J Mol Cell Med. 2015 Summer; 4(3): 143-151を参照);または抗BAFF抗体、例えばベリムマブの他に、Bリンパ球刺激の阻害剤、例えばベリムマブもしくはタバルマブ;またはアタシセプト(BLyS(Bリンパ球刺激因子;B-Lymphocyte Stimulator)およびAPRIL(増殖誘導リガンド;A PRoliferation-Inducing Ligand)の両方の受容体の結合性部分を含むヒト組換え融合タンパク質)(Hartung et al., Ther Adv Neurol Disord. 2010 Jul; 3(4): 205-216を参照)のうちの1つまたは複数の投与を含む。一部の実施形態において、処置はプラスマフェレーシスを含む(例えば、Kaplan, J Clin Apher 28, 3-10 (2013)を参照)。
【0042】
プラスマフェレーシスを含む、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置もまた、本明細書に記載される方法において使用され得る。
【0043】
一部の実施形態において、本開示の方法は、MCDを有するか、または有することが疑われる対象からの試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定することを含む。試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも高い場合に、方法は、MCDを有するか、または発症するリスクがあるとして対象を同定すること、および任意選択的に本明細書に記載されている処置、例えば、グルココルチコイド、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、例えばプラスマフェレーシス、またはB細胞を低減させる処置を、対象に投与することをさらに含むことができる。
【0044】
一部の実施形態において、本開示の方法は、ESRDを有し、および腎臓移植を受けようとしている対象からの試料中の抗ネフリン抗体のレベルを決定することを含む。試料中の抗ネフリン抗体のレベルが参照レベルよりも高い場合に、方法は、移植後に重度のタンパク尿および腎臓疾患を発症するリスクがあるとして対象を同定すること、ならびに任意選択的に本明細書に記載されている処置、例えば、抗ネフリン抗体のレベルを低減させる処置、例えばプラスマフェレーシス、またはB細胞を低減させる処置を、対象に投与することをさらに含むことができる。
【0045】
キット
本明細書において提供されるのはまた、本開示の方法における使用のためのキットである。キットは、ネフリンタンパク質プローブ、例えば、ネフリンの細胞外ドメインを含むものを含むことができる。ネフリンの細胞外ドメインの例示的な配列(aa1~1059)は以下の通りである:
【0046】
【化1】
【0047】
一部の実施形態において、ネフリンタンパク質は、組換えにより製造され、および/またはタグ付加もしくは標識される。標識はフルオロフォアまたは放射性標識を含むことができる。タグは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン(例えば、(6XHIS))、c-myc、ヘマグルチニン、またはFLAG(商標)タグ(Kodak、New Haven、Conn.)配列タグを含むことができ、ネフリンタンパク質のN末端またはC末端のいずれかにおいて融合され得る。ネフリンは溶液中にあることができるか、または表面、例えば、マイクロタイタープレートのウェルもしくはビーズ、例えば、磁気もしくはポリマービーズに吸着させることができる。キットは、ネフリンタンパク質プローブに結合した抗ネフリン抗体を検出するための抗ヒトIgG抗体、および/または、例えば、対照としての使用のためのもしくは、例えば、組織試料中の、IgG抗体とのネフリン共局在性を検出するための、抗ネフリン抗体を含むことができる。任意選択的に、抗ヒトIgGおよび/または抗ネフリン抗体は、標識されているか、または他に検出可能である(例えば、比色検出のための酵素もしくは基質を含む)。任意選択的に、キットは、標識されているか、または他に検出可能な(例えば、比色検出のための酵素もしくは基質を含む)二次抗体をさらに含む。
【実施例
【0048】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明され、該実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【0049】
方法
以下の材料および方法を以下の実施例において使用した。
【0050】
臨床試料(腎臓組織および血清/血漿)
4つの施設:Brigham and Women’s Hospital(BWH)、Massachusetts General Hospital(MGH)、Boston Medical Center(BMC)およびMayo Clinicにわたる腎臓病理医の共同研究により腎臓生検を独立的に評価した。それらの施設に通院した患者から、元々は臨床的な分析のために収集された廃棄される試料(BWH/BMC/Mayo clinic)またはKidney Disease Biobankからのアーカイブ試料(腎臓生検の時点において血清/血漿収集のために同意したBWHもしくはMGHに通院した患者についてPartners Healthcare IRB Approvalにしたがって、Dr. Sushrut Waikar、Partners Healthcareの好意による)のいずれかとして血清/血漿を得た。組織学的研究を、ルーチンの臨床評価のために受け取ったアーカイブ腎臓組織に対して行い、該研究は、びまん性ポトサイトパチー、他のネフローゼ状態、および腫瘍腎摘除術からの非新生物性腎臓実質を含んだ。医療記録の検討、組織学的および血清学的研究は、それらの施設のためのそれぞれの治験審査委員会(IRB)により承認された。遺伝学的試験は、移植後の再発性疾患を有する患者についてのみ行い、NEPTUNEコホートの外側で登録された他の患者については行わなかった。
【0051】
同様に、活動性疾患(尿タンパク質クレアチニン比(UPCR)>3g/g)の間の、および利用可能な場合に寛解における、Nephrotic Syndrome Study Network(NEPTUNE)縦断的研究23からの微小変化疾患(MCD)と証明された生検を有する患者から血清を得た。完全寛解はUPCR<0.3g/gとして定義し、部分寛解はタンパク尿における>50%の低減として定義した。ステロイド依存性ネフローゼ症候群(SDNS)は、ステロイドの漸減の間またはその停止の14日以内における2回またはより多くの連続する再発を伴うSSNSとして定義した。特有の除外基準は適用しなかった。
【0052】
健常対照血清はPartners Healthcare Biobankから無作為に選択し、任意の腎臓または自己免疫疾患を有する対象を特に除外した。商用の酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)および間接免疫蛍光試験(IIFT)(Euroimmun)を使用してMGH Immunopathology laboratoryにおいて抗hPLAR抗体についてネフローゼ患者からの血清を評価した。患者匿名性を保つために試料をコード化した。
【0053】
NEPTUNEコホートの全ゲノムシークエンシング
Illumina Hi-seqを使用して30xの目標メジアン深さを有する全ゲノムシークエンシングを行った。標準的なパイプライン、Gotcloudを配列アライメントおよびバリアントコーリングのために適用した27、28。バリアント分析は、メンデルNSに結び付けられる約70個の遺伝子に集中した。70個の以前に結び付けられたメンデルNS遺伝子において病原性バリアントをスクリーニングするために、本発明者らは、以前に報告されたもの29に類似したパイプラインを用いた。ACMG標準およびガイドライン30にしたがって病原性バリアントを最終的に分類した。分析された遺伝子:ACTN4、ADCK4、ALG1、ANLN、ARHGAP24、ARHGDIA、AVIL、CD151、CD2AP、CDK20、CFH、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COQ2、COQ6、CRB2、DGKE、DLC1、EMP2、FAT1、HNF1B、IL15RA、INF2、ITGA3、ITGB4、ITSN1、ITSN2、JAG1、KANK1、KANK2、KANK4、LAGE3、LAMB2、LMX1B、MAGI2、MTTL1、MYH9、MYO1E、MYO5B、NEIL1、NPHS1、NPHS2、NUP107、NUP205、NUP93、NXF5、OCRL、OSGEP、PAX2、PDSS2、PLCE1、PMM2、PODXL、PTPRO、SCARB2、SGPL1、SMARCAL1、TNS2、TP53RK、TPRKB、TRPC6、TTC21B、UMOD、WDR73、WT1、XPO5、ZMPSTE24。
【0054】
ヒト糸球体抽出物
Beck et al31により以前に記載されたようにヒト糸球体抽出物(HGE)を調製した。簡潔に述べれば、糸球体は、New England Donor Servicesから得られた移植のために好適でないとみなされたヒト腎臓(医学的研究における使用のために承認されたもの)から、等級付けされた篩分け、続いてRIPA緩衝液(Boston BioProducts)中での糸球体タンパク質の単離により単離した。IgGを組織溶解液からProtein G Plus agarose beads(Santa Cruz)とのインキュベーションにより予備クリアランスした。ルーチンの楔状生検において、20%未満の大域的糸球体硬化を伴う腎臓のみを糸球体単離のために使用した。
【0055】
ルーチンの腎臓生検処理
生検取得後に、腎臓皮質を光(10%の中性緩衝化ホルマリン)、免疫蛍光(Zeus輸送培地)および電子顕微鏡法(カルノフスキーの固定液)処理に直ちに割り当てた。ルーチンの臨床的免疫蛍光のために、4μmの凍結切片を95%のエタノール中で10分間固定し、1:20に希釈されたFITCコンジュゲートポリクローナルウサギF(ab)抗ヒトIgG抗体(Dako;F0315)とインキュベートした。1:20に希釈されたFITCコンジュゲートヒツジ抗ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4(Binding Site;それぞれAF006、AF007、AF008、AF009)をIgGサブクラス評価のために使用した。1:30に希釈されたFITCコンジュゲートポリクローナルウサギ抗ヒトアルブミン(Dako;F0117)を使用してアルブミンを検出した。#1.5カバースリップと共にDako蛍光封入剤(Dako;S3023)を使用して切片をマウントした。150msの露光でOlympus DP72カメラを用いてOlympus BX53顕微鏡上で免疫蛍光画像を取得した。
【0056】
共焦点顕微鏡法
共焦点顕微鏡法のために、ヒト腎臓生検の4μmの凍結切片を95%のエタノール中に10分間固定し、その後に0.2%の魚ゼラチン、2%のウシ血清アルブミン(BSA)および2%のウシ胎仔血清(FBS)を補充したリン酸緩衝食塩水(PBS)を用いて室温(RT)で1時間ブロッキングした。すべての抗体をこのブロッキング溶液中に希釈し、室温で1時間インキュベートした。1μg/mlの一次ポリクローナルヒツジ抗ヒトネフリン(R&D systems;AF4269)、続いて二次AlexaFluor(商標) 568コンジュゲートロバ抗ヒツジIgG(Invitrogen;A21099)を使用してネフリンを検出した。1:1000に希釈された抗シナプトポジン(N末端)モルモットポリクローナル抗血清(Progen;GP94-N)、続いて二次AlexaFluor(商標) 568コンジュゲートヤギ抗モルモットIgG(Invitrogen;A11075)抗体を使用してシナプトポジンを検出した。それぞれ1:500および1:300に希釈された一次ポリクローナルウサギ抗ヒトポドシン(Millipore Sigma;P0372)および一次モノクローナルウサギ抗ヒトWT1クローンSC06-41(Invitrogen;MA5-32215)、続いて二次AlexaFluor(商標) 568コンジュゲートロバ抗ウサギIgG(Invitrogen;A10042)を使用してポドシンおよびウィルムス腫瘍1(WT1)を検出した。1:750に希釈された一次モノクローナルマウス抗ヒトIgG抗体(Abcam;ab200699)、続いて二次AlexaFluor(商標) 488コンジュゲートロバ抗マウスIgG(Invitrogen;A21202)を使用してIgG免疫沈着物を検出した。すべての二次AlexaFluor(商標)コンジュゲート抗体は1:500に希釈した。#1.5カバースリップと共にVectashield退色防止封入剤(Vectashield、H-1000)を使用して切片をマウントし、Leica TCS SPE顕微鏡上で画像を取得した。
【0057】
構造化照明顕微鏡法(SIM)
共焦点顕微鏡法のための上述のプロトコールにしたがって処理された4μmの固定された、凍結されたヒト腎臓生検切片に対して構造化照明顕微鏡法(SIM)イメージングを行った。3つの水冷PCO.edge sCMOSカメラ、488nm、568nmのレーザー線、および528/48nm、609/37nmのエミッションフィルター(Omega Optical)を備えたOMX V4 Blaze(GE Healthcare)顕微鏡を使用してすべての画像を収集した。画像は、80nmの最終ピクセルサイズと共に60X/1.42 Plan-Apochromat対物レンズ(Olympus)を用いて取得した。4~8μmのZスタックを0.125μmのz間隔で取得し、平面当たり15個の未加工画像(各々5つの面と共に3回転)を取得した。浸漬油マッチング(immersion oil matching)24を使用して各々の試料について球面収差を最小化した。CUDA加速3D-SIM再構築コード(CUDA-accelerated 3D-SIM reconstruction code)32を使用して、チャンネル特異的な、測定光学的トランスファー機能(channel-specific, measured optical transfer function)、および0.001のウィーナーフィルター定数を用いて未加工データセットから超高分解能画像を計算的に再構築した。同じ組織凍結切片上で一次マウス抗ヒトIgGモノクローナル抗体(Abcam;ab200699)、続いて二次AlexaFluor(商標) 488コンジュゲートロバ抗マウスIgG(Invitrogen;A21202)抗体およびAlexaFluor(商標) 568コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(Invitrogen;A11031)抗体の両方で染色されたヒト腎臓組織を用いて調製された、単一の生物学的算出スライドを使用して、軸方向および横方向の色ずれを決定した。MATLAB(MathWorks)のimwarp機能を使用して実験データセットを次に登録した33
【0058】
組換えヒトネフリンおよびホスホリパーゼA受容体(PLAR)の生成
両方ともC末端ポリヒスチジン(6XHIS)タグを有する、8つのIg様C2型ドメインおよび単一のフィブロネクチンIII型ドメインを含む、ヒトネフリンの細胞外サブドメイン(アミノ酸1~1059)、ならびに、N末端リシンドメイン、フィブロネクチンII型ドメインおよび8つのC型レクチンドメイン(CTLD)を含む、ヒトホスホリパーゼA2受容体(hPLAR)をコードする別々のプラスミドを標準的なクローニング技術により生成した。正確な配列を全プラスミドシークエンシング(MGH DNA core)により確認した。1.5μgのPEI(ポリエチレンイミン)を使用して10個の細胞当たり0.5μgのプラスミドを用いてHEK293-F細胞(Thermo Fisher)へのトランスフェクションを行った。プラスミドおよびPEIを20分間、最終体積の10分の1のFreestyle培地(Thermo Fisher)中でプレインキュベートし、次に滴下で細胞に加えた。3~5日後に、細胞生存が>95%であれば、細胞培養培地を遠心分離(300×g、10分間)により採取した。イミダゾールを10mMの最終濃度まで加え、培地を氷上でフィルター滅菌(0.2μm)した。ニッケルNTA樹脂(Qiagen)をPBS中の10mMのイミダゾールで3回洗浄し、次に濾過された培地と終夜4℃でローラーミキサー(Thermo Fisher)上でインキュベートした。ニッケルNTA樹脂を次にPBS中の10mMのイミダゾールで3回洗浄し、組換えタンパク質をPBS中の300mMのイミダゾールで溶出させた。溶出された画分の純度を4~12%のBis-Trisゲル(Invitrogen)を用いてSDS-PAGEにより確認し、一緒にプールし、10K分子量カットオフを有するAmnicon遠心分離フィルター(Millipore)を使用して1mlまで濃縮した。得られたタンパク質をSephadex(商標)300カラムに流し、0.5mlの画分を収集した。溶出された画分の純度を4~12%のBis-Trisゲル(Invitrogen)上のSDS-PAGEにより確認し、Nanodrop分光光度計(Thermo Fisher)を使用して280nmで吸光度を測定することにより濃度を決定した。精製されたネフリンの免疫反応性を、還元条件下で一次ヒツジ抗ヒトネフリン抗体(R&D)、続いて二次HRPコンジュゲートロバ抗ヒツジIgG抗体(Jackson immunoresearch)を使用して、ならびに精製されたhPLARの免疫反応性を、非還元条件下で患者からの血清を使用して、1:1000に希釈された既知の抗PLAR抗体(商用のELISAおよびIIFT(Euroimmun)により決定される)ならびに二次HRPコンジュゲートロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immunoresearch)を用いて、ウエスタンブロット分析により確認した。
【0059】
酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)
Nunc MaxiSorp(商標) ELISAプレート(Thermo Fisher)を被覆緩衝液(Biolegend)中に希釈された1μg/mlのヒトネフリンの組換え細胞外ドメインまたはhPLARのいずれかで被覆し、4℃で終夜インキュベートした。非被覆対照ウェルを使用して各々の患者試料についての非特異的結合(抗原の非存在下)を決定し、これによりバックグラウンドサブトラクションを可能とした。プレートを300μlのPBS + 0.05%のTween 20(PBST)で3回洗浄した。プレートを300μlのSuperblock(Thermo Fisher)で1時間室温でブロッキングし、次に0.1%のTween 20を含有するSuperBlock(SuperT)中に1:100で希釈された100μlの患者試料と4℃で終夜インキュベートした。初期高力価を有する試料をその後に1:200または1:400まで希釈した。プレートを300μlのPBSTでさらに5回洗浄し、続いて、500r.p.mで1時間室温で振盪しながら、SuperT中に0.75μg/mlまで希釈された100μlのビオチンコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG Fc、高度x線吸収抗体(highly x-absorbed antibody)(Thermo Fisher)とインキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄し、続いて、500r.p.mで30分間室温で振盪しながら、SuperT中に1:2000まで希釈された100μlのHRPコンジュゲートアビジン(Biolegend)とインキュベートした。PBSTでの5回の最終洗浄後に、100μlのテトラメチルベンジジン(TMB)基質(Biolegend)を加え、プレートを10分間室温でインキュベートした。100μlの停止溶液(Biolegend)を加え、450nmでの吸光度を測定した。各々の個々の患者試料について重複抗原被覆ウェルの平均ODから重複非被覆ウェルの平均ODを引くことによりバックグラウンドサブトラクションを行った34。1:100の希釈は1,000単位/mlを含有することとして任意に定義された、陽性患者試料(MCD15+)の連続2倍希釈系列から導出された標準曲線を使用して抗ネフリン抗体力価を次に決定した。
【0060】
免疫沈降およびウエスタンブロット
1体積の患者血清または血漿を、5体積の、HGE、または100ngのヒトネフリンの組換え細胞外ドメインを含有するRIPA緩衝液と混合し、終夜(O/N)4℃でインキュベートした。IgG-抗原複合体を、Protein G plusアガロースビーズ(Santa Cruz)を用いて2時間4℃で沈殿させた。ビーズを遠心分離により収集し、0.2%のTween-20を補充したTris緩衝化食塩水(TBST)で3回洗浄し、蒸留水で最終の洗浄を行った。タンパク質をビーズから溶出させ、95℃で5分間、2.5%のベータ-メルカプトエタノールを含有する1X Laemmli緩衝液(Biorad)中で加熱することにより還元条件下で変性させた。試料を、プレキャストされた7.5% Mini Protean Tris-グリシンゲル(Biorad)にロードし、Novex Tris-グリシン-SDSランニングバッファー(Thermo Fisher)の存在下100Vで90分間、電気泳動にかけた。25V、1.3Aで10分間Pierce Power Blotterシステム(Thermo Fisher)を使用してポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(EMD Millipore)にタンパク質を転写した。膜を1時間室温で、5%のスキムミルク(w/v)を含有するTBST中でブロッキングし、続いて、2%のスキムミルク(w/v)を含むTBST中に希釈された1μg/mlのポリクローナルヒツジ抗ヒトネフリン抗体(R&D systems;AF4269)と4℃で終夜インキュベートした。すべての他の抗体を、5%のスキムミルクを含有するTBST中に希釈し、1時間室温でインキュベートした。膜をTBSTで各々5分間で3回洗浄し、続いて1:20,000に希釈された二次ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートロバ抗ヒツジIgG抗体(Jackson Immunoresearch;713-035-147)。1:10,000に希釈されたHRPコンジュゲートロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson Immunoresearch;709-035-149)を使用してヒトIgG重鎖を検出した。最後に、膜をTBSTで3回洗浄し、Supersignal(商標) West PICO PLUSまたはFEMTO化学発光基質(Thermo Fisher)と3分間インキュベートし、Universal Hood IIIゲルドックシステム(Biorad)上で画像を取得した。
【0061】
臨床症例の詳細
早期の大量の移植後タンパク尿の再発における移植前のネフリン自己抗体の潜在的な役割を例証するために、本発明者らは、ステロイド依存性(SDNS)となり、最終的に進行してその後の生検でFSGSを示したエージ2(age 2)のステロイド応答性MCDの初期診断を有する27歳の女性の症例を提示する。重要なことに、臨床的全エクソームシークエンシング(Prevention Genetics)では、バリアントを引き起こす既知のNS疾患は見出されなかった。彼女は最終的にESKDを発症し、最初に血液透析を5年間受け、次に即時のグラフト機能と共に死亡小児ドナー腎臓を与えられた(低温虚血時間:19時間)(図5A)。算出されたパネル反応性抗体(cPRA)は0であり、誘導療法はバシリキシマブからなり、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスおよびプレドニゾロンの維持療法を伴った。下肢浮腫と関連付けられる、早期の大量の移植後タンパク尿の再発の状況において、彼女は5エピソードのプラスマフェレーシス(x5)および2用量のリツキシマブで処置された。彼女のタンパク尿は急速に改善し、彼女はアログラフト生検を要求しなかった(図5A)。2つの血清試料を移植の17および20か月前に得、これと共に第1のプラスマフェレセート試料を移植後タンパク尿再発に対する処置の間に得、これらはすべて、ELISAにより抗ネフリン抗体について陽性であると試験され(図5B)、健常ヒト腎臓由来HGEからネフリンを免疫沈降させた(図5C)。27日目の処置応答後および移植の1年後の完全寛解の間に評価された血清試料の両方は、ELISAによりネフリン自己抗体について陰性であると試験された(図5B)。
【0062】
[実施例1]
微小変化疾患におけるネフリンを標的化する自己抗体の発見は新規の自己免疫の病因をサポートする
ネフリンに対する循環性自己抗体が、MCDと証明された生検を有し、および既知の遺伝学的基礎を有しない(確立されたメンデルNS遺伝子における既知の病原性バリアントを欠いている)患者の血清中に検出可能かどうかを最初に決定するために、本発明者らは、41人(66%)の小児および21人(34%)の成人からなるNephrotic Syndrome Study Network(NEPTUNE)縦断コホート研究23から得られた血清を評価した(表2)。本発明者らは、組換えの、アフィニティー精製されたヒトネフリンの細胞外ドメイン(hNephrinG1059)を使用する間接的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を開発し、健常対照集団(n=30)における最大力価に基づいて、抗ネフリン抗体(ab)陽性性の閾値を確立した(図1A)。活動性疾患(尿タンパク質対クレアチニン比、UPCR>3g/g)の間に得られた最初期の血清試料の評価は、等しい数の成人および小児を含む、62人の患者のうちの18人(29%)は、ネフリンに対する自己抗体について陽性であることを明らかにした(図1A)。臨床的に検証されたELISAおよび間接免疫蛍光試験(IIFT)アッセイにより、抗hPLAR抗体について陽性であると試験された54人の患者のうちの53人(98%)からの対照血清は、抗ネフリンabについて陰性であった(図1A)。
【0063】
患者の臨床的特徴(表1)および登録から完全寛解(CR)までのメジアン時間は、抗ネフリンab陽性群と陰性群との間で類似していた(それぞれ4.4か月と5.4か月;p=0.7288)(図S2)。しかしながら、無再発期間は、ab陰性群と比較して抗ネフリンab陽性群でより短く、但しこの発見は従来の統計的有意性のレベルに達しなかった(再発までのメジアン時間はそれぞれ6.0か月と21.57か月;p=0.0945)。
【0064】
その後の血清試料は、18人の抗ネフリンab陽性患者のうちの12人から完全寛解(UPCR<0.3g/g)または部分寛解(タンパク尿における>50%の低減)のいずれかの間に利用可能であり、該患者において本発明者らはネフリン自己抗体の完全な非存在または有意な低減をそれぞれ観察した(図1B図6A~C)。ELISAの結果と合致して、活動性疾患または部分寛解の間に得られた血清のみが、健常ドナー腎臓由来ヒト糸球体抽出物(HGE)からネフリンを免疫沈降させた一方、完全寛解の間に得られた血清はそうでなかった(図1C)。
【0065】
これらのネフリン自己抗体の潜在的な病原性役割をさらに調べるために、本発明者らは次に、それらがMCDを有する患者の腎臓内に存在するかどうかを確立することを試みた。NEPTUNEコホートの1つの制限は、これらの患者からの生検材料はさらなる評価のために利用可能でなかったということであり、そこで本発明者らは、生検および血清試料のために本発明者ら自身の施設および共同研究者に転じた。
【0066】
長年にわたり、本発明者らは、バックグラウンドから別個の、ルーチンの免疫蛍光染色によるMCDを有する患者(MCD+)のサブセットにおけるIgGについての繊細な点状染色を観察してきた(図7A)。それは、MNにおいて観察される目立つIgG染色と比較した場合にはるかにより微妙であり(図7A)、この特色は以前に記載されているが14、その意義は十分に確立されていない。本発明者らはしたがって、この微妙なIgGは、ネフリンを標的化する自己抗体を表し得るという仮説を立てた。染色のアーチファクトの可能性を制限するために、本発明者らは、すべて同一の染色パターンを示す別個の非コンジュゲート抗ヒトIgG ab、抗軽鎖abおよびアイソタイプ特異的抗IgG abと共に本発明者らが独立的に検証した直接的にコンジュゲートされたFITC抗ヒト(anti-huma)IgG F(ab) abをルーチンに使用する(図2A~C)。重要なことに、本発明者らは、同時的な糸球体アルブミン染色の完全な欠如を観察し、これは、この特色はIgG選択的であり、非特異的なタンパク質再吸収を反映しないことを指し示した(図2A~C)。
【0067】
本発明者らは、共焦点顕微鏡法を利用して、過去3年にかけて本発明者らが受領および処理した腎臓生検においてこの点状IgGをさらに評価した。本発明者らは、IgG分布の2つの優勢的なパターン:GBM会合性の微細な点状または曲線構造およびより頂端に位置する点状のおよび漠然と小胞性のクラスターを観察し、後者がより一般的であった。これらの全く異なる染色パターンは、抗体結合および/または再分布の異なるステージを反映する可能性がある。評価されたすべてのMCD+生検において、本発明者らは、点状IgGを有し、およびバックグラウンドではない、ネフリンの特有の共局在性を観察し(図3A図7B)、これは、この点状IgGを欠いた対照生検においてさらに立証された(図3A図7B)。抗原特異性は、共焦点顕微鏡法(図3A~B、図7C)およびよりいっそう高い空間分解能を達成する超高分解能構造化照明顕微鏡法(SR-SIM)24図3C、D)により、ポドサイト足突起関連シナプトポジンとはそうではないがSD関連ネフリンとのIgGの明確な空間的関連性により立証された。さらには、SDから離れたネフリンの顆粒状再分布を呈する生検において、MCDにおいて以前に記載されたように20、21、IgGは、3つの細胞内ポドサイト特異的タンパク質;シナプトポジン(足突起関連)、ポドシン(SD関連)およびWT1(核)と共局在化しなかった。
【0068】
腎臓生検において点状IgGを有するMCD+患者はネフリンに対する循環性自己抗体を実際に有することを確認するために、本発明者らは、該患者のうちの9人について特に活動性疾患の間に利用可能であった血清または血漿を評価した。予想されたように、9人すべての患者は、全員が血清学的に陰性であった腎臓生検において点状IgGを欠いた12人の対照患者とは対照的に、ELISAにより抗ネフリン抗体について血清学的に陽性であった(図4A、表3)。フォローアップ血清または血漿試料が9人のMCD+患者のうちの4人について利用可能であり、これらは、処置応答と合致した抗体力価における有意な低減を示した(図4B)。これらの発見はIPにより立証され(図8A~C)、循環性ネフリン自己抗体について血清学的に陽性であったこの研究における患者のいずれも、PLARと交差反応しなかった。
【0069】
最後に、MCDから区別不可能な形態学的特色を一般に示す、移植後の疾患再発における移植前のネフリン自己抗体の潜在的な役割を強調するために、本発明者らは、腎臓移植を要求するESKDに進行した、小児期発症性のステロイド依存性MCDを有し、背景となる遺伝学的基礎(臨床的全エクソームシークエンシングにより決定される)を有しない27歳の患者を同定した(詳細な臨床歴は上記に与えている)。抗ネフリン自己抗体についての病原性役割と合致して、彼女は、移植後の早期に大量のタンパク尿を発症し、これは、CNFとは対照的に18、19、ネフリン自己抗体の高い移植前レベルと関連付けられた(図5A~C)。フェレーシス前の患者血漿と比べた初期プラスマフェレセートの0.67の希釈係数を考慮して37、プラスマフェレセートにおける閾値よりも高い抗ネフリン自己抗体の検出は、タンパク尿再発の時点の患者における循環性抗ネフリン抗体の存在を指し示した(図5A~C)。持続的な寛解に達した後に、循環性ネフリン自己抗体は移植の1年後にこの患者において検出可能でなかった(図5A~C)。
【0070】
【表1】
【0071】
陽性抗ネフリン抗体(α-ネフリンAb)レベルの閾値は、腎疾患を有しない無作為に選択された健常対照集団に基づいた。完全寛解はUPCR<0.3g/gとして定義した。部分寛解は、0.3g/gを下回らないタンパク尿における>50%の低減として定義した。連続変数はメジアン(四分位数間範囲)として提示している。統計分析は、連続変数のためにマン-ホイットニー検定およびカテゴリカル変数のためにフィッシャーの直接検定を使用して行った(p<0.05)。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
表2は、患者または対照についての関連する臨床情報を提供する。NEPTUNEコホートにおけるすべての患者は、微小変化疾患(MCD)と証明された生検を有したが;腎臓生検IgG沈着状態は報告されておらず、免疫蛍光画像も生検材料もさらなる評価のために利用可能でなかった。タンパク尿値(尿タンパク質クレアチニン比(UPCR))は、活動性疾患の間の抗ネフリン抗体(α-ネフリンAb)試験のために血清試料が収集された同じ日(または1日以内)からのものである。#患者N13について、UPCRは血清収集の日に323g/gであると算出されたため、次の利用可能なUPCRの値(20日後に評価されたもの)を与えている。ピークsCr(血清クレアチニン)は、フォローアップ期間の間に達した最も高い血清クレアチニンであった。部分寛解はUPCRにおける>50%の低減として定義し、完全寛解(CR)はUPCR<0.3g/gとして定義した。患者は、CRに最初に達した後にUPCR>3g/gの場合に再発したとみなした。CRに達しなかった患者において、再発状態は適用不可(N/A)である。血清は、Partners Healthcare Biobankからの無作為に選択された健常対照コホートから得た。陽性抗ネフリン抗体力価の閾値は、187U/mlの健常コホートについての最大値に基づいた。抗体力価は、各々の患者について複製試料(n≧3)の平均±S.D.として与えている。2つの臨床的に検証されたアッセイ、ELISAおよびIIFT(Euroimmun)により抗ヒトPLA2R抗体について陽性(hPLA2R+)と試験された患者からの血清は、MGH Immunopathology Laboratoryから得た。略語:P、プレドニゾロン;CNI、カルシニューリン阻害剤;MMF、ミコフェノール酸モフェチル;CTX、シクロホスファミド;RIT、リツキシマブ;FLU、フルシトシン;PRTL、部分;CMPLT、完全;はヒスパニックまたはラテン民族性を指し示す。
【0076】
【表5】
【0077】
BWH/MGH/BMC/Mayo Clinicコホートは、腎臓生検が免疫蛍光染色(IF)によりIgGについて評価され、および、利用可能な場合に、同時的な血清試料が抗ネフリン抗体について評価された患者からなる。RCC(Nx1、Nx2)のための腫瘍腎摘除術を有した対照患者について、非新生物性腎臓実質の区画をIFにより評価した。タンパク尿値は、他に記載されなければ、UPCR(g/g)または尿ディップスティック(陰性、3+、4+)のいずれかとして与えている(#患者MCD17-について、タンパク尿は尿アルブミンクレアチニン比(UACR)(g/g)として与えている)。血清クレアチニン(血清Cr)およびタンパク尿値は、抗ネフリン抗体について評価された患者について血清採取の時点に最も近接したものであり、抗ネフリン抗体について評価されなかった患者について生検に最も近接したものである。優勢なIgGサブクラスを、既知の場合に括弧内に与えている(NDは、IgGサブクラスは追加の生検材料の欠如に起因して決定されなかったことを指し示す)。FSGS、限局性分節性糸球体硬化症;TL、先端病変;MN、膜性腎症;RCC、腎臓細胞がん;MCD、微小変化疾患。はヒスパニックまたはラテン民族性を指し示す。
参考文献
【0078】
【表6-1】
【0079】
【表6-2】
【0080】
【表6-3】
【0081】
【表6-4】
【0082】
ネフリンG1059の細胞外断片
DNA配列
【0083】
【化2】
翻訳されたタンパク質配列
(太字の配列は、アフィニティー精製を可能とするためにタンパク質の末端に付加されたグリシン-セリン-6Xヒスチジンである)
【0084】
【化3】
【0085】
他の実施形態
本発明がその詳細な説明と組み合わせて記載されたが、以上の記載は、本発明の範囲を例証することが意図され、それを限定することは意図されず、該範囲は添付の特許請求の範囲により定義されることが理解されるべきである。他の態様、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲内である。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
【国際調査報告】