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2023-546670バクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】バクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/70 20060101AFI20231030BHJP
   C12N 15/81 20060101ALI20231030BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N15/70 Z ZNA
C12N15/81 Z
C07K14/195
A61K9/16
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524512
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 SG2021050639
(87)【国際公開番号】W WO2022086450
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10202010547W
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】タン,ヨン クアン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ,ボー
(72)【発明者】
【氏名】ゴー,メイベル ダーレーン コー
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ウェンシャン
【テーマコード(参考)】
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4H045AA10
4H045BA10
4H045CA11
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)、該バクテリアマイクロコンパートメントVLPの製造方法、前記VLPの製造に用いられる単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸、少なくとも1つの前記VLPを含む組成物、前記VLPの使用、および前記VLPを用いた治療方法に関する。
【選択図】図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)を製造する方法であって、該方法が、
A)(i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードする第1の配列、および
(ii)配列番号1(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)もしくは配列番号94(KPEKPGSKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドと、これに融合したカーゴ分子とをコードする第2の配列
を含む1つ以上の異種ポリヌクレオチドを宿主細胞または宿主生物に導入する工程、
a)前記第1の配列と前記第2の配列を発現させる工程、ならびに、
b)前記カーゴ分子を内包するマイクロコンパートメントを形成する工程
を含むか、
B)(i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードする第1の配列、および
(ii)前記プロトマーのうちの少なくとも1つと、これに融合したカーゴ分子または生化学的タグとをコードする第2の配列
を含む1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞または宿主生物に導入する工程、
a)前記第1の配列と前記第2の配列を発現させる工程、ならびに、
b)前記カーゴ分子を外面に発現するマイクロコンパートメントを形成するか、
c)前記生化学的タグに、相補的なタグを介してカーゴ分子が結合できるように構成された、該生化学的タグを外面に発現するマイクロコンパートメントを形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
配列番号1に記載の内包化誘導ペプチドの機能的バリアントが、配列番号1の配列のアミノ末端に、配列番号94のアミノ末端由来の1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸が付加された、配列番号1の配列と配列番号94の配列の中間体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーが、Halothiobacillus neapolitanusまたはHaliangium ochraceumに由来するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーが、Halothiobacillus neapolitanus由来のCsoS1A(配列番号2)とCsoS4A(配列番号3)、Haliangium ochraceum由来のHO-H(配列番号4)とHO-P(配列番号5)とHO-T1(配列番号6)、またはこれらのバリアントである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記カーゴ分子が、酵素および/または蛍光タンパク質および/または免疫原性ペプチドなどの少なくとも1種のペプチドである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生化学的タグが、Strep-Tag II(SII)、SpyCatcherとSpyTag(SC/ST)の組み合わせ、およびCC-Di-AとCC-Di-B(CCA/CCB)の組み合わせを含む群から選択されたものであってもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記CsoS1Aの発現がプロモーターPT7の制御下にあり、前記CsoS4Aの発現がプロモーターPCON5の制御下にあり、前記HO-Hの発現が酵母プロモーターPTDH3の制御下にあり、前記HO-Pの発現が酵母プロモーターPPYK1の制御下にあり、前記HO-T1の発現が酵母プロモーターPYEF3の制御下にある、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記宿主生物が、大腸菌またはサッカロマイセス・セレビシエである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子組換えにより得られた、カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)であって、
i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーと、配列番号1もしくは配列番号94に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドに融合したカーゴ分子とを含むか、
ii)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーと、該プロトマーのうちの少なくとも1つの末端に融合したカーゴ分子、または、該プロトマーのうちの少なくとも1つに融合したタグに、相補的なタグを介してVLPの外面で結合したカーゴ分子とを含む、
遺伝子組換えVLP。
【請求項10】
配列番号1に記載の内包化誘導ペプチドの機能的バリアントが、配列番号1の配列のアミノ末端に、配列番号94のアミノ末端由来の1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸が付加された、配列番号1の配列と配列番号94の配列の中間体である、請求項9に記載の遺伝子組換えVLP。
【請求項11】
前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーが、Halothiobacillus neapolitanusまたはHaliangium ochraceumに由来するものである、請求項9または10に記載の遺伝子組換えVLP。
【請求項12】
前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーが、Halothiobacillus neapolitanus由来の、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むCsoS1Aと配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むCsoS4A;Haliangium ochraceum由来の、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むHO-Hと、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むHO-Pと、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むHO-T1;またはこれらのバリアントである、請求項11に記載の遺伝子組換えVLP。
【請求項13】
前記カーゴ分子が、酵素および/または蛍光タンパク質および/または免疫原性ペプチドなどの少なくとも1種のペプチドである、請求項9~12のいずれか1項に記載の遺伝子組換えVLP。
【請求項14】
前記生化学的タグが、Strep-Tag II(SII)、SpyCatcherとSpyTag(SC/ST)の組み合わせ、およびCC-Di-AとCC-Di-B(CCA/CCB)の組み合わせを含む群から選択される、請求項9~13のいずれか1項に記載の遺伝子組換えVLP。
【請求項15】
単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸であって、
a)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードし、これらが個別にプロモーターに作動可能に連結されている第1のDNA配列、および
b)配列番号1もしくは配列番号94に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドと、これに融合したカーゴ分子とをコードし、これらがプロモーターに作動可能に連結されている第2のDNA配列を含むか、
c)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードし、これらが個別にプロモーターに作動可能に連結されている第1のDNA配列、および
d)前記プロトマーのうちの少なくとも1つと、これに融合したカーゴ分子または生化学的タグとをコードする第2のDNA配列を含む、
単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸。
【請求項16】
配列番号1に記載の内包化誘導ペプチドの機能的バリアントが、配列番号1の配列のアミノ末端に、配列番号94のアミノ末端由来の1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸が付加された、配列番号1の配列と配列番号94の配列の中間体である、請求項13に記載の単離されたプラスミドまたはベクター。
【請求項17】
前記バクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマー、前記プロモーター、前記カーゴ分子および前記タグが、請求項1~7のいずれか1項に記載されたものである、請求項15または16に記載の単離されたプラスミドまたはベクター。
【請求項18】
前記バクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマー、前記カーゴ分子および前記タグをコードするDNA配列が、遺伝コードの冗長性により、配列番号7~12および95と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または100%の同一性を有する、請求項17に記載の単離されたプラスミドまたはベクター。
【請求項19】
a)対象における疾患の予防もしくは治療;または
b)生化学的プロセス
で使用するための、請求項9~14のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遺伝子組換えウイルス様粒子(VLP)を含む組成物または組み合わせ。
【請求項20】
前記少なくとも1つの遺伝子組換えVLPが、プロドラッグの変換用の酵素を含む、請求項19に記載の組成物または組み合わせ。
【請求項21】
1種以上の治療薬をさらに含む、請求項19または20に記載の組み合わせ。
【請求項22】
ワクチンである、請求項19または21に記載の組成物または組み合わせ。
【請求項23】
対象における疾患の予防用または治療用の医薬の製造における、請求項9~14のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遺伝子組換えウイルス様粒子の使用。
【請求項24】
請求項9~14のいずれか1項に記載の遺伝子組換えウイルス様粒子の有効量の投与を、そのような処置を必要とする対象に行う工程を含む、予防方法または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)、該バクテリアマイクロコンパートメントVLPの製造方法、前記VLPの製造に用いられる単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸、少なくとも1つの前記VLPを含む組成物、前記VLPの使用、および前記VLPを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリアマイクロコンパートメント(BMC)は、ある種の細菌に見られるタンパク質シェル構造体であり、特定の困難な生化学反応を隔離するための手段として進化してきたと考えられている [Kerfeld, C. A., et al., Nature Reviews Microbiology 16: 277-290 (2018)]。このタンパク質複合体は、数百から数千のポリペプチドサブユニットから構成されており、自己会合して直径40nm~400nmの多角形構造を形成している。シアノバクテリアや一部の化学合成細菌に見られるカルボキシソームは、BMCの最も古い例として知られている。このタンパク質シェルは、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ(RuBisCO)を内包し、基質であるCO2とリブロース-1,5-ビスリン酸をRuBisCOの近くに集積させることで触媒効率を向上させる働きがある。カルボキシソームは、内包するRuBisCOの種類によって、大きく2つのグループに分類される。α-カルボキシソームは、α-シアノバクテリア(一般に塩水性シアノバクテリア)や化学合成生物に見られる1A型RuBisCOを、β-カルボキシソームは、β-シアノバクテリア(一般に淡水性シアノバクテリア)に見られる1B型RuBisCOを内包している [Turmo, A., et al., FEMS Microbiol Lett 364: (2017)]。
【0003】
近年、BMCシェルを構成するサブユニットの原子レベル構造が多数報告されており、3種類のシェルそのものの原子レベル構造(Halothece sp. PCC 7418の構成要素を削減したβ-カルボキシソーム、Klebsiella neumoniaeの人工グリシルラジカル酵素含有BMCグループ2(GRM2)、およびHaliangium ochraceumの機能不明のBMC)も報告されている [Kalnins, G., et al., Nature Communications 11: 388 (2020); Sutter, M., et al., Science 356(6344): 1293-1297 (2017); Sutter, M., et al., Plant Physiology (2019)]。BMCの外観と機能は多様であるものの、主要な構成要素の三次構造は保存されている。BMC-Hドメインタンパク質(pfam00936)は、化学量論的に主要なモジュールであり、C6形状のホモ六量体を形成する。BMC-Tタンパク質は、2つのBMC-Hドメインのタンデムリピートで構成されており、会合して擬六方対称性を持つ三量体を形成しているか、三量体同士が密着して二層に積み重なった構造を形成している。BMC-Pドメインユニット(pfam03319)は、BMCシェル複合体の中で占める割合は少ないものの、重要なモジュールである。BMC-Pプロトマーは、会合してピラミッド形状のホモ五量体を形成しており、BMC-Tタンパク質とBMC-Hタンパク質で形成される複数の小平面からなるシェルの各頂点に位置している。これにより、BMCの多角形状の外観が形成されている。構成要素の構造を詳細に分子レベルで理解することが、BMCシェルの遺伝子組換え技術分野への寄与につながっている。このような試みには、異種タンパク質カーゴをシェル内腔にターゲティングする試みが含まれ、そのために、同種内腔タンパク質に由来する短いペプチド配列である内包化誘導ペプチド(EP)を使用したり、シェル成分のタンパク質の遺伝子組換え技術を利用したりしている [Lawrence, A. D., et al., ACS Synthetic Biology 3: 454-465 (2014)]。このような改良は、BMCを細胞内ナノリアクターや生体分子送達のための足場として利用することを目指している。
【0004】
Halothiobacillus neapolitanus由来のα-カルボキシソームの作製については、α-カルボキシソームオペロン(cso)(図1)全体を組換え宿主に移入して大腸菌で生産する方法が報告されている [Bonacci, W., et al. PNAS 109: 478-483 (2012)]。オペロンの遺伝子には、3つのBMC-Hパラログ(cso1ABC)、1つのBMC-Tタンパク質(csoS1D)、2つのBMC-Pパラログ(csoS4AB)、さらにRuBisCOの大型ユニットと小型ユニット(cbbLS)、炭酸脱水酵素(csoS3/SCA)および天然変性タンパク質(IDP)であるcsoS2の遺伝子が含まれる。このIDPは、シェルと内腔タンパク質の相互作用を促進することで、α-カルボキシソームの形成に重要であることが知られている [Cai, F. et al. Life (Basel, Switzerland) 5: 1141-1171 (2015)]。本来内包されるカーゴを除去したBMCは、異種カーゴをより効率的に内腔にパッケージすることができるため、遺伝子操作における有用性が高い。しかし、H. neapolitanusのα-カルボキシソームは、その構造と生化学的プロセスについて数十年にわたって研究されてきたにもかかわらず、前述の10個未満の遺伝子を用いて、被包構造の形態で組換え発現が行われたことはない [Bonacci, W., et al. PNAS 109: 478-483 (2012)]。
【0005】
組換え細菌宿主および組換え酵母宿主における生産効率が改善されたバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子、ならびにカーゴ分子の封入および/または表面提示を実現する別の方法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、Halothiobacillus neapolitanusとHaliangium ochraceumに由来するBMCプロトマーをそれぞれ2種類または3種類用いるだけで、BMC VLPを形成できることが分かった。以下、H. neapolitanusのBMC VLPはCso-BMC、H. ochraceumのBMC VLPはHO-BMCと称する。さらに、CsoS2由来のS2CPと称される新規の短鎖ペプチドまたはそのバリアントとしてS2CP(30)と称されるペプチドを用いることにより、カーゴ分子をCso-BMCに封入することができる。カーゴ分子を内包したCso-BMCは、カーゴ分子を内包していないCso-BMCでは見られない異なるシェル構造を有することが確認された。いずれのシェルともプロトマーのペプチド末端が外側に向いており、目的のタンパク質を遺伝子レベルで融合させることができることは注目に値する。したがって、カーゴ分子をプロトマーの末端と融合させて発現させることによって、またはプロトマー末端に付加された生化学的タグと相補的に結合するパートナーを有するカーゴ分子を用いることによって、本発明のBMCのVLPの外面にカーゴ分子を提示することができる。
【0007】
第1の態様において、本発明は、カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)を製造する方法であって、該方法が、
A)(i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードする第1の配列、および(ii)配列番号1(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)もしくは配列番号94(KPEKPGSKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドと、これに融合したカーゴ分子とをコードする第2の配列を含む1つ以上の異種ポリヌクレオチドを宿主細胞または宿主生物に導入する工程、
a)前記第1の配列と前記第2の配列を発現させる工程、ならびに、
b)前記カーゴ分子を内包するマイクロコンパートメントを形成する工程
を含むか、
B)(i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードする第1の配列、および(ii)前記プロトマーのうちの少なくとも1つと、これに融合したカーゴ分子または生化学的タグとをコードする第2の配列を含む1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞または宿主生物に導入する工程、
a)前記第1の配列と前記第2の配列を発現させる工程、ならびに、
b)前記カーゴ分子を外面に発現するマイクロコンパートメントを形成するか、前記生化学的タグに、相補的なタグを介してカーゴ分子が結合できるように構成された、該生化学的タグを外面に発現するマイクロコンパートメントを形成する工程
を含む、方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、配列番号1に記載の内包化誘導ペプチドの機能的バリアントは、配列番号1の配列のアミノ末端に、配列番号94のアミノ末端由来の1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸が付加されたものである。例えば、配列番号1の内包化誘導ペプチドのバリアントとして、そのアミノ末端に、「G」、「PG」、「KPG」などを含みつつ、機能を保持しているものが挙げられる。このようなバリアントは、配列番号1の配列と配列番号94の配列の中間体である。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記内包化誘導ペプチドは、遺伝コードの冗長性により、配列番号7または配列番号95(S2CP(30))に記載の核酸配列と少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性または100%の同一性を有するポリヌクレオチド配列によってコードされている。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーは、Halothiobacillus neapolitanusまたはHaliangium ochraceumに由来するものである。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーは、Halothiobacillus neapolitanus由来のCsoS1A(配列番号2)とCsoS4A(配列番号3)、Haliangium ochraceum由来のHO-H(配列番号4)とHO-P(配列番号5)とHO-T1(配列番号6)、またはこれらのバリアントである。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記カーゴ分子は、酵素および/または蛍光タンパク質および/または免疫原性ペプチドなどの少なくとも1種のペプチドである。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記生化学的タグは、Strep-Tag II(SII)、SpyCatcherとSpyTag(SC/ST)の組み合わせ、およびCC-Di-AとCC-Di-B(CCA/CCB)の組み合わせを含む群から選択されたものであってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記CsoS1Aの発現はプロモーターPT7の制御下にあり、前記CsoS4Aの発現はプロモーターPCON5の制御下にあり、前記HO-Hの発現は酵母プロモーターPTDH3の制御下にあり、前記HO-Pの発現は酵母プロモーターPPYK1の制御下にあり、前記HO-T1の発現は酵母プロモーターPYEF3の制御下にある。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記宿主生物は、大腸菌またはサッカロマイセス・セレビシエである。
【0016】
第2の態様において、本発明は、遺伝子組換えにより得られた、カーゴ分子を担持するバクテリアマイクロコンパートメントウイルス様粒子(VLP)であって、
i)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーと、配列番号1(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)もしくは配列番号94(KPEKPGSKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドに融合したカーゴ分子とを含むか、
ii)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーと、該プロトマーのうちの少なくとも1つの末端に融合したカーゴ分子、または、該プロトマーのうちの少なくとも1つに融合したタグに、相補的なタグを介してVLPの外面で結合したカーゴ分子とを含む、
遺伝子組換えVLPを提供する。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーは、Halothiobacillus neapolitanusまたはHaliangium ochraceumに由来するものである。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記バクテリアマイクロコンパートメントプロトマーは、Halothiobacillus neapolitanus由来の、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むCsoS1Aと配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むCsoS4A;Haliangium ochraceum由来の、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むHO-Hと、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むHO-Pと、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むHO-T1;またはこれらのバリアントである。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記カーゴ分子は、酵素および/または蛍光タンパク質および/または免疫原性ペプチドなどの少なくとも1種のペプチドである。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記生化学的タグは、Strep-Tag II(SII)、SpyCatcherとSpyTag(SC/ST)の組み合わせ、およびCC-Di-AとCC-Di-B(CCA/CCB)の組み合わせを含む群から選択されたものであってもよい。
【0021】
第3の態様において、本発明は、単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸であって、
a)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードし、これらが個別にプロモーターに作動可能に連結されている第1のDNA配列、および
b)配列番号1(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)もしくは配列番号94(KPEKPGSKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG)に記載のアミノ酸配列またはその機能的バリアントを含む内包化誘導ペプチドと、これに融合したカーゴ分子とをコードし、これらがプロモーターに作動可能に連結されている第2のDNA配列を含むか、
c)複数のバクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマーをコードし、これらが個別にプロモーターに作動可能に連結されている第1のDNA配列、および
d)前記プロトマーのうちの少なくとも1つと、これに融合したカーゴ分子または生化学的タグとをコードする第2のDNA配列を含む、
単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸を提供する。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸は、先に定義した、バクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマー、プロモーター、カーゴ分子およびタグを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、配列番号1~6および94に記載の前記バクテリアマイクロコンパートメントシェルプロトマー、前記カーゴ分子および前記タグをコードする単離されたプラスミド核酸またはベクター核酸のDNA配列は、遺伝コードの冗長性により、配列番号7~12および95-S2CP(30)に記載の核酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または100%の同一性を有する。
【0024】
第4の態様において、本発明は、
a)対象における疾患の予防もしくは治療;または
b)生化学的プロセス
で使用するための、本発明のいずれかの態様に記載の少なくとも1つの遺伝子組換えウイルス様粒子(VLP)を含む組成物または組み合わせを提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つの遺伝子組換えVLPは、プロドラッグの変換用の酵素を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、1種以上の治療薬をさらに含んでいてもよい。前記組成物は、ワクチンとして使用してもよい。
【0027】
第5の態様において、本発明は、対象における疾患の予防用または治療用の医薬の製造における、本発明のいずれかの態様に記載の少なくとも1つの遺伝子組換えウイルス様粒子の使用を提供する。
【0028】
第6の態様において、本発明は、本発明のいずれかの態様に記載の遺伝子組換えウイルス様粒子の有効量の投与を、そのような処置を必要とする対象に行う工程を含む、予防方法または治療方法を提供する。
【0029】
以下、具体的な実施形態について詳細に記載するが、本発明がこれらに限定されないことは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】Halothiobacillus neapolitanus由来のα-カルボキシソームオペロン(cso)の模式図である。点線は、csoS1BとcsoS1Dの間にある、カルボキシソームとの関連性が低いと考えられる10個の遺伝子部分に相当する。遺伝子の長さと遺伝子間の距離は原寸に比例して描写したものではない。
【0031】
図2A-D】開発したプラスミドの模式図である。(A)TU(転写調節単位)アクセプタープラスミドであるpESXは、pUC複製起点とともにストレプトマイシン選択マーカー(StrepR)を含む。RFPカセットは、制限酵素(RE)BsmBIによる消化により、挿入されるTUに置き換わる。(B)パスウェイアクセプタープラスミドであるpCKHは、制限酵素(RE)BsaIによる消化によりpESXプラスミドから遊離したTUを受容する。pCKHは、カナマイシン選択マーカー(KanR)を含む。(CおよびD)SIIタグ、His6タグ、または4種類のFP(mT2、meGFP、mKOκ、mCh)のいずれかをORFのN末端またはC末端に付加することができる改変HcKan_Oプラスミド。BsaI消化によるORFの挿入後、BsmBI消化により、ORF-タグ融合体(Gly-Ser-Serリンカーを間に挟む)が遊離する。
【0032】
図3】作製したVLPパスウェイの模式図である。Cso-BMCでは、使用したターミネーターはすべてTT7である。プロモーターの矢印のグレースケール表示は、プロモーターの相対的な強さを表しており、濃いほど強いことを意味する。
【0033】
図4A-B】α-カルボキシソームシステムのカーゴターゲティングペプチドの配列の同定に関する図である。(A)H. neapolitanus由来のCsoS2とCsoS2の相同分子種(異なる属の上位9種を示す)との多重配列アライメントにより、配列ロゴで示されているように、C末端領域が高度に保存されていることが分かる。(B)His6-meGFP-S2CPとシェルタンパク質CsoS1A-SII、SII-CsoS1DまたはCsoS4A-SIIとのプルダウンアッセイにより、S2CPはCsoS1A-SIIとの相互作用のみを媒介することが分かる。
【0034】
図5A-B】α-カルボキシソームシェル構成要素の発現と精製に関する図である。(A)α-カルボキシソーム構成要素の発現に用いた合成オペロンの模式図。各シェルモジュールは、図形アイコンでも表示している。Cso4A:五角形、CsoS1D:三量体で構成される六角形、CsoS1A:六量体で構成される六角形。(B)パスウェイCso-PmChTHCを発現している細胞の蛍光顕微鏡写真。meGFP-S2CPとCsoS4A-mCherryの共局在が確認できる。DIC:微分干渉コントラストチャネル。スケールバー(白色、右下)は2μmである。(C-F)(C)Cso-PmChTHC、(D)Cso-PSIITHC、(E)Cso-PSIITH、(F)Cso-PSIIHのAIEX精製後の0.4M NaCl溶出画分における精製タンパク質シェルのTEM画像解析結果。スケールバー(黒色、右下)は50nmである。
【0035】
図6A-D】S2CPが内包化誘導ペプチドとしてどのように作用するかを示した図である。(A)S2CPを介した、UmuD1-40プロテアーゼシグナルタグが付加されたGFPの封入により、内在性のClpXPプロテアーゼから保護されることを示した模式図である。(B)S2CPにより、UmuD1-40-meGFPが簡素化カルボキシソームの内腔にターゲティングされた。精製したシェルを、抗GFP抗体を用いたウェスタンブロット解析に供した。UmuD1-40meGFPは、Cso-PSIITHCU,S2CPからのみ検出され、Cso-PSIITHCUからは検出されなかった。電子顕微鏡写真から、(C)Cso-PSIITHCU,S2CPと(D)Cso-PSIITHCUで作製したシェルは類似していることが分かる。スケールバー(黒色、右下)は50nmである。
【0036】
図7A-B】簡素化αカルボキシソームシェルの原子モデルである。(A, B)シェルの表面を示したもの。CsoS1Aは灰色、CsoS4Aは薄い灰色で色付けした。薄い灰色上にある右矢印と下矢印は、それぞれCsoS4A単量体のN末端とC末端を示し、灰色上にある上矢印と右矢印は、それぞれCsoS1A単量体のN末端とC末端を示す。
【0037】
図8A-B】in vivoでのシェルの構成要素間の相互作用を調べるために使用したシェルプローブ(A)CsoS4A-mCherryと(B)meGFP-S2CPの蛍光顕微鏡写真である。各プローブをそれぞれ単独で発現させると、細胞質内にほぼ均一に分布した。スケールバー(右下)は2μmである。
【0038】
図9A-C】(A)Cso-PmChTHCパスウェイ構築物、(B)Cso-PSIITHC、(C)CsoS4A-SIIをアフィニティー精製して得られたタンパク質の陰イオン交換(AIEX)クロマトグラムである。青色の線(左側Y軸)は280nmでの吸光度(mAU)を、緑色の線(右側Y軸)は表示の溶出量に対するAIEXバッファーB(Tris 50mM、NaCl 1.0M、pH7.9)の使用割合を示す。右側のTEM顕微鏡写真は、0.3M NaClで得られた溶出画分を撮影したものである。CsoS4A-SIIを単体で発現させた場合は、タンパク質シェルが形成されていないことが分かる。スケールバー(右下)は50nmである。
【0039】
図10A-B】Cso-PSIITHの精製に関する図である。(A)0.3M NaClに対応する溶出画分のAIEXクロマトグラムと(B)TEM顕微鏡写真。スケールバー(右下)は50nmである。
【0040】
図11A-E】Cso-PSIIHの精製に関する図である。(A)Cso-PSIIHをアフィニティー精製して得られたタンパク質のAIEXクロマトグラム。(B)0.3M NaClに対応するCso-PSIIH溶出画分のTEM顕微鏡写真。(C)CsoS1A-SII、(D)CsoS1A-SIIとCsoS1Dの共発現、(E)CsoS4A-SIIとCsoS1Dの共発現のTEM顕微鏡写真。これらの組み合わせはいずれもタンパク質シェルを形成していないことが分かる。スケールバー(右下)は50nmである。
【0041】
図12A-D】(A)Cso-PmChTHC、(B)PSIITHC、(C)PSIITH、(D)PSIIHのAIEX精製後に回収した画分をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析した結果である。矢印は、TEM解析に使用した画分を示し、左の矢印は[NaCl]=0.3M、右の矢印は[NaCl]=0.4Mに対応する。タンパク質ラダーレーンは、Lで示されており、質量(kDa)も合わせて表示されている。
【0042】
図13】15動的光散乱法で測定したタンパク質シェルの粒度分布である。(A)Cso-PmChTHC、(B)Cso-PSIITHC、(C)Cso-PSIITH、(D)Cso-PSIIH。
【0043】
図14】精製したCso-BMCとHO-BMCの違いをまとめた表である。
【0044】
図15】Cso-BMCの外観を拡大した図である。六量体サブユニット(灰色)と五量体サブユニット(薄い灰色)のN末端とC末端がシェル内腔から外側に向いていることが分かる。六量体鎖と五量体鎖を1つずつ選択し、それぞれのN末端とC末端を矢印で示した。Cso-BMCの六量体サブユニットと五量体サブユニットのトポロジーは、HO-BMCの代表的なものである。
【0045】
図16】UmuD1-40-GFP-S2CPまたはUmuD1-40-GFP-S2CP(30)と共発現したCso-PSIIHシェルのデンシトメトリー分析結果である。UmuD1-40-GFP-S2CPとUmuD1-40-GFP-S2CP(30)の相対量を直接比較できるように、シェルサンプルあたりほぼ同量のシェル(バンドピーク面積で判断)をロードした。矢印は、UmuD1-40-GFP-S2CPとUmuD1-40-GFP-S2CP(30)を示す。
【0046】
図17A-D】一般的な変性要因に対するCso-BMCシェルの安定性を評価した結果である。(A-D)表示した条件で試験を行った空のCso-BMCのDLSスペクトル。すべてのスペクトルを1つのグラフで見ることができるように、スペクトルごとにベースラインを0.2ずつ縦方向にずらして表示した。
【0047】
図18A-E】APEX2酵素とLacZ酵素をCso-BMCシェルに担持させた結果である。(A-B)各酵素を共発現させたCso-BMCのSDS-PAGE分析およびウェスタンブロット解析(抗His6抗体使用)。(C-D)酵素を担持させたCso-BMCのTEM顕微鏡写真。スケールバー(黒色、右下)は50nmである。(E)酵素を共発現させたCso-BMCのDLSスペクトル。空のCso-BMCシェルを参照として表示した。
【0048】
図19】遊離型とCso-BMC封入型のAPEX2酵素とLacZ酵素のMichaelis-Menten速度論解析の結果である。
【0049】
図20A-D】変性条件下でのCso-BMCのAPEX2とLacZを安定化させる効果を評価した結果である。遊離酵素と封入された酵素(+シェル)の残存酵素活性は、各条件負荷前、すなわち、(A)23℃、(B)0%v/vメタノール、(C)凍結融解なし、(D)pH8のサンプルの活性を基準にして求めた。エラーバーは、平均値の1標準偏差を表す。
【0050】
図21A-E】HO-BMCシェル:HO-HTPおよびHO-HTSTP+GFP-SpyCatcherの精製に関する図である。(A-B)精製シェルのSDS-PAGE分析、(C)HO-HTSTP+GFP-SpyCatcherサンプル中のGFP-SpyCatcherの存在を示すウェスタンブロット解析(抗GFP抗体使用)、(D-E)両方のHO-BMC構築物のTEM顕微鏡写真。スケールバー(黒色、右下)は50nmである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本明細書に記載の参考文献は、便宜上、実施例の末尾に参考文献一覧として記した。このような参考文献の内容は、その全体が参考により本明細書に援用される。
【0052】
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0053】
本明細書において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、これらの用語によって示される本明細書に記載の特徴、整数、工程または成分(要素)の存在を明記するものであると解釈されるが、1つ以上の特徴、整数、工程もしくは成分(要素)またはこれらの群の存在または付加を除外するものではない。また、本開示の文脈において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含する。したがって、「comprise」や「comprises」などの「含む(comprising)」という用語のバリエーション、および「include」や「includes」などの「含む(including)」という用語のバリエーションも同様に広い意味を有する。
【0054】
本明細書において、Cso-PSIIHという用語は、Cso-BMCという用語と同じ意味で使用される。
【0055】
本明細書において、「バリアント」という用語は、1つ以上のアミノ酸の変化を有するが、本発明において内包化誘導ペプチドとして機能する能力を保持しているアミノ酸配列を意味する。バリアントは、「保存的」変化を有する場合があり、「保存的」変化とは、置換されたアミノ酸が元のアミノ酸と同様の構造的特性または化学的特性を有する(例えば、ロイシンからイソロイシンへの置換)ことを意味する。稀ではあるが、バリアントは、「非保存的」な変化(例えば、グリシンからトリプトファンへの置換)を有する場合がある。また、類似の軽微な変化としては、アミノ酸の欠失もしくは挿入またはその両方が挙げられる。生物活性や免疫活性を損ねることなくアミノ酸残基の置換、挿入あるいは欠失を行うための指針は、当技術分野でよく知られているコンピュータープログラム、例えば、DNASTAR(登録商標)ソフトウェア(DNASTAR、Madison、Wisconsin、USA)により得られる。バリアントの1種としては、例えば、配列番号94に記載のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられ、このペプチドは、配列番号1に記載の配列よりも長く、CsoS2に由来し、配列番号1の内包化誘導機能を保持するものである。配列番号1の配列と配列番号94の配列のアミノ酸配列中間体を有する別のバリアントも機能性を保持していることが予想される。
【0056】
本発明の組成物または組み合わせは、一般に、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体と混和した医薬製剤として投与され、アジュバント、希釈剤または担体は、想定される投与経路および通常の製剤実施を考慮して選択される。このような薬学的に許容される担体は、活性化合物に対して化学的に不活性なものであってもよく、使用条件下で有害な副作用や毒性を有さないものであってもよい。適切な医薬製剤は、例えば、Remington The Science and Practice of Pharmacy, 19th ed., Mack Printing Company, Easton, Pennsylvania (1995)に記載されている。非経口投与の場合、発熱物質を含まず、必要なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容される水溶液を使用してもよい。適切な溶液は当業者によく知られており、多くの方法が文献に記載されている。薬物送達方法の簡単な総説は、例えば、Langerの文献(Science 249: 1527 (1990))にも記載されている。
【0057】
また、適切な製剤の調製は、慣用的な方法を用いて、および/または、標準的かつ/または認められた製剤実施に従って、当業者により慣用的に実施される。
【0058】
本発明において使用される任意の医薬製剤における組成物または組み合わせの量は、治療される状態の重症度、治療される個々の患者、および使用される化合物などの様々な要因によって異なる。いくつかの実施形態において、前記BMC-VLPは、その表面上に抗原分子を提示し、ワクチンとして機能する。いずれの場合も、製剤中の組成物または組み合わせの量は、当業者により慣例的に決定される。
【0059】
例えば、錠剤またはカプセル剤などの固形経口組成物は、1~99%(w/w)の有効成分;0~99%(w/w)の希釈剤または充填剤;0~20%(w/w)の崩壊剤;0~5%(w/w)の潤滑剤;0~5%(w/w)の流動補助剤;0~50%(w/w)の顆粒化剤または結合剤;0~5%(w/w)の抗酸化剤;および0~5%(w/w)の色素を含んでいてもよい。放出制御錠剤であれば、さらに、0~90%(w/w)の放出制御ポリマーを含んでいてもよい。
【0060】
非経口製剤(注射用の液剤または懸濁剤、輸液用の液剤など)は、1~50%(w/w)の有効成分;および50%(w/w)~99%(w/w)の液体または半固体の担体またはビークル(例えば、水などの溶媒)を含んでいてもよく、さらに緩衝剤、抗酸化剤、懸濁安定化剤、等張化剤および防腐剤などの1つ以上の他の添加剤を0~20%(w/w)含んでいてもよい。
【0061】
本発明のBMC-VLPを含む組成物または組み合わせは、治療する疾患および患者、ならびに投与経路に応じて治療有効量を変更し、治療を必要とする患者に投与してもよい。
【0062】
しかし、本発明において、哺乳動物、特にヒトに投与する用量は、妥当な時間枠で哺乳動物に治療効果をもたらすのに十分な量であることが望ましい。正確な用量と組成や最も適切な送達レジメンの選択は、特に、製剤の薬理学的特性、治療している状態の性質や重症度、投与される対象の身体状態や知的鋭敏さ、特定の化合物の効力、ならびに治療する患者の年齢、状態、体重、性別および応答によっても影響を受けることは当業者であれば理解できるであろう。
【0063】
これまで、一般的に本発明について説明してきたが、下記の実施例を参照することにより同じことをより容易に理解できるだろう。ただし、下記の実施例は、例示の目的のために記載されているものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例
【0064】
本明細書において具体的な記載のない、当技術分野で公知の標準的な分子生物学的手法は、概ね、A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (2001)に記載された方法に従ったものである。
【0065】
実施例1:
材料および方法
細菌株および細菌培養
大腸菌Acella(DE3)株(EdgeBio)を、Cso-BMC VLPの分子クローニングとタンパク質発現の両方に使用した。細胞を50μg/mLの適切な抗生物質(カナマイシンまたはストレプトマイシン)を添加したライソジェニーブロス(LB)またはテリフィックブロス(TB)で培養した。
【0066】
サッカロマイセス・セレビシエ(以下、単に酵母と表記)を、HO-BMC VLPの分子クローニングとタンパク質発現の両方に使用した。プラスミドを用いた酵母での発現は、栄養選択に基づくもので、用途に合わせて処方された増殖培地が必要である。この増殖培地に遺伝子組換え酵母が必要とする主要な栄養素は含まれていないが、プラスミド上の遺伝子にコードされるタンパク質によって、この栄養素は生成される。pCKU上では、遺伝子産物であるUra3pがウラシルを生成する。この合成培地は高価(約SGD 30/L)であるため、我々は、より安価(約SGD 5/L)な非合成培地(酵母-ペプトン-デキストロース)で酵母株がパスウェイタンパク質を発現できるように、酵母ゲノムの染色体にパスウェイを組み込むことを考えた。そこで、パスウェイを挟むホモロジーサイトを酵母に導入するためのプラスミドpGAU-YMRWδ15を開発した。酵母の内在性の相同組換え機構を利用して、酵母の染色体のYMRWδ15部位に目的のパスウェイを挿入することにより、パスウェイ上のタンパク質を選択の必要なく発現させることが可能である。
【0067】
Golden Gate法によるプラスミド構築
Golden Gate法によるプラスミドのワンポット構築は、既報のプロトコルに若干の変更を加えて行った [Guo, Y. et al., Nucleic Acids Res 43: e88 (2015)]。1~3つの断片を挿入するために、1つの反応ポットにT4リガーゼバッファー(NEB)1μL、10x精製ウシ血清アルブミン(BSA、NEB)0.5μL、BsaI(NEB)またはEsp3I(Thermo)5U、T4リガーゼ(Thermo)0.2U、目的プラスミド15ngおよび1~3μLの挿入断片を準備し、水を加えて10μLとした。この反応ポットを37℃~18℃の熱サイクルにかけ、各ステップで5分間のインキュベーションを15サイクル行った後、55℃で15分間処理して、未反応のプラスミドを消化すると同時に、ライゲーションを阻害して、元々の目的ベクターを有するコロニーの数を減少させた。3つより多い挿入断片を組み込む場合に、制限酵素とリガーゼの量を2倍に、目的プラスミドの量を75ngに、熱サイクル回数を70回に増やし、挿入断片と目的プラスミドを固定量ではなく2:1のモル比で添加した。これは、正しく構築されたプラスミドの数を増やすことが目的である。
【0068】
コドン最適化したBMC遺伝子を合成し(BioBasic)、HcKan_Oにクローニングした。プロモーター部分とターミネーター部分を、様々なテンプレートからPCR産物として増幅し、それぞれHcKan_PとHcKan_Tにクローニングした。
【0069】
A206K変異により得られたeGFPの単量体であるmeGFPは、NEBuilder(登録商標) HiFi Assemblyを用いて、部位特異的変異誘発(SDM)により作製した。また、ORFに蛍光タンパク質、S2CPまたは精製タグを付加するためのプラスミドpES1~7、pCKHおよび改変HcKan_Oも同様にHiFi Assemblyを用いて作製した。
【0070】
シーケンス用プライマー
様々なプラスミドコンストラクトのシーケンスに使用した特定のオリゴヌクレオチドプライマーを表1に示す。
【表1】
【0071】
配列アライメント
CsoS2の配列をClustal Omegaでアライメントし、出力アライメントファイルをJalView 2で作成した [Waterhouse, A. M. et al., Bioinformatics 25: 1189-1191 (2009); Sievers, F. and Higgins, D. G. Methods in Molecular Biology (Clifton, N. J.) 1079: 105-116 (2014)]。配列アライメントに使用した配列のアクセッション番号を表2に詳しく示す。
【表2】
【0072】
VLPの精製とカーゴ担持の解析
Cso-BMCの場合:
Acella(DE3)細胞を50mg/Lのカナマイシンを添加した500mLのテリフィックブロス(TB、BioBasic)で37℃で振とう培養し、培養液の光学密度(λ=600nmにおける)値が約0.6~1.0になるまで培養を続けた。次いで、培養液を25℃に冷却し、タンパク質を誘導するためにイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、GoldBio)を最終濃度50μMで添加した。25℃で約30時間培養を行った後、遠心分離により細胞を回収した。細胞の溶解は、M-110Pマイクロフルイダイザー(Microfluidics)(15,000psiで3回)用いて行った。細胞溶解液に、プロテアーゼ阻害剤として、0.1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を添加した。この溶解液を20,000xgで20分間ずつ2回遠心した。清澄化した溶解液をStrepTrap(商標) HP 5mLカラム(GE Life Sciences)に1mL/minの線流速でロードした。精製は、AKTA FPLCを用いて行った。12カラム容量(CV)の結合バッファー(Tris・HCl 100mM、NaCl 150mM、pH8.0)で洗浄した後、6CVの溶出バッファー(2.5mMデスチオビオチン含有結合バッファー)を用いて3mL/minの線流速で溶出を行った。
【0073】
構造解析用に高品質のタンパク質シェルを得るために、StrepTrap(商標)アフィニティー精製後に陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーを行った。プールしたStrepTrap(商標)溶出画分にAIEX Buffer A(Tris・HCl 50mM、pH8.0)を加えて2倍希釈した。充填樹脂量10mLのQ Sepharose(GE Life Sciences)カラムにサンプルを1mL/minでロードした。溶出には、0~60% AIEXバッファーB(Tris・HCl 50mM、NaCl 1.0M、pH8.0)を6CV、60~100% IEXバッファーBを2CV用い、それぞれ2mL/minの線流速で溶出を行う2段階グラジエントプロトコルを使用した。
【0074】
溶出したタンパク質を、13%スタッキングゲルを用いたドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析し、InstantBlue(Expedon)を用いて染色した。デンシトメトリー分析は、Bio-Rad image labソフトウェアを用いて、BMCカーゴの定量に関する既報の方法に従って実施した [Hagen, et al., Nature Communications 9: 2881, doi:10.1038/s41467-018-05162-z (2018)]。背景差分を行い、目的のバンドに対応するピーク面積を定量に用いた。タンパク質の絶対濃度は、280nmのモル減衰係数(ε280)の計算値を用いてDeNovix分光光度計で測定した。個々の構成要素のε280の和としてのT=3シェルのε280の計算値は、1 588 200M-1・cm-1であった。T=4シェルのε280の計算値は、1 677 600M-1・cm-1であった。この2種類のシェルのε280の計算値の差が小さいのは、CsoS1Aのε280が低い(1490M-1・cm-1)ためである。ε280の寄与のほとんどはCsoS4A(23 490M-1・cm-1)に由来し、これは両方のシェルとも同じコピー数である。蛍光を用いたシェルあたりの平均GFP数の測定は、Hagenらの文献に記載のプロトコルに従って行った[Hagen, et al., Nature Communications 9: 2881, doi:10.1038/s41467-018-05162-z (2018)]。
【0075】
HO-BMCの場合:
酵母細胞を8LのYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%、BioBasic)で25℃、48時間培養後、ペレット状にし、M-110Pマイクロフルイダイザー(20,000psiで8回)を用いて溶解した。溶解液を20,000xgで20分間ずつ2回遠心し、清澄化した溶解液を1M Tris・HCl pH12でpH8に調整した。さらに、この溶解液に300μLのビオチンブロッキングバッファー(IBA Lifesciences)を加え、緩やかに撹拌しながら15分間インキュベートした。StrepTrap(商標)アフィニティー精製は、上記と同様の方法で行った。
【0076】
プルダウンアッセイとイムノブロッティング
精製したHis6-meGFP-S2CPとHis6-meGFPをそれぞれ、CsoS1A-SII、SII-CsoS1DまたはCsoS4A-SIIを含む清澄化した大腸菌溶解液と25℃で1時間緩やかに撹拌しながらインキュベートした。溶解液混合物を前述のStrepTrap(商標)プロトコルにより精製した。イムノブロッティングによるeGFPエピトープの検出には、GFP-HRP結合抗体(GF28R、Invitrogen)を用い、His6エピトープの検出には、HRP結合His Tag抗体(Genscript)を用いた。検出は、メーカー推奨のプロトコルに従って行った。
【0077】
蛍光顕微鏡観察
大腸菌株を記載の条件に従って培養し、0.1mLの培養液を採取してペレット状にした。ペレットを1%ホルムアルデヒドを含むPBSに再懸濁し、室温で10分間静置した。細胞をPBSで2回洗浄し、0.5mLのPBSに再懸濁した。少量(約3μL)の細胞懸濁液を等量のProLong(商標) Diamond Antifade Mountant(Thermo Scientific)と混合した後、ポリL-リジン顕微鏡用スライド(Thermo Scientific)にマウントした。少なくとも24時間暗所で硬化させた後、サンプルの画像撮影を行った。Olympus FV1200共焦点顕微鏡を用いて、対物レンズ倍率100倍で、スライドを撮影した。共焦点解析は、ImageJソフトウェアを用いて行った。
【0078】
透過型電子顕微鏡観察
フォルムバール/カーボンコーティング銅グリッドにグロー放電を施し、5μLの精製タンパク質サンプル(A280=約0.05以下に希釈)を60秒間マウントした後、フィルターペーパーで液滴を除去した。その後、2.5%酢酸ガドリニウム(III)の液滴5μLを加えて90秒間インキュベートしてグリッドをネガティブ染色し、同様にしてブロットオフした。JEOL JEM-1220 TEMでグリッド撮影を行った。
【0079】
シェルの粒径と安定性の測定
粒度分布は、Uncle(商標)解析装置(Unchained labs)を用いて動的光散乱法(DLS)により測定した。サンプルは特に断りのない限り、TBS-50/350 pH8.0(Tris・HCl 50mM、NaCl 350mM、pH8.0)で1mg/mLに希釈し、測定前に20,000g、5分間遠心して凝集物を除去した。分析には最上層の上澄み液を使用するよう注意した。ミニキュベットに9μLのサンプルを加えた。DLS測定は、特に断りのない限り、すべて3連で行い、20℃で実施した。粒度分布の解析は、Uncle(商標)解析ソフトを用いて行った。
【0080】
様々な温度におけるシェルの安定性を測定するために、シェルサンプルを薄壁PCRチューブに分注し、Uncle(商標)解析装置を用いて、20~80℃の範囲で10℃ずつ温度を15分かけて上昇させた。15分間のインキュベーションが終了した時点で、DLSスペクトルを測定した。
【0081】
様々なバッファー条件下でのシェルの安定性を測定するために、Tris・HCl 1.0M pH8.0、NaCl 5.0M、99.8%メタノール(ACS reagent grade、Sigma)のストック溶液から10%(v/v)または20%(v/v)メタノールを含むTBS-50/350 pH8.0バッファーを新たに調製して、その日のうちに使用した。メタノールを水と混合する際に混合熱が発生するため、メタノールを含むバッファーを調製後、少なくとも1時間、室温に戻るまで静置した。様々なpHのバッファーを作製するために、以下の成分が50mMになるように、表示したpH範囲内で使用した:glycine・HCl(pH2~4);4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)ナトリウム塩(pH5~7);Tris・HCl(pH8~9);N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)ナトリウム塩(pH10~11);アルギニン・HCl(pH12~13)。いずれのバッファーも350mM NaClを含む。シェルの解離やタンパク質の変性が起こる可能性があるため、シェルを上記のバッファー中で15分間インキュベートする時間を設けてから粒度測定を行った。
【0082】
凍結融解に対する安定性を測定するために、TBS-50/350 pH8.0に溶解したシェルサンプルを薄壁PCRチューブに分注し、液体窒素で瞬間凍結した。サンプルを室温で15分間静置し、氷の結晶が見えなくなるまで解凍した後、再凍結した。
【0083】
定常状態における酵素反応速度測定
APEX2については、すべての試薬をTBS-50/350 pH8.0を用いて適切な作業濃度に調製した。10mMのグアイアコールと10mM H2O2の作業溶液は、測定当日に調製した。グアイアコール溶液は、30℃で激しく振とうして完全に溶解させた後、室温に戻した。APEX2のアッセイ濃度は10nM、H2O2は1mM、グアイアコールは0.20~2.0mMの範囲とした。反応液量は200μLとした。反応は、BioTek Synergy(商標) HT マイクロプレートリーダーを用いて、生成されたテトラグアイアコールの470nmの吸光度を指標にモニターした。テトラグアイアコールの生成速度は、90秒まで一定であった。この時点を初期速度(V0)測定とした。反応速度定数は、GraphPad Prismソフトウェアで非線形最小二乗法により、Michaelis-Menten曲線に対してフィッティングを行って求めた。
【0084】
定常状態におけるLacZの反応速度測定については、すべての試薬を、1mM MgCl2を添加したTBS-50/350 pH8.0を用いて適切な作業濃度に調製した。10mMのオルト-ニトロフェニル-β-ガラクトシド(ONPG)の作業溶液は、DMSOに溶解した50mMのストック溶液からアッセイ当日に調製した。LacZのアッセイ濃度は10nM、ONPGは0.050~1.5mMの範囲とした。反応液量は100μLとした。ONPGの加水分解は、405nmの吸光度測定により追跡した。生成物の生成速度は60秒まで一定であった。この時点をV0測定とした。
【0085】
酵素/酵素シェル活性および安定性アッセイ
すべての酵素活性測定は常温(23℃)で行い、酵素の作業濃度は10nMとした。測定は3連で行った。酵素活性は、飽和基質濃度(すなわちVmax付近)を用いた生成物形成の初期速度として決定した。APEX2の場合、飽和基質濃度は、グアイアコールが1.4mM、H2O2が1mMであった。LacZの場合、飽和基質濃度は、ONPGで1.5mMであった。
【0086】
ヒートショックアッセイでは、酵素/酵素シェルサンプルを薄壁のPCRチューブに分注し、サーモサイクラーで15分間、表示の高温に曝露した(図6B)。インキュベーション後、サンプルを20℃まで冷却し、アッセイ前に15分かけて常温に戻した。
【0087】
メタノールを含むバッファーや様々なpH条件に対する安定性を測定するために、酵素/酵素シェルサンプルを粒度測定のセクションに記載の各種バッファーで透析を行った。タンパク質の変性が起こる可能性があるため、溶液を少なくとも15分間静置してからアッセイに供した。
【0088】
凍結融解に対する安定性を測定するために、酵素/酵素シェルサンプルを薄壁PCRチューブに分注し、液体窒素で瞬間凍結した。サンプルを室温で15分間静置し、氷の結晶が見えなくなるまで解凍した後、再凍結またはアッセイに供した。
【0089】
クライオ電子顕微鏡観察および構造解析
タンパク質溶液を氷冷したTBS-50/400バッファー(Tris・HCl 50mM、NaCl 400mM、pH8.0)で0.5mg/mlの濃度に希釈した。ホーリーカーボン支持フィルム(Quantifoil)を有するR1.2/1.3とR2/2のモリブデン200グリッドにグロー放電を施し、タンパク質サンプル2.5μLを塗布した。このグリッドをLeica EM GPプランジフリーザーに移し、湿度90%で2秒間ブロットした後、液体窒素で冷却した液体エタンで瞬間凍結した。グリッドは結晶氷の形成を防ぐため、液体窒素温度で保存した。
【0090】
大阪大学蛋白質研究所所有の、200kVで動作するFEGと最小線量システムを備えたTalos(商標) Arctica Cryo-TEM(ThermoFisher Scientific)を用いて、最適なクライオ電子顕微鏡でのグリッド作製条件をスクリーニングした。画像は、露光時間33.67秒、線量約20e-/Å2、倍率92,000倍、デフォーカス値1.6~2.5μmで取得した。画像の撮影は、BM-Falcon3カメラを用い、カウントモードで、露光設定は1.1Åピクセルサイズ、フラクションは70フレーム/各画像で行った。データ収集のため、大阪大学超高圧電子顕微鏡センター(UHVEM)保有の、300kVで動作するFEGと最小線量システムを備えたTitan(商標) Krios(商標)(FEI)(ThermoFisher Scientific)を用いて、グリッドを作製し画像処理した。画像処理は、Titan(商標) Krios(商標)に付属するEPUソフトウェア(FEI)を用いて行った。画像の撮影は、公称倍率96,000倍、対物絞りを使用せず、実際のデフォーカス範囲は1.5~2.2μm、線量率は64.3~68.1e-/Å2、露光時間は1秒、1穴当たり8枚の画像取得の条件で行った。画像は、Falcon II検出器(FEI)を用いて、ピクセルサイズを0.86Å/ピクセル、フレームレートを17フレーム/各動画として撮影した。
【0091】
異なる顕微鏡セッションから約2100~2500の生動画を収集し、RELION 3.0ソフトウェアで処理した [Zivanov, J. et al., eLife 7: e42166 (2018)]。ドリフトはMotionCor2ソフトウェアでモーション補正し、各顕微鏡写真のCTFはCTFFind-4.1ソフトウェアとGctfソフトウェアで推定した [Zhang, K. J Struct Biol 193: 1-12 (2016)]。CTF推定値が良好な顕微鏡写真を選択して、さらに処理を行った。RELION 3.0を用いて、手動でシェルを選別し、300×300ピクセルのボックスサイズで抽出した。二次構造要素が明確な2Dクラスから粒子を選択した。RELION toolbox kit cylinderを用い、初期3Dリファレンスモデルを作製した。3D精密化は、20Åのローパスフィルターで溶媒平滑化を行って実施した。CTF精密化は、粒子研磨なしで行い(粒子研磨による影響なし)、最終的な3D精密化を実施した。溶媒平滑化とソフトマスクによる後処理により、タンパク質シェルの最終分解能が得られた。
【0092】
モデル構築および構造解析
五量体(PDB ID:2RCF)[Tanaka, S., et al., Science 319: 1083-1086 (2008)] と六量体(PDB ID:2EWH)[Tsai, Y. et al., PLOS Biology 5: e144 (2007)] の生物学的会合体モデルは、UCSF Chimera [Pettersen, E. F., et al., J Comput Chem 25: 1605-1612 (2004)] を用いて電子密度分布に手動でフィッティングを行った。正二十面体再構成の非対称ユニットを抽出してCOOTで再構築した [Emsley, P., et al., Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 66: 486-501 (2010)]。シェル全体のモデルは、PHENIX [Liebschner, D., et al., Acta Crys D 75: 861-877 (2019)] およびCCP4 [Winn, M. D., Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 67: 235-242 (2011)] における対称拡張および実空間精密化により得られた。
【0093】
実施例2:マイクロコンパートメントパーツのモジュール構築のための遺伝子ツールキット
Golden Gateクローニング法を用いた我々の遺伝子パーツ構築用ツールキットは、酵母の代謝工学に用いられる、公開されているYeastFabのプラスミド一式を拡張したものである [Guo, Y., et al., Nucleic Acids Res 43: e88 (2015)]。簡単に述べると、このツールキットは、プロモーター(Pro)、オープンリーディングフレーム(ORF)およびターミネーター(Ter)といった遺伝子パーツをモジュール化した、DNAを構築するための段階的アプローチである。これらのパーツをレベル0プラスミドと称する。レベル1プラスミドは、Pro-ORF-Terの連結により遺伝子発現カセットを構成している。これをPOTXプラスミドと称する(X=1~11)。レベル2プラスミドは、2つ以上の発現カセットの連結によりパスウェイ組み合わせを構成している。レベル3プラスミドは、パスウェイをゲノムの染色体に組み込むために用いられる。酵母での発現には、公開されているYeastFabツールキットのレベル0とレベル1のプラスミドを用いたが、レベル2とレベル3のプラスミドは、より我々の要求に合致するように独自に開発した。大腸菌での発現には、YeastFabのレベル0プラスミドをそのまま用いたが、レベル1とレベル2のプラスミドは独自に開発した。大腸菌用のレベル3(ゲノムへの組み込み用)プラスミドの開発は行わなかった。
【0094】
HcKan_P、HcKan_OおよびHcKan_Tと名付たレベル0プラスミドは、表3に示すように、大腸菌と酵母の両方で、それぞれPro、ORFおよびTerのパートの維持に用いられる。
【表3】
【0095】
レベル1プラスミドは、大腸菌でのタンパク質発現に合わせて、宿主細胞に不要な負担をかける遺伝要素をPOTXプラスミドから取り除くことで変更を加えた。転写調節単位(TU)の維持に必要な最小限の遺伝要素を含む大腸菌用レベル1プラスミドをpESN(N=1~7)と称する(図2A)。POTXプラスミドまたはpESNプラスミドから複数のPro-ORF-Terを作製するために、酵母用と大腸菌用に設計されたレベル2プラスミドとしてpCKU(配列番号74)とpCKH(配列番号63)(図2B)を開発した。プラスミドを用いた酵母での発現は、栄養選択に基づくもので、用途に合わせて処方された増殖培地が必要である。この増殖培地に遺伝子組換え酵母が必要とする主要な栄養素は含まれていないが、プラスミド上の遺伝子にコードされるタンパク質によって、この栄養素は生成される。pCKU上では、遺伝子産物であるUra3pがウラシルを生成する。この合成培地は高価($SGD 30/L)であるため、我々は、より安価($SGD 5/L)な非合成培地(酵母-ペプトン-デキストロース)で酵母株がパスウェイタンパク質を発現できるように、酵母ゲノムの染色体にパスウェイを組み込むことを考えた。そこで、パスウェイを挟むホモロジーサイトを酵母に導入するためのプラスミドpGAU-YMRWδ15(配列番号75)を開発した。酵母の内在性の相同組換え機構を利用して、酵母の染色体のYMRWδ15部位に目的のパスウェイを挿入することにより、パスウェイ上のタンパク質を選択の必要なく発現させることが可能である。大腸菌でのパスウェイ発現については、この時点では必要ないと考えている。これは、通常、菌体内でのプラスミド選択は、非合成培地(LBやTB)に適切な抗生物質(この場合はカナマイシン)を添加したものを用いて行うからである。
【0096】
また、HcKan_Oプラスミドに変更を加えて、ORFのアミノ末端またはカルボキシ末端に蛍光タンパク質(FP)、生化学的/親和性タグまたは内包化誘導ペプチドを挿入した(図2CおよびD)。
【0097】
mTurquoise2(mT2)、monomeric-enhanced GFP(meGFP)、monomeric Kusabira orange-kappa(mKOκ)、mCherry(mCh)の4種類のFPは、単量体挙動を示すことが知られており、これにより、融合産物の凝集によるアーチファクトを減らすことができる。改変HcKan_Oプラスミドの一例として、ORFのC末端にmCherryタグが付加されたHcKan_O-CmCherry(配列番号28)が挙げられる。また、アフィニティータグとして、ヘキサヒスチジン(His6)タグとStrep-tag II(SII)タグを導入することで、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)またはStrep-Tactinによるタンパク質精製が可能になる。改変HcKan_Oプラスミドの例として、ORFのC末端にHis6タグが付加されたHcKan_O-CHis6(配列番号32)、およびORFのC末端にStrep-Tag IIタグが付加されたHcKan_O-CSII(配列番号31)が挙げられる。
【0098】
その他のタグとしては、SpyCatcher/SpyTag(ST/SC)の組み合わせ(配列番号13および16)、およびCC-Di-A/CC-Di-B(CCA/CCB)の組み合わせ(配列番号17~20)が挙げられる。改変HcKan_Oプラスミドの例として、ORFのC末端にSpyCatcherが付加されたHcKan_O-CSpyCatcher(配列番号37);ORFのC末端にSpyTagが付加されたHcKan_O-CSpyTag(配列番号38);ORFのC末端にコイルドコイル二量体Aが付加されたHcKan_O-CCCDiA(配列番号35);およびORFのC末端にコイルドコイル二量体Bが付加されたHcKan_O-CCCDiB(配列番号36)が挙げられる。SIIタグ(配列番号21および22)は、タンパク質やタンパク質複合体の精製に広く使用されており、ST/SCおよびCCA/CCBの組み合わせは、VLPやその他のタンパク質ナノ構造体の機能化に使用されている [Fletcher, J. M. et al., Science 340: 595-599 (2013); Keeble, A. H., & Howarth, M. Methods in Enzymology, 617, 443-461(2019)]。SpyCatcher(配列番号13および14)が付加されたタンパク質は、SpyTag(配列番号15および16)が付加された別のタンパク質と共有結合によりイソアミド結合を形成し、CC-Di-A(配列番号17および18)が付加されたタンパク質は、CC-Di-B(配列番号19および20)が付加された別のタンパク質との間に強い分子間相互作用(解離定数、Kd=約1nM)が生じる [Thomas, F., et al., Journal of the American Chemical Society 135: 5161-5166, (2013)]。SC/STまたはCCA/CCBの組み合わせのそれぞれ一方をVLPの表面に導入することで、対応する組み合わせのもう一方が付加されたゲストタンパク質をシェル表面に結合させることができる。
【0099】
シェルプロトマーの細胞内化学量論的制御は、BMCシェルの形成の可否に重要であることが知られている [Kerfeld, C. A., et al., Nature Reviews Microbiology 16: 277 (2018)]。各構成要素の発現を調整するために、Anderson collectionから入手した5つの構成的活性プロモーターをHcKan_Pに組み込んだ(表4) [Anderson, J. C. Anderson Promoter Library Registry of Standard Biological Parts (2006)]。
【表4】
【0100】
これらのプロモーターは、簡略化するために、PCON1~PCON5と名付け、PCON2が最も強力なプロモーターであり、PCON5が最も弱いプロモーターである。PCON2~PCON5の配列(配列番号84、77、78および24)は、それぞれ配列番号83および40~42内で小文字で表示されている。また、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を誘導因子として添加して遺伝子を誘導発現するために、T7プロモーター(PT7;配列番号23)を、lacIリプレッサー配列およびlacオペレーター配列(LacI+PT7)と共に組み込んだ。転写の停止には、すべてのTUでT7ターミネーター(TT7)を使用した。このマルチモノシストロン性のDNA構築システムを用いることにより、BMCの構成要素の発現レベルをpESNプラスミドで調整することができる(表5)。
【表5】
【0101】
Cso-BMCにカーゴを封入するために、内包化誘導ペプチド(EP)配列(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG;配列番号1)を同定し、S2CPと名付けた。S2CPを介して、簡素化カルボキシソームにタンパク質カーゴが封入される。ORFのC末端にS2CPを付加した改変HcKan_Oプラスミドの例として、HcKan_O-S2CP(配列番号39)が挙げられる。S2CPをEPとして同定した詳細については後述する。HO-BMCへのカーゴの封入については、既報のHO-BMC用EPは、大腸菌を組換え宿主とした場合に機能することが報告されているが、酵母では機能しないことを我々は確認している [Lassila, J. K., et al., Journal of molecular biology 426: 2217-2228 (2014)]。大腸菌でCso-BMCを作製するために用いたパスウェイと酵母でHO-BMCを発現させるために用いたHO-ACBパスウェイの合成オペロンの模式図を図3に示す。
【0102】
Golden Gate法によるプラスミドのワンポット構築は、既報のプロトコルに若干の変更を加えて行った [Guo, Y., et al., Nucleic Acids Research, 43(13), e88 (2015)]。1~3つの断片を挿入するために、1つの反応ポットにT4リガーゼバッファー(NEB)1μL、10x精製ウシ血清アルブミン(BSA、NEB)0.5μL、BsaI(レベル0とレベル2の作製の場合)またはEsp3I(レベル1の作製の場合)5U、T4リガーゼ(Thermo)10U、目的プラスミド20ngおよび1~3μLの挿入断片を準備し、水を加えて10μLとした。使用した酵素とBSAはすべてNew England Biolabs(NEB)から入手した。この反応ポットを37℃~18℃の熱サイクルにかけ、各ステップで5分間のインキュベーションを70サイクル行った後、55℃で15分間処理した。プラスミドで大腸菌Acella(DE3)株(EdgeBio)を形質転換し、サンガー法により配列を確認した。
【0103】
プラスミドによる形質転換および酵母の染色体への遺伝子の組み込みは、Schiestlらの文献に記載の高効率酢酸リチウム/一本鎖DNA/PEG-3350プロトコルに従って行った [Gietz, R. D. and Schiestl, R. H. Nature Protocols 2: 31 (2007)]。
【0104】
実施例3:Cso系を標的とするターゲティングペプチドの同定
BMCを細胞内ナノリアクターとして利用するための重要な戦略の1つは、EPをカーゴに付加することによって、異種酵素をシェル内に封入することである。いくつかのBMC系ではEP配列の同定や特性評価が行われているが、α-カルボキシソームではこのような配列についての報告はない [Kerfeld, C. A., et al., Nature Reviews: Microbiology, 16, 277 (2018)]。CsoS2にEP配列が存在することが示唆されている [Oltrogge, L. M., et al., Nature Structural & Molecular Biology 27: 281-287 (2020)]。CsoS2に関する研究結果から、CsoS2はN末端を介してカーゴを内腔側に集め、C末端がシェルタンパク質に固定されることで、カルボキシソームの形成が開始されることが示唆されている [Oltrogge, L. M., et al., Nature Structural & Molecular Biology 27: 281-287 (2020)]。100種類のCsoS2の相同分子種の多重配列アライメントにより、C末端領域は、特に末端の複数の残基で高度に保存されていることが分かった(図4A)。これは機能的に重要であることを示唆している。そこで、H. neapolitanusのCsoS2の末端24残基(SKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG;配列番号1)の機能を調べることにし、CsoS2のC末端ペプチドの略称を「S2CP」とした。S2CPペプチドをコードする核酸配列は、配列番号7に記載されている。また、S2CPの少し長いバリアントについて、異種タンパク質カーゴに付加しても過剰に嵩高くならず、より高い封入効果が得られるかどうかも検討した。そのため、H. neapolitanus CsoS2の末端30残基(KPEKPGSKITGSSGNDTQGSLITYSGGARG:配列番号94)を内包化誘導ペプチドバリアントとして選別し、これを「S2CP(30)」と名付けた。S2CP(30)ペプチドをコードする核酸配列は、配列番号95に記載されている。
【0105】
S2CPが付加された外来のタンパク質カーゴが、シェルタンパク質BMC-H、BMC-T、BMC-Pの代表的な例であるCsoS1A、CsoS1D、CsoS4Aと相互作用可能であるかをプルダウンアッセイで調べた。pES2-PCON4-His6-meGFP-S2CP-TT7を作製して、His6-meGFP-S2CPを精製し、PT7を用いてCsoS1A-SII、SII-CsoS1DまたはCsoS4A-SIIを発現させた大腸菌溶解液とインキュベートした。ネガティブコントロールとして、精製したHis6-meGFPを同様にシェルタンパク質含有溶解液とインキュベートした。混合物をStrep-Tactinによる精製に供し、6種類の混合物のそれぞれの精製画分にGFPが存在するかどうかをウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、His6-meGFP-S2CPは、CsoS1A-SIIと共に溶出したが、SII-CsoS1DやCsoS4A-SIIとは一緒に溶出しなかった(図4B)。また、His6-meGFPは、CsoS1A-SII、SII-CsoS1D、CsoS4A-SIIのいずれとも一緒に溶出しなかった。このことから、His6-meGFPとCsoS1Aとの相互作用にS2CPが必要であることが分かった。以前の報告では、全長のCsoS2がCsoS1Aと相互作用することが示されていたが(Cai et al., 2015)、我々はCsoS2の末端24残基だけで相互作用に十分であることを明らかにした。S2CPがα-カルボキシソームの主要なシェルモジュールであるCsoS1Aと会合することで、このペプチド配列による、タンパク質カーゴのシェル複合体へのターゲティングが可能になると考えられる。しかし、この結果だけでは、S2CPがカーゴのシェル内への封入を媒介しているのか、それとも単にシェル周辺にカーゴを誘導しているのか、判断することができない。
【0106】
実施例4:簡素化α-カルボキシソームシェルの組換え形成
Cso系の構成要素間の相互作用を調べ、各構成要素の構造に関する知識に基づいて簡素化したマイクロコンパートメントシェルを構築することを試みた。この試みは、FPとシェル構成要素およびFPとS2CPのそれぞれの翻訳融合体をタンパク質間相互作用のプローブとして用いる方法で行った。HcKan_O-FPプラスミドを用いて、4種類のFP(mTurquoise2、meGFP、mKOκ、mCherry)をCsoS4Aのアミノ末端およびカルボキシ末端に融合させ、pES6プラスミドからPCON5プロモーターを用いて大腸菌内でハイブリッドタンパク質を発現させた。CsoS4A-mCherryのみ、細胞質内にほぼ均質に分布していることが確認された(図8A)。その他の融合産物はそれぞれ程度の差はあるものの凝集しており(データは示さず)、プローブとして利用するには理想的とは言えなかった。よって、CsoS4A-mCherryをシェル構成要素プローブとして選択した。また、PCON4を用いてpES2プラスミドでmeGFP-S2CPを発現させたところ、タンパク質は概ね細胞質内に分散していることが確認された(図8B)。
【0107】
シェル(CsoS4A-mCherry)プローブとターゲティングペプチド(meGFP-S2CP)プローブを作製することができたため、次に、パスウェイプラスミドpCKH-Cso-PmChTHCを用いて、これらのプローブと共にCsoS1DとCsoS1Aを発現させた(図5A、表6)。
【表6】
【0108】
我々のパスウェイ命名法では、PmChは、mCherryと融合した五量体のシェルタンパク質(CsoS4A)、Tは三量体(CsoS1D)、Hは六量体(CsoS1A)、Cはカーゴ(meGFP-S2CP)を表す。これら4つの成分を発現する細胞において、IPTGを最終濃度50μMで添加することにより、CsoS4A-mCherryとmeGFP-S2CPが共に局在化することが確認された(図5B)。Manders共局在係数(MCC)[tM1、tM2]を用いて共局在の程度を定量化した。tM1は赤色信号のある領域で確認された緑色信号の割合であり、tM2は緑色信号のある領域で確認された赤色信号の割合である [Dunn, K. W., et al., American Journal of Physiology-Cell Physiology 300: C723-C742 (2011)]。使用した細胞でのMCC値は[0.688、0.758]であり、共局在するプローブが相当な割合で存在することが示唆された。
【0109】
さらに、確認された蛍光焦点が、精製可能なタンパク質会合体を示すものであるかどうかを調べた。2つの精製方法を試みた。1つの方法は、Cso-PmChTHCを発現する大腸菌の溶解液を純粋なCsoS4A-SIIとインキュベートして、Strep-Tactinで精製する方法である。もう1つの方法は、Cso-PmChTHCパスウェイにおいてCsoS4A-mCherryをCsoS4A-SIIに置き換え、新たなパスウェイ、Cso-PSIITHCを作製する方法である。Strep-Tactinにより精製したタンパク質を、Q Sepharoseを用いた陰イオン交換イオンクロマトグラフィー(AIEX)でさらに精製を行った。いずれの精製方法でも、AIEXのクロマトグラムでは0.3Mと0.4MのNaClで2つの溶出ピークが認められた(図9A-B)。両ピークの画分を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、0.4M NaCl溶出画分には直径約20nmのカプシド様構造が多数見られたが(図5A-B)、0.3M NaCl溶出画分ではその数は顕著に少なかった(図9A-B)。このことから、カプシド様構造は0.4M NaClで主に溶出するが、0.3M NaCl画分においても、2つのピークの重なりにより、一部が観察されたと考えられる。また、CsoS4A-SII単独で同じAIEXを行った場合、0.3M NaClで1つの溶出ピークが見られることも確認した(図9C)。よって、Cso-PmChTHCとCso-PSIITHCで観察された0.3M NaClのピークは、シェル内に取り込まれていないCsoS4A-SIIに相当すると考えられる。
【0110】
CsoS2は、そのC末端を介してシェルタンパク質を集めることで、α-カルボキシソームの形成に重要な役割を果たすことが示唆されている [Oltrogge, L. M., et al., Nature Structural & Molecular Biology 27: 281-287 (2020)]。Cso-PmChTHCとCso-PSIITHCの構築物では、CsoS2の末端24残基(S2CP;配列番号1)がシェルの形成を補助している可能性が考えられた。我々は、S2CPがα-カルボキシソーム構成要素によるシェルの形成に必須であるかどうかを調べることにした。そこで、S2CPを欠損したパスウェイCso-PSIITHを構築した。Cso-PSIITHの組み合わせでは、Cso-PmChTHCやCso-PSIITHCと同様のAIEXクロマトグラム(図10A)が得られるだけでなく、Cso-PmChTHCやCso-PSIITHCで生成されるものと区別できないカプシド様構造体が確認された。また、この構造は、やはり0.3M NaCl画分よりも0.4M NaCl画分で多く見られた(図5C:0.4M NaCl、図10B:0.3M NaCl)。これらの結果から、観察されたタンパク質シェルの形成にS2CPが不要であることが分かった。
【0111】
次に、シェルの形成に必要な最小限の構成要素を明らかにすることを試みた。CsoS1AとCsoS1Dは同じタンパク質ドメインを構成していることから、それぞれ異なるタンパク質ドメインを構成しているCsoS1AとCsoS4Aだけでタンパク質シェルを構築できるかどうか検討した。CsoS1AとCsoS4A-SIIを発現する新たなパスウェイ組み合わせとして、Cso-PSIIHを構築し(pCKH-Cso-BMC;配列番号64)、これまでと同様にタンパク質を精製した(図11A)。この場合も、前述のパスウェイ組み合わせで精製したものに類似したカプシド様構造体が確認された(図11B:0.3M NaCl画分、図5D:0.4M NaCl画分)。CsoS1A-SII単独では、カプシド様構造体の形成は確認されなかった(図11C)。また、CsoS1AとCsoS1Dを共発現させるコンストラクトや、CsoS1DとCsoS4Aを共発現させるコンストラクトでは、タンパク質シェルを作ることはできなかった(図11D-E)。これらの結果から、CsoS1AとCsoS4Aがカプシド様シェルの形成に必要十分な構成要素であることが分かった。
【0112】
実施例5:S2CPにより、カーゴが簡素化カルボキシソームシェルの内腔にターゲティングされる
S2CPによって、カーゴが簡素化カルボキシソームシェルの内腔にターゲティングされるかどうか確認するために、大腸菌UmuDのN末端分解タグ(アミノ酸配列1~40番目)をmeGFP-S2CPのアミノ末端に融合させた [Neher, S. B. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 100: 13219-13224 (2003)]。プラスミドpCKH-Cso-PSIITHCU,S2CPを構築し、UmuD1-40-meGFP-S2CPをCsoS1A、CsoS1DおよびCsoS4Aと共発現させた。S2CPによってUmuD1-40-meGFPがカルボキシソーム内にターゲティングされれば、UmuD1-40-meGFP-S2CP(配列番号49)は、UmuDのN末端領域が付加されたタンパク質を認識し分解する内因性のClpXPプロテアーゼによるタンパク質分解を防げると仮定した(図6A)。一方、S2CPによってカーゴがシェル外面にのみにターゲティングされた場合、UmuD1-40-meGFP-S2CPはClpXPと接触して分解されることになる。同様のコンストラクトであるpCKH-Cso-PSIITHCUは、UmuD1-40-meGFPにS2CPが存在しないことが唯一の違いであり、シェルによるUmuD1-40-meGFPの確率論的な封入を説明するために用意した。ウェスタンブロッティングにより、GFPの検出を行った(図6D)。Cso-PSIITHCU,S2CPの精製タンパク質に対応するレーンでは、UmuD1-40-meGFP-S2CPが検出された。同量(280nmの吸光度により決定)をロードしたCso-PSIITHCUの精製タンパク質に対応するレーンでは、UmuD1-40-meGFP(配列番号52)は検出されなかった。さらなる確認として、両方のパスウェイ組み合わせのそれぞれの溶出画分を分析したところ、同様のタンパク質シェルが確認された(図6C-D)。このことから、UmuD1-40-meGFPがタンパク質分解を免れたのは、S2CPを介したシェルへの封入によるものである可能性が高いことが分かった。
【0113】
実施例6:簡素化α-カルボキシソームシェルの原子モデル
簡素化α-カルボキシソームの分子構造をより深く理解するために、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いてCso-PSIITHC、Cso-PSIITHおよびCso-PSIIHのほぼ原子レベルのモデルを取得した。Cso-PSIITHCでは、正二十面体カプシドの三角形分割数T=3とT=4に対応する、2つの異なるシェルサイズが確認された。2つのシェルモデルは、それぞれ3.24Åと2.90Åの分解能で得られた。Cso-PSIITHとCso-PSIIHでは、T=3シェルのみが見られ、それぞれ3.35Åと3.14Åの分解能で構造が得られた。Cso-PSIITHCで観察されたT=3シェルの割合は14.6%であり、T=4シェルの割合は85.4%であった。H. neapolitanusのCsoS1A(PDB:2EWH)とCsoS4A(PDB:2RCF)の既報のX線結晶構造をモデルフィッティングに使用した [Tanaka, S. et al., Science 319: 1083-1086 (2008); Tsai, Y. et al., PLOS Biology 5: e144 (2007)]。H. neapolitanusのCsoS1Dは、60%の残基が同一であるProchlorococcus marinus MED4のCsoS1Dの構造から推測されるように、三量体が二層に積み重なった構造を形成していると予想される [Klein, M. G., et al., Journal of Molecular Biology 392: 319-333 (2009)]。しかし、Cso-PSIITHCとCso-PSIITHの電子密度マップでは二層の積み重なり構造を確認することができず、CsoS1Dがこれらのシェルに取り込まれていないことが示唆された。また、Cso-PSIITHCから精製したシェルの内腔のmeGFP-S2CPカーゴの存在を示す電子密度も検出されなかった。しかし、計算機による研究では、シェルプロトマーとカーゴの相互作用がシェルのサイズや形状に影響を与えることが示唆されており、Cso-PSIITHCにのみ見られるT=4シェルの形成はカーゴの封入に影響を受け、カーゴを含まないシェルは小さなT=3形態として形成されるという可能性が考えられる。
【0114】
T=3のシェルモデルを得るために使用した3つのパスウェイ組み合わせに大きな差はなかったため、Cso-PSIITHCで生成されたシェルに着目し、モデル構築と精密化を行った(表7)。
【表7】
【0115】
T=3シェルは、CsoS4Aの12個のホモ五量体とCsoS1Aの20個のホモ六量体を含み、外径は217Å、計算上の分子量は1.7MDaである(図7A)。T=4シェルは、12個のホモ五量体と30個のホモ六量体を含み、外径は247Å、分子量は2.3MDaである(図7B)。いずれのシェルタイプも、他の点についてはほぼ類似している。CsoS1AとCsoS4Aは、N末端とC末端が存在する凹面がシェル外側に面している(図7A)。
【0116】
実施例7:Cso-BMCにおけるS2CPおよびS2CP(30)の封入効率の決定
Cso-BMCのシェル構造を用いて、UmuD1-40-GFP-S2CPとUmuD1-40-GFP-S2CP(30)の平均コピー数をGFP蛍光により定量した。クライオ電子顕微鏡観察結果に基づき、シェル分子量に関するすべての計算において、カーゴと共発現するすべてのシェルはT=3とT=4の形態の混合物であると推定した。シェル形態の比率はサンプルによって異なる可能性があるため、サンプル内のすべてのシェルがT=3または4であると仮定して計算した2つの値を示す。UmuD1-40-GFP-S2CPの1.6~1.7コピーに対し、UmuD1-40-GFP-S2CP(30)はシェルあたり平均7.7~8.0コピーが封入されていることが確認された。UmuD1-40-GFP-S2CPとUmuD1-40-GFP-S2CP(30)のいずれかを封入したCso-PSIIHシェルのデンシトメトリー分析結果からも、UmuD1-40-GFP-S2CPと比較してシェル内に約4倍の量のUmuD1-40-GFP-S2CP(30)が存在することが示された(図16)。したがって、S2CP(30)は、S2CPよりも効率の良い内包化誘導ペプチドである。
【表8-1】
【0117】
実施例8:Cso-BMCを用いた酵素活性の安定化
タンパク質シェルは、加熱や凍結などの物理的刺激、または有機共溶媒の存在や非生理的pHなどの化学的刺激に対して、酵素を安定化させるプラットフォームとして注目されている [Demchuk & Patel, Biotechnology Advances, 41: 107547 (2020); Silva, C., et al., Critical Reviews in Biotechnology, 38(3): 335-350 (2018)]。多くの場合、酵素を閉じ込めることで、酵素の構造的な柔軟性が抑えられ、それにより、変性の原因となる構造変化に対する安定性が得られることがある [Das, Zhao, (2020) Biochemistry, 59(31): 2870-2881; Kuchler, et al., Nature Nanotechnology, 11(5): 409-420 (2016)]。現在、ホモ多量体のタンパク質シェルは、酵素の保持体(host)として定着しつつある。その理由は、形成が比較的容易で、粒子サイズが均一であるため、遺伝子組換え操作時の予測可能性が高く、扱いやすいためである [Patterson, D. P., Prevelige, P. E., & Douglas, T. (2012). ACS Nano, 6(6): 5000-5009; Patterson, D. P., Schwarz, B., El-Boubbou, K., van der Oost, J., Prevelige, P. E., & Douglas, T. (2012). Soft Matter, 8(39): 10158-10166; Sanchez-Sanchez et al., Journal of Nanobiotechnology 13(1): 66 (2015); Tan, Xue, & Yew, Molecules 26(5): 1389 (2021)]。最小限の構成を有するBMC由来のシェルは、ヘテロ多量体で組成されていることから、酵素を保持するための足場としては新規なものとなる。このシェルは、目的に応じて変更を加える手段をより多く提供できると同時に、粒子サイズも概ね均一であるため、予測可能性が良好で、遺伝子組換え操作が容易である [Turmo, A., Gonzalez-Esquer, C. R., & Kerfeld, C. A. FEMS Microbiology Letters, 364(18): fnx176 (2017)]。しかし、最小限の構成を有するBMC由来のシェルの、異種酵素の保持体としての可能性についてはまだ検討されていない [Cai, F., Bernstein, S. L., Wilson, S. C. & Kerfeld, C. A. Plant Physiol 170: 1868-1877 (2016); Hagen, A., et al., Nature Communications 9: 2881, (2018)]。そこで、Cso-BMCが酵素を保持し、安定化させることができるかどうかを検討することにした。まず、空のCso-BMC(Cso-PSIIH)を用いて、ヒートショック、凍結、メタノール共溶媒の存在、およびpH2~13の環境に対する安定性の試験を行った。これらの条件下に置かれたシェルのDLSスペクトルを、Tris・HCl-50/350(Tris・HCl 50mM、pH8.0、NaCl 350mM)中のシェルのスペクトルと比較した。粒度分布の顕著な変化および/または複数のピークの出現から、タンパク質シェルが分解されたことが示唆された [Yu, Z., Reid, J. C., & Yang, Y.-P. Journal of Pharmaceutical Sciences 102(12): 4284-4290 (2013)]。試験で用いた条件から、Cso-BMCは、70℃で15分間まで、メタノール濃度20%v/vまで、凍結融解7回連続まで、pH5~11の範囲で安定であると考えられた(図17)。
【0118】
分子サイズが大きく異なる酵素に対するCso-BMCの封入能力を調べるために、封入する酵素として、27.0kDaの単量体である進化型エンドウマメ細胞質型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APEX2) [Lam et al., Nature Methods 12(1): 51-54 (2015)] と466.0kDaのホモ四量体である大腸菌β-ガラクトシダーゼ(LacZ)を選択した [Golan, et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics, 1293(2): 238-242; Lam et al., Nature Methods 12(1): 51-54 (2015)]。S2CP(30)はS2CPよりも組換えタンパク質の封入を媒介する効果が高いことが判明したため、各酵素が封入されるように、S2CP(30)を各酵素のC末端に融合させた。各酵素のN末端にはヘキサヒスチジン(His6)タグを付加し、シェルと一緒に精製される可能性のある未封入の酵素を下流で除去できるようにした (Nichols, Kennedy, & Tullman-Ercek, 2019)。各酵素を共発現させたCso-PSIIHシェルを作製し、精製した。SDS-PAGE分析およびウェスタンブロッティングにより、シェルサンプル中の標的酵素の存在が確認され(図18A-B)、クマシーブルー染色によるデンシトメトリー分析により、シェルあたりの各酵素の平均コピー数を推定した(表8) [Hagen, A., et al., Nature Communications 9: 2881 (2018); Nichols et al., Methods in Enzymology, 617, 155-186 (2019)]。上記の酵素の封入は、Cso-BMCのサイズや形態に大きな影響を与えないと考えられる(図18C-E)。
【0119】
酵素をタンパク質シェルに封入することで、酵素の触媒特性が変化する場合があることが知られている。Cso-BMCによる封入がAPEX2とLacZの触媒効率にどのような影響を与えるかを調べるため、遊離酵素と封入された酵素の定常状態での反応速度測定を行い、データをMichaelis-Mentenモデルにフィッティングさせてターンオーバー数(kcat)、Michaelis-Menten定数(KM)および触媒効率(kcat/KM)を求めた(表8、図19)。封入されたAPEX2の場合、kcat/KMは遊離酵素の約30%であった。一方、封入されたLacZの場合、kcat/KMは遊離酵素と有意差はなかった。いずれの遊離酵素についても、得られた反応速度定数kcatおよびKMは、これまでの研究結果とほぼ一致しており、S2CP(30)の存在は、遊離酵素の活性に影響を与えないことが示唆された [Juers, Hakda, Matthews, & Huber, Biochemistry, 42(46), 13505-13511 (2003); Lam et al., Nature Methods 12(1): 51-54 (2015)]。
【0120】
遊離酵素とシェルに封入された酵素のサンプルを、空のシェルが安定であることが確認されている前述の条件下に置いて、Cso-BMCによる酵素を安定化させる効果があるかどうか調べた。酵素活性は、各条件負荷前のサンプルの活性を基準にして残存活性として求めたものである(図20)。Cso-BMCの両酵素に対する熱安定性効果は、いずれも中程度であった。封入された酵素は、40℃で15分間インキュベートした時点で約90%の活性を維持していたが、遊離酵素は40%の活性維持にとどまっていた。50℃では、封入されたAPEX2は約半分の活性を維持していたが、遊離酵素は実質的に不活性であった。一方、封入されたLacZの活性は、50℃で遊離酵素よりわずかに高いだけであった。60℃以上では、いずれの酵素サンプルも不活性であった。Cso-BMCは、20%v/vのメタノール濃度まではAPEX2を保護する効果があることが分かった。一方、メタノール中の遊離LacZと封入されたLacZでは、いずれも活性の上昇が見られた。40%v/vのメタノールの濃度までは、LacZは変性せず、むしろ活性が向上することが報告されている [Shifrin & Hunn, Archives of Biochemistry and Biophysics, 130, 530-535 (1969)]。したがって、Cso-BMCがメタノールに対してLacZを安定化させたとは考えにくかった。凍結融解に対する安定性については、連続7サイクルまで、Cso-BMCはいずれの酵素種も安定化させることが分かった。
【0121】
封入された酵素は、Cso-BMC内でpH10~11で高い活性を示したが、pH5~6では低い活性を示した。このことから、Cso-BMC内の酸性微小環境によって、封入された酵素のpH-活性プロファイルは遊離酵素よりアルカリ側にシフトした可能性があると考えられた。陰イオン性足場がpH依存性の酵素活性に影響を与えることは、合成マレイン酸ポリマー足場のトリプシンやキモトリプシンへの影響や、さらに最近では、DNAポリリン酸骨格のグルコース酸化酵素-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(GOx-HRP)カスケードへの影響などから確認されている [Goldstein, Biochemistry 11(22): 4072-4084 (1972); Goldstein, Levin, & Katchalski, Biochemistry, 3(12): 1913-1919 (1964); Zhang, Tsitkov, & Hess, Nature Communications, 7(1): 13982 (2016)]。
【0122】
これまでのところ、Cso-BMCは、最小限の構成を有するBMC由来のシェルの中では、内包化誘導ペプチドを介して最も多くの量の異種カーゴを担持できると考えられる。このようなシェルに内包化誘導ペプチドを使用することは、これまでほとんど効果がなく、クマシーブルー染色ではカーゴを検出できないことが多かったため、イムノブロッティングや蛍光などを用いた、より感度の高い方法が必要であった [Cai, F., et al., Plant Physiol 170: 1868-1877 (2016); Hagen, A., et al., Nature Communications 9: 2881 (2018); Lassila, Bernstein, Kinney, Axen, & Kerfeld, (2014)]。一方、Cso-BMCとS2CP(30)を用いた系では、試験に用いた3種類の異種タンパク質カーゴ(GFP、APEX2、LacZ)すべてをクマシーブルー染色ゲルで明確に確認することができた(図16および図18)。
【表8-2】
【0123】
実施例9:サッカロマイセス・セレビシエにおけるHO-BMC VLPの生産
Golden Gateクローニングシステム
HO-BMC VLPを発現するコンストラクトは、表3、図2および図3に記載の構成要素で構成されており、実施例2に記載の方法に従って構築した。以下、簡潔に述べる。酵母プロモーターPTDH3をHcKan_Pにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_P-TDH3(配列番号65)と名付けた。酵母プロモーターPYEF3をHcKan_Pにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_P-YEF3(配列番号66)と名付けた。酵母プロモーターPPYK1をHcKan_Pにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_P-PYK1(配列番号67)と名付けた。酵母プロモーターPGPM1をHcKan_Pにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_P-GPM1(配列番号115)と名付けた。
【0124】
HO-H ORFをHcKan_Oにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_O-HO-H(配列番号68)と名付けた。HO-P ORFをHcKan_Oにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_O-HO-P(配列番号69)と名付けた。HO-T1 ORFをHcKan_Oにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_O-HO-T1(配列番号70)と名付けた。HO-T1-SpyTag ORFをHcKan_Oにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_O-HO-T1-SpyTag(配列番号116)と名付けた。
【0125】
酵母ターミネーターTRPL41B(配列番号80)をHcKan_Tにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_T-RPL41B(配列番号71)と名付けた。酵母ターミネーターTHBT1(配列番号81)をHcKan_Tにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_T-HBT1(配列番号72)と名付けた。酵母ターミネーターTRPS20(配列番号82)をHcKan_Tにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_T-RPS20(配列番号73)と名付けた。酵母ターミネーターTYPT31(配列番号105)をHcKan_Tにクローニングし、得られたプラスミドをHcKan_T-YPT31(配列番号119)と名付けた。
【0126】
上記のプロモーター部分、ORF部分およびターミネーター部分を、パスウェイ構築プラスミドであるpCKU(配列番号74)に組み込んだ。次に、構築したHO-BMCパスウェイを、酵母の染色体のYMRWδ15部位に組み込むために、pGAU-YMRWδ15(配列番号75)へサブクローニングした。酵母のYMRWδ15部位へのHO-BMCパスウェイの組み込みに用いるHO-BMCを含むコンストラクトは、pGAU-YMRWδ15-HO-BMC(配列番号76)と名付けた。酵母のYPRCδ15部位へのGFP-SpyCatcherの組み込みに用いるPGPM1-GFP-SpyCatcher-TRPS20を含むコンストラクトは、pGAH-YPRCδ15-GFP-SpyCatcher(配列番号121)と名付けた。
【0127】
プラスミドによる形質転換および酵母の染色体への遺伝子の組み込みは、Schiestlらの文献に記載の高効率酢酸リチウム/一本鎖DNA/PEG-3350プロトコルに従って行った [Gietz, R. D. and Schiestl, R. H. Nature Protocols 2: 31 (2007)]。
【0128】
HO-BMCへのカーゴの封入については、HO-BMC用EPは、大腸菌を組換え宿主とした場合に機能することが報告されているが、酵母では機能しないことを我々は確認している [Lassila, J. K. et al., Journal of Molecular Biology 426: 2217-2228 (2014)]。そこで、SpyCatcher/SpyTagタンパク質結合システムを用いて、HOシェルにカーゴを封入する方法を採用した [Hagen, A., et al., Nature Communications 9: 2881 (2018)]。この方法は、HO-T1のシェルに面したペプチドループにSpyTag配列を導入するものである。この改変HO-T1サブユニットをHO-T1-SpyTagと称する。したがって、SpyCatcherドメインと融合したカーゴタンパク質は、HO-T1-SpyTagと共有結合によりイソペプチド結合を形成し、HOシェル内に封入される。酵母のHOシェルを構成する転写調節単位を表9に、HOシェルパスウェイを発現する酵母菌株を表10にまとめた。大腸菌でCso-BMCを作製するために用いたパスウェイと酵母でHO-BMCを発現させるために用いたHO-ACBパスウェイの合成オペロンの模式図を図3に示す。
【表9】
【表10】
【0129】
VLPの精製
酵母細胞を8LのYPD(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%、BioBasic)で25℃、48時間培養後、ペレット状にし、M-110Pマイクロフルイダイザー(20,000psiで8回)を用いて溶解した。溶解液を20,000xgで20分間ずつ2回遠心し、清澄化した溶解液を1M Tris・HCl pH12でpH8に調整した。さらに、この溶解液に300μLのビオチンブロッキングバッファー(IBA Lifesciences)を加え、緩やかに撹拌しながら15分間インキュベートした。StrepTrapアフィニティー精製は、上記と同様の方法で行った。
【0130】
結果:
Cso-BMCおよびHO-BMCの精製
構築した合成オペロン(図3)を用いて、大腸菌からCso-BMCを、酵母からHO-BMCを精製した。本発明者らの知る限り、これは、H. neapolitanusのcsoオペロンから2種類の構成要素のみを用いて組換えタンパク質シェルを作製した初めての例である。Silverと共同研究者は、H. neapolitanusのカルボキシソームを大腸菌で作製したことを報告しているが、これは10種類の遺伝子をコードするcsoオペロン全体を大腸菌に移入して行ったものである [Bonacci, W. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 109: 478-483 (2012)]。我々のシステムでは、csoS1AとcsoS4Aという2種類の遺伝子のみを用いてタンパク質シェルを形成するという形に簡素化している。CsoS1Aが六量体を形成して、六角形状の平坦なタイルを構成し、CsoS4Aが五量体を形成して、CsoS1Aで形成される複数の平坦なタイルからなるシェルの各頂点に位置することで、シェルの正二十面体の形状が得られる。得られたCso-BMCのシェルは、天然のH. neapolitanusのカルボキシソーム(直径90~110nm)よりも小さい(直径22nm)ものの、DLS測定から明らかなように、この人工シェルはサイズが極めて均一である(図17)。
【0131】
Kerfeldと共同研究者は、HO-H、HO-P、HO-T1という3つのシェルプロトマーを用いて、大腸菌でHO-BMCの組換え発現を行い、その原子レベルの構造を得たことを報告している [Sutter, M. et al., Science 356: 1293-1297 (2017)]。HO-HはCsoS1A、HO-PはCsoS4Aに類似した構造と形状を有する。HO-T1は、2つのHO-Hのタンデムリピート構造に類似しており、三量体を形成して、同様に平坦な六角形のタイルを構成する。我々は、HO-BMCを酵母で再構築することに成功した。現時点で我々が文献に関して理解している限りにおいて、これは、BMC由来のタンパク質シェルを酵母で組換え発現させた初めての例である。酵母の組換えタンパク質の産生力価は、一般に大腸菌に比べて低いものの(図14)、酵母でHO-BMC VLPの発現に成功したことは、真核生物の翻訳後修飾機構で所望の調整を行うという手法への道を開くものである [Sudbery, P. E. Curr Opin Biotechnol 7 (1996)]。また、酵母由来の多くの生体分子、また酵母自体が「一般的に安全と認められる(Generally Regarded as Safe:GRAS)」と認定されるものであるため、HO-BMCがワクチン開発において有利な立場にあるということは注目に値する [Sewalt, V. et al., Industrial Biotechnology 12: 295-302 (2016)]。
【0132】
TEMで観察すると、Cso-BMCは、直径約20nmのカプシド様構造であり、一部は角のある小平面を持っているように見える。この形状は、天然のH. neapolitanusのカルボキシソームを連想させるが、前述した通り、この人工Cso-BMCの直径は天然のカルボキシソームの20%程度である。Cso-BMCのサイズが小さい理由として、その内腔が空であることが最も合理的な理由として挙げられる。天然のカルボキシソームでは、シェル内に数百から数千のタンパク質が密に詰まっていることが知られている [Bonacci, W. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 109: 478-483 (2012)]。バイオエンジニアリングの観点からは、本来内腔に存在するタンパク質が取り除かれたVLPは、組換えタンパク質カーゴをより効率的に封入できるため、望ましい [Schwarz, B. et al., Advances in Virus Research 97: 1-60 (2017)]。
【0133】
我々が酵母で発現させたHO-BMCシェルは、Kerfeldと共同研究者が報告した大腸菌で発現させたシェルにサイズと形状が非常によく似ている [Sutter et al., Science 356: 1293-1297 (2017)]。Cso-BMCとHO-BMCをアフィニティー精製して得られたタンパク質溶出液を、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)で分析したところ、予想されたシェルプロトマータンパク質が存在することが確認された。六量体(CsoS1A、HO-H)と五量体(CsoS4A、HO-P)は分子量が似ているため(10±1kDa)、SDS-PAGEでは両者を十分に分離することができない。しかし、タンパク質シェルが存在することから、10kDa程度の大きさのタンパク質バンドには両方の種が存在していると推測される。Cso-BMCとHOシェルの原子レベルの詳細な構造から、これらの粒子はサイズがほぼ均一であることが分かった [Sutter, M. et al., Science 356: 1293-1297 (2017); Tan, Ali, et al., Biomacromolecules doi:10.1021/acs.biomac.1c00533 (2021)]。このサイズの均一性は、VLPを生体材料として機能させる際の予測可能性につながるため、VLPの遺伝子組換え技術において有用な特徴である [Schwarz, B. et al., Advances in Virus Research 97: 1-60 (2017)]。
【0134】
まとめ
BMCは、微生物細胞工場における代謝反応の空間プログラミングのための有望なプラットフォームであり、特殊な生化学的送達ビークルとして利用することが可能である [Kerfeld C. A. et al. Nature Reviews Microbiology 16: 277 (2018)]。しかし、このタンパク質シェルをそのような目的で利用する際の大きな障害は、作製が複雑な場合が多く、組換えシステムに容易に移行できないことである。2種類のシェルタンパク質によるタンパク質シェルの作製は、天然α-カルボキシソームを産生するH. neapolitanus csoオペロンで同定された10種類の構成要素から大幅に数を削減して行うことができる [Bonacci, W. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 109: 478-483 (2012)]。さらに、我々は、異種タンパク質カーゴを簡素化カルボキシソームシェルにターゲティングすることができる配列S2CPを同定した。S2CPより6残基多く含む内包化誘導ペプチドバリアントS2CP(30)は、GFPカーゴタンパク質をCso-BMCに封入する際に、S2CPより約4倍効率が高いことが確認されている。したがって、S2CPとS2CP(30)は、Cso-BMC内に収容される異種タンパク質カーゴの量を制御するのに有用である。また、本発明のCso-BMCは、ヒートショック、メタノール共溶媒の存在、連続的な凍結融解サイクル、高アルカリ環境などの一般的な酵素変性要因に対して、APEX2とLacZの2つの酵素を安定化させる効果がある。我々の知る限り、これは、最小限の構成を有するBMC由来のシェルを利用して、酵素の保持および前述の変性要因に対する安定化を実現した初めての実証例である。本発明のCso-BMCは、酵素の封入と安定化に使用可能なVLPの現行の範囲を拡大するものである [Demchuk & Patel, Biotechnology Advances, 41: 107547 (2020)]。
【0135】
また、我々は、HO-BMCを酵母で組換え発現させ、作製したシェルが組換えタンパク質カーゴを封入できることを証明した。我々の知る限り、これは、BMCシェルを酵母で組換え発現させた初めての実証例である。
【0136】
参考文献
本明細書で引用された既に公開されている一連の文献およびこれらに記載の考察は、当技術分野の技術水準の一部であることや技術常識であることを認めるものと解釈すべきではない。
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【国際調査報告】