(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ADARを動員するガイドRNAのスクリーニングプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231030BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231030BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20231030BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12Q1/68
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524621
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 US2021056064
(87)【国際公開番号】W WO2022087272
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジン・ビリー
(72)【発明者】
【氏名】ジャルモスケート,インガ
(72)【発明者】
【氏名】ボーゲル,ポール
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAの同定方法に関する。特に、本発明は、部位特異的A-to-I RNA編集に有効なガイドRNAを同定するための高スループットスクリーニング方法と、同定されたガイドRNAの使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的配列とガイドRNA配列とを含む融合コンストラクトであって、前記ガイドRNA配列が、前記標的配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む、前記融合コンストラクト。
【請求項2】
前記ガイドRNA配列が、更に、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインを含む、請求項1に記載の融合コンストラクト。
【請求項3】
前記動員ドメインが、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖とを含む、請求項2に記載の融合コンストラクト。
【請求項4】
前記コンストラクトがステムループ二次構造を形成するように、ループ配列を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項5】
前記ループ配列が、3~50ヌクレオチドを含む、請求項4に記載の融合コンストラクト。
【請求項6】
前記ループ配列が、5ヌクレオチドを含む、請求項5に記載の融合コンストラクト。
【請求項7】
前記ループ配列が、表1に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の融合コンストラクト。
【請求項8】
前記アンチセンスドメインと前記標的配列とが、前記ループ配列により連結されている、請求項5~7のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項9】
前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖とが、前記ループ配列により連結されている、請求項5~7のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項10】
前記ガイドRNA配列が、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記アンチセンスドメインと前記標的配列との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記アンチセンスドメイン内に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項11】
前記ガイドRNA配列が、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内に含む、請求項3~10のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項12】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の融合コンストラクト。
【請求項13】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項12に記載の融合コンストラクト。
【請求項14】
前記第一鎖が、表2に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項12又は13に記載の融合コンストラクト。
【請求項15】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項3~14のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項16】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項15に記載の融合コンストラクト。
【請求項17】
前記第二鎖が、表3に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項15又は16に記載の融合コンストラクト。
【請求項18】
前記標的配列が、ヒトIDUA遺伝子に由来する、請求項1~17のいずれか一項に記載の融合コンストラクト。
【請求項19】
前記標的配列が、GAGCAGCUCUAGGCCGAA(配列番号1)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、配列番号1の11位のヌクレオチドが、アデニン(A)である、請求項18に記載の融合コンストラクト。
【請求項20】
前記アンチセンスドメインが、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項18又は19に記載の融合コンストラクト。
【請求項21】
前記アンチセンスドメインが、表5又は表6に記載する配列を含む、請求項20に記載の融合コンストラクト。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の融合コンストラクトを含む、ベクター。
【請求項23】
部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法における使用のための、請求項1~21のいずれか一項に記載の融合コンストラクト又は請求項22に記載のベクター。
【請求項24】
部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法であって、
a.各々標的配列とガイドRNA配列とを含む複数の融合コンストラクトであって、前記ガイドRNA配列が、前記標的配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む、前記融合コンストラクトを作製する工程と;
b.別個の細胞集団において前記複数の融合コンストラクトの各々を発現させる工程と;
c.融合コンストラクトが前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導するか否かを判定する工程と
を含む、前記方法。
【請求項25】
前記細胞が、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は少なくとも1種の人工ADAR融合タンパク質を発現する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ガイドRNA配列が、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインを更に含む、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記動員ドメインが、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖とを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記融合コンストラクトが、前記コンストラクトがステムループ二次構造を形成するように、ループ配列を更に含む、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ループ配列が、3~50ヌクレオチドを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ループ配列が、5ヌクレオチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ループ配列が、表1に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アンチセンスドメインと前記標的配列とが、前記ループ配列により連結されている、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖とが、前記ループ配列により連結されている、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記ガイドRNA配列が、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記アンチセンスドメインと前記標的配列との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記アンチセンスドメイン内に含む、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記ガイドRNA配列が、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内に含む、請求項27~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記第一鎖が、表2に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項27~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記第二鎖が、表3に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記標的配列が、部位特異的A-to-I RNA編集を所望される遺伝子に由来する、請求項24~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記遺伝子が点突然変異を含み、前記点突然変異が、GからAへの点突然変異、TからAへの点突然変異、又はCからAへの点突然変異である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記点突然変異が、前記遺伝子を発現する対象における疾患又は病態の発症に関連する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記点突然変異が、前記標的配列内に存在する、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項46】
融合コンストラクトが前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導するか否かを判定する工程が、前記単離された核酸をシーケンシングする工程を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記単離された核酸が、RNAを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞集団から単離された核酸における前記1箇所以上の修飾が、前記標的配列に元々存在する点突然変異の修正を含む、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記点突然変異の修正が、前記ガイドRNA配列が部位特異的RNA編集を有効に誘導することを示す、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記標的配列が、GAGCAGCUCUAGGCCGAA(配列番号1)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、配列番号1の11位のヌクレオチドが、アデニン(A)である、請求項24~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記アンチセンスドメインが、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項24~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記アンチセンスドメインが、表5又は表6に記載する配列を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記方法が、前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導することを前記ガイドRNA配列に可能とさせる、前記ガイドRNA配列の1種以上の最適化特徴を同定する、請求項24~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記最適化特徴が、前記アンチセンスドメイン、前記ループ配列、及び前記ガイドRNA内に存在する場合には前記動員ドメインから選択される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
部位特異的RNA編集方法であって、前記方法が、
a.請求項23~54のいずれか一項に記載の方法によりガイドRNAを選択する工程と;
b.前記ガイドRNAを含むコンストラクトを細胞又は対象に送達する工程と
を含む、前記方法。
【請求項56】
前記細胞が、哺乳動物細胞であるか、又は前記対象が哺乳動物である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAであって、
a.標的遺伝子配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインと;
b.RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインとを含み、
前記動員ドメインが、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖とを含み、前記第一鎖と前記第二鎖とが、ループ配列により連結されている、前記ガイドRNA。
【請求項58】
前記ループ配列が、3~50ヌクレオチドを含む、請求項57に記載のガイドRNA。
【請求項59】
前記ループ配列が、5ヌクレオチドを含む、請求項58に記載のガイドRNA。
【請求項60】
前記ループ配列が、表1に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項59に記載のガイドRNA。
【請求項61】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項57~60のいずれか一項に記載のガイドRNA。
【請求項62】
前記第一鎖が、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項61に記載のガイドRNA。
【請求項63】
前記第一鎖が、表2に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項61又は62に記載のガイドRNA。
【請求項64】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項57~63のいずれか一項に記載のガイドRNA。
【請求項65】
前記第二鎖が、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項64に記載のガイドRNA。
【請求項66】
前記第二鎖が、表3に記載するヌクレオチド配列を含む、請求項64又は65に記載のガイドRNA。
【請求項67】
前記標的遺伝子配列が、W402X置換突然変異を含むヒトIDUA遺伝子の一部の内側に存在する、請求項57~66のいずれか一項に記載のガイドRNA。
【請求項68】
前記標的遺伝子配列が、配列番号5を含む、請求項67に記載のガイドRNA。
【請求項69】
前記アンチセンスドメインが、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項66又は67に記載のガイドRNA。
【請求項70】
前記アンチセンスドメインが、表5又は表6に記載する配列を含む、請求項69に記載のガイドRNA。
【請求項71】
ハーラー症候群の治療方法で使用するための、請求項57~70のいずれか一項に記載のガイドRNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAの同定方法に関する。特に、本発明は、部位特異的A-to-I RNA編集に有効なガイドRNA(gRNA)を同定するための高スループットスクリーニング方法と、同定されたガイドRNAの使用方法に関する。また、本発明は、ヒトIDUA(α-L-イズロニダーゼ)転写産物における未熟W402X終止コドンの修復に優れることがこのスクリーニングアプローチにより確認されたガイドRNA配列に関する。
【背景技術】
【0002】
部位特異的RNA編集は、遺伝情報をRNAレベルで操作するための新技術である。これは、内在性RNA編集酵素であるADAR(RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ)又は人工ADAR融合タンパク質をユーザーに定義される標的RNAに動員することにより、特定のアデノシン残基からイノシン残基への変換(A-to-I編集)を可能にする小型のガイドRNAにより実施される。イノシンは、生化学的にグアノシンとして解釈されるため、部位特異的A-to-I RNA編集は、治療及び生体工学の目的でRNA及びタンパク質機能を操作できる可能性がある。
【0003】
現在のADARガイドRNAのデザインは、標的配列に相補的な可変長のアンチセンスドメインと、任意にADAR結合用の動員ドメインを含むことを特徴とする。まだごく少数のADARガイドデザインしか試験されておらず、編集する標的によって成功の程度にばらつきがあり、一定のデザイン原則はまだ確立されていない。ADARの多様な天然RNA標的の編集効率が100%に達することに鑑みると、ADARガイドRNAを更に最適化できる大きな可能性があると思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ガイド候補の迅速なスクリーニングに適した高スループットアプローチの欠如により、このような最適化の試みは阻まれている。したがって、A-to-I RNA編集用ガイドRNA候補の高スループットスクリーニング方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
所定の態様において、本願では、融合コンストラクトが提供される。所定の実施形態において、本願では、標的配列とガイドRNA配列とを含む融合コンストラクトが提供される。所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、前記標的配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は更に、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインを含む。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖とを含む。
【0006】
所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、前記コンストラクトがステムループ二次構造を形成するように、ループ配列を更に含む。前記ループ配列は、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記ループ配列は、3~50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ配列は、5ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ配列は、表1に記載するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインと前記標的配列とは、前記ループ配列により連結されている。所定の実施形態において、前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖とは、前記ループ配列により連結されている。
【0007】
所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記アンチセンスドメインと前記標的配列との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記アンチセンスドメイン内に含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内に含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、表2に記載するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、表3に記載するヌクレオチド配列を含む。
【0008】
所定の実施形態において、前記標的配列は、ヒトIDUA遺伝子に由来する。所定の実施形態において、前記標的配列は、GAGCAGCUCUAGGCCGAA(配列番号1)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、配列番号1の11位のヌクレオチドは、アデニン(A)である。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5又は表6に記載する配列を含む。
【0009】
所定の態様において、本願では、ベクターが提供される。所定の実施形態において、本願では、本願に記載する融合コンストラクトを含むベクターが提供される。本願に記載する融合コンストラクトとベクターは、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法で使用することができる。
【0010】
所定の態様において、本願では、高スループットスクリーニング方法が提供される。所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法が提供される。所定の実施形態において、前記方法は、各々標的配列とガイドRNA配列とを含む複数の融合コンストラクトを作製する工程を含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、前記標的配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む。
【0011】
所定の実施形態において、前記方法は更に、前記複数の融合コンストラクトの各々を別個の細胞集団において発現させる工程を含む。所定の実施形態において、前記方法は更に、融合コンストラクトが前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導するか否かを判定する工程を含む。所定の実施形態において、前記細胞は、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は少なくとも1種の人工ADAR融合タンパク質を発現する。
【0012】
本願に記載する方法の所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインを更に含む。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖を含む。
【0013】
本願に記載する方法の所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、前記コンストラクトがステムループ二次構造を形成するように、ループ配列を更に含む。所定の実施形態において、前記ループ配列は、3~50ヌクレオチドを含む。例えば、所定の実施形態において、前記ループ配列は、5ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ配列は、表1に記載するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインと前記標的配列とは、前記ループ配列により連結されている。所定の実施形態において、前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖とは、前記ループ配列により連結されている。
【0014】
所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記アンチセンスドメインと前記標的配列との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記アンチセンスドメイン内に含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、少なくとも1ヌクレオチド位置で前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖との間の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内に含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、表2に記載するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、表3に記載するヌクレオチド配列を含む。
【0015】
所定の実施形態において、前記標的配列は、部位特異的A-to-I RNA編集を所望される遺伝子に由来する。所定の実施形態において、前記遺伝子は、点突然変異を含み、前記点突然変異は、GからAへの点突然変異、TからAへの点突然変異、又はCからAへの点突然変異である。所定の実施形態において、前記点突然変異は、前記遺伝子を発現する対象における疾患又は病態の発症に関連する。所定の実施形態において、前記点突然変異は、前記標的配列内に存在する。
【0016】
所定の実施形態において、融合コンストラクトが前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導するか否かを判定する工程は、前記単離された核酸をシーケンシングする工程を含む。所定の実施形態において、前記単離された核酸は、RNAを含む。所定の実施形態において、前記細胞集団から単離された核酸における前記1箇所以上の修飾は、前記標的配列に元々存在する点突然変異の修正を含む。所定の実施形態では、前記点突然変異の修正は、前記ガイドRNA配列が部位特異的RNA編集を有効に誘導することを示す。
【0017】
所定の実施形態において、前記標的配列は、GAGCAGCUCUAGGCCGAA(配列番号1)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、配列番号1の11位のヌクレオチドは、アデニン(A)である。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5又は表6に記載する配列を含む。
【0018】
本願に記載する方法の所定の実施形態において、前記方法は、前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導することを前記ガイドRNA配列に可能とさせる、前記ガイドRNA配列の1種以上の最適化特徴を同定する。例えば、前記最適化特徴は、前記アンチセンスドメイン、前記ループ配列、及び前記ガイドRNAに存在する場合には前記動員ドメインから選択することができる。
【0019】
所定の態様において、本願では、部位特異的RNA編集方法が提供される。所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集方法が提供され、前記方法は、本願に記載する方法によりガイドRNAを選択する工程と、前記ガイドRNAを含むコンストラクトを細胞又は対象に送達する工程を含む。例えば、前記部位特異的RNA編集方法は、本願に記載する高スループットスクリーニング方法によりガイドRNAを選択する工程と、選択されたガイドRNAを含むコンストラクトを細胞又は対象に送達する工程を含むことができる。所定の実施形態において、前記細胞は、哺乳動物細胞である。所定の実施形態において、前記対象は、哺乳動物である。
【0020】
所定の態様において、本願では、ガイドRNAが提供される。所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAが提供される。所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAが提供され、前記ガイドRNAは、標的遺伝子配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、RNAに作用する内在性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)及び/又は人工ADAR融合タンパク質を動員する動員ドメインを含む。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖とを含む。所定の実施形態において、前記第一鎖と前記第二鎖とは、ループ配列により連結されている。所定の実施形態において、前記ループ配列は、3~50ヌクレオチドを含む。例えば、所定の実施形態において、前記ループ配列は、5ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ配列は、表1に記載するヌクレオチド配列を含む。
【0021】
所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、表2に記載するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、表3に記載するヌクレオチド配列を含む。
【0022】
所定の実施形態において、前記標的遺伝子配列は、W402X置換突然変異を含むヒトIDUA遺伝子の一部の内側に存在する。所定の実施形態において、前記標的遺伝子配列は、配列番号5を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5又は表6に記載する配列を含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、ハーラー症候群の治療方法で使用することができる。
【0023】
以下の詳細な説明と添付図面を参照すると、本開示の他の態様及び実施形態にも想到されよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】RNAにおけるアデノシンからイノシンへの(A-to-I)編集を示す模式図である。イノシンは、細胞機構によりグアノシンとして認識されるので、A-to-I編集は、RNA及びタンパク質機能に影響を与えることができるAからGへの点突然変異を形式的に導入する。
【
図2】内在性ADARを動員するガイドRNA(gRNA)のデザインを示す。ADARは、デアミナーゼドメイン(ADAR-D)と複数のdsRNA結合ドメイン(dsRBD)から構成され、GRIA2 pre-mRNAのヘアピン構造に位置するR/G部位を編集する(左)。ユーザーに定義される配列に相補的なアンチセンス配列(18~40nt)をヘアピン構造(55nt)の一部と融合させると、ADAR酵素を標的アデノシンに導くgRNAが生成される。ヘアピンはADAR動員部分として機能し、gRNAアンチセンスドメインと標的RNAのハイブリッドが標的部位の編集を触媒するデアミナーゼドメインにより認識される間に、dsRBDとの相互作用が可能になる。ADARを動員するためには、R/GgRNAをプラスミドから発現させるか、又は化学的に修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)として添加する。
【
図3】gRNA配列を最適化するための方法の概要を示す模式図である。高い編集収率を達成するために、スクリーニングプラットフォームを哺乳動物細胞で使用し、RNA編集を最大にするgRNA配列を見出す。
【
図4】
図4A~4E。治療用A-to-I RNA編集の潜在的適用例。(A)20種の標準アミノ酸のうちの12種と全3種の終止コドンをA-to-I編集により置換することができる。(B、C)タンパク質の不活性化又は過剰活性化により疾患アウトカムが改善される場合にこのようなタンパク質の機能を調節するために、リン酸化部位(B)又は他の機能的に重要な部位(C)をコードするコドンの部位特異的A-to-I RNA編集を使用できると思われる。(D)開始コドンの編集により翻訳の阻害を実現することができ、病因性タンパク質をダウンレギュレーションする選択肢になると思われる。(E)A-to-I RNA編集は、病原性のGからAへの点突然変異を修正することができる。
【
図5】ハーラー症候群の原因となる病原性のGからAへの点突然変異。ヒトIDUA W402X(赤下線A)を編集する能力についてgRNA配列をスクリーニングすることができる。IDUA mRNA配列の下の文字は、コードされるアミノ酸と未熟終止コドン(X)の1文字コードを表す。
【
図6】スクリーニングプラットフォームの概要。プラスミドリポフェクションにより標的RNA/gRNA融合コンストラクトをADAR-Flp-In T-Rex細胞で発現させることができる。RNA単離後、新世代シーケンシング(NGS)用に標的RNA/gRNA cDNAを作製することができる。種々のインデックスを使用すると、複数の実験の同時解析が可能になるであろう。全シングルgRNA配列について標的アデノシンと周囲のオフサイトアデノシンにおける誘導編集収率を求めるために計算パイプラインを確立することができる。
【
図7】gRNAアンチセンスドメインを最適化するためのライブラリーの概要。標的部位で誘導される編集と対応するgRNAの両方を本プラットフォームにより同定するために、標的配列(黒)をgRNA(アンチセンスドメイン:青;ADAR動員部分:赤)と融合させる。本図では、病原性点突然変異(赤下線A)を含むIDUAW402XmRNA配列を標的として示す。
【
図8】ADAR動員部分を最適化するためのライブラリーの概要。
【
図9】
図9A~9G。ASOライブラリープロトタイプ。(A)従来検証されているガイドデザイン「v9.4」
32をベースとし、ループ領域の40位にTからCへの一塩基置換を含む標的-ガイド融合コンストラクト。標的配列は、ヒトIDUA遺伝子(hIDUA)における病原性W402X突然変異の周囲の領域とする。標的A残基を黄色で示す。(B、C)ADAR1p150の誘導性発現の不在下(B)又は存在下(C)でFlp-In T-REx293細胞にプラスミドトランスフェクションから24時間後にサンガーシーケンシングにより求めた編集レベル。p150誘導の不在下では、編集は内在性ADARタンパク質により仲介される。Dox誘導の不在下では、安定に組込まれたADAR1p150の有無を問わず、Flp-In T-REx細胞で同一の結果(編集率50%)が得られた。(D)短いループにより連結された標的とアンチセンス配列のみから構成される(即ち、動員ドメインを含まない)改変型融合体プロトタイプ。標的配列は、hIDUAにおける病原性W402X突然変異の周囲の領域とし、ADARの二本鎖RNA結合ドメイン(dsRBD)の結合部位を提供するように3’末端を延長した。GRIA2R/G部位の構造に似せるように、アンチセンス鎖に2箇所のミスマッチを導入した(54位と58位)。(E)Dox誘導の不在下でADAR1p150Flp-In T-REx293細胞にトランスフェクションから24時間後の(D)のコンストラクトの編集。編集は、Dox誘導により飽和された。(F)標的領域とアンチセンス領域がEGFPコーディング配列により分離されているスプリットデザイン。(G)10ng/mLのDoxによる誘導下でADAR1p150Flp-In T-REx293細胞にトランスフェクションから24時間後の(F)のコンストラクトの編集。Doxの不在下では、編集は観測されなかった。
【
図10A】10A~10B。クローニングコンストラクト。(A)IDUA W402Xスクリーニングに使用したpcDNA5をベースとするクローニングベクターのプラスミドマップと模式図。アステリスクは、終止コドンを表す。IDUA W402Xの場合には、未編集標的配列に別の終止コドンも存在し、編集により除去される。REは、制限酵素切断部位である。
【
図10B】
図10A~10B。クローニングコンストラクト。(B)
図9Fに示すスプリットデザインに使用した代替クローニングベクター。所定の標的では、標的配列のみを1回クローニングすればよく、制限部位RE1及び2を使用して新規ガイドライブラリーを容易に挿入することができる。
【
図11】
図11A~11B。pcDNA5ベクターへのカスタムインサートの配列。(A)本図ではIDUA W402Xを標的として示す標的/ガイド連結コンストラクト(
図10A)の配列。(B)標的(上)配列とガイド(下)配列がEGFPコーディング配列により分離されているスプリットコンストラクト(
図10B)の配列。(HpaI又はPacIとAvrII又はBstBIを使用して)全長ガイド配列の挿入又は(Bsu36IとHpaI又はPacIを使用して)アンチセンスドメインのみの交換を可能とするように、他の制限酵素部位も導入した。Bsu36I部位を導入するために、元の構造を維持しながら、動員ドメインの3塩基対の配列同一性を変えた。この配列変異の結果、元の動員ドメイン配列を維持したスプリットコンストラクト(
図9F)に比較して編集レベルは低下せず、動員ドメインの存在下でBsu36I制限部位を導入した場合と導入しない場合で夫々33%と28%の編集レベルが検出された。
【
図12】ランダム化アンチセンス領域を含む標的/ガイド融合コンストラクトのPCRアセンブリ。
【
図13】IDUA W402X ASOライブラリーのPCRアセンブリに使用したプライマーの配列詳細。高度に構造化されてアセンブルされた鋳型の効率的な増幅を確保するためには、外側プライマーを標的/ガイドデュプレックスから遠くに離すべきである。
【
図14】逆転写及びシーケンシングライブラリー作製。UMIは、ランダムな15ヌクレオチドから構成される分子バーコードである。UMIは、その後の定量で各逆転写産物を一意的に区別でき、PCRバイアスとシーケンシングエラーの影響を排除できる
71,72。青色の配列エレメントは、Illuminaアダプター構造に対応する。ここでは、Illuminaブリッジ増幅が安定なヘアピン構造の影響を受けないようにするために、長いフランキング領域を使用した。
【
図15】
図14に示したライブラリーコンストラクトとプライマーの配列詳細。
【
図16】上段は、IDUA W402Xを標的とし、本願に記載する方法、特に実施例3に記載する方法により作製することができる(例えば、動員ドメインと、標的配列と、ガイドアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)典型的なヘアピンコンストラクトを示す。アンチセンス配列をランダム化することにより、アンチセンスドメイン突然変異体のライブラリーを作製した。ヒストグラムは、各アンチセンス位置に18%縮重として異なる数の突然変異を含むアンチセンス変異体の予想分布を示す。
【
図17】本願、特に実施例3に記載する典型的なワークフローを示す。
【
図18】アンチセンスオリゴヌクレオチド変異体の約1%がプロトタイプコンストラクトに比較して標的部位における編集を亢進することを示す棒グラフである。
【
図19】パイロットスクリーニングで同定されるような、編集を強化する突然変異を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド変異体を示す。
【
図20】スクリーニングで同定された高度に編集された変異体(左下)のサンガーシーケンシングによる検証(右下)を示す。プロトタイプ配列(左上)と対応する編集レベル(右上)も示す。
【
図21】元の動員ドメインで妨害された塩基対の1つを復元することにより編集を強化する(GRIA2R/G RNAをベースとする)動員ドメイン突然変異の例を示す。プロトタイプを最上段に示し、編集を強化する3種類の単一突然変異体を下段に示す。
【
図22】動員ドメイン末端ループの各位置における塩基集積度を示す。集積度は、ループライブラリー全体(n=1015)に対する上位から10%の編集変異体(n=102)に基づいて計算した。
【
図23】表2~6で配列変異を指示するために使用したヌクレオチド位置のナンバリングを示す。
【
図24】動員ドメインにおける最適化ループ配列とアンチセンス領域における有益なミスマッチを組合わせる相加効果を示す。図に示すコンストラクトを個々にクローニングし、内在性ADARタンパク質のみを発現するFlpIn T-REx細胞にトランスフェクトした。編集レベルをサンガーシーケンシングにより求めた。
【
図25】ヒトIDUA遺伝子の配列を示す。なお、この配列は、ハーラー症候群に罹患した患者に見られるW402X突然変異を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAの同定方法に関する。特に、本発明は、部位特異的A-to-I RNA編集に有効なガイドRNAを同定するための高スループットスクリーニング方法に関する。
【0026】
1.定義
本願の技術を理解し易くするために、多数の用語及び語句を以下に定義する。その他の定義も以下の詳細な説明の随所に記載する。
【0027】
本願で使用する「含む」、「包含する」、「有している」、「有する」、「できる」、「含有する」なる用語とその変形は、他の行為又は構造の可能性を排除しない拡張可能な暫定的語句、用語又は単語を意味する。文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、単数形の不定冠詞、「及び」及び定冠詞は複数の言及を含む。明確に記載しているか否かに拘わらず、本開示は、本願に提示する実施形態又は構成要素「を含む」、「から構成される」及び「から本質的に構成される」他の実施形態も想定する。
【0028】
本願中で数値範囲を指定する場合には、範囲内の同一精度の各数値が明確に想定される。例えば、6~9の範囲では、6と9に加えて7と8の数値も想定され、6.0~7.0の範囲では、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、及び7.0の数値が明確に想定される。
【0029】
本願中で他の定義のない限り、本開示に関して使用する科学技術用語は、当技術分野における通常の知識を有する者に広く理解されている意味である。例えば、本願に記載する細胞及び組織培養、生化学、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びにタンパク質及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関して使用される全ての命名法とこれらの技術は、当技術分野で周知であり、広く使用されている。用語の意味と範囲は明白でなければならないが、潜在的に意味不明な場合には、辞書又は外部の定義よりも本願に記載する定義を優先する。更に、文脈から必然的にそうでない場合を除き、単数形の用語は複数形も含み、複数形の用語は単数形も含む。
【0030】
「アミノ酸」なる用語は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、及びアミノ酸アナログを意味し、特に指定しない限り、いずれもそれらの構造が許容する場合にはそのD体及びL体の立体異性体として存在する。
【0031】
天然アミノ酸としては、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)が挙げられる。
【0032】
非天然アミノ酸としては、限定されないが、アゼチジンカルボン酸、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、ナフチルアラニン(「naph」)、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、tert-ブチルグリシン(「tBuG」)、2,4-ジアミノイソ酪酸、デスモシン、2,2’-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン(「hPro」又は「homoP」)、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン(「3Hyp」)、4-ヒドロキシプロリン(「4Hyp」)、イソデスモシン、アロイソロイシン、N-メチルアラニン(「MeAla」又は「Nime」)、N-メチルグリシンを含むN-アルキルグリシン(「NAG」)、N-メチルイソロイシン、N-メチルペンチルグリシンを含むN-アルキルペンチルグリシン(「NAPG」)、N-メチルバリン、ナフチルアラニン、ノルバリン(「Norval」)、ノルロイシン(「Norleu」)、オクチルグリシン(「OctG」)、オルニチン(「Orn」)、ペンチルグリシン(「pG」又は「PGly」)、ピペコリン酸、チオプロリン(「ThioP」又は「tPro」)、ホモリジン(「hLys」)、及びホモアルギニン(「hArg」)が挙げられる。
【0033】
本願で使用する「人工」なる用語は、人為的に設計又は作製され、天然には存在しない組成物及びシステムを意味する。例えば、人工ペプチド又は核酸とは、非天然配列を含むペプチド又は核酸(例えば、天然に存在するタンパク質又はその断片に対する同一性が100%ではない核酸又はペプチド)である。
【0034】
本願で使用する「保存的」アミノ酸置換とは、ペプチド又はポリペプチド中のアミノ酸をサイズや電荷等の化学的性質が類似する別のアミノ酸で置換することを意味する。本開示の目的では、以下の8グループの各々が、相互に保存的置換であるアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)及びグリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)及びグルタミン(Q);
4)アルギニン(R)及びリジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、及びバリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W);
7)セリン(S)及びトレオニン(T);並びに
8)システイン(C)及びメチオニン(M)。
【0035】
天然に存在する残基は、共通の側鎖性質に基づく分類、例えば、極性正電荷(又は塩基性)(ヒスチジン(H)、リジン(K)、及びアルギニン(R))、極性負電荷(又は酸性)(アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E))、極性中性(セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q))、非極性脂肪族(アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M))、非極性芳香族(フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W))、プロリン及びグリシン、並びにシステインに分類することができる。本願で使用する「半保存的」アミノ酸置換とは、ペプチド又はポリペプチド中のアミノ酸を同一分類内の別のアミノ酸で置換することを意味する。
【0036】
所定の実施形態において、特に指定しない限り、保存的又は半保存的アミノ酸置換は、天然残基に類似する性質を有する非天然アミノ酸残基も含むことができる。これらの非天然残基は、一般的に生体系における合成ではなく、化学的ペプチド合成により取り込まれる。これらは、限定されないが、ペプチドミメティクス及びアミノ酸部分の他の逆転又は反転形が挙げられる。本願の実施形態は、所定の実施形態において、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、及び/又はアミノ酸アナログに限定することができる。
【0037】
非保存的置換は、ある分類のメンバーを別の分類のメンバーに交換することを含むことができる。
【0038】
「アミノ酸アナログ」なる用語は、C末端カルボキシル基、N末端アミノ基及び側鎖官能基の1個以上が化学的にブロックされ、可逆的又は不可逆的又は他の方法で別の官能基に置換されている天然又は非天然アミノ酸を意味する。例えば、アスパラギン酸(β-メチルエステル)は、アスパラギン酸のアミノ酸アナログであり、N-エチルグリシンは、グリシンのアミノ酸アナログであり、あるいはアラニンカルボキサミドは、アラニンのアミノ酸アナログである。他のアミノ酸アナログとしては、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、S-(カルボキシメチル)システイン、S-(カルボキシメチル)システインスルホキシド及びS-(カルボキシメチル)システインスルホンが挙げられる。
【0039】
「相補的」及び「相補性」なる用語は、核酸が伝統的なワトソン・クリック塩基対合又は他の非伝統的な型の対合により別の核酸配列と水素結合を形成する能力を意味する。2つの核酸配列の相補性の程度は、第1の核酸配列のうちで第2の核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン・クリック塩基対合)を形成することができるヌクレオチドの百分率(例えば、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%の相補性)により表すことができる。2つの核酸配列は、第1の核酸配列の全ての連続するヌクレオチドが第2の核酸配列の同一数の連続するヌクレオチドと水素結合を形成する場合に、「完全に相補的」である。2つの核酸配列は、これらの2つの核酸配列間の相補性の程度が少なくとも8ヌクレオチド(例えば、9ヌクレオチド、10ヌクレオチド、11ヌクレオチド、12ヌクレオチド、13ヌクレオチド、14ヌクレオチド、15ヌクレオチド、16ヌクレオチド、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、30ヌクレオチド、35ヌクレオチド、40ヌクレオチド、45ヌクレオチド、50ヌクレオチド、又はそれ以上のヌクレオチド)の領域で少なくとも60%(例えば、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%)である場合、又はこれらの2つの核酸配列が少なくとも中ストリンジェンシー条件下、好ましくは高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする場合に、「実質的に相補的」である。典型的な中ストリンジェンシー条件としては、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl,15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/ml変性断片処理済みサケ精子DNAを含む溶液中で37℃にて終夜インキュベーション後に、フィルターを約37~50℃にて1×SSCで洗浄する条件、又は実質的に同様の条件が挙げられ、例えば、Sambrookら,前出に記載されている中ストリンジェンシー条件が挙げられる。高ストリンジェンシー条件は、例えば、(1)50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の低イオン強度と高温を洗浄に使用する条件、(2)ホルムアミド、例えば、50%(v/v)ホルムアミドに、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)/0.1%Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン(PVP)/pH6.5の50mMリン酸ナトリウム緩衝液(750mM塩化ナトリウムと75mMクエン酸ナトリウム含有)を添加したもの等の変性剤をハイブリダイゼーション中に42℃で利用する条件、又は(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MNaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理済みサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%デキストラン硫酸を42℃で利用し、(i)42℃にて0.2×SSC、(ii)55℃にて50%ホルムアミド、及び(iii)55℃にて0.1×SSC(好ましくはEDTAと併用)で洗浄する条件である。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのその他の詳細と説明は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001);及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons,New York(1994)に述べられている。
【0040】
「RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ」又は「ADAR」なる用語は、本願では、高等生物のトランスクリプトームの二本鎖RNA(dsRNA)領域内の部位のA-to-I編集を天然に触媒する類の酵素を表すために使用する。ADARは、タンパク質機能、RNAスプライシング、免疫及びRNA干渉の調節に重要な役割を果たすことができる。
【0041】
本願で使用する「ADAR融合体」なる用語は、ADARデアミナーゼドメインに加え、ガイドRNAと結合することが可能なドメインを含む人工酵素を意味する。
【0042】
「ドナー核酸分子」なる用語は、標的DNA(例えば、ゲノムDNA)に挿入されるヌクレオチド配列を意味する。上記のように、ドナーDNAとしては、例えば、遺伝子若しくは遺伝子の部分、タグ若しくは局在配列をコードする配列、又は調節エレメントが挙げられる。ドナー核酸分子は、任意長とすることができる。所定の実施形態において、ドナー核酸分子は、10~10,000ヌクレオチド長、例えば、約100~5,000ヌクレオチド長、約200~2,000ヌクレオチド長、約500~1,000ヌクレオチド長、約500~5,000ヌクレオチド長、約1,000~5,000ヌクレオチド長、又は約1,000~10,000ヌクレオチド長である。
【0043】
外来DNA(例えば、組換え発現ベクター)が細胞の内側に導入されているときに、細胞は、このようなDNAにより「遺伝子改変」、「形質転換」又は「トランスフェクト」されている。前記外来DNAが存在する結果として、永久的又は一過的な遺伝子変異が生じる。トランスフォーミングDNAは、細胞のゲノムに組込んで(共有結合して)もよいし、組込まなくてもよい。例えば、原核生物、酵母、及び哺乳動物細胞において、トランスフォーミングDNAは、プラスミド等のエピソームエレメント上に維持することができる。真核細胞に関して、安定的に形質転換された細胞とは、トランスフォーミングDNAが染色体複製を介して娘細胞に受け継がれるように染色体に組込まれている細胞である。この安定性は、真核細胞がトランスフォーミングDNAを含む娘細胞集団からなる細胞株又はクローンを樹立する能力により実証される。「クローン」とは、有糸分裂によりシングルセル又は共通先祖に由来する細胞集団である。「細胞株」とは、多世代に渡ってインビトロで安定な増殖が可能な初代細胞のクローンである。
【0044】
本願で使用する「核酸」又は「核酸配列」とは、ピリミジン及び/又はプリン塩基、好ましくは夫々シトシン(C)、チミン(T)、及びウラシル(U)と、アデニン(A)及びグアニン(G)のポリマー又はオリゴマーを意味する。本願の技術は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、又はペプチド核酸成分と、これらの塩基のメチル化体、ヒドロキシメチル化体、又はグリコシル化体等の任意のその化学修飾体を想定する。ポリマー又はオリゴマーは、組成が不均質でも均質でもよく、天然に存在する資源から単離されるものでもよいし、人工的又は合成的に生産されるものでもよい。更に、核酸は、DNAでもRNAでもよいし、その混合物でもよく、一本鎖又は二本鎖形態で永久的又は一過的に存在することができ、ホモデュプレックス、ヘテロデュプレックス、及びハイブリッド状態を含む。所定の実施形態において、核酸又は核酸配列は、例えば、DNA/RNAヘリックス、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸(例えば、本願に援用するBraasch and Corey,Biochemistry,41(14):4503-4510(2002)及び米国特許第5,034,506号参照)、ロック核酸(LNA;本願に援用するWahlestedt et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,97:5633-5638(2000)参照)、シクロヘキセニル核酸(本願に援用するWang,J.Am.Chem.Soc.,122:8595-8602(2000)参照)、及び/又はリボザイム等の他の種類の核酸構造を含む。したがって、「核酸」又は「核酸配列」なる用語は、天然ヌクレオチドと同一の機能を示すことができる非天然ヌクレオチド、改変ヌクレオチド、及び/又は非ヌクレオチド構成単位を含む分子鎖(即ち、「ヌクレオチドアナログ」)も包含することができ、更に、本願で使用する「核酸配列」なる用語は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド又はポリヌクレオチド及びその断片又は部分と、一本鎖でも二本鎖でもよく、センス鎖でもアンチセンス鎖でもよいゲノム又は合成由来のDNA又はRNAを意味する。「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、及び「オリゴヌクレオチド」なる用語は、同義に使用される。これらの用語は、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド、又はそのアナログのいずれでもよい任意長のヌクレオチドのポリマー形態を意味する。
【0045】
本願で使用する「リンカー」なる用語は、2分子又は2部分(例えば、融合タンパク質の2つのドメイン)を連結する結合(例えば、共有結合)、化学基又は分子を意味する。一般的に、前記リンカーは、2個の基、分子、又は他の部分の間に配置されているか又は挟まれており、共有結合を介して相互に連結されているため、前記2個の基等を連結する。所定の実施形態において、前記リンカーは、単一のアミノ酸又は複数のアミノ酸(例えば、ペプチド又はタンパク質)である。所定の実施形態において、前記リンカーは、有機分子、基、ポリマー又は化学部分である。所定の実施形態において、前記リンカーは、5~100アミノ酸長であり、例えば、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20~30アミノ酸長、40~50アミノ酸長、50~60アミノ酸長、60~70アミノ酸長、70~80アミノ酸長、80~90アミノ酸長、90~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長、又は150~200アミノ酸長である。本願では、これよりも長いリンカー又は短いリンカーも想定される。
【0046】
本願で使用する「突然変異」なる用語は、配列(例えば、核酸配列又はアミノ酸配列)内の残基が別の残基で置換されていること、又は配列内の1個以上の残基の欠失若しくは挿入を意味する。本願では一般的に、元の残基の後に配列内のその残基の位置を示し、その後に、新たに置換される残基の種類を示すことにより、突然変異を表す。本願に記載するアミノ酸置換(突然変異)を導入するための種々の方法が当技術分野で周知であり、例えば、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2012))により記載されている。
【0047】
「ペプチド」又は「ポリペプチド」は、ペプチド結合により連結された2アミノ酸以上の連結配列である。ペプチド又はポリペプチドは、天然でも合成でもよく、天然と合成の修飾又は組み合わせでもよい。ポリペプチドとしては、結合タンパク質、受容体、及び抗体等のタンパク質が挙げられる。前記タンパク質は、アミノ酸鎖に含まれない糖、脂質又は他の部分の付加により修飾することができる。「ポリペプチド」及び「タンパク質」なる用語は、本願では同義に使用される。
【0048】
本願で使用する「配列同一性百分率」なる用語は、2つの配列を整列させ、必要に応じて最大の同一性百分率となるようにギャップを導入した後に、核酸配列中のヌクレオチド若しくはヌクレオチドアナログ又はアミノ酸配列中のアミノ酸のうちで参照配列における対応するヌクレオチド又はアミノ酸に一致するものの百分率を意味する。したがって、本願の技術に係る核酸が参照配列よりも長い場合には、核酸中のヌクレオチドのうちで参照配列と整列しない他のヌクレオチドは、配列同一性の決定に考慮しない。アラインメントの方法とコンピュータープログラムは、当技術分野で周知であり、BLAST、Align2、及びFASTAが挙げられる。
【0049】
本願で使用する「ガイドRNA」、なる用語は、「標的配列」と相補的になるように設計された核酸を意味する。「標的RNA配列」、「標的核酸」、「標的配列」、及び「標的部位」なる用語は、本願では同義に使用され、ガイドRNA配列がそれに対して相補性を有するように設計されるポリヌクレオチド(核酸、遺伝子、染色体、ゲノム等)を意味する。一般的に、gRNAと標的RNAは、標的部位の中央にA:Cミスマッチを有するdsRNAデュプレックス構造を形成し、ADARデアミナーゼドメインによる効率的で精密な編集を誘導する。
【0050】
所定の実施形態において、本願に記載するガイドRNA(本願では、ASOとも呼ぶ)は、アンチセンスドメインと動員ドメインの2つのコンポーネントを含む。「アンチセンスドメイン」なる用語と、「アンチセンス配列」なる用語は、本願では同義に使用される。gRNAのアンチセンスドメイン(即ち、アンチセンス配列)は、標的RNAと結合する。動員ドメイン(本願では、ADAR動員部分とも呼ぶ)は、ADAR又はADAR融合タンパク質との相互作用を可能にする。所定の実施形態において、本願に記載するガイドRNAは、前記アンチセンスドメインのみを含む(即ち、動員ドメインを含まない)。所定の実施形態において、本願に記載するガイドRNAは、RNA編集用に最適化することができる。例えば、ガイドRNAは、RNA編集を最適化するように1箇所以上の突然変異を含むことができる。突然変異に適した位置と突然変異の種類については、本願に記載する。
【0051】
標的配列とガイド配列は、完全な相補性を示す必要はなく、ハイブリダイゼーションを生じるために十分な相補性があればよい。適切なgRNA:RNA結合条件としては、細胞に通常存在する生理条件が挙げられる。他の適切な結合条件(例えば、無細胞系における条件)は、当技術分野で公知であり、例えば、本願に引用・援用するSambrookを参照されたい。
【0052】
前記標的RNA配列は、遺伝子産物とすることができる。本願で使用する「遺伝子産物」なる用語は、遺伝子の発現により得られる任意の生化学的物質を意味する。遺伝子産物は、RNA又はタンパク質とすることができる。RNA遺伝子産物としては、tRNA、rRNA、マイクロRNA(miRNA)、及び低分子干渉RNA(siRNA)等のノンコーディングRNAと、メッセンジャーRNA(mRNA)等のコーディングRNAが挙げられる。
【0053】
「ベクター」又は「発現ベクター」とは、プラスミド、ファージ、ウイルス、又はコスミド等のレプリコンであり、結合したセグメントを細胞で複製できるように、別のDNAセグメント(例えば、「インサート」)を結合する又は組込むことができるものである。例えば、前記「インサート」は、本願に記載するコンストラクトとすることができる。例えば、前記「インサート」は、本願に記載する標的配列とガイドRNA配列を含むコンストラクトとすることができる。
【0054】
「野生型」なる用語は、遺伝子又は遺伝子産物であって、天然に存在する資源から単離されているときの前記遺伝子又は遺伝子産物の特徴を有するものを意味する。野生型遺伝子は、集団に最も高頻度で認められるため、任意にその遺伝子の「正常」又は「野生型」形態と呼ばれるものである。他方、「改変」、「突然変異体」又は「多形」なる用語は、野生型遺伝子又は遺伝子産物に比較して配列及び/又は機能的性質の改変(例えば、特徴の改変)を示す遺伝子又は遺伝子産物を意味する。なお、天然に存在する突然変異体を単離することができ、これらは、野生型遺伝子又は遺伝子産物に比較して特徴が改変されているという事実により同定される。
【0055】
2.融合コンストラクト
所定の実施形態において、本願では、融合コンストラクトが提供される。所定の実施形態において、本願では、ガイドRNA配列と標的配列を含む融合コンストラクトが提供される。本願で提供される融合コンストラクトは、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法を含む種々の方法で適用される。
【0056】
所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、ステムループ二次構造を有する。「ヘアピン」、「ヘアピンループ」、「ステムループ」及び/又は「ループ」なる用語は、本願では同義に使用され、逆方向に読んだときに相補的となる一本鎖オリゴヌクレオチド内の配列が塩基対合してヘアピン又はループに似た形態の領域を形成する場合に、前記一本鎖オリゴヌクレオチドで形成される構造を意味する。
【0057】
所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、標的配列を含む。前記標的配列は、着目遺伝子(即ち、部位特異的A-to-I RNA編集を所望される遺伝子)に基づいて選択される。所定の実施形態において、前記標的配列は、突然変異配列を含む。例えば、前記標的配列は、1箇所以上の突然変異を有するヌクレオチド配列を含むことができ、前記1箇所以上の突然変異は、疾患表現型をもたらす。所定の実施形態において、前記着目遺伝子は、IDUAである。ヒトIDUA遺伝子の配列を
図25に示す。所定の実施形態において、前記着目遺伝子は、IDUAであり、前記標的配列は、ハーラー症候群の原因となる未熟IDUA W402X終止コドンをもたらすGからAへの突然変異を含むIDUAの配列の一部を含むか又は前記一部に由来する。しかし、これは、限定的な例ではなく、本願に記載するコンストラクトは、任意の所望の遺伝子用に最適化されたRNA編集能を有するガイドRNA配列を選択するための高スループット法で使用するのに適した任意の標的配列を含むことができる。
【0058】
所定の実施形態において、前記標的配列は、GAGCAGCUCUAGGCCGAA(配列番号1)に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の同一性)を有するヌクレオチド配列を含み、但し、配列番号1の11位のヌクレオチドは、アデニン(A)とする。
【0059】
所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、アンチセンスドメインを含む。前記gRNAの前記アンチセンスドメインは、前記標的RNAと結合する。したがって、前記アンチセンスドメインの配列の選択は、前記着目標的RNA(即ち、編集を所望されるRNA)の配列に依存する。前記アンチセンスドメインは、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、10~50ヌクレオチドを含む。例えば、所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、10ヌクレオチド、11ヌクレオチド、12ヌクレオチド、13ヌクレオチド、14ヌクレオチド、15ヌクレオチド、16ヌクレオチド、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、28ヌクレオチド、29ヌクレオチド、30ヌクレオチド、31ヌクレオチド、32ヌクレオチド、33ヌクレオチド、34ヌクレオチド、35ヌクレオチド、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、39ヌクレオチド、40ヌクレオチド、41ヌクレオチド、42ヌクレオチド、43ヌクレオチド、44ヌクレオチド、45ヌクレオチド、46ヌクレオチド、47ヌクレオチド、48ヌクレオチド、49ヌクレオチド、又は50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、50超のヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、10~30ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、15~25ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインの長さは、前記ガイドRNAが更に動員ドメインを含むか否かに依存する。例えば、動員ドメインを含まないガイドRNA配列は、動員ドメインとアンチセンスドメインの両方を含むガイドRNA配列に比較して長いアンチセンスドメインを含むことができる。この概念を
図9に示す。例えば、
図9Aに示すように、動員ドメインを含むガイドRNAにおいて、前記アンチセンスドメインの長さは18ヌクレオチドであり、
図9Dに示すように、動員ドメインを含まないガイドRNAにおいて、前記アンチセンスドメインの長さは37ヌクレオチドである。
【0060】
所定の実施形態において、本願に記載するガイドRNAは、動員ドメインを含まない。例えば、所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、標的配列とアンチセンスドメインを含み、動員ドメインを含まない。所定の実施形態において、前記標的配列と前記アンチセンスドメインは、前記コンストラクトがステム-ループ二次構造を形成するように、ループ構造により連結されている。前記ループ構造は、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチド、3~45ヌクレオチド、3~40ヌクレオチド、3~35ヌクレオチド、3~30ヌクレオチド、3~25ヌクレオチド、3~20ヌクレオチド、3~15ヌクレオチド、3~10ヌクレオチド、又は3~7ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、ペンタループである(即ち、5ヌクレオチドを含む)。所定の実施形態において、前記ループ構造は、表1に記載する配列を含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、又は配列番号18を含む。
【0061】
所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、アンチセンスドメインと動員ドメインを含む。前記ガイドRNA配列は、本願に記載するアンチセンスドメイン及び/又は動員ドメインに1箇所以上の突然変異を作る等の方法により、RNA編集用に最適化することができる。
【0062】
所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、ヒトIDUA遺伝子の一部を標的とするように設計されている。しかし、本願に記載する高スループットシーケンシング方法は、任意の所望の遺伝子の部位特異的編集用に最適化されたgRNAを同定するのに適した任意の適切な標的に適用することができる。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、前記標的配列に実質的に相補的である。したがって、前記アンチセンスドメイン内のヌクレオチドは、前記標的配列上の対応するヌクレオチドと塩基対合し、前記コンストラクトの前記二次構造(即ち、前記コンストラクトの前記ステムループ構造)を形成する。塩基対合は、100%である必要はない。例えば、所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインの1ヌクレオチド以上は、前記標的配列上の対応する位置のヌクレオチドと塩基対合しない。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、完全な相補性を妨害する(即ち、塩基対合を妨害する)1箇所以上の突然変異を含む。例えば、前記アンチセンスドメインは、前記標的配列との塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を含むことができ、前記ステムループ構造の前記ステムの内側にミスマッチを生じることができる。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、UUCGGCCCAGAGCUGCUC(配列番号2)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、配列番号2の8位(即ち、標的鎖における標的アデノシン残基と対向する位置)のヌクレオチドは、シチジンである。8位の3’側(即ち、8位のシチジンの3’側)のヌクレオチドを「-」の後に8位からのヌクレオチド数で表し、8位の5’側のヌクレオチドを「+」の後に8位からのヌクレオチド数で表す。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表4に示すヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号195のヌクレオチド配列を含む。
【0063】
所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、18超のヌクレオチドを有する。例えば、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%の同一性を有する配列に存在するヌクレオチドに加えて付加ヌクレオチドを含むことができる。このような付加オリゴヌクレオチドは、前記アンチセンスドメインの3’末端又は5’末端に存在することができる。典型的なこのようなアンチセンスドメインを
図23D及び
図23Eにハイライトで示し、各々アンチセンス鎖の3’末端又は5’末端に付加される付加ヌクレオチド(例えば、元のコンストラクトで使用される18ntアンチセンスドメインに加えて5ヌクレオチド)を示す。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5又は表6に示す配列を含む。
【0064】
所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号202のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表6に示すヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号303のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号304のヌクレオチド配列を含む。
【0065】
所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、動員ドメインを含む。前記動員ドメイン(本願では、ADAR動員部分とも呼ぶ)は、ADAR又はADAR融合タンパク質との相互作用を助長する。前記動員ドメインは、1種以上のADARタンパク質又はその融合体と結合する(即ち、これらを動員する)ように構成されている。例えば、前記動員ドメインは、ADAR1、ADAR2タンパク質又はその融合体を動員するように構成することができる。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、少なくともADAR2タンパク質を動員する。前記動員ドメインは、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。例えば、前記動員ドメインは、15~100ヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、約15ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約25ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約35ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約55ヌクレオチド、約60ヌクレオチド、約65ヌクレオチド、約70ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約80ヌクレオチド、約85ヌクレオチド、約90ヌクレオチド、約95ヌクレオチド、又は約100ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ステム-ループ二次構造を有するコンストラクトの一部である。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ステムループ構造の一部を形成する。所定の実施形態において、前記ステムループ構造の前記ループ部分は、5ヌクレオチドから構成される(即ち、ペンタループ)。
【0066】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、内在性の(即ち、天然に存在する)ADAR標的の配列をベースとする。前記動員ドメインは、内在性のADAR標的に比較して1箇所以上の修飾を有することができ、ADAR動員又は相互作用を強化することができる。例えば、前記動員ドメインは、ADAR2の内在性標的であるGRIA2R/G部位の配列をベースとすることができる。
【0067】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ループ構造(本願では、ループ配列とも呼ぶ)により連結された第一鎖(即ち、5’鎖)と第二鎖(即ち、3’鎖)を含む。前記第一鎖と前記第二鎖は、相補的な塩基対合を示し、前記コンストラクトの前記ステムループ構造の形成を助長する。所定の実施形態において、この塩基対合は、前記動員ドメインの前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内の1箇所以上の突然変異により妨害される。所定の実施形態において、未修飾動員ドメインとは、妨害されていない塩基対合(即ち、完全な相補性)を示す動員ドメインを意味し、突然変異動員ドメインとは、塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖又は前記第二鎖に含むドメインを意味する。換言するならば、未修飾動員ドメインは、第二鎖に対して完全な相補性を有する第一鎖を含み、突然変異動員ドメインは、完全な相補性ではなく、実質的な(即ち、少なくとも60%の)相補性を有する第一鎖と第二鎖を含む。
【0068】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ループ構造により連結された第一鎖と第二鎖を含む。前記ループ構造は、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチド、3~45ヌクレオチド、3~40ヌクレオチド、3~35ヌクレオチド、3~30ヌクレオチド、3~25ヌクレオチド、3~20ヌクレオチド、3~15ヌクレオチド、3~10ヌクレオチド、又は3~7ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、ペンタループ構造である。ペンタループ構造の適切な配列を表1に示す。本願に記載する融合コンストラクトでは、表1に示す配列のいずれを使用してもよい。所定の実施形態において、前記ループ構造は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、又は配列番号18を含む。
【0069】
所定の実施形態において、前記第一鎖(即ち、5’鎖)は、GGUGUCGAGAAGAGGAGAACAAUAU(配列番号3)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、前記第一鎖(即ち、5’鎖)は、表2に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号108のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号109のヌクレオチド配列を含む。
【0070】
所定の実施形態において、前記第二鎖は、AUGUUGUUCUCGUCUCCUCGACACC(配列番号4)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、前記第二鎖(即ち、3’鎖)は、表3に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号144のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号145のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号146のヌクレオチド配列を含む。
【0071】
所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、前記第一鎖と前記第二鎖は、ループ構造により連結されている。所定の実施形態において、前記ループ構造は、ペンタループ構造である。ペンタループ構造の適切な配列を表1に示す。本願に記載する融合コンストラクトでは、表1に示す配列のいずれを使用してもよい。所定の実施形態において、前記ループ構造は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、又は配列番号18を含む。
【0072】
所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、突然変異の組み合わせを含む。前記突然変異の組み合わせは、前記コンストラクト内の1箇所以上の領域に存在することができる。例えば、前記融合コンストラクトは、前記ガイドRNAに複数の突然変異を含むことができる。例えば、前記コンストラクトは、前記ガイドRNAの前記アンチセンスドメイン内の1箇所以上の突然変異(即ち、前記標的配列における対応するヌクレオチドとの所定の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異)と、前記ガイドRNAの前記動員ドメイン内の1箇所以上の突然変異(即ち、前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖の塩基対合を妨害又は復元する1箇所以上の突然変異)を含むことができる。例えば、所定の実施形態において、前記コンストラクトは、表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表1に記載するループ配列を含む。所定の実施形態において、前記コンストラクトは、表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表2に記載する第1の配列及び/又は表3に記載する第2の配列を含む動員ドメインを含む。所定の実施形態において、前記コンストラクトは、表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表1に記載するループ配列と、表2に記載する第1の配列及び/又は表3に記載する第2の配列を含む動員ドメインを含む。
【0073】
所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、前記ガイドRNA配列と前記標的配列に加えて1種以上のコンポーネントを含む。例えば、前記融合コンストラクトは更に、前記コンストラクトが着目細胞で有効に発現されるか否かの判定を助長するための1種以上のコンポーネントを含むことができる。例えば、前記融合コンストラクトは更に、蛍光タンパク質をコードする配列を含むことができ、コンストラクトが着目細胞で発現されるか否かを可視化することができる。所定の実施形態において、前記融合コンストラクトは、前記ガイドRNA配列と前記標的配列の間に介在配列を含む。このような介在配列は、適切な任意数の核酸を含むことができる。例えば、前記融合コンストラクトは、蛍光タンパク質をコードする配列を含むことができ、前記コンストラクトが着目細胞で発現されることを判定するのを助長することができる。このような実施形態を例えば、
図9Fに示す。
【0074】
3.高スループットスクリーニング方法
遺伝情報の精密な操作を可能にするツールを開発するために多大な労力が費やされている。生命科学における種々の用途に加え、これらのツールには、疾患の治療、特に抗体や低分子を使用する古典的な治療アプローチが奏効していない疾患の治療に使用できる大きな可能性がある。遺伝情報を精密に変化させる1つのアプローチは、ゲノムの標的操作である。CRISPR-Casシステムにより、ゲノムエンジニアリングは、インビトロ又はインビボで遺伝子機能を研究するために基礎研究で広く使用されている主流の方法になっている1,2。この技術を臨床に移行するために、懸命な取り組みが現在遂行中である。しかし、その治療応用への道程は依然として険しく、このことは、CRISPR-Casシステムが細胞周期停止3、細胞死4又は免疫応答5-7を誘導できることを示した最近の報告により浮き彫りにされている。DNAに導入された変異が永久的に持続するという事実は、同時に幸運でも不運でもある。一面において、ゲノムエンジニアリングは難病根治の機会を提供する。他方、潜在的に有害なオフターゲット突然変異が非意図的副産物として生じ、ゲノムに安定的に組み込まれる可能性があるので、多大な安全性の危険を孕んでいる。
【0075】
RNAに作られる変異は一過的であるので、トランスクリプトームエンジニアリングを可能にするツールがあれば、ゲノムエンジニアリングに伴う安全性の懸念なしに遺伝情報の操作を実現できると思われる。シグナル伝達や炎症等の主要な生体プロセスは、永久的に改変されると重大な結果を招きかねないが、RNA修飾の可逆性は、このような生体プロセスを一時的に操作する機会を提供する。更に、RNAに変異を導入する(潜在的に0%から100%までの)チューナビリティにより、生物学的アウトカムの精密な調節が可能になる。近年、標的RNAにおいて部位特異的A-to-I RNA編集と呼ばれるアデノシンからイノシンへの部位特異的変換(
図1)を可能にする数種のツールが開発されている
8,9。イノシンは、細胞機構により生化学的にグアノシンとして解釈されるので、A-to-I編集は、形式的にAからGへの点突然変異をRNAに導入し、遺伝情報を操作又は復元する機会を提供する。従来、全ての部位特異的A-to-I編集用ツールは、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)の触媒活性を使用している
8,9。これらの酵素は、高等生物のトランスクリプトームの二本鎖RNA(dsRNA)領域内の数百万の部位でA-to-I編集を天然に触媒し、タンパク質機能の調節、RNAスプライシング、免疫及びRNA干渉において重要な役割を果たす
10-14。ADARの触媒活性をトランスクリプトーム内の特定部位に導くために、人工ADAR融合体又は内在性ADAR酵素を使用する数種のストラテジーが存在する。
【0076】
ADARは、N末端及びC末端デアミナーゼドメインに複数のdsRNA結合ドメイン(dsRBD)を含むという共通の構造特徴を有する。dsRBDは、種々のdsRNA構造との結合を可能にするので、ADARの無差別性に大きく寄与する。特定の編集機構(即ち、ADAR融合タンパク質)を人工的に作製するためには、dsRBDを除去し、ガイドRNA(gRNA)との相互作用を可能にするタンパク質ドメインとADARデアミナーゼドメインを融合させ、デアミナーゼ-gRNA複合体を形成する。単純な塩基対合規則を適用することにより、gRNAは、人工デアミナーゼを任意の選択された標的RNAに導く。一般的に、gRNAと標的RNAは、標的部位の中央にA:Cミスマッチを有するdsRNAデュプレックス構造を形成し、デアミナーゼドメインによる効率的で精密な編集を誘導する8,9。
【0077】
数種のデアミナーゼ-gRNA複合体が人工的に作製されており、そのアセンブリには、MS2-MCP15,16、CRISPR-Cas1317,70、λN-boxB18-20又はSNAP-tag21-23システムが利用されている。例えば、ADAR融合タンパク質は、ADARデアミナーゼドメインをCas酵素と融合させたものとすることができる。例えば、Cas13bと融合させたときに、複数のADAR融合タンパク質がC-to-U編集を行うことが示されている17。
【0078】
部位特異的RNA編集を実施するためには、人工ADAR融合体とgRNAを細胞に異所的に導入する必要がある。最適化条件下において、ADAR融合体とgRNAの複合体は、ほぼ定量的な収率で転写産物を編集することができる17,20,23。しかし、異所性発現後の細胞中の人工ADAR融合体の濃度が高いため、効率的な編集と共に、一般的にトランスクリプトームの至る所(数万に及ぶオフターゲット部位)で多数のオフターゲット編集が行われることが度々認められている。
【0079】
デアミナーゼの異所性発現に伴うオフターゲット編集の危険を生じることなしに部位特異的RNA編集を実施する1つの可能性は、内在性ADAR酵素を利用する方法である。ヒトADARを実際に部位特異的編集に使用できることを最初に証明したのは、StafforstとFukudaのグループであった
28-30。しかし、編集の成功は依然としてADAR酵素の異所性発現に依存していた。これらの報告では、2個の機能的ドメインを含むプラスミド由来gRNAにより、ADARを標的RNAに向けて動員している。第1のドメインであるgRNAのアンチセンスドメインは、標的RNAと結合し、第2のドメインであるADAR動員部分は、ADARdsRBDとの相互作用を助長するように設計されている(
図2)。標的RNAとgRNAが天然dsRNA編集標的に似たデュプレックスを形成すると、ADARによる編集が標的部位で行われる
32。内在性ADARを利用して細胞培養での部位特異的RNA編集を実施することができる
32。それ以前の研究とは対照的に、記載されているgRNAは、プラスミドから発現されるのではなく、化学的に修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)として提供された。化学的に修飾されたgRNAを用いて数種の内在性転写産物を標的とした処、多様な細胞種で効率的なRNA編集が得られた
32。また、想定外に編集されたオフターゲット部位はごく少数(編集が有意に亢進又は低下した14部位)しか認められず、編集は精密であり、天然の編集恒常性を妨害しないことが分かった
32。
【0080】
内在性ADARを利用して十分な効率で部位特異的RNA編集を実施するためには、非常に強力なgRNAが必要である。しかし、現在の最先端のデザインのADAR動員gRNAを使用した細胞培養実験でも、多くの標的部位は50%未満しか編集されていない32。ADARが天然ではヒトトランスクリプトームにおける部位を100%に達する収率で編集することに鑑みると46、最大の部位特異的RNA編集を目指してgRNAデザインを改善できる可能性がまだある。しかし、形成された標的RNA/gRNAデュプレックス内で高度に選択的で効率的な編集を行うのに適した合理的なgRNAエンジニアリングは、依然として難題である。
【0081】
所定の実施形態において、本願では、RNA編集収率を最大にするgRNAを同定、選択、生産及び利用するために適用されるシステム及び方法が提供される。このプラットフォームにより、哺乳動物細胞で部位特異的RNA編集を仲介する能力についてgRNA配列を高スループットでスクリーニングすることが可能になる(
図3)。スクリーニングから得られた結果から、ADAR及び人工ADAR融合体による有効な部位特異的RNA編集をよりよく理解できる。このプラットフォームは、gRNA配列を個々の標的部位に最適化させるための強力なアプローチを提供する。また、このプラットフォームは、標的部位の編集収率のみならず、標的RNAとgRNAのデュプレックス内に位置する周囲の他の全オフサイトアデノシンにおける編集収率も定量することが可能である。このため、(オフサイト/ターゲット)編集がデュプレックス配列及び構造によりどのように調節されるかを把握することができる。この情報は、部位特異的RNA編集に有用であるだけでなく、ヒトトランスクリプトームの既知部位における編集アウトカムを理解するためにも有用である。
【0082】
所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAを選択するための高スループットスクリーニング方法が提供される。所定の実施形態において、前記方法は、本願に記載する複数の融合コンストラクトを作製する工程を含む。前記融合コンストラクトは、本願に記載するような標的配列とガイドRNA配列を含む。所定の実施形態において、前記標的配列は、部位特異的A-to-I RNA編集を所望される遺伝子に由来する。例えば、所定の実施形態において、前記遺伝子は、GからAへの点突然変異、TからAへの点突然変異、又はCからAへの点突然変異を含む。所定の実施形態では、このような突然変異の修正が所望される。例えば、GからAへの点突然変異の修正、TからAへの点突然変異の修正、又はCからAへの点突然変異の修正が所望される場合がある。所定の実施形態において、前記点突然変異は、前記遺伝子を発現する対象における疾患又は病態の発症に関連している。例えば、前記対象は、ハーラー症候群に罹患している者とすることができる。所定の実施形態では、前記標的配列に点突然変異が存在する。例えば、前記標的配列は、前記遺伝子を発現する対象において疾患又は病態の原因となるGからAへの点突然変異、TからAへの点突然変異、又はCからAへの点突然変異を含むことができる。所定の実施形態において、前記突然変異は、GからAへの点突然変異であり、前記突然変異は、前記標的配列に存在する。
【0083】
前記方法は更に、適切な細胞で前記融合コンストラクトの発現を誘導する工程を含む。例えば、前記方法は更に、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)を発現する細胞又はADAR融合タンパク質を発現する細胞に前記融合コンストラクトをトランスフェクトする工程を含むことができる。前記方法は更に、融合コンストラクトが、対照に比較して前記細胞から単離された核酸に1箇所以上の突然変異を有効に誘導するか否かを判定する工程を含む。ADAR又はADAR融合タンパク質を発現する任意の適切な細胞を使用することができる。適切な細胞としては、真核細胞が挙げられ、限定されないが、酵母細胞、高等植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞が挙げられる。真核細胞の非限定的な例としては、サル、ウシ、ブタ、マウス、ラット、鳥類、爬虫類及びヒト細胞が挙げられる。
【0084】
トランスフェクション方法は、適切な細胞透過処理剤(例えば、リポフェクタミン)の使用により補助してもよいし、エレクトロポレーション等の他の適切な技術により実施してもよい。融合コンストラクトを細胞に送達する前に適切なベクターに組み込むことができる。適切なベクターとしては、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アルファウイルスベクター等)と、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ファージ等)が挙げられる。前記細胞内で前記コンストラクトの所望の発現を達成した後に、前記方法は更に、所定の融合コンストラクトが対照に比較して前記細胞から単離された核酸に1箇所以上の修飾を有効に誘導するか否かを判定する工程を含む。したがって、所定の実施形態において、前記方法は更に、前記細胞から核酸を単離する工程を含む。前記単離された核酸は、RNAとすることができる。
【0085】
所定の実施形態において、融合コンストラクトが前記融合コンストラクトを発現する細胞集団から単離された核酸に1箇所以上の修飾を誘導するか否かを判定する工程は、前記単離された核酸をシーケンシングする工程を含む。所定の実施形態において、前記細胞集団から単離された核酸における前記1箇所以上の修飾は、前記標的配列に元々存在する突然変異(例えば、GからAへの点突然変異、CからAへの点突然変異、又はTからAへの点突然変異)の修正を含む。例えば、前記細胞からRNAを単離し、シーケンシングを実施し、前記標的配列に元々存在するGからAへの点突然変異が修正されたか否かを判定することができる。例えば、ADARの動員に成功すると、選択されたアデニン残基をイノシンに変換することができる。イノシンは、細胞機構により生化学的にグアノシンとして解釈されるので、A-to-I編集は、RNAにAからGへの点突然変異を導入する。したがって、標的配列に存在する点突然変異(例えば、標的配列に存在するGからAへの点突然変異)を修正することができる。例えば、標的配列に元々存在するアデノシン残基をグアニン残基に修正することができる。GからAへの点突然変異の修正は、ガイドRNA配列が部位特異的RNA編集(即ち、部位特異的A-to-I RNA編集)を有効に誘導することを示す。
【0086】
所定の実施形態において、前記方法は更に、前記コンストラクトの発現が、対照に比較して前記RNAに修飾を有効に誘導したか否かを判定する工程を含む。例えば、前記方法は、単離された核酸(例えば、RNA)の配列を決定する工程を含むことができる。核酸鎖の配列を決定するためには、種々の適切なシーケンシング方法及び技術を使用することができる。例えば、前記シーケンシング方法は、サンガーシーケンシングとすることができる。別の例として、前記シーケンシング方法は、新世代シーケンシング技術(例えば、新世代RNAシーケンシング技術)とすることができる。新世代シーケンシング又は「NGS」なる用語は、数百万の核酸配列の同時シーケンシングを可能にする種々のシーケンシング技術を意味し、高スループットシーケンシング又は大規模並行シーケンシングとも呼ばれる。所定の実施形態では、RNAを前記細胞から単離し、(Illumina社から市販されているプラットフォームを使用する方法等の)NGSによる後続シーケンシングに備えて前記標的RNA/gRNA融合体のcDNAを作製することができる。シーケンシングライブラリー作製には、複数のコンストラクトの同時解析が可能になるように、異なるインデックスを付けたNGSアダプターを使用することができる。シーケンシングデータを解析するためには、標的RNA配列内の編集レベルの検出と、対応するgRNAの同定を可能にする計算パイプラインを使用することができる。
【0087】
所定の実施形態において、本願に記載する方法は、最適化特徴を含むガイドRNAが部位特異的RNA編集を有効に誘導するように、1種以上の最適化特徴を含むgRNAを同定するために使用することができる。前記最適化特徴は、前記アンチセンスドメイン、前記動員ドメイン、及び前記ループ配列から選択することができる。例えば、本願に記載する方法は、最適化アンチセンスドメイン、最適化標的配列、最適化ループ配列、及び/又は最適化動員ドメイン配列を同定するために使用することができる。所定の実施形態において、本願に記載する方法は、最適化アンチセンスドメインを同定するために使用することができる。したがって、このような最適化アンチセンスドメインは、環状ガイドRNA又は動員ドメインを含まないガイドRNAで使用することができる。例えば、環状ガイドRNA又は動員ドメインを含まないガイドRNAで最適化アンチセンスドメインを部位特異的遺伝子編集方法に使用することができる。あるいは、最適化アンチセンスドメインを最適化動員ドメイン及び/又は最適化ループ配列等の別の最適化特徴と組み合わせてガイドRNAで使用してもよい。所定の実施形態において、本願に記載する方法は、最適化動員ドメインを含むgRNAを同定するために使用することができる。例えば、前記方法は、動員ドメインに最適化第一鎖配列及び/又は最適化第二鎖配列を含むgRNAを同定することができる。所定の実施形態において、前記方法は、最適化ループ配列を同定することができる。したがって、本願に記載する方法は、最適化アンチセンスドメイン、最適化標的配列、及び最適化ループ配列、並びに/又は最適化動員ドメイン配列を含む1種以上の最適化特徴を含むガイドRNAの作製を補助するために使用することができる。
【0088】
4.ガイドRNA及び治療方法
部位特異的A-to-I RNA編集の治療能は、形式的にAからGへの点突然変異を導入することによりコドンの意味を変えられることに起因する。全3種の終止コドンと20種の標準アミノ酸のうちの12種をA-to-I編集により再コード化することができる(
図4A)。これは、一般的にシグナル伝達タンパク質のリン酸化部位として機能するチロシン、セリン及びトレオニン残基を含む(
図4B)。これらのリン酸化部位の編集は、がん等の疾患における異常なシグナル伝達を修正するために適用される。実際に、そのリン酸化がシグナル伝達に必須であるY701をコードするSTAT1mRNA
23,32の5’-UAUトリプレットを効率的に編集するために、部位特異的A-to-I編集を適用するのに成功している
33。リン酸化を担うアミノ酸残基の再コード化以外に、A-to-I編集は、機能的に重要な他の部位にアミノ酸置換を誘導するためにも適用される(
図4C)。これは、タンパク質の不活性化又は過剰活性化が疾患の治療で有益な効果を有する場合にこのようなタンパク質の機能を改変するために有用である。更に、5’-AUG開始コドンを標的として編集し、バリンコドン(5’-IUG)に変換し、翻訳開始を防ぐことにより、病因性タンパク質の機能を抑制することも可能である(
図4D)。
【0089】
治療用A-to-I RNA編集の特に魅力的な用途は、病原性のGからAへの点突然変異の修復である(
図4D)。ClinVarデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/)によると、タンパク質機能(機能亢進又は低下)を調節する又はRNAスプライシングを変える数千種の病因性のGからAへの点突然変異が存在する。部位特異的A-to-I RNA編集が病原性のGからAへの点突然変異を修正するために医療で強力なアプローチとして適用されることを示した複数の報告が発表されている
16,18,20,22,32。
【0090】
部位特異的A-to-I RNA編集は、ゲノムエンジニアリングに伴う安全性の懸念なしに、GからAへの点突然変異に起因する上記及び他の疾患表現型を逆転させるために適用される。治療の観点から見ると、部位特異的RNA編集に内在性ADARを利用するというこのアプローチは、異所的に発現させた人工ADAR融合体を適用するアプローチよりも一般に著しく精密であるため、有望である17,23,32,43。更に、内在性ADARによる編集に成功するには、化学的に修飾された核酸としてgRNAを投与するだけでよいため、部位特異的RNA編集の治療応用が著しく簡略になる。適切な修飾としては、限定されないが、2’-O-メチル(2’-OMe)、ホスホロチオエート(PS)、2’-O-メチルチオPACE(MSP)、2’-O-メチル-PACE(MP)、2’-フルオロRNA(2’-F-RNA)、及び拘束されたエチル(S-cEt)が挙げられる。あるいは、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)送達により、gRNAをプラスミドから発現させることもできる。
【0091】
所定の実施形態において、本願では、ハーラー症候群の原因となる未熟IDUA W402X終止コドンの修正に内在性ADARを利用する方法が提供される(
図5)。このような方法は、病因性のGからAへの点突然変異の非常に効率的な修復により多大な恩恵を受けることができる。したがって、ハーラー症候群の治療方法を実施する前に、本願に記載するシステム及び方法を使用してgRNAの最適化を行う。最適化gRNAを同定した後、本願に記載するような疾患の治療方法で前記gRNAを使用することができる。
【0092】
所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集方法が提供される。前記方法は、本願に記載する方法/プラットフォームによりgRNAを選択する工程と、前記ガイドRNAを含むコンストラクトを細胞又は対象に提供する工程を含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、本願に記載するようなgRNAである。所定の実施形態において、前記コンストラクトは更に、本願に記載するようなターゲティングドメインを含むことができる。
【0093】
所定の実施形態において、本願では、部位特異的RNA編集における使用のためのガイドRNAが提供される。前記ガイドRNAは、本願に記載する任意の適切なガイドRNAとすることができる。前記ガイドRNAは、本願に記載する高スループットスクリーニング方法を使用して同定することができる。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、標的遺伝子配列に実質的に相補的であるか又は完全に相補的であるアンチセンスドメインを含む。前記標的遺伝子配列は、部位特異的RNA編集を所望される任意の遺伝子配列とすることができる。所定の実施形態において、前記標的遺伝子配列は、IDUA遺伝子内に存在する。例えば、前記標的遺伝子配列は、ヒトIDUA遺伝子内に存在することができる。ヒトIDUA遺伝子の配列を
図25に示す。
図25に示すように、402位のアミノ酸はトリプトファン(W)である。しかし、ハーラー症候群に罹患した対象では、IDUA遺伝子にW402X突然変異が認められる。したがって、所定の実施形態において、前記標的遺伝子配列は、ヒトIDUAmRNAに存在するW402X突然変異を含む。前記標的遺伝子配列は、このW402X突然変異を含むことができ、W402X突然変異の両方向に適切な任意数のヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記標的遺伝子配列は、GAUGAGGAGCAGCUCUAGGCCGAAGUGUCGCAG(配列番号5)を含むことができる。
【0094】
適切なアンチセンスドメイン配列の選択は、着目標的遺伝子に依存する。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、ヒトIDUA遺伝子の一部を標的とするように設計されるが、他の着目遺伝子を標的とすることができない。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、前記アンチセンスドメイン内のヌクレオチドが前記標的配列上の対応するヌクレオチドと塩基対合するように設計されている。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、前記標的遺伝子配列に完全に相補的である。他の実施形態では、前記標的配列の対応する位置のヌクレオチドと塩基対合しないように、前記アンチセンスドメインの1ヌクレオチド以上を突然変異させる(即ち、前記アンチセンスドメインは、前記標的配列と実質的に相補的であるが、完全に相補的ではない)。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、UUCGGCCCAGAGCUGCUC(配列番号2)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、配列番号2の8位のヌクレオチド(即ち、前記標的-アンチセンスデュプレックス内の標的アデノシンと対向するヌクレオチド)は、シチジンである。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表4に示すヌクレオチド配列を含む。8位の3’側(即ち、8位のシチジンの3’側)のヌクレオチドを「-」の後に8位からのヌクレオチド数で表し、8位の5’側のヌクレオチドを「+」の後に8位からのヌクレオチド数で表す。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号195に記載するヌクレオチド配列を含む。
【0095】
所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、18超のヌクレオチドを有する。例えば、前記アンチセンスドメインは、配列番号2に対して少なくとも50%の同一性を有する配列に存在するヌクレオチドに加えて付加ヌクレオチドを含むことができる。このような付加オリゴヌクレオチドは、前記アンチセンスドメインの3’末端又は5’末端に存在することができる。典型的なこのようなアンチセンスドメインを
図23D及び
図23Eにハイライトで示し、各々アンチセンス鎖の3’末端又は5’末端に付加される付加ヌクレオチド(例えば、元のコンストラクトで使用される18ntアンチセンスドメインに加えて5ヌクレオチド)を示す。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5又は表6に示す配列を含む。
【0096】
所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表5に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号202のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、表6に示すヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号303のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記アンチセンスドメインは、配列番号304のヌクレオチド配列を含む。
【0097】
所定の実施形態において、前記ガイドRNA配列は、動員ドメインを含む。前記動員ドメイン(本願では、ADAR動員部分とも呼ぶ)は、ADAR又はADAR融合タンパク質との相互作用を助長する。前記動員ドメインは、1種以上のADARタンパク質又はその融合体と結合する(即ち、これらを動員する)ように構成されている。例えば、前記動員ドメインは、ADAR1若しくはADAR2タンパク質又はその融合体を動員するように構成することができる。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、少なくともADAR2タンパク質を動員する。前記動員ドメインは、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。例えば、前記動員ドメインは、15~100ヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、約15ヌクレオチド、約20ヌクレオチド、約25ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約35ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約55ヌクレオチド、約60ヌクレオチド、約65ヌクレオチド、約70ヌクレオチド、約75ヌクレオチド、約80ヌクレオチド、約85ヌクレオチド、約90ヌクレオチド、約95ヌクレオチド、又は約100ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ステム-ループ二次構造を有するコンストラクトの一部である。所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ステム-ループ構造の一部を形成し、前記ステムループ構造の前記ループ部分は、5ヌクレオチドから構成される(即ち、ペンタループ)。
【0098】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、相互に実質的に相補的であるか又は完全に相補的である第一鎖と第二鎖を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖と前記第二鎖は、ループ配列により連結されている。前記ループ構造は、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチド、3~45ヌクレオチド、3~40ヌクレオチド、3~35ヌクレオチド、3~30ヌクレオチド、3~25ヌクレオチド、3~20ヌクレオチド、3~15ヌクレオチド、3~10ヌクレオチド、又は3~7ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、ペンタループ構造である。ペンタループ構造の適切な配列を表1に示す。本願に記載する融合コンストラクトでは、表1に示す配列のいずれを使用してもよい。所定の実施形態において、前記ループ構造は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、又は配列番号18を含む。
【0099】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、内在性の(即ち、天然に存在する)ADAR標的の配列をベースとする。前記動員ドメインは、内在性のADAR標的に比較して1箇所以上の修飾を有することができ、ADAR動員又は相互作用を強化することができる。例えば、前記動員ドメインは、ADAR2の内在性標的であるGRIA2R/G部位の配列をベースとすることができる。
【0100】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ループ構造(本願では、ループ配列とも呼ぶ)により連結された第一鎖(即ち、5’鎖)と第二鎖(即ち、3’鎖)を含む。前記第一鎖と前記第二鎖は、相補的な塩基対合を示し、前記コンストラクトの前記ステムループ構造の形成を助長する。所定の実施形態において、この塩基対合は、前記動員ドメインの前記第一鎖及び/又は前記第二鎖内の1箇所以上の突然変異により妨害される。所定の実施形態において、未修飾動員ドメインとは、妨害されていない塩基対合(即ち、完全な相補性)を示す動員ドメインを意味し、突然変異動員ドメインとは、塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異を前記第一鎖又は前記第二鎖に含むドメインを意味する。換言するならば、未修飾動員ドメインは、第二鎖に対して完全な相補性を有する第一鎖を含み、突然変異動員ドメインは、完全な相補性ではなく、実質的な(即ち、少なくとも60%の)相補性を有する第一鎖と第二鎖を含む。
【0101】
所定の実施形態において、前記動員ドメインは、ペンタループ構造により連結された第一鎖と第二鎖を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖(即ち、5’鎖)は、GGUGUCGAGAAGAGGAGAACAAUAU(配列番号3)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、前記第一鎖(即ち、5’鎖)は、表2に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号108のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号109のヌクレオチド配列を含む。
【0102】
所定の実施形態において、前記第二鎖は、AUGUUGUUCUCGUCUCCUCGACACC(配列番号4)に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。例えば、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。所定の実施形態において、前記第二鎖(即ち、3’鎖)は、表3に示す配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号144のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号145のヌクレオチド配列を含む。所定の実施形態において、前記第二鎖は、配列番号146のヌクレオチド配列を含む。
【0103】
所定の実施形態において、前記第一鎖は、配列番号3に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、前記第二鎖は、配列番号4に対して少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、前記第一鎖と前記第二鎖は、ループ構造により連結されている。前記ループ構造は、適切な任意数のヌクレオチドを含むことができる。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、3~50ヌクレオチド、3~45ヌクレオチド、3~40ヌクレオチド、3~35ヌクレオチド、3~30ヌクレオチド、3~25ヌクレオチド、3~20ヌクレオチド、3~15ヌクレオチド、3~10ヌクレオチド、又は3~7ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、ペンタループである(即ち、5ヌクレオチドを含む)。所定の実施形態において、前記ループ構造は、表1に記載する配列を含む。所定の実施形態において、前記ループ構造は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、又は配列番号18を含む。
【0104】
所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、突然変異の組み合わせを含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、少なくとも2箇所の突然変異(即ち、2箇所、3箇所、4箇所、5箇所、又は6箇所以上の突然変異)を含む。例えば、前記ガイドRNAは、前記アンチセンスドメイン内の1箇所以上の突然変異(即ち、前記標的配列における対応するヌクレオチドとの所定の塩基対合を妨害する1箇所以上の突然変異)と、前記ガイドRNAの前記動員ドメイン内の1箇所以上の突然変異(即ち、前記動員ドメインの前記第一鎖と前記第二鎖の塩基対合を妨害又は復元する1箇所以上の突然変異)を含むことができる。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、前記動員ドメインに複数の突然変異を含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表1に記載するループ配列を含む。所定の実施形態において、前記ガイドRNAは、表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表2に記載する第1の配列及び/又は表3に記載する第2の配列を含む動員ドメインを含む。所定の実施形態において、前記コンストラクトは。表4、表5、又は表6に記載するアンチセンスドメインと、表1に記載するループ配列と、表2に記載する第1の配列及び/又は表3に記載する第2の配列を含む動員ドメインを含む。
【0105】
本願に記載するガイドRNAは、細胞又は対象における部位特異的RNA編集(例えば、部位特異的A-to-I RNA編集)方法で適用される。例えば、対象における疾患又は病態を治療するためにRNA編集を実施することができる。例えば、本願に記載するガイドRNAは、前記対象により発現される遺伝子におけるGからAへの点突然変異を特徴とする疾患又は病態の治療方法で使用することができる。所定の実施形態において、前記疾患は、ハーラー症候群である。
【0106】
所定の実施形態では、前記ガイドRNA又はこれを含むコンストラクトを前記細胞又は対象に送達するための組成物として製剤化することができる。例えば、前記コンストラクトを非経口投与用組成物として製剤化することができる。「非経口」なる用語は、任意の適切な非経口投与経路を意味し、皮下、筋肉内、静脈内、髄腔内、大槽内、関節内、脊髄内、硬膜外腔内、皮内等が挙げられる。前記コンストラクトは、任意の適切な賦形剤、安定化剤、保存剤等と共に製剤化することができる。所定の実施形態において、前記組成物は、ハーラー症候群に罹患している対象に提供することができる。したがって、所定の実施形態において、本願では、ハーラー症候群の治療方法として、前記治療を必要とする対象に、本願に記載するgRNA(即ち、最適化gRNA)を含む組成物を提供することを含む方法が提供される。前記gRNAは、本願に記載する高スループットスクリーニング方法を使用して同定することができる。
【0107】
当然のことながら、本願に記載する部位特異的RNA編集方法で使用するには、内在性ADAR及び/又は人工ADAR融合体が適切であると思われる。例えば、本願に記載するスクリーニング方法により同定された(最適化ガイドRNAを含む)ガイドRNAは、本願に記載する方法でADAR融合タンパク質と共に使用するのに好適であると思われる。
【0108】
本願に引用する刊行物、特許出願、及び特許を含む全参考資料は、各参考資料が本願に援用されると個々に具体的に指示され、その開示内容全体が本願に記載されている場合と同程度まで本願に援用される。
【0109】
本願には、本発明を実施するために本発明者らに分かっている最良の形態を含めて本発明の好ましい実施形態を記載する。当技術分野における通常の知識を有する者であれば、以上の記載に照らし、これらの好ましい実施形態の変形にも想到されよう。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜利用することを予期し、また、本発明者らは、本発明が具体的に本願に記載されている以外の方法で実施されることを念頭に置いている。したがって、本発明は、本願に添付する特許請求の範囲に明記する保護対象の全ての変形及び均等物を準拠法により許可されるものとして含む。更に、本願中で特に否定している場合又は文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、その可能な全変形における上記要素のあらゆる組み合わせも本発明に含まれる。
【実施例】
【0110】
[実施例1]gRNA配列の最適化
スクリーニングプラットフォームの概要:効率的な編集は、一般に基質配列や、gRNA/標的デュプレックスの長さと構造等の多数の因子に依存する48,49。現今の知識では、ADAR酵素が所定の部位を可能な最高の効率で編集できるようなgRNAの設計方法について結論することはできない。このハードルを乗り越えるために、新世代シーケンシング(NGS)を使用し、GからAへの点突然変異を編集する能力についてgRNAライブラリー配列をスクリーニングすることができる。実際のシナリオでは、ADAR酵素を動員することが可能なgRNAと標的転写産物を結合させると、前記標的転写産物で編集が実施される。NGSによるスクリーニングでは、単一のシーケンシングリードで同定できるように、標的配列とASO配列を同一の転写産物で発現させ、どの編集レベルがどのASO配列に仲介されるかを確認する。これを行うためには、病原性のGからAへの点突然変異を含む標的領域を全長転写産物から取得し、ASOライブラリー配列と融合させ、標的RNAとトランス作用性gRNAのデュプレックスをシミュレートするヘアピン構造を形成する。標的RNA/gRNAライブラリーのデザインについては、実施例2により詳細に記載する。
【0111】
スクリーニング実験に備え、標的RNA/gRNA融合体ライブラリーをDNAオリゴヌクレオチドとしてオーダーし、発現ベクターにライゲーションすることができる。例えば、確立されているクローンアンドユーズ(clone-and-use)ストラテジーを使用してライブラリーを発現ベクターにライゲーションすることができる50,51。得られたプラスミドライブラリーをリポフェクション等の適切な方法により、ヒトADARを発現する細胞に送達することができる。プラスミドライブラリーと共にインキュベーション後に、細胞からRNAを単離し、NGS(Illuminaシーケンシング)による後続シーケンシングに備えて標的RNA/gRNA融合体のcDNAを作製することができる。シーケンシングライブラリー作製には、複数の実験を同時に解析できるように異なるインデックスを付けたNGSアダプターを使用することができる。シーケンシングデータを解析するためには、標的RNA配列内の編集レベルの検出と対応するgRNAの同定を可能にする計算パイプラインを使用することができる。あるいは、プラスミドを必要とせずに、標的/gRNA融合体を細胞にインビトロ転写・トランスフェクトすることもできる。
【0112】
標的部位に誘導された編集レベルを比較すると、どのgRNA配列がADARを効率的なRNA編集に導くことができるかが判明する。また、標的RNA/gRNA融合体内のオフサイトアデノシンの編集程度を試験すると、gRNAがRNA編集をどの程度精密に仲介するかが明らかになる。編集効率及び特異性に及ぼす標的RNA/gRNAデュプレックス構造及び配列の影響をこの解析により評価することもできる。
【0113】
[実施例2]標的RNA/gRNA融合体ライブラリーのデザイン
ADARが部位特異的RNA編集を触媒するのを可能にするgRNAは、標的配列と結合するためのアンチセンスドメインと、ADAR酵素との相互作用を確保する不完全二本鎖ADAR動員部分の2部分を含む(
図2)。
【0114】
RNA編集は複数の因子により影響を受ける可能性があるので、編集を最大にするには各部位に個別適応させたgRNA配列が必要になると思われる。このような最適gRNA配列を見出すためには、全ての着目標的によりgRNAアンチセンスドメインとADAR動員部分のスクリーニングを実施すればよい。
【0115】
RNA編集を最大にするgRNA配列を同定するための標的RNA/gRNAライブラリーを設計することができる。単一点突然変異又は縮重ヌクレオチドのストレッチを両方のgRNA部分(アンチセンスドメインと動員ドメイン)に導入し、標的RNA/gRNAデュプレックス構造と動員ドメインにミスマッチ、ワトソン・クリック塩基対又はゆらぎ塩基対を生じる(
図7、
図8)。
【0116】
本願に記載する方法は、標的部位の編集レベルを上昇させる所定位置のミスマッチを同定するために使用することができる。また、同様に編集収率を改善すると思われるバルジを導入するために、シングルヌクレオチドを除去(又は挿入)することができる。RNAステムの段階的短縮(ADAR動員部分)又は延長(アンチセンスドメインとADAR動員部分)を試験することもできる(
図7、
図8)。
【0117】
更に、公知編集基質に由来する他のADAR動員部分(
図8)を編集能の改善に使用することができる。編集を強化することが分かっている複数の特徴を必要に応じて組み合わせる。
【0118】
本願に記載する方法により同定された最適化gRNA配列と、編集の効率及び/又は特異性を強化することが分かっている他のガイドデザインとをモジュラー式に組み合わせることができる。例えば、スクリーニングで編集を強化することが示されるアンチセンス領域のミスマッチを、環状ガイド又は動員ドメインを含まずに長いアンチセンスドメインから構成されるガイドに組込むことができる。
【0119】
【0120】
[実施例3]スクリーニング方法
ASOライブラリープロトタイプの設計及び試験。ASOライブラリープロトタイプは、公開されているASOデザイン「v9.4」
32をベースとし、ガイド/標的複合体に似せた融合コンストラクトの一部として標的配列の18ヌクレオチド(nt)領域を付加した点を主な違いとした(
図9A)。この融合コンストラクトは、同一シーケンシングリードでガイドRNA配列と関連編集イベントを捕捉できるというユニークな特徴がある。また、動員ドメインのヘアピンループ配列を「GCUAA」から「GCCAA」に変換し、終止コドンを除去した。
【0121】
パイロットスクリーニングで探索した標的配列は、ヒトIDUA遺伝子に由来する18nt領域から構成し、野生型IDUA配列に由来する上流10残基と下流7残基の間に、ハーラー症候群患者に認められるGからAへの突然変異を含むものとした。融合コンストラクトのガイドRNA部分は、動員ドメインとそれに続く18ntアンチセンス配列から構成した。動員ドメインは、ADARの内在性GRIA2R/G部位をベースとし、動員ドメイン内の編集を抑制するために、数箇所の配列置換を含むものとした32。編集部位に対向するCミスマッチは編集を亢進することが従来から分かっているので、アンチセンス配列には、このミスマッチを導入し、それ以外は、標的配列に相補的とした49。
【0122】
スクリーニングに先立ち、エンハンサー変異体を同定するのに十分なダイナミックレンジを提供するために、ライブラリープロトタイプがスクリーニング条件下で完全ではないとしても検出可能に編集されているように確保することが重要であった。そこで、先ず、誘導性ADAR1 p150発現の存在下と不在下にFlp-In T-REx293細胞でプロトタイプの編集を試験した。プロトタイプをmCherryコーディング配列とEGFPコーディング配列の間のスペーサー領域としてpcDNA5ベクターに制限クローニングした(クローニングセクションの詳細参照)。ADAR1 p150を組込んだFlp-In T-REx293細胞を10ng/mlのドキシサイクリン(Dox)の存在下又は不在化で24ウェル組織培養プレートに播種した(ウェル当たり細胞350,000個)。20時間後に、ピペット滴下により2.5μLのLipofectamine 2000を使用してプラスミド500ngをトランスフェクトした。24時間後に、全RNAを単離し、RNeasy MinEluteキット(Qiagen)を使用して精製し、M-MuLV逆転写酵素(NEB)を使用してmCherry特異的プライマーにより逆転写した。PCR増幅してアガロースゲルで精製したcDNAをサンガーシーケンシングにかけ、編集レベルを求めた。観測された編集率は、内在性ADARのみの存在下(非Dox誘導下)では約50%であり、Dox誘導下では100%であった(
図9B、C)。そこで、その後のスクリーニングには、内在性ADARタンパク質のみを発現するFlpIn T-REx細胞を使用した。
【0123】
他のプロトタイプに適したベースライン編集レベル(即ち、検出可能であるが、<<100%)を得るためには、プロトタイプデザイン、細胞種、ドキシサイクリン濃度、内在性ADARタンパク質のノックアウト、又は時間を含む多数の可変事項を操作することができる。ガイド/標的融合体の数種の変形を試験した。例えば、動員ドメインを省略し、その代わりに短いループにより連結された長い標的配列とアンチセンス配列を使用することができる(
図9D、E)。このデザインによると、スクリーニングプロトコールに抵触する可能性のある過度に安定なRNA構造を作製しなくても、より長い領域に渡って編集に影響を与える標的特異的配列特徴を探索することができる。このデザインの拡張では、短いループの代わりにEGFPコーディング配列(720nt+短いリンカー)により標的配列とガイド配列が分離されている(
図9F)。標的配列とガイド配列が翻訳後の配列により空間的に分離されているこのデザインは、トランスガイドによる編集に近似している。
【0124】
その後の高スループットライブラリーデザインの参照配列として使用する新規標的の1種以上のプロトタイプの同定を早めるために、種々のプロトタイプデザインを含むオリゴヌクレオチドプールを使用することにより、短時間の初期スクリーニングを実施することができる。数十種又は数百種のデザインのこのようなプールは、以下のパラメーター、即ち、標的領域とアンチセンス領域の長さ、コンストラクト内の編集部位の位置、(存在する場合には)動員ドメインの種類の系統的変形を含むことができる。オリゴヌクレオチドプールは、例えば、IDT oPool又は小型のTwist/Agilentオリゴヌクレオチドライブラリーとして得ることができる。オリゴヌクレオチドをクローニングし、適宜スケールダウンして以下のフルスケールスクリーニング手順と同様にスクリーニングすることができる。
【0125】
ライブラリーデザイン-IDUA W402X突然変異を標的とするアンチセンス変異体のライブラリーを得るために、プロトタイプで示される「コンセンサス」塩基が各位置で時間の82%に存在し、他の3塩基の各々が時間の6%に存在するように、
図9Aのアンチセンス領域をランダム化した。実質的数の三重以上の突然変異体のサンプリングを維持しながら、約10,000変異体のライブラリーでアンチセンス領域の単一突然変異体と二重突然変異体を網羅するように、この縮重レベルを選択した。この縮重レベルは、ランダム化配列の長さ、所望されるライブラリーのサイズ、及び所望される突然変異体カバレッジに応じて調節すべきである。ガイド配列の任意の場所にランダム化残基を導入することができ、全長ガイド配列でもよいし、例えば、編集部位の付近の残基のみを含む領域でもよく、ランダム化残基の数を変えることができる。
【0126】
クローニング-
図9のプロトタイプをベースとするASOライブラリーをmCherryコーディング配列とEGFPコーディング配列の間でpcDNA5ベクターにクローニングした(
図10)。(大半の治療用編集は、コーディング配列を標的とすると思われるので)翻訳後の領域内の編集に似せるために、標的配列から上流のmCherry終止コドンを除去した。ガイド-標的融合体がEGFPmRNAの3’UTR内で発現されるか又はRNAポリメラーゼIIIにより転写された小型のRNAライブラリーとして発現される代替ベクターを使用してもよい。
図10は、使用することができる典型的なベクターと配置を示すが、限定的であると解釈すべきではない。クローニングに使用されるベクターは、コーディング配列の特定の順序又は配置(例えば、mCherry、EGFP、標的RNA、又はガイドRNA)に制限されない。
【0127】
クローニングに先立ち、動員ドメインで部分的にオーバーラップし、標的又はランダム化アンチセンス領域を含む2本の一本鎖DNAオリゴヌクレオチドからASOライブラリーインサートをPCRアセンブルした(
図12、
図13)。18%縮重を得るようにハンドミックスした塩基を使用し、ランダム化領域を含むプライマー(
図12、
図13の「プライマー1_bw_inner」)をスタンフォード大学のPAN施設により作成した。プライマーは、IDT社等の市販品でもよい。以下に言及する他の全オリゴヌクレオチドは、IDT社から入手した。1.5nMの長いプライマーと500nMの短い末端プライマーを使用し、KOD Xtreme(TM)Hot Start DNAポリメラーゼ(Novagen)を用いてPCRアセンブリを実施した。アニーリング温度は62℃(30秒間)とし、68℃で15秒間の伸長工程を実施した。定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)により測定した場合に半飽和に相当する16サイクルでライブラリーを増幅した。KOD Xtremeポリメラーゼは、高度に構造化された鋳型用に最適化されているので、ライブラリー作製に強く推奨される。あるいは、少数のランダム化位置と共に、全長ASO融合コンストラクトとフランキング領域を含む二本鎖(ds)DNA断片を例えば、IDT社から市販品として入手することもできる。
【0128】
PCR副産物を防ぎ、ゲル精製の必要をなくすために、以下では、qRT-PCRにより測定した場合に半飽和に相当するサイクル数で全PCR反応を実施した。全PCR産物の純度をポリアクリルアミドゲル電気泳動により評価した(PAGE;Novex 6%アクリルアミドゲルにTBEを添加;Invitrogen;1×SYBR-Goldで後染色)。
【0129】
Macherey-Nagel PCR精製キットを使用してdsDNA産物を精製し、ClaI及びNheI制限酵素とT4 DNAリガーゼを使用してmCherryコーディング配列とEGFPコーディング配列の間でpcDNA5ベクターに制限クローニングした。NEBioCalculatorで測定した場合にベクターに対して5倍モル過剰のインサートを使用してライゲーション反応を実施した。室温で30分間のインキュベーションと16℃で3時間のインキュベーション後に、反応を65℃で10分間熱不活化し、Macherey-Nagel PCR精製キットを使用してDNAを精製・濃縮した。約10,000変異体のライブラリーを得るために、(2μL容量の)DNA50ngをTOP10コンピテントセル(Invitrogen)25μLに形質転換した。細胞を15cm LB-Carb 100プレート(Teknova)2枚に撒き、37℃で終夜インキュベートした。もっと大型のライブラリーを得るには、ライゲーションされるDNAの量、細胞容量、及びプレート数を比例的に増加させる必要がある。
【0130】
プレートをレザーブレードで掻き取り、LBブロスで洗浄することにより、LB-Carbプレートから約10,000個のコロニーを回収した。HiSpeed Plasmid Midiカラム(Qiagen)でプラスミドDNAを精製した。
【0131】
スループットを更に高め、コロニー100,000個の規模に達するためには、(Lucigen Endura等の)エレクトロコンピテントセルを使用すべきであり、細胞を245mm×245mm LB-Carbプレートに撒けばよい。マキシプレップ(例えば、Qiagen社製品HiSpeed Plasmid Maxiキット)を使用してプラスミドDNAを単離すべきである。
【0132】
細胞培養-10%FBS、100μg/mlハイグロマイシンB、15μg/mlブラストサイジン及び100U/ml Gibco(TM)ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Gibco)に、空のpcDNA5ベクターを組込んだFlp-In T-REx 293細胞を維持した。十分な編集レベルを観測するために、ADAR1 p150を組込んだFlp-In T-REx細胞で誘導性ADAR1発現は不要であることが分かった(
図9B、C)ので、空のpcDNA5ベクターを組込み、従って、内在性ADARタンパク質のみを発現するFlp-In T-REx293細胞をスクリーニングに使用した。スクリーニングプロトコールにFlp-In T-REx細胞を使用する必要はなく、検出可能な編集に十分なADARタンパク質を発現し、トランスフェクションに対応可能な他のあらゆる細胞株をスクリーニングに使用することができる。
【0133】
スクリーニング手順-空のpcDNA5ベクターを組込んだ293Flp-In T-REx細胞を6ウェル組織培養コーテッドプレートにウェル当たり1,500,000個の密度で播種し、37℃でインキュベートした。(約70%細胞コンフルエントに相当する)22時間後に、プラスミドライブラリー(2.75μg)とLipofectamine 2000(8.25μL)を別々にptiMEM(最終容量550μL)で希釈し、室温で5分間インキュベートした。これらの2種の溶液を混合し、20分間インキュベートし、プレートに播種した細胞に混合液1mlを滴下した。24時間後に培地を捨て、上下ピペッティングにより細胞を回収した。10cmプレートに細胞5,000,000個を播種し、DNA10μgをトランスフェクトするという規模までトランスフェクション規模を変化させても、スクリーニング結果に影響はなかった。ライブラリートランスフェクションから細胞回収までの時間を7時間から48.5時間まで変化させても、スクリーニングアウトカムに影響はなかった。
【0134】
シングルRNeasy Miniカラム(Qiagen)で全RNAを精製した。より大規模のトランスフェクションには、マニュアルに指定される細胞種及び数とカラム容量に応じて、複数のRNeasy Miniカラム又はRNeasy Midiカラムが必要になると思われる。製造業者のプロトコールに従い、全RNA(150ng/μL)をTurbo DNase(Invitrogen)で30分間37℃にて処理し、10分の1の容量のDNase不活化試薬(Invitrogen)で反応を停止した。高度に構造化されたRNA鋳型用に最適化されているTGIRT III酵素(InGex)を使用して逆転写(RT)を実施した。WarmStart RTx逆転写酵素(NEB)を使用しても同等の成果が達せられた。他の逆転写酵素では、最も安定な二次構造を有するライブラリー変異体が減少し、逆転写産物の短縮により編集測定値に歪みを生じる恐れがある。TGIRT反応(20μL)は、Turbo DNaseで処理した全RNA9.7μL、ジチオトレイトール(DTT)10mM、バーコード付きRTプライマー(
図14、
図15)0.1μM、1×TGIRTバッファー、TGIRT酵素1μL、及び(その他の成分を室温で30分間プレインキュベーション後に添加した)dNTP1.25mMとした。TGIRT酵素の代わりに水1μLを使用した以外は同様に非RT対照を調製した。RT反応液と非RT反応液を60℃で1時間インキュベートした。室温まで冷却後に、1μlの5MNaOHを加えた後、95℃で3分間インキュベートした。室温まで冷却後、2.5μLの2MHClで反応液を中和し、水で容量を50μLまで調整した後、Macherey-Nagel PCR精製キットを使用して精製した。プラスミドDNAがDNase処理により有効に除去されたことを確認するためと、後続PCR工程で生じる可能性のあるプライマー副産物の検出及びトラブルシューティングのために、非RT対照を加えることは不可欠である。全ての後続PCR工程でも使用したKOD Xtreme DNAポリメラーゼを使用し、精製cDNAと同様に処理した非RT対照を増幅した(
図14)。プライマー2_fw及びプライマー2_bw各0.3μMと、1/10容量の精製RT又は非RT産物をPCR反応に使用し、アニーリング温度は57℃とし、68℃で20秒間の伸長工程を実施した。(飽和シグナルの約50~75%に相当する)PCRサイクル数をqRT-PCRにより求め、DNA産物の純度を6%PAGEにより確認した。RT反応と非RT反応を鋳型として使用し、(qRT-PCRにより測定した)C
t値をPCR反応間で比較することにより、プラスミドDNA除去効率を確認した。cDNAとプラスミドDNAの存在量の少なくとも約100倍の差に相当する少なくとも約7のC
tの差が所望される。また、(qRT-PCRにより測定した場合に)RT鋳型との反応の半飽和に相当する同一サイクル数で両方のPCR反応を実施した後、両方のPCR反応のアリコートを6%PAGEにより分析することにより、RT反応と非RT反応のPCR産物をゲル上で比較した。非RT反応は、検出可能なシグナルを生じないはずである。PCR増幅したcDNAライブラリーをMacherey-Nagel PCR精製キットにより精製し、QubitによりDNA濃度を測定した。次に、鋳型0.5nM、長い内側プライマー(「プライマー3_fw_inner」及び「プライマー3_bw_inner」)各1.5nM、及び短い外側プライマー(「プライマー3_fw_outer」及び「プライマー3_bw_outer」)各0.3μMを使用することにより、
図14に示すように、PCRアセンブリによりIlluminaシーケンシングアダプターを付加した。アニーリング温度は55℃とし、68℃で30秒間の伸長工程を実施した。プライマー3_bw_innerには、6ntのi7インデックスを付加し、シーケンシングのプールを可能とするように、全てのユニークライブラリーに別のi7インデックスを使用した。アセンブルした産物の純度を6%PAGEにより確認し、ライブラリーをMacherey-Nagel PCR精製キットにより精製した。
【0135】
RTプライマーには、編集レベルの正確な定量に不可欠な分子バーコード(UMI)を付加する(
図14、
図15)。ユニークなcDNAを表す各UMIが後続シーケンシング中に複数のリードにより表されるように確保するために、各ライブラリー変異体が平均で100UMIにより表されるようにライブラリーをボトルネッキングした。これを行うために、アセンブルしたcDNAの濃度をQubitにより測定し、1μL当たり1,000,000分子(=100UMI×10,000変異体)となるまで、試料を段階希釈した。希釈した試料1μLを次にボトルネッキングPCR反応(
図14;アニーリング温度57℃、68℃で30秒間伸長)で鋳型として使用し、Macherey-Nagel PCR精製キットにより反応産物を精製した
71,72。ボトルネッキング工程中に使用した低いDNA濃度でのチューブ及びピペットチップへの粘着によるDNA損失を避けるために、後続PCR増幅で水/TEバッファーの代わりに使用したプライマー(
図14、
図15の「プライマー3_fw_outer」及び「プライマー3_bw_outer」)の(0.1%Tween 20中)100nM溶液で段階希釈を実施した。1変異体当たり100種のユニークなcDNAに相当する平均100UMIまでボトルネッキングすると、同一のアンチセンス変異体に関連する編集済みRNAと未編集RNAの正確な定量が可能になる。HiSeq(Illumina)を使用してペアエンド150bpリードでライブラリーをシーケンシングした。他の個々にインデックスを付けたライブラリーとIDUA W402XライブラリーをシングルHiSeqレーンで多重化し、UMI当たり平均20個のリードを割り当てた。あるいは、単一の10,000変異体のライブラリーをシーケンシングするためにIllumina MiSeqキットを使用することができる。HiSeq及びMiSeqとは対照的に、Illumina NextSeq及びNovaSeqプラットフォームでは、ライブラリーコンストラクトのヘアピン領域のシーケンシング品質が不十分であり、確実な配列同定と編集レベルの定量を実施できないことが分かった。したがって、NextSeqとNovaSeqは、スクリーニングに使用すべきではない。
【0136】
シーケンシング品質を改善するために、cDNAライブラリーを約40%のPhiX Sequencing Control V3(Illumina)と混合することにより、配列多様性を増加させた。DNAレベルで実際の編集イベントと想定外のAからGへの突然変異を厳密に区別するために、プラスミドDNAライブラリーもシーケンシングした。「PCR増幅」工程から出発し、cDNAライブラリー作製に使用したプライマーと同一のプライマーを使用することにより、シーケンシング用にDNAライブラリーを作製した(
図14)。この工程では、0.3μMのプライマー2_fw及びプライマー2_fwを使用し、更に、プライマー2_fw及びプライマー2_bwの融解温度(57℃)が最適RT温度(60℃)と相違していたので、一致させるために3’末端を2nt短縮したバーコード付きプライマー_RT(
図14)のトランケート体1.5nMを使用し、0.2ng/μLのプラスミドライブラリーを増幅した。ボトルネッキング工程を含む後続工程は、cDNAライブラリー作製における工程と同一とした。cDNA及びDNAライブラリー作製用の典型的なコンストラクトとプライマーを
図15に示す。
【0137】
解析-FLASH-1.2.11を使用してペアエンドリードをマージし、トランケートしたリードを除去し、各リードにおけるUMI配列及びライブラリー変異体配列を不変のmCherry配列領域及びEGFP配列領域に対するそれらの相対位置に基づいて同定した。ノンリダンダントUMI(即ち、シングルリードに存在するUMI)を含むリードをその後の解析から除外した。残りのリードを夫々のUMI配列によりグループ分けし、同一のUMIを含む2個以上のリードで観測された配列に基づき、標的-ガイド融合体のコンセンサス配列を決定した。あるいは、例えば、リードの少なくとも半数が同一の可変配列を示すことを必要とするような、よりストリンジェントな基準をコンセンサス決定に使用してもよい(Buenrostro et al.,2014)。所定のUMIを含む全リードが、標的-ガイド融合体領域に異なる配列を有する場合には、コンセンサスは得られなかったので、対応するリードを捨てた。UMIと可変ガイドRNA領域の両方で同時にエラーが生じる可能性は低いので、このコンセンサスに基づく手順は、シーケンシングエラー又はPCRエラーの存在下でもライブラリー変異体と編集された残基を確実に同定することができる。これらの解析とその後の解析は、カスタムPythonスクリプトを使用して実施した。
【0138】
UMIコンセンサスを同定後に、各ガイドRNA変異体に関連する編集レベルを以下のように定量した。標的配列又は動員ドメインにAからG以外の変異を含む配列をその後の解析から除外した。少なくとも10UMIにより表された(アンチセンス又は動員ドメイン領域の変異体を含む)ガイドRNA変異体のみを更に解析し、正確な定量を確保した。各ガイドRNA配列について、標的配列の以下の形態、即ち、(1)無傷の標的配列(「未編集」);(2)他のオフターゲット編集に関係なく、目的部位にAからGへの変異を含む標的配列(「編集」);(3)オンターゲット編集がなく、想定外のAからGへの変異のみを示す標的配列(「オフターゲット」)の各々のUMIをカウントした。目的部位で編集された変異体の割合を以下のように計算した。
【0139】
【0140】
生のシーケンシングリードを解析するのではなく、(ユニークなcDNAを表す)UMIをカウントすることにより、この定量法は、PCRバイアス又は他の技術的アーチファクトに起因する潜在的に不均一な配列表示の影響を低減する。
【0141】
IDUAの場合にオフターゲット編集は非常に少なかったが、Aリッチ標的配列(又は動員ドメイン)ではもっと多いと思われる。これらの場合には、想定外の編集イベントを含む変異体の詳細な解析を実施すると、より特定のガイドと化学修飾の戦略的位置を設計する取り組みを推進することができる。
【0142】
(標的配列又はガイドRNA内の)DNAレベルでのAからGへの突然変異に起因する偽編集イベントを考慮するために、並行してシーケンシングしたプラスミドDNAライブラリーとcDNAライブラリーを相互参照した。DNAライブラリーで観測されたAからGへの突然変異率を各アンチセンス変異体の対応する編集レベルから差し引いた。G突然変異を示す実際のアンチセンス変異体の相対表示は、cDNAライブラリーとDNAライブラリーで異なるので、DNAライブラリーをシーケンシングすると、このようなアンチセンス変異体と、アンチセンス領域における稀なA-to-G編集イベントを区別することもできる。
【0143】
実施例3に記載する方法等の本願に記載するプラットフォームにより選択及び/又は最適化することができる典型的なガイドRNA変異体(即ち、ASO)を以下の図面と表に示す。
【0144】
図16は、IDUA W402Xを標的とし、本願に記載する方法、特に実施例3に記載する方法により作製することができる(動員ドメインと、標的配列と、ガイドアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)典型的なヘアピンコンストラクトを示す。
【0145】
図17は、本願、特に実施例3に記載する典型的なワークフローを示す。
【0146】
図18は、アンチセンスオリゴヌクレオチド変異体の約1%がプロトタイプコンストラクトに比較して標的部位における編集を亢進することを示す棒グラフである。
【0147】
図19は、プロトタイプに比較して修飾を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド変異体を示す。
【0148】
図20は、スクリーニングで同定された高度に編集された変異体(左下)のサンガーシーケンシングによる検証(右下)を示す。プロトタイプ配列(左上)と対応する編集レベル(右上)も示す。
【0149】
[実施例4]編集効力の高いgRNA変異体のカテゴリー分類
本願に記載する方法に従い、編集効率を強化する種々のカテゴリーの突然変異を同定した。特に、ヒトIDUA W402X突然変異を標的とする>200,000個のコンストラクトをスクリーニングすることにより、標的-ASO融合体ライブラリーにおいて編集を強化する以下の特徴を同定した。このスクリーニング方法を>10種の他の治療対象の標的に適用することにも成功した。
【0150】
カテゴリー1:動員ドメイン突然変異。動員ドメインは、ガイドRNAの標的非依存部分を構成するので、以下の改善が普遍的に当てはまるはずである。適切な突然変異としては、元の動員ドメインにおけるミスマッチをワトソン・クリック又はゆらぎ塩基対で置換することが挙げられる(
図21)。他の適切な突然変異としては、ループ配列突然変異が挙げられる。1024種の可能なペンタループ配列のうちの1015種をスクリーニングした処、44~95%の範囲の編集率値が判明した。最も高度に編集された配列の上位10%は、特にループ3位及び4位にUリッチ配列の強い集積を示した(
図22)。
【0151】
カテゴリー1の突然変異を有するガイド配列の例を表1~3に挙げる。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
カテゴリー2:標的-アンチセンスデュプレックスにおけるミスマッチ。アンチセンス領域におけるミスマッチとゆらぎ塩基対は、IDUA W402X標的の編集を強化することができる(表4~6)。最も効率的な編集を生じるアンチセンス変異体では、所定のミスマッチ又はその組み合わせが集積されている(
図19)。編集部位に対する有益なミスマッチの位置は、標的-アンチセンスデュプレックスを上流又は下流に5bp延長させる場合等の標的-アンチセンスデュプレックスと動員ドメインの長さの変動に無関係であると思われる(
図23D、E)。hIDUA編集部位を5’末端側に5bpシフトする場合又は動員ドメインを下流のIDUA配列で置き換える場合に、(標的部位に対する)同一の有益なミスマッチ位置は維持される。
【0156】
アンチセンス領域におけるミスマッチと動員ドメインループの置換の組み合わせや、アンチセンス領域における数箇所のミスマッチの組み合わせ等の個々のガイド特徴の組み合わせは、編集に相加効果を及ぼす傾向がある(
図24)。トランスガイドにおいて、これらの相加効果は、ガイド/標的結合に及ぼす複数の突然変異の潜在的不安定化効果を相殺すると思われる。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【配列表】
【国際調査報告】