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特表2023-546716非侵襲的な不整脈リスク層別化のための計算による心臓脱分極および心臓再分極シミュレーションライブラリのマッピング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】非侵襲的な不整脈リスク層別化のための計算による心臓脱分極および心臓再分極シミュレーションライブラリのマッピング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/361 20210101AFI20231030BHJP
   A61B 5/319 20210101ALI20231030BHJP
   G16H 50/00 20180101ALI20231030BHJP
   A61B 5/363 20210101ALI20231030BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/319
G16H50/00
A61B5/363
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524882
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 US2021056311
(87)【国際公開番号】W WO2022087457
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】63/104,930
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506138351
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(71)【出願人】
【識別番号】520414837
【氏名又は名称】ベクトル メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151987
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 信行
(72)【発明者】
【氏名】クルメン デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ホフマイヤー クルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴィロンコ クリストファー
【テーマコード(参考)】
4C127
5L099
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127CC08
4C127GG01
4C127GG16
5L099AA04
5L099AA15
(57)【要約】
心臓不整脈リスク層別化のため非侵襲的な方法は、患者の電気的記録に少なくとも基づいて、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することを含むことができる。心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定することができ、当該領域では、患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、第1の再分極速度は、心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている。増大した空間的な再分極勾配の大きさに基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することができる。さらに、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置に基づいて、患者のための治療計画を決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、前記システムは、
少なくとも1つのプロセッサと、
プログラムコードが含まれる少なくとも1つのメモリと
を含み、
前記プログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行された場合に以下のオペレーションを提供し、前記オペレーションは、
計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配を示す1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、前記患者の心筋の第1の領域の第1の再分極速度と前記心筋の第2の領域の第2の再分極速度との間の差と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の空間距離との比率が、閾値を超えている、1つまたは複数の領域を特定することと、
前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することと
を含む、システム。
【請求項2】
前記オペレーションは、前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者のための治療計画を決定することをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記治療計画は、前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、除細動器の植込みを含むように、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションを含むように決定される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記治療計画は、前記増大した空間的な再分極勾配の前記1つまたは複数の領域の位置に少なくとも基づいて、標的療法のための位置を特定することを含む、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項5】
前記標的療法は、カテーテルアブレーションおよび/または定位放射線療法(SAbR)を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記心臓脱分極シミュレーションは、心室興奮シミュレーションを含み、
前記心臓再分極シミュレーションは、心室回復シミュレーションを含む、
請求項1から5までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記オペレーションは、
複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションを含むように、前記計算ライブラリを生成することであって、前記複数の心臓脱分極シミュレーションおよび前記複数の心臓再分極シミュレーションは、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、および/または興奮の種類に対応している、生成することと、
前記計算ライブラリ内で、前記患者の前記電気的記録に対応する前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションを識別することと
をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記オペレーションは、
前記患者に関連する臨床データに少なくとも基づいて、前記計算ライブラリから、前記患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することと、
前記患者の前記解剖学的構造に対応する前記シミュレーションの部分集合内で、前記患者の前記電気的記録に対応する前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションを識別することと
をさらに含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記臨床データは、患者デモグラフィックを含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記臨床データは、心臓イメージングデータを含み、
前記心臓イメージングデータは、瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の1つまたは複数の位置、心腔サイズ、肥大または拡大の存在、線維化の位置、正常および異常な収縮性の領域、または壁菲薄化の領域を示す、
請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
前記計算ライブラリは、前記患者の前記電気的記録と比較するための追加的なデータを提供するための、不整脈基質の発生源の位置が既知である臨床患者サンプルによって補足される、請求項1から10までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記計算ライブラリは、前記患者の前記電気的記録と比較するための参照データとして機能するための、不整脈基質の発生源の位置が既知である臨床サンプルを含む、請求項1から11までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記オペレーションは、前記患者の前記解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別できなかったことに応答して、前記患者の前記臨床データに少なくとも基づいて、前記患者の前記解剖学的構造に特有の1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび/または心臓再分極シミュレーションが含まれるカスタムの計算ライブラリを生成することをさらに含む、請求項8から12までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記オペレーションは、前記心臓再分極シミュレーションおよび前記心臓脱分極シミュレーションが前記患者の前記電気的記録にマッチングすることを判定するようにトレーニングされた機械学習モデルを適用することをさらに含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、回帰モデル、インスタンスベースモデル、正則化モデル、決定木、ランダムフォレスト、ベイジアンモデル、クラスタリングモデル、連想モデル、次元低減モデル、および/またはアンサンブルモデルを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記オペレーションは、前記患者の前記電気的記録に対して1つまたは複数の信号処理技術を適用することをさらに含む、請求項1から15までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記1つまたは複数の信号処理技術は、記録、フィルタリング、デジタル化、変換、および/または空間分析を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記電気的記録は、電位図、ベクトル図、心電図、脳波図、またはベクトル心電図のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から17までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
前記電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録をさらに含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録が含まれる心電図イメージング(ECGi)記録システムを含む、請求項1から19までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記オペレーションは、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を特定することと、
早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することと
をさらに含む、請求項1から20までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記オペレーションは、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域に少なくとも基づいて、前記患者のための治療計画を決定することをさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域を個々にまたはグループで標的とする、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、1つまたは複数の薬物療法を含むように決定される、請求項22または23に記載のシステム。
【請求項25】
コンピュータ実装方法であって、
計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配を示す1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、前記患者の心筋の第1の領域の第1の再分極速度と前記心筋の第2の領域の第2の再分極速度との間の差と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の空間距離との比率が、閾値を超えている、1つまたは複数の領域を特定することと、
前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することと
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項26】
前記方法は、前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者のための治療計画を決定することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記治療計画は、前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、除細動器の植込みを含むように、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションを含むように決定される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記治療計画は、前記増大した空間的な再分極勾配の前記1つまたは複数の領域の位置に少なくとも基づいて、標的療法のための位置を特定することを含む、請求項25から27までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記標的療法は、カテーテルアブレーションおよび/または定位放射線療法(SAbR)を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記心臓脱分極シミュレーションは、心室興奮シミュレーションを含み、
前記心臓再分極シミュレーションは、心室回復シミュレーションを含む、
請求項25から29までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法は、
複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションを含むように、前記計算ライブラリを生成することであって、前記複数の心臓脱分極シミュレーションおよび前記複数の心臓再分極シミュレーションは、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、および/または興奮の種類に対応している、生成することと、
前記計算ライブラリ内で、前記患者の前記電気的記録に対応する前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションを識別することと
をさらに含む、請求項25から30までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記方法は、
前記患者に関連する臨床データに少なくとも基づいて、前記計算ライブラリから、前記患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することと、
前記患者の前記解剖学的構造に対応する前記シミュレーションの部分集合内で、前記患者の前記電気的記録に対応する前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションを識別することと
をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記臨床データは、患者デモグラフィックを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記臨床データは、心臓イメージングデータを含み、
前記心臓イメージングデータは、瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の1つまたは複数の位置、心腔サイズ、肥大または拡大の存在、線維化の位置、正常および異常な収縮性の領域、および/または壁菲薄化の領域を示す、
請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
前記方法は、前記患者の前記解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別できなかったことに応答して、前記患者の前記臨床データに少なくとも基づいて、前記患者の前記解剖学的構造に特有の1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび/または心臓再分極シミュレーションが含まれるカスタムの計算ライブラリを生成することをさらに含む、請求項32から34までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記方法は、前記心臓再分極シミュレーションおよび前記心臓脱分極シミュレーションが前記患者の前記電気的記録にマッチングすることを判定するようにトレーニングされた機械学習モデルを適用することをさらに含む、請求項25から35までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、回帰モデル、インスタンスベースモデル、正則化モデル、決定木、ランダムフォレスト、ベイジアンモデル、クラスタリングモデル、連想モデル、次元低減モデル、および/またはアンサンブルモデルを含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記方法は、前記患者の前記電気的記録に対して1つまたは複数の信号処理技術を適用することをさらに含む、請求項25から37までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記1つまたは複数の信号処理技術は、記録、フィルタリング、デジタル化、変換、および/または空間分析を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記電気的記録は、電位図、ベクトル図、心電図、脳波図、またはベクトル心電図のうちの1つまたは複数を含む、請求項25から39までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録が含まれる心電図イメージング(ECGi)を含む、請求項25から41までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記方法は、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を特定することと、
早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することと
をさらに含む、請求項25から42までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記方法は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域に少なくとも基づいて、前記患者のための治療計画を決定することをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域を個々にまたはグループで標的とする、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの前記1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、1つまたは複数の薬物療法を含むように決定される、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記非一時的なコンピュータ可読媒体は、少なくとも1つのデータプロセッサによって実行された場合に以下のオペレーションを結果的にもたらす命令を格納し、前記オペレーションは、
計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、前記患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、前記第1の再分極速度は、前記心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている、1つまたは複数の領域を特定することと、
前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することと
を含む、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項48】
装置であって、
計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別するための手段と、
前記心臓脱分極シミュレーションおよび前記心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定するための手段であって、当該領域では、前記患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、前記第1の再分極速度は、前記心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている、1つまたは複数の領域を特定するための手段と、
前記増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、前記患者に対する心臓不整脈のリスクを特定するための手段と
を含む、装置。
【請求項49】
前記装置は、請求項26から46までのいずれか1項に記載の方法のオペレーションを実施するための手段をさらに含む、請求項48に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年10月23日に出願された「COMPUTATIONAL CARDIAC DEPOLARIZATION AND REPOLARIZATION SIMULATION LIBRARY MAPPING FOR NON-INVASIVE ARRHYTHMIA RISK STRATIFICATION」と題する米国仮出願第63/104,930号に対する優先権を主張し、その開示内容全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【0002】
技術分野
本明細書で説明される対象は、概して、計算によるモデリングおよびシミュレーションに関し、より具体的には、非侵襲的な不整脈マッピングおよびリスク層別化のためのシミュレーションライブラリのマッピングに関する。
【0003】
背景
心臓不整脈は、心臓における異常な電気信号によって心臓が最適未満の状態で収縮する一般的な疾患である。結果として生じる異常な心拍または不整脈は、心臓の心房(例えば、心房細動(AF))および/または心臓の心室(例えば、心室頻拍(VT)または心室細動(VF))において発生する可能性がある。心臓不整脈に対する治療法は、持続的かつ/または臨床的に重大な症状の発現を引き起こす機序に対処することを試みており、このような機序には、例えば、安定した興奮旋回(stable electrical rotors)、ある一点から興奮が繰り返し出現して周囲に放射状に広がる現象(recurring electrical focal sources)、リエントリー回路、および/またはこれらに類するものが含まれる。治療せずに放置した場合、心臓不整脈は、罹病(例えば、失神、脳卒中、および/またはこれらに類するもの)および死亡(例えば、心臓突然死(SCD))のような重篤な健康合併症を引き起こす可能性がある。
【0004】
概要
非侵襲的な不整脈リスク層別化のための計算による心臓脱分極および心臓再分極シミュレーションライブラリのマッピングのための、コンピュータプログラム製品が含まれる、システム、方法、および製造品が提供される。一態様では、非侵襲的な不整脈リスク層別化のためのシステムが提供される。本システムは、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサによって実行された場合に以下のオペレーションを引き起こす命令を格納している少なくとも1つのメモリとを含むことができる。オペレーションは、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、第1の再分極速度は、心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている、1つまたは複数の領域を特定することと、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈または心臓突然死(SCD)のリスクを特定することとを含むことができる。
【0005】
いくつかの変形形態では、本明細書に開示されている以下の特徴が含まれる1つまたは複数の特徴を、オプションとして、あらゆる実行可能な組み合わせに含めることができる。オペレーションは、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者のための治療計画を決定することをさらに含むことができる。
【0006】
いくつかの変形形態では、治療計画は、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、除細動器の植込みを含むように、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションを含むように決定可能である。
【0007】
いくつかの変形形態では、治療計画は、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域の位置に少なくとも基づいて、高周波カテーテルアブレーション、冷凍凝固アブレーション、高周波超音波アブレーション、レーザ療法、またはパルス電界アブレーションのような標的療法のための位置を特定することを含むことができる。
【0008】
いくつかの変形形態では、標的療法は、カテーテルアブレーションおよび/または定位放射線療法(SAbR)を含むことができる。
【0009】
いくつかの変形形態では、心臓脱分極シミュレーションは、心室興奮シミュレーションを含むことができ、心臓再分極シミュレーションは、心室回復シミュレーションを含む。
【0010】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションを含むように、計算ライブラリを生成することであって、複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションは、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、および/または興奮の種類に対応している、生成することと、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することとをさらに含むことができる。
【0011】
いくつかの変形形態では、計算ライブラリは、患者の電気的記録と比較するための追加的なデータを提供するための、不整脈基質の発生源の位置が既知である臨床患者サンプルによって補足可能である。
【0012】
いくつかの変形形態では、計算ライブラリは、患者の電気的記録と比較するための参照データを形成するための、不整脈基質の発生源の位置が既知である臨床患者サンプルを含むことができる。
【0013】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、患者に関連する臨床データに少なくとも基づいて、計算ライブラリから、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することと、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することとをさらに含むことができる。
【0014】
いくつかの変形形態では、臨床データは、患者デモグラフィックを含むことができる。
【0015】
いくつかの変形形態では、臨床データは、心臓イメージングデータを含むことができ、心臓イメージングデータは、瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の1つまたは複数の位置、心腔サイズ、肥大または拡大の存在、線維化の位置、正常および異常な収縮性の領域、および/または壁菲薄化の領域を示す。
【0016】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別できなかったことに応答して、患者の臨床データに少なくとも基づいて、患者の解剖学的構造に特有の1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび/または心臓再分極シミュレーションが含まれるカスタムの計算ライブラリを生成することをさらに含むことができる。
【0017】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションが患者の電気的記録にマッチングすることを判定するようにトレーニングされた機械学習モデルを適用することをさらに含むことができる。
【0018】
いくつかの変形形態では、機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、回帰モデル、インスタンスベースモデル、正則化モデル、決定木、ランダムフォレスト、ベイジアンモデル、クラスタリングモデル、連想モデル、次元低減モデル、および/またはアンサンブルモデルを含むことができる。
【0019】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、患者の電気的記録に対して1つまたは複数の信号処理技術を適用することをさらに含むことができる。
【0020】
いくつかの変形形態では、1つまたは複数の信号処理技術は、記録、フィルタリング、デジタル化、変換、および/または空間分析を含むことができる。
【0021】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、電位図、ベクトル図、心電図、脳波図、またはベクトル心電図のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0022】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録をさらに含むことができる。
【0023】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録が含まれる心電図イメージング(ECGi)データを含むことができる。
【0024】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を特定することと、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することとをさらに含むことができる。
【0025】
いくつかの変形形態では、オペレーションは、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域に少なくとも基づいて、患者のための治療計画を決定することをさらに含むことができる。
【0026】
いくつかの変形形態では、治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を個々にまたはグループで標的とすることができる。
【0027】
いくつかの変形形態では、治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、1つまたは複数の薬物療法を含むように決定可能である。
【0028】
別の態様では、非侵襲的な不整脈リスク層別化のための方法が提供される。本方法は、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、第1の再分極速度は、心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている、1つまたは複数の領域を特定することと、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することとを含むことができる。
【0029】
いくつかの変形形態では、本明細書に開示されている以下の特徴が含まれる1つまたは複数の特徴を、オプションとして、あらゆる実行可能な組み合わせに含めることができる。オペレーションは、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者のための治療計画を決定することをさらに含むことができる。
【0030】
いくつかの変形形態では、治療計画は、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、除細動器の植込みを含むように、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションを含むように決定可能である。
【0031】
いくつかの変形形態では、治療計画は、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域の位置に少なくとも基づいて、標的療法のための位置を特定することを含むことができる。
【0032】
いくつかの変形形態では、標的療法は、カテーテルアブレーションおよび/または定位放射線療法(SAbR)を含むことができる。
【0033】
いくつかの変形形態では、心臓脱分極シミュレーションは、心室興奮シミュレーションを含むことができ、心臓再分極シミュレーションは、心室回復シミュレーションを含む。
【0034】
いくつかの変形形態では、本方法は、複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションを含むように、計算ライブラリを生成することであって、複数の心臓脱分極シミュレーションおよび複数の心臓再分極シミュレーションは、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、および/または興奮の種類に対応している、生成することと、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓再分極シミュレーションおよび心臓脱分極シミュレーションを識別することとをさらに含むことができる。
【0035】
いくつかの変形形態では、本方法は、患者に関連する臨床データに少なくとも基づいて、計算ライブラリから、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することと、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合内で、患者の電気的記録に対応する心臓再分極シミュレーションおよび心臓脱分極シミュレーションを識別することとをさらに含むことができる。
【0036】
いくつかの変形形態では、臨床データは、患者デモグラフィックを含むことができる。
【0037】
いくつかの変形形態では、臨床データは、心臓イメージングデータを含むことができ、心臓イメージングデータは、瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の1つまたは複数の位置、心腔サイズ、肥大または拡大の存在、線維化の位置、正常および異常な収縮性の領域、および/または壁菲薄化の領域を示す。
【0038】
いくつかの変形形態では、本方法は、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別できなかったことに応答して、患者の臨床データに少なくとも基づいて、患者の解剖学的構造に特有の1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび/または心臓再分極シミュレーションが含まれるカスタムの計算ライブラリを生成することをさらに含むことができる。
【0039】
いくつかの変形形態では、本方法は、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションが患者の電気的記録にマッチングすることを判定するようにトレーニングされた機械学習モデルを適用することをさらに含むことができる。
【0040】
いくつかの変形形態では、機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、回帰モデル、インスタンスベースモデル、正則化モデル、決定木、ランダムフォレスト、ベイジアンモデル、クラスタリングモデル、連想モデル、次元低減モデル、および/またはアンサンブルモデルを含むことができる。
【0041】
いくつかの変形形態では、本方法は、患者の電気的記録に対して1つまたは複数の信号処理技術を適用することをさらに含むことができる。
【0042】
いくつかの変形形態では、1つまたは複数の信号処理技術は、記録、フィルタリング、デジタル化、変換、および/または空間分析を含むことができる。
【0043】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、電位図、ベクトル図、心電図、脳波図、またはベクトル心電図のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0044】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録をさらに含むことができる。
【0045】
いくつかの変形形態では、電気的記録は、1つまたは複数の体表面電位記録が含まれる心電図イメージング(ECGi)を含むことができる。
【0046】
いくつかの変形形態では、本方法は、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を特定することと、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することとをさらに含むことができる。
【0047】
いくつかの変形形態では、本方法は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域に少なくとも基づいて、患者のための治療計画を決定することをさらに含むことができる。
【0048】
いくつかの変形形態では、治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を個々にまたはグループで標的とすることができる。
【0049】
いくつかの変形形態では、治療計画は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、1つまたは複数の薬物療法を含むように決定可能である。
【0050】
別の態様では、少なくとも1つのデータプロセッサによって実行された場合に以下のオペレーションを引き起こす命令を格納している非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。オペレーションは、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することと、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定することであって、当該領域では、患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、第1の再分極速度は、心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは、当該2つの領域の間の空間距離によって除算されると所定の量だけ、すなわち所定の閾値だけ異なっている、1つまたは複数の領域を特定することと、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定することとを含むことができる。
【0051】
別の態様では、非侵襲的な不整脈リスク層別化のための装置が提供される。本装置は、計算ライブラリ内で、患者の電気的記録に対応する心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別するための手段と、心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を特定するための手段であって、当該領域では、患者の心筋の第1の領域が第1の再分極速度を示し、第1の再分極速度は、心筋の第2の領域の第2の再分極速度とは所定の閾値だけ異なっており、かつ心筋の第2の領域の第2の再分極速度に所定の閾値だけ空間的に近接して存在する、1つまたは複数の領域を特定するための手段と、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈のリスクを特定するための手段とを含むことができる。
【0052】
本対象の実装形態は、記載されている1つまたは複数の特徴に一致するシステムおよび方法と、本明細書で説明されるオペレーションを1つまたは複数の機械(例えば、コンピュータなど)によって結果的にもたらすために動作可能である有形に具現化された機械可読媒体を含んでいる物品とを含むことができる。同様に、1つまたは複数のプロセッサと、1つまたは複数のプロセッサに結合された1つまたは複数のメモリとを含むことができるコンピュータシステムも記載されている。コンピュータ可読ストレージ媒体を含むことができるメモリは、本明細書で説明されるオペレーションのうちの1つまたは複数を1つまたは複数のプロセッサに実行させるための1つまたは複数のプログラムを含むこと、符号化すること、格納すること、またはこれらに類することを行うことができる。本対象の1つまたは複数の実装形態に一致するコンピュータ実装方法は、単一のコンピューティングシステムまたは複数のコンピューティングシステムに常駐する1つまたは複数のデータプロセッサによって実装可能である。そのような複数のコンピューティングシステムは、相互に接続可能であり、データおよび/または命令または他の指示またはこれらに類するものを、1つまたは複数の接続を介して相互に交換可能であり、このような接続には、例えば、ネットワーク(例えば、インターネット、ワイヤレスワイドエリアネットワーク、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワーク、有線ネットワーク、またはこれらに類するもの)を介した接続、複数のコンピューティングシステムのうちの1つまたは複数の間での直接的な接続、および/またはこれらに類するものが含まれる。
【0053】
本明細書で説明される対象の1つまたは複数の変形形態の詳細は、添付の図面および以下の記載で説明されている。本明細書で説明される対象の他の特徴および利点は、明細書および図面から、かつ特許請求の範囲から明らかとなり得る。本明細書に開示されている対象の特定の特徴は、非侵襲的な不整脈リスク層別化のための計算による心臓脱分極および心臓再分極シミュレーションライブラリのマッピングに関して例示する目的で説明されているが、このような特徴が、限定することを意図したものではないことが容易に理解されるべきである。本開示に後続する特許請求の範囲は、保護対象の範囲を規定することを意図したものである。
【0054】
図面の説明
本明細書に組み込まれており、かつ本明細書の一部を構成している添付の図面は、本明細書で開示される対象の特定の態様を示しており、その説明と併せて、開示される実装形態に関連する原理のいくつかを説明するために役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】いくつかの例示的な実施形態による、リスク層別化システムの一例を示すシステム図である。
図2】いくつかの例示的な実施形態による、空間的な再分極勾配および心臓不整脈のリスクを計算するための非侵襲的な12誘導心電図(ECG)および補足的な体表面電位図の一例を示す図である。
図3】心臓脱分極および心臓再分極のシミュレーションライブラリを生成するために使用することができる心臓幾何形状の計算ライブラリの一例を示す図である。いくつかの例示的な実施形態によれば、それぞれの幾何形状内で、心臓不整脈シミュレーションの種々異なる瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、伝導速度、および他の変数を変更することができる。
図4】いくつかの例示的な実施形態による、心臓脱分極および心臓再分極シミュレーションの計算ライブラリの一例を示す図である。
図5】いくつかの例示的な実施形態による、瘢痕組織、境界域組織、正常組織、心腔サイズ、および心筋収縮性を位置特定するための例示的なイメージングモダリティを示す図である。
図6】いくつかの例示的な実施形態による、体表面電位記録を用いてまたは用いずに、非侵襲的な12誘導心電図(ECG)データを使用して、増大した空間的な再分極勾配の領域の大きさおよび位置を計算するためのプロセスの一例を示す図である。
図7】いくつかの例示的な実施形態による、両心室植込み型除細動器(ICD)の一例を示す図である。
図8】いくつかの例示的な実施形態による、心臓不整脈に対する標的療法の一例を示す図である。
図9】いくつかの例示的な実施形態による、非侵襲的な不整脈リスク層別化のためのプロセスの一例を示すフローチャートである。
図10】いくつかの例示的な実施形態による、コンピューティングシステムを示すブロック図である。
図11】いくつかの例示的な実施形態による、患者の電気的記録を捕捉するための実験セットアップの一例を示す図である。
図12】いくつかの例示的な実施形態による、データトレースの一例を示す図である。
図13】いくつかの例示的な実施形態による、心臓脱分極および心臓再分極の3次元プロットの一例を示す図である。
図14】いくつかの例示的な実施形態による、心室性不整脈を有する患者の心臓再分極の空間的不均一性を、対照患者のものと比較するプロットの一例を示す図である。
【0056】
類似した参照符号は、実際に役立つ場合には、類似した構造、特徴、または要素を指す。
【0057】
詳細な説明
心臓突然死(SCD)は、毎年米国では約40万人、世界中では約300万人の患者に発生する。現在のところ、心室性不整脈および心臓突然死に対する患者のリスクを評価するために、左室駆出率、すなわち左室から駆出される血液の体積分率を測定する技術が使用されている。多くの例では、左室駆出率を使用して、患者が植込み型除細動器の植込みのために適した候補であるか、または侵襲的な電気生理学的検査およびカテーテルアブレーションに適した候補であるかを判定することもできる。しかしながら、左室駆出率は、心室性不整脈および心臓突然死に対して最適未満の感度および特異度を有する。さらに、左室駆出率は、心不全の悪化による死亡を予測することもできない。
【0058】
心臓不整脈(例えば、心房細動、心室頻拍、心室細動)は、持続的かつ/または臨床的に重大な症状の発現を引き起こす機序を標的とすることによって治療可能であり、このような機序には、例えば、安定した興奮旋回(stable electrical rotors)、ある一点から興奮が繰り返し出現して周囲に放射状に広がる現象(recurring electrical focal sources)、リエントリー回路、および/またはこれらに類するものが含まれる。アブレーションは、心臓不整脈に対する1つの例示的な治療法であり、その場合、心臓不整脈源に対して高周波、極低温、超音波、レーザエネルギ、パルス電界アブレーション、および/または放射線(例えば、定位放射線療法(SAbR))を適用することができる。その結果として生じる損傷部が、心臓の異常興奮を引き起こす不安定な電気信号を中断および/または除去することによって心臓不整脈を緩和することができる。
【0059】
不整脈の管理における主な課題は、心室頻拍(VT)および心室細動(VF)に対する個々のリスクを予測することの難しさである。現在、心室性不整脈イベントの大多数は、「低リスク」の集団において発生している。したがって、大多数の患者(例えば、男性の55%および女性の65%)は、各自の増加した不整脈リスクの最初の表現として突然心臓死(SCD)を起こす。さらに、遺伝性の心筋症を有する患者におけるリスク層別化は、依然として課題である。遺伝性の家族性心筋症を有する患者における心臓突然死のリスクは、多数の要因によって左右され、こうした要因には、不整脈に対する誘因として機能し、かつ不整脈を永続させる心筋構造リモデリング(例えば、肥大、線維化、線維脂肪沈着)を提供する可能性のある、心筋症に特有の電気生理学的変化(例えば、伝導の緩徐化、活動電位の形態と回復、細胞内カルシウム処理、および機械電気的フィードバック)が含まれる。多くの心筋症亜型の浸透率が様々であること、および/または重大度が不明であることは、不整脈リスクの評価をさらに複雑にする。従来、遺伝性の心筋症を有する患者における心臓突然死に対するリスクは、左室駆出率またはスコア基準によって評価されている。しかしながら、実際には、こうした従来の方法の感度および特異度が最適未満であることにより、患者は、各自の不整脈リスクおよび適切な治療法(例えば、植込み型除細動器(ICD)療法またはカテーテルアブレーション)に関して不確実な状態のままとなる。
【0060】
さらに、ドフェチリドおよびソタロールのような抗不整脈薬を含むQT延長薬物療法の開始および維持のモニタリングは、ナトリウム拮抗薬またはカリウム拮抗薬に対する患者の個別の反応を考慮すると、依然として課題である。心室回復(または心室再分極)を遅延させるこのような薬物療法は、患者のQT間隔を長引かせることができる。したがって、従前の試みは、患者の体表面心電図上のQT間隔または補正QT(QTc)間隔を延長することに焦点を置いている。これらの測定法は、重要な生理学的変化を評価するが、それにもかかわらず、QT延長薬物療法を正確にモニタリングするための感度および特異度は、依然として最適未満である。
【0061】
心室性不整脈のリスクを評価するための従来の方法論と、心室性不整脈を開始または持続させる不整脈の位置を特定するための従来の方法とが最適未満の感度および特異性であることに照らして、本開示の種々異なる実装形態は、多様な患者群にわたる心室性不整脈リスクのより正確な評価を提供し、かつ不整脈誘発性である可能性のある領域を位置特定する迅速で非侵襲的なツールを含む。いくつかの例示的な実施形態によれば、不整脈誘発性因子の患者固有の評価を提供するように、評価エンジンを構成することができる。特に、評価エンジンは、空間的な再分極勾配に基づいて心臓不整脈のリスクを層別化することができる。この空間的な再分極勾配は、以下のような大きさに相当し、すなわち、心筋内の隣り合う領域の不応期が、心臓組織にわたる距離の関数としてこの大きさの分だけ変化するという大きさに相当する。例えば、評価エンジンは、それぞれの心臓再分極速度に関して閾値を上回る差を示している、隣り合う心筋領域(例えば、短い再分極の第2の領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の領域)に少なくとも基づいて、興奮波分裂、リエントリー、および生命を脅かす不整脈を結果的にもたらす可能性の高い潜在的な不整脈誘発性状態を識別することができる。
【0062】
図1は、いくつかの例示的な実施形態による、リスク層別化システム100の一例を示すシステム図を示す。図1を参照すると、リスク層別化システム100は、評価エンジン110と、1つまたは複数の計算ライブラリ125を格納するデータストア120と、クライアントデバイス130とを含むことができる。図1に示されているように、評価エンジン110と、データストア120と、クライアントデバイス130とは、ネットワーク140を介して通信可能に結合可能である。データストア120は、例えばグラフデータベース、インメモリデータベース、リレーショナルデータベース、非SQL(NoSQL)データベース、および/またはこれらに類するものが含まれるデータベースであり得る。クライアントデバイス130は、例えば携帯電話、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ラップトップコンピュータ、デスクトップ、ワークステーション、および/またはこれらに類するものが含まれるプロセッサベースのデバイスであり得る。ネットワーク140は、例えばワイドエリアネットワーク(WAN)、ローカルエリアネットワーク(LAN)、仮想ローカルエリアネットワーク(VLAN)、公衆陸上移動体ネットワーク(PLMN)、インターネット、および/またはこれらに類するものが含まれる有線ネットワークおよび/または無線ネットワークであり得る。
【0063】
いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、患者に関連する増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域に少なくとも基づいて、心臓不整脈に対する患者のリスクを特定するように構成可能である。本明細書で使用される「空間的な再分極勾配」という用語は、以下のような大きさを指すことができ、すなわち、心筋内の隣り合う領域の不応期が、心臓組織にわたる距離の関数としてこの大きさの分だけ変化するという大きさを指すことができる。例えば、評価エンジン110は、それぞれの心臓再分極速度が、閾値を上回るほど異なっているような隣り合う心筋領域(例えば、短い再分極の第2の領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の領域)の存在に少なくとも基づいて、患者が、興奮波分裂、リエントリー、および生命を脅かす不整脈を結果的にもたらす可能性の高い潜在的な不整脈誘発性状態を示していると判定することができる。
【0064】
いくつかの例示的な実施形態では、計算エンジン110は、心臓脱分極(例えば、心室興奮)および/または心臓再分極(例えば、心室回復)の1つまたは複数の計算シミュレーションに少なくとも基づいて、患者の増大した空間的な再分極勾配の1つまたは複数の領域を識別することができる。1つまたは複数の計算シミュレーションは、例えばデータストア120に格納されている計算ライブラリ125から選択可能である。例えば、計算ライブラリ125は、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、興奮の種類(例えば、左脚ブロック、右脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック、心室期外収縮、心室頻拍、および心室細動)、およびそれらの組み合わせに関する心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)を含むことができる。代替的にかつ/または付加的に、計算ライブラリ125は、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、興奮の種類(例えば、左脚ブロック、右脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック、心室期外収縮、心室頻拍、および心室細動)、およびそれらの組み合わせに関する心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を含むことができる。いくつかの事例では、計算ライブラリ125は、心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)の第1の計算ライブラリと、心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)の第2の計算ライブラリとを含むことができる。
【0065】
さらに説明するために、図3は、種々異なる瘢痕構成、伝導速度、心臓の向き等に関する心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室脱分極シミュレーション)を有する計算ライブラリ125を生成するために使用される、種々異なる心臓幾何形状の一例を示す。図4は、心臓脱分極(例えば、明るい領域の先頭波面)および心臓再分極(例えば、暗い領域の先頭波面)のシミュレーションを有する計算ライブラリ125の別の例を示す。
【0066】
いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、計算ライブラリ125内で、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数のシミュレーションを識別することができる。電気的記録の例には、電位図、体表面電位記録(例えば、心電図イメージング(ECGi))、ベクトル図、心電図、脳波図、およびベクトル心電図が含まれる。図2(a)は、胴部、腹部、頸部、腕、および下肢の周囲に分布された、オプションの補足的な電位図記録を有する12誘導心電図(ECG)記録を示す。結果的に得られた電位図は、図2(b)に示されている。図13は、ベクトル心電図(VCG)プロットの一例を示し、このプロットは、脱分極中および再分極中に患者の心臓によって生成される電気力の大きさおよび方向を、連続した一連のベクトルとして示す。評価エンジン110は、患者の脱分極(例えば、患者の電気的記録において観察されるQRS複合波)に少なくとも基づいて、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)を識別することができる。代替的にかつ/または付加的に、評価エンジン110は、患者の再分極(例えば、患者の電気的記録において観察されるT波)に少なくとも基づいて、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別することができる。いくつかの事例では、患者の電気的記録は、計算ライブラリ内のシミュレーションと比較される前に1つまたは複数の信号処理技術を受けることができる。適用可能な信号処理技術の例には、記録、フィルタリング、デジタル化、変換、および空間分析が含まれる。
【0067】
図11は、いくつかの例示的な実施形態による、患者の電気的記録を捕捉するための30誘導心電図(ECG)のセットアップの一例を示す。図11に示されているように、30誘導心電図(ECG)のセットアップは、24の単極前胸誘導と、6つの単極肢誘導とを有する4つのポータブルハーネスを含むことができる。図11(a)を参照すると、30誘導心電図(ECG)のセットアップは、胸骨柄角を横断して配置された第1の前列(の電極)、剣状突起を横断して配置された第2の前列、および第1の前列と第2の前列との間で等距離に配置された第3の前列を含むことができる。さらに、図11(b)は、30誘導心電図(ECG)のセットアップが、肩甲骨脊柱突起を横断して配置された第1の後列、肩甲骨下縁を横断して配置された第2の後列、および第1の後列と第2の後列との間で等距離に配置された第3の後列を含むことができることを示す。
【0068】
図12は、例えば図11に示されている30誘導心電図(ECG)のセットアップによって捕捉されたデータトレースの例を示す。例えば、図12は、同一の誘導(例えば、第3誘導)に関する、ただしそれぞれ異なるサンプリングレート(例えば、500ヘルツおよび1000ヘルツ)での、複数のデータトレースを示す。いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、それぞれの誘導からのデータを個々に処理することができる。このようにすることで、評価エンジン110は、対応するグラフを生成し、データ内に存在する1つまたは複数のピーク(Peak)、ピーク開始(Onset)、およびピーク終了(Offset)を識別することができる。さらに、評価エンジン110は、1つまたは複数のピーク、ピーク開始点、および/またはピーク終了点を抽出して、QT間隔、QT分散、および/またはこれに類するものなどの測定値を特定することができる。
【0069】
いくつかの例示的な実施形態では、患者の心電図を計算ライブラリ125内の1つまたは複数のシミュレーションとマッチングさせる前に、評価エンジン110は、まず始めに、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することができ、これにより、後続するマッチングは、計算ライブラリ125全体ではなくシミュレーションのこの部分集合内で実施されるようになる。例えば、評価エンジン110は、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を、患者デモグラフィックおよび心臓イメージングのような患者固有の臨床データに基づいて識別することができる。関連するイメージングモダリティの例には、心臓コンピュータ断層撮影法、心臓磁気共鳴イメージング(MRI)、セスタミビイメージング(核シンチグラフィ)、心臓陽電子放出断層撮影法およびコンピュータ断層撮影法走査(心臓PET/CT)、2次元および3次元の心エコー検査、電圧マッピングを組み込んだ3次元の電気解剖学的マッピング、電位図マッピング、興奮マッピング、エントレインメントマッピング、等時性後期活性化マッピング、およびインピーダンスマッピングが含まれる。
【0070】
心臓イメージングデータを使用して、患者内の瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の位置を特定することができる。例えば、図5は、点線によって示された(例えば、瘢痕組織と正常組織との間の)境界域組織に対応する領域を有する、4次元コンピュータ断層撮影法(CT)からの3次元ボリュームレンダリングを示す。円の内部の領域は、動きの相対的な欠如を示しており、これは、密集した瘢痕組織に相当する。したがって、評価エンジン110は、患者デモグラフィックと組み合わせて心臓イメージングデータを使用して、患者の解剖学的構造に十分に類似していない関連する解剖学的構造であるシミュレーション、ひいては患者の電気的記録にマッチングする可能性のないシミュレーションを排除することができる。このようにすることで、患者の電気的記録にマッチングするシミュレーションを識別するための後続するマッチングの計算速度および計算効率を向上させることができる。
【0071】
患者の解剖学的構造が、計算ライブラリ125において十分に表現されていないいくつかの事例では、評価エンジン110は、1つまたは複数の患者固有の心臓再分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を含む、患者のためのカスタムの計算ライブラリを生成することができる。例えば、計算ライブラリ125に含まれているシミュレーションに関連する臨床データ(例えば、デモグラフィック、心臓イメージング、および/またはこれらに類するもの)が、患者に関連する臨床データに十分に類似していない場合に、カスタムの計算ライブラリを生成することができる。したがって、患者デモグラフィックおよび心臓イメージングのような患者固有の臨床データに基づいて、患者のためのカスタムの計算ライブラリを生成することができる。
【0072】
いくつかの例示的な実施形態では、1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を患者の電気的記録とマッチングさせるために、種々異なる技術を適用することができる。例えば、評価エンジン110は、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別するように訓練された1つまたは複数の機械学習モデルを適用することができる。適切な機械学習モデルの例には、ニューラルネットワーク、回帰モデル、インスタンスベースモデル、正則化モデル、決定木、ランダムフォレスト、ベイジアンモデル、クラスタリングモデル、連想モデル、次元削減モデル、アンサンブルモデル、および/またはこれらに類するものが含まれる。
【0073】
このようにすることで、評価エンジン110は、空間データおよび/または時間データを比較することができる。例えば、12誘導心電図(ECG)記録は、時系列データを含むことができ、この時系列データにおいては、電極によって測定された電圧が、規則的な時間間隔(例えば、ミリ秒毎;1000Hz)で記録されている。患者の12誘導心電図(ECG)記録にマッチングするシミュレーションを識別するために、評価エンジン110は、2つ以上の測定シーケンスにわたって存在するパターンを認識することができるリカレントニューラルネットワーク(例えば、長短期記憶(LSTM)ネットワークおよび/またはこれに類するもの)を適用することができる。リカレントニューラルネットワーク(RNN)は、例えば、患者の12誘導心電図(ECG)記録内に存在するQRS複合波にマッチングする、1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)内のQRS複合波を検出するように訓練可能である。代替的にかつ/または付加的に、リカレントニューラルネットワークは、患者の12誘導心電図(ECG)記録内に存在するT波にマッチングする、1つまたは複数の心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)内のT波を検出するように訓練可能である。
【0074】
患者の電気的記録にマッチングする心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別(または生成)すると、評価エンジン110は、患者のための3次元評価を生成するためのシミュレーションを適用することができる。例えば、評価エンジン110は、患者の電気的記録にマッチングする心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)に少なくとも基づいて、増大した空間的な再分極勾配、緩徐伝導、伝導ブロック、または早期興奮の領域の大きさおよび/または位置を特定することができる。図14に示されているように、心室性不整脈を有する患者の心臓再分極相は、対照患者の心臓再分極には存在しない1つまたは複数の異常を示す可能性がある。例えば、それぞれの心臓再分極速度が、閾値を上回るほど異なっているような隣り合う心筋領域(例えば、短い再分極の第2の領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の領域)の存在は、潜在的な不整脈誘発性状態である可能性がある。緩徐伝導の部位が、特定の種類の不整脈を永続させることも知られている。また、早期興奮の部位は、不整脈誘発性組織の位置である可能性がある。したがって、いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、心臓不整脈(例えば、心室性不整脈)に対する患者のリスクの推定値を決定することができる。
【0075】
さらに、評価エンジン110はさらに、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置に少なくとも基づいて、患者のための治療計画を決定することができる。例えば、評価エンジン110は、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、患者が、植込み型除細動器からの恩恵、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションからの恩恵を受けることができるかどうかを判定することができる。図7は、心筋症と35%未満の左室駆出率とを有する患者内に配置された両心室植込み型除細動器(ICD)700を示す。代替的にかつ/または付加的に、増大した空間的な再分極勾配、緩徐伝導の領域、保護された伝導峡部、または早期興奮の部位の位置を使用して、例えば、高周波カテーテルアブレーション、冷凍凝固アブレーション、定位放射線療法(SAbR)(または体幹部定位放射線療法(SBRT))、および/またはこれらに類するものが含まれる標的療法のための位置を特定することができる。図8(a)は、左室中下部に位置するアブレーション部位を示す円形マーカーを有する心室頻拍アブレーションの電気解剖学的マップの一例を示す。図8(b)は、左室の前僧帽弁輪の部位を標的とした定位放射線療法(SAbR)手術を受ける難治性の心室性不整脈を有する患者を示す。
【0076】
図6は、いくつかの例示的な実施形態による、体表面電位記録を用いてまたは用いずに、非侵襲的な12誘導心電図(ECG)データを使用して、増大した空間的な再分極勾配の領域の大きさおよび位置を計算するためのプロセス600の一例を示す。図6(A)に示されているように、12誘導心電図(ECG)記録は、患者に対して(例えば、患者の胴部、腹部、頸部、腕、および/または下肢の周囲における)補足的な体表面電位記録を用いてまたは用いずに実施可能である。図6(B)および図6(C)では、結果として得られた電位図に対して、例えば記録、フィルタリング、デジタル化、変換、空間分析、および/またはこれらに類するものが含まれる1つまたは複数の信号処理技術を施すことができる。図6(D)において、計算ライブラリ125から、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することができ、これにより、後続するマッチングは、計算ライブラリ125全体ではなくシミュレーションのこの部分集合内で実施されるようになる。図6(E)において、患者の12誘導心電図(ECG)記録にマッチングする心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別することができる。図6(F)において、患者の12誘導心電図(ECG)記録にマッチングする心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)に基づいて、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置を計算することができる。既述したように、それぞれの心臓再分極速度が、閾値を上回るほど異なっているような隣り合う心筋領域(例えば、短い再分極の第2の領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の領域)の存在は、潜在的な不整脈誘発性状態である可能性がある。したがって、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、心臓不整脈(例えば、心室性不整脈)に対する患者のリスクを特定することができる。さらに、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置に少なくとも基づいて、患者に適した1つまたは複数の治療法を識別することができる。
【0077】
いくつかの事例では、評価エンジン110はさらに、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、保護された伝導峡部、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在を特定することができる。患者のための治療計画はさらに、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックのこれらの領域を考慮することができる。例えば、評価エンジン110は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域を個々にまたはグループで標的とした治療計画を生成することができる。代替的にかつ/または付加的に、評価エンジン110は、早期興奮、緩徐伝導、独立した興奮経路、遅延興奮、および/または伝導ブロックの1つまたは複数の領域の存在および/または非存在に少なくとも基づいて、患者が、1つまたは複数の薬物療法のための候補であるかどうかを判定することができる。
【0078】
図9は、いくつかの例示的な実施形態による、非侵襲的な心臓不整脈リスク層別化のためのプロセス900の一例を示すフローチャートを示す。図1および図9を参照すると、プロセス900は、心臓不整脈に対する患者のリスクを特定するために評価エンジン110によって実施可能である。
【0079】
902において、評価エンジン110は、心臓脱分極シミュレーションおよび/または心臓再分極シミュレーションの1つまたは複数の計算ライブラリを生成することができる。例えば、いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、興奮の種類(例えば、左脚ブロック、右脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック、心室期外収縮、心室頻拍、および心室細動)、およびこれらの組み合わせに関する心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)を含むように、計算ライブラリ125を生成することができる。代替的にかつ/または付加的に、評価エンジン110は、種々異なる心臓幾何形状、心臓の向き、瘢痕構成、心臓の線維化および瘢痕の程度、脱分極パターン、興奮の種類(例えば、左脚ブロック、右脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック、心室期外収縮、心室頻拍、および心室細動)、およびこれらの組み合わせに関する心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を含むように、計算ライブラリ125を生成することができる。いくつかの事例では、計算ライブラリ125は、心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)の第1の計算ライブラリと、心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)の第2の計算ライブラリとを含むことができる。
【0080】
904において、評価エンジン110は、患者に関連する心臓イメージングデータを取得することができる。例えば、評価エンジン110は、例えば心臓コンピュータ断層撮影法(例えば、図5に示されている4次元コンピュータ断層撮影法からの3次元ボリュームレンダリング)、心臓磁気共鳴イメージング(MRI)、セスタミビイメージング(核シンチグラフィ)、心臓陽電子放出断層撮影法およびコンピュータ断層撮影法走査(心臓PET/CT)、2次元および3次元の心エコー検査、電圧マッピングを組み込んだ3次元の電気解剖学的マッピング、電位図マッピング、興奮マッピング、エントレインメントマッピング、等時性後期活性化マッピング、およびインピーダンスマッピングが含まれる種々異なるイメージングモダリティにおいて、心臓イメージングデータを取得することができる。いくつかの例示的な実施形態では、患者に関連する心臓イメージングデータは、評価エンジン110が、患者内の瘢痕組織、境界域組織、および正常組織の位置を特定することを可能にすることができる。
【0081】
906において、評価エンジン110は、患者に関連する電気的記録を取得することができる。いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、例えば電位図、ベクトル図、心電図、脳波図、ベクトル心電図および/またはこれらに類するものが含まれる、患者についての種々異なる電気的記録を取得することができる。図2は、評価エンジン110によって取得することができる電気的記録の一例である12誘導心電図(ECG)記録を示す。図2に示されているように、12誘導心電図(ECG)記録は、例えば患者の胴部、腹部、頸部、腕、および/または下肢の周囲に分布された補足的な体表面電位記録を用いて(または用いずに)実施可能である。
【0082】
908において、評価エンジン110は、電気的記録に対して1つまたは複数の信号処理技術を適用することができる。いくつかの例示的な実施形態では、評価エンジン110は、患者の電気的記録(例えば12誘導心電図(ECG)記録)に対して、例えば記録、フィルタリング、デジタル化、変換、空間分析、および/またはこれらに類するものが含まれる種々異なる信号処理技術を適用することができる。電気的記録の処理は、オプションであってよく、如何なる信号処理も行わずに電気的記録のマッチングを実施してもよい。
【0083】
910において、評価エンジン110は、患者デモグラフィックおよび患者の心臓イメージングデータが含まれる臨床データに少なくとも基づいて、1つまたは複数の計算ライブラリから、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することができる。いくつかの例示的な実施形態では、患者の心電図を計算ライブラリ125内の1つまたは複数のシミュレーションとマッチングさせる前に、評価エンジン110は、まず始めに、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別することができる。したがって、マッチングするシミュレーションを識別するための後続するマッチングを、計算ライブラリ125全体ではなくシミュレーションのこの部分集合内で実施することができる。評価エンジン110は、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を、患者デモグラフィックおよび心臓イメージングのような患者固有の臨床データに基づいて識別することができる。例えば、評価エンジン110は、患者デモグラフィックおよび心臓イメージングデータに少なくとも基づいて、患者の解剖学的構造に十分に類似していない関連する解剖学的構造であるシミュレーション、ひいては患者の電気的記録にマッチングする可能性のないシミュレーションを排除することができる。既述したように、評価エンジン110は、患者の電気的記録にマッチングするシミュレーションを識別するための後続するマッチングの計算速度および計算効率を向上させるために、まず始めに、シミュレーションの部分集合を識別することができる。しかしながら、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を選択することは、オプションの最適化であり、これに代えて、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を差し当たり識別することなく、後続するマッチングを計算ライブラリ125全体に対して実施してもよいことが理解されるべきである。
【0084】
評価エンジン110が、患者の解剖学的構造に対応するシミュレーションの部分集合を識別できなかった場合には、912において、評価エンジン110は、患者のためのカスタムのシミュレーションライブラリを生成することができる。いくつかの事例では、患者の解剖学的構造が、計算ライブラリ125において十分に表現されていない可能性があり得る。そのようなシナリオでは、評価エンジン110は、1つまたは複数の患者固有の心臓再分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を含む、患者のためのカスタムの計算ライブラリを生成することができる。例えば、計算ライブラリ125に含まれているシミュレーションに関連する臨床データ(例えば、デモグラフィック、心臓イメージング、および/またはこれらに類するもの)が、患者に関連する臨床データに十分に類似していない場合に、カスタムの計算ライブラリを生成することができる。したがって、評価エンジン110は、患者デモグラフィックおよび心臓イメージングのような患者固有の臨床データに基づいて、患者のためのカスタムの計算ライブラリを生成することができる。
【0085】
914において、評価エンジン110は、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションを識別することができる。例えば、評価エンジン110は、患者の脱分極(例えば、患者の電気的記録において観察されるQRS複合波)に少なくとも基づいて、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)を識別することができる。代替的にかつ/または付加的に、評価エンジン110は、患者の再分極(例えば、患者の電気的記録において観察されるT波)に少なくとも基づいて、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別することができる。このマッチングは、患者の電気的記録を、計算ライブラリ125に含まれているシミュレーションの少なくとも一部と比較することによって実施可能であるか、またはオプションとして、患者の解剖学的構造に対応していると判定されたシミュレーションの部分集合と比較することによって実施可能である。評価エンジン110は、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を特定するために、種々異なる技術を適用することができる。例えば、評価エンジン110は、患者の電気的記録にマッチングする1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーション(例えば、心室興奮シミュレーション)および心臓再分極シミュレーション(例えば、心室回復シミュレーション)を識別するように訓練された1つまたは複数の機械学習モデルを適用することができる。
【0086】
918において、評価エンジン110は、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、患者についての増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置を特定することができる。隣り合う心筋領域が、それぞれの心臓再分極速度に関して閾値を上回る差を示している場合には、空間的な再分極勾配が存在する可能性がある。したがって、評価エンジン110は、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、短い再分極の第2の心筋領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の心筋領域を識別することができる。さらに、評価エンジン110は、患者の電気的記録に対応する1つまたは複数の心臓脱分極シミュレーションおよび心臓再分極シミュレーションに少なくとも基づいて、第1の領域の第1の再分極速度と第2の領域の第2の再分極速度との間の差を特定することができる。
【0087】
920において、評価エンジン110は、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置に少なくとも基づいて、患者に対する心臓不整脈リスクおよび/または患者のための治療計画を決定することができる。例えば、評価エンジン110は、それぞれの心臓再分極速度が、閾値を上回るほど異なっているような隣り合う心筋領域(例えば、短い再分極の第2の領域に直接的に隣接している長い再分極の第1の領域)に少なくとも基づいて、興奮波分裂、リエントリー、および生命を脅かす不整脈を結果的にもたらす可能性の高い潜在的な不整脈誘発性状態を識別することができる。したがって、評価エンジン110は、増大した空間的な再分極勾配の大きさに少なくとも基づいて、心臓不整脈(例えば、心室性不整脈)に対する患者のリスクを識別することができる。いくつかの事例では、評価エンジン110はさらに、増大した空間的な再分極勾配の大きさおよび/または位置に基づいて、患者に適した1つまたは複数の治療法を識別することができる。例えば、増大した空間的な再分極勾配、緩徐伝導の範囲、または早期興奮の大きさは、患者が、除細動器の植込みからの恩恵、または侵襲的な電気生理学的検査およびアブレーションからの恩恵を受けるかどうかを、評価エンジン110が判定することを可能にすることができる。代替的にかつ/または付加的に、増大した空間的な再分極勾配の位置を使用して、例えばカテーテルアブレーション、定位放射線療法(SAbR)(または体幹部定位放射線療法(SBRT))、および/またはこれらに類するものが含まれる標的療法の位置を特定することができる。
【0088】
図11は、いくつかの例示的な実施形態による、コンピューティングシステム1100を示すブロック図を示す。図1および図11を参照すると、コンピューティングシステム1100は、評価エンジン110、および/または評価エンジン110内の任意のコンポーネントを実装するために使用可能である。
【0089】
図11に示されているように、コンピューティングシステム1100は、プロセッサ1110と、メモリ1120と、ストレージデバイス1130と、入力/出力デバイス1140とを含むことができる。プロセッサ1110と、メモリ1120と、ストレージデバイス1130と、入力/出力デバイス1140とを、システムバス1150を介して相互接続することができる。プロセッサ1110は、コンピューティングシステム1100内で実行するための命令を処理することができる。このような実行される命令は、例えば評価エンジン110の1つまたは複数のコンポーネントを実装することができる。本対象のいくつかの実装形態では、プロセッサ1110は、シングルスレッドプロセッサであり得る。代替的に、プロセッサ1110を、マルチスレッドプロセッサとしてもよい。プロセッサ1110は、入力/出力デバイス1140を介して提供されるユーザインタフェースのためのグラフィック情報を表示するために、メモリ1120内かつ/またはストレージデバイス1130上に格納された命令を処理することができる。
【0090】
メモリ1120は、コンピューティングシステム1100内に情報を格納する揮発性または不揮発性のようなコンピュータ可読媒体である。メモリ1120は、例えば、構成オブジェクトデータベースを表すデータ構造を格納することができる。ストレージデバイス1130は、コンピューティングシステム1100のための永続ストレージを提供することができる。ストレージデバイス1130は、フロッピーディスクデバイス、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、またはテープデバイス、もしくは他の適切な永続ストレージ手段であり得る。入力/出力デバイス1140は、コンピューティングシステム1100のための入力/出力オペレーションを提供する。本対象のいくつかの実装形態では、入力/出力デバイス1140は、キーボードおよび/またはポインティングデバイスを含む。種々異なる実装形態では、入力/出力デバイス1140は、グラフィカルユーザインタフェースを表示するためのディスプレイユニットを含む。
【0091】
本対象のいくつかの実装形態によれば、入力/出力デバイス1140は、ネットワークデバイスのための入力/出力オペレーションを提供することができる。例えば、入力/出力デバイス1140は、1つまたは複数の有線および/または無線ネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、インターネット)と通信するためのイーサネットポートまたは他のネットワークポートを含むことができる。
【0092】
本対象のいくつかの実装形態では、コンピューティングシステム1100は、種々異なる対話型のコンピュータソフトウェアアプリケーションを実行するために使用可能であり、このような対話型のコンピュータソフトウェアアプリケーションは、種々異なる形式(例えば、表形式)でデータを編成、分析、かつ/または保存するために使用可能である。代替的に、コンピューティングシステム1100は、任意の種類のソフトウェアアプリケーションを実行するために使用可能である。これらのアプリケーションは、種々異なる機能、例えば、計画機能(例えば、スプレッドシート文書、ワープロ文書、および/または任意の他のオブジェクトの生成、管理、編集等)、計算機能、通信機能、および/またはこれらに類するものを実行するために使用可能である。これらのアプリケーションは、種々異なるアドイン機能を含むことができるか、またはスタンドアロン型のコンピューティング製品および/または機能であり得る。これらの機能は、アプリケーション内でアクティブ化されると、入力/出力デバイス1140を介して提供されるユーザインタフェースを生成するために使用可能である。ユーザインタフェースは、コンピューティングシステム1100によって生成可能であり、(例えば、コンピュータスクリーンモニタ等において)ユーザに提示可能である。
【0093】
本明細書で説明される対象の1つまたは複数の態様または特徴は、デジタル電子回路、集積回路、特別に設計された特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および/またはこれらの組み合わせの形態で実現可能である。これらの種々異なる態様または特徴は、専用または汎用であってよい少なくとも1つのプログラマブルプロセッサが含まれるプログラマブルシステムにおいて実行可能および/または解釈可能である1つまたは複数のコンピュータプログラムの形態での実装を含むことができ、このプログラマブルプロセッサは、ストレージシステム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスからのデータおよび命令を受信するため、かつストレージシステム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスにデータおよび命令を送信するために結合されている。プログラマブルシステムまたはコンピューティングシステムは、クライアントおよびサーバを含むことができる。クライアントおよびサーバは、一般的には相互に遠隔した位置にあり、典型的には通信ネットワークを介して相互作用する。クライアントおよびサーバの関係は、個々のコンピュータ上で実行され、かつクライアント-サーバ関係を相互に有するコンピュータプログラムによって生じる。
【0094】
プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、アプリケーション、コンポーネント、またはコードとも称することができるこれらのコンピュータプログラムは、プログラマブルプロセッサのための機械命令を含み、高水準の手続き型プログラミング言語および/またはオブジェクト指向プログラミング言語および/またはアセンブリ言語/機械語で実装可能である。本明細書で使用される「機械可読媒体」という用語は、機械可読信号として機械命令を受信する機械可読媒体が含まれるプログラマブルプロセッサに機械命令および/またはデータを提供するために使用される、例えば磁気ディスク、光ディスク、メモリ、およびプログラマブルロジックデバイス(PLD)のような、任意のコンピュータプログラム製品、装置、および/またはデバイスを指す。「機械可読信号」という用語は、プログラマブルプロセッサに機械命令および/またはデータを提供するために使用される任意の信号を指す。機械可読媒体は、例えば非一時的なソリッドステートメモリまたは磁気ハードドライブまたは任意の等価のストレージ媒体と同様に、そのような機械命令を非一時的に格納することができる。代替的にまたは付加的に、機械可読媒体は、例えば1つまたは複数の物理的なプロセッサコアに関連するプロセッサキャッシュまたは他のランダムアクセスメモリと同様に、そのような機械命令を一時的に格納することができる。
【0095】
本明細書で説明される対象は、所望の構成に応じてシステム、装置、方法、および/または物品の形態で具現化可能である。前述の説明に記載された実装形態は、本明細書で説明される対象に一致する全ての実装形態を表しているわけではない。そうではなく、前述の説明に記載された実装形態は、説明される対象に関連する態様に一致するいくつかの例に過ぎない。上記ではいくつかの変形形態について詳細に説明してきたが、その他の修正または追加が可能である。特に、本明細書に記載されているものに加えて、さらなる特徴および/または変形形態を提供することができる。例えば、上述した実装形態は、開示されている特徴の種々異なる組み合わせおよび組み合わせの構成要素、および/または上記で開示された複数のさらなる特徴の組み合わせおよび組み合わせの構成要素を対象とすることができる。さらに、添付の図面に図示され、かつ/または本明細書で説明される論理フローは、所望の結果を達成するために必ずしも提示された特定の順序または順番を要求するとは限らない。その他の実装形態も、以下の特許請求の範囲内に含めることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】