(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】抗ウイルス要素およびこれを含む個人用保護具
(51)【国際特許分類】
D06M 11/74 20060101AFI20231030BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20231030BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20231030BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20231030BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20231030BHJP
A41D 31/30 20190101ALI20231030BHJP
【FI】
D06M11/74
D06M11/83
A41D13/11 Z
A41D31/00 502J
A41D31/00 502A
A41D13/11 L
A41D19/00 A
A41D19/00 P
A41D19/00 Q
A41D31/30
A41D31/00 503C
A41D31/00 503D
A41D31/00 503H
A41D31/00 504C
A41D31/00 503G
A41D31/00 504B
A41D31/00 503F
A41D31/00 504Z
A41D31/00 504E
A41D31/00 503J
A41D31/00 503Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524883
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 US2021056745
(87)【国際公開番号】W WO2022093889
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522387397
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ グループ,リミテッド ライアビリティ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments Group,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【テーマコード(参考)】
3B033
3B211
4L031
【Fターム(参考)】
3B033AB12
3B033AC00
3B033AC01
3B033AC05
3B033AC06
3B211CA01
3B211CA02
3B211CE01
3B211CE02
3B211CE03
4L031AB31
4L031BA02
4L031BA04
4L031DA12
(57)【要約】
グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品が提供される。この製品は、(a)グラフェンシートを支持するように構成された、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体と、(b)本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の分離した単層または数層グラフェンシートを含む。好ましくは、グラフェンシートの表面は、抗菌化合物を担持し、好ましくはナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングの形態である。
【選択図】
図2(A)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品であって、
a)グラフェンシートを支持するように構成された、布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体と、
b)前記本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または前記本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、前記グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の分離した単層または数層グラフェンシートを含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項2】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記グラフェンシートが、任意選択的に接着剤または結合剤を使用して、前記本体の表面に化学的に結合されていることを特徴とするPPE製品。
【請求項3】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体が、ポリマー繊維またはガラス繊維の織布または不織布構造、またはポリマーフィルムを含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項4】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記布地、衣服、フェイスシールドまたは手袋の本体が、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリビニル、ポリ(カルボン酸)、ゴムまたはエラストマー、生分解性ポリマー、水溶性ポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せのなかから選択された、ポリマーのフィルムまたは繊維を含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項5】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記グラフェンシートが、グラフェンシートの総重量に基づいて5重量%~50重量%の酸素含有量を有することを特徴とするPPE製品。
【請求項6】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体が、その上に堆積された抗菌化合物をさらに含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項7】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記グラフェンシートの表面に分散された抗菌化合物をさらに含み、前記グラフェンシートが5~2,630m
2/gの比表面積を有することを特徴とするPPE製品。
【請求項8】
請求項7に記載のPPE製品において、
前記抗菌化合物が、アクリル酸、メタクリル酸、クエン酸、酸性ポリマー、銀有機イジン抗細菌剤、ヨウ素樹脂、シアル酸、カチオン性基、スルホンアミド、フルオロキノロンまたはそれらの組合せのなかから選択された抗ウイルスまたは抗細菌化合物を含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項9】
請求項1に記載のPPE製品において、
前記抗菌化合物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料の抗ウイルスまたは抗細菌ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングを含み、前記ナノ粒子またはナノワイヤが、0.5nm~100nmの直径または厚さを有することを特徴とするPPE製品。
【請求項10】
請求項9に記載のPPE製品において、
前記抗菌化合物が、銀ナノワイヤ、二酸化チタンナノ粒子、またはそれらの組合せを含むことを特徴とするPPE製品。
【請求項11】
グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品であって、
A)グラフェンシートを支持するように構成された、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体と、
B)前記本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または前記本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、前記グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の分離した単層または数層グラフェンシートを含み、前記グラフェンシートには、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングのなかから選択された抗菌化合物が堆積され、前記ナノ粒子、ナノコーティングまたはナノワイヤが、0.5nm~100nmの直径または厚さを有することを特徴とするPPE製品。
【請求項12】
請求項1に記載のPPE製品を製造するためのプロセスであって、
(a)少なくとも1の外面を有する布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体を準備するステップと、(b)前記少なくとも1の外面上にグラフェンシートを堆積させるか、または前記外面内に前記グラフェンシートを少なくとも部分的に埋め込むステップとを備えることを特徴とするプロセス。
【請求項13】
請求項12に記載のプロセスにおいて、
ステップ(b)が、接着剤を使用して、または接着剤を使用せずに、分離したグラフェンシートを気体媒体中に分散させて流動流体を形成し、この流動流体を前記少なくとも1の外面に衝突させて、前記グラフェンシートを前記少なくとも1の外面に付着させる手順を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項14】
請求項12に記載のプロセスにおいて、
ステップ(b)が、接着剤を使用して、または接着剤を使用せずに、分離したグラフェンシートを液体媒体中に分散させてスラリーを形成し、このスラリーを前記少なくとも1の外面に堆積させて湿潤グラフェン層を形成し、この湿潤グラフェン層から液体媒体を除去または乾燥させて前記外面に付着したグラフェンシートの層を形成する手順を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項15】
請求項14に記載のプロセスにおいて、
堆積させるステップが、キャスト、コーティング、噴霧、印刷、ブラッシング、塗装、浸漬またはそれらの組合せのなかから選択された手順を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項16】
請求項12に記載のプロセスにおいて、
ステップ(b)の前または後に、抗菌化合物または材料を前記グラフェンシートの表面に堆積させるステップ(c)をさらに含むことを特徴とするプロセス。
【請求項17】
請求項12に記載のプロセスにおいて、
ステップ(c)が、キャスト、コーティング、噴霧、印刷、ブラッシング、塗装、浸漬、スパッタリング、物理蒸着、化学蒸着またはそれらの組合せのなかから選択された手順を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項18】
請求項12に記載のプロセスにおいて、
前記抗菌化合物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料の抗ウイルスまたは抗細菌ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングを含み、前記ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが、0.5nm~100nmの直径または厚さを有することを特徴とするプロセス。
【請求項19】
請求項11に記載のPPE製品を製造するためのプロセスであって、
(a)少なくとも1の外面を有する布地、衣類、フェイスマスク、フェイスシールドまたは手袋の本体を準備するステップと、(b)前記少なくとも1の外面上にグラフェンシートを堆積させるか、または前記外面内にグラフェンシートを少なくとも部分的に埋め込むステップと、(c)ステップ(b)の前または後に、抗菌化合物または材料を前記グラフェンシートの表面上に堆積させるステップとを備え、前記抗菌化合物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金またはそれらの組合せのなかから選択された金属材料のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングを含み、前記金属材料が、金属前駆体を酸化グラフェン、還元型酸化グラフェンまたは官能化グラフェンのグラフェンシートに直接接触させて前駆体を金属に変換させることにより生成されることを特徴とするプロセス。
【請求項20】
請求項19に記載のプロセスにおいて、
前記金属前駆体が、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属クエン酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩またはそれらの組合せのなかから選択されることを特徴とするプロセス。
【請求項21】
請求項19に記載のプロセスにおいて、
ステップ(c)が、(i)金属前駆体およびグラフェンシートを液体媒体中で混合して懸濁液を形成し、(ii)液体媒体を除去して金属前駆体でコーティングされた乾燥グラフェンシートを形成し、(iii)金属前駆体をグラフェンシートの表面に堆積したナノ粒子またはナノコーティングに熱変換することを含むことを特徴とするプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して個人用保護具(PPE)の分野に関し、特に、濾過デバイス、マスク、手袋、フェイスシールド、ガウンおよび他の衣類製品などのPPE用の抗ウイルス要素および当該要素を含むPPE製品、並びに、これを製造するためのプロセスに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許出願第17/081,418号の優先権を主張するものであり、その内容は、あらゆる目的のために引用によりここに援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
本開示は、細菌、ウイルス、他の空気浮遊粒子または液体浮遊汚染物質からこの保護具のユーザを保護することができる個人用保護具(PPE)に関するものである。PPEは、濾過デバイス、マスク、手袋、フェイスシールド、ガウン、織物/布地、および他の衣類製品を含むが、これらに限定されるものではない。このデバイスは、そのようなウイルスで汚染された吸入空気や、そのようなウイルスに感染した患者から吐き出された汚染空気から有害なウイルスを除去して中和することができる口腔および/または鼻腔エアフィルタであってよい。特に、本開示は、フェイスマスクの形態のそのようなデバイスに関する。また、本開示は、そのようなフェイスマスクおよび他の濾過デバイスに使用するのに適したフィルタ材料または部材に関する。
【0004】
有害なウイルスおよび/または他の微生物によって汚染された空気の吸入は、人間、特に感染した人間または動物にかかわる医療従事者などの一般的な感染経路である。また、感染した患者が吐き出す空気も汚染源となることが知られている。現在、いわゆる「COVID-19」コロナウイルスによる感染のリスクが特に懸念されている。このウイルスの感染を防ぐためのバリアとして、適切なフィルタ材料を組み込んだマスクが理想的である。
【0005】
当技術分野では、そのようなウイルスおよび/または他の微生物を除去することができると考えられるエアフィルタが知られている。そのようなフィルタの1つのタイプは、繊維状または粒子状の基材または層と、そのような基材または層の表面上および/またはバルク内に堆積された抗ウイルスまたは抗細菌化合物とを備える。この化合物は、懸念されるウイルスおよび/または他の微生物を捕捉および/または中和する。そのようなフィルタの開示例を以下に要約する。
【0006】
例えば、米国特許第4,856,509号は、マスクの選択部分がクエン酸などのウイルス破壊剤を含むフェイスマスクを提供している。米国特許第5,767,167号は、ウイルスなどの微生物を捕捉するためのフィルタリング媒体に適したエアロゲル発泡体を開示している。米国特許第5,783,502号は、抗ウイルス分子、特に、第4級アンモニウムカチオン性炭化水素基などのカチオン基が結合した布基材を提供している。米国特許第5,851,395号は、シアル酸(環上にカルボン酸置換基を有する9炭素単糖類)に基づくウイルス捕捉材料が堆積されたフィルタ材料を含むウイルスフィルタに関する。米国特許第6,182,659号は、B群溶血性連鎖球菌培養物に基づくウイルス除去フィルタを開示している。米国特許第6,190,437号は、ヨウ素樹脂を含浸させた担体基材を含む空気中のウイルスを除去するためのエアフィルタを開示している。米国特許第6,379,794号は、アクリルラテックス材料を含浸させたガラスおよび他の高弾性繊維に基づくフィルタを開示している。米国特許第6,551,608号は、多孔性熱可塑性物質基材と、少なくとも1の抗ウイルス剤を熱可塑性物質と焼成することによって作られた抗ウイルス物質とを開示している。米国特許第7,029,516号は、ポリアクリル酸などの酸性ポリマーを堆積させた不織布ポリプロピレン基材を含む、流体から粒子を除去するためのフィルタシステムを開示している。
【0007】
特に、「鳥インフルエンザ」やコロナウイルスによるリスクに関する懸念に鑑みると、そのようなフィルタや他のタイプの個人用保護具を改善することが、継続的にかつ非常に緊急に必要とされている。本発明者等は、吸入空気から有害なウイルスおよび/または他の微生物の除去およびそれら種の中和のレベルを高めることができるフィルタ材料およびPPE要素を特定し、改良された鼻および/または口フィルタおよび他のPPE製品にそのような材料を使用することを可能にする。また、そのようなフィルタ材料を、水や空気の浄化、選択した溶剤の分離、流出油の回収など、他のフィルタデバイスにおける濾過部材としても使用することができる。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品を提供するものであり、この製品が、(a)グラフェンシートを支持するように構成された、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体と、(b)布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の分離した単層または数層グラフェンシートを含む。
【0009】
PPEは、(流入する病原体を濾過する)濾過デバイス、フェイスマスク、手袋、フェイスシールド、ガウン、織物/布地、および他の衣類製品を含むことができる。
【0010】
特定の好ましい実施形態では、グラフェンシートが、任意選択的に接着剤または結合剤を使用して、本体の表面に化学的に結合される。場合によっては、グラフェンシート(例えば、特定の酸化グラフェンシート)が、布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体の材料に自然な化学的親和性を有する場合、接着剤または結合剤は必要ではない。
【0011】
特定の実施形態では、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体が、ポリマー繊維またはガラス繊維の織布または不織布構造、またはポリマーフィルムを含む。着用可能な保護デバイスは、プラスチックフィルム、ゴム手袋、フェイスシールド、または布地もしくは織物シートを含むことができる。フェイスシールド用途では、ポリマーフィルムが、好ましくは透明なポリマーで作られる。
【0012】
PPE製品では、生地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体が、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、PVC)、ポリ(カルボン酸)、ゴムまたはエラストマー、生分解性ポリマー、水溶性ポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せのなかから選択された、ポリマーのフィルムまたは繊維を含むことができる。
【0013】
特定の好ましい実施形態では、グラフェンシートが、グラフェンシートの総重量に基づいて5重量%~50重量%の酸素含有量を有する特別なクラスの酸化グラフェンまたは還元型酸化グラフェンを含む。
【0014】
好ましくは、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体は、その上に堆積された抗菌化合物をさらに含む。抗菌化合物は、グラフェンシートの表面、本体の外面、またはその両方に堆積させることができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、製品が、グラフェンシートの表面に分散された抗菌化合物をさらに含み、グラフェンシートが、5~2,630m2/gの比表面積を有する。
【0016】
抗菌化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、クエン酸、酸性ポリマー、銀有機イジン抗細菌剤、ヨウ素樹脂、シアル酸、カチオン性基、スルホンアミド、フルオロキノロンまたはそれらの組合せのなかから選択された抗ウイルスまたは抗細菌化合物を含むことができる。
【0017】
特定の実施形態では、抗菌化合物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングのなかから選択された抗ウイルスまたは抗細菌化合物を含み、ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが、0.5nm~100nm(好ましくは20nm未満、さらに好ましくは10nm未満、最も好ましくは5nm未満)の直径または厚さを有する。
【0018】
特定の好ましい実施形態では、抗菌化合物が、銀ナノワイヤ、二酸化チタンナノ粒子、またはそれらの組合せを含む。
【0019】
また、本開示は、PPE製品を製造するためのプロセスも提供し、このプロセスが、(a)少なくとも1の外面を有する布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体を準備するステップと、(b)少なくとも1の外面上にグラフェンシートを堆積させるか、または外面内にグラフェンシートを少なくとも部分的に埋め込むステップとを備える。布、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体の表面に複数のグラフェンシートを化学結合させることができるが、グラフェンシートは依然として、外気に曝される一部の表面を維持するか、またはウイルスまたは細菌によってアクセス可能である。グラフェンシートは、布地、衣服、フェイスシールドまたは手袋の本体内に部分的に埋め込むことができるが、任意の生物学的因子と接触する準備が整った一定量の表面を維持することができる。グラフェンの表面には、抗菌化合物を付着させることができる。
【0020】
このプロセスにおいて、ステップ(b)は、接着剤を使用して、または接着剤を使用せずに、分離したグラフェンシートを気体媒体中に分散させて流動流体を形成し、この流動流体を少なくとも1の外面に衝突させて、グラフェンシートを少なくとも1の外面に付着させる手順を含むことができる。
【0021】
特定の実施形態では、ステップ(b)が、接着剤を使用して、または接着剤を使用せずに、分離したグラフェンシートを液体媒体中に分散させてスラリーを形成し、このスラリーを少なくとも1の外面に堆積させて湿潤グラフェン層を形成し、この湿潤グラフェン層から液体媒体を除去または乾燥させて外面に付着したグラフェンシートの層を形成する手順を含む。グラフェンシートをPPE本体に結合させるために、熱硬化性またはUV硬化性の接着剤を使用することができる。
【0022】
堆積手順は、キャスト、コーティング、噴霧、印刷、ブラッシング、塗装、浸漬またはそれらの組合せのなかから選択された手順を含むことができる。
【0023】
特定の実施形態では、本プロセスが、ステップ(b)の前または後に、グラフェンシートの表面に抗菌化合物を堆積させるステップをさらに含む。
【0024】
開示のPPE製品において、支持体は、ポリマーまたはガラス繊維の織布または不織布構造を含むことができる。外面(病原体に曝される)は、好ましくは、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン)、ポリエステル(例えば、PET)、ポリアミド(例えば、ナイロン)、レーヨン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリビニル、ポリ(カルボン酸)、生分解性ポリマー、水溶性ポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せの群から選択されたポリマー繊維を含むことができる。
【0025】
好ましくは、グラフェンシートは、グラフェンシートの総重量に基づいて、5重量%~50重量%の酸素含有量を有する。酸素含有官能基は、特定の微生物因子を殺傷または不活性化できるようである。
【0026】
開示のPPE製品において、本体または支持されるグラフェンシート、またはその両方は、抗菌化合物をさらに含むことができる。好ましくは、抗菌化合物は、グラフェンシートの表面に分布し、グラフェンシートは、50~2,630m2/gの比表面積を有する。このような高い比表面積により、PPE本体は、微生物病原体(細菌、ウイルスなど)を直接攻撃できる抗菌化合物の表面を飛躍的に大きくすることができる。
【0027】
抗菌化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、クエン酸、酸性ポリマー、銀有機イジン抗細菌剤、ヨウ素樹脂、シアル酸(例えば、環上にカルボン酸置換基を有する9炭素単糖類)、カチオン基(例えば、布地またはグラフェンシートに結合した第4級アンモニウムカチオン性炭化水素基)、スルホンアミド、フルオロキノロンまたはそれらの組合せのなかから選択された抗ウイルス化合物または抗細菌化合物を含むことができる。
【0028】
布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体の表面にグラフェンシートを堆積させる手順は、好ましくは、キャスト、コーティング(例えば、スロットダイコーティング、コンマコーティング、リバースロールコーティングなど)、噴霧(例えば、エアアシスト噴霧、静電気アシスト噴霧、超音波噴霧など)、印刷(例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷など)、ブラッシング、塗装またはこれらの組合せのなかから選択された手順を含む。
【0029】
特定の実施形態では、本プロセスが、ステップ(b)の前または後に、抗菌化合物または材料をグラフェンシートの表面に堆積させるステップ(c)をさらに含む。ステップ(c)は、好ましくは、キャスト、コーティング、噴霧、印刷、ブラッシング、塗装、浸漬、スパッタリング、物理蒸着、化学蒸着またはこれらの組合せのなかから選択された手順を含む。
【0030】
抗菌化合物は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料の抗ウイルスまたは抗細菌ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングを含むことができ、ナノ粒子、ナノコーティングまたはナノワイヤが、0.5nm~100nmの直径または厚さを有する。
【0031】
本開示は、グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品をさらに提供するものであり、この製品が、(A)グラフェンシートを支持するように構成された、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体(PPE本体)と、(B)PPE本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または当該本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の分離した単層または数層グラフェンシートを含み、グラフェンシートには、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、それらの混合物、それらの酸化物、それらの硫化物、それらのセレン化物、それらのリン化物、それらのホウ化物またはそれらの組合せのなかから選択された材料のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングのなかから選択された抗菌化合物が堆積され、ナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが、0.5nm~100nmの直径または厚さを有する。
【0032】
本開示は、PPE製品を製造するためのプロセスをさらに提供するものであり、このプロセスが、(a)少なくとも1の(病原体の発生源に面する)外面を有する布地、衣類、フェイスマスク、フェイスシールドまたは手袋の本体を準備するステップと、(b)少なくとも1の外面上にグラフェンシートを堆積させるか、または外面内にグラフェンシートを少なくとも部分的に埋め込むステップと、(c)ステップ(b)の前または後に、抗菌化合物をグラフェンシートの表面に堆積させるステップとを備え、抗菌化合物が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金またはそれらの組合せのなかから選択された金属材料のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングを含み、金属材料が、金属前駆体を酸化グラフェン、還元型酸化グラフェンおよび/または官能化グラフェンの複数のシートと直接接触させ、前駆体を所望の金属に(化学的または熱的に)変換することによって生成される。この変換手順は、それらナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングの表面を活性化して、より優れた病原体殺傷能力を付与する作用もある。
【0033】
金属前駆体は、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属クエン酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩またはそれらの組合せのなかから選択することができる。それら前駆体は、グラフェンシート表面またはPPE本体の表面上に堆積した金属に容易に変換することができる。
【0034】
いくつかの好ましい実施形態では、ステップ(c)が、(i)金属前駆体およびグラフェンシートを液体媒体中で混合して懸濁液を形成し、(ii)液体媒体を除去して金属前駆体でコーティングされた乾燥グラフェンシートを形成し、(iii)金属前駆体をグラフェンシートの表面に堆積したナノ粒子またはナノコーティングに熱変換することを含む。これら手順は、グラフェンシートがPPE本体の外面に堆積される前に実施することが好ましい。
【0035】
また、本開示では、上述したプロセスによって製造されるPPE製品も提供するものであり、このPPE製品が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金またはそれらの組合せのなかから選択された金属材料(抗菌化合物)のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが堆積されたグラフェンシートを含み、グラフェン対金属の重量比が、1:99~99:1である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、グラフェンシートを製造するための最も一般的に使用される先行技術のプロセスを示すフローチャートである。
【
図2】
図2(A)は、本開示の一実施形態に係る保護手袋の概略図である。
図2(B)は、本開示のいくつかの実施形態に係る防護服または布地の概略図であり、左図は、グラフェンシートがコーティングされていない衣服を示し、右図は、防護服の外面に堆積されたグラフェンシートを示している。
図2(C)は、本開示の一実施形態に係るフェイスシールドの概略図である。
図2(D)は、本開示の一実施形態に係る、抗ウイルス金属のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが堆積されたグラフェンシートの層を含むフェイスマスクの概略図である。
図2(E)は、本開示の一実施形態に係る、フェイシャルマスク本体の外面に実装された、抗ウイルス金属のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが堆積されたグラフェンシートを含むフェイシャルマスクの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、グラフェンベースの個人用保護具(PPE)製品を提供するものであり、この製品は、(a)グラフェンシートを支持するように構成された布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体と、(b)布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体の表面上に堆積されたグラフェンシート、または本体内に少なくとも部分的に埋め込まれたグラフェンシートとを備え、グラフェンシートが、プリスチングラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的に官能化されたグラフェンまたはそれらの組合せのなかから選択された、複数の離散した単層または数層グラフェンシートを含む。
【0038】
グラフェンシートは、任意選択的に接着剤または結合剤を使用して、本体の表面に化学的に結合させることができる。特定の状況では、グラフェンシート(例えば、特定の酸化グラフェンシートまたは官能化されたグラフェンシート)が、布地、衣類、フェイスシールドまたは手袋の本体の材料に自然な化学的親和性を有する場合、接着剤または結合剤は必要ではない。
【0039】
特定の実施形態では、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体が、ポリマー繊維またはガラス繊維の織布または不織布構造、またはポリマーフィルムを含む。着用可能な保護デバイスは、プラスチックフィルム、ゴム手袋、フェイスシールド、または布地もしくは織物シートを含むことができる。
【0040】
PPE製品において、布地、衣類、フェイスシールド、フェイスマスクまたは手袋の本体は、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、PVC)、ポリ(カルボン酸)、ゴムまたはエラストマー、生分解性ポリマー、水溶性ポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せのなかから選択された、ポリマーのフィルム(例えば、プラスチックフィルム)または繊維を含むことができる。
【0041】
図2(A)は、ユーザの手指を収容するように構成された手袋本体を含む保護手袋(例えば、医師が使用する手術用または検査用の手袋)を示している。この手袋の外面には、グラフェンシートが堆積または接着されている。グラフェンシートは、抗菌化合物と組み合わせて、外面のほぼ全体を覆うように、または外面の一部だけを覆うように堆積させることができる。外面とは、病原体(ウイルスまたは細菌)が接触する可能性のある表面を指している。
【0042】
図2(B)は、本開示のいくつかの実施形態に係る防護服(例えば、キャップおよび/またはガウン)または生地の概略図である。左の図は、グラフェンシートがその上にコーティングされていない衣類製品を示し、右の図は、防護服の外面に堆積されたグラフェンシートを示している。抗菌化合物は、グラフェンシート表面および/または生地表面にコーティングすることができる。グラフェンシートは、抗菌化合物と組み合わせて、外面のほぼ全体を覆うように、または外面のほんの一部を覆うように堆積させることができる。
【0043】
図2(C)は、本開示の一実施形態に係るフェイスシールドを概略的に示している。このフェイスシールドは、ユーザがこのようなフェイスシールドを適切に装着するのを助けるために、ストラップまたは他の固定手段を有する。フェイスシールド本体は、透明部分(グラフェンのないウィンドウ)を残して、選択された位置にグラフェンシートを堆積させた外面を有し、透明部分により、そのようなシールドの着用者が透かして見ることができる。
【0044】
図2(D)は、本開示の一実施形態に係る抗ウイルス金属のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが堆積されたグラフェンシートの層を含むフェイスマスクを概略的に示している。いくつかの実施形態では、この抗ウイルス金属のコーティングされたグラフェンシートの層が、マスク本体の複数の層のうちの1つとして、またはフェイスマスク本体の外層と内層との間に配置するコーティング層として埋め込むことができる。
【0045】
図2(E)は、フェイスマスク本体の外面にグラフェンシートが実装されたフェイスマスクを概略的に示している。それらグラフェンシートには、本開示の一実施形態に係る抗ウイルス金属のナノ粒子、ナノワイヤまたはナノコーティングが堆積されている。
【0046】
フェイスマスクの外層または内層は、典型的には、織布または不織布のいずれかであり得る繊維状の基材または布地を含む空気透過性構造を備える。織物材料の例には、綿、セルロース、羊毛、ポリオレフィン(例えば、PEおよびPP)、ポリエステル(例えば、PETおよびPBT)、ポリアミド(例えば、ナイロン)、レーヨン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリビニル、および繊維に加工することができる他の任意の合成ポリマーなどの天然繊維および合成繊維が含まれる。不織布材料の例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、PETおよびPLAが含まれる。本開示のデバイスの場合、不織布が好ましく、不織布シートまたはパッドの形態であってもよい。
【0047】
不織布ポリエステルは、酸性ポリマーのような所望の抗ウイルスまたは抗細菌化合物の一部がポリエステル材料によく付着するため、好ましい空気透過性構造である。また、ポリプロピレン不織布も好ましい。ここで検討したグラフェンシートは、すべてのポリマー繊維ベースの布地構造に適合するようである。グラフェンシートを支持するために使用され得る繊維状基材または布地のグレードは、空気の適切な貫流を達成するように実際に決定することができ、その密度は、快適な重量のマスクを提供するためにフェイスマスク技術から知られているようにすることができる。
【0048】
従来からサージカルマスクなどに使用されているタイプの不織布ポリプロピレンは、シートの形態で広く入手可能である。不織布ポリプロピレンの好適なグレードには、サージカルフェイスマスクに一般的に使用されている周知のグレードが含まれる。フェイスマスクまたは他の濾過デバイスに使用するのに適していることが分かっている典型的な不織布ポリプロピレン材料は、10~50g/m2(gsm)の面積重量を有している。他の適切な材料重量は、経験的に決定することができる。濾過デバイスへの使用に適した典型的な不織布ポリエステルは、10~300g/m2の面積重量を有する。フェイスマスクの用途では、重量20~100g/m2のポリエステル材料が好ましい。そのような材料は市販されている。他の適切な材料は、問題なく経験的に決定することができる。
【0049】
代替的には、不織布または織布以外の多孔質層基材は、連続気泡フォーム、例えばエアフィルタにも使用されるようなポリウレタンフォームなどの他の形態であってもよい。
【0050】
サージカルマスクやレスピレータを含むフェイスマスクは、一般的に不織布で作られており、不織布は、織布よりも滑り難く、細菌の濾過や空気透過性に優れている。最も一般的に使用される材料はポリプロピレンであるが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンまたはポリエステルなどで作ることもできる。20g/m2またはgsmのマスク材料は、通常、溶融したプラスチックをコンベア上に押し出すスパンボンドプロセスで作られる。材料はウェブに押し出され、ストランドは冷えるに連れて互いに結合する。25gsmの布地は、通常、メルトブロープロセスによって作られ、このプロセスでは、プラスチックは、数百の小さなノズルを持つダイから押し出され、熱風が吹き付けられて極細の繊維になり、コンベア上で冷却されて結合される。それら繊維は通常、直径が1ミクロン未満である。
【0051】
サージカルマスクは、一般的には織物層を両面から不織接着布で覆うことにより、多層構造で構成されている。不織布材料は製造コストが低く、また使い捨てであるため、より清浄である。マスク本体の一部として組み込まれる構造は、3層または4層で作ることができる。そのような使い捨てマスクは、1ミクロンを超える細菌などの粒子を濾過するのに有効な二層のフィルタ層で作られることが多い。マスクの濾過レベルは、繊維、製造プロセス、ウェブ構造、および繊維の断面形状に依存する。開示のマスクでは、グラフェン層を多層のうちの一層として組み込むことができるが、外気に直接曝されず(最外層ではなく)、かつ着用者の顔に直接接触しない(最内層ではない)ことが好ましい。マスクは、ボビンから不織布を編成し、層を超音波で溶着し、マスクにノーズストリップ、イヤーループおよび他の部分をプレス加工する機械ラインで製造することができる。それら手順は当技術分野ではよく知られている。
【0052】
レスピレータも複数の層を含む。両側の外層は、密度20~100g/m2の保護用不織布で作ることができ、外部環境に対するバリアと、内側では着用者自身の呼気に対するバリアの両方を形成することができる。前濾過層は、250g/m2の密度を持つことができる。これは通常、プラスチック繊維を高圧の加熱ロールに通すことで熱的に結合させる熱カレンダー加工によって製造されるニードル不織布である。グラフェン層は、この層を部分的または完全に置き換えるために使用することができる。部分的に置換する場合、ニードル不織布層の主表面上にグラフェンシートを堆積させることができる。これにより、前濾過層がより厚く、より硬くなり、マスクとして使用する際に所望の形状を形成することができる。最後の層は、高効率のメルトブローエレクトレット不織布材料とすることができ、これにより濾過効率が決定される。このメルトブロー層には、前濾過層の代わりに、または前濾過層に加えて、グラフェン層を堆積させることができる。
【0053】
グラフェンシート表面には、抗ウイルス化合物または抗細菌化合物を堆積させることができる。この堆積は、グラフェンシートがグラフェン層に形成される前または後に実施することができる。抗菌化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、クエン酸、酸性ポリマー、銀有機イジン抗菌剤、ヨウ素樹脂、シアル酸(例えば、環上にカルボン酸置換基を有する9炭素単糖類)、カチオン基(例えば、布地またはグラフェンシートに結合した第4級アンモニウムカチオン性炭化水素基)、スルホンアミド、フルオロキノロンまたはそれらの組合せのなかから選択される抗ウイルス化合物または抗細菌化合物を含むことができる。
【0054】
製造されたフェイスマスクやレスピレータは、工場から送り出す前に滅菌することが不可欠である。
【0055】
グラフェンの製造は当技術分野でよく知られているが、以下に簡単に説明する。
【0056】
炭素材料は、本質的に非晶質構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または様々な割合とサイズの黒鉛結晶と欠陥が非晶質マトリックスに分散していることを特徴とする中間構造の全範囲を想定することができる。通常、黒鉛結晶は、c軸方向(基底面に垂直な方向)のファンデルワールス力によって互いに結合した多数のグラフェンシートまたは基底面によって構成されている。それら黒鉛結晶子は、通常、ミクロンからナノメートルのサイズである。黒鉛結晶子は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛ファイバセグメント、炭素/黒鉛ウィスカ、または炭素/黒鉛ナノファイバであり得る黒鉛粒子内に分散しているか、または黒鉛粒子中の結晶欠陥または非晶質相によって連結されている。すなわち、グラフェン平面(炭素原子の六角形格子構造)が黒鉛粒子の大部分を占めている。
【0057】
単層グラフェンシートは、二次元の六角形格子を占める炭素原子で構成されている。多層グラフェンは、複数のグラフェン平面から構成されるプレートレットである。ここでは、個々の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットを総称してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と呼ぶ。NGPには、プリスチングラフェン(炭素原子のほぼ99%)、僅かに酸化されたグラフェン(酸素の重量で5%未満)、酸化グラフェン(酸素の重量で5%以上)、僅かにフッ化されたグラフェン(フッ素の重量で5%未満)、フッ化グラフェン(フッ素の重量で5%以上)、他のハロゲン化グラフェン、および化学的に官能化されたグラフェンが含まれる。
【0058】
本発明者等の研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.JangおよびW.C.Huang、「Nano-scaled Graphene Plates」、2002年10月21日に出願された米国特許出願第10/274,473号/米国特許第7,071,258号(2006年7月4日)]。NGPおよびNGPナノコンポジットを製造するためのプロセスは、最近、本発明者等によってレビューされた[Bor Z.JangおよびA Zhamu、「Processing of Nano Graphene Platelets(NGPs)and NGP Nanocomposites:A Review」、J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。様々なタイプのグラフェンシートの製造は、当該技術分野において周知である。
【0059】
例えば、グラフェンシートまたはプレートレットを製造するための化学プロセスは、典型的には、濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の混合物に、黒鉛または他の黒鉛材料の粉末を浸漬して、反応塊を形成する。これは、化学インターカレーション/酸化反応の完了に通常5~120時間必要とする。反応が完了すると、スラリーは、すすぎと水による洗浄の繰り返しステップにかけられる。精製された生成物は、一般に黒鉛層間化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)と呼ばれる。水中にGICまたはGOを含む懸濁液は、超音波処理にかけられ、水中に分散した単離/分離された酸化グラフェンシートを生成することができる。得られた生成物は、典型的には高度に酸化されたグラフェン(すなわち、酸素含有量の高い酸化グラフェン)であり、還元型酸化グラフェン(RGO)を得るために化学的または熱的に還元する必要がある。
【0060】
代替的には、GIC懸濁液を乾燥処理して水分を除去するようにしてもよい。その後、乾燥した粉末を熱衝撃処理にかける。これは、一般的に800~1100℃(より一般的には950~1050℃)の温度に予め設定された炉にGICを入れて、剥離した黒鉛(または黒鉛ワーム)を生成することによって達成され、これを高剪断または超音波処理にかけることにより、分離されたグラフェンシートを生成することができる。
【0061】
代替的には、黒鉛ワームをフィルム状に再圧縮して、柔軟な黒鉛シートを得ることもできる。柔軟な黒鉛シートは、世界中の多くの供給元から市販されている。
【0062】
出発黒鉛材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛ファイバ、黒鉛ナノファイバ、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、メソ炭素マイクロビーズ、部分結晶性黒鉛またはそれらの組合せのなかから選択することができる。
【0063】
プリスチングラフェンシートは、周知の液相剥離または金属触媒を用いた化学蒸着(CVD)により製造することができる。
【0064】
グラフェンフィルム、柔軟な黒鉛シートおよび人工黒鉛フィルムは、一般的に、3つの根本的に異なる、明らかに別のクラスの材料と見なされている。
【0065】
図1の上部に概略的に示すように、天然黒鉛バルクは3D黒鉛材料であり、各黒鉛粒子が複数の粒子(粒子は黒鉛単結晶または結晶子)からなり、粒界(非晶質または欠陥領域)が隣接する黒鉛単結晶を区画している。各粒子は、互いに平行に配向された複数のグラフェン平面で構成されている。黒煙結晶子中のグラフェン平面または六角形炭素原子平面は、二次元の六角形格子を占める炭素原子で構成されている。与えられた粒子または単結晶では、グラフェン平面が、結晶学的c方向(グラフェン平面または基底面に対して垂直な方向)にファンデルワールス力を介して積層および結合されている。天然黒鉛材料のグラフェン平面間隔は約0.3354nmである。
【0066】
人工黒鉛材料も構成グラフェン平面を含むが、X線回折で測定したグラフェン平面間隔d002は、典型的には0.32nm~0.36nm(より典型的には0.3339~0.3465nm)である。多くの炭素材料や準黒鉛材料は、積層されたグラフェン平面からそれぞれ構成される黒鉛結晶(黒鉛結晶子、ドメイン、結晶粒とも呼ばれる)も含む。これには、メソカーボンモクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、ソフトカーボン、ハードカーボン、コークス(ニードルコークスなど)、炭素または黒鉛ファイバ(気相成長カーボンナノファイバまたは黒鉛ナノファイバを含む)、多壁カーボンナノチューブ(MW-CNT)などがある。MW-CNTの2つのグラフェンリングまたは壁の間隔は、約0.27~0.42nmである。MW-CNTの最も一般的な間隔値は、0.32~0.35nmの範囲であり、合成方法にはあまり依存しない。
【0067】
なお、「ソフトカーボン」とは、黒鉛ドメインを含む炭素材料であって、あるドメインにおける六角形炭素平面(またはグラフェン平面)の配向と隣接する黒鉛ドメインにおける配向が互いにあまりずれておらず、2,000℃を超える温度(より典型的には2,500℃を超える温度)に加熱されたときにそれらドメインが容易に融合することができる、炭素材料を指すことに留意されたい。そのような熱処理は、一般に黒鉛化と呼ばれる。このため、ソフトカーボンは、黒鉛化可能な炭素質材料として定義することができる。一方、「ハードカーボン」は、熱的に互いに結合して大きなドメインを得ることができない、非常に異なる方向に配向された黒鉛ドメインを含む炭素質材料として定義することができる。すなわち、ハードカーボンは黒鉛化することができない。
【0068】
天然黒鉛、人造黒鉛、および上述した他の黒鉛炭素材料の黒鉛結晶子の構成グラフェン平面間の間隔は、いくつかの拡張処理アプローチを使用して拡張すること(すなわち、d002間隔を0.27~0.42nmの元の範囲から0.42~2.0nmに拡張すること)ができる。上記拡張処理アプローチには、黒鉛または炭素材料の酸化、フッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化、窒素化、インターカレーション、酸化とインターカレーションの組合せ、フッ素化とインターカレーションの組合せ、塩素化とインターカレーションの組合せ、臭素化とインターカレーションの組合せ、ヨウ素化とインターカレーションの組合せ、または窒素化とインターカレーションの組合せが含まれる。
【0069】
より具体的には、平行なグラフェン平面を一緒に保持するファンデルワールス力が比較的弱いことにより、グラフェン平面の間隔を広げてc軸方向に大幅に膨張させるように、天然黒鉛を処理することができる。これにより、黒鉛材料の間隔は拡大されるが、六角形炭素層の層状特性は実質的に保持される。黒鉛結晶子の面間隔(グラフェン平面間隔ともいう)は、黒鉛の酸化、フッ素化および/またはインターカレーションを含むいくつかのアプローチで増加(拡大)させることができる。インターカラント、酸素含有基、またはフッ素含有基の存在により、黒鉛結晶子中の2つのグラフェン平面間の間隔を広げる役割を果たす。
【0070】
d間隔を拡大した黒鉛/炭素材料を、抑制なく(すなわち、自由に体積を増加させることができるように)熱衝撃に曝す(例えば、この炭素材料を通常800~2,500℃の温度に予め設定された炉に急速に入れる)と、特定のグラフェン平面間の空間が著しく増加(実際には、剥離)することがある。それらの条件下では、熱剥離した黒鉛/炭素材料はワームのように見え、各黒鉛ワームは、相互に連結したままの多くの黒鉛フレークで構成されている。しかしながら、それら黒鉛フレークは、通常20nm~10μmの孔サイズ範囲のフレーク間孔を有する。
【0071】
代替的には、拡大したd間隔を有する、インターカレーション、酸化またはフッ素化された黒鉛/炭素材料は、十分な時間、一定体積条件下で中間の温度(100~800℃)に曝すことができる。この条件は、平均サイズ2~20nmのフレーク間孔を有する、剥離が制限された生成物を得るために調整することができる。これは、ここでは、抑制された膨張/剥離処理という。本発明者等は、驚くべきことに、2~20nmの面間空間を有する黒鉛/炭素のカソードを有するAlセルが、高いエネルギー密度、高い電力密度および長いサイクル寿命を提供することができることを確認した。
【0072】
あるプロセスでは、天然黒鉛粒子を強酸および/または酸化剤でインターカレーションして、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)を得ることによって、拡大した面間隔を有する黒鉛材料が得られる。グラフェン平面間の間隙空間に化学種または官能基が存在すると、X線回折で求められるグラフェン平面間隔d002が大きくなり、グラフェン平面をc軸方向に沿って互いに保持するファンデルワールス力が大幅に減少する。GICまたはGOは、殆どの場合、硫酸、硝酸(酸化剤)および別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物に天然黒鉛粉末を浸漬することで製造される。インターカレーションの手順中に酸化剤が存在する場合、得られたGICは実際にはある種の酸化黒鉛(GO)粒子である。このGICまたはGOは、その後、余分な酸を除去するために水中で洗浄およびすすぎが繰り返され、それにより、水中に分散した離散的で視覚的に識別可能な酸化黒鉛粒子を含む酸化黒鉛懸濁液または分散液が得られる。
【0073】
この懸濁液から水を除去して、実質的に乾燥GICまたは乾燥酸化黒鉛粒子の塊である「膨張性黒鉛」を得ることができる。乾燥GICまたは酸化黒鉛粒子のグラフェン平面間隔d002は、典型的には0.42~2.0nmの範囲であり、より典型的には0.5~1.2nmの範囲である。「膨張性黒鉛」は「膨張黒鉛」ではないことに留意されたい。
【0074】
膨張性黒鉛を約30秒~2分間、典型的には800~2,500℃(より典型的には900~1,050℃)の範囲の温度に曝すと、GICは30~300倍の急速な体積膨張を起こし、「剥離黒鉛」または「黒鉛ワーム」を形成する。黒鉛ワームはそれぞれ、剥離したが大部分が分離していない黒鉛フレークの集まりであり、相互接続を保っている。剥離黒鉛では、個々の黒鉛フレーク(それぞれが互いに積層された1~数百のグラフェン平面を含む)が、通常2.0nm~10μmの間隔で、互いに大きく離れている。しかしながら、それらは物理的に相互接続されたままであり、アコーディオン状あるいはワーム状の構造を形成している。
【0075】
黒鉛産業では、黒鉛ワームを再圧縮して、一般的に0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを有する柔軟な黒鉛シートまたはフォイルを得ることができる。そのような柔軟な黒鉛シートは、一種の黒鉛ヒートスプレッダ素子として使用することができる。
【0076】
代替的には、黒鉛産業では、100nmより厚い黒鉛フレークまたはプレートレットを主に含む(よって、定義上はナノ材料ではない)いわゆる「膨張黒鉛」フレークを製造する目的で、低強度のエアミルまたは剪断機を使用して黒鉛ワームを単に粉砕することを選ぶことがある。「膨張黒鉛」は「膨張性黒鉛」ではなく、「剥離黒鉛ワーム」でもないことは明らかである。「膨張性黒鉛」は、熱的に剥離して「黒鉛ワーム」を得ることができ、この黒鉛ワームを機械的剪断にかけて、相互接続されている黒鉛フレークを粉砕することにより「膨張黒鉛」フレークを得ることができる。膨張黒鉛フレークは、通常、元の黒鉛と同一または同様の面間隔(典型的には0.335~0.36nm)を有する。複数の膨張黒鉛フレークを一緒にロールプレスして、柔軟な黒鉛シートの一態様である黒鉛フィルムを形成することができる。
【0077】
代替的には、剥離した黒鉛または黒鉛ワームは、本発明者等による米国出願第10/858,814号(米国特許出願公開第2005/0271574号)(すでに放棄)に開示されているように、(例えば、超音波処理装置、高剪断ミキサ、高密度エアジェットミル、高エネルギーボールミルなどを使用する)高強度の機械的剪断にかけて分離した単層および多層グラフェンシート(総称してNGPという)を形成することができる。単層グラフェンは0.34nmの薄さにすることができ、多層グラフェンは最大100nmの厚さを有することができるが、より典型的には3nm未満である(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。複数のグラフェンシートまたはプレートレットは、製紙プロセスを用いてNGP紙のシートにすることができる。
【0078】
GICや酸化黒鉛では、グラフェン平面間の分離が天然黒鉛の0.3354nmから高酸化黒鉛の0.5~1.2nmに拡大し、隣接する平面を一緒に保持するファンデルワールス力が著しく弱められる。酸化黒鉛は、2重量%~50重量%、より典型的には20重量%~40重量%の酸素含有量を有することができる。GICまたは酸化黒鉛は、ここでは「抑制された熱膨張」という特殊な処理を受けることができる。GICまたは酸化黒鉛を炉内で(例えば、800~1,050℃で)熱衝撃に曝し、自由に膨張させると、最終生成物は剥離黒鉛ワームになる。しかしながら、GICまたは酸化黒鉛の塊を、150℃~800℃(より典型的には最大600℃)で十分な時間(典型的には2分~15分)ゆっくりと加熱しながら、抑制された条件(例えば、オートクレーブ内において定体積条件下で、または金型内において一軸圧縮下で閉じ込められた条件)にかけると、膨張の程度を抑制および制御することができ、生成物に、2.0nm~20nm、より望ましくは2nm~10nmのフレーク間空間を設けることができる。
【0079】
「膨張性黒鉛」または拡張した面間隔を有する黒鉛は、GOの代わりにフッ化黒鉛(GF)を形成することによっても得ることができることに留意されたい。高温のフッ素ガス中でF2と黒鉛が相互作用すると、(CF)nから(C2F)nの共有結合したフッ化黒鉛が生成されるが、低温では黒鉛インターカレーション化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が生成される。(CF)nでは、炭素原子がsp3ハイブリダイズされているため、フルオロカーボン層はトランスリンクしたイス形のシクロヘキサンからなる波形になっている。(C2F)nでは、C原子の半分だけがフッ素化され、隣接する炭素シートのすべてのペアが共有C-C結合で互いに連結されている。フッ素化反応に関する体系的な研究により、得られるF/C比は、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の分圧、黒鉛前駆体の黒鉛化度、粒子径、比表面積などの物理的特性に大きく依存することが分かっている。フッ素(F2)に加えて、他のフッ素化剤(例えば、F2とBr2、Cl2またはI2との混合物)を使用することができるが、利用可能な文献の殆どは、F2ガスによるフッ素化、時にはフッ化物の存在を伴う。
【0080】
電気化学的フッ素化で得られる低フッ素化黒鉛CxF(2≦x≦24)は、グラフェン平面間隔(d002)が典型的には0.37nm未満、より典型的には0.35nm未満であることが観察された。CxFのxが2未満(すなわち0.5≦x<2)である場合にのみ、(気相フッ素化または化学フッ素化手順によって生成されたフッ素化黒鉛において)0.5nmを超えるd002間隔を観察することができる。CxFのxが1.33未満(すなわち0.5≦x<1.33)の場合、0.6nmを超えるd002間隔を観察することが可能である。この高フッ素化黒鉛は、高温(>>200℃)で十分に長い時間、好ましくは1atmを超える圧力、より好ましくは3atmを超える圧力下でフッ素化することにより得られる。理由は不明のままであるが、黒鉛の電気化学的フッ素化により、生成物CxFのx値が1~2であるにもかかわらず、d間隔が0.4nm未満の生成物が得られる。黒鉛に電気化学的に導入されたF原子は、グラフェン平面間ではなく、粒界などの欠陥に存在する傾向があり、その結果、グラフェン平面間の間隔を拡大するように作用しない可能性がある。
【0081】
黒鉛の窒素化は、酸化黒鉛材料を高温(200~400℃)でアンモニアに曝すことにより行うことができる。また、窒素化は、熱水法によってより低い温度で実施することもでき、例えば、オートクレーブにGOとアンモニアを封入し、その後、150~250℃に温度を上昇させることによって実施することもできる。
【0082】
N、O、F、Br、ClまたはHに加えて、グラフェン平面間の他の化学種(例えば、Na、Li、K、Ce、Ca、Fe、NH4など)の存在も、平面間の間隔を拡大する役割を果たし、そこに電気化学的活性物質を収容するための空間を作り出すことができる。グラフェン平面(六角形炭素面または基底面)間の拡大した空間は、特に介在空間が2.0nm~20nmの場合、驚くべきことにAl+3イオンおよび他のアニオン(電解質成分由来)も収容することができることが、本研究において分かっている。なお、黒鉛は、Na、Li、K、Ce、Ca、NH4またはそれらの組合せなどの化学種を電気化学的にインターカレーションすることができ、その後、金属元素(Bi、Fe、Co、Mn、Ni、Cuなど)と化学的または電気化学的にイオン交換することができることに留意されたい。それら化学種はすべて、平面間の間隔を拡大する役割を果たすことができる。この間隔を劇的に拡大(剥離)して、20nm~10μmのサイズのフレーク間孔を有することができる。
【0083】
グラフェンシートが生成されると、本開示のいくつかの実施形態に従って、それらをマスク本体に形成することができる。本明細書に開示の濾過材料または部材を生成するための1つのプロセスは、(a)2つの主表面を有する織布または不織布の層を準備するステップと、(b)2つの主表面のうちの少なくとも一方にグラフェン層を堆積させるステップとを含む。
【0084】
ステップ(b)は、接着剤を使用してまたは使用せずに、分離したグラフェンシートを気体媒体中に分散させて流動流体を形成し、この流動流体を2つの主表面のうちの少なくとも一方に衝突させて、グラフェンシートを少なくとも一方の主表面に付着させる手順を含むことができる。
【0085】
代替的には、ステップ(b)は、接着剤を使用してまたは使用せずに、分離したグラフェンシートを液体媒体中に分散させてスラリーを形成し、そのスラリーを2つの主表面のうちの少なくとも一方に堆積させて湿潤グラフェン層を形成し、この湿潤グラフェン層から液体媒体を除去または乾燥させてグラフェン層を形成する手順を含むこともできる。熱硬化性接着剤またはUV硬化性接着剤がより好ましい。
【0086】
堆積させる手順は、好ましくは、キャスト、コーティング(例えば、スロットダイコーティング、コンマコーティング、リバースロールコーティングなど)、噴霧(例えば、エアアシスト噴霧、静電気アシスト噴霧、超音波噴霧など)、印刷(例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷など)、ブラッシング、塗装またはこれらの組合せのなかから選択される手順を含む。
【0087】
このプロセスは、好ましくは、ロールツーロールまたはリールツーリールプロセスであり、ステップ(a)は、(i)織布または不織布のロールを準備するステップと、(ii)ロール(ローラまたはリールに取り付けられたロール)から布地の連続長のシートを堆積ゾーンに連続的に供給するステップと、(iii)グラフェン層を2つの主表面のうちの少なくとも一方に堆積させてグラフェン層がコーティングされた布地を形成するステップと、(iv)巻取りローラ上にグラフェン層コーティング布地を回収するステップとを含む。
【0088】
このプロセスは、濾過材料(部材)をマスク本体内に組み込むステップをさらに含むことができ、このマスク本体には、固定手段(例えば、弾性ストラップ)が取り付けられて、フェイスマスクが形成される。
【0089】
グラフェン層コーティング布地は、微細孔(<2nm)、2nm~50nmの孔径を有するメソスケール孔、またはより大きな孔(好ましくは50nm~1μm)を含むように形成することができる。十分に制御された孔サイズのみに基づいて、このグラフェン層コーティング布地は、空気または水の濾過のための優れたフィルタ材料となり得る。
【0090】
さらに、グラフェン表面の化学的性質を独立に制御して、グラフェンシートに様々な量および/またはタイプの官能基(例えば、シート中のO、F、N、Hなどの割合によって反映される)を付与することができる。換言すれば、内部構造の様々な部位における孔サイズと化学官能基の両方を同時または独立に制御することにより、多くの予想外の特性、相乗効果、および通常は相互に排他的と考えられる特性のいくつかのユニークな組合せ(例えば、構造の一部分が疎水性で他の部分が親水性、または濾過構造が疎水性と親油性の両方)を示す、グラフェンコーティング布地を設計および製造する際にこれまでにない柔軟性や最高の自由度をもたらすことができる。表面または材料は、水がこの材料または表面からはじかれる場合、疎水性であると言われ、疎水性の表面または材料に置かれた水滴が、大きな接触角を形成することとなる。表面や材料が、水ではなく油に強い親和性を持つ場合は、親油性であると言われる。本方法は、疎水性、親水性、および親油性を正確に制御することを可能にする。
【0091】
また、本開示は、本発明のグラフェン層コーティング布地を油吸着または油分離要素として含む、油除去、油分離または油回収デバイスを提供する。また、溶媒吸収要素としてグラフェン層コーティング布地を含む溶媒除去または溶媒分離デバイスも提供される。
【0092】
このグラフェンコーティング布地構造を油吸収要素として使用する主な利点は、その構造的完全性である。グラフェンシートは接着剤で化学的に結合させることができるため、得られた構造は、吸油動作を繰り返しても崩壊することはない。
【0093】
この技術のもう一つの主な利点は、構造的な形状を(大幅に膨張せずに)維持しつつ大量の油を吸収することができる、油吸収要素を設計および製造する際の柔軟性である。その量は、濾過構造の具体的な孔容積に依存する。
【0094】
また、本開示は、油水混合物(例えば、油流出水、または油砂からの廃水)から油を分離/回収する方法も提供する。この方法は、(a)グラフェン層コーティング布地を含む油吸収要素を提供するステップと、(b)油水混合物を上記要素に接触させ、混合物から油を吸収するステップと、(c)油吸収要素を混合物から退避させ、上記要素から油を抽出するステップとを含む。好ましくは、本方法は、(d)上記要素を再利用する更なるステップを含む。
【0095】
さらに、本開示は、溶媒と水の混合物から、または複数の溶媒の混合物から、有機溶媒を分離する方法を提供する。この方法は、(a)一体型グラフェン層コーティング布地構造を含む有機溶媒吸収要素を提供するステップと、(b)この要素を、有機溶媒と水の混合物、または第1の溶媒および少なくとも第2の溶媒を含む複数の溶媒の混合物と接触させるステップと、(c)この要素が混合物から有機溶媒を吸収するか、または少なくとも第2の溶媒から第1の溶媒を吸収することを可能にするステップと、(d)上記要素を混合物から後退させて上記要素から有機溶媒または第1の溶媒を抽出するステップとを有する。好ましくは、本方法は、溶媒吸収要素を再利用する追加のステップ(e)を含む。
【0096】
以下の実施例は、本開示を実施する最良の態様に関するいくつかの具体的な詳細を説明するために使用されるものであって、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0097】
実施例1:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの単層グラフェンシートおよびグラフェン層の調製
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、台湾の高雄にあるChina Steel Chemical Co.から供給を受けた。この材料は、約2.24g/cm3の密度を有し、粒径の中央値は約16μmである。MCMB(10グラム)を酸溶液(硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウムが4:1:0.05の割合で含まれる)で48~96時間インターカレーションした。反応終了後、混合物を脱イオン水に注ぎ、濾過した。インターカレーションしたMCMBをHClの5%溶液で繰り返し洗浄し、硫酸イオンの大半を除去した。その後、濾液のpHが4.5以上となるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。その後、スラリーを10~100分間超音波処理して、GO懸濁液を生成した。TEMおよび原子間力顕微鏡の研究から、酸化処理が72時間を超えると、GOシートの殆どが単層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間の場合は2層または3層のグラフェンであることが示された。
【0098】
GOシートは、酸化処理時間48~96時間で、約35重量%~47重量%の酸素比率を含む。GOシートは水に懸濁させた。GO懸濁液をガラス表面上で薄い酸化グラフェンフィルムにキャストし、それとは別に、PETフィルム基板上にスロットダイコーティングし、乾燥し、PET基板から剥離してGOフィルムを形成した。このGOフィルムを室温から1,500℃まで別々に加熱した後、僅かにロールプレスして、濾過デバイス(例えば、フェイスマスクの外側の不織布層と内部層との間)の多孔質グラフェン層として使用するための還元型酸化グラフェン(RGO)フィルム(自立層)を得た。
【0099】
別個に、金属前駆体(例えば、酢酸銀)をGO水懸濁液に添加して、多成分懸濁液またはスラリーを形成した。スラリーをガラス表面上で薄い酸化グラフェン/酢酸銀フィルムにキャストし、乾燥し、ガラス基板から剥離してGO/金属前駆体フィルムを形成した。このフィルムを室温から650℃まで加熱して、酢酸銀をAgナノ粒子に変換し、同時にGOを熱還元してRGOとした。次に、このフィルムを僅かにロールプレスして、抗ウイルス層(例えば、この層は、フェイスマスクの前面またはフェイスマスクの外側不織布層と内部層の間に配置することができる)として使用するためのAgナノ粒子コーティングRGOフィルム(自立層)を得た。
【0100】
それとは別に、超音波噴霧手順を実施して、PPベースの不織布のシート(例えば、フェイスマスク用)または透明プラスチックフィルム(例えば、保護ガウンまたはフェイスシールド用のPVCフィルム)の主表面にGO水溶液を噴霧した。この懸濁液中のGOシートには、抗菌化合物(例えば、Agナノワイヤ、Auナノ粒子)を予め付着させることができる。乾燥させると、グラフェン/Auまたはグラフェン/Ag層でコーティングされた布地構造が得られた。GOシートの一部は、PP不織布構造のバルクに部分的に浸透していることが確認された。これらのGOシートは、接着樹脂を使用しなくても、PP繊維によって定位置に保持されていた。
【0101】
実施例2:プリスチングラフェンシート(酸素0%)およびグラフェン層の調製
直接超音波処理または液相製造プロセスを使用して、プリスチングラフェンシートを生成した。典型的な手順では、5グラムの黒鉛フレークを、約20μm以下のサイズに粉砕して、1,000mLの脱イオン水(デュポン社の分散剤Zonyl(登録商標)FSOを0.1重量%含む)に分散させ、懸濁液を得た。超音波エネルギーレベル85W(Branson S450 Ultrasonicator)を用いて、15分~2時間、グラフェンシートの剥離、分離、サイズ縮小を行った。得られたグラフェンシートは、一度も酸化されたことのないプリスチングラフェンであり、無酸素で比較的欠陥のないグラフェンである。また、炭素以外の元素は含まれていない。
【0102】
このプリスチングラフェンシートを、過酸化ベンゾイル(BPO)の10mMアセトン溶液に30分間浸漬し、その後、取り出して空気中で自然乾燥させた。グラフェンシートを官能化するための熱開始化学反応は、純窒素を満たした高圧ステンレス容器内において80℃で行った。その後、試料をアセトンで十分にすすぎ、BPOの残渣を除去して、その後のラマン特性評価に使用した。反応時間が長くなるにつれて、1330cm-1付近に特徴的な無秩序誘起Dバンドが現れ、徐々にラマンスペクトルの最も顕著な特徴となった。このDバンドは、6員環のsp2炭素のA1gモード収縮振動に由来し、隣接するsp2炭素原子がsp3ハイブリダイゼーションに変換された後に、ラマン活性になる。さらに、2670cm-1付近の二重共鳴2Dバンドは著しく弱くなり、1580cm-1付近のGバンドは、約1620cm-1に欠陥誘起D’ショルダーピークの存在により、広がることが確認された。これらの観察結果から、BPOとの反応によりsp2配置からsp3配置に変化することで、共有C-C結合が形成され、ある程度の構造乱れが生じたと考えられる。
【0103】
官能化されたグラフェンシートを水に再分散させて、グラフェン分散液を作製した。次に、この分散液を、PP不織布およびPVCフィルムの層上にそれぞれ堆積させ、コンマコーティングを使用して、布地およびPVCフィルム上にコーティングされた官能化グラフェン層を形成した。それとは別に、官能化されていないプリスチングラフェンシートもPP不織布層上にコーティングして、プリスチングラフェンコーティング布地構造を得た。グラフェンシートをコーティングしたプラスチックフィルムは、フェイスシールドおよび保護ガウン/キャップ用途に使用される。
【0104】
実施例3:フッ化グラフェンシートおよびグラフェン層の調製
GFを生成するためにいくつかのプロセスを使用してきたが、ここでは1つのプロセスのみを一例として説明する。典型的な手順では、インターカレーションされた化合物С2F・xClF3から高剥離黒鉛(HEG)を調製した。HEGを三フッ化塩素の蒸気によってさらにフッ素化し、フッ素化高剥離黒鉛(FHEG)を得た。予め冷却したテフロン製の反応器に、予め冷却した液体ClF3を20~30mL充填し、反応器を閉じて液体窒素温度まで冷却した。その後、ClF3ガスがアクセスするための穴を有する容器に1g以下のHEGを入れ、反応器内に配置した。7~10日で近似式C2Fを有する灰ベージュ色の生成物が形成された。
【0105】
その後、少量のFHEG(約0.5mg)を20~30mLの有機溶媒(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、イソアミルアルコール)と混合して超音波処理(280W)を30分行い、均一な黄色がかった分散液を形成した。別途、金属前駆体(硝酸ニッケル)を同じアルコール懸濁液に溶解させた。5分間の超音波処理で比較的均一な分散液が得られるが、超音波処理時間を長くすることで安定性が向上した。
【0106】
懸濁液(金属前駆体を含まない)をPET布地の表面に噴霧すると、溶媒を除去することにより、分散液はPET布地の表面に形成された茶色がかったフィルムになった。乾燥したフィルムは、ロールプレスすると、良好な濾過部材となった。また、この懸濁液をポリカーボネート製のフェイスシールド本体に超音波噴霧して、ウイルスに対する保護シールドを作成した。
【0107】
硝酸ニッケルとフッ化グラフェンを含む懸濁液をガラス表面上でキャストし、真空オーブンで乾燥させた後、650℃で2時間熱処理して、ナノNiコーティングされたフッ化グラフェンシートを生成した。このグラフェンシートをフェイスマスクに組み込んだ。
【0108】
実施例4:窒素化グラフェンシートおよびグラフェン層の調製
実施例1で合成した酸化グラフェン(GO)を、様々な割合の尿素で微粉砕し、ペレット化した混合物をマイクロ波反応器(900W)で30秒間加熱した。生成物を脱イオン水で数回洗浄し、真空乾燥した。この方法では、酸化グラフェンの還元と窒素によるドープが同時に行われる。グラフェン/尿素の質量比が1/0.5、1/1、1/2で得られた生成物は、元素分析により、それぞれ14.7、18.2、17.5wt%の窒素含有量を有していた。これらの窒素化グラフェンシートは、事前に化学的官能基を付与することなく、水中に分散したままである。得られた懸濁液は、スプレー塗装によりPET不織布層上で湿潤フィルムとし、その後、乾燥させて濾過部材を形成した。
【0109】
実施例5:グラフェンシート表面への活性化金属の堆積
グラフェンシート表面への金属コーティングまたはナノ粒子を堆積させるには、電気化学的蒸着またはメッキ、パルス電力堆積、電気泳動堆積、無電解メッキまたは堆積、金属溶融コーティング(ZnやSnなどの低融点金属により好都合)、金属前駆体堆積(金属前駆体のコーティングに続いて前駆体を金属に化学的または熱的に変換)、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリングなどの複数の手順を使用することができる。
【0110】
例えば、精製された硫酸亜鉛(ZnSO4)はZnの前駆体であり、この硫酸亜鉛は、溶液堆積によりグラフェンフィルムの主表面にコーティングした後、電気分解によりZnに変換することができる。この手順では、硫酸亜鉛溶液を、鉛アノードとグラフェンフィルムカソードを含むタンク内の電解液として使用した。アノードとカソードの間に電流を流し、還元反応によってカソードに金属亜鉛をメッキした。また、溶融状態のZn(融点=419.5℃)およびSn(MP=231.9℃)は、グラフェンシートの表面などに容易に溶射することができる。
【0111】
高融点金属の一例として、前駆体堆積および化学変換を使用して金属コーティングを得ることができる。例えば、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、硫酸銀またはリン酸銀をグラフェン表面に直接接触させることにより、グラフェンフィルム上にAgコーティングまたはAgナノ粒子を形成することができる。例えば、グラフェンフィルムを硝酸銀水溶液に浸すか、またはグラフェンフィルムのロールを連続的に動かすことによって(酢酸銀の水浴に浸した後、そこから出すことを含む)、グラフェンフィルムが酢酸銀と化学的に作用する機会を提供することができる。通常200~700°Vの温度で1~6時間加熱すると、Agコーティングされたグラフェンフィルムを得ることができる。
【0112】
別の例として、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、クエン酸ニッケル、硫酸ニッケルまたはリン酸ニッケルをグラフェン紙シートの表面上に堆積させることができる。その後、金属前駆体コーティングされたグラフェン紙を、通常250℃~750℃の温度で熱処理にかけ、Ni塩をグラフェン表面上のコーティングまたはナノ粒子の形態でNi金属に熱変換することができる。
【国際調査報告】