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特表2023-546791がん治療のための代替的にフォーマット化された抗メソテリン抗体の組成物及び使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】がん治療のための代替的にフォーマット化された抗メソテリン抗体の組成物及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231031BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231031BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20231031BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20231031BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20231031BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231031BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231031BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 L
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P15/00
A61P11/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
A61K47/68
A61K47/55
A61K47/65
A61K31/4745
A61K31/706
C07K16/28
C12N15/62 Z
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/53 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519185
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-09
(86)【国際出願番号】 US2021052286
(87)【国際公開番号】W WO2022067224
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/084,542
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521128753
【氏名又は名称】ナヴロジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】グラッソ ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】ニコライデス ニコラス シー.
(72)【発明者】
【氏名】クライン ジェームス ブラッドフォード
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA08
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC29
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA17
4C084NA10
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC201
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA25
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA10
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC20
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
腫瘍は、宿主の抗腫瘍免疫応答を回避するために複数の機構を利用する。体液性免疫抑制は、その機構の1つである。腫瘍は、抗体又は補体媒介性免疫応答を抑制して自身の生存を強化することができる循環因子を産生する。メソテリンは、免疫抑制性微小環境を呈する腫瘍に関連するいくつかのがん型によって過剰発現される細胞表面タンパク質である。抗メソテリン抗体は、多くの場合、このような免疫抑制性微小環境に供される。しかしながら、代替的にフォーマット化された抗メソテリン抗体は、腫瘍微小環境免疫状態にかかわらず、メソテリン発現がんを殺傷するのに有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7~12に示されるアミノ酸を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗メソテリン抗体と、トポイソメラーゼ阻害剤とを含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項2】
前記抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のADC。
【請求項3】
前記抗体が、前記トポイソメラーゼ阻害剤に共有結合している、請求項1に記載のADC。
【請求項4】
前記抗体が、切断可能リンカーを介してトポイソメラーゼ阻害剤に結合している、請求項1に記載のADC。
【請求項5】
リポソームに封入されている、請求項4に記載のADC。
【請求項6】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,4S)-2,5,12-トリヒドロキシ-7-メトキシ-4-{[(1S,3R,4aS,9S,9aR,10aS)-9-メトキシ-1-メチルオクタヒドロ-1H-ピラノ[4’,3’:4,5][1,3]オキサゾロ[2,3-c][1,4]オキサジン-3-イル]オキシ}-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-カルボン酸(PNU159682)である、請求項3に記載のADC。
【請求項7】
PNU159682が、リンカーであるマレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンゾイルオキシカルボニル(MA-PEG4-VC-PAB-DMAE)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項6に記載のADC。
【請求項8】
前記リンカーが、前記抗メソテリン抗体中のシステインに結合している、請求項7に記載のADC。
【請求項9】
前記抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のADC。
【請求項10】
前記ADCのDARが2以上6以下である、請求項9に記載のADC。
【請求項11】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,3S,4S,5R,6S)-6-[[(19S)-10,19-ジエチル-19-ヒドロキシ-14,18-ジオキソ-17-オキサ-3,13-ジアザペンタシクロ[11.8.0.02,11.04,9.015,20]ヘンイコサ-1(21),2,4(9),5,7,10,15(20)-ヘプタエン-7-イル]オキシ]-3,4,5-トリヒドロキシオキサン-2-カルボン酸(SN38)である、請求項7に記載のADC。
【請求項12】
SN38が、リンカーであるメチル(2S,3S,4S,5R,6S)-3,4,5-トリアセチルオキシ-6-[2-アミノ-4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ]オキサン-2-カルボキシレート(MAC-グルクロニド)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項11に記載のADC。
【請求項13】
SN38が、リンカーであるPEG8トリアゾール-PABC-ペプチド-MCを介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項11に記載のADC。
【請求項14】
SN38が、前記抗メソテリン抗体中のシステインに共有結合している、請求項11に記載のADC。
【請求項15】
前記抗メソテリン抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項11に記載のADC。
【請求項16】
2以上6以下のDARを有する、請求項15に記載のADC。
【請求項17】
メソテリン発現腫瘍を有するがん患者を治療する方法であって、
配列番号7~12に示されるアミノ酸を含む抗メソテリン抗体とトポイソメラーゼ阻害剤とを含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を、前記患者に投与すること
を含む、方法。
【請求項18】
前記がんが、中皮腫、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃腸がん、子宮内膜がん、胆管がん、及び膵臓がんからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者からの身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含む抗体と接触させることによって、前記患者においてメソテリンエピトープの存在を検出するステップ
を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
二重特異性抗体を投与することによって複数の患者が治療され、前記複数の患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者と、正常レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者とを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
配列番号7~12のアミノ酸配列を含むメソテリン結合部分と、細胞表面抗原CD3結合部分とを含む、二重特異性抗体(BSP)。
【請求項23】
前記細胞表面抗原CD3結合部分が、配列番号13~18のCDRアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の二重特異性抗体。
【請求項24】
配列番号6のアミノ酸配列を含むヒト細胞表面抗原CD3を認識する一本鎖抗体に融合された、配列番号1のアミノ酸配列を含む抗メソテリン抗体の軽鎖
を含む、請求項22に記載の二重特異性抗体。
【請求項25】
前記二重特異性抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む抗メソテリン抗体の軽鎖を含み、前記軽鎖が、アミノ酸GGGGS(配列番号20)の1つ以上の単位を含むスペーサー単位によって前記CD3一本鎖抗体に結合している、請求項22に記載の二重特異性抗体。
【請求項26】
請求項22に記載の二重特異性抗体をコードする、核酸ベクター。
【請求項27】
配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、請求項26に記載の核酸ベクター。
【請求項28】
請求項22に記載の二重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸を含む、安定な細胞株。
【請求項29】
前記1つ以上の核酸が、配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、請求項28に記載の安定な細胞株。
【請求項30】
患者においてメソテリン発現がんを治療するための方法であって、
請求項22に記載の二重特異性抗体を前記患者に投与し、それによって前記メソテリン発現がんを治療すること
を含む、方法。
【請求項31】
前記メソテリン発現がんが、中皮腫、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃腸がん、子宮内膜がん、胆管がん、及び膵臓がんからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記患者の身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)を含む抗体と接触させ、それによって、前記患者の前記がんにおいてメソテリンエピトープを検出することにより、前記患者を試験するステップ
を更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記二重特異性抗体を投与することによって複数の患者が治療され、前記複数の患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者と、正常レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者とを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、免疫能のある及び免疫抑制性腫瘍微小環境におけるメソテリン発現がんの特異的標的化に有効な治療抗体の分野に関する。特に、本発明は、微小環境免疫状態にかかわらず、がん増殖の阻害において改善された治療有効性を有する抗体ベースの薬剤を含む方法、キット、及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腫瘍形成の機構は、調節不全の細胞増殖を増強する変異遺伝子の蓄積と、罹患した患者内での生存を可能にする免疫回避機構の生成との組み合わせを含む。細胞性(主にT細胞媒介性を指す)及び体液性(主に抗体媒介性を指す)免疫は、脊椎動物宿主生物が感染性病原体及び調節不全の宿主細胞に対して防御する主要な機構である。過去数年にわたり、がん生物学において、抑制された細胞媒介性免疫を克服できる免疫チェックポイント阻害剤の使用は、腫瘍のサブセットに対する活性化CD8T細胞殺傷を引き起こすのに強力な効果を示してきた(Hodi FS,et al.N Engl J Med 363:711-723,2010)。最近のトランスレーショナル研究の結果により、腫瘍は、体液性免疫経路を抑制する因子も産生し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体媒介性細胞傷害(CDC)及びオプソニン化などの抗体媒介性機構による腫瘍殺傷効果を抑制することが示されている(Vergote I,et al.J Clin Oncol 34:2271-2278;Kline JB,et al.J Clin Oncol 5:15,2018;Wang W et al.Cytogenet Genome Res 152:169-179,2017;Kline JB et al.Eur J Immunol.48:1872-1882,2018;Dai S,et al.PLos Pathog 9:e1003114,2013;Melero I,et al.Nat Reviews Cancer 7:95-106,2007)。体液性免疫経路を抑制する因子は、ADCC及びCDCを介して腫瘍殺傷効果を示すことが報告されている臨床的に使用される治療抗体、例えば、限定されないが、リツキシマブ、オビヌツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、セツキシマブ、アレムツズマブ、及びいくつかの実験的抗体などの効果を阻害する(DiLillo DJ,Ravetech JV,Cancer Immunol Res 3:704-713,2015;Ruck T,et al.Int J Mol Sci 16:16414-16439,2015;Pelaia C,et al.Biomed Res Int 4839230:1-9,2018;Zhou X,et al.Oncologist 13:954-966,2008;Hsu YF,et al.Mol Cancer 9:-8,2010;Spiridon CI,et al.Clin Cancer Res 8:1720-1730,2002;Kline JB,et al.Eur J Immunol 48:1872-1882,2018;Yamashita-Kashima Y,et al.Clin Cancer Res 17:5060-5070,2011)。抗体媒介性体液性免疫応答は、抗体と細胞表面抗原との会合の協調によって制御される。この相互作用が最適な場合、細胞表面に結合した抗体は、ナチュラルキラー(NK)細胞又は樹状/骨髄/単球細胞(本明細書において、ADCCに関与する細胞はいずれも「免疫エフェクター細胞」と称される)上の活性型Fcγ受容体と会合する。この会合は、ADCCを開始するだけでなく、C1q補体開始タンパク質と会合して古典的補体CDC経路を介して、及び食細胞によるオプソニン化を通じて、抗体結合細胞の殺傷を引き起こす(Reuschenbach M,et al.Cancer Immunol Immunother 58:1535-1544,2009)。体液性免疫応答の阻害剤は、治療抗体がこれらの機構を使用する能力を低下させ、その治療有効性を減少させる(Wang W,et al.Cytogenet Genome Res 152:169-179,2017;Kline JB,et al.Eur J Immunol 48:1872-1882,2018;Felder M,et al.Gyn Oncol 152:618-628,2019)。
【0003】
MUC16/CA125タンパク質(本明細書ではCA125と称される)は、SIGLECファミリーの負の免疫調節受容体に結合して、NK細胞の活性化を抑制することにより(Belisle JA,et al.Mol Cancer 9:1476-4598,2010)、並びにIgG1、IgG3及びIgM型抗体のサブセットに直接結合することにより、体液性免疫応答を抑制する。抗体への結合により、Fc領域が撹乱され、IgG1及びIgG3型抗体が免疫エフェクター細胞上の活性型Fcγ受容体FCGR2A(CD32aとも称される)及びFCGR3A(CD16aとも称される)と会合する効果が低下し、かつ/又は3つ全ての抗体クラスがC1qを含む補体媒介性タンパク質と会合する能力が撹乱される(Pantankar MS,et.al.γGyncol Oncol 99:704-713,2005;Kline JB,et al.OncoTarget 8:52045-52060,2017;Kline JB,et al.J.Clin.Oncol.5:15,2018;Wang W,et al.Cytogenet Genome Res 152:169-179,2017;Kline JB,et al.Eur J Immunol.48:1872-1882,2018)。これらの研究には、免疫エフェクター機構にその薬理学的活性を依存している実験的な抗がん抗体の臨床試験が含まれる。これらの臨床研究において、CA125レベルが臨床転帰と相関することが見出されている(Vergote I,et al.J Clin Oncol 34:2271-2278,2016;Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018)。濾胞性リンパ腫を有する患者における臨床的に使用されるリツキシマブ抗体に関する研究では、CA125レベルが正常範囲にある場合、CA125レベルが正常範囲を上回る患者と比較して、5年の無増悪生存期間で31.4%の改善が観察された(Prochazka V,et al.Int J Hematol 96:58-64,2012)。免疫能のある及び免疫抑制性微小環境を有する腫瘍を効果的に殺傷することができる薬剤を開発することは、当該技術分野において引き続き必要である。
【0004】
メソテリンは、中皮腫、肺がん、膵臓がん、卵巣がん、結腸直腸がん、胆管がん、胃がん及び子宮内膜がんを含むいくつかの腫瘍型によって過剰発現される細胞表面タンパク質である。これらの腫瘍型の中には、体液性免疫抑制を呈することが見出されているものがあり、これは、抗体ベースの抗メソテリン療法の効果を減弱させる可能性を秘めている(Rump A,et al.J Biol Chem 279:9190-9198,2004;Hassan R,et al.Cancer Immunol 7:20-30,2007;Kaneko O,et al.J Biol Chem 284:3739-3749,2009;Hassan R.Lung Cancer 68:455-459,2010;Kelly RJ,et al.J Clin Oncol suppl 32:61,2014)。特に、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、及び中皮腫は、体液性免疫抑制性CA125タンパク質を発現することが報告されている(Vergote I,et al.J Clin Oncol 34:2271-2278,2016;Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018;Liu L,Oncotarget.7:5943-5956,2016;Cedres S,et.al.Clin Lung Cancer 12:172-179,2011;Emoto S,et al.Gastric Cancer 15:154-161,2012)。Nicolaides et al(2018)は、抗メソテリン抗体であるアマツキシマブに標準治療をプラスして使用した第一選択中皮腫治療における第2相臨床試験からの知見において、体液性免疫抑制を報告した。その試験において、アマツキシマブで治療され、CA125が高レベルの患者は、CA125が低レベルの患者よりも無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)の転帰が悪かったため、上に列挙したような体液性免疫抑制がんでは、体液性免疫機能に依存する抗メソテリン抗体の臨床効果は低くなるという考えが支持されている。この機構を克服し、体液性免疫抑制がんの有無にかかわらず、患者に幅広い治療選択肢を提供できる可能性のある新規な抗体ベースの薬剤を開発するための代替戦略が求められている。当該技術分野において、体液性免疫抑制性表現型(例えば、免疫抑制性CA125タンパク質の発現など)を示すメソテリン発現腫瘍型と免疫能のあるメソテリン発現腫瘍型とを殺傷するのに有効な組成物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。それは、配列番号7~12に示されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗メソテリン抗体を含む。このような抗メソテリン抗体の1つは、配列番号1及び配列番号2を含む。当該ADCは、トポイソメラーゼ阻害剤も含む。
【0006】
別の実施形態は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の一部として、CA125に結合しない抗メソテリン抗体を使用する方法である。この抗メソテリン抗体は、配列番号7~12に示されるアミノ酸を有するCDRを含む。この抗メソテリン抗体の細胞取り込みは、可溶型又は膜結合型のいずれかのCA125に結合する抗メソテリン抗体の細胞取り込みよりも大きい。使用可能な、CA125に結合しないそのような抗メソテリン抗体の1つは、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。本方法は、抗メソテリン療法を必要とするヒトにADCを投与することを含む。本方法はまた、標的細胞中のメソテリンエピトープを検出するためにADCを使用することも含み得る。
【0007】
別の実施形態は、メソテリン発現腫瘍を有するがん患者を治療する方法である。患者は、配列番号7~12に示されるアミノ酸を有するCDRを含む抗メソテリン抗体とトポイソメラーゼ阻害剤とを含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を、患者に投与することにより治療される。使用可能な1つのそのような抗メソテリン抗体は、配列番号1及び配列番号2を含む。
【0008】
別の実施形態は、配列番号7~12のアミノ酸配列を含むメソテリン結合部分と、ヒト細胞表面抗原CD3結合部分とを含む二重特異性抗体(BSP)である。
【0009】
別の実施形態は、患者においてメソテリン発現がんを治療する方法である。配列番号7~12のアミノ酸配列を含むメソテリン結合部分と、ヒト細胞表面抗原CD3結合部分とを含む二重特異性抗体(BSP)は、患者に投与され、それによりメソテリン発現がんを治療する。
【0010】
本発明の一態様は、配列番号1[MES軽鎖]及び配列番号2[MES重鎖]に示されるアミノ酸配列を含む抗体である。免疫抑制性CA125タンパク質によって結合される抗体は著しく減少するので、抗体の内在化が増強される。これは、この抗体が抗体-薬物コンジュゲートの一部である場合、ADC媒介性腫瘍細胞殺傷に特に有用である。
【0011】
本発明の別の態様は、配列番号1[MES軽鎖]及び配列番号2[MES重鎖]に示されるアミノ酸配列を含む抗体であって、該抗体は、免疫応答性及び免疫抑制性メソテリン発現がん細胞を殺傷するその能力について選択された細胞傷害性化合物にコンジュゲートされている。細胞傷害性化合物は、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、アルキル化剤又はキナーゼ阻害剤であり得る。このコンジュゲートは「MES-ADC」と称される。
【0012】
本発明の別の態様は、配列番号19[MES軽鎖]及び配列番号5[MES重鎖]に示されるヌクレオチド配列を有する哺乳動物発現ベクターを含有する安定な細胞株であって、この細胞株によって産生され、その後任意選択で細胞傷害剤に化学的に結合している親MES-1抗体をコードする、細胞株である。
【0013】
本発明の別の態様は、メソテリン発現がん細胞を有し、かつ健康なヒト集団と比較して高いレベルのCA125を発現する患者を治療する方法である。MES-ADC抗体が患者に投与される。MES-ADC抗体は、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列から構成され、細胞傷害性トポイソメラーゼ阻害剤SN38に結合している。抗体-細胞毒は、任意選択で、切断可能リンカーによって共有結合されている。
【0014】
本発明の更に別の態様は、メソテリン発現がん細胞を有し、かつ健康なヒト集団と比較して高いレベルのCA125を発現する患者を治療する方法である。MES-ADC抗体が患者に投与される。MES-ADC抗体は、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列から構成され、細胞傷害性トポイソメラーゼ阻害剤PNU159682に結合している。抗体-細胞毒は、切断可能リンカーによって共有結合されていてもよい。
【0015】
一態様では、MES-ADCは、細胞傷害性PNU159682又はSN38トポイソメラーゼ阻害剤に結合した配列番号1及び配列番号2から構成される抗体を含む。部分的還元によって生成される上記抗体上の遊離システインへの連結による化学ライゲーションを介して、2以上の細胞毒が抗体に結合されてもよい。システインは、免疫グロブリン配列に内在するものであってもよく、親抗体配列中に組み込まれたものでもよい。
【0016】
本発明の別の態様では、MES-ADC化学ライゲーションは、切断可能リンカー、例えば、限定されないが、Val-Cit-PAB、MA-PEG4-VC-PAB-DMAE、Fmoc-Val-Cit-PAB、Fmoc-Val-Cit-PAB-PNP、MC-Val-Cit-PAB-PNP、Phe-Lys(Trt)-PAB、Fmoc-Phe-Lys(Trt)-PAB、Fmoc-Phe-Lys(Trt)-PAB-PNP、Ala-Ala-Asn-PAB TFA塩、Fmoc-Ala-Ala-Asn-PAB-PNP、Fmoc-Gly3-Val-Cit-PAB、Fmoc-Gly3-Val-Cit-PAB-PNP、Py-ds-Prp-OSu、Py-ds-dmBut-OSu、Py-ds-dmBut-OPFP、Py-ds-Prp-OPFP、PEG8-トリアゾール-PABC-ペプチド-mcなどを利用する。これらの化学構造は当該技術分野において公知である。
【0017】
本発明の別の態様では、MES-ADC化学ライゲーションは、酵素的切断不可能リンカー、例えば、限定されないが、SMCC、MAL-HA-OSu、MAL-di-EG-OPFP、MAL-tri-EG-OPFP、MAL-tetra-EG-OPFP、N3-di-EG-OPFP、N3-tri-EG-OPFP、N3-tetra-EG-OPFP、ALD-BZ-OSu、ALD-di-EG-OSu、ALD-tetra-EG-OSu、ALD-di-EG-OPFP、ALD-tetra-EG-OPFP、MC-EDA、PHA-di-EG-OPFP、PHA-tetra-EG-OPFPなどを利用する。これらの化学構造は当該技術分野において公知である。
【0018】
本発明の別の態様では、リンカーは、(a)細胞毒への抗体コンジュゲーション;(b)体循環、臓器の実質/間質、及び腫瘍微小環境における安定性;並びに/又は(c)MES-ADCによる免疫抑制性腫瘍の殺傷の改善、のために最適化されている。
【0019】
本発明の別の態様では、細胞毒は、抗メソテリン抗体の軽鎖及び重鎖に含まれる1つ以上のリジン残基に結合している。1つのそのような抗体は、配列番号1及び/又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
本発明の別の態様では、細胞毒は、トランスアミド化を介して、配列番号2に含まれる重鎖のC末端に結合している。
【0021】
本発明の別の態様は、配列番号3及び配列番号2(それぞれMES-1軽鎖に融合した一本鎖抗CD3及びMES-1重鎖)に示されるアミノ酸配列を含む二重特異性抗体である。二重特異性抗体は、免疫応答性及び免疫抑制性メソテリン発現がん細胞を殺傷することができる。一本鎖抗CD3抗体は、CD3及び/又はCD8リンパ球上に発現される細胞表面抗原を認識する。二重特異性抗体は、本明細書においてMES-BSP、すなわち、メソテリンを標的とする二重特異性抗体と称される。
【0022】
本発明の別の態様は、メソテリンを標的とする二重特異性抗体であって、該抗体がCA125免疫抑制性タンパク質によって結合されない、二重特異性抗体である。1つのそのような抗体は、配列番号3及び配列番号2のアミノ酸配列を含む。二重特異性抗体を使用して、メソテリン発現がん又はメソテリン発現に関連する他の疾患を治療することができる。
【0023】
本発明の別の態様は、第2の抗体に遺伝的に結合した配列番号19[MES軽鎖cDNA]及び配列番号5[MES重鎖cDNA]に示される抗体をコードするヌクレオチド配列を有する、1つ又は複数の哺乳動物発現ベクターを含有する安定な細胞株である。
【0024】
本発明の別の態様は、メソテリン発現がん細胞を有し、かつ健康なヒト集団と比較して高いレベルのCA125を発現する患者を治療する方法である。MES-BSP抗体が患者に投与される。MES-BSP抗体は、配列番号3及び配列番号2のアミノ酸配列から構成され、二重特異性抗体は、メソテリン及びヒトCD3タンパク質を認識する。
【0025】
本発明の別の態様は、メソテリン発現がん細胞を有し、かつ健康なヒト集団と比較して高いレベルのCA125を発現する患者を治療する方法である。MES-BSP抗体が患者に投与される。MES-BSP抗体は、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列と、ヒトCD8タンパク質を認識することができる抗体とを含む。
【0026】
本発明の更に別の態様では、配列番号1のアミノ酸配列及び配列番号2のアミノ酸配列を含む抗体が、ヒトIgG1軽鎖(配列番号1)のN末端及び/又はIgG重鎖(配列番号2)のN末端に融合された配列番号6のアミノ酸配列を含む一本鎖抗体に融合され、これにより、メソテリン(Entrez Gene ID:10232)及びCD3イプシロン(CD3E)タンパク質(Entrez Gene ID:916)に結合することができる二重特異性抗体がもたらされる。これを本明細書ではMES-BSPと称する。
【0027】
本発明の別の態様では、リンカーを介して結合した配列番号1のアミノ酸配列と配列番号6のアミノ酸配列との融合により、配列番号3からなる軽鎖融合ポリペプチドがもたらされ、これは配列番号2と組み合わされて、(a)CA125の存在又は非存在下で標的がん細胞上のメソテリンに、及び(b)リンパ系細胞上のCD3Eに、結合することができ、標的細胞の殺傷をもたらす、機能的MES-BSPが作製される。リンカーは、アミノ酸、ポリペプチド又は非生物学的な化学化合物であり得る。
【0028】
本発明の更に別の態様は、配列番号7、8、9;配列番号10、11、12;配列番号13、14、15;及び配列番号16、17、18(最大3つのアミノ酸が1つ以上のCDR内で改変され得る)のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含むMES-BSPである。
【0029】
本発明の別の態様では、配列番号3中のリンカーは、(a)IgG1重鎖(配列番号2)との標準的な抗体形成、及び/又は(b)MES-BSPによる免疫抑制性腫瘍の殺傷の改善のために最適化され、該リンカーは、抗メソテリン軽鎖(配列番号1)及び抗CD3E一本鎖(配列番号6)の空間距離を最大化するために、20個の天然アミノ酸単位の任意の組み合わせを含む。
【0030】
本発明の別の態様では、MES-BSPは、配列番号2の重鎖のN末端に遺伝的に結合した抗CD3E一本鎖を含む。リンカーは、(a)IgG1軽鎖(配列番号1)との標準的な抗体形成、及び/又は(b)MES-BSPによる免疫抑制性腫瘍の殺傷の改善のために最適化され、該リンカーは、抗メソテリン重鎖(配列番号2)及び抗CD3E一本鎖(配列番号6)の空間距離を最大化するために、20個の天然アミノ酸単位の任意の組み合わせを含む。
【0031】
本発明の別の態様は、第2の抗体に遺伝的に結合したMES-1抗体をコードする配列番号5及び配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する哺乳動物発現ベクターを含有する安定な細胞株である。
【0032】
本発明の別の態様は、ウサギIgG骨格にグラフトされた配列番号7~12のCDRアミノ酸配列を有する抗体である(本明細書ではrMES-1と称される)。当該抗体は、CA125タンパク質によって結合されない。
【0033】
本発明の別の態様は、CA125によって結合されない抗体を用いて、患者においてメソテリンを発現する腫瘍を監視するための方法である。患者由来の体液又は組織試料を、配列番号7~12のCDRを含有する抗体、例えば、抗体rMES-1と接触させる。メソテリン陽性の患者は、MES-ADC又はMES-BSPで治療され得る。
【0034】
本発明の別の態様では、免疫能のある及び免疫抑制性メソテリンがんを治療するためのキットが提供される。キットは、好ましくは齧歯類IgG骨格にグラフトされた配列番号7~12のCDRを含有する抗体を含む。抗体は、生検組織での免疫組織化学(IHC)を介して、又は循環腫瘍細胞(CTC)でのフローサイトメトリを介して、腫瘍のメソテリン発現について監視するために使用され得る。陽性シグナルが検出された場合、患者は細胞毒に化学的に結合した配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含むMES-ADCで治療され得、該細胞毒はトポイソメラーゼ阻害剤であり得る。診断用抗体及び治療用抗体の両方が、キット中に提供され得る。
【0035】
本発明の別の態様では、免疫能のある及び免疫抑制性メソテリンがんを治療するためのキットが提供される。キットは、齧歯類IgG骨格に優先的にグラフトされた配列番号7~12のCDRを含有する抗体を含む。抗体は、生検組織でのIHCを介して、又は循環腫瘍細胞(CTC)でのフローサイトメトリを介して、腫瘍のメソテリン発現について監視するために使用され得る。陽性シグナルが検出された場合、患者は配列番号2及び配列番号3からなるMES-BSPで治療され得る。診断用抗体及び治療用抗体の両方が、キット中に提供される。
【0036】
本発明の別の態様は、MES-ADCの使用であって、該MES-ADCが、単剤として、又は標準治療化学療法と組み合わせて、サブセットがCA125を発現する患者に投与される、MES-ADCの使用である。CA125の発現は、当業者によって使用される方法を介して血清分析又は生検を使用して決定され得る。
【0037】
本発明の別の態様は、MES-BSPの使用であって、該MES-BSPが、単剤として、又は標準治療化学療法と組み合わせて、サブセットがCA125を発現する患者に投与される、MES-BSPの使用である。CA125の発現は、当該技術分野で既知の方法を介して血清分析又は生検を使用して決定され得る。
【0038】
本明細書を読めば当業者に明らかとなる本発明のこれら及び他の態様は、腫瘍微小環境の免疫状態にかかわらず、メソテリン発現がんを有する患者における治療応答を改善するのに使用するための方法、組成物、及びキットを提供するものである。CA125阻害に関するMES-ADC及び/又はMES-BSP薬剤の不応性は、この治療の改善に寄与している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1A】免疫抑制性CA125タンパク質によって結合されない抗メソテリン抗体についてのスクリーニング;MES-1抗体(配列番号1及び2)の同定。簡単に説明すると、96ウェルELISAプレートを15KU/mLの可溶性CA125、陽性対照として1μg/mLの組換えヒトメソテリンタンパク質、陰性対照として1μg/mLのヒト血清アルブミン(HSA)でコーティングし、2.5μg/mLの異なる抗メソテリン抗体でプローブし、CA125によって結合されるかどうかを判定した。ウェルを洗浄し、二次抗ヒト又は抗齧歯類Fc-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体と、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を介して結合を検出した。0.1NのHSOを使用して反応を停止し、マルチウェルプレートリーダー(Varioskan(商標),ThermoFisher)を使用して450nmでウェルを定量した。示されるように、配列番号1及び2からなる抗体MES-1[Ab-3(レーン3)]は、CA125によって結合されなかったが、試験された他の4つの抗メソテリン抗体は全て、CA125によって結合された。値は、3連のウェルの平均から決定した。統計分析はスチューデントのT検定を使用して実施した。
図1B】これらの結果は、CA125によって結合される抗メソテリン抗体(図1AのAb-4を参照)とは対照的に、CA125によって結合されない抗メソテリン抗体(図1AのAb-3を参照)の取り込みが増強されたことを実証する。抗体の内在化を測定するために、pHrodo(商標)蛍光アッセイ(ThermoFisher)を使用し、pH感受性蛍光色素をCA125不応性Ab-3(本明細書ではMES-1とも称される)及びCA125感受性Ab-4抗体にコンジュゲートした。抗体は、メソテリン及び膜結合型CA125を発現するヒト卵巣がん細胞株OVCAR3と共にそれぞれをインキュベートすることによって、取り込みについて試験した。親株を使用して、shRNAによる同質遺伝子CA125ノックダウン株(OVCAR3-KOと称される)を作出した。Ab-3及びAb-4取り込みの両方を、黒色96ウェルマイクロプレート中、反復実験で(in replica)、24時間にわたって細胞内蛍光をVarioskan(商標)プレートリーダーで測定することで測定した。図示されるように、Ab-3(MES-1)は両細胞株において同様に取り込まれたが、一方、Ab-4はOVCAR-KO細胞においてはAb-3と同様に取り込まれたものの、CA125を発現する親OVCAR3においては同様ではなかった。これは、CA125不応性Ab-3とは対照的な、CA125を介したAb-4取り込みの悪影響を示している。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
図2A】細胞傷害性ペイロード及びリンカーを、免疫能のある及び免疫抑制性メソテリン発現がん細胞の最適な殺傷のための再フォーマット化されたMES-1を開発するために試験した。図2Aは、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現標的細胞に対して試験された様々なタイプの細胞傷害性ペイロード(すなわち、微小管阻害剤、DNAアルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、及びプロテインキナーゼ阻害剤。例えば、Yaghoubi S,et al.J Cell Physiol 235:31-64,2019Wang RE,et al.J Am Chem Soc 137:3229-3232,2015を参照)の化学構造を提供する。図2Bは、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現標的細胞に対するMES-ADCを作製するために試験された様々な酵素的切断可能及び酵素的切断不可能及び切断不可能であるリンカーの化学構造を提供する。図2Cは、メソテリン発現がん細胞又は対照細胞株(表1)に対する、可能性のあるADCペイロードの細胞傷害性の概要を提供する。簡単に説明すると、96ウェル組織培養プレートに、7.5%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を添加した100μLのRPMI中、5,000細胞/ウェルのメソテリン陽性NCI-N87(CA125胃がん)、SW1990(CA125膵臓がん)、HAY(CA125中皮腫)、YOU(CA125中皮腫)、OVCAR3(CA125卵巣がん)及びA549(メソテリン陰性肺がん)細胞と、0.0001~500ng/mLの細胞毒又は陰性対照を播種した。培養物を37℃、5%COで72時間インキュベートし、次いで、クリスタルバイオレット染色を使用して生存率について定量化した。乾燥させた染色したウェルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1%SDSを使用して可溶化し、570nmで、Varioskan(商標)マルチウェルプレートリーダーで比色デンシトメトリーによって定量化した。試験したいくつかの細胞毒は、CA125発現にかかわらず、メソテリン標的細胞を有意に殺傷することができ、非メソテリン発現対照細胞A549及びCHO(図示せず)も同様であった。示されるように、微小管阻害剤MMAE、並びにトポイソメラーゼ阻害剤SN38及びPNU159682は、0.008~5ng/mLの範囲のEC50で最高の効力を有することが見出された。実験は、少なくとも3連のウェルを表す。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
図2B図2Aの説明を参照。
図2C図2Aの説明を参照。
図3A】MES-1及びMES-ADC組成物、精製、及び構造分析。図3Aは、CHO-GS産生及びプロテインA精製MES-1抗体の分析を示す。精製されたMES-1のサイズ排除(SEC)HPLC分析により、高度に均質な抗体種が実証され、これは、所望の薬物:抗体比(DAR)を有する均質な抗体薬物コンジュゲートを作製するための必要条件である。図3Bは、切断可能リンカーを使用したSN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADC組成物の概略図を提供する。図3Cは、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC-HPLC)及びサイズ排除クロマトグラフィ(SEC-HPLC)によって決定されたSN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCのDAR均質性を示す。いずれのMES-ADCも、MES-1の部分的還元及びシステインライゲーションによって作製された。DARは、HICピーク面積及び保持時間から計算した。示されるように、SN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCは、これらのADCの両方を所望のDAR2~6で作製するための再現性の代表的なプロファイルを提供する。
図3B図3Aの説明を参照。
図3C図3Aの説明を参照。
図4A】MES-ADCコンジュゲートフォーマット、並びにインビトロ及びインビボでの標的細胞殺傷。図4Aは、図2Cの遊離細胞毒毒性アッセイから観察された2つの最も強力な細胞毒、SN38及びPNU159682を含有するMES-ADCを介した標的細胞殺傷を示す。切断可能リンカーを使用してMES-ADCを作製し、表1に列挙される様々な標的及び対照細胞株の殺傷について試験した。アッセイは図2Cに記載のように行った。簡単に説明すると、96ウェル組織培養プレートに、5,000細胞/ウェルのメソテリン陽性NCI-N87、SW1990、HAY、YOU、OVCAR3、CHO-MESと、陰性対照としてメソテリン陰性A549及びCHO細胞を播種した。細胞を、7.5%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を添加した100μLのRPMI中、限界希釈(0.01~100ng/mLの範囲)を介した様々な濃度のMES-ADCと共に、又は陰性対照化合物と共に、培養した。培養物を37℃、5%COで72時間インキュベートし、次いで、クリスタルバイオレット染色によって生細胞を定量化した。乾燥させた染色したウェルを、PBS中の1%SDSを使用して可溶化し、570nmで、Varioskan(商標)マルチウェルプレートリーダーで比色デンシトメトリーによって定量化した。示されるように、SN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCは、CA125発現状態にかかわらず、メソテリンを発現する全ての標的細胞にわたって最も有意な細胞殺傷を示したが、メソテリン陰性株A549又はCHO(図示せず)は影響を受けず、メソテリン発現細胞に対する両方のADCの選択性及び効力が実証された。次に、本発明者らは、リードMES-ADCを異なるリンカーフォーマットで試験した(図4B)。NCI-N87及びSW1990細胞を標的細胞として用い、PNU-MES-ADCを代表的なMES-ADCとして用い、酵素的切断可能又は酵素的切断不可能リンカーフォーマットでの効力分析を行った。限界希釈を介して各PNU-MES-ADCの濃度を変えて、上記のように細胞を培養し、増殖させた。示されるように、酵素的切断可能フォーマットのPNU-MES-ADCは、非酵素切断可能フォーマットのPNU-MES-ADCよりも有意に強力であった(灰色及び青色線)。A549メソテリン陰性細胞は、いずれのADCによっても影響を受けず(図示せず)、MES-ADCの効力及び標的特異性が再び実証された。図4C:NCI-N87、SW1990腫瘍細胞株と、PDX由来腫瘍のパネルを、rMES-1検出抗体及びCA125市販抗体を使用してIHCを介してメソテリン発現についてスクリーニングして、これら2つの重要なタンパク質の発現プロファイルがインビボで維持されているかを確認した。異種移植片から腫瘍断片として取り出されたNCI-N87及びSW1990細胞株の両方は、両方のタンパク質の発現を維持した。複数の試料をスクリーニングした後、2つのPDX腫瘍断片が、同様のレベルのメソテリン発現を有するものとして同定され、一方は、強いレベルのCA125も発現した(中皮腫#PXF1118)が、他方は、検出不可能な発現を示した(非小細胞肺腺がん(NSCLC)#LXFA983)。図4D:インビボでのSN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCの試験。最初に、1×10個の腫瘍細胞を、SW1990細胞の場合は複数の無胸腺ヌードマウス、N87細胞の場合はSCIDマウスの側腹部に注射した。測定可能な腫瘍病変(100mm超)が確立されたら、マウスを群に分け、切断可能及び切断不可能PNU-MES-ADCフォーマット、SN38-MES-ADC、及び陰性対照としてPBSを使用して、腫瘍殺傷について試験した。示されるように、切断可能なSN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCフォーマットの両方が、酵素的切断不可能フォーマット(図示せず)よりも、インビボで有意により有効であることが判明し(上パネル:SN38-MES-ADC 10mg/kgでP<0.049、20mg/kgでP<0.0003;下パネル:PNU-MES-ADC P<0.011)、これは、インビトロ標的細胞殺傷効果を反映している。図4E:切断可能なPNU-MES-ADCを、免疫能のあるLXFA983(CA125低)及び免疫抑制性PXF1118(CA125高)のPDX由来腫瘍異種移植片に対して試験し、これらの異なる腫瘍型に対する効力を判定した。腫瘍断片を無胸腺ヌードマウスの側腹部に移植し、PNU-MES-ADC又はPBS対照で処置した。示されるように、PNU-MES-ADCは、微小環境免疫(CA125発現)状態にかかわらず、両方の腫瘍を殺傷し、退縮を引き起こすことにおいて等しく有効であった(P<0.012)。実験は、インビトロアッセイの場合は少なくとも3連のウェルを表し、インビボアッセイの場合は少なくとも5体の対象を表す。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
図4B図4Aの説明を参照。
図4C図4Aの説明を参照。
図4D図4Aの説明を参照。
図4E図4Aの説明を参照。
図5】CA125陽性メソテリン発現PXF1118腫瘍に対する切断可能なPNU-MES-ADCの単回投与及び複数回投与並びにその抗腫瘍効果。腫瘍断片を無胸腺ヌードマウスの側腹部に移植し、平均サイズが100mmになるまで成長させた。同様の腫瘍サイズのセットを有するマウスを6匹ずつ4セットに群分けし、無作為化後1日目、8日目、15日目にPBS、0.25mg/kgのPNU-MES-ADC又は30μg/kgの遊離型PNU159682で処置した。0.75mg/kgのPNU-MES-ADCを使用する第4の群には、無作為化後1日目に単回用量を与え、腫瘍増殖について50日を超えてマウスを監視した。示されるように、単回投与PNU-MES-ADCは、PBS又は遊離薬物で処置されたマウスとは対照的に、複数回投与PNU-MES-ADC処置マウスと同様に、腫瘍を殺傷し、退縮を引き起こし、50日を超えて持続的応答を維持するのに等しく有効であった(P≦0.0061)。実験は、1群当たり6体の対象を表す。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
図6A】免疫抑制性がん細胞に対するMES-BSP及び対照抗体のADCC活性。免疫抑制性がん細胞のMES-BSP免疫媒介性標的化の効果を試験するために、初代末梢血単核細胞(PBMC)を用いたADCCアッセイ及びJurkat-CD16a ADCCレポーターアッセイを採用した。図6Aでは、MES-BSP、MES-1及び抗メソテリンmeso-Ab-4(図1A、レーン4を参照)抗体を、メソテリンを発現し、多量の免疫抑制性CA125タンパク質を産生するヒトOVCAR3卵巣がん細胞株のPBMC免疫媒介性殺傷について試験した。簡単に説明すると、96ウェル黒色プレートにおいてウェル当たり10,000個のOVCAR3細胞を、7.5%ウシ胎児血清及び1%L-グルタミン(R7.5)を添加した65μLのRPMI中で一晩培養した。翌日、R7.5培地中、35μLの様々な濃度のMES-BSP、MES-1、及びmeso-Ab-4と2.5×10個のPBMCを各ウェルに加え、プレートを37℃、5%COで72時間インキュベートした。その後、ウェルを250μLのR7.5培地で3回洗浄してPBMCを除去し、付着したOVCAR3標的細胞の生存率を、製造元(Promega)の指示に従いCell Titer GLO(登録商標)を介して、Varioskan(商標)発光プレートリーダーで定量化した。示されるように、MES-1抗体及びMES-BSP抗体は両方とも、meso-Ab-4とは対照的に腫瘍細胞殺傷を示したが、MES-BSPは、有意に最も高い標的細胞殺傷を示した。これにより、BSPフォーマットのMES-1の能力が、免疫媒介性標的化を利用した場合に親MES-1単独よりも増強された殺傷を提供することが実証された。ADCC活性に対する免疫抑制性CA125タンパク質の影響を決定するために、MES-1及びmeso-Ab-4抗体を、OVCAR3細胞と、前述のようにshRNAベクターTRCN0000262686(Sigma-Aldrich)を用いて作出されたOVCAR3-CA125ノックダウン(OVCAR-KO)細胞株(Kline JB,et.al.OncoTarget 8:52045-52060,2017)について、製造元の指示(Promega Corp)に従ってJurkat-CD16a ADCCレポーター細胞株を使用して試験した。Jurkat ADCCシステムは、ルシフェラーゼリードアウトを採用しており、ルシフェラーゼシグナル強度は、標的細胞に対する抗体のADCC活性を表す。図6Bに示されるように、MES-1は、meso-Ab-4よりもOVCAR3に対して有意に高いADCC活性を有したが、MES-1及びmeso-Ab-4の両方が、OVCAR-KO細胞株に対して同様のADCC活性を有した。これにより、免疫抑制性腫瘍細胞を効果的に殺傷することができる薬剤としてMES-1代替フォーマット(すなわち、ADC又はBSP)の天然CA125不応性MES-1親抗体の有用性が実証された。MES-BSPは、OVCAR3株及びOVCAR-KO株の両方に対して等しく有効であった。全ての実験は3連で行った。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
図6B図6Aの説明を参照。
図7】ヒト化PBMCヌードマウス及びメソテリン陽性CA125発現ヒト中皮腫細胞株を使用して、MES-BSPをインビボで試験した。0日目に8×10個の中皮腫細胞を無胸腺ヌードマウスに移植した。平均病変が約50mmであった11日目に、1×10個のヒト末梢血単核細胞(PBMC)を腹腔内投与した。翌日、3mg/kgのMES-BSP又はPBSを3週間、3回QODで投与し、腫瘍の増殖を監視した(N=5)。示されるように、MES-BSPは、対照処置マウスと比較して、CA125陽性中皮腫腫瘍の70%の減少を引き起こした(P=0.033)。統計分析は、両側スチューデントT検定を使用して実施した。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明者らは、腫瘍細胞微小環境免疫状態にかかわらず、メソテリン陽性がん細胞を効果的に殺傷することができる新規な治療薬を開発した。特定の理論又は作用機序に限定されることを望まないが、本出願人らは、配列番号1及び2(本明細書ではMES-1抗体と称される)並びに配列番号2及び3(本明細書ではMES-BSP抗体と称される)によってコードされるアミノ酸配列が、以下の両方に負の影響を及ぼす免疫抑制性タンパク質CA125による結合に対して不応性であると考えている。(a)抗体媒介性免疫応答(Kline JB,et.al.OncoTarget 8:52045-52060,2017;Kline JB,et al.Eur J Immunol 48:1872-1882,2018;Kline JB,et al.J Clin Oncol 5:15,2018;Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018)と、(b)抗体薬物コンジュゲート(ADC)の取り込み及び内部への細胞傷害剤の送達(これはADCを介した強力な標的細胞殺傷の必要条件である)(Nicolaides NC,et.al.米国特許出願第16/984,444号;Chalouni C and Doll S.J Exp Clin Cancer Res 37:20-32,2018)。この免疫抑制機構は、影響を受けた抗体へのCA125の直接結合が関与していると考えられる(Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018)。
【0041】
加えて、本出願は、腫瘍の微小環境免疫状態にかかわらず腫瘍に対して有効である更なる抗体ベース療法を同定するための方法を提供する。これらには、CA125などの腫瘍産生免疫抑制性タンパク質への結合について親抗体を試験することが含まれる。そのような抗体は、抗体-薬物コンジュゲート又は二重特異性フォーマットにフォーマット化することができ、様々なペイロード並びに遺伝子融合体及び化学リンカーを用いることによって、免疫抑制性微小環境を有する腫瘍の殺傷時の効果を最適化するために経験的に試験することができる。
【0042】
本明細書に記載の方法及びキットは、当該技術分野で公知の抗原発現試験のための方法を使用して、配列番号7~12のCDRアミノ酸配列を含有する抗体を用いて患者の腫瘍細胞を試験することによって、MES-ADC又はMES-BSPによる治療に適したメソテリン発現患者の適格性を監視及び確認するために使用され得る。
【0043】
方法、組成物、及びキットは、2つのカテゴリーの抗体フォーマットに分類され得る。1つのカテゴリーでは、細胞傷害剤に化学的に結合した免疫グロブリン軽鎖(配列番号1)及び重鎖(配列番号2)を含むMES-ADCが開発される。CA125による抗体成分への直接結合は、低いか又はゼロである。抗体分子当たりの細胞毒部分の数[薬物:抗体比(DAR)と称される]は、コンジュゲーションの方法に応じて変動し得、最小DARは2、最大DARは12であり、好ましくは2、3、4、5、又は6である。細胞傷害剤は、トポイソメラーゼ阻害剤SN38又はPNU159682であり得るが、これらに限定されない。細胞毒部分は、化学リンカー又はペプチドリンカーによって抗体に結合している。リンカーは、当業者に公知であるように、切断可能型又は切断不可能型であり得る。リンカー、細胞毒、及びDARの所望の組み合わせは、インビトロ及び/又はインビボでのメソテリン腫瘍細胞殺傷に対するMES-ADCの活性を最適化するように経験的に決定することができる。腫瘍細胞生存率は、当該技術分野で使用される方法を用いて決定することができる。
【0044】
好適な細胞毒には、安全で、好ましくは生分解性のものが含まれるが、これらに限定されない。これらには、モノメチルドラスタチン10、アウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、アウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンF、HTI-286、ツブリシンM、メイタンシノイドAP-3、メイタンシノール、DM1、DM4、Boc-Val-Dil-Dap-OH、Boc-Val-Dil-Dap-Phe-Ome、Boc-Val-Dil-Dap-Doe、Boc-Val-Dil-Dap-Nrp、Boc-N-Me-Val-Val-Dil-Dap-OH、ツブリシンIM-1、ツブリシンIM-2、ツブリシンIM-3、ダサチニブ、デュオカルマイシンSA、デュオカルマイシンTM、デュオカルマイシンMA、デュオカルマイシンDM、ネモルビシン、PNU-159682、カリケアミシンγ1、N-アセチル-カリケアミシンγ1、α-アマニチン、PBD-二量体などが含まれるが、これらに限定されない。これらの構造は当該技術分野において公知である。
【0045】
好適なリンカーには、安全で、好ましくは生分解性のものが含まれるが、これらに限定されない。これらには、Val-Cit-PAB、Fmoc-Val-Cit-PAB、Fmoc-Val-Cit-PAB-PNP、MC-Val-Cit-PAB-PNP、Phe-Lys(Trt)-PAB、Fmoc-Phe-Lys(Trt)-PAB、Fmoc-Phe-Lys(Trt)-PAB-PNP、Ala-Ala-Asn-PAB TFA塩、Fmoc-Ala-Ala-Asn-PAB-PNP、Fmoc-Gly3-Val-Cit-PAB、Fmoc-Gly3-Val-Cit-PAB-PNP、MACグルクロニドフェノール、Py-ds-Prp-OSu、Py-ds-dmBut-OSu、Py-ds-dmBut-OPFP、Py-ds-Prp-OPFP、SMCC、MAL-HA-OSu、MAL-di-EG-OPFP、MAL-tri-EG-OPFP、MAL-tetra-EG-OPFP、MA-PEG4-VC-PAB-DMAE、MC-EDA、N3-di-EG-OPFP、N3-tri-EG-OPFP、N3-tetra-EG-OPFP、ALD-BZ-OSu、ALD-di-EG-OSu、ALD-tetra-EG-OSu、ALD-di-EG-OPFP、ALD-tetra-EG-OPFP、PHA-di-EG-OPFP、PHA-tetra-EG-OPFP、PEG8-トリアゾール-PABC-ペプチド-mcなどが含まれるが、これらに限定されない。これらの化学構造は当該技術分野において公知である。
【0046】
一実施形態は、低いCA125結合性を有し、MA-PEG4-VC-PAB-DMAE切断可能リンカーによってPNU159682トポイソメラーゼ阻害剤に共有結合しているMES-1抗体(配列番号1及び2)を含む、MES-ADCである。
【0047】
別の実施形態は、低いCA125結合性を有し、MACグルクロニドフェノール又はPEG8-トリアゾール-PABC-ペプチド-mc切断可能リンカーによってSN38トポイソメラーゼ阻害剤に共有結合しているMES-1抗体(配列番号1及び2)を含む、MES-ADCである。
【0048】
抗体フォーマットの別のカテゴリーでは、MES-BSP(二重特異性抗体)は、低いCA125結合性を有する、MES-1抗体の免疫グロブリン重鎖(配列番号2)及びキメラ軽鎖(配列番号3)を含む。キメラ軽鎖は、MES-1軽鎖(配列番号1)に融合した抗CD3一本鎖抗体(配列番号6)の遺伝子融合体(アミノからカルボキシルの順)である。抗CD3一本鎖抗体部分は、20個の公知の天然又は修飾されたアミノ酸のいずれか1つを含むスペーサーを介して遺伝的に連結され、リンカーは、当該技術分野で公知のように、軽鎖を一本鎖から分離する2つ以上のアミノ酸のものであってもよい。所望のリンカーアミノ酸の組成及び長さは、ヒトCD3リンパ球の存在下でのインビトロ及び/又はインビボでのメソテリン腫瘍細胞殺傷に対するMES-BSPの活性を最適化するように経験的に決定することができる。腫瘍細胞生存率は、当該技術分野で公知の様々な方法のいずれかを用いて決定することができる。
【0049】
治療用途では、MES-ADC又はMES-BSPは、単剤療法として、又は標準治療と組み合わせて投与することができる。
【0050】
本方法を実施する過程で組成物が形成され得る。それらは、予め形成されて、個別にパッケージ化され、スクリーニングするための細胞毒ライブラリを有する実体、又は例えば、MES-1抗体に細胞毒を連結するために様々なリンカーを用いることができる実体に提供され得る。同様に、ここで記載するアッセイ及び方法の構成要素は、一緒に容器にパッケージ化され、キットとして販売され得る。キットの構成要素は、必須ではないが、一緒に混合することができる。それらは、例えば、別々の容器又は分割された容器で提供することができる。任意の検出抗体のセレクション及び本明細書に記載のMES-ADC又はMES-BSPが、組成物又はキットとして構築され得る。
【0051】
CA125免疫抑制に感受性の高いいくつかの公知の抗体が存在するが、本明細書に記載される組成物は、MES-ADC又はMES-BSPによって、腫瘍微小環境免疫状態にかかわらず、メソテリン発現がんを有する患者を治療するのに有用である。これらの各々は、CA125結合に対して不応性であるMES-1親配列(配列番号1~3)のうちの1つ以上を有するため、MES-ADCフォーマットの場合ADC内在化及び殺傷に効果的であり、MES-BSPフォーマットの場合免疫関連殺傷に効果的である。
【0052】
いくつかの例において、MES-ADCは、メソテリン発現がんを有する患者においてその治療域を増強するためにリポソーム中に製剤化される必要があり得る。MES-ADCの送達のための任意のリポソーム製剤が、患者を治療するために使用されてもよい。従来のリポソームは、カチオン性、アニオン性、又は中性(リン)脂質及びコレステロールで構成される脂質二重層からなり、水性体積を封入する。リポソームの好適な組成物には、共脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)と組み合わされたグアニジニウム-コレステロールカチオン性脂質ビス(グアニジニウム)-tren-コレステロール(BGTC)が含まれるが、これに限定されない。好適なリポソーム製剤の別の例は、イミダゾールベースのヘルパー脂質MM27を伴うアミノグリコシド脂質ジオレイルスクシニルパロモマイシン(DOSP)である。リポソームは、例えば、ポリエチレングリコールを使用してリポソームをコーティングすることにより、立体的に安定化することができる。
【0053】
本発明者らは、メソテリン陽性がんを有する患者を同定し、MES-ADC又はMES-BSPで治療するための、組成物、キット及び方法を提供する。本方法は、配列番号7~12のCDRを含むCA125不応性MES-1検出抗体を使用して、メソテリン発現について患者の腫瘍を診断するステップを含み得る。このアッセイにおいて陽性である場合、腫瘍は、任意選択でトポイソメラーゼ阻害剤である細胞毒に結合したMES-ADC(配列番号1及び2)、又はMES-BSP(配列番号2及び3)で治療され得る。診断及び治療ステップは、独立していてもよいし、連携して実施されてもよい。メソテリンが高度に過剰発現されるがんでは、このような予備スクリーニングの使用は任意であり得る。
【0054】
別の実施形態は、CDR(配列番号7~12)を含有するMES-ADCであり、これらのCDR配列のいずれも、それらがCA125不応性のままである限り、個別に又は組み合わせで最大3個のアミノ酸によって修飾されてもよい。
【0055】
別の実施形態では、MES-ADCの細胞毒は、切断可能リンカーに結合したSN38又はPNU159682である。リンカーは、SN38に結合したPEG8-トリアゾール-PABC-ペプチド-mcリンカー(C507916)(構築物全体はSN38-MES-ADC-1と称される)、SN38に結合したMACグルクロニドフェノール-リンカー(構築物全体はSN38-MES-ADC-2と称される)、又はPNU159682に結合したMA-PEG4-VC-PAB-DMAEリンカー(構築物全体はPNU-MES-ADCと称される)であり得る。
【0056】
別の実施形態では、MES-1軽鎖(配列番号1)は、アミノ酸GGGGS(配列番号20)から構成されるアミノ酸リンカー単位を使用して、CD3一本鎖(配列番号6)に結合している。リンカーは、1つ以上のリンカー単位で構成される。長さ又はアミノ酸組成に限定されることを望まないが、例として、MES-1軽鎖及び抗CD3一本鎖は、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の単位に結合し得る。リンカーの最適化は、本明細書に記載の腫瘍細胞殺傷を測定するために当該技術分野で使用される任意の方法を使用して、CD3リンパ球の存在下でメソテリン標的細胞を最適に殺傷することによって決定することができる。
【0057】
更に別の実施形態では、リンカー単位は、MES-1軽鎖を、免疫能のある又は免疫抑制性微小環境とヒトCD3リンパ球とを有するメソテリン陽性腫瘍において腫瘍細胞殺傷を最適化するために経験的に試験され得る抗CD3一本鎖に遺伝的に連結し得る、既知の天然又は修飾されたアミノ酸の任意の組み合わせ、及び任意の長さを含む。
【0058】
別の実施形態は、配列番号7~18のアミノ酸配列を含有するMES-BSPを有し、これらの配列のいずれも、それらがCA125結合に対して不応性のままである限り、個別に又は組み合わせで最大3個のアミノ酸によって修飾されてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、機能的方法を使用して、様々な遺伝子リンカーを使用してCD3リンパ球の存在下でのメソテリン陽性腫瘍細胞の殺傷に対するMES-BSPの効果を最適化する。「効果」という用語は、一般に、CD3リンパ球と比較して、薬剤が単独でインキュベートされた場合の標的細胞殺傷の10%以上の変化を指す。使用される抗体及び薬剤に応じて、対照と比較して、少なくとも5%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、又は75%の変化を指す場合もある。
【0060】
更に別の実施形態は、様々な細胞毒及び/又はリンカーを有する抗体薬物コンジュゲート(ADC)を、細胞内在化を含む、薬物動態(PK)、薬力学(PD)、又は薬理学的(PL)活性についてスクリーニングするための方法を含む。いくつかの実施形態では、ADCは、細胞にインビトロで添加され、標的細胞殺傷について試験される。著しい殺傷効果を有するADCは、治療試験に適している。同様に、効果という用語は、使用される抗体及び薬剤に応じて、対照と比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、又は75%の変化を指す場合もある。
【0061】
本明細書に含まれる態様に関連する様々な用語及び専門用語(「用語」)が、本書の明細書及び特許請求の範囲全体で使用されている。そのような用語は、特に明記しない限り、当該技術分野においてそれらの通常の意味を与えられるべきである。他の具体的に定義された用語は、提供された定義と一致する様式で解釈されるべきである。
【0062】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という単数形はまた、内容が明確に別段の指示をしない限り、複数形の参照を含む。例として、「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞の組み合わせ等を含み得る。「プローブ」への言及は、検出抗体、MES-ADC、MES-BSP、又は当該技術分野で公知の任意の分析方法を介して腫瘍微小環境免疫状態を監視するための独立したプローブを含み得る。
【0063】
量、期間等の定量化された値を指す時に使用される「約」という用語は、指定された値から最大±9%の変動を包含することを意味しており、なぜなら、開示された方法を実行するためにそのような変動が適切であるからである。別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される分子量、モル濃度、反応条件、パーセンテージなどの試薬の量を表す全ての値は、全ての場合において「約」という用語によって定量化されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、以下の明細書及び記載された特許請求の範囲に記載の数値は、本発明によって得られることが求められる組成物、薬剤及び/又は方法の所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、及び本出願の範囲を制限しようとするのではなく、各数値は、報告された有効数字によって、及び当該技術分野で公知の通常の丸め方法によって少なくとも評価されるべきである。
【0064】
使用される「抗体」という用語は、広い意味で意味され、免疫グロブリン(「Ig」とも言及される)、又はポリクローナル抗体(pAbとも言及される)、マウス、ヒト、ヒト化、及びキメラ化mAbを含むモノクローナル抗体(mAbとも言及される)、二重特異性抗体(BSPとも言及される)、抗体薬物コンジュゲート(ADCとも言及される)、抗体融合免疫毒素、及び抗体断片を含む抗体分子を含む。一般に、抗体は、特定の抗原に結合するタンパク質又はポリペプチド鎖である。抗原は、所与の抗体によって特異的に認識される構造である。標準的な抗体は、ジスルフィド結合及び水素結合の複合を介して並べられた(lined)2つの軽鎖と2つの重鎖で構成されるヘテロテトラマーグリコシル化タンパク質で構成されている。「そのジスルフィド架橋」という用語は、当該技術分野で公知の、重鎖ヒンジ領域内に含まれるジスルフィド架橋を指す。各重鎖には、可変ドメイン(可変領域)(VH)と、それに続く多数の定常ドメイン(Fcドメインと呼ばれる)がある。各軽鎖には、可変ドメイン(VL)及び定常ドメインがあり、軽鎖の定常ドメインは重鎖の最初の定常ドメインと整列し、軽鎖VLは重鎖の可変ドメインと整列する。任意の種の抗体軽鎖は、定常ドメイン内のアミノ酸配列に基づいて、2つの異なるタイプ、すなわちカッパ(κ)及びラムダ(λ)のうちの1つに割り当てられる。
【0065】
「一本鎖」という用語は、当該技術分野で公知の構造を有する一本鎖抗体を指す。
【0066】
免疫グロブリン軽鎖(LC)又は重鎖(HC)は、報告されている配列の変動性に基づいて相補性決定領域(CDR)とも称される3つの「抗原結合部位」を間に挟んだ「フレームワーク」領域を含む(Wu TT,Kabat EA.J Exp Med 132:211-250,1970)。一般に、抗原結合部位は6つのCDRで構成され、3つはVH内にあり(CDRH1、CDRH2、CDRH3)、3つはVL内にある(CDRL1、CDRL2、CDRL3)(Kabat EA,et al.5th Ed.PHS,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1991)。
【0067】
「特異的結合」又は「特異的に結合する」とは、抗体又は抗原結合断片が、他の抗原に対するよりも高い親和性で抗原(抗体自体に含まれる配列を含む)に結合することを指す。典型的には、特異的抗体又は抗原結合断片は、約5×10-6M以下の平衡解離定数Kで標的抗原に結合する。
【0068】
「抗体誘導体」又は「代替フォーマット」は、ペプチド化学(すなわち、アミド化など)、遺伝子融合、及び/又は典型的には抗体と関連しない翻訳後部分(すなわち、グリコシル、アセチル及び/又はホスホリル)などを介して、別の分子の共有結合によって修飾される、上記で定義される抗体を意味する。
【0069】
「抗体の動的構造」という用語は、抗体の機能、CA125結合性、又は細胞内在化に影響を与える可能性のある構造の任意の変化を指す。
【0070】
「モノクローナル抗体(mAb)」という用語は、真核生物又は原核生物の細胞クローン、又はファージクローンを含む単一の細胞クローンに由来する抗体を指し、それが産生される方法ではない。したがって、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生された抗体に限定されず、組換え法も含み得る。
【0071】
「Fabドメイン」は、当該技術分野で公知の、N末端から抗体ヒンジジスルフィド領域までの任意の抗体配列を指す。
【0072】
「Fcドメイン」は、当該技術分野で公知の、C末端から抗体ヒンジジスルフィド領域までの抗体ヒンジジスルフィド領域を含む任意の抗体配列を指す。
【0073】
「メソテリン」は、メソテリンタンパク質(GenBank:AAH03512.1)の全タンパク質又は天然に改変された形態を指す。
【0074】
「抗原」は、抗体又は抗体断片が特異的に結合する実体である。これには、目的の抗体又はタンパク質への結合が含まれる。
【0075】
「CA125」という用語は、MUC16遺伝子(HGNC:15582;OMIM:606154)が産生する遺伝子産物を指し、可溶型と膜結合型が存在する。これは抗体にFabドメイン内で結合し、結合した抗体の体液性免疫機能(Kline JB,et al.Oncotarget 8:52045-52060,2017)とADC取り込みに影響を与えることが報告されている。
【0076】
「CA125不応性」という用語は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して測定した場合に、CA125タンパク質への結合が低いか又は結合しない抗体を指す。
【0077】
「CD3」及び「CD3E」という用語は、ヒトリンパ球上で発現されるCD3-イプシロンタンパク質を指す。
【0078】
「がん」、「悪性」、「調節不全」、及び「腫瘍」という用語は当該技術分野でよく知られており、調節不全細胞とも称される、同様の起源の正常な細胞型とは異なる未制御の細胞増殖及び形態学的特徴を有する細胞の存在を指す。悪性とは、病的状態及び/又は死亡を引き起こす可能性のあるがん細胞を指す。使用される場合、「がん及び腫瘍」には、前がん性及び悪性のタイプが含まれる。
【0079】
使用される場合、「可溶性」という用語は、細胞の細胞膜に付着していないタンパク質又は非タンパク質剤を指す。例えば、可溶性の薬剤は、正常又はがん性の細胞から、血清、全血、血漿、尿、又は腫瘍を含む細胞の微小流体を含む生体液に放出、分泌、又は輸出され得る。
【0080】
使用される場合、指定されるタンパク質又は非タンパク質剤(CA125を含む)の「レベル」は、インビトロ又はインビボでのタンパク質及び/又は非タンパク質剤レベルの測定のための当該技術分野で知られている任意の方法を使用して決定される薬剤の1つ以上のレベルを指す。このような方法には、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、薄層クロマトグラフィ(TLC)、高拡散(hyperdiffusion)クロマトグラフィ、流体又はゲル内沈降反応、吸収分光法、比色分析法、分光光度分析法、フローサイトメトリ、免疫拡散法(単一又は二重)、液相アッセイ、免疫電気泳動法、ウエスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫蛍光アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、フェルスター共鳴エネルギー移動、電気化学発光免疫測定法等が含まれる。一実施形態では、CA125のレベルは、より詳細に記載されるように、プローブベースの技術を使用して決定される。
【0081】
「体液性免疫抑制(humoral immunosuppression)又は体液性免疫抑制(humoral immunesuppression)」という用語は、CA125によって直接結合され、動的構造が改変される任意の抗体、抗体断片、二重特異性抗体(BSP)、又は抗体薬物コンジュゲート(ADC)を指す。卵巣がん及び中皮腫などの悪性細胞によって産生され(Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 19:622-630,2018)、また正常な周囲の上皮細胞からリンパ腫によって誘発される(Sanusi et al.Perit Dial 21:495-500,2001)CA125は、特定の抗体に結合してその動的構造を変化させ、そのようにしてADCC、CDC、オプソニン化、内在化などの生物学的活性、並びに/又はPK、PD、及びPLプロファイルに影響を与える可能性があることが報告されている。
【0082】
「抗体薬物コンジュゲート(ADC)」という用語は、細胞に対して毒性活性を有する化学物質、ポリペプチド、核酸、又は放射性核種にコンジュゲート又は融合された任意の抗体を指す。
【0083】
「切断可能リンカー」という用語は、酵素又はプロテアーゼ消化、酸分解、pH、化学的還元、化学的酸化、加水分解などであるがこれらに限定されない任意の一般的な機構によって細胞外又は細胞内で切断され得る化学的リンカー又はアミノ酸リンカーを意味する。
【0084】
「切断不可能リンカー」という用語は、酵素又はプロテアーゼ消化、化学的還元、化学的酸化、加水分解などであるがこれらに限定されない一般的な機構によって、一般に細胞外で切断されない化学的リンカー又はアミノ酸リンカーを意味する。
【0085】
「酵素的切断可能リンカー」及び「酵素的切断不可能リンカー」という用語は、酵素又はプロテアーゼによって切断可能又は切断不可能であるリンカーを意味する。
【0086】
「二重特異性抗体(BSP)」という用語は、2つ以上の異なる抗原に結合することができる任意の抗体を指す。BSPは、限定されないが、少なくとも2つの全長抗体、1つの全長抗体及び1つの一本鎖抗体、又は2つの一本鎖抗体を含むことができ、各々が異なる抗原に、又は同じ抗原上の異なるエピトープに結合する。
【0087】
「標準的な抗体」という用語は、免疫グロブリン重鎖に結合した免疫グロブリン軽鎖を指し、該抗体は上記抗原を特異的に認識することができる。標準的な抗体は、第2の抗原を特異的に認識することができる別の抗体に融合され得る。
【0088】
「免疫抑制性微小環境(immunosuppressed microenvironment)」、「免疫抑制性微小環境(immune-suppressed microenvironment)」、「免疫抑制性腫瘍微小環境(immunosuppressed tumor microenvironment)」、「免疫抑制性腫瘍微小環境(immune-suppressed tumor microenvironment)」という用語は、細胞性又は体液性免疫機能及び活性を抑制する因子、例えば、これらに限定されないが、それぞれPDL1又はCA125などを産生又は発現する腫瘍を指す。
【0089】
「免疫応答性微小環境(immunocompetent microenvironment)」、「免疫応答性微小環境(immune-competent microenvironment)」、「免疫応答性腫瘍微小環境(immunocompetent tumor microenvironment)」、「免疫応答性腫瘍微小環境(immune-competent tumor microenvironment)」、「免疫能のある(immune-proficient)」、「免疫能のある(immunoproficient)」、「免疫能のある(immune-proficient)」という用語は、細胞性又は体液性免疫機能又は活性を抑制する因子を産生又は発現しない腫瘍を指す。
【0090】
「免疫微小環境状態(Immune or immunomicroenvironment status)」、「微小環境免疫状態」は、腫瘍が免疫応答性であるか又は免疫抑制性であるかの判定を指す。この用語はまた、免疫抑制性タンパク質を産生する腫瘍であって、そのようなタンパク質を産生する腫瘍が免疫抑制性微小環境を有すると考えられる腫瘍も指す。
【0091】
「抗体依存性細胞傷害(ADCC)」という用語は、抗体が細胞表面の抗原に結合し、次に抗体のFcドメイン内の配列を介して免疫-エフェクター細胞と会合することができ、その結果、毒素を放出し、結合した細胞を殺傷し得るインビトロ又はインビボプロセスを指す。
【0092】
「補体依存性細胞傷害(CDC)」という用語は、抗体が真核細胞又は原核細胞表面上の抗原に結合し、次に抗体のFcドメイン内の配列を介してC1qタンパク質と会合することができ、その結果、古典的補体カスケードが開始されて結合した細胞を殺傷し得るインビトロ又はインビボプロセスを指す。
【0093】
「内在化」という用語は、抗体、抗体断片、又はADCが細胞の表面上の抗原に結合し、次に当業者に知られているメカニズムを介して内在化することができるプロセスを指す。
【0094】
「薬物動態(PK)」という用語は、対象に投与された時に抗体がその定常状態濃度を維持する時間を指す。
【0095】
「薬力学(PD)」という用語は、抗体ベースの薬物の生化学的及び生理学的効果とその作用機序の研究を指し、対象に投与された時のそれらの作用及び効果とそれらの生化学的構造との相関を含む。
【0096】
「薬理学(PL)」という用語は、抗体がインビトロ又はインビボで疾患細胞を管理する又は殺傷するのに及ぼす既知の効果を指す。
【0097】
「試料」という用語は、対象から単離された類似の液体、細胞又は組織、並びに対象内に存在する液体、細胞又は組織、の集合を指す。液体は、細胞及びオルガノイド培地、尿、唾液、洗浄液等を含む、対象又は生物学的供給源と接触した液体溶液を含む生体液を含み得る。
【0098】
使用される場合、「対照試料」という用語は、例えば、特定のがん型に罹患していない健康な対象からの試料又はその親細胞とは異なる細胞を含む、臨床的又は非臨床的に関連する任意の対照試料を指す。
【0099】
「対照レベル」という用語は、対象に由来する又はインビトロアッセイで使用される試料中の同じ薬剤のレベルと比較するために使用される、タンパク質又は非タンパク質剤の許容される又は所定のレベルを指す。
【0100】
使用される場合、治療抗体と対照のシグナル間の「差」は、一般に、当該技術分野で一般的に使用される統計的方法を使用して統計的に決定され得る任意の差であり、対照と比較して少なくとも10%以上の差である。使用される抗体及びプローブに応じて、少なくとも5%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、又は75%の変化を指す場合もある。
【0101】
「阻害する」又は「の阻害」という用語は、統計的に測定可能な量だけ低減すること、又は完全に防ぐことを意味する。
【0102】
記載された方法に従って使用される抗体、抗体含有部分(すなわち、BSP、ADCなど)に関連する「機能的」という用語は、抗体がそれぞれ抗原若しくはCA125に結合できること、及び/又はインビトロ若しくはインビボで標的細胞に結合して殺傷できることを示す。
【0103】
「標的細胞」という用語は、特定の抗体又は抗体含有部分に対する抗原を発現する真核細胞若しくは原核細胞又は細胞集団を指す。
【0104】
「治療域」という用語は、管理可能な耐容毒性用量内で腫瘍増殖を抑制する薬物の有効性を意味する。
【0105】
「薬学的に許容される」という用語は、薬理学的及び毒物学的側面から患者に投与することが許容され、当該技術分野で公知の手法を使用して製造される物質を指す。これらには、連邦政府又は州政府の規制機関によって承認された、あるいは米国薬局方又はその他の一般的に認められている動物及びヒトでの使用のための薬局方に記載されている薬剤が含まれる。「薬学的に適合性のある成分」という用語は、抗がん剤を投与するのに用いられる薬学的に許容される希釈剤、アジュバント、賦形剤又はマトリックスビヒクルを指す。「薬学的に許容される担体」とは、活性成分(複数可)の生物学的活性の有効性を妨げず、宿主に対して無毒であるマトリックスを指す。
【0106】
「有効量」及び「治療上有効」という用語は交換可能に使用され、患者において増強された臨床転帰をもたらすのに十分な量で医薬品を投与することに関連して使用される。有効量の薬剤は、本明細書に記載される方法に従って、「効果的なレジメン」で投与される。「効果的なレジメン」という用語は、特定のがんを有する患者に対して増強された臨床転帰を達成するのに十分な薬剤の量及び投与頻度の組み合わせを指す。増強された有効性は、患者が、親化合物よりも病的状態をよりよく克服することができる薬剤、又は効果的なレジメンの臨床転帰を増強することができる薬剤を投与された場合の改善された臨床転帰である。
【0107】
「患者」及び「対象」という用語は、治療剤治療を受けるヒト及び獣医学的対象を含む他の非ヒト動物を指すために交換可能に使用される。「非ヒト動物」という用語には、全ての脊椎動物が含まれる。一実施形態では、対象はヒトである。
【0108】
「治療剤」は、通常、望ましくない汚染物質を実質的に含まない。これは、薬剤が通常、少なくとも約50%w/w(重量/重量)純粋であり、かつ妨害タンパク質及び汚染物質を実質的に含まないことを意味する。
【0109】
「免疫エフェクター細胞」という用語は、抗体結合標的細胞への結合時に抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は食作用(オプソニン化)をもたらす可能性のある、NK、骨髄、単球、又は樹状細胞を含むが、これらに限定されない任意の細胞を指す。細胞は、精製されるか、又は末梢血単核細胞(PBMC)の形態の混合で存在し得る。
【0110】
「調節不全細胞」という用語は、親細胞に対して異常であるとみなされる任意の細胞を指す。これらには、形質転換細胞、悪性細胞、ウイルス感染細胞、自己調節を介した自律的に増殖する細胞、又は原核生物の病原体が含まれる。
【0111】
「体液性応答」という用語は、ADCC、CDC、オプソニン化、又は試験抗体による、標的細胞への抗体の内在化を指す。
【0112】
「薬剤」という用語は、抗メソテリンADC又はBSPを指す。
【0113】
「有意(に)」という用語は、スチューデントのT検定を含む任意の数のプログラムによって決定されたP値が0.05未満である統計結果を指す。
【0114】
検出抗体、治療用MES-ADC及びMES-BSPの組成物;メソテリン発現がんを有する患者を治療するためのキット及び方法
本明細書では、MES-ADC及びMES-BSP(両方とも薬剤と称される)及びrMES-1(検出抗体と称される)の組成物、キット、並びにメソテリン陽性がんを、それらの微小環境免疫状態にかかわらず効果的に抑制することができるそのような薬剤を同定するための方法が提供される。本明細書に記載の最適なMES-ADC及びMES-BSPを同定するための方法のいくつかの実施形態では、当該方法は、CA125不応性であり、その負の腫瘍細胞殺傷活性(すなわち、ADCの腫瘍取り込み、二重特異性抗体の免疫応答など)のいずれかを回避することができるADC及び/又はBSPの抗体成分を同定することを含む。他の実施形態では、CA125不応性MES-ADCは、切断可能リンカー又は切断不可能リンカーを介して連結された2つ以上の細胞毒から構成され、MES-ADCの能力が、メソテリン発現免疫抑制性標的細胞に対して細胞傷害性を有意に改善し、免疫能のある標的細胞に対しても有効であるかどうかを試験する。いくつかの実施形態では、MES-ADC細胞毒は、SN38又はPNU159682クラスのトポイソメラーゼ阻害剤である。別の実施形態では、MES-ADCは、薬物:抗体比(DAR)が2~6であり、MACグルクロニドフェノール又はPEG8-トリアゾール-PABC-ペプチド-mcリンカーを介してSN38にコンジュゲートされたMES-1抗体を含む。更に別の実施形態では、MES-ADCは、DARが2~6であり、MA-PEG4-VC-PAB-DMAEリンカーを介してPNU159682にコンジュゲートされたMES-1抗体を含む。例を図3Bに概略的に示す。キットは、当該分野で使用されるスクリーニングアッセイを介して、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現腫瘍型に対するADC殺傷アッセイを使用することによって、最適なADCフォーマット(細胞毒及びリンカー)を同定することができるMES-ADCから構成される。加えて、キットは、最適なMES-ADCとrMES-1検出抗体から構成され、これらは両方とも、CA125の存在下又は非存在下でメソテリンに結合して、腫瘍微小環境免疫状態にかかわらず、MES-ADCによる治療のための、メソテリン発現がんを有する患者を同定することができる。
【0115】
別の実施形態は、最適なMES-BSPを同定するための方法である。この方法は、最適化されたMES-BSPであって、MES-BSP軽鎖が、配列番号1に列挙されるアミノ酸を含むか、又はN末端で抗CD3一本鎖抗体(配列番号6)に結合した配列番号2に列挙されるアミノ酸を有する重鎖を含む、MES-BSPを作製することを含む。他の実施形態では、MES-BSPは、遺伝的に連結されたスペーサーを介して抗CD3一本鎖に融合されたMES-1軽鎖を含む。スペーサーは、天然又は修飾されたアミノ酸の任意の組み合わせ及び長さからなり得るが、MES-1軽鎖とCD3一本鎖との間の1つの任意選択の連結は、遺伝的にコードされたリンカー単位(複数可)「GGGGS(配列番号20)」を介するものである。連結は、1つ又は複数の単位を介してであり得る。最適なスペーサーユニットは、当該分野で一般的に使用されるアッセイを使用して、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現標的細胞の機能的殺傷アッセイを使用して決定され得る。スクリーニングの例は実施例3で考察され、結果は図6に示されている。別の実施形態では、キットは、最適なMES-BSPとrMES-1検出抗体から構成され、腫瘍微小環境免疫状態にかかわらず、MES-BSPによる治療のための、メソテリン発現がんを有する患者を同定する。
【0116】
最適に活性なMES-ADC又はMES-BSP薬剤を同定するための方法では、天然に又は組換えにより免疫抑制性タンパク質を発現するメソテリン発現標的細胞の培養物に、抗体を添加する。MES-ADC又はMES-BSP処置細胞と対照処置細胞に対する応答を比較する培養物を、標準的な殺傷アッセイを用いて標的細胞生存率について監視する。少なくとも10%の変化が、典型的には、有意義な効果であるとみなされる。用いられる薬剤及びアッセイに応じて、有意義な効果はまた、少なくとも5%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、又は75%の変化として定義され得る。
【0117】
最適に活性なMES-ADC又はMES-BSPを同定するためのいくつかの方法では、CA125を天然に発現するメソテリン発現標的細胞の培養物に、薬剤を添加するか、又は可溶性CA125タンパク質を外因的に添加する。MES-ADC又はMES-BSPとCA125で処置したものと、対照又はCA125なしで処置したものとの応答を比較する培養物を、標準的な殺傷アッセイを用いて標的細胞生存率について監視する。少なくとも10%の変化が、典型的には、ADCC、CDC、及び/又はADCの標的細胞殺傷に対する有意義な効果であるとみなされる。用いられる薬剤及びアッセイに応じて、有意義な効果はまた、少なくとも5%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、又は75%の変化として定義され得る。
【0118】
MES-ADC又はMES-BSP薬剤を用いてがん対象を治療する方法も本明細書で提供される。例えば、患者は、これらに限定されないが、中皮腫、結腸直腸がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、胆管がん、又は子宮内膜がんなどのメソテリン発現がんを有し得る。いくつかの抗メソテリン抗体は、CA125によって結合されることが報告されており(図1参照)、これは、ADCとしてのそれらの内在化を撹乱させるか、又はBSPとしてのそれらの免疫殺傷効果を抑制し得るため、CA125によって結合又は影響されないMES-ADC又はMES-BSPの使用が望ましいものとなる。
【0119】
MES-ADC又はMES-BSP薬剤で対象を治療する方法のいくつかの実施形態では、CA125などの免疫抑制性タンパク質を発現し、その腫瘍微小環境を免疫抑制させるがんを有する患者は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤単独で、又は標準治療と組み合わせて治療され得る。免疫抑制性微小環境を有する対象を治療する方法のいくつかの実施形態では、CA125を発現することが知られているメソテリン発現がんが本明細書に記載される。MES-ADC又はMES-BSP薬剤は、対象が正常範囲を超えるベースラインCA125レベルを有する場合に対象に投与される。本明細書に記載のCA125発現がんを有する対象を治療する方法のいくつかの実施形態では、方法は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤を単独で投与することを含む。更に別の実施形態では、MES-ADC又はMES-BSP薬剤は、化学療法と組み合わせて投与される。化学療法は、対象が治療される時点で標準治療とみなされる任意の化学療法剤又は生物学的薬剤であり得る。本明細書に記載の治療方法において、CA125発現レベルは、当該技術分野で既知の任意の手段によって決定され得、当該技術分野で正常範囲内又はそれを上回ると定義され得る。
【0120】
他の実施形態では、患者は、rMES-1検出抗体を用いてメソテリン発現がんを有することが同定され、rMESによって陽性に結合された患者は、免疫抑制性微小環境及び免疫能のある微小環境の両方において、MES-ADC又はMES-BSPが有効であることから、腫瘍微小環境免疫状態を判定することなく、MES-ADC又はMES-BSP薬剤で治療される。本明細書に記載のメソテリン発現がんを有する対象を治療する方法のいくつかの実施形態では、方法は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤を単独で投与することを含む。更に別の実施形態では、MES-ADC又はMES-BSP薬剤は、化学療法と組み合わせて投与される。化学療法は、対象が治療される時点で標準治療とみなされる任意の化学療法剤又は生物学的薬剤であり得る。
【0121】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、メソテリンを発現することが知られている例示的ながんとしては、中皮腫、肺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、胆管がん、胃がん、乳がん、及び膵臓がんが挙げられるが、これらに限定されない。これらの多くは、CA125を産生することが報告されている。
【0122】
本発明の方法は、外科手術(例えば、減量手術)、放射線、標的療法、化学療法、免疫療法、増殖因子阻害剤の使用、又は抗血管新生因子などの他の治療手段と組み合わせることができる。MES-ADC又はMES-BSP薬剤は、手術、化学療法、又は放射線療法の治療を受けている患者に同時に投与することができる。あるいは、患者は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤の投与前又は投与後の少なくとも1時間から最大数ヶ月まで、標準治療の投与の前又は後に、手術、化学療法、又は放射線療法を受けることができる。本明細書に提供される治療方法のいくつかの実施形態は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤に加えて、腫瘍特異的抗原又は免疫チェックポイントタンパク質に対する抗体と共に又はそれなしで、治療上有効量の白金ベースの化学療法及び/又は葉酸代謝拮抗剤及び/又はPARP阻害剤を対象に投与することを含む。
【0123】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、対象は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤を投与する前に、がんの治療のために、腫瘍の第一選択外科的切除、第一選択白金ベース療法、第一選択葉酸代謝拮抗剤ベース療法、第一選択白金及び葉酸代謝拮抗剤ベース療法、PARP阻害剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を投与されていてもよい。
【0124】
本明細書に記載の治療方法による治療薬(MES-ADC又はMES-BSP薬剤、葉酸代謝拮抗剤、白金ベースの化学療法、PARP阻害剤及び/又は免疫チェックポイント阻害剤を含む)の投与は、当該技術分野で既知の任意の手段によるものであり得る。
【0125】
更に別の実施形態では、標準的な抗体フォーマット以外の、IMGT(登録商標)(international ImMunoGeneTics information system(登録商標))に従って番号付けされた配列番号7~12内に含まれるCDR配列を含むMES-ADC又はMES-BSP薬剤を使用してもよい。これらの修飾されたMES-ADC又はMES-BSP薬剤の投与は、任意の追加の標準治療の投与の前、それと同時、又はその後であり得る。治療は、手術、及び治療時に使用される現在の標準治療による治療を含むことができる。
【0126】
必要に応じて、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路を含む、様々な送達系を使用して治療薬(MES-ADC又はMES-BSP薬剤を含む)を投与することができる。薬剤は、例えば、注入又はボーラス注射によって、全身的又は局所的アプローチを介して、上皮又は粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸、及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与され得る。
【0127】
治療薬は、注射器、カテーテル、坐剤、又は任意の移植可能なマトリックス若しくはデバイスを介した注射によって投与することができる。
【0128】
本明細書に記載される使用のための治療薬及びその薬学的組成物は、カプセル、錠剤、水性懸濁液、溶液などの任意の許容可能な剤形で経口投与することができる。
【0129】
治療薬の好適な投与方法には、効果的な治療に好適な最終濃度での静脈内注射及び腹腔内投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
他の薬物と組み合わせたMES-ADC又はMES-BSP薬剤は、治療上又は予防上有効量の治療剤(複数可)及び1つ又は複数の薬学的に許容される又は適合性のある成分を含む医薬組成物として投与することができる。
【0131】
がんの治療又は予防に有効な治療薬の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。更に、インビトロアッセイを任意選択で用いて、MES-ADC又はMES-BSP薬剤に必要な最適な投与量範囲を同定するのを助けることができる。有効量は、インビトロ細胞ベースアッセイ、動物モデル又は他の非ヒト試験システムから得られたMES-ADC又はMES-BSP薬剤の用量応答曲線から推定することができる。
【0132】
例えば、薬剤の毒性及び治療効果は、LD50(集団の50%に対する致死用量)及びED50(集団の50%で治療上有効な用量)値を決定するための標準的な薬学的手順によって、細胞培養又は実験動物で決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療指数又は治療域であり、LD50/ED50比として表すことができる。大きな治療指数を示す薬剤が好適である。薬剤が毒性の副作用を示す場合、影響を受けた組織の部位に薬剤を標的とする送達系を使用して、非メソテリン発現細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それによって副作用を低減することができる。あるいは、必要に応じて、これらに限定されないが、リポソーム封入などの製剤を使用して、治療指数を改善することができる。
【0133】
投薬及び投薬スケジュールは、対象の必要性に依存し得る活性薬物濃度に応じて変化し得る。
【0134】
別の実施形態は、MES-ADC又はMES-BSP薬剤による治療中又は治療後に、インビトロ又はインサイチュでメソテリン発現腫瘍細胞の状態を検出及び/又は監視する診断用途のために、CA125発現又は非発現腫瘍におけるメソテリン発現細胞を検出するためのrMES-1検出抗体を標識する。標識は、当該技術分野で公知の診断的監視用の抗体を標識するために使用される任意の方法であり得る。
【0135】
MES-ADC及びMES-BSPの活性を最適化するためのキットの構成
免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現腫瘍を殺傷するのに適した最適化されたMES-ADC及びMES-BSP薬剤を作製するためのキットが、本明細書で更に提供される。
【0136】
キットは、微小環境免疫状態にかかわらず、2つ以上のタイプのメソテリン発現細胞又は腫瘍を殺傷することができる配列番号1及び2からなる抗体に結合した細胞毒を含有するMES-ADC薬剤を含んでもよく、細胞毒は、100μM以下のIC50を有するトポイソメラーゼ阻害活性を有する。
【0137】
キットは、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現細胞又は腫瘍を殺傷することができる抗CD3一本鎖(配列番号6)に結合した配列番号7~12を有する抗体又は抗体断片を含有するMES-BSP薬剤を含んでもよく、抗メソテリン抗体と抗CD3抗体との間の連結は、最適化されたスペーサーを介したものであり、メソテリン発現細胞を100μg/mL以下のIC50で殺傷する。
【0138】
上記の開示は、本発明を広義に記述するものである。本明細書中に開示される全ての参考文献は、参照により明示的に組み込まれる。以下の具体的な実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができるが、これらの実施例は、例示のみを目的として本明細書に提供されるのであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0139】
実施例1-免疫抑制性腫瘍産生タンパク質に対して天然に不応性である抗メソテリン抗体のスクリーニング
いくつかの研究では、CA125によって結合される抗体が、標的細胞の体液媒介性免疫殺傷及びADC媒介性殺傷の誘発において負の影響を受けることが報告されている(Kline JB,et.al.OncoTarget 8:52045-52060,2017;Kline JB,et al.Eur J Immunol 48:1872-1882,2018;Kline JB,et al.J Clin Oncol 5:15,2018;Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018;Nicolaides et.al.米国特許出願第1698444号)。CA125によって天然に結合されない抗メソテリン抗体を同定するために、本発明者らは、学術的及び商業的供給源(米国国立がん研究所、Creative Biolabs、Novusなど)からいくつかの抗メソテリン抗体を入手し、CA125結合性について試験した。図1は、CA125による異なる抗メソテリン抗体の結合についてスクリーニングするための酵素結合免疫アッセイ(ELISA)の代表的な結果を示す。組換えメソテリンを陽性対照として使用し、ヒト血清アルブミン(HSA)を陰性対照として使用した。簡単に説明すると、96ウェルプレートを、50μL/ウェルの15KU/mLのヒトCA125タンパク質、1μg/mLのメソテリン、又は1μg/mLのHSA(0.05Mの炭酸緩衝液(pH9.5)中)で、4℃で一晩、コーティングした。翌日、プレートを125μLの0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗浄し、次いで、0.05Mのリン酸緩衝液中、5%ウシ血清アルブミンで室温で1時間ブロッキングした。次いで、ウェルを125μLの0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗浄し、2.5μg/mLの様々な抗メソテリン抗体(meso-Ab1~meso-Ab5)でプローブした。図1に示すように、いくつかの抗メソテリン抗体はCA125によって結合されたが、MES-1抗体(配列番号1及び配列番号2)から構成されるmeso-Ab3(レーン3)は予想に反して結合されなかった。全ての抗体が同様の値でメソテリンタンパク質に結合したが、HSA陰性対照に結合した抗体はなかった。これらの結果により、MES-1が天然に存在するCA125不応性結合抗体として同定され、そのような抗体がそのような免疫抑制因子を産生するがん細胞又は腫瘍の治療のために利用されることが示唆される。CA125結合が、MES-1(図1AのAb-3)の内在化に、CA125によって結合される抗メソテリン抗体Ab-4と比べて異なる影響を及ぼした(図1A)ことを確認するために、本発明者らは、膜結合型CA125を天然に過剰発現するメソテリン発現OVCAR3細胞(Kline JB,et.al.OncoTarget 8:52045-52060,2017)と、比較のために同質遺伝子細胞を作製するためのKline et al.の報告と同様の戦略を使用して作出されたshRNAによるOVCAR3 CA125ノックダウン株(OVCAR-KOと称される)とを用いて、内在化アッセイを実施した。両抗体を、pH感受性pHrodo蛍光色素システムを製造元のプロトコル(ThermoFisher,thermofisher.com/adcdiscovery)に従って使用して、蛍光標識した。次いで、抗体を96ウェルマイクロプレート中、反復実験で、OVCAR3又はOVCAR-KO細胞と共に24時間にわたってインキュベートし、Varioskan(商標)プレートリーダー(ThermoFisher)を使用して蛍光により細胞取り込みについて定量した。図1Bに示されるように、MES-1 Ab(Ab-3)は、Ab-4とは対照的に、CA125発現OVCAR3及びCA125ノックダウンOVCAR-KO細胞の両方において効率的に取り込まれた。これによりMES-1抗体をコードする配列が天然にCA125不応性であるという予想外の知見が支持され、本明細書に教示される方法を使用してCA125発現腫瘍細胞を治療するための抗体ADC成分として適格であるものとされた。
【0140】
実施例2-免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現がん細胞を殺傷することができる抗メソテリン抗体薬物コンジュゲート(ADC)の作製
MES-1が、CA125、及びメソテリン発現腫瘍細胞によって産生される潜在的な他の免疫抑制性タンパク質の免疫抑制効果に対して不応性であるかどうかを決定するために、本発明者らは、MES-1をADCフォーマットに構成し、CA125を発現する免疫抑制性メソテリン発現がん細胞の殺傷におけるその有効性を試験した。ここでは、MES-1及びMES-ADC組成物の生化学分析と、免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現腫瘍細胞を効果的に殺傷するために必要とされる様々なフォーマットのMES-ADCの効力の例が提供される。本発明者らは、免疫抑制性標的細胞の殺傷を最大化するための、特定のペイロード及び特定のリンカータイプに結合したCA125非結合抗メソテリン抗体(配列番号1及び配列番号2)の使用を提供する。上述したように、Nicolaidesら(Cancer Biol Ther 19:622-630,2018;Nicolaides et.al.米国特許出願第16/981,444号)により、CA125が抗メソテリン抗体アマツキシマブに結合すると体液性免疫機能が抑制されると共に、CA125によって結合されないものと比較して、腫瘍取り込みが減少したため、CA125によって結合される標的抗原に対するADCによるADC殺傷が低下することが報告されている。ADCフォーマットのMES-1抗体が免疫能のある及び免疫抑制性微小環境を有する腫瘍に対して有し得る最大効力を決定するために、本発明者らは、様々な細胞傷害性ペイロード及び様々なリンカーの組み合わせに結合したいくつかのMES-1ベースADCを、インビトロで、次いでヒト腫瘍異種移植片において、試験した。これらのADCを作製するために、本発明者らは最初に、均質なMES-1タンパク質を産生する系において組換えMES-1を作製する必要があった。組換えMES-1産生には、以前からこの系を使用して多量の均質な抗体が産生されてきたことから組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用した。MES-1軽鎖(配列番号4)及びMES-1重鎖(配列番号5)をコードするcDNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって合成し、PCR断片を、2つのCMV駆動発現クローニングカセット及びグルタミンシンテターゼ(GS)遺伝子カセットを有するpXCベクター(本明細書ではpNAV0047と称される)にクローニングした。安定な組換え融合タンパク質産生細胞株を作製するために、ノックアウト内在性GS遺伝子を含有するCHOK1SV-GSKO細胞を6×10細胞/mLで、6mMのL-グルタミンを添加したCD-CHO培地(Irving Scientific)中、37℃、5%COで一晩培養した。翌日、2.0×10個の細胞を20μgの発現プラスミドpNAV0047と共に再懸濁し、CD-CHO培地中総容量700μLとし、0.4cmのエレクトロポレーションキュベットに移し、BioRad GenePulser IIを使用して300V/900μFでエレクトロポレーションした。細胞を直ちに、6mMのL-グルタミンを添加した30mLのCD-CHO培地を含有するフラスコに移し、37℃、5%COで一晩、振盪プラットフォームインキュベーター中でインキュベートした。翌日、細胞を回収し、50μMのMSXを含有する30mLのCD-CHO/SP4培地に再懸濁して、2週間の選択期間をかけて高力価の産生クローンを選択した。次いで、選択されたプールを限界希釈によってサブクローニングし、確立されたクローンを組換えMES-1抗体産生について試験した。生産的サブクローン(1mg/mL超を発現する)を増殖させ、抗体産生及び品質について分析した(ELISAによる標的抗原結合及びSEC-HPLCによるタンパク質均質性)。次いで、最良品質のクローンを増殖させ、PBS緩衝液中で透析した後、プロテインAカラムアフィニティークロマトグラフィを使用して抗体を培養培地から精製した。抗体を、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC-HPLC)及び抗原結合によって、定量し、均質性について分析した。図3Aに示されるように、MES-1産生株は、高品質で均質な抗体を産生することができ、ADC作製に使用した。
【0141】
ここでは、免疫抑制性及び免疫能のある標的がん細胞に対して等しく効果的に作用する有効な細胞毒-リンカーの組み合わせについてのスクリーニングについて記載する。この基準を満たす最良の候補を同定するために、まず、DNAアルキル化剤、微小管阻害剤、及びトポイソメラーゼ阻害剤を含む様々なクラスの細胞毒を試験した(図2A)。加えて、異なるリンカー(切断可能と切断不可能)の組み合わせも使用して、それらが有効性に影響を及ぼすかどうかを判定した(図2B)。それらの有効性を試験するために、いくつかのメソテリン発現腫瘍細胞株(そのサブセットも免疫抑制性CA125タンパク質を共発現する)を使用した。これらの細胞株を表1に列挙する。
【0142】
(表1)MES-ADC殺傷について試験した細胞株
【0143】
本発明者らのスクリーニングにおいて同定された最も強力な細胞毒は、アウリスタチン微小管阻害剤MMAE(平均EC50 1.39ng/mL)(Li C,et.al.mAbs 12:1699768,2020)、2つのトポイソメラーゼ阻害剤SN38(平均EC50 2.44ng/mL)(Meyer-Losic F,et.al.Clin Cancer Res 14:2145-2155,2008)及びPNU159682(平均EC50 0.014ng/mL)(本明細書ではPNUと称される)(Quintieri L,et.al.Clin Cancer Res 11:1608-1617,2005;Carlson RH.Oncol Times 38:8-10,2016)であった(図2C)。これらの結果に基づいて、本発明者らは次に、標準的な切断可能リンカーを使用してリード細胞毒をADCフォーマットに組み込み、それらを表1に示す腫瘍細胞株パネルに対して再試験した。これまでの報告では、薬物:抗体比(DAR)がADC標的細胞殺傷にとって重要な特徴であることが示されているが、それは、部分的還元及び遊離システインへの化学的連結を使用する場合、製造時の制御が困難な場合があるパラメータでもある(Farras M,et.al.Mabs.12:1702262,2020)。SN38-MES-ADC及びPNU-MES-ADCの概略図を図3Bに提供する。多くの場合、DARの再現性の制御は、出発抗体の構造及び純度に固有のものである。図3Aに示されるように、本発明者らの製造システムによるMES-1抗体の精製は、本発明者らが均質な出発抗体を作製することを可能にし、部分的に変性させると、DARが2~4又は4~6のADCが規定どおりに作製された(図3C)。切断可能リンカーを使用する予備的なMES-ADCの細胞殺傷アッセイは、SN38-及びPNU-MES-ADCが、撹乱されていない細胞取り込みにおそらく起因して、CA125状態に関係なく、全てのメソテリン発現株の最も強力な標的指向性殺傷効果を示し、メソテリンを発現しない株は影響を受けなかったことを見出した(図4A)。PNU-MES-ADCが最も強力な殺傷活性を示したので、次に、切断可能フォーマット(MA-PEG4-VC-PAB-DMAE)及び酵素的切断不可能フォーマット(MC-EDA)でPNU-MES-ADCを試験し、予想に反して、切断可能フォーマットが酵素的切断不可能フォーマットよりもほぼ100倍強力であることが見出された(図4B)。
【0144】
リードMES-ADC薬剤のインビボでの効力を決定するために、本発明者らは次に、メソテリン及びCA125発現腫瘍細胞株NCI-N87及びSW1990を使用したマウス異種移植モデルと、CA125発現と非発現のメソテリン発現腫瘍を有する患者由来腫瘍異種移植片(PDX)において、SN38-MES-ADCとPNU-MES-ADCの切断可能及び酵素的切断不可能フォーマットの治療有効性を試験した。異種移植片及びPDX腫瘍におけるメソテリン及びCA125発現を確認するために、本発明者らは、ウサギIgG骨格上に配列番号7~12を含有するrMES-1検出抗体及び市販の抗CA125抗体をそれぞれ使用して、免疫組織化学(IHC)を介して異種移植片由来断片を試験した(図4C)。簡単に説明すると、5μMのパラフィン包埋腫瘍断片の切片を切り出し、次いでスライドガラスに接着させた。切片を脱パラフィン処理し、沸騰した10mMのクエン酸ナトリウム(pH6.0)中で10分間、抗原賦活化のために調製し、次いでリン酸緩衝生理食塩水-0.05%tween-20(PBS-T)で平衡化した。次いで、0.3%のペルオキシダーゼ/メタノールを10分間使用して内因性ペルオキシダーゼ活性について切片をクエンチし、PBS-T中の10%ヤギ血清中で1時間ブロッキングした。次に、スライドをPBS-Tですすぎ、ブロッキング緩衝液で希釈した3mg/mLの各一次抗体を用いてrMES-1又はウサギ抗CA125(Novus)を介してメソテリンについて1.5時間プローブし、続いて洗浄し、二次ブロッキングを1時間行い、5μg/mLの抗ウサギ-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体で1時間プローブした。対照スライドを、一次抗体なしでインキュベートした。スライドをPBS-Tで洗浄し、次いで、eBioscience(商標)DABアドバンスト発色基質を製造元(ThermoScientific)の推奨どおりに使用して曝露した。最後に、試料をヘマトキシリン対比染色し、カバーガラスをかけ、光学顕微鏡下で抗原発現について分析した。NCI-N87及びSW1990異種移植腫瘍は両方とも、メソテリン及びCA125を共発現することが見出されたが(図示せず)、非小細胞肺腺がんPDX #LXFA983及び中皮腫PDX #PXF1118では、等しいレベルのメソテリンの発現が見られ、PDX #PXF118のみがCA125陽性を示した(図4C、上パネル)。次いで、本発明者らは、これらの株を、マウスCDX(細胞株由来異種移植片)及びPDX(患者由来異種移植片)インビボアッセイにおいて使用した。
【0145】
SW1990膵臓がんCDXモデルでは、1×10個の腫瘍細胞を複数の無胸腺ヌードマウスの側腹部に注射した。確立された腫瘍(136~154mm)を有するマウスを無作為化し、移植後8日目、9日目、及び10日目に、10mg/kg若しくは20mg/kgのいずれかでSN38-MES-ADCを、又はPBSを静脈内投与した。SN38-MES-ADC処置は、39日目に、それぞれ10mg/kg又は20mg/kgで、ビヒクル処置群に対して腫瘍増殖を25%又は53%減少させ、その差は統計的に有意であった(10mg/kgでP≦0.049;20mg/kgでP≦0.0003)(図4D、上パネル)。
【0146】
NCI-N87胃がんCDXモデルでは、1×10個の腫瘍細胞を複数のSCIDマウスの側腹部に注射した。確立された腫瘍(126mm)を有するマウスを無作為化し、以下に示すように静脈内投与した。酵素的切断可能フォーマットのPNU-MES-ADCを、無作為化後1日目、8日目、15日目、25日目、32日目、及び44日目に0.25mg/kg又は0.5mg/kgで投与した。PNU-MES-ADC切断可能フォーマット処置は、0.5mg/kgで腫瘍増殖を45%減少させ、その差は統計的に有意であった(p≦0.050)(図4D、下パネル)。同じNCI-N87胃がんCDXモデルにおいて、確立された腫瘍(126mm)を有するマウスを無作為化し、無作為化後1日目、3日目、5日目、7日目、9日目、11日目、13日目、15日目に20mg/kgでSN38-MES-ADC、PNU-MES-ADC酵素的切断不可能フォーマット(1日目に0.625mg/kg、5日目に1.25mg/kg、9日目に2.5mg/kg、13日目に5mg/kg)、又はPBSのいずれかを静脈内投与した。SN38-MES-ADC処置は、腫瘍増殖を48%減少させ、その差は、統計的に有意であった(p≦0.011)(図示せず)。PNU-MES-ADC酵素的切断不可能フォーマット処置は、腫瘍増殖を36%減少させ、その差は、酵素的切断可能フォーマットを有するPNU-MES-ADCよりも効果が弱いものではあったが、統計的に有意であった(p≦0.033)。
【0147】
LXFA983 NSCLC PDXモデルでは、腫瘍断片を複数の無胸腺ヌードマウスの側腹部に移植した。確立された腫瘍(128mm)を有するマウスを無作為化し、無作為化後1日目、4日目、8日目、12日目、及び16日目に、0.625mg/kg(1日目、4日目、及び8日目)又は0.4mg/kg(12日目及び16日目)で、PNU-MES-ADC切断可能フォーマット又はPBSのいずれかを静脈内投与した。PNU-MES-ADC切断可能フォーマットは、統計的に有意な(p≦0.0003)著しい腫瘍退縮を誘導した(図4E、上パネル)。
【0148】
PXF1118メソテリンPDXモデルでは、腫瘍断片を複数の無胸腺ヌードマウスの側腹部に移植した。確立された腫瘍(117~124mm)を有するマウスを無作為化し、無作為化後1日目、4日目、8日目、12日目、16日目、及び20日目に、0.625mg/kg(1日目、4日目、及び8日目)又は0.4mg/kg(12日目、16日目、及び20日目)で、PNU-MES-ADC切断可能フォーマット又はPBSのいずれかを静脈内投与した。PNU-MES-ADC切断可能フォーマットは、統計的に有意な(p≦0.012)著しい腫瘍退縮を誘導した(図4E、下パネル)。
【0149】
PNU-MES-ADCの減量投与及び単回投与の有効性を更に判定するために、上記のモデルデザインにおいてCA125発現PXF1118 PDX株を用いて反復インビボ実験を行った。簡単に説明すると、無胸腺ヌードマウスを上記のように調製し、確立された腫瘍が確認されたら、それぞれ6匹のマウスからなる4つの群に分けた。その後、マウスは1日目、8日目、及び15日目に、PBS、0.25mg/kgのPNU-MES-ADC、若しくは30μg/kgの遊離型PNU159682(0.25mg/kgのPNU-MES-ADC投与時と同等の毒素量)で、又は1日目に0.75mg/kgのPNU-MES-ADCで1回、処置された。腫瘍応答及び健康状態について、マウスを50日を超えて追跡調査した。49日目に図5に示されるように、0.75mg/kgでの切断可能フォーマットのMES-ADCの単回投与は、確立された腫瘍増殖を有意に減少させ(P≦0.0061)、PBS又は遊離型PNU159682(PN-遊離型)処置マウスとは対照的に、0.25mg/kgでのPNU-MES-ADCの3回の週1投与と同様の持続的応答を維持するのに十分であり、このフォーマット及び組成物が、CA125発現の有無にかかわらずメソテリン発現腫瘍の処置に対して有効であることが実証された。薬物処置は、全ての群で良好な忍容性を示した。
【0150】
これらのデータは、切断可能フォーマットのPNU-MES-ADC及びSN38-MES-ADCを含有する物質の組成が、免疫抑制性及び免疫能のある腫瘍微小環境を有する腫瘍を効果的に殺傷することができるという教示を支持する。MMAE微小管阻害剤などの他のペイロード又は酵素的切断不可能MC-EDAなどのリンカーがあまり有効でないという知見は、腫瘍標的化ADCの一般的な使用が、腫瘍免疫抑制を単純に克服できないことを教示しており、むしろ、1)CA125などの免疫抑制因子によって結合されない抗体に関する能動的スクリーニングと、2)最適なペイロードの細胞傷害性に関するスクリーニングと、3)最適なリンカーに関するスクリーニングが、本明細書で教示される発明に記載されるように、免疫抑制性及び免疫能のある腫瘍を処置することができる強力かつ効果的なADC薬剤の開発に求められている。
【0151】
実施例3-免疫抑制性及び免疫能のあるメソテリン発現がん細胞を殺傷することができる抗メソテリン二重特異性抗体(MES-BSP)の作製
腫瘍細胞を標的とする抗体の使用は、典型的には、腫瘍細胞増殖を抑制するためのサイトカイン受容体へのサイトカイン結合の遮断、並びに/又はADCC、CDC、及び/若しくは免疫エフェクター細胞のオプソニン化を介した体液媒介性免疫殺傷の使用を含んでいた。上記のように、腫瘍産生CA125タンパク質、更には他の腫瘍産生タンパク質(後者はN.C.N、J.B.K.L.Gの個人的見解)は、標的細胞の体液媒介性抗体殺傷を抑制する能力を有する。免疫抑制性タンパク質の結合に対して天然に不応性である抗体を使用すると、そのようなタンパク質の存在下であっても、腫瘍細胞殺傷が可能になる。実施例1に記載したように、CA125結合を回避する能力について抗メソテリン抗体をスクリーニングすることによって、MES-1抗体を同定した。MES-1の免疫媒介性殺傷を増強するために、本発明者らは、BSP抗体腫瘍細胞殺傷にとって重要な特徴である、標的細胞の近位表面へのCD3細胞傷害性T細胞の動員と、その後のT細胞活性化を介した免疫媒介性殺傷を利用できる可能性があるようにMES-1を操作した(Staerz UD,et al.Nature 314;628-631,1985)。本発明者らは、本明細書において、腫瘍微小環境免疫状態にかかわらず改善された免疫媒介性腫瘍細胞殺傷をもたらす、Tリンパ球上に発現される細胞表面抗原に結合することができる第2の抗体と遺伝的に融合したCA125非結合抗メソテリン抗体の使用を教示する。一例として、MES-1抗体に融合した、T細胞上のCD3抗原に結合することができる一本鎖抗体の使用を実証する。実施例2で説明されるように、Nicolaides et.al.(Cancer Biol Ther 19:622-630,2018)は、抗メソテリン抗体アマツキシマブへのCA125結合が、抑制された体液性免疫機能をもたらすことをすでに示している。BSPフォーマットのMES-1抗体が免疫能のある及び免疫抑制性微小環境を有する腫瘍に対して有し得る最大効力を決定するために、本発明者らは、抗CD3一本鎖抗体(配列番号6)をMES-1軽鎖(配列番号1)又は重鎖(配列番号2)に連結するいくつかのMES-BSPフォーマットを検討し、配列番号3に示されるアミノ酸リンカーGGGSを用いてMES-1軽鎖のN末端に融合したCD3一本鎖と標準的なMES-1重鎖(配列番号2)とを用いて進めた。次いで、本発明者らは、以下に記載されるように組換えMES-BSP抗体を作製し、免疫能のある、及びCA125タンパク質によって免疫抑制されるがん細胞株に対するその活性を試験した。
【0152】
高品質のMES-BSPを作製するために、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を操作し、大規模生産用のMES-BSPを発現させた。CD3一本鎖抗体を、配列番号3に示されるアミノ酸GGGGSをコードする遺伝子リンカーを介して、MES-1軽鎖の成熟N末端ドメインの上流にクローニングした。MES-1軽鎖-CD3一本鎖融合cDNA及びMES-1重鎖cDNAを、2つのCMV駆動発現カセット及びグルタミンシンターゼ(GS)遺伝子カセットを有するpXCベクター(本明細書ではpNAV0071と称される)にクローニングした。安定な組換え融合タンパク質産生細胞株を作製するために、ノックアウト内在性GS遺伝子を含有するCHOK1SV-GSKO細胞を、6×10細胞/mLで、6mMのL-グルタミンを添加したCD-CHO(Irving Scientific)中、37℃、5%COで一晩培養した。翌日、2.0×10個の細胞を20μgの発現プラスミドpNAV0071と共に再懸濁し、プレーンCD-CHO中総容量700μLとし、0.4cmのエレクトロポレーションキュベットに移し、BioRad GenePulser IIを使用して300V/900μFでエレクトロポレーションした。細胞を直ちに、6mMのL-グルタミンを添加した30mLの温かいCD-CHOを含有するフラスコに移し、37℃、5%COで一晩、振盪プラットフォームインキュベーター中でインキュベートした。翌日、細胞を回収し、選択のために50μMのMSXを含有する30mLのCD-CHO/SP4に再懸濁した。次いで、選択されたプールを限界希釈によってサブクローニングし、馴化培地を、抗ヒトFc-HRPをプローブとして使用するELISAを介して、確立されたクローンからの組換えMES-BSP抗体産生について試験した。生産的サブクローン(0.5mg/mL超を産生する)を増殖させ、抗体産生及び品質(標的抗原結合及びタンパク質均質性)について分析した。次いで、最良品質のクローンを増殖させ、プロテインAカラムアフィニティークロマトグラフィ及びPBS緩衝液中での透析を使用して、MES-BSP抗体を培養培地から精製した。次いで、MES-BSP抗体を定量し、SDS-PAGE分析を介して均質性について分析し、ELISAを介して抗原結合について分析した。次いで、高品質の調製物を、種々の腫瘍細胞株に対する効力について試験した。
【0153】
MES-BSPをまず、CA125タンパク質を天然に過剰発現するメソテリン発現免疫抑制性OVCAR3腫瘍細胞株及びヒトPBMCの存在下で、親MES-1抗体及び体液性免疫抑制meso-Ab-4抗体(Ab-4,レーン4,図1)と比較して、ADCCを介した体液性免疫殺傷について試験した。図6Aに示されるように、MES-BSPは、MES-1又はmeso-Ab-4と比較して、CA125産生OVCAR-3細胞株に対して有意に高い殺傷を示し、meso-Ab-4は殺傷活性を示さなかった。これは、meso-Ab-4のADCC活性が、OVCAR3CA125ノックダウンOVCAR-KO細胞株に対するMES-1の活性と同様であったので、CA125に起因するものと思われた(図6B)。このアッセイでは、Jurkat-CD16a ADCCレポーター細胞株を使用して、製造元(Promega Corp)の指示に従ってルシフェラーゼのリードアウトを介してADCC活性を監視した。同様の株が以前に発表され、親OVCAR細胞とは対照的に、CA125の影響を受けた抗体による抗体媒介性体液性応答が大幅に増強されることが示されている(Kline JB,et al.OncoTarget 8:52045-52060,2017;Nicolaides NC,et al.Cancer Biol Ther 13:1-22,2018)。最後に、メソテリン発現CA125陽性腫瘍細胞に対するMES-BSPのインビボ有効性を実証するために、本発明者らはヒト化PBMCマウスモデルを使用し、無胸腺ヌードマウスに、メソテリン及びCA125の両方を発現する中皮腫由来腫瘍細胞を移植した。腫瘍が確立したら、マウスにヒト末梢血単核細胞(PBMC)を移植し、続いてMES-BSP又は対照処置を行った。図7に示すように、MES-BSPは、腫瘍増殖を統計的に有意に抑制することができ、CA125免疫抑制性腫瘍微小環境におけるメソテリン発現細胞の処置に有用であることが確認された。ここで、CA125が結合することができる免疫媒介性殺傷を用いて、CA125が抗体の有効性に対して有意な影響を及ぼし得ることが教示される。更に、本発明者らは、抗メソテリンBSP抗体が免疫抑制性腫瘍細胞を効果的に殺傷することができる組成物を提供する。
【0154】
(表2)配列の特定(全ての配列はNからC末端)
下線は、抗メソテリン指向抗体における抗体CDRを示す。
下線イタリック体は、抗CD3指向抗体におけるCDRを示す。
太字は、軽鎖又は重鎖定常領域を表す。
太字イタリック体は、CD3単一軽鎖と重鎖との間、及びCD3単一鎖と抗メソテリン軽鎖融合体との間のスペーサーを表す。
【0155】
配列番号1(MES軽鎖)
【0156】
配列番号2(MES重鎖)
【0157】
配列番号3(MES-BSP:MES軽鎖に融合した一本鎖抗CD3)
【0158】
抗CD3 VHは第1のGGGGSリンカーの前にあり、抗CD3 VLは第1のリンカーと第2のリンカーとの間にあり、抗メソテリンVLは第2のリンカーの後にある。
【0159】
修飾されたリーダー配列に下線を付した配列番号4(MES-BSP:MES軽鎖に融合した一本鎖抗CD3)
【0160】
修飾されたリーダー配列に下線を付した配列番号5(MES重鎖)
【0161】
配列番号6[抗CD3 HC及びLC一本鎖]
【0162】
配列番号7
【0163】
配列番号8
【0164】
配列番号9
【0165】
配列番号10
【0166】
配列番号11
【0167】
配列番号12
【0168】
配列番号13
【0169】
配列番号14
【0170】
配列番号15
【0171】
配列番号16
【0172】
配列番号17
【0173】
配列番号18
【0174】
修飾されたリーダー配列に下線を付した配列番号19[MES軽鎖cDNA]
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図7
【配列表】
2023546791000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7~12に示されるアミノ酸を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗メソテリン抗体と、トポイソメラーゼ阻害剤とを含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項2】
前記抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のADC。
【請求項3】
前記抗体が、前記トポイソメラーゼ阻害剤に共有結合している、請求項1または2に記載のADC。
【請求項4】
前記抗体が、切断可能リンカーを介してトポイソメラーゼ阻害剤に結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載のADC。
【請求項5】
リポソームに封入されている、請求項4に記載のADC。
【請求項6】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,4S)-2,5,12-トリヒドロキシ-7-メトキシ-4-{[(1S,3R,4aS,9S,9aR,10aS)-9-メトキシ-1-メチルオクタヒドロ-1H-ピラノ[4’,3’:4,5][1,3]オキサゾロ[2,3-c][1,4]オキサジン-3-イル]オキシ}-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-カルボン酸(PNU159682)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のADC。
【請求項7】
PNU159682が、リンカーであるマレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンゾイルオキシカルボニル(MA-PEG4-VC-PAB-DMAE)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項6に記載のADC。
【請求項8】
前記リンカーが、前記抗メソテリン抗体中のシステインに結合している、請求項7に記載のADC。
【請求項9】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,3S,4S,5R,6S)-6-[[(19S)-10,19-ジエチル-19-ヒドロキシ-14,18-ジオキソ-17-オキサ-3,13-ジアザペンタシクロ[11.8.0.02,11.04,9.015,20]ヘンイコサ-1(21),2,4(9),5,7,10,15(20)-ヘプタエン-7-イル]オキシ]-3,4,5-トリヒドロキシオキサン-2-カルボン酸(SN38)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のADC。
【請求項10】
SN38が、リンカーであるメチル(2S,3S,4S,5R,6S)-3,4,5-トリアセチルオキシ-6-[2-アミノ-4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ]オキサン-2-カルボキシレート(MAC-グルクロニド)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項に記載のADC。
【請求項11】
SN38が、リンカーであるPEG8トリアゾール-PABC-ペプチド-MCを介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、請求項に記載のADC。
【請求項12】
SN38が、前記抗メソテリン抗体中のシステインに共有結合している、請求項に記載のADC。
【請求項13】
前記ADCの薬物:抗体比(DARが2以上6以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載のADC。
【請求項14】
配列番号7~12のアミノ酸配列を含むメソテリン結合部分と、細胞表面抗原CD3結合部分とを含む、二重特異性抗体(BSP)。
【請求項15】
前記細胞表面抗原CD3結合部分が、配列番号13~18のCDRアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
配列番号6のアミノ酸配列を含むヒト細胞表面抗原CD3を認識する一本鎖抗体に融合された、配列番号1のアミノ酸配列を含む抗メソテリン抗体の軽鎖
を含む、請求項14または15に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
前記抗メソテリン抗体の軽鎖が、アミノ酸GGGGS(配列番号20)の1つ以上の単位を含むスペーサー単位によって前記CD3一本鎖抗体に結合している、請求項16に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする、核酸ベクター。
【請求項19】
配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、請求項18に記載の核酸ベクター。
【請求項20】
請求項14~17のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸を含む、安定な細胞株。
【請求項21】
前記1つ以上の核酸が、配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、請求項20に記載の安定な細胞株。
【請求項22】
メソテリン発現腫瘍を有するがん患者を治療するための薬学的組成物であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を含む、薬学的組成物
【請求項23】
患者においてメソテリン発現がんを治療するための薬学的組成物であって、請求項14~17のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を含む、薬学的組成物
【請求項24】
前記がんが、中皮腫、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃腸がん、子宮内膜がん、胆管がん、及び膵臓がんからなる群から選択される、請求項22または23に記載の薬学的組成物
【請求項25】
前記患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する、請求項22~24のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項26】
前記薬学的組成物が、複数の患者に投与され、前記複数の患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者と、正常レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者とを含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項27】
前記患者からの身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含む抗体と接触させることによって、前記患者が、前記患者の前記がんにおいてメソテリンエピトープを有すると同定されている、請求項22~26のいずれか一項に記載の薬学的組成物
【請求項28】
メソテリン発現がんを有する患者の身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含むCDRを含む抗体と接触させ、それによって、前記患者の前記がんにおいてメソテリンエピトープを検出することにより、前記患者を試験する方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
本明細書を読めば当業者に明らかとなる本発明のこれら及び他の態様は、腫瘍微小環境の免疫状態にかかわらず、メソテリン発現がんを有する患者における治療応答を改善するのに使用するための方法、組成物、及びキットを提供するものである。CA125阻害に関するMES-ADC及び/又はMES-BSP薬剤の不応性は、この治療の改善に寄与している。
[本発明1001]
配列番号7~12に示されるアミノ酸を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗メソテリン抗体と、トポイソメラーゼ阻害剤とを含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)。
[本発明1002]
前記抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、本発明1001のADC。
[本発明1003]
前記抗体が、前記トポイソメラーゼ阻害剤に共有結合している、本発明1001のADC。
[本発明1004]
前記抗体が、切断可能リンカーを介してトポイソメラーゼ阻害剤に結合している、本発明1001のADC。
[本発明1005]
リポソームに封入されている、本発明1004のADC。
[本発明1006]
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,4S)-2,5,12-トリヒドロキシ-7-メトキシ-4-{[(1S,3R,4aS,9S,9aR,10aS)-9-メトキシ-1-メチルオクタヒドロ-1H-ピラノ[4’,3’:4,5][1,3]オキサゾロ[2,3-c][1,4]オキサジン-3-イル]オキシ}-6,11-ジオキソ-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロテトラセン-2-カルボン酸(PNU159682)である、本発明1003のADC。
[本発明1007]
PNU159682が、リンカーであるマレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンゾイルオキシカルボニル(MA-PEG4-VC-PAB-DMAE)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、本発明1006のADC。
[本発明1008]
前記リンカーが、前記抗メソテリン抗体中のシステインに結合している、本発明1007のADC。
[本発明1009]
前記抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、本発明1007のADC。
[本発明1010]
前記ADCのDARが2以上6以下である、本発明1009のADC。
[本発明1011]
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、(2S,3S,4S,5R,6S)-6-[[(19S)-10,19-ジエチル-19-ヒドロキシ-14,18-ジオキソ-17-オキサ-3,13-ジアザペンタシクロ[11.8.0.02,11.04,9.015,20]ヘンイコサ-1(21),2,4(9),5,7,10,15(20)-ヘプタエン-7-イル]オキシ]-3,4,5-トリヒドロキシオキサン-2-カルボン酸(SN38)である、本発明1007のADC。
[本発明1012]
SN38が、リンカーであるメチル(2S,3S,4S,5R,6S)-3,4,5-トリアセチルオキシ-6-[2-アミノ-4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ]オキサン-2-カルボキシレート(MAC-グルクロニド)を介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、本発明1011のADC。
[本発明1013]
SN38が、リンカーであるPEG8トリアゾール-PABC-ペプチド-MCを介して前記抗メソテリン抗体に共有結合している、本発明1011のADC。
[本発明1014]
SN38が、前記抗メソテリン抗体中のシステインに共有結合している、本発明1011のADC。
[本発明1015]
前記抗メソテリン抗体が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を含む、本発明1011のADC。
[本発明1016]
2以上6以下のDARを有する、本発明1015のADC。
[本発明1017]
メソテリン発現腫瘍を有するがん患者を治療する方法であって、
配列番号7~12に示されるアミノ酸を含む抗メソテリン抗体とトポイソメラーゼ阻害剤とを含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を、前記患者に投与すること
を含む、方法。
[本発明1018]
前記がんが、中皮腫、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃腸がん、子宮内膜がん、胆管がん、及び膵臓がんからなる群から選択される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記患者からの身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含む抗体と接触させることによって、前記患者においてメソテリンエピトープの存在を検出するステップ
を更に含む、本発明1017の方法。
[本発明1020]
前記患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する、本発明1017の方法。
[本発明1021]
二重特異性抗体を投与することによって複数の患者が治療され、前記複数の患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者と、正常レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者とを含む、本発明1017の方法。
[本発明1022]
配列番号7~12のアミノ酸配列を含むメソテリン結合部分と、細胞表面抗原CD3結合部分とを含む、二重特異性抗体(BSP)。
[本発明1023]
前記細胞表面抗原CD3結合部分が、配列番号13~18のCDRアミノ酸配列を含む、本発明1022の二重特異性抗体。
[本発明1024]
配列番号6のアミノ酸配列を含むヒト細胞表面抗原CD3を認識する一本鎖抗体に融合された、配列番号1のアミノ酸配列を含む抗メソテリン抗体の軽鎖
を含む、本発明1022の二重特異性抗体。
[本発明1025]
前記二重特異性抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む抗メソテリン抗体の軽鎖を含み、前記軽鎖が、アミノ酸GGGGS(配列番号20)の1つ以上の単位を含むスペーサー単位によって前記CD3一本鎖抗体に結合している、本発明1022の二重特異性抗体。
[本発明1026]
本発明1022の二重特異性抗体をコードする、核酸ベクター。
[本発明1027]
配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、本発明1026の核酸ベクター。
[本発明1028]
本発明1022の二重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸を含む、安定な細胞株。
[本発明1029]
前記1つ以上の核酸が、配列番号4及び配列番号5の核酸配列を含む、本発明1028の安定な細胞株。
[本発明1030]
患者においてメソテリン発現がんを治療するための方法であって、
本発明1022の二重特異性抗体を前記患者に投与し、それによって前記メソテリン発現がんを治療すること
を含む、方法。
[本発明1031]
前記メソテリン発現がんが、中皮腫、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、胃腸がん、子宮内膜がん、胆管がん、及び膵臓がんからなる群から選択される、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記患者の身体試料を、配列番号7~12のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)を含む抗体と接触させ、それによって、前記患者の前記がんにおいてメソテリンエピトープを検出することにより、前記患者を試験するステップ
を更に含む、本発明1030の方法。
[本発明1033]
前記二重特異性抗体を投与することによって複数の患者が治療され、前記複数の患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者と、正常レベルのCA125を有する少なくとも1人の患者とを含む、本発明1030の方法。
[本発明1034]
前記患者が、健康なヒトの集団と比較して高レベルのCA125を有する、本発明1030の方法。
【国際調査報告】