(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】湾曲積層グレージングの獲得方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20231031BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20231031BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C03C27/12 L
C03C27/12 M
C03C27/12 N
C03C17/245 A
B60J1/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521278
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 FR2021051735
(87)【国際公開番号】W WO2022074333
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】フラマリ-メプリ,フロリアン
【テーマコード(参考)】
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC12
4G059EA03
4G059EB04
4G061AA04
4G061AA20
4G061AA25
4G061AA30
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】
本発明は、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングの獲得方法を対象とする。本方法は、第一のガラスシート(10)の上に被着された薄層のスタック(12)の上へのエナメル層(14)の被着(b)、ならびに、少なくともエナメル層(14)の上への、少なくとも1つの寸法が30μmを超える、酸化物、金属または炭化物をベースにした耐熱性粒子(16)の被着(c)を含む。薄層のスタック(12)は、積層体の中間層30を用いた第一のガラスシート(10)と追加のガラスシート(20)との積層(e)の前に行われる曲げ加工工程(d)のあとで、エナメル層(14)によって完全に溶解している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングの獲得方法であって、以下の工程、
a.面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタック(12)でコーティングされた、第一のガラスシート(10)を提供すること、
b.薄層のスタック(12)の表面の一部にわたって、エナメル層(14)を被着する工程、
c.少なくとも前記エナメル層(14)に、少なくとも1つの寸法が30μm以上である、酸化物、炭化物または金属をベースにした耐熱性粒子(16)を被着する工程、
d.第一のガラスシート(10)を追加のガラスシート(20)と同時に曲げ加工する工程であって、エナメル層(14)は、前記追加のガラスシート(20)に向き合っている、
e.積層体の中間層(30)を用いて前記第一のガラスシート(10)を追加のガラスシート(20)とともに積層する工程であって、エナメル層(14)は前記中間層(30)に向き合っている、
を含み、
前記方法がさらにエナメル層(14)を予備焼成する工程を含み、この工程を通じてエナメル層(14)の下に位置する薄層のスタック(12)が前記エナメル層(14)によって少なくとも部分的に溶解させられ、前記予備焼成工程が工程bと工程cとの間に行われるb1と呼ばれる工程であるかあるいは工程cと工程dとの間に行われるc1と呼ばれる工程であり、エナメル層(14)の下に位置する薄層のスタック(12)が少なくとも工程dのあとで前記エナメル層(14)によって完全に溶解されられる方法。
【請求項2】
薄層のスタック(12)が、とりわけ銀またはニオブの、金属層と、とりわけ酸化インジウムスズ、ドープされたスズ酸化物、ドープされた亜鉛酸化物の中から選択される、透明導電性酸化物の層との中から特に選択される、機能性層、とりわけ導電性機能性層を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程dの後、エナメル層(14)が不透明で、黒い色合いであり、また第一のガラスシート(10)の周縁でストリップを形成している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
耐熱性粒子(16)が、単一金属酸化物、とりわけアルミニウムの酸化物、チタンの酸化物またはジルコニウムの酸化物と、複合酸化物、とりわけケイ酸塩、高融点を有するガラスフリットまたはグラスセラミックフリットまたは無機顔料との中から選択される酸化物をベースにしている、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
耐熱性粒子(16)が、40μm以上、とりわけ60μm以上の寸法を少なくとも1つ有する、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
耐熱性粒子(16)が、とりわけ繊維質の、細長い形であり、3を超える、とりわけ10を超える、長さ/直径の比を有する、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
30μm以上の寸法を少なくとも1つ有する粒子の量が、少なくとも0.1g/m
2、とりわけ少なくとも0.5g/m
2である、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
耐熱性粒子(16)が、とりわけ樹脂、顔料またはカーボンブラックの中から選択される、赤外線放射を吸収する要素との混合物として被着される、請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
耐熱性粒子(16)が、エナメル層(14)の上およびエナメル層(14)の近くの第一のガラスシート(10)の領域の上に被着される、請求項1から8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
工程bと工程cとの間に、必要ならば工程b1と工程cとの間に、耐熱性粒子(16)をエナメル層(14)の上に固定することができる粘着層(18)を、エナメル層(14)の上だけに被着する工程b2を含む、請求項1から9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
工程cの後かつ工程dの前に、粘着層(18)によって固定されている耐熱性粒子以外の耐熱性粒子(16)を、とりわけ送風によって、除去する工程c2をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程dと工程eとの間に、耐熱性粒子(16)を除去する工程d1をさらに含む、請求項1から11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
追加のガラスシート(20)が、0.5~1.2mmの厚さを有し、とりわけ、化学的に強化されたアルミノケイ酸ナトリウムガラス製である、請求項1から12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
追加のガラスシート(20)が、積層体の中間層(30)に向き合っている面と反対側の面の上に、追加の薄層のスタック(22)、とりわけ、透明導電性酸化物を含有している低放射率のスタックを有する、請求項1から12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一つに記載の方法によって得ることができる、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層のスタックおよびエナメル層でコーティングされたガラスシートを含む、自動車用例えばルーフまたはフロントガラス用の湾曲積層グレージングの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
積層グレージングは、2枚のガラスシートが積層体の中間層を用いて粘着して接合しているグレージングである。中間層は、特に、破損の場合のガラスの破片を引き留めることを可能にするが、しかしまた、特に侵入に対する耐久性や音響特性改善という観点からの、他の機能性ももたらす。
【0003】
これらのグレージングは多くの場合、さまざまな特性を付与することを目的とした、様々なタイプのコーティングを含む。
【0004】
概して黒色かつ不透明であるエナメル層が、通常は、車体の開口部へのグレージングの固定および位置決めに役立つポリマーシールを隠しかつ紫外線放射から保護することを目的とした周縁ストリップの形態で、多くの場合グレージングの一部の上に被着される。エナメル被覆領域は、内部のバックミラーの固定領域およびさまざまなコネクタおよびセンサもまた隠す。
【0005】
積層グレージングにおいて、これらのエナメル層は概して面2に配置され、面は従来、車両の外に位置決めされることを目的とした面から番号がつけられている。面2はしたがって、積層体の中間層と接触している面である。車両の外から見えるエナメル層の美的外観は、自動車製造業者にとって特別な重要性を帯びるものである。エナメルは概して、ガラスフリットおよび顔料を含有する組成物の500℃超での焼成によって得られる。ガラスフリットは、低融点を有するガラスの微粒子でできており、焼成熱処理の影響を受けて軟化しガラスシートに粘着する。顔料の粒子を保持しながらガラスに完璧に粘着する、高い化学的耐性および機械的強度を有する、概して不透明な、無機層がこのように形成される。焼成工程は概して、ガラスシートの曲げ加工と同時に行われる。
【0006】
積層グレージングの製造の状況において、グレージングの2枚のガラスシートは一緒に湾曲され、車両の内部に位置決めされることを目的としたガラスシートは概して、エナメルを有する、もう一方のガラスシートの上に配置される。そのとき曲げ加工中の2枚のガラスシート間のあらゆる接着を防ぐために、エナメルが非粘着特性を有することが必要である。そうするために通常は、ビスマスを含有するエナメル、すなわち酸化ビスマスを含有するガラスフリットから得られるエナメルが使用されている。
【0007】
概して薄層のスタックの形態をしているコーティングもまた、積層グレージングのガラスシートのうちの1つの上に存在することができる。それはとりわけ導電性層であることができ、それらは2つのタイプの機能性をもたらすことができる。導電性層は一方では、電流の供給が準備されているとき、ジュール効果によって熱を散らすことができる。そのときそれは、例えば霜取りや曇り取りのために有用な、加熱層である。これらの層は他方では、これらの層が赤外線放射を反射するがゆえに、日射調整特性または低放射率特性を有する。層はその場合、熱的快適性の向上のために、または暖房や空調を目的とした消費を減少させることによって層がもたらすエネルギーの節約のために、高く評価されている。これらの層のスタックは概して、積層グレージングの面3に配置され、したがってまた積層体の中間層に接触している。
【0008】
しかしながら、あとで詳細に説明されることになる特定の場合において、エナメル層および薄層のスタックを同じガラスシートの上に、ひいては問題になっているガラスシートの同じ面の上に配置して、これらのコーティングが積層グレージングの内側で保護されるようにすることは、関心に値することであり得る。
【0009】
しかしながら、薄層のスタックでコーティングされたガラスシートがエナメル層を備えていなければならないとき、好ましくない相互作用が曲げ加工の際にスタックとエナメルとの間に起こり得、とりわけエナメルの美的外観の低下に至ることが観察された。とりわけ、スタックが少なくとも1つの窒化物層を含みかつエナメルがビスマスを含有するとき特に、気泡がエナメルの内部で、エナメルとスタックとの間の境界面の近くに作り出されて、エナメルの粘着力の有意な低下を誘発し、その光学的外観(特にガラス側すなわちエナメルと反対側の色)を変え、そしてその化学的耐性特に耐酸性を低下させることが観察された。
【0010】
複数の解決案が、この問題に対して提案された。
【0011】
エナメルがガラスシートと直接接触して被着されるため、およびエナメル層と薄層のスタックとの間のあらゆる粘着の問題を避けるために、例えば研磨材を使って、エナメル層が被着されなければならない場所から薄層のスタックをあらかじめ取り去ることが可能である。機械を用いた研磨はしかしながら、エナメル層のところを含めて、目に見える擦り傷を生じさせる。
【0012】
国際公開第2014/133929号およびそれより前の国際公開第00/29346号は、焼成または予備焼成の際に、ガラスに直接固定されるために薄層のスタックを溶かすことのできる、特殊なガラスフリットをエナメルのために使用するという着想を提案した。そのようなエナメルはしかしながら、優れた非粘着特性を有しておらず、曲げ加工中に2枚のガラスシートの互いの間の接着をもたらす。
【0013】
国際公開第2019/106264号に関しては、スタックと、ビスマスを含有するエナメルとの間に酸化物層を添加することによって、薄層のスタックを修正することを提案している。しかしながら、そのような修正を行うことはいつも可能というわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2014/133929号
【特許文献2】国際公開第00/29346号
【特許文献3】国際公開第2019/106264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、これらの課題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
その目的のために、本発明は、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングの獲得方法を対象としており、該方法は、以下の工程:
a.面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタックでコーティングされた、第一のガラスシートを提供すること、
b.薄層のスタックの表面の一部にわたって、エナメル層を被着する工程、
c.少なくとも前記エナメル層に、少なくとも1つの寸法が30μm以上である、酸化物、炭化物または金属をベースにした耐熱性粒子を被着する工程、
d.第一のガラスシートを追加のガラスシートと同時に曲げ加工する工程であって、エナメル層は、前記追加のガラスシートに向き合っている、
e.積層体の中間層を用いて前記第一のガラスシートを追加のガラスシートとともに積層する工程であって、エナメル層は前記中間層に向き合っている、
を含み、
前記方法はさらにエナメル層を予備焼成する工程を含み、この工程を通じてエナメル層の下に位置する薄層のスタックが前記エナメル層によって少なくとも部分的に溶解させられ、前記予備焼成工程は工程bと工程cとの間に行われるb1と呼ばれる工程であるかあるいは工程cと工程dとの間に行われるc1と呼ばれる工程であり、エナメル層の下に位置する薄層のスタックは少なくとも工程dのあとで前記エナメル層によって完全に溶解させられる。
【0017】
本発明はまた、この方法によって得られたまたは得ることができる、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングも対象としている。
【0018】
エナメルによる薄層のスタックの溶解は、上述の相互作用を避けることを可能にする。スタックの構成要素は、エナメル層の中に溶解している状態になり、エナメル層は、少なくとも曲げ加工工程(工程d)のあとで、ガラスシートに直接接触している状態になる。(工程cで被着された)耐熱性粒子の使用に関しては、曲げ加工の際の2枚のガラスシート間のあらゆる接着を避けることを可能にする。
【0019】
本明細書内で、薄層のスタックおよびエナメル層は、まとめて「コーティング」と規定される。
【0020】
[工程a]
第一のガラスシートは、平らのときまたは湾曲しているときがある。第一のガラスシートは概して、薄層のスタックの被着ついでエナメル層の被着の時は平らであり、そしてそれから工程dの際に湾曲される。第一のガラスシートはしたがって、本発明による湾曲積層グレージングにおいては湾曲している。
【0021】
第一のガラスシートのガラスは典型的には、ソーダ石灰シリカガラスであるが、しかし他のガラス、例えばホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラスもまた使用することができる。第一のガラスシートは、好ましくは、フロート法によって、すなわち溶融ガラスを溶融スズ浴の上に流すことで構成される方法によって得られる。
【0022】
第一のガラスシートは、クリアガラス製であってもよいし、または着色されているガラス製、好ましくは、例えば緑色や灰色、青色に着色されているガラス製であってもよい。そうするために、第一のガラスシートの化学組成は有利には、0.5~2%の重量含有率の酸化鉄を含む。第一のガラスシートの化学組成は、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化エルビウムあるいはまたセレンのような、他の着色剤もまた含有することができる。
【0023】
第一のガラスシートは好ましくは、0.7~19mm、とりわけ1~10mm、特に2~6mm、さらには2~4mmの領域内に含まれる厚さを有する。
【0024】
第一のガラスシート(および追加のガラスシート)の横方向の寸法は、ガラスシートが組み込まれることを目的とした積層グレージングの寸法に応じて適合すべきである。第一のガラスシート(および/または追加のガラスシート)は好ましくは、少なくとも1m2の面積を有する。
【0025】
第一のガラスシートは好ましくは、ガラスシートの面の面積の少なくとも70%にわたって、とりわけ少なくとも90%にわたって、さらには全体にわたって、薄層のスタックでコーティングされている。実際には特定領域が、波動を通す連絡用窓をとりわけ設けるためにコーティングされてなくてもよい。
【0026】
スタックは好ましくは、その面積の2~40%、とりわけ3~30%、さらには5~20%にわたってエナメル層でコーティングされている。エナメル層は好ましくは、周縁ストリップ、すなわち、第一のガラスシートの周縁の各点から、典型的には1~20cmである特定の幅で第一のガラスシートの内側の方へ広がる、自己完結型のストリップを含む。
【0027】
薄層のスタックは好ましくは、ガラスシートに接触している。エナメル層は、その被着の際には好ましくは、薄層のスタックに接触している。
【0028】
「接触」とは、本明細書においては物理的な接触を意味する。「をベースにした」という表現は好ましくは、問題になっている層が、検討される材料を少なくとも50重量%、とりわけ60重量%、さらには70重量%またさらには80重量%または90重量%含むということを意味する。層はさらには、この材料で本質的に構成されるかまたはこの材料から成ることができる。「本質的に構成される」とは、層がその特性に影響を及ぼさない不純物を含有し得ることを理解しなければならない。用語「酸化物」または「窒化物」は、酸化物または窒化物が化学量論的であることを必ずしも意味しない。それらは実際に、準化学量論的、超化学量論的または化学量論的であってよい。
【0029】
スタックは好ましくは、窒化物をベースにした層を少なくとも1つ含む。窒化物はとりわけ、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタンの中から選択される少なくとも1つの元素の窒化物である。窒化物は、これらの元素のうちの少なくとも2つまたは3つの窒化物、例えばケイ素およびジルコニウムの窒化物、またはケイ素およびアルミニウムの窒化物を含むことができる。好ましくは、窒化物をベースにした層は、ケイ素の窒化物をベースにした層、より具体的にはケイ素の窒化物で本質的に構成される層である。ケイ素の窒化物の層が陰極スパッタリングによって被着されるとき、該層は概してアルミニウムを含有しており、というのも、被着速度を速めるためにアルミニウムによってシリコンターゲットをドープするのが習慣だからである。
【0030】
窒化物をベースにした層は好ましくは、2~100nm、とりわけ5~80nmの領域内に含まれる物理的厚さを有する。
【0031】
窒化物をベースにした層は、多くの薄層のスタックにおいて一般に使用されており、なぜなら、これらの層は、それらがスタックにおいて存在する他の層とりわけ以下に記述されることになる機能性層の酸化を阻止するという意味で、有利なブロッキング特性を有するからである。
【0032】
スタックは好ましくは、機能性層、とりわけ導電性機能性層を少なくとも1つ含む。機能性層は好ましくは、2つの誘電体薄層間に含まれ、誘電体薄層のうちの少なくとも1つは、窒化物をベースにした層である。他のありうる誘電体層は例えば、酸化物層または酸窒化物層である。
【0033】
少なくとも1つの導電性機能性層は有利には、以下の中から選択される:
-とりわけ銀またはニオブさらには金製の、金属層、および
-とりわけ酸化インジウムスズ、(例えばフッ素またはアンチモンで)ドープされたスズ酸化物、(例えばアルミニウムまたはガリウムで)ドープされた亜鉛酸化物の中から選択される、透明導電性酸化物の層。
【0034】
これらの層は特に、卓越した断熱特性をグレージングに付与する、層の低放射率のために高く評価されている。陸上車両とりわけ自動車、鉄道車両、あるいはまた航空機や船舶に装備されるグレージングにおいて、低放射率グレージングは、暑い時に太陽放射の一部を外の方へ反射することを可能にし、ひいては前記車両の車室の温度上昇を制限することを可能にし、また適切な場合には、空調費を減らすことを可能にする。逆に、寒い時は、これらのグレージングは車室の内部の熱を保つことを可能にし、またしたがって暖房のエネルギーを生む力を減らすことを可能にする。建物に装備されているグレージングの場合においても同様である。
【0035】
好ましい一実施形態によると、薄層のスタックは、銀の層を少なくとも1つ、とりわけ1つ、2つまたは3つ、さらには4つの銀の層を含む。銀の層の物理的厚さまたは適切な場合には、銀の層の厚さの合計は、好ましくは2~20nm、とりわけ3~15nmである。
【0036】
好ましい別の一実施形態によると、薄層のスタックは、酸化インジウムスズの層を少なくとも1つ含む。その物理的厚さは、好ましくは30~200nm、とりわけ40~150nmである。
【0037】
曲げ加工工程の間中、(金属製であれ透明導電性酸化物をベースにしたものであれ)その導電性薄層または各導電性薄層を保護するために、これらの層のそれぞれは好ましくは少なくとも2つの誘電体層で囲まれている。誘電体層は好ましくは、ケイ素、アルミニウム、チタン、亜鉛、ジルコニウム、スズの中から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物および/または酸窒化物をベースにしている。
【0038】
薄層のスタックの少なくとも一部は、様々な既知の技術、例えば化学気相成長(CVD)によって、または、とりわけ磁界アシストの、陰極スパッタリング(マグネトロン法)によって、被着されることができる。
【0039】
薄層のスタックは好ましくは、とりわけ磁界アシストの、陰極スパッタリングによって被着される。この方法において、プラズマが、被着すべき化学元素を含有するターゲットの近くに高真空下で作り出される。プラズマの活性種は、ターゲットに衝突することにより、前記元素を引き離し、引き離された元素は、ガラスシートの上に被着されて所望の薄層を形成する。この方法は、層がターゲットから引き離された元素とプラズマ中に含まれるガスとの間の化学反応の結果として生ずる材料から成る場合、「反応性」方法と呼ばれる。この方法の大きな利点は、一般的にはただ1つの同一の装置において、ガラスシートをさまざまなターゲットのもとで次々に通過させることによって、同じライン上で、非常に複雑な層のスタックを被着することができるという点にある。
【0040】
上述のスタックは、加熱機能(霜取り、曇り取り)および/または断熱機能を与えるのに有用な導電特性および赤外線の反射特性を有する。
【0041】
薄層のスタックが加熱機能を与えることを目的としているとき、電流の供給が準備されなければならない。それはとりわけ、ガラスシートの向かい合った2つの縁のところに、薄層のスタック上へのスクリーン印刷によって被着される、銀のペースト製のストリップであり得る。
【0042】
[工程b]
工程bの際、エナメル層は好ましくは、少なくとも1つの顔料および少なくとも1つのガラスフリットを含有する組成物から被着される。エナメル層は好ましくは、酸化鉛を含有しない。
【0043】
エナメル組成物は概してさらに有機媒質を含有し、有機媒質は、基材上への組成物の塗布を容易にすること、ならびに、エナメルの予備焼成または焼成の際には除去される、基材へのその一時的な粘着を容易にすることを目的としている。媒質は典型的には、溶剤、希釈剤、油および/または樹脂を含む。
【0044】
顔料は好ましくは、クロム、銅、鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの酸化物の中から選択される単数または複数の酸化物を含有する。それは例として、クロム酸銅および/またはクロム酸鉄であり得る。
【0045】
好ましくはガラスフリットは、ホウケイ酸ビスマスをベースにしており、さらにはホウケイ酸亜鉛ビスマスをベースにしている。ガラスフリットを層のスタックに対してより「攻撃的」にして層のスタックの溶解を助長するために、ビスマス含有量および/またはホウ素含有量は好ましくは、通常使用されるガラスフリットの含有量よりも多い。
【0046】
エナメル層は好ましくは、スクリーン印刷によって被着される。そうするために、ガラスシート上に、一部が塞がれたメッシュを含むスクリーン印刷用スクリーンが配置され、ついでスクリーン上にエナメル組成物が置かれ、ついでスキージを適用して、スクリーンのメッシュが塞がれていない領域においてスクリーンを貫通するようにエナメル組成物を押し込み、湿潤エナメル層を形成する。
【0047】
湿潤エナメル層の厚さは好ましくは、10μm~30μmである。
【0048】
本明細書において、「エナメル組成物」は、工程bの際に湿潤エナメル層を被着するために使用される液体組成物と規定される。用語「エナメル層」とは、湿潤層(予備焼成前、必要ならば乾燥前)のときもあれば最終的な層(焼成後)のときもある、本方法の各工程での層を規定するために使用される。
【0049】
工程bの直後に続いて好ましくは乾燥工程があり、乾燥工程は、エナメル組成物の中に含有される溶剤の少なくとも一部を除去することを目的とする。このような乾燥は典型的には、120℃~180℃の温度で行われる。このような乾燥は、工程c(耐熱性粒子の被着)の前にまた必要ならば工程b1(耐熱性粒子の被着前に行われる場合の予備焼成)の前に行われる。
【0050】
[工程c]
耐熱性粒子とは、曲げ加工(工程d)の際に変化を受けない粒子を意味する。
【0051】
耐熱性粒子は、酸化物、炭化物または金属をベースにしている。
【0052】
酸化物はとりわけ、例えばアルミニウムの酸化物、チタンの酸化物あるいはまたジルコニウムの酸化物のような単一金属酸化物、および複合酸化物の中から選択される。
【0053】
複合酸化物はとりわけ、ケイ酸塩、高融点(典型的には750℃超)を有するガラスフリットまたはグラスセラミックフリットあるいはまた無機顔料の中から選択される。顔料は例えば、(クロム、鉄などの)遷移金属酸化物の固溶体である。それらはとりわけ「複合酸化物顔料」すなわちCICPと呼ばれる。
【0054】
金属は例えば、タングステン、チタン、モリブデンおよび耐熱鋼の中から選択される。
【0055】
ケイ酸塩はとりわけ、アルカリ土類ケイ酸塩(ケイ酸マグネシウムなど)またはケイ酸アルミニウムである。
【0056】
耐熱性粒子は、30μm以上、とりわけ40μm以上または50μm以上、さらには60μm以上または70μm以上の寸法を少なくとも1つ有する。耐熱性粒子は、100μm以上、とりわけ200μm以上の寸法を少なくとも1つ有することさえできる。粒子は、ほぼ球形であり得、その場合、問題にされる寸法は直径である。粒子は、例えば繊維質の、細長い形でもあり得、3を超える、さらには10を超える、長さ対直径の比を有し得る。この場合、直径は100μm未満、さらには50μm未満であってよいが、しかし長さは100μm以上、さらには200μm以上または500μm以上である。
【0057】
粒子が小さすぎると、曲げ加工工程の際に接着を避けることができないことが明らかになった。粒子の化学的性質もまた、曲げ加工の際の欠陥の発生を避けるために重要である。曲げ加工の従来の方法において、ガラスシートは、典型的には20~50μmである、数十マイクロメートルの空間を確保する中間層粉末を互いの間に配置することによって、距離をおいて保持される。中間層粉末は例えば、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムをベースとする。中間層粉末は、非常に細かくはあるが(およそ5μm)、しかしながら10μmを超えるサイズの凝集物を形成し得る。炭酸塩をベースにしたそのような粉末はしかしながら、接着を阻止しないことに加えて、焼成の際にエナメルと反応して最終的に灰色の色合いを与えることから、それだけでは本発明では効果がないことが証明されている。
【0058】
耐熱性粒子は、少なくともエナメル層の上に、エナメルの予備焼成(工程b1)の後かあるいはエナメルの予備焼成(工程c1)の前に被着される。
【0059】
耐熱性粒子は、エナメル層の上にしか被着されなくてもよい。代わりに、耐熱性粒子は、エナメル層の上およびエナメル層の近くの第一のガラスシートの領域の上に、さらにはガラスシートの表面全体にわたって被着されてもよい。
【0060】
30μm以上(または上記の好ましい値以上)の寸法を少なくとも1つ有する粒子の量は、好ましくは、少なくとも0.1g/m2、とりわけ少なくとも0.5g/m2である。その量は有利には、多くて10g/m2である。
【0061】
耐熱性粒子は、それだけで被着されてもよい。代わりに、耐熱性粒子は、赤外線放射を吸収する要素との混合物として被着されてもよい。これらの吸収要素は、有機質または無機質であることができる。これらの要素は、予備焼成(工程c1)の際に、ガラスシートのさまざまな領域において受ける温度を均一にすること、ひいてはエナメルの近くに位置するガラスの領域における欠陥の発生、例えば光学的ひずみの発生を避けることを可能にする。この効果は、吸収要素がガラスシートの表面全体にわたって被着されるとき、または少なくとも、エナメル層の近くの第一のガラスシートの領域内に被着されるときに最大である。代わりに、吸収要素は、エナメル層の上にしか被着されなくてもよい。この場合、エナメルがより黒い色合いを呈することが観察された。吸収要素は、樹脂であり得、樹脂は予備焼成工程(c1)の際に燃焼することになる。それはさらに、顔料またはカーボンブラックのような、吸収粒子であり得る。カーボンブラックは、予備焼成の際の燃焼によって除去されるその適性がゆえに、とりわけ好まれる。
【0062】
耐熱性粒子は、あらゆる手段によって被着されることができる。一実施形態によると、粒子は、噴霧することによって、あるいはまたとりわけメッシュを使って、振りかけることによって被着される。この典型的な例は、粒子がそれだけで被着されるときにとりわけ適合している。この典型的な例は、大きなサイズの粒子を被着することも可能にする。耐熱性粒子が上記のような吸収要素との混合物として被着されるとき、混合物は、スクリーン印刷によって被着され得る。この場合、耐熱性粒子は好ましくは、スクリーン印刷のスクリーンの穴を塞がないように60μm未満のサイズを有する。好ましい一実施形態において、工程cは、有機媒質、耐熱性粒子および吸収要素、とりわけカーボンブラックを含む混合物のスクリーン印刷による被着を含む。この技術は例えば、(ガラスシートのさまざまな領域が受ける温度を均一化しようと努めるときには)ガラスシートの表面全体にわたる吸収要素の被着を可能にし、またはただエナメル層の上だけへの吸収要素の被着を可能にする(このことはエナメル層のためのより濃い黒色の色合いに達することを可能にする)。
【0063】
一実施形態によると、耐熱性粒子は、エナメル層の上に直接被着される。
【0064】
[工程b2]
別の一実施形態によると、方法は、工程bと工程cとの間に、必要ならば工程b1と工程cとの間に、耐熱性粒子をエナメル層の上に固定することができる粘着層を、エナメル層の上だけに被着する工程b2を含む。
【0065】
粘着層は、エナメル層に、またエナメル層だけに、耐熱性粒子を一時的に固定することを可能にする。粘着層は好ましくは、エナメル層全体を被覆する。
【0066】
粘着層の厚さは好ましくは、5μm~25μmである。
【0067】
粘着層はまた、先に定義されたような吸収要素を含むことができる。
【0068】
本方法は好ましくは、工程c(粒子の被着)の後かつ工程d(曲げ加工)の前に、粘着層によって固定されている耐熱性粒子以外の耐熱性粒子を、とりわけ送風によって、除去する工程c2を含む。工程cの際にコーティングの上に被着されたまたは第一のガラスシートの場合によっては存在しうる非コーティング領域の上に被着された粒子はそのとき、曲げ加工工程の前に除去される。このように、粒子による、コーティングまたはガラスのあらゆる損傷、例えば擦り傷が避けられる。
【0069】
エナメル層の予備焼成(工程c1)が工程cと工程dとの間に行われるとき、工程c2は通常、この工程c1の前に行われる。
【0070】
粘着層は好ましくは、工程d(曲げ加工)の際かあるいは工程c1(粒子の被着後に予備焼成が行われる場合、予備焼成)の際に除去されることができるように、有機ベースである。
【0071】
粘着層は好ましくは、有機媒質および/または樹脂および/または有機系粘着剤を含む組成物のスクリーン印刷によって被着される。
【0072】
粘着層は好ましくは、粒子の被着(工程c)の後にまた必要ならば工程c2の前に乾燥される。
【0073】
本方法は好ましくは、工程d(曲げ加工)と工程e(積層)との間に、耐熱性粒子の少なくとも一部さらには全体を除去する工程d1を含み、粒子が積層グレージングの中にないようにすることを可能にする。除去は、とりわけ送風または洗浄によって行われることができる。
【0074】
[予備焼成工程(b1またはc1)]
予備焼成工程は好ましくは、150℃~700℃、とりわけ550℃~680℃の温度で実行される。
【0075】
そのような予備焼成は、有機媒質、または一般に、エナメル層の中に場合によっては存在するあらゆる有機成分を除去することを可能にする。予備焼成が粘着層の被着後に行われる場合、予備焼成は、たいていの場合、この粘着層を除去することもまた可能にする。
【0076】
予備焼成の際、薄層のスタックは、エナメル層によって少なくとも部分的に溶解させられる。使用される温度とエナメルまたはスタックのタイプとに応じて、スタックは、予備焼成の際にエナメル層によって完全に溶解させられることさえできる。代わりに、スタックは予備焼成の際には部分的にしか溶解させられることができず、その場合、スタックは曲げ加工(工程d)の際に完全に溶解させられる。
【0077】
一実施形態によると、予備焼成工程は、工程b(エナメル層の被着)と工程c(耐熱性粒子の被着)との間に行われる。予備焼成工程はその場合、工程b1と呼ばれる。
【0078】
好ましくは、本発明の方法はその場合、順に、工程a、ついで工程b(好ましくはスクリーン印刷による、エナメル層の被着)、ついで任意にはエナメル層の乾燥工程、ついで工程b1(予備焼成)、ついで任意には(好ましくはスクリーン印刷による)粘着層の被着工程b2、ついで耐熱性粒子の被着工程c、ついで任意には粘着層の乾燥工程、ついで任意には粘着層によって固定された耐熱性粒子以外の耐熱性粒子の除去工程c2、ついで曲げ加工工程d、ついで任意には耐熱性粒子の除去工程d1、そして最後に積層工程eを含む。
【0079】
別の一実施形態によると、予備焼成工程は、工程c(耐熱性粒子の被着)と工程d(曲げ加工)との間に行われる。予備焼成工程はその場合、工程c1と呼ばれる。
【0080】
好ましくは、本発明の方法はその場合、順に、工程a、ついで工程b(好ましくはスクリーン印刷による、エナメル層の被着)、ついで任意にはエナメル層の乾燥工程、ついで任意には(好ましくはスクリーン印刷による)粘着層の被着工程b2、ついで耐熱性粒子の被着工程c、ついで任意には粘着層の乾燥工程、ついで任意には粘着層によって固定された耐熱性粒子以外の耐熱性粒子の除去工程c2、ついで工程c1(予備焼成)、ついで曲げ加工工程d、ついで任意には耐熱性粒子の除去工程d1、そして最後に積層工程eを含む。
【0081】
[工程d]
曲げ加工はとりわけ、典型的には550~650℃の温度で、重力によって(ガラスはそれ自体の重量下で変形する)またはプレス加工によって行われることができる。
【0082】
ガラスシートは、典型的には20~50μmである、数十マイクロメートルの空間を確保する中間層粉末を互いの間に配置することによって、距離をおいて保持されることができる。中間層粉末は例えば、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムをベースとする。
【0083】
曲げ加工の際、(車室の内部に位置決めされることを目的とした)内側ガラスシートは通常、外側ガラスシートの上に配置される。このように、曲げ加工工程の際、追加のガラスシートは、第一のガラスシートの上に配置される。
【0084】
好ましくは、工程dの後、エナメル層は不透明であり、黒い色合いである。ガラス側の反射において測定されるその明度L*は、好ましくは5未満である。先に示されたように、エナメル層は有利には、第一のガラスシートの周縁でストリップを形成している。したがって、エナメル層は、シール、接続用構成要素、あるいはまたセンサを隠しかつ紫外放射線から保護することができる。
【0085】
エナメル層が予備焼成のあとで薄層のスタックをまだ完全に溶解していない場合、この完全溶解は、エナメルの焼成を完遂する、曲げ加工の際に達成される。
【0086】
層の完全溶解は、電子顕微鏡によって観察することができ、とりわけ、0に近い、いずれにせよ5未満の比色分析の座標a*とb*による、より中間色の鏡面反射色となって現れる。
【0087】
[工程e]
積層工程は、例えば110~160℃の温度かつ10~15バールの圧力下での、オートクレーブ処理によって行われることができる。オートクレーブ処理に先立って、ガラスシートと積層体中間層との間に閉じ込められた空気は、カレンダー加工によってまたは負圧によって除去されることができる。
【0088】
先に述べられたように、追加のシートは好ましくは、車両の車室の内部に位置決めされることを目的とした、積層グレージングの内側シート、すなわち、グレージングの凹面側に位置するシートである。したがって、コーティングは、積層グレージングの面2に配置されている。
【0089】
追加のガラスシートは、ソーダ石灰シリカガラス製であってもよいし、あるいはまたホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラス製であってもよい。追加のガラスシートは、クリアガラス製であってもよいしまたは着色されているガラス製でもよい。その厚さは好ましくは、0.5~4mm、とりわけ1~3mmである。
【0090】
好ましい一実施形態によると、追加のガラスシートは、0.5~1.2mmの厚さを有する。追加のガラスシートはとりわけ、好ましくは化学的に強化された、アルミノケイ酸ナトリウムガラス製である。追加のガラスシートは好ましくは、積層グレージングの内側シートである。本発明は特に、このタイプの構成のために有用であり、これについては薄層のスタックを面3に配置するのは困難である。化学強化(「イオン交換」とも呼ばれる)は、溶解したカリウム塩(例えば硝酸カリウム)とガラスの表面を接触させて、ガラスのイオン(ここではナトリウムイオン)を、より大きいイオン半径のイオン(ここではカリウムイオン)と交換することによって、ガラスの表面を強化することにある。このイオン交換は、ガラスの表面においてまたある程度の厚さにわたって圧縮応力を形成することを可能にする。好ましくは、表面応力は、少なくとも300MPa、とりわけ400MPaまたさらには500MPaかつ最大700MPaであり、また圧縮領域の厚さは、少なくとも20μm、典型的には20~50μmである。応力プロファイルを、バビネ補償板の備わった偏光顕微鏡を使って既知の方法で決定することができる。化学強化工程は好ましくは、380~550℃の温度で、30分~3時間の継続時間にわたって実施される。化学強化は好ましくは、曲げ加工の後ではあるが積層工程の前に行われる。得られるグレージングは好ましくは、自動車のフロントガラス、特に加熱フロントガラスである。
【0091】
別の好ましい一実施形態によると、追加のガラスシートは、積層体の中間層に向き合っている面と反対側の面(好ましくは面4であり、追加のシートは内側シートである)の上に、追加の薄層のスタック、とりわけ、透明導電性酸化物とりわけ酸化インジウムスズ(ITO)を含有している低放射率のスタックを有する。本発明は、このタイプの構成のためにもまた特に有用であり、これについては、薄層のスタックを同じガラスシートの2つの面(面3および4)の上に配置することは難しい。この実施形態において、積層体の中間層および/または追加のガラスシートは、好ましくは着色されており、コーティングを有するガラスシートは、クリアガラス製であってよい。得られるグレージングは好ましくは、自動車のルーフである。
【0092】
直前の好ましい実施形態の例として、車両の外から、銀層を少なくとも1つ含む薄層のスタックで面2においてコーティングされたクリアガラスシート、ついでエナメル層、着色されたPVB製の積層体の中間層、そしてとりわけITOをベースにした、低放射率の薄層のスタックを面4に有する、着色されたガラス製の追加のガラスシートを含む湾曲積層ルーフを挙げることができる。
【0093】
積層体の中間層は好ましくは、少なくとも1枚のポリビニルアセタールのシート、とりわけポリビニルブチラール(PVB)のシートを含む。
【0094】
積層体の中間層は、必要であればグレージングの光学的特性または熱的特性を調節するために、着色されてもよいしまたは着色されなくてもよい。
【0095】
積層体の中間層は有利には、空気由来のまたは固体由来の音を吸収するための、吸音特性を有することができる。その目的のために積層体の中間層はとりわけ3枚の高分子シートから成ることができ、そのうちの外側シートと呼ばれる2枚のPVBシートは、外側シートの硬度より低い硬度の、場合によってはPVB製である、内側高分子シートを囲んでいる。
【0096】
積層体の中間層はまた、断熱特性、特に赤外放射線の反射特性を有することもできる。その目的のために積層体の中間層は、2枚のPVB外側シートで囲まれているPET内側シートの上に被着される、低放射率の薄層コーティング、例えば銀の薄層を含むコーティングまたは異なる屈折率の誘電体層を交互に含むコーティングを含むことができる。
【0097】
積層体の中間層の厚さは、概して0.3~1.5mm、とりわけ0.5~1mmに及ぶ範囲内に含まれる。積層体の中間層は、HUD(head-up display)と呼ばれるヘッドアップディスプレイシステムを利用する場合の二重像の形成を避けるために、グレージングの中心よりもグレージングの縁の方が薄い厚さを有することができる。
【0098】
[実施例]
続く実施例は、以下の
図1から
図4との関連において、非限定的に本発明を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】本発明による方法の一実施形態を概略的に示している。
【
図2】本発明による方法の別の実施形態を概略的に示している。
【
図3】本発明による方法の別の実施形態を概略的に示している。
【
図4】本発明による方法の別の実施形態を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0100】
これらの図面は、ガラスシートおよび、ガラスシートの周縁の近くのガラスシート上に被着される構成要素の一部の断面図である。様々な構成要素は明らかに、それらを目視で確認することができるように、縮尺どおりに示されていない。
【0101】
薄層のスタック12でコーティングされた第一のガラスシート10が、工程aにおいて提供され、ついでスタック12の一部が、とりわけスクリーン印刷によって、エナメル層14によってコーティングされる(工程b)。
【0102】
図1および
図3の実施形態において、全体は次に予備焼成(工程b1)を受け、この工程は、示された事例において、エナメル14によるスタック12の部分的な溶解に至らせる。
【0103】
図1の実施形態において、耐熱性粒子16が次に、エナメル層14およびスタック12の上に被着される(工程c)。
【0104】
ここでは追加の薄層のスタック22を備えている、追加のガラスシート20が次に、第一のガラスシート10の上に置かれ、全体は次に湾曲される(工程d)。示されている図は、ガラスシートの端しか示しておらず、湾曲はここでは示されていない。図は、曲げ加工のあとで、エナメル14が、下にある薄層のスタック12を完全に溶解したことを示している。
【0105】
工程eにおいて、薄層のスタック12およびエナメル層14でコーティングされた第一のガラスシート10と追加のスタック22でコーティングされた追加のガラスシート20とは、積層体の中間層30を用いて組み合わされる。図はここでは、分離した構成要素のそれぞれを、分解組立図において示している。粒子16はその前に、表示されていない工程d1の際に除去された。
【0106】
図2の実施形態は、予備焼成工程(工程c1)が、耐熱性粒子16の被着工程cの後かつ曲げ加工工程dの前に行われるという点で、
図1の実施形態と異なっている。
【0107】
図3および
図4の実施形態は、粘着層18の被着工程b2ならびに、エナメル層14に固定された耐熱性粒子以外の耐熱性粒子16の除去工程c2を付け加えている。このように、工程cの際に、エナメル層14の上に被着された粒子16はエナメル層14に固定され、そして曲げ加工工程dの際には、エナメル層14に固定された粒子16だけが存在している。
【0108】
図4の実施形態は、予備焼成工程(工程c1)が、耐熱性粒子16の被着工程cの後かつ曲げ加工工程dの前に行われるという点で、
図3の実施形態と異なっている。
【0109】
実施例1
実施例1によって実施される方法は、
図1の実施形態に相当する。
【0110】
酸化亜鉛層によって保護された2つの銀層、窒化ケイ素層およびブロッキング剤NiCrを含む薄層のスタックで陰極スパッタリングによってあらかじめコーティングされた厚さ2.1mmのガラスシートは、25μmの湿潤厚さのエナメル層でスクリーン印刷によってコーティングされた。
【0111】
乾燥(150℃、1~2分)ついで630℃での予備焼成の後、粒子が、第一のガラスシートの表面全体にわたって、またとりわけ予備焼成されたエナメル層の上に分散された。
【0112】
これらの粒子は、ケイ酸マグネシウムをベースにしたものであり、Isofrax(登録商標) 1260Cのリファレンスで商品化されている繊維の粉砕によって得られた。得られた粒子は、50μm未満の直径および少なくとも1mmの長さを有していた。
【0113】
面4にITO層を含むスタックを備えたソーダ石灰シリカ製の追加のガラスシートとペアリングした後、全体は、600℃以上で350秒から500秒の間湾曲された。耐熱性粒子を除去するための洗浄の後、2枚のガラスシートは、PVB製の中間層を使ってともに積層された。
【0114】
焼成の後、美観、より具体的には面1から見える黒色が、反射における明度L*(D65光源、10°の標準観測者)を測定することによって評価された。5未満の値が、許容されると考えられる。接着については、目視観察によって定性的に評価された。
【0115】
L*の値は、628℃を超える曲げ加工の温度については4.8未満であり、また651℃の曲げ加工の温度については3.6であった。651℃の曲げ加工温度まで、いかなる接着も観察されなかった。
【0116】
実施例2
実施例2によって実施される方法は、
図3の実施形態に相当する。
【0117】
工程b2において、樹脂(媒質 Ferro 80-007)が、10μmから15μmの湿潤厚さをともなって、エナメル層の上にスクリーン印刷によって被着された。このように得られた粘着層は次に、150℃で1分から2分の間乾燥されて、溶剤が除去された。粘着層によってエナメルに固定されていない耐熱性粒子は次に、空気の吹込みによって除去された。他の工程は、実施例1についてと同じように行われた。
【0118】
美観および接着の不在の観点から、実施例1についてと同じ結果が得られた。また一方、実施例1とは違って、いかなる擦り傷も、薄層のスタック上に観察されなかった。
【0119】
実施例3
実施例3によって実施される方法は、
図4の実施形態に相当する。実施例2と比べての唯一の違いはつまり工程の順序であり、粒子はただ乾燥されただけのエナメル層の上に被着され、予備焼成は、曲げ加工の直前に行われた。
【0120】
美観および接着の不在の観点から、実施例2についてと同じ結果が得られた。同様に、実施例1とは違って、いかなる擦り傷も、薄層のスタック上に観察されなかった。
【0121】
比較例C1
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、非粘着特性を有するビスマスを含有するエナメルの25μmのスクリーン印刷による被着に取って代わられた。
【0122】
しかしながら接着が観察されたのであり、さらにL*の値は、検討されるあらゆる曲げ加工温度について5を超えていた。
【0123】
比較例C2
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、20μm未満のサイズを有する黒色顔料の被着に取って代わられた。
【0124】
いかなる接着も観察されなかったものの、L*の値は、少なくとも12.4であった(650℃の曲げ加工温度について観察された値)。
【0125】
比較例C3
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、20μm未満のサイズを有する白色顔料の被着に取って代わられた。
【0126】
いかなる接着も観察されなかったものの、L*の値は、少なくとも20であった。
【0127】
比較例C4
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、シリカゾル-ゲル層(Ferroの製品TLU0059)のスクリーン印刷による被着に取って代わられた。
【0128】
美観は満足のゆくものであったが(L*<5、とりわけ654℃の曲げ加工温度について3.3)、接着が観察された。
【0129】
比較例C5
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、さらに黒色顔料を含有する、アルカリケイ酸塩をベースにした溶液のスクリーン印刷による被着に取って代わられた。
【0130】
L*の値は、650℃の曲げ加工温度について16であり、追加のガラスシート上へのケイ酸塩層の転写が観察された。
【0131】
比較例C6
この比較例において、実施例1と比較して、耐熱性粒子の被着は、その非粘着特性で知られている、Ferro社によって14316のリファレンスで商品化されている、ビスマスを含有するエナメルの25μmのスクリーン印刷による被着に取って代わられた。実施例1とは違って、第二の予備焼成処理が、このエナメルの被着の後に行われた。
【0132】
しかしながら、接着が観察されたのであり、さらにL*の値は、650℃の曲げ加工温度について8.9であった。
【符号の説明】
【0133】
10 第一のガラスシート
12 薄層のスタック
14 エナメル層
16 耐熱性粒子
18 粘着層
20 追加のガラスシート
22 追加の薄層のスタック
30 積層体の中間層
【国際調査報告】