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特表2023-546867結合拡張部を備えた調整可能なカプラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】結合拡張部を備えた調整可能なカプラ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20231031BHJP
   G06N 10/20 20220101ALI20231031BHJP
【FI】
G06N10/40
G06N10/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522913
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 FI2021050718
(87)【国際公開番号】W WO2022090621
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】20204967.2
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519394241
【氏名又は名称】アイキューエム フィンランド オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヘインスー ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】オクケロエン-コルッピ キャスパー
(57)【要約】
少なくとも第1のキュービット(801)への制御可能な結合を生成するために調整可能なカプラが提供される。それは、第1の固定結合素子(803)と、調整可能な結合素子(804)とを備える。前記第1の固定結合素子(803)は、前記調整可能な結合素子(804)から離れた第1の先端で少なくとも前記第1のキュービット(801)に対して非ガルバニック結合インターフェースを形成する。前記調整可能な結合素子(804)は、第1の固定結合素子(803)とその第2の先端におけるさらなる回路素子(802)との間に形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のキュービット(801、1501)への制御可能な結合を生成するための調整可能なカプラであって、
第1の固定結合素子(803、1506)と、
調整可能な結合素子(804、1509)と
を備え、
前記第1の固定結合素子(803、1506)が、前記調整可能な結合素子(804、1509)から離れた前記第1の固定結合素子(803、1506)の第1の先端で少なくとも前記第1のキュービット(801、1501)に対する非ガルバニック結合インターフェースを形成し、
前記調整可能な結合素子(804、1509)が、前記第1の固定結合素子(803、1506)の第2の先端でさらなる回路素子(802、805、1507)に対して形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される、調整可能なカプラ。
【請求項2】
前記第1の固定結合素子(803、1506)が、導波路である、請求項1に記載の調整可能なカプラ。
【請求項3】
前記第1の固定結合素子(803、1506)が、導波路共振器である、請求項2に記載の調整可能なカプラ。
【請求項4】
前記第1の固定結合素子(803、1506)が、集中素子共振器である、請求項1に記載の調整可能なカプラ。
【請求項5】
前記第1の固定結合素子(803、1506)が、導体島である、請求項1に記載の調整可能なカプラ。
【請求項6】
前記調整可能なカプラが、第2の固定結合素子(805)を備え、
前記さらなる回路素子が、第2のキュービット(802)であり、
前記第2の固定結合素子(805)が、前記調整可能な結合素子(804)から離れた前記第2の固定結合素子(805)の先端で前記第2のキュービット(802)に対して非ガルバニック結合インターフェースを形成し、
前記調整可能な結合素子(804)が、前記第1の固定結合素子(803)と第2の固定結合素子(805)との間に形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の調整可能なカプラ。
【請求項7】
前記第2の固定結合素子(805)が、導波路、導波路共振器、集中素子共振器、導体島のうちの1つである、請求項6に記載の調整可能なカプラ。
【請求項8】
前記第1の固定結合素子(803)および第2の固定結合素子(805)が、導波路であり、
前記第1の固定結合素子(803)および第2の固定結合素子(805)の各々が、調整可能な結合素子(804)が隣接して配置されるそれぞれの先端でそれぞれの結合領域(1301、1302)を備え、
前記第1の固定結合素子(803)および第2の固定結合素子(805)のそれぞれの結合領域(1301、1302)の両方が、他方の結合領域の第1のエッジに隣接する第1のエッジ、および前記調整可能な結合素子(804)のそれぞれのエッジに隣接する第2のエッジを備える、
請求項1~3のいずれか一項に従属する場合の請求項6に記載の調整可能なカプラ。
【請求項9】
前記調整可能な結合素子(804)が、環状の2次元領域の第1のセクタを占有し、
前記第1の固定結合素子(803)および第2の固定結合素子(805)の前記それぞれの結合領域(1301、1302)の各々が、前記環状の2次元領域のそれぞれのさらなるセクタを占有し、
前記さらなるセクタが、前記環状の2次元領域の隣接するセクタであり、
前記第1のセクタおよび前記さらなるセクタが一緒に、前記環状の2次元領域の全体をカバーする、
請求項8に記載の調整可能なカプラ。
【請求項10】
前記調整可能なカプラが、連続した固定結合素子(1506、1507、1508)のチェーンを備え、その1つが前記第1の固定結合素子(1506)であり、非ガルバニック結合インターフェースが、前記チェーンにおける連続した固定結合素子(1506、1507、1508)の間に形成され、
前記調整可能なカプラが、少なくとも2つの調整可能な結合素子(1509、1510)を備え、前記少なくとも2つの調整可能な結合素子の各々が、前記チェーンにおける連続した固定結合素子(1506、1507、1508)の間に形成される前記非ガルバニック結合インターフェースのそれぞれの1つに隣接する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の調整可能なカプラ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の調整可能なカプラと、
少なくとも1つのキュービット(801、802)と
を備える量子計算回路であって、前記調整可能なカプラが、前記少なくとも1つのキュービットへの制御可能な結合を形成する、量子計算回路。
【請求項12】
2つのキュービット(801、802)を備え、前記調整可能なカプラが、前記2つのキュービット間で制御可能な結合を形成する、請求項11に記載の量子計算回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、量子計算の技術に関する。特に、本発明は、キュービットを作成し、2つ以上のキュービット間の結合を形成するために使用されるハードウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算では、キュービットという用語を使用して、情報の基本単位だけでなく、1キュービットの情報を記憶するために使用される情報記憶素子を指定することが一般的になっている。一例として、1つ以上のキュービットを有する超電導メモリ回路(すなわち、キュービットサイズの情報記憶素子)が、考えられ得る。そのような例では、キュービットは、トランズモンなどの非調和振動子であり、非調和振動子は、そこに記憶されたキュービットの状態の読み出しを容易にするために、近くの読み出し共振器に結合され得る。
【0003】
量子ゲートを実装するためには、キュービットの状態が制御可能な形式で互いに相互作用できるようにキュービット間で制御可能な結合が存在することが不可欠である。特徴的な共振周波数を有する電気キュービットの場合、隣接するキュービット間の結合を制御する比較的簡単な方法は周波数調整を含み、これによって、キュービットは、強い結合(オン位置)のために共振に調整され(またはそれに近くなり)、小さな結合(オフ位置)のために離調される。このような配置構成は、所与のゲート速度に対するゲートのオン-オフ比に上限を課す。弱い常時オンの相互作用に起因するアイドリングキュービットの望ましくないもつれを相殺する公知の拡張可能な方法は存在しない。
【0004】
より汎用的な方法は、例えば非特許文献1に記載されているように、2つのキュービット間で調整可能な結合素子を使用することである。しかしながら、調整可能な結合素子を使用する公知の方法は、距離および寸法に関する欠点を伴う。個々のキュービットの各々と調整可能な結合素子との間だけでなく、キュービット自体の間にも十分な静電容量が必要であり、これは、キュービットを互いに比較的近くに保つことを代弁している。同時に、キュービット間の距離が短いと、望ましくないキュービットのペアの間、およびキュービットと制御リードとの間の結合も増加し、クロストークを発生させる。また、短いキュービット間の距離は、例えば読み出し共振器などの、他の必要なコンポーネントに利用可能な空間の量も制限する。
【0005】
望ましくないクロストークを排除し、回路ハードウェアの設計および実装方法に大きな自由を与えると同時に、キュービット間の十分に強く、しかし制御可能な結合を可能にする構造的および機能的解決策が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.Yanら、「Tunable Coupling Scheme for Implementing High-Fidelity Two-Qubit Gates」、Phys.Rev.Applied、第10巻、第5号、54062頁、2018年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
望ましくないクロストークを排除し、回路ハードウェアの設計および実装方法に大きな自由を与えると同時に、キュービット間の強力で、しかし制御可能な結合を可能にする配置構成を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、量子計算でゲートを実装するために生成することができるキュービット間の結合を実装するために、別個の結合拡張部(extender、エクステンダ)を備えた調整可能なカプラ(結合器)を利用することによって達成される。
【0009】
第1の態様によれば、少なくとも第1のキュービットへの制御可能な結合を生成するための調整可能なカプラであって、第1の固定結合素子と、調整可能な結合素子とを備える、調整可能なカプラが提供される。前記第1の固定結合素子は、前記調整可能な結合素子から離れた前記第1の固定結合素子の第1の先端で少なくとも前記第1のキュービットに対する非ガルバニック結合インターフェースを形成する。前記調整可能な結合素子は、前記第1の固定結合素子の第2の先端でさらなる回路素子に対して形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。
【0010】
一実施形態によれば、前記第1の固定結合素子は導波路である。これは、第1の固定結合素子の長さが、十分に長い他の回路素子間の距離を生じさせるために利用され得るという利点を伴う。
【0011】
一実施形態によれば、前記第1の固定結合素子は導波路共振器である。これは、上述の利点に加えて、第1の固定結合素子の共振特性が、第1の固定結合素子が関与する各電磁結合の強度を設定する際に利用され得るというさらなる利点を伴う。
【0012】
一実施形態によれば、前記第1の固定結合素子は集中素子共振器である。これは、第1の固定結合素子の特性インピーダンスが、非常に広範囲で選択されてもよく、それがキュービット間に非常に強力な結合を媒介することを可能にするという利点を伴う。
【0013】
一実施形態によれば、前記第1の固定結合素子は導体島である。これは、その寸法が、特に量子ドットキュービットと共に非常に効果的に利用され得るという利点を伴う。
【0014】
一実施形態によれば、調整可能なカプラは、前記調整可能な結合素子から離れた前記第2の固定結合素子の先端で第2のキュービットに対する非ガルバニック結合インターフェースを形成する第2の固定結合素子を備える。次いで調整可能な結合素子は、前記第1の固定結合素子と第2の固定結合素子との間に形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置され得る。これは、第1の固定結合素子と第2の固定結合素子との間に結合が存在してもよく、調整可能な結合素子が、その結合の強度に影響を与えるために使用されてもよいという利点を伴う。
【0015】
一実施形態によれば、前記第2の固定結合素子は、導波路、導波路共振器、集中素子共振器、導体島のうちの1つである。これらの選択肢の各々は、第1の固定結合素子に関して既に上記に述べたものと同様の利点を伴う。
【0016】
一実施形態によれば、前記第1の固定結合素子および第2の固定結合素子は導波路であり、それらの各々は、調整可能な結合素子が隣接して配置されるそれぞれの先端でそれぞれの結合領域を備える。第1の固定結合素子および第2の固定結合素子のそれぞれの結合領域の両方は、他方の結合領域の第1のエッジに隣接する第1のエッジ、および調整可能な結合素子のそれぞれのエッジに隣接する第2のエッジを備える。これは、様々な素子間の結合が、高い精度および再現性で設計され得るという利点を伴う。
【0017】
一実施形態によれば、調整可能な結合素子は、環状の2次元領域の第1のセクタを占有し、第1の固定結合素子および第2の固定結合素子の前記それぞれの結合領域の各々は、前記環状の2次元領域のそれぞれのさらなるセクタを占有する。次いで前記さらなるセクタは、前記環状の2次元領域の隣接セクタであり得る。前記第1のセクタおよび前記さらなるセクタが一緒に、前記環状の2次元領域の全体をカバーしてもよい。これは、素子の所望の特性が、非常に小型のサイズおよび形状で実現され得るという利点を伴う。
【0018】
一実施形態によれば、調整可能なカプラは連続した固定結合素子のチェーンを備え、その1つが前記第1の固定結合素子であり、非ガルバニック結合インターフェースが、前記チェーンにおける連続した固定結合素子の間に形成される。次いで調整可能なカプラは、少なくとも2つの調整可能な結合素子を備えることができ、前記少なくとも2つの調整可能な結合素子の各々は、前記チェーンにおける連続した固定結合素子の間に形成される前記非ガルバニック結合インターフェースのそれぞれの1つに隣接する。これは、上記で説明した原理を使用してさらに非常に大きな量子計算回路を設計できるという利点を伴う。
【0019】
第2の態様によれば、上記に説明した種類の調整可能なカプラと、少なくとも1つのキュービットとを備える量子計算回路であって、前記調整可能なカプラが、前記少なくとも1つのキュービットへの制御可能な結合を形成する、量子計算回路が提供される。
【0020】
一実施形態によれば、量子計算回路は2つのキュービットを備え、前記調整可能なカプラは、前記2つのキュービット間で制御可能な結合を形成する。これは、先行技術の手段に典型的であったクロストークおよび他の不都合な効果を最小限に抑えながら、正確に制御可能な結合が前記2つのキュービット間に形成され得るという利点を伴う。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明のさらなる理解を提供し、本明細書の一部を構成するために含まれる添付の図面は、本発明の実施形態を示し、説明と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0022】
図1】2つのキュービット間の固定結合を示す。
図2】2つのキュービット間の調整可能な結合素子の使用を示す。
図3】異なる図表示で図2の原理を示す。
図4】キュービットおよび容量性カプラの例を示す。
図5】X形状キュービットおよび調整可能な結合素子の配置構成を示す。
図6】X形状キュービットおよびスラブ形状の調整可能な結合素子の配置構成を示す。
図7】間に調整可能でない結合素子を有する2つのX形状キュービットを示す。
図8】調整可能な結合素子および調整可能でない結合素子の両方を使用する例を示す。
図9図8の原理の可能な実装の例を示す。
図10図8の原理の可能な実装の別の例を示す。
図11】調整可能な結合素子および調整可能でない結合素子の両方を使用する別の例を示す。
図12図11の原理の可能な実装の例を示す。
図13図8の原理の可能な実装の例を示す。
図14図13に示される配置構成の一部の1つの可能な変形を示す。
図15】より多くのキュービットを有する配置構成に対する図8の原理の一般化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、2つのキュービット101と102との間の結合が、キュービットを調整することによってどのように影響を受け得るかの例である。キュービット101および102が、標準的な2キュービットゲートを形成すると仮定すると、そのオンおよびオフの位置は、キュービット間の強い結合および弱い結合に対応する。図1において、キュービット101および102の各々に専用の調整入力があり、これは、対応するキュービットの共振周波数を変更するために使用することができる。オフの位置では、キュービットは離調される。このような配置構成は、先行技術の説明において上記で言及した不都合な特徴を示す。
【0024】
図2は、2つのキュービット201と202との間の結合に影響を与えるために調整可能な結合素子203を使用した例である。図3は、これを概略的な回路図の形で示す。図2の容量結合1C、C2、および12は、それぞれ、図3に描かれたコンデンサC1C、C2C、およびC12として現れる。図2に示される調整入力は、図を明確にするために図3から省略されている。第1のキュービット201と調整可能な結合素子203との間の離調は、結合1Cに影響を与える。同様に、第2のキュービット202と調整可能な結合素子203との間の離調は、結合C2に影響を与える。2つのキュービット201および202の相互調整は、結合12に影響を与える。調整に加えて、回路素子の各ペア間の物理的距離もそれらの結合に重要な影響を与える。
【0025】
図2に示される配置構成の適切な動作に関して、キュービット201および202、ならびに調整可能な素子203は、静電容量1CおよびC2に加えて、静電容量C12も十分な大きさであるように互いに比較的近接しなければならないことを理解することは重要である。次にこれにより、キュービットの望ましくないペアと制御リードとの間の結合が、より多くのキュービットを含むシステムにおいて大きくなりすぎる。
【0026】
以下の図の多くでは、簡略化された形のプラス記号がキュービットに使用される(場合によっては、調整可能な結合素子にも使用される)。図4は、そのようなプラスの形の回路素子が実際にどのように見え得るかを示し、説明するために提供される。図4は、量子計算回路の一片の上面図であり、基板(例えば、シリコンまたはサファイアなど)が、その表面上に堆積した導電性材料および/または超電導材料の層およびパターンを有する。図4のクロスハッチ領域は、基板表面のむき出しの部分を示し、一方、白塗りの領域は、導電性材料および/または超電導材料を示す。
【0027】
基板の表面の大部分は、望ましくない渦電流の影響を低減させるために、超伝導材料から作製され、小さな開口部のマトリックスでパターン化された接地面401で満たされている。超電導材料のプラスの形の領域402は、キュービットの容量性部分を構成し、一方、403の詳細なパターンはジョセフソン接合を備える。量子計算回路内の別の回路素子が、キュービットへの非ガルバニック結合インターフェースをどのように形成し得るかの2つの例が示される。上部では、フォーク形状の領域404が、プラス形状の領域402の上部ブランチを介して容量結合を実装する。下部では、伝送ライン405の端部が、ジョセフソン接合が位置するキュービットのその部分に対して別の種類の非ガルバニック結合インターフェースを形成する。
【0028】
図5は、図2および3を参照して上記で説明したキュービット間の結合のための調整可能な結合素子を使用する原理が、キュービットのアレイでどのように利用され得るかを示す。ここで、クロスハッチのプラス記号はキュービットであり、それらの間の単純なハッチのプラス記号は調整可能な結合素子である。図6は、調整可能な結合素子がプラス形状ではなく単純な線形状であり、結合に影響を与えるプラス形状のキュービットの相互に面する分岐に隣接して表示される別の例を示す。調整可能な結合素子の形状に関係なく、キュービット間の距離を増加させることはできない。なぜなら、これは、キュービット間の直接静電容量(図3でC12として示される)を減少させるためである。結果として、図5および図6の両方において、キュービットは互いに比較的近接しなければならず、これはキュービット間でクロストークを発生させる。狭い間隔は、図5および6の概略図には示されていない読み出し共振器などの他の必要な回路素子のための基板の表面上で利用可能な空間の量も制限する。
【0029】
隣接するキュービット間の距離は、調整可能な結合素子のサイズおよび形状にも関連する。キュービットが互いに近接する場合、調整可能な結合素子がプラス形状(キュービット自体と同じ形状)であっても、2つのキュービット間の直接静電容量は十分に大きくなる。図6のように、線形状またはスラブ形状の調整可能な結合素子を使用すると、キュービットを互いにさらに近づけることができる。これは、キュービット間の結合が増加し、その結果、ゲートが高速化されることを意味するが、キュービット間のクロストークがさらに増えるという代償が伴う。
【0030】
図7は、本質的に拡張導体701である量子バスの概念を示し、その拡張導体701の端部は各々、それぞれのキュービットに対する非ガルバニック結合インターフェースを形成する。このような拡張導体701は、調整可能ではないため、固定結合素子とも呼ばれることがある。図の表示では、異なる種類の単純なハッチ(まばらで、左に傾いている)が、図5および6に示される調整可能な結合素子との違いを強調するために使用される。拡張導体701の左端は、第1のキュービット702に対する非ガルバニック結合インターフェースを形成し、拡張導体701の右端は、第2のキュービット703に対する非ガルバニック結合インターフェースを形成する。量子バスは、2つのキュービット間の距離を増加させる手段であり、これにより、十分なキュービット間の容量結合を維持しながら、基板の表面上でのクロストークおよび混み合いの問題を軽減する。
【0031】
図8は、2つのキュービット801および802への(またはその間の)制御可能な結合を行うための調整可能なカプラの原理を示す。調整可能なカプラは、第1の固定結合素子803および調整可能な結合素子804を備える。図8の実施形態では、調整可能なカプラは、第2の固定結合素子805も備える。
【0032】
第1の固定結合素子803は、第1のキュービット801に対する非ガルバニック結合インターフェースを形成する。図8の概略図は、様々な素子の物理的外形に関していかなる立場もとらないが、第1のキュービット801に対する非ガルバニック結合インターフェースは、調整可能な結合素子804から離れた第1の固定結合素子の第1の先端に形成されると仮定することができる。
【0033】
調整可能な結合素子804は、第1の固定結合素子803の第2の先端でさらなる回路素子(ここでは、第2の固定結合素子805)に対して形成された非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。この特徴は、図9および10と比較することによってより詳細に考慮され得る。
【0034】
図9では、2つのキュービット801および802は、中間の調整可能な結合素子804と同様にプラス形状である。固定結合素子803および805は、線形状またはスラブ形状である。図9の素子の相互配置は、他の点では図8を参照した上記と同様であるが、調整可能な結合素子804は、第1の固定結合素子803の第2の先端でさらなる回路素子に対して形成された非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置されていない。むしろ、図9では、調整可能な結合素子804は、第1の固定結合素子803の「第2の先端」(すなわち、右端)と第2の固定結合素子805の最も近い部分との間に配置され、その間の隙間を埋める。結果として、図9では固定結合素子803と805との間に比較的弱い直接結合が存在する。
【0035】
図10では、調整可能な結合素子804は、線形状またはスラブ形状であり、第1の固定結合素子803の第2の先端でさらなる回路素子に対して形成された非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。すなわち、第1の固定結合素子803の第1の先端はその左端であり、非ガルバニック結合インターフェースは、第1のキュービット801に対して形成される。第1の固定結合素子803の第2の先端はその右端であり、図10では、非ガルバニック結合インターフェースは、第2の固定結合素子805に対して形成される。
【0036】
図10の実施形態では、第2の固定結合素子805は、調整可能な結合素子804から離れた第2の固定結合素子805の先端で第2のキュービット802に対して非ガルバニック結合インターフェースを形成する。調整可能な結合素子804は、中間において第1の固定結合素子803と第2の固定結合素子805との間に形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。
【0037】
様々な素子間の結合が、図8の上部に概略的に示される。ここで、図10と特に比較することができる。直接的なキュービット間結合810が存在するが、図10のキュービット801と802との間の比較的大きな距離のために、これは比較的弱い。それとは全く反対に、それぞれの素子のペアの近接は、比較的強力であり得る複数の結合が存在していることを意味する:第1のキュービット801と第1の固定結合素子803との間の結合811、第1の固定結合素子803と第2の固定結合素子805との間の結合812、および第2の結合素子805と第2のキュービット802との間の結合813。固定結合素子803および805と調整可能な結合素子804との間のそれぞれ結合814および815の強度は、調整可能な結合素子804がどのように調整されるかに依存する。固定結合素子803および805が共振器である場合、それらも調整することができ、結合814および815の強度にさらに影響を与える。固定結合素子803および805が、カプラ島、短い導波路、またはそれら自体を調整できない他のそのような素子である場合、全ての他の結合から生じる有効な結合810は、キュービット801、802および調整可能な結合素子804がどのように調整されるかに依存する。
【0038】
図11および12は別の実施形態を示す。図8および10と比較すると、第2の固定結合素子805が欠落している。むしろ、図11および12では、第1の固定結合素子803の第2の先端で非ガルバニック結合インターフェースが形成されるさらなる回路素子は第2のキュービット802である。図11および12の実施形態では、それぞれの素子のペアの近接のために比較的強力であり得る2つの結合、第1のキュービット801と第1の固定結合素子803との間の結合1101、および第1の固定結合素子803と第2のキュービット802との間の結合1102、が存在する。第1の固定結合素子803と調整可能な結合素子804との間、および調整可能な結合素子804と第2のキュービット802との間の結合1103および1104の強度は、第1のキュービット801、調整可能な結合素子804、および第2のキュービット802がどのように調整されるかに依存する。
【0039】
固定結合素子(図12の素子803など)または固定結合素子のチェーン(図10の素子803および805など)の効果は、図3のC12に匹敵する十分に有効なキュービット間の結合が、キュービット801および802が比較的遠く離れている場合でさえも達成されることである。調整可能な結合素子804は、キュービット間の結合を直接媒介する(図2、3、5、および6の実施形態で行ったように)ことはしない。代わりに、それは、2つの固定結合素子の間(図10のように)、固定結合素子とキュービットの1つとの間(図12のように)、または固定結合素子といくつかの他の種類のさらなる回路素子との間の結合を媒介する。
【0040】
図8~12に関して上記で説明した種類の固定結合素子は、代わりに結合拡張部と呼ぶこともできる。それらは、以前に知られている手段よりもさらに離れてキュービットを配置することを可能にし、次いで、キュービット間の他の接地層へのより大きな接地面、ビア、またはバンプ結合のための空間を与える。キュービット間のより多くの接地は、クロストークが減少することを意味する。
【0041】
上記の固定結合素子のいずれも導波路共振器であってもよく、これは、この結合素子が、目的の所与の周波数における固有波長に匹敵する長さを有することを意味する。導波路は、トランズモンキュービットのための固定結合素子として使用するのに特に便利である。これは、トランズモンキュービットの典型的な固有の寸法が、共振周波数における波長の約20分の1であるのに対して、少ないクロストークのために推奨される2つのトランズモンキュービット間の最小距離が、トランズモンキュービットの固有の寸法の約10倍であるためである。
【0042】
導波路(固定結合素子または言い換えれば結合拡張部として使用される)とキュービットとの間の結合強度は、導波路の長さが、目的の周波数で半波長の整数に近い場合、増強される。この場合、導波路(または導波路となる寸法の固定結合素子)が導波路共振器である。このようなより高い結合強度は、より高速な2キュービットゲートを可能にするが、結合は共振周波数に対してのみ増強する。周波数分散と呼ばれるこの現象は、回路設計を、寸法および製造の不正確さに対してよりセンシティブにする。
【0043】
別の実施形態によれば、固定結合素子のいずれも集中素子共振器であってもよい。導波路共振器のように共振周波数において結合が増強されることに加えて、集中素子共振器は、はるかに広い範囲で特性インピーダンスの設計を可能にし、キュービット間の結合をさらに強力にすることができる。しかしながら、強い周波数分散に加えて、集中素子共振器の自己共振周波数は、近くの他の回路素子の形状に対して非常にセンシティブである可能性があり、量子計算回路の設計をかなり困難にする可能性がある。
【0044】
さらに別の実施形態によれば、固定結合素子のいずれも導体島であってもよい。導体島は、わずかな自己インダクタンスおよびグラウンドへの結合を有する回路素子である。導体島は、量子ドットキュービットの固定結合素子として特に有用である。なぜなら、それらの間の実際の距離が、現実的な結合素子形状についてのキュービットの典型的な共振周波数における波長よりもはるかに小さい場合があるためである。
【0045】
図13は、一実施形態による調整可能なカプラ、ならびに2つのキュービット801および802を示す。調整可能なカプラは、第1の固定結合素子803、調整可能な結合素子804、および第2の固定結合素子805を備える。第1の固定結合素子803は、その第1の先端で第1のキュービット801に対して非ガルバニック結合インターフェースを形成し、この第1の先端は、調整可能な結合素子804から離れた方である。第2の固定結合素子805は、調整可能な結合素子804から離れたその先端で第2のキュービット802に対して非ガルバニック結合インターフェースを形成する。調整可能な結合素子804は、第1の固定結合素子803と第2の固定結合素子805との間に形成される非ガルバニック結合インターフェースに隣接して配置される。言い換えれば、直前で述べた非ガルバニック結合インターフェースは、調整可能な結合素子804に最も近い第1の固定結合素子803および第2の固定結合素子805の先端の間にある。接地面および調整接続は、図の明瞭さを維持するために図13に示されていない。破線で示されるコンデンサは、上記の図8と同じ参照識別子を有する素子間の容量結合を示す。
【0046】
図13の実施形態では、第1の固定結合素子803および第2の固定結合素子805の各々は導波路である。それらの各々は、その先端にそれぞれの結合領域を備え、その先端に隣接して調整可能な結合素子804が配置される。これらの結合領域は、図13の参照識別子1301および1302で示される。それらの形状は、一方では2つの固定結合素子803と805との間で、他方ではそれらの各々と調整可能な結合素子804との間でそれぞれの容量結合を生成するのに適している。特に、第1および第2の固定結合素子のそれぞれの結合領域1301および1302の両方は、他方の結合領域の第1のエッジに隣接する第1のエッジ、および調整可能な結合素子804のそれぞれのエッジに隣接する第2のエッジを備える。
【0047】
図13の調整可能な結合素子804ならびに結合領域1301および1302には、ほぼ環状の形状が使用される。調整可能な結合素子804は、環状の2次元領域の第1のセクタを占有する。第1の固定結合素子803および第2の固定結合素子805のそれぞれの結合領域1301および1302の各々は、前記環状の2次元領域のそれぞれのさらなるセクタを占有する。これらのさらなるセクタは、前記環状の2次元領域の隣接セクタである。前記第1のセクタおよび前記さらなるセクタは共に、前記環状の2次元領域の全体をカバーする。図13のインターリーブフィンガのような静電容量増強形態は、隣接セクタのエッジのいずれかで使用され得る。
【0048】
ほぼ環状の形状は、使用される場合、円形の環状の形状を意味する必要はなく、様々な多角形が使用されてもよい。また、絡み合った指型の形状(それ自体は、使用することができる静電容量を増強する形状の例にすぎない)が、それぞれ図13の調整可能な結合素子804と結合領域1301および1302との間で使用されているとしても、これは必須の特徴ではない。図4は、調整可能な結合素子804ならびに結合領域1301および1302に環状の六角形の形状が使用される代替の実施形態を示す。また、図14の実施形態では、絡み合った指型の形状は、調整可能な結合素子804と個々の結合領域1301および1302の各々との間での使用に加えて結合領域1301と1302との間で使用される。ほぼ環状の形状は、関与する領域のいずれの間でも絡み合った指型の形状を使用せずに使用されてもよい。
【0049】
図15は、上記の原理と適合した調整可能なカプラが、複数のキュービットを備える量子計算回路においてどのように使用され得るかの例を示す。一例として、キュービット1501~1505の最も右側の列を考慮することができる。それらの右側の調整可能なカプラは、連続した固定結合素子のチェーンを備える。最上部のキュービット1501に最も近いものは、第1の固定結合素子1506と呼ぶことができる。非ガルバニック結合インターフェースは、前記チェーンにおける連続した固定結合素子の間に形成される。例として、前記チェーンによると、第1の固定結合素子1506から垂直に方向付けられた固定結合素子1507およびさらなる固定結合素子1508まで非ガルバニック結合インターフェースを飛び越えることができる。調整可能なカプラは、少なくとも2つの調整可能な結合素子を備え、調整可能な結合素子1509および1510はその例である。それらの調整可能な結合素子の各々は、前記チェーンにおける連続した固定結合素子の間に形成される前記非ガルバニック結合インターフェースのそれぞれの1つに隣接する。
【0050】
図15の例に示されるように、調整可能なカプラにおける固定結合素子の少なくともいくつかは、共有バスを構成することができ、それを通して複数の異なるキュービットへの、およびそれらからの接続が可能になる。
【0051】
上記の実施形態に対する変形および改変が、添付の特許請求の範囲から逸脱せずに可能である。例えば、キュービットは、所与のカプラインピーダンスに対して十分な電圧サポートを有する任意の種類の電気キュービットであってもよく、それらには、限定されないが、トランズモンおよび量子ドットキュービットが含まれる。様々な容量および他の非ガルバニック結合方法がそれ自体当業者に公知であり、それらは、上記のものの代わりに、またはそれらに加えて使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】