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▶ クオンタム ヴァリー アイデアズ ラボラトリーズの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】フォトニック結晶メーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/06 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
H01S1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525553
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 CA2021051529
(87)【国際公開番号】W WO2022087743
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/107,924
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521266918
【氏名又は名称】クオンタム ヴァリー アイデアズ ラボラトリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アマルロー ハーディ
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー ジェームズ ピー
(57)【要約】
一般的な一態様において、フォトニック結晶メーザは、フォトニック結晶構造を内部に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイを有する誘電体を備える。また、誘電体は、欠陥をフォトニック結晶構造中に規定するキャビティのアレイの領域を備える。この領域を通る細長スロットが誘電体の表面のスロット開口から誘電体の少なくとも一部を通って延びている。キャビティのアレイおよび細長スロットは、導波モードを有する導波路を規定する。また、このフォトニック結晶メーザは、細長スロットにおける蒸気または蒸気源と、蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な光信号を生成するように構成されたレーザと、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体であり、
フォトニック結晶構造を当該誘電体中に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイと、
欠陥を前記フォトニック結晶構造中に規定する前記キャビティのアレイの領域と、
当該誘電体の表面のスロット開口から当該誘電体の少なくとも一部を通って延びた前記領域を通る細長スロットと、
を備え、
前記キャビティのアレイおよび前記細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、誘電体と、
前記細長スロットを覆い、前記誘電体の前記表面に接合されて前記スロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有する光学ウィンドウと、
前記細長スロットにおける蒸気または蒸気源であり、
1つまたは複数の入力電子遷移と、
前記1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、目標高周波(RF)電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、前記導波路の前記導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、蒸気または蒸気源と、
前記蒸気の前記1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な光信号を生成するように構成されたレーザと、
を備えたフォトニック結晶メーザ。
【請求項2】
前記アレイの前記キャビティが、2次元格子の各部位に配設され、前記領域が、前記2次元格子の2つ以上の連続する部位にキャビティが存在しないことによって規定される、請求項1に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項3】
前記フォトニック結晶構造が、前記目標RF電磁放射を前記細長スロットに集中させるように構成された、請求項1に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項4】
前記キャビティのアレイの前記領域が、軸に沿って延び、前記細長スロットが、前記軸と平行に位置合わせされ、
前記フォトニック結晶構造が、前記軸と平行な方向に沿う前記目標RF電磁放射の群速度を減少させるように構成された、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項5】
前記キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項6】
前記1つまたは複数のオフセットキャビティが、前記細長スロットの端部の最も近くに存在し、前記細長スロットの前記端部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、請求項5に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項7】
前記1つまたは複数のオフセットキャビティが、前記細長スロットの側部の最も近くに存在し、前記細長スロットの前記側部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、請求項5に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項8】
前記細長スロットの端部に配設された光学ミラーを備えた、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項9】
前記光学ミラーが、前記細長スロットにより規定された光路に対して角度が付けられた、請求項8に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項10】
前記光学ミラーが、前記細長スロットにより規定された光路と垂直である、請求項8に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項11】
前記キャビティのアレイの前記領域が、軸に沿って延び、前記細長スロットが、前記軸と平行に位置合わせされ、
前記誘電体が、当該誘電体の端部から延びて前記軸と位置合わせされ、前記目標RF電磁放射を当該フォトニック結晶メーザの周囲環境に対してインピーダンス整合させるように構成されたインピーダンス整合構造を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項12】
前記インピーダンス整合構造が、テーパ状端部で終端し、
前記テーパ状端部と位置合わせされた狭隘部と、
前記狭隘部から外方に延び、周期的間隔が沿う同一平面部のアレイであり、前記目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングするように構成された、同一平面部アレイと、
を備えた、請求項11に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項13】
前記ウィンドウ面が、第1のウィンドウ面であり、
前記光学ウィンドウが、前記第1のウィンドウ面と反対の第2のウィンドウ面を含み、
当該フォトニック結晶メーザが、間隙によって前記第2のウィンドウ面から分離された誘電体プレートを備えた、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項14】
前記フォトニック結晶構造が、前記導波路中の前記目標RF電磁放射の横磁気(TM)モードと関連付けられたフォトニックバンドギャップを規定する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項15】
前記フォトニック結晶構造が、前記導波路中の前記目標RF電磁放射の横電気(TE)モードと関連付けられたフォトニックバンドギャップを規定する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項16】
前記蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項17】
前記領域が、ループを前記キャビティのアレイ中に構成し、前記細長スロットが、前記ループのループ軸に沿って延びることにより、ループ状スロットを構成し、
前記蒸気または前記蒸気源が、前記ループ状スロットの少なくとも一部に配設された、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項18】
前記ループ状スロットが、前記ループ軸に沿った第1および第2のループ方向と関連付けられ、前記第1のループ方向が前記第2のループ方向と反対であり、
前記ループ状スロットが、第1および第2のRFポートを含み、
当該フォトニック結晶メーザが、前記第1および第2のRFポートにそれぞれ結合された第1および第2の方向性結合器を備え、前記第1の方向性結合器が、前記第1のループ方向に沿って進む前記目標RF電磁放射の第1の部分を受信するように構成され、前記第2の方向性結合器が、前記第2のループ方向に沿って進む前記目標RF電磁放射の第2の部分を受信するように構成された、請求項17に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項19】
前記誘電体の前記表面が、第1の表面であり、前記誘電体が、前記第1の表面と反対の第2の表面を含み、
前記細長スロットが、前記第1の表面から前記誘電体を通って前記第2の表面まで延び、
前記スロット開口が、第1のスロット開口であり、前記誘電体の前記第2の表面が、前記細長スロットの第2のスロット開口を規定しており、
前記光学ウィンドウが、第1の光学ウィンドウであり、前記ウィンドウ面が、第1のウィンドウ面であり、
当該フォトニック結晶メーザが、前記第2のスロット開口を覆い、前記第2の表面に接合されて前記第2のスロット開口周りのシールを構成する第2のウィンドウ面を有する第2の光学ウィンドウを備えた、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶メーザ。
【請求項20】
光信号を誘電体の細長スロットに受信することであり、前記誘電体が、
フォトニック結晶構造を当該誘電体中に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイと、
欠陥を前記フォトニック結晶構造中に規定する前記キャビティのアレイの領域と、
前記領域に配置され、当該誘電体の表面のスロット開口から当該誘電体の少なくとも一部を通って延びた前記細長スロットと、
を備え、
光学ウィンドウが前記細長スロットを覆い、前記誘電体の表面に接合されて前記スロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有し、
前記キャビティのアレイおよび前記細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、ことと、
前記細長スロットにおいて封止された蒸気から目標高周波(RF)電磁放射を放出することであり、前記蒸気が、
前記光信号により励起される1つまたは複数の入力電子遷移と、
前記1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、前記目標RF電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、前記導波路の前記導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、ことと、
前記出力電子遷移と前記導波モードとの間で前記目標RF電磁放射の少なくとも一部を共振させることにより、前記目標RF電磁放射を増幅することと、
を含む方法。
【請求項21】
前記光信号を前記細長スロットに受信することが、前記光信号を前記細長スロット中の前記蒸気と相互作用させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記光信号を相互作用させることが、前記細長スロットにより規定された光路に沿って前記光信号を伝搬させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記光信号を前記細長スロットに受信することが、前記細長スロットの端部に配設されたミラーで前記光信号を反射させることを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記導波路の動作によって、前記目標RF電磁放射を前記誘電体の端部に向かって案内することを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記キャビティのアレイの前記領域が、軸に沿って延び、前記細長スロットが、前記軸と平行に位置合わせされ、
前記誘電体が、当該誘電体の前記端部から延びて前記軸と位置合わせされたインピーダンス整合構造を含み、
放出または増幅後の前記目標RF電磁放射を前記インピーダンス整合構造に結合することと、
前記インピーダンス整合構造の動作によって、前記結合した目標RF電磁放射を前記誘電体の周囲環境に対してインピーダンス整合させることと、
を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記インピーダンス整合構造の一体部である偏波器を用いて、前記結合した目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングすることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記目標RF電磁放射を増幅することが、前記目標RF電磁放射を前記細長スロットに集中させることを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記キャビティのアレイの前記領域が、軸に沿って延び、前記細長スロットが、前記軸と平行に位置合わせされ、
前記目標RF電磁放射を増幅することが、前記軸と平行な方向に沿う前記目標RF電磁放射の群速度を減少させることを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含み、
前記目標RF電磁放射を増幅することが、前記目標RF電磁放射を前記オフセットキャビティで反射させることを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年10月30日に出願された米国仮特許出願第63/107,924号「Photonic Crystal Maser」の優先権を主張する。この優先出願のすべての開示内容を本願に援用する。
【0002】
以下の記述は、フォトニック結晶メーザに関する。
【背景技術】
【0003】
メーザは、原子または分子による高いエネルギー状態から低いエネルギー状態への誘導放出によって、コヒーレントな電磁放射を生成する。誘導放出では、共振器に蓄積した原子または分子の放出周波数の電磁放射を生成する。原子または分子からの誘導放出の一部の捕捉には共振器が使用され得るため、共振器中の光子は、励起した原子または分子から共振器モードへのより多くの放出を誘導可能である。このため、共振器は、原子および分子の放出周波数に対応する振動モードを有することにより、原子または分子との「共振」が可能となり得る。共振器は、このようにエネルギーを貯蔵し、コヒーレントな誘導放出によって、メーザからの電磁エネルギーの放出を増幅可能である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1A】誘電体が2つの光学ウィンドウに接合された例示的なフォトニック結晶メーザの模式斜視図である。
図1B】誘電体がリング共振器構造を含む図1Aの例示的なフォトニック結晶受信機の模式上面図である。
図2】リュードベリ原子メーザの例示的なエネルギーレベルの模式図である。
図3A】共振周波数が81.8GHzの例示的なフォトニック結晶メーザについて、上面と垂直に配向した模擬双極子に応答して生成された電界の等高線マップである。
図3B】スケールを1000倍にした図3Aの電界の等高線マップである。
図3C】模擬双極子が81.7GHzで振動し、例示的なフォトニック結晶メーザの上面と平行に配向した図3Aの電界の等高線マップである。
図3D】模擬双極子が81.8GHzで振動し、例示的なフォトニック結晶メーザの上面と平行に配向した図3Aの電界の等高線マップである。
図3E】模擬双極子が82.0GHzで振動し、例示的なフォトニック結晶メーザの上面と平行に配向した図3Aの電界の等高線マップである。
図4A】光学ウィンドウおよび光学ウィンドウの上方に配置された移動可能なガラス片を有する例示的なフォトニック結晶メーザの模式断面図である。
図4B図4Aの例示的なフォトニック結晶メーザのバンドエッジのグラフであり、移動可能なガラス片の位置によってバンドエッジの周波数位置がシフトする様子を示した図である。
図5】例示的なフォトニック結晶構造の断面を通る電界の大きさの等高線マップである。
図6A】レーザによって光学的に励起される例示的なフォトニック結晶メーザの模式上面斜視図である。
図6B】小型の結合光学系を用いて励起レーザからの光を内部に案内する図6Aの例示的なフォトニック結晶メーザの模式斜視図である。
図6C】小型の結合光学系を用いて励起レーザからの光を内部に案内する図6Aの例示的なフォトニック結晶メーザの模式上面図である。
図7A】放射双極子の増大因子の決定に用いられる例示的なフォトニック結晶メーザの模式斜視図である。
図7B図7Aの例示的なフォトニック結晶構造に対して模擬した増大因子のグラフである。
図8】フォトニック結晶メーザの例示的な設計パラメータの表である。
図9A】細長スロットの端部に近接してフォトニック結晶ミラーを規定するように構成されたキャビティを有する例示的なフォトニック結晶構造の模式上面図である。
図9B】フォトニック結晶ミラーからの97.8%反射に対応する図9Aの例示的なフォトニック結晶構造の電界パターンの等高線グラフである。
図9C】フォトニック結晶ミラーからの88.5%反射に対応する図9Aの例示的なフォトニック結晶構造の電界パターンの等高線グラフである。
図9D】さまざまな倍率による図9Aのフォトニック結晶ミラーの反射率の値の表である。
図10】フォトニック結晶メーザを含む例示的な試験システムの模式図である。
図11】フォトニック結晶メーザおよびフォトニック結晶受信機をそれぞれ有する2つの送受信機を含む例示的な送受信システムの模式図である。
図12】フォトニック結晶メーザおよび蒸気セルセンサを含むシステムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
一般的な一態様においては、フォトニック結晶構造および蒸気を含むフォトニック結晶メーザが開示される。たとえば、フォトニック結晶メーザは、フォトニック結晶構造を内部に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイを有する誘電体を具備していてもよい。また、誘電体は、欠陥をフォトニック結晶構造中に規定するキャビティのアレイの領域を具備していてもよい。この領域を通る細長スロットが誘電体の表面のスロット開口から誘電体の少なくとも一部を通って延びている。また、このフォトニック結晶メーザは、細長スロットにおける蒸気(または、蒸気源)と、細長スロットを覆う光学ウィンドウと、を具備していてもよい。光学ウィンドウは、誘電体の表面に接合されてスロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有する。このため、光学ウィンドウは、誘電体とともに蒸気セルを規定していてもよい。いくつかの変形例において、フォトニック結晶構造および細長スロットは、蒸気の電子遷移(たとえば、リュードベリ遷移、原子遷移、分子遷移等)と共振するように構成されている。いくつかの変形例においては、細長スロットの一端または両端に光学ミラーが配置されている。いくつかの変形例においては、細長スロットの一端または両端にフォトニック結晶ミラーが配置されている。後述の通り、フォトニック結晶メーザの他の構成も可能である。
【0006】
いくつかの実施態様においては、フォトニック結晶フレーム(または、構造)を形成した後、1つまたは2つの光学ウィンドウをフレームに接合することによって、フォトニック結晶メーザが構成されるようになっていてもよい。これらの構成要素は、米国特許第10,859,981号「Vapor Cells Having One or More Optical Windows Bonded to a Dielectric Body」および米国特許第11,137,432号「Photonic Crystal Receivers」に記載の技術を用いて互いに接合されるようになっていてもよく、これらのすべての開示内容を本明細書に援用する。たとえば、一方または両方の光学ウィンドウへのフォトニック結晶フレームの接合には、接触接合法が用いられるようになっていてもよい。さらに、一方または両方の光学ウィンドウへのフォトニック結晶フレームの接合を容易化するため、接着層(たとえば、ケイ素または二酸化ケイ素で形成された接着層)が用いられるようになっていてもよい。
【0007】
フォトニック結晶フレームおよび光学ウィンドウは、誘電体材料で形成されていてもよい。たとえば、フォトニック結晶フレームがケイ素により形成され、光学ウィンドウがガラス(たとえば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等)により形成されていてもよい。別の例においては、フォトニック結晶フレーム、光学ウィンドウ、または両者がBaLn2Ti412(BLT)で形成されていてもよく、Lnは、ランタノイド元素から選択された1つまたは複数の元素に対応する。多くの変形例において、光学ウィンドウは、メーザの励起に用いられるレーザ光に対して透明である。この透明性は、光学ウィンドウ全体で生じていてもよいし、あるいは、細長スロットを覆う部分等、光学ウィンドウの一部に限定されていてもよい。
【0008】
いくつかの実施態様において、蒸気は、ガス状の原子、分子、または両者を含む。蒸気(または一般に、放射体)は、フォトニック結晶の欠陥(たとえば、線状欠陥)を中心とする細長スロットに配置されている。この位置では、蒸気が自由空間と異なる電磁モード環境に存在し得る。多くの変形例において、電磁界のモード構造は、フォトニック結晶フレームの有無により変更される。また、フォトニック結晶フレームは、特定の設計周波数およびその周りでの群速度屈折率を増大させることによって電磁波を減速させるように設計されていてもよい。電磁波を減速させると、自由空間に対してキャビティのエネルギー密度が高くなることで、当該モードへの放射体の誘導放出率が高くなり得る。減速した電磁波は、細長スロットに大略閉じ込められるため、(たとえば、共振モードの変更によって)電磁界をさらに強める可能性がある。
【0009】
この構成の利点として、電磁界の減速および集中により共振モードへの放出率が高くなることでメージング閾値を低くすることができる。このような低下によって、利得閾値も低くなることから、低利得でのメーザ動作が可能となる。共振周波数における局所電磁界モードは、細長スロットに存在する蒸気の特定の遷移周波数に対応するように設計されていてもよい。場合によっては、カラーセンター等の材料が細長スロットに配置されていてもよい。これらのモードへの放出率は、他の電磁界モード(たとえば、細長スロットに直交する方向または他の周波数に対応するモード)への放出に対して、大幅に高くなり得る。
【0010】
場合によっては、高次リュードベリ状態のレーザ励起等、細長スロットの内側に配置された放射体の高次遷移の反転によってメーザが開始される。たとえば、ミラーおよび光ファイバの使用によって、励起レーザを細長スロット中に結合可能である。スロットフォトニック結晶モードへの自然放出によって、このモードへの誘導放出がなだれ的に発生し、メーザが生成される。このメージングプロセスによれば、設計周波数において、コヒーレントな有向電磁波源が生成され得る。細長スロットおよびフォトニック結晶フレームの端部は、フォトニック結晶の形状を変更することにより、メーザのミラーとして構成可能である。さらに、細長スロットの複数回の通過によって電磁波をより増幅可能な構造も設計可能である。いくつかの変形例においては、出力ミラーに隣り合って配置されたテーパの使用により、出力電磁波の自由空間への結合および出力ビームの成形が可能となる。レンズ等、出力においてビームを成形するための他の構造も可能である。このデバイスは、励起の変調(たとえば、レーザ光の強度の変調)によって振幅変調されるようになっていてもよい。
【0011】
いくつかの実施態様においては、米国特許第10,859,981号および米国特許第11,137,432号等に記載の低温接触接合が真空封止に用いられる。原子サンプルの純度を保つように、光学ウィンドウのうちの1つ(または、光学ウィンドウのうちの1つの充填孔)を接触接合可能である。他の接合方法では、蒸気セルに高い温度および/または電圧を加えることが必要となり得るものの、ガスが大量に発生して、衝突によりメーザの性能を損なう可能性がある。特定の場合においては、蒸気セルの充填に小さなステムを使用可能である。これらの場合は、光学ウィンドウをフレームに陽極接合可能である。この構造は、全誘電体材料で構成されている。このような構成によれば、メーザは、信号源としての無響室における無線試験での使用または指向性通信システムでの使用が可能となる。また、メーザは、受信機用途におけるクロックすなわち周波数基準としての使用および信号処理用の局部発振器としての使用も可能である。さらに、メーザは、リュードベリ原子電位測定の原理との統合によって、本明細書の開示に係る接合放射体受信機を構成することも可能である。
【0012】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶メーザは、高周波(RF)領域(たとえば、100MHz~1THz)のコヒーレント放射を生成することにより、高周波(RF)電磁放射を放出するレーザと同様に機能し得る。いくつかの変形例において、この領域は、20kHz~1THzの範囲である。他の変形例において、この領域は、20kHz~300GHzの範囲である。フォトニック結晶メーザは、蒸気セルが組み込まれたモノリシックフォトニック結晶フレームを具備することにより、最大およそ100nWの電力を生成可能なメーザを構成し得る。低電力ではあるが、デバイスを誘電体材料から作製して、無線試験および通信用の有向RF信号の生成に使用することができる。放出されるビームは、指向性かつコヒーレントであるため、アンテナにより一般的に生成される空間的拡散を伴うことなく、長距離の伝搬が可能となる。このような空間的拡散によって、ビーム強度はR-2で小さくなる。ここで、Rは、伝搬距離である。フォトニック結晶メーザの誘電体構成によれば、無響室に設置して、環境を大きく乱すことなく試験用の変調されたRF信号を生成可能となる。また、フォトニック結晶メーザは、タイミングおよび周波数基準、RF分光、またはリュードベリ原子に基づく受信機もしくは他種の従来の受信機と併せた局部発振器としての使用も可能である。
【0013】
いくつかの例において、フォトニック結晶メーザは、フォトニック結晶構造(または、フレーム)と、励起レーザ光をフォトニック結晶構造の細長スロットに導くための光ファイバ回路と、を含む。また、フォトニック結晶メーザは、1つまたは複数の励起レーザと、これらのレーザを制御するための電子機器と、を具備していてもよい。また、電子機器は、出力結合器等の構造の制御によって、励起レーザからの出力ビームを成形(たとえば、コリメート)するとともに、伝搬媒体に対して出力ビームをインピーダンス整合させるようにしてもよい。
【0014】
たとえば、図1Aは、誘電体102が2つの光学ウィンドウ104、106に接合された例示的なフォトニック結晶メーザ100の模式斜視図である。誘電体102は、フォトニック結晶構造110を当該誘電体102中に規定するため周期的に配列されたキャビティ108のアレイを具備する。たとえば、アレイのキャビティ108は、斜め格子、正方形格子、長方形格子、六角形格子、菱形格子等の2次元格子の各部位に配設されていてもよい。図1Aにおいては、各キャビティ108が貫通孔により規定されている。ただし、形状の組み合わせを含めて、キャビティ108には他の形状(たとえば、止まり孔、内部空洞等)も可能である。また、誘電体102は、欠陥をフォトニック結晶構造110中に規定するキャビティ108のアレイの領域112(または、欠陥領域)を具備する。この領域は、2次元格子の2つ以上の連続する部位にキャビティ108が存在しないことにより規定されていてもよい。図1Aにおいて、領域112は、キャビティ108が存在しない列を有する線状の領域である。ただし、湾曲、円形、楕円形、蛇行、正方形、長方形、六角形等、他の形状も可能である。
【0015】
誘電体102は、RF電磁放射に対して実質的に透明な材料で形成されていてもよい。この材料は、高い抵抗率(たとえば、ρ>103Ω・cm)を有する絶縁材料であってもよく、また、単結晶材料、多結晶材料、または非晶質(もしくは、ガラス)材料に対応していてもよい。たとえば、誘電体102は、ケイ素で形成されていてもよい。別の例において、誘電体102は、ガラス質シリカ、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等の酸化ケイ素(たとえば、SiO2、SiOx等)を含むガラスで形成されていてもよい。場合により、誘電体102の材料は、酸化マグネシウム(たとえば、MgO)、酸化アルミニウム(たとえば、Al23)、二酸化ケイ素(たとえば、SiO2)、二酸化チタン(たとえば、TiO2)、二酸化ジルコニウム(たとえば、ZrO2)、酸化イットリウム(たとえば、Y23)、酸化ランタン(たとえば、La23)等の酸化物材料である。酸化物材料は、非化学量論的(たとえば、SiOx)であってもよく、また、1つまたは複数の二元酸化物(たとえば、Y:ZrO2、LaAlO3等)の組み合わせであってもよい。特定の変形例において、この組み合わせは、BaLn2Ti412に対応していてもよい。ここで、Lnは、元素の周期律表のランタニド族の1つまたは複数の元素を表す。他の例において、誘電体102の材料は、シリコン(Si)、ダイヤモンド(C)、窒化ガリウム(GaN)、フッ化カルシウム(CaF)等の非酸化物材料である。
【0016】
また、誘電体102では、領域112を通る細長スロット114が誘電体102の表面のスロット開口から誘電体の少なくとも一部を通って延びている。図1Aにおいて、細長スロット114は、誘電体102を通って第2のスロット開口まで完全に延びている。キャビティ108のアレイおよび細長スロット114は、導波モードを有する導波路を規定する。動作時、導波路は、誘電体102の端部等に向かって、領域112の軸に沿って高周波(RF)電磁放射(または、その波)を案内し得る。
【0017】
また、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、細長スロット114における蒸気(または、蒸気源)を具備する。蒸気は、アルカリ金属原子のガス、希ガス、二原子ハロゲン分子のガス、有機分子のガス等の成分を含んでいてもよい。たとえば、蒸気は、アルカリ金属原子(たとえば、K、Rb、Cs等)のガス、希ガス(たとえば、He、Ne、Ar、Kr等)、または両者を含んでいてもよい。別の例において、蒸気は、二原子ハロゲン分子(たとえば、F2、Cl2、Br2、等)のガス、希ガス、または両者を含んでいてもよい。さらに別の例において、蒸気は、有機分子(たとえば、アセチレン)のガス、希ガス、または両者を含んでいてもよい。蒸気には、他の成分を含む他の組み合わせも可能である。蒸気源は、熱、紫外線放射への曝露、レーザ光の照射等のエネルギー的な刺激に応答して蒸気を生成するようにしてもよい。たとえば、蒸気は、アルカリ金属原子のガスに対応していてもよく、蒸気源は、細長スロット114に配設された場合に固相または液相となるように十分に冷却されたアルカリ金属塊に対応していてもよい。
【0018】
多くの実施態様において、蒸気は、複数対の電子エネルギーレベル間に規定された電子遷移(たとえば、リュードベリ遷移、原子遷移、分子遷移等)を有する。特に、蒸気は、1つまたは複数の入力電子遷移と、1つまたは複数の入力電子遷移に結合された出力電子遷移と、を含む。出力電子遷移は、目標RF電磁放射を放出するように動作可能であり、導波路の1つまたは複数の導波モードと共振する。電子遷移の例については、図2に関して詳述する。いくつかの実施態様において、例示的なフォトニック結晶構造100は、蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な光信号を生成するように構成されたレーザ(たとえば、励起レーザ)を具備する。ただし、他のエネルギー源(たとえば、高周波光子源)も可能である。いくつかの実施態様において、出力電子遷移は、周波数が100MHz~1THzの範囲の目標RF電磁放射を放出するように動作可能である。
【0019】
フォトニック結晶構造110は、導波路における目標RF電磁放射のフォトニックバンドギャップを規定していてもよい。フォトニックバンドギャップは、導波路における目標RF電磁放射の横磁気(TM)モード、横電気(TE)モード、または両者のためのものであってもよい。フォトニックバンドギャップによって、フォトニック結晶構造110は、目標RF電磁放射の特性に影響を及ぼし得る。たとえば、フォトニック結晶構造110は、目標RF電磁放射を細長スロット114に集中させるように構成されていてもよい。また、フォトニック結晶構造110は、細長スロット114の方向に沿う(たとえば、細長スロット114の軸に沿う)目標RF電磁放射(または、その波)の群速度を減少させるように構成されていてもよい。このような影響によって、フォトニック結晶構造110は、蒸気による光子の吸収および放出を制御可能となり得る。吸収および放出の例については、図3A図5および図7A図9Dに関して詳述する。
【0020】
いくつかの実施態様において、細長スロット114は、誘電体102の一部を通って延びており、誘電体102は、細長スロット114のスロット開口を規定する表面を含む。これらの実施態様において、例示的なフォトニック結晶受信機100は、細長スロット114を覆い、表面に接合されてスロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有する光学ウィンドウ(たとえば、光学ウィンドウ104)を具備する。このような封止は、細長スロット114における蒸気(または、蒸気源)の封止について光学ウィンドウおよび誘電体を補助することにより、蒸気セルを領域112内に規定し得る。光学ウィンドウは、接触接合、陽極接合、ガラスフリット接合等によって誘電体152に接合されていてもよい。このような接合については、米国特許第10,859,981号「Vapor Cells Having One or More Optical Windows Bonded to a Dielectric Body」に記載の技術を用いて形成されるようになっていてもよく、そのすべての開示内容を本明細書に援用する。
【0021】
光学ウィンドウは、目標RF電磁放射を放出させるような蒸気の刺激に用いられる電磁放射(たとえば、レーザ光)に対して透明な材料で形成されていてもよい。たとえば、光学ウィンドウは、電磁放射の赤外波長(たとえば、700~5000nm)、電磁放射の可視波長(たとえば、400~700nm)、または電磁放射の紫外波長(たとえば、10~400nm)に対して透明であってもよい。さらに、光学ウィンドウの材料は、高い抵抗率(たとえば、ρ>103Ω・cm)を有する絶縁材料であってもよく、また、単結晶材料、多結晶材料、または非晶質(もしくは、ガラス)材料に対応していてもよい。たとえば、光学ウィンドウの材料には、石英、ガラス質シリカ、またはホウケイ酸ガラス等に見られる酸化ケイ素(たとえば、SiO2、SiOx等)を含んでいてもよい。別の例において、光学ウィンドウ166の材料には、サファイアまたはアルミノケイ酸ガラス等に見られる酸化アルミニウム(たとえば、Al23、Alxy等)を含んでいてもよい。場合により、光学ウィンドウの材料は、酸化マグネシウム(たとえば、MgO)、酸化アルミニウム(たとえば、Al23)、二酸化ケイ素(たとえば、SiO2)、二酸化チタン(たとえば、TiO2)、二酸化ジルコニウム(たとえば、ZrO2)、酸化イットリウム(たとえば、Y23)、酸化ランタン(たとえば、La23)等の酸化物材料である。酸化物材料は、非化学量論的(たとえば、SiOx)であってもよく、また、1つまたは複数の二元酸化物(たとえば、Y:ZrO2、LaAlO3、BaLn2Ti412等)の組み合わせであってもよい。他の例において、光学ウィンドウの材料は、ダイヤモンド(C)、フッ化カルシウム(CaF)等の非酸化物材料である。
【0022】
いくつかの実施態様において、誘電体102の表面は、キャビティ108のアレイそれぞれのキャビティ開口を規定する。光学ウィンドウは、キャビティ開口それぞれを覆っていてもよいし、覆っていなくてもよい。光学ウィンドウがキャビティ開口それぞれを覆わない実施態様において、光学ウィンドウのウィンドウ面は、キャビティ開口それぞれの周りのシールを構成していてもよい。いくつかの実施態様において、光学ウィンドウのウィンドウ面は、第1のウィンドウ面であり、光学ウィンドウは、第1のウィンドウ面と反対の第2のウィンドウ面を含む。このような実施態様において、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、間隙によって第2のウィンドウ面から分離された誘電体プレートを具備していてもよい。誘電体プレートは、光学ウィンドウに関して上述したような誘電体材料で形成されたプレート本体であってもよい。誘電体プレートおよびそれがフォトニック結晶構造110のバンドエッジに及ぼす影響については、図4Aおよび図4Bに関して詳述する。
【0023】
いくつかの実施態様において、細長スロット114は、誘電体102の全体を通って延びている。たとえば、図1Aに示すように、誘電体102は、第2の表面118と反対の第1の表面116を含んでいてもよく、細長スロット114は、第1の表面116から第2の表面118まで誘電体102を通って延びている。第1の表面116は、細長スロット114の第1のスロット開口120を規定していてもよく、第2の表面118は、細長スロット114の第2のスロット開口(図示せず)を規定していてもよい。これらの実施態様において、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、細長スロット114の第1および第2のスロット開口をそれぞれ覆う第1および第2の光学ウィンドウ104、106を具備する。第1および第2の光学ウィンドウ104、106はそれぞれ、誘電体102の表面に接合されたウィンドウ面を有し、細長スロット114における蒸気(または、蒸気源)の封止によって、蒸気セルを規定していてもよい。このような場合は、第1の光学ウィンドウ104が第1のスロット開口120を覆い、誘電体102の第1の表面116に接合されて第1のスロット開口120周りのシールを構成する第1のウィンドウ面122を有していてもよい。同様に、第2の光学ウィンドウ106が第2のスロット開口を覆い、誘電体102の第2の表面118に接合されて第2のスロット開口周りのシールを構成する第2のウィンドウ面124を有していてもよい。
【0024】
例示的なフォトニック結晶メーザ100が第1および第2の光学ウィンドウ104、106を具備する実施態様において、誘電体102の第1および第2の表面116、118は、キャビティ108のアレイそれぞれの第1および第2のキャビティ開口をそれぞれ規定していてもよい。これらの実施態様において、第1および第2の光学ウィンドウ104、106はそれぞれ、第1および第2のキャビティ開口それぞれを覆っていてもよいし、覆っていなくてもよい。光学ウィンドウがキャビティ開口それぞれを覆っている実施態様において、第1のウィンドウ面122は、第1のキャビティ開口それぞれの周りのシールを構成していてもよいし、第2のウィンドウ面は、第2のキャビティ開口それぞれの周りのシールを構成していてもよい。
【0025】
いくつかの実施態様において、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、目標RF電磁放射を当該フォトニック結晶メーザ100の周囲環境に対してインピーダンス整合させるように構成されたインピーダンス整合構造126を含む。これらの実施態様においては、キャビティ108のアレイの領域112が軸128に沿って延びていてもよく、細長スロット114が軸128と平行に位置合わせされていてもよい(たとえば、軸128と一致していてもよい)。そして、誘電体102に含まれるインピーダンス整合構造126は、誘電体102の端部130から延びて、軸128と位置合わせされていてもよい。インピーダンス整合構造126は、誘電体102の一体部であってもよいが、別個の部分であってもよい。別個の場合は、インピーダンス整合構造126が誘電体材料で形成されていてもよい。ただし、インピーダンス整合構造126は、金属で形成された従来の結合器であってもよい。図1Aは、テーパで終端する誘電体102からの突起として、インピーダンス整合構造126を示している。ただし、インピーダンス整合構造126の他の形状も可能である。
【0026】
いくつかの実施態様において、インピーダンス整合構造126は、フォトニック結晶ミラー132等の出力ミラーに電磁結合されることにより、出力ビームの伝搬が意図される媒体(たとえば、空気)に対して出力ビームをインピーダンス整合させる。フォトニック結晶ミラー132は、アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティにより規定されていてもよい。1つまたは複数のオフセットキャビティは、細長スロット114の端部(たとえば、端部130)の最も近くに存在し、細長スロット114の端部から離れた空間オフセットをそれぞれ有していてもよい。また、1つまたは複数のオフセットキャビティは、細長スロット114の側部の最も近くに存在し、細長スロット114の側部から離れた空間オフセットをそれぞれ有していてもよい。他の位置も可能である。また、出力ビームをコリメートするためのレンズが追加されていてもよい。いくつかの実施態様においては、偏波器がインピーダンス整合構造126に追加され、出力ビームの偏波をフィルタリングするようにしてもよい。たとえば、インピーダンス整合構造126は、テーパ状端部で終端するとともに、テーパ状端部と位置合わせされた狭隘部を含んでいてもよい。また、同一平面部のアレイが狭隘部から外方に延び、これに沿う周期的間隔を有していてもよい。同一平面部のアレイは、目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングするように構成されている。
【0027】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶ミラー132は、細長スロット114の一端または両端に配置されている。図1Aは、フォトニック結晶ミラー132が細長スロット114の両端に存在する場合を示している。フォトニック結晶ミラー118の存在によって、出力電力の増大、メーザの利得閾値の低下、または両者が可能となる。たとえば、フォトニック結晶ミラー132は、動作中に領域112を横切る電磁放射(たとえば、例示的なフォトニック結晶メーザ100の動作中に蒸気によって放出される目標RF電磁放射)を反射させるようにしてもよい。この性質において、領域112は、メーザキャビティの内部等、メーザキャビティの一部として機能し得る。さらに、フォトニック結晶ミラー132は、蒸気により放出される電磁放射のためのキャビティ構造(たとえば、スロット導波路)の規定に関して、キャビティ108のアレイおよび細長スロット114を補助し得る。
【0028】
多くの変形例において、フォトニック結晶ミラー132は、細長スロット114の端部近くのフォトニック結晶構造110の寸法特性の変更に対応する。たとえば、細長スロット114の端部においてフォトニック結晶構造110を通る目標RF電磁放射線の透過は、アレイのキャビティ108の間隔、誘電体102の厚さ、アレイのキャビティ108の直径等の変更によって変化し得る。当然のことながら、誘電体102においては、目標RF電磁放射(または、共振波)に対する完全なフォトニック結晶形状が完全な反射器として作用する一方、フォトニック結晶が存在しない場合は完全な送信機として作用し得る。
【0029】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶ミラー132には、フォトニック結晶構造110のキャビティ共振周波数ωCまたはその近傍での電磁放射の周波数に対して、80%よりも大きな反射率が設定されている。この反射率は、フォトニック結晶構造110(または、内部の領域112)と関連付けられたキャビティ品質係数Qを増加させることにより、メージングのための閾値条件を抑えることができる。メージングの閾値条件については、式(1)、(2)に関して以下に詳しく論じる。いくつかの変形例において、反射率は、85%よりも大きい。いくつかの変形例において、反射率は、90%よりも大きい。いくつかの変形例において、反射率は、92%よりも大きい。いくつかの変形例において、反射率は、94%よりも大きい。いくつかの変形例において、反射率は、96%よりも大きい。
【0030】
いくつかの実施態様においては、細長スロット114の一端または両端に光学ミラー134が配置されている。光学ミラー134は、細長スロット114により規定された光路に対して角度が付けられていてもよいし、あるいは、光路に対して垂直の角度が付けられていてもよい。光学ミラー134は、軸128等、細長スロットの長手方向軸に沿って光信号をガイドするのに役立ち得る。このため、光学ミラー134は、このような光信号を反射させるように構成された表面を含んでいてもよい。光信号には、レーザから細長スロット114に受信される光を含んでいてもよい。
【0031】
いくつかの実施態様においては、蒸気が原子の蒸気であって、各原子が放射体として機能し得る。動作時、細長スロット114を囲むフォトニック結晶構造110は、原子の原子遷移周波数の電磁波を減速および集中させるようにしてもよい。原子は、導波路の共振モード(または、導波モード)と共振する原子のu→l遷移で反転分布が確立されるようにレーザで励起される。導波路の共振モードへの放射の放出は、電界が強くなって放出に有利となるため増大可能である。誘導放出が支配的となり、自由空間伝搬のためにインピーダンス整合および成形し得るコヒーレントな有向メーザビームが導波路に沿って生成される。フォトニック結晶ミラーを細長スロット114の端部に実装可能であるため、細長スロット114の前後に放射が伝搬して、さらに増幅され得る。細長スロット114は、反転分布に蓄積されたエネルギーを取り込み、導波路モードへと放出することで、コヒーレントな有向放射ビームを得る。蒸気が分子の蒸気である例示的なフォトニック結晶メーザ100の実施態様についても、同じような動作が可能である。
【0032】
例示的なフォトニック結晶メーザ100は、大量生産に適した様態で構成されていてもよい。また、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、リュードベリ原子受信機、リュードベリ原子蒸気セルセンサ、またはリュードベリ原子蒸気セルセンサのアレイとの組み合わせによって、RF放射の受信および送信が可能なデバイスを形成するようにしてもよい。例示的なフォトニック結晶メーザ100により出力される電力の量は、レーザの強度の変更によって、著しく低いレベルへと制御されるようになっていてもよい。さらに、切り替え時間は、ナノ秒であってもよい。キャビティの寿命をこの程度にすることができるためである(式(6)に関する記述も参照)。ナノ秒の寿命およびGHz帯域幅でのレーザの変調が可能なことから、レーザの変調によって、同じ周波数スケール(たとえば、GHz)のキャリア周波数に対してベースバンド変調を刷り込むことができる。
【0033】
図1Aは、例示的なフォトニック結晶メーザ100が線状の領域112および線状の細長スロット114を有するものとして示しているが、他の形状も可能である。たとえば、図1Bは、誘電体102がリング共振器構造を含む例示的なフォトニック結晶受信機100の模式上面図である。特に、領域112は、ループ(たとえば、楕円ループ)をキャビティ108のアレイ中に構成している。多くの変形例において、ループは、円、楕円、長円等の閉じたループである。細長スロット114は、ループのループ軸(たとえば、楕円軸)に沿って延びることにより、ループ状スロット150(たとえば、楕円スロット)を構成している。(たとえば、透明な壁、レンズ、ミラー等による)ループ状スロット150の全部または一部の仕切りによって、蒸気または蒸気源を含むようにしてもよい。図1Bは、ループ状スロット114の一部152が蒸気または蒸気源を含む場合を示している。図1Bに示すようないくつかの変形例においては、キャビティ108のアレイがループを構成する。ただし、キャビティ108のアレイについて、他の分布も可能である。
【0034】
ループ状スロット150は、ループ軸に沿った第1および第2のループ方向154、156と関連付けられ、第1のループ方向154が第2のループ方向156と反対であってもよい。これらの構成において、ループ状スロット150は第1および第2のRFポート158、160を含む。第1および第2のRFポート158、160には、第1および第2の方向性結合器162、164がそれぞれ結合されている。第1の方向性結合器162は、第1のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第1の部分を受信するように構成され、第2の方向性結合器164は第2のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第2の部分を受信するように構成されている。多くの変形例において、第1の方向性結合器162は、第2の方向性結合器164よりも強くループ状スロット150に結合されている。
【0035】
特定の場合において、領域112および細長スロット112のループ状構成は、線状構成よりも優れた利点をいくつかもたらし得る。たとえば、線状構成によれば、細長スロット114の直線軸等、主に2つの反対方向に沿って、放出された目標RF電磁放射が進み得る。このような進行においては、利得媒質として作用し得る蒸気との相互作用によって、目標RF電磁放射が増幅される可能性がある。ただし、この双方向進行では、進行する目標RF電磁放射(たとえば、細長スロット114において前後に進む光子の波)と関連付けられた光子が互いに干渉して、細長スロット114に目標RF電磁放射の定常波が生成され得る。この定常波は、細長スロット114の長さに沿った一連の最小および最大電磁界強度と関連付けられる。最小値では、蒸気のいくつかの部分で誘導放出がほとんど起こらず、最大値では、他の部分で放出が飽和する可能性がある。最大値は、それぞれの電磁界エネルギーがそれぞれの位置で蒸気により吸収可能な量よりも多い場合に、特に望ましくないと考えられる。結果として、目標RF電磁放射の定常波は、細長スロット114における蒸気を効率的に使用できない。目標RF電磁放射は、すべての蒸気が使用される場合よりも小さな電磁界強度で出力電力を飽和させる可能性がある。
【0036】
これに対して、ループ状構成では、特定の場合に、方向性結合器を組み込むとともに目標RF電磁放射の進行波を確立することによって、蒸気をより効率的に使用可能である。たとえば、高効率方向性結合器(たとえば、第1の方向性結合器162)がループ状スロット150の第1のRFポート158における単方向性デバイスとして機能し、低効率方向性結合器(たとえば、第2の方向性結合器164)がループ状スロット150の第2のRFポート160における出力結合器として使用され得る。ループ状構成においては、第1のループ方向154(たとえば、時計回り方向)に循環する第1の光子が低効率でループ状導波路から分離され、第2のループ方向156(たとえば、反時計回り方向)に循環する第2の光子が高効率でキャビティから分離される。第2の光子の損失は、第2の光子が蒸気との相互作用に際してメージング閾値に達しないための十分な設計となっている。これに対して、第1の光子は、蒸気との相互作用に際して利得媒質からすべてのエネルギーを抽出するのに十分な強さである。この状況においては、(特に、蒸気において)目標RF電磁放射が進行波を構成するため、蒸気全体を利得媒質として使用することにより、メージングのエネルギーを供給可能である。さらに、進行波によれば、ループ状スロット150の一部において、蒸気を選択的に制限可能となる。ループ状スロット150については、その全容積を蒸気で満たす必要はない。上記部分は、蒸気の誘導放出への関与を最大化するように、長さおよび位置を選択することができる。
【0037】
ここで図2を参照して、この図は、図1Aおよび図1Bの例示的なフォトニック結晶メーザ100等、リュードベリ原子メーザの例示的なエネルギーレベルの模式図である。係数Aijは、アインシュタインのA係数である。波状矢印は、放射性崩壊経路を示しており、実線矢印は、レーザ(または、励起レーザ)によって誘起される励起遷移を示している。図2においては、2つの励起経路を示している。ただし、レーザは、2光子プロセス(または、2つの励起経路)と共振する必要がない。また、単光子または他種の多光子励起も可能である。このような場合は、任意の双極子遷移に関与する2つの状態のパリティが励起または崩壊に際して変化する必要があることから、許容される遷移が変化する。エネルギーレベルuおよびlは、蒸気が原子からなる場合のリュードベリ状態である。
【0038】
レーザは、フォトニック結晶構造の導波路に配置された放射体(たとえば、フォトニック結晶構造内に存在する細長スロットの蒸気)の遷移に対して反転分布を生成する。図2においては、放射体の分布の部分がレベルuまで励起され、u→l遷移に反転が生じる。分布のほとんどは状態gに存在する。u→iおよびi→gの崩壊は、これらの崩壊、iからのレーザの離調、および近共振レーザのラビ周波数によってuの分布が決定されることから、スペクトル遷移に対応する。信号源および受信センサが必要な状況においては検知レーザをメーザの励起にも使用可能であることから、図2には、リュードベリ原子検知と整合する2光子励起方式を示している。また、単光子または他の多光子励起方式が実現されるようになっていてもよい。u→l遷移に反転を生じさせ得る励起方式が機能するように、Aulの大きさは、Algより小さく(すなわち、Aul<Alg)、好ましくはAlgよりはるかに小さいものとする(すなわち、Aul<<Alg)。ガス状原子の場合は、u→l遷移がリュードベリ遷移であるため、その周波数はRF帯である。フォトニック結晶および導波路は、RF遷移u→lと共振するように設計されている。図2に示す例示的なエネルギーレベルの場合は、エネルギーレベルiおよびlが同じパリティを有する。さらに、エネルギーレベルuおよびgが同じパリティを有する。当然のことながら、エネルギーレベル間の自然放出または双極子結合には、パリティの変化が必要である。
【0039】
多くの変形例において、フォトニック結晶構造および細長スロットは、u→l遷移と共振するように構成されている。これらの変形例において、共振RF遷移(または、蒸気の出力電子遷移)と関連付けられた電磁界は、フォトニック結晶構造、特に、細長スロットにおいて増大される。この増大によって、関連する導波モードへの放射率が他のモード(たとえば、同じ周波数のモードまたは競合する遷移からのモード)に対して高くなり得る。また、フォトニック結晶構造における孔(または、キャビティ)および誘電体における細長スロットの組み合わせによって、導波路を規定することができる。このため、フォトニック結晶構造による減速および細長スロットにおける電磁界の集中の連携によって放射場を変更することにより、細長スロットに配置された蒸気が導波路の導波モードへと放射されやすくすることができる。導波路は、導波モードが蒸気の放射(または、放出)と整合するように設計されていてもよい。放射は、導波路への結合のため、直線偏波である。また、結合の増大によって、メージング動作が発生する閾値利得が低下する。メージングモードへの放出が始まると、これが共振遷移に対する誘導放出によって増幅され、高位レベルuに蓄積されたエネルギーの大部分(または、すべて)が導波路の導波モードへとコヒーレントに放出される。
【0040】
ここで図3Aを参照して、この図は、共振周波数が81.8GHzの例示的なフォトニック結晶メーザの電界の大きさの等高線マップである。等高線マップは、例示的なフォトニック結晶メーザの上面と平行な中央面を通って延び、スロット導波路を内部に含む。等高線マップは、例示的なフォトニック結晶メーザの共振周波数で振動する模擬双極子に応じた電界の時間平均の大きさを表す。模擬双極子の偏波は、上面に垂直である。図3Aの挿入図は、スロット導波路の中央部に近接する電界の大きさを示した等高線マップの拡大図である。模擬双極子は、垂直配向のため、フォトニック結晶メーザモードとの結合が不十分である。これは、スロット導波路の中央部に集中した電界が小さいことにより示される通りである。図3Bは、スケールを1000倍にした図3Aの等高線マップである。図3C図3Eは、模擬双極子の振動周波数が異なる図3Aの等高線マップであるが、双極子の配向は、上面と平行かつスロット壁と垂直である。この配向においては、双極子が例示的なフォトニック結晶メーザに強く結合される。図3Dに示すように、電磁界が増大され、共振時の双極子の放出は、フォトニック結晶構造に強く結合される。共振からわずかに外れた場合、図3Aおよび図3Bに示すように、フォトニック結晶メーザモードへの結合は依然として存在するものの、放出周波数とフォトニック結晶メーザの共振モードとの間の周波数不整合によって弱くなっている。
【0041】
フォトニック結晶キャビティおよび構造は、米国特許第10,859,981号および米国特許第11,137,432号等に記載の接触接合および機械加工法を用いた蒸気セルとの統合に適している。MHz-THz電磁放射の集中素子として作用するフォトニック結晶構造は、レーザ(たとえば、Protolaser R laser mill)、機械加工、または深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)等を用いてキャビティを加工することができる。キャビティはその後、蒸気(たとえば、アルカリ原子のガス)で満たされ、光学ウィンドウで封止されることにより、蒸気セルを規定し得る。フォトニック結晶構造は、入射した高周波電界を蒸気中に集中させて束ねるように設計可能である。蒸気セルにおけるRF放射場の減速および集中によって、導波路の導波モードに対する細長スロット中の原子の放射率が高くなる。
【0042】
たとえば、図4Aは、光学ウィンドウおよび光学ウィンドウの上方に配置された移動可能な誘電体プレートを有する例示的なフォトニック結晶メーザの模式断面図である。移動可能な誘電体プレート(たとえば、移動可能なガラスプレート、サファイアプレート等)は、例示的なフォトニック結晶メーザのバンドエッジの制御に用いられるようになっていてもよい。バンドエッジは、例示的なフォトニック結晶メーザに沿うRF放射場の減速に用いられるようになっていてもよい。図4Bは、バンドエッジのグラフであり、移動可能な誘電体プレートの位置によってバンドエッジの周波数位置がシフトする様子を示している。特に、このグラフは、移動可能な誘電体プレートと例示的なフォトニック結晶メーザの光学ウィンドウとの間の間隙の大きさによってバンドエッジがシフトする様子を示している。移動可能な誘電体プレートは、機械的なねじによって正確に配置可能であるとともに、誘電体材料で形成されていてもよい。ただし、他の配置手段も可能である。場合により、例示的なフォトニック結晶メーザは、移動可能な誘電体プレートの2つの例を含み、一方は、2つの光学ウィンドウそれぞれの上方に配置されている。
【0043】
別の例において、図5は、例示的なフォトニック結晶構造の断面を通る電界の大きさの等高線マップである。この断面には、角度付きの壁により規定された細長スロットを含む。図5は、α=0°、2°、4°、6°、8°、および10°の角度が付いた壁を示している。ただし、他の角度も可能である。断面形状が「砂時計」のように壁の角度が大きいほど、細長スロットの間隙に電界が集中する。電界は、大きさを10倍より大きくすることができる。α=10°の場合、図5は、自由電界のおよそ30倍の増大を示している。
【0044】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶メーザは、シリコン等の高誘電率材料に基づく。これらの高誘電率材料は、米国特許第10,859,981号および米国特許第11,137,432号に記載のプロセスを用いて接触接合されていてもよい。接着層が適用される場合は、たとえばBaLn2Ti412(BLT)等の他の高誘電率材料も使用可能である。蒸気セルとの一体化によってコヒーレントなRF電磁放射を出力可能なメーザを形成するフォトニック結晶構造の構成には、接触接合、陽極接合、または他種の接合が用いられるようになっていてもよい。この構成の結果、完全な誘電体で、他のリュードベリ原子に基づく検知技術と統合可能なメーザが得られる。たとえば、メーザは、リュードベリ原子に基づく検知技術との統合によって、信号の受信および送信の両者が必要な無響室での試験を行うようにしてもよい。さらに、メーザは、全誘電体構造のリュードベリ原子センサのヘテロダインおよびホモダインを可能にすることで、より精緻な信号処理法および位相検出法を可能にする。シリコンおよびガラスのレーザによる加工によって、10μmサイズの特徴を10μmの精度でこれらの材料に生成可能となり得る。このような寸法スケールは、フォトニック結晶構造がRF電磁放射と相互作用するフォトニック結晶メーザに適している。このような放射の波長が10μmよりもはるかに大きいためである。
【0045】
リュードベリ原子を電位測定に使用することによって、高周波(GHz~THz)電界の正確で絶対的な測定(たとえば、およそ1μVcm-1の精度)が可能となり得る。5~25GHzの範囲で計算される原子ショットノイズの限界としては、関与する原子の数およびコヒーレンス時間によって決まる標準的な相互作用体積の場合、およそpVcm-1Hz-1/2が可能である。感度の限界は、従来の測定場におけるショットノイズによって決まり得る。ただし、リュードベリ原子電位測定は主として、RF電磁界の測定に用いられる。テスト、測定、および通信における用途の場合は、同じ技術に基づくRF放射源を有するのが好都合である。たとえば、環境を乱すことなく、テスト室において、RF電磁放射の誘電体源を使用することができる。リュードベリ原子に基づくセンサとの組み合わせによって、完全な誘電体の無線テストおよび測定システムをテスト室に設定可能であるため、精度が高くなるとともにテスト室のサイズ小さくなる結果、コストが削減される。
【0046】
フォトニック結晶メーザは、テストおよび測定、通信、分光、タイミングおよび基準周波数に使用可能である。フォトニック結晶メーザの利点には、[1]近くの他のデバイスとの干渉を最小限に抑える全誘電体構成、[2]蒸気セル中の蒸気(たとえば、熱原子)に生じるメージング作用、[3]伝搬時の指向性放出の拡散の最小化、[4]リュードベリ原子に基づく検知技術との放射源としての組み合わせ可能性、のうちの1つまたは複数を含み得る。放射源は、高度な信号処理(ミキシング法)での使用、ワンボックス型テスタの信号源および指向性通信デバイスとしての使用が可能である([5]軽量かつ携帯可能な構成により、従来のメーザよりも低コストとなり得る)。この構成は、ダイオードレーザ技術および蒸気セル技術に基づく。フォトニック結晶メーザの励起には、検出(検知)に用いられる同じレーザも使用可能である(この構成は、[6]ガラス吹き構造よりも簡単に製造可能で、より堅牢となり得るとともに、[7]リュードベリ原子に基づく受信機の増幅器として作用し得る)。フォトニック結晶メーザは、たとえば信号増幅用の第1段すなわちプリアンプとして受信機に組み込み可能である([8]利得閾値が非常に低く、低電力の正確な生成に使用可能であることから、試験における用途が可能であり、[9]メージング閾値が低いことから、キャビティ寿命を短くすることができ、出力電力を広帯域幅で変調可能となる(GHzベースバンド変調))。このような変調は、1つまたは複数の励起レーザの変調によって実現可能である([10]直線偏波出力、[11]パルス状および連続波動作、[12]100MHz~1THz等の広い周波数範囲での動作)。他の利点も可能である。
【0047】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のフォトニック結晶メーザは、以下の原理に従って動作し得る。たとえば、フォトニック結晶キャビティ(または、フォトニック結晶構造中の細長スロット)における単位時間当たりの平均光子数は、式(1)により表され得る。
【0048】
【数1】

ここで
【数2】

かつ
【数3】

ここで、Qはキャビティ品質係数であり、ωはメーザ角周波数であり、〈n2〉はフォトニック結晶メーザのキャビティ中の平均光子数の二乗であり(光子数揺らぎと関連)、〈n〉はキャビティ中の平均光子数である。キャビティ共振周波数ωCは、メージング遷移と共振しているものと仮定する(ωC=ω)。このため、〈n2〉および〈n〉は、システムの密度行列を用いて計算することができる。変数AおよびBにおいて、gは、キャビティにおける原子-電磁界結合定数であり、γは高位状態の崩壊率であり、raは1秒間にキャビティに入る原子の数である。定常状態において、raは、1秒間にレーザ原子相互作用領域を離れる原子の数でもある。キャビティ中の平均光子数は、定常状態において式(2)により表され得る。
【0049】
【数4】

式(2)は、メーザ動作と受信機動作との相違に関する洞察を与える。A>ω/Qの場合は、原子がコヒーレントな放出を行い、キャビティ中の光子数が増加し、メージングが発生する。すなわち、A>ω/Qがメージングの閾値条件である。A<ω/Qの場合は、システムが受信機動作の領域である。たとえば、構造にミラーがなければ受信機のQが1、Q≒1012Hz、およびA≒1010から、AQ/ω≒10-2となる。フォトニック結晶メーザが閾値を上回る場合は、定常状態の平均光子数を式(3)で近似することができる。
【0050】
【数5】

キャビティに蓄積されたエネルギーは、以下の式に従って、光子数により決定可能であり、
【数6】

フォトニック結晶メーザから放出される電力は、以下により与えられる。
【数7】

ここで、τcは、キャビティ中の光子の寿命である。Q、ωC、およびτCは、キャビティの特性によって決まるため、すべて関連し合う。結局、これらの特性は、ミラーの反射率およびキャビティ(または、細長スロット)の損失によって決まる。キャビティは、共振しているものと仮定し得るため、ω=ωCである。ただし、共振していない場合のソリューションも可能である。キャビティのQは、式(6)で示す通り、キャビティ共振周波数ωC=ωおよびキャビティの線幅
【0051】
【数8】

と関連し得る。
【数9】

ΔωCおよびωCが測定された場合には、Qを実験的に決定することができ、ΔωCの逆数であることから、同様にτCを決定することがでる。キャビティミラーの反射率およびキャビティ損失の推定値の使用によって、特定の設計のQを選定することができる。これは、式(7)および式(8)に見られる。
Δω=cαγ 式(7)
ここで、αγは、キャビティ中の損失係数であり、
【数10】

cは光速である。式(8)において、αSはキャビティ損失、dはキャビティ長である。R1およびR2は、キャビティミラー反射率である。これらの関係から、フォトニック結晶メーザが閾値γ≒gを十分に上回っており、原子-電磁界結合が低位状態の崩壊定数すなわち飽和に達しているものと仮定すると、電力に関する式が導かれる。
【0052】
【数11】

SSに関する式(9)は、単純に解釈でき、メーザ電力を求める他の形式と整合する。式(9)は、飽和状態において、キャビティを通過する各原子が光子をキャビティ中に放出する動作条件を表し得る。したがって、単位時間当たりの活動原子数により電力が決まる。このモデルは、すべての原子の放出を電磁界の単一モードに導くメーザの基本的な動作と整合する。
【0053】
リュードベリ原子の密度が1010cm-3(衝突が顕著になる密度をわずかに下回る)(必ずしも制限因子ではないが、より大きな励起電力が必要となり得る)、通過時間制限率raが200kHz(原子はこの制限率で壁に衝突して破壊される一方、新たな原子が励起レーザにより相互作用領域において励起される),100GHz遷移、および0.157cm3の円筒状励起原子体積(長さ20cm、直径1mmの相互作用領域に対応)の場合は、フォトニック結晶メーザが10nW(-50dBm)前後の電力を生成可能である。メーザ出力は、細長スロットすなわちフォトニック結晶構造のスラブ面と平行な偏波となる。リュードベリ原子の定常状態密度である1010cm3は、容易に生成される。原子数および/または飽和率の増大によって、より大きな電力も可能である。この数値はアンテナと比較して小さい可能性もあるが、試験用途としては有意であり、デバイスの受信能力の試験には大きな信号である。より重要なこととして、放射は、コヒーレントかつ指向性である(たとえば、距離の二乗として拡散しない)。100GHzでは、Q=1000の場合に、キャビティ寿命がτC≒1nsとなる。その結果、励起レーザの高周波での変調により、広い(GHz)帯域幅のベースバンド変調をメーザ出力に施すことができる。極めて低い電力で広い変調帯域幅により、全誘電体パッケージにおいてコヒーレントな有向放射を生成してデバイスを正確に試験できるのは都合が良い。
【0054】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶メーザは、極めて低い閾値電力を有するように構成可能である。たとえば、共振時の利得断面は、式(9)により表され得る。
【数12】

式(10)で示す通り、利得断面は、非常に大きくなる可能性がある。さらに、式(11)で示す通り、対応する飽和強度は、異常に小さくなる可能性がある。
【数13】

この値は、メージングの閾値が非常に小さく、低電力動作が可能になることを示している。ここで、式(10)および式(11)は、従来例と整合するパラメータを使用しており、λul≒0.22cm、Aul≒50kHz、Δω≒2π×100kHz、ω≒2π×100GHz(通過時間の拡大および壁への衝突によって決まる)、およびτu≒5μsである。
【0055】
uがリュードベリ状態で原子が自由空間にある場合、自然放出率Aui、Alg≒20kHzのω3依存性により、uからの放射崩壊は最低許容状態への崩壊が支配的となり得る。通常は、Aul≒20Hzである。同様の自然放出および黒体誘起遷移によって、通常は、エネルギー的に近い他のリュードベリ状態の分布が得られる。これらの検討事項を所与として、状態uへの効果的な励起の条件であるAul<<Algは、自動的に満たされることになる。ただし、u→l以外の遷移による漏れによって、これらの状態の分布がさまざまな原子リュードベリ状態間に拡がる可能性がある。図3Dおよび図5に示すフォトニック結晶構造の追加によって、電磁波モード構造の変化により、uからの分布を除去する他の競合遷移が緩和される。フォトニック結晶構造は、細長スロット、キャビティのアレイ、および細長構造の両端にミラーを構成する変更された孔のアレイを備えるため、u→l遷移とエネルギー的に同じ(共振する)キャビティモード(または、導波モード)への放射率を増大させる。フォトニック結晶構造は、キャビティに光子が蓄積されることで生じる大量の誘導放出がない場合であっても、u→l遷移の放出率を1000倍以上に高くすることができる。この上昇は、細長スロットに含まれる原子のAulがおよそ20kHzであることを意味する。その結果、放出は、u→l遷移にほぼ限定される。図2に示すu→i遷移は、同様の大きさである一方、その飽和は励起レーザによって可能である。たとえば、励起レーザのラビ周波数は、uの分布を維持するのに十分な大きさとする必要があるため、u→l遷移に反転が生じる。励起レーザは、uの分布を飽和させるため、Aulより大きな実効ラビ周波数を有する必要がある。これらの要件は、ビーム、蒸気セル、および冷却原子の実験において容易に実現される。このシステムは事実上、uおよびlの状態から成る2レベルシステムである。図3C図3Eは、フォトニック結晶モードへと配向した双極子のみがフォトニック結晶構造へと効果的に結合され得ることを示している。そして、メーザ放出が直線偏波となり、u→l遷移が垂直遷移となって、Δm=0が得られる。
【0056】
自由空間記述では、メージングキャビティ(たとえば、細長スロット)における放出率u→lのl崩壊率(自然放出が支配的)がおよそ20kHzに達した場合に、フォトニック結晶メーザが飽和することになる。放出率の飽和は、uおよびlの状態の分布が略等しくなって反転分布が崩れた場合に発生する。放出率の飽和は、衝突および通過時間の拡大(原子が利得媒質の活性領域を通過する)等の影響によって高くなり得る。フォトニック結晶メーザの場合、uおよびlの両状態の原子の損失率は、スロット寸法に応じて、原子の壁との衝突により約100~200kHzが支配的となる。壁への衝突はu状態の分布に悪影響を及ぼし、u→l遷移の反転の確立がより困難になるものの、フォトニック結晶メーザを強く励起することによってその影響を補償することができる。原子は、壁に当たって跳ね返ると、ビームとして「リサイクル」されるため、励起レーザによる再励起が可能となる。上記影響は、原子がキャビティを通過し、崩壊率がキャビティの通過時間に反比例する原子ビームを用いて実行されるメーザ実験と実質的に相違しない。これらの影響は、上記メーザ電力の推定値に考慮される。
【0057】
励起光は、スロットに配置された回動ミラーへのファイバ結合により、利得媒質、スロット中の原子サンプルに沿って導くことができる。図6Aは、レーザによって光学的に励起される例示的なフォトニック結晶メーザの模式上面斜視図である。図6Aの上部が斜視図である一方、図6Aの下部は上面図である。レーザからのビームの経路が破線により表される。細長スロットの反対端のミラーは、細長スロットに沿った光の反射によって励起効率を高くすることも可能であるし、反射光を非反射面へと案内することも可能である。スロットの一端の切り込みに回動ミラーが存在し、スロットの長さに沿って、ミラーにより光を案内可能である。また、図6Aに示すものよりも小さな結合光学系の使用によって、メーザ場の摂動を最小限に抑えることもできる。たとえば、図6Bおよび図6Cは、小型の結合光学系を用いて励起レーザからの光を内部に案内する図6Aの例示的なフォトニック結晶メーザの模式図である。励起光の偏波によって、メージング遷移の反転を最適化するようにしてもよい。このような偏波は、たとえばuの角運動量がlより大きい場合に、伸長状態での分布を制限し得る。
【0058】
ビームの角拡散はアンテナと比べて小さく、2つのデバイス(すなわち、フォトニック結晶メーザ対アンテナ)の出力電力の比較に際しても考慮する必要がある。アンテナの出力は、R2に比例して伝搬距離とともに拡散し、強度はR-2として小さくなる。フォトニック結晶メーザのビームは、平行ビームとして伝搬させることができる。アンテナから拡散する放射源は、平行ビームと比較して、1kmの伝搬で約6桁減少する。出力電力が-50dBmのフォトニック結晶メーザは、1kmにおける10dBmのアンテナ源とほぼ同等である。この差は、低電力化および指向性を可能にするため、ポイント・ツー・ポイントの通信システムに都合が良い。そして、フォトニック結晶受信機との結合により、極めて低電力のポイント・ツー・ポイントセキュア通信システムすなわちリュードベリ原子送受信機を構成可能である。さらに、フォトニック結晶メーザの出力は、図1Aに示すように、アンテナ構造(または、インピーダンス整合構造)による自由空間への結合も可能であるし、レンズによるコリメートも可能であるし、これらの組み合わせも可能である。出力結合構造(たとえば、テーパ)の一部には、偏波器を含み得る。
【0059】
メージング波長に合わせた共振構造の調節は、複数の方法で行うことができる。一例を図4Aおよび図4Bに示す。図4Aおよび図4Bにおいては、薄いガラス片をフォトニック結晶メーザからある距離だけ移動させることにより、メージング波が伝搬する領域の実効誘電率を変化させる。図4Aおよび図4Bは、単一のガラス片を示しているが、フォトニック結晶構造の両側にガラス片を有する対称構造も使用可能である。また、誘電体材料で構成されたねじまたは圧電配置(用途的に多少の金属が許容される場合)等、さまざまな配置機構の使用によって、調節要素を配置することができる。配置用のねじは、駆動機構を使用することにより遠隔で電動可能である。他の調節機構も可能である。たとえば、類似のねじおよび圧電素子を用いて調節を行うことも可能である。同様に、細長スロットを2つ以上の部分へと切断するとともに、構造全体の長さの調整によって、デバイスを共振させることも可能である。
【0060】
放射増大因子βの計算を図7Aおよび図7Bに示す。図7Aは、放射双極子の増大因子の決定に用いられる例示的なフォトニック結晶構造の模式斜視図である。放射双極子は、例示的なフォトニック結晶構造の共振モードに結合される。図7Bは、図7Aの例示的なフォトニック結晶構造に対して模擬した増大因子のグラフである。増大因子は、周波数に対して模擬され、例示的なフォトニック結晶構造の内側での放射率Aulの増加に対応する(Aeff=βAul)。例示的なフォトニック結晶構造は,図3A図3Eの例示的なフォトニック結晶メーザの場合と同じであるが,この特定の構成の増大因子を決定するため、ミラーを有していない。この構成の増大ピークはおよそ365であり、これは、フォトニック結晶構造の内側での放射率が365Aulであることを意味する。図7Bは、共振を外れた有意な増大(たとえば、およそ100)も示している。
【0061】
図7Aおよび図7Bにおいて、シミュレーションに用いられる例示的なフォトニック結晶構造は,メーザ設計の同じフォトニック結晶間隔、孔サイズ、および厚さを有する一方、ミラーがなくて対称的である。対称でミラーがないことから、RF電界の減速および集中による増大因子をシミュレーションにより抽出可能となる。図7Bは、共振時の増大因子β=365を示している。メージング遷移に関してAul=20Hzかつフォトニック結晶構造がu→l遷移と共振する場合、フォトニック結晶中の放射率Aeffは、7kHzとなり得る。また、バンドエッジの青色側には、およそ100の有意な増大が存在する。バンドエッジは、応答がゼロである図7Bの共振特性の赤色側に示している。図7Aおよび図7Bは、この放射率の増大であれば、フォトニック結晶構造と共振しない他のモードへの遷移よりもu→l遷移での自然放出率が崩壊に対して支配的となるのに十分であることを示している。このように支配的であるのは、フォトニック結晶構造における電磁波の減速および電界の集中に起因する。
【0062】
図8は、フォトニック結晶メーザの例示的な設計パラメータの表である。これらの設計パラメータは、電磁放射の異なる目標周波数に対応する。設計パラメータには、アレイのスラブ厚さ、孔径、および格子定数を含む。この一組の設計において、孔はすべて円形である。ただし、他の孔形状も使用可能である。さらに、この一組の設計パラメータは、シリコンフレームに対応する。ただし、他のフレーム(たとえば、サファイアフレーム、BLTフレーム)の設計パラメータも可能である。いくつかの変形例においては、細長スロットのサイズも同様に変更可能である。たとえば、細長スロットは、格子定数の長さがおよそ3~6の線状欠陥としてスラブに嵌入し得る。
【0063】
図9Aは、細長スロットの端部に近接してフォトニック結晶ミラーを規定するように構成されたキャビティを有する例示的なフォトニック結晶構造の模式上面図である。フォトニック結晶ミラーは、部分的に反射性であってもよい。図9Aに示すような多くの変形例においては、キャビティが孔である。細長スロットの端部に近接する孔のサイズを変更することによって、フォトニック結晶の端部と反対側の部分を通過する目的電磁波の透過を変化させることができる。このような透過の変化によって、端部近くの反射率を調節することにより、フォトニック結晶ミラーを形成するようにしてもよい。フォトニック結晶ミラーの反射率は、広い範囲にわたって変化し得る。図9Aにおいて、フォトニック結晶構造の変化領域は、細長スロットから離れるように延びて、フォトニック結晶ミラーを通じた漏洩を抑えている。
【0064】
図9Bおよび図9Cは、フォトニック結晶ミラーからの97.8%および88.5%反射に対応する電界パターンの等高線グラフである。97.8%および88.5%反射はそれぞれ、変更した孔の倍率1および0.45の結果である。倍率は、孔のアレイの基準直径に対する孔径のスケーリングに対応する。図9Dは、さまざまな倍率による図9Aの例示的なフォトニック結晶構造の反射率の値の表である。この表は、図9A図9Cの手法によって広範な反射率が実現可能であることを示している。ただし、細長スロットの端部近くの反射率の制御には、他の方法も使用可能である。たとえば、孔のアレイの周期性の変更等によって、孔の構造自体を変更することも可能である。
【0065】
また、フォトニック結晶メーザは、高周波(RF)電磁放射(特に、このような放射の有向放射源が望ましい場合)を生成するためのシステムの一部として機能し得る。いくつかの実施態様において、高周波(RF)電磁放射を生成するためのシステムは、フォトニック結晶構造および蒸気を有するメーザを具備する。より具体的に、フォトニック結晶構造は、誘電体材料で形成され、欠陥領域が内部に配設されるとともに細長スロットが欠陥領域に配設されたキャビティのアレイを含む。キャビティのアレイおよび細長スロットは、導波モードを有する導波路を規定する。細長スロットに配設された蒸気は、1つまたは複数の入力電子遷移と、1つまたは複数の入力電子遷移に結合された出力電子遷移と、を含む。出力電子遷移は、目標RF電磁放射を放出するように動作可能である。さらに、出力電子遷移は、導波路の導波モードと共振する。メーザは、図1A図9に関して記載の例示的なフォトニック結晶メーザに類似していてもよい。
【0066】
また、このシステムは、入力光信号をフォトニック結晶構造の細長スロットに与えるように構成されたレーザシステムを具備する。入力光信号は、蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能である。レーザシステムは、当該レーザシステムを細長スロットに対して光学的に結合する光ファイバアセンブリを具備していてもよい。また、このシステムは、レーザシステムと連通し、入力光信号の1つまたは複数の特性を制御するように構成された信号処理電子機器を具備する。1つまたは複数の特性には、強度、位相、または周波数のうちの少なくとも1つを含み得る。いくつかの変形例において、このシステムは、信号処理電子機器と連通し、入力光信号の1つまたは複数の特性を表す信号を受信するように構成されたデータインターフェースを具備する。
【0067】
ここで図10を参照して、この図は、フォトニック結晶メーザを含む例示的な試験システムの模式図である。フォトニック結晶メーザは、供試デバイス(DUT)を囲む無響室に全部または一部が配設されていてもよい。フォトニック結晶メーザは、出力ビーム(または、RFパルス)をDUTに送信するように配向していてもよい。この試験システムは、光ファイバ等によりフォトニック結晶メーザに対して光学的に結合された1つまたは複数の励起レーザを有するレーザシステムを具備する。また、レーザシステムは、無響室中の予め定められた場所に光学結合された1つまたは複数のレーザを含んでいてもよい。また、この試験システムは、レーザシステムと連通した信号処理電子機器と、信号処理電子機器と連通したインターフェース(または、データインターフェース)と、を具備する。また、いくつかの変形例において、インターフェースは、レーザシステムと連通していてもよい。
【0068】
ここで図11を参照して、この図は、フォトニック結晶メーザおよびフォトニック結晶受信機をそれぞれ有する2つの送受信機を含む例示的な送受信システムの模式図である。送受信機は、両者間のRF信号の伝送等を可能にするため、互いに配向していてもよい。フォトニック結晶メーザは、図1A図9に関して記載の例示的なフォトニック結晶メーザに類似していてもよく、また、フォトニック結晶受信機は、米国特許第11,137,432号に記載のフォトニック結晶受信機に類似していてもよい。送受信機は、光ファイバ等によりレーザシステムに対して光学的に結合されている。レーザシステムは、各フォトニック結晶メーザに対して光学的に結合された1つまたは複数の励起レーザを含んでいてもよい。また、レーザシステムは、各フォトニック結晶受信機に対して光学的に結合された1つもしくは複数のプローブレーザならびに1つもしくは複数の結合レーザを含んでいてもよい。また、この送受信システムは、レーザシステムと連通した信号処理電子機器と、信号処理電子機器と連通したインターフェース(または、データインターフェース)と、を具備する。また、いくつかの変形例において、インターフェースは、レーザシステムと連通していてもよい。
【0069】
ここで図12を参照して、この図は、フォトニック結晶メーザおよび蒸気セルセンサを含むシステムの模式図である。フォトニック結晶メーザは、目標RF電磁放射の出力ビーム(または、RFパルス)を蒸気セルセンサに送信するように配向していてもよい。このシステムは、光ファイバ等によりフォトニック結晶メーザに対して光学的に結合された1つまたは複数の励起レーザを有するレーザシステムを具備していてもよい。また、レーザシステムは、光ファイバ等により蒸気セルセンサに対して光学的に結合された1つもしくは複数のプローブレーザならびに1つもしくは複数の結合レーザを含んでいてもよい。また、このシステムは、レーザシステムと連通した信号処理電子機器と、信号処理電子機器と連通したインターフェース(または、データインターフェース)と、を具備する。また、いくつかの変形例において、インターフェースは、レーザシステムと連通していてもよい。
【0070】
本明細書のいくつかの態様においては、以下の例によって、フォトニック結晶メーザが記述され得る。
(例1)
誘電体であり、
フォトニック結晶構造を当該誘電体中に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイと、
欠陥をフォトニック結晶構造中に規定するキャビティのアレイの領域と、
当該誘電体の表面のスロット開口から当該誘電体の少なくとも一部を通って延びた領域を通る細長スロットと、
を備え、
キャビティのアレイおよび細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、誘電体と、
細長スロットを覆い、誘電体の表面に接合されてスロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有する光学ウィンドウと、
細長スロットにおける蒸気または蒸気源であり、
1つまたは複数の入力電子遷移と、
1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、目標高周波(RF)電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、導波路の導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、蒸気または蒸気源と、
蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な光信号を生成するように構成されたレーザと、
を備えたフォトニック結晶メーザ。
(例2)
フォトニック結晶構造が、目標RF電磁放射を細長スロットに集中させるように構成された、例1に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例3)
キャビティのアレイの領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
フォトニック結晶構造が、軸と平行な方向に沿う目標RF電磁放射の群速度を減少させるように構成された、例1または2に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例4)
アレイのキャビティが、2次元格子の各部位に配設され、領域が、2次元格子の2つ以上の連続する部位にキャビティが存在しないことによって規定される、例1~3のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例5)
キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含む、例1~4のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例6)
1つまたは複数のオフセットキャビティが、細長スロットの端部の最も近くに存在し、細長スロットの端部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、例5に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例7)
1つまたは複数のオフセットキャビティが、細長スロットの側部の最も近くに存在し、細長スロットの側部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、例5に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例8)
細長スロットの端部に配設された光学ミラーを備えた、例1~7のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例9)
光学ミラーが、細長スロットにより規定された光路に対して角度が付けられた、例8に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例10)
光学ミラーが、細長スロットにより規定された光路と垂直である、例8に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例11)
キャビティのアレイの領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
誘電体が、当該誘電体の端部から延びて軸と位置合わせされ、目標RF電磁放射を当該フォトニック結晶メーザの周囲環境に対してインピーダンス整合させるように構成されたインピーダンス整合構造を含む、例1~10のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例12)
インピーダンス整合構造が、テーパ状端部で終端し、
テーパ状端部と位置合わせされた狭隘部と、
狭隘部から外方に延び、周期的間隔が沿う同一平面部のアレイであり、目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングするように構成された、同一平面部アレイと、
を備えた、例11に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例13)
ウィンドウ面が、第1のウィンドウ面であり、
光学ウィンドウが、第1のウィンドウ面と反対の第2のウィンドウ面を含み、
フォトニック結晶メーザが、間隙によって第2のウィンドウ面から分離された誘電体プレートを備えた、例1~12のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例14)
フォトニック結晶構造が、導波路中の目標RF電磁放射の横磁気(TM)モードと関連付けられたフォトニックバンドギャップを規定する、例1~13のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例15)
フォトニック結晶構造が、導波路中の目標RF電磁放射の横電気(TE)モードと関連付けられたフォトニックバンドギャップを規定する、例1~14のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例16)
領域が、ループをキャビティのアレイ中に構成し、細長スロットが、ループのループ軸に沿って延びることにより、ループ状スロットを構成し、
蒸気または蒸気源が、ループ状スロットの少なくとも一部に配設された、例1~15のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例17)
ループ状スロットが、ループ軸に沿った第1および第2のループ方向と関連付けられ、第1のループ方向が第2のループ方向と反対であり、
ループ状スロットが、第1および第2のRFポートを含み、
当該フォトニック結晶メーザが、第1および第2のRFポートにそれぞれ結合された第1および第2の方向性結合器を備え、第1の方向性結合器が、第1のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第1の部分を受信するように構成され、第2の方向性結合器が、第2のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第2の部分を受信するように構成された、例16に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例18)
誘電体の表面が、キャビティのアレイそれぞれのキャビティ開口を規定しており、
光学ウィンドウが、キャビティ開口それぞれを覆い、
ウィンドウ面が、キャビティ開口それぞれの周りのシールを構成する、例1~17のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例19)
誘電体の表面が、第1の表面であり、誘電体が、第1の表面と反対の第2の表面を含み、
細長スロットが、第1の表面から誘電体を通って第2の表面まで延び、
スロット開口が、第1のスロット開口であり、誘電体の第2の表面が、細長スロットの第2のスロット開口を規定しており、
光学ウィンドウが、第1の光学ウィンドウであり、ウィンドウ面が、第1のウィンドウ面であり、
当該フォトニック結晶メーザが、第2のスロット開口を覆い、第2の表面に接合されて第2のスロット開口周りのシールを構成する第2のウィンドウ面を有する第2の光学ウィンドウを備えた、例1~17のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例20)
誘電体の第1および第2の表面がそれぞれ、キャビティのアレイそれぞれの第1および第2のキャビティ開口を規定しており、
第1および第2の光学ウィンドウがそれぞれ、第1および第2のキャビティ開口それぞれを覆い、
第1および第2のウィンドウ面が、第1および第2のキャビティ開口それぞれの周りの各シールを構成する、例19に記載のフォトニック結晶メーザ。
(例21)
目標RF電磁放射が、100MHz~1THzの範囲の周波数を有する、例1~20のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
(例22)
蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、例1~21のいずれか1つに記載のフォトニック結晶メーザ。
【0071】
本明細書のいくつかの態様においては、以下の例によって、方法が記述され得る。
(例1)
光信号を誘電体の細長スロットに受信することであり、誘電体が、
フォトニック結晶構造を当該誘電体中に規定するため周期的に配列されたキャビティのアレイと、
欠陥をフォトニック結晶構造中に規定するキャビティのアレイの領域と、
領域に配置され、当該誘電体の表面のスロット開口から当該誘電体の少なくとも一部を通って延びた細長スロットと、
を備え、
光学ウィンドウが細長スロットを覆い、誘電体の表面に接合されてスロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有し、
キャビティのアレイおよび細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、ことと、
細長スロットにおいて封止された蒸気から目標高周波(RF)電磁放射を放出することであり、蒸気が、
光信号により励起される1つまたは複数の入力電子遷移と、
1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、目標RF電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、導波路の導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、ことと、
出力電子遷移と導波モードとの間で目標RF電磁放射の少なくとも一部を共振させることにより、目標RF電磁放射を増幅することと、
を含む方法。
(例2)
光信号を細長スロットに受信することが、光信号を細長スロット中の蒸気と相互作用させることを含む、例1に記載の方法。
(例3)
光信号を相互作用させることが、細長スロットにより規定された光路に沿って光信号を伝搬させることを含む、例2に記載の方法。
(例4)
光信号を細長スロットに受信することが、細長スロットの端部に配設されたミラーで光信号を反射させることを含む、例1~3のいずれか1つに記載の方法。
(例5)
導波路の動作によって、目標RF電磁放射を誘電体の端部に向かって案内することを含む、例1~4のいずれか1つに記載の方法。
(例6)
キャビティのアレイの領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
誘電体が、当該誘電体の端部から延びて軸と位置合わせされたインピーダンス整合構造を含み、
放出または増幅後の目標RF電磁放射をインピーダンス整合構造に結合することと、
インピーダンス整合構造の動作によって、結合した目標RF電磁放射を誘電体の周囲環境に対してインピーダンス整合させることと、
を含む、例5に記載の方法。
(例7)
インピーダンス整合構造の一体部である偏波器を用いて、結合した目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングすることを含む、例6に記載の方法。
(例8)
目標RF電磁放射を増幅することが、目標RF電磁放射を細長スロットに集中させることを含む、例1~7のいずれか1つに記載の方法。
(例9)
キャビティのアレイの領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
目標RF電磁放射を増幅することが、軸と平行な方向に沿う目標RF電磁放射の群速度を減少させることを含む、例1~8のいずれか1つに記載の方法。
(例10)
キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含み、
目標RF電磁放射を増幅することが、目標RF電磁放射をオフセットキャビティで反射させることを含む、例1~9のいずれか1つに記載の方法。
(例11)
領域が、ループをキャビティのアレイ中に構成し、細長スロットが、ループのループ軸に沿って延びることにより、ループ状スロットを構成し、
蒸気が、ループ状スロットの少なくとも一部に配設された
ループ状スロットが、ループ軸に沿った第1および第2のループ方向と関連付けられ、第1のループ方向が第2のループ方向と反対であり、
目標RF電磁放射の第1の部分を第1のループ方向に沿って伝搬させることと、
目標RF電磁放射の第2の部分を第2のループ方向に沿って伝搬させることと、
を含む、例1~10のいずれか1つに記載の方法。
(例12)
目標RF電磁放射が、100MHz~1THzの範囲の周波数を有する、例1~11のいずれか1つに記載の方法。
(例13)
蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、例1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
本明細書のいくつかの態様においては、以下の例によって、高周波電磁放射を生成するためのシステムが記述され得る。
(例1)
高周波(RF)電磁放射を生成するためのシステムであって、
誘電体材料で形成されたフォトニック結晶構造であり、
欠陥領域が配設されたキャビティのアレイと、
欠陥領域に配設された細長スロットと、
を備え、
キャビティのアレイおよび細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、フォトニック結晶構造と、
細長スロットに配設された蒸気であり、
1つまたは複数の入力電子遷移と、
1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、目標RF電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、導波路の導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、蒸気と、
を備えたメーザと、
蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な入力光信号をフォトニック結晶構造の細長スロットに与えるように構成されたレーザシステムと、
レーザシステムと連通し、強度、位相、または周波数のうちの少なくとも1つを含む入力光信号の1つまたは複数の特性を制御するように構成された信号処理電子機器と、
を備えた、システム。
(例2)
信号処理電子機器と連通し、入力光信号の1つまたは複数の特性を表す信号を受信するように構成されたデータインターフェースを備えた、例1に記載のシステム。
(例3)
レーザシステムが、当該レーザシステムを細長スロットに対して光学的に結合する光ファイバアセンブリを備えた、例1または2に記載のシステム。
(例4)
フォトニック結晶構造が、目標RF電磁放射を細長スロットに集中させるように構成された、例1~3のいずれか1つに記載のシステム。
(例5)
キャビティのアレイの欠陥領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
フォトニック結晶構造が、軸と平行な方向に沿う目標RF電磁放射の群速度を減少させるように構成された、例1~4のいずれか1つに記載のシステム。
(例6)
アレイのキャビティが、2次元格子の各部位に配設され、欠陥領域が、2次元格子の2つ以上の連続する部位にキャビティが存在しないことによって規定される、例1~5のいずれか1つに記載のシステム。
(例7)
キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含む、例1~6のいずれか1つに記載のシステム。
(例8)
1つまたは複数のオフセットキャビティが、細長スロットの端部の最も近くに存在し、細長スロットの端部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、例7に記載のシステム。
(例9)
1つまたは複数のオフセットキャビティが、細長スロットの側部の最も近くに存在し、細長スロットの側部から離れた空間オフセットをそれぞれ有する、例7に記載のシステム。
(例10)
フォトニック結晶構造が、細長スロットの端部に配設された光学ミラーを備えた、例1~9のいずれか1つに記載のシステム。
(例11)
キャビティのアレイの欠陥領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
メーザが、当該メーザの端部から延びて細長スロットと位置合わせされ、目標RF電磁放射を当該メーザの周囲環境に対してインピーダンス整合させるように構成されたインピーダンス整合構造を含む、例1~10のいずれか1つに記載のシステム。
(例12)
インピーダンス整合構造が、テーパ状端部で終端し、
テーパ状端部と位置合わせされた狭隘部と、
狭隘部から外方に延び、周期的間隔が沿う同一平面部のアレイであり、目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングするように構成された、同一平面部アレイと、
を備えた、例11に記載のシステム。
(例13)
欠陥領域が、ループをキャビティのアレイ中に構成し、細長スロットが、ループのループ軸に沿って延びることにより、ループ状スロットを構成し、
蒸気が、ループ状スロットの少なくとも一部に配設された、例1~12のいずれか1つに記載のシステム。
(例14)
ループ状スロットが、ループ軸に沿った第1および第2のループ方向と関連付けられ、第1のループ方向が第2のループ方向と反対であり、
ループ状スロットが、第1および第2のRFポートを含み、
メーザが、第1および第2のRFポートにそれぞれ結合された第1および第2の方向性結合器を備え、第1の方向性結合器が、第1のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第1の部分を受信するように構成され、第2の方向性結合器が、第2のループ方向に沿って進む目標RF電磁放射の第2の部分を受信するように構成された、例13に記載のシステム。
(例15)
目標RF電磁放射が、100MHz~1THzの範囲の周波数を有する、例1~14のいずれか1つに記載のシステム。
(例16)
蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、例1~15のいずれか1つに記載のシステム。
【0073】
本明細書のいくつかの態様においては、以下の例によって、方法が記述され得る。
(例1)
レーザシステムの動作によって、蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な入力光信号を生成することであり、蒸気が、
誘電体材料で形成されたフォトニック結晶構造であり、
欠陥領域が配設されたキャビティのアレイと、
欠陥領域に配設された細長スロットと、
を備え、
キャビティのアレイおよび細長スロットが、導波モードを有する導波路を規定する、フォトニック結晶構造を備えたメーザの一部であり、
蒸気が、細長スロットに配設され、
1つまたは複数の入力電子遷移と、
1つまたは複数の入力電子遷移に結合され、目標高周波(RF)電磁放射を放出するように動作可能な出力電子遷移で、導波路の導波モードと共振する、出力電子遷移と、
を含む、ことと、
レーザシステムと連通した信号処理電子機器の動作によって、強度、位相、または周波数のうちの少なくとも1つを含む入力光信号の1つまたは複数の特性を制御することと、
出力電子遷移の動作によって、入力光信号の細長スロットへの受信に応答して蒸気から目標RF電磁放射を放出することと、
を含む方法。
(例2)
信号処理電子機器と連通したデータインターフェースにおいて、入力光信号の1つまたは複数の特性を表す信号を受信することを含む、例1に記載の方法。
(例3)
入力光信号の1つまたは複数の特性が、光信号の強度を含み、
入力光信号の1つまたは複数の特性を制御することが、入力光信号の強度を変調して入力光信号のパルスを生成することを含み、
目標RF電磁放射を放出することが、入力光信号のパルスの細長スロットへの受信に応答して目標RF電磁放射のパルスを放出することを含む、例1または2に記載の方法。
(例4)
出力電子遷移と導波モードとの間で目標RF電磁放射の少なくとも一部を共振させることにより、目標RF電磁放射を増幅することを含む、例1~3のいずれか1つに記載の方法。
(例5)
目標RF電磁放射を増幅することが、目標RF電磁放射を細長スロットに集中させることを含む、例4に記載の方法。
(例6)
キャビティのアレイの欠陥領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
目標RF電磁放射を増幅することが、軸と平行な方向に沿う目標RF電磁放射の群速度を減少させることを含む、例4または5に記載の方法。
(例7)
キャビティのアレイが、当該アレイ中の理想的な周期位置から空間的にオフセットした1つまたは複数のオフセットキャビティを含み、
目標RF電磁放射を増幅することが、目標RF電磁放射をオフセットキャビティで反射させることを含む、例4~6のいずれか1つに記載の方法。
(例8)
欠陥領域が、ループをキャビティのアレイ中に構成し、細長スロットが、ループのループ軸に沿って延びることにより、ループ状スロットを構成し、
蒸気が、ループ状スロットの少なくとも一部に配設され、
ループ状スロットが、ループ軸に沿った第1および第2のループ方向と関連付けられ、第1のループ方向が第2のループ方向と反対であり、
目標RF電磁放射の第1の部分を第1のループ方向に沿って伝搬させることと、
目標RF電磁放射の第2の部分を第2のループ方向に沿って伝搬させることと、
を含む、例1~7のいずれか1つに記載の方法。
(例9)
導波路の動作によって、目標RF電磁放射をメーザの端部に向かって案内することを含む、例1~8のいずれか1つに記載の方法。
(例10)
キャビティのアレイの領域が、軸に沿って延び、細長スロットが、軸と平行に位置合わせされ、
メーザが、当該メーザの端部から延びて軸と位置合わせされたインピーダンス整合構造を含み、
目標RF電磁放射をインピーダンス整合構造に結合することと、
インピーダンス整合構造の動作によって、結合した目標RF電磁放射を誘電体の周囲環境に対してインピーダンス整合させることと、
を含む、例9に記載の方法。
(例11)
インピーダンス整合構造の一体部である偏波器を用いて、結合した目標RF電磁放射の偏波をフィルタリングすることを含む、例10に記載の方法。
(例12)
光ファイバアセンブリの動作によって、入力光信号をレーザシステムから細長スロットまで送達することを含む、例1~11のいずれか1つに記載の方法。
(例13)
目標RF電磁放射が、100MHz~1THzの範囲の周波数を有する、例1~12のいずれか1つに記載の方法。
(例14)
蒸気が、アルカリ金属原子のガスを含む、例1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
本明細書は多くの詳細を含むが、これらは、特許請求の範囲を制限するものとは理解されず、むしろ特定の例に固有の特徴の説明として理解されるものとする。別個の実施態様の背景において本明細書に記載または図面に記載の特定の特徴については、組み合わせることも可能である。その結果、単一の実施態様の背景において記載または図示のさまざまな特徴については、複数の実施形態における別々の実現も、任意好適な副組み合わせでの実現も可能である。
【0075】
同様に、図面においては動作を特定の順序で示しているが、これは、望ましい結果を実現するため、このような動作を図示の特定の順序で実行したり順次実行したりすることの要求としても、図示のすべての動作を実行することの要求としても、理解されないものとする。特定の状況においては、マルチタスクおよび並列処理が有利となり得る。さらに、上述の実施態様におけるさまざまなシステム構成要素の分離は、このような分離をすべての実施態様において要求するものとは理解されず、一般的には、プログラムコンポーネントおよびシステムの単一の製品への一体的統合または複数の製品へのパッケージングが可能であることが了解されるものとする。
【0076】
以上、多くの実施形態を説明した。それにも関わらず、種々改良が可能であることが了解される。したがって、他の実施形態についても、以下の特許請求の範囲に含まれる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
多くの実施態様において、蒸気は、複数対の電子エネルギーレベル間に規定された電子遷移(たとえば、リュードベリ遷移、原子遷移、分子遷移等)を有する。特に、蒸気は、1つまたは複数の入力電子遷移と、1つまたは複数の入力電子遷移に結合された出力電子遷移と、を含む。出力電子遷移は、目標RF電磁放射を放出するように動作可能であり、導波路の1つまたは複数の導波モードと共振する。電子遷移の例については、図2に関して詳述する。いくつかの実施態様において、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、蒸気の1つまたは複数の入力電子遷移を励起可能な光信号を生成するように構成されたレーザ(たとえば、励起レーザ)を具備する。ただし、他のエネルギー源(たとえば、高周波光子源)も可能である。いくつかの実施態様において、出力電子遷移は、周波数が100MHz~1THzの範囲の目標RF電磁放射を放出するように動作可能である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
いくつかの実施態様において、細長スロット114は、誘電体102の一部を通って延びており、誘電体102は、細長スロット114のスロット開口を規定する表面を含む。これらの実施態様において、例示的なフォトニック結晶メーザ100は、細長スロット114を覆い、表面に接合されてスロット開口周りのシールを構成するウィンドウ面を有する光学ウィンドウ(たとえば、光学ウィンドウ104)を具備する。このような封止は、細長スロット114における蒸気(または、蒸気源)の封止について光学ウィンドウおよび誘電体102を補助することにより、蒸気セルを領域112内に規定し得る。光学ウィンドウは、接触接合、陽極接合、ガラスフリット接合等によって誘電体102に接合されていてもよい。このような接合については、米国特許第10,859,981号「Vapor Cells Having One or More Optical Windows Bonded to a Dielectric Body」に記載の技術を用いて形成されるようになっていてもよく、そのすべての開示内容を本明細書に援用する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
光学ウィンドウは、目標RF電磁放射を放出させるような蒸気の刺激に用いられる電磁放射(たとえば、レーザ光)に対して透明な材料で形成されていてもよい。たとえば、光学ウィンドウは、電磁放射の赤外波長(たとえば、700~5000nm)、電磁放射の可視波長(たとえば、400~700nm)、または電磁放射の紫外波長(たとえば、10~400nm)に対して透明であってもよい。さらに、光学ウィンドウの材料は、高い抵抗率(たとえば、ρ>103Ω・cm)を有する絶縁材料であってもよく、また、単結晶材料、多結晶材料、または非晶質(もしくは、ガラス)材料に対応していてもよい。たとえば、光学ウィンドウの材料には、石英、ガラス質シリカ、またはホウケイ酸ガラス等に見られる酸化ケイ素(たとえば、SiO2、SiOx等)を含んでいてもよい。別の例において、光学ウィンドウの材料には、サファイアまたはアルミノケイ酸ガラス等に見られる酸化アルミニウム(たとえば、Al23、Alxy等)を含んでいてもよい。場合により、光学ウィンドウの材料は、酸化マグネシウム(たとえば、MgO)、酸化アルミニウム(たとえば、Al23)、二酸化ケイ素(たとえば、SiO2)、二酸化チタン(たとえば、TiO2)、二酸化ジルコニウム(たとえば、ZrO2)、酸化イットリウム(たとえば、Y23)、酸化ランタン(たとえば、La23)等の酸化物材料である。酸化物材料は、非化学量論的(たとえば、SiOx)であってもよく、また、1つまたは複数の二元酸化物(たとえば、Y:ZrO2、LaAlO3、BaLn2Ti412等)の組み合わせであってもよい。他の例において、光学ウィンドウの材料は、ダイヤモンド(C)、フッ化カルシウム(CaF)等の非酸化物材料である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
例示的なフォトニック結晶メーザ100が第1および第2の光学ウィンドウ104、106を具備する実施態様において、誘電体102の第1および第2の表面116、118は、キャビティ108のアレイそれぞれの第1および第2のキャビティ開口をそれぞれ規定していてもよい。これらの実施態様において、第1および第2の光学ウィンドウ104、106はそれぞれ、第1および第2のキャビティ開口それぞれを覆っていてもよいし、覆っていなくてもよい。光学ウィンドウがキャビティ開口それぞれを覆っている実施態様において、第1のウィンドウ面122は、第1のキャビティ開口それぞれの周りのシールを構成していてもよいし、第2のウィンドウ面124は、第2のキャビティ開口それぞれの周りのシールを構成していてもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
いくつかの実施態様において、フォトニック結晶ミラー132は、細長スロット114の一端または両端に配置されている。図1Aは、フォトニック結晶ミラー132が細長スロット114の両端に存在する場合を示している。フォトニック結晶ミラー132の存在によって、出力電力の増大、メーザの利得閾値の低下、または両者が可能となる。たとえば、フォトニック結晶ミラー132は、動作中に領域112を横切る電磁放射(たとえば、例示的なフォトニック結晶メーザ100の動作中に蒸気によって放出される目標RF電磁放射)を反射させるようにしてもよい。この性質において、領域112は、メーザキャビティの内部等、メーザキャビティの一部として機能し得る。さらに、フォトニック結晶ミラー132は、蒸気により放出される電磁放射のためのキャビティ構造(たとえば、スロット導波路)の規定に関して、キャビティ108のアレイおよび細長スロット114を補助し得る。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
図1Aは、例示的なフォトニック結晶メーザ100が線状の領域112および線状の細長スロット114を有するものとして示しているが、他の形状も可能である。たとえば、図1Bは、誘電体102がリング共振器構造を含む例示的なフォトニック結晶受信機100の模式上面図である。特に、領域112は、ループ(たとえば、楕円ループ)をキャビティ108のアレイ中に構成している。多くの変形例において、ループは、円、楕円、長円等の閉じたループである。細長スロット114は、ループのループ軸(たとえば、楕円軸)に沿って延びることにより、ループ状スロット150(たとえば、楕円スロット)を構成している。(たとえば、透明な壁、レンズ、ミラー等による)ループ状スロット150の全部または一部の仕切りによって、蒸気または蒸気源を含むようにしてもよい。図1Bは、ループ状スロット150の一部152が蒸気または蒸気源を含む場合を示している。図1Bに示すようないくつかの変形例においては、キャビティ108のアレイがループを構成する。ただし、キャビティ108のアレイについて、他の分布も可能である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
特定の場合において、領域112および細長スロット114のループ状構成は、線状構成よりも優れた利点をいくつかもたらし得る。たとえば、線状構成によれば、細長スロット114の直線軸等、主に2つの反対方向に沿って、放出された目標RF電磁放射が進み得る。このような進行においては、利得媒質として作用し得る蒸気との相互作用によって、目標RF電磁放射が増幅される可能性がある。ただし、この双方向進行では、進行する目標RF電磁放射(たとえば、細長スロット114において前後に進む光子の波)と関連付けられた光子が互いに干渉して、細長スロット114に目標RF電磁放射の定常波が生成され得る。この定常波は、細長スロット114の長さに沿った一連の最小および最大電磁界強度と関連付けられる。最小値では、蒸気のいくつかの部分で誘導放出がほとんど起こらず、最大値では、他の部分で放出が飽和する可能性がある。最大値は、それぞれの電磁界エネルギーがそれぞれの位置で蒸気により吸収可能な量よりも多い場合に、特に望ましくないと考えられる。結果として、目標RF電磁放射の定常波は、細長スロット114における蒸気を効率的に使用できない。目標RF電磁放射は、すべての蒸気が使用される場合よりも小さな電磁界強度で出力電力を飽和させる可能性がある。
【国際調査報告】