(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】二酸化炭素を含むガスを処理するプロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20231031BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20231031BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20231031BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C12P5/02
C02F3/34 Z
C02F3/10 Z
H01M12/08 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546390
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021078266
(87)【国際公開番号】W WO2022079081
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523133258
【氏名又は名称】パケル・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ダンダン
(72)【発明者】
【氏名】デ・リンク,フレデリクス
(72)【発明者】
【氏名】クロック,ヨハンネス・ベルナルドゥス・マリア
【テーマコード(参考)】
4B064
4D003
4D040
5H032
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064CA02
4B064CA31
4B064CB16
4B064CC09
4B064CD01
4B064DA16
4D003AA01
4D003EA14
4D003EA25
4D040DD01
4D040DD31
5H032AS12
5H032CC16
5H032CC25
5H032HH02
5H032HH04
5H032HH08
(57)【要約】
本発明は、溶存二酸化炭素を含む水溶液を、担体、好適には活性炭顆粒、及び微生物のバイオフィルムを含む電子荷電充填床と、嫌気性条件下で接触させることによって、二酸化炭素をメタンに変換するプロセスであって、水溶液中の溶存二酸化炭素の90モル%超が、重炭酸イオンとして及び/又は炭酸イオンとして存在するプロセスを対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性条件下で、溶存二酸化炭素を含む水溶液を、担体及び微生物のバイオフィルムを含む電子荷電充填床と接触させることによって、二酸化炭素をメタンに変換するプロセスであって、
水溶液中の溶存二酸化炭素の90モル%超が、重炭酸イオンとして及び/又は炭酸イオンとして存在する、プロセス。
【請求項2】
前記担体が、活性炭顆粒又は活性化バイオ炭顆粒である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記電子荷電充填床に電力が供給されない、請求項1~2のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記電子荷電充填床が、アノード、イオン交換膜、及びカソードをさらに含む生物電気化学システムにおけるバイオカソードの一部であり、前記充填床が、生物電気化学システムに電位を印加することによって充電され、バイオカソードとアノードとの間に一定時間電流を生じる、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アノードに存在する水溶液は陽極液と呼ばれ、前記カソードに存在する水溶液は陰極液と呼ばれ、陰極液の一部が前記アノードに供給されて陽極液の一部となり、陽極液の一部が前記カソードに供給されて陰極液の一部となる再循環が行われる、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記電子荷電充填床が、アノードをさらに含む生物電気化学システム中のバイオカソードの一部であり、ある時点では、充填床が生物電気化学システムに電位を印加することによって充電され、バイオアノードとアノードとの間に電流を生じるときに前記プロセスが実施され、別の時点では、電子荷電充填床に電力が供給されないときに前記プロセスが実施される、請求項1~2のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロセスが、複数の生物電気化学システムにおいて実施され、各システムは、バイオカソード及びアノードを含み、1つ以上の生体電気化学システムにおいて、前記プロセスが、これらの1つ以上の生物電気化学システムの電子荷電充填床に電力が供給されない間に実施され、前記プロセスが実施されない間に、これらの充填床が電子で充電されるように、複数の生物電気化学システムのうちの1つ以上の他の生物電気化学システムの充填床に電力が供給される、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
電子荷電充填物に電力が供給されないときに、0.03~12時間の間に前記プロセスが実施される、請求項5~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
電源が太陽光及び/又は風力によって発生する電気である、請求項3~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記充填床が、Ag/AgCl(3M KCl)に対して-0.50~-0.60Vの間のカソード電位のカソード電極への印加によって、又は5~200A/m
2の間の電流密度のカソード電極への印加によって充電される、請求項4~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記アノードが、イリジウム及び又はタンタルで被覆されたチタンメッシュである、請求項4~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
電源が、アノードでの化学反応によって生成される、請求項4~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記充填床が、500~1500m
2/gの間の活性化表面積を有する活性炭顆粒の充填床であり、微生物が活性化表面積の表面にバイオフィルムとして存在する、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記水溶液のpHが7.7を超える、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記水溶液のpHが8を超える、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記水溶液が、0.3~4Mの間のナトリウムカチオン又はナトリウム及びカリウムカチオンを含む、請求項14~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記水溶液が、0.4~2Mの間、好ましくは0.5~1.5Mの間のナトリウムカチオン又はナトリウム及びカリウムカチオンを含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記担体及び前記微生物のバイオフィルムが、8を超えるpH及び嫌気的条件下で、7のpHでAg/AgCl(3M KCl)に対し-0.61Vの理論的水素発生電位よりも大きいカソード電位で、ある量の電流を、担体及び微生物のバイオフィルムから構成される充填床に供給することによって実施される活性化工程で得られ、微生物が嫌気的排水処理施設のスラッジからの混合培養微生物である、請求項4~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
溶存二酸化炭素を含む水溶液が、二酸化炭素を含むガスを、8を超えるpHを有する水溶液と接触させて、溶存二酸化炭素の大部分が重炭酸イオンとして及び/又は炭酸イオンとして存在する水溶液を得ることによって得られる、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
二酸化炭素を含むガスを、8を超えるpHを有し、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセスで得られた溶存メタンを含む水溶液と向流で接触させ、前記ガスが、該水溶液からメタンを除去して、メタンを含むガスを得る、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
カソード電位が嫌気性条件下pH7でAg/AgCl(3M KCl)に対し-0.61Vの理論水素発生電位よりも高く、8を超えるpHになるような量の電流を供給することによって、アノードと、担体及び嫌気性排水処理施設のスラッジからの混合培養微生物から構成される充填床から構成されるバイオカソードとから構成される生物電気化学システムを活性化又は再活性化する方法。
【請求項22】
前記担体が、活性炭顆粒又は活性化バイオ炭顆粒である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性条件下で、担体及び微生物を含む電子荷電充填床の存在下で、二酸化炭素がメタンに変換される、二酸化炭素を含むガスを処理するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
Dandan Liu、Marta Roca-Puigros、Florian Geppert、Leire Caizan-Juanarena、Susakul P. Na Ayudthaya、Cees Buisman及びAnnemiek ter Heijne、Frontiers in Bioengineering and Biotechnology、2018年6月第6巻、論文78のGranulr Carbon-Based Electrodes as Cathodes in Methane-Producing Bioelectrochemical Systemsと題する学術論文の記事は、嫌気性条件下で、活性炭顆粒及び混合培養微生物を含む電子荷電充填床の存在下で、二酸化炭素がメタンに変換されるプロセスを記載した。CO2はpH7.1の水溶液にガスとして供給された。活性炭顆粒及び混合培養微生物から構成される電子荷電充填床からなるバイオカソードに対し交互に2分間の充電及び4分間の無充電を行った。報告された「メタンに対する電流」効率は55%であった。報告された全体のエネルギー効率は25%であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Dandan Liu、Marta Roca-Puigros、Florian Geppert、Leire Caizan-Juanarena、Susakul P. Na Ayudthaya、Cees Buisman及びAnnemiek ter Heijne、“Granulr Carbon-Based Electrodes as Cathodes in Methane-Producing Bioelectrochemical Systems”、Frontiers in Bioengineering and Biotechnology、2018年6月、第6巻
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、メタンを生成するエネルギー効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は以下のプロセスによって達成される。
【0006】
嫌気性条件下で、溶存二酸化炭素を含む水溶液を、担体及び微生物のバイオフィルムから構成される電子荷電充填床と接触させることによって、二酸化炭素をメタンに変換するプロセスであって、水溶液中の溶存二酸化炭素の90モル%超が、重炭酸イオンとして及び/又は炭酸イオンとして存在する、プロセス。
【0007】
出願人は、溶存二酸化炭素が重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在する場合、メタンへの大幅により効率的なエネルギー変換が、記載されたプロセスについて達成されることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のプロセスのための可能なプロセススキームを示す。
【
図2】円でクーロン効率を表し、白三角記号で電圧効率を表し、黒四角記号でエネルギー効率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
溶存二酸化炭素は、水性二酸化炭素、炭素イオン、重炭酸イオンとして、及び炭酸イオンとして存在し得る。水溶液中の溶存二酸化炭素の大部分は重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在する。水溶液中の溶存二酸化炭素の90モル%超、好ましくは、95モル%超は、重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在する。これらの化合物が水溶液中に存在するpH条件は、7.5超が好ましく、7.7超が好ましく、8超がより好ましく、8~10の範囲がさらにより好ましく、8.5~9.5の範囲がより好ましい。これらのアルカリ性条件は、弱酸及び強塩基の間に形成される塩基性塩、例えば、重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムによって達成されることができる。このような塩基性塩は、ナトリウムカチオン又はナトリウム及びカリウムカチオンを加えることによって形成することができる。ナトリウムカチオンの濃度又はナトリウム及びカリウムカチオンの合計は、0.3~4Mの間が適切であり、0.4~2Mの間が好ましく、0.5~1.5Mの間がさらにより好ましい。得られた水溶液は、炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム及び重炭酸カリウム又はそれらの混合物をさらに含む緩衝溶液である。アルカリ性水溶液は、好適には、微生物用の栄養素をさらに含む。適切な栄養素の例は、アンモニウム、ビタミン及び鉱物元素のような栄養素である。活発な微生物を維持するために、このような栄養素をアルカリ性水溶液に添加することが望ましい場合がある。
【0010】
嫌気性条件は、好適には、分子状酸素の不在下で、好ましくはまた、例えば、硝酸塩のような他の酸化剤の不在下で本プロセスを実施することによって達成される。「分子状酸素の不在下」とは、このプロセスにおける充填された水溶液中の分子状酸素の濃度が、最大で10μMの分子状酸素、好ましくは最大で1μM、より好ましくは最大で0.1μMの分子状酸素であることを意味する。酸化剤と見なすことができる硫酸塩は、いわゆるウォルフェのミネラル・ソリューション(Wolfe’s mineral solution)の鉱液の一部として、例えば、160μMの低濃度で存在し得る。これらの低濃度の硫酸塩は、二酸化炭素の望ましい変換にマイナスの影響を与えないことがわかった。
【0011】
このプロセスは、二酸化炭素がメタンに変換される嫌気性条件下で、前記水溶液を、活性炭顆粒及び微生物から構成される電子荷電充填床と接触させることによって行われる。微生物は、微生物の混合培養物又は単独培養物であってもよい。微生物の混合培養物は、嫌気的に増殖させた培養物から適切に得られる。好適には、混合培養物は、例えば、メタノバクテリウム(Methanobacterium)のような水素資化性メタン生成菌を含む。例えば、デルタプロテオバクテリア(Deltaproteobacteria)及びベータプロテオバクテリア(Betaproteobacteria)のようなプロテオバクテリア(Proteobacteria)のような嫌気性又は通性嫌気性細菌を含むさらなる微生物が存在し得る。
【0012】
混合培養微生物は、嫌気的に増殖させた培養物のような嫌気性系から得られることが好ましい。したがって、混合培養物は、嫌気性鎖延長に使用されるもののような嫌気性発酵槽、嫌気性消化反応器、例えば、上昇流嫌気性スラッジブランケット反応器(UASB)などの嫌気性生物反応器のスラッジから得られる。スラッジを供給するための他の適切な生物反応器は、膨張汚泥床(EGSB)、連続バッチ反応器(SBR)、連続撹拌槽反応器(CSTR)又は嫌気性膜生物反応器(AnMBR)である。これとの関連において、スラッジという用語は、微生物の混合培養物を含む半固体綿くず又は顆粒を指す。
【0013】
担体は、バイオフィルムの表面を提供し、十分な電気容量特性を有する任意の担体であり得る。好ましくは、担体は生体適合性であり、微生物を付着させ、バルク溶液及び電極の物質移動を強化するための3D顆粒構造を有する。好ましくは、担体は炭素系である。適切な炭素系担体の例は、グラファイト及び活性炭顆粒である。
【0014】
担体の充填床は、好適には、活性炭の顆粒若しくは粒子又は活性炭粉末顆粒又は活性バイオ炭顆粒などの活性炭材料によって改質された電極を含む。好適には、床は、活性化表面積が500~1500m2/gの間の活性炭顆粒の充填床であり、ここで微生物は活性化表面積の表面上のバイオフィルムとして存在する。高い表面積は微生物が存在する表面を提供する。したがって、容積当たりの高い表面積は、反応器空間の容積当たりのメタンへの二酸化炭素の所望の反応を実行するより高い能力を提供する。
【0015】
好適には、顆粒の寸法は、一方では、大きな圧力低下を引き起こすことなく、顆粒間の空間において水性画分の物質移行が可能であるようなものである。これは、顆粒の寸法に関して実際的な下限が存在することを意味する。他方では、顆粒が大きすぎると、活性炭顆粒の微小孔内の移動距離が長くなるため、顆粒は大きすぎるべきではない。顆粒の体積に基づく直径は、0.5~10mmの間であってもよく、好ましくは1~4mmの間であってもよい。
【0016】
活性炭顆粒から構成される電子荷電充填床は、好ましくは、アノードをさらに含む生物電気化学的システムにおけるバイオカソードの一部である。バイオカソードは、好適には、充填床に配置されたある体積の活性炭顆粒を含む。充填床は、グラファイト板若しくはフェルトのような炭素含有材料、又は金属メッシュ、好ましくはステンレス鋼メッシュのような導電性電極材料の表面であってもよい集電体と接触する。集電体は、充填床が該集電体からの電子で充電され得るように配置される。
【0017】
充填床は、さらに、生物電気化学システムのアノード空間に流体接続され、カチオン交換膜によって該アノード空間から分離される生物電気化学システムのカソード空間に配置される。活性炭顆粒の充填床をコンパクトにするためには、カチオン交換膜上の充填床によって発揮される圧力と釣り合わせるように、ガラスビーズのような不活性粒子をアノード空間に加えることが好ましい。
【0018】
アノードに存在する水溶液は陽極液、カソードに存在する水溶液は陰極液と呼ばれる。好適には、陰極液の一部がアノードに供給されて陽極液の一部となり、陽極液の一部がカソードに供給されて陰極液の一部となる再循環が行われる。このような再循環を行うと、水溶液中の溶存二酸化炭素の大部分が重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在する、より効率的なプロセスが得られることがわかる。
【0019】
好ましくは、陽極液中に存在する可能性のある酸素の含有量は、これがカソードに供給されて陰極液の一部となる場合には少なくあるべきである。酸素含有量は、気液分離によって、この陽極液流から酸素を除去することにより減少させることができる。あるいは、亜硫酸塩又は有機捕捉剤などの物理的又は化学的酸素捕捉剤を使用して、酸素含有量を低下させてもよい。また、陽極液は、N2及び/又はCO2のようなO2を含まないガスでパージすることができる。酸素はまた、電気化学的除去技術によって陽極液から除去されることもできる。
【0020】
好ましくは、陰極液中に存在する可能性のあるメタンの含有量は、これをアノードに供給して陽極液の一部とする場合には少なくあるべきである。メタン含有量は、気液分離によって、この陽極液流からメタンを除去することにより減少させることができる。
【0021】
活性炭顆粒の充填床は、生物電気化学システムに電位を印加することによってそのようなシステムで充電させることができ、その結果、バイオカソード及びアノードの間に電流が生じ、アノードで電子が供与され、カソードで電子が充填床に供給される。アノードでは、水の酸化のような酸化反応が起こり、必要な電子が供給される。電位は、例えば、風力及び/又は太陽光によって生成される電力のような、電気を生成する外部電源によって達成することができる。あるいは、アノードでの化学反応によって、電子、ひいては電源が部分的に供与されることもある。このような化学反応の一例は、Cerrillo,M.、Vinas,M.及びBonmati,A(2017) Unravelling the active microbial community in a thermophilic anaerobic digester-microbial electrolysis cell coupled system under different conditions. Water Research 110、192~201に記載されている生物学的有機物(すなわちCOD)酸化である。
【0022】
アノードはアノード空間に配置され、選択された電子供与体の酸化に適した材料で作られる。電子供与体としての水に対する好適な材料は、白金、ルテニウム、イリジウム、イリジウムで被覆されたチタン及びそれらの混合物である。適切なアノード材料の例は、白金-イリジウム被覆チタン板である。好ましくは、アノードは、例えば、ルテニウム-イリジウム被覆チタンメッシュのようなイリジウム被覆チタンメッシュである。イリジウム-タンタル被覆チタンメッシュの水の酸化に対する電気化学的触媒特性は、白金-イリジウム被覆チタンアノードより高いことがわかった。実験結果は、水の分離に必要なアノード電位が以前の実験よりはるかに低いことを示した。すなわち、電流密度5A/m2でAg/AgCl(3M KCl)に対し、1.14Vであり、一方、以前の実験では同じ電流密度でAg/AgCl(3M KCl)に対し、1.9Vであった。アノード電位は10A/m2の高い電流密度では増加すると予想された。しかし、アノード電位の実際の増加は無視できるものであった。
【0023】
充電した充填床は、10~100F/gの間の電気容量に適切に充電される。好ましくは、充電は、バイオカソード、アノード及びカチオン交換膜を含む生物電気化学システムで行われる。電子荷電充填床はバイオカソードの一部である。充填床は、生物電気化学システムに電圧/電流を印加することによって充電され、バイオカソード及びアノードの間に一定時間電流を生じさせ、その結果、充填床が電子で充填される。好ましくは、充填床は、Ag/AgClに対して-0.50~-0.60Vの間のカソード電位をバイオカソードの集電体に印加することによって、又は2~200A/m2、好ましくは5~120A/m2の間の電流密度をカソード電極に適用することによって充電される。
【0024】
電子荷電充填床は、このプロセスを実施する際に電力が供給されないように、必ずしも外部電源に接続する必要はない。充填床が十分に電子で充電されているときには、このプロセスは長時間にわたって行われることがわかる。例えば、電子荷電充填床に電力が供給されない状況において、このプロセスを0.03時間~12時間の間、好ましくは0.05時間~10時間の間に実施することができる。これは、好ましくは、例えば、太陽光及び/又は風力のような持続可能かつ再生可能な外部電源である発電する非連続的な電源の使用を可能にするので有利である。このような非連続的な電力供給が一時的に利用できない場合に作動するというこのプロセスの能力は有利である。
【0025】
このプロセスは、生物電気化学システムの電子荷電充填床に電力が供給されない、上記生物電気化学システムの一部として電子荷電充填床を用いて実施することができる。このような実施形態では、充填床は、生物電気化学システムに電位を印加してバイオカソード及びアノードの間に電流を生じることによって、上記のようなプロセスを実施する前に充電される。このプロセスは、上記のように充填床が充電された場合にも実施することができる。また、外部電源がないために、充填床が交互に充電され、充電されないプロセスを実施することも可能である。この実施形態では、該プロセスを実施する際に、幾分かの正味の充電が起こる。その後、システムを外部電源に接続し、電力を供給する。
【0026】
また、このプロセスは、各システムがバイオカソード及びアノードから構成され、1つの生物電気化学システムがこのプロセスを実行し、別の生物電気化学システムが充電される、複数の生物電気化学システムにおいて実施されてもよい。このプロセスを実施するシステムを、電子荷電充填床に電力が供給されていない間に実施することができる。充電された生物電気化学システムには、充填床が電子で充電されるように電力が供給される。任意に、複数の生物電気化学システムのさらなる生物電気化学システムが、生物電気化学システムに電位/電流を印加することによって、充填床を充電しながら、前記プロセスを実施する。
【0027】
好適には、担体及び微生物のバイオフィルムから構成される充填床が活性化工程で得られる。活性化工程は、8より高いpHで、嫌気性条件下で、担体及び嫌気性排水処理施設のスラッジ由来の微生物のバイオフィルムから構成される充填床に、-0.61V対Ag/AgCl(3M KCl)での理論的水素発生電位より低いカソード電位である量の電流を供給することにより行う。得られた充填床、特に活性炭顆粒及び混合培養微生物から構成される充填床は、そのような活性化が起こらない場合と比較して、より安定であり、カソードでの水素発生を回避することがわかった。活性化は、電流供給をオンにした後、安定かつ最適な電位が得られるまで実施することが好ましい。
【0028】
また、本発明は、嫌気性条件下及び8より高いpHで、カソード電位がAg/AgCl(3M KCl)に対し-0.61Vより低いようにある量の電流を供給することにより、アノード、及び担体と嫌気性下水処理施設のスラッジからの混合培養微生物とから構成される充填床から構成されるバイオカソードを含む、生物電気化学システムを活性化又は再活性化する方法に向けられている。混乱を避けるために、生物電気化学システムを活性化又は再活性化する上記方法を、pH7で-0.61V対Ag/AgCl(3M KCl)での理論的水素発生電位よりも高いカソード電位で電流を供給することによって実施する。理論的水素発生電位はpHに依存する。例えば、pH8.5では、理論的水素発生電位は、Ag/AgCl(3M KCl)に対して-0.71Vである。
【0029】
溶存二酸化炭素を含む水溶液は、意図的に作られた溶液であってもよく、又は海水のような自然に生じる溶液であってもよい。意図的に作られた水溶液は、二酸化炭素を含むガスを、8を超えるpHを有する水溶液と接触させて、溶存二酸化炭素の大部分が重炭酸イオンとして及び/又は炭酸イオンとして存在する水溶液を得ることによって得ることができる。このような吸収プロセス工程における8を超えるpHを有する水溶液は、好適には、上で記載したようにナトリウムイオン又はナトリウムイオン及びカリウムイオンを含む。二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素を含むいずれのガスであってもよい。そのようなガスの例は、燃焼プロセスで得られる煙道ガス、水ガスシフトプロセスの排ガス、合成ガス、排水処理のための嫌気性消化からのバイオガス、空気、アミン酸ガス、天然ガス、関連ガス、(バイオ)精製ガス、バイオマス、石炭又は他の有機残渣のガス化に由来するガス流である。
【0030】
吸収プロセス工程は、典型的には、ガス及び液体の流れが対向する吸収又は接触カラム内で行われる。好適には、吸収プロセス工程は、垂直カラム内で行われ、カラムのより低い位置で連続的に二酸化炭素含有ガスがカラムに供給され、アルカリ性水溶液は、実質的に上方に流れるガス流が実質的に下方に流れる液体流と接触するように、カラムのより高い位置に連続的に供給される。カラムはさらに、その下端に充填した水溶液用の出口と、その上端により低い含量の二酸化炭素を有するガス用の出口とを備える。
【0031】
吸収プロセスにおける水溶液のpHは、溶解する二酸化炭素の結果として低下する。このため、出発水溶液のpH及びその組成は、得られた液体水溶液中で溶存二酸化炭素の大部分が重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在するようなものであることが好ましい。任意に、これらの条件を達成するために、吸収工程の後にアルカリ性化合物を添加することができる。
【0032】
吸収プロセス工程における温度は、5~45℃の間、好ましくは30~40℃の間とすることができる。圧力は、0bara~100baraの範囲、好ましくは大気圧~80baraの範囲であり得る。
【0033】
吸収プロセス工程は、充填された水溶液中に酸素が溶解しないように行われることが好ましい。これは、酸素含有量の低い二酸化炭素ガスから始めることによって達成され得る。しかし、ガスに酸素が含まれている場合は、何らかの前処理が必要になることがある。微量の酸素はまた、好ましい一実施形態において酸素が形成されるアノードから膜を介して酸素もカソード区画に入ることになるので、微量の酸素は許容される。
【0034】
好ましくは、二酸化炭素を含むガスは、8を超えるpHを有し、本発明によるプロセスで得られた溶存メタンを含む水溶液と向流で接触し、ガスは、メタンを含むガスを得るために水溶液からメタンを除去する。このようにして、メタンは水性反応混合物から効果的に単離され、一方、二酸化炭素は同じユニット操作を用いて吸収される。
【0035】
図1は、本発明のプロセスのための可能なプロセススキームを示す。二酸化炭素を含むガス(1)は、吸収カラム(3)内で8を超えるpHを有し、反応器(4)で得られた溶存メタンを含む水溶液(2)と向流で接触する。カラム(3)でガス(1)は水溶液(2)からメタンを除去し、メタンを含むガスを得る。このようにして、メタンは水性反応混合物(2、2a)から効果的に単離され、一方、二酸化炭素は同じカラム(3)で吸収される。メタンに富むガスはガス流(5)として得られる。得られた溶存炭素を含む水溶液(6)では、溶存二酸化炭素の大部分は重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンとして存在する。この水溶液(6)を熱交換器(7)中で冷却し、嫌気性条件下で、担体及び微生物のバイオフィルムから構成される電子荷電充填床(8)に供給する。電子荷電充填床(8)では重炭酸イオンとしての及び/又は炭酸イオンとしての二酸化炭素がメタンへと反応する。これは中間反応生成物としての水素の生成なしに達成されると考えられる。電子荷電充填床(8)は、バイオカソード(8a)に流れる、アノード(9)で形成され得る酸素を避けるために、さらにアノード(9)及びイオン交換膜(10)を含む生物電気化学反応器(4)において、バイオカソード(8a)の一部である。膜は任意である。反応器(4)が、バイオカソード(8a)で生成されたメタンがアノード(9)に行き着かず、アノード(9)で生成された酸素がバイオカソード(8a)に行き着かないように設計されている場合、膜は不要である。
【0036】
バイオカソード(8a)で得られた水性反応混合物(2、2a)を、混合容器(13)を介してカラム(3)に供給する。混合容器(13)には、補給水(14)、補給腐食性物質(15)、補給栄養素及びビタミン(16)を加えてもよい。陰極液ブリード(bleed)流(17)は、陰極液の一部をプロセスから排出する。
【0037】
アノードにおいて、水は酸化され、生成した酸素は(18)を介して陽極液緩衝槽(19)に排出される。反応器(9)の陽極液区画に新鮮な陽極液を(20)を介して供給する。この容器では、分子状酸素が(21)として分離される。補給水(22)及び補給腐食性物質(23)を添加し、陽極液ブリード流(24)がプロセスから水溶液の一部を排出する。
【0038】
陽極液(12)の一部は混合容器(13)に供給されて陰極液の一部となり、陰極液(11)の一部は陽極液緩衝槽(19)に供給されて陽極液の一部となる。これらの流れ(11、12)は、上で記載したように酸素及びメタンの含有量を低下させるように処理されてもよい。
【実施例】
【0039】
本発明は、以下の非限定的な例によって例示される。これらの例では、プロセスのエネルギー効率を示す。このエネルギー効率は以下のように定義される。一般に、本発明によるプロセスとしての電子駆動プロセスのエネルギー効率は、目的とする最終生成物であるメタンに行き着く外部電気エネルギーとして説明される。エネルギー効率は、等式(1)として計算される。
【0040】
【0041】
本発明のCH4製造プロセスに関して、
【0042】
【数2】
は、電流対メタン効率である。これは、CH
4の形態で電流から電子を捕捉する効率として説明され、これは等式2に示されるように計算される。
【0043】
【0044】
式中、NCH4はある一定の時間(t)の間に生成されるメタンの量(モル)であり、8は1分子のCH4を生成するのに必要な電子の量であり、Fはファラデー定数(96485C/mol e-)であり、Iは電流(A)である。
【0045】
電圧効率(
【0046】
【数4】
)は、CH
4に行き着くエネルギー入力(すなわち、システムを運転するために必要なセル電圧)の部分として説明され、等式3に示されるように計算される。
【0047】
【0048】
この等式では、ΔGCH4は、CO2からCH4への酸化のギブズ自由エネルギーの変化(890×103J/mol CH4)であり、
【0049】
【数6】
は印加されたセル電圧(V)であり、8は1分子のCH
4を生成するのに必要な電子の量であり、Fはファラデー定数(96485C/mol e
-)である。
【0050】
[実施例1]
生物電気化学システム(BES)を作動させ、60日間の長期の実験を行った。BESの構成は、Liu、Dandan、Marta Roca-Puigros、Florian Geppert、Leire Caizan-Juanarena、Na Ayudthaya、P. Susakul、Cees Buisman、Annemiek Ter Heijne「Granular carbon-based electrodes as cathodes in methane-producing bioelectrocheimiccal systems」Frontiers in bioengineering and biotechnology 6(2018):78に記載されているBESの構成に似ている。カソード電極は10.3gの粒状活性炭で、これをカソードチャンバーに完全に充填した。平らなグラファイト板を集電体として用いた。それぞれ33cm3(11cm×2cm×1.5cm)の流路を持つアノードチャンバー及びカソードチャンバー。アノードチャンバー及びカソードチャンバーを、22cm2(11cm×2cm)の投影表面積のカチオン交換膜によって分離した。また、陽極液及び陰極液の総量はそれぞれ500mL及び330mLであった。H/D(高さ/直径)比がCO2のより良好な吸収を可能にするために増大するように、陰極液循環ボトルを設計した。アノード電極で生じたO2を除去するために、94mL/分という高い陽極液流速を用いた。また、N2は陽極液再循環ボトル内で、80mL/分の速度で連続的にバブリングさせた。陰極液再循環速度は11mL/分であった。
【0051】
カソードチャンバーに、Eerbeekの上流嫌気性スラッジブランケット(UASB)消化からの30mLの嫌気性スラッジを接種した。接種した嫌気性スラッジの揮発性懸濁固体は30.6g/Lであった。メタン生成BESを、ポテンシオスタットにより定電流制御(固定電流)した。さらに、セル電圧を、マルチメーターを介して手動で監視した。pH及び導電率測定のための液体試料を、陽極液及び陰極液の両方について週に2回採取した。以下の結果を得た。
【0052】
最初に、陰極液は、0.2g/LのNH4Cl、1mL/LのWolfeのビタミン溶液及び1mL/LのWolfeの改質鉱物溶液を含む、50mMのリン酸塩緩衝液(1.36g/LのKH2PO4及び5.67g/LのNa2HPO4)からなっていた。陽極液は50mMのリン酸緩衝液のみからなっていた。陰極液及び陽極液の両方に同じリン酸緩衝液を用いるため、陰極液及び陽極液の初期pH及び導電率は同じである(すなわち、pH6.7、導電率7.68mS/cm)。開始期間(示していない)後、電流密度5A/m2のバイオカソードで電子を供給すると、安定した性能が得られた(0日~30日)。この期間、得られた電圧効率は約50%であり、クーロン効率及び83~85%のクーロン効率は、40~42%のエネルギー効率を導く。
【0053】
30日後、陰極液及び陽極液を約40mS/cmの導電率(Na:Kは4:1)の1.0M炭酸塩/重炭酸塩緩衝液を含む高い生理食塩水媒体に変更した。媒体は0.2g/LのNH4Cl、1mL/LのWolfeのビタミン溶液及び1mL/LのWolfeの改質鉱物溶液を含んでいた。結果として得られた陰極液のpHは7.7~7.8であった。媒体の変更後、電圧効率は直ちに約83%まで上昇した。クーロン効率は最初65%に低下した。この低下は、バイオカソードへの浸透圧衝撃によって説明できる。しかし、数日の操作後、バイオフィルムは順応し、クーロン効率は約85%まで回復した。その結果、媒体の変更により、メタン生成BESのエネルギー効率
【0054】
【数7】
は43%から65~70%に上昇した。クーロン効率が円で表され、電圧効率が白三角記号で表され、エネルギー効率が黒四角記号で表される
図2も参照されたい。
【国際調査報告】