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特表2023-546993NY-ESO-1および/またはLAGE-1A癌抗原に結合する組み換えT細胞受容体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】NY-ESO-1および/またはLAGE-1A癌抗原に結合する組み換えT細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20231031BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20231031BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20231031BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231031BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20231031BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231031BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231031BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/705 ZNA
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
A61P35/00
A61K35/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549802
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021038086
(87)【国際公開番号】W WO2022093333
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/106,329
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523153854
【氏名又は名称】ティー-キュア バイオサイエンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】リン,イン キュー.
(72)【発明者】
【氏名】デービス,ニコラス エス.
(72)【発明者】
【氏名】ワン,メイズ
(72)【発明者】
【氏名】ゼン,ガン
(72)【発明者】
【氏名】フォン ウーヴェ,エリカ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、MHC拘束様式で、NY-ESO-1として知られる共有される癌-精巣抗原中に存在する特定のエピトープおよび/または密接に関連する抗原LAGE-1中に存在する特定のエピトープに特異的に結合する組み換えT細胞受容体に関する。本発明は、T細胞受容体関連ポリペプチド、その断片および機能性バリアント、ならびに本発明のT細胞受容体ポリペプチドをコードする核酸、組み換え発現ベクターおよびT細胞受容体を発現する遺伝的に改変された細胞(例えばT細胞)、ならびに被験体において癌を診断、治療または予防するための方法におけるそれらの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えα鎖であって、以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号:2のアミノ酸配列または配列番号:2のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;
(ii) 配列番号:3のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列;
(iii) 配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列;
(iv) 配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列;および
(v) 配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列
の1つ以上を含む、単離された組み換えα鎖。
【請求項2】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えβ鎖であって、以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号:95のアミノ酸配列または配列番号:95のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;
(ii) 配列番号:9のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;
(iii) 配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列;
(iv) 配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列;および
(v) 配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列
の1つ以上を含む、単離された組み換えβ鎖。
【請求項3】
請求項1記載のα鎖および請求項2記載のβ鎖を含むT細胞受容体。
【請求項4】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体であって、該T細胞受容体がα鎖およびβ鎖を含み、該αおよびβ鎖がそれぞれ、CDR1、CDR2およびCDR3を含み、該α鎖CDR3が配列番号:7のアミノ酸配列を含み、該β鎖CDR3が配列番号:13のアミノ酸配列を含む、T細胞受容体。
【請求項5】
α鎖CDR1が配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1が配列番号:11のアミノ酸配列を含む、請求項4記載のT細胞受容体。
【請求項6】
α鎖CDR2が配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2が配列番号:12のアミノ酸配列を含む、請求項4または5記載のT細胞受容体。
【請求項7】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体であって、配列番号:3のアミノ酸配列または配列番号:3のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖可変領域;および/または配列番号:9のアミノ酸配列または配列番号:9のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸アミノ酸配列を含むβ鎖可変領域を含む、T細胞受容体。
【請求項8】
α鎖が、配列番号:2のアミノ酸配列または配列番号:2のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはβ鎖が、配列番号:95のアミノ酸配列または配列番号:95のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項7記載のT細胞受容体。
【請求項9】
エピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)に対する免疫反応性が、HLA-A2拘束性である、請求項3~8いずれか記載のT細胞受容体。
【請求項10】
エピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)に対する免疫反応性が、HLA-A*0201またはHLA-A*0202拘束性である、請求項3~9いずれか記載のT細胞受容体。
【請求項11】
T細胞受容体が一本鎖T細胞受容体であり、任意にα鎖が、アミノ酸リンカーを介してβ鎖に連結される、請求項3~10いずれか記載のT細胞受容体。
【請求項12】
検出可能な標識をさらに含む、請求項3~11いずれか記載のT細胞受容体。
【請求項13】
治療剤と結合される、請求項3~12いずれか記載のT細胞受容体。
【請求項14】
請求項3~13いずれか記載のT細胞受容体と結合、任意に融合される抗体またはその抗原結合断片を含む、二重特異性T細胞受容体タンパク質。
【請求項15】
抗体が、被験体において免疫応答を調節し得る、請求項14記載の二重特異性T細胞受容体融合タンパク質。
【請求項16】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体のα鎖をコードする単離された組み換え核酸であって、以下のヌクレオチド配列:
(i)配列番号:2のアミノ酸配列または配列番号:2のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)配列番号:3のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(iii)配列番号:100のヌクレオチド配列;
(iv)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および
(vi)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
の1つ以上を含む、単離された組み換え核酸。
【請求項17】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体β鎖をコードする単離された組み換え核酸であって、以下のヌクレオチド配列:
(i)配列番号:95のアミノ酸配列または配列番号:95のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)配列番号:9のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(iii)配列番号:102のヌクレオチド配列;
(iv)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(v)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および
(vi)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
の1つ以上を含む、単離された組み換え核酸。
【請求項18】
アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体をコードする単離された組み換え核酸であって、該T細胞受容体が、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα鎖およびβ鎖を含み、α鎖CDR3が配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3が配列番号:13のアミノ酸配列を含む、単離された組み換え核酸。
【請求項19】
α鎖CDR1が配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1が配列番号:11のアミノ酸配列を含む、請求項18記載の核酸。
【請求項20】
α鎖CDR2が配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2が配列番号:12のアミノ酸配列を含む、請求項18または19記載の核酸。
【請求項21】
配列番号:14および配列番号:29から選択されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項18~20いずれか記載の核酸。
【請求項22】
一本鎖T細胞受容体をコードする、請求項18~21いずれか記載の核酸。
【請求項23】
α鎖、β鎖またはα-およびβ鎖の両方が、天然に存在するT細胞受容体中に存在しない変異、任意にα鎖、β鎖またはα-およびβ鎖の両方中の少なくとも1つのグリコシル化部位を除去するための点変異などを含む、請求項1記載のT細胞受容体のα鎖、請求項2記載のT細胞受容体のβ鎖、請求項3~13いずれか記載のT細胞受容体、請求項14もしくは15記載の二重特異性T細胞受容体または請求項16~22いずれか記載の核酸。
【請求項24】
請求項16~23記載の核酸の1つ以上を含む、組み換え発現ベクター。
【請求項25】
組み換えベクターがウイルスベクターである、請求項24記載のベクター。
【請求項26】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項25記載の組み換えベクター。
【請求項27】
以下:(i)請求項1もしくは23記載のT細胞受容体のα鎖;(ii)請求項2もしくは23記載のT細胞受容体のβ鎖;(iii)請求項3~13もしくは23いずれか一項記載のT細胞受容体;(iii)請求項14、15もしくは23記載の二重特異性T細胞受容体;(iv)請求項16~23いずれか記載の核酸;または(v)請求項24~26いずれか記載の組み換えベクターの1つ以上を含む、遺伝的に改変された細胞。
【請求項28】
免疫系細胞である、請求項27記載の細胞。
【請求項29】
CD4+ヘルパーT細胞である、請求項28記載の細胞。
【請求項30】
CD8+T細胞である、請求項28記載の細胞。
【請求項31】
前駆細胞である、請求項27記載の細胞。
【請求項32】
該前駆細胞が、造血幹細胞または多能性幹細胞である、請求項31記載の細胞。
【請求項33】
自己細胞または異種細胞である、請求項27~32いずれか記載の細胞。
【請求項34】
NY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと、および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞を作製する方法であって、請求項16~23いずれか記載の核酸または請求項24~26いずれか記載の発現ベクターの1つ以上をT細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項35】
細胞がCD4+ヘルパーT細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
細胞がCD8+T細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
T細胞が自己細胞または異種細胞である、請求項34~36いずれか記載の方法。
【請求項38】
請求項27~33いずれか記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項39】
NY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質を発現する癌細胞の増殖を阻害する方法であって、癌細胞を、癌細胞の増殖を阻害し得る請求項27~33いずれか記載の細胞に曝露する工程を含む、方法。
【請求項40】
被験体において癌を治療または予防するための方法であって、被験体に、(i)請求項1もしくは23記載のT細胞受容体のα鎖を発現する、(ii)請求項2もしくは23記載のT細胞受容体のβ鎖を発現する、(iii)請求項3~13もしくは23いずれか記載のT細胞受容体を発現する、および/または(iv)請求項16~23いずれか記載の核酸もしくは請求項24~26いずれか記載の組み換えベクターの1つ以上を形質導入される自己の遺伝的に改変されたT細胞を、被験体において癌を治療または予防するのに有効な量で投与する工程を含む、方法。
【請求項41】
被験体において癌を治療または予防するための方法であって、
(i)被験体からT細胞を抽出する工程;
(ii)T細胞に、請求項16~23いずれか記載の1つ以上の核酸または請求項24~26いずれか記載の組み換えベクターを導入する工程;および
(iii)工程(ii)により作製されたT細胞を被験体に投与する工程
を含む、方法。
【請求項42】
核酸のコドン使用頻度が、T細胞受容体のα鎖および/またはβ鎖の発現を高めるように最適化されている、請求項16~23いずれか記載の改変された核酸。
【請求項43】
SLLMWITQC(配列番号:1)ペプチド/MHC複合体に対して、表面プラスモン共鳴により測定した場合に500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、175nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下または10nM以下のKDで結合する、請求項3~13いずれか記載のT細胞受容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての他所参照
本願は、2020年10月27日に出願された米国仮特許出願第63/106,329号に対する優先権およびその利益を主張し、その開示は、その全体において参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般的に、T細胞受容体および治療におけるそれらの使用に関し、より具体的にはMHC拘束様式で、NY-ESO-1として知られる共有される癌-精巣抗原および/またはLAGE-1aとして知られる密接に関連のある抗原に結合するT細胞受容体に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
T細胞は、癌細胞および腫瘍の成長および増殖の制御に重要な役割を果たすことが見出されている。CD8+ T細胞は癌細胞を直接標的化することに役割を果たすように思われるが、腫瘍抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞は、CD8+ T細胞および抗体媒介免疫応答などの全体的な抗腫瘍免疫応答の開始、増殖、維持および協調において決定的な役割を果たすように思われる。特に、CD8+ T細胞系免疫療法は、種々の固形腫瘍を標的化する臨床試験において、有望な結果を示した(Robbins et al. (2011) J. CLIN. ONCOL. 29(7): 917;Robbins et al. (2015) CLIN. CANCER RES. 21(5): 1019-27;Rapoport et al. (2015) NAT. MED. 21(8): 914-21)。
【0004】
NY-ESO-1は、免疫特権(immune privileged)精巣を除く正常組織においてではなく、黒色腫、乳癌、肺癌および他のものなどの多くの腫瘍型において検出された癌/精巣抗原である(Chen et al. (1997) PROC. NATL. ACAD. SCI. USA 94:1914-1918;Zeng et al. (2000) J. IMMUNOL. 165: 1153-1159)。NY-ESO-1抗原に対するT細胞の反応性は、いくつかの例において、HLA-A2拘束様式で拘束されているように示されている(Jager et al. (1998) J. EXP. MED. 187: 265;Wang et al. (1998) J. IMMUNOL.161(7): 3596-3606)。HLA-A2拘束性NY-ESO-1および/またはLAGE-1aエピトープを認識するTCRを発現するCD8+ T細胞は、黒色腫、多発性骨髄腫および種々の肉腫を有する被験体において、臨床的応答をもたらしている(Robbins et al. (2011)上述;Robbins et al. (2015)上述;Rapoport et al. (2015)上述)。かかる免疫試薬の制限された利用可能性を考慮すると、癌被験体の治療に使用され得るさらなる新規の組成物および方法を提供するための進行中でまだ対処されていない必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、HLA拘束様式で共有される癌-精巣抗原NY-ESO-1および/または抗原LAGE-1a中に存在するコアSLLMWITQC(配列番号:1)エピトープおよび/またはコアSLLMWITQCFL(配列番号:28)エピトープに結合する、T細胞受容体(TCR)およびその機能性断片またはバリアントを提供する。例えば、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原は、HLA-A2拘束様式で、本明細書に記載されるT細胞受容体により認識され得る。例えば、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原に対する免疫反応性は、HLA-A*0201またはHLA-A*0202拘束性であり得る。
【0006】
T細胞受容体は、α-およびβ鎖と称され、T細胞の表面上で対を形成してヘテロダイマー受容体を形成する2本の鎖を含む。T細胞受容体は、MHC拘束性抗原の認識に関与する。α-およびβ鎖のそれぞれは、2つの領域、すなわち定常領域および可変領域を含む。α-およびβ鎖のそれぞれの可変領域は、T細胞受容体に抗原結合活性および結合特異性を付与するCDR1、CDR2およびCDR3として知られる相補性決定領域(CDR)と称される3つのループを画定する。
【0007】
一局面において、本発明は、コアアミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えα鎖を提供する。α鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:3もしくは配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含む。
【0008】
別の局面において、本発明は、コアアミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えβ鎖を提供する。β鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:9もしくは配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含む。
【0009】
別の局面において、本発明は、前述のα鎖の少なくとも1つおよび前述のβ鎖の少なくとも1つを含む、SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)エピトープと免疫反応性である組み換えT細胞受容体を提供する。
【0010】
別の局面において、本発明は、コアアミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体を提供する。T細胞受容体はα鎖およびβ鎖を含み、αおよびβ鎖はそれぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含み、α鎖CDR3は配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:13のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR1は配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1は配列番号:11のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR2は配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2は配列番号:12のアミノ酸配列を含む。
【0011】
別の局面において、本発明は、コアアミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体を提供する。T細胞受容体は、配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖可変領域;および配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖可変領域を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖は、配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはβ鎖は、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0012】
前述の局面のそれぞれにおいて、T細胞受容体は任意に一本鎖T細胞受容体であり、任意にα鎖は、アミノ酸リンカーを介してβ鎖に連結される。例えば、ある態様において、単離されたT細胞受容体は、配列番号:27のポリヌクレオチド配列にコードされ得る配列番号:14のアミノ酸配列または配列番号:30のポリヌクレオチド配列によりコードされ得る配列番号:29のアミノ酸配列を含み得る。
【0013】
前述の局面のそれぞれのある態様において、T細胞受容体は、HLA-A2拘束様式でエピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)と免疫反応性である。例えば、エピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)に対する免疫反応性は、HLA-A*0201またはHLA-A*0202拘束性であり得る。
【0014】
本明細書で提供されるアミノ酸配列のそれぞれについて、配列は任意に、実施例1および2でクローニングおよび配列決定されたT細胞受容体中の所定の位置に存在しない少なくとも1つのアミノ酸を含むことが企図される。
【0015】
本明細書に記載されるT細胞受容体は、別の結合部分とコンジュゲートされて、二重特異性T細胞受容体タンパク質を生じ得ることが理解される。例えば、本明細書に記載されるT細胞受容体は、抗体またはその抗原結合断片に結合、例えば共有結合または非共有結合されて、二重特異性分子を提供し得、T細胞受容体は、SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)エピトープに結合し、他の結合部分は、異なる抗原に結合する。ある態様において、抗体またはその抗原結合断片は、被験体において免疫応答を調節し得る。特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、抗CD3特異的であり得る。
【0016】
ある態様において、本明細書に記載されるT細胞受容体またはその機能的断片はさらに、検出可能な標識を含む。結果として、得られるコンジュゲートは、診断または予後試薬として使用され得る。さらに、ある態様において、本明細書に記載されるT細胞受容体は、治療剤に結合され得る。
【0017】
ある態様において、本明細書に記載されるT細胞受容体は、表面プラスモン共鳴により測定する場合に500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、175nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下または10nM以下のKDでSLLMWITQC(配列番号:1)ペプチド/MHC複合体に結合する。
【0018】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体のα鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。該核酸は、以下のヌクレオチド配列:(i)配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(ii)配列番号:3もしくは配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iii)配列番号:100のヌクレオチド配列;(iv)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および(vi)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の1つ以上を含む。
【0019】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体β鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。該核酸は、以下のヌクレオチド配列:(i)配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(ii)配列番号:9もしくは配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iii)配列番号:102のヌクレオチド配列;(iv)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(v)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および(vi)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の1つ以上を含む。
【0020】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体をコードする単離された組み換え核酸を提供する。T細胞受容体は、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα鎖およびβ鎖を含み、α鎖CDR3は配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:13のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、α鎖CDR1は配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1は配列番号:11のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、α鎖CDR2は配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2は配列番号:12のアミノ酸配列を含む。
【0021】
本明細書に記載される核酸のそれぞれについて、該核酸は、実施例1および2でクローニングおよび配列決定されたT細胞受容体中の所定の位置に存在しない少なくとも1つのアミノ酸をコードし得、および/または該核酸のコドン使用頻度(usage)は、所定の被験体においてT細胞受容体のα鎖および/またはβ鎖の発現を高めるように最適化され得ることが企図される。
【0022】
前述の核酸のそれぞれについて、該核酸は任意に、一本鎖T細胞受容体をコードし、任意にα鎖はアミノ酸リンカーを介してβ鎖に連結される。
【0023】
さらなる局面において、本発明は、前述の核酸配列の1つ以上を含む発現ベクター、例えばウイルス性発現ベクターを提供する。ある態様において、ウイルス性ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0024】
さらなる局面において、本発明は、以下:(i)本明細書に記載されるT細胞受容体タンパク質のα鎖;(ii)本明細書に記載されるT細胞受容体タンパク質のβ鎖;(iii)本明細書に記載されるT細胞受容体;(iii)本明細書に記載される二重特異性T細胞受容体;(iv)本明細書に記載される核酸または組み換え発現ベクターの1つ以上を含む遺伝的に改変された細胞を提供し、該細胞は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体を発現する。
【0025】
前述の細胞のそれぞれのある態様において、該細胞は、免疫系細胞、例えばCD4+ヘルパーT細胞もしくはCD8+ T細胞または前駆細胞、例えば造血幹細胞もしくは多能性幹細胞である。ある態様において、細胞は自己細胞または異種細胞である。
【0026】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞を作製する方法を提供する。該方法は、前述の核酸および/または発現ベクターの1つ以上をT細胞に導入する工程を含む。
【0027】
前述の方法のそれぞれのある態様において、T細胞は、CD4+ヘルパーT細胞またはCD8+ T細胞であり得る。T細胞は、自己細胞または異種細胞であり得る。
【0028】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される方法により作製される遺伝的に作り変えられた細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
別の局面において、本発明は、NY-ESO-1またはLAGE-1aタンパク質を発現する癌細胞の成長を阻害する方法を提供する。該方法は、癌細胞を、癌細胞の成長を阻害し得る本明細書に記載される遺伝的に作り変えられた細胞に曝露する工程を含む。
【0030】
別の局面において、本発明は、被験体において癌を治療または予防する方法を提供する。該方法は、被験体に、(i)本明細書に記載されるT細胞受容体のα鎖を発現する、(ii)本明細書に記載されるT細胞受容体のβ鎖を発現する、または(iii)本明細書に記載されるT細胞受容体を発現する、および/または(iv)本明細書に記載される核酸もしくは組み換え発現ベクターの1つ以上を形質導入される、自己の遺伝的に改変されたT細胞を、被験体において癌を治療または予防するのに有効な量で投与する工程を含む。
【0031】
別の局面において、本発明は、被験体において癌を治療または予防する方法を提供する。該方法は、(i)被験体からT細胞を抽出する工程;(ii)T細胞に本明細書に記載される核酸の1つ以上または組み換えベクターの1つ以上を導入する工程;および(iii)工程(ii)により作製されたT細胞を被験体に投与する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図面の簡単な説明
本発明の前述および他の目的、特徴および利点は、添付の図面に図示されるように好ましい態様の以下の記載から明らかになる。
図1-1】図1は、IFN-γおよびGM-CSF放出を標的認識の指標として使用した、CD8+ T細胞株による配列番号:1のHLA-A2拘束性NY-ESO-1:157-165エピトープ(「ESOp157-165」)の認識を示す。図1Aは、HLA-A2/NY-ESO-1+腫瘍細胞を認識するT細胞クローン(806)の同定を示す。806 T細胞は、HLA-A2+ 1088-B細胞に提示されるNY-ESO-1:157-165ペプチドを認識することが示された(図1A、左)。806 T細胞は、cosA2提示細胞に導入された場合、GFPではなくNY-ESO-1タンパク質を認識することが示された(図1A、左)。806 T細胞は、バリアント624.28黒色腫細胞株(HLA-A2-/NY-ESO-1+)ではなく624.38黒色腫株(HLA-A2+/NY-ESO-1+)を認識し得た(図1A、左)。示される濃度でGM-CSF放出を測定する滴定試験は、NY-ESO-1:157-165についてTCRの高いアビディティを示した(図1A、右)。図1Bは、NY-ESO-1:157-165を認識する単一のTCRαβペアの発見を示す。Jurkat76(J76)細胞に、806 T細胞クローンのTCR配列決定結果から得られた種々のαおよびβ鎖の組合せを形質導入した。α1β1の組み合わせのみが、NY-ESO-1:157-165適用(pulsed)T2細胞に対して特異的な応答を示した。
図1-2】図1Cは、806α1β1によるHLA-A2/NY-ESO-1:157-165ペンタマーの認識を示す。対照TCRまたは806α1β1 TCR構築物のいずれかを形質導入したJ76細胞を、NY-ESO-1:157-165-ペンタマーへの結合について、フローサイトメトリーにより分析した。806α1β1 TCRのみが、NY-ESO-1ペンタマーへの結合を示した。マウスC末端ドメインに対する抗体を使用して、TCRヘテロダイマーの細胞表面発現を評価した。
図1-3】図1Dは、806TCRによる腫瘍細胞認識を示す。形質導入されなかった細胞(暗灰色)または標的細胞単独(明灰色)とは反対に、形質導入されたT細胞(黒色)は、A2+/NYESO1+細胞(Colo-205-NYESO1、FM-6、FM-82、HEPG2-NYESO、SK-MEL-37、UACC-257およびMEL-624.38)のパネルに曝露された場合に特異的活性化を示したが;それらはA2-/NYESO1-細胞(HpAF-II、LS174T、LS714TおよびSK-LU-1)またはA2+/NYESO1-細胞(SK-LU-1-NYESO、MEL-624.28、A549、Colo-205、Cos-7-A2、HepG-2、Kato-IIIおよびSK-MEL-23)に曝露された場合に特異的活性を示さなかった。
図1-4】図1Eは、806TCRによる細胞殺傷を示す。806TCR形質導入T細胞は、24時間培養した後に、A2-/NY-ESO-1+標的細胞(MEL-624.28)ではなく、A2+/NY-ESO-1+細胞(MEL-624.38、FM-6、UACC-257)を傷害する能力を示した。形質導入されなかったT細胞は、傷害活性を示さなかった。
図2-1】図2は、ヒトα-およびβ鎖定常領域を含む806 TCRのα鎖アミノ酸配列(配列番号:2;図2A)、α鎖コドン最適化ヌクレオチド配列(配列番号:100;図2B)、β1鎖アミノ酸配列(配列番号:95;図2C)およびβ1鎖コドン最適化ヌクレオチド配列(配列番号:102;図2D)を示す。CDR領域は赤色で、下線が引かれる。
図2-2】図2は、ヒトα-およびβ鎖定常領域を含む806 TCRのα鎖アミノ酸配列(配列番号:2;図2A)、α鎖コドン最適化ヌクレオチド配列(配列番号:100;図2B)、β1鎖アミノ酸配列(配列番号:95;図2C)およびβ1鎖コドン最適化ヌクレオチド配列(配列番号:102;図2D)を示す。CDR領域は赤色で、下線が引かれる。
図3-1】図3Aおよび3Bは、(配列番号:14)のアミノ酸配列および(配列番号:27)をコードするポリヌクレオチド配列を示し、806 TCRα-P2A-β1融合タンパク質は、P2A配列が太字で示される。
図3-2】図3Cおよび3Dは、(配列番号:29)のアミノ酸配列および(配列番号:30)をコードするポリヌクレオチド配列を示し、806 TCRα-P2A-β1-T2A-CD34t融合タンパク質は、P2A配列が太字で示され、T2A配列が太字で示されて下線が引かれ、CD34t配列が小文字で示される。
図3-3】図3Cおよび3Dは、(配列番号:29)のアミノ酸配列および(配列番号:30)をコードするポリヌクレオチド配列を示し、806 TCRα-P2A-β1-T2A-CD34t融合タンパク質は、P2A配列が太字で示され、T2A配列が太字で示されて下線が引かれ、CD34t配列が小文字で示される。
図4-1】図4は、NY-ESO-1:157-165ペプチドを認識し得る他のT細胞受容体についての配列に対する806 T細胞受容体についてのアミノ酸配列の配列アラインメントを示す。806 T細胞受容体α鎖アミノ酸配列(図4A)および806 T細胞受容体β1鎖アミノ酸配列(図4B)を、1G4(米国特許出願公開US2009/053184に記載される)、BC1(国際特許出願公開WO2020/188348に記載される)、1G4C113(国際特許出願公開WO2005/113595に記載される)、UC-1E4(国際特許出願公開WO2020/(086158に記載される)、V17およびV12-4(両方国際特許出願公開WO2017/076308に記載される)として同定された他のTCR鎖由来の配列と整列した。T細胞受容体配列について、CDR領域は太字で赤色であり、定常領域には下線を引く。
図4-2】図4は、NY-ESO-1:157-165ペプチドを認識し得る他のT細胞受容体についての配列に対する806 T細胞受容体についてのアミノ酸配列の配列アラインメントを示す。806 T細胞受容体α鎖アミノ酸配列(図4A)および806 T細胞受容体β1鎖アミノ酸配列(図4B)を、1G4(米国特許出願公開US2009/053184に記載される)、BC1(国際特許出願公開WO2020/188348に記載される)、1G4C113(国際特許出願公開WO2005/113595に記載される)、UC-1E4(国際特許出願公開WO2020/(086158に記載される)、V17およびV12-4(両方国際特許出願公開WO2017/076308に記載される)として同定された他のTCR鎖由来の配列と整列した。T細胞受容体配列について、CDR領域は太字で赤色であり、定常領域には下線を引く。
図5-1】図5は、変異された例示的なグリコシル化部位を有する806 T細胞受容体(ヒト定常領域を有する)の配列を示す。例示的な変異を有する806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:75および76;図5Aおよび5B)ならびに例示的な変異を有する806 T細胞受容体β1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:97および98;図5Cおよび5D)を示す。アミノ酸変異および対応するヌクレオチド配列変化は下線を引いて示される。定常領域を太字で示す。
図5-2】図5は、変異された例示的なグリコシル化部位を有する806 T細胞受容体(ヒト定常領域を有する)の配列を示す。例示的な変異を有する806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:75および76;図5Aおよび5B)ならびに例示的な変異を有する806 T細胞受容体β1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:97および98;図5Cおよび5D)を示す。アミノ酸変異および対応するヌクレオチド配列変化は下線を引いて示される。定常領域を太字で示す。
図6-1】図6は、定常領域が公知のマウスTCR由来のもので置き換えられた806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:37および38;図6A~6B)およびβ1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:39および40;図6C~6D)を示す。定常領域を太字で示す。
図6-2】図6は、定常領域が公知のマウスTCR由来のもので置き換えられた806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:37および38;図6A~6B)およびβ1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:39および40;図6C~6D)を示す。定常領域を太字で示す。
図7-1】図7は、例示的なグリコシル化部位が変異された806 T細胞受容体(マウス定常領域を有する)の配列を示す。例示的な変異を有する806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:79および80;図7Aおよび7B)および例示的な変異を有する806 T細胞受容体β1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:81および82;図7Cおよび7D)を示す。アミノ酸変異および対応するヌクレオチド配列変化は下線を引いて示す。定常領域を太字で示す。
図7-2】図7は、例示的なグリコシル化部位が変異された806 T細胞受容体(マウス定常領域を有する)の配列を示す。例示的な変異を有する806 T細胞受容体α鎖(それぞれ配列番号:79および80;図7Aおよび7B)および例示的な変異を有する806 T細胞受容体β1鎖のアミノ酸およびポリヌクレオチド配列(それぞれ配列番号:81および82;図7Cおよび7D)を示す。アミノ酸変異および対応するヌクレオチド配列変化は下線を引いて示す。定常領域を太字で示す。
図8図8は、NY-ESO-1157-165ペプチド濃度の関数としての806TCR-T細胞活性(インターフェロン-γ放出により測定される)を示す折れ線グラフである。HLA-A*02:01+抗原提示細胞に示される濃度でのNY-ESO-1:157-165ペプチドを適用し、806TCR-T細胞と共培養し、インターフェロン-γ放出をELISAで測定した。
図9図9は、示される時点での示される806TCR-T細胞(または対照)とインキュベートした標的MEL-624.38細胞のリアルタイム蛍光画像を示す。縦列は共培養条件を表す:T細胞なし、ドナー1形質導入806TCR-T細胞、ドナー2形質導入806TCR-T細胞および10% DMSO (v/v)(死細胞対照)。横列は画像を撮影した時点を表す:0日目(0hr:12分)、2日目(48hr:12分)および3日目(72時間:12分)。
図10-1】図10は、非標的MEL-624.28細胞(図10A)または標的MEL-624.38細胞(図10B)と806TCR-T細胞とのインキュベーション後の経時的な細胞核計数(蛍光顕微鏡により測定)を示す折れ線グラフを示す。緑色の線は標的細胞のみ(T細胞なし)を示す。赤色の線は10% DMSO (v/v)の死細胞対照を示す。青色の線は806TCR-T細胞との共培養を示す。結果を時間0(0hr:12分)に対して標準化する。
図10-2】図10は、非標的MEL-624.28細胞(図10A)または標的MEL-624.38細胞(図10B)と806TCR-T細胞とのインキュベーション後の経時的な細胞核計数(蛍光顕微鏡により測定)を示す折れ線グラフを示す。緑色の線は標的細胞のみ(T細胞なし)を示す。赤色の線は10% DMSO (v/v)の死細胞対照を示す。青色の線は806TCR-T細胞との共培養を示す。結果を時間0(0hr:12分)に対して標準化する。
図11図11は、正常(非癌性)細胞および1つの標的癌性細胞株のパネルとの共培養後の806TCR-T細胞活性(インターフェロン-γ放出により測定)を示す棒グラフである。UTは形質導入なしを示す。D1およびD2は、肺線維芽細胞についての異なるドナーをいう。D882、D081およびD200は、T細胞についての異なるドナーをいう。
図12図12は、表面プラスモン共鳴により観察した場合のペプチド/pMHC1複合体(ビオチン-HLA-A*02:01-SLLMWITQC)に対する1G4LY TCR(図12A)および806 TCR(図12B)の結合を示す。それぞれのトレースは、TCRの示される濃度に対応する。実施例7に記載されるように結合動力学の計算のために結果を使用した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、HLA拘束様式で、癌細胞の表面上に発現されるNY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原に結合するT細胞受容体ならびにその断片およびバリアントを提供する。例示的な本発明のT細胞受容体は、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aエピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)と免疫反応性である。結合は、HLA-A2拘束性抗原の認識に関連し得る。例えば、結合は、HLA-A*0201、HLA-A*0202または潜在的に他のHLA-A2サブタイプ発現細胞に制限され得る。癌細胞の表面上のNY-ESO-1および/またはLAGE-1aの発現は、T細胞受容体ならびにその断片およびバリアントの、癌細胞の表面への特異的結合についての標的を提供する。本明細書で使用する場合、用語「免疫反応性」は、T細胞受容体、例えば本発明のT細胞受容体ならびにその断片およびバリアントが、任意にMHC拘束性様式で、抗原、例えばNY-ESO-1抗原またはLAGE-1a抗原中に存在するエピトープに特異的に結合し得ることを意味すると理解される。
【0034】
I. T細胞受容体
本発明は、単離された組み換えT細胞受容体(例えば天然に存在しないT細胞受容体)を提供する。ある態様において、T細胞受容体は、α鎖およびβ鎖を含み、α鎖およびβ鎖可変領域は、HLA-A2拘束様式でNY-ESO-1および/またはLAGE-1aエピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)に結合するための結合部位を画定する。ある態様において、T細胞受容体は、α鎖およびβ鎖を含み、α鎖およびβ鎖可変領域は、HLA-A2拘束様式でNY-ESO-1および/またはLAGE-1aエピトープSLLMWITQC(配列番号:1)に結合するための結合部位を画定する。
【0035】
例示的なTCRは以下のように特徴付けられる。T細胞受容体の全長α鎖およびβ鎖はそれぞれ、配列番号:2および95を含む。α鎖可変領域は配列番号:3のアミノ酸を含み、β鎖可変領域は配列番号:9のアミノ酸配列を含む。α鎖定常領域は配列番号:4のアミノ酸配列を含み、β鎖定常領域は配列番号:10のアミノ酸配列を含む。α鎖およびβ鎖可変領域のそれぞれは3つのCDR領域を含み、α鎖CDRは、配列番号:5(CDR1)、配列番号:6(CDR2)および配列番号:7(CDR3)のアミノ酸配列を含み、β鎖CDRは、配列番号:11(CDR1)、配列番号:12(CDR2)および配列番号:13(CDR3)のアミノ酸配列を含む。
【0036】
さらなる例示的なTCRは以下のように特徴付けられる。T細胞受容体の全長α鎖およびβ鎖はそれぞれ、配列番号:87および99を含む。α鎖可変領域は配列番号:83のアミノ酸を含み、β鎖可変領域は配列番号:85のアミノ酸配列を含む。α鎖定常領域は配列番号:4のアミノ酸配列を含み、β鎖定常領域は配列番号:10のアミノ酸配列を含む。α鎖およびβ鎖可変領域のそれぞれは3つのCDR領域を含み、α鎖CDRは、配列番号:5(CDR1)、配列番号:6(CDR2)および配列番号:7(CDR3)のアミノ酸配列を含み、β鎖CDRは、配列番号:11(CDR1)、配列番号:12(CDR2)および配列番号:13(CDR3)のアミノ酸配列を含む。
【0037】
明確さのために、特定の配列を表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0038】
さらなる例示的なTCRは以下のように特徴付けられる。T細胞受容体の全長α鎖およびβ鎖はそれぞれ、配列番号:87および99を含む。α鎖可変領域は配列番号:83のアミノ酸を含み、β鎖可変領域は配列番号:85のアミノ酸配列を含む。α鎖定常領域は配列番号:4のアミノ酸配列を含み、β鎖定常領域は配列番号:10のアミノ酸配列を含む。α鎖およびβ鎖可変領域のそれぞれは、3つのCDR領域を含み、α鎖CDRは、配列番号:5(CDR1)、配列番号:6(CDR2)および配列番号:7(CDR3)のアミノ酸配列を含み、β鎖CDRは、配列番号:11(CDR1)、配列番号:12(CDR2)および配列番号:13(CDR3)のアミノ酸配列を含む。
【0039】
さらなる例示的なTCRは以下のように特徴付けられる。T細胞受容体の全長α鎖およびβ鎖はそれぞれ、配列番号:53および56を含む。α鎖可変領域は配列番号:54のアミノ酸を含み、β鎖可変領域は配列番号:57のアミノ酸配列を含む。α鎖定常領域は配列番号:55のアミノ酸配列を含み、β鎖定常領域は配列番号:58のアミノ酸配列を含む。α鎖およびβ鎖可変領域のそれぞれは、3つのCDR領域を含み、α鎖CDRは、配列番号:43(CDR1)、配列番号:44(CDR2)および配列番号:45(CDR3)のアミノ酸配列を含み、β鎖CDRは、配列番号:46(CDR1)、配列番号:47(CDR2)および配列番号:48(CDR3)のアミノ酸配列を含む。
【0040】
一局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えα鎖を提供する。別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えα鎖を提供する。α鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:3もしくは配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含む。
【0041】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えβ鎖を提供する。別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体の単離された組み換えβ鎖を提供する。β鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:9もしくは配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含む。
【0042】
別の局面において、本発明は、前述のα鎖の少なくとも1つおよび前述のβ鎖の少なくとも1つを含むSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)エピトープと免疫反応性である組み換えT細胞受容体を提供する。
【0043】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体を提供する。別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性である単離された組み換えT細胞受容体を提供する。
【0044】
ある態様において、T細胞受容体は、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα鎖およびβ鎖を含み、α鎖CDR3は配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:13のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR1は配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1は配列番号:11のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR2は配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2は配列番号:12のアミノ酸配列を含む。
【0045】
ある態様において、T細胞受容体は、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα鎖およびβ鎖を含み、α鎖CDR3は配列番号:45のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:48のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR1は配列番号:43のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1は配列番号:46のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖CDR2は配列番号:44のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2は配列番号:47のアミノ酸配列を含む。
【0046】
ある態様において、T細胞受容体は、配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖可変領域;および配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸アミノ酸配列を含むβ鎖可変領域を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖は、配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはβ鎖は、配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0047】
ある態様において、T細胞受容体は、配列番号:54のアミノ酸配列または配列番号:54のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖可変領域;および/または配列番号:57のアミノ酸配列または配列番号:57のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸アミノ酸配列を含むβ鎖可変領域を含む。任意にまたはさらに、T細胞受容体α鎖は、配列番号:53のアミノ酸配列または配列番号:53のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、および/またはβ鎖は、配列番号:56のアミノ酸配列または配列番号:56のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0048】
前述の局面のそれぞれにおいて、T細胞受容体は任意に一本鎖T細胞受容体であり、任意にα鎖はアミノ酸リンカーを介してβ鎖に連結される。例えば一態様において、単離されたT細胞受容体は、配列番号:27または配列番号:30のそれぞれのポリヌクレオチド配列にコードされ得る配列番号:14または配列番号:29のアミノ酸配列を含み得る。
【0049】
さらに、前述の局面のある態様において、T細胞受容体は、HLA-A2拘束様式で、エピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)と免疫反応性である。例えばエピトープSLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)に対する免疫反応性は、(i)HLA-A*0201または(ii)HLA-A*0202拘束性であり得る。T細胞受容体は潜在的に、他のHLA-A2サブタイプおよび他のHLAクラスI分子により拘束され得る。
【0050】
本明細書に提供されるアミノ酸配列のそれぞれについて、該配列は任意に、所定の位置に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20個のアミノ酸置換を含むことが企図される。例えば、配列番号:2、3、4、8、9、10、83、85、87、88、95または99に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20個のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列が本明細書において企図される。
【0051】
開示されるT細胞受容体の機能性バリアントが本発明の範囲内に含まれることが企図される。本明細書で使用する場合、用語「機能性バリアント」は、上述される本発明のT細胞受容体α-および/またはβ鎖に対して実質的または有意な配列同一性または類似性を有するT細胞受容体α-および/またはβ鎖を意味すると理解され、該機能性バリアントは、エピトープ(例えばアミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープ)に対して、本明細書に記載されるT細胞受容体の同様の程度(例えば50%、60%、70%、80%、90%または95%より高い)まで特異的に結合する能力(例えばアビディティ、親和性、結合定数および/または解離定数)を保持する。かかる機能性バリアントとしては、部分的配列同一性を有するポリペプチド、1つ以上の特異的な保存的および/または非保存的アミノ酸置換を有するペプチドが挙げられる。
【0052】
本発明の機能性バリアントは、例えば上述のT細胞受容体およびその断片のアミノ酸配列を含み得るが、少なくとも1つの保存的アミノ酸置換を有する。保存的アミノ酸置換は、当該技術分野で公知であり、特定の物理的および/または化学的特性を有する1つのアミノ酸が、同じ化学的または物理的特性を有する別のアミノ酸に交換されるアミノ酸置換を含む。代替的にまたは付加的に、機能性バリアントは、少なくとも1つの非保存的アミノ酸置換を有する本発明のT細胞受容体のアミノ酸配列を含み得、該非保存的アミノ酸置換は、機能性バリアントの生物学的活性と干渉しないかまたはそれを阻害しない。
【0053】
機能性バリアントは、実施例に記載されるアプローチを含むいくつかの異なる方法でアッセイされ得る。例えば、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aを発現する標的細胞は、バリアントT細胞受容体を発現する遺伝的に作り変えられたT細胞と接触され得る。次いで放出アッセイを行って、遺伝子工学で作り変えられたT細胞によるNY-ESO-1および/またはLAGE-1aの認識およびそれらのその後の活性化を示す、培養培地中のIFN-γまたはGM-CSFの存在を検出し得る。
【0054】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:3または配列番号:83のα鎖可変領域に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するα鎖可変領域を含む。任意にまたはさらに、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:9または配列番号:85のβ鎖可変領域に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するβ鎖可変領域を含む。
【0055】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:2または配列番号:87のα鎖可変領域に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するα鎖可変領域を含む。任意にまたはさらに、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95または配列番号:99のβ鎖可変領域に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するβ鎖可変領域を含む。
【0056】
配列同一性は、当業者の技術の範囲内にある種々の方法で、例えば公的に利用可能なコンピューターソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign (DNASTAR)ソフトウェアを使用して決定され得る。プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxにより使用されるアルゴリズムを使用したBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)分析(Karlin et al., (1990) PROC. NATL. ACAD. SCI. USA 87:2264-2268; Altschul, (1993) J. MOL. EVOL. 36, 290-300; Altschul et al., (1997) NUCLEIC ACIDS RES. 25:3389-3402、本明細書において参照により援用される)は、配列類似性の検索のために調整される。配列データベースの検索における基本的な問題の議論については、本明細書において参照により十分に援用されるAltschul et al., (1994) NATURE GENETICS 6:119-129参照。当業者は、比較される配列の全長にわたり最大の整列(alignment)を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、整列を測定するための適切なパラメーターを決定し得る。ヒストグラム、ディスクリプション、アラインメント、エクスペクト(すなわちデータベース配列に対する適合を報告するための統計的有意さ閾値)、カットオフ、マトリックスおよびフィルターについての検索パラメーターは、デフォルト設定にある。blastp、blastx、tblastnおよびtblastxにより使用されるデフォルトスコアリングマトリックスは、BLOSUM62マトリックスである(Henikoff et al., (1992) PROC. NATL. ACAD. SCI. USA 89:10915-10919、本明細書において参照により十分に援用される)。4つのblastnパラメーターは以下の通りに調整され得る:Q=10(ギャップ生成ペナルティー);R=10(ギャップ伸長ペナルティー(gap extension penalty));wink=1(クエリに沿ってwink.sup.thの位置毎にワードヒットを生じる);およびgapw=16(ギャップのあるアラインメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。同等のblastpパラメーター設定は、Q=9;R=2;wink=1;およびgapw=32であり得る。検索はまた、NCBI (National Center for Biotechnology Information) BLAST Advanced Optionパラメーターを使用して実施され得る(例えば:-G、オープンギャップについてのコスト[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについて5/タンパク質について11;-E、伸長ギャップについてのコスト[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについて2/タンパク質について1;-q、ヌクレオチドミスマッチについてのペナルティー[整数]:デフォルト=-3;-r、ヌクレオチド適合についての報酬(reward)[整数]:デフォルト=1;-e、予測値[実数]:デフォルト=10;-W、ワードサイズ[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについて11/megablastについて28/タンパク質について3;-y、ビットでのblast伸長についてのドロップオフ(X):デフォルト=blastnについて20/その他について7;-X、ギャップのあるアラインメントについてのXドロップオフ値(ビット(in bit)):デフォルト=全てのプログラムについて15であるがblastnには適用可能ではない;および-Z、ギャップのあるアラインメントについての最終Xドロップオフ値(ビット):blastnについて50、その他について25)。ペアワイズタンパク質アラインメントについてのClustalWも使用され得る(デフォルトパラメータは、例えばBlosum62マトリックスおよびギャップオープンペナルティー(Gap Opening Penalty)=10およびギャップ伸長ペナルティー=0.1を含み得る)。GCGパッケージバージョン10.0において利用可能な配列間の最適合比較はDNAパラメーターGAP=50(ギャップ生成ペナルティー)およびLEN=3(ギャップ伸長ペナルティー)を使用する。最適合タンパク質比較における同等の設定はGAP=8およびLEN=2である。
【0057】
本発明はさらに、本発明のT細胞受容体の1つ以上の機能性断片を含むタンパク質またはポリペプチドを含む。かかるタンパク質またはポリペプチドに関して、機能性断片がNY-ESO-1および/またはLAGE-1aに特異的に結合すると仮定すると、機能性断片は、α-およびβ鎖を含むT細胞受容体またはその一部であるその機能性バリアントのアミノ酸を含む任意の断片であり得る。用語「機能性断片」は、T細胞受容体またはその機能性バリアントに関して使用される場合、本発明のT細胞受容体の1つ以上の生物学的活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%を保持するT細胞受容体またはその機能性バリアントの任意の一部または断片をいう。機能性断片は、例えば本発明のT細胞受容体またはその機能性バリアントと同様の程度、同じ程度またはより高い程度まで、NY-ESO-1および/またはLAGE-1に特異的に結合するかまたは癌を検出、治療もしくは予防する能力を保持するT細胞受容体またはその機能性バリアントのこれらの一部を包含する。
【0058】
機能性断片は、該断片のアミノおよび/またはカルボキシ末端でさらなるアミノ酸を含み得、該さらなるアミノ酸は、機能性断片の生物学的機能、例えばNY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原への結合に干渉しない。好ましい態様において、さらなるアミノ酸は、T細胞受容体の精製を補助するためまたはT細胞受容体の生物学的活性を高めるためのペプチドタグを提供するように、機能性断片に付加され得る。
【0059】
II. 遺伝子工学で作り変えられたT細胞受容体
本発明はまた、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原に結合する能力を保持する遺伝子工学で作り変えられるかまたは改変されるT細胞受容体を提供する。かかるT細胞受容体は、例えば1つ以上の点変異、挿入および/または欠失を含む。他の遺伝子工学で作り変えられたT細胞受容体としては、例えば一本鎖融合タンパク質、二重特異性タンパク質、キメラT細胞受容体および検出可能な標識またはエフェクター治療剤と結合されたT細胞受容体が挙げられる。
【0060】
本発明の一態様において、本発明は、配列番号:2または配列番号:87のα鎖および配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95または配列番号:99のβ鎖ならびに該α-およびβ鎖の断片および機能性バリアントを連結させるリンカーペプチドを含む一本鎖融合タンパク質の形態の本発明の改変されたT細胞受容体を提供する。
【0061】
T細胞受容体α鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:3もしくは配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含み得る。T細胞受容体β鎖は、以下のアミノ酸配列:(i)配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(ii)配列番号:9もしくは配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%より高い同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列;(iv)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列;および(v)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列の1つ以上を含み得る。
【0062】
さらに、一本鎖T細胞受容体は、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα-およびβ鎖を含み得、該α鎖CDR3は配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:13のアミノ酸配列を含む。T細胞受容体はさらに、配列番号:5のα鎖CDR1および配列番号:11のβ鎖CDR1および/または配列番号:6のα鎖CDR2および配列番号:12のβ鎖CDR2を含み得る。
【0063】
別の態様において、一本鎖T細胞受容体は、配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖可変領域および配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸アミノ酸配列を含むβ鎖可変領域を含む。
【0064】
α鎖が、配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含み、β鎖が、配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%、98%、99%より高い同一性を有するアミノ酸配列を含む、一本鎖T細胞受容体も提供される。特定の態様において、本発明は、配列番号:14のアミノ酸配列を有する一本鎖T細胞受容体を提供する。特定の態様において、本発明は、配列番号:29のアミノ酸配列を有する一本鎖T細胞受容体を提供する。特定の態様において、本発明は、配列番号:89のアミノ酸配列を有する一本鎖T細胞受容体を提供する。特定の態様において、本発明は、配列番号:91のアミノ酸配列を有する一本鎖T細胞受容体を提供する。特定の態様において、本発明は、配列番号:93のアミノ酸配列を有する一本鎖T細胞受容体を提供する。
【0065】
本明細書において提供されるアミノ酸配列のそれぞれについて、配列は任意に、所定の位置に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20個のアミノ酸置換(変異)を含むことが企図される。例えば、配列番号:2、3、4、8、9、10、83、85、87、88、95または99に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20個のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列が本明細書において企図される。変異は、限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、制限酵素系クローニングまたはライゲーション非依存性クローニング(LIC)の手法に基づくものなどの任意の適切な方法を使用して実行され得る。これらの方法は、標準的な分子生物学のテキストの多くに詳述される。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)突然変異誘発および制限酵素系クローニングに関するさらなる詳細について、Sambrook & Russell, (2001) Molecular Cloning-A Laboratory Manual (3rd Ed.) CSHL Press参照。LICの手法に関するさらなる情報について、Rashtchian (1995) CURR. OPIN. BIOTECHNOL. 6 (1): 30-6参照。
【0066】
本明細書に記載されるT細胞受容体の突然変異誘発は、例えばT細胞受容体の親和性、特異性、膜標的化、半減期および発現レベルを増加するように実行され得、これは臨床適用において有益であり得る(Abate-Daga et al. (2014) PLOS ONE 9:e93321;Udyavar et al. (2009) J. IMMUNOL. 182:4439-4447;Kuball et al. (2009) J. EXP. MED. 206:463-475)。T細胞受容体の変異は、アミノ酸付加、欠失および/または挿入を含み得る。該変異は、定常領域、枠組み領域または可変領域、例えばα-および/またはβ鎖のCDR可変領域などの1つ以上の領域で濃縮され得るか、またはそれらは分子中に拡散され得る。バリアントは、組み換え的または合成的に作製され得る。
【0067】
本発明は、本発明のヒトT細胞受容体の1つ以上の領域がヒト以外の種、例えばブタまたはげっ歯類(例えばラットまたはマウス)由来の対応するT細胞受容体領域で置き換えられるT細胞キメラタンパク質を提供する。一態様において、α-および/またはβ鎖のヒト定常領域は、公知のマウスT細胞受容体定常領域で置き換えられる。マウスTCR定常領域の間でのペア形成は、ヒト被験体において内因性T細胞受容体を形質導入されたT細胞受容体のミスペア形成を低減し得る。
【0068】
例示的なヒトα鎖定常領域は配列番号:4および55に示される。したがって、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:4もしくは配列番号:55または配列番号:4もしくは配列番号:55に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例示的なマウスα鎖定常領域は配列番号:49に示される。したがって、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:49または配列番号:49に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例示的なヒトβ鎖定常領域は配列番号:10および58に示される。したがって、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:10もしくは配列番号:58または配列番号:10もしくは配列番号:58に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例示的なマウスβ鎖定常領域は配列番号:51に示される。したがって、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、配列番号:51または配列番号:51に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0069】
例えば、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:37もしくは配列番号:84のアミノ酸配列または配列番号:37もしくは配列番号:84に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:39もしくは配列番号:86のアミノ酸配列または配列番号:39もしくは配列番号:86に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0070】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:71のアミノ酸配列または配列番号:71に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:73のアミノ酸配列または配列番号:73に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0071】
本発明のT細胞受容体は典型的に、トランスフェクトされたT細胞内で発現される場合にグリコシル化される。本発明の一局面において、グリコシル化パターン、例えばトランスフェクトされたT細胞受容体のNグリコシル化パターンは、突然変異誘発により改変され得、T細胞受容体のNグリコシル化部位、例えば定常領域グリコシル化部位の1つ以上は除去される。かかる変異としては、例えばα-および/またはβ鎖の定常領域中の重要なグリコシル化部位NXS/TのQXS/Tへの変化が挙げられる。T細胞受容体は、α-もしくはβ鎖の1つまたは両方の鎖においてNXS/TのQXS/Tへの変異を有し得た。代替的に、キメラタンパク質、例えば本明細書に記載される特定のヒト/マウスキメラタンパク質において、マウス定常領域中の重要なグリコシル化部位NQTはQQTに改変され得る。本発明の別の局面において、システイン残基は、例えば得られる再度折り畳まれた可溶性T細胞受容体を安定化し得る鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にする受容体タンパク質に遺伝子工学で作り変えられ得る。さらに、T細胞受容体CDR3領域中のアラニン残基は、受容体の結合特性を調節するように、代替的なアミノ酸残基で置換され得る。突然変異誘発は、種々の変異を有するプライマーのパネルを用いて実行され得、その後上述のように機能的アッセイが実行される。一旦所望の表現型により変異が同定されると、構築物は配列決定されて、変異の位置が同定され得る。
【0072】
例えばある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:75のアミノ酸配列または配列番号:75に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:77もしくは配列番号:97のアミノ酸配列または配列番号:77もしくは配列番号:97に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0073】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:79のアミノ酸配列または配列番号:79に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:81のアミノ酸配列または配列番号:81に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0074】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:31もしくは配列番号:33のアミノ酸配列または配列番号:31もしくは配列番号:33に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:35のアミノ酸配列または配列番号:35に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0075】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:41のアミノ酸配列または配列番号:41に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むα鎖、および/または(ii)配列番号:73のアミノ酸配列または配列番号:73に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むβ鎖を含む。
【0076】
ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、図5または図7に示される1つ以上の変異(例えばNXS/TのQXS/Tへの変異)を含む。例えば、ある態様において、NY-ESO-1および/またはLAGE-1aに結合するT細胞受容体は、(i)配列番号:75の41、82、162、196および/または243位に対応する位置、(ii)配列番号:77の37および/または200位に対応する位置、(iii)配列番号:97の37および/または201位に対応する位置、(iv)配列番号:79の41、82、196および/または210位に対応する位置、および/または(v)配列番号:81の37、136、198および/または247位に対応する位置でアスパラギンのグルタミンへの置換を含む。
【0077】
また、本発明は、T細胞受容体の可溶性バージョンを提供する。かかる可溶性受容体は、TCRα鎖および/またはβ鎖の細胞内または膜貫通ドメインの任意の部分の除去により遺伝子工学で作り変えられ得る。例えば、可溶性T細胞受容体の合成を記載する米国特許第8,519,100号参照。可溶性T細胞受容体は、2つの個々の可溶性タンパク質としてまたは当該技術分野で公知の方法により連結される1つの一本鎖分子として、TCRの細胞外部分を含み得る(Walseng et al. PLOS ONE (2015) 10:1371)。
【0078】
本明細書におけるT細胞受容体およびT細胞受容体構築物の結合特性は、当該技術分野で公知のアプローチを使用して決定され得る。例えば、結合親和性(平衡定数KDに反比例)および結合半減期(T1/2として表される)は、任意の適切な方法により決定され得る。T細胞受容体の親和性の倍化はKDの半減を生じることが企図される。T1/2は、解離速度(off-rate)(koff)で割ったln 2として計算される。結果的に、T1/2の倍化は、koffおよびKD値の半減を生じる。T細胞受容体についてのKoff値はしばしば、受容体の可溶性形態、すなわち疎水性膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを除去するように切断された形態について測定される。所定のT細胞受容体は、膜貫通および細胞内ドメインを欠く該T細胞受容体アナログの可溶性形態が要件を満たす場合に、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体についての結合親和性および/または結合半減期を有する要件を満たすことが理解される。好ましくは、所定のT細胞受容体またはT細胞受容体構築物の結合親和性または結合半減期は、同じアッセイプロトコルを使用して数回、例えば3回以上測定され、結果の平均が採られる。ある態様において、これらの測定は、表面プラスモン共鳴(BIAcore)を使用してなされる。
【0079】
例えば、本発明のT細胞受容体は、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体について、8μM以下、5μM以下、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、175nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下、10nM以下、1nM以下または0.1nM以下のKDを有し得る。
【0080】
ある態様において、本発明のT細胞受容体は、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体について、約5μM~約0.1nM、約5μM~約1nM、約5μM~約10nM、約5μM~約100nM、約5μM~約500nM、約5μM~約1μMまたはそれ以下、約1μM~約0.1nM、約1μM~約1nM、約1μM~約10nM、約1μM~約100nM、約1μM~約500nM、約500nM~約0.1nM、約500nM~約1nM、約500nM~約10nM、約500nM~約100nM、約100nM~約0.1nM、約100nM~約1nM、約100nM~約10nM、約10nM~約0.1nM、約10nM~約1nMまたは約1nM~約0.1nMのKDを有し得る。
【0081】
ある態様において、本発明のT細胞受容体は、膜貫通および細胞内ドメインを欠くT細胞受容体の可溶性形態として発現される場合、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体について、8μM以下、5μM以下、1μM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、175nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下、10nM以下、1nM以下または0.1nM以下のKDを有し得る。
【0082】
ある態様において、本発明のT細胞受容体は、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体について、SLLMWITQC(配列番号:1)-HLA-A2および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)-HLA-A2複合体についての参照T細胞受容体(例えば本明細書の実施例7に記載される1G4LY TCRまたは1G4 TCR)のKDより低いKDを有し得る。例えば、本発明のT細胞受容体は、参照T細胞受容体のKDよりも少なくとも1μM、500nM、400nM、300nM、200nM、175nM、150nM、125nM、100nM、75nM、50nM、25nM、10nM、1nMまたは0.1nM低いKDを有し得る。KDは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば本明細書の実施例7に記載される表面プラスモン共鳴により測定され得る。
【0083】
本発明のT細胞受容体は、複合体について、≧1.5s、≧3s、≧10s、≧20s、≧40s、≧60s、≧600sまたは≧6000sの結合半減期(Tl/2)を有し得る。konは、≧103M-1S-1、≧104M-1S-1、≧105M-1S-1、≧106M-1S-1または≧107M-1S-1であり得、および/またはkoffは、≦10-1S-1、≦10-2S-1、≦10-3S-1、≦10-4S-1、≦10-5S-1または≦10-6S-1であり得る。
【0084】
本発明はさらに、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原以外の第2の抗原に結合するさらなる結合部分(例えば抗体または異なるT細胞受容体または前述のいずれかの抗原結合断片)と合わせた、一本鎖T細胞受容体などの上述の本発明のT細胞受容体を含む二重特異性T細胞受容体タンパク質を提供する(Garber (1994) NAT. REV. DRUG DISCOV. 13:799-801)。例えば、二重特異性受容体タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片などの免疫調節ポリペプチドに融合された本発明のT細胞受容体を含む融合タンパク質であり得る。
【0085】
一態様において、二重特異性T細胞タンパク質は、CD3抗原に結合する抗体またはその抗原結合断片と結合された、一本鎖T細胞受容体またはその断片などの本発明のT細胞受容体を含む。態様において、二重特異性抗体は、T細胞受容体ポリペプチドを抗CD3結合部分に連結するリンカー配列(例えば5、10、15、20、25、30、35、40、45または50アミノ酸長のアミノ酸リンカー配列)を含む融合タンパク質であり得る。一態様において、抗CD3結合部分、例えば一本鎖可変領域(sFv)は、アミノ酸リンカーを介してT細胞受容体β鎖のN末端に融合される。特定の状況下、融合構築物を作製する場合に、α鎖および/またはβ鎖の定常領域から膜貫通ドメインおよび/または細胞内ドメインを除去することが望ましくあり得る。例えば、本発明はまた、二重特異性T細胞受容体タンパク質などのT細胞受容体の可溶性バージョンを提供する。かかる可溶性受容体は、TCRα鎖および/またはβ鎖の細胞内または膜貫通ドメインの任意の部分の除去により遺伝子工学で作り変えられ得る。抗CD3ポリペプチドを含む二重特異性T細胞タンパク質およびかかるタンパク質を作製する方法は、米国特許第8,519,100号に記載され、その開示は参照により本明細書に援用される。米国特許第8,519,100号には、融合構築物を設計するため、発現構築物を作製するため、発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクトするため、融合構築物を発現するため、融合構築物を回収、精製および再度折り畳むための方法が記載される。遺伝子工学で作り変えられたT細胞(以下に詳細に記載される)内のかかる二重特異性融合T細胞受容体の発現は、被験体の標的化された癌細胞または腫瘍細胞に対するT細胞の反応性および細胞殺傷性を高めるように設計される。二重特異性T細胞受容体および可溶性T細胞受容体の両方は、自己および/または同種異系細胞形質導入の必要なくTCRまたはTCRのペプチド/MHC複合体結合モチーフが利用されるようにする。
【0086】
本発明の別の態様において、本発明のT細胞受容体が第2のポリペプチドとの融合体として発現されるキメラT細胞受容体が提供される。かかる第2のポリペプチドとしては、例えばリシン、ジフテリア毒素、細菌性外毒素A、DNaseおよびRNaseなどの細胞殺傷性剤が挙げられる。かかるキメラT細胞受容体は、かかる細胞殺傷性剤を、被験体の癌または腫瘍細胞に標的化することに有用であり得る。
【0087】
検出可能な標識を含むように改変される本発明のT細胞受容体ならびにその断片および機能性バリアントも本発明に含まれる。例えば、本発明の可溶性T細胞受容体は、放射性同位体、フルオロフォア(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)または粒子(例えば金粒子)などの検出可能部分と結合(共有または非共有的に結合)され得る。かかる分子は、被験体内の癌細胞の存在を検出するための診断スクローニングに使用され得る。
【0088】
代替的に、エフェクター治療剤は、本発明のT細胞受容体ならびにその断片および機能性バリアントと結合され得る。かかる剤としては、例えば抗CD3または抗CD16抗体断片などの免疫調節抗体断片、毒素、放射性同位体、IL-2、IFN-γ、CCL21もしくはGM-CSFなどの免疫刺激剤、化学療法剤または薬物が挙げられる。かかるT細胞受容体は、エフェクター分子の、被験体の癌細胞への送達を標的化するために使用され得る。
【0089】
III. T細胞受容体およびその遺伝子工学で作り変えられたバリアントをコードする核酸
本発明はさらに、本発明のT細胞受容体(天然に存在しないT細胞受容体など)ならびにその断片および機能性バリアントをコードする核酸を提供する。
【0090】
本発明は、本発明のT細胞受容体、T細胞受容体のバリアントおよび断片、一本鎖T細胞受容体などの融合タンパク質、ならびに二重特異性受容体タンパク質をコードする核酸を含む。核酸としては、限定されないが全長α-およびβ鎖、α-およびβ鎖可変領域ならびに配列番号:5~7(α鎖)および配列番号:11~13(β鎖)のCDR1-3領域の1つ以上を含むα-およびβ鎖領域をコードするこれらの配列が挙げられる。さらなる局面において、本発明は、開示される核酸配列の1つ以上を含む発現ベクター、例えばウイルス性発現ベクターを提供する。ある態様において、ウイルス性ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0091】
一局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体のα鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。一局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体のα鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。該核酸は、以下のヌクレオチド配列:(i)配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列または配列番号:2もしくは配列番号:87のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(ii)配列番号:3もしくは配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:3もしくは配列番号:83のアミノ酸配列に対して96%、97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iii)配列番号:15または配列番号:100のヌクレオチド配列;(iv)配列番号:7のα鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iv)配列番号:5のα鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および(vi)配列番号:6のα鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の1つ以上を含む。
【0092】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体β鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。一局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体のβ鎖をコードする単離された組み換え核酸を提供する。該核酸は、以下のヌクレオチド配列:(i)配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列または配列番号:8、配列番号:88、配列番号:95もしくは配列番号:99のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(ii)配列番号:9もしくは配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号:9もしくは配列番号:85のアミノ酸配列に対して97%、98%もしくは99%より高い同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(iii)配列番号:21、配列番号:96もしくは配列番号:102のヌクレオチド配列;(iv)配列番号:13のβ鎖CDR3アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(v)配列番号:11のβ鎖CDR1アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;および(vi)配列番号:12のβ鎖CDR2アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の1つ以上を含む。
【0093】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体をコードする単離された組み換え核酸を提供する。一局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体をコードする単離された組み換え核酸を提供する。T細胞受容体は、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3を含むα鎖およびβ鎖を含み、α鎖CDR3は配列番号:7のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR3は配列番号:13のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、α鎖CDR1は配列番号:5のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR1は配列番号:11のアミノ酸配列を含む。任意にまたはさらに、α鎖CDR2は配列番号:6のアミノ酸配列を含み、β鎖CDR2は配列番号:12のアミノ酸配列を含む。
【0094】
本明細書に記載される核酸のそれぞれについて、該核酸は、T細胞受容体中の所定の位置に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個のアミノ酸残基を有するアミノ酸配列をコードし得ることが企図される。例えば、配列番号:2、3、4、8、9、10、83、85、87、88、95または99に存在しない少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20個のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列をコードするおよび/または所定の細胞型または被験体内のT細胞受容体のα鎖および/またはβ鎖の発現を高めるためのコドン最適化を含む核酸が本明細書において企図される。
【0095】
前述の局面のそれぞれについて、核酸は、一本鎖T細胞受容体をコードし得、任意にα鎖は、アミノ酸リンカーを介してβ鎖に連結される。本発明の態様において、核酸は、一本鎖T細胞受容体または二重特異性T細胞受容体融合タンパク質をコードし得る。特定の態様において、核酸は、免疫調節抗体である抗体をコードする。
【0096】
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列SLLMWITQC(配列番号:1)および/またはSLLMWITQCFL(配列番号:28)を含むNY-ESO-1および/またはLAGE-1aタンパク質のエピトープと免疫反応性であるT細胞受容体ならびにCD34タンパク質またはCD34タンパク質の切断形態を含む融合タンパク質をコードする単離された組み換え核酸を提供する。ある態様において、切断されたCD34タンパク質は、細胞内シグナル伝達ドメインを欠く。例えば一態様において、本発明は、配列番号:29のアミノ酸配列をコードするかまたは配列番号:30のヌクレオチド配列を含む単離された組み換え核酸を提供する。
【0097】
核酸は組み換え核酸であり得る。該核酸は、当該技術分野で公知の手法を使用して、合成装置での化学合成によりおよび/または酵素ライゲーション反応により作製され得る。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3.sup.rd ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. 2001;およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, NY, 1994)参照。本発明のT細胞受容体をコードする核酸は、当業者に公知の種々の異なる方法を使用して単離され得る。例えば、T細胞受容体を発現することが知られる細胞または組織、すなわちT細胞由来のRNAを使用して構築されたcDNAライブラリーは、標識されたT細胞受容体核酸プローブを使用してスクリーニングされ得る。代替的に、ゲノムライブラリーは、T細胞受容体をコードする核酸分子を誘導するようにスクリーニングされ得る。さらに、T細胞受容体核酸配列は、本明細書に開示されるT細胞受容体ヌクレオチド配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用してPCRを実行することにより誘導され得る。該反応についての鋳型は、T細胞受容体を発現することが知られる細胞株または組織から調製されたmRNAの逆転写により得られるcDNAであり得る。
【0098】
核酸は、本明細書に記載される本発明のT細胞受容体ならびにその断片および機能性バリアントのいずれかをコードする任意のヌクレオチド配列を含み得る。本発明はまた、本明細書に記載される核酸のいずれかのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列またはストリンジェントな条件下で、本明細書に記載される核酸のいずれかのヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0099】
本発明の核酸としては、(i)ストリンジェントな条件、例えば0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中65℃でのフィルター結合DNAに対するハイブリダイゼーションおよび0.1X SSC/0.1% SDS中68℃での洗浄(Ausubel F. M. et al., eds., 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. I Green Publishing Associates, Inc., and John Wiley & sons, Inc., New York, at p. 2.10.3)下で、本明細書に記載される本発明のT細胞受容体をコードするヌクレオチド配列にハイブリダイズする;または(ii)中程度にストリンジェントな条件、例えば0.2X SSC/0.1% SDS中42℃での洗浄(Ausubel et al., 1989上述)などのよりストリンジェントでない条件下でハイブリダイズするこれらの核酸が挙げられる。
【0100】
本発明はまた、本明細書に記載される核酸のいずれかに少なくとも約70%以上、例えば約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。配列同一性は、上述のように決定され得る。
【0101】
ある態様において、本発明の核酸は、上述のこれらの核酸を含み、該核酸のコドン使用頻度は、特定の細胞型または被験体におけるT細胞受容体のα鎖および/またはβ鎖の発現を高めるように最適化されている。核酸配列は、コードされるアミノ酸配列を変化することなく、宿主細胞中での安定性または異種発現を向上するようにコドン最適化され得る。例えば、コドン最適化は、遺伝子発現、転写産物安定性、タンパク質発現またはタンパク質安定性、例えば転写スプライシング部位、DNA不安定性モチーフ、ポリアデニル化部位、二次構造、AU-リッチRNA因子、二次オープンリーディングフレーム(ORF)、コドンタンデムリピートまたはロングレンジリピートに負に影響する配列を除去するように使用され得る。コドン最適化はまた、目的の配列のG/C含有量を調整するために使用され得る。コドン最適化は、DNA配列中に存在するコドンを、同じアミノ酸をコードする好ましいコドン、例えば哺乳動物発現に好ましいコドンで置き換える。したがって、アミノ酸配列は該プロセスの間に改変されない。コドン最適化は、遺伝子最適化ソフトウェアを使用して実行され得る。コドン最適化されたヌクレオチド配列は、翻訳され、元のタンパク質配列と整列され、アミノ酸配列に変化が生じなかったことを確実にする。コドン最適化の方法は当該技術分野で公知であり、例えば米国出願公開2008/0194511および米国特許第6,114,148号に記載される。
【0102】
本発明はまた、本明細書に記載される核酸のいずれかを含む組み換え発現ベクターを包含する。したがって、本発明は、本明細書に記載されるT細胞受容体をコードする核酸を含む組み換え発現ベクターを包含する。該ベクターは、本明細書に記載されるT細胞受容体、T細胞受容体のバリアントおよび断片、一本鎖T細胞受容体などの融合タンパク質ならびに二重特異性受容体タンパク質をコードする核酸を含み得る。核酸としては、限定されないが全長α-およびβ鎖、α-およびβ鎖可変領域ならびに配列番号:5~7(α鎖)および配列番号:11~13(β鎖)のCDR1~3領域の1つ以上を含むα-およびβ鎖領域をコードするこれらの配列が挙げられる。
【0103】
本明細書における目的で、用語「組み換え発現ベクター」は、構築物が、mRNA、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、ベクターが、mRNA、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを細胞内で発現させるのに十分な条件下で細胞と接触される場合に、宿主細胞によるmRNA、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現を可能にする遺伝的に改変されたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド構築物を意味する。組み換え発現ベクターは、限定されないが、一本鎖または二本鎖であり得、合成され得るかまたは部分的に天然の供給源から得られ得、天然、非天然または改変されたヌクレオチドを含み得るDNAおよびRNAを含む任意の型のヌクレオチドを含み得る。
【0104】
種々の組み換え発現ベクターは、本明細書に記載されるT細胞受容体およびT細胞受容体構築物を発現させるために使用され得、任意の適切な宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするために使用され得ることが企図される。適切なベクターとしては、プラスミドおよびウイルスなど、増殖および拡大のためまたは発現のためまたはその両方のために設計されるものが挙げられる。ベクターは、pUCシリーズ(Fermentas Life Sciences)、pBluescriptシリーズ(Stratagene, LaJolla, Calif.)、pETシリーズ(Novagen, Madison, Wis.)、pGEXシリーズ(Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)およびpEXシリーズ(Clontech, Palo Alto, Calif.)からなる群より選択され得る。λGT10、λGT11、λZapII (Stratagene)、λEMBL4およびλNM1149などのバクテリオファージベクターも使用され得る。植物発現ベクターの例としては、pBI01、pBI101.2、pBI101.3、pBI121およびpBIN19 (Clontech)が挙げられる。動物発現ベクターの例としては、pEUK-C1、pMAMおよびpMAMneo (Clontech)が挙げられる。好ましくは、組み換え発現ベクターは、ウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。
【0105】
本発明の組み換え発現ベクターは、標準的な組み換えDNA技術を使用して調製され得る。(Ausubel et al. (1989)上述;Sambrook et al. (2001)上述)。環状または線形である発現ベクターの構築物は、原核または真核宿主細胞において機能的な複製システムを含むように調製され得る。複製システムは、例えばColE1、2μプラスミド、λ、SV40、ウシパピローマウイルス等に由来し得る。
【0106】
一態様において、組み換え発現ベクターは、適切なようにかつベクターがDNA-またはRNA系のいずれであるかを考慮して、ベクターが導入される宿主細胞の型(例えば細菌、真菌、植物または動物)に特異的な制御配列、例えば転写および翻訳の開始および終止コドンを含む。
【0107】
組み換え発現ベクターは、形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする1つ以上のマーカー遺伝子を含み得る。マーカー遺伝子としては、殺生物剤耐性、例えば抗生物質、重金属等に対する耐性、原栄養性を提供するための栄養素要求株宿主細胞における相補などが挙げられる。本発明の発現ベクターに適切なマーカー遺伝子としては、例えばネオマイシン/G418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ヒスチジノール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子およびアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0108】
組み換え発現ベクターは、T細胞受容体、ポリペプチドもしくはタンパク質(その機能性バリアントを含む)をコードするヌクレオチド配列またはT細胞受容体、ポリペプチドもしくはタンパク質(その機能性バリアントを含む)をコードするヌクレオチド配列に相補的であるかまたはそれにハイブリダイズするヌクレオチド配列に操作可能に連結される天然または非天然のプロモーターを含み得る。適切、例えば強、弱、誘導性、組織特異的および発生特異的なプロモーターの選択は、当業者の通常の技術の範囲内にあることが企図される。同様に、ヌクレオチド配列とプロモーターの組み合わせも当業者の技術の範囲内にあることが企図される。プロモーターは、非ウイルス性プロモーター、またはウイルス性プロモーター、例えばマウス幹細胞ウイルス(MSCV)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーターおよびマウス幹細胞ウイルスの長末端リピート内に見られるプロモーターであり得る。
【0109】
組み換え発現ベクターは、一過的発現、安定発現または両方のために設計され得る。また、組み換え発現ベクターは、構成的発現または誘導性発現のために作製され得る。さらに、組み換え発現ベクターは、自殺遺伝子を含むように作製され得る。
【0110】
一態様において、ウイルス系ベクターシステムは、T細胞受容体および/または遺伝子工学で作り変えられたT細胞受容体構築物を発現するために使用され得る。かかるウイルスベクター系システムとしては、限定されないが、遺伝子転移のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴、ワクシニアおよび単純ヘルペスウイルスのベクターが挙げられる。宿主ゲノム内の組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子転移法を用いて可能であり、しばしば挿入されたトランスジーンの長期間の発現をもたらす。
【0111】
IV. 遺伝的に作り変えられた宿主細胞
また、本発明は、本明細書において上記される組み換え核酸および/または発現ベクターのいずれかを含む遺伝的に作り変えられた宿主細胞を提供する。宿主細胞は、真核細胞、例えば動物(例えばヒト)、真菌もしくは藻類であり得るかまたは原核細胞、例えば細菌もしくは原生動物であり得る。宿主細胞は、培養された細胞または始原細胞、すなわち生物、例えばヒトから直接単離されたものであり得る。宿主細胞は、付着細胞または懸濁された細胞、すなわち懸濁液中で増殖する細胞であり得る。適切な宿主細胞は当該技術分野で公知であり、例えばDH5α大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サルVERO細胞、COS細胞、HEK293細胞、造血または前駆幹細胞等の前駆細胞が挙げられる。組み換え発現ベクターを増幅または複製する目的で、宿主細胞は原核細胞、例えばDH5α細胞であり得る。
【0112】
組み換えT細胞受容体、ポリペプチドまたはタンパク質を作製する目的で、宿主細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、例えばヒト細胞である。宿主細胞は任意の細胞型であり得、任意の型の組織から生じ得、任意の発生段階のものであり得るが、宿主細胞は、末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)またはナチュラルキラー(NK)細胞であり得る。より好ましくは、宿主細胞はT細胞である。T細胞は、培養T細胞などの任意のT細胞、例えば始原T細胞または培養T細胞株由来のT細胞、例えばJurkat、SupTi等または哺乳動物から得られたT細胞であり得る。哺乳動物から得られる場合、T細胞は、限定されないが、血液、骨髄、リンパ節、胸腺または他の組織もしくは流体などの多くの供給源から得られ得る。T細胞はまた、富化または精製され得る。好ましくは、T細胞は、自己または異種細胞であり得るヒトT細胞である。T細胞は、任意の型のT細胞であり得、限定されないがCD4+/CD8+二重陽性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、例えばTh1およびTh2細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞(例えば細胞殺傷性T細胞)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、記憶T細胞(例えば中心記憶T細胞およびエフェクター記憶T細胞)、ナイーブT細胞等を含む任意の発生段階のものであり得る。T細胞はまた、そうでなければ同種異系宿主に移入される場合に免疫拒絶を引き起こす分子をノックダウンまたは欠失するように予め遺伝子工学で作り変えられ得る。
【0113】
該細胞は、治療される被験体由来の自己細胞または代替的にドナー由来の同種異系細胞を含み得る。
【0114】
細胞の集団は、少なくとも1つの他の細胞、例えば組み換え発現ベクターのいずれも含まない宿主細胞(例えばT細胞)またはT細胞以外の細胞、例えばB細胞、マクロファージ、好中球、赤血球、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脳細胞等に加えて、本明細書に記載される組み換え発現ベクターのいずれかを含む宿主細胞を含む不均質な集団であり得る。代替的に、細胞の集団は、集団が、主に組み換え発現ベクターを含む宿主細胞で構成される(例えば本質的にそれからなる)実質的に均質な集団であり得る。該集団はまた、細胞のクローン性集団であり得、該集団の全ての細胞は、組み換え発現ベクターを含む単一の宿主細胞のクローンであり、該集団の全ての細胞は組み換え発現ベクターを含む。一態様において、細胞の集団は、本明細書に記載される組み換え発現ベクターを含む宿主細胞を含むクローン性集団である。
【0115】
標準的なトランスフェクション法を使用して、大量のタンパク質を発現する細菌性、哺乳動物、酵母または昆虫の細胞株を作製し得、次いでこれを、標準的な技術を使用して精製することが企図される(例えばColley et al. (1989) J. BIOL. CHEM. 264:17619-17622;Deutscher, ed. (1990) Guide to Protein Purification, METHODS IN ENZYMOLOGY, vol. 182参照)。
【0116】
従来の遺伝子転移方法を使用して、本明細書に記載されるT細胞受容体およびT細胞受容体構築物をコードする核酸を、宿主細胞および標的組織に導入し得る。ある態様において、T細胞受容体およびT細胞受容体構築物をコードする核酸は、インビボまたはエクソビボ遺伝子療法用途のために宿主細胞に導入される。核酸送達方法としては、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃(biolistic)、ビロソーム(virosome)、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオンおよび薬剤により増強されたDNAの取込みが挙げられる。核酸の送達のために、例えばSonitron 2000システム(Rich-Mar)を使用したソノポレーションも使用され得る。
【0117】
リポフェクションは、例えば米国特許第5,049,386号、同4,946,787号および同4,897,355号に記載され、リポフェクション試薬は商業的に販売される(例えばTransfectamおよびLipofectin)。イムノリピド複合体などの標的化されたリポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は当業者に周知である(例えばCrystal (1995) SCIENCE 270:404-410;Blaese et al. (1995) CANCER GENE THER. 2:291-297;Behr et al. (1994) BIOCONJUGATE CHEM. 5:382-389;Remy et al. (1994) BIOCONJUGATE CHEM. 5:647-654;Gao et al. (1995) GENE THER. 2:710-722;Ahmad et al. (1992) CANCER RES. 52:4817-4820;米国特許第4,186,183号;同4,217,344号;同4,235,871号;同4,261,975号;同4,485,054号;同4,501,728号;同4,774,085号;同4,837,028号;および同4,946,787号参照)。
【0118】
RNAまたはDNAウイルス系システムなどのウイルスベクター送達システムも、T細胞受容体およびT細胞受容体構築物をコードする核酸を宿主細胞に導入するために使用され得る。ウイルスベクターは、患者に直接投与され得る(インビボ)か、またはそれらはインビトロで細胞を処理するために使用され得(エクソビボ)、次いで改変された細胞が被験体に投与される。従来のウイルス系システムとしては、限定されないが遺伝子転移のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴、ワクシニアおよび単純ヘルペスウイルスのベクターが挙げられる。宿主ゲノム中の組み込みはレトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子転移法を用いて可能であり、しばしば挿入されたトランスジーンの長期間の発現をもたらす。
【0119】
V. T細胞受容体媒介治療
T細胞受容体、例えばその断片および機能性バリアント、核酸、組み換え発現ベクター、宿主細胞または細胞の集団を含む医薬組成物(本明細書に記載される)は、癌を治療または予防する方法に使用され得ることが企図される。T細胞受容体およびその機能性バリアントは、T細胞受容体または関連のあるポリペプチドもしくはその機能性バリアントが、細胞により発現される場合にNY-ESO-1および/またはLAGE-1aを発現する細胞への結合を媒介し得るように、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原に特異的に結合すると考えられる。
【0120】
これに関して、本発明は、医薬組成物、T細胞受容体(およびその機能性バリアント)、ポリペプチドもしくは本明細書に記載されるタンパク質、T細胞受容体(およびその機能性バリアント)、ポリペプチド、本明細書に記載されるタンパク質のいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む任意の核酸もしくは組み換え発現ベクター、またはT細胞受容体(およびその機能性バリアント)、ポリペプチドもしくは本明細書に記載されるタンパク質のいずれかをコードする組み換えベクターを含む任意の宿主細胞もしくは細胞の集団のいずれかを、被験体において癌を治療または予防するのに有効な量で被験体に投与する工程を含む、被験体において癌を治療または予防する方法を提供する。
【0121】
用語、疾患(または状態もしくは障害)を「治療すること(treating)」、その「治療(treatment)」または「予防」は、本明細書で使用する場合、疾患にかかりやすくなり得るが、まだ経験していないかまたは疾患の症状を示していない被験体において疾患が生じることを予防すること(予防すること)、疾患を抑制すること(その発症を遅延または拘束すること)、疾患の症状または副作用からの軽減を提供すること(緩和治療など)および疾患を軽減すること(疾患の後退を生じること)をいう。癌に関して、これらの用語はまた、癌に罹患した個体の期待寿命が増加され得ることまたは疾患の症状の1つ以上が低減されることを意味する。当該技術分野で公知の手段のいずれかにより組成物を調製し得る。
【0122】
治療される代表的な癌としては、限定されないが、特に膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、リンパ腫、黒色腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、外陰腫瘍、甲状腺癌、胃癌、脳幹神経膠腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、グリア芽腫、脳室上衣細胞腫、腫瘍のユーイング肉腫ファミリー、生殖細胞腫瘍、頭蓋外癌、肝臓癌、髄芽腫、神経芽腫、一般的な脳腫瘍、骨肉腫、骨の悪性線維性組織球腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫、一般的な軟部組織肉腫、テント上方未分化神経外胚葉性および松果体腫瘍、視路および視床下部神経膠腫、ウィルムス腫瘍、食道癌、毛様細胞白血病、腎臓癌、多発性骨髄腫、口腔癌、膵臓癌、原発性中枢神経系リンパ腫、皮膚癌、小細胞肺癌が挙げられる。これらの癌のいくつかは、NY-ESO-1および/またはLAGE-1を天然に発現し、他のものは、HDAC阻害剤の使用によりNY-ESO-1および/またはLAGE-1aを発現するように誘導され得る。
【0123】
本明細書で使用する場合、ある態様において、本明細書に記載されるT細胞受容体は、HLA A2拘束様式でNY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原を認識する。北アメリカ人(40%)および東アジア人(30%)集団におけるHLA-A2拘束性被験体の高いパーセンテージを考慮すると、本発明の組成物および方法は、この集団サブセットにおける癌の治療に特によく適し得る。
【0124】
特定の態様において、T細胞受容体およびT細胞受容体構築物は、癌の治療のための養子T細胞免疫療法に使用され得る。かかる治療において、T細胞は、本明細書に記載されるT細胞受容体またはT細胞受容体構築物を発現するように遺伝的に作り変えられ、その後該遺伝子工学で作り変えられた細胞は被験体に導入される。かかる遺伝子工学で作り変えられたT細胞は、それらのT細胞受容体発現によって、NY-ESO-1および/またはLAGE-1a抗原を発現する癌細胞に標的化される。好ましくは、かかるT細胞は、T細胞受容体のα鎖および/またはβ鎖をコードする核酸またはその断片および機能性バリアントが導入されている細胞である。養子免疫療法における使用のためのT細胞は、治療される被験体由来の自己細胞または許容可能なHLA適合であるドナー由来の同種異系細胞を含む。
【0125】
かかる癌療法が実施される場合、T細胞受容体コード核酸は、治療される癌被験体から得られる末梢血リンパ球に導入され得る。癌被験体への再導入の前に、T細胞受容体コード核酸が導入されているリンパ球は、上述のように、エクソビボで培養されて、大量のNY-ESO-1および/またはLAGE-1a特異的リンパ球が得られ得る。さらに、T細胞受容体コード核酸を入れたリンパ球の特定のサブセットは、当業者に公知の方法を使用して精製され得るかまたは単離され得る。例えば、CD8+ T細胞のサブセットは、例えば細胞表面上に発現されるTCRまたはTCRの領域に対する抗体(例えばvβ07-09またはvβ05-01)を使用して、末梢血リンパ球の混合された集団から精製され得る。CD8+T細胞のサブセットは、例えばCD34または切断形態のCD34などのトランスジーンと共にTCRを共発現し、その後抗CD34抗体に基づく方法、例えばフローサイトメトリーまたは免疫磁気的方法を使用して細胞を同定することによっても、末梢血リンパ球の混合された集団から精製され得る。
【0126】
また、上述の養子免疫療法は、化学療法、放射線療法および外科的手術などの他の癌治療と合わされ得る。本発明の特定の態様において、養子免疫療法は、免疫学的チェックポイント阻害剤の使用と合わされ得る。かかる阻害剤としては、例えば抗細胞殺傷性Tリンパ球関連抗原(CTLA-4)抗体および抗プログラム細胞死(PD)-1/PD-リガンド-1(PD-L1)抗体が挙げられる。
【0127】
別の態様において、エフェクター治療剤と結合されたT細胞受容体ならびにその断片および機能性バリアントを使用して癌を治療し得る。かかる薬剤としては、例えば抗CD3または抗CD16抗体断片などの免疫調節抗体断片、毒素、放射性同位体、IL-2およびIFN-γなどの免疫刺激剤、化学療法剤または薬物が挙げられる。かかるT細胞受容体を使用して、被験体の癌細胞に対するエフェクター分子の送達を標的化し、それにより癌細胞の破壊を標的化し得る。
【0128】
VI. 医薬組成物および投与の方法
患者への投与のために、その機能性断片およびバリアント、核酸、組み換え発現ベクターおよび宿主細胞などの本発明のT細胞受容体は、薬学的に許容され得る担体を用いて医薬組成物に製剤化され得る。本発明における使用に適した医薬組成物は組成物を含み、該組成物においてT細胞受容体関連組成物は、意図される目的を達成するのに有効な量で存在する。有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示を考慮して当業者の水準内にある。
【0129】
医薬組成物に関して、担体は、投与される特定のT細胞受容体関連医薬組成物について従来から使用されるもののいずれかであり得る。かかる薬学的に許容され得る担体は、当業者に周知であり、容易に利用可能である。薬学的に許容され得る担体は、使用の条件下で有害な副作用または毒性を有さないものであることが好ましい。
【0130】
医薬組成物は、患者への投与の所望の様式に応じて任意の適切な形態であり得る。医薬組成物は、任意の適切な経路、好ましくは非経口(例えば皮下、筋内または好ましくは静脈内)経路による投与に適合され得る。本開示の医薬組成物は、例えば従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣丸作製、浮揚(levitating)、乳化、カプセル封入、閉じ込めまたは凍結乾燥プロセスにより、それ自体公知である様式で製造され得る。かかる組成物は、薬学の分野で公知の任意の方法により、例えば有効成分と担体(1つまたは複数)または賦形剤(1つまたは複数)を滅菌条件下で混合することにより調製され得る。
【0131】
非経口投与のための医薬製剤としては、水溶性形態の活性化合物の水溶液が挙げられる。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油状注射懸濁物として調製され得る。適切な脂肪親和性の溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステルまたはリポソームが挙げられる。水性注射懸濁物は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなど、懸濁物の粘度を増加する物質を含み得る。任意に、懸濁物はまた、適切な安定化剤、または化合物の溶解性を増加して、高度に濃縮された溶液の調製を可能にする剤を含み得る。
【0132】
好ましくは、医薬組成物は、注射により、例えば静脈内に投与される。組成物が本発明のT細胞受容体またはその断片もしくは機能性バリアントを発現する宿主細胞である場合、注射のための細胞についての薬学的に許容され得る担体としては、例えば通常の食塩水(水中約0.90% w/vのNaCl、水中約300mOsm/L NaClまたは水1リットル当たり約9.0g NaCl)、NORMOSOL R電解質溶液(Abbott, Chicago, Ill.)、PLASMA-LYTE A (Baxter, Deerfield, Ill.)、水中約5%デキストロースまたはリンガー乳酸などの任意の等張性担体が挙げられ得る。態様において、薬学的に許容され得る担体には、ヒト血清アルブミンが補充される。
【0133】
投与される医薬組成物の量または用量(例えば組成物が1つ以上の細胞、すなわち細胞の集団である場合は細胞の数)は、妥当な時間枠にわたり被験体または動物において、例えば治療的または予防的応答をもたらすのに十分であるべきである。例えばT細胞受容体関連組成物の用量は、癌抗原に結合、または被験体において癌を検出、治療もしくは予防するのに十分であるべきである。用量は、特定の医薬組成物の効力および被験体(例えばヒト)の状態ならびに治療される被験体(例えばヒト)の体重により決定される。投与される用量を決定するためのアッセイは、当該技術分野で周知である。典型的に細胞は、注射可能物として、特に静脈内および腹腔内投与について液体溶液または懸濁液のいずれかとして調製され得る。
【0134】
組成物の用量は、特定の組成物の投与に伴い得る任意の有害な副作用の存在、性質および程度によっても決定され得る。典型的に、かかりつけ医は、年齢、体重、一般的な健康状態、食事、性別、投与経路および治療される状態の重症度などの種々の要因を考慮して、それぞれの個々の患者を治療するための組成物の用量を決定する。かかりつけ医は、毒性または臓器機能不全のために投与をどのようにおよびいつ終結、中断または調整するかを知っていることが企図される。逆に、かかりつけ医はまた、臨床的応答が適切でなかった(毒性を除外する)場合に治療をより高いレベルまで調整することを知っている。目的の障害の管理における投与量の大きさは、治療される状態の重症度および投与の経路に伴って変化する。状態の重症度は、例えば標準的な予後評価方法により部分的に評価され得る。
【0135】
VII. 診断方法
哺乳動物における癌の検出における使用のための診断方法も本発明により提供される。該方法は、癌を有すると疑われる被験体由来の細胞または組織の試料を、標識と結合したT細胞受容体と接触させて、それにより複合体を形成し、複合体を検出する工程を含み、複合体の検出は、被験体における癌の存在を示す。
【0136】
かかる方法における分析のための試料は、被験体から単離される任意の臓器、組織、細胞または細胞抽出物、例えば癌を有する哺乳動物から単離される試料であり得る。例えば、試料としては、限定されることなく、試験被験体から得られる細胞または組織(例えば生検由来)、血液、血清、組織または微細針生検試料、または任意の他の検体もしくはその任意の抽出物が挙げられ得る。試料はまた、組織学的目的で得られる凍結切片などの組織の切片を含み得る。
【0137】
診断方法の目的で、接触は、被験体に関してインビトロまたはインビボで起こり得る。複合体の検出は、当該技術分野で公知の任意の数の方法により起こり得る。例えば、T細胞受容体は、例えば上述の放射性同位体、フルオロフォア(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)および粒子(例えば金粒子)などの検出可能な標識で標識され得る。
【0138】
最終的に、本発明は、本明細書に記載される本診断方法を実行するためのキットを提供する。それぞれのキットは、標識されたT細胞受容体試薬、適切な溶媒およびキットを使用するための指示書を含む。かかるT細胞受容体に基づく診断キットならびにそれらの製造および使用の方法は周知である。
【0139】
説明を通じて、組成物が、特定の構成要素を有する、含む(including)もしくは含む(comprising)と記載される場合、またはプロセスおよび方法が特定の工程を有する、含むもしくは含むと記載される場合、さらに、記載される構成要素から本質的になるかまたはそれからなる本発明の組成物があること、ならびに記載されるプロセス工程から本質的になるかまたはそれからなる本発明によるプロセスおよび方法があることが企図される。
【0140】
本願において、要素もしくは構成要素が記載される要素もしくは構成要素のリストに含まれるおよび/またはそれから選択されるといえる場合、該要素もしくは構成要素は、記載される要素もしくは構成要素のいずれか1つであり得るか、または該要素もしくは構成要素は、記載される要素もしくは構成要素の2つ以上からなる群より選択され得ることが理解されるべきである。
【0141】
さらに、本明細書に記載される組成物もしくは方法の要素および/または特徴は、本明細書において明示的であろうと黙示的であろうと、本発明の精神および範囲を逸脱することなく種々の方法で組み合され得ることが理解されるべきである。例えば、特定の化合物について参照がなされる場合、該化合物は、文脈からそうではないと理解されない限り、本発明の組成物の種々の態様および/または本発明の方法において使用され得る。すなわち、本願において、態様は、明確および簡潔な適用を記載および図示し得る方法で記載され、示されているが、態様は、本教示および発明(1つまたは複数)から逸脱することなく種々に組み合され得るかまたは分離され得ることが意図され、理解される。例えば、本明細書に記載および示される全ての特徴は、本明細書に記載および示される発明(1つまたは複数)の全ての局面に適用可能であり得ることが理解される。
【0142】
表現「少なくとも1つの」は、文脈および用途からそうではないと理解されない限り、該表現の後に記載されるもののそれぞれを個々におよび記載されるものの2つ以上の種々の組合せを含むことが理解されるべきである。3つ以上の記載されるものに関して、表現「および/または」は、文脈からそうではないと理解されない限り、同じ意味を有すると理解されるべきである。
【0143】
用語「含む(include)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(have)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(contain)」、「含む(contains)」または「含む(containing)」の使用は、その文法的な同等物を含めて、文脈にそうではないと具体的に記されないかまたは文脈からそうではないと具体的に理解されない限り、例えば記載されていないさらなる要素または工程を排除することなく、一般的に、開放型および非限定として理解されるべきである。
【0144】
用語「約」の使用が量的値の前にある場合、本発明は、そうではないと具体的に記されない限り、具体的な量的値自体も含む。本明細書で使用する場合、用語「約」は、そうではないと示されないかまたは推測されない限り、名目上の値から±10%の変動をいう。
【0145】
工程の順序または特定の行為を実行するための順序は、本発明が実施可能なままである限りは重要ではないことが理解されるべきである。さらに、2つ以上の工程または行為は同時に実施されてもよい。
【0146】
本明細書における任意および全ての例または例示的な用語、例えば「など(such as)」または「含む(including)」の使用は、単に本発明をよりよく説明するために意図され、特許請求されない限り、本発明の範囲に限定を与えない。明細書における用語は、本発明の実施に必須のものとして、任意の特許請求されない要素を示すように解釈されるべきではない。
【実施例
【0147】
実施例
本発明の実施は、前述の例示からより十分に理解され、該例示は例示目的のみのために本明細書に示され、いかなる方法においても本発明の限定として解釈されるべきではない。
【0148】
実施例1-806 T細胞受容体の同定
以下の実施例には、HLA拘束様式でNY-ESO-1および/またはLAGE-1aエピトープを認識する新たに作製されたT細胞(例えば新規のタンパク質、および自然において天然に存在するものとして同定されていないかかるタンパク質をコードする核酸を含む新規の細胞)の同定が記載される。
【0149】
腫瘍関連抗原を認識するヒトT細胞は、「逆免疫学(reverse immunology)」アプローチを使用して、末梢血リンパ球から単離された(Zeng et al. (2000) J. IMMUNOL. 165:1153-1159;Zeng et al. (2001) PROC. NATL. ACAD. SCI. USA 98: 3964-3969)。この場合、インビトロ感作手順は、配列番号:1のHLA-A2拘束性NY-ESO-1:157-165エピトープを使用して、記載されるように行われた(Zeng et al. (2000)上述)。簡潔に、種々のドナー由来のリンパ球を、1μg/mLの上述のペプチドの存在下、96ウェル平底プレート中で平板培養した。7および14日目に、約1x105の放射線を照射していないリンパ球に、10μg/mLのペプチドを適用し、2回洗浄した。続いて、120単位/mLの終濃度のIL-2をそれぞれのウェルに添加した。21日目に、細胞を採取して、提示細胞と共に一晩インキュベートして、その後上清を回収した。ヒトIL-4およびCD40リガンドで活性化して不死化した始原B細胞(「B細胞」)、エプスタイン-バール感染B細胞(「EVB-B」)を提示細胞として使用した。放出アッセイを行い、T細胞およびT細胞受容体形質導入標的細胞の特異的活性を決定するための手段として、IFN-γ(BioLegend, San Diego, CA)またはGM-CSF (eBioscience, San Diego, CA)を検出した。高い特異的活性を有するウェル由来のT細胞をプールして、富化し、次いで迅速T細胞拡大法(Riddell et al. (1990) J. IMMUNOL. METHODS 128: 189-201)を使用して拡大させた。LabCorp (West Hills, CA)で行われた分子的アプローチを使用して、ドナーおよび抗原提示細胞のHLA型を決定した。
【0150】
いくつかのウェルの細胞は、HLA-A2により拘束されることが以前に示された(Jager et al. (1997) J. EXP. MED.)NY-ESO-1:157-165 (ESO:157-165)ペプチドエピトープを適用された提示1088 B細胞に対する特異的活性(specific activity)を有する有意な増殖を示した。図1Aは、806 CD8+ T細胞株によるESO:157-165ペプチドの認識を示す。IFN-γ放出アッセイにより決定すると、806 CD8+ T細胞株は、HLA-A2+ 1088-B細胞により提示される場合にESO:157-165ペプチドに結合した。同様に、806 CD8+T細胞は、GFPではなく、cosA2細胞により提示されるNY-ESO-1を認識した。806 T細胞が、HLA-A2発現を欠くバリアント624.28黒色腫株(HLA-A2-/NY-ESO-1+)ではなく、HLA-A2を発現する624.38黒色腫株(HLA-A2+/NY-ESO-1+)を認識した場合に、HLA特異性を確認した。GM-CSF放出アッセイにより、806 CD8+ T細胞株を、種々の濃度でのESO:157-165ペプチドエピトープを認識するその能力についてさらに試験した。図1Bに示される結果は、TCRペプチド相互作用についての高いアビディティの性質を示唆する。HLA-A2/NY-ESO-1:157-165ペンタマーへの結合について、806α1β1組合せを形質導入された細胞をさらに試験した。図1Cに示される結果は、NY-ESO-1ペンタマーへの結合を示した。さらに、腫瘍細胞のパネルへの曝露の際の活性化について、806 TCRを形質導入された細胞をアッセイした。図1Dに示される結果は、形質導入された細胞は、A2+/NYESO1+細胞(Colo-205-NYESO1、FM-6、FM-82、HEPG2-NYESO、SK-MEL-37、UACC-257およびMEL-624.38)に曝露された場合に特異的活性を有したが;それらは、A2-/NYESO1-細胞(HpAF-II、LS174T、LS714TおよびSK-LU-1)またはA2+/NYESO1-細胞(SK-LU-1-NYESO、MEL-624.28、A549、Colo-205、Cos-7-A2、HepG-2、Kato-IIIおよびSK-MEL-23)に曝露された場合に特異的活性を有さなかったことを示した。
【0151】
実施例2-806 T細胞受容体のクローニング
実施例1に記載されるように、806 CD8+ T細胞株は、HLA-A2分子によりペプチドが提示される場合にESO:157-165ペプチドエピトープとの免疫反応性を有する。以下の実施例には、HLA-A2に関してESO:157-165の認識を媒介する806 CD8+ T細胞株により発現されるT細胞受容体のクローニングおよび特徴付けが記載される。
【0152】
実施例1で同定した806 CD8+ T細胞を、T細胞受容体(TCR)クローニングに供した。T細胞培養物(>1x105細胞)由来の全RNAを、RNeasy Mini Kit (Hawthorn, CA)を使用して調製した。オリゴdTおよび全ての5'キャップmRNA末端にライゲーションされたcDNA末端のユニバーサル5'迅速複製(RACE)プライマーを用いて全長cDNAライブラリーを作製するGeneRacerアプローチ(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用してcDNAライブラリーを調製した。これらのcDNAライブラリーをその後の実験に使用して、特異的TCRαおよびβ鎖を作製した。
【0153】
TCRαおよびβ鎖可変領域cDNAを、記載されるように(Zhao et al. (2006) J. IMMUNOTHR. 29: 398-406;Johnson et al. (2006) J. IMMUNOL. 177: 6548-6559;Morgan et al. (2006) SCIENCE 314: 126-129)、5'-RACE法(GeneRacer Kit, Invitrogen)によりクローニングした。簡潔に、5'RACEプライマー(5'-CGACTGGAGCACGAGGACACTGA-3')を遺伝子特異的3'プライマー(5'-GTTAACTAGTTCAGCTGGACCACAGCCGCAGC-3'、5'-CGGGTTAACTAGTTCAGAAATCCTTTCTCTTGACCATGGC-3'または5'-CTAGCCTCTGGAATCCTTTCTCTTG-3')と一緒に使用して、TCRα、TCRβ1またはTCRβ2鎖のそれぞれについてcDNAを富化した。5'ネステッドPCRプライマー+元のまたはネステッド3'プライマーを使用して第2ラウンドのPCRを続けた。TCRαおよびβ鎖可変領域の両方は、約500bp長であることが予想された。次いで、PCR精製キット(Qiagen, Germantown, MD)を使用してPCR産物を精製して、pCR2.1 TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングして、その後DNAを配列決定して、個々のT細胞受容体α-およびβ鎖遺伝子の相対頻度を同定した。
【0154】
T細胞受容体アミノ酸配列は以下のとおりである:配列番号:83および85は、806 T細胞受容体α鎖およびβ鎖のそれぞれの可変領域のアミノ酸配列を示し、配列番号:7、5および6は、806 T細胞受容体α鎖のCDR3、CDR1およびCDR2配列のアミノ酸配列を示し、配列番号:13、11および12は、806 T細胞受容体β鎖のCDR3、CDR1およびCDR2配列のアミノ酸配列を示す。
【0155】
806 TCRα/β鎖のアミノ酸およびヌクレオチド配列を、図4に示される公的に利用可能なデータベースにおける公知のTCRα/β鎖の2つの群由来の配列と比較した。
【0156】
実施例3-806 T細胞受容体の突然変異誘発
上述のように、TCRの突然変異誘発は、TCRの親和性、特異性、膜標的化および発現レベルを増加し得、臨床適用に有益であり得た。
【0157】
特定の遺伝子工学で作り変えられた806TCRは、α鎖の101位でPからLへの置換およびβ鎖の28位でHからYへの置換を含んだ。このT細胞受容体のアミノ酸およびヌクレオチド(コドン最適化)配列を図2に示す。配列番号:3および9は、α鎖およびβ鎖のそれぞれの可変領域のアミノ酸配列を示し、配列番号:7、5および6は、T細胞受容体α鎖のCDR3、CDR1およびCDR2配列のアミノ酸配列を示し、配列番号:13、11および12は、T細胞受容体β鎖のCDR3、CDR1およびCDR2配列のアミノ酸配列を示す。配列番号:2および95は、それぞれヒト定常領域を含む全長受容体α鎖およびβ鎖のそれぞれのアミノ酸配列を示す。特定の前述のアミノ酸配列およびかかる配列をコードするヌクレオチド配列を、上の表1に示す。
【0158】
さらなる潜在的な変異は、例えばα-および/またはβ鎖の定常領域における重要なグリコシル化部位NXS/TのQXS/Tへの変化(N→Q)を含む。図5は、806 TCRα鎖およびβ鎖における例示的なN→Qアミノ酸変異を示す。マウスTCR定常領域の間のペア形成は、形質導入されたT細胞受容体と内因性T細胞受容体のミスペア形成を低減し得るので、さらなる改変は、マウス定常領域の使用を含む。図6は、例示的なマウス定常領域を含む806 TCRα-およびβ鎖のアミノ酸およびヌクレオチド配列を示す。図7は、マウス定常領域およびN→Qアミノ酸変異の両方を含む806 TCRα鎖のアミノ酸およびヌクレオチド配列を示す。
【0159】
実施例4-806 T細胞受容体のさらなる特徴付け
HLA-A*02:01+抗原提示細胞に、10μg/mL(9.1μM)で開始する10倍希釈液中のNY-ESO-1:157-165ペプチドを適用した。ドナーT細胞に、806TCR(配列番号:3のα鎖可変領域アミノ酸配列、配列番号:9のβ鎖可変領域アミノ酸配列およびマウス定常領域を含む)をコードするレンチウイルス発現ベクターを形質導入した。適用されたAPCを、形質導入されたT細胞と共に16時間共培養した。インターフェロン-γ放出をELISAにより測定した。結果を図8に示す。806TCRについてEC50は約100ng/mL(90.1nM)であり、活性は約1ng/mL(0.91nM)で検出可能であった。
【0160】
実施例5-806 T細胞受容体により媒介される癌細胞殺傷
この実施例には、806 TCRを発現するT細胞(「806TCR-T細胞」)による標的癌細胞の殺傷が記載される。
【0161】
MEL-624.38細胞(NY-ESO-1+、HLA-A*02:01+)に、赤色蛍光タンパク質(RFP)核マーカーを形質導入した。806TCR-T細胞は、2つのドナー(ドナー1およびドナー2)由来のドナーT細胞に、806TCR(配列番号:3のα鎖可変領域アミノ酸配列、配列番号:9のβ鎖可変領域アミノ酸配列およびマウス定常領域を含む)をコードするレンチウイルス発現ベクターを形質導入することにより作製した。
【0162】
MEL-624.38細胞を等濃度で平板培養した。24時間後、806TCR-T細胞を添加して、MEL-624.38細胞と共培養した。全てのウェルは、時間0で等濃度の細胞を含んだ。蛍光顕微鏡検査により細胞をモニタリングし、画像を図9に示す。示されるように、806TCR-T細胞は、対照と比較して、癌細胞の数を低減した。
【0163】
48時間にわたりさらなる画像を回収し、分析し、標的細胞の統合された面積から経時的に細胞核を計数した。結果を図10に示す。示されるように、標的細胞(MEL-624.38細胞;NY-ESO-1+、HLA-A*02:01+)と806TCR-T細胞の共培養は、対照と比較して経時的な細胞核の数の低下により示されるように、癌細胞殺傷を生じた。しかしながら、非標的(off-target)細胞(MEL-624.28細胞;NY-ESO-1+およびHLA-A*02:01-)と806TCR-T細胞の共培養は、癌細胞殺傷を生じなかった。
【0164】
一緒になって、これらの結果は、806 TCRを発現するT細胞(「806TCR-T細胞」)は標的癌細胞を特異的に殺傷し得ることを示す。
【0165】
実施例6-806 T細胞受容体活性の特異性
この実施例には、806 TCRを発現するT細胞(「806TCR-T細胞」)についての非標的殺傷活性の欠如が示される。
【0166】
ドナーT細胞に、806TCR(配列番号:3のα鎖可変領域アミノ酸配列、配列番号:9のβ鎖可変領域アミノ酸配列およびマウス定常領域を含む)をコードするレンチウイルス発現ベクターを形質導入して、806TCR-T細胞を作製した。806TCR-T細胞を、4つの非癌性細胞型:肺線維芽細胞(2ドナー)、動脈平滑筋、動脈内皮細胞および子宮平滑筋と共培養した。陽性対照として、標的癌細胞(MEL-624.38;NY-ESO-1+、HLA-A*02:01+)もインキュベートした。細胞を16時間共培養して、インターフェロンγ分泌をELISAによりアッセイした。結果を図11に示す。示されるように、806TCR発現T細胞と正常非癌性細胞の共培養後に活性は観察されなかった。活性は、標的(on-target)癌細胞との共培養後のみに観察された。
【0167】
一緒になって、これらの結果は、806 TCRを発現するT細胞(「806TCR-T細胞」)は標的癌細胞を特異的に殺傷し得ることを示す。
【0168】
実施例7-806 T細胞受容体結合親和性
この実施例には、表面プラスモン共鳴による、ペプチド/MHC複合体についての806TCRの結合親和性の測定が示される。
【0169】
一緒に連結した806 TCRα鎖およびβ鎖可変領域(および定常領域なし)を哺乳動物細胞中で発現させることにより、可溶性806 TCR(配列番号:83のα鎖可変領域アミノ酸配列、配列番号:85のβ鎖可変領域アミノ酸配列を含む)を作製した。比較のために、可溶性1G4LY TCRも作製した。1G4LY TCR(Robbins et al. (2008) J. IMMUNOL. 180:6116-6131およびRobbins et al. (2011) J. CLIN. ONCOL. 29(7):917-924に記載される)は、1G4 TCRの親和性が高められたバージョンである(米国特許出願公開US2009/053184に記載される)。
【0170】
リガンド(pMHC1複合体:ビオチン-HLA-A*02:01-SLLMWITQC)を、約400RUの固定化レベルでストレプトアビジン(SA)センサーチップ表面上に固定した。次いで、250、125、62.5、31.25、15.625、7.813、3.906、1.953および0nMの濃度の分析物(可溶性TCR)をセンサー表面に注入した。
【0171】
1G4LY TCRについての結果を図12Aに示す。1:1結合モデルを使用して、結合親和性および/または動力学を測定した。1G4LY TCRについて、平衡解離定数(KD)は7.61×10-7Mであり、結合速度定数(Ka)は3.98×104M-1s-1であり、解離速度定数(Kd)は3.03×10-2s-1であった。これらの結果は、以前に報告されたもの(Robbins et al. (2008) J IMMUNOL 180:6116-6131)と一致する。予想されたように、1G4LY TCRは、野生型1G4 TCR (KD=32μM)より高い結合親和性(より低いKD)を有した。
【0172】
806 TCRについての結果を図12Bに示す。1:1結合モデルを使用して、結合親和性および/または動力学を測定した。806 TCRについて、平衡解離定数(KD)は1.34×10-7Mであり、結合速度定数(Ka)は8.92×104M-1s-1であり、解離速度定数(Kd)は1.20×10-2s-1であった。
【0173】
一緒になって、これらの結果は、806 TCRが、野生型1G4 TCRまたは親和性が高められた1G4LY TCRよりも高い結合親和性(より低いKD)を有することおよび806 TCRが、一般的に高いアビディティと関連する範囲内の結合親和性を有することを示す(例えばZhong et al. (2013) PNAS 110 (17):6973-6978、およびAleksic et al.(2012) EUR J IMMUNOL 42:3174-3179参照)。
【0174】
参照による援用
本明細書で言及される特許文献および科学文献のそれぞれの全開示は、全ての目的で参照により援用される。
【0175】
均等物
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく他の特定の形態で実現され得る。そのため、前述の態様は、全ての局面において本明細書に記載される発明の限定ではなく、例示とみなされる。したがって、本発明の範囲は、前述の記載ではなく添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の同等物の意味および範囲内にある全ての変更が本発明に包含されることが意図される。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
【配列表】
2023546993000001.app
【国際調査報告】