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特表2023-547024スルフィン酸をスルホン酸に酵素的に酸化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】スルフィン酸をスルホン酸に酵素的に酸化する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 11/00 20060101AFI20231101BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20231101BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20231101BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20231101BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C12P11/00 ZNA
C12N9/04 Z
C12N15/53
C12N15/60
C12N15/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515049
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2021068556
(87)【国際公開番号】W WO2023280382
(87)【国際公開日】2023-01-12
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、ファラー
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE61
4B064BJ07
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB11
4B064CC24
4B064CD11
4B064DA10
(57)【要約】
本発明は、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸を、H生成オキシダーゼのクラスから選択される酵素によって、前記酵素の基質の存在下で、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸に酵素的に酸化する方法、特に、L-システインスルフィン酸をL-システイン酸に、およびヒポタウリンをタウリンに酵素的に酸化する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸を、H生成オキシダーゼのクラスから選択される酵素によって、前記酵素の基質の存在下で、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸に酵素的に酸化する方法。
【請求項2】
前記H生成オキシダーゼがアルコールオキシダーゼであり、前記存在する基質が第一級アルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記H生成オキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、前記存在する基質がグルコースである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スルフィン酸がアミノアルキルスルフィン酸であり、前記スルホン酸がアミノアルキルスルホン酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
バッチ中のスルフィン酸の濃度が少なくとも1g/lである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記スルフィン酸が2-アミノエタンスルフィン酸(ヒポタウリン)であり、形成される前記スルホン酸が2-アミノエタンスルホン酸(タウリン)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記スルホン酸が反応バッチから単離される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒポタウリンが、発酵産生からのヒポタウリンである、請求項6および7のいずれかまたは両方に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒポタウリンが、細菌産生に由来する、すなわち、細菌産生株を用いて産生される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌産生株が大腸菌種の菌株である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記産生株が、調節解除されたシステイン生合成経路を有する株である、請求項9および10のいずれかまたは両方に記載の方法。
【請求項12】
前記産生株が、大腸菌W3110×pCys-CDOrn-CSADhs株またはW3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhs株の1つである、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スルフィン酸がシステインスルフィン酸であり、形成される前記スルホン酸がシステイン酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
この反応で用いられる式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸および式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸の全モル濃度に対する式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸のモル収率が、少なくとも60%である、請求項1~3または13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸を、H生成オキシダーゼのクラスから選択される酵素によって、前記酵素の基質の存在下で、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸に酵素的に酸化する方法、特に、L-システインスルフィン酸をL-システイン酸に、およびヒポタウリンをタウリンに酵素的に酸化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルフィン酸は、一般構造R-S(=O)-OHの有機的に結合した硫黄と酸素とを含む化合物のクラスであり、Rは有機ラジカルである。親物質であるスルフィン酸は、構造H-S(=O)-OHを有し、スルホキシル酸HO-S-OHと互変異性である。スルフィン酸の塩はスルフィン酸塩である。
【0003】
スルホン酸は、一般構造R-SO-OHを有する有機硫黄化合物であり、Rは有機ラジカルである。それぞれの一般構造R-SO-OおよびR-SO-O-R(R、Rはいずれの場合も有機基である)を有するそれらの塩およびエステルは、スルホン酸塩として知られている。
【0004】
スルフィン酸のスルホン酸への変換は、例えば、過酸化物による酸化によって化学的に可能である(例えば、Chauvin and Pratt, Angew. Chem. Int. Ed. (2017) 56: 6255-6259を参照)。スルフィン酸のスルホン酸への酵素的な酸化の可能性は、化学産業においては重要ではないものの、対応するスルフィン酸から天然に存在するスルホン酸を生成するためのバイオテクノロジープロセスにとっては興味深いものである。
【0005】
天然に存在するスルフィン酸の例としては、L-システインスルフィン酸およびヒポタウリンが挙げられる。天然に存在するスルホン酸の例としては、L-システイン酸およびタウリンが挙げられる。
【0006】
タウリン(2-アミノエタンスルホン酸、CAS番号107-35-7)は、アミノ酸システインおよびメチオニンの分解生成物として自然界に天然に存在するアミノスルホン酸である。タウリンは経済的に重要であり;例えば、エナジードリンクの成分であり、例えば、猫のためのペットフードにおいて、または魚の養殖においても用いられる(Salze and Davis, Aquaculture (2015) 437: 215-229)。しかしながら、タウリンには健康促進効果もあると考えられている(Ripps and Shen, Molecular Vision (2012) 18: 2673-2686)。
【0007】
現在、商業用のタウリンは化学的に製造されている。公知のプロセスの1つは、例えば、Changshu Yudong Chemical Factoryのプロセスであり、エチレンから始まり、エチレンイミンを介してタウリンに至る。化学的に製造される成分から離れた消費者主導の傾向により、タウリンの製造のためのバイオテクノロジープロセスがますます研究されている。
【0008】
自然界においては、タウリンはほとんど動物界にのみ存在し、植物、藻類または細菌に存在する例はわずかである。タウリンに至る様々な生合成経路が存在し(例えば、KEGG Pathway Database:“Taurine and hypotaurine metabolism”を参照)、とりわけ、L-システインから開始される。L-システインからタウリンに至る最も重要な合成工程は、式(1)~(5)に示される。
(1)L-システイン+O → L-システインスルフィン酸
(2)L-システインスルフィン酸+1/2O → L-システイン酸
(3)L-システインスルフィン酸 → ヒポタウリン+CO
(4)ヒポタウリン+1/2O → タウリン
(5)L-システイン酸 → タウリン+CO
【0009】
(1):第1の工程において、L-システインは酵素システインジオキシゲナーゼ(CDO、EC1.13.11.20)によってL-システインスルフィン酸(3-スルフィノアラニン、CAS番号207121-48-0)に酸化される。
【0010】
(3)および(5):システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD、EC4.1.1.29)がL-システインスルフィン酸をヒポタウリン(2-アミノエタンスルフィン酸、CAS番号300-84-5)に脱炭酸し、同様の反応によりL-システイン酸をタウリンに脱炭酸することができる。
【0011】
(2)および(4):システインスルフィン酸のシステイン酸への酸化およびヒポタウリンのタウリンへの酸化は、まだ明確に解明されていない。
【0012】
タウリンを製造するための既知の生物工学的プロセスの欠点は、一般にヒポタウリンが主な生成物であることである。タウリンが生成物である場合、ヒポタウリンの酸化のための化学的プロセスを用いる必要がある。
【0013】
Honjoh et al. (2010), Amino Acids 38: 1173-1183には、コイ(シプリナス・カルピオ(Cyprinus carpio))由来のCDO遺伝子およびCSAD遺伝子を異種発現する遺伝子操作された酵母株が記載されている。主な生成物はヒポタウリンであり、タウリンの割合はより小さかった。両方の生成物は細胞内に蓄積された。したがって、生成物の分析には細胞破砕が必要であった。細胞抽出物中のヒポタウリンは、Hで処理することにより、分析目的でタウリンに化学的に酸化され得る。さらなる使用のためにヒポタウリンを非化学的な工程でタウリンに変換する方法を詳述する工程は記載されていない。
【0014】
WO17/213142A1(味の素)には、本来システインを産生する株におけるシステインジオキシゲナーゼおよびL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼの異種発現によって得られるタウリン産生株が記載されている。主な生成物は、最大収量450μMのヒポタウリンであり、その後のアルカリによる化学処理によってのみ、低収率でのみタウリンに変換することができた。
【0015】
US2019-0062757A1(KnipBio)には、タウリンまたはその前駆体物質の製造のための異種産生株が記載されており、開示された産生株は、ほとんど不均一な生成プロファイルを有し、ヒポタウリンの最高収率を達成する。さらに、達成された収量は非常に低く、最大で419ng/mlのヒポタウリンであり、タウリンは検出不可能であった。
【0016】
収率が低いことに加えて、先行技術に開示されたタウリンを生産するための生物工学的なアプローチは、生成物の範囲が一貫していないという欠点があり、ヒポタウリンが主な生成物として生じ、タウリンは副生成物として生じるのみである。
【0017】
ヒポタウリンの酵素的な酸化へのアプローチは、Veeravalli et al. (2020), bioRxiv Preprint Server doi: https://doi.org/10.1101/750273に開示されている。彼らは、哺乳動物のフラビン依存性モノオキシゲナーゼ1(FMO1)が、ヒポタウリンをタウリンに変換する酵素であると説明している。酸化は式(6)に従って進行する:
(6)ヒポタウリン+NAD(P)H+O → タウリン+NAD(P)+HO。
【0018】
式(6)に従ってヒポタウリンをタウリンに変換するための哺乳動物の酵素FMO1が式HN-CH(R)-CH-SOHの他のスルフィン酸の酸化にも適しているかどうかは不明である。
【0019】
ヒポタウリンの酸化のために、FMO1は補因子NADHまたはNADPHを化学量論量で用いる。これらの商業的に高価な補因子の使用は、技術的な使用を不経済なものとする。さらに、哺乳動物において同定されたFMO1については、工業生産に適した生産プロセスは知られていない。したがって、FMO1酵素を用いた酵素的な酸化には経済的な根拠がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、スルフィン酸をスルホン酸に、特にL-システインスルフィン酸をL-システイン酸に、およびヒポタウリンをタウリンに酸化するための経済的に有利な生物工学的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸を、H生成オキシダーゼのクラスから選択される酵素によって、前記酵素の基質の存在下で、式HN-CH(R)-CH-SOのスルホン酸に酵素的に酸化する方法によって、上記目的が達成された。好ましくは、本発明の方法は、スルフィン酸がアミノアルキルスルフィン酸であること、より好ましくは2-アミノアルキルスルフィン酸であることを特徴とする。好ましくは、本発明の方法は、スルホン酸がアミノアルキルスルホン酸であること、より好ましくは2-アミノアルキルスルホン酸であることを特徴とする。より好ましくは、スルフィン酸はアミノアルキルスルフィン酸であり、スルホン酸はアミノアルキルスルホン酸である。
【0022】
基Rは任意の基であり得、好ましくは水素、有機基、直鎖基、分岐鎖基、環式基、飽和基または不飽和基、芳香族基またはヘテロ芳香族基であり、置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。これは、基Rが置換されていてもよく、置換されていなくてもよいことを意味する。好ましい置換基は、-CN、-NCO、-NR、-COOH、-COOR、-ハロゲン、-(メタ)アクリロイル、-エポキシ、-SH、-OH、-CONR、-O-R、-CO-R、-COO-R、-OCO-Rまたは-OCOO-R、-S-R、-NR-、-N=R、-N=NRまたは-P=Rである。好ましくは、C-Cアルキル、より好ましくはC-Cアルキル、ビニル、具体的にはメチルまたはエチル、特にメチルを有する飽和基または不飽和基が用いられる。Rは、好ましくはR=HまたはR=COHから選択され、すなわち、スルフィン酸はヒポタウリンまたはシステインスルフィン酸であることが好ましい。R=Hであることが特に好ましい。
【0023】
したがって、本発明はまた、タウリンの生物工学的な製造におけるプロセス工程としての、L-システインスルフィン酸のL-システイン酸への酵素的な酸化、およびヒポタウリンのタウリンへの酵素的な酸化にも関する。
【0024】
生成オキシダーゼのクラスから選択される酵素の基質は、オキシダーゼによって酸化可能な物質を意味すると理解される。オキシダーゼは、式(7)に従ってその酸化し得る基質と反応する。
(7)基質+O → 基質(ox)+H
【0025】
生成オキシダーゼによって触媒される全体的な反応は、式(8)に従って行われる:
(8)基質+O+HN-CH(R)-CH-SOH →
基質(ox)+H+HN-CH(R)-CH-SOH →
基質(ox)+HO+HN-CH(R)-CH-SOH。
【0026】
適切なH生成オキシダーゼは、「KEGG酵素」データベースにおいて「オキシダーゼ」という検索用語の下に、そこに列挙された酵素のサブセットとして見出すことができる。しかしながら、多数のH生成オキシダーゼのうち、工業的に利用できる可能性があるのは、安価な基質を用いて、式(7)に従って基質の酸化によってHを生成するオキシダーゼのみである。
【0027】
好ましい適切なH生成オキシダーゼの例は、限定されないが、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)、第二級アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.18)、ピラノースオキシダーゼ(EC1.1.3.10)、L-乳酸オキシダーゼ(EC1.1.3.2)、アリールアルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.7)、ガラクトースオキシダーゼ(EC1.1.3.9)、L-ソルボースオキシダーゼ(EC1.1.3.11)、アルデヒドオキシダーゼ(EC1.2.3.1)、ピルビン酸オキシダーゼ(EC1.2.3.3またはEC1.2.3.6)、シュウ酸オキシダーゼ(EC1.2.3.4)、グリオキシル酸オキシダーゼ(EC1.2.3.5)、L-アミノ酸オキシダーゼ(EC1.4.3.2)、D-アミノ酸オキシダーゼ(EC1.4.3.3またはEC1.4.3.1)、亜硫酸オキシダーゼ(EC1.8.3.1)およびチオールオキシダーゼ(EC1.8.3.2)である。
【0028】
特に好ましいH生成オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)、第二級アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.18)、ピラノースオキシダーゼ(EC1.1.3.10)およびL-乳酸オキシダーゼ(EC1.1.3.2)である。
【0029】
したがって、好ましくは、本発明の方法は、H生成オキシダーゼと酸化可能なその基質との組み合わせが、グルコースオキシダーゼ/グルコース、アルコールオキシダーゼ/メタノール、アルコールオキシダーゼ/エタノール、第二級アルコールオキシダーゼ/イソプロパノールおよびL-乳酸オキシダーゼ/乳酸から選択されることを特徴とする。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、H生成オキシダーゼがアルコールオキシダーゼであり、存在する基質が第一級アルコール、より好ましくはメタノールであることを特徴とする。すなわち、H生成オキシダーゼは、アルコールオキシダーゼと指定されるKEGGデータベースのクラスEC1.1.3.13の酵素である。
【0031】
アルコールは、一般式R-OHの化合物であって、1つ以上のヒドロキシ基を有し、より重要度が高い他の官能基を含まない。アルコールは、ヒドロキシル基が結合している官能基の炭素原子上の炭素原子および水素原子の数によって区別される。第一級アルコールの場合、炭素原子に加えて、2個の水素原子が前記炭素原子に結合し、RCHOHの一般式をとる。さらに、第一級アルコールは酸化によってアルデヒドに変換される。たとえば、エタノールは2個の水素原子を除去することにより、アルデヒドエタナールになる。
【0032】
好ましい第一級アルコールとしては、メタノールおよびエタノールが挙げられ、より好ましくは第一級アルコールはメタノールである。
【0033】
アルコール中のRは、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であるが、アリール基、アシル基またはヘテロ原子ではない。
【0034】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法は、H生成オキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、存在する基質がグルコースであることを特徴とする。すなわち、H生成オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼと指定されるKEGGデータベースのクラスEC1.1.3.4の酵素である。
【0035】
このプロセスを工業的に実施するための前提条件は、H生成オキシダーゼおよび安価で酸化可能な基質を利用できることにある。
【0036】
生成オキシダーゼは、例えば、関係するオキシダーゼを自然に生成する(同種生産)適切な産生株を培養することによって、または宿主生物における適切な組換え遺伝子構築物の発現の結果として(異種生産)、生産することができる。さらに、様々なH生成オキシダーゼが市販されており、プロセスの経済性にプラスの影響を与える可能性がある。市販のオキシダーゼの例は、酵母ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来のアルコールオキシダーゼAOX(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、または菌類アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のグルコースオキシダーゼGOX(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)である。市販のグルコースオキシダーゼの別の例は、例えば、製パン産業で用いられる商品名Gluzyme(登録商標)(Novozymes)として市販されている酵素である。H生成オキシダーゼは、発酵により産生されることが好ましい。
【0037】
さらに、H生成オキシダーゼの基質を安価に入手できることは、プロセスの経済的な実行可能性にとって重要である。AOXアルコールオキシダーゼの場合、基質は第一級アルコールであり、好ましくはメタノールまたはエタノールから選択される。AOX酵素は、反応(9)に従って、メタノールからHを生成する:
(9)メタノール+O → ホルムアルデヒドおよびH
【0038】
グルコースオキシダーゼGOXの場合、基質はD-グルコースである。GOX酵素は、反応(10)に従ってグルコースでHを生成する:
(10)D-グルコース+O → D-グルコノ-1,5-ラクトン+H
【0039】
本発明の目的のために、プロセスは、1つ以上の連続する反応バッチにおいて、反応物(出発物質)が、反応条件によって決定される中間体を介して、所定の順序で生成物に変換される、多段階の連続する作業工程として定義される。
【0040】
本発明の目的のために、生物工学的なプロセスは、グルコースオキシダーゼを用いるヒポタウリンからのタウリンの生成等、化合物の生産のための工業的用途における酵素、細胞または生物全体の使用として定義される。生物工学的なプロセスとは対照的に、化学的プロセス工程を特徴とするプロセスが利用可能である。
【0041】
バッチまたは反応バッチは、定義された条件下で反応物が生成物に変換される、反応物(出発物質)、酵素、および任意に他の反応物の混合物として定義される。本発明のバッチまたは反応バッチは、式HN-CH(R)-CH-SOHの少なくとも1種のスルフィン酸、H生成オキシダーゼのクラスから選択される少なくとも1種の酵素、オキシダーゼによって酸化可能な基質、および大気中の酸素Oを含む。
【0042】
生体内変化は、酵素触媒下における反応物の生成物への変換として定義される。本発明の方法は生体内変化である。
【0043】
反応の収率は、単位体積あたりの生成物の絶対量(mMまたはg/L)の体積収率として、またはパーセント収率とも呼ばれる、用いられる反応物の割合としての生成物の相対収率として(反応物および生成物の分子量を考慮する)表すことができる。本発明の文脈において、パーセントで表されるモル収率は、この反応において用いられる式HN-CH(R)-CH-SOのスルフィン酸および式HN-CH(R)-CH-SOHの総モル量に対する、H生成オキシダーゼによって、その基質の存在下で、酵素的に酸化された後の式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸の総モル量を指す。
【0044】
発酵は、培地、温度、pH、酸素供給および培地混合について定義された条件下で産生微生物株を増殖させる培養細胞の生産のためのプロセス工程である。産生株の構成に応じて、発酵の目的は、プロセスにおいてさらに用いるために、タンパク質/酵素および/または代謝産物をそれぞれの場合において可能な限り最高の収量で生産することにある。
【0045】
酵素活性はU/mlで表され、1U/mlは、試験条件下における1mlの試験バッチ中の1μmolの基質/分の変換として定義される。
【0046】
オープンリーディングフレーム(ORF、cdsまたはコーディング配列と同義)は、開始コドンで始まり停止コドンで終わるDNAまたはRNAの領域を指し、タンパク質のアミノ酸配列をコードする。ORFは、コード領域または構造遺伝子とも呼ばれる。
【0047】
遺伝子または発現単位は、生物学的に活性なRNAを産生するためのすべての基本情報を含むDNAのセクションを指す。遺伝子には、転写によって一本鎖RNAコピーが産生されるDNAのセクション、およびこのコピープロセスの調節に関与する発現シグナルが含まれる。発現シグナルは、例えば、少なくとも1つのプロモーター、転写開始点、翻訳開始点およびリボソーム結合部位を含む。ターミネータおよび1つ以上のオペレーターは、追加の可能な発現シグナルである。
【0048】
メッセンジャーRNAとしても知られるmRNAは、タンパク質合成のための遺伝情報を運ぶ一本鎖リボ核酸(RNA)である。mRNAは、細胞内において特定のタンパク質の組み立て指示を提供する。mRNA分子は、タンパク質合成に必要なメッセージを遺伝情報(DNA)からタンパク質合成を担うリボソームに伝える。細胞内において、mRNA分子は、遺伝子に対応するDNAの一部の転写物として形成される。DNAに保存されている遺伝情報は、このプロセスによって変更されることはない。
【0049】
真核生物の遺伝子は、大部分はモザイク遺伝子として知られているものであり、原核生物の遺伝子とは異なり、イントロン(遺伝子内領域)として知られる非コード部分も含む。エクソン(発現領域)として知られるコード配列は、RNAに転写された後、リボソームによってタンパク質のアミノ酸配列に翻訳される真核生物遺伝子のDNAの部分である。DNAからRNAへの転写後、イントロンは一次転写産物からスプライシングされる。イントロンが除去されたタンパク質コードRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)、または「成熟」mRNAと呼ばれる。これは、キャッピングおよびポリアデニル化等のさらなる修飾を受ける。次いで、成熟mRNAのコード領域がタンパク質配列に翻訳される。エクソン/イントロン構造を含む真核生物の遺伝子を原核生物で発現させる場合、エクソン/イントロン構造のプロセシングが原核生物においては行われないため、成熟したmRNAのタンパク質配列またはコード領域をイントロンを含まないDNAに逆翻訳する必要がある。本発明の文脈において、タンパク質配列またはmRNAに由来する遺伝子配列に言及する場合、意味されるのはまさにこの逆翻訳のプロセスである。配列の最適化、すなわち、対応する原核生物のコドン使用への適応(コドン最適化)は、mRNA配列のDNA配列への逆翻訳と同時に起こることが好ましい。
【0050】
オペロンは、複数の遺伝子が単一のプロモーターの制御下で転写されるが、それぞれが独自のリボソーム結合部位から翻訳される高レベルの発現単位として定義される。
【0051】
本発明の文脈において、遺伝子構築物は、少なくとも1つの遺伝子がさらなる遺伝要素(例えば、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、選択マーカー、転写開始点)に連結された環状DNA分子(プラスミド、ベクター)である。遺伝子構築物の遺伝要素は、細胞増殖中にその染色体外遺伝を引き起こし、遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する。
【0052】
本発明の実施例1および2に開示されるように、H生成オキシダーゼは、その酸化可能な基質と組み合わせて、L-システインスルフィン酸およびヒポタウリン等のスルフィン酸を、それぞれ対応するスルホン酸であるL-システイン酸およびタウリンに酸化するのに適している。この観察は斬新で驚くべきものであった。従来技術によれば、大部分は分析スケールでのみ調査されているが(例えば、Chauvin and Pratt, Angew. Chem. Int. Ed. (2017) 56: 6255-6259を参照)、Hは原理的にはスルフィン酸のスルホン酸への酸化に適している。しかしながら、定量的反応のために、Hは、式(8)に従って、少なくとも化学量論量で用いられなければならず、これは、比較的大量のスルホン酸の産生のために、対応する多量のHが必要であることを意味する。したがって、H生成オキシダーゼは古くから知られていたが、比較的大量のスルフィン酸を酸化するのに、アルコールオキシダーゼ反応により生じるHの量とグルコースオキシダーゼ反応により生じるHの量とではどちらが十分であるかは当業者には予測できなかった。
【0053】
したがって、本発明の方法は、生物工学的方法であるだけでなく、工業規模で実施可能であり、コストを要する補因子を必要としないため経済的に好ましい方法であるという利点を有する。
【0054】
実施例3において初めて開示され、従来技術から予想されなかったように、驚くべきことに、グルコースオキシダーゼ/グルコースの使用により、例えばヒポタウリンのタウリンへのほぼ定量的な酸化が、化学合成に適した濃度、すなわち20g/Lで達成された。したがって、本発明は、化学合成工程を回避しながら、食品、動物飼料または医薬品分野において用いるためのタウリン等のスルホン酸の持続可能な生産に対するますます高まる需要に適したバイオテクノロジープロセスを提供する。
【0055】
好ましくは、本発明の方法は、スルフィン酸が2-アミノエタンスルフィン酸(ヒポタウリン)であり、形成されるスルホン酸が2-アミノエタンスルホン酸(タウリン)であることを特徴とする。
【0056】
スルフィン酸をスルホン酸に酸化するための本発明の酵素的な方法は、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは20℃~60℃、特に好ましくは25℃~50℃の温度で行われる。
【0057】
本発明の方法を行うpHは、H生成オキシダーゼの酵素特性に依存する。実施例に記載されているように、アルコールオキシダーゼの反応はpH7.5で行われ、グルコースオキシダーゼの反応はpH5.5で行われた。反応を好適に行うpH範囲はpH3.0~pH8.5、より好ましくはpH4.0~pH8.0、特に好ましくはpH4.5~pH7.5である。
【0058】
本発明の方法は、例えば、インキュベーションシェーカー上で反応バッチを混合することによって生じる受動的な流入、または圧縮空気の移動によって生じるような能動的な流入によって、大気酸素を供給して行われる。
【0059】
温度、pHおよび酸素流入等のパラメータと並んで、本発明の方法におけるH生成オキシダーゼの用量は、反応の変換を決定し、反応が可能な限り低い用量のH生成オキシダーゼで可能な限り短い時間で起こるように選択される。H生成オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼの用量は、好ましくは1U/ml~200U/ml、より好ましくは2U/ml~150U/ml、特に好ましくは4U/ml~100U/mlである。
【0060】
生成オキシダーゼによって酸化可能な基質は、好ましくは、本発明の方法において、スルフィン酸のモル含有量に対して少なくとも等モル量で用いられる(酸化可能な基質に対するスルフィン酸のモル比は、好ましくは少なくとも1:1である)。特に好ましくは、酸化可能な基質に対するスルフィン酸のモル比が少なくとも1:2であり、特に好ましくは少なくとも1:5である。
【0061】
反応時間は、H生成オキシダーゼの用量に依存し、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、特に好ましくは24時間以下である。
【0062】
反応に用いる溶媒は水が好ましい。
【0063】
バッチ中のスルフィン酸の濃度は、好ましくは少なくとも1g/l、より好ましくは少なくとも10g/l、特に好ましくは少なくとも20g/lである。
【0064】
本発明の生体内変化におけるスルフィン酸からスルホン酸へのモル変換は、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%である。
【0065】
スルフィン酸の酸化のための本発明の方法は、不連続式または連続式で行うことができる。不連続式操作(バッチ操作)においては、すべての反応物が反応の過程でバッチに添加され、バッチは反応が終了した後に後処理される。
【0066】
連続式操作においては、オキシダーゼ酵素は、まず、固定相の形態で、例えば膜反応器に充填されるか、または支持体上に固定化され、スルフィン酸、およびH生成オキシダーゼによって酸化可能な基質を含む移動相としての基質が、上述した固定相との接触に供される。移動相と固定相との接触時間は、好ましくは、スルフィン酸が反応してスルホン酸生成物を形成することができるように設定される。
【0067】
不連続(バッチ)操作が好ましい。
【0068】
本発明の酵素的な酸化に由来するスルホン酸は、さらなる後処理工程なしでさらに直接用いられる得、または既知の方法によって濃縮または精製され得る。その場合の濃縮の程度は、その後の使用に依存する。
【0069】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、スルホン酸、より好ましくはタウリンが反応バッチから単離されることを特徴とする。
【0070】
スルホン酸、特にタウリンを単離する方法は、例えばアミノ酸の単離方法から当業者に知られている。例としては、濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿、結晶化が挙げられる。
【0071】
本発明の方法は、対応するスルホン酸へのスルフィン酸の酵素的な酸化のための新規かつ予想外の経路を開示するものであり、L-システイン酸およびタウリンの生物工学的生産に特に適している。
【0072】
本発明の方法において、反応の進行は、開始時、反応中の様々な時間、および反応終了時にスルフィン酸(反応物)およびスルホン酸(生成物)の含有量を測定することによってモニターされる。溶液または細胞培養中の式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸の含有量、例えばヒポタウリンの含有量、または式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸の含有量、例えばタウリンの含有量は、以下のように決定することができる。
【0073】
反応開始時のスルフィン酸反応物の濃度が、少なくとも0.1g/Lであり、HPLCによって決定される、完全な変換を伴う反応終了時のスルホン酸生成物の等量に相当する場合、含有量はバッチのアリコートから直接定量化することができる。これは、ヒポタウリンおよびタウリンについて実施例1に記載されているように、バッチの1mlのアリコートを取り、これを80℃で5分間インキュベートし、次いで、例えば卓上遠心分離機で最大速度で5分間遠心分離することによってすべての固体成分を除去し、関連するスルフィン酸またはスルホン酸について較正されたHPLCによって上清を定量することによって行うことができる。反応開始時のスルフィン酸反応物の濃度が0.1g/L未満である場合、例えば、サンプルを蒸発させ、適切な体積のHO(例えば、10倍の濃度に対応するサンプル体積の10%)に再溶解することにより、スルフィン酸反応物およびスルホン酸生成物の両方の測定精度を高めるために、サンプルを予備濃縮することができる。
【0074】
スルフィン酸を含有する培養ブロスが本発明の方法において用いられる場合、そのまま定量に用いることができる。あるいは、例えば、遠心分離または濾過によって最初に培養ブロスから細胞を除去し、得られたスルフィン酸含有細胞培養の上清を本発明の方法で用いることも可能である。既知の方法によって細胞培養上清からスルフィン酸を単離し、精製されたスルフィン酸を本発明の方法で用いることも可能である。
【0075】
以下の生体内変化アッセイは、本発明の方法を実証し、変換を決定するために用いることができる。
【0076】
スルフィン酸含有溶液または培養物、例えばヒポタウリン含有培養ブロス、好ましくは発酵ブロス、または対応する細胞培養上清、またはヒポタウリン等の精製されたフィン酸または市販のスルフィン酸を用いて、生体内変化バッチが生成される。実験室規模での生体内変化バッチは、10mlのバッチ容量であり、少なくとも0.1g/Lのスルフィン酸を含む(上述したように、培養液/培養ブロス/発酵ブロスから、遠心分離された培養上清から、または精製物質および定量化物として、またはその投与された市販品として)。バッチ容量は生産規模に応じて大きくなり得、例えば、分取規模では少なくとも1Lである。H生成オキシダーゼ、好ましくはAOXまたはGOX、および該オキシダーゼによって酸化可能な基質は、酵素活性の投与量が少なくとも1U/mlとなるように添加される。AOXを用いる場合、少なくとも1%(v/v)のメタノール、すなわち反応バッチ10ml当たり少なくとも0.1mlをAOX酵素の基質として添加する。GOX酵素の基質として、グルコースを少なくとも10g/Lの用量で反応バッチに添加する。生体内変化バッチには、例えば、いずれの場合も空気の導入を伴うインキュベーションシェーカーまたはスターラーによる混合を介して受動的に、または混合を伴うかまたは混合を伴わない圧縮空気または純粋な酸素の導入により能動的に大気中の酸素が供給される。AOXを用いる場合、反応のpHは7.5である。GOXを用いる場合、反応のpHは5.5である。バッチのpHは、例えば、ビュレットからの補正剤(アルカリまたは酸)を計量するpH制御ユニットに接続されたpH電極を備え付けることによって、一定に保つことができる(「pHスタット」法)。反応温度は25℃(AOX)または30℃(GOX)である。反応の進行は、反応物であるヒポタウリンの消費および生成物であるタウリンの形成を通じてモニターすることができ、例えばHPLCによってヒポタウリンおよびタウリンを定量的に決定することが可能である。反応の終了時点は、反応の進行に応じて選択される。選択される反応の終了は、好ましくは式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸、例えばタウリンのモル収率が、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%の時である。次いで、反応バッチ中に形成された式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸は、さらなる使用のために利用可能である。
【0077】
スルフィン酸は、化学的または発酵的な生産に由来し得、本発明の方法で用いられるスルフィン酸は、発酵的生産に由来することが好ましい。より好ましくは、本発明の方法は、スルフィン酸がヒポタウリンであり、これが発酵的生産に由来することを特徴とする。本発明の方法において、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸、例えばヒポタウリンが発酵的生産に由来し、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸、例えばタウリンがそれから形成される場合、本発明によって式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸、例えばタウリンを生産するための生物工学的方法を提供することは大きな利益を有する。この方法には、化学反応的な反応工程は含まれない。
【0078】
式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸、例えばヒポタウリンの生産に適しているのは、細菌株(例えば、E.coli、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis))、藻類(例えば、クラミドモナス・レインハルドチイ(Chlamydomonas reinhardtii)、酵母(例えば、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))または菌類(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))である。
【0079】
式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸がヒポタウリンである場合、ヒポタウリン生産に適した微生物株が用いられる。ヒポタウリン生産に適した微生物株は、KEGG経路データベース「タウリンおよびヒポタウリン代謝」で特定される代謝経路の1つに従って、ヒポタウリンに至る代謝経路を含むことを特徴とする。式(1)および(3)のヒポタウリンの生合成はL-システインから開始するので、システイン生産にも適した微生物株が好ましい。例えば、Wada and Takagi, Appl. Microbiol. Biotechnol. (2006) 73: 48-54に記載されているように、野生型の微生物におけるシステイン生産は厳密に調節されており、これは、先行技術において文書化されているように、調節されたシステイン生合成経路を有する微生物株が、商業的に実行可能な量のヒポタウリンの生産に適していないことを意味する。したがって、調節が解除されたシステイン生合成経路を有するヒポタウリン生産に適した微生物株が好ましい。
【0080】
調節が解除されたシステイン生合成経路を有し、したがってシステイン生産に適した微生物株は、以下の改変のうちの少なくとも1つを示すことを特徴とする:
a)微生物株は、L-セリンによるフィードバック阻害が、対応する野生型の酵素と比較して少なくとも2倍減少している3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(SerA)をコードする改変serA遺伝子の特徴を有し、SerAの酵素活性は、例えばMcKitrick and Pizer, J. Bacteriol. (1980) 141: 235-245に記載されているように、例えばSerAの基質である3-ホスホヒドロキシピルビン酸に依存するNADHの酸化を介して測光的に決定され得る。
3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)の特に好ましい変異体において、L-セリンによるフィードバック阻害は、対応する野生型の酵素と比較して少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、より好ましい実施形態においては少なくとも50倍減少している。
および/または
b)微生物株は、システインによるフィードバック阻害が、対応する野生型の酵素と比較して少なくとも2倍減少しているセリン-O-アセチル-トランスフェラーゼ(CysE)をコードする改変cysE遺伝子を含み(例えば、EP0858510B1またはNakamori et al., Appl. Env. Microbiol. (1998) 64: 1607-1611に記載されているように)、CysEの酵素活性は、例えばNakamori et al., Appl. Env. Microbiol. (1998) 64: 1607-1611)に記載されているように、例えばL-セリンと反応してO-アセチル-L-セリンをもたらす結果として生じる、CysEの基質であるアセチル-CoAの消費を介して測光的に決定され得る。セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(cysE)の特に好ましい変異体において、システインによるフィードバック阻害は、対応する野生型の酵素と比較して少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、より好ましい実施形態においては少なくとも50倍減少している。
および/または
c)微生物株において、細胞外へのシステインの排出は、排出遺伝子の過剰発現の結果として、対応する野生型の細胞と比較して少なくとも2倍増大し、システインの排出は、例えばEP0885962B1に記載されているように、Gaitonde, Biochem. J (1967) 104: 627-633による細胞がシステイン含有量の測光的測定により決定され得る(システイン、シスチン、およびシステインとピルビン酸とから形成される付加物(R)-2-メチルチアゾリジン-2,4-ジカルボン酸を含む)。
排出遺伝子の過剰発現は、野生型の細胞と比較して、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、特に好ましくは少なくとも20倍増大した細胞からのシステイン排出をもたらす。
排出遺伝子は、好ましくは、E.coli由来のydeD(EP0885962B1を参照)、yfiK(EP1382684B1を参照)、cydDC(WO2004/113373A1を参照)、bcr(US2005-221453AAを参照)およびemrAB(US2005-221453AAを参照)、または異なる微生物由来の対応する相同遺伝子に由来する。
【0081】
ヒポタウリンの生産に適した微生物株は、先行技術に従って、好ましくは発酵によるヒポタウリンの生産に用いられる。ヒポタウリン含有培養ブロス、好ましくは発酵ブロスが形成される。副産物として存在する場合、ヒポタウリンおよびタウリンの含有量は、培養ブロスから定量化することができる。これは、少なくとも1.0/mlの細胞密度OD600/mlを有する培養ブロスの1mlアリコートを取り、これを80℃で5分間インキュベートし、次いで、例えば卓上遠心分離機で5分間遠心分離することによってすべての固体成分を除去し、例えば実施例1においてヒポタウリンおよびタウリンについて記載したように、ヒポタウリンおよびタウリンについて較正されたHPLCによって上清を定量化することによって行うことができる。
【0082】
当業者は、同位体分析を用いて、方法においてスルフィン酸として用いることを望むヒポタウリン等の物質が化学的または発酵的な生産に由来するかどうかを決定することができる。区別することができる同位体分析法は、例えばSieper et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. (2006) 20: 2521-2527に記載されており、例えば炭素または窒素の同位体比の決定に基づいており、生成物が化学的(石油ベース)または天然(植物ベース)のどちらの生産に由来するかによって異なる。実施例5に記載されるヒポタウリンの製造方法は、生産株の培養に用いられるグルコースが先行技術による植物ベースの生産に由来するため、天然(植物ベース)の生産方法と見なされる。
【0083】
相同な遺伝子、タンパク質または相同な配列は、該遺伝子のDNA配列またはアミノ酸配列、DNAまたはタンパク質の部分が、少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%同一であることを意味すると理解されるべきである。
【0084】
DNAの同一性の程度は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/に見いだされ、blastnアルゴリズムに基づく「nucleotide blast」プログラムによって決定される。デフォルトのパラメータは、2つ以上のヌクレオチド配列のアラインメントについてのアルゴリズムパラメーターとして機能する。デフォルトの一般パラメータは:最大ターゲット配列=100;短いクエリ=「短い入力配列のパラメータを自動的に調整する」;予想される閾値=10;ワードサイズ=28;短い入力配列のパラメータを自動的に調整する=0である。対応するデフォルトのスコアリングパラメータは:マッチ/ミスマッチスコア=1、-2;ギャップコスト=線形である。
【0085】
タンパク質の配列は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/の「protein blast」プログラムを用いて比較される。このプログラムは、blastpアルゴリズムを用いている。デフォルトのパラメータは、2つ以上のタンパク質の配列のアラインメントについてのアルゴリズムパラメータとして機能する。デフォルトの一般パラメータは:最大ターゲット配列=100;短いクエリ=「短い入力配列のパラメータを自動的に調整する」;予想される閾値=10;ワードサイズ=3;短い入力配列のパラメータを自動的に調整する=0である。デフォルトのスコアリングパラメータは:ギャップコスト=存在:11拡張:1;構成調整=条件付き構成スコアマトリックス調整である。
【0086】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、スルフィン酸がヒポタウリンであること、およびこのヒポタウリンが細菌生産に由来すること、すなわち細菌生産株を用いて生産されたものであることを特徴とする。細菌生産株は、好ましくはエシェリヒア・コリ種の株である。
【0087】
好ましい細菌生産株は、システイン生産に適しているという特徴も有する。システイン生産に適した好ましい株は、実施例に開示されているE.coli K12 W3110×pCys株およびE.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCys株である。本発明の実施例5に開示されるように、株W3110×pCysに由来する株W3110×pCys-CDOrn-CSADhsおよび株W3110-ppsA-MHI×pCysに由来するW3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhsにおいてシステインジオキシゲナーゼをコードするCDO遺伝子およびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼをコードするCSAD遺伝子の異種発現は、ヒポタウリンの産生とわずかなタウリンのみをもたらす。
【0088】
ppsA-MHIと呼ばれる微生物株は、Wt-ppsA遺伝子のコード配列を欠くこと、およびこれが配列番号10のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする配列番号9のppsA-MHIcdsによって置換されていることを特徴としている。
【0089】
ppsAは、KEGGデータベースにおいてEC2.7.9.2と指定される酵素クラスの酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を指す。対応するタンパク質は、PpsAまたはホスホエノールピルビン酸シンターゼ(PEPシンターゼ)とも呼ばれ、またはホスホエノールピルビン酸-HOジキナーゼとも同義である。酵素クラスは、下記の式に従う可逆反応においてホスホエノールピルビン酸からピルビン酸を生成できると定義される。
(11)ホスホエノールピルビン酸+リン酸塩+AMP←→ピルビン酸+HO+ATP
【0090】
実施例6に開示されるように、このようなバッチからのヒポタウリンは、D-グルコースと共にグルコースオキシダーゼを用いることにより、未知の方法でタウリンに完全に変換することができる。したがって、本発明の方法は、ヒポタウリンの生合成生産とそのタウリンへの酵素的な酸化とを組み合わせることによって、タウリンの生物工学的生産を可能にする。
【0091】
方法の開発および単純化において、ヒポタウリン生産株においてH生成オキシダーゼを発現させることも考えられる。適切なH生成オキシダーゼの遺伝子は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)等のデータベースにおいて同定することができる。E.coliにおいて生産される異種グルコースオキシダーゼの例は、ペニシリウム・アマガサキエンセ(Penicillium amagasakiense)由来のGOX遺伝子である(Witt et al., App. Environ. Microbiol (1998) 64: 1405-1411)。
【0092】
タウリンを生産するための生物工学的方法が好ましく、この方法では、第1段階で、生産株を培養することによりヒポタウリンが生産され、第2段階で、形成されたヒポタウリンがさらに処理されることなく酵素的にタウリンに酸化され、グルコースオキシダーゼ/D-グルコースによるヒポタウリンのタウリンへの酵素的酸化が特に好ましい。本発明の実施例において、ヒポタウリンの生物工学的生産(実施例5)およびそのヒポタウリンのタウリンへの酵素的酸化(実施例6)が開示されている。
【0093】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、スルフィン酸がヒポタウリンであること、およびこのヒポタウリンが細菌産生に由来すること、すなわち調節が解除されたシステイン生合成経路を有する細菌生産株を用いて生産されることを特徴とする。調節が解除されたシステイン生合成経路を有する微生物株は、上述した定義の通りである。
【0094】
より好ましくは、システインが最初に生成され、これが式(1)に従って生産株に存在するCDO酵素を介してシステインスルフィン酸にさらに反応し(CDO反応)、式(3)に従って生産株に同様に存在するCSAD酵素を介してヒポタウリンに反応する(CSAD反応)。
【0095】
特に好ましくは、本方法は、スルフィン酸が、細菌生産株によって生産されるヒポタウリンであること、および生産株が株E.coli K12 W3110×pCYS-CDOrn-CSADhsまたは株E.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCYS-CDOrn-CSADhs株の1つであり、より好ましくは株E.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCYS-CDOrn-CSADhsであることを特徴とする。
【0096】
したがって、本発明は、ヒポタウリンの生物工学的生産のための生産株も実証する。特に好ましい出発株は、システイン生産に適した株E.coli K12 W3110×pCysまたは株E.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCysの1つである。本発明の実施例4に記載されるように、ベクターpCys(図1)は、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする配列番号1のラタス・ノルベギカス(Rattus norvegicus)由来のシステインジオキシゲナーゼ(CDorn)の遺伝子、および配列番号4のアミノ酸配列を有する配列番号3のnt1~nt1509のホモ・サピエンス(homo sapiens)由来のL-システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSADhs)で伸長される。これにより、ヒポタウリンの生産に適したベクターpCys-CDOrn-CSADhsがもたらされる(図2)。
【0097】
本発明において用いられるCDO遺伝子は、ラタス・ノルベギカス種に限定されるものではない。式(1)のmRNA由来遺伝子産物(タンパク質)がL-システインをL-システインスルフィン酸に酸化するのに適した任意のCDO遺伝子が適している。そのようなタンパク質は、例えば、NCBIデータベースにおいて、「protein」のサブデータベースで、検索用語を「システインジオキシゲナーゼ」として、CDOタンパク質を検索することにより見出すことができる。従来技術から公知であり、それらに限定されない他のCDOタンパク質は、好ましくは、ホモ・サピエンス(ヒト)、シプリナス・カルピオ(Cyprinus carpio)(コイ)またはシネココッカス(Synechococcus)(藻類)に由来するCDOタンパク質、またはそれらと70%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質、より好ましくはそれらと80%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質であり、特に好ましくは、CDOタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2で特定される配列を有し、配列番号1で特定されるDNA配列によってコードされる。
【0098】
同様に、用いられるCSAD遺伝子は、ホモ・サピエンス種に限定されるものではない。式(3)のmRNA由来遺伝子産物(タンパク質)がL-システインスルフィン酸をヒポタウリンに脱炭酸するのに適した任意のCSAD遺伝子が適している。そのようなタンパク質は、例えば、NCBIデータベースにおいて、「protein」のサブデータベースで、検索用語を「システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ」として、CSADタンパク質を検索することにより見出すことができる。従来技術から公知であり、それらに限定されない他のCSADタンパク質は、好ましくは、ラタス・ノルベギカス(ラット)、シプリナス・カルピオ(コイ)、シネココッカス(藻類)またはE.coli由来のCSADタンパク質、またはそれらと70%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質、より好ましくはそれらと80%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質であり、特に好ましくは、CSADタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号4で特定される配列を有し、nt1-1509からの配列番号3で特定されるDNA配列によってコードされる。
【0099】
CDO遺伝子およびCSAD遺伝子を含む遺伝子構築物、例えば、特に好ましくは構築物pCys-CDOrn-CSADhsは、例示目的で実施例4に詳述されているように、当業者に公知の組換えDNA技術を用いて先行技術に従って生成することができる。
【0100】
これは、システインジオキシゲナーゼをコードするCDO遺伝子およびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼをコードするCSAD遺伝子を、この目的に適したベクターにクローニングすることによって行われる。原則として、CDO遺伝子およびCSAD遺伝子を生産株で発現させることができる任意のベクターが適している。
【0101】
CDO遺伝子およびCSAD遺伝子を含む遺伝子構築物を生成するために、CDO遺伝子およびCSAD遺伝子は、それぞれが独自のプロモーターおよび任意にターミネーターを伴って別々の発現ユニットとしてベクターにクローニングされ得、または単一のプロモーターの制御下にあるオペロンとして任意の所望の配列にクローニングされ得る。また、それぞれ独自のリボソーム結合部位を有するCDO遺伝子およびCSAD遺伝子が、ベクターに既に存在する遺伝子の1つの後にクローニングされ、当該遺伝子のプロモーターの制御下で発現されるオペロン構造も可能である。さらに、CDO遺伝子およびCSAD遺伝子について、それら自身のプロモーター下、かつオペロンの形態での考えられる他のすべての発現の組み合わせが可能である。
【0102】
CDO遺伝子およびCSAD遺伝子が、調節が解除されたシステイン生合成を保証するベクター、例えばpCysとは独立した別個の発現単位として別個のベクターにクローニングされること、またはE.coli等の宿主生物のゲノムに組み込まれることも考えられる。
【0103】
CDO遺伝子およびCSAD遺伝子の発現の好ましい形態は、いずれについても独自のリボソーム結合部位(RBS)を伴い、独自のプロモーターを有さない人工オペロンの形態である。
【0104】
特に好ましくは、ベクターは、pCysに存在するserA317遺伝子の後にCDO遺伝子およびCSAD遺伝子がクローニングされ、その結果、それらの発現が以下の発現ユニットの配列に従ってserA317プロモーターの制御下で起こるpCys-CDOrn-CSADhsである:serAプロモーター→(serA317-cds)→RBS-(CDOrn-cds)→RBS-(CSADhs-cds)-rrnBターミネーター。発現ユニットが、CSADcdがCDOcdの前に配置される構成であることも可能である。
【0105】
pCys-CDOrn-CSADhsは、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA遺伝子)のフィードバック耐性バリアントserA317、セリンO-アセチルトランスフェラーゼ(cysE遺伝子)のフィードバック耐性バリアントCysEX、およびシステイン排出タンパク質のydeD遺伝子の発現ユニットを含めることにより、システイン生合成の調節の解除を確実にするという追加の特徴を有する。本発明は、遺伝子serA317、cysEXおよびydeDの少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つが存在するベクターに関し、関係する遺伝子は任意の所望の選択および配列でベクター中に存在することが可能である。
【0106】
CDOおよびCSADがベクターにクローン化されると、これは既知の方法で適切な宿主株に形質転換される。適切な宿主株は、組換えDNA技術にアクセス可能であり、かつ組換えタンパク質の発酵的生産に適している任意の微生物である。好ましい宿主株は、エシェリヒア・コリ種の株であり、より好ましくはE.coli K12 W3110株またはE.coli K12 W3110-ppsA-MHI株である。特に好ましくはW3110×pCys-CDOrn-CSADhsまたはW3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhs等の形質転換から得られる株は、実施例5に記載されるように、ヒポタウリンの生産に適している。
【0107】
特に好ましくは株E.coli K12 W3110×pCys-CDOrn-CSADhsまたは株E.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhsの1つを用いたヒポタウリンの生産は、振盪フラスコ中で培養するか(実施例5)、または生産規模で株を発酵させることによって達成することができる。
【0108】
本発明の方法において、形成されたヒポタウリンは、酵素的酸化によってタウリンに変換される。これは、ヒポタウリン含有細胞培養物を、その基質の存在下でH生成オキシダーゼと共に、例えばグルコースの存在下でグルコースオキシダーゼと共にインキュベートすることによって行われる(実施例6参照)。
【0109】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、スルフィン酸がシステインスルフィン酸であり、形成されるスルホン酸がシステイン酸であることを特徴とする。
【0110】
好ましくは、本発明の方法は、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸のモル収率が、式HN-CH(R)-CH-SOHのスルフィン酸および式HN-CH(R)-CH-SOHのスルホン酸の用いられる添加モル濃度に基づいて、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%である。スルフィン酸の使用量は、好ましくは少なくとも1mM(109.2mg/L)、より好ましくは少なくとも10mM(1.1g/L)、特に好ましくは少なくとも100mM(10.9g/L)である。
【0111】
モル収率の値を決定するために、酵素的酸化に用いられるスルフィン酸およびスルホン酸のモル含有量は、従来技術で知られているように、HPLCによって反応の開始時点および終了時点に決定される。例えば、その決定は、ヒポタウリンの分子量109.2g/molおよびタウリンの分子量125.2g/molに基づいて、実施例1に記載されるように行うことができる。反応開始時点のスルフィン酸およびスルホン酸の全モル含有量に対する反応終了時点のバッチ中のスルホン酸のモル含有量は、スルホン酸のモル収率をパーセントで与える。
【図面の簡単な説明】
【0112】
図は、実施例で用いられるプラスミドを示す。
図1】pCys
図2】pCys-CDOrn-CSADhs
図3】pKD46
図4】pKan-SacB
【0113】
図中で用いられる略語:
bla:アンピシリン(β-ラクタマーゼ)耐性遺伝子
kanR:カナマイシン耐性遺伝子
araC:araC遺伝子(リプレッサー遺伝子)
ParaC:araC遺伝子のプロモーター
ParaB:araB遺伝子のプロモーター
Gam:ラムダファージGam組換え遺伝子
Bet:ラムダファージBet組換え遺伝子
Exo:ラムダファージExo組換え遺伝子
ORI101:温度感受性複製起点
RepA:プラスミド複製タンパク質Aの遺伝子
sacB:レバンスクラーゼ遺伝子
pr-f:プライマーの結合部位f(フォワード)
pr-r:プライマーの結合部位r(リバース)
OriC:複製起点C
TetR:テトラサイクリン耐性遺伝子
P15AORI:複製起点
serA317:serA(アミノ酸1~317をコードする3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子)cds
cysEX:cysE(セリンO-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、フィードバック耐性)cds
ORF306:ydeD(システイン排出遺伝子)cds
ScaI:制限酵素ScaIの切断部位
PpuMI:制限酵素PpuMIの切断部位
CDOrn:CDO(システインジオキシゲナーゼ)R.norvegicus cds
CSADhs:CSAD(システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ)H.sapiens cds
RBS:リボソーム結合部位
【0114】
以下の実施例は、本発明を限定することなくさらに説明するのに役立つ。
【実施例
【0115】
実施例1:アルコールオキシダーゼ(AOX)によるヒポタウリンとシステインスルフィン酸の酸化
A)AOXによるシステインスルフィン酸のシステイン酸への酸化:
この反応は、2つの並行するバッチ、すなわちAOXありおよびなしで調査された。12mgのL-システインスルフィン酸一水和物(Sigma-Aldrich)を2つの100mlコニカルフラスコのそれぞれに秤量し;これをpH7.5の100mMリン酸ナトリウム9.9mlに溶解し、0.1mlのメタノールを添加した(最終濃度1%v/v)。反応を開始するために、pH7.5の100mMリン酸ナトリウム中のピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Sigma-Aldrich)由来のAOXの市販の溶液30μlを1つのバッチに入れた。製造者の酵素活性に関する情報によると、バッチ中のAOX活性は5U/mlであった。AOXを含まない2番目のバッチ(比較バッチ)をpH7.5の100mMリン酸ナトリウム30μlで処理した。バッチを25℃および140rpmで振盪した(Inforsインキュベーターシェーカー)。反応開始時および反応開始から5時間後に、各バッチから1mlを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清をHPLCで分析した。開始時(0時間)および5時間の反応時間後の、AOXありのバッチおよびAOXなしのバッチにおけるL-システインスルフィン酸およびL-システイン酸の含有量を表1にまとめる。
【0116】
【表1】
【0117】
B)AOXによるヒポタウリンのタウリンへの酸化:
この反応は、2つの並行するバッチ、すなわちAOXありおよびなしで調査された。12mgのヒポタウリン(Sigma-Aldrich)を2つの100mlコニカルフラスコのそれぞれに秤量し;これをpH7.5の100mMリン酸ナトリウム9.9mlに溶解し、0.1mlのメタノールを添加した(最終濃度1%v/v)。反応を開始するために、pH7.5の100mMリン酸ナトリウム中のピキア・パストリス(Sigma-Aldrich)由来のAOXの市販の溶液30μlを1つのバッチに入れた。製造者の酵素活性に関する情報によると、バッチ中のAOX活性は5U/mlであった。AOXを含まないバッチ(比較バッチ)をpH7.5の100mMリン酸ナトリウム30μlで処理した。バッチを25℃および140rpmで振盪した(Inforsインキュベーターシェーカー)。反応開始時および反応開始から5時間後に、各バッチから1mlを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清をHPLCで分析した。開始時(0時間)および5時間の反応時間後の、アルコールオキシダーゼ(AOX)ありのバッチおよびアルコールオキシダーゼなしのバッチにおけるヒポタウリンおよびタウリンの含有量を表2にまとめる。
【0118】
【表2】
【0119】
L-システインスルフィン酸、L-システイン酸、ヒポタウリンおよびタウリンのHPLC分析:
実施例において定量分析した化合物の定量には、L-システインスルフィン酸、L-システイン酸、ヒポタウリンおよびタウリンについてそれぞれ較正したHPLC法を用い;較正に用いた参照物質はすべて市販されているものである(Sigma-Aldrich)。アミノ酸の分析から公知であるように、同じ製造者からのo-フタルジアルデヒドによるプレカラム誘導体化(OPA誘導体化)のためのユニットを備えたAgilent 1260 Infinity II HPLCシステムを用いた。L-システインスルフィン酸、L-システイン酸、ヒポタウリンおよびタウリンのOPA誘導体化生成物を検出するために、HPLCシステムに蛍光検出器を備え付けた。検出器を、330nmの励起波長および450nmの発光波長に設定した。また、Thermo Scientific(商標)製の長さ100mm、内径4.6mm、粒径2.6μmのAccucore(商標)aQカラムを、カラムオーブン内で40℃で熱的に平衡化して用いた。
溶離液A:pH6.0の25mMリン酸ナトリウム
溶離液B:メタノール
【0120】
分離はグラジエントモードで行った:0.5ml/分の流速で、0~25分間で10%溶離液Bから60%溶離液Bへ、続いて2分間で60%溶離液Bから100%溶離液Bへ、続いてさらに2分間で100%溶離液Bまで。L-システイン酸の保持時間:3.2分。L-システインスルフィン酸の保持時間:4.1分。タウリンの保持時間:14.8分。ヒポタウリンの保持時間:15.7分。
【0121】
実施例2:グルコースオキシダーゼ(GOX)によるヒポタウリンおよびシステインスルフィン酸の酸化
A)GOXによるシステインスルフィン酸のシステイン酸への酸化:
この反応は、2つの並行するバッチ、すなわちGOXありおよびなしで調査された。12mgのL-システインスルフィン酸一水和物(Sigma-Aldrich)を2つの100mlコニカルフラスコのそれぞれに秤量し;これをpH5.5の100mM酢酸ナトリウム9.5mlに溶解し、同じ緩衝液中の200g/Lグルコース溶液0.5mlを添加した。反応を開始するために、pH5.5の100mM酢酸ナトリウム中のアスペルギルス・ニガー(Sigma-Aldrich)由来のGOXの市販の溶液50μlを1つのバッチに入れた。製造者の情報によると、バッチ中のGOX活性は5U/mlであった。GOXを含まないバッチ(比較バッチ)をpH5.5の100mM酢酸ナトリウム50μlで処理した。バッチを30℃および140rpmで振盪した(Inforsインキュベーターシェーカー)。反応開始時および反応開始から5時間後に、各バッチから1mlを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清を上述したようにHPLCにより分析した。
【0122】
開始時(0時間)および5時間の反応時間後の、GOXありのバッチおよびGOXなしのバッチにおけるL-システインスルフィン酸およびL-システイン酸の含有量を表3にまとめる。
【0123】
【表3】
【0124】
B)GOXによるヒポタウリンのタウリンへの酸化:
この反応は、2つの並行するバッチ、すなわちGOXありおよびなしで調査された。12mgのヒポタウリン(Sigma-Aldrich)を2つの100mlコニカルフラスコのそれぞれに秤量し;これをpH5.5の100mM酢酸ナトリウム9.5mlに溶解し、同じ緩衝液中の200g/Lグルコース溶液0.5mlを添加した。反応を開始するために、pH5.5溶液の100mM酢酸ナトリウム中のアスペルギルス・ニガー(Sigma-Aldrich)由来のGOXの市販の溶液50μlを1つのバッチに入れた。製造者の情報によると、バッチ中のGOX活性は5U/mlであった。GOXを含まないバッチ(比較バッチ)をpH5.5の100mM酢酸ナトリウム50μlで処理した。バッチを30℃および140rpmで振盪した(Inforsインキュベーターシェーカー)。反応開始時および反応開始から5時間後に、各バッチから1mlを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清を上述したようにHPLCにより分析した。
【0125】
開始時(0時間)および5時間の反応時間後の、GOXありのバッチおよびGOXなしのバッチにおけるヒポタウリンおよびタウリンの含有量を表4にまとめる。
【0126】
【表4】
【0127】
実施例3:GOXによるヒポタウリンのタウリンへの予備的酸化
この反応は、2つの並行するバッチで、すなわち異なる用量の酵素GOXで調査され、酸化されるヒポタウリン基質の濃度は、それぞれの場合で20g/Lであった。
【0128】
バッチ1では、200mgのヒポタウリン(Sigma-Aldrich)を100mlの三角フラスコに秤量し、pH5.5の100mM酢酸ナトリウム6.95mlに溶解し、同じバッファー中の200g/Lのグルコース溶液3mlを添加した。反応を開始するために、pH5.5の100mM酢酸ナトリウム中のアスペルギルス・ニガー由来のGOX(Sigma-Aldrich)の市販の溶液50μlを添加した。製造者の酵素活性に関する情報によると、バッチ中のGOX活性は5U/mlであった。
【0129】
バッチ2では、200mgのヒポタウリン(Sigma-Aldrich)を100mlの三角フラスコに秤量し、pH5.5の100mM酢酸ナトリウム6.5mlに溶解し、同じバッファー中の200g/Lグルコース溶液3mlを添加した。反応を開始するために、pH5.5の100mM酢酸ナトリウム中のアスペルギルス・ニガー由来のGOX(Sigma-Aldrich)の市販の溶液500μlを添加した。製造者の酵素活性に関する情報によると、バッチ中のGOX活性は50U/mlであった。
【0130】
バッチ1および2を、30℃および140rpmで振盪した(Inforsインキュベーターシェーカー)。反応開始から3時間、6時間および24時間後に、各バッチの1mlアリコートを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清を上述したようにHPLCにより分析した。時間経過に伴う反応の経過を表5にまとめる。
【0131】
【表5】
【0132】
実施例4:ヒポタウリン生産株E.coli K12 W3110×pCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhsの作製
システインジオキシゲナーゼCDOrn:
CDOrn:ラタス・ノルベギカス由来のシステインジオキシゲナーゼのアミノ酸配列は、配列ID:AAH70509.1としてNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに開示されている。アミノ酸配列を用いて、E.coliにおける発現のためにコドンが最適化されたDNA配列を導き出し(公開されているEurofins Genomics GENEiusソフトウェア)、それを合成的に生成した(Eurofins Genomics)。CDOrnと命名されたこのDNA配列は、配列番号1に開示され、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
【0133】
システインスルフィン酸デカルボキシラーゼCSADhs:
ホモ・サピエンス由来のシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSADhs)のアミノ酸配列は、配列ID:XP_016861786.1としてNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに開示されている。アミノ酸配列を用いて、E.coliにおける発現のためにコドンが最適化されたDNA配列を導き出した(公開されているEurofins Genomics GENEiusソフトウェア)。CSADhsと命名されたこのDNA配列は、配列番号3のnt1~1509に開示され、配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。E.coli rrnBターミネーターのDNA配列(配列番号:3のnt1510~1842)をnt1509に結合させた。rrnBターミネーターのDNA配列は、Orosz et al., Eur. J. Biochem. (1991) 201: 653-659に開示されている。CSADhs cdsおよびrrnBターミネーターからなる配列番号3に開示されるDNAは、合成的に生成され(Eurofins Genomics)、CSADhs-rrnBと命名された。
【0134】
ベクターpCys-CDOrn-CSADhsの作製:
-ベクターpCys(図1)は、EP0885962B1に開示されるプラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306の誘導体であるプラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317を指す。プラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306には、複製起点およびテトラサイクリン耐性遺伝子(親ベクターpACYC184)だけでなく、システインによるフィードバック阻害が低減したセリンO-アセチルトランスフェラーゼをコードするcysEX対立遺伝子、および排出遺伝子ydeD(ORF306)も含まれており、その発現は構成的GAPDHプロモーターによって制御される。
【0135】
pACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317を得るために、E.coli由来のSerAタンパク質のN末端の317アミノ酸をコードし、Bell et al., Eur. J. Biochem. (2002) 269: 4176-4184(その中では「NSD:317」と呼ばれる)に開示されているserA317遺伝子断片が、pACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306のydeD(ORF306)排出遺伝子の後にクローニングされた。SerA317は、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼのセリンフィードバック耐性バリアントをコードする。serA317の発現は、serAプロモーターによって調節される。
【0136】
調節が解除された生合成の結果として、pCysで形質転換されたE.coli細胞は、誘導産物であるシステインスルフィン酸とヒポタウリンの開始産物であるシステインを生産する。
【0137】
-ベクターpCys-CDOrn-CSADhs(図2):
pCysをScaIおよびPpuMIにより切断した。それによって得られた6.1kbのベクター断片を、分取アガロースゲル電気泳動(QIAquick(登録商標)Gel Extraction Kit、Qiagen)によって単離した。
【0138】
CDOrn DNAを、プライマーcdorn-1f(配列番号5)およびcsadhs-2r(配列番号:6)を用いて、PCR(「Phusion(商標)High Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標))によって配列番号1の合成DNA(CDOrn)から増幅し、0.6kbの断片として単離した。
【0139】
プライマーcdorn-1fは、5’末端から始まり、ScaI消化により得られた6.1kbのpCys ScaI/PpuMIベクター断片(配列番号5のnt1~28)の3’末端と重複する28nt、リボソーム結合部位(RBS)(配列番号5のnt31~36)、およびCDOrn cdsの最初の22nt(配列番号5のnt44~65)を含んでいた。
【0140】
プライマーcsadhs-2rは、5’末端から始まり、CSADhs cdsの開始点と重複する22nt(配列番号:6のnt1~22)、その後にリボソーム結合部位(配列番号6のnt30~35)およびCDOrn cdsの最後の20nt(配列番号6のnt38~57)を逆相補体形態で含んでいた。
【0141】
-DNA断片を、CSADhs-rrnBDNA:プライマーcsadhs-3f(配列番号7)およびglf-2r(配列番号8)を用いて、PCR(「Phusion(商標)High Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標))によって配列番号3(CSADhs-rrnB)の合成DNAから増幅し、1.8kbの断片として単離した。
【0142】
プライマーcsadhs-3fは、5’末端から始まり、CDOrn cdsの3’末端と重複する20nt(配列番号7のnt1~20)、リボソーム結合部位(配列番号7のnt23~28)、およびCSADhs cdsの最初の22nt(配列番号7のnt36~57)を含んでいた。
【0143】
プライマーglf-2rは、5’末端から始まり、PpuMI消化により得られた6.1kbのpCys ScaI/PpuMIベクター断片(配列番号8のnt1~33)の5’末端と重複する33nt、その後にrrnBターミネーターの最後の22nt(配列番号8のnt34~55)を逆相補体形態で含んでいた。
【0144】
-ベクターpCys-CDOrn-CSADhs:6.1kbのpCys ScaI/PpuMIベクター断片、0.6kbのCDOrnのPCR産物(CDOrn DNA)、および1.8kbのCSADhs-rrnBのPCR産物(CSADhs-rrnBDNA)を、NEBuilder(登録商標)クローニングキット(NEB New England Biolabs)を用いて、製造元の指示に従ってライゲーションした。
【0145】
次いで、E.coli NEB(登録商標)10-ベータ細胞(NEB New England Biolabs)をライゲーション混合物で形質転換した。形質転換からのクローンをLBtetで選択した。LBtetには、10g/Lのトリプトン(Gibco(商標))、5g/Lの酵母抽出物(BD Biosciences)、5g/LのNaCl、15g/Lの寒天、および15mg/Lのテトラサイクリン(Sigma-Aldrich)が含まれていた。形質転換からの単一クローンを、LBtet液体培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl、および15mg/Lのテトラサイクリン)で培養し、培養物中の細胞ペレットからベクターを単離することによって分析した。正しい8.5kbベクターは、pCys-CDOrn-CSADhsと命名された(図2)。
【0146】
-E.coli W3110株:
用いた株は、E.coli K12 W3110(DSMZ:Deutsche Sammmlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH[German Collection of Microorganisms and Cell Cultures]から株番号DSM5911として市販されている)であった。
【0147】
-E.coli W3110-ppsA-MHI株:
用いた株は、E.coli K12 W3110-ppsA-MHIであった。E.coli K12 W3110-ppsA-MHIは、配列番号10のタンパク質配列を有するタンパク質をコードする変異ppsA遺伝子ppsA-MHI(配列番号9)およびPEPシンターゼ(KEGGデータベースにおいてEC2.7.9.2で指定される酵素クラス)の酵素活性を特徴とする。E.coli K12 W3110-ppsA-MHIは、当業者に公知の遺伝子改変のためのラムダ-レッド組換えおよびカウンターセレクションスクリーニングの組み合わせを用いることによって生産された(例えば、ee for example Sun et al., Appl. Env. Microbiol. (2008) 74: 4241-4245)。E.coli K12 W3110のppsAWT遺伝子をppsA-MHIと置換するために、以下の手順を行った。
1)E.coli K12 W3110をプラスミドpKD46(図3、アクセス番号AY048746.1として「GenBank」遺伝子データベースに開示される)で形質転換し、E.coli W3110×pKD46株を単離した(アンピシリン選択)。
2)プラスミドpKan-sacB(図4)から、3.2kbのKan-sacBカセットを、プライマーpps-9f(配列番号11、図4において「pr-f」と指定された部位に結合する)、およびpps-10r(配列番号12、図4において「pr-r」と指定された部位に結合する)を用いたPCRによって単離した。プラスミドpKan-sacBには、カナマイシン(Kan)耐性遺伝子および酵素レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子の両方の発現カセットが含まれていた。アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼをコードするE.coliのカナマイシン耐性遺伝子(Kan)は、アクセス番号SH02_03400としてNCBIデータベースに開示されている。B.subtilisのsacB遺伝子は、アクセス番号936413としてNCBIデータベースに開示されている。
プライマーpps-9fは、ppsA WT遺伝子の最初の30nt(配列番号9のnt1~30と同一)、およびそれに接続された、図4において「pr-f」と指定された部位の20ntを含む。プライマーpps-10rは、ppsA WT遺伝子の最後の30nt(配列番号9のnt2350~2379と同一)、およびそれに接続された、図4において「pr-r」と指定された部位の20ntを逆補体形態で含む。
E.coli W3110×pKD46を3.2kbのKan-sacBカセットで形質転換し、カナマイシン耐性クローンを単離した。
4)得られたクローンをLBSCプレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、7%のスクロース、1.5%の寒天、および15mg/Lのカナマイシン)に播種した。組み込まれたsacB遺伝子を有するクローンは、スクロースから有毒なレバンを生成し、これにより成長阻害(スクロース感受性)がもたらされた。カナマイシン耐性でスクロース感受性のクローンを選択し、W3110-ppsA::Kan-sacB×pKD46と命名した。
5)W3110-ppsA::Kan-sacB×pKD46をppsA-MHI遺伝子のDNA(配列番号9、Eurofins Genomicsから合成的に生成)で形質転換し、クローンをカナマイシンを含まないLBSプレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、7%のスクロース、1.5%の寒天)で選抜した。活性なsacB遺伝子を含まなくなったクローンのみがLBSプレートで増殖することができた。これらのクローンをLBkanプレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、5g/LのNaCl、1.5%の寒天、15mg/Lのカナマイシン)に播種し、活性なKan遺伝子をも含んでおらず、その増殖がカナマイシンの存在下で阻害されるクローンを選抜した。
6)スクロース存在下で正の増殖を示し、カナマイシン存在下で負の増殖を示すクローンを選抜し、PCRにより株のゲノムDNAからppsAMHI遺伝子を単離し、DNAシーケンシング(Eurofins Genomics)により、配列番号9に開示されるDNA配列を有するppsAMHI遺伝子が組み込まれており、配列番号10からの配列に対応するタンパク質をコードしていることを確認した。42℃でのインキュベーションによるプラスミドpKD46の除去後、この株を、E.coli W3110-ppsA-MHIと命名した。
【0148】
-生産株:ベクターpCys-CDOrn-CSADhsのプラスミドDNAを、E.coli K12 W3110株およびE.coli K12 W3110-ppsA-MHI株に形質転換した。比較のために、E.coli K12 W3110およびE.coli K12 W3110-ppsA-MHIをベクターpCysで形質転換した。LBtetで形質転換体を選抜した。それぞれの場合について1つのクローンを単離した。株を、それぞれE.coli K12 W3110×pCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli K12 W3110×pCysと命名し、同様に、E.coli K12 W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCysと命名した。E.coli K12 W3110xpCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCys-CDOrn-CSADhsを、ヒポタウリンの生産のための生産株として用いた。
【0149】
実施例5:振盪フラスコにおけるヒポタウリンの生産
LBtet液体培地における前培養物を、E.coli K12 W3110xpCys-CDOrn-CSADhs、E.coli K12 W3110xpCys、E.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCysから作製した(37℃、120rpmで一晩培養した)。
【0150】
本培養物:0.5mln前培養物を、15g/Lのグルコース、2g/LのNa・5HO、0.1g/LのL-イソロイシン、0.1g/LのD,L-メチオニン、0.1g/LのL-スレオニン、5mg/LのビタミンB、および15mg/Lのテトラサイクリンを含む30mlのSM1-Ac培地を入れた300mlのコニカルフラスコ(バッフル付き)に入れた。
【0151】
SM1-Ac培地の組成:12g/LのKHPO、3g/LのKHPO、5g/LのNHアセテート、0.3g/LのMgSO・7HO、0.015g/LのCaCl・2HO、0.002g/LのFeSO・7HO、1g/Lのクエン酸三ナトリウム二水和物、0.1g/LのNaCl;1ml/Lの微量元素溶液。
【0152】
微量元素溶液の組成:0.15g/LのNaMoO・2HO、2.5g/LのHBO、0.7g/LのCoCl・6HO、0.25g/LのCuSO・5HO、1.6g/LのMnCl・4HO、0.3g/LのZnSO・7HO。
【0153】
本培養物を、インキュベーターシェーカー(Infors)中で、30℃、140rpmで24時間インキュベートした。24時間後、1mlのサンプルを採取し、Thermo Scientific(商標)製のGenesys(商標) 10S UV/可視分光光度計を用いて、細胞密度OD600/ml(600nmで測光的に測定した本培養物の光学密度)を測定し、ヒポタウリンおよびタウリンの量をHPLCによって測定した。HPLCにより測定された培養上清中のヒポタウリンの含有量は、E.coli K12 W3110×pCys-CDOrn-CSADhsについて157.3mg/L(培養物の細胞密度OD600/ml:5.3/ml)であった。培養上清中のタウリンの含有量は52.8mg/Lであった。
【0154】
E.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCys-CDOrn-CSADhs(培養物の細胞密度OD600/ml:7.1/ml)について、HPLCにより測定された培養上清中のヒポタウリンの含有量は1059.2mg/Lであり、タウリンの含有量は304.1mg/Lであった。
【0155】
2種の比較株E.coli K12 W3110xpCys(培養物の細胞密度OD600/ml:6.1/mL)およびE.coli K12 W3110-ppsA-MHIxpCys(培養物の細胞密度OD600/ml:7.5/ml)については、ヒポタウリンもタウリンも検出できなかった。
【0156】
実施例6:振盪フラスコ培養からタウリンへのヒポタウリンの酸化
E.coli W3110×pCys-CDOrn-CSADhsおよびE.coli W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhs(実施例5)の振盪フラスコ培養物からの各バッチ10mlを、4000rpmで10分間遠心分離し(Heraeus(商標)Megafuge(登録商標)1.0R)、それぞれの上清9.4mlを100mlコニカルフラスコに移し、0.7MのNaOHでpH5.5に調整した。これに、HO中のグルコースの200g/L溶液0.5ml(混合物中の最終濃度10g/L)、およびpH5.5の100mM酢酸ナトリウム中のアスペルギルス・ニガー由来のGOXの1U/μlストック溶液100μl(Sigma-Aldrich)(最終濃度10U/ml)を添加し、バッチ(容量10ml)をインキュベーターシェーカー(Infors)中で30℃、140rpmでインキュベートした。インキュベーションの開始時および開始から2時間後に、各バッチの1mlアリコートを採取し、80℃で5分間インキュベートし、13,000rpmで5分間遠心分離し(Heraeus(商標)Fresco(商標)21遠心分離機)、上清をHPLCにより分析した。
【0157】
表6にまとめられているように、振盪フラスコ培養物(実施例5)中に存在するヒポタウリン-W3110×pCys-CDOrn-CSADhs株では157.3mg/L、W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhsでは1059.2mg/L-は完全に消費され、それぞれ212.8mg/Lおよび1355.6mg/Lの濃度のタウリンが形成された。モル収率は、分子量の相違を考慮して決定された(ヒポタウリンは109.2g/mol、タウリンは125.2g/mol)。表6に示すように、W3110×pCys-CDOrn-CSADhs株の場合、反応開始時のヒポタウリン(1.4mM)およびタウリン(0.4mM)を合わせた含有量は1.8mMであった。反応開始から2時間後、タウリン含有量は1.7mMであり、ヒポタウリンは検出されなくなった。ヒポタウリン/タウリン生成物混合物の酵素的酸化からの、すなわち、振盪フラスコ培養からのヒポタウリンおよびタウリンの総入力(1.4+0.4=1.8mM)に基づくタウリンのモル収率は、94.4%であった。W3110-ppsA-MHI×pCys-CDOrn-CSADhs株の場合、反応開始時のヒポタウリン(9.7mM)およびタウリン(2.4mM)を合わせた含有量は12.1mMであった。反応開始から2時間後、タウリン含有量は10.8mMであり、ヒポタウリンは検出されなくなった。ヒポタウリン/タウリン生成物混合物の酵素的酸化からの、すなわち、振盪フラスコ培養からのヒポタウリンおよびタウリンの総入力(9.7+2.4=12.1mM)に基づくタウリンのモル収率は、89.3%であった。
【0158】
【表6】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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【国際調査報告】