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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】誘導シール装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/36 20060101AFI20231101BHJP
   B65B 51/22 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B29C65/36
B65B51/22 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521479
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021080164
(87)【国際公開番号】W WO2022096400
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】20206207.1
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391053799
【氏名又は名称】テトラ ラバル ホールディングス アンド ファイナンス エス エイ
【住所又は居所原語表記】70 Avenue General Guisan,CH-1009 Pully,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100151105
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸川 義信
(72)【発明者】
【氏名】アンデション、ホーカン
(72)【発明者】
【氏名】グイデッティ、グロリア
(72)【発明者】
【氏名】バンビーニ、アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】サンドバーグ、リチャード
【テーマコード(参考)】
3E094
4F211
【Fターム(参考)】
3E094BA02
3E094BA12
3E094CA12
3E094CA24
3E094FA21
3E094HA02
3E094HA12
4F211AA04
4F211AA19
4F211AA34
4F211AB18
4F211AD02
4F211AD03
4F211AH56
4F211AR06
4F211AR12
4F211AR20
4F211TA01
4F211TC08
4F211TD01
4F211TJ11
4F211TN16
4F211TQ01
4F211TW15
4F211TW23
(57)【要約】
注ぎ込み可能な食品の密封パッケージを製造するための包装材料をヒートシールするための誘導シール装置(15)であって、前記シール装置(15)は、包装材料に電流を誘導するように構成され、導体要素(20、21)を備えるインダクタ(16)と、導体要素(20、21)を保持するポリマーインサート(40)と、ポリマーインサート(40)を保持する支持体(24)と、を備え、ポリマーインサート(40)が、窒化ホウ素粒子が分散されたポリマーマトリクスを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注ぎ込み可能な食品の密封パッケージを製造するための包装材料をヒートシールするための誘導シール装置(15)であって、前記誘導シール装置(15)は、
包装材料に電流を誘導するように構成され、導体要素(20、21)を備えるインダクタ(16)と、
前記導体要素(20、21)を保持するポリマーインサート(40)と、
前記ポリマーインサート(40)を保持する支持体(24)と、
を備え、
前記ポリマーインサート(40)が、窒化ホウ素粒子が分散されたポリマーマトリクスを含む、
誘導シール装置(15)。
【請求項2】
前記ポリマーインサート(40)が、前記ポリマーインサート(40)のポリマーマトリックスに分散された磁性粒子を含み、前記ポリマーインサート(40)が磁束集中インサート(30)を形成する、
請求項1記載の誘導シール装置(15)。
【請求項3】
前記ポリマーインサート(40)は、磁束集中インサート(30)を保持するように構成され、前記磁束集中インサート(30)は、磁性粒子が分散されたポリマーマトリックスを含む、
請求項1記載の誘導シール装置(15)。
【請求項4】
前記ポリマーインサート(40)中の窒化ホウ素粒子の濃度が30%の閾値以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項5】
前記ポリマーインサート(40)が、前記ポリマーインサート(40)のポリマーマトリックスに分散された導電性粒子をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項6】
前記導電性粒子は、グラフェン粒子である、
請求項5に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項7】
前記ポリマーインサート(40)中の前記グラフェン粒子の濃度が15%以下である、
請求項6に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項8】
前記ポリマーインサート(40)は、0.2W/(mK)の閾値を超える熱伝導率を有するように構成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項9】
前記ポリマーインサート(40)のポリマーマトリックスは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項10】
前記ポリマーインサート(40)は、強化繊維を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項11】
前記2つの導体要素(20、21)を分離する少なくとも1つの溝(33)をさらに備える、
請求項1~10のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項12】
前記支持体(24)が金属製である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【請求項13】
前記ポリマーインサート(40)は、粒子が分散されたポリマーマトリックスが溶融形態である場合に、閾値40を超えるメルトフローレートを有するように構成される、
請求項1~12のいずれか一項に記載の誘導シール装置(15)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、誘導シール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フルーツジュース、UHT牛乳、ワイン、トマトソース等の多くの注ぎ込み可能な食品は、滅菌された包装材料で作られたパッケージで販売されている。この種のパッケージの典型的な例として、ラミネートされたストリップ状の包装材料を折り畳んで密封したTetra Brik Aseptic(登録商標)として知られる液体又は注ぎ込み可能な食品用の平行六面体型パッケージがある。
【0003】
包装材料は、繊維質材料、例えば、紙、又は鉱物を充填したポリプロピレン材料の層を含み得る剛性と強度のためのベース層と、ベース層の両面を覆う、例えば、ポリエチレンフィルムからなるヒートシールプラスチック材料の複数層を含む多層構造を実質的に有する。
【0004】
UHT牛乳等の長期保存製品用の無菌包装の場合、包装材料は、アルミニウム箔やエチルビニルアルコール(EVOH)フィルム等のガス及び光を遮断する材料の層を含み、この層はヒートシールプラスチック材料の層と重なり、さらに別のヒートシールプラスチック材料の層で覆われて、食品に接触する包装の内面を形成する。
【0005】
周知のように、この種のパッケージは全自動包装装置で製造され、この装置では、ウェブ供給された包装材料から連続したチューブが形成され、包装材料のウェブは、包装装置で、例えば、過酸化水素溶液等の化学的殺菌剤を適用して殺菌される。この滅菌剤は、滅菌が完了すると、例えば、加熱により蒸発されて、包装材料の表面から除去される。このように滅菌された包装材料のウェブは、閉鎖された無菌環境に維持され、縦方向に折りたたまれてシールされ、縦型チューブを形成する。
【0006】
チューブは、第1の垂直方向に連続的に供給され、滅菌処理又は滅菌加工された食品で満たされ、2対のジョーによって等間隔に配置された断面で把持される。より具体的には、2対のジョーは、周期的かつ連続的にチューブに作用し、チューブの包装材料を熱シールして、それぞれの横方向のシールバンドによって互いに接続された、すなわち前記第1の方向に直交する第2の方向に延びる連続ストリップのピローパックを形成する。
【0007】
ピローパックは、横方向のシールバンドを切断することで分離され、最終的に折り畳みステーションに送られ、直方体形状となるように機械的に折り畳まれる。
【0008】
各ジョーに挟まれたチューブ部分は、シールジョーと呼ばれる一方のジョーに取り付けられた加熱手段により、ジョーの間に挟まれた2層のヒートシール樹脂材料を局所的に溶かすことでヒートシールされる。
【0009】
具体的には、バリア材料の層が導電性材料、例えば、アルミニウムのシートを含む包装材料は、通常、チューブをジョーで把持する際に、いわゆる誘導ヒートシールプロセスによってヒートシールされる。誘導ヒートシールプロセスでは、誘導シール装置がアルミニウムシートに渦電流を誘導してアルミニウムシートを局所的に加熱し、それによってヒートシール樹脂材料を局所的に溶融させる。
【0010】
より具体的には、誘導シール装置において、加熱手段は、実質的に高周波電流発生装置によって駆動されるインダクタから構成される。本明細書においてインダクタは、実質的に導電性材料からなる1つ又は複数の導体要素からなり、チューブ材料と相互作用して渦電流を誘発し、必要なシール温度まで加熱させる。
【0011】
上記のタイプのインダクタを含むシール装置は、例えば、特許文献EP1270182及びEP2008795から知られています。
【0012】
より具体的には、公知のシール装置は、シールジョーに一体的に接続され、それぞれのインダクタを収容するための2つのフロントシートを画定する支持体と、磁束集中材料、特に、フェライトを含む複合材料からなり、導体要素の近くで支持体の内部に収容される挿入体とを備えてもよい。
【0013】
より具体的には、支持体は挿入体と協働し、磁束集中材料の導体要素及び挿入体を囲むシール装置の周辺部分を画定する。
【0014】
現在の誘導シール装置には多くの利点があるが、耐久性、コスト効率、シール速度等の観点で改善の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、耐久性に優れた誘導シール装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、費用対効果の高い誘導シール装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、誘導シール装置のシール速度を高くできることである。
【0016】
本発明のこれらの目的及び他の目的は、独立請求項に定義される本発明によって少なくとも部分的に満たされる。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0017】
本発明の第1の態様によれば、注ぎ込み可能な食品の密封パッケージを製造するための包装材料をヒートシールするための誘導シール装置が提供され、当該シール装置は、
包装材料に電流を誘導するように構成され、導体要素を備えるインダクタと、
導体要素を保持するポリマーインサートと、
ポリマーインサートを保持する支持体と、
を備え、
ポリマーインサートは、窒化ホウ素粒子が分散されたポリマーマトリックスを含む。
【0018】
本発明者らは、誘導シール装置の効率的な熱管理について、いくつかの利点があることが分かった。
【0019】
まず、効率的な熱管理により、耐久性が高く、費用対効果の高い誘導シール装置を実現できる。特に、誘導シール装置のインダクタは、高温によって損傷することがあり、メンテナンス及び/又は交換が必要になる場合がある。インダクタが破損する、又は予測寿命に達すると、ポリマーインサートとインダクタを含む支持体全体の交換が必要になる。包装用の生産ライン全体又は生産ラインの一部が誘導シール装置に依存する場合があるので、当該誘導シール装置のメンテナンスは大きなコストを伴う場合がある。したがって、インダクタ、及び/又はインダクタの近傍の部品の効果的な冷却は、誘導シール装置の耐久性を向上させ、それによって製造プロセスにおけるメンテナンスの中断に関するコスト及びスペアパーツに関するコストを削減できる。
【0020】
次に、効率的な熱管理により、速いシール速度が可能になる。シーリング中、インダクタをオンにして、包装材料の導電性材料に渦電流を誘導し、シール温度まで加熱することにより、ヒートシールプラスチック材料を少なくとも部分的に溶融させることができる。その後、インダクタをオフにすると、ヒートシールプラスチック材料は固化し、例えば、シールジョーによって把持されている間に固化できる。このように、インダクタやインダクタ近傍の部品を効果的に冷却することにより、ヒートシールプラスチック材料が固化するまでの時間を短縮できる。ヒートシールプラスチック材料の固化が早ければ早いほど、シーリングジョーは包装材料を素早く放出できる。その結果、効率的な熱管理により、速いシール速度を実現できる。
【0021】
本発明者らは、ポリマーインサート中に窒化ホウ素粒子を分散させることにより、誘導シール装置の効率的な熱管理を容易にすることができることを認識した。ポリマーインサートはインダクタの導体素子を保持し、支持体はポリマーインサートを保持する。ポリマーインサートのポリマーマトリックスに窒化ホウ素粒子を分散させることによって、ポリマーインサートの熱伝導率が増加する可能性がある。それにより、ポリマーインサートは、インダクタを効率的に冷却するように、インダクタから熱を、例えば、支持体に伝導できる。さらに、ポリマーインサートは、ヒートシールプラスチック材料が効率的に冷却されるように、ヒートシールプラスチック材料から、例えば、支持体へ熱を伝導できる。
【0022】
ポリマーインサートの熱伝導率が増加する理由は、窒化ホウ素の高い熱伝導率である。窒化ホウ素のいくつかの形態は、最大2000W/(mK)の熱伝導率を有する場合がある。窒化ホウ素を含むポリマーインサートの熱伝導率は、より低い可能性がある。それでも、窒化ホウ素をポリマーマトリックスに添加すると、ポリマーインサートの熱伝導率の実質的な向上が見られる場合がある。
【0023】
本発明者らは、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに窒化ホウ素を添加することで、導体要素が短絡するリスクを低減できる可能性があることを認識した。したがって、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに窒化ホウ素を添加することにより、誘導シール装置の設計の自由度を大幅に向上できる。例えば、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに窒化ホウ素を添加することにより、インダクタの導体要素間の間隔を小さくすることができる。
【0024】
本発明者らは、製造プロセスにおける欠陥率を低減するために、ポリマーマトリックス中に分散させる粒子を選択する際に、細心の注意を払う必要があることを認識した。ポリマーインサートは、多くの場合、溶融したポリマーを金型内に鋳造することによって製造される。例えば、支持体の凹部に溶融したポリマーマトリックスを鋳造する。溶融ポリマーが金型を完全に満たさない場合、製造されたポリマーインサートは欠陥品となり、廃棄する必要がある。さらに、鋳造中にポリマーマトリックスに添加されたフィラー(fillers)が偏析する場合があり、その結果、一部の誘導シール装置に欠陥が生じ、廃棄する必要が生じることがある。窒化ホウ素を使用する場合、生産不良率が低くなり、コストを節約できる可能性があることが認識された。生産不良率が低い理由は、ポリマーインサートのポリマーマトリックス中の窒化ホウ素の分散が、溶融したポリマーマトリックスのメルトフローレート(melt flow rate)を実質的に減少させないためであると考えられる。これにより、溶融したポリマーマトリックスは容易に金型に充填される。生産不良率が低い別の理由は、ポリマーインサートのポリマーマトリックス中の窒化ホウ素の分散が、窒化ホウ素の実質的な偏析をもたらさないことであると考えられる。したがって、窒化ホウ素は、ポリマーインサート内に均一に分布することができる。窒化ホウ素粒子は、剥離プロセスから得ることができ、したがって、それらは2Dの外観を有する剥離粒子であってもよい。
【0025】
インダクタは、インダクタループの一部を形成することができる導体要素を備えてもよい。インダクタループは、ワイヤループと呼ばれる。導体要素は、導電性ワイヤ又は導電性バーであってもよい。インダクタは、例えば、1つ又は2つのインダクタループを備えてもよい。したがって、インダクタは、シングルループインダクタ又はダブルループインダクタであってもよい。もちろん、インダクタは3つ以上のループを備えてもよい。
【0026】
インダクタは、交流発生器、例えば、高周波電流発生器に接続されるように構成されてもよい。インダクタは、インダクタ内の、例えば、インダクタのループ内の交流電流が、交流磁界を誘導するように構成されてもよい。交流磁界は、パッケージ内、例えば、パッケージのアルミニウム箔に、電流、例えば、渦電流を誘導してもよい。
【0027】
ポリマーインサートは、様々な方法で導体要素を保持するように構成されてもよい。ポリマーインサートは、それ自体で、又は他の部品と協働して、例えば、支持体又は誘導シール装置の他の部品と協働して、導体要素を保持することができる。例えば、導体要素は、ポリマーインサート内に部分的に又は完全に包まれてもよい。あるいは、ポリマーインサートは、導体要素を支持体又は誘導シール装置の他の部品に押し付けてもよい。
【0028】
支持体は、様々な方法でポリマーインサートを保持するように構成されてもよい。支持体は、それ自体で、又は他の部品と協働して、ポリマーインサートを保持してもよい。例えば、ポリマーインサートは、支持体に部分的に又は完全に包まれてもよい。
【0029】
窒化ホウ素粒子は、フィラーとしてポリマーインサートのポリマーマトリックスに分散されていてもよい。ポリマーインサートのポリマーマトリックスは、さらに、他のフィラーを含んでもよい。窒化ホウ素は、例えば、六方晶、立方晶、又はウルツ鉱型の構造であってもよい。
【0030】
ポリマーインサートは、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに分散された磁性粒子を含んでもよく、それによってポリマーインサートは磁束集中型インサートを形成する。
【0031】
磁性粒子は、強磁性粒子又はフェリ磁性粒子を含んでもよい。磁性粒子は、フェライト、NiZnフェライト、FeSiAl(センダスト)、FeSiB合金(又はその誘導体)、及びFeNi合金(又はその誘導体)から選ばれる少なくとも1つの材料を備えてもよい。
【0032】
磁束集中インサートは、インダクタによって生成される磁場を集中させる役割を果たし、それによって誘導シール装置の効率を高めることができる。磁束集中インサートが効率的に機能するためには、多くの場合、例えば、導体要素を保持する等、インダクタの導体要素の近傍に配置される。したがって、磁性粒子と窒化ホウ素の両方を含むポリマーインサートは、磁束集中インサートとしての機能と、インダクタを冷却する熱伝導体としての機能という2つの目的を果たすことができる。
【0033】
あるいは、ポリマーインサートは、磁束集中インサートを保持するように構成されてもよく、磁束集中インサートは、磁性粒子が分散されたポリマーマトリクスを含む。このように、窒化ホウ素粒子を構成するポリマーインサートは、磁束集中インサートとは異なるものであってもよい。しかし、磁束集中インサートを保持している間、窒化ホウ素を含むポリマーインサートは、磁束集中インサートから、及び/又はインダクタから熱を伝導して逃がすこともできる。したがって、窒化ホウ素粒子を含むポリマーインサートは、磁束集中インサートのホルダーとしての機能と、インダクタを冷却する熱伝導体としての機能という2つの目的を果たすことができる。
【0034】
ポリマーインサートは、100V/mmの閾値を超える絶縁耐力を有するように構成されてもよい。このような絶縁耐力は、導体要素が短絡しないこと、すなわち、電流が2つの導体要素間の意図しない経路に沿って移動しないことを保証し得る。ある導体要素から、ポリマーインサートのポリマーマトリックスを通って、別の導体要素への電流経路は、インダクタの機能性を低下させる可能性がある。このような電流経路は、インダクタのループの一部のみが活性化し、磁界を発生させる可能性がある。したがって、ヒートシールプラスチック材料は、意図した領域にわたって加熱されない可能性があり、その結果、横方向のシールバンドが短くなるか弱くなる可能性がある。ポリマーインサートの絶縁耐力の許容可能な閾値は、実施形態によって異なる場合があることを理解されたい。いくつかの実施形態では、ポリマーインサートは、例えば、400V/mmの閾値を超える絶縁耐力を有するように構成されてもよい。
【0035】
誘導シール装置は、ポリマーインサート中の窒化ホウ素粒子の濃度が30%の閾値以下であるように構成されてもよい。窒化ホウ素粒子のそのような濃度は、ポリマーインサートのポリマーマトリックスのメルトフローレートが低くなりすぎないことを保証できる。窒化ホウ素粒子の濃度は、例えば、射出成形等の容易な方法によって、ポリマーを製造できることが保証されてもよい。濃度は、重量によって測定してもよい。
【0036】
誘導シール装置のポリマーインサートは、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに分散された導電性粒子をさらに含んでもよい。
【0037】
導電性粒子は、多くの場合、高い熱伝導率を有する。したがって、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに導電性粒子を加えることにより、ポリマーインサートがインダクタから熱を効率的に、例えば、支持体へ伝導し、インダクタが効率的に冷却される。本発明者らは、導電性粒子がインダクタの導体要素を短絡させるリスクを高める可能性があるが、ポリマーインサートが窒化ホウ素粒子も含む場合には、そのリスクは軽減される可能性があることに気がついた。窒化ホウ素は、大きな絶縁耐力を有する場合がある。その結果、窒化ホウ素によってポリマーインサートの全体的な絶縁耐力が依然として許容範囲内であることが保証される場合、ポリマーインサートのポリマーマトリックスに導電性粒子を加えてもよい。
【0038】
電気伝導性粒子は、グラフェン粒子であってもよい。グラフェンは、単層グラフェンの場合、約1000~5000W/(mK)という高い熱伝導率を有することがある。グラフェンを含むポリマーインサートの熱伝導率は、より低いかもしれない。それでも、ポリマーマトリックスにグラフェンを添加すると、ポリマーインサートの熱伝導率の大幅な向上が見られる可能性がある。
【0039】
さらに、グラフェンは、良好な機械的特性を示す可能性がある。例えば、グラフェンは、100~1100GPa程度の機械的強度と、1TPa程度のヤング率とを有する。したがって、ポリマーインサートの機械的特性は、ポリマーインサートのポリマーマトリックス中のグラフェンの分散に起因して、劣化しない場合がある。包装ユニットが包装材料の把持と解放を繰り返すと摩耗が激しくなる可能性があるため、良好な機械的特性を有する耐久性のあるポリマーインサートが重要であると考えられる。したがって、ポリマーインサートの機械的特性を劣化させないことは、ポリマーインサートの損傷に伴うメンテナンスを減らすために重要であると考えられる。これにより、削減につながる可能性がある。
【0040】
さらに、グラフェンを使用すると、生産不良率が低くなり、コストを節約できる可能性がある。生産不良率が低い理由は、ポリマーインサートのポリマーマトリックスにグラフェンを分散させても、溶融したポリマーマトリックスのメルトフローレートを大幅に低下させないためであると考えられる。
【0041】
誘導シール装置は、誘導シール装置のポリマーインサート中のグラフェン粒子の濃度が15%以下であるように構成されてもよい。グラフェン粒子のそのような濃度は、ポリマーインサートの絶縁耐力が、導体要素の短絡を防止するために十分に高いことを保証することができる。このようなグラフェン粒子の濃度は、誘導シール装置の簡単な構造設計を容易にし得る。例えば、ポリマーインサート中のグラフェン粒子の濃度が15%以下である場合、インダクタをポリマーインサート中に直接封入することが可能である。インダクタがポリマーインサートに直接封入される場合、ポリマーインサートを介して2つの導体要素の間に経路が存在することがあり、この経路はポリマーインサートのみを通過する。ポリマーインサート中のグラフェン粒子の濃度が15%以下であれば、当該経路が短絡しないことを保証できる。しかしながら、電気絶縁のためのさらなる手段が提供される場合、ポリマーインサートは15%を超えるグラフェンを含んでもよいことを理解されたい。例えば、導体要素に、電気絶縁コーティング、例えば、ポリマーインサート内に封入される前にグラフェンをほとんど含まない、又は全く含まないポリマーコーティングが設けられる場合、ポリマーインサートは15%を超えるグラフェンを含んでもよい。濃度は、重量で測定してもよい。
【0042】
短絡を防止すべき導体素子間の距離は、ポリマーインサートが含有できるグラフェンの量に影響する場合があることを理解されたい。
【0043】
したがって、場合によっては、ポリマーインサート中のグラフェン粒子の濃度が10%の閾値以下であることが有利である。これにより、例えば、導体要素間の距離を短くすることができる。このため、誘導シール装置がダブルループインダクタを備えることが可能となり、導体要素がポリマーインサートに直接包まれた状態で密接に間隔をあけて配置される。場合によっては、ポリマーインサート中のグラフェン粒子の濃度が7.5%の閾値以下であることが有利である。場合によっては、導体要素間の距離が十分に長く、ポリマーインサートが15%を超えるグラフェンを含んでもよい。
【0044】
誘導シール装置のポリマーインサートは、0.2W/(mK)の閾値を超える熱伝導率を有するように構成されてもよい。このような熱伝導率は、インダクタの効果的な冷却を保証できる。インダクタの十分に効果的な冷却とみなされるものは、用途によって異なる場合がある。ヒートシールプラスチック材料の種類によっては、溶融するためにインダクタ内でより高い温度及び/又は高い電流を必要とする場合があり、その場合、ポリマーインサートの熱伝導率の閾値を高くする必要がある。また、ヒートシールの繰り返し周波数が高いと、より効果的な冷却が必要となる場合があり、この場合、ポリマーインサートに対してより高い熱伝導率の閾値が必要となる。したがって、いくつかの実施形態では、誘導シール装置のポリマーインサートは、0.3W/(mK)の閾値を超える熱伝導率を有するように構成されてもよい。他の実施形態では、誘導シール装置のポリマーインサートは、0.4W/(mK)の閾値を超える熱伝導率を有するように構成されてもよい。他の実施形態では、誘導シール装置のポリマーインサートは、0.5W/(mK)の閾値を超える熱伝導率を有するように構成されてもよい。
【0045】
誘導シール装置のポリマーインサートのポリマーマトリックスは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)であってもよい。PPSは、グラフェン及び/又は窒化ホウ素を含むフィラーと特に適合し得る。PPSのポリマーマトリックスを有するポリマーインサートでは、生産不良率が低い可能性がある。PPSは、代替ポリマーよりも高いメルトフローレートを有してもよい。したがって、生産不良率が深刻になる前に、より多くのグラフェン及び/又は窒化ホウ素をPPSに分散させてもよい。
【0046】
あるいは、他のポリマーをポリマーインサートのポリマーマトリックスとして使用してもよい。例えば、他の熱可塑性ポリマーを、ポリマーインサートのポリマーマトリックスとして使用してもよい。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を、ポリマーインサートのポリマーマトリックスとして使用してもよい。
【0047】
誘導シール装置のポリマーインサートは、補強繊維を含んでもよい。これは、ポリマーインサートの機械的特性を向上させ、それによって耐久性を向上させることができるので、有利であり得る。補強繊維は、例えば、ガラス繊維であってもよい。
【0048】
誘導シール装置は、2つの導体要素を分離する少なくとも1つの溝を含んでもよい。溝は、ポリマーインサートの溝であってもよい。溝は、切断溝を形成してもよい。溝は、インダクタの2つのループの間に配置されてもよい。したがって、各ループは包装材料にシールを形成し、溝は、カッター、例えば、ブレードがループの間で包装材料を切断することを可能にしてもよい。溝は、追加的又は代替的に、2つの導体要素を分離し、それによって導体要素間の短絡の危険性を低減してもよい。
【0049】
誘導シール装置の支持体は、金属製であってもよい。これにより、インダクタの冷却をさらに向上させることができる。熱は、インダクタの導体要素から、導体要素を保持するポリマーインサートを介して、ポリマーインサートを保持する支持体に伝導してもよい。本明細書において、金属は、熱をさらに除去し得る良好な熱伝導体であるとみなされる。
【0050】
誘導シール装置のポリマーインサートは、粒子が分散されたポリマーマトリックスが溶融形態である場合に、閾値40を超えるメルトフローレートを有するように構成されてもよい。閾値40を超えるメルトフローレートは、射出成形によってポリマーインサートを製造することを可能にし得る。これは、費用対効果の高い製造方法である。必要な閾値は、用途によって異なる場合がある。例えば、ポリマーインサートが小さな特徴を備える場合、溶融形態のポリマーマトリックスが金型を完全に充填することを保証するために、メルトフローレートの閾値を高くすることが有利になる場合がある。したがって、閾値40の代わりに、閾値を、例えば、50にしてもよい。メルトフローレートは、規格に従って、例えば、ISO1133に従って測定されるメルトフローレートであってもよい。メルトフローレートは、溶融したポリマーマトリックスに5kgの重さを加えた状態で、316℃の温度で測定してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0051】
本発明の概念の上記及び追加の目的、特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら、以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明を通じて、よりよく理解されるであろう。図面では、特段の記載がない限り、同様の要素には同様の参照数字使用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1a】誘導シール装置の断面図を示す。
図1b】誘導シール装置のインダクタの概略電気回路図を示す。
図2a】誘導シール装置の断面図を示す。
図2b】誘導シール装置の断面図を示す。
図3a】誘導シール装置の断面図を示す。
図3b】誘導シール装置の断面図を示す。
図3c】誘導シール装置の断面図を示す。
図3d】誘導シール装置の断面図を示す。
図4】熱伝導率の測定値を示す。
図5】絶縁破壊電圧の測定値を示す。
図6】流動長の測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下では、注ぎ込み可能な食品の密封パッケージを製造するための包装材料をヒートシールするためのいくつかの誘導シール装置15について説明する。誘導シール装置15は、包装材料を方向Aに押圧するように構成されてもよく、包装材料のシール中に、包装材料は、誘導シール装置15及びアンビルによって反対側から押圧されてもよい。
【0054】
図1aは、誘導シール装置15を断面図で示し、方向Bは断面平面に対して垂直である。誘導シール装置15では、ポリマーインサート40はインダクタ16の導体要素20、21を保持し、支持体24はポリマーインサート40を保持する。ポリマーインサート40は、ポリマーマトリックスを備える。図1aでは、ポリマーインサート40は、ポリマーインサート40のポリマーマトリックス中に分散された磁性粒子を備え、それによって、ポリマーインサート40は、磁束集中インサート30を形成する。
【0055】
図1bは、方向Bに直交する方向Aから見た、図1aのインダクタ16の概略電気回路図を示す。図示されたインダクタ16は、導電性バーの形態の導体要素20、21を備える。2つの導体要素20、21は、インダクタループの一部を形成してもよい。図1bは、第1のインダクタループ16'及び第2のインダクタループ16''を備えるダブルループインダクタ16を図示している。誘導シール装置15は、任意の数のインダクタループを備えてもよい。インダクタ16は、交流電流発生器、例えば、高周波電流発生器(図示せず)に接続されてもよい。
【0056】
図1aでは、ポリマーインサート40は、磁束集中インサート30である。代替として、図2a及び2bに示されるように、ポリマーインサート40は、磁束集中インサート30を保持してもよい。したがって、図2a及び2bに図示されているように、磁性粒子を含む1つのポリマーマトリックスが磁束集中インサート30を形成する一方で、ポリマーマトリックス及び、例えば、グラフェン及び/又は窒化ホウ素を含む別のポリマーインサート40が、インダクタ16から離れる方向に熱を伝導しても良い。あるいは、図1aに示されるように、ポリマーマトリックスは、磁性粒子と、例えば、グラフェン及び/又は窒化ホウ素等の熱伝導性粒子の両方を含んでもよい。
【0057】
図1aにおいて、ポリマーインサート40は、導体要素20、21を部分的に包むことによって、導体要素20、21を保持し、ここでは、導体要素20、21を3つの側面で包み込む。代替として、ポリマーインサート40は、導体要素20、21を保持する誘導シール装置15の別の部分を保持することによって、導体要素20、21を保持してもよい。図2aは、ポリマーインサート40が、誘導シール装置15の別の部品、この場合は磁束集中インサート30を保持し、これが導体要素20、21を保持する様子を示す。さらなる代替案として、ポリマーインサート40は、導体要素20、21を支持体24又は誘導シール装置15の別の部分に押し付けることによって導体要素20、21を保持することができる。図2bは、導体要素20、21を誘導シール装置15の別の部分、この場合は磁束集中インサート30に押し付けることによって導体要素20、21を保持するポリマーインサート40を示す。
【0058】
誘導シール装置15には、多くの設計オプションが考えられる。図1a及び図2a~bに示されたものに加えて、いくつかの設計オプションが、図3a~dに示されている。誘導シール装置15は、インダクタ16及び/又は磁束集中インサート30を包装材料に近接させるように構成されてもよい。例えば、誘導シール装置15は、図示された方向Aに包装材料に押し付けられるように構成されてもよい。
【0059】
包装材料に押し付けるように構成された誘導シール装置15の表面には、包装材料に局所的な圧力を供給するように構成された1つ又は複数のリッジ51を取り付けてもよい。リッジ51は、例えば、図1aのような磁束集中インサート30によって、例えば、図2bのようなポリマーインサート40によって、又は、例えば、図3bのような導体要素20、21によって形成されてもよい。リッジ51は、例えば、図1a又は図3bのように導体要素20、21に、又は、例えば、図2aのように2つの導体要素20、21の間に配置されてもよい。あるいは、図3a、図3c及び図3dに示すように、誘導シール装置15は、リッジ51を欠いていてもよい。
【0060】
包装材料に押し付けるように構成された誘導シール装置15の表面は、図3aに示されるように、傾斜していてもよい。したがって、誘導シール装置15は、注ぎ込み可能な食品を誘導シール装置15の中央領域から離れるように押圧するように構成されてもよい。これにより、注ぎ込み可能な食品がシールを劣化させる危険性を低減され得る。
【0061】
誘導シール装置15のインダクタ16は、例えば、図1a及び図3cに示されるように、第1のインダクタループ16'及び第2のインダクタループ16''を備えてもよい。又、図3dに示されるように、誘導シール装置15のインダクタ16は、第1の誘導ループ16'のみを備えてもよい。
【0062】
誘導シール装置15は、溝33を備えてもよい。溝33は、切断溝を形成してもよい。溝は、例えば、図1aに示されるように、2つのインダクタループ16'と16''の間に配置されてもよい。各インダクタループは、包装材料にシールを形成してもよく、溝33は、カッター、例えば、ブレードがループの間で包装材料を切断することを可能にしてもよい。溝33は、追加的に又は代替的に、2つの導体要素20、21を分離してもよく、それによって導体要素20、21の間の短絡のリスクを低減できる。
【0063】
支持体24は、例えば、図1~3に示される装置のいずれかにおいて、金属製であってもよい。あるいは、支持体24は、セラミック製であってもよい。あるいは、支持体24は、熱伝導性フィラー、例えば、グラフェンを有するポリマーで作られてもよい。
【0064】
誘導シール装置15は、冷却システム、例えば、冷却液を循環させる冷却システムを備えてもよい。冷却装置は、誘導シール装置15の支持体に接続されてもよい。
【0065】
ポリマーインサート40のポリマーマトリックスは、例えば、図1~3に示されるデバイスのいずれかにおいて、ポリフェニレンサルファイド(PPS)であってもよい。磁束集中インサート30のポリマーマトリックスは、例えば、図1~3に示されたデバイスのいずれかにおいて、PPSであってもよい。代替として、他のポリマーマトリックスは、ポリマーインサート40又は磁束集中インサート30のいずれかに使用されてもよい。例えば、他の熱可塑性ポリマーをポリマーマトリックスとして使用してもよい。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)をポリマーマトリックスとして使用してもよい。
【0066】
熱伝導性粒子は、ポリマーインサート40のポリマーマトリックス中に、例えば図1~3に示されるデバイスのいずれかのポリマーインサート40中に分散されてもよい。熱伝導性粒子は、グラフェン及び/又は窒化ホウ素であってもよい。例えば、ポリマーインサート40は、グラフェン及び/又は窒化ホウ素が分散されたPPSポリマーマトリックスを備えてもよい。
【0067】
グラフェン粒子は、1つの単層の厚さを有していてもよい。グラフェン粒子は、1つの単層より大きな厚さを有してもよい。グラフェン粒子の厚さは、例えば、単層の厚さを有する粒子の10~100%の厚さ分布によって表されてもよい。グラフェン粒子の横方向のサイズは、例えば、0.1~10μm又は0.0001~2mmであってもよい。グラフェン粒子は、例えば、グラファイトの液相剥離、グラファイトの酸化とその後の剥離及び/又は還元、又は化学蒸着によって製造されてもよい。
【0068】
窒化ホウ素粒子は、六方晶、立方晶、又はウルツ鉱型のいずれかの形状を有していてもよい。窒化ホウ素粒子は、小板状を有していてもよい。窒化ホウ素粒子の他の形状が代替的に使用されてもよく、例えば、顆粒、板状体の顆粒、凝集体又は板状体の凝集体を使用してもよい。窒化ホウ素粒子のサイズは、例えば、0.1~10μm又は0.0001~2mmであってもよい。
【0069】
フィラーがポリマーインサート40のポリマーマトリックスに分散されると、ポリマーマトリックスの特性が変化する可能性がある。変化する可能性のある特性の例としては、熱伝導率、絶縁耐力、及びメルトフローインデックス等が挙げられる。以下では、PPSの上記の特性を、グラフェン及び窒化ホウ素の2つのフィラーのフィラー濃度の関数として説明する。0%、5%、7.5%、10%のフィラー濃度が測定された。濃度は重量で測定した。
【0070】
図4は,グラフェン及び窒化ホウ素のフィラー濃度の関数として,PPSの熱伝導率の測定値を示している。図からわかるように,グラフェンと窒化ホウ素の両方で,フィラー濃度に応じて熱伝導率が上昇することがわかる。純粋なPPSの熱伝導率は、0.326W/(mK)である。グラフェンを10%含むPPSの熱伝導率は1.019W/(mK)であり、およそ210%増加している。窒化ホウ素を10%含むPPSの熱伝導率は0.502W/(mK)であり、約50%増加している。フィラー濃度が高くなると、熱伝導率のさらなる向上が期待される。さらに測定された熱伝導率が表1に示される。
【0071】
【表1】
【0072】
図5は,厚さ0.5mmの試料で測定したグラフェンと窒化ホウ素のフィラー濃度の関数として,PPSの最高絶縁破壊電圧の測定値を示している。絶縁耐力は,絶縁破壊電圧を試料の厚みで割った値であってもよい。いくつかのサンプルは、提示されたものよりも低い絶縁破壊電圧を示したことに留意すべきである。しかしながら、特定のフィラー濃度で可能な限り高い絶縁破壊電圧を達成することは、製造プロセスの最適化が必要になる可能性がある。従って、注目すべきは測定された最高絶縁破壊電圧である。図から明らかなように、窒化ホウ素濃度が高くなると絶縁破壊電圧は上昇する可能性がある。さらに、グラフェン濃度が高くなると、絶縁破壊電圧は低下する可能性がある。純粋なPPSは2088Vの絶縁破壊電圧を示し、4176V/mmの絶縁耐力に相当し得る。グラフェンを10%含むPPSの絶縁破壊電圧は102Vの最高破壊電圧を示し、204V/mmの絶縁耐力に相当し得る。窒化ホウ素を10%含むPPSは、2339Vの最高絶縁破壊電圧を示し、4678V/mmの絶縁耐力に相当し得る。しかし、純粋なPPSの絶縁耐力は、材料仕様によれば、11~24kV/mmの範囲にある可能性があることに留意する必要がある。従って、測定値は実際の絶縁耐力を3~6倍程度過小評価する可能性がある。
【0073】
図6は、グラフェン及び窒化ホウ素のフィラー濃度の関数として、PPSのスネークフロー試験(snake flow test)で測定した流動長(flow length)を示している。流動長は、フィラーを分散させた溶融ポリマーマトリックスを、蛇のような形状の金型に射出成形することで測定した。射出成形は、溶融温度約335℃、射出圧力150MPa、射出速度40ccm/sで行った。図から明らかなように、グラフェンと窒化ホウ素の両方について、フィラー濃度に応じて流動長が減少することが観察された。測定されたフローレングスはすべて40を超えるメルトフローレートに対応する。
【0074】
図4~6に示された研究に基づいて、ポリマーインサート40は、以下の構成のうちの1つを有してもよいことが推定される。
【0075】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図2a又は図2bのデバイスのポリマーインサート40は、15%のグラフェンが分散されたPPSで作られてもよい。
【0076】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図2a又は図2bのデバイスのポリマーインサート40は、30%の窒化ホウ素が分散されたPPSで作られてもよい。
【0077】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図1a又は図3aのデバイスのポリマーインサート40は、ポリマーインサート40が磁束集中インサート30を形成するように、15%のグラフェン及び60%のフェライトが分散されたPPSで作られてもよい。
【0078】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図1a又は図3aのデバイスのポリマーインサート40は、ポリマーインサート40が磁束集中インサート30を形成するように、20%の窒化ホウ素及び60%のフェライトが分散されたPPSで作られてもよい。
【0079】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図1a又は図3aのデバイスのポリマーインサート40は、ポリマーインサート40が磁束集中インサート30を形成するように、10%のグラフェン、10%の窒化ホウ素、及び60%のフェライトが分散されたPPSで作られてもよい。
【0080】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図1a又は図3aのデバイスのポリマーインサート40は、ポリマーインサート40が磁束集中インサート30を形成するように、20%のグラフェン、20%の窒化ホウ素及び50%のフェライトが分散されたPPSで作られてもよい。
【0081】
図1~3のデバイスの少なくともいくつか、例えば、図1a又は図3aのデバイスのポリマーインサート40は、ポリマーインサート40が磁束集中インサート30を形成するように、5%のグラフェン、5%の窒化ホウ素、及び80%のフェライトが分散されたPPSで作られてもよい。
【0082】
上記において、本発明の概念は、主に限られた数の実施例を参照して説明された。しかしながら、当業者によって容易に理解されるように、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明概念の範囲内において、上記に開示されたもの以外の他の実施例も同様に可能である。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5
図6
【国際調査報告】