(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】束状神経移植片、それを作製する方法、およびそれを使用した処置の方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20231101BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20231101BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20231101BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20231101BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20231101BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231101BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20231101BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231101BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231101BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231101BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61L27/20
A61L27/24
A61L27/14
A61L27/22
A61K45/00
A61P25/20
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/06
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524284
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 US2021055937
(87)【国際公開番号】W WO2022087192
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517415528
【氏名又は名称】アクソジェン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ファレリス、ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】タジダラン、カスラ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081BA16
4C081BB08
4C081CD012
4C081CD022
4C081CD042
4C081CD092
4C081CD112
4C081CD122
4C081CD152
4C081DA04
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4C081DC03
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA65
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4C084NA05
4C084NA06
4C084ZA021
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4C084ZA081
4C084ZA082
4C084ZA201
4C084ZA202
4C084ZC611
4C084ZC612
4C084ZC751
4C084ZC752
(57)【要約】
本開示は、カスタマイズ可能な長さおよび直径の束状神経移植片、およびそれを調製する方法を提供する。移植片は、神経組織の神経束の周りのネイティブ細胞外マトリックス(ECM)、および神経上膜鞘を消化することにより作製される。次いで、個々の束のうちの1本または複数本が、束状神経移植片を形成するために、エンチューブレーション材料にエンチューブレーションされてよく、コーティング材料に包埋されるか、もしくはそれでコーティングされてよく、またはその両方でよい。束状神経移植片は、カスタマイズ可能であり、かつ神経ギャップをブリッジするように設計され;束状神経移植片のモジュール性は、実質的に任意の長さの神経欠陥に連続性を取り戻すことを可能にし、かつ患者のレシピエント神経の直径にマッチすることを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本の神経束を備える束状神経移植片であって、神経上膜鞘およびネイティブ細胞外マトリックス材料を実質的に含まない、束状神経移植片。
【請求項2】
単一の神経束を備える、請求項1に記載の束状神経移植片。
【請求項3】
2本以上の神経束を備える、請求項1に記載の束状神経移植片。
【請求項4】
2本の神経束~20本の神経束を備える、請求項3に記載の束状神経移植片。
【請求項5】
直径が互いに実質的に類似している神経束を備える、請求項3または4に記載の束状神経移植片。
【請求項6】
前記神経束のそれぞれの直径が、約50μm~約1mmの間である、請求項5に記載の束状神経移植片。
【請求項7】
約50μm~約1mmの間の直径を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項8】
長さが互いに実質的に類似している神経束を備える、請求項3~7のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項9】
約3mm~約200mmの間の長さを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項10】
前記1本または複数本の神経束が、生体適合性材料を含むエンチューブレーション材料によりエンチューブレーションされている、請求項1~9のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項11】
前記1本または複数本の神経束が、生体適合性材料を含むコーティング材料に包埋されているか、またはそれでコーティングされている、請求項1~10のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項12】
前記エンチューブレーション材料もしくは前記コーティング材料のうちの一方または両方の前記生体適合性材料が生分解性である、請求項10または11に記載の束状神経移植片。
【請求項13】
前記エンチューブレーション材料および前記コーティング材料のうちの一方または両方の前記生体適合性材料が、コラーゲン、キトサン、アルギネート、生分解性ポリマー、セルロース、フィブリノゲン、フィブリン、タンパク質ベースのポリマー、ゼラチン、多糖、ヒドロゲル、または非ネイティブ細胞外マトリックス材料のうちの1つまたは複数を含む細胞外マトリックス材料である、請求項10~12のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項14】
ゲル、コラーゲン、ゼラチン、多糖、ヒドロゲル、フィブリン、フィブリノゲン、アルギネート、または非ネイティブ細胞外マトリックス材料も、前記エンチューブレーション材料に取り囲まれている、請求項10に記載の束状神経移植片。
【請求項15】
前記エンチューブレーション材料が継ぎ目を備え、前記継ぎ目が生体適合性接着剤またはシーラントによりシールされている、請求項10に記載の束状神経移植片。
【請求項16】
前記1本または複数本の神経束が、ヒト、非ヒト動物、またはその両方からのものである、請求項1~15のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項17】
成長因子、細胞、混合細胞集団中の複数の細胞型を含む細胞のミックス、細胞成分、非ステロイド性抗炎症剤、または免疫抑制剤のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項18】
末梢神経移植片または脊髄神経移植片である、請求項1~17のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項19】
前記ネイティブ細胞外マトリックス材料の少なくとも約50%、少なくとも約85%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、または全部が除去されている、請求項1~18のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項20】
前記神経上膜鞘の少なくとも約95%、少なくとも約99%、または全部が除去されている、請求項1~19のいずれか1項に記載の束状神経移植片。
【請求項21】
束状神経移植片を調製する方法であって、
1本または複数本の神経束を備え、かつネイティブ細胞外マトリックス材料および神経上膜鞘を備える少なくとも1つの神経組織を提供する工程と、
前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を分解する酵素で前記少なくとも1つの神経組織を処理する工程と、
前記処理された少なくとも1つの神経組織を洗浄して、前記酵素を実質的に除去および/または不活性化し、かつ前記ネイティブ細胞外マトリックス材料分解産生物および前記神経上膜鞘分解産生物を実質的に除去し、それによって、前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を実質的に含まない前記1本または複数本の神経束を産生する工程と、
前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を実質的に含まない前記1本または複数本の神経束のうちの少なくとも1本の神経束から束状神経移植片を形成する工程と
を備える、方法。
【請求項22】
前記方法が、前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を実質的に含まない前記1本または複数本の神経束を互いに分離する工程をさらに備え、前記束状神経移植片が、前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を実質的に含まない前記分離された1本または複数本の神経束から形成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記束状神経移植片を形成する工程が、前記分離された1本または複数本の神経束のうちの前記少なくとも1本の神経束をエンチューブレーション材料でエンチューブレーションする工程を備える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記束状神経移植片を形成する工程が、ゲル、接着剤、またはゲルおよび接着剤の両方を含むコーティング材料に前記少なくとも1本の神経束を包理する、またはそれで前記少なくとも1本の神経束をコーティングする工程を備える、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記束状神経移植片を形成する工程が、前記エンチューブレーション材料と前記少なくとも1本の神経束の間の空間、前記束状神経移植片を形成するために2本以上の神経束が使用されるケースにおいて2本以上の神経束の間の空間、またはその両方を、ゲル、コラーゲン、ゼラチン、多糖、ヒドロゲル、フィブリン、フィブリノゲン、アルギネート、セルロース、キトサン、または細胞外マトリックス材料のうちの1つまたは複数を含む生体適合性材料で少なくとも部分的に充填する工程を備える、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記束状神経移植片を形成する工程が、エンチューブレーション材料のシート上にコーティング材料を置く工程、および前記コーティングされたエンチューブレーション材料で前記少なくとも1本の神経束をエンチューブレーションする工程を備える、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1本の神経束が、ゲル、接着剤、もしくはゲルおよび接着剤を含むコーティング材料に包埋されるか、またはそれでコーティングされ、次いで、前記少なくとも1本の包埋またはコーティングされた神経束が、コラーゲン、キトサン、アルギネート、生分解性ポリマー、セルロース、フィブリノゲン、フィブリン、タンパク質ベースのポリマー、ゼラチン、多糖、および/もしくはヒドロゲルのうちの1つまたは複数を含む、細胞外マトリックス材料のうちの1つまたは複数を含むエンチューブレーション材料にエンチューブレーションされる、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記エンチューブレーション材料および前記コーティング材料のうちの一方または両方の前記生体適合性材料が生分解性である、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記束状神経移植片が、単一の神経束を備える、請求項21~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記束状神経移植片が、2本以上の神経束を備える、請求項21~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記束状神経移植片が、2本の神経束~20本の神経束を備える、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記束状神経移植片が、直径において互いに実質的に類似している神経束を備える、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記神経束のそれぞれの直径が、約50μm~約1mmの間である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記束状神経移植片が、約50μm~約1mmの間の直径を有する、請求項21~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記束状神経移植片が、長さが互いに実質的に類似している神経束を備える、請求項30または31に記載の方法。
【請求項36】
前記束状神経移植片が、約3mm~約200mmの間の長さを有する、請求項21~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記束状神経移植片を形成する工程が、前記ネイティブ細胞外マトリックス材料および前記神経上膜鞘を実質的に含まない前記2本以上の神経束の長さを修正して、実質的に同じ長さを有する工程を含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの神経組織が、ヒト動物、非ヒト動物、またはその両方からのものである、請求項21~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
成長因子、細胞、混合細胞集団中の複数の細胞型を含む細胞のミックス、細胞成分、非ステロイド性抗炎症剤、または免疫抑制剤のうちの1つまたは複数を前記束状神経移植片に導入する工程をさらに備える、請求項21~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記束状神経移植片が、末梢神経移植片または脊髄神経移植片である、請求項21~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つの神経組織が、2つ以上の神経組織を含み、前記束状神経移植片が、前記2つ以上の神経組織からの神経束から形成される、請求項21~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記酵素が、ヒトコラゲナーゼ、非ヒト特異的コラゲナーゼ、または非特異的コラゲナーゼのうちの1種または複数種であり、任意選択で前記酵素が、コラゲナーゼタイプI、コラゲナーゼタイプIII、コラゲナーゼタイプIV、またはマトリックスメタロペプチダーゼである、請求項21~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記神経組織を前記酵素で処理する工程が、約4℃~約37℃の間の温度で実施される、請求項21~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記神経組織を前記酵素で処理する工程が、約2時間~約24時間の間の期間実施される、請求項21~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記神経組織を前記酵素で処理する工程が、約37℃の温度で約2時間~約4時間の期間実施される、請求項21~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記神経組織を前記酵素で処理する工程が、約4℃の温度で約4時間~約24時間の期間実施される、請求項21~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記神経組織を前記酵素で処理する工程が、撹拌しながら実施される、請求項21~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記処理された神経組織を洗浄する工程が、撹拌しながら実施される、請求項21~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記処理された神経組織を洗浄する工程が、約4℃~約40℃の間の温度で実施される、請求項21~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記処理された神経組織を洗浄する工程が、約1分~約6時間の範囲の期間実施される、請求項21~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記処理された神経組織を洗浄する工程が、1回を超えて実施される、請求項21~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記洗浄された神経組織を溶液中に懸濁させる工程と、
前記懸濁された神経組織を前記溶液中でインキュベートする工程と
をさらに備える、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記洗浄された神経組織を前記溶液中に懸濁させる工程、前記懸濁された神経組織を前記溶液中でインキュベートする工程、またはその両方が、撹拌しながら実施される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記懸濁された神経組織が、約4℃~約37℃の間の温度でインキュベートされる、請求項52または53に記載の方法。
【請求項55】
前記懸濁された神経組織が、約45分~約24時間の期間インキュベートされる、請求項52~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記懸濁された神経組織が、約4℃の温度で約6時間~約24時間の期間インキュベートされる、請求項52~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記懸濁された神経組織が、約37℃の温度で約45分~約60分の期間インキュベートされる、請求項52~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記溶液が、少なくともアルファ-アンチトリプシンおよびアルファ-2-マクログロブリンを含むセリン成分を含む、請求項53~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記溶液が、ウシ胎児血清、ヤギ胎児血清、ウマ胎児血清、およびウサギ胎児血清からなる群から選択される、請求項52~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
インキュベーション後に前記溶液を除去する工程および前記神経組織を緩衝化溶液で洗浄する工程をさらに備える、請求項52~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記緩衝化溶液が、約7.4のpHを有する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記神経組織が、前記緩衝化溶液で約37℃の温度で少なくとも45分の期間洗浄される、請求項60または61に記載の方法。
【請求項63】
前記神経組織が、前記緩衝化溶液で約4℃の温度で少なくとも1時間の期間洗浄される、請求項60または61に記載の方法。
【請求項64】
前記神経組織を前記緩衝化溶液で洗浄する工程が、撹拌しながら実施される、請求項60~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記ネイティブ細胞外マトリックス材料の少なくとも約50%、少なくとも約85%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、または全部が除去されている、請求項21~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記神経上膜鞘の少なくとも約95%、少なくとも約99%、または全部が除去されている、請求項21~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
請求項1~20のいずれか1項に記載の神経移植片を患者に植え込む工程を備える、処置の方法。
【請求項68】
請求項21~66のいずれか1項に記載の方法により作製された前記神経移植片を患者に植え込む工程を備える、処置の方法。
【請求項69】
前記患者が、ヒトまたは非ヒト動物である、請求項67または68に記載の方法。
【請求項70】
鎮痛療法、非ステロイド性抗炎症薬、成長因子、または免疫抑制剤で前記患者を処置する工程をさらに備える、請求項67~69のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、神経生物学および医学の分野に関する。より詳細には、本開示は、束状神経移植片、そのような神経移植片を作製する方法、およびそのような神経移植片を使用して神経欠損を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経損傷は、神経障害性疼痛を含む様々なタイプの慢性疼痛を引き起こす可能性がある。末梢神経損傷は、様々な事故による外傷によって引き起こされる一般的な臨床課題であり、急増している。末梢神経損傷はしばしば、完全麻痺、麻痺、および対応する身体部分の自律制御の喪失につながる。神経損傷の外科的修復は、現在、そのような損傷の一般的な処置であるが、転帰は理想的ではない。したがって、神経損傷後の軸索再生および標的臓器の神経支配を改善する新しい戦略が必要とされている。
【0003】
末梢神経系のニューロンは、中枢神経系のニューロンよりも高い内因性の再生能を有すると理解されており、かつ適した環境条件下で軸索を再生することができる。しかし、末梢神経再生過程は複雑であり、かつ神経再生に関与する微小環境など、複数の因子により制御される。それでもなお、自家神経移植術は、末梢神経欠陥を修復するためのゴールドスタンダードとして受け入れられてきた。
【0004】
多くの臨床状況において、横切された神経の直接端々接合による末梢神経のテンションフリー再建を可能にするのに十分な神経組織は存在しない。これらのケースにおいて、異なる源の神経移植片を使用して、神経ギャップをブリッジすることができる。神経自家移植片は典型的には第2の手術部位を要し、それは、追加の手術時間、永久的な瘢痕、およびドナー神経の領域における感覚喪失を必然的に伴い、結果として持続性術後疼痛を生じ得る。神経自家移植片の代替は、加工された神経同種移植片または加工された神経異種移植片の使用であり、その両方が、神経再生のための生物学的基質を提供し、かつ神経自家移植片のように、免疫抑制なしに使用することができる。それでもなお、現在利用可能な商業的移植片技術は、任意の特定の外科的必要に適正な「フィットマッチ」ではないことがあるという点で限定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経移植片、特に任意の特定の患者の必要に適切な長さおよび直径サイズの神経移植片の品質、および利用可能性は依然として課題である。実際、現在利用可能な商業的神経移植片は、長さおよび直径に関して限定されたサイズのものであり、それは、すべての患者の必要を満たさないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、1本または複数本の神経束を備える束状神経移植片であって、神経上膜鞘(epineurial sheath)およびネイティブ細胞外マトリックス材料を実質的に含まない、束状神経移植片が提供される。
【0007】
加えて、本開示によれば、束状神経移植片を調製する方法であって、1本または複数本の神経束を備え、かつネイティブ細胞外マトリックス材料および神経上膜鞘を備える少なくとも1つの神経組織を提供する工程と、ネイティブ細胞外マトリックス材料および神経上膜鞘を分解する酵素で少なくとも1つの神経組織を処理する工程と、処理された少なくとも1つの神経組織を洗浄して、酵素を実質的に除去および/または不活性化し、かつネイティブ細胞外マトリックス材料分解産生物および神経上膜鞘分解産生物を実質的に除去し、それによって、ネイティブ細胞外マトリックス材料および神経上膜鞘を実質的に含まない1本または複数本の神経束を産生する工程と、ネイティブ細胞外マトリックス材料および神経上膜鞘を実質的に含まない1本または複数本の神経束のうちの少なくとも1本の神経束から束状神経移植片を形成する工程とを備える、方法が提供される。
【0008】
当業者であれば、本明細書に開示される神経移植片、神経移植片を調製する方法、および神経移植片を使用した処置の方法は、ヒトおよび他の脊椎動物の外科的介入において使用されてよく、実験室研究、比較、およびアッセイにおいても使用されることを理解するであろう。
【0009】
当業者であれば、具体的に例証されるもの以外の出発材料、生物学的材料、生体適合性材料、成分、成長因子、薬剤、酵素、および溶液、療法、薬物、ならびに調製および処置の方法を過度の実験に頼ることなく本開示の実行において利用することができることも理解するであろう。任意のそのような材料および方法のすべての当技術分野で公知の機能的均等物が本開示に含まれることが意図される。
【0010】
束状神経移植片を使用した処置を準備および提供するための本明細書に記載される方法論は、さもなければその神経の使用がそれらの直径または不十分な束数に基づいて拒否された可能性がある低収量ドナーの使用をよりよく可能にし得る。例えば、本開示は、所望の長さおよび直径の束状神経移植片を作り出すために、1つを超える収集された神経から単離された束を組み合わせることを提供する。したがって、開示される方法は、例えば、使用可能なドナー神経の収量を改善し得、かつ移植プロセスをより効率的かつ経済的にし得る。
【0011】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および例は、本開示の例証的な実施形態を示す一方、本発明の趣旨および範囲内の様々な変更および修正は、この詳細な説明から当業者に明らかになるであろうから、例示のためにのみ与えられていると理解されるべきである。特定の化合物がある一般式に帰するという理由だけで、それが別の一般式にも属することができないことを意味しないことに留意されたい。
【0012】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈により特に指示されていない限り、複数の指示対象を含む。用語「およそ」および「約」は、言及された数または値とほぼ同じであることを表す。本明細書において使用されるとき、用語「およそ」および「約」は一般に、指定された量または値の±5%を包含すると理解されるべきである。特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみを表すことが明示的に示されていない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、たとえ代替物のみならびに「および/または」を表すという定義を本開示が支持していても、「および/または」を意味するために使用される。本明細書において使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2またはそれ以上を意味し得る。本出願全体を通じて、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために利用されるデバイス、方法に固有の誤差の変動、または研究対象の間に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0013】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明はいずれも単に例証的かつ説明的であり、特許請求される通り、特徴を限定するものではない。本明細書において使用されるとき、用語「を備える(comprises)」、「を備える(comprising)」、「を含む」、「を有する」、またはそれらの他の変形は、非排他的な包含を網羅することが意図され、したがって、要素のリストを構成するプロセス、方法、物品、もしくは装置は、それらの要素のみを含むのではなく、明示的にリストされていない、またはそのようなプロセス、方法、物品、もしくは装置に固有の他の要素も含んでよい。追加的に、用語「例証的な」は、「理想的な」よりもむしろ「例」の意味で本明細書において使用される。加えて、値の範囲の記載において使用される用語「間」は、本明細書に記載される最小値および最大値を含むことが意図される。
【0014】
採用された用語および表現は、限定の用語としてではなく説明の用語として使用され、そのような用語および表現の使用において、図示および記載された特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はないが、特許請求される本開示の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。
【0015】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本開示のある特定の態様をさらに明示するために含まれる。本開示は、本明細書に提示される例証的な実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】神経上膜鞘およびネイティブ細胞外マトリックス材料の除去、ならびに個々の神経束の分離後の
図1に示された末梢神経組織の神経束の図。
【
図3】生体材料のシート上に置かれた、
図2に示されたもののような個々の神経束の図。
【
図4】
図3に示された神経束および生体材料のシートから形成された神経移植片の図。
【
図5】酵素での神経組織の処理前の神経束および細胞外マトリックス材料を反映する染色された神経組織の図。
【
図6】神経組織が酵素で処理された後の染色された神経束の図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の神経移植片は、様々な操作的必要にマッチする多種多様な長さおよび直径で調製することができる。したがって、本開示は、より成功した神経再生およびよりよい患者転帰を提供することができる。例証的な神経移植片、それらの調製のための関連する方法、および神経移植片を使用した処置の関連する方法が、以下で詳細に記載される。
【0018】
本開示の一部の実施形態によれば、神経移植片を調製する工程は、1本または複数本の神経束を有する神経組織を提供する工程を含む。
図1~4は、束状神経移植片114を調製するために使用される神経組織100の一例を例示する。
図1~4に示された特定の特徴は、単なる例示であり、本開示の範囲を限定するものではない。
図1は、神経束102、ネイティブ細胞外マトリックス(ECM)材料104、および神経上膜鞘106を含む神経組織100の断面図を示す。神経組織100は、1本の神経束を含んでよく、または
図1に示されるように1本を超える神経束102を含んでよい。本開示における使用に適した神経組織100は、哺乳動物、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物など、動物から得られてよい。1つを超える神経組織100が、本明細書に記載される方法において使用されてよく、1つを超えるタイプの神経組織100、例えば、ヒト神経組織および非ヒト神経組織、または異なる非ヒト哺乳動物からの非ヒト神経組織からの神経束102が、束状神経移植片114の調製において組み合わせられてよい。
図4に示された束状神経移植片114は、ヒト、非ヒト動物、または他の脊椎動物から単離された神経組織100から調製されてよい。出発神経材料は、身体内の任意の適した神経組織から入手されてよい。出発神経材料は、末梢神経組織または脊髄神経組織を含んでよく、かつ究極的に、末梢または脊髄神経移植のための神経移植片を形成するために使用されてよい。
【0019】
本開示による束状神経移植片(例示された束状神経移植片114を含む)は、束状神経移植片で処置される患者に対して同種または異種でよい。
図1~4の例において、束状神経移植片114は、神経組織100の三次元微細構造のスキャフォールドを備え、かつそれに固有のタンパク質成分を含んでよい。本明細書において同じく企図されるのは、患者への植え込み前および/または後に神経組織(神経組織100など)および/または神経組織から調製された束状神経移植片(例えば、神経組織100から調製された束状神経移植片114)に対して実施される1種または複数種の免疫抑制技法を含む方法である。例えば、供与された神経組織が、束を束状神経移植片に取り込む前に細胞成分および/もしくは残屑を選択的に除去するように加工されてよく、かつ/または神経組織が、本明細書に記載される方法による処理の前に細胞成分および/もしくは残屑を選択的に除去するように加工されてよい。
【0020】
本明細書の方法による例証的な束状神経移植片114の調製は、ネイティブECM材料104および神経上膜鞘106を少なくとも部分的または完全に分解する1種または複数種の酵素で神経組織100を処理する工程を含んでよい。酵素は、例えば、コラゲナーゼタイプIV、他のタイプのコラゲナーゼ(IまたはIII、最高濃度1mg/mL)、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)もしくは生理食塩水などの水性ベースの溶液中最高濃度1:20のマトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)(例えば、MMP7またはMMP12)を含んでよい。
【0021】
神経組織(例えば、神経組織100)を酵素で処理する工程は、約4℃~約15℃の間、約10℃~約20℃の間、または約20℃~約30℃の間など、約4℃~約37℃の間の温度で実施されてよい。加えて、神経組織100を酵素で処理する工程は、約2時間~約5時間の間、約8時間~約12時間の間、約16時間~約24時間の間、または約6時間~約12時間の間など、約2時間~約24時間の間の期間実施されてよい。少なくとも1つの例において、神経組織100を酵素で処理する工程は、約35℃~約40℃の温度で約2時間~約6時間の間の期間、とりわけ、約37℃の温度で約2時間~約4時間の間の期間実施されてよい。少なくとも1つの例において、神経組織100を酵素で処理する工程は、約4℃~約6℃の温度で約4時間~24時間の間の期間実施されてよい。神経組織100を酵素で処理する工程は、撹拌しながら実施されてよい。
【0022】
次いで、処理された神経組織から残っているすべての残っている酵素および/または残屑を除去するために、個々の神経束(例えば、神経束102)を含む処理された神経組織を洗浄することができる。すなわち、方法は、酵素、残留するネイティブECM材料、または神経上膜鞘分解産生物を除去するために、処理された神経組織を洗浄する工程を含んでもよい。一部の態様において、処理された神経組織を洗浄する工程は、pHを平衡させることにより酵素を不活性化してよい。洗浄工程を実施することにより酵素が完全または少なくとも部分的に除去および/または不活性化されてよい。処理された神経組織を洗浄する工程は、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、セリン含有血清、またはそれらの組合せなどの溶液を使用して実施されてよい。処理された神経組織を洗浄する工程は、撹拌しながら実施されてよい。加えて、処理された神経組織を洗浄する工程は、約4℃~約40℃の間の温度で実施されてよい。さらに、処理された神経組織を洗浄する工程は、約1分~約4時間の間の期間実施されてよい。その上さらに、処理された神経組織を洗浄する工程は、1回を超えて、例えば、2回、3回、もしくは4回またはそれ以上実施されてよい。ネイティブECM材料および神経上膜鞘を除去し、それによって、ネイティブECM材料および神経上膜鞘を含まないか、またはネイティブECM材料および神経上膜鞘が実質的にない1本または複数本の神経束を産生するために、処理された神経組織が十分に洗浄されてよい。本明細書において使用されるとき、語句「ネイティブECM材料を実質的に含まない」は、ネイティブECM材料のすべて、または少なくとも50%が除去されていることを意味する。ある特定の実施形態において、ネイティブECM材料を実質的に含まない1本または複数本の神経束は、ネイティブECM材料の少なくとも約85%または少なくとも約95%が除去されている。他の実施形態において、ネイティブECM材料を実質的に含まない1本または複数本の神経束は、ネイティブECM材料の少なくとも約99%または全部が除去されている。加えて、神経上膜鞘を実質的に含まない神経束のうちの1本または複数本は、神経上膜鞘の少なくとも約95%、少なくとも約99%、または全部が除去されている。
【0023】
追加的または代替的に、方法は、処理および洗浄された神経組織を溶液中に懸濁させる工程およびインキュベートする工程を含んでもよい。インキュベーションは、約4℃~約15℃の間、約10℃~約20℃の間、または約20℃~約30℃の間など、約4℃~約37℃の間の温度で実施されてよい。インキュベーションは、約1時間~約2時間の間、約3時間~約8時間の間、約6時間~約12時間の間、または約12時間~約24時間の間など、約45分~約24時間の期間実施されてよい。例えば、インキュベーションは、約4℃の温度で6時間~約24時間の期間でよい。別の例において、インキュベーションは、約37℃の温度で約45分~60分の期間でよい。一部の態様において、インキュベーションは、37℃で約3時間~約5時間の期間、例えば37℃で約4時間でよい。持続時間および温度の例証的な範囲が本明細書にリストされるが、一般に、インキュベーション温度が低下するにつれて、インキュベーションの持続時間は増加し得る。神経組織を懸濁させる工程、神経組織をインキュベートする工程、またはその両方が、撹拌しながら実施されてもよい。懸濁およびインキュベーションのために使用される溶液は、少なくともアルファ-アンチトリプシンおよびアルファ-2-マクログロブリンを含むセリン成分を含んでよい。溶液はセリン含有血清でよい。例えば、溶液は、ウシ胎児血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ニワトリ血清、またはウサギ血清を含んでよい。
【0024】
追加的または代替的に、方法は、洗浄された神経組織を懸濁させる工程において使用された溶液を除去するために、懸濁およびインキュベートされた神経組織を緩衝化溶液で洗浄する工程を含んでもよい。緩衝化溶液は、例えば、約7.2、約7.4、または約7.6など、約6.8~約7.8の間のpHを有してよい。少なくとも1つの例において、懸濁された神経組織は、緩衝化溶液で約37℃の温度で約45分~約55分の期間洗浄されてよい。少なくとも1つの例において、懸濁された神経組織は、緩衝化溶液で約4℃の温度で約1時間~約6時間の期間洗浄されてよい。加えて、懸濁された神経組織を緩衝化溶液で洗浄する工程は、撹拌しながら実施されてよい。緩衝化溶液は、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水または他の適した緩衝液を含んでよい。
【0025】
次いで、処理および洗浄された神経組織の神経束は、互いに分離することができ、それによって、分離された神経束を産生する。
図2は、神経組織100に由来する5本の分離された神経束108(すなわち、
図1に示された6本の神経束102のうちの5本に対応する
図2の5本の分離された神経束108)を示す。次いで、任意の数の分離された神経束を実質的に整列させ(任意選択で、神経組織の1つまたは複数の他のサンプルから得られる1本または複数本の神経束と組み合わせて-神経組織のそれらのサンプルが、異なる源から得られる場合を含む)、ネイティブECM材料および/もしくは神経上膜鞘を伴わないか、またはそれを実質的に含まない1本または複数本の神経束を含む束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)を調製するために包むか、または巻くことにより非端側面をエンチューブレーションすることができる。
図3は、
図3に示された神経組織100に由来する5本の分離された神経束108、および異なる神経組織に由来する2本の追加の分離された神経束108を含む7本の分離された神経束108を示す。すなわち、
図3および
図4を参照して、束状神経移植片114は、少なくとも1本の分離された神経束(例えば、複数本の分離された神経束108)、および神経束108を取り囲む生体適合性材料を含むエンチューブレーション材料110から形成されてよい。束状神経移植片114を形成するために使用されるすべての神経束108が同じ神経組織からでよく、または神経束108のうちの1本または複数本が、他の神経組織から得られた1本または複数本の他の束と組み合わせられてよい。そのような他の神経束は、上記と同じように処理および洗浄された神経組織から得られてよい。
【0026】
本開示による束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)を調製するために使用される個々の束は、神経組織(例えば、神経組織100)を処理する工程において使用される加工方法、ならびにその後の洗浄およびインキュベーションにより実質的に改変および破損されない。酵素は、神経束を実質的に破損することなく、神経組織のネイティブECM材料(例えば、神経組織100のネイティブECM材料104)および神経上膜鞘(例えば、神経上膜鞘106)を実質的に消化する。神経束を改変または破損することなくネイティブECM材料および神経上膜鞘を消化するのに適切な酵素は、上述のもの、例えば、特異的および非特異的コラゲナーゼまたはコラーゲン特異的酵素または化学薬品を含む。例えば、ネイティブECM材料および神経上膜鞘を除去するためにコラゲナーゼタイプIVが使用されてよい。神経束を改変または破損しない酵素は、束および各束を取り囲む神経周膜を実質的にインタクトかつ神経束の取扱いに十分な品質のまま残す酵素である。加えて、実質的にインタクトかつ神経束の取扱いに十分な品質のままでありながら、各束を取り囲む神経周膜が神経組織の加工中に影響されてよい。本明細書において使用されるとき、用語「実質的にインタクトかつ取扱いに十分な品質の」は、以下のうちの1つまたは複数を意味する:神経束は、神経束が分裂することなく、マニピュレートされる能力、例えば、ピンセットなどのツールを使用してピックアップされる能力を有する、神経束は、ネイティブ神経組織中の神経束(例えば、神経組織100中の神経束102)と類似の形態および形状を維持し得る、神経束は、流動性のない固体状態のままである、または神経束の物理的特性、例えば、引張強度および弾性率などは、ネイティブ神経組織中の神経束(例えば、神経組織100の神経束102)のものと類似であり得る。
図5は、本明細書の方法による1種または複数種の酵素での処理前のネイティブECM材料104に取り囲まれているラミニン染色された神経束102を示す。
図6は、処理後の同じラミニン染色された神経束102を示し、ここで、ネイティブECM材料104および神経上膜鞘106が除去されている一方、神経束102はインタクトなままであった。以下の実施例1は、本開示による、神経組織100などの神経組織を処理および洗浄する方法を記載する。
【0027】
一部の実施形態によれば、加工され、分離された神経束は、生体適合性材料であるエンチューブレーション材料で包まれることによるものを含め、整列(1本を超える束が使用される場合)およびエンチューブレーションされる。エンチューブレーション材料は、その形状を維持しながら、マニピュレートされる能力、例えば、ピンセットなどのツールでピックアップされる能力を有する十分な強度の任意の材料でよく、かつ例えば、シート、鞘、チューブ、ゲル、または接着剤でよい。エンチューブレーション材料は、ネイティブ神経(例えば、神経組織100)の形状を代表する形状で束を一緒に保持することができる任意の材料でよい。加えて、エンチューブレーション材料は、神経終末または別の材料に対するエンチューブレーション材料の結合のためのその内部を通る縫合糸の挿入に耐える能力を有する十分な強度の任意の材料または材料の組合せで形成されてよい。
図3は、
図3に示されるようなシートの形態の例証的なエンチューブレーション材料110を例示する。代替的に、神経束(例えば、神経束108)は、生体適合性材料を含むチューブで束の非端側面を取り囲むことによりエンチューブレーションされてよい。エンチューブレーション材料は、様々な材料または材料の組合せを含んでよく、それらは天然または合成材料でよい。本明細書の束状神経移植片を形成するエンチューブレーション材料としての使用に適した例証的な生体適合性材料は、これらに限定されないが、インタクトなECM、コラーゲン(これらに限定されないが、単離タイプ-Iコラーゲン、またはタイプII、III、IV、V、およびIVを含む追加のタイプのコラーゲンを含む)、合成生分解性材料(ポリラクチド(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリエチレングリコール(PEG)、またはポリカプロラクトン(PCL)のようなポリエステルなど)、多糖(例えば、キトサン、アルギネート、セルロースを含む)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリマー(例えば、タンパク質ベースのポリマーを含む)、フィブリノゲン、フィブリン、ゼラチン、およびヒドロゲルを含む。エンチューブレーション材料として使用される生体適合性材料は生分解性でよい。適した生体適合性材料のさらなる詳細は、以下にリストされる。エンチューブレーション材料のシートは、患者の必要に合わせてカスタマイズされた構造および寸法を含む所望通りの構造および寸法の1本または複数本の個々の神経束を取り巻き、かつ含むように配置されてよい。いくつかの例において、束状神経移植片を調製するために生体適合性接着剤またはシーラントが使用されてよい。例えば、エンチューブレーション材料が、クロージャー(例えば、チューブに巻かれたシート)を必要とする1つまたは複数の継ぎ目を備える場合、継ぎ目が、生体適合性接着剤またはシーラントの使用を通じて閉じられてよい(例えば、シートの縁部が、一緒に連結およびシールされてよい)。本開示による継ぎ目を閉じるために使用されてよい接着剤またはシーラントの例は、これらに限定されないが、PEG、フィブリン糊、単離タイプ-Iコラーゲン(またはタイプII、III、IV、V、およびIVを含む追加のタイプのコラーゲン)、および光硬化接着剤を含む生物学的に入手された材料または合成材料を含むが、これらに限定されない。シーラントまたは接着剤は、末梢神経組織のような類似の機械的性質および弾性モジュールを保証することができる。
【0028】
代替的に、または加えて、少なくとも1本の神経束(例えば、神経束108)をエンチューブレーションし、束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)を調製する工程は、生体適合性材料または生体適合性材料の組合せであるコーティング材料に神経束を包理する、またはそれで神経束をコーティングする工程を含んでよい。コーティング材料は、例えば、ゲル形態でよく、または接着剤、もしくはゲルおよび接着剤の両方を含んでよい。コーティング材料として使用される生体適合性材料は、神経束がエンチューブレーション材料に包まれ、かつコーティング材料で包埋またはコーティングされるケースにおいて、エンチューブレーション材料としての使用のための上記の生体適合性材料と同じでも、異なっていてもよい。例えば、エンチューブレーション材料上で神経束を整列させた後、整列された神経束は、コーティング材料に包埋され、次いで、エンチューブレーション材料に包まれてよい。代替的に、例えば、神経束は、エンチューブレーション材料上で整列され、エンチューブレーション材料に包まれる前に、コーティング材料で包埋またはコーティングされてよい。そして、コーティング工程の別の代替として、エンチューブレーション材料上で神経束を整列させ、神経束をエンチューブレーション材料に包む前に、エンチューブレーション材料にコーティング材料が厚く塗られてよい(すなわち、コーティング材料(例えば、
図3および
図4に示されたコーティング材料112)がエンチューブレーション材料上に広げられる)。
【0029】
さらに、代替的に、または加えて、神経束を包埋またはコーティングし、束状神経移植片を調製する工程は、神経束の間の空間を、ゲル、コラーゲン、ゼラチン、多糖、ヒドロゲル、フィブリン、フィブリノゲン、アルギネート、セルロース、キトサン、または細胞外マトリックス材料のうちの1つまたは複数を含む生体適合性材料または生体適合性材料の組合せを含む充填材料で少なくとも部分的または完全に充填する工程を含んでよい。充填材料として使用される生体適合性材料は、エンチューブレーション材料として使用される生体適合性材料と同じでも、異なっていてもよく、神経束をコーティングする工程に加えて充填工程が実施されるケースにおいて、コーティング材料として使用される生体適合性材料と同じでも、異なっていてもよい。例えば、充填材料の層が、神経束とエンチューブレーション材料の間の空間、および/または神経束の間の空間を充填してよい。すなわち、束状神経移植片を調製する方法は、例えば、エンチューブレーション材料上で神経束を整列させ、整列された神経束をエンチューブレーション材料に包んだ後、エンチューブレーションされた神経束の間のエンチューブレーション材料内の空間に充填材料を、例えば、注入により、加えることを含んでよい。
【0030】
本明細書の方法は、所望の長さ、周囲長、および断面寸法(円柱状の神経移植片のケースにおける直径などの幅)を有する所望の寸法の神経移植片を産生するために使用することができる。そのために、束状神経移植片を調製するために使用される個々の神経束の数は、所望の幅(または直径)の神経移植片を達成するのに適切な任意の数の神経束を含んでよく、例えば、2本以上の束を含んでよい。すなわち、一部の実施形態において、束状神経移植片は、単一の神経束を含み、そして、他の実施形態において、束状神経移植片は、1本を超える神経束108を含む。例えば、束状神経移植片は、少なくとも2本、少なくとも3本、少なくとも4本、少なくとも5本、少なくとも8本、少なくとも10本、少なくとも12本、または少なくとも16本の神経束など、複数本の束を備えてよい。いくつかの例において、神経移植片は、神経束のサイズ、束状神経移植片が使用される予定の患者の身体内の位置、および束状神経移植片が結合されることになる神経の性質に依存して、2~20本の神経束、5~15本の神経束、14~18本の神経束、またはさらに20本を超える神経束を備える。
【0031】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、患者の外科的必要に適した寸法を有してよく、束状神経移植片を形成するために使用される神経束の数は、その使用位置および患者内の外科的部位の明細により決定されるときを含め、少なくとも部分的には、1本または複数本の神経束の寸法および束状神経移植片の所望の寸法に基づいて決定されてよい。本開示の一部の態様によれば、束状神経移植片は、直径が互いに実質的に類似している神経束を含んでよく、代替的に束状神経移植片は、互いに実質的に非類似の直径の2本以上の個々の神経束を備えてよく、さらに、束状神経移植片は、そのいくつかが互いに実質的に類似の直径を有し、その他が互いに実質的に非類似の直径を有する個々の神経束を備えてよい。各神経束(例えば、各神経束108)の直径は、約50μm~約1mmの間、約50μm~約5mmの間、例えば、約100μm~約500μmの間、約250μm~約750μmの間、約600μm~約900μmの間、約750μm~約1mmの間、または約750μm~約5mmの間でよい。
【0032】
束状神経移植片のサイズは、レシピエント神経の束部分および/または全直径にマッチするように選択される。したがって、神経移植片を形成するために使用される束の数およびサイズは、束状神経移植片の全体のサイズをレシピエント神経の束の数および/またはサイズにマッチするように選択することができる。束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、約50μm~約10mmの間、例えば、約100μm~約500μmの間、約250μm~約750μmの間、約600μm~約900μmの間、または約750μm~約5mmの間の直径を有してよい。個々の束は、約10μmの最小直径を有してよい。束状神経移植片の任意の単一の所望の直径について、1本の束または1本を超える束から束状神経移植片を調製することが可能であり得る。束状神経移植片が1本を超える神経束で形成されるケースにおいて、束状神経移植片を形成するために使用される神経束は、直径が実質的に類似してよい。本明細書において使用されるとき、「直径が実質的に類似」は、神経束が、互いに±20%以内の直径を有することを意味する。代替的に、束状神経移植片を形成するために使用される神経束は、互いに異なっていてもよい。そして、上で述べたように、使用される束の数は、神経束のサイズ、ならびに束状神経移植片が使用される予定の患者の身体内の位置、および束状神経移植片が結合されることになる神経の性質に依存し得る。
【0033】
本明細書において束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)を形成する方法は、複数本の神経束(例えば、神経束108)の長さを修正して、例えば、互いに実質的に同じ長さの複数本の神経束を提供する工程を含んでよい。例えば、神経束は、例えば、上記のように、エンチューブレーションする工程、包埋もしくはコーティングする工程、および/または充填する工程のうちの1つまたは複数を含んでよい上記の方法のいずれかにより調製される束状神経移植片へと神経束を組み合わせる前、間、または後に、任意の適切な技法によりトリミングまたは切断されてよい。一部の態様において、軸索エスケープ(axonal escape)または神経腫の形成を最もよく防止するために、各神経束は、神経移植片の一端から他端まで連続すべきである。束状神経移植片は、約5mm~約100mmの間、約20mm~約50mmの間、約45mm~約75mmの間、または約15mm~約40mmの間など、約3mm~約200mmの間の長さを有するように形成されてよい。さらに、例えば、束状神経移植片は、約100mm3~約25,000mm3、約500mm3~約10,000mm3、約1,000mm3~約5,000mm3、約500mm3~約2,000mm3、約100mm3~約5000mm3、または約7,500mm3~約15,000mm3など、約5mm3~約55,000mm3の範囲の全体積を定義してよい。
【0034】
本明細書に記載される束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、神経成長因子、細胞、混合細胞集団中の複数の細胞型を含む細胞のミックス、細胞成分、非ステロイド性抗炎症剤、または免疫抑制剤のうちの1つまたは複数を含んでもよく、それらのいずれかが、束状神経移植片の形成においていつでも含まれてよく、かつ/またはその形成後に束状神経移植片に加えられてよい。加えて、その全体が本願明細書に援用される米国仮特許出願第63/071,635号に記載された免疫抑制技法およびイムノフィリック剤(immunophilic agent)が、本開示の束状神経移植片における再生活性および免疫抑制活性のために使用されてよい。
【0035】
本明細書に記載される方法にしたがって調製される束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、患者を処置する方法において、例えば、神経ギャップにわたる軸索再生を支持するために末梢神経の不連続性を再建するために、使用されてよい。患者は、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマなど)であり得る。例えば、本明細書の方法による処置において使用される束状神経移植片は、外科的手順を通じて移植されてよい。例証的な手順において、外科医または他の医学的専門家が、関心部位の患者の組織を調べ、必要であれば瘢痕組織を切除し得る。損傷した神経の近位および遠位セグメントが、例えば、視覚的および触覚的サインにより、健常組織まで郭清され得る。さらに、外科医は、適切な長さおよび直径の束状神経移植片を選択するために、神経ギャップを定義する神経の終末間の距離および破損した神経の直径を測定することができる。次いで、本開示にしたがって調製された束状神経移植片が患者に植え込まれ得る。外科医は、縫合糸を使用して、神経ギャップを定義する神経の終末に束状神経移植片を接続することができる。任意選択で、患者を処置する工程は、鎮痛療法および/または非ステロイド性抗炎症薬、成長因子、もしくは免疫抑制剤の投与を含んでもよい。そのような薬剤は、上述のように、束状神経移植片に導入されてよく、かつ/または別個に患者に投与されてよい。イブプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの非ステロイド性抗炎症剤は、疼痛を軽減し、発熱を低減し、血餅を防止し、かつ比較的より高い用量で、炎症を低減することができる。そのようなNSAIDは、両方のシクロオキシゲナーゼ酵素(COX-1およびCOX 2)の活性を阻害することに非選択的であり得、またはCOX-2選択的であり、COX-2の活性を阻害するために使用され得る。免疫抑制剤は、植え込まれた束状神経移植片に対する望まれない免疫応答を防止するのに役立ち得る。本開示に有用な免疫抑制剤は、これらに限定されないが、ステロイド(これらに限定されないが、テストステロンおよびエストロゲンを含む)、グルココルチコイド、細胞分裂阻害薬、抗体、イムノフィリンに作用する薬物、および他の免疫抑制薬を含んでよい。FK506などのイムノフィリンリガンドは、独立した作用機序を通じて神経再生を改善する一方で、免疫抑制的性質を提供する。
【0036】
上記のように、本明細書に記載される束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、1本または複数本の神経束(例えば、神経束108)を1種または複数種の生体適合性材料、ならびに他の任意選択の補足的な材料と組み合わせることにより形成されてよい。特に、神経束は、束状神経移植片を形成するために、エンチューブレーション材料(例えば、
図3および
図4に示されたエンチューブレーション材料110)にエンチューブレーションされてよく(例えば、包まれるか、または取り囲まれてよく)、コーティング材料(例えば、
図3および
図4に示されたコーティング材料112)に包埋されるか、もしくはそれでコーティングされてよく、かつ/または充填材料に取り囲まれてよく、ここで、エンチューブレーション材料、コーティング材料、および/または充填材料は、生分解性である生体適合性材料を含む1種または複数種の生体適合性材料を含む。以下にリストされる生体適合性材料は、束の間の空間を充填するために使用されてよい。生体適合性材料は、最終的なコンストラクト(すなわち、最終的な束状神経移植片)内に束を包埋するために使用されてよい。一部の態様において、生体適合性材料は、最終産生物の外部層をコーティングするために使用されてよい。以下でより詳細に記載されるように、任意選択でヒドロゲルの形態の、非ネイティブECM材料、コラーゲン、キトサン、アルギネート、生分解性ポリマー、セルロース、フィブリノゲン、フィブリン、タンパク質ベースのポリマー、ゼラチン、多糖(キトサン、アルギネート、またはセルロース以外)のうちの1つもしくは複数を含む様々な材料が、1本もしくは複数本の神経束をエンチューブレーションおよび/または包埋もしくはコーティングする、かつ/あるいは1本もしくは複数本の神経束の周りの空間を充填する目的で使用されてよい。リストされるECM材料およびタンパク質は、束状神経移植片内の神経束の安定化を可能にし、かつ植え込まれた組織内の軟部組織浸潤を防止するのに役立つ一般的な生体適合性タンパク質と見なされる。
【0037】
上で述べたように、エンチューブレーション材料および/またはコーティング材料は、非ネイティブECM材料、すなわち、ネイティブECM材料のある部分および神経上膜鞘が除去された後に加えられるECM材料を含んでよい。非ネイティブECM材料は、異なるタイプの組織または異なる種から入手されてよい。加えて、非ネイティブECM材料は、これらに限定されないが、ラミニン(例えば、ラミニンアルファ-2、ラミニンアルファ-4、ラミニンアルファ-5、ラミニンベータ-1、ラミニンベータ-2、ラミニンガンマ-1)、コラーゲン(例えば、コラーゲンIVアルファ-1(IV)鎖、コラーゲンIVアルファ-1/5(IV)鎖、コラーゲンアルファIV-2鎖、コラーゲンアルファIV-3鎖、コラーゲンIアルファ-1鎖、コラーゲンアルファ-2(I)鎖、コラーゲンアルファ-3(VI)鎖、コラーゲンアルファ-1(VI)鎖、コラーゲンアルファ-1(XXVIII)鎖、コラーゲンアルファ-1(III)鎖、コラーゲンアルファ-3(V)鎖、コラーゲンアルファ-1(XVI)鎖、コラーゲンアルファ-1(XXI)鎖、コラーゲンアルファ-2(VI)鎖、コラーゲンアルファ-1(VIII)鎖、コラーゲンアルファ-1(V)鎖、コラーゲンアルファ-1(II)鎖、コラーゲンアルファ-1(XIV)鎖、コラーゲンアルファ-1(XII)鎖)、フィブロネクチン(例えば、フィブロネクチン1(タイプ-III 4、7ドメイン))、アスポリン、パールカン、ナイドジェン(例えば、ナイドジェン-1、ナイドジェン-2)、ルミカン、デルマトポンチン、ケラチン、タイプII細胞骨格1、フィブリリン-1、デコリン、ビトロネクチン、ミエリンタンパク質P0、ミエリンP2タンパク質、アスポリン、プロラルギン、バイグリカン、ペリオスチン、およびアルファ-クリスタリンB鎖を含んでよいタンパク質を含む。これらのうち、少なくとも以下のタンパク質は、神経移植片の再生能力に寄与すると考えられる:ラミニンアルファ-2、ラミニンアルファ-4、ラミニンアルファ-5、ラミニンベータ-1、ラミニンベータ-2、ラミニンガンマ-1、コラーゲンivアルファ-1(IV)鎖、コラーゲンIVアルファ-1/5(IV)鎖、コラーゲンアルファIV-2鎖、コラーゲンアルファIV-3鎖、フィブロネクチン1(タイプ-iii 4、7ドメイン)、パールカン、ナイドジェン-1、およびナイドジェン-2。非ネイティブECM材料は、1本または複数本の神経束が得られる神経組織中にその加工の前に存在したネイティブECM材料のタイプのうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0038】
エンチューブレーション材料および/またはコーティング材料である生体適合性材料は、1つまたは複数のタイプのコラーゲンを追加的または代替的に含んでよい。コラーゲンは、例えば、薄いシートで形成されたスキャフォールドの形態でよい。コラーゲンII、III、IVおよび/またはVなどの他のタイプのコラーゲンも組成物に含まれてよいが、コラーゲンIが特に企図される。線維性(タイプI、II、III、V、XI)、非線維性、FACIT(断続性三重らせんを有する線維結合性コラーゲン)(タイプIX、XII、XIV、XIX、XXI)、短鎖(タイプVIII、X)、基底膜(タイプIV)、マルチプレキシン(断続を有する複数の三重らせんドメイン)(タイプXV、XVIII)、MACIT(断続性三重らせんを有する膜結合性コラーゲン)(タイプXIII、XVII)、またはその他(タイプVI、VII)のコラーゲンとしてグループ化される他のタイプのコラーゲンが含まれてよい。一般に、コラーゲンIおよびコラーゲンIIIがネイティブECM材料を含むとき、これらのタイプのコラーゲンが好ましいであろう。これらのコラーゲンは、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、またはヒト源に由来してよく、かつシリコーン、グリコサミノグリカン、線維芽細胞、および/または成長因子と組み合わせて使用されてよい。
【0039】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、生体適合性材料として1種または複数種の多糖を追加的または代替的に含んでよい。任意のタイプの生体適合性、生分解性多糖が使用されてよい。そのような多糖は、これらに限定されないが、キトサン、アルギネート、またはセルロースを含んでよい。セルロースは、任意の1つまたは複数のタイプのセルロースI、II、IIIまたはIVを含んでよい。
【0040】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、1種または複数種の生分解性ポリマーなどの1種または複数種の生体適合性ポリマーを含んでよい。追加的または代替的に、束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、1種または複数種のタンパク質ベースのポリマーを含んでよい。いくつかの例において、束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、その分子量に依存して、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られるポリエチレングリコール(PEG)を含んでよい。
【0041】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、フィブリン(第Ia因子とも呼ばれる)および/またはフィブリノゲンを追加的または代替的に含んでよい。フィブリンまたはフィブリノゲンは、一般に束および束状神経移植片の安定化を促進し得る。
【0042】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、ゼラチンを追加的または代替的に含んでよく、それはコラーゲンに由来する。ゼラチンは、加水分解コラーゲン、コラーゲン加水分解物、ゼラチン加水分解物、および/または加水分解ゼラチンと表されることもある。ゼラチンは、一般に束および束状神経移植片の安定化を促進し得る。
【0043】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)はヒドロゲルを含んでよい。ヒドロゲルは、これらに限定されない、セルロース、セルロースの任意の誘導体、もしくはヒアルロン酸のいずれか1つまたは組合せからなってよい。ヒドロゲルは、それの機械的性質を調整するために架橋されてもよい。ヒドロゲルは、天然源または合成源を有してよい。
【0044】
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は追加的または代替的に、7S(3種のタンパク質-α-NGF、β-NGF、およびγ-NGF(2:1:2比)の130kDa複合体(proNGF(NGF前駆体)))と表現されることがある神経成長因子(NGF)を含んでよく、または以下のタイプのうちの1つでよい:脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4、ならびにNT4、NT5、NTF4、およびNT-4/5としても知られる)、内因性ステロイドであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、および/またはその硫酸エステル、すなわちDHEA硫酸(DHEA-S)。神経成長因子は、それらの軸索を再生するニューロンの数を増加させることができ、それは、運動および感覚回復ならびに標的筋の神経支配を向上させ得る。
【0045】
テストステロンおよび/またはエストロゲンなどのステロイドが束状神経移植片114において使用されてもよい。
束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、細胞、混合細胞集団中の複数の細胞型を含む細胞のミックス、および/または細胞成分を追加的または代替的に含んでよい。細胞および混合細胞集団中の細胞のミックスの細胞型は、これらに限定されないが、シュワン細胞、マクロファージ、脂肪細胞、シュワン細胞からのエキソソーム、および述べられた細胞型を含む。細胞の源は、ヒト由来であり得、または幹細胞から分化され得、または人工多能性幹細胞から分化転換され得る。加えられる細胞は、サイトカインおよび他の因子の源であり得、それは、神経再生を改善し得る。
【0046】
上記のように、束状神経移植片(例えば、束状神経移植片114)は、緩衝溶液中で、かつ/または緩衝溶液と共に処分、保管、および/または調製され得る。保管に関して、束状神経移植片は、保管容器内に置かれてよく、次いで、保管容器は、約-80℃から室温(約20℃~約22℃)までの範囲の温度で維持される。保管容器は、瞬間冷凍、および数週間、数カ月間、または数年間の-80℃以下での維持に適用可能であり得る。保管容器はまた、実質的に気密であり得、かつ不活性ガスでバックフィルされ得る。いくつかの例において、組織は、本明細書に開示されるように(例えば、酵素、または消化溶液、および緩衝溶液を含んでよい、セリン含有血清を含む1種または複数種の洗浄液で、および任意選択で、緩衝溶液を含む追加の洗浄液で)処理され、次いで、医学的手順における使用前の保管のために、緩衝溶液、例えば、約7.2~約7.6の範囲内のpH、例えば、約7.4のpHなど、約7.3~約7.5のpHを有する緩衝化生理食塩水溶液に移される。本明細書の方法にしたがって調製された移植片の保管に適した例証的な緩衝溶液は、これらに限定されないが、PBS、生理食塩水陰極液、Tris緩衝化生理食塩水、カコジル酸緩衝液、セーレンセンのリン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、およびバルビタール緩衝液を含む。
【0047】
(実施例)
本開示は、以下の非限定的な例によりさらに理解され得る。例は、上記の開示の実施形態を例示することが意図され、その範囲を狭めるものと解釈されるべきではない。当業者であれば、本開示の実施形態が実行され得る多くの他の様式を例が示唆することを容易に認識するであろう。本開示の範囲内に留まりながら多数の変形および修正が加えられ得ることが理解されるべきである。
【0048】
(実施例1)
以下のように束状神経移植片の調製前に神経組織を処理して、ネイティブECM材料および神経上膜鞘を除去する。以下の工程を層流フード内で無菌条件下実施した。まず、100μlのコラーゲンタイプIV特異的消化酵素(例えば、0.8mg/mLコラゲナーゼIV)溶液を1.5ml遠心分離管に移した。神経組織セグメント(約3mm長)および100μl(ピペット設定)の対応する酵素溶液を、37℃で2時間~4時間のインキュベーションのために1.5ml遠心分離管に入れた。セグメントを物理的に破損しないように細心の注意を払って、球タイプホールピペットを使用して消化酵素溶液を吸引した。次いで、洗浄間の反転により穏やかに混合しながらセグメントを1mlのPBSで3回洗浄した。洗浄液を上記のようにホールピペットで除去した。セグメントを破損しないことを保証しながら各洗浄間でできるだけ多くの流体を除去した。試験セグメントと球ホールピペットチップの間の接触を避けた。
【0049】
次に、吸引されたPBSを、例えば、500μlのウシ胎児血清(FBS)で置き換え、その後、37℃で45分間~55分間のインキュベーションが続いた。次いで、セグメントを破損しないことを保証しながら培地を1.5ml遠心分離管から吸引した。これらの工程、すなわち、吸引された培地をFBSで置き換える工程、37℃で45分~55分インキュベートする工程、ならびにインキュベーターから取り出して培地を吸引する工程を2回繰り返した。培地を1.5ml遠心分離管から吸引し、1mlのPBSで置き換えた。次いで、解剖顕微鏡を使用して、ペア精密外科用ピンセット(例えば、5番ジュエラーピンセット)を使用して、各セグメントの消化された組織の残りの部分から、視覚的に分離された束を裂いた。1丁のマイクロシザーを使用して、消化された組織から束を注意深く郭清した。
【0050】
(実施例2)
動物またはヒト源から得られる神経組織を、例えば神経組織のネイティブECM材料および神経上膜鞘を消化するためにコラゲナーゼタイプIV酵素を使用して、実施例1の手順にしたがって調製した。そのような加工に供されない神経組織を対照として使用した。対照神経組織および処理された神経組織をパラフィンにそれぞれ包埋した。8ミクロンの厚さを有する神経サンプルの断面を得た。次いで、切片をラミニンについて染色して、神経束を識別した。組織学的青味試薬を使用して、ネイティブECM材料の存在を識別した。
図5に示されるように、対照神経組織が神経束の周りにネイティブECM材料を含んでいたのに対し、
図6に示されるように、処理された神経組織は、神経束の周りにネイティブECM材料をほとんどまたは全く有していなかった。
【0051】
好ましい実施形態、例証的な実施形態、および任意選択の特徴を参照して本開示を行ってきたが、本明細書に開示される概念の修正および変形が当業者により用いられ得ること、ならびにそのような修正および変形は、添付の特許請求の範囲により定義されるような本開示の範囲内であると見なされることが理解されるべきである。本明細書において提供される具体的な実施形態および例は、本開示の有用な実施形態の例であり、限定するものではなく、単なる例示である。本開示は、本明細書に記載のデバイス、デバイス構成要素、方法、および工程の多くの変形を使用して行われてよいことが当業者には明らかになるであろう。当業者によって認識されるであろうように、本方法に有用な方法およびデバイスは、多くの様々な任意選択の構成および加工要素および工程を含むことができる。
【国際調査報告】