(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】延性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231101BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231101BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C21D9/46 J
C21D9/46 G
C22C38/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524378
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 KR2021014215
(87)【国際公開番号】W WO2022086050
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0138312
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】リュ、 ジュ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】アン、 ヨン-サン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ガン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ウル-ヨン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
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4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB09
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4K037FA02
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4K037FC04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FG01
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4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FL01
4K037FM04
4K037GA05
4K037GA08
4K037JA01
(57)【要約】
本発明は自動車の素材として好適な鋼板に関するものであって、より詳細には、延性に優れた超高強度鋼板に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.1~0.2%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):0.5%以下、チタン(Ti):0.1%以下、ニオブ(Nb):0.1%以下、アンチモン(Sb):0.1%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.02%以下、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1~3を満たすことを特徴とする、延性に優れた超高強度鋼板。
[関係式1]
1110[C]+41.5[Si]+575[Mn]-1092[Al]-3590[Nb]-5181[Ti]+258[Cr]+664[Mo]≧1380
[関係式2]
2853[C]+95[Si]+309[Mn]-153[Al]+4661[Nb]-780[Ti]+210[Cr]+457[Mo]≧1300
[関係式3]
-29[C]+0.6[Si]-7.3[Mn]+7.8[Al]-145.2[Nb]+62.6[Ti]-3.3[Cr]-2.2[Mo]≧-24
(関係式1~3において、各元素は重量含量を意味する。)
【請求項2】
前記鋼板は、微細組織として、面積分率3~20%のフェライト、1~10%の残留オーステナイト、1~30%のベイナイト、30~70%の焼戻しマルテンサイト及び残部フレッシュマルテンサイト(fresh martensite)を含む、請求項1に記載の延性に優れた超高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、フレッシュマルテンサイト相を面積分率3%以上で含む、請求項2に記載の延性に優れた超高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、降伏強度700MPa以上、引張強度980MPa以上、伸び率13%以上である、請求項1に記載の延性に優れた超高強度鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板のうちいずれか一つである、請求項1に記載の延性に優れた超高強度鋼板。
【請求項6】
重量%で、炭素(C):0.1~0.2%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):0.5%以下、チタン(Ti):0.1%以下、ニオブ(Nb):0.1%以下、アンチモン(Sb):0.1%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.02%以下、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1~3を満たす鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを1050~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを800~1000℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延鋼板を総圧下率20~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を800~900℃の温度範囲で焼鈍処理する段階と、
前記連続焼鈍処理された冷延鋼板を250~400℃の温度範囲に冷却する段階と、
前記冷却された冷延鋼板を再加熱及び維持する段階と、を含み、
前記再加熱及び維持する段階は、前記冷却された温度+50℃以上~冷却された温度+200℃以下の温度範囲で0.1~60分間行う、延性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
[関係式1]
1110[C]+41.5[Si]+575[Mn]-1092[Al]-3590[Nb]-5181[Ti]+258[Cr]+664[Mo]≧1380
[関係式2]
2853[C]+95[Si]+309[Mn]-153[Al]+4661[Nb]-780[Ti]+210[Cr]+457[Mo]≧1300
[関係式3]
-29[C]+0.6[Si]-7.3[Mn]+7.8[Al]-145.2[Nb]+62.6[Ti]-3.3[Cr]-2.2[Mo]≧-24
(関係式1~3において、各元素は重量含量を意味する。)
【請求項7】
前記冷延鋼板の冷却は、2~50℃/sの冷却速度で行う、請求項6に記載の延性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷却された冷延鋼板を再加熱する前に冷却された温度範囲で0.1~60分間維持する段階をさらに含む、請求項6に記載の延性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記再加熱及び維持後に溶融亜鉛めっきする段階をさらに含む、請求項6に記載の延性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記溶融亜鉛めっき後に合金化熱処理する段階をさらに含む、請求項6に記載の延性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の素材として好適な鋼板に関し、より詳細には、延性に優れた超高強度鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業において、各種の環境規制及びエネルギー使用規制等に伴う燃費の向上又は耐久性の向上のために、高強度鋼板の使用が求められている。
【0003】
ところが、鋼板の強度を高める場合、相対的に延性が低下するという問題が発見されたため、強度と延性との関係を改善するための多くの研究が行われてきた。その結果、低温組織であるマルテンサイト、ベイナイトとともに、残留オーステナイト相を活用する変態組織鋼が開発されて適用されている実情である。
【0004】
変態組織鋼は、フェライト基地に硬質のマルテンサイト相を形成させたフェライト-マルテンサイトの二相組織(Dual Phase、DP)鋼、残留オーステナイトの変態誘起塑性を用いたTRIP(Tranformation Induced Plasticity)鋼、フェライトと硬質のベイナイト又はマルテンサイト組織で構成されるCP(Complexed Phase)鋼に区別され、これらの各鋼は母相と第2相の種類及び分率によって機械的性質、すなわち、引張強度と伸び率のレベルが異なる。
【0005】
特に、残留オーステナイト相を多量含有するTRIP鋼は引張強度と伸び率のバランス(TS×El)値が最も高い。
【0006】
一例として、特許文献1には、フェライト及びマルテンサイトの他に残留オーステナイト相を10%程度含み、引張強度と伸び率の積が21000MPa%以上であり、780MPa級以上の引張強度を確保できる鋼を開示している。しかし、当該鋼は、炭素(C)の含量が約0.2%、シリコン(Si)の含量が約1.5%以上と多量に添加されるため、スポット溶接性及び溶融亜鉛めっき性に劣るおそれがある。また、高い物性を実現するために2回にわたって焼鈍を行うため、鋼板の製造コストが上昇するという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2では、良好なめっき性及びスポット溶接性を確保するためにSiの含量を1%レベルに下げ、微細組織として残留オーステナイト相を含まずともマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトで構成され、980MPa以上の引張強度及び15%以上の伸び率の確保が可能な技術を開示している。しかし、最近、自動車の衝撃安定性に対する規制が拡大され、車体の耐衝撃性を向上させるためにメンバ(member)、シートレール(seat rail)、ピラー(pillar)などの構造部材などに、降伏強度に優れた高強度鋼が採用されている実情であるものの、当該鋼は降伏強度が700MPa以下であり、適用対象に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第2015-0130612号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2013-0106142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様は、自動車の構造部材などにも好適な鋼板であって、引張強度だけでなく、降伏強度にも優れており、延性が向上した鋼板及びそれを製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、重量%で、炭素(C):0.1~0.2%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):0.5%以下、チタン(Ti):0.1%以下、ニオブ(Nb):0.1%以下、アンチモン(Sb):0.1%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.02%以下、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1~3を満たすことを特徴とする、延性に優れた超高強度鋼板を提供する。
【0012】
[関係式1]
1110[C]+41.5[Si]+575[Mn]-1092[Al]-3590[Nb]-5181[Ti]+258[Cr]+664[Mo]≧1380
【0013】
[関係式2]
2853[C]+95[Si]+309[Mn]-153[Al]+4661[Nb]-780[Ti]+210[Cr]+457[Mo]≧1300
【0014】
[関係式3]
-29[C]+0.6[Si]-7.3[Mn]+7.8[Al]-145.2[Nb]+62.6[Ti]-3.3[Cr]-2.2[Mo]≧-24
(関係式1~3において、各元素は重量含量を意味する。)
【0015】
本発明の他の一態様は、上述した合金組成及び関係式1~3を満たす鋼スラブを準備する段階と、上記鋼スラブを1050~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを800~1000℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、上記巻き取られた熱延鋼板を総圧下率20~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、上記冷延鋼板を800~900℃の温度範囲で焼鈍処理する段階と、上記連続焼鈍処理された冷延鋼板を250~400℃の温度範囲に冷却する段階と、上記冷却された冷延鋼板を再加熱及び維持する段階と、を含み、上記再加熱及び維持する段階は、上記冷却された温度+50℃以上~冷却された温度+200℃以下の温度範囲で0.1~60分間行うものである、延性に優れた超高強度鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、引張強度とともに降伏強度に優れ、延性が向上した鋼板を提供することができ、このような本発明の鋼板は、冷間成形用鋼板に要求される成形性及び衝突安定性が保証されるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例による発明鋼の微細組織をSEMで測定した写真を示すものである。
【
図2】本発明の一実施例による比較鋼の微細組織をSEMで測定した写真を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の発明者らは、自動車の素材として、引張強度及び延性とともに降伏強度に優れており、成形性及び衝突安定性が保証されることにより、複雑な形状への加工が要求される構造部材などにも適用可能な鋼板を提供すべく鋭意研究を行った。
【0019】
その結果、合金成分系及び製造条件を最適化することにより、目標とする物性の確保に有利な組織を有する鋼板を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0020】
特に、本発明は、合金成分のうち特定元素の含量関係を制御し、一連の工程を経て製造される鋼板の工程条件を最適化することにより、軟質相(soft phase)と硬質相(hard phase)とを適切に分散させた複合組織を有する鋼板を提供することに特徴がある。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の一態様による延性に優れた超高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.2%、シリコン(Si):0.1~1.0%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):0.5%以下、チタン(Ti):0.1%以下、ニオブ(Nb):0.1%以下、アンチモン(Sb):0.1%以下(0%を除く)、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.02%以下を含むことができる。
【0023】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0024】
一方、本発明において特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0025】
炭素(C):0.1~0.2%
炭素(C)は、鋼板の強度強化に大きく寄与する元素であって、上記Cは鋼板の結晶粒に析出して固溶強化を誘導し、鋼内のマルテンサイトの形成を促進して鋼を強化させる。また、上記Cはオーステナイト安定化元素であって、残留オーステナイトの形成に重要な役割を果たす。具体的には、オーステナイトに固溶する炭素(C)の量が増加するほど、オーステナイト安定度が高くなり、鋼内のオーステナイトの分率が高くなる。これは、上記オーステナイトの変態により形成されるマルテンサイトの分率上昇を誘導し、鋼板の強度が向上する効果が得られ、一部のオーステナイトは常温で残留して残留オーステナイトとして残る。
【0026】
上述した効果を十分に得るためには、0.1%以上のCを添加することができるが、その含量が0.2%を超えると、マルテンサイト相の分率が過度に増加し、相対的に伸び率及び衝撃吸収エネルギーに優れたフェライト相の分率が減少する。これにより、鋼板の延性が減少し、脆性発生の可能性が高くなる原因となる。
【0027】
したがって、上記Cは0.1~0.2%含むことができ、より好ましくは0.12%以上、0.18%以下含むことができる。
【0028】
シリコン(Si):0.1~1.0%
シリコン(Si)は、フェライト内で炭化物の析出を抑制し、フェライト内の炭素がオーステナイトに拡散することを誘導し、残留オーステナイト安定化に寄与する元素である。
【0029】
上述した効果を得るためには、0.1%以上のSiを含むことが有利であるが、その含量が1.0%を超えると、鋼の表面にSi酸化物を形成するため、溶融めっき及び化成処理(chemical conversion coating)効果を阻害するおそれがある。
【0030】
したがって、上記Siは0.1~1.0%含むことができ、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.4%以上を含むことができる。一方、上記Siはより好ましくは0.9%以下含むことができる。
【0031】
マンガン(Mn):2.0~3.0%
マンガン(Mn)は、上記Cと同様に、オーステナイト安定化元素として作用することができる。具体的には、上記Mnは、複合組織鋼において、マルテンサイトが形成される臨界冷却速度を減少させ、鋼内でマルテンサイトの分率を高めるのに寄与することができる。
【0032】
上述した効果を十分に得るためには、2.0%以上のMnを含有することが有利であるが、その含量が3.0%を超えると、鋼板の溶接性が減少し、熱間圧延性が低下するおそれがある。また、Mn-Bandと呼ばれる縞状の帯を形成して成形性を阻害し、加工クラックの発生リスクを増加させるという問題がある。
【0033】
したがって、上記Mnは2.0~3.0%含むことができ、より好ましくは2.2%以上、2.8%以下含むことができる。
【0034】
アルミニウム(Al):1.0%以下
アルミニウム(Al)は、鋼の脱酸のために添加する元素であり、上記Siと同様にフェライト安定化元素である。上記Alは、フェライト内の炭素をオーステナイトに分配してマルテンサイト硬化能を向上させるのに有効であり、ベイナイト領域での維持時、ベイナイト内の炭化物の析出を効果的に抑制させ、鋼板の延性向上に有用な元素である。
【0035】
このようなAlの含量が1.0%を超えると、製鋼の連鋳操業時に連続鋳造性が低下し、介在物が過剰に形成されて焼鈍材の材質不良が発生する可能性が高くなる。
【0036】
したがって、上記Alは1.0%以下含むことができ、0%は除く。より好ましくは、上記Alは0.01%以上含むことができる。
【0037】
本発明において、Alは可溶アルミニウム(Sol.Al)を意味する。
【0038】
クロム(Cr):1.0%以下
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加する元素であって、マルテンサイトの形成に重要な役割を果たす。また、強度の上昇に対して伸び率の低下を最小化させ、高延性を有する複合組織鋼の製造に有利である。
【0039】
このようなCrの含量が1.0%を超えると、上述した効果が飽和するだけでなく、熱延強度が過度に増加して冷間圧延性に劣るという問題があり、焼鈍後にマルテンサイト分率が大きく増加して伸び率の低下を招くという問題がある。
【0040】
したがって、上記Crは1.0%以下含むことができ、上記Crを意図的に添加しなくても、意図する物性を確保することは困難ではないことを明らかにする。
【0041】
モリブデン(Mo):0.5%以下
モリブデン(Mo)は、鋼内に炭化物を形成する元素であって、鋼中のTi、Nbなどと結合して鋼内に微細な炭化物を形成することで降伏強度及び引張強度の向上に寄与することができる。このようなMoの含量が0.5%を超えると、鋼の伸び率が減少し、製造コストを上昇させるという問題がある。
【0042】
したがって、上記Moは0.5%以下含むことができ、上記Moを意図的に添加しなくても、意図する物性を確保することは困難ではないことを明らかにする。
【0043】
チタン(Ti):0.1%以下
チタン(Ti)は、上記Moと同様に鋼内に微細な炭化物を形成し、鋼の降伏強度及び引張強度の確保に寄与することができる。また、Tiは、窒化物を形成することにより、鋼内に含有されたNをTiNとして析出させ、上記NがAlと結合してAlNとして析出することを抑制することができ、これは、連鋳工程においてクラックが発生する危険を低減する効果がある。
【0044】
このようなTiの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物が析出し、鋼内でCが低減されることにより鋼板の強度が低下するおそれがある。さらに、上記粗大な炭化物で、連鋳工程においてノズル(nozzle)の目詰まりを誘発する可能性がある。
【0045】
したがって、上記Tiは0.1%以下含むことができ、上記Tiを意図的に添加しなくても、意図する物性を確保することは困難ではないことを明らかにする。
【0046】
ニオブ(Nb):0.1%以下
ニオブ(Nb)はオーステナイト粒界に偏析し、焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、上記結晶粒に微細な炭化物を析出することで、鋼板の強度増加に寄与することができる。
【0047】
このようなNbの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物の形成により鋼内のCの含量が低減され、鋼板の強度及び伸び率が減少するという問題があり、鋼の製造コストが上昇するという問題がある。
【0048】
したがって、上記Nbは0.1%以下含むことができ、上記Nbを意図的に添加しなくても、意図する物性を確保することは困難ではないことを明らかにする。
【0049】
アンチモン(Sb):0.1%以下
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に分布し、鋼内のMn、Si、Alなどの酸化性元素の結晶粒界を介した拡散を遅らせることにより、酸化物の表面濃化を抑制し、温度上昇及び熱延工程の変化による表面濃化物の粗大化を抑制するのに有利な効果がある。
【0050】
このようなSbの含量が0.1%を超えると、加工性に劣るだけでなく、製造コストが上昇するという問題がある。
【0051】
したがって、上記Sbは0.1%以下含むことができ、0%は除く。より好ましくは、上記Sbは0.01%以上含むことができる。
【0052】
リン(P):0.05%以下
リン(P)は粒界に偏析して焼戻し脆性(Temper Brittlement)の発生の主な原因となり、溶接性及び靭性を阻害するという問題がある。したがって、上記Pは、可能な限り0%に近づくようにその含量を低く制御することが有利であるが、鋼の製造工程上、必然的に含有され、このようなPの含量を減らすための工程が難しく、追加工程による生産コストが増加するため、その上限を管理することが有効である。
【0053】
したがって、上記Pは0.05%以下に制限することができ、より好ましくは0.03%以下に制限することができる。但し、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができることを明らかにする。
【0054】
硫黄(S):0.02%以下
硫黄Sは、上述したPとともに鋼内に不可避に含有される不純物であって、鋼板の延性及び溶接性を阻害するという問題がある。したがって、上記Sも可能な限り0%に近づくようにその含量を低く制御することが有利であるが、Sの含量を減らすための工程に消耗されるコスト及び時間を考慮すると、その上限を管理することが有効である。
【0055】
したがって、上記Sは0.02%以下に制限することができ、より好ましくは0.01%以下に制限することができる。但し、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができることを明らかにする。
【0056】
窒素(N):0.02%以下
窒素(N)は、鋼中のAlと結合してAlNのアルミナ(Alumina)系非金属介在物を形成することができる。上記AlNは連鋳品質を低下させ、鋼板の脆性を増加させるため、破壊欠陥が発生する危険性を増加させる。
【0057】
したがって、上記Nは0.02%以下に制限することができ、より好ましくは0.01%以下に制限することができる。但し、不可避に流入するレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0058】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、特にその全ての内容を言及しない。
【0059】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、鋼内の特定元素間の含量関係が下記関係式1~3を全て満たすことが好ましい。
【0060】
[関係式1]
1110[C]+41.5[Si]+575[Mn]-1092[Al]-3590[Nb]-5181[Ti]+258[Cr]+664[Mo]≧1380
【0061】
[関係式2]
2853[C]+95[Si]+309[Mn]-153[Al]+4661[Nb]-780[Ti]+210[Cr]+457[Mo]≧1300
【0062】
[関係式3]
-29[C]+0.6[Si]-7.3[Mn]+7.8[Al]-145.2[Nb]+62.6[Ti]-3.3[Cr]-2.2[Mo]≧-24
(関係式1~3において、各元素は重量含量を意味する。)
【0063】
上記関係式1及び2は、鋼板を構成する微細組織の相(phase)分率の制御及び固溶強化効果の向上による鋼板の降伏強度及び引張強度の強化に寄与する程度を数値化して導出した成分関係式である。
【0064】
上記関係式1及び2において、上記Cは、上記Si及びMnに比べて相対的に係数が大きく、これは、上記Cが鋼板の結晶粒に固溶し、強度の向上に大きく寄与することに起因する。一方、上記Siは、上記Cに比べて相対的に係数が小さく、これは、上記Cよりも固溶強化に寄与する効果が小さいことに起因する。さらに、上記Alは負の係数値を有するが、これは固溶強化に寄与するものの、焼鈍中に二相域(dual phase region)フェライトを残留させるか、又は以後の冷却中にフェライト変態を促進して強度の減少を招く効果がより大きいことに起因する。一方、上記Cr及びMoは代表的な硬化能元素であって、焼鈍後の冷却中にフェライト変態を抑制するため、強度を向上させる効果があり、正の値で表す。
【0065】
なお、TiとNbは、微細炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素であるため、成分元素による強度関係式において正の係数値を有することができる。ところが、微細炭化物を形成すると同時に固溶炭素の量が減少し、炭素の固溶強化効果は減少するようになる。したがって、Ti及びNbは、その添加により析出強化効果が支配的な場合には、正の係数値を有するのに対し、炭化物の析出による炭素の固溶強化効果が支配的な場合には、負の係数値で表すことができる。
【0066】
上記関係式3は、特定元素による固溶強化効果の向上とともに、鋼板の伸び率向上に寄与する程度を数値化して導出した成分関係式である。
【0067】
一般的に、鋼板の強度が増加すると、伸び率が減少する傾向があることを考慮して、上記関係式3の各元素の係数は、上記関係式1及び2とは相反する傾向がある。
【0068】
具体的には、上記C及びMnは固溶強化効果により強度の向上に有利であるが、このような強度の向上によって伸び率は減少する傾向があるため、負の係数値を有するようになる。これに対し、Alは伸び率の増加に効果的であるため、正の係数値を有する。一方、Siの場合、固溶強化による強度の向上効果と同時に、残留オーステナイトの確保にも寄与するため、関係式3においても正の係数値を有する。
【0069】
本発明で提案する上記関係式1~3のうちいずれか一つでも満たさなくなると、鋼板の物性、特に、引張強度、降伏強度、伸び率のうちいずれか一つ以上に劣るという問題がある。これは、後述する実施例から立証されることを明らかにする。
【0070】
上述した合金成分系を有する本発明の鋼板は、微細組織として軟質相と硬質相とが適切に分散して含まれ、特に面積分率3~20%のフェライト、1~10%の残留オーステナイト、1~30%のベイナイト、30~70%の焼戻しマルテンサイト、及び残部フレッシュマルテンサイト(fresh martensite)を含むという特徴がある。
【0071】
上記フェライト(Ferrite)は、体心立方構造(BCC)を有する鉄(Fe)の同素体であって、マルテンサイト及びベイナイトとは異なる軟質組織である。よって、上記ベイナイト及びマルテンサイト相に比べて伸び率が高く、衝撃吸収エネルギーに優れるという利点がある。
【0072】
このようなフェライトの分率が20%を超えると、鋼板内の軟質組織が過度に形成されて塑性変形を促進することがあり、これは、鋼板の降伏強度の低下を誘発する原因となる。一方、上記フェライトの分率が3%未満であると、鋼板の伸び率が減少し、成形性が低下するという問題がある。
【0073】
したがって、上記フェライトは面積分率3~20%で含むことができ、より好ましくは5~15%で含むことができる。
【0074】
上記残留オーステナイト(Retained Austenite)は、鋼板の製造過程のうち、一連の熱処理過程(本発明では、[焼鈍-冷却-再加熱及び維持]工程に該当する)でマルテンサイト又はベイナイトに変態することができず、鋼内に残留するオーステナイト組織を意味し、鋼板の強度と伸び率とのバランスを調節する役割を果たす。
【0075】
一般的に、鋼板の強度が増加すると、伸び率が減少して成形性が低下し、鋼板の伸び率が増加すると、強度が減少して構造部材として要求される物性の確保が難しいが、上記残留オーステナイト相は鋼板の引張強度(TS)×伸び率(El)の値を高めるため、強度と伸び率とのバランス向上に有用である。
【0076】
上述した効果を十分に得るためには、面積分率1%以上の残留オーステナイト相を含むことができるが、その分率が10%を超えると、液体金属脆性の敏感度が増加してスポット溶接性に劣るという問題がある。
【0077】
したがって、上記残留オーステナイトは面積分率1~10%で含むことができ、より好ましくは3~9%で含むことができる。
【0078】
上記ベイナイト(Bainite)は、鋼内で組織間の強度差を減らし、加工性の向上に寄与することができる。すなわち、比較的硬度の低いフェライト及び残留オーステナイト相と、相対的に硬度の高い焼戻しマルテンサイト、フレッシュマルテンサイトとの硬度差により、鋼板に割れ、欠陥及び破壊が発生することを防止する役割を果たす。
【0079】
上述した効果を十分に得るためには、面積分率1%以上、より好ましくは5%以上で含むことができる。但し、その分率が30%を超えると、フレッシュマルテンサイトの分率が減少して目標レベルの強度を確保するのに困難がある。
【0080】
したがって、上記ベイナイトは面積分率1~30%で含むことができる。
【0081】
上記焼戻しマルテンサイト(Tempered Martensite)とは、オーステナイトを焼入れ(quenching)して得られたマルテンサイト相を約500℃程度の温度で焼戻し(tempering)処理して軟化させた組織を意味する。このような焼戻しマルテンサイト相は、前述の組織に比べて強度が高いため、鋼板の降伏強度及び引張強度の向上に大きく寄与する。また、焼入れして得られたマルテンサイト内の炭素が焼戻し工程中に周辺のオーステナイトに分配され、オーステナイトの熱的安定性を高めて、常温で残留できるようにするため、鋼板の伸び率の向上を図る効果がある。
【0082】
上述した効果を十分に得るためには、面積分率30%以上の上記焼戻しマルテンサイト相を含むことが好ましい。但し、その分率が70%を超えると、相対的に残留オーステナイト相の分率が減少するという問題がある。
【0083】
したがって、上記焼戻しマルテンサイトは面積分率30~70%で含むことができる。
【0084】
上記フェライト、残留オーステナイト、ベイナイト及び焼戻しマルテンサイト相を除く残部組織としては、フレッシュマルテンサイト(Fresh Martensite)相を含むことができる。
【0085】
上記フレッシュマルテンサイト相は、常温に最終冷却する過程で得られる組織であり、強度が最も高いため、鋼板の降伏強度及び引張強度の向上に大きく寄与する。このようなフレッシュマルテンサイト相の分率については特に限定しないが、一例として、面積分率3%以上で含むことができることを明らかにする。
【0086】
上記のように、本発明の鋼板は、軟質相と硬質相とが適切に形成されることにより、引張強度、降伏強度及び伸び率に優れるという特徴があり、具体的には、700MPa以上の降伏強度、980MPa以上の引張強度、13%以上の伸び率を有することができる。
【0087】
一方、本発明の鋼板は冷延鋼板であってもよく、上記冷延鋼板の少なくとも一面に亜鉛系めっき層を含む溶融亜鉛めっき鋼板、上記溶融亜鉛めっき鋼板が合金化処理した合金化溶融亜鉛めっき鋼板であってもよい。
【0088】
特に限定するものではないが、上記亜鉛系めっき層は、亜鉛を主に含有する亜鉛めっき層、亜鉛以外にアルミニウム及び/又はマグネシウムを含有する亜鉛合金めっき層であってもよい。
【0089】
以下、本発明の他の一態様である、本発明で提供する延性に優れた超高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0090】
簡単に言えば、本発明は、[鋼スラブ再加熱-熱間圧延-巻取り-冷間圧延-連続焼鈍-冷却-再加熱及び維持]の工程を経て目的とする鋼板を製造することができ、その後、「溶融亜鉛めっき-合金化熱処理」の工程をさらに行うことができる。
【0091】
各段階別条件については、下記で詳細に説明する。
【0092】
[鋼スラブ加熱]
まず、上述した合金成分系を全て満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができる。本工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。
【0093】
上記加熱工程は1050~1300℃の温度範囲で行うことができる。上記加熱温度が1050℃未満であると、鋼板と圧延機との間で摩擦が増加し、熱間圧延時にローラに負荷される荷重が急激に増加するという問題がある。一方、その温度が1300℃を超えると、温度上昇のために要求されるエネルギーコストが増加するだけでなく、表面スケールの量が増加して材料の損失につながる可能性がある。
【0094】
したがって、上記加熱工程は1050~1300℃の温度範囲で行うことができ、より好ましくは1090~1250℃の温度範囲で行うことができる。
【0095】
[熱間圧延]
上記により加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0096】
上述した温度範囲で仕上げ熱間圧延を行うことで、鋼板の剛性及び成形性を同時に向上させる効果が得られる。しかし、その温度が800℃未満であると、フェライト領域で圧延が行われることによって、鋼板と圧延機との間で摩擦が増加し、圧延による負荷が大きく増加するという問題がある。これは、過度な転位を形成して後続する巻取り又は冷間圧延の過程で鋼板の表面に粗大な結晶粒の形成を誘発するため、強度低下の原因となる。一方、その温度が1000℃を超えると、フェライト結晶粒の大きさが増加し、やはり強度が低下するという問題がある。さらに、熱延鋼板の表面にスケール(scale)が発生し、表面欠陥及び圧延ロールの寿命短縮を誘発する可能性がある。
【0097】
したがって、上記熱間圧延時に仕上げ熱間圧延は800~1000℃の温度範囲で行うことができ、より好ましくは850~950℃の温度範囲で行うことができる。
【0098】
[巻取り]
上記により製造された熱延鋼板を巻き取ることができ、このとき400~700℃の温度範囲で行うことができる。
【0099】
上記巻取り温度が400℃未満であると、熱延鋼板の強度が過度に高くなり、後続する冷間圧延時に圧延負荷を誘発することがある。また、熱間圧延された鋼板を巻取り温度まで冷却するためのコスト及び時間が過度にかかり、工程コスト上昇の原因となる。一方、その温度が700℃を超えると、熱延鋼板の表面にスケールが過度に発生して表面欠陥を誘発する可能性が高く、めっき性が弱くなる原因となる。
【0100】
したがって、上記巻取り工程は400~700℃の温度範囲で行うことができ、より好ましくは500~700℃の温度範囲で行うことができる。
【0101】
[冷却]
上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで冷却することができる。このとき、冷却速度については特に限定しないが、空冷で行うことができる。
【0102】
[冷間圧延]
その後、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板に製造することができ、このとき20~70%の冷間圧下率で行うことができる。
【0103】
上記冷間圧延時に冷間圧下率が20%未満であると、目標厚さの鋼板を得るのに困難があり、鋼板の形状を矯正し難いという欠点がある。一方、70%を超えると、鋼板のエッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、冷間圧延の負荷をもたらすという問題がある。さらに、鋼板の表面に、過度な負荷により後続の連続焼鈍時に粗大なフェライトが形成されるおそれがある。
【0104】
したがって、上記冷間圧延は20~70%の冷間圧下率で行うことができ、より好ましくは30~60%の冷間圧下率で行うことができる。
【0105】
一方、上記冷間圧延を行う前に、上記熱延鋼板に対して酸洗(pickling)処理を行うことができる。上記酸洗処理は、上記熱延鋼板の表面に形成されたスケールを塩酸(HCl)などを用いて除去する工程であり、通常の条件により行うことができるため、その条件については特に限定しない。
【0106】
[焼鈍]
上記により製造された冷延鋼板を焼鈍処理することができる。一例として、連続焼鈍工程(Continuous Annealing Process)を行うことができるが、これに限定されるものではなく、公知の焼鈍方法のいずれでも構わない。
【0107】
本発明では、上記焼鈍工程により冷延鋼板に形成されるフェライトを再結晶化させ、鋼内のフェライト及びオーステナイトの分率を調節することができる。このとき形成された各相の分率によって、最終熱処理(後述する再加熱工程を指す)以後に製造された鋼板の強度が決定され、一般的に上記オーステナイトの分率が高いほど、オーステナイトから変態するマルテンサイト又はベイナイトの分率が増加して鋼板の強度が向上する傾向がある。但し、本発明は、後述する一連の熱処理条件によってさらに強度を制御することができる。
【0108】
また、上記焼鈍工程によって鋼内の炭素(C)を分配することができ、これによりオーステナイト内に含有される炭素(C)の量を増加させ、常温でも最大10面積%のオーステナイト相を有することができる。
【0109】
上記焼鈍工程は800~900℃の温度範囲で行うことができる。
【0110】
上記焼鈍時の温度が800℃未満であると、焼鈍工程によって形成されるオーステナイトの分率が減少し、後述する熱処理時に形成される焼戻しマルテンサイト、ベイナイト及びフレッシュマルテンサイトの分率が十分でないおそれがある。これは、最終鋼板の降伏強度と引張強度が減少する原因となり得る。一方、その温度が900℃を超えると、鋼板内のオーステナイトの分率が過度に高くなり、後述する熱処理過程で一部のオーステナイトがフェライトに変態するという問題がある。また、残留オーステナイトの炭素濃化が低くなって機械的安定性が減少するおそれがあり、この場合、鋼板の伸び率を低下させる原因となる。さらに、上記焼鈍過程で鋼内のFeが酸化しながら発生する水分が鋼中のSi、Mn、Alと反応し、鋼板に酸化物皮膜を形成する可能性が高くなる。上記酸化物皮膜は、溶融亜鉛めっき時にZnの濡れ性を阻害し、鋼板の表面品質が悪くなるおそれがある。
【0111】
したがって、上記焼鈍工程は800~900℃の温度範囲で行うことができ、より好ましくは820~870℃の温度範囲で行うことができる。
【0112】
[冷却]
上記により焼鈍工程を完了した冷延鋼板を冷却することができる。
【0113】
本発明は、上記焼鈍処理された冷延鋼板に対して冷却を行うことにより焼入れマルテンサイト(quenched martensite)を形成することができ、このために、上記冷却はマルテンサイト変態開始温度(Ms)以下で行うことが好ましい。より好ましくは250~400℃の温度範囲まで行うことができる。
【0114】
上記冷却時に、その温度が低いほど、焼入れマルテンサイトの分率が高くなり、鋼板の強度向上を誘導することができる。また、マルテンサイト内に過飽和した炭素が、後続する熱処理過程において周辺のオーステナイトに分配され、残留オーステナイトの安定性を高め、その結果、伸び率の向上を図ることができる。
【0115】
但し、上記冷却温度が250℃未満であると、焼入れマルテンサイトの分率が過度に増加して、むしろ残留オーステナイトの分率が減少し、鋼板の形状が劣化するという問題がある。一方、その温度が400℃を超えると、焼入れマルテンサイトが十分に形成されず、上述した効果を期待し難くなる。
【0116】
上述した温度範囲に冷却する際、2~50℃/sの平均冷却速度で行うことができる。上記冷却時の速度が2℃/s未満であると、冷却中にフェライトがさらに変態して強度の減少を誘発する。一方、その速度が50℃/sを超えて急冷すると、鋼板の位置別冷却ばらつきの発生により鋼板の形状が劣化するという問題がある。上述した冷却速度で冷却を行うにあたり、冷却方法については特に限定しない。一例として、上記冷却は、初期設定された冷却速度のまま冷却終了温度まで冷却する単一冷却方法であってもよく、他の例として、一定区間までは徐冷を行った後、冷却終了温度まで強冷を行う段階的冷却(step-by step cooling)方法であってもよいが、これに限定されるものではないことを明らかにする。
【0117】
一方、上記冷却された温度で一定時間維持する工程を経ることができ、この過程で等温変態相がさらに導入され、後続工程においてベイナイトの変態を促進する効果を得ることができる。このために、上記維持工程は0.1~60分間行うことができる。
【0118】
[再加熱及び維持]
上記冷却された冷延鋼板、さらに、冷却及び維持された冷延鋼板を上記冷却温度に比べて50~200℃程度高い温度範囲に再加熱した後、一定時間維持することにより焼戻し処理することができる。
【0119】
上記冷却された冷延鋼板を再加熱処理することにより、上記冷却過程で形成された焼入れマルテンサイト相が焼戻しされて焼戻しマルテンサイトに変態し、上記焼戻しマルテンサイトは炭素が転位に固着して降伏強度が高いという利点がある。また、上記焼戻し過程で焼入れマルテンサイト内に過飽和した炭素(C)が周辺のオーステナイトに再分配されるか、又はベイナイト変態を誘導して残留オーステナイトの安定性が向上し、伸び率を向上させる効果が得られる。
【0120】
上記転位の固着及びオーステナイトへの炭素分配は、焼戻しされる温度が高いほど円滑に起こるため、上記冷却温度より50℃以上高い温度(冷却された温度+50℃以上)で再加熱する必要がある。但し、その温度が過度に高いと、焼入れマルテンサイト内にセメンタイト(cementite)が生成され、粗大化して鋼板の強度が低下し、オーステナイトへの炭素再分配効果が減少して伸び率の向上を期待し難くなる。これを考慮して、上記再加熱は、上記冷却された温度+200℃以下で行われるように制限することができる。
【0121】
上述した温度範囲に冷却された冷延鋼板を再加熱した後、その温度で0.1~60分間維持することにより、上述した効果を十分に実現することが好ましい。
【0122】
上記維持時に、その時間が過度となって60分を超えると、維持温度で平衡相であるフェライトとセメンタイトが形成され、鋼板の強度が減少するという問題があり、0.1分未満では意図する効果が得られない。
【0123】
上記のように冷却された冷延鋼板を再加熱及び維持する工程を完了した後には、通常の条件で常温まで冷却することができ、最終的に、一定分率の軟質相と硬質相とが適切に分布した組織を有する鋼板が得られる。
【0124】
具体的には、面積分率3~20%のフェライト、1~10%の残留オーステナイト、1~30%のベイナイト、30~70%の焼戻しマルテンサイト及び残部フレッシュマルテンサイト(fresh martensite)で構成される微細組織を有する鋼板を得ることができ、このような本発明の鋼板は、降伏強度及び引張強度に優れ、延性が向上した効果を有することができる。
【0125】
上記常温まで冷却する工程については特に限定しないが、一例として、空冷で行うことができる。但し、水冷、油冷、炉冷などの公知の冷却方法で代替可能であることは自明である。
【0126】
一方、上記による一連の熱処理工程を完了した冷延鋼板に対して、後述するようにめっき処理することで、少なくとも一面にめっき層を有するめっき鋼板を製造することができる。
【0127】
[溶融亜鉛めっき]
上述した一連の工程を経て製造された鋼板を溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0128】
このとき、溶融亜鉛めっきは通常の条件で行うことができるが、一例として、430~490℃の温度範囲で行うことができる。また、上記溶融亜鉛めっき時に、溶融亜鉛系めっき浴の組成については特に限定せず、純粋亜鉛めっき浴であってもよく、Si、Al、Mg等を含む亜鉛系合金めっき浴であってもよい。
【0129】
[合金化熱処理]
必要に応じて、上記溶融亜鉛めっき鋼板に対して合金化熱処理することにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0130】
本発明では、上記合金化熱処理工程条件については特に制限せず、通常の条件であれば構わない。一例として、480~600℃の温度範囲で合金化熱処理工程を行うことができる。
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【実施例】
【0132】
(実施例)
下記表1の合金組成を有するスラブ30kgを1200℃の温度で1時間の間加熱した後、加熱されたスラブを900℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造した。その後、各熱延鋼板を600℃に予め加熱された炉に装入して1時間維持した後、炉冷する熱延巻取りの模擬を行った。その後、常温まで冷却(空冷)した後に45%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。
【0133】
上記により製造されたそれぞれの冷延鋼板について、下記表2に示す温度T1(℃)で1分間連続焼鈍処理した後、温度T2(℃)に冷却してから10秒維持した後、温度T3(℃)に再加熱して1分間維持した上で、常温に冷却(空冷)して最終鋼板を製造した。上記焼鈍処理後、温度T2までの冷却は一律的に15℃/sの冷却速度で行った。
【0134】
上述した全ての工程を経て製造されたそれぞれの鋼板について、機械的物性及び内部組織を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0135】
上記機械的物性としては、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び伸び率(El)を測定し、ASTM引張試験片を用いて万能引張試験機により測定した。
【0136】
上記内部組織は試験片を研磨してからナイタル(nital)エッチングした後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて各相の面積を算出した。
【0137】
【0138】
【表2】
(表2において、鋼9、10及び11は、合金成分系が本発明から外れるため、比較例として分類したものである。)
【0139】
【0140】
上記表1~3に示すように、本発明で提案する合金成分系及び製造条件を全て満たす発明例1~11は、意図する組織構成が形成されることで、目標とする物性が確保された。
【0141】
一方、本発明で提案する成分関係式の関係式1及び2のうち少なくとも一つを満たさない比較例1及び2は、降伏強度及び引張強度のうち一つ以上の物性が目標レベルに確保されないことが分かる。また、成分関係式のうち関係式3を満たさない比較例7は、伸び率が大きく劣っていることが確認できる。
【0142】
これにより、本発明で特徴とする関係式1は鋼板の微細組織の分率と固溶強化効果による降伏強度の強化に寄与し、関係式2は鋼板の引張強度の向上に寄与し、関係式3は鋼板の延性向上に寄与することが証明された。
【0143】
すなわち、本発明の関係式1及び2を満たさない場合、鋼板の強度に劣り、関係式3を満たさない場合は鋼板の延性に劣ることを意味する。
【0144】
一方、本発明で提案する合金成分系は満たしているものの、熱処理条件が本発明から外れる比較例3~6は、意図した通りに軟質相と硬質相とが適切に形成されず、その結果、全ての例において優れた強度及び延性の両立を確保することができなかった。
【0145】
図1は、発明例1の組織写真を示すものであって、フェライト、残留オーステナイト、焼戻しマルテンサイト、ベイナイトが目標とする分率の範囲内に形成され、その他の残部組織としてフレッシュマルテンサイト相が形成されたことが確認できる。
【0146】
図2は、比較例6の組織写真を示すものであって、焼戻しマルテンサイト相が目標とする分率で形成されず、残留オーステナイト相を十分に確保できず、フレッシュマルテンサイト相の分率が相対的に高く形成されたことが確認できる。
【国際調査報告】