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特表2023-547276溶接フラックス組成物及び対応する金属を溶接するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】溶接フラックス組成物及び対応する金属を溶接するための方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20231101BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20231101BHJP
   B23K 26/348 20140101ALI20231101BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20231101BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20231101BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20231101BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
B23K35/362 310D
B23K9/18 G
B23K9/18 Z
B23K26/348
C22C18/04
C22C18/00
C22C21/10
C22C21/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549143
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 IB2020059871
(87)【国際公開番号】W WO2022084716
(87)【国際公開日】2022-04-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150211
【氏名又は名称】ベルディシオ・ソリューションズ・ア・イ・エ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンホン・フェルナンデス,アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス・ロドリゲス,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ヘリツェン,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4E001
4E084
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001CA01
4E001CC02
4E001EA07
4E084AA01
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA04
4E084AA07
4E084AA15
4E084CA13
4E084CA19
4E084DA16
4E084DA30
4E084DA31
4E084EA04
4E168BA42
4E168BA83
4E168BA88
(57)【要約】
本発明は、溶接継手を製造するための方法であって、以下の連続する工程:I.少なくとも1つの金属基板が鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、II.溶接ヘッドによる前記少なくとも2つの金属基板の溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方に、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とを含む溶接フラックスを適用すること、を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手を製造するための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、
II.溶接ヘッドによる前記少なくとも2つの金属基板の溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方に、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とを含む溶接フラックスを適用すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記チタネートが、NaTi、NaTiO、KTiO、KTi、MgTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、FeTiO及びZnTiO又はそれらの混合物の中から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接フラックスの厚さが10~140μmである、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記溶接フラックス中の前記ナノ粒子状酸化物の百分率が80重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶接フラックス中の前記ナノ粒子状酸化物の百分率が10重量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、5~60nmに含まれるサイズを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接フラックス中のチタネートの百分率が45重量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記チタネートの直径が1~40μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶接フラックスがフラックスホッパーを用いて適用される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
遮蔽フラックスが前記溶接フラックスを覆うように、当該遮蔽フラックスが、前記溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方にさらに適用される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遮蔽フラックスが、フラックスホッパーを用いて適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接フラックスが遮蔽フラックスでもある、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶接フラックスが、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶接が、サブマージアーク溶接、サブマージアーク溶接に基づくナローギャップ溶接又はサブマージアーク溶接に基づくレーザ・アークハイブリッド溶接によって行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドの前方に配置され、遮蔽フラックスの適用に適した第1のフラックスホッパーと、溶接フラックスの適用に適し、前記第1のフラックスホッパーより前記溶接ヘッドのさらに前方に配置された第2のフラックスホッパーとを備える溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接フラックスを用いた金属基板の溶接に関する。本発明は、建設、造船、輸送産業(鉄道及び自動車)、エネルギー関連構造物、石油及びガス並びにオフショア産業に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
ガスメタルアーク溶接(GMAW)、タングステン不活性ガス溶接(TIGW)としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、レーザビーム溶接(LBW)、狭開先溶接としても知られるナローギャップ溶接、レーザ・アークハイブリッド溶接などの異なる溶接技術を用いて金属基板を溶接することは周知である。溶接は、基板内での溶け込みを増加させるための溶接フラックスの助けを借りて行うことができる。この溶接フラックスは、溶接中の酸化から溶接ゾーンを保護するために主に使用されることがある遮蔽フラックスとは異なる。
【0003】
特許出願国際公開第00/16940号は、深溶け込みガスタングステンアーク溶接が、NaTi又はKTiOなどのチタネートを使用して達成されることを開示している。炭素鋼、クロム-モリブデン鋼、ステンレス鋼及びニッケル系合金において深溶け込み溶接を与えるために、溶接フラックスの一部として又はフィラーワイヤの一部としてチタネートが溶接ゾーンに適用される。国際公開第00/16940号のチタネート化合物は、約325メッシュ又はそれより細かい、44μmに相当する325メッシュの高純度粉末の形態で使用される。アークのふらつき、ビードの稠度並びに溶接物のスラグ及び表面の外観を制御するために、TiO、TiO、Cr及びFeなどの遷移金属酸化物、二酸化ケイ素、マンガンケイ化物、フッ化物及び塩化物を含む様々な追加の成分がチタネート系フィラーワイヤに任意に添加され得る。フラックスのすべての化合物は、マイクロメートルの寸法を有する。
【0004】
国際公開第00/16940号に開示されているフラックスによって溶け込みは改善されるが、溶け込みは鋼基板に対して最適ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2000/16940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、鋼基板での溶接溶け込み、したがって溶接された鋼基板の機械的特性を改善する必要が存在する。溶接の堆積速度及び生産性を増大させることに対するニーズも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、溶接継手を製造するための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、
II.溶接ヘッドによる前記少なくとも2つの金属基板の溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方に、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とを含む溶接フラックスを適用すること、
を含む、方法に関する。
【0008】
本発明による方法は、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴も有し得る。
【0009】
・チタネートは、NaTi、NaTiO、KTiO、KTi、MgTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、FeTiO及びZnTiO又はそれらの混合物の中から選択される、
・溶接フラックスの厚さは10~140μmである、
・溶接フラックス中のナノ粒子状酸化物の百分率は80重量%以下である、
・溶接フラックス中のナノ粒子状酸化物の百分率は10重量%以上である、
・ナノ粒子は、5~60nmに含まれるサイズを有する、
・溶接フラックス中のチタネートの百分率は45重量%以上である、
・チタネートの直径は1~40μmである、
・溶接フラックスは、フラックスホッパーを用いて適用される、
・遮蔽フラックスが溶接フラックスを覆うように、遮蔽フラックスは、溶接と同時に、少なくとも2つの金属基板上に、溶接ヘッドの前方でさらに適用される、
・遮蔽フラックスは、フラックスホッパーを用いて適用される、
・溶接フラックスは遮蔽フラックスでもある、
・溶接フラックスは、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムをさらに含む、
・溶接は、サブマージアーク溶接、サブマージアーク溶接に基づくナローギャップ溶接又はサブマージアーク溶接に基づくレーザ・アークハイブリッド溶接によって行われる。
【0010】
本発明は、溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドの前方に配置され、遮蔽フラックスの適用に適した第1のフラックスホッパーと、溶接フラックスの適用に適し、前記第1のフラックスホッパーより前記溶接ヘッドのさらに前方に配置された第2のフラックスホッパーとを備える溶接装置にも関する。
【0011】
以下の用語が定義される。
【0012】
・ナノ粒子は、サイズが1~100ナノメートル(nm)の粒子である。
・チタネートは、チタン、酸素及びアルカリ金属元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素又は金属元素などの少なくとも1つの追加の元素を含有する無機化合物を指す。それらはそれらの塩の形態であり得る。
【0013】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明による溶接フラックスは、主に溶融プールの物理を改変すると考えられる。本発明では、化合物の性質だけでなく、酸化物粒子のサイズが100nm以下であることも、溶融プールの物理を改変すると思われる。
【0014】
実際に、フラックスは融解され、溶解された種の形態の溶融金属中に、及び溶接技術がアークを伴う場合には、イオン化された種の形態のアーク中に組み込まれる。アーク中のチタネート及び酸化物ナノ粒子の存在により、アークは収束される。
【0015】
さらに、溶融金属中に溶解されたフラックスは、表面張力勾配に起因する液体-気体界面での物質移動であるマランゴニ流を改変する。特に、フラックスの成分は、界面に沿った表面張力の勾配を改変する。表面張力のこの変更は、溶接プールの中心方向への、流体の流れの反転をもたらす。この反転は、溶接溶け込み及び溶接効率の改善をもたらし、堆積速度の増加、したがって生産性の増大をもたらす。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子は微粒子よりも低温で溶解し、したがってより多くの酸素が溶融プール中に溶解し、逆マランゴニ流を活性化すると考えられる。
【0016】
溶接技術がアークを伴う場合、逆マランゴニ流の効果が、アーク収束によるより高いプラズマ温度と組み合わされ、溶接溶け込み及び材料堆積速度をさらに改善する。溶接技術がレーザビームを伴う場合、逆マランゴニ流は適切なキーホール形状の保持に寄与し、次いで、これはガスの閉じ込め、したがって溶接部における細孔を防止する。
【0017】
さらに、溶解酸素が界面活性剤として作用し、母材金属上の溶融金属の濡れを改善し、したがって、縁融合の不足などの溶接において現れる傾向がある重大な欠陥を回避する。
【0018】
さらに、フラックスの成分が温度と共に表面張力を増加させるにつれて、溶融プールの中心よりも冷たい縁に沿って溶接材料の濡れ性が増加し、これはスラグの閉じ込めを防止する。
【0019】
純粋に説明の目的で提供されており、決して限定することを意図するものではない以下の記述を読むことによって、本発明はよりよく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、鋼基板の溶接に関する。好ましくは、鋼基板は炭素鋼である。
【0021】
鋼基板は、任意に、その面の1つの少なくとも一部を防食コーティングによって被覆することができる。好ましくは、防食コーティングは、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む。
【0022】
好ましい実施形態において、防食コーティングは、15重量%未満のSi、5.0重量%未満のFe、任意に0.1~8.0重量%のMg及び任意に0.1~30.0重量%のZnを含み、残りはAl及び製造過程から生じる避けられない不純物であるアルミニウム系コーティングである。別の好ましい実施形態において、防食コーティングは、0.01~8.0重量%のAl、任意に0.2~8.0重量%のMg、残りはZn及び製造過程から生じる避けられない不純物である亜鉛系コーティングである。
【0023】
防食コーティングは、好ましくは鋼基板の両面に施される。
【0024】
鋼材は、同じ組成又は異なる組成の鋼基板に溶接することができる。鋼材は、例えばアルミニウムなどの別に溶接されることもできる。
【0025】
溶接フラックスは、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とを含む。換言すれば、溶接フラックスは、チタネートと、少なくとも1種のナノ粒子状酸化物を含み、少なくとも1種のナノ粒子状酸化物は、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択される。これは、溶接フラックスが列挙されたもの以外の他のナノ粒子状酸化物を含まないことを意味する。
【0026】
チタネートは、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩、チタン酸遷移金属塩、チタン酸金属塩及びそれらの混合物からなるチタネートの群から選択される。チタネートは、より好ましくは、NaTi、NaTiO、KTiO、KTi、MgTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、FeTiO及びZnTiO並びにそれらの混合物の中から選択される。これらのチタネートは、逆マランゴニ流の効果に基づいて溶け込み深さをさらに増加させると考えられる。すべてのチタネートが、ある程度同様に挙動し、溶け込み深さを増加させることが本発明者らの理解である。したがって、すべてのチタネートが本発明の一部である。当業者は、具体的な事例に応じてどのチタネートを選択しなければならないかを知っているであろう。そうするために、当業者は、チタネートがどれだけ容易に溶融及び溶解するか、チタネートがどれだけ溶解酸素含有量を増加させるか、チタネートの追加の元素が溶融プールの物理及び最終的な溶接の微細構造にどのように影響するかを考慮に入れるであろう。例えば、NaTiOは、スラグ形成及び脱離を改善するNaの存在のために好ましい。
【0027】
好ましくは、チタネートは、1~40μm、より好ましくは1~20μm、有利には1~10μmの直径を有する。このチタネートの直径は、アーク収束及び逆マランゴニ効果をさらに改善すると考えられる。さらに、小さなマイクロメートルのチタネート粒子を有することは、ナノ粒子状酸化物との混合に利用可能な比表面積を増加させ、ナノ粒子状酸化物をチタネート粒子にさらに付着させる。
【0028】
好ましくは、溶接フラックスの乾燥重量におけるチタネートの重量百分率は、45%以上、より好ましくは45%~90%、さらにより好ましくは65%~90%である。
【0029】
ナノ粒子状酸化物は、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物から選択される。これらのナノ粒子は溶融プール中に容易に溶解し、溶融プールに酸素を供給し、その結果、濡れ性及び材料の堆積を改善し、より深い溶接溶け込みを可能にする。CaO、MgO、B、Co又はCrなどの他の酸化物とは対照的に、それらは脆性相を形成する傾向がなく、熱が鋼を正確に溶融するのを妨げる高い耐火効果を有さず、それらの金属イオンは溶融プール中の酸素と再結合する傾向がない。
【0030】
好ましくは、ナノ粒子はSiO及びTiO、より好ましくはSiOとTiOの混合物である。SiOは主に溶け込み深さを増加させ、スラグ除去を容易にするが、TiOは主に侵入深さを増加させ、機械的特性を改善するTi系介在物を形成すると考えられる。
【0031】
ナノ粒子状酸化物の混合物の他の例は、
・酸化イットリウム(Y)の添加により二酸化ジルコニウム(ZrO)の立方晶構造を室温で安定化させたセラミックスであるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
・耐火効果を調整するのに役立ち、介在物の形成を促進するLa、ZrO及びYの1:1:1組み合わせ、である。
【0032】
好ましくは、ナノ粒子は、5~60nmに含まれるサイズを有する。このナノ粒子直径は、フラックスの均一な分布をさらに改善すると考えられる。
【0033】
好ましくは、溶接フラックスの乾燥重量におけるナノ粒子状酸化物の重量百分率は、80%以下、好ましくは10%以上、より好ましくは10~60%、さらにより好ましくは25~55%である。
【0034】
本発明の一変形によれば、フラックスは、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とからなる。
【0035】
本発明の別の変形によれば、溶接フラックスは、例えばNaO、Na、CeO、NaBiO、NaF、CaF、氷晶石(NaAlF)などの微粒子状酸化物及び/又は微粒子状フッ化物などの微粒子状化合物をさらに含む。上に列記されたナノ粒子状酸化物のいくつかについて、ナノ粒子から微粒子への移行は、ワイヤの製造中のこれらの酸化物のいくつかの使用に関連する健康及び安全上の懸念を軽減する。スラグの閉じ込めがさらに防止されるように、スラグ形成を改善するために、NaO、Na、NaBiO、NaF、CaF、氷晶石を添加することができる。それらはまた、容易に分離可能なスラグを形成するのに役立つ。フラックスは、溶接フラックスの乾燥重量で0.1~5重量%のNaO、Na、NaBiO、NaF、CaF、氷晶石及びそれらの混合物を含むことができる。
【0036】
過程に関して、第1の工程では、チタネートとナノ粒子状酸化物は、好ましくは混合される。これは、アセトンなどの溶剤を用いた湿潤条件又は乾燥条件、例えば3D粉末シェーカーミキサー中のいずれかで行うことができる。混合は、チタネート粒子上のナノ粒子の強凝集を促進し、これは、健康及び安全上の問題である空気中へのナノ粒子の意図しない放出を防止する。
【0037】
次いで、このようにして得られた溶接フラックスは、溶接中に金属基板上に、特に溶接ゾーンに直接適用される。
【0038】
特に、2つの金属基板が溶接されている間に、溶接フラックスは、2つの金属基板上に少なくとも部分的に同時に適用される。溶接フラックスは、溶接装置の前方、特に溶接ヘッドの前方に適用される。溶接ヘッドは、本明細書では、溶接技術に応じて、アークを生成する消耗性若しくは非消耗性のいずれかである電極又はレーザヘッドを指す。このように、溶接ヘッドを介して加えられたエネルギーが溶接フラックスで覆われた基板の一部に衝突すると、溶接フラックスの成分が溶融され、溶融プール中に溶解する。溶解されたチタネート及びナノ粒子状酸化物は、上記の効果を有する。
【0039】
溶接フラックスは、好ましくは、この部分が溶接ヘッドを介して加えられるエネルギーに衝突する直前に、金属基板の一部に適用される。
【0040】
好ましくは、溶接フラックスは、溶接フラックスが溶融プール中に効率的に溶解されるように、溶接されるべき金属基板の縁部に沿って、少なくとも溶接幅に等しい幅で適用される。
【0041】
好ましくは、適用される溶接フラックスの厚さは、10~140μmである。
【0042】
好ましくは、溶接フラックスは、フラックスホッパー中に貯蔵される。このホッパーは、溶接装置の前方、特に溶接ヘッドの前方に配置され、それと共に移動する。溶接中、ホッパーは、溶接ヘッドの前方の金属基板の小さな部分の上に溶接フラックスを堆積させる。フラックスホッパーは、フラックス堆積の速度を制御する。
【0043】
本発明の1つの変形では、溶接フラックスは、遮蔽フラックスを適用する前に2つの金属基板上に適用される。溶接ヘッドの前方には、最初に、遮蔽フラックスを貯蔵するフラックスホッパーが存在し、次に、溶接フラックスを貯蔵するフラックスホッパーが存在する。換言すると、溶接フラックスホッパーは、遮蔽フラックスホッパーよりも溶接ヘッドのさらに前方にある。その結果、溶接フラックスは金属基板上の第1の場所において適用され、遮蔽フラックスは溶接フラックスを覆うように第2の場所において適用される。したがって、溶接されたゾーンは、溶接中の酸化から保護される。過程の観点から、溶接フラックスの適用及び遮蔽フラックスの適用はいずれも溶接と同時である。
【0044】
本発明の別の変形では、溶接フラックスは遮蔽フラックスでもある。溶接フラックスは、好ましくは、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムをさらに含む。これらの化合物は、チタネート及びナノ粒子状酸化物によって提供される効果に加えて、フラックスに遮蔽効果を提供する。したがって、溶接されたゾーンは、溶接中の酸化から保護される。
【0045】
その場合には、チタネート及びナノ粒子状酸化物は、より早い段階で、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムなどの追加の成分と混合され、次いで混合物は、好ましくはフラックスホッパーを用いて2つの金属基板上に適用される。
【0046】
使用されるべき溶接技術の種類は限定されない。溶接技術は、例えば、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、タングステン不活性ガス溶接(TIGW)としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、レーザビーム溶接(LBW)、狭開先溶接としても知られるナローギャップ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接であり得る。
【0047】
そうであるとしても、溶接フラックスが遮蔽フラックスでもある変形は、サブマージアーク溶接(SAW)、サブマージアーク溶接に基づくナローギャップ溶接及びサブマージアーク溶接に基づくレーザ・アークハイブリッド溶接などの、遮蔽フラックスを使用する溶接技術に特に有利である。
【0048】
本発明は、溶接ヘッドの前方で2つのフラックスを順次に適用することができるように設計された溶接装置にも関する。
【0049】
この装置は、溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドの前方に配置され、遮蔽フラックスの適用に適した第1のフラックスホッパーと、溶接フラックスの適用に適した第2のフラックスホッパーであって、前記溶接フラックスが最初に適用され、遮蔽フラックスによって覆われるように前記第1のフラックスホッパーより前記溶接ヘッドのさらに前方に配置された第2のフラックスホッパーとを備える。
【0050】
好ましくは、溶接フラックスは、チタネート及び微粒子状酸化物を含む。より好ましくは、溶接フラックスは、チタネートと、TiO、SiO、ZrO、Y、Al、MoO、CrO、CeO、La及びそれらの混合物からなる群から選択されるナノ粒子状酸化物とを含む。
【0051】
最後に、本発明は、例えば、圧力容器、オフショア及び石油及びガス部品、造船、自動車、原子炉部品並びに重工業及び製造全般の製造のための、本発明によるフラックスの使用に関する。
【実施例
【0052】
[実施例1]
鋼基板の溶接に対する異なる溶接フラックスの効果を、有限要素法(FEM)シミュレーションによって評価した。シミュレーションでは、フラックスは、10~50nmの直径を有するナノ粒子状酸化物と、任意にMgTiO(直径:2μm)とを含む。各フラックスを用いたアーク溶接がシミュレートされ、結果が以下の表1に示されている。
【0053】
【表1】
【0054】
結果は、本発明によるフラックスが、比較フラックスと比較して溶接部の溶け込み及び品質を改善することを示している。
【国際調査報告】