(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】溶接フラックス組成物及び対応する金属を溶接するための方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/368 20060101AFI20231101BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20231101BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20231101BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20231101BHJP
C22C 21/10 20060101ALN20231101BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231101BHJP
C22C 38/58 20060101ALN20231101BHJP
C22C 38/54 20060101ALN20231101BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20231101BHJP
C22C 38/06 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
B23K35/368 A
C22C21/02
C22C18/04
C22C18/00
C22C21/10
C22C38/00 301A
C22C38/58
C22C38/54
B23K35/30 320A
C22C38/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549146
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 IB2020059875
(87)【国際公開番号】W WO2022084719
(87)【国際公開日】2022-04-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150211
【氏名又は名称】ベルディシオ・ソリューションズ・ア・イ・エ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンホン・フェルナンデス,アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ボーム,シバサンブ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス・ロドリゲス,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ヘリツェン,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA01
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA04
4E084AA07
4E084AA15
4E084CA19
4E084CA25
4E084DA09
4E084DA10
4E084DA12
4E084DA30
4E084EA04
(57)【要約】
本発明は、チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含む溶接フラックスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含む溶接フラックス。
【請求項2】
前記ナノ粒子状ニオブ化合物が、NbO、NbO
2及びNb
2O
5並びにそれらの混合物の中から選択される、請求項1に記載の溶接フラックス。
【請求項3】
前記フラックス中の前記ナノ粒子状ニオブ化合物の割合が80重量%以下である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項4】
前記フラックス中の前記ナノ粒子状ニオブ化合物の割合が、2~30重量%の間に含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項5】
前記ナノ粒子状ニオブの前記ナノ粒子が、5~150nmの間に含まれるサイズを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項6】
前記チタネートが、Na
2Ti
3O
7、NaTiO
3、K
2TiO
3、K
2Ti
2O
5、MgTiO
3、SrTiO
3、BaTiO
3、CaTiO
3、FeTiO
3及びZnTiO
4並びにそれらの混合物の中から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項7】
前記フラックス中のチタネートの割合が45重量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項8】
前記チタネートの直径が1~40μmの間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項9】
TiO
2、SiO
2、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、MoO
3、CrO
3、CeO
2、La
2O
3及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の追加のナノ粒子状酸化物をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項10】
溶剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項11】
1~200g/Lのナノ粒子状ニオブ化合物を含む、請求項10に記載の溶接フラックス。
【請求項12】
100~500g/Lのチタネートを含む、請求項10又は11のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項13】
結合剤前駆体をさらに含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の溶接フラックス。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の溶接フラックスを鋼基板上に少なくとも部分的に堆積させる工程を含む、プレコーティングされた鋼基板の製造のための方法。
【請求項15】
チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含むプレコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた、請求項14に記載の方法によって取得可能なプレコーティングされた鋼基板。
【請求項16】
溶接継手の製造のための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が、請求項15に記載のプレコーティングされた鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、
II.前記少なくとも2つの金属基板の溶接と、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載のフラックスを含むフラックスコアードワイヤ。
【請求項18】
請求項17に記載のフラックスコアードワイヤを用いて鋼材に対してアーク溶接又はレーザ溶接を行うことを含む、溶接継手の製造のための方法。
【請求項19】
溶接継手の製造のための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、
II.溶接ヘッドによる前記少なくとも2つの金属基板の溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方で、請求項1~9のいずれか一項に記載の溶接フラックスを適用すること、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に金属基板の少なくとも1つが鋼基板である場合における、金属基板の溶接に関する。本発明は、溶接の品質を改善するために使用される溶接フラックスの組成にも関する。溶接フラックスは、プレコーティングを形成するために鋼基板上に局所的に適用される溶液中に含めることができ、又はプレコーティングの代替として使用されるフラックスコアードワイヤ中に含めることができる。本発明は、溶接継手の製造のための対応する方法にも関する。本発明は、建設、造船、輸送産業(鉄道及び自動車)、エネルギー関連構造物、石油及びガス並びにオフショア産業に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
ガスメタルアーク溶接(GMAW)、タングステン不活性ガス溶接(TIGW)としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、レーザビーム溶接(LBW)、狭開先溶接としても知られるナローギャップ溶接、レーザ・アークハイブリッド溶接などの異なる溶接技術を用いて金属基板を溶接することは周知である。溶接は、基板内での溶け込みを増加させるための溶接フラックスの助けを借りて行うことができる。この溶接フラックスは、溶接中の酸化から溶接されたゾーンを保護するために主に使用されることがあり得る遮蔽フラックスとは異なる。
【0003】
特に間隙を充填しなければならない場合に、フィラーワイヤを用いて金属基板を溶接することも公知である。フィラーワイヤは、(ガスタングステンアーク溶接及びレーザ溶接におけるように)側方から溶接を供給することができ、又はフィラーワイヤは、(サブマージアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、ガスシールドフラックスコアードアーク溶接、ナローギャップ溶接及びアークヘッドがガスメタルアークであるハイブリッドレーザ溶接におけるように)消耗電極とすることができる。いくつかの事例においては、フィラーワイヤは、フラックスコアードワイヤ、すなわち中空であり、性能を改善する成分を含有するフラックスで充填されたワイヤの形態である。
【0004】
特許出願国際公開第00/16940号は、深溶け込みガスタングステンアーク溶接が、Na2Ti3O7又はK2TiO3などのチタネートを使用して達成されることを開示している。炭素鋼、クロム-モリブデン鋼、ステンレス鋼及びニッケル系合金において深溶け込み溶接を与えるために、溶接フラックスの一部として又はフィラーワイヤの一部としてチタネートが溶融プールに添加される。国際公開第00/16940号のチタネート化合物は、約325メッシュ又はそれより細かい、44μmに相当する325メッシュの高純度粉末の形態で使用される。アークのふらつき、ビードの稠度並びに溶接物のスラグ及び表面の外観を制御するために、TiO、TiO2、Cr2O3及びFe2O3などの遷移金属酸化物、二酸化ケイ素、マンガンケイ化物、フッ化物及び塩化物を含む様々な追加の成分がチタネート系フィラーワイヤに任意に添加され得る。フラックスのすべての化合物は、マイクロメートルの寸法を有する。
【0005】
国際公開第00/16940号に開示されているフラックスによって溶け込みは改善されるが、溶け込みは鋼基板に対して最適ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、鋼基板での溶接溶け込み、したがって溶接された鋼基板の機械的特性を改善する必要が存在する。溶接の堆積速度及び生産性を増大させることに対するニーズも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含む溶接フラックスに関する。
【0009】
本発明による溶接は、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴も有し得る。
【0010】
・ナノ粒子状ニオブ化合物は、NbO、NbO2及びNb2O5並びにそれらの混合物の中から選択される、
・フラックス中のナノ粒子状ニオブ化合物の割合は、80重量%以下である、
・フラックス中のナノ粒子状ニオブ化合物の割合は、2~30重量%の間に含まれる、
・ナノ粒子状ニオブのナノ粒子は、5~150nmの間に含まれるサイズを有する、
・チタネートは、Na2Ti3O7、NaTiO3、K2TiO3、K2Ti2O5、MgTiO3、SrTiO3、BaTiO3、CaTiO3、FeTiO3及びZnTiO4並びにそれらの混合物の中から選択される、
・フラックス中のチタネートの割合は、45重量%以上である、
・チタネートの直径は1~40μmの間である、
・溶接フラックスは、TiO2、SiO2、ZrO2、Y2O3、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2、La2O3及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の追加のナノ粒子状酸化物をさらに含む、
・溶接フラックスは、微粒子状酸化物及び/又は微粒子状フッ化物の中から選択される微粒子状化合物をさらに含む、
・溶接フラックスは、CeO2、Na2O、Na2O2、NaBiO3、NaF、CaF2、氷晶石(Na3AlF6)及びそれらの混合物からなるリストから選択される微粒子状化合物をさらに含む、
・溶接フラックスは、溶剤をさらに含む、
・溶接フラックスは、1~200g/Lのナノ粒子状ニオブ化合物を含む、
・溶接フラックスは、100~500g/Lのチタネートを含む、
・溶接フラックスは、結合剤前駆体をさらに含む。
【0011】
本発明は、本発明の溶接フラックスを鋼基板上に少なくとも部分的に堆積させる工程を含む、プレコーティングされた鋼基板の製造のための方法にも関する。
【0012】
本発明は、チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含むプレコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた、本発明の方法によって取得可能なプレコーティングされた鋼基板にも関する。
【0013】
本発明は、溶接継手の製造のための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が、本発明のプレコーティングされた鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、及び
II.前記少なくとも2つの金属基板の溶接と、
を含む、方法にも関する。
【0014】
本発明は、本発明のフラックスを含むフラックスコアードワイヤにも関する。
【0015】
本発明は、本発明によるフラックスコアードワイヤを用いて鋼材に対してアーク溶接又はレーザ溶接を行うことを含む溶接継手の製造のための方法にも関する。
【0016】
本発明は、溶接継手の製造のための方法であって、以下の連続する工程:
I.少なくとも1つの金属基板が鋼基板である、少なくとも2つの金属基板の提供と、
II.溶接ヘッドによる前記少なくとも2つの金属基板の溶接と同時に、前記少なくとも2つの金属基板上に、前記溶接ヘッドの前方で、本発明の溶接フラックスを適用すること、
を含む、方法にも関する。
【0017】
以下の用語が定義される。
【0018】
・ナノ粒子は、サイズが1~200ナノメートル(nm)の間の粒子である。「ナノ粒子状物」という用語は、上記範囲のナノ粒子の形態の化合物を指す。
【0019】
・チタネートは、チタン、酸素及びアルカリ金属元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素又は金属元素などの少なくとも1つの追加の元素を含有する無機化合物を指す。それらはそれらの塩の形態であり得る。
【0020】
・「コーティングされた」とは、鋼基板が少なくとも局所的にプレコーティングで覆われていることを意味する。被覆は、例えば、鋼基板が溶接される領域に限定することができる。「コーティングされた」は、「直接的に上に」(それらの間に中間材料、要素又は空間が配置されていない)及び「間接的に上に」(それらの間に中間材料、要素又は空間が配置されている)を包括的に含む。例えば、鋼基板をコーティングすることは、中間材料/要素を間に有さずに基板上にプレコーティングを直接適用すること、及び(防食コーティングなどの)1つ以上の中間材料/要素を間に有して基板上にプレコーティングを間接的に適用することを含むことができる。
【0021】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、溶接フラックス並びに対応するプレコーティング及びフラックスコアードワイヤは、溶融プールの物理を主に改変すると考えられる。本発明では、化合物の性質だけでなく、酸化物粒子のサイズが100nm以下であることも、溶融プールの物理を改変すると思われる。
【0022】
実際に、フラックスは融解され、溶解された種の形態の溶融金属中に、及び溶接技術がアークを伴う場合には、イオン化された種の形態のアーク中に組み込まれる。アーク中のチタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物の存在により、アークは収束する。
【0023】
さらに、溶融金属中に溶解されたフラックスは、表面張力勾配に起因する液体-気体界面での物質移動であるマランゴニ流を改変する。特に、フラックスの成分は、界面に沿った表面張力の勾配を改変する。表面張力のこの変更は、溶接プールの中心方向への、流体の流れの反転をもたらす。この反転は、溶接溶け込み及び溶接効率の改善をもたらし、堆積速度の増加、したがって生産性の増大をもたらす。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子は微粒子よりも低温で溶解し、したがってより多くの酸素が溶融プール中に溶解し、逆マランゴニ流を活性化すると考えられる。
【0024】
溶接技術がアークを伴う場合、逆マランゴニ流の効果が、アーク収束によるより高いプラズマ温度と組み合わされ、溶接溶け込み及び材料堆積速度をさらに改善する。溶接技術がレーザビームを伴う場合、逆マランゴニ流は適切なキーホール形状の保持に寄与し、次いで、これはガスの閉じ込め、したがって溶接部における細孔を防止する。
【0025】
さらに、溶解酸素が界面活性剤として作用し、母材金属上の溶融金属の濡れを改善し、したがって、縁融合の不足などの溶接において現れる傾向がある重大な欠陥を回避する。
【0026】
さらに、フラックスの成分が温度と共に表面張力を増加させるにつれて、溶融プールの中心よりも冷たい縁に沿って溶接材料の濡れ性が増加し、これはスラグの閉じ込めを防止する。
【0027】
溶接技術がレーザビームを伴う場合、フラックスは、レーザビームとのプラズマプルーム相互作用を改変する。特に、フラックスの溶解による酸素の増加は、レーザビームの散乱を低下させる。その結果、レーザスポット径が縮小される一方で、キーホール効果が増強される。これにより、エネルギービームはさらに深く浸透し、接合部に極めて効率的に送達されることが可能になる。これは、溶接溶け込みを増加させ、熱影響域を最小化し、次いで、これは部分の歪みを制限する。
【0028】
純粋に説明の目的で提供されており、決して限定することを意図するものではない以下の記述を読むことによって、本発明はよりよく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、鋼基板の溶接に関する。好ましくは、鋼基板は炭素鋼である。
【0030】
鋼基板は、任意に、その面の1つの少なくとも一部を防食コーティングによって被覆することができる。好ましくは、防食コーティングは、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む。
【0031】
好ましい実施形態において、防食コーティングは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1~8.0%のMg及び任意に0.1~30.0%のZnを含み、残りはAl及び製造過程から生じる避けられない不純物であるアルミニウム系コーティングである。別の好ましい実施形態において、防食コーティングは、0.01~8.0%のAl、任意に0.2~8.0%のMg、残りはZn及び製造過程から生じる避けられない不純物である亜鉛系コーティングである。
【0032】
防食コーティングは、好ましくは鋼基板の両面に施される。
【0033】
鋼材は、同じ組成又は異なる組成の鋼基板に溶接することができる。鋼材は、例えばアルミニウムなどの別に溶接されることもできる。
【0034】
溶接フラックスは、チタネートと、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択されるナノ粒子状ニオブ化合物とを含む。換言すれば、プレコーティングは、チタネート及び少なくとも1種のナノ粒子状ニオブ化合物を含み、少なくとも1種のナノ粒子状ニオブ化合物は、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物からなる群から選択される。これは、プレコーティングが列挙されたもの以外の他のナノ粒子状ニオブ化合物を含まないことを意味する。
【0035】
チタネートは、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩、チタン酸遷移金属塩、チタン酸金属塩及びそれらの混合物からなるチタネートの群から選択される。チタネートは、より好ましくは、Na2Ti3O7、NaTiO3、K2TiO3、K2Ti2O5、MgTiO3、SrTiO3、BaTiO3、CaTiO3、FeTiO3及びZnTiO4並びにそれらの混合物の中から選択される。これらのチタネートは、逆マランゴニ流の効果に基づいて溶け込み深さをさらに増加させると考えられる。すべてのチタネートが、ある程度同様に挙動し、溶け込み深さを増加させることが本発明者らの理解である。したがって、すべてのチタネートが本発明の一部である。当業者は、具体的な事例に応じてどのチタネートを選択しなければならないかを知っているであろう。そうするために、当業者は、チタネートがどれだけ容易に溶融及び溶解するか、チタネートがどれだけ溶解酸素含有量を増加させるか、チタネートの追加の元素が溶融プールの物理及び最終的な溶接の微細構造にどのように影響するかを考慮に入れるであろう。例えば、NaTiO7は、スラグ形成及び脱離を改善するNaの存在のために好ましい。
【0036】
好ましくは、チタネートは、1~40μmの間、より好ましくは1~20μmの間、有利には1~10μmの間の直径を有する。このチタネートの直径は、アーク収束及び逆マランゴニ効果をさらに改善すると考えられる。さらに、小さなマイクロメートルのチタネート粒子を有することは、ナノ粒子状ニオブ化合物との混合に利用可能な比表面積を増加させ、ナノ粒子状ニオブ化合物をチタネート粒子にさらに付着させる。
【0037】
好ましくは、溶接フラックスの乾燥重量におけるチタネートの重量百分率は、45%以上、より好ましくは45%~90%の間、さらにより好ましくは55%~87%の間である。
【0038】
ナノ粒子状ニオブ化合物は、酸化ニオブ、アルカリニオベート及びそれらの混合物の中から選択される。酸化ニオブは、特に、NbO、NbO2及びNb2O5から選択することができる。アルカリニオベートは、特に、LiNbO3、NaNbO3及びKNbO3から選択することができる。これらのナノ粒子は溶融プール中に容易に溶解し、溶融プールに酸素を供給し、その結果、濡れ性及び材料の堆積を改善し、より深い溶接溶け込みを可能にする。CaO、MgO、B2O3、Co3O4又はCr2O3などの他の酸化物とは対照的に、それらは脆性相を形成する傾向がなく、熱が鋼を正確に溶融するのを妨げる高い耐火効果を有さず、それらの金属イオンは溶融プール中の酸素と再結合する傾向がない。さらに、それらは、他のナノ粒子状酸化物よりも健康及び安全上の懸念が少なく、したがって他のナノ粒子状酸化物のいくつかを極めて効率的に置き換えることができ、結果を改善することさえできる。
【0039】
最も高い酸素含有量を有し、安定であり、妥当なコストで容易に入手可能であるので、ナノ粒子状ニオブ化合物は、好ましくはNb2O5である。
【0040】
好ましくは、ナノ粒子状ニオブ化合物のナノ粒子は、5~150nmの間、より好ましくは50~150nmの間に含まれるサイズを有する。
【0041】
溶接フラックスは、TiO2、SiO2、ZrO2、Y2O3、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2、La2O3及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の追加のナノ粒子状酸化物をさらに含むことができる。これらのナノ粒子状酸化物はまた、溶融プール中に容易に溶解し、濡れ性、材料堆積及び溶接溶け込みをさらに改善する。
【0042】
好ましくは、追加のナノ粒子状酸化物はSiO2であり、これは溶け込みの深さをさらに増加させ、スラグ除去を容易にする。
【0043】
追加のナノ粒子状酸化物の混合物の例は、
・酸化イットリウム(Y2O3)の添加により二酸化ジルコニウム(ZrO2)の立方晶構造を室温で安定化させたセラミックスであるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
・耐火効果を調整するのに役立ち、介在物の形成を促進するLa2O3、ZrO2及びY2O3の1:1:1組み合わせ、である。
【0044】
好ましくは、追加のナノ粒子状酸化物のナノ粒子は、1~100nmの間、より好ましくは5~60nmの間に含まれるサイズを有する。このナノ粒子直径は、フラックスの均一な分布をさらに改善すると考えられる。
【0045】
好ましくは、(ニオブ化合物単独又は他のナノ粒子状酸化物と組み合わせた)溶接フラックスの乾燥重量におけるナノ粒子の重量百分率は、80%以下、好ましくは2~50%、より好ましくは10~40%の間である。より好ましくは、溶接フラックスの乾燥重量におけるナノ粒子状ニオブ化合物の重量百分率は、2~30%の間に含まれる。より好ましくは、溶接フラックスの乾燥重量における追加のナノ粒子状酸化物の重量百分率は、存在する場合、5~20%の間に含まれる。
【0046】
本発明の別の変形によれば、フラックスは、例えばNa2O、Na2O2、CeO2、NaBiO3、NaF、CaF2、氷晶石(Na3AlF6)などの微粒子状酸化物及び/又は微粒子状フッ化物などの微粒子状化合物をさらに含む。上に列記されたナノ粒子状酸化物のいくつかについて、ナノ粒子から微粒子への移行は、これらの酸化物のいくつかの使用に関連する健康及び安全上の懸念を軽減する。スラグの閉じ込めがさらに防止されるように、スラグ形成を改善するために、Na2O、Na2O2、NaBiO3、NaF、CaF2、氷晶石を添加することができる。それらはまた、容易に分離可能なスラグを形成するのに役立つ。フラックスは、溶接フラックスの乾燥重量で0.1~5重量%のNa2O、Na2O2、NaBiO3、NaF、CaF2、氷晶石又はそれらの混合物を含むことができる。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、上記フラックスは、フラックスコアードワイヤのシース中に含有される。このような構成は、溶接されるべき基板上にプレコーティングとして同じ組成物が適用されることと比較して特に有利である。まず第1に、溶接前に基板をコーティングする余分な工程が抑制される。さらに、溶接後に溶接部に沿って過剰なプレコーティングを除去する必要が存在しない。これに関して、フラックスコアードワイヤによって提供された粒子はすべて溶融プール中に溶解するので、粒子はまた、より効率的に使用される。最後に、コーティング工程中の溶剤及び噴霧ミストが回避され、これは作業者の健康及び安全にとって有益である。
【0048】
本発明の一変形によれば、フラックスコアードワイヤ中のフラックスは、チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物からなる。
【0049】
本発明の別の変形によれば、フラックスコアードワイヤ中のフラックスは、残余として鉄粉をさらに含むことができる。残余は、フラックスの最大55重量%に相当し得る。
【0050】
本発明の場合、シースの材料は特に限定されない。シースの材料は、鋼、例えば銅で被覆されたC-Mn鋼であり得る。
【0051】
ワイヤは、通常、0.8mm~4mmの間に含まれる直径を有する。シースに関して、その厚さは、選択されたパーセント充填に応じて変化する。パーセント充填は、ワイヤの総重量と比較したフラックス成分又は「充填」の重量の比である。
【0052】
過程に関して、第1の工程では、チタネートとナノ粒子状ニオブ化合物は、好ましくは混合される。これは、アセトンなどの溶剤を用いた湿潤条件又は乾燥条件、例えば3D粉末シェーカーミキサー中のいずれかで行うことができる。混合は、チタネート粒子上のナノ粒子の強凝集を促進し、これは、健康及び安全上の問題である空気中へのナノ粒子の意図しない放出を防止する。第2の工程では、このようにして得られたフラックスは、前の工程において、成形ロールを通過してU字形断面のストリップを形成した細く、狭いストリップ上に堆積される。次に、フラックスが充填されたU字形ストリップは、フラックスが充填されたU字形ストリップをチューブに形成し、コア材料をしっかりと圧縮する特殊な閉鎖ロールを通って流れる。次いで、その直径を低下させ、コア材料をさらに圧縮するために、このチューブは、線引きダイスを通して引っ張られる。引っ張りは、シースをしっかり密閉し、さらに圧縮下でチューブ内部にコア材料を固定し、これによりフラックスの不連続性を回避する。
【0053】
本発明によるフラックスコアードワイヤが提供されると、フラックスコアードワイヤを用いて鋼材に対してアーク溶接又はレーザ溶接を行うことによって溶接継手を製造することができる。本発明によるフラックスコアードワイヤに適合し、(ガスタングステンアーク溶接及びレーザ溶接におけるように)側方から溶接を供給するフィラーワイヤとして、又は(サブマージアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、ガスシールドフラックスコアードアーク溶接、ナローギャップ溶接及びアークヘッドがガスメタルアークであるハイブリッドレーザ溶接におけるように)消耗電極として使用される限り、溶接技術の種類は限定されない。溶接技術に応じて、溶接されたゾーンは遮蔽フラックスによって覆われることができる。遮蔽フラックスは、溶接されたゾーンを溶接中の酸化から保護する。
【0054】
本発明の別の実施形態によれば、上述のフラックスは、プレコーティングを形成するために鋼基板上に少なくとも部分的に適用される。
【0055】
この事例では、フラックスは、有利には、溶剤をさらに含むことができる。これは、十分に分散されたプレコーティングを可能にする。好ましくは、溶剤は周囲温度で揮発性である。例えば、溶剤は、水、アセトン、メタノール、イソプロパノール、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの揮発性有機溶剤及びエチレングリコールなどの不揮発性有機溶剤の中から選択される。
【0056】
特に、溶剤を含んだフラックスは100~500g/L、より好ましくは175~250g.L-1の間のチタネートを含む。特に、溶剤を含んだフラックスは1~200g.L-1、より好ましくは5~80g.L-1の間のナノ粒子状ニオブ化合物を含む。チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物のこれらの濃度のおかげで、対応するプレコーティングの助けを借りて得られる溶接の品質がさらに改善される。
【0057】
本発明の一変形によれば、フラックスは、チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物を埋め込みために、並びに鋼基板上のプレコーティングの接着性を改善するために、結合剤前駆体をさらに含む。好ましくは、結合剤前駆体は、少なくとも1つの有機官能性シランのゾルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールのファミリーの基で官能化されたシランである。好ましくは、結合剤前駆体は、プレコーティング溶液の40~400g.L-1の量で添加される。
【0058】
過程に関して、第1の工程では、チタネートとナノ粒子状ニオブ化合物は、好ましくは混合される。これは、アセトンなどの溶剤を用いた湿潤条件又は乾燥条件、例えば3D粉末シェーカーミキサー中のいずれかで行うことができる。混合は、チタネート粒子上のナノ粒子の強凝集を促進し、これは、健康及び安全上の問題である空気中へのナノ粒子の意図しない放出を防止する。第2の工程では、フラックスは、プレコーティングを形成するために鋼基板上に少なくとも部分的に適用される。
【0059】
フラックスの堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって特に行うことができる。
【0060】
好ましくは、フラックスは局所的にのみ堆積される。特に、フラックスは、鋼基板が溶接される領域に適用される。フラックスは、溶接されるべき鋼基板の縁部上、1つの側壁上の溶接されるべき基板の1つの側面の1つの部分上又は存在すれば1つのはす縁上に存在することができる。
【0061】
フラックスが鋼基板上に適用されたら、任意にプレコーティング溶液は乾燥させることができる。乾燥は、空気又は不活性ガスを周囲温度又は高温で吹き付けることによって行うことができる。フラックスが結合剤を含む場合、乾燥工程は、好ましくは、その間に結合剤が硬化される硬化工程でもある。硬化は、赤外線(IR)、近赤外線(NIR)、従来のオーブンによって行うことができる。
【0062】
好ましくは、溶剤が周囲温度で揮発性である場合には、乾燥工程は行われない。その場合には、溶剤が蒸発し、鋼基板上にプレコーティングがもたらされる。
【0063】
本発明の一変形によれば、プレコーティングが鋼基板上に形成され、乾燥されると、プレコーティングはチタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物からなる。
【0064】
本発明の別の変形によれば、プレコーティングは、チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物を埋め込み、鋼基板上のプレコーティングの接着を改善する少なくとも1つの結合剤をさらに含む。この改善された接着は、シールドガスが使用される場合に、シールドガスの流れによってプレコーティングの粒子が吹き飛ばされることをさらに防止する。好ましくは、結合剤は、特に溶接中に有機結合剤が発生する可能性があり得る有毒ガスを回避するために、純粋に無機性である。無機結合剤の例は、有機官能性シラン又はシロキサンのゾル-ゲルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールのファミリーの基で官能化されたシランである。アミノアルキルシランは、接着を大幅に促進し、長い貯蔵寿命を有するので特に好ましい。好ましくは、結合剤は、プレコーティングの1~20重量%の量で添加される。
【0065】
好ましくは、プレコーティングの厚さは、10~140μmの間、より好ましくは30~100μmの間である。
【0066】
プレコーティングが鋼基板の一部に形成されると、この部分は、別の金属基板に溶接されることができる。溶接技術の種類は限定されない。溶接技術は、例えば、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、タングステン不活性ガス溶接(TIGW)としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、レーザビーム溶接(LBW)、狭開先溶接としても知られるナローギャップ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接であり得る。
【0067】
本発明の別の実施形態によれば、上述の溶接フラックスは、溶接中に金属基板上に、特に溶接ゾーンに直接適用される。
【0068】
特に、2つの金属基板が溶接されている間に、溶接フラックスは、2つの金属基板上に少なくとも部分的に同時に適用される。溶接フラックスは、溶接装置の前方、特に溶接ヘッドの前方に適用される。溶接ヘッドは、本明細書では、溶接技術に応じて、アークを生成する消耗性若しくは非消耗性のいずれかである電極又はレーザヘッドを指す。このように、溶接ヘッドを介して加えられたエネルギーが溶接フラックスで覆われた基板の一部に衝突すると、溶接フラックスの成分が溶融され、溶融プール中に溶解する。溶解したチタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物は、上記の効果を有する。
【0069】
溶接フラックスは、好ましくは、この部分が溶接ヘッドを介して加えられるエネルギーに衝突する直前に、金属基板の一部に適用される。
【0070】
好ましくは、溶接フラックスは、溶接フラックスが溶融プール中に効率的に溶解されるように、溶接されるべき金属基板の縁部に沿って、少なくとも溶接幅に等しい幅で適用される。
【0071】
好ましくは、溶接フラックスは、フラックスホッパー中に貯蔵される。このホッパーは、溶接装置の前方、特に溶接ヘッドの前方に配置され、それと共に移動する。溶接中、ホッパーは、溶接ヘッドの前方の金属基板の小さな部分の上に溶接フラックスを堆積させる。フラックスホッパーは、フラックス堆積の速度を制御する。
【0072】
本発明の1つの変形では、溶接フラックスは、遮蔽フラックスを適用する前に2つの金属基板上に適用される。溶接ヘッドの前方には、最初に、遮蔽フラックスを貯蔵するフラックスホッパーが存在し、次に、溶接フラックスを貯蔵するフラックスホッパーが存在する。換言すると、溶接フラックスホッパーは、遮蔽フラックスホッパーよりも溶接ヘッドのさらに前方にある。その結果、溶接フラックスは金属基板上の第1の場所において適用され、遮蔽フラックスは溶接フラックスを覆うように第2の場所において適用される。したがって、溶接されたゾーンは、溶接中の酸化から保護される。過程の観点から、溶接フラックスの適用及び遮蔽フラックスの適用はいずれも溶接と同時である。
【0073】
本発明の別の変形では、溶接フラックスは遮蔽フラックスでもある。溶接フラックスは、好ましくは、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の、石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムを含む。これらの化合物は、チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物によって提供される効果に加えて、フラックスに遮蔽効果を提供する。したがって、溶接されたゾーンは、溶接中の酸化から保護される。
【0074】
その場合には、チタネート及びナノ粒子状ニオブ化合物は、より早い段階で、マイクロメートル及び/又はミリメートルのサイズの粒子の形態の、石灰、シリカ、酸化マンガン及びフッ化カルシウムなどの追加の成分と混合され、次いで混合物は、好ましくはフラックスホッパーを用いて2つの金属基板上に適用される。
【0075】
本発明のこの実施形態で使用されるべき溶接技術の種類は限定されない。溶接技術は、例えば、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、タングステン不活性ガス溶接(TIGW)としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、レーザビーム溶接(LBW)、狭開先溶接としても知られるナローギャップ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接であり得る。
【0076】
そうであるとしても、溶接フラックスが遮蔽フラックスでもある変形は、サブマージアーク溶接(SAW)、サブマージアーク溶接に基づくナローギャップ溶接及びサブマージアーク溶接に基づくレーザ・アークハイブリッド溶接などの、遮蔽フラックスを使用する溶接技術に特に有利である。
【0077】
最後に、本発明は、例えば、圧力容器、オフショア及び石油及びガス部品、造船、自動車、原子炉部品並びに重工業及び製造全般の製造のための、本発明による溶接フラックスの、対応するプレコーティングの、又は対応するフラックスコアードワイヤの使用に関する。
【実施例】
【0078】
[実施例1]
ナローギャップ溶接:
表1に開示された重量パーセントで化学組成を有する鋼基板を選択した:
【0079】
【0080】
鋼基板は50mmの厚さであった。鋼基板は、470~630MPaの引張強度及び335MPaの降伏強度を有していた。
【0081】
0°のベベルを有する側壁を有する100×150mmのサンプルを調製した。溶接すべき側壁をアセトンで油及び汚れから洗浄した。
【0082】
サンプル1はプレコーティングでコーティングされなかった。
【0083】
サンプル2については、アセトンを下記要素と混合することによって、MgTiO3(直径:2μm)、Nb2O5(直径:100nm)及びSiO2(直径:10nm)を含むアセトン溶液を調製した。アセトン溶液において、MgTiO3の濃度は175g.L-1であり、Nb2O5の濃度は50g.L-1であり、SiO2の濃度は25g.L-1であった。次いで、サンプル2の洗浄された側壁をスプレーによりアセトン溶液でコーティングした。アセトンを蒸発させた。プレコーティング中のMgTiO3の割合は70重量%であり、Nb2O5の割合は20重量%であり、SiO2の割合は10重量%であった。プレコーティングは、50μmの厚さであった。
【0084】
サンプル3については、アセトンを下記要素と混合することによって、MgTiO3(直径:2μm)、Nb2O5(直径:100nm)、SiO2(直径:10nm)、予め混合されたLa2O3、ZrO2及びY2O3の1:1:1組み合わせ(直径:それぞれ50、40及び40nm)、並びにNaBiO3(直径:1.5μm)を含むアセトン溶液を調製した。アセトン溶液において、MgTiO3の濃度は187.5g.L-1であり、Nb2O5の濃度は25g.L-1であり、SiO2の濃度は25g.L-1であり、追加のナノ粒子状酸化物の濃度は0.125g.L-1であり、NaBiO3の濃度は12.38g.L-1であった。次いで、サンプル3の洗浄された側壁をスプレーによりアセトン溶液でコーティングした。アセトンを蒸発させた。プレコーティング中のMgTiO3の割合は75重量%であり、Nb2O5の割合は10重量%であり、SiO2の割合は10重量%であり、追加のナノ粒子状酸化物の割合は0.05重量%であり、NaBiO3の割合は4.95重量%であった。プレコーティングは50μmの厚さであった。
【0085】
13mmの間隙によって隔てられた選択した鋼基板の剥き出しのサンプルと並べてサンプル1~3をそれぞれ配置し、ベベルが充填され、継手が完成するまで溶接パスを実施することによりナローギャップガスメタルアーク溶接によって溶接した。溶接パラメータは、以下の表2に記載されている。
【0086】
【0087】
すべての事例で使用された消耗電極の組成は、以下の表3に記載されている。
【0088】
【0089】
サンプル1は12のパスで溶接されたのに対して、サンプル2及び3は10のパスで溶接された。この第1の結果は、本発明によるプレコーティングがナローギャップ溶接の堆積速度及び生産性を増加させることを既に示している。
【0090】
サンプル2及び3では、サンプル1と比較して、ベベル表面上の溶接金属の濡れが改善されたことも観察された。
【0091】
ナローギャップ溶接後、すべての溶接された集合物の溶接を最初に目視で検査し、次に超音波(リニア型とボリュメトリック型の両方)によって検査した。溶接はまた、肉眼で及び顕微鏡で、特に液体浸透探傷検査(LPI)によって分析した。
【0092】
結果を以下の表4に要約する。
【0093】
【0094】
結果は、鋼基板の側壁上のプレコーティングが、ナローギャップ溶接を改善することを示している。
【0095】
[実施例2]
フラックスコアードワイヤ:
3つのフラックスを調製し、1.6mmの直径のワイヤを形成するように0.5mmのC-Mn鋼シース中に導入した。それらの組成は、
・フラックス1:85重量%のMgTiO3(直径2μm)、10重量%のSiO2(直径範囲:12~23nm)及び5重量%のNb2O5(直径範囲:100nm)、
・フラックス2:70重量%のMgTiO3(直径2μm)、10重量%のSiO2(直径範囲:12~23nm)及び20重量%のNb2O5(直径範囲:100nm)、
・フラックス3:68.5重量%のMgTiO3(直径:2μm)、10重量%のSiO2(直径範囲:12~23nm)、20重量%のNb2O5(直径範囲:100nm)、1重量%のNa3AlF6及び0.5重量%のCeO2(直径:≦5μm)
であった。
【0096】
以下の表5にその組成が詳述されている構造用鋼(C-Mn S355)に対する、110Aの強度及び10.8~12.8Vの間の電圧でのビードオンプレートガスタングステンアーク溶接中に、それぞれサンプル4、5及び6として特定される対応するフラックスコアードワイヤを試験した。
【0097】
【0098】
これらの試験中に、サンプル4,5及び6を以下の市販のワイヤと比較した。
【0099】
・Lincoln Electric(R)によって供給される軟鋼金属コアードワイヤである、Outershield(R)MC710-H。そのシースは鉄粉で満たされている(サンプル7)。
【0100】
・ESAB(R)によって供給され、軟鋼、低合金鋼及びC-Mn鋼に対して使用されるフラックスコアードワイヤである、OK Tubrodur 15CrMn O/G(サンプル8)。そのフラックスの正確な組成は不明である。
【0101】
500mmのワイヤを使用した場合に得られた結果を表6に詳述する。
【0102】
【0103】
結果は、溶接速度の著しい増加及び材料堆積の著しい増加が同時に存在することを示している。
【0104】
さらに、堆積した材料の幅を測定し、比較した。サンプル4、5及び6を用いて得られた溶接部は、サンプル7を用いて得られた溶接部より平均で18%大きく、サンプル8を用いて得られた溶接部より24%大きいようであった。
【0105】
本発明によるフラックスの成分は、溶融プールの縁部に沿って溶接材料の濡れ性が増加するように、表面張力を温度と共に減少させることを示す。
【0106】
[実施例3]
ガスタングステンアーク溶接(GTAW):
本実施例については、表7に開示された重量パーセントで化学組成を有する鋼基板を使用した:
【0107】
【0108】
鋼基板は5.5mmの厚さであった。
【0109】
サンプル9については、酢酸エチルを下記要素と混合することによって、MgTiO3(直径:2μm)、SiO2(直径範囲:10nm)及びNb2O5(直径範囲:100nm)を含む酢酸エチル溶液を調製した。酢酸エチル溶液において、MgTiO3の濃度は175g.L-1であり、SiO2の濃度は25g.L-1であり、Nb2O5の濃度は50g.L-1であった。実施される溶接よりも広い領域で、酢酸エチル溶液を鋼基板上に噴霧した。酢酸エチルを蒸発させた。プレコーティング中のMgTiO3の割合は70重量%であり、SiO2の割合は10重量%であり、Nb2O5の割合は20重量%であった。
【0110】
サンプル10については、以下の成分を含む水溶液を調製した:363g.L-1のMgTiO3(直径:2μm)、77.8g.L-1のSiO2(直径範囲:12~23nm)、77.8g.L-1のNb2O5(直径範囲:100nm)及び238g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)によって製造されたDynasylan(R)AMEO)。溶液を鋼基板上に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。
【0111】
乾燥したプレコーティングは40μmの厚さであり、62重量%のMgTiO3、13重量%のSiO2、13重量%のNb2O5及び3-アミノプロピルトリエトキシシランから得られた12重量%の結合剤を含有した。
【0112】
サンプル11については、以下の成分を含む水溶液を調製した:330g.L-1のMgTiO3(直径:2μm)、70.8g.L-1のSiO2(直径範囲:12~23nm)、70.8g.L-1のNb2O5(直径範囲:100nm)、216g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)によって製造されたDynasylan(R)AMEO)及び104.5g.L-1の、有機官能性シランと官能化されたナノスケールのSiO2粒子との組成物(Evonikによって製造されたDynasylan(R)Sivo 110)。溶液を鋼基板上に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。乾燥したプレコーティングは40μmの厚さであり、59.5重量%のMgTiO3、13.46重量%のSiO2、12.8重量%のNb2O5並びに3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び有機官能性シランから得られた14.24重量%の結合剤を含有した。
【0113】
サンプル9については、噴霧は容易で、プレコーティングは均一であり、酢酸エチルが溶剤を含んだフラックスの配合物中のアセトンを容易に置き換えることができることを確認する。
【0114】
サンプル10及び11については、鋼基板上のプレコーティングの接着性は、サンプル9と比較して大幅に改善された。
【0115】
次いで、表8に詳述されている溶接パラメータを用いて、サンプル9~11に対して及びコーティングされていないサンプル(サンプル12)に対してガスタングステンアーク溶接を行った。
【0116】
【0117】
溶接中に行われた測定は、以下のことを示した。
【0118】
・サンプル9の溶接中、アークはより安定し、平均瞬間エネルギーは基準(サンプル12)と比較して12%増加した。サンプル12とは対照的に、サンプル9で完全な溶け込みが達成された、
・サンプル10及び11の溶接中、アークはより安定し、平均瞬間エネルギーは基準(サンプル12)と比較して14%増加した。サンプル12とは対照的に、サンプル10及び11で完全な溶け込みが達成された。
【国際調査報告】