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特表2023-547393プラズマ電解酸化によりアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを形成する方法
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  • 特表-プラズマ電解酸化によりアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】プラズマ電解酸化によりアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/06 20060101AFI20231102BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C25D11/06 A
C25D11/04 101H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524707
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 IB2021059698
(87)【国際公開番号】W WO2022084897
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】102020000025150
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ペルリコーネ,グイド
(72)【発明者】
【氏名】ジョルダーノ,ジャンマルコ
(72)【発明者】
【氏名】アフォンソ アルベス,ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ロペス,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】バジョン ゴンサレス,ラケール
(57)【要約】
本発明は、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法に関し、(a)基材を電極として対電極と共にアルカリ性電解水溶液に浸す工程;(b)酸化アルミニウムと前記合金の任意の合金化剤の酸化物から主になる前記コーティングの形成をもたらすように、所定の処理時間にわたって基材の表面に火花放電を生成するのに十分な電位を適用する工程を含む。電解水溶液は、9~14g/LのNaSiO;2.3~2.8g/LのKPO;5g/L以上のNaWO・2HO;0.4~1.5g/LのNaAlF;電解液が11.8~12.0の間のpH、および9.5~10.5mS/cmの間伝導率を有するような濃度のNaOHを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解プラズマ酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法であって、
(a)基材を電極として対電極と共にアルカリ性電解水溶液に浸漬する工程、
(b)主に酸化アルミニウムおよび前記合金の合金元素の酸化物から成る前記コーティングを形成させるように、基材の表面に火花放電を発生させるのに十分な電位を、所定の処理時間の間、印加する工程
を含み、
前記電解水溶液は、
9~14g/LのNaSiO
2.3~2.8g/LのKPO
5g/L以上のNaWO・2HO、
0.4~1.5g/LのNaAlF
電解液が11.8~12.0の間のpH、および9.5~10.5mS/cmの間の伝導率を有するような濃度のNaOH
を含む、方法。
【請求項2】
前記電解液が、9~11g/L、好ましくは10g/LのNaSiOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解液が、2.4~2.6g/L、好ましくは2.5g/LのKPOを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解液が、5g/LのNaWO・2HOを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解液が、0.4~0.6g/L、好ましくは0.5g/LのNaAlFを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解液が、11.9のpH、および10.0mS/cmの伝導率を有するような濃度のNaOHを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解液が、0.8~1.2g/L、好ましくは0.9~1.1g/L、更に好ましくは1.0g/LのNaOHを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電解水溶液が、
10g/LのNaSiO
2.5g/LのKPO
5g/LのNaWO・2HO、
0.5g/LのNaAlF
1.0g/LのNaOH、
を含み、
前記電解液が、11.9のpHおよび10.0mS/cmの伝導率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ性電解水溶液が、冷却システムによって冷却されて、好ましくは、前記所定の処理時間の間、前記アルカリ性電解水溶液を25℃~45℃の間の温度に維持する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電位が、前記所定の期間の間、実質的に一定に保たれ、好ましくは300~400Vの間の値、より好ましくは350Vに保たれる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の処理時間の間に、20~25A/dm、好ましくは25A/dmの電流密度を有する電流が基材に印加される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも50Hz、好ましくは50Hzの周波数を有する電流が基材に印加される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電流を連続的またはパルスモードで印加することができる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
所定の期間の処理時間が20~40分、好ましくは30分である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
電位が、350Vの値で前記所定の処理時間の間、実質的に一定に保たれ、前記所定の処理時間の間、25A/dmに等しい電流密度と50Hzに等しい周波数を有する電流が基材に連続して印加され、前記所定の処理時間が30分である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(a)および(b)の前に実施される、前記基材の前処理工程(c)を含み、前記前処理は、前記基材を苛性処理に付し、次いで、前記基材を蒸留水で洗浄することから成る、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記苛性処理が、60℃~70℃、好ましくは60℃の温度に維持された、好ましくは50g/LのNaOHを含むNaOHの水溶液中に前記基材を所定の時間、浸漬することによって得られ、前記所定の浸漬時間が5~15分、好ましくは10分である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基材の前処理の前記工程(c)において、苛性処理およびその後の蒸留水による洗浄の後、前記基材を酸浴に所定時間浸漬し、次いで蒸留水で洗浄する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記酸浴が硝酸の水溶液から成り、前記酸浴における前記所定の浸漬時間が5~15秒、好ましくは10秒である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記工程(a)および(b)の後に実施される、前記基材の後処理工程(d)を含み、前記後処理が、
前記基材を蒸留水で洗浄すること、
前記基材の表面をアルコールで洗浄すること、および
室温で乾燥させること
から成る、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記セラミックコーティングが、本質的に非多孔質のコンパクトな層から成り、その表面に、前記コーティングの総厚さの5%を超えない厚さを有する多孔質層を有する、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記セラミックコーティングが、前記非多孔質のコンパクトな層のみから成る、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記セラミックコーティングが、粗さRa≦2μmおよび硬度HV0.01≧1.400を有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記基材がアルミニウム‐ケイ素合金であり、得られるセラミックコーティングが、酸化アルミニウム、酸化ケイ素およびアルミニウム‐ケイ素混合酸化物の混合物を主成分とする層である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記基材が、ブレーキシステムの構成要素、好ましくはディスクブレーキシステム、特にブレーキ・キャリパ、ブレーキ・キャリパ・ピストンまたはブレーキ・ディスクベルから成る、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造するための方法に関する。
【0002】
本発明による方法は、特にアルミニウムおよびケイ素合金基材に適用される。
【0003】
本発明による方法は、摩耗および腐食に対する高い耐性を有するセラミックコーティングを製造することを可能にするので、自動車分野に、ブレーキシステムの構成要素の保護表面コーティングの製造において特に適用される。
【背景技術】
【0004】
アルミニウム合金、特にアルミニウム‐ケイ素合金は、その高い強度/密度の比、機械加工性、更に優れた鋳造性により、自動車および航空宇宙用途に広く使用される。
【0005】
周知のように、陽極酸化は、アルミニウム合金に耐腐食性コーティングを得るための好ましい方法である。
【0006】
しかしながら、陽極酸化は、いくつかの操作上の制限を有する。
【0007】
陽極酸化では、アルミニウム‐ケイ素合金上に高い厚さのコーティングを得ることは困難である。これは、本質的に、陽極酸化コーティングの形成を阻害する傾向にあるケイ素の存在に起因する。
【0008】
更に、陽極酸化は、機械加工されたアルミニウム合金の疲労寿命に大きく影響する酸洗い前処理を必要とする。
【0009】
陽極酸化の代替として、プラズマ電解酸化によるコーティングの形成方法が、数年前から提案されている。
【0010】
プラズマ電解酸化は、PEO、MAO(マイクロアーク酸化)またはEPO(電解プラズマ酸化)として知られており、マグネシウム、アルミニウムおよびチタンのような異なる合金をコーティングすることを可能にする電気化学的表面処理である。
【0011】
プラズマ電解酸化の基礎となる原理は、コーティングされる基材上に誘電特性を有する酸化物層を形成することである。基材は電極として対電極(または対向電極;counter-electrode)と共にアルカリ性電解水溶液中に浸漬される。十分な電圧を印加することにより、放電状態になり、表面に複数のスパークが発生する。スパークの局所的な温度により、酸化層を局所的に再溶解させ、基材が浸漬されている電解質と反応する。形成されるコーティング層は、基材に対して数μm侵入するため高い接着強度を有し、高い耐腐食性を有する。
【0012】
PEO法のアルミニウム合金への数多くの適用が存在し、特にAl‐Si合金のアルミニウム‐ケイ素合金への適用が存在する。
【0013】
PEO法の主な問題は、微小硬度が低く、多数のマイクロおよびマクロ欠陥(孔、マイクロクラック、薄片状パッチ)を有するかなり多孔質の外層を形成することである。欠陥層の厚さは、基材の化学組成および電気分解を実施する方法に依存して、セラミックコーティングの総厚さの25~55%に等しい。
【0014】
図3のSEM画像は、従来のPEO法によってアルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングの断面を示す。下側の帯状層(またはバンド;band)はアルミニウム‐ケイ素合金基材(図中「a」で示す)を示し、基材のすぐ上の中央の帯状層(図中「b1」で示す)はセラミックコーティングの最もコンパクトで均質な層を示し、層b1の上の大きな粒状の帯状層(図中「b2」で示す)はセラミックコーティングの多孔質の表面層を示し、セラミックコーティング「b」の上の上側の帯状層(図中「c」で示す)は試料を研磨しその結果SEM走査を行うために、試料を組み込むのに用いた樹脂層を示す。
【0015】
多孔質層を除去するために、高価な精密機器が使用される。基材が複雑な形状で、研磨工具やダイヤモンド工具が届きにくい面を持つ場合、欠陥層を除去する問題が解決困難となる。このため、方法の適用範囲が限定される。
【0016】
この問題は、特に特許文献1において対処されている。このような特許に記載されたPEO法は、これらの物品の表面に、均一に着色された耐摩耗性、耐腐食性、耐熱性および誘電性セラミックコーティングを迅速かつ効率的に形成することを可能にする。この方法で得られるコーティングは、厚さの高度な均一性、低い表面粗さ、および前述の外側多孔質層が実際には存在しないことによって特徴付けられる。
【0017】
特許文献1に記載された方法は、以下の工程:(i)所定の周波数範囲(少なくとも500Hz)を有する高い電流周波数でバイポーラパルスを電極に供給する工程;および(ii)音響振動の周波数範囲が電流パルスの周波数範囲と重なるように、所定の音周波数範囲で電解質内に音響振動を発生させる工程を含む。音響振動は、電解質の酸素による空気流体力学的飽和を引き起こす。このため、電解質には酸素または空気が供給される。また、この方法では、超分散固体粒子を電解質に導入し、音響振動によって安定したヒドロゾルを生成する。
【0018】
特許文献1に記載された方法は、評価できる結果をもたらすものの、それにもかかわらず、制御が複雑である。
【0019】
従って、特にブレーキシステムの分野において、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造するための方法が必要とされており、これにより、低い粗さ、高い硬度および高い耐腐食性を有するセラミックコーティングをアルミニウム合金基材上により容易に得ることを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】英国特許第2386907号明細書
【発明の概要】
【0021】
従って、本発明の目的は、低い粗さ、高い硬度および高い耐腐食性を有するセラミックコーティングをより容易に得ることを可能にする、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法を提供することによって、先行技術に関する前述の問題を解消するか、少なくとも低減することである。
【0022】
本発明の更なる目的は、多孔質表面層を実質的に含まないコーティングを得ることを可能とする、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面上にセラミックコーティングを製造するための方法を提供することである。
【0023】
本発明の更なる目的は、非常に均質なコーティングを得ることを可能にする、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面上にセラミックコーティングを製造するための方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の技術的特徴は、以下に記載される請求項の内容において明確に特定され、その利点は、純粋に非限定的な例として提供される1つ以上の実施形態を表す添付図面を参照してなされる以下の詳細な説明において、より容易に明らかになる。
図1】従来のPEO法によって、アルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングの断面のSEM画像である。
図2】本発明による方法の好ましい実施形態に従った、アルミニウム‐ケイ素合金基材に印加される電位の傾向を示す図である。
図3】本発明による方法によって、アルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングの断面のSEM画像である。
図4】本発明による方法によって、アルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングの表面のSEM画像を示す。 以下に記載する実施形態に共通する要素または要素の一部は、同じ数値符号で示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法に関するものである。
【0026】
本発明による方法は、概してアルミニウム合金基材、特にアルミニウムとケイ素との合金基材に適用される。
【0027】
本発明による方法は、摩耗および腐食に対する高い耐性を有するセラミックコーティングを製造することを可能にするので、自動車分野において、ブレーキシステムの構成要素の保護表面コーティングの製造において、特に適用される。
【0028】
本発明の一般的な実施形態によれば、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法は、以下の工程:
基材を電極として対電極と共にアルカリ性電解水溶液中に浸漬する工程、
前記コーティングを形成させるように、基材の表面に火花放電を発生させるのに十分な電位を、所定の処理時間の間、印加する工程
を含む。
【0029】
このようにして得られたコーティングは、主に酸化アルミニウムおよび前記合金の任意の合金化剤の酸化物から成る。
【0030】
特に、前述の基材は、アルミニウムとケイ素との合金、更に特にケイ素の含有量が高い(>7重量%)アルミニウム合金から形成される。この場合、得られるセラミックコーティングは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素およびアルミニウム‐ケイ素混合酸化物の混合物を主成分とする層である。
【0031】
有利には、基材は、ブレーキシステム、特にディスクブレーキシステムの構成要素から成る。好ましくは、基材は、ブレーキ・キャリパ、ブレーキ・キャリパ・ピストンまたはブレーキ・ディスクベルから成る。
【0032】
特に、本発明による方法は、電解タイプである。特に、そのような方法は、基材によって代表されるアノードと、対電極とを備える。
【0033】
特に、本発明による方法は、二次電極であってもよい対電極を含む。あるいは、そのような対電極は、カソードによって代表される。あるいは、そのような対電極は、アルカリ性電解水溶液を含む容器によって代表される。
【0034】
本発明によれば、電解水溶液は、
9~14g/LのNa2SiO3、
2.3~2.8g/LのK3PO4、
5g/L以上のNa2WO4・2H2O、
0.4~1.5g/LのNa3AlF6、および
電解液が11.8~12.0の間のpH、および9.5~10.5mS/cmの間の伝導率(または導電率;conductivity)を有するような濃度のNaOH
を含む。
【0035】
好ましくは、電解水溶液は、前述の電解質:Na2SiO3、K3PO4、Na2WO4・2H2O、Na3AlF6、NaOHのみを含む。
【0036】
上記組成を有するアルカリ性電解液を用い、プラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材上に得られるセラミックコーティングが以下の特徴:
高い耐腐食性、
高い硬度(HV0.01<1,400)、
低い表面粗さ(Ra<2μm)、
コーティング層の高い形態的均質性、
多孔質表面層が存在しないか、実質的に存在しないか、または少なくともセラミックコーティングの総厚さの5%を超えない厚さを有する。
を有することが実験的に確認された。
【0037】
このような結果は、従来のPEO法において前述の電解液を使用し、そしてプラズマ放電プロセスの印加電位、電流密度、周波数および持続時間などの通常の電気プロセスパラメータを設定することにより得られた。
【0038】
従って、本発明による方法は、電気的プロセスパラメータの特定の調整も、PEO法の特定の制御方法の採用も必要としない。
【0039】
特に、以下において再開されるように、本発明による方法は、基材上のセラミックコーティングの形成速度に特に制限を加えることなく、低エネルギー消費の条件において有利に適用されてもよい。
【0040】
電解液中に(前述の濃度で)存在するケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)が、PEO法によって得られるセラミックコーティングの密度を著しく改善し、その結果、耐腐食性を改善することに寄与することが実験的に検証された。
【0041】
また、電解液中にNa2SiO3が存在しないと、コーティングの正しい成長が阻害され、ほとんどの場合、プラズマ放電が正しく始まらないことが実験的に検証されている。
【0042】
既に述べたように、アルカリ性電解液は、9~14g/LのNa2SiO3を含む。好ましくは、電解液は、9~11g/LのNa2SiO3、より好ましくは10g/LのNa2SiO3を含む。
【0043】
このような濃度のNa2SiO3では、驚くべきことに、コーティングの高い成長速度と表面粗さの低減との間の妥協点が見出された。実際、前述の値よりも低い濃度(2、5、3、5、8g/LのNa2SiO3)では、コーティングの成長速度が不十分であると判断され、より高い濃度(15または20g/LのNa2SiO3)では、コーティングの高い成長速度(従って厚さがより大きく)が得られるが、基材への方法による悪影響およびコーティングの粗さのかなりの増加に関連していることが確認されている。実際、より高い濃度では、より不均一で密度が低いコーティングが得られ、耐腐食性が悪化した。
【0044】
有利なことに、Na2SiO3は、固体粉末の状態でも、すでに溶液の状態でも、電解液に導入することが可能であることを確認することもできた。
【0045】
既に述べたように、アルカリ性電解液は、2.2~2.8g/LのK3PO4を含む。好ましくは、電解液は、2.4~2.6g/L、より好ましくは2.5g/LのK3PO4を含む。
【0046】
電解液中に存在するリン酸カリウム(K3PO4)が、PEO法によって得られるセラミックコーティングの密度、ひいては耐腐食性の向上に更に寄与することが、実験的に確認されている。
【0047】
K3PO4の代わりにK2HPO4またはKH2PO4を含む電解液が試験された。いずれの場合も結果は芳しくなかった。得られたコーティングには、白い沈殿物(主にリンから成る)が検出された。
【0048】
既に述べたように、アルカリ性電解液は、5g/L以上のNa2WO4・2H2Oを含む。
【0049】
タングステン酸ナトリウム二水和物(Na2WO4・2H2O)が、コーティングの総厚さに対するコンパクトな層(または緻密層;compact layer)の厚さの比をかなり増加させることが実験的に確認された(図5参照)。電解液にこのような成分が含まれていると、得られたセラミックコーティングの硬度が高くなる。これは、得られたセラミックコーティングがタングステンを含むという事実に起因する。
【0050】
有利には、得られるコーティングの硬度を更に高めるために、タングステン酸ナトリウム二水和物(Na2WO4・2H2O)の濃度がより高い電解液を使用することができる。
【0051】
好ましくは、電解液は、5g/LのNa2WO4・2H2Oを含む。この濃度では、実際、既に満足のいく結果が得られている。
【0052】
既に述べたように、アルカリ性電解液は0.4~1.5g/LのNa3AlF6を含む。
【0053】
ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム(Na3AlF6)により、得られるセラミックコーティングの表面粗さを減少させることができることが実験的に確認されている。
【0054】
好ましくは、電解液は、0.4~0.6g/L、より好ましくは0.5g/LのNa3AlF6を含む。実際、これらの濃度では、より高い形態学的均質性を有するコーティングが得られた。
【0055】
既に述べたように、アルカリ性電解液は、電解液が11.8~12.0の間のpH、および9.5~10.5mS/cmの間の伝導率を有するような濃度のNaOHを含む。
【0056】
好ましくは、アルカリ性電解液は、アルカリ性電解液が11.9のpH、および10.0mS/cm伝導率を有するような濃度のNaOHから成る。
【0057】
好ましくは、電解液は、0.8~1.2g/L、より好ましくは0.9~1.1g/L、更に好ましくは1.0g/LのNaOHを含む。
【0058】
水酸化ナトリウム(NaOH)は、電解液のpHと伝導率を前述の値にするために、溶液中に導入される。
【0059】
驚くべきことに、水酸化ナトリウム(NaOH)は、溶液のpHを調整するための代替物として使用できる水酸化カリウム(KOH)とは異なり、コーティングされる基材の過剰な溶解を招くことなくプラズマ放電を開始することを可能とし、より均質なコーティングをもたらすことも判明した。
【0060】
NaOHをKOHに置き換えることは実際に研究されているが、プラズマを開始することなしに金属基材の過度の溶解、非常に悪影響を及ぼす(または攻撃的な;aggressive)方法や不均質なコーティングなど、否定的な結果を得ている。更に、電解質の分散の程度も変化し、白色沈殿物が形成された。
【0061】
pHと電気伝導率の値は、電解液の化学組成に依存する。電解液の電気伝導率は、特に方法のエネルギー消費を決定するPEO法の最終の、かつ安定した電圧値に直接関係するため、より関連性の高い役割を果たす。
【0062】
希薄な電解液の場合、最終電圧値は非常に高くなるが、濃厚な電解液の場合、金属基材の過度の溶解につながり、プラズマの開始を妨げ、コーティングの成長速度を阻害する可能性がある。
【0063】
前述のものと同様のpHおよび伝導率の値は、電解試薬の化学組成および濃度を変更することによって得ることができる。しかしながら、電解液の組成および濃度を変更すると、得られるPEOコーティングの形態、組成および特性が変化する。
【0064】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、電解液は、11.9に等しいpHおよび10.0mS/cmに等しい伝導率を有し、
10g/LのNa2SiO3、
2.5g/LのK3PO4、
5g/LのNa2WO4・2H2O、
0.5g/LのNa3AlF6、
1.0g/LのNaOH
を含む。
【0065】
好ましくは、PEO法の間、アルカリ性電解水溶液は、冷却システムによって冷却され、好ましくは、前記所定の処理時間の間、前記アルカリ性電解水溶液を25℃~45℃の間の温度に維持する。
【0066】
前述のように、前述のセラミックコーティングは、従来のPEO法において前述の電解水溶液を使用し、そしてプラズマ放電法の印加電位、電流密度、周波数および持続時間などの通常の電気プロセスパラメータを設定することにより得られた。
【0067】
従って、本発明による方法は、電気的プロセスパラメータの特定の調整も、PEO法の特定の制御方法の採用も必要としない。
【0068】
好ましくは、電位は、図2に示されるように、前記所定の期間、実質的に一定に保たれ、好ましくは300~400Vの間の値、より好ましくは350Vに等しい値である。
【0069】
好ましくは、前記所定の処理時間の期間中に、20~25A/dm3の間、好ましくは25A/dm3の電流密度を有する電流が、基材に印加される。
【0070】
好ましくは、少なくとも50Hz、更に好ましくは50Hzに等しい周波数を有する電流が、基材に印加される。前述の電解液を50Hzの周波数で使用することにより、電流の周波数を上げる必要なく、非常にコンパクトなコーティング(実質的に空隙がない)が得られることが実験的に確認されている。
【0071】
好ましくは、電流は連続的に印加される(パルス状ではない)。しかしながら、電流はまた、パルスモードで印加されてもよい。
【0072】
好ましくは、所定の処理時間の期間は、20~40分の間、より好ましくは30分で構成される。
【0073】
本発明の好ましい実施形態によれば、電位は、350Vの値で前記所定の処理時間の期間の間、実質的に一定に保たれる。30分の処理時間の期間中、25A/dm3の電流密度および50Hzの周波数を有する電流が、基材に連続的に印加される。
【0074】
前述のように、本発明による方法は、従って、基材上のセラミックコーティングの形成速度に特に制限を加えることなく、低エネルギー消費の条件で有利に適用されてもよい。
【0075】
有利には、0.5~1μm/分のコーティング形成速度が観察された。
【0076】
有利には、本発明によるアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法は、前記工程(a)および(b)の前に実施される、基材の前処理の工程(c)を含んでもよい。
【0077】
このような前処理工程(c)は、基材を苛性処理(caustic attack)に付し、その後、基材自体を蒸留水で洗浄することにある。
【0078】
好ましくは、前記苛性処理は、60℃~70℃の間、好ましくは60℃の温度に維持された、好ましくは50g/LのNaOHを含むNaOHの水溶液中に基材を所定時間浸漬することにより得られる。前記所定の浸漬時間は、5~15分の間、好ましくは10分に等しい時間で構成される。上記のNaOH濃度は、アルミニウム合金基材の適切な酸洗を実施することを可能にし、基材からのAl3+イオンの放出(従って、基材自体への悪影響)および苛性浴中のスラリーの形成を低減することが実験的に見出されている。
【0079】
基材の苛性処理(およびその後の洗浄)は、コーティングの均質性がより高いという点で、最終的に得られるセラミックコーティングの美的仕上げの改善をもたらすことが検証されている。
【0080】
しかしながら、基材が既に汚れおよび不純物を実質的に含まない清浄な表面を有する場合には、苛性処理を実施しなくてもよい。
【0081】
有利には、基材の前処理の前記工程(c)において、苛性処理およびその後の蒸留水による洗浄の後、基材を酸浴に所定時間浸漬し、次いで蒸留水で洗浄することができる。
【0082】
好ましくは、前記酸浴は、硝酸の水溶液から成る。前記酸浴への所定の浸漬時間は、5~15秒の間、好ましくは10秒に等しい。
【0083】
操作上、酸浴への浸漬は、苛性処理後の基材のデスマット(またはスマット除去;desmutting)処理を行うために実施される。
【0084】
有利には、本発明によるアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法は、前述の工程(a)および(b)の後、すなわちPEO法の終了時に特定の後処理工程を必要としない。
【0085】
特に、耐食性(anti-corrosion properties)を保証するために、表面の空隙を封止するための後処理は必要ない。
【0086】
しかしながら、本方法は、前記工程(a)および(b)の後に実施される、基材の後処理工程(d)を含んでもよく、前記後処理は:前記基材を蒸留水で洗浄すること;前記基材の表面をアルコールで洗浄(またはクリーニング;cleaning)すること;および室温で乾燥させること、から成る。
【0087】
本発明による方法でアルミニウム合金基材上に得られるセラミックコーティングは、本質的にコンパクトな非多孔質層から成り、その表面には、前記コーティングの総厚さの5%を超えない厚さを有する多孔質層が存在してもよい。
【0088】
好ましくは、図3のSEM画像に示されるように、本発明による方法でアルミニウム合金基材上に得られたセラミックコーティングは、コンパクトな非多孔質層のみから成る。
【0089】
より詳細には、図3のSEM画像において、下部のより暗い帯状層はアルミニウム‐ケイ素合金基材(図中aで示す)を示し、中央の帯状層はPEOセラミックコーティング(図中bで示す)を示し、セラミックコーティングの多彩な色の上側の帯状層(図中cで示す)は、SEMスキャンを行うために試料を組み込むのに使用した樹脂層を示している。このSEM画像から、得られたセラミックコーティングは、実質的に空隙のない、均質でコンパクトな単一の層から成ることがわかる。PEO法で得られる従来のコーティングに通常存在する多孔質表面層(その代わり図1では表示)は、実際には存在しない。
【0090】
本発明による方法でアルミニウム合金基材上に得られたセラミックコーティングは、粗さRa≦2μmおよび硬度HV0.01>1,400を有する。
【0091】
美的観点から、本発明による方法でアルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングは、非常に均質な暗灰色の表面色を有する。
【0092】
これらの特徴は、本発明による方法によってアルミニウム‐ケイ素合金基材上に得られたセラミックコーティングの表面を示す図4のSEM画像から見ることが可能である。
【0093】
この結果(色の均一性)は、本発明による方法によって、均一な被覆が容易でない高ケイ素含有量のアルミニウム合金を均一な方法で可能にするという事実を確認する。実際、標準的な陽極酸化法を代替手段として使用した場合、ケイ素含有量の高い領域でいくつかの欠陥が検出される可能性がある。
【0094】
高いケイ素含有量のアルミニウム合金から形成されるディスクブレーキ・キャリパから成る基材をコーティングするための本発明による方法の適用例を、以下に示す。
【0095】
より具体的には、上記キャリパーは、Al‐Si7%/Mg/Tiのアルミニウム‐ケイ素合金で形成される。
【0096】
11.9に等しいpHと10.0mS/cmに等しい伝導率を有し、10g/LのNa2SiO3;2.5g/LのK3PO4;5g/LのNa2WO4・2H2O;0.5g/LのNa3AlF6;1.0g/LのNaOHを含む電解水溶液を使用した。
【0097】
基材を電極として、対電極と共に、前述の電解水溶液中に浸漬し、それによって、基材の表面に火花放電を発生させるのに十分な電位を、30分の処理時間の間、印加して、コーティングを形成した。図2に示すように、電位は処理時間の間、350Vの値で実質的に一定に保たれた。かかる処理時間の期間中、25A/dm3の電流密度および50Hzの周波数を有する電流が、基材に連続的に印加される。
【0098】
処理中、アルカリ性電解水溶液は、冷却システムによって25℃~45℃の間の温度に冷却された。
【0099】
処理の終わりに、酸化アルミニウム、酸化ケイ素および酸化ケイ酸アルミニウムの混合物から成る、約30μmの平均厚さを有するセラミックコーティングが得られた。ナトリウム、カリウム、リン、タングステンは、微量(<2原子%)存在する。EDS分光分析から得られたコーティングの元素組成を、以下の表1に示す。
【0100】
セラミックコーティングは、基材に数μm侵入している。この特徴により、コーティングの基材への密着性が確保される。
【0101】
図3および図4のSEM画像は、本実施例に従って処理されたキャリパー上に得られたセラミックコーティングを指す。セラミックコーティングは、コンパクトな非多孔質層のみから成る。得られたコーティングは、暗灰色で非常に均質な表面色を有する。
【0102】
セラミックコーティングは、表面粗さRa<2mおよび硬度HV0.01>1,400を有する。
【0103】
このような低い粗さ値を得ることは、ブレーキ・キャリパ上、特にキャリパピストンシートの内部への適用において、ピストン上のキャリパボディの摩耗のリスクを低減するために重要である。
【0104】
同様に、このような高い硬度値(標準的な陽極酸化では得るのが困難)を得ることは、可動機械的要素にとって重要である。
【0105】
こうしてコーティングされたブレーキ・キャリパに、NSS(中性塩水噴霧)試験による耐腐食性試験を行った。上記キャリパーは、基材に損傷(ブラックホール)がなく、480時間の最小抵抗値を示して、この試験に合格した。
【0106】
本発明は、本明細書中の記載中で説明された多数の利点を得ることを可能にする。
【0107】
本発明によるプラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面にセラミックコーティングを製造する方法によって、低い粗さ、高い硬度および高い耐腐食性を有するセラミックコーティングをより容易に得ることを可能にする。
【0108】
本発明による方法により、多孔質表面層を実質的に含まず、非常に均質なコーティングを得ることを可能にする。
【0109】
本発明によるプラズマ電解酸化によってアルミニウム合金基材の表面上にセラミックコーティングを製造する方法は、特に、
平滑な表面、
高い耐摩耗性、
高い耐腐食性、
実質的に多孔質表面層がない、均質な形態、
高い美的特徴(均質な着色)
を有する自動車要素上にセラミックコーティングを得ることを可能にする。
【0110】
これらの特徴は、50μmを超えないコーティング厚さにも関連する。
【0111】
このように考え出された本発明は、従って、その意図する目的を達成する。
【0112】
もちろん、その実際の実施において、それはまた、それによって本保護範囲から逸脱することなく、上記例示されたものとは異なる形態および構成をとってもよい。
【0113】
更に、すべての詳細を技術的に同等な要素で置き換えることが可能であり、使用する寸法、形状および材料は、必要に応じて自由に選択することが可能である。
【符号の説明】
【0114】
a … アルミニウム‐ケイ素合金基材
b … セラミックコーティング
b1 … 最もコンパクトで均質な層
b2 … 多孔質の表面層
c … 樹脂層
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】