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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】改良型抗原結合受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231102BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231102BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231102BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231102BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231102BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231102BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20231102BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 105
A61K39/395 N
A61K48/00
C12N5/0783
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526027
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2023-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2021079595
(87)【国際公開番号】W WO2022090181
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】20204220.6
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ダロフスキ, ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】ガイガー, マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB271
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、概して、変異型Fcドメインに特異結合できる活性化可能な抗原結合受容体に関するものである。本発明の抗原結合受容体は、1又は複数のプロテアーゼを介して活性化可能である。活性化後、本抗原結合受容体は、治療用抗体の変異型Fcドメインと特異的に結合/相互作用することで、腫瘍細胞を標的とする。また、本発明は、本発明の抗原結合受容体及び/又は本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子を発現する形質導入された免疫細胞にも関する。更に、変異型Fcドメインを含む腫瘍標的抗体と組み合わせた、このような細胞及び/又は核酸分子を含むキットが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとを含む抗原結合受容体であって、細胞外ドメインが、
(a)Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、
(b)プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカー、及び
(c)抗原結合部分
を含み、
抗原結合部分はマスキング部分に結合しており、抗原結合部分はマスクされており、マスキング部分と抗原結合部分はプロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーによって繋がれている、抗原結合受容体。
【請求項2】
マスキング部分が、IgG Fcドメイン又はその断片、具体的にはIgG若しくはIgG Fcドメイン又はその断片である、請求項1に記載の抗原結合受容体。
【請求項3】
マスキング部分が、CH2ドメイン、CH3ドメイン及び/又はCH4ドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗原結合受容体。
【請求項4】
マスキング部分が変異型Fcドメイン又はその断片であり、特に、マスキング部分は、非変異型Fcドメイン又はその断片と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでいる、請求項2又は3に記載の抗原結合受容体。
【請求項5】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、Fc受容体への結合を低下させ、且つ/又はエフェクター機能を低下させる、請求項4に記載の抗原結合受容体。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある、請求項4又は5に記載の抗原結合受容体。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項8】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換が、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びグリシン(G)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む、請求項4から8のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項10】
抗原結合部分が、軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)とを含んでいる、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項11】
抗原結合部分がscFvである、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項12】
マスキング部分がCH2ドメインである、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項13】
抗原結合部分が、非変異型Fcドメイン又はその断片に結合しない、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項14】
プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項15】
プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)PMAKK(配列番号155)
から成る群より選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項16】
プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号155)を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項17】
マスキング部分が、配列番号130のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項18】
抗原結合部分が、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2又は配列番号40のHCDR 2、及び配列番号3のHCDR 3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、並びに
(ii)配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR 2、及び配列番号6のLCDR 3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項19】
抗原結合部分が、配列番号8、配列番号41及び配列番号44から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項20】
抗原結合部分が、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VL)を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項21】
細胞外ドメインが、配列番号8の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項22】
細胞外ドメインが、配列番号41の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項23】
細胞外ドメインが、配列番号44の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項24】
アンカー膜貫通ドメインが、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインから成る群より選択される膜貫通ドメイン又はその断片であり、特に、アンカー膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメイン又はその断片である、請求項1から23のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項25】
少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項26】
抗原結合受容体が共シグナル伝達ドメインを1つ含み、共シグナル伝達ドメインが、N末端で、アンカー膜貫通ドメインのC末端に繋がれている、請求項25に記載の抗原結合受容体。
【請求項27】
抗原結合受容体が、刺激性シグナル伝達ドメイン1つを更に含み、刺激性シグナル伝達ドメインは、N末端で、共刺激性シグナル伝達ドメインのC末端に繋がれている、請求項26に記載の抗原結合受容体。
【請求項28】
抗原結合部分が、配列番号136のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【請求項29】
配列番号136のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30に記載の単離ポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチド。
【請求項32】
請求項30のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクター。
【請求項33】
請求項30に記載のポリヌクレオチド又は請求項32に記載のベクターを含む、形質導入されたT細胞。
【請求項34】
請求項9から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞。
【請求項35】
(A)請求項9から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【請求項36】
(A)請求項9から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【請求項37】
医薬としての使用のための、請求項35又は36に記載のキット。
【請求項38】
標的細胞抗原に、特にがん細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に、抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞が投与される、医薬としての使用のための、請求項9から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体又は請求項52又は53に記載の形質導入されたT細胞。
【請求項39】
疾患の治療における使用のため、特にがんの治療における使用のための、請求項35から37のいずれか一項に記載のキット。
【請求項40】
対象における疾患を治療する方法であって、請求項9から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞を対象に投与することと、標的細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の治療的有効量を、形質導入されたT細胞の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与することとを含む、方法。
【請求項41】
医薬の製造のための、請求項1から29のいずれか一項に記載の抗原結合受容体、請求項30に記載のポリヌクレオチド又は請求項33若しくは34に記載の形質導入されたT細胞の使用。
【請求項42】
医薬ががんの治療のためのものである、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、請求項42に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、変異型Fcドメインに特異結合できる活性化可能な抗原結合受容体に関するものである。本発明の抗原結合受容体は、1又は複数のプロテアーゼを介して活性化可能である。活性化後、本抗原結合受容体は、治療用抗体の変異型Fcドメインと特異的に結合/相互作用することで、腫瘍細胞を標的とする。また、本発明は、本発明の抗原結合受容体及び/又は本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子を発現する形質導入された免疫細胞にも関する。更に、変異型Fcドメインを含む腫瘍標的抗体と組み合わせた、このような細胞及び/又は核酸分子を含むキットが提供される。
【背景技術】
【0002】
養子T細胞療法(ACT)は、がん特異的なT細胞を用いた強力な治療手法である(Rosenberg and Restifo, Science 348(6230) 2015:62-68)。ACTは、天然に存在する腫瘍特異的な細胞、又はT細胞若しくはキメラ抗原受容体を用いた遺伝子工学によって特異的にされたT細胞を使用してもよい(Rosenberg and Restifo, Science 348(6230) 2015:62-68)。ACTにより、急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫又はメラノーマなど、進行性疾患やその他の治療抵抗性疾患に罹患している患者においても、治療及び寛解導入に成功することが可能である(Dudley et al., J Clin Oncol 26(32) 2008: 5233-5239; Grupp et al., N Engl J Med 368 (16) 2013: 1509-1518; Kochenderfer et al., J Clin Oncol. 33(6) 2015:540-549)。
【0003】
しかし、ACTは、顕著な臨床有効性にもかかわらず、治療関連毒性によって制限される。ACTに使用される工学的に操作されたT細胞の特異性及びその結果として生じるon-target効果及びoff-target効果は、主に抗原結合受容体に導入された腫瘍標的抗原結合部分によって駆動される(Hinrichs et al., Nat Biotechnol. 31(11) 2013, 999-1008)。腫瘍抗原の非排他的発現又は発現レベルの時間差は重篤な副作用を引き起こしたり、治療の許容できない毒性のためにACTの中止に至ることさえある。実際、CD19、CD20又はBCMAのなどのいくつかの系統特異的抗原を除いて、上皮腫瘍抗原を標的とし、正常組織にも頻繁に発現してon-target/off-tumor毒性をもたらす従来のCAR-T細胞の進歩は、特に固形腫瘍では遅く、このことが、例えばHER2を標的とするCAR-T細胞の例で示されている(Morgan et al., Mol Ther 18(4) 1020:843-851)。したがって、CAR-T細胞をより腫瘍特異的にする方法は、治療上大きな可能性を持っている。
【0004】
更に、効率的な腫瘍細胞溶解のための腫瘍特異的T細胞の利用可能性は、工学的に操作されたT細胞のin vivoでの長期生存と増殖能力に依存している。一方、T細胞のin vivoでの生存と増殖は、健康な組織の損傷につながり得る制御されていないT細胞応答の持続による望ましくない長期的影響をもたらすこともある(Grupp et al. 2013 N Engl J Med 368(16):1509-18, Maude et al. 2014 2014 N Engl J Med 371(16):1507-17)。
【0005】
重篤な治療関連毒性を抑制し、ACTの安全性を向上させるための手法の一つは、免疫シナプスにアダプター分子を導入することによってT細胞の活性化及び増殖を制限することである。このようなアダプター分子は、例えば最近報告された葉酸-FITCスイッチ(Kim et al. J Am Chem Soc 2015; 137:2832-2835)のような低分子バイモジュラースイッチを含む。更なる手法には、腫瘍細胞を標的にするために、T細胞の特異性を誘導するタグを含む人工改変抗体が含まれる(Ma et al. PNAS 2016; 113(4):E450-458, Cao et al. Angew Chem 2016; 128:1-6, Rogers et al. PNAS 2016; 113(4):E459-468, Tamada et al. Clin Cancer Res 2012; 18(23):6436-6445)。
【0006】
しかし、既存の手法にはいくつかの限界がある。分子スイッチに依存する免疫シナプスには、免疫応答を誘発したり非特異的なoff-target効果をもたらす可能性のあるエレメントを追加的に導入する必要がある。一方、既存の治療用モノクローナル抗体にタグ構造を導入することで、これらのコンストラクトの有効性及び安全性プロファイルに影響を与える可能性がある。更に、タグを付加することにより、当該抗体の製造をより複雑にする追加の改変工程及び精製工程が必要となるうえに、追加の安全性試験も必要となる。
【0007】
既存の手法のもう一つの限界として、on-target/off-tumor効果の可能性が挙げられる。多くの適応症では、目的の抗原が健康な組織にも発現しているため、純粋な標的が見つからない。副作用を減らし、新薬の開発につながるような標的抗原の選択肢を増やすためには、がん特異的T細胞のみを局所的に活性化させることが望ましい。CAR T細胞の選択性を高めて腫瘍内でのみ活性化するようにするために、例えば酸素感受性CARなど、様々な手法が開発されてきた(Juillerat A et al. Sci Rep. 2017;7:39833. Published 2017 Jan 20. doi:10.1038/srep39833)。また、従来のACTの安全性向上を目指し、プロテアーゼ感受性リンカーを有するダイレクトCAR(direct CAR)も開発されている(Han X et al. Mol Ther. 2017;25(1):274-284. doi:10.1016/j.ymthe.2016.10.011)。しかし、このような活性化CARは複雑であり、適切な免疫細胞での発現が制限される可能性がある。
【0008】
したがって、ACTの課題に対処するための改善された治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、特性が改良された抗原結合受容体を提供する。
【0010】
特に提供されるのは、細胞外ドメイン及びアンカー膜貫通ドメインを含む抗原結合受容体であって、ここで細胞外ドメインは、
(a)Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、
(b)プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカー、及び
(c)抗原結合部分
を含み、
該抗原結合部分は該マスキング部分に結合しており、該抗原結合部分はマスクされており、該マスキング部分と該抗原結合部分は該プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーによって繋がれている。
【0011】
ある実施態様では、該マスキング部分は、IgG Fcドメイン又はその断片、具体的にはIgG若しくはIgG Fcドメイン又はその断片である。
【0012】
ある実施態様では、該マスキング部分は、CH2ドメイン、CH3ドメイン及び/又はCH4ドメインを含む。
【0013】
ある実施態様では、該マスキング部分は変異型Fcドメイン又はその断片であり、特に、該マスキング部分は、非変異型Fcドメイン又はその断片と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでいる。
【0014】
ある実施態様において、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、Fc受容体への結合を低下させ、且つ/又はエフェクター機能を低下させる。
【0015】
ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある。
【0016】
ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む。
【0017】
ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びグリシン(G)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む。
【0018】
ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0019】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)とを含んでいる。
【0020】
ある実施態様では、該抗原結合部分はscFvである。
【0021】
ある実施態様では、該マスキング部分はCH2ドメインである。
【0022】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、非変異型Fcドメイン又はその断片に結合しない。
【0023】
ある実施態様では、該プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーは、少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む。
【0024】
ある実施態様では、プロテアーゼ認識配列は、
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)PMAKK(配列番号155)
から成る群より選択される。
【0025】
ある実施態様において、該プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーは、プロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号155)を含む。
【0026】
ある実施態様では、該マスキング部分は、C末端で該プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーのN末端に繋がれており、該プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーは、C末端で該抗原結合部分のN末端に繋がれている。
【0027】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、該アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれている。
【0028】
ある実施態様では、該抗原結合部分の該軽鎖可変ドメイン(VL)は、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、該アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれており、且つ/又は、該重鎖可変ドメイン(VH)は、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、該軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端に繋がれている。
【0029】
ある実施態様において、該マスキング部分は、配列番号130のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0030】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2又は配列番号40のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、並びに
(ii)配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む。
【0031】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、配列番号8、配列番号41及び配列番号44から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0032】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0033】
ある実施態様では、該細胞外ドメインは、配列番号8の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む。
【0034】
ある実施態様では、該細胞外ドメインは、配列番号41の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む。
【0035】
ある実施態様では、該細胞外ドメインは、配列番号44の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む。
【0036】
ある実施態様では、該アンカー膜貫通ドメインは、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメイン又はその断片から成る群より選択される膜貫通ドメインであり、特に、該アンカー膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメイン又はその断片である。
【0037】
ある実施態様では、該アンカー膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインであり、特に、該アンカー膜貫通ドメインは配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0038】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む。
【0039】
ある実施態様において、該少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD3zの、FCGR3Aの、及びNKG2Dの細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択され、特に、該少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3z細胞内ドメイン又はその断片である。
【0040】
ある実施態様では、該少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD3zの細胞内ドメイン又はその断片であり、特に、該少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0041】
ある実施態様では、該少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインは、共刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD27の、CD28の、CD137の、OX40の、ICOSの、DAP10の、及びDAP12の細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択される。
【0042】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、CD137共刺激性活性を保持するCD137共刺激性シグナル伝達ドメイン又はその断片を含み、特に、該抗原結合受容体は、配列番号12のアミノ酸配列を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。
【0043】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、CD28共刺激性活性を保持するCD28共刺激性シグナル伝達ドメイン又はその断片を含む。
【0044】
ある実施態様において、該抗原結合受容体は、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3zの細胞内ドメイン又はその断片を含む刺激性シグナル伝達ドメインを含み、且つ、該抗原結合受容体は、CD28共刺激性シグナル伝達活性を保持するCD28の細胞内ドメイン又はその断片を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。
【0045】
ある実施態様において、該刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0046】
ある実施態様において、該抗原結合受容体は、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3zの細胞内ドメイン又はその断片を含む刺激性シグナル伝達ドメインを1つ含み、且つ、該抗原結合受容体は、CD137共刺激性シグナル伝達活性を保持するCD137の細胞内ドメイン又はその断片を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを1つ含む。
【0047】
ある実施態様において、該刺激性シグナル伝達ドメインは配列番号13のアミノ酸配列を含み、該共刺激性シグナル伝達ドメインは配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0048】
ある実施態様では、該抗原結合部分は、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、該アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれている。
【0049】
ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、配列番号19のアミノ酸配列を含む。
【0050】
ある実施態様では、該アンカー膜貫通ドメインは、任意選択でペプチドリンカーを介して、共シグナル伝達ドメイン又は刺激性シグナル伝達ドメインに繋がれている。
【0051】
ある実施態様では、該シグナル伝達ドメイン同士及び/又は共シグナル伝達ドメイン同士は、任意選択で少なくとも1つのペプチドリンカーを介して、繋がれている。
【0052】
ある実施態様では、該VLドメインは、C末端で該アンカー膜貫通部のN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して、繋がれている。
【0053】
ある実施態様では、該VHドメインは、C末端で該VLドメインのN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して、繋がれている。
【0054】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は共シグナル伝達ドメインを1つ含み、該共シグナル伝達ドメインは、N末端で、該アンカー膜貫通ドメインのC末端に繋がれている。
【0055】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、刺激性シグナル伝達ドメイン1つを更に含み、該刺激性シグナル伝達ドメインは、N末端で、該共刺激性シグナル伝達ドメインのC末端に繋がれている。
【0056】
ある実施態様において、該抗原結合部分は、配列番号136のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0057】
ある実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体である。
【0058】
ある実施態様では、提供されるのは、本明細書で上述したような抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチドである。
【0059】
ある実施態様において、提供されるのは、本明細書で上述したような単離ポリヌクレオチドによってコードされた、ポリペプチドである。
【0060】
ある実施態様では、提供されるのは、本明細書で上述したようなポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクターである。
【0061】
ある実施態様では、提供されるのは、本明細書で上述したようなポリヌクレオチド又はベクターを含む、形質導入されたT細胞である。
【0062】
ある実施態様では、提供されるのは、請求項9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞である。
【0063】
ある実施態様では、提供されるのは、キットであって、
(A)請求項9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットである。
【0064】
ある実施態様では、提供されるのは、キットであって、
(A)請求項9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットである。
【0065】
ある実施態様では、該Fcドメインは、IgG1又はIgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。
【0066】
ある実施態様では、標的細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される。
【0067】
ある実施態様では、医薬としての使用のための、本明細書で上述したようなキットが提供される。
【0068】
ある実施態様では、医薬としての使用のための、本明細書で上述したような抗原結合受容体又は形質導入されたT細胞が提供される、ここで、抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞は、標的細胞抗原に、特にがん細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与される。
【0069】
ある実施態様では、該使用は、疾患の治療、特にがんの治療における使用のためのものである。
【0070】
ある実施態様では、該治療は、抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞を、がん細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与することを含む。
【0071】
ある実施態様において、前記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【0072】
ある実施態様では、該がん細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される。
【0073】
ある実施態様では、該形質導入されたT細胞は、治療される対象から単離された細胞に由来する。
【0074】
ある実施態様では、形質導入されたT細胞は、治療される対象から単離された細胞に由来するものでない。
【0075】
更に提供されるのは、対象における疾患を治療する方法であって、本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞を対象に投与することと、形質導入されたT細胞の投与の前、投与と同時又は投与の後に、標的細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の治療的有効量を投与することとを含む方法である。
【0076】
ある実施態様では、該方法は、対象からT細胞を単離することと、単離T細胞に本明細書で上述したようなポリヌクレオチドを形質導入することによって形質導入されたT細胞を生成することを追加的に含む。
【0077】
ある実施態様では、該T細胞は、レトロウイルス若しくはレンチウイルスベクターコンストラクト、又は非ウイルスベクターコンストラクトで形質導入される。
【0078】
ある実施態様では、該形質導入されたT細胞は、静脈内注入によって対象に投与される。
【0079】
ある実施態様では、該形質導入されたT細胞を、対象への投与の前に、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体と接触させる。
【0080】
ある実施態様では、該形質導入されたT細胞を、対象への投与前に少なくとも1つのサイトカインと接触させ、好ましくはインターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(IL-15)及び/若しくはインターロイキン-21又はそれらのバリアントと接触させる。
【0081】
ある実施態様では、上記疾患はがんである。
【0082】
ある実施態様において、該がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【0083】
更に提供されるのは、標的細胞の溶解を誘導する方法であって、標的細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の存在下で、標的細胞を、本明細書で上述したような抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞と接触させることを含む方法である。
【0084】
ある実施態様では、上記標的細胞はがん細胞である。
【0085】
ある実施態様では、標的細胞は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される抗原を発現する。
【0086】
更に、医薬の製造のための、本明細書で上述したようなポリヌクレオチド又は形質導入されたT細胞が提供される。
【0087】
ある実施態様では、該医薬は、がんの治療のためのものである。
【0088】
ある実施態様において、前記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1A-B】scFvフォーマットの抗P329G結合部分を有する第二世代キメラ抗原結合受容体の模式図である。VHxVL scFv(図1A)配向及びVLxVH(図1B)配向での図である。
図1C-D】それぞれ図1A及び1Bに描かれている抗原結合受容体をコードするDNAコンストラクトを示す。
図2】異なるヒト化scFvバリアントのCAR表面発現(図2A)と、形質導入コントロールとして機能する相関したGFP発現(図2B)を示す。
図3A-C】結合部分として異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価である。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下での、又はP329G Fcバリアントを含むが標的細胞がない抗体の存在下での、CD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均(technical average values from triplicates)であり、エラーバーはSDを示す。
図3D-F】結合部分として異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の非特異的シグナル伝達の評価である。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、異なるFcバリアントを有する抗体の存在下でのCD3下流シグナル伝達の強度を定量化することにより評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図4A-C】FolR1に対する高(16D5)、中(16D5 W96Y)又は低(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせた、高(HeLa-FolR1))標的発現レベルを有するFolR1標的細胞の存在下でP329Gバインダーの様々なヒト化バージョンを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図4D-F】FolR1に対する高(16D5)、中(16D5 W96Y)又は低(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせた、中(Skov3)標的発現レベルを有するFolR1標的細胞の存在下でP329Gバインダーの様々なヒト化バージョンを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図4G-I】FolR1に対する高(16D5)、中(16D5 W96Y)又は低(16D5 G49S/K53A)親和性を有する抗体と組み合わせた、低(HT29)標的発現レベルを有するFolR1標的細胞の存在下でP329Gバインダーの様々なヒト化バージョンを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。活性化は、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用して、CD3下流シグナル伝達の強度の定量化によって評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図5】結合部分として異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。抗FolR1(16D5)P329G IgG1標的IgGとHeLa(FolR1)標的細胞の存在下で、レポーター細胞の活性を評価した(図5A)。抗体用量依存的活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用してCD3下流シグナル伝達の強度の定量化により評価し、曲線下面積を算出した(図5B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図6】結合部分として異なるヒト化バージョンのP329Gバインダーを用いた抗P329G CAR JurkatレポーターT細胞の活性化。抗HER2(ペルツズマブ)P329G IgG1標的IgGとHeLa(HER2)標的細胞の存在下で、レポーター細胞の活性を評価した(図6A)。抗体用量依存的活性化を、抗P329G CAR Jurkat-NFATレポーターアッセイを使用してCD3下流シグナル伝達の強度の定量化により評価し、曲線下面積を算出した(図6B)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図7A】マスクされた抗P329G結合部分を有する第二世代キメラ抗原結合受容体の模式図である(図7A)。
図7B】このマスクは、プロテアーゼ切断可能なリンカーを介して抗P329G scFvに融合されている。リンカー切断後、抗P329Gバインダーは脱マスキングされ、例えば抗P329G抗体と結合することができる(図7B)。
図8】マスクされた抗P329G結合部分を有する第二世代キメラ抗原結合受容体をコードするDNAコンストラクトの模式図である。VHxVL scFv配向(図8A)及びVLxVH(図8B)配向での図である。
図9】マスクされた抗P329Gバインダーを結合部分として用いたJurkat NFATレポーターT細胞の活性化。抗FolR1(16D5)P329G IgG1標的IgGとHeLa(FolR1)標的細胞の存在下で、レポーター細胞の活性を評価した(図9A)。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図10A】マスクされた抗P329Gバインダーを結合部分として用いたJurkat NFATレポーターT細胞の用量依存的活性化。レポーター細胞の活性は、抗PSMA(J591)P329G IgG1標的IgGとLnCAP(PSMA)標的細胞の存在下(図10A)の存在下で評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図10B】マスクされた抗P329Gバインダーを結合部分として用いたJurkat NFATレポーターT細胞の用量依存的活性化。レポーター細胞の活性は、抗EpCam(3-17I)P329G LALA IgG1標的IgGとLnCAP(EpCam)標的細胞の存在下で評価された。描かれているのは技術的値のトリプリケートの平均であり、エラーバーはSDを示す。
図11A】フローサイトメトリーにより検出された、PDX乳房腫瘍細胞試料上のFolR1の発現レベルを示している(図11A)。示しているのはベースライン補正した(ベースラインは抗体なしの標的細胞とエフェクター細胞の共培養と定義)技術的値の3回の平均であり、エラーバーはSDを示す。
図11B】PDX乳房腫瘍試料とそれぞれ抗FolR1 IgG P329G LALA IgG1の存在下でマスクされた抗P329Gバインダーを用いたJurkat NFATレポーターT細胞の活性化を示している(図11B)。示しているのはベースライン補正した(ベースラインは抗体なしの標的細胞とエフェクター細胞の共培養と定義)技術的値の3回の平均であり、エラーバーはSDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0090】
定義
本明細書の用語は、以下で特に定義されない限り、当技術分野で一般に使用されるように使用される。
【0091】
本明細書において、「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られる軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「から得られる」アクセプターヒトフレームワークは、その同一のアミノ酸配列を含んでもよく、又はそれはアミノ酸配列の変化を含んでもよい。いくつかの実施態様において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの実施態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0092】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインの結合に続いて、エフェクター機能を実行するように受容体保有細胞を刺激するシグナル伝達現象を生じさせるFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体としては、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が挙げられる。
【0093】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(「ADCC」)は、抗体でコートした標的細胞の免疫エフェクター細胞による溶解につながる免疫機構である。該標的細胞は、通常Fc領域に対するN末端であるタンパク質部分を介してFc領域を含む抗体又はその誘導体が特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される用語「ADCCの低下」は、上で定義したADCCの機構によって、該標的細胞を囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解する該標的細胞の数の減少及び/又はADCCの機構によって、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するのに必要な、該標的細胞を囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかと定義される。このADCCの低下は、(当業者に既知の)同じ標準的な製造、精製、製剤化及び保管方法を用いて、同じ種類の宿主細胞により産生された同じ抗体であるが工学操作されていない抗体によって媒介されるADCCと比較される。例えば、ADCCを低下させるアミノ酸置換をFcドメインに含む抗体によって媒介されるADCCの低下は、このようなアミノ酸置換をFcドメインに含まない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較される。ADCCを測定するための適切なアッセイは、当技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第2006/082515号又は同第2012/130831号参照)。
【0094】
薬剤、例えば薬学的組成物の「有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を得るのに必要な用量及び期間での有効な量を指す。
【0095】
「親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。特に断らない限り、本明細書で使用する「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗体と抗原)のメンバー間の1対1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。一般に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(K)によって表される。親和性は、本明細書に記載のものを含む当技術分野で一般的な方法により測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な例示的方法を以下に記載する。
【0096】
「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログ及びアミノ模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされているアミノ酸と、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、O-ホスホセリンなど、後に修飾されるアミノ酸のことである。アミノ酸アナログとは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムである。このようなアナログは、改変されたR基(例えばノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を持ちながら、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。アミノ酸は、一般に知られている3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名委員会が推奨する1文字記号のいずれかで称される。
【0097】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸置換、欠失、挿入及び修飾を包含することを意味する。最終構築物が所望の特徴(例えば、Fc受容体への結合の低下又は別のペプチドとの会合の増加)を有することを条件として、置換、欠失、挿入及び修飾のいかなる組み合わせも、最終構築物に到達するために行うことが可能である。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失、並びにアミノ酸の挿入が含まれる。特にアミノ酸の変異は、アミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させるためには、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による置き換え、又は20種類の一般的なアミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生じさせることができる。遺伝学的方法には、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等が含まれ得る。遺伝子工学以外の方法、例えば化学修飾によるアミノ酸の側鎖基を変化させる方法も有用であり得ると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために、様々な表記が使用される。例えば、Fcドメインの329位におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G又はPro329Glyと示され得る。
【0098】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されないが、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例:二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0099】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子(例:scFv及びscFab);シングルドメイン抗体(dAbs); 及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説については、Holliger and Hudson,Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照されたい。
【0100】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1又は複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域ともいう)によって提供されてもよい。特に、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例としては、免疫グロブリン及びその誘導体(例:断片)、並びに抗原結合受容体及びその誘導体が挙げられる。
【0102】
ここで使用される用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。ある実施態様では、抗原結合部分は、それが結合する実体(例えば、該抗原結合部分を含む抗原結合受容体を発現している細胞)を標的部位へ、例えば特定の型の腫瘍細胞又は抗原決定基を有する腫瘍間質へと誘導することができる。抗原結合部分には、抗体及びその断片が含まれる。これについては後述する。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメイン(例:scFv断片)を含む。特定の実施態様では、該抗原結合部分は、本明細書で更に定義され、且つ当技術分野において既知である抗体定常領域を含み得る。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ又はμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかが含まれる。
【0103】
本発明の文脈において、用語「抗原結合受容体」は、アンカー膜貫通ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む抗原結合分子をいう。抗原結合受容体は、異なる供給源からのポリペプチド部分から作ることができる。したがって、抗原結合受容体は、「融合タンパク質」及び/又は「キメラタンパク質」であると理解される場合もある。通常、融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質をコードしていた2つ以上の遺伝子(好ましくはcDNA)を結合して作られるタンパク質である。この融合遺伝子(又は融合cDNA)を翻訳すると、好ましくは、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性を持つ単一のポリペプチドが得られる。組換え融合タンパク質は、生物学的研究又は治療における使用のために、組換えDNA技術によって人工的に作られる。本発明の抗原結合受容体の更なる詳細は、本明細書において後述する。本発明の文脈において、CAR(キメラ抗原受容体)は、それ自体が細胞内シグナル伝達ドメインに融合しているアンカー膜貫通ドメインにスペーサー配列によって融合された抗原結合部分を含む細胞外部分を含む抗原結合受容体であると理解される。
【0104】
「抗原結合部位」は、抗原との相互作用をもたらす抗原結合分子の部位、すなわち1又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0105】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し、且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む抗体又は抗原結合受容体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1又は複数の免疫グロブリン可変ドメイン(可変領域とも呼ばれる)により提供され得る。特に、抗原結合ドメインは、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)及び免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「抗原決定基」は「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成する、ポリペプチド高分子上の部位(例えばアミノ酸の連続ストレッチ又は非連続アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造(conformational configuration)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、その他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離した状態で、且つ/又は細胞外マトリックス(ECM)中に、見出すことができる。特に断らない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質は、霊長類(例:ヒト)及びげっ歯類(例:マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の天然型を指す。特定の実施態様では、該抗原はヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質に言及する場合、その用語は、「完全長」、未処理のタンパク質だけではなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のタンパク質を包含する。その用語はまた、天然に存在するタンパク質バリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントを包含する。
【0107】
本発明による「変異型Fcドメインを含む抗体」、すなわち治療用抗体は、1、2、3又はそれ以上の結合ドメインを有してよく、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であってもよい。該抗体は、単一種からの完全長であっても、キメラ化若しくはヒト化されていてもよい。2つを超える抗原結合ドメインを持つ抗体の場合、いくつかの結合ドメインが同じであったり、同じ特異性を持っていたりすることがある。
【0108】
本明細書で使用される「ATD」という用語は、細胞の1又は複数の細胞膜に組み込むことができるポリペプチドストレッチを画定する「アンカー膜貫通ドメイン」を指す。ATMは細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインに融合することができ、これらの細胞外及び/又は細胞内ポリペプチドドメインは、細胞膜に限局している。本発明の抗原結合受容体の場合、ATMは、本発明の抗原結合受容体の膜付着及び限局を付与する。本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのATMと、抗原結合部分を含む細胞外ドメインとを含む。また、ATMは細胞内シグナル伝達ドメインに融合している場合もある。
【0109】
「特異結合」とは、結合が抗原について選択的であり、望ましくない又は非特異的な相互作用とは区別可能であることを意味する。抗原結合部分の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore計器で解析)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323329 (2000))、及び古典的結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217229 (2002))のいずれかによって測定することができる。ある実施態様では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定した場合、抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(K)を有する。
【0110】
本明細書で採用する「CDR」という用語は、「相補性決定領域」に関するものであり、当技術分野でよく知られているものである。CDRは、免疫グロブリン又は抗原結合受容体の一部であり、前記分子の特異性を決定し、特定のリガンドと接触させるものである。CDRは該分子の最も可変的な部分であり、このような分子の抗原結合多様性に寄与している。各Vドメインには、3つのCDR領域CDR1、CDR2及びCDR3が存在する。CDR-Hは可変重鎖のCDR領域を表し、CDR-Lは可変軽鎖のCDR領域を表す。VHは可変重鎖を意味し、VLは可変軽鎖を意味する。Ig由来のCDR領域は、「Kabat」(Sequences of Proteins of Immunological Interest”, 5th edit. NIH Publication no. 91-3242 U.S. Department of Health and Human Services (1991); Chothia J. Mol. Biol. 196 (1987), 901-917) or “Chothia” (Nature 342 (1989), 877-883)に記載されているように決定することができる。
【0111】
「CD3z」は、T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖を指し、「T細胞受容体T3ゼータ鎖」や「CD247」としても知られる。
【0112】
「キメラ抗原受容体」又は「キメラ受容体」又は「CAR」という用語は、スペーサー配列によって細胞内シグナル伝達ドメイン/共シグナル伝達ドメイン(例:CD3z及びCD28の)に融合された、抗原結合部分の細胞外部分(例えば一本鎖抗体ドメイン)から構成された抗原結合受容体を指す。
【0113】
抗体の「クラス」は、その重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体の主要なクラスにはIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つがあり、これらのうちのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分けることができる。特定の態様では、抗体はIgGアイソタイプのものである。特定の態様において、抗体は、Fc領域のエフェクター機能を低下させるP329G、L234A及びL235A変異を有するIgGアイソタイプのものである。他の態様では、抗体はIgGアイソタイプのものである。特定の態様では、抗体は、ヒンジ領域にS228P変異を有するIgGアイソタイプのものであり、IgG抗体の安定性を向上させる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2つの型のうちのいずれかに割り当てることができる。
【0114】
本願で使用される「ヒト起源の定常領域」又は「ヒト定常領域」という用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域及び/又は定常軽鎖カッパ若しくはラムダ領域を意味する。このような定常領域は、ヒト又はヒト化抗体において使用することができ、当技術分野において周知であり、例えば、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されている(また、例えばJohnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218; Kabat, E.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975) 2785-2788参照)。特に断らない限り、定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat,E.A.et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242に記載されるように、KabatのEUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0115】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)とは、Fab重鎖の可変ドメインとFab軽鎖の可変ドメインが交換されている(すなわち互いによって置き換えられている)Fab分子を意味し、すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖とを含む。明確にするために本明細書では、Fab軽鎖の可変ドメインとFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖をクロスオーバーFab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0116】
本明細書で使用される「CSD」という用語は、共刺激性シグナル伝達ドメインを指す。
【0117】
「エフェクター機能」とは、抗体のアイソタイプにより変わる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例には、以下が含まれる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);貪食;細胞表面受容体(例:B細胞受容体)のダウンレギュレーション、及びB細胞活性化。
【0118】
本明細書で使用される場合、「工学(的に)操作(する)、工学(的に)操作された(る))(“engineer, engineered, engineering”)」という用語は、天然に存在するポリペプチド又は組換えポリペプチド又はそれらの断片の、ペプチド骨格のいかなる操作又は翻訳後修飾をも含むと考えられる。工学的操作には、アミノ酸配列の改変、グリコシル化パターンの改変又は個々のアミノ酸の側鎖基の改変と、これらの手法の組み合わせとが含まれる。
【0119】
用語「発現カセット」とは、標的細胞内の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組換え又は合成により生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス又は核酸断片に組み入れることができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分は、数ある配列の中でも、転写される核酸配列とプロモーターを含む。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0120】
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とから成るタンパク質を指す。
【0121】
本明細書の用語「Fcドメイン」又は「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を包含する。IgG重鎖のFc領域の境界は多少変動するが、ヒトIgG重鎖のFc領域は通常、Cys226から又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで延びると定義される。しかしながら、宿主細胞によって産生された抗体は、重鎖のC末端から1又は複数(特に1又は2)のアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現により、宿主細胞によって産生される抗体は、完全長重鎖を含むことも、完全長重鎖の切断されたバリアント(本明細書では「切断されたバリアント重鎖」とも呼ぶ)を含むこともある。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合に該当し得る。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(K447)は、存在することもしないこともあり得る。Fcドメイン(又は本明細書で定義されているFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、本明細書では、特に断らない限り、C末端グリシン-リジンジペプチドを有しないものとして示される。本発明のある実施態様では、本明細書で定義されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本発明のある実施態様では、本明細書で定義されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、追加のC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本明細書に記載の薬学的組成物など、本発明の組成物は、本発明の抗原結合分子の集団を含んでいる。抗原結合分子の集団は、完全長重鎖を有する分子と、切断されたバリアント重鎖を有する分子とを含み得る。抗原結合分子の集団は、全長重鎖を有する分子と切断されたバリアント重鎖を有する分子との混合物から構成されてもよく、抗原結合分子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%は、切断されたバリアント重鎖を有する。本発明のある実施態様では、本発明の抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗原結合分子を含んでいる。本発明のある実施態様では、本発明の抗原結合分子の集団を含む組成物は、追加的なC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む免疫活性化Fcドメイン結合分子を含んでいる。本発明のある実施態様では、このような組成物は、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子から構成される抗原結合分子の集団;追加のC末端グリシン残基 (G446、KabatのEUインデックスによる番号付け)を有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子(G446、KabatのEUインデックスによる番号付け); 及び追加のC末端グリシン-リジンジペプチドを有する、本明細書に明記されているFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子(G446及びK447、KabatのEUインデックスによる番号付け)を含んでいる。本明細書において別段の定めがない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号付けシステム(別名EUインデックス)に従う(上記も参照のこと)。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドの一方、すなわち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0122】
「フレームワーク」又は「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。通常、可変ドメインのFRは4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、FR4から成る。したがって、CDR配列及びFR配列は一般に、VH(又はVL)の配列:FR1-CDR-H1(CDR-L1)-FR2-CDR-H2(CDR-L2)-FR3-CDR-H3(CDR-L3)-FR4に現れる。
【0123】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で互換的に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有する抗体又は本明細書で定義されているFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0124】
「融合した」とは、成分同士(例:Fabと膜貫通ドメイン)が、ペプチド結合により、直接的に又は1若しくは複数のペプチドリンカーを介して結合されていることを意味する。
【0125】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫も含める。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞と、継代の数に関係なく、それに由来する子孫とが含まれる。子孫は、核酸の含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。
【0126】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞により産生された抗体のアミノ酸配列又はヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト源に由来する抗体のアミノ酸配列、或いは他のヒト抗体をコードする配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0127】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLフレームワーク配列又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を示すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL配列又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからのものである。一般に、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3にあるようなサブグループである。ある態様では、VLについて、該サブグループはKabat et al.前掲書にあるようなサブグループカッパIである。ある態様では、VHについて、該サブグループはKabat et al.前掲書にあるようなサブグループIIIである。
【0128】
「ヒト化」抗体(例:ヒト化scFv断片)とは、非ヒトCDRのアミノ酸残基とヒトFRのアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。特定の態様において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDRの全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のCDRに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のFRに対応する。ヒト化抗体は、任意選択で、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでよい。抗体(例えば非ヒト抗体)の「ヒト化型」とは、ヒト化した抗体を指す。
【0129】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であり、且つ抗原結合特異性を決定する抗体可変ドメインの各領域、例えば相補性決定領域(「CDR」)を指す。
【0130】
一般に、抗体は6つのCDR:VHに3つ(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、VLに3つ(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)を含む。本明細書における例示的なCDRとしては、以下のものが挙げられる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、96~101(H3)にある超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol.196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)にあるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));並びに
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)にある抗原コンタクト(antigen contact)(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996))。
【0131】
特に断りのない限り、CDRはKabat et al.前掲書に従って決定される。当業者であれば、CDRの割り当ては、Chothia前掲書、McCallum前掲書又は他の科学的に認められた命名法に従って決定することもできることを理解するであろう。
【0132】
「イムノコンジュゲート」とは、細胞傷害性剤を含むがそれに限定されない、1又は複数の異種分子にコンジュゲートされた抗体である。
【0133】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例:ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例:ヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例:マウス、ラット)が含まれる。特定に態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0134】
「単離」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様において、抗体は、例えば電気泳動(例:SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例:イオン交換又は逆相HPLC)法により決定されるように、95%超又は99%超の純度に精製される。抗体純度の評価方法の総論については、例えばFlatman et al.,J. Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。
【0135】
用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端にかけて、各重鎖は可変重ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、その後に重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続いている。同様に、N末端からC末端にかけて、各軽鎖は可変軽ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、その後に軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽(CL)ドメインが続いている。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちのいずれか1つに割り当てることができ、これらの種類のいくつかは、例えばγ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)及びα(IgA)のサブタイプに更に分けることができる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちのいずれか1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合した2つのFab分子とFcドメインとから実質的に成る。
【0136】
「単離核酸」分子又はポリヌクレオチドとは、その天然環境から取り出された核酸分子であるDNA又はRNAである。例えば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明のために単離されたものと見なされる。単離ポリヌクレオチドの更なる例には、異種宿主細胞内に維持されている組換えポリヌクレオチド、又は溶液中の(部分的に又は実質的に)精製されたポリヌクレオチドが含まれる。単離ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子は、染色体外に、又はその本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。単離RNA分子は、in vivo又はin vitroの本発明のRNA転写物、並びにプラス鎖型とマイナス鎖型及び二本鎖型を含む。本発明の単離ポリヌクレオチド又は核酸は、合成により製造されたそのような分子を更に含む。また、ポリヌクレオチド又は核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位又は転写ターミネーター等の調節エレメントを含んでも含まなくてもよい。
【0137】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも95%「同一」であるヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点突然変異を含み得ること以外は、参照配列と同一であることを意味する。換言すれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中5%までのヌクレオチドが欠失しているか又は別のヌクレオチドで置換されてもよく、或いは参照配列中のヌクレオチドの総数の5%までの数のヌクレオチドが参照配列に挿入されてもよい。参照配列のこのような変更は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置に、或いはこれら末端位置の間の任意の場所に、参照配列中の残基間で個別に散在して、又は参照配列内の1つ若しくは複数の連続したかたまりで散在して起こる可能性がある。実際問題として、特定のポリヌクレオチド配列が本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、ポリペプチド用の後述するものなどの既知のコンピュータプログラム(例えばALIGN-2)を用いて慣例的に判定することができる。
【0138】
「単離された」ポリペプチド若しくはバリアント又はその誘導体とは、その自然の環境にないポリペプチドの意味である。特に精製は必要ではない。例えば、単離ポリペプチドは、その天然又は自然の環境から取り出すことができる。宿主細胞で発現した組換え生産ポリペプチド及びタンパクは、任意の適切な技術により分離、画分化又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドと同様に、本発明のために単離されたものと見なされる。
【0139】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモ二量体の形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1サブユニット及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別個の修飾を含み、これらの修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、これらのFcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それぞれ立体的に、静電気的に、それらの会合を有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、これらのサブユニットの各々に融合された更なる構成要素(例えば抗原結合部分)が同じではないという意味で非同一である可能性がある。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0140】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち該集団を構成する個々の抗体が、あり得るバリアント抗体(これらは例えば天然に存在する変異を含んでいたりモノクローナル抗体調製物の生産中に生じ、通常少量存在する)を除き、同一であり且つ/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、特定の方法による抗体の製造を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明によるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって製造することができ、これらの方法及びモノクローナル抗体を製造するためのその他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
【0141】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば細胞傷害性部分)又は放射標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は薬学的組成物中に存在してもよい。
【0142】
「天然抗体」は、天然に存在する、様々な構造を有する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端にかけて、各重鎖は可変重ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、その後に3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)が続いている。同様に、N末端からC末端にかけて、各軽鎖は、可変軽ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、その後に定常軽(CL)ドメインが続いている。
【0143】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、最大の配列同一性パーセントを得るために必要ならばギャップを導入した後、アライメントのためにいかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージであると定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当分野の技術の範囲内にある様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して得ることができる。当業者であれば、比較される配列の完全長にわたる最大のアライメントを得るために必要なアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメーターを決定することができる。或いは、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて、同一性パーセント値を生成することもできる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成されたもので、そのソースコードは、利用者向け文書と共に米国著作権庁(ワシントンD.C.,20559)に提出されており、そこで米国著作権登録番号TXU510087として登録され、且つ国際公開第2001/007611号に記載されている。
【0144】
本明細書では、特に断らない限り、アミノ酸配列の同一性パーセント値は、BLOSUM50比較行列と共にバージョン36.3.8c以降のFASTAパッケージのggsearchプログラムを用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988),“Improved Tools for Biological Sequence Analysis”,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)“Effective protein sequence comparison”Meth.Enzymol.266:227-258;及びPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36に記載されており、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml.から公的に入手可能である。或いは、fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiからアクセスできる公開サーバーを使用し、ggsearch(global protein:protein)プログラムとデフォルトオプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)で、ローカルではなくグローバルアライメントを実行して、配列を比較することも可能である。アミノ酸の同一性パーセントは、出力アライメントヘッダに示される。用語「核酸分子」は、ポリヌクレオチドが構成するプリン塩基とピリミジン塩基とを含む塩基の配列に関係するものであり、前記塩基は核酸分子の一次構造を表すものである。ここで、核酸分子という用語には、DNA、cDNA、ゲノムDNA、RNA、DNAの合成型、及びこれらの分子を2種以上含む混合ポリマーが含まれる。また、核酸分子という用語には、センス鎖とアンチセンス鎖の両方が含まれる。更に、本明細書に記載の核酸分子は、当業者には容易に理解されるように、非天然の又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含有していてもよい。
【0145】
「添付文書」という用語は、治療製品の商品包装に通例含まれる説明書を指すのに用いられ、そのような治療製品の適応症、用法、用量、投与、併用療法、使用に関する禁忌及び/又は注意事項についての情報を含む。
【0146】
用語「薬学的組成物」とは、中に含まれる活性成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、その製剤が投与されるであろう対象にとって許容できないほど毒性である追加の成分を何も含有しない調製物を指す。薬学的組成物は、1又は複数の薬学的に許容される担体を更に含む。
【0147】
「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物中の活性成分以外の成分であって、対象にとって非毒性である成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されないが、バッファー、賦形剤、安定剤又は保存剤が含まれる。
【0148】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」は、アミノ結合(ペプチド結合としても知られる)により直線的に結合したモノマー(アミノ酸)から構成される分子を指す。
【0149】
用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸から成る鎖を指すのであって、該生成物の特定の長さのものを指すのではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいずれの用語も「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これら用語の代わりに、又はこれらと互換的に、使用され得る。用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図されており、このような産物には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるものでも組換え技術により生産されるものでもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されたものであるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含むあらゆる手法で製造することができる。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、又は2000以上のアミノ酸から成るサイズのものである。ポリペプチドは、明確に定義された三次元構造を有する場合もあるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。明確に定義された三次元構造を有するポリペプチドは、「フォールディングされた」と言われ、明確に定義された三次元構造を有せずに多数の異なるコンフォメーションを採り得るポリペプチドは、「フォールディングされていない」と言われる。
【0150】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離された核酸分子又はコンストラクト、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は一般的ではない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。用語「核酸分子」は、ポリヌクレオチド中に存在する1又は複数の核酸セグメント、例えばDNA又はRNA断片を指す。
【0151】
本明細書で使用される「プロテアーゼ」又は「タンパク質分解酵素」は、リンカーを認識配列(認識部位ともいう)で切断し、標的細胞によって発現される任意のタンパク質分解酵素を指す。このようなプロテアーゼは、標的細胞によって分泌されても、標的細胞と会合したまま残っても(例えば標的細胞表面に)よい。プロテアーゼの例には、限定されないが、メタロプロテイナーゼ(例:マトリックスメタロプロテイナーゼ1-28、A Disintegrin And Metalloproteinase(ADAM)2、7-12、15、17-23、28-30及び33)、セリンプロテアーゼ(例:ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子及びマトリプターゼ)、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ;並びにカテプシンファミリーのメンバーが含まれる。
【0152】
本発明の抗原結合受容体に関して本明細書において使用される「活性化可能」とは、抗原特異的活性化の能力が低下又は消失した抗原結合受容体を指す。この抗原特異的活性化能の低下は、受容体がその抗原に結合する能力を低下させるか又は消失させるマスキング部分(例:CH2ドメイン)に起因するものである。タンパク質切断によって(例:マスキング部分と抗原結合受容体を繋ぐリンカーのタンパク質切断によって)マスキング部分が解離すると、抗原への結合能が回復し、それによって抗原結合受容体が活性化される。
【0153】
本明細書で用いられる「可逆的に隠す」とは、抗原結合部分をその抗原(
例:変異したFcドメイン)から妨げるように、マスキング部分が抗原結合部分に結合することをいう。この隠すことは、マスキング部分(例:CH2ドメイン)
が、例えばプロテアーゼ切断によって抗原結合部分から外され、それによって抗原結合部分がその抗原に結合するために遊離することができるという点で、可逆的である。
【0154】
「結合の低下」、例えばFc受容体への結合の低下は、例えばSPRで測定される、それぞれの相互作用の親和性の低下を指す。明確性のために、本用語はまた、親和性のゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る)までの低下、すなわち相互作用の完全な終止も含む。逆に、「結合の増大」は、それぞれの相互作用の結合親和性の上昇を指す。
【0155】
用語「調節配列」とは、連結されるコード配列を発現させるために必要なDNA配列を指す。このような調節配列の性質は、宿主生物によって異なる。原核生物において、調節配列にはプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが通常含まれる。真核生物においては、調節配列にはプロモーター、ターミネーター、場合によってはエンハンサー、トランス活性化因子又は転写因子が通常含まれる。「調節配列」という用語は、発現に必要な全ての構成要素を最低限含むことを意図しており、且つ追加の有利な構成要素も含み得る。
【0156】
本明細書において使用される用語「一本鎖」は、ペプチド結合により直線状に結合したアミノ酸単量体を含む分子を指す。特定の実施態様では、抗原結合部分の一方は、一本鎖Fab分子、すなわちFab軽鎖とFab重鎖がペプチドリンカーにより繋がれて一本のペプチド鎖を形成しているFab分子である。このような特定の実施態様では、一本鎖Fab分子においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に繋がれている。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFv断片である。
【0157】
本明細書で使用される「SSD」という用語は、「共刺激性シグナル伝達ドメイン」を指す。
【0158】
本明細書において用いられる場合、「治療(“treatment”)」(及び「治療する(“treat”又は“treating”)」など、その文法的変形)は、治療される個体の疾患の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の過程において実施され得る。治療の望ましい作用としては、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の軽減、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患進行の速度を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び緩解又は予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるか、又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0159】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1又は複数の細胞応答を指す。本発明の免疫活性化Fcドメイン抗原結合分子は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。
【0160】
薬剤、例えば薬学的組成物の「治療的有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を得るのに必要な用量及び期間での有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、疾患の有害作用を、例えば排除し、低下させ、遅延させ、最小化し、又は防止する。
【0161】
本明細書で使用される用語「価」は、特定数の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、抗原に特異的な1つ(且つ1つまで)の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。
【0162】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。通常、天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH、VL)は、一般に類似の構造を有し、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの相補性決定領域(CDR)とを備えている。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., 91頁 (2007)を参照されたい)。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHドメイン又はVLドメインで十分である。更に、特定の抗原に結合する抗体を、その抗原に結合する抗体のVHドメイン又はVLドメインを用いて単離し、相補的なVLドメイン又はVHドメインそれぞれのライブラリーをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0163】
本明細書で使用される用語「ベクター」は、自身が結合している別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語は、導入された宿主細胞のゲノムに組み入れたベクターだけでなく、自己複製核酸構造体としてのベクターも含む。ある種のベクターは、それが作動可能に結合している核酸の発現を誘導することができる。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」という。
【0164】
変異型Fcドメインに特異結合できる、活性化可能な抗原結合受容体
本発明は、例えば標的細胞(例:がん細胞)を標的とする治療用抗体などの抗体の変異型Fcドメインに特異結合できる抗原結合受容体に関するものである。特に、本発明は、活性化可能な抗原結合受容体に関するものである好ましい態様において、本発明は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む変異型Fcドメインに特異結合できる、活性化可能な抗原結合受容体に関する。
【0165】
本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの抗原結合部分とマスキング部分とを含む細胞外ドメインを含む。該マスキング部分は、抗原結合部分を可逆的に隠す。好ましい実施態様では、該マスキング部分は、プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーを介して抗原結合部分に繋がれている。プロテアーゼがない場合、該マスキング部分は抗原結合部位がその標的抗原に結合するのを防げる(図7A参照)。したがって、本発明の抗原結合受容体は、適切なプロテアーゼによって活性化可能である。
【0166】
適切なプロテアーゼが、例えば標的細胞の微小環境中に存在する(標的細胞は1又は複数の適切なプロテアーゼを分泌するか又は標的細胞の微小環境中の細胞が1又は複数の適切なプロテアーゼを分泌する)と、プロテアーゼ切断可能なリンカーが切断され、抗原結合受容体がアンマスクとなる(図7B参照)。
【0167】
好ましい実施態様において、マスキング部分は、変異型Fcドメイン又はその断片である。Fcドメイン又はその断片に結合可能な抗原結合受容体は、抗原結合受容体を含む免疫細胞(T細胞など)を適切なFcドメインを含む治療用抗体を介し標的細胞に対して標的化するために使用することができる。治療用抗体が標的細胞に結合し、細胞表面に(活性化された)抗原結合受容体を含む免疫細胞が治療用抗体のFcドメインに結合すると、免疫細胞が活性化される(図7B参照)。
【0168】
好ましい実施態様では、治療用抗体のFcドメインは、(例えば、低下した1又は複数のエフェクター機能を有する)変異型Fcドメインである。変異型Fcドメインを有する治療用抗体は、Fcドメインを変異させることにより、Fcドメインの所望の機能(例:エフェクター機能)を治療における当該機能の最適レベルに応じて増大又低下させることができるため、抗体療法において有益である。
【0169】
本発明による改良型抗原結合受容体は、治療用抗体のこのような変異型Fcドメインに特異結合できる。この概念によれば、治療用抗体の変異型Fcドメインは、本発明による形質導入された細胞を治療用抗体の標的にするために使用される。本発明による改良型抗原結合受容体は活性化可能であり、治療のon-target/off-tumor活性が低減される。したがって、本発明は、例えばがんの改善された治療のための改良型抗原結合受容体を提供する。
【0170】
本発明は、抗原結合受容体の細胞外ドメインにプロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーを介して標的(変異体)Fcドメインを融合させることにより、抗原結合受容体が可逆的に隠されている(マスクされている)、(プロテアーゼ)活性化可能な抗原結合受容体を提供する。本発明の抗原結合受容体は、抗原結合部分が適切な変異型Fcドメインに特異的に結合し、非変異型親(野生型Fcドメイン)には結合しないため、天然に存在するFcドメインには結合しない。したがって、野生型Fcドメインを含む抗体(例:IgG抗体)は、本発明の抗原結合受容体によって認識されない。これは、例えば変異型Fcドメインを含む治療用抗体に含まれるような標的変異型Fcドメインのみが、本発明の活性化可能な抗原結合受容体によって、適切なプロテアーゼによる活性化後にのみ認識されるという利点を有している。
【0171】
本発明は更に、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞などのT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞又はマクロファージの、好ましくはCD8+ T細胞の、本明細書に記載の抗原結合受容体による形質導入とそれらの標的化された動員、例えば、変異型Fcドメイン(例:EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメイン)を含む抗体分子(例:治療用抗体)による腫瘍への標的化に関する。ある実施態様では、本抗体は、腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異的抗原に特異結合できる。
【0172】
別記の実施例に示すように、概念実証として、マスキング部分(P329G変異を含むCH2ドメイン)、抗原結合部分(P329G変異に特異的に結合できるscFv)を含み、本発明によるアンカー膜貫通ドメイン(CD8膜貫通ドメイン)を含む抗原結合受容体(配列番号138に示されるDNA配列によってコードされ、図7Aに示されるような配列番号136)であって、P329G変異を含む治療用抗体に特異結合できる抗原結合受容体が構築された。Fcドメイン中のP329G変異を含む抗FolR1抗体とFolR1陽性且つプロテアーゼ分泌性の腫瘍細胞との共培養により、CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD融合タンパク質(配列番号138に示すDNA配列によりコードされる配列番号136)を発現する形質導入されたT細胞(Jurkat NFAT T細胞)が強く活性化された(例えば図9参照)。
【0173】
以下、本発明の概念とその構成要素について、更に詳しく説明する。
【0174】
本発明によれば、変異型Fcドメイン(例:EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含む)を含む腫瘍特異的抗体、すなわち治療用抗体と、変異型Fcドメインに特異結合できる抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む/から成る抗原結合受容体を形質導入されたT細胞との対合の結果、T細特異的活性化とその後の腫瘍細胞の溶解が得られる。この手法は、変異型Fcドメインを含む抗体の非存在下ではT細胞は不活性であるため、従来のT細胞ベースの手法に比べて安全性に大きな利点がある。
【0175】
しかし、多くの適応症では、(腫瘍)標的抗原は健康な組織にも発現しているため、純粋な腫瘍標的(抗原)が見つからない。本発明は、腫瘍組織中のプロテアーゼによって選択的に活性化される活性化可能抗原結合受容体を提供する。この手法は、副作用を軽減し、標的抗原の選択肢を増やす。
【0176】
本発明は、T細胞を誘導するものとして、IgG型抗体を用いて腫瘍細胞をマーク又は標識する、汎用性の高い治療プラットフォームを提供する。本プラットフォームは、多様な(既存の又は新規に開発された)標的抗体の使用又は異なる抗原特異性を有するがFcドメインに同じ変異(例:P329G変異など)を持つ複数の抗体の共投与を可能にすることにより、柔軟性と個別性を備えたプラットフォームとなっている。T細胞活性化の程度は、共投与される治療用抗体の投与量を調整することによって、又は異なる抗体特異性又はフォーマットに切り替えることにより、更に調整することができる。本発明に従い形質導入されたT細胞は、変異型Fcドメインを含む標的抗体の共投与がなくても不活性である。なぜなら、本明細書に記載のFcドメインに対する変異は、天然免疫グロブリン又は非変異型免疫グロブリンでは生じないからである。また、形質導入されたT細胞は、プロテアーゼが切断されて、マスキング部分が外れるまでは不活性である。したがって、本発明は、がん治療に適した標的抗原の空間を拡大する。
【0177】
したがって、本発明は、細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとを含む抗原結合受容体に関するものであり、ここで、細胞外ドメインは、Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカー、及び抗原結合部分を含み、抗原結合部分はマスキング部分に結合しており、抗原結合部分はマスキングされており、マスキング部分と抗原結合部分はプロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーによって繋がれている。
【0178】
エフェクター機能は、本明細書で詳述するように、抗体ベースの腫瘍治療の深刻な副作用につながる可能性があるため、がん治療においてエフェクター機能が低下した治療用抗体を用いることが特に望ましい。エフェクター機能を低下させるFcドメインの変異は、当技術分野で知られており、本明細書にも記載されている。ある実施態様において、マスキング部分は、Fc受容体への結合及びエフェクター機能を低下させる、少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0179】
本発明の文脈において、抗原結合受容体は、T細胞内又はT細胞上に天然には存在しない細胞外ドメインを含む。このように、抗原結合受容体は、本発明による抗原結合受容体を発現する細胞に対して目的に適った結合特異性を付与することができる。本発明の1又は複数の抗原結合受容体を形質導入した細胞(例:T細胞)は、変異型Fcドメインに特異結合できるようになるが、非変異型親Fcドメインには特異結合できるようにならない。特異性は、抗原結合受容体の細胞外ドメインの抗原結合部分とプロテアーゼ切断可能なリンカーのプロテアーゼ認識配列によってもたらされる。本発明の文脈において、本明細書で説明するように、変異型Fcドメインに特異結合できる抗原結合部分は、変異型Fcドメインと結合/相互作用するが、非変異型親Fcドメインとは結合/相互作用しない。
【0180】
マスキング部分として機能するFcドメイン又はその断片
ある態様において、Fcドメイン又はその断片によってマスクされている(活性化可能な)抗原結合受容体が提供される。本発明の抗原結合受容体は、抗原結合部分とマスキング部分とを含む。好ましい態様において、マスキング部分はFcドメイン又はその断片である。ある態様において、抗原結合部分はマスキング部分に結合しており、抗原結合部分はマスクされている。好ましい態様では、抗原結合部分は、少なくとも1つのアミノ酸置換を含む変異型Fcドメインであるマスキング部分に特異結合できる。ある態様では、抗原結合受容体は、少なくとも1つのアミノ酸置換を含まないFcドメインであるマスキング部分に結合することはない。
【0181】
該Fcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖から成る。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットは、CH2 IgG重鎖定常ドメイン及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。該Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定に会合することができる。本発明によるマスキング部分は、IgG Fcドメイン又はその断片(又はCH2二量体などの二量体のその断片)の一方又は両方のサブユニットとすることができる。ある実施態様では、該マスキング部分はIgG Fcドメインである。特定の実施態様では、該マスキング部分はIgG Fcドメインである。別の実施態様では、該マスキング部分はIgG Fcドメインである。
【0182】
該Fcドメインは、標的組織における良好な蓄積に寄与する長い血清半減期や好ましい組織-血液分配比などの好ましい薬物動態特性を抗体に付与する。しかしながら、同時に、該Fcドメインは、好ましい抗原保有細胞ではなく、Fc受容体を発現する細胞への望ましくない標的化をもたらす可能性がある。更に、Fc受容体のシグナル伝達経路の共活性化によりサイトカインが放出され、それにより全身投与時のサイトカイン受容体の過剰な活性化及び重篤な副作用が生じる可能性がある。T細胞以外の(Fc受容体保有)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によるT細胞の潜在的な破壊に起因して、抗体(例:T細胞活性化抗体)の効力を低下させることさえあり得る。
【0183】
したがって、好ましくは、例えば本発明の抗原結合受容体との組み合わせとして、本発明に従って使用される抗体は、天然型IgG Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈する。Fc受容体への結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下は、抗体のFcを改変することによって達成される。本発明による抗原結合部分は、このような改変型Fcドメインに特異的に結合する。
【0184】
本発明のある態様によれば、本発明の抗原結合受容体をマスクするFcドメイン又はその断片は、抗原結合受容体と組み合わせて使用される抗体のFcドメインの改変と一致するように改変/工学的に操作されている。但し、このマスキング部分の改変は、マスキング部分が治療用抗体のマスキング部分とFcドメインの両方に結合できる限り、治療用抗体のFcドメインの改変と同一である必要はない。概念実証として含まれる別記の実施例では、抗原結合部分は、P329G変異(EU番号付けによる)を含むCH2マスキングドメインに結合する。一致している治療用抗体はFcドメインにP329G変異を有するが、該治療用抗体及び/又はマスキング部分は更なる変異を有していてもよい。
【0185】
この概念によれば、本発明の抗原結合受容体の抗原結合部分をマスクするためのマスキング部分として、改変/工学的操作型Fcドメイン又はその断片が使用される。マスキング部分が抗原結合受容体から(例えば、腫瘍微小環境におけるプロテアーゼ切断によって)外されると、抗原結合部分は、抗原結合部分の結合のための適切な改変を含むFcドメインを含む抗体に結合することが可能である。
【0186】
したがって、ある実施態様において、本発明に従って使用される抗体のFcドメインは、改変されており且つ/又は工学的に操作されている。ある実施態様において、Fcドメインは、天然型IgG Fcドメインと比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性及び/又は天然型IgG Fcドメインと比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満のエフェクター機能を呈する。ある態様では、改変(変異)型Fcドメインは、Fc受容体に実質的に結合せず、且つ/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様において、該Fc受容体は、Fcγ受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、ヒトFc受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。ある実施態様において、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能はADCCである。ある実施態様では、該Fcドメインは、天然型IgG Fcドメインと比較して実質的に同様の、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。FcRnに対する実質的に同様の結合は、該Fcドメインが天然型IgG FcドメインのFcRnに対する結合親和性の約70%超、特に約80%超、とりわけ約90%超を示す場合に、達成される。
【0187】
特定の実施態様では、該Fcドメインは、Fc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能が非工学操作型Fcドメインと比較して低下するように工学的に操作されている。
【0188】
特定の実施態様では、該Fcドメインは、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させる1又は複数のアミノ酸変異を含む。
【0189】
典型的には、同じ1又は複数のアミノ酸変異が、本発明の抗体のFcドメインの2つのサブユニットの各々(及び対応するマスキング部分の一方又は両方のサブユニット)に存在する。但し、本発明の抗原結合受容体の結合をマスクするには、Fcドメイン又はその断片の一方のサブユニット(例:CH2ドメイン)で十分である(別記の実施例に示すとおり)。
【0190】
ある実施態様では、アミノ酸変異が、Fc受容体への抗体のFcドメインの結合親和性を低下させる。ある実施態様において、アミノ酸変異は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1低下させる。Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低下させる、1つより多いアミノ酸変異が存在する実施態様において、これらのアミノ酸変異の組み合わせは、Fc受容体へのFcドメイン又はその断片の結合親和性を少なくとも10分の1、少なくとも20分の1又は更には少なくとも50分の1低下させ得る。ある実施態様において、工学操作型Fcドメインは、非工学操作型Fcドメインを含む抗体と比較して20%未満、特に10%未満、更に詳細には5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の実施態様において、該Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施態様では、該Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、該Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの各受容体に対する結合が低下する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、具体的にはC1qに対する結合親和性も低下する。ある実施態様では、新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は低下しない。FcRnに対する実質的に同様の結合、すなわちFcドメイン又はその断片の前記受容体への結合親和性の保存は、Fcドメインが非工学操作型FcドメインのFcRnに対する結合親和性の約70%超を呈する場合に達成される。Fcドメインは、そのような親和性の約80%超、更には約90%超を呈し得る。特定の実施態様では、本抗体のFcドメインは、非工学操作型Fcドメインと比較して低下したエフェクター機能を有するように工学的に操作されている。エフェクター機能の低下は、限定されないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの減少、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の減少、標的結合抗体の架橋の減少、樹状細胞成熟の低下、又はT細胞プライミングの低下のうちの1又は複数を含み得る。ある実施態様において、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低下である。ある実施態様では、ADCCの低下は、非工学操作型Fcドメインによって誘導されるADCCの20%未満である。
【0191】
ある実施態様では、該マスキング部分は、IgG Fcドメイン又はその断片、具体的にはIgG若しくはIgG Fcドメイン又はその断片である。ある実施態様では、該マスキング部分は、CH2ドメイン、CH3ドメイン及び/又はCH4ドメインを含む。ある実施態様では、該マスキング部分は、天然型IgG1又はIgG4と比較して、少なくとも1つのアミノ酸改変を含んでいる。ある実施態様において、Fc受容体へのFcドメイン又はその断片の結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸改変は、アミノ酸置換である。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある。ある実施態様において、該マスキング部分は、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、該マスキング部分は、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様において、該マスキング部分は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。このような実施態様では、該マスキング部分は、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。ある実施態様では、該マスキング部分は、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、該アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである。ある実施態様において、該マスキング部分は、P329位にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297、及びP331から選択される位置に更なるアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様において、この更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の実施態様では、該マスキング部分は、P329位、L234位及びL235位にアミノ酸置換を含む。更に特定の実施態様において、該マスキング部分は、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」)を含む。このような実施態様では、該マスキング部分は、IgG Fcドメイン又はその断片、特にヒトIgG Fcドメイン又はその断片である。アミノ酸置換の上記「P329G LALA」の組み合わせは、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG FcドメインのFcγ受容体(並びに補体)結合をほぼ完全に消失させる。国際公開第2012/130831号には、このような変異体Fcドメインを調製する方法及びその特性(Fc受容体結合又はエフェクター機能など)を決定する方法も記載されている。
【0192】
IgG抗体は、IgG抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及びエフェクター機能の低下を呈する。したがって、いくつかの実施態様では、該マスキング部分はIgG Fcドメイン又はその断片、特にヒトIgGFcドメイン又はその断片である。ある実施態様において、該マスキング部分は、S228位のアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含むIgG Fcドメインである。Fc受容体へのその結合親和性及び/又はエフェクター機能を更に低下させるために、ある実施態様において、該マスキング部分は、L235位のアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235Eを含むIgG Fcドメインである。別の実施態様では、該マスキング部分は、P329位のアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329Gを含むIgG Fcドメインである。特定の実施態様において、該マスキング部分は、S228位、L235位及びP32位のアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235E、及びP329Gを含む。このようなIgG Fcドメイン変異体及びそのFcγ受容体結合特性は、国際公開第2012/130831号(参照により全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0193】
特定の実施態様において、天然型IgG Fcドメインと比較してFc受容体への結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈するFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むヒトIgG Fcドメイン、又はアミノ酸置換S228P、L235E及びP329Gを含むヒトIgG Fcドメインである。
【0194】
特定の実施態様では、Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分のNグリコシル化は排除されている。このような実施態様では、該マスキング部分はN297位にアミノ酸変異、特に、アスパラギンをアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)で置き換えるアミノ酸置換を含む。
【0195】
上記及び国際公開第2012/130831号に記載のFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能の低下を伴うFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327及び329の1又は複数の置換を有するものも含む(米国特許第6737056号)。このようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7332581号)など、アミノ酸位置265、269、270、297及び327のうちの2以上に置換を有するFc変異体を含む。
【0196】
ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びプロリン(P)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0197】
変異体Fcドメイン及びその断片は、当技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を用いるアミノ酸の欠失、置換、挿入又は改変により調製することができる。遺伝学的方法は、コード化DNA配列の部位特異的突然変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。正確なヌクレオチド変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0198】
Fc受容体への結合は、例えばELISAにより、又はBIAcore機器(GEヘルスケア)のような標準的な器具類を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)により容易に決定することができ、Fc受容体は組換え発現により得ることができる。適切なこのような結合アッセイが本明細書に記載されている。代替的に、Fcドメイン又はFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価してもよい。
【0199】
Fcドメイン又はその断片のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法により測定することができる。ADCCを測定するための適切なアッセイは、本明細書に記載されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイのその他の例は、米国特許第5500362号;Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)、及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載されている。代替的に、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology社、カリフォルニア州マウンテンビュー);及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、ウィスコンシン州マディソン)参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば動物モデル(Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95, 652-656(1998)に開示されているものなど)において評価されてもよい。
【0200】
いくつかの実施態様では、補体成分に対するFcドメインの結合、具体的にはC1qに対する結合が低下する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能が低下するように工学的に操作されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子がC1qに結合することができ、それゆえにCDC活性を有するかどうかを決定するために、C1q結合アッセイが実行されてもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg and Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。
【0201】
対応するマスキング部分と同様に(改変型)Fcドメインに結合する適切な抗原結合部分は、本明細書で後述するように調製することができる。
【0202】
プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカー
本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのプロテアーゼ切断可能なリンカーを含むものである。適切なプロテアーゼの非存在下では、マスキング部分(すなわちFcドメイン又はその断片)は、抗原結合部分をマスクする。すなわち、抗原結合部分はマスキング部分に結合しており、それゆえに適切なFcドメイン又はその断片を含む抗体に結合することはできない。適切なプロテアーゼの存在下では、Fcドメイン又はその断片と抗原結合部分を繋ぐプロテアーゼ切断可能なリンカーが切断され、マスキング部分が抗原結合受容体から外され/離される。切断後、抗原結合部分は、適切なFcドメインを含む(治療用)抗体と結合することができる。
【0203】
したがって、ある実施態様では、(マスキング)Fcドメイン又はその断片は、リンカーを介して抗原結合受容体に共有結合している。ある実施態様では、該リンカーはペプチドリンカーである。ある実施態様では、該リンカーはプロテアーゼ切断可能なリンカーである。
【0204】
ある実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号137、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167又は168に少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む(プロテアーゼ認識部位を有する)リンカーを含む。好ましい実施態様において、該リンカーは、配列番号137と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を含む。ある実施態様において、該プロテアーゼ認識部位は、配列番号141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154又は155のポリペプチド配列を含む。好ましい実施態様において、該プロテアーゼ認識部位は、配列番号155のポリペプチド配列を含む。
【0205】
ある実施態様において、プロテアーゼは、メタロプロテイナーゼ(例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)1-28、並びにA Disintegrin And Metalloproteinase(ADAM)2、7-12、15、17-23、28-30及び33;セリンプロテアーゼ(例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子及びマトリプターゼ);システインプロテアーゼ;アスパラギン酸プロテアーゼ;並びにカテプシンプロテアーゼから成る群より選択される。ある特定の実施態様では、プロテアーゼはMMP9又はMMP2である。更なる特定の実施態様において、プロテアーゼはマトリプターゼである。
【0206】
抗原結合部分
(改変型/工学操作型)Fcドメイン又はその断片に特異結合できる抗原結合部分は、例えば、適切な変異を含むFcドメイン又はその断片を有する、例えば哺乳類の免疫系の免疫化によって生成することができる。このような方法は、当技術分野で知られており、例えば、Burns in Methods in Molecular Biology 295:1-12(2005)に記載されている。代替的には、本発明の抗原結合部分は、所望の活性(複数可)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングするための方法は、例えば、Lernerら、Nature Reviews 16:498508(2016)に総説がある。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作成して所望の結合特性を有する抗原結合部分の当該ライブラリーをスクリーニングするための様々な方法が、当技術分野で知られている。そのような方法は、例えば、Frenzelら、mAbs 8:1177-1194(2016);Bazanら、Human Vaccines and Immunotherapeutics 8:1817-1828(2012)、並びにZhaoら、Critical Reviews in Biotechnology 36:276-289(2016)及びHoogenboomら、Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2001)に総説があり、更には、例えばMcCaffertyら、Nature 348:552-554;Clacksonら、Nature 352:624-628(1991);Marksら、J.Mol.Biol.222:581-597(1992)及びMarks and Bradbury in Methods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2003);Sidhuら,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Leeら、J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004);並びにLeeら、J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)に記載されている。ある種のファージディスプレイ法では、VH遺伝子及びVL遺伝子のレパートリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングし、ファージライブラリーにおいてランダムに組み換え、その後WinterらのAnnual Review of Immunology 12:433-455(1994)に記載のように抗原結合ファージについてスクリーニングを行うことができる。ファージは通常、抗体断片を、一本鎖Fv(scFv)断片又はFab断片として提示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要性を伴うことなく高親和性抗原結合部分を提供する。或いは、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、GriffithsらがEMBO Journal 12:725-734(1993)に記載したように、免疫化せずに広範囲の抗原に対する抗原結合部分の単一の供給源を提供することができる。更に、ナイーブライブラリーは、HoogenboomとWinterがJournal of Molecular Biology 227:381-388(1992)に記載したように、幹細胞から配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、高度に可変なCDR3領域をコードする、ランダム配列を含むPCRプライマーを用い、in vitroで配列変更を達成することによっても合成することが可能である。ヒト抗体ファージライブラリーについて記載された特許公報には、例えば、米国特許第5750373号、第7985840号、第7785903号及び第8679490号、並びに米国特許出願公開第2005/0079574号、2007/0117126号、2007/0237764号及び2007/0292936号、並びに2009/0002360号がある。コンビナトリアルライブラリーを1又は複数の所望の活性を有する抗原結合部分についてスクリーニングするための当技術分野で既知の方法の更なる例には、リボソーム及びmRNAディスプレイ、並びに細菌、哺乳動物細胞、昆虫細胞又は酵母細胞での抗体の提示及び選択のための方法が含まれる。酵母表面ディスプレイの方法は、例えばSchollerら、Methods in Molecular Biology 503:13556(2012)及びCherfら、Methods in Molecular biology 1319:155175(2015)、及びZhaoら、Methods in Molecular Biology 889:7384(2012)に総説されている。リボソームディスプレイのための方法は、例えば、Heら、Research 25:51325134(1997)及びHanesら、PNAS 94:49374942(1997)に記載されている。
【0207】
概念実証として、本発明の例示的な実施態様において、アミノ酸変異P329Gを含む変異型Fcドメインに特異結合できる抗原結合受容体が提供される。P329G変異は、Fcγ受容体への結合とそれに伴うエフェクター機能を低下させる。したがって、P329G変異を含む変異型Fcドメインは、非変異型Fcドメインと比較して低下した又は消失した親和性でcγ受容体に結合する。
【0208】
更なる実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びプロリン(P)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0209】
ある実施態様では、抗原結合部分は、変異型Fcドメインに特異結合できる。ある実施態様において、該Fcドメインは、IgG、具体的にはIgG又はIgG Fcドメインである。ある実施態様において、該FcドメインはヒトFcドメインである。ある実施態様では、変異型Fcドメインは、天然型IgG Fcドメインと比較して低下した、Fc受容体への結合親和性及び/又は低下したエフェクター機能を呈する。ある実施態様において、該Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1又は複数のアミノ酸変異を含む。
【0210】
好ましい実施態様では、変異型Fcドメインは、P329G変異を含んでいる。したがって、P329G変異を含む変異型Fcドメインは、非変異型Fcドメインと比較して低下した又は消失した親和性でcγ受容体に結合する。
【0211】
ある実施態様において、抗原結合受容体は、抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含んでいる。ある実施態様において、抗原結合受容体は、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインに特異結合できる。
【0212】
ある実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;及び
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0213】
ある実施態様では、抗原結合部分は、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
のうちの少なくとも1つを含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0214】
好ましい実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)又はEITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
且つ、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0215】
ある特定の実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
且つ、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0216】
別の特定の実施態様では、抗原結合部分は、
(a)RYWMN(配列番号1)の重鎖相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列;
(b)EITPDSSTINYTPSLKG(配列番号40)のCDR H2アミノ酸配列;
(c)PYDYGAWFAS(配列番号3)のCDR H3アミノ酸配列
を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
且つ、
(d)RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)の軽鎖(CDR L)1アミノ酸配列;
(e)GTNKRAP(配列番号5)のCDR L2アミノ酸配列;及び
(f)ALWYSNLWV(配列番号6)のCDR L3アミノ酸配列
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0217】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8、配列番号41及び配列番号44から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0218】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0219】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0220】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0221】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0222】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0223】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号41のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0224】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0225】
好ましい実施態様において、抗原結合部分は、配列番号8のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含んでいる。
【0226】
ある実施態様では、抗原結合部分はscFv又はscFabである。好ましい実施態様では、抗原結合部分はscFvである。
【0227】
ある実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)とを含み、VHドメインは、特にペプチドリンカーを介して、VLドメインに繋がれている。ある実施態様では、VLドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介して、VHドメインのN末端に繋がれている。好ましい実施態様では、VHドメインのC末端は、特にペプチドリンカーを介して、VLドメインのN末端に繋がれている。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)を含む。
【0228】
ある実施態様では、抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)及びリンカーから成るポリペプチドであるscFvであり、前記可変ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端方向にa)VH-リンカー-VL又はb)VL-リンカー-VHの構成のいずれかを有する。好ましい実施態様では、該scFvは、VH-リンカー-VLの構成を有する。
【0229】
ある実施態様では、抗原結合部分は、配列番号10、配列番号126及び配列番号128から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0230】
ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0231】
ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号126のアミノ酸配列を含む。
【0232】
ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、抗原結合部分は、配列番号128のアミノ酸配列を含む。
【0233】
重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分、例えば本明細書に記載のscFv及びscFab断片は、VHドメインとVLドメインとの間に鎖間ジスルフィド橋を導入することによって更に安定化させることが可能である。したがって、ある実施態様において、本発明による抗原結合受容体に含まれるscFv断片(複数可)及び/又はscFab断片(複数可)は、システイン残基(例:Kabat番号付けによる、可変重鎖の44位及び可変軽鎖の100位)の挿入を介する鎖間ジスルフィド結合の生成によって更に安定化される。ある実施態様では、提供されるのは、アミノ酸のシステインでの少なくとも1つの置換(特に、Kabat番号付けによる、可変重鎖の44位及び/又は可変軽鎖の100位における)を含む、上記のVH配列及び/又はVL配列のいずれか1つである。
【0234】
アンカー膜貫通ドメイン(ATD)
本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、哺乳類プロテアーゼの切断部位を有しないことを特徴としてもよい。本発明の文脈において、プロテアーゼとは、プロテアーゼの切断部位を含む膜貫通ドメインのアミノ酸配列を加水分解できるタンパク質分解酵素のことをいう。プロテアーゼという用語には、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの両方が含まれる。本発明の文脈において、CD命名法で特に規定されているような、膜貫通タンパク質の任意のアンカー膜貫通ドメインが本発明の抗原結合受容体を生成するために使用され得る。
【0235】
したがって、本発明の文脈において、アンカー膜貫通ドメインは、マウス(murine/mouse)の膜貫通ドメインの一部、又は、好ましくはヒトの膜貫通ドメインの一部を含んでいてもよい。このようなアンカー膜貫通ドメインの例としては、例えば、本明細書において配列番号11に示すようなアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を有する、CD8の膜貫通ドメインがある。本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体のアンカー膜貫通ドメインは、配列番号11に示されるようなアミノ酸配列(配列番号24に示されるDNA配列によってコードされている)を含む/から成っていてもよい。
【0236】
別の実施態様において、本明細書で提供される抗原結合受容体は、配列番号61に示すヒト完全長CD28タンパク質のアミノ酸153~179、154~179、155~179、156~179、157~179、158~179、159~179、160~179、161~179、162~179、163~179、164~179、165~179、166~179、167~179、168~179、169~179、170~179、171~179、172~179、173~179、174~179、175~179、176~179、177~179又は178から179(配列番号60に示されるcDNAによってコードされている)に位置するCD28の膜貫通ドメインを含んでいてもよい。
【0237】
或いは、本発明の抗原結合受容体タンパク質のアンカー膜貫通ドメインとして、CD命名法で特に規定されているような膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質を使用することができる。
【0238】
いくつかの実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、CD27(配列番号58によってコードされている配列番号59)、CD137(配列番号66によってコードされている配列番号67)、OX40(配列番号70によってコードされている配列番号71)、ICOS(配列番号74によってコードされている配列番号75)、DAP10(配列番号78によってコードされている配列番号79)、DAP12(配列番号82によってコードされている配列番号83)、CD3z(配列番号87によってコードされている配列番号86)、FCGR3A(配列番号91によってコードされている配列番号90)、NKG2D(配列番号95によってコードされている配列番号94)、CD8(配列番号124によってコードされている配列番号123)から成る群のいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0239】
ヒト配列は、例えば、アンカー膜貫通ドメイン(の一部)が細胞外空間からアクセス可能であり、したがって患者の免疫系にアクセス可能である可能性があるため、一般的な発明の場合には有益であるかもしれない。好ましい実施態様では、アンカー膜貫通ドメインはヒト配列を含んでいる。そのような実施態様では、アンカー膜貫通ドメインは、抗原結合受容体を当該膜に固定する能力を保持する、ヒトCD27(配列番号56によってコードされている配列番号57)、ヒトCD137(配列番号64によってコードされている配列番号65)、ヒトOX40(配列番号68によってコードされている配列番号69)、ヒトICOS(配列番号72によってコードされている配列番号73)、ヒトDAP10(配列番号76によってコードされている配列番号77)、ヒトDAP12(配列番号80によってコードされている配列番号81)、ヒトCD3z(配列番号85によってコードされている配列番号84)、ヒトFCGR3A(配列番号89によってコードされている配列番号88)、ヒトNKG2D(配列番号93によってコードされている配列番号92)、ヒトCD8(配列番号122によってコードされている配列番号121)から成る群のいずれか1つの膜貫通ドメイン又はその膜貫通部の断片を含む。
【0240】
刺激性シグナル伝達ドメイン(SSD)及び共刺激性シグナル伝達ドメイン(CSD)
好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞の活性化をもたらす刺激性シグナル伝達ドメインを含んでいる。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又は
ヒトCD3z(ヒトCD3zのUniProtエントリーはP20963(バージョン番号177、配列番号2)であり;マウスCD3zのUniProtエントリーはP24161(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9D3G3(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号143、配列番号1)である)、FCGR3A(ヒトFCGR3AのUniProtエントリーはP08637(バージョン番号178、配列番号2)である、又はNKG2D(ヒトNKG2DのUniProtエントリーはP26718(バージョン番号151、配列番号1)であり;マウスNKG2DのUniProtエントリーはO54709(バージョン番号132、配列番号2)である)の断片/ポリペプチド部分である刺激性シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0241】
したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体に含まれる刺激性シグナル伝達ドメインは、完全長CD3z、FCGR3A又はNKG2Dの断片/ポリペプチド部分であってもよい。マウス(murine/mouse)完全長CD3z又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号86(CD3z)、90(FCGR3A)又は94(NKG2D)として示される(マウスは、配列番号87(CD3z)、91(FCGR3A)又は95(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。ヒト完全長CD3z、FCGR3A又はNKG2Dのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示される(ヒトは配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によりコードされている)。本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれていれば、刺激性ドメインとしてCD3z、FCGR3A又はNKG2Dの断片を含んでいてもよい。特に、CD3z、FCGR3A又はNKG2Dのいずれの部分/断片も、少なくとも1つのシグナル伝達モチーフが含まれていれば、刺激性ドメインとして適している。しかし、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られるポリペプチドを含む。したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体は、本明細書において配列番号84(CD3z)、88(FCGR3A)又は92(NKG2D)として示されるアミノ酸配列を含む(ヒトは配列番号85(CD3z)、89(FCGR3A)又は93(NKG2D)に示されるDNA配列によってコードされている)。好ましい実施態様では、抗原結合受容体に含まれている1又は複数の刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号13に示されるアミノ酸配列(配列番号26に示されるDNA配列によってコードされている)を含むか又はそれから成る。更なる実施態様では、抗原結合受容体は、配列番号13に示すような配列、又は配列番号13と比較して最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30の置換、欠失若しくは挿入を有する配列を含み、刺激性シグナル伝達活性を有することを特徴とする。刺激性シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書では以下及び実施例と図面に示されている。刺激性シグナル伝達活性は、例えば、サイトカイン放出の増強(ELISAで測定)(IL-2、IFNγ、TNFα)、増殖活性の増強(細胞数の増加で測定)又は溶解活性の増強(LDH放出アッセイで測定)によって決定することができる。
【0242】
更に、本明細書で提供される抗原結合受容体は、好ましくは、T細胞に更なる活性を提供する少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含んでいる。本明細書で提供される抗原結合受容体は、マウス(murine/mouse)又はヒトCD28(ヒトCD28のUniProtエントリーはP10747(バージョン番号173、配列番号1であり;マウスCD28のUniProtエントリーはP31041(バージョン番号134、配列番号2)である)、CD137(ヒトCD137のUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号145、配列番号1)であり;マウスCD137のUniProtエントリーはP20334(バージョン番号139、配列番号1)である)、OX40(ヒトOX40のUniProtエントリーはP23510(バージョン番号138、配列番号1)であり;マウスOX40のUniProtエントリーはP43488(バージョン番号119、配列番号1)である)、ICOS(ヒトICOSのUniProtエントリーはQ9Y6W8(配列番号1、バージョン番号126)であり;マウスICOSのUniProtエントリーはQ9WV40(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9JL17(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号102、配列番号2)である)、CD27(ヒトCD27のUniProtエントリーはP26842(バージョン番号160、配列番号2)であり;マウスCD27のUniProtエントリーはP41272(バージョン番号137、配列番号1)である)、4-1-BB(マウス4-1-BBのUniProtエントリーはP20334(バージョン番号140、配列番号1)であり;ヒト4-1-BBのUniProtエントリーはQ07011(バージョン番号146、配列番号)である)、DAP10(ヒトDAP10のUniProtエントリーはQ9UBJ5(バージョン番号25、配列番号2)であり;マウスDAP10のUniProtエントリーはQ9QUJ0(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9R1E7(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号101、配列番号1)である)又はDAP12(ヒトDAP12のUniProtエントリーはO43914(バージョン番号146、配列番号1)であり;マウスDAP12のUniProtエントリーはO054885(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ9R1E7(引用可能なセカンダリアクセッション番号)、バージョン番号123、配列番号1)である)の断片/ポリペプチド部分である共刺激性シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。本発明の特定の実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、本明細書に記載の1又は複数、すなわち1、2、3、4、5、6又は7つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。したがって、本発明の文脈において、本発明の抗原結合受容体は、第1の共刺激性シグナル伝達ドメインとして、マウス(murine/mouse)CD137の断片/ポリペプチド部分、又は、好ましくはヒトCD137の断片/ポリペプチド部分を含んでいてもよく、第2の共刺激性シグナル伝達ドメインは、マウス若しくは好ましくはヒトCD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10及びDAP12又はそれらの断片から成る群より選択される。好ましくは、本発明の抗原結合受容体は、ヒト起源から得られる共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。したがって、より好ましくは、本発明の抗原結合受容体に含まれている1又は複数の刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされている)を含んでいても、それから成っていてもよい。
【0243】
したがって、本明細書で提供される抗原結合受容体に任意選択で含まれる共刺激性シグナル伝達ドメインは、完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。マウス(murine/mouse)完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP12、DAP10及びDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号59(CD3z)、63(CD28)、67(CD137)、71(OX40)、75(ICOS)、79(DAP10)又は83(DAP12)として示される(マウスは、配列番号58(CD27)、62(CD28)、66(CD137)、70(OX40)、74(ICOS)、78(DAP10)又は82(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。しかし、本発明の文脈ではヒト配列が最も好ましいため、本明細書で提供される抗原結合受容体タンパク質に任意選択で含まれ得る共刺激性シグナル伝達ドメインは、ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12の断片/ポリペプチド部分である。ヒト完全長CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10又はDAP12のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号57(CD27)、61(CD28)、65(CD137)、69(OX40)、73(ICOS)、77(DAP10)又は81(DAP12)として示される(ヒトは配列番号56(CD27)、60(CD28)、64(CD137)、68(OX40)、72(ICOS)、76(DAP10)又は80(DAP12)に示されるDNA配列によってコードされている)。
【0244】
好ましいある実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激性シグナル伝達ドメインとしてCD28又はその断片を含んでいる。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD28の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれていれば、共刺激性シグナル伝達ドメインとしてCD28の断片を含んでいてもよい。特に、CD28のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれている限り、CD28のいかなる部分/断片も本発明の抗原結合受容体に好適である。共刺激性シグナル伝達ドメインPYAP(CD28のAA208から211)及びYMNM(CD28のAA191から194)は、CD28ポリペプチドの機能及び上に列挙した機能効果にとって有益である。YMNMドメインのアミノ酸配列は配列番号96に示されており、PYAPドメインのアミノ酸配列は配列番号97に示されている。したがって、本発明の抗原結合受容体において、CD28ポリペプチドは、好ましくは、配列YMNM(配列番号96)及び/又はPYAP(配列番号97)を有するCD28ポリペプチドの細胞内ドメイン由来の配列を含んでいる。他の実施態様では、本発明の抗原結合受容体において、これらのドメインの一方又は両方が、それぞれFMNM(配列番号98)及び/又はAYAA(配列番号99)に変異している。これらの変異のいずれも、抗原結合受容体を含む形質導入された細胞の、自身の増殖能力に影響を与えずにサイトカインを放出する能力を低下させ、且つ、有利には、形質導入された細胞の生存を延長させ、ひいてはその治療能力を高めるために使用することができる。すなわち、言い換えれば、このような非機能性変異は、好ましくは、本明細書で提供される抗原結合受容体がin vivoで形質導入された細胞の持続性を高めるものである。しかし、これらのシグナル伝達モチーフは、本明細書で提供される抗原結合受容体の細胞内ドメイン内のどの部位に存在してもよい。
【0245】
別の好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、共刺激性シグナル伝達ドメインとしてCD137又はその断片を含んでいる。本明細書で提供される抗原結合受容体は、CD137の少なくとも1つのシグナル伝達ドメインが含まれていれば、共刺激性シグナル伝達ドメインとしてCD137の断片を含んでいてもよい。特に、CD137のシグナル伝達モチーフの少なくとも1つが含まれている限り、CD137のいかなる部分/断片も本発明の抗原結合受容体に好適である。好ましい実施態様では、本発明の抗原結合受容体タンパク質に含まれているCD137ポリペプチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列(配列番号25に示されるDNA配列によってコードされている)を含むか又はそれから成る。
【0246】
共刺激性シグナル伝達ドメイン(CSD)を含む抗原結合受容体の具体的な構成は、本明細書では以下及び実施例と図面に示されている。共刺激性シグナル伝達活性は、例えば、サイトカイン放出の増強(ELISAで測定)(IL-2、IFNγ、TNFα)、増殖活性の増強(細胞数の増加で測定)又は溶解活性の増強(LDH放出アッセイで測定)によって決定することができる。上述のように、本発明の実施態様において、抗原結合受容体の共刺激性シグナル伝達ドメインは、形質導入されたT細胞のような、本明細書に記載の形質導入された細胞のサイトカイン産生、増殖及び溶解活性であると定義されるヒトCD28及び/又はCD137遺伝子T細胞活性に由来してもよい。CD28及び/又はCD137活性は、インターフェロンガンマ(IFN-γ又はインターロイキン2(IL-2)などのサイトカインのELISA法又はフローサイトメトリー法による放出、例えばki67測定により測定されるT細胞の増殖、フローサイトメトリー法による細胞の定量、又は標的細胞のリアルタイムインピーダンス測定により評価される溶解活性(例えばThakur et al., Biosens Bioelectron. 35(1) (2012), 503-506; Krutzik et al., Methods Mol Biol. 699 (2011), 179-202; Ekkens et al., Infect Immun. 75(5) (2007), 2291-2296; Ge et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 99(5) (2002), 2983-2988; Duewell et al., Cell Death Differ. 21(12) (2014), 1825-1837, Erratum in: Cell Death Differ. 21(12) (2014), 161に記載されているように、例えばICELLligence機器を使用)によって測定することができる。
【0247】
更なるリンカー及びシグナルペプチド
更に、本明細書で提供される抗原結合受容体は、(プロテアーゼ切断可能なリンカーに加えて)少なくとも1つのリンカー(又は「スペーサー」)を含んでいてもよい。リンカーは通常、20アミノ酸までの長さを有するペプチドである。したがって、本発明の文脈において、該リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸の長さを有していてもよい。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体は、変異型Fcドメインに特異結合できる少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激性シグナル伝達ドメイン間にリンカーを含んでいてもよい。更に、本明細書で提供される抗原結合受容体は、抗原結合部分に、特に抗原結合部分の免疫グロブリンドメイン間(例えば、scFvのVHドメインとVLドメインの間)にリンカーを含んでいてもよい。このようなリンカーは、抗原結合受容体の異なるポリペプチド(すなわち、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激性シグナル伝達ドメイン)が独立して折り畳まれ、期待通りに挙動する確率を高めるという利点を有する。したがって、本発明の文脈において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激性シグナル伝達ドメイン及び刺激性シグナル伝達ドメインは、一本鎖の多機能性ポリペプチドに含まれていてもよい。例えば、一本鎖融合コンストラクトは、少なくとも1つの抗原結合部分を含む(1又は複数の)細胞外ドメイン、(1又は複数の)アンカー膜貫通ドメイン、(1又は複数の)共刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は(1又は複数の)刺激性シグナル伝達ドメインを含む(1又は複数の)ポリペプチドから構成されてもよい。したがって、抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激性シグナル伝達ドメイン、及び刺激性シグナル伝達ドメインは、本明細書に記載の1又は複数の同一又は異なるペプチドリンカーによって繋がれていてもよい。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号17に示されるようなアミノ及びアミノ酸配列を含んでいても、それらから成っていてもよい。別の実施態様では、抗原結合部分とアンカー膜貫通ドメインとの間のリンカーは、配列番号19に示されるようなアミノ及びアミノ酸配列を含んでいるか又はそれらから成る。したがって、アンカー膜貫通ドメイン、共刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は刺激性ドメインは、ペプチドリンカーによって、又は代替的に、これらのドメインの直接融合によって、互いに繋がれていてもよい。
【0248】
本発明による好ましい実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は一本鎖可変断片(scFv)であって、これは、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドで繋げた融合タンパク質である。このリンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンを多く含んでおり、溶解度のためにセリン又はスレオニンを多く含んでおり、VHのN末端をVLのC末端に繋ぐことができ、その逆も同様である。好ましい実施態様では、該リンカーは、VLドメインのN末端とVHドメインのC末端とを繋ぐ。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、該リンカーは、配列番号16に示されるようなアミノ及びアミノ酸配列を有していてもよく、scFv抗体は、例えばHouston,J.S.,Methods in Enzymol.203(1991)46-96)に記載されている。
【0249】
本発明によるいくつかの実施態様では、細胞外ドメインに含まれる抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)及びリンカーから成るポリペプチドである一本鎖Fab断片又はscFabであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端方向に次のいずれかの順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー-VH-CLを有しており;ここで前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸の、好ましくは32から50アミノ酸のポリペプチドである。前記一本鎖Fab断片は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合によって安定化されている。
【0250】
本明細書で提供される抗原結合受容体又はその一部は、シグナルペプチドを含んでいてもよい。このようなシグナルペプチドは、タンパク質をT細胞膜の表面に持ってくる。例えば、本明細書で提供される抗原結合受容体において、該シグナルペプチドは、配列番号100に示されるようなアミノ及びアミノ酸配列(配列番号101に示されるDNA配列によってコードされている)を有していてもよい。
【0251】
変異型Fcドメインに特異結合できる、活性化可能な抗原結合受容体
本明細書に記載の抗原結合受容体の構成要素は、様々な構成で互いに融合して、T細胞活性化抗原結合受容体を生成することができる。
【0252】
いくつかの実施態様では、抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインに繋がれている重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)から構成される抗原結合部分とマスキング部分とを含む細胞外ドメインを含む。好ましい実施態様では、該VHドメインは、C末端で該VLドメインのN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して、融合している。他の実施態様では、該抗原結合受容体は、刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む。
【0253】
特定のそのような実施態様において、抗原結合受容体は、マスキング部分、VHドメインとVLドメインから構成される抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、及び任意選択で、1又は複数のペプチドリンカーによって繋がれた刺激性シグナル伝達ドメインから本質的に成り、マスキング部分はC末端で抗原結合部分のN末端に融合しており、VHドメインはC末端でVLドメインのN末端に融合しており、VLドメインはC末端でアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインはC末端で刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0254】
任意選択で、抗原結合受容体は、共刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む。このような特定のある実施態様において、抗原結合受容体は、Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、VHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、1又は複数のペプチドリンカーによって繋がれた刺激性シグナル伝達ドメインと共刺激性シグナル伝達ドメインから本質的に成り、マスキング部分はC末端でVHドメインのN末端に融合しており、VHドメインはC末端でVLドメインのN末端に融合しており、VLドメインはC末端でアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインはC末端で刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、刺激性シグナル伝達ドメインはC末端で共刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0255】
代替的な実施態様では、共刺激性シグナル伝達ドメインは、刺激性シグナル伝達ドメインの代わりにアンカー膜貫通ドメインに繋がれている。特定のそのような実施態様において、抗原結合受容体は、Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、VHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、1又は複数のペプチドリンカーによって繋がれた刺激性シグナル伝達ドメイン及び共刺激性シグナル伝達ドメインから本質的に成り、マスキング部分はC末端でVHドメインのN末端に融合しており、VHドメインはC末端でVLドメインのN末端に融合しており、VLドメインはC末端でアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインはC末端で共刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、共刺激性シグナル伝達ドメインはC末端で刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0256】
好ましい実施態様では、抗原結合受容体は、(改変型)CH2ドメインであるマスキング部分、VHドメイン及びVLドメイン、アンカー膜貫通ドメイン、1又は複数のペプチドリンカーによって繋がれた共刺激性シグナル伝達ドメイン及び刺激性シグナル伝達ドメインから本質的に成る。ある実施態様において、CH2ドメインはC末端でVHドメインのN末端に融合しており、VHドメインはC末端でVLドメインのN末端に融合しており、VLドメインはC末端でアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインはC末端で刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合しており、刺激性シグナル伝達ドメインはC末端で共刺激性シグナル伝達ドメインのN末端にC融合している。別の実施態様において、CH2ドメインはC末端でVHドメインのN末端に融合しており、VHドメインはC末端でVLドメインのN末端に融合しており、VLドメインはC末端でアンカー膜貫通ドメインのN末端に融合しており、アンカー膜貫通ドメインはC末端で共刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合しおり、共刺激性シグナル伝達ドメインはC末端で刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。
【0257】
マスキング部分、抗原結合部分、アンカー膜貫通ドメイン、並びに刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激性シグナル伝達ドメインは、1若しくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20アミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、又は直接、互いに融合していてもよい。ペプチドリンカーは当技術分野において既知であり、本明細書に記載される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(GS)、(SG、(GS)又はG(SGペプチドリンカーが含まれ、ここで「n」は通常1~10、典型的には2~4の数である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を繋ぐための好ましいペプチドリンカーは、配列番号17によるGGGGS(GS)である。抗原結合部分とアンカー膜貫通部分を繋ぐための別の好ましいペプチドリンカーは、配列番号19によるKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(CD8ストーク)である。可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)を繋ぐのに適した例示的なペプチドリンカーは、配列番号16によるGGGSGGGSGGGSGGGS(GS)である。
【0258】
加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含むことができる。特に、抗原結合部分は、アンカー膜貫通ドメインのN末端に融合されている場合、追加のペプチドリンカーの有無に関わらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合されてもよい。
【0259】
本明細書に記載のとおり、本発明の抗原結合受容体は、少なくとも1つの抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む。標的細胞抗原に特異結合できる単一の抗原結合部分を有する抗原結合受容体は、特に抗原結合受容体の高発現が必要な場合に有用であり、好ましい。更に、このような場合には、適切な変異を含む単一のCH2、CH3又はCH4ドメインを含むマスキング部分が好ましい。複数の抗原結合部分及び/又は複数のCHドメインが存在すると、抗原結合受容体の発現効率が制限される場合がある。しかしながら、その他の場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分を含む抗原結合受容体を有することは、例えば標的部位への標的化を最適化するため、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために有利であろう。更にこの他の場合、例えばマスキング効率を最適化するため、又はCH二量体(例:CH2二量体)に(のみ)結合する抗原結合部分のマスキングを可能にするため、2つのCHドメイン(例:2つのCH2ドメイン)を含むマスキング部分を有することが有利であろう。
【0260】
ある特定の実施態様では、マスキング部分と抗原結合部分は、プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーによって繋がれている。ある実施態様では、マスキング部分は、IgG Fcドメイン又はその断片、具体的にはIgG若しくはIgG Fcドメイン又はその断片である。ある実施態様では、マスキング部分は、CH2ドメイン、CH3ドメイン及び/又はCH4ドメイン、好ましくはCH2ドメインを含む。ある実施態様では、CH2ドメインは、天然型CH2ドメインと比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでいる。ある実施態様において、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、Fc受容体への結合を低下させ、且つ/又はエフェクター機能を低下させる。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びプロリン(P)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む。ある実施態様では、該少なくとも1つのアミノ酸置換は、アミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0261】
ある特定の実施態様では、抗原結合受容体は、P329G変異(EU番号付けによる)を含む変異型Fcドメイン、特にIgG1 Fcドメインに特異結合できる抗原結合部分を1つ含む。
【0262】
ある実施態様では、変異型Fcドメインに特異結合できるが、非変異型の親Fcドメインに特異結合できない抗原結合部分がscFvである。ある実施態様では、P329G変異(EU番号付けによる)を含むマスキング部分はC末端でscFvのN末端に融合しており、scFv断片のC末端はアンカー膜貫通ドメインのN末端に、任意選択でペプチドリンカーを介して、融合されている。ある実施態様において、該ペプチドリンカーは、アミノ酸配列KPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD(配列番号19)を含む。ある実施態様では、該アンカー膜貫通ドメインは、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインから成る群より選択される膜貫通ドメイン又はその断片である。好ましい実施態様において、該アンカー膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメイン又はその断片である。特定の実施態様において、該アンカー膜貫通ドメインは、IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT(配列番号11)のアミノ酸配列を含むか又はそれから成る。ある実施態様では、該抗原結合受容体は、共刺激性シグナル伝達ドメイン(CSD)を更に含む。ある実施態様では、該抗原結合受容体の該アンカー膜貫通ドメインは、C末端で共刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。ある実施態様では、該共刺激性シグナル伝達ドメインは、上述のように、CD27の、CD28の、CD137の、OX40の、ICOSの、DAP10の、及びDAP12の細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択される。好ましい実施態様において、該共刺激性シグナル伝達ドメインはCD28の細胞内ドメイン又はその断片である。好ましいある実施態様では、該共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28シグナル伝達を保持するCD28の細胞内ドメイン又はその断片を含む。別の好ましい実施態様では、該共刺激シグナル伝達ドメインは、CD137シグナル伝達を保持するCD137の細胞内ドメイン又はその断片を含む。特定の実施態様において、該共刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号12のアミノ酸配列を含むか又はそれから成る。ある実施態様では、該抗原結合受容体は、刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む。ある実施態様では、該抗原結合受容体の該共刺激性シグナル伝達ドメインは、C末端で該刺激性シグナル伝達ドメインのN末端に融合している。ある実施態様では、該少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインは、CD3zの、FCGR3Aの、及びNKG2Dの細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択される。好ましい実施態様では、該共刺激シグナル伝達ドメインは、CD3zシグナル伝達を保持するCD3zの細胞内ドメイン又はその断片を含む。特定の実施態様において、該共刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を含むか又はそれから成る。
【0263】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、レポータータンパク質に、特にGFP又はその改良型アナログに、融合している。ある実施態様では、該抗原結合受容体は、C末端でeGFP(改良型緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様において、該ペプチドリンカーは、配列番号18によるGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0264】
特定の実施態様では、該抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメインと、改変型CH2ドメインであるマスキング部分を含む細胞外ドメインと、少なくとも1つの抗原結合部分を含み、該少なくとも1つの抗原結合部分は、変異型CH2ドメインに特異結合できるが非変異型の親CH2ドメインには特異結合できないscFvであり、ここで変異型CH2ドメインはP329G変異(EU番号付けに従う)を含む。このP329G変異は、Fcγ受容体との結合を低下させる。ある実施態様では、本発明の抗原結合受容体は、アンカー膜貫通ドメイン(ATD)、共刺激性シグナル伝達ドメイン(CSD)及び刺激性シグナル伝達ドメイン(SSD)を含む。そのような実施態様では、該抗原結合受容体は、CH2-scFv-ATD-CSD-SSDの構成を有する。別の実施態様では、該抗原結合受容体は、CH2-scFv-ATD-SSD-CSDの構成を有する。好ましい実施態様では、該抗原結合受容体は、CH2-VH-VL-ATD-CSD-SSDの構成を有する。より具体的なそのような実施態様では、抗原結合受容体は、CH2-プロリンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-ATD-CSD-SSDの構成を有し、ここで「プロリンカー」はプロテアーゼ切断可能なリンカーである。
【0265】
特定の実施態様では、該抗原結合部分は、P329G変異を含む変異型Fcドメインに特異結合できるscFvであり、ここで該抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、配列番号6から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0266】
別の特定の実施態様では、該抗原結合部分は、P329G変異を含む変異型Fcドメインに特異結合できるscFvであり、ここで該抗原結合部分は、配列番号1、配列番号40及び配列番号3から成る群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、配列番号4、配列番号5、配列番号6から成る群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含んでいる。
【0267】
好ましい実施態様では、該抗原結合部分は、P329G変異を含む変異型Fcドメインに特異結合できるscFvであり、ここで、該抗原結合部分は、相補性決定領域(CDR H)1アミノ酸配列RYWMN(配列番号1)、CDR H2アミノ酸配列EITPDSSTINYAPSLKG(配列番号2)、CDR H3アミノ酸配列PYDYGAWFAS(配列番号3)、軽鎖相補性決定領域(CDR L)1アミノ酸配列RSSTGAVTTSNYAN(配列番号4)、CDR L2アミノ酸配列GTNKRAP(配列番号5)及びCDR L3アミノ酸配列ALWYSNHWV(配列番号6)を含んでいる。
【0268】
ある実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順番に以下のものを含んでいる抗原結合受容体を提供する:
(i)マスキング部分、特に配列番号130の変異型CH2、
(ii)プロテアーゼ切断可能なリンカーであって、特に以下の(a)~(o)から成る群より選択されるもの:
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)PMAKK(配列番号155)、
(ii)重鎖可変ドメイン(VH)であって、任意選択で配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2の重鎖CDR 2、配列番号3の重鎖CDR 3を含むもの、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(v)軽鎖可変ドメイン(VH)であって、任意選択で配列番号4の軽鎖CDR 1、配列番号5の軽鎖CDR 2、配列番号6の軽鎖CDR 3を含むもの、
(vi)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(vii)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(viii)共刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激性シグナル伝達ドメイン、並びに
(ix)刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激性シグナル伝達ドメイン。
【0269】
ある実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順番に以下のものを含んでいる抗原結合受容体を提供する:
(i)マスキング部分、特に配列番号130の変異型CH2、
(ii)プロテアーゼ切断可能なリンカーであって、特に以下の(a)~(o)から成る群より選択されるもの:
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)PMAKK(配列番号155)、
(iii)重鎖可変ドメイン(VH)、
(iv)配列番号1の重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号40の重鎖CDR 2、配列番号3の重鎖CDR 3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、
(v)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(vi)配列番号4の軽鎖CDR 1、配列番号5の軽鎖CDR 2、配列番号6の軽鎖CDR 3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、
(vii)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(viii)アンカー膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアンカー膜貫通ドメイン、
(ix)共刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12の共刺激性シグナル伝達ドメイン、並びに
(vii)刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13の刺激性シグナル伝達ドメイン。
【0270】
ある実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順番に以下のものを含んでいる抗原結合受容体を提供する:
(i)配列番号130のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるマスキング部分、
(ii)プロテアーゼ切断可能なリンカーであって、特に以下の(a)~(o)から成る群より選択されるもの:
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)好ましくはPMAKK(配列番号155)、
(iii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH)、
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー、
(vi)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL)、
(vii)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー、
(viii)膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である膜貫通ドメイン、
(ix)共刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激性シグナル伝達ドメイン、並びに
(x)刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激性シグナル伝達ドメイン。
【0271】
ある実施態様では、本発明は、N末端からC末端まで順番に以下のものを含んでいる抗原結合受容体を提供する:
(i)配列番号130のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるマスキング部分;
(ii)配列番号155のプロテアーゼ切断可能なリンカー;
(iii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメイン(VH);
(iv)ペプチドリンカー、特に配列番号16のペプチドリンカー;
(vi)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメイン(VL);
(vii)ペプチドリンカー、特に配列番号19のペプチドリンカー;
(viii)膜貫通ドメイン、特に配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である膜貫通ドメイン;
(ix)共刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号169のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である共刺激性シグナル伝達ドメイン;並びに
(x)刺激性シグナル伝達ドメイン、特に配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である刺激性シグナル伝達ドメイン。
【0272】
ある実施態様において、提供されるのは、配列番号129のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体である。ある実施態様において、提供されるのは、配列番号129のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体である。
【0273】
ある実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む抗原結合受容体である。ある実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体である。
【0274】
ある実施態様では、該抗原結合受容体は、レポータータンパク質に、特にGFP又はその改良型アナログに、融合している。ある実施態様では、該抗原結合受容体は、C末端でeGFP(改良型緑色蛍光タンパク質)のN末端に、任意選択で本明細書に記載のペプチドリンカーを介して、融合している。好ましい実施態様において、該ペプチドリンカーは、配列番号18によるGEGRGSLLTCGDVEENPGP(T2A)である。
【0275】
本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入された細胞
本発明の更なる態様は、本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞である。本明細書に記載の抗原結合受容体とは、天然にはT細胞内及び/又はT細胞表面上には含まれず、正常な(非形質導入)T細胞内又は表面上で(内因的に)発現しない分子をいう。このように、T細胞内及び/又は表面上の本発明の抗原結合受容体は、T細胞に人工的に導入される。本発明の文脈において、前記T細胞、好ましくはCD8+T細胞は、本明細書に記載のように治療対象から単離/取得されてもよい。したがって、人工的に導入され、その後、前記T細胞内及び/又は表面上に提示される本明細書に記載の抗原結合受容体は、(Ig由来)免疫グロブリン、好ましくは抗体、特に抗体のFcドメインに(in vitro又はin vivoで)アクセス可能な1又は複数の抗原結合部分を含むドメインを含んでいる。本発明の文脈において、これらの人工的に導入された分子は、本明細書で後述されるような(レトロウイルス、レンチウイルス又は非ウイルスの)形質導入の後に、前記T細胞内及び/又は表面上に提示される。したがって、形質導入後、本発明によるT細胞は、免疫グロブリン、好ましくは本明細書に記載のFcドメインに特定の変異を含む(治療用)抗体によって、標的細胞の存在下で活性化され得る。
【0276】
また、本発明は、本発明の抗原結合受容体をコードする1又は複数の核酸分子によってコードされている抗原結合受容体を発現する、形質導入されたT細胞に関する。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子、又は本発明の抗原結合受容体を発現する本発明のベクターを含んでいてもよい。
【0277】
本発明の文脈において、用語「形質導入されたT細胞」とは、遺伝子改変型T細胞(すなわち、核酸分子が意図的に導入されたT細胞)をいう。本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、本発明のベクターを含んでいてもよい。好ましくは、本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子及び/又は本発明のベクターを含む。本発明の形質導入されたT細胞は、外来DNA(すなわち、T細胞に導入された核酸分子)を一過性に又は安定的に発現するT細胞とすることができる。特に、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子は、レトロウイルス又はレンチウイルス形質導入を用いることにより、T細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。mRNAトランスフェクションを用いることにより、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸分子を一過性に発現させることができる。好ましくは、本明細書で提供される形質導入されたT細胞は、ウイルスベクター(例:レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクター)を介してT細胞に核酸分子を導入することによって遺伝子改変されたものである。したがって、該抗原結合受容体の発現は恒常的であってもよく、該抗原結合受容体の細胞外ドメインは細胞表面で検出可能であってもよい。抗原結合受容体のこの細胞外ドメインは、本明細書に記載の、抗原結合受容体の完全な細胞外ドメインだけでなく、その一部も含んでよい。抗原結合受容体における抗原結合部分の大きさは、必要最小限の大きさである。
【0278】
この発現はまた、抗原結合受容体が誘導性又は抑制性プロモーターの制御下でT細胞に導入される場合、条件的又は誘導性である場合がある。このような誘導性又は抑制性プロモーターの例としては、アルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーターとトランス活性化因子タンパク質AlcRとを含む転写系を挙げることができる。alcAプロモーターに結合した目的の遺伝子の発現を制御するために、異なるアルコール系の農業用製剤が使用される。更に、テトラサイクリン応答性プロモーター系は、テトラサイクリン存在下で遺伝子発現系を活性化するか又は抑制するかのいずれかの機能を有し得る。これらの系のエレメントとしては、テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、及びTetRと単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)活性化配列との融合体であるテトラサイクリントランス活性化因子融合タンパク質(tTA)などがある。更に、ステロイド応答性プロモーター、金属制御性プロモーター、病原性関連(PR)タンパク質関連プロモーターを使用することができる。
【0279】
この発現は、使用する系によって、恒常的又は構成的であり得る。本発明の抗原結合受容体は、本明細書で提供される形質導入T細胞の表面に発現させることができる。抗原結合受容体の細胞外部分(すなわち抗原結合受容体の細胞外ドメイン)は細胞表面で検出可能であり得るが、一方、細胞内部分(すなわち共刺激性シグナル伝達ドメイン(1又は複数)及び刺激性シグナル伝達ドメイン)は細胞表面で検出不可能である。抗原結合受容体の細胞外ドメインの検出は、この細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を用いることによって、又は細胞外ドメインが結合できる変異型Fcドメインによって実施することが可能である。これらの抗体又はFcドメインを用いて、フローサイトメトリー又は顕微鏡で細胞外ドメインを検出することができる。
【0280】
他の細胞も、本発明の抗原結合受容体で形質導入することにより、標的細胞に向かわせることができる。これらの更なる細胞には、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、自然リンパ球系細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞又は好中球が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、前記免疫細胞はリンパ球であろう。白血球の表面上の本発明の抗原結合受容体がトリガーとなり、その細胞が由来する系統に関係なく変異型Fcドメインを含む治療用抗体と併わせて、標的細胞に対して細胞傷害性が付与される。細胞傷害性は、抗原結合受容体として選択された刺激性シグナル伝達ドメイン又は共刺激性シグナル伝達ドメインに関係なく起こり、追加のサイトカインの外因性供給には依存しない。したがって、本発明の形質導入された細胞は、例えば、CD4+T細胞、CD8+T細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー(NK)T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ミエロイド細胞又は間葉系幹細胞であってもよい。好ましくは、本明細書で提供される形質導入された細胞はT細胞(例:自己T細胞)であり、より好ましくは、形質導入された細胞はCD8+T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞はCD8+T細胞である。更に、本発明の文脈において、形質導入された細胞は自己T細胞である。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、好ましくは自己CD8+T細胞である。対象から分離した自己細胞(例:T細胞)の使用に加えて、本発明は、同種異系細胞の使用も包含する。したがって、本発明の文脈において、形質導入された細胞は、同種異系CD8+ T細胞などの同種異系細胞であってもよい同種異系という用語は、例えば本明細書に記載の抗原結合受容体発現型の形質導入された細胞によって治療される個体/対象とヒト白血球抗原(HLA)が適合する非血縁ドナー個体/対象に由来する細胞を意味する。自己細胞とは、本明細書に記載の形質導入された細胞で治療される対象から上記のように単離/取得された細胞をいう。
【0281】
本発明の形質導入された細胞には、更なる核酸分子を、例えばサイトカインをコードする核酸分子を共形質導入してもよい。
【0282】
本発明はまた、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の製造方法であって、T細胞に本発明のベクターを形質導入する工程と、前記形質導入された細胞の中又は上での抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で前記形質導入されたT細胞を培養する工程と、前記形質導入されたT細胞を回収する工程とを含む方法に関する。
【0283】
本発明の文脈において、本発明の形質導入された細胞は、好ましくは、対象(好ましくはヒト患者)から細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)を単離することによって製造される。患者から又はドナーから細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+T細胞)を単離/取得する方法は当技術分野において周知であり、患者から又はドナーからの本細胞(例えばT細胞、好ましくはCD8+ T細胞)の文脈では、例えば細胞は採血又は骨髄の除去により単離されてもよい。患者の試料として細胞を単離/取得した後、該細胞(例:T細胞)を該試料の他の成分から分離する。試料から細胞(例:T細胞)を分離するいくつかの方法が知られており、限定されないが、例えば、患者又はドナーの末梢血試料から細胞を得るための白血球搬出法、FACS細胞選別装置を用いることにより細胞を単離/取得する方法などが挙げられる。単離/取得された細胞T細胞は、その後、例えば、抗CD3抗体を用いることにより、抗CD3及び抗CD28モノクローナル抗体を用いることにより、且つ/又は抗CD3抗体、抗CD28抗体及びインターロイキン2(IL-2)を用いることにより培養され、増やされる(例えば、Dudley, Immunother. 26 (2003), 332-342又はDudley, Clin. Oncol. 26 (2008), 5233-5239参照)。
【0284】
その後の工程では、細胞(例:T細胞)は、当技術分野で既知の方法によって人工的/遺伝子的に改変/形質導入される(例えば、Lemoine, J Gene Med 6 (2004), 374-386を参照)。細胞(例:細胞)に形質導入する方法は当技術分野で知られており、限定されないが、核酸又は組換え核酸を形質導入する場合、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質法又はリポソーム法などが挙げられる。導入する核酸は、市販のトランスフェクション試薬、例えばリポフェクタミン(Invitrogen社製、カタログ番号:11668027)を用いることにより、従来通りに高効率で形質導入することができる。ベクターを用いる場合、ベクターがプラスミドベクター(すなわち、ウイルスベクターでないベクター)であれば、上記核酸と同じように形質導入することができる。本発明の文脈において、細胞(例:T細胞)に形質導入する方法には、レトロウイルス又はレンチウイルスのT細胞導入、非ウイルスベクター(例:スリーピングビューティーミニサークルベクター)及びmRNAトランスフェクションが含まれる。「mRNAトランスフェクション」とは、トランスフェクトされる細胞において、本発明の抗原結合受容体のような目的のタンパク質を一過性に発現させる、当業者によく知られた方法をいう。端的に言えば、エレクトロポレーション(例えばGene Pulser、Bio-Radなど)を用いて、本発明の抗原結合受容体をコードするmRNAで細胞をエレクトロポレーションし、その後、上記のような標準細胞(例:T細胞)培養プロトコルによって培養してもよい(Zhao et al., Mol Ther. 13(1) (2006), 151-159参照)。本発明の形質導入された細胞は、レンチウイルス又は最も好ましくはレトロウイルスの形質導入により作製することができる。
【0285】
この文脈では、細胞に形質導入するための適切なレトロウイルスベクターが当技術分野で知られており、例えば、SAMEN CMV/SRa(Clay et al., J. Immunol.163 (1999), 507-513)、LZRS-id3-IHRES(Heemskerkら, J. Exp.Med.186 (1997), 1597-1602Heemskerk et al., J. Exp. Med. 186 (1997), 1597-1602)、FeLV(Neil et al., Nature 308 (1984), 814-820)、SAX(Kantoff et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986), 6563-6567)、pDOL(Desiderio, J. Exp. Med. 167 (1988), 372-388)、N2(Kasid et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 (1990), 473-477)、LNL6(Tiberghien et al., Blood 84 (1994), 1333-1341)、pZipNEO(Chen et al., J. Immunol. 153 (1994), 3630-3638)、LASN(Mullen et al., Hum. Gene Ther. 7 (1996), 1123-1129)、pG1XsNa(Taylor et al., J. Exp. Med. 184 (1996), 2031-2036)、LCNX(Sun et al., Hum. Gene Ther. 8 (1997)、SFG(Gallardo et al., Blood 90 (1997)、及びLXSN(Sun et al., Hum. Gene Ther. 8 (1997), 1041-1048)、SFG(Gallardo et al., Blood 90 (1997), 952-957)、HMB-Hb-Hu(Vieillard et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997), 11595-11600)、pMV7(Cochlovius et al., Cancer Immunol. Immunother. 46 (1998), 61-66)、pSTITCH(Weitjens et al., Gene Ther 5 (1998), 1195-1203)、pLZR(Yang et al., Hum. Gene Ther. 10 (1999), 123-132)、pBAG(Wu et al., Hum. Gene Ther. 10 (1999), 977-982)、rKat.43.267bn(Gilham et al., J. Immunother. 25 (2002), 139-151)、pLGSN(Engels et al., Hum. Gene Ther. 14 (2003), 1155-1168)、pMP71(Engels et al., Hum. Gene Ther. 14 (2003), 1155-1168)、pGCSAM(Morgan et al., J. Immunol. 171 (2003), 3287-3295)、pMSGV(Zhao et al., J. Immunol. 174 (2005), 4415-4423)又はpMX(de Witte et al., J. Immunol. 181 (2008), 5128-5136)である。本発明の文脈において、細胞(例:T細胞)に形質導入するための好適なレンチウイルスベクターは、例えば、PL-SINレンチウイルスベクター(Hotta et al, Nat Methods.6(5) (2009), 370-376)、p156RRL-sinPPT-CMV-GFP-PRE/NheI(Campeau et al., PLoS One 4(8) (2009), e6529)、pCMVR8.74(Addgene カタログ番号22036)、FUGW(Lois et al,Science 295(5556) (2002), 868-872)、pLVX-EF1(Addgene カタログ番号64368)、pLVE(Brunger et al,Proc Natl Acad Sci U S A 111(9) (2014), E798-806)、pCDH1-MCS1-EF1(Hu et al., Mol Cancer Res. 7(11) (2009), 1756-1770)、pSLIK(Wang et al., Nat Cell Biol. 16(4) (2014), 345-356)、pLJM1(Solomon et al., Nat Genet. 45(12) (2013), 1428-30)、pLX302(Kang et al., Sci Signal.6(287) (2013), rs13)、pHR-IG(Xie et al., J Cereb Blood Flow Metab.33(12) (2013),1875-85)、pRRLSIN(Addgene カタログ番号62053)、pLS(Miyoshi et al., J Virol.72(10) (1998), 8150-8157)、pLL3.7(Lazebnik et al., J Biol Chem.283(7) (2008), 11078-82)、FRIG(Raissi et al., Mol Cell Neurosci. 57 (2013), 23-32)、pWPT(Ritz-Laser et al., Diabetologia. 46(6) (2003), 810-821)、pBOB(Marr et al., J Mol Neurosci.22(1-2) (2004), 5-11)又はpLEX(Addgene カタログ番号27976)である。
【0286】
本発明の形質導入された細胞は、好ましくは、自然環境の外で、制御された条件下で育てられる。特に、「培養する(こと)」という用語は、多細胞真核生物(好ましくはヒト患者)由来の細胞(例:本発明の形質導入された細胞)がin vitroで育てられることを意味する。細胞を培養することは、元の組織源から分離された細胞を維持する検査手技である。ここで、本発明の形質導入された細胞は、その中又は上での本発明の抗原結合受容体の発現を可能にする条件下で培養されたものである。この発現又は導入遺伝子(すなわち、本発明の抗原結合受容体のもの)を可能にする条件は、当技術分野において一般に知られており、例えば、アゴニスト抗CD3及び抗CD28抗体、並びにサイトカイン(インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン12(IL-12)及び/又はインターロイキン15(IL-15)など)の添加が含まれる。培養した形質導入された細胞(例:CD8+ T)に本発明の抗原結合受容体を発現させた後、該形質導入された細胞は培養液から(すなわち培地から)回収される(すなわち再抽出される)。
【0287】
したがって、本発明の方法により得られる本発明の核酸分子によってコードされている抗原結合受容体を発現する、形質導入された細胞、好ましくはT細胞、特にCD8+ Tも、本発明により包含される。
【0288】
核酸分子
本発明の更なる態様は、1又は複数の本発明の抗原結合受容体をコードする核酸又はベクターである。本発明の抗原結合受容体をコードする例示的な核酸分子は、配列番号138に示される。本発明の核酸分子は、調節配列の制御下に置かれていてもよい。例えば、本発明の抗原結合受容体の誘導発現を可能にするプロモーター、転写エンハンサー及び/又は配列が用いられ得る。本発明の文脈において、核酸分子は、恒常的又は誘導的プロモーターの制御下で発現される。好適なプロモーターには、例えば、CMVプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、UBCプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、PGK(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、EF1Aプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、CAGGプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、SV40プロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、COPIAプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、ACT5Cプロモーター(Qin et al., PLoS One 5(5) (2010), e10611)、TREプロモーター(Qin et al., PLoS One. 5(5) (2010), e10611)、Oct3/4プロモーター(Chang et al., Molecular Therapy 9 (2004), S367-S367 (doi: 10.1016/j.ymthe.2004.06.904))又はNanogプロモーター(Wu et al., Cell Res. 15(5) (2005), 317-24)がある。したがって、本発明は、本発明に記載の1又は複数の核酸分子を含む1又は複数のベクターに関するものでもある。ここでのベクターという用語は、それが導入された細胞内で自律的に複製することができる環状又は直鎖状の核酸分子を指す。多くの適切なベクターが分子生物学の当業者には知られているが、その選択肢は所望の機能によって異なり、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、その他遺伝子工学で一般的に用いられているベクターが含まれる。当業者によく知られている方法を用いて、種々のプラスミド及びベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al.(loc cit.)and Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989),(1994)に記載の技術を参照されたい。或いは、本発明のポリヌクレオチド及びベクターは、標的細胞への送達のためのリポソームに再構成することができる。詳細は後述するが、個々のDNA配列を単離するためにクローニングベクターが使用された。特定のポリペプチドの発現が必要な場合、適切な配列を発現ベクターに導入することができる。代表的なクローニングベクターとしては、pBluescript SK、pGEM、pUC9、pBR322、pGA18、及びpGBT9がある。代表的な発現ベクターとしては、pTRE、pCAL-n-EK、pESP-1、pOP13CATが挙げられる。
【0289】
本発明はまた、本明細書で定義される抗原結合受容体をコードする1又は複数の核酸分子に作動可能に結合した調節配列である前記1又は複数の核酸分子を含むベクターに関する。本発明の文脈において、該ベクターは多シストロン性とすることができる。このような調節配列(制御エレメント)は当業者に知られており、プロモーター、スプライスカセット、翻訳開始コドン、1又は複数のベクターに挿入物を導入するための翻訳及び挿入部位を含むことができる。本発明の文脈において、前記1又は複数の核酸分子は、真核生物細胞又は原核細胞内での発現を可能にする前記発現制御配列に作動可能に結合している。前記1又は複数のベクターが、本明細書に記載の抗原結合受容体をコードする1又は複数の核酸分子を含む1又は複数の発現ベクターであることが想定される。作動可能に結合したとは、そのように記載された構成要素が意図された方法で機能するのを可能する関係にあるような並置を意味する。コード配列に作動可能に結合した制御配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列の発現が達成されるようにライゲートされる。制御配列がプロモーターの場合、好ましくは二本鎖核酸が用いられることは、当業者にとって自明である。
【0290】
本発明の文脈において、言及した1又は複数のベクターは発現ベクターである。発現ベクターは、選択された細胞を形質転換するために使用することができ、選択された細胞におけるコード配列の発現をもたらすコンストラクトである。1又は複数の発現ベクターは、例えば、1又は複数のクローニングベクター、1又は複数のバイナリーベクター、或いは1又は複数の組込みベクターとすることができる。発現は、好ましくは翻訳可能なmRNAへの核酸分子の転写を含む。原核生物及び/又は真核細胞における発現を確実にする調節エレメントは、当業者によく知られている。調節エレメントは、真核細胞の場合、転写の開始を確実にするプロモーターを通常含み、更に任意選択で転写の終了と転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。原核生物宿主細胞内での発現を可能にする調節エレメントの候補は、例えば、大腸菌のPL、lac、trp又はtacプロモーターを含み、真核生物宿主細胞内での発現を可能にする調節エレメントの例は、酵母のAOX1若しくはGAL1プロモーター又は哺乳動物細胞及びその他の動物細胞のCMVプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー若しくはグロビンイントロンである。
【0291】
これらの調節エレメントは、転写の開始を担うエレメントの他に、ポリヌクレオチドの下流にSV40ポリA部位又はtkポリA部位などの転写終結シグナルも含んでいてもよい。更に、使用される発現系によっては、ポリペプチドを細胞区画に誘導する、又は培地に分泌することができるシグナルペプチドをコードするリーダー配列が言及した核酸配列のコード配列に付加されてもよく、該配列は当技術分野でよく知られている。例えば、別添の実施例も参照されたい。
【0292】
1又は複数のリーダー配列は、翻訳配列、開始配列及び終結配列と適切な位相で組み合わされ、好ましくは、翻訳されたタンパク質又はその一部の細胞周辺腔又は細胞外培地への分泌を誘導することができるリーダー配列である。任意選択で、異種配列は、所望の特性、例えば、発現された組換え産物の安定化又は精製の簡略化を付与するN末端識別ペプチドを含む抗原結合受容体をコードすることができる;前掲書参照。この文脈において、適切な発現ベクターは、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(In-vitrogene)、pEF-DHFR、pEF-ADA又はpEF-neo(Raum et al. Cancer Immunol Immunother 50 (2001), 141-150)又はpSPORT1(GIBCO BRL)などの当業者に既知のものである。
【0293】
本発明の文脈において、発現制御配列は、真核細胞を形質転換又はトランスフェクトすることができるベクター中の真核性プロモーター系に存在するが、原核細胞用の制御配列を使用することもできる。ベクターが適切な細胞に組み込まれると、その細胞は、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で、所望のように維持される。追加の調節エレメントには、転写エンハンサー及び翻訳エンハンサーが含まれる場合がある。有利には、本発明の上記ベクターは、選択可能及び/又はスコア化可能なマーカーを含んでいる。形質転換細胞や例えば植物組織及び植物の選択に有用な選択可能なマーカー遺伝子は当業者によく知られており、例えば、メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfrの選択の基礎である抗代謝物耐性(Reiss, Plant Physiol. (Life Sci. Adv.) 13 (1994), 143-149)、アミノグリコシド系のネオマイシン、カナマイシン、パロマイシンに耐性を与えるnpt(Herrera-Estrella, EMBO J. 2 (1983), 987-995)、及びハイグロマイシンに耐性を与えるhygro(Marsh, Gene 32 (1984), 481-4855)を含む。更なる選択可能な遺伝子、すなわち、トリプトファンの代わりにインドールを利用することを可能にするtrpB、ヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを可能にするhisD(Hartman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 8047);細胞がマンノースを利用することを可能にするマンノース-6-リン酸イソメラーゼ(国際公開第94/20627号)、及びオルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、DFMOに対する耐性を与えるODC(オルニチンデカルボキシラーゼ)(McConlogue, 1987, In: Current Communications in Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory ed.)又はブラストサイジンSに対する耐性を付与する、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreu)由来のデアミナーゼ(Tamura, Biosci. Biotechnol. Biochem. 59 (1995), 2336-2338)が報告されている。
【0294】
有用なスコア化可能なマーカーも当業者に知られており、市販されている。有利には、前記マーカーは、ルシフェラーゼ(Giacomin, Pl. Sci. 116 (1996), 59-72; Scikantha, J. Bact. 178 (1996), 121)、緑色蛍光タンパク質(Gerdes, FEBS Lett.389 (1996), 44-47)又はβ-グルクロニダーゼ(Jefferson, EMBO J. 6 (1987), 3901-3907)をコードする遺伝子である。本実施態様は、特に、言及したベクターを含む細胞、組織、生物体の簡便かつ迅速なスクリーニングに有用である。
【0295】
上記のように、例えば、養子T細胞療法だけでなく遺伝子治療目的のために、言及した1又は複数の核酸分子を単独で又は1若しくは複数のベクターの一部として使用して、細胞内で本発明の抗原結合受容体を発現させることができる。本明細書に記載の抗原結合受容体のいずれかをコードする1若しくは複数のDNA配列を含む核酸分子又は1若しくは複数のベクターを細胞に導入し、ひいてはそれが目的のポリペプチドを産生する。遺伝子治療は、ex vivo法又はin vivo法による細胞への治療用遺伝子の導入に基づいており、遺伝子導入の最も重要な応用の一つである。in vitro又はin vivo遺伝子治療のための方法又は遺伝子送達系に適したベクター、方法又は遺伝子送達系は文献に記載されており、当業者に知られている。例えば、Giordano,Nature Medicine 2(1996),534-539;Schaper,Circ.Res.79(1996),911-919;Anderson,Science 256(1992),808-813;Verma,Nature 389(1994),239;Isner,Lancet 348(1996),370-374;Muhlhauser,Circ.Res.77(1995),1077-1086;Onodera,Blood 91(1998),30-36;Verma,Gene Ther.5(1998),692-699;Nabel,Ann.N.Y.Acad.Sci.811(1997),289-292;Verzeletti,Hum.Gene Ther.9(1998),2243-51;Wang,Nature Medicine 2(1996),714-716;国際公開第94/29469号;国際公開第97/00957号;米国特許第5580859号;米国特許第5589466号;又はSchaper,Current Opinion in Biotechnology 7(1996),635-640を参照されたい。言及した1又は複数の核酸分子及びベクターは、細胞内への直接導入用に設計されてもよいし、リポソーム又はウイルスベクター(例:アデノウイルス、レトロウイルス)を介する導入用に設計されてもよい。本発明の文脈において、前記細胞は、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、CD3+ T細胞、γδT細胞又はナチュラルキラー(NK)T細胞などのT細胞であり、好ましくはCD8+ T細胞である。
【0296】
以上により、本発明は、本明細書に記載の抗原結合受容体のポリペプチド配列をコードする核酸分子を含むベクター、特に遺伝子工学において従来から用いられているプラスミド、コスミド、バクテリオファージを得る方法に関する。本発明の文脈において、前記ベクターは、発現ベクター及び/又は遺伝子導入ベクター若しくは標的ベクターである。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス又はウシ乳頭腫ウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターが、言及したポリヌクレオチド又はベクターの標的細胞集団への送達のために使用され得る。
【0297】
当業者に周知の方法を用いて1又は複数の組換えベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al.(loc cit.),Ausubel(1989,loc cit.)又は他の標準的な教科書に記載の技術を参照されたい。或いは、言及した核酸分子及びベクターは、標的細胞への送達のためのリポソームに再構成することができる。本発明の核酸分子を含むベクターを周知の方法によって宿主細胞内に導入することができるが、但しそれは細胞宿主の種類によって異なる。例えば、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションがよく利用されるが、その他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションが利用され得る。Sambrook前掲書を参照されたい。言及したベクターは、特に、pEF-DHFR、pEF-ADA又はpEF-neoであってもよい。ベクターpEF-DHFR、pEF-ADA及びpEF-neoは、当技術分野において、例えばMack et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92(1995),7021-7025及びRaum et al.Cancer Immunol Immunother 50(2001),141-150に記載されている。
【0298】
本発明は、本明細書に記載のベクターを形質導入されたT細胞も提供する。前記T細胞は、上述したベクターの少なくとも1つ又は上述した核酸分子の少なくとも1つをT細胞又はその前駆細胞に導入することによって製造することができる。T細胞における前記少なくとも1つのベクター又は少なくとも1つの核酸分子の存在は、変異型Fcドメインに特異結合することができる抗原結合部分を含む細胞外ドメインを含む上記の抗原結合受容体をコードする遺伝子の発現を媒介するものである。本発明のベクターは多シストロン性とすることができる。
【0299】
T細胞又はその前駆細胞に導入される記載の1又は複数の核酸分子又ベクターは、細胞のゲノムに統合されてもよいし、染色体外に維持されてもよい。
【0300】
標的細胞抗原
上述のように、変異型Fcドメイン、特にアミノ酸変異P329G(EU番号付けによる)を含むFcドメインを含む本明細書の抗体の(Ig由来の)1又は複数のドメインは、標的細胞表面分子、例えば腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異的抗原に対して特異性を有する抗原相互作用部位を含む。本発明の文脈において、そのような抗体は、本発明の抗原結合受容体を含む本明細書に記載の形質導入されたT細胞を標的細胞(例:腫瘍細胞)と物理的に接触させ、該形質導入されたT細胞は活性化される。本発明の形質導入されたT細胞の活性化は、本明細書に記載のとおり、標的細胞の溶解を優先的にもたらす。
【0301】
標的(例:腫瘍)細胞の表面に天然に存在する標的細胞抗原(例:腫瘍マーカー)の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない:FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CEA(がん胎児性抗原)、p95(p95HER2)、BCMA(B細胞成熟抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、MSLN(メソテリン)、MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、HER-1(ヒト上皮増殖因子1)、HER-2(ヒト上皮増殖因子2)、HER-3(ヒト上皮増殖因子3)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、葉酸受容体1(FOLR1)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)がん抗原12-5(CA-12-5)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MUC-1(ムチン1)、A33抗原、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)、及び/又はヒト主要組織適合性複合体(MHC)の分子に結合したペプチド。
【0302】
したがって、本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体はアミノ酸変異P329G(EU番号付けによる)を含むFcドメイン、すなわち、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、CEA(がん胎児性抗原)、p95(p95HER2)、BCMA(B細胞成熟抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、MSLN(メソテリン)、MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、HER-1(ヒト上皮増殖因子1)、HER-2(ヒト上皮増殖因子2)、HER-3(ヒト上皮増殖因子3)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD52Flt3、葉酸受容体1(FOLR1)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)がん抗原12-5(CA-12-5)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MUC-1(ムチン1)、A33抗原、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)、及び/又はヒト主要組織適合性複合体(MHC)の分子に結合したペプチドから成る群より選択される腫瘍細胞の表面に天然に存在する抗原/マーカーに特異結合できる治療用抗体に結合する。
【0303】
A33抗原、BCMA(B細胞成熟抗原)、がん抗原12-5(CA-12-5)、炭酸脱水酵素IX(CA-IX)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CEA(がん胎児性抗原)、EpCAM(上皮細胞接着分子)、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)、葉酸受容体1(FOLR1)、HER-1(ヒト上皮増殖因子1)、HER-2(ヒト上皮増殖因子2)、HER-3(ヒト上皮増殖因子3)、ヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)、MSLN(メソテリン)、MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、MUC-1(ムチン1)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、p95(p95HER2)、トランスフェリン受容体、TNC(テネイシン)、ヒト栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)の(ヒト)メンバーの配列は、UniProtKB/Swiss-Protデータベースで入手でき、http://www.uniprot.org/uniprot/?query=reviewed%3Ayesから取得することが可能である。これらの(タンパク質)配列は、アノテーション付きの改変配列にも関連している。また、本発明は、本明細書で提供される短い配列の相同配列、また遺伝的対立遺伝子バリアントなどが使用される技術及び方法も提供する。好ましくは、本明細書中の短い配列の該バリアントなどが用いられる。好ましくは、該バリアントは遺伝子バリアントである。当業者は、これらのデータバンクエントリーの中から、これらの(タンパク質)配列の適切なコード化領域を容易に推測することができ、また、これらのデータバンクのエントリーはゲノムDNA及びmRNA/cDNAも含んでいる場合がある。(ヒト)FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ12884(エントリーバージョン168、配列バージョン5)から取得することができる;(ヒト)CEA(がん胎児性抗原)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP06731(エントリーバージョン171、配列バージョン3)から取得することができる;(ヒト)EpCAM(上皮細胞接着分子)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP16422(エントリーバージョン117、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)MSLN(メソテリン)の1又は複数の配列は、UniProtエントリー番号Q13421(バージョン番号132;配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)FMS様チロシンキナーゼ3(FLT-3)の1又は複数の配列は、バージョン番号165及び配列バージョン2のSwiss-ProtデータベースエントリーP36888(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ13414(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)MCSP(メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン)の配列は、UniProtエントリー番号Q6UVK1(バージョン番号118;配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)葉酸受容体1(FOLR1)の1又は複数の配列は、バージョン番号153及び配列バージョン3のUniProtエントリー番号P15328(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ53EW2(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)栄養膜細胞表面抗原2(Trop-2)の1又は複数の配列は、バージョン番号172及び配列バージョン3のUniProtエントリー番号P09758(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ15658(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)PSCA(前立腺幹細胞抗原)の1又は複数の配列は、バージョン番号134及び配列バージョン1のUniProtエントリー番号O43653(引用可能なプライマリアクセッション番号)又はQ6UW92(セカンダリアクセッション番号)から取得することができる;(ヒト)HER-1(上皮増殖因子受容体)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP00533(エントリーバージョン177、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)HER-2(受容体型チロシンタンパク質キナーゼerbB-2)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP04626(エントリーバージョン161、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)HER-3(受容体型チロシンタンパク質キナーゼerbB-3)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP21860(エントリーバージョン140、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)CD20(Bリンパ球抗原CD20)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP11836(エントリーバージョン117、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)CD22(Bリンパ球抗原CD22)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20273(エントリーバージョン135、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)CD33(Bリンパ球抗原CD33)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP20138(エントリーバージョン129、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)CA-12-5(ムチン16)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ8WXI7(エントリーバージョン66、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)HLA-DRの1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ29900(エントリーバージョン59、配列バージョン1)から取得することができる;ヒト)MUC-1(ムチン-1)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP15941(エントリーバージョン135、配列バージョン3)から取得することができる;(ヒト)A33(細胞表面A33抗原)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ99795(エントリーバージョン104、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)PSMA(グルタメートカルボキシペプチダーゼ2)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ04609(エントリーバージョン133、配列バージョン1)から取得することができる;(ヒト)トランスフェリン受容体の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ9UP52(エントリーバージョン99、配列バージョン1)及びP02786(エントリーバージョン152、配列バージョン2)から取得することができる;(ヒト)TNC(テネイシン)の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーP24821(エントリーバージョン141、配列バージョン3)から取得することができる;或いは(ヒト)CA-IX(炭酸脱水酵素IX)の1又は複数の配列は、Swiss-ProtデータベースエントリーQ16790(エントリーバージョン115、配列バージョン2)から取得することができる。
【0304】
好ましい実施態様では、標的細胞抗原は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される。
【0305】
上記のいずれかの標的細胞抗原に特異結合できる抗体は、哺乳類の免疫系を免疫する方法及び/又は組換えライブラリーを用いるファージディスプレイなど、当技術分野で周知の方法を用いて製造することができる。
【0306】
本発明に従って使用される抗体は、P329G変異(EU番号付けによる)を含むFcドメインを含んでいる。P329G変異は、Fc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低下させ、結合及び/又はエフェクター機能に影響を与える更なるFc変異と組み合わせて使用され得る。したがって、更なる実施態様では、本発明の抗体の変異型Fcドメインは、天然型IgG Fcドメインと比較して低下した、Fc受容体への結合親和性及び/又は低下したエフェクター機能を呈する。このような実施態様において、変異型Fcドメイン(又は前記Fc変異型ドメインを含む抗体)は、天然型IgG Fcドメイン(又は天然型IgG Fcドメインを含む抗体)と比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性及び/又は天然型IgG Fcドメイン(又は天然型IgG Fcドメインを含む抗体)と比較して50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満のエフェクター機能を呈する。ある実施態様では、変異型Fcドメイン(又は前記Fc変異型ドメインを含む抗体)は、Fc受容体に実質的に結合せず、且つ/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様において、該Fc受容体は、Fcγ受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、ヒトFc受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。ある実施態様において、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能はADCCである。ある実施態様では、該変異型Fcドメインは、天然型IgG Fcドメインと比較して実質的に変化した、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。ある実施態様において、変異型Fcドメインを含む抗体は、非工学操作型Fcドメインを含む抗体と比較して20%未満、特に10%未満、更に詳細には5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の実施態様において、該Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施態様では、該Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、該Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの各受容体への結合が低下する。いくつかの実施態様では、補体成分に対する結合親和性、具体的にはC1qに対する結合親和性も低下する。
【0307】
特定の実施態様では、本抗体のFcドメインは、非工学操作型Fcドメインと比較して低下したエフェクター機能を有するように変異している。エフェクター機能の低下は、限定されないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの減少、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の減少、標的結合抗体の架橋の減少、樹状細胞成熟の低下、又はT細胞プライミングの低下のうちの1又は複数を含み得る。ある実施態様において、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1又は複数である。特定の実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低下である。ある実施態様において、ADCCの低下は、非工学操作型Fcドメイン(又は非工学操作型Fcドメインを含む抗体)により誘導されるADCCの20%未満である。
【0308】
ある実施態様において、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。ある実施態様において、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、及びP331の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。更なる特定の実施態様では、Fcドメインは、L234位及び/又はL235位にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。より具体的な実施態様において、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。更に好ましい実施態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」)を含む。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG FcドメインのFcγ受容体(並びに補体)結合をほぼ完全に消失させる。国際公開第2012/130831号には、このような変異体Fcドメインを調製する方法及びその特性(Fc受容体結合又はエフェクター機能など)を決定する方法も記載されている。
【0309】
特定の実施態様では、FcドメインのNグリコシル化は排除されている。このような実施態様では、FcドメインはN297位にアミノ酸変異、特にアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)でアスパラギンを置き換えるアミノ酸変異を含む。
【0310】
上記及び国際公開第2012/130831号に記載のFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能の低下を伴うFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327及び329の1又は複数の変異を有するものも含む(米国特許第6737056号)。このようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの変異を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7332581号)など、アミノ酸位置265、269、270、297及び297のうちの2以上に変異を有するFc変異体を含む。
【0311】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を用いるアミノ酸の欠失、置換、挿入又は改変により調製することができる。遺伝学的方法は、コード化DNA配列の部位特異的突然変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。正確なヌクレオチドの変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0312】
Fc受容体への結合は、例えばELISAにより、又はBIAcore機器(GEヘルスケア)のような標準的な器具類を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)により容易に決定することができ、Fc受容体は組換え発現により得ることができる。代替的に、Fcドメイン又はFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価してもよい。
【0313】
Fcドメイン、又はFcドメインを含む抗体のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法により測定することができる。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイのその他の例は、米国特許第5500362号;Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)、及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載されている。代替的に、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology社、カリフォルニア州マウンテンビュー);及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、ウィスコンシン州マディソン)参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば動物モデル(Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95, 652-656(1998)に開示されているものなど)において評価されてもよい。
【0314】
いくつかの実施態様では、補体成分に対するFcドメインの結合、具体的にはC1qに対する結合が低下する。したがって、Fcドメインがエフェクター機能が低下するように工学操作されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。本抗体がC1qに結合することができ、それゆえにCDC活性を有するかどうかを決定するために、C1q結合アッセイが実行されてもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996); Cragg, et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg and Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。
【0315】
キット
本発明の更なる態様は、本発明の抗原結合受容体をコードする核酸及び/又は細胞、好ましくは本発明の抗原結合受容体での形質導入のためのT細胞/本発明の抗原結合受容体で形質導入されたT細胞、及び任意選択で、変異型Fcドメインを含む1又は複数の抗体を含むキットであり、ここで抗原結合受容体は変異型Fcドメインに特異結合できる。
【0316】
したがって、提供されるのは、キットであって、
(A)本発明の抗原結合受容体を発現することができる形質導入された細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットである。
【0317】
更に提供されるのは、キットであって、
(A)本発明の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド及び/又はベクター;並びに
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキットである。
【0318】
本発明のキットは、形質導入されたT細胞、単離ポリヌクレオチド及び/又はベクター、並びにEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む1又は複数の抗体を含んでいてもよい。特定の実施態様では、本抗体は、治療用抗体、例えば、本明細書に記載の腫瘍特異的抗体である。腫瘍特異的抗原は、当技術分野で知られており、本明細書で上に記載されている。本発明の文脈において、本抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。本発明によるキットは、形質導入されたT細胞又は形質導入されたT細胞を生成するためのポリヌクレオチド/ベクターを含んでいる。この文脈では、該形質導入されたT細胞は、所定の腫瘍に特異的ではないが、変異型Fcドメインを含む治療用抗体の使用によって任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。ここで提供されるのは、EU番号付け(例えば配列番号102~115)によるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の例であるが、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含むいかなる抗体も本発明に従って使用することができ、ここで提供されるキットに含まれる。
【0319】
特定の実施態様では、変異型Fc領域を含む抗体は、CD20に特異的に結合することができ、配列番号102の重鎖配列及び配列番号103の軽鎖配列を含む。ある実施態様では、変異型Fc領域を含む抗体は、FAPに特異結合でき、配列番号104の重鎖配列及び配列番号105の軽鎖配列を含む。ある実施態様では、変異型Fc領域を含む抗体は、CEAに特異結合でき、配列番号106の重鎖配列及び配列番号107の軽鎖配列、配列番号108の重鎖配列及び配列番号109の軽鎖配列、配列番号110の重鎖配列及び配列番号111の軽鎖配列、又は配列番号112の重鎖配列及び配列番号113の軽鎖配列を含む。更なる実施態様では、変異型Fc領域を含む抗体はテネイシン(TNC)に特異結合でき、配列番号114の重鎖配列及び配列番号115の軽鎖配列を含む。
【0320】
本発明のある実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号102の重鎖及び配列番号103の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)。本キットは、CD20陽性がんの治療に使用することができる。
【0321】
本発明の別の実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」)を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号104の重鎖及び配列番号105の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。本キットは、FAP陽性がんの治療に使用することができる。
【0322】
本発明の別の実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号106の重鎖及び配列番号107の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。或いは、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号108の重鎖及び配列番号109の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。本キットは、FAP陽性がんの治療に使用することができる。或いは、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号110の重鎖及び配列番号111の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。別の実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号112の重鎖及び配列番号113の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。これらのキットは、CEA陽性がんの治療に使用することができる。
【0323】
本発明の別の実施態様において、提供されるのは、配列番号136のアミノ酸配列(「CH2(P329G)-VH3VL1-CD8ATD-CD137CSD-CD3zSSD」を発現できる形質導入されたT細胞を含むキットであり、又は代替的に、該キットは、配列番号114の重鎖及び配列番号115の軽鎖を含む抗体と組み合わされた、配列番号136のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む(例えば、該キットは、配列番号138の配列を含むポリヌクレオチドを含む)キットである。本キットは、TNC陽性がんの治療に使用することができる。
【0324】
更に、本発明のキットの部品は、バイアル又はボトルに個別包装されていても、容器又はマルチコンテナユニットにまとめて包装されていてもよい。更に、本発明のキットは、患者細胞、好ましくは本明細書に記載のT細胞を本発明の1又は複数の抗原結合受容体で形質導入し、GMP(欧州委員会がhttp://ec.europa.eu/health/documents/eudralex/index_en.htmに掲載している優良製造所基準)条件下でインキュベートすることができる細胞培養バッグ(クローズド)システム((closed) bag cell incubation system)を含んでもよい。更に、本発明のキットは、単離した/入手した患者T細胞を本発明の抗原結合レセプターで形質導入し、GMP下でインキュベートすることができる細胞培養バッグ(クローズド)システムを含んでいる。更に、本発明の文脈において、本キットは、本明細書に記載の1又は複数の抗原結合受容体をコードするベクターを含んでいてもよい。本発明のキットは、特に、本発明の方法を実施するために有利に使用することができ、本明細書で言及する様々な用途、例えば、研究ツール又は医療ツールとして採用することができる。本キットの製造は、好ましくは、当業者に既知の標準的な手順に従う。
【0325】
この文脈において、患者由来の細胞、好ましくはT細胞は、上記のようなキットを用いて、本明細書に記載の変異型Fcドメインに特異結合できる本発明の抗原結合受容体で形質導入され得る。変異型Fcドメインに特異結合できる抗原結合部分を含む細胞外ドメインは、T細胞内又はT細胞上では天然には存在しない。したがって、本発明のキットで形質導入された患者由来細胞は、抗体、例えば治療用抗体の変異型Fcドメインに特異結合する能力を獲得し、変異型Fcドメインを含む治療用抗体との相互作用を介して標的細胞の排除/溶解を誘導することができるようになり、治療用抗体は腫瘍細胞の表面上に天然に存在する(内因的に発現する)腫瘍特異的抗原に結合できる。本明細書に記載の抗原結合受容体の細胞外ドメインの結合は、そのT細胞を活性化し、変異型Fcドメインを含む治療用抗体を介して腫瘍細胞と物理的に接触させる。非形質導入T細胞又は内因性T細胞(例:CD8+ T細胞)は、変異型Fcドメインを含む治療用抗体の変異型Fcドメインに結合することができない。変異型Fcドメインに特異結合できる細胞外ドメインを含む抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞は、本明細書に記載のFcドメインの変異を含まない治療用抗体の影響を受けない状態である。したがって、本発明抗原結合受容体分子を発現するT細胞は、本明細書に記載のFcドメインの変異を含む抗体の存在下で、in vivo及び/又はin vitroで標的細胞を溶解する能力を有する。対応する標的細胞は、本明細書に記載の治療用抗体の少なくとも1つ、好ましくは2つの結合ドメインによって認識される表面分子、すなわち腫瘍細胞の表面上に天然に存在する腫瘍特異的抗原を発現する細胞を含む。このような表面分子は、本明細書において以下のように特徴づけられる。
【0326】
標的細胞の溶解は、当技術分野で既知の方法によって検出することができる。したがって、このような方法は、特に生理学的なin vitroアッセイを含む。このような生理学的アッセイは、例えば細胞膜の完全性の喪失による細胞死をモニターすることができる(例えば、FACSベースのヨウ化プロピジウムアッセイ、トリパンブルー流入アッセイ、測光酵素放出定(photometric enzyme release)アッセイ(LDH)、放射性51Cr放出(radiometric 51Cr release)アッセイ、蛍光定量ユーロピウム放出(fluorometric Europium release)アッセイ及びカルセインAM放出アッセイ)。更なるアッセイは、例えば、測光MTT、XTT、WST-1及びアラマーブルーアッセイ、放射性3H-Thd取り込みアッセイ、細胞分裂活性を測定するクローン形成アッセイ、及びミトコンドリア膜貫通勾配を測定する蛍光ローダミン123アッセイによる細胞生存能力のモニターを含む。更に、アポトーシスは、例えば、FACSベースのホスファチジルセリン露出アッセイ、ELISAベースのTUNEL試験、カスパーゼ活性アッセイ(測光、蛍光測定又はELISAベース)によって、又は変化した細胞形態(収縮、膜小疱形成)を分析することによってモニターすることができる。
【0327】
治療用途及び治療の方法
本明細書で提供される分子又はコンストラクト(例:抗原結合受容体、形質導入されたT細胞及びキット)は、特にがんの治療のために医療現場で特に有用である。例えば、腫瘍は、腫瘍細胞上の標的抗原に結合し且つ変異型Fcドメイン(すなわち、EU番号付けによるP329G変異を含むFcドメイン)を含む治療用抗体と併せて、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞で治療することができる。したがって、特定の実施態様において、抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又はキットは、がん、特に上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんの治療において使用される。
【0328】
該治療の腫瘍特異性は、標的細胞抗原に結合する治療用抗体によってもたらされ、該抗体は、本発明の抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。この文脈では、該形質導入されたT細胞は、所定の腫瘍に特異的ではないが、本発明に従って使用される治療用抗体の特異性に応じて任意の腫瘍を標的とすることができるため、ユニバーサルT細胞である。
【0329】
上記がんは、上皮、内皮又は中皮由来のがん/癌であっても、血液のがんであってもよい。ある実施態様において、上記がん/癌は、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、口腔がん、胃がん、子宮頸管がん、B及びT細胞リンパ腫、骨髄性白血病、卵巣がん、白血病、リンパ性白血病、上咽頭癌、結腸がん、前立腺がん、腎細胞がん、頭頚部がん、皮膚がん(メラノーマ)、尿生殖器管のがん、例えば精巣がん、卵巣がん、内皮がん、子宮頸がん、及び腎臓がん、胆管のがん、食道がん、唾液腺のがん、及び甲状腺のがん、又は血液腫瘍、神経膠腫、肉腫若しくは骨肉腫などの他の腫瘍性疾患から成る群より選択される。
【0330】
例えば、腫瘍性疾患及び/又はリンパ腫は、これらの1又は複数の医療適応症を対象とする特定のコンストラクトで治療することができる。例えば、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、(腫瘍細胞の表面に天然に存在する腫瘍特異抗原としての)(ヒト)EpCAMに対して向けられる抗体で治療することができる。
【0331】
胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、HER1、好ましくはヒトHER1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。更に、胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、MCSP、好ましくはヒトMCSPに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、FOLR1、好ましくはヒトFOLR1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、Trop-2、好ましくはヒトTrop-2に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、PSCA、好ましくはヒトPSCAに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、EGFRvIII、好ましくはヒトEGFRvIIIに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、膠芽細胞腫、及び/又は口腔がんは、MSLN、好ましくはヒトMSLNに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃がん、乳がん、及び/又は子宮頸がんは、HER2、好ましくはヒトHER2に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃がん及び/又は肺がんは、HER3、好ましくはヒトHER3に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、CD20、好ましくはヒトCD20に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。B細胞リンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫は、CD22、好ましくはヒトCD22に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。骨髄性白血病は、CD33、好ましくはヒトCD33に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。卵巣がん、肺がん、乳がん、及び/又は胃腸がんは、CA12-5、好ましくはヒトCA12-5に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、白血病、及び/又は上咽頭癌は、HLA-DR、好ましくはヒトHLA-DRに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、及び/又は膵臓がんは、MUC-1、好ましくはヒトMUC-1に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。結腸がんは、A33、好ましくはヒトA33に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。前立腺がんは、PSMA、好ましくはヒトPSMAに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。胃腸がん、膵臓がん、胆管細胞がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、及び/又は口腔がんは、トランスフェリン受容体、好ましくはヒトトランスフェリン受容体に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。膵臓がん、肺がん、及び/又は乳がんは、トランスフェリン受容体、好ましくはヒト受容体に対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。腎臓がんは、CA-IX、好ましくはヒトCA-IXに対して向けられる治療用抗体の投与前、投与と同時又は投与後に投与される本発明の形質導入されたT細胞で治療することができる。
【0332】
また、本発明は、疾患、例えば上皮、内皮若しくは中皮由来のがん及び/又は血液のがんなどの悪性疾患の治療方法に関するものでもある。本発明の文脈において、前記対象はヒトである。
【0333】
本発明の文脈において、疾患の治療のための特定の方法は、
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞に、本明細書に記載の抗原結合受容体を形質導入する工程;及び
(c)前記形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程
を含む。
【0334】
本発明の文脈において、前記形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞、及び/又は1若しくは複数の治療用抗体は、静脈内注入によって前記対象に共投与される。
【0335】
更に、本発明の文脈において、本発明は、以下の工程を含む疾患の治療方法を提供する:
(a)対象からT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を単離する工程;
(b)前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞に、本明細書に記載の抗原結合受容体を形質導入する工程;
(c)任意選択で、前記単離されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞に、T細胞受容体を共形質導入する工程;
(d)抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって該T細胞、好ましくはCD8+ T細胞を増殖させる工程;及び
(e)該形質導入されたT細胞、好ましくはCD8+ T細胞を前記対象に投与する工程。
【0336】
上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン2及び/又はインターロイキン15(IL-15)などの(刺激性)サイトカインの存在下で実施することも可能である。本発明の文脈において、上述の工程(d)(抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体によるTILなどのT細胞の増殖工程を指す)は、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン7(IL-7)及び/又はインターロイキン21(IL-21)の存在下でも実施することができる。
【0337】
本発明の治療方法は、更に、本発明に従って使用される抗体の投与を含む。前記抗体は、該形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与することができる。本発明の文脈において、該形質導入されたT細胞の投与は、静脈内注入によって行われるであろう。本発明の文脈において、その形質導入されたT細胞は、治療対象から単離/取得される。
【0338】
本発明は更に、他の化合物、例えば、免疫エフェクター細胞、細胞増殖又は細胞刺激のための活性化シグナルを提供することができる分子との共投与プロトコルを想定している。前記分子は、例えば、T細胞の更なる一次活性化シグナル(例えば、更なる共刺激性分子:B7ファミリーの分子、Ox40L、4.1BBL、CD40L、抗CTLA-4、抗PD-1)、又は更なるサイトカインインターロイキン(例:IL-2)であってもよい。
【0339】
また、上記のような本発明の組成物は、任意選択で検出のための手段及び方法を更に含む、診断用組成物であってもよい。
【0340】
組成物
更に、本発明は、1若しくは複数の変異型Fcドメインを有する1若しくは複数の抗体分子、並びに/又は本発明の抗原結合受容体を含む1若しくは複数の形質導入されたT細胞、並びに/又は本発明による抗原結合受容体をコードする1若しくは複数の核酸分子及び1若しくは複数のベクターを含む組成物(医薬)を提供する。更に、本発明は、1又は複数の前記組成物を含むキットを提供する。本発明の文脈では、該組成物は、担体、安定剤及び/又は賦形剤である適切な製剤を任意選択で更に含む薬学的組成物である。したがって、本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞及び/又は前記形質導入されたT細胞を含む組成物と組み合わせて投与される、本明細書で定義されている変異型Fcドメインを含む抗体分子を含む薬学的組成物(医薬)が提供され、ここで、前記抗体分子は、本発明の抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に投与される。
【0341】
用語「組み合わせて」の使用は、治療レジメンの構成要素が対象に投与される順序を制限するものではない。したがって、本明細書に記載の薬学的組成物/医薬は、本発明の抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞の投与前、投与と同時又は投与後に、本明細書で定義されているような抗体の投与を包含する。本明細書で使用される「組み合わせて」はまた、上で定義したような抗体と、本明細書で定義されているような抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞の投与のタイミングを制限するものではない。したがって、これら2つの構成要素が同時に/共に投与されない場合、これらの投与は、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間若しくは72時間、又は当業者によって且つ/若しくは本明細書に記載のように容易に決定される任意の適切な時間、間隔が空いてもよい。
【0342】
本発明の文脈では、「組み合わせて」という用語はまた、本明細書で定義した抗体と、本発明による抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞が、対象への投与前に一緒にプレインキュベートされるという状態も包含する。したがって、これら2つの構成要素を、投与前に、例えば、1分、5分、10分、15分、30分、45分若しくは1時間、又は当業者が容易に決定できる任意の適切な時間、プレインキュベートしてもよい。別の好ましい実施態様において、本発明は、本明細書で定義した抗体と、本明細書で定義した抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞とが、同時に/共に投与される治療レジメンに関する。本発明の文脈において、本明細書で定義した抗体は、抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞の投与前に投与されてもよい。
【0343】
更に、本明細書で使用される「組み合わせて」は、開示の治療レジメンを、本明細書で定義した抗体及び本発明の抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞(好ましくはCD8+ T細胞)の連続した順序での投与(すなわち、これら2つの構成要素の一方の投与に続いて(一定の時間間隔で)、間にいかなる他の治療プロトコルの投与及び/又は実施なしで、他方を投与する)に限定しない。したがって、本治療レジメンは、本明細書で定義した抗体分子と、本発明による抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞(好ましくはCD8+ T細胞)の別々の投与をも包含し、これらの投与は、疾患又はその症状の治療又は予防に必要且つ/又は適した1又は複数の治療プロトコルによって切り離されている。このような介在する治療プロトコルの例としては、鎮痛剤の投与、化学療法剤の投与、疾患又はその症状の外科的処置などが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に開示される治療レジメンは、本明細書で定義した抗体と本明細書で定義した抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞(好ましくはCD8+ T細胞)とを、疾患又はその症状の治療又は予防に適した1つ又は複数の治療プロトコルと一緒に、本明細書に記載のように又は当技術分野で知られているように投与することを含む。
【0344】
特に、前記1又は複数の薬学的組成物/医薬は、点滴又は注射を介して患者に投与されることが想定される。本発明の文脈において、本明細書に記載の抗原結合受容体を含む形質導入されたT細胞は、点滴又は注射を介して患者に投与されることになる。好適な組成物/医薬の投与は、異なる方法、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所又は皮内投与によって行われ得る。
【0345】
本発明の薬学的組成物/医薬は、薬学的に許容される担体を更に含んでいてもよい。好適な薬学的担体の例は当技術分野でよく知られており、リン酸緩衝生理食塩水、水、水中油型エマルジョンなどのエマルジョン、様々なタイプの湿潤剤、無菌液などがある。このような担体を含む組成物は、よく知られた従来の方法によって製剤化することができる。これらの薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。投与レジメンは、主治医と臨床的要因によって決定される。医術においてよく知られているように、患者1名に対する投与量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、全身状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む多くの要因に依存する。通常、本薬学的組成物の定期投与としてのレジメンは、1日当たり1μg~5g単位の範囲であることが望ましい。しかし、持続的注入のより好ましい投与量は、1時間あたり体重1kgあたり0.01μg~2mg、好ましくは0.01μg~1mg、より好ましくは0.01μg~100μg、更に好ましくは0.01μg~50μg、最も好ましくは0.01μgg~10μg単位の範囲であろう。特に好ましい投与量は、本明細書に後述される。定期的な評価により、進捗をモニターすることができる。投与量は様々だが、DNAの静脈内投与に好ましい投与量は、DNA分子のおよそ10から1012コピーである。
【0346】
本発明の該組成物は局所投与でも全身投与でもよい。通常、投与は非経口(例:静脈内)であり、形質導入されたT細胞を、例えばカテーテルで、標的部位に直接、動脈内の部位に投与することもできる。非経口投与のための調製物には、滅菌の水性又は非水性溶液、懸濁液、及びエマルジョンが含まれる。非水性の溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルがある。水性の担体としては、生理食塩水及び緩衝培地など、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョン又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液又は不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、補液,及び栄養補給剤、電解質補給剤(例えばブドウ糖リンゲル液ベースのもの)などが挙げられる。防腐剤及びその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなども存在してよい。更に、本発明の薬学的組成物は、例えば、血清アルブミン又は免疫グロブリン(好ましくはヒト由来のもの)のような、タンパク質性の担体を含んでもよい。本発明の薬学的組成物は、(本発明に記載の)タンパク質性の抗体コンストラクト若しくはそれをコードする核酸分子若しくはベクター、及び/又は細胞に加えて、薬学的組成物の使用目的に応じて更なる生物学的に活性な薬剤を含むことが想定される。このような薬剤は、胃腸系に作用する薬物、細胞分裂停止剤(cytostatica)として作用する薬物、高尿酸血症(hyperurikemia)を予防する薬物、免疫反応を阻害する薬物(例:コルチコステロイド)、循環器系に作用する薬物、及び/又は当技術分野で知られているT細胞共刺激性分子又はサイトカインなどの薬剤であってもよい。
【0347】
例示的な実施態様
1.細胞外ドメインとアンカー膜貫通ドメインとを含む抗原結合受容体であって、細胞外ドメインが、
(a)Fcドメイン又はその断片であるマスキング部分、
(b)プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカー、及び
(c)抗原結合部分
を含み、
抗原結合部分はマスキング部分に結合しており、抗原結合部分はマスクされており、マスキング部分と抗原結合部分はプロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーによって繋がれている、抗原結合受容体。
【0348】
2.マスキング部分が、IgG Fcドメイン又はその断片、具体的にはIgG若しくはIgG Fcドメイン又はその断片である、実施態様1に記載の抗原結合受容体。
【0349】
3.マスキング部分が、CH2ドメイン、CH3ドメイン及び/又はCH4ドメインを含む、実施態様1又は2に記載の抗原結合受容体。
【0350】
4.マスキング部分が変異型Fcドメイン又はその断片であり、特に、マスキング部分は、非変異型Fcドメイン又はその断片と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでいる、実施態様2又は3に記載の抗原結合受容体。
【0351】
5.少なくとも1つのアミノ酸置換が、Fc受容体への結合を低下させ、且つ/又はエフェクター機能を低下させる、実施態様4に記載の抗原結合受容体。
【0352】
6.少なくとも1つのアミノ酸置換が、233、234、235、238、253、265、269、270、297、310、331、327、329及び435(Kabat EUインデックスによる番号付け)から成るリストから選択される位置にある、実施態様4又は5に記載の抗原結合受容体。
【0353】
7.少なくとも1つのアミノ酸置換が、P329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)に置換を含む、実施態様4から6のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0354】
8.少なくとも1つのアミノ酸置換が、アラニン(A)、アルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)及びプロリン(P)から成るリストから選択されるアミノ酸によるP329位(Kabat EUインデックスによる番号付け)の置換を含む、実施態様4から7のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0355】
9.少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む、実施態様4から8のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0356】
10.抗原結合部分が、軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)とを含んでいる、実施態様1から9のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0357】
11.抗原結合部分がscFvである、実施態様1から10のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0358】
12.マスキング部分がCH2ドメインである、実施態様1から11のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0359】
13.抗原結合部分が、非変異型Fcドメイン又はその断片に結合しない、実施態様1から11のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0360】
14.プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーが少なくとも1つのプロテアーゼ認識配列を含む、実施態様1から13のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0361】
15.プロテアーゼ認識配列が、
(a)RQARVVNG(配列番号141);
(b)VHMPLGFLGPGRSRGSFP(配列番号142);
(c)RQARVVNGXXXXXVPLSLYSG(配列番号143)(ここで、Xは任意のアミノ酸である);
(d)RQARVVNGVPLSLYSG(配列番号144);
(e)PLGLWSQ(配列番号145);
(f)VHMPLGFLGPRQARVVNG(配列番号146);
(g)FVGGTG(配列番号147);
(h)KKAAPVNG(配列番号148);
(i)PMAKKVNG(配列番号149);
(j)QARAKVNG(配列番号150);
(k)VHMPLGFLGP(配列番号151);
(l)QARAK(配列番号152);
(m)VHMPLGFLGPPMAKK(配列番号153);
(n)KKAAP(配列番号154);及び
(o)PMAKK(配列番号155)
から成る群より選択される、実施態様1から14のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0362】
16.プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーがプロテアーゼ認識配列PMAKK(配列番号155)を含む、実施態様1から15のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0363】
17.マスキング部分が、C末端でプロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーのN末端に繋がれており、プロテアーゼ切断可能なペプチドリンカーは、C末端で抗原結合部分のN末端に繋がれている、実施態様1から15のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0364】
18.抗原結合部分が、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれている、実施態様1から17のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0365】
19.抗原結合部分の軽鎖可変ドメイン(VL)が、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれており、且つ/又は、重鎖可変ドメイン(VH)が、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端に繋がれている、実施態様1から17のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0366】
20.マスキング部分が、配列番号130のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、実施態様1から19のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0367】
21.抗原結合部分が、
(i)配列番号1の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2又は配列番号40のHCDR 2、及び配列番号3のHCDR 3を含む重鎖可変ドメイン(VH)、並びに
(ii)配列番号4の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のLCDR 2、及び配列番号6のLCDR 3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、実施態様1から20のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0368】
22.抗原結合部分が、配列番号8、配列番号41及び配列番号44から成る群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む、実施態様1から21のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0369】
23.抗原結合部分が、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VL)を含む、実施態様1から22のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0370】
24.細胞外ドメインが、配列番号8の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、実施態様1から23のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0371】
25.細胞外ドメインが、配列番号41の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、実施態様1から23のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0372】
26.細胞外ドメインが、配列番号44の重鎖可変ドメイン(VH)と配列番号9の軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む抗原結合部分を含む、実施態様1から23のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0373】
27.アンカー膜貫通ドメインが、CD8、CD4、CD3z、FCGR3A、NKG2D、CD27、CD28、CD137、OX40、ICOS、DAP10若しくはDAP12膜貫通ドメインから成る群より選択される膜貫通ドメイン又はその断片であり、特に、アンカー膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメイン又はその断片である、実施態様1から26のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0374】
28.アンカー膜貫通ドメインがCD8膜貫通ドメインであり、特に、アンカー膜貫通ドメインは配列番号11のアミノ酸配列を含む、実施態様1から27のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0375】
29.少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメイン及び/又は少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを更に含む、実施態様1から28のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0376】
30.少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインが、刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD3zの、FCGR3Aの、及びNKG2Dの細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択され、特に、少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3z細胞内ドメイン又はその断片である、実施態様29に記載の抗原結合受容体。
【0377】
31.少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインが、刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD3zの細胞内ドメイン又はその断片であり、特に、少なくとも1つの刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を含む、実施態様29又は30に記載の抗原結合受容体。
【0378】
32.少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインが、共刺激性シグナル伝達活性を保持する、CD27の、CD28の、CD137の、OX40の、ICOSの、DAP10の、及びDAP12の細胞内ドメイン又はそれらの断片から成る群より個別に選択される、実施態様29又は30に記載の抗原結合受容体。
【0379】
33.CD137共刺激性活性を保持するCD137共刺激性シグナル伝達ドメイン又はその断片を含む抗原結合受容体であって、特に、配列番号12のアミノ酸配列を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを含む、実施態様29から32のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0380】
34.抗原結合受容体は、CD28共刺激性活性を保持するCD28共刺激性シグナル伝達ドメイン又はその断片を含む、実施態様29から33のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0381】
35.抗原結合受容体が、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3zの細胞内ドメイン又はその断片を含む刺激性シグナル伝達ドメインを含み、且つ、抗原結合受容体は、CD28共刺激性シグナル伝達活性を保持するCD28の細胞内ドメイン又はその断片を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを含む、実施態様1から34のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0382】
36.刺激性シグナル伝達ドメインが配列番号13のアミノ酸配列を含む、実施態様35に記載の抗原結合受容体。
【0383】
37.抗原結合受容体が、CD3z刺激性シグナル伝達活性を保持するCD3zの細胞内ドメイン又はその断片を含む刺激性シグナル伝達ドメインを1つ含み、且つ、抗原結合受容体は、CD137共刺激性シグナル伝達活性を保持するCD137の細胞内ドメイン又はその断片を含む共刺激性シグナル伝達ドメインを1つ含む、実施態様1から36のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0384】
38.刺激性シグナル伝達ドメインが配列番号13のアミノ酸配列を含み、共刺激性シグナル伝達ドメインが配列番号12のアミノ酸配列を含む、実施態様37に記載の抗原結合受容体。
【0385】
39.抗原結合部分が、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、アンカー膜貫通ドメインのN末端に繋がれている、実施態様1から38のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0386】
40.ペプチドリンカーが配列番号19のアミノ酸配列を含む、実施態様39に記載の抗原結合受容体。
【0387】
41.アンカー膜貫通ドメインが、任意選択でペプチドリンカーを介して、共シグナル伝達ドメイン又は刺激性シグナル伝達ドメインに繋がれている、実施態様29から40のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0388】
42.シグナル伝達ドメイン同士及び/又は共シグナル伝達ドメイン同士が、任意選択で少なくとも1つのペプチドリンカーを介して、繋がれている、実施態様29から41のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0389】
43.VLドメインが、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、アンカー膜貫通部のN末端に繋がれている、実施態様10から42のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0390】
44.VHドメインが、C末端で、任意選択でペプチドリンカーを介して、VLドメインのN末端に繋がれている、実施態様10から43のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0391】
45.抗原結合受容体が共シグナル伝達ドメインを1つ含み、共シグナル伝達ドメインが、N末端で、アンカー膜貫通ドメインのC末端に繋がれている、実施態様29から44のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0392】
46.抗原結合受容体が、刺激性シグナル伝達ドメイン1つを更に含み、刺激性シグナル伝達ドメインは、N末端で、共刺激性シグナル伝達ドメインのC末端に繋がれている、実施態様45に記載の抗原結合受容体。
【0393】
47.抗原結合部分が、配列番号136のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、実施態様1から46のいずれか一項に記載の抗原結合受容体。
【0394】
48.配列番号136のアミノ酸配列を含む抗原結合受容体。
【0395】
49.実施態様1から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド。
【0396】
50.実施態様49に記載の単離ポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチド。
【0397】
51.実施態様49に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、特に発現ベクター。
【0398】
52.実施態様49に記載のポリヌクレオチド又は実施態様51に記載のベクターを含む、形質導入されたT細胞。
【0399】
53.実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞。
【0400】
54.キットであって、
(A)実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる、形質導入されたT細胞;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【0401】
55.キットであって
(A)実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体をコードする単離ポリヌクレオチド;及び
(B)標的細胞抗原に結合する抗体であって、EU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体
を含むキット。
【0402】
56.Fcドメインが、IgG1又はIgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである、実施態様54又は55に記載のキット。
【0403】
57.標的細胞抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される、実施態様54から56のいずれか一項に記載のキット。
【0404】
58.医薬としての使用のための、実施態様54から57のいずれか一項に記載のキット。
【0405】
59.抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞が、標的細胞抗原に、特にがん細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与される、医薬としての使用のための、実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体又は実施態様52又は53に記載の形質導入されたT細胞。
【0406】
60.疾患の治療における使用のため、特にがんの治療における使用のための、実施態様54から58のいずれか一項に記載のキット。
【0407】
61.治療が、抗原結合受容体を発現する形質導入されたT細胞を、がん細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の投与の前、それと同時又はその後に投与することを含む、がんの治療における使用のための実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体又は実施態様52若しくは53に記載の形質導入されたT細胞。
【0408】
62.前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、実施態様52又は53に記載の抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又は使用のためのキット。
【0409】
63.がん細胞抗原が、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される、実施態様61又は62に記載の抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又は使用のためのキット。
【0410】
64.形質導入されたT細胞が、治療される対象から単離された細胞に由来する、実施態様61から63のいずれか一項に記載の抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又は使用のためのキット。
【0411】
65.形質導入されたT細胞が、治療される対象から単離された細胞に由来しない、実施態様61から64のいずれか一項に記載の抗原結合受容体、形質導入されたT細胞又は使用のためのキット。
【0412】
66.対象における疾患を治療する方法であって、実施態様9から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞を対象に投与することと、標的細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の治療的有効量を、形質導入されたT細胞の投与の前、投与と同時又は投与の後に投与することとを含む方法。
【0413】
67.対象からT細胞を単離することと、該単離T細胞に実施態様49に記載のポリヌクレオチド又は実施態様51に記載のベクターを形質導入することによって形質導入されたT細胞を生成することを追加的に含む、実施態様66に記載の方法。
【0414】
68.T細胞が、レトロウイルス若しくはレンチウイルスベクターコンストラクト、又は非ウイルスベクターコンストラクトで形質導入される、実施態様67に記載の方法。
【0415】
69.形質導入されたT細胞が、静脈内注入によって対象に投与される、実施態様66から68のいずれか一項に記載の方法。
【0416】
70.形質導入されたT細胞を、対象への投与の前に、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体と接触させる、実施態様66から69のいずれか一項に記載の方法。
【0417】
71.形質導入されたT細胞を、対象への投与前に少なくとも1つのサイトカインと接触させ、好ましくはインターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(IL-15)及び/若しくはインターロイキン-21又はこれらのバリアントと接触させる、実施態様66から70のいずれか一項に記載の方法。
【0418】
72.疾患ががんである、実施態様66から71のいずれか一項に記載の方法。
【0419】
73.がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、実施態様72に記載の方法。
【0420】
74.標的細胞の溶解を誘導する方法であって、標的細胞抗原に結合し且つEU番号付けによるアミノ酸変異P329Gを含むFcドメインを含む抗体の存在下で、標的細胞を、実施態様9から50のいずれか一項に記載の抗原結合受容体を発現することができる形質導入されたT細胞と接触させることを含む、方法。
【0421】
75.標的細胞ががん細胞である、実施態様74に記載の方法。
【0422】
76.標的細胞は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、がん胎児性抗原(CEA)、メソテリン(MSLN)、CD20、葉酸受容体1(FOLR1)及びテネイシン(TNC)から成る群より選択される抗原を発現する、実施態様74又は75に記載の方法。
【0423】
77.医薬の製造のための、実施態様1から48のいずれか一項に記載の抗原結合受容体、実施態様49に記載のポリヌクレオチド又は実施態様52若しくは53に記載の形質導入されたT細胞の使用。
【0424】
78.医薬ががんの治療のためのものである、実施態様77の使用。
【0425】
79.前記がんが、上皮、内皮又は中皮由来のがん及び血液のがんから選択される、実施態様78に記載の使用。
【0426】
80.上に記載された発明。
【0427】
これら及びその他の実施態様は、本発明の説明及び実施例によって開示され、包含される。本発明に従って採用される抗体、方法、使用及び化合物のいずれか1つに関する更なる文献は、例えば電子機器を使用して公共の図書館及びデータベースから検索することができる。例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlから、例えばインターネット上で公開されている公共データベース「Medline」を利用することができる。更なるデータベース及びアドレス、例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/、http://www.infobiogen.fr/、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、http://www.tigr.org/などが当業者に知られており、例えばhttp://www.lycos.comからアクセス可能である。
【0428】
例示的な配列
【0429】
【0430】
【0431】
【0432】
【0433】
【0434】
【0435】
【0436】
【0437】
【0438】
【0439】
【0440】
【0441】
【0442】
【実施例
【0443】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0444】
組換えDNA技術
標準的な方法を用いて、Sambrook et al.,Molecular cloning: A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989に記載されているように、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造者の指示書に従って使用した。ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat,E.A.et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5thed.,NIH Publication No.91-3242に記載されている。
【0445】
DNA配列決定
DNA配列は、二本鎖配列決定により決定された。
【0446】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、必要に応じて、適切なテンプレートを用いてPCRによって生成するか、又は自動化された遺伝子合成による合成オリゴヌクレオチド及びPCR生成物からGeneart AG(ドイツ、レーゲンズブルク)により合成した。正確な遺伝子配列が入手可能でない場合、最も近いホモログ由来の配列に基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、適切な組織を起源とするRNAからRT-PCRによって遺伝子を単離した。特異な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接する遺伝子セグメントを、標準のクローニング/シーケンシングベクター中にクローニングした。形質転換した細菌からプラスミドDNAを精製し、UV分光法により濃度を決定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。遺伝子セグメントは、それぞれの発現ベクター中へのサブクローニングを可能にする適切な制限部位を用いて設計された。全てのコンストラクトは、真核細胞における分泌のためのタンパク質を標的とするリーダーペプチドをコードする、5’末端DNA配列を使用して設計された。
【0447】
HEK293 EBNA又はCHO EBNA細胞におけるIgG様タンパク質の製造
抗体及び二重特異性抗体を、HEK293 EBNA細胞又はCHO EBNA細胞への一過性トランスフェクションにより作製した。細胞を遠心分離し、培地を、予熱したCD CHO培地(Thermo Fisher製、カタログ番号10743029)に交換した。発現ベクターをCD CHO培地中で混合し、PEI(ポリエチレンイミン、Polysciences社製、カタログ番号23966-1)を加え、その溶液をボルテックスして室温で10分間インキュベートした。その後、細胞(2Mio/ml)を、ベクター/PEI溶液と混合してフラスコに移し、5%CO2雰囲気で振盪インキュベーター中37℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後、補充液(総量の80%)を含むExcell培地を添加した(W. Zhou and A. Kantardjieff, Mammalian Cell Cultures for Biologics Manufacturing, DOI: 10.1007/978-3-642-54050-9; 2014)。トランスフェクションの翌日、補充液(Feed、総量の12%)を添加した。7日後、遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により細胞上清を回収し、以下に示す標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0448】
CHO K1細胞におけるIgG様タンパク質の製造
代替的には、本明細書に記載の抗体及び二重特異性抗体は、Evitria社により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。作製にあたっては、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を用いた。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により上清を回収し、標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0449】
IgG様タンパク質の精製
標準的なプロトコルを参照して、濾過された細胞培養上清からタンパク質を精製した。端的に言えば、Fc含有タンパク質を、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー(平衡化バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5;溶出バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、pH3.0)によって、細胞培養上清から精製した。pH3.0で溶出した後、直ちに試料のpHを中和した。遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15(Art.Nr.:UFC903096)によりタンパク質を濃縮し、凝集したタンパク質を、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0のサイズ排除クロマトグラフィーにより、単量体タンパク質から分離した。
【0450】
IgG様タンパク質の分析
Pace,et al.,Protein Science,1995,4,2411-1423によるアミノ酸配列に基づき計算した質量消散係数を用いて、280nmにおける吸収を測定することにより、精製したタンパク質の濃度を決定した。LabChipGXII又はLabChip GX Touch(パーキンエルマー)(パーキンエルマー)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下にて、CE-SDSにより、タンパク質の純度及び分子量を分析した。凝集体含量の測定を、ランニングバッファー(200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2、0.02%NaN3)で平衡化した分析用サイズ排除カラム(TSKgel G3000 SW XL又はUP-SW3000)を使用して、25℃でのHPLCクロマトグラフィーで実施した。
【0451】
レンチウイルス上清の調製とJurkat-NFAT細胞への形質導入
リポフェクタミンLTXTMベースのトランスフェクションを、約80%コンフルエントのHek293T細胞(ATCC CRL3216)と、CARをコードするトランスファーベクターと、パッケージングベクターpCAG-VSVG及びpsPAX2とを2:2:1のモル比で使用して実施した(Giry-Laterriere M, et al Methods Mol Biol. 2011;737:183-209, Myburgh R, et al Mol Ther Nucleic Acids. 20144)。66時間後、上清を回収し、350×gで5分間遠心分離した後、0.45μmのポリエーテルスルホンフィルターで濾過し、ウイルス粒子を採取及び精製した。ウイルス粒子は、そのまま使用するか、又は濃縮して(Lenti-x-Concentrator、Takara)、Jurkat NFAT T細胞のスピンフェクション(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501、900×g、2時間、31℃)に使用した。
【0452】
Jurkat NFAT活性化アッセイ
Jurkat NFAT活性化アッセイは、ヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)のT細胞活性化を測定するものである。この不死化T細胞株は、NFAT応答エレメント(NFAT-RE)により駆動されるルシフェラーゼレポーターを安定的に発現するように遺伝子操作されている。更に、該細胞株は、CD3zシグナル伝達メインを有するキメラ抗原受容体(CAR)コンストラクトを発現する。CARと固定化されたアダプター分子(腫瘍抗原結合アダプター分子など)との結合により、CARの架橋が起こり、T細胞活性化とルシフェラーゼの発現に至る。基質の添加後、NFAT活性の細胞内変化を相対光単位として測定することができる(Darowski et al. Protein Engineering, Design and Selection, Volume 32, Issue 5, May 2019,207-218頁, https://doi.org/10.1093/protein/gzz027)。概して、このアッセイは384プレート(ファルコン #353963 白、透明底)で行われた。標的細胞(CAR-Jurkat-NFAT細胞)とエフェクター細胞を1:5の比率(標的細胞2000個、エフェクター細胞10000個)で10μlずつ、RPMI-1640+10%FCS+1%Glutamax(増殖培地)に3連で播種した。増殖培地で更に、目的の抗体の段階希釈液を、アッセイプレートで最終濃度が67nMから0.000067nM、最終体積が1ウェルあたり合計30μlとなるように調製した。384ウェルプレートを300g、室温で1分間遠心分離し、37℃、5%COで、湿度雰囲気中インキュベートした。7時間のインキュベーション後、最終体積の20%のONE-GloTMLuciferase Assay(E6120、Promega)を加え、プレートを350×gで1分間遠心分離した。その後、Tecan社製マイクロプレートリーダーを用いて、秒/ウェルあたりの相対発光単位(RLU)を直ちに測定した。GraphPadPrismバージョン7を用いて、濃度反応曲線をフィッティングさせ、EC50値を算出した。p値として、GraphPadPrism 7に記載されているNew England Journal of Medicineスタイルを使用した。はP≦0,033;**はP≦0,002;***はP≦0,001を意味する。
【0453】
実施例1
ヒト化抗P329G抗体の作製及び特性評価
親抗P329G抗体及びヒト化抗P329G抗体をHEK細胞内に作製し、ProteinAアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。全ての抗体は、高品質で精製された(表2)。
【0454】
【0455】
抗P329Gバインダー M-1.7.24の親型及び6種類のヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
器具類:Biacore T200
チップ:CM5(#772)
Fc1~4:抗ヒトFab特異的(GEヘルスケア 28-9583-25)
捕捉:50nM IgG、60秒
アナライト:ヒトFc(P329G)(P1AD9000-004)
ランニングバッファー:HBS-EP
T°:25℃
希釈:HBS-EPで2倍希釈 0.59~37.5nM
フロー:30μl/分
会合:240秒
解離:800秒
再生:10mM グリシン pH2.1 2x60秒
【0456】
SPR実験は、Biacore T200で、HBS-EP+をランニングバッファーとして(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005%Surfactant P20(BR-1006-69、GEヘルスケア))を使用して実施された。抗ヒトFab特異抗体(GEヘルスケア 28-9583-25)は、CM5チップ(GEヘルスケア)上にアミンカップリングにより直接固定化された。IgGを、50nMで60秒間捕捉した。ヒトFc(P329G)の2倍希釈系列を、30μl/分で240秒間リガンド上を通過させ、会合相を記録した。解離相を、800秒間モニターし、試料溶液からHBS-EP+へと切り替えることによってトリガーした。チップ表面は、10mMグリシンpH2.1の60秒の注入を2回行うことにより、各サイクル後に再生された。バルク屈折率差を、参照フローセル1で得られた応答を差し引くことによって補正した。親和定数を、Biaevalソフトウェア(GEヘルスケア)を使用して、1:1ラングミュア結合へのフィッティングによって速度定数から導出した。測定は、独立した希釈系列でトリプリケートで行われた。
【0457】
以下の試料について、ヒトFc(P329G)との結合を解析した(表3)。
【0458】
【0459】
ヒトFc(P329G)は、ヒトIgG1のプラスミン消化と、続いてProteinAによるアフィニティー精製及びサイズ排除クロマトグラフィーによって調製された。
【0460】
抗P329Gバインダー M-1.7.24の親型及び6種類のヒト化バリアントのヒトFc(P329G)への結合
解離相を1本の曲線に当てはめ、オフレートを特徴づけるのに役立てた。結合と捕捉反応レベルの比率を算出した。(表4)
【0461】
【0462】
抗P329G結合剤M-1.7.24の親型及び3種類のヒト化変異体のヒトFc(P329G)に対する親和性
親と同様の結合パターンを持つ3種類のヒト化バリアントを、より詳細に評価した。1:1のラングミュア結合の速度定数を表5にまとめた。
【0463】
【0464】
結論
6種類のヒト化バリアントを作製した。そのうちの3種類(VH4VL1、VH1VL2、VH1VL3)が、親M-1.7.24と比較して低下したヒトFc(P329G)への結合を示した。他の3種類のヒト化バリアント(VH1VL1、VH2VL1、VH3VL1)は、親バインダーと非常に似た結合反応速度を示し、ヒト化によって親和性が失われることはなかった。
【0465】
実施例2
ヒト化抗P329G抗原結合受容体の調製
ヒト化P329Gバリアントの機能性を評価するために、P329G Fc変異に特異的なバインダーをコードする重鎖(VH)と軽鎖(VL)の異なる可変ドメインDNA配列を一本鎖可変断片(scFv)結合部分としてクローニングし、第二世代キメラ抗原受容体(CAR)の抗原結合ドメインとして使用した。
【0466】
P329Gバインダーの異なるヒト化バリアントは、Ig重鎖可変メインドメイン(VL)とIg軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでいる。VHとVLは(G4S)4リンカーを介して繋がれている。scFv抗原結合ドメインは、細胞内共刺激性シグナル伝達ドメイン(CSD)CD137(Uniprot Q07011AA 214-255)に融合しており、ひいては刺激性シグナル伝達ドメイン(SSD)CD3ζ(Uniprot P20963 AA 52-164)に融合しているアンカー膜貫通ドメイン(ATD)CD8a(Uniprot P01732[183-203])に融合した。抗P329G CARのscFvは、VHxVL(図1A)又はVLxVH(図1B)の2つの異なる配向で構築された。例示的な発現コンストラクト(GFPレポーターを含む)の図形表現を、VHVL構成については図1Cに、VLVH構成については図1Dに示す。
【0467】
実施例3
Jurkat-NFAT細胞における抗P329G抗原結合受容体の発現
異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体をJurkat(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)細胞へウイルス形質導入した。
【0468】
抗P329G抗原結受容体の発現をフローサイトメトリーで評価した。異なるヒト化抗P329G抗原結合受容体を使用したJurkat細胞を採取し、PBSで洗浄後、96ウェル平底プレートに1ウェルあたり50.000細胞で播種した。FcドメインにP329G変異を含む異なる濃度(500nM~0nM 1:5の段階希釈)の抗体を用いて暗所冷蔵庫(4~8℃)内で45分間染色した後、試料をFACSバッファー(2%FBS、10%0.5M EDTA、pH8及び0.5g/L NaN3を含有するPBS))で3回洗浄した。その後、試料を2.5μg/mLポリクローナル抗ヒトIgG Fcγ断片特異的且つPEコンジュゲートAffiniPure F (ab’)2ヤギ断片抗体で30分間、暗所冷蔵庫内で染色し、フローサイトメトリー(Fortessa BD)で分析した。更に、抗P329G抗原結合受容体は、細胞内GFPレポーターを含んでいた(図1C参照)。
【0469】
P329Gバインダーのヒト化型(VH1VL1、VH2VL1、VH3VL1)と比較して、オリジナルの非ヒト化バインダーは細胞表面で弱いCAR標識化を示すが(図2A)、GFP発現量は同等である。興味深いことに、VL1VH1コンストラクト(図1D参照)は細胞表面で高いGFP発現量を示すが、弱いCAR標識化も示し、これはバインダーの好ましくないコンフォメーション(confirmation)であることを示している。
【0470】
全体として、予想外に、VH3VL1バージョンは、最も高いGFP発現とCAR表面発現を示す。更に、VHVLコンフォメーション(confirmation)の試験された全てのコンストラクト(VH1VL1、VH2VL1、VH3VL1)は、Jurkat T細胞に形質導入すると、元の非ヒト化P329G抗原結合受容体、更には興味深いことにVLVHコンフォメーション(confirmation)のコンストラクト(VL1VH3)と比較して、増強されたGFPシグナルを示す。
【0471】
結論として、VHVLコンフォメーション(confirmation)は、抗原結合受容体の発現レベル及び細胞表面への正確な標的化に有利であると思われる。
【0472】
更に、ヒト化抗P329G抗原結合受容体の選択性、特異性及び安全性を特徴づけるために、様々な試験を実施した。
【0473】
実施例4
FcドメインにP329G変異を含む標的抗体の存在下での特異的なT細胞活性化
様々なヒト化抗P329G-scFvバリアントの非特異的結合を除外するために、これらのバリアントを含む抗原結合受容体を発現するJurkat NFAT細胞の活性化を、CD20陽性WSUDLCL2標的細胞及び様々なFcバリアント(Fc野生型、Fc P329G変異、LALA変異、D246A変異又はそれらの組み合わせ)を有する抗CD20(GA101)抗体の存在下で評価した。CAR-Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施し、抗CD20(GA101)野生型IgG1(図3A)、抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(図3B)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(図3D)、抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(図3F)又は非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(図3E)を用いて、非特異結合の可能性を評価した。抗CD20(GA101)野生型IgG1(図3A)、抗CD20(GA101)LALA IgG1(図3D)、非特異的DP-47 P329G LALA IgG1(図3E)では、非特異的抗P329G CAR活性化は検出できなかった。
【0474】
抗CD20(GA101)P329G LALA IgG1(図3B)及び抗CD20(GA101)D246A P329G IgG1(図3F)の存在下で、特異的な抗P329G CAR活性化が検出された。評価されたEC50は、全てのヒト化抗P329Gバリアント間で同等であり、元のバインダーのEC50と異なることはなかった。
【0475】
興味深いことに、VHVLコンフォメーションのscFvバインダーを含む抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHコンフォメーションのヒト化バインダーと比べて、Jurkat NFAT T細胞の強い活性化をもたらす。より高いプラトー(例えば図3F参照)は、発現レベルの向上及び/又は抗原結合受容体による細胞表面への輸送の促進により、より強い活性化がもたらされたためと考えられる。更に、このコンフォメーションはP329G変異との結合に影響を与え得る。
【0476】
T細胞のトニックシグナル伝達又は非特異的な活性化をもたらす抗原結合ドメインクラスター化のリスクを調べるため、Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施したが、使用する初期抗体濃度を上げ、100nMのGA101 P329G LALA IgG1で段階希釈を開始し、更に標的細胞は播種しなかった。
【0477】
図3Cに描かれているように、試験した全てのヒト化P329Gバリアントで活性化が検出されなかったことは、標的細胞の非存在下で検出可能な受容体クラスタリング又は非特異的な活性化を示している。
【0478】
実施例5
様々なレベルの抗原を発現する標的細胞に対するT細胞活性化により評価した、様々なヒト化P329G抗原結合受容体バリアントの感度
ヒト化抗P329G抗原結合受容体の感度と選択性を更に特徴づけるために、Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施した。
【0479】
様々なヒト化抗P329G-scFvバリアント抗原結合受容体を発現するJurkat NFATレポーター細胞は、高(HeLa-FolR1)、中(Skov3)、低(HT29)FolR1陽性標的細胞を識別する能力について評価した。Jurkat-Reporter細胞株において、抗P329G結合体の様々なバリアントをscFv抗原認識足場として、FolR1に対して高親和性(16D5)(図4A、D、G)、中親和性(16D5 W96Y)(図4B、E、H)又は低親和性(16D5 G49S/K53A)(図4C、F、I)を呈する抗体と組み合わせて使用した。高抗FolR1 16D5(図4A)、中抗FolR1 16D5 W96Y(図4B)及び低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(図4C)と組み合わせた高発現標的細胞であるHeLa-FolR1は、用量依存的活性化を示した。高抗FolR1 16D5(図4D)、中抗FolR1 16D5 W96Y(図4E)、低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(図4F)と組み合わせた中発現標的細胞であるSkov3は、用量依存的活性化を示した。様々な親和性バインダー抗FolR1 16D5(図4G)、抗FolR1 16D5 W96Y(図4H)又は低親和性アダプター-IgG抗FolR1 G49S K53A(図4I)と組み合わせた低発現標的細胞であるHT29については、シグナルは全く検出されなかった。更に、興味深いことに、VHVLフォーマットの抗原結合受容体は、元の非ヒト化バインダー及びVLVHフォーマットのヒト化バインダーと比較して強いJurkat NFAT T細胞の活性化をもたらす。ヒト化バリアントVH3VL1 scFvバインダーは、全てのコンストラクトの中で最も高いシグナル強度をもたらす(図4A-F)。
【0480】
更に、抗FolR1 16D5 P329G LALA IgG1(図5)又は抗HER2 P329G LALA IgG1(図6)のいずれかと組み合わせて用いたHeLa(FolR1及びHER2)細胞について、Jurkat NFAT活性化アッセイを実施した。いずれも、VLVH配向よりもVHVL配向の方が優れているという知見を確かめるものである。ヒト化バリアントVH3VL1が、Jurkat NFAT T細胞の最も強い活性化をもたらす。
【0481】
実施例6
FcドメインにP329G変異を含む標的抗体と腫瘍細胞分泌性プロテアーゼの存在下でのマスクされたCAR T細胞の活性化
マスクされたP329G CAR T細胞の選択的活性化を試験するために、プロテアーゼを分泌する腫瘍細胞の存在下でJurkat NFAT活性化アッセイを実施した。本アッセイは上記のように実施され、それによってHeLa(FolR1)標的細胞と抗FolR1(16D5)IgG1 P329G LALA IgG1は最終体積35μlで濃度60nMか6nMのいずれかで使用された。コントロールとして、非特異的DP47 P329G LALA IgG1を使用した。エフェクター細胞として、切断可能なリンカー又は非切断性リンカーを持つマスクされた抗P329G CARを使用した。ポジティブコントロールとして、1:80に希釈したマトリプターゼ(Enzo製ALX-201-246-U250)を添加した(図9)。切断可能なリンカーを持つマスクされた抗P329G CAR T細胞が共培養で活性化を示すがこれは、HeLa細胞がプロテアーゼを分泌し、プロテアーゼが該リンカーを切断することでCARのマスクが外れ、CAR T細胞が活性化されることを示している。マスクが非切断性リンカーで結合されている抗P329G CARは活性化を示さず、このことは、抗P329G CAR結合部位を適切にカバーしていることを示す。更に、非特異的抗DP47 P329G LALA IgG1はCARの活性化を示さず、このことは、特異的活性化は標的抗体の存在下でのみであることを示す(図9)。
【0482】
図10A及びBでは、LnCAP(PSMA、EpCAM)標的細胞を抗PSMA(図10A)又は抗EpCam P329G LALA IgG1(図10B)と組み合わせてエフェクター対標的細胞比1:1で使用した場合の、car Jurkat NFAT活性化を示している。非切断性マスクを持つエフェクター細胞は、マスクされた抗P329G CAR T細胞の活性化を示さなかった。抗EpCAM抗体と組み合わせた切断可能なマスクを持つエフェクター細胞は、CAR T細胞の用量依存的活性化を示した(図10B)。マスクした抗P329G CARを更にプロテアーゼで処理した場合、抗PSMA P329G LALA IgG 1又は抗EpCAM P329G LALA IgG1を用いたときに用量依存活性化が見られた(図10A及びB)。
【0483】
実施例7
乳腺腫瘍患者由来異種移植片試料におけるマスクされたCAR T細胞の活性化について
がん患者由来異種移植片HER2+ ER-異種移植片モデルBC_004細胞(PDX)(OncoTest、ドイツ、フライブルク)について、HER2及びFolR1の発現を解析した。フローサイトメトリー解析を上記のように実施した。そこで、抗FolR1(16D5)P329G LALA IgG1及びHer2(ペルツズマブ)P329G LALA IgG1を用いて、腫瘍細胞上に発現した標的に結合させた(bin)。非標的結合コントロールとして、DP47 P329G LALA IgG1を使用した。上記のように細胞を洗浄した後、蛍光標識した二次抗体を用いて標的結合抗体を検出した。フローサイトメトリー解析は、細胞表面にHER2及びFolR1の発現を確認した(図11A)。それらのPDX細胞を標的細胞として使用して、Jurkat NFAT活性化アッセイを上記のように実施した。該アッセイは96ウェルプレートでE:T比10:1で実施した。抗体として抗FolR1(16D5)P329G LALA IgG1を用い、切断可能なマスクを持つ抗P329G CAR T細胞が活性化されることにより、非切断性マスクは活性化を防ぐことができることが示された(図11B)。
図1A-B】
図1C-D】
図2
図3A-C】
図3D-F】
図4A-C】
図4D-F】
図4G-I】
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
【配列表】
2023547447000001.app
【国際調査報告】