(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】疾患の治療におけるヒト血清アルブミンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/38 20060101AFI20231102BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231102BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231102BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231102BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231102BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K38/38
A61P3/10
A61P3/04
A61P9/10 101
A61P25/28
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526318
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 CN2021127957
(87)【国際公開番号】W WO2022089639
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】202011200484.6
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518389990
【氏名又は名称】シェンチェン、プロトゲン、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROTGEN LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ヨンチァン
(72)【発明者】
【氏名】フー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ホンイ
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,アンジ
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジアゾ
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,イー
(72)【発明者】
【氏名】マー,ボユアン
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,シャオチン
(72)【発明者】
【氏名】フェン,ユー
(72)【発明者】
【氏名】チャン,グオドン
(72)【発明者】
【氏名】リー,フイ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA36
4C084CA53
4C084DA36
4C084DA37
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA45
4C084ZA70
4C084ZC35
(57)【要約】
糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの疾患を治療するための医薬品の製造におけるヒト血清アルブミンの使用を提供する。好ましい実施形態において、前記ヒト血清アルブミンは、組換えにより製造された若い無傷ヒト血清アルブミンであり、糖尿病患者の血糖値などの低下に優れた効果を奏する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される疾患を治療するための医薬品の製造におけるヒト血清アルブミンの使用。
【請求項2】
前記ヒト血清アルブミンは、ヒト血液で製造されたヒト血清アルブミンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ヒト血清アルブミンは、若い無傷ヒト血清アルブミンである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
若い個体の血漿で製造された内因性ヒト血清アルブミン製剤と比較した場合、
前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Cys-34残基における遊離チオールの割合が高く、(2)終末糖化産物(AGE)のレベルが低く、(3)カルボニル化のレベルが低く、及び(4)ホモシステイン化のレベルが低いという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Ellman方法で測定されたCys-34残基における遊離チオールの割合が50%超、例えば70%、特に80%、好ましくは90%、より好ましくは95%であり、
(2)ELISA(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)で測定された終末糖化産物(AGE)のレベルが60μg/gタンパク質未満、好ましくは40μg/gタンパク質未満、より好ましくは30μg/gタンパク質未満であり、
(3)Protein Carbonyl Content Assay Kitキットにより測定されたカルボニルのレベルが1.7nmol/mgタンパク質未満、好ましくは1.5nmol/mgタンパク質未満であり、及び
(4)ELISA(Jianglai、JL10022)で測定されたホモシステインのレベルが5nmol/gタンパク質未満、好ましくは3.5nmol/gタンパク質未満、より好ましくは2nmol/gタンパク質未満であるという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超える、請求項3~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満である、請求項3~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満である、請求項3~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である、請求項3~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超え、AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満、カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満、ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である、請求項3~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記ヒト血清アルブミンは組換えにより生産される、請求項3~10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
治療有効量のヒト血清アルブミンを被験者に投与することを含み、前記疾患は、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される、疾患を治療する方法。
【請求項13】
糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される疾患を治療するためのヒト血清アルブミンの使用。
【請求項14】
疾患を治療するための医薬組成物の使用であって、
前記医薬組成物は、ヒト血清アルブミンと、薬学的に許容される担体と、を含み、前記疾患は、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される、使用。
【請求項15】
前記ヒト血清アルブミンは、ヒト血液で製造されたヒト血清アルブミンである、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項16】
前記ヒト血清アルブミンは、若い無傷ヒト血清アルブミンである、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項17】
若い個体の血漿で製造された内因性ヒト血清アルブミン製剤と比較した場合、
前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Cys-34残基の遊離チオールの割合が高く、
(2)終末糖化産物(AGE)のレベルが低く、
(3)カルボニル化のレベルが低く、及び
(4)ホモシステイン化のレベルが低いという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す、請求項16に記載の方法又はその使用。
【請求項18】
前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Ellman方法で測定されたCys-34残基における遊離チオールの割合が50%超、例えば70%、特に80%、好ましくは90%、より好ましくは95%であり、
(2)ELISA(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)で測定された終末糖化産物(AGE)のレベルが60μg/gタンパク質未満、好ましくは40μg/gタンパク質未満、より好ましくは30μg/gタンパク質未満であり、
(3)Protein Carbonyl Content Assay Kitキットにより測定されたカルボニルのレベルが1.7nmol/mgタンパク質未満、好ましくは1.5nmol/mgタンパク質未満であり、
(4)ELISA(Jianglai、JL10022)で測定されたホモシステインのレベルが5nmol/gタンパク質未満、好ましくは3.5nmol/gタンパク質未満、より好ましくは2nmol/gタンパク質未満であるという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す、請求項16に記載の方法又は使用。
【請求項19】
Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超える、請求項16~18のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項20】
前記AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満である、請求項16~19のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項21】
カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満である、請求項16~20のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項22】
ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項23】
Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超え、AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満、カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満、ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である、請求項16~22のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項24】
前記ヒト血清アルブミンは組換えにより生産される、請求項16~13のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2020年10月30日に出願された中国特許出願CN202011200484.6の優先権を主張しており、当該出願のすべての内容は引用により本明細書に組み込んでいる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、バイオ医薬の分野に関し、より具体的には、糖尿病、アルツハイマー病などの治療におけるヒト血清アルブミンの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin、略してHSA;CAS:70024-90-7)はヒト血漿中の重要な成分であり、分子量は66kDである。ヒト血清アルブミンは、血漿中の濃度が42g/Lであり、血漿中のタンパク質総含有量の60%を占めている。重要なキャリアタンパク質として、ヒト血清アルブミンは脂肪酸、胆汁色素、アミノ酸、ステロイドホルモン、金属イオン、多くの治療分子などを輸送する役割を担い、また、血液の正常な浸透圧を維持する。臨床では、ヒト血清アルブミンは血漿相溶化剤として、手術、事故あるいは大出血による血液損失を補充するのに用いられる。
【0004】
近年、血液由来の不足と血液伝染病のリスクの存在により、組換えヒト血清アルブミンは日増しに注目されている。ヒト血清アルブミンの臨床投与量は非常に多く、1日10グラムから数十グラムに達し、応用の将来性が期待できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、驚くことに、ヒト血清アルブミン、特に若い無傷組換えヒト血清アルブミンが、多くの疾患に対して明らかな治療効果を有することを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される疾患を治療するための医薬品の製造におけるヒト血清アルブミンの使用を提供する。
【0007】
本発明は、また、治療有効量のヒト血清アルブミンを被験者に投与することを含み、前記疾患は、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される、疾患を治療する方法を提供する。
【0008】
本発明は、また、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される疾患を治療するためのヒト血清アルブミンの使用を提供する。
【0009】
本発明は、また、疾患を治療するための医薬組成物の使用であって、
前記医薬組成物は、ヒト血清アルブミンと、薬学的に許容される担体と、を含み、前記疾患は、糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病からなる群から選択される、使用を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、また、被験者の血糖値を調節する方法、及び被験者の血液中の遊離脂肪酸又はコレステロールのレベルを調節する方法であって、有効量のヒト血清アルブミンを被験者に投与することを含む方法を提供する。前記被験者は、健康な被験者であってもよいし、糖尿病又はアテローム性動脈硬化症のような疾患に罹患している被験者であってもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記ヒト血清アルブミンは、ヒト血液で製造されたヒト血清アルブミンである。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記ヒト血清アルブミンは、若い無傷ヒト血清アルブミンである。
【0013】
好ましくは、若い個体の血漿で製造された内因性ヒト血清アルブミン製剤と比較した場合、前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Cys-34残基の遊離チオールの割合が高く、
(2)終末糖化産物(AGE)のレベルが低く、
(3)カルボニル化のレベルが低く、及び
(4)ホモシステイン化のレベルが低いという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す。
【0014】
好ましくは、前記若い無傷ヒト血清アルブミンは、
(1)Ellman方法で測定されたCys-34残基における遊離チオールの割合が50%超、例えば70%、特に80%、好ましくは90%、より好ましくは95%超であり、
(2)ELISA(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)で測定された終末糖化産物(AGE)のレベルが60μg/gタンパク質未満、好ましくは40μg/gタンパク質未満、より好ましくは30μg/gタンパク質未満であり、
(3)Protein Carbonyl Content Assay Kitキットで測定されたカルボニルのレベルが1.7nmol/mgタンパク質未満、好ましくは1.5nmol/mgタンパク質未満であり、及び
(4)ELISA(Jianglai、JL10022)で測定されたホモシステインのレベルが5nmol/gタンパク質未満、好ましくは3.5nmol/gタンパク質未満、より好ましくは2nmol/gタンパク質未満であるという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超え、AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満、カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満、ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である。
【0016】
好ましくは、前記ヒト血清アルブミンは組換えにより生産される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】II型糖尿病マウスの血糖の変化を示している。Fasting glycemiは空腹時血糖、injectionは矢印で一回注射投与を指すもの、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、WTは野生型マウス、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Saline WTとrMSA WT群は、マウス5匹ずつとし、Saline dbとrMSA db群は、マウス7匹ずつとした。Error barはSEMを表す。
【
図1B】マウスの膵臓切片のHE染色結果を示している。Beta cell failureは膵島β細胞不全、No beta cell failureは膵島β細胞不全無し、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、dbはII型糖尿病モデルマウスである。
【
図1C】2群のマウスで膵島β細胞不全が発生した割合を示している。*は、フィッシャー正確検定を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、dbはII型糖尿病モデルマウスである。
【
図1D】dbマウスの膵臓切片のHE染色とセグメントの結果を示している。H&EはHE染色、Segmentはセグメント、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。
【
図1E】膵臓全体に占めるマウスの膵島面積の割合を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、WTは野生型マウス、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Error barはSEMを表す。
【
図1F】マウスの膵島の相対的な大きさを示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、WTは野生型マウス、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Error barはSEMを表す。
【
図1G】dbマウスの膵臓切片の免疫蛍光及びTUNEL染色結果を示している。Insulinはインシュリン、TUNELは末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼを介したニックエンド標識、DAPIはジアミノフェニルインドール、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。
【
図1H】dbマウスの膵臓切片においてinsulin陽性細胞に占めるTUNEL陽性細胞の割合を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Error barはSEMを表す。
【
図1I】dbマウスの膵臓切片のCC3免疫蛍光染色結果を示している。Insulinはインシュリン、CC3はカットされたカスパーゼ3、MergeはInsulin(図中赤)、CC3(図中緑)、DAPI(ジアミノフェニルインドール、図中青)の統合画像を含むもの、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。
【
図1J】dbマウスの膵臓切片においてinsulin陽性細胞に占めるCC3陽性細胞の割合を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。Error barはSEMを表す。
【
図1K】マウスのブドウ糖負荷試験結果を示している。Blood glucoseは血糖、timeは時間、minは分、Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、WTは野生型マウス、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Error barはSEMを表す。
【
図1L】
図4Kの曲線下面積を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、WTは野生型マウス、dbはII型糖尿病モデルマウスである。Error barはSEMを表す。
【
図1M】dbマウスの総重量に占める脂肪質量の割合を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。Error barはSEMを表す。
【
図1N】dbマウスの総重量に占める筋肉質量の割合を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群である。Error barはSEMを表す。
【
図1O】II型糖尿病患者の血糖の変化を示している。Fasting glycemiは空腹時血糖、injectionは矢印で一回注射投与を指すものである。Error barはSEMを表す。
【
図2A】rHSA(Protgen社)のFFA結合能を示している。
【
図2B】2つのHSA製剤におけるFFA含有量の比較を示している。pHSAは市販の血液由来HSA製剤、rHSAは組換えHSA製剤(Protgen社)である。Error barはSEMを表す。
【
図3A】rHSA(Protgen社)がコレステロールに結合した蛍光発光スペクトルを示している。
【
図3B】市販の血液由来HSA-1がコレステロールに結合した蛍光発光スペクトルを示している。
【
図3C】市販の血液由来HSA-2がコレステロールに結合した蛍光発光スペクトルを示している。
【
図4A】2つのHSA製剤のAβペプチドセグメントへの凝集抑制能力を示している。RFUは相対蛍光単位、pHSAは血液由来HSA製剤、rHSAは組換えHSA製剤(Protgen社)である。
【
図4B】マウスのY迷路での挙動を示している。Right ratioは正解率、Total arm entriesは総アーム選択数である。Error barはSEMを表す。
【
図5A】MPP
+誘導SH-SY5Y細胞のROS産生レベルに対する若い無傷rHSAと市販の血液由来HSAの影響を示している。pHSAは市販の血液由来HSA製剤、rHSAは組換えHSA製剤(Protgen社)である。Error barはSEMを表す。
【
図5B】rHSAが低用量MPTP誘導型PD様病変マウスの握力レベルを増加させたことを示している。
【
図5C】rHSAが高用量MPTP誘導型PD様病変マウスの握力レベルを増加させたことを示している。
【
図5D】rHSAがMPTP誘導型PD様病変マウスのビーム通過時間を有意に短縮したことを示している。
【
図5E】rHSAがMPTP誘導型PD様病変マウスのビーム通過時間を有意に短縮したことを示している。
【
図5F】rHSAがMPTP誘導型PD様病変マウスのポールクライミング時間を有意に短縮したことを示している。
【
図5G】rHSAがMPTP誘導型PD様病変マウスのポールクライミング時間を有意に短縮したことを示している。
【
図6A】rHSA(Protgen社)と血液由来HSA製品のブランド別の年齢関連4指標で比較したものを示している。Free thiolsは遊離値オール含有量(
図6A)、Cabonylはカルボニル含有量(
図6B)、AGEは終末糖化産物のレベル(
図6C)、HCYはホモシステイン含有量(
図6D)である。Error barはSEMを表す。
【
図6B】rHSA(Protgen社)と血液由来HSA製品のブランド別の年齢関連4指標で比較したものを示している。Free thiolsは遊離値オール含有量(
図6A)、Cabonylはカルボニル含有量(
図6B)、AGEは終末糖化産物のレベル(
図6C)、HCYはホモシステイン含有量(
図6D)である。Error barはSEMを表す。
【
図6C】rHSA(Protgen社)と血液由来HSA製品のブランド別の年齢関連4指標で比較したものを示している。Free thiolsは遊離値オール含有量(
図6A)、Cabonylはカルボニル含有量(
図6B)、AGEは終末糖化産物のレベル(
図6C)、HCYはホモシステイン含有量(
図6D)である。Error barはSEMを表す。
【
図6D】rHSA(Protgen社)と血液由来HSA製品のブランド別の年齢関連4指標で比較したものを示している。Free thiolsは遊離値オール含有量(
図6A)、Cabonylはカルボニル含有量(
図6B)、AGEは終末糖化産物のレベル(
図6C)、HCYはホモシステイン含有量(
図6D)である。Error barはSEMを表す。
【
図7】組換えマウス血清アルブミン(rMSA)又は生理食塩水を異なるマウスの体内に戻す場合の低密度リポタンパク質コレステロールのレベルを示している。AKOはアルブミン遺伝子ノックアウトマウス、WTは野生型マウス、rMSAは組換えマウス血清アルブミンである。Error barはSEMを表す。
【
図8A】肥満マウスの酸素消費量を示している。Salineは生理食塩水対照群、rMSAは組換えマウス血清アルブミン処理群、obは肥満モデルマウスである。Ob/ob SalineとOb/ob rMSA群はマウス4匹ずつとした。Error barはSEMを表す。
【
図8B】肥満マウスの二酸化炭素発生量を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8C】マウスの呼吸交換比を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8D】マウスの筋肉質量を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8E】マウスの筋肉割合を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8F】マウスの脂肪質量を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8G】マウスの脂肪割合を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8H】野生型マウスの引張力値を示している。Error barはSEMを表す。
【
図8I】肥満モデルマウスの引張力値を示している。Error barはSEMを表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用される「ヒト血清アルブミン」(Human Serum Albumin、略してHSA)という用語は、その分野で公知の意味を有し、CAS NOは70024-90-7であり、分子量は66kDである。
【0019】
「ヒト血清アルブミン」又は「HSA」という用語は、野生型ヒト血清アルブミンを含むが(例えば、Gene name: ALB; NCBI ID:213; UniProtKB-P02768を参照)、その機能的変異体又は修飾体も含む。当業者であれば、野生型ヒト血清アルブミンは、その生物学的機能に実質的に影響を与えることなく、例えば1又は数個のアミノ酸残基の付加、欠失又は置換等の一定の修飾を施すことができることが理解される。したがって、本明細書で使用される「ヒト血清アルブミン」という用語は、このように修飾されたヒト血清アルブミン変異体又は修飾体も含む。
【0020】
ヒト血清アルブミンの製造方法は様々である。一般的な市販HSAはヒト血液で製造されるものであり、そのほかにも組換え方法によって製造されてもよい。異なるプロセスで製造したHSA製品には、酸化程度、糖化程度、生物学的活性などを含め、性能に一定の差がある。
【0021】
若い無傷ヒト血清アルブミン
本明細書で使用される「若い無傷ヒト血清アルブミン」又は「若い無傷HSA」という用語は、HSAが顕著な損傷を受けずに新鮮な状態であることを意味している。ここでの「損傷」には、酸化、糖化、カルボニル化などが含まれる。
【0022】
技術者は、「若い無損傷」HSAという用語は、HSAが絶対的に無損傷であることを厳密には要求しないことを理解する。いかなる損傷もないHSAを製造することは非常に困難である。本発明の目的のために、限定された損傷を含むHSAも許容可能で、若い無傷HSAと考えられる。
【0023】
「若い無傷」HSAは、通常、(1)Cys-34残基における遊離チオールの割合が高く、(2)終末糖化産物(AGE)のレベルが低く、(3)カルボニル化のレベルが低く、及び(4)ホモシステイン化のレベルが低いという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す。若い無傷HSAは、通常、遊離チオールの割合が高く、AGE、カルボニル、ホモシステイン(homocysteine)のレベルが低い。
【0024】
いくつかの実施形態では、「若い無傷」HSAは、(1)Ellman方法で測定されたCys-34残基の遊離チオールの割合が50%超、例えば70%、特に80%、好ましくは90%、より好ましくは95%超であり、(2)ELISA(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)で測定された終末糖化産物(AGE)のレベルが、60μg/gタンパク質未満、好ましくは40μg/gタンパク質未満、より好ましくは30μg/gタンパク質未満であり、(3)Protein Carbonyl Content Assay Kitキットで測定されたカルボニルのレベルが1.7nmol/mgタンパク質未満、好ましくは1.5nmol/mgタンパク質未満であり、及び(4)ELISA(Jianglai、JL10022)で測定されたホモシステインのレベルが、5nmol/gタンパク質未満、好ましくは3.5nmol/gタンパク質、より好ましくは2nmol/gタンパク質未満であるという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば2つ、3つ、好ましくは4つを示す。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、若い無傷ヒト血清アルブミン(HSA)の製剤を提供し、この製剤は、若い個体の血漿で製造された内因性HSA製剤と比較した場合、(1)Cys-34残基における遊離チオールの割合が高く、(2)終末糖化産物(AGE)のレベルが低く、(3)カルボニル化のレベルが低く、及び(4)ホモシステイン化のレベルが低いという4つの特性のうちの少なくとも1つ、例えば、2つ、3つ、好ましくは4つを示す。
【0026】
「若い個体」という用語は、通常、30歳未満、好ましくは18歳未満、より好ましくは3歳未満、さらに1歳未満の人々を指す。
【0027】
「製剤」(preparation)という用語は、あるプロセスで製造された材料を意味する。例えば、HSA製剤は、ヒト血清アルブミン分子集団を含む、特定の個体又は複数の個体から製造されたHSAサンプルであってもよい。「製剤」は、包装された商品であってもよいし、溶液や凍結乾燥粉末の形態で製造された粗製品であってもよい。
【0028】
遊離値オール:野生型HSAには、Cys-34残基に位置している1つの遊離値オールしかない。当業者には容易に理解できるように、HSAの機能的変異体には野生型HSAとは若干異なるアミノ酸配列が含まれていることがあり、この場合、Cys-34残基は34番位とは若干異なる位置にある可能性がある。これは、相同性比較などの方法で容易に決定することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、Cys-34残基における遊離チオールの割合はEllman方法で測定される。好ましくは、遊離チオールの割合は70%超、特に80%、好ましくは90%、より好ましくは95%超である。
【0030】
AGE:血清アルブミンは糖化作用(glycation)に敏感な血漿タンパク質である。このプロセスは、メイラード反応(Maillard reaction)とも呼ばれ、ブドウ糖又は誘導体がアルブミンの遊離アミン基に結合して可逆的なシッフ塩基生成物を形成し、Amadori転位後に安定なフルクトサミン残基(ケトアミン)を形成することを伴う、緩慢な非酵素反応である。Amadori生成物はその後環化されてピラノース又はフラノース付加物を形成することができる。転位、酸化、重合、切断などの早期糖化生成物のさらなる修飾は、最終糖化生成物(AGE:Advanced glycation end products)と呼ばれる不可逆結合体を生成する。AGEの質量濃度は、ELISA(ELISA)キットを使用して製造業者の取扱説明書(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)に従って測定される。結果は、各反応のHSA濃度で正規化され、タンパク質1g当たりのAGEマイクログラムの形で表現される。
【0031】
いくつかの実施形態では、AGEのレベルは、ELISA(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)で測定される。好ましくは、AGEのレベルは、60μg/gタンパク質未満、好ましくは40μg/gタンパク質未満、より好ましくは30μg/gタンパク質未満である。
【0032】
カルボニル:ここでカルボニル化とは、HSAのアミノ酸残基にカルボニルを形成することである。HSA中のカルボニルの定量には、Protein Carbonyl Content Assay Kit(ab126287)を用いる。この方法は、DNPヒドラゾン(DNP hydrazones)を形成するタンパク質のカルボニルとDNPHとの反応に基づいており、マイクロプレートリーダを用いて375nmの吸光度で定量することができる。マニュアルによると、Protein Carbonyl Content Assay Kit(Abcam,ab126287)を用いてカルボニルのモル濃度を定量する。結果は、各反応のHSA濃度で正規化され、タンパク質1mg当たりのカルボニルnmolの形で表現される。
【0033】
いくつかの実施形態では、カルボニルのレベルは、Protein Carbonyl Content Assay Kit(タンパク質カルボニル含有量測定キット)によって決定される。好ましくは、カルボニルのレベルは1.7nmol/mgタンパク質未満、好ましくは1.5nmol/mgタンパク質未満である。
【0034】
ホモシステイン(HCY):ホモシステイン(HCY)は必須アミノ酸Metが代謝したもので、タンパク質翻訳後修飾(PTM)に関与することが明らかになった。HCYは、リジン(Lys)残基とのイソペプチド結合(N-Hcy-protein)を介して、又はCys-34残基とのジスルフィド結合(S-Hcy-protein)を介してタンパク質に連結していてもよい。N-ホモシステイン化は重要な翻訳後修飾であり、タンパク質の構造と機能に影響し、タンパク質の損傷を引き起こす。N-ホモシステイン化は、Hcyのみから産生されるHcy-チオラクトンにより測定することができる。Hcyのモル濃度はELISAとHPLCにより定量できる。我々の研究では、製造業者の取扱説明書(Jianglai、JL10022)に基づいてHcyモル濃度をELISA法で測定した。結果は、各反応のHSA濃度で正規化され、タンパク質1g当たりのHcy nmolの形で表現される。
【0035】
いくつかの実施形態では、ホモシステインのレベルは、ELISA(Jianglai、JL10022)によって決定される。好ましくは、ホモシステインのレベルは、5nmol/gタンパク質未満、好ましくは3.5nmol/gタンパク質未満、より好ましくは2nmol/gタンパク質未満である。
【0036】
当業者であれば、上記の4つのパラメータは、他の公知の方法によって測定されてもよく、方法が異なると、測定されたパラメータの数値の結果は異なる場合があることを理解する。当業者は、限られた実験によって異なる方法で測定された結果を容易に比較することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、Cys-34残基における遊離チオールの割合は80%を超え、AGEのレベルは30μg/gタンパク質未満、カルボニルのレベルは1.5nmol/mgタンパク質未満、ホモシステインのレベルは2nmol/gタンパク質未満である。
【0038】
若い無傷HSA製剤は、組換えにより生産されるか、又はヒト血漿から精製することができる。好ましくは、HSA製剤は組換えにより生産される。
【0039】
免疫反応を避けるため、本研究では、動物実験はrMSA(組換えマウス血清アルブミン)を用いて行われる。本研究で用いたrMSAは、異なる年齢のマウス由来の内因性MSAの4つのパラメータと比較して、若くて無傷である。本研究で用いたrMSAとrHSAはいずれもProtgen社製であり、組み換えにより生産されたものである。
【0040】
医薬組成物
本発明の別の態様は、本明細書に記載の若い無傷HSAと、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0041】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、固体又は液体の希釈剤、充填剤、抗酸化剤、安定化剤などの、安全に投与することができる物質を意味する。投与経路によれば、糖類、デンプン、セルロース及びその誘導体、マルトース、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、多価アルコール、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張食塩水、及び/又は発熱物質を含まない水などを含むがこれらに限定されない、当業者に周知の種々の担体を投与することができる。
【0042】
本明細書に記載の「治療」には、治癒、症状の軽減、生存期間の延長などが含まれる。
【0043】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、臨床医が期待する生物学的又は医学的反応を被験者の体内に引き起こすのに十分な活性物質の量を意味する。「治療有効量」は、投与経路、被験者の体重、年齢、病状等の要素に基づいて当業者が決定することができる。例えば、一般的な1日投与量の範囲は、体重1kg当たり0.01mg~100mg有効成分であってもよい。
【0044】
本発明により提供される医薬品は、注射剤のような臨床的に許容される剤形とすることができる。本発明の医薬組成物は、任意の適切な経路を使用して被験者に投与することができ、例えば、静脈内注入などの経路を介して投与することができる。
【0045】
「被験者」という用語は、治療を必要とするヒト被験者、及び霊長類、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌなどの非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物である。被験者には健常者も含まれていてもよい。
【0046】
別段の記載がない限り、本明細書で使用される科学用語及び技術用語は、当業者が通常理解する意味を有する。通常、本明細書で使用される細胞及び組織培養、分子生物学、遺伝学、タンパク質及び核酸化学に関連する命名及びその技術は、当業者に公知であり、常用されるものである。
【0047】
本発明をより詳細に説明するために、以下では、図面を参照して本発明の実施例を示す。これらの実施例は、単に解釈及び説明の目的のためのものであり、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【0048】
実施例1:若い無傷組換えアルブミンを注射すると、ヒトとマウスの血糖を正常に戻すことができる。
【0049】
糖尿病は多病因による慢性高血糖を特徴とする終身代謝性疾患である。長期的に血糖値が上昇すると、大血管、微小血管が損傷し、心、脳、腎臓、末梢神経、目、足などを危険にさらし、世界保健機関の統計によると、糖尿病の合併症は100余種に達し、現在知られている合併症の最も多い疾患である。糖尿病による死亡者の半数以上は心脳血管、10%は腎臓病変によるものである。糖尿病で足を切断する患者は、非糖尿病の10~20倍に上る。臨床データによると、糖尿病発症後10年程度で30~40%の患者が少なくとも1種類の合併症を発症するとされ、合併症がいったん生じた場合、薬物治療では逆転が難しいことから、糖尿病合併症を早期に予防することが重要である。
【0050】
正常な場合、人体はホルモン調節と神経調節という2大調節システムにより血糖の発生と代謝のバランスを確保し、血糖を一定レベルに維持することができる。しかし、遺伝的要因(糖尿病の家族歴など)と環境的要因(不合理な食事、肥満など)が相まって、2大調節機能が乱れ、血糖値の上昇が見られる。
【0051】
長期的な高血糖は全身の各組織器官に病変を発生させ、急性慢性合併症の発生を招く。例えば、水分喪失、電解質障害、栄養不足、抵抗力低下、腎機能損傷、神経病変、眼底病変、心脳血管疾患、糖尿病性足などである。高血糖値をコントロールすることが必要である。
【0052】
若い無傷ヒト血清アルブミン(rHSA)が血糖を下げる効果があるかどうかを調べるため、2型糖尿病マウス(db/db)と野生型マウス(WT)に、若い無傷マウス血清アルブミン(rMSA)又は生理食塩水対照を用いて3週間ごとに尾静脈内注射を行い、マウスの空腹時血糖を毎週モニターした。その結果から、3回の注射投与では、rMSAが2型糖尿病マウスの空腹時血糖を効果的に下げたことがわかった(
図1A)。その後、膵臓切片をH&E染色したところ、塩水注射群では多くのマウスに膵島萎縮とβ細胞不全が認められたが、rMSA(Protgen社)注射群では認められなかった(
図1B及び
図1C)。また、dbマウスでは、rMSA治療群の膵島の割合と膵島の相対的な大きさが生理食塩水群より有意に大きいことがわかった(
図1D~F)。その後、マウスの膵臓切片をTUNEL染色し膵島β細胞死を解析した。その結果、rMSA治療群では、TUNELシグナル陽性β細胞が生理食塩水治療群より有意に少ないことを認めた。これは、生理食塩水群でより多くの膵島β細胞死が発生することを示している(
図1G及び
図1H)。さらに、dbマウスの膵島切片で切断したカスパーゼ3(CC3)レベルを検出し、膵島β細胞のアポトーシスレベルを決定した。その結果、dbマウスの生理食塩水群はrMSA群より多くの膵島β細胞にアポトーシスが発生した(
図1I及び
図1J)。
【0053】
2型糖尿病の遅延におけるrMSAの役割をさらに検証するために、腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)も行った。IPGTTの結果、rMSAを2回注射したdbマウスは、生理食塩水対照群のdbマウスよりも優れたグルコース耐性を示した(
図1K及び
図1L)。さらに、2回の注射処理後、EcoMRIを用いてdbマウスの体組成を測定したところ、rMSAを注射したdbマウスは、生理食塩水を注射したdbマウスと比較して、脂肪の割合が著しく低下し、筋肉の割合が著しく上昇することがわかった(
図1M及び
図1N)。
【0054】
若い無傷ヒト血清アルブミン(rHSA)が血糖値を下げる効果があるかどうかをさらに調べるために、II型糖尿病患者を募集し、この患者に若い無傷ヒト血清アルブミン(rHSA)を静脈内注射し、この患者の空腹時血糖を毎週モニターした。その結果、rHSAは2型糖尿病患者の空腹時血糖を効果的に下げることがわかった(
図1O)。
【0055】
実施例2:若い無傷rHSA製剤は、遊離脂肪酸に結合することができ、それ自体は市販の血液由来HSA製剤よりも少ない遊離脂肪酸を含む。
【0056】
血漿遊離脂肪酸(FFA:Free fatty acid)のレベルの上昇は、II型糖尿病肥満患者におけるインスリン抵抗性の重要な原因の1つである可能性がある。
【0057】
若い無傷rHSA製剤のFFA結合能を調べるために、アルブミンとFFAを混合した360nmにおける吸光値を観察することにより、HSA製剤のFFA結合能を測定した結果、rHSA(Protgen社)製剤は683μM(パルミチン酸:ステアリン酸:オレイン酸:リノール酸=27:10:32:15)のFFA結合能を有することが明らかになった。FFAの濃度と各種脂肪酸の割合は、健常人の血清中のFFAの濃度及び割合と一致している
[1])(
図2A)。
【0058】
遊離脂肪酸(FFA)含有量検出キット(boxbio、AKFA008M)を用いて、2種類のHSAが持つFFAの量を測定した。遊離脂肪酸は銅イオンと結合して脂肪酸銅を形成し、クロロホルムに溶解し、銅イオンは発色液と反応して赤紫色錯体を形成し、生成物は550nmに特徴的な吸収ピークを有し、遊離脂肪酸の含有量は吸光値の変化により定量的に検出することができる。その結果、rHSA(Protgen社)製剤自体がFFAを保有している量は、市販の血液由来HSA製剤が保有している量よりも少ないことがわかった(
図2B)。
【0059】
実施例3:若い無傷組換えヒトアルブミンは、コレステロールに結合することができ、かつ市販の血液由来ヒトアルブミンよりも構造安定性が高い。
【0060】
脂質代謝障害はアテローム性動脈硬化の病変の基礎であり、コレステロールはアテローム性動脈硬化プラークの主要な成分であり、血管内皮下におけるコレステロールの蓄積はアテローム性動脈硬化の全過程に伴う。臨床研究によると、血漿コレステロールのレベルが高いほど、心脳血管疾患のリスクが高まる。そのため、組換えヒトアルブミンにコレステロール結合能があるかどうかを探究し、コレステロールの蓄積を軽減するために、以下のように実験を設計した。
【0061】
1.水溶液中で、rHSA(Protgen社)の濃度(30μM)を固定し、コレステロールの濃度を(0、30、60μM)に調整し、37℃の水浴で10分間反応させた。室温に降温した後、295nm励起下で300~400nmの蛍光発光スペクトルを走査した(
図3A)。
【0062】
2.水溶液中で、2種類の市販の血液由来HSAの濃度(30μM)をそれぞれ固定し、コレステロールの濃度をそれぞれ(0、30、60μM)に調整し、37℃の水浴で10分間反応させた。室温に降温した後、295nm励起下で300~400nmの蛍光発光スペクトルを走査した(
図3B~C)。
【0063】
実験結果は以下のように分析される。
【0064】
1.
図3Aによれば、コレステロール濃度の上昇に伴い、rHSAの蛍光発光強度が低下し、Trp214の励起光強度が抑制され、コレステロールがrHSA分子に結合していることが明らかになった。
【0065】
2.
図3Bによれば、コレステロール濃度の上昇に伴い、第1種の市販の血液由来ヒトアルブミン(HSA-1)の発光蛍光強度が上昇してから低下し、コレステロール濃度が低い場合にはこの市販の血液由来ヒトアルブミンとの結合が十分ではなく(赤線)、両者の結合能力は組換えヒトアルブミンよりも弱いことが証明された。
図3Cによれば、コレステロール濃度の上昇に伴い、第2種の市販の血液由来ヒトアルブミン(HSA-2)の蛍光発光強度は徐々に低下しているが、高濃度では(青線)曲線の上下変動が著しく大きく、高濃度では組換えヒトアルブミンよりも両方の結合能が弱いことが証明された。
【0066】
3.
図3A~Cによれば、最大蛍光発光強度のある波長を分析した結果、rHSAは、波長が338nmに位置しており、文献報告と一致している
[2-3]。しかし、2種類の市販の血液由来HSAはいずれも350nmに位置し、明らかに338nmより高く、その分子構造がもっと緩く、安定性が悪いことが証明された。
【0067】
上記の実験結果から、以下の結論が得られた。
【0068】
1.組換えヒトアルブミンは、コレステロールと結合する能力を有する。
【0069】
2.組換えヒトアルブミンは、市販の血液由来ヒトアルブミンよりもコレステロール結合能が高い。
【0070】
3.組換えヒトアルブミンの構造は市販の血液由来ヒトアルブミンよりも安定性が強い。
【0071】
実施例4:若い無傷rHSAを注射することでアルツハイマー症を治療できる。
【0072】
アルツハイマー病は認知症を引き起こす最もよく見られる神経変性疾患の1つであり、その発病率は加齢とともに急激に増加する。全世界の高齢化の深刻化に伴い、アルツハイマー病は、よりよく見られる致命的な疾患になり、しかも、予防・治癒、さらに緩和することもできない。現在最も主流のアルツハイマー病の発病機序に関するAβカスケード仮説によれば、アルツハイマー病の発生はAβの異常な凝集から始まり、それによって神経線維の交絡、シナプスの損失やニューロンの死亡など一連のカスケード反応を引き起こすと考えている。
【0073】
アルブミンはヒト血清中の含有量が最も豊富なタンパク質であり、血漿のコロイド浸透圧を維持する以外に、遊離脂肪酸、金属イオン及びAβペプチドなどの血液中の多くの物質を結合し、輸送することができる。
【0074】
若い無傷rHSAの静脈内注射がアルツハイマー病を治療できることを証明するために、チオフラビン染色法を用いて、若い無傷rHSAと血液由来HSAのAβペプチドセグメントの凝集をインビトロで抑制する能力を比較した。チオフラビンはベンゾチアゾール系の小分子化合物であり、アミロイドフィブリンに特異的に結合し、450nm付近の励起光照射下で485nm付近に強い発光波を検出することができ、その発光波の蛍光信号の強弱は形成されるアミロイドフィブリン量に比例する。
【0075】
その結果(
図4)、Aβ濃度が10mg/ml、rHSAと血液由来HSAがいずれも生理的濃度の50mg/mlの場合、実験中の各時点において、rHSAが血液由来HSAよりも有意にAβペプチドセグメントの凝集を抑制する能力が高いことを示した。0h時点では、市販の血液由来HSA製剤自体がアミロイドフィブリンを含有しており、その含有量はrHSA製剤(Protgen社)の6.16倍(p<0.0001)であり、24h時点では、rHSA製剤(Protgen社)は、Aβペプチドセグメントの凝集を抑制する能力が、市販の血液由来HSAの6.12倍(p=0.0055)であることが示された。
【0076】
この結果を踏まえると、アルブミンはアルツハイマーの疾患進行に重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、既存のAlbノックアウトモデルマウスとアルツハイマー病トランスジェニックモデルマウスを用いて5×FADハイブリダイゼーションによりAlb
-/-,5×FADマウスを構築した。Y迷路実験室では、縦30cm、横15cm、高さ15cm、3本のアームが120°の角度をなすアクリル製迷路にマウスを入れ、8分間自由に探索させ、各アームに入った回数を記録した。マウスが3回連続して異なるアームに入ることを1回の正解と定義し、正解率を計算して、マウスの空間的、瞬間的な記憶レベルを評価した。
図4Bに示すように、3月齢Alb
-/-,5×FADマウスは、Y迷路で同窩Alb
+/-
,5×FADマウスと同窩Alb
+/-マウスよりも表現が有意に劣り、このことから、アルブミンがアルツハイマー病の初期に疾患の進行を抑制する作用を持つことを明らかにした。
【0077】
実施例5:若い無傷組換えアルブミンを注射すると、パーキンソン病を遅らせることができる。
【0078】
パーキンソン病(PD:Parkinson’s Disease)は一般的な神経変性疾患で、中脳黒質ドーパミン(DA:dopamine)作動性ニューロンの変性死によって線条体DAの有意な減少が引き起こされることが原因とされる。PD患者の臨床表現は、主に静止振戦、運動遅延、筋強直及び姿勢歩行障害であり、また、抑うつ、嗅覚機能減退、便秘や睡眠障害などの非運動症状も伴うことがある。統計によると、中国では、300万人近くのパーキンソン病患者がいて、世界のパーキンソン病患者の約半分を占め、罹患率が最も高い国である。PDは60歳以上の高齢者に多発し、中国では毎年患者が約10万人増え、65歳以上の発病率は1.7%に達する。PDと診断されると、患者の脳黒質ニューロンは通常50%以上壊死しており、PDは加齢とともに重症化することもあり、パーキンソン病は「不死のがん」と呼ばれることが多い。
【0079】
PDの正確な病因は今まで明らかではなく、遺伝と環境要素、年齢老化、酸化ストレスなどはすべて黒質ドーパミン作動性ニューロンの変性死亡過程に参与する可能性がある。現在、PDに対する治療は薬物治療と手術治療を含むが、症状を改善するだけで、疾病を根治することはできず、疾病の進展を阻止することもできない。
【0080】
近年、PD患者の神経系の酸化ストレスレベルが著しく上昇し、黒質神経細胞中の活性酸素(ROS:reactive oxygen species)のレベルが明らかに高いことが、PD患者の病状をさらに悪化させる主な要因である可能性を示す研究が増えている。
【0081】
若い無傷rHSAがROSによる神経細胞への損傷を阻止できるかどうかを調べるために、1-メチル-4-フェニルピリジニウムイオン(MPP+)を用いて、ヒト由来神経芽細胞腫細胞(SH-SY5Y)による神経毒性の産生を誘導し、PD患者の黒質ニューロンの損傷過程を細胞レベルでシミュレートした後、若い無傷rHSAと市販の血液由来HSAを用いて、MPP+により神経毒性産生を誘導したSH-SY5Y細胞をそれぞれインキュベートした。
【0082】
図5Aに示すように、SH-SY5Y細胞を70~80%密度まで培養し、MPP
+(0.5mM)を加えた直後、各濃度のrHSA又は市販の血液由来HSAを加え、正常な細胞培養条件下で24h処理し、その後、DCFH-DA(10μM、37℃インキュベータで30分間処理)を用いて細胞のROSレベルを検出した。その結果、若い無傷rHSAと市販の血液由来HSAはいずれもSH-SY5Y細胞のROSレベルを著しく下げることができた。また、同じ投与濃度では、若い無傷rHSAは、市販のHSAよりも細胞ROSレベルを低下させる効果が有意に優れていた。
【0083】
動物モデル研究では、MPTPを用いてマウスにPD様病変を誘導した後、rMSAを静脈内注射した。マウスの握力レベルを検出することにより、外因性rMSAがマウスの握力レベルを増加させ、しかも、異なるMPTP用量で誘導された異なる病変程度のPD様病変マウスに対して有効であることを発見した(
図5B及び
図5C)。
【0084】
通常マウスの運動機能をテストする行動学実験には、主にビームトラバーサル実験とポールクライミング実験がある。その結果、外因性rMSAがMPTP誘導型PD様病変マウスの運動機能を増強していることが確認された(
図5D~G)。
【0085】
実験方法と材料は以下の通りである。
【0086】
活性酸素(ROS)テスト:SH-SY5Y細胞培養は10%FBSと1%ストレプトマイシン/ペニシリンを含むRPMI1640培地を使用し、培養条件は37℃、5%CO2で、培地は2~3日ごとに交換した。実験の群分けは以下の通りである。対照群(未処理)、PDモデル群(0.5mM MPP+誘導)、MPP+誘導+商業化HSA処理群(5、10及び20mg/mL)、及びMPP+誘導+rHSA処理群(5、10及び20mg/mL)。DCFH-DAを蛍光プローブとして細胞のROSレベルを検出した。細胞をMPP+誘導とrHSAで24時間処理した後、SH-SY5Y細胞を無血清培地で3回洗浄し、10μmol/L DCFH-DAを用いて37℃で30分間処理した後、無血清培地で細胞を2回洗浄した。その後、マイクロプレートリーダを用いてDCF蛍光を検出し、励起波長を485nm、発光波長を538nmとした。検出結果は、3回の反復実験の平均値±標準誤差であった。
【0087】
動物処理:成体オスC57BL/6Jマウス(3月齢、25~30g)をマウスケージで飼育し、毎日12hの光を当て、自由に摂食、飲水させた。マウス2ロットを用い、それぞれ3群(4~8匹ずつ)に分けた。第1ロットの3群は、それぞれ、生理食塩水(0.9%NaCl)とMPTP(20mg/kg/日)を7日間連続して腹腔内注射し、第2ロットの3群は、それぞれ、生理食塩水(0.9%NaCl)又はMPTP(30mg/kg/日)を7日間連続して腹腔内注射した。1週間の腹腔注射後、3週間ごとに生理食塩水(0.9%NaCl)又はrMSA(マウス1gあたり1.5mg注射)をマウスに静脈内注射した。8回静脈内注射した後、マウスについて、握力実験、ビームトラバーサル実験、ポールクライミング実験を含む行動学実験・テストを行った。
【0088】
握力実験:ラット・マウスグリップテスターを使い、マウスに金属メッシュをつかんでもらい、マウスがメッシュをつかむことができなくなるまで、その尾をつかんで一定の速度で軽く後ろに引いた。マウスごとはテストを5回繰り返し、平均値をとった。実験は無作為二重盲検法を用いて行った。
【0089】
ビームトラバーサル実験:長さ1mの有機ガラスビームを平均的に4つの長さ0.25mのセグメントに分け、各セグメントの幅をそれぞれ3.5cm、2.5cm、1.5cm及び0.5cmとした。最も広い部分は動物の荷台に、最も狭い部分はケージに接続されている。テストの前に、まず、動物にビーズを通り抜ける訓練を2日間行い、毎日の訓練において、動物は3~5回の試験を受け、ビームの上を前方に移動する過程で協力を必要としないようにした。3日目までに、荷台からビームを通ってケージまでの時間をテストする正式な実験を行い、1匹につき3回のテストで平均値を取った。動物の前肢が2.5cmのセグメントに到達する時刻から計時し始め、片方の前肢がケージに到達した時点で終了した。
【0090】
ポールクライミング実験:長さ0.5m、直径1cmのポールをケージの中に入れ、ポールの表面を滑り止めマットで包んで動物が握りやすいようにした。実験の前に、動物を2日間訓練した。訓練の初日、動物は3回の試験を受け、1回目の試験では、ケージの上の1/3の距離に動物を頭を下にして置き、2回目の試験では、2/3の距離から置き、3回目の試験では、ポールの先端に動物を置き、ケージの中に下りるようにした。2日目の訓練では、動物がポールの先端から下に下がる試験を3回行った。試験日には、動物をポールの先端に頭を下にして置き、ケージの底に降下するまでの時間をテストし、1匹につき3回テストして平均値をとった。被験者が動物をポールの先部に置く時刻から計時し始め、動物の1本の後肢がケージの底に到達した時点で終了した。
【0091】
実施例6:若い無傷rHSAは、市販の血液由来HSAと年齢関連の4つの指標が異なる。
【0092】
若い無傷rHSAと血液由来HSAを区別するために、メーカーの異なる3種類のHSA製品を購入し、遊離チオール含有量、カルボニル化のレベル、AGEのレベル、ホモシステイン修飾レベルを比較した結果を以下に示した。
【0093】
第一に、Ellman方法で遊離チオール(Free thiols)の絶対量を検出し、次に、HSAの量(理論的には、HSA分子あたり遊離チオールは1つだけ)で割って、残りの遊離チオールの含有率を算出した。その結果、rHSA(Protgen社)は、完全な遊離チオールを含み、血液由来HSA中の遊離チオールは深刻に破壊された(102.8%v.s.17.6%、p<0.0001)(
図6A)。
【0094】
第二に、「タンパク質カルボニル含有量検出キット」(Abcam、ab126287)を用いて、説明取扱書に従ってカルボニル(Carbonyl)のモル濃度を検出し、各反応におけるHSA濃度を用いて正規化した結果を、タンパク質mg当たりカルボニルnmol(nmol/mg protein)と表現した。その結果、rHSA(Protgen社)のカルボニルのレベルは血液由来HSAより低かった(1.46v.s.1.80nmol/mg protein、p=0.0072)(
図6B)。
【0095】
第三に、酵素結合免疫吸着測定法キット(CLOUD-CLONE Co.,CEB353Ge)を用いて、その説明取扱書に従って、最終糖化産物(AGE:Advanced glycation end products)の質量濃度を検出し、各反応におけるHSAの濃度を用いて結果を正規化した結果を、タンパク質(μg/mg protein)mgあたりμg AGEと表現した。その結果、rHSA(Protgen社)のAGEのレベルは、血液由来HSA(21.4v.s.66.8μg/g protein、p<0.0001)よりも著しく低いことが明らかになった(
図6C)。
【0096】
第四に、酵素結合免疫吸着検定法キット(Jianglai、JL10022)を使用して、その説明取扱書に従って、ホモシステイン(Homocysteine、HCY)のモル濃度を検出し、各反応におけるHSAの濃度を用いて、結果を正規化した結果を、タンパク質gあたりホモシステインnmol(nmol/g protein)と表現した。その結果、rHSA(Protgen社)のホモシステインのレベルは、血液由来HSA(1.46v.S.5.56nmol/g protein、p=0.0063)よりもはるかに低いことがわかった(
図6D)。
【0097】
表1は、rHSA(Protgen社)と3種類の市販の血液由来HSAの4つの指標を比較したものである。
【0098】
実施例7:若い無傷組換えアルブミンが血中コレステロールのレベルとアテローム性動脈硬化のリスクを低下させる。
【0099】
低アルブミン血症患者の血中総コレステロールと低密度リポタンパク質コレステロールは正常人より有意に高かった。西洋の食事を与えたアルブミンノックアウト(AKO)マウスでは、血中総コレステロールと低密度リポタンパク質コレステロールは野生型(WT)マウスより明らかに高かった。AKOマウスの体内にrMSAを戻すと、低密度リポタンパク質コレステロールのレベルを有意に低下させることができた(
図7)。対照群は同体積の生理食塩水を注射した。また、WTマウスをベースラインとして対照した。rMSAを戻す方式は、尾静脈内注射とした。周期と用量については、実験開始1、2、4週目に注射し、1.5g/kg体重とした。
【0100】
実験方法と材料は以下の通りである。
【0101】
マウスモデル:アルブミンノックアウト(AKO)マウスはThe Jackson Laboratoryから購入し、品番は025200である。通常の飼育過程でマウスは自由に摂食、飲水した。飼育環境は、12時間明るい/12時間暗いとした。温度は23~25℃である。
【0102】
飼料:西洋の食事はResearch diet.から購入し、品番はD12079Bであり、成分は40%kcal脂肪と0.15%コレステロールを含む。正常な食事は、協同生物社から購入し、品番はSWC9102で、成分は12%kcal脂肪を含み、コレステロールがない。
【0103】
血中脂質検出:断食モードは12時間断食であった。血液サンプルはマウスの尾の先端から採取し、室温で2時間放置して凝固させた後、3000rpm、4℃で15分間遠心分離し、血清を採取した。血清総コレステロール及び低密度リポタンパク質コレステロールをキットにより検出した。キットは南京建成社から購入し、品番はA111-1-1、A113-1-1であった。
【0104】
実施例8:若い無傷組換えアルブミンは肥満を治療できる。
【0105】
肥満は、ある程度の明らかな過体重と脂肪層が厚すぎることを指し、体脂肪、特にトリグリセリドが蓄積しすぎることによって引き起こされた状態である。単純な体重増加ではなく、体に脂肪組織が過剰に蓄積されている状態を指す。食物の摂取過多或いは生体代謝の変化による体内脂肪の蓄積過多は体重の過剰増加をもたらし、人体の病理、生理の変化や潜伏を引き起こす。肥満は体形美に影響を与えるだけでなく、生活にも不便をもたらす。そのほかに、関節軟組織損傷、生殖能力低下及び心理障害、心臓病、糖尿病、アテローム性動脈硬化、脂肪肝、胆石、浮腫、痛風などももたらす。
【0106】
rMSAの肥満治療効果を調べるために、肥満疾患モデルマウスであるobマウスを用いた。rMSAを注射したマウスとSalineを注射したマウスの呼吸モニタリングをTSE代謝ケージシステムで試みた。その結果、rMSAは、obマウスの酸素消費、二酸化炭素の発生、呼吸交換比RERを有意に上昇させた(
図8A~C)。
【0107】
Echo MRI-100装置を用いて、筋肉と脂肪の含有量を重点として、マウスの体組成を測定した。その結果、rMSA処理マウスは、Saline処理マウスに比べて、筋肉含有量が多く、脂肪含有量が少ないことがわかった(
図8D~G)。また、マウスの引張力を引張力試験システムで測定した結果、rMSA処理マウスはSaline処理マウスに比べて強い引張力を示した(
図8H~I)。
【0108】
表1:rHSAと異なるメーカーの血液由来HSAの4つの指標の比較
【0109】
【0110】
【国際調査報告】