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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】微孔性物品及び対応する形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526900
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2021080053
(87)【国際公開番号】W WO2022096373
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】63/109,648
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】アウリリア, ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】リッチ, ジェーソン
(72)【発明者】
【氏名】ブランハム, ケリー ディー.
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA76
4F074AB05
4F074CB03
4F074CB17
4F074CB28
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA23
4F074DA43
(57)【要約】
本発明は、特定のPEDEK-PEEKコポリマーを含む特定の微孔性物品、前記微孔性物品を製造するための方法、特に、前記PEDEK-PEEKコポリマーと少なくとも1つの追加のポリマーとを含むブレンドから微孔性物品を製造する方法であって、前記ブレンドをフィルムに加工する工程と、フィルムを溶媒で処理して微孔性物品を得る工程とを含む方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 式(I):
【化1】
の繰り返し単位(RPEEK)、及び
- 式(II):
【化2】
の繰り返し単位(RPEDEK
(上記の式(I)及び(II)において、R’及びR’’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含むC~C12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から独立して選択され;j’及びk’’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、0及び1~4の整数から独立して選択され、
前記繰り返し単位が、55:45~99:1のモル比(RPEDEK):(RPEEK)で含まれる)
を含む少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンコポリマー[コポリマー(PEDEK-PEEK)]を含む微孔性物品であって、
ASTM F316-03に従って測定されるとき、少なくとも0.005~最大で0.500μmの平均流動細孔径(MFD)を有する微孔性物品。
【請求項2】
20~95%v/v、好ましくは40~90%v/v、より好ましくは50~85%v/v、更により好ましくは55~80%v/vの重量多孔率(ε)を有する、請求項1に記載の微孔性物品。
【請求項3】
ASTM F316-03に従って測定されるとき、少なくとも0.008μm、より好ましくは少なくとも0.010μm、更により好ましくは少なくとも0.020μm、及び/又は最大で0.250μm、より好ましくは最大で0.150μm、更により好ましくは最大で0.100μmの平均流動細孔径(MFD)を有する、請求項1又は2に記載の微孔性物品。
【請求項4】
1barの圧力及び23℃の温度で、少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15l/(hxm)の水の流束の透過率を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の微孔性物品。
【請求項5】
ASTM D638に従って室温(23℃)で測定されるとき、250MPa超、好ましくは300MPa超、より好ましくは350MPa超の引張弾性率を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の微孔性物品。
【請求項6】
対称膜及び非対称膜からなる群から選択される膜である、請求項1~5のいずれか一項に記載の微孔性物品。
【請求項7】
前記膜がフラットシートの形態であるか、又は
- 3mm超の直径を有する管状膜;
- 0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜;及び
- 0.5mm未満の直径を有する中空繊維
からなる群から選択される管状膜の形態である、請求項6に記載の微孔性物品。
【請求項8】
- 前記コポリマー(PEDEK-PEEK)が、60:40~95:5、より好ましくは65:35~90:10、更により好ましくは68:32~80:20、更により好ましくは70:30~80:20のモル比(RPEDEK):(RPEEK)において繰り返し単位(RPEDEK)及び(RPEEK)を含み;及び/又は
- コポリマー(PEDEK-PEEK)において、繰り返し単位(RPEDEK)及び(RPEEK)の量の合計が、繰り返し単位の総モル数に対して少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも80モル%、更により好ましくは少なくとも90モル%、最も好ましくは少なくとも95モル%であり;及び/又は
- 前記コポリマー(PEDEK-PEEK)が、以下の式(K-A)~(K-M)
【化3】
【化4】
(上記の式(K-A)~(K-M)のそれぞれにおいて、R’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含むC~C12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から独立して選択され;j’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、0及び1~4の整数から独立して選択され、好ましくは、j’は、ゼロに等しい)
のいずれかに従う、繰り返し単位(RPAEK)からなる群から選択される、繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)と異なる繰り返し単位(RPAEK)を更に含み得る、請求項1~7のいずれか一項に記載の微孔性物品。
【請求項9】
コポリマー(PEDEK-PEEK)は、繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)から本質的に構成され、及び/又は式(I)の繰り返し単位(RPEEK)において、フェニル基間の結合は、フェニル環のそれぞれのパラ位にあり;及び/又はj’のそれぞれは、ゼロであり;及び/又は繰り返し単位(RPEEK)は式(Ia):
【化5】
に従い;及び/又は式(II)の繰り返し単位(RPEDEK)において、フェニル基間の結合は、フェニル環のそれぞれのパラ位にあり;及び/又はk”のそれぞれは、ゼロであり;及び/又は繰り返し単位(RPEDEK)は式(IIb):
【化6】
に従う、請求項1~8のいずれか一項に記載の微孔性物品。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の微孔性物品を製造するための方法であって、
工程1. - コポリマー(PEDEK-PEEK)と、少なくとも1つの追加のポリマー[ポリマー(P)]とを含むポリマー組成物[組成物(C)]を固体物品に加工する工程、
工程2. - 前記コポリマー(PEDEK-PEEK)の少なくとも部分的な結晶化を引き起こす条件下で、前記固体物品を熱処理する工程、及び
工程3. - 工程2から得られる熱処理された物品を前記ポリマー(P)のための溶媒と接触させることによって前記ポリマー(P)を少なくとも部分的に除去して微孔性物品を得ることでなる工程
を含む、方法。
【請求項11】
溶融成形が工程1において使用され、フィルム押出によって、好ましくはフラットキャストフィルム押出によって又はブローンフィルム押出によって前記組成物(C)を物品に加工する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリマー(P)が、非晶質ポリマー、すなわち5J/g未満の融解熱を有するポリマーから選択され、及び/又はポリマー(P)が、コポリマー(PEDEK-PEEK)と相溶性ブレンドを形成することができるポリマーからなる群から選択されるか、又はポリマー(P)が、混和性ブレンドを形成することができるポリマー、すなわち、コポリマー(PEDEK-PEEK)と組み合わせられる時に単一のガラス転移温度を示す単一非晶相を有するブレンドを提供するポリマー(P)から選択される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマー(P)が、前記ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、少なくとも1つの芳香環と、それ自体及び/又はそのアミド酸形態での少なくとも1つのイミド基と、少なくとも1つのエーテル基とを含む繰り返し単位(RPEI)を含むポリ(エーテルイミド)ポリマー[ポリマー(PEI)]であり;繰り返し単位(RPEI)が好ましくは、以下の式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及びそれらの混合物:
【化7】
【化8】
[式中、
- Arは、四価の芳香族部分であり、且つ5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択され;
- Ar’は、三価の芳香族部分であり、且つ5~50個のC原子を有する置換、無置換、飽和、不飽和、芳香族の単環式及び芳香族多環式の基からなる群から選択され;及び
- Rは、例えば、
(a)6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素ラジカル及びそのハロゲン化誘導体;
(b)2~20個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキレンラジカル;
(c)3~20個の炭素原子を有するシクロアルキレンラジカル;及び
(d)式(VI):
【化9】
(式中、
- Yは、1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択され、及び
- R’’は、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から選択され、及び
- iは、各R’’について、独立してゼロ又は1~4の範囲の整数である)
の二価ラジカル
からなる群から選択される置換及び無置換の二価有機ラジカルからなる群から選択され、
ただし、Ar、Ar’及びRの少なくとも1つは、少なくとも1つのエーテル基を含むことと、前記エーテル基は、ポリマー鎖骨格中に存在することとを条件とする]
からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ポリマー(PEI)が、前記ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、式(VII):
【化10】
[式中、
- Rは、例えば、
(a)6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素ラジカル及びそのハロゲン化誘導体;
(b)2~20個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキレンラジカル;
(c)3~20個の炭素原子を有するシクロアルキレンラジカル;及び
(d)式(VI):
【化11】
(式中、
- Yは、1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択され、及び
- R’’は、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から選択され、及び
- iは、各R’’について、独立してゼロ又は1~4の範囲の整数である)
の二価ラジカル
からなる群から選択される置換及び無置換の二価有機ラジカルからなる群から選択され、
- Tは-O-又は-O-Ar’’-O-のどちらかであり得、
-O-又は-O-Ar’’-O-基の二価の結合は、3,3’、3,4’、4,3’、又は4,4’の位置であり得、Ar’’は、5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択される芳香族部分であり、例えば置換若しくは無置換のフェニレン、置換若しくは無置換のシクロヘキシル基、置換若しくは無置換のビフェニル基、置換若しくは無置換のナフタレン基又は2つの置換若しくは無置換のフェニレンを含む部分であり;及び
Ar”は好ましくは式(XIX):
【化12】
で表される]
の繰り返し単位(RPEI)を含むポリマーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリマー(PEI)が、ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、イミドの形態又はその対応するアミド酸形態及びそれらの混合物における式(XXIII)又は(XXIV):
【化13】
の繰り返し単位(RPEI)を含むポリマーである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月4日出願の米国仮特許出願第63/109648号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、特定のPEDEK-PEEKコポリマーを含む特定の微孔性物品、前記微孔性物品を製造するための方法、特に、前記PEDEK-PEEKコポリマーと少なくとも1つの追加のポリマーとを含むブレンドから微孔性物品を製造する方法であって、前記ブレンドをフィルムに加工する工程と、フィルムを溶媒で処理して微孔性物品を得る工程とを含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
とりわけポリ(エーテルエーテルケトン)、又はPEEKなどのポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)は、多くの用途のために有利な化学的及び物理的特性を示す。高い融点、高いガラス転移温度、低い溶解性及び高い耐薬品性によって、PAEKは過酷な環境のための分離用途に好ましい材料になる。
【0004】
PAEKは、室温において一般的な有機溶媒によって影響されないことが知られている。また、PAEKは一般的に、高濃度における強酸を例外として酸及び塩基に耐性であることが知られている。PAEKの一般的な不溶性は、多孔質膜の形態でなど、PAEKの使用分野を広げるために有用且つ有利な特質であるが、このような不溶性は、多孔質膜の形態を含む有用な物品の形成を著しく複雑にする。
【0005】
確かに、従来より、限外ろ過膜及び逆浸透膜支持体として有用なポリマーフィルムは、溶媒中にポリマーを溶解する工程と、ポリマー溶液を支持体上に薄いフィルムとしてキャスティングする工程と、その後に、ポリマー溶媒が混和性であるがポリマーのための溶媒ではない液体の槽内に支持体及びポリマーフィルムを浸漬することによってポリマーを凝固させる工程とによって形成される。
【0006】
その難しさのため、PAEK膜製造、特にPEEK膜製造の代替的方法が追求されている。このような方法のなかで、1つのポリマーをポリマー細孔形成添加剤と配合してフィルムを調製し、次にそこから前記添加剤を浸出させて微孔性膜を調製することが提案されている。
【0007】
米国特許第5,064,580号明細書は、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマーと、押出温度又はキャスティング温度で、PEEKポリマーの少なくとも一部を溶解することができる可塑剤とから微孔性膜を調製する方法を開示する。その方法は、膜を浸出し、可塑剤の少なくとも一部を取り除くことでなる工程を備える。
【0008】
米国特許第4,721,732号明細書は、混和性ポリマーのブレンドから作られる部分から可溶性成分を(部分的に又は完全に)浸出することによって多孔質膜を製造する方法を開示する。ブレンドのなかで、ポリエーテルイミド及びポリ(アリールエーテルケトン)のブレンドが具体的に言及されている。特にPEIとPEEKとの混合物がフィルムを製造するために例示されており、このフィルムは、DMFで浸出した後、0.03μmの平均細孔径及び0.07μmの最大細孔径を有する膜を提供する。
【0009】
米国特許第6,887,408号明細書は、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)の多孔質物品の作製方法を開示し、PEEK/PEIブレンドが具体的に言及されている。そのプロセスは、PEEK/PEIブレンドを形成する工程、押出、成形又はキャスティングによりブレンドから賦形品を形成する工程、賦形品において特定の有機塩基の作用による化学処理によりPEIを低分子量の断片に分解する工程、及び物品から低分子量の断片を取り除く工程を含む。PEI断片を取り除く化学試薬としては、例えばアンモニア、ヒドラジン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。
【0010】
他方で、式-O-Ph-O-Ph-CO-Ph-(式中、Ph=パラ-フェニレン)の特徴的な繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、微孔性膜の構成材料としてなど、汎用性があるが、約148℃のそのガラス転移温度は、それから製造された膜が150℃以上の温度での連続作業に耐える能力を若干制限している。
【0011】
高温のガラス転移温度を有する公知のポリアリールエーテルケトン(PAEK)のなかで、単位-O-Ph-O-Ph-CO-Ph-(I)及び-O-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph-(II)の混合物を含むコポリマーが報告されている。
【0012】
とりわけ、欧州特許出願公開第0184458A号明細書(ICIPLC)(1986年6月11日出願)は、繰り返し単位:-O-Ph-O-Ph-CO-Ph-(I)及び-O-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph-(II)を95:5~60:40、好ましくは90:10~60:40の相対モル比率I:IIで含有する芳香族ポリエーテルケトンを目的としており、それは、公知のPAEK材料(例えばPEK又はPEEK)と同様な特性を有するが、より低い温度での加工を可能にするものとして開示されている。
【0013】
更に、国際公開第2016/042492号明細書(GHARDA CHEMICALS LIMITED)(2016年3月24日出願)は、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン及び95:5~5:95のモル比にあるビフェノールとヒドロキノンとの混合物並びに特に、ランダム若しくはブロックコポリマーとしての、様々なモル比にある式-Ph-CO-Ph-O-の単位及び式-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-の単位を含むPEK及びPEDEKのコポリマーから製造された所定のポリアリールエーテルケトンについて開示している。
【0014】
単位-O-Ph-O-Ph-CO-Ph-(I)及び-O-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph-(II)を45:55~15:85のモル比I:IIで有する、すなわち過半量の-O-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph-(II)単位を含有するコポリマーはとりわけ、国際公開第2018/0086873号パンフレット(Solvay Specialty Polymers USA,LLC)(2018年2月1日出願)から公知である。
【0015】
PEDEK-PEEKコポリマーを膜に変化させるという考えはすでに、米国特許出願公開第2019/0241712号明細書(Solvay Specialty Polymers USA,LLC)(2018年2月1日出願)に概述されていることは注目に値し、それは、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)であり得るポリマー、とりわけPEDEK-PEEKコポリマーと、式R-Ar-X[Arは、置換基Rを有し得る芳香族部分であり;及びXは(SO )、(Mp+1/p又は(COO)、(Mp+1/p(ここで、Mp+はp原子価の金属カチオンであり;及びbは1~4の範囲の整数である]の添加剤とを含むブレンドを調製する工程と、前記ブレンドを膜に加工する工程と、膜を水に浸漬する工程とを含む、多孔質ポリマー膜の形成方法を教示する。
【0016】
したがって、PEEK以外のポリアリールエーテルケトンポリマーから製造される、膜を製造するための便利な方法、及びそこからの膜についての本技術分野における探求が継続的に行われており、このような膜は、優れた機械的性能を維持しながら、熱計算/熱的性能と耐薬品性との有利な組合せを有し、きわめて要求のきびしい用途において使用するために適した膜を提供する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、微孔性物品、例えば平膜又は中空繊維を提供することであり、前記微孔性物品はPEDEK-PEEK型コポリマーを含み、有益な熱的特性、機械的特性(すなわち細孔のつぶれを防ぐための剛性)、耐薬品性を示し、大抵の共通溶媒に不溶性であることが知られている。
【0018】
本発明の別の目的は、前記微孔性物品の作製のための便利な且つ効率的な方法を提供することである。
【0019】
PEDEK-PEEK型コポリマーの特有の結晶化挙動は、特有の多孔質寸法及び特性を有する微孔性物品の製造を可能にすると共に、アニール負荷を低減して便利な且つ効率的な方法によってそれらの製造を可能にするものであることを出願人は驚くべきことに見出した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述したように、本発明の第1の目的は、
- 式(I):
【化1】
の繰り返し単位(RPEEK)、及び
- 式(II):
【化2】
繰り返し単位(RPEDEK
(上記の式(I)及び(II)において、R’及びR’’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含むC~C12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から独立して選択され;j’及びk’’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、0及び1~4の整数から独立して選択され;
前記繰り返し単位は、55:45~99:1のモル比(RPEDEK):(RPEEK)で含まれる)を含む少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンコポリマー[コポリマー(PEDEK-PEEK)]を含む微孔性物品であって、
ASTM F316-03に従って測定されるとき、少なくとも0.005~最大で0.500μmの平均流動細孔径(MFD)を有する微孔性物品である。
【0021】
本発明の別の目的は、前記微孔性物品を製造するための方法である。一実施形態によると、この方法は、前述したようなコポリマー(PEDEK-PEEK)と、少なくとも1つの追加のポリマー[ポリマー(P)]とを含むポリマー組成物を物品に加工することでなる工程、コポリマー(PEDEK-PEEK)の少なくとも部分的な結晶化を引き起こす条件下で前記物品を熱処理する工程、及び物品を前記混和性ポリマーのための溶媒と接触させることによって前記ポリマー(P)を少なくとも部分的に除去して微孔性物品を得ることでなる工程を含む。
【0022】
微孔性物品
したがって本発明の第1の目的は、上に詳述されたような、コポリマー(PEDEK-PEEK)を含む微孔性物品である。
【0023】
用語「微孔性物品」は多孔質であり、すなわちそれは明確に定義された多孔率を有し、すなわちそれは細孔を含む物品である。
【0024】
微孔性物品は一般に、それらの平均流動細孔径及び多孔率、すなわち多孔質である全物品の割合で特徴づけられ得る。
【0025】
微孔性物品は有利には、20~95%v/v、好ましくは40~90%v/v、より好ましくは50~85%v/v、更により好ましくは55~80%v/vの重量多孔率(ε)を有する。
【0026】
説明したように、用語「重量多孔率」は、多孔質膜の全体容積にわたって空隙の体積分率を意味することが意図される。
【0027】
本発明の多孔質膜における重量多孔率の決定のための適当な技術は、例えば、SMOLDERS,K.,et al.Terminology for membrane distillation.Desalination.1989,vol.72,p.249-262に記載されている。
【0028】
前述したように、前記微孔性物品は、ASTM F316-03に従って測定されるとき、少なくとも0.005~最大で0.500μm、好ましくは少なくとも0.008μm、より好ましくは少なくとも0.010μm、更により好ましくは少なくとも0.020μm、及び/又は又は好ましくは最大で0.250μm、より好ましくは最大で0.150μm、更により好ましくは最大で0.100μmの平均流動細孔径(MFD)を有する。
【0029】
有利には、本発明の微孔性物品は、その濾過/分離性能のために.特に有利である、細孔径の狭い分布を与えられる。バブルポイント径(BPD)は、膜中の最大細孔大きさ*を表わすことは一般的に公知である。したがって、比BDP/MFDは、本発明の微孔性物品の細孔径の分布を記述するために重要である。したがって、特に、本発明の微孔性物品は、バブルポイント径(BPD)と平均流動細孔径(MFD)との間の比(比BDP/MFD)が4.0未満、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満であるような細孔径の分布を有し、BDP及びMFDはASTM F316-03に従って測定される。
【0030】
本発明の微孔性物品は、一般的に多孔性膜であり、即ち、それと接触する化学種の浸透を緩和する、個別の、通常、薄い界面である。この界面は、分子的に均一であり得る(即ち構造が完全に均一であり得る)か(稠密膜)、又は化学的若しくは物理的に不均一であり得、例えば有限寸法の空隙、空孔又は細孔を含有し得る(多孔質膜)。
【0031】
それらの厚さ全体にわたって均一に分布している細孔を含有する、それらの厚さ全体にわたって一様な構造を有する膜は、一般に、対称(又は等方性)膜として知られており、それらの厚さ全体にわたって細孔が均一に分布していない膜は、一般に、非対称膜として知られている。非対称膜は、薄い選択的な層(厚さ0.1~1μm)と、支持体として働き、且つこの膜の分離特性にほとんど影響を及ぼさない高多孔質の厚い層(厚さ100~200μm)とを含み得る。
【0032】
本発明の多孔質膜は、対称膜又は非対称膜のいずれであってもよい。
【0033】
本発明の多孔質膜は典型的に、20~95%v/v、好ましくは40~90%v/v、より好ましくは50~85%v/v、更により好ましくは55~80%v/vに含まれる重量多孔率(ε)を有する。
【0034】
本発明の多孔質膜は、自立性多孔質膜であり得るか又は複数層組立体に組み立てられることができるかいずれかである。
【0035】
複数層組立体に組み立てられるとき、本発明の多孔質膜は特に、基材層上に支持され得、本発明の多孔質膜がこれに部分的に又は完全に相互浸透していることも相互浸透していないこともあり得る。
【0036】
基材の本質は、特に限定されない。基材は、通常、多孔質膜の選択性に最小限の影響を及ぼす材料からなる。基材層は、好ましくは、不織材料、ガラス繊維並びに/又はポリマー材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエチレンテレフタレートなどからなる。
【0037】
膜は、平らなシートの形態又は管状の形態であり得る。管状膜は、それらの寸法に基づいて分類される:
- 3mm超の直径を有する管状膜、
- 0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜、
- 0.5mm未満の直径を有する中空繊維。しばしばキャピラリー膜は、中空繊維とも称される。
【0038】
大きい表面積のコンパクトなモジュールが必要とされる用途では中空繊維が特に有利であるのに対して、大きい流束が必要とされる場合には平らなシート膜が一般に好ましい。
【0039】
本発明の多孔質膜の厚さは、目標使用分野に応じて調整することができる。一般的に、本発明の多孔質膜は、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、より好ましくは少なくとも20μm、及び/又は最大で500μm、好ましくは最大で350μm、更により好ましくは最大で250μmの厚さを有する。
【0040】
本発明の微孔性物品は一般的に、1barの圧力及び23℃の温度で、少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15l/(hxm)の水の流束の透過率を有する。
【0041】
更に、本発明の微孔性物品は著しい機械的特性を有し、特に、それは、ASTM D638に従って室温(23℃)で測定されるとき、250MPa超、好ましくは300MPa超、より好ましくは350MPa超の引張弾性率を有する。
【0042】
驚くべきことに、コポリマー(PEDEK-PEEK)を含む本発明の微孔性物品は、ホモポリマー(PEEK)を含む相当する、他の点では同様な微孔性物品の周囲温度引張特性よりも著しく改良されている周囲温度引張特性を備えている。基礎構成材料(コポリマー(PEDEK-PEEK)及びホモポリマー(PEEK))は、これらの材料が射出成形試験片の形態で評価される時に実質的に同様な周囲温度機械的性能を有することが別に知られているので、これは特に予想外である。
【0043】
この理論によって縛られずに、コポリマー(PEDEK-PEEK)の特有の結晶化挙動はこのような改良された性能を確実にすることに関与し得、(下記の方法などの)微孔性物品を製造する方法の間など、前記コポリマー(PEDEK-PEEK)に著しい結晶度を生じさせることができ、ホモポリマー(PEEK)を微孔性膜に加工する時にほかの場合なら可能でない、このような有利な機械的性能を達成することができると本出願人は考える。
【0044】
微孔性物品は、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンコポリマー[コポリマー(PEDEK-PEEK)]を含む。前記微孔性物品は、前記コポリマー(PEDEK-PEEK)を主構成要素として含む。
【0045】
微孔性物品は、追加の構成要素を含み得るが、コポリマー(PEDEK-PEEK)の量は、前記微孔性物品の全重量に対して少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも85重量%である。
【0046】
微孔性物品は、コポリマー(PEDEK-PEEK)以外の他の構成成分を更に含むことができる。とりわけ、微孔性物品は、添加剤、充填剤、安定剤、着色剤等を含むことができる。
【0047】
その製造のために使用されるテンプレート浸出方法に由来する残留物を含み得ると一般的に理解されている。したがって、微孔性物品は、過半量のコポリマー(PEDEK-PEEK)に加えて、以下に詳述したように、少量のポリマー(P)を含むことができるかもしれない。
【0048】
一般的に、前記微孔性物品は、微孔性物品の全重量に対して最大で15重量%、好ましくは最大で12重量%、より好ましくは最大で10重量%の量でポリマー(P)の量を含む。
【0049】
特定の好ましい実施形態によると、微孔性物品は、過半量のコポリマー(PEDEK-PEEK)及び少量のポリマー(P)から本質的になり、微孔性物品の有利な特質を実質的に変えないならば、少量の、(微孔性物品の全重量に対して)一般的に最大で1重量%の他の成分、不純物又は疑わしい成分を許容することができると理解される。
【0050】
コポリマー(PEDEK-PEEK)
コポリマー(PEDEK-PEEK)は、55:45~99:1、好ましくは60:40~95:5、より好ましくは65:35~90:10、更により好ましくは68:32~80:20のモル比(RPEDEK):(RPEEK)において、上記で詳述された繰り返し単位(RPEDEK)及び(RPEEK)を含む。特に有利であることが見出されたコポリマー(PEDEK-PEEK)は、70:30~80:20の(RPEDEK):(RPEEK)のモル比において、上記で詳述された繰り返し単位(RPEDEK)及び(RPEEK)を含むものである。
【0051】
コポリマー(PEDEK-PEEK)において、繰り返し単位(RPEDEK)及び(RPEEK)の量の合計は、繰り返し単位の総モル数に対して通常少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも80モル%、更により好ましくは少なくとも90モル%、最も好ましくは少なくとも95モル%である。
【0052】
コポリマー(PEDEK-PEEK)は、上記で詳述された繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)と異なる繰り返し単位(RPAEK)を更に含み得る。そのような場合、繰り返し単位(RPAEK)の量は、通常、コポリマー(PEDEK-PEEK)の繰り返し単位の総モル数に対して0~5モル%に含まれ、繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)は、コポリマー(PEDEK-PEEK)の繰り返し単位の総モル数に対して少なくとも95モル%の量で存在する。
【0053】
コポリマー(PEDEK-PEEK)中に繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)と異なる繰り返し単位(RPAEK)が存在する場合、これらの繰り返し単位(RPAEK)は、通常、以下の式(K-A)~(K-M):
【化3】
【化4】
【化5】
に従う。
(上記の式(K-A)~(K-M)のそれぞれにおいて、R’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含むC~C12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から独立して選択され;j’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、0及び1~4の整数から独立して選択され、好ましくは、j’は、ゼロに等しい)
のいずれかに従う。
【0054】
それにもかかわらず、コポリマー(PEDEK-PEEK)は、上記で詳述された繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEDEK)から本質的に構成されることが通常好ましい。コポリマー(PEDEK-PEEK)に関連した「~から本質的に構成される」という表現は、欠陥、末端基及びモノマーの不純物が、有利には本発明のブレンド中の同じもの性能に悪影響を及ぼさないように、コポリマー(PEDEK-PEEK)中にごく少量(例えば、1重量%未満)組み込まれ得ることを示すことを意図されている。
【0055】
式(I)の繰り返し単位(RPEEK)中では、フェニル基間の連結は、通常、フェニル環のそれぞれのパラ位にある。更に、j’のそれぞれについて、一般に、ゼロであることが好ましいか、又は換言すると、フェニル環のそれぞれについて、カテナリーエーテル性基若しくはケトン架橋基に加えて任意のまた別の置換基を有しないことが好ましい。これらの好ましい実施形態によれば、繰り返し単位(RPEEK)は、式(Ia):
【化6】
に従う。
【0056】
同様に、式(II)の繰り返し単位(RPEDEK)中では、フェニル基間の連結は、通常、フェニル環のそれぞれのパラ位にある。更に、k’’のそれぞれについて、一般に、ゼロであることが好ましいか、又は換言すると、フェニル環のそれぞれについて、カテナリーエーテル性基若しくはケトン架橋基に加えて任意のまた別の置換基を有しないことが好ましい。これらの好ましい実施形態によれば、繰り返し単位(RPEDEK)は、式(IIb):
【化7】
に従う。
【0057】
微孔性物品を製造する方法
本発明の微孔性物品は有利には、上で詳述された通りの、本発明の方法によって製造される。
【0058】
前述したように、前記微孔性物品を製造するための方法は、工程1.- 前述したようなコポリマー(PEDEK-PEEK)と、少なくとも1つの追加のポリマー[ポリマー(P)]とを含むポリマー組成物を固体物品に加工することでなる工程、
工程2. - コポリマー(PEDEK-PEEK)の少なくとも部分的な結晶化を引き起こす条件下で、前記固体物品を熱処理する工程、及び
工程3. - 工程2から得られる熱処理された物品を前記ポリマー(P)のための溶媒と接触させることによって前記ポリマー(P)を少なくとも部分的に除去して微孔性物品を得ることでなる工程を含む。
【0059】
工程1は、ポリマー組成物[組成物(C)]を物品に加工することからなる工程である。この工程は一般的に、前記組成物(C)を溶融相から加工することでなる。
【0060】
溶融成形は、フィルム押出によって、好ましくはフラットキャストフィルム押出によって又はブローンフィルム押出によって前記組成物(C)を物品に加工するために一般に使用される。
【0061】
組成物(C)は最初に、前記コポリマー(PEDEK-PEEK)と前記ポリマー(P)とを混合することによる溶融配合によって調製される。一般に、溶融配合は、押出機で実施される。組成物(C)は、典型的に、コポリマー(PEDEK-PEEK)の融点をほぼ超える温度でダイを通して押し出され、それによってストランドを提供し、ストランドは、典型的には切断され、それによってペレットを提供する。この技術によれば、組成物(C)は、溶融テープを得るためにダイを通して押し出され、溶融テープは、次いで、必要とされる厚さ及び幅を得るまで2方向に較正及び延伸される。2軸スクリュー押出機が、溶融配合を行なって組成物(C)を提供するのに好ましい装置である。
【0062】
工程1において、前述したように、組成物(C)は溶融成形によって加工される。
【0063】
溶融成形は、フィルム押出によって、好ましくはフラットキャストフィルム押出によって又はブローンフィルム押出によって前記組成物(C)を物品に加工するために一般に使用される。
【0064】
フラットフィルム又はシート製造において第1の目的は、押出機から、広い断面、及び小さな間隙を有するダイ内に、典型的に矩形ダイ内に入る組成物(C)の連続した溶融ストリームを広げることである。ダイから出ると、組成物(C)の溶融押出物は、(冷却されても加熱されてもよい)ローラー上に接触され、固化して固体物品を提供する。
【0065】
この工程1において、そのように得られた溶融押出物は、溶融相において又は冷却時にその凝固後のいずれかで延伸して、固体物品を供給することができる。また、ホットブローンフィルム押出を用いて、前記固体物品を提供することもできる。
【0066】
ポリマー(P)
前述したように、工程1は、前述したようなコポリマー(PEDEK-PEEK)と、ポリマー(P)と称される、少なくとも1つの追加のポリマーとを含むポリマー組成物を加工することでなる工程である。ポリマー(P)の選択は、本発明の方法において必要とされる溶解性分化を考慮して当業者によって行われる。
【0067】
溶解性要件を考慮して、ポリマー(P)は有利には、非晶質ポリマー、すなわち5J/g未満の融解熱を有するポリマーから選択される。それでも、ポリマー(P)が半-結晶性の特徴を有する実施形態がまだ可能である。
【0068】
一般的に、ポリマー(P)は、上記で詳述されたコポリマー(PEDEK-PEEK)と均一な又は相溶性ブレンドを形成することができるものなかで選択される。
【0069】
ポリマーブレンドは一般的に3つのカテゴリーに分け得ることが一般的に認められている:
1.構成ポリマーが別々の相で存在し、それぞれのガラス転移温度が観察される、不混和性の又は不均一なポリマーブレンド。
2.成分ポリマー間の十分に強い相互作用によって引き起こされる、肉眼的に一様な物理的特性を示す不混和性のポリマーブレンドである、相溶性ポリマーブレンド。
3.1つのガラス転移温度を有する、単一相構造を有する、混和性又は均一なポリマーブレンド。
【0070】
特定の実施形態によると、ポリマー(P)は、コポリマー(PEDEK-PEEK)と相溶性ブレンドを形成することができるポリマー、すなわち、完全に混和性ではないが、ブレンドの物理的及び機械的特性のばらつきにしばしば変わる不安定且つ可変相ドメインサイズ及びモルフォロジーを示し得る多くの不均一な二相ブレンドに伴う潜在的な複雑な要因を取り除くポリマーから選択される。このような場合、相溶性は、部分的混和性をもたらし得、顕著な非晶相をまだ提供し得るが、主構成単独ポリマー成分(ポリマー(P)又はコポリマー(PEDEK-PEEK))から改良されたTを有し、それは、個々のポリマーは非晶質部分と結晶質部分の両方を有することができ、ここでいずれの結晶質部分も別個の相として存在することができると理解されている。
【0071】
他の実施形態によると、ポリマー(P)は混和性ブレンドを形成することができるポリマーから選択され、すなわちコポリマー(PEDEK-PEEK)と組み合わせられる時に単一非晶相を有するブレンドを提供するポリマー(P)は、単一のガラス転移温度を示す。
【0072】
ポリマー(P)は有利には、ポリ(エーテルイミド)の少なくとも1つである。この前記の代替ポリマーは、とりわけPEK(すなわち、前述した単位(K-B)を有するポリマー)又はPEKEKK(すなわち、前述した単位(K-G))を有するポリマー)など、コポリマー(PEDEK-PEEK)と異なるポリ(アリールエーテルケトン)であり得る。
【0073】
ポリ(エーテルイミド)[ポリマー(PEI)]
前述したように、特定の好ましい実施形態によると、ポリマー(P)は、ポリ(エーテルイミド)[ポリマー(PEI)]である。「ポリ(エーテルイミド)」及び/又は「ポリマー(PEI)」という表現は、ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、少なくとも1つの芳香環と、それ自体及び/又はそのアミド酸形態での少なくとも1つのイミド基と、少なくとも1つのエーテル基とを含む繰り返し単位(RPEI)を含むポリマーを意味する。繰り返し単位(RPEI)は、イミド基のアミド酸の形態に含まれない少なくとも1つのアミド基を任意選択的に更に含み得る。
【0074】
通常、繰り返し単位(RPEI)は、以下の式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及びそれらの混合物:
【化8】
【化9】
[式中、
- Arは、四価の芳香族部分であり、且つ5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択され;
- Ar’は、三価の芳香族部分であり、且つ5~50個のC原子を有する置換、無置換、飽和、不飽和、芳香族の単環式及び芳香族多環式の基からなる群から選択され;及び
- Rは、例えば、
(a)6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素ラジカル及びそのハロゲン化誘導体;
(b)2~20個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキレンラジカル;
(c)3~20個の炭素原子を有するシクロアルキレンラジカル;及び
(d)式(VI):
【化10】
(式中、
- Yは、1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択され、及び
- R’’は、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ土類金属スルホネート(alkali earth metal sulfonate)、アルカリ土類金属スルホネート(alkaline earth metal sulfonate)、アルキルスルホネート、アルカリ土類金属ホスホネート(alkali earth metal phosphonate)、アルカリ土類金属ホスホネート(alkaline earth metal phosphonate)、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から選択され、及び
- iは、各R’’について、独立してゼロ又は1~4の範囲の整数である)
の二価ラジカル
からなる群から選択される置換及び無置換の二価有機ラジカルからなる群から選択され、
ただし、Ar、Ar’及びRの少なくとも1つは、少なくとも1つのエーテル基を含むことと、前記エーテル基は、ポリマー鎖骨格中に存在することとを条件とする]からなる群から選択される。
【0075】
上記の式において、Arは、典型的には、式:
【化11】
(式中、
Xは、3,3’、3,4’、4,3’’又は4,4’位に二価の結合を有する二価の部分であり、且つ1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択されるか;又は
Xは、式-O-Ar’’-O-の基であり、Ar’’は、5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択される芳香族部分である)
からなる群から選択される。
【0076】
上記の式において、Ar’は、典型的には、式:
【化12】
(式中、
Xは、3,3’、3,4’、4,3’’又は4,4’位に二価の結合を有する二価の部分であり、且つ1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択されるか;又は
Xは、式-O-Ar’’-O-の基であり、Ar’’は、5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択される芳香族部分である)
からなる群から選択される。
【0077】
通常、ポリマー(PEI)中の繰り返し単位の少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%又は全ては、上記で定義された式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及び/又はそれらの混合物の繰り返し単位(RPEI)である。
【0078】
特定の実施形態によれば、ポリマー(PEI)は、ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、式(VII):
【化13】
[式中、
- Rは、例えば、
(a)6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素ラジカル及びそのハロゲン化誘導体;
(b)2~20個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキレンラジカル;
(c)3~20個の炭素原子を有するシクロアルキレンラジカル;及び
(d)式(VI):
【化14】
(式中、
- Yは、1~6個の炭素原子のアルキレン、例えば-C(CH及び-C2n-(nは、1~6の整数である);1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキレン、例えば-C(CF及び-C2n-(nは、1~6の整数である);4~8個の炭素原子のシクロアルキレン;1~6個の炭素原子のアルキリデン;4~8個の炭素原子のシクロアルキリデン;-O-;-S-;-C(O)-;-SO-;-SO-からなる群から選択され、及び
- R’’は、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び四級アンモニウムからなる群から選択され、及び
- iは、各R’’について、独立してゼロ又は1~4の範囲の整数である)
の二価ラジカル
からなる群から選択される置換及び無置換の二価有機ラジカルからなる群から選択され、
- Tは、-O-又は-O-Ar’’-O-のいずれかであり得、
ここで、-O-又は-O-Ar’’-O-基の二価の結合は、3,3’、3,4’、4,3’又は4,4’の位置であり得、Ar’’は、5~50個の炭素原子を有する置換又は無置換の、飽和、不飽和又は芳香族の単環式及び多環式の基からなる群から選択される芳香族部分であり、例えば置換若しくは無置換のフェニレン、置換若しくは無置換のシクロヘキシル基、置換若しくは無置換のビフェニル基、置換若しくは無置換のナフタレン基又は2つの置換若しくは無置換のフェニレンを含む部分である]
の繰り返し単位(RPEI)を含むポリマーである。
【0079】
本開示のある実施形態によれば、Ar’’は、上記で詳述された一般式(VI)のものであり、例えば、Ar’’は、式(XIX):
【化15】
に従う。
【0080】
この好ましい実施形態によるポリマー(PEI)は、式HN-R-NH(XX)(式中、Rは、前に定義された通りである)のジアミノ化合物と、式(XXI):
【化16】
(式中、Tは、前に定義された通りである)
の任意の芳香族ビス(エーテル酸無水物)との反応を含む、当業者に周知の方法のいずれかによって調製され得る。
【0081】
一般に、この調製は、20℃~250℃の範囲の温度において、溶媒、例えばo-ジクロロベンゼン、m-クレゾール/トルエン、N,N-ジメチルアセトアミド中で実施することができる。
【0082】
代わりに、これらのポリマー(PEI)は、式(XXI)の任意の二無水物と式(XX)の任意のジアミノ化合物とを、同時混合でこれらの成分の混合物を高温において加熱しながら溶融重合させることによって調製することができる。
【0083】
式(XXI)の芳香族ビス(エーテル酸無水物)としては、例えば、
2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物;
4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物;
1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物;
4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物;
1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物;
4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物;
4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物;
2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物;
4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物;
4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物;
1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物;
1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物;
4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物;
4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル-2,2-プロパン二無水物;及び
そのような二無水物の混合物
が挙げられる。
【0084】
式(XX)の有機ジアミンは、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニル-メタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン及びそれらの混合物からなる群から選択され;好ましくは、式(XX)の有機ジアミンは、m-フェニレンジアミン及びp-フェニレンジアミン並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0085】
特定の好ましい実施形態によれば、ポリマー(PEI)は、ポリマー中の総モル数を基準として少なくとも50モル%の、イミドの形態又はその対応するアミド酸形態及びそれらの混合物における式(XXIII)又は(XXIV):
【化17】
の繰り返し単位(RPEI)を含むポリマーである。
【0086】
好ましい実施形態では、PEI中の繰り返し単位の少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%又は全ては、イミドの形態又はその対応するアミド酸形態及びそれらの混合物における式(XXIII)又は(XXIV)の繰り返し単位(RPEI)である。
【0087】
このような芳香族ポリイミドは、とりわけ、ULTEM(登録商標)ポリエーテルイミドとしてSabic Innovative Plasticsから市販されている。
【0088】
工程1から得られる固体物品は、コポリマー(PEDEK-PEEK)及びポリマー(P)に加えて、任意の所望の特性を非浸出ポリマーに与えるために含有され得る様々な添加剤を含むことができる。例えば、安定剤、難燃剤、顔料、可塑剤等が存在し得る。また、他のポリマーを添加して所望の特性を与えることができる。
【0089】
それにもかかわらず、工程1から得られる固体物品がコポリマー(PEDEK-PEEK)及びポリマー(P)から本質的になることが一般的に好ましく、それらの存在が前記固体物品の性能全体に影響を与えなければ、少量の、例えば1重量%未満の、不純物又は他の疑わしい化合物などの他の成分を許容することができると理解される。
【0090】
ポリマー(P)の、すなわち浸出される成分の重量パーセントは一般的に、ポリマー(P)及びコポリマー(PEDEK-PEEK)の総合重量を基準として約10重量%~約90重量%、好ましくは約30重量%~約75重量%、より好ましくは約40重量%~約70重量%、更により好ましくは約55重量%~約68重量%の量である。したがって、逆に、コポリマー(PEDEK-PEEK)の、すなわち微孔性物品の目標構成材料の重量パーセントは一般的に、ポリマー(P)及びコポリマー(PEDEK-PEEK)の総合重量を基準として約90重量%~約10重量%及び好ましくは約70重量%~約25重量%、より好ましくは約60重量%~約30重量%、更により好ましくは約45重量%~約32重量%の量である。
【0091】
工程2において、コポリマー(PEDEK-PEEK)の少なくとも部分的な結晶化を引き起こす条件下で、前記固体物品を熱処理する工程が実施される。
【0092】
この工程2の結果として、非滲出性ポリマー、すなわちコポリマー(PEDEK-PEEK)は、部分結晶状態である。これは、物品の細孔径の収縮を低減又は制御するために、本発明の微孔性物品を作製する際に特に有利であることがわかった。確かに、PEEK型単位だけからなるホモポリマーに関して観察されるものと異なり、コポリマー(PEDEK-PEEK)の傑出した特徴は、前記コポリマー(PEDEK-PEEK)が、混和性又は相溶性ポリマー(P)の存在下にある時に急速に且つ著しく結晶化することを可能にする、有利な結晶化能力を前記コポリマー(PEDEK-PEEK)が有するような特徴である。
【0093】
このような特有の結晶性挙動は、工程2のアニールされた固体物品から得られる微孔性膜に改良された寸法安定性、改良された機械的特性などの非常に有利な特性を与えるものである。
【0094】
更に、PEEK膜を製造するために必要とされる非常に長い且つ過酷な熱アニーリング条件と異なり、同様な手順に従って、固体物品は、より短い時間の間且つそれほど過酷でない(より低い)条件で熱処理することができ、したがって製造方法全体をより簡単且つより効果的にする。
【0095】
工程2の熱処理は、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも250℃、より好ましくは少なくとも280℃の温度で及び/又は最大で370℃、好ましくは最大で365℃、より好ましくは最大で350℃の温度で行われる。
【0096】
工程2の熱処理は、少なくとも1分、好ましくは少なくとも2分、より好ましくは少なくとも3分の時間の間、及び/又は最大で120分、好ましくは最大で60分、より好ましくは最大で30分の時間の間行われる。
【0097】
前述したように、本発明の方法の工程3は、工程2から得られる熱処理された物品を前記ポリマー(P)のための溶媒と接触させることによって前記ポリマー(P)を少なくとも部分的に除去して微孔性物品を得ることでなる工程である。
【0098】
工程3において、熱処理された(「アニールされた」とも称される)物品は、ポリマー(P)のための溶媒である溶媒及びコポリマー(PEDEK-PEEK)のための非溶媒で処理される。ポリマー(P)の少なくとも一部が溶媒中に溶解し、溶媒の除去時に取り除かれる。したがって溶媒に可溶性のポリマー(P)は滲出性成分と称され、プロセスによって取り除かれるポリマーは物品から浸出されるか又は抽出されるポリマーと称される。
【0099】
アニールされた物品は一般的に、コポリマー(PEDEK-PEEK)を実質的に溶解、抽出又は浸出しない溶媒で処理され、すなわちそれは前記コポリマー(PEDEK-PEEK)のための「非溶媒」でなければならない。しかしながら、非溶媒は、本発明の範囲内で、非浸出コポリマー(PEDEK-PEEK)を前記溶媒中にある間に膨張させることができる。更に、非溶媒が非浸出コポリマー(PEDEK-PEEK)の低分子量部分を取り除くことができることは本発明の範囲内である。
【0100】
溶媒による処理は好ましくは、アニールされた物品を、溶媒を保有する槽内に浸漬することによって行われる。アニールされた物品は、ポリマー(P)の所望の量を除去するために十分な時間の間槽内に浸漬される。一般的に、アニールされた物品は、約1分~約8時間以上、好ましくは約10分~約4時間の間溶媒と接触して保持される。代わりに、アニールされた物品は、沸騰溶媒の蒸気中で懸濁される。
【0101】
溶媒処理工程が実施される温度は、使用される溶媒及び使用されるポリマー(P)に依存する。ほとんどの場合溶媒は、およそ周囲温度から溶媒のおよそ沸点未満の温度に保持される。
【0102】
当業者は、コポリマー(PEDEK-PEEK)のための非溶媒である溶媒を容易に選択することができるであろう。例えば、塩化メチレン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン、並びにメチルl-ラクテート、エチルラクテート、プロピレンカーボネート、トリブチルo-アセチルシトレート、トリブチルシトレート、トリエチルホスフェート、及びγ-ブチロラクトン(GBL)などの無毒性溶媒を用いてポリマー(P)を浸出させることができる。
【0103】
これらに関して、ほとんど全ての一般的な有機溶媒中へのコポリマー(PEDEK-PEEK)の溶解性が本質的にないことは利点である。
【0104】
ポリマー(P)がポリマー(PEI)であるとき、N-メチルピロリドン(NMP)、塩化メチレン及びγ-ブチロラクトン(GBL)は、工程3において使用することができる、可能性がある溶媒である。
【0105】
特に、ポリマー(P)がポリマー(PEI)であるとき、周囲温度における塩化メチレンは効率的な溶媒である。
【0106】
一般的に、可溶性ポリマー(P)の実質的に全てを浸出させ、コポリマー(PEDEK-PEEK)の物理的及び機械的特性を有する微孔性物品をもたらすことが望ましい。
【0107】
しかしながら、特定の状況において、可溶性ポリマー(P)の一部だけを浸出させることが有利である場合がある。可溶性ポリマー(P)の存在は、例えば、ポリマー(P)を実質的に含まない微孔性物品によって示されるより大きい可撓性、より大きい湿潤性等の微孔性物品をもたらすことができる。
【0108】
しかしながら、一般的に、最終微孔性物品は、微孔性物品の重量を基準として、約10重量パーセント以下のポリマー(P)を含有するのがよい。
【0109】
本発明の微孔性物品を使用するために溶媒を除去することは必要ではない。例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)で浸出される本発明の微孔性物品は、含まれる溶媒を除去せずに濾過目的のために水溶液中に直接置かれてもよい。しかしながら、任意選択により、溶媒は物品から除去される。除去は、微孔性物品が溶媒によって処理されている間に連続除去によって、例えば蒸留によって、又は蒸発、真空、熱、濾過、凍結乾燥若しくは溶媒除去のための当業者に公知の任意の他の技術によって抽出の終了後に行なうことができる。
【0110】
一般的に、溶媒による処理後に、処理用溶媒及び溶解されたポリマー(P)は、これを第2の溶媒で洗浄することによって微孔性物品から除去される。第2の溶媒は第1の溶媒と混和性であり、第2の溶媒で洗浄時に処理用溶媒及び溶解されたポリマー(P)は除去される。
【0111】
次に、微孔性物品を必要ならば乾燥させて第2の溶媒を除去することができる。第2の溶媒の選択は、浸出のために使用される第1の溶媒(及び賦形品から浸出されているポリマー(P)成分の特性)に依存する。イソプロパノール又はイソプロパノールと水との混合物は、特に、微孔性膜からのジクロロメチレン/ポリマー(PEI)残留物の除去のために特に有効であることがわかっている。
【0112】
本発明の微孔性物品は、液体及びガス分散体又は懸濁液中に懸濁された粒状物質の濾過のために有用である。それらは、過酷な環境において、又は濾過中に攻撃的化学物質に暴露される場合、又は同物質を含むフィルターデバイスの清浄化及びメンテナンスにおいて特に有用である。本発明の微孔性物品は、化学産業における水の精製、生物学的流体の精製、排水処理、浸透圧蒸留、及びプロセス流体濾過など、多くの使用分野において使用することができる。
【0113】
以下の実施例は本発明の代表例であるが、限定することを意図したものではない。本開示から明らかである材料、及び条件の代用は、本発明を考えに入れてなされる。
【0114】
原材料
使用されるコポリマー(PEDEK-PEEK)は、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(DFBP)と、ビフェノールとしても公知の4,4’-ジヒドロキシジフェニルと、ヒドロキノンとの重縮合から誘導されたPEDEK-PEEKコポリマーであった。このコポリマーは、重合におけるビフェノールの総化学量論量内のヒドロキノン部分と比較して、ビフェノール残基部分を多く含む。PEDEKは、ビフェノールと4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとの重縮合からのポリマー繰り返し単位を表す。本発明の実施に使用することができるコポリマー(PEDEK-PEEK)は、ポリマー骨格内のPEDEK繰り返し単位とPEEK繰り返し単位のモル比を変えることができるが、実施例では、PEDEK-PEEKのモル比が75-25であるコポリマー(以降PEDEK-PEEKコポリマー)を使用した。前記PEDEK-PEEKコポリマーは、ASTM D3835に準拠してキャピラリーレオメーターを使用して測定したときに、420℃且つ1000s-1で345Pa・sの溶融粘度を有する。
【0115】
使用したポリマー(PEI)は、SABICのULTEM(登録商標)1000 PEIであった。これは、汎用の押出成形及び射出成形用途向けのPEIの標準グレードである。このグレードは、6.6kgの重りを使用して377℃でASTM D1238に準拠してメルトインデックス装置を使用して測定される、約9g/10分のメルトフローレートを有するとメーカーによって報告されている。
【0116】
調製例1(a)-コポリマー(PEDEK-PEEK)/ポリマー(PEI)ブレンドの配合
48:1のL/D比を有する26mmのCoperion(登録商標)同時回転部分噛み合い二軸スクリュー押出機を使用して溶融配合によってコポリマー(PEDEK-PEEK)及びポリマー(PEI)のブレンドをペレットの形態で調製した。押出機は12個のバレルセクションを有しており、バレルセクション2~12は380℃の温度設定で加熱する。直径3-mmのピンホールダイを使用し、ダイ温度も380℃に設定した。押出機は、30-35lb/hr(約13-14kg/hr)の処理量及び225rpmのスクリュー速度で運転し、押出機のトルクの読み取り値は、全ての組成物の混錬中、75~85%の範囲に維持した。コンパウンドから水分及び存在し得る残留揮発性物質を除去するために、混錬中にバレルセクション10に25inHgを超える真空レベルで真空ベントを適用した。それぞれの実行からの押出物をストランドにし、ウォータートラフ中で冷却し、その後直径約2.7mm、長さ3.0mmのペレットにペレット化した。
【0117】
コポリマー(PEDEK-PEEK)/ポリマー(PEI)35/65重量%のブレンドをこのように調製した。
【0118】
調製例2C(a)(比較用)-PEEK/ポリマー(PEI)ブレンドの配合
使用されるPEEKホモポリマー樹脂は、ペレットの形態のKETASPIRE(登録商標)KT-820NLであった。ブレンドを製造するために引き続いて行われる手順は、以下の改良点があることを除いて、コポリマー(PEDEK-PEEK)/ポリマー(PEI)ブレンドについて上述したのと同じであった。バレルセクション2~7は370℃の温度設定で加熱され、バレルセクション8~12は360℃の温度設定で加熱され、ダイ温度設定は375℃であり、スクリュー速度は200rpmであった。ホモポリマーPEEK/ポリマー(PEI)35/65重量%のブレンドをこのように調製した。
【0119】
調製例1(b)-コポリマー(PEDEK-PEEK)/ポリマー(PEI)35/65重量%ブレンドのフィルム(「前駆体」)の押出
実施例1(a)において説明したように調製したブレンドのペレットを 押出前に150℃で一晩乾燥させた。19mmの直径(D)及び前記Dの25倍の長さを有し、4つの温度帯(T1~T4)を備えたブラベンダー一軸スクリュー押出機を使用してフィルムを押し出した。押出機は、10cmの幅及び0.5mmの厚さを有するヘッドを備えた。フィルムを押出ヘッドから0.5cmの距離で150℃のチルロールで急冷した。押出条件を以下の表に詳述した。
【0120】
【表1】
【0121】
調製例2C(b)-ホモポリマー(PEEK)/ポリマー(PEI)35/65重量%ブレンドのフィルム(「前駆体」)の押出
実施例2C(a)に詳述したように調製したブレンドのペレットを、押出前に150℃で一晩乾燥させた。実施例1(b)において説明したのと同じ装置を使用してフィルムを押し出したが、ただし、それらは140℃で急冷された。押出条件を以下の表に詳述した。
【0122】
【表2】
【0123】
調製例1(c)のフィルム(「前駆体」)のアニーリング
上に記載されたように製造されたフィルムのアニーリングは、通風炉内で実施された。前駆体フィルムを320℃の温度で30分間の間(条件「A」)又は5分間の間(条件「B」)熱処理して結晶部分を増加させ、それを特にDSCによって測定することができる。
【0124】
比較用の調製例2C(c)-フィルム(「前駆体」)のアニーリング
実施例1(c)に説明したのと同じ手順に従った。
【0125】
調製例1(d)-多孔質膜を得るためのアニールされたフィルムの抽出
実施例1(c)(条件A及びB)に詳述したように得られたアニールされた前駆体フィルムを、3時間の間ジクロロメタン(CHCl)の槽内に浸漬し、その後フィルムをイソプロパノール(IPA)中で数回すすいで、残留CHClを除去した。最後に、そのように得られた微孔性膜をヒュームフード内で室温で乾燥させた。
【0126】
比較用の調製例2C(d)-多孔質膜を得るためのアニールされたフィルムの抽出
実施例2C(c)(条件A及びB)において詳述したように得られたアニールされた前駆体フィルムを、上記の実施例1(d)において詳述したように処理して、微孔性膜を得た。
【0127】
微孔性膜の特性決定
残留滲出性ポリマー(PEI)含有量の測定
アニールされた前駆体フィルムを上に詳述したように実施例1(d)及び2C(d)の抽出の前と後に秤量した。
【0128】
残留重量は次のように定義される:
Res(%)=(Wfin/Win)×100-
(式中、Winは、CHClの抽出前のアニールされたフィルムの重量であり、Wfinは、抽出後の微孔性膜の重量である)。
【0129】
実施例1(a)及び2C(a)の元のブレンドのコポリマー(PEDEK-PEEK)の公称重量を超える残留重量は、残留ポリマー(PEI)の存在を示すことがわかった。
【0130】
透過性の測定
所定の圧力で微孔性膜を通る水の流束(J)は、単位面積当たりに及び単位時間当たりに透過する体積と定義される。流束を以下の式:
【数1】
(式中:
- V(L)は透過液の量であり、
- A(m)は、膜の面積であり、及び
- Δt(h)は、稼働時間である)
により算出される。
【0131】
水の流束の測定は、1barの一定の窒素圧力下に終端形状(dead-end configuration)を用いて、高純度MilliQ水を用いて室温で行った。11.3cm2の有効面積を有する膜のディスクを、膜シート(IPA中に前もって浸漬した)から切り出し、金属プレートの上に置いた。各材料について、流束は、少なくとも5つの異なるディスクの平均である。その流束は、LMH(リットル/(平方メートル×時間))の単位で表す。
【0132】
重量多孔率の測定
膜の重量多孔率(ε)は、膜の総体積で割った.細孔の容積と定義される。
膜重量多孔率(ε)は、下で詳述される重量法に従って測定した。
完全に乾燥膜試験片を秤量し、24h、イソプロピルアルコール(IPA)中で含浸させた。この時間後に、過剰の液体をティッシュペーパーで除去し、膜重量を再び測定した。多孔率は、Appendix of Desalination,72(1989)249-262に記載されている手順に従って湿潤流体としてIPA(イソプロピルアルコール)を使用して測定した。
【数2】
(式中、
「Wet」は、湿潤膜の重量であり、
「Dry」は、乾燥膜の重量であり、
ρpolimerは、実施例1(d)から得られた微孔性膜の、ポリマー(PEDEK-PEEK)の密度(1.28g/cm)であり、及び実施例2C(d)から得られた微孔性膜の、ホモポリマー(PEEK)の密度(1.30g/cm)であり、ρliquidは、IPAの密度(0.78g/cm)である)。
【0133】
引張特性の測定
微孔性膜の機械的特性は、ASTM D 638標準手順(タイプV、グリップ距離=25.4mm、初期長さLo=21.5mm)に従って室温(23℃)で評価した。決定される値は、各試料の5つの試験片で実施される繰り返し測定の平均である。弾性率、破断ひずみ及び破断応力が下の表3に詳述される。
【0134】
細孔径の測定
ASTM F0316法に従い、毛細管流動ポロメーター「Porolux 1000」(Porometer-Belgium)を用いて、膜のバブルポイント径(すなわち最も大きい細孔径に相当する)、最小の細孔径、及び平均流動細孔径を求めた。
【0135】
各測定のために、膜ディスク試料(直径=25mm)を数時間の間、Fluorinert(登録商標)FC43液体(それは16ダイン/cmの非常に低い表面張力を有するフッ素化液である)を用いて最初に十分に湿潤し、計測器の試料ホルダー内に置いた。圧力を増加しながら不活性ガス(窒素)を試料に供給した。表4の記載値は、3つの異なった試験片で行われる繰り返し測定の平均である。
【0136】
前述したように、バブルポイント径(BPD)は膜中の最大細孔大きさである。平均流動細孔径(MFD)は、ASTM F316-03に記載されているハーフドライ法によって計算される平均細孔径である。これらの2つの量(BPD/MFD)の比は、細孔径分布の一様性を表わし、このような比が小さくなればなるほど、細孔径分布がより一様になり、したがって微孔性膜の濾過/分離性能がより好ましくなる。
【0137】
結果を下の表に要約する。
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
細孔は、26nmより小さいサイズ(検出限界)を有することがわかっており、したがって、それらの決定のために過度の圧力を必要とするので、有意な測定のためには小さすぎる。
【0140】
上記の表3及び4は明らかに、微孔性膜の製造を産業化する時に非常に好ましい短いアニール時間は、コポリマー(PEDEK-PEEK)に適用される時にだけ良い膜を提供するのに有効であり、ホモポリマー(PEEK)については有効ではないことを実証する。
【0141】
更に、本質的に同様な流束、並びに同様な多孔率及び細孔分布を有しながら、コポリマー(PEDEK-PEEK)から製造される本発明の微孔性膜は、ホモポリマー(PEEK)から製造される相当する膜の引張弾性率をかなり超えるそれらの引張弾性率によって特に実証されるように、著しく改良された機械的特性を与えられる(実施例2C(d)Aに対して実施例1(d)A及びBを参照のこと)。これは、基礎ポリマーが逆の傾向を示すことがかなり知られているので、特に予想外である。以下の表5は、微孔性膜を製造するために使用されるとき、同じコポリマー(PEDEK-PEEK)及び同じホモポリマー(PEEK)から製造される射出成形試験片で測定される機械的特性を要約する。
【0142】
【表5】
【0143】
ここで、コポリマー(PEDEK-PEEK)から製造される微孔性膜は、同様な重量多孔率(65~70%)及び厚さ(300~400μm)において、ホモポリマー(PEEK)から製造される相当する微孔性膜によって示される引張弾性率のほぼ2倍である引張弾性率を有する。したがってこれは、基礎構成材料の機械的特性を考える時、まったく予想外である。
【0144】
実施例2C(d)-Bに関する限り、この実施例は明らかに、より短いアニール時間は、ホモポリマー(PEEK)を加工する時に良い膜を提供するのに効果的でないことを実証する。この場合、得られた膜は、検出可能でない細孔径を有し、非常に低い流束を引き起こす。更に、滲出性成分の残留量は、残留重量の決定によって示されるように、重要である。残留ポリマー(PEI)の存在は微孔性膜の耐薬品性に有害であることが知られているが、作製されたばかりの膜の機械的特性の測定において、これは、同膜の延性をわずかに改良するものとしてみることができる。
【国際調査報告】