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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231102BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20231102BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P25/00
A61P31/00
A61K48/00
A61K45/00
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527013
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2021080423
(87)【国際公開番号】W WO2022096470
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】20205559.6
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512145734
【氏名又は名称】ランドックス ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダンロップ,マーシャル
(72)【発明者】
【氏名】ショーン,シャーリー
(72)【発明者】
【氏名】ラモント,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド,ピーター
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZB091
4C084ZB261
4C084ZB321
4C084ZC412
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、がん及び感染症の治療に使用するための、治療抗体、又はその抗原結合部分に関する。具体的には、本発明は、プログラム死リガンド1ポリペプチドを標的とする、治療抗体、又はその抗原結合部分に関する。本発明はまた、この治療抗体、又はその抗原結合部分を含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有し、プログラム死リガンド1(PD-L1)ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含み、好ましくは前記重鎖CDRが配列番号36のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項3】
さらに、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む及び/又は配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項4】
抗体又はその抗原結合部分であって、1つ又は複数の重鎖CDRを含み、(i)前記重鎖CDR1が、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、(ii)前記重鎖CDR2が、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有し、(iii)前記重鎖CDR3が、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有し、前記抗体又はその抗原結合部分が、プログラム死リガンド1ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分。
【請求項5】
前記重鎖CDR3が、配列番号36のアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項6】
配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む、抗体又はその抗原結合部分。
【請求項7】
前記重鎖CDRが、配列番号36のアミノ酸配列を有する、請求項6に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項8】
配列番号7と少なくとも80%の配列同一性、好ましくは配列番号7と少なくとも85%の配列同一性、より好ましくは配列番号7と少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは配列番号7と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項4~7に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項9】
0.3~0.6nM、好ましくは0.4~0.6nM、さらにより好ましくは0.4~0.5nMのKd値を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項10】
単一ドメイン抗体であり、好ましくは、単一重鎖可変ドメイン抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項11】
ヒト若しくはヒト化抗体又はその抗原結合部分である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項12】
融合タンパク質又は二重特異性抗体の一部を形成する、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項13】
請求項1~12に記載の抗体若しくはその抗原結合部分をコードする核酸又はその核酸の相補配列。
【請求項14】
処置に使用するための請求項1~13に記載の抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸。
【請求項15】
がんの治療に使用するための請求項1~13に記載の抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸であって、好ましくは前記がんが、中枢神経系(CNS)内部に存在する腫瘍である、又は前記がんが、固形腫瘍である、抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸。
【請求項16】
感染症の治療に使用するための請求項1~13に記載の抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸を含む医薬組成物であって、前記組成物がさらに、薬学的に許容される担体及び/又は既知の治療薬を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント分子に対する特異性を有する結合分子に関する。本発明はまた、がん及び感染症の治療に使用するための結合分子を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイント分子は、免疫系の活性を制御する分子である。免疫細胞型の活性を自己制御する能力は、ホストの生存、すなわちホストを過剰な組織障害から保護し、自己免疫疾患、すなわち免疫系が、異物起源の細胞とは対照的に、自身の細胞を無差別に攻撃することにより特徴づけられる一群の疾患、の発生を防ぐのに非常に重要である。
【0003】
免疫チェックポイント分子は、刺激型であっても抑制型であってもよく、免疫細胞型の活性を制御することができる高度に制御された恒常性システムの構築を可能とする。活性化T細胞は、免疫エフェクター機能の主要なメディエーターとして、複数の抑制型免疫チェックポイント分子の発現によりこのような制御を受ける免疫細胞の種類である。このような分子の例としては、プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)及びリンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)が挙げられる。
【0004】
プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1又はCD279)は、55-kDの1型膜貫通タンパク質であり、免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーCD28、CTLA-4、誘導性共刺激分子(ICOS)、及びBTLAを含むT細胞共刺激受容体であるCD28ファミリーのメンバーである。PD-1は、活性化T細胞及びB細胞に高度に発現する。PD-1発現は、メモリーT細胞サブセットでも多様な発現レベルで検出することができる。PD-1に特異的な2個のリガンド、プログラム死リガンド1(PD-L1、B7-H1又はCD274としても知られている)及びPD-L2(B7-DC又はCD273としても知られている)が同定されている。PD-L1及びPD-L2は、マウス及びヒトの両方の系でPD-1に結合すると、T細胞の活性化を減少させることが示されている(Okazakiら。Int Immunol., 2007; 19: 813-824)。抗原提示細胞(APC)及び樹状細胞(DC)に発現するPD-1のリガンドである、PD-L1及びPD-L2とPD-1が相互作用すると、負の制御刺激を伝達して活性化T細胞免疫応答を下方調節する。これらのリガンドのいずれかを活性化すると、T細胞キナーゼZAP70が脱リン酸化及び不活性化され、SHP2がリクルートされる。SHP2は、PI3Kを直接脱リン酸化し、下流のAkt活性化を抑制し、最終的には炎症性サイトカイン及び細胞生存タンパク質を減少させ、アポトーシス経路を誘発し、T細胞の破壊につながる。PD-1を遮断するとこの負のシグナルを抑制し、T細胞応答を増幅する。
【0005】
この制御系の目的がホストを保護することになっているにもかかわらず、多数の科学研究から、腫瘍微小環境がこのシステムを乗っ取ることができることが明らかになった。例えば、多数の研究から、がんの微小環境がPD-L1-/PD-1シグナル伝達経路を操作すること、及びPD-L1発現の誘導は、がんに対する免疫応答の抑制と関連があり、したがってがんの進行及び転移を可能にすることが示されている。PD-L1/PD-1シグナル伝達経路は、いくつかの理由から、がん免疫回避の主要な機構である。第1に、そして最も重要なことに、この経路は、末梢に見られる活性化エフェクターT細胞の免疫応答の負の調節に関与する。第2に、PD-L1はがん微小環境で増加する一方、PD-1も活性化腫瘍浸潤性T細胞上で増加し、したがっておそらく抑制の悪循環を強める。第3に、この経路は、双方向性シグナル伝達により自然免疫及び適応免疫の制御の両方に複
雑に関与する。これらの要因から、PD-1/PD-L1複合体はがんが免疫応答を操作し、がん自身の進行を促進することができる中心点となる。結果として、腫瘍は抑制性免疫チェックポイント分子経路を活性化することができ、免疫系を抑制し、癌性細胞の無妨害な増殖が継続する。同様に、科学コミュニティの増えつつある証拠から、感染症、例えばHIV、結核及びマラリアなどにおける免疫チェックポイントの利用に向けられている。したがって、免疫細胞及び腫瘍細胞の間にあるこの相互作用を阻止することは、かなり前からがんの分野において治療介入の中心となっていたが、今では感染症分野での関心が高まっている分野でもある。
【0006】
多くのモノクローナル抗体がPD-1又はPD-L1のいずれかを標的とするよう開発されてきているが、これらには、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、セミプリマブ(Libtayo)、アベルマブ(バベンチオ)、アテゾリズマブ(Atezolizumba)(テセントリク)及びデュルバルマブ(イミフィンジ)が含まれる。これらの薬剤は、皮膚のメラノーマ、非小細胞肺癌及びホジキンリンパ腫を含む、多くの多様ながんを治療するのに有益であることが分かっている。
【0007】
既存の免疫チェックポイント阻害剤治療の有名な副作用は、重度の免疫関連有害事象(IRAE)が発生することである。これらの種類の副作用のリスクを最小化するための戦略は、免疫療法の体循環への曝露を制限することである。これは、免疫療法を腫瘍微小環境(TME)に局所投与することにより実現することができる。しかし、この標的投与を用いても、免疫療法薬は不可避的にTMEから体循環へと浸出し、体循環に数週間残ることができ、自己免疫寛容が全身的に低下する。
【0008】
したがって、免疫療法の分野では、免疫チェックポイント分子の有効性を保持することができる一方、いかなる免疫関連有害事象も制限し、自己免疫寛容が全身的に低下する可能性も制限する免疫チェックポイント分子を標的とした、効果的な免疫療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、がん及び感染症において、プログラム死リガンド1ポリペプチドを標的とする治療抗体、又はその抗原結合部分に関する。本発明の発明者らは驚くべきことに、本明細書に開示される抗体、又はその抗原結合部分は、素晴らしい有効性レベルを示す一方、いかなる免疫関連有害事象も制限することを見出した。出願人は現在、この特性の組み合わせを持つ他のいかなる免疫チェックポイント阻害剤も知らない。
【0010】
第1の態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有し、プログラム死リガンド1(PD-L1)ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0011】
第2の態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合部分であって、1つ又は複数の重鎖相補性決定領域(CDR)を含み、(i)この重鎖CDR1が、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、(ii)この重鎖CDR2が、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有し、(iii)この重鎖CDR3が、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有し、この抗体又はその抗原結合部分が、プログラム死リガンド1(PD-L1)ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0012】
第3の態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む、抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0013】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に規定される、抗体若しくはその抗原結合部分をコードする核酸、又はその核酸の相補配列を提供する。
【0014】
第5の態様において、本発明は、本明細書に開示される抗体又は核酸を含む医薬組成物及びその医学的利用を提供する。
【0015】
添付の図面を参照して、本発明を定義する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、PD-1/PD-L1阻害ELISAを説明する概略図を示す。
図2図2は、ELISAに基づくアッセイにより得られた結果を示し、選択されたsdAbクローンがPD-1及びPD-L1の間の相互作用をブロックする能力を立証する。
図3図3は、阻害アッセイにより得られた結果を示し、選択されたsdAbクローンがPD1/PD-L1相互作用をブロックする能力を立証する。
図4図4は、ヒト化32.1A1クローンのPD-L1結合アッセイから得られた結果を示す。
図5図5は、クローン32.1A1、そのヒト化誘導体及びその密接な類縁体32.2F7を市販の治療抗体アベルマブと比較する、PD-1/PD-L1阻害アッセイから得られた結果を示す。
図6図6は、PD-1/PD-L1遮断バイオアッセイを説明する概略図を示す。
図7図7は、Promega PD-1/PD-L1遮断バイオアッセイでアッセイした、ELISA阻害アッセイにより特定された、2個のリードPD-1及びPD-L1ブロッククローンのルシフェラーゼ活性倍率変化を示す。GS542に対する参照は、ヒト化32.1A1クローンを表し、1A1に対する参照は、クローン32.1A1を表す。
図8図8は、sdAbモノマーの画分を示すSDS-PAGEゲルを示す。
図9図9は、ヒト化32.1A1クローンの熱ストレス後の凝集を示す、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を示す。
図10図10は、コーティングしたPD-L1に対するヒト化32.1A1安定性ELISAを示す。
図11図11は、関連する及び無関係の抗原に対するクローン32.1A1の交差反応性を示す。
図12図12は、h32.1A1抗体がPDL1抗原に対して結合するのに重要な残基を特定するために、ヒト化32.1A1のCDR3にわたり15個の異なる残基のアラニン置換を用いて合成した一連の15個の変異sdAbクローンを示す。
図13A図13Aは、図12の15個の変異sdAbクローンの結合親和性についてのELISAアッセイから得られた結果を示す。
図13B図13Bは、図12の15個の変異sdAbクローンの結合親和性についてのELISAアッセイから得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、がん及び感染症において、プログラム死リガンド1ポリペプチドを標的とする治療抗体、又はその抗原結合部分に関する。
【0018】
本発明をより容易に理解する目的で、特定の用語を最初に定義する。
【0019】
追加の定義は、詳細な説明を通して記載する。
【0020】
「チェックポイント阻害剤」は、TNF受容体又はB7スーパーファミリーのいずれかのメンバーである、表面タンパク質に作用する剤であり、CTLA-4、PD-1、TIM-3、BTLA、VISTA、LAG-3、及び/又はPD-L1を含む、これらのそれぞれのリガンドから選択される負の同時刺激分子に結合する剤を含む。
【0021】
用語「特異的に結合する」、「特異的結合」又は「結合する」は、互換的に用いられ、抗体又はその抗原結合部分が、抗原又は抗原のエピトープと、他の抗原又はエピトープより高い親和性で結合することを指す。このような親和性は、平衡解離定数(Kd)により測定され、当該技術分野において既知の標準的方法を用いて測定してよい。本明細書に開示される抗体又は抗原結合部分は、例えば他の種に由来する同一の抗原(ホモログ)などの、他の関連する抗原に対する交差反応性を有してよい。
【0022】
用語「PD-1」、「PD1」、「プログラム死1」「プログラム細胞死1」は、互換的に用いられ、ヒトPD-1の変異体、アイソフォーム及び種のホモログを含むと理解される。PD-1の全配列は、GenBankアクセッション番号U64863で見ることができる。
【0023】
用語「PD-L1」、「PDL1」、「プログラム死リガンド1」及び「プログラム細胞死1」は、互換的に用いられ、ヒトPD-L1の変異体、アイソフォーム及び種のホモログを含むと理解される。PD-L1の全配列は、GenBankアクセッション番号NP054862.1で見ることができる。
【0024】
本明細書で用いられる用語「抗体」とは、PD-L1などの標的タンパク質上のエピトープと結合する、免疫グロブリン又は免疫グロブリン様分子を指す。
【0025】
本明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」とは、単一分子組成から成る抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性及び親和性を示す。
【0026】
本明細書で用いられる場合、用語「ヒト抗体」は、フレームワーク及びCDR領域の両方がヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を含むよう意図される。用語「ヒト化抗体」は、マウスなどの別の哺乳類種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク領域に移植された抗体を指すよう意図される。ヒトフレームワーク配列内でさらにフレームワーク領域改変がなされてもよい。
【0027】
用語「相補性決定領域」及び「CDR」は、互換的に用いられ、抗体の抗原結合領域(又はパラトープ)を指す。
【0028】
用語「結合親和性」とは、本明細書に開示される抗体又は抗原結合部分及び抗体又は抗原結合部分と、それが結合しようとするリガンド、例えばPD-L1との間の結合相互作用の強度を指す。結合親和性は典型的には、平衡解離定数(Kd)により測定され、報告される。当業者は、Kd値が小さいほど結合親和性が大きく、したがって、治療薬を目的とする結合タンパク質ではKd値が小さいことが望ましいと理解する。
【0029】
本明細書で用いられる場合、用語「断片」、「誘導体」及び「類似体」とは、本発明の抗体と同一の生物学的機能又は活性を実質的に保持するポリペプチドを指す。本発明のポリペプチド断片、誘導体又は類似体は、(i)1つ又は複数の保存又は非保存アミノ酸残基(好ましくは保存アミノ酸残基)が置換されたポリペプチド、このような置換されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によってコードされてもされなくてもよい、又は(ii)1つ又
は複数のアミノ酸残基に置換基を有するポリペプチド、又は(iii)例えば(ポリエチレングリコール)融合ポリペプチドなどの、他の化合物(例えばポリペプチドの半減期を延ばす化合物など)を含む成熟ポリペプチド、又は(iv)ポリペプチド配列に追加のアミノ酸配列(リーダー配列又は分泌配列又はこのポリペプチドを精製するために用いられる配列若しくはタンパク質配列、又は6Histag融合タンパク質)を融合することにより形成されるポリペプチドであってよい。
【0030】
1つの態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有し、プログラム死リガンド1(PD-L1)ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0031】
したがって、本発明は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有する抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0032】
好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも85%の配列同一性を有する。さらにより好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。
【0033】
1つの実施形態において、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖相補性決定領域(CDR)を含んでよい。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖CDRを有する。さらにより好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号3と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。1つの実施形態において、この重鎖CDRは、配列番号36のアミノ酸配列を有する。
【0034】
この抗体又はその抗原結合部分はさらに、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含んでよい、及び/又は配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含んでよい。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも80%の配列同一性を有する重鎖CDRを有する。さらにより好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖CDRを有する。
【0035】
したがって、配列番号7は、重鎖CDR1及びCDR3、重鎖CDR2及びCDR3、又は重鎖CDR1及びCDR2を含んでよい。配列番号3の重鎖CDR3が配列番号7に含まれていることが好ましい。
【0036】
本発明の別の実施形態においては、抗体又はその抗原結合部分であって、1つ又は複数の重鎖CDRを含み、(i)重鎖CDR1は、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、(ii)重鎖CDR2は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有し、そして(iii)重鎖CDR3は、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有し、この抗体又はその抗原結合部分は、プログラム死リガンド1(PD-L1)ポリペプチドと特異的に結合することができる、抗体又はその抗原結合部分を提供する。重鎖CDR3は、配列番号36のアミノ酸配列を有してよい。
【0037】
本発明は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する抗体又はその抗原結合部分を提供する。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有する。さらにより好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。
【0038】
本発明のさらなる実施形態においては、抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む、抗体又はその抗原結合部分を提供する。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖CDRを含む。さらにより好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、配列番号3と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。重鎖CDRは、配列番号36のアミノ酸配列を有してよい。この抗体又はその抗原結合部分はさらに、配列番号1及び配列番号2と少なくとも60%の配列同一性を有する重鎖CDRを含んでよい。
【0039】
1つの実施形態において、配列番号1、配列番号2及び配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有するこの抗体又はその抗原結合部分、並びに配列番号3と少なくとも70%の配列同一性を有するこの抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有する。配列番号7は、配列番号1~3のCDR領域を含んでよい。あるいは、配列番号7は、配列番号4~6のCDR領域を含み、その結果、配列番号8の抗体又はその抗原結合部分が得られてよい。配列番号6の重鎖CDR3が配列番号8内に含まれていることが好ましい。
【0040】
好ましくは、前述の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも85%の配列同一性を有する。より好ましくは、前述の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%又は少なくとも94%の配列同一性を有する。さらにより好ましくは、前述の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号7と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。
【0041】
好ましい実施形態においては、配列番号7の配列同一性の割合は、配列番号1~3(又は配列番号8との関連で配列番号4~6)のCDR領域の配列を保持する。他の実施形態においては、CDR領域の配列は、配列番号7のアミノ酸配列と比較して合計して最大10個、好ましくは最大8個、より好ましくは最大5個及び最も好ましくは最大3個のアミノ酸の差を有してよい。この差は、1つ又は複数のCDR領域に存在してもよい。配列番号7の抗体が抗体の機能を保持する限り、この差がある位置は重要ではない。
【0042】
本明細書に開示される配列のいずれかの相同性の割合を計算するためには、配列比較ソフトウェアを用いてよく、例えば、BLASTソフトウェアパッケージ(v2.11.0)のデフォルト設定を用いてよい。
【0043】
本発明の全ての態様において、各配列番号の変異体が開示される。これらの変異体としては、1つ又は複数のアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換、並びにC末端及び/又はN末端での1つ又は複数のアミノ酸の付加が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
開示されるポリペプチドの変異型としては、相同配列、保存的変異体(1つ又は複数の保存的置換がある)、対立遺伝子変異体、自然突然変異体、誘導突然変異体、及び高い又は低いストリンジェンシー条件下で本発明の抗体をコードするDNA、コードするタンパク質、及び本発明の抗体の抗血清を用いて得られたポリペプチド又はタンパク質とハイブリダイズすることができるDNA部位が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
したがって、本発明は、配列番号1~8のポリペプチドの変異体を含む。例えば、全長抗体の変異体は、上述したCDR領域を含む抗体と同様に開示される。これらの変異体は、本発明の抗体と同一の機能を示すならば、本開示の一部とみなされる。これらの変異体としては、1つ又は複数のアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換、並びにC末端及び/又はN末端での1つ又は複数のアミノ酸の付加が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、類似する特性のアミノ酸で置換しても、タンパク質の機能は変化しない。別の例としては、C末端及び/又はN末端に1つ又は複数のアミノ酸を付加してもタンパク質の機能は変化しない。例えば、本発明では、配列番号4、配列番号5及び配列番号6のCDRを含む抗体又はその抗原結合部分であって、配列番号2及び3からのアミノ酸の置換は、太字で強調される、抗体又はその抗原結合部分も開示される。本発明の1つの実施形態において、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合部分は、0.3~0.6nM、好ましくは0.4~0.6nM、さらにより好ましくは0.4~0.5nMのKd値を有してよい。発明者らは驚くべきことに、本発明が、Kd値が0.7nMである市販の抗PDL1モノクローナル抗体であるアベルマブより優れたKd値を有することを見出した。したがって、本発明は、重度の免疫関連有害事象(IRAE)の発生に関連して優れた有効性及び毒性プロファイルを有する結合分子を提供する。
【0046】
別の実施形態において、この抗体又はその抗原結合部分は、単一ドメイン抗体であってよい。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、本明細書に開示されるCDRを含む単一重鎖可変ドメインであってよい。本発明の抗体中の重鎖のこれらの可変領域が特に興味深いのは、可変領域の少なくとも一部が抗原の結合に関与するからである。しかしながら、いかなる種類の免疫グロブリン分子又はその断片も用いることができると理解される。用いてもよい他の種類の免疫グロブリン分子の例としては、本明細書に開示されるCDRを組み込むという条件で、モノクローナル抗体、Fabフラグメント、scFvフラグメント及び任意の他の抗原結合フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明は、他のポリペプチドであって、この抗体又はその抗原結合部分が融合タンパク質又は二重特異性抗体の一部を形成する、ポリペプチドも提供する。「融合タンパク質」は、別々の遺伝子が転写され、単一ユニットとして翻訳され、これにより単一のポリペプチドを産生するように、連結された別々の遺伝子によってコードされた少なくとも2個のドメインからなる任意のタンパク質を指す。したがって、本発明では、本明細書に開示されるこの抗体又はその抗原結合部分の特性、及び追加の独自のタンパク質に由来する追加の特性を有する融合タンパク質を開示する。融合タンパク質の例には、本発明のこの抗体又はその抗原結合部分に蛍光タグ又はFcタグを融合したものが含まれる。「二重特異性抗体」とは、2個の抗体又は抗体様タンパク質の特異性を組み合わせて、異なる2個の抗原又はエピトープに結合することができる1つの分子にした人工タンパク質を指す。したがって、本発明はまた、二重特異性抗体であって、この二重特異性抗体の結合実体の1つが、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合部分である、二重特異性抗体も開示する。したがって、二重特異性抗体は、PD-L1を標的とするのに加え、例えば、CTLA-4、PD-1、TIM-3、BTLA、VISTA若しくはLAG-3などの追加の免疫チェックポイント阻害剤又は疾患症状に関与する任意の他の免疫関連又は非免疫関連分子も標的としてよいと想定される。二重特異性抗体の使用は、多くの疾患、特にがんの多因子性を仮定すれば、特に有用であってよい。
【0048】
本発明はまた、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合部分のフラグメント、誘導体、及び類似体も含む。したがって、ほとんど全長のポリペプチドの他に、いくつかの実施形態においては、本発明はまた、本発明の抗体のフラグメントも含む。概して、フラグメントは、本発明の抗体中の少なくとも約50個の連続アミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続アミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の連続アミノ酸、及び最も好ましくは少なくとも約100個の連続アミノ酸を有する。
【0049】
好ましい実施形態において、この抗体又はその抗原結合部分は、ヒト若しくはヒト化抗体、又はその抗原結合部分であってよい。好ましくは、この抗体又はその抗原結合部分は、ヒト抗体又はその抗原結合部分である。利用される抗体の種類は、意図するエンドユーザー、すなわちヒト又は非ヒトに依存すると理解される。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、この抗体若しくはその抗原結合部分をコードする核酸/ヌクレオチド配列、又はその相補配列を提供する。核酸/ヌクレオチド配列は、例えばDNA又はRNAであってよく、イントロン配列を含んでも含まなくてもよい。さらに、本発明は、低い及び/又は高いストリンジェンシー条件下で本発明の核酸とハイブリダイズする核酸を提供する。「高いストリンジェンシー条件」には、高温及びハイブリダイズ緩衝液の塩含有量が低いことが含まれる。「低いストリンジェンシー条件」には、低温及びハイブリッド形成緩衝液の塩含有量が高いことが含まれる。
【0051】
ある実施形態において、この抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸は、処置用であってよい。この抗体又はその抗原結合部分を、病理的PD-L1シグナル伝達から起こる対象の任意の疾患又は状態の治療における処置として用いてよいと想定され、その場合、結果として対象はこのシグナル伝達の遮断から利益を得ることになる。用語「処置」又は「治療」とは、統計的に有意な方法で、状態(疾患など)、状態の症状を治す(cure)、治す(heal)、軽減する(alleviate)、軽減する(relieve)、変える、治療する、寛解させる、改善する若しくは影響する、又は疾患の症状、合併症(complications)、生化学的兆候の発生を防止する又は遅らせる、又は疾患、状態若しくは障害のさらなる発生を停止する若しくは阻止する目的で、活性剤を投与することを指す。
【0052】
さらなる実施形態において、この抗体若しくは抗原結合部分又はその核酸は、がんの治療用であってよい。用語「がん」及び「腫瘍」は、互換的に用いられ、成長、増殖又は生存が対応する正常な細胞の成長、増殖又は生存より大きい細胞又は細胞の集団、例えば細胞増殖性又は分化障害を指す。典型的には、この増殖は制御されない。用語「悪性」とは、癌性細胞による近くの組織の浸潤を指す。
【0053】
好ましい実施形態において、がんは、中枢神経系(CNS)内に存在する腫瘍であってよい。本明細書に開示される抗体又はその抗原結合部分は、サイズが小さいので、CNSのがんに特に用いられることができる。この抗体又はその抗原結合部分のサイズが小さい結果、IgGなどのサイズが大きい抗体分子と比較して、血液脳関門を通過するようこの抗体又はその抗原結合部分を遺伝子操作できる可能性が高い。
【0054】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明で治療するよう意図されるがんは、固形腫瘍である。「固形腫瘍」は、典型的には液体の嚢腫又は領域が無い異常な組織の塊を意味する。免疫療法介入に特に応答性があるがんを標的としてよいことが意図される。したがって、PD-L1に向けられる抗体が有効かどうかを判断する目的で、対象検体を採取して腫瘍細胞上の、例えばPD-L1などの発現レベルを決定してよい。
【0055】
本発明により治療することができるがんの例としては、メラノーマ、腎臓癌、前立腺癌
、乳癌、結腸癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚悪性黒色腫又は眼内悪性黒色腫、子宮癌(uterine cancer)、卵巣癌、直腸癌、肛門領域のがん、胃癌、精巣癌、子宮癌(uterine cancer)、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、腟癌、外陰癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部肉腫、尿道癌、陰茎癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、を含む慢性又は急性白血病、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は尿管の癌、腎盂腎癌、中枢神経系(CNS)の腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、及びこれらのがんの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明はまた、転移性癌、特にPD-L1を発現することが知られている転移性癌における使用にも適している。
【0056】
さらなる実施形態において、本発明は、感染症の治療用であってよい。用語「感染症」とは、微生物、細菌、ウイルス、真菌又は寄生虫によって起こる一群の疾患を指す。各々によって起こる疾患は、直接的又は間接的に伝搬してよい。感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症又は真菌症であってよい。
【0057】
治療することができるウイルス感染症の例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エボラウイルス、肝炎ウイルス(A、Β、又はC)、ヘルペスウイルス(例えばVZV、HSV-I、HAV-6、HSV-II、及びCMV、エプスタイン・バーウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、RSウイルス(respiratory syncytial virus)、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLVウイルス、デングウイルス、パピローマウイルス、軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス又はアルボウイルス脳炎ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
可能性のある細菌感染症の例としては、クラミジア、リケッチア菌、マイコバクテリア、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌(pneumonococci)、髄膜炎菌及び淋菌、クレブシエラ、プロテウス、セラチア、シュードモナス、レジオネラ、コリネバクテリウム・ジフテリア、サルモネラ菌、桿菌、ビブリオ・コレラ、クロストリジウム・テタン(破傷風菌)、クロストリジウム・ボツリヌス、炭疽菌(Bacillus anthricis)、エルシニア・ペスティス(ペスト菌)、マイコバクテリウム・レプラエ(らい菌)、マイコバクテリウム・レプロマトーシス、及びボレリア(Borriella)が挙げられるが、これらに限定されない。可能性のある治療される寄生虫感染症の例としては、赤痢アメーバ、大腸バランチジウム、フォーラーネグレリア、アカントアメーバ、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、ニューモシスチス・カリニ、三日熱マラリア原虫、ネズミバベシア、ブルセイトリパノソーマ、クルーズトリパノソーマ、ドノバンリーシュマニア、トキソプラズマ原虫、ブラジル鉤虫が挙げられる。可能性のある治療される真菌症としては、カンジダ(アルビカンス、krusei、グラブラタ、トロピカリスなど)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、アスペルギルス(フミガーツス、クロコウジカビなど.)、ケカビ目(ケカビ(mucor)、アブシディア(absidia)、クモノスカビ属(rhizopus)、Sporothrix schenkii、ブラストミセス・デルマチチジス、南アメリカ分芽菌、コクシジオイデス・イミチス及びHistoplasma capsulatumが挙げられる。
【0059】
本発明は、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合部分又は核酸を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、この医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は既知の治療薬と併せて、治療有効量の本発明を含む。他の実施形態において、医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は既知の治療薬と併せて、治療量以
下の本発明を含む。後者の場合においては、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合部分は、追加の治療薬と相乗的に働くことができると想定される。この場合は低用量の各治療薬を必要としてよく、したがって、この処置/治療後に対象が経験することができるいかなる有害作用の発生率も低減することが予想される。
【0060】
用語「治療有効量」とは、好ましくは疾患症状の重症度の低減、疾患無症状期間の頻度及び期間の増加、又は疾患の苦痛(すなわちがん又は感染症)による機能障害(impairment)又は身体障害(disability)の予防をもたらす抗体の量を指す。
【0061】
用語「有効量」とは、所望の生物学的又は治療的結果を提供するのに必要とされる剤の充分な量を指す。この結果とは、疾患の1つ又は複数の徴候、症状、又は原因の減少、寛解(amelioration)、緩和(palliation)、軽減(lessening)、遅延及び/若しくは軽減(alleviation)、又は生命システムの任意の他の望ましい変化であってよい。
【0062】
がんに関しては、有効量は、腫瘍を収縮させる及び/若しくは腫瘍の増殖速度を低減する(腫瘍の増殖を抑制するなど)又は他の望まない細胞増殖を防ぐ若しくは遅延させるのに充分な量を含んでよい。いくつかの実施形態においては、発生を遅延する、又は寿命を延長する又はがん若しくは腫瘍の安定化を誘導するのに充分な有効量である。
【0063】
感染症に関しては、有効量は、ウイルス量の低減及び/又は対象のCD4細胞数(免疫系の強さを示す尺度)の増加を含んでよい。
【0064】
薬学的に許容される担体は、生理学的に適合する、任意の及び全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを指すよう意図される。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は上皮投与(epidermal administration)に適している。投与経路に依存して、投与される製品を不活性化し得る有害な生理的条件(例えば強酸性)から製品を保護するために、製品を材料でコーティングしてよい。
【0065】
医薬組成物は、薬学的に許容される塩を含んでよく、この用語は、親化合物の所望の生物活性を保持するが、いかなる望まれない毒性効果も与えない塩を指す。
【0066】
このような塩の例には、酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。酸付加塩としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの無毒の無機酸、並びに脂肪族モノ及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸などの無毒の有機酸に由来するものが挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、及びN’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの無毒の有機アミンに由来するものが挙げられる。
【0067】
本発明の医薬組成物はまた、薬学的に許容される抗酸化剤を含んでよい。薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤、(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α―トコフェロールなどの油溶性酸化剤、及び(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が挙げられる。
【0068】
本発明の医薬組成物に利用してよい適した水溶性又は非水溶性担体としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油並びにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用により、分散物の場合必要とされる粒径を維持することにより、及び界面活性剤の使用により、適切な流動度を維持することができる。
【0069】
医薬組成物はさらに、保存料、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤を含有してよい。微生物が存在するのを防止することは、上の、滅菌法により、及び例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸(phenol sorbic acid)などの各種抗菌及び抗真菌剤を含有させることの両方により保証してよい。組成物に糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることも望ましくてよい。さらに、注射可能な医薬剤形の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を含めることによりもたらされてよい。
【0070】
本発明は、例えばがん又は感染症などに有効なことが知られている追加の治療薬を任意選択的に含んでよい医薬組成物を含む。例えば、本発明は、既知の化学療法剤の毒性レベルを低減するための方法として、例えば、アルトレタミン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、シスプラチン及びダカルバジンなどの既知の化学療法薬と組み合わせて使用してよい。本発明はまた、例えば、抗レトロウイルス療法、抗生物質、抗真菌薬及び抗寄生虫薬などの感染症治療と組み合わせて使用してもよい。医薬組成物を、例えば、がんの対象に対する放射線療法又は化学療法などの、追加の治療法と、同時発生的(concurrently)/同時(simultaneously)に投与してよい。用語「同時発生的(concurrently)」又は「同時(simultaneously)」とは、この治療法の投与が同日に起こることを指す。あるいは、医薬組成物を追加の治療法と別々に投与してもよい。用語「別々に」とは、この治療法の投与が異なる日に起こることを指す。
【0071】
本発明はまた、1つ又は複数の免疫原性剤の存在を含んでよい。「免疫原性剤」は、免疫応答を誘導することができる任意の分子を意味する。このような免疫原性剤の例としては、癌性細胞、精製腫瘍抗原及び免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子を遺伝子導入した細胞が挙げられる。これらの剤と本明細書に開示される抗体との併用を、例えば、腫瘍細胞などの標的に対する増強した免疫応答を生み出すために用いてよい。
【0072】
添付の図面を参照して、本発明を以下の実施例において説明する。
【実施例
【0073】
実施例1―結合クローンの作成
6頭のオスのアルパカを組換えヒトPD1(Randox)で免疫化する一方、さらに6頭のアルパカを組換えヒトPD-L1(Randox)で免疫化した。12頭の動物全てを1か月間隔で7か月間免疫化した。リンパ節細胞を収集し、出版されたプライマーセット(Maass et al, 2007; Harmsen et al.,2000)を用いたRT-PCRにより単一ドメイン抗体ライブラリーを作製した。DNAライブラリーをpScreen発現ベクターに連結し、42℃で1分間の熱ショックにより発現用Top10大腸菌コンピテントセル(Invitrogen)に形質転換した。その後、抗体クローン結合PD-L1をヒト組換えPD1及びPD-L1(Randox and R&D Systems)に対するELISAスクリーニングにより分離した。
【0074】
合計223個のsdAbクローン(PD1に対して142個でPD-L1に対して81
個)を分離し、Big Dye terminator kit v3.1(Thermo-Fisher)を用いて配列決定した。続けて、スケールアップ発現及び特徴づけ評価を受けるために実質的に異なるDNA配列を有することに基づいて、配列決定した223個のクローンのうち、77個のクローン(PD1に対する53個及びPD-L1に対する24個)を選定した。
【0075】
実施例2-パイロット発現
200mlのスケールアップした培養液中で、配列多様性に基づいて選定された77個のクローンを以下の通り発現した。PD1/PD-L1 sdAb配列を含有する5μg/ml pScreenプラスミドmini-prep1μlを、42℃で1分間の熱ショックにより発現用Top10大腸菌コンピテントセル(Invitrogen)に形質転換した。続けて、細胞を50μg/mlのアンピシリン(Sigma)を含有する寒天プレートに広げ、37℃で一晩インキュベーションした。翌朝、各クローンのコロニーをTB培地(Melford)200mlに播種し、37℃で成長させた。翌日、Bugbuster細胞溶解試薬を用いて培養物を溶解し、Talonレジン(Takara)を用いた固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)により精製した。SdAb調製物を280nmで定量化し、各抗体2μgを標準的な方法により12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。電気泳動したゲルの目視検査に基づいて抗体純度を割り当てた(選択されたクローンの結果については表1を参照する)。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例3―PD1/PD-L1阻害ELISAアッセイ
77クローン全てのPD1/PD-L1相互作用の阻害を調べるためにPD1/PD-L1阻害アッセイを開発した。要約すると、ELISAプレートを4℃で一晩、1μg/mLの組換えヒトPD1(Randox)のPBS pH7.4溶液でコーティングした(図1)。翌日、プレートの内容物を廃棄し、プレートを300μL/ウェルのブロック試薬(Roche Cat# 11921681001)でブロックし、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、ブロック試薬を廃棄し、60ng/mLのPDL1-Fc(RnD Sys Cat# 156-B7)50μLを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、PD1/PD-L1相互作用のブロックを調べるために、ウェル当たり50μLの連続希釈(10,000から0.1ng/mL)した抗PD1又は抗PDL1 sdAbクローンを加えた。プレートを37℃で1時間インキュベーションした。この後TBS-T 300μL/ウェ
ルで6回洗浄し、その後1/1000希釈のヤギ抗ヒトIgG HRPコンジュゲート(Abcam Ab97225)検出抗体を加えた。プレートをTBS-T300μL/ウェルで6回もう一度洗浄し、TMB試薬50μL/ウェルを加えることによりシグナルを発生させ、室温で20分間、暗所でインキュベーションした。2N硫酸50μLを加えることによりシグナルの発生を停止した。各ウェルの吸光度をOD450nmで読み取った。
【0078】
このアッセイの結果から、PD1/PD-L1結合阻害を調べた77個のクローンのうち、7個のクローンのみ(9.1%)がPD1/PD-L1結合の正の阻害を示すことが明らかになった。7個のブロッククローンのうち1個のクローンのみ(クローン32.1A1)が濃度1μg/mlでPD1/PD-L1結合を完全に阻害した(ブロック結果については図2を参照する、全てのブロッククローンの配列については表2を参照する)。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例4-さらなるクローン評価
記載されたブロックアッセイに続いて、上のアッセイで特定された、PD1/PDL1相互作用を首尾よくブロックしたクローンと類似する配列を持つクローンを特定するために、223個の配列全てのアライメントを含む配列データベースを精査した。全ての中で、さらなる4個のクローン配列が、既に特定されたブロッククローンと大部分が類似する
と特定され、リードブロッククローン32.1A1と4個の残基だけ異なる(CDR2の1残基置換及びCDR3の1残基置換を含む)1つのクローン32.2F7も含んだ。これらの4個のクローン(46.4H7、46.2D2.D12.D5、46.2D2.H7及び32.2F7)を続けて前述したように発現し、精製し、その後、リードPD1及びPD-L1ブロック抗体32.1A1及び46.3C10を正の対照として用いて、上述したものと同一のブロックアッセイで評価した。結果から、リード抗PDL1クローン32.1A1は、密接な相同体32.2F7と比較すると類似するブロック効果を示した一方、新しい抗PD1クローンの中でリードPD1結合抗体46.3C10と同等又はより良好なブロックを示したものはなかった(図3)。
【0081】
実施例5-クローン32.1A1の結合アフィニティーの測定
Octet Red96機器(ForteBio)で、組換えヒトPDL1-Fcキメラタンパク質(R&D Systems)をプロテインGバイオセンサー(ForteBio)の表面に最大5分間、最小結合応答1.0nMを達成するまで結合した。センサーをアッセイ緩衝液に1分間浸し、その後、抗PDL1単一ドメイン抗体32.1A1に濃度範囲500ng/mL~7.81ng/mLで曝露した。sdAbの存在下5分間インキュベーション後、センサーをアッセイ緩衝液中で15分間インキュベーションした。1000rpmで常に攪拌した96ウェルプレートで、30℃、PBS系アッセイ緩衝液(pH7.40)中で、データを得た。データ追跡は、参照追跡(sdAb分析物がないPD-L1ロードセンサー)を減算し、1:1結合モデルを想定するGlobal Fitを適用することにより、Octet Data Analysisソフトウェア(バージョン10)を用いて分析して、結合親和性0.47nMを与えた。この数字は、FDAの医薬品評価研究センターの総説(出願番号761049Orig1s000)に述べられる市販の抗PDL1製品アベルマブについて述べられる結合親和性0.7nMと比較して優れている。
【0082】
実施例6-クローン32.1A1のヒト化及び試験
リードブロッククローン32.1A1のCDRをモデルヒトVH3フレームワーク配列に移植し、ヒト化配列を合成し、発現ベクターpScreenにクローニングした。上で概略を述べた方法を用いてこのクローンを発現した後、ヒト化クローンを最初のクローン32.1A1と結合ELISAで比較したが、結合ELISAではPD-L1をELISAプレートの表面にコーティングし、ブロックし、そしてヒト化及び非ヒト化抗体フラグメントの各々の勾配でプローブした。最後に、ELISAプレートを再度洗浄し、検出用二次抗体、抗MycHRP(abcam)で検出した。結果から、2個の抗体は機能的に等価であり、ヒト化後も完全結合が保持されることが明らかになった(図4)。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例7-アベルマブを基準として評価したPD1/PD-L1阻害ELISAアッセイ
リードクローン32.1A1及びその誘導体をMerckによって開発された市販の治療抗体アベルマブを基準として評価するためには、抗IgG検出用抗体を利用しないアッセイフォーマットを使用することが必要である。この目標に向かって、市販のPD1:PDL1阻害アッセイをAcro Biosystemsから調達した(Cat# EP-101)。要約すると、このアッセイは、表面にコーティングされたPDL1を有する一方、ストレプトアビジン-HRPコンジュゲートを用いてビオチン化PD1リガンドを検出する。32.1A1、そのヒト化誘導体hum32.1A1及びその密接な類縁体32.2F7のブロックを、アベルマブ(Creative Biolabs, Cat# TAB004ML)と比較するために、このアッセイを用いた。結果から、調べた3個の単一ドメイン抗体全ては、類似濃度のアベルマブと比較して10倍を超えるブロック量を示すことが明らかになった(図5)。
【0085】
実施例8-細胞に基づく阻害アッセイ
ELISA阻害アッセイにより特定された2個のリードPD1及びPD-L1ブロッククローンを、細胞表面でのPD1/PD-L1相互作用の阻害を調べるための市販細胞アッセイである、Promega PD1/PD-L1 Blockade Bioassay(Cat# J1250)を用いて調べた(図6)。このアッセイの結果からも、抗PDL1クローン32.1A1が、この細胞に基づくアッセイフォーマットで、市販の治療抗体アベルマブよりも優れたブロックを有することが明らかになった(図7)。
【0086】
実施例9-ストレス安定性及び溶解度試験
抗PDL1 32.1A1 sdAbの高ストリンジェンシー精製を行う目的で、ヒト化32.1A1クローンのより大規模な6L発現を行った。要約すると、一晩インキュベーションする前に200mlの培養液をさらに6LのTBに播種したことを除いて、前述の通り発現を行った。翌日、scFvを抽出し、Talonレジンを使ったIMACにより精製した後、溶出液を続けてHiload 26/600 superdex 75 PGカラム(GE Healthcare)を使ったサイズ排除クロマトグラフィーにより仕上げをした。その後sdAbモノマーに対応する画分をプールし、標準的方法にしたがってSDS-PAGEゲルを使って電気泳動した(図8)。
【0087】
その後精製したヒト化32.1A1のうち3アリコートを-20℃、4℃及び37℃で1週間貯蔵することによりストレスを与えた。異なる温度で貯蔵した後、凝集体の形成を確認するために、各アリコートのうち50μgをsuperdex 75 Increase 5/150 GLサイズ排除カラムを使って分析した。この試験の結果は、調べた貯蔵温度の全てで凝集体の証拠を示さなかった(図9)。この試験と同時に、3つの温度の各々で貯蔵した後の抗体の結合能を調べるために結合アッセイを実行した。要約すると、PD-L1をELISAプレートの表面にコーティングし、ブロックし、3つの温度の各々で貯蔵された抗体の勾配でプローブした。最後に、ELISAプレートを再度洗浄し、検出用二次抗体、抗Myc HRP(abcam)で検出した。このアッセイの結果から、調べたいずれの温度で貯蔵した後も、結合能の有意な損失は起こらなかったことが明らかになった(図10)。
【0088】
実施例10-交差反応性試験
ELISAプレートの表面にヒトPD1、PD-L1、CTLA4及びTIGIT(全てRandox)、カニクイザル及びマウスPD-L1(両方ともSino Biological)並びにカニクイザル及びマウスPD1(両方ともR&D Systems)をコーティングし、ブロックした。プレートを32.1A1抗体の30ng/ml希釈でプローブし、37℃で1時間攪拌しながらインキュベーションした。最後に、ELISAプレートを洗浄し、抗Myc HRP(abcam)検出用二次抗体で検出した。この試験の結果から、32.1A1クローンのヒト及びカニクイザルPD-L1に対する結合は実証されたが、マウスPD-L1又は他の無関係の抗原にいずれかに対する結合は実証されなかった(図11を参照する)。
【0089】
実施例11-置換試験
h32.1A1抗体がPDL1抗原に対して結合するのに重要な残基を特定するために、ヒト化32.1A1のCDR3にわたり15個の異なる残基のアラニン置換を用いて、一連の15個の変異sdAbクローンを合成した(図12を参照する)。合成後、変異クローン全てを以前実験2で概略を述べた通りに発現し、その後実験6で既に概略を述べた方法によりELISAを使って結合親和性を調べた。
【0090】
結果から、調べた15個のクローンのうち、親クローンh32.1A1の結合能と等価な結合能を示す4個のクローン(GS645、GS651、GS656及びGS659)を特定したことが示された(図13A及びBを参照する)。さらに、1つのクローン(GS648)は、PDL1結合能の完全喪失を示したが、他の全てのクローンは親クローンh32.1A1の結合能及び結合しないクローン(GS648)の結合能の間の中間レベルの結合能を示した。
【0091】
結論として、図12に示されるCDR3の16個の残基のうち、これらの残基の4個は、h32.1A1によるPDL1抗原の認識に重要でないことが、アラニン置換により明らかにされた。これらの残基は、図12において示されるように、1位、7位、13位及び16位の残基だった。13位の残基の柔軟性は、2個の異なるPDL1結合姉妹クローン32.1A1及び32.2F7のこの位置に2個の異なるアミノ酸が存在することにより、以前予測されていた。
【0092】
説明の一部を構成する配列
配列番号1(クローンID 31.1A1のCDR1)
RTFREYGMG
配列番号2(クローンID 31.1A1のCDR2)
TISSSGSYSY
配列番号3(クローン31.1A1のCDR3)
AASSLLRGSSSRAESYDS
配列番号4(クローンID 32.2F7のCDR1)
RTFREYGMG
配列番号5(クローンID 32.2F7のCDR2)
TISSSGSYTY
配列番号6(クローンID 32.2F7のCDR3)
AASSLLRGSSSRAEPYDS
配列番号7(全長抗体-CDR1~3)
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGRTFREYGMGWFRQAPGKGLEWVATISSSGSYSYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAASSLLRGSSSRAESYDSWGQGTLVTVSS
配列番号8(全長抗体-CDR4~6)
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGRTFREYGMGWFRQAPGKGLEWVATISSSGSYTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAASSLLRGSSSRAEPYDSWGQGTLVTVSS
配列番号36(クローンID 31.1A1のCDR3)
XSLLRGXSSRAEXYDX(Xは、任意のアミノ酸を表す)
【0093】
参考文献
1. Okazaki T, Honjo T. PD-1 and PD-1 ligands: from discovery to clinical application. Int Immunol. 2007;19(7):813-824.

2. Maass DR, Sepulveda J, Pernthaner A, and Shoemaker CB 2007 Alpaca, Lama pacos
as a convenient source of recombinant camelid heavy chains. J. Immunol. Methods
2007: 324 (1-2):13-25.

3. Harmsen MM, Ruuls RC, Nijman IJ, Niewold TA, Frenken LG, de Geus B. 2000: Llama heavy chain V regions consist of at least four distinct subfamilies revealing
novel sequence features. Mol. Immunol. 37 (2000): 579-590.
図1
図2
図3
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図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
【配列表】
2023547537000001.app
【国際調査報告】