(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-13
(54)【発明の名称】ブタ雌雄鑑別精液及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/02 20060101AFI20231106BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20231106BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231106BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20231106BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20231106BHJP
【FI】
A01K67/02
A01K29/00 A
C12N15/12
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523199
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 US2021055016
(87)【国際公開番号】W WO2022081868
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500368329
【氏名又は名称】エービーエス グローバル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カルバートソン, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】エバーソール, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ヘリング, ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA13
4B063QQ02
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
(57)【要約】
本開示は、一般的に、多重レベルのブタ産生システムにおける望ましい形質の効率的な普及のためにブタ雌雄鑑別精子細胞を使用するための方法に関する。方法は、商業的農場レベルで子孫の性別を偏らせるために雌雄鑑別された精子細胞を使用することと、改善された成長能力形質を有するブタの群れを産生することと、病原体耐性ブタの群れを産生することと、低用量人工授精技法を使用して遺伝子核からの望ましい形質を商業的農場へ普及させることと、を含む。方法はまた、雌の子孫の比を増加させることによって生産レベルでコストを低減し、雄の去勢を低減又は排除することによって全ての生産のレベルで動物福祉を改善するための手段を提供する。加えて、本技術の方法は、特殊化された豚肉製品の生産フローを開発するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原体耐性ブタの群れ又は集団を産生するための方法であって、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含み、前記雄ブタが、1つ以上の病原体耐性マーカーを含み、それによって、1つ以上の病原体耐性マーカーを含む子孫を産生する、方法。
【請求項2】
1つ以上の病原体耐性マーカーを有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で前記子孫からの1頭以上の雌を受精させることを更に含み、前記雄ブタ及び前記1頭以上の雌の子孫からの前記1つ以上の病原体耐性マーカーが同じであるか又は異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1頭以上の雌の子孫が、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、前記雄ブタが、遺伝子核系統のメンバーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1頭以上の標的雌ブタを受精させることが、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、前記雌雄鑑別された精子細胞試料を前記1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記雄ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1頭以上の標的雌ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記病原体が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記病原体耐性群れ又は集団が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される病原体に耐性である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記病原体が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の病原体耐性マーカーが、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の変異が、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記雄ブタからの前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1つ以上の病原体耐性マーカーを有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1ミリリットル当たり約2×10
4~約4×10
6個の精子細胞の濃度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ブタの群れ又は集団における改善された成長能力形質の普及を向上させる方法であって、
(a)雄ブタから精子細胞試料を得ることであって、前記雄ブタが、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康からなる群から選択される1つ以上の改善された成長能力形質を含む、得ることと、
(b)前記雄ブタから得られた前記精子細胞試料を濃縮することと、
(c)前記濃縮された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることと、
(d)前記1つ以上の改善された成長能力形質を有する子孫を産生することと、を含む、方法。
【請求項15】
(e)前記1つ以上の改善された成長能力形質の次世代への普及を向上させるであろう前記1つ以上の改善された成長能力形質を有する1頭以上の雌の子孫を選択することと、
(f)1つ以上の改善された成長能力形質を有する雄ブタの精子細胞試料から得られた濃縮された精子細胞試料で前記選択された1頭以上の雌の子孫を受精させることであって、前記雄ブタ及び前記1頭以上の雌の子孫の前記1つ以上の改善された成長能力形質が、同じであるか又は異なる、受精させることと、を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記向上した成長効率形質が、増加した平均1日増加、増加した平均1日飼料摂取量、増加した飼料効率、低減した背脂肪厚さ、増加した筋肉量、増加したロイン筋面積、及び増加した枝肉赤身パーセンテージからなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記向上した成長効率形質が、リアノジン受容体、プロテインキナーゼAMP活性化ガンマ3(AMPKγ-3、PRKAG3))、対様ホメオドメイン転写因子2(Pitx2)、インスリン様成長因子2(IGF2)、高移動度群AT-フック2(HMG2A)、コレシストキニンA受容体(CCKAR)、脂肪酸シンターゼ(FASN)、カルパスタチン(CAST249、638)、及びメラノコルチン-4受容体(MC4R)遺伝子からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記改善された成長能力形質が、向上した生殖品質を含み、前記向上した生殖品質が、エストロゲン受容体(ER)及びエリスロポエチン受容体(EPOR)からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記1頭以上の標的雌ブタを受精させることが、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、前記雌雄鑑別された精子細胞試料を前記1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記雄ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1頭以上の標的雌ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記1頭以上の雌の子孫が、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、前記雄ブタが、遺伝子核系統のメンバーである、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上の変異が、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項24】
前記雄ブタから得られた前記精子細胞試料を濃縮することが、X染色体又はY染色体保有精子細胞について前記精子細胞試料を雌雄鑑別して、雌雄鑑別された精子細胞試料を得ることを含む、請求項14~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記雄ブタからの前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1つ以上の改善された成長能力形質を有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1ミリリットル当たり約2×10
4~約4×10
6個の精子細胞の濃度を有する、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
ブタの群れ又は集団における雌の子孫の数を増加させる方法であって、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させて、子孫を産生することを含み、前記雄ブタが、遺伝子核系統のメンバーであり、前記1頭以上の標的雌ブタが、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、前記子孫の約65%~約99%が、雌である、方法。
【請求項28】
前記子孫が、末端親系統である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記受精した1頭以上の標的雌ブタが、約0~35%の雄の子孫を産生する、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約99%のX染色体保有精子細胞を含む、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記1頭以上の標的雌ブタを受精させることが、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、前記雌雄鑑別された精子細胞試料を前記1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1ミリリットル当たり約2×10
4~約4×10
6個の精子細胞の濃度を有する、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記1頭以上の標的雌ブタを受精させることが、卵管内授精を使用して、前記1頭以上の標的雌ブタの前記生殖器官に少なくとも0.5×10
6個の雌雄鑑別された精子細胞を投与することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記1頭以上の標的雌ブタを受精させることが、深部子宮内授精を使用して、前記1頭以上の標的雌ブタの前記生殖器官に少なくとも10×10
6個の雌雄鑑別された精子細胞を投与することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、新鮮であるか又は凍結保存されている、請求項27~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
病原体耐性雌ブタの群れ又は集団を産生する方法であって、
エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含み、前記雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%が、X染色体を保有し、前記雄ブタが、1つ以上の病原体耐性マーカーを含み、子孫を産生し、前記子孫の約65%~約99%が、雌であり、前記雌の子孫が、前記1つ以上の病原体耐性マーカーを含む、方法。
【請求項37】
1つ以上の病原体耐性マーカーを有する前記雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で前記子孫からの1頭以上の雌を受精させることを更に含み、前記雄ブタ及び前記1頭以上の雌の子孫からの前記1つ以上の病原体耐性マーカーが同じであるか又は異なり、前記雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%が、X染色体を保有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記1頭以上の雌の子孫が、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、前記雄ブタが、遺伝子核系又は娘核系統のメンバーである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記1頭以上の標的雌ブタ又は前記子孫からの1頭以上の雌を受精させることが、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、前記雌雄鑑別された精子細胞試料を前記1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記雄ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項36~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記1頭以上の標的雌ブタが、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである、請求項36~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記病原体が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される、請求項36~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記病原体耐性群れ又は集団が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される病原体に耐性である、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記病原体が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスである、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項45】
前記1つ以上の病原体耐性マーカーが、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異を含む、請求項36~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
1つ以上の改善された成長能力形質を有する向上した雌ブタの群れ又は集団を産生する方法であって、
エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含み、前記雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%が、X染色体を保有し、前記雄ブタが、1つ以上の改善された成長能力形質を有し、子孫を産生し、前記子孫の約65%~約99%が、雌であり、前記雌の子孫が、前記1つ以上の改善された成長能力形質を保有する、方法。
【請求項47】
前記1つ以上の改善された成長能力形質が、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記1つ以上の改善された成長能力形質が、増加した平均1日増加、増加した平均1日飼料摂取量、増加した飼料効率、低減した背脂肪厚さ、増加した筋肉量、増加したロイン筋面積、及び増加した枝肉赤身パーセンテージからなる群から選択される向上した成長効率形質である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記子孫が、末端親系統である、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記受精した1頭以上の標的雌ブタが、約0~35%の雄の子孫を産生する、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約99%のX染色体保有精子細胞を含む、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記向上した成長効率形質が、リアノジン受容体、プロテインキナーゼAMP活性化ガンマ3(AMPKγ-3、PRKAG3))、対様ホメオドメイン転写因子2(Pitx2)、インスリン様成長因子2(IGF2)、高移動度群AT-フック1(HMG1A)、コレシストキニンA受容体(CCKAR)、脂肪酸シンターゼ(FASN)、カルパスタチン(CAST249、638)、及びメラノコルチン-4受容体(MC4R)からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項53】
高い健康を有する子孫を産生する少なくとも1つの健康形質を有するために選択される雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の雌ブタを受精させることを含む、高健康ブタの群れ又は集団を産生するための、方法。
【請求項54】
前記健康形質が、望ましくない身体的異常の不在、改善された足及び脚の健全性、特定の疾患若しくは疾患生物に対する耐性、又は病原体に対する一般的な耐性のうちの1つ以上から選択される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記望ましくない身体的異常が、鼠径ヘルニアの傾向、潜在精巣、鎖肛、及びスプレーレッグのうちの1つ以上から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記病原体が、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeのうちの1つ以上から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記病原体が、PRRSウイルスである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記特定の疾患生物への耐性が、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異に関連している、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記1つ以上の変異が、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記特定の疾患が、Rendement Napole又はブタストレス症候群である、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記雄ブタからの前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、少なくとも1つの健康特性を有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む、請求項53~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記雌雄鑑別された精子細胞試料が、1ミリリットル当たり約2×10
4~約4×10
6個の精子細胞の濃度を有する、請求項53~60のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月15日に出願された米国仮特許出願第63/092,299号の優先権の利益を主張するものであり、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本技術は、多重レベルのブタ産生システムにおける望ましい形質の効率的な普及のためにブタ雌雄鑑別された精子細胞を使用する方法に関する。より具体的には、本技術は、商業農場レベルで子孫の性別を偏らせるため、並びに人工授精技法を使用した数世代での遺伝子核から商業農場への病原体耐性マーカー及び改善された成長能力形質の普及のために、雌雄鑑別された精子細胞を使用する方法に関する。本技術の方法はまた、雌の子孫の比を増加させることによって生産レベルでコストを低減し、雄の去勢を低減又は排除することによって全ての生産のレベルで動物福祉を改善するための手段を提供する。加えて、本技術の方法は、特殊化された豚肉製品の生産フローを開発するために使用され得る。
【背景技術】
【0003】
本技術の背景の以下の説明は、単に本技術を理解する際の補助として提供され、本技術の先行技術を説明又は構成するとは認められていない。
【0004】
次世代のための親としての動物の経済的価値は、世界畜産業内での遺伝的改善を駆動する。特に、ブタ産業は、様々な産生システム(例えば、雌ブタ収容システム、遺伝子核、産生核、商業的農場)及び環境(地理的及び病原体フリー)において経済的に望ましい子孫を産生するであろうエリート核動物を選択するよう努めている。特定の動物のエリート特徴(すなわち、その利益貢献)は、その子孫を成長、堅牢性、効率、及び枝肉価値について試験することによって決定される。所望の形質の選択及びブタ産生におけるそれらの普及は、分子遺伝学、ゲノミクス、及びコンピュータ科学における進歩の恩恵を受けている。したがって、分子ツールを使用した遺伝的改善は、ブタ産生の経済的実行可能性における重要な因子となっている。
【0005】
しかしながら、効率的なブタ産生は、世代間隔、遺伝的ラグ、及び疾患などの因子によって駆動される、ブタ生物学によって制限される。世代間隔は、その子孫が生まれるときの親の平均年齢であり、遺伝的ラグは、核集団から商業的農場へ所望のエリート遺伝的形質を伝達するのにかかる時間である。一般に、雌の世代間隔は、雄よりも大きい。現在、人工授精、構造化されたギルト開発、並びにギルト及び雌ブタの置換率は、産業が、子孫が生まれるときの親の平均年齢をほぼ最適レベルで維持することを可能にする。しかしながら、遺伝子核からの特定のエリート遺伝的形質を商業レベルにするまでにかかる時間は、産業にとって大きな障害のままである。
【0006】
ブタ産業では、形質は、平等に形成されておらず、世界市場において同じ経済的重要性を有さない。加えて、形質は異なる単位で測定され、それらは異なる遺伝率係数を有する。ある世代から次への遺伝的形質の普及は、選択された親の遺伝的優位性に依存する。特定の個体の遺伝的優位性は、形質の遺伝率、並びに選択された親及びブタの群れの能力間の関係に依存する。現在、その子孫の能力に基づく特定の親の推定育種価(EBV)は、遺伝子核及び標的群れ間の遺伝的ラグを最小限に抑えるために使用される。EBVは、最良線形不偏予測(BLUP)などの市販の方法を用いて測定される。BLUPは、動物間の相加的遺伝的関係を同時に使用しながら、環境因子によって引き起こされる表現型優位性を除去することによってEBVを推定する。しかしながら、BLUPは、異なる環境における動物が関連していない場合、環境因子について補正することはできない。したがって、ブタ産生における望ましい形質の普及を増加させるために、世代間の遺伝的ラグを最小限に抑えるための改善された方法の必要性がある。
【0007】
遺伝的ラグは、ブタ生殖及び出産の根底にある生物学に密接に関連している。特に、妊娠の性比は、制御することが困難であり、望ましくない性別(例えば、雄)の大部分の生成は、経済的に不利であり得る。ブタ産業では、雄ブタ汚染に関連する問題のために、雄子孫の大部分は、商業レベルでは望ましくない場合がある。商業生産レベルで雄ブタ汚染問題に対処する現在の方法には、生後3日以内の外科的去勢、Improvest(登録商標)などのFDA承認された獣医学的ワクチンを使用した免疫去勢、乳酸又は亜鉛塩などの化学物質での精巣組織の局所的破壊を伴う、化学的去勢、春機発動期に達する前に雄ブタを屠殺すること、及び低雄ブタ汚染を有する雄ブタの遺伝子選択が含まれる。これらの方法は、それらのいくつかが動物福祉問題を提起し、他のものが繁殖及び商業農場の高い運営コストを必要とするため、現在経済的に効率的ではない。したがって、より高いパーセンテージの雌子孫の産生に向けて商業的系統を偏らせるために動物の子孫の性別を予め選択する必要がある。
【0008】
雌雄鑑別精子は、遺伝子形質選択及び普及と相まって、ブタ産生における遺伝的ラグを低減する潜在性を有する。
【発明の概要】
【0009】
一態様では、本開示は、病原体耐性ブタの群れ又は集団を産生するための方法であって、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含み、雄ブタが、1つ以上の病原体耐性マーカーを含み、それによって、1つ以上の病原体耐性マーカーを含む子孫を産生する、方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の病原体耐性マーカーを有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で子孫からの1頭以上の雌を受精させることを更に含み、雄ブタ及び1頭以上の雌の子孫からの1つ以上の病原体耐性マーカーは、同じであるか又は異なる。
【0011】
いくつかの実施形態では、1頭以上の雌の子孫は、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、雄ブタは、遺伝子核系統のメンバーである。
【0012】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタを受精させることは、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、雌雄鑑別された精子細胞試料を1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、雄ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0014】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0015】
いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される。
【0016】
いくつかの実施形態では、病原体耐性群れ又は集団は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される病原体に耐性である。いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスである。
【0017】
いくつかの実施形態では、1つ以上の病原体耐性マーカーは、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、1つ以上の病原体耐性マーカーを有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、1ミリリットル当たり約2×104~約4×106個の精子細胞の濃度を有する。
【0020】
一態様では、本開示は、(a)雄ブタから精子細胞試料を得ることであって、雄ブタが、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康からなる群から選択される1つ以上の改善された成長能力形質を含む、得ることと、(b)雄ブタから得られた精子細胞試料を濃縮することと、(c)1頭以上の標的雌ブタを濃縮された精子細胞試料で受精させることと、(d)1つ以上の改善された成長能力形質を有する子孫を産生することと、を含む、ブタの群れ又は集団における改善された成長能力形質の普及を向上させる方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、方法は、(e)1つ以上の改善された成長能力形質の次世代への普及を向上させるであろう1つ以上の改善された成長能力形質を有する1頭以上の雌の子孫を選択することと、(f)1つ以上の改善された成長能力形質を有する雄ブタの精子細胞試料から得られた濃縮された精子細胞試料で選択された1頭以上の雌の子孫を受精させることと、を更に含み、雄ブタ及び1頭以上の雌の子孫からの1つ以上の改善された成長能力形質は同じであるか又は異なる。
【0022】
いくつかの実施形態では、向上した成長効率形質は、増加した平均1日増加、増加した平均1日飼料摂取量、増加した飼料効率、低減した背脂肪厚さ、増加した筋肉量、増加したロイン筋面積、及び増加した枝肉赤身パーセンテージからなる群から選択される。
【0023】
いくつかの実施形態では、向上した成長効率形質は、リアノジン受容体、プロテインキナーゼAMP活性化ガンマ3(AMPKγ-3、PRKAG3))、対様ホメオドメイン転写因子2(Pitx2)、インスリン様成長因子2(IGF2)、高移動度群AT-フック2(HMG2A)、コレシストキニンA受容体(CCKAR)、脂肪酸シンターゼ(FASN)、カルパスタチン(CAST249、638)、及びメラノコルチン-4受容体(MC4R)遺伝子からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む。いくつかの実施形態では、改善された成長能力形質は、向上した生殖品質を含み、向上した生殖品質は、エストロゲン受容体(ER)及びエリスロポエチン受容体(EPOR)からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタを受精させることは、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、雌雄鑑別された精子細胞試料を1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、雄ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0026】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0027】
いくつかの実施形態では、1頭以上の雌の子孫は、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、雄ブタは、遺伝子核系統のメンバーである。
【0028】
いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、雄ブタから得られた精子細胞試料を濃縮することは、X染色体又はY染色体保有精子細胞について精子細胞試料を雌雄鑑別して、雌雄鑑別された精子細胞試料を得ることを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、1つ以上の改善された成長能力形質を有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、1ミリリットル当たり約2×104~約4×106個の精子細胞の濃度を有する。
【0032】
一態様では、本開示は、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させて、子孫を産生することを含む、ブタの群れ又は集団における雌の子孫の数を増加させる方法を提供し、雄ブタは、遺伝子核系統のメンバーであり、1頭以上の標的雌ブタは、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、子孫の約65%~約99%は、雌である。
【0033】
いくつかの実施形態では、子孫は、末端親系統である。
【0034】
いくつかの実施形態では、受精した1頭以上の標的雌ブタは、約0~35%の雄の子孫を産生する。
【0035】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約99%のX染色体保有精子細胞を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタを受精させることは、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、雌雄鑑別された精子細胞試料を1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、1ミリリットル当たり約2×104~約4×106個の精子細胞の濃度を有する。
【0038】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタを受精させることは、卵管内授精を使用して、1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に少なくとも0.5×106個の雌雄鑑別された精子細胞を投与することを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタを受精させることは、深部子宮内授精を使用して、1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に少なくとも10×106個の雌雄鑑別された精子細胞を投与することを含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、新鮮であるか又は凍結保存されている。
【0041】
一態様では、本開示は、エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含む、病原体耐性雌ブタの群れ又は集団を産生する方法を提供し、雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%は、X染色体を保有し、雄ブタは、1つ以上の病原体耐性マーカーを含み、子孫を産生し、子孫の約65%~約99%は、雌であり、雌の子孫は、1つ以上の病原体耐性マーカーを含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、その方法は、1つ以上の病原体耐性マーカーを有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で子孫からの1頭以上の雌を受精させることを更に含み、雄ブタ及び1頭以上の雌の子孫からの1つ以上の病原体耐性マーカーは、同じであるか又は異なり、雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%は、X染色体を保有する。
【0043】
いくつかの実施形態では、1頭以上の雌の子孫は、娘核系統又は繁殖体系統のメンバーであり、雄ブタは、遺伝子核系統又は娘核系統のメンバーである。
【0044】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタ又は子孫からの1頭以上の雌を受精させることは、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内授精(ITI)を使用して、雌雄鑑別された精子細胞試料を1頭以上の標的雌ブタの生殖器官に投与することを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、雄ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0046】
いくつかの実施形態では、1頭以上の標的雌ブタは、遺伝子核系統、娘核系統、又は繁殖体系統のメンバーである。
【0047】
いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される。
【0048】
いくつかの実施形態では、病原体耐性群れ又は集団は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される病原体に耐性である。いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスである。
【0049】
いくつかの実施形態では、1つ以上の病原体耐性マーカーは、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異を含む。
【0050】
一態様では、本開示は、エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることを含む、1つ以上の改善された成長能力形質を有する向上した雌ブタの群れ又は集団を産生する方法を提供し、雌雄鑑別された精子細胞試料中の精子細胞の少なくとも60%は、X染色体を保有し、雄ブタは、1つ以上の改善された成長能力形質を有し、子孫を産生し、子孫の約65%~約99%は、雌であり、雌の子孫は、1つ以上の改善された成長能力形質を保有する。
【0051】
いくつかの実施形態では、1つ以上の改善された成長能力形質は、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康から選択される。
【0052】
いくつかの実施形態では、1つ以上の改善された成長能力形質は、増加した平均1日増加、増加した平均1日飼料摂取量、増加した飼料効率、低減した背脂肪厚さ、増加した筋肉量、増加したロイン筋肉面積、及び増加した枝肉赤身パーセンテージからなる群から選択される向上した成長効率形質である。
【0053】
いくつかの実施形態では、子孫は、末端親系統である。
【0054】
いくつかの実施形態では、受精した1頭以上の標的雌ブタは、約0~35%の雄の子孫を産生する。
【0055】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約99%のX染色体保有精子細胞を含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、向上した成長効率形質は、リアノジン受容体、プロテインキナーゼAMP活性化ガンマ3(AMPKγ-3、PRKAG3))、対様ホメオドメイン転写因子2(Pitx2)、インスリン様成長因子2(IGF2)、高移動度群AT-フック1(HMG1A)、コレシストキニンA受容体(CCKAR)、脂肪酸シンターゼ(FASN)、カルパスタチン(CAST249、638)、及びメラノコルチン-4受容体(MC4R)からなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子における変異を含む。
【0057】
一態様では、本開示は、高い健康を有する子孫を産生する少なくとも1つの健康形質を有するために選択される雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の雌ブタを受精させることを含む、高健康ブタの群れ又は集団を産生するための方法を提供する。
【0058】
いくつかの実施形態では、健康形質は、望ましくない身体的異常の不在、改善された足及び脚の健全性、特定の疾患若しくは疾患生物に対する耐性、又は病原体に対する一般的な耐性のうちの1つ以上から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、望ましくない身体的異常は、鼠径ヘルニアの傾向、潜在精巣、鎖肛、及びスプレーレッグのうちの1つ以上から選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeのうちの1つ以上から選択される。いくつかの実施形態では、病原体は、PRRSウイルスである。
【0061】
いくつかの実施形態では、特定の疾患生物への耐性は、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異に関連している。
【0062】
いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、挿入、欠失、置換、又はそれらの組み合わせを含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、特定の疾患は、Rendement Napole又はブタストレス症候群である。
【0064】
いくつかの実施形態では、雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも1つの健康形質を有する1頭以上の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の組み合わせを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、1ミリリットル当たり約2×104~約4×106個の精子細胞の濃度を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、上記の方法のうちのいずれかにおいて使用される雌雄鑑別された精子細胞試料は、本明細書に記載されるようなX染色体又はY染色体保有精子細胞の量又はパーセンテージのうちのいずれかを含む。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1A】雄ブタ精液を処理してブタ雌雄鑑別精液試料を得るための方法の概要を示す概略図である。
【
図1B】本明細書に記載される方法によって処理された濃縮された精液試料のX偏り%を示すチャートである。試料は、17,500細胞/秒の速度でフローサイトメーター上で処理した。射精試料は、Boar9022から得た。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本技術の実質的な理解を提供するために、本方法の特定の態様、モード、実施形態、変形、及び特徴が、以下に様々な詳細さのレベルで記載されることを理解されたい。本明細書で使用される特定の用語の定義は、以下に提供される。別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、概して、本技術が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0069】
本技術は、雌雄鑑別された精子細胞試料を使用して雌ブタ系統を受精させ、これらの形質を遺伝子核から商業的農場に効率的に普及させることによって、ブタの群れ又は系統において病原体耐性及び改善された成長能力形質を産生する方法を対象とする。本明細書に開示される雌雄鑑別された精子細胞試料の使用は、当業者が、1つ以上の望ましい形質を保有するトランスジェニック又は修飾されたブタ系統を、費用効果的及び/又は有益な方法で商業的生産に普及させることを可能にするであろう。いくつかの実施形態では、本技術は、遺伝子核レベルで行われる長期的繁殖及び選択プログラムを犠牲にすることなく、雌標的の世代全体を受精させるためにごく少数又は単一の雄ブタを使用して、望ましいブタ産物を作製するための方法を提供する。
【0070】
I.定義
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、単数形のみを指定するように明示的に記載されない限り、単数形及び複数形の両方を指定する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「約」という用語及び範囲の使用は一般に、約という用語によって制限されるか否かにかかわらず、理解される数が本明細書に記載される正確な数に限定されず、本技術の範囲から逸脱しないが、実質的に引用された範囲内の範囲を指すことが意図されることを意味する。本明細書で使用される場合、「約」は、当業者によって理解され、使用される文脈である程度変動するであろう。使用される文脈を考慮して当業者には明らかではない用語の使用が存在する場合、「約」は、特定の用語のプラス又はマイナス10%までを意味する。
【0072】
本明細書で使用される場合、「商用ブタ」は、商業販売用のその肉のために屠殺されるブタ又は商業販売用のその肉のためにブタを産生する雌ブタを指す。本明細書で使用される「商業的農場」は、商用ブタを収容するための施設を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「娘核」という用語は、遺伝子核系統と同じ遺伝子系統のものであり、育種を通して遺伝子核から取得された遺伝的改善を繁殖体系統に移行するために使用される、雄及び雌ブタの1つ以上の集団を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、「効率的成長形質」及び/又は「能力形質」は、動物の成長速度及び/又は体組成に関連する形質の群を指す。そのような形質の例としては、これらに限定されないが、平均1日増加、平均1日飼料摂取量、飼料効率、背脂肪厚さ、ロイン筋面積、及び赤身パーセンテージが挙げられる。いくつかの実施形態では、本技術の方法によって産生されるブタは、1つ以上の能力形質遺伝子を有する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「エリート雄ブタ」は、遺伝子核の群れ集団の平均と比較して優れた遺伝的潜在性などの、非常に高い育種価を有する遺伝子核の群れにおいて産生される雄ブタである。
【0076】
本明細書で使用される場合、「推定育種価」(EBV)という用語は、その「育種価」を予測する動物についての特定の数値を指す。EBVは、市販の分析プログラムを使用して計算されることが多い(BLUP及びマーカー支援BLUPプログラムからの出力はEBVの例である)。EBVの計算は、当該技術分野で知られている(例えば、参照によって本明細書に組み込まれる、Misztal et al.,Computing procedures for genetic evaluation including phenotypic,full pedigree,and genomic information,J.Dairy Sci.92:4648-4655(2009)を参照されたい)。
【0077】
本明細書で使用される場合、「遺伝子核」及び「遺伝子核の群れ」という用語は、1つ以上の系統の遺伝的改善を増加するために使用され、経時的な遺伝的改善の供給源として機能する、雄及び雌ブタの1つ以上の集団を指す。上位ランキングの若齢雄及び雌は、この集団各世代から特定され、より高齢、より低ランキングの動物を置き換えるために遺伝子核の群れにおいて使用され、それによってある世代から次へと蓄積する遺伝的改善を生み出す。
【0078】
本明細書で使用される場合、「高健康」という用語は、特定の疾患の不在を特徴とする動物の群れ又は集団を指すことを意味する。これは相対的な用語である。例えば、本技術の一実施形態では、「高健康」は、末端雄ブタが販売される標的の群れを指す。そのような雄ブタは、例えば、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)又はマイコプラズマ肺炎(Mycoplasma hyopneumoniae)などの、特定の病原体又は疾患を含まない。遺伝子核の群れは、これらの病原体又は疾患を含む場合がある。
【0079】
本明細書で使用される場合、「改善された成長能力形質遺伝子」という用語は、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び/又は改善された健康と相関する遺伝子、対立遺伝子、バリアント、又は遺伝子マーカーを指す。
【0080】
本明細書で使用される場合、「系統」及び「品種」という用語は、共通の起源及び類似の特定する特徴を有する動物の群を指す。いくつかの実施形態では、本技術は、当該技術分野で使用される用語として、ブタの「純血系統」、「純血種」、及び「交雑種」に適用可能である。
【0081】
本明細書で使用される場合、「マーカー」という用語は、実験室で測定することができる染色体上の特定の位置を有するDNAの配列を指す。有用であるためには、マーカーは、2つ以上の対立遺伝子を有する必要がある。マーカーの一般的なタイプは、制限断片長多型(RFLP)、単純配列反復(SSR、「マイクロサテライト」マーカー)、及び一塩基多型(SNP)が含まれるが、これらに限定されない。マーカーは、直接的、すなわち、目的の遺伝子若しくは遺伝子座内に位置しているか、又は間接的、すなわち、目的の遺伝子若しくは遺伝子座と密接に結合しているかのいずれかであり得る(おそらく、目的の遺伝子又は遺伝子座に近接しているが、その内部にはない位置による)。
【0082】
本明細書で使用される場合、「マーカー支援割り当て」(MAA)という用語は、優れた推定育種価(EBV)を有する動物を特定するための表現型及び遺伝子型情報の使用、並びに販売用の末端雄ブタの遺伝的メリットを改善するか、又は遺伝子核若しくは標的の群れを改善するように設計された特定の使用へのそれらの動物の更なる割り当てを指す。いくつかの実施形態では、MAAは、複数の形質の選択のために、並びにその経済的価値及び遺伝率に基づいて各形質のバランスをとるために使用される。いくつかの実施形態では、本開示は、マーカーを使用して、本技術の方法に従った使用に好適なブタ系統を特定する手段を提供する。いくつかの実施形態では、選択されたブタ系統は、MAAを使用した子孫動物における所望の遺伝的改善を最も効果的かつ効率的にもたらすための使用に割り当てられる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「マーカー支援選択」(MAS)という用語は、選択のための、優れた推定育種価(EBV)を有する動物を特定するための表現型及び遺伝子型情報の使用、並びに遺伝子核の群れのための育種動物としての使用を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、「繁殖体」、又は「繁殖ユニット」、又は「繁殖体の群れ」という用語は、遺伝子核から取得された遺伝的改善を有する雄及び雌ブタの数を増殖及び増加させるために使用される、雄及び雌ブタの1つ以上の集団を指す。これらの系統は、純血系統又は交雑産物であり得、商用ブタの親、祖父母、又は曾祖父母として使用される。
【0085】
本明細書で使用される場合、「選択指標」という用語は、繁殖業者によって選択されたブタの特定の形質の発現に基づいて個々のブタ品種について生成された数値スコアを指す。一般に、繁殖業者は、祖先、子孫、及び動物自体の表現型記録などの血統及び表現型情報に基づいて、各動物の各経済的形質についての推定育種価を計算するであろう。
【0086】
本明細書で使用される場合、「サイアーライン」という用語は、商業的農場で使用される親雄ブタの産生に寄与する系統を指す。また、本明細書で使用される場合、「ダムライン」は、商業的農場で使用される親ギルト/雌ブタの産生に寄与する系統を指す。ブタ産生ピラミッドのあらゆるレベルで、遺伝子核から商業生産に至るまで、各交配タイプについて、子孫の産生のために選択される雄(雄ブタ及び/又はその精液)及び雌(ギルト/雌ブタ及び/又はその卵)がある。
【0087】
本明細書で使用される場合、「雌ブタ」という用語は、一般に、雌ブタ及びギルトを含む、任意の雌ブタを指す。雌ブタは、遺伝子核、繁殖体の群れ、又は商業的農場のメンバーであり得る。
【0088】
本明細書で使用される場合、「ブタ産生の群れ」又は「産生の群れ」又は「商用ブタ」という用語は、その主な目的が商業販売用のその肉のために屠殺されるブタを産生することである動物の集合体を指す。
【0089】
本明細書で使用される場合、「標的の群れ」は、遺伝子核の群れからのエリート雄ブタが、遺伝子核からの望ましい遺伝子/形質を標的の群れに移す目的で交配される、雌ブタの非遺伝子核の群れを指す。いくつかの実施形態では、標的の群れは、遺伝子核の群れのものと同じ遺伝子系統からの純血種雌からなり得るか、又は遺伝子の群れからの望ましい形質を含むことが望ましい任意のブタの雌からなり得る。いくつかの実施形態では、標的の群れは、娘核の群れ又は繁殖体の群れである。いくつかの実施形態では、標的の群れは、交雑種の群れである。
【0090】
II.雌雄鑑別されたブタ精子細胞の使用
本開示は、子孫の高いパーセンテージが1つ以上の望ましい形質を発現し、1つ以上の形質の浸透率が親又は祖父母世代よりも子孫においてより高くなるように、ブタ系統又は品種における1つ以上の望ましい形質の普及を増加させるための雌雄鑑別されたブタ精子細胞の使用を提供する。
【0091】
A.雌雄鑑別されたブタ精子細胞
いくつかの実施形態では、1頭以上の雄ブタから得られた精子細胞試料が濃縮される。いくつかの実施形態では、濃縮は、X染色体又はY染色体保有精子細胞について精子細胞試料を雌雄鑑別して、「雌雄鑑別された」(「雌雄選択された」又は「偏った」又は「濃縮された」とも称される)精子細胞試料を得ることを含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別されたブタ精子細胞は、1つ以上の選択を行っている。いくつかの実施形態では、精子細胞は、性別タイプに基づいた使用のために選択され得る。所望の遺伝的形質を有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、ブタ繁殖業者に、群れの遺伝学、及びしたがって農場の収益性を進歩させる機会を提供し、一方で、主に所望の性別の子孫が次世代に生まれることを確実にする。加えて、動物の子孫の性別を事前に選択する能力は、家畜生産者にとってより効率的な操作を可能にするであろう。
【0092】
雌雄鑑別されたブタ精子試料は、当該技術分野で既知の方法に従って産生することができる。雌雄鑑別方法は、磁気技法(例えば、米国特許第4,276,139号を参照されたい)、カラム技法(例えば、米国特許第5,514,537号を参照されたい)、及び重量測定技法(例えば、米国特許第4,092,229号、同第4,067,965号、及び同第4,155,831号を参照されたい)を含む。電気特性の違いに基づく雌雄鑑別は、米国特許第4,083,957号に開示されており、電気特性及び重量測定特性の違いに基づいて選択する技法は、米国特許第4,225,405号、同第4,698,142号、及び同第4,749,458号に考察されている。米国特許第4,009,260号及び同第4,339,434号は、運動性の違いに基づく選択を記載している。抗体に依存する生化学的技法は、米国特許第4,511,661号、同第4,999,283号、同第4,191,749号、及び同第4,448,767号に開示されている。米国特許第5,021,244号、同第5,346,990号、同第5,439,362号、及び同第5,660,997号は、膜タンパク質の違いに基づく選択を記載している。米国特許公開第2013/0007903号及び同第2002/0119558号、米国特許第4,362,246号、同第5,135,759号、同第5,150,313号、同第5,602,039号、同第5,602,349号、及び同第5,643,796号、並びに国際特許出願公開第1996/012171号は、フローサイトメトリーを使用した精子細胞選別技法を提供する。米国特許公開第2003/0157475号は、選択された精子を凍結保存し、生殖能力を維持するための方法を提供する。前述の参考文献の各々は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0093】
X染色体及びY染色体保有精子の分離を達成するために多くの方法が試みられてきた。これらの方法は、米国特許第4,276,139号に開示されているような磁気技法から、米国特許第5,514,537号に開示されているようなカラム技法、米国特許第3,894,529号、再発行特許第32350号、米国特許第4,092,229号、同第4,067,965号、及び同第4,155,831号に考察されているような重量測定技法まで及んでいる。米国特許第4,083,957号に示されるような電気特性、並びに米国特許第4,225,405号、同第4,698,142号、及び同第4,749,458号に考察されるような電気特性及び重量測定特性の組み合わせも試みられている。米国特許第4,009,260号及び同第4,339,434号に示されるような運動性の取り組みも試みられている。米国特許第4,511,661号及び同第4,999,283号(モノクローナル抗体を含む)、並びに米国特許第5,021,244号、同第5,346,990号、同第5,439,362号、及び同第5,660,997号(膜タンパク質を含む)、並びに米国特許第3,687,803号、同第4,191,749号、同第4,448,767号、及び同第4,680,258号(抗体を含む)に示されるものなどの化学技法、並びに米国特許第4,085,205号に示されるような血清成分の添加。これらの技法の各々は、高効率であるかのように提示されてきたが、実際には、現在のところ、これらの技法のいずれも、望ましいレベルの雌雄事前鑑別をもたらすものではない。前述の参考文献の各々は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0094】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別されたブタ精液を得るためにいずれか1つ以上の以下のアプローチが使用される:TLR7/8アゴニストを用いた伴性運動性阻害(例えば、TLR7/8遺伝子は、X染色体上にあり、発現は、X染色体含有精子細胞において濃縮され得る;TLR7/8アゴニストは、スイムアップにおいてX及びY含有細胞の分離を可能にし得る運動性の性特異的変化を引き起こし得る);Y染色体保有細胞のWholeMom抗体媒介性凝集(例えば、Y染色体含有精子細胞を特異的に凝集させ、X染色体含有細胞の濃縮を可能にする抗体の使用);雌出生を促進する雄胚に対する過敏化/免疫刺激(雌側実装);X及びY含有精子細胞におけるSRY転写産物/タンパク質差次的発現(例えば、Y染色体含有精子細胞の抗体又は遺伝子標的化のための標的としてのY染色体含有精子細胞におけるSRY転写産物濃縮);Y染色体細胞におけるH-Y抗原濃縮発現;候補タンパク質/経路アプローチ(例えば、X及びY精子において差次的に発現されるとして公表されたタンパク質又は経路を選択的に標的化する化合物を特定し、雌雄鑑別用途におけるそれらの潜在性を決定する);自然な競合選択(例えば、自然繁殖環境におけるX保有精子細胞の競合選択をもたらすメカニズムを利用する);X細胞とY細胞とを区別することができる抗体を特定するための組換え抗体ライブラリーのパンニング(例えば、全細胞(x又はy特異的集団)又は候補抗原(標的特定スクリーニングから発見)を使用して、性依存的な方法で細胞に結合する抗体をパンニング及び対抗選択する;ファージディスプレイライブラリーのディープマイニングは、以前に知られていないエピトープに結合する希少な抗体を明らかにし得る);性特異的結合アプタマーのスクリーニング(例えば、全細胞、溶解物、又は候補タンパク質を使用して、磁気ビーズ又はカラムクロマトグラフィーをバルク性精液に使用することを可能にする特定の親和性結合試薬のためのアプタマーライブラリーをプローブする);X及びY選択性についての化合物及び/又は毒素ライブラリースクリーニング(例えば、X濃縮対Y濃縮精液への結合を定量化することによって、性選択について化合物ライブラリー(特に表面タンパク質を標的化する)及び/又は毒素ライブラリーをスクリーニングする);X及びY細胞において差次的に発現した標的を特定するための10倍クロム単細胞発現分析(例えば、単細胞発現プロファイリングを使用して、薬理学的又は親和性ベースの性別分離アプローチのいずれかのための魅力的な標的であり得るX及びY精子細胞において差次的に発現した遺伝子標的を特定する);miRNAプロファイリング;CITE-Seq若しくはREAP-Seq、X及びY精子、又は雄及び雌胚上の差次的に発現したRNA/タンパク質標的を特定するJESS(例えば、CITE-seq(配列決定によるトランスクリプトーム及びエピトープの細胞インデックス化)及びREAP-seq(RNA発現及びタンパク質配列決定アッセイ)、又はJESSのようなキャピラリーウェスタンブロットアッセイは、X若しくはY染色体保有精子又は雄及び雌胚上で優先的又は特異的に発現されるタンパク質マーカーの特定を可能にすることができる);複数のサイアーからのY染色体及びX染色体保有精子細胞の全体及び/又は表面定量的プロテオーム分析(例えば、生化学的及び遺伝子ベースのバルク処理戦略の両方のための標的を特定するX及びYブタ精子細胞中の差次的に発現されるタンパク質の発見);X染色体及びY染色体保有精子を選別する効率を増加させるためのHoechst誘導体(例えば、可視光を使用してウシX及びY染色体保有精子集団を検出する);X及びY精子を区別するためのオン/オフ検出システムの製造;特定のX又はY染色体結合のためのピロール-イミダゾールポリアミド小分子DNA結合分子のガイド設計;性別特異的RNA転写産物を標的とするSmartFlare(商標)アプローチ(例えば、生細胞において蛍光するように設計されたSmartFlare(商標)プローブの性別特異的標的であるRNA転写産物を使用する);Split MiniSOG光誘導性細胞死(例えば、MiniSOGは、光曝露によって誘導される細胞死を誘導するための光遺伝学的ツールの広範なファミリーに属する小さい(106aa)タンパク質である);精子細胞に分子を送達する(例えば、そうでなければ精子細胞に細胞非透過性分子を送達する);雄生殖能及び精子生存能に対する翻訳後修飾効果(例えば、雄精子及び雌精子におけるPTM(SUMO化、ユビキチン化、リン酸化、アセチル化、グリコシル化)特徴分析は、その違いを利用して選別手順を設計する;Y染色体上のマーカー組み込み(例えば、蛍光、抗生物質、表面タンパク質などのマーカーをY染色体上に組み込む);STAGE(精子トランスフェクション支援遺伝子編集)(例えば、リポフェクション又はエレクトロポレーションを介してヌクレアーゼ(+/-導入遺伝子カセット)を送達する;成分の発現は、雄胚の発達に影響を与えるように設計される);生殖細胞のナノ粒子ベースの形質転換(例えば、外因性DNA構築物を、インビボで、サイアーにおける分化細胞及び精子細胞を直接標的とする生殖細胞に送達するためのナノ粒子の使用;受精可能な精子細胞の性比を改変するために、発達中の精子細胞又は成熟精子細胞のいずれかを標的とする);SRY精巣決定転写因子の標的化された破壊(例えば、SRYタンパク質の機能変異体の喪失(ブタは複製されたSRY遺伝子を有する)は、表現型的に雌である動物を産生する);雄胚のCRISPR-Cas9誘導自己破壊(例えば、雄における必須遺伝子を標的とするY連結ガイドRNA(sgRNA)の発現を構成し、雌におけるCas9の構成的発現を構成する);精子を介したガイドRNAの雄特異的遺伝、及び卵母細胞中のCas9の雌特異的発現は、雄胚においてのみ必須遺伝子のノックアウトをもたらし、胚死をもたらすであろう(CRISPR-Cas9二成分));発達の二重成分レスキュー(例えば、必要な遺伝子を発現するレスキューカセット(X又は常染色体上)で、発達的に必要な遺伝子を阻害するように作用する1つの要素(例えば、Y染色体上のマイクロRNA)を有する導入遺伝子システム);細胞質架橋耐性遺伝子/タンパク質のプロモーター/シグナルペプチド下でのY精子特異的致死遺伝子発現(例えば、マウスでは、smoke2a/2b、Spam1、Smpd1、TLR7/8のようないくつかの遺伝子は、細胞質架橋を逃れることが報告されている;これらの遺伝子のプロモーター又はこれらのタンパク質のシグナルペプチドを使用して、X精子特異的自殺遺伝子を発現するか、又は精子選別において利用され得る任意のタンパク質の不均衡発現を誘導することができる);Y染色体反復配列を使用したY染色体干渉は、ガイドRNA及びCas9を標的とする(例えば、Y染色体特異的反復配列に対して指向されるgRNAを使用してCas9を標的とし、かつ潜在的にはテザリングされたクロマチンリモデリング因子を使用して、Y染色体を断片化するか、又はY染色体含有精子細胞における生理学的変化を誘導するのに十分なクロマチン構造を混乱させる);二分子相補性発達阻害(例えば、発達を阻害する二成分システムを開発し(例えば、酵母2ハイブリッド、ZFN、又はKRABドメインとのTAL左右結合部位)そのうちの一方は雄系統のY染色体上にコードされ、雌系統における他方はX又は常染色体のいずれか上でホモ接合型としてコードされるであろう;両方の成分が雄胚において一緒であるとき、それらは発達遺伝子を阻害するように作用するであろう);ゼータ電位及び荷電フローデバイスを使用したX細胞及びY細胞の分離(例えば、X染色体及びY染色体保有細胞間のゼータ電位の違いを検出する);密度差(例えば、X染色体及びY染色体保有細胞におけるDNA含有量の違いに起因して、精子細胞の2つの性別間の密度に違いが存在し得る);質量差(例えば、DNA質量における違いに基づいてX染色体及びY染色体保有精子間を区別すること);運動性差(例えば、それらの運動性における違いに基づいてX染色体及びY染色体保有精子間を区別すること);温度及び熱ストレス(例えば、精子の2つの異なる性別の間の熱又はpHストレスに対する差次的応答は、運動性又は表面タンパク質などのパラメータを通した分離を可能にし得る);Sephadexゲル分離(例えば、sephadexゲルカラムを通した調製された射精の濾過は、性の濃縮をもたらすことができる(カラム及び濾液中の保持された細胞において検出される);発生のメカニズム的説明は不明であるが、運動性又は吸収/吸着パラメータに関連し得る);重金属吸収(例えば、雄(精子細胞)への重金属曝露は、配偶子のうちの一方の性への毒性を介した、又は細胞への差次的吸収若しくは吸着を介した選択メカニズムを可能にし得る);精子の寿命(例えば、性比に影響を与える授精対排卵のタイミング);並びにX染色体及びY染色体保有精子細胞のサイズベースの分離。
【0095】
いくつかの実施形態では、雄産生精子細胞と雌産生精子細胞とを区別することは、X染色体とY染色体との間の総DNA含有量の違いを利用することによって達成される。特に、X保有精子細胞とY保有精子細胞との間のトータルDNAの違いは、約3.4%である。一般に、X染色体は、Y染色体よりも多くのDNAを含有する。市販の雌雄鑑別された精子細胞試料は、現在、生細胞を貫通し、化学量論的にDNAに結合し、励起されると蛍光シグナルを放出する色素である、Hoechst33342で精子細胞を染色することによって産生される。この蛍光シグナルは、フローサイトメーターがトータルDNA含有量の違いに基づいてX染色体及びY染色体含有精子細胞を定量的に区別することを可能にする。次いで、精子細胞は、特定の性染色体の存在若しくは不在に基づいて別個の容器に分離され得、かつ/又は望ましくない性別の細胞は、雌雄鑑別された精子細胞試料を産生するためにレーザーアブレートされ得る。雌雄鑑別された精液の有用性は、産物中に存在するX染色体及びY染色体保有精子のパーセンテージに依存し、これは順に雌雄鑑別された精子細胞を作製すること及び最終的な性別の偏りを検証することの両方の精度に依存する。
【0096】
いくつかの実施形態では、精子細胞の性比が偏った集団は、集団中の精子細胞の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%においてX染色体を含む。いくつかの実施形態では、精子細胞の性比が偏った集団は、集団中の精子細胞の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%においてY染色体を含む。いくつかの実施形態では、性比が偏った集団は、集団中の精子細胞の60~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、及び95~97%においてX染色体を保有することが確認される。いくつかの実施形態では、性比が偏った集団は、集団中の精子細胞の60~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、及び95~97%においてY染色体を保有することが確認される。
【0097】
B.人工授精
いくつかの実施形態では、本技術は、上記の方法のうちの1つによって選別された精子細胞試料を使用することによる標的雌ブタの授精に関する。雌雄鑑別された精子細胞試料が評価されると、精子細胞集団は、標的雌ブタを受精させるために使用され得る。授精は、当業者に既知の任意の数の方法に従って行われ得る。これらの方法には、子宮頸管内授精(ICAI)、子宮内授精(IUI)、深部子宮内授精(DIUI)、又は卵管内(腹腔鏡)授精(ITI)などの従来の人工授精技法が含まれる。
【0098】
子宮頸管内人工授精及び子宮内人工授精(IUI)。産業で行われる人工授精手順の約85%は、従来の人工授精を使用する。子宮頸管内人工授精は、用量当たり約2.5×109個の精子細胞~4×109個の精子細胞を必要とし、これは子宮頸部の後部に沈着される。子宮頸管内人工授精は、受精した精子細胞の約90%が子宮に到達する前に破壊されるため、効率的ではない。精子細胞のこの喪失は、精液の逆流、及び集中的な子宮食作用によって引き起こされる。子宮内授精(IUI)は、用量当たり約1.5×109個の精子細胞~1.5×109個の精子細胞を必要とする。ここでは、精子細胞は、精液逆流問題を回避するために、子宮頸管後に子宮体に沈着される。しかしながら、必要とされる精子細胞のこれらの濃度は、上記の技法を使用して得られた雌雄鑑別された精子細胞試料の濃度よりもはるかに高い。選別中、精子細胞試料は、それらの密度を増加させるために、高度に希釈され、処理され、遠心分離され、再構成される。このプロセスは、精子細胞試料体積、生存可能な精子細胞の数、及び雌雄鑑別された精子細胞の受精能力に影響を与える。したがって、子宮角、又は子宮-卵管接合部などの、排卵及び受精部位に近い雌雄鑑別された精子細胞を沈着させる授精技法を使用する必要がある。これらの理由で、深部子宮内授精(DIUI)及び卵管内(腹腔鏡)授精(ITI)は、雌雄鑑別された精子細胞授精のための好ましい技法である。
【0099】
深部子宮内人工授精(DIUI)。DIUIは、用量当たり約50~900×106個の精子細胞を含有する精子細胞試料を子宮角の上部(前)3分の1又は子宮-卵管接合部に沈着させることによって行われる。その長さのために、深部子宮内カテーテルは、操作者が、子宮角-標準的な人工授精カテーテルを使用して到達できない領域を含む、雌ブタの生殖器官の遠位領域に到達することを可能にする。子宮角及び子宮-卵管接合部が雌ブタの生殖器官の重要な領域であるため、低減した精子細胞用量の使用が可能である。DIUIを実施するための方法は、当業者に既知である。例えば、各々が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2002/0072650A1号、Martinez et al.,Reproduction 123:163-170,2002、Martinez et al.,Reprod.Supp.58:301-311,2001、及び国際特許出願公開第1999/027868号を参照されたい。
【0100】
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、発情期にある雌ブタの子宮頸管内部の雌雄鑑別された精子細胞試料を含む深部子宮内カテーテルを導入することを含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、子宮-卵管接合部の近くの一方又は両方の子宮角の前半分に沈着される。いくつかの実施形態では、標的雌ブタの可変発情周期は、DIUIのタイミングが授精の効率を最大化するように最適化されることを確実にするためにホルモン的に同期される。いくつかの実施形態では、標的雌ブタの可変発情周期は、標的雌ブタを1250IUのウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG、Folligon、Intervet International B.V.、Boxmeer、The Netherlands)で筋肉内に注射することによって同期される。標的雌ブタは、「立位反射」として知られる長期筋収縮を示す発情期にあると決定される。いくつかの実施形態では、DIUIのための雌雄鑑別された精子細胞試料は、約10×106個以下の精子細胞を含有する。いくつかの実施形態では、DIUIのための雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約5×106個、少なくとも約10×106個、少なくとも約20×106個、少なくとも約50×106個、少なくとも約100×106個、少なくとも約125×106個、少なくとも約200×106個、又は少なくとも約500×106個の精子細胞を含有する。
【0101】
卵管内(腹腔鏡)人工授精(ITI)。卵管内腹腔鏡人工授精は、標的雌ブタの生殖器官における卵管、峡部、膨大部、又は子宮-卵管接合部に約1×106個の精子細胞を含有する精子細胞アリコートを沈着させることによって行われる外科的手順である。腹腔鏡授精は、アザペロン投与によって鎮静された雌ブタ(Stresnil、2mg/kg体重、筋肉内)で実施される。全身麻酔は、ナトリウムチオペンタール(Abbot、7mg/kg体重、静脈内)で誘導され、ハロタン(3.5~5%)で維持される。いくつかの実施形態では、卵管内腹腔鏡のための雌雄鑑別された精子細胞試料は、約5×106個以下の精子細胞を含有する。いくつかの実施形態では、卵管内腹腔鏡のための雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約0.5×106個、少なくとも約1×106個、少なくとも約1.5×106個、少なくとも約3×106個、少なくとも約100×106個、又は少なくとも約125×106個の精子細胞を含有する。
【0102】
いくつかの実施形態では、既知の、評価された品質の雌雄鑑別された精子細胞試料は、人工授精によって標的雌ブタの群れを受精させるために使用され得る。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、雌雄鑑別された精子細胞試料の調製直後、例えば、精子分散液の形成後、約120時間以内、約96時間以内、約72時間以内、約48時間以内、又は約24時間以内などに使用され得る。人工授精における使用の前に、授精が所望の結果を生じることを確実にするために、本明細書に記載されるように、雌雄鑑別された精子細胞の品質及び/又は有効性が評価され得る。いくつかの実施形態では、授精に使用されるであろう雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%の雌雄鑑別された精子細胞を含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%のX染色体を保有する(かつY染色体を保有しない)精子細胞を含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%のY染色体を保有する(かつX染色体を保有しない)精子細胞を含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、授精前に凍結保存されていない場合がある。代わりに、雌雄鑑別された精子細胞は、運動性阻害剤中に維持されている場合があり、かつ/又は約4℃~約25℃、約10℃~約25℃、又は約15℃~約20℃の範囲の温度で冷蔵されている場合がある。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、約18℃で冷蔵されている。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、授精前に凍結保存及び解凍され得る(すなわち、分散液は、凍結/解凍されるか、又は凍結/解凍された精子細胞を含む)。典型的には、そのような事例では、凍結保存された雌雄鑑別された精子細胞は、授精前に、例えば、約15分以内など、直ちに解凍される。いくつかの実施形態では、凍結保存された雌雄鑑別された精子細胞は、ある期間にわたって解凍され得るか、又は解凍され、その後、例えば、約5日未満、約2日未満、約1日未満、若しくは約12時間未満などの期間保存され得る。
【0104】
C.母系統及び父系統に偏る繁殖ユニットでの使用
いくつかの実施形態では、本技術は、商業農場における使用のための雌ブタ繁殖プログラムを改善するために、雌雄鑑別された精子細胞試料を使用するための方法を提供する。
【0105】
ブタ繁殖プログラムは、多世代ピラミッド繁殖プログラムを使用して、2つ以上の純血種系統の組み合わせである交雑種の雌を産生する。ブタ産生ピラミッドは、以下のようにブタの群れのカテゴリーに細分される。ピラミッドの基部は、商業的な群れ、続いて繁殖体の群れ、娘核の群れを含み、上部に遺伝子核の群れによってキャップされる。本技術のいくつかの実施形態では、遺伝子核雌純血腫系統は、別の母系遺伝子系統の雄ブタに交配させて、交雑種の雌(娘核)を産生する。交雑種の雌は、順に第3の母系遺伝子系統の雄ブタに交配させて、市場のための商業的ブタ製品を生産するために使用され得る別の雌ブタを産生し得る。
【0106】
遺伝子核の群れは、いくつかの望ましい形質を含む繁殖供給体ストックとして使用される純血種系統を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子核からの単一エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、標的の群れ(例えば、娘核及び/又は繁殖体の群れ)における全ての雌を世代全体にわたって受精させるために使用される。いくつかの実施形態では、同じ遺伝子核雄ブタ又は異なる遺伝子核雄ブタのいずれかからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、ある世代から次へと使用される。いくつかの実施形態では、遺伝子核雄ブタ由来の雌雄鑑別された精子細胞は、標的雌ブタの群れを受精させるために使用される。いくつかの実施形態では、精子細胞の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%がX染色体を保有する雌雄鑑別された精子細胞は、標的雌ブタの群れを受精させて、より高いパーセンテージの雌子孫を産生する可能性を増加させるために使用される。
【0107】
雌雄鑑別されたブタ精子細胞を使用して雌出生率を増加させることは、生産者にいくつかの利益をもたらすことができる。例えば、フィニッシングバーンにおける効率を改善すること、及び性別分割給餌を排除することを含む、雌ブタを飼育することに関連したいくつかの経済的利点がある。経済的利益の他に、雌出生率を増加させるための雌雄鑑別されたブタ精子細胞の使用は、雄ブタの去勢を低減又は排除することに関連したブタ産生の全てのレベルで動物福祉の利益を提供することができる。
【0108】
D.向上した能力形質普及
1.望ましい表現型形質
本技術は、将来の世代が親又は祖父母世代よりも高い頻度で形質を発現するように、所与の望ましい遺伝子形質をある世代から次世代へ効率的に普及するための雌雄鑑別されたブタ精子細胞の使用を提供する。いくつかの実施形態では、本技術は、繁殖プログラムの繁殖ユニットにおける偏った母系統の同時改善のための雌雄鑑別された精子細胞試料の使用、並びに商業系統繁殖業者のための改善された成長能力及び病原体耐性形質の普及を提供する。
【0109】
いくつかの実施形態では、繁殖雄ブタは、望ましい形質又はマーカーの存在に基づいて選択される。いくつかの実施形態では、望ましい形質又はマーカーは、特定の遺伝子及び/若しくは対立遺伝子の存在若しくは不在、健康形質、生殖形質、肉品質形質、効率的成長形質、定性的形質、又は定量的形質のうちの1つ以上を含む。特定されると、望ましい形質及び/又はマーカーを有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料は、本明細書に記載される方法に従って使用される。いくつかの実施形態では、所望の形質は、単一の遺伝子、対立遺伝子、又は遺伝子座である。いくつかの実施形態では、所望の形質は、数世代以内に集団において固定される。
【0110】
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、標的の群れにおける望ましい形質を4世代以下でホモ接合性に普及させることを含む。いくつかの実施形態では、望ましい形質は、2世代又は3世代で標的群れ集団において普及させる。
【0111】
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、(a)改善が所望される所望の形質を選択することと、(b)エリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞を使用して標的雌ブタを人工的に受精させることであって、当該エリート雄ブタが、所望の形質を含む、受精させることと、(c)子孫を産生することと、(d)所望の形質についてヘテロ接合性又はホモ接合性のいずれかであるそれらの子孫を特定することと、(e)所望の形質についてヘテロ接合性又はホモ接合性であるそれらの動物を繁殖ストックとして保持することと、を含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、受精した標的雌ブタは、所望の遺伝子/形質を次世代の雌ブタに移すために雌雄鑑別された精子細胞試料が得られた雄ブタと同じ遺伝子系統のものである。いくつかの実施形態では、雌ブタの子孫は、順に他の母系遺伝子系統の雄ブタへの1つ以上の連続した世代の交配を通した商業系統の親雌ブタの祖先となる純血種雌ブタの子孫である。いくつかの実施形態では、雌ブタ子孫は、異なる母系遺伝子系統の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で純血種雌ブタ子孫を受精させることによって、1つ以上の連続した世代を通した商業系統の親雌ブタの祖先となる。
【0113】
いくつかの実施形態では、受精した標的雌ブタは、遺伝子/形質を次世代の雌ブタに移すために雌雄鑑別された精子細胞試料が得られた雄ブタと同じ遺伝子系統のものではない。いくつかの実施形態では、子孫は、商業系統の親雌ブタであるか、又は他の母系遺伝子系統の雄ブタへの連続した1世代以上の交配を通した親雌ブタの祖先となるであろう、交雑種雌ブタ子孫である。いくつかの実施形態では、雌ブタ子孫は、異なる母系遺伝子系統の雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で純血種雌ブタ子孫を受精させることによって、1つ以上の連続した世代を通した商業系統の親雌ブタの祖先となる。
【0114】
いくつかの実施形態では、所望の形質は、望ましくない身体異常又は欠陥の不在に関連付けられる。いくつかの実施形態では、望ましくない身体異常又は欠陥は、ブタストレス症候群、Rendement Napole(RN)、及び任意の他の疾患に関連付けられる。いくつかの実施形態では、所望の形質は、特定の疾患、特定の病原性生物に対する耐性、及び/又は病原体に対する一般的な耐性に対する耐性を提供する。いくつかの実施形態では、所望の形質は、表1に開示される遺伝子における1つ以上の変異から生じる。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、疾患を引き起こすバリアントを野生型、及び/又は非欠陥バリアントに戻す置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、産仔数などの、ブタの生殖品質を向上させる置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、ブタに特定の疾患、特定の病原性生物に対する耐性、及び/又は病原体に対する一般的な耐性を付与する置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、集団に改善された成長能力形質を付与する置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、望ましくない身体異常又は欠陥に関連する変異は、集団から排除される。
【表1】
【0115】
2.病原体耐性形質
いくつかの実施形態では、所望の遺伝形質は、病原体への耐性、向上した成長効率形質、向上した肉品質形質、向上した生殖形質、及び/又は改善された健康形質を付与する1つ以上の変異を含む。いくつかの実施形態では、病原体は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、Escherichia coli F18、Escherichia coli F4、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeからなる群から選択される。
【0116】
いくつかの実施形態では、本技術は、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)、ムチン4、ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、アミノペプチダーゼN(ANPEP)、酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)、ANP32B、膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)、膜貫通セリンプロテアーゼ4(TMPRSS4)、CD163、及びシアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)からなる群から選択される遺伝子における1つ以上の変異を保有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞の使用を提供する。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス、腸管毒素原性Escherichia coli F18、Escherichia coli F4ab、Escherichia coli F4ac、サーコウイルス、ブタインフルエンザウイルス、コロナウイルス、Mycoplasma hyopneumoniae、及びActinobacillus pleuropneumoniaeによる感染に耐性である雄ブタからのものである。
【0117】
ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)。ブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス(PRRSV)によって引き起こされる、PRRSは、最も経済的に有害なブタ疾患のうちの1つである。これは、経済的に重要なブタ呼吸器複合病(PRDC)の重要な構成要素である。PRRSは、それぞれ、1987年及び1990年に米国及びヨーロッパで初めて出現し、その後世界中に拡散した。PRRSの病因物質は、アルテリウイルス科、ニドウイルス目のメンバーである、エンベロープ、プラス鎖RNAウイルスである。
【0118】
PRRSウイルスの感染プロセスは、肺胞マクロファージの表面上のヘパラン硫酸へのウイルスの初期結合で開始し、これにシアル酸結合Ig様レクチン1(シアロアドヘシン、SIGLEC1、CD169、又はSN)へのPRRS結合が続く。ウイルスは、クラスリン媒介性エンドサイトーシスを介して内在化される。エンドソームでは、PRRSウイルス糖タンパク質GP2A及びGP4は、ウイルスのアンコーティングを促進する、ブタCD163と物理的に相互作用する。アンコーティングは、ウイルスゲノムを放出し、感染サイクルを開始する。ミクソウイルス耐性タンパク質1(Mx1)、HLA-B関連転写産物2(BAT2)、ユークロマチックヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)における変異はまた、PRRSウイルス感染からブタを保護することが示されている。
【0119】
現在のワクチンは、株変動、免疫系の不十分な刺激、及び有毒なPRRSウイルス株の出現のために十分な保護を提供しない。したがって、商業農場にはPRRS耐性ブタ系統の必要性がある。いくつかの実施形態では、本技術の方法での使用のための雌雄鑑別された精子細胞は、CD163、シアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)、又はそれらの組み合わせにおける1つ以上の変異を保有するPRRSウイルス耐性雄ブタ由来である。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、遺伝子機能を廃止する置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、本技術は、機能的CD163、シアル酸結合Ig様レクチン1(SIGLEC1)タンパク質、又はそれらの組み合わせを欠く雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞を使用した、遺伝子核系統から商業農場へのPRRS耐性形質の効率的な普及を提供する。
【0120】
腸管毒素原性Escherichia coli株。E.coliの腸管毒素原性株は、若齢ブタにおけるE.coli誘発性下痢の原因である。それらは、2タイプの有毒性因子を有する:1)ブタ腸上皮細胞へのE.coli結合及びそのコロニー形成を可能にする、線毛アドヘシン、並びに2)液体分泌を引き起こすエンテロトキシン。F18及びF4は、2つの主要な既知の線毛アドへシンである。F18アドヘシンは、2つのバリアント(F18ab及びF18ac)を有するが、F4は、3つのバリアント(F4ab、F4ac、及びF4ad)を有する。F4acバリアントは、子ブタにおいて最も流行している。E.coli F4に対するブタ耐性又は感受性の遺伝子マーカーは、ムチン-4、ムチン13、ムチン20、トランスフェリン受容体(TFRC)、チロシンキナーゼ非受容体2(ACK1)、及びUDP-GlcNAc:ベータGalベータ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ5(B3GNT5)である。特に、MUC4GG及びMUC4CG一塩基多型を保有するブタ系統は、F4感染に感受性であり、一方、MUC4CC系統は、耐性である。いくつかの実施形態では、本技術の方法は、ムチン-4、ムチン13、ムチン20、トランスフェリン受容体(TFRC)、チロシンキナーゼ非受容体2(ACK1)、B3GNT5、又はそれらの任意の組み合わせから選択される遺伝子における1つ以上の変異を含む雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料を使用した商業農場への遺伝子核からの腸管毒素原性E.coli耐性ブタ系統の効率的な普及を含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞は、ムチン-4遺伝子における1つ以上の変異を保有する腸管毒素原性E.coli耐性雄ブタ由来である。
【0121】
E.coli F18に対するブタ耐性の遺伝子マーカーは、アルファ(1,2)フコシルトランスフェラーゼ1(FUT1)及び殺菌性/透過性増加タンパク質(BPI)遺伝子である。FUT1AA一塩基多型を保有するブタ品種は、E.coli F18感染に対して耐性であり、一方、FUT1AG及びFUT1AG一塩基多型を保有するものは、感染に対して感受性である。いくつかの実施形態では、本技術の方法は、FUT1AA一塩基多型を保有する雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞試料で1頭以上の標的雌ブタを受精させることによるE.coli F18耐性系統の普及を含む。いくつかの実施形態では、FUT1AA一塩基多型を保有する雄ブタは、E.coli F18株による感染に耐性である。
【0122】
コロナウイルス。コロナウイルス、それらの独特の顕微鏡的ハローで知られている非常に伝染性の高い広範なウイルスは、家畜における様々な致命的な腸疾患の原因である。アルファコロナウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)は、新生ブタにおける高い罹患率及び死亡率の原因であり、腸細胞の感染及び壊死によって引き起こされる脱水症の結果である。アミノペプチダーゼN(ANPEP)は、ブタにおけるTGEVの推定受容体である。研究は、ANPEPヌルブタがTGEVでの感染を支持しないことを示している。
【0123】
ブタインフルエンザ。ブタインフルエンザは、ブタの非常に伝染性の高いウイルス感染症である。罹患率は、ブタインフルエンザ感染症で100%に達することができるが、死亡率は、一般的に低い。主な経済的影響は、市場重量に達するまでの日数の増加をもたらす遅延した重量増加に関連する。ブタインフルエンザは、OrthomyxoviridaeファミリーにおけるインフルエンザAウイルスによって引き起こされる。インフルエンザAウイルスは、2つの主要な表面糖タンパク質、ヘマグルチニン、及びノイラミニダーゼ(例えば、H1N1)によるサブタイプによって更に特徴付けられる。酸性核リンタンパク質32ファミリーメンバーA(ANP32A)及びANP32Bタンパク質は、インフルエンザウイルス複製及び宿主範囲決定において基本的な役割を果たすとして特定されている。膜貫通セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)及びTMPRSS4は、ブタインフルエンザの拡散を促進することが示されている。
【0124】
3.改善された成長能力形質
いくつかの実施形態では、普及のための所望の形質は、向上した成長効率、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康からなる群から選択される改善された成長能力形質である。いくつかの実施形態では、向上した成長効率形質は、増加した平均1日増加、増加した平均1日飼料摂取量、増加した飼料効率、低減した背脂肪厚さ、増加した筋肉量、増加したロイン筋面積、及び増加した枝肉赤身パーセンテージからなる群から選択される。
【0125】
Rendement Napole。Rendement Napole(RN)表現型は、豚肉品質に経済的に影響を与える。動物における優性RN-対立遺伝子の存在は、劣等な肉品質属性と関連している。優性変異を保有する動物からの白色骨格筋は、グリコーゲン含有量における約70%増加を有し、pH、水分含有量、及び赤身肉含有量などの、肉の特徴も影響される。RN動物からの肉は、酸性である。DNA検査は、動物をRN表現型のキャリア(RN-/RN-若しくはRN-/rn+)又は陰性(rn+/rn+)として分類するために使用される。RN-表現型の原因変異は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のγ3アイソフォームをコードする、プロテインキナーゼAMP活性化γ3サブユニット遺伝子(PRKAG3)における変異である。RN-表現型は、酵素を活性化し、グルコース取り込みを増加させるPRKAG3における200位(Arg200Gln)のグルタミンへのアルギニンの置換によって引き起こされる。
【0126】
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、1~3世代におけるホモ接合性への陰性rn+/rn+表現型の普及を含む。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、PRKAG3遺伝子における1つ以上の変異を含む雄ブタからのものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の変異は、優性RN-表現型を廃止する置換、挿入、又は欠失である。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、PRKAG3の200位にアルギニンを保有する雄ブタ由来である。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、優性RN-表現型を廃止するPRKAG3遺伝子内の1つ以上の内因性変異を保有する雄ブタ由来である。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、優性RN-表現型を廃止する1つ以上の外因性変異を保有する雄ブタ由来である。
【0127】
ブタストレス症候群(PSS)。PSSは、筋形質カルシウムイオン(Ca2+)の持続的な増加を引き起こす麻酔又は様々なストレッサーによって引き起こされる代謝亢進性及び高収縮性症候群である。ブタストレス症候群は、身体的にストレスを受ける場合のブタの突然死を特徴とする。PSSは、赤身パーセンテージに有益な効果を有するが、これは低肉品質属性及び淡く、柔らかく、水っぽい(PSE)豚肉として知られる状態を伴う。加えて、PSSは、増加した数の死産子ブタを有する雌PSSキャリアの傾向のために、雌における産仔数に影響を及ぼす。PSS形質は、常染色体劣性障害として継承される。原因遺伝子は、ホモ接合劣性遺伝子型(nn)を有するブタが、ガスハロタン(2-ブロモ-2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン、吸入麻酔)への曝露時に悪性高熱症を示したため、当初「ハロタン」遺伝子と名付けられた。PSSの原因変異は、リアノジン受容体遺伝子の1843位でのグアニンからチミンへの置換であり、これはリアノジン受容体の615位でのアルギニンからシステインへの置換をもたらす(Arg615Cys)。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、リアノジン受容体遺伝子の1843位におけるグアニンの存在に基づいてPSS遺伝子キャリアではない雄ブタ由来である。いくつかの実施形態では、本技術の方法は、1~3世代におけるホモ接合性へのPSS耐性表現型の普及を含む。
【0128】
改善された摂食行動及び体重。摂食行動及び体重は、集団における各動物に対して測定することができる成長についての動物の潜在性を反映する定量的形質である。摂食行動及び体重の遺伝子制御は、メラノコルチン-4受容体(MC4R)遺伝子によって媒介される。特に、MC4R遺伝子における1426位に主要なグアニンからアラニンへの置換(G1426A、MC4RAA)を保有するブタ系統は、増加した背脂肪厚さ、枝肉重量、水分、及び飽和脂肪酸、減少した不飽和脂肪酸、並びにより大きな飼料摂取量のためのより速い成長を示した。置換G1426A多型は、298位のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(Asp298Asn)をもたらす。加えて、Asp298Asn置換を保有するブタ系統は、より低い肉の赤み、及びより高い飽和脂肪酸の含有量を示す。しかしながら、野生型MCR4遺伝子(MC4RGG)は、より低い背脂肪厚さ、より高い赤身肉パーセンテージ、より遅い成長速度、及びより低い飼料摂取量と強力に関連付けられる。MCR4の対立遺伝子頻度は、系統の経済的使用に応じてブタ品種及び系統の間で大きく異なる。例えば、野生型SNP(Asp298)は、塩漬ハム及びロイン生産のために選択される品種と比較される場合、生肉生産のために飼育された品種では、より高い頻度で存在する。いくつかの実施形態では、本技術の方法は、異なるブタ系統における両方のMCR4対立遺伝子の普及、及びそれぞれの市販のリンスに異なる遺伝子型を有する系統の割り当てを含む。いくつかの実施形態では、各対立遺伝子は、本技術の方法を使用して遺伝子核集団において普及される。いくつかの実施形態では、各対立遺伝子は、本技術の方法を使用して標的雌ブタ集団において普及される。
【0129】
筋肉量及び背脂肪厚さ。各形質の表現型値は、遺伝的及び環境的効果の両方の組み合わせの結果である。ブタにおいて、脂肪沈着、筋肉量、赤身肉、赤身背脂肪、雌ブタ多産性、及び/又は雌ブタ寿命、背脂肪厚さは、父系インプリントされた定量的形質遺伝子座によって制御される。この形質と密接に関連する多型は、インスリン様成長因子2(IGF2)遺伝子(g.3072G>A)のイントロン3内に位置する。QTLは父系インプリントされているため、QTL対立遺伝子の好ましい効果は、QTL対立遺伝子が雄ブタから継承される場合にのみ発現される。特に、対照と比較される場合、雄親からQTLを継承する子孫は、赤身肉、赤身背脂肪、雌ブタ多産性、及び/又は雌ブタ寿命を有する。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、インスリン様成長因子2一塩基多型を保有する雄ブタ由来である。
【0130】
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、脂肪酸シンターゼ(FASN)、カルパスタチン(CAST)、高移動度群AT-フック2(HMG2A)、及び/又はコレシストキニンA型受容体(CCKAR)遺伝子などの背脂肪形質に関連する追加の遺伝子の普及を含む。
【0131】
脂肪酸シンターゼは、背脂肪の脂肪酸組成に有意な効果を有する。脂肪酸シンターゼはまた、背脂肪中のガドレイン酸(C20:1、モノ不飽和脂肪酸)含有量に影響を与える。脂肪酸シンターゼ遺伝子(FASNAA)のメジャー多型を保有するブタは、背脂肪厚さ、質感値、ステアリン酸、オレイン酸、及びポリ不飽和脂肪酸含有量を増加させている。カルパスタチン(CAST)遺伝子における2つの一塩基多型(Arg249Lys及びSer638Arg)は、肉の柔らかさと関連している。マイナー多型を保有するブタ、CASTAAは、背脂肪厚さを増加させ、せん断力、パルミトレイン酸、オレイン酸を低下させ、ステアリン酸含有量を増加させている。高移動度群AT-フック1(HMG1A)多型は、背脂肪及び赤身成長と高度に関連しており、CCKAR遺伝子は、飼料摂取量、飢餓制御、及び肥満と関連している。
【0132】
4.追加の形質
いくつかの実施形態では、本技術の方法は、ある世代から次の世代への追加の形質の普及を含み、その存在又は不在は、当該技術分野で知られるツールを使用して生きた動物において決定することができる。いくつかの実施形態では、本技術の方法は、表2に提供されるものなどの望ましいブタ形質の普及を含む。
【0133】
したがって、本技術のいくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、限定されないが、特定の遺伝子及び/又は対立遺伝子の存在又は不在、健康形質、生殖形質、肉品質形質、並びに効率的成長形質を含む、雄ブタにおける望ましい特徴の存在に基づいて選択され得る。雄ブタは、任意の好適な手段によって、例えば、親子関係/血統を記録し、最も好適なペアリングを選択するためのコンピュータプログラム又は他の手段を使用して、選択され得る。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、個体間の関係を重み付け因子として使用する、最適遺伝子寄与理論(OGC)を使用する。例えば、Oh,Evaluation of Optimum Genetic Contribution Theory to Control Inbreeding While Maximizing Genetic Response,Asian-Australas J.Anim.Sci.25(3):299-303(2012)を参照されたい。OGCは、BLUP評価からのEBVのみに基づいて選択の欠点のいくつかを制御する。OGCソフトウェアは、以下によって機能する:(1)最良のEBVを有する個体を特定すること、(2)選択された個体と候補個体との間の平均関係(rj ̄)を計算すること、(3)重み付け因子kを使用してEBV*=EBVj(1-krj)で最良のOGCスコアを有する個体を選択すること、(4)必要な個体の数に達するまでステップを繰り返すこと、及び(5)異性についてプロセスを繰り返すこと。OGCアルゴリズムは、EBVによる選択と比較して近親交配を47%超制御し、少なくとも20世代にわたって選択応答の一貫した増加を維持した。
【0134】
本技術の方法によれば、選択された遺伝子改善は、ブタ産生のいずれか又は全てのレベルで行うことができる。すなわち、商業ブタの群れ、遺伝子核の群れ、及び/又は標的の群れの改善は、独立して又は同時にのいずれかで行われ得る。これらの群れは、繁殖会社の施設の内部又は外部の農場で位置し、操作することができる(例えば、遺伝子核、標的、及び/又はブタ産生の群れは、繁殖会社によって供給される遺伝的専門知識によって顧客の場所で所有及び操作することができる)。
【0135】
いくつかの実施形態では、本技術はまた、本明細書に記載される方法の使用によって産生されるか又は遺伝子修飾された遺伝子核の群れ、標的の群れ、及び/又はブタ産生の群れを提供する。
【表2-1】
【表2-2】
【0136】
E.特殊化された豚肉製品及びニッチな豚肉市場を開発すること
いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、以下の特徴によって評価されるような優れた豚肉品質を有する遺伝子系統を促進するための方法で使用され、これらはpH、視覚的な色、筋肉内脂肪、保水容量(WHC)、増加した霜降り、又は豚肉の風味を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、雌雄鑑別された精子細胞試料は、これらの望ましい品質のうちのいずれか1つ以上を特徴とする特殊化された豚肉製品の生産フローを開発するための方法で使用することができる。例えば、本技術の方法は、遺伝子ベースのニッチマーケティングプログラムを前進させ、豚肉製品(例えば、霜降りが多い豚肉、豚肉風味など)における1つ以上の特有の及び/又は望ましい特徴に需要があるニッチ市場に販売する生産者のニーズを満たすために使用することができる。
【実施例】
【0137】
本技術は、以下の実施例によって更に例示され、これはあらゆる方法で限定的であると解釈されるべきではない。本明細書における例は、本技術の利点を例示し、本技術の組成及びシステムの調製又は使用に関して当業者を更に支援するために提供される。例は、添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本技術の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。例は、上記の本技術の変形、態様、又は実施形態のいずれかを含むか、又は組み込むことができる。上記の変形、態様、又は実施形態はまた、各々が本技術のいずれか又は全ての他の変形、態様、又は実施形態の変形を更に含むか、又は組み込み得る。
【0138】
実施例1:望ましい形質を有するブタ系統の表現型選択
この例は、繁殖プログラムにおける普及のための望ましい形質の選択を実証する。
【0139】
繁殖は、Pietrain、Landrace、Large White、及びDuroc種に由来する血統を使用して開始されるが、繁殖は、所望の品種の任意のタイプで開始され得る。繁殖目的は、成長速度、飼料摂取量、及び最終リブ背脂を含むいくつかの経済的に重要な形質で構成される。成長速度及び背脂は、電子スケール及び超音波を使用して約160日齢で測定される。飼料摂取量は、電子給餌装置の使用を通して個々の動物飼料消費量として測定される。測定された形質は、血統及び遺伝子型情報とともに、推定育種価(EBV)を計算するために使用される。これらのEBVは次いで、それらの関連する経済的価値によって重み付けされ、選択候補である全てブタについて計算された指標をもたらす。この指標は次いで、各選択候補の潜在的利益の客観的な遺伝的説明となる。
【0140】
精液は、所望のEBVを有する選択された雄ブタから収集され、当該技術分野で既知の方法に従って調製される。典型的な雄ブタは、700億~1000億個の細胞を射精し、これは70ml中の用量当たり25億個の精子細胞に細分される。これらの用量は、年間約150~200頭の雌ブタを交配させるのに十分な精液を産生する。選択された雌ブタは、約24時間あけて2回、子宮内人工授精を使用して受精させる。以下の実施例3を参照されたい。良好な雌ブタは、少なくとも92%の分娩率を有するであろう。選択された形質に加えて、少なくとも65%~90%のX染色体保有精子細胞を含む雌雄鑑別された精子細胞が人工授精に使用される。
【0141】
選択された形質は、劣性であり、集団において約0.5の中間頻度を有することが予測され、これは集団の約25%が所望の形質を保有することを意味する。標的雌ブタと同じ0.5の頻度で所望の形質を有するエリート雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞で標的雌ブタを人工的に受精させることは、約50%の動物において選択された形質を有する主に雌の子孫の集団を産生するであろうと予測される。したがって、本技術の方法は、約1世代で所望の形質の頻度を2倍にするであろう。ホモ接合体劣性対立遺伝子を保有する雌の子孫は、標的の群れを置き換える雌ブタとして使用され、同じ頻度でホモ接合体劣性対立遺伝子も保有する異なる雄ブタ系統からの雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞を使用して人工的に受精させるであろう。所望の形質が2世代において集団の100%にあると予測される。しかしながら、所望の形質の頻度が約0.05である場合、第1世代では、子孫の5%がホモ接合体劣性対立遺伝子を有し、第2世代では52.2%が所望の形質を有するであろうと予想される。
【0142】
各交雑からの子孫の少なくとも75%が雌であろうと予測される。子孫は、約1~2世代で少なくとも約509.4~約1028.1gの範囲の成長速度、少なくとも約5.1~約17.8mmの範囲の背脂肪、及び約1.4~約2.8kgの範囲の飼料摂取量を有するであろうと更に予測される。選択された雄ブタの上位10%のEBV指数は、約146.85であり、下位10%のEBV指数は、約107.0であろうことも予測される。雌雄鑑別された精子細胞を使用した人工授精は、ブタ産生コストを低下させるであろうことが更に予測される。
【0143】
したがって、これらの結果は、雌雄鑑別された精子細胞を使用した人工授精が、ブタの群れ又は集団における望ましい表現型形質の普及を向上させるための迅速かつ効率的な方法であることを実証するであろう。
【0144】
実施例2:子孫における病原体耐性及び改善された成長能力形質遺伝子マーカーの特定。
この例は、人工授精後の特定の品種系統の遺伝子型を決定するための方法を実証する。
【0145】
選択されたブタ品種の遺伝子型を決定するためのいくつかの方法が存在する。そのような方法には、以下が含まれるが、これらに限定されない:目的の多型に隣接するDNA配列からなる好適なプライマー対を使用したPCR増幅及び配列決定、増幅されたDNAにおける所望の対立遺伝子間を区別する制限エンドヌクレアーゼと併せて多型に隣接する好適なプライマーを使用したRFLP分析、ハイブリダイゼーションプローブが標識され、対立遺伝子形態間を区別する、DNA増幅及びプローブハイブリダイゼーションを含むリアルタイムPCR分析、並びに当業者によって容易に実施される他の方法。
【0146】
特に、ブタ品種は、Illumina PorcineSNP60 BeadChipなどの、市販の遺伝子型決定チップ並びに対応する関係ベースのゲノムアルゴリズム及びソフトウェアを使用して遺伝子型決定される。少なくとも14の個体からDNAがQiagen DNeasy Tissueキット(Qiagen、Germany)を使用して抽出される。全てのDNA試料は、分光測色法及びアガロースゲル電気泳動によって分析される。遺伝子型決定プラットフォームは、Infinium II Multisampleアッセイ(Illumina Inc.)で実施される。SNPアレイは、iScan(Illumina Inc.)を使用してスキャンされ、BeadStudio(Version 3.2.2、Illumina,Inc.)で分析される。染色体上のSNPの物理的位置は、ブタゲノム配列アセンブリ(10.2)(ensembl.org/Sus_scrofa/Info/Index)から誘導される。チップ上にマッピングされないSNP、又はSscrofa10.2アセンブリにおける複数の位置にマッピングされるものは、上記に開示されるように当該技術分野に既知の従来の技法を使用して評価される。
【0147】
特定された多型を検証するために定量的リアルタイムPCR(qPCR)が使用される。ブタ種間で高度に保存されている、グルカゴン遺伝子(GCG)は、内部対照として使用される。全てのqPCRは、Roche LightCycler(登録商標)480機器上でLightCycler(登録商標)480 SYBR Green I Masterを、製造業者のガイドライン及びサイクリング条件に従って使用して実施される。反応は、10μlのBlue-SYBR-Greenミックス、1μlのフォワードプライマー及びリバースプライマー(10pM/μl)、並びに1μlの20ng/μlのゲノムDNAを含有する、20μlの体積で96ウェルプレートにおいて実施される。正しい遺伝子型を有する動物が、人工授精及び繁殖のために選択される。
【0148】
病原体耐性及び改善された成長速度のための対立遺伝子頻度は、本技術の方法を用いて約2~3世代で100%ホモ接合であると予測される。
【0149】
したがって、これらの結果は、雌雄鑑別された精子細胞を使用した人工授精が、高度分子遺伝学的ツール及び形質選択と組み合わされる場合、ブタ産生における遺伝的ラグを低減することができ、ブタの群れ又は集団における所望の表現型形質の普及を向上させるための効率的な方法であることを実証するであろう。
【0150】
実施例3:低減用量深部子宮内及び腹腔鏡人工授精
この例は、低減した雌雄鑑別された精子細胞用量を使用した深部子宮内及び腹腔鏡人工授精の使用を実証する。
【0151】
雌雄鑑別された精子細胞調製。雌雄鑑別された精子細胞を使用した授精は、選別された精子細胞集団が得られた直後、例えば、約24時間以内、約48時間以内、約72時間以内、約96時間以内、又は約120時間以内などに起こるであろう。人工授精における使用の前に、雌雄鑑別された精子細胞の品質及び/又は有効性が評価される。
【0152】
試料の品質及び/又は有効性を評価するために、雌雄鑑別された精子細胞試料は、室温で約5分間低速で遠心分離される。上清は、廃棄され、得られた精子細胞ペレットは、雌雄鑑別されたブタ精子のために開発された新鮮な精液増量剤中に1ミリリットル当たり約10×106個の精子細胞の最終濃度まで再懸濁される。濃度は、NucleoCounter(登録商標)SP-100(商標)システム(ChemoMetec A/S、Gydevang 43、DK-3450 Allerod、Denmark)を使用して決定される。次いで、濃縮された雌雄鑑別された精子細胞は、同じ増量剤で希釈され、運動性及び生存可能性について評価される。全ての精子細胞品質評価には、25×75mmガラス顕微鏡スライド(Andwin)及び22×22mm#1.5カバースリップ(Thomas Scientific)が使用され、運動性評価は、明視野顕微鏡を使用して行われる。ポストインタクトアクロソーム及び形態学評価は、400倍の倍率で微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡検査を使用して行われる。人工授精には、≧55%の最小運動性、並びに一次形態≦15%、二次形態≦15%、及び25%を超えない総形態数を示すであろう新鮮な雌雄鑑別された精子細胞が選択される。例えば、雌雄鑑別された精子細胞試料は、試料が少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のX染色体若しくはY染色体保有精子細胞を含むことを確認するために試験される。雌の子孫の産生のために、精子細胞が少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%のX染色体を保有する試料が選択される。
【0153】
深部子宮内人工授精。深部子宮内授精は、用量当たり約2×104~約4×106個の精子を用量当たり約5ml~約20mlの体積で含む雌雄鑑別された精子細胞試料を使用して実施される。「立位反射」を示す雌ブタが授精のために選択される。カテーテルは、非毒性液体潤滑剤を使用して潤滑され、子宮角内のその最終位置に達するまでフレキシブルプローブを使用して膣を通して挿入される。その位置に達すると、雌雄鑑別された精子細胞試料を含有するシリンジは、カテーテルのフレキシブルプローブ内に見られるフレキシブルダクトを通して子宮環境に導入される。小体積の緩衝液を含有する別のシリンジは、フレキシブルダクトを通して適用され、子宮角における雌雄鑑別された精子試料の完全な排出を確実にする。
【0154】
腹腔鏡人工授精。腹腔鏡人工授精は、当該技術分野で既知の腹腔鏡技法を使用して鎮静された雌ブタに対して実施される。100マイクロリットル中の0.1~0.5×106個の精子細胞を含有する雌雄鑑別された精子細胞試料は、卵管、峡部、膨大部、又は子宮-卵管接合部に直接流し込まれる。
【0155】
深部子宮内授精及び腹腔鏡人工授精は、各授精された雌ブタについて少なくとも95%の生存可能な胚で少なくとも約75~90%の妊娠率をもたらすであろうことが予想される。
【0156】
したがって、これらの結果は、雌雄鑑別されたブタ精子試料が、本技術の深部子宮内授精と組み合わされる場合、ブタの群れ又は集団における望ましい表現型形質の普及を向上させるための方法において有用であることを実証するであろう。
【0157】
実施例4:深部子宮内人工授精を使用したブタ繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス耐性ブタを産生すること。
この例は、深部子宮内人工授精を使用したPRRS耐性ブタの群れの生成を実証する。
【0158】
遺伝子核の群れから非機能的又は不活性化されたCD163又はCD169遺伝子を保有する雄ブタは、実施例2の方法を使用して同定される。これらの雄ブタは、当業者に知られている。例えば、米国特許第9,854,790号及び同第10,405,526号を参照されたい。4頭のヘテロ接合又はホモ接合雄ブタは、雄の始祖(F0世代)として選択される。雄ブタはまた、年齢及びEBV値に基づいて選択される。精液は、4頭の雄ブタから収集され、雌雄鑑別された精子細胞は、当該技術分野において周知の方法を用いて調製される。30頭の雌ブタは、実施例2の方法を用いて機能的CD163又はCD169遺伝子の存在に基づいて選択される。非機能的対立遺伝子の頻度は、0.5であり、現在、集団の約25%は、CD163又はCD169の非機能的対立遺伝子を保有する。雌ブタはまた、それらのEBV及び年齢に基づいて群化され、実施例3の深部子宮内人工授精を使用して受精させる。雌ブタは、各々約8頭の子孫を産生すると予想される。選択された雄ブタ及び標的雌ブタは、CD163又はCD169非機能的対立遺伝子について同じ頻度を有するであろう。F1子孫の50%がPRRS耐性対立遺伝子を保有するであろうと予測される。
【0159】
雌のF1子孫は、同じ頻度でCD163又はCD169のホモ接合体劣性非機能的対立遺伝子も保有する異なる雄ブタ系からのPRRS耐性雄ブタからの雌雄鑑別された精子細胞を使用して人工的に受精させる。PRRS耐性形質がF2集団の100%であると予測される。しかしながら、PRRS耐性形質の頻度が約0.05である場合、F1世代では、子孫の5%は、非機能的CD163及びCD169対立遺伝子についてホモ接合体劣性であり、52.2%は、第2世代ではPRRS耐性を有するであろうと予想される。
【0160】
したがって、これらの結果は、雌雄鑑別された精子細胞を使用した人工授精が、高度分子遺伝学的ツール及び形質選択と組み合わされる場合、ブタの群れ又は集団におけるPRRS耐性形質の普及を向上させるための効率的な方法であることを実証するであろう。
【0161】
実施例5:繁殖ユニットでの雌の子孫の数を増加させること。
この例は、深部子宮内人工授精を使用した繁殖ユニットでの偏った母系統の産生を実証する。
【0162】
繁殖は、Pietrain、Landrace、Large White、及びDuroc種に由来する血統を使用して開始される。繁殖目的は、向上した成長、向上した肉品質、向上した生殖品質、及び改善された健康を含むいくつかの経済的に重要な形質で構成されるであろう。132頭の標的雌ブタが選択され、約2×104~約4×106個のX保有精子細胞を含む雌雄鑑別された精子細胞集団で受精させる。50頭の標的雌ブタは、同じ用量の雌雄鑑別されていない精子細胞で受精させる。妊娠率は、分娩中に2回検査される。妊娠率は、雌雄鑑別された精子細胞では約38%~60%、雌雄鑑別されていない精子細胞では70%~80%であろうと予想される。子孫の性比は、雌雄鑑別された精子細胞で受精した動物では少なくとも85.3%、雌雄鑑別されていない精子細胞では50~58.6%であろうと予想される。
【0163】
したがって、これらの結果は、雌雄鑑別された精子細胞を使用した人工授精が、ブタの群れ又は集団における雌の集団を増加させるための効率的な方法であることを実証するであろう。
【0164】
実施例6:雌雄鑑別されたブタ精液の産生。
この例は、例えば、病原体耐性ブタの群れ若しくは集団を産生する際の使用、繁殖ユニットにおける雌の子孫の数を増加させるための、又は他の使用のための、雌雄鑑別されたブタ精液の産生を実証する。
【0165】
雌雄鑑別されたブタ精子細胞試料の産生のためにこの実施例で使用される一般的な方法を概説する概略図が
図1Aに提供される。簡潔には、雄ブタからの新鮮な、増量された射精試料を受け取り、評価して、試料の運動性、濃度、及び形態を特定した。増量されていない新鮮な射精は、典型的には、約20M/mLの細胞濃度を有し、受け取られた増量された試料は、約1000M/mLの細胞濃度を有した。処理の全ての段階での運動性は、IVOSリーダーを使用して決定し、新鮮な試料の運動性は、約90%の前進性運動性細胞であった。使用される増量剤は、ELIXIR(GenePro,Inc.、Fitchburg,WI)、ANDROSTAR(Minitube USA,Inc.、Verona,WI)、又はNUTRIXcell+(IMV Technologies、Maple Grove,MN)であり得るが、本明細書に記載される方法は、使用される精子増量剤のタイプによって限定されることが意図されない。
【0166】
次いで濃縮、増量された試料を希釈し、Hoechst33342を含む染料TALPを使用して染色した。次いで赤色の色素TALPを染色された試料に加えた。この実施例では染料TALP/赤色TALP染色培地を使用したが、精液増量剤も染色培地として使用され得る。染色された試料は、約200M/mLの細胞濃度を有した。染色後、試料をフローサイトメーター上で濃縮した。
【0167】
染色された試料を、17,500細胞/秒の速度で試料をマイクロ流体チップに通して流すことによって処理した。試料を電磁放射線の第1の供給源によって調査し、各細胞の蛍光を検出器によって検出した。X染色体及びY染色体保有精子細胞の間のDNA含有量の違いに基づいて、電磁放射線の第2の供給源を使用して、Y染色体保有精子細胞をアブレート又はスライスした。試料管を使用して、X染色体保有精子細胞について濃縮された試料を収集した。濃縮後に約60%の前進性運動性が観察された。雄ブタ(この例では「Boar9022」)からの濃縮又は雌雄鑑別された射精試料をプールし、250mLの円錐フラスコ中でスピンダウンして、試料をペレット化した。次いで試料を約1mLまで吸引し、次いで1mLの精液増量剤を吸引した試料に添加してペレットを再懸濁した。このプロセスは、約2500万細胞/mLを含む増量された試料を形成した。
【0168】
グラスウール手順を使用して、運動性精子細胞を死んだ又は損傷した精子細胞から分離し、ddPCRを使用して、分離された、運動性精子細胞の偏りを決定した。
図1Bに示されるように、濃縮された試料の偏りは、約87%であることが決定された。
【0169】
したがって、これらの結果は、例えば、病原体耐性ブタの群れ若しくは集団を産生する際の使用、繁殖ユニットにおける雌の子孫の数を増加させるための、又は他の使用のための、生存可能な、雌雄鑑別されたブタ精液の産生を実証する。
【0170】
等価物
本技術は、本出願に記載される特定の実施形態に関して限定されるものではなく、これは本技術の個々の態様の単一の例示として意図される。当業者に明白であろうように、本技術の多くの修飾及び変形は、その趣旨及び範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書に列挙されるものに加えて、本技術の範囲内の機能的に等価な方法及び装置は、前述の説明から当業者には明白であろう。そのような修飾及び変形は、本技術の範囲内に入ることが意図される。本技術は、特定の方法、試薬、化合物組成物、又は生物学的システムに限定されず、これは、もちろん、変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することが意図されないことも理解されるべきである。
【0171】
加えて、本開示の特徴又は態様がマーカッシュ群の観点から記載される場合、当業者は、本開示が、それによってマーカッシュ群のいずれかの個々のメンバー又はメンバーのサブグループの観点からも記載されることを認識するであろう。
【0172】
当業者によって理解されるであろうように、いずれか又は全ての目的のために、特に書面による説明を提供するという観点から、本明細書に開示される全ての範囲はまた、いずれか及び全ての可能な部分範囲並びにそれらの部分範囲の組み合わせを包含する。いずれかの列挙された範囲は、同じ範囲が少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解されることを十分に説明し、それを可能にするものとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書で考察される各範囲は、下位3分の1、中位3分の1、及び上位3分の1などに容易に分解することができる。また当業者によって理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などの全ての言語は、列挙された数を含み、上記で考察されるように部分範囲にその後分解することができる範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるであろうように、範囲は、各個々のメンバーを含む。よって、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1、2、又は3個の細胞を有する群を指す。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1、2、3、4、又は5個の細胞を有する群を指し、同じように続く。
【0173】
本明細書で言及又は引用される全ての特許、特許出願、仮出願、及び刊行物は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、全ての図及び表を含む、それらの全体が参照により組み込まれる。
【国際調査報告】